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【1999年】煌月の鎮魂歌【ユリウス×アルカード】

186煌月の鎮魂歌9後半 1/24:2016/07/31(日) 20:15:19
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 ボウルガード夫人に車椅子を押され、自室へ戻る最中、ラファエルは一言も口をきか
なかった。
 少年の青い瞳は嵐の色に染まり、心臓では炎が荒れ狂っていた。地獄にひとしい炎
だった。彼は父親を呪い、義兄──とも呼びたくはないが、汚らわしいとはいえ血の
つながりは否定できない──を呪い、何よりも、ぴくりともしない自分の足を心底
呪った。なめらかに動く車椅子の感触さえ、怒りをかき立てた。こんながらくたでさえ
すらすらと床の上を動くことができるのに、どうして自分の足は指先ひとつ上げること
が許されないのだろう?
 ようやく自室へたどり着き、ボウルガード夫人に支えられてベッドに身を投げて、
出て行けと身振りをする。枕に頭を埋め、今にも噴出しようとする叫び声を押さえ
つけた。今はただ、ただひとりで怒りをかみしめ、その苦さと熱さに存分に身を焼き
たい。他人に苦悩を覗かせるのは誇りあるベルモンドの者のすることではない。ベル
モンドの者はひとり、ただひとり、常に人間と世界の守護者として立つことを要求
される。誇り高いベルモンドの男として、ベルモンドの……
 食いしばった歯から、耐えきれずにすすり泣きが漏れた。もう自分にはそんな資格は
ないのだ。鞭の使い手としての地位はあの野良犬に奪われてしまった。ベルモンドの
当主としての地位はあるにせよ、それがどうしたというのだろう。
 聖鞭を使い、きたるべき最終闘争において〈彼〉の隣に立つこと、それこそが、
累代のベルモンドの悲願であり、夢だった。
 自分がその代にあたることを知ったときの喜びを思う。自分ではなく、息子がアル
カードの隣に立つことを知った父の、複雑な思いをこめた視線を心地よく感じたことを。
『ベルモンドの者は誰もが一度は彼に恋をする』。だが、その恋がかなえられないこと
はみな知っている。それにもっとも近いのが唯一、彼とともに戦うこと、聖鞭ヴァンパ
イア・ハンターの使い手として認められることなのだ。


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