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【1999年】煌月の鎮魂歌【ユリウス×アルカード】

153煌月の鎮魂歌8 19/29:2016/01/16(土) 18:43:44
 ユリウスはがむしゃらに鞭を打ち振るったが、魔界の生命力を結集した肉の蛇はびく
ともしなかった。女怪の頭は二つの驕笑をあわせて、アルカードの頬にすり寄る。
『これほどお慕いしておりますのに、なんとつれないお方でしょう』
『ああでも、やはりお愛しい。美しいお方、尊い魔王のお世継ぎ』
『憎いのはその人間の血、汚らわしくも温かい、甘美な血』
『さあ、その血を流し出し、わたくしと愛の抱擁を』
『麗しき、闇の若君よ──』
 女の口が開き、さらに開いた。おぞましい大アナコンダの口のように顎骨がはずれ、
膜が広がってずらりと並んだ牙が見えた。
 そこから濃い血色をした蛭のようなものがのたくり出てきた。懸命に顔をそむけ、
身をもぎはなそうとするアルカードの白い首筋にいやらしい蛭が迫っていく。蛭の先端
には円形の口が開き、口しかなかった。ある朱の吸血鰻のように円形にずらりと並んだ
棘が蠢き、獲物の肌を裂いて流れ出る血を吸い尽くそうとしている。
「アルカード!」
 イリーナが笛のような悲鳴をあげている。それとも怒号なのだろうか。目のはしに
ちらりと見えた少女の顔は涙にぬれて蒼白だった。天上からひらめく青い稲妻が幾条も
地面を打ち、炎の筋が乱れ飛ぶ。巨虎が牙をむきだして飛びかかり、のたくりながら
這いずってきた頭のない爬虫類の身体にはじき返される。首をなくしても身体は身体
のみの生命を保っているかのように動き続け、盛り上がる岩を踏みつぶし、稲妻に
巻かれても耐え、炎に鱗を焦がされても止まろうとしない。
「禁! 正! 抑! 停! ……」
 崇光が続けざまに札を放つが、やはり封術師である彼の術では怪物の進行を止める
ことしかできない。ユリウスはちぎれるように痛む筋肉にかまわず打撃をとばしたが、
それもまた、爬虫類の身体にはばまれてアルカードには届かない。
 おぞましい蛭の口がアルカードの喉に触れる。
 ユリウスは自分が何か叫んだと思った。


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