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試験投下スレッド

984たった一度の冴えたやり方(4/5) ◆5KqBC89beU:2008/06/24(火) 12:54:55 ID:wFs0ZlLc
 うつむいた表情には、喜怒哀楽が複雑に混在していた。
 君を否定したら、“今ここにいる自分”や“今ここにいる皆”まで否定することに
なってしまう、と彼は言った。
 “今ここにある現実”は、君の干渉がなければありえなかった、と。
 辛く悲しく苦しいけれど、存在しなかった方がマシだったとは思わない、と。
 恨んでいないと言えば嘘になるけれど、それでも殺したいとは思わない、と。
 その意思を愚かだと嘲る権利は、わたしにはない。
 顔を上げて、坂井悠二はぎこちなく笑った。
 こうして姿を現したのは、自己満足だとしても会って話したかったからだろう、と。
 今こうやって話しているという現実は後で上書きされ、“今ここにいる坂井悠二”も
君に消されるのだろうけれど、だからこそ、せめて約束してほしい、と。
 踏みにじったものに見合うだけの素晴らしいものを絶対に掴み取ってみせるから、
数え切れぬほどの犠牲はすべて無駄にしない――そう約束してほしい、と。
 わたしは頷き、約束の対価として、彼の手から水晶の剣を譲り受けた。
 ……“あの現実”も、“あの坂井悠二”も、今はもう記憶の中にしか存在しない。

 数多の現実を渡り歩き様々な光景を覗き見たわたしは、この剣のことも知っている。
 邪を斬り裂く、人ならぬものが創った剣。魔女の血入りの水で洗われ、本来の目的を
――己の“物語”を少しだけ取り戻しかけている、勇者の武器。
 主催者に致命傷を与えられるかもしれない可能性を秘めた、七色に輝く刃。
 こんな物が支給品として都合良く会場内にある理由を、わたしは苦々しく想像する。
 勝利に届きそうで届かない程度の希望を与えて、最終的に絶望する瞬間を最大限に
盛り上げようとしているのかもしれない。
 あるいは、主催者すらも第三者の――“他者の破滅を満喫したい”という願望を抱く
強大な何者かの、掌中に捕らわれた獲物に過ぎないのかもしれない。
 どんな経緯があるにせよ、おそらくは、あまり喜ばしいことではない。


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