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【1999年】煌月の鎮魂歌【ユリウス×アルカード】

201煌月の鎮魂歌9後半 16/24:2016/07/31(日) 20:25:42
「……どちらにも、ならない」
 息の詰まるような沈黙を、アルカードがようやく破った。
「お前は試練を乗り越える。お前は生きて戻り、聖鞭の所持者として戦う。私とともに」
「なぜわかる?」
 あざけるような口調になるのを抑えられなかった。崇光の冷ややかな目と声、お前は
けっしてアルカードの目に本当に映ることはないと告げられたあの言葉が脳裏で皮肉に
唸った。
「俺があんたにどういう扱いをしてるかはわかってるよな。これまで、どんな生き方を
してきたかも」
 アルカードはうつむいて答えなかった。
「おきれいな英雄様とはほど遠い、ごみ溜め暮らしの野良犬だ。罪のある人間も、ない
人間も、山ほど殺して踏みにじってきた。それでもなんとも思っちゃいなかった。ほしい
ものはなんでも手に入れてきた」
 お前以外は、と心の中でつぶやく。この、人の姿をした月以外は。
「そんな人間でも、鞭とやらは使い手として認めるのか? 俺はベルモンドの血を引い
てるのかもしれないが、私生児で、しかもとんでもない悪党だ。悪魔だって顔をしかめ
るくらいだ。俺は赤い毒蛇と呼ばれてた。覚えてるか。あの街で、あの地下室で」
 横に置かれたアルカードの手を、ユリウスはきつく握りしめた。アルカードが小さく
眉を寄せたほどの強さだった。
「俺があんたにしたことを。まさか忘れちゃいないよな?」
 手の中で白い指がぴくりとする。
 そのまま、この作り物のような手を握りつぶしてしまいたい衝動に駆られる。半吸血鬼
に対してただの人間の力がむろんかなうわけはないのだが。あの暗い地下室でも、アル
カードはいつでもユリウスの首をへし折り、そのまま平然と出てこられたはずだ。四つん
這いになって獣のように犯されなどせずとも、すぐに。
「……私は、知っているからだ」


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