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【1999年】煌月の鎮魂歌【ユリウス×アルカード】

156煌月の鎮魂歌8 22/29:2016/01/16(土) 18:45:58
 しゃくりあげる少女の背中をさすりながら、なだめるように崇光が言い聞かせていた。
「毒は残っていないようですし、ただ気を失っているだけです。やはり新月にアルカード
を戦わせるべきではありませんでしたね。どうやら相手は、魔王復活の前にあわよくば
彼を我々から奪い取るつもりだったらしい。確かにそれをやられれば致命的だ」
「なにやってるの、ユリウス、早くこっちへ来て!」
 泣いていたイリーナがきっと顔を上げ、ユリウスのコートの袖を乱暴につかんで
ひっぱった。たたらを踏んでユリウスは膝をついた。まだ先ほどの力の噴出にくらくら
して頭がうまく働かない。
 地面に寝かされたアルカードの顔はいつもにも増して白い。妖女のいまわしい口づけ
の痕から細く血が流れている。
「アルカードに血をあげて、早く! 新月で彼は弱ってる、でもベルモンドの血なら、
誰よりも強力なベルモンドの血なら──」
「待ちなさい、イリーナ!」
 かがみ込んでいた崇光がはっとしたように手を伸ばした。
 だがすでにユリウスは、涙声のイリーナに引っぱられる形でアルカードの唇の上に
手を差しだしていた。
 アンプルの破片がいくつも食い込んだ手のひらから、血が筋をひいて流れ落ちる。
 濃い真紅の血がひとすじ、色を失ったアルカードの唇に流れこんだ。
 アルカードは意識のないままかすかに唇を動かし、血を含んだ。流れる鮮血が、
アルカードと自分を真紅の糸のようにつないだ。
 唇がわずかに動いた。
 アルカードはばね仕掛けのように跳ね上がった。
 突き出された腕が避ける間もなくまともにユリウスの胸にぶつかった。ユリウスは
たわいなく後ろに倒れた。尻をついたまま、ユリウスはくらむ視界にアルカードを
とらえた。
 こわばった頬が震えていた。かすかに血の残った唇がわななき、たった一つの言葉
を呟いた。


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