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【1999年】煌月の鎮魂歌【ユリウス×アルカード】

150煌月の鎮魂歌8 16/29:2016/01/16(土) 18:42:04
『美しきお方、尊きお世継ぎ様、これほどまでにお慕い申し上げておりますのに』
 重なり合ってざわつく毒蛾の向こうから、女の怨ずるような声が聞こえる。
『あなた様ほど麗しく高貴なるお方は、魔王そのお方を除いて誰ひとりいはしない──
それなのになぜ、闇の愛をしりぞけ、あなた様を慕う民をお打ち据えになるのです?』
 アルカードはもう応えなかった。蛾を切り払った剣をそのまま舞わせ、あたりに塵と
なった蛾の死骸を散らして突進すると、裸形の女の前に立ち、目にも留まらぬ手さばき
でその乳房の真ん中を貫き、首をはねた。黒髪を散らした頭部はごとりと重い音をたてて
転がり落ち、わずかな緑色の血が糸を引いた。
『ああ、愛しいお方』
 地面に落ちた頭が哀れな声で嘆いた。
『これがあなた様をお慕いする女にお与えになる口づけですの?』
「アルカード、離れて!」
 イリーナの悲鳴のような警告より早く、アルカードは大きく飛び離れて剣をたてて
身を守った。打ち下ろしたユリウスの鞭が鉄枷のようにアルカードをとらえようとした
首なしの女の両腕を寸断し、胴体を大きく切り裂いた。ざらついた、錆びたおびただしい
釘を一斉にこすりあわせるような苦鳴とも怨唆ともつかぬ声が、地の底から響いてきた。
『無礼な虫けらども』
 すでに女のものではないその声は地獄の憤怒を煮えたぎらせていた。
『高貴なお方に与えられる傷ならばまだしも、このわたくし、闇の宮廷にて讃えられる
女伯爵ムタルマに、卑しい猿の分際で刃向かうか。この傷の礼、どれほどにして与えて
くれるか見るがいい』
 ユリウスの目の前で寸断された女体はぐにゃぐにゃと輪郭を崩し、紫色の肉となって
爬虫類の舌と一体化した。目まぐるしく色を変えるカメレオンの巨大な目は狂ったように
蠢き、ひび割れた喇叭のような声をとどろかせた。うねうねとのたくる舌の先がぶくりと
膨れ、人間に似た頭の形を作りだした。まるい頭に蛾の触覚と複眼、ずらりと牙の並んだ
巨大な口をもつ、女とも昆虫ともつかぬ頭部。


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