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【1999年】煌月の鎮魂歌【ユリウス×アルカード】

155煌月の鎮魂歌8 21/29:2016/01/16(土) 18:45:17
 それはユリウスの精神と肉体を内面から焼き尽くし、何かまったく新しいものに生まれ
変わらせたかのようだった。まったく新しくなった視覚で、ユリウスは周囲を見回した。
 闇が透明なガラスのようだった。それまで沼の底も同じだった闇は清澄に澄みわたり、
あらゆるものがはっきりと感じられた。視覚のみならず聴覚、嗅覚、触覚が、これまでの
レベルではなく強烈に冴え返っていた。傷ついた手から血がこぼれ、熱湯に漬けたような
痛みが肘のあたりまで上ってきていたが、夜という言葉、闇というものに抱いていたもの
が一気に塗り替えられた衝撃に、海を初めて見た少年のようにユリウスは新たな闇の世界
に吸い込まれるように見入った。
「アルカード!」
 イリーナがわっと泣き出した。ユリウスは殴られたようにふらついて我に返り、
アルカードを振り向いた。
 金の籠柄の細剣が草の上に転がっている。うつ伏せになったアルカードはぴくりとも
せず、こちらになかば向いた顔はぞっとするほど色がなかった。
 年相応の、身も世もない泣き方で泣きじゃくりながら、イリーナが動かないアルカード
に駆け寄る。竜も白い虎も消え、サファイア色の光がまっしぐらに降りてきて、少女の
手首に巻きついた。白い虎猫と赤い小鳥が、あわてたように鳴き騒ぎながら少女の周囲を
飛び回っている。
「アルカード、しっかりして、アルカード!」
 銀髪の青年にすがりついているのはいつもの女王然とした態度などかなぐり捨てた、
幼いひとりの少女だった。青ざめた顔をのけぞらせているアルカードのマントを握り
しめて、懸命に息を計ろうとしている。
 ユリウスはよろめくように近づいた。急ぎ足に寄ってきた崇光がかたわらに膝を
ついて、傷の様子を調べている。抱き起こすと、むきだしになった喉に、円形に針を
刺したようにぷつぷつと穴があいて血がにじみ出していた。あの妖女に吸いつかれ
かけたあとだろう。
「泣かないで、イリーナ、心配ありませんから」


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