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【1999年】煌月の鎮魂歌【ユリウス×アルカード】

145煌月の鎮魂歌8 11/29:2016/01/16(土) 18:38:45
「それより、あれはただの一部よ。本体がやってくる。用意はいい?」
「ああ、いくらでも俺がぶっとばしてやるからガキはすっこんでろ」
 イリーナは射殺すような目つきでユリウスをにらんだが、憎まれ口を返す余裕はない
と判断したらしく、前を向いた。「バーディー! トト!」と声を上げ、上空にいる
聖獣二匹を呼び戻す。真紅の小鳥と黒い小さな亀がふっと表れ、少女の肩とポシェット
に収まって、それぞれの言葉でうるさくさえずった。おそらく無理をするなというよう
な意味らしかったが、イリーナはそちらを見もしなかった。
「ニニー──セイリュウ! ティガー──ビャッコ!」
 手首からするりとサファイア色のブレスレットがほどけ、宙に舞った。脚もとで獰猛
な威嚇の声を放っていた白い虎猫が宙をひと跳びし、くるりと一転したかと思うと、
地響きをたてて着地した。
 焼き払われて開いた空き地いっぱいになるほどの白い虎の巨体が、地面に脚の形の
四つの深い亀裂を作った。ユリウスの腕より太い尾がうねり、白銀の体毛が逆立つ。
輝く体毛の下の筋肉は鋼鉄のようだった。聖獣ビャッコは女主人のほうを振り返り、
たいていの人間ならその場で心停止してもおかしくない形相で、すさまじく咆吼した。
 遠くのほうでメリメリと樹が折れる音がする。何者かが森の木を雑草でも分ける
ように踏み分け、こちらへ向かいつつあるのだ。
 ふたたび目がかすみ始めているのに気づいてまた聖水を口にする。魔界の瘴気を吸う
だけでも普通の人間にとっては致命的らしい。この中でそれをまだ必要としているのは
自分だけらしい事実に苛立った。ほんの少女のイリーナさえなんの補助もなくこの場に
立っているのに、自分だけがまだ脆弱な人間の弱みから脱しきれないままなのだ。四聖
獣の護り、ヴァンパイアの血、封術師としての腕──彼らはすでに戦士として完成されて
いる。自分はどうなのだ?
(聖鞭──〈ヴァンパイア・キラー〉があれば、俺も彼らと同じ地点に立てるのか?)
 暗い空が白くなるほどの稲妻が走った。暗黒の空に、自ら放つ冴えた青い光に包まれた
長大な身体がゆったりと舞っている。


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