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【1999年】煌月の鎮魂歌【ユリウス×アルカード】

108煌月の鎮魂歌6 20/29:2015/08/27(木) 00:40:54
 ブロンクスの顔役と呼ばれる男たちの顔に何度も見たものに似ていたが、それより
はるかに得体の知れない何かを秘めていた。東洋人の表情はもともと読みにくい。
チャイニーズマフィアのボスたちの、慇懃で物静かな態度の裏に隠されたすさまじい
凶悪無慙をユリウスは骨の髄まで知り抜いている。
 この若い日本人はまだユリウスに対してこれといった悪意は抱いていないと思われ
るが、それでも、油断はできない。見かけはハイスクールの学生のようでも、魔王を
封印するために選ばれた稀代の術士なのだ。こちらの出方を見定めた上で、態度を
決めようとしているところかもしれない。それをイリーナにばらされるような具合に
なって、ごまかしにかかったというところだろう。
 イリーナとはその後も午後のサンルームで数度顔を合わせる機会があったが、そし
らぬ顔で、「どう、勉強はちゃんと進んでいるかしら?」と年上ぶった口調で訊かれた
だけだった。どうやらこの小娘は、アルカードを大きな弟扱いするのと同様、ユリウス
のことも弟分扱いすることに決めたらしい。けだものどもも知らん顔で、主人のまわり
で転がりまわって戯れている。
 ユリウスが無視して、長椅子の上で昼寝を決め込むポーズを取っていると、ティガー
と呼ばれている白黒の虎猫がひょいと腹の上に乗ってきて、同じように昼寝を始める
気配をみせた。
 むかっ腹をたてて払い落とそうとすると、猫は金色の目を光らせ、尖った爪をシャツ
に食い込ませて、獰猛そうな牙と桃色の舌を見せつけるように舌なめずりした。逆らえ
ば食い殺すという明確な意志に、あきらめて猫のベッドになるしかなかった。見かけ
よりぐっと重い猫が機嫌よくのどを鳴らして昼寝する下で、ユリウスは眠るどころでは
なく、イリーナがボウルガード夫人の給仕で、品よく午後のお茶をたしなむところを
見守るしかなかった。
 アルカードが帰ってきたと知らされたのもイリーナの口からだった。
 猫のベッド扱いされるのは癪だったが、あちこち行ってみても落ち着かず、
アルカードのいない読書室にひとり座っていても手持ちぶさたなばかりだ。かといって
自室にいても息苦しいだけなので、結局サンルームに足を向けることになるのだった
が、そこで、いつものように茶の給仕を待っていたイリーナが嬉しそうに言ったのだ。


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