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【1999年】煌月の鎮魂歌【ユリウス×アルカード】

163煌月の鎮魂歌8 29/29:2016/01/16(土) 18:50:52



 ──森の奥で、小さく蠢くものがあった。
 芝草の影から、それはほとんど闇にとけ込む昏い色の翅で舞い上がった。小指の爪を
あわせたほどの、小さな小さな黒い蝶。
 蝶はよろめくように木々のあいだを抜け、ときおり地面に落ちそうになりながらも、
まっしぐらにある場所をめがけた。
 ベルモンド家の屋敷は、静かな夜の中に堅固な城として建っている。蝶は風にまぎれる
ようにその中へと吸い込まれていった。
 人目に止まらぬ影をくぐり、闇を抜け、明かりの届かぬ片隅を抜けて、蝶はついに
ひとりの婦人にたどりついた。旧式な形に結い上げた白髪の髷の中に吸い込まれる
ように潜り込む。
「……そう」
 やがて、婦人は独り言のように言った。
「あの男はベルモンドの力に目覚めたの。なんとおぞましい。計画を進めなくては
ならないわ。ラファエル様のために。ラファエル様のために」
 彼女は立ち上がり、軽く髪を直すと、黒いドレスの裾を鳴らしながら茶器を片づけ
始めた。そばのベッドに眠る金髪の少年をちらりと見やる。車椅子は隅に片づけられ、
大きな枕の上には眠りに落ちる直前まで読んでいた、騎士物語の書物が開いたままになっていた。
 茶色く灼けたページには、薔薇の絡む塔に閉じこめられた乙女と、そこへ向かって
馬を走らせる、凛々しい騎士の木版画があった。
 ボウルガード夫人は書物を取り上げ、書棚の所定の位置にきちんと片づけた。
 少年の寝息を確かめ、肩にかかった毛布をかけ直す。灰色の目は常と変わらず、沈着に
澄み切り、ほぼなんの感情も浮かべてはいなかった。


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