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【原作】ドラキュラ・キャスバニ小ネタ/SSスレ【準拠】

95 古歌-イニシエウタ-【五ノ歌】18/15 :2011/03/28(月) 00:32:42


 のちに続く数百年の生で、公子がこの瞬間を悔やまなかったことは一瞬とてない。もし
この時部屋に駆けこみ、父を抱きかかえて、その喪失と傷とをともに分かち合っていたな
らば、その後の惨劇は避けられただろうか。一千年をこえてうち続く闇の運命を止められ
ていただろうか。誰にも解らない。
 ただこの時、公子はまだ十五歳の少年でしかなかった。目の前で母が焼き殺され、自ら
も打擲されて傷ついた。それまで善なるものと信じていた人間の別の面を見せられた。そ
れらのことを受け入れて、なおかつ父の悲しみと苦悩に思い至るには、彼の魂はまだいか
にも幼すぎた。
 しばしの恐怖と自失から醒めると、彼は父が人間界への侵攻を開始したことを知って驚
愕した。懸命に父にすがり、無惨な殺戮をやめるようにといくども懇願した。だが、父は
聞く耳を持たなかった。かえって息子から顔をそむけ、廷臣のひとりを呼ぶと、息子を闇
の城のもっとも奥まった一画に監禁するようにと命じた。
 王にとって息子は、憎むべき人間の血をなかば継いだ子だった。しかしその血は死せる
妻の血であり、唯一の愛のかたみでもあった。なによりも、息子は母に似すぎていた。成
長すればするほど、母のたおやかな美貌は、青年のすっきりとしたかたちをとって息子の
上に花開いた。それを見ることは彼にとって苦痛であり、幸福が永遠に失われたことを思
い出させた。それはいかに人の血を流し、殺戮をくり返してもけして癒えない傷だった。
 公子はときおり父が自分のもとを訪れていることを感じていた。起きているときに来る
ことは決してなかったが、目を覚ましたとき、室内に残る血の匂いと闇の気配が、父がそ
こにいたことを公子に教えた。
 成長するほどに母のおもかげを濃くしていく息子に、王がなにを思ったかは知るよしも
ない。ただ、息子が眠りに落ちているあいだに父はやってきて、何もせず、ただ眠る息子
の顔だけをじっと眺めて去ってゆくのだった。自らの無力さに、公子は泣いた。
 三年の月日が過ぎた。魔王に率いられた魔界の軍勢は、人間界を席巻する勢いで各地に
拡がっていた。人間にとって安全な場所はどこにもなく、かろうじて抵抗を続けている土
地も数えるほどしかなかった。人間の世は危機に瀕していた。支配者たちと教会の聖職者
たちはふたたび顔を寄せあい、この緊急事態に何か打つ手はないものかと、長い会議を持
った。


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