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Awake

182Awake 15話(9/14):2013/12/20(金) 23:21:11
「フッ……胸骨の破片が皮膚を突き破っているこの姿を見てそう抜かすのなら、よっぽど
の阿呆だな。あんた」
 グレーブスが自嘲するように軽く笑うと、血まみれの自身のコートを剥ぎシャツをおもむろ
にたくし上げた。モーリスは振り返ると近くに燃えている手頃な角材を松明にし、グレーブスの上
半身付近に翳した。
 微かな明かりによってその無残な姿を確認すると、吐き気を催すのに数秒もかからなか
った。いや、その状態で話しながら表情を変えることの出来る姿に、恐怖と戦慄さえ覚え
たのが最大の理由かもしれない。
「うっ……俺のせいだ。俺が……お前を打擲し階段から叩き落としたから……」
「仕方ねぇよ。俺相手に手を抜いたらあんたは今頃この世にはいねぇ。自惚れんなよ。解
ったなら俺に末期の言い訳でも吐かせてくれ」
 グレーブスは眉根と目頭に悲愁の漂う無数の皺を寄せながらも、喀血した血液を流しつつ口
角を緩ませ微笑した。その様は人としての生を全うするには歪な姿であったが、痛みに対
してグレーブスが尋常ならざる耐久力の持ち主であった事を改めてモーリスは思い知った。
 本人の意思や、体の状態から、助かる見込みが全くないと判断したモーリスはグレーブスを抱き
かかえ、彼の夫人の所まで連れて行くと少しの間横に寝かせた。
 それから、残された力で瓦礫を取り除き夫人の遺体の8割くらいを引き揚げた。8割と言
うのは膝から下は無残にも瓦礫によって潰され、見るも堪えないほど肉片が細切れになり
消失していたからだ。
 しかし上半身はグレーブスが切り刻んだ痕以外は、埃に塗れていたとは言えほぼ無傷と言っ
ていいほど綺麗な姿で残っていた。
 既に立って歩く事さえ叶わず、自らの力で座位を保てない状態まで弱ったグレーブスをその
まま冷たい地面に寝かせるのは可哀想だと思ったモーリスは、抱きかかえたままの態勢で地面
に腰を下ろした。
 グレーブスは夫人の姿を横目で確認すると、震えながら片手の指を絡ませてその手を取り、
少し握りしめた後、握力が失血で奪われたのか、すぐに力なく冷たくなった手を取り落と
した。


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