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【1999年】煌月の鎮魂歌【ユリウス×アルカード】

211煌月の鎮魂歌10 2/43:2017/08/12(土) 22:43:53
 ユリウスは身にぴたりと添うレザーのジャケットとパンツを身につけ、使い慣れたライ
ダーズブーツを履いていた。どこもかしこも白く、神聖な印と古風な荘厳さに飾られた古
来の聖堂では、現代風のその衣装はいかにも場違いだったが、アルカードはなにも言わな
かった。イリーナの隣に立ち、美貌を永遠の輝きの中にかすませて、黙然とユリウスを見
守っている。目にしみるこの大広間の白さの中で、二つの黒い影がユリウスとアルカード
だった。ふたごの影のようにじっと立つアルカードを、ユリウスは見ないようにした。
 先月、ベッドでアルカードに寄り添って眠って以来、会うのはこの場がはじめてだっ
た。あの日以降、ユリウスは部屋に戻らず、夜は外に出てひとり鍛錬に汗を流すか、木立
や青草の上にまるくなって寝んだ。朝になると黙って屋敷に戻り、用意された食事を取っ
て、また黙々と身体を動かす日課に戻った。ベッドはからのまま何日も放置され、もし誰
かが尋ねてきていたとしても、それはユリウスの知るところではなかった。
 アルカードの心は読めない。いつもと同じように。もはや教えることはないと言ったの
は本当なのか、彼は昼間の鍛錬にはもう姿を見せなかったし、ときおり顔を出していたサ
ンルームのお茶会にも現れなくなった。できればユリウスも遠慮したいところだったのだ
が、イリーナがうるさいせいでこれにだけは列席しなくてはならない。
「このごろおとなしいのね、ユリウス」
 小さな女王はお茶のカップを前に、胸元のリボンをひねくりながら上目遣いでユリウス
を見た。
「あなたらしくないと言うべきかしら、それとも、あなたもやっと少しは分別が身につい
たと思うべきなのかしら」
「どっちでもいいさ」
 ユリウスは呟き、食いかけのサンドイッチから抜いたベーコンを白い虎猫に投げた。虎
猫はひょいと空中でつかまえ、旺盛な食欲でかみ砕いた。


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