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156エンジェル・ハウリング(弱虫の泣き声):2009/03/19(木) 00:52:37 ID:Fc72kk0o
 ようやく絞り出したフリウの呻き声に、しかしアマワは律儀にかぶりを振って反応した。

「それは違う。忘れたふりをするな、フリウ・ハリスコー。君が壊した後に残るもの。それがすなわち心だ。
 ゆえに私は君を存続させよう。君が不滅の存在になるその時まで――」

 ゆらめく不定形の影が、消えていく。言いたいことだけを喚き散らして、実在を愚弄しきりながら。
 だが、いまのフリウ・ハリスコーにそれを退ける言葉はない。
 口を突いてでたのは意味のない衝動だった。

「誰が、お前の手伝いなんかっ!」

 そして叫んだ時には、そこは硝化の森でなくなっていた。
 場所は再び瓦礫の山に戻っていた。満身創痍の少年も、地面に倒れ臥している男も、一瞬前となんら変わっていない。
 変わったのはフリウ・ハリスコーという少女の内面だった。
 心の狂気に浸食されていない部分、不毛の地に咲く一輪の花の如く僅かな面積の変化。

(アマワとの契約……)

 アマワは当人が一番触れられたくない物を奪っていく。
 フリウ・ハリスコーはかつてそれをはね除けた。
 だが、いまはどうだ。アマワの言ったとおり、フリウ・ハリスコーは何も信じることが出来ずにいる……

(ならあたしがどんなに壊したって――)

 アマワは奪っていくだろう。かつて彼女が帝都を破壊し尽した折、残ったのは全て奪われた硝化の森だけだった。
 ふと恐怖の念が鎌首を擡げる――ならば破壊は無意味だ。自分は無意味に破壊を振り撒いている!
 浮かんだのは故郷の村だった。彼女が壊した村。償いもできず、ただひたすら憎悪の視線の中で過ごしてきた――

(止まれ――!)

 必死で念じる。だが、無意味だった。
 すでにフリウ・ハリスコーの大部分が奪われている。狂気に没した彼女の体は命令を受け付けない。
 閉門式を唱えることもせず、ただ噎せ返るほどの破壊の中で楽しげに吐息を重ねていた。

(制御……できてない)

 フリウ・ハリスコーは狂っているのだから。
 その事実に凍り付く。
 精霊は常に御せる。かつてひとりの老人が彼女にそう教えてくれた。

(だけど、あたしはあたしを抑えることができなかったよ、爺ちゃん……)

 嗚咽を零そうとしても、泣けない。ただ彼女の表情は狂喜に濡れていた。

(止まって……止まって。止まってってば! 何で言うこと聞いてくれないのさ!?)

 胸中で自分自身を罵る。何度も何度も。
 勝手に動く体が瓦礫に躓いた時、ようやくその願いが届いたのだと思った。
 ガクリと体が傾く――だが、その上を何か光のようなものが過ぎ去っていくのを見て、自分がそれから逃れたのだと知った。
 都合良く、偶然に。

(もう……手遅れ、なの?)

 彼女は絶叫した。だがその声は声帯を震わせず、そして表情も相変わらず楽しげに笑っていた。

◇◇◇


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