したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

NON-TSF「偶然が、あたしを。」※再掲、修正・加筆

23luci★:2016/10/27(木) 00:55:28 ID:???0
「ふふざけんなよ、美里! 服着ろよ、服っ」
 真っ赤になって横を向いて、怒鳴ってる。その横顔が、あたしの知ってる淳樹くんの顔と一緒で、重なって。それが妙に心を落ち着かせてくれた。だから服を着ろって言われたけど、手近なシーツを身体に巻いて言葉に従った。
「淳樹くんは男の子なのに、女の子と、その、したくないの? やっぱり、汚い、から」
「俺だってそりゃ、いや、違うっそうじゃなくて。俺が言いたいのは、俺だって、美里がどんなに……」
 いきなり男の子がぼろぼろ泣き始めてる。なんでこのこが泣いてるんだろう? 泣きたいのはあたしだと思うけど。
「ごめんね、あたしが」
「ああっもうっ。話聞けよ! 美里は俺の憧れなんだ。あの時の美里がいたから俺は生きてるって思ってる。美里が傷ついても俺のためにがんばったって、俺が知ってる。だから、だからこそ、こんな状態嫌なんだよ。なぁ、俺は、俺が今度は美里を助けたいんだ」
 あたしは可愛かった従弟の顔を見た。膝をついてあたしと同じ目線の顔。なんだか傷が結構ある。さっきまで掴まれていた手は、よく見ると大きくて、ごつごつしてる。とても逞しい身体。でも目だけは優しくて、あの時みたいに怖さはなかった。
「――どう、助けてくれるの?」
「俺だってこの二年、いろんなことがあったんだ。だから、俺が守る」
 ああ、もう、それは答えになってないでしょう? 具体的なことなにも言ってないのよ、それ。きっと、力でなんとかしようって思ってるのね――男の子だなぁやっぱり。
 淳樹くんの場合は、それでも解決できたのかもしれない。多分、男の癖にとか、守れなかったとか、女の裸を直接見た嫉妬とか、そんなとこなんだろうって想像がつく。
 あたしの場合は、違うんだよ、わかってる? ずっとついて回るの。でも、それでも、このこは戦ってきたんだ、理不尽と。あたしが動けなかったこの二年、ずっと。それは、あたしがあのときがんばったから――? だとしたら……。
「美里、今日だけでも、出てみようよ」
「……出てって」
「え? いや、だから」
「着替えたいの。だから、部屋から出てて」
 一瞬、呆けた顔が面白くて。出て行ってから少しだけ笑ってしまった。笑うなんて、まだできたんだわ。
 服を選ぶのも久しぶりだった。外が明るいのは一階に行ったとき分かったけど、暖かいのか、肌寒いのかわからない。そういえば淳樹くんの服装はどうだったろう?
 階下に降りると淳樹くんは靴を履いて待っていた。
 淳樹くんが扉を開けると、新緑の香りと眩いお日さま。そこを一歩一歩足を動かす。
 お天気と違って、あたしの心が晴れたわけじゃない。わかってるもの。このこはあたしを救えない。救われることなんてない。一生ことあるごとに悲しんで苦しんでいくんだろう。でも、あたしだって、踏み出したかった。一歩でいいから。
 あたしだって、抗って、戦って、取り戻したい。この二年を。
 思えば、あの日このこが来たのも偶然。あたしがあそこを選んだのも偶然。レイプされたのも、男性が怖くなったのも、人が信用できなくなったのも、どん底まで落ちたのも偶然。なら、浮上するきっかけも、このこが来た偶然から、ってなるのかも知れない。
 だからあたしは、今度の偶然は、あたしを、ほんのちょっとだけ幸せにしてくれるって、もうちょっとだけがんばれるきっかけって、思うことにした。

<偶然が、あたしを。終わり>


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板