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【1999年】煌月の鎮魂歌【ユリウス×アルカード】

160煌月の鎮魂歌8 26/29:2016/01/16(土) 18:48:43
 無表情な医師と、続いてやってきた顔も知らない能力者の処置を受ける間、ユリウスは
彼にしてはありえないほど静かだった。だが心の中では嵐が吹き荒れていた。処置が
終わって解放され、自室のベッドに身を投げ出したとたん、脳裏にあの蝋燭に照らされた
部屋の光景がぐるぐるとめぐり始めた。
 自分が眠っているのか起きているのかわからなかった。悪夢のような迷宮を、ユリウス
はどこまでもさまよった。何度もあの光景が、古風なベッドに眠る男とそのそばに身を
寄せるアルカードが、その目から流れ落ちる血の涙が、あらわれてユリウスを苦しめた。
 どれほどそこに近づこうとしても、いくらあがいても、小さなその光はますます遠く、
いつまでも手の届かない場所にあって、ユリウスの侵入を拒否していた。
 いや、拒否ならばまだよかった。最初から彼らにとって、ユリウスなど存在しても
いなかった。彼らはただ彼らだけの小さな世界に住んでおり、それ以外の人間など
はじめから居はしないのだ。
 そこはあまりにも完璧で、完璧すぎたが故に壊されたのだ。エデンの園がいつまでも
楽園ではいられなかったように、最高位の天使と讃えられたルシフェルが天から墜ちて
悪魔と呼ばれたように、完璧にすぎるものはいつか崩れ去ることによってその完璧さを
完成させるのだ。
 自分がアルカードにした仕打ちも現れたが、それは影よりも薄く、すぐに雪の一片の
ように溶けて消え去っていった。どんなに惨い仕打ちも、淫らな言葉も、屈辱も苦痛も、
すべてあの美しい月にとっては別世界の出来事にすぎなかった。彼が住んでいた、そして
今も住んでいるのはあの男と二人だけの世界、蝋燭に照らされた小さな箱庭の中。
 たとえユリウスがあの胸を裂き、ナイフで心臓をえぐり出したとしても、淡々と彼は
それを受け入れただろう。彼の心臓はそこにはないのだから。アルカードの心臓はいま
もあの男のそばにあって、終わりのない苦痛と悲傷に血の涙を流しつづけているのだ。
 ラルフ・C・ベルモンド。
 最初にアルカードと出会い、その身と魂に深い絆と消えない傷を刻み込んだ男。


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