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TSFのSS「Tatoo」

3luci★:2015/11/02(月) 23:17:34 ID:???0
 車を降りて山中を歩く。深夜ともなれば、月が出ていない限りほぼ暗闇の世界だ。その中で躊躇せず歩みを進めるあいつの後ろを、私はこわごわ進んでいた。少しでも物音がすれば心臓がバクバクとなり、どうにも誰かに見られているような気がして絶えず後ろを振り返っていた。
 日付が変わる頃、目的の場所へと着いた。
「ここかい? 伊邪那美でもでてきそうだな」
 山の斜面にぽっかりと穿たれた裂け目は、まるで黄泉平坂への門のように見えた。
「この奥に数十メートルいくと、俺が見つけた土器が散らばってる場所になる」
 ヘルメットとライト、そしてデジカメと簡単な発掘道具を持った私は、逸る気持ちを抑えきれなかった。早く行けと、私とは対照的に大きな荷物を担いだあいつを促し、足早に門をくぐる。
 内部は人が一人入ればぎりぎりの横幅と高さで、ぬめぬめと足元は悪く、何やらすえた臭いが奥から漂っていた。
 暫く無言のまま歩くと、少しばかり広い場所に出た。入ってくる前の伊邪那美云々から、それまで歩いてきたところが産道でたどり着いたところはさながら子宮のように思い始めていた。根拠などなかったけれど。
 足元を照らせばあいつが見せてくれた土器と同じようなものの破片が転がっていた。
「実はな、この左手に石組みの壁があって、前回それを壊してしまったんだ。まだ中へは入ってないんだが」
「なにしてるんだ。中に何かあったら風化してしまうじゃないか」
 あいつを静かに罵倒しながらも、私は新たな何かを見つけられるかもしれないという、子供じみた興奮の最中にいた。
 とにかく、「何か」を見つけたかった。たとえあいつが発見した場所でも、あいつより先に。
 足早に崩れた石組みに取り付くと、あいつが静止するのも聞かず、強引に侵入を果たした。後ろからあいつがついてきた。
「おおっ」
 ライトに浮かぶ壁一面に、極彩色の女人図が飛び込んできた。それを前にしたら、学者としてしてはいけないことなど、極些末な事としか思えなくなり、興奮は歓喜を呼びあいつがどこにいるのかさえ失念していた。
「見ろよ。この女人図。みんな同じように背中、いや、首の下か? 同じような刺青があるな。お前の言ってた通りかもしれん」
「そうだな。ところでこれを見てくれないか。これだけ同じ刺青をしているのに、絵柄的には男性に見えないか?」
「ん〜? ……もしここの壁画が絵巻物のように物語性をもっているなら、確かに繋がりがおかしいな。この崩れたところにヒントがあるのかも」
「ああ、やはりそこに至るか。そりゃそうか」
 そこには男が女に変身したように見えた。崩れた絵の部分には、その要因が描かれていたように思えた。そしてその要因に思い至った。それを口にしようとした瞬間。
 意志とは無関係に身体が脱力し、昏倒していた。
 冷たい、ぬめっとした土と石が、「学者としての私」の感じた最期の触感だった。


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