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【1999年】煌月の鎮魂歌【ユリウス×アルカード】

106煌月の鎮魂歌6 18/29:2015/08/27(木) 00:39:42
 崇光はすでに落ち着きを取り戻していた。しかし動揺の色は手にしたカップに浮かぶ
さざ波に残っており、ユリウスはそれを見逃さなかった。
「単純に、戦力は多い方がいいというだけのことですよ。あの方はこれまでに二度、
魔王ドラキュラを倒してこられた。一度は仲間と、もう一度は独力で。それだけの力を
お持ちの方に、戦列に加わっていただかない法はないでしょう」
 いちおう、話としてはわかる。だがどうしても、何か割り切れないものが残った。
 自分ならば顔を見たこともない父親の一人や二人、鼻で笑ってナイフを突き立てる
だろうが、アルカードの白くなめらかな両手が、父殺しの血に二度染まり、三度目にも
また染められようとしていると思うと、そんな痛ましいことがこの世にあっていいの
かという気がする。二度までも父親を殺すことになったアルカードに、三度目の父殺し
を強要しようというこの男に、無性に腹がたってきた。
「あいつが来る必要なんてない」
 ぶっきらぼうにユリウスは吐き捨てた。
「魔王は俺が倒す。吸血鬼殺しの聖鞭を使うのは俺なんだろう。それなら俺が魔王を
完全にぶち殺してしまえばいい。あいつは関係ない」
 イリーナが手を止め、カップの縁ごしに上目遣いに崇光を見た。
「この人、まだ聞いてないの? スーコゥ」
 崇光が少しあわてたように手真似をする。
「あー、イリーナ、その点についてはきっとアルカードがおいおい──」
「あのね、〈ヴァンパイア・ハンター〉の使い手として正式に選ばれるには、鞭その
ものに認められなければならないの」
 崇光の必死のジェスチャーにもかまわず、イリーナは先を続けた。
「ラファエルだってまだ鞭に認められるまでには行ってなかったのよ、だからあくまで
使い手候補というだけでしかなかったわ。あなただってそう。どんなに武勇に優れて
いても、強い力を持っていても、ベルモンドの血だけでは〈ヴァンパイア・キラー〉の
使い手ではない。あなたは戦いの技術を磨いた上で、鞭に宿るベルモンド家代々の
英霊に認められなければ、正式な使い手にはなれないの。そして正式な使い手以外の
手では、聖鞭は力を発揮しない。アルカードは言ってなかったの? あなたはまだ、
使い手『候補』の身なのよ、残念ながら」
 すまし顔でイリーナはさくりとクッキーをかじった。
 崇光は額に手を当てて天を仰いでいる。ユリウスはただ呆然として、小鳥にパンの
かけらをつつかせている少女の無邪気な横顔を眺めた。


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