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【1999年】煌月の鎮魂歌【ユリウス×アルカード】

192煌月の鎮魂歌9後半 7/24:2016/07/31(日) 20:19:26
 もはやどちらとも判別しがたい声がそろって言った。
 そのまま、部屋は沈黙にひたされた。ベッドサイドのランプが不安げに踊り、抱き
合ったまま動かない老女と少年の影を、異様に大きく拡大して壁に投げた。 


「まったく、ボウルガード夫人はどうしちゃったのかしら」
 不機嫌にイリーナが指を鳴らした。そばで白い虎猫が、同意するように桃色の口を
あけて小さく鳴いた。
「彼女がこんなに長いこと姿を見せないなんて。せっかく彼女のお茶がまた飲めると
思ってたのに、これじゃ起きたかいがないわ」
「きっとラファエルの世話で忙しいんですよ。それとも、あの女妖魔のことの後始末で
走り回っているか」
 穏やかに崇光は応じ、ポットを手に小さくなっているメイドに励ますようにうなずき
かけた。彼女はおずおずと微笑み、丁寧な手つきでカップに澄んだ茶を注いだ。
「ありがとう。ほら、飲んでごらんなさい、イリーナ、ボウルガード夫人のお茶とくら
べてもなかなかのものですよ。あとで、僕が日本から持ってきた緑茶を淹れてあげます
から、ご機嫌をなおしてください、お姫様」
 イリーナは運ばれてきたソーサーをむくれた顔で受け取り、ひとくちすすって、まあ
そう悪くはないわね、と不承不承呟き、縮みあがっていたメイドの胸をなでおろさせた。
 ニュイ女伯爵と名乗る女妖の襲来から、はじめての午後のお茶会だった。ようやく
ベッドを離れられるようになるが早いか、イリーナはさっそく一同に招集をかけ、待ち
望んだいつものサンルームでのお茶の集いを再会したのだ。
 とはいえ、まだ長い間座っていられるほど体力は戻っておらず、イリーナはいつもの
女王然とした大きな肘掛け椅子ではなく、いつもはユリウスが占めていたゴブラン織を
張った猫足の長椅子に横たわっている。しかし小さくとも女王はあくまでも女王であり、
泡のようなレースとリボンと幾重ものドレープとオーバースカートに飾られた彼女は、
人型をした豪華な花束を横たえたように堂々としていた。


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