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【1999年】煌月の鎮魂歌【ユリウス×アルカード】

159煌月の鎮魂歌8 25/29:2016/01/16(土) 18:48:07
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 十分とたたずに迎えがきた。車を先導していた金色に光る紙人形をとらえてふところに
しまうと、崇光はユリウスたちをせきたてて車に乗せた。来るときあれだけ走ったのに
迎えが来るのは十分とはわけがわからなかったが、おそらくこれも崇光の言う『経路』
のひとつなのだろう。
 座席に収まるとイリーナはすぐに眠ってしまった。人事不省の深い眠りで、四匹の
おともも少女に身をすり寄せて眠り込んでいる。さすがにこの戦いは幼い少女には酷
だったようだ。
 ユリウスの手足も鉛を詰めたように重い。ともすれば降りてこようとする瞼と必死に
戦いながら、それでもユリウスはリアシートに寝かされて崇光の処置を受けている
アルカードから目を離さなかった。
 崇光もまた疲労の色が濃く、目の下にくっきりと隈を浮かせていたが、アルカードの
上を動く手は遅滞なかった。小さく呪を呟きながら指をそろえて印を切り、人型に切った
紙で魔物に受けた傷をたどる。いつもなら目に留まるほどの時間もあけずにふさがって
しまう程度の傷はいつまでもじくじくと血をにじませていたが、やがて人形が黒ずんだ
血の色に変わり、車がベルモンド家の車止めに停車するころには、ようやく小さな赤い
痕が残るばかりになっていた。夜はすでに開けかけており、わずかな暁光が屋敷の石造り
の屋根にさしそめていた。
「治療者と、念のために祓魔術の処置を」
 まだ意識のないアルカードを座席から抱き下ろし、運転手に命じてイリーナもつづけて
降ろさせながら、崇光はそれだけ言った。
「アルカードは僕がこのまま診ます。イリーナは部屋へ運んで、眠らせてやって
ください。ユリウス、君はその手の治療を。かなり深く切っているはずだ。瘴気の
毒の対策も受けておきなさい」
 言い争うにはユリウスは疲れすぎていた。アルカードは透き通りそうに白い顔のまま、
どこか苦しげに眉をよせて崇光の胸に頭をもたせている。手がふいに、思い出したように
うずき始めた。


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