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試験投下スレッド

1 管理人◆5RFwbiklU2 :2005/04/03(日) 23:25:38 ID:bza8xzM6
書いてみて、「議論の余地があるかな」や「これはどうかなー」と思う話を、
投下して、住人の是非をうかがうスレッドです。

2 聖者の信仰 :2005/04/04(月) 00:27:40 ID:XYHByV2k
おかしい。
ゲルハルト・フォン・バルシュタインは、眼下の少女を見下げながら思った。
祐巳君と潤君がここを出てからもう二時間は経つというのに、一体どうして戻ってこないのだろう?
少し話しただけだが、彼女たちの内、潤君のほうは中々に手だれのようだったから、それほど心配する必要はないかもしれない。
とはいえ、自分のような吸血鬼を始め常識では信じられない存在がうようよしているこの島を、娘二人だけでいるのは大変に気に掛かる。
先ほどまでの一時の油断をも許さぬ状況と違い、幸いこちらの彼女のほうは朝と比べて多少容態が安定してきたようだ。
この近辺を軽く一周してくるくらいなら、おそらく問題はないだろう。
そう考えた子爵は、アメリアの傍を離れて辺りを見渡しに行った。尤も、彼女をあまり長い間一人にすることは出来ないから、周囲を少し見て回るだけだ。
ふよふよと宙に浮く血液の固まりは、傍から見れば随分とアンビリーバブルな光景だったが、幸運にも彼の姿を目にした者は居なかった。
このときもしどこにも行かずその場に留まっていたら、彼は異形化した祐巳を発見していたことだろう。
しかし彼は、そこから離れてしまった。―この偶然の悪戯が、彼と彼の保護した少女との運命を決定付けた。

―ふむ、見当たらないか。と、なるとやはり彼女らの身に何かが起こったのだろうか?

もっと遠くまで捜索に行きたかったが、置いてきた少女のほうも心配だ。
そう思った子爵は再びふよふよと浮遊しながら元の場所まで戻る。
その道中には、いつの間にか誰かが通ったような跡が残されており、子爵は祐巳と潤が帰ってきたのかと思った。
しかし、かれのごく楽観的な判断は180度間違っていると言わざるを得なかった。
―彼が戻った先に居た者、それは血の海の中で横たわる少女だった。―

子爵が去ってから数分後、倉庫から海へと向かって真っ直ぐに走っていた祐巳は途中の草原で一人の少女を見つけた。
尤も、このときの祐巳を『祐巳』と言うのは彼女が可哀想かもしれない。
人間としての理性も記憶も失われた彼女にとって、この瞬間あったのは獣としての本能のみであったのだから。

獣は自分の進行方向に倒れている丁度良い少女を見つけた。
獣はこの時腹が減っていた。
獣は―。

3 聖者の信仰 :2005/04/04(月) 00:28:54 ID:XYHByV2k
アメリアは自分に何が起こったかわからなかった。
何か恐ろしい生き物が自分の目前にいたことまでは辛うじて覚えていたが、それが何だったのか判然としない。
(ああ、そうだ…私、吸血鬼に襲われて…それから…?)
身体を起こそうとするが、全身を襲う激痛は、彼女に一切の行動を許さない。
己の意思では、指一本動かすことすらできそうにはなかった。
身体のあちこちからだくだくと流れ出る血液は、さながら彼女の魂までも押し出してしまいそうだった。
もはや目はかすみ、痛いという感覚さえろくにない。
それでも彼女は、喉から絞り出すようにして声を出した。―友に届けと。
「…リ…ナさ…」
『いかん、喋ってはいけない!』
子爵が綴る言葉を目の端に捕らえ、アメリアは少し自嘲的に思う。
(ふふ、私、とうとう幻覚まで見えるようになっちゃたみたい…でも、どうせ幻覚を見るのなら、リナさん達の姿の方が良かったけれど…)
そう思う彼女に、神は最後の慈悲を与えたのだろうか。薄く目を閉じた彼女の目蓋の奥に浮かんだのは、何よりも大切な三人の仲間の顔だった。
(リナさんにゼルガディスさん…それにガウリィさんも…)
戦いの中に身を置いていたとはいえ、楽しかった日々の映像が脳裏に浮かんでは消えていく。
馬鹿話をして笑いあった。皆で食事をした。そんな何でもないことが、宝物のような記憶となって蘇る。
瞑った目から一筋の涙がつぅっと流れ落ち、ぽたぽたと草の葉を濡らした。
苦しみと悲しみ、そして死の淵からの手招きによって混濁する意識の中、アメリアは誰に聞かせるでもなく、無意識に呟いていた。
「…リナっ、さん…ゼル、ガディ、ス…さ…ごめ、な、さ…」
それだけ言うと、彼女は残る力を振り絞って両手を胸の上へと掲げ、指を組んだ。ずきずきと痛む傷も、崇高な祈りの前には気にならなかった。
何もない空をもがく彼女の両手の指に力が込められ、固く固く閉じあわされる。
「…せ、めて…あなた、たちは、いきのび、て…」
彼女が最期に願ったのは、友の無事だった。ゲームが開始すらする前に、目の前で最も信頼する友人の一人を失い、今まさに自身の命も消えようとしている。
けれど、けれど自分以上の強さを持つあの二人なら、きっと大丈夫。
この下らないゲームの中でも、きっと生き残れるはず。

だから神様、お願いです。二人が生きて元の世界に戻れますように。

少女はそのまま、ゆっくりと息を引き取った。
彼女の死を看取った赤い形状不定物は、己の無力を噛み締めながら一言、少女のための言葉を手向けた。
それがひどく陳腐だと分かっていても、彼はその言葉を残したかった。

『少女よ、安らかに眠り給え』と。

4 聖者の信仰 :2005/04/04(月) 00:30:16 ID:XYHByV2k
【残り93人】
【死亡 アメリア・ウィル・テスラ・セイルーン(027)】
 【D−4/草原/一日目、09:00】

【ゲルハルト・フォン・バルシュタイン子爵】
 [状態]:体力が回復し健康状態に 
 [装備]:なし
 [道具]:デイパック一式、 「教育シリーズ 日本の歴史DVD 全12巻セット」
 [思考]:祐巳と潤の不在を気にかける/食鬼人の秘密を教えたのは祐巳だけであり、他者には絶対に教えない
     アメリアの死を悼む
[補足]:祐巳がアメリアを殺したことに気づいていません

【A‐4/海/一日目9:15】
【福沢祐巳】
[状態]:看護婦 魔人化 記憶混濁
[装備]:保健室のロッカーに入っていた妙にえっちなナース服 ヴォッドのレザーコート
[道具]:ロザリオ、デイパック(支給品入り)
[思考]:お姉さまに逢いたい。潤さんかっこいいなあ みんなを守ってみせる 聖様を救う 食鬼人のことは秘密
[補足]:この後、海へと向かい正気を取り戻す。
自身がアメリアを殺したことに気づいていません

5 遠のく感傷 </b><font color=#FF0000>(W1AT6yro)</font><b> :2005/04/04(月) 14:16:20 ID:prAD.KRk
「申し訳ありません、師匠。確実に眉間を狙えと仰っていたのに」
 立ち上がり服の草を払うと、キノは師匠に詫びた。
 殺すつもりでいたのに、また腹部や足を狙うとは……。
 師匠の呆れ顔が目に浮かび、キノは小さく首を振った。
(きっと彼らが武器を構えていなかったせいだ)
 どうやら相手に殺意がない限り、殺さない方針でいた普段の習慣が体に残っていたらしい。
 だが、これからは違う。これからは確実に殺す。
 今回は真正面から戦ったが、今回だけだ。
 一度は一緒に行動しようとしようとした二人と、師匠と共にいてくれた一人に、敬意を表しただけにすぎない。
(次からはどんな手を使ってでも――)
 決意を新たに固めたキノは、ふと自分の得物に目を落とした。
 カノンは、あと一発しか撃てない。
(そういえば、あの二人も銃を持っていたな)
 キノは階段に近づいていった。

6 遠のく感傷 </b><font color=#FF0000>(W1AT6yro)</font><b> :2005/04/04(月) 14:17:07 ID:prAD.KRk
 そっけなかった階段は、二人の人間と夥しい血により様相を変えていた。
 まずキノは、足を打たれただけならまだ救いがあったであろうがバランスを崩したせいで頭が陥没し、
 もはや顔の確認すら出来ない不運な少年の銃とデイパックを奪い取る。
 そしてこつこつと数段のぼり、腹部の銃創からどくどくと血を流す男のそばへ歩み寄った。
 男の傷は、誰が見ても瀕死の重傷で、放っておいても死ぬだろう。
 しかしキノは構わずカノンを男の眉間に向けた。
 無粋な行為といえないこともなかったが、キノの頭には師匠と一緒にいた男の不思議な力があったのだ。
 よくわからない力を持つ者がいる。
 もしかしたらそのせいで、この先自分の常識が及ばないことが起こるかもしれない。
 例えば、瀕死の人間が回復するとか。
 腹部を狙っておいて言えることではないが、確実に止めを指しておきたかった。

「……う……」
「!」

 しかしいざ引き金を引こうとした時、男が覚醒した。
 キノは驚いて思わず手を止めてしまう。
 カノンを構え警戒をしていたが、男はやけにうつろな瞳で、自分の現状に気付いていなかった。
 どうやら、死を目前に幻覚でも見ているらしい。

7 遠のく感傷 </b><font color=#FF0000>(W1AT6yro)</font><b> :2005/04/04(月) 14:17:49 ID:prAD.KRk
 男は色を失っていく目を這わせ、やがてキノの姿を認めると、呟いた。
 ごぼごぼと口の端から血が泡となって溢れ出て、声は全く聞き取れなかったが
 
 
  か・い・る・ろ・ど


 男の口は、確かにそう動いた。
(ああ、そうか)
 冷めた目でキノは思い出す。酷く大昔に思えることを。

(そういえばボクは、この人の知り合いを探してたんだっけ)
 ――でももう、どうでもいいことだ。
 


 カノン最後の銃声が、響いた。
 
 【C-5/階段付近/1日目・06:20】
 【イルダーナフ(103)死亡】
 【残り91人】
 
【キノ (018)】
[状態]:通常。
[装備]:『カノン(残弾無し)』  師匠の形見のパチンコ
    ベネリM3(残り6発)
    ヘイルストーム(出典:オーフェン、残り20発)
[道具]:支給品一式×4
[思考]:最後まで生き残る。

8 宮野の刻印講座 :2005/04/08(金) 01:06:06 ID:O4HOskRM
「嫌ですわ」
 これまでのお互いのいきさつを話し終えた後、エンブリオの効果と、それを彼女に使いたいと言う言葉を聞いた茉衣子は、寸分の間も置かずに開口一番そう答えた。あまりにも即急な否定に、流石の宮野もわずかに呻きを漏らす。
「なぜかね?」
「わたくしは少なからず自分の能力に誇りを持っています。なぜなら、それが自身の資質と努力のみによって培われたものだからです。それを今更、そんな趣味の悪い何とも知れぬ十字架によって覆されるなど、冗談ではございません。ましてやそれが班長によってもたらされた物などと……わたくし清水の舞台から身を投げ打ってでも拒否致しますわ」
 肩を抱いて大仰に身を震わせながら、茉衣子はまくし立てた。
『おいおい、この娘さんアンタの弟子じゃあなかったのか?』
 その言葉に、この十字架にしては珍しく飽きれを含んだ声で問いかけた。それにもまた、誰よりも早く茉衣子が反論する。
「誰が誰の弟子などと。班長とは、極めて不幸にも偶発的、一時的に組織での上下関係に置かれているだけに過ぎません」
『おーおーひどい言われようだな相棒、ひひひひひ』
「むぅ……そこまで拒否されるようでは仕方なかろう。しかしどうしたものかなこれは。無駄に持っていても五月蝿いだけで一向に利益がないのだが」
「班長が他人を五月蝿いとのたまうなど、冗談にしても笑えませんが……。力を引き出すためのものなのでしょう? でしたら、この状況を打破できうる能力の持ち主に使用させるべきですわ」
「例えばどんな能力かね?」
『オレとしちゃ、誰であろうと殺してくれりゃ文句はないんだがねぇ』
「そうですわねぇ……。一つは、このゲームの主催者を倒しうる力を持つ能力。もう一つは、この煩わしい刻印を解除できる能力。最後に、この島から脱出できる能力。……といったところでしょうか?」
 指折り数えながら、茉衣子は答えた。
「なるほど。その中でならば刻印の解除を優先させるべきであろうな」
「あら、なぜでしょう?」

『なーんかオレらまるで居ないことのようにされてねぇか? ヒヒヒ』
『まぁ、所詮ラジオと十字架だ。こんな扱いだろうさ』

「一つ目の主査使者を倒しうる力だが、刻印がある限りその例え持ち主とて簡単に殺されてしまう。無意味だ。三つ目の脱出の能力は、その能力者だけが逃げてしまう可能性もある。さらに、脱出できたとて刻印が必ず消えるとは限らん」
「なるほど……」
「そしてもう一つ。茉衣子君も気付いておろうが、今現在我々のESP能力はかなり低下している」

『どうよ、ラジオのアンタ。アンタでもいい俺を殺してみねぇか? 喋るラジオが、喋るMDラジカセぐらいになるかもしんねぇぜ?』
『いらん』

「ええ、それは分かっておりますが」
「その原因は、高い確率でこの刻印によるものだと私は推測しているのだよ」
 その言葉に、茉衣子は首をかしげた。
「何故でしょう? 島全体に結界のようなものをかけているのやも知れませんわ。刻印のせいだと言う確証は――」

『そう連れないこと言うなよ。同じ喋るガラクタ同士じゃねぇか、ひひひひ』
『誰がガラクタだ誰が!』

「ええい、お黙りなさい!」
 いい加減耐えかねたのだろう。茉衣子が宮野の持っていた十字架をもぎ取り、ペイとラジオに向かって投げつけた。カコンと実に小気味良い音が響く。
『ぐあ! 何しやがる、ただでさえガタが来てるってーのに!』
『なぁんだよ、どうせならもっと思いっきり投げてくれや。そうすりゃ晴れて殺されて俺も万々歳だってのによ』
「黙りなさいと言っています! ……コホン。ええと、なんでしたかしら……。そうそう、刻印のせいだと言う確証はないはずですが?」
「ふむ。では聞こう。その結界とはどういった原理で力を抑制するのかね?」

9 宮野の刻印講座 :2005/04/08(金) 01:07:29 ID:O4HOskRM
「どういったといわれましても……」
 分かるわけない、と首を振る。そのことに、宮野はさも当然と言うように頷いた。
「であろうな。なぜなら一つではありえないからだ。一概にESP能力といっても、効果は様々だ。テレパスやサイコキネシスに始まり、発火能力、透視能力、どこぞの加速装置じみた能力もあったな。それら全ての能力は効果の違いに従い、発生のプロセスも違うはずなのだ。ならば、それぞれに対応した結界が必要となる! その結界全てを島全体に張り巡らすなど無駄もいいところだ。各個人単位に、それぞれにあった結界をかけた方が遥かに効率が良いに決まっている」
 なるほど、と納得する。確かに理論は通っている。
「では決まりましたわね。刻印を解除できる能力者、あるいは素質を持つ方を探しましょう。……それで、どこを探すのでしょうか?」
 その問いかけに、宮野はむぅと腕を組んで黙り込んだ。十数秒ほどそうした後、おもむろににディパックから地図を取り出して、床に広げた。
 さらに転がっていたエンブリオを拾い上げ――ヒョイと極めて適当な動作で地図の上に投げ落とした。乾いた金属音を立てわずかに転がった後、十字架が地図の一端を指し示す。
「……Eの5だ!」
「あまりにも適当すぎます!」
 自信満々の表情で述べた宮野に、茉衣子は思わず怒鳴り声をあげた。

【今世紀最大の魔術師(予定)とその弟子】
【残り94人】
【Dの1/公民館→Eの5/時間(1日目・8時00分)】

【宮野秀策】
[状態]:健康
[装備]:自殺志願(マインドレンデル)・エンブリオ
[道具]:通常の初期セット
[思考]:刻印を破る能力者、あるいは素質を持つ者を探し、エンブリオを使用させる。


【光明寺茉衣子】
[状態]:健康
[装備]:ラジオの兵長
[道具]:通常の初期セット
[思考]:刻印を破る能力者、あるいは素質を持つ者を探し、エンブリオを使用させる。

10 Escape!修正案(111〜114) :2005/04/10(日) 11:08:56 ID:KbP906tc
「彼女から離れよ」
振り向いた先にはハックルボーンのむくつけき姿があった。
「不浄なる者よ。彼女から離れよ」
由乃に向かい断言するハックルボーン、その口調に怯えキーリの背中に隠れる由乃。
「あっ…ああああっ、あの、それはわかるんです、でも」
「ほら…いいいいろいろ未練がありまして、その…ねぇ」

自分でも何を言っているのかわからない、とにかく成仏する意思はあるのだということを
伝えないと…折角戻れたのに、このまま何も出来ないままではあの人に申し訳がたたない。
だが由乃のそんな葛藤などこの神父は一切考慮しない。

「未練など捨て、神の御許へ召されよ。迷う必要などない。迷いこそ神への背信」
ずいと進み出るハックルボーン、気押され下がるキーリ。
「ですけど神父さま…由乃は嫌がってます」
「それこそが神への背信に他ならない」

ああ…この人も同じだ…。
キーリの頭にヨアヒムの顔が浮かぶ。
でも…欲望に忠実なだけヨアヒムの方がまだマシな奴かもしれない。
少なくとも自分の正義に酔ってる奴より。
「神を疑うことなかれ」

ハックルボーンはただでさえ厳しい顔をさらに険しくして、キーリらに迫る。
キーリは由乃をかばうように立ちはだかる。

11 Escape!修正案(111〜114) :2005/04/10(日) 11:09:51 ID:KbP906tc
「あなた方の神に祝福を」
ハックルボーンは拳を構える。
「2人そろって神の御許へ召されよ」
その時だった…彼らの間を分かつように銃弾が飛来したのは、
ハックルボーンの注意がそれた時にはキーリはすでに逃げ出していた。

「死んじゃえ」
そう捨て台詞を吐いて。

当然後を追おうとするハックルボーンだが、さらなる銃弾が彼の脇腹に命中する…しかし
「我が鋼の信仰はこのような物で砕かれたりはせぬ」
ムン!とポーズを決めると脇腹の傷から弾丸がひしゃげて床に転がり落ちる。
そしてハックルボーンは弾丸の飛来した方角へと猛ダッシュをかけるのだった。

「なっ…なによあいつは」
ハックルボーンの恐るべき肉体を目の当たりにしたパイフウ。
気で弾丸の軌道を曲げておかなければ、今ごろここを捕捉され…あえない最期を遂げていただろう。
なれない事はするんじゃない、あの最初の一撃が命中さえしていれば…。
とにかく脱出口が開いた、もうこの城には用はない。
パイフウも神父が戻らぬうちにと撤収を開始した。

一方のキーリと由乃。
「はやくっ!はやく逃げて!!」
かんかんとリズミカルに階段を降りるキーリ、ふと振り向くと由乃が転んでいる。
「あなた幽霊でしょう!!何人間みたく転んでるのよ!!」
「まだなって2時間しか経ってないんだからいいじゃないの!!」
口論しながら走る2人。

12 Escape!修正案(111〜114) :2005/04/10(日) 11:11:33 ID:KbP906tc
「そこ、そこから私城にはい…」
鈍い音がしたかと思うと額を押さえうずくまってるキーリ。
「あ…ここすり抜けたんだ、私」
「どうせ落ちは読めてたけど…死んじゃえ…もう死んでるか」
恨みがましい目で由乃を睨むキーリ。
どうしよ…そんな表情でおろおろする由乃、その時。
「え…あ…はい」 

突如僅かだか耳元に聞こえる声に返事をする由乃、声の主は若い男のものだった。
「何…右に亀裂……はい」
男の声は用件を一方的に告げて消えてしまった。
今のがさっきキーリが話していた、「声」なのだろうか?
なんか自分がまた一歩本格的に幽霊になってしまった、そんな気がして落ち込む由乃、
そんな彼女はさておき、キーリはすでに亀裂から外へと脱出していた。



そして…残されたのは神父と、
「何をしている?こちらに来られよ」
傍観しなくりで怯えまくりの地人だった。
「この地には不信神者が多すぎる。汝はどうなのだ?」
静かな、しかし途方もなく深い怒りと悲しみを込めてハックルボーンはボルカンに問いかける。
「そ…それはぁ」
殺される、何か言わないと殺される。
社会の底辺に生きる者ゆえの生存本能でボルカンは危険を察知していた…。

13 Escape!修正案(111〜114) :2005/04/10(日) 11:12:29 ID:KbP906tc
しかし察知しただけで何も出来ないのが地人の悲しさだったが、しかし。
「全部オーフェンが悪い」
思わず口をついて出た言葉に自分でも驚くボルカン。
「オーフェン?何者か?」
もはや止まらなかった…ボルカンはここぞとばかりにオーフェンがいかにひどい奴か、
そしていかに自分が虐げられているかを、
次々と脚色をふんだんに交えまくしたてていった…そして。

「そのオーフェンとやらを即刻浄化せしめよう」
神父がその気になるのにそうは時間はかからなかった。
「そ、それじゃあそういうことで…」
わなわなと義憤に両手を握り締めるハックルボーンを横目に見ながら、そっと退場しようとするボルカン。
「待つがよい。ここで我らが会えたのも神のご加護に他ならない」
その肩をむんずとつかむやたらとでかい掌。
「共に行こう。それが神の御意思である」
もはやボルカンに抵抗することはおろか、選択する余地すら与えられていなかった。

【G-4/城の中/1日目・08:52】

【ハックルボーン神父】
 [状態]:健康
 [装備]:宝具『神鉄如意』@灼眼のシャナ
 [道具]:デイパック(支給品一式)
 [思考]:神に仇なすオーフェンを討つ
 
【ボルカン】
 [状態]:健康
 [装備]:かなめのハリセン(フルメタル・パニック!)
 [道具]:デイパック(支給品一式)
 [思考]:打倒、オーフェン/神父から一刻も早く逃げたい

14 限界を超えて :2005/04/10(日) 19:01:19 ID:wiv5AJwY
意識がここに還ってきた。
同時に、右肺と左脇腹の神経が再び痛みを告げ始める。
だが、彼女はそれを黙殺して立ち上がろうとする。
不意に、喉元から何かが込み上げてくる感覚。
そのまま跪いて、彼女は盛大に血を吐いた。
(……そーいや肺に一発喰らってたっけ)
今更のように、撃たれた事を認識する。
しかし、それでも彼女は立ち上がる。

「君の命はもう残り少ない」

どこかで聞いた事のある声が聞こえた。
「君の人間離れした身体をもってしても、おそらく1時間と保たないだろうね」
(勝手な事言ってくれるじゃねぇか……)
「だからこそ、君は彼女を助けるというのかな?」
(……)
自分はそこまで殊勝な人間ではない事は、彼女自身良く知っていた。だが、知り合ってしまった人間を
見捨てる事が出来るほど、彼女は冷徹ではなかった。

なんとか立ち上がったものの、身体がうまくいう事を聞いてくれない。

しかし、いやだからこそ──。
世界から見放されて、誰かの気を引く事しか出来なくて、そんな空しい自分だけれど。

(祐巳……待ってろよ…………今、助けにいくからな……)
強すぎる力を持ってしまった彼女を救いたかった。

だから──。


そして彼女は吼えた。

15 限界を超えて :2005/04/10(日) 19:02:29 ID:wiv5AJwY
スコープで彼女の様子を見ていた萩原子荻は、その様子を見て冷静にライフルを構え直した。
「……さすがは『赤き征裁』、といったところですか」
照準を左太腿へと合わせて、静かにトリガーを絞る。

命中。彼女の身体がくずおれた。
「何か言ったかい?」
「いえ……、何でもありません」
「そう、それならいいけどね」
淡々とした臨也との会話。
当たり前と言われれば当たり前の事。彼との同盟は、完全に利害だけで成り立っている。
寝首を掻かれる事を前提とした、薄氷のような同盟。
思考を切り替えて、意識をスコープの先へと移す。

彼女は、再度立ち上がろうとしていた。
しかし、先の太腿を合わせて三発も銃弾を受けている身体では、うまく立ち上がることは出来ないようだ。


その姿を見ていて彼女は気付いた。
『人類最強の請負人』哀川潤の瞳が、こちらを向いている事に。

16 限界を超えて :2005/04/10(日) 19:03:33 ID:wiv5AJwY
身体中の震えが止まらなかった。
只相手に見つめられただけで、こうなってしまった。
(あの眼は何!? 私は……、あんな眼を見た事がない!!)
萩原子荻は動揺を隠せなかった。
スコープから見えた彼女の瞳は、子荻が見た事のないものだったからだ。
(あれは”殺意”や”敵意”とは違う……。ましてや”狂気”でもない)
(あの意志すら見られない瞳……、あれはまるで──)

そこまで考えて、急にライフルが火を吹いた。それと同時に、子荻の意識が現実へと引き戻される。
どうやら、身体の震えを制御できずに誤ってライフルを撃ってしまったらしい。
すぐに彼女の状態を、スコープで確認する。
彼女の左手が右肩を押さえていた。
僅かに身体を揺らすが、すぐに彼女は歩きはじめた。その向かう先にあるのは、このビルだ。
この後どうするかを彼女は考える。
だが既に答えは出ていた、そしてそれしか生きる道はない。
「ここから逃げます」
ライフルを片付けながら、子荻は臨也に告げた。
「……」
理由を告げないことを不信に思わずに、臨也も手早く片づけをはじめる。

しかし──、

荷物を片付ける手を休める事なく、彼女は思った。


あんな眼をした『赤き征裁』から、無事に逃れられるのかと。

17 寝起きハイテンション【修正案】 :2005/04/10(日) 19:21:00 ID:VlqsSz3o
 まぶたの裏に眩しさを感じ、出雲・覚は目を覚ました。
「……なんだ、もう朝か」
 どうやら何事もなく朝を迎えることができたようだ。
「ま、好き好んでこんなとこまで来る暇人はそうそういねぇわな」
 身を起こそうとしたところで、妙な重さを感じる。
 見ると、自分の腕の中でアリュセが丸まって眠っていた。
 左腕を見ると、へたくそながら布がきつく巻いてある。
 布の出所は……
(俺の服かよ)
 左の袖がなかった。
 多少寒いが、手当てしてくれたことを思えば腹も立たない。
 まだジクジクとした痛みはあるが、出血自体はすでに止まっているようだった。
「さーて、これからどう動くか。とりあえずは腹ごしらえと現状確認だな」
 支給品のうまか棒を咀嚼しながら、勝手にアリュセのデイバッグを漁る。
 そして取り出したアリュセの支給品を見て、
「こっ……これはあぁぁあぁッ!!!」
 覚は驚愕の雄叫びを上げた。

「……ふぇ?」
 耳元の大音響でアリュセも目を覚ました。
 まだ半分閉じたままの目をこしこしとこする。
「なに、どうしたんですの?」
 寝ぼけ眼で聞いてくるアリュセとは対照的に、覚は興奮した面持ちでその支給品を掲げ上げてのたまった。
「どうしたもこうしたも、おおぉ何で男の夢、男のロマンがこんなところに!!」
 その手に掲げられているのは、黒いワンウェイストレッチ。
 そして周りには、網タイツ、付け耳、蝶ネクタイに白いカラー、カフスおよびしっぽ。
 完全無欠のバニーガールの衣装一式がそこにあった。
「……ロマン?」
「おおよ、男ってのは特殊な趣味の野郎を除いて、こういうのに燃えて萌えるものなんだ。
 と言っても、コレ単体で萌えるわけじゃないぜ。誰かに着せてこそ萌えるんだ」
 よくわからないという面持ちで聞き返すアリュセに、無駄に力説する。
 ここに風見・千里がいたら、子供になんてこと教えるのかと手加減なしで蹴り飛ばされていただろう。
「も、もえ?」
「ああ、漢(おとこ)が力を発揮するために必要なエネルギーだ。
 装着者がナイスバディであればあるほど効果が高い」
 例えば、と、覚は最初の会場で見かけた黒髪のクールビューティー(=パイフウ)を脳内具現化する。
 似合いすぎた。

18 寝起きハイテンション【修正案】 :2005/04/10(日) 19:22:05 ID:VlqsSz3o
「危ねえ、逃げろっ!!」
「ひゃ!?」
 ひざの上に乗っていたアリュセを抱え上げて目の前に正座させる。
「な、なんなんですのいきなり!? ……なぜ前かがみ?」
「ぬぅ、聞いてくれるなリトルガール。俺の猛り狂う熱き魂を鎮める儀式中だ」
「ふ、ふーん……」
 呆れたように見つめるアリュセをよそに、今度は風見・千里にスイッチする。
(おおぅ…イイ)
 やっぱ千里が一番だなとノロケたことを考えながら、身体の輪郭にそってわきわきと手を蠢かせる。
 アリュセが恐れおののくような目で見ているが、今の覚は気にしない。
 と、アリュセが急にいたずらっ子の顔になった。
 きゅぴーんという擬音が聞こえたかもしれない。
 まだ犯罪的な手つきをしている覚の側面に回ると、耳元でこしょこしょと話し始める。
「あのね、最初の広間で"ないすばでぃ"の人見かけましたわよ。背が高くて……」
「ほぅ」
「胸の大きい……」
「ほぅほぅ」
「傷だらけの髭のおじさん!」
 その人物は覚も見ていた。
 一瞬でバニー姿の千里がバニー姿のトレパン巨漢(=ハックルボーン神父)に差し代わる。
「ぐはぁっ!?」
 精神に大打撃を食らい、もんどりうって倒れた。
(いけねぇ……やばいぜこれは、なんて恐ろしい支給品なんだ。まさにヘルアンドヘヴン……)
 あまりのインパクトに脳裏に焼きついてしまった。
 しばらく立ち直れないような気もする。
 だが、けらけら笑っている目の前の少女を見ていると、まあいいかとも思えてきた。
(ま、暗くなるよかなんぼかマシだろうよ)
 決して狙ってやったわけではなく本気で妄想していたのだが、結果オーライとしておこう。
 と、そういえばまだお互い自己紹介もしていないことに、いまさらながら気づいた。

 名を聞こうと――したところで、ガバッと勢い良く起き上がる。
 表情は硬い。
 アリュセも笑うのをやめ、真剣な顔つきになった。

 ――頭に直接響き渡る男の声。
 ――死者の名を告げる、最初の放送が始まったのだ。

19 禁止エリアがもたらすもの【修正案】 :2005/04/10(日) 19:23:35 ID:VlqsSz3o
「こいつぁ随分ヤバいことになっちまったな……」
地図を見ながら、出雲は苦悩する。
死者の中に自分とアリュセ(やっと自己紹介をした)の知る名が無かったのは幸いだったが、
崖だけでなく禁止エリアまでもが、彼らの移動の邪魔となってしまった。
「ねえ、これからどうするんですの?」
「どうするも何も、まずはここから移動しないといけねえ。
ほれ。食いながらでいいか?」
出雲は立ち上がると、山ほどあるうまい棒からアリュセに一本差し出す。
「ええ、大丈夫ですわっ」
「よーしいい子だ。そいじゃ、行くとするか」
出雲はバニースーツをデイパックに戻すと、二人分のデイパックを持ち上げた。
「ふぇ? わたし、自分で持てますわよ?」
「いいんだアリュセ。今日はたっくさん歩くことになりそうだからな。
荷物は俺様のスーパーパワーに任せて、お前は体力温存しとけ」
出雲は放送内容を思い出す。
23人という死者数。それは相当な殺人者がいることを意味する。
安全な場所を確保するのは、簡単なことではないだろう。
「そう? それじゃ、お願いしますわねっ」
足取り軽く、アリュセは歩き出す。
そして、出雲もその横に並んだ。
――こんな年端もいかねえ子、殺させるわけにゃいけねえよなあ……。
守ってやらねば。
出雲はそう思いながら、彼女の横を歩くのであった。

20 Double passes【修正案】 :2005/04/10(日) 19:25:20 ID:VlqsSz3o
「ねえ、これからどうするんですの?」
海岸を行くアリュセが、後からついてくる出雲に訪ねる。地図を見ながら歩く出雲は、何処に向かうかずっと
考えていたのでアリュセの問いかけには気付かなかった。


最初の放送で互いに知り合いの名前が呼ばれなかったか確認した後、2人は朝食のパンとうまか棒
を食べながら今後の方針について話し合っていた。
結果として、アリュセの方の知り合いを先に捜す事になったが、その間ずっとアリュセは子供扱い
されていたのが気に入らなかったらしい。
ちなみにその時「子供扱いも何も、まんま子供じゃねえか」と出雲がそう言ったせいで、アリュセから股間に
鋭い一撃をもらったのはまぁどうでもいい事である。


それはともかく、出雲はこれから何処に向かうべきか考えていた。正直に言えば、捜す手立てがない以上
何処へ行っても一緒だと思った。
「なぁお嬢ちゃん、ちょっとこっちに来てくんねえか?」
出雲はアリュセを手招きして、こちらの方へ呼び戻したあと地図を見せてこう言った。
「お嬢ちゃんの知り合いのいそうな場所とか、わかんねぇか?」
アリュセはしばらく地図を眺めて、ある一点を指した。
出雲がその理由を尋ねるとアリュセは、「王子って盆栽が趣味だから、盆栽の有るところにいるんじゃないか
と思いまして」と答えた。
正直、盆栽が趣味の王子様というのはどうなのかと出雲は思ったが、流石にもう一度股間に一撃をもらうのは
嫌だったので口にはしなかった。
「それじゃ、そこに向かうか」
出雲がそう言ってから、2人はまた歩きはじめた。

21 限界を超えて【修正】 :2005/04/10(日) 20:37:17 ID:wiv5AJwY
意識がここに還ってきた。
同時に、右肺と左脇腹の神経が再び痛みを告げ始める。
だが、彼女はそれを黙殺して立ち上がろうとする。
不意に、喉元から何かが込み上げてくる感覚。
そのまま跪いて、彼女は盛大に血を吐いた。
(……そーいや肺に一発喰らってたっけ)
今更のように、撃たれた事を認識する。
しかし、それでも彼女は立ち上がる。

「君の命はもう残り少ない」

どこかで聞いた事のある声が聞こえた。その声の主の事は少しだけ知っている。
黒い帽子をかぶった筒形のシルエットに、男か女か分からないその顔。
人かどうかすら怪しいそいつの名は──、
(ブギー、ポップ……か)
「君の人間離れした身体をもってしても、おそらく1時間と保たないだろうね」
(勝手な事言ってくれるじゃねぇか……)
「だからこそ、君は彼女を助けるというのかな?」
(……)
自分はそこまで殊勝な人間ではない事は、彼女自身良く知っていた。だが、知り合ってしまった人間を
見捨てる事が出来るほど、彼女は冷徹ではなかった。

なんとか立ち上がったものの、身体がうまくいう事を聞いてくれない。
身体を揺らしながら、よろよろと彼女は歩き始める。

「きゃぁぁ!!、アイザック、グリーンを止めてぇぇ!!」
「よーし!! まかせとけミリゃぶへぇ!!」
「わぁぁっ!! アイザックー!!」

目の前に男が立ち塞がったが、それを軽く振払って彼女は再び歩きはじめた。


世界から見放されて、誰かの気を引く事しか出来なくて、そんな空しい自分だけれど。
しかし、いやだからこそ──。

(祐巳……待ってろよ…………今、助けにいくからな……)
強すぎる力を持ってしまった彼女を救いたかった。

  


そして彼女は天に向かって吼えた。

22 Marionette </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/04/15(金) 01:48:00 ID:NLXnHML2
突如、空に轟音…しかしそれは何か慌てふためくような声がしたかと思うと、
それっきり音沙汰がなかった。
参加者たちは時計を見る…AM10:45。
まだ放送には早すぎる…何があったのだろうか?

「びっくりした」
鳥羽茉理は手にしたメガホンのスイッチを切って、隣にいるシズの顔を見る。
このメガホンは草原に放置されていたディバックの中から回収したものなのだが、
まさか島中全てに…おそらく何らかの仕掛けがあるのだろう、聞こえるようになっているとは
思わなかった。

だが、これは思わぬ拾い物だ…。
もともとこれで仲間たちの名前を呼びながら人探しをしようとしていたのだが、
これで手間が省けた。
2人は顔を見合わせ頷き合う。

AM11:00
2人はとあるビルの屋上にいた。
はやる気持ちを抑え、深呼吸をする茉理…頭の中で何度も何度も考えた言葉を反芻する。
大丈夫だきっと出来る…。
(始さん…私を守って)
頷くとおもむろに茉理はメガホンのスイッチを入れた。

また島中に声が響きわたった。
『皆さん聞いてください、愚かな争いはやめましょう、そしてみんなで生き残る方法を考えよう』
まずはシズが口火をきる。
『確かに私たち個々の力は微々たるものかもしれないが、だからこその協力だ!
 みんなで一緒に戦おう』
『そうよ!あいつらの好きになんかさせちゃダメ!…わたしは…ダンダンダンッ!!』
銃声が茉理の声を掻き消した。

23 Marionette </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/04/15(金) 01:48:41 ID:NLXnHML2
背後からの銃声にいちはやく気がついたのはシズ、
放たれた弾丸は3発、その内1発はシズのレイピアが弾いた、
だが外れたかに見えた2発は屋上の手すりに当たって跳弾し、1発は背中からシズの胸板を、
そしてもう1発は茉理の腹部を無情にもそれぞれ貫いていた。

さらに2発、今度もシズは茉理をかばおうとするが、傷ついた身体では間に合わず
弾丸は茉理の肩口と、わき腹を抉る。
『ああああっ!』
悲鳴がメガホンに乗せられ、島中に響き渡る。
(どこだ…どこに…いる…)
シズは激痛に顔を顰めながらも必死で気配を探る。
もう自分たちは長くない、だが…それでもせめて刺し違える、でなければ後に続く者たちに
申し訳がたたない。
(そこか…)

射撃地点を割り出したシズはレイピアを構え、ふらふらと屋上の給水塔の影へと回りこむ。
(頼む…せめてこの一撃だけでも)
裂帛の気合と同時に繰り出した一撃、しかし…
レイピアは無情にも空を切る、と同時にその背後…非常階段脇に潜んでいたパイフウの気を帯びた手刀が、
振り向く間もなく、シズの片腕をレイピアもろとも切断し、さらに返す一撃がシズの背中をなぎ払う。
そして止めの一撃がシズの胸板を貫こうとしたのだが、それは残念ながら空を切った。
何故ならシズはもうすでに、自らの血で足を滑らせ無様にも非常階段を転がり落ちてしまっていたからだった。

その様子を潤んだ瞳で見つめるパイフウ…彼女だって本当は彼らに協力したいに違いない。
だが…それはもはや叶わない。
自分はたった一人で戦わなければならない、いかなることになろうとも…
したがって標的たちが団結されることは非常に困るのだ。

24 Marionette </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/04/15(金) 01:49:31 ID:NLXnHML2
『たす…たすけ…始さん…』
一方の茉理はか細い声で…メガホンに向かい今はもういない人の名前を呼ぶ。
もう島のみんながとかそういう気持ちはどこにもなく、ただ愛しい人への思い…
それのみが彼女の心を支配していた。

だがパイフウはそんな彼女にも無慈悲な一撃を放つ。
『がっ!』
弾丸は茉理の太股を貫いていた、一撃で仕留めるつもりが視界が涙で曇り狙いが外れてしまった。
『いや…やめて…こないで…始さん…聞こえているんでしょう?、なんできてくれないのよお!
 始さんっ!続くん!終くん!余くんっ!』
もう一度銃口が、泣き叫ぶ彼女の頭を捉える。
『死にたく…ない』
狙いをつけるパイフウの両目から涙が止め処もなく溢れ出し、噛み締めた唇からは一筋の血が流れ出す。
(ごめん…ごめんね)
ガンッ!その銃声を最後に放送は終了した。

そして放心したかのように路上をさまようパイフウ
この襲撃は紛れも無く自分の意志で行ったことだ…今後の戦略上、参加者に団結されるわけにはいかない。
だが今の行為がどれほどディートリッヒらの思惑に沿うことに、
彼らのやっていることを助けることにになるのかも、彼女は承知していた。
「なによ…これって…」

彼らの誘いに乗った時点で、彼女は自分を犬と自嘲していた…だが、
今の自分に比べれば犬ですらまだ自由だ、自分の思い通りに動いたようで、実は何一つままならない…、
自分はもはや犬以下の操り人形に成り下がってしまった。
そして操り人形の糸を操るのは…。
(殺す…殺してやるわ…絶対に)
あの男だけは…ディートリッヒだけは許さない!
絶望と悲しみで狂いそうな心を憎悪で繫ぎ止めながら、パイフウは次の標的を求めていた。

25 Marionette </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/04/15(金) 01:50:32 ID:NLXnHML2
「待ってて…かならず…助けを…」
シズは全身を朱に染めながらも、未だ生き永らえていた。
最も片腕は切断され、胸は撃ち抜かれ、さらに背中を引き裂かれて…両足は転落の際に砕けてしまっている。
それでも…とうに死んでいるはずのダメージを受けながらもシズは、
強靭な意志と責任感で命の灯火を燃やし続けていた。
「何も…できない…まま死ぬわけには…いかない…から」
ずるずると血に染まった身体を引きずり着いた先は。
(地下か…)
坂道を上がれないため低いところ低いところと転がるようにしていたら、結果たどり着いてしまった、
中は妙にがらんどうでやけに広かった、駐車場だろうか?
先の見えない闇の中に身を進めるのはさすがに気が引けたのだろう、シズは壁にもたれるようにして
ずりずりとカニのように鈍く進んでいく。

その時だった…、前方に人影が僅かに見える。
もうほとんど見えない目を凝らすと、2人の少女がいつの間にか自分の目の前に立っていた。
「お願い…たす…たすけ…」
「おいしそうな匂いがしたら起きてみたんだけど…男だ…私いらないや、死んで」
おいしそう…何言って…
少女の口元に牙が光ったようなそんな気がしたかと思うと、もうシズの喉は命もろとも、
剃刀で切り裂かれてしまっていたのだった。

「佐藤さん飲まないの?おいしいのに」
四つんばいになってぴちゃぴちゃとシズの血を啜る千絵、壁や路面にこぼれた血も丁寧に舐め取っていく。
「だから私男の血は飲みたくないんだってばさぁ」
「根っからレズなのね…やっぱりあそこの生徒ってみんな…」
「ふふふっ、それは歪んだ情報…心配ないって、みんな素朴で可愛い女の子ばっかりよ、
 私が保証するんだから」
聖はまるでどこかの占い師のような怪しい言葉で千絵に説明する。

26 Marionette </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/04/15(金) 02:01:36 ID:NLXnHML2
「その素朴な女の子をみんな吸血鬼にしちゃうのよね、悪い人ねぇ」
「そうよ、あーあ、由乃ちゃんもあんなに早く死んじゃうなんて勿体無い…せっかく仲間にしてあげようと
 思ってたのに」
その言葉には死者に対する手向けなど一片たりとも含まれていなかった。
もはや彼女らは心まで獣に堕ちてしまっていた。

「でも…やっぱり欲しいのよね?」
千絵は物欲しげな聖に表情を見逃さなかった。
「私の血ならいいでしょ…はい」
千絵は自分の唇を聖の唇に重ね、そこから飲んだばかりのシズの血を口移しで流し込んでいく、
「あは…おいし…しおりぃ…」
恍惚の表情でうっとりと喉を鳴らす聖、だが千絵はもう次の準備に取り掛かっていた。
「飲み終わったら死体の処理をして、また隠れましょ…次の隠れ場所も任せて…」

【鳥羽茉理 シズ 死亡】【残り88人】

【C-6/住宅地/1日目・11:00】
【パイフウ】
 [状態]健康
 [装備]ウェポン・システム(スコープは付いていない)
 [道具]デイバック一式。
 [思考]主催側の犬になり、殺戮開始/火乃香を捜す

【C-6/住宅地/1日目・11:00】
【佐藤聖】
 [状態]:吸血鬼化/身体能力等パワーアップ、左手首に切り傷(徐々に回復中)
 [装備]:剃刀
 [道具]:支給品一式
 [思考]:次の隠れ場所に移動
 吸血、己の欲望に忠実に(リリアンの生徒を優先)

【海野千絵】
[状態]: 吸血鬼化/身体能力等パワーアップ
[装備]: なし
[道具]: なし
[思考]: 聖についていく/己の欲望に忠実に

27 チャンス到来/戦友 その1  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b> :2005/04/17(日) 00:45:36 ID:Lfg1/.X6
商店街の入り口に5人が立っている。
「こっちのほうに飛んでったのよね?」
その中の1人、千鳥かなめが尋ねる。
「はい・・確実ではないですけど・・。」
しずくが答える、彼女の探し人を追って中央まで来たのだが
そこから足どりがつかめなくなっていた。
「さて、これから、これからどうする?」
「そうね・・最悪しらみつぶしに探すしか・・」
ぐう。
疲れからなのか盛大に腹がなった・・。
「千鳥、空腹は思考を鈍らせる、腹が減っていたのなら・・」
「うるさい!」
バックパックがもろに顔面をとらえた。
「何故殴る?」
「あんたの辞書にはデリカシーって言葉が載ってないの!?」
首を傾げる宗介、それを見てかなめは確信した。
『載ってないわね・・。』
「それじゃあそろそろ朝ごはんにしましょうか、そのあとこれからの行動を考えましょう。」
しずくが提案した。
「え・・でも・・。」
「大丈夫ですよ、それに私も少し疲れました。」
「私も賛成しますわ、幸いここならば食料には不自由しないでしょうから。」
まだいけると言おうとするかなめをしずくと祥子が押しとどめた。
『それに・・ここならば逃げることも恐らく可能ですし。』
祥子はチャンスと思った。
ここまで逃亡のチャンスを伺ってきたが
常に注意を払っている宗介のもとから逃げ出すのは不可能だった。
「そうだな。それでは、それでは二手に分かれて食料を調達するとしよう。」
「じゃあ私とオドーさんとしずくさん、相良さんと千鳥さんで分かれるのはどうでしょう?」
しめたとばかりに祥子がきりだす。
「そうだな・・それで、それでいこう。よろしいかな皆の衆。」
オドーが同意を求めた。
「ハッ!」
「ええ。」
「じゃあ15分後にあそこの店に集合ってことで。」
宗介、しずくが承諾し最後にかなめが集合場所と時間を決めた。

28 チャンス到来/戦友 その2  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b> :2005/04/17(日) 00:46:31 ID:Lfg1/.X6
2人で商店街を歩きながらかなめはいつもの光景を思い出していた。
「ねえ宗介・・。」
「なんだ?」
「なんかさ、こうしてるといつもと変わんないよね。
この商店街いつも学校から帰るときに通るとことなんか似てる・・。」
「そうだな。確かに似ているかもしれない。」
「まだ少し信じられないんだよね〜、
今あたしたちがいる場所が戦場の真っ只中なんて。」
「千鳥・・。」
会話をしながらもかなめは店先においてある食材をバックパックに入れていく。
「わかってはいるの、分かってはいるけど・・怖くはないんだ。
あんたと一緒にいるからかもね。」
少し微笑みながらかなめは言った。
「そうか・・ならよかった。」
宗介も微笑む、が、どこか寂しげだ。
「宗介・・。」
「クルツは・・。」
「・・・。」
あえて触れていなかった名前を宗介は出した。
「あいつは・・女がとにかく好きなやつだった。」
かなめは少し笑って言う。
「なによそれ。」
宗介も少し微笑んだ。
そして言葉を紡ぎだす。
「だから・・おそらく手当たりにしだいに声をかけて・・・失敗したんだろう。」
「・・そうよね・・きっとそう・・。」
かなめも頷いた。
「まったく・・馬鹿なやつだ。」
その口調は淡々としていた。
「バカはあんたも同じでしょうが・・。」
微笑みを崩さずにかなめは言う。
「そうだな・・。」
「・・宗介・・我慢しなくていいわよ・・。」
「俺は何も我慢してなどいない、君こそ・・」
言いかけたところで言葉が止まった。
微笑んだ彼女の目には大粒の涙があった。
そして彼女は宗介の胸に顔をあてた。
「別にあたしは・・何も我慢してないわよ・・。」
その声は震えていた。
「そうか・・。」
そして、彼は自分の頬を伝わるものを感じた。
「ねえ宗介・・あんたまで勝手に死なないわよね・・。」
「・・・当たり前だ、最後まで君を守りきるのが俺の任務だからな。」

29 チャンス到来/戦友 その3  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b> :2005/04/17(日) 00:48:07 ID:Lfg1/.X6
【C3/商店街/10:30】
【正義と自由の同盟】
残り90人
【相良宗介】
【状態】健康、精神面に少し傷
【装備】ソーコムピストル、スローイングナイフ、コンバットナイフ
【道具】前と変わらず
【思考】大佐と合流しなければ。クルツ・・。


【千鳥かなめ】
【状態】健康、精神面に少し傷
【装備】鉄パイプのようなもの(バイトでウィザード/団員の特殊装備)
【道具】荷物一式、食料の材料。
【思考】早くテッサと合流しなきゃ。 クルツくん・・。


【小笠原祥子】
【状態】健康
【装備】銀の剣
【道具】荷物一式(毒薬入り。)
【思考】どのタイミングで逃げるか。祐巳助けてあげるから。


【しずく】
【状態】機能異常はないがセンサーが上手く働かない。
【装備】エスカリボルグ(撲殺天使ドクロちゃん)
【道具】荷物一式
【思考】BBと早く会いたい。食料探さなきゃ。


【オドー】
【状態】健康
【装備】アンチロックドブレード(戯言シリーズ)
【道具】荷物一式(支給品入り)
【思考】協力者を募る。知り合いとの合流。皆を守る。食料を探さなければ。

30 </b><font color=#FF0000>(LJVmSKgk)</font><b> :2005/04/17(日) 08:54:56 ID:5x7FWE3M
ミズーを寝かせた後、俺と新庄は周囲で役立ちそうな物の探索をしていた。
今のところ
そして部屋の片隅にあったデスクの引き出しを開けた。
「……新庄、これは何だと思う?」
中に入っていた数十枚の紙をデスクの上に広げながら俺は新庄に言った。
棚を漁っていた新庄がこちらに来て、その紙を見て驚いた。
「これって…地図?」
「ああ、どうやら各エリアの地図が拡大されているようだ。
支給された地図よりも詳しく書かれているな」
地図には建物の後に数字が記されていたが、その意味は最後の紙を見て理解した。最後の紙には数字の後に文字が書かれていた。
ああ、神様ありがとう! どうやら今まで不幸だった俺に幸運が舞い込んできたようだ。
「おそらく数字のところにアイテムが置かれているんだろう。
そして、その中には俺の贖罪者マグナスと咒式用弾頭がある!」
咒式が使えるようになればミズーの治癒もできるし、俺も戦える。この二つを手に入れればかなり有利になる。
「なら、早く取りに行った方がいいね。他の人に取られちゃうかもしれない」
マグナスと咒弾の場所はB-1とD-1。現在地から考えると運が良かったとしか言いようがない。
しばらく考えた後、俺は新庄に言った。
「ミズーを頼む。俺が一人で行く」
「え?! 一人じゃ危ないよ!」
「この状態じゃ一人でも三人でも変わらない。
ミズーを看てて欲しいし、外は危険だ。
女の子を危険に晒すわけにもいかないからな」
新庄は納得していない顔で言う。
「でも…」
「行きさえ無事なら、ある程度の敵でも勝てる自身はある。心配するな」
「…うん、わかった」
心配そうな顔で了承してくれた。やっぱりいい子だ。
足の痛みも多少、引いてきた。どうせ咒式で直せるんだから無理してでも走って行けばいい。
「とりあえず、まずは屋上に行って人のいない道を確かめる。
その道を通れば多少危険は低くなるだろうし」
「がんばって、ガユスさん」
「ああ」
俺は部屋を後にし階段を上る。
どん底の俺たちに希望の光が差し込んできた。

31 </b><font color=#FF0000>(LJVmSKgk)</font><b> :2005/04/17(日) 08:57:43 ID:5x7FWE3M
今のところ

今のところ、マッチや糸などの小道具ぐらいしか見つかっていない。

すみません、ミスりました。

32 ベリアルは沈黙する </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b> :2005/04/17(日) 09:12:41 ID:kysYzkug
うっかり相談したのが間違いだった。ベルゼブブは、盟友の不幸を悲しむより先に、
笑顔で現状分析を始めた。もう四時間以上ずっと、ややこしい仮説を語り続けている。
「あのアホを黙らせてくれっ」とバールに泣きついたら、無言で耳栓を贈られた。
最終的に、「ああもう嫌や、堪忍やぁ!」と叫んだあたりで目が覚めた。

夢を見ていたようだったが、内容は忘れてしまった。
(ええと、なんやったっけ……)
眠い。まぶたが再び閉じそうになる。災難にあった記憶が、脳裏をよぎった。
……その記憶は、夢だったのか現実だったのか。まだ頭がぼんやりしている。
「―〜―〜―〜―っ!!!!」
無意識に姿勢を変えようとして、激痛で涙が出た。声も出せないほど痛かった。
けれど、そのショックで頭が冴えた。そして同時に、違和感に気づいた。
違和感の正体を探るべく、息を殺して、静かに集中する。
『……? ……ッ……!』
何か聞こえる。声だ。人の声か。他にも物音が聞こえる。誰かいるのか。
(反響で、何を言うてるのか分からへん。俺が居るって事はバレとるか?)
声はダクトの中から聞こえている。別の部屋の音が、ダクトを伝声管がわりにして
届いているようだ。そういう具合の反響だった。
どうやら少人数の集団らしい。声の雰囲気からして、今すぐ殺し合いを始める
ような気配は無い。こちらを発見していないのか、もしくは罠か。
音をたてないよう注意しつつ探知機を取り出し、確認する。画面中央に光点が一つ。
自分以外の反応が無い。50メートル以上、相手と離れているようだ。
この探知機は、呪いの刻印そのものを探知する、と説明書に書いてあった。
説明が本当なら、刻印を解除する以外に、参加者が探知を無効化する方法は無い。

33 ベリアルは沈黙する </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b> :2005/04/17(日) 09:15:02 ID:kysYzkug
(このまま隠れてやりすごすか?)
自分は今、普段の力を出せず、武器を持っておらず、おまけに負傷している。
相手は複数で、ひょっとすると、もっと多くの仲間がいるかもしれない。
この状態でケンカを売っても、まず間違いなく勝てまい。
交渉して仲間になる、という選択肢もあるが、ハイリスクだ。様子を見たい。
(今んとこ、考えるくらいしか出来る事あらへんなぁ)
仕方がない。とりあえず、今後の方針を再考してみる。
(最終目的は生き残る事……必須条件は刻印の解除やな)
その為の方法は二つ。他の参加者全員を死なすか、自力で解除できる参加者を
探し出すか。ちなみに、自分自身だけで解除するのは無理だ。
オカルト関連の知識は有る方だが、戦闘以外の技術は専門外なのである。
(ううむ、「最後の一人は解放する」って約束、ほんまかどうか微妙やしなぁ)
情報が足りない。不確定要素が多すぎる。分からない事だらけだ。
ふと時計を見る。七時半を過ぎていた。なんと、放送を聞き逃している。
少しだけ後悔したが、疲労回復が必要だったのも確かだ。反省はしない。
(そういや、そもそも俺の存在自体が最大の謎やったっけ)
考えても答えが出ないので、あえて考えないようにしていた問題だった。
けれど、ヒマ潰しには良いかもしれない。
(『オリジナルの俺』は死んどる。そのコピーやった『悪魔の俺』も消滅しとる)
そして気がつけば何故か生き返っており、この戦いに参加させられていた。
(両方の『俺』から記憶と人格を継いどる『今の俺』は、たぶん三人目か)
いや、この認識さえも、本当に真実だとは限らない。疑おうと思えば疑える。
(あるいは『今の俺』は、『俺』やないのかもしれへんなぁ)
だが、もしも全てが幻だったとしても――それでも。
(ああ、それでも俺、やっぱり死にとうないなぁ)

34 ベリアルは沈黙する </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b> :2005/04/17(日) 09:15:50 ID:kysYzkug
改めて、やりたいようにやろう、と決める。今さら生き方は変えられない。
少し気分が落ち着いた。すると、唐突に疑問が浮かんだ。
(……ん? あれ? もしかして主催者って、死者の復活が出来たりするんか?)
今さら気づいた。他ならぬ自分自身が、文字通り「生き証人」だというのに。
(いやいや、でも『今の俺』って、ほんまに『俺』かどうかも怪しいしな)
よく似た別人を造る術ならば、反魂法でもネクロマンシーでもない。別の術だ。
(せやけど、ほんまに本物の復活かもしれへん……)
一応、探ってみるだけの価値は有るだろう。ハイリスクだが、ハイリターンだ。
(ふむ、あとは……やっぱりカプセルを探さんとな)
この島の中で、カプセルが有るとすれば、どこだろうか。ゆっくりと考える。
例えば、自分と同じ世界から呼ばれた三人は、きっとカプセルを探しているだろう。
(他の参加者よりは、入手しとる可能性が高そうやな……接触するか?)
接触するなら、相手からこちらに近づくよう、仕向けるべきだろう。
(そうやな……「物部景の名を騙ってメッセージを送る」とか)
これならば、三人全員が無視できない。物部景は、己の偽物をどうにかする為に。
甲斐氷太は、物部景と戦う為に。海野千絵は、仲間と合流する為に。
それぞれが、それぞれの理由で動くだろう。結果的に彼らを欺けずとも、
何らかの流れを作る「きっかけ」くらいには、なるはずだ。
(……俺、ちょっとバールやベルゼブブに似てきたか? なんか嫌やなぁ)
朱に交われば赤くなる。昔の人は、よく言ったものだ。
(さーて、これから、どないしようか……)

35 ベリアルは沈黙する </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b> :2005/04/17(日) 09:16:51 ID:kysYzkug
【B-3/ビル2F、階段を左に行った奥から二番目の部屋/1日目・07:55】
【緋崎正介】
[状態]:右腕・あばらの一部を骨折。それなりに疲労は回復した。
[装備]:探知機(半径50メートル内の参加者を光点で示す)
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1本)
[思考]:カプセルを探す。生き残る。次の行動を考え中。


※ミズーらの入った入り口とは別の入り口からある一室まで血痕が続いています。
※緋崎正介(ベリアル)は、六時の放送を聞いていません。

36 狂戦士の会合・改  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b> :2005/04/17(日) 22:37:51 ID:Lfg1/.X6
森の中を男が歩いている。
彼の体には血が付いているが顔にはとても今さっき人を殺したとは思えない笑みを貼り付けている。
『ちっ、さっきのガキとっとと殺っちまったかのはまずったなぁ、もうちょっと楽しんでから殺すんだった。
それにしてもどいつもこいつも馬鹿みたいに馴れ合いやがって・・・反吐がでるぜ。
カシムの野郎も奴らみたいになってんだろ〜な〜、はぁ〜あ、全く腑抜けたもんだ。』
言葉と裏腹に益々笑みを深くする。
気がつくと目の前にまるで本人がいるかのように呟いている。
「とっとと本性現しちまえよ、一緒にゲームを楽しもうぜカシムゥ〜。」
益々笑みを深くする。
ふと向かい側の方に人影が見える。
気配を消しもせずにまるで散歩をしているかのように歩き回っている。
『おめでたい獲物ま〜た発け〜ん。』
先ほど殺した相手から奪い取った銃を
ためらいなく撃つ、距離は10m、弾は相手の眉間を打ち抜いた・・筈だった。
だが少年は気にすることもなく歩みを止める気もない。
『ああん?外しちまったのか?』
向こうから声がした
「隠れてないでてきたらどうだ?」
「へいへい!」
姿を表すと同時に3発放つと同時に義手の充電を始める。
「待っていてやる。」
その男の姿はごく普通だった、体にフイットした服には汚れ一つついていない、・・この森の中で。
「くたばっちまいな!」
容赦のない一撃が彼を襲った、骨すら残っていないだろうとガウルンは確信した。
「あ〜あ、また楽しみ忘れちまった。
ガキ相手に俺様としたことが・・・」
言いかけたところで彼の義手が・・・弾けた。
「おいおい!?」
新たな敵が現れたかと思ったところで彼にしては珍しく驚きを見せた。
目の前に男が立っていた、先程葬り去った筈の男が。
「どうした、まさかそんなもので俺を殺せると本気で思っていたのか?」
冷ややかな目で見下ろす彼の雰囲気は普通の少年のそれとは明らかに異なっていた。
「ああん!?普通思うだろうよ!」
「そんな程度で自惚れていたのか?お山の大将にもほどがある。」
「猿と同じ扱いたぁひでーなー。」
少年は怒っていた、彼が人を殺したことにではなく、
彼のような弱いものが自分に向かって来たその行為に対して。
『あ〜らら、どうやらここで終わりみたいだな、愛してるぜカシムゥ、続きは地獄で・・・』
彼の思考が途切れた
「俺と対等なものは一体どこにいるんだ?」
歩いていく彼の後ろには左腕と首のない死体が一つ、赤い花のように咲いていた。


(A-5/1日目/4:45)
【死者】ガウルン
【残り人数】96人


【フォルテッシモ】
【状態】やや不機嫌気味。
【道具】ラジオ
【装備】荷物一式(食料は回復する。)
【思考】 強者を倒しつつユージンを探す、一般人に手を加える気はない。

37 別れ(修正版)その1 </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b> :2005/04/21(木) 01:15:00 ID:Hw7b583Y
宗介とかなめがクルツの死を悲しみつつ商店街を歩いている時、
彼らと一時別れた祥子・しずく・オドーの三人はまじめに食料を探していた。

「BBは何処にいるんでしょうか…?火乃香さんのことも気がかりです」
誰にともなくしずくはつぶやいた。
今、自分は商店街の端にある酒屋の中で食料を探している。
しかし意識はこのゲームに参加しているはずの知人の方へと向けられる。
「そもそもザ・サード管理下にある私達をどのように連れ出したのでしょう…痛っ!」
思考に集中していたため、足元にあるわずかなへこみに足をとられて転倒。
(何してんでしょう私…)
「大丈夫ですか?」
転んだしずくに祥子が手を伸ばす。
「あ、はい、大丈夫です」
しずくは手をとって立ちあがった。
「そういえばオドーさんはどこですか?」
「彼ならお店の外で待っていますわ」
店の外を見ると思考にふけっているオドーの姿があった。
背中には背負っているデイバックは食材を詰め込んでいるはずなのにちっとも膨らんでいない。
『何を考えているのかしら?まさか・・・』
自分のことに勘づいたのか?祥子の顔に不安の色が浮かんだ。

オドーには気がかりな事があった。
「恐ろしい、恐ろしい民族だな。日本人とは…」
原因は先ほどからの千鳥と宗介の様子だった。
宗介に出会ったのもつかの間、いきなり千鳥は宗介に蹴りを入れ、
空腹を指摘されるとバックで顔面を殴打した。
しかも彼女にはそれが日常らしく、彼女は普通の高校生だという。
「ならば、ならば普通の高校生は日常的に闘争の中に置かれていることになる」
日本で暮らす事になった自分の唯一の血族である、
ヒオ=サンダーソンのことが猛烈に心配だった。
(あの娘は、あの娘は本当に大丈夫だろうか…!)
そんなオドーの心を吹き飛ばすように声が聞こえた。
しずくが自分を呼んでいる。
「どうかしたんですか?オドーさん」
「いや、少々、少々気になることがあってな。
これで買うものは揃えたか?」
「ええ、大体は。
まだ少し時間がありますね、どうしましょう?」
「そうだな、どうせなら、どうせなら隠れる場所も見つけておくとしよう。
先ほどの場所は色々と都合が悪い」

38 別れ(修正版)その2 </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b> :2005/04/21(木) 01:15:42 ID:Hw7b583Y
---数分後---

三人は少し怪しげな地下にある店の中にいた。
「オドーさん、ここって・・・。」
看板を見る『クラブ・パラダイス』と書いてある。
「いわゆる、いわゆるクラブだな」
「なぜこのようなふしだらな場所に?」
祥子が不機嫌そうに問う。
「見つかる可能性が低いし出入り口が一つだけだから奇襲が不可能だ。
お嬢さん方には少々、少々居心地が悪いかもしれんが」
少し笑いながらオドーが言った。
「私は大丈夫ですけど・・・」
「仕方がないですか・・・」
オドーに続いて祥子・しずくも店に入っていく。
中はいかにも《それ》な感じだった。

どっかりと座れるソファー、机がありカウンターもある。
少し奥の部屋にはキッチンもあった。
「これは、これは休憩するにはもってこいの場所だ。」
笑いながらオドーが言う。
「それではこちらに集合しましょうか?」
「そうするとしよう。しずく、千鳥と軍曹を呼んできてくれ」
しずくが去った後、オドーと祥子だけが残された。
二人はソファーに座って向かい合った。
「・・・さて、さて我々は本題に入ろうか」
急に真面目な顔つきになったオドーをみて祥子はたじろぐ。
「何のことです?私に問題でも?」
「なかなかの、なかなかの演技力だった。しかし貴様は軍曹に注意を払いすぎだ。
 不自然なほどにな」
「当然です。あの人は、会ったばかりの私を殺そうとしました」
「あくまで、あくまでしらを通すつもりか?ならばこちらにも考えがある。」
そういうとオドーは指を鳴らした
見えない力が祥子を押し付けた。
「ぐっ!なんですかこれは!?」
ソファーに押し付けられて祥子は口を開いた。
「これが、これが私の力だ、手加減はしているが。」
「…」
相当な力で押し付けられる、体が潰れそうだ。
「時間が、時間が無いのでな。駆け足で質問させてもらおうか」
ここぞとばかりにオドーが睨み付ける。
喋らなければ殺される、そう察した祥子は真実を話した。


「そういう、そういうことか。要するに人探しの途中か、危ない橋も渡ってきたようだな」
「はい…」
祥子は全て真実を話したが、一つ嘘をついた。
彼女の殺人は全て相手が襲ってきてそれに立ち向かった結果とした。
オドーの指が扉をさす。
「止めはしない、彼らが、彼らが来ないうちに行くといい」
「私は敵となるかもしれないのに…なぜ?」
「簡単な、簡単なことだ。獅子身中の虫などいらぬ、だが自ら進んで殺す気もない。
 私はこんな下らんゲームには反対なんでな」
「そうですか・・・では、私はお言葉道理に行かせてもらいます」
銀の剣を握りしめ、踵を返す。
パラダイスから去り行く祥子にオドーは声をかける。
「探し人が、探し人が見つかったら戻ってきてほしい。
 共に脱出法方を考えよう…」
祥子の返事は聞こえなかった…。
しずくに呼ばれた宗介達は少し遅れてパラダイスにやってきた。
飲料水確保に手間取っていたらしい。
宗介は祥子が居ないことに気づき、
「大佐、あの女は何処に?野放しにすると危険ぐはぁ!…何をする千鳥」
「うるさい!ったくあんたはどーしてそうネガティブな方向へ話を持ってくのよ!」
「しかし、常に最悪の状況を考えて行動しなければ最悪の事態に陥る、この前とある国の…」
オドーは二撃目を叩き込もうとする千鳥を制し、
「もうよい、もうよいのだよ軍曹。彼女は人探しの途中だった、群れるより
 単独の方が動きやすい。だから別れた、過去のことはこの際忘れろ」
「…了解しました」

39 別れ(修正版)その3  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b> :2005/04/21(木) 01:16:55 ID:Hw7b583Y
場に漂う気まずい雰囲気を壊すため、かなめが口を開いた。
「それにしてもこんな場所で休憩ってなんかヤダなー」
「そうか?これほど敵からの奇襲を防ぎやすく心休まる場所はなかなかないと思うが」
「そういう意味じゃないってんの、全くこれだからこいつは・・・」
「ハッハッハ、確かに、確かにそのとおりだ軍曹。
かなめ、おまえのボーイフレンドはおもしろいやつだな。」
「お褒めに預かり光栄であります、サー」
「褒めてないって・・・。
それとオドーさん、こいつはボーイフレンドでもなんでもありませんから!」
「アプローチは、アプローチはかけてないのか軍曹?」
「いえ、大佐、今以上のアプローチはおそらく不可能かと」
「ちょっ・・・!あんた何勘違いしてんのよ!」
「ん?アプローチの意味ぐらい理解しているが?」
「馬鹿!この場合のアプローチっていうのはね、その・・・」
「前途、前途多難だなかなめ」
会話が大分それてきた所でしずくが本題に引き戻す。
「じゃあこれからどうしましょうか?」 、
「おっと話がそれていたな。そうだな、とりあえず、とりあえずは食事を取るとしよう。
 そのあとはこの後の行動の検討。私と軍曹の腕の見せ所だな」
さらに宗介をを見て、
「軍曹、軍曹は何か意見があるか?」
「ハッ、進路を決めるのは次の放送の後からのほうがよろしいのではないかと。」
「ふむ・・・そうだな、それでは、それではそうするとしよう」
「そんじゃあ今からはあたしの出番ね、しずくも手伝ってくれる?」
「はい。」
二人はキッチンへ向かっていく。
「軍曹、彼女の、彼女の料理の腕は?」
「ハッ、自分が食したところでは問題ありません。」
「食べたことがあるのか?やはり、やはり軍曹、君は彼女に・・・」
「オドーさん、そこらへんにしとかないと・・・。」
いつのまに後ろにいたのか、かなめだ。
釘を刺した後再びキッチンに戻っていく。
「軍曹、君も、君も大変だな」
「肯定であります、サー」
二人がため息をつくのは同時だった。

40 別れ(修正版)その4  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b> :2005/04/21(木) 01:19:26 ID:Hw7b583Y
【C3/商店街/11:00】
【正義と自由の同盟】
残り88人

【相良宗介】
【状態】健康
【装備】ソーコムピストル、スローイングナイフ、コンバットナイフ
【道具】荷物一式、弾薬
【思考】大佐と合流しなければ。

【千鳥かなめ】
【状態】健康、精神面に少し傷
【装備】鉄パイプのようなもの(バイトでウィザード/団員の特殊装備)
【道具】荷物一式、食料の材料。
【思考】早くテッサと合流しなきゃ。

【小笠原祥子】
【状態】健康
【装備】銀の剣
【道具】荷物一式(毒薬入り。)
【思考】オドーに借りができた。祐巳助けてあげるから。

【しずく】
【状態】機能異常はないがセンサーが上手く働かない。
【装備】エスカリボルグ(撲殺天使ドクロちゃん)
【道具】荷物一式
【思考】BBと早く会いたい。

【オドー】
【状態】健康
【装備】アンチロックドブレード(戯言シリーズ))
【道具】荷物一式(支給品入り)
【思考】協力者を募る。知り合いとの合流。皆を守る。

この作品はID:6xnzi/yZさんの作品『別れ』を自分が改造、修正したものです。

41 まもるべきもの </b><font color=#FF0000>(p2cIn2/A)</font><b> :2005/04/24(日) 08:25:31 ID:2SF39t2A
「大事な……妹さんなんですね」
 歩きながら藤花が訊いた。
「まあね」
 少し照れながらも麗芳は答える。
 二人は広い草原を、雑談を交わしながら歩いていた。
(いいな――麗芳さん)
 藤花に姉妹はいない。それどころか親との仲も大してよくない。
それに対して守るべき妹がいる麗芳を、素直に「いいな」と思っていた。
 しかし、藤花はそんなことをおくびにも出さずにまた雑談を始める。
本人は気付いていないだろうが、麗芳の話は全て、妹と言う淑芳につながっていた。
「しかし、自分よりも他人を愛す、それは少しだけ危険だ」
 唐突に藤花が口を開く。しかしその声は、男のようでも女のようでもある、奇妙な声だった。
「え?」
 そう言って、麗芳は立ち止まってしまう。
「今、藤花ちゃん…なんて?」
「へ?わたし、別に何も言ってませんけど……」
 困惑気味の麗芳に対し、不思議そうに言う藤花。
(空耳?それにしてははっきりしていた様な……)
「ごめん……なんでもないわ。少し疲れてるみたい」
「はぁ……」
 そんなやりとりをして、二人は再び歩き出した。
しかし、少し歩いたところでまた声がした。

42 まもるべきもの </b><font color=#FF0000>(p2cIn2/A)</font><b> :2005/04/24(日) 08:26:27 ID:2SF39t2A
「でも、そんなもの行き過ぎなければ世界の危機でもなんでもない。まぁ、世界の危機なんてものは、
 たいていそういった“行き過ぎなければ大した事の無い物”なんだけどね」
「またっ!?」
「えっ?…またって……何がですか?」
(やっぱり、この娘が言ってたんだわ。でも自分が言ったことに気づいていない……?)
 少し考え込んでしまう麗芳。そんな麗芳に、後ろから声がかかる。
「どうやら君は、世界の敵ではないようだ。しかし、相手の話を聞かないと世界の敵かどうかも分からない
 なんて、ブギーポップの名折れだな」
(油断した!?後ろを取られた!)
「しまっ――」
――とんっ
 振り向こうとする麗芳。しかし彼女が振り向くより早く、藤花の手刀が麗芳に当て身を食らわせていた。
「うっ」
 崩れ落ちる麗芳を藤花は見ようともせず、バックの中から奇妙な衣装を取り出していた。
藤花は、その筒のような衣装を着終わると、麗芳を見下ろしていった。
「悪いが、少し寝てもらうよ。存在を制限されている今、自力で『世界の敵』を探さなくてはいけないのでね」
 奇妙な衣装を着た藤花は、麗芳をうまく背の高い草で隠した。
「それではさようなら麗芳くん。君の守るべきものが妹さんであるように、僕の守るべきものは世界なんでね」
 麗芳を隠した藤花はそう言うと、スタスタと歩いていった。
それは、今から世界の敵を倒しに行くような足取りではなく、『ちょっとコンビニへ』と言うような
軽いものであった。

43 まもるべきもの </b><font color=#FF0000>(p2cIn2/A)</font><b> :2005/04/24(日) 08:27:18 ID:2SF39t2A
  ―― 数分後 ――

「おや?こんなところに女の子が」
 涸れた湖から出た『ED』ことエドワース・シーズワークス・マークウィッスルは、
草原に倒れる一人の少女を見つけた。

【C−7/湖底のそば/07:00】
 【宮下籐花(ブギーポップ)】
 [状態]:健康
 [装備]:ブギーポップの衣装
 [道具]:支給品一式。
 [思考]:世界の敵の捜索

 【李麗芳】
 [状態]:気絶
 [装備]:凪のスタンロッド
 [道具]:支給品一式
 [思考]:淑芳を探す/ゲームからの脱出

【ED(エドワーズ・マークウィッスル)】
【状態】健康
【道具】飲み薬セット
【装備】仮面
【思考】同盟の結成/ヒースロゥを探す
【行動】少女をどうにかする

※この話は『Are You Enemy? 』に続きます。

44 不幸の打ち止め 1◆6xnzi/yZ :2005/04/27(水) 18:27:28 ID:D7qZuQnc
ギギナから逃れたヘイズとコミクロンはF-6エリアの砂浜で休息していた。
「あー、くそ。右手が動かないのがこんなに不便だったとは…パンの袋が開けられん」
「命が有るだけいいじゃねえか。<天才も不滅ではないと言うことほど、
 凡人にとって慰めになることはない>って言うしな。ほらよ」
ヘイズがコミクロンの袋を手に取り、パンッと小気味いい音がした。
「悪いな。しかし今のは誰の言葉だ?俺の世界じゃ聞かない台詞だ」
「ゲーテっつう昔の詩人だ、ちっとわ慰めになったか?」
「十分だ。それに詩か…、こういうのが趣味か?ヴァ−ミリオン」
パンを頬張りながら意外そうにコミクロンが返事を返す。
どうやらある程度の疲労は取れた様だ。
「いいや、俺が最近出会った読書と水玉模様が好きなお姫様が名言集を読んでてな。盗み読みした。
 他にもあるぜ、<天才とは、何よりもまず苦悩を受け止める先駆的な能力のことである>
 …どうだ?博識っぽく見えるだろ?」
「後の方はあえて無視するが、俺には相応しい言葉だな。ただ現状この大天才には思考すべきことが
 多すぎて苦悩どころじゃない」
ヘイズの言葉を軽く聞き流しながらコミクロンは右腕を見る。
相変わらずまともに動かないが、魔術師の自分には致命傷ではない。
「一番の問題は著しい能力低下だ。医療関係の構成にかけては、予定ではなく大陸一を自負していた
 この大天才が傷口をふさぐのが精一杯だとはな…。次にこの<呪いの刻印>
 とかいうもんをどうにか…ムグッ!ムグムゴムッガ!」
ぶつぶつとつぶやくコミクロンの口をヘイズはふさぎ、有機コードをわめくコミクロンの頭につなぐ。

45 不幸の打ち止め 2◆6xnzi/yZ :2005/04/27(水) 18:28:55 ID:D7qZuQnc
有機コード伝いならコミクロンの頭に声を直接送ることができる。
(ぺらぺら喋るな馬鹿。刻印には盗聴機能があり、音声は開催者側に筒抜けだって
 教えといただろーが!これ以上独り言を漏らしてたら、魂を消し飛ばされちまうぞ!)
(すまん。少し冷静さを欠いてたみたいだ。こんなことで死んだら笑いもんにもならないな)
(刻印のほうは今俺が情報処理に特化したI−ブレインで、己の情報を偽って侵入してる。
 論理回路とは若干異なる系統の構造や、未知の力の働いている部分も多いんで
 分からないことが多いんだが…今お前の脳にだいたいの構造を送ってみる)
ヘイズが送って来たのは、幾種類の魔術構成から成る<呪いの刻印>の構造式だった。
(うおっ!なんだこりゃあ?随分と複雑でしかも強力な構成だ)
コミクロンが派手に驚く。ヘイズはなかなかのリアクションだと思いながら、
(何か分かるか?)
(人の精神…いや魂その物と強く結び付いてるようだ…無理に引き剥がすと、
 恐らく魂がダメージを受ける。最悪死ぬな)
主催者が説明していた事だが、ハッタリではなかったらしい。ヘイズは天を仰いだ。
(厄介なもんつけられちまったぜ。取るのミスれば即昇天かよ)
まだ不幸は打ち止めではないらしい。

しばらく二人ですったもんだしながら、I−ブレインの機能低下による演算効率の悪さと、
手強いガードにてこずりながらコミクロンの協力でなんとか解析してゆく。
しかし、ある地点で二人の全く知らない構造にぶつかってしまった。
(ヴァーミリオン、ここから先は俺の知らない魔法の構造だ。
 くそっ、白魔法をもっと勉強すりゃ良かった)
(ここまで分かりゃあ上出来だぜコミクロン。とりあえずはここまで解析した構造を
 元にして俺が刻印の解除構成式を組み立てる。だが俺のI−ブレインは記憶容量不足だ。
 代わりにお前の脳に構成式を保存する…良し、終わった)

46 不幸の打ち止め 3◆6xnzi/yZ :2005/04/27(水) 18:30:22 ID:D7qZuQnc
「この世界に来て二つ目の収穫だ。ようやく運が回ってきたな」
二人は有機コードをはずして今後の予定を立てることにした。ヘイズが地図を広げる。
「とりあえず構成式の完成が優先だな。こういうのに詳しそうな奴らが集まるのは…」
「海洋遊園地だ」
「なあコミクロン、学校にいい思い出が無いからって何でそんな所に行きたがるんだ?」
「学校が嫌いなんじゃないぞ。絶対に。ただ俺は遊園地というのに興味があるんだ」
ヘイズはFのエリアをなぞりながら地図をにらんむ。
「じゃあまずは島を横断する。遊園地に着いたら北上して公民館→学校の順で回ってみるか」
「異義なし、だ。日が暮れるまでには着いときたいな。残ってるならエドゲイン君も回収したい」
「そういえば俺達丸腰だな…パンの袋に砂でも詰めとくか。目潰しに使えそうだ」
しゃがんで砂を集めるヘイズを見ながらコミクロンはつぶやく。
「クレア、いーちゃん、しずくを探すのは後回しか…」
なんだか名残惜しそうだった。

二人の魔法使いは荷物をまとめて歩き出した。反撃のために。


【F-6/砂浜/一日目10:40】

【ヴァーミリオン・CD・ヘイズ】
[状態]:健康
[装備]:砂袋
[道具]:支給品一式
[思考]:刻印解除構成式の完成。騎士剣を探す。
[備考]:刻印の性能に気付いています。


【コミクロン】
[状態]:軽傷(傷自体は塞いだが、右腕が動かない)
[装備]:未完成の刻印解除構成式(頭の中)
[道具]:無し
[思考]:刻印解除構成式の完成。クレア、いーちゃん、しずくを探す。
[備考]:服が赤く染まっています。


【残り85人】

47 犠牲が出た時点で幸福ではない◆R0w/LGL.9c :2005/04/29(金) 00:24:31 ID:U/lyfmso
ぼんやりとした意識。
こんな経験は始めてだった。
請負人として今まで数々の修羅場をくぐった。
曲弦糸を極限に鍛えた大好きな娘と戦ったときも。
最悪の殺し名<零崎>を2人相手にしたときも。
親父を二人殺したときも。
アタシは常にクールで、シニカルに笑ってたはずだろう?
それがなんだ。策士にごときに。
策? 全部力で打ち砕いてやる。
祐巳。すぐに助けてやる。
依頼は絶対に遂行する。それが最強の義務だ。
体の痺れを無視して。目の前は真っ暗で見えないが、起きる。
ぼたぼたぼたっ
何か液体が落ちる音。自分の腕でももげたか? 脳漿でもブチ撒けたか?
どうでもいい。
不意に視界が戻る。目の前は赤くて紅くて。
オーバーキル・レッド

「動いたら駄目デシ!」
意識がいつものクリアーな状態に戻る。
自分では起き上がったと思っていたが実際は上半身だけむっくり起こしていた。
目の前にはでかい竜が、自分の前足に裂傷をつけて血をかけていた。

48 犠牲が出た時点で幸福ではない◆R0w/LGL.9c :2005/04/29(金) 00:25:12 ID:U/lyfmso
「・・・・・デシ・・・?」
ファルコンが横向きに倒れる。
「アタシは人類最強の請負人哀川潤だ。
 アタシの体を好きにしようなんて超サイヤ人だろうが許されねぇぜ」
そう言って彼女はシニカルに・・・・いつもと同じ笑みを浮かべた。
そのままつかつかと高里要に近づいていく。
「兄ちゃん上着貰うぜ」
とんでもない速さで上着を剥ぎ取り、細長く破いた。
「あ」
ぐるぐるとシロちゃんの腕の傷口に巻きつけていく。
「止血はこれでいいか・・・・
 ちょっとあっちのビルまで運ぼう。こんなでっかいドラゴンは目立ちまくりだからな」
「グリーンだね・・・・・」
「グリーンだ・・・」
「あ゛?」
不機嫌そうに振り向く。
アイザックとミリアが瞳を輝かせていた。
「ちょっぴり照れ屋でうっかりホワイトを殴っちゃう!」
「でも心配してやっぱり介抱はしっかりする!」
『グリーン復活だ!!』
「やかましいっ!
 誰がグリーンだ!大体、戦隊だったらアタシがレッドだろうが!」
「グリーングリーン♪ グリーンは強くて優しいのー」
「だけどちょっぴり照れ屋なのー」
「ええいくそ!アタシにレッドをよこせ!」
「ああ潤さん、まだ傷が完璧に治ったわけじゃないんですから・・・・」
喜ぶアイザックとミリア。
暴れる哀川潤。
困る高里要。
そんなこんなで数分間、騒ぎっぱなしだった。
・・・シロちゃん放置で。

49 犠牲が出た時点で幸福ではない◆R0w/LGL.9c :2005/04/29(金) 00:26:36 ID:U/lyfmso
【C−4/ビルの正面/一日目/10:10】
『誘拐戦隊赤桃緑黄白』
【哀川潤(084)】
[状態]:怪我が治癒。血が流れたので体力激減。致命傷は治ったが太腿と右肩が治ってない。
[装備]:なし(デイバッグの中)
[道具]:なし
[思考]:ファルコンをビルに運ぶ。祐巳を助ける 邪魔する奴(子荻と臨也)は殺す アイザック達に興味  レッドはアタシだ
[備考]:右肩が損傷してますから殴れません。太腿の傷で長距離移動は無理です。(右肩は自然治癒不可、太腿は数時間で治癒)


【アイザック(043)】
[状態]:超安心
[装備]:すごいぞ、超絶勇者剣!(火乃香のカタナ)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:やったねグリーン!ホワイト大丈夫かな!

【ミリア(044)】
[状態]:超安心
[装備]:なんかかっこいいね、この拳銃 (森の人・すでに一発使用)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:そうだねアイザック!!

50 犠牲が出た時点で幸福ではない◆R0w/LGL.9c :2005/04/29(金) 00:27:36 ID:U/lyfmso
【トレイトン・サブラァニア・ファンデュ(シロちゃん)(052)】
[状態]:気絶。前足に深い傷(止血済み)貧血
[装備]:黄色い帽子
[道具]:無し(デイパックは破棄)
[思考]:思考なし


【高里要(097)】
[状態]:正気
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:潤さんとロシナンテが・・・・
[備考]:上着はホワイトの止血に使いました。

「チーム方針」
シロちゃんをビルに運ぶ

51 不幸の打ち止め 2(修正) :2005/04/29(金) 07:01:03 ID:D7qZuQnc
有機コード伝いならコミクロンの頭に声を直接送ることができる。
(ぺらぺら喋るな馬鹿。刻印には盗聴機能があり、音声は開催者側に筒抜けだって
 教えといただろーが!これ以上独り言を漏らしてたら、魂を消し飛ばされちまうぞ!)
(すまん。少し冷静さを欠いてたみたいだ。こんなことで死んだら笑いもんにもならないな)
(刻印のほうは今俺が情報処理に特化したI−ブレインで、己の情報を偽って侵入してる。
 論理回路とは若干異なる系統の構造や、未知の力の働いている部分も多いんで
 分からないことが多いんだが…今お前の脳にだいたいの構造を送ってみる)
ヘイズが送って来たのは、幾種類の魔術構成から成る<呪いの刻印>の構造式だった。
(うおっ!なんだこりゃあ?随分と複雑でしかも強力な構成だ)
コミクロンが派手に驚く。ヘイズはなかなかのリアクションだと思いながら、
(何か分かるか?)
(人の精神…いや魂その物と強く結び付いてるようだ…無理に引き剥がすと、
 恐らく魂がダメージを受ける。最悪死ぬな)
主催者が説明していた事だが、ハッタリではなかったらしい。ヘイズは天を仰いだ。
(厄介なもんつけられちまったぜ。取るのミスれば即昇天かよ)
まだ不幸は打ち止めではないらしい。

しばらく二人ですったもんだしながら、I−ブレインの機能低下による演算効率の悪さと、
手強いガードにてこずりながらコミクロンの協力でなんとか解析してゆく。
しかし、ある地点で二人の全く知らない構造にぶつかってしまった。
(ヴァーミリオン、ここから先は俺の知らない魔術の構造だ)
(ここまで分かりゃあ上出来だぜコミクロン。とりあえずはここまで解析した構造を
 元にして俺が刻印の解除構成式を組み立てる。だが俺のI−ブレインは記憶容量不足だ。
 代わりにお前の脳に構成式を保存する…良し、終わった)

52 犠牲が出た時点で幸福ではない(状態修正)◆R0w/LGL.9c :2005/04/29(金) 12:15:58 ID:U/lyfmso
【哀川潤(084)】
[状態]:怪我が治癒。内臓は治ったけど創傷が塞がりきれてない。太腿と右肩が治ってない。
[装備]:なし(デイバッグの中)
[道具]:なし
[思考]:ファルコンをビルに運ぶ 祐巳を助ける 邪魔する奴(子荻と臨也)は殺す アイザック達に興味  レッドはアタシだ
[備考]:右肩が損傷してますから殴れません。太腿の傷で長距離移動は無理です。(右肩は自然治癒不可、太腿は数時間で治癒)
    まだ血が流れているので止血して12時間は休憩と食料が必要です。

【トレイトン・サブラァニア・ファンデュ(シロちゃん)(052)】
[状態]:気絶。前足に深い傷(止血済み)貧血
[装備]:黄色い帽子
[道具]:無し(デイパックは破棄)
[思考]:思考なし
[備考]:血を多く流したのと哀川さんのボディーブローで気絶中です。
    回復までは多くの水と食料と半日程度の休憩が必要です。

53 初めてのピクニック>行き違う幸せ 3/5 ( </b><font color=#FF0000>(jjRBLcoQ)</font><b> :2005/04/29(金) 15:27:47 ID:rA3V8e5g
一方、ヘイズ一行はエドゲイン君捜索中、ほのかを視認で確認する。
二人うなずきあい、戦闘態勢に移った。
(I-ブレイン35%で起動、未来予測開始)
ヘイズは木の幹に隠れつつそちらを向く。女?が2人、バンダナが長物で金色の目が短刀を装備。
こちらは森、向こうは草原、おそらく視認まではされて無はず、
それでも向こうが先に気づいたということは相手は何らかの策敵能力を有すると考えられる。
下は地面、靴での理論回路形成は無理、
ヘイズは慎重に策を練リ続ける。
こちらの攻撃手段は基本的に遠距離攻撃、向うは近接が主体の可能性が高い
こちらに近接武器は無し、向うの遠距離攻撃能力は不明だが高くは無いはず
向うはこちらに比べ優秀な策敵能力を有する
向うに警戒態勢、ただし敵意があるかどうかは不明
大雑把な選択肢は3つ、
1攻める2逃げる3呼びかけを行う
「逃げるのはなしだな、策敵能力と短刀が危険すぎる、追い詰められる可能性が大だ」
コミクロンにささやいた。
「敵意があるとはかぎらんだろ、ここは平和的に話し合いを…」
「俺もそうしたい」
ヘイズは続ける
「だが、俺もアンタも近距離格闘は苦手だろ、殺意があった場合、即ゲームオーバーだ、
 武器を狙え、無力化して降伏勧告をする、話し合いはそれからだ
 もし格闘を挑んできたら見晴らしのいい草原へ弾幕を張りながら逃げる、いいな」
「了解だ」
「俺はバンダナ、もう一人は任せる、2人同時発動は出来ないからアンタが先だ。
 うまくすればあのどちらかが騎士剣かもしれない、いくぞ」
コミクロンが構造を組み立てて、ありえないことが起こった。

54 初めてのピクニック>行き違う幸せ 4/5 ( </b><font color=#FF0000>(jjRBLcoQ)</font><b> :2005/04/29(金) 15:29:49 ID:rA3V8e5g
バンダナが金色の目を突き飛ばした。二人とも構造の外へ転がっていく。

「なにっ」
(――稼働率85%で再設定 ノイズ減算成功、予測演算成功、『破砕の領域』発動)
ヘイズは急いでバンダナの手元に計算をあわせ、指をはじく
またもバンダナがそれに気づき、今度は刀でガードする構えを見せ、
今度は理論回路そのものが消し飛んだ。
「森から出て逃げるぞ、接近させんな」
コミクロンに指示を飛ばし、森から飛び出て、すぐにバンダナに向き直る。
バンダナは目をしばたかせながらも刀を腰だめに構えなおした。

――こいつも理論回路が見えてるのか、本人も驚いてるところを見ると消し飛ばしたのは刀のほうだな

一方金色の目のほうはバンダナのほうを向いてわけが分からないという顔をしている。

――あっちは見えてねえか、おそらく策敵能力を持っているのもバンダナだな、

騎士剣かもしれない刀、もう一人の理論回路が見える人物、どちらも自分が探していたものだ。
しかしそれらから自分たちは背を向けて逃げなければならない。というか逃げ切れるかも怪しい。
転がってきた幸運が自分の手でつぶれてしまった。
「つくづく縁がねぇ」
ヘイズはため息をついた。

55 初めてのピクニック>行き違う幸せ 4/5  </b><font color=#FF0000>(jjRBLcoQ)</font><b> :2005/04/29(金) 15:32:01 ID:rA3V8e5g
【F-5/北東境界付近/1日目・11:00】

【チーム・ソードダンサー】

【火乃香】
[状態]:健康
[装備]:魔杖剣「内なるナリシア」(出典:されど罪人は竜と踊る)
[道具]:デイパック(支給品一式) 
[思考]:1赤髪、三つ編の戦闘意思の有無を確認 2シャーネの人捜しを手伝う


【シャーネ・ラフォレット】
[状態]:健康
[装備]:騎士剣・陰陽
[道具]:デイパック(支給品一式) 
[思考]:1状況を把握する 場合によっては赤髪 三つ編は殺す 2クレアを捜す


【凸凹魔術師】

【ヴァーミリオン・CD・ヘイズ】
[状態]:健康
[装備]:砂袋
[道具]:支給品一式
[思考]:1戦闘からの離脱 2刻印解除構成式の完成。騎士剣を探す。
[備考]:刻印の性能に気付いています。


【コミクロン】
[状態]:軽傷(傷自体は塞いだが、右腕が動かない)
[装備]:未完成の刻印解除構成式(頭の中)
[道具]:無し
[思考]:1相手との和平交渉 2刻印解除構成式の完成。3クレア、いーちゃん、しずくを探す。
[備考]:服が赤く染まっています。

【備考】
戦闘状況は現在も続行中、
両チームとも海上遊園地へ向かう。

【残り85人】

56 反則技 その1  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b> :2005/04/29(金) 19:02:24 ID:Hw7b583Y
「ん?」
油断をしたくてもできないという彼の性質が狙撃者の気配を捉える。
瞬時に自分の前にもはや反射ともいえるスピードで歪みの壁を展開、
銃弾はそこに止まった。
クンと右手を軽く振る、弾は撃った方向にそのまま戻っていった。
だが敵に命中した手ごたえがない、どうやら撃った直後に移動したようだ。
そんなことを考えているうちにもう一度彼の絶対防御が弾を捕らえる。
また撃ち返す、また避けられたようだ。
「おいおいかくれんぼか?
…そんなにガキでもないんだがな!」
能力を発動し周りの柱を破壊しながら移動する。
何十本もあるのだ、いくつか無くなってもビクともしない。
そのとき彼は視界の隅に敵を発見した。
どうやら女のようであり手には少々異形の銃を持っている。
入り口のほうへ走っている、逃走を決めたようだ。
「逃がすかよっ!」
入り口に向かい疾走する。
…が、その足が止まった。
目の前に男が現れた、その男は…主催者の一人だった。
「人の人形で遊ぶのはやめてほしいんだけどな〜、
手に入れるのに結構苦労したんだよ。」
へらへらと笑みを浮かべながら男は言った。
フォルテッシモも笑みを浮かべた、そして言う。
「ほう…じゃあおまえが代わりに遊んでくれるのか?」
ピリピリとした空気が周囲に流れる。
そして主催者の一人、ディートリッヒが火に油を注ぐようなことを言う。
「無理無理、今の君じゃあ僕には勝てないよ。」
「じゃあ…試してみるか!?」
フォルテッシモは相手を攻撃しようとした、
が、その行動は急な体の痛みによって遮られる。
「くっ!」
感じたことの無い強烈な痛みが彼を襲う。
歪みに引っかかっている命を外す、
もとい引きちぎられているような感覚だった。
上から声が響く。
「ね?」
「貴様…何をした!?」
苦痛に顔を歪ませながらフォルテッシモが尋ねる。
「君の呪印を少し発動させたんだよ。
まともに戦って万が一負けちゃったら洒落になんないからね。」
笑みを崩さずにディートリッヒは言う。
「そうそうそういえば君の働きは少々期待はずれだよ、
せっかく制限を少し緩めてあげたのに。」
「何?」
「君の能力は制限するのが少し難しかったんだよ。
こっちも人手が少なくてさ、
君みたいに積極的にゲームに参加してる人に手間をかけるよりも
他のもっと危険な人たちを制限することを優先したのさ。」
「…いずれ後悔させてやろう、俺をこのゲームに参加させたことを。」
「楽しみにしてるよ。おや、ケンプファーに見つかってしまったみたいだ。
もう行かなくっちゃ、じゃあね、最強さん。」
そしてディートリッヒは現れたとき同様唐突に消えた。

57 反則技 その2  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b> :2005/04/29(金) 19:04:10 ID:Hw7b583Y
「参加者への接触は禁止といった筈だが?」
「君も彼女に会ってきたんだろう?おあいこだよ。」
「挙句の果てには参加者の逃走を手助けしたようだが。」
「そんなつもりはなかったよ。」
「…次また同じようなことがあったときは《あの方》に報告させてもらうぞ。」
「あーそれは怖い、分かった分かったもうしないよ。」
ディートリッヒを戒めた後ケンプファーは部屋から出て行った。
出て行った後ディートリッヒは心の中でつぶやく。
『残念、もうあえないんだね。
これは渡してあげれないみたいだ、この正体に気づいたときの君の顔が見たかったのに。』
ディートリッヒの手には例のアンプルがあった。
その中身は…ただのブドウ糖だった。

フォルテッシモは完全に不機嫌だった。
結局自分のやっていたことは病気の子牛を食べるような
もったいないことだったのだ。
『これでは奴と戦い勝利したとしても、満足は出来ないだろう。』
彼が思い浮かべていたのは彼が再戦を約束した男だった。
『まずはこのつまらない呪いをどうにかしなければな。
…まてよ?もしあの男が卵から奴に似た能力を手に入れたとしたら…。』
彼の表情に笑みが浮かぶ、自分の考えを反芻し
うんうんと何度も頷く。
『頼むぞヒースロゥ・クリストフ、
俺がこのゲームを楽しめるかどうかはおまえに懸かってるんだからな!』

58 七人の反抗者_1 </b><font color=#FF0000>(/qijB8Gk)</font><b> :2005/04/30(土) 01:03:02 ID:.Td6y2f2
 ギシギシと、木造の廊下を歩く足音が二つ。
 秋せつら、ピロテースの二人である。
 血の匂いを辿って進み、案の定無残な死体を発見した二人は、そこで足音を殺すのをやめた。
 この学校内にいる何者かがやる気になっているなら、足音を聞いて不意打ちを仕掛けてくるだろう。
 逆に、それでも話し合いを望んで来るならば、ゲームに乗っていない可能性が高くなる。
 身の危険は増すが、相手を知る上で手っ取り早いと考えたのだ。

 足音が止まった。
(そこだな)
 二人の視線の先――教室一つ分先の突き当たりに扉が見える。
 その横のプレートには、『図書室』と書かれていた(ピロテースは読めなかったが)。
 そして、扉の向こうには人の気配。それも複数とせつらは読んだ。
 そろりと、示し合わせたかのように左右の壁際に寄る。
 せつらは掌の中の鋼線と懐の銃を確かめ、ピロテースはいつでも精霊を呼べるよう精神を研ぎ澄ませる。
(さて……鬼が出るか蛇が出るか)


 足音が止まった。
(俺達に気付いたな)
 ゼルガディスはちらりと視線を背後に移す。
 クリーオウ、サラは本棚の影でこちらに注目している。サラは衣服の中で何かを握っているようだ。
 空目は堂々と読書したまま。
 そしてクエロは、援護するつもりなのか少し離れた位置で身構えている。
(……さすがに、この局面で妙な真似はしないか)
 来訪者の実力はおろか、敵か味方かすらも分からないのだ。
 ここで事を起こせば、最悪全員を敵に回すことになる。そんなリスクを敢えて負うほど、この女は馬鹿ではあるまい。
 あごをしゃくって目配せし、ゼルガディスは引き戸の脇に寄った。
 クエロも意図を理解し、ゼルガディスとは反対側に寄る。
(さて……呼びかけてみるか)

59 七人の反抗者_2 </b><font color=#FF0000>(/qijB8Gk)</font><b> :2005/04/30(土) 01:04:01 ID:.Td6y2f2
「こちらには戦闘の意思はない。今から扉を開ける。ゆっくり入ってきてもらおう」
「僕達には争う気はない。そちらに行ってもいいかな?」

 互いのセリフは同時だった。



「これはまた、大所帯で」
 図書室に入ったせつらの第一声がそれであった。
 正直、男女合わせて五人もの人間がいるとは思っていなかった。
(まあ、これなら騙し討ちの線も薄いかな)
 室内に入るまでは奇襲を警戒していたのだが、杞憂だったようだ。
 一人二人ならまだしも、これだけの人数が集まっていて全員やる気とは思えない。
 牙を隠している者がいるとしても、そうそう滅多なことは出来ないだろう。
(それに、こんな怖い人がいるのではね)
 扉のすぐ脇で待ち構えていた、岩のような肌をした男。
 その左手は、腰の剣に添えられている。
 妙な真似をすれば、一気に斬りかかって来る腹積りだろう。

「戦う気はないと言いながら、随分と物々しいことだ」
 こちらも油断なく目を光らせているクエロを目を細めて見返し、ピロテースがそう漏らす。
 その視線に、クエロは申し訳なさそうに僅かに目を伏せた。
「ごめんなさい。けど、あなた達が信用できるか分からなかったから……出来る限り仲間を危険な目に合わせたくないの」
 ピロテースは、真意を探るようにクエロの表情を伺う。
 実際は、無論これも演技である。
 クエロにしてみれば、まずは集団を纏め上げ、主催者に対抗しうる勢力を作り上げることが必要なのだ。
 こんな序盤で六人もの、しかも総じてゲームに乗っていないと思われる者達と遭遇するなど僥倖と言うしかないが、ゼルガディスには疑われている状況だ。
 早いうちに出来るだけ皆の信頼を勝ち取っておきたかった。

60 七人の反抗者_3◆1UKGMaw/Nc :2005/04/30(土) 01:05:22 ID:.Td6y2f2
 パン、パン、と手を叩く音がして、皆がそちらに注目する。
 サラとクリーオウが歩み寄って来るところだった。
「いや、すまないお客人。何分こんな状況だ。自衛策を講じなければならないことを考慮してもらえるとありがたい。
先ほど彼が言った通り、我々は殺し合いに乗らないという点で意見が一致している」
「そうなの。クエロもゼルガディスも本気でやってるわけじゃないから!
……もういいでしょ? 二人とも。こんなんじゃ信じてもらうなんて無理だよ」
 その言葉を皮切りに、クエロは構えを解いた。
「……そうね、クリーオウ。ごめんなさい、ちょっと過敏になりすぎていたみたい」
「いや」
 ピロテースも幾分警戒を緩めたようだ。
 他の者はともかく、どう見てもこのクリーオウという娘が殺人を許容するようには思えない。
 ピロテースの態度が軟化したのはクエロにも分かった。
(意外と役に立つじゃない。クリーオウ)
 これで、ゼルガディスに続いて目の前の女もだ。
 相手の気勢を削ぎ、信用させやすくするという一点において、この娘は非常に使える。
(やっぱり、単純に戦闘能力の高い者を集めればいいというわけでもないわね)

「やれやれ、一応お互いを信用するということでいいのかな?」
「そのようだ。不快な思いをさせたな」
「いいさ。立場が逆なら僕だってそうする」
 せつらとゼルガディスの緊迫した空気も霧消していた。
 クリーオウがほっと息をつく。
 サラがその場を取り仕切るように口を開いた。
「さて、では互いの情報交換といかないかね。そちらも殺し合うつもりがないなら、我々は協力し合えると思うのだが。
よいだろうか、色男殿」
「秋せつらだ。そういうことなら、心の垣根を取り除く素敵アイテムを僕は持っている」
 言ってせんべいの袋を取り出し、
「新宿一のせんべい屋、秋せんべい店のせんべい。皆でこれでも食べながら話し合うとしようか」
 毒入りでないことを示すように、自らパリッと食んで見せた。

61 七人の反抗者_4◆1UKGMaw/Nc :2005/04/30(土) 01:06:21 ID:.Td6y2f2
「――なるほど。そうすると、ここに集った者の大半の共通意思は人捜しか」
 サラは皆の話に出てきた内容をまとめ、口を開いた。
 クリーオウとクエロは、オーフェン。
 ゼルガディスは、リナとアメリアという人物をそれぞれ探している。
 そして、今出会ったせつらとピロテースは、アシュラムという人物を捜しているという。
(そういえば、殿下はどうしているだろうか)
 友人であり、同じ師に学んだ兄弟弟子であり、帝国の皇女でもある女性――ダナティアのことを思い浮かべる。
 まず間違いなく、ゲームには乗っていまい。
 それどころか、現状打破のためにすでに自ら行動を開始しているだろうとサラは見ていた。
(そういう方だ。殿下は)
 恐らく自分とダナティアの進む道は同じ。
 ならばいずれ交わるだろう。
 今無理に捜さなくとも、生きていれば必ず出会える。
(むしろ、互いに勢力を形成し、その後で合流すべきだな。それよりも今は――)
 再びサラは目の前の話し合いに注意を向けた。

「じゃあ、皆で手分けしてその全員を捜せば早く見つけられるよね」
「そうね。私もそう思うけど……」
 クエロはクリーオウのその意見に賛成し周りを見渡すが、他の者の反応は今ひとつのようだ。
 情報交換のため同じ席に着いてはいても、皆、完全に互いを信用したわけではない。
 ゼルガディスとピロテースに至っては、そもそも群れる気もなかったのだ。
 自らの探し人の容貌を他人に教えるのは、やはり抵抗があった。
 仕方のないことではあるのだが――
「できれば、僕は協力し合いたいと思うな」
 秋せつらはクリーオウの意見に賛成であった。
「お前……」
 ピロテースが睨みつけてくるが、どうどうとそれを手で制しせつらは続ける。
「アシュラムさんを捜すにしても、ピロテースさんと僕だけでは正直言って困難ですよ。なにせ島の広さが広さだ。
人数が多いほうが格段に発見率が高くなる。そして、それは他の皆さんにも言えることだ」
「確かに……あんたの言うことも分かるがな」
 と、ゼルガディス。
 彼の懸念は、自分と別れたこの中の誰かが心変わりし、リナやアメリアを殺害することだ。
 自分の名前を出されたら、どうしても警戒が緩むだろう。

62 七人の反抗者_5◆1UKGMaw/Nc :2005/04/30(土) 01:07:26 ID:.Td6y2f2
「君の懸念も分かるがね。ピロテースさんも、恐らく同じかな?」
「多分。この中の誰かが将軍の命を狙わないとも限らない」
 皆が思っていても言わなかったことを口に出す。
「そんな! だってここにいる皆はこんな殺し合いには乗ってないって……!」
「お前はそうだろうが、本心を隠している者がいないと言い切れるか?
それに、一階にあった死体。あれもこの中の誰かの仕業でないと言い切れるか?」
 激昂するクリーオウにぴしゃりと言い放った。

(まずい流れだ)
 空目恭一は思った。
 先ほどから発言を控えてせんべいをかじっているだけだったが、話を聞いていなかったわけではない。
 クリーオウはこの中で一番素直で人畜無害だと皆に認識されている。
 その上、必死に人を信じ、ここに集った者達を繋ぎ止めようとしているのだ。
 そのクリーオウがここで言い澱んだりしたら、メンバー内に決定的な亀裂が入りかねない。
 基本的にどうなろうとあまり関心はないが、クリーオウがまた落ち込む姿は何故だか見たくなかった。
 だから、空目は先に発言した。
「言い切れはしない。初対面の者ばかりだからな」
 沈黙を守っていた空目の発言に、皆が注目した。
 最悪の事態は免れたことを確認し、空目は先を続ける。
「だが、それでもここは協力すべきだろう。探し人が見つかった後、君等は一体どうするつもりでいるんだ」
 ピロテース、ゼルガディスの顔を順に見ながら問いかける。
「見つかった後、だと」
 ピロテースは訝しげに空目を見返したが、二の句を告げることが出来ず、押し黙った。
 正直に言えば、考えていなかった。
 とにかく、アシュラムの元に馳せ参じる。今まで、それだけを考えて行動していたのだから。
「俺は……この世界からの脱出方法を探す」
 絶句したピロテースに代わって、ゼルガディスが答えた。
 空目はその言葉に頷くと、さらに先を続ける。
「では、それ以後に他の人物、集団と出会ったらどうする」
「敵対するなら戦うだろうな。同じ目的を持っているなら……」
 そこで言い澱む。
 正直な話、他の参加者と馴れ合う気はないのだが、リナと……特にアメリアはそうはいくまい。

63 七人の反抗者_6◆1UKGMaw/Nc :2005/04/30(土) 01:08:40 ID:.Td6y2f2
「協力する、だろうな」
「つまり、ここで協力関係を結ぶのと結局変わらない。だが、そうして作られた集団には派閥が出来る」
「派閥……?」
 クリーオウがおうむ返しに聞き返す。
「ああ。知り合いと合流した後では、どうしてもその連中で寄り集まる。意識しなくても、自然とそうなる。
クリーオウ、そのオーフェンと合流した後にクエロやゼルガディスと出会っていたら、君は誰を頼りにする?」
「あ……」
 それは、オーフェンだ。
 一人でどうしようもない状況でクエロと出会い、ゼルガディスと出会い、クリーオウは二人を信頼するに至った。
 だが、先にオーフェンと出会っていたら、その信頼感は生まれただろうか。
「派閥が生まれれば、それは亀裂の元となり得るか。……なるほど、私は空目の言いたいことが読めた気がする」
「私も。本気で脱出や反抗を考えるなら一枚岩になる必要がある。でも集団と集団が寄り集まると派閥が出来る。だから……」
 サラに続いて発言したクエロは、ここで一拍置いた。
「ここにいる七人で一つの集団を作り出す。個々の探し人は、それに肉付けする形で加わってもらう。そういうこと?」
 空目はその言葉に無表情に頷いた。

64 七人の反抗者_7◆1UKGMaw/Nc :2005/04/30(土) 01:09:22 ID:.Td6y2f2
「……しかし、裏切りの確率は……」
「変わりませんね。ですが、僕はここにいる人達は信用してもいいと思いますよ」
 なおも反論するピロテースに、せつらは諭すように話しかける。
「合流して終わりではなく、むしろそこからが本番ですしね。そこまで考えれば、彼の言葉通り今協力したほうがいい。
それに、合流できる確率も考えてください。そもそも合流できずに終わるよりはずっといいと思いませんか」
 その言葉に、ピロテースは難しい顔をして考え込んだ。
 今までの話を頭の中で整理して、自分なりの答えを導き出す。そして――
「……いいだろう。ただし、私のその後の行動は将軍次第だ」
 ついにピロテースは折れた。
 クリーオウの顔に笑みが浮かぶ。
 残りの反対派は一人。必然的に、その人物に視線が集中する。
「さて、あとは君か。えぇと……ゼルディガス君」
「せつら君、間違えているぞ。ゼガルディスだ」
「ゼルガディスだ……みなまでいうな」
 根負けしたかのように一つ溜息をつき、手を上げる。
「分かった。俺も賛成する」
 ぱあぁ、という擬音が聞こえそうなほどクリーオウの顔が明るくなった。
「ありがとう、ゼルガディスー!」
「分かったから引っ付くな」
 どこで選択を誤ったのだろうと思いながらクリーオウを引き剥がす。
 と、こちらを見るクエロと目が合った。
(……こいつの同行を許した時、だな)
 この女だけはどうにも信用ならない。
 完全に信用しないという点では全員同じだが、こいつは別格だ。
 この後のチーム分けで、こいつはどうするべきだろうか。
(同行して俺が目を光らせたほうがいいか? それとも……)
 考えにふけるゼルガディスをよそに、会議は進行していく。

「うむ、晴れてめでたく運命共同体結成だ。では次の議題に移ろう」
 幾分空気が軽くなった図書室に、サラの声が朗々と響き渡った。

65 七人の反抗者_8◆1UKGMaw/Nc :2005/04/30(土) 01:10:29 ID:.Td6y2f2
【七人の反抗者】
【D−2(学校内3階図書室)/1日目・07:00】

【クリーオウ・エバーラスティン】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]:みんなと協力して脱出する/オーフェンに会いたい


【空目恭一】
[状態]: 健康
[装備]: 図書室の本(読書中)
[道具]: 支給品一式/原子爆弾と書いてある?(詳細真偽共に不明)
[思考]: 書物を読み続ける/ゲームの仕組みを解明しても良い
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。


【クエロ・ラディーン】
[状態]: 健康
[装備]: ナイフ
[道具]: 高位咒式弾、支給品一式
[思考]: 集団を形成して、出来るだけ信頼を得る。
+自分の魔杖剣を探す→後で裏切るかどうか決める(邪魔な人間は殺す)


【ゼルガディス・グレイワーズ】
[状態]:健康、クエロを結構疑っている
[装備]:光の剣
[道具]:支給品一式
[思考]:リナとアメリアを探す


【サラ・バーリン】
[状態]: 健康
[装備]: 理科室製の爆弾と煙幕、メス、鉗子
[道具]: 支給品一式/巨大ロボット?(詳細真偽共に不明)
[思考]: 刻印の解除方法を捜す/まとまった勢力をつくり、ダナティアと合流したい
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。刻印はサラ一人では解除不能。

※刻印についての情報を話したかどうかは不明


【秋せつら】
[状態]:健康
[装備]:強臓式拳銃『魔弾の射手』/鋼線(20メートル)
[道具]:デイパック(支給品一式/せんべい詰め合わせ)
[思考]:ピロテースをアシュラムに会わせる/依頼達成後は脱出方法を探す


【ピロテース】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:アシュラムに会う/邪魔する者は殺す/再会後の行動はアシュラムに依存

66 呪いと封印 〜Curse&Seal〜 その1  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b> :2005/04/30(土) 16:25:16 ID:Hw7b583Y
それなりに大きな公民館の中を一人の男が闊歩する。
「まさかと思ったがこんな場所まであるとはな、まったくご苦労なことだ。」
一人つぶやく、このような場所なら誰かがいると思ったが今のところ出会ってはいない。
彼がもしあと少し早く来れば彼の求める強者とアイテムがあったのだが。
『次は学校にでも行ってみるか、人が集まるなら向こうのほうが何かと効率がいいからな。』
などと呑気に今後の行動予定を立てていると、
油断をしたくてもできないという彼の性質が狙撃者の気配を捉える。
瞬時に自分の前に条件反射ともいえるスピードで断裂の壁を展開、
2階のほうから撃たれた銃弾はそこに止まった。
クンと右手を軽く振る、弾は撃った方向にそのまま戻っていった。
だが敵に命中した手ごたえがない、どうやら撃った直後に移動したようだ。
そんなことを考えているうちにもう一度彼の絶対防御が弾を捕らえる。
また撃ち返す、また避けられたようだ。
「おいおいかくれんぼか?
…そんなにガキでもないんだがな!」
能力を発動し周りのものを破壊しながら移動する。
目隠しとなっていた障害物が吹き飛んでいく。
そのとき彼は視界の隅に敵を発見した。
どうやら女のようであり手には少々異形の銃を持っている。
入り口のほうへ走っている、逃走を決めたようだ。
「逃がすかよっ!」
入り口に向かい疾走する。
…が、その足が止まった。
目の前に男が現れた、その男は…ホールで見た主催者の一人だった。
「人の人形で遊ぶのはやめてほしいんだけどな、
手に入れるのに結構苦労したんだよ。」
へらへらと笑みを浮かべながら男は言った。
フォルテッシモも笑みを浮かべた、そして言う。
「ほう…じゃあおまえが代わりに俺と遊んでくれるのか?」
ピリピリとした空気が周囲に流れる。
そして主催者の一人、ディートリッヒが火に油を注ぐようなことを言う。
「無理無理、今の君じゃあ僕には勝てないよ。」
「じゃあ…試してみるか!?」
フォルテッシモは相手を攻撃しようとした、
が、その行動は急な体の痛みによって遮られる。
「くっ!」
感じたことの無い強烈な痛みが彼を襲う。
隙間に引っかかっている命を外す、
もとい引きちぎられているような感覚だった。
上から声が響く。
「ね?」
「貴様…何をした!?」
苦痛に顔を歪ませながらフォルテッシモが尋ねる。
「君の呪印を少し発動させたんだよ。
まともに戦って万が一負けちゃったら洒落になんないからね。」
笑みを崩さずにディートリッヒは言う。
「そうそうそういえば君の働きは少々期待はずれだよ、
せっかく制限を少し緩めてあげたのに。」
「何?」
「君の能力は制限するのが少し難しかったんだよ。
こっちも人手が少なくてさ、
君みたいに積極的にゲームに参加しそうな人に手間をかけるよりも
他のもっと危険な人たちを制限することを優先したのさ。」
「くっ…。」
痛みが酷くなる、体の中をいじり回されているみたいだ。
「さて、そんな君にペナルティだ。
君のその能力、使えるのは1時間に5回までとしよう。
五回使ったら君の能力は一時的に使えなくなるからね。」
罰ゲーム発表のような調子で気軽に言う。
「…貴様は必ず俺の手で始末してやる…首を洗って待っていることだ…。」
痛みの中でフォルテッシモは宣戦布告した。
「呪印が発動してる中でそんな強がりを言えるとは立派だね。
…おや、ケンプファーに見つかってしまったみたいだ。
もう行かなくっちゃ、じゃあね、楽しみにしてるよ最強さん。」
そしてディートリッヒは現れたとき同様唐突に消えた。

67 呪いと封印 〜Curse&Seal〜 その2  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b> :2005/04/30(土) 16:28:54 ID:Hw7b583Y
一室の中2人の男が会話をしている、片方は先ほどフォルテッシモと対峙していた少年だ。
「参加者への接触は禁止といった筈だが?」
「君も彼女に会ってきたんだろう?おあいこだよ。」
「挙句の果てには参加者の逃走を手助けしたようだが。」
「そんなつもりはなかったよ。」
「…次また同じようなことがあったときは《あの方》に報告させてもらうぞ。」
「あーそれは怖い、分かった分かったもうしないよ。」
ディートリッヒを戒めた後ケンプファーは部屋から出て行った。
出て行った後ディートリッヒは心の中でつぶやく。
『残念、もうあえないんだね。
これは渡してあげれないみたいだ、この正体に気づいたときの君の顔が見たかったのに。』
ディートリッヒの手には例のアンプルがあった。
その中身は…ただのブドウ糖だった。

フォルテッシモは完全に不機嫌だった。
自分の体に付きまとう妙な感覚。
あのあと一度能力を使ってみたが、そのとき自分の体が重くなるのを感じた。
『これでは奴と満足に戦うこともできない。』
彼が思い浮かべていたのは彼が再戦を約束した男だった。
『このつまらない呪いをどうにかしなければな…
…まてよ?もしあの男が卵から奴に似た能力を手に入れたとしたら…。』
その可能性は充分にある、それ程二人の男の本質はよく似ている。
彼の表情に笑みが浮かぶ、自分の考えを反芻し
うんうんと何度も頷く。
『頼むぞヒースロゥ・クリストフ、
俺がこのゲームを楽しめるかどうかはおまえに懸かってるんだからな!』
敵に頼ろうとして悪い気分ではない自分に苦笑しながら彼は公民館をあとにした。

【D−1/公民館/1日目・10:30】
【パイフウ】
 [状態]健康
 [装備]ウェポン・システム(スコープは付いていない)
 [道具]デイバック一式(茉理の分も回収)
 [思考]主催側の犬になり、殺戮開始/火乃香を捜す

【フォルテッシモ(049)】
【状態】不機嫌だが少し楽しみ/体に若干のダルさ。
【装備】ラジオ
【道具】荷物ワンセット
【思考】ブラブラ歩きながら強者探し。早く強くなれ風の騎士
【行動】いずこへかと歩みさる。

注:ffの能力制限について
・射程、威力は変わらない。
・1時間に5回までしか能力を使えない。
・6回目は能力が発動しない。
・10:30に一度使ったので11:30まで4回しか使えない
(ただし、それまでにもう1回使った場合11:30までは3回、仮に11時に使ったとすると
11:30〜12:00までは4回、12:00からは5回となる。)
・能力を使うたびに若干のダルさが加算されていく。
(1回も使ってなかったら普通、5回使いきると微熱並みのだるさ。)

68 最強の堕落 その一  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b> :2005/05/01(日) 18:35:35 ID:Hw7b583Y
それなりに大きなビルの中を一人の男が闊歩する。
「中々洒落た建物だな、こんな場所まであるとは…まったくご苦労なことだ。」
一人つぶやく、このような場所なら誰かがいると思ったが今のところ出会ってはいない。
少し離れた場所のビルには彼の望む敵がいたのだが。
『次はどこに向かうとするか、人がいそうな場所とすると…。』
などと呑気に今後の行動予定を立てていると、
油断をしたくてもできないという彼の性質が狙撃者の気配を捉える。
瞬時に自分の前に条件反射ともいえるスピードで断裂の壁を展開、
2階のほうから撃たれたと思われる銃弾はそこに止まった。
クンと右手を軽く振る、弾は撃った方向にそのまま戻っていった。
だが敵に命中した手ごたえがない、どうやら撃った直後に移動したようだ。
そんなことを考えているうちにもう一度彼の絶対防御が弾を捕らえる。
今度は1階から撃ったらしい。
また撃ち返す、また避けられたようだ。
「おいおいかくれんぼか?
…そんなにガキでもないんだがな!」
能力で細心の注意を払い、途中障害物を排除し見渡しやすくしながら移動する。
そのとき彼は視界の隅に敵を発見した。
どうやら女のようであり手には少々異形の銃を持っている。
入り口のほうへ走っている、逃走を決めたようだ。
「逃がすかよっ!」
入り口に向かい疾走する。
…が、その足が止まった。
目の前に男が現れた、その男は…ホールで見た主催者の一人だった。
「人の人形で遊ぶのはやめてほしいんだけどな、
手に入れるのに結構苦労したんだよ。」
へらへらと笑みを浮かべながら男は言った。
フォルテッシモも笑みを浮かべた、そして言う。
「ほう…じゃあおまえが代わりに俺と遊んでくれるのか?」
ピリピリとした空気が周囲に流れる。
そして主催者の一人、ディートリッヒが火に油を注ぐようなことを言う。
「無理無理、今の君じゃあ僕には勝てないよ。」
「じゃあ…試してみるか!?」
フォルテッシモは相手を攻撃しようとした、
が、その行動は急な体の痛みによって遮られる。
「くっ!」
感じたことの無い強烈な痛みが彼を襲う。
隙間に引っかかっている命を外す、
もとい引きちぎられているような感覚だった。
上から声が響く。
「ね?」
「貴様…何をした!?」
苦痛に顔を歪ませながらフォルテッシモが尋ねる。
「君の呪印を少し発動させたんだよ。
まともに戦って万が一負けちゃったら洒落になんないからね。」
笑みを崩さずにディートリッヒは言う。
「さて、これからの君の動きは楽しみだよ、
君への制限は少し特殊にしておいたからね。」
「何?」
「君の能力は普通に制限するのが少し難しかったからさ。
他の人たちと違って君のはゼロか百にしか制限できなかったんだよ。」
「くっ…。」
痛みが酷くなる、体の中をいじり回されているみたいだ。
「そろそろ効果が現れ始めると思うけど、
ほぼ1時間後、君のその能力は0になる。
最強と呼ばれる君がそこらへんの高校生にまで堕ちたあと、
どんな行動をとるかはなかなか興味深いものだね。」
至極軽い調子で言う。
「…貴様は必ず俺の手で始末してやる…首を洗って待っていることだ…。」
痛みの中でフォルテッシモは宣戦布告した。
「呪印が発動してる中でそんな強がりを言えるとは立派だね。
…おや、ケンプファーに見つかってしまったみたいだ。
もう行かなくっちゃ、じゃあね、楽しみにしてるよ最強さん。」
そしてディートリッヒは現れたとき同様唐突に消えた。

69 最強の堕落 その二  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b> :2005/05/01(日) 18:36:32 ID:Hw7b583Y
一室の中2人の男が会話をしている、片方は先ほどフォルテッシモと対峙していた少年だ。
「参加者への接触は禁止といった筈だが?」
「君も彼女に会ってきたんだろう?おあいこだよ。」
「挙句の果てには参加者の逃走を手助けしたようだが。」
「そんなつもりはなかったよ。」
「…次また同じようなことがあったときは《あの方》に報告させてもらうぞ。」
「あーそれは怖い、分かった分かったもうしないよ。」
ディートリッヒを戒めた後ケンプファーは部屋から出て行った。
出て行った後ディートリッヒは心の中でつぶやく。
『残念、もうあえないんだね。
これは渡してあげれないみたいだ、正体に気づいたときの君の顔が見たかったのに。』
ディートリッヒの手には例のアンプルがあった。
その中身は…ただのブドウ糖だった。

フォルテッシモは完全に不機嫌だった。
自分の体に付きまとう妙な感覚。
少しずつだが裂け目がぼやけてきている。
どうやら本当にあと1時間で自分は一般人と同等の存在に戻ってしまうらしい、
そう彼は思っていた。
だが実際のところ、彼の強さの秘訣は能力ではなかった、
彼の恐ろしさは決して油断しないこと、その用心深さが彼を彼たらしめる所以だった。
『これでは奴と満足に戦うこともできない。』
彼が思い浮かべていたのは彼が再戦を約束した男だった。
『このつまらない呪いをどうにかしなければな…
…まてよ?もしあの男が卵から奴に似た能力を手に入れたとしたら…。』
その可能性は充分にある、それ程二人の男の本質はよく似ている。
彼の表情に笑みが浮かぶ、自分の考えを反芻し
うんうんと何度も頷く。
『頼むぞヒースロゥ・クリストフ、
俺がこのゲームを楽しめるかどうかはおまえに懸かってるんだからな。』
敵に頼ろうとして悪い気分ではない自分に苦笑しながら彼はビルをあとにした。

【B−4/ビルのホール/1日目・10:50】

【パイフウ】
 [状態]健康
 [装備]ウェポン・システム(スコープは付いていない)
 [道具]デイバック一式
 [思考]主催側の犬になり、殺戮開始/火乃香を捜す

【フォルテッシモ(049)】
【状態】不機嫌だが少し楽しみ/体に若干のダルさ。
【装備】ラジオ
【道具】荷物ワンセット
【思考】ブラブラ歩きながら強者探し。早く強くなれ風の騎士
【行動】いずこへかと歩みさる。

注:ffの能力制限について
12時間ごとに能力がなくなる、
およそ1時間前から症状が進行、徐々にひび割れがぼやけてくる。

70 魔女と魔術師 <前哨戦> :2005/05/02(月) 01:28:57 ID:PO1IA.1s
「さて、とりあえず我々は目的地に到着したわけだが──」
「どうでもいいですけど班長、人に話すときはせめてその人のほうを向いて話すのが礼儀ではない
のですか?」
「いやいや茉衣子くん、我々を監視する者達のためにもこういったパフォーマンスは必要なのだよ」
「そんなパフォーマンス必要ありませんわ」

いつもの尊大な態度で茉衣子の質問に返す宮野。ちなみに宮野の視線の先にある樹木には監視
カメラの埋め込まれた樹があったのだが、今回の話にはまったく関係ないので割愛させていただく。

「しかし班長、今度からあのような方法で向かう場所を決めるのは控えるべきだとは思いませんか?」
「『成功の影に失敗はつきもの』と言うではないか、さしたる問題ではあるまい」
「その方法に問題があったから、こうして申し上げているのですっ!! しかもまだあんな方法で行
く先を決めるつもりですか!?」

宮野に罵声を浴びせた茉衣子は、嘆息した後に目の前にあるものよく観察する。
そこにあったのは、佐山達や悠ニが利用した小屋であった。しかし「小屋」と呼ぶには少々、いや多少
腐敗が進んでいてむしろ「廃屋」と呼ぶべきではないかと思わないでもない。
廃屋の周りも調べてみるが人影はなく、生き物の気配すらまったく感じない。生き物のいない森と
いうのがこうも不気味だとは茉衣子も思わなかったが、逆にそれが安全であるという証明であるなら
仕方がないと自分に言い聞かせる。
仮にあと数分早く着いていれば悠ニと出会っていたのだが、これも今回の話とは関係ないのでどう
でもいいことである。
先ほどからずっと虚空を見つめていた宮野が、やっと口を開いた。

「しかしいつまでもこうしている訳にはいくまい、とりあえず中に入るか」

なんの衒いもなく廃屋の中に進む宮野、そしてそれに付き従うかのように茉衣子が後に続く。口先
では罵倒しながらもこういった場面で付き従うあたり、やはり自分は班長を信頼しているのだと再
認識する。
(まぁ、師と仰ぐべき人間としては最底辺の部類ですけど……)
今更どうしようもない事を考えながら、茉衣子は廃屋の中を見渡す。
廃屋の中には、無数に散乱した錆びた工具と2枚の紙切れ、そして水の入ったペットボトル。よく
見れば、それは参加者全員に支給された物と同じだとすぐにわかった。

「それにしても、何でこんなところに水が?」

誰かが一時的にここへ置いたものだろうか? しかし、辺りに人の気配がまったくなかったことを
考えれば、その可能性は全く無いように思える。
すると、横合いから宮野が一枚の紙を茉衣子に差し出した。内容を見ると、尊大な文面でこの水
を有効に活用しろと書いてあった。

「なんとなくですけど、班長と気が合いそうな方のように思えますわ」
「何を言っておるのだね茉衣子くん、正義と真実をこよなく愛する公明正大がモットーの私が、何が
悲しくて悪役志望の偏った思考を持つ変態生徒会副会長と仲良くせねばならんのだ」

71 & </b><font color=#FF0000>(9sC3tEkM)</font><b> :2005/05/02(月) 01:30:25 ID:PO1IA.1s
「妄想の如き班長の戯言はともかく、この水はどうしましょうか?」
「ふむぅ……」

思案すること数秒、宮野はペットボトルを手にしてこう言った。

「まぁ、さほど気にすることでもないだろう。ここは佐山御言なる人物の厚意に甘えるのも悪くはあるまい」

そう言ってから、宮野はペットボトルの蓋を外す。ご丁寧にも左手を腰に添えて、ペットボトルの中の水を
口に含む──

その寸前に宮野は手を止めて、わずかにペットボトルの中の水に視線を向ける。
『どうした? 飲まねぇのか?』
宮野の胸元のエンブリオが話し掛ける。すると突然、宮野は中の水を室内に盛大にぶちまけた。

「なっ、何をなさるのですか突然!? 奇特な行動は控えた方がよろしいとあれだけ──」

間一髪で水を避けた茉衣子が、宮野に罵声を浴びせる。しかし宮野の顔を見て、茉衣子は声を出せなく
なった。
宮野のその表情はまさしく「戦慄」。普段の宮野からすれば、全く予想出来ない表情である。
(へらへらした班長からこのような表情が見られるなんて、正直意外ですわ……)
いつもの宮野からは想像出来ないその表情に、茉衣子は僅かに心を奪われたがすぐに正気に戻った。

「突然どうしたのですか班長? その水に何か異常でもあったのですか?」
「……分からん。 だが何か毒のようなものが入っていたかも知れん」
「毒!?」
「本当に毒だったのかは分からん。だがコレを飲むと、なんとなく危険なような気がしたのだよ」

額に浮かんでいた脂汗を、白衣の袖でぬぐう宮野。

「しかし、一体誰がこのような事を……」
「それも分からん。 佐山御言なる人物の厚意を利用したものか、本人が仕組んだものかさえな」
「……」

沈黙が廃屋の中を漂う。
その中で二人は、これが生死を賭けた椅子取りゲームであることを結果的に再認識することになった。

72 魔女と魔術師 <前哨戦> :2005/05/02(月) 01:31:45 ID:PO1IA.1s
【今世紀最大の魔術師(予定)とその弟子】
【Eの5/廃屋の中/1日目・8時23分)】

【宮野秀策】
[状態]:健康
[装備]:自殺志願(マインドレンデル)・エンブリオ
[道具]:通常の初期セット
[思考]:刻印を破る能力者、あるいは素質を持つ者を探し、エンブリオを使用させる。

【光明寺茉衣子】
[状態]:健康
[装備]:ラジオの兵長
[道具]:通常の初期セット
[思考]:刻印を破る能力者、あるいは素質を持つ者を探し、エンブリオを使用させる。


[備考]
廃屋内にあったペットボトル(詠子の血入り)は破棄、「物語」はまだ読んでいません。
廃屋内にあったペットボトルの中に、毒物に類するものが混入されていたと考えています。
ペットボトルに毒物を混入した犯人として、佐山御言が挙げられています。ただし同時に佐山御言の名を
利用した行為であるとも考えています。

<前哨戦>
● 魔女VS魔術師 ○
決め技:宮野の直感(と言うかEMP能力の一端)

73 タイトル未定 1/1  </b><font color=#FF0000>(jjRBLcoQ)</font><b> :2005/05/02(月) 11:46:53 ID:pBSSTsig
保胤は暗闇の中を歩いていた。
月も星もない、夜とはことなる闇の中、傍らにはあの化け百足、足元に数多の蟲たち。
彼らに敵意は感じられなかった。ただ親しみを込めたようにキチキチと笑うだけである。
その理由が保胤には分かる。彼らは皆、蟲毒の成れ果てだ。
食われたもの。倒れたもの。生き残り、そして退治されたもの。
死は必然とはいえ怨に飲まれた彼らの死は、いずれにせよ安らかなものではありえない。
今、自分は彼らと同じ道の上にいる。
無論、それがすべてというわけでも無い。あくまでこの殺し合いの一つの側面として蟲毒の術があるというだけだ。
自分には吸精術があった。使う使わないはべつにして、本来の威力ならば四方一里に満たないこの島など半刻のうちに荒野と化す。
今では使ってみないと分からないが、おそらく地図にして1枡ぐらいの範囲の人を気絶させるのがせいぜいだろう。
自分の死と引き換えに。
まったくもって不便な力だと保胤は思う。諍いを止めることも身を守ることもない。
また、セルティの話では、自分は千年も過去の人間らしい。
名簿の名前を見ても、見慣れぬ名前のほうが多い。昨日見た夜空の星も自分の知っているものとは少しばかり異なる。
新しい技術や武器、道具。おそらく一人では満足に自分の状況すら理解できないだろう。
だから彼らは笑うのだ。
自分が彼らと同じ立場に立ち、強力で大味ゆえの制限で切り札を失い、しかもこの殺し合いの場で人に頼らなければならないことを、
親しみと侮蔑をもって笑っているのだ。
保胤は暗闇を歩く、道に凹凸はなく歩きやすい。考えをするにはいい場所だ。
自分の力がどこまで通じるのか。自分がなにをしたいのか。なぜこのような殺し合いの場にいるのか。
諍いのさなかに出くわしたときどう動くのか。先ほどのように襲撃されたときどう身を守るのか。
そしてどうすればこの殺し合いをとめることが出来るのか
かしゃかしゃという足音を聞きながら。保胤は暗闇を歩いていく


【A−1/島津由乃の墓の前/1日目・09:45】
『紙の利用は計画的に』
【慶滋保胤(070)】
 [状態]:不死化(不完全ver)、昏睡状態(特に危険な状態ではない)
 [装備]:ボロボロの着物を包帯のように巻きつけている
 [道具]:デイパック(支給品入り) 、「不死の酒(未完成)」(残りは約半分くらい)、綿毛のタンポポ
 [思考]:自分の行動の指針を考える/静雄の捜索・味方になる者の捜索/ 島津由乃が成仏できるよう願っている


【セルティ(036)】
 [状態]:正常
 [装備]:黒いライダースーツ
 [道具]:デイパック(支給品入り)(ランダムアイテムはまだ不明)、携帯電話
 [思考]:静雄の捜索・味方になる者の捜索/保胤が起きるまでこの場に待機
[チーム備考]:『目指せ建国チーム』の依頼でゼルガディス、アメリア、坂井悠二を捜索。
       定期的にリナ達と連絡を取る

74 特殊制限発動 その1  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b> :2005/05/02(月) 21:02:56 ID:Hw7b583Y
それなりに大きなビルの中を一人の男が闊歩する。
「中々洒落た建物だな、こんな場所まであるとは…まったくご苦労なことだ。」
一人つぶやく、このような場所なら誰かがいると思ったが今のところ出会ってはいない。
少し離れた場所のビルには彼の望む敵がいたのだが。
『次はどこに向かうとするか、人がいそうな場所とすると…。』
などと呑気に今後の行動予定を立てていると、
油断をしたくてもできないという彼の性質が狙撃者の気配を捉える。
瞬時に自分の前に条件反射ともいえるスピードで断裂の壁を展開、
2階のほうから撃たれたと思われる、
おそらくショットガンの類であろう銃弾はそこに止まった。
クンと右手を軽く振る、弾は撃った方向にそのまま戻っていった。
だが敵に命中した手ごたえがない、どうやら撃った直後に移動したようだ。
そんなことを考えているうちにもう一度彼の絶対防御が散弾を捕らえる。
今度は1階から撃ったらしい。
また撃ち返す、また避けられたようだ。
「おいおいかくれんぼか?
…そんなにガキでもないんだがな!」
能力で細心の注意を払い、途中障害物を排除し見渡しやすくしながら移動する。
そのとき彼は視界の隅に敵を発見した。
どうやら少年のようであり手からショットガンを投げ捨て
代わりに異型の銃を持っている。
「そこか!」
一気に距離を詰める、相手も逃げながら発砲するが、
全て裂け目に引っかかる。
「無駄だ、そんなものでは…」
言いかけたとき彼にとって驚愕の事態が起こる。
一発の銃弾が彼の頬を掠めたのだ。
『バカな…遅れただと?』
いつもならまさに一瞬、銃弾が放たれたあとでも間に合うはずが
その壁が出来る前にすり抜けてきたのだ。
『…こいつは…』
走るスピードを落とす、そして足を止める。
向こうはそのまま駆けていった、どうやらいったん距離をとったようだ。
二、三度周りに能力を発動する。
…いつも通りだ、周囲のものがバラバラになった。
『どういうことだ…偶然なのか?』
頬の傷をさすりながら呟いた。

75 特殊制限発動 その2  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b> :2005/05/02(月) 21:03:56 ID:Hw7b583Y

それから1時間がたった、
2人の狩人に直接的な戦闘はなかった。
だが常に狙われているというのは普通相当のストレスだ。
そしてその差は明確に2人の間に現れている。
コツン、と床に音を響かせた襲撃者がしまったと思ったとき、
下の階にいる男と目が合った。
同時に自分を支える床が崩れる。
「何!?」
浮遊感の後になかなか強烈な痛み、
1階に落下したようだ。
「どうした?
不用意だな…あの放送が気になったのか?」
せせら笑うように言う。
あの放送とは11時の放送のことだ。

「くっ…。」
襲撃者はなおも銃を向けて引き金を引こうとする、
「無駄だというのがわからないのか?」
クンと指を曲げると銃はバラバラになった。
相手に諦めにも似た色が浮かぶ。
「なかなか楽しめた、礼をいわなければな。
代わりといっちゃあなんだが・・・・」
貴様は楽に殺してやろう、と言いかけたとき、
1時間前を遥かに上回る驚きが彼を襲った。
彼の文字通り生命線ともいえる罅割れがぼやけ始めているのだ。
『バカな!こんな事が…』
その思考に被さるようにして頭の中に声が響いてきた。
『やあ、諸君、元気に殺しあっているかな?
ただいまより…』
ここまできたとこで彼は思考を現実に戻された、
襲撃者のナイフが彼を襲っていたからだ。
通常なら間違いなく終わっていたが彼のもう1つの生命線、
《決して油断の出来ない性格》が功をそうし、
かろうじて右手を左手を犠牲にして受け止めることが出来た。
「ぐっ・・・。」
相手はそのまま逃走に移っていた、
走り去る相手に向かって能力を…
『罅割れが…見えないだと?』
使用することは出来なかった。
襲撃者は結局そのまま逃げ出すことができた。

放送が終わってもなおフォルテッシモは思案に暮れていた。
『こんなことは今までなかった。
こいつはおそらく俺の体につけられたあの忌まわしい呪印とやらに
よるものだろう、問題はいつまでこの状態が続くかだ。
放送のときにちょうど能力が消えた、
このことから考えて12時間後には戻るかとは思うが、
もしかしたら外すまですっとこのままかもしれんな。』
彼にとって能力とは自分の性格への付属物だった。
だからこそ彼はこれほど冷静に分析をすることが出来たのだろう。
『どっちにしてもこのままじゃちとマズい事になるな。
これでは奴と満足に戦うこともできない。』
彼が思い浮かべていたのは彼が再戦を約束した男だった。
『このつまらない呪いをどうにかしなければな…
…まてよ?もしあの男が卵から奴に似た能力を手に入れたとしたら…。』
その可能性は充分にある、それ程二人の男の本質はよく似ている。
彼の表情に笑みが浮かぶ、自分の考えを反芻し
うんうんと何度も頷く。
『頼むぞヒースロゥ・クリストフ、
俺がこのゲームを楽しめるかどうかはおまえに懸かってるんだからな。』
敵に頼ろうとして悪い気分ではない自分に苦笑しながら彼はビルをあとにした。
『とりあえずはパートナーを探すとしよう、
やれやれ、ああいう演技はあまり好きじゃないんだがな。』

76 特殊制限発動 その3  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b> :2005/05/02(月) 21:07:11 ID:Hw7b583Y
【B−4/ビルのホール/1日目・12:10】

【キノ】
[状態]:通常。
[装備]:カノン(残弾無し)、師匠の形見のパチンコ
[道具]:支給品一式×4
[思考]:最後まで生き残る。 武器の採取。


【フォルテッシモ(049)】
【状態】能力封印、左腕に刺し傷
         (それなりに深手、重いものを持つなどはできない)
【装備】ラジオ、折りたたみナイフ
【道具】荷物ワンセット
【思考】パートナーを探す。早く強くなれ風の騎士
【行動】いずこへかと歩みさる。

注:ffの能力制限について
12時間ごとに能力がなくなる、
およそ1時間前に若干の兆候が見られる。

注2:キノ及びフォルテッシモは12時の放送を全部聞いてません。
(ただしキノは制限エリアぐらいからなら聞いている可能性あり)

77 凶姫乱舞 1#松 :2005/05/02(月) 21:26:42 ID:D7qZuQnc
ヘイズが半身のまま指先を前に突き出す特異な姿勢へ移行し、
接近戦の覚悟を決めたその時。
ヘイズと同じく森まで押し戻されたコミクロンは一つの決断をした。

「ヴァーミリオン、俺はエドゲイン君を探す。そいつの相手は任せた!」
叫んで森の奥へ走り去る。
だが逃走ではない。
なぜなら自分とヴァーミリオンは魔術と論理回路の同時発動が出来ず、
援護攻撃できる武器が無い現状では近接戦は不利だからだ。
ギギナと戦い腕を斬られた事が頭を過ぎる。
ならば相手の行動予測が可能がヴァーミリオンが相手を足止めしている間に
自分が武器を探して同時攻撃を仕掛けた方が効率が良い。

「エドゲイン君は確実にここら辺にあるはずだ」
ギギナは剣を持っていた。
両手持ちのエドゲイン君を持っていくとは思えないし、
あの男の戦闘スタイルからして、わざわざ飛び道具を使用するとも思えなかった。


森の奥に向かって疾走を始めたコミクロンを確認し、
ヘイズはドレスの少女へ向き直った。
(何でバンダナが逃げてコイツがここに残ってるんだよ…!)
最初は囮かとも思ったが、バンダナが戻ってくる気配は無い。
「ま、向こうから見りゃこっちも同じようなもんか」
肩を落としつつ接近戦に備える。
<I−ブレインの動作効率を85%から95%に再設定。未来予測開始>
「そんじゃまあ、威嚇攻撃といきますか」
<予測演算成功。『破砕の領域』展開準備完了>
こちらに向かって突撃してくる少女の剣を狙って指を鳴らす。
パチンッ
論理回路が形成され、少女が剣を落と――さなかった。
「なんだと!情報解体が効かねえのかよ!まさか…騎士剣か!」

78 名無しさん :2005/05/02(月) 21:27:35 ID:D7qZuQnc
うわトリップミスか?

79 凶姫乱舞 2 </b><font color=#FF0000>(h8kojB1Q)</font><b> :2005/05/02(月) 21:29:22 ID:D7qZuQnc
現時点で自分が捜索し、しかし自分と最も相性の悪い武器――騎士剣
情報的にも物理的にも強固なこの剣は、
能力低下中の『破砕の領域』では傷一つ付ける事はできないだろう。
「やばい…銃さえあれば…」
後悔先に立たず、もう少女は5メートル程手前まで接近してきている。
砂袋を探すためデイパックに手を入れたヘイズは、ある物に気づいた。
「こんな物でも、一回くらいなら…」
意を決してヘイズは少女の行動を予測し始めた。

3メートル手前で少女は更に加速。
寸分違わずヘイズの頚動脈を狙って超高速の一撃を放つ。
常人なら反応すらできない速度の斬撃、しかしそれは目標を大きく外れ、虚しく空を切る。
ヘイズは足を軸にして背中から回転し少女の側面へ回り込む。
対して少女は更に素早い回転でヘイズを正面に捕らえ払い切りを叩き込む。
それすら予測しているヘイズは既に射程の一歩手前に後退している。
それは戦闘を超越していた。
近づき、離れて、回転し、しかし決してぶつからず。
それは舞踏。
赤いふたりは森で華麗に舞っていた。

だが舞踏は唐突に終わりを告げる。
赤い男、ヘイズは消臭剤を投擲する。
赤い少女は右手の剣でそれを打ち落とした。
ヘイズは更に砂袋を投擲。
反射的に少女はそれを左手の剣で打ち落とす。
袋が破け、砂が少女の視界を潰す。
さらには両手で防御に回ったために斬撃の嵐が一瞬途切れる。
<予測演算成功。『破砕の領域』展開準備完了>
「悪いな、我慢してくれ。アンタは隙が無さ過ぎるんだ」
パチンッ
ヘイズが狙ったのは騎士剣ではなく右手首だった。
血管と共に腱が切れ、出血と共に剣が落ちる。
少女の脇に飛び込み剣を掴む。
「騎士剣、ゲットだぜ」

80 凶姫乱舞 3 </b><font color=#FF0000>(h8kojB1Q)</font><b> :2005/05/02(月) 21:30:40 ID:D7qZuQnc
しかしそれもつかの間だった。
少女はドレスを切って止血をすると、先ほどの倍の早さで斬撃を繰り出す。
舞踏の再開だった。
しかも今度は二倍速だ。
予測可能で今度は防御可能とはいえこちらに少女を殺す気が無いので、
どうしても押され続けることになる。
剣戟音が響く中ヘイズはぼやく。
「今度は流石にヤバイな…コミクロン、マジで急げよ」
白衣のおさげからの答えは返ってくるはずも無く、目の前の少女は常に無言のままだった。


突然、少女が木の枝を切り飛ばしてきた。
先ほどの自分の攻撃同様、次が来るかとヘイズは構える。
しかし、少女が取った行動はヘイズを驚愕させた。
「斬るのは木その物かよ…」
細木だったので少女の剣速と騎士剣の硬度なら不可能ではない。
破砕音と共にヘイズめがけて倒れてくる。
「発想のスケールで…負けただと、くそっ」
ヘイズは横っ飛びで木を回避するがそこには少女が立っている。
死神に見えるのは気のせいではあるまい。

死神はその左手で必死の一撃を繰り出した。
ヘイズに高度演算能力が無ければそれは確かに必死だった。
しかしヘイズは軌道を予測し、僅かに体を逸らした。
結果、剣は心臓を逸れ、しかしヘイズの左肩に突き刺さった。
「ぐああああああぁぁぁぁぁ!!」
絶叫が森にこだました。

81 凶姫乱舞 4 </b><font color=#FF0000>(h8kojB1Q)</font><b> :2005/05/02(月) 21:31:50 ID:D7qZuQnc
【F-5/北東境界付近/1日目・11:06】

【シャーネ・ラフォレット】
[状態]:右手首負傷、疲労
[装備]:騎士剣・陽
[道具]:デイパック(支給品一式) 
[思考]:1、赤髪・三つ編みを攻撃 2、クレアを捜す

【凸凹魔術師】
【ヴァーミリオン・CD・ヘイズ】
[状態]:左肩負傷、疲労
[装備]:騎士剣・陰
[道具]:支給品一式 ・有機コード
[思考]:1、オレ、死にそう。火乃香らと交渉に失敗? 2、刻印解除構成式の完成。
[備考]:刻印の性能に気付いています。


【コミクロン】
[状態]:軽傷(傷自体は塞いだが、右腕が動かない)
[装備]:未完成の刻印解除構成式(頭の中)
[道具]:無し
[思考]:1、エドゲイン君回収。戦闘が終わったから相手との平和交渉、情報交換 
    2、刻印解除構成式の完成。3、クレア、いーちゃん、しずくを探す。
[備考]:服が赤く染まっています。


【備考】シャーネ大暴れ中。火乃香が接近中。両チームとも海上遊園地へ向かう。

82 存在しえない守るべき者 </b><font color=#FF0000>(rmar5YFk)</font><b> :2005/05/03(火) 00:56:36 ID:reSibVbM
「本気…? もちろんです…。だって、ミラを、たす、けなきゃ…」
撃たれた腿を押さえながらもきっぱりとそう言い放つ青年に、古泉はとりあえず肩を貸した。
何とか立ち上がる彼に、古泉は再び声を投げかける。
「ミラさん…ですか。その人を探しているんですか?」
向き合った相手がこくりと頷く。その顔に先ほどまでの修羅の如き恐ろしい表情はない。
「れが…俺が、守らなきゃ、いけ…ないんです、…ミラはまだ…ちい、さいから」
青年は、脚の痛みも気にせずに必死に訴える。
吐く呼吸が少し荒くなっているのは、銃創のせいというよりも『ミラ』を思い出したことによる焦りや興奮からだろう。
「なるほど…」
古泉一樹は目の前の青年にそう言うと、不審気に思うのを顔に出さず、持っていた名簿を片手で取り出した。
ざっと一瞥すると、彼の記憶は正しくその紙に『ミラ』という名は載っていなかった。
顔に貼り付けた笑みを絶やさないまま、古泉は目まぐるしく考える。
この人がミラという少女を探そうとしているのは間違いないようですね。
もしも楽に殺人を行うために人探しの振りをしているのだとしたら、さすがにどんなに馬鹿な人でも名簿にある名前を口にするでしょう。
そもそも、この状況下ではだまし討ちをする必要もないはずですし…。
武器も防具も何一つ無い己の有様を思い、古泉は心中苦笑した。
いくら傷を負っているとはいえ、あちらはピストルを手にしているんですから。あれでずどんと一発やればいいだけですからね。
この近距離なら、特に狙わずとも身体のどこかに当てることくらいは難しくないでしょうし。
それをしないということは、やはり彼は本心からその人を見つけようとしていると考えて間違いはないようです。
しかし、それならばなぜ彼はこの場にいない者を探そうとするのでしょうか…?
古泉は青年の思惑を推測する。とりあえず思いつくのは二つのケース。
一つは、彼が何らかの理由でまだ名簿を見ていない場合。
もう一つは、名簿の既未読に関わらず、彼が『ミラ』をこの島にいると勝手に思い込んでいる場合。
一体、どちらなんでしょう? 前者ならともかく、後者の場合はちょっと厄介になりそうですね。

83 存在しえない守るべき者 </b><font color=#FF0000>(rmar5YFk)</font><b> :2005/05/03(火) 00:57:18 ID:reSibVbM
先刻銃を振り回していたときの恐ろしいまでの形相を思うに、彼は思い込みが激しい―もっと言えばごく近視眼的で視野の狭い人間のようです。
それに加えて拳銃の所持、見たところ戦闘経験も十分にありそうなことを加味すると、下手に刺激するのはまずいかもしれません。
主催者打倒を掲げていることを思えば、決して味方になりえない訳ではないでしょうが…。
古泉は、とりあえず『ミラ』の名が名簿に無いことをこの場で指摘することは止めることにした。
…それを指摘して向こうの逆鱗にでも触れることがあれば、その瞬間に僕の命はお終いですからね。
「とにかく、一旦どこかの部屋に行きましょう。傷の手当てをした方がいいですから」
相手を肩に抱いたままずるずるとホールの脇に延びる廊下を歩く。
突き当たった端に物置のような小さな部屋を見つけ、人の気配がないのを確認してそこに入った。
室内は様々なガラクタがうず高く積まれ、お情け程度に敷かれた灰色の絨毯には一面にうっすらと埃が積もっている。
かび臭いそこに眉をひそめながら、運んできた相手を床に座らせると、古泉は室内をぐるりと見渡した。
窓に近づき、そこに掛けられた色褪せた薄手のカーテンを力任せに引き裂く。細長い短冊状になったそれを、青年に手渡した。
「もっと使えるものがあるかと思ったんですが、ちょっと見つかりませんね。…とりあえずこれで止血してください」
青年は渡された布きれを手に取ると、痛みに顔をしかめながらペットボトルに入った水を傷口にばしゃばしゃと掛けた。
流れ出る血が、汚れた絨毯に染み込んでいく。青年は撃たれた腿に器用に布を巻きつけると、端をぎゅっときつく縛り上げた。
「く、い、痛…っ」
苦悶の表情で歯を噛み締める彼の、その手の中にある拳銃をちらりと見て古泉が言った。
「少し眠った方がいいですよ」
「そんな、で、できません。だってミラが…」
心底心配そうに言うその言葉に、古泉はにこりとして答えた。
「大丈夫ですよ。僕がちゃんと見ていますから。もし彼女を見つけたら、すぐに貴方を起こして知らせます」
「でも…」
言い淀む相手に、古泉は駄目押しとばかりに言葉を重ねる。
ここでこの青年を眠らせられれば、あの拳銃を自分のものにすることが出来るかもしれない。
わざわざ自分から彼を殺してまで銃を奪うつもりはない。そんなリスクの高い賭けをしても、得られる物は少ない。
だが、眠ってしまった人間の所持品を持っていくくらいなら危険も罪悪感も少ない。
上手くすれば、あるかどうかも分からない包丁などを探すより、より高確率で戦闘能力の高い武器を手に入れることが出来る。

84 存在しえない守るべき者 </b><font color=#FF0000>(rmar5YFk)</font><b> :2005/05/03(火) 00:58:27 ID:reSibVbM
「その怪我でミラさんを守れるんですか? 貴方には休息が必要ですよ」
「でも…」
眼前の彼が放った単語は二度とも同じものだった。だが、それを口にした時の表情は一度目と二度目で真反対に豹変していた。
刹那、青年は右手に握ったままだった拳銃を無機的に古泉に向け、引き金に掛けた指に力を込めた。
―――――タンッ!
鋭い銃声が狭い室内に響く。一瞬の後、古泉は燃えるような激痛に襲われた。
見れば、左肩にぽっかりと開いた穴からどくどくと血が溢れ出ている。
「なっ…」
驚いたような顔で相手を見つめる古泉には気にもとめずに、青年は急ぎ足で部屋から出て行った。
無感動な、それでも何かを決意したような声で台詞の続きを呟きながら。
「でも、それでも俺は…ミラを守らなきゃいけないんです…」

【G-4/城の中/1日目・07:30】

【アーヴィング・ナイトウォーカー】
[状態]:情緒不安定/修羅モード/腿に銃創
[装備]:狙撃銃"鉄鋼小丸"(出典@終わりのクロニクル)
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:主催者を殺し、ミラを助ける(思い込み)


【古泉一樹】
[状態]:左肩に銃創
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品一式) ペットボトルの水は溢れきってます
[思考]:長門有希を探す/怪我の手当て

85 Black shuck </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/03(火) 05:56:45 ID:QYaLvLSA
「俺から離れるな!」
かなめの手を引き街を駆ける宗介、その背後から迫るのは少年の姿をした古の魔女、カーラだ。
命令違反と知りながらも、様子を伺いに戻った宗介…そこで彼が見たもの
それは己の体を刺し貫かれ絶命するオドーの姿だった。
わすかとはいえ行動を共にした者の死を目の当たりにしたのだ、いかに歴戦の戦士といえど動揺を隠すことはできない。
それゆえ彼はほんの一瞬だったが気配を隠すのを怠ってしまったのだ。

(殺すところを見られたのは厄介ね)
一方、予定外の戦闘を強いられたことに、わずかに困惑しているカーラ、
だがこうなった以上は逃がすわけにはいかない。

宗介の放った弾丸を軽くステップして避けるカーラ、
あの程度の口径ならば鱗を貫通することはないだろうが…それでも痛いのは嫌だった。
避けながらもスピードを速めるカーラ、そろそろ止めを入れねば、
しかし…必殺の呪文を唱えようとしたところで、カーラは突如違和感を感じる。

「ぐっ…」
頭を抱えその場に立ちすくむカーラ。
自分の支配力が弱くなっている…このままでは中の少年が目覚めてしまう。
自分は所詮は寄生体だ、一度本体が目覚めてしまえば、もうイニシアチブを握ることは出来なくなってしまう。
「連続の戦闘は無理なようね…今は見逃してあげるわ」
今ここで無駄な力を消費して、本来の標的を仕留めそこなうわけにはいかない。
カーラは舌打ちすると最後に数発の火球を周辺にばら撒いて、今度こそ商店街を後にするのだった。

カーラの火球を受けて老朽化した木造アパートが根元から崩れる、どういう仕掛けか炎は延焼することなく
しばらくすると消えていったが…。
これが魔法というやつだろうか?いまさらながらその威力に恐れを禁じえない宗介。
ともかく逃げ切ったようだ、まだ油断は禁物だが。

しかし…また新たな問題がここで発生していた。
「しずくがいないの!」
「手を引いていたんじゃなかったのか!?」
明らかに取り乱し、落ち着きなく周辺を見回すかなめ、
「お願い…宗介」
かなめの言わんとしていることはわかっていた、だが…。
「ダメだ…今は戻れない、わかるだろう?」
「そんな!」
宗介の言葉に食い下がるかなめ、彼女とて状況は理解している、だがそれでも
彼女は思っているのだ、わずかでも可能性がある限り、守れる命は守りたいと。
そんな彼女だからこそ守ってやらねばならない、守りたいと宗介は思う。

86 Black shuck </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/03(火) 05:58:38 ID:QYaLvLSA
「どうしてもというのなら、俺が1人で探しにいく」
宗介の言葉に首を振るかなめ。
「あたしも一緒に行くわ」
「ダメだ…許可できない、危険すぎる」
それでも不満げなかなめの肩を抱え、その顔を真摯に見つめる宗介。
その顔はもう歴戦の戦士のそれだ。
「俺が今まで帰ってこなかったことがあったか、俺を信じてくれ…かならず彼女を見つけ出してくる」
しかしそれでも宗介の言葉に頷かないかなめ。
「違う!そんなんじゃない!あたしが言いたいのは!」
自分でも予測できなかった言葉、そこまで言って…それから後の言葉は出てこなかった。


「かなめさん…宗介さん…どこですか?」
逃走中、はぐれてしまったしずく、しかもセンサーがまた上手く働かなくなっている、
どうやら場所の状況によって範囲が著しく制限されてしまう場合があるようだ。
仕方なく視覚センサーに頼ることにしたしずく、
かんかんと音を立てて非常階段からビルの屋上へと上がっていく。
屋上に上がったしずくが最初にみた物、それは…。

「祥子さん?」
オドーらから何とか開放され、ようやく安心したのだろう。
屋上の給水塔の影で寝息を立てる祥子がいた。

「オドーさんたちはどうなさったのですか?」
「オドーさんは…」
逃げながら宗介から話は聞いたが、オドーとのいきさつを知っているしずくとしては、
彼女に真相を伝えるのは憚られた。
だが…しずくは時計を見る、あとわずかで放送の時間だ、後で告げられるのなら、
今、自分の口で伝えた方がいい。
「死にました…私たちを守って」

「それで今宗介さんたちとはぐれてしまっていて…」
祥子はもうしずくの言葉を聴いてはいなかった、ようやく頭の中から消えかけていた死の恐怖が
祥子の中で蘇り始める。
ふらふらと立ち上がる祥子、しずくは屋上の手すりから乗り出して宗介らの姿を探している。
(祐巳のため…祐巳の…)
自分を見逃してくれたオドーの姿が一瞬浮かぶがすぐに消えた、そう…もうあの人はいない。
消えてしまった…、だから…もう。
剣をそっと抜いてしずくの背後に立つ祥子。
「祥子さ…」
振り向いたしずくの視界が真っ赤に染まった。

87 Black shuck </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/03(火) 05:59:30 ID:QYaLvLSA
「ど…して…どど…して」
言語機能がやられたのかうまく話すことができない、運動センサーや思考回路にも致命的異常ありだ。
ぐらりぐらりとゆらめくしずく、その頭は銀の刃に貫かれてしまっている。
「いや…いやよ…こないで…」
頭から刃を生やして、ゆらゆらとこちらに近づくしずくの姿をみて半ばパニック状態の祥子。
その手に転がっていた鉄パイプが触れた。
そして目の前にはしずくの姿。
「うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

めちゃくちゃにパイプを振り回す祥子、そして避けることも叶わず殴られるがままのしずく、
鉄パイプがみるみる間にぐにゃぐにゃに変形し、そしてしずくの身体も次々に壊されていく。
それでも…訴えかけるように祥子を見つめるしずくの瞳。
それを見た瞬間、渾身の力で思い切りしずくを突き飛ばす祥子、
よろよろと無抵抗のままふらつくしずく、そしてその身体は大して高くない屋上のフェンスから
ぐらりとすべり落ちた…屋上から地上までの距離は、彼女が翼を広げるには低すぎ、
そしてその身体を破壊するには十分な高さだった。

ぐしゃり…そしてそれから3秒後、しずくはその機能を停止した。

そしてそれから数分後
「宗介…あれ…」
震える声でかなめが指を指す、そこには何者かが倒れ伏していた。
確認に駆け寄る宗介、少し進んでその肩がうなだれる…ということはやはり。

「ダメだ見るな!」
宗介の制止の声は僅かに遅かった。そしてかなめは見てしまった…。
しずくの頭に刺さっていたもの…それは、祥子が持っていた銀の剣だった。

「どうして…どうしてよ…祥子さんこんなのって酷い、酷すぎるよ」
しずくの残骸の前でへたりこむかなめ、瞳には涙が光っている。
その涙はしずくの死を悼む涙というよりは祥子の裏切りに対する悲しみの方が多いように、
宗介は感じていた。
(あの女…)
自分を裏切っただけならまだ仕方ないと思える、ここはそういう場所だ。
しかし…かなめを裏切ったのだけは許すわけにはいかない。
そんな宗介を上目遣いに見上げるかなめ。
「祥子さんを…どうするの?」
無言の宗介、それが回答だった。
「ダメよ…そんなの嫌よ…」
かなめの瞳からまた涙が零れ出す。

「お願い!宗介はあんな風にならないで!…お願いだから、あそこで殺しておけばよかったとか
そんな風には思わないで!」
「それでも俺は…」
苦渋の表情で拳を握る宗介、その時、時計の針が12時を指した。

88 Black shuck </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/03(火) 06:03:06 ID:QYaLvLSA
【C-3/商店街/一日目、12:00】
【しずく:死亡】残り84人

【相良宗介】
【状態】健康
【装備】ソーコムピストル、スローイングナイフ、コンバットナイフ
【道具】荷物一式、弾薬
【思考】大佐と合流しなければ。

【千鳥かなめ】
【状態】健康、精神面に少し傷
【装備】鉄パイプのようなもの(バイトでウィザード/団員の特殊装備)
【道具】荷物一式、食料の材料。
【思考】早くテッサと合流しなきゃ。

【小笠原祥子】
【状態】健康
【装備】なし(ただし、しずくの荷物をルートしてます)
【道具】荷物一式(毒薬入り。)
【思考】祐巳助けてあげるから。

89 Black Shuck </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/03(火) 15:45:56 ID:75yAlH6M
「痛い…」
アーヴィング・ナイトウォーカー…略してアーヴィは商店街の薬屋の中で
傷口を抱え蹲る。
薬屋ならなにか薬があると思っていたが…陳列棚はほとんど空だった。
かろうじて残っていた栄養ドリンクを飲み干し、得体の知れない塗り薬を傷口に塗りつけ、
一息つくアーヴィ。
もう何が何だかわからない、そもそも何でこんなところでこんなことをしなきゃならない。
ミラを探さなきゃいけないし、母さんの食事も作ってあげなきゃいけない。
あれでも何か変だ、母さんはもう…どうだっけ、よくわからない。
この足のせいかもしれない…痛い痛い痛い…。

そこに遠くから轟音が聞こえてきた。
何だろう?何だろう?…ふらりと店を出るアーヴィ…そこには2人の少女を連れた
少年の姿があった、少年は剣呑な視線でアーヴィを眺める。
その間、わずか一瞬…だが、
その瞳と瞳が重なった瞬間、アーヴィは銃を構えていた。

「俺から離れるな!」
かなめの手を引き街を駆ける宗介、その背後から迫るアーヴィ。
戦闘よりも逃走を優先しているので、けん制程度のものだが、それでも応戦しつつ舌打ちを禁じえない宗介、
何故だ何故こちらの攻撃は当たらないのだ、しかも相手は怪我をしているにもかかわらず。

一方のアーヴィはなにやらわけのわからない言葉を呟きながら、ふらりふらりと相変わらず無造作に
歩いているだけだ、そして時々ばかでかい銃を構えて射撃する。
その一撃が壊れかけの木造アパートに命中し、彼らの間を分かつように崩壊していく。
「千鳥っ!」
飛び交う瓦礫の中で手を伸ばす宗介、かなめもまた宗介へと手を伸ばす。
しかし…その時かなめの手が汗ですべり、もう片方の手で握っていたしずくの手がするりと抜けてしまう。
そして彼らの間を分かつように瓦礫の雨が降り注いだ。

90 Black Shuck </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/03(火) 15:47:28 ID:75yAlH6M
道をふさぐ瓦礫を前にしてようやく一息つく宗介、どうやら逃げ切ったようだ、まだ油断は禁物だが。

しかし…また新たな問題がここで発生していた。
「しずくがあの向こうに!」
「手を引いていたんじゃなかったのか!?」
明らかに取り乱し、落ち着きなく周辺を見回すかなめ、
「お願い…宗介」
かなめの言わんとしていることはわかっていた、だが…。
「ダメだ…今は戻れない、わかるだろう?」
「そんな!」
宗介の言葉に食い下がるかなめ、彼女とて状況は理解している、だがそれでも
彼女は思っているのだ、わずかでも可能性がある限り、守れる命は守りたいと。
そんな彼女だからこそ守ってやらねばならない、守りたいと宗介は思う。

「どうしてもというのなら、俺が1人で探しにいく」
宗介の言葉に首を振るかなめ。
「あたしも一緒に行く」
「ダメだ…許可できない、危険すぎる」
それでも不満げなかなめの肩を抱え、その顔を真摯に見つめる宗介。
その顔はもう歴戦の戦士のそれだ。
「俺が今まで帰ってこなかったことがあったか、俺を信じてくれ…かならず彼女を見つけ出してくる」
しかしそれでも宗介の言葉に頷かないかなめ。
「違う!そんなんじゃない!あたしが言いたいのは!」
自分でも予測できなかった言葉、そこまで言って…それから後の言葉は出てこなかった。


「かなめさん…宗介さん…どこですか?」
逃走中、はぐれてしまったしずく、しかもセンサーがまた上手く働かなくなっている、
どうやら場所の状況によって範囲が著しく制限されてしまう場合があるようだ。
仕方なく視覚センサーに頼ることにしたしずく、
かんかんと音を立てて非常階段からビルの屋上へと上がっていく。
屋上に上がったしずくが最初にみた物、それは…。

91 Black Shuck </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/03(火) 15:48:25 ID:75yAlH6M
「祥子さん?」
オドーらから何とか開放され、ようやく安心したのだろう。
屋上の給水塔の影で寝息を立てる祥子がいた。

祥子さん…祥子さん。
揺り動かされ目を覚ます祥子、どこで見つけてきたのだろうか?
掛け布団代わりに使っていたコートを羽織直して立ち上がる。
その片方の袖口が括られている、聞くところによると転んで怪我をしたのでそうしているのだという。

「ところでしずくさん?オドーさんたちはどうなさったのですか?」
「オドーさんは…」
逃げながら宗介から話は聞いたが、オドーとのいきさつを知っているしずくとしては、
彼女に真相を伝えるのは憚られた。
だが…しずくは時計を見る、あとわずかで放送の時間だ、後で告げられるのなら、
今、自分の口で伝えた方がいい。
「死にました…私たちを守って」

「それで今宗介さんたちとはぐれてしまっていて…」
祥子はもうしずくの言葉を聴いてはいなかった、ようやく頭の中から消えかけていた死の恐怖が
祥子の中で蘇り始める。
ふらふらと立ち上がる祥子、しずくは屋上の手すりから乗り出して宗介らの姿を探している。
(祐巳のため…祐巳の…)
自分を見逃してくれたオドーの姿が一瞬浮かぶがすぐに消えた、そう…もうあの人はいない。
消えてしまった…、だから…もう。
コートの中の短剣をそっと抜いてゆっくりとしずくの背後に立つ祥子。
「祥子さ…」
振り向いたしずくの視界が赤くスパークした。

「ど…して…どど…して」
言語機能がやられたのかうまく話すことができない、運動センサーや思考回路にも致命的異常ありだ。
ぐらりぐらりとゆらめくしずく、その頭は銀の刃に貫かれてしまっている。
「いや…いやよ…こないで…」
頭から刃を生やして、ゆらゆらとこちらに近づくしずくの姿をみて半ばパニック状態の祥子。
その手に転がっていた鉄パイプが触れた。
そして目の前にはしずくの姿。
「うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

92 Black Shuck </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/03(火) 15:49:12 ID:75yAlH6M
めちゃくちゃにパイプを振り回す祥子、そして避けることも叶わず殴られるがままのしずく、
鉄パイプがみるみる間にぐにゃぐにゃに変形し、そしてしずくの身体も次々に壊されていく。
それでも…訴えかけるように祥子を見つめるしずくの瞳。
それを見た瞬間、渾身の力で思い切りしずくを突き飛ばす祥子、
よろよろとやはり無抵抗のままふらつくしずく、奇声を上げて逃げ出す祥子。

そしてそれをまた一方のビルの屋上から眺める影があった。
「ミラ…」
遠めだからよくわからないけど、あのコートの着方はミラしかいないよね。
少し髪型が変わっているけど、イメチェンしたのかな?
まぁいいや、今助けてあげるよ。
アーヴィは鉄鋼小丸を構え、その引き金を引いた。

「まて…まっ…て」
私は大丈夫だから、こんなくらいじゃ壊れないから…だから祥子さん逃げないで、
怖いのはみんな同じだから、だからまたお話しましょう。
そう言いたいのに言葉が通じない。
でも、誤解を解かないと…壊れかけのセンサーを総動員しながら一歩一歩踏み出していくしずく。
しかしそこに対戦車ライフルの無慈悲な一撃がしずくの身体を貫いていた。

まず着弾の衝撃で、首がいずこかへと吹き飛ぶ。
そしてその身体は大して高くない屋上のフェンスから、己の臓物たる機械を撒き散らしながら、
ぐらりとすべり落ちた。
ぐしゃり…そしてそれから3秒後、しずくはその機能を停止した。

そしてそれから数分後
「宗介…あれ…」
震える声でかなめが指を指す、そこには何かが転がっていた。
確認に駆け寄る宗介、少し進んでその肩がうなだれる…ということはやはり。

「ダメだ見るな!」
宗介の制止の声は僅かに遅かった。そしてかなめは見てしまった…。
しずくの生首に刺さっていたもの…それは、祥子が持っていた銀の短剣だった。

93 Black Shuck </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/03(火) 15:49:55 ID:75yAlH6M
「どうして…どうして…祥子さんこんなのって酷い、酷すぎるよ」
しずくの残骸の前でへたりこむかなめ、瞳には涙が光っている。
その涙はしずくの死を悼む涙というよりは祥子の裏切りに対する悲しみの方が多いように、
宗介は感じていた。
(あの女…)
自分を裏切っただけならまだ仕方ないと思える、ここはそういう場所だ。
しかし…かなめを裏切ったのだけは許すわけにはいかない。
そんな宗介を上目遣いに見上げるかなめ。
「祥子さんを…どうするのよ?まさか!」
無言の宗介、それが回答だった。
「ダメ…そんなの嫌…絶対ダメ!!」
かなめの瞳からまた涙が零れ出す。

「お願い!宗介はあんな風にならないで!…お願いだから、あそこで殺しておけばよかったとか
そんな風には思わないでよ!」
「それでも俺は…」
苦渋の表情で拳を握る宗介、
「もしどうしてもいうのなら…」
宗介の行く手を阻むように両手を広げ立ちふさがるかなめ。
「あたしを殺してから行って!薄汚い人殺しになんか守ってもらいたくなんかないわ!!」
その姿を見て、宗介はうなだれるように両手の力を抜く。
その時、時計の針が12時を指した。

94 Black Shuck </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/03(火) 15:51:26 ID:75yAlH6M
【C-3/商店街/一日目、12:00】
【しずく:死亡】残り84人

【相良宗介】
【状態】健康
【装備】ソーコムピストル、スローイングナイフ、コンバットナイフ
【道具】荷物一式、弾薬
【思考】大佐と合流しなければ。

【千鳥かなめ】
【状態】健康、精神面に少し傷
【装備】鉄パイプのようなもの(バイトでウィザード/団員の特殊装備)
【道具】荷物一式、食料の材料。
【思考】早くテッサと合流しなきゃ。

【小笠原祥子】
【状態】健康
【装備】なし(ただし、しずくの荷物をルートしてます)
【道具】荷物一式(毒薬入り。)
【思考】祐巳助けてあげるから。

【アーヴィング・ナイトウォーカー】
[状態]:情緒不安定/修羅モード/腿に銃創(止血済み)
[装備]:狙撃銃"鉄鋼小丸"(出典@終わりのクロニクル)
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:主催者を殺し、ミラを助ける(思い込み)

95 風切る翼 </b><font color=#FF0000>(GSuxAXWA)</font><b> :2005/05/03(火) 23:28:08 ID:8sMUamU2
 駆ける、駆ける、駆ける。
 三人分の足音が、無人の商店街に響く。
 時折背後から轟音が響いてくるのは、間違いなくオドーと見知らぬ少年の戦闘のためだ。
 三人は背後を気にしつつも、去る事を命令したオドーの意志を思って走り続ける。
 何か強力な衝撃が地面に加えられているのか、アスファルトには亀裂が走り、周囲の建物の振動が激しい。
「きゃ――!」
 と、しずくが振動に身体のバランスを崩す。
「しずくっ?」
 慌ててかなめが立ち止まり、振り返った瞬間、アスファルトの亀裂に裂け目が走った。
 裂け目に巻き込まれて周囲の建物が倒壊を始め、かなめと宗介の二人としずくを隔てる。
 そして、しずくの足がそのまま裂け目に飲み込まれ――
 にげて、としずくは二人に叫ぶ。
 しずく、とかなめはしずくに叫ぶ。
 逃げろ、と宗介はかなめに叫ぶ。
 しかしそれらの叫びは崩壊の音に紛れ、砂煙に掻き消えた。

96 風切る翼 </b><font color=#FF0000>(GSuxAXWA)</font><b> :2005/05/03(火) 23:29:25 ID:8sMUamU2
 握り締めていたはずの金属バットの感触が無い。
 無くした――?
「……っう」
 と、その思考を皮切りに意識が回復。
 ほんの数秒、衝撃によって意識が飛んでしまったようだ。
 耳元で響く轟音が、舞い散る埃が、やけに精彩を欠いている。
 センサーに異常をきたしたらしい。
 耳元に落ちてきた小石の音に反応し、咄嗟に跳ね起きる。
 周囲を見回すと、ザ・サードの施設で見た格納庫に似ている。
 そこはどうやら地下空間を利用した何かの倉庫であるらしい。
 だが、その倉庫も天井部分の崩落によって、次々に埋まり始めている。
「――! このままじゃ……」
 流石に大量の瓦礫に埋め尽くされれば、機械知性体の自分であっても良くて大破、悪くて全壊だ。
「何か、何か……」
 このままでは、もう火乃香にも、看護婦さんにも、浄眼機にもかなめにも会えない。
 BBにも、会えない――
 そう思った瞬間、涙が零れ始めた。
 機械知性体にも感情はあり、それを表すための器官も存在する。
 ぽろぽろと零れ続ける涙が、どうしても止まらない。
「B、B……」
 と、涙で歪んだ視界の端に、何かが映った。
 何の変哲も無いバックパック。
 しかし、何か自分に訴えるものがあるような――
 そうしてしずくは、己の直感に従った。

97 風切る翼 </b><font color=#FF0000>(GSuxAXWA)</font><b> :2005/05/03(火) 23:30:10 ID:8sMUamU2
「離してっ! しずくが!」
「もう遅い! かなめ、君まで巻き込まれるぞ!」
 未だ濛々と砂煙の舞う道路の裂け目の側に、そちらに駆け寄ろうとするかなめと、それを押し留める宗介が居た。
「だからって見捨てろって言うの!?」
「それは――」
 瞳を潤ませ叫ぶかなめに、宗介が一瞬口ごもる。
 その隙をついて駆け出すかなめを、宗介が慌てて追おうとした瞬間――


・――光とは力である。


 己から滲み出るような声が、響いた。
 それが概念条文と呼ばれる存在であることを知るオドーは、偶然にもこの時ほぼ同時に命を落とす事になる。
「かなめさんっ! ソースケさんっ!」 
 光の翼が、羽ばたいた。
 降り注ぐ瓦礫を僅かな見切りで避け、風を読み、卓抜した飛行で地上に現れたのは――
「しずくっ!」
 かなめが歓声を上げ、宗介が翼を生やしたしずくを唖然とした表情で見る。
 が、拡大する亀裂を見るとすぐさま表情を改め――
「ここから離れるぞ!」
 強引にかなめを抱えて走り始める宗介と、低空を滑るように滑空してその後を追うしずく。
 亀裂は拡大し、地下の倉庫を埋めていく。

98 風切る翼 </b><font color=#FF0000>(GSuxAXWA)</font><b> :2005/05/03(火) 23:33:13 ID:8sMUamU2
【C-3/商店街/一日目、11:51】

【相良宗介】
【状態】健康
【装備】ソーコムピストル、スローイングナイフ、コンバットナイフ
【道具】荷物一式、弾薬
【思考】この場を離れる

【千鳥かなめ】
【状態】健康、精神面に少し傷
【装備】鉄パイプのようなもの(バイトでウィザード/団員の特殊装備)
【道具】荷物一式、食料の材料。
【思考】この場を離れる

【しずく】
【状態】落下の衝撃でセンサー類の感度が人間の五感レベルにまで低下。
【装備】X−Wi
【道具】荷物一式
【思考】この場を離れる


・商店街の道路の一角と、その周囲の建築物が地面の陥没によって崩壊しました。
・地下空間の一角に、倉庫らしき場所がありましたが崩落によりほぼ埋まってしまったようです。
・エスカリボルグが地下のどこかに転がっています。(埋まってしまったかもしれません)

99 Black Shuck </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/04(水) 05:03:57 ID:g9edauqs
「痛い…」
アーヴィング・ナイトウォーカー…略してアーヴィーは商店街の薬屋の中で
傷口を抱え蹲る。
薬屋ならなにか薬があると思っていたが…陳列棚はほとんど空だった。
かろうじて残っていた栄養ドリンクを飲み干し、得体の知れない塗り薬を傷口に塗りつけ、
一息つくアーヴィ。
もう何が何だかわからない、そもそも何でこんなところでこんなことをしなきゃならない。
ミラを探さなきゃいけないし、母さんの食事も作ってあげなきゃいけない。
あれでも何か変だ、母さんはもう…どうだっけ、よくわからない。
この足のせいかもしれない…痛い痛い痛い…。

そこに遠くから轟音が聞こえてきた。
何だろう?何だろう?…ふらりと店を出るアーヴィ…そこには2人の少女を連れた
少年の姿があった、少年は剣呑な視線でアーヴィを眺める。
その間、わずか一瞬…だが、
その瞳と瞳が重なった瞬間、アーヴィは銃を構えていた。

「俺から離れるな!」
かなめの手を引き街を駆ける宗介、その背後から迫るアーヴィ。
戦闘よりも逃走を優先しているので、けん制程度のものだが、それでも応戦しつつ舌打ちを禁じえない宗介、
何故だ何故こちらの攻撃は当たらないのだ、しかも相手は怪我をしているにもかかわらず。

一方のアーヴィはなにやらわけのわからない言葉を呟きながら、ふらりふらりと相変わらず無造作に
歩いているだけだ、そして時々ばかでかい銃を構えて射撃する。
その一撃が壊れかけの木造アパートに命中し、彼らの間を分かつように崩壊していく。
「千鳥っ!」
飛び交う瓦礫の中で手を伸ばす宗介、かなめもまた宗介へと手を伸ばす。
しかし…その時かなめの手が汗ですべり、もう片方の手で握っていたしずくの手がするりと抜けてしまう。
そして彼らの間を分かつように瓦礫の雨が降り注ぐ、

かなめが何かを叫ぶがさらなる銃声にかき消され宗介の耳には届かない。
アーヴィーは構うことなくそのまま何発もライフルを放ち、結果次々と道路に瓦礫が積もっていく。
自分の視界が完全に瓦礫でふさがれたのを見て、ようやく攻撃を止めるアーヴィー、

100 Black Shuck </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/04(水) 05:04:43 ID:g9edauqs
ああミラ、どこにいるの?
こんなごみだらけの場所じゃ見つけられない、でも君と出会ったのもこんな場所だったような気がするよ。
そうだ高いところに行こう、高い場所からならもしかしたら君を探し出せるかもしれない。
ライフルを肩に担ぐとよろよろと奇妙なステップを踏むようにアーヴィーは移動を開始した。

街の出口、道をふさぐ瓦礫を前にしてようやく一息つく宗介、どうやら逃げ切ったようだ、まだ油断は禁物だが。

しかし…また新たな問題がここで発生していた。
「しずくがいないの!」
「手を引いていたんじゃなかったのか!?」
明らかに取り乱し、落ち着きなく周辺を見回すかなめ、
「お願い…宗介」
かなめの言わんとしていることはわかっていた、だが…。
「ダメだ…今は戻れない、わかるだろう?」
「そんな!」
宗介の言葉に食い下がるかなめ、彼女とて状況は理解している、だがそれでも
彼女は思っているのだ、わずかでも可能性がある限り、守れる命は守りたいと。
そんな彼女だからこそ守ってやらねばならない、守りたいと宗介は思う。

「どうしてもというのなら、俺が1人で探しにいく」
宗介の言葉に首を振るかなめ。
「あたしも一緒に行く」
「ダメだ…許可できない、危険すぎる」
それでも不満げなかなめの肩を抱え、その顔を真摯に見つめる宗介。
その顔はもう歴戦の戦士のそれだ。
「俺を信じてくれ…かならず彼女を見つけ出してくる、だから」
しかしそれでも宗介の言葉に頷かないかなめ。
「違う!そんなんじゃない!あたしが言いたいのは!」
自分でも予測できなかった言葉、そこまで言って…それから後の言葉は出てこなかった。

101 Black Shuck </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/04(水) 05:05:25 ID:g9edauqs
「かなめさん…宗介さん…どこですか?」
瓦礫の中から顔を出すしずく、逃走中、はぐれてしまった上に生き埋めになってしまった、
しかもセンサーがまた上手く働かなくなっている、
どうやら場所の状況によって範囲が著しく制限されてしまう場合があるようだ。
道をふさぐ瓦礫を上ろうとして、足場のぐらつきに躊躇するしずく、また生き埋めにはなりたくない。
なんとか迂回できればいいが…、幸い人気はない。
迂回路を探しにひとまず元の道を戻るしずく…だが、そこで彼女がみたもの
それは大剣を構えた少年に刺し貫かれるオドーの姿だった。

(ひっ!)
声なき悲鳴をあげるしずく、その脳裏に死の恐怖、破壊の恐怖がみるみる間に大きく宿っていく。
少年がこちらに気がついたか否かの間に、もうしずくは無我夢中で逃走を開始していた。
そして気がつくと彼女はビルの屋上にいた、今は翼なき身だが、それでもどこかで空を求めていたのだろうか?

ともかく一息ついたしずくが最初にみた物、それは…。
「祥子さん?」
オドーらから何とか開放され、ようやく安心したのだろう。
屋上の給水塔の影で寝息を立てる祥子がいた。

祥子さん…祥子さん。
揺り動かされ目を覚ます祥子、どこで見つけてきたのだろうか、
掛け布団代わりに使っていたコートを羽織直して立ち上がる。
その片方の袖口が括られている、聞くところによると転んで怪我をしたのでそうしているのだという。

「ところでしずくさん?オドーさんたちはどうなさったのですか?」
「オドーさんは…」
彼女とオドーとのいきさつを知っているしずくとしては彼女に真相を伝えるのは憚られた。
だが…しずくは時計を見る、あとわずかで放送の時間だ、後で告げられるのなら、
今、自分の口で伝えた方がいい。
「死にました…私たちを守って」

102 Black Shuck </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/04(水) 05:06:31 ID:g9edauqs
「それで今宗介さんたちとはぐれてしまっていて…」
祥子はもうしずくの言葉を聴いてはいなかった、ようやく頭の中から消えかけていた死の恐怖が
祥子の中で蘇り始める。
ふらふらと立ち上がる祥子、しずくは屋上の手すりから乗り出して宗介らの姿を探している。
(祐巳のため…祐巳の…)
自分を見逃してくれたオドーの姿が一瞬浮かぶがすぐに消えた、そう…もうあの人はいない。
消えてしまった…、だから…もう。
短剣をそっと抜いてしずくの背後に立つ祥子。
「祥子さ…」
振り向いたしずくの視界が赤くスパークした。


「ど…して…どど…して」
言語機能がやられたのかうまく話すことができない、運動センサーや思考回路にも致命的異常ありだ。
ぐらりぐらりとゆらめくしずく、その頭は銀の刃に貫かれてしまっている。
「いや…いやよ…こないで…」
頭から刃を生やして、ゆらゆらとこちらに近づくしずくの姿をみて半ばパニック状態の祥子。
その手に転がっていた鉄パイプが触れた。
そして目の前にはしずくの姿。
「うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

めちゃくちゃにパイプを振り回す祥子、そして避けることも叶わず殴られるがままのしずく、
鉄パイプがみるみる間にぐにゃぐにゃに変形し、そしてしずくの身体も表面上は次々に壊れていく。
それでも…訴えかけるように祥子を見つめるしずくの瞳。
それを見た瞬間、渾身の力で思い切りしずくを突き飛ばす祥子、
よろよろとやはり無抵抗のままふらつくしずく、奇声を上げて逃げ出す祥子。

そしてそれをまた一方のビルの屋上から眺める影があった。
「ミラ…」
遠めだからよくわからないけど、あのコートの着方はミラしかいないよね。
少し髪型が変わっているけど、イメチェンしたのかな?
まぁいいや、今助けてあげるよ。
アーヴィーは鉄鋼小丸を構え、その引き金を引いた。

103 Black Shuck </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/04(水) 05:08:50 ID:g9edauqs
「まて…まっ…て」
私は大丈夫だから、こんなくらいじゃ壊れないから…だから祥子さん逃げないで、
怖いのはみんな同じだから、だからまたお話しましょう。
そう言いたいのに言葉が通じない。
でも、誤解を解かないと…壊れかけのセンサーを総動員しながら一歩一歩踏み出していくしずく。
しかしそこに対戦車ライフルの無慈悲な一撃がしずくの身体に炸裂していた。

まず着弾の衝撃で、首がいずこかへと吹き飛ぶ。
そしてその身体は大して高くない屋上のフェンスから、己の臓物たる機械を撒き散らしながら、
ぐらりとすべり落ちた。
ぐしゃり…そしてそれから3秒後、しずくはその機能を停止した。

そしてそれから数分後
「宗介…あれ…」
震える声でかなめが指を指す、そこには何かが転がっていた。
確認に駆け寄る宗介、少し進んでその肩がうなだれる…ということはやはり。

「ダメだ見るな!」
宗介の制止の声は僅かに遅かった。そしてかなめは見てしまった…。
戸惑っているとも笑っているともつかぬ表情のまま転がるしずくの首を…。
しかもしずくの眼球から後頭部にかけて刺さっていたもの…それは、祥子が持っていた銀の短剣だった。

「どうして…どうして…祥子さんこんなのって酷い、酷すぎるよ」
しずくの首を抱えへたりこむかなめ、瞳には涙が光っている。
その涙はしずくの死を悼む涙というよりは祥子の裏切りに対する悲しみの方が多いように、
宗介は感じていた。
(あの女…)
自分を裏切っただけならまだ仕方ないと思える、ここはそういう場所だ。
しかし…かなめを裏切ったのだけは許すわけにはいかない。
そんな宗介を上目遣いに見上げるかなめ。
「祥子さんを…どうするのよ?まさか!」
無言の宗介、それが回答だった。
「ダメ…そんなの嫌…絶対ダメよ!!」
かなめの瞳からまた涙が零れ出す。

「お願い!宗介はあんな風にならないで!…お願いだから、あそこで殺しておけばよかったとか
そんな風には思わないでよ!」
「それでも俺は…」
苦渋の表情で拳を握る宗介、
「もしどうしてもというのなら…」
宗介の行く手を阻むように両手を広げ立ちふさがるかなめ。
「あたしを殺してから行って!薄汚い人殺しになんか守ってもらいたくなんかない!…それに
 そんな宗介を見たくなんかないの!」
その姿を見て、宗介はうなだれるように両手の力を抜く。
その時、時計の針が12時を指した。

104 Black Shuck </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/04(水) 05:10:02 ID:g9edauqs
【C-3/商店街/一日目、12:00】
【しずく:死亡】残り84人

【相良宗介】
【状態】健康
【装備】ソーコムピストル、スローイングナイフ、コンバットナイフ
【道具】荷物一式、弾薬
【思考】大佐と合流しなければ。

【千鳥かなめ】
【状態】健康、精神面に少し傷
【装備】鉄パイプのようなもの(バイトでウィザード/団員の特殊装備)
【道具】荷物一式、食料の材料。
【思考】早くテッサと合流しなきゃ。

【小笠原祥子】
【状態】健康
【装備】なし(ただし、しずくの荷物をルートしてます)
【道具】荷物一式(毒薬入り。)
【思考】祐巳助けてあげるから。

【アーヴィング・ナイトウォーカー】
[状態]:情緒不安定/修羅モード/腿に銃創(止血済み)
[装備]:狙撃銃"鉄鋼小丸"(出典@終わりのクロニクル)
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:主催者を殺し、ミラを助ける(思い込み)

105 そして偶然は少女を裏切る(1/4)◆1UKGMaw/Nc :2005/05/04(水) 08:06:32 ID:4CIdC6n.
「……本当に、人を殺して回ってる人がいるのね」
 海岸沿いの道で、金色の髪の少女――リリアは目の前の少年の冥福を祈る。
 ユージン。天色優とも呼ばれていたその少年は、首と胴を分かたれ事切れていた。
 犯人は明らかに殺す気だったのだろう。でなければ、こんな無残な死体は出来上がらない。
 ふと、少年のものと思われるデイバッグが目に映った。
 ジッパーは閉まったままだ。殺人者は支給武器を奪うことはしなかったのか。
(死体漁りみたいで気が引けるけど……)
 この馬鹿げたゲームを終わらせるために役立つものが入っているかもしれない。
 心の中で少年に謝罪し、デイバッグを開けた。

「これは、メガホンかしら?」
 中に入っていた少年の支給武器。
 見慣れない取っ手やボタン等がついているが、見た目はリリアが知っているそれと大差なかった。
 不特定多数の人間に呼びかけたい時に、このアイテムは役立つだろう。
 でも、と思う。
(今は駄目ね)
 へたをすると殺人者を呼び寄せてしまう。
 空を飛べないことから、自身の魔術が制限されていることは承知している。
 カイルロッドやイルダーナフと合流できているならまだしも、自分一人では高確率で返り討ちに遭うだろう。
 無益な殺人を止めたいとは思う。思うが、今の自分がすべき事は仲間と合流することだ。
 メガホンをデイバッグにしまうと、自分のデイバッグと一緒にG−Sp2に引っ掛ける。
「行きましょ、G−Sp2」
 魔術で重さを軽減しているため、二つあっても軽いものだ。
 よいしょ、と肩にG−Sp2を担ぎ、リリアはその場を後にした。

106 そして偶然は少女を裏切る(2/4)◆1UKGMaw/Nc :2005/05/04(水) 08:07:35 ID:4CIdC6n.
 草原で、リリアはふと足を止めた。
 暗くて見えにくいが、どうやら前方に人がいるようだ。
 とっさに身を低くし、目立つG−Sp2を地面に横たえる。
(……女の人?)
 遠目にも、その髪が燃えるような真紅であるのが見て取れる。
 彼女ははたしてゲームに乗っているのだろうか。
 乗っているなら、いつ見つかるかもしれないこの場所にいるのは危険だ。
 だが、乗っていないなら、現状打破のために力をあわせることが出来るかもしれない。
 リリアが次の行動を決めかねていたその時――

「――ミズー・ビアンカ!」

 怒号と共に、一人の男が森から飛び出して来た。
 ミズーと呼ばれた紅い髪の女も、男を迎え撃とうと駆ける。
 それを見たリリアの反応は早かった。
 G−Sp2を引っ掴むと、脱兎の如く走り出す。
『ニゲルノ?』
「そうよ! 今しかないわ!」
 小声でG−Sp2に返答しながら全力で走る。
 あの二人が互いに注意を向けている今なら、どちらに気づかれることもなくこの場を脱出できる。
 名前を呼んで襲い掛かったということは、恐らく元いた世界で敵同士だったのだろう。
 なし崩しに戦闘が始まってしまえば、もうゲームに乗った乗っていないを判断するのは困難だ。
 ならば、ここは逃げの一手だとリリアは判断した。
 と、
「あっ!」
 リリアが声を上げる。
 走っているうちに、少年のデイバッグがG−Sp2から外れて落ちたのだ。
 一瞬逡巡するが、意を決してリリアはそのまま走り去った。
 今は一刻も早くここから立ち去らねばならなかったし、メガホンも絶対に必要なものだとは思えなかったからだ。
(早く、早く皆と合流しなくっちゃ!)
 このゲームを止めるために。一人でも多くの者を救うために。
 彼女はそれだけを考え、走り続けた。

107 そして偶然は少女を裏切る(3/4)◆1UKGMaw/Nc :2005/05/04(水) 08:09:03 ID:4CIdC6n.
 もし、この世に偶然を司る神という者がいたならば。
 その神は、彼女に一体どんな恨みがあったものか、ことごとくリリアを裏切っていた。

 ――少年の死体のそばにもう少し留まっていれば、リリアはヒースロゥ・クリストフという目的を同じくする同士と出会えただろう。
 ――あの二人の戦闘をもう少し傍観していれば、リリアはミズー・ビアンカがゲームに乗っていないことを知っただろう。
 ――この後、難破船を発見するのがもう少し早ければ、リリアはカイルロッドとの再会を無事に果たすことができただろう。

 だが、実際はそのどれもが果たされず、数時間後、彼女は残酷な運命を迎えることになる。
 皮肉なことに、この時目撃した男が自らの死神となることなど、今の彼女には知る由もなかった。

108 そして偶然は少女を裏切る(4/4)◆1UKGMaw/Nc :2005/05/04(水) 08:09:45 ID:4CIdC6n.
【B-6/森近くの平原/1日目・03:10】

【リリア】
[状態]:健康
[装備]:G−sp2
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:できるだけ多くの人々と共にこの世界から脱出/アリュセ・カイルロッド・イルダーナフ・風見千里を探す


【ミズー・ビアンカ】
[状態]:疲労
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品入り) 、知覚眼鏡(クルーク・ブリレ)
[思考]:フリウとの合流


【ウルペン】
[状態]:健康
[装備]:無手
[道具]:デイバッグ(支給品一式) 
[思考]:C-6へ移動。 蟲の紋章の剣の障壁を破れる武器を調達してくる。


*備考:【136話.デュアル・ビースト(絡み合う運命)】の場面に遭遇しました。
*重要事項:メガホンの入ったデイバッグは、放置されています。

109 悪夢の後に(1/3) </b><font color=#FF0000>(iHR7r.Jo)</font><b> :2005/05/04(水) 17:46:44 ID:1758/Ap2
 商店街から離れ、道から少し離れた林の中を、宗介とかなめ、しずくは歩いていた。
 襲撃者をオドーに任せ、3人はD4領域まで走ってきたのだ。
「ねぇ、ソースケ、オドーさんは…」
「大佐殿なら問題ないだろう、いずれまた会える。君も彼の力を知っているのではないか?」
 今朝、千鳥を襲った者を一撃の下に臥したあの攻撃。
 先刻、火の玉を潰したあの攻撃だ。 
「そうだけど、映画とかだと、その…」
「……だが、俺たちは同じような状況から生き残ったではないか。
 大佐という階級は伊達ではないのだぞ、俺たちの何倍も死線を潜り抜けているはずだ」
 オドーという人物を通して見えたものを信頼しているのか。
「そう、よね……」
 気まずい沈黙。
「だが、落ち込んでもいられない、千鳥。俺たちの目的は大佐殿、テスタロッサ大佐の方だが、
 大佐殿と、しずくの友人を捜さねばならない。この辺りが、島の中心なのだが・・・」
 地図を確認しながら辺りを見回す。
「そうね、BBさん、だっけ?」
 先程から一言も発していないしずくに訊ねる。
「はい、でも、どうしましょう?もう手がかりが…」
 千鳥はすぅ、と息を吸い、思い出したように、
「そういえばBBって名簿に載ってないけど、アダ名か何か?」
「言ってませんでしたっけ? ブルー・ブレイカーの略称なんですが」
 名簿を見ながら確認をする。
「ブルー・ブレイカー?」
「その"蒼い殺戮者"のことじゃないのか?」
「うわっ、何かブッソーな名前ねぇ、大丈夫なの?」
 宗介に指摘された名前を見て、半疑の瞳をしずくに向ける。
「はい!BBは必ず私たちに協力してくれます!」
 しずくは胸の前で両手を握り、懸命に訴える。

110 悪夢の後に(2/3) </b><font color=#FF0000>(iHR7r.Jo)</font><b> :2005/05/04(水) 17:47:29 ID:1758/Ap2
「千鳥、しずくがそこまで言うのだ、実際に信用するかどうかは会ってから決めればいい」
「あ、あたりはそんなつもりじゃ。ごめん、しずく、ちょっと過敏になってたわ」
 慌てふためき、手を合わせ、頭を下げる。
「い、いえ、そんな事は。会えばきっと解ってくれると思います」
「2人ともその辺にしておけ、林の向こう側に何かある。しずく、判るか?」
 宗介は思う。こんな時だからこそ自分がいつも以上に冷静に努めねばと。
「あれは…、石碑の様です。こちらから見えるのは裏側ですね。
 もしかしたら表に何か書いてあるかもしれません。」
「近くに人はいるか?」
「明確には答えられません、ですが、2〜30メートルにはいないと思われます」
 性能が落ちてるとはいえ、元々空を翔ぶ為の機械知性体だ。
 こと、センサーにかけてはそれなりの自信がある。いや、今となってはあった、か。
 本来ならば数百メートルならばわけも無い探査が全く出来ない、50メートルが良いところだ。
"蒼い殺戮者"との通信も全く繋がらない、通信機能そのものに障害がある可能性もある。
 センサーと同じく、距離の問題なのか。
「30メートルか、それでは石碑の向こう側は判らんな」
「ソースケ、ここで少し休憩しない?ちょっと、疲れたわ」
 言葉どおり、疲れた声を出し額に手を当てる。
「そうだな、念のため付近にトラップを張っておく。
 残念だが鳴子のようなものしか仕掛けられないが。何かあったら声を上げろ」  
 言い終わらないうちに、足元の枝葉を拾い集める。
「何を仕掛けるつもりだったのよ…。まぁいいわ、お願い」
 途端、木に背を預け座り込み、俯いてしまう。
「かなめさん…」
 しずくの呟きに応える声は無かった。

111 悪夢の後に(3/3) </b><font color=#FF0000>(iHR7r.Jo)</font><b> :2005/05/04(水) 17:48:38 ID:1758/Ap2
【残り85名】
【D4/林の中/1日目/12:00】

【相良宗介】
【状態】健康。
【装備】ソーコムピストル、スローイングナイフ、コンバットナイフ。
【道具】荷物一式、弾薬。
【思考】テッサと合流したい。しずくの手伝い。かなめとしずくを護る。

【千鳥かなめ】
【状態】健康、精神面に少し傷。
【装備】鉄パイプのようなもの。(バイトでウィザード「団員」の特殊装備)
【道具】荷物一式、食料の材料。
【思考】テッサと合流したい。しずくの手伝い。

【しずく】
【状態】機能異常はないがセンサーが上手く働かない。
【装備】エスカリボルグ。(撲殺天使ドクロちゃん)
【道具】荷物一式。
【思考】BBと合流したい。火乃香とパイフウを捜したい。

112 & </b><font color=#FF0000>(h4GGZLjs)</font><b> :2005/05/04(水) 21:45:15 ID:PO1IA.1s
ゲームに参加するものに等しく聞こえる声がある。
それは絶望と憎悪を振り撒く鐘である。


「諸君、これより二回目の死亡者発表を行う。

001物部景 010ヴィルヘルム・シュルツ 019シズ 027アメリア 075オドー  
081オフレッサー 099鳥羽茉理 103イルダーナフ 105リリア

……以上、9名だ。
なお、13:00より○○が、15:00より○○が、そして17:00より○○が禁止エリアとなる。
ふむ、先程からすると大分少ないようだな。まあいい。
今一度言っておくが、これは己が生死を賭けたゲームだ。勝者はただ1人のみ、例外はない。
その事をよく考えて、殺し合いの勤しむといい。それでは諸君等の健闘を祈る」

113 悪夢だったら覚めてくれ 1 </b><font color=#FF0000>(h8kojB1Q)</font><b> :2005/05/04(水) 22:32:56 ID:D7qZuQnc
叫び声を上げたヘイズは焦燥にかられていた。
パニックと無縁のいつもの自分らしくない。
(くそっ、ついに喰らっちまった)
演算に専念し、痛覚処理を行っていなかったのがおもいきり裏目に出た。
ヘイズは痛みを堪えてバックステップし、ドレスの女より距離を取る。
途中、肩から剣が抜け傷口から血があふれ出た。

(こいつぁ…ちょっとヤバいな)
I−ブレインとて脳の一部だ。
貧血になれば当然演算速度も低下し、攻撃を回避する事が不可能となる。
(このまま動き続けると、持ってあと2,3分か…)
それまでに目の前の女を倒し、最悪バンダナとも戦わねばならない。
脳内時計による戦闘開始からの時間経過は40秒。
コミクロンが帰ってくるのはまだ先になるだろう。
「デンジャラスすぎだぞ、不幸は打ち止めたはずじゃなかったか?」
しかし、ヘイズの顔に絶望は無い。

自分の養父の遺言を
自分は決して忘れはしない。
――生きて、突っ走って、這いつくばって、笑え――

「オレは諦めたりなんかしねえ。たたっ斬られようが、吹っ飛ばされようが、
 余裕で笑って生き抜いてやる!」
<全感覚器官、全神経をI−ブレインの制御下に再設定。
痛覚処理開始。未来予測開始。>
全ての感覚処理が通常の脳からI−ブレインに移行する。
同時に本来のヘイズの感覚がI−ブレインの中の感覚と統合される。
<I−ブレインの動作効率を95%から100%に再設定。>
「もう逃げ回るのはやめだ。けりつけてやるぜ」
同時にヘイズは跳躍した。

114 悪夢だったら覚めてくれ 2 </b><font color=#FF0000>(h8kojB1Q)</font><b> :2005/05/04(水) 22:33:48 ID:D7qZuQnc
同時刻、コミクロンはギギナとの戦闘現場に戻ってきていた。
あたりに飛び散る自分の血液が生々しい。
「やっと見つけたぞ、愛しのエドゲイン君!こんな短時間で発見できるのも
 俺が大天才である事の証に違いない!」

その次の瞬間
「ぐああああああぁぁぁぁぁ!!」
絶叫が森にこだました。

数十秒前まで自分の横にいた男の声だった。
最悪の事態が脳を過ぎる。
「ヴァーミリオン!待ってろよ、今すぐこの大天才が助けてやるっ!」
叫んで、エドゲイン君を担ぐと再び疾走を始める。
(元居た場所まで約100メートル、間に合ってくれよ…)
元々頭脳労働派のコミクロンだが、ヘイズの命が掛かっているため全速力だ。
途中何度も木の根に足を取られそうになるが、全力で姿勢を制御する。
白衣が枝で裂けるが、それでも無視して走り続ける。
(本当にこーいうのはアザリーやキリランシェロの担当だ!
 俺にはもっとエレガントな役がふさわしい。いやもうそういう役しか…)

十数秒ほどして、視界の中に赤い男と女をついに捕らえた。
舞闘士が舞い、森に剣戟音が響いている。

115 悪夢だったら覚めてくれ 3 </b><font color=#FF0000>(h8kojB1Q)</font><b> :2005/05/04(水) 22:34:56 ID:D7qZuQnc
ドレス女が横薙ぎに剣を繰り出す。
狙いは喉だが、こっちはそれを二手ほど前から予測している。
ヘイズは一歩下がって其れを回避し、リーチを生かして突きを放つ。
女は姿勢を沈め、回転しながら足払いをかけてくる。
ヘイズが片足を上げてやり過ごすと、すぐさま下段からの連撃。
(…全部読めてるぜ)
上げた足で近くの木を蹴り跳躍して避ける。
距離が開いて攻撃が途切れる。
ふと草原を見ればバンダナが接近してくるのが分かった。
(あと十秒ちょいか…もたもたしてらんねえな)
ヘイズは自ら距離を詰め、

ズドン!!

雷の様な砲撃音を聞いた。
女が横っ飛びに回避した鉄球は、まごうことなきエドゲイン君の物。
そして、
「コンビネーション4−4−1!」
ギギナ戦で見たコミクロンの魔術が炸裂する。
――空間爆砕の反作用のエネルギーで対象を吹き飛ばす力技。
空中の女は回避不可能の衝撃波をまともに受けて、吹っ飛び動かなくなる。

116 悪夢だったら覚めてくれ 4 </b><font color=#FF0000>(h8kojB1Q)</font><b> :2005/05/04(水) 22:36:05 ID:D7qZuQnc
ヘイズが砲撃主に向き直ってみると、予想道理に白衣が見えた。
「女は気絶したみたいだな。やっと助かったぜ相棒」
「まだ早いぞヴァーミリオン。バンダナが来る」
森の奥から白衣の魔術師が姿を表す。
「全力でトータル一分走ったから俺はもう動けん。バンダナは任せたぞヴァーミリオン」
「負傷者に向かって何言ってんだ馬鹿野郎。良く見やがれ、血がどくどく出てんだぞ俺は」
「……コンビネーション1−1−9」
ヘイズはキレかけた。
「なんだ?傷塞いだからお前がやれってか?殴るぞ」
対してコミクロンはお手上げとばかりに首を振った。
「俺だってバンダナと戦いたくない。構成を破られたの見ただろ?エドゲイン君も弾切れだ」
「同感だ。オレも破砕の領域を見切られちまった。二対一でも勝てるかどうか…」
ここに来てバンダナがあと10メートルの所まで接近してきたのに気づく。
「逃げても無駄みたいだな。もうこうなったら最終手段しかないな」
「ああ、こうなりゃやけだ。用意は良いな?」


バンダナが5メートル手前で停止した。
ドレスの女が生きている事を確認すると、
「かかってきな。二人同時でもあたしは構わないよ」
こちらを睨み居合の構えを取る。
その瞳は世界の何者にも屈さなさそうな光を帯びている。

無問題だ。
こちらがする事といったら一つだけだ。
武器を捨て、
「「ごめんなさい。降伏します」」
男二人は謝罪した。全面的に。

「……は?」
バンダナは牙を抜かれてほうけた表情をこちらに向けた。

117 悪夢だったら覚めてくれ 5 </b><font color=#FF0000>(h8kojB1Q)</font><b> :2005/05/04(水) 22:37:12 ID:D7qZuQnc
「事情はわかったよ。けど、いきなり降伏なんて何考えてんのあんた達?」
降伏の申し出を受けたバンダナに二人は尋問されていた。
二人に敵意が無いのと、ドレスの女にとどめを刺さなかった事が伝わり、
とりあえずは距離を取っての対話を行っている。
「だからさっきも言っただろ。無理に戦闘する気はなかったって」
「シャーネ吹き飛ばしといて何言ってんだか。あとあたしが言いたかったのは
 もしあたしが申し出受けないで攻撃したら、あんた達どうする気だったの?ってこと」
「その時はその時で戦うさ。武器を拾って弾幕張りながら特攻かけるつもりだった。
 でもお前はこの大天才の予想道理に戦闘を回避した。こっちも意地はってまで
 戦う気は無かったんだ。もともとゲームに乗ったわけじゃない。正直ほっとしてる」
緊張感ゼロの様子でコミクロンはバンダナに返事する。
コミクロンにヘイズが続く。
「それにあの女が問答無用で攻撃したから、こっちもマジになっちまったんだ。
 いや、先に手を出したのは謝る。だが最初から殺そうとしてたわけじゃねえんだ。
 オレ達は交渉したかった。そこんとこは分かってくれ」

バンダナはしばし沈黙の後に、
「いいよ。あたしは許す。だけどシャーネが起きたら謝っときなよ。
 ちなみにあたしは火乃香、よろしく」
どうやらある程度の信用は得られたらしい。
二人も応じて名乗っておく。
「欠陥品の魔法士、ヴァーミリオン・CD・ヘイズ」
「牙の塔、チャイルドマン教室の大天才にして科学者、コミクロン。
 ついでに信頼の礼だ…コンビネーション1−1−9」
コミクロンの医療魔術がシャーネの傷を塞ぐ。
火乃香は改めて見る魔術に興味を持ったようだ。
二人をしげしげと見つめる。
ヘイズは思い切って切り出してみることにした。

118 悪夢だったら覚めてくれ 6 </b><font color=#FF0000>(h8kojB1Q)</font><b> :2005/05/04(水) 22:38:27 ID:D7qZuQnc

取り出した紙に素早く文章を書く。
『刻印には盗聴機能がある。
オレ達はこの刻印を解除できそうな知識人や協力者を探してる』
火乃香の顔色が変わった。
向こうも紙を取り出し返事をつづる。
『あたし達を誘ってるって事?』
『ああ、既に刻印解除構成式を作成した。だが未完成だ。複数の世界の技術で作成されてて、
 オレ達だけじゃあ解読できない。協力してくれないか?』
『生憎だけどあたし達特殊な知識なんか持ってない。それに人探しの途中でね』
『行動を共にするくらい構わないだろ?こっちは戦力的に不十分で、
 近接攻撃に弱いんだ。あんた達といればなにかと便利だ。』
ヘイズの提案に火乃香は少し思案する。

(確かにこいつ等といれば遠距離戦にも対応できるし、赤髪の演算力や
おさげの魔術も魅力的だね…刻印も解除できそうならそれこそ御の字か…)
個人的には少数精鋭が望みだが組むメリットは大きい。
抜け目無さそうに見えるが裏切るとも思えない。
取り敢えずは組んでみるべきだろう。

『いいよ、その話に乗った。けど不審な動きしたらその場でたたっ斬るからね』
『構わねえよ。戦ってたら今ごろどっちかはたたっ斬られてただろーしな』
利害の一致で三人は同盟に合意する。
さらなる話し合いで取り敢えず海洋遊園地に向かう事が決定した。
話す内に火乃香とヘイズはお互いの世界の事で盛り上がり、
コミクロンは寝転がって頭の中の刻印解除構成式の研究に入る。
森は静けさを取り戻した。


「……!!」
しばらくしてシャーネが目を覚ました。
男二人は、すかさず五体倒地で謝罪する。
二人に気づいて騎士剣を片手に固まるシャーネに火乃香が事情を説明した。
「こいつ等は取り敢えず子分だと思っといてよ」
「「おい!!」」
「降伏したんでしょ?あんた達。なら必然的にワンランク下だよ」
間髪いれず入ったツッコミを火乃香はさらりと受け流す。
シャーネは傷の塞がった自分の手を見て、
次に魔術師二人を見比べて、紙に何かを書き出した。
『手が痛い。荷物持って』
魔術師二人は天を仰いで呟いた。
「「子分確定……最悪だ」」

119 悪夢だったら覚めてくれ 7 </b><font color=#FF0000>(h8kojB1Q)</font><b> :2005/05/04(水) 22:39:25 ID:D7qZuQnc
【F-5/北東境界付近/1日目・11:15】
【戦慄舞闘団】


【火乃香】
[状態]:健康
[装備]:魔杖剣「内なるナリシア」
[道具]:デイパック(支給品一式) 
[思考]:1、シャーネの人捜しを手伝う


【シャーネ・ラフォレット】
[状態]:右手負傷
[装備]:騎士剣・陽
[道具]:デイパック(支給品一式) 
[思考]:1、クレアを捜す


【ヴァーミリオン・CD・ヘイズ】
[状態]:左肩負傷
[装備]:騎士剣・陰
[道具]:支給品一式 、有機コード
[思考]:1、刻印解除構成式の完成。
[備考]:刻印の性能に気付いています。


【コミクロン】
[状態]:軽傷(傷自体は塞いだが、右腕が動かない)
[装備]:未完成の刻印解除構成式(頭の中)・エドゲイン君一号
[道具]:無し
[思考]:1、刻印解除構成式の完成。2、クレア、いーちゃん、しずくを探す。
[備考]:服が赤く染まっています。

[チーム目的]:1、海洋遊園地に向かう。2、情報収集

120 喋る単車での旅1/2◆MvRbe/bNEg :2005/05/04(水) 23:45:31 ID:G../0UbE
 ムンク小屋を発ってから数分、道なりに進むベルガーとエルメスは右手に海が見える所まで移動していた。
「海風が気持良いね? べるたん」
「……ベルガーだ。その呼び方は止めてくれ」
「こっちの方が呼び易いのになあ」
 走り始めてからおそらく四回は同じ会話をしている。
 人外が住まう都市があり、人語を操る人形も存在する世界からやってきた自分だが、喋る単車というのは見た事も聞いた事もない。
 おまけによく話す。
「ねえ、べるたんはどんな所から来たの?」
「……ベルガーと呼んだら教えてやる」
「教えて、べるたん」
「…………」
「冗談だよー。キノにいい血豆話が出来ると思ったんだけどなあ」
「……ひょっとして、土産話か?」
「そう、それ」
「…………」
「あー、また黙り込んじゃう。……ねえ、教えてよ」
「……人と機械とが共存する都市だ」
「へえ。じゃあ、僕みたいなのも沢山いるの?」
「お前みたいに口をきける機械はそうはいないな」
「ふーん」
「そういうお前はどこから来た?」
「僕はねえ……キノと旅の途中だったから、詳しい場所は説明しづらいなあ」
「旅の途中か」
「うん。いろんな国を巡る旅。この前立ち寄った国は良かったなあ。
 泊まったホテルにモトラド専用サービスなんてのがあって、タダで整備して貰っちゃったし。
 整備中は寝てたんだけど、その時見た夢がまた面白くてさあ。……聞きたい?」
「いや、遠慮する」
「まあまあ。……僕がね、喋るストラップになっていたんだ。そしてキノが──あれ? そういえばキノの事、話したっけ?
 キノは僕の相棒で、食い意地が悪くて、がめつくて、乱暴で……」
 一人相方の文句を垂れ始めた単車──モトラドというらしい、を無視して、少し速度を落とす。
 道はやがて左に曲がり始め、左手にある森から少しずつ離れていく。
「ん……」
「あれー。何かなあ」
 前方、約200mほど先に何かが転がっているのが見えた。
 その距離は数十秒で詰まり、それが何かはっきりわかる所で停車。
 エルメスをスタンドで停めて、それに近づく。

 首を切断された死体がデイバッグと共に転がっていた。

121 喋る単車での旅2/2◆MvRbe/bNEg :2005/05/04(水) 23:46:28 ID:G../0UbE
【E-8/道の上/1日目・10:12】

『野犬:単車装備型』
【ダウゲ・ベルガー】
[状態]:心身ともに平常
[装備]:エルメス(近くに停車中) 贄殿遮那 黒い卵(天人の緊急避難装置)
[道具]:デイパック(支給品一式) ユージンのデイバッグ(支給品一式。ランダムアイテム不明)
[思考]:死体の検分。デイバッグの中身を確認。
道なりにA−1へ移動。慶滋保胤、セルティと合流。テッサ、リナ、シャナ、ダナティアの知人捜し。
・天人の緊急避難装置:所持者の身に危険が及ぶと、最も近い親類の所へと転移させる。
[備考]:ランダムアイテムは次の書き手に任せます。

【ユージン】
死亡済み

122 存在しえない守るべき者(修正案) ◆lmrmar5YFk :2005/05/05(木) 01:11:35 ID:reSibVbM
彼の怪我が最低限治まったら、ここを脱出して長門さんを探しに行く。『ミラ』については、道中で適当に話を合わせておけばいい。
わざわざ自分から彼を襲ってまであの銃を奪うつもりはない。
そんなリスクの高い賭けをしても得られる物は少ないし、そもそも自分には人を殺傷できるに足る銃撃の腕がない。
あんなに巨大な銃だ。自分などではまともに扱うことさえ不可能だろう。その点、彼がいれば使用者には困らない。
銃単体ではなく狙撃手ごとを己の武器に出来れば、あるかどうかも分からない包丁などを探すより、より高確率で戦闘能力を高められる。
強い者の利用と操縦。それこそが、今の自分に実行できる数少ない生き残るすべだ。
「その怪我でミラさんを守れるんですか? 貴方には休息が必要ですよ」
「でも……」
眼前の彼が放った単語は二度とも同じものだった。だが、それを口にした時の表情は一度目と二度目で真反対に豹変していた。
刹那、青年は脇に置かれた銃を神速のスピードで抱えると、銃口を無機的に古泉に向けた。
引き金に掛けた指に力が込められる。
――ダンッ!
鋭い銃声が狭い室内に響く。一瞬の後、古泉は業火の塊が炸裂したようなひどい激痛に襲われた。
ぼたっという不吉な音に恐る恐る床へと目線を下げれば、そこに落ちていたのはなんと自分の左腕だった。
痛覚と視覚と、言い換えれば肉体と精神との双方に巨大すぎるダメージを与えられて、古泉は獣のように咆哮した。
「いっ……ぐ、あぁーっ!」
肩から先にぽっかりと無残な空間が形成され、そこからだくだくと勢いよく噴き出す血潮が、袖を伝って服全体を色濃く染める。
脈が律動する一度一度に合わせて痛みが波のように押し寄せ、同時に古泉から意識を奪い去ろうとしていく。
地獄の拷問もかくやという苦痛はむしろ気絶した方が幾分マシに思えたが、今この場で気を失うのは死を宣告されたも同然だった。
微かに残った意識を全て一点に動員させて、唇の端を固く歯で噛み締める。そうすることで、何とか意識をこちら側に繋ぎ止める。
(まずい……です…ね)
顔面の筋肉を引きつらせながら、必死で生の糸に縋り付く古泉の姿は気にもとめず、青年は急ぎ足で部屋から出て行った。
無感動な、それでも何かを決意したような声で台詞の続きを呟きながら。
「でも、それでも俺は…ミラを守らなきゃいけないんです…」

【残り85名】
【G-4/城の中/1日目・07:30】

【アーヴィング・ナイトウォーカー】
[状態]:情緒不安定/修羅モード/腿に銃創(止血済み)
[装備]:狙撃銃"鉄鋼小丸"(出典@終わりのクロニクル)
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:主催者を殺し、ミラを助ける(思い込み)


【古泉一樹】
[状態]:左腕(肩から先全体)断絶/意識朦朧
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品一式) ペットボトルの水は溢れきってます
[思考]:長門有希を探す/怪我の手当て

123 乾いた血の朝◆R0w/LGL.9c :2005/05/05(木) 10:37:29 ID:U/lyfmso
「ありゃ無理だな」
すごい速さで走り去っていく男を見て<人間失格>はつぶやく。
相手はこちらに気づいていたようだが歯牙にもかけず走り去っていった。
「かははっ、ありゃあどう見ても殺し屋とかそんな感じだわな。
 流石に物騒なヤツが三人集まったら何が起こるか」
独白を呟いてシニカルな笑みを浮かべる。
でもいいナイフ持ってたな。少し惜しい。
手に持つ血にまみれた包丁を見下ろす。
後で研いでおくか。いつまでも切れ味の鈍いもの使うなんて勘弁だな。
やたら切れ味のいい、兄貴の持ってた大鋏を思い浮かべる。
とりあえず凪のところへ戻るか。

がさがさ
凪ちゃんのもたれかかった木の枝が揺れる。
「おーい戻ってきたずぇっとわっ!?」
零崎の声、と同時に凪ちゃんが後ろの木を蹴りつけた。
あいつの乗っている木を思いっきり蹴られ、枝から落ちた。
ひょいっと体を猫のように一回転させ着地する。ビバ・身の軽さ。
「おいおい凪っちさんよぉぉ。俺以外のヤツが近づくはず無ぇんだから木を揺らさないでくれっかよぉ。
 俺が例えばスペランカーなら今のでお陀仏さんだぜ?」
「糸に掛かった奴かもしれん一応の用心だ」
「それに零崎、スペランカー先生はそんな木の上なんていう死地には赴かないよ」
「それもそうだな。ん? おやおや? <人食い>の匂宮はどこへ行ったんだ?」
大げさにあたりを見回して聞く。相変わらずリアクションが巨大な奴だ。
ちょうど出夢くんが出て行って10分。入れ違いすれ違いになった形だ。
「僕と凪ちゃんとドクロちゃんで出夢くんを手ゴメにしようとしたら愛想をつかされて・・・」
がきん。がつんがつん。
わりかし本気で殴られた。軽い冗談のつもりなんです。追撃はやめてください。
ドクロちゃんは意味が分からなかったのかほけーっとしている。ずっとそのままの君でいてくれ。

124 乾いた血の朝2◆R0w/LGL.9c :2005/05/05(木) 10:39:22 ID:U/lyfmso
「あいつは仲間を追っかけていった。それより糸に掛かった奴はどうだったんだ?」
「ああ〜。駄目だった。もう駄目駄目。完全に人殺しって感じの男で見向きもしないで走り去っていった」
かははっ、と笑いながら説明になってないような説明をした。人殺しかどうか一目でわかる殺人鬼も便利だな。
「うん? おっ! そこのぴぴるのガキが持ってるのって愚神礼賛<シームレスパイアス>じゃねぇか!
 軋識の大将のバットだぜ!」
ぐいっと釘バットを引っ張って──離さないドクロちゃんをげしげし蹴りながら──重さを確かめてみる。
「かははっ、この凶悪な重さは間違い無ぇ…零崎一族のエースの武器だぜ。
 もっとも、この場合はスラッガーって呼んだほうが好いかもしれないけどなっ」
ぱっとバットを放して、その反動でドクロちゃんが転んでいる。ひどいなあ零崎。女の子は大切にしないと。
まぁこいつの基本方針は、老若男女差別なく、だし。
「で、お前はその引っかかって外れた糸を戻してきたのか?」
「かははははっ、糸? なんの事だ?」
おい。
神様、こいつはアホですか?
「張りなおして来い」
びしっと零崎が行ったほうを指す。
零崎はずずいっと僕の目を見てきた。手伝え、ということなのだろう
「…欠陥製品♪」
「嫌だ」
「戯言遣い☆」
「お断りだ」
「…愛してるぜ」
「甘えるな」
言い争う僕と零崎。いい加減僕だって張りなおすなんていう単純作業は勘弁だった。
「いいから二人で行け」
「「はい」」
凪ちゃんの一声で僕らは再三の罠修復作業に向かった。

「ただいま」
ようやく糸を張りなおして戻ってきた。
精神的に疲れた。木の根に座り込む。
どうやらドクロちゃんは眠ったようだ。零崎のバッグを枕にして、釘バットを抱えて寝ている。

125 乾いた血の朝3◆R0w/LGL.9c :2005/05/05(木) 10:40:26 ID:U/lyfmso
「零崎。石ころなんか拾ってきてどうするつもりだ?」
「かはははっ、ここらの石ころは質が良くてな。砥石の代わりに使えそうだからな。
 いい加減この包丁も血糊落とさねぇと錆びるっつーの」
そういって零崎はデイパックの水をこぼして、包丁を研ぎ始めた。
ああもったいない。そういえば僕のデイパックどうしたっけ。
うーん。喋るベスパのエルメス君はちょっと惜しかったかも。
しばらくして凪ちゃんが立ち上がって歩き出した。
「どうしたんだい凪ちゃん?」
「小用だ」
小用?小さな用事?それっていったい。
「何ならついていこうか?」
「来たら殺す」
殺す言われました。隣では零崎が肩を上下させている。笑ってるのか?
そう思ってる間に凪ちゃんは森の奥へ進んでいった。
「そっちは崖があるから気をつけろよ凪」
消えていったほうに声を上げる零崎。
ああ小用ってトイレね。なら最初からそういえばいいのに。
僕は零崎の研磨作業を見ていた。
さらに少しして、彼女が戻ってきたときは愉快な仲間が二人ほど増えていた──

126 乾いた血の朝4◆R0w/LGL.9c :2005/05/05(木) 10:41:29 ID:U/lyfmso
【戯言ポップぴぴるぴ〜】
(いーちゃん/零崎人識/霧間凪/三塚井ドクロ)
【F−4/森の中/1日目・09:15】
【いーちゃん】
[状態]: 健康
[装備]: サバイバルナイフ
[道具]: なし
[思考]:ここで休憩しつつ、トラップにかかった者に協力を仰ぐ


【霧間凪】
[状態]:健康
[装備]:ワニの杖 サバイバルナイフ 制服 救急箱
[道具]:缶詰3個 鋏 針 糸 支給品一式
[思考]:出雲とアリュセをどうしようか


【ドクロちゃん】
[状態]: 頭部の傷は軽症に。左足腱は、杖を使えばなんとか歩けるまでに 回復。
    右手はまだ使えません。 睡眠中。
[装備]: 愚神礼賛(シームレスパイアス)
[道具]: 無し
[思考]: このおにーさんたちについていかなくちゃ
  ※能力値上昇中。少々の傷は「ぴぴる」で回復します。

【零崎人識】
[状態]:平常
[装備]: 出刃包丁
[道具]:デイバッグ(支給品一式)  砥石
[思考]:惚れた弱み(笑)で、凪に協力する。 罠に掛かった奴を探す
[備考]:包丁の血糊が消えました。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

127 乾いた血の朝5◆R0w/LGL.9c :2005/05/05(木) 10:42:23 ID:U/lyfmso
【出雲・覚】
[状態]:左腕に銃創あり(出血は止まりました)
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)/うまか棒50本セット/バニースーツ一式
[思考]:千里、新庄、ついでに馬鹿佐山と合流/アリュセの面倒を見る


【アリュセ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:リリア、カイルロッド、イルダーナフと合流/覚の面倒を見る

128 乾いた血の朝1(修正)◆R0w/LGL.9c :2005/05/05(木) 14:15:12 ID:U/lyfmso
「ありゃ無理だな」
すごい速さで走り去っていく男を見て<人間失格>はつぶやく。
相手はこちらに気づいていたようだが歯牙にもかけず走り去っていった。
「ありゃあどう見ても殺し屋とかそんな感じだわな。
 流石に物騒なヤツが三人集まったら何が起こるか」
独白を呟いてシニカルな笑みを浮かべる。
でもいいナイフ持ってたな。少し惜しい。
手に持つ血にまみれた包丁を見下ろす。
後で研いでおくか。いつまでも切れ味の鈍いもの使うなんて勘弁だな。
やたら切れ味のいい、兄貴の持ってた大鋏を思い浮かべる。
とりあえず凪のところへ戻るか。

がさがさ
凪ちゃんのもたれかかった木の枝が揺れる。
「おーい戻ってきたずぇっとわっ!?」
零崎の声、と同時に凪ちゃんが後ろの木を蹴りつけた。
あいつの乗っている木を思いっきり蹴られ、枝から落ちた。
ひょいっと体を猫のように一回転させ着地する。ビバ・身の軽さ。
「おいおい凪っちさんよぉぉ。俺以外のヤツが近づくはず無ぇんだから木を揺らさないでくれっかよぉ。
 俺が例えばスペランカーなら今のでお陀仏さんだぜ?」
「糸に掛かった奴かもしれん。一応の用心だ」
「それに零崎、スペランカー先生はそんな木の上なんていう死地には赴かないよ」
「それもそうだな。ん? おやおや? <人食い>の匂宮はどこへ行ったんだ?」
大げさにあたりを見回して聞く。相変わらずリアクションが巨大な奴だ。
ちょうど出夢くんが出て行って10分。入れ違いすれ違いになった形だ。
「僕と凪ちゃんとドクロちゃんで出夢くんを手ゴメにしようとしたら愛想をつかされて・・・」
がきん。がつんがつん。
わりかし本気で殴られた。軽い冗談のつもりなんです。追撃はやめてください。
ドクロちゃんは意味が分からなかったのかほけーっとしている。ずっとそのままの君でいてくれ。

129 乾いた血の朝2(修正)◆R0w/LGL.9c :2005/05/05(木) 14:16:42 ID:U/lyfmso
「あいつは仲間を追っかけていった。それより糸に掛かった奴はどうだったんだ?」
「ああ〜。駄目だった。もう駄目駄目。完全に人殺しって感じの男で見向きもしないで走り去っていった」
かははっ、と笑いながら説明になってないような説明をした。人殺しかどうか一目でわかる殺人鬼も便利だな。
「うん? おっ! そこのぴぴるのガキが持ってるのって愚神礼賛<シームレスパイアス>じゃねぇか!
 大将のバットだぜ!」
ぐいっと釘バットを引っ張って──離さないドクロちゃんをげしげし蹴りながら──重さを確かめてみる。
「この凶悪な重さは間違い無ぇ…零崎一族のエースの武器だぜ。
 もっとも、この場合はスラッガーって呼んだほうが好いかもしれないけどなっ」
ぱっとバットを放して、その反動でドクロちゃんが転んでいる。ひどいなあ零崎。女の子は大切にしないと。
まぁこいつの基本方針は、老若男女差別なく、だし。
「で、お前はその引っかかって外れた糸を戻してきたのか?」
「糸? なんの事だ?」
おい。
神様、こいつはアホですか?
「張りなおして来い」
びしっと零崎が行ったほうを指す。
零崎はずずいっと僕の目を見てきた。手伝え、ということなのだろう
「…欠陥製品♪」
「嫌だ」
「戯言遣い☆」
「お断りだ」
「…愛してるぜ」
「甘えるな」
言い争う僕と零崎。いい加減僕だって張りなおすなんていう単純作業は勘弁だった。
「いいから二人で行け」
「「はい」」
凪ちゃんの一声で僕らは再三の罠修復作業に向かった。

「ただいま」
ようやく糸を張りなおして戻ってきた。
精神的に疲れた。木の根に座り込む。
どうやらドクロちゃんは眠ったようだ。零崎のバッグを枕にして、釘バットを抱えて寝ている。

130 乾いた血の朝3(修正)◆R0w/LGL.9c :2005/05/05(木) 14:17:37 ID:U/lyfmso
「零崎。石ころなんか拾ってきてどうするつもりだ?」
「ここらの石ころは質が良くてな。砥石の代わりに使えそうだからな。
 いい加減この包丁も血糊落とさねぇと錆びるっつーの」
そういって零崎はデイパックの水をこぼして、包丁を研ぎ始めた。
ああもったいない。そういえば僕のデイパックどうしたっけ。
うーん。喋るベスパのエルメス君はちょっと惜しかったかも。
しばらくして凪ちゃんが立ち上がって歩き出した。
「どうしたんだい凪ちゃん?」
「小用だ」
小用?小さな用事?それっていったい。
「何ならついていこうか?」
「来たら殺す」
殺す言われました。隣では零崎が肩を上下させている。笑ってるのか?
そう思ってる間に凪ちゃんは森の奥へ進んでいった。
「そっちは崖があるから気をつけろよ凪」
消えていったほうに声を上げる零崎。
ああ小用ってトイレね。なら最初からそういえばいいのに。
僕は零崎の研磨作業を見ていた。
さらに少しして、彼女が戻ってきたときは愉快な仲間が二人ほど増えていた──

131 夢の中の幻 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b> :2005/05/05(木) 21:56:50 ID:nwsRRXU.
 青年が目を開けると、そこは何もない世界だった。
 平坦な空と地面が続くだけの、シンプルな世界である。
 灰色がかった深い瞳が、呆然と地平線を見つめる。
「……なんや、これ?」
「夢だ」
「幻さ」
 地面に座る悪魔たちが声をかけた。
 背後にいる二匹に気づき、青年が振り返る。
「待っていたぞ、正介」
 と親しみのこもった声が言う。
「さて。また会ったね――という挨拶が正確かどうかという議論はひとまず
 置いておこうか。僕ら――という呼称が実は当てはまらないという複雑な現状の
 確認も後回しにさせてもらおう。なにしろ時間が足りないからね。これでも
 急いでるんだ。とにかくコミュニケーション優先で話を進めるとしよう。
 正介。僕ら『盟友の幻影』は君の奮闘を応援する」
 と嬉しそうに興奮した声が言う。
 青年――緋崎正介は、二匹の悪魔に目を向けて唸った。
「……ベリアルて言え」

 そうして悪魔は三匹になった。

132 夢の中の幻 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b> :2005/05/05(木) 21:57:35 ID:nwsRRXU.
 ベリアルの体験談を聞き終え、『幻影』たちは顔を見合わせた。
「いや恐れいったね」
 とベルゼブブは愉快そうに言った。
「似たようなことを考える人間は、いくらでもいる――あの時そうは言ったけれど、
 さっそく巻き込まれるとは思わなかったよ。いや、違うか。僕らの主観的には
 半日も経ってないけれど、現世での時間経過に関しては謎だからね。その上、
 この島がある空間では、普通に時間が流れているかどうかも怪しい。いやはや、
 さすがに驚いたよ。この島も、集められた参加者も、呪いの刻印とかいう術も、
 何もかもが実に興味深い。ある意味、オカルティスト冥利に尽きるね」
 いきなり話が長くなりつつある。
「しかし、妙なことになったな」
 とバールは肩をすくめた。
「いったい何をどうすれば、『ベリアルを生き返らせる』なんて芸当ができるんだ。
 それに、こうやって話している俺やベルゼブブは何なんだ。説明できるか?
 悪魔をよく知る俺から見ても、異常だとしか言いようがないぞ」
 『幻影』の分際で細かいことを言う。
「知らんがな。むしろ俺が教えてほしいくらいやわ」
 とベリアルは眉根を寄せた。
「ああ、説明なら一応できる。この場で公正に証明する方法はないけれど。
 でもね、いくら説明しても無駄だと思うよ。記憶できなくなってるようだから。
 再構成された時に、僕らは認識を操作されたらしい。余計なことを忘れてしまう
 ように、忘れていることさえ忘れてしまうようにね。この夢が終わった時点で、
 この夢の記憶は忘却される。そういう操作のされ方だ。それでも聞きたい?」
 ベルゼブブの問いかけに、バールとベリアルは軽口を返す。
「もったいぶるなよ。無駄でも何でもいいから、とっとと話せ」
「そうや、そうや。ほんまは言いとうてウズウズしとるくせに」

133 夢の中の幻 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b> :2005/05/05(木) 21:58:23 ID:nwsRRXU.
 彼らの反応は、どうやらベルゼブブを満足させたようだ。
「それでは遠慮なく、すべてを話そう。無論、信じるかどうかは君たちの自由だ。
 真偽のほどは君たち自身が保有する情報との整合性から判断してくれ。OK?」
「「OK」」
「グッド。では始めよう」
 穏やかに微笑を浮かべながら、ベルゼブブは語りかける。
「あんまり時間が残ってないし、もう結論から言ってしまおう。厳密に言うならば、
 緋崎正介は生き返っていない。『今のベリアル』の正体は、かなり特殊な悪魔だ。
 ベリアルの記憶と人格を継いだ『ベリアルのようなもの』――ってところかな。
 おや? “だったら肉体ごと蘇ってるのは何故なんだ”と、そう思ってるね?
 いいから黙って聞きなさい。その件も、ちゃんと具体的に解説してみせるから。
 ものすごく大雑把に表現すると、『今のベリアル』は実体化し続けている悪魔だ。
 カプセルと同じ……いや、それ以上の“成功例”だと思ってくれて構わない。
 物理法則を無視できないほど強固に実体化していて、もはや人間と大差ない存在だ。
 ベリアルの姿をしたが、人間に擬態している――と言えば分かりやすいかな?
 周囲の状況に合わせて、“人間だったらこうなるだろう”という状態を、自動的に
 再現し続けているわけだね。当然、物理的ダメージを無効化したりなんかできない。
 限界以上のダメージを与えられれば、二度と目覚めぬ停止状態をも再現するはずだ。
 つまり“永眠”してしまう。おお、我ながら的確な要約だ。エロイムエッサイム。
 人間のフリをしている以上、身体能力については、普通の人間と同じくらいだろう。
 とはいえ、一応は悪魔だからね。現状のままでも、どうにか鬼火くらいは出せるさ。
 大蛇を召喚したりとか、強力な火炎を操ったりとか、悪魔としての力を
 存分に発揮したいなら、普通の悪魔持ちと同様に、カプセルをのむしか方法はない」

134 夢の中の幻 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b> :2005/05/05(木) 21:59:09 ID:nwsRRXU.
 ベルゼブブの口調に、からかうような響きが混じった。
「なぁ、ベリアル。認識を操作されているせいで、君は気づいてないようだね。
 この島にカプセルが存在するって発想は、本来とても奇妙なものなんだよ。
 あの夜、力の源を失って、悪魔もカプセルも消え失せたはずなんだから。
 もしも、たった一錠でもカプセルが残っていたりしたら……それは奇跡だよ。
 もっとも、僕らを再構成した連中なら、カプセルだって自力で造れるはずだけど。
 ……ああ、やっぱり何のことだか理解できないか。やれやれ、思った通りだ。
 悪魔とは認識に影響される存在であり、“もう悪魔は消えてしまった”という
 認識など持っていたら、君自身が消えてしまいかねない――って理屈だろうね。
 これは考えても意味がないけど……主催者の都合に合わせて造られた今の君は、
 主催者の招きたかったであろうベリアルと、はたして同じベリアルなのかな。
 そのへんについて主催者がどう思っているのか、ちょっとだけ気になるね。
 ちなみに『この僕』と『このバール』は、ベリアルの記憶から造られた『幻影』。
 まぁ要するに、擬似人格みたいなものだ。あんまり出来は良くないけど。
 僕らの人格はバールの肉体に同居していただろう? その時の“なごり”さ。
 非常に陳腐な言い回しで恐縮だけど、僕と彼は、君の心の中に生きているんだよ。
 けれども所詮は『幻影』。こうして夢の中に出てくるだけだ。他には何もできない。
 しかも夢に見た情報は、君の記憶に残らない。でも、これはこれで面白いかもね。
 うつし世は夢、夜の夢こそまこと。――さぁ、朝まで語り明かそう」
 ベルゼブブは上機嫌だった。
 バールが再び肩をすくめた。
 ベリアルの頬がひきつった。
 楽しい悪夢の始まりだった。

135 夢の中の幻 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b> :2005/05/05(木) 21:59:56 ID:nwsRRXU.
 夢の中で見た幻を、ベリアルは既に憶えていない。
(そういや今朝は、なんか夢にうなされて目ぇ覚めたっけ……ずぶ濡れのまんま
 瀕死状態でビルまで移動したせいやな、多分。……ちょっと弱っとるなぁ、俺。
 まぁ、もう風邪ひいても平気やねんけどな。風邪薬には不自由してへんし)
 というか、現実と戦うだけで精一杯だった。


【この部分に緋崎正介の状態(最新版)を書く予定】

※夢の部分の内容は、「ベリアルは沈黙する」で見ていたものです。

136 夢の中の幻・改 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b> :2005/05/06(金) 18:31:56 ID:wMojAoZA
>>131 変更点なし。ただし続きに以下の文章を追加。

 かつて楽園を追い出され、ヒトの子は地へと堕とされた。
 地上の世界は住み難く、ヒトの末裔は苦しんだ。
「神様は、僕らを愛していないのさ」
 ヒトの末裔は悪魔を呼んだ。三人が集い、儀式を試す。
 小さな悪魔が召喚されて、彼ら三人は喜んだ。
 けれども悪魔は怯えて逃げた。逃げ延びた先に誰かいる。
 少年が、一人でぽつんと立っていた。少年は笑い、悪魔に言った。
「ねぇ、僕は、君と友達になれるかな?」
 小さな悪魔は頷いて、少年の為に、少女に化けた。
 彼ら三人は悪魔を追って、二人の世界を見て驚いた。
 そこは美しい『王国』で、まるで楽園のようだった。

 舞台は、ここではないどこか。時間は、今より少し過去。
 その街にはセルネットという麻薬組織が存在していた。
 扱う麻薬の名はカプセル。カプセルは、錠剤に化けた特殊な悪魔。
 呑めば悪魔の力が宿り、幻覚を媒介にして悪魔を“認識”させた。
 素質ある者は力を捕らえ、魂の奥底から、分身たる悪魔を呼んだ。
 それも、今では過去の話――だったはずなのだが。

137 闇の眷属_1◆1UKGMaw/Nc :2005/05/07(土) 01:31:54 ID:Ym7uuK4o
 森の中を行く影が一つ。
 黒い肌と長く尖った耳を持つ長身の女性――ピロテースである。
 オーフェン、リナ、アメリア、そして敬愛する黒衣の将軍――アシュラムの捜索のため、ピロテースは島中央の森を訪れていた。
 だが、
(……案外、遭遇しないものだな)
 時計を確認する。時刻は10:05。
 まだ時間はあるが、今までその四名どころか、他のどの参加者とも出会っていない。
 森の精霊達が微かに騒いでいる。幾人かの参加者がこの森を通過したことは間違いないだろう。
 だが、その者達と接触できないのでは何の意味もない。
 今までに見つけたものと言えば、無人の小屋だけだった。
 デイバッグと空のペットボトルが放置されていたので、誰かがここを利用していたのは確かだった。
 デイバッグの中身は気になったが、これ見よがしに置いてあること自体が怪しい。
 罠の可能性を考え、これには手をつけなかった。

(残りの時間は、あと半分か)
 その間に成果は上がるだろうか。
 現在のところ収獲なしだ。たとえ今後もそうであっても時間通りに戻らなければならない。
 この森からならば、警戒しながらでも40分もあれば戻ることが出来る。猶予はあと一時間強といったところか。
 さらに森の奥へ向かおうと足を踏み出したところで……、ピロテースは異常に気づいた。
「……血の匂い?」
 微かに風が運んできた、嗅ぎ慣れた匂い。
 ピロテースは警戒した面持ちになると、その匂いを辿り歩き出した。

138 闇の眷属_2◆1UKGMaw/Nc :2005/05/07(土) 01:32:39 ID:Ym7uuK4o
 森を出て少し行った草原に、その墓はあった。
 墓碑銘は無い。
 ただ、そこだけ土が盛り上がって露出しており、その周囲に血溜りが出来ていることから、目の前のこれが墓だと判別できた。
(誰が眠っているのだ?)
 逡巡する。
 ここに埋葬されているのが自分達の探し人である可能性もあるだろう。
 死体を見るのは慣れている。死体の野晒しも慣れている。だが、だからと言って墓を暴く趣味は無い。が――
「……やむを得ないな」
 呟き、心の中で死者に詫びる。そして、
「"我が友なる地霊(ノーム)よ、豊かなる大地の子よ。その強大なる力をもって、大地に穴を空けよ"」
 精霊語(サイレント・スピリット)による詠唱が響く。瞬間――
 目の前の地面がいきなり陥没したように変形し、墓のあった場所を中心に円形の浅いクレーターが出現していた。
 そしてその中央に、一人の女性が横たえられていた。

 女性は出血が酷かったようで、その姿は見るに耐えないものだった。
 元は白かったであろうその服も、土と、そして死体自身のものと思われる夥しい血によって赤黒く汚れている。
 だというのに、ピロテースは僅かにほっと息をついた。
 死者に対してはすまないと思うが、自分にとって最悪の予想は外れてくれた。
 気を取り直して、その女性の死体をよく観察する。
 まだ少女だ。肩の辺りで揃えた癖の強い黒髪に白いローブ。腰の辺りに一房のアクセサリー……
(……待て)
 まさか、と思う。
 この容姿は、協力関係にある石人形のような肌の男――ゼルガディスの探し人と一致しないだろうか?
 確か、名前はアメリアといったはずだ。
(人違いであるに越したことはないが……一人脱落か)
 これは戻って報告しなければなるまい。
 そう考えると、今度は直接の死因を調べることにする。
 その死因を付けられる武器を持つ者がいたら、要注意人物と見てかかることができるからだ。とはいえ、
(……酷いな。これではどれが決定打かもわからん)
 アメリアの全身には、引き裂かれたような傷跡と出血の跡があった。
 言わば、その全てを総合して致命傷となっているというところか。
(まるで獰猛な魔獣にでも襲われたかのようだな。背後はどうなっている?)
 身体を返そうとしてアメリアの顔を動かした時、首筋に"それ"が見えた。

139 闇の眷属_3◆1UKGMaw/Nc :2005/05/07(土) 01:33:40 ID:Ym7uuK4o
「!!」
 反射的に飛び退り、センス・オーラをかける。
 最悪の展開が脳裏をよぎった。
 アメリアの精霊力に異常が見えれば、彼女はヴァンパイア化していることになる。
 が、予想に反して精霊力に異常は見当たらなかった。
 首筋の、二本の牙の痕を露出させたまま、彼女はピクリとも動かない。
(ヴァンパイアではないのか? ……いや、しかし)
 首筋のあの痕。ピロテースの知る限り、闇の眷属の中でも上級に位置するヴァンパイアの仕業に違いない。
 だが、彼女がその眷属と化していないのはどういうわけだろうか。
(つまり……私の知らない類のヴァンパイア、ということか?)
 自分の知らない能力を持つ者なら、協力者の中にもいる。自分の知らない闇の眷族もまた、存在していてもおかしくはない。
 断定は出来ないが、この場ではピロテースはそう結論付けた。


 アメリアの腕輪と腰のアクセサリーを外し、自分のデイバッグへ移す。
 これらをゼルガディスに見せ、本当に彼女がアメリアかどうか確認する必要があるだろう。
 デイバッグを閉じたところで、足元の地面が僅かに震えたような気がした。
(時間切れか)
 そのまま、背後へと跳躍する。
 ピロテースが地面に降り立った時には、もうそこにはアメリアの身体もクレーターも無く、元通りの墓があるだけだった。
「収獲なしのほうがマシだったかもしれんな」
 そう独りごちて、墓に背を向ける。
 数歩踏み出したところで、最後にちらりと視線だけで振り返った。
(ヴァンパイア……気に留めておいたほうがいいかもしれんな)
 そしてピロテースは、また森へと消えていった。

 自覚もないまま殺人者となった哀れな少女がその墓を訪れる、僅か数分前のことだった。

140 闇の眷属_4◆1UKGMaw/Nc :2005/05/07(土) 01:34:22 ID:Ym7uuK4o
【D-4/草原/1日目・10:20】

【ピロテース】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)/アメリアの腕輪とアクセサリー
[思考]:アシュラムに会う/邪魔する者は殺す/再会後の行動はアシュラムに依存
[備考]:ヴァンパイアの存在に気づきました。

*行動:捜索後、学校へ戻り、アメリアの遺品をゼルガディスに渡す。

141 紅白怪我合戦! :2005/05/07(土) 08:49:12 ID:mhhsWZag
ビルの事務室だった。
そこのソファーに哀川潤は寝転がっている。
その胸には白い子犬を抱き、その心には苛立ちと倦怠感を抱えて。
「ふん」
鼻でため息をつく。ため息。全く似合わない。いや、似合うのか?
あたしは何をしても似合うのだからある意味ため息をついていても似合うのではないか。
そこまで考えて、面倒になって止めた。
何をやっているのだ。あたしは。
遡る事数十分前──

ようやっと巨竜と化したシロちゃんをビルに運び込んだ。
そこらの自動車よりよっぽど重かったが、普段の彼女だったら余裕で持てたはずだった。
が、今は全身に裂傷が走っており、血も足りず、<人類最強>とは言い難い力しか発揮できなかった。
お気楽男と女、それと学生に手伝ってもらい、なんとか白竜をビルのホールまで運んだのだった。
「ふぅう・・・なんとか目立たない、な。
 おい起きろ起きろ。死んでしまうとは何事だ」
「大事ですよ」
「ホワイトを起こさないとね!」
「そうだねアイザック!」
バシバシと竜の頬…かどうか分からないがそれらしい場所を往復ビンタしてみる。
高里が心配そうに見ているが、とにかく彼女は起こそうとする。
「……お姉ちゃん痛いデシ」
「おお起きたか。そなたにもう一度チャンスをやろう」
「ロシナンテ、大丈夫?」
「ミリア!ホワイト隊員が起きたよ!」
「本当だアイザック!」
「ファルコン。犬の姿に戻れるか?」
「はいデシ……」
素直に従うシロちゃん。さっき殴られたのを少し怯えてるようだ。
あっという間に、元の白い子犬の姿に戻った。

142 紅白怪我合戦! :2005/05/07(土) 08:49:54 ID:mhhsWZag
止血に巻いてた布が外れるが、哀川潤は再び巻きつける。
「よし。もう寝とけ。ほーれ、らりほーらりほー」
言葉も無く、哀川潤の指先を見つめ、数秒で眠りについた。催眠術である。
「潤さんも傷の手当てしないと」
「あん? こんなの唾つけとけば治るさ。あたしの唾はケアルラより効果が高い」
「無理ですって。僕の服あげますから血を止めてくださいよ」
服を脱いで、上半身が肌着のシャツになる。
やや不満そうな顔でその服を傷口に押し当てる。
あっちの事務室なら休めるか・・・そう思って視線を向けた先に、お気楽軍団がいた。
「食べ物だね・・・」
「食べ物だね・・・」
「あん?」
「よしミリア!グリーンとホワイトのために町に行って栄養のある食べ物を盗んでこよう!」
「泥棒だねアイザック!」
意気込んでいる二人を見て肩を落とす哀川さん。
「あのなお前ら」
「いいと思います」
高里が肯定的な発言をした。
「商店街はすぐそこですし、ついでに救急箱でも持ってきてもらえばきちんと包帯が巻けるではないですか」
「そうだねイエロー!さすが知性派!一緒にイエローも行くんだよ!」
はぁ・・・と哀川さんはため息をついた。
説得するのは無理だということが読心術を使わなくても分かる。
「わかった。行って来い。ただし12時までには戻って来い。
 危なくなったら『天さん!助けて!』と叫べ。あたしがバータより早く駆けつけてやる」
ちなみにバータとは某DBでの自称宇宙一の速度のザコである。
「行ってくるよグリーン!ホワイトをよろしく!」
「待っててくださいね、潤さん」
「絶対死ぬなよ。必ずだ。約束を破ったらキッツイお仕置きをするからな」

そういって見送ったものの、ヒマであった。
こんな傷では、子荻を殺すぐらいはできるけど、祐巳を助けてやるのは無理だ。
まだまともには走れない。しかし彼らの悲鳴が聞こえたら足が千切れても助けに行くつもりだった。

143 紅白怪我合戦! :2005/05/07(土) 08:50:44 ID:mhhsWZag
商店街はすぐそこだからあたしの聴力なら悲鳴は聞こえる。
せめて足だけでも直して、あいつらと一緒に祐巳を探す。
あいつらと一緒ならば、きっとあの娘も笑えるはずだ。
あたしの支給品がまともなら持って行かせたのにな・・・・
デイパックをごそごそ探る。
出てきたのはペットボトル。硬い栓がされてある、銀色のボトルだ。
中身の説明がフランス語で書かれている。極悪な紋章と一緒に。
『種類:生物兵器
 プラスチック・ポリエステルを分解するバクテリア
 摂氏37度前後で大増殖・数時間で死滅
 副作用:肩こりが治る』
バカ兵器の一種か。
「ふん」
また鼻を鳴らして手元の子犬を撫でる。
ファルコンは死なせはしない。
あいつらも全員守る。そう思って聴覚を研ぎ澄ました。
なにやらふもふもいう音が聞こえて遠ざかっていったけど、まぁ関係ないだろう。

【C−4/ビル一階事務室/一日目/11:00】

【哀川潤(084)】
[状態]:怪我が治癒。内臓は治ったけど創傷が塞がりきれてない。太腿と右肩が治ってない。
[装備]:なし(デイバッグの中)
[道具]:生物兵器(衣服などを分解)
[思考]:祐巳を助ける 邪魔する奴(子荻と臨也)は殺す アイザック達に何かあったら絶対助ける ファルコンを守る
[備考]:右肩が損傷してますから殴れません。太腿の傷で長距離移動は無理です。(右肩は自然治癒不可、太腿は数時間で治癒)
    体力のほぼ完全回復には12時間ほどの休憩と食料が必要です。

【トレイトン・サブラァニア・ファンデュ(シロちゃん)(052)】
[状態]:気絶。前足に深い傷(止血済み)貧血  子犬形態
[装備]:黄色い帽子
[道具]:無し(デイパックは破棄)
[思考]:思考なし
[備考]:血を多く流したのと哀川さんの催眠術で気絶中です。
    回復までは多くの水と食料と半日程度の休憩が必要です。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

144 紅白怪我合戦! :2005/05/07(土) 08:51:52 ID:mhhsWZag
町探査組

【アイザック(043)】
[状態]:超健康
[装備]:すごいぞ、超絶勇者剣!(火乃香のカタナ)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:待っててグリーン!ホワイト大丈夫かな! 商店街で泥棒!

【ミリア(044)】
[状態]:超健康
[装備]:なんかかっこいいね、この拳銃 (森の人・すでに一発使用)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:そうだねアイザック!!

【高里要(097)】
[状態]:正気
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:救急箱を取らないと 潤さんとロシナンテ大丈夫かな
[備考]:上半身肌着です

生物兵器:出展 フルメタルパニック!

145 夢の中の幻・改 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b> :2005/05/07(土) 13:02:00 ID:wMojAoZA
>>136 の続きに以下の文章を追加。

 何故か、今ここに、セルネットのトップ・スリーだった三名がいる。
 ベルゼブブ。バール。ベリアル。それが彼らのコードネーム。
 “最初の悪魔”を召喚し、紆余曲折を経てセルネットを創設し、最後には
自らを悪魔と化してまで暗躍した、ろくでもない悪党たちである。
 ベルゼブブが発端となり、バールが追随し、ベリアルが加担した形だったが、
彼らは互いに対等な盟友だった。

 彼らは“最初の悪魔”を利用して、悪魔の力で『王国』を創ろうとした。
 強大な悪魔使いへと成長した少年――物部景や、その仲間たちと敵対し、
一度は勝利したものの……最後には敗北して、すべての力を失った。

 だから、このように、平気な顔して登場できる訳がないのだが。
 それでもやっぱり、今ここで、彼らは舞台に立っている。



>>132 
19行目を変更。
「ああ、説明なら一応できる。この場で公正に〜
 →「推論でよければ話せるよ。この場で公正に〜

146 夢の中の幻・改 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b> :2005/05/07(土) 13:04:29 ID:wMojAoZA
>>133
2行目を変更。
「それでは遠慮なく、すべてを話そう。無論、信じるかどうかは〜
 →「それでは遠慮なく、仮説を述べよう。無論、信じるかどうかは〜

15行目を修正。
ベリアルの姿をしたが、人間に擬態している〜
 →ベリアルの姿をした悪魔が、人間に擬態している〜

最後の行を変更。
 存分に発揮したいなら、普通の悪魔持ちと同様に、カプセルをのむしか方法はない」
 →存分に発揮したいなら、カプセルを呑む以外に方法はないだろう」



>>135
状態および注意書きを変更。風邪薬を発見した直後に時間を変更。

【B-3/ビル2F、仮眠室/1日目・09:05】
【緋崎正介】
[状態]:右腕・あばらの一部を骨折。それなりに疲労は回復した。
[装備]:探知機
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1本) 、風邪薬の小瓶
[思考]:カプセルを探す。生き残る。次の行動を考え中。
[備考]:六時の放送を聞いていません。
*刻印の発信機的機能に気づいています(その他の機能は把握できていません)

*この話は【サモナーズ・ソート(獅子と蛇の思索)】へ続きます。

[夢に関する注意事項]
 【ベリアルは沈黙する】で見ていた夢です。
 ごく普通の単なる夢だったのかもしれません。
 「認識の操作」「『今のベリアル』の正体」「『幻影』の存在」等、
 どの情報も、真実だと確定されていません。

147 最悪の支給品(1/6) </b><font color=#FF0000>(aeu3dols)</font><b> :2005/05/07(土) 23:48:49 ID:n5PCneaY
「ところで先から思っていたが、あなたは随分と良い男だな」
サラは唐突に言った。
せつらは茫洋と気の抜けた、それでも尚、自ら輝くが如き美貌の唇を動かして返す。
「おや、そうですか?」
「うむ、そうだとも」
サラは断言した。
「まずはその顔。井戸端会議の奥様方から深窓の御令嬢まで、
全ての女性、それどころか男性まで心ときめかせる事間違いなしだ」
全く持って事実であった。
だがしかし、それを話すサラ自身はいつも通りの鉄面皮である。
「その上、料理の腕も見事だときている。
先ほど皆で頂いたあなたの店の煎餅は素晴らしかった。
あの粳米の風味と香ばしさの多重奏を奏でる焼き加減の絶妙さ。
ザラメ一つとっても妥協しない、煎餅という物の奥深さを味合わせていただいた」
「せんべい屋としては当然ですよ。むしろ、それを判っていない職人が多すぎる」
(実にあっぱれな情熱だ)
自らの仕事に対する誇りに思わず感心しつつ話を続ける。
「副業の人捜しも見事な腕前だそうで」
「ええ。住んでいた街では一番を自負しています」
魔界都市新宿の人外魔境ぶりを考えれば世界一と言っても過言ではない。
「更に、女性に対する博愛主義の傾向があるようだ。主夫の神様にだってなれる」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。どうしてそう思ったのですか?」
「うむ。いや、大したことはない。観察の結果だ」
「え?」
せつらの口がぽかんと開く。サラは滔々と理由を話した。
「実は、先ほど学校で皆と居た時、全員の行動を観察してみました。
例えばクリーオウが友人の死を知り、呆然となっていた時に倒れないように支えた。
ナイト役は最終的に空目がかっさらったが、実に自然で優しい動きだった。
他にも傍目には見えてこないが、女性陣への態度は他の二人に比べ実に穏やかだ」
「……ずっと観察していたんですか?」
「この状況で情報の量は金銀よりも価値があるから」
半ば趣味だとは言わない。

148 最悪の支給品(2/6) </b><font color=#FF0000>(aeu3dols)</font><b> :2005/05/07(土) 23:53:23 ID:n5PCneaY
二人は歩く。海岸のど真ん中の開けた場所を、堂々と。
「だから例えば、全員の癖だとか、角が立たないよう振る舞ってるのが居たとか、
今言ったようにあなたが女性に対して博愛主義の傾向が有る事にも気づいている」
「そうですか」
「おかげであなたの価値をまた一つ認識できた。
その上、“後腐れが無さそう”な事もわたしにとって実に理想的だ。
こんな状況でなければ口説いていたかもしれない」
やはり鉄壁不動の鉄面皮に平坦な口調で好きなタイプだと宣い出す。
彼女の真意は秋せつらにもよく判らなかった。
ただ、せつらの手の中に一つ紙切れが押し込まれたのは揺るぎない事だった。

『そんな、わたしにとって好みのタイプである上に信用出来る、
超一級の煎餅屋にして人捜し業まで営むナイスガイになら出来る依頼がある。
今もピロテースから依頼を受けているあなたに更に依頼は出来るだろうか』
『捜す人物が同一でなければ』
素早く返事が返る。サラは頷き、歩きながらの筆談を始めた。
『実は、捜して欲しいのは特定の個人ではなくある条件を満たす人だ。
“刻印”について何か知っている人、解除しようとしている人。
あるいは、もしも居るならば“刻印”によって死亡した者を捜して欲しいのだ』
『詳しい話をお願いします』
『わたしは刻印を外す事を画策している。
この刻印には、知っての通り管理者の任意でわたし達を殺す機能が有り、
更に生死判別機能、位置把握機能、盗聴機能を持っている事を確認している。
この刻印を外す手段を見つけなければ、わたし達は管理者達に手も足も出ない
そして――』
会話が筆音を誤魔化すように、波の音が僅かに残る筆音さえも掻き消していく。
海洋遊園地を出てから神社までの300mの波打ち際が、筆談を完璧な物にしていた。
『――というわけだ。というわけなので、空目以外の刻印への抵抗者を捜して欲しい』
現時点の情報と、それが空目との協力で得た物である事を伝え、依頼する。
せつらは頷いた。
『判りました。その依頼、お受けしましょう』

149 最悪の支給品(3/6) </b><font color=#FF0000>(aeu3dols)</font><b> :2005/05/07(土) 23:55:01 ID:n5PCneaY
潮騒に紛れた筆談が終わってから少しすると、二人は神社へと到着した。
「やはり、禁止区域の袋小路に人は居ないか」
森に囲まれた、人気が無いがらんとした神社。
更にその奥、通常なら御神体が納められている場所にそれは有った。
小さな木の扉を開いたそこに有ったのは明らかに異質なプラスチックのスリットだ。
サラとせつらは目を見合わせ、一度頷き、それを通した。
次の瞬間……神社はパカッと小気味良い音が聞こえそうなほどに勢いよく割れた。

まるで大地震でも訪れたかのように元神社が揺れ、大地が引き裂けていく。
「危ないところだった。感謝する。」
サラは、いつもの調子でそう呟いた。
彼女の胴体には幾筋もの銅線が巻き付いている。
地割れに呑まれ転落した彼女を救ったのは、せつらの鮮やかな糸技だった。
「全く、不親切な設計者だ」
「そうですね。荒っぽい開け方です」
神社は蓋だった。地下には巨大なドックが隠されていたのだ。
いや、このH−1エリア自体が巨大なドックの蓋だったのだ。
そして勿論、ドックには“船”が浮いていた。

「しかし、こんな物まで支給されているとは驚きですね」
相変わらず茫洋としたせつらの口調。それに抑揚の少ないサラの声が答える。
「確かに。しかし、ばらつきのある支給品だ。
極上の煎餅から暴れ牛。ただのナイフに、伝説級の魔剣。拳銃に、何かの弾のみ。
挙げ句にこんな物まで出てくるとは」
「隠し扉だと思っていたんですけどね。それで、調べてみますか?」
「勿論」
500mは移動しないと誰も居ない過疎地であり、この様な仮定に意味はない。
だが、もしここにツッコミ好きな人間が居たならこう言っただろう。
……あんたら、もう少し驚け。

150 最悪の支給品(4/6) </b><font color=#FF0000>(aeu3dols)</font><b> :2005/05/07(土) 23:57:36 ID:n5PCneaY
「「これは困った」」
声がハモった。
思わず顔を見合わせる。
二人とも、相変わらずまるで困った様子が見て取れない。
しかし、それでも二人は感じていた。これは危険だと。
「主催者の底意地の悪さが透けて見えるな」
せつらの操作により、マザーAIの電子音声が情報を羅列していく。
「艦の全長は218m。全幅は潜舵を除いて44m。
排水量は水上で30800t。水中で44000t。
主機はPS方式パラジウム炉3基/電気駆動/二軸・210000hp。
実用限界深度1200フィート、圧壊領域1600フィート。
最大速力は通常推進時30kt。EMFC使用時40kt。超伝導推進時65kt+。
武装は533mm魚雷発射管6門。多目的垂直ミサイル発射管10門。弾道ミサイル発射管2門。
Mk48Mod6ADCAP魚雷。アド・ハープーン対艦ミサイル。トマホーク巡航ミサイルを搭載。
ただし、攻撃目標は6時間につき1エリア、このエリア以外に限定されています。
艦長は参加者全て。秋せつら艦長、指示をどうぞ。
“トゥアハー・デ・ダナン”は現在、攻撃可能な状態にあります」
「艦内の防備は?」
「内部から艦に攻撃、あるいは戦闘能力を奪おうとした場合に限り、
機械人形部隊が起動し、干渉者に対して攻撃を行います」
「ドックから外海に出るには?」
「深度150(約50m)に水路が有ります」
データを呼び出す。水路は艦の幅に対しわずか10cmの余裕しかなかった。
この潜水艦は大雑把になら一人でも動かせるとんでもない艦だったが、
そんなとんでもない超精密操縦が出来るのは、この艦の全てを知り尽くし、
かつ己の手足よりも繊細に動かす事が出来る者のみだろう。
しかし、それでもチタン合金の船殻に包まれ、ミサイルを積んだ潜水艦だ。
全長200mを超える巨躯で有りながら、内部からの破壊さえも困難。
それは一見、武器としては大当たりに見えた。

151 最悪の支給品(5/6) </b><font color=#FF0000>(aeu3dols)</font><b> :2005/05/08(日) 00:01:31 ID:n5PCneaY
「放送について、もう一度」
「この艦の存在は、次の放送で発表されます」
溜息を吐く。
「……大外れですね」
「全くだ」

誰が放っておくだろう。こんな危険な悪魔を。
危険地域の様な事前放送も無しで、いきなりミサイルに焼き払われるかもしれない。
しかも、外からも内からもそれ自体を壊せないという事は、
そこを占領し、支配し続けるしか、安全を手にする手段はないのだ。
その為には中に乗り込む事になる。
ドックに浮いている潜水艦に乗り込むのは簡単な事だ。
そして、中に入れば反響する音が存在を教えるが、その正確な場所は判りづらい。
入り組んだ狭い通路は恐るべき戦場へと変わるだろう。
更に言うならば、この場所も最悪だった。
禁止エリアに囲まれた袋小路。人が集まった時、逃げ道が無い。
「ウツボカズラだな」
自らの命を繋ぐための蜜が有ると思わせる甘い匂い。
しかし、実際にそこに待っているのは死だけだ。
「僕の糸があれば、こんな罠など処分してしまえるのにな」
樹も切れないただの銅線では絞めたり投げたりが精一杯だ。
「わたしも、火力が強い爆弾が有れば時限爆弾で中枢を破壊出来るのだが」
学校にある材料で作った護身用の爆弾では火力が足りない。
つくづく万全でない事が悔やまれた。

だが、くよくよしていても始まらない。
「これからどうします?」
「今は10時。南の禁止エリアを安全に通過できる限界だ」
「城の方、見ていきますか?」
「……もし、空目達と擦れ違ったらまずい」
空目達の方で何かが有って、こちらに向かった場合に擦れ違うと、
昼から危険になる場所に向かわせてしまう事になる。

152 最悪の支給品(6/6) </b><font color=#FF0000>(aeu3dols)</font><b> :2005/05/08(日) 00:02:20 ID:n5PCneaY
だから、少し早いが帰る事になった。
ドックを閉じ直す事は出来なかったので、せめて潜水艦の入り口に瓦礫を乗せ、
少しでも出入りをしづらくすると、学校への帰路につく。
大した意味はないが、潜水艦を利用しようとする者に対して時間稼ぎにはなるだろう。

「捜す物が増えてしまったな」
「そうだね、困ったものだ」
新たな捜し物は潜水艦を破壊できる力。
あるいは、内部から潜水艦を破壊し、機械人形とやらの防衛機構に対抗できる戦力。
それに加えて各々の捜し人と刻印についての手がかりを捜す。
捜すものが多すぎた。

【H−1/ドック(学校に移動中)/1日目・10:30】
【神社調査組】
【サラ・バーリン】
[状態]: 健康
[装備]: 理科室製の爆弾と煙幕、メス、鉗子
[道具]: 支給品一式
[思考]: 刻印の解除方法を捜す/まとまった勢力をつくり、ダナティアと合流したい
潜水艦をどうにかする手段を捜す
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。刻印はサラ一人では解除不能。

【秋せつら】
[状態]:健康
[装備]:強臓式拳銃『魔弾の射手』/鋼線(20メートル)
[道具]:支給品一式
[思考]:ピロテースをアシュラムに会わせる/刻印解除に関係する人物をサラに会わせる
潜水艦をどうにかする手段を捜す/依頼達成後は脱出方法を探す
[備考]:せんべい詰め合わせは皆のお腹の中に消えました。刻印の機能を知りました。

H−1地点にドックとトゥアハー・デ・ダナン(218mの潜水艦)が出現しました。
神社は消滅しました。

153 暖かい時間、凶弾と共に  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b> :2005/05/08(日) 01:16:11 ID:Hw7b583Y
凪たちは森の中を歩いている。
先頭には零崎といーちゃん、
その後ろにはドクロちゃんと凪、
そして最後にはアリュセと出雲がついている。
ちなみに出雲の顔には青痣ができている。
その理由となった会話をアリュセと出雲は回想する。

隊列を決めるときに馬鹿が騒ぎ出した。
「却下だ。」
「いや、やはりここは
アリュセといの
『一部のマニアの妄想を引き立てるコンビ』が敵をかく乱し、
続いて零崎と三塚井の
『とりあえず避けて通ろうコンビ』が敵を引き付け、
そして最後に俺と凪の
パン…」
パン!というよりドコン!と形容すべき音が鳴り響いた。

以上、回想を終了しアリュセと出雲が出した結論は
『明らかに自業自得ですわ…。』
『やっぱり『ブルーストライプス』の方がよかったか?』
全く違うものだった。
ちなみに何故〝ス”がついたかは想像に任せるとしよう。
『最初のときはこんな…』
2秒で思い直した。
『はぁ、本当に変な人…。』
いいながらも2度目の悪言には
1度目と違う感情が込められていた。
自分がこの殺し合いの中にいながらも恐怖に震えることが
なかったのはこの男のおかげだった。
『きっとすぐに王子たちとも打ち解けますわ。
・・・もし生きてたらリリアとも。』
放送で名前があった事に落胆の色は隠せなかった。
「大丈夫か?」
ぱっと見上げると顔を覗き込むように出雲がいた。
「あ…うん、大丈夫ですわ!」
ビックリしながら答えるアリュセ
「そうか、なんかあったらすぐ言えよ?
ほれ、うまい棒食うか?」
照れからかうまい棒を取り出そうとする出雲を置き先に行く。
彼の優しさは感じていた。
自分のような他人を本気で心配してくれる彼の優しさは。
後ろを振り返ると出雲はうまい棒を2本持って悩んでいた。
どうやらたこ焼きにするかコーンポタージュにするかで
悩んでいるようだった。
「何やってるの?
早く行かないと置いてかれますわ。」
「ああ、ちょっとま…」
パン!
銃声が響いた。

154 暖かい時間、凶弾と共に その2  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b> :2005/05/08(日) 01:17:31 ID:Hw7b583Y
いきなりの銃声に全員が振り向いた。
「狙撃だ!全員木の陰に隠れろ!」
凪ちゃんが叫ぶ。
「方向は大体わかった、今回は多めに見てくれよ凪!」
零崎が駆ける。
そして僕は…
何をするわけでもなく立っていた。
視界の先に見えるのは出雲くんに駆け寄るアリュセちゃん。
彼女はこれから壊れていく、
僕が壊したあの娘のように
僕が壊したあの子のように
僕が壊した…あいつのように

アリュセは夢中だった。
後ろから凪が近づくなと警告していたが聞こえなかった。
いや、聞こえないふりをしていただけかもしれない。
ただ彼女が近寄ったことだけは事実だった。
そして凶弾は彼女を襲う。
風で弾道を逸らすも足に当たる。
「きゃ…!!」
転倒するアリュセ、銃弾は彼女の…

前に立ちふさがった男の体に命中した。
「ったく…俺がこんくらいでくたばるかよ…。」
アリュセの体を覆うように出雲は立っていた。
銃声はやまない、全て出雲の体に吸い込まれる。
「そんな…。」
「ばーか…何泣いてんだよ。」
銃声がやんだ。
「何って…!」
アリュセは背中を見た、そこには赤い水溜りがあった。
「だから…俺…が…こんくらいで…くた…ばる…かよ…。
まあ…ちいとばか…し…きつ…い…けどな。」
「そんな…いや、死なないで!」
「こん…くら…い…で…死ん…だら……笑…われ…ちまう…ぜ、
なあ、ち…さ…」
パン
…乾いた音と共に、出雲覚の命は終わった。
「そんな…いや、いや、いやあああああ!」
崩れるからだ、飛び散る血。
その血が暖かくて寒気がした。
彼女の正常な判断能力を奪うのに充分すぎる光景だった、
死体にしがみつきただ泣き崩れる少女に
襲撃者は容赦なく引き金を引く、
アリュセの心臓を凶弾が貫く。
彼女の中を走馬灯が駆け巡った、
仲間たちとの冒険の日々、
…新たな仲間との短い、でも大切な時間。
そして優しき少女の命は消えた。

2人の命を奪った男、名は…カシムと言った。
「作戦の第一段階は成功、続いて第二段階に移行する。」
冷たく機会のような声でつぶやく。
そのとき影から声がした。
「なっちゃいねえな〜、
おまえみたいなやり方じゃ殺人鬼としちゃ2流だぜ?」
「獲物に話しかける、暗殺者としては2流だな。」
振り向いてカシムが言った。

一旦終了。

155 Tightrope Walkers(1/6) ◆l8jfhXC/BA :2005/05/08(日) 14:57:04 ID:jSDtGYms
「酒で酔わせてその隙に毒を盛り、刺殺……ひどいわね」
「真正面から殺すよりも、信頼させてから隙をついて殺す方が確実だ。生き残る方法としてはいい手段なんだろうな」
「……こちらを睨みながらで言われると、まるで私に対して言ってるように思えてしまうんだけど」
「どうだろうな」
 言って、ゼルガディスは居酒屋の中を調べ始めた。……こちらへの警戒を忘れずに。
 学校の周囲を調べ終った後。
 クエロとゼルガディスは、地図には書いていなかった南の商店街を見つけ、居酒屋の中でこの少年の死体を発見していた。
 ……彼の不信感は、学校にいたときよりも露骨になっていた。
(仕掛けてくるとしたらこの辺りね。さすがにいきなり斬る、なんて馬鹿な真似はしないでしょうけど)
 ──剣と魔法。
 彼はこちらに対して圧倒的な力の差がある。別行動した途端に、自分が死体になるのは怪しすぎる。
(にしても……クリーオウといい、ここにはきちんと参加者へのカモも用意されてるのね)
 死体に再び目を移す。こんなところで酒を飲む奴だ。ただの馬鹿か“一般人”なのだろう。
 つまり、人を疑う事を知らない平和主義者。こんな遊戯に巻き込まれることなど想像もしない、ごく普通の日常に生きている者達。
 単純な殺し合いの他にも、参加者同士の血生臭い葛藤も主催者は望んでいるようだ。
(その嗜好には虫酸が走るけど、駒じゃ指し手は倒せない。……例外が起こらなければ、ね)
 学校で結成された、反乱軍とも言える七人の同盟。
 こんな短期間に、これだけの有能な人物が集まることができたのは本当に僥倖だった。
 彼らといれば脱出できる可能性も十分にある。あるいは主催者を殺すことも。
 もちろん、その可能性が薄くなれば、あっさり“乗る”側に回るのだが。
(このまま脱出側になる場合、心残りなのはあの二人)
 ガユスとギギナ。脱出を考える場合、彼らには同盟の誰とも会わずに死体になってくれるのが一番いい。……だが。
(やっぱり、そう簡単には死んで欲しくないわね。できれば、私の手で苦しめて……潰す)

156 Tightrope Walkers(2/6) ◆l8jfhXC/BA :2005/05/08(日) 14:58:10 ID:jSDtGYms
 彼らが苦しむことなく殺されてしまうことなど許されない。放送で名前が呼ばれるだけの死などいらない。
 ──学校に集合したときに、彼らのことは話すべきだろう。強大な敵として。
(もし会ってしまった場合……ギギナは有無を言わずに戦いを求めるだろうからいいのだけど……問題はガユスね)
 あいつのことだ。こちらと同じように、誰かと協力して脱出を企図しているだろう。
 彼と出会えば、瞬時に自分の思惑が露見される。……そうなれば、かなりややこしいことになる。
(どちらにしろ……こいつは邪魔ね)
 脱出するにしろ殺す側に回るにしろ、ゼルガディスは障害でしかない。ここまで疑われていては信頼を取り戻すことは不可能だ。
 他の五人からはきちんと信頼を得て、保持していかなければならない。
 そして、最終的には隙をついて彼を殺す。
 ──と、ゼルガディスが調査を終えてこちらを向いた。
「特に何もない」
「そう。この人の支給品も持って行かれてしまったみたいね。まだ時間に余裕があるから、北東の方の商店街に行きましょう」
「──待て」
 刹那、ゼルガディスが剣を抜き、白の切っ先をこちらの首に向ける。
 予想していたことなので特に抗わず、クエロはそのまま彼を不快感と不安の混じった目で見つめた。
「……何のつもり?」
「聞きたいことがある」
「尋問ってわけね。……脅すなら、その刀身は取った方がいいんじゃないかしら?」
「……」
 彼の表情に一瞬驚愕と焦りが見えた。予想は当たっていたようだ。
(……やっぱりね。あの剣には何かある)
 皆の前で武器を見せたとき、彼は“普通の剣”と言っていた。
 サラが言うには何か魔力のようなものが感じられたらしいが──詳細は不明とのことだ。
(魔力と言うからには、ゼルガディスが“普通”というのは少しおかしい。
……それに、無作為に渡される武器は、他の参加者の持ち物から選び出されている可能性がある。
彼がこの剣の本来の持ち主かも知れない)

157 Tightrope Walkers(3/6) ◆l8jfhXC/BA :2005/05/08(日) 14:59:45 ID:jSDtGYms
 咒弾。自家製だというせんべい。そして、“知り合い”。
 七人中三人、という的中率は微妙だが──わざわざ百人以上の武器をどこかから調達してくるよりは、参加者から奪ったものを渡した方が効率がよい。
(そして、何らかの条件で選び出された参加者達。彼らの所持品は、他人に取っては不可解で特殊なものの可能性が高い)
 普通の剣や銃器が支給される確率の方が低いのではないだろうか? 今持っているナイフも、何らかの効果があるのかもしれない。
 ──仮説の上に仮説を重ねた、稚拙な空論。だが、鎌を掛けるには十分だった。
「……確かに、この剣の刀身と柄を分けるための針も鞄の中に入っていた。
刀身、あるいは柄が何かの効力を持っているとは思う。だがそれ以上はわからない」
「たとえば──何らかの方法で、柄から魔力の刀身が生えてきたりしてね?」
 架空小説のような人物が何人もいる世界だ。そんなものがあってもおかしくはない。
「その可能性もあるな」
 あくまでしらを切り通すようだ。──何にせよ、あの剣は要注意だ。
「それをなぜ、支給品を確認したときに言わなかったの?」
「俺はまだ全員を信用していない。……お前こそ、何故その弾丸のことを隠す?」
 その切り返しも予測済みだ。もちろん、素直に話す気はまったくない。────もっとややこしくしてやろう。
「隠してなんかいないけど? 私は本当にこの弾丸のことを知らない。…………そうね、仮説はあるんだけど」
「……言ってみろ」
「まず、この弾丸が私達の知らない特殊な銃器に対応するものの場合。これはあまり考えられないと思うの。
弾丸がここにあるってことは、その特殊な銃器は使えないわけでしょう?
弾丸のない銃器という、“はずれ”として支給する場合もあるだろうけど……それなら、もっと普通の銃器を選ぶはず。
主催者ならば、そんな特殊な武器があるならそれを使って存分に殺し合ってもらいたいだろうし。
弾丸だけもらった側としても、まったく使えないし意味がないから、捨てられてしまう可能性も高い。
そもそも、ここには銃器を知らない人もいるもの」
「……」

158 Tightrope Walkers(4/6) ◆l8jfhXC/BA :2005/05/08(日) 15:00:43 ID:jSDtGYms
「ここからが本題。私はこの弾丸を、何らかの──たとえば脱出の手段としての“鍵”だと考えるわ。
……ええ、もちろん普通は鍵なんてこんな形はしていない。でも、だからこそ。
不要な者としてすぐ捨てられそうなものを“鍵”──つまり、一種の希望として支給品の中に放り込んでおく。
いかにもあの趣味の悪い主催者のやりそうなことじゃない?」
「飛躍しすぎている」
「わかっているわ。“鍵”は確かに極論だけど──私は、この弾丸を単体で効果を持つ特殊な道具と考えているの。
それこそ何らかの魔法で動く武器かもしれない。どちらにしろ、かなり特殊なものだと思うわ」
「それをなぜ、あのときに言わなかった?」
「長い仮説を唱えても議論は進まないでしょう? ……もちろん、私はみんなを信じているわ。あなたと違って、ね」



(確かにその可能性はあるが……やはり信用できん)
 こちらを牽制するように微笑するクエロを見て、ゼルガディスは胸中で舌打ちした。
 光の剣のことを見破られたことは厄介だが、それでもこちらの優位は変わらない。
 この状況なら、殺そうと思えばいつでも殺せる。だが、二人きりになった途端に彼女が死体になるのは露骨すぎる。
(この死体を殺した奴のように、こいつが手のひらを返して裏切る可能性は十分にある)
 そんな怪しい輩を、脱出という目標を掲げる同盟に入れておく訳にはいかない。
 もちろん、クエロに言ったように彼女以外の全員も完全に信じたわけではない。だが、彼女よりはましだ。
(こいつは冷静すぎる。この状況の中で──なぜそんなにも“主催者”視点で物事を考えられる?)
 まるで────自らも駒であるくせに、他の駒を操る“指し手”として考えているような。
 やはり底が知れない。完璧すぎる。
(ボロが出るまで待つのは長すぎる。……ならば)
 ──“いるにはいる”という彼女の知り合い。言い方からして、どうやら味方ではないらしい。
(そいつらとできれば接触して、情報を得たい。こいつ以上にたちが悪い相手かもしれんが……会う価値はある)
 彼らと協力して、クエロを追い出すこともできるかもしれない。

159 Tightrope Walkers(5/6) ◆l8jfhXC/BA :2005/05/08(日) 15:01:31 ID:jSDtGYms
(おそらく次の放送で集合したとき、そいつらのことを話すだろう。
何割かは本当のことが混じっているかもしれないが……信用できるわけがない)
 ──クエロの言動と挙動を見極め、そしてクエロよりも早く彼らと接触する。それが今考えられる一番の対策だった。
(リナとアメリアを探すことも重要だが……不安要素は早めになくした方がいい)
 そう結論づけて、剣を納める。この場は引くしかない。
 クエロは一息ついて、
「……二人で疑い合っていても先に進まないわ。とにかく今は、周辺の探索を進めましょう」
 そう言った。────確かに、今は一挙一動を監視していくしかない。
「わかった」



(次の放送が分岐点ね。さて、どうでるかしら?)
(次の放送がポイントだ。さあ、どうでる?)



綱渡りはまだ、終らない。

160 Tightrope Walkers(6/6) ◆l8jfhXC/BA :2005/05/08(日) 15:02:57 ID:jSDtGYms
【E-1(遊園地前商店街)/1日目・10:00】
【七人の反抗者・周辺捜索組】

【クエロ・ラディーン】
[状態]: 健康
[装備]: ナイフ
[道具]: 支給品一式、高位咒式弾
[思考]: C-3商店街へ。集団を形成して、出来るだけ信頼を得る。
    +自分の魔杖剣を探す→後で裏切るかどうか決める(邪魔な人間は殺す)
[備考]: 高位咒式弾のことを隠す

【ゼルガディス・グレイワーズ】
[状態]: 健康、クエロを結構疑っている
[装備]: 光の剣
[道具]: 支給品一式
[思考]: C-3商店街へ。リナとアメリアを探す
[備考]: 光の剣のことを隠す

161 フラジャイル・ベイビー(依存する子供)(1/3) ◆l8jfhXC/BA :2005/05/08(日) 15:03:39 ID:jSDtGYms
 一度目。売られそうになって、眼を調べられた。
 ……村人が大勢死んだ。実父母が自殺した。──でも、ベスポルトがいた。
 二度目。養父となったベスポルトが重傷を負った。黒衣に殺されそうになった。
 ……村人が大勢死んだ。黒衣が死んだ。──でも、サリオンがいた。

 三度目。─────────────────────────────誰もいない。


 夢と現実の境界線を放浪する。熱と寒気と痛みが身体を侵す。
 はっきりと意識を自覚することも出来ず、深く眠ることも出来ない境界の虚ろ。
 何回目の夢なのか、あるいは何回目の現実なのか、それを考える暇もなく、フリウ・ハリスコーは静かに落ちていった。
 ただ、もうそこには────無力な子供は、いなかった。



 そこは荒野だった。生えていた草が蹂躙され、荒れ果てた土地。
 そこには死体があった。髭を生やした偉丈夫が死んでいる。
(父さん?)
 数ヶ月前に、帝宮の人工林で死んだはずの父──養父。ベスポルト・シックルド。
(……じゃあ、これは夢だね)
 数ヶ月前の、約束を守れなかった自分がいる夢の世界。信じる方法がわからず、彼を守れなかった自分。
 ──両目を閉じて眠る、その骸の顔に手を触れる。
 夢だからであろう、温かくも冷たくもなく、曖昧な感触だけが指先に伝わった。
 ただ屍臭だけがはっきりと鼻を刺激している。血はもう流れていない。
(……あれ?)
 夢だから──いや、それとは違う違和感がある。何かが曖昧なところにいるような、気持ち悪い感覚。
 血は流れていない。それでいいはずだ。
(えっと……)
 血は流れていない。
 血は流れていない。
 血は流れて──────いない?

162 フラジャイル・ベイビー(依存する子供)(2/3) ◆l8jfhXC/BA :2005/05/08(日) 15:04:25 ID:jSDtGYms
「あ」
 気づく。手を触れている顔は養父のものではない。
 髭を生やした偉丈夫。だがまったくの別人だった。──彼は、自分が殺した、
「あ、」
 思わず手を引っ込める。刹那、
「────っ?!」
 首がごろりと転がり、見開いた眼がこちらをのぞき込む。今更のように、血が流れ出した。
「あ────」
 あっという間に鮮血が足下を包む。温かくも冷たくもなく、曖昧な感触が伝わった。
 赤い液体は荒野を蝕み続ける。男の目がじっと見ている。ちぎれた首の付け根から白い骨が



「あああああああああああああああああ!」
 自らの絶叫で飛び起きた。
 最初に目に入ったのは赤ではなく、鮮やかな木々の緑だった。──血は流れていない。
(夢……だよね)
 実際には念糸で遠距離から殺した。血には触れていないし、骨も見えなかった。……今のはすべて妄想だ。
「でも、殺したのは現実。それからは逃げちゃいけない。忘れちゃいけない……」
 自分に言い聞かせるようにつぶやく。
 荒い息が収まらない。心臓の音がうるさい。悪寒がする。屍臭が相変わらず鼻を刺激している。
(…………あれ? 臭い?)
 ──これは夢ではない。だが、辺りには今まで気づかなかったのが嘘のような、濃厚な血の臭いがただよっていた。
(近くに、死体がある)
 見に行くべきだろうか?
 殺人者は、自分を見逃しているほどなので近くにはいないと思うのだが──やはり、まだ身体を動かす気にはなれなかった。
(死体って言えば……あたし、放送聞いてないね)
 死者の名前を無慈悲に羅列するという放送。気絶から即座に戦闘に巻き込まれていたので、ずっと忘れていた。
(あの人は……大丈夫だよね。呼ばれてないよね?)
 ミズーが死ぬことなど信じたくない。
 だが、辺りを包む屍臭が否応なく“死”を連想させてしまう。
(死ぬわけがない。武器なんてなくても、あの人は十分に戦える。……でも、さっきみたいな人とかと会っちゃったら……、
────だめだ、そんなことを考えちゃいけない。あたしは信じなきゃいけない)

163 フラジャイル・ベイビー(依存する子供)(3/3) ◆l8jfhXC/BA :2005/05/08(日) 15:05:26 ID:jSDtGYms
 一度不安を持ってしまうと、それが膨らむのは容易だった。
 疑念を抱く自身を責めるように、心臓の音がうるさく身体に響く。
(…………確かめるだけ。それで落ち着くなら、その方がいい。確かめるだけ。あたしは信じてる……)
 悪寒に耐えるように身体を抱いて、立ち上がる。
「────!」
 途端に、今まで消えていた火傷と骨折の痛みが身体を責めた。熱い。痛い。寒い。
「確かめるだけ、あたしは信じてる……」
 そのつぶやきの声は、自分でも驚くほど小さかった。


 言葉も動作も存在する、現実の世界で。
 フリウ・ハリスコーはふたたびそれらを拾って歩き出した。
 先程殺人を犯した時と、同じ理由がきっかけになっていることには気づかずに。
 ミズー・ビアンカの存在だけが、今の彼女を支えているとは気づかずに。
 そしてここでは、それがどんなに脆いものなのかわからずに。



【A-5/森の中/11:40】
【フリウ・ハリスコー】
[状態]: 精神的に消耗。右腕に火傷。顔に泥の靴跡。肋骨骨折。
[装備]: 水晶眼(ウルトプライド)
[道具]: デイパック(支給品一式)
[思考]: 屍臭のする方向へ
[備考]:第一回の放送を一切聞いていません。茉理達の放送も聞いていません。
 ベリアルが死亡したと思っています。ウルトプライドの力が制限されていることをまだ知覚していません。

164 血を分けた者の死神と(1/9)◆1UKGMaw/Nc :2005/05/08(日) 18:06:53 ID:3ABiJhFQ
「いや、見たことねぇ」
「悪いけど、僕も知らないな」
 風見千里やカイルロッド等、探し人の容姿を聞いた返答がそれだった。
「そうか……いや、ありがとよ」
 零崎人識といーちゃんの言葉に出雲覚は内心落胆を覚えたが、表面上は笑みを浮かべて礼を言った。

 結局誰も自分達の求める人と出会ってはいなかった。
 いや、約一名ずっと寝ている少女がいるが、起こすのもなんだし、「あー、聞いても多分無駄だぜ。頭痛くなるだけだ」
という零崎の言葉に不穏なものを感じたので彼女には聞いていない。
 凪には、ここに来る道中確認した。

「邪魔したな。んじゃ行くか、アリュセ」
 そう言って尻の汚れを払いつつ立ち上がる。
「え、もう行くのかい?」
「おう、愛しの女が待ってるんでな」
 いーちゃんの言葉に覚はにやりと笑ってみせる。
「よくそんな恥ずかしいこと真顔で言えますわね」
 なんとなく面白くなさそうな顔でアリュセがぼやく。
 その様子に零崎が、かははと笑った。
 凪が見送ろうと立ち上がる。
「そうか……俺達としては、お前らにも仲間に加わって欲しいんだけどな」
「悪ィな。千里達見つけてまた会えたら、そん時ゃ喜んで仲間に……」

 そこまでしか覚の言葉は続かなかった。

165 血を分けた者の死神と(2/9)◆1UKGMaw/Nc :2005/05/08(日) 18:07:42 ID:3ABiJhFQ
 その男は茂みの中で銃を構えていた。
 ここに来るまでに何度か試射を行い、ある程度の距離で動かない標的ならば当てられることが分かった。
 糸を使ったトラップを発見したことで人の存在を知り、その範囲から大体の位置を割り出した。
 そこに複数人が潜んでいるのは微かに聞こえる話し声で分かった。姿は見えなかったが。
 相手は複数、実力も分からない。
 だから、待った。
 狙撃できる瞬間を。
 男が立ち上がり、そして女も射線上に立ち上がった。
 そして――男は引き金を引いた。


 凪の背後、離れたところにある茂みで何かが光ったのを覚の目は捉えた。
(なんだ?)
 覚は一瞬訝しげな表情を浮かべ――次の瞬間、いきなり凪を押し倒した。
「な!?」
 ほぼ同時に聞こえる"ぎゅぼっ"という鈍い銃声。
 一瞬前まで凪がいた空間を銃弾が切り裂く。

166 血を分けた者の死神と(3/9)◆1UKGMaw/Nc :2005/05/08(日) 18:08:41 ID:3ABiJhFQ
「凪ッ!」
「覚っ!」
 二人が倒れるか倒れないかのところで、零崎がいち早く飛び出した。
 少し遅れてアリュセも。
 いーちゃんは思わず罠の木の枝を見る。
(落ちてない……!)
 周囲数十メートルに渡って張り巡らせているトラップ。
 それが反応せずに、ここが銃撃を受けている。
 とすれば結論は一つ。罠を見破られたのだ。
 と、あるものに目を奪われいーちゃんの思考は中断された。零崎も同じものに気づいて足が止まる。
「「青色ストライプ!」」
 思わずハモッた零崎といーちゃんに、凪は倒れたまま無言で石を拾って投擲。
 あやまたず額に投石を食らって二人は悶絶した。
「そんなことやってる場合じゃない。敵襲だ!」
「だったら、さっさと退け」
 射殺しそうな視線で睨まれ、覚は身を低くしたまま、そそくさと凪の上からどいた。
 ここは木の根が露出しており隠れるのに適した場所だ。
 身を低くしていれば銃撃を受けることはないだろう。
 だが――

167 血を分けた者の死神と(4/9)◆1UKGMaw/Nc :2005/05/08(日) 18:09:36 ID:3ABiJhFQ
「……ごはん?」
 今の騒ぎで起きてしまったドクロちゃんが、木の根からひょこっと顔を出してしまった。
「戯言使い!」
 とっさに凪が近くにいたいーちゃんに指示を出すが、それよりも早く銃弾が――ではなく、
「わわっ!?」
 ドクロちゃんの首に"銀色の糸"が絡み付いていた。
 そして、聞き覚えのない男の声が皆の耳朶を打つ。
「動くな。動けばこの娘は死ぬ」
 その言葉に、いーちゃんの動きはぴたりと止まった。
 振り返り、凪のほうを見る。
 凪は無言で首を振った。
「いつだって、その瞬間はこともなげに訪れる。呼びかけに答えろ、娘。そこに左目に眼帯をした娘はいるか。名は、フリウ・ハリスコー」
 ドクロちゃんの瞳に、隻眼の黒衣が目に映る。
 だが、状況を理解できていないドクロちゃんは「え? え?」と困惑するばかりだ。
「言え。さもなくば……」
 と、ドクロちゃんの表情が変わった。
「や……ひぅ、か……!」
 驚愕の表情を浮かべ、首を押さえて苦しみだす。
「やめろ! ここにはそんな娘はいない! 知りもしない!」
 飛び出しそうになる零崎を手で制しながら、凪が叫ぶ。
 同時に、ドクロちゃんの苦しみが楽になった。
 急激に乾いた喉で、必死に浅い呼吸を繰り返す。
「本当だろうな」
「本当だ!」
 男――ウルペンは思考しているのか、少し間が開いた。そして、
「……全員、そこから出て来い。出なくば、この娘の命はない」

168 血を分けた者の死神と(5/9)◆1UKGMaw/Nc :2005/05/08(日) 18:10:33 ID:3ABiJhFQ
(苦しい選択を迫ってくれる……!)
 凪はギリッと奥歯を噛み締める。
 こちらには飛び道具の類は何一つない。
 出れば皆殺しにされる危険性が高いだろう。
 だが、出なければ三塚井が死ぬ。あの苦しみようは尋常ではなかった。
「凪、今回はいいだろ? 俺が回りこんで殺ってくる」
 小声で言ってくる零崎に、しかし凪は首を振る。
「いや、駄目だ。奴も不意打ちは予想しているはずだ」
 巧妙に隠したトラップを抜けてきた実力者だ。見つかる可能性が高い。
 三塚井の命を盾に取られている以上、その選択はあまりにリスキーだった。
「しゃーねぇ、出るか」
 ばりばりと頭をかきながら覚がぼやいた。
「ちょっと、覚……」
「仕方ねーだろーが、この場合。……あとは運を天に任す」
「待て、出雲!」
 立ち上がろうとする覚を凪が押し留める。
「なんだよ、それともなんかいい手があるってのか?」
 凪は必死に何かを考えるように押し黙った。
 だが、その言葉に、今まで黙っていたいーちゃんが口を開いていた。
「ある……かもしれない」
 その言葉に全員の視線が集中した。

「もう一度言う。全員そこから出て来い。三度目はないぞ」
 ウルペンの声が再度響く。
 時間は、もう無かった。

169 血を分けた者の死神と(6/9)◆1UKGMaw/Nc :2005/05/08(日) 18:11:33 ID:3ABiJhFQ
「ほう……」
 声に従い出てきた面々に、ウルペンは内心舌打ちした。
 確かに凪達は全員姿を見せていた。
 ただし、巨木の左側からいーちゃん、頭上の枝に零崎、巨木から伸びる根の右側から他の木の背後を経由して覚、根と地面の隙間にアリュセ、
そして中央に凪、と、それぞれが離れた位置にである。
「これで全員だ。言っておくが、お前が妙な真似をした場合、俺達は全力でお前を潰す」
 中央に立つ凪が堂々と宣言する。
 ウルペンは、口の端を歪め、視線だけで相手の面々を見渡す。
 もし、ここで念糸なり炭化銃なりで攻撃を加えた場合どうなるか。
 相手の間隔が狭ければ問題はないだろう。
 だが、ここまで開いていては……この距離なら二人三人は自分のところまで到達する。
 これだけのの人数が固まっているとは予想外であった。
(考えたものだ)
 こんなところで手傷を負う気はない。
 相手としても、仲間を失う気はないだろう。
 互いに相手を傷つけたが最後、確実に互いにとって不幸なことになる布陣。
 ここでの最善の行動は、お互い無傷で収めることであった。
(仕方があるまい)
 最善の行動を選択する。
 フリウ・ハリスコーはこの状況で出てこない娘ではないと思えた。恐らく、本当に彼女はいないだろう。
 ならば、もうここに用はなかった。

170 血を分けた者の死神と(7/9)◆1UKGMaw/Nc :2005/05/08(日) 18:12:29 ID:3ABiJhFQ
 ゆっくりと後ろに下がろうとしたところで、一人の少女が目に止まった。
(……なんだと?)
 自分が殺した面妖な術を使う少女。その少女と同じ服装、同じ顔立ちをした少女がそこにいた。
(なに……? 私を見てる?)
 確実に目が合った。しかも相手はその目を逸らそうとしない。
 アリュセがその視線に負けてたじろぎかけた時、ウルペンの唇が微かに動いた。
『双子か?』
「!!」
 声は聞こえなかった。
 だが、アリュセが見た唇の動きは確かにそう言っていた。
「待って! あなた、リリアに会ったんですの!?」
 急いで根の下から這い出し、森の奥へ消えていくウルペンへ向けて叫ぶ。
 突然のアリュセの行動に、皆の驚く視線が集まった。
「……やはり、身内か。リリアというのか、あの金色の髪の娘は」
「どこで、どこで会ったんですの!?」
 足を止めずに言うウルペンに、必死の形相で問いかける。
「港町で」
 初めて得た仲間の情報に、アリュセの表情に明るみが射す。
 だが、次の一言が、その表情を絶望の色へと――
「俺が殺した」
 ――塗り替えた。

「アリュセッ!!」
 放心し、その場に崩れ落ちるアリュセに覚が駆け寄り、その小さな身体を支える。
 ウルペンは微かに口の端を吊り上げると、踵を返して森の奥へと駆けて行く。
「逃がすと思ってんのか!」
「待て、零崎!」
 後を追おうとする零崎を凪が制止する。
 ドクロちゃんの首に巻きついた念糸は、まだ解かれていなかった。
 舌打ちする零崎が待つこと数秒、ようやく念糸が掻き消えた時には、ウルペンの姿は木に紛れて完全に見えなくなっていた。

171 血を分けた者の死神と(8/9)◆1UKGMaw/Nc :2005/05/08(日) 18:14:05 ID:3ABiJhFQ
 んくんく、と喉を鳴らしてペットボトルの水をがぶ飲みしているドクロちゃんのそばで、覚は出立の用意をしていた。
「とんだ別れになっちゃったね」
 いーちゃんから自分とアリュセのデイバッグを受け取り、覚はまとめて左肩にそれを通した。
 右腕には失神してしまったアリュセを抱えている。
 覚は、市街地へ行く予定を変更し、黒衣の男が消えた方角――南へと進むことにしていた。
 方角的には戻ることになるが、城や、その西に広がる森など行っていない場所も多い。
 黒衣の男を追いつつ、仲間を捜すつもりだった。
「なら、これを持っていけ」
 凪が手渡したのは、彼女のサバイバルナイフだ。
「いいのかよ?」
「助けてもらった礼代わりだ。遠慮せずに持っていけ」
 それならばと遠慮なく受け取り、腰の後ろでズボンに挟む。
「悪ィな。さっきも言いかけたが、千里達見つけてまた会えたら、そん時ゃ……」
「お前といると無様なところばかり見られるような気がするけどな……ああ。共に脱出しよう」
 何かを思い出すような顔をした零崎といーちゃんに裏拳をぶち込みつつ、凪は答え――

 そして、凪達は去っていく二人を見送った。

172 血を分けた者の死神と(9/9)◆1UKGMaw/Nc :2005/05/08(日) 18:15:28 ID:3ABiJhFQ
【F−4/森の中/1日目・09:50】
【戯言ポップぴぴるぴ〜】
(いーちゃん/零崎人識/霧間凪/三塚井ドクロ)
【いーちゃん】
[状態]: 健康
[装備]: サバイバルナイフ
[道具]: なし
[思考]:ここで休憩しつつ、トラップにかかった者に協力を仰ぐ

【霧間凪】
[状態]:健康
[装備]:ワニの杖 制服 救急箱
[道具]:缶詰3個 鋏 針 糸 支給品一式
[思考]:ここで休憩しつつ、トラップにかかった者に協力を仰ぐ

【ドクロちゃん】
[状態]: 頭部の傷は軽症に。左足腱は、杖を使えばなんとか歩けるまでに 回復。
    右手はまだ使えません。 多少乾いています。
[装備]: 愚神礼賛(シームレスパイアス)
[道具]: 無し
[思考]: このおにーさんたちについていかなくちゃ
  ※能力値上昇中。少々の傷は「ぴぴる」で回復します。

【零崎人識】
[状態]:平常
[装備]: 出刃包丁
[道具]:デイバッグ(支給品一式)  砥石
[思考]:惚れた弱み(笑)で、凪に協力する。
[備考]:包丁の血糊が消えました。


-----------------------------------------------------------------
【覚とアリュセ】
【出雲・覚】
[状態]:左腕に銃創あり(出血は止まりました)
[装備]:サバイバルナイフ
[道具]:デイバッグ(支給品一式)/うまか棒50本セット/バニースーツ一式
[思考]:千里、新庄、ついでに馬鹿佐山と合流/アリュセの面倒を見る/ウルペンの捜索(名前は知らない)

【アリュセ】
[状態]:健康/気絶中
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:リリア、カイルロッド、イルダーナフと合流/覚の面倒を見る


-----------------------------------------------------------------
【ウルペン】
[状態]:軽傷(二の腕に切り傷)
[装備]:炭化銃、スペツナズナイフ
[道具]:デイバッグ(支給品一式) 
[思考]: 蟲の紋章の剣を破るためにフリウを探す。

173 戯言精霊の傑作殺し :2005/05/09(月) 19:56:01 ID:mhhsWZag
「んっく、んっく」
ドクロちゃんが水を飲んでいる。几帳面に音を立てて。
あの出雲さんとアリュセちゃんが立ち去ってからしばらく。
ずっとドクロちゃんは水を飲んでいる。
殺し屋から首を糸で絞められてからやたらのどが渇くそうだ。
零崎があの後、張られた糸を気づかれないように巧妙に張り直した。
僕ものどが渇いてきた。でも僕のデイパックはダナディアさんの所で失くしてしまったので、当然水も無かった。
「凪ちゃん、水のボトル持ってる?」
「俺のは三塚井にやった。飲みかけの一本は飲みきって、もう一本は今飲んでる」
「ドクロちゃんは…デイパック無いんだったね。零崎は?」
「ん? ああ俺の奴は一本は飲んだのと包丁砥ぐのに使っちまった。
 あと一本あるぜ」
ああじゃあそれを飲も──
「それじゃあ僕たちの残りの水は」
三人の気持ちが一つになった。一本。いや、ドクロちゃんの飲みかけが──
「ぷふぅ」
からん。ころころ。転がった空ボトル。どこからか吹いた風で転がる。からからと。空空と。

「いいか? ここから近くて水が採れそうなのは」
「湖は…飲めるかどうか分からないね。井戸も毒が入れられてないとも限らない」
「すると、この商店街か」
「やってくれるな? 零崎」
「俺しかいねーだろ?」
「全部詰めたら三キロになるけど、大丈夫か?」
「おいおい俺を誰だと思ってやがる」
「1時間以内に帰って来いよ」
「おう」
「なるべく殺すなよ」
「そりゃ保障できねーな。かははっ」
「おい!」

174 戯言精霊の傑作殺し :2005/05/09(月) 19:57:03 ID:mhhsWZag
「じゃ、行ってくるぜ」
「ちっ…」
「あれ? ドクロちゃんが落書きしてるのって」
「零崎の…地図だな…」

「おかしーな。商店街が見えてこねぇ」
とことこ歩きながら呟く。辺りは森だった。横に普通の道が見える。
地図でもう一度確認しようとして、デイパックを探って──
探って探って探って。
地図を忘れた事を確認した。
「参ったなー。三塚井の奴に落書きされてそんまんまだったか」
一回戻って地図を持ってくるのも間抜けな話だ。
誰かに道を聞ければいいんだが…そう思ってとりあえず森を歩く。
なにやら少し先に三人組がいた。男二人女一人。
まったく用心せずに正面から近づいていく。ただし背中に隠した包丁はいつでも取り出せる。
三人の動きが止まる。先頭の目つきの悪い黒ずくめの男が警戒心丸出しで半身ずらすのが見えた。
「よぉあんたら。ちっとばかし道を聞きてーんだけど──つっても人せ──」
突然正面の男のデイパックの中から、青い虫のようなものが飛び出して語りだした。もちろん人生について。
「道を聞きたいと。そもそも道なんてのは人や場所や考えについて回るものだ。
 人ならば人道。街ならば街道。剣ならば剣道。沼なら沼道か?
 他人の作った思想の道を歩かないで済む方法を知ってるか?地位とほんの少しの勇気でいい。
 なんとも無いことをなにか有り気に言い切る勇気と、なんとも無いことなのに何故か重く聞こえるほどの地位だ──
 っておう。 それで思い出したけど何故あの占い機甲軍団は退屈なことばっか呟くのに、それを皆真に受けまくってあたふたせねばならんのだ」
「…先に言われちまった。戯言のように傑作だな」
笑みを深めて零崎は呟いた。
戦闘体勢をとってた黒ずくめのオーフェンは肩を落として声を上げた。
「頼むから、こいつに語り掛けないでくれ…」
それから数分間、オーフェンが止まらないスィリーをポケットに詰めるまで──
その『道』についての演説(内容はどんどん変わっていったが)は続けられた。

175 戯言精霊の傑作殺し :2005/05/09(月) 19:58:08 ID:mhhsWZag
【キーフェンを出よう!-from the aspect of ENJOU-】
【残り85人/E6/森の中/1日目/09:55】

【宮野秀策】
[状態]:健康
[装備]:自殺志願(マインドレンデル)・エンブリオ。
[道具]:通常の初期セット。
[思考]:刻印を破る能力者、あるいは素質を持つ者を探し、エンブリオを使用させる。
   :この空間からの脱出。 状況様子見

【光明寺茉衣子】
[状態]:健康
[装備]:ラジオの兵長。
[道具]:通常の初期セット。
[思考]:刻印を破る能力者、あるいは素質を持つ者を探し、エンブリオを使用させる。
   :この空間からの脱出。 状況様子見

【オーフェン】
[状態]:精神的に疲労気味、いろんな意味で。行動には支障なし。 偏頭痛。
[装備]:牙の塔の紋章×2
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1本、パンが更に減っている)、獅子のマント留め、スィリー
[思考]:クリーオウの捜索、仲間を集めて脱出(殺人は必要なら行う) コイツどうしよう。スィリー黙れ。
※第一回放送を冒頭しか聞いていません。

【零崎人識】
[状態]:平常  迷子。
[装備]: 出刃包丁 (隠し持ってる)
[道具]:デイバッグ(空のボトル三個)  砥石
[思考]:惚れた弱み(笑)で、凪に協力する。 水を汲みに商店街まで。道を聞く。11時までには戻りたい。
[備考]:包丁の血糊が消えました。

176 戯言精霊の傑作殺し :2005/05/09(月) 20:00:02 ID:mhhsWZag
──────────────
【F−4/森の中/1日目・09:55】
【戯言ポップぴぴるぴ〜】
(いーちゃん/(零崎人識)/霧間凪/三塚井ドクロ)
【いーちゃん】
[状態]: 健康
[装備]: サバイバルナイフ
[道具]: なし
[思考]:ここで休憩しつつ、トラップにかかった者に協力を仰ぐ 零崎を待つ

【霧間凪】
[状態]:健康
[装備]:ワニの杖 制服 救急箱
[道具]:缶詰3個 鋏 針 糸 支給品一式
[思考]:ここで休憩しつつ、トラップにかかった者に協力を仰ぐ 零崎を待つ

【ドクロちゃん】
[状態]: 頭部の傷は軽症に。左足腱は、杖を使えばなんとか歩けるまでに 回復。
    右手はまだ使えません。 乾きは大体治りました。
[装備]: 愚神礼賛(シームレスパイアス)
[道具]: 無し
[思考]: このおにーさんたちについていかなくちゃ
  ※能力値上昇中。少々の傷は「ぴぴる」で回復します。

備考:水が残り1リットルしかありません。

177 戯言精霊の傑作殺し(1/4)修正案 :2005/05/09(月) 22:21:13 ID:mhhsWZag
「んっく、んっく」
ドクロちゃんが水を飲んでいる。几帳面に音を立てて。
あの出雲さんとアリュセちゃんが立ち去ってからしばらく。
ずっとドクロちゃんは水を飲んでいる。
殺し屋から首を糸で絞められてからやたらのどが渇くそうだ。
零崎はあの後、張られた糸を気づかれないように巧妙に張り直したようだ。
「今度こそバレずに引っかかるはずだぜ」
零崎と他愛の無い会話をしているとさっきの男との事がまた浮かんできた。
─あの時あの男が殺人行動にでたら
─最初の弾丸が凪ちゃんに当たってたら
─ドクロちゃんを絞める糸に力が加えられてたなら
物騒な想像をしていると口の中が乾いてきた。
でも僕のデイパックはダナディアさんの所で失くしてしまったので、当然水も無かった。
「凪ちゃん、水のボトル持ってる?」
「俺のは三塚井にやった。俺の飲みかけの一本は飲みきって、もう一本は今飲んでる」
「ドクロちゃんは…デイパック無いんだったね。零崎は?」
「ん? ああ俺の奴は一本は飲んだのと包丁砥ぐのに使っちまった。
 あと一本あるぜ」
ああじゃあそれを飲も──
「それじゃあ僕たちの残りの水は」
三人の気持ちが一つになった。一本。いや、ドクロちゃんの飲みかけが──
「ぷふぅ」
ドクロちゃんは飲み終わったボトルを地面に置いた。
からん。ころころ。転がった空ボトル。どこからか吹いた風で転がる。からからと。空空と。

「いいか? ここから近くて水が採れそうなのは」
「湖は…飲めるかどうか分からないね。井戸も毒が入れられてないとも限らない」
「すると、この商店街か」
「やってくれるな? 零崎」
「俺しかいねーだろ?」
「全部詰めたら三キロになるけど、大丈夫か?」
「おいおい俺を誰だと思ってやがる」
「1時間以内に帰って来いよ」
「おう」
「なるべく殺すなよ」
「そりゃ保障できねーな。かははっ」
「おい!」

178 狂戦士の会合・改改  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b> :2005/05/09(月) 22:52:02 ID:Hw7b583Y
森の中を男が歩いている。
彼の体には血が付いているが顔には
とても今さっき人を殺したとは思えない笑みを貼り付けている。
『ちっ、さっきのガキとっとと殺っちまったかのはまずったなぁ、
もうちょっと楽しんでから殺すんだった。
にしても、どいつもこいつも馬鹿みたいに馴れ合いやがって・・・反吐がでるぜまったく。
やっぱカシムの野郎も奴らみたいになってんだろうな、
全く腑抜けたもんだ。』
言葉と共に益々笑みを深くする。
そしてついには目の前にまるで本人がいるかのように呟く。
「とっとと本性現しちまえよ、一緒にゲームを楽しもうぜカシムゥ。」

ふと向かい側の方に人影が見える。
相手が視認する前に茂みの深いところに入って息を潜める。
気配を消しもせずにまるで散歩をしているかのように歩き回っている。
『おめでたい獲物はどこにでもいるもんだな。
次はキチンと楽しまねえとよ!』
先ほど殺した相手から奪い取った銃を
ためらいなく撃つ、距離は10m、弾は相手の体を貫いた筈だった。
だが少年は気にすることもなく歩みを止める気もない
よく見ると相手に残り1m程のところで弾丸は止まっている
『ああん?どういうことだ?』
驚きと共に呟く。
危険な予感がガウルンに逃走という選択を薦める。
彼がその予感に従おうとしたとき、向こうから声がした。
「隠れてないでてきたらどうだ?」
敵の目はガウルンをしっかり捉えていた。
銃弾の飛んできた方向から位置を掴んだらしい。
「あらら、ばれてんのかよ…!」

姿を表すと同時に3発放つ、乾いた音と共に凶弾が敵を襲う!
だが先ほどと同じ攻撃が効くはずもない、
同時にガウルンは敵に接近しながら義手の充電を始める。
「ほう…おもしろそうなおもちゃだ。」
その男の姿はごく普通だった、
体にフイットした服には土一つついていない、
見ると彼の歩いてきた場所には道が出来ている、
ぽっかりと開いた空間はどう見ても人為的なもので
その道は少年の1m程前で止まっている。
まるでその位置を境界として2つの世界が存在しているようだった。
そして全ての銃弾はその境界を越えることができず、
全て消滅してしまった。
だがその様を見てなおガウルンは充電をやめない、
敵の常識で計り知れない能力を
ラムダドライバと同タイプのものと判断したのだ。
そしてそのタイプの能力ならその力を超える物理的な力をもってすれば
打ち破れる、そう判断した。
「ああ…俺にはもってこいのおもちゃだぜ!」
強烈な一撃を敵の顔面に向け放つ、
骨すら残るまいとガウルンは確信した。

179 狂戦士の会合・改改  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b> :2005/05/09(月) 22:52:47 ID:Hw7b583Y
…だが現実は違った。
彼の義手は敵まであと10cmのところまで迫った、
だがそこで拳は止まり、電撃が周りに迸る。
その電撃が作用して目の前にある不可視の壁をガウルンの目が捉えた。
そして次の瞬間、彼の義手が弾ける。
「ちっ!?」
思わず舌打ちをする、これでガウルンの勝機はなくなった。

「どうした、まさかそんなもので俺を殺せると本気で思っていたのか?」
冷ややかな目で見下ろす敵の雰囲気は普通の少年のそれとは明らかに異なっていた。
「普通思うぜ、まったくよ!」
義手のない手を押さえながら背を向け逃亡を試みる。
だが急に足から力が抜け、その場に崩れ落ちる、
そしてガウルンは見た、目の前に転がる自分の足を。

ガウルンの顔に恐怖はなかった、
ただ苦虫を噛み潰すような表情が広がっていただけだった。
「そんな程度で自惚れていたのか?お山の大将にもほどがある。」
「…猿と同じ扱いとはひどいんじゃないかい?」
ガウルンは強がりを見せた。
対し少年はフン、と鼻を鳴らす。
「まあこれ以上生かしておいても意味はなさそうだ、
貴様は始末することにした。」
少年から出た言葉は絶対的な死刑宣告だった。

「ん?どうした?祈る時間ぐらいはくれてやるぞ?」
ガウルンは観念した、敵は見逃すつもりはないようだ。
「ああ、そんじゃあ《哀れな聖者に殺戮の加護を》とでも言っておくかな、
クックック。」
ガウルンは笑い始めた、少年が右手を振りかぶる。
『どうやらここで終わりみたいだな、愛してるぜカシムゥ、続きは地獄で…』
彼の思考が途切れた。
「まあそこそこに楽しめたな…
さて、俺と対等なものは一体どこにいるんだ?」

歩いていく彼の後ろには左腕と右足、そして首のない死体が一つ、
赤い花のように咲いていた


(A-5/1日目/4:45)
【死者】ガウルン
【残り人数】96人


【フォルテッシモ】
【状態】やや不機嫌気味。
【道具】ラジオ
【装備】荷物一式(食料は回復する。)
【思考】 強者を倒しつつユージンを探す、一般人に手を加える気はない。

2005/05/09
全面的に校正、ガウルンにぽさを。

180 人界の魔王は斯く詮ずる(1/3) </b><font color=#FF0000>(uJKJ5sPs)</font><b> :2005/05/09(月) 23:45:58 ID:pSENnXOc
 学校の一階、保健室。
 数時間前に一人の少女が寝ていたベッドに、今はクリーオウが横になっている。
 その寝顔を無表情に見やり、空目は手にしていた本を閉じた。
 机の上に置いてある地図や名簿を改めて見る。
 空目のデイパックはサラから開けることを禁じられているため、クリーオウのものだ。
 先ほどの会議で初めて見たが、そこには看過できない文字があった。
(十叶先輩――魔女、か)
 このゲームの主催者側ではないのかと思っていたが、彼女も“参加者”のようだ。
 だが、それならば自分のようにじっとしている人間ではないことは分かっている。
(とはいえ、それほどの脅威にはならないか……?)
 何しろ参加者達の国が違い、世界が違う。
 魔女の脅威は“異界”にあるのだから、そもそも知識基盤の違う人間の集まるここでうまく立ち回れるとは思えない。
 共通の物語を多人数に植え付けなければ異界は生まれない。
 そして何らかの手段で感染させようとしても、魔女には自分と同じく直接的な戦闘能力がない。
 物語をばらまく前に殺人者に殺されるであろうことは容易に推測できる。
 ならば仲間を作れば危険だろうかと思い、その可能性も否定。
 自分の場合は協力者を得ることが出来たが、生まれながらに発狂している彼女とまともにコンタクトを取れる人間などいはしないだろう。
 だが、一回目の放送でその名前が呼ばれることはなかった。
 隠れているのか、たまたま殺人者に遭わなかったのか。
 魔女の暗躍を否定する要素が揃ってるとはいえ、確定はしていない。
 仮に次の放送でも呼ばれなければ、再び集まった皆に言う必要がある。

181 人界の魔王は斯く詮ずる(2/3) </b><font color=#FF0000>(uJKJ5sPs)</font><b> :2005/05/09(月) 23:46:57 ID:pSENnXOc
(皆、か。俺も自分の立ち位置を決めなければならんな)
 椅子の背を軋ませ、空目は腕を組む。
 目を閉じ、結論に至るまでに要した時間はわずか十秒。
(選択肢が広がった以上、生存を選ぶのが妥当か)
 別に死んでも構わないと思っていたが、生き延びられるならそれに越したことはない。
 万が一、自分が死んで魔女が帰還するなどということがあっては目も当てられない。
 自分が死ねばあやめは空目家で永遠に自分を待ち続けるだろう。
 あやめがいなければ武巳達には異界に抗う術がなくなる。
 それは決定的な敗北を意味する。
 可能性が薄いとはいえ、刻印の解除を目指すのが最もマシだと判断した。
 何より――こちらの方が大きな理由なのだが――自分とは違う世界の人間。その知識は興味深い。
 刻印の解除に際しては多様な知識と見解が飛び交うことだろう。
(結局、異界でも屠殺場でも俺は変われんか)
 その事実に軽く鼻を鳴らし、再び本を開こうとし、
「……ん……恭一、そろそろ交代?」
 身を起こしたクリーオウが目を擦っていた。
 時間を見ると10:15。確かに交代の時間だった。

182 人界の魔王は斯く詮ずる(3/3) </b><font color=#FF0000>(uJKJ5sPs)</font><b> :2005/05/09(月) 23:47:57 ID:pSENnXOc
「ああ」
 短く答えるとクリーオウと入れ替わりにベッドに入った。
 思考のためには睡眠も必要だ。眠れるうちに眠っておくべきだった。
「じゃあ二時間……あ、放送の前になったら起こすね」
「ああ」
 平坦な声で再び返すと、目を閉じた。
 他人の体温で温まった寝台は、意外なほどに寝心地が良かった。

【D−2(学校1階・保健室)/1日目・10:15】

【居残り組:じゃじゃ馬と魔王】
【クリーオウ・エバーラスティン】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]:みんなと協力して脱出する/オーフェンに会いたい

【空目恭一】
[状態]: 健康。就寝。
[装備]: 図書室の本
[道具]: 支給品一式/《地獄天使号》の入ったデイパック(出た途端に大暴れ)
[思考]: ゲームの仕組みを解明しても良い。放送まで睡眠。
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。

*行動:交代で二時間睡眠。皆が戻ってきたら寝かせて見張り。学校を放棄する時はチョークで外壁に印をつけて神社へ。

183 Walking on the Blade </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/10(火) 00:23:43 ID:.pSpfsu2
「やられたわね」
舌打ちするパイフウ…手の傷はともかく肩の傷が酷い。
癒しの術をかけてはいるが…骨が繋がり動くようになるまでにはまだ時間がかかる。
左利きでしかも銃器使いである彼女にとって左肩の傷は命取りになりかねない。
森の中をよろよろと進むパイフウ、どこかでしばらく落ち着かなければ…。
藪を掻き分けたその先には…墓地と…そして古ぼけた教会があった。

ふらりと教会の門を押し開くパイフウ、音もなく扉は開く…
「?」
その扉の開き方に違和感を覚えるパイフウ…床に目をやる。
(足跡?)
埃の中うっすらと残る幾人かの足跡を見やったその時だった。
「!!」
真正面からの斬撃、間一髪で飛び退るパイフウ…前髪がわすかにはらりと落ちる。
そして彼女の視界には闇から溶け出してきたような黒衣の騎士が立っていた。
(この男…強い)
あの大広間で散った二人の剣士もそうだったが、おそらくは彼も火乃香に匹敵する剣士だということを、
一瞬の邂逅で彼女は肌で感じていた。
いや純粋な剣技だけならば、わずかに上を行くかもしれない。

その黒衣の男の握る刃に龍を象った大薙刀が再び唸りを上げる、今度も紙一重で回避するパイフウ
しかしその顔に満足感はない…あるのは怒り。
「どういうつもり?」
彼女は気がついていた、この男がわざと最初の一撃は紙一重で斬撃を行っていたことを…。
でなければ自分は今頃真っ二つだ。
本気であろう二撃目をギリギリで避けられたのは少し自慢したくなったが。

「敵なら討つが…だが迷い人とも限らんからな…それに主の眠りを血で汚したくはない」
平然と言い放つ黒衣の騎士、その名はアシュラム。
「早々に立ち去るんだな…そしてここの事は口外するな」
「ちょっと!殺しかけておいてそれは無いんじゃないの?」
ついつい言い返してしまうパイフウ…アシュラムの目が鋭い光を放つ。
「やめておくんだな…利き腕を怪我しているのだろう?それを承知なら俺も舐められたものだ」
苦笑しつつも水を向けてやるアシュラム。
「お互い長生きしたいだろうからな」

その言葉にふっと息を吐くパイフウ。
皮肉にも今のやりとりがパイフウに失っていた自制と冷静さとを取り戻す契機になったようだ、
無論、焦りもあるし余裕もそれほどあるわけではないが。

184 Walking on the Blade </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/10(火) 00:25:42 ID:.pSpfsu2
しかしそれでもこのお世辞にも万全とは言いがたき状況で、目の前の黒き騎士を相手にするつもりはなかった。
まして万全であってもレートはおそらく五分と五分、今の自分の力では、
死力を尽くして何とか相打ちにもっていくのがやっと、それは彼女の望む結末ではない。
スキあらば別だが、それでもこの男がスキを見せることなど期待するだけ無駄である。

ならばここは退くか?しかし、ズキリと痛む肩に顔をしかめるパイフウ、
一刻も早く落ち着いて休息を取らねば肩の傷が慢性化する危険が出てくる…、
だが、ここを出てその落ち着ける場所までたどり着けるのだろうか?
アシュラムをもう一度見るパイフウ、考えたくはないが正直このクラスがゴロゴロしてるとして、
そんな状況で往来を歩くのは自殺行為のように思えた、だから…。

「わかったわ、なら屋敷の中までは入らない、だから少しだけ休ませてくれない?」
まな板の鯉、大胆極まりない提案を持ちかけるパイフウ。
無論、彼女には彼女なりの計算もあった。
理由はわからないが彼にはここを動けない理由があるようだ、
なら自分の傷が治るまでついでに弾避けになってもらおう、もし手に余る相手が襲ってきたなら
彼を手伝って撃退するも、逆にそれに乗じるもありだ。
「その代わり誰かが襲ってきたら…出来る限りのことはさせてもらうわ」

(この女…狐だな)
アシュラムはアシュラムでとうに自分とやりあうつもりはないにせよ、
こちらの事情を察して盾にするつもりであろうパイフウの魂胆に気がついていた。
力ずくで追い払うのが本筋ではある…だがアシュラムもまたパイフウの実力を察している。
いかに手負いとはいえ一筋縄ではいかぬ相手…今の彼女ならば退けることもできるが、
捨て身の攻撃で相打ちに持ち込まれぬとも限らぬ…狐は最期の瞬間でも油断できないのだ。
それは何としても避けたい。
こちらの手の内は見せた、相手も状態が万全に戻ればおそらくは自ら退くだろう。
狐は機を見るに敏でもあるのだ。

「いいだろう…お互い死ねぬ身のようだ、ならば一時休戦といこう…入れ
 そこに立たれていては目だって仕方が無いのでな…ただし」
アシュラムは刃を床に滑らし器用に線を刻んでいく。
「この線より手前に入れば休戦協定を破ったとみなす、それなりの覚悟をすることだな」
「望むところよ…お互い長生きしたいんでしょ、少しでもね」
アシュラムの言葉に鼻白んで言い返すと、パイフウはそのまま壁にもたれて、
おもむろに銃の手入れを始めるのだった。

185 Walking on the Blade </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/10(火) 00:26:43 ID:.pSpfsu2
カチャカチャと金属の触れ合う音が教会の中に響く、
空の薬莢がパイフウの足元に転がる…ちらりと横目でアシュラムの様子を伺う…水を飲んでいる。
握った薬莢に気を込めて指で射ちだす…狙いはアシュラムの手のペットボトル。
だが、アシュラムは右手に持った薙刀の刃をわずかに軽く翻す…それだけでパイフウの指弾を確認すらせず
何事も無いように弾き返した。
薬莢はパイフウが放ったそれと寸分違わぬ軌道で彼女の手の中に戻っていく。
「悪ふざけは止めろ」
「やっぱこの程度じゃ動じないか」

軽く唇をゆがめるパイフウ。
やはり一戦交えるのは避けるべきという思いを再認識するパイフウ…しかし。
もしその時が、チャンスが来たとして自分に我慢できるだろうか?
何かがあってくれればいいと思う反面、何もなく過ぎ去って欲しいと願うパイフウ。
「ねぇ?あんたの主って…」

その時地下でなにやら争う物音、アシュラムの視線が剣呑なものに変わるが…。
『心配はいらぬゆえ、お前はそこにいるがよい…おお1人客が増えたか…ふふふ』
地下から響く声にそのまままた静かに祭壇の上に腰を下ろす。
「で、俺の主とは誰のことを言っているのだ?」
アシュラムの言う主とは、1人はもちろん今は亡き暗黒皇帝ベルド、
もう1人はこの地下に眠っている姫君のことである。
洗脳されているとはいえ、ベルドへの忠誠が消えうせたわけではない。
だがそれに変わる生きがいを与えてくれた地下に眠る姫君への忠義もまた本物。
それが一時の偽りの感情であったとしても、自分に恥をそそぐ機会を与えてくれた以上は、
この身朽ち果てるまで尽くす、たとえ本当の自分が戻ってきたとしても、
せめて夕刻までは身を挺して盾となる…それが彼の結論だった。

しかしパイフウはアシュラムの思いなど、先ほどの質問などもうすでにどうでもよくなっていた。
「何よ…こんなのがいるなんて…」
あの争いの最中一瞬だけ感じた、地下から湧き出るような恐るべき鬼気…
まるで冥界から心臓をわしづかみにされたようなそんな気がした。
あれがアシュラムがいう主…なのだろうか?

それでも何とか二の句を告げようとするが、もはや言葉は出てこなかった。

186 Walking on the Blade </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/10(火) 00:31:12 ID:.pSpfsu2
【D-6/教会/1日目・12:00】

【アシュラム】
[状態]:健康/催眠状態
[装備]:青龍堰月刀
[道具];冠
[思考]:美姫に仇なすものを斬る

【パイフウ】
 [状態]右掌に浅い裂傷(処置中)、左鎖骨骨折(処置中)
 [装備]ウェポン・システム(スコープは付いていない) 、メス
 [道具]デイバック(支給品)×2
 [思考]1.傷が治るまで休息 2.主催側の犬として殺戮を 3.火乃香を捜す

187 未定  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b> :2005/05/11(水) 01:15:13 ID:Hw7b583Y

(目標は単独で5人の暗殺、武器、弾薬の補給はなし、
制限時間は6時間、失敗すれば…彼女が死ぬ。)
相良宗介はさっきまでいた住宅街に戻っていた。
前に来たときに大体の地理は把握していた、
隠れるものも多く、人がやってくる可能性も高い、
この場所は彼にとって絶好の狩場だった。
そして宗介はとりあえずの優先すべき項目を
『武器の確保』
とした。
今の自分の装備では未知の敵

…オドーを殺した相手のような、

と戦闘になったらまず勝ち目はないだろう。
戦力差を覆すには策略が必要だが
策略を実行する武器がなければ話にならない。

宗介は端からまともに“決闘”をするつもりはなかった。
彼の身体能力はかなり高い水準とはいえ所詮は常人、
オドーのような超人がうようよいるであろう
この島では単体としての戦闘能力は低い方と見積もっていた。
(だからといってやられるわけにはいかない、
実戦は決闘ではない、策略を巡らせば必ず勝機はあるはずだ…!)
そう、彼には地の利があった。
無論地の利というのは住宅街に限ったことではない、
森の中にある毒草、
砂漠での身の潜め方、
見破られにくい罠、
彼本来の姿とはただの高校生ではない、
優秀なソルジャーなのだ。

そして彼は民家の前に絶好の獲物を発見した。
男が2人、片方は少年、
そして女が1人だった。
(人数、物腰などから見れば制圧は容易だが油断はできない。
ここは1人になったところを襲撃するのが適当か…。)
物陰に潜みつつ様子を見る、
やがて男女が
「いいかミリア。日本の伝説によれば、勇者だったら、
タンスの中身を持ってっても怒られないんだぜ!」
「泥棒勇者だね! 私たちと一緒だよアイザック!」
などと言いながら中に入り、少年が見張りとして立った。
(頃合いか…!)
疾風のごとき速さで相手に近づく、
相手が反応したときにはもう遅い、
腹部へ強烈な一撃を放ち、気絶させた。
何故殺さなかったかは自分でも分からない、
年端もいかない少年を殺すのは気が引けたのか?
なんだかんだで死体は人目についてしまうからか?
理由は分からないが気絶させた状態で引きずり、
先ほどまで自分のいた物陰に引きずり込む。
そして別の場所で予め確保していたロープで少年を縛り、
デイバックの中を確かめる。
少年の支給品は宗介を驚かせた。

188 未定 その2 </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b> :2005/05/11(水) 01:16:11 ID:Hw7b583Y
デイバックの中から出てきたのは年期の入ったギターケース、
そのケースは間違いなく放送で名前を呼ばれた仲間、
クルツ=ウェーバーのものだった。
突然目の前に現れた友の形見に戸惑いつつ、
ケースの中身を確かめる宗介。
そして中から出てきたのは彼の愛用のギター……

……ではなく、自分が選択を迫り、
そして彼がギターの代わりに手に取ったあのライフルだった。
「…クルツ…」
手にとって再び友を思い出す、そのとき後ろから声がした。
『よお、いつも通り元気なさそうだな、ネクラ軍曹。』
驚きと共に宗介が振り返る、
すると周りの風景が変わり、
白で塗りつぶされたような空間になった。
その空間の中には、クルツ=ウェーバーその人がいた。
『どうしたんだよ?化け物でもでたか?』
「おまえ…本当にクルツなのか!?」
信じられないといった調子で宗介は尋ねる、
それに対しクルツは少し怪訝そうな顔をしながら
『あたりまえだろ?こんないい男が他にいるかよ。』
と答えた。
そして宗介が軽く言葉を失っていると
『おいおい、流すだけかよ。
マオ姐さんはいいツッコミかましてくれるのに、
このネクラときたら。』
軽く手を広げ、やれやれと首を振りながら言う。
『まあいいや、端から期待してねーし。
…さて、今回は俺が死神だ、おまえに…』
その言葉を聞いた瞬間宗介は距離をとり構えをとる。
敵の誰かの催眠術にかけられたのか?
それともこのクルツ自体が化けているてきなのか?
大分この状況に慣れてきたのか、
やや非現実的な見方をしているとクルツは呆れたように声をかける。
『バーカ、早とちりすんなよ、お前の悪い癖だ。
…前にこのライフルとギターを持ってお前が現れたとき、
俺がなんていったか覚えてるか?』
クルツの問いに宗介は記憶を手繰り寄せ答える。
「…《今回ばかりはお前が死神にみえるぜ。》だったか?」
『大当たりだ、で、今回俺からの選択は…』
一拍置いてクルツは選択を口にした。

『5人の他人の命、彼女1人の命、
さあ、おまえはどっちを選ぶんだ?』

覚悟ならとうにできていた。
当たり前のことを聞く友に軽い怒りを覚えながら宗介は答える。
「今更何を聞く…、当然彼女の…」

『あの娘がそれを望んでないとしてもか?』

189 未定 その3 </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b> :2005/05/11(水) 01:16:53 ID:Hw7b583Y
「!!」
宗介は言葉を失う。
その言葉は宗介に重くのしかかった、
あえて考えないようにしていた事柄を突きつけられたから。
そう、当然彼女は望んでいない、
彼女がそういう人物だからこそ、
宗介は彼女を命がけで守ろうと誓ったのだ。
奥歯を噛み締める宗介、
その気持ちを見抜いたかのようにクルツは追い討ちをかける。

『もう1度聞くぜソースケ。5人の命…』

そのときクルツの右手に人の手が握られる、
その手は先ほど宗介が気絶させた少年の手だった。

『それとも、彼女1人の命…』

クルツの左手にコンバットナイフが握られる。
それは、宗介が今装備している武器だ。

『おまえは、どっちを選ぶんだ?』

宗介の中の葛藤、
何をするのが彼女のためなのか、
どうすれば彼女が苦しまずに生きていけるのか、
それのみを考える。
そして彼の出した結論は…。



『本当にこっちでいいんだな?』
「ああ。」
宗介の手に握られていたのは…殺戮を表すナイフだった。
『けどお前…あの娘に会えんのか?
血まみれの首を持ったままで。』
「いや、もう彼女には会わない、
俺は…彼女を幽霊(レイス)として守るつもりだ。」
宗介は彼女の前から姿を消すことを決断した。
彼は首をあの女に渡すとき、
2つの要求をするつもりだった。
1つは、彼女を誰か安全な人物の側におくこと。
そしてもう1つは…

…自分の記憶を彼女から消してもらうこと。
あの女ならそのようなことも出来るかもしれない、
そう思って考えた要求だった。
無論、交渉には細心の注意を払うつもりだ、
今度失敗すれば命はないだろう。
だが、あの女の性格を考える限りこの要求は通る気がした。
自分にこんな任務を与えた、あの女なら。

『《あの娘のために》ってことか?』
クルツは軽く哀しそうな顔をして尋ねた。
「いや、彼女だけではなく俺のためでもある。
俺は…彼女に嫌われてしまうからな。」
今までの《大嫌い》とは違う、
彼女は本気で自分を軽蔑するだろう、
それが宗介には耐えられなかった。
『そうか…。』
クルツはため息をつく、
そして…

ゴッという鈍い音が衝撃と共に宗介を貫いた。
クルツの右のパンチが彼をとらえたのだ。
倒れる宗介の胸倉を掴み、クルツは叫ぶ。
『とりあえず今はこんだけだ、続きはとっておいてやる…
今度まで自分の言ったことよく考えろ、鈍感ヤローが!』
そう言って宗介を突き飛ばす、
宗介は何故殴られたのか理解できず尻餅をつく。
そしてクルツはゆっくりと消えていった。
「まてクルツ!」
立ち上がったときには宗介は元の世界に
ライフルを持ちながら立ち尽くしていた。

(何故俺が殴られなければならない…)
「…一体俺の何が間違っている…答えろクルツ!」
天に向かって宗介は叫ぶ。
クルツが考えろと言ったこと、
それは彼が彼女の前から消えると言ったことだった。
まだ宗介は勘違いしていた、
彼女は確かに彼を軽蔑するかもしれない、
だが、決して彼のことを嫌いには、
記憶を消したいとは思わないだろう。
何故なら彼女は彼のことを…好きなのだから。
だがそのことに宗介は気づかない、
彼女にとって彼とは、彼が思っている以上に大きな存在だった。

190 未定 その4 </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b> :2005/05/11(水) 01:19:21 ID:Hw7b583Y
そのとき民家から先ほどの2人が出てきた。
それまでの思考を止め、早急に少年を殺さなくてはならない。
コンバットナイフを振りかぶり、
少年の首を容赦なく切断しようとする。
「アイザック、要…かなめがいないよ!」
「本当だ、かなめが不眠不休だよ!」


…カラン、と宗介はナイフを落とした。
(かなめ…かなめというのかこの少年は…!)
これまであえてその名を口に、
思考の中でも呼ばなかった。
もう2度と合わないことを決めたそのときから。
その名前は宗介の中に波紋となって広がる。
(この少年はかなめではない…
いや、かなめではある、だが俺の知る千鳥かなめではない!
…俺はこれからかなめを殺すのか?
そんなことできるわけがない。
だがこの少年は…)
混乱の極地に陥りながらも宗介はナイフを拾い上げる。
(この少年はかなめではない、千鳥かなめではない…。
この少年はかなめではない、千鳥かなめではない…。
この少年はかなめではない…千鳥かなめではない…!)
自分に言い聞かせ再び振り上げる、
しかしそのとき少年が目を覚ました!
「…え?……うああああああああああ!!」

少年の絶叫に宗介は我に戻る。
SOSは完全に向こうまで聞こえたようだ。
2人がこっちに走ってくる。
(くっ!今からでは殺せたとしても
首の切断が間に合わない…退却すべきか。)
少年と自分のデイバック、
そしてライフルの入ったギターケースを担ぎ逃げる。
そして少年を一瞥すると即座に退却する。


宗介は自分があの少年を殺さなかったことをどこかで安堵していた。
だが少しずつカシムと呼ばれたあの頃の感覚は戻ってきている、
次からは獲物に容赦はしない。
そんな彼が背負ったギターケースが日光を受け煌いた。
そこに宿った友の魂は何を思うのか。
それは誰にも分からない、
だがあえて予想するとすればその感情は…


【C-3/商店街/一日目、12:15】

【相良宗介】
【状態】健康。
【装備】ソーコムピストル、コンバットナイフ、
    クルツのライフル、ギターケース
【道具】荷物一式、弾薬、 かなめのディバック
【思考】かなめを救う…必ず
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【アイザック(043)】
[状態]:超健康
[装備]:すごいぞ、超絶勇者剣!(火乃香のカタナ)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:商店街で泥棒!要が見つかってよかった。

【ミリア(044)】
[状態]:超健康
[装備]:なんかかっこいいね、この拳銃 (森の人・すでに一発使用)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:そうだねアイザック!!

【高里要(097)】
[状態]:やや不安定
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:救急箱を取らないと 潤さんとロシナンテ大丈夫かな、怖かった。
[備考]:上半身は服を着ました

この作品は◆3LcF9KyPfAさんにネタ、題名を提供してもらい、
一部の台詞を名も無き黒幕さんから頂いています。
こころより感謝!

191 弾丸の選ぶ道 その1 </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b> :2005/05/11(水) 20:59:45 ID:Hw7b583Y

(目標は単独で5人の暗殺、武器、弾薬の補給はなし、
制限時間は6時間、失敗すれば…彼女が死ぬ。)
相良宗介はさっきまでいた住宅街に戻っていた。
前に来たときに大体の地理は把握していた、
隠れるものも多く、人がやってくる可能性も高い、
この場所は彼にとって絶好の狩場だった。
そして宗介はとりあえずの優先すべき項目を
『武器の確保』とした。
今の自分の装備では未知の敵

――オドーを殺した相手のような――

と戦闘になったらまず勝ち目はないだろう。
戦力差を覆すには策略が必要だが
策略を実行する武器がなければ話にならない。

宗介は端からまともに“決闘”をするつもりはなかった。
彼の身体能力はかなり高い水準とはいえ所詮は常人、
オドーのような超人がうようよいるであろうこの島では、
単体としての戦闘能力は低い方と見積もっていた。
(だからといってやられるわけにはいかない、
実戦は決闘ではない、策略を巡らせば必ず勝機はあるはずだ…!)
そう、彼には地の利があった。
無論地の利というのは住宅街に限ったことではない、
森の中にある毒草、
砂漠での身の潜め方、
見破られにくい罠、
彼本来の姿とはただの高校生ではない、
優秀なソルジャーなのだ。

そして彼は民家の前に絶好の獲物を発見した。
男が2人、片方は少年、そして女が1人だった。
(人数、物腰などから見れば制圧は容易だが油断はできない。
ここは1人になったところを襲撃するのが適当か…。)
物陰に潜みつつ様子を見る、
やがて男女が
「いいかミリア。日本の伝説によれば、勇者だったら、
タンスの中身を持ってっても怒られないんだぜ!」
「泥棒勇者だね! 私たちと一緒だよアイザック!」
などと言いながら中に入り、少年が見張りとして立った。
(頃合いか…!)
疾風のごとき速さで相手に近づく、
相手が反応したときにはもう遅い、
腹部へ強烈な一撃を放ち、気絶させた。
何故殺さなかったかは自分でも分からない、
年端もいかない少年を殺すのは気が引けたのか?
なんだかんだで死体は人目についてしまうからか?
理由は分からないが気絶させた状態で引きずり、
先ほどまで自分のいた物陰に引きずり込む。
そして別の場所で予め確保していたロープで少年を縛り、
デイバックの中を確かめる。
少年の支給品は宗介を驚かせた。

192 弾丸の選ぶ道 その2 </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b> :2005/05/11(水) 21:00:40 ID:Hw7b583Y
デイバックの中から出てきたのは年期の入ったギターケース、
そのケースは間違いなく放送で名前を呼ばれた仲間、
クルツ=ウェーバーのものだった。
突然目の前に現れた友の形見に戸惑いつつ、
ケースの中身を確かめる宗介。
そして中から出てきたのは彼の愛用のギター……

……ではなく、自分が選択を迫り、
そして彼がギターの代わりに手に取ったあのライフルだった。
「……クルツ……」
手にとって再び友を思い出す、そのとき後ろから声がした。
『よお、いつも通り元気なさそうだな、ネクラ軍曹。』
驚きと共に宗介が振り返る、
すると周りの風景が変わり、
白で塗りつぶされたような空間になった。
その空間の中には、クルツ=ウェーバーその人がいた。
『どうしたんだよ?化け物でもでたか?』
「おまえ…本当にクルツなのか!?」
信じられないといった調子で宗介は尋ねる、
それに対しクルツは少し怪訝そうな顔をしながら
『あたりまえだろ?こんないい男が他にいるかよ。』
と答えた。
そして宗介が軽く言葉を失っていると
『反応無しかよ…まあいいや、端から期待してねーし。
……さて、今回は俺が死神だ、おまえに……』
その言葉を聞いた瞬間宗介は距離をとり構えをとる。
敵の誰かの催眠術にかけられたのか?
それともこのクルツ自体が化けているてきなのか?
大分この状況に慣れてきたのか、
やや非現実的な見方をしているとクルツは呆れたように声をかける。
『バーカ、早とちりすんなよ、お前の悪い癖だ。
……前にこのライフルとギターを持ってお前が現れたとき、
俺がなんていったか覚えてるか?』
クルツの問いに宗介は記憶を手繰り寄せ答える。
「……《今回ばかりはお前が死神にみえるぜ。》だったか?」
『大当たりだ、で、今回俺からの選択は…』
一拍置いてクルツは選択を口にした。

『5人の他人の命、彼女1人の命、
さあ、おまえはどっちを選ぶんだ?』

覚悟ならとうにできていた。
当たり前のことを聞く友に軽い怒りを覚えながら宗介は答える。
「今更何を聞く…、当然彼女の…」

『あの娘がそれを望んでないとしてもか?』

「!!」
宗介は言葉を失う。
その言葉は宗介に重くのしかかった、
あえて考えないようにしていた事柄を突きつけられたから。
そう、当然彼女は望んでいない、
彼女がそういう人物だからこそ、
宗介は彼女を命がけで守ろうと誓ったのだ。
奥歯を噛み締める宗介、
その気持ちを見抜いたかのようにクルツは追い討ちをかける。

193 弾丸の選ぶ道 その3 </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b> :2005/05/11(水) 21:01:28 ID:Hw7b583Y
『もう1度聞くぜソースケ。5人の命―

そのときクルツの右手に人の手が握られる、
その手は先ほど宗介が気絶させた少年の手だった。

―それとも、彼女1人の命―

クルツの左手にコンバットナイフが握られる。
それは、宗介が今装備している武器だ。

―おまえは、どっちを選ぶんだ?』

宗介の中の葛藤、
何をするのが彼女のためなのか、
どうすれば彼女が苦しまずに生きていけるのか、
それのみを考える、そして彼の出した結論は…。


『本当にこっちでいいんだな?』
「ああ。」
宗介の手に握られていたのは、殺戮を表すナイフだった。
『けどお前……あの娘に会えんのか?
血まみれの首を持ったままで。』
「いや、もう彼女には会わない、
俺は彼女を、幽霊(レイス)として守るつもりだ。」
宗介は彼女の前から姿を消すことを決断した。
彼は首をあの女に渡すとき、
1つの要求、お願いをするつもりだった。

それは、彼女を誰か安全な人物の側におくこと。
今までの護衛方法は宗介が表から彼女を護衛し、
“レイス”と名乗る人物が彼女を影から護衛していた。
これからは自分がそのレイスとなり彼女を守る。
そして彼の要求とは自分の代わりを探してもらうことだった。
無論、交渉には細心の注意を払うつもりだ、
今度失敗すれば命はないだろう。
だが、あの女の性格を考える限りこの要求は通るだろう。
自分にこんな任務を与えた、あの女なら。

『《あの娘のために》ってことか?』
クルツは軽く哀しそうな顔をして尋ねた。
「いや、彼女だけではなく俺のためでもある。
俺は……彼女に嫌われてしまうからな。」
今までの《大嫌い》とは違う、
彼女は本気で自分を軽蔑するだろう、それが宗介には耐えられなかった。
だが彼女の元から立ち去る気はない、彼女は死ぬまで自分が守ると決めた。
これまでとすることは変わりない、表からか、裏からか、その違いだけだ。
『そうか…。』
クルツはため息をつく、
そして…

ゴッという鈍い音が衝撃と共に宗介を貫いた。
クルツの右のパンチが彼をとらえたのだ。
倒れる宗介の胸倉を掴み、クルツは叫ぶ。
『とりあえず今はこんだけだ、続きはとっておいてやる…
…今度会うときまで自分の言ったことよく考えろ、鈍感ヤローが!』
そう言って宗介を突き飛ばす、
宗介は何故殴られたのか理解できず尻餅をつく。
そしてクルツはゆっくりと消えていった。
「まてクルツ!」
立ち上がったときには宗介は元の世界に
ライフルを持ちながら立ち尽くしていた。

(何故俺が殴られなければならない…)
「…一体俺の何が間違っている……答えろクルツ!」
天に向かって宗介は叫ぶ。
クルツが考えろと言ったこと、
それは彼が彼女の前から消えると言ったことだった。
まだ宗介は勘違いしていた、
彼女は確かに彼を軽蔑するかもしれない、
だが、決して彼のことを嫌いには、
近くに居たくないとは思わないだろう。
何故なら彼女は彼のことを…好きなのだから。
だがそのことに宗介は気づかない、
彼女にとって彼とは、彼が思っている以上に大きな存在だった。

そのとき民家から先ほどの2人が出てきた。
それまでの思考を止め、早急に少年を殺さなくてはならない。
コンバットナイフを振りかぶり、少年の首を容赦なく切断しようとする。
「アイザック、要…かなめがいないよ!」
「本当だ!かなめが消えちまった!」


…カラン、と宗介はナイフを落とした。
(かなめ…かなめというのかこの少年は…!)
これまであえてその名を口に、思考の中でも呼ばなかった。
もう2度と合わないことを決めたそのときから。
その名前は宗介の中に波紋となって広がる。
(この少年はかなめではない…
いや、かなめではある、だが俺の知る千鳥かなめではない!
…俺はこれからかなめを殺すのか?
そんなことできるわけがない。だがこの少年は…)
混乱の極地に陥りながらも宗介はナイフを拾い上げる。
(この少年はかなめではない、千鳥かなめではない…。
この少年はかなめではない、千鳥かなめではない…。
この少年はかなめではない…千鳥かなめではない…!)
自分に言い聞かせ再びナイフを振り上げる、
しかしそのとき少年が目を覚ました!
「…え?……うああああああああああ!!」

194 弾丸の選ぶ道 その4 </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b> :2005/05/11(水) 21:02:11 ID:Hw7b583Y
少年の絶叫に宗介は我に戻る。
SOSは完全に向こうまで聞こえたようだ。
2人がこっちに走ってくる。
(くっ!今からでは殺せたとしても
首の切断が間に合わない…退却すべきか。)
少年と自分のデイバック、
そしてライフルの入ったギターケースを担ぎ逃げる。
そして少年を一瞥すると即座に退却する。


宗介は自分があの少年を殺さなかったことをどこかで安堵していた。
だが少しずつカシムと呼ばれたあの頃の感覚は戻ってきている、
次からは獲物に容赦はしない。
そんな彼が背負ったギターケースが日光を受け煌いた。
そこに宿った友の魂は何を思うのか。
それは誰にも分からない、
予想するとすればその感情は…

――鈍感な友の考えに対しての憤怒か、
    宿命に立ち向かうことに対しての悲哀か――



【C-3/商店街/一日目、12:15】

【相良宗介】
【状態】健康。
【装備】ソーコムピストル、コンバットナイフ、
    クルツのライフル、ギターケース
【道具】荷物一式、弾薬、 かなめのディバック
【思考】かなめを救う…必ず
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【アイザック(043)】
[状態]:超健康
[装備]:すごいぞ、超絶勇者剣!(火乃香のカタナ)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:商店街で泥棒!要が見つかってよかった。

【ミリア(044)】
[状態]:超健康
[装備]:なんかかっこいいね、この拳銃 (森の人・すでに一発使用)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:そうだねアイザック!!

【高里要(097)】
[状態]:やや不安定
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:救急箱を取らないと 潤さんとロシナンテ大丈夫かな、怖かった。
[備考]:上半身は服を着ました

195 Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/11(水) 22:10:54 ID:HpSi88X6
「うーん腹減ったあ」
空きっ腹を抱えてうろつく竜堂終、永遠の欠食児童または食欲魔人の異名を持つ彼である。
想像に漏れず、支給品のパンはとっくに胃袋の中だった。
「しかもあのおばさん、人の身体で思い切りハッスルしやがって、あー腹減ったあ」
満腹の時はいざとなればそこらへんの野草でもむしって食べればいいやと思ってたが、
空腹になってみるとどうしても躊躇してしまう、ならバッタかコオロギでも食べるか…
いや、そこまでやってしまうと何かこう人間の尊厳とかそういう難しい何かが
音を立てて崩れてしまうような、そんな複雑な気分になってしまう。
商店街に戻るのも手だったが、カーラが好き放題してくれたおかげでしばらく表街道は歩けそうにもない。
(あの頬に傷の兄ちゃん…かなりやばいな)
強者は強者を知る、一瞬の出会いだったが、終は実のところオドーよりも宗介に危険性を感じていた。
(てっきり狙いはあっちだと思ったんだけど…おばはんの考えることはよく分からん)
「でもまぁ・・・俺竜だしなぁ、うん?」
くんくんと鼻を鳴らす終、漂うのは魚を焼く香ばしい匂いだ、誘われるように終はふらふらと歩いていった。

「そうですか、愉快な方なのですね」
「新宿に用の際は、彼にガイドを頼むといい、私の名前を出せば費用も融通してくれるだろう」
話すメフィストの口元を、魚を頬張る口元をぼんやり眺める志摩子、
「食べたまえ、冷めると味が落ちる…それとも魚は嫌いかね?」
「いえ…そんな」
返事もどこか上の空だ…。
メフィストと出会って以来、数時間…志摩子は常にこんな調子だ。
完全に彼女はメフィストの美貌に魅せられてしまっていた、いや美貌だけではない。
一人の人間としても彼は充分に尊敬に値する人物だ。
ただ、道中で見つけた誰かの墓を掘り返して何かを見つけ、そしてそれ以来
時折ひどく不機嫌な表情になるときがあるのが気になったが。

「まさかな…あの禁断の秘儀を知るだけでなく、実行するものがいるとも思えぬが」
そう…今のような。
何か心配事でも?とは聞けない、もとより聞く資格もちっぽけな自分にあるとは思えない。
「大丈夫だ、君には関わりのないことだよ…ああそれから」
そんな志摩子の心の内を知ってか知らずか、優しく声をかけるメフィスト
「そこの君もだ、早く来ないと全部食べてしまうぞ」
メフィストの呼びかけに応じるように、木立ちの中から終が姿を見せたのだった。

196 Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/11(水) 22:11:42 ID:HpSi88X6
「いやあ食った食ったあ」
満足げにお腹をさする終。
「喜んでくれて何よりだ…では」
若鮎のような君の身体を隅々まで…と言いかけるメフィスト、
だがそこで何かを感じ取ったのか、身構えようとする終。
「どうしたのかね?」
「ああ…なんつーか独特の空気を少しだけ感じたんだ、いやあ多分大丈夫とは思うけど、
 竜堂家の家訓としてホモは宇宙の塵にしろってのがあるから」
まぁ、この子って鼻が利くわねと思いながら志摩子が口を開く。
「それは竜堂家だけじゃなく、田…」
「そこまでだ」
ついつい危険な領域に話を踏み込ませようとした志摩子を嗜めるメフィスト

「で、では何なんだよ?」
「あーその…つまり」
宇宙の塵になりかけた魔界医師がもったいぶってようやく応じる。
「食事代として君が今までに見てきたこと、知っていることを教えてもらいたい、
 我々が2匹食べる間に君は8匹も食べたのだからな…」

「祐巳さんが…そんな」
終の話は志摩子にとって衝撃そのものだった、敬愛する聖だけではなく親友までもが…。
やはりあの飾りをつけなくってよかった、と思いつつも
自分の代わりに親友が犠牲になってしまった、その忸怩たる思いが志摩子を締め付ける。

メフィストはさらに終から情報を引き出している。
彼がもっとも警戒する敵である美姫の動向を聞けたのも大きかったが、今はもっと重要なことを聞かねばならない。 
「それで主な戦法は何かね?」
「魔法を使うぜ、それもかなり強力な、でも注意すべきは戦場での経験値だな、力の入れ所、抜き所は
 まさに完璧だったぜ、ああいうのを歴戦って言うんだろうな…それから交渉は無理だぜ
 自分の正義に凝りかたまって、しかもまるで疑問にも思ってないからな」
「身体能力はどうなる?わかるかね」
「武術もけっこうなもんだ、けど多分つけた人間のそれに依存すると思う、俺の身体を手に入れて拾いものだって言ってたから」
「祐巳くんの身体能力はどんなものかね?」
「どちらかといえば苦手な方だと思います」
志摩子の言葉に反応する終、
「祐巳ってあの子のことか?運動が苦手?とんでもないぜ」

197 Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/11(水) 22:12:25 ID:HpSi88X6
終は倉庫での出来事をおぼろげながら思い出す、こちらは断片的にしか覚えてなかったが。
「てな具合だ、姿はちょっと変わってたけど…うん?」
これまで冷静そのものだったメフィストの顔がかなり険しくなっている。
「もっと詳しく聞かせてくれないか」

悪い予感が現実のものに、しかも最悪のものになりつつある。
終が嘘を言うとは思えない、ただの人間である彼女が。福沢祐巳が突如そこまでの身体能力を得られるものなのだろうか?
考えたくはないが…メフィストは先程の墓での出来事を思い出す
あそこに埋葬されていたのはダンピール、しかも心臓の血が抜かれていた。
となるとやはり…。
「食鬼人…」

「志摩子くん、聞きたいことがある…彼女の靴のサイズが幾つなのか分かるかね?」
「えっと」
志摩子は聞かれるままに答える。
地面に残されていた足跡、歩幅…それから手形…メフィストの頭のなかで次々とパズルのピースが噛み合っていく
「最後に、身長と体重を教えて欲しい」
志摩子が答え、パズルのピースが合わさった、そして得られた結論は…。
「気を確かにして聞いて欲しいことがある、祐巳くんはおそらく」

「どうして…どうして…祐巳さん…」
耐え切れなくなったのだろう、涙を零しながら親友の名を呼ぶ志摩子。
祐巳の気持ちは分からなくも無い…でもだからってそこまで…。
「お願いします、祐巳さんを元に!人間に戻してください!先生なら出来るんでしょう!!」
「…無理だな」
「そんな!先生に治せない病はないって聞いてます、だったら」

「ただの病ならば数秒で治してみせることもできる、だが食鬼人とは病ではない…しかし」
メフィストは志摩子の肩を持つ。
「奇妙な言い方で申し訳ないが、唯一の救いは彼女が異形の姿になっていたということだ、普通の食鬼人ならば
 そのような現象は起り得ない、そこに彼女を人に戻す鍵があるやもしれん」

だが…問題は一介の学生に過ぎぬ彼女が何故その事を、食鬼人のことを知りえたのかということだ。
いったい誰が彼女を唆したのだろうか?
「でもこんな状況だろう?仕方ないんじゃないのか?」
「確かに…それは事実だ、だが自分の心を、身体を失ってまで得る生に何の意味があるというのかね」
終を睨むメフィスト。

198 Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/11(水) 22:13:13 ID:HpSi88X6
終を睨むメフィスト。
「ここを生き延びても人生は続いていくのだぞ…君ならわかるはずだ、逆に聞くが、
 君は今の自分の力と、ささやかだが平凡で普通の暮らしとどちらか一方しか選べぬのなら
 どちらを取るかね?」
「んなもん決まってるだろ…」
そこまで言って、あっ!と声をあげる終。
「だよなぁ…」

確かに自分は人を遥かに超える身体能力を誇っているが、それを便利だと日常の中で思うことは、
ほとんどなかった…逆に余計な連中を引き寄せただけだ。
今は負ける気はしないし、今までも勝ち続けてきたが…いつまでこんなことしなきゃならんのだろうと、
思うことは多々ある…小早川のおばはんに出会ってからは特に。

「でも…私は大丈夫です、たとえ祐巳さんが」
そこで志摩子は絶句する。
終がどう考えても持ち上がらないだろうと思われる公園のベンチを蹴り上げ、
軽々とリフティングなどしてみせている。
「よっと!ほりゃ!」
鼻歌交じりに最後はベンチを真っ二つに蹴り割る。
「今の見て俺のことどう思った?」
えっ…と考え込む志摩子…その、あの…と多少の枕詞が漏れて、

「すごいって思いました」
だがその割りに表情は重い。
「正直に答えてくれ」
終の真摯な視線に耐えられず目を逸らし…そしてようやく、か細い声で志摩子は答えた。
「怖いと…思いました…ものすごく」

もし祐巳がそんな身体になってしまっているとして、
自分でもそう感じるのだ、他の見知らぬ他人がそれを知ればもっと怖いだろう。
まして彼女の家族はどう思うのだろう、我が子が人ならざる物になってしまったことを知れば…
隠し通せる物でもない、まして祐巳は隠し事が出来ない子だ。
つまりそれが代償なんだろう、どう考えても割の合う話ではない。

199 Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/11(水) 22:14:29 ID:HpSi88X6
でも…祐巳の気持ちもわかる、どうしようもないやり場の無い思いを何とかするには
力にすがるしかなかったのだろう。
「でも…皆さんのそれは強い者の理屈です!、弱くってちっぽけな私たちには
そうするしか…選べるほどの選択肢は用意されてないんです!」
「君は十分に強い、本当に大切なのはどんな過酷な状況においても誘惑に負けず己の心を見失わぬことだ」
志摩子の嘆きを微笑で包んで受け流すメフィスト。
「だいたい自分はどうなってもいいから、なんて気持ちで誰かは救えないよなぁ、あー畜生め」
足元の小石を蹴り飛ばす終、一時のこととはいえ、誘惑に乗った自分を恥じているのだ。

「あ…ごめん君の友達のことを悪く言ってしまって」
頭を下げる終、志摩子はいいんですよと力なく応じる。
「だからこそ、君がしっかりしなければならない、親友なのではないのかね?
まぁ、女同士の友情ほど信用ならず脆いものは無いと私個人は思っているのだが」
無論、君に関しては大丈夫だと思うが…と付け加えることも忘れないメフィスト。
「そう…ですよね」

やっぱり自分しかいないと思う志摩子、正直祥子様では…今の祐巳を傷つけるだけのような気がする。
紅薔薇こと小笠原祥子、表面的には優雅で大人物っぽいが、その内面は臆病な小心者だ。
「でも…私なんかで」
「君だからこそだ、君だから我々は協力したいと集っているのではないか」
メフィストの言葉に成り行きでうんうんと頷く終、もちろん志摩子に協力したいのはいうまでも無い
カーラに仕返しもできるし、一石二鳥だ。
志摩子の瞳からまた涙が…しかし今度は嬉し涙だ。
「私なんかのために…すいませんっ!ありがとうございますっ!」
「君だけのためではない、ここに集うもの全てが私の患者、そして私は医者だと
 まぁそのカーラという女性には、速やかに安楽死していただくことになるかと思うが」
泣きじゃくる志摩子に優しく語りかけるメフィスト、絶世の美男子に美少女、実に絵になる光景だ。

しかし…納得いかない人もいる。
あー畜生、そうだよ…こんな役はどうせ続兄貴とかこんなんとかばっかが持って行くんだ。
俺なんざ結局小早川…ダメダメダメそれはダメ、絶対。
うらやましげにメフィストを見る終だった。
「年齢的にいってそれは俺のポジションだろうがあ」

200 Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/11(水) 22:18:38 ID:HpSi88X6
C-4/一日目、12:30】

【藤堂志摩子】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:争いを止める/祐巳を助ける

【Dr メフィスト】
 [状態]:健康
 [装備]:不明
 [道具]:デイパック(支給品入り)、
 [思考]:病める人々の治療(見込みなしは安楽死)/志摩子を守る

【竜堂終】
[状態]:あちこちにかすり傷 
[装備]:ブルードザオガー(吸血鬼)
[道具]:なし
[思考]:カーラを倒し、祐巳を助ける

201 Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/12(木) 01:22:39 ID:Kdvo/N3A
(修正)
「祐巳さんが…そんな」
終の話は志摩子にとって衝撃そのものだった、敬愛する聖だけではなく親友までもが…。

の部分に以下を追加

最初は信じられなかった、しかし彼女が落としたというロザリオは間違いなく祐巳のものだった。

あそこに埋葬されていたのはダンピール、しかも心臓の血が抜かれていた。
となるとやはり…。
「食鬼人…」

の部分に以下を追加します。

特定の魔の血肉を取り込み、己が力とする忌まわしき外法の1つだ。
自分の存在する世界ではとうに絶えた術だが…
しかし容易かつ急激に身体能力を強化できる呪術であり、また状況から言って間違いはない
何者かがあの術を使ったのだ、しかも…

202 Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/12(木) 01:36:53 ID:Kdvo/N3A
さらに
「お願いします、祐巳さんを元に!人間に戻してください!先生なら出来るんでしょう!!」
「…無理だな」
「そんな!先生に治せない病はないって聞いてます、だったら」



「お願いします、祐巳さんを元に!人間に戻してください!先生なら出来るんでしょう!!」
「…無理だな、ただの病ならば数秒で治してみせることもできる、だが食鬼人とは病ではない…しかし」
死者すらも蘇らせる男が苦渋の表情を見せる。

に修正

それから
「君だけのためではない、ここに集うもの全てが私の患者、そして私は医者だと
 まぁそのカーラという女性には、速やかに安楽死していただくことになるかと思うが」


「君だけのためではない、ここに集うもの全てが私の患者、そして私は医者だと
 それにこれを彼女に渡さねばならないのではないかね?」
祐巳のロザリオをそっと握らせるメフィスト。
「はい!」
泣きながらもしっかりとロザリオを握り締める志摩子。
「まぁそのカーラという女性には、速やかに安楽死していただくことになるかと思うが」

に修正

203 最悪の支給品・改め・リサイクル(3/8) </b><font color=#FF0000>(aeu3dols)</font><b> :2005/05/12(木) 19:49:59 ID:dcYVsDDY
潮騒に紛れた筆談が終わってから少しすると、二人は神社へと到着した。
森に囲まれた、人気が無いがらんとした神社。
「やはり、禁止区域の袋小路に人は居ないか」
「ええ、生きた人は居ないようですね」
しかし、誰も『無い』わけではなかった。
神社の境内には、一つの死体がごろんと転がっていた。
銀色に輝く左腕を持つ、その死体の頭部は粉砕されていた。
それは、丁度3時間前にオドーに頭を叩き潰されたジェイスの死体だった。

サラは死体の数m背後の地面に屈み込んだ。
「何か見つかりますか?」
「ここに跳躍痕が有る。その姿勢と、手に握っている砕けた剣からして……」
地面を指差し、そこから死体へと放物線を示し、次に入り口の鳥居近くを指差す。
「跳躍して誰かに斬りかかろうとした所を、背後上空から何かに撃たれたようだ」
「背後上空からですか。鳥居の上に誰か居たのかもしれませんね」
鳥居を振り返るせつら。
サラは空を仰ぎ見た。
「あるいはそれこそ空を飛んでいたのかもしれない」
だが、澄み切った青い空には一片の影すら見当たらない。
例え空に何か居たにせよ、それはもうここには居ないのだ。
「どちらにせよ、今から気にする事でもないでしょう?」
「確かに。死斑と死後硬直が現れ始めている。死後2〜4時間という所か。
下手人は既に周辺には居ないと考えて良いだろう。
遭遇する事があるかも不明だ」
今考えるべきはカードキーの事。あるいは……
「しかし、限り有る資源は大切にしなければならない」
サラは、名も、顔も知らぬ首無し死体の残した物を見下ろした。

204 最悪の支給品・改め・リサイクル(4/8) </b><font color=#FF0000>(aeu3dols)</font><b> :2005/05/12(木) 19:50:43 ID:dcYVsDDY
刀身を砕かれた魔杖剣・断罪者ヨルガの柄を握りしめる。
「それ、使えるんですか? 砕けてますよ」
「心配は無用だ。わたしの世界の“杖”は魔術のシンボル以上の役割を持たなかった。
それに対し、この“杖”は本来の機能こそ失われているが、
特殊な材質で作られた魔術の増幅具とでも言うべき物のようだ。
例えこんな有様になっていても――」
“杖”を一振り。それだけで空気中の水分が凍結し、氷の球体が生まれた。
空いている方の手で氷の球体を撫でると水に変わり、蒸気に変わり、霧散する。
「――そう捨てた物では無い。悪くない使い心地だ」
「なるほど。役に立つようですね」
「そう、役に立つ」
といっても、戦力としてではない。
元々、サラの世界の魔術は杖が無くても有る程度は使用できる。
(元の世界で杖が手元に無い時は、同時に魔術を封印されている事が多かったのだが)
また、そもそもサラは、戦いにおいてあまり魔術を使わないタイプだった。
彼女の得意とする武器は知略とハッタリと爆弾なのである。
彼女が魔術をよく使う場面は、格下の相手をあしらう時か、あるいはその逆。
ここぞという時、これという事の為だ。即ち、この状況では……
(刻印の解除の為に、杖は必要だ)

それと、サラはもう一つ気になる事が有った。
砕けた刀身を頭の中でパズルのように並べ、本来の形を復元する。
この“杖”は剣の形状をしている。
だが、弾丸を篭めるような奇妙な部分が有るのだ。
まるで杖であり、剣であると同時に、銃でもあるかのように。
そして、問題となるのはその弾倉。
(賭けてもいい。クエロが持っていた弾丸がすっぽりと納まる)
無論、たまたま同じサイズなだけかもしれない。
だが勿論、そうでないかもしれない。
(刀身も持っていった方が良いだろう。魔法生物の材料にだってなる)
サラは砕けた刀身を布でくるむと、デイパックの中に放り込んだ。

205 最悪の支給品・改め・リサイクル(5/8) </b><font color=#FF0000>(aeu3dols)</font><b> :2005/05/12(木) 19:52:07 ID:dcYVsDDY
更に死者のデイパックを開封する。
「地図に禁止区域のメモが無いな。
どうやら6時より前、つまり3時間以上前に死亡したらしい。
水と食料が概ね残っている。……すまないが、頂いていこう。
おや、これは」
「どうしました?」
サラは『AM3:00にG-8』と書かれた紙と、鍵を見せた。
「どうやらわたしと同タイプの支給品は他にも有るらしい。
この男のものか、あるいはこの男が誰かから頂いた物だな」
それも、時間制限付きという、サラの物より更に制限の厳しい物だ。
「刀身に彼の物より乾燥した血糊が付いていたから、
もしかすると誰かを殺して奪った物だったのかもしれない」
「物騒な話ですね」
殺し殺され奪われる。仁義無き戦いだった。
「それで、リサイクルはもう終わりですか?」
「他に何か……いや、そうか」
サラはその問い掛けの意味に気づいた。
そう、恐らくジェイスの残した中で、最も価値のある物。
それは……
「………………死体か」

死体にまだ刻印の機能は残っているのか。
この死体をすぐ近くの禁止エリアに放り込めばどうなるのか。
あるいは、肉体が死を迎えれば、刻印は解除されるのか。
そのどれもが、これ以上無いほどに貴重な情報だ。
(だが、それは許される事だろうか?)
死者の物を勝手に頂いている以上、今更ではある。
医学を学んだ時に解剖実験に参加した事も有る。
前科無し傷害未遂の悪霊を狭い壺に押し込もうとしたり、
“本人”の許可が取れなくても死者の幻で悪人を脅かしてやろうと考えた事も有った。
禁断の死後の世界にずかずか踏み込んで見物して帰ってきた事も有った。
死者を、ではないが、罪無き恋する乙女を勝手に悪霊を呼ぶ囮にした事も有った。

206 最悪の支給品・改め・リサイクル(6/8) </b><font color=#FF0000>(aeu3dols)</font><b> :2005/05/12(木) 19:53:00 ID:dcYVsDDY
(おや、振り返ってみるとなかなかの暴れん坊だな、わたしは)
実に今更であった。
既に魂の抜けてしまったこの死体が刻印を発動させても、誰も被害を受けない。
サラは、せつらに頷きを返した。

どうせ刻印に有ると思われる発信器としての機能で、この実験はバレるのだ。
ならばいっそ、宣言をした方が良いだろう。
「そうだな。禁止区域の範囲を正確に調べたい。その死体が使えるかもしれない」
そう、単なる禁止区域の範囲を正確に知るための実験と偽った。
地図ではその正確な位置は判らない。地図自体がやや大雑把な物だからだ。
だからこの建前は、十分に納得を与える物だろう。
「では、死体の方にご協力願いましょう」
せつらの鋼線が閃いた。
それに応え、ジェイスの死体がぎこちなく起きあがる。
秋せつらの魔技は人を意のままに操る事さえ可能とし、死者すらもその手中に落ちる。
例え扱いづらい鋼線であっても、視界内で簡単な動きをさせる程度は容易であった。
「行け」
せつらが重たげに腕を振る。
死体はゆっくりと歩き始めた。
……禁止エリアへ。

「あと1歩から10歩ほどのはずだ。ゆっくりとお願いする」
「判りました。10歩進んで発動しなかったら、戻りますからね」
死体の歩みが更に遅くなる。20秒に1歩。
……2歩。……3歩。……4歩。……5歩目を踏みだそうとしたその時。
忌まわしい刻印は、形骸へと役目を発揮した。

既に破壊されたその身が更に砕かれていく。
肉体としての器のみならず、魂としての器までもが浸食され、崩れ去る。
知識の為に行われる死体の更なる破壊。それは正しく、死体の解剖だった。
刻印の発動が納まると、せつらは鋼線を引き戻し、死体を回収した。

207 最悪の支給品・改め・リサイクル(7/8) </b><font color=#FF0000>(aeu3dols)</font><b> :2005/05/12(木) 19:54:27 ID:dcYVsDDY
再利用は終わった。
実験にまで使わせてもらった死体を、データを取ってから浅く埋葬すると、
サラは、これでエリアの正確な位置が判ったと呟きながら、
この“解剖実験”により得られたデータを紙に書き込んでいた。
「少し顔色が悪いですよ」
「おや、そうか」
いつもながらの鉄面皮で首を傾げる。
そうかもしれない。彼女だって、気分を悪くする事は有る。
サラは僅かに寒気と吐き気を感じていた。
「問題無い。許容範囲だ」
間近で改めて見た、刻印のもたらす破滅は、相手が死体であっても残酷ささえ感じた。
だが、得られた情報も多い。
刻印の発動の様子。その後の破壊痕。死体だからか20秒ほど遅れた発動。
それらをしっかりとデータに纏め、紙に書き込む。

そんなサラを見やりながら考える。
(どうやら全くの冷血女でも無いようだ)
割と呑気に。せつらにとって、この実験は別に大した事ではない。
もちろん、得られた結果は重大な物だが、生憎とせつらの担当分野外だ。
サラに任せておくしかないだろう。
(よく冗談か本気か判りにくい事を言う癖は困ったものだけれど)
後腐れが無い貴方が好みだという発言の真偽は未だによく判らなかった。
冗談に思えたが、考えてみれば案外本気かもしれない。

しばらくすると、サラは顔を上げ、
びっしりと書き込まれたメモをデイパックの中にしまい込んが。
「それじゃ、行きますか」
「そうだな、行こう」
何処へ、と訊く必要は無かった。
まだ、ここへ来た最初の理由が残っているのだから。

208 最悪の支給品・改め・リサイクル(8/8) </b><font color=#FF0000>(aeu3dols)</font><b> :2005/05/12(木) 19:56:18 ID:dcYVsDDY
賽銭箱に見つけたスリットにカードキーを通す。
すると賽銭箱がガラガラと横に移動し、その下に1m四方程の穴が開いた。
さっさと下に滑り込み、周囲を見回した。そこに有ったのは……
「地下連絡通路。それに案内板付きか。当たりかな、これは」
薄暗い通路が二方向に伸びていた。
北へ。海洋遊園地地下を経て学校、そこから地下湖に続く道。
東へ。海岸の洞窟を経て城の地下、そこから地下湖に続く道。
更にその通過地点全てに出入り可能を示すマークが付いていた。
つまり、隠された出入り口がそれらの地下に有ったのだ。
「ここを通れば、学校まですぐに帰れますね」
「それどころか城に寄って、地下から様子を見て地下湖を経て帰ってもいい」
顔を見合せる。
「さあ、どうしたものだろう」「どうしたものでしょうね」
恵まれすぎて恐い。

【H−1/神社の地下連絡通路/1日目・10:20】
【神社調査組】
【サラ・バーリン】
[状態]: 健康
[装備]: 理科室製の爆弾と煙幕、メス、鉗子、断罪者ヨルガ(柄のみ)
[道具]: 支給品二式、断罪者ヨルガの砕けた刀身、『AM3:00にG-8』と書かれた紙と鍵
[思考]: 刻印の解除方法を捜す/まとまった勢力をつくり、ダナティアと合流したい
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。刻印はサラ一人では解除不能。
刻印が発動する瞬間とその結果を観測し、データに纏めた。

【秋せつら】
[状態]:健康
[装備]:強臓式拳銃『魔弾の射手』/鋼線(20メートル)
[道具]:支給品一式
[思考]:ピロテースをアシュラムに会わせる/刻印解除に関係する人物をサラに会わせる
依頼達成後は脱出方法を探す
[備考]:せんべい詰め合わせは皆のお腹の中に消えました。刻印の機能を知りました。

209 第二会放送改訂版 :2005/05/13(金) 00:30:37 ID:Dml9zD3M
ゲームに参加するものに等しく聞こえる声がある。
それは絶望と憎悪を振り撒く鐘である。

「諸君、これより二回目の死亡者発表を行う。

001物部景 010ヴィルヘルム・シュルツ 019シズ 027アメリア 075オドー  
081オフレッサー 099鳥羽茉理 103イルダーナフ 105リリア

……以上、9名だ。
次に禁止エリアの発表を行う。13:00に○○、15:00に○○、17:00に○○が禁止エリアとなる。
ふむ、先程からすると大分少ないな。何人かで同盟を組んで行動している者が多いようだが、まあいい。
しかしこれ以上殺し合いが起きないとなると困るからな、不本意ではあるがゲームの進行のために
少々フィールドに変化を与えることにした。
介入に少々時間がかかるゆえ今すぐとはいかないが、まぁその時を楽しみにしてるといい。
今一度言っておくが、これは己が生死を賭けたゲームだ。勝者はただ1人のみ、例外はない。
その事をよく考えて、殺し合いに勤しむといい。それでは諸君等の健闘を祈る」


[備考]
14:30より3時間、島内全域に雨が降る。雨が上がった後の1時間は霧に包まれる。

210 Alway look on the bright side of life </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/15(日) 01:41:48 ID:s.j4Ec7Y
あれやこれやといけ好かない男の声で放送が流れる。
そんな中、かなめは戦っていた…己の内から湧き出る渇きに。

あたし…負けないから。
だって宗介はあたしのためにやりたくも無い人殺しをやるって…決めたんだから
本当は誰も殺してもらいたくない、でも…。
またズクリと胸が痛くなる…この痛みに負けたとき、自分は消えてしまう。
自分の目の前にはナイフ…宗介が残していったナイフがある。

いざとなれば…いや今しかない。
人でなくなるくらいなら…まだ人間のままで、相良宗介の知っている千鳥かなめとして、
あたしは死にたい!
あたしは恐る恐るナイフに手を伸ばした。


ここは…どこだろう?
誰かの声が聞こえる…にじみ出る後悔に耐え切れないようなそんな悲しい声。
この声…聞き覚えがある…宗介の声だ。

「千鳥…すまない、俺はお前を救えなかった」
そんなに泣かないで…宗介
ああ、わたし死んじゃったんだ…でも宗介が生きていてくれたのなら
それで充分だよ。
だから…今度はあたしの分まで宗介に幸せになって欲しい…もういいから
あたしの視界が開ける、誰かの部屋みたいだ…こじんまりとしてるけどそれでいて
温もりのあるそんな空間、
かつて…まだ生きていたあたしがほんの少しだけ夢見たのかもしれないそんな場所。

こうなるくらいなら…もっと正直になりたかった。
テーブルの上には写真がある…そこにはあたしが写っている、学校の制服を着て
ハリセン持ってにっこりと。

そんなあたしの写真を見て…また悲しげに微笑む宗介。
そこに誰かが入ってくる。
「いよいよ明日ですね…サガラさん」

211 Alway look on the bright side of life </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/15(日) 01:42:43 ID:s.j4Ec7Y
その声を聞いた途端、あたしの痛みが大きくなった…テッサの声を顔を見た瞬間。
どうしてだろう?
テッサは親友で戦友で同志だから、宗介のことが好きなのはわかっていたはずなのに、
だからあたしが死んだらそこにいるのはむしろ自然なことなはずなのに?

これまでも危ない目にはあってきた、もし自分が死んだら宗介はどうなるんだろうと
考えたことも1度や2度ではない。
彼があたしを守るのは任務でしかないとわかっていながら…それ以上をいつの間にか
心の奥底で望んでいたあたし。

その度にテッサなら…仕方ない、テッサなら大丈夫…という思いでいつも考えを打ち切っていた。
でも、今はっきりとわかった。
逆だ…彼女だから、親友で戦友で同志だから…許せない。
私の知らない誰かなら仕方がないと思う、けどテッサだけはダメなのだということに。

でも写真の中のあたしは笑ってる、今これを見ている私は多分泣いているのに。
「雨続きが終った今夜は星がたくさん見えますね」
「そうですね…千鳥にもみせてやりませんと」
テッサはなれなれしくも宗介の隣に座って、宗介の肩にしなだれかかっている。
何それ?何してるのあんた?
でもあたしは何も出来ない、だってもうあたしは写真だから…。
写真の中のあたしはずっと笑顔のまま…ずっとこれを見ていないといけない。
そんなのってひどい!

「明日はかなめさんの席も用意しているんですよ、もちろん特等席ですよ」
「千鳥、君にこそ祝福してもらいたいんだ、俺たちの一番の同志であり友であった君にこそ」
そんなのうれしくないよ

212 Alway look on the bright side of life </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/15(日) 01:43:35 ID:s.j4Ec7Y
「そして改めて誓う、君の分まで幸せになると…こんな汚れた俺にその権利があればの話だが」
宗介はぎこちないけど、険の取れた笑顔で写真の私に話しかける。
その笑顔は…その表情は、あたしがずっと見たかった…頭の中で想像するしかなかったそんな顔で、
そしてその隣には…あたしがいるはずなのに…、
でもあたしじゃなくって…その隣にいるのは…。

「情け無い話です」
あたしの写真を見ながら、寂しげに笑う宗介。
「闇に包まれると千鳥を失ったあの地下室を思い出してしまいます…暗闇を恐れる兵士、笑い話以下です」
「なら…恥ずかしいですけど、明るいままで…」
テッサは宗介をベッドに誘う…宗介も拒まない。

「中佐に知られれば自分は個人的に銃殺刑に処されるかもしれないです」
「怖いですか?」
「いえ、望むところです…では失礼いたします」
宗介はテッサの服を一枚一枚丁寧に脱がせていく。
その強張った表情に、苦笑するテッサ。

「私に敬語とかそういうのはもうやめていただけないでしょうか?私たちはもうミスリルを除隊した身ですし」
自分で言っていて照れて赤面するテッサ、その顔は紛れもなき勝者の顔だった。
少し時間が止まったような…そんな不思議な表情の宗介、その口元は止まった時間を動かそうと
なにやら呪文を唱えているかのようだ…やがて。
「なら…たい…いやテッサ…俺のことも宗介と呼んで欲しい、千鳥がそうしていたように」

その言葉は、何よりも鋭く、そして痛くあたしの心に突き刺さる。

213 Alway look on the bright side of life </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/15(日) 01:45:46 ID:s.j4Ec7Y
やめてやめてやめてやめてやめて…
あたししゃしんのなかじゃないここにいるのにここにいるのだからおねがいやめてそれだけは、
それいったらあたし。
額縁の中の私がテッサを睨む、笑顔のままで。
あなたをゆるさない。

でもテッサには何も届かない…聞こえない…
「わかりました…宗介」
2人はあたしの見ている前で…昼間のように明るい蛍光灯の下で…口づけを交わした。
手を握りあう2人の指には指輪が光っていた。
そしてあたしの中で何かが崩れた…。

「とてつも無き朴念仁じゃの、宗介とやら」
かなめの身体を膝に乗せ嘆息する美姫…これでは女の身はとてもじゃないが持つまい。
「かなめよ、お前が見ているそれはお前が最も恐れる未来よ…お前は何を望む…
 未来を受け入れるか?それとも抗って見せるか?…それにしても」
美姫は宗介のことを思う、今時おそらく珍しく一本気な男とみた。
己の手を血に染め、忠義を尽くすその姿はまるで古の趙子龍…いやいやそんな器ではあるまい。

「せいぜい虎痴というところかの?だが罪な男よ…愛するものを泣かせまいと思うほどに、
 女は逆に傷つくというのに」
放送はいつの間にか禁止エリアのことについて触れていた。
耳を澄ます美姫。

「つい先ほどまでは、このまま奴らの手にて踊るよりは潔く朽ちるも良しと
 思うておったがの」
また夢の中で苦悶するかなめの顔を優しく撫でる美姫。
「この2人…いや3人の行く末を見届けるのが楽しくなってきたわ…遊びの時間はまだ終わらぬ」

214 Alway look on the bright side of life </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/15(日) 01:47:29 ID:s.j4Ec7Y
【千鳥かなめ】
【状態】吸血鬼化進行中?精神面に少し傷
【装備】鉄パイプのようなもの。(バイトでウィザード「団員」の特殊装備)
【道具】荷物一式、食料の材料。
【思考】苦悶中

【美姫】
 [状態]:通常
 [装備]:なし
 [道具]:デイパック(支給品入り)、
 [思考]:上機嫌

215 そして不死人は竜と飛ぶ :2005/05/15(日) 15:37:28 ID:pBSSTsig
『……諸君らの健闘を祈る』
 放送が終わった。風見は自分の地図を広げ、BBと確認しながら禁止エリア、死者の名前にチェックを入れる。
 072 新庄運切  075 オドー  そして001 物部景
 一本づつ線を引く。気が一気に滅入る。

――馬鹿なやつ、私に誰かを重ねて見て、私を庇って死ぬなんて。

 全竜交渉でも死者は出ている。風見とてただの小娘ではないし、戦場での死は初めてではない。
 だが、今回は違う、と風見は考えている。景は私をかばって、つまり私のせいで死んだのだ、と。
 彼に失礼だとは分かっていても、風見はその後悔を捨てることが出来ない。
 自分は戦闘訓練を受けていた、というのも今思えば驕りでしかなかった。
 新庄も、オドーでさえも死んでいるというのに。
 まさしくいいとこなし、と言うやつである。
 BBは何も言わない。その気遣いが風見にはありがたい。
 新庄、オドーはどんな死に様だったのか。誰に殺されたのだろうか。
 相方が無言をいいことに、風見は自分の世界に沈み込む。
 装備型のEx−stはともかく、オドーの悪臭までは取り上げられてないだろう。
 だとすると機竜さえ打ち砕くオドーすら倒れるこの島で、銃ひとつとはあまりに心もとない。
 やはり先にG−sp2を探すべきだろうか。
 戦闘とあらば文字通り飛んでくる相棒を思い浮かべ、風見は大切なことを忘れていることにようやく気づいた。
「そうだ、飛んでこれるんじゃない」
 がっくりと肩を落とす風見。どうも今ひとつ調子が出ていない。
 打撃してないのが原因ではあるまいか、と風見は半ば本気で考えた。
「まさかアンタをぶっ飛ばすもいかないわよね、痛そうだし」
 どうも自分にはガンガン突っ込めるタイプの相方が必要らしい。
「何がしたいのかは分からんが、それが賢明だろうな」
 律儀に答えるBB。悪いとまでは言わないが、こうもお堅いとさすがにフラストレーションがたまる。
 風見は深呼吸して気を取り直した、G−sp2がくればBBにも手を痛めずに突っ込める、調子も戻るだろうと考えて、
「さて、ちょっと上をチェックしといて、どこから飛んでくるのか分からないから」
怪訝な様子のBBを無視して、
「G−sp2!」
声を張った。
 一拍の間をおいて、東から飛来する衝撃音とそれにつづく風切音を二人は捕らえる。
 そして風見は、また一つポカをしたことに気付いて頭を抱えた。
 

    *    *    *


 時刻は数分ほどさかのぼる。放送のメモを終えて子爵とハーヴェイは移動の準備に取り掛かった。
 少女の遺体を野ざらしにしておくのは忍びなかったが、埋葬する時間はない。たまたま今回の放送に名前は無かったが、
次の放送でキーリが呼ばれない保障はどこにもない。最悪、今この瞬間にも彼女が死の危地に直面しているかもしれなのだ。

216 そして不死人は竜と飛ぶ :2005/05/15(日) 15:38:16 ID:pBSSTsig
「これで勘弁してくれ」
 二人は少女の亡骸を木に寄りかからせて、目をそっと瞑らせた。
【さて、放送も終わった。私は流離いの一人旅に出たいと思うのだが、君はどうするかね。尋ね人がいるのなら、協力するの
 にはやぶさかではない。かような私だが言付を預かることぐらいはできるつもりだが?】
「いや、いい。こんな状況で待ち合わせを頼むのにはアンタにも俺達にも危険だからな」
 ハーヴェイは真っ赤な自称吸血鬼のスライムにキーリの特徴と炭化銃の性質だけ教えてお別れを言った。
「アンタもしぶとさが売りなんだろうが、それでもこの島は危険だ。気をつけてな」
 子爵が赤い触手のようなものを伸ばしてきた、握手のつもりなのだろうと、彼は判断し、それを生身の手で握り返した。
 ほんのちょっぴり後悔した。 
 子爵は液体となって流れるように去っていく。彼は気取られないようにそっと手を拭きながら見送った。

「武器はこれだけか」
 その後、ハーヴェイは武器を求めてウルペンが置き捨てた長槍を手に取った。
 奇妙な形状、用途不明の突起、不可解な装甲。これも非常識な物体なのかと首をひねる。
 直後、コンソールに緑色の光がともった。
『コンニチワ!』
「ああ、こんにちわ」
 淡々と返すハーヴェイ。
『オドロカナイノ?』
「もう慣れた」
 穂首をがっくりと落とした、と思ったら今度は振り回す。誰かいるのか、とハーヴェイもそれに倣うが人影は見えなかった
『ヨンダ?』
「いや。誰もいないし、というか声すら聞こえなかったぞ」
『キコエタノ』
 疑問視を浮かべて答えるハーヴェイ。
『ハナシテ』
 言われるままに手を離してから、猛烈にいやな予感を覚えた。
『イマイクヨ!』
「ちょっと待て!」
 くるりと長槍が身を翻した。その柄を義手がとっさにつかむ。
 風船を破る、というよりアドバルーンを破るような音がして、ハーヴェイが気が付いたときには、その身ははるか上空を
飛んでいた。
「……どこに行く気だよ」
 すさまじい慣性がハーヴェイを後方に引きずる。
 地上を眼下に見下ろしながら、振り落とされないようペダルにしがみつくハーヴェイ。
 ほんの数秒の飛行後、ハーヴェイは自分が危機的状況にあるのに気が付いた。
 だんだんとハーヴェイにかかる慣性が消えていく、眼下の景色も地上からだんだんと水平線になっていく。
「おいおい、マジか」
 冷や汗が流れる。
「落ちてるぞ」

 衝撃。そして暗転。

 腕一本ですんだのは僥倖といえた。かばった腕はしばらく使い物にはならないが、行動不能よりはましである。
 ここは建物の内部、あたりには瓦礫が散らばっていて、天井に開いた穴から青い空が見えていた。
 しばらくの黙考の後、ハーヴェイは手元に長槍がないことに気が付き、とりあえず穴から上へよじ登る。
 集合住宅の屋上らしき場所、あたりに人影はない。
 あるものといえば、血痕のあと、ディバック、メガホン、そしてコンクリートに突き立つ槍。
『シクシク』
「まぁ、そう気を落とすな」
 自分を慰めるように、ハーヴェイはその装甲をたたいた。

217 そして不死人は竜と飛ぶ :2005/05/15(日) 15:39:05 ID:pBSSTsig
【D-4/森の中/1日目・12:05】
【蒼い殺戮者(ブルーブレイカー)】
[状態]:少々の弾痕はあるが、異常なし。
[装備]:梳牙
[道具]:無し(地図、名簿は記録装置にデータ保存)
[思考]:風見と協力して、しずく・火乃香・パイフウを捜索。脱出のために必要な行動は全て行う心積もり。


【風見千里】
[状態]:精神的に多少の疲労感はあるが、肉体的には異常無し。
[装備]:グロック19(全弾装填済み・予備マガジン無し)、頑丈な腕時計。
[道具]:支給品一式、缶詰四個、ロープ、救急箱、朝食入りのタッパー、弾薬セット。
[思考]:G−sp2はどこ?。仲間と合流。景を埋葬したい。とりあえずシバく対象が欲しい。


【C-8/港町/1日目・12:05】

【ゲルハルト・フォン・バルシュタイン(子爵)】
 [状態]:健康状態 
 [装備]:なし
 [道具]:デイパック一式、 「教育シリーズ 日本の歴史DVD 全12巻セット」
      アメリアのデイパック(支給品一式)
 [思考]:アメリアの仲間達に彼女の最後を伝え、形見の品を渡す/祐巳がどうなったか気にしている 。
 [補足]:祐巳がアメリアを殺したことに気づいていません。
     この時点で子爵はアメリアの名前を知りません。
     キーリの特徴(虚空に向かってしゃべりだす)を知っています。

【C-6/住宅街/1日目・12:05】

【ハーヴェイ】
[状態]:生身の腕大破、他は完治。(回復には数時間必要)
[装備]:G−sp2
[道具]:支給品一式
[思考]:まともな武器を調達しつつキーリを探す。ゲームに乗った奴を野放しに出来ない。特にウルペン。
[備考]:服が自分の血で汚れてます 。

【C-8】から【C-6】に向けてG−sp2が飛びました。音に気づき、場合によっては目撃したものがいると思われます。
ウルペンがハーヴェイの生存に気づいた可能性があります。

218 ヒーローの条件・1  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b> :2005/05/15(日) 23:03:45 ID:lD9FiO4.
 青空の下の無人の商店街というものは、やはりどこか寂しく感じられた。
(ここにも、人が住んでいたのかな)
 それとも、わざわざこのゲームを開催するためだけにつくられたのか。
 前者の場合住人達はどこへ行ったのか──それを考えて、少し身震いする。
「どうした要! 寒いのか?」
「も、もしかして知恵熱? イエローいろいろ考えすぎだよ!」
「……知恵熱は赤ちゃんがなるものです」
 結局の所、その寂しい商店街の中にいても心細くならないのは、この二人のおかげだった。──しばしば頭痛がするけれども。
 そんなに大声でしゃべっていると“乗っている”参加者に気づかれないか──と言ったところ、
『大丈夫! この超絶勇者剣があればどんな化け物が来てもまっぷたつだ!』
『わあ! アイザックかっこいい!』
 そう返された。
 ……こうも緊張感がないことが、逆に相手を警戒させるかもしれない──そう思っておくことにした。
(……なんでこの人達は、こんな風にいられるんだろう)
 ふと、今更そんなことを思う。
 初めて会ったときも、必死で自分を励ましてくれた。
 壮大で無謀すぎる計画を立てて、勝手にイエローにされた。……知能派はブルーなのに。
 だが、ただのん気なだけのカップルではないのはわかっていた。
 ──先程あの悲惨な放送が流れたとき、彼らは悲愴な顔をして、本気で放送の主を助けに行こうとしていた。
 放送場所がわかっていたら、今すぐにでも駆け出しに行きそうなくらいの勢いで。
 きっと空気が読めないだけであって、事態が読めないわけではないのだ。
「……あの」
「どうしたんだ要?」
「どうしたの?」
「どうして……どうしてそんな風に明るく振る舞えるんですか?
ここじゃ、いつ誰が殺されてもおかしくないのに。どうして、そんなに」
 気がついたら、口が動いていた。
 先程の放送でぶり返してきた恐怖と絶望を、彼らの自信と明るさで吹き飛ばして欲しかった。
 ──彼らは顔を見合わせると、笑顔でこう言った。

219 ヒーローの条件・2  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b> :2005/05/15(日) 23:04:25 ID:lD9FiO4.
「ヒーローってやつはさ、笑っていないとダメなんだよ!」
「そうそう! 誰かがピンチになったときに落ち込みながらかけつけてもダメなんだよ!
エニスみたいにさ! ぱーっとかけつけて、さーっと悪人をやっつけないとね! かっこよくないよ!」
「ああ! いつまでも泣いたままじゃあモリアーティーにも笑われちまうしな!」
「死んだ子供達にもね!」
「おう! だからさ、つらくてもとりあえずがんばる! なんとかする! 忘れる!」
「うんうん!」
「……」
「とにかくヒーローってのはさ、絶対落ち込むところをみせちゃいけないし、絶対死んじゃいけないんだよ!」
殺されていいのはライバルだけなんだ!」
「うん!……あれ? アイザックのライバルって誰?」
「…………ミリア?」
「ええ!? 私!? アイザック殺したくないよ!」
「……ってことはなんだ、俺達死なないのか! すげえ!」
「すごいね!」
「なんでそうなるんですか!?」
 ──言っていることは無茶苦茶。知識も相当いい加減。その根拠もやっぱりわからない。
 ……でも。
(この人達はそれ以前に……本当に単純に、いい人なんだ)
 どこか、暖かさを感じるような。どんな人も引きつけてしまいそうな、不思議な魅力があった。
(……最初に、この人達に会えて本当によかった)
 改めてそう思う。
 彼らでなければ、自分はあのまま震えていたか、誰かに殺されていただろう。
「……ありがとうございます」
「あれ? 何か感謝されたぞ!」
「なんでだろう? でもありがとう!」
「ありがとう!」

220 ヒーローの条件・3  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b> :2005/05/15(日) 23:05:12 ID:lD9FiO4.
「……とにかく、食べ物を探さないと。約束の十二時までもうすぐだし」
 三人で笑い合った後、本来の目的を思い出す。
 彼女が言った、約束を破った場合の“お仕置き”はちょっと想像したくない。
「後調べてないのは北の方ですよね。まず、あそこの八百屋に行ってみませんか?」
「ヤオヤって何?」
「えーと、確か野球やフットボールの結果を賭ける、日本のマフィアの集まる場所じゃなかったか?」
「……全然違います。野菜を売ってるところです」
「むう、そうなのか。やっぱり要は物知りだな!」
「うん、すごいよね!」
 彼らの間違った日本の知識はどこから入ってくるのだろう。胸中で溜め息をつき



 刹那、ミリアの腹部から鮮血が吹き出した。



「…………!?」
「おおおおおおおおおおお!? ミリア!?」
 力なく倒れ伏すミリアに、アイザックが駆け寄る。
 目を見開き、悲鳴すら出せないままこちらを見つめるミリアが、見えた。
 赤い血が、見る間に地面に広がっていく。
「…………うあああああああああああああ!?」
 遅れて、絶叫。
(なんで!? なんでミリアさんが!?)
 頭の中が真っ白になる。
 ついさっきまで、自分を励ましてくれたのに。
 ついさっきまで、笑いあっていたのに。
 ──この人達となら、一緒に脱出できると思っていたのに。
「とととにかくミリアをビルに…………おおおおぅ!?」
 ──今度はアイザックの胸部から、赤。
 彼の血が、要の顔にぴちゃりと飛んだ。

221 ヒーローの条件・4  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b> :2005/05/15(日) 23:05:57 ID:lD9FiO4.
「あ……、ぁぁあ、あ」
 温かな感触が、頬を伝う。足下にも血が侵食していく。
 ──限界は、すぐに訪れた。
「ぁぁあああああああああああ!」
 ──逃げないと、殺される。
 ──ここから離れないと、死ぬ。
 思考がそこまでたどり着いたときには、もう足は動いていた。



「ここからが本番ですね」
 逃げる少年の姿をスコープで確認して、子荻は気を引き締めた。
 ──ふたたび隠れようと思ったビルにたどり着くと、そこにはよくわからない着ぐるみがいた。
 見るからに怪しいその物体に接触することは危険きわまりない。
 結局この高架の上まで逃げることになり、小休止の後ふたたびライフルを握ることとなった。
 ……すなわち、哀川潤の殺害。
(追ってこなかった理由は……仲間に止められた、というところでしょうね)
 あの“赤き征裁”が、怪我を理由に追跡を止めるわけがない。
 ──彼女が身内に甘いのは有名だ。
 仲間の誰かが負傷していたか──こんな場所だ、負傷した彼女の足を一時的に止められる能力を持つ者がいたのかもしれない。
 ……さすがに、二時間近くも放置してくれるとは思っていなかったのだが。
(おかげで少し休めました。……今度こそ、仕留めます)
 こちらの姿は見られている可能性がある。
 ここから脱出しても一生追われるだろう。ならば、ここで殺すしかない。
(おとりは仕掛けました。仲間の状態と銃撃手の確認のために、“赤き征裁”なら必ず外に出てきます。
二時間経過し──さらに“人類最強の請負人”であるとはいえ、まだ本調子ではないでしょう。
こちらの位置が捕捉される前に、殺せます)
 ここから商店街はそれなりの距離があったが、それは萩原子荻にとっては些細な障害にしかならない。
「……では、逆殺です」
 ビルから出てくるであろう“赤き征裁”に、子荻は小さな声で宣戦布告した。

222 ヒーローの条件・5  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b> :2005/05/15(日) 23:06:43 ID:lD9FiO4.
 胸元に抱いた子犬は、安らかな表情で寝息をたてている。
 その白い毛並みを撫で、哀川潤は口に微笑を浮かべた。
 こうしてみると本当にただの子犬にしか見えないが──身を挺して自分の命を救ったのは、他でもない彼なのだ。
「まったく、お前が死んだら意味がないだろうが」
 犠牲が出た時点で請負人失格だ。
 彼と、今は商店街にいる三人、そして福沢祐巳。──必ず彼らと共に脱出してみせる。
「祐巳は気がかりだが……あいつらはまぁ、大丈夫だろ」
 ごく普通の少年である高里要は少し心配だが、あの二人と一緒なら大丈夫だろう。奴らが死ぬところなどまったく想像できない。
(刀と銃器とあのバカ会話は牽制になる。放送も近いから、聞き逃さないために厄介ごとを避ける奴らが多い)
 たとえ知り合いの生死など関係のないマーダーであっても、禁止エリアの情報は必須だ。
 それに、いざとなったらいつでも飛び出せるよう聴覚を研ぎ澄ませている。
 左足の傷が開いてしてしまう恐れもあるが、彼らの命と比べたら些末なことだ。
(この足が治ったら祐巳を探して……子荻を何とかしないとな)
 彼女は“策師”だ。たった一人でこの島の全員を殺すことが不可能なことくらい理解している。
 邪魔な人間以外は殺さずに、巧みに策を練り駒にする。最終的に主催者を倒すかゲームに乗るかは知らないが。
 だが、彼女は“哀川潤”を殺し損ねたのだ。復讐を恐れて彼女は必ずこちらを狙ってくる。──手加減は無用だ。殺すしかない。
「なんであいつが生き返ってるのかは知らんが、本物だろうが偽物だろうがやることは一緒……────!」
 ──少年の絶叫が、耳に入った。
「要!」
 瞬時に身体を起こす。間違いなく緊急事態だ。
「ファルコン、すぐに戻ってくるからな」
 彼をソファの上から、見つかりにくい机の下へと移動させた。
「……待ってろ。真のレッドが今から行くからな」
 ヒーロー戦隊は、一人でも欠けたら意味がない。
 そしてそれを防ぐのがリーダーであるレッド──つまり自分の役目だ。断じてグリーンではない。
 後で決めポーズでも考えてやろうか──そんなことを思いながら、哀川潤はビルの入口へと急いだ。

223 ヒーローの条件・6  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b> :2005/05/15(日) 23:09:48 ID:lD9FiO4.
「!」
 そしてビルから出ようとして──左足を狙う銃弾を、すんでの所で立ち止まってやり過ごす。銃撃手は近くに見えない。
(狙撃……子荻か!)
 ──迂闊だった。要の悲鳴も彼女が原因だろう。
 彼女が自分の仲間を餌におびき寄せることを想像しなかったことは、最悪のミスだ。
「全員あたしの方に来るんじゃねえ! 森の方へ逃げろ!」
 彼らを視認するより先に、外に向けて叫ぶ。こちらの隙をつくために、彼らが狙われる可能性が非常に高い。
 そして遅れて、遠くの方に要の姿だけを確認できた。あの二人は、いない。
 胸中で舌打ちしつつ、とにかく彼を助けるためにビルから飛び出そうとして、
 ────ビルの角から現れた新手の少年の銃撃が、右肩に掠った。
(……こんな時に!)
 銃創を抉られた右肩と体重をかけられた左太腿の痛みをなんとか無視して、長い右脚で足払いを掛ける。
 少年がバランスを崩した瞬間、伸ばしきった足を斜め左に向かわせる。
 少年も何とか後ろに飛び退こうとするが、遅く、蹴り上げた足がその胸部を抉った。
「がっ……ぁ」
 倒れる寸前にふたたびショットガンの引き金が引かれたが、難なくかわす。
 ──その刹那。
「あぁあ……ぁあああ!」
 要の悲鳴が、ふたたび耳に届いた。
 ──少年が持っていたショットガンと拳銃とナイフを素早く奪い取り、外を横目で見る。
 ……向かって右手、ビルの角辺りに要が倒れていた。──足を撃たれている。
「──っの!」
 奪った少年の武器三つを、時間差を付けて投げた。どこかにいるアイザックとミリアに当たらぬよう、飛距離を落として。
 稚拙なフェイクだが、一瞬でも子荻の意識がこれらに向けばいい。
(あたしが行くまで、死ぬなよ──!)
 胸中で叫びつつ、哀川潤は地を蹴り出した。

224 ヒーローの条件・7  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b> :2005/05/15(日) 23:11:12 ID:lD9FiO4.
 ビル内で“赤き征裁”と戦っている一人の少年のことを、萩原子荻は既に感知していた。
 ある店の庭から出てきた後、三人をしばらく監視しているところも見ていた。
 ──こちらのすることを邪魔されなければ別にいい。あくまで目標は脱出だ。
 なによりこの唯一の武器であるライフルは、弾数という足枷がある。無駄に使うわけにはいかない。
(ゲームに乗った者でしょう。
こちらの意図を汲んだのかどうかは知りませんが……あの少年を殺さずにいてくれたことには感謝します。
……ついでに彼女を倒してくれるのなら僥倖ですが、無理でしょうね)
 いくら怪我をしているといっても、“赤き征裁”だ。あの少年に勝てるとは思えない。
(──少しだけ、手伝いますか)
 森へ逃げようとする少年の右足を、撃つ。その悲鳴が彼女の隙を呼ぶことだろう。
 ──そして、しばらくすると。
 視界の中で、何かが動いた。



 悲鳴をあげる左足を無視して外へ────行かずに、全力で二階へと疾走。一階に正面以外の入口がないからだ。
 要のいた位置の真上に近い、角の部屋へと急ぐ。……銃声が三発、聞こえた。
 ──萩原子荻とあろうものが、あんなフェイクに引っかかったのだろうか?
(あいつはフェイクに弾を使うような馬鹿じゃない。……他のものを撃ったのか?)
 あの三人でないことを願いつつ、ひたすら走る。
 ──そして部屋へとたどり着き、側面にある窓を開けて、躊躇なく飛び降りた。
「────っ」
「潤さんっ!」
 いつもならたやすく着地できる高さだったが、左足が限界を迎えてしまい、バランスを崩してしまう。
 それでもここで立ち止まっているわけにはいかない。ビルの壁に手を突いて右足で立ち上がり、要を抱き上げる。
 そして素早くビルの裏側へと逃げ込んだ。──どうやら子荻の意識がこちらを捕捉する前に間に合ったようだ。
 彼女達は、あのとき北西に逃げていた。ならば、ここにいれば狙撃はこない。

225 ヒーローの条件・8  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b> :2005/05/15(日) 23:12:07 ID:lD9FiO4.
「潤さん! 足が……」
「ああ、確かにお前の足は早く止血しないとな」
 心配そうな顔をする要に、笑顔で返事をする。
 スーツの下に着ていたシャツの布地を破り、要の右足にきつく巻いて止血する。
「……っ」
「痛いだろうが我慢しろよ。男の子だからなー」
「……はい」
 ──まだ怯えと不安の色はあるが、強く頷いてくれた。
「……んじゃ、そこにいろ。あたしはアイザックとミリアを助けてくる」
「でも、その足じゃ……!」
「あたしを誰だと思ってる?」
「……グリーン?」
「違う」
「……、“人類最強の請負人”?」
「そうだ」
 泣きそうな顔をしている要の頭を、くしゃくしゃと撫でてやった。
「……気をつけてくださいね」
 そして、左足をひきずり立ち上がった。
「ああ。ちゃんとそこで待っ────」



 言葉が終る前に潤は要を突き飛ばし、その結果、乗り出した潤の胸を弾丸が貫いた。

226 ヒーローの条件・9  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b> :2005/05/15(日) 23:12:58 ID:lD9FiO4.
【C−4/ビルの影(南側)/一日目/11:40】
【哀川潤(084)】
[状態]:内臓の創傷が塞がりきれてない。右肩が治ってない。左太腿が動かない。
[装備]:なし(デイバッグの中)
[道具]:生物兵器(衣服などを分解)
[思考]:──!
[備考]:右肩は自然治癒不可、太腿治癒にはかなりの時間がかかる
    体力のほぼ完全回復には12時間ほどの休憩と食料が必要。
【高里要(097)】
[状態]:健康・上半身肌着
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(ランダム武器不明)
[思考]:潤さん!?

【C−3/商店街/一日目/11:40】
【アイザック(043)】
[状態]:胸に銃創
[装備]:すごいぞ、超絶勇者剣!(火乃香のカタナ)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:不明
【ミリア(044)】
[状態]:腹部に銃創
[装備]:なんかかっこいいね、この拳銃 (森の人・すでに一発使用)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:不明

【C−4/ビル一階事務室・机の下/一日目/11:40】
【トレイトン・サブラァニア・ファンデュ(シロちゃん)(052)】
[状態]:催眠術で気絶中。前足に深い傷(止血済み)貧血  子犬形態
[装備]:黄色い帽子
[道具]:なし
[思考]:気絶中
[備考]:回復までは多くの水と食料と半日程度の休憩が必要。

227 ヒーローの条件・10  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b> :2005/05/15(日) 23:13:47 ID:lD9FiO4.
【B−4/高架上/一日目/11:40】
【萩原子荻(086)】
[状態]:正常
[装備]:ライフル(残り4発)
[道具]:支給品一式
[思考]:哀川潤の殺害。ゲームからの脱出?
[備考]:臨也の支給アイテムをジッポーだと思っている
【折原臨也(038)】
[状態]:正常
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ジッポーライター、禁止エリア解除機
[思考]:彼女についていく。ゲームからの脱出?
[備考]:萩原子荻に解除機のことを隠す

【C−4/ビル一階正面玄関/一日目/11:40】
【キノ】
[状態]:気絶?
[装備]:なし
[道具]:支給品一式×4、カノン(残弾無し)、師匠の形見のパチンコ
[思考]:最後まで生き残る。

228 Dooms・1  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b> :2005/05/15(日) 23:14:28 ID:lD9FiO4.
 少年──高里要の足を撃った直後。
 萩原子荻は、視界に何か動くものを捕捉していた。
(…………、睡眠は取ったのですが、まだ疲れがあるようですね)
 ──視界に映ったそれは、血液だった。
 もちろん、常識的に考えて血が動くわけがない。
 ただの睡眠不足が見せた幻だと判断し、ふたたびビルを睨もうとして、
「────!?」
 飛び散っていた血と肉が、撃って倒れたはずの──いつの間にかビルに向かって這っている男女の元に、ゆっくりと集まっていくのが見えた。



「うう、痛いよ、アイザック……」
「ががが我慢だミリア……。ビルに逃げ込んで休むまでの辛抱だ! 先に行った要も、潤を呼びに行ってるはずだ!」
 ──自分たちはどうやら狙撃されたようだ。それに気づいたのは、要が立ち去ってから少し経った後だった。
 始めは二人とも激痛のため動けなかったが、今は普通に会話もでき、少しずつ這うくらいなら動くことが出来た。
 痛みも急速に引いてきている。……きっと特殊な銃器だったのだろう。
「要は大丈夫かな?」
「大丈夫! きっと今ごろ俺達を撃った奴らをグリーンと一緒に懲らしめてるさ!」
「そうだね! 頭いいイエローと、強いグリーンが組んだら最強だよね!」
「ああ! だから俺達も早く合流、」

229 Dooms・2  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b> :2005/05/15(日) 23:15:09 ID:lD9FiO4.
 ────ふたたび、銃声。
 アイザックの胸から、鮮血がほとばしった。
「ひゃあああああ! アイザック!」
 顔をくしゃくしゃにして、ミリアが泣き叫ぶ。
「だ、だだだ、大丈夫だミリア。……ピンクが恋人をおいて死んだら、ダメ、だからな……」
「そそそうだよ! ヒーローがこんなところで死んじゃうなんて、モリアーティーも死んだ子供達も許してくれないよ!」
「ぁ、ああ! レッドも、ピンクも、イエローも、グリーンも、ホワイトも、ブラックも! 誰かが欠けたらだめなんだ!」
「うん! ブラックもきっと戻ってきてくれる! またみんなでがんばれるよ!」
「だだだからそれまで、俺達は、死んじゃいけないんだ!」
「そうだよね! アイザック!」
 二人は強く決意して、先程よりもゆっくりと、ビルまでの道を這い始めた。

 ──────二つの銃声が響き、意識が白く染まるまで。


「ずいぶん驚いてるけど、何かあったの?」
「いえ、何も」
 問われ、そっけなく返す。──冷たい言葉とは裏腹に、胸中は穏やかでなかったが。
(やっと止まりましたね……)
 二人の頭を撃つと、男女と血と肉はやっと動くのをやめた。
(まったく……どんな化け物がいるんですか、ここは)
 “赤き征裁”も確かに化け物だが、それでも一応人類だ。
 血や肉自身が再構成されるなど、人間の範疇を超えている。
(まあ、殺せたのでどうでもいいです。……でも、一瞬でもビルから目を離してしまったのが痛いですね)
 “赤き征裁”、そして少年の姿はもう見えない。
 ビルの裏側か、森の中に隠れられたようだ。
(……また、逃がしたというのですか。不覚です)
 だが、まだこの周囲を狙っていることはわかっているだろう。そう簡単には動けないはずだ。
(……膠着状態ですね。我慢比べと行きましょう)
 ──まだ終ってはいない。そう自分に言い聞かせ、気を引き締めた。

 それが既に終っていることに気づくのは、約二十分後のことだった。

230 Dooms・3  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b> :2005/05/15(日) 23:16:04 ID:lD9FiO4.
「ああ。ちゃんとそこで待っ────」

 少年の眉間を狙って撃った弾丸が、突き飛ばした結果乗り出してしまった女の胸を貫いた。
 先に少年の方を殺して女の動揺を誘おうとしたのだが──かえってよい結果になった。
 その僥倖に感謝しつつ、間髪を入れずに動きが止まった女の眉間を撃ち抜いた。
「ぐ──」
「……っ」
 顔から血を流して倒れゆく女の目が、こちらを強く射抜く。
 ──目をそらすことすら出来ない、強すぎる眼光。悪寒と震えが身体に走る。
 横向きに倒れて顔が空の方を向くまで、それはキノの眼を貫いていた。

 ──胸を蹴られたあのとき、気絶はしていなかった。
 あっさりと返り討ちにあってしまったときには死を覚悟したが──こちらの容体を確認せずに、少年の救出を優先してくれて本当によかった。
 弾が残っている拳銃が、それほど遠くに投げられていなかったことも幸運だった。

 そして、後に残ったのは、まだ現実を飲み込めていない少年のみ。

「あ──、あ、」
 少年が呆けた声を漏らす。
 また叫ばれると、邪魔な人間を呼び寄せてしまうかもしれない。そう思い、銃口を向けると、
「…………ど、して」
「……?」
 少年から何かの言葉が漏れ始めた。
 訝しんだ刹那、何かが切れたかのように少年の口が開いた。
「……どうしてっ! どうして殺すんですか! 僕らは何もしていないのに! 殺していないのに!
ここから出たいっていう希望はみんな同じはずなのに! どうして! なんでみんなで、」
 ──言葉の途中で、キノは引き金を弾いた。

231 Dooms・4  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b> :2005/05/15(日) 23:16:46 ID:lD9FiO4.
 銃声と少年の途切れた声が、耳に入る。
 見飽きてしまった赤い血が、目に映る。
 慣れてしまった血の臭いが、鼻を刺激する。
「……」
 デイパックごと、二人の荷物を持っていく。中身を見るのは後でいい。
 それと、最初に狙撃されたうちの一人は自分の銃を持っていた。回収するべきだろう。
 疲労は限界に達していたが、しょうがない。
「……」
 ──生き残らなければならない。どんなことをしても。
 そのことを、再び胸に刻み込む。
 撃たれた左足をひきずりながら、キノは歩き出した。
 涙に濡れた少年の目が、いつまでもこちらを見つめていた。

【043 アイザック 死亡】
【044 ミリア 死亡】
【084 哀川潤 死亡】
【097 高里要 死亡】
【残り77人】

232 Dooms・5  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b> :2005/05/15(日) 23:17:36 ID:lD9FiO4.
【B−4/高架上/一日目/11:40】
【萩原子荻(086)】
[状態]:正常
[装備]:ライフル(残り4発)
[道具]:支給品一式
[思考]:哀川達の監視。ゲームからの脱出?
[備考]:臨也の支給アイテムをジッポーだと思っている
【折原臨也(038)】
[状態]:正常
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ジッポーライター、禁止エリア解除機
[思考]:彼女についていく。ゲームからの脱出?
[備考]:萩原子荻に解除機のことを隠す

【C−4/ビル一階正面玄関/一日目/11:40】
【キノ】
[状態]:疲労が限界に近い。
[装備]:ヘイルストーム(出典:オーフェン、残り7発)
[道具]:支給品一式×4、潤と要のデイパック(中身未確認・未整理)、カノン(残弾無し)、師匠の形見のパチンコ
[思考]:森の人を回収→D-4森へ。最後まで生き残る。

※ベネリM3(残弾なし)と折りたたみナイフがビル周辺のどこかに放置されています。
 火乃香のカタナと森の人が、アイザックとミリアの死体のそばに放置されています。

233 勘違いと剣舞 その1  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b> :2005/05/16(月) 01:07:47 ID:Hw7b583Y
11:00、巨木の下で一休みしているときに放送を聞いた九連内朱巳は、ただただ不機嫌だった。
彼女は被害者に対し感情を吐き捨てる。
(まったく、馬鹿なやつらね。放り込まれて、追い込まれて、助けを求めて、自滅して……。
冗談じゃないわ、そんな死に方真っ平ゴメンだわ、そういうのを甘えてるっていうのよ!)
彼女にとってこの状況はいつもと変わらなかった、周りに自分より弱い者はいない、
気を抜いてミスをした瞬間に命はない、それはここでも向こうでも同じだった。
彼らの行為はあのシステムの中で『皆で中枢を倒し、自由に生きよう!』等と叫んでいることと変わりがない。
そんな策もない愚かなことをしていれば、3日後にはその姿は消えている。
理想だけでは生き残れない、彼らはそのことを知らなすぎた。
朱巳は他の2人の表情を見る。ヒースロゥの眉間には皺がよっていた、少し話しただけだが彼の思考からして
怒りの矛先は自分とは違い殺した方に向けられているだろう。
屍は相変わらずの顔だ、なんの乱れも生じていない、この程度のこと、彼の言う魔界では日常茶飯事ということか……。

「そういや、あんたの支給品ってなんだったの?」
妙に居心地の悪い空気を変えるため、純粋に気になっていたのもあり朱巳は屍に質問をぶつけてみた。
「特に必要のないものだ。」
「分かんないわよ、使い道のない物を渡す意味なんてないし。」
とは言ってみたものの、朱巳も自らの支給品に使い道を見出せずにいた。
あんなもんを一体どうしろと?
「じゃあ使い道を教えてもらおうか。」
屍がデイバックを開け中身を取り出す、中からでてきたのは素っ気無い椅子だった。
「あら、使い道なんてみえてるんじゃない?」
「・・・・・」
屍は無言で睨み付ける、普通の人間ならそれだけで震えが止まらないほどの威圧感を持っている。
だがそれを受けてなお、朱巳の顔にはニヤニヤとした笑みが張り付いていた。
「とりあえずは普通の椅子だが、何か仕掛け、もしくは罠があるかもしれないな。」
言ったのはヒースだ、怒りが静まり、表情は落ち着きを取り戻している。
「仕掛ける場所なんて見当たらないけど。」
「印象迷彩で隠してあるのかもしれない、迂闊に座ったりしない方がいい。」
「とは言ってもねえ・・・・・。」
椅子を見る朱巳少しめんどくさそうだ。
「用心にこしたことは無い。」
言いながらヒースは鉄パイプで座る場所をつっついてみる、反応は特に無い。
「それで分かんの?」
「いや、他にも体熱で反応したり一定以上の重さを加えないと反応しない場合もある。」
「壊した方が早くないか?」
「まあそうだがもし何か有利になるものだったら・・・・・」
言葉をヒースは途中で切った、屍も気づいたのだろう、先ほどと比べてさらに目つきが鋭くなる。
「・・・・・来るな。」
「ああ・・・・・。」
「よく気づくわね、あんたらやっぱ化け物?」
呆れる様な表情で彼女は呟く。
朱巳も常人に比べたら遥かに気配を感じる能力は優れている、が、彼らはさらに異常だった。
戦闘タイプの合成人間と同等、いや、それ以上の危険察知能力だった。
「化け物というのは案外鈍感なものだぞ。」
「違いねえ!」
屍の言葉と同時に3人は散開する、直後、彼らのいた場所に1人の男が剣を振り下ろし舞い降りた。
「貴様ら、ヒルルカに暴行をはたらき、挙句殺そうと・・・・・首から下との別れを済ましておけ!」
舞い降りたこの世のものとは思えぬ美しい剣士は周りを睨み付ける、その剣士の名はギギナといった。

突然の襲撃と怒りの言葉を受ける。が、彼らにはさっぱりだった。
ヒースと朱巳はお互いを見て目で確認する、無論互いにそんな覚えはない。
「待て、俺たちはそんな人物は知らないしまして暴行など・・・・・」
「しらばっくれる気か!?」
ギギナの水平切りがヒースを襲う、突然のことだったが後ろに身を引いてヒースはその切っ先をかわした。
それを見てギギナの表情に笑みが浮かぶ。
「ほう、手加減したとはいえ今の一撃をかわすとは、性根は腐っていても腕はいいようだな、面白い!」
剣撃がヒースを襲う、一撃めとは明らかに違う、雷の如き一撃が首を飛ばそうとした。
2撃めもヒースはかわした、だが先ほどと違い余裕はない。
鉄パイプを構え、向かい合う。最早話し合いは通じない、ここで倒すつもりだ。
そしてギギナは3度襲い掛かる、2人の(動機の不明な)決闘が今始まった。

234 勘違いと剣舞 その2  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b> :2005/05/16(月) 01:08:31 ID:Hw7b583Y
「わけわかんないわよ、あいつ何者?」
屍のもとに向かいながら朱巳が愚痴る。
「さあな、だが腕は確かだ、このままじゃ殺されるぞ。」
「なんで?」
そう朱巳がいうのも無理は無い、2人の戦いは5分5分に見えた、決してヒースは劣っていない。
「単純なことだ、獲物に差がありすぎる。」
屍は2人の方を向きながら言う、自ら戦いに参加するつもりは無いようだ。
「見ろ。」
「!」
「楽しいぞ!そんなもので私と舞えるとはな!」
魂砕きが左の足元からヒースの胴を狙う、鉄パイプで受け止めるも鉄パイプはそのまま真っ二つになり、
切っ先はヒースに吸い込まれる!
「くっ!」
ヒースは体を右に捻った、魂砕きによるダメージを最小限に抑える。
だがそれでも避けきれず、わき腹に熱い痛みが走った。
同時に彼の体に生じる脱力感、体に力が入らない。
それを見た朱巳は若干かったるそうに呟く。
「まずいわね・・・・・まあ恩も売っておいて損はないし、ちょっと行ってきますか。」
あの手のには慣れてるし、と付け加えると彼女は2人のもとへ歩いていく。
「おい。」
屍が声をかける、それに対して彼女は振り向いてニヤッと笑い
「まあ見てなさいって、『傷物の赤』のお手並み、拝見させてやるわよ。」
とだけ言った。

「ハァ、ハァ。」
息を荒げるヒース、前の7割程の長さになった鉄パイプを相手に向ける。
「さあ、覚悟はいいな。」
対峙するギギナ、息一つ乱していない、その手に持つ大型剣、
魂砕きは血を浴びることが嬉しいのか、その輝きは増していた。
完全に窮地に追い込まれたヒース、だがその目は輝きを失っていない。
(止めをさす一太刀には必ず油断が生じるはずだ、そこに俺の勝機がある!)
集中の極地、2人の目には互いの姿以外何も見えてはいなかった。
「ヒルルカの報いを受けろ・・・・・行くぞ!」
同時に地を蹴る、互いの姿がどんどん近くなる、と、その間に・・・・・

「はいストップ。」

1人の少女、九連内朱巳が割り込んだ。
「なっ・・・・・!」
「くっ・・・・・!」
2人とも太刀筋をギリギリで止める、魂砕きに至っては髪の毛に触れていた。
思わず止めてしまったギギナは怒りに顔を歪め、押し殺した声で朱巳に言う。
「女・・・・・戦いを汚す気か?
 邪魔だ、後で始末はつけてやる。それとも今この場で物言わぬ屍となるか?」
そこにはギラギラとした殺気が篭っていた。
「あら、無抵抗の少女を手にかけるなんて随分と安いプライドね、色男さん。
 そんな接し方だと女の子も逃げちゃうわよ?」
ヘラヘラとした表情で言う、その表情に恐怖は無い。
ギギナは激昂した、女云々ではなく、『安いプライド』などとドラッケン族としての誇りを侮辱したことに。
「貴様、ドラッケン族の誇りを侮辱するとは……」
そのとき朱巳の手がスッと彼の胸元に動いた。
あまりにもゆっくりと、自然な動作で、ギギナは反応できなかった。
奇妙な形に手を捻る。

がちゃん

それは鍵を掛ける仕草に酷似していた。
「あんたもかわったところに鍵があるのね〜。」
言った直後首筋に剣を突きつけられる、動こうとするヒース、
だが朱巳はそれを手で制した。
「貴様…何をした!?」
「だから鍵を掛けたのよ、あんたのその『ムカムカとした気持ち』にね。
 そんなイライラした状態で戦闘が出来るかしら?」
相手が少し手を動かすだけであっさりと自分が死ぬというのに、朱巳の表情はまだかわらぬままだ。
「そんなバカなことが・・・・・」
言いながらも彼は自分の中にチクチクしたようなものが絶えず動き回っているような気がしてならない。
それを見越してか朱巳は言葉を続ける。
「ほらまだ怒ってる、そのままじゃ胃に穴が開くわよ。」
この状況でケラケラと笑っている彼女は、恐怖に鍵でも掛けているのだろうか。
だが事実はそうではない、彼女の手のひらは汗まみれになっていた、単純に隠しているだけだ。
隠しているのはそのことだけじゃない、今この場でついている嘘もだ。
彼女の鍵を掛けるという能力、『レイン・オン・フライデイ』とは全くの嘘っぱちだった。
ただの暗示をかけて、相手をその気にさせているだけだ。
その演技はついに、自らの体を知り尽くしている生体強化系咒式士まで騙したのだ。

235 勘違いと剣舞 その3  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b> :2005/05/16(月) 01:10:31 ID:Hw7b583Y
「外せ!」
握る剣に力を込める、断った瞬間に掻っ切るという意志が籠められていた。
「外すわよ、あんたがもう襲わないっていうなら。」
「それはできない。」
「は?なんでよ?」
驚く朱巳、ここで終わらせるはずだったのだが。
「貴様らはヒルルカを陵辱した、その行為は万死に値する!」
そういえば、と彼女はこの件の発端となった言葉を思い出した。
「だからヒルルカってだれよ?」
「知らないとは言わせん、今しがたあれだけのことをしていながら・・・・・」
「ちょっと待って、今しがたって・・・・・」
記憶を遡る朱巳、暴行?殺そうと?確かこいつが来る直前に・・・・
屍の言葉が蘇る

『壊した方が早くないか?』

「・・・・・もしかしてヒルルカってあれ?」
彼女の指差す先には先ほど

ヒースが鉄パイプでつっつき、

屍が壊したほうが早い

と言ったあの椅子があった。
「ああ、そうだ、そういえば言ってなかったな、あの椅子の名はヒルルカ、私の愛娘だ。」
激しくため息をつく朱巳、目を点にするヒース、くだらんといいそっぽを向く屍、
「……椅子に暴行とか殺害なんて正気?」
ただ疲れたという表情を満面に出しながら朱巳が言った。
「そう、正気の沙汰ではない、だからこそ貴様らは・・・・・」
「「「そういう意味じゃ(ねえ。ない。ないっつーの。)」」」
見事にヒースと朱巳、そして屍までもの声が重なった。


その後、心の鍵を外し、朱巳からの説明が始まった(無論一部を捏造し、一部を改変し、一部を削って)


そしてギギナはすっかり朱巳の作り話を信じた。
「そうか、貴様らがヒルルカを助けてくれたのか・・・・・。
 ならば今回はその行為に免じてひくとしよう」
そしてギギナはヒースの方に向きニヤッと笑う。
「貴様との戦いは楽しかった、名を聞いておこう。」
「ヒースロゥ・クリストフだ。」
「そうか、私の名はギギナ・ジャーディ・ドルク・メレイオス・アシュレイ・ブフ、
 次合うときは互いの命を賭け、死の淵まで存分に戦おう。」
一瞬の迷いを見せるがヒースはこの誘いに
「・・・・・ああ。」
と答えた。
「では――剣と月の祝福を。」
神をも惚れさせるような微笑を浮かべると、くるりと後ろを向きギギナは歩き出した、
左手にはヒルルカを持っている。
「どうして仲間に誘わなかったんだ?」
ヒースは朱巳に尋ねた、彼女のことだから自分と同じように誘うと思ったのだった。
「あの手の単細胞タイプに誘いは無理よ、一匹狼気取るのが性分だから。」
(そうかな・・・・・。)
彼は心の中で呟いた、同じ戦闘好きでも彼とフォルテッシモは違う気がしたのだ。
「それに、次仲間にするなら話上手がいいから。
 無口と堅物じゃやっぱり盛り上がらないわ。」
その言葉にヒースと屍が顔をしかめたが、朱巳は知らん振りした。
そのとき、12時の放送が鳴り響く。

【風により傷物となった屍】
【E3/巨木/一日目12:00】

【九連内朱巳】
【状態】上機嫌
【装備】なし
【道具】パーティゲームいり荷物一式
【思考】エンブリオ探しに付き合う、とりあえず移動。


【屍刑四郎】
【状態】呆れ気味
【装備】なし
【道具】荷物一式
【思考】とりあえずついていってみるか。


【ヒースロゥ・クリストフ】
【状態】腹部に傷(戦闘に支障あり)、虚脱感
【装備】鉄パイプ(切断され通常の7割ほどの長さ)
【道具】荷物一式
【思考】EDを探す。九連内朱巳を守る。ffとの再戦を希望する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【ギギナ】
[状態]:疲労。休息が必要なダメージ。かなりご満悦。
[装備]:魂砕き、ヒルルカ
[道具]:デイバッグ一式
[思考]:強者探索

236 Refrain(1/4)◆3LcF9KyPfA :2005/05/16(月) 04:03:07 ID:IUdB/xsA
「正直言うて、俺もキツいんやけどなぁ……」
「すまないな。止血しても、流石に限界で……肩貸してもらわないと、歩けそうにもなくてな」
 クエロが去ったあの後。俺は傷の応急手当をすると、緋崎に肩を貸してもらいD-1の公民館へ向かっていた。
 最初は緋崎から「休憩せなあかん。もう一杯一杯や」と、有り難くも拒否のお言葉を貰っていたが、放送も近いので少し無理をすることにした。
 放送。それがただの定時連絡だったなら何も問題はなかっただろう。だが、問題は禁止エリアだ。
 もしD-1が次の禁止エリアになったりしたら目も当てられない。放送前に、公民館でミズー達と合流する必要がある。
 そして、クエロ……まさか、こんなに早く出会うとは思っていなかった。いや、思いたくなかった、だけかもしれない。
 昔の同僚。昔の相棒。そして――昔の恋人。
 クエロは、俺を許さないと言った。自分が殺すまで生き延びろ、と。
 俺もクエロを許さない。それは同じだ。だが、俺にクエロが殺せるのだろうか……
「……ユス……? おい、ガユス? どないしたんや!? おい、しっかりせんかい!」
「え? あ、いや、すまない。どうやら、考え事に没頭していたらしい」
「……何を、考えてたんや?」
「そのレーザーブレードのこと」
 即答で嘘を吐いた。
 俺はご丁寧にも指を突きつけると、緋崎のベルトに挟んである剣の柄に視線を送る。
「……便利な道具、や。あの白いマントの奴が説明書持ってへんかったからな、細かい使い方までは解らへんけど」
「そのことなんだけどな、ちょっと思いついたことがあって考えてたんだ」
 舌と頭が同時に動く。もしかしたらもうバレているのかもしれないが、それでも嘘は出来る限り隠し通さなければいけない。
 クエロの事を話すには、まだ早い。
 ――俺の、心の準備が。
「なんや、言うてみい?」
「さっき、最後にクエロが放った咒式だが……」
「『魔法』みたいなもんやな?」
「ああ、そう解釈して構わない。で、その咒式に触れた刃の部分が、咒式の一部を吸収して変色するのが見えた」
「魔法の上乗せが出来る光の剣、っちゅうわけか?」
「おそらくは、な」
 スラスラと言葉が口から滑り出ていく。こんな時でも、俺の舌は絶好調らしかった。
 クエロのことを頭から追い出す為、忌々しい想いを込めていつもの精神安定剤を心の中で言葉にする。
 ギギナに呪いあれ!

237 Refrain(2/4)◆3LcF9KyPfA :2005/05/16(月) 04:03:57 ID:IUdB/xsA

「お、ようやく到着やな。ほら、見えてきたで、公民館」
「ようやく、休めるな……もう忘れたがビルの中で追いかけられたような気がしないでもない幻覚を見た時から休んでないからな」
「せやな。もう忘れたがビルの中で追いかけられたような気がしないでもない幻覚を見てから休んでへんもんなぁ」
 本当に、あの熊は一体なんだったんだろうな……でもそれ以上は思考停止。もう忘れた。熊ってなんだ?
 それより、ミズー達はもう公民館に辿り着いてるだろうか?
 いざとなったら新庄の剣があるので、俺達より遅れるということもないとは思うのだが……
「で、どないする? 念の為に裏口回ってく?」
 俺と同じことを考えていたのか、緋崎が目配せをしてくる。
「……いや、正面からでいいだろう。
 確かに彼女達以外の何者かが中にいれば危険だろうが、裏口から回って万が一にでもミズーに敵と間違われたらもっと危ない」
 言って、その状況を想像してしまう。こんな時ばかりは俺の明晰な頭脳が恨めしい。
「というわけで、正面からいくぞ。足音を消す必要まではないと思うが、警戒は怠るなよ」
「先刻承知や」
 方針が決まり、俺達は公民館に近付いていく。
 ボロボロの俺達を見たら、新庄はまた驚くかもな……膝枕をしてほしいとか言ったらしてくれるだろうか?
 多分盛大に引かれるから言わないけど。
 ミズーはどうだろう? ……きっと呆れたような溜息でも吐くんだろうな。
 悔しいので、またからかってみよう。拗ねた顔が可愛かったし。
 ……勿論後が怖すぎるので自粛するが。多分。
 そして、目の前に公民館の入り口が近付いてくる。
「……ええか?」
 緋崎は小さく「光よ」と呟くと、光の剣を構えて扉の前に立つ。
 あの白マント程は刀身が伸びず、光の剣というよりは光の短剣という風情だったが。
「ああ、いくぞ」
 俺はと言えば、何もできないので時計だけ確認して扉を開ける。

 現在、十一時五十七分。

238 Refrain(2/4) </b><font color=#FF0000>(cF9KyPfA)</font><b> :2005/05/16(月) 04:04:55 ID:IUdB/xsA

『――ルツ、014 ミズー・ビアンカ、01――』
 煩い。黙れ。言われなくても解っている。
 目の前に、死体があるんだから。
『――原祥子、072 新庄・運切――』
 あぁ、畜生。頼むからやめてくれ。もう何も言わないでくれ……
「あ……あぁ……」
 何を悲しむガユス? 人の死なんざ見飽きているだろう? 仕方なかったんだ。今はそういう状況なんだ。
「違う……見ろ、この傷。まだ新しい。三十分も経ってはいないだろう。
 つまり、俺が最初から公民館を目指していればこうはならなかったんだ……クエロにも遭わなかったんだ!」
 違うな、冷静になれガユス。お前がいたからといってどうなる?
 咒式も使えず、満足に戦闘行動もできない。そんなお前がいて、彼女達を護れたのか?
 最初から公民館を目指していたとして、本当にクエロに遭わなかったのか?
「関係無い!! 俺は認めない。俺を認めない……黙れ。黙れ! 俺の思考を邪魔するなガユス!
 落ち着け。落ち着け! クエロのことは今は考えるな!」
 そうだ、落ち着け。いつもの俺になれ。龍理遣いは冷静沈着に、だ。
 クエロのことは忘れろ……
 ――よし、意味不明で支離滅裂な喚き声はこれで終了。まずは現状を把握だ。
 緋崎は、放送が始まる少し前に「一応、他に誰かおらんか探してくるわ」と言って建物の奥に入っていった。
 放送も聞き逃してしまったし、後で緋崎に聞こう。
 そして、ミズーと新庄の死の原因……恐らく、この女だろう。
 見覚えのない黒髪の女が、ミズーの近くに倒れていた。その胸には、やはり見覚えのない銀の短剣。
 新庄がトイレの中で倒れている状況と照らし合わせる。

239 Refrain(4/4) </b><font color=#FF0000>(cF9KyPfA)</font><b> :2005/05/16(月) 04:05:48 ID:IUdB/xsA
 恐らくは一般人の振りをしてここに逃げ込んできた第三の女が、ある程度打ち解けたところで気分が悪いとトイレに行った。
 新庄ならば、心配して覗きに行っただろう。
 その新庄を隠し持っていた短剣で刺し、トイレの入り口で駆けつけたミズーと相討ち。そんなところか。
 黒髪の女の行為は、つまり――
「……裏切り……」
 また、裏切り。この言葉は、どこまで俺を苦しめれば気が済むというのか。
 さっきの醜態も、裏切りという単語がクエロを連想させたからか……
 それとも、ジヴの代わりをミズーに見出していたのか……
 どちらにせよ格好悪いことこの上ない。
 ところで……
「あぁ……それにしてもなんで……」

 なんで俺は、泣いているんだろう……

【D-1/公民館/1日目/12:10】

『罪人クラッカーズ』
【ガユス・レヴィナ・ソレル】
[状態]:右腿負傷(処置済み)、左腿に刺傷(布で止血)。戦闘は無理。軽い心神喪失。疲労が限界。
[装備]:グルカナイフ、リボルバー(弾数ゼロ)、知覚眼鏡(クルーク・ブリレ) 、ナイフ(太腿に装備)
[道具]:支給品一式(支給品の地図にアイテム名と場所がマーキング)
[思考]:これから、どうしようか……
[備考]:十二時の放送を一部しか聞いていません。

【緋崎正介(ベリアル)】
[状態]:右腕・あばらの一部を骨折。精神的、肉体的に限界が近い。
[装備]:探知機 、光の剣
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1本) 、風邪薬の小瓶
[思考]:カプセルを探す。他に、なんか人おったり物落ちてたりせぇへんかな?
[備考]:六時の放送を聞いていません。 走り回ったので、骨折部から鈍痛が響いています。
*刻印の発信機的機能に気づいています(その他の機能は、まだ正確に判断できていません)

【014 ミズー・ビアンカ 死亡】
【061 小笠原祥子 死亡】
【072 新庄運切 死亡】
【残り81人】

240 Rainy Dog1/8◆7Xmruv2jXQ :2005/05/16(月) 07:55:35 ID:JdwCcAMg
「BB、火乃香……」
 この島の中で頼れる数少ない名前を唱えながら、しずくは湖岸を駆ける。
 地下墓地での一幕から二十分ほど。
 放送にはオドーの名前と祥子の名前があった。
 その事実に思考が停止しかけるのを、しずくは必死で耐えた。
 ほんの少しの間とはいえ、一緒にいた人に、もう会えない。
 死という現実に触れる痛みを知ってはいた。それが耐え難いものであることも、また。
 それでも、ここで泣いているわけにはいかないのだ。
(今かなめさんたちを助けられるのは、私しかいない)
 その事実がしずくの背中に確かな重みとなって存在していた。
 幸いにも、元の世界での知り合いたちは無事のようだった。
 ならばなんとしてでも合流して――――いや、彼らでなくてもいい。
 とにかく誰かに、自分が見た情報を伝え、助けを求めなければならない。
 しずくを袖口で目を拭いながら足を動かす。
 外見は人と変わらなくともしずくは機械知性体だ、その運動能力は生身の人間よりも高い。
 リスクを度外視してでも島を駆け回る覚悟はできていた。
 なんせ、タイムリミットは日没までだ。
 残された時間は決して多くないし、それに日没まで待たなくても宗介がその手を汚してしまう。
 千鳥かなめ。相良宗介。
 二人ともいい人だった。こんな島の中ででも、出会えてよかったと思えるほどに。
 だからこそ、しずくは二人を助けたいと思う。
 かなめを救い出したいと思うし、宗介に手を汚して欲しくないと思うのだ。
 再び溢れてきた涙を拭った時、視覚センサーが人影を捉えた。
 幸運としかいいようがない。
 こんなに速く誰かと接触できるのは予想外だった。
 しずくは速度を緩めて歩み寄ると、その人影――――皮のジャケットをまとった男に声をかけた。
「あ、あの!」
 声をかけられても、男は無反応だった。
 俯いているため顔は見えない。
 癖の悪い黒髪と、握り締めた両のこぶしが妙にしずくの印象に残った。

241 Rainy Dog2/8◆7Xmruv2jXQ :2005/05/16(月) 07:56:21 ID:JdwCcAMg
「いきなりすいません! でも、すごい困ってるんです。力を貸して――――」
「悪いな」
 いきなり割り込まれ、しずくは思わず言葉を止めた。
 え? と呟いた後、男の言葉が拒否を表すものだと思い至る。
 そしてそれが誤解だと気づくのに、一秒とかからなかった。
 思わず歩み寄ろうとしたしずくを遮るように、男が右手を突き出し、握る。

「憂さ晴らしだ――――付き合えよ」

 しずくが何かを言うよりも男のほうが速かった。
 その眼光が紅く尖る。
 そして、頭上に巨大な影が出現した。



 ナイフのような背びれが空気を切り、筋肉に鎧われた巨体が宙を泳ぐ。
 その動きは見る者が優雅さを感じるほどに滑らかだ。
 大きく裂けた口。
 びっしりと並ぶ牙の群れ。
 赤い眼球。
 縦に長い瞳孔。
 いくつかの点で相違はあるが。
 男の頭上を旋回するそれに近い生物は、しずくの知識の中に確かに存在する。 
(これって……)
 半ば愕然としながら、しずくは認めた。
 彼女の世界では支配種ザ・サード以外は知りえないだろう生物。

 それは三メートルを超える、巨大な鮫だった。

242 Rainy Dog3/8◆7Xmruv2jXQ :2005/05/16(月) 07:57:06 ID:JdwCcAMg
 甲斐氷太は暗い眼差しで少女を見た。
 久しぶりにカプセルを飲んだ高揚感も、悪魔を呼び出した興奮もない。
 体の芯にねっとりとした闇が巣食う感覚。
 血液という血液が死んだように冷たい。
 それもこれも、あの放送のせいだった。
 ありえない。許されない。
 あのウィザードが、物部景が――――……
 そこから先は言葉にせず、現実感が希薄なまま動く手足を確認して、甲斐は黒鮫に命令を下した。
 目の前の少女は細く、脆い。
 餌というのもおこがましい、惰弱な存在だ。
 言葉通り、ただの憂さ晴らしに過ぎない。
 子供がおもちゃを壊すように、あっけなく、容赦なく。

 ――――喰い千切れ。 


 猛烈な勢いで黒鮫が迫った。
 鼻先で突き殺そうとするかのような突進。
 切り裂かれた大気が悲鳴を上げ、巻き上げられた風にバランスを崩しかける。
 しずくがその一撃をかわせたのは奇跡に近い。
 横っ飛びに転がった数センチ横を、黒鮫が一瞬で通過していく。
 風に髪が叩かれる感触は、機械であろうとも背筋が寒くなるものがあった。
 デイバックから支給品を取り出しながら叫ぶ。
「は、話を聞いてください!」
 しずくの叫びを甲斐は黙殺。
 その時点でしずくは己の失敗に泣きそうになった。
 完全にゲームに乗った人間に声をかけてしまったらしい。
 それも理屈はわからないが巨大な鮫を操る危険人物に。

243 Rainy Dog4/8◆7Xmruv2jXQ :2005/05/16(月) 07:57:47 ID:JdwCcAMg
 嘆く時間すら、相手は与えれくれなかった。
 小さな弧を描いて鮫が反転、再びこちらに鼻先を向ける。
 顎が開き、びっしりと並んだ牙が光を弾いた。
 陽光を塗りつぶすように、甲斐の両目が紅蓮に瞬く。

 セカンド・アタック。

 コマ落としにすら感じる突進。
 唸りをあげる大気を従えて、鮫が黒い砲弾と化す。
 しかし一度目よりはわずかに遅い。
 こちらが横に逃げても追撃可能な速度――――つまり今度は横に飛んでも回避できない。
 理解すると同時に、いや、それより速く体は動き始めている。
 ザ・サードのデータベースに接続してから吸収した情報は莫大な量だ。
 その中には高度な知識を必要とする先端技術もあれば、辺境の遊びなども含まれている。
 
 
 たとえば、バットの振り方。

 
 凶悪な棘つきバットであるそれを振りかぶり、思いっきりスイングする。
 タイミングを計る必要はなかった。もとより、最速でも分の悪い賭けなのだから。
 激突は刹那のことだった。
 黒鮫の顔の側面にバットが当たる。
 一瞬で足が浮き、鮫とバットの接触点を軸に独楽のように弾き飛ばされる。
 瞬間的に手首に甚大な負荷――――破損した。バットを手放す。
 だがそれと引き換えに、しずくの体は宙を飛んだ。
 黒鮫の上をまたぐ形で、ほんのわずかな時間、飛翔する。
 青い空が視界に広がった。
 しずくの故郷とすらいえる、空。
 そこにわずかに見とれながらも、次にくる衝撃に備えて体を丸める。
 ――――激突。

244 Rainy Dog5/8◆7Xmruv2jXQ :2005/05/16(月) 07:58:47 ID:JdwCcAMg
 衝撃は予想よりもひどいものではなかった。
 足の短い草たちが、多少は衝撃を和らげてくれたらしい。
 それでも、行動に障害がでるレベルのダメージだ。
 駆動系の一部に異常。ただでさえ感度の落ちているセンサー類がさらにダウン。
「あ……」
 思わず声が漏れた。
 気がつけば後ろは湖だった。
 水まで一メートルといったところ。
 あれだけ勢いがついていて落ちなかったのは運がいいといえば運がいいが、次がかわせなければ意味がない。
 三度、黒い鮫と正面から対峙する。
 エスカリボルグは棘が肉に食い込み、鮫の顔面にそのままぶら下がっている。
 武器ももうない。

 サード・アタック。

 鮫の姿が近づいてくる。
 センサーの異常だろうか。
 なぜかゆっくりと見えるその光景を、しずくは自ら閉ざした。
 倒れたままきつく瞼を閉じて、最後を覚悟する。
 脳裏に浮かぶのは火乃香であり、浄眼機であり、オドーであり、祥子であり、
(ごめんなさい。かなめさん、宗介さん……さようなら、BB)
 いっそう強く眼を瞑り、しずくはその瞬間を待った。
 
 一秒、二秒、三秒……。
 
 何もおこらない。
 恐る恐る瞼を上げると、目の前に足が見えた。
「え?」
 呟きをかき消すように、背後で轟音が鳴る。
 そして。

245 Rainy Dog6/8◆7Xmruv2jXQ :2005/05/16(月) 07:59:30 ID:JdwCcAMg
「きゃ!」
 降り注いだ無数の雫を浴びて、しずくは悲鳴をあげた。
 陽光は弾きながら、雨のように水が降り注ぐ。
 視覚センサーを手でかばいながら上空を見れば、まずはびしょ濡れの男が、そのさらに上に黒鮫が見えた。
 どうやら、鮫を湖に突っ込ませたらしい。
 この水滴は鮫の背中に乗った湖水が落ちてきたものだ。
 わけがわからず、しずくは目の前の男を見た。
 男――――甲斐氷太はあいもかわらず不機嫌そうに、赤い瞳でこちらを見ている。
 このままでは埒が明かない。
 しずくは口を開いた。


「あの……」
 少女がそこまでつぶやいて、再び黙る。
 こちらの顔が険悪になったのを見たからだろう。
 甲斐は胸中にわだかまる憎悪を意識した。
 ウィザード――――最高の好敵手を失った、憎悪。
 そう簡単にヘマをする奴ではなかったが、この異常な島ではいつも通りに立ち回れなかったのか。
 それとも他の理由があるのか。
 ひょっとすれば連れの女をかばったのかもしれない。
 あの女は、少し、姫木梓に似ていた気がする。

246 Rainy Dog7/8◆7Xmruv2jXQ :2005/05/16(月) 08:00:25 ID:JdwCcAMg
 甲斐は一人回想した。
 初めて会った公園での対峙、地下街での戦い。
 長い探索を経て、倉庫で再戦を果たす。
 その後はなし崩し的に同盟を組んでセルネットと決戦。
 繁華街で無理やり悪魔戦を繰り広げたこともあった。
 王国では自分だけ犬の姿という理不尽な扱いを受けたが、まあそれはいい。
 塔での戦いでは少し助けてやっただけで、直接は顔を合わせていない。
 そして、この島で、果たされなかった決着をつける……はずだった。

「あの野郎。勝手にくたばってんじゃねえ……よ!」
 こぶしを思いっきり振り下ろした。
 鈍い音が響く。
 亜麻色の髪を数本巻き込み、甲斐のこぶしが少女の頬――――そのすぐ横にぶつかる。
 少女が眼を白黒させているのを見下ろしながら、こぶしを引く。
 濡れた髪から滴る水滴を払い、ぶっきらぼうに言う。
「悪かったな。もう行け」
 少女は余計に目を白黒させるが、甲斐は構うことなく背を向けた。
 なんの造作もなしに悪魔を消すと、背に残っていた水が激しく地面を叩いた。
 視界の端に自分と同じくびしょ濡れの少女を捉える。
 悪魔を使いはしたが、突撃させただけの素人以下の操作だった。
 悪魔に関してはいくつか引っかかることもあるし、その確認も必要だろう。
 それでも目の前の線の細い少女は、よくがんばた方だと甲斐は素直に思った。
 悪魔と渡り合う一般人など姫木梓だけだと思っていたが、なかなかにやる。
 ほんの少しだが、楽しかったのは事実だ。

247 Rainy Dog8/8◆7Xmruv2jXQ :2005/05/16(月) 08:01:13 ID:JdwCcAMg
 だが、だからこそ、甲斐は許せないのだ。
 こんな素人相手でなく、もしも相手がウィザードなら。
 互いに死力を尽くし、生命を燃やし、ぎりぎりの戦いを行えたのなら。
 それは、最高の時間だったはずだ。
 もはや二度と手に入らない至高の瞬間。
 一度あきらめ、再び鼻先に吊るされた餌が、また寸前で取り上げられてしまった。

「俺が望んだのはこんな遊びじゃねえ。ウィザード、お前との……」
 
 
 身を起こしながら、しずくはぼんやりと男を見上げた。
 わけもわからず襲われて、わけもわからず見逃された。
 随分身勝手な人間だとは思うのだが……

(……泣いてるんでしょうか、この人は)

 しずくには、ずぶ濡れで空を見上げるその男が、やけに小さく見えた。
 
【D-7/湖岸/12:10】  
【しずく】
[状態]:右手首破損。身体機能低下。センサーさらに感度低下。濡れ鼠。
[装備]:
[道具]:荷物一式。
[思考]:1、かなめたちの救出のため協力者を探す

【甲斐氷太】
[状態]:左肩に切り傷(軽傷。処置済み)。ちょい欝気味。濡れ鼠。
[装備]:カプセル(ポケットに数錠)
[道具]:煙草(残り14本)、カプセル(大量)、支給品一式
[思考]:1.ウィザードの馬鹿野郎 2.ベリアルと戦いたい。海野をどうするべきか。
    ※『物語』を聞いています。 ※悪魔の制限に気づきました(詳細は別途確認するつまりです)
※エスカリボルグはその辺に落ちてます。

248 悪魔と魔法と光の剣 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b> :2005/05/16(月) 15:34:55 ID:wMojAoZA
 骨折した部分が痛む。疲労で体が痺れてきた。昨夜の失血が体力を低下させている。
(あー、またしても死ぬとこやった……)
 小娘に吹き飛ばされ、熊に追い回され、今度は女に殺されかけた。
 二度あることは三度あると聞くが、三度あったことは何度あるのだろうか。
 前途多難な未来を憂い、軽い吐き気を感じたが、腹の中には水しかない。
 食事をとっていなかったことが幸いしたが、全然嬉しくなかった。
(曲がりなりにも連れができた途端に、連れの敵から目ぇつけられるとは……)
 自分もガユスも喋らない。お互い、そんな気分ではなかった。
 のろのろと力なくデイパックを開け、ガユスが止血を始めた。
 どう見ても、満身創痍の状態だ。殺そうと思えば、簡単に殺せそうだった。
(24時間後までに、誰も死なへんようやったら……その時、こいつが隣に居れば
 ……俺は、こいつを殺すんやろか?)
 そんなことを考えながらも、やるべきことは済ませておかねばならない。
 無惨に分断された死体の傍らに立ち、遺品をあさる前に、死者に声をかける。
「あんたの仇をどうにかする為にも、あんたの持ってた道具、使わしてもらうで」
 気分の良い行為ではないが、遺品は必要だった。作業しながら考え事を続ける。
(死人が出んと困るんは誰でも同じや。現時点で、そうそう多人数が殺されとるとも
 思われへん。まだ人口密度は高い。まず間違いなく他の誰かが殺してくれよる。
 まぁ一応、こんなんでも味方やしな。いつまでも味方とは限れへんけども)
 移動中にガユスと会話し、斧を持った女の方がミズー・ビアンカで、剣を持った
子供の方が新庄運切だ、とは聞いている。ミズーが敵の知人だったことも知った。
(……多分、そう遠くないうちに別行動せなあかん)
 フリウ・ハリスコーと合流すれば、ミズー・ビアンカは敵になるだろう。その時には、
おそらくガユス・レヴィナ・ソレルも敵になる。女に弱そうな傾向を見て確信した。
 フリウやミズーと再会しないままなら、ずっと協力できる可能性も出てくるはずだが、
そうならない可能性の方が高そうだ。やはり安心はできない。

249 悪魔と魔法と光の剣 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b> :2005/05/16(月) 15:35:53 ID:wMojAoZA
(まぁ、主催者しか刻印を解除できへんようやったら、誰でも最後には敵になるか)
 主催者の思惑通り、最後の一人になるまで殺し合わねばならないと確定したなら。
(その時は、どないしようか……)
 この『ゲーム』の目的は何か。参加者を殺すことではない。では苦しめることか。
苦しめることそのものが目的か。それとも苦しめることによって何かを得るのか。
 競わせる為の手段なのか。ならば何を競わせているのか。おそらく戦闘能力ではない。
ただ力が強いだけでは生き残れない。主催者は、参加者に何を望んでいるのか。
 何故この顔ぶれなのか。無作為に集められたにしては、知り合い同士が多すぎる。
因縁が必要だったのか。誰かに殺意を抱く者。戦えぬ弱者と、弱者の為に戦う強者。
戦うことに価値を見出す者。殺さねばならぬと考える者。掌の上で踊る参加者たち。
 価値観の違う隣人と、常識の通じない空間。未知の存在と、予想外の出来事。
疑念と誤解と混乱と、刻印による死の恐怖。破滅の火種は無数にある。最悪だ。
 この状況下で、何をすればいいというのか。従うべきなのか、逆らうべきなのか。
 逆らうことさえもが、予定調和の展開だったのなら……どうすればいいのか。
(まぁ、どんなに悩んだところで、結局なるようにしかならへん。そんなもんや)
 溜息を一つ。長々と考えた末に出た答えは、最初と変わらぬものだった。
(俺は、生き残る。生き残ってみせる。最後の最後が、どんな結末やったとしてもな)

250 悪魔と魔法と光の剣 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b> :2005/05/16(月) 15:36:41 ID:wMojAoZA
 特殊メイクじみた姿の男と、知性的な雰囲気の女が現れた、あの瞬間を思い出す。
 そこまでは良かった。少なくとも悪くはなかった。先手を取られてしまったものの、
攻撃の前に呼び声が来ただけでも幸運だった。そう、そこまでは。
 そこから悲劇が始まった。
 女はガユスの知り合いだった。男が女を疑い、女が男を裏切った。女はガユスの武器を
奪い、男は女を本気で狙い、自分は死闘に巻き込まれた。
 女は男と戦って、ド派手な大技をくらわせ、男を死体に変えてしまった。
 女の消耗が激しかったこと、女がガユスを苦しめたがっていたこと、自分の存在が
女にとって不確定要素だったこと――様々な事情が重なって、自分たちは生きている。
(あいつら、好き勝手し放題やったなぁ……あー、あれは『魔法』やったんやろか)
 女――クエロの使っていた技は、ずいぶん不可思議だった。ほとんど理解できない。
 悪魔と呪いの刻印には、分かりやすい類似点があったのだが。例えるならば、カラスと
コウモリ程度には似ていた。方法論が近いというか、同じ種類の機能美があった。
 同じように例えるならば、悪魔とクエロの技の関係は、カラスとペンギンのような
ものだ。根本的な共通点はあるが、それ以上に相違点が目立つ、といったところか。
 対して、男の使った技の仕組みは、おぼろげながらも理解できそうだ。もう一度だけ
例えてみるなら、悪魔と男の技は、カラスとハトくらいには似ているのだろう。
 特に、青い炎を出す術は、自分の得意技だった黒い炎に近いようだ。もっとも、
あの青い炎は、純粋に精神的ダメージを与える作用に特化していたようだったが。
 最初に使った、地面から岩の錐を出す術も、悪魔の物理的干渉に少し似ていた。
 自分の鬼火も、燃料こそ悪魔の力だが、炎自体は物理的なものだ。
(せやけど、『あの男だけが使える力』って印象やなかった。むしろ、あれは……)
 脳裏に少女の面影がよぎる。“最初の悪魔”にして“最強の悪魔”、女王だ。
(女王の加護みたいなもんか? 外界にある力を、術者が利用する技やとか)
 この島には、女王に似て非なるものが存在するのだろうか。悪魔によく似たそれは、
あるいは精霊などと呼ばれているものなのかもしれない。ふと、そう思った。
(……もしかしたら、それ、女王の遠い親戚なんかもしれへんな)

251 悪魔と魔法と光の剣 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b> :2005/05/16(月) 15:38:21 ID:wMojAoZA
 考え事をしながらも回収していた品に目を向け、顔をしかめる。
(この剣、どないしようか……)
 柄と刀身を繋がない状態なら、片手でも振り回せそうな重さだ。
 結局、男の遺品で無事だったのは、剣の柄と、その付属品だけだった。
(メモも地図も名簿も、既に灰や。案の定、どんな情報も残ってへん)
 だからこそ、クエロは放置していったのだろう。最初から期待はしていなかった。
クエロは、この剣を“光の刃を出す便利な武器”くらいに思っていたようだ。
確かめたわけではないが、きっとガユスも同じような見解だろう。
 だがしかし、本当に、それだけの物なのだろうか。
 知っている剣ではある。一番最初の会場で、真っ先に殺された騎士が使っていた剣だ。
 この不吉な予感は、かつての持ち主が二人とも死んでしまったからだろうか。
 何故だか自分でも分からないが、できれば関わるな、と本能が警告している。
 この剣が、予期せぬ形で災いを招くような気がして、どうにも嫌な気分になった。
 とはいえ、武器としては貴重な上に強力だ。この場に放置していくわけにもいかない。
 とにかく持って行かねばなるまい。あえて、危機感は無視することにした。
 ガユスの方を見る。止血は終わったようだが、その横顔に覇気はない。
(……頭も体も思いっきり不調か。大丈夫やないな、明らかに)
 とりあえず、この場から少し離れて、それから休憩するべきだろう。
「こら、そこのへなちょこ眼鏡。いつまで腑抜けとんねん。用は済んだし、移動するで」
「おい、ちょっと待て、誰がへなちょこ眼鏡だ? ええ、そこの田舎なまり丸出し野郎」
 元気な演技をする余裕くらいは戻ってきたようだった。喜んでいいのか微妙な感じだ。
 そのまま景気づけに、軽く毒舌の応酬でも始めようかと思い、口を開いた時だった。
 謎の轟音が響き、そして、呼びかけと、銃声と、悲鳴が聞こえてきた。

252 悪魔と魔法と光の剣 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b> :2005/05/16(月) 15:39:35 ID:wMojAoZA


【B-1/砂浜/1日目11:00】

『罪人クラッカーズ』
【ガユス・レヴィナ・ソレル】
[状態]:右腿負傷(処置済み)、左腿に刺傷(布で止血)。戦闘は無理。精神的、肉体的に限界が近い。
[装備]:グルカナイフ、リボルバー(弾数ゼロ)、知覚眼鏡(クルーク・ブリレ) 、ナイフ
[道具]:支給品一式(支給品の地図にアイテム名と場所がマーキング)
[思考]:D-1の公民館へ。

【緋崎正介(ベリアル)】
[状態]:右腕・あばらの一部を骨折。精神的、肉体的にかなり疲労。
[装備]:探知機 、光の剣
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1本) 、風邪薬の小瓶
[思考]:カプセルを探す。なんとなくガユスについて行く。
[備考]:第一回の放送を一切聞いていません。骨折部から鈍痛が響いています。
*刻印の発信機的機能に気づいています(その他の機能は把握できていません)

253 そして不死人は竜と飛ぶ :2005/05/16(月) 16:27:38 ID:pBSSTsig
『……諸君らの健闘を祈る』
 放送が終わった。風見は自分の地図を広げ、BBと確認しながら禁止エリア、死者の名前にチェックを入れる。
 072 新庄運切  075 オドー  そして001 物部景
 一本づつ線を引く。気が一気に滅入る。

――馬鹿なやつ、私に誰かを重ねて見て、私を庇って死ぬなんて。

 全竜交渉でも死者は出ている。風見とてただの小娘ではないし、戦場での死は初めてではない。
 だが、今回は違う、と風見は考えている。景は私をかばって、つまり私のせいで死んだのだ、と。
 彼に失礼だとは分かっていても、風見はその後悔を捨てることが出来ない。
 自分は戦闘訓練を受けていた、というのも今思えば驕りでしかなかった。
 新庄も、オドーでさえも死んでいるというのに。
 まさしくいいとこなし、と言うやつである。
 BBは何も言わない。その気遣いが風見にはありがたい。
 新庄、オドーはどんな死に様だったのか。誰に殺されたのだろうか。
 相方が無言をいいことに、風見は自分の世界に沈み込む。
 装備型のEx−stはともかく、オドーの悪臭までは取り上げられてないだろう。
 だとすると機竜さえ打ち砕くオドーすら倒れるこの島で、銃ひとつとはあまりに心もとない。
 やはり先にG−sp2を探すべきだろうか。
 戦闘とあらば文字通り飛んでくる相棒を思い浮かべ、風見は大切なことを忘れていることにようやく気づいた。
「そうだ、飛んでこれるんじゃない」
 がっくりと肩を落とす風見。どうも今ひとつ調子が出ていない。
 打撃してないのが原因ではあるまいか、と風見は半ば本気で考えた。
「まさかアンタをぶっ飛ばすもいかないわよね、痛そうだし」
 どうも自分にはガンガン突っ込めるタイプの相方が必要らしい。
「何がしたいのかは分からんが、それが賢明だろうな」
 律儀に答えるBB。悪いとまでは言わないが、こうもお堅いとさすがにフラストレーションがたまる。
 風見は深呼吸して気を取り直した、G−sp2がくればBBにも手を痛めずに突っ込める、調子も戻るだろうと考えて、
「さて、ちょっと上をチェックしといて、どこから飛んでくるのか分からないから」
怪訝な様子のBBを無視して、
「G−sp2!」
声を張った。
 一拍の間をおいて、東から飛来する衝撃音とそれにつづく風切音を二人は捕らえる。
 そして風見は、また一つポカをしたことに気付いて頭を抱えた。
 

    *    *    *


 時刻は数分ほどさかのぼる。放送のメモを終えて子爵とハーヴェイは移動の準備に取り掛かった。
 少女の遺体を野ざらしにしておくのは忍びなかったが、埋葬する時間はない。たまたま今回の放送に名前は無かったが、
次の放送でキーリが呼ばれない保障はどこにもない。最悪、今この瞬間にも彼女が死の危地に直面しているかもしれなのだ。
 子爵もそれを察して、埋葬しようとは言わない。
「これで勘弁してくれ」
 二人は少女の亡骸を木に寄りかからせて、目をそっと瞑らせた。
【さて、放送も終わった。私は流離いの一人旅に出たいと思うのだが、君はどうするかね。尋ね人がいるのなら、協力するの
 にはやぶさかではない。かような私だが言付を預かることぐらいはできるつもりだが?】
「いや、いい。こんな状況で待ち合わせを頼むのにはアンタにも俺達にも危険だからな」
 ハーヴェイは真っ赤な自称吸血鬼のスライムにキーリの特徴と炭化銃の性質だけ教えてお別れを言った。
「アンタもしぶとさが売りなんだろうが、それでもこの島は危険だ。気をつけてな」
 子爵が赤い触手のようなものを伸ばしてきた、握手のつもりなのだろうと、彼は判断し、それを生身の手で握り返した。
 ほんのちょっぴり後悔した。 
 子爵は液体となって流れるように去っていく。彼は気取られないようにそっと手を拭きながら見送った。

254 そして不死人は竜と飛ぶ :2005/05/16(月) 16:32:26 ID:pBSSTsig
「武器はこれだけか」
 その後、ハーヴェイは武器を求めてウルペンが置き捨てた長槍を手に取った。
 奇妙な形状、用途不明の突起、不可解な装甲。これも非常識な物体なのかと首をひねる。
 直後、コンソールに緑色の光がともった。
『コンニチワ!』
「ああ、こんにちわ」
 淡々と返すハーヴェイ。
『ビックリシタ?』
「もう慣れた」
 槍は穂首をがっくりと落とした。ハーヴェイがリアクションに困っていると今度は辺りをきょろきょろと眺め始める。
『ヨンダ?』
 ハーヴェイもそれに倣って、辺りを探るが気配すらない。
「いや。誰もいないし、というか声すら聞こえなかったぞ」
『キコエタノ!チサトダヨ!』
 疑問視を浮かべて答えるハーヴェイ。
『ハナシテ』
 言われるままに手を離してから、猛烈にいやな予感を覚えた。
『イマイクヨ!』
「ちょっと待て」
 くるりと長槍が身を翻した。その柄を義手がとっさにつかむ。
 風船を破る、というよりアドバルーンを破るような音がして、ハーヴェイが気が付いたときには、その身ははるか上空を
飛んでいた。
 さすがのハーヴェイも眩暈を覚えた。
「……どこに行く気だよ」
 すさまじい慣性がハーヴェイを後方に引きずる。
 地上を眼下に見下ろしながら、振り落とされないようしがみつくハーヴェイ。
 ほんの数秒の飛行後、ハーヴェイは自分が危機的状況にあるのに気が付いた。
 だんだんとハーヴェイにかかる慣性が消えていく、眼下の景色も地上からだんだんと水平線になっていく。
「おいおい、マジか?」
 冷や汗が流れる。
「落ちてるぞ!」

 衝撃。そして暗転。

    *     *    *

「取りに行くか?」
「冗談、あんな大騒ぎになりそうなとこ行ったら幾つ命があっても足りないわ」
 千里は腕組みして鼻を鳴らす。
「G−Sp2には悪いけど、あの子がいないと死ぬわけでもないし……当初の予定通り行きましょ」
「結局悩みの種が一つ増えただけだったな」
 風見は返す拳もない。
「まったくよ」
 いまだけはBBの装甲が恨めしかった。

    *     *     *

 気が付いたハーヴェイが最初に見たのは、天井に開いた穴とそこからのぞく青い空だった。
 もう、どこまでもブルーである。
「なんだったんだよ、今のは」
 全ての原因はG−Sp2に施された個人識別解除処理のためだが、そんなもの風見もハーヴェイもG−Sp2も知るわけ
がない。
 とりあえずハーヴェイは全身をチェック、一箇所を除いて傷らしいものも異常は見られなかった。
 その代償はぼろ雑巾と成り果てた左腕。
 腕一本ですんだのは僥倖といえた。かばった腕はしばらく使い物にはならないが、行動不能よりはましである。
 しばらくの黙考の後、ハーヴェイは手元に長槍がないことに気が付き、とりあえず穴から上へよじ登った。
 集合住宅の屋上らしき場所、ざっと見渡して確認できるものは、血痕のあと、ディバック、メガホン、そしてコンクリー
トに突き立つ槍。人影はない。
『シクシク』
「おいおい、泣くのかよ」
 自分を慰めるように、ハーヴェイはその装甲をたたいた。

255 そして不死人は竜と飛ぶ :2005/05/16(月) 16:33:52 ID:pBSSTsig
【残り85人】

【D-4/森の中/1日目・12:05】
【蒼い殺戮者(ブルーブレイカー)】
[状態]:少々の弾痕はあるが、異常なし。
[装備]:梳牙
[道具]:無し(地図、名簿は記録装置にデータ保存)
[思考]:風見と協力して、しずく・火乃香・パイフウを捜索。脱出のために必要な行動は全て行う心積もり。


【風見千里】
[状態]:精神的に多少の疲労感はあるが、肉体的には異常無し。
[装備]:グロック19(全弾装填済み・予備マガジン無し)、頑丈な腕時計。
[道具]:支給品一式、缶詰四個、ロープ、救急箱、朝食入りのタッパー、弾薬セット。
[思考]:BBと協力する。地下を探索。仲間と合流。景を埋葬したい。とりあえずシバく対象が欲しい。


【C-8/港町/1日目・12:05】

【ゲルハルト・フォン・バルシュタイン(子爵)】
[状態]:健康状態 
[装備]:なし
[道具]:デイパック一式、 「教育シリーズ 日本の歴史DVD 全12巻セット」
    アメリアのデイパック(支給品一式)
[思考]:アメリアの仲間達に彼女の最後を伝え、形見の品を渡す/祐巳がどうなったか気にしている 。
[補足]:祐巳がアメリアを殺したことに気づいていません。
    この時点で子爵はアメリアの名前を知りません。
    キーリの特徴(虚空に向かってしゃべりだす等)を知っています。

【C-6/住宅街/1日目・12:05】

【ハーヴェイ】
[状態]:生身の左腕大破、他は完治。(回復には数時間必要)
[装備]:G−Sp2
[道具]:支給品一式
[思考]:まともな武器を調達しつつキーリを探す。ゲームに乗った奴を野放しに出来ない。特にウルペン。
[備考]:服が自分の血で汚れてます 。

【C-8】から【C-6】に向けてG−sp2が飛びました。音に気づき、場合によっては目撃したものがいると思われます。
 放送によりウルペンがハーヴェイの生存に気づいた可能性があります。
 個人識別解除処理が施されているため、G−Sp2は呼びかけない限り風見に気づけません。

256 Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/17(火) 00:42:35 ID:yKn.3DL2
「うーん腹減ったあ」
空きっ腹を抱えてうろつく竜堂終、永遠の欠食児童または食欲魔人の異名を持つ彼である。
想像に漏れず、支給品のパンはとっくに胃袋の中だった。
「しかもあのおばさん、人の身体で思い切りハッスルしやがって、あー腹減ったあ」
満腹の時はいざとなればそこらへんの野草でもむしって食べればいいやと思ってたが、
空腹になってみるとどうしても躊躇してしまう、ならバッタかコオロギでも食べるか…
いや、そこまでやってしまうと何かこう人間の尊厳とかそういう難しい何かが
音を立てて崩れてしまうような、そんな複雑な気分になってしまう。
商店街に戻るのも手だったが、カーラが好き放題してくれたおかげでしばらく表街道は歩けそうにもない。
(あの頬に傷の兄ちゃん…かなりやばいな)
強者は強者を知る、一瞬の出会いだったが、終は実のところオドーよりも宗介に危険性を感じていた。
(てっきり狙いはあっちだと思ったんだけど…おばはんの考えることはよく分からん)
「でもまぁ・・・俺竜だしなぁ、うん?」
くんくんと鼻を鳴らす終、漂うのは魚を焼く香ばしい匂いだ、誘われるように終はふらふらと歩いていった。

「…」
さめざめと涙を流す藤堂志摩子、また1人彼女の友が逝ったのだ。
メフィストも何も言わない、さしもの彼と言えどもこんな状況で何を言えばよいのか?
さらに、道中で見つけた誰かの墓を掘り返して見つけあるものが、
彼の心を時折ひどく不機嫌にしてもいた。
「まさかな…あの禁断の秘儀を知るだけでなく、実行するものがいるとも思えぬが」

そんな彼の顔を涙ながらにも興味深く覗き込む志摩子。
何か心配事でも?とは聞けない、もとより聞く資格も自分にあるとは思えない。
「大丈夫だ、君には関わりのないことだよ…ああそれから」
そんな志摩子の心の内を知ってか知らずか、優しく声をかけるメフィスト
「そこの君もだ、早く来ないと全部食べてしまうぞ」
メフィストの呼びかけに応じるように、木立ちの中から終が姿を見せたのだった。

「いやあ食った食ったあ」
満足げにお腹をさする終、しかも身体中のかすり傷は全てメフィストの手により全快している。
目の前の白き医師にとって、そんな程度の傷は怪我の内にも入らないようだ。
「喜んでくれて何よりだ…では」
若鮎のような君の身体を隅々まで…と言いかけるメフィスト、
だがそこで何かを感じ取ったのか、身構えようとする終。
「どうしたのかね?」
「ああ…なんつーか独特の空気を少しだけ感じたんだ、いやあ多分大丈夫とは思うけど、
 竜堂家の家訓としてホモは宇宙の塵にしろってのがあるから」
まぁ、鼻が利くわねと思いながら志摩子が口を開く。
「それは竜堂家だけじゃなく、たな…」
「そこまでだ」
ついつい危険な領域に話を踏み込ませようとした志摩子を嗜めるメフィスト

257 Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/17(火) 00:47:25 ID:yKn.3DL2
「で、では何なんだよ?」
「あーその…つまり」
宇宙の塵になりかけた魔界医師がもったいぶってようやく応じる。
「食事代として君が今までに見てきたこと、知っていることを教えてもらいたい、
 我々が2匹食べる間に君は8匹も食べたのだからな…」

「祐巳さんが…そんな」
終の話は志摩子にとって衝撃そのものだった、由乃、祥子は死に、敬愛する聖は闇に堕ち、
さらには親友までもが…。
最初は信じられなかった、しかし彼女が落としたというロザリオは間違いなく祐巳のものだった。

やはりあの飾りをつけなくってよかった、と思いつつも、
自分の代わりに親友が犠牲になってしまった、その忸怩たる思いが志摩子を締め付ける。
メフィストはさらに終から情報を引き出している。
彼がもっとも警戒する敵である美姫の動向を聞けたのも大きかったが、今はもっと重要なことを聞かねばならない。 
「それで主な戦法は何かね?」
「魔法を使うぜ、それもかなり強力な、でも注意すべきは戦場での経験値だな、力の入れ所、抜き所は
 まさに完璧、ああいうのを歴戦って言うんだろうな…それから交渉は無理だぜ
 自分の正義に凝りかたまって、しかもまるで疑問にも思ってないからな」
「身体能力はどうなる?わかるかね」
「武術もけっこうなもんだ、けど多分つけた人間のそれに依存すると思う、俺の身体を手に入れて拾いものだって言ってたから」
「祐巳くんの身体能力はどんなものかね?」
「どちらかといえば苦手な方だと思います」
志摩子の言葉に反応する終、
「祐巳ってあの子のことか?運動が苦手?とんでもないぜ」

終は倉庫での出来事をおぼろげながら思い出す、こちらは断片的にしか覚えてなかったが。
「てな具合だ、姿はちょっと変わってたけど…うん?」
これまで冷静そのものだったメフィストの顔がかなり険しくなっている。
「もっと詳しく聞かせてくれないか」

258 Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/17(火) 00:48:15 ID:yKn.3DL2
悪い予感が現実のものに、しかも最悪のものになりつつある。
終が嘘を言うとは思えない、ただの人間である彼女が。福沢祐巳が突如そこまでの身体能力を得られるものなのだろうか?
考えたくはないが…メフィストは先程の墓での出来事を思い出す
あそこに埋葬されていたのはダンピール、しかも心臓の血が抜かれていた。
となるとやはり…。
「食鬼人…」
特定の魔の血肉を取り込み、己が力とする忌まわしき外法の1つだ。
自分の存在する世界では文献の中にしか存在せず、とうに絶えた術だが…
しかし急激に身体能力を強化できる呪術であり、また状況から言って間違いはない
何者かがあの術を使ったのだ、しかも…

「志摩子くん、聞きたいことがある…彼女の靴のサイズが幾つなのか分かるかね?」
「えっと」
志摩子は聞かれるままに答える。
地面に残されていた足跡、歩幅…それから手形…メフィストの頭のなかで次々とパズルのピースが噛み合っていく
「最後に、身長と体重を教えて欲しい」
志摩子が答え、パズルのピースが合わさった、そして得られた結論は…。
「気を確かにして聞いて欲しいことがある、祐巳くんはおそらく」

「どうして…どうして…祐巳さん…」
耐え切れなくなったのだろう、涙を零しながら親友の名を呼ぶ志摩子。
祐巳の気持ちは分からなくも無い…でもだからってそこまで…。
「お願いします、祐巳さんを元に!人間に戻してください!先生なら出来るんでしょう!!」
「…無理だな、ただの病ならば数秒で治してみせることもできる、だが食鬼人とは病ではない…しかし」
メフィストは志摩子の肩を持つ。
「奇妙な言い方で申し訳ないが、唯一の救いは彼女が異形の姿になっていたということだ、普通の食鬼人ならば
 そのような現象は起り得ない、そこに彼女を人に戻す鍵があるやもしれん」

だが…問題は一介の学生に過ぎぬ彼女が何故その事を、食鬼人のことを知りえたのかということだ。
いったい誰が彼女を唆したのだろうか?
「でもこんな状況だろう?仕方ないんじゃないのか?」
「確かに…それは事実だ、だが自分の心を、身体を失ってまで得る生に何の意味があるというのかね」

259 Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/17(火) 00:48:55 ID:yKn.3DL2
終を睨むメフィスト。
「ここを生き延びても人生は続いていくのだぞ…君ならわかるはずだ、逆に聞くが、
 君は今の自分の力と、ささやかだが平凡で普通の暮らしとどちらか一方しか選べぬのなら
 どちらを取るかね?」
「んなもん決まってるだろ…」
そこまで言って、あっ!と声をあげる終。
「だよなぁ…」

確かに自分は人を遥かに超える身体能力を誇っているが、それを便利だと日常の中で思うことは、
ほとんどなかった…逆に余計な連中を引き寄せただけだ。
今は負ける気はしないし、今までも勝ち続けてきたが…いつまでこんなことしなきゃならんのだろうと、
思うことは多々ある…小早川のおばはんに出会ってからは特に。

「でも…私は大丈夫です、たとえ祐巳さんが」
そこで志摩子は絶句する。
終がどう考えても持ち上がらないだろうと思われる公園のベンチを蹴り上げ、
軽々とリフティングなどしてみせている。
「よっと!ほりゃ!」
鼻歌交じりに最後はベンチを真っ二つに蹴り割る。
「今の見て俺のことどう思った?」
えっ…と考え込む志摩子…その、あの…と多少の枕詞が漏れて、

「すごいって思いました」
だがその割りに表情は重い。
「正直に答えてくれ」
終の真摯な視線に耐えられず目を逸らし…そしてようやく、か細い声で志摩子は答えた。
「怖いと…思いました…ものすごく」

もし祐巳がそんな身体になってしまっているとして、
自分でもそう感じるのだ、他の見知らぬ他人がそれを知ればもっと怖いだろう。
まして彼女の家族はどう思うのだろう、我が子が人ならざる物になってしまったことを知れば…
隠し通せる物でもない、まして祐巳は隠し事が出来ない子だ。
つまりそれが代償なんだろう、どう考えても割の合う話ではない。

でも…祐巳の気持ちもわかる、どうしようもないやり場の無い思いを何とかするには
力にすがるしかなかったのだろう。
「でも…皆さんのそれは強い者の理屈です!、弱くってちっぽけな私たちには
そうするしか…選べるほどの選択肢は用意されてないんです!」
「君は十分に強い、本当に大切なのはどんな過酷な状況においても誘惑に負けず己の心を見失わぬことだ」
志摩子の嘆きを微笑で包んで受け流すメフィスト。
「だいたい自分はどうなってもいいから、なんて気持ちで誰かは救えないよなぁ、あー畜生め」
足元の小石を蹴り飛ばす終、一時のこととはいえ、誘惑に乗った自分を恥じているのだ。

260 Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/17(火) 00:49:41 ID:yKn.3DL2
「あ…ごめん君の友達のことを悪く言ってしまって」
頭を下げる終、志摩子はいいんですよと力なく応じる。
「だからこそ、君がしっかりしなければならない、親友なのではないのかね?
まぁ、女同士の友情ほど信用ならず脆いものは無いと私個人は思っているのだが」
無論、君に関しては大丈夫だと思うが…と付け加えることも忘れないメフィスト。
「そう…ですよね」

そうだ、由乃も祥子ももう亡き今、自分しかいないと思う志摩子、
その気丈な決意の内面は不安と恐怖で一杯だったが。
「でも…私なんかで」
「君だからこそだ、君だから我々は協力したいと集っているのではないか」
メフィストの言葉に成り行きでうんうんと頷く終。
「重い荷物も分担すりゃ多少は楽になるって!」
もちろん志摩子に協力したいのはいうまでも無く、カーラに仕返しもできるし、一石二鳥だ。
志摩子の瞳からまた涙が…しかし今度は嬉し涙だ。
「私なんかのために…すいませんっ!ありがとうございますっ!」
「君だけのためではない、ここに集うもの全てが私の患者、そして私は医者だと
 それにこれを彼女に渡さねばならないのではないかね?それこそ君の役目だろう?」
祐巳のロザリオをそっと握らせるメフィスト。
「はい!」
泣きながらもしっかりとロザリオを握り締める志摩子。

「まぁそのカーラという女性には、速やかに安楽死していただくことになるかと思うが」
 泣きじゃくる志摩子に優しく語りかけるメフィスト、絶世の美男子に美少女、実に絵になる光景だ。

しかし…納得いかない人もいる。
あー畜生、そうだよ…こんな役はどうせ続兄貴とかこんなんとかばっかが持って行くんだ。
俺なんざ結局小早川…ダメダメダメそれはダメ、絶対。
うらやましげにメフィストを見る終だった。
「年齢的にいってそれは俺のポジションだろうがあ」

261 Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/17(火) 00:50:35 ID:yKn.3DL2
【C-4/一日目、12:30】

【藤堂志摩子】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:争いを止める/祐巳を助ける

【Dr メフィスト】
 [状態]:健康
 [装備]:不明
 [道具]:デイパック(支給品入り)、
 [思考]:病める人々の治療(見込みなしは安楽死)/志摩子を守る

【竜堂終】
[状態]:健康 
[装備]:ブルードザオガー(吸血鬼)
[道具]:なし
[思考]:カーラを倒し、祐巳を助ける

262 Alway look on the bright side of life </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/17(火) 00:51:27 ID:yKn.3DL2
あれやこれやといけ好かない男の声で放送が流れる。
そんな中、かなめは戦っていた…己の内から湧き出る渇きに。

あたし…負けないから。
だって宗介はあたしのためにやりたくも無い人殺しをやるって…決めたんだから
本当は誰も殺してもらいたくない、でも…。
またズクリと胸が痛くなる…この痛みに負けたとき、自分は消えてしまう。
自分の目の前にはナイフ…宗介が残していったナイフがある。

いざとなれば…いや今しかない。
人でなくなるくらいなら…まだ人間のままで、相良宗介の知っている千鳥かなめとして、
あたしは死にたい!
あたしは恐る恐るナイフに手を伸ばした。


ここは…どこだろう?
誰かの声が聞こえる…にじみ出る後悔に耐え切れないようなそんな悲しい声。
この声…聞き覚えがある…宗介の声だ。

「千鳥…すまない、俺はお前を救えなかった」
そんなに泣かないで…宗介
ああ、あたし死んじゃったんだ…でも宗介が生きていてくれたのなら
それで充分だよ。
だから…今度はあたしの分まで宗介に幸せになって欲しい…もういいから
あたしの視界が開ける、誰かの部屋みたいだ…こじんまりとしてるけどそれでいて
温もりのあるそんな空間、
かつて…まだ生きていたあたしがほんの少しだけ夢見たのかもしれないそんな場所。

こうなるくらいなら…もっと正直になりたかった。
テーブルの上には写真がある…そこにはあたしが写っている、学校の制服を着て
ハリセン持ってにっこりと。

263 Alway look on the bright side of life </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/17(火) 00:52:55 ID:yKn.3DL2
そんなあたしの写真を見て…また悲しげに微笑む宗介。
そこに誰かが入ってくる。
「またかなめさんのことを考えていたんですね…サガラさん」

その声を聞いた途端、あたしの痛みが大きくなった…テッサの声を顔を見た瞬間。
どうしてだろう?
テッサは親友で戦友で同志だから、宗介のことが好きなのはわかっていたはずなのに、
だからあたしが死んだらそこにいるのはむしろ自然なことなはずなのに?

これまでも危ない目にはあってきた、もし自分が死んだら宗介はどうなるんだろうと
考えたことも1度や2度ではない。
彼があたしを守るのは任務でしかないとわかっていながら…それ以上をいつの間にか
心の奥底で望んでいたあたし。

その度にテッサなら…仕方ない、テッサなら大丈夫…という思いでいつも考えを打ち切っていた。
でも。
「雨続きが終った今夜は星がたくさん見えますね」
「そうですね…千鳥にもみせてやりませんと」
テッサはなれなれしくも宗介の隣に座って、宗介の肩にしなだれかかっている。
何それ?何してるのあんた?
ああ…そうか、そうだったのか、今はっきりとわかった。
逆だ…逆なんだ、彼女だから、親友で戦友で同志だから…許せない。
私の知らない誰かなら仕方がないと思う、けどテッサだけはダメなのだということに。

でも写真の中のあたしは笑ってる、今これを見ている私は多分泣いているのに。
「明日はかなめさんの席も用意しているんですよ、もちろん特等席ですよ」
「千鳥、君にこそ祝福してもらいたいんだ、俺たちの一番の同志であり友であった君にこそ」
そんなのうれしくないよ…いやだよ。
でもあたしは何も出来ない、だってもうあたしは写真だから…。
写真の中のあたしはずっと笑顔のまま…ずっと見ていないといけない、いつまでも…。
そんなのってひどい!

264 Alway look on the bright side of life </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/17(火) 00:54:16 ID:yKn.3DL2
「そして改めて誓う、君の分まで幸せになると…こんな汚れた俺にその権利があればの話だが」
宗介はぎこちないけど、険の取れた笑顔で写真の私に話しかける。
その笑顔は…その表情は、あたしがずっと見たかった…頭の中で想像するしかなかったそんな顔で、
そしてその隣には…あたしがいるはずなのに…、
でもあたしじゃなくって…その隣にいるのは…。

「情け無い話です」
あたしの写真を見ながら、寂しげに笑う宗介。
「闇に包まれると千鳥を失ったあの地下室を思い出してしまいます…暗闇を恐れる兵士、笑い話以下です」
「でも、そのおかげでサガラさんは人間の暮らしを取り戻すことができましたわ」
テッサは宗介の手を包み込むように握る。
「それも千鳥のおかげです、千鳥と過ごした時間があったからこそです」
頷くテッサ。
「だから…千鳥の分まで、大佐殿を…」
その続きを言おうとした宗介の口を指でふさぐテッサ。

「私に敬語とかそういうのはもうやめていただけないでしょうか?私たちはもうミスリルを除隊した身ですし」
自分で言っていて照れて赤面するテッサ、その顔は紛れもなき勝者の顔だった。
少し時間が止まったような…そんな不思議な表情の宗介、その口元は止まった時間を動かそうと
なにやら呪文を唱えているかのようだ…やがて。
「なら…たい…いやテッサ今こそ誓おう、千鳥の分まで君を幸せにすると…だから俺のことも宗介と呼んで欲しい、
 千鳥がそうしていたように…」

その言葉は、何よりも鋭く、そして痛くあたしの心に突き刺さる。

やめてやめてやめてやめてやめて…
あたししゃしんのなかじゃないここにいるのにここにいるのだからおねがいやめてそれだけは、
それいったらあたし。
額縁の中の私がテッサを睨む、笑顔のままで。
あなたをゆるさない。

265 Alway look on the bright side of life </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/17(火) 00:55:04 ID:yKn.3DL2
でもテッサには何も届かない…聞こえない…
「わかりました…宗介」
テッサは私の写真を手に取り、そして、
「かなめさん、天国で見ていてください、私たちはあなたの分まで幸せになります」
あたしの負けだと言った。

そしてあたしの中で何かが崩れた…。

「とてつもなき無き朴念仁じゃの、宗介とやら」
かなめの身体を膝に乗せ嘆息する美姫…これでは女の身はとてもじゃないが持つまい。
「かなめよ、お前が見ているそれはお前が最も恐れる未来よ…お前は何を望む…
 未来を受け入れるか?それとも抗って見せるか?」
美姫が挑発めいた言葉を口にする中、かなめはまだ悲しみに満ちた表情で
苦悶の涙を流していた。

266 Alway look on the bright side of life </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/17(火) 00:55:52 ID:yKn.3DL2
【千鳥かなめ】
【状態】吸血鬼化進行中?精神に傷
【装備】鉄パイプのようなもの。(バイトでウィザード「団員」の特殊装備)
【道具】荷物一式、食料の材料。
【思考】苦悶中

【美姫】
 [状態]:通常
 [装備]:なし
 [道具]:デイパック(支給品入り)、
 [思考]:上機嫌

267 魔法と魔剣と断末魔 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b> :2005/05/17(火) 09:57:02 ID:gze6IUQc
>>248-252の【悪魔と魔法と光の剣】を改題。少し描写を書き足しました。

>>251の最終行から後を、以下のように変更。

『皆さん聞いてください、愚かな争いはやめましょう、そしてみんなで生き残る方法を考えよう』
 謎の呼びかけが響き、銃声に中断され、悲鳴が聞こえて、静寂だけが残った。


「どっちも俺の知らへん声やったわ。お前は、あの二人の声に聞き覚えないんか?」
 あれがフリウの声だったとしても、こう言ったはずだ。本当に知らない声だったが。
「さっき初めて聞いた声だ。会ったことはない。……多分、もう会えなくなったな」
 呼びかけの途中で襲撃された男女は、どこの誰だか分からないままだった。
 お互いに、無言で視線をそらす。黙祷したわけではない。閉口しただけだ。
「さっき狙われた二人が、探すべき相手じゃなければいいんだが……」
 あの男女は新庄の知人だったのかもしれない。新庄は今、泣いているのだろうか?
 ガユスは今、必死で冷静になろうとしている。ミズーと新庄が無事でいるかどうか、
気になっているのだろう。苛立たしげな舌打ちが、隣から聞こえた。
 自分は今、空を眺め、目を細めて、大きく息を吐いている。
(ふむ。これでまた、今から24時間、誰かを殺さんでも済むようになったか)
 これでも、酷いことを考えているという自覚はある。反省する気は微塵もないが。


【B-1/砂浜/1日目11:05】

『罪人クラッカーズ』
【ガユス・レヴィナ・ソレル】
[状態]:右腿負傷(処置済み)、左腿に刺傷(布で止血)、右腕に切傷。戦闘は無理。精神的、肉体的に限界が近い。
[装備]:グルカナイフ、リボルバー(弾数ゼロ)、知覚眼鏡(クルーク・ブリレ) 、ナイフ
[道具]:支給品一式(支給品の地図にアイテム名と場所がマーキング)
[思考]:D-1の公民館へ。

【緋崎正介(ベリアル)】
[状態]:右腕・あばらの一部を骨折。精神的、肉体的にかなり疲労。
[装備]:探知機 、光の剣
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1本) 、風邪薬の小瓶
[思考]:カプセルを探す。なんとなくガユスについて行く。
[備考]:第一回の放送を一切聞いていません。骨折部から鈍痛が響いています。
*刻印の発信機的機能に気づいています(その他の機能は把握できていません)

※この後の『罪人クラッカーズ』について書かれた作品が、既に存在しています。

268 instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/19(木) 01:31:12 ID:yxHCzzcQ
地図を眺めながら今後の計画を練る宗介。
タイムリミットは6時間、6時間で5人の命を奪う。
ギリギリだが出来ないわけではない、
問題は…。
「この広範囲をどう動くかだ、なぁ」
クルツ、と言いかけて宗介は寂しげに口をつぐむ。

そうだ、もうクルツはいない…、マオもここにはいない。
せめて2人のうちのどちらかがいてくれれば…いや無いものねだりをしても仕方が無い。
しかも14時30分から雨が降る、こういう状況ならばよほどのことが無い限り雨中の移動は基本的には行うまい。
と、なると14時30分から雨が上がる17時までは拠点内での制圧戦になる。
覚悟は出来ているがそれでも単身での突入は避けたかった。

「国際条約違反だがやむを得まい」
考え事をしながらもコンバットナイフでガリガリと手持ちの弾頭を削り十字の切れ込みを入れていく宗介、
ダムダム弾を作っているのだ。
ダムダム弾とは、弾頭を丸く削り、さらに十字状に切れこみを入れたもので、こうしておくと、
本来貫通するはずの弾丸が標的に命中した瞬間、破裂するようになり、したがって破壊力は、
通常弾の数十倍にも達する。

弾丸には限りがある、しかもこの地にはオドーや先ほどの女のように自分のまだ知らぬ強敵が
数多く潜んでいる。
ならば、弾丸一発一発の破壊力を可能な限り上げ、確実に一撃で沈める。
いかに頑丈を誇る相手でも、肉もろとも骨をも砕くダムダム弾の威力には抵抗しえまい。

「さてと…」
行くか、そう呟き立ち上がろうとした瞬間だった。
ソーコムを握る宗介の右腕が鋭く閃く!
僅かに遅れて弾丸同士が激突し、閃光、マズルフラッシュを直視しないように、
さらにもう一発追い撃ちを掛ける宗介。
(早速か…探す手間が省けたな)

269 instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/19(木) 01:32:37 ID:yxHCzzcQ
あの男…やる!
気配を完璧に消して、なおかつ後ろを取ったはずなのに…、
宗介の放った弾丸を回避し、柱の影に隠れるキノ。
(残り弾は…)
さっきの1発で合計8発、ショットガンは虎の子だ…今はまだ使えない。
なら、接近戦を仕掛けるしかない。
出来る限り相手を視界に捕らえ、その上で速射ち勝負をかける。
キノは猫のように身を屈め、廃墟の中を縫うように移動を始める、

そして一方の宗介も考える、相手は相当な早撃ち自慢…察知したのはこちらが早かったにも関わらず、
弾は撃ち落とされてしまった。
マガジンは今使っているのを含めてあと2つ…今後を考えると無駄撃ちは出来ない。
しかし節約して戦えば火力で押し切られる危険もある。
なら接近戦しかあるまい。
宗介はコンバットナイフを構え、キノと同じように廃墟の中を滑るようにやはり移動を開始する。

(どこだ…)
薄日が差し込む中、息を潜めつつも俊敏に廃墟を駆けるキノと宗介。
神の目を持つものならわかるかもしれない、
彼らは廃墟の中、お互いの背後を取り合うべく円を描くように移動している。

それは僅かな時間でしかなかったが、妙な均衡状態をその場にもたらしてもいた。
あとは崩れるのを待つだけだ…。
一羽の小鳥が廃墟の中に迷い込む…静寂の中僅かな羽音が響いた時、
いつの間にか移動のベクトルが変わっていたらしい、
正面から宗介のナイフが凶悪な唸りを上げて、キノの首筋へと迫る。
それをキノはヘイルストームの銃身で受け止める、がちんと乾いた火花が散る。
宗介が刃を滑らせナイフの軌道を変えるのと、キノがそのスキにトリガーを引くのは同時。
宗介が身をかがめ足元をなぎ払おうとした時には、彼の心臓の位置を弾丸が通り過ぎていた。

270 instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/19(木) 01:35:38 ID:yxHCzzcQ
「チッ!」
2人は同時に叫んで飛び退り、また距離を置く…
そして、一度は退こうとした彼らが何かを察知したかのように、その身体を翻した時。
かちゃりと冷たい音がまた2つ同時に響いた。
微動だにせず向かい合う宗介とキノ、宗介のソーコムはキノの眉間に向けられている、
一方のキノのヘイルストームは、宗介の眉間にポイントされていた、
距離は3M…お互いの技量なら必殺の距離だ。

だからこそ動けない、トリガーを引くことは簡単だ…だがそれは同時にどちらかが死ぬことを
意味する、それが自分か相手か…その確証が得られぬ限り引くわけにはいかない。
そして時間だけが過ぎていく、迷い込んだ小鳥がチチチと空気を読まずに囀る。
「らちがあかないですね?」
最初に口を開いたのはキノだった。

「ああ…」
表情を変えずに応じる宗介。
「お前は何のために戦う?」
今度は逆に宗介がキノに聞く。
「死にたくないから」

至極当たり前のように答えるキノ、それを受けてまた宗介。
「何人殺した?」
「聞いてどうすんですか?そんなこと」
キノの言葉には僅かな動揺、それを聞いて考えをめぐらせる宗介…やがて。
「俺と組まないか?」

宗介の言葉に沈黙と失笑で応じるキノ。
「ならここで死ぬまでやりあうか?俺も分が悪い駆けは張りたくないんでな、お前も同じだろう?
 続きは最後の2人になったとき、改めて行えばいいだけだ」
だが、俺はそこまで待つつもりはない、お前もだろうが、と心の中で呟く宗介。

271 Instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/19(木) 01:36:25 ID:yxHCzzcQ
宗介の言葉に思考をめぐらせるキノ。
確かに地下での出来事から、1人で戦うことの焦りを感じ始めていた矢先だ。
まして相手の力量は互角…ここは従うか…。
いざとなれば寝首を掻けばいい、相手も同じ心境だろうが…その方が後腐れがなくって、
共に戦うにせよやりやすいはずだ。

一方の宗介…彼にとっては、無論これ以上の戦闘を避けたいというのもあるが、
これからの殺人ロードを行うにあたっての人手が欲しかったというのが第一だ。
それに相手の目的が生き残るという単純な物なのも好都合だ、
わけのわからないイデオロギーで振りかざすこともありえないだろう。
戦場においては利害関係こそがもっとも強固な絆となるのだ。
さらに言うなら殺人者を手元においておくことで、間接的にかなめやテッサの安全を守れることになる。
それに…首を1つ確保できたことにもなる。

どちらからともなく、2人は銃を下ろした。
それはこの瞬間に同盟が締結されたことを意味した。
「ボクの名前はキノ」
キノが自己紹介を始める、伏せ目がちなのはその瞳の奥の危険な本心を隠すためとしか思えない。
「相良宗介だ、よろしく頼む」
宗介は宗介でやはりその表情は不自然極まりないのだった。

272 Instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/19(木) 01:40:40 ID:yxHCzzcQ
【B-5/1日目/12:15】

【キノ】
[状態]:通常
[装備]:カノン(残弾無し)、師匠の形見のパチンコ、ショットガン、ショットガンの弾2発。
   :ヘイルストーム(出典:オーフェン、残り7発)、折りたたみナイフ
[道具]:支給品一式×4
[思考]:最後まで生き残る。

【相良宗介】
【状態】健康。
【装備】ソーコムピストル、コンバットナイフ。
【道具】荷物一式、弾薬。 かなめのディバック
【思考】かなめを救う…必ず

273 ◆91wkRNFvY :2005/05/19(木) 19:00:06 ID:YJtIx1B.
「でよ、ちょっと野暮用でな、商店街までの道を聞きてーんだけどよ」 
 顔に刺青を入れた少年はぶっきらぼうに訊ねる。
「商店街? お前地図持ってないのか?」
 スィリーの所為で多少疲れ気味になっているのか、割と投げやりに聞く。
「それが置いてきちまってよ」
 両手を上げ、やれやれ、といったポーズをとる。
「それなら、ここから北西に真っ直ぐ1kmほど行ったところですわ」
「おっ、サンキュー。んじゃな。」
 言うなり、茉衣子が指を差した方へ向け歩いていく。
「まぁ、待ちたまえ。キミは何か目的があって商店街に?」
「おうよ、ちょっと水が足んなくなっちまってな、俺が集めてくることになった」
 宮野に止められ、振り向く零崎。
「ふむ、ということはキミのお仲間がいるということだな?」
「仲間、仲間ねぇ。ま、どっちでもいいけどよ、何人かいるのは間違いねぇ」
「良かったら我々を案内してはくれまいか?」
「わりーんだけど、急いでるんだわ、また会ったら教えてやっても良いぜ、んじゃな」
「そうか」
 意外とあっさり引き下がる宮野。
「少年、これを持っていけ」
 懐を探り、持っていた自殺志願をホルダーごと零崎に放り投げる。
「うぉっ、っぶねーな…、って自殺志願じゃねーか?!」
 ホルダーから大鋏を抜き出し、確認する。
 自殺志願、かつて零崎人識が兄の双識から殺してでも奪い取ろうとしたアイテムだ。
「私にはそのような物は必要ない、君が使いたまえ」
「ラッキー、念願のマインドレンデルを手に入れたぜ。
 わりーな、次会ったら今度は案内してやっからよ。じゃーな」
 今度こそ、少年は森の中へと消えていった。

274 ◆91wkRNFvY :2005/05/19(木) 19:00:48 ID:YJtIx1B.
「良いのですか?」 
「ふむ、私には関係ない」
「…? 何故彼に?」
「彼が持っているべきだと、そう思っただけだ、そもそも私に武器は必要無い。
 私は自分自身の能力に絶対の自信を持っているからな!」
 拳を握り、高らかに掲げる宮野。
「行っちまったな、どうすんだ?」
「また人を探すまでだ。彼とは別の方向に向かってみようか」
 
 そして、やっぱり適当に歩き出す宮野であった。
 
*** *** *** *** *** ***

 先ほどの青年は、ひとしきり何かを呟いた後さっさと行ってしまった。
 しずくは黙って見送り、立ち上がる。
 思ったよりもすぐ側にエスカリボルグは落ちていた。
 半壊しかけた腕を垂らしながら、逆の手で拾い上げる。

 ―――はふ。

 溜息。先ほどの黒鮫を殴った所為で右手は暫くの間は使い物にならない。
 システムチェック、アクティブ・パッシブ共にセンサーの能力低下。
 右腕上腕から末部に到るまでの神経系の物理的切断箇所多数。
 幸いフレームにはこれといった異常は見当たらない。
 歩いていく分には問題は無いが、激しい動きは控えた方が良いだろう。
 数時間安静にしていればこの程度の損壊などは修復できるのだが、現時点で安静に出来るような場所の確保などは難しい。

275 ◆91wkRNFvY :2005/05/19(木) 19:01:39 ID:YJtIx1B.
 それに、のんびりも言っていられない。かなめを助けなければならないのだ。
 宗介には「誰にも言うな、次に会えば殺す」と言われたが、出来る事ならば彼も助けてあげたいと思う。
 彼の戦闘能力は常人よりも遥かに高い、もし出会ってしまったら彼を抑えられる人間は限られる。
 火乃香や"蒼い殺戮者"の様に高い戦闘能力を持っていれば何とかなるだろう。
 その2人なら宗介だけでなく、かなめも助けてくれるに違いない。
 問題は、出会えるかという事だ。
 火乃香やBBで無くても良い、戦闘能力が高く、尚且つこちらに手を貸してくれる者。
 いるだろうか。
 しずくは考える。これからは人に声をかけるときは気をつけなければならない。
 かなめやオドーの様にこちらに好意的とは限らないのだ。
 朝、神社で襲撃された時点、いや、この争いが始まった時から解っていた事なのに。

 どうするべきだろうか。しずくは半壊した腕を抱え、何処へともなく歩き始める。
 じっとしていても始まらない、腕を完治させるのは後回しだ。
 ふと、思い出す。あの地下で眠っていた女性は何者なのかと。
 宗介や自分よりも速く動き、得体の知れない雰囲気を纏っていた。
 あの女性を倒すか説得するかしなければ、かなめは救われずに、宗介も殺人を繰り返す。
 それだけは、避けなければ。
 BBの「野生の感」といったようなものは無い、火乃香の「気」もない。
 レーダーセンサーが能力ダウンした今、頼りになるのは聴覚・視覚センサーのみだ。
 耳を澄まし、眼を凝らし、一歩ずつ確かに歩いてゆく。
 森を抜け開けた海岸に出、見渡してみるが誰もおらず、仕方なく引き返そうとする。
 振り向きざまに森の奥を見渡す。 

 誰か、いる―――。

276 ◆91wkRNFvY :2005/05/19(木) 19:02:20 ID:YJtIx1B.
 警戒しつつ木陰に隠れ、先ほど映った人影を再生する。
 白衣の男性、黒衣の女性と男性、3人を確認。敵か、味方か。
 向こうにも気付かれたようで、緊張が走る。だが。
「案ずることは無いぞ!そこな娘っ子よ!
 我々はこのケッタイなゲームから脱出しようという目的を持つ、正義の魔術師なのだ!
 キミも良かったら我々の同志にならんかね?」
 若い男性の声と、それに反応するように女性の声。
「班長、いきなり声をかけるとはどういう了見でしょうか。
 先ほどの放送はお聞きになったでしょう?もう既に30人を超える方々が亡くなっているのです。
 ということは、それに近い殺人者が潜んでいる可能性がありましょう?
 もしかしてお忘れになったのですか?それとも聞いていなかったのでしょうか?
 でしたらやはり班長の脳ミソの中にはホンモノの代わりに蟹ミソでも詰まってらっしゃるのでしょうね」
「茉衣子くん、蟹味噌は蟹の脳ミソのことでは無いぞ!そんなことも知らんのかね!そもそも蟹味噌とはだな…」
「どうでもいいけどよ、あの子はほっといて良いのか?」 
 冷静な指摘で、最初の男はこほん、と咳をたて、
「む、そうであったな、では改めて。我々はこの空間から脱出できる人材を捜している。
 キミに心当たりは無いかね?」

 この人たちは、自分の頼みを聞いてくれるだろうか。

277 たまには俺も考える :2005/05/19(木) 21:16:44 ID:mhhsWZag
「あーくそっ。遅れちまってる」
俺はようやく商店街に着きながら言った。
ちょっと前に三人組と会って道を聞いたまでは良かったが。
なにやら戯言昆虫がいたのは─まぁいい。予定外に時間を食われたのが間違いだったようだ。
コンパスも貰えばよかった…と手元の大鋏をくるくる回しながら考える。
危険極まりない大鋏だが、刃物の取り扱いは慣れている。
それにこのマインドレンデルは前から欲しかったものだ。
使うものが使えば首も容易に切断できる業物だ。
そしてこれは兄貴の形見──
「ん?」
疑問がよぎる。なんでこんなこと考えたんだ?そもそも兄貴って死んだっけ?
俺は、いつここの世界に連れ去られたんだっけ?
一つ一つ思い出す。欠陥製品との出会い。人類最強との戦い。そして逃走。さらに…
思い出せな──
そう思った瞬間様々な事が断片的に浮かんできた。
両手首の無い少女。倒れてる自殺志願。早蕨。舞織。死に顔。
止まる電車。ギザ十。『お前ら全員、最悪だ』知ってる。『人の死には悪が』俺が言ってる。
弾ける扉。入ってくる赤。言う少女。『それでは零崎を始めます』
そこまで考えて、記憶は雲散した。
もしかして、都合がいいように記憶が改変させられている?
「問題は『何』に都合がいいか、だな」
入ってきた赤との戦闘はまるで思い出せない。止まる物語。
デジャヴを感じたような、煮え切らない感じ。むかつく。
例えば<マンイーター>匂宮出夢。奴は「理澄が死んだ」と言っていた。
生憎そこまで殺し名世界の情報には詳しくないが、少なくとも<カーニバル>が死んだ、とは聞いていない。

278 たまには俺も考える :2005/05/19(木) 21:18:01 ID:mhhsWZag
多分、違う時間に連れ去られてきたのだろう。何かの都合のために。
俺は最初殺した奴に「昼寝してた」と言ったが、どこで、いつ?
あの欠陥もあの人食いもあの策士も記憶が都合よく変えられ、奴らの物語は止まっているのだろうか。
そしてあの──
「さぁ盗むぞミリア!手始めは野菜だ!グリーンだからきっと青野菜が好きだな!」
一つ隣の通りで大声が聞こえた。さっきから気づいていたから今更慌てないが。
「ビタミンミネラルだねアイザック!」
「潤さんはむしろ赤って感じだけど…」
潤さん。…<砂漠の鷹>哀川潤だろうか。
仲間、か?あの赤の。
どうする。会ってみるか?俺より後の時間に連れてこられたとしたら、色々俺の疑問─あやふやになった記憶を保管できるが。
「んー」
考えながら手ごろな民家に入り込む。あいつ等はとりあえず無視。
炊事場を発見し、水道のコックを捻る。
「駄目、だよな。多分」
水が、では無い。哀川潤に会うのが。
俺より少し前に連れてこられたとしたら俺をぶっ殺すだろうし、後に連れてこられたとしても和解できてるとは思わねーし。
ボトルの中に水を注ぎ込む。あっという間に三本溜まった。
少し飲んでみたが、うれしいことにおいしい水道水だった。
デイパックを抱える。意外と軽い。まだ何か入りそうだが。
刃物はもういい。業物を持ってる。
食料は探してるとさっきの連中に会うかもしれない。哀川潤に俺の風貌を言われたら殺しに来るかもしれない。

279 たまには俺も考える :2005/05/19(木) 21:18:42 ID:mhhsWZag
思い立って机を漁り、コンパスを取った。たしか南東を進めばいいはずだ。
ちらっと本棚を見る。本が大量に置いてある。
「なんだ。ライトノベルばっかだな」
端から見ていく。Dクラッカーズ、Missing、されど罪人は竜と踊る、アリソン、ウィザーズブレイン………かなりの種類のノベルが全巻揃ってる。
違う棚を見る。俺の好きな太宰治が置いてあった。それを嬉々ととり、デイパックに詰める。

──幸か不幸か、彼は「零崎双識の人間試験」と「撲殺天使ドクロちゃん」の背表紙を見ないで出て行った。

「よっし帰るか」
そういって彼は民家から飛び出す。
3キロの水と大鋏、それに太宰治の代表作をもって走り出した。
『皆さん聞いてください、愚かな争いはやめましょう、そしてみんなで生き残る方法を考えよう』
聞こえてきた放送、そして銃声にも何の感慨も示さず、連れの待つ森へと向かう。

【C−3/商店街/1日目・11:05】

【零崎人識】
[状態]:平常
[装備]:出刃包丁  自殺志願
[道具]:デイバッグ(ペットボトル三本、コンパス)  砥石  小説「人間失格」
[思考]:惚れた弱み(笑)で、凪に協力する。 F-4の森に帰る
[備考]:記憶と連れ去られた時期に疑問を持っています。
     大量の参加者たちのライトノベルを目撃しました。

280 Instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/19(木) 21:29:06 ID:NLLJlQ1U
地図を眺めながら今後の計画を練る宗介。
タイムリミットは6時間、6時間で5人の命を奪う。
ギリギリだが出来ないわけではない、
問題は…。
「この広範囲をどう動くか、どう考える?」
クルツ、と言いかけて宗介は寂しげに口をつぐむ。

そうだ、もうクルツはいない…、マオもここにはいない。
せめて2人のうちのどちらかがいてくれれば…いや無いものねだりをしても仕方が無い。
しかも場合によっては拠点内での制圧戦を考慮に入れないといけない。
覚悟は出来ているがそれでも単身での突入は避けたかった。

「国際条約違反だがやむを得まい」
考え事をしながらもコンバットナイフでガリガリと手持ちの弾頭を削り十字の切れ込みを入れていく宗介、
ダムダム弾を作っているのだ。
ダムダム弾とは、弾頭を丸く削り、さらに十字状に切れこみを入れたもので、こうしておくと、
本来貫通するはずの弾丸が標的に命中した瞬間、破裂するようになり、したがって破壊力は、
通常弾の数十倍にも達する。

弾丸には限りがある、しかもこの地にはオドーや先ほどの女のように自分のまだ知らぬ強敵が
数多く潜んでいる。
ならば、弾丸一発一発の破壊力を可能な限り上げ、確実に一撃で沈める。
いかに頑丈を誇る相手でも、肉もろとも骨をも砕くダムダム弾の威力には抵抗しえまい。


「さてと…」
行くか、そう呟き立ち上がろうとした瞬間だった。
ソーコムを握る宗介の右腕が鋭く閃く!
僅かに遅れて弾丸同士が激突し、閃光、マズルフラッシュを直視しないように、
さらにもう一発追い撃ちを掛ける宗介。
(早速か…探す手間が省けたな)

281 Instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/19(木) 21:29:50 ID:NLLJlQ1U
あの男…相当な技量だ。
気配を完璧に消して、なおかつ後ろを取ったはずなのに…、
宗介の放った弾丸を回避し、柱の影に隠れるキノ。
(残り弾は…)
さっきの1発で合計8発、ショットガンは虎の子だ…今はまだ使えない。
なら、接近戦を仕掛けるしかない。
出来る限り相手を視界に捕らえ、その上で速射ち勝負をかける。
キノは猫のように身を屈め、廃墟の中を縫うように移動を始める、

そして一方の宗介も考える、相手は相当な早撃ち自慢…察知したのはこちらが早かったにも関わらず、
トリガーを引いたのはおそらく向こうが速かった、弾が撃ち落とされたのは偶然に過ぎないだろうが。
マガジンは今使っているのを含めてあと2つ…今後を考えると無駄撃ちは出来ない。
しかし節約して戦えば火力で押し切られる危険もある。
なら接近戦しかあるまい。
宗介はコンバットナイフを構え、キノと同じように廃墟の中を滑るようにやはり移動を開始する。

(どこだ…)
薄日が差し込む中、息を潜めつつも俊敏に廃墟を駆けるキノと宗介。
神の目を持つものならわかるかもしれない、
彼らは廃墟の中、お互いの背後を取り合うべく円を描くように移動している。

それは僅かな時間でしかなかったが、妙な均衡状態をその場にもたらしてもいた。
あとは崩れるのを待つだけだ…。
一羽の小鳥が廃墟の中に迷い込む…静寂の中僅かな羽音が響いた時、
いつの間にか移動のベクトルが変わっていたらしい、
正面から宗介のナイフが凶悪な唸りを上げて、キノの首筋へと迫る。
それをキノはヘイルストームの銃身で受け止める、がちんと乾いた火花が散る。
宗介が刃を滑らせナイフの軌道を変えるのと、キノがそのスキにトリガーを引くのは同時。
宗介が身をかがめ足元をなぎ払おうとした時には、先程の彼の心臓の位置を弾丸が通り過ぎていた。

282 Instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/19(木) 21:31:14 ID:NLLJlQ1U
「チッ!」
2人は同時に叫んで飛び退る、宗介のナイフの第2撃が今度はキノの胸元を狙う。
今度はくぐもった音、キノの手にはいつの間にか折りたたみナイフが握られている。
それは宗介の持つコンバットナイフの凶悪なフォルムに比べるとチャチだが、
キノの手首が閃き、逆にすべるような軌道で宗介の首筋に刃が伸びる…実用度では引けをとらない。
防ぐのは間に合わないと判断しまた後退する宗介、しかし背後は壁だ、どうする?
宗介は迷うことなく渾身の力でバックジャンプし、その反動で壁を蹴り、

その勢いのままキノへとび蹴りを見舞おうとする。
前のめりになっているキノには逃れる術がないように思えたが、キノはこれも瞬時の判断で
素早く身を伏せ、前転することで宗介のキックをやり過ごす。
そして宗介が着地し、キノが立ち上がると同時に、かちゃりと冷たい音がまた2つ同時に響いた。

微動だにせず向かい合う宗介とキノ、宗介のソーコムはキノの眉間に向けられている、
一方のキノのヘイルストームも宗介の眉間にポイントされていた、
距離は3M…お互いの技量なら必殺の距離だ。

だからこそ動けない、トリガーを引くことは簡単だ…だがそれは同時にどちらかが死ぬことを
意味する、それが自分か相手か…その確証が得られぬ限り引くわけにはいかない。
そして時間だけが過ぎていく、迷い込んだ小鳥がチチチと空気を読まずに囀る。
「らちがあかないですね?」
最初に口を開いたのはキノだった。
「ああ…」
表情を変えずに応じる宗介。
「お前は何のために戦う?」

今度は逆に宗介がキノに聞く。
「死にたくないから」
至極当たり前のように答えるキノ、それを受けてまた宗介。
「何人殺した?」
「聞いてどうするんですか?そんなこと」
キノの言葉には動揺はない、それを聞いて考えをめぐらせる宗介…やがて。
「俺と組まないか?」
宗介の言葉に沈黙と失笑で応じるキノ。
「考えろ、ここで死ぬリスクと俺と共闘することのメリットを、互いの利害が一致する以上、
 俺たちは共闘し、戦力を提供し合えるはずだ」
だが、俺は最後まで付き合うつもりはない、それはおそらくお前もだろう?、と心の中で呟く宗介。

283 Instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/19(木) 21:33:26 ID:NLLJlQ1U
宗介の言葉に思考をめぐらせるキノ。
確かに地下での出来事から、1人で戦うことの焦りを感じ始めていた矢先だ。
まして相手の力量は互角…ここは従うか…。
いざとなれば寝首を掻けばいい、相手も同じ心境だろうが…その方が後腐れがなくって、
共に戦うにせよやりやすいはずだ。

一方の宗介…彼にとっては、無論これ以上の戦闘を避けたいというのもあるが、
これからの殺人ロードを行うにあたっての人手が欲しかったというのが第一だ。
それに相手の目的が生き残るという単純な物なのも好都合だ、
正義だの愛だの憎悪だの復讐だのと、わけのわからないイデオロギーを振りかざされると厄介だ。
戦場においては生存という名の利害関係こそがもっとも強固な絆となるのだ。
さらに言うなら殺人者を手元においておくことで、間接的にかなめやテッサの安全を守れることになる。
それに…首を1つ確保できたことにもなる。

どちらからともなく、2人は銃を下ろした。
それはこの瞬間に偽りながらも同盟が締結されたことを意味した、例えるなら
昨日の他人と明日の敵の間にはとりあえず今日の友人、という所だろうか?
「ボクの名前はキノ」
キノが自己紹介を始める、伏せ目がちなのはその瞳の奥の危険な本心を隠すためとしか思えない。
「相良宗介だ」
宗介は宗介でやはりその表情は不自然極まりないのだった。



【B-5/廃墟/1日目/12:15】

【キノ】
[状態]:通常
[装備]:カノン(残弾無し)、師匠の形見のパチンコ、ショットガン、ショットガンの弾2発。
   :ヘイルストーム(出典:オーフェン、残り7発)、折りたたみナイフ
[道具]:支給品一式×4
[思考]:最後まで生き残る。

【相良宗介】
【状態】健康。
【装備】ソーコムピストル、コンバットナイフ。
【道具】荷物一式、弾薬。 かなめのディバック
【思考】かなめを救う…必ず

284 Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/19(木) 22:39:55 ID:NLLJlQ1U
「うーん腹減ったあ」
空きっ腹を抱えてうろつく竜堂終、永遠の欠食児童または食欲魔人の異名を持つ彼である。
想像に漏れず、支給品のパンはとっくに胃袋の中だった。
「しかもあのおばさん、人の身体で思い切りハッスルしやがって、あー腹減ったあ」
満腹の時はいざとなればそこらへんの野草でもむしって食べればいいやと思ってたが、
空腹になってみるとどうしても躊躇してしまう、ならバッタかコオロギでも食べるか…
いや、そこまでやってしまうと何かこう人間の尊厳とかそういう難しい何かが
音を立てて崩れてしまうような、そんな複雑な気分になってしまう。
商店街に戻るのも手だったが、カーラが好き放題してくれたおかげでしばらく表街道は歩けそうにもない。
(あの頬に傷の兄ちゃん…かなりやばいな)
強者は強者を知る、一瞬の出会いだったが、終は実のところオドーよりも宗介に危険性を感じていた。
(てっきり狙いはあっちだと思ったんだけど…おばはんの考えることはよく分からん)
「でもまぁ・・・俺竜だしなぁ、うん?」
くんくんと鼻を鳴らす終、漂うのは魚を焼く香ばしい匂いだ、誘われるように終はふらふらと歩いていった。

「…」
さめざめと涙を流す藤堂志摩子、また1人彼女の友が逝ったのだ。
メフィストも何も言わない、さしもの彼と言えどもこんな状況で何を言えばよいのか?
さらに、道中で見つけた誰かの墓を掘り返して見つけたあるものが、
彼の心を時折ひどく不機嫌にしてもいた。
「まさかな…」

そんな彼の顔を涙ながらにも興味深く覗き込む志摩子。
何か心配事でも?とは聞けない、もとより聞く資格も自分にあるとは思えない。
「大丈夫だ、君には関わりのないことだよ…ああそれから」
そんな志摩子の心の内を知ってか知らずか、優しく声をかけるメフィスト
「そこの君もだ、早く来ないと全部食べてしまうぞ」
メフィストの呼びかけに応じるように、木立ちの中から終が姿を見せたのだった。

285 Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/19(木) 22:40:59 ID:NLLJlQ1U
「いやあ食った食ったあ」
満足げにお腹をさする終、しかも身体中のかすり傷は全てメフィストの手により全快している。
目の前の白き医師にとって、そんな程度の傷は怪我の内にも入らないようだ。
「喜んでくれて何よりだ…では」
若鮎のような君の身体を隅々まで…と言いかけるメフィスト、
だがそこで何かを感じ取ったのか、身構えようとする終。
「どうしたのかね?」
「ああ…なんつーか独特の空気を少しだけ感じたんだ、いやあ多分大丈夫とは思うけど、
 竜堂家の家訓としてホモは宇宙の塵にしろってのがあるから」
まぁ、この子って鼻が利くわねと思いながら志摩子が口を開く。
「それは竜堂家だけじゃなく、たな…」
「そこまでだ」
ついつい危険な領域に話を踏み込ませようとした志摩子を嗜めるメフィスト

「で、では何なんだよ?」
「あーその…つまり」
宇宙の塵になりかけた魔界医師がもったいぶってようやく応じる。
「食事代として君が今までに見てきたこと、知っていることを教えてもらいたい、
 我々が2匹食べる間に君は8匹も食べたのだからな…」

「祐巳さんが…そんな」
終の話は志摩子にとって衝撃そのものだった、由乃、祥子は死に、敬愛する聖は闇に堕ち、
さらには親友までもが…。
最初は信じられなかった、しかし彼女が落としたというロザリオは間違いなく祐巳のものだった。

やはりあの飾りをつけなくってよかった、と思いつつも、
自分の代わりに親友が犠牲になってしまった、その忸怩たる思いが志摩子を締め付ける。
メフィストはさらに終から情報を引き出している。

286 Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/19(木) 22:41:45 ID:NLLJlQ1U
彼がもっとも警戒する敵である美姫の動向を聞けたのも大きかったが、今はもっと重要なことを聞かねばならない。 
「それで主な戦法は何かね?」
「魔法を使うぜ、それもかなり強力な、でも注意すべきは戦場での経験値だな、力の入れ所、抜き所は
 まさに完璧、ああいうのを歴戦って言うんだろうな…それから交渉は無理だぜ
 自分の正義に凝りかたまって、しかもまるで疑問にも思ってないからな」
「身体能力はどうなる?わかるかね」
「武術もけっこうなもんだ、けど多分つけた人間のそれに依存すると思う、俺の身体を手に入れて拾いものだって言ってたから」
「祐巳くんの身体能力はどんなものかね?」
「どちらかといえば苦手な方だと思います」
志摩子の言葉に反応する終、
「祐巳ってあの子のことか?運動が苦手?とんでもないぜ」

終は倉庫や先程の出来事を思い出す、倉庫に関しては断片的にしか覚えてなかったが。
「てな具合だ…うん?」
これまで冷静そのものだったメフィストの顔がかなり険しくなっている。
「もっと詳しく聞かせてくれないか」

悪い予感が現実のものに、しかも最悪のものになりつつある。
終が嘘を言うとは思えない、ただの人間である彼女が。福沢祐巳が突如そこまでの身体能力を得られるものなのだろうか?
考えたくはないが…メフィストは先程の墓での出来事を思い出す

『墓を暴くなんて…』
伏せ目がちながらも抗議する志摩子。
『君の気持ちはわかる、だが戦場においては死体こそが全てを雄弁に語るのだ、その気持ちを持って
 志半ばで死した者の冥福を祈ってくれないかね?』
周囲の状況を綿密に観察しながら、墓土を暴いていったメフィスト。

あそこに埋葬されていたのはダンピール、しかも心臓の血が抜かれていた。
それも殺されてからしばらく経過して、それだけのためにわざわざ心臓を取り出している。
周囲の状況からいって、埋葬した何者かが行ったことだろう。

となるとやはり…。
メフィストは自分の予感があたりつつあるのを感じていた、
特定の魔の血肉を取り込み、己が力とする外法。
例えば龍の血を浴び不死身となったジークフリードの伝説など、この手の話はよくあることだ。
もっとも自分の存在する世界では伝説や文献の中にしか存在せず、とうに絶えた術だが…

287 Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/19(木) 22:42:27 ID:NLLJlQ1U
「志摩子くん、聞きたいことがある…彼女の靴のサイズが幾つなのか分かるかね?」
「えっと」
志摩子は聞かれるままに答える。
地面に残されていた足跡、歩幅…それから手形…死体を切開した際の傷の角度や大きさ、
メフィストの頭のなかで次々とパズルのピースが噛み合っていく
「最後に、身長と体重を教えて欲しい」
志摩子が答え、パズルのピースが合わさった、そして得られた結論は…。
志摩子の顔を見るメフィスト、…ダメだ、今彼女にこの事実を告げることは出来ない。
いずれ頃合を見て、ということになるのだろうか?
今はまだ早すぎる。

「どうして…どうして…祐巳さん…」
耐え切れなくなったのだろう、涙を零しながら親友の名を呼ぶ志摩子、
もしかするとメフィストが言わずとも何か察するところがあったのかもしれない。
「お願いします、祐巳さんを元に戻してください!先生なら出来るんでしょう!!」
「難しいな…しかし」
メフィストは志摩子の肩を持つ。
「奇妙な言い方で申し訳ないが、唯一の救いは彼女が異形の姿になっていたということだ、
 そこに彼女を人に戻す鍵があるやもしれん」

…問題は一介の学生に過ぎぬ彼女が何故その事を、そのような忌まわしき真似を行ったかということだ。
無論、それだけで彼女がそのような存在になってしまったと断定は出来ない、
だが例の死体の解体現場に彼女が関係していたということだけはおそらく事実。
そして終のいう異形と化した彼女の姿、いったい誰が彼女を唆したのだろうか?
まぁ、いずれにせよ全ては彼女と対面してからだ。

288 Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/19(木) 22:43:34 ID:NLLJlQ1U
「さて、となると大変なのはこれからだ、彼女を取り戻すにはまずは厄介な魔術師を何とかせねばならん」
終の方を見るメフィスト
「役目重大だぞ、君は先程までそのカーラだったのだ、ならばわずかな時間とはいえ彼女のやり方もある程度は
 分かるのではないのかね?」
「ああ、とりあえず今あいつが狙っている標的は2人だ」
「ほう」
「まずは俺よりちょっと年下の男子、もう1人はバンダナを頭に撒いた…黒いシャツを着た…うーん
 あれは男か女か…」
しかめ面で記憶を手繰り寄せる終、まぁ顔は覚えてるからと締めくくる。
「なるほど、ならば彼女に先んじて彼らと接触しよう、それはすなわち祐巳くんを救うことにも
 繋がるのだから」

志摩子の瞳からまた涙が…しかし今度は嬉し涙だ。
「私なんかのために…すいません・・・ありがとうございます」
「決して君だけのためではない、ここに集うもの全てが私の患者、そして私は医者だと
 それにこれを彼女に渡さねばならないのではないかね?それこそ君の役目だろう?」
祐巳のロザリオをそっと握らせるメフィスト。

「それに彼女を取り戻した時こそ、君の本当の戦いが始まる、
 それは親友である君にしか出来ないことだ」
頷く志摩子、祐巳の身に何がおきているのかはわからない。
だが…それが何であれ、彼女がいかに変わり果てていようとも支えるのが自分の役目であり、
それは武器を振るい血を流す戦いよりも、遥かに困難なことのように思えた…それでも。
「はい!」
泣きながらもしっかりとロザリオを握り締める志摩子。

289 Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b> :2005/05/19(木) 22:45:35 ID:NLLJlQ1U
そうだ、由乃も祥子ももう亡き今、自分しかいないと思う志摩子、
その気丈な決意の内面は不安と恐怖で一杯だったが。
「でも…本当に」
「君のためだけではないと言ったが、君だからこそという部分も勿論ある、
 そんな君だから我々は協力したいと集っているのではないか」
メフィストの言葉に成り行きでうんうんと頷く終。
「重い荷物も分担すりゃ多少は楽になるって!」
もちろん志摩子に協力したいのはいうまでも無く、カーラに仕返しもできるし、一石二鳥だ。
それに彼は彼女の境遇を自分と重ね合わせてもいた。
(始兄貴、茉理ちゃん…)
泣きじゃくる志摩子に胸を貸してやるメフィスト、絶世の美男子に美少女、実に絵になる光景だ。

しかし…納得いかない人もいる。
あー畜生、そうだよ…こんな役はどうせ続兄貴とかこんなんとかばっかが持って行くんだ。
俺なんざ結局小早川…ダメダメダメそれはダメ、絶対。
うらやましげにメフィストを見る終だった。
「年齢的にいってそれは俺のポジションだろうがあ」

【C-4/一日目、12:30】

【藤堂志摩子】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:争いを止める/祐巳を助ける

【Dr メフィスト】
 [状態]:健康
 [装備]:不明
 [道具]:デイパック(支給品入り)、
 [思考]:病める人々の治療(見込みなしは安楽死)/志摩子を守る

【竜堂終】
[状態]:健康 
[装備]:ブルードザオガー(吸血鬼)
[道具]:なし
[思考]:カーラを倒し、祐巳を助ける

(共通目的、祐巳を探しつつ悠二と火乃香も探す)

290 最強は風の中に稲妻を見る 校正案 その1 ◆I0wh6UNvl6 :2005/05/21(土) 23:54:39 ID:Hw7b583Y
 男が鉄骨に腰を下ろしている。
 手足の長いスマートな体系をした少年、彼の名はリィ舞阪といった。
 だが彼をその名で呼ぶ人はほとんどいない。
 彼を知るものたちは畏怖をこめ、彼を《フォルテッシモ》と呼んだ。
 フォルテッシモの目的は、結局達成せずで終わってしまった。
 彼の探していた相手、ユージンは先ほどの放送で死者として名前を呼ばれ、
その放送は当然、フォルテッシモにも届いていた。
 彼はその放送を聞いてがっかりした。
 しかしそれは、子供がテストで悪い点をとったときのような、その程度のものでしかなかった。
 そしてすぐに気を取り直す。事実を分析するにつれて気持ちは高ぶっていく。
(奴が殺された。ということは奴を超える強者が、最低でも1人、この島にいるってことだ。
どんなやつかは知らないが、楽しみが1つ増えたと考えるべきだな……)
 笑みがこぼれる。
 だが残念ながら、フォルテッシモの予想は間違っていた。
 ユージンを殺したものは既に消滅させられていたのだ、とある神父の手によって。


 フォルテッシモが今いる場所、ここは彼の思い出の場所によく似ていた。
 この場所が自分に新たな宿命を持ってきてくれるかも知れない。
 そう考えた直後、彼は自分の考えに苦笑した。いつから自分はロマンチストになったのか。
 まあ特に急ぐことも無いので、誰かがくるのを待つことにした。

 まだ見ぬ強者を待つ間、彼は唯一自分に敗北を味合わせた男と、初めて会ったときのことを思い出していた。
(これで雨でも降ってれば完璧だったんだがな。そう都合よくはいかねーか。
……そういえば奴の名前は名簿になかったな。チッ、あいつらどういう基準で選んでんだ?)
 参加者に自分の知り合いがいないことを嘆くのは彼ぐらいのものだろう。
 彼の最も会いたい人物であり、戦いたい人物でもある高代亨は、彼に勝利した後姿を消していた。
 もしこの島に彼が来ていれば、フォルテッシモにとってこのゲームはまさに“傑作”となっていたのだが。
(まあ、殺し合いに傑作も糞もないか)
 彼にとって殺し合いそのものには価値は無い。その中にある『なにか』
 それこそ彼が追い求めるものであり、最も価値あるものだった。
 そしてフォルテッシモがそんなことを考えていたとき、1人の男が現れた。
 それはまさに――――宿命の出会いだった。

(……アイツは……)
 向こうから現れた男の雰囲気は、先程まで考えていた男のそれと瓜二つだった。
 ある程度の距離まで近づくと、彼はフォルテッシモに訪ねる。
「人を探しているのだが、目元を隠す仮面をつけた男だ」 
 相手の問いに対し、フォルテッシモは不気味な笑みを浮かべながら答える。
「そいつは舞踏会にでも行くつもりだったのか?
 ……まあいい。こっちも人を探してる。いやなに、おまえのように特定の人物ではないがな」
 フォルテッシモは鉄骨から降り、相手と向き合う。
 相手は怪訝な顔を見せるのも無視して、彼は宣言する。
「俺が探しているのは、そう――

―――俺を楽しませてくれる奴だ」
 抑えていた殺気を解き放つ。その場の空気が一気に重くなる。
 相手もそのオーラを感じとり、懐に差していた木刀を構える。
「くくっ、そいつがおまえの剣か? ……いいぞ、ますます気に入った」
(アイツも剣にはこだわってなかったからな)

291 最強は風の中に稲妻を見る 校正案 その2 ◆I0wh6UNvl6 :2005/05/21(土) 23:55:28 ID:Hw7b583Y
(体の中に恐怖はないといえば嘘になる。相手の殺気は尋常ではない)
 だが彼、ヒースロゥ=クリストフも幾多の死線を潜り抜けてきた猛者であった。
 その殺気に負けない闘気を身に纏うことで、僅かながら残っていた恐怖を完全に断ち切る。
 相手までの距離は8m、いつでも飛び込める距離だ。
(仕掛けるか否か、できるなら話し合いで解決したいとこだが……)
 判断に迷っていると相手から声が掛かる。
「どうした、こないのか? ……こないならこちらからいかせてもらうぞ」
 ビュッという音とともにヒースロゥの頬が切れた。
 射程距離ギリギリで空間を断ち、それに付随して生じる
カマイタチを飛ばしたのだが、そんな事彼が知るはずもない。
(風の呪文か? これはあくまで牽制、狙いは別と見るべきだな……しかし)
 傷は2つ3つと増えていく。
 1つ1つにほとんどダメージは無いにしても、行動しなければこのままなぶり殺しだ。
(このままではじり貧となる――罠だと分かっていてもいくしかない!)
 心を固め、気合を込める。
「ハァアアア!!」
 いったん攻撃のラインから外れるため、横に飛ぶ。そして、一気に相手との距離を詰める!
 スピード、タイミング、共に十分すぎる。相手のけん制によって生じていた隙を完璧に突いた攻撃だった。
 だがその攻撃が相手に当たる直前、確かにあった筈のその隙が―――消えた。

「何!?」

 そんな気がしただけだ。だけなのだが、彼の本能は全力で攻撃を中止することを求める。
 本能に従い、剣を引き距離を取る。何が起こったのか、その木刀は柄から先が無かった。
 どうやら従って正解だったようだ。
 もし突っ込んでいたら、彼の体はこの木刀と同じ運命を辿っていただろう。
 ヒースロゥと対照的に、フォルテッシモの顔は余裕に満ちている。
「ほう、鼻先一つ掠らなかったか。やつはこれで片目を潰したんだが」
 満足そうにうんうんと頷く、どうやらヒースロゥは合格点をもらえたらしい。
 だがそれは決して、良いことではない。


(どういうことだ? やつの攻撃が見えなかった)
 相手の攻撃に全く検討がつかないまま、落ちていた鉄パイプを持ち再び身構える。
 何がおもしろいのか、相手がいきなり笑い出した。
「何がおかしい?」
 苛立ちの顔でヒースロゥは尋ねる。
「クックック…いやなに、おまえの行動がある男とそっくりでな。
 ……そういえば名前を聞いてなかったな。
 なんならその男と同じく、名付けてやってもいいが?」
 完全にからかっている声だった。
「……ヒースロゥ=クリストフだ。」
 ヒースロゥはわけが分からない。
 だがとりあえず、初対面の男に名付けられるのは御免だ。
「ほう、なかなか垢抜けた名前だな。
 俺の名はフォルテッシモ、呼びづらいならリィ舞阪とでも呼ぶといい」
(フォルテッシモ? ……音楽記号だったか?)
 意味も無く考えてしまった。
 音楽は趣味ではないが、それくらいは覚えているらしい。
 仕様もないことを考えてる自分に軽く苦笑するヒースロゥ、まだ余裕はあるらしい。
 だがフォルテッシモの次の台詞が、彼からさらに余裕を奪っていく。
「さて、俺の能力だが――見るやつから見れば、世界は無数の罅割れで覆いつくされている。
 そして、俺はそいつを広げられる、といったところだ」
 こんな風にな。と言うと、フォルテッシモは軽く手を振った。
 すると、彼がさっきまで座っていた鉄骨が一部分だけ、刳り貫かれて落ちた。
 その断面はさながら鏡のようにヒースロゥの姿を映し出す。
 世界一の剣士とも言われるヒースロゥの剣技を持ってしても不可能な芸当だった。
「なかなか便利なもんだろ」
 せせら笑うようにフォルテッシモは言った。
「さて、おまえはどんなものを持ってるんだ? 言いたくないなら無理にとは言わないが。」
 言葉とは裏腹に興味津々である。

292 最強は風の中に稲妻を見る 校正案 その3 ◆I0wh6UNvl6 :2005/05/21(土) 23:56:13 ID:Hw7b583Y
「貴様のようなものならば、持ち合わせてはいない」
 ヒースロゥはその問いに素直に答えた。
「ほう……なんの能力も持たず、俺の攻撃をかわしたのか?」
 意外そうな顔をする、それほどまでの相手には彼は出会ったことがなかった。
「そんなもの、感覚を研ぎ澄ませれば自然とわかる」
 だが、実際のところはただ体が自動的に動いただけで、もう一度かわせるかは微妙なところだ。
 フォルテッシモはゆっくりと歩き始める。
 彼の攻撃の間合いまで、あと3歩程の距離だった。

「そういうものなのか?」
 あっさりとフォルテッシモは信じた。嘘が得意なタイプでもあるまい。
 ヒースロゥはその場を動かない。まだ飛び出すには早い。

 ――残り2歩

「そういうものだ」
 フォルテッシモは歩みを止める気配を見せない。
 対してヒースロゥは今にも動き出さんとする衝動を抑える。

 ――あと1歩

(まだだ……まだ飛び出すには早い)
「そうか――」

 踏み出された瞬間、ヒースロゥの周りの空気が、さらに重くなった。
(来る!)

「――なら、こいつはどうだ!?」

 射程距離に入ったと同時、ヒースロゥのいた場所が弾け飛んでいる。
 しかし、そこに彼の姿はない。2度目もかろうじてだが成功した。
 前と同じように横に跳ぶ。
「せいっ!」
 手に持っていた木刀の柄を投げつける。ダメージを与えるには充分なスピードを出している。
 しかし、この攻撃の狙いは無論、敵にダメージを当てるためではない。
 ただ突っ込むだけでは次こそ木刀と同じ運命を辿ることになる。ヒースロゥはそう考えたのだ。
「ふん」
 と、フォルテッシモが目の前で柄を砕いた。
 砕かれた破片は目眩ましとなり、一瞬視界ではあるが視界が奪われる。
 木片がその効果を失った時、ヒースロゥの姿は視界から消えている。
(もらったぞ!)
 視界が塞がれていた、あの一瞬の間に真後ろに回りこんだヒースロゥ、
躊躇いなくフォルテッシモの背後から、鉄パイプを降り下ろす!
 今度こそ、完全に決まったはず―――しかし、またしても攻撃は失敗に終わった。

293 最強は風の中に稲妻を見る 校正案 その4 ◆I0wh6UNvl6 :2005/05/21(土) 23:57:09 ID:Hw7b583Y
「甘いな」
 振り向きもせずニヤリと笑うのはフォルテッシモ。 背後にまで罅割れを広げ、壁を作ったのだ。
 油断することを知らないその体は、彼に一分の隙も作らせない。
 全てを遮断するその壁は、ヒースロゥの渾身の一撃をも楽に受け止める。
 そして、彼が指を軽く動かすと同時に鉄パイプは砕け、ヒースロゥは吹っ飛ばされ鉄骨に激突する。
「ガハッ!」
 たたき付けられた衝撃でくぐもった声が漏れる。
「お前の負けだ」
 目の前に、威風堂々と最強が立ち塞がる。
 ヒースロゥは殺されるだろうと思い、覚悟を決めた―――

「くたばるにはまだ早い。
 ――お前には見込みがある。あの男と同じように、俺の敵になる見込みが」
 フォルテッシモの言葉に、ヒースロゥは唖然となった。
「おまえは、まだあるものにあっていない。その殻を破る前に死んでしまうにはあまりに惜しい」
 フォルテッシモは言葉を続ける。
 その言葉の真意に気づくと、ヒースロゥは激怒した。
「貴様……俺に生恥をさらせというのか!?」
 それは彼にとって屈辱に他ならなかった。
 フォルテッシモは無視してさらに続ける。
「おまえはあるものを探せ。そいつは、十字架のペンダントの形をしている。
 それを手に入れ、そして再びあったとき、今度こそ望み通り、息の根を止めてやろう」
 言葉を伝えた後、最強は風に背を向け歩き出す。
 その顔にはこれ以上ないほど凶暴な笑みが貼りついていた。
(あの男、いわばもう一人のイナズマといったところか……楽しみにしてるぞ)
 彼は天を仰ぐ、朝日の輝きが顔に当たる。
 しかし彼はその輝きに対しても不敵な笑みを浮かべた。
 それはまるで、その中にいる神に向かって『なかなか洒落た贈り物だ――』
と、感謝しているようだった。


 それに対しヒースロゥは激怒した。
 情けをかけた敵に対し、そして何よりも、弱い自分に対し。
 その心に広がる感情はその昔、似たような場所であの敵に出会った、ある男によく似ていた。


 再び彼らが出会う場所、それは宿命のみが知る……

294 魔界医師の思考遊戯(1/3) ◆3LcF9KyPfA :2005/05/22(日) 22:48:13 ID:IUdB/xsA
「……ふむ」
 魔界医師はそう呟くと、終、志摩子へ視線を巡らし、次いで自分の腕に目を落とす。
 先程の対話の後、志摩子が辛そうにうつらうつらとしていた為、眠るように勧めると、すぐに寝息を立ててしまっていた。
 終も同様に、本人曰く「竜化は疲れる」とのことで、カーラに無茶をされた所為もあってか志摩子が眠りにつくとすぐに倒れてしまう。
 それでも、志摩子より先に眠ってしまわないあたり、大した精神力と言えた。或いは、心がけが徹底しているのか。
「さて……では“実験”を開始してみるとするか」
 こんな状況でも知識欲を失わないあたり、流石は魔界医師、といったところであろうか。

 “実験”を始めたメフィストは、左腕の袖を捲ると、おもむろに右手の指をその腕に突き刺す。
 ぬぷり、というなんとも言えない音と共に、その指が腕にめり込んでいく。
 ――心霊医術。一般にそう呼ばれる、霊的治療術。
「……む?」
 数秒程も指を動かすと、メフィストがなんとも言えない奇妙な表情になる。
 敢えて言うならば、白米だと思って噛み潰したら苦虫だった、というところであろうか?
 奇妙な表情もつかの間、またすぐに無表情へと戻ると、魔界医師には似つかわしくない溜息のような吐息を漏らす。
「これでは、いかんな」
 視線の先は、今し方“実験”を行っていた自分の腕。
 そこには、指を潜り込ませていたのときっかり同じ場所に五つ、小さな痕が残っていた。
「自らの身体でも、これか。他人相手の場合、苦痛を与えてしまうかもしれんな……
 最悪、無用に傷を付けてしまうかもしれん。これでは、治療に使うことは諦めるか」
 治療に完璧を求める魔界医師としての美意識が、普段とは似ても似つかない無様な業(わざ)を許容しない。
 メフィストは、それを封印することに決めた。

295 魔界医師の思考遊戯(2/3) ◆3LcF9KyPfA :2005/05/22(日) 22:48:55 ID:IUdB/xsA
「次は……」
 言い、立ち上がると、舞踏でも踊るかのように動き出す。時に、ゆっくりと。時に、激しく。
 衣擦れの音以外、足音を立てることがないのは流石、と言うべきだろうか。
 しかし、メフィストはやはり――
「…………これも、いかんな」
 どうにも奇妙な表情を作る。
 “気”を応用して、身体の操作能力を上昇させることが出来ないのだ。
 指先等、一箇所に集中すればできないこともないが、それでも先程の様に不完全なものにしかならない。
「では、最後に……」
 メフィストは、“気”を掌に集中させていく。いや、ここは解り易く差別化して、氣と表現した方がいいだろうか。
 シュッ、という音と共に、メフィストの右手が、手刀の形に振られる。
 肌をチリチリと焦がすような見えない圧力が走ると、木陰の落ち葉を散らす。
 ――が、散らしただけ。圧力の中心にあった葉は四散したが、その周囲の葉は散っただけで終わってしまう。
「やはり駄目か」
 そう言って、メフィストは元居た場所に座り込む。「まぁいい」と呟くと、今度は思考に没頭する。
 確定事項、推理事項、断片的な情報、僅かな関連性。
 あらゆるピースをあらゆる角度で結びつけ、論理的な事実から単なるこじつけまで、無数の可能性を組み立てていく。
「知識、知性までは制限を設けなかった所を見ると、魔法的な概念しか制限できていないのか? それとも……」
 魔界医師の思考遊戯は、二人の寝起きまで止むことはない。

【C-4/一日目/13:00】

【藤堂志摩子】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:争いを止める/祐巳を助ける

296 魔界医師の思考遊戯(3/3) ◆3LcF9KyPfA :2005/05/22(日) 22:50:03 ID:IUdB/xsA
【Dr メフィスト】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品入り)、
[思考]:病める人々の治療(見込みなしは安楽死)/志摩子を守る

【竜堂終】
[状態]:健康 
[装備]:ブルードザオガー(吸血鬼)
[道具]:なし
[思考]:カーラを倒し、祐巳を助ける

(共通目的、祐巳を探しつつ悠二と火乃香も探す)

297 Walking with the decision◇7Xmruv2jXQ :2005/05/23(月) 00:27:27 ID:MK/bu.h6
(なにをやってるのかしらね、私は……)
 心が暗く沈んでいくのを自覚しながら、パイフウはその長い髪を掻き分けた。
 黒髪が水のように空を滑る。
 ただそれだけの動作が絵になるほど、彼女の美貌は際立っていた。
 もっとも、唯一のギャラリーは見惚れるような迂闊さとは無縁だったが。
 パイフウの物憂げな黒瞳が自身の手元を注視する。
 117人の名前が連なった名簿。
 その内の36個は斜線が引かれ、この世界から削り取られている。
 パイフウ自身が削った名前は――彼女の認識とは一人分違い――わずかに二つ。
 彼女の背景を考えるなら、間違いなく少ないといえる。
(……歯車が狂ってる。重症ね)
 パイフウは静かに認めた。
 森では素人と大差ない二人相手に骨を折られ、逃亡し、どちらか片方さえ殺せなかった。
 少女の催眠術に手を焼いたのは確かだが、普段なら少女の接近にわけなく気づいたはずだ。
 少年とあわせて、瞬きする間に殺せる程度の障害。
 それを越えられなかった理由はなにか。
(技が鈍っている以前の問題。今の私じゃ素人ですら殺せない。
 ……そんな私がこの男を相手にしたら、一分と持たないでしょうね)
 黒衣の騎士は堰月刀を握ったまま、黙して地面を見ている。
 休んでいるようでその実隙がない。
 こちらが動けば刹那の間に対応するだろう。
 さらには、地下に行けばこの男の主とやらがいる。
 思い出すだけで背筋が冷たくなるあの威圧感。
 見えざる棘のように肌を、肉を刺し貫く鋭利な冷気。
 心臓を鷲づかみにされたような感触がパイフウに警鐘を鳴らしている。
 地下にいる化け物に、関わるべきではないと。
 もちろん自分から関わる気はなかったが……
「そんなことを気にする時点で、らしくないんでしょうね」
 空気に溶けるほど淡く、パイフウは自嘲の笑みを浮かべた。

298 Walking with the decision◇7Xmruv2jXQ :2005/05/23(月) 00:28:16 ID:MK/bu.h6
 
 会話すらなく教会内で時間が過ぎる。
 大雑把に推測して、放送から一時間といったところか。
 左の鎖骨はいまだに繋がらない。
 もともとそう簡単に治るものでもないが、治癒が遅いと感じるのも事実だった。
(気が弱まってるのかしら)
 ヒーリングにはいつもと同じだけの厚みを持った気を練っている。
 それにも関わらず、作用する効果自体は弱まっているようだった。
(こういった違和感の積み重なりが歯車を狂わせている。
 気がつかないうちに、他の身体能力も下がっていたのかもしれない)
 この島に来てからの戦闘を回想する。
 軟派な金髪の男は動けないところを蜂の巣にしたので除外。
 城での乱戦、住宅街での奇襲、森での遭遇戦。
 なるほど。
 あらためて考えてみれば、普段の自分と比べて動きがわずかにずれている……ような気がする。
 まあ、とっかかりになればなんでもいい。
 パイフウは一つうなずくと、自身の能力を下方修正して思考を打ち切った。
 後は骨折が治るまでやることがない。
 黒衣の男と地下を含め、周囲への警戒は怠らないが。
  
 ステンドグラスをくぐった陽光が、柔らかくパイフウを包んでいた。
 その光の暖かさは、彼女の職場たる保健室で感じるそれに似ている。
(エンポリウム、か。あの子ならどうするのかしらね)
 家ともいえる街を人質に取られて、殺人を強要されたとしたら。
 火乃香がどうするか、パイフウにはわからなかった。
 エンポリウムを見捨てられるとも思えなかったし、マーダーとして暗躍するとも思えなかった。
 ディートリッヒらを倒そうとするのが一番ありえそうではあるが、現状では不可能だ。

299 Walking with the decision◇7Xmruv2jXQ :2005/05/23(月) 00:29:03 ID:MK/bu.h6
 パイフウの視線が自身の左手に注がれる。
 殺し合いにおいて致命的なハンデを負った左腕。
 動かそうとして生じた激痛に眉一つ動かさずに耐え、パイフウは胸中で苦笑した。
(やっぱりあの子に汚れ役をやらせるわけにはいかないわ)
 そもそもディートリッヒが約束を守るかも怪しいが、そこは相手を信用するしかない。
 自分を見限ったディートリッヒが火乃香に接触することだけは、絶対に避けたかった。
 なんせまだ三人しか殺していないのだ。
 残念ながらこれ以上休んでいる時間はないだろう。
 不安要素を残したまま、パイフウは行動を決意した。

「行くわ」
「そうか」
 唐突なパイフウの台詞に、黒衣の騎士は短く答えた。
 パイフウの肩が完治していないのは見抜いているだろうが、特に言及してくることはない。
 アシュラムにとっては主の眠りさえ妨げなければどうでもいいのだろう。
 パイフウは長い黒髪を手でかきあげると、入り口に向けて歩き出す。
 いまだ肩は治っていないので、ウェポン・システムを右手で扱えるようホルスターはずらした。
 一流を相手に格闘戦はつらいかもしれないが、早撃ちと組み合わせれば切り抜けられるだろう。
(ディートリッヒは気に入らないけれど……仕方ないわ。尻尾を出すまで待ちましょう)
 もう余計なことを考える必要はない。
 主催者も参加者も関係なく、一人を除いた、この島にある全ての命をただ摘み取ろう。
 最高性能の殺人機械として。
 文字通りの“生き人形”として。
 いつもどおり無感情に、この世界を俯瞰するだけだ。
 淡い陽光の中扉に手をかけて、美しき死神は笑いもせずに囁いた。

「次に会うときは、あなたの主も含めて殺すわ」
 
 アシュラムは動じず、沈黙を保った。
 パイフウは揺るがず、扉をくぐった。
 教会が、再び静寂に沈んだ。

300 Walking with the decision◇7Xmruv2jXQ :2005/05/23(月) 00:29:48 ID:MK/bu.h6
【D-6/教会/1日目・13:10】

【アシュラム】
[状態]:健康/催眠状態
[装備]:青龍堰月刀
[道具];冠
[思考]:美姫に仇なすものを斬る


【パイフウ】
[状態]左鎖骨骨折(多少回復・処置中断)
[装備]ウェポン・システム(スコープは付いていない) 、メス
[道具]デイバック(支給品)×2
[思考]1.主催側の犬として殺戮を 2.火乃香を捜す

301 魔界医師の思考遊戯ver2(1/3) ◆3LcF9KyPfA :2005/05/23(月) 00:45:25 ID:IUdB/xsA
「……ふむ」
 魔界医師はそう呟くと、終、志摩子へ視線を巡らし、次いで自分の腕に目を落とす。
 先程の対話の後、志摩子が辛そうにうつらうつらとしていた為、眠るように勧めると、すぐに寝息を立ててしまっていた。
 終も同様に、本人曰く「竜化は疲れる」とのことで、カーラに無茶をされた所為もあってか志摩子が眠りにつくとすぐに倒れてしまう。
 それでも、志摩子より先に眠ってしまわないあたり、大した精神力と言えた。或いは、心がけが徹底しているのか。
「さて……では“実験”を開始してみるとするか」
 こんな状況でも知識欲を失わないあたり、流石は魔界医師、といったところであろうか。

 “実験”を始めたメフィストは左腕の袖を捲ると、おもむろに右手の指をその腕に突き刺す。
 ぬぷり、というなんとも言えない音と共に、その指が腕にめり込んでいく。
 ――心霊医術。一般にそう呼ばれる、霊的治療術。
 患部に直接指で触れ、器具無しに完治させてしまうそれは、しかし……
「……む?」
 数秒程も指を動かすと、メフィストがなんとも言えない奇妙な表情になる。
 敢えて言うならば、白米だと思って噛み潰したら苦虫だった、という感じだろうか?
 奇妙な表情もつかの間、またすぐに無表情へと戻ると、魔界医師には似つかわしくない溜息のような吐息を漏らす。
「これでは、いかんな」
 視線の先は、今し方“実験”を行っていた自分の腕。
 そこには、指を潜り込ませていたのときっかり同じ場所に五つ、小さな痕が残っていた。
「自らの身体でも、これか。他人相手の場合、苦痛を与えてしまうかもしれんな……
 最悪、無用に傷を付けてしまうかもしれん。これでは、治療に使うことは諦めるか」
 治療に完璧を求める魔界医師としての美意識が、普段とは似ても似つかない無様な業(わざ)を許容しない。
 メフィストは、それを封印することに決めた。
「恐らくは、私の“声”も同じか」
 メフィストの、声。魔界医師の、声。言霊によって相手の精神に絶対的な安らぎを与える技術も、不思議な制限の対象になっているに違いない、と推測する。
 ましてや他人の精神を縛るなど、以ての外だろう。

302 魔界医師の思考遊戯ver2(2/3) ◆3LcF9KyPfA :2005/05/23(月) 00:46:09 ID:IUdB/xsA
「次は……」
 言い、立ち上がると、舞踏でも踊るかのように動き出す。時に、ゆっくりと。時に、激しく。
 衣擦れの音以外、足音を立てることがないのは流石、と言うべきか。
 しかし、メフィストはやはり――
「…………これも、いかんな」
 どうにも奇妙な表情を作る。
 “気”を応用して、身体の操作能力を上昇させることが出来ないのだ。
 指先等、一箇所に集中すればできないこともないが、それでも先程の様に不完全なものにしかならない。
 恐らく戦闘ともなれば、集中する時間も取れずに己の筋力のみで闘うことになる。
 しかし、メフィストは気にもしていないのか、更に“実験”を続ける。
「では、最後に……」
 メフィストは“気”を掌に集中させていく。
 シュッ、という音と共に、メフィストの右手が、手刀の形に振られる。
 肌をチリチリと焦がすような見えない圧力が走ると、木陰の落ち葉を散らす。
 ――が、散らしただけ。圧力の中心にあった葉は四散したが、その周囲の葉は風圧に散っただけで終わってしまう。
「やはり駄目か」
 そう言って、メフィストは元居た場所に座り込む。「まぁいい」と呟くと、今度は思考に没頭する。
 確定事項、推理事項、断片的な情報、僅かな関連性。
 あらゆるピースをあらゆる角度で結びつけ、論理的な事実から単なるこじつけまで、無数の可能性を組み立てていく。
「知識、知性までは制限を設けなかった所を見ると、魔法的な概念しか制限できていないのか?
 それとも、主催者に都合の悪い記憶だけを狙って消す事が出来るというのか……?」
 口にはしてみるが、記憶に欠損は見つからない。今までに書物で仕入れた知識は全て頭に残っている。完璧だ。
「だが一応、せつらに出会うことがあれば記憶の確認をしてみるか」
 それを最後に、魔界医師は思考のパズルに没頭する。

 しかし、魔界医師は気付いていない。
 書物による知識が残っていても、それ以外から得た知識は一片たりとも残されていないことに。
 そして、「思い出せない」という意識すら覚えることなく消された記憶があることに。

 それでも魔界医師の思考遊戯は、二人の寝起きまで止むことはない。

303 魔界医師の思考遊戯ver2(3/3) ◆3LcF9KyPfA :2005/05/23(月) 00:46:52 ID:IUdB/xsA
【C-4/一日目/13:00】

【藤堂志摩子】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:争いを止める/祐巳を助ける

【Dr メフィスト】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品入り)、
[思考]:病める人々の治療(見込みなしは安楽死)/志摩子を守る

【竜堂終】
[状態]:健康 
[装備]:ブルードザオガー(吸血鬼)
[道具]:なし
[思考]:カーラを倒し、祐巳を助ける

(共通目的、祐巳を探しつつ悠二と火乃香も探す)

304 真実と事実(1/6)◇1UKGMaw/Nc :2005/05/23(月) 00:56:03 ID:14CXvzZA
 目を覚ますと、木製の天井が映った。
(ああ……戻ってきたんだったわね)
 朦朧とする意識を引きずって、クリーオウと空目の待つ保健室へ辿り着いたところまでは覚えている。
 道中、他の参加者に出会わないかどうか気が気ではなかったが。
 毛布を被せて貰い、一言二言話をして……そこで安堵してしまったのか、どうやら私は気を失ったらしい。
 床に倒れていたはずだが、いつの間にかベッドに寝かされていた。
 身体の横に重みを感じる。涙でぐしゃぐしゃになった顔のクリーオウがしがみついていた。
 他に、サラとピロテースの姿が見える。彼女達も無事戻ってきたようだ。空目とせつらはどうしたのだろう。
「クリーオウ……」
 手を伸ばして頭を撫でてやる。
「クエロ! よかったぁ……気がついた……」
 泣き笑いの顔で安堵の声を漏らすクリーオウに、こちらも弱弱しく笑いかける。
 図らずも少し睡眠をとったというのに、身体の疲労は取れていなかった。
 ゼルガディスの出したあの青白い炎に触れてからだ。いまいましい。
 ……そう、彼――ゼルガディスのことをごまかさなくては。

「だから言ったろう。気を失っているだけだと」
「だ、だって……!」
 枕元にやってきたサラとクリーオウの会話。
 この調子では、私が気を失ったことでこの子は大騒ぎしていたに違いない。
「サラ、今の時刻は……?」
「12:10。今さっき、放送でゼルガディスの名が呼ばれた。……何があった?」
 ゼルガディスの名が出た瞬間に、服の裾を掴むクリーオウの手がびくっと震えた。
 ごめんねクリーオウ、恨むなら彼の用心深さと運の悪さを恨んでね。
「……ええ、話すわ」
 精一杯沈痛な表情を浮かべ、私は皆に『事の顛末』を語りだした。

305 真実と事実(2/6)◇1UKGMaw/Nc :2005/05/23(月) 00:56:48 ID:14CXvzZA
 ――周辺エリアで、二人の参加者の死体を見つけたこと。
 その参加者の支給武器と思われる、"魔杖剣・贖罪者マグナス"を発見したこと。
 魔杖剣についてはマニュアルがあったことにした。今後、彼女達の前でこれを使う場面はきっとある。
 そして、元いた世界での敵――ガユスとの遭遇――

「なるほど、相手を騙し油断させて寝首を掻くのがその男のスタイルか」
「ええ、でもそれを知っている私がいたから……」

 ――友好的態度で接してきたガユスと連れの男――彼は緋崎と呼んでいた――は態度を豹変。
 私は緋崎の魔術を不意打ちで食らってしまい、今のこんな状態に――

「体内の精霊力に乱れがある……というより、酷く弱っているな。私も精神を磨耗させる精霊を呼べるが、それのさらに強力なものを受けたのだろう」
「そんな……それ、大丈夫なの?」
「しっかりと、まとまった時間の睡眠をとれば問題ないはずだ」

 ――戦闘が始まった。
 だが、私はほとんど前後不覚の状態で、実質二対一。
 ゼルガディスは私を足手まといと断じて逃げろと命じ、自身は私が逃げる時間を稼ぐためにそこに残った。
 そして、微かに聞こえた、彼の断末魔の声――

306 真実と事実(3/6)◇1UKGMaw/Nc :2005/05/23(月) 00:57:34 ID:14CXvzZA
「ごめんなさい……私が、もっと注意を払っていれば……こんなことにはならなかったのに……!」
「クエロ……」
 嗚咽し、取り乱す私をクリーオウが抱きしめてくれる。
 声を出すと自分も泣き崩れそうなのだろう。身体が小刻みに震わせ、必死に声を殺しているのが分かった。
「――それは彼が自分で判断して取った行動の結果だ。あまり気に病まないことだね」
 扉を開けてせつらと空目が入ってきた。
 せつらはバケツを、空目はポットとトレイを携えている。載ってるのは……インスタントコーヒーの瓶?
「二人ともごくろう。……自分で探せと言っておいて言うのもなんだが、よく見つけたな。空目」
「職員用の給湯室で見つけた。ガス――火種も生きていた」
 サラが指示を出して持ってこさせたらしい。
 何に使うのかと思ったが、バケツになみなみと入ったお湯を見て、私の汚れを落とすためだと気づいた。
 転がって服の炎を消したり、ここへの道中幾度か転倒していたことで、かなり薄汚れてしまっているはず。
 ……というか、今気づいたけど下着姿じゃない。毛布で見えないけど。
「僥倖だな。さあ、男性陣は向こうを向いているのだ。こちらを向いたら同盟破棄とみなすのでそのつもりで」
「それは大変だ。お湯は水道水を暖めたものですが、よろしいんですね?」
「一応私が浄化する。そこに置け」
 ピロテースがなにやらよく分からない言葉を紡ぎながら湯に触れる。
 一瞬それを興味深そうに眺めて、せつらはおとなしく窓の外に視線を移した。

307 真実と事実(4/6)◇1UKGMaw/Nc :2005/05/23(月) 00:58:41 ID:14CXvzZA
「――ギギナ? それも危険人物か」
「ええ。ガユスの仲間で、こっちは戦闘狂よ。……そういえば放送では?」
「呼ばれていない。容姿を詳しく教えてほしい」
 保健室に常備されていたタオルで身体を拭きつつ、私はサラの疑問に答える。
 汗と土で汚れた身体が綺麗になっていくのはやはり心地よい。
 擦り傷や軽い火傷もあったと思うが、それらはピロテースが治したらしい。
 もっとも、「精霊を呼ぶ際の消耗が普段より大きいので多用はできない」そうだが。
「はじめに危険人物のリストも作っておくべきだったか」
 ギギナの特徴をメモしたサラがそう漏らした。
 今回のはリストがあっても避けられなかったと思うけど、それには賛成。
 それに、魔杖剣は手に入ったし、邪魔な男も始末できた。
 結果オーライとはいえ、悪い展開ではなかったわ。私にとってはね。
「誰か他に危険人物に心当たりのある者はいないか?」
「……特定の個人としてではないが」
 サラの言葉に、そう前置きしてピロテースが口を開いた。
「実は、森でゼルガディスの探し人を見つけた。死体だったが」
「というと……つまり、アメリア・ウィル・テスラ・セイルーンか」
 サラが呟いた。その人も死んだということは、残る彼の知り合いはリナとか言う女性一人。
 精神的に強いかどうか分からないけど、下手をすると自棄になってゲームに乗りかねないわね。
 ピロテースがデイバッグから何かを取り出した。
 腕輪とアクセサリー。つまりは、アメリアの遺品だろう。
「そのアメリアの死因を探ってみたのだが、どうやら参加者の中にヴァンパイアがいるらしい」
 窓際で空目と缶詰談義をしていたせつらが反応した。
「詳しくはな……」
「同盟破棄」
「……振り向いてませんよ。詳しく話してくれませんか」

308 真実と事実(5/6)◇1UKGMaw/Nc :2005/05/23(月) 00:59:48 ID:14CXvzZA
 せつらとピロテースの話を要約すると、こうだ。
 曰く、美姫という参加者がヴァンパイア――吸血鬼である。
 曰く、咬まれた対象はその眷属となり、血を求める危険な存在となる。
 曰く、アメリアには咬み跡があったにもかかわらず、眷属となってはいなかった。
 少ない情報だが、ここから導き出される結論は。
「アメリアを殺害したのは美姫ではない。他の吸血鬼か似たような存在が殺害した、ということか」
 美姫とその何者か。警戒すべき吸血鬼、もしくはそれに酷似したものが、最低でも二人以上いるということ。
 魔法、精霊、それに吸血鬼。本当に何でもありね、この世界は。
「ガユス、緋崎正介、ギギナ、美姫、謎の吸血鬼……最後のは容姿が分からないが、分かっている危険人物はこんなところか」
 サラがまとめつつコーヒーを差し出してくれた。
 礼を言って受け取り、一口飲む。……甘い。
 クリーオウはこれくらいが丁度いいのか、美味しそうに飲んでいる。
「糖分を摂取して眠るといい。起きたらまた行動開始だ」
「え、私は起きてるよ。皆が寝てる間、見張りを……」
「いいから寝るのだ。今のあなたに必要なのは休息だぞ、クリーオウ」
「それは皆のほう!」
 二人が口論しているうちに一気に飲み干し、ベッドに横たわる。
 疲れた身体と精神に暖かい飲み物とくれば、次に来るのは眠気だ。
 案の定、急激に眠くなってくる。
(悪いわね、ベッド一つ占領させてもらうわよ)
 言葉にするつもりだったが、それすらも億劫だ。
 心の中でだけそう言って、二人の声をBGMに私は意識を手放した。

309 真実と事実(6/6)◇1UKGMaw/Nc :2005/05/23(月) 01:01:22 ID:14CXvzZA
【D-2/学校1階・保健室/1日目・12:25】
【魔界楽園のはぐれ罪人はMissing戦記】
共通行動:学校を放棄する時はチョークで外壁に印をつけて神社へ

【クリーオウ・エバーラスティン】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1と1/3。パンが少し減っている)。缶詰の食料(IAI製8個・中身不明)
[思考]:みんなと協力して脱出する。オーフェンに会いたい

【空目恭一】
[状態]: 健康。感染
[装備]: なし
[道具]: 支給品一式。《地獄天使号》の入ったデイバッグ(出た途端に大暴れ)
[思考]: 刻印の解除。生存し、脱出する。詠子と物語のことを皆に話す
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている

【クエロ・ラディーン】
[状態]: 疲労により睡眠中
[装備]: 毛布。魔杖剣<贖罪者マグナス>
[道具]: 支給品一式、高位咒式弾(残り4発)
[思考]: ゼルガディスを殺したことを隠し、ガユスに疑いを向ける。
    集団を形成して、出来るだけ信頼を得る。
    魔杖剣<内なるナリシア>を探す→後で裏切るかどうか決める(邪魔な人間は殺す)
[備考]: 高位咒式弾の事を隠している

【サラ・バーリン】
[状態]: 健康
[装備]: 理科室製の爆弾と煙幕、メス、鉗子、断罪者ヨルガ(柄のみ)
[道具]: 支給品二式、断罪者ヨルガの砕けた刀身、『AM3:00にG-8』と書かれた紙と鍵
[思考]: 刻印の解除方法を捜す/まとまった勢力をつくり、ダナティアと合流したい
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。刻印はサラ一人では解除不能。
刻印が発動する瞬間とその結果を観測し、データに纏めた。

【秋せつら】
[状態]:健康
[装備]:強臓式拳銃『魔弾の射手』/鋼線(20メートル)
[道具]:支給品一式
[思考]:ピロテースをアシュラムに会わせる/刻印解除に関係する人物をサラに会わせる
依頼達成後は脱出方法を探す
[備考]:せんべい詰め合わせは皆のお腹の中に消えました。刻印の機能を知りました。

【ピロテース】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)/アメリアの腕輪とアクセサリー
[思考]:アシュラムに会う/邪魔する者は殺す/再会後の行動はアシュラムに依存

310 金棒を持つ鬼と地獄の仏との出会い(1/7) ◆eUaeu3dols :2005/05/24(火) 06:57:15 ID:8OL21RyU
サラとせつらが地下連絡通路から出ると、そこは城の地下室だった。
争いの様子が無い――そもそも人が居ない――事を確認し、慎重に調査を始めると、
しばらくして彼らは、僅かに漂う血の臭いに気づいた。
そして、その臭いの元となっている部屋を見つけ、踏み込んだ。
「――またも死体か」
開け放たれた扉からは鼻をつく濃厚な血の臭いが漂っている。
これが僅かにしか感じられなかったのは、単に距離が遠かったからにすぎない。
この部屋の中でなら、例え嗅覚が塞がっていても舌で血の味を感じるだろう。
「これは酷いな、殆ど抵抗できずに撃ち殺されている。
最初に足を撃たれ、その後に蜂の巣にされたようだ」
サラは、金髪の男の死体を見下ろしながら言う。
「死後硬直は殆ど完了している。8時間近く経っているな」
「ドッグタグが付いています。軍人さんかな? クルツ・ウェーバー、だそうだ」
「その名前なら、6時の放送の時に名前が有った」
淡々と会話をかわしながら検屍を終え、遺留品を纏める。
まずは廊下に落ちていた粉々になった謎のアンプル。
サラは匂いを嗅ぎ……心当たりを感じて一舐めすると、呑み込まずに吐いて、言った。
「揮発性の強い興奮剤だ。アンプルが割られた時に、対処無しにそれを吸い込めば、
動揺して冷静な判断がしづらくなるだろうな。戦闘か交渉に使われたのだろう」
次に、クルツ・ウェーバーの物と思われるデイパック。
水はこれ以上要らないとしても、パンはもらっておくに越した事は無い。
そして、最後に……
「さて。……なんだろうな、これは?」
おそらくはクルツの支給品と思われる奇妙な筒を手に取る。
「なんでしょうね。実験してみたらどうですか?」
「そうだな、そうしよう」
即決実行。サラは筒を壁に向けると、迷わずスイッチを押した。そして――

「これは良い物ですね。僕にピッタリだ」
――せつらの声に思わず喜色が混じった。
今、この超人は、この島で得うる支給品の中でも最高の物に出会ったのだ。
すなわちそれは、秋せつらにブギーポップのワイヤーである。

311 金棒を持つ鬼と地獄の仏との出会い(2/7) ◆eUaeu3dols :2005/05/24(火) 06:58:04 ID:8OL21RyU
「やたらと物に恵まれてきたな、わたし達は。とんとん拍子が過ぎる」
「生きている人間にはとんと会えませんけどね」
一つ目の死体でのリサイクル。二つ目の死体の遺留品。
この二つの死体との出会いにより、彼らの装備は万全となった。
だが、裏を返せば、彼らはまだ死者にしか出会えていなかった。
「さっきの放送の者達も死んでいる公算が高いですし。物騒な事です」
11時になる少し前の、おそらくは何らかの支給品か、あるいは放送施設で行われた、
非戦の呼びかけ。それを遮った銃声。そして、悲鳴と断末魔。
それにより得られた情報も有ったが、同時にまた、(確定ではないが)人が死んだのだ。

「この調子で生者に会えなければ、人を捜そうにもどうしようもないな」
上級魔術師と魔界都市一の捜し屋が揃っても、人に会えずに捜し人を見つけるのは困難だ。
「この城、他にも人が居そうなんですけどねぇ」
「時間があれば念入りに調べるのだが」
時刻は11時を回った。
幾ら地下通路により安全且つ一直線の移動が出来るとはいえ、
そろそろ帰還を考えなければいけない時刻だ。
「この部屋を見たら最後にしよう」
扉を開いた。
その部屋は、またも血の臭いが漂っていた。
だが、そこには生者が居た。

312 金棒を持つ鬼と地獄の仏との出会い(3/7) ◆eUaeu3dols :2005/05/24(火) 07:02:54 ID:8OL21RyU
彼は傷を負い、その上に意識を失っていた。
それは危機的状況だった。
もちろん、その状況自体が極めて危険な事は言うまでもないが、
それに加え、彼の倒れていたエリアは半日足らずでゆうに5回もの殺し合いが発生した、
いわばこの殺人ゲームの過密地と言えるとんでもないエリアだったからである。
その割に死者が2人に納まっている事はむしろ幸運だろう。
他に歩く死者が出入りしたり、普通なら死ぬ瀕死人が転がっているが、それはさておき。

そんな、とんでもなく危険で不幸中の僅かに幸運な場所で、
半日足らずで二回も意識を失った不幸な青年は、今回も生きたまま目覚める事が出来た。
正しく地獄に仏と言うべき事であった。
ただ、その目覚めは強烈な刺激臭を伴っていたが。

「〜〜〜〜っ!?」
ツーンと鼻に来る強烈な刺激臭に無理やり夢から引きずり起こされ、
思わず飛び起き――
その時、彼は確かに「カーン」という澄んだ音と共に星を見た
――もう一度石床に逆戻りし、頭を打ち付け呻き声を上げた。
(な、何ですか、一体!?)
必至に状況を把握しようと試みる。
今、どこで、ぼくは、どうなっている? 何が起きた?
しばらく目を瞬かせていると、徐々に目が慣れてきた。
……目の前には、一組の美しい男女が立っていた。

一人は息を呑む程に美しい青年。
彼自身、整った美形と甘いマスクで同性には疎まれる人間だったが、
目の前の青年はそれとは別、同性でさえ文句の付けようがない美形だった。
しかし、その表情は茫洋と緩んでおり、そのおかげでバランスが取れていた。
もう一人はそれよりは劣るが、整った容姿の女性。
綺麗な白い肌。黒い髪には艶があり、瞳は深く神秘的な色合いの藍色をしている。
その表情はまるで感情の見えない鉄面皮であり、
左手には刺激臭の根源らしき薬品の浸みた脱脂綿を。そして、右手には――

313 金棒を持つ鬼と地獄の仏との出会い(4/7) ◆eUaeu3dols :2005/05/24(火) 07:03:43 ID:8OL21RyU
そして、右手には――フライパンが握られていた。
おそらくこれが、自分が起きあがり様に頭をぶつけた物の正体なのだろう。
(…………な、なぜ?)
その視線を受けて、彼女は「ああ、これか」とフライパンに目を落とした。
よく見ると、彼女の足下にはおたまも転がっていた。
「いや、地球という世界では、フライパンをおたまで叩いて熟睡者を起こすと読んで」
「それで、やってみようと?」
隣の青年が少し呆れた調子で尋ねると、彼女は大きく肯いた。
「この殺伐とした世界で円滑にコミュニケーションを取るには、場を和ませる必要が有る。
まず気付け薬で起こした後にフライパンをおたまで叩くつもりだったのだが……
急に起きあがってきて頭がぶつかりそうだったのでガードさせてもらった。いや、すまない」
この場にツッコミ人種――例えばダナティア皇女――が居れば全力で色々とツッコミを入れただろうが、
生憎とこの場には誰も居らず、無表情無感動鉄面皮な確信犯的ボケ役を止める者は居なかった。が。
「僕は古泉一樹と言います。誰かは知りませんが、初めまして」
「僕は秋せつらです。それにしても災難でしたね」
他2名、鮮やかなスルーに成功。
「わたしはサラ・バーリンだ。よろしく頼む」
元から冗談が滑る事に慣れているサラも、流れるように話に付いていく。
そういうわけで、この件はそういう事になった。

「ところで、あなたはアシュラムという人物に会った事は有りませんか?」
「アシュラムさん、ですか? 少なくとも名前を聞いた事は有りませんね」
「そうですか。外見は、黒い髪で……」
せつらはピロテースから聞いたアシュラムの外見を伝えたが、古泉はやはり首を振った。
「ではアメリアやリナ、オーフェン……あと、ダナティア殿下に会った事も無いだろうか?」
サラの言葉にも、古泉は首を振った。やはり、どれも知らない人物だった。
「お役に立てず、残念です。ところで僕の方からもお訊きしたいのですが……」
そして、古泉の捜し人もやはり、せつらもサラも知らなかった。
「出会ったら、あなたが捜していると伝えておきましょうか? 僕達は集団で人を捜している」
目の前の青年が危険人物でないという保証は無い。だから、言付けだけの提案をした。
それに対し、古泉は少し考えると、言った。
「……そうですね、お願いします。それと、『去年の雪山合宿のあの人の話』と伝えて下さい」

314 金棒を持つ鬼と地獄の仏との出会い(5/7) ◆eUaeu3dols :2005/05/24(火) 07:04:29 ID:8OL21RyU
古泉の奇妙な言付けを預かると、去り際にサラはデイパック一つ分のパンを取りだした。
「血臭がする場所に有った物が混じっているが、どうか受け取って欲しい」
「はあ、これはどうも」
首を傾げながら受け取る。
薬品を染み込ませたとかそういった様子は無い。紛れもない、支給品のパンそのままだ。
「だけど、何故です?」
「荷物が思ったより多くなったので、やはり少し減らそうと思ったのだ」
判らないでもない理由だ。パンは重さこそ無いが、体積は有る。
「さて、わたし達はそろそろ戻らないといけないな」
「そうですね。それでは、僕達は行くとします。
そうそう、捜し人もまた僕達の仲間と言えます。貴方が敵対する事にならないと良いですね」
裏を返せば、捜し人と敵対すれば、彼らとも敵対する事になると釘を刺したわけだ。
「では、ごきげんよう。あと、自力で銃弾を摘出したのは見事な物だが、包帯はキチンと巻いた方が良い」
「はい、さようなら。……あの時は、余裕が有りませんでしたから」
苦笑しつつサラに返事を返した。我ながらよくやったものだ。
肩を見てみると、そこには……きっちりと巻いてある新しい包帯が見えた。
もしも彼が物を透視する事が出来たなら、その下の銃創まで縫合してあるのが見えただろう。
「これは……」
あなたがしてくれたのですか? そう言おうと振り返った時、二人は既に居なくなっていた。
(長門さんのように、何らかの手段で高速で移動する事が出来る人達なのか?)
少なくとも、ただ者ではないのだろう。
「敵に回したくはありませんね。さて、僕も行かないと……」
最初に動き出そうと決意した後、色々有った挙げ句に気絶したせいでかなり時間が経ってしまったが、
今度こそ長門有希を捜しに出なければならない。
怪我をした肩を庇いながら立ち上がると、古泉は歩き出した。

315 金棒を持つ鬼と地獄の仏との出会い(6/7) ◆eUaeu3dols :2005/05/24(火) 07:07:40 ID:8OL21RyU
「今の時間は……11時40分か。この通路が無ければ帰りが間に合っていないな」
「だからこそ縫合までしたんでしょう? あの治療は10分以上も掛かりましたよ」
「すまない。医術は専門でない事が祟ったか」
サラの治療は特別遅かったわけではなく、むしろ開業医になれる程の手早さだったのだが、
世界最高――いや、ここに連れてこられた者達の元居た世界全ての歴史を全て掘り返しても、
一人とて居ないほどの超人的医者を親友に持つせつらから見れば、稚拙に映った事は否めない。
だから、流石に『そうでもない』等という言葉は掛けず、ただ歩き続けた。
しばらく、無言で歩き続ける。
所々に付けられた光量の低い照明に照らされ、薄暗い通路は延々と続いている。
時間として
「ところで、あのワイヤーの具合はどうだった?」
唐突にサラが訊いた。
「ああ、良い物でしたよ。ただ……少し頑張って洗わなければいけないでしょうが」
ワイヤーが有った場所が場所だ。
ワイヤーは入れ物である筒ごと、べっとりとクルツ・ウェーバーの血に沈んでいた。
他の武器ならいざ知らず、細く軽く鋭くしなやかで柔軟な金属ワイヤーはそうは行かない。
「帰ったら、化学室から金属を腐食させずに凝固した血液を溶かせる薬品を出してこよう。
水で薄めてバケツに入れて、部屋の隅において2〜3時間。それで使えるようになる」
「それじゃ、そうする事にします。どうもありがとうございます」
彼らは地下通路を歩き続けた。
帰還した時に仲間の一人の死を知らされ、更に数分後にそれが証明される事など知りもせず。

316 金棒を持つ鬼と地獄の仏との出会い(7/7) ◆eUaeu3dols :2005/05/24(火) 07:08:40 ID:8OL21RyU
【G-4/城の地下・隠し連絡通路(学校へと移動中)/1日目・11:40】
【サラ・バーリン】
[状態]: 健康
[装備]: 理科室製の爆弾と煙幕、メス、鉗子、断罪者ヨルガ(柄のみ)
[道具]: 支給品二式、断罪者ヨルガの砕けた刀身、『AM3:00にG-8』と書かれた紙と鍵
[思考]: 刻印の解除方法を捜す/まとまった勢力をつくり、ダナティアと合流したい
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。刻印はサラ一人では解除不能。
刻印が発動する瞬間とその結果を観測し、データに纏めた。

【秋せつら】
[状態]:健康
[装備]:強臓式拳銃『魔弾の射手』/鋼線(20メートル)/ブギーポップのワイヤー
[道具]:支給品一式
[思考]:ピロテースをアシュラムに会わせる/刻印解除に関係する人物をサラに会わせる
    依頼達成後は脱出方法を探す
[備考]:せんべい詰め合わせは皆のお腹の中に消えました。刻印の機能を知りました。
    ブギーポップのワイヤーは帰ったら洗浄液入りバケツに漬け込み、部屋の隅に置く。


【G-4/城の中/1日目・11:40】
【古泉一樹】
[状態]:左肩、右足に銃創(縫合し包帯が巻いてある)
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品一式) ペットボトルの水は満タン。パンは2人分。
[思考]:長門有希を探す

317 ナッシング・ラスト(確かさと確かさでないもの) ◆rEooL6uk/I :2005/05/24(火) 17:44:48 ID:hNdeEao2
チサト ーあの青年が確かだと思うもの、彼の幸い、彼の真実。自分はそれを、奪う。
アストラ ー己が確かだと思いたかったもの、己の妻。殺人精霊はもう居ない。
そして彼女の対なるミズーもまたー

( ー俺にはまた 何も無い)
一歩、また一歩を踏みしめながらは、ウルペンはひたすらにその言葉を繰り返す。
信じるに足る物など何も無い世界。
帝都、契約、絶対殺人武器。
それらは風のようにすり抜けていき、手の中には何も残らなかった。
心の奥に虚しさだけが募る。
信じるに足るものなど何も…
「…いや、一つあるか」
思わず声が漏れ、唇が皮肉に歪む。
それでも歩みはとまらない。
   
   ー死ー
彼がもたらし、彼に訪れ、彼の真実を奪い去った事もある。死。
この世界において唯一信じるに足る、必ず果たされる約束、いや、契約。
かつて信じていた契約、己の不死を保証するそれとは違う。
「契約者」の死、彼はそれを目撃した。
また「契約者」であった自身の死、それもこともなげに訪れた。
しかし、その死によって証明された事もある。

318 ナッシング・ラスト(確かさと確かさでないもの) ◆rEooL6uk/I :2005/05/24(火) 17:46:15 ID:hNdeEao2
『奪われないものなどなにもない』
それだけが、唯一絶対の真実。
(皮肉なものだな…。逆吊りの聖者には相応しい)
おそらく、それは絶望なのだろう。
規則性に欠けながらも途切れる事の無い歩調の中で自覚する。
俺は絶望しているのだーと。

唐突に、先ほどの青年の決然とした表情が浮かんだ。
信じるものがあるかと言う問いに、即座に答えたその表情。
ーー彼にも絶望を。
絶望した心中に生まれた願望ーチサトを殺し、彼から奪う。彼に絶望を教える事。
それは何か儀式めいた意味を持つように感じられた。
例え倒錯であったとしても構わない。
いや、あの青年だけでは飽き足らない。
参加者の全て。
絶望を知らない者の全て。
既に死したはずの自分と出会う生者の全て。
このゲームという名の殺しあいに否応無く飲み込まれた全てに。
思い知らせてやるのだ。死と喪失だけが人に約束された唯一のものだと。
そしてー やがては自身にも再び死が訪れるだろう。
だが、それまでに、果たしたい望みがある。チサトーそして…

319 ナッシング・ラスト(確かさと確かさでないもの) ◆rEooL6uk/I :2005/05/24(火) 17:48:02 ID:hNdeEao2
「これで…」
自然と歩調が早まる。
確かなものはなにもない、それが答え。自分はそれを証明する。
「これで満足か、アマワァあああああ!」
いつしか彼の内、出血に喘ぐ男の内は外見も知らぬ女と異形の怪物の姿に占められつつあった。

やるべき事は決まっている。
チサトを殺し、全てを殺し、アマワに答えを突きつけるのだ!
この島のどこかにいるアマワに…

彼は歩みをとめないー

 『地図の空白が失われた時、怪物はどこにいくのだろう?』

【G−3/森の中/1日目・12:30】

『ウルペン』
【ウルペン】
[状態]:左腕が肩から焼き落ちている。行動に支障はない(気力で動いてます)
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式) 
[思考]:1)チサト(容姿知らず)の殺害。2)その他の参加者の殺害3。)アマワの捜索

320 罠、そして……(1/7) ◆pTpn0IwZnc :2005/05/27(金) 04:13:15 ID:yl5Di1eM
 タイムリミットがあるからには、最大限に時間を有効利用する必要がある。
 自分の持てるあらゆる技能を駆使し、効率良く人を殺さねばならない。
「どこまで歩くんです?」
 横を歩くキノが訊く。
「あの森に着いたら小休止しつつ作戦を話す。引き続き警戒を緩めるな」 
 言われるまでもない、といったふうにキノは頷いた。
 
 森の中。二人は当面の安全を確保し、話を始める。
「おまえはトラップ作りは得意か?」
「……いえ」
 唐突な質問に、とりあえずは首を振っておく。
「そうか。ではおまえの役割は、適当な木を見つけその先端を尖らせる事だ。できる限り鋭利な槍を作れ。
そのナイフで支障があるようなら、こちらのサバイバルナイフを貸してやる」
「何をするつもりなんですか?」
 大方の想像はついたが、詳しく尋ねる。
「俺達だけではカバーできる範囲に限界がある。獲物を探しつつ罠を仕掛けていくのが効果的だ」
「なるほど。それで、どんな罠を?」

321 罠、そして……(2/7) ◆pTpn0IwZnc :2005/05/27(金) 04:16:16 ID:yl5Di1eM
 小動物を捕獲するならば、スネアが最適だ。
 スネアとは、釣り糸・ワイヤ等で作った輪を、動物の首や足に引っかける罠である。
 だが、人間相手では効果が弱い。徒党を組んでいるとなるとなおさらだ。
 デッドフォール――餌を取った動物に上から重量物を落とす罠――は手間が掛かりすぎる。
 ならば、今回使う罠は。
「スピアトラップを仕掛ける。手早く生産でき、効果の高い罠だ」
 ジェスチャーを交え、宗介はその罠の詳細について説明し始めた。
 スピアトラップの構造は単純だ。
 先端を尖らせたスピアを、曲げられた枝等に固定する。
 獲物が餌を取ったり、ピンと張られた『ライン』に引っかかったりすると、
 即座に槍がその身体に突き刺さる、という罠である。
「――――以上だ。付け加えるならば、ベトナム戦争でベトコンが使った罠として有名でもある」
 と、宗介は説明を締めくくった。
 
「べとこんとかは良く分かりませんが……分かりました。それで、どこにその罠を仕掛けるつもりですか?」
「今の所、禁止エリアは南に集中している。南に居た参加者が北上する、もしくはしている可能性は高い。
さらにここ一帯の森林は島の中心部に当たり、水場もある。人の行き来は多いと推測できる。
以上の理由により、この辺りに広がる森林内で人が通りやすい箇所に、いくつかの罠を仕掛けるつもりだ」
 あの地下墓地に近い事もここに罠を仕掛ける理由の一つだったが、話す必要は無いので黙っておく。
「水を求めてやってきた人、見晴らしの良すぎる平原から避難して来た人にグサリ、という訳ですか」
「肯定だ」
 無感情なキノの声に、こちらも無感情な声が応える。
「質問等無ければ、早速作業を開始する」
「……ボクの作業には関係無いですけど、トラップに使うワイヤーとかはどうするつもりですか?」
 二人ともワイヤーや釣り糸のたぐいは持っていない。疑問に思ってキノが問うと、
「それには、これを使う」
 むっつり顔のまま表情を変えず、宗介はデイパックを指し示した。

322 罠、そして……(3/7) ◆pTpn0IwZnc :2005/05/27(金) 04:19:52 ID:yl5Di1eM
 見つけた木の先端を削りつつ、横目で宗介を見遣る。
 彼は器用にデイパックを解体し、トラップ用の『ライン』を作っていた。
 確かにこのデイパックは頑丈だ。
 どんな支給品が入っていても耐え得るよう設計されているのだろうか。
 何の繊維を使っているのか分からないが、よっぽどの事が無ければ破れそうにない。
 この生地を使って獲物を引っかける『ライン』を作る。
 罠を看破されないよう細くかつ強靱なものを作らねばならないが、彼ならば可能だろう。
 
 何気なさを装って作業をしつつ、キノは足を進める。
 宗介にとって死角になる地点へと。
(この人は、危険だ)
 罠も作り慣れている。そして、戦い慣れている。おそらくは自分よりも。
 先程の戦闘では張り合えたが、次はどうだろうか。
 今はまだバレてはいないようだが、自分の性別が彼に知られたら?
 男女の力の差が目に見える形で現れる接近戦、それも武器を使えない状況での格闘戦に持ち込まれたら?
 その時点で自分の負けだ。
 いつどのように彼の気が変わるのかは分からないのだ。
 火力ではおそらくこちらが勝っているが、安心などとてもできない。
 いっそ、今の内に――
 
 地面に木を立て掛け、キノは片手で作業を続ける。
 先程までの風景と変わらないよう、シュッシュッと木を削る音もそのままに、
 もう片方の手で『銃』を用意。
 何気なく、本当に何気なく宗介に『銃』を向け――
 引き金を、引いた。

323 罠、そして……(4/7) ◆pTpn0IwZnc :2005/05/27(金) 04:22:32 ID:yl5Di1eM
 木を削る様子がなかなかサマになっている。
 両手で作業を進めるキノを、宗介は目の端に映していた。
 一時的に同盟を結んだとはいえ、全く油断はできない。
 いつどちらとも寝首を掻かれるか分からない、砂のように脆い同盟関係なのだ。
 その同盟相手が作っている鋭い木の槍。
 それを凶器として使用するスピアトラップ。
 地下墓地の女のような化け物には効かないかもしれないが、並の人間がこの罠にかかればひとたまりも無い。 十中八九、命を落とすだろう。
 
 並の人間――
 かなめは、地下墓地に囚われている限り大丈夫だ。
 もっとも、あの女が約束を守るのかどうかという根本的な問題もある。
 あの女からかなめを奪還、もしくはあの女を斃す方法も考えておかねばならない。
 今の所は全く妙案が浮かばないのだが……。
 テッサは、ウィスパードの知識を扱えるとはいえ、宗介やクルツのようなサバイバル技能は無い。
 それどころか、何の障害物も無い道で突然すっ転ぶほどの運動音痴だ。
 もし彼女が単独で行動しているのなら、この罠に掛かる可能性は十二分にある。
 テッサの命を奪うかもしれない罠。
 テッサが罠に掛かっていたなら、自分はその首を切り取ってかなめを救いに行くのだろうか。
(それでも、俺は……)
 あの日あの時、<アーバレスト>の掌の上で。
 自分は確かに一方を選び、もう一方を見捨てた。
 最後の最後、このゲームで生き残って欲しいのは――
 
 刹那、懊悩する宗介をぞくりとした感覚が包む。
 戦場に生きる兵士だからこそ感じられるもの。
 だが、感覚に対する身体の反応が、一拍遅れた。
(間に合うかっ?)
 咄嗟に飛びずさるが、引き金は既に――

324 罠、そして……(5/7) ◆pTpn0IwZnc :2005/05/27(金) 04:24:28 ID:yl5Di1eM
「……ぱぁん」
「……何のつもりだ」
 油断なくソーコムピストルを構え、宗介が誰何する。
 じとり、と冷や汗が背を伝った。
「何って、ちょっとした冗談じゃないですか」
 キノが楽しそうに言う。
 『銃』の形を模した指を宗介に向け、もう一度『ぱぁん』と指鉄砲を撃った。
「笑えない冗談だ。……次に紛らわしい真似をした場合は容赦無く撃つ」
 忌々しく吐き捨て、宗介は銃を下ろした。
「怖いなあ……」
 溜息を吐いて、キノは呟いた。
(やはり、この人は強敵だ。決定的な隙が出来るのを待つしかない)
(少年のような態をしているが、この男は危険だ。機を待ち片を付ける)
 二人が似た考えを抱いていたことは、互いに知るべくもなかった。

325 罠、そして……(6/7) ◆pTpn0IwZnc :2005/05/27(金) 04:26:48 ID:yl5Di1eM
 ミッション開始より約58分が経過。
「時間だ。今完成した罠で最後にする」 
 森の中を短距離移動・罠設置を続ける間、幸か不幸か他の参加者には出会わなかった。
 じわじわとタイムリミットが近づく。
 焦りは失敗を生む。それを分かっている宗介は冷静さを維持しようと努める。
 そこへキノが、
「罠の設置も終わった事ですし、早いうちに人が密集してる場所を狙いませんか? 
ボクとあなたがいつまで共闘できるかも分かりませんし」
 抜け抜けと物騒な話を持ちかけた。
「同意する。では、作戦の詳細を検討しよう」
 情動の感じられない声で、宗介が答えた。
 時間が無い宗介にとって、それは願ってもいない提案だ。
 二人は互いの持つ情報を擦り合わせ、狙うべき場所を協議する。
 多くの人が集まっていそうな場所。二人での挟撃に適した場所。
 学校、海洋遊園地、商店街……。

「じゃあ、最初のターゲットは学校という事でいいですか?」
「肯定だ。距離もここから近い。……では、直ちに作戦を開始する」

 そして、二人の殺人者は学校へ――

326 罠、そして……(7/7) ◆pTpn0IwZnc :2005/05/27(金) 04:27:47 ID:yl5Di1eM
【D-4/森の中/1日目/13:35】

【キノ】
[状態]:通常
[装備]:カノン(残弾無し)、師匠の形見のパチンコ、ショットガン、ショットガンの弾2発。
   :ヘイルストーム(出典:オーフェン、残り7発)、折りたたみナイフ
[道具]:支給品一式×4
[思考]:最後まで生き残る。 /行動を共にしつつも相良宗介を危険視している


【相良宗介】
[状態]:健康。
[装備]:ソーコムピストル、コンバットナイフ。
[道具]:荷物一式、弾薬。
[思考]:かなめを救う…必ず /行動を共にしつつもキノを危険視している

[備考]:D-5の湖周辺の森林内、人が通りそうな場所に罠(スピアトラップ)有り。数は不明。
    設置された時間は12:30〜13:30頃

327 テスタメント  ◇MXjjRBLcoQ :2005/05/27(金) 17:48:22 ID:pBSSTsig
「うーん、どこから話したらいいかな」
 詠子は再び小首をかしげた。
「そうだね、まず向こう側について語ってくないかね。状況整理といこうじゃないか」
 長くなるよ、そう前置きして詠子は佐山に向き合った。
「うーん、向こうはね、ほんとはこっちと変わらないんだよ。見れば分かるんだけど、誰も見ること
 は出来ないからそれを理解できないの。居るのに無視されたら誰だって悲しいよね。だから彼らは
 いつも“こっち”に来たがっている。でもやっぱり皆はそれすらも理解できないの」
 悲しいね、つぶやきながら詠子は佐山に額を寄せた。
「じゃあ、見えないものと向き合ってもらうにはどうすればいいかな」
 楽しそうに、尋ねる。
「ふむ、何故だかデジャヴを感じる質問だね」
 佐山は腕組みをして、思考する。
 デジャヴ、とはいったものの、2−Gとは状況は全く異なる、そもそも立場も逆だ。
 こちらは交渉がしたいのに、相手にそれを理解してもらえない。
 対等とすら思われていない?
 違うな。佐山は思考をリセットする。2−Gと混合してはいけない。ケースが全く異なるのだ。
 そもそも我々は見えないものとどう向かい合ってきたか?
 見えない、未知のものに遭遇してまず我々がすることは何だ。
「仮定してもらう、ということかね」
 存在すると仮定する、理解できる理論として構築し、当てはめることで、人類は病原菌を、電波を、
過去や未来さえも可視してきた。
 佐山の目の前にある笑みが強くなる。

 11時30分、
 草原と森の境目で、其処に無いものを捉える少女は、枝に括り付けられているそれを見つけた。
 白い紙、びっしりときこまれた文字。彼女が好奇心のままに手に取ったそれは……

328 テスタメント  ◇MXjjRBLcoQ :2005/05/27(金) 17:49:12 ID:pBSSTsig
「そう、それが物語。人は『そう言うもの』と想うことで、それが存在するかのように振舞うことが
 出来る。絆も血縁も社会も命も、そうやって人は仮定してきたんだよねえ。物語に触れれば人は彼
 らに触れることが出来る。向こうに行くことも出来る。向こう側に行くと、私みたいに魔女になれ
 るの。今まで見えなかったものが見えるようになる、世界が新しい方向へ広がる」
「君のように世界の背景が見えるようになると?」
 人類の革新だね、佐山はにこりともせずに笑う。
「んー、ちょっと違うかな? みんなが教えてくれるようになる、が一番近いと思う」
「ふむ、しかしそれは君の能力とは少し異なるようだがね」
「皆にそれぞれ物語、‘魂の歪み’があるからね、自分の物語に近いほうが理解しやすいもの」
 佐山はそこであごに手を当てる。一拍の間、
「それが私は‘裏返しの法典’というわけなのだね」
 詠子は笑みを絶やさない。顔はまだ近づいたままだ。
 会話のたびに、お互いの呼吸が頬をくすぐり前髪を揺らす。

 11時、
 ‘魔術師’は、仲間とともに道を行く。ディバックの中には黄ばんだ地図。その裏には……

「君の話から推測するに、君が今までばら撒いてきたのは、向こうに行くための物語ではないのかね。
 読めば向こうに行けるようになる。そして向こうでその人の物語に近しい突出を得ることになる」
 そして佐山も笑みを浮かべ、
「しかし君はこうも認めた、『コンタクトは友好なものではない』と。全ての者が歪みを抱えている
 わけではないだろう。いや、君のような能力者は異端といっても差し支えないことを考えると」
そして糾弾の言葉を告げる。
「耐えられないのだろう。ほとんどの者は向こう側で、あるいはそこにたどり着く前に、向こう側の
 犠牲になるのではないかね」
 詠子は静かに、ただ変わらぬ笑みを以ってその言葉を肯定する。
「それを目的に広めるとは。いやはや、詠子君も中々に大した悪役だよ。ハハハ、この腐れ外道が」
 言葉と同時に、鉛筆を持つ佐山の指が踊った。
『しかし同時に、一部の者は自身の物語にふさわしい突出を得る、中にはこの現状を打破し得る能力
 者が生まれる可能性がある。違うかね』
「だとしたら本物の悪役君はどうするのかな」
 沈黙。言葉のエアポケット。
 その間を縫うように、佐山は小さな、しかし確かに聞き覚えのある飛来音を耳にした。
 一瞬逸れそうになる視線。
 詠子はそっと両手を佐山の頬に。
 触れそうで触れない両手が、確かに佐山を詠子に縛る。

329 テスタメント  ◇MXjjRBLcoQ :2005/05/27(金) 17:50:57 ID:pBSSTsig
 10時30分
 道に迷う、合わせ鏡の殺人鬼は、風に舞う一枚のメモを拾った。
 ただ短い一文が書かれたそれは……

「私が播いたのは『合わせ鏡の物語』4時44分、死んだ人の顔が鏡に写る、四次元の世界に引き込
 まれる。零時、今日と明日の入れ替わる時間、鏡は違う世界につながってる。二時、丑三つ刻、全
 ての境界があいまいになる時間、鏡に未来の自分の姿が見える、鏡と現実が入れ替わる。いろいろ
 なカタチがあるけれど。みんなが『違う世界』を望んでる。だから私は種を播いたの。鏡の向こう、
 違う世界にいけるように」
 詠子の言葉が、徐々に佐山を浸していく。
「私はみんなの‘望み’を叶えたあげたいだけ。そのために物語を広げるの」
 詠子は、もう一度佐山に尋ねる。
「だとしたら本物の悪役君はどうするのかな」
 見詰め合う二人。
 口元を引き結ぶ少年と、蕩けるような笑みを浮かべる少女。
 佐山はその端を歪めて、笑う。
 体をわずかに前倒しに。それは前髪がかすかに触れる距離。
「戯言だね」

 同時刻
 四人の少女は一路を北に。そして‘意識の底に触れる’少女はまた転ぶ。
 地面を這うその視線の先に、一枚のメモを見つけた。
 それは……

「詠子君、自分の行動に人を理由にしないことをお勧めする。それは腹の底を隠しています、と宣言
 しているようなものだよ。敢えてもう一度言おう、戯言だね」
 いいフレーズだ。自身の冴えに、佐山は確固たる自己を確認する。
「ああ、気にすることはないよ、詠子君。悪役に本音を隠して相対するのは魔女の宿命だが、それを
 見抜かれるのもまた宿命だ。何、私は役割を弁えているのでね。安心して嘘を吐くがいい、ことご
 とく見破って差し上げよう」
 詠子は、ほぅ、と溜息を吐く。二人の前髪がかすかに揺れた。
「本当に君はすごいね。魔女の言葉に耳を傾けて、それでもなお自分を保てるなんて」
「なに、相手の欲するところを悟るのも交渉のうちと言うことだよ」
 触れ合う前髪の心地よさに目を細め、佐山は魔女と『交渉』する。
「契約書だ、これでいかがかね」
『魔女が悪役にその瞳を差し出し、世界の脱出に協力するなら……』
 佐山は一息に書き連ねた。
『悪役は魔女に、この世界の物語をお見せしよう』

330 テスタメント  ◇MXjjRBLcoQ :2005/05/27(金) 17:52:04 ID:pBSSTsig
 そして13時
 罠を拵える番犬は、木に刻まれた一文を認めた。
 それは……

 互いの額が触れ合う、唇が触れ合いそうなその距離で、詠子はくすくす、その喉をならす。
「魔女は悪役にすっかり誑かされちゃったからね」
 その目を瞑って、おかしそうに笑う。
「契約だよ、君は私にこの世界の物語を見せる。その代わり……」
 鉛筆を握る佐山の手、そこに自分の手を重ねた。
「私は君に猫の瞳と魂を預ける」
 唇の距離がゼロになる。
 佐山は口内に侵入してくる舌に自分のそれを絡ませた。
 唾液に混じるかすかな血の味。詠子の吐息とともに、飲み込んだ。

 7時50分
 世界の一部である少女はその超聴覚に唄をとらえる。
 それは魔女の夜会の招待状。

【C-6/小市街/1日目・12:15】

『Missing Chronicle』
【佐山御言】
[状態]:精神的打撃(親族の話に加え、新庄の話で狭心症が起こる可能性あり)
    異障親和性覚醒、詠子に感染
[装備]:Eマグ、閃光手榴弾一個
[道具]:デイパック(支給品一式、食料が若干減)、地下水脈の地図
[思考]:1.風見、出雲と合流。2.詠子の能力を最大限に利用。3.地下が気になる。
【十叶詠子】
[状態]:健康
[装備]:魔女の短剣、『物語』を記した幾枚かの紙片
[道具]:デイパック(支給品一式、食料が若干減)
[思考]:1.佐山に異界を見せる(佐山がどう覚醒するかは不明)
    2.物語を記した紙を随所に配置し、世界をさかしまの異界に。

331 オルタナティブ・レッド(異なる赤) :2005/05/27(金) 23:02:09 ID:mhhsWZag
フリウ・ハリスコーは歩く。
すでにその細い足の先は棒になり。
すでにその小さな手の先は枝になっている。
何も動く気がせず。
何も動かせる気もしない。
それでも足は止まらない。止められない。止まってくれない。
フリウ・ハリスコーは歩き続ける。
その目は乾き睡眠を要求し。
その耳は赤く静寂を渇望する。
何も見る気はせず。
何も聞ける気もしない。
ただ歩き、ふらつき、蠢き、息を切らす。
手足は森の木で擦りむき。
腕はちりちりと痛み。
脇腹はきりきりと傷み。
頭はずきずきと悼む。
「はっは……は…っは」
息が荒くなってきた。苦しい。
休めるところ──そもそもこの狂った所にそんな場所があるのかはともかく──を探そうとする。
目の前には巨大な──建物があった。
地図を見る。
ここは、よく分からないがB-3かC-4の建物だろうと検討をつけた。
そんなに歩けた自分に驚いた。中に入って休憩しようと思う。
はっとし、瞼を閉じかけている自分に気がついた。
「……まだ、駄目。もうちょっと……目立たないところに」
入り口らしきところから入り込む。

332 オルタナティブ・レッド(異なる赤) :2005/05/27(金) 23:03:24 ID:mhhsWZag
「誰も、いない……よね」
緊張からか、息が大きい。必死で息を止めようとする。
気のせいか息をするたびに苦しくなっていく。
床に倒れこもうとすると、赤くて長い髪を見つけた。
「っ……!」
一本。
その赤い髪は否応無くミズー・ビアンカを連想させた。
あの人──正確に言うとあの人の死体──は。
あの女性──正確に言うとあの女性の死体──は。
ここに在るの…?
にじみ出る涙をこらえて立ち上がった。
その乾いた目はどうにか赤い髪の毛を確認した。
その赤い耳も辛うじて奥から聞こえる話し声を捕らえた。
その枝のように細い腕は少女を立ち上がらせた。
その棒になった足もなぜか勢いよく走り出した。

奥のドア。
運良く隙間が少し空いてたことに感謝しながら覗き込もうとする。
「は…っは…ぜっ…」
息が大きい。黙れ。お願いだから。
隙間を覗き込んで──中を見る。
がたんっ!
「っきゃ……!」
「おいおいどこの素人鼠さんかと思ったら……可愛らしい女の子じゃねぇか」
ドアを──体重を掛けていたドアを──引っ張られ、転倒した。
見上げるとそこには背の高い。片手に子犬を抱いた。
赤いスーツに赤い──とても紅い髪をした女性が立っていた。

333 オルタナティブ・レッド(異なる赤) :2005/05/27(金) 23:04:28 ID:mhhsWZag
「そうだねアイザック!」
若い男女がこちらに言ってくる。それをもはや聞ける状態じゃなかった。
息が。息が。息が。
苦しい。苦しい。苦しい。
それでも声をひねり出した。
「ミズーじゃ…無かった……」
再び涙がこぼれ。目の前はぐしゃぐしゃになり。
再び足は崩れ。頭の中はぐしゃぐしゃになり。
そして気を失った。


「お、おい! 少女! どうした!? いきなり倒れるな! リアクションに困るぞっ。
 <世界の中心で愛を叫ぶ、ただしボーイズラブ>みたいなっ!」
「ちょっと潤さん! その娘、すごい息が荒いですよ!」
「見てアイザック!腕も火傷してるよ!」
「大変だグリーン!」
「…デシ!」
「うるせぇてめぇら!」
とりあえず少女を仰向けにして容態を見てみる。
息が速く浅い。これが一番やばそうだ。
これは、過呼吸…ぽい。
「ビニール袋はないか?」
過呼吸は酸素の吸いすぎで、急な運動をしたりすると起こる。
簡単な症状だが放っておくと以外に危険だ。
ビニール袋に吹き込んだ二酸化炭素の多い空気を吸ってると治る。

334 オルタナティブ・レッド(異なる赤) :2005/05/27(金) 23:05:51 ID:mhhsWZag
「無いです!」
それを聞いて、にやりと──邪悪な笑みを浮かべた。
「な〜るほどぉ。それじゃ、しょうがないな。うん。
 ここは『やむおえなく』この人類最強のおねぇさんが介抱してやろう」
がっしと少女の肩を掴み息しやすそうな位置に固定。
「…潤さん?」
「「グリーン?」」
「それでは」
にやりと笑みを深めて──さらに深めて。
「いただきます」
ちゅう。
哀川潤は、人類最強は。いたいけな、気を失った少女に、大義名分の下、ちゅうをした。
ふぅぅぅっと息を吹き込む。二酸化炭素の多い空気を。
吹き込む。吸い込む。さらに吹き込む。繰り返す。
しばらく。あるいはほんの数秒後。
ぱちくり。
フリウは、目を覚ました。完全に。謎の感覚と共に。
目の前には──本当に目の前には真っ赤な髪をした、ミズーじゃない女性。
口には違和感。むしろ異物感。
「〜〜〜〜!!」
だっと突き飛ばして──いや自分が下がったが──距離を置いた。
「はっ…へっ? は、ええ!?」
「いいなーそういう初々しい反応。思わずお姉さん萌えちゃったよ」

335 オルタナティブ・レッド(異なる赤) :2005/05/27(金) 23:06:39 ID:mhhsWZag
「元気になったね!」
「グリーンのキスで目を覚ます、かぐや姫だね!」
「いやそれは白雪姫じゃあ…」
どくどくした鼓動を押さえ、状況が掴めずにいるフリウ。
そのフリウに近づいていき、手を差し伸べた。いつもと同じ皮肉な顔で。だが少なくともフリウには優しく見えた。
「悪い悪い。いやしょうがなかったんだって。
 疲れてるし、怪我もしてるだろ? お前ぼろぼろだぞ。大丈夫だから休めっていうか休ませるぞ」
その言葉と、初めて出会った優しい人と、紅い髪が重なり。
もう一度フリウは泣き出したのであった。

【C-4/ビル一階事務室/13:00】

『人類最強で天使な世にも幸せバカップル国記』
【フリウ・ハリスコー】
[状態]: 精神的ダメージ。右腕に火傷。肋骨骨折。
[装備]: 水晶眼(ウルトプライド)。眼帯なし
[道具]: 支給品一式
[思考]: 元の世界に戻り、ミズーのことを彼女の仲間に伝える。 この人たちはいったい? 休憩。
[備考]:第一回の放送と茉理達の放送を一切聞いていません。
 第二回の放送を冒頭しか聞いていません。
 ベリアルが死亡したと思っています。ウルトプライドの力が制限されていることをまだ知覚していません。

336 オルタナティブ・レッド(異なる赤) :2005/05/27(金) 23:07:21 ID:mhhsWZag
【哀川潤(084)】
[状態]:怪我が治癒。創傷を塞いだ。太腿と右肩が治ってない。
[装備]:錠開け専用鉄具(アンチロックドブレード)
[道具]:生物兵器(衣服などを分解)
[思考]:祐巳を助ける 邪魔する奴(子荻)は殺す こいつらは死んでも守る  この娘を休ませる&怪我の治療をする。 事情を聞く。
[備考]:右肩が損傷してますからあまり殴れません。太腿の傷で超長距離移動は無理です。(右肩は自然治癒不可、太腿は若干治癒)
    体力のほぼ完全回復には残り10時間ほどの休憩と食料が必要です。 若干体力回復しました。

【トレイトン・サブラァニア・ファンデュ(シロちゃん)(052)】
[状態]:前足に深い傷(処置済み)貧血 子犬形態
[装備]:黄色い帽子
[道具]:無し(デイパックは破棄)
[思考]:お腹空いたデシ  誰デシ?
[備考]:回復までは多くの水と食料と半日程度の休憩が必要です。

【アイザック(043)】
[状態]:超健康
[装備]:すごいぞ、超絶勇者剣!(火乃香のカタナ)
[道具]:デイパック(支給品一式・お茶菓子)
[思考]:すごいぞグリーン!休ませよう!

337 オルタナティブ・レッド(異なる赤) :2005/05/27(金) 23:08:10 ID:mhhsWZag
【ミリア(044)】
[状態]:超健康
[装備]:なんかかっこいいね、この拳銃 (森の人・すでに一発使用)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:そうだねアイザック!!

【高里要(097)】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品一式・野菜)
[思考]:この女の子をどうしよう
[備考]:上半身肌着です

※昼ごはんに野菜とパンを食べました。残った野菜は要が持ってます。

338 戦神戦捷(精神損傷) 1/5 ◆GQyAJurGEw :2005/05/29(日) 12:53:55 ID:ETuBmvOM
 食事も終わり休もうとしたとき、ギギナは轟音を聞き取った――――



「……降ろして」
 長門の言葉を無視して、出夢は南下する。
「せっかちだな。おにーさんのところに着くまでの辛抱だ」
 出夢は苦笑しながら人を一人抱えたままとは思えないスピードで走り続ける。
「おにーさんの所に着いたら、次は坂井を探さなきゃな。
 そういえばあの時に聞こえた奇声、なんだったんだ……?
 まぁ、考えても仕方がな…………ん?」
 人の気配に気付き、出夢は立ち止まる。
「……ちっ、敵か」
 ぼやきながら左を向く。視線の先には男がいた。男との距離はおおよそ20mだろう。
 銀髪で、顔に刺青。身長は190以上はある。漆黒の剣を携えて……嗤っていた。
 男は嗤いながら問う。
「貴様らは、楽しませてくれるか?」
 出夢は不快そうな顔をしながら男を睨む。
 そしてしばらくしてから長門に囁いた。
「……長門、コイツはヤバイ。お前がいても邪魔なだけだから、先におにーさんの所に行ってろ」
 頷いたのを確認し、出夢は長門を地面に降ろす。
 そしてすぐさま、長門はもと来た道を走っていった。
「っておい! そっちじゃない!」
 出夢が長門を捕まえようとした時、男が再び声を掛けた。
「敵前逃亡するとはな。……貴様は強き者か?」
 出夢は面倒事を黙然にして嘆息する。
(やるべき事があるんだが、仕方がねえな……)

339 戦神戦捷(精神損傷) 2/5 ◆GQyAJurGEw :2005/05/29(日) 12:54:51 ID:ETuBmvOM
 戦闘は避けられないと判断して、男に向き直る。
 そして哄笑しながら、男に名乗った。
「ぎゃはははは! やってみれば分かるんじゃねえか?
 僕は《人喰い》。殺し屋の匂宮出夢だ。
 あんたは?」
 男はこちらへと歩みながら同じく名乗る。
「私の名は、ギギナ・ジャーディ・ドルク・メレイオス・アシュレイ・ブフ」
「なげぇよ」
 吐き捨てるように言った出夢はギギナへと疾走。
 ギギナは一旦歩みを止め、
「ふん、剣と月の祝福を」
 そして出夢と同じく疾走。
 二人の距離が一気に縮み、ギギナが先攻。
 ぎりぎりのところで出夢は斬撃を避け、ギギナの左側へと素早く回り込む。
「おらよっ!」
 出夢の鋭い蹴りがギギナの左脇腹を直撃。
「ぎゃははははは! 降参するのなら見逃してやっても……っっ!?」
 ギギナは痛みに口元を歪めるだけだった。
 逆に、こちらの左脇腹に抉られるような激痛。たまらず後退するが、片膝を地面についてしまう。
 脇腹を押さえながらギギナを睨む。
 全力で繰り出したあの蹴りを喰らえば、ただでは済まない。だがギギナには口元を歪める程度だった。
 それどころかこちらに蹴りを。しかも、自身よりも強力な。
 足先が掠っただけで、この威力だ。もし咄嗟に後ろに跳ばず、まともに喰らっていたら絶命していただろう。
 一般人並の防御力しか持たない出夢にとって、ギギナの人外の破壊力は喰らえば確実に一撃死。
「ぐ……てめえどういう体してんだ……」

340 戦神戦捷(精神損傷) 3/5 ◆GQyAJurGEw :2005/05/29(日) 12:55:53 ID:ETuBmvOM
 見上げると、ギギナは出夢を見下しながら、怒っているような顔をしている。
「……貴様は、この程度か? つまらぬな」
「…………」
 怒りから、嘲笑に変わる。
「ハハハッ! 所詮、この程度ということか!
 降参するのなら逃がしてやっても良いが? ハハハ」
 不機嫌な顔をしながら出夢は立ち上がった。
 ギギナを睨みながら出夢はギギナと距離を取るため後退する。
(こいつを生かしておくと、おにーさん達が危険か……。それに、ムカツクしな)
「……ぎゃははは! 僕の本気を見せてやるよ!」
 体勢を立て直して、ギギナへと再び疾走。
 両腕を大きく仰け反りながら走り、出夢はギギナに近づいた。
 ギギナが剣を横に薙ぐが、超反応で出夢はギギナの頭上に飛翔して避ける。
「上がガラ空きだぜえぇっ!!」
 そして振りかぶった。


《一喰い》


 ヒュンと空を斬る音が聞こえた。
 出夢は地面に着地し、ギギナを向いた。
 危機一髪で横に転がり《一喰い》を避けたギギナは冷や汗をかきながら嗤っていた。
「僕はやることがあるんだが、これで終わりにしてくれないか?」
「却下する」

341 戦神戦捷(精神損傷) 4/5 ◆GQyAJurGEw :2005/05/29(日) 12:56:39 ID:ETuBmvOM
 即答したギギナは剣を構え直す。
 そして一気に間合いを詰めて振るう。
(さっきより動きが速い! こいつ、本当に人間か?
 もしかしたら、人類最強と同じくらいかもな……)
 清水の舞台での『最強』との戦闘を思い出し、出夢は戦慄する。
 すぐさま後ろへ跳躍して回避したが、ギギナの素早い追撃が迫る。
 背後に大樹があったため、出夢は横に転がりかわした。そして出夢を斬るはずだった斬撃は、大樹を軽々と薙いだ。
「マジかよっ!」
 そのままギギナは大樹に近寄り、
「うるぁっっ!」

 掴んで投げた。

「……は?」
 眼前で起こったありえない出来事に出夢は素っ頓狂な声をあげる。
 体勢を直す前には、いくつも枝分かれした大樹が高速で迫っていた。
 出夢は避けきれないと判断し、顔を手で守り、身を縮めた。
 幹に当たらなくて良かった。そんな事を思いながら茂る葉と枝に巻き込まれる。
「ぐ……」
 派手な音をたてながら、かなりの距離を進んでから大樹は止まった。
 全身に傷を負いながら、なんとか葉と枝の中から抜け出そうとする。
 抜け出した先では既にギギナが剣を構えて振りかぶろうとしていた。
「っ!」
 出夢は半ば予想していたので、すぐさま横に転がる。剣は肩を浅く斬る程度だった。
「うぐ……」

342 戦神戦捷(精神損傷) 5/5 ◆GQyAJurGEw :2005/05/29(日) 13:03:42 ID:ETuBmvOM
 だったのだが、何故か力が入らない。さらに視界が霞んできた。
(なん……だ……? あの大樹のせい……か? 頭を庇っていたし、葉がクッションになっていたから、致命傷じゃあないはず……)
 薄れる意識の中で、ギギナの声が聞こえてきた。
「む……、あるのは素早さと破壊力だけか。先程の着ぐるみの男ほどではなかったな。
 だが、あの攻撃は素晴らしかったぞ。貴様が『当たり』を引いていたなら、あるいは互角だったかもしれんな」
(クソ……)
「さらばだ、女よ」
 ギギナは踵を返し、東へ去っていった。
 出夢はその場で気絶した。

【E-4/森/1日目・08:00】

【匂宮出夢】
[状態]:肩に浅い切傷。全身に掠り傷。気絶
[装備]:シームレスパイアスはドクロちゃんへ。
[道具]:デイバック一式
[思考]:生き残る。あんまり殺したくは無い。長門を連れ戻す。

【長門有希】
[状態]:疲労が限界
[装備]:ライター
[道具]:デイバック一式
[思考]:一旦休む。現状の把握/情報収集/古泉と接触して情報交換/ハルヒ・キョン・みくるを殺した者への復讐?

【ギギナ】
[状態]:疲労。まだ完全にダメージが回復していない。
[装備]:魂砕き
[道具]:デイバッグ一式
[思考]:休んで強者探索。

※ギギナはこの後に『勘違いと剣舞』に続いています

343 ◆GQyAJurGEw :2005/05/29(日) 22:18:16 ID:MqxFG5Y.
>>338-342
問題点多数のため破棄します。

344 Daytime Rendez-vous ◆Wy5jmZAtv6 :2005/05/30(月) 23:09:23 ID:woCeKPjo
「へぇ、やるじゃない」
パイフウは一帯に仕掛けられたトラップの数々を見て、感心の言葉を漏らす。
単純なスピアトラップだが、巧妙かつ全てが理に叶った配置になっている。
「なるほどね、北上する相手をここで迎撃ってこと?」
地図を見ながら頷くパイフウ、ずきりと左肩が痛む…まだまだ本調子とは行かない。
「なら乗っかるとしようかしら」
そう言ってパイフウは相変わらずの感情を感じさせない声と表情で配置につくのだった。

「……」
アーヴィング=ナイトウォーカー、略してアーヴィは足の傷を無言でさする。
まったくいつまでたってもミラが見つからないのはどうしてなんだろう?僕の何がいけないのだろう?
うーん、こうなったらミラ以外の誰かをみんな撃っちゃうしかないのかな?そしたら最後に残った1人が多分ミラだろう。
うん、それがいいそれにきめた。
えらく危険な独り言をぶつぶつ呟きながらアーヴィもまた島の中心部へと向かっていく、その先に何人かの集団が目に入った。

そしてそれより数十分前、
「曇ってきたわよ…これなら大丈夫なんじゃないの?」
マンションの一室から空を見上げて千絵をせかす聖。
「だから昼間は様子見だって」
「でも、ぐずぐずしてたから祥子ちゃん死んじゃったじゃないの、勿体ない」
限りなく食欲と性欲の入り混じった、そんな感じの言葉を吐く聖、それをなんともいえない奇妙な表情で眺める千絵。
「それに…千絵ちゃんの友達も死んじゃったんでしょう」
「うん…」
聖の声に言葉少なく頷く千絵…物部景の死は確かに残念だった…。
だがその残念さが何によっての残念なのか、彼女にももはや分からなくなっていた。
(私は彼に欲望以外の何かを求めていたような…もう思い出せないけど)
「ねぇ、行こうよお?」
甘えるように千絵にすがり付く聖、その上目遣いの瞳が思わず同性でもため息を付きたくなるほどの
美しさと愛らしさを醸し出している。
それに押されてかどうかは知らないが、千絵は千絵で考えをめぐらせる。

実を言うと疼くような渇きをまた覚えつつある、このまま吸わなければいざという時正常な判断が出来なくなる可能性もある。
しかもたっぷりと補給した自分はともかく、聖はシズの血をあまり飲んでいない…。
だとするといつまたあの高架下のように暴走するかもしれない、今ですら欲望過多の彼女だ、そうなるともう抑えきれない。
互いの血を啜りあうことも手の一つだがこれは渇きを満たせても、今度は体力が落ちてしまう。
やはり2人では何かと効率が悪い、なら偵察がてら狩りに出るのもいいだろう。

345 Daytime Rendez-vous ◆Wy5jmZAtv6 :2005/05/30(月) 23:10:41 ID:woCeKPjo
「わかったわ、例のものは出来てるわね?」
聖は千絵が先程の仕掛けをしている間に作っておいた物を取り出す。
それは明け方に被って逃げたカーテンを利用して作った砂漠の民が身につけるような巨大なマントだ。
急ぎの仕事ゆえにあちこちいびつな出来だが、当面は身体全体と口元が隠れればそれでいい。
かなり奇異な格好と思われるかもしれないが 、突っ込まれれば土地の風習とでも言えばいい。

地図を眺める千絵…東か西か…ここに踏み込まれた場合の逃走ルートとしては東だが
今回は仲間を増やすのが目的だ、なら西よりに島の中心付近がいいだろう
禁止エリアの兼ね合いで北上してくる者も多いだろうし、東と比べ西側には施設も多い。
「1時間が限度よ、それ以上は無理…もし見つからないときは私の血で我慢して」
そう聖に告げ、頷いたのを確認して、それから千絵はマントを頭から羽織るのだった。



「あうっ!」
また頭から転ぶテッサ、これで何度目だろう?
明らかに苛立った感じで手を出すシャナ、相談の結果林道を行くことにした彼女ら、
その理由はどんな道だろうがテッサが転ぶのは避けられない、なら少しでも距離が短いルートを選んだほうがマシという消極的な理由だった。

現在の隊列はダナティアとリナが前衛、そして真中にテッサ、後衛にシャナの順だ。
最初は違ったのだがあまりにもテッサの進む速度が遅いため、いつのまにかこういういびつな隊列になってしまっていた。
本来フォローしなければならないはずだったリナは、明らかに不機嫌な表情でのしのしと歩いている。
だから今現在テッサのフォロー役はなりゆきでシャナなわけだが、その彼女の苛立ちは頂点に達しつあった。

「あ…花」
この日もう何回目か分からない転倒、ぐらりと揺れる視界の中、その片隅に一輪の花を見つけるテッサ。
何故そんなことをしようとしたのか分からない…この状況の中で、ただ確かに言えることは
彼女もまた皆と同じく疲れ傷ついていたのだ、まして彼女は指揮官という立場上
こういうギリギリの状況にはあまり慣れていないし、増して周囲には頼れる部下、いやかけがえのない仲間たちは誰一人としていない。
だからなのだろうか…普段なら心にとめることすらない路傍の花に思わず手を伸ばしてしまったのは。

シャナはそんなテッサの道草に知らん顔をする。
「知らない…」
そのまま先に向かうシャナ、テッサの目に余るトロくささにいいかげん嫌気が差している。
自分だってけが人だというのに…しかしその苛立ちゆえの他愛ない意地悪が、取り返しのつかない悲劇を生むことになった。

テッサが道端の花に手を伸ばすのと、それを見つけたアーヴィが狙いをつけるのは同時、
そしてさらに花を掴もうとしたテッサの指先が何かに触れた時、ぷつんという音と同時に茂みの中の何かが
テッサのわき腹を貫き、さらに風切る高速の何か、アーヴィの放った弾丸がのけぞったテッサの背中にあたったかのように見え、
それを察知したシャナの目の前でテッサはバランスを崩し茂みの中へと転落していった。

346 Daytime Rendez-vous ◆Wy5jmZAtv6 :2005/05/30(月) 23:11:40 ID:woCeKPjo
くぐもった命中音に振り向くリナ、そしてあえてやや先行していたダナティアが戻ってくる。
彼女としては自分が先行し、後に続くリナに2人のフォローを任せたつもりだったが、色々な偶然、不幸が重なり
結果、わずかな時間だったが間延びしきった隊列になっていたのは前述の通りである。
ダナティアが見たのは油断なく周囲を見渡すリナと、そして顔面蒼白になってるシャナだった。
「わ…わた・・・わたしっ」
「いいから何があったか教えてくださるかしら?」
完全にテンパッてしまってるシャナを刺激させないようにやさしく問い掛けるダナティア、だがそれが裏目に出た
その視線、声…それはシャナがもっとも尊敬し、頼りにし、そして恐れている女性
坂井千草の面影を思い出させる物だった…だから、彼女は、シャナは…。
「私が見たときはもう撃たれて…血がいっぱい出て下に落ちちゃったの」
嘘をついた。

「それって…」
突っ込みを入れようとしたリナの声をさえぎる様にまた銃声だ。
舌打ちするリナだが、考えてみれば自分に彼女を責める資格はない。
「話は後よ…逃げるわよ!」
おそろしく正確な狙撃に追い立てられるように3人は前に向かって進むしかなかった。
当然その行く手には宗介らの仕掛けた数々のワナが待っている。
先を行くダナティアの足にわずかな違和感、すかさず後ろのリナが竹槍を蹴り飛ばす、
シャナの首筋を糸が掠める、すかさずしゃがんだその鼻先を同じように槍が通過する。

「さがって!まだるっこしい!!」
リナの手から衝撃波が放たれる、とそれを受けて次々とワナが発動する
「よくもまぁこんなに…ったく」
それら恐ろしく周到で、なおかつ巧妙な位置に仕掛けられていた…その陰険さに思わず内心を吐き捨てるリナ。
とにかく先を急ごう、まだ背後の敵を振り切ったわけではなさそうだ。
「テッサは…」
「それは後の話よ!まずはここを逃れることを考えなさい!」

「うまくいかないものね」
嘆息するパイフウ、彼女のプランでは罠を察知し方向転換した標的を背後から攻撃、
それで仕留めきれない場合はそのまま教会に誘導し、あの黒い騎士を引きずり出して挟撃する予定だった。
しかし予想外の方向からの攻撃、さらに彼女らがそのまま力技で罠を抜けて来たため、結果正面から鉢合わせる構図となってしまっている。

347 Daytime Rendez-vous ◆Wy5jmZAtv6 :2005/05/30(月) 23:13:44 ID:woCeKPjo
これでは正面から迎撃する羽目になってしまう、今の状況でそれは避けたい、また逃げる場合だが、
もし察知されれば自分が仕掛けたと思われることは明白だ、それも避けたい、ならばどうする…。
「ならこうするわ」
パイフウは軽く自分の頬を叩いて気分を変えると、あろうことか自分の腹に「気」を入れる。
「ぐっ…」
胃液が逆流する苦痛の中、あらかじめ作っておいたシナリオを頭の中で何度も反芻する。
演技と見抜かれぬためにはこうするしかない。

そして罠を抜けてきたダナティアらの目の前によろめきながら現れるパイフウ。
「て…てき…やられ…」
そのままへたり込む彼女を反射的に抱きかかえるダナティア、もちろん油断無くリナとシャナが目を光らせている。
「肩と…お腹をやられていますわね?相手は誰?」
「わかり…ません…出会い頭だった…から」
本当に苦しい息の下、ぜいぜいと答えるパイフウ…そのまま気を失ったふりをする。
瞳を閉じた中でダナティアらの声が聞こえてくる。
「リナさん、彼女の傷治せますかしら?」
「この女を信用するの?」
「それはまた別の話ですわ」

「誰かを殺しているかもしれないわよ?」
「それは貴方も同じではなくって?もしそうだとしても彼女を責めるわけにはいきませんわ」
しばしの沈黙の後、ここじゃ無理だからとにかく目的地に行きましょ、リナの声が聞こえる。
心の中で笑うパイフウ、まさか肩の傷まで治してもらえるとは…ようやく運が巡ってきたようだ。
リナの背中に揺られながら凶悪な思考を続けるパイフウ。
(傷が全快したら…全員皆殺しね、悪いけど)
「テッサのこともあきらめたわけじゃないわよね」
「無論ですわ…でも全ては体勢を整えてから」
こうして彼女らは危険極まりない虎を自らの手で招きいれてしまったのだった。

348 Daytime Rendez-vous ◆Wy5jmZAtv6 :2005/05/30(月) 23:18:52 ID:woCeKPjo
一方のテッサだが、
「サガラさぁん…」
泣きながら藪の中を這いずるテッサ…ヘルメットはとうに脱げてしまっている。
その上小型のピットトラップに引っかかり、足の甲と太ももを槍に刺し貫かれそこからじくじくと血が滲み出している。
しかもこの周囲の地形は藪に囲まれたすり鉢状で、一旦転落するとそれほどの広さで無いにもかかわらず発見・脱出は容易ではない。
さらに…ぽつぽつと雨が降り始める。
「死ぬんですね?私…」
観念して目を閉じるテッサ…その時だった。
「ほら!いいことあったじゃない!」
「たまたまよたまたま…」
「まさに雨に打たれてずぶ濡れのELFって感じね、拾い物よ」
その声の主はもちろん聖と千絵だ…彼女らはテッサの血の匂いをかぎ付けここまでやってきたのだった。
もう我慢できない、そんな感じの聖、しかし千絵がそれを制止する。

千絵はそっと顔の覆いを取り、あえて牙を伸ばし…テッサの耳元で囁く
「あなたには2つの道があるわ、1つはこのまま運命を受け入れる道…もう1つは」
そこで言葉を止める千絵。
「人を捨てて自分の本当の願いを叶える道…どちらを選ぶかはあなた次第よ」
2つの言葉がぐるぐるとテッサの頭を巡る。
いや巡ったのは言葉ではない、1人の少年の姿。
(サガラさん…やっぱり会いたい…たとえ『仲間』でしかなくってもいい、それ以上先に進めなくってもいい…だから)
最初から答えは考えるまでもなかった。
この痛みから、そして苦しみから逃れられるのなら…そしてもう一度サガラさんと会えるのなら…何より生きてさえいれば、
チャンスは必ずやってくるのだ、それが汚れた生であっても。
テッサは自ら戦闘服のファスナーを外し、喉元を露出させる…誰に教えられたわけでもないのに。
そして、聖と千絵は頷くとその牙をテッサの白い肌に突き立てたのだった。

349 Daytime Rendez-vous ◆Wy5jmZAtv6 :2005/05/30(月) 23:35:38 ID:woCeKPjo
【D-6 /森/1日目・14:20】

『目指せ建国チーム』

【リナ・インバース】
[状態]:平常。わずかに心に怨念。(テッサの件で責任を感じている)
[装備]:騎士剣“紅蓮”(ウィザーズ・ブレイン)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:仲間集め及び複数人数での生存。管理者を殺害する。

【ダナティア・アリール・アンクルージュ】
[状態]:左腕の掌に深い裂傷。応急処置済み。
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(水一本消費)/半ペットボトルのシャベル
[思考]:群を作りそれを護る。シャナ、テッサ、パイフウの護衛。
[備考]:ドレスの左腕部分〜前面に血の染みが有る。左掌に血の浸みた布を巻いている。

【シャナ】
[状態]:平常。体の疲労及び内出血はほぼ回復
[装備]:鈍ら刀
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:悠二を見つけたい。テッサごめんね
[備考]:内出血は回復魔法などで止められるが、体内に散弾片が残っている。
     手術で摘出するまで激しい運動や衝撃で内臓を傷つける危険有り。

【パイフウ】
[状態]左鎖骨骨折(多少回復・処置中断)
[装備]ウェポン・システム(スコープは付いていない) 、メス
[道具]デイバック(支給品)×2
[思考]1.主催側の犬として殺戮を 2.火乃香を捜す
(ダナティアらに傷を治療してもらい。その後皆殺し)


【アーヴィング・ナイトウォーカー】
[状態]:情緒不安定/修羅モード/腿に銃創(止血済み)
[装備]:狙撃銃"鉄鋼小丸"(出典@終わりのクロニクル)
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:主催者を殺し、ミラを助ける(思い込み)
(現在は追撃を中止しています)

350 Daytime Rendez-vous ◆Wy5jmZAtv6 :2005/05/30(月) 23:36:32 ID:woCeKPjo
『No Life Sisters』
【佐藤聖】
[状態]:吸血鬼化(身体能力向上)、シズの返り血で血まみれ
[装備]:剃刀
[道具]:支給品一式、カーテン、
[思考]:移動。己の欲望に忠実に(リリアンの生徒を優先)
    吸血鬼を知っていそうな(ファンタジーっぽい)人間は避ける。

【海野千絵】
[状態]: 吸血鬼化(身体能力向上)、シズの返り血で血まみれ
[装備]: なし
[道具]: 支給品一式、カーテン
[思考]:移動。景、甲斐を仲間(吸血鬼化)にして脱出。
    吸血鬼を知っていそうな(ファンタジーっぽい)人間は避ける。
    死にたい、殺して欲しい(かなり希薄)。

【テレサ・テスタロッサ】
[状態]:重傷・吸血鬼化
[装備]:UCAT戦闘服
[道具]:デイパック×2(支給品一式) 携帯電話
[思考]:不明

351 Rainytime Rendez-vous ◆Wy5jmZAtv6 :2005/05/31(火) 22:40:34 ID:UrNk.4Ws
「ふふ」
闇に包まれた地下で美姫は笑う、その腕の中にはぐったりと気を失ったままのかなめ
「のう、かなめや、宗介は今何処であろうな?」
その顔を撫でてやりながら、話しかける美姫…かなめの顔が僅かに歪む。

「ほほ、案ずるな…所詮は塵芥に過ぎぬ人間風情、期待など最初からしておらぬ、要はあの男がお前のために何ができるか、それよ」
楽しげに美姫は笑う。
「律儀に首を5つ狩るのも良し、例えそれに及ばずともわたしと再び会うまでの間どれほどの奔走をしていたかは目を見ればわかること…
わたしはそれが知りたい、愛や恋とやらのためにどこまで人は己を犠牲にできるのかをな」
少しだけ懐かしい目を見せる美姫、思い出したのだろう…彼女もまた全てを捨てて一人の男をその手中に収めんとした日々があったことを、
「ゆえにうらやましいぞ、お前が…ふふふ」
焼け焦げた己の半顔を撫でる美姫…それはもはや叶わぬ遠い夢であるが。

「たとえ首を狩れずとも、その時は我が前で這いつくばり、自らの首を差し出す度量あらば、我が心も動くかもしれぬ、だが」
そこで美姫は意地悪く、そして凄惨な表情を見せる。
「卑しくも死体の首を狩ろうなどと墓盗人のような真似をした時は、断じてお前を帰してやるわけには参らぬの、
お前の器量ならば他に相応しき男いくらでもおろう、のうかなめや…ふふふ」
そう思いながら、それでも少しだけ宗介に何かを期待している自分に気がつき、
また美姫の口元は緩み始める。

そういえばあのカラクリ娘はどうしているだろうか?
美姫はしずくの顔を思い出す、今ごろ彼女もまた宗介を、そしてかなめを救うため
奔走しているのだろうか?
「お前たちが約定を守る以上わたしもこの娘を守ろう、これもまた座興よ…だが他言の末にこの娘を救う目的で踏み込まば、
 それが誰であろうと、わたしは躊躇無くかなめを殺す…よく考えよ」

空気が湿り気を増しているのが地下でもわかる、そろそろ雨が降るかもしれない。
「おおそういえばわたしが戯れに悦びを与えた娘がおったの、いまごろ何処におろうかの?」

352 Rainytime Rendez-vous ◆Wy5jmZAtv6 :2005/05/31(火) 22:41:43 ID:UrNk.4Ws
そしてそのころ
「曇ってきたわよ…これなら大丈夫なんじゃないの?」
マンションの一室から空を見上げて千絵をせかす聖。
「だから昼間は様子見だって」
「でも、ぐずぐずしてたから祥子が死んじゃったじゃないの、勿体ない」
限りなく食欲と性欲の入り混じった、そんな感じの言葉を吐く聖、それをなんともいえない奇妙な表情で眺める千絵。
「それに…千絵ちゃんの友達も死んじゃったんでしょう」
「うん…」
聖の声に言葉少なく頷く千絵…物部景の死は確かに残念だった…。
だがその残念さが何によっての残念なのか、彼女にももはや分からなくなっていた。
(私は彼に欲望以外の何かを求めていたような…もう思い出せないけど)
「ねぇ、行こうよお?」
甘えるように千絵にすがり付く聖、その上目遣いの瞳が思わず同性でもため息を付きたくなるほどの
美しさと愛らしさを醸し出している。
それに押されてかどうかは知らないが、千絵は千絵で考えをめぐらせる。

実を言うと疼くような渇きをまた覚えつつある、このまま吸わなければいざという時正常な判断が出来なくなる可能性もある。
しかもたっぷりと補給した自分はともかく、聖はシズの血をあまり飲んでいない…。
だとするといつまたあの高架下のように暴走するかもしれない、今ですら欲望過多の彼女だ、そうなるともう抑えきれない。
互いの血を啜りあうことも手の一つだがこれは渇きを満たせても、今度は体力が落ちてしまう。
やはり2人では何かと効率が悪い、なら偵察がてら狩りに出るのもいいだろう。

それに…正直な話いいかげんこの女がウザくなってきた。
もともと欲望過多だったのかもしれないが、こうやってしょっちゅう纏わりついて身体を求めてくるのには辟易する。
そりゃ抱かれるのは気持ちいい…しかしフィニッシュの時に他の女の名前を言うのは論外だろう。
そんなに栞が欲しければ本屋にでもいけばいいのだ。

心の中でひそかに聖殺害のプランを練る千絵
当然クリアせねばならぬ問題は幾つもある、平常時の彼女はセクハラを繰り返すが。
それに反してその頭脳は明晰といってもよく、さらに彼女はこの島のどこかにいる「主」(聖いわくマリア様だそうだ)に、
直接洗礼を受けており、その力は今の自分を凌駕している。

353 Rainytime Rendez-vous ◆Wy5jmZAtv6 :2005/05/31(火) 22:42:32 ID:UrNk.4Ws
何よりも今殺せば自分1人になってしまう、それは絶対に避けたかった。
やはり仲間が必要だ、それもこんな扱いにくい奴ではなく、従順な。
千絵は昨夜からの自分の心境の変化を敏感に察していた、あの時…聖の手首から流れる血潮を飲んだとき、
脳裏のもやが晴れ…あそこで自分を取り戻せたような気がする、だとしたら。

彼女が達した結論、それは吸われるだけではなく自分の主の血を吸って初めて自我を取り戻し、自立型の吸血鬼になれるということ。
ただ吸われただけでは主に従うだけの下僕に過ぎないのだ。
ならば狙うならやはり男だろう、これならレズビアンである聖に邪魔されず、自分だけの下僕を作ることができる。

(私にこの悦びを与えてくれたこと、そしてこんなにすばらしい生き物へと生まれ変わらせてくれたこと、それだけは感謝してるの…だから
なるだけ苦しまない方法で死なせてあげる)

「わかったわ、例のものは出来てるわね?」
聖は千絵が先程の仕掛けをしている間に作っておいた物を取り出す。
それは明け方に被って逃げたカーテンを利用して作った砂漠の民が身につけるような巨大なマントだ。
急ぎの仕事ゆえにあちこちいびつな出来だが、当面は身体全体と口元が隠れればそれでいい。
かなり奇異な格好と思われるかもしれないが 、突っ込まれれば土地の風習とでも言えばすむ。

地図を眺める千絵…東か西か…ここに踏み込まれた場合の逃走ルートとしては東だが
今回は仲間を増やすのが目的だ、なら西よりに島の中心付近がいいだろう
禁止エリアの兼ね合いで北上してくる者も多いだろうし、東と比べ西側には施設も多い。
「1時間が限度よ、それ以上は無理…もし見つからないときは私を好きにしていいわ」
そう聖に告げ、頷いたのを確認して、それから千絵はマントを頭から羽織るのだった。

354 Rainytime Rendez-vous ◆Wy5jmZAtv6 :2005/05/31(火) 22:43:25 ID:UrNk.4Ws
そして30分後、ぐっしょりとぬれたマントを羽織ったまま森の中をとぼとぼと歩く吸血鬼シスターズ。
「どうしてくれるのよ、おかげで帰れなくなったじゃないの」
まさに憤懣やる方ない、そんな表情の千絵。
「えー千絵ちゃんもさんせーしたじゃない」
わざとらしくしれっと受け流す聖。
まさかこんなに早く降り出すとは思わなかった、出来ればマンションに戻りたいが、
おそらくあの近辺の参加者が全て集まっていることだろう、となると危険すぎる。

「まぁまぁ雨に打たれてずぶ濡れのELFが、こいつは拾い物って感じで落ちているかもしれないじゃないの?」
「そういうのって大抵食いつぶされて終わるのよ…しかも気がついたときには遅すぎるの」
被ったマントが水を含みじっとりと重い、血で汚れてパサついた髪と顔を濯げたのは好都合だったが、
雨宿りできる場所なら、一応近くに教会がある…でも。
「絶対いや」
やっぱり聖が猛反対したのと、やはり自分も彼女ほどではないが嫌な何かを感じてしまう。

「そんなんで戻ったとき大丈夫なの?佐藤さんの学校ってミッション系でしょ?」
「うーん、そうなのよねぇ…朝とかミサやったりするのよ」
千絵は想像する、吸血鬼と化した女生徒たちが、耳を塞いで賛美歌のメロディにのたうちまわる様を。
まるでギルの笛の音に苦しむキカイダーだ。

さて、とそれはさておきどうする?
あれからもうすぐ1時間、何の収穫もなかった…それでも自分はまだ大丈夫だが
聖はどうなのだろう?せめて夜まで渇きが保ってくれればいいが…。
「ねぇ…祐巳って子に知られてるんでしょう、大丈夫なの?」
「大丈夫よ、祐巳ちゃんは喋らないわ、絶対」
聖は自分に言い聞かせるようにして応える、何故だか分からないがそういう気がする。
逆に志摩子が知ったら間違いなく自分を殺しに来る、そんな気もした。
「ふぅん…」
森を抜けるとそこにはもう街が目の前に迫っていた。

「ねぇ…服、全部脱いで、それからカバンも隠して…剃刀は確かマントの中に隠しポケットがあったわよね、そこに入れて」
「え、こんなところで!?ダイタン」
「何考えてんのよ」
やはり生かしておけないと改めて思いつつ、千絵は説明する。
「こんな汚れた服で、もし誰かに見られたらどうするのよ?雨宿りしてるときにずぶぬれマントじゃ不審でしょう、理由がないと」
屋内でも出来る限り脱ぐつもりはないが、突っ込まれてもこれで身包み剥がれたからという言い訳がたつ。
少なくとも血まみれの服を見られるよりはずっとマシだ。

「でも…」
「何いまさら迷ってるのよ、私を抱いたとき何て言ったの?私たちはもう人の世界の小賢しいルールには縛られないって…それともそういう時だけ
都合のいい理屈を持ち出すの?…じゃあ教えてあげるわ」
聖を睨む千絵の瞳がギラリと光る。

「私たちはね、もう獣なのよ」
だが聖はまるで動じなかった。
「それはさておきあと15分よね」
その言葉で逆に凍りつく千絵、しまった忘れていた…やっぱりこの女は獣だ。

355 Rainytime Rendez-vous ◆Wy5jmZAtv6 :2005/05/31(火) 22:50:40 ID:UrNk.4Ws
【D-5/地下/1日目/14:00】

【美姫】
 [状態]:通常
 [装備]:スローイングナイフ
 [道具]:デイパック(支給品入り)
 [思考]:座興を味わえて上機嫌

【千鳥かなめ】
【状態】吸血鬼化?
【装備】鉄パイプのようなもの。(バイトでウィザード「団員」の特殊装備)
【道具】荷物一式、食料の材料。(ディバックはなし)
【思考】不明

【D-4 /森の出口/1日目・14:40】

『No Life Sisters』
【佐藤聖】
[状態]:吸血鬼化(身体能力向上)、マントの下は裸
[装備]:剃刀
[道具]:カーテン(マントのみ)、
[思考]:移動。己の欲望に忠実に(リリアンの生徒を優先)
    吸血鬼を知っていそうな(ファンタジーっぽい)人間は避ける。

【海野千絵】
[状態]: 吸血鬼化(身体能力向上)、マントの下は裸
[装備]: なし
[道具]: カーテン(マントのみ)
[思考]:移動。甲斐を仲間(吸血鬼化)にして脱出。
    聖がウザい、殺したい
    吸血鬼を知っていそうな(ファンタジーっぽい)人間は避ける。
    死にたい、殺して欲しい(かなり希薄)。

356 さらばボルカン! 渚に消えた英雄(1/7)◇J0mAROIq3E :2005/06/01(水) 23:17:43 ID:fuk4MM2Y
 森の中に、場に相応しくない声が響き渡る。
「じゃあこういうのはどうだ? ある無賃乗車の女が列車の外側に張り付いてたんだ。
 すると車輪とかの付いてる機関部から血まみれの車掌が這い出てきて一言。『切符を拝見させてください』!」
 内容は怪談らしいが、いかにも楽しそうな語り口がそれを相殺している。
「それはあれだ。きっと黒い奴に黒く吹っ飛ばされた車掌が轢かれたりしながらも職務を全うしたという美談だな」
「つまらんこと言うな。せっかく知り合いから仕入れた最新の怪談だってのに」
 あからさまに残念そうな顔をするクレアを後目に、ボルカンは歯ぎしりをしてと森を行く。
(まったく何故にこの俺様が道案内なぞせにゃならんのだ)
 撒こうとしても、赤毛の男はまったくこちらから視線を逸らさない。
 北へ南へと蛇行して時間は稼いでいるが、人っ子一人いない。
 城から出たとき聞こえたブルンブルンとうるさい音と、先ほど聞こえたよくわからない男女の声。
 それ以外は何の問題もなく進行できてしまっている。
 いつもいつも面倒ごとばかり起こるというのに、起こってほしいと願うときに限って起こらない。
 まったくもってドーチンがいないせいだと心中で毒づき、ボルカンは焦りを自覚した。
(……まずい。まずいぞこれは)
 このままでは地図上で東の果てにあっさり辿り着いてしまう。
 何故こうなってしまったのか。

 時間は二時間近く前に遡る。

357 さらばボルカン! 渚に消えた英雄(2/7)◇J0mAROIq3E :2005/06/01(水) 23:19:06 ID:fuk4MM2Y
「で? 姫はどこにいる?」
 やばいこいつはやばい黒くないけど赤いけど借金取りと同じ原理で産まれたに違いないやばいやばい。
 だらだらと汗を流しボルカンは必死に考える。
 この状況を打破するには洗濯物を乾かし殺すか、もしくは、
「……俺様の命だけは助けやがってくださると見逃してやらんこともありません」
 平伏した。
 この手の反応に慣れているクレアは鷹揚に頷くとその頭をがっしり掴んだ。
「安心しろ。仕事じゃないから殺さないし、子供を殺す趣味はないし。子供のふりをした悪人はちょっと殺し続けたが」
 笑いながらもその瞳は少しの輝きもなくボルカンを射抜く。
 地獄を煮詰めたような色は、ボルカンに逆らった場合の未来を正しく想起させた。
(きっと黒ビームやら借金フラッシュを目から出して俺様から無い金を奪い尽くすに違いない。けしからんな!)
 やはりここは英雄として隣の荷物預かり殺すしかないかと勢いよく顔を上げ、
「それで、シャーネ姫をどこに隠したんだ魔王の手下その1?」 
 その目を見ると、諦めて嘘をつくことにした。
(姫といえばやはりあれか。げに恐ろしき伝説の銀月姫のことか)
 忌まわしき伝説の――そして自分が実際に遭ってしまった地人の姫を思い出し、軽く身震いする。
 出会ったのはアーバンラマ近くの荒野だったが、多分遠い。かなり遠い。嘘だと見破られる。
「あー……確かついさっき東の方で合戦をしてたな。うん、確か」
「合戦。おぉ、なんかすっぱり誘拐されるよりシャーネらしいぞ。バトルヒロイン、それもまた良し!」
 あっさりと頷くと、そそくさと地図を取り出し始めた。

358 さらばボルカン! 渚に消えた英雄(3/7)◇J0mAROIq3E :2005/06/01(水) 23:20:01 ID:fuk4MM2Y
「東っていうと海沿いか森か。面白くなってきたな。――よし腹ごしらえだ!」
「すぐ行くんじゃないのか!?」
「あん? なんで?」
 思わず叫ぶボルカンに不思議そうに首を傾げる。
「だって俺が死ぬはずないと思えばシャーネが死ぬわけないし。強いし、俺の婚約者だからな。
 ピンチの時駆け付けるのもいいが、それなら俺が駆け付けるまでピンチにならないのが道理だし。
 そうだな、このアイザックとミリアって奴らはフィーロとジャグジーの友達だっけか。
 というかあの列車に乗ってたっけな。これも縁だ。死なせるわけにはいかないな。死なない死なない。よしこれで死なない」
 本気でそう言うと、取り出したパンをごく普通に頬張った。
 自信と言うことすら憚られる確信ぶりにさすがのボルカンも呆気にとられる。
「どうした手下その1? お前も食えよ。俺のはやらんが」
「は?」
 情報(嘘だが)を与えてもう用はないだろうに、何故そんなことまで口を出されるのか。
 確かに腹は減っているが。
「なに呆けてんだ。俺をシャーネのとこに案内するんだろ? 俺に使われる幸運を喜べ」
「ふ、ふざけるな! このマスマテュリアの闘犬ことボルカノ・ボルカンに道案内を強要するなど不敬罪にも程があるぞ!」
「何? この線路の影をなぞる者こと葡萄酒ことフェリックス・ウォーケンがここまで低姿勢で頼んでも駄目だってのか?」
「どこが低姿勢だ!? 鉄塔の上で土下座するのを低姿勢と言い張るならこっちも司法に頼る気がしないでもないぞ!」
「まぁいいけどな、ここに残りたいんなら。魔王と手下その2と仲良くな」
 ちらりと横を見ると、巨漢とバーテンダーが仰向けにぶっ倒れている。
 なんだかドーチンがいつも諦めを含んだため息をつく理由が分かった気がした。

359 さらばボルカン! 渚に消えた英雄(4/7)◇J0mAROIq3E :2005/06/01(水) 23:20:54 ID:fuk4MM2Y
 そして二時間後、二人は眺めのいい岬へと辿り着いた。
「さぁ着いたぞ! 誰にも遭わず実に爽快な旅路だったな部下1!」
「そ、そうだな! 誰も彼もこの英雄ボルカノ・ボルカンに恐れをなして逃げ出したと見える! ふはははは!」
「はははははははは!」
「ふはははははは…は……」
 見るとクレアは声と口だけで笑い、目はぎらぎらと輝いている。
「いやぁ、行き止まりだし、ここだよな? でも合戦って割には痕跡も何もないな?」
「不思議なこともあるものだ。きっと合戦後に後かたづけをしたに違いないな!」
「いや別にいいんだけどさ。多分でまかせだろうって思ってたし。でも俺だから理由もなく会えるかなって思ってたし」
 言いながら、二抱えほどある岩をそっと撫で、友達相手にふざけるように押す。
 地響きのような音を立て、岩が動く。
 俊敏に背を向けようとするボルカンの襟首を掴み、クレアはにこやかに岩を押す。
「何かこう、スラップスティック・コメディ:主役俺、ヒロインシャーネ、道化俺、舞台俺、みたいな?
 いやいや文句を言う気はないぞ。騙されようと思って騙されたんだし」
「いやいやいやなら岩は何だその岩は! 恐怖政治は民草を疲弊させ何というかこう、駄目だぞ!」
「文句はない。文句はないが部下への仕置きは必要というのが俺政治」
 ぐ、と一際強く押した岩が投げ込まれるように崖を転がり海へと突撃する。
 水面を打つ轟音はすぐに波音に消され、跳ねた塩水が二人にかかる。
「ちょっとすっきり。しかし残念ながら俺の苛立ち指数、高水準で安定中。故にストレス解消案その2」
 じたばたと足掻くボルカンの頭をがっしりと固定。
 しっかりと大地を踏みしめ、遠い水平線を見渡し、青い空にシャーネの笑顔(補正あり)を夢想し、
「次からは嘘を本当にできるよう努力しろよー」
 投げた。
 飛んだ。
 落ちた。

360 さらばボルカン! 渚に消えた英雄(5/7)◇J0mAROIq3E :2005/06/01(水) 23:22:08 ID:fuk4MM2Y
「おおおおぉぉ!?」
 潮風の中でボルカンは自由落下を余儀なくされる。
 先ほどの岩落下の衝撃で濁った海面が迫る。
 腹から落ちると痛いことは既に学習済みなのでばたばたと羽ばたくように両手を振る。
 腹から落ちた。
 いつものことといえばいつものことだが、痛いことこの上ない。
 悶絶して息を吸うと、空気の代わりに塩水が流れ込んでくる。
 そのまま岩の破片の待つ海底に突き刺さらんばかりの勢いで沈み、しかし吹き上げる泥で視界はない。
 そんなボルカンに、海底から浮上する板を避けることを要求するのは酷というものだろう。
 海底の泥に突き刺さっていた金属製のプレート。
 それがクレアのストレス解消で戒めを解き放たれて浮き上がるという、小さな奇跡が起きた。
「ぐぼがぁっ!?」
 無論そのプレートはそれが本来の役目であるかのようにボルカンの腹を強かに打ち付け、流れに乗りながら海面へと上昇していった。
 激痛に呻きながらも、それこそ蜘蛛の糸のようにそれにしがみつき、何とかボルカンは顔を海上へと上げることができた。
 嘔吐するように海水を吐き出し、こんな目に遭わせた元凶を睨もうと見上げた。
 角度の関係か、崖の上にクレアの姿は見えない。
 とりあえずラッコの姿勢でプレートに捕まりながらボルカンは叫んだ。
「げほっ、フェリックスとか言う赤借金取り! 今度会ったらこのボルカノ・ボルカンがカビ取り殺してぶはっ!」
 波が顔を洗い、塩辛さが口内を満たす。
 慣れたら美味いかもしれないと味わおうとし、二回嚥下して気持ち悪くなったところで頭の中に声が響いた。

361 さらばボルカン! 渚に消えた英雄(6/7)◇J0mAROIq3E :2005/06/01(水) 23:22:49 ID:fuk4MM2Y
「誰が借金取りだ。ていうか何だ、あの板は?」
 クレアの卓抜した視力は浮沈する板の表面を何とか捉えたものの、中身は読みとれなかった。
「俺が読めん言葉があるってのは許せんな。帰ったら図書館でも行くか……っと」
『諸君、これより二回目の死亡者発表を行う――』
 頭の中で聞き覚えのない名前がずらずらと列挙される。
 その中に知り合い三人の名は含まれていない。
「やっぱシャーネは無事だよな。ま、今度は北に行ってみるかな」
 ぶらぶらと、あくまで気楽にクレアは歩き出した。


 一方、流され方のコツを覚えたボルカンは、ようやく自分のしがみついているものに興味を向けた。
 それは大きめのノートほどの大きさの板で、海中に沈んでいたにも関わらず錆の一つも浮いていなかった。
 表面には細かな模様と文字のようなものがびっしりと刻み込まれていた。 
 その模様によって、このプレートが主催者達の監視の目さえかいくぐっていることをボルカンは知らない。
 その模様によって、刻まれた文字が島全体にかけられた翻訳の力を逃れていることをボルカンは知らない。
 その文の末尾に、このプレートの作成者の名が刻まれていることをボルカンは知らない。
 ニーガスアンガー。
 とある世界における防御魔法の使い手が残した、最も丈夫な手紙。
 それは己と同じ世界の人間の目に触れるのを、今も待ち続けていた。

362 さらばボルカン! 渚に消えた英雄(7/7)◇J0mAROIq3E :2005/06/01(水) 23:23:33 ID:fuk4MM2Y
【F-8/岬/1日目・12:00】
【ボルカン】
 [状態]:健康的に北へ漂流
 [装備]:かなめのハリセン(フルメタル・パニック!)
     ニーガスアンガーのプレート(防御紋章により、盾にもなる。事件シリーズキャラしか読めない)
 [道具]:デイパック(支給品一式)
 [思考]:1.塩辛い。2.陸が恋しい。3.打倒、オーフェン

【クレア・スタンフィールド】
[状態]:絶好調
[装備]:大型ハンティングナイフx2
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:1.シャーネを見つける。2.アイザックとミリアと会ったら同行してもいい。

 ※ニーガスアンガー:事件シリーズに登場した最高の防御魔法の使い手。
           ある魔法に対し過剰反応してしまい死亡。

363 Battle Without Honor or Humanity ◆Wy5jmZAtv6 :2005/06/04(土) 03:04:48 ID:fTfq9Pvo
「まったくバケモノ揃いですね、この島って」
「肯定だ」
顔を見合わせ囁きあう宗介とキノ、そして彼らの耳には、
「どこ行きやがった!殺す!」
怒鳴り散らす平和島静雄の声が届いていた。

発端は5分前に遡る。
平和島静雄はビルの前のベンチでひとまず一服していた。
手にはどこかからか拝借してきたタバコがある。
「あいつらどーしてっかなぁ…イザヤのバカがこの島送りになったのは当然としても、俺やセルティまでってのは
 やっぱ理不尽だよなぁ、生きて帰れたらスシくいてぇな、サイモンの店じゃなくてこうもっとゴージャスなよ」
絵に描いた餅が次々と静雄の眼前に浮かぶ、思わず手を伸ばそうとするが…やはり手は空を掴むだけだ。
「くそっ…むかつく」
そう呟いて時計を見る、あと5分休んだらまたセルティを探すか。

で、そんな静雄の背後10Mの位置に潜み寄っていた宗介とキノだ。
「いましたね」
そっとナイフを取り出すキノ…が、その前に…キノは軽く足元の石を軽く蹴飛ばし、わずかだが音を立てる。
だが、静雄はまるで反応しなかった、気が付いていないようだ。
この距離でこの反応なら殺すのは容易い、宗介も同じ考えのようだ。
「ナイフで仕留めるぞ」

思えばここで弾薬をケチったのが失敗だった。

植え込みから飛び出し左右から静雄に迫る2人、その動きは疾風のように素早い、
事実、静雄はその身体に刃が突き立てられるまで何も出来なかった…いや正確には…
何もしなくてもよかったのだ、何故なら。

背後から心臓めがけて突き入れられた宗介のナイフも、右サイドから脇の下を抉るように突き入れようとしたキノのナイフも
鉄筋コンクリートのような硬い感触と同時に弾かれてしまっていたのだ。
そして…静雄がにぃと笑う。
「人に刃物向けたら死ぬよなぁ、普通はよう…てなわけで手前ェら殺す」

364 Battle Without Honor or Humanity ◆Wy5jmZAtv6 :2005/06/04(土) 03:06:56 ID:fTfq9Pvo
そう云うが否かの速度で、ぶんと唸りを上げる静雄の右フック。
それは飛び退いた宗介の鼻先をかすめ、ベンチの傍らの街灯に直撃し、街灯がその場所からひび割れていく。
そのスキをついて逃走する宗介。
「逃げんなコラァ!」
静雄は自分が座っていたベンチを軽々と持ち上げ、それを宗介らへと投げつける。
だが、そのベンチは植え込みの中に転がり込んだ彼らの頭の上を通過する。
その鮮やかな動きは、これまで静雄がブチのめした何処のどいつらよりも洗練されていた、
強いて言うならサイモンのそれに近いか?
(奴ら軍人かよ)
一瞬の逡巡の後、また怒りを取り戻す静雄だったが、
その間に宗介らは悠々と店内に逃げ込んでいたのだった。


そして現在。
「ところで何故?」
あの男に加勢して俺を殺す手もあったぞ?そう言いたい表情の宗介、
キノの答えは明確だった。
「あれは助けたら頼んでねぇ!と逆ギレするタイプか裏切りを責めるタイプだと思うんですよ」
途中までは加勢するつもりでしたけどねと心の中で付け加えるキノ。
「肯定だな」
どこの世界にでもそういう輩は多いようだ。

「こうなった以上殺すしかあるまい」
静雄の怒号が段々と近くなっていく。
「ところで残りの弾薬はどれくらいある?」
キノは唇を歪め、足元のディパックを軽く爪先で蹴る。
「まだまだたくさんありますよ、このカバンいっぱいにね…あなたはどうなんです?」
宗介もまた軽く答える。
「俺も分けてやりたいくらい余裕がある、口径の違いがあるのでそれは無理なようだが」
どたどたと階段を駆け上がる音、どうやらお出ましのようだ。

「見つけたぞ…てめぇら、しにやがれぇぇぇぇ!」
小細工一切無しの突撃を敢行する静雄、この突撃を止められる者など1人もいない。
その瞳に写るのは通路の真ん中に並んで立つキノと宗介。
だが…静雄には違和感があった、この2人、まるで俺を恐れていない。
その時、足に何かが当たる音。
(空き缶?)
そしてそれを合図に、宗介とキノの手が閃く。
(銃かよっ!)
これで合点が行った…それともう1つ分かったこと…この2人、人を殺してやがる…それも半端な数じゃない人数を。
ぱんと乾いた音がこだまする、静雄は両足を踏ん張り身体にブレーキをかけようとする。
しかし、間に合わなかった、そしてズン!という痛み以上の衝撃が静雄の身体を貫いた。

365 Battle Without Honor or Humanity ◆Wy5jmZAtv6 :2005/06/04(土) 03:07:37 ID:fTfq9Pvo
腹部にダムダム弾の直撃を受け、それでも踏ん張る静雄…だがその衝撃は筋肉の鎧を伝い、その内部を確実に破壊していた。
こみあげる熱いものを感じると同時に静雄の口から噴水のように血液が噴き出し、
そしてふくらはぎが嫌な音を立て、彼の身体は空中へと舞い上がった。
そこにキノがやはりダムダム弾で追い討ちをかける、今度は支えるもののない空中、しかもその命中個所はクレアが刺し、宗介が撃った場所と
寸分違わなかった。
そしてついに静雄の筋肉の鎧が砕け、腹の傷が盛大に開き、切り揉み回転しながらその身体が強化ガラスの窓に叩き付けられる、
さらにそれだけに留まらず、ガラスがぴしぴしと軋んだかと思うと同時に割れて、外に落ちる静雄。
その落下地点には…彼自身が先程叩き折った街灯の、まるで槍のように尖った先端が待ち受けていた。

ざくっ!

2階から様子を伺うキノと宗介…その真下には鉄骨に串刺しになった静雄がいる。
「終わりましたね」 
宗介はキノの言葉には応じずそのまま踵を返し、1階への下り階段へと向かう。
その後に従うキノ、階段に差し掛かった時だった。
めきめき…。
何かが抜けるような音が微かに聞こえた、何だ?
そのまま気にせず階段の折り返しに差し掛かる。
ずるずる…。
次ははとんでもなく重い何かを引きずるような音。
今度は気にしないわけにもいかなかった。
「まさかな…」
そして1階に降り、正面玄関へと目をやり2人は同時に呟いた。
『やっぱり…』

2人の視線の先にいた物、それは怒りの形相で立ちはだかる平和島静雄だった。

366 Battle Without Honor or Humanity ◆Wy5jmZAtv6 :2005/06/04(土) 03:08:25 ID:fTfq9Pvo
そう、彼は街灯に串刺しになったまま…その街灯を周辺の路面ごと無理やり引き抜き…ここまでやってきたのだ。
「あれは…人間なのか?」
静雄の余りにも異様な姿に宗介もキノも畏怖の言葉を漏らさざるを得ない。
「どんな国でも」
呟くキノ
「どんな戦場でも」
応じる宗介
『あんなのは見たことがない』
最後は2人同時だった。

その静雄は身体に数メートルはあろう街灯を身体にぶら下げたまま、キノと宗介の元へと突進しようとする。
が、届かない。
街灯が入り口に引っかかってそれ以上前には進めないのだ。
「ぐおおおおおおっ」
叫びと共に己を貫く鉄芯を引きちぎろうとするが、もはやそこまでの力は彼には残っていない。
しかも中途半端に折れ曲がったそれは鍵のようになって逆に静雄の脱出を阻む。
「ちく…しょう…せっかく…」

自分にできること、この忌まわしい肉体を存分に振える場所を、そして誰かを守る意義を…ようやく見つけた、その矢先にどうして。
「なんで…うまくいかねぇ…」
それでも何かやれることはある…あるはずだ…何も思い浮かばないなら、いつもどおりやればいい。
(あばよ…もう会えねぇ)
自分が長くないことくらいは分かる、だから最期は平和島静雄らしく!
「だったら…こっちをちぎるしかねぇよなぁああああ!」
街灯を引き抜くことを諦めた静雄、その代わり彼の取った行動…それは…
「うおおおおおおおおおっ」
叫びと同時にぴしぴしと何かが切断されていく音が響き、そして、
ぶつんという音と共に静雄は自由になった、ただし上半身だけが。
彼の取った選択…それは街灯もろとも動けない下半身を置き去りにすることだった。

367 Battle Without Honor or Humanity ◆Wy5jmZAtv6 :2005/06/04(土) 03:09:05 ID:fTfq9Pvo
「これじゃ近づけませんね」
「落ち着け…持久戦ならこちらが有利だ」
自分に言い聞かせながら、待合室のソファを取り外し、それを盾にしてじわりと前進していくキノと宗介。
しかし…静雄の攻撃により、遅々として進まない。
彼らの前方に鎮座する静雄、目の前には崩れたごみ箱から大量の空き缶、それを彼は最後の力を振り絞り
キノらへと投げつけ続けているのだ。
ただの空き缶とはいえ、静雄の膂力ならそれは充分過ぎるほどの凶器となる。
事実ソファはもうベコベコになっていた。
しかし、それももう終わる…みたところ静雄の空き缶のストックはもうすぐ底を尽きる。
そうなれば勝ち…と思っていた…しかし。

次の瞬間、何かが勢いよくソファを貫通する、まるで鋭利な刃物のような何かだ。
そしてその正体が何かを知ったとき…2人は呻く以外のことが出来なかった。
「肋骨…だと」
そう、静雄は投げられる得物が無くなった果てに、自らの肋骨を抉り取り、それをキノらへと投擲したのだ。

そして2人は誘われるように改めて銃を構える。
彼らはついに確信した、どんな犠牲を払ってでも今ここで確実にこいつを自分たちの手で殺らなければ、
後々必ず後悔することになるだろうと、そしていかなる犠牲をも払うに値する相手だということも。

「っ!っ!っ!」
最後の攻撃を終えた静雄は…笑っていた。
もう声を出すことも出来ないのだろう、全身の血を出しつくし白い肌は乾ききり触ると崩れそうだ。
それでも彼は笑っていた、その先に死しかありえなくとも。
(文句あっか?)
そしてくぐもった銃声が2つ響いた。

368 Battle Without Honor or Humanity ◆Wy5jmZAtv6 :2005/06/04(土) 03:09:56 ID:fTfq9Pvo
「終わったな」
無表情の宗介、その足元には静雄の死体、
その胴体部分はほとんど四散し、首と片方の腕が辛うじて鎖骨一本でつながった状態だ。
さて、首を刈らねばならない。
宗介は改めてナイフを構え、そして静雄の眼前へと屈みこんだその時!
「!!」
静雄の残った腕が、まるで宗介の首を握り潰さんとばかりに動いたのだ!
さらに開いたままの口が、宗介の手をやはり噛み潰さんとばかりに勢いよく閉じられた。
宗介はおろか見ているだけのキノですら、戦慄を禁じえなかった…ただの死後硬直の一種だと分かっていても
肉片となってまで残る執念には寒気を感じずにはいられなかった。

こうして暴力の使徒、平和島静雄は死してなお恐怖を与えることに成功したのであった。

【B-3/ビル内/1日目/13:30】

【キノ】
[状態]:健康体。
[装備]:カノン(残弾無し)、師匠の形見のパチンコ、ショットガン(残弾2) 、折りたたみナイフ
    ヘイルストーム(出典:オーフェン、残弾6)
[道具]:支給品×4
[思考]:最後まで生き残る

【相良宗介】
[状態]:健康体。
[装備]:ソーコムピストル(残弾不明)、コンバットナイフ。
[道具]:支給品一式、弾薬、 静雄の首
[思考]:かなめを救う…必ず

【平和島静雄 :死亡 】 (残り80人)

369 最強、鉛弾に散る ◆Wy5jmZAtv6 :2005/06/04(土) 04:07:27 ID:fTfq9Pvo
「まったくバケモノ揃いですね、この島って」
「肯定だ」
顔を見合わせ囁きあう宗介とキノ、そして彼らの耳には、
「どこ行きやがった!殺す!」
怒鳴り散らす平和島静雄の声が届いていた。

発端は5分前に遡る。
平和島静雄はビルの前のベンチでひとまず一服していた。
手にはどこかからか拝借してきたタバコがある。
「あいつらどーしてっかなぁ…イザヤのバカがこの島送りになったのは当然としても、俺やセルティまでってのは
 やっぱ理不尽だよなぁ、生きて帰れたらスシくいてぇな、サイモンの店じゃなくてこうもっとゴージャスなよ」
絵に描いた餅が次々と静雄の眼前に浮かぶ、思わず手を伸ばそうとするが…やはり手は空を掴むだけだ。
「くそっ…むかつく」
そう呟いて時計を見る、あと5分休んだらまたセルティを探すか。

で、そんな静雄の背後10Mの位置に潜み寄っていた宗介とキノだ。
「いましたね」
そっとナイフを取り出すキノ…が、その前に…キノは軽く足元の石を軽く蹴飛ばし、わずかだが音を立てる。
だが、静雄はまるで反応しなかった、気が付いていないようだ。
この距離でこの反応なら殺すのは容易い、宗介も同じ考えのようだ。
「ナイフで仕留めるぞ」

思えばここで弾薬をケチったのが失敗だった。

植え込みから飛び出し左右から静雄に迫る2人、その動きは疾風のように素早い、
事実、静雄はその身体に刃が突き立てられるまで何も出来なかった…いや正確には…
何もしなくてもよかったのだ、何故なら。

370 最強、鉛弾に散る ◆Wy5jmZAtv6 :2005/06/04(土) 04:09:08 ID:fTfq9Pvo
背後から心臓めがけて突き入れられた宗介のナイフも、右サイドから脇の下を抉るように突き入れようとしたキノのナイフも
鉄筋コンクリートのような硬い感触と同時に弾かれてしまっていたのだ。
そして…静雄がにぃと笑う。
「人に刃物向けたら死ぬよなぁ、普通はよう…てなわけで手前ェら殺す」

そう云うが否かの速度で、ぶんと唸りを上げる静雄の右フック。
それは飛び退いた宗介の鼻先をかすめ、ベンチの傍らの街灯に直撃し、街灯がその場所からひび割れていく。
そのスキをついて逃走する宗介。
「逃げんなコラァ!」
静雄は自分が座っていたベンチを軽々と持ち上げ、それを宗介らへと投げつける。
だが、そのベンチは植え込みの中に転がり込んだ彼らの頭の上を通過する。
その鮮やかな動きは、これまで静雄がブチのめした何処のどいつらよりも洗練されていた、
強いて言うならサイモンのそれに近いか?
(奴ら軍人かよ)
一瞬の逡巡の後、また怒りを取り戻す静雄だったが、
その間に宗介らは悠々と店内に逃げ込んでいたのだった。


そして現在。
「ところで何故?」
あの男に加勢して俺を殺す手もあったぞ?そう言いたい表情の宗介、
キノの答えは明確だった。
「あれは助けたら頼んでねぇ!と逆ギレするタイプか裏切りを責めるタイプだと思うんです」
途中までは加勢するつもりでしたけどねと心の中で付け加えるキノ。
「肯定だな」
どこの世界にでもそういう輩は多いようだ。

「こうなった以上殺すしかあるまい」
静雄の怒号が段々と近くなっていく。
「ところで残りの弾薬はどれくらいある?」
キノは唇を歪め、足元のディパックを軽く爪先で蹴る。
「まだまだたくさんあります、このカバンいっぱいに…あなたはどうなんです?」
宗介もまた軽く答える。
「俺も分けてやりたいくらい余裕がある、口径の違いがあるのでそれは無理なようだが」
どたどたと階段を駆け上がる音、どうやらお出ましのようだ。

371 最強、鉛弾に散る ◆Wy5jmZAtv6 :2005/06/04(土) 04:10:23 ID:fTfq9Pvo
「見つけたぞ…てめぇら、しにやがれぇぇぇぇ!」
小細工一切無しの突撃を敢行する静雄、この突撃を止められる者など1人もいない。
その瞳に写るのは通路の真ん中に並んで立つキノと宗介。
だが…静雄には違和感があった、この2人、まるで俺を恐れていない。
その時、足に何かが当たる音。
(空き缶?)
そしてそれを合図に、宗介とキノの手が閃く。
(銃かよっ!)
これで合点が行った…それともう1つ分かったこと…この2人、人を殺してやがる…それも半端な数じゃない人数を。
ぱんと乾いた音がこだまする、静雄は両足を踏ん張り身体にブレーキをかけようとする、しかし
(まにあわねぇ!)
それでも1発目は避けた、しかし2発目が静雄の肩に命中する。
そして肉を引き裂き骨をも砕く、ダムダム弾の恐るべき威力によって静雄の左半分は消滅していた。

(ざまぁねぇ…な)
血にまみれ倒れ伏す静雄、池袋最強が聞いて呆れる…。
(所詮喧嘩の話かよ…)
自慢じゃねぇが、俺は結構希望に燃えていた、だから…少しだけ前向きにやれると思ってた。
ここでなら自分の力が、俺を苦しめるだけだった力を正しく振るうことが出来ると…一瞬そう思った…
けど、鉛弾には結局勝てなかった。
こんなに簡単に人は死ぬんだなというあっけらかんと空虚な何かが身体を吹き抜けていく。

(何のために…俺は生きてきたんだ…)
目の前が滲む…死ぬのが恐ろしいわけじゃない、本当に恐ろしいのは、何も残せないままこの世界から消えてしまうということ。
まして何かを残せると思った矢先に…。
「ちく…しょう」
それが最後の言葉だった。
(イザヤ…先に待ってるぞ…セルティ、お前はこっちにはくるなよ…な…はは、トムさん次の取立てはどこっすか?)

「泣いてるみたいですね」
静雄の死に顔を覗き込むキノ、だが宗介はたいした感慨も持たずその首を刈り取った。
これは今までの何百分の一でそしてこれからの何分の一かに過ぎない。
そう思えば何も感じない。
「あと4人」
ただそれのみ呟くだけだった。

372 最強、鉛弾に散る ◆Wy5jmZAtv6 :2005/06/04(土) 04:11:18 ID:fTfq9Pvo
【B-3/ビル内/1日目/13:30】

【キノ】
[状態]:健康体。
[装備]:カノン(残弾無し)、師匠の形見のパチンコ、ショットガン(残弾2) 、折りたたみナイフ
    ヘイルストーム(出典:オーフェン、残弾6)
[道具]:支給品×4
[思考]:最後まで生き残る

【相良宗介】
[状態]:健康体。
[装備]:ソーコムピストル(残弾不明)、コンバットナイフ。
[道具]:支給品一式、弾薬、 静雄の首
[思考]:かなめを救う…必ず

【平和島静雄 :死亡 】 (残り80人)

373 ◆Wy5jmZAtv6 :2005/06/04(土) 12:03:36 ID:rPE/mYBg
「Battle Without Honor or Humanity」 および「最強、鉛弾に散る」
共通の修正です。

時計は14時25分を指している。

「まったくバケモノ揃いですね、この島って」
「肯定だ」
顔を見合わせ囁きあう宗介とキノ、そして彼らの耳には、
「どこ行きやがった!殺す!」
怒鳴り散らす平和島静雄の声が届いていた。

発端は15 分前に遡る。
学校へと向かうキノと宗介、しかし…道端の異様な痕跡に2人は足を止める
草や木々がまるで八つ当たりのようになぎ倒された跡が点在しているのだ。
そしてその先にはビル街があり、そこへと続く足跡もあった。

それから10分後
平和島静雄はビルの前のベンチでひとまず一服していた。
手にはどこかからか拝借してきたタバコがある。
「あいつらどーしてっかなぁ…イザヤのバカがこの島送りになったのは当然としても、俺やセルティまでってのは
 やっぱ理不尽だよなぁ、生きて帰れたらスシくいてぇな、サイモンの店じゃなくてこうもっとゴージャスなよ」
絵に描いた餅が次々と静雄の眼前に浮かぶ、思わず手を伸ばそうとするが…やはり手は空を掴むだけだ。
「くそっ…むかつく」
そう呟いて時計を見る、あと5分休んだらまたセルティを探すか。

で、そんな静雄の背後10Mの位置に潜み寄っていた宗介とキノだ。
「いましたね」
そっとナイフを取り出すキノ…が、その前に…キノは軽く足元の石を軽く蹴飛ばし、わずかだが音を立てる。
だが、静雄はまるで反応しなかった、気が付いていないようだ。
この距離でこの反応なら殺すのは容易い、宗介も同じ考えのようだ。
「ナイフで仕留める」

思えばここで弾薬をケチったのが失敗だった。

植え込みから飛び出し静雄に迫る宗介、その動きは疾風のように素早い、
事実、静雄はその身体に刃が突き立てられるまで何も出来なかった…いや正確には…
何もしなくてもよかったのだ、何故なら。

緩慢な動きで振り向いた矢先、腹部に突き入れられた宗介のナイフは、
鉄筋コンクリートのような硬い感触と同時に弾かれてしまっていたのだ。
そして…静雄がにぃと笑う。
「人に刃物向けたら死ぬよなぁ、普通はよう…てなわけで手前ェ殺す」

374 人形達の参戦 1 ◆CDh8kojB1Q :2005/06/05(日) 13:32:39 ID:D7qZuQnc
 ついに長い階段が終わりを告げ、広々としたフロアに出る。
 北と東へ二本の通路が延びているが、その間には巨大な扉があった。
 それはさも異様な妖気を放っているように感じられる。
 中から感じる威圧感に気圧されながらカイルロッドは呻いた。

「これが……格納庫」

 複雑な幾何学的紋様に隙間なく覆われた鉄製と思われる大扉。
 その表面は等間隔に設置されたライトによって光沢を帯び、
 場所さえ異なれば荘厳な雰囲気を見い出すことが出来ただろう。
 しかしここは地底であり、岩肌に浮き立つその姿は魔窟の入り口にしか見えない。

「随分と手の込んだ装飾ですわね……」
 扉に近づこうとした淑芳にカイルロッドは手を伸ばして引き寄せる。
 カイルロッドは地下に入った時、背後の扉が閉じてしまい戻れなくなった事を思い出し、心配していた。
「うかつに近づくな、まだ何か仕掛けが有るかもしれない。陸、何か怪しい物は?」
「地面には何の仕掛けも有りません、周囲に不自然な臭いも無いようですね」
 付近を嗅ぎ周っていた陸がカイルロッドの問いに応じる。
「上にも特に変わった物は無さそうですわね……カイルロッド様、退がっていて下さい」
 カイルロッドの前に進み出た淑芳の手には、数枚の呪符が握られていた。
 淑芳まさか――とカイルロッドが声をかける前に、
「吹き飛ばしますわ!李淑芳の符術、得とご覧あれ。臨兵闘者以下略!絶火来来、急々如律令!」
 符が凄まじい勢いの爆炎に変化し、扉を穿つと同時に炎の光がフロアを包み、
 飛び散った火の粉が陸の毛を焦がす。
(犬ばかりにいい顔をさせるわけにはいかないわ!)
 力が制限されているとはいえ、本来なら天界の神将も感嘆するほどの高レベルな符術が炸裂した。

375 人形達の参戦 2 ◆CDh8kojB1Q :2005/06/05(日) 13:34:58 ID:D7qZuQnc
 しかし――
「嘘、無傷だなんて……」
 目立った損傷もない大扉が、呆然とした淑芳の前にそびえていた。
 
 淑芳が手の込んだ装飾と称した扉の幾何学的紋様は、
 実は物質の強度を高めるための論理回路である。
 更に1st-Gの賢石加工が施されて『べらぼーに頑丈』と書かれているために、
 並みの攻撃位は跳ね返す、鉄壁の守りだという事を彼等は知らない。 

「まったく、ハデな見かけの割には、私の毛を焦がす程度の威力しかないんですか?」
 カイルロッドの背後に緊急避難していた陸が非難の声を投げかけてくる。
(大誤算ですわ、扉一つ壊せずに更には犬ごときに馬鹿にされるなんて……、
何としてでも名誉を挽回しなければなりませんわね)
 一瞬で思考を終了した淑芳は、愛しのカイルロッドと犬畜生に向かって作り笑いを浮かべた。
「ふふふ、一見しただけでわたしの実力を嘲るとは、おめでたい頭脳をお持ちですわね。
これはほんの小手調べ。序の口に過ぎないことを教えて差し上げましょう」
 黒地に銀の刺繍の入った道服を優雅になびかせ、淑芳は再び扉に向き直る。
  
 目に決意を浮かべて後ろを向いた淑芳から、只ならぬ気配を感じたカイルロッドは、
「お、おい……淑芳――」
 無理はするなよ、と告げようとした瞬間。
 彼女の手に先ほどの倍近い呪符が握られているのに気付いて、
 ――手遅れだ。
「陸、目を閉じろ!」
 足元の陸を掴むと同時に、後方に跳躍して地面に伏せる。
 直後に、
「臨兵闘者――」
 ぎりぎりで塞いだ耳に次の瞬間爆音が響き、同時に猛烈な衝撃が体を襲った。
「!!」
 続いて熱気、冷気、再度の衝撃が伏せた背中の上を通過して行くのを感じ、
 最後に強烈な打撃音と破壊音が響く。

376 人形達の参戦 3 ◆CDh8kojB1Q :2005/06/05(日) 13:36:01 ID:D7qZuQnc
 ごいん!
 めきゃ!

 それきり音は聞こえなくなり、恐る恐る顔を上げたカイルロッドは、
 何か巨大な力でブチ抜かれた大扉と、乱れた髪を整えながら不適に笑う淑芳を見た。
「いかがです?まあ、犬風情では私の符術の技量を計り知る事はできそうにありませんからね。
わたしの力を侮った先ほどの台詞は見逃して差し上げるわ」
 そこはかと余裕や自信を漂わせる言動だが、実際に扉を破壊したのは淑芳の符術ではない。
 一振りで天界に衝撃を起こした、太上老君秘蔵の武宝具『雷霆鞭』である。
 実際に再び扱って淑芳はその威力に戦慄していた。
(持ち手によって威力が増減するとはいえ、なんて破壊力…… 。
これがもし、悪しき力を持つ者の手に渡ったら……考えるだけでも恐ろしいですわ。
効果範囲を絞ってもこの威力。例えどのようなものが相手であろうと必殺間違いナシですわ)
 自分が本気で符術を使えば、カイルロッド達が防御行動を起こして自分をまともに見れなくなる。
 その瞬間を見越して、符術にまぎれてデイパックから雷霆鞭を取り出し、一撃を加えたのだ。

 当然カイルロッド達はそれを知らない。
 愛する人に対して嘘を貫く罪悪感が募る。
 しかし、自分はこの武宝具の存在を隠し通さなければならない。
「す、凄いな淑芳。なんて力だ」
「確かに。口先だけでは無かったのですね」
 身体を起こしながらカイルロッドと陸が賞賛の言葉を伝える。
「簡単な事ですわ、超高熱、超低温、超打撃の一点加重攻撃は大抵の物を破壊します。
わたしの頭には、精密な頭脳が詰まっていて四六時中休みなく働いているのです。
腕っ節には自信がありませんが符術と料理は大得意ですわ」
 体を払いながら、さりげなく誤魔化しの言葉を返すと、
 おぉ、と更なる感嘆の声がカイルロッドの口から漏れる。
 自分を信用してくれているであろう彼の言葉だけに心が痛んだ。

377 人形達の参戦 4 ◆CDh8kojB1Q :2005/06/05(日) 13:37:50 ID:D7qZuQnc
「さあ、丁度よい大きさの穴が空いたので格納庫に入りましょう」
 一人苦しむ淑芳の心を知ってか知らずか、陸が扉に向かって歩を進め始め、
 神妙な面持ちでカイルロッドがそれに続く。
「あぁん、そんなに急がないで下さいなカイルロッド様ぁん」
 淑芳も格納庫にある存在を確認し、兵器ならば破壊するという目的を思い出して、
 気持ちをLOVEモードに切り替えてその後を追った。
 くよくよしてもしょうがない。今は目の前の事に集中しよう。
 生き残って、理想の新婚家庭を築くために。

 淑芳がブチ抜いた穴にカイルロッドは手をかけた。
 こうして見ると扉はずいぶんと厚い。
 格納庫の存在を知った時から、
(一体何が有るのだろうか?)
 と疑問を浮かべて、その都度、
(何が有ろうと俺は臆さん)
 と思い直してきた。
(さて、吉と出るか凶と出るか……とんでもない物が無ければいいが)
 数瞬の黙考後カイルロッドが扉をくぐった瞬間、頭の中に声が響いてきた。

・――金属は生命を持つ

「何だ?」
 あたりを見回すと、奇怪な物体が大量に整列している。
 そのあまりの異様さに意識を奪われたカイルロッドは、先ほどの声の存在を完全に忘却してしまった。
 格納庫に納められていた物。それは、
「人形……なのか、これは?」
 動力を伝道するための複雑な歯車と、腱代わりの幾本ものワイヤー、露骨な金属フレーム。
 それら全てが組み合わさって織り成す造形は、不気味なオーラを放ってこそいたが、
 概ね人らしき形を保っていた。
 ユーモラスで独創性溢れるフォルムだな、とカイルロッドは心惹かれる。
 中には蜘蛛にしか見えない物も有るが、人型の物がほとんどだ。
 心惹かれると同時に、人に似ていて、しかし人とは明らかに別種の存在に対する恐怖も生まれる。

378 人形達の参戦 5 ◆CDh8kojB1Q :2005/06/05(日) 13:39:32 ID:D7qZuQnc

「な、何?この奇妙な空間は?」
 後から入ってきた淑芳は思わずカイルロッドの裾を掴む。
 淑芳にしてみれば、機械仕掛けの人形など恐怖の対象でしかない。
 妖怪などとはまた異なった無機質な容姿、しかし、
「何だか……生きてるみたいですわ」
 何処からともなく視線を感じてついついカイルロッドの背中に隠れてしまう。
 情けないけど、こういう時こそ甘えておくのも善いかもしれませんわ。
 などとは決して言わないが、それとなく接近したりする辺りは、
 なかなか計算深いわね、わたし。などと冷静に思考している。

「どうやらこれは人造人間のようですね」
 人形たちの間を走り回っていた陸が戻ってきた。
 格納庫内に目立った仕掛けや、人の気配は有りません。と告げた後に、
「製作者の名前と識別名が書いて有ります。例えばこれ、『人造人間二十二号コルチゾン君』
更に、『大天才コミクロン作製』だそうです。製作者のセンスが疑われますね」
 陸が指した先の蜘蛛型の物体には確かに名前が記されている。
 同時刻に遥か彼方で、その製作者がくしゃみをして首を傾げていた事は誰も知らない。

「そう言うなよ陸、俺の世界でこれほどの物を作り上げた者は天才扱いされるぞ」
「それに、一号からの技術の進歩が見て取れますわね。複雑さが増していますわ」
「そう言われば、試行錯誤の跡が分かりますね。機械技術が未発達な世界の
先駆者の作品かもしれませんね」
「何はともあれ、危険そうでなくて何よりだ。しばらく見て回るか」

379 人形達の参戦 6 ◆CDh8kojB1Q :2005/06/05(日) 13:41:00 ID:D7qZuQnc

 しばらくして淑芳は奥に並んでいた美しい女性型の人形を発見した。
 他の人造人間たちとは明らかに異なり、更に高度な技術と優美な外見を持つそれは、
「随分と綺麗な人形ですわね……スタイル良過ぎですわ。それに、なんて人に近い。
一瞬本物の人かと思いましたわ。前の方の人形とは比べ物にならない」
 ガラスのような瞳と、人の肌に似た人口表皮。3rd-Gが誇る自動人形である。
 それらは数こそ少ないものの、服を着ていて今にも動きそうなリアルさを備えていた。
「本当に……綺麗」
 
 思わず淑芳が見とれていると、
「tes.お褒めの言葉をいただき、真に感謝いたします。私は3rd-G謹製の自動人形である
八号と申します。以後お見知りおきを」
「――!!」 
 人形が動いた。淑芳の目の前で静かに一礼し、
「それでは、しばしお休み下さい」

 ごす!

 首筋に衝撃が走り、淑芳の意識はそこで途切れた。

「淑芳!……貴様、何者だ!」
 淑芳が倒れた瞬間、人造人間の間をカイルロッドが八号に向かい、疾走してくる。
 途中何体かを吹き飛ばすが気にしない。
 しかしそれは、新たなる声によって阻まれた。
「だめだよー。ここから先は通行禁止ー。って言うか動けないっしょ?」
 瞬間、カイルロッドの体が締め付けられたように動かなくなる。
 全身にくまなく結びついたそれは、
「糸……だと……」
 足がもつれてカイルロッドは激しく体を地に打ち付けた。
 金属製の床は冷たく、磨かれた表面はさらに近づく別の人形の存在を映し出していた。
 顔を上げた瞬間、
「あなたはお眠り下さいな」

380 人形達の参戦 7 ◆CDh8kojB1Q :2005/06/05(日) 13:41:57 ID:D7qZuQnc
 ぷしゅ!

 何かを体に打ち込まれ、カイルロッドの意識は闇に沈んだ。
 
「さて、皆さん動いてよろしいですよ。御客人方はお眠りになられました」
 モイラ1stが手を叩くと、それまだ沈黙していた人造人間達が動き出した。
 隊長格らしい口のようなスリットのある人造人間が号令をかける。
「全体、回れー右!」
「扉を破壊し、我等を解放してくださった御方達に、礼!」

 がしゃっ、と音を立てて回れ右した人造人間達は、
 カイルロッドと淑芳に向かって敬礼する。
 続いて隊長格の人造人間が自動人形達に向き直り、
「主催者の命により、我々『人造人間中隊』は、ゲーム打破を狙う不埒な輩を
粛清すべく、出動いたします!モイラ1st様達はいかがなされますか?」
「我々自動人形は、貴方たちの作戦開始と共に先頭促進のため、
変装して集団に潜伏、撹乱し、参加者達を疑心暗鬼に陥れます」
「ってことはこの人達とは別行動だねー。大姉ちゃん」
「そうなりますね、モイラ3rd。あなたはモイラ2ndと一緒に変装セットを取ってきなさい」
「おっけー」
 
とてとてと走り去るモイラ3rdを見送ると、隊長格の人造人間は自分の体を眺め回し、
 吐息のような物を一つ吐く。
 自分達と作製技術のレベルが違う自動人形が羨ましい、とでも思うのだろうか。
 しかしモイラ1stへ向き直った彼の顔には強い決意があった。
「では、我々は作戦を14:00より開始致します。主に遮蔽物が多い森や市街地にて、
戦線を展開しますのでご注意ください」
「御忠告ありがとうございます。どうか御武運を」
 モイラ1stにうなずき返した彼は、背後に待機していた人造人間達に声を張り上げた。
 彼らは全て、キリランシェロに破壊されたコミクロンの駄作達だ。
「ガラクタ呼ばわりされ、廃棄された我々を再生し、命を下さった主催者の方々の為、
我々はこれより死地に赴く!総員、命を捨てる覚悟はあるな!」
 がちゃがちゃと体を動かし、同意を示す人造人間達。
 不気味すぎる光景だが、コミクロンがこの場に居れば狂喜の涙を流しただろう。
 やはり俺の信じた科学は偉大だ、と。

381 人形達の参戦 8 ◆CDh8kojB1Q :2005/06/05(日) 13:43:05 ID:D7qZuQnc
「征くぞ!同志達よ!GO AHEAD!」
 総勢三十体あまりの人造人間達が地下道に向かって進撃していった。
 駄作の彼らが再び戻ってくることは無いだろう。
 ああ、心ある人形よ永遠なれ。

 人造人間たちを見送ったモイラ1stは、床に倒れたカイルロッドと淑芳を担ぐ。
 「さて、私達もそろそろ準備をしなくてはなりませんね。
私が変装する参加者が、そう簡単にお亡くなりにならなければ良いのですが……。
まずは12:00の放送を聞いて、生死を確かめておきますか」
 そこに、かつらを持ったモイラ2ndと服を持ったモイラ3rdが入って来た。
 かなり楽しそうなモイラ3rdを見て、
「遊びじゃないんですよ、モイラ3rd。脳の思考レベルを超ハイから元気の
ランクに落としなさい」
「ちぇー。せっかくの変装ごっこなんだから楽しくやろうよー。そう思うでしょ、八号?」
「tes.しかしモイラ3rd様は、アッパー入りすぎだと判断します」
「楽しむよりもお仕事優先です。モイラ3rd、この二人の記憶を紡いでおきなさい。
私が数時間ほど記憶を削除しておきました」
「いいよー。またリトルグレイの出てくる奴でいいよね?」
「さすがにそれはまずいでしょう」
「中姉ちゃんのいけず。いちいち考えるのが面倒なのに」

 彼女たちは忘れていた。
 密かに扉から出て行った一匹の犬の存在を。

【F-1/海洋遊園地地下 格納庫前/一日目、07:45】


 【李淑芳】
 [状態]:健康 、気絶中
 [装備]:なし
 [道具]:支給品一式。雷霆鞭。
 [思考]:雷霆鞭の存在を隠し通す/カイルロッドに同行する/麗芳たちを探す
     /ゲームからの脱出/カイルロッド様LOVE♪
 [備考]:格納庫の事についての記憶が失われています

382 人形達の参戦 9 ◆CDh8kojB1Q :2005/06/05(日) 13:43:59 ID:D7qZuQnc
 【カイルロッド】
 [状態]:健康 、睡眠中
 [装備]:なし
 [道具]:支給品一式。
 [思考]:シズという男を捜す/イルダーナフ・アリュセ・リリアと合流する
     /ゲームからの脱出/……淑芳が少し気になる/
 [備考]:格納庫の事についての記憶が失われています


 【陸】
 [思考]:取りあえず、この場から逃げる

 
 【人造人間達】
 [装備]:賢石。固定武装。
 [思考]:14:00より作戦行動開始/ゲームを乱す者に粛清を


 【モイラ1st】
 [装備]:麻酔銃。賢石。
 [思考]:放送後に参加者に擬態し、疑心暗鬼にさせる/殺しはしない


 【モイラ2nd】
 [装備]:賢石。?。
[思考]:放送後に参加者に擬態し、疑心暗鬼にさせる/殺しはしない
 

 【モイラ3rd】
 [装備]:曲弦糸。賢石。
[思考]:放送後に参加者に擬態し、疑心暗鬼にさせる/殺しはしない

 
 【八号】
 [装備]:賢石。?。
 [思考]:放送後に参加者に擬態し、疑心暗鬼にさせる/殺しはしない

383 スィリー・カンバセーション ◆rEooL6uk/I :2005/06/06(月) 00:25:08 ID:hNdeEao2
from the aspect of ULPEN
ざく ざく ざく…
森の中に、ただひたすら自らの足音のみがこだまする。
それは心地のいい音だった。
風で葉の揺れる音も帝都の我が家を思わせて心をおちつかせる。
妻の眠るあの小屋を。
いったん草原へ抜けたのだが、暫く歩いてから引き返して正解だった。
また、見晴しの良い草原では、片目を失った視界は酷く不安でもあった。
ここにはそれがない。
どれほど歩いたのだろう。30分、あるいは1時間か。
(無心のあまりに時の概念すら忘れたか)
唇を歪ませて苦笑しつつ、彼、ウルペンは胸中でそうつぶやいた。
が、ふと気付いて笑みを消す。
長く仮面で表情を覆ううちに付いてしまった癖だった。
一人で歩きながら唐突に笑みを浮かべる男など気味の悪いものでしかないだろう。
見ている者は居ないはずだ。少なくとも彼の気付いてるなかでは。
それでも直した方がいいに変わりない。
しかし彼は気付いていなかった。
彼が見当違いな方向へ進んでいる事も。
左目を失い左腕の焼けおちた体は、酷くバランス感覚にかけており、まっすぐに歩く事は困難だ。
知らぬ間に蛇行し、同じ場所を彷徨っていても不思議は無い。
勿論いく場所に目的があったわけではない。が、それでも現在地を見失う事はリスクになりうる。
しかし彼は気付いていなかった。
森も、極限を超えた心身も、驚くほどに平穏だ。
しかし彼は気付いていなかった。
変化はいつもこともなげに訪れる。

384 スィリー・カンバセーション(戯言使い) ◆rEooL6uk/I :2005/06/06(月) 00:26:22 ID:hNdeEao2
from the aspect of MONKEY TALK
 ざざぁぁぁ!
「っ!!」
本日二度目の落下感。こんなものは一日に一回で十分だ。
一日一回落下感。なんだか標語みたいで語呂が良い。
…いや、普通は一回もないのか?
「て、そんなことよりも… ドクロちゃん!!」
眼前に迫ってくる地面を後目にぼくは腕の中の少女を抱き寄せた。
目をつぶって衝撃に耐える。ついでに舌を噛まないように。生物として当然の防御反応だろう。
ずざぁぁああああん
ゆっくりと目を開ける。よし。特に怪我をした様子はない。
「ふわあーん ひははんひゃっはよー(舌噛んじゃったよー)」
なんだかすごい涙目だ。砂埃が目にはいったんだろう。
「………」
まあこの娘にそんな事期待するのは無駄だよなぁ。
しみじみと感心して辺りを見回す。
あの銀髪が追ってこないとも限らないし、今の大音響で他の参加者に気付かれないとも限らない。
上方の気配を伺ってから、前方に視線を延ばす。
そこにあったのは…黒い影。
最初ぼくはそれを怪物だと思った。
なんだか酷い違和感がある。
なぜだか凄い危機感がある。
いや、よく見ればそれは知っている人物だった。
小屋にやってきて、娘を探していたあの男。
女の子を殺した、と言っていた。危険人物と見て良いだろう。
そして違和感、その理由は――すぐに分かった。男には左腕が無い。
たった一つそれだけが彼のシルエットに怪物じみた印象を付加していた。
でも、本当に――それだけなのか? ぼくの脳が危険信号を送る。

385 スィリー・カンバセーション(戯言使い) ◆rEooL6uk/I :2005/06/06(月) 00:28:07 ID:hNdeEao2
「ドクロちゃん!逃げるんだ!」
これもまた、本日二度目。
しかし当のドクロちゃんは目をこすっていて何も気付いていない。
「ドクロちゃん、といったか」
黒尽くめの声。肌が泡立ち、皮膚が戦慄する。
その言葉に反応したのはドクロちゃん。
「そうだよ。おにいちゃんの名前は?」
小首を傾げる仕草には危機感というものが全くない。
先ほど傷つけられたというのに忘れてしまったのか。
何故――気付かないんだ。
このぼくが、こんなに恐怖していると言うのに。
あの娘は、あんな目にあったというのに。
何故――この恐怖に気が付かない。
「俺の名前か」
面白そうに、男。
「俺の名前など、もうないも同然だ。もとより、多くの者が知っていたわけでもない。そして、それも皆死んだ」
ああ、そうか――
「今の俺は黒衣だ。空白を跋扈し人の世を蹂躙する怪物だ。
 さて黒衣に名前がいるか?存在の全てをこの衣のうちに隠す存在に?
 答えは否、だ。」
これは、この恐怖は――
「今の、俺に、名前は、ない」
今分かった。この恐怖はぼくの恐怖だ!!
物語を歪ませ、結末を狂わせる無為式へのジョーカー。
他人に成り代わろうとする彼女、雑音。そしてこの男。
怖い、恐い。恐ろしく、恐怖している。 
「終わりを始めようじゃないか」
見た事のある糸がどこからとも無く現れ、ぼくのひざの上の、少女の首に巻き付いた。

386 スィリー・カンバセーション(戯言使い) ◆rEooL6uk/I :2005/06/06(月) 00:29:30 ID:hNdeEao2
「う あ、いやぁあ」
さっきの牽制とは違う、本気の攻撃。男は、ドクロちゃんを殺す気だ。
なんだか、少女の体重が軽くなっていくようだ。急速に、乾いていく。
「っやめろぉおお!」
ぼくはできる最善の事をした。つまりドクロちゃんを放り投げた。
木々の向こうに小柄な少女の影が消える。
…今度はちゃんと目をつぶってくれる事を祈ろう。
とりあえず、男の意識はドクロちゃんから逸れたようだった。
そして、逸れた意識が次に向かう対象は――
「つまり身を挺してあの娘をかばう、というわけだな」
やっぱり、ぼくですか。
「――別に、身を挺したつもりなんて、ないですよ。ぼくはこう見えても薄情なんです。後であの子にいろいろと恩を着せるという下心がありありですよ」
戯言だ。分かっている。
それでも喋るのをやめられない。
足が震えて動かない。
足が竦んで動けない。
それを知ってか知らずか男は一歩、こっちに近付いてきた。
気が付けばぼくの首筋にも銀色の糸。
「では一つ質問をしよう、少年。問いはこうだ。
『お前に確かなものはあるのか』」
は は、とぼくは笑った。
かすれて、悲鳴じみて聞こえていたかもしれないけど、それでも確かに笑った。
なんと、滑稽じゃないか。
今まで、ぼくは望まれもしない戯言を語ってきた。
それは物語を狂わせ、結果多くの死者が出た。
本当に、多くの人がぼくの戯言で死んでいった。
この島に来てからも一人。もしかしたら凪ちゃん、ドクロちゃんも。
戯言じみた質問だ。答える事も、戯言。
男はぼくにそれを要求している。名前の無い男。戯言の効かない切り札。
効く相手のいない戯言なんて、虚しい独り言。
「そんなもの、あるわけないじゃないですか。
壊して、眺めて、逃げて、近寄って、憎んで、愛して。
そのどれもが半端だ。
ぼくは「生きて」なんかいなかった。ただ、「いる」だけだった。
徹底的に、何もしなかったんだ。
生きたいのに、生きられず、死にたいのに、死ねず。
そんな、戯言使いです」
多分、これが最後の――
「さしあたって、確かなのはぼくはあなたに殺されるだろうと言う事ぐらいです」
最後の、戯言。

「お前は賢明だ」

ああ…喉が乾いた。
誰か、僕に水を下さい。

387 スィリー・カンバセーション(戯言使い) ◆rEooL6uk/I :2005/06/06(月) 00:30:17 ID:hNdeEao2
【F−4/森の中/1日目・13:10】
 
【戯言ポップぴぴるぴ〜】
(いーちゃん/(零崎人識)/(霧間凪)/三塚井ドクロ)

  【いーちゃん 死亡】

【ドクロちゃん】
  *生死不明。 次の書き手に任せます。生存なら脱水状態。

【霧間凪】
[状態]:健康
[装備]:ワニの杖 制服 救急箱
[道具]:缶詰3個 鋏 針 糸 支給品一式
[思考]:こいつ(ギギナ)をどうにかして、いーちゃんたちと合流

  『ウルペン』
【ウルペン】
[状態]:左腕が肩から焼き落ちている。行動に支障はない(気力で動いてます)
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式) 
[思考]:1)チサト(容姿知らず)の殺害。2)その他の参加者の殺害3。)アマワの捜索

388 損得勘定・義理人情 ◆5KqBC89beU :2005/06/06(月) 10:31:31 ID:gze6IUQc
 李麗芳は夢を見ていた。意識を失う少し前の光景が、夢の中で再現されていた。
 その時、呉星秀が死んだと放送で聞いて、麗芳はショックを受けていた。
「どうしよう……他のみんなも、いつ殺されてもおかしくないよ」
 泣きそうな顔をした彼女に、宮下藤花が言った。
「“人間にとって最大の快楽とは未来を視る瞬間にある。そのとき人は世界すら
 征服したような気がするものだ”――とか書かれた本があるくらい、人は未来を
 予測したがる。けれど、そうした予測を無条件に盲信するのは、とても危険だ。
 はたして、君の憂いている未来は、本当に実現してしまうのかな?」
「え?」
 呆然と藤花を見つめる麗芳。しぐさも、口調も、まなざしも、まるで藤花ではない
別人のようだった。左右非対称な表情には、人間らしさが欠けていた。
「未来が現在になる時まで、答えの出ない問いだ。そうは思わないかい?」
 藤花の顔をした“それ”が何なのか、麗芳には判らなかった。
「と、藤花ちゃん?」
「あ……はい、なんですか麗芳さん? わたしの顔に何かついてます?」
 小首をかしげた藤花の姿が、闇の中に溶けて――夢が終わった。

 目が覚めた時、麗芳は硬い床の上に寝かされていた。周囲は薄明るい光で
照らされていて、この場所が通路の中だと、見れば判る。
「おや、お目覚めですか」
 声の主は、奇妙な姿の男だった。彼の足元には二つのデイパックが置いてある。
片手の指でこつこつ仮面を叩きながら、もう片方の手にスタンロッドを持ったまま、
彼は彼女に歩み寄ってきた。これから戦おうという態度には見えない。

389 損得勘定・義理人情 ◆5KqBC89beU :2005/06/06(月) 10:32:16 ID:gze6IUQc
「……それ、素敵な仮面ね」
 麗芳は、男に道具と武器を奪われていた。だが、意識がなかった間に殺されても
いないし、拘束されているわけでもない。彼は話し合いを望んでいる、と判断し、
麗芳は友好的に話しかけてみたのだ。変な仮面だとか思っているが口には出さない。
「どうも。社交辞令だとは思いますが、その思いやりには感謝しておきましょう」
 そう言って、男は麗芳から離れた位置で止まり、スタンロッドを床に置いた。
「あなたのデイパックも、ここに置いて離れます。勝手に取ってください」
 怪訝そうな麗芳を気にする様子もなく、男はデイパックを一つ移動させ、もう一つの
デイパックが置いてある場所まで遠ざかった。敵ではない、と態度で示したのだ。
「失礼だとは思いましたが、あなたが寝ている間に武器を調べさせてもらいました。
 退屈だったし、興味があったものですから。あなたのデイパックは開けていません」
 しかし麗芳は、男を完全には信用しない。何か細工をされた可能性があるからだ。
「……このデイパックが唐突に爆発しても、あんたは離れてるから無事でしょうね」
 裏切って苦しませて殺すのが大好きな男だったりしたら最悪だな、と彼女は思う。
「それでは、近くまで行きましょうか。ああ、心配しなくても大丈夫ですよ。
 もしも戦闘になった場合、僕は絶対に、あなたに勝てない」
 仮面の男は、自慢にならないことを自信たっぷりに断言した。どう見ても変人だ。
「へぇ? あんたは確かに弱そうだけど、わたしだって、か弱い乙女なのよ?」
「あなたが武術の達人だというのは知っています。だいぶ鍛えられているようですね」
 麗芳に向かって歩きながら、男は苦笑したようだった。
「おっ、よく判ったね」
「気絶していたあなたを背負って、ここまで運んできましたから。大変でしたよ」
 つまり、直に触れれば筋肉の状態くらい素人でも判るということだ。

390 損得勘定・義理人情 ◆5KqBC89beU :2005/06/06(月) 10:33:07 ID:gze6IUQc
「つまり、わたしの胸やら太腿やらの感触を楽しんだわけね。高くつくわよ?」
 微妙に赤面しつつ、麗芳は男を睨む。半分本気で半分冗談だ。男が平然と答える。
「できるだけ紳士的に行動したつもりです。まぁ、証明するのは不可能ですが。
 放っておいたら誰かに殺されていたかもしれませんね。その場に留まるのは論外。
 あなたを守りながら素手で戦ったら、僕は負けてしまいます。それとも、いっそ
 引きずられて移動した方が良かったと? 僕らは泥の上も通ったんですが」
 男の靴が泥だらけになっているのを見て、麗芳は首を左右に振った。
「貸し借りは無しでいいわ。ところで、ここはどこなの? 何かの通路みたいだけど」
「水がなくなった元湖の、湖底だった場所で発見した地下通路ですよ。敵がいないと
 確認できていて、他の参加者が来なさそうな場所に、戻る途中で発見しました。
 この地下通路に入れたのは幸運でしたよ。ここは、隠れて休むのに最適な場所だ。
 ちなみに、僕のいる方に背を向けて進めば、僕らが入ってきた出入口があります。
 扉がありますが、閉じ込められてはいません。いつでも自由に地上へ出られます。
 出入口の近くには、地下の地図が描かれていました。確認しておくと良いでしょう」
 麗芳の間近で、男は足を止めた。彼女の技量なら、一瞬で彼を攻撃できる位置関係だ。
「さて、こうして僕が情報を提示した理由は、あなたと手を組みたいからです。
 僕は、主催者を打倒し、この島から脱出したいと考えています。他人の思惑通りに
 人を殺すなど、不愉快で我慢できません。だから、まず同盟を結成したいのです。
 あなたは気絶させられていた。現在の状況に、何の不安もないとは思えない。
 こうして話してみた印象からして、僕を殺したいと思っているようでもない。
 利害は一致しているはずです。違いますか?」
 不思議な男だ。善人のようにも悪人のようにも見える。信じるのも疑うのも難しい。

391 損得勘定・義理人情 ◆5KqBC89beU :2005/06/06(月) 10:33:54 ID:gze6IUQc
 麗芳は、迷った末に、その迷いを正直に伝えることにした。
「違わない。でも、お互いに、信用できるっていう証拠がないんじゃない?」
「共通の敵が、あなたと僕とを結束させてくれるように祈るばかりですね。
 そもそも今も、あなたを怒らせたら、僕は死ぬかもしれないわけですから」
 緊張感のない言い方だったが、仮面の男が危険な賭けをしているのは事実だった。
 太白さまみたいな話し方だな、と麗芳は思う。太白というのは、彼女のよく知る
天界のお偉いさんで、舌先八寸だとか五枚舌だとか言われて親しまれている二枚目だ。
「……そうね。とりあえずは、できる範囲で協力し合いましょう」
 そう言って麗芳が微笑むと同時に、謎の轟音が響いた。思わず二人は身構える。
「何だ? 今のは」
「さあ? 何だか判んないけど油断は禁物ね。えーと……あんた、名前は?」
「エドワース・シーズワークス・マークウィッスルといいます」
「うわ、長い名前……憶えにくいし、舌噛みそう……」
「EDと呼んでください。どうぞよろしく。で、あなたの名前は?」
「李麗芳よ。麗芳でいいわ。よろしくね、EDさん」
 しばらく待っていると、今度は謎の声が聞こえてきた。
『皆さん聞いてください、愚かな争いはやめましょう、そしてみんなで生き残る方法を考えよう』
 二人は顔を見合わせたが、声に続く銃声と悲鳴を聞いて、口を閉ざした。

392 損得勘定・義理人情 ◆5KqBC89beU :2005/06/06(月) 10:34:51 ID:gze6IUQc
「あれはピストルアームの発射音でした。この島にも、あれが存在しているとは……」
「何なの、そのピスなんとかって? とにかく物騒な武器だってことは想像つくけど」
 二人は食事をしながら情報交換をしていた。麗芳は常人の倍くらい食べていたが、
あえてEDは指摘しなかった。賢明だ。
 これでも麗芳としては、ものすごく食欲が落ちている状態だったりするのだが。
 二人とも、教えても無害そうな情報は隠すことなく話している。当たり障りのない
話題から語っているのは、序盤の会話を、その後の判断材料にできるようにだった。
 自己紹介。自分のいた世界について。竜について。魔法と術について。
 EDが一通りの情報を話し終わった後で、麗芳が情報を教える。そういう順番だ。
「まずは信用を得るのが第一ですからね。僕は、あなたを信用できると判断しました」
 などとEDが主張したからだ。おかげで麗芳は、隠し事をしづらい気分になった。
 情報交換は順調に進んだ。どれもこれも、互いにとって驚くべき内容の連続だった。
 魔法や術に関しては二人とも専門家ではないこと、故に呪いの刻印をどうにかする
手段がないこと、麗芳の能力に制限がかかっているらしいことなどが確認された。
 二つのデイパックが二人の手で開けられ、ランダムに渡された道具の把握も済んだ。
 次の話題は、この島にいる知人について。
 EDは躊躇なくヒースロゥのことを説明し、最後にこう言った。
「あいつなら、ちょっとやそっとのことで殺されたりはしないでしょう」

393 損得勘定・義理人情 ◆5KqBC89beU :2005/06/06(月) 10:36:26 ID:gze6IUQc
 少し悩んだが、結局、麗芳は妹や知人について詳しく話した。
「神将の二人は、そう簡単には死なないと思う。でも、淑芳ちゃんは腕力ないし……
 術の力が封じられてたりしたら、ただの運動オンチになっちゃうから……」
 藤花のことも教えた。夢に見ていた会話についても、できるだけ正確に伝えた。
「もう一度、彼女に会って、事情を話してもらいたいの」
 そう言って遠い目をする麗芳に、EDは小さく頷いてみせた。
「“人間にとって最大の快楽とは未来を視る瞬間にある。そのとき人は世界すら
 征服したような気がするものだ”――か。偶然なのか、それとも必然なのか、
 その少女は、どうやら“霧の中のひとつの真実”について何か知っているらしい。
 個人的にも興味がわいてきましたよ。ああ、ぜひとも会ってみたい」
 さらに次の話題は、今後の行動について。
「次の放送が終わったら単独行動しましょう。ここを拠点にして、仲間を探すんです。
 そして、第三回の放送が始まる頃に、この場所で合流したいと思います」
「え? どうして? なるべく一緒にいた方が良いんじゃないの?」
「皆殺しを目的にする場合、最も厄介なのは同盟です。放っておけば、どんどん人数を
 増やし、手がつけられなくなる。単独行動している敵を後回しにしてでも、早めに
 始末しておかなければならない。――だから、集団行動をしそうな者から狙われます。
 二人組など、『他の同盟と合併する前に襲ってくれ』と言っているようなものです。
 同盟を結成するなら、一気に何人も集めないと危険なのですよ。手分けして仲間を
 探し、一斉に集めるんです。合流した時点で、まだ戦力が足りないようなら、また
 手分けして仲間探しを再開しましょう。異議はありますか?」

394 損得勘定・義理人情 ◆5KqBC89beU :2005/06/06(月) 10:37:26 ID:gze6IUQc
「ある。それでも襲われるかもしれないじゃない。わたしはともかく、EDさんは
 襲われたら殺されそうじゃない。そんなのダメよ」
「僕は、あなたほどタフじゃありません。間違いなく足手まといになりますよ。
 僕が休憩したいと言ったせいで、妹さんが襲われている場所への到着が遅れたり
 したら、麗芳さんは僕を嫌いになってしまうでしょう?」
「そんなこと……」
 ない、とは言いきれなかった。うつむく麗芳に、EDが声をかける。
「気にする必要はありませんよ。なにしろ、僕らは仲間なんですから。ね?」
 ――こうして麗芳は、EDの奇妙な冒険に巻き込まれた。


【B-7/湖底の地下通路/1日目11:30】

『反戦同盟エドレイホウ』
【エドワース・シーズワークス・マークウィッスル(ED)】
[状態]:健康
[装備]:仮面
[道具]:支給品一式(パン5食分・水1700ml)、手描きの地下地図、飲み薬セット+α
[思考]:同盟の結成(人数が多くなるまでは分散する)/ヒースロゥ・藤花・淑芳・鳳月・緑麗を探す
[行動]:第二回放送後から単独行動開始/第三回放送までに麗芳と合流
[備考]:「飲み薬セット+α」
「解熱鎮痛薬」「胃薬」「花粉症の薬(抗ヒスタミン薬)」「睡眠薬」
「ビタミン剤(マルチビタミン)」「下剤」「下痢止め」「毒薬(青酸K)」以上8つ

【李麗芳】
[状態]:健康
[装備]:指輪(大きくして武器にできる)、凪のスタンロッド
[道具]:支給品一式(パン4食分・水1500ml)
[思考]:淑芳・藤花・鳳月・緑麗・ヒースロゥを探す/ゲームからの脱出
[行動]:第二回放送後から単独行動開始/第三回放送までにEDと合流

395 名も無き黒幕さん :2005/06/07(火) 18:59:48 ID:gycKcWE2
読みにくいのでage

396 損得勘定・義理人情(改) ◆5KqBC89beU :2005/06/09(木) 12:34:04 ID:gze6IUQc
EDのセリフを修正。

>>390
「さて、こうして僕が情報を提示した理由は、あなたと手を組みたいからです。
 僕は、この企てを叩き潰したいと考えています。というわけで、これから僕は、
 島中の参加者たちと交渉し、ありとあらゆる方法で、殺し合いを妨害します。
 その為には、同盟を結成しなければならない。まず、あなたの力が必要です。
 あなたは気絶させられていた。現在の状況に、何の不安もないとは思えない。
 こうして話してみた印象からして、僕を殺したいと思っているようでもない。
 利害は一致しているはずです。違いますか?」

>>393
「(略)二人組など、『他の誰かが加盟する前に襲ってくれ』と言っているようなものです。(略)」

397 グッバイ・アーチ 1 ◆CDh8kojB1Q :2005/06/12(日) 22:03:07 ID:D7qZuQnc
 ついに長い階段が終わりを告げ、広々としたフロアに出る。
 北と東へ二本の通路が延びているが、その間には巨大な扉があった。
 それはさも異様な妖気を放っているように感じられる。
 中から感じる威圧感に気圧されながらカイルロッドは呻いた。

「これが……格納庫」

 複雑な幾何学的紋様に隙間なく覆われた鉄製と思われる大扉。
 その表面は等間隔に設置されたライトによって光沢を帯び、
 場所さえ異なれば荘厳な雰囲気を見い出すことが出来ただろう。
 しかしここは地底であり、岩肌に浮き立つその姿は魔窟の入り口にしか見えない。

「随分と手の込んだ装飾ですわね……」
 扉に近づこうとした淑芳にカイルロッドは手を伸ばして引き寄せる。
 カイルロッドは地下に入った時、背後の扉が閉じてしまい戻れなくなった事を思い出し、心配していた。
「うかつに近づくな、まだ何か仕掛けが有るかもしれない。陸、何か怪しい物は?」
「地面には何の仕掛けも有りません、周囲に不自然な臭いも無いようですね」
 付近を嗅ぎ周っていた陸がカイルロッドの問いに応じる。
「上にも特に変わった物は無さそうですわね……カイルロッド様、退がっていて下さい」
 カイルロッドの前に進み出た淑芳の手には、数枚の呪符が握られていた。
 淑芳まさか――とカイルロッドが声をかける前に、
「吹き飛ばしますわ!李淑芳の符術、得とご覧あれ。臨兵闘者以下略!絶火来来、急々如律令!」
 ――犬ばかりにいい顔をさせるわけにはいかないわ!
 符が凄まじい勢いの爆炎に変化し、扉を穿つと同時に炎の光がフロアを包み、
 飛び散った火の粉が陸の毛を焦がす。
 力が制限されているとはいえ、本来なら天界の神将も感嘆するほどの高レベルな符術が炸裂した。

398 グッバイ・アーチ 2 ◆CDh8kojB1Q :2005/06/12(日) 22:05:03 ID:D7qZuQnc
 しかし――
「嘘、無傷だなんて……」
 目立った損傷もない大扉が、呆然とした淑芳の前にそびえていた。
 
 淑芳が手の込んだ装飾と称した扉の幾何学的紋様は、
 実は物質の強度を高めるための論理回路である。
 更に1st-Gの賢石加工が施されて『べらぼーに頑丈』と書かれているために、
 並みの攻撃位は跳ね返す、鉄壁の守りだという事を彼等は知らない。 

「まったく、ハデな見かけの割には、私の毛を焦がす程度の威力しかないんですか?」
 カイルロッドの背後に緊急避難していた陸が非難の声を投げかけてくる。
 ――大誤算ですわ、扉一つ壊せずに更には犬ごときに馬鹿にされるなんて……、
 何としてでも名誉を挽回しなければなりませんわね
 一瞬で思考を終了した淑芳は、愛しのカイルロッドと犬畜生に向かって作り笑いを浮かべた。
「ふふふ、一見しただけでわたしの実力を嘲るとは、おめでたい頭脳をお持ちですわね。
これはほんの小手調べ。序の口に過ぎないことを教えて差し上げましょう」
 黒地に銀の刺繍の入った道服を優雅になびかせ、淑芳は再び扉に向き直る。
  
 目に決意を浮かべて後ろを向いた淑芳から、只ならぬ気配を感じたカイルロッドは、
「お、おい淑芳――」
 無理はするなよ、と告げようとした瞬間。
 彼女の手に先ほどの倍近い呪符が握られているのに気付いて、
 ――手遅れだ。
「陸、目を閉じろ!」
 足元の陸を掴むと同時に、後方に跳躍して地面に伏せる。
 直後に、
「臨兵闘者――」
 ぎりぎりで塞いだ耳に次の瞬間爆音が響き、同時に猛烈な衝撃が体を襲った。
「!!」
 続いて熱気、冷気、再度の衝撃が伏せた背中の上を通過して行くのを感じ、
 最後に強烈な打撃音と破壊音が響く。

399 グッバイ・アーチ 3 ◆CDh8kojB1Q :2005/06/12(日) 22:06:16 ID:D7qZuQnc
 ごいん!
 めきゃ!

 それきり音は聞こえなくなり、恐る恐る顔を上げたカイルロッドは、
 何か巨大な力でブチ抜かれた大扉と、乱れた髪を整えながら不適に笑う淑芳を見た。
「いかがです?まあ、犬ふぜいでは私の符術の技量を計り知る事はできそうにありませんからね。
わたしの力を侮った先ほどの台詞は見逃して差し上げるわ」
 そこはかと余裕や自信を漂わせる言動だが、実際に扉を破壊したのは淑芳の符術ではない。
 一振りで天界に衝撃を起こした、太上老君秘蔵の武宝具『雷霆鞭』である。
 しかし、実際に再び扱ってみて淑芳はその威力に戦慄していた。
 ――持ち手によって威力が増減するとはいえ、なんて破壊力…… 。
 これがもし、悪しき力を持つ者の手に渡ったら、などと考えるだけでも恐ろしい。
 効果範囲が制限されていてももこの威力。
 ――例えどのようなものが相手であろうと必殺間違いナシですわ。
 ムキになった自分が本気で符術を使えば、
 カイルロッド達が防御行動を起こして自分をまともに見れなくなる。
 その瞬間を見越して、符術にまぎれてデイパックから雷霆鞭を取り出し、一撃を加えたのだ。

 当然カイルロッド達はそれを知らない。
 愛する人に対して嘘を貫く罪悪感が募る。
 しかし、自分はこの武宝具の存在を隠し通さなければならない。
「す、凄いな淑芳。なんて力だ」
「確かに。口先だけでは無かったのですね」
 身体を起こしながらカイルロッドと陸が賞賛の言葉を伝える。
「簡単な事ですわ、超高熱、超低温、超打撃の一点加重攻撃は大抵の物を破壊します。
わたしの頭には、精密な頭脳が詰まっていて四六時中休みなく働いているのです。
腕っ節には自信がありませんが符術と料理は大得意ですわ」
 体を払いながら、さりげなく誤魔化しの言葉を返すと、
 おぉ、と更なる感嘆の声がカイルロッドの口から漏れる。
 自分を信用してくれているであろう彼の言葉だけに心が痛んだ。

400 グッバイ・アーチ 4 ◆CDh8kojB1Q :2005/06/12(日) 22:07:07 ID:D7qZuQnc
「さあ、丁度よい大きさの穴が空いたので格納庫に入りましょう」
 一人苦しむ淑芳の心を知ってか知らずか、陸が扉に向かって歩を進め始め、
 神妙な面持ちでカイルロッドがそれに続く。
「あぁん、そんなに急がないで下さいなカイルロッド様ぁん」
 淑芳も格納庫にある存在を確認し、兵器ならば破壊するという目的を思い出して、
 気持ちをLOVEモードに切り替えてその後を追った。
 くよくよしてもしょうがない。今は目の前の事に集中しよう。
 生き残って、理想の新婚家庭を築くために。

 淑芳がブチ抜いた穴にカイルロッドは手をかけた。
 こうして見ると扉はずいぶんと厚い。
 格納庫の存在を知った時から、
 ――何が有るのだろうか?
 と疑問を浮かべて、その都度、
 ――何が有ろうと俺は臆さん。
 と思い直してきた。
 ――さて、吉と出るか凶と出るか……とんでもない物が無ければいいが。
 数瞬の黙考後カイルロッドが扉をくぐった瞬間、頭の中に声が響いてきた。

・――金属は生命を持つ

「何だ?」
 あたりを見回すと、奇怪な物体が大量に整列している。
 そのあまりの異様さに意識を奪われたカイルロッドは、先ほどの声の存在を完全に忘却してしまった。
 格納庫に納められていた物。それは、
「人形……なのか、これは?」
 動力を伝導するための複雑な歯車と、腱代わりの幾本ものワイヤー、露骨な金属フレーム。
 それら全てが組み合わさって織り成す造形は、不気味なオーラを放ってこそいたが、
 概ね人らしき形を保っていた。
 ユーモラスで独創性溢れるフォルムだな、とカイルロッドは心惹かれる。
 中には蜘蛛にしか見えない物も有るが、人型の物がほとんどだ。
 心惹かれると同時に、人に似ていて、しかし人とは明らかに別種の存在に対する恐怖も生まれる。

401 グッバイ・アーチ 5 ◆CDh8kojB1Q :2005/06/12(日) 22:08:01 ID:D7qZuQnc
「な、何?この奇妙な空間は?」
 後から入ってきた淑芳は思わずカイルロッドの裾を掴む。
 淑芳にしてみれば、機械仕掛けの人形など恐怖の対象でしかない。
 妖怪などとはまた異なった無機質な容姿、しかし、
「何だか……生きてるみたいですわ」
 何処からともなく視線を感じてついついカイルロッドの背中に隠れてしまう。
 ――情けないけど、こういう時こそ甘えておくのも善いかもしれませんわ。
 思っていても口には出さないが、それとなく接近したりする辺りは、
 ――なかなか計算深いわね、わたし。
 などと冷静に思考している。

「どうやらこれは人造人間のようですね」
 人形たちの間を走り回っていた陸が戻ってきた。
 カイルロッドに淑芳がはりついているのをちらりと見やり、
 「格納庫内に目立った仕掛けや、人の気配は有りません」
 と告げた後に、
「製作者の名前と識別名が書いて有ります。例えばこれ、『人造人間二十二号コルチゾン君』
更に、『大天才コミクロン作製』だそうです。製作者のセンスが疑われますね」
 陸が指した先の蜘蛛型の物体には確かに名前が記されている。
 同時刻に遥か彼方で、その製作者がくしゃみをして首を傾げていた事は誰も知らない。

「そう言うなよ陸、俺の世界でこれほどの物を作り上げた者は天才扱いされるぞ」
「それに、一号からの技術の進歩が見て取れますわね。複雑さが増していますわ」
「そう言われば、試行錯誤の跡が分かりますね。
機械技術が未発達な世界の先駆者の作品かもしれないですね」
「何はともあれ、危険そうでなくて何よりだ。しばらく見て回るか」

402 グッバイ・アーチ 6 ◆CDh8kojB1Q :2005/06/12(日) 22:08:41 ID:D7qZuQnc
 数分間格納庫を見て回ったが、人造人間達の装備は貧弱で、
 とても大量殺人をこなせる様な代物ではない。とカイルロッド達は結論付けた。
 更に人造人間達はまともに駆動するための機関を持っておらず、
 その場でがちゃがちゃ動くだけだろう。とも陸が判断し、
「取り敢えずはこの場に放置……ということで良さそうですね。シュールな光景ですが」
「ああ、しかし俺達が危惧していた様な危険な兵器が無くて安心した」
「全くですわ。最初に見た時は何かと思いましたが……しかし管理者の意図する
ところが読めませんわね。いったい何のために?」
「まあ、いいさ。実際に大した問題には成りそうにない。
それより今は知人を探すことに専念した方がいい。手遅れにならないうちに」
 しきりと首を傾げる淑芳にカイルロッドは当初の目的を告げる。
「そうですわね。さっさとこの犬を飼い主に引き取ってもらわないと。
それに麗芳さん達の事も心配ですわ。」
「私も早くシズ様と再開したいですね。それにそろそろ日光が恋しくなってきました」
「なら一刻も早く地上への出口を探すとするか。ここから一番近い所は?」
 カイルロッドが淑芳に尋ねるとほぼ同時に、淑芳は地図を濡らし始めた。
 
「塞がってしまった入り口を除くと……H-1かC-3のエリアが近いようですわね。
人探しならC-3の出口が良さそうですわ。商店街が在りますもの」
 水を垂らした地図をなぞりつつ、淑芳はカイルロッドの顔を伺う。
「そうか、ここからだと向こうに着くのは二回目の放送くらいになるな。
市街地には人が集まっていてもおかしくない。そちらに行くべきか」
「敵に遭遇する危険が大きくなりますよ?」
「ああ、だが参加者全てがゲームに乗ってるわけではなさそうだ。
危険は承知だが、取り敢えず今は情報が欲しい。」
「分かりました。私は先行して出口の様子を見てきます」
 とてとてと走り去る陸に続いてカイルロッドも腰を上げた。
「さて、俺達も行くとするか」

403 グッバイ・アーチ 7 ◆CDh8kojB1Q :2005/06/12(日) 22:09:21 ID:D7qZuQnc
 二人と一匹が立ち去った後、
 駆動音が格納庫の静寂を切り裂いた。
 3rd-Gの概念によって命を得た人造人間達が、静かに活動を開始する。
 彼らは全て、キリランシェロに破壊されたコミクロンの駄作達だ。
 その数およそ三十体。
 駄作とはいえ馬鹿にできるものではない。

「兄弟達よ!闘いの時だ!」
 顔面に口を有する人造人間が声を発する。
 格納庫には今や彼らしか存在しない。
「ガラクタ呼ばわりされ、廃棄された我々を再生し、命を下さった主催者の方々の為、
我々はこれより死地に赴く!総員、命を捨てる覚悟はあるな!?」
 がちゃがちゃと体を動かし、同意を示す人造人間達。
 不気味すぎる光景だが、コミクロンがこの場に居れば狂喜の涙を流しただろう。
 やはり俺の信じた科学は偉大だ、と。
「それでは主催者の命により、ゲームを乱すものに鉄槌を下す。
作戦開始は12:00だ。総員、配置に着け!」

 足並みをそろえ、隊列を整え、
 総勢三十体あまりの人造人間達が地下道に向かって進撃してゆく。
 駄作の彼らが再び戻ってくることは無いだろう。
 しかし彼らは進まねばならない。
 主催者のための闘争。
 それが廃棄された自分達の唯一の存在理由なのだから。

404 グッバイ・アーチ 8 ◆CDh8kojB1Q :2005/06/12(日) 22:10:06 ID:D7qZuQnc

【F-1/海洋遊園地地下 格納庫/一日目、07:45】


 【李淑芳】
 [状態]:健康
 [装備]:なし
 [道具]:支給品一式。雷霆鞭。
 [思考]:雷霆鞭の存在を隠し通す/カイルロッドに同行する/麗芳たちを探す
     /ゲームからの脱出/カイルロッド様LOVE♪♪
 

 【カイルロッド】
 [状態]:健康
 [装備]:なし
 [道具]:支給品一式。
 [思考]:シズという男を捜す/イルダーナフ・アリュセ・リリアと合流する
     /ゲームからの脱出/……淑芳が少し気になる


 【陸】
 [思考]:カイルロッドに付いて行く

 
 【人造人間達】
 [装備]:賢石加工。固定武装(ただし殺傷力低し)。
 [思考]:放送後に戦闘行動開始/ゲームを乱すものに粛清を
 [備考]:禁止エリアに制限されない/3rd-Gの概念による若干の性能向上

405 グッバイ・アーチ 6改 ◆CDh8kojB1Q :2005/06/18(土) 22:51:30 ID:D7qZuQnc
数分間格納庫を見て回ったが、人造人間達の装備は貧弱で、
 とても大量殺人をこなせる様な代物ではない。とカイルロッド達は結論付けた。
 更に人造人間達はまともに駆動するための機関を持っておらず、
 その場でがちゃがちゃ動くだけだろう。とも陸が判断し、
「取り敢えずはこの場に放置……ということで良さそうですね。シュールな光景ですが」
「いや、破壊しておく」
「何故です?どう考えても使い物にはなりませんよ」
「ああ、今は無害だろうが誰かの手が加わって、
殺戮兵器にならないという可能性は何処にも無いからな。
それにこのゲームにおいて、石橋を叩き過ぎると言う事は無いだろう」
「私も壊すのに賛成ですわ。最初に見た時に直感しました。
更に管理者の意図するところが読めない以上、放置するのは危険ですわ」
「ならば、天井を落とすべきですね。中央の巨柱を折れば済むのではないでしょうか?」
 では、と淑芳が再び呪符を取り出す。
 カイルロッドは辺りを眺め、
「淑芳、俺に任せてくれ。呪符も無限じゃあないだろう。あの程度なら崩せそうだ」
 瞬間、

 ぎり、ぎり、ぎり

 何かが軋む音が辺りに響いた。
「何だ?」
「カ、カイルロッド様、人形が……動いてますわ」
「そんな!自立駆動などできないはずです!」
 本来は、誰かが起動しなければ動くことの無い存在。
 しかし、己の存在の危機を感じ取り、人造人間達は確かに動き始めていた。
 五体を軋ませ、歯車の律動が、ピストンの鼓動が唸りを上げる。
 そして――
「走り出した!?」
「向かって来ますわ!」
 狼狽する二人を庇い、カイルロッドは立ちふさがった。
 ――三十体ばかりの人形ごとき、魔物の群れに比べれば!
 かつて自分はこの何十倍もの魔物一撃でを葬った。
 力は弱まったが「人を守りたい」と思う心は今も変わらずここにある。

406 グッバイ・アーチ 7改 ◆CDh8kojB1Q :2005/06/18(土) 22:52:37 ID:D7qZuQnc
 カイルロッドは天井を支える巨柱に手をかざして念を集中し、
「ク・ダ・ケ・ロ ――!!!」
 呼気と共に吐き出した想いは力となってその掌から青銀の稲妻となって迸り、

 ずがあぁん!

 途中何体もの人造人間を吹き飛ばし、柱を直撃した。しかし、
「力不足か……」
 柱を砕ききるには足らず、人形の群れが目前に迫る。
 だが、カイルロッドは諦めない。
 ――何度でも、力尽きるまでやってやる!
 再び手をかざすと、それを後ろから支える腕があった。
「未来の夫を支えるのは、婚約者として当然ですわ。
臨兵闘者以下略!氷魔来来、急々如律令!」
 淑芳が背後で巨大な氷の槍を作り出し、支柱に向かって放つ。
 カイルロッドは後ろに向かって笑みを浮かべ、
「これで終わりだ! ク・ズ・レ・ロ ――!!!」
「ついでに絶火に電光も差し上げます」
 銀色の閃光に併せて符術が放たれる。そして、

 ずどおぉん!!!

 柱を砕かれた天井が、
「――崩れるぞ。逃げろ!」
 次の瞬間、猛然と瓦礫の山が降り注いだ。

 砂埃がもうもうと舞い続ける中、瓦礫を押し退けて男が立ち上がった。
「淑芳、陸、大丈夫か?」
「ふう、死ぬかと思いましたわ。げほっ、あー鬱陶しい」
 あたりを見回すカイルロッドの隣に淑芳がのそのそと這い出してくる。
 立ち上がった彼女は不機嫌な顔で埃を払い、
「最っ悪ですわ。うら若き乙女がこんなに埃まみれになるなんて」
「陸は何処だ?」
「あの哀れな犬はきっと天井に押し潰されて……」
「失礼な。ちゃんと生きてますよ。少なくとも貴女よりは無事です」
 思ったよりも元気だな、と思いつつもカイルロッドはあたりを見回す。
 相変わらずひどい砂埃だが、上から陽光が差し込んで来るのが分かる。
 天井が陥没したことにより格納庫自体が消滅し、同時に海洋遊園地に大穴が空いたようだ。
「人形達は……全滅ですわね」
「ええ、しかしずいぶん大きな穴ができましたね。ここから登れないでしょうか?」
「壁が内側に傾いてますわ。よじ登るのは無理じゃないかしら」
「俺も今は飛べそうにないから、地下に戻るしかないな。幸いな事に扉の穴が残っている」
「惜しいですね、すぐそこに空が見えるのに」
「まあ、いいさ。面倒事は済んだし、今は知人を探すことに専念した方がいい。
手遅れにならないうちに」
 淑芳と陸にカイルロッドは当初の目的を告げ、ほこりを払う。
「そうですわね。さっさとこの犬を飼い主に引き取ってもらわないと。
それに麗芳さん達の事も心配ですわ」
「私も早くシズ様と再開したいですね」
「なら一刻も早く地上への出口を探すとするか。ここから一番近い所は?」
 カイルロッドが淑芳に尋ねるとほぼ同時に、淑芳は地図を濡らし始めた。

407 グッバイ・アーチ 8改 ◆CDh8kojB1Q :2005/06/18(土) 22:53:25 ID:D7qZuQnc
「塞がってしまった入り口を除くと……H-1かC-3のエリアが近いようですわね。
人探しならC-3の出口が良さそうですわ。商店街が在りますもの」
 水を垂らした地図をなぞりつつ、淑芳はカイルロッドの顔を伺った。
「そうか、ここからだと向こうに着くのは二回目の放送くらいになるな。
市街地には人が集まっていてもおかしくない。そちらに行くべきか」
「敵に遭遇する危険が大きくなりますよ?」
「ああ、だが参加者全てがゲームに乗ってるわけではなさそうだ。
危険は承知だが、取り敢えず今は情報が欲しい。」
「分かりました。私は先行して出口の様子を見てきます」
 とてとてと走り去る陸に続いてカイルロッドも腰を上げた。
「さて、俺達も行くとするか」

 

【F-1/海洋遊園地地下 格納庫/一日目、07:45】


 【李淑芳】
 [状態]:健康 、埃だらけ
 [装備]:なし
 [道具]:支給品一式。雷霆鞭。
 [思考]:雷霆鞭の存在を隠し通す/カイルロッドに同行する/麗芳たちを探す
     /ゲームからの脱出/カイルロッド様LOVE♪♪
 

 【カイルロッド】
 [状態]:健康 、埃だらけ
 [装備]:なし
 [道具]:支給品一式。
 [思考]:シズという男を捜す/イルダーナフ・アリュセ・リリアと合流する
     /ゲームからの脱出/……淑芳が少し気になる


 【陸】
 [思考]:カイルロッドに付いて行く

 【補足】格納庫は全壊、海洋遊園地の一部が陥没し地下へ行ける(降りれるが登れない)

408 現れたもの 1/10 ◆69CR6xsOqM :2005/06/19(日) 09:56:42 ID:EGTFaGMo
カイルロッドたちの正面に立ちはだかる巨大にして重厚なな扉。
複雑な紋様が表面に施されており、何かの魔方陣のようにも見える。
地図にあるとおり、これが格納庫の扉なのだろう。
しかし、格納などと近代的な響きと裏腹に岩肌にめり込んだその偉容は正しく魔境への扉に見えた。
「我々の他に生き物の臭いはしません。また、中からも生物の気配はしませんね」
「扉から漂う妖気以外に感じ取れる力もありませんわ。少なくとも扉までの床や壁には
 何も仕掛けられていないようです。……機械的な仕掛けだった場合お手上げですけど」
陸と淑芳が周囲を観察し、そう報告してくる。
カイルロッドは頷き、静かに扉へと近づき始めた。
淑芳と陸も後に続こうとするが、それをカイルロッドの腕が遮る。
彼の真剣な表情に従い、立ち止まる淑芳たち。
「お気をつけください、カイルロッド様。何か嫌な予感がしますわ」
「わかってる。大丈夫さ、淑芳」
カイルロッドは扉に後一歩のところまで近づくと注意して観察し始める。
扉には取っ手も何もついていない。
しかし、カイルロッドの腰あたりの高さに鍵穴にしては大きな穴が開いていた。
その上には文字の書かれたプレート。

【神の怒りを鍵としてこの扉を打ち据えよ その者、神の叡智を授かるであろう】

わけがわからない。
試しにカイルロッドは扉に手を掛け、押してみた。
開かない。そして、何も起こらない。
まさか引っ掛けで引き戸や上げ戸になっているわけでもあるまい。
やはり鍵が必要のようだ。
カイルロッドはげんなりした。相当の決意を込めてここに来たのに、鍵がなくて入れないときた。
これではまるで道化だ。全くの無駄足になってしまった。
扉に触れてからかなりの時間が経っているが何も起こる様子はない。
とりあえずは安全のようだ。
「淑芳、陸!来てくれ。この扉、鍵がないと開かないみたいなんだ!」
二人が小走りに駆け寄ってくる。

409 現れたもの 2/10 ◆69CR6xsOqM :2005/06/19(日) 09:57:55 ID:EGTFaGMo
穴の上にあるプレートを見て陸は呟いた。
「神の怒り……素直に読めば雷のことでしょうね。
 機械式の扉でどこかに電流を流す仕掛けが施してあるのかもしれません」
「いや、でも『鍵として』だぜ? それにこれみよがしに穴が開いているし……
 やっぱり、何らかの道具をここに差し入れるんじゃないか?」
あれやこれやと推測を並べ立ててみるが、結論は出ない。
「いっそのことカイルロッドの力で破壊してしまうというのはどうでしょう?」
それを聞いてカイルロッドは腕を組み唸る。
「う〜ん、できるかな?これで結構俺の力も制限されてしまってるし……」
難破船のマストを焼き切れなかったことを思い出す。
勢いよく折ってしまわないように手加減したとはいえ、思った威力の1/3も出なかった。
扉に目をやる。材質は判らないが、かなり頑丈そうな金属でできている。
巨大にして重厚。全力で放ったとて現在の自分の力が通用するかは怪しかった。
「でも、ここまできて無駄足も悔しいしな。やるだけやってみようか。
 淑芳の術と同時に放てば何とかいけるかもしれない。なぁ淑芳、……淑芳?」
ふと淑芳を見やると淑芳は真剣な表情でプレートと穴を凝視し、何やらブツブツと呟いている。
そこにきてようやく、カイルロッドは今まで会話に淑芳が参加していなかったことを思い出した。
「気に入らない……非常に気に入りませんわ……」
「どうしたんですか、淑芳?何かこの扉に関して心当たりでも?」
陸の質問にも無反応。ただ怒った様な表情で扉を睨み付けている。
「これは主催者の仕組んだこと?偶然にしては出来すぎですわ……
 ならば何を狙っているのか……このまま踊らされるのも癪ですわね、しかし……」
「淑芳?どうしたんです…「いや、待て陸」
淑芳に声を掛けようとした陸をカイルロッドが遮る。
「淑芳は何かに気付いたみたいだ。ここは彼女の結論が出るまで様子を見よう」
「そう……ですね。いつになくシリアスですし、そうしましょう」
「いえ、その必要はございませんわ」
見ると、淑芳が冷や汗を垂らしながらこちらを見据えてきていた。

410 現れたもの 3/10 ◆69CR6xsOqM :2005/06/19(日) 09:58:44 ID:EGTFaGMo
「もう、いいのですか?淑芳」
「はい」
「何を考えていたのか聞かせてくれないか?」
カイルロッドのその問いに淑芳はいきなり頭を下げた。
ぎょっとして後じさってしまうカイルロッドと陸。
「話す前に私、カイルロッド様に謝らなければなりません」
「な、何を?」
「ずっと欺いていたことをです」
そういって淑芳は顔を上げ、デイパックから何かを取り出そうとする。
その間、謝罪する相手に私は数には言っていないのでしょうね、と陸は諦観の念で淑芳を見つめていた。
淑芳がデイパックから取り出したのは長さ1m程の金属製の棒だった。
柄に紅い房がついている。
それから放たれる凄まじい威圧感にたじろぐカイルロッド。
「そ、それは一体?」
「これが私に支給された武具。私の師にして最古の神仙。玉帝と並ぶ力を持った天界の重鎮。
 しかしてその実体は喰うことと寝ることにしか興味のない、長く生きすぎて脳みそが耳から
 だらだら垂れて無くなってしまったのかの如きぐーたら老人なのですが……いえ、話がそれました。
 ともかく、わが師太上老君が八卦炉の火で鍛え上げた天界最大の武宝具、「雷霆鞭」なのですわ!」
「「おお〜〜〜〜〜〜」」
淑芳の口上に思わず喚声を上げるカイルロッドと陸。
「私如きが使っても大地に大穴を空けることが可能な武器です。
 邪悪な者にわたれば一体どれだけの悲劇を生み出すのか……考えたくもありませんわ。
 だから私はこの武器を封印することに決めました。奪われぬように、存在を気取られぬように。
 その為とはいえ、私はカイルロッド様をずっと欺いてきたのです。
 本当に、申し訳ありませんでした……」
そういって淑芳は俯き、袖口で涙を拭う振りをする。
「そんなことを気にする必要はないよ淑芳。君の判断は間違っていない。
 さあ、元気を出して」
「ああ、有難うございます、カイルロッド様……」
淑芳はカイルロッド胸にすがりつく。
『あー、いい様に操られてますねー』
陸は彼女の嘘泣きに気付いてはいたが、とくに口を挟むこともなくおとなしくしていた。

411 現れたもの 4/10 ◆69CR6xsOqM :2005/06/19(日) 09:59:25 ID:EGTFaGMo
「そしてその武器こそがこの扉の鍵というわけですか?
 すごい偶然ですね」
その陸の言葉を聞いた淑芳は顔を上げ、神妙な表情になる。
「私はまさしくそのことを考えていたのですわ。
 偶然、地図の秘密に気付いた私達が、偶然、何の障害もなく格納庫にたどり着き、
 偶然、扉の鍵を持っていた。しかも偶然、それは私の良く知る道具だった。
 ここまで揃うとこれはもう作為的なものと考えざるを得ません。
 私達は主催者の掌の上で踊らされているのですわ」
拳を握って力説する。余程腹に据えかねているようだ。
しかしカイルロッドはそれに異を唱える。
「だが淑芳。確かにそこまで偶然が重なると必然のようにも思えるが、
 その中で主催者が介入できそうなものといったらその武器を淑芳の支給品にすることくらいだぜ?
 後は全て本当に偶然か俺たちの意志による行動だ。考えすぎじゃないのか?」
「そうかもしれません。しかし……」
淑芳は手の刻印に目をやる。
「私達がそう行動するように仕向けられていた、という可能性もあります。
 この忌々しい刻印からの介入によって」
ハッとしてカイルロッドも刻印を見る。
「例えば、地図が火に近づきすぎていることに気付かない。
 わずかに焼けただけなのに水筒の水を全てかけてしまう。
 他の参加者が通らない道を選ばせる。
 それが刻印からのわずかな信号によって私達の意志が操作された結果、だとしたらどうでしょう?
 そしてこれは恐らくですが私達以外の参加者の地図に水をかけても
 地下空洞の地図は出てこないのではないでしょうか?」
「全ては推論に過ぎませんね。しかし主催者の力を考えればあり得なくはない説です。
 仮にその通りだとして、主催者の目的は一体何なのでしょう?
 我々に格納庫を確認させてどうするつもりでしょうか」
「わかりません。
 罠なのか、主催者にとって必要なことなのか。それとも偶然の重なった結果なのか。
 私達にはこの扉を開けないという選択肢もあります、しかし……。
 カイルロッド様……」

412 現れたもの 5/10 ◆69CR6xsOqM :2005/06/19(日) 10:00:18 ID:EGTFaGMo
淑芳はカイルロッドを見つめる。主催者に対する怒りと決意を持った目だ。
陸もカイルロッドを見つめた。決断を促す、試すような目だ。
淑芳は参謀であり、陸は補佐であり、カイルロッドは指揮官だった。
いつの間にか決まっていた役割。
今、カイルロッドに決断が迫られている。
しばらく黙考した後、カイルロッドは口を開いた。
「開けよう。
 こちらのカードは全て相手に筒抜けだ。
 それを相手にしようとするのならわずかでも相手の手の内を知る必要がある。
 掌の上から抜け出すには掌の大きさを知らないといけない。
 淑芳、やってくれ」
「はいっ!」
淑芳は力強く頷き、雷霆鞭を扉の穴の中へ挿入する。
かちり、と音がしてぴったりとはまり込んだ。
「カイルロッド様、ついでに陸。下がっていてください。
 とばっちりが行くかもしれませんわよ」
忠告を受けて、カイルロッドたちは淑芳の背に回り身構える。
「打ち据えよというなら打ち据えて差し上げますわ!
 神の怒り、とくと喰らいあそばせ! はぁーーーー!!」
雷霆鞭に力を送り込み、その威力を炸裂させる。
淑芳と扉の周囲を電撃が迸り、縦横無尽に走り抜けた。
それが収まった後、扉に刻まれた紋様が輝きだし、ゆっくりと扉が左右に開き始める。
ゴォン
完全に扉が開ききった後、雷霆鞭はそこにもう存在しなかった。
武器として使用するか鍵として使用するかの二者択一だったらしい。
そして淑芳は……その場に崩れ落ちる。
「淑芳!」
カイルロッドは倒れた淑芳に駆け寄って抱き起こした。
「しっかりしろ、淑芳。どうしたんだ!?」
淑芳は弱弱しく微笑む。

413 現れたもの 6/10 ◆69CR6xsOqM :2005/06/19(日) 10:01:00 ID:EGTFaGMo
「ふふ、私の力が制限されていたことを忘れていましたわ。
 雷霆鞭に力の殆どを持っていかれてしまいました。
 私は今から少し眠らせていただきますね。私を……お護りください」
そういい残して淑芳は目を閉じた。
「ああ、安心して眠ってくれ。必ず護る。」
そしてカイルロッドは淑芳を背に負い、格納庫の中へと足を踏み入れる。
その後を陸が静かについていった。

格納庫の中には広々とした空間が広がっており、
その真ん中に空間の1/3は占めようかという巨大な箱庭が置かれていた。
「これは……この島の全景か?」
蛍光色の光に照らされた箱庭は驚くべき精巧さで島の全域を擬していた。
「物凄く細かい部分まで再現されていますね。
 私達が淑芳と出会った難破船や、灯台はもちろん。
 森の木々の一本一本まで作りこまれています。よっぽど暇だったんでしょうか」
「一体誰が作ったんだろうな」
カイルロッドは淑芳を箱庭の脇に横たえ、様々な角度から模型島を観察する。
陸は箱庭の中に降り立ち、中を歩き回りはじめた。
「お、おい陸。大丈夫か?」
「ええ、かなり頑丈に作ってありますね。
 多少踏んだくらいでは壊れることはないようです。
 いえ、気をつけないとこちらが怪我をしてしまいますね」
陸は平然と中からの観察を続ける。
「うーん、本当にただの模型みたいですねぇ。
 起動に必要なスイッチやそれらしきものも見当たりませんし……」
「いや、この模型からは何らかの力を感じる。
 わずかだが、魔法のような力を」
陸は箱庭の中から出てカイルロッドに近寄る。
「魔法ですか。それでは私の知識ではお手上げですね。
 カイルロッドなら動かせそうですか?」

414 現れたもの 7/10 ◆69CR6xsOqM :2005/06/19(日) 10:01:43 ID:EGTFaGMo
「いや、俺では無理だな。俺の力は魔法じゃなくて親から受け継いだ能力だからな。
 魔法や術なんて大層なものじゃない。
 多分だが、これを動かすには力の流れを制御する術が必要なんだと思う。
 俺たちの中で曲りなりにも術が使えるといえば……」
カイルロッドと陸の視線が眠り姫のもとに注がれる。
「やれやれ、彼女が目覚めるまでは待ちぼうけですか」
「そういうなよ。急ぐ気持ちもわかるが俺たちも動き通しだ。
 休息する時間ができたと思おう。
 いざ仲間と出会えても疲労困憊で護れませんでした、じゃ話にならないからな」
そういってカイルロッドは腰を下ろした。
「確かに灯台で少し仮眠を取っただけですしね。わかりました。
 この場なら他の参加者が訪れるというような事態もそうそうないでしょう
 灯台に代わる新しい拠点が出来たと思うことにしましょう」
陸も少し残念そうだが素直に身体を伏せる。
「おやすみ陸。良い夢を」
「悪夢でないといいのですが」

そしてそれから4時間ほどが経過した後、淑芳は目を覚ました。
「ここは……格納庫の中……のようですわね」
ヨロヨロと立ち上がって辺りを見回す。
すると大きな箱庭とそれにもたれて寝入っているカイルロッドと陸を見つけた。
何者かにやられたのかと慌てて駆け寄るが、単に寝ているだけと悟って安堵する。
「全く、見張りもおかないなんて無用心な」
微笑み、カイルロッドの鼻先をちょいと指で突付いて今度は箱庭を観察する。
この島を模した模型であること、何らかの力が働いていることまではわかったが
どう動かせばいいのかがまるでわからない。
「一体何なのかしら、これ?」
『玻璃壇』
「え?」
突如として頭の中に浮かび上がった単語に淑芳は戸惑う。
耳を澄ましてみるが、もう何も聞こえない。

415 現れたもの 8/10 ◆69CR6xsOqM :2005/06/19(日) 10:02:37 ID:EGTFaGMo
「淑芳、起きたのか」
ギョッとして振り向くと目覚めたカイルロッドが欠伸をしていた。
涙を拭いながら笑いかけてくる。
「心配したんだぜ」
「それにしては熟睡なさっていたようですけど」
淑芳も笑って返す。
「おはようございます。お二方。
 まぁ異常なかったようでなによりですね」
陸も起き出してきた。
「それで淑芳、この模型を見て何か判るか?」
カイルロッドの言葉に淑芳は無念そうに俯く。
「いいえ、何も判りませんわ。
 どう動かせばいいのかすら……」
その時、淑芳の頭の中にこの『玻璃壇』の起動方法が流れ込んでくる。
「え? え? い、一体なんなんですの!?」
頭を押さえてうずくまる淑芳を見てカイルロッドが駆け寄る。
「どうしたんだ淑芳、しっかりしろ!」
「う、うう」
彼女が疑問を頭に浮かべるごとにその答えとなるべき情報が流れ込んでくる。
その未知の情報に淑芳は翻弄されていた。
苦しむ淑芳を前にカイルロッドはどうすることも出来ずに淑芳の身体を支えている。
「くそ、一体何が起こっているんだ」
その時、淑芳が大きく息を吐き出した。
そしてそのまま呼吸を荒げたまま立ち上がる。
「し、淑芳?」
「判りましたわ。この箱庭の名前は玻璃壇。
 存在の力によって編まれる自在法という術によって起動するようです」
大量の汗に顔面を蒼白にして、今にも倒れそうな状態だが淑芳は屹然と玻璃壇の前に立つ。

416 現れたもの 9/10 ◆69CR6xsOqM :2005/06/19(日) 10:03:44 ID:EGTFaGMo
陸は怪訝そうに尋ねる。
「そのことをどこで知ったのですか?」
「私が疑問に思ったことの答えが脳裏に浮かび上がってしまうのです。
 私が何故こんな状態になってしまったのかは判りません。
 しかし心当たりはあります。おそらくは……」
「神の……叡智」
淑芳の言葉を陸が受け継ぐ。

【神の怒りを鍵としてこの扉を打ち据えよ その者、神の叡智を授かるであろう】

カイルロッドが得心が行ったように叫ぶ。
「あの扉に書かれていた言葉か! 扉を開けた淑芳にその叡智とやらが宿ったんだな?」
「多分、間違いありません。
 最も、なんにでも答えてくれるというわけではありませんけれども。
 主催者の都合のいい部分だけでしょうね。
 ある世界には異界黙示録(クレアバイブル)と呼ばれる知識の泉があり、
 これはその力を模しているようです」
突然溢れ出てくる知識の奔流にも慣れたのか、淑芳は大分落ち着いてきている。
「大丈夫なのか、淑芳」
「ええ、最初は次々に疑問を浮かべてしまいパニックになりましたけど
 今はもう慣れましたわ。さぁ玻璃壇を起動しましょう」
「自在法とやらを扱えるのですか淑芳?」
「ええ、存在の力は全てのものが持っています。
 私の仙術を使うための力やカイルロッド様の力も
 その源は存在の力から派生したものなのです。
 それさえ判れば簡単な自在法なら私にも可能ですわ、攻撃などの難しい物は無理ですけど」
そういって淑芳は踵を打ち鳴らし、玻璃壇に力の供給を始める。
「起動を願う」
格納庫の中に淑芳の声が朗々と響き渡った。

417 現れたもの 10/10 ◆69CR6xsOqM :2005/06/19(日) 10:04:24 ID:EGTFaGMo
【F-1/海洋遊園地地下 格納庫/一日目、011:50】

 【カイルロッド】
 [状態]:健康
 [装備]:なし
 [道具]:支給品一式。陸(カイルロッドと行動します)
 [思考]:玻璃壇の力を確認する/イルダーナフ・アリュセ・リリアと合流する
     /ゲームからの脱出/……淑芳が少し気になる////

 【李淑芳】
 [状態]:健康
 [装備]:なし
 [道具]:支給品一式。呪符×20。
 [思考]:玻璃壇を起動する/カイルロッドに同行する/麗芳たちを探す
     /ゲームからの脱出/カイルロッド様LOVE♪

418 ◆E1UswHhuQc :2005/06/23(木) 22:28:01 ID:thNgKysc
 閑静な住宅地にビルが一つ、建っていた。そのビルの屋上に二つの人影がある。
 長槍を携えた少年と、スポーツバッグを持つ少女。
 佐山と藤花だ。
 佐山の視線の先、一つのものがある。
 下腹、脇腹、肩、太股、そして頭の五箇所に弾痕を残す、少女の死体だ。
 佐山はその亡骸をしばし観察し、
「私の知らぬ者……か」
 手指を伸ばし、恐怖に見開かれた目を閉じさせた。自身も目を閉じ、名も知らぬ少女の冥福を祈る。
 佐山の背後から覗き込むようにして藤花が少女の亡骸を見て、安堵の息を吐いた。彼女の知り合いではなかったのだろう。直後、彼女も両手を合わせて死者に祈る。
 亡骸を前に、佐山は思考する。
 この亡骸は風見のものではなかったが、しかしそれは彼女の生存の証明にはならない。
 ……考えるだけ無駄か。
 いつ、どこで、だれが死ぬかも判らない。
 ここはそういう場だ。
 新庄・運切も、既に失われている。自分の知らぬ間に。
 ……新庄君。
 想う言葉が軋みを生んだ。
 く、と声を漏らし、左胸に手指を突きたて、しかし他の動きとしては出さずに、身を貫く軋みに耐える。
 決して快いものではない狭心症の発作だが、
 ……新庄君が味わった痛みは、この程度のものではあるまい……!
 痛みは無視できる。それ以上の覚悟によって。
 その覚悟は既に決めている。佐山の姓は悪役を任ずる、と。
 ふ、と笑みが漏れた。
 佐山は後ろを振り返った。次の行動を取る為に、藤花に声をかける。
「――行こうか、藤花君、……?」
 疑問が生まれた。
 空が色を変えていた。業火に包まれたかのような朱空に。
 携えていたG-Sp2の重みが感じられない。見れば、槍は消えていた。
 そして背後、手を合わせて祈っていたはずの宮下藤花の姿も消えていた。
 その代わりに、一人の少女が立っている。
 歳は、自分と同じくらいか。尊秋多学院の制服を着込み、髪は柔らかみをもった黒のロングヘア。右手の中指には、男物の指輪がある。
 再度、軋みが来た。
 だが佐山は痛みに構わず、眼前の少女と視線を合わせた。
 すると、少女は表情を変えた。
 目を弓にした快い笑みに。
 ……新庄君。
 胸中の呟きに応えるように、少女は一つの動作を行った。
 抱擁をねだるように、両腕を開いたのだ。
「――――」

419 アマワ黒幕化計画 ◆E1UswHhuQc :2005/06/23(木) 22:28:41 ID:thNgKysc
 佐山は目を細め、胸に手指を突き立て、彼女に歩み寄り、
「――不愉快な物真似はやめたまえ」
 腹に蹴りを入れた。
 かは、と息をついて身を崩した“それ”を、佐山は再度蹴りつける。蹴り足に込める力は容赦のないものだ。
 声と瞳に冷徹さを乗せ、佐山は言う。
「私以外の者が新庄君の姿形を真似て良いと思っているのかね? ――肖像権の侵害だよそれは」
「……新庄・運切は奪われた」
 “それ”の姿が歪んだ。歪み、たわみ、広がり、縮み、既知であり、そして未知である姿を取る。
 “それ”が言葉を放つ。指向性なく放たれる音は、どこから響いているのか判別不能だ。
「奪われたのなら……わたしが使っても問題はあるまい?」
 胸の軋みを無理矢理に押さえ込み。
「――それで、私に何の用かね」
 佐山は問いを発した。声音に込める意思は敵意に他ならない。
 “それ”は答えない。
「わたしは御遣いだ。未来精霊アマワ。……これは御遣いの言葉だ、佐山・御言」
「問いかけに答えたまえ、未来精霊とやら」
 隠せぬ苛立ちを怒気へと変え、佐山は声を放った。
「わたしが答えるのは、ひとつだけだ」
 アマワは言った。傲然と断固を含む言葉を。
「出会った者に、たったひとつだけ質問を許す。それがわたしの決めた……ルール。注意深く選べ。その問いかけで、わたしを理解せよ。別に先の問いを繰り返しても構わないが」
 精霊の言葉が響く。朱の空を背景に、未知の存在が蹂躙を始める。
 佐山は考える。これは何なのか、と。
 突然に切り替わったとしか思えない世界。宮下藤花の消失。新庄・運切の物真似。
 だが、と佐山は己に言い聞かせる。これは機会だ。
 未来精霊アマワは、確実にこのゲームの何かを知っている。聞き出せれば、その情報は状況を打開する武器となる。
 これは交渉だ。さしあたって、相手は質問をひとつだけ許可してきた。だがこちらは相手の事を全く知らない。そのひとつの質問だけが、こちらのアドバンテージだ。
「――――」

420 アマワ黒幕化計画 ◆E1UswHhuQc :2005/06/23(木) 22:29:34 ID:thNgKysc
 佐山は思考する。この相手にとって、もっとも致命的な質問とはなにか。
「質問がなければ、この場はこれで終わりだ。――佐山・御言」
「これは質問ではなくただの雑談なのだが」
 考えて居る間に、アマワの姿は変化していた。
 影が不規則に伸びている。朱空の光源を無視して、ばらばらの方向にそれの影は伸びていた。
 光が狂っている。佐山は目を閉じた。
「その質問を許された代償は、何なのだろうね」
「新庄・運切だ」
 即答が返って来た。
「ならば――新庄君を奪ったのは、君なのだろうか」
「奪われたのは君だ、佐山・御言」
 目を開けた。
 視覚を嘲り、知覚すら許さない姿を取るアマワに視線を投げ、
「――彼女の物真似をして、私に何をさせるつもりだ」
「それが……質問か?」
 逡巡は刹那。
「そうだ」
「ならば答えよう」
 アマワは音を響かせ、また姿を変えた。新庄・運切の姿に。
 新庄の顔で笑みを作り、新庄の身体で手を差し出して、
「心の実在の証明を」
「――それをする代価は」
 軋みが体を襲っていた。左の胸に手指を立て、しかし身は折らず、視線で新庄の姿を真似たアマワを射抜く。
 アマワは答えた。あっさりと。
「新庄・運切を返そう」
 佐山は無表情で、
「彼女は死んだよ。私の知らぬ間に、私の知らぬ所で、私の知らぬ者の手によって」
「君は彼女の死を証明できない。ならば彼女は死んでいない。そうではないかな?」
「言葉遊びだ。ならば言おう。――この場には君と私しかいない」
 言い放ち、佐山は目を閉じ両手で耳をふさいだ。魔女の言葉を思い出しながら、言う。
「“見えない”し“聞こえない”」

421 アマワ黒幕化計画 ◆E1UswHhuQc :2005/06/23(木) 22:30:16 ID:thNgKysc
「なんの余興だ、それは」
 耳をふさいでも聞こえる精霊の言葉に、佐山は目を閉じ耳をふさいだまま、ふむ、と頷き、
「――やはり詠子君のように上手くはいかないか。……いいかね? 今の私は何も見えないし何も聞こえない。ゆえに私は君を認識できず、君と私しかいない此処で君は存在しない」
「だがわたしの非存在を証明できまい」
「それこそ言葉遊びというものだよ」
 佐山は目を開け、手を下に降ろした。
 戻った視界の中央には、アマワがいる。新庄の姿で。
「――代価の話に戻ろうか。君は新庄君を返すと言った」
「欲しているのだろう、“これ”を。――佐山・御言」
 精霊の発言に、佐山は一つの表情で返した。
 苦笑だ。
「その不恰好な物真似を、かね? ――私には不要だよ。それは新庄君ではない」
 佐山は言葉を続ける。アマワが何かを言う前に、畳み掛けるように。
「確かに君の言うように、新庄君が生きている、という可能性はある。だがね、私は聞いたのだよ。――彼女の死と、彼女の言葉を」
 首を一つ振り、僅かに目を伏せ、
「今ならば判る。“吊られ男”君には感謝をせねばならないね」
「そんな不確かなものを……信じる、のか?」
「私にとっては君の方が不確かだ未来精霊アマワよ。――宜しい。交渉下手な君に交渉の基本を教授してやろう。ひとつだけ許された質問の、代価として」
 佐山は一歩を踏み出し、言った。
「然るべき行動には然るべき代価を」
 一息。
「それが交渉だ」
 二歩を踏み、腕を伸ばした。人差し指を新庄の姿をしたアマワの鼻先に突きつけ、
「去るがいい、私の知らぬ者よ。――私は君を必要しない。君とは契約できない」
「既に契約は為されている……わたしを呼んだのも君自身だ、佐山・御言」
「知らぬ間に為された契約など無効だよ。――二度言うぞ、去るがいい」
 佐山は腕を戻し、重心を変え、構えを作る。
 その時だ。
 ふと視線をめぐらせると、給水塔の上に影があった。棒が立っているような、黒のシルエット。
 佐山はそれを知っている。ゆえに飛び降りてきた彼に対し、
「久方ぶり、というには早過ぎるかね?」
「そうだろうね」
 笑みで返した。
 佐山が視線を戻すと、アマワはまだ新庄の姿のまま、何をするでもなく立っていた。
 ブギーポップの方を向けば、彼もまたアマワを見ている。
「君が出てきたという事は……彼が、――世界の敵か」
「そのようだ。何しろ僕は自動的なのでね」
 左右非対称の笑みでブギーポップは答え、アマワを見た。
「誰もが理解できぬうちに、確実に、そして貪欲に全てを奪っていく……断言しよう」
 一息。

422 アマワ黒幕化計画 ◆E1UswHhuQc :2005/06/23(木) 22:32:43 ID:thNgKysc
「君は世界の敵だ」
 アマワは言葉ではなく、動作で答えた。
 新庄の姿が歪んだ。光学迷彩にも似た歪みだが、決定的に違う部位がある。だがその違いを言葉にする事はできない。それはあらゆる存在に対する冒涜だった。
「まずは……問いかけた」
「逃がさない」
 ブギーポップが疾走した。徒手空拳でアマワに飛びかかる。
 しかし、それは無意味となった。
 アマワの姿が消えたのだ。存在を消し、しかし声だけを響かせ、
「証明せよ。心の実在を。出来なければ……」
 佐山は言い終わるのを待たず、声高に言う。
「三度目で判らないのなら武力行使と行こう。――去るがいい、未来精霊アマワ」
 その言葉を契機としたように、視界が切り替わった。
 佐山は空を見上げる。火の色ではない、大気の蒼さを持った大空がそこにある。
 手にはG-Sp2の重みがあり、感触がある。
 そして背後には、
「どうか……したんですか? きょろきょろして」
「いや、……何でもないよ。今後の方針を考えていただけだ」
 宮下藤花にそう答え、佐山は左腕を掲げた。
 左手の中指に、女物の指輪がある。
 ……不等に結ばれた契約で、奪われたというのなら……
 呟く。藤花には聞こえない程度の声で。しかし決意を乗せて。
「私は奪い返すぞ。――悪役として」

【C-6/小市街/1日目・13:00】
『悪役と泡・ふたたび』
【佐山御言】
[状態]:正常
[装備]:G-Sp2、閃光手榴弾一個
[道具]:デイパック(支給品一式、食料が若干減)、地下水脈の地図
[思考]:アマワから新庄を奪還する。
[備考]:狭心症の発作対象に新庄。

【宮下藤花】
[状態]:健康
[装備]:ブギーポップの衣装
[道具]:支給品一式
[思考]:佐山についていく

423 エンジェル・ハウリング(御遣いの物語)(1/4) ◆J0mAROIq3E :2005/06/23(木) 23:58:09 ID:t2jYYr76
 そこはどこでもなかった。
 常に“現在”であり続ける世界には辿り着けない未来。
 その硝化の中心に彼はいた。正確に言うならば、在った。
 彼を視界に捉えるは容易い。だが、彼を認識するのは難い。
 一見するとそれは人のようだった。だが、それはあまりに漠然としていて記憶に留めることができない。
 未だ自分の現れない世界を見据え、彼は一つの問いを投げかけていた。

「心の実在を証明せよ。解答の意志がある限り思索の時間は永久だ」

 その存在の名はアマワ。
 物質の隙間。未来精霊。未だ存在しない約束を結ぶ者。
 隙間であるが故に誰も触れられない。存在しないが故に誰も滅ぼせない。
 誰との繋がりも持たない。そのはずだった。
 だが。

「――心の実在証明。それが君の願いかね?」
 
 肉声とも意思ともつかぬものが硝化した空間に響く。
 振り向くことなく、その必要もなくアマワはそれを認識した。

424 エンジェル・ハウリング(御遣いの物語)(2/4) ◆J0mAROIq3E :2005/06/23(木) 23:59:04 ID:t2jYYr76
 “それ”はアマワと対照的に異質な存在感を放っていた。
 夜色の外套。黒く長い髪。小さな丸眼鏡をかけた、それは人間の男の姿をしている。
 何もかもが周囲の闇に溶け込み、病的に白い美貌だけが浮かび上がって見える。
「質問を一つ許そう」
 その異様に僅かな動揺さえ見せず、アマワは言葉を発した。
「出会った者には一つだけ質問を許すことにしている。その一つでわたしを理解しろ」
「不要だ」
 くく、と黒衣の男が嗤う。
「『私』が興味を持つのは君の『願望』だけだ。君の本質など関係ない。
 だが、よもや人ならざる身で、世界を超えてまで『私』の介入を呼び込むほどの望みを持つとはね」
 ひどく愉しげに笑むと、会釈するように外套を一度打ち鳴らした。
「『私』は神野陰之。“名づけられし暗黒”にして“夜闇の魔王”。“あらゆる善と悪の肯定者”。
 君が証明を望むのであれば、式を組み立てる手伝いをしよう」
「その証明は人にしかできない。形だけ真似たお前には不可能だ」
 嘲るような声が闇に響く。
 それに対する答えは、やはり世界に対する嘲笑のように歪な感触を伴っていた。
「無論、君と心について論じようというわけではない。君は何を以て心の実在を認める?」
 その問いに一瞬、あるいは果てしない時間を挟んでアマワは答えた。
「人の住む世界。それを破壊し殺害し、奪い尽くした後に残るものがあるならば、それが心だろう」
「愚かな答えだね。しかし限りなく正解に近いのかもしれない」
 満足げに。どこまでも深く、どこまでも暗鬱に神野は嗤う。

425 エンジェル・ハウリング(御遣いの物語)(3/4) ◆J0mAROIq3E :2005/06/24(金) 00:00:14 ID:t2jYYr76
「神野陰之。お前は何を手伝える? 世界を壊す双子の獣は失われた。この世界はしばらくは壊れまい……」
「ならば壊せる世界を用意しよう。殺し合うための世界、壊されるための世界を」
 事も無げに神野は答える。
 熟考するように顎に手を当て、あらゆる世界に広がる闇を見渡す。
「選りすぐった意思ある者達。彼らを世界の縮図で殺し合わせることでその実験を行うのは如何かな?」
「いいだろう。お前の意図は知らないが試す価値はある」
「意図は君の望みの成就だけだとも。では彼らについて語ろうか。
 お互い時間に縛られる身でもあるまい――」
 …………
 ………
 ……
 …
 人の感覚では膨大な時間をかけ、119の人と人でない者の全てが語られた。
 それでも直前の会話に相槌を打つようにあっさりと、アマワは一つの疑問を呈した。
「契約者ウルペン。彼の者は既に死んでいる」
「だが彼は存在したのだろう。観測点によって生死は無限に変化するものだよ。
 ――それに、彼に確かなものなどないのだろう?」
「肯定しよう。彼は確かな死さえ掴めはしない。……お前はこの世界のことも知っているのだな」
「然り。『私』は闇にして影。光ある世界ならば何処にでも探求の手を伸ばすとも」
 芝居がかった口調は、その魔人にこそこの上なく似合っていた。

426 エンジェル・ハウリング(御遣いの物語)(4/4) ◆J0mAROIq3E :2005/06/24(金) 00:01:18 ID:t2jYYr76
「あとは……その破壊を制御する者が必要か。圧倒的な力で全てを消されては敵わない。
 淘汰はあくまで極限の状況下で、あらゆる感情を交えながら行われるべきだ」
 魔の理論を平然と紡ぐ口には変わらぬ嗤いが浮かんでいる。
 対して未来精霊は表情どころか揺らぎほどの動きさえ見せない。
 静止した世界の中で“実験”準備が音もなく行われていく。
 世界。管理者。刻印。
 多様な世界の人間達がそれらを演じさせられ、創り上げられていく。
 積み木のように。機械のように。物語のように。

 ――硝化の世界に何の変化も起こらぬうちに、全ては完了した。
 頷き、外套を再度打ち鳴らすと、布地とも思えぬ漆黒の奥に一つの島が見えた。
「……さて、始めようか御遣いよ。人と、人でないものの織りなす一時の物語を」
「見届けよう。その果てに疑問の答えがあるかどうか」

 こうして、人が変じた闇と人が生んだ隙間は契約した。
 全ては一つの問いのために。

427 ゴースト・スピリット(虚無の心) ◆rEooL6uk/I :2005/06/25(土) 01:05:32 ID:hNdeEao2
贖われた都。鐘の音の響く工房都市。そして――我が故郷、硝化の森。
赤い剣士の銀の一撃。それが私を奪った。いや、奪われてはいない。
絶対殺人武器、殺人精霊。それは世界を滅ぼす引き金。私が生み出し、私が起こした。
答えの召喚、心の実在。それは世界をゆるがす疑問。私が問いかけ、私が答えの場を少女に与えた。
両者が、私を奪った。やはり、奪われたのだ。なぜなら今私はかの大陸に存在しない。
ここは断崖の図書館。次元の挟間。いくつもの窓が、数多の世界に開かれていた。
私はそこを通り抜け、旅し、そして知った事がある。空白を、埋め尽くし、そして分かった事がある。
ここにも、どこにも、心は無い。
地図の空白はうめられてしまった。なのに、怪物はいない。心は無い。
なら、私は、世界の全てを奪う事にする。
私は、未来精霊アマワ。

絶望の聖域。封鎖の玄室。そして――我が故郷、キエサルヒマ大陸。
傲慢な精神士の白魔術。それが私を生み出した。いや、生み出してはいない。
ネットワーク、情報の網。それは世界を体現する媒体。私が生まれ、私が根ざすもの。
ゴースト、理想の具現。それは世界の虚像。私のかつての姿で、私の今の姿でもある。
両者が、私の本質。そう、私はダミアンに作られたままの存在ではない。なぜなら今私はかの大陸に存在しない。
ここは断崖の図書館。次元の挟間。いくつものネットワークが、数多の世界に繋がっていた。
私はそこを通り抜け、旅し、そして知った事がある。記憶を、埋め尽くし、そして分かった事がある。
今の私は、「領主」とよばれた、男ではない。
同一世界のネットワークに優劣は無い。では、他頁世界を結ぶものならば?
私は、質こそは違えど領主と同じベクトルの存在。
この図書館で再構築されたゴーストのゴースト。

428 ゴースト・スピリット(虚無の心) ◆rEooL6uk/I :2005/06/25(土) 01:06:41 ID:hNdeEao2
窓の一つをくぐり抜ける。
心の実在を世界に向かい、問いかけた。
硝化は一瞬だった。一つの世界がまるごと奪い去られる。
その有り様は美しいとすら言えるだろう。美しい世界、精霊の故郷。
人が、都市が、世界が、白く不変の景色に固定される。
完全なる静寂が世界を満たした。
答えは返ってこない。
しかし――
(あれはなんだ?)
まだ残るものがある。4つの存在が、白い世界の中で異質な輝きを放っていた。
物部景、 甲斐氷太、 海野千絵 、緋崎正介。
さきほどまで生きていた者も、とうに死んでいた者もいる。
なにが、彼らを硝化に抗わせたのか?
力か、意志か。もしくは、愛、心――
面白い。
彼らが、世界が投げてよこした答えなのか。
「しかしそれはまだ答えではない」
答えに対する精霊の返答。
「それは魂だ。確かに奪いがたいものではある。心が存在するとすればその中だろう」
「私がもとめるのは答えそのもの、心そのもの」
答えは返ってこない。

次の窓をくぐり抜ける。
十叶詠子、空目恭一
そして次――
ギギナ 、ガユス 、クエロ・ラディーン
また次――
ヴィルヘルム・シュルツ
次――
ヴァーミリオン・CD・ヘイズ 、天樹錬
――

窓のむこうの硝化した景色を、ながめ、ひとりごちる。
「私には彼らの全ては奪えなかった。それは認めよう。しかしそれで確かだと言えるのか」
おそらくは言えまい。119の魂、おそらく答えはこの中にある。
次はどう奪うものか。

429 ゴースト・スピリット(虚無の心) ◆rEooL6uk/I :2005/06/25(土) 01:07:21 ID:hNdeEao2
(君はなんだね?)
闖入者の問いかけが図書館の静寂に響く。
(私は未来精霊アマワ。お前こそ、何者だ)
向き直った精霊は万物を愚弄する、人の不愉快に真似た姿であった。
(ただのしがないゴーストだよ。いや、ゴーストですらないな。しかし、かつてはアルマゲストと呼ばれていた)
ゴーストの返答は軽い。
時を、次元を超越した空間に人ならざるもの達の問答のみが静かに続く。
(私は出会う者に一つだけ質問を許している。先ほどの問いは忘れよう)
(なら、問おう。旧友よ、世界を滅ぼした目的は何だ)
(心の実在を)
(世界を奪い尽くしてそれでも心は見つからなかった?)
返答にはしばし間があった。
(魂からの心の精製、それができるなら疑問に答えを見いだせるだろう)
(同じ事を何度も繰り返してそれでも見つからない。それでも続けるのは誠意ではなくただの愚かさだ)
試行し、答えを見失うごとに不在の確信を強めていく。君のしていることは結局は無意味だよ。
精霊が押し黙る。静寂の中に永遠とも感じさせる時をかけて、精霊が新たな問いを発する。
(では質問しよう。お前が心の実在を証明しようとするならばなにをする?)
(彼らを返したまえ。君が奪ってはならない。心が魂にあるのならばそれは絶望の中に見いだされるだろう。また、絶望の中で最後に残るもの、それこそが心であろうよ)
(つまり殺し合いをさせろ、と。それがお前の答えか)
(その通り)
(どのようにして?)
(それについては私が手助けをしよう。私の能力というのはこういう時に非常に便利なものだ。彼らの魂に刻印を施す)
(何が――目的だ)
(別に何も。強いて言えば私も心と言うものをみてみたい、といったところだよ、我が旧友)
(よかろう。では彼らと契約を結ぼう。契約者よ、心の実在を証明するが良い)
(いや、まだ不十分だな。契約というからには双方にとって利益が無くてはならない。君は彼らに何を与えられる?)
(私は何も与えない。だが――心の実在、それを証明できたのなら彼と彼の世界を返すと約束しよう)

430 ゴースト・スピリット(虚無の心) ◆rEooL6uk/I :2005/06/25(土) 01:08:24 ID:hNdeEao2
(あの精霊は答えを寄越せと喚くだけできっと何も聞いていないのだろうな)
唯一色を持つ窓を覗きながらゴーストは考える。
駄々っ子のように貪欲に全てを求め、そして奪ってしまった精霊。
背後の窓には色彩に欠いた風景が広がっている。世界を奪われたままにしてはおけない。
自分にはできない事を、彼らに託した。
答えを見いだし、世界を取り戻す。たった一つでもいい。取りかえす事に意味がある。
精霊が答えを聞き入れようがいれまいが関係ない。
今、精霊は刻印を通してしか魂を奪う事はできない。自分でそう仕組んだ。
刻印が完全に外れても、彼らが消えてしまう事は無いだろう。
なぜなら一度現れたものは精霊に奪われない限り簡単に消えはしないから。
再び死を迎えるまで生きるだろう。

今、一つの魂が死して消滅する寸前に図書館に迷い込んだ。
「契約者よ、一つ質問を許している」
未来精霊アマワ。
消えゆく魂は問いかける。
――外の世界はどこにあるのか――
御遣いは答える。

外の世界などどこにも無い。世界は全て奪われた。全ての中でここだけが残ったのだ。

失意の、絶望の気配を残して一つの魂がかききえる。


殺して、壊して、奪い合うが良い契約者達よ。生き残って、故郷を、愛なる者を取り戻すのだ。

431 ゴースト・スピリット(虚無の心) ◆rEooL6uk/I :2005/06/25(土) 22:34:53 ID:hNdeEao2
贖われた都。鐘の音の響く工房都市。そして――我が故郷、硝化の森。
赤い剣士の銀の一撃。それが私を奪った。いや、奪われてはいない。
絶対殺人武器、殺人精霊。それは世界を滅ぼす引き金。私が生み出し、私が起こした。
答えの召喚、心の実在。それは世界をゆるがす疑問。私が問いかけ、私が答えの場を少女に与えた。
両者が、私を奪った。やはり、奪われたのだ。なぜなら今私はかの大陸に存在しない。
ここは断崖の図書館。次元の挟間。いくつもの窓が、数多の世界に開かれていた。
私はそこを通り抜け、旅し、そして知った事がある。空白を、埋め尽くし、そして分かった事がある。
ここにも、どこにも、心は無い。
地図の空白はうめられてしまった。なのに、怪物はいない。心は無い。
なら、私は、世界の全てを奪う事にする。
私は、未来精霊アマワ。

絶望の聖域。封鎖の玄室。そして――我が故郷、キエサルヒマ大陸。
傲慢な精神士の白魔術。それが私を生み出した。いや、生み出してはいない。
ネットワーク、情報の網。それは世界を体現する媒体。私が生まれ、私が根ざすもの。
ゴースト、理想の具現。それは世界の虚像。私のかつての姿で、私の今の姿でもある。
両者が、私の本質。そう、私はダミアンに作られたままの存在ではない。なぜなら今私はかの大陸に存在しない。
ここは断崖の図書館。次元の挟間。いくつものネットワークが、数多の世界に繋がっていた。
私はそこを通り抜け、旅し、そして知った事がある。記憶を、埋め尽くし、そして分かった事がある。
今の私は、「領主」とよばれた、男ではない。
同一世界のネットワークに優劣は無い。では、他頁世界を結ぶものならば?
私は、質こそは違えど領主と同じベクトルの存在。
この図書館で再構築されたゴーストのゴースト。

432 ゴースト・スピリット(虚無の心) ◆rEooL6uk/I :2005/06/25(土) 22:35:40 ID:hNdeEao2
窓の一つをくぐり抜ける。
心の実在を世界に向かい、問いかけた。
硝化は一瞬だった。一つの世界がまるごと奪い去られる。
その有り様は美しいとすら言えるだろう。美しい世界、精霊の故郷。
人が、都市が、世界が、白く不変の景色に固定される。
完全なる静寂が世界を満たした。
答えは返ってこない。
しかし――
(あれはなんだ?)
まだ残るものがある。6つの存在が、白い世界の中で異質な輝きを放っていた。
物部景、 甲斐氷太、 海野千絵 、緋崎正介、四宮庸一、姫木梓
さきほどまで生きていた者も、とうに死んでいた者もいる。
なにが、彼らを硝化に抗わせたのか?
力か、意志か。もしくは、愛、心――
面白い。
彼らが、世界が投げてよこした答えなのか。
「しかしそれはまだ答えではない」
答えに対する精霊の返答。
「それは魂だ。確かに奪いがたいものではある。心が存在するとすればその中だろう」
「私がもとめるのは答えそのもの、心そのもの」
答えは返ってこない。

次の窓をくぐり抜ける。
あやめ、空目恭一、近藤武巳、木戸野亜紀、十叶詠子、小崎摩津方
そして次――
ギギナ 、ガユス 、クエロ・ラディーン 、レメディウス・レヴィ・ラズエル、ユラヴィカ
また次――
ヴィルヘルム・シュルツ、アリソン・ウィッティングトン
次――
ヴァーミリオン・CD・ヘイズ 、天樹錬、クレア、 フィア、ディー、 セラ、李芳美
――

窓のむこうの硝化した景色を、ながめ、ひとりごちる。
「私には彼らの全ては奪えなかった。それは認めよう。しかしそれで確かだと言えるのか」
おそらくは言えまい。数百の魂、おそらく答えはこの中にある。
次はどう奪うものか。

433 ゴースト・スピリット(虚無の心) ◆rEooL6uk/I :2005/06/25(土) 22:36:31 ID:hNdeEao2
(君はなんだね?)
闖入者の問いかけが図書館の静寂に響く。
(私は未来精霊アマワ。お前こそ、何者だ)
向き直った精霊は万物を愚弄する、人の不愉快に真似た姿であった。
(ただのしがないゴーストだよ。いや、ゴーストですらないな。しかし、かつてはアルマゲストと呼ばれていた)
ゴーストの返答は軽い。
時を、次元を超越した空間に人ならざるもの達の問答のみが静かに続く。
(私は出会う者に一つだけ質問を許している。先ほどの問いは忘れよう)
(なら、問おう。旧友よ、世界を滅ぼした目的は何だ)
(心の実在を)
(世界を奪い尽くしてそれでも心は見つからなかった?)
返答にはしばし間があった。
(魂からの心の精製、それができるなら疑問に答えを見いだせるだろう)
(同じ事を何度も繰り返してそれでも見つからない。それでも続けるのは誠意ではなくただの愚かさだ)
試行し、答えを見失うごとに不在の確信を強めていく。君のしていることは結局は無意味だよ。
精霊が押し黙る。静寂の中に永遠とも感じさせる時をかけて、精霊が新たな問いを発する。
(では質問しよう。お前が心の実在を証明しようとするならばなにをする?)
(彼らを返したまえ。君が奪ってはならない。心が魂にあるのならばそれは絶望の中に見いだされるだろう。また、絶望の中で最後に残るもの、それこそが心であろうよ)
(つまり殺し合いをさせろ、と。それがお前の答えか)
(その通り)
(どのようにして?)
(それについては私が手助けをしよう。私の能力というのはこういう時に非常に便利なものだ。彼らの魂に刻印を施す)
(何が――目的だ)
(別に何も。強いて言えば私も心と言うものをみてみたい、といったところだよ、我が旧友)
(よかろう。では彼らと契約を結ぼう。契約者よ、心の実在を証明するが良い)
(いや、まだ不十分だな。契約というからには双方にとって利益が無くてはならない。君は彼らに何を与えられる?)
(私は何も与えない。だが――心の実在、それを証明できたのなら彼と彼の世界を返すと約束しよう)

434 ゴースト・スピリット(虚無の心) ◆rEooL6uk/I :2005/06/25(土) 22:38:25 ID:hNdeEao2
静謐であった図書館は、いまやざわめきでみちていた。
図書館の住人、旧世界を超越していた存在。彼らがことの行く末を見守っているのだ。
ざわめきの中で、青黒い長衣を纏った優男の独り言を聞く者は誰もいない。
「全くもって精霊は理解しがたいね。本当に…愚かだよ。だって、そうは思わないかい? 
彼の望みは心の証明。それは価値ある問いだ。僕も、我が偉大なる師賢者ガンザンワロウンも答えを欲している。
誰もが、欲している。そしてここに一つのアプローチがある。極限状態における心の精製。きわめて正しく――そして同時にきわめて誤った手段だと僕は思う。
観察者は対象に干渉してはいけないんだよ。それは全てを無駄にしてしまう。
本当に…本当に残念だ…」
「それが君の願いかね。このゲームからの『干渉』の排除が」
虚空に消えていた声に、唐突に返事がかえる。
長衣の男は、特に驚いたそぶりも見せずに向き直った。
漆黒のマントを羽織った男に。
「少し違うな。真に心の実在を証明したいのならば彼らに干渉者の存在を気取られてはならない。
ゲームが行われるのならばそれは彼らの中の『偶然』におきた自発の意志でなくてはならない。
僕は彼に、あの精霊に知ってほしい。マグスの掟、純然たる観察者の心得をね」
「ならば、それを叶えよう」
「どのようにして?」
「いかようにでも。私は君が願い、私が聞いたのならそれは叶えられる。なぜなら私に望みは無く、故に他者の望みに最も鋭敏に反応するからだ。
私は”名付けなれし暗黒”、”夜闇の魔王”」
「なら…一つ質問をしても良いかい?」
「一つと言わずにいくつでも望むままに問うが良い。私はかの精霊とは違うのだから」
「なぜ僕のもとに現れる?あの精霊と幽霊のところではなく」
「相反する二つの望みがあるならばそれは望み無いのと同じではないのかね」
「…それではもう一つ。あの魂たち…彼らの共通項とは何だろうね。何が心を証明しうる?」
「力… 単純な力ではない『力』。物語の中枢に関わる『力』。それが彼らを留めた」
「それでは――僕らは、彼らについて語ろうじゃないか。彼らは既に手の触れられない領域にある」
「幻想と願望、そして宿命についての話を始めようか」
小さな囁きは、途絶える。

435 ゴースト・スピリット(虚無の心) ◆rEooL6uk/I :2005/06/25(土) 22:40:34 ID:hNdeEao2
(あの精霊は答えを寄越せと喚くだけできっと何も聞いていないのだろう)
ある一つの目的だけに研ぎすまされた純粋な意志。精霊の特徴なのだろうか。
それにしても、純粋すぎる意志。それは馴染み深い何かを思わせる。
まるである特徴を極端にデフォルメしたような。
色を持つ窓、唯一色を残す壁にある窓の一つを覗きながらゴーストは考える。
駄々っ子のように貪欲に全てを求め、そして奪ってしまった。
背後の窓には色彩に欠いた風景が広がっている。世界を奪われたままにしてはおけない。
自分にはできない事を、彼らに託した。
答えを見いだし、世界を取り戻す。たった一つでもいい。取りかえす事に意味がある。
精霊が答えを聞き入れようがいれまいが関係ない。
今、精霊は刻印を通してしか魂を奪う事はできない。自分でそう仕組んだ。
刻印が完全に外れても、彼らが消えてしまう事は無いだろう。
なぜなら一度現れたものは精霊に奪われない限り簡単に消えはしないから。
再び死を迎えるまで生きるだろう。
ふと、口から言葉がもれる。
「本当の君に、世界の全てを、全ての世界を奪う力があったのかい?」
精霊は答えない。
(この精霊もまた、奪われたのか)
未来にあり、奪う事の出来ない存在が、奪う事しかできない存在が奪われた。
ありえない。しかし、彼自身の行為が、偶然に彼に仇をなしたとすれば。
例えば硝化の森で隻眼の少女が行ったように。
ならばひょっとして、ここにいるのは自分と同じ…

今、一つの魂が死して消滅する寸前に図書館に迷い込んだ。
「契約者よ、一つ質問を許している」
未来精霊アマワ。
消えゆく魂は問いかける。
――外の世界はどこにあるのか――
御遣いは答える。

外の世界などどこにも無い。世界は全て奪われた。全ての中でここだけが残ったのだ。

失意の、絶望の気配を残して一つの魂がかききえる。


殺して、壊して、奪い合うが良い契約者達よ。生き残って、故郷を、愛なる者を取り戻すのだ。

436 地を行く人喰い鳩 1 ◆CDh8kojB1Q :2005/06/26(日) 08:38:59 ID:D7qZuQnc
この殺伐とした島にそぐわぬ施設、海洋遊園地。
 その施設は縦に長く、二つのエリアにまたがる敷地を有する。
 そして、その路面を一人の男が全力で疾走していた。
「あー、くそったれ! 何でこう逃げまくんなきゃならねーんだ?」
 オレがちらりと後ろを見ると七匹の獣が自分を追走していた。
 何だよありゃあ? 新手の大道芸人か?
 ただの猛獣使いならサーカスに帰れ。ここは遊園地だ!
 
 思えば出会う敵全てが超人クラスだった。
 とんでもない身体能力を誇る名前のクソ長い美系の戦闘狂。
 見た目とは大違いの実力を誇る二人の女剣士。
 四対一にもかかわらず喧嘩を売ってきた空間使いのガキ。
 どいつもこいつも自分が本気を出して、紙一重で死を回避するのが限界の実力者達だ。
 今、自分を追いかけてくる奴も人外の存在に決まっている。
 しかも体力は限界で、フォルテッシモから与えられた傷には血が滲んでいる。
 このまま動き続けると、あと五分でオレはぶっ倒れる。
I−ブレインが使えないのにどーしろってんだ!?
 オレの心からの叫び、しかし誰にも届かない。

「鬼ごっこかぁ? ま、せいぜい楽しませてくれよッ。ヒャハハァー!」
 背後からの声には緊張感のカケラも感じられない。
 アル中か? 薬中か? それともただの異常者か?
 あいにくオレには、殺し合いを楽しむ神経はねーんだよ。
 だいたいさっき会ったフォルテッシモとか言う奴はどうなったんだ?
 死んだのか?
 それともこいつの仲間でオレを挟撃しようとしてるのか?
 I−ブレインが起動できれば演算で様々な回答をたたき出せるのだが、今は逃げることだけを考える。
次の瞬間、背後に熱気を感じたオレは加速したまま横っ飛びに跳躍した。
 そのまま身を捻って飛び前転の体制に繋ぎ、勢いを保って立ち上がる。

437 地を行く人喰い鳩 2 ◆CDh8kojB1Q :2005/06/26(日) 08:40:02 ID:D7qZuQnc
 ヒュッ!

 横を見ると、さっきまで自分がいた場所を火球が飛び去っていった。
 ……危ねえ危ねえ、こんなところでステーキに成るのは御免だぜ。
 日頃から体鍛えてたのはビンゴだな。
「見苦しいわよ。戦う気がないならさっさと死んで頂戴」
 今度は女の声が聞こえた。どうやら敵は複数らしい。
 フォルテッシッモとは嗜好が違い、完全に殺しを目的としているようだ。
 好き勝手言われるのも癪なので、オレは取りあえず言い返した。
「うるせえ! 本日におけるオレの戦闘に対する許容量は限界なんだ。他を当たれ!」
 更にコミクロンの台詞を引用して、
「これ以上オレを怒らせると、歯車様の鉄槌が下るぞ?」
 言ってやった。苦し紛れのハッタリだが、それっぽく言ったので威嚇にはなるはずだ。
「上等よ。やってみなさい!」
 ……逆効果だった。背中に研ぎ澄まされた殺意が刺さる。
 
 ヒュバッ! ヒュバッ! ヒュバッ!
 
 振り返ったオレが見たのは、先ほどより幾分速度を増した火球だった。
 炎弾を連射できるのかよ!
 やばい。コミクロン、火乃香、シャーネ、誰でもいいから助けに来てくれ。
 迫り来る死を回避する為、オレは手近なアトラクションに飛び込んだ。

438 地を行く人喰い鳩 3 ◆CDh8kojB1Q :2005/06/26(日) 08:40:52 ID:D7qZuQnc
 ヘイズが助けを切望していた三人は花壇に居た。
 もっとも、すでに一人は死んでいたが。
 シャーネの墓を作る時間が無かった火乃香とコミクロンは、
 彼女を花壇に寝かせて花葬にした。
 コミクロンの治療によりシャーネの体に外傷は無く、生前の美しい容姿を保っているものの、
 彼女が再び立ち上がり、微笑む事は無いだろう。
 
「すまんシャーネ。俺の未熟と驕りのせいで……」
「あんただけの責任じゃない。今は気持ち切り替えていくしかないよ、コミクロン」
「ああ、クレアに謝罪のメモも残したし、とっととヴァーミリオンを助けて退散するか。
火乃香、あいつの位置は分かるか?」
「ん、こっから南西へ50メートル。あのアトラクションの中っぽいね」
 火乃香の額の中央で蒼光を放つ第三の眼を見た後、コミクロンは周囲を見回す。
 そして、遊園地の入り口近くに止まっているある物に目をつけた。
「なあ、お前はあれを動かせるか?」
「できないことは無いけど、一体どうすんのさ? この距離じゃ走るのとそう変わらないよ?」
 火乃香の視線の先、余裕顔を取り戻したコミクロンは顎に手を当て、
 ――やっと、俺の天才的思考能力が役立つ時が来たようだな。
 休憩中にまとめ上げた計画を告げた。

 アトラクションに飛び込んだ先、周りには五人のオレが居た。
「何だ?」
 自分が眉をひそめると相手も表情を変えた。
 びびったぜ、ただの鏡か。しかも通路全面に……何なんだここは?
 一瞬だけ追っ手の術かと思ったが、ここは鏡で人を惑わすアトラクションだとオレは気づいた。
 うまく立ち回れば逃げ切れるかもしれない。

439 地を行く人喰い鳩 4 ◆CDh8kojB1Q :2005/06/26(日) 08:41:36 ID:D7qZuQnc
 三秒後、オレは群青色の火の粉を散らした獣が突入してきたのを知覚する。
「ふん、ミラーハウスに逃げ込むとわね。数の多いこっちが自分の鏡像で混乱するとでも思ってるの?」
 唐突に獣の身体がはじけ飛び、獣が居た位置には小脇に巨大な本を抱えた女性が立っていた。
 ……大道芸人だったのか。それにしてもずいぶんとグラマーな姐ちゃんじゃねえか。
「私は "弔詞の読み手"マージョリー・ドー 。消し炭になる前に覚えておきなさい」
 弔詞の読み手、か……大した貫禄だぜ。
 それにこの隙の無い動き、かなりの場数をふんでやがる。
「オレは "Hunter Pigeon(人喰い鳩)"ヴァーミリオン・CD・ヘイズ。翼をもがれた空賊だ」
 入り組んだ鏡の通路の中、オレは名乗りながらもじりじりと"前進"する。
 実際は出口に向かって進んでいるのだが、マージョリーには鏡像に映ったオレの姿が
 用心深く接近して来るように見えるはずだ。
 試しに騎士剣を手に持つと、マージョリーは身構えた。
「ただのヘタレかと思ったけど……戦う気は有るようね」
 良し、マージョリーは策にはまった。後は距離を稼いでトンズラするだけだ。

「ここで停車、と。準備できたよコミクロン」
 火乃香の声にコミクロンは満足げに頷いた。
 目の前には『ミラーハウス』と書かれたアトラクションが建っていて、
 自分の横には園内の送迎用バスがいつでも発進可能な状態で待機している。
「ふっふっふ、後はヴァーミリオンが出てくるのを待つだけだな」
 
 フォルテッシモの防御は硬く、並大抵の攻撃力では打ち破れない。
 ならば防御できても行動不能な状態にしてしまえば良い。
 では大質量物体をぶつけて埋めてしまおう。

 これがコミクロンの立てた計画だった。
「バスをミラーハウスに突撃させればフォルテッシモが直撃を免れたとしても、
ミラーハウスの倒壊に巻き込まれてしばらく出てこれないだろう。戦闘は力押しが全てじゃない。
戦術面ではこのコミクロンが上だ!」
「あたしはこの計画も十分力押しだと思うんだけどな」
「むう、小さいことは気にするな火乃香。それよりヴァーミリオンは何分後に出てきそうなんだ?」
「けっこう遅めに進んでるから……あと二分かそこらはかかるね。
けどあたしがバスぶつける間の敵の足止めはどうするのさ?」
「ふっふっふっ、任せておけ。今とっておきの構成を練ってる」
「タイミング命なんだから肝心な所でスカさないでよ?」
「ふっ、この天才には愚問だな」
 コミクロンの返事を聞きながら、火乃香はハンドルを握り直した。

440 地を行く人喰い鳩 5 ◆CDh8kojB1Q :2005/06/26(日) 08:42:39 ID:D7qZuQnc
「ねえ、あんた本当に私と戦う気があるの?」
「そーやって誘っても無駄だぜ。お前の火力は半端じゃないからな」
 オレはマージョリーの鏡像の一つを睨み付けた。
 強がってはいるものの、オレの足は着実に出口へ近づいている。
 このまま行けばあと一分位で脱出できるはずだ。
 しかし、ハッタリとフェイントでマージョリーを牽制するのももう限界に近い。
 もしも彼女が痺れを切らして飛び掛かられた場合、こちらはもう何もできない。
 くそっ、そろそろ手詰まりか。血も出過ぎてくらくらするし、
 ちと早いがここらで賭けに出るしかねえな。
 コミクロンの治療が終わっているなら味方と合流して反撃。そうでないなら死だ。
 他人任せってのは好きじゃねえが……!
 出口に向かってオレは全力で駆け出した。
 例え全面鏡張りの通路であっても、床と壁の継ぎ目に沿って走れば自然と出口にたどり着く。
「嵌めたわねっ!」
 オレの加速を攻撃と捉えて防御体制をとった分、僅かに反応の遅れたマージョリーが、
 オレの意図に気づき炎を纏った獣に変身して追走してくる。
 外見と違って、ずいぶん頭に火が付きやすいじゃねえか。
 しかも結構走るの速ええぞ。怒らせたのはやばかったか?
 今まで稼いだ距離が一瞬にして詰められる。だがそこを曲がればもう出口だ!

「避けてヘイズ!」
 鏡の通路から飛び出たオレが見たのは、
「バス!?」 
 と運転席に座る火乃香だった。
 バスの急発車とともに耳をつんざくほどのクラクションが鳴り、
「走れヴァーミリオン! ぼけっとすんな!」
 横からコミクロンの声が聞こえた。
 ――そういうことかっ!
 二人の考えを理解したオレは、火球を回避した時のように全力で身を投げ出す。
 それとほぼ同時、バスの運転席の火乃香も開け放たれたドアから飛び出した。
 バスは速度を保ったままオレを追って駆け出てきたマージョリーに、
「遅いわよ!」
 突っ込むことはできない。獣の姿の彼女の回避が一瞬速いはずだ。

441 地を行く人喰い鳩 6 ◆CDh8kojB1Q :2005/06/26(日) 08:44:20 ID:D7qZuQnc
 だが、
「コンビネーション2−7−5!」
 その回避を止める物があった。
 オレが視線の先、コミクロンの突き出した左手の先端に光球が出現し、

 キュンッ

 鏡の通路から飛び出そうとするマージョリーのすぐ眼前に転移した。
 その後に続くのは刹那の破裂音と僅かな閃光。
「ぅあ!」
 あまりにも突然過ぎる上にバスの回避に集中していたマージョリーは、
 コミクロンの魔術の直撃を受ける。
 そして――、

 ズドォォン!

 バスはマージョリーを吹き飛ばし、アトラクションに激突した!
 こりゃあ常人なら即死、何かしらの防御を発動してもまず行動不能だろうな。
 随分とむごい倒し方だが……自業自得って言えばそれまでか。
 一息着いたオレは仰向けになり、
「危ねえ!」
 横にいた火乃香を押し倒して、その上に覆い被さった。
 数瞬後、衝撃によって舞い上がった鏡片が雨のように降り注ぐ。
「うおっ! 鏡か?」
 火乃香と同様に落下物に気づかなかったコミクロンが叫び声を上げるが、
 そちらまでかまっている暇は無かった。まあ、ぎりぎりで回避できるだろう。

 しばらくしてバス衝突の二次災害も収まったので、オレは火乃香の上から立ち退いた。
「いきなり押し倒して悪かったな。無事か?」
「あたしは平気だけど……ヘイズは? カツンカツン音がしてたみたいだったけど」
 あたりを見回すと一面に鏡片が飛び散っている。
 だがオレは厚手の服のおかげで全く無事だった。
「問題ねえよ。実際大したでかさじゃ無かったしな」
「おい、何故俺の存在をスルーするんだ?」
 心配も何も無傷じゃねえかよ、お前。
 取り敢えず別の話題で誤魔化すか。
「おおコミクロン、さっきの魔術凄かったじゃねーかよ」
「あれの凄さを分かってくれるかヴァーミリオン!
なに、簡単な事だ。転移する小型雷球を使って一瞬だけ電流を流し、神経を麻痺させたんだ。
やはり分かる奴には分かるのだな、この天才の偉大さというものが。キリランシェロとは大違いだ。
それにあのエレガントな役回りこそこの俺に……」

442 地を行く人喰い鳩 7 ◆CDh8kojB1Q :2005/06/26(日) 08:45:13 ID:D7qZuQnc
 良し、誤魔化し成功。
 後は適当に聞き流すか。
「そー言えばヘイズ、あの獣は何だったのさ?フォルテッシモは?」
「あれはマージョリー・ドーとか言うゲームに乗った大道芸人で、本体は美人の姐ちゃんだ。
フォルテッシモは図に乗り過ぎてたんでオレが成敗しといた。
おかげでI−ブレインが停止しちまったがな……ところでシャーネは何処だ?」
 ん、この火乃香の顔色……まさか。
「シャーネは……死んだよ……」
 くそっ、最悪の予想が当たっちまったか。
 オレは又、別の話題で誤魔化そうとしたが、
「あたしは平気だよヘイズ。だけどコミクロンは……多分そのことで今も――」
「分かった、もう言うな。医療魔術の能力低下は今に始まった事じゃねえ。
これ以上はあいつ自身の問題だ」

「おい、何話してんだそこ。俺が大いなる大陸魔術士の歴史を紐解いて説明してやってるのに……
聞いてるのか?」
 おいおい、どーしてエレガントが大陸魔術士の歴史にまで発展してんだよ。紐解きすぎだ。
 あとオレはお前の魔術を褒めはしたが、講義を聞かせてくれなんて言ってねえぞ。
 そこまで心中でツッコミを入れたオレは、これ以上話させるのは不毛と判断して話題を変えた。
「その話はもっと時間が有る時にしてくれコミクロン。
今は二つばかり質問が有るんだがいいか?」
「どんと来い。この天才が答えてやろう」
「一つ目は武器をどうするか。二つ目は今後どうするかだ」
 どんと来いと言うので、ストレートな質問をぶつけてみた。
「壊れた剣はバスのアクセルとハンドルの固定のためにあたしが使ったよ。
つまり今はヘイズの持ってる騎士剣とコミクロンのエドゲイン君しか武器は無し。
あと今後どうするかだけど、今あたしは猛烈に休みたい」
「俺も休憩には異議無し、だ。ゲームが始まって以降寝てないしな」
 そう言えばそうだな。
 実を言うとオレの疲労も限界なので、正直この提案はありがたい。
「じゃあ取り敢えず休憩するか。だがこの場じゃあだめだ、
さっきの音を聞き付けた奴に襲われる可能性がある。まずは近くの安全そうな場所に避難すべきだ」
「距離的には市民会館が近いね。神社も捨てがたいけど」
「俺は市民会館に行くべきだと思うぞ。くつろげそうだし、市街地が近いから逃げるにも都合が良い」
「分かった。まずは市民会館に行くとするか」
 目的が決まったならば長居は無用だ。

443 地を行く人喰い鳩 8 ◆CDh8kojB1Q :2005/06/26(日) 08:46:21 ID:D7qZuQnc
 オレはコミクロンから荷物を受け取ると空を見上げた。
 元居た世界とは違い、一カケラの雲さえない広々とした蒼天が続いている。
 ……天樹錬、お前はこの空さえ見れずに死んだのか? 
 ハリー、オレは絶対帰るからな。スクラップになんか成るんじゃねえぞ。
 親父、オレは今精一杯走って生きてるか?

「空を見上げて何やってんだヴァーミリオン? 治療してやるから早く来い」
「青春に浸ってたんだ。今行く」
 オレは止まらない、止まれない。
 死んでいった奴等のため、帰りを待ってる奴等のため。
「ま、せいぜい足掻いてやるか」

 ヘイズ達が立ち去った後、崩れたミラーハウスから一本の手が生えた。
 "弔詞の読み手"マージョリー・ドー である。
「ヒャハハ、鬼ごっこは負けみてえだな。我が麗しのゴブレット、マージョリー・ドー」
「黙りなさいバカマルコ。ったく、午前のガキ二人といいふざけた連中しかここには居ないの?」
 愚痴る彼女の前をバスのギアーが転がっていく。
「……歯車様の鉄槌、だな。ヒャハハハハ。あの赤髪やるじゃねぇか」
 バスが激突する直前、マージョリーは背後の壁を吹き飛ばして後退し、直撃を防いだ。
 しかしコミクロンの予測は的中し、防いだ所で無傷では済まなかったが。
「今度会ったら全員炭の柱にしてやるわ」
「ヒャッハッハッハー!まだまだやる気満々だなぁ。我が怒れる美姫マージョリー・ドー」
「当たり前よ」

444 地を行く人喰い鳩 9 ◆CDh8kojB1Q :2005/06/26(日) 08:47:33 ID:D7qZuQnc
【E-1/海洋遊園地/1日目・12:25】

【戦慄舞闘団】
 
【ヴァーミリオン・CD・ヘイズ】
[状態]:左肩負傷、疲労困憊 I−ブレイン3時間使用不可
[装備]:騎士剣・陰
[道具]:有機コード 、デイバッグ(支給品)
[思考]:1、火乃香達のところへ 2、刻印解除構成式の完成 3、休みたい
[備考]:刻印の性能に気付いています。

【火乃香】
[状態]:貧血。しばらく激しい運動は禁止。
[装備]:
[道具]:デイバッグ(支給品)
[思考]:休みたい。


【コミクロン】
[状態]:疲労、軽傷(傷自体は塞いだが、右腕が動かない)、子分化
[装備]:未完成の刻印解除構成式(頭の中)、エドゲイン君 
[道具]:デイバッグ(支給品)
[思考]:1、休みたい 2、刻印解除構成式の完成。3、クレア、いーちゃん、しずくを探す。
[備考]:白衣を着直した。

[チーム備考]:全員が『物語』を聞いています。
       騎士剣・陽(刀身歪んでる)、魔杖剣「内なるナリシア」(刀身半ばで折れてる)が、
       ミラーハウスの中に埋まっています。
       

【マージョリー・ドー】
[状態]:全身に打撲有り、ぷちストレス
[装備]:神器『グリモア』
[道具]:デイバッグ(支給品) 、酒瓶(数本)
[思考]:ゲームに乗って最後の一人になる

445 ◆/91wkRNFvY :2005/06/26(日) 23:32:24 ID:TyM8AN7w
 ここ、ではなく――。
 そこ、でもない――。

 どこか――。



「順調に進んでいるようだね」
 G4に"設定"された巨大な城、その中の不可触領域に設けられた広間。
 そこに前触れもなく現れた男は、間近でじっと見ないとそうだと判らないような、
 限りなく黒に近い深い緑の長髪、限りなく黒に近い紅色の双眸をしていた。
 色素欠乏症を思わせる白い肌、それでいて血管が浮き出ているようなことも無い。
 そして足元までを覆う黒いコート。
 初めて見たものには、どこまでも白い肌と、コートの組み合わせに異常な違和感を抱く。
 すなわち。
 
 ――人間なのか――

「おぉ、お主か。順調というよりも少しばかり予定を上回るペースで進んでおるな。
 このままでは後半日ほどでサンプルの採取は終了するやもしれん」
 巨大な一室、謁見の間という表現が一番近いであろうその広間の奥の一段高くなった場所に、豪奢な調度の椅子。
 そこにおさまるのは芝居じみた衣装を纏い、得意げに髭を反らし、いかにも尊大そうな態度をとる男。
「そうかい」
「だが、こちらの都合通りに進んでおるので、さしたる問題は無いな、
 むしろ異世界からの干渉の件はどうなっておるのだ?」
 玉座に座っている以上、この城の王であろう男に尋ねられた黒衣の男――クエスは、さも今思い出したように、
「あぁ、彼らか。キミが気にする必要は無いよ、少しばかり介入されてしまったけれど、
 その辺りの事はボクに任せてもらって問題ない、キミの計画に支障が出るようなことは無いよ」
「ふぅむ? なら良いのであるが」
 髭を弄りながら、玉座の男――ヴォイムは答える。

446 ◆/91wkRNFvY :2005/06/26(日) 23:33:18 ID:TyM8AN7w
「以前の実験では、10前後の異世界からサンプルを集めたつもりであったが、
 どういうわけか2つの世界から数名ずつ召喚してしまったようでな。
 余の創りあげた世界の住人のサンプルにするには少々偏りすぎていたようだ、今回のお主の協力には非常に感謝しておる」
「これくらいどうって事ないさ、ボクも興味があるからね」
 興味がある、と言う割には声のトーンに全く変化が無い。
「ほう、お主の興味を引くようなものがおるのか?」
「あぁ、彼女"刀使い(ソード・ダンサー)"と言わせてもらうけどね、その"刀使い"はボクのコートを斬った」
「なんと?! それは興味深いな……」
 ヴォイムは椅子から身を乗り出すも、すぐさま元の体勢に戻る。

「サンプルの平均を採る為に、なるべく突出した能力は抑えたつもりであるが、ふぅむ」
 癖なのか、顎に手を当てながら考え込む。
「能力を制限しないままサンプルを放り込むのはまずいから、少しだけ制限をかけたけどね、
 それでも、キミの計画を満足させるぐらいには能力を残しておいたよ」
「うむ、結構。念のためサンプルを管理するものも召喚した。
 以前の失敗は、余が直接舞台へ上がってしまった事だと分析しておる。今回余は安全な場所から眺めているだけでよい」
 ヴォイムは眺めている、と言うが、この広間にはモニターの類は一切見当たらない。
 どうやってあの殺戮と狂気の舞台を眺めているというのか――。
「まぁ、邪魔が入ることは無いさ、気の済むまでやるといい」
 クエスの、呟きなのかヴォイムに向けた言葉なのか良く判らない声、ヴォイムがそれに答えようとした瞬間――。

「そうは問屋が卸さないのです」
 いつの間にか広間の入り口には、短めの三つ編みの少女と金髪緑眼の青年が立っていた

447 黒幕話かっこかり ◆/91wkRNFvY :2005/06/26(日) 23:34:13 ID:TyM8AN7w
「なっ……、お前たち、いつの間に、どうやってここへ侵入した!?」
 ヴォイムは動揺と共に、身を椅子から乗り出す。
「お主、どういうことだっ!? ここに侵入されるなどと……!」
 安全を決め込んでいた巣穴に飛び込んできた闖入者に動揺したヴィオムは、驚きのあまり威厳を欠いた顔をクエスに向けた。
 言い終わるのを待たず、彼の背後の暗幕から、目立たないグレイのスーツを着た中肉中背の中年男たちが飛び出し、
 文字通り瞬く間に青年と少女を取り囲む。
「あわてることはないさ、せっかくの催しだ、ゲストの一人もいないとつまらないだろう?
 さっきも言ったけど、キミの計画に支障は無い。これ以上はボクが、させない」
 ヴォイムへ向けてひとしきり喋り、クエスは振り向きざま二人に深い――とても深い――笑みを浮かべる。

「あなたは……、あなたはそんなに火乃香さんの力が気になりますか?」
 青年は砂漠用のデューン・スーツを纏うが、そこにはいつもの微笑は無い。
「それはキミも同じだろう? この会話は何度目だろうね?」
「それは……」
 クエスの問いに口ごもる青年。
「何なら、ここでボクと争ってみるかい? 2対1でもボクは一向に構わないよ」
「もとよりそのつもりです、あなたの都合に彼らを巻き込むわけにはゆきません」
 言葉と共に少女の周囲から超高密度のEMP場があふれ出す。
 同時に、青年の緑瞳が金色に輝き、白いデューン・スーツも光を帯びる。
 クエスの不敵な笑み、そしてスーツ男たちとの間に緊張がはしる――。 
 
「その辺でよかろう」

448 黒幕話かっこかり ◆/91wkRNFvY :2005/06/26(日) 23:35:11 ID:TyM8AN7w
 クエスを除いた全ての瞳が、声の主――ヴォイムへ集中する。 
「お主、イクスというのか? そちらの娘は……、ふむ、いくつかあるようだが"年表干渉者(インターセプタ)"で良いのかな?」
 資料を見ていた形跡は無い、ヴォイムはただイクスと"年表干渉者"を見ただけで名前を知ったというのか。

「この世界は余が創りあげし世界なり、故に余こそがこの世界の法、余こそがこの世界の絶対者なり。
 余に刃を向けるのは天に唾吐くが如し。汝らも世界の理を知るものならば、ここでの抵抗が如何に無意味であるか、それくらいは理解しておろう?」
 先ほどの取り乱し具合とは裏腹に、堂々とした態度でイクスたちに歩み寄る。
「確かに、そうかもしれません。ここで私たちが本気でぶつかったらこの空間そのものが崩壊しかねませんから」
 クエスをその瞳に捕らえていたイクスだが、肩をすくめて溜息をつき、それにあわせて周囲の光も薄らいでゆく。
「イクスさん、しかし……」
 食い下がろうとする"年表干渉者"にクエスの声がかかる。
「キミも "刀使い"ではないにしろ、期待しているものがいるんだろう? 悪い話じゃないと思うんだけどな」
「わたしたちにはここでずっと眺めていろとおっしゃるのですか」
「別にそうは言わないさ、どうにか出来るのならやってみるといい」
"年表干渉者"を取り巻くEMP場は変わらずに留まり続ける。彼女が何かを仕掛けようとしたその刹那――。

「ここでの争いがどのように世界に影響を与えるかは未知数です。しばらくは彼の目論見に期待するしかありません」
 と、"年表干渉者"を手で制し、クエスに目をやる。
「ボクはどっちでもいいけどね、少しは抵抗もないとつまらないからね」
 クエスは無責任ともいえる余裕を見せる。。
「……。イクスさんのおっしゃる事ももっともです、助けに来たのに崩壊させてしまっては、本末転倒なのです」
 途端、"年表干渉者"の周囲に溢れていたEMP場が霧散する。

「ほっほっほ、解れば宜しいのだ、余はこれでも客人に対する礼はわきまえておるつもりだ。
 サンプルは既に事足りておるからな、汝らはそこでゆるりと眺めているが良い」
 ヴィオムは満足げな顔で肩を揺らしながら元の玉座についた。


『ほほはほはほほほはははほほはほははほほははほははほはほほははほははほはほ』
 広間に沈黙が訪れた後、どこからとも無く聞こえてきたウザったい笑い声は、気のせいだろう、――たぶん。

449 <管理者より削除> :<管理者より削除>
<管理者より削除>

450 <管理者より削除> :<管理者より削除>
<管理者より削除>

451 アマワ黒幕化話一部修正 ◆E1UswHhuQc :2005/06/28(火) 16:49:56 ID:7Yf3b6x2
「君が出てきたという事は……あれは、――世界の敵か」
「そのようだ。何しろ僕は自動的なのでね」
 左右非対称の笑みでブギーポップは答え、アマワを見た。
「君という存在は、ただ吼えているだけだ。未来精霊アマワ。不確かなものを確かにしたいという欲求から生まれたんだろう、君は」
「わたしは御遣いだ。御遣いでしかない。望んでいるものがいるから、わたしは存在する」
「すべてのものが同じことを望んでいるわけじゃない。多くの欲求と共鳴して、本来の望みから大きく歪んだ君は、もはや御遣いではない」
「それは推測でしかない、ブギーポップ。わたしがそうであると証明できていない」
「する必要はない。君は誰もが理解できぬうちに、確実に、貪欲に、根こそぎに、全てを奪っていく。……断言しよう。未来精霊アマワ」
 一息。
「君は世界の敵だ」




「私は奪うぞ未来精霊アマワ。この場にいる全ての者達を。貴様が奪うよりも早く」
 強く握る拳は過去に砕いた拳。
 握れぬ拳に力を込め、まだどこかに居るであろうものに宣言する。
「新庄君の姿だけはくれてやろう。……だが」
 佐山は脳裏に新庄の姿を思い浮かべ、もはや軋みの来ない胸に手指を突き立て、覚悟の言葉を吐き出した。
「――他は私のものだ」



【C-6/小市街/1日目・13:00】
『悪役と泡・ふたたび』
【佐山御言】
[状態]:正常
[装備]:G-Sp2、閃光手榴弾一個
[道具]:デイパック(支給品一式、食料が若干減)、地下水脈の地図
[思考]:参加者すべてを団結し、この場から脱出する。
[備考]:新庄を思っても狭心症の発作が起こらなくなりました。

452 暗殺者に涙はいらない 1 ◆CDh8kojB1Q :2005/07/13(水) 22:41:33 ID:D7qZuQnc
 パイフウは陽光が降り注ぐ平原を歩いていた。
 いずこかより吹く風が彼女の長い髪をなびかせ、肌をくすぐる。
(エンポリウムに吹く乾きを運ぶ風とは違う……心地よい風ね)
 心に思うのは、荒廃した世界に反抗する活気有る機械の町と、
 僅かな安らぎを与えてくれる己の職場。
 しかし内心とは裏腹に、豊かな緑の大地を見る物憂げな瞳は常に周囲を警戒し、
 まるで散歩をしているかのような歩行には一切の隙がない。
 それでも見晴らしの良い平原を単独で移動するなど、
 この殺し合いの場においては無謀とも言える行為だ。
 暗殺者としての自分が、いつ誰から狙われるか分からないこの状況に危険信号を発している。
 だが構わない。
 一人を除いた、この島にある全ての命をただ刈り取ろうと自分は決めた。
 ならば今は一人でも多くの獲物と遭わねばならない。
 故に危険を避けては通れない。
(こんなギャンブル、暗殺者の取る行動とは思えないわね)
 一人失笑する彼女の視界が捉えるのは、
「――森、つまりE-4エリアに入ったのかしら?」
 しかし次の瞬間にパイフウが見たものは、問答無用の巨大な力で抉られた大地だった。

 数分後、彼女は人間数人分がすっぽり入る大きさの穴(恐らく何らかの範囲攻撃の跡だろう)の
 淵に立っていた。
「本当に……人外魔境ね」
 一体どれほどの戦力がここで衝突したのか見当もつかない。
(塵ひとつ残さず消し飛ばすなんて……あれは?)
 ふと、視線を森の方に向けたパイフウは一本の樹の下に残った物に注目した。
 僅かに周囲の大地よりへこんだそれは、
「――着地跡かしら? つまり……この木の上に誰かが隠れていた?」
 穴の付近で戦闘が起きていたのは間違いない。
 僅かながら穴の近くに、謎の範囲攻撃以外でできたと思われる血痕が有るからだ。
 ならば第三者が樹の上に姿を隠す理由とは、
「一番ありえそうなのは漁夫の利を狙ったから。
二番目は近づくと正体がバレて警戒される可能性が有ったから。
三番目は範囲攻撃を仕掛けたのはこいつで、その攻撃にはチャージもしくは反作用が伴うため、
時間稼ぎが必要だったから」
 特に三番目はかなり危険だ、もしも自分の推測が正しい場合、
 樹上に居た者は、数人の参加者を一撃で吹き飛ばせるスキル又は支給品を所有していることになる。
(冗談じゃないわ。私の龍気槍さえ制限されて大した威力が出ないのに……)
 もう少し、周囲を詳しく調べる必要が有る。
 個人のスキルか支給品かでその対処法は大きく異なるからだ。
 支給品ならばエネルギー兵器の可能性が高く、それらは一見して判別できるし、打ち止めも存在する。
 だが個人技であった場合は、回復すれば無限に使用できる可能性も有り、
 攻撃のモーションなども不明なので相対するまで対策の立てようがない。
 そこまで考えて、パイフウは自分に降り注いでいた陽光が樹木で遮られている事に気づいた。
 いつの間にか、心地よい風も止んでいた。

453 暗殺者に涙はいらない 2 ◆CDh8kojB1Q :2005/07/13(水) 22:44:40 ID:D7qZuQnc
「――見つけた」
 誰かが潜んでいたらしい樹の幹。そこには何かを突き刺した跡が有った。
(突き刺さったのは恐らく強固な刃物。この樹は下部に枝が無いから登る足場にしたのね)
 つまり、
(樹上に居た者は刃物の支給品と強力な範囲攻撃を有している、って事ね)
 パイフウにとっては、アシュラムやその主と同等の警戒すべき人物に違いない。
 
 しかし、パイフウが見つけたのは樹の刃物跡だけでは無かった。
 次に彼女が見つけたのは、何者かに刈り取られた後に穴を穿った一撃で吹き飛ばされたと思われる、
 生々しい女性の左腕と……その手が掴んだデイパックだった。
 死後硬直によって硬く握られているためか、パイフウがデイパックを持ち上げても
 その腕が離れて落ちる事は無い。
 穴の付近の血痕を辿って発見する事ができた、唯一残っていた被害者の体。
「デイパックの中身も残ってるって事は、穴を穿った者は自分が樹上から攻撃した後に、
これを探して回収する余裕が無かったようね」
 これは樹上の者が謎の範囲攻撃を行った後に、その音を聞きつけて寄ってくるであろう
 他の参加者から逃げたという事を示している。
(つまり……範囲攻撃は一度しか使えず、その後は戦闘不能になるという事かしら?)
 他の理由も有るのだろうが、今はこの程度の推測が限界だ。

 何はともあれ、パイフウはデイパックを開けて支給品を探した。
「武器が入ってれば最高なんでしょうけど……これは服……防弾加工品みたいね」
 手に持って取り出したのは、さらりとした肌触りの白い外套だった。
 他には手付かずの飲食物などの備品一式と説明書らしき物が入っている。
「『防弾・防刃・耐熱加工品を施した特注品』……まあ、やや当りの部類ね。
他には、『着用することで表面の偏光迷彩が稼動』ってステルス・コートの類似品じゃない!
何なのこの多機能すぎる外套は? ややどころじゃないわ、大当たりよ」
 性能を確かめるために外套を着込んだところ、本当に自分の体が見えなくなった。
 着心地もそれほど悪くなく、まるでさらりとした布の服を着ている様な感覚だ。
「周囲の光景をリアルタイムで表示する事によって、中の人間を透明に見せてるわけね」
 防弾・防刃・耐熱加工品を持たせた迷彩服。
 パイフウの世界なら、確実にテクノスタブーに引っかかるであろう代物だ。
 普通に歩行する程度では、まず他者から発見されることは無い。
(気配を消せる私には便利この上無いわね)
 試しに蹴りや手刀を何発か放ったところ、服の周囲に僅かな歪みが発生した。
「……多量の塵には弱いみたいね。他にも雨や霧の中だと性能低下が起こりそう……」
 だが暗殺には十分すぎる性能だ。これ以上の物を期待するのはわがままだろう。
 これなら自分の技能と併せる事によって、ある程度の強敵とも戦える。
(攻撃力は変わらないけど、戦術の幅が広がったのは有難いわね)
 己が殺人機械へと変わるのを自覚しながら、パイフウはその長い髪を掻き分けた。

454 暗殺者に涙はいらない 3 ◆CDh8kojB1Q :2005/07/13(水) 22:45:29 ID:D7qZuQnc
 殺戮の用意は整った。自身の能力の下方修正を行い、己の可不可も見極めた。
 後は……ただ狩り尽くすのみだ。
 血に飢えた白虎は、全身全霊を持ってこの豊かな大地を真紅の色に染め上げるだろう。
 脳裏に浮かぶのはハデスの教えの一つ。

 ――殺せる者は冷静かつ最速に残さず殺せ。心は捨てろ、鈍るだけだ――

「私はもう後悔しない。後退しない。ディートリッヒ……次に尻尾を出した時は……覚悟しなさい」
 偏光迷彩で姿を消し、心とともに殺意を消した死神は、
 静かに、しかし高速で陽光の下に歩を進める。
 
 後には、抉られた大地と刈り取られた左腕に掴まれたデイパックだけが残された。
 再び吹き始めた風は、それらの周りで怨嗟の叫びを挙げた後に、いずこかへと去っていった。


【E-4/平地/1日目・13:55】

【パイフウ】
[状態]:左鎖骨骨折(ほぼ回復・休憩しながら処置)
[装備]:ウェポン・システム(スコープは付いていない) 、メス 、外套(多機能)
[道具]:デイパック(支給品一式・パン12食分・水4000ml)
[思考]:1.主催側の犬として殺戮を 2.火乃香を捜す

[備考]:ディードリット支給品(飲食物入り・左手付き)がE-4/平地に放置されています。

455 殺人神父の人界救済 ◆E1UswHhuQc :2005/07/15(金) 01:51:37 ID:qduyPGFU
 十二時。昏倒し続けるハックルボーン神父は、朦朧とした意識の中で放送を聞いた。
 すべてを聞き終わり、失われた者達の一人一人に涙し、神父は起き上がった。
 敬虔なる神の使徒として、すべてのものに神の救いをもたらさねばならないというのに――
「十三名」
 失われた者達の人数を呟き、神父は苦悩する。
 神よ、自分に聖罰を。
 自分がいるというのに、彼らを貴方の御許へと導く事が出来ませんでした。
 膝をつき、両手を組んで神父は懺悔する。桁外れの信仰が可視波長まで及ぶ聖光効果をもたらし、周囲を浄化した。
 古傷から血が噴き出て床と壁を血に染める。聖罰を受けたのだ。
 神に栄光あれ。
 懺悔を終えた神父は、周囲を見渡した。彼を気絶させた無頼の輩は既に何処ぞへと立ち去り、少年の姿も見つからない。
 神父は一人。だがやることは決まっている。
「万人に神の救いを」
 悔いを残したまま死に、死者の魂が現世で彷徨うことのないように。
 この拳で、神のためにあるこの拳で。
 迷えるものたち全てに、救済を与えよう。
「万人に神の救いを」
 すべては神のために。アーメン。

                 ○

 歩き回った末に、神父はそれを見つけた。

456 殺人神父の人界救済 ◆E1UswHhuQc :2005/07/15(金) 01:53:17 ID:qduyPGFU
「ほらミリア! 牛肉だぞ!」
「狂牛病だね!」
「鶏肉もある!」
「鳥インフルエンザだね!」
「豚肉だ! しかも無菌豚!」
「うわあそれなら安全だよアイザック! さすがだね!」
「さすがだろ! そろそろブラック達と合流しようぜ!」
「さすがだね! 要は喜んでくれるかな!」
 商店街の一隅にある、無人の肉屋の店先。
 そこで商品を弄んでいる、二人の男女。
 二人の所業を見て、ハックルボーン神父は神に祈った。
 神は申された。
『汝、奪うなかれ』
 神父はのっそりと、二人の背後の立つ。と、二人のうち女の方がこちらを見つけ、
「――きゃああああああああ!!」
「どうしたミリア!?」
 悲鳴を上げた。鼓膜を震わす甲高い悲鳴をものともせず、神父は右の拳を振り上げた。
「あなたに神の――」
 男が振り返り、こちらを見て驚愕の声をあげる。
「ひ、一人っ! ってことはブラックが言ってたとおり、敵だな!?」
「どうしようアイザック! とうとう悪役登場だよ!?」
 怯えの表情ですがる女に、男は一本の刀を取り出して、
「心配するなミリア。この超絶勇者剣があれば、どんな相手でも真っ」
「――祝福あれ!」
 一歩で踏み込んだ神父の右拳が、男の台詞をさえぎって左頬に直撃した。
 ごきり、という致命的な音で、男の首が不自然な角度に曲がる。首の骨が折れたのだろう。
 間髪入れずに神父の左拳が男の右頬を打つ。
 鉄壁の信仰と日々の鍛錬に裏打ちされた打撃力が、男の首をちぎりとり、肉屋の中に吹っ飛んだ。
 神父の首の根から血が吹き出し、神父の両の目から涙がこぼれた。
 苦痛の涙であり、歓喜の涙でもある。
 ハローエフェクトとRHサウンドの、光と音による昇天が迅速に行われた。不死者アイザック・ディアンといえど、魂が昇天してしまえば再生はできない。
「ア――」

457 殺人神父の人界救済 ◆E1UswHhuQc :2005/07/15(金) 01:54:47 ID:qduyPGFU
 女が、がくがくと震えながら銃を抜いた。
 男の首は吊るしてあった豚肉の腸詰に絡まり、奇怪なオブジェとなっている。
「アイザックぅ―――――――!!」
 ろくに照準もつけない銃撃が、神父を襲った。
 放たれた七発の鉛弾のうち、当たったのは四発。左腕、右脚、左肩、右胸の四箇所。
 銃という武器は臓器に直接当たって破壊せずとも、その衝撃だけで人をショック死に至らせることのできる武器だ。
 だが、ハックルボーン神父の鋼の信仰心を折ることは出来なかった。
 ガチガチと、弾が切れてなお執拗に引き金を引き続ける女に近付く。
 命中した四発の弾丸は、神父の行動を妨げることにすら至らなかった。女はようやく気付いたのか、弾切れの銃を手から離した。神父は右の拳を大きく振りかぶる。
「あ、あいざっ……」
「祝福あれ」
 拳がミリア・ハーヴェントを恋人の元へ送る寸前に。
 何かに止められたように、急停止した。神父が止めたのではない。
「――だからヤなんだよ。地味すぎる」
 声は、女のもの。
 声の方を振り向けば、肉屋の向かいの魚屋の看板、楷書で“新・鮮・組”と書かれたそれの上に、一人の女が悠然と立っていた。
 彼女は瞳に怒りの炎を映し、びしっと右手の人差し指で神父を指し、叫んだ。
「よくもそのバカを殺ってくれたな……『地獄の宣教師』、いや『殺人神父』!!」
 目を凝らせば、女の左手から伸びた――複数の糸らしきものが、神父の右腕に絡み付いてその動きを阻害している。
 神父は無言で、右腕にさらに力を込めた。
 異常に膨れ上がった筋肉が絃の幾本かを引き千切るが、すべてを引き千切ることはできなかった。
 だが、神父の身体は神父だけのものではない。すべては神のものなのだ。
 神に栄光あれ。
 熱量を持つまでに至った聖光と更に膨張した筋肉が、残っていた絃すべてを引き千切った。
「逃げたりするなよ殺人神父。地獄の果てまで追い詰めるぞあたしは」
 女の宣告に、神父は静かな視線を向けた。
 人類最強と超弩級聖人の視線が交錯し……神父は、厳かな声音で告げた。
「あなたに神の祝福を」

【C-3/商店街/1日目・16:10】

『超弩級聖人』
【ハックルボーン神父】
 [状態]:銃創四箇所(右脚左腕左肩右胸)
 [装備]:なし
 [道具]:デイパック(支給品一式)
 [思考]:万人に神の救い(誰かに殺される前に自分の手で昇天させる)を
 [備考]:打撲・擦過傷などは治癒しました。

『人類最強』
【哀川潤(084)】
[状態]:怪我が治癒。創傷を塞いだ。太腿と右肩が治ってない。
[装備]:錠開け専用鉄具(アンチロックドブレード)
[道具]:支給品(パン4食分:水1000mm) てる子のエプロンドレス
[思考]:アイザックの仇を取る 祐巳を助ける 子荻は殺す 殺人者も殺す こいつらは死んでも守る 他の参加者と接触
[備考]:右肩が損傷してますからあまり殴れません。太腿の傷で長時間移動は多めに疲労がたまります。
    (右肩は自然治癒不可、太腿は若干治癒)
    体力のほぼ完全回復には残り8時間ほどの休憩と食料が必要です。 そこそこ体力回復しました。 ボンタ君は死んだと思ってます。

【ミリア(044)】
[状態]:心神喪失
[装備]:なし
[道具]:支給品(パン5食分:水1500mm)
[思考]:アイザックが
[備考]:ミリアのすぐそばに森の人(残弾0)が落ちています。

【アイザック・ディアン(043) 死亡】
【残り72人】

458 神将と神父の閃舞(1/5) ◆5KqBC89beU :2005/07/16(土) 14:13:58 ID:gze6IUQc
 鳳月と緑麗が地上に出られたのは、落下してから、かなりの時間が過ぎた後だった。
 地下遺跡の出入口で、手早く食事をしながら休憩し、すぐに神将たちは出発した。
「急がないと、待ち合わせの時間に遅れそうだな」
 何かしゃべっていないと力尽きそうだ、といった表情で鳳月が言う。
「すまない。それがしが、足手まといになっている」
 うつむく緑麗の顔は、土と埃に汚れ、疲労の色が濃い。
「そうでもないさ。正直、俺も限界が近い」
 ふらふらとよろめきながら、二人は西へ向かう。移動速度は普段の半分以下だ。
 緑麗は、地下遺跡の床が抜けたときに右足を骨折していた。自力で歩くことも、
立つことも不可能だった。だから、ずっと鳳月が肩を貸している。
 鳳月だって無事ではない。左腕は折れているし、左側頭部から出血していて、
ときどき平衡感覚がおかしくなる。右手の五指は、動かすたびに激しく痛んだ。
 さらに、双方とも、打撲や擦過傷の疼痛に全身をさいなまれている。
 もしも彼らが普通の人間なら、とっくに気絶していてもおかしくない。
「せめて、その、太極指南鏡がまともに動いてくれれば……」
 緑麗の眼鏡を見ながら、鳳月が愚痴をこぼした。彼女の眼鏡は、視力補正器具でも
装飾品でもない。天界の最長老にして発明家、太上老君の作った探査分析装置なのだ。
 本来なら、島中を隅々まで調べあげ、知人の居場所などを数秒で表示できるだけの
能力を秘めているのだが、見た目は単なる丸眼鏡だ。おかげで黒服たちに奪われず、
緑麗の手元というか目元に残ったわけだが……。
「この空間を造っている術は、探査の術と相性が悪いようだからな。まぁ、あるいは
 どんな術とも相性が悪いのかもしれないが。これでは、空間そのものに探査妨害の
 術がかかっているのと同じことだ。……すぐそばにいる相手くらいなら調べられるが、
 現状でも信用できるほどの精度があるかどうか」
「でも、取りあげられずに済んだだけでも良かったよ。俺の隣にいた赤髪の男なんか、
 黒服が見てる前で、眼鏡についてたカラクリを作動させちゃったせいで、あっけなく
 その眼鏡を没収されてたぞ」
 そうこう話しながら歩いているうちに、森林地帯の終わりが見えてきた。

459 神将と神父の閃舞(2/5) ◆5KqBC89beU :2005/07/16(土) 14:15:39 ID:gze6IUQc
 森の外には、とてつもなく珍妙な光景があった。
 奇天烈な物体――小屋のように見えるような気がしないでもない――を背景に、
筋骨隆々で傷だらけの巨漢が、無言で周囲を見回していたのだ。
 もはや誰もいないムンク小屋と、迷える子羊を探すハックルボーン神父だ。
 少し離れた森の中では、それを見た鳳月と緑麗が大いに迷っていた。
「なぁ、どうする? なんだか、ものすごく強そうな危険人物がいるぞ」
「いや待て。確かに外見は凶悪だが、あの巨漢からは邪気や妖気の匂いがしない。
 信じ難いことだが、むしろ清らかな聖気すら発しているようだ」
「おいおい、冗談だろ?」
「事実だ。納得しろ。おそらく彼は、平和主義者の武術家か何かなのだろう。
 『乗った』者に襲われ、仕方なく戦った後、仲間を探している途中、といったところか」
「……とりあえず話しかけてみるか。まず俺が一人で出ていって、信用できそうか
 判断してみるよ。緑麗は、ここで待っててくれ。というわけで、俺の荷物を頼む。
 万が一のときは走って逃げるから、身軽な方が良い」
「素手で大丈夫か、と言いたいところだが、どうせその怪我ではろくに戦えまいな。
 下手に疑心暗鬼を煽るくらいなら、まだ素手の方がマシか。たぶん平気だとは
 思うが、用心はしておけ。……いざとなったら、ここから術で援護する」
「やめとけって。片足が折れてるのに、居場所を教えてどうする気だよ」
「そのときは、それがしを囮にして生き残ってくれ」
「! ちょっと待てよ、何ふざけたこと言ってるんだ?」
「ふざけてなどいない。お前は、足手まといを守って無駄死にして、それで満足か?
 思い出せ。父上どののような立派な神将になりたいと言った、あの言葉は嘘か?
 お前が命懸けで守るべき相手は、同じ神将のそれがしではない。そうだろう、鳳月」
「でも……俺は……」
「そんな顔をするな。……いいのだ。天軍に入ったときから、とうに覚悟はできている」
「やめてくれ、縁起でもない。……いいか、俺たちは帰るんだ。麗芳や淑芳と再会して、
 天界に戻って、星秀のぶんまで生きていくんだ」
「鳳月」
「行ってくるよ、緑麗。俺は必ず戻ってくるから……だから、待っててくれよな」
 そう言って緑麗に背を向け、鳳月は静かに歩き出した。

460 神将と神父の閃舞(3/5) ◆5KqBC89beU :2005/07/16(土) 14:16:32 ID:gze6IUQc
「あのー……」
 背後からかけられた声に神父が振り返ると、少し離れた位置に子供が一人いた。
子供は荷物も武器も持っておらず、怪我をしていたが、それでも怯えてはいない。
「や、どうも、こんにちは」
 まっすぐ目を見て挨拶する相手を、快い、とハックルボーン神父は感じた。
 柔和な笑顔で軽く会釈し、神父は来訪者を迎える。内面の善良さがにじみ出るような、
親しげな挙動だった。当然だ。彼は、史上最強の超弩級聖人なのだから。
「俺は鳳月っていいます。争うつもりはありません。あなたと話がしたいんです」
 やや安心した様子で、子供が語りかけてきた。神父は鷹揚に頷き、厳かに言う。
「私の名はハックルボーン。神に仕える者」
 誰よりも先に、一刻も早く参加者たちを昇天させるために、情報はあった方が良い。
鳳月を神の下へと導くのは、話を聞いてからでも遅くはない。そう判断した結果だ。
「へぇ、そうなんですか。……だったら話が早いかもしれないな。
 えーと、実は俺、これでも一応、神サマの端くれなんですよ」
 鳳月の自己紹介を耳にして、思わず神父は天を仰いだ。にこやかだった笑顔が、
残念そうに歪む。神将たちが異変に気づいたときには、すべてが手遅れになっていた。
 ゆっくりと歩を進めながら、哀れみを込めた瞳で鳳月を見て、神父が一言ささやく。
「神を騙るなかれ」
 次の瞬間、敬虔なる神の使徒は、疾走と同時に拳を振りかぶっていた。
 鳳月が動くより先に、神父の全身が聖光を放つ。至近距離からの発光は目潰しとなり、
少年神将から貴重な一瞬を奪った。そして、鳳月の脇腹が、拳の一撃で大きく陥没する。
 奇跡と神通力が相殺しあい、生身と生身の勝負となった末に、神父の怪力が、鳳月の
内臓に致命傷を与えたのだ。救済の対象と同調し、神父の口から鮮血があふれる。

461 神将と神父の閃舞(4/5) ◆5KqBC89beU :2005/07/16(土) 14:17:29 ID:gze6IUQc
「アーメン」
 神父が拳を振り抜く。鳳月は、わずかに滞空してから地面に落ち、動きを止めた。
「――ぃ――ぅ」
 哀れな子羊が、小さく誰かの名を呼んで絶命する。数秒だけでも意識を保てたのは、
日頃の鍛錬があったからだ。彼の逝く先は、彼の見知らぬ天の上だろう。
「――太上玄霊七元解厄、北斗招雷――!」
 絶叫と共に、森の中から翡翠色の稲妻が撃ちだされ、神父を滅するべく大気を貫く。
 緑麗の必殺技、北斗招雷破。今の彼女では大した威力を出せないが、しかし当たれば
ただでは済まない。けれど神父は、鳳月の魂に同調して、神を見ている真っ最中だった。
「なっ!?」
 最大限に強まった聖光効果と神聖和音が、神通力の電撃を受け流した。
 全力で放たれた雷が、ハックルボーン神父に届くことなく四散していく。
 数百年に及ぶ、彼女の努力と研鑽が、完膚無きまでに全否定された。
 神との邂逅を邪魔された神父が、悲しそうに緑麗の方を向く。
「あ、ぁあ、ぁ……」
 慈愛に満ちた表情で、異世界の聖職者が駆けだした。急速に近づいてくる殺人者を
見つめながら、緑麗はただ呆然としている。体中から、力が失われていく。
「あなたに神の――」
 彼女が心に感じていたのは、憎悪でも悔恨でも恐怖でもなく、疑問だった。
「祝福あれ!」
 顔面へ迫る拳を前に、どうして、と緑麗はつぶやいた。

【031 袁鳳月 死亡】
【035 趙緑麗 死亡】
【残り 70人?】

462 神将と神父の閃舞(4/5) ◆5KqBC89beU :2005/07/16(土) 14:18:14 ID:gze6IUQc

【G-5/森の西端/1日目・13:40】

【ハックルボーン神父】
 [状態]:全身に打撲・擦過傷多数(治癒中)、内臓と顔面に聖痕(治癒中)
 [装備]:なし
 [道具]:デイパック(支給品一式)
 [思考]:万人に神の救い(誰かに殺される前に自分の手で昇天させる)を
 [備考]:迷える子羊を昇天させたことにより、奇跡が起こりました。
    傷が塞がっていきますが、一時的な現象です。持続はしません。

※森の西端に、支給品一式(パン4食分・水1000ml)×2、スリングショット、
 詳細不明の支給品が落ちています。詳細不明の支給品は、防具ではありません。
 鳳月のデイパックには、メフィストの手紙が入っています。
※緑麗の眼鏡(太極指南鏡)は破壊されました。

463 トリプルインパクト(三重激突) ◆E1UswHhuQc :2005/07/17(日) 01:32:57 ID:/lTxp5NM
「とぁ――――っ!!」
 哀川潤は全力で跳躍した。
 跳躍の方向は、真上。上方向以外のベクトルを持たないスーパージャンプを見ても、アイザックを殺した巨漢――神父は驚きすら見せない。
 上昇限界点に来たところで、彼女は左手の曲絃糸を引いた。神父ではなくその後ろ、肉屋の看板に絡ませておいた糸だ。
 空中に居る状態でそれを引けば、身体は引っ張られて前に進む。
「ライダァ――――キィィィィック!!」
 垂直ジャンプからの飛び蹴りを、神父は両手で受け止めた。
 砲弾のような衝撃が神父の腕、胴、脚へと伝わり、踏みしめたアスファルトが砕かれた。
 神父が脚を掴もうとする前に、哀川潤は神父の掌を蹴って跳躍回避。
 無駄にムーンサルトなど決めつつ、神父から数歩離れたところに降り立った。殴り合いには邪魔な曲絃糸を外して捨てる。
 半瞬にも満たない睨み合いの後に、爆音が響いた。
 両者が渾身の力で踏み込んだ為に、アスファルトの地面が砕けたのだ。
 常人なら数歩の距離を、人類最強と超弩級聖人は非常人たる己の力を全力で用いて縮める。
 拳を振りかぶった神父と対照的に、それを紙一重で避けた潤は身を屈めて神父の懐に飛び込んだ。
 平常ならば、ガチの殴り合いだろうと哀川潤は神父に負けず劣らない。
 だが、今の彼女は右肩を負傷している。殴り合いでは分が悪い。
 ゆえに哀川潤はハックルボーン神父の拳をかいくぐり、懐に飛び込んだ。
 左の肘を突き出し、疾走の運動力と全筋力のすべてを込めて打つ場所は心臓。
「おあああああっ!!」
 咆吼と同時に打撃した。
 肉を穿ち骨を砕き臓を破る一撃が、神父をえぐった。
 それは確実に胸骨のほとんどを砕き、心臓に致命的な損傷与えた。
 だが、神父の信仰までは砕けなかった。
 血の塊を吐き出した口で咆吼を叫び、繰り出した膝が哀川潤を吹っ飛ばした。

464 トリプルインパクト(三重激突) ◆E1UswHhuQc :2005/07/17(日) 01:33:48 ID:/lTxp5NM
「ぐっ!?」
 両腕を交差させてなんとかガードしたが、膝蹴りを受けた両腕の骨にヒビが入る。
 しかし痛みを堪え、体勢を立て直そうとする。だが神父が慈悲深き表情で慈悲深い拳を放とうとしている。今度は間に合わない。
 その寸前に。
 刃物を肉に突き立てた様な音が、神父の脇腹から響いた。
 そこに、ミリアが居る。怯えと怒りの入り混じった表情で、アイザックの持っていた刀で神父の脇腹を貫き、その先の腎臓へと切っ先を届かせて。
「アイザックの、カタキ」
 神父は刃を突き刺させたまま、ミリアの頭を掴んだ。
 そのまま引っ張るが、ミリアが刀を放そうとしないため、首がちぎれてしまった。
 首が取れてもミリアは刀を手放さない。神父は諦めて、取れてしまった首を放った。肉屋に飛び込んだ彼女の首が、先客の首とキスをする。
 神父はミリアの身体ごと刀を引き抜き、ふたつまとめて主のところに投げ返す。神は申された。汝、奪うなかれ。
「あなたに神の祝福を」
 聖印を切ると同時に聖光効果と神聖和音が発生。ミリア・ハーヴェントの魂を高次元に強制シフトした。
 そして。
 赤き制裁、死色の真紅、人類最強の請負人。
「……あたしが、このまま逃げるとは思ってないよなあ?」
 問いかける哀川潤の表情は、純粋な怒りに満ちている。
 神父に。アイザックに。ミリアに。自分に。主催者に。すべてのものに対する激怒の感情が吹き荒れる。
 魂消る様な激情が、赤い恐怖がハックルボーン神父を射貫く。
「逃げるものか。逃がすものか。二人が死んだのはあたしの責任だ。守ると決めたくせに出来なかった。不言不実行なんて笑いも取れねえ」
 哀川潤の言葉を、神父は懺悔だと判断した。
 だから言った。慈愛に満ちた声音で、
「神はすべてを赦されるでしょう」

465 トリプルインパクト(三重激突) ◆E1UswHhuQc :2005/07/17(日) 01:34:38 ID:/lTxp5NM
 血の塊を吐いて神父の巨体が崩れ落ちた。
 人類最強の打撃を心臓に喰らい、腎臓に刃を突き立てられて、生きていられる人間はいるのだろうか。
 血を吐き、膝を付き、天を仰ぎ、神父は断末魔の祈りを叫んだ。
「我が神、我が神、なんぞ我を――」
 終いまで言い終えないうちに力尽き、神父はゆっくりと倒れる。

               ○

 消え去っていく意識の中で、ハックルボーン神父は懺悔していた。
 我が神よ。私の力が足りぬばかりに、迷える子羊達を救うことが出来ませんでした。
 あなたの愛を拒む愚かなる者達に、それを与えることが出来ませんでした。
 我が神よ――私に、今一度の機会を。

「なるほど。君はそれを望んでいるのだね?」

 その通りです。神よ。
 意識の中で話しかけてきたものを、神父は神だと信じて疑わなかった。
 なぜならハックルボーン神父のすべては神に捧げられている。その心の中に囁いてくるのものは、神に他ならない。
 確かにそれは『神』の文字を持つ――“夜闇の魔王”だった。

「宜しい。君の『願望』を叶えよう」

 その慈悲に感謝します。貴き神よ。
 くく、と神――“名づけられし暗黒”は嗤った。

「興味深い。君は実に興味深い。
 ――さあ、刻印を解除し、『私』の力の一部を貸そう。
 君のねじくれた愛を、存分に振舞いたまえ」

 分かりました。神よ。あなたの無限の愛を、万人に伝えましょう。
 すべての善と悪の肯定者は、神父の愛をも肯定して暗鬱な笑みを浮かべた。

               ○

466 トリプルインパクト(三重激突) ◆E1UswHhuQc :2005/07/17(日) 01:35:28 ID:/lTxp5NM
 死者が三つ。
 アイザック・ディアン。ミリア・ハーヴェント。ハックルボーン神父。
 生者が四つ。
 哀川潤。高里要。シロ。フリウ・ハリスコー。
 哀川潤は自分以外の三者に、その事実を伝えた。
「……そんな」
 がくりと、要は膝を付いた。蒼白の顔色で、身を震わせている。
「ボクの血でも、駄目デシか……?」
「ああ」
 無慈悲に頷かれたシロは、目を閉じて身を縮めた。が、過去のことを思い出し、
「お医者さんに見せるデシ! ノルしゃんも一回死んだデシけど、生き返らせてくれたデシ!」
「そっちの世界の医術はどうだか知んねーが、ここじゃまず無理だ」
 冷静な返答に、今度こそシロは押し黙った。
「…………」
 フリウは沈黙を保っている。身体の震えを押し隠すように握る拳が青白い。
 皆、これからどうするのか、決めかねている。
「戯言だよな。いや傑作か? 《薔薇の香りのする最高の酒。ただし地獄の二日酔い》みたいな? ――アホか。あたしは」
「哀川さん……」
「名字で呼ぶな、フリウ。あたしを名字で呼ぶのは敵だけだ」
「……潤さん。これから、どうするの?」
 言いなおし、フリウが問いかけた。問いかけに、潤は冷静に答える。
「変わらない。全員で――全員で、脱出する。当面の目的は誰かに襲われる前に祐巳と合流することだ」
「そうです……ね」
 要は陰鬱に頷き、緑色の目でシロが叫んだ。
「――危険が危ないデシ!」
 叫びの直後、激音が響いた。
『――!?』
 全員が音の方向を向く。

467 トリプルインパクト(三重激突) ◆E1UswHhuQc :2005/07/17(日) 01:36:08 ID:/lTxp5NM
 “八百一”の看板が掲げられた八百屋の上に、人影が一つ。
 神聖なる光輝を背負い、暖かい慈愛を纏った大男が立っている。
 男の名は、ハックルボーン。神父だ。
「愚かなる子羊たちよ。もはや迷うことはない」
 恍惚の表情で、神父は言った。
「神の愛は無限だ」
 遠い何処かから暗鬱な笑い声が小さく響き、神父が跳躍した。
「逃げてろ!」
 哀川潤は茫然とする三者に鋭く叫び、神父の着地地点に駆け出した。
 傷があり、体調は万全とは程遠いが、怒りだけは無限にある。
「――死人は死んでろっ!」
 怒りのことごとくを拳に乗せて、哀川潤は神父に打撃を入れた。神父は右手でそれを受け、右腕の骨が完全に粉砕された。
 しかし神父は恍惚の表情を崩さない。慈悲深く哀川潤の頭に砕けた右手を乗せ、
「祝福を」
 乾いた音と湿った音と破れた音が同時にした。
 神父は右手を戻し、次なる子羊達に視線を移し、歩み始めた。
 その背後で、頭部を失った人類最強の肉体が、死してなお傲然と仁王立ちしている。
 荘厳な神聖和音が奏でられる中、フリウが動いた。
「――よくもっ!!」
 唇を噛み締めて、念糸を放つ。
 念糸の繋がれた先は、首。容赦なく全力でねじ切る為に、フリウはを意志を込めて標的を捻る――
「……っ!?」
 返って来たのは捻りの手ごたえではなく、反動だった。精霊に念糸を使ったのと同じ、いやそれ以上の反動で、フリウは地に膝をついた。不思議と戦意が失せ、身体が跪こうとする。
(駄目だ……戦わなくちゃ!)
 気を奮い立たせ、無理矢理に身体を起こす。
 あれだけの反動でも、念糸は効果を見せていた――霞む視界の中で、傾いだ頭の神父が立っている。
(……距離を……取らないと)
 精霊には精霊をぶつけるしかない。開門式を唱えるだけの時間を、距離を取らないといけない。
 と、視界が陰った。圧迫感に背後を見ると、

468 トリプルインパクト(三重激突) ◆E1UswHhuQc :2005/07/17(日) 01:36:59 ID:/lTxp5NM
「チャッピー! ――なんで大きくなってるの!?」
「今のうちに逃げるデシ!」
 巨大化したシロ、ホワイトドラゴンが叫び、神父に肉薄した。
 その隙にシロの後ろへと回り、距離を取る。水晶眼へと念糸を繋ぎ、口早に開門式を唱える。
 炎を吐いて神父を押し留めていたシロが、焦れたように叫んだ。
「フリウしゃん、要しゃんを連れて早く逃げるデシ!!」
「――開門よ、成れ。どいてチャッピー!!」
 なるべくシロが視界に入らないような位置を取っていたが、それでも入ってしまう白い巨体に言い、フリウは破壊精霊を解放した。
 それよりも一瞬早く、横っ飛びにシロが避け、大きさを小犬のそれに戻す。そこに出来たスペースに、銀色の巨人は音もなく顕れた。
 声が響く。

『我が名はウルトプライド――』

 破壊精霊が拳を振りかぶった。

「我が名はハックルボーン――』

 神父が拳を振りかぶった。

『全てを溶かす者!!』

「神の信徒なり!!」

 二つの拳が激突した。

 “夜闇の魔王”の――彼信じるところの『神』の力が、この世すべての反作用たる破壊精霊の力と拮抗する。
「嘘……」
 神父から発される聖光効果で眼が眩むが、フリウは無理矢理に眼を開け続けた。
 破壊精霊が咆吼をあげ、拳打の連続を開始する。呼応するように神父も拳を放ち、拳と拳との激突が衝撃波を生み、大気を砕いていく。
 その光景を水晶眼で見ながら――
(……駄目)

469 トリプルインパクト(三重激突) ◆E1UswHhuQc :2005/07/17(日) 01:38:01 ID:/lTxp5NM
 フリウは胸中で呟いた。
 破壊精霊が、圧し負けている――信じられないことだが、確かに圧し負けている。
 破壊精霊以外で、この相手をどうにかできるものなどないというのに。
(無い? ――違う。手はある。ひとつだけ)
 だがそれをやることは、破滅を意味していた。
(できない……できないよ。あたしがどうとかじゃない。全部壊すことになる)
 水晶眼に精霊を戻し、水晶眼を破壊する――解放された精霊は、尋常ではないエネルギーとともに解放される。解放されてしまう。全てを溶かす破壊精霊の、影ではなく本体が。
 そうなればすべては壊される。
(チャッピーも、要も、みんな。……でも)
 ここで相手を倒せなければ、どちらにしろ一緒かもしれない。
 ミズー・ビアンカ。アイザック・ディアン。ミリア・ハーヴェント。哀川潤。
 みんな死んだ。居なくなった。奪われた。
 そして残ったすべてもまた、死に、居なくなり、奪われるのだろう。
(……どうせ誰もいなくなるのなら……壊れても、いいのかな)
 サリオンが居たら、そんなことはしてはいけないと止めてくれるだろう。
 だが彼はここに居ない。
 視界の中で、とうとう神父の拳が破壊精霊に打ち込まれた。精霊が苦悶の叫びをあげる。
 静かに……呟いた。
「チャッピー、要を連れて遠くまで逃げて。うんと遠くまで」
「フリウしゃん……?」
 連続で打撃され、身体の半分ほどを削られた精霊が、しかし戦意を失わずに拳を振りかぶっている。
「逃げて」
「……分かったデシ」
 フリウの決意を読み取って、シロは要に近づいた。眼前で哀川潤の死を――血を見た為に気絶している彼の襟首を噛んで引き摺っていく。
 引き摺っていく音が途切れるのを待ちながら、フリウは眼前の戦いを見る。
 破壊精霊は、すでに元の大きさの四分の一ほどしかない。下半身、左半身が失われ、右半身と頭部だけが残っている。
 精霊が地面を打って飛び、最後の攻撃を仕掛けようとした時、引き摺っていく音が途切れた。閉門式を唱え、精霊を戻す。
「ううっ……!」
 激しい痛みに左目を押さえながら、フリウは神父の方へと駆け出した。
 精霊との殴り合いで、神父も無事な姿ではなかった。右腕は肩から千切れ、左の脇腹に大穴が空き、左腕は腕としての機能を有しておらず、首は念糸で傾いだままだ。
 神父の懐へと入る。妨害はなかった。神父は優しくフリウの身体を抱きとめ、そして、

470 トリプルインパクト(三重激突) ◆E1UswHhuQc :2005/07/17(日) 01:38:46 ID:/lTxp5NM
「祝福を」
「いらない」
 神父が頭を撫でようとする前に、フリウは――
 指で、自分の左目を突いた。
 激痛は一瞬。
 その後は、痛みすら感じられなくなった。
(父さん、サリオン、ごめんね……あたし、ここで死んだ)
 意識の中で、お前は愚かだと父が言い、優しく抱きしめてくれた。
 そんな夢を見たと、フリウ・ハリスコーは信じた。

 水晶檻が破壊されれば、中にいる精霊は凄まじい爆発を巻き起こしながら解放されるという性質を――

               ○

「う……」
 衝撃波に身体を打たれ、高里要の意識は覚醒した。
 意識はまだ朦朧としている。ここがどこなのか、なにをしていたのか、わからない。
 周囲を見回すと、白い小犬が倒れていた。
「傲濫……?」
 呟いて、違うと気付いた。
 ロシナンテ。ホワイト。ファルコン。チャッピー。シロ。
 幾つもの名前を――不本意ながら――つけられた、ホワイトドラゴン。
「……大丈夫?」
「ワン……デシ」
 声をかけると、シロもまた目を覚ました。周囲を見回し、
「フリウしゃんは……」
「いないんだ。ぼくが気絶してる間に、なにがあったの?」
 若干の沈黙のあとに、シロは答えた。
「お姉しゃん……潤しゃんが、死んじゃったデシ」
「……それは、見てた」
 赤い女性の頭が、赤く飛び散ったところを。
 思い出して、顔を歪ませる。麒麟にとって、血は不浄のもの。毒にも等しい。

471 トリプルインパクト(三重激突) ◆E1UswHhuQc :2005/07/17(日) 01:39:45 ID:/lTxp5NM
「大丈夫デシか?」
 気遣うように見上げてくるシロに、要は気丈を装って頷いた。
「大丈夫。……でも、これから……どうしよう」
 たった二人だけで、祐巳と合流し、この島から脱出できるのだろうか。
 できない、と思った。先ほどの大男のような人間に遭遇すれば、もう逃げることすらできない。
「どうしよう」
 同じ言葉をもう一度呟き、要はシロの瞳が緑色になっているのに気付いた。
「……え」
 重圧を感じて、後ろを振り向いた。
 破壊精霊が居た。
 銀色の巨人。氷河の亀裂のような外殻を持った、怪物。
 左半身を失った姿で、それが立っていた。なにをするでもなく、こちらを見ている。
 破壊精霊は視界に映るすべてを破壊すると、フリウは言っていた。
 視界の中で、精霊が身を動かした。
(止めないと)
 シロではあれに対抗できない。

 ――止めなくては。あの恐ろしいものを止めなくては。

 どうやって、と自問し、自答が返って来た。身体が動く。

 ――剣印抜刀。

「臨兵闘者階陳烈前行――!!」

 精霊の動きが止まった。
 動きを止めたが、叩歯は震えて出来ない。
(折伏――させる)
 この精霊は危険だ。すべてを壊す。
(逃げても、駄目。全部壊してまた会う)
 決意し、姿勢を正す。
 身体の震えを無理矢理に押さえ、前歯を鳴らした。気を集中させる鳴天鼓だ。
 鼻から息を吸い、口から吐く。
 時刻は――午後。死気であり、こちらに不利な時刻だ。
 これほどの相手ともなれば、ひとつの不利ですべてを砕かれる。
(でも、やらなきゃ)
 睨みあうだけで、気が殺がれる。
 汗が肌を伝う。視界がぼやける。
(……負けてる)

472 トリプルインパクト(三重激突) ◆E1UswHhuQc :2005/07/17(日) 01:41:12 ID:/lTxp5NM
 ぎりぎりの均衡は、わずかにこちらが不利だった。
「要しゃん……」
 背後で、シロがこちらの名を呼んだ。そして、言葉を続ける。
「……ボクが相手してる間に、逃げるデシ」
 聞こえた瞬間に、視界に白の巨体が入ってきた。
「――駄目!」
 気が逸れた一瞬で、破壊精霊が動きを取り戻した。
 拳の一打で白竜の腹を突き破り、鮮血と肉片を飛び散らせる。
 要の頬に、血が飛んだ。
 それを震える指でなぞり、目の前に持ってきて、
「……血」
 意識が揺らいだ。視界が揺らいだ。感覚の全てがおぼろになった。
 揺らぐ視界の中で、白竜が頭を潰された。勝ち鬨をあげた破壊精霊が、こちらに向き直るのが見える。
「……驍宗さま……」
 呟きと同時に、視界が銀一色となり、そして消えた。
「――――!!」
 破壊精霊ウルトプライドは獲物を屠った喜びに大きく咆吼をあげ、
「――――」
 力尽きて消滅した。
 あとはなにも残らない。
 すべてが終わったそこに、暗鬱な笑い声が短く響いた。


【C-3/商店街/1日目・16:30】
【ミリア・ハーヴェント 死亡】
【哀川潤 死亡】
【フリウ・ハリスコー 死亡】
【ハックルボーン 死亡】
【シロ 死亡】
【高里要 死亡】
【残り60人】

[備考]:
商店街に、巨大なクレーターが出来ました。
アイザック・ディアン、ミリア・ハーヴェント、哀川潤、フリウ・ハリスコー、ハックルボーン神父の死体及び各自の持ち物は、水晶眼の爆発によって消し飛びました。

473 暗殺者に涙はいらない 1改 ◆CDh8kojB1Q :2005/07/17(日) 18:05:10 ID:D7qZuQnc
 パイフウは陽光が降り注ぐ平原を歩いていた。
 いずこかより吹く風が彼女の長い髪をなびかせ、肌をくすぐる。
(エンポリウムに吹く乾きを運ぶ風とは違う……心地よい風ね)
 心に思うのは、荒廃した世界に反抗する活気有る機械の町と、
 僅かな安らぎを与えてくれる己の職場。
 しかし内心とは裏腹に、豊かな緑の大地を見る物憂げな瞳は常に周囲を警戒し、
 まるで散歩をしているかのような歩行には一切の隙がない。
 それでも見晴らしの良い平原を単独で移動するなど、
 この殺し合いの場においては無謀とも言える行為だ。
 暗殺者としての自分が、いつ誰から狙われるか分からないこの状況に危険信号を発している。
 だが構わない。
 一人を除いた、この島にある全ての命をただ刈り取ろうと自分は決めた。
 ならば今は一人でも多くの獲物と遭わねばならない。
 故に危険を避けては通れない。
(こんなギャンブル、暗殺者の取る行動とは思えないわね)
 一人失笑する彼女の視界が捉えたのは、森と問答無用の巨大な力で抉られた大地だった。

 数分後、彼女は人間数人分がすっぽり入る大きさの穴(恐らく何らかの範囲攻撃の跡だろう)の
 淵に立っていた。
 一体どれほどの戦力がここで衝突したのか見当もつかない
(塵ひとつ残さず消し飛ばすなんて……あれは?)
 ふと、視線を森の方に向けたパイフウは一本の樹の下に残った物に注目した。
 僅かに周囲の大地よりへこんだそれは、
「――着地跡ね」
 ならば、この樹の上に誰かが隠れていたという事になる。
 そして、穴の付近で戦闘が起きていたのは間違いない。
 僅かながら穴の近くに、謎の範囲攻撃以外でできたと思われる血痕が有るからだ。
 ならば第三者が樹の上に姿を隠す理由とは、

 一番ありえそうなのは漁夫の利を狙ったから。
 二番目は近づくと正体がバレて警戒される可能性が有ったから。
 三番目は範囲攻撃を仕掛けたのはこいつで、その攻撃にはチャージもしくは反作用が伴うため、
 時間稼ぎが必要だったから。

 特に三番目はかなり危険だ、もしも自分の推測が正しい場合、
 樹上に居た者は、数人の参加者を一撃で吹き飛ばせるスキル又は支給品を所有していることになる。
(冗談じゃないわ。私の龍気槍さえ制限されて大した威力が出ないのに……)
 もう少し、周囲を詳しく調べる必要が有る。
 そこまで考えて、パイフウは自分に降り注いでいた陽光が樹木で遮られている事に気づいた。
 いつの間にか、心地よい風も止んでいた。

474 暗殺者に涙はいらない 2改 ◆CDh8kojB1Q :2005/07/17(日) 18:06:00 ID:D7qZuQnc
「――見つけた」
 誰かが潜んでいたらしい樹の幹。そこには何かを突き刺した跡が有った。
 抉れ具合から察するに強固な刃物の可能性が高い。
 この樹は下部には枝が無いから登る足場にでもしたのだろう。
 それは、樹上に居た者は刃物の支給品と強力な範囲攻撃を有する事を示している。
 パイフウにとっては、アシュラムやその主と同等の警戒すべき人物に違いない。
 
 しかし、パイフウが見つけたのは樹の刃物跡だけでは無かった。
 次に彼女が見つけたのは、何者かに刈り取られた後に穴を穿った一撃で吹き飛ばされたと思われる、
 生々しい女性の左腕と……その手が掴んだデイパックだった。
 死後硬直によって硬く握られているためか、パイフウがデイパックを持ち上げても
 その腕が離れて落ちる事は無い。
 穴の付近の血痕を辿って発見する事ができた、唯一残っていた被害者の体。
 穴を穿った者は自分が樹上から攻撃した後に、これを探して回収する余裕が無かったらしい。
 ならば樹上の者が謎の範囲攻撃を行った後に、その音を聞きつけて寄ってくるであろう
 他の参加者から逃げたという事だ。
(無敵ってわけじゃあないのね)

 何はともあれ、パイフウはデイパックを開けて支給品を探した。
「武器が入ってれば最高なんでしょうけど……これは服……防弾加工品みたいね」
 手に持って取り出したのは、さらりとした肌触りの白い外套だった。
 他には手付かずの飲食物などの備品一式と説明書らしき物が入っている。
「『防弾・防刃・耐熱加工品を施した特注品』『着用することで表面の偏光迷彩が稼動』
ステルス・コートの類似品かしら?」
 性能を確かめるために外套を着込んだところ、本当に自分の体が見えなくなった。
 着心地もそれほど悪くなく、まるでさらりとした布の服を着ている様な感覚だ。
 恐らく、周囲の光景をリアルタイムで表示する事によって、
 中の人間を透明に見せるシステムだろう。
 防弾・防刃・耐熱加工品を持たせた迷彩服。
 パイフウの世界なら、確実にテクノスタブーに引っかかるであろう代物だ。
 普通に歩行する程度では、まず他者から発見されることは無い。
(気配を消せる私には便利この上無いわね)
 試しに蹴りや手刀を何発か放ったところ、服の周囲に僅かな歪みが発生した。
(……高速運動に偏光処理が追いつかない)
 だが暗殺には十分すぎる性能だ。これ以上の物を期待するのはわがままだろう。
 これなら自分の技能と併せる事によって、ある程度の強敵とも戦える。
 己が殺人機械へと変わるのを自覚しながら、パイフウはその長い髪を掻き分けた。

475 暗殺者に涙はいらない 2改 ◆CDh8kojB1Q :2005/07/17(日) 18:06:51 ID:D7qZuQnc
 殺戮の用意は整った。自身の能力の下方修正を行い、己の可不可も見極めた。
 後は……ただ狩り尽くすのみだ。
 血に飢えた白虎は、全身全霊を持ってこの豊かな大地を真紅の色に染め上げるだろう。
 脳裏に浮かぶのはハデスの教えの一つ。

 ――殺せる者は冷静かつ最速に残さず殺せ。心は捨てろ、鈍るだけだ――

(私はもう後悔しない。後退しない。ディートリッヒ……次に尻尾を出した時は……覚悟しなさい)
 偏光迷彩で姿を消し、心とともに殺意を消した死神は、
 静かに、しかし高速で陽光の下に歩を進める。
 
 後には、抉られた大地と刈り取られた左腕に掴まれたデイパックだけが残された。
 再び吹き始めた風は、それらの周りで怨嗟の叫びを挙げた後に、いずこかへと去っていった。


【E-4/平地/1日目・13:55】

【パイフウ】
[状態]:左鎖骨骨折(ほぼ回復・休憩しながら処置)
[装備]:ウェポン・システム(スコープは付いていない) 、メス 、外套(ウィザーズ・ブレイン)
[道具]:デイパック(支給品一式・パン12食分・水4000ml)
[思考]:1.主催側の犬として殺戮を 2.火乃香を捜す

[備考]:ディードリット支給品(飲食物入り・左手付き)がE-4/平地に放置されています。
    外套の偏光迷彩は起動時間十分、再起動までに十分必要。
    さらに高速で運動したり、水や塵をかぶると迷彩に歪みが出来ます。

476 暗殺者に涙はいらない 3改 ◆CDh8kojB1Q :2005/07/17(日) 18:07:35 ID:D7qZuQnc
 殺戮の用意は整った。自身の能力の下方修正を行い、己の可不可も見極めた。
 後は……ただ狩り尽くすのみだ。
 血に飢えた白虎は、全身全霊を持ってこの豊かな大地を真紅の色に染め上げるだろう。
 脳裏に浮かぶのはハデスの教えの一つ。

 ――殺せる者は冷静かつ最速に残さず殺せ。心は捨てろ、鈍るだけだ――

(私はもう後悔しない。後退しない。ディートリッヒ……次に尻尾を出した時は……覚悟しなさい)
 偏光迷彩で姿を消し、心とともに殺意を消した死神は、
 静かに、しかし高速で陽光の下に歩を進める。
 
 後には、抉られた大地と刈り取られた左腕に掴まれたデイパックだけが残された。
 再び吹き始めた風は、それらの周りで怨嗟の叫びを挙げた後に、いずこかへと去っていった。


【E-4/平地/1日目・13:55】

【パイフウ】
[状態]:左鎖骨骨折(ほぼ回復・休憩しながら処置)
[装備]:ウェポン・システム(スコープは付いていない) 、メス 、外套(ウィザーズ・ブレイン)
[道具]:デイパック(支給品一式・パン12食分・水4000ml)
[思考]:1.主催側の犬として殺戮を 2.火乃香を捜す

[備考]:ディードリット支給品(飲食物入り・左手付き)がE-4/平地に放置されています。
    外套の偏光迷彩は起動時間十分、再起動までに十分必要。
    さらに高速で運動したり、水や塵をかぶると迷彩に歪みが出来ます。

477 あと2時間30分(1/11) ◆eUaeu3dols :2005/07/19(火) 07:40:04 ID:ZlTtJbTg
「……さて」
森に踏み入っていくダナティアとテッサを見送り、リナとシャナがそこに残った。
「あたしたちも行くとしましょうか」
「言われなくてもわかってる」
ダナティアとテッサは仲間を増やすために別行動を取る。
リナとシャナは仲間と合流するために道を行く。
「でも、ちょっくら面倒そうね。
 東は禁止エリアでかなり塞がれてるし、直進すると罠が有るエリアだわ」
「そんなの関係ない。わたしは直進する」
あっさりとシャナが答える。堂々と、傲慢不遜な自信を漲らせて。
「ったく。力が有り余ってる時の正面突破は望む所だけど、もうちょっと考えなさいよ」
(まあ、あたしが言えた事じゃないけどさ)
ダナティアにもテッサにもそれを諫められている。
他人が同じ行動を取るのを見たおかげで、ようやく自分の無謀さが身に浸みた。が。
「ま、今回は正面から踏み潰しますか。安全な道を確保しておければ便利だわ」
それに、どちみち東回りの道は殆ど塞がれている。
リナは携帯電話に連絡を入れた。

「あと一時間は掛かる? なんでだ」
ベルガーが携帯電話に聞き返す。
既にC−6エリアに到着した彼らは、数棟ほど林立するマンションの一室で休憩していた。
狭い通路や幾つもの曲がり角、逃げ場の少ない構造は戦いになった時に危険だが、
簡単に調べた所、このマンションには他に誰も居ないようだった。
『スネアトラップが仕掛けられた森を突破するわ。あと1時間くらいかかるかもしれない』
「スネアトラップだと? 迂回すれば……いや、禁止エリアが有るのか」
『それに、道を開いておけば後で使えるわ。あと、ダナティアとテッサは遅れるわよ。
 テッサの捜し人の首根っこを掴みに別行動中よ』
(それじゃ最初に来るのはあの二人かよ)
ベルガーは、電話の相手に聞こえないように小さく溜息を吐いた。
よりによって面倒な二人が残ったものだ。
シャナの方はあの通りの性格だし、リナは……もう、捜し人が居ないのだ。

478 あと2時間30分(2/11) ◆eUaeu3dols :2005/07/19(火) 07:41:15 ID:ZlTtJbTg
「ま、なんにせよ捜し人が見つかったのは良かったじゃないか」
『そう素直に喜べればいいんだけどね』
リナが言葉を濁す。
「……どうかしたのか?」
『…………。! って、ちょっとシャナ、待ちなさいよ! あ、着いたら話すわ!』
「あ、おい!」
プツリと通話が途切れた。
セルティ・ストゥルルソンと、相手の番号の名前が表示されている。
「まったく、あの嬢ちゃんは相変わらずだな」
『大丈夫なのか?』
リナの使う携帯電話の持ち主が、少し不安げに文字を示す。
「なに、あの二人だってバカじゃないさ。罠の中を無理に突っ走ったりは……しそうだな、おい」
独走型のシャナと、どちらかというと過激派なリナ……組み合わせとしては最悪に近い。
『大丈夫なのか!?』
セルティが『大丈夫なのか』と『?』の間に無理矢理『!』を書き足した紙を突きつける。
「大丈夫ですよ、きっと」
そう言ったのは保胤だった。
「あのリナさんという方は、怨念が噴出しない限りは冷静で、警戒心も強い人です。
 そう無茶な事をする人ではありません」
「……だと良いんだがな」
そう、普通に考えれば何の不安も無いはずだった。

実際、二人は時間こそ掛かったものの何の問題もなく森を抜ける事が出来た。
その後ろには累々と破壊された罠が転がっている。
「しっかし時間がかかったわねぇ。なんか雨も降ってきちゃったし」
「リナが休憩をとったからじゃない」
「あんたが無造作に進むからでしょうが! 神経が磨り減って仕方ないわ」
C−6に入った二人は、互いに悪態を吐きながら近くにあるマンションに近づく。
「まず雨宿りも兼ねて適当な所に入って、そこから電話するわ」
リナは何事もなく冷静に行動していた。
誰一人予想出来なかった事が有ったとすればそれは、彼女達が別れた仲間と合流する前に、
海野千絵と佐藤聖に出会ってしまった事だった。

479 あと2時間30分(3/11) ◆eUaeu3dols :2005/07/19(火) 07:42:03 ID:ZlTtJbTg
その予想できなかった者達には、海野千絵と佐藤聖の二人までも含まれる。
本来二人は『如何にもファンタジー』といった外見の連中を避ける事に決めていた。
なのに自分達の隠れているマンションにそんな格好の参加者が近づいてきてしまったのだ。
一人は比較的現代風の格好をしているし、少々偉そうな以外は割合普通の少女なのだが、
もう一人の少女はファンタジーっぽい格好をしている上に、背中に長い剣を背負っていた。
(やばいっ)
一瞬隠れようとし……だが、千絵は気づいた。
ファンタジー風の少女の風貌が、アメリアから聞いていた『リナの風貌』に似通う事に。
雰囲気や意匠こそ違えど、彼女の衣服がどことなく同じ世界を感じさせる事に。
「待って、聖」
そして、耳を澄ませると聞こえてきた二人の会話と、その断片……リナという一言に。
「彼女を狙うわ。彼女はアメリアの知り合いよ。うまくやれば、罠に掛けられるわ」
アメリアの仲間なら吸血鬼は知っているだろう。
だが、同時に強い力を持った、罠に掛けられる相手でもあるのだ。
聖に対抗する時が来れば『アメリアを殺したのは彼女だ』と吹き込めば仲間に出来るのも魅力だ。
アメリアが死んだのがあの時とは限らないが、彼女がアメリアに重傷を負わせたのは事実だし、
そもそもそれが真実である必要は無い。
聖が言い返した所で、自分が短い間なりともアメリアと過ごしたアドバンテージは崩せない。
「私はもう一人の子の方が好みなんだけどなぁ」
聖が欲望に澱んだ目で返す。
千絵は不安を感じながらも説得した。
「別に片方だけとは言わないわ。
 刀を持ってるけど、見たところただの女の子みたいだし後に回せばいいじゃない」
「……ちぇっ。判った、前菜と思う事にするよ」
千絵は聖に手筈を伝えると、リナとシャナに会いに向かった。

「ふうん、そっちの方から出てきてくれるなんて手っ取り早いわ」
千絵が声を掛けようと思ったその瞬間に、先んじてリナが声を掛けてきた。
(まさか、見てる時から気づかれてた!?)
予想以上に相手が鋭い事に気づき、動揺しながらも反撃する。
「リナ・インバースさんですね? アメリアさんの仲間の」
今度はリナが動揺する番だった。

480 あと2時間30分(4/11) ◆eUaeu3dols :2005/07/19(火) 07:42:57 ID:ZlTtJbTg
「アメリアを……アメリアを知ってるの!?」
「はい。私は、ゲーム開始直後にアメリアさんと行動していましたから」
つらつらと語る。今や何の感慨も抱けなくなったあの時間の事を。
その記憶には、完全に理解出来ない喪失感だけが残っていた。
(私はそんなにあの子の血が吸いたかったんだろうか?)
何か違った気がする。
今からでも彼女の死体を捜してその血を啜れば、その理由が判るだろうか。
――彼女の思考は、既に根底から冒されている。
「その後はどうなったの?」
「アメリアさんは襲ってきた人から私を逃がすために残って……最期は、知りません」
襲ってきたのが聖である事は伏せ、その時は夜中だったから判らないと誤魔化す千絵。
「雨が降り出して、もしかしたら……野ざらしで雨に打たれているかもしれませんから。
 だから、せめて死体を埋葬する為に捜しに行きます。あなたも来ますか?」
「行くわ」
即答するリナ。シャナが少し不満げに問い掛ける。
「合流はどうするの?」
「少し待たせりゃ良いわ。シャナ、アンタだって勝手を通してたんだし、少しは付き合いなさい」
「……別に良いけど」
(かかった)
千絵はリナを自分の顎に掛けた事を確信した。
「それじゃ行きましょう。あなた達の分の雨具も有れば良かったんですけど」
「良いわよ、そんな大袈裟なの無くても」
千絵は自分達が吸血鬼である事を隠すためのマントをそう誤魔化すと、雨の中に歩き出した。

リナは実際、完璧に冷静ではなかった。
だが、それでも警戒心と観察力は鈍っていなかった。
(こいつら、吸血鬼だわ)
マントの隙間から見える青白い肌。赤く充血し、微かに光って見える眼。
そして、仄かに漂う嗅ぎ慣れた……血の臭い。
(アメリアを殺したのはこいつらかもしれない)
リナは何気ない風を装い、彼女達に付いて歩いて行った。
シャナも相手の正体に気づいている事を、考えるまでもなく確信して。

481 あと2時間30分(5/11) ◆eUaeu3dols :2005/07/19(火) 07:43:48 ID:ZlTtJbTg
だが、シャナは完全に油断していた。
海野千絵と佐藤聖と名乗った二人(日本人だろうか?)は完全に素人だ。
戦いの訓練を積んだ様子も戦い慣れた様子も全く無い。
マントから垣間見える腕だってまるで鍛えた様子の無い細腕だった。
シャナ自身もその外見からは想像できない怪力を秘めてはいるが、
その挙動の端々には歴戦の戦士ならば見て取れる『戦いへの慣れ』が潜んでいる。
二人にはそれが無い。
そして、シャナには吸血鬼の知識も無い。
元の世界では伝説や娯楽の世界にしか登場しなかった存在。
彼女は、そういった知識を与えられる事なく育てられた。
(でも、この微かな臭い……なんだっけ)
更にもう一つの盲点。
それは、血の臭いを嗅ぎ慣れていない事だ。
幾ら仄かに漂うだけとはいえ、その臭いを嗅ぎ慣れた物なら確実に気づく血の臭い。
リナは当然のように、シャナも気づいていると思っていた。
しかしシャナが抜けてきた戦いにおいて、血を流す者は殆ど居ない。
敵も、その犠牲者も、血を流す事無く消えていく。
最近までは一人で戦ってきたから、血を流すのは自分だけ。
自分が傷を負った時は嗅覚より先に痛覚に来るのだから、臭いはあまり記憶に残らない。
だから。

歴戦の戦士でありながら、シャナは吸血鬼に気づく材料を何一つ持ち合わせていなかった。


それでもまだ、千絵の計画が成功する要素は何一つ存在していなかった。
彼女はシャナは無力だと油断し、リナを狙おうとしていたのだから。
リナもまた、積極的に話しかけ、アメリアの事を知る千絵を警戒していた。
実際、彼女の計画は成功しなかった。だが……

聖の欲望に任せた襲撃を阻止しえる要素は、何一つ存在していなかった。

482 あと2時間30分(6/11) ◆eUaeu3dols :2005/07/19(火) 07:44:40 ID:ZlTtJbTg
「ぁ……ああああああああああぁっ!?」
「な、バカ!」
「しま……っ!?」
シャナの絶叫と千絵の悪態とリナの驚愕が次々に口を衝いて出た。
シャナの首筋に、純白の牙が深々と突き立っていた。
それが見る見るうちに色を塗り替えられ、紅い牙になっていく。
(そんな、なんで!?)
背後から自分に噛みついた女性は、確かに素人だったはずだ。
だがその動きは、油断していたとはいえシャナが捕らわれる程に速かった。
「このっ、放せ!」
強引に振り払おうと力を篭める。しかし……
(振り払え……ない!?)
シャナと拮抗し、僅かに上回るほどの怪力が彼女を掴んでいた。
振り回すシャナの腕が引っかかり、聖のマントは薄紙のように引き裂かれた
それを見て千絵も、シャナがただの少女ではない事に気づいた。
それでも聖の表情は揺らがない。
本当にちょっとした悪戯心に溢れた、自らの不利を考えもしない楽しげな笑顔。
「シャナちゃんだっけ。そんなに暴れなくても殺しやしないってば。ふふふ」
暴れるシャナによりマントが完全に剥ぎ取られ……聖の首筋が見えた。
千絵も気づき、自らの首筋に手を当てた。
(痕が、無くなってる……!?)
魔界都市において、吸血鬼の付けた吸血痕は身も心も吸血鬼化した時に消え去る。
アメリアに一撃で破れた時、聖の吸血鬼化は完了していなかった。
だからこそ、アメリアは聖を救えるかもしれないと夢見たのだ。
だが、完全に吸血鬼化……それも美姫直々の寵愛を受けた吸血鬼化を完了した聖は、
日光の遮られた雨空の下、圧倒的な肉体能力を思うがままに使いこなしていた。
その肉体能力に支えられた傲慢な自信が、計画に反した襲撃を実行させた

しかし、シャナもそれだけで手も足も出なくなるほどに弱くもない。
「放せって言ってるでしょ!」
精神を集中し、それを求める。
求めるは……炎!

483 あと2時間30分(7/11) ◆eUaeu3dols :2005/07/19(火) 07:45:26 ID:ZlTtJbTg
吹き上がった爆炎が降りしきる雨を蒸発させ、大量の水蒸気が周囲を覆った。
続けざまに高熱が上昇気流を呼び、水蒸気を巻き上げて立ち上っていく。
「――――っ!?」
押し殺した声が上がり、聖がゴロゴロと地面を転がる。
水たまりを転がり、雨水でボロボロに燃える衣服を消火する。
「もう、ひどいじゃない……っ!?」
ギリギリで身を放したため、火傷はそう酷くない。だが。
「まだよ! ファイア・ボール!!」
ずいぶん前からこっそりと詠唱を終えていたリナの火炎球が炸裂した。
「きゃあああああああああぁっ!!」
悲鳴を上げて飛びすさる聖。
更に、水蒸気の雲を抜けてシャナが跳びかかる!
「さっきはよくも!」
「ひぃっ!!」
肉体能力では聖の方が上だ。だがシャナは、刀を持ち、技を持ち、炎を操る。
ここに来て敗北を悟った聖は、背中を向けて全力で逃げ始めた。
「この、待てっ!」
シャナが追いかけるも、肉体能力の差が有る以上、追いつけるはずもない。
そしてそれ以上に……
「ふぅ……ふぅ……くそっ」
深々と咬まれた上に、聖を振り払うため自分を中心に爆炎を巻き起こしたのだ。
肉体的な損傷や消耗も、そう軽い物ではなかった。

一方、千絵も聖が逃げ出すのを見て脱兎の如く逃げていた。
(あの馬鹿! あんなタイミングで欲望に流されるなんて……!)
いずれ時期が来たらと思っていたが、さっさと縁を切るべきだ。
だが、それ以上に予想外だったのはもう一人の少女の方まで強敵だった事。
どういうわけか誰も追いかけて来ないが、とにかく少しでも遠くに逃げないといけない。
幸い、この雨空は彼女達吸血鬼を動きやすくしてくれるし、逃走にも好都合――
そう思った次の瞬間、千絵の意識は闇に沈んでいた。
「ぇ……?」
最後に見えたのは、鳩尾にめり込む拳と、男と、男と、バイクに乗った首の無い…………

484 あと2時間30分(8/11) ◆eUaeu3dols :2005/07/19(火) 07:46:21 ID:ZlTtJbTg
マンションの一室に、どこか陰鬱な空気が漂っていた。
薄暗い外からはざあざあという音が流れ込んでくる。
「……あの二人、来ないな」
ベルガーはベランダから、雨の降りしきる外を注意深く監視していた。
もう3時を過ぎたが、ダナティアとテッサはまだ来ない。
「罠のある森も有るし、雨も降り出したから、雨が止むまで待つのかもしれないわ」
そう言うリナも少し自信なさげだった。
捜し人がゲームに乗っていたとすれば、一騒動起きていてもおかしくない。
「まあ、彼女達は……いや。彼女達も冷静だ。なんとかなるだろう」
「……『は』って何よ」
「気にするな」
(こいつ、わざと言い間違えてからかったんじゃないでしょうね)
からかうのではなく試した可能性も有るし、故意に言った可能性は十分だ。
もっとも、そんな事はどうでも良いのだが。
「それより、あんたは大丈夫なの? シャナ」
咬まれた傷。爆炎による火傷。
更に短時間とはいえ戦闘を行った事により、腹部の弾は僅かに内出血を引き起こしていた。
「大丈夫。もう、痛みも引いてきたし」
だが、シャナの傷は異様な速度で治り始めていた。
元からシャナが備えていた自己治癒のレベルよりも、早い。
「……だからこそヤバイんじゃない。どんな具合?」
「やはり、リナさんの言う吸血鬼化という物なのでしょう。確かにそのような兆候が見られます」
シャナの具合を見ていた保胤が答えを返す。
「まだなりかけの状態ですが……悔しいですが、私の手持ちでは対処出来ません。
 その吸血鬼というのがどういった妖物なのかも判らないのでは、手が付けられません」
「あたしの世界の吸血鬼像なら教えられるんだけど……
 どうも、あたしの世界の吸血鬼とも違うみたいなのよね」
ベルガーも首を振る。セルティも判らないという素振りを返した。
「……それじゃやっぱり、そいつが起きるのを待って聞き出すしかないわね」
保胤が複雑な表情を浮かべる。彼にとっては彼女も被害者なのだろう。
シャナとは違い、既に吸血鬼化が完了してしまっているとしても。
シャナの隣のベッドに縛り付けられた海野千絵は、未だ昏倒状態にあった。

485 あと2時間30分(9/11) ◆eUaeu3dols :2005/07/19(火) 07:47:29 ID:ZlTtJbTg
「何か可能性が高い治療法は無いの?」
シャナが不満げに問う。
「そうね。やっぱり吸血鬼なら……咬んだ奴を殺すとかかしら」
シャナを咬んだ聖は何処かへ逃走してしまった。
千絵が起きるのを待って問いつめれば行動パターンくらいは読めるかもしれない。
だがそれしか無いとしても、シャナは悠長な方針に苛立ちを隠せなかった。
(手遅れになる)
まだ大丈夫だ。
そう思うのに、何故かそんな言いようのない予感が彼女を追い立てる。
『それより、吸血鬼という物は血を吸いたくなる物だ。それは大丈夫なのか?』
「別に。なんてこと無い」
心配するセルティにそっけなく返す。
シャナはセルティに対し、どこか余所余所しく対処していた。
さっき初対面の時に敵だと勘違いして刃を向けてしまい、どうも気まずいのだ。
大事にはならなかったし、セルティも気にしないと言ってくれたのだが。
セルティのように奇怪な容貌は、概ね敵に多かった。
「そうですか。それならしばらくは大丈夫かもしれませんね」
なってこと無い。
シャナのその答えに保胤は安堵すると、真剣な顔で付け加えた。
「どうやら吸血鬼化とは、肉体だけではなく精神も蝕む現象のようです。
 有効な治療法が無い以上、精神力で抑え込む他に有りません」
「問題無い。こんなの、半日は持つ」
「コンニャクの構えってやつだね」
……………。
「……盤石の構え?」
「うん、それそれ」
エルメスがいつものように諺を間違える中で、ベルガーは密かに顔を強張らせた。
半日。それは追跡して戦うには十分な時間かもしれない。
だが、耐えられる時間としてはあまりにも短い。
(思ったより余裕は無いみたいだな)
溜息を吐く。
(あんまり抱えこむんじゃねえぞ、シャナ)

486 あと2時間30分(10-11/11) ◆eUaeu3dols :2005/07/19(火) 07:48:11 ID:ZlTtJbTg
事実、シャナは追いつめられていた。
体の奥底からこみ上げてくる強烈な渇きと獰猛な衝動。
――血を啜り喉の渇きを癒したい。

(違う! わたしはそんなこと思ってない!)
フレイムヘイズとしての誇りと、傲慢でありながらも気高き意志で衝動を抑え込む。
だが、そうする間にもその衝動は強まってくる。
半日は持つというのは、嘘だ。
半日持たせるのが限界なのだ。
そして、何よりも辛いのは……孤独である事だった。
(悠二……)
リナには頼れない。
二回目の放送の時、リナには酷い事を言ってしまった。
一回目の放送の時から悠二の名が呼ばれるのが怖くて、まるで冷静になれなかった。
だから、ムンク小屋で休んでいる間に無理矢理に心を落ち着けて。
そうしたら飛び出してしまった酷い言葉。
きっとまだ内心では怒っているだろう。
(アラストール……)
ベルガーにも頼れない。
口喧しく贄殿遮那を返せと罵り、初対面の時は無理矢理奪おうとさえした。
きっと、自分を嫌っている事だろう。
贄殿遮那が有れば生き残れる。
そう思ったのだって、いつも自分の側に居てくれる人達が居ない不安の裏返しじゃないのか。
(ダナティア……)
悠二には未だに会う事が出来ない。
自分の中に在るアラストールと話す事さえ出来ない。
アラストールにシャナを頼まれ、真摯になってくれるであろうダナティアも、居ない。
弱いけど合理的に冷静に考える事が出来るし、仲が特別悪くも無いテッサも、居ない。
さっき会ったばかりの上に、刃を向けてしまったセルティにも、
彼女とチームを組んでいた保胤にも頼れない。
エルメスに頼って何になるか。
気づいた時、シャナの周りに心を許せる相手は誰も居なくなっていた。



――もう間に合わない。手遅れになる。
(そんな事無い!)
湧き上がる不吉な予感を振り払う。
(悠二……きっと悠二に会えれば……)
何とかなる。そう思う。
悠二ならきっとなんとかしてくれる。
吸血鬼なんかにならないで済むと思う。
だから……
(悠二……早く会いたいよ……)
それに縋り、必死に自分を保っていた。

彼女は気づいていない。
自分の予感が何を指し示しているのかを。
本当に手遅れになろうとしているのが何なのかを。

あと1時間でそれは決まり。
あと2時間と30分でそれが報される。

487 あと1時間30分【状態】(1-2/2) ◆eUaeu3dols :2005/07/19(火) 11:14:30 ID:ZlTtJbTg
【C-6/住宅地のマンション内/1日目/16:30】
『不安な一室』
【リナ・インバース】
[状態]:平常。わずかに心に怨念。
[装備]:騎士剣“紅蓮”(ウィザーズ・ブレイン)
[道具]:支給品二式(パン12食分・水4000ml)、携帯電話
[思考]:仲間集め及び複数人数での生存。管理者を殺害する。
千絵が起きたらアメリアの事も問いつめ、内容によって処遇を判断する。

【シャナ】
[状態]:平常。火傷と僅かな内出血。吸血鬼化進行中。
[装備]:鈍ら刀
[道具]:デイパック(支給品一式(パン6食分・水2000ml))
[思考]:聖を発見・撃破して吸血鬼化を止めたい。悠二を見つけたい。孤独。
[備考]:内出血は回復魔法などで止められるが、体内に散弾片が残っている。
     手術で摘出するまで激しい運動や衝撃で内臓を傷つける危険有り。
     吸血鬼化は限界まで耐えれば2日目の4〜5時頃に終了する。
     ただし、精神力で耐えているため、精神衰弱すると一気に進行する。

【ダウゲ・ベルガー】
[状態]:心身ともに平常
[装備]:エルメス、贄殿遮那、黒い卵(天人の緊急避難装置)
[道具]:デイパック(支給品一式(パン6食分・水2000ml))
[思考]:仲間の知人探し。シャナが追いつめられている事に気づく。
 ・天人の緊急避難装置:所持者の身に危険が及ぶと、最も近い親類の所へと転移させる。

【セルティ・ストゥルルソン】
[状態]:やや疲労。(鎌を生み出せるようになるまで、約3時間必要です)
[装備]:黒いライダースーツ
[道具]:携帯電話
[思考]:静雄の捜索及び味方になる者の捜索。

【慶滋保胤】
[状態]:不死化(不完全ver)、疲労は多少回復
[装備]:ボロボロの着物を包帯のように巻きつけている
[道具]:デイパック(支給品一式(パン6食分・水2000ml))、「不死の酒(未完成)」(残りは約半分くらい)、綿毛のタンポポ
[思考]:静雄の捜索及び味方になる者の捜索。 島津由乃が成仏できるよう願っている

【海野千絵】
[状態]:吸血鬼化完了(身体能力向上)、シズの返り血で血まみれ、厳重な拘束状態で気絶中
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(パン6食分・シズの血1000ml)、カーテン
[思考]:気絶中。聖を見限った。下僕が欲しい。
     甲斐を仲間(吸血鬼化)にして脱出。
     吸血鬼を知っていそうな(ファンタジーっぽい)人間は避ける。
     死にたい、殺して欲しい(かなり希薄)
[備考]:首筋の吸血痕は殆ど消滅しています。
[チーム備考]:互いの情報交換は終了している。
         千絵が目を覚ましたら、吸血鬼に関する情報を聞き出して行動。


【X-?/????/1日目/14:30】
『No Life Sister』
【佐藤聖】
[状態]:吸血鬼化完了(身体能力大幅向上)、シャナの血で血塗れ、多少の火傷(再生中)
[装備]:剃刀
[道具]:支給品一式(パン6食分・シズの血1000ml)、カーテン
[思考]:身体能力が大幅に向上した事に気づき、多少強気になっている。
     千絵はうまく逃げたかな。
     己の欲望に忠実に(リリアンの生徒を優先)
[備考]:シャナの吸血鬼化が完了する前に聖が死亡すると、シャナの吸血鬼化が解除されます。
     首筋の吸血痕は完全に消滅しています。
     14:30に逃走後、16:30に生存が確認(シャナの吸血痕健在)されています。

488 十叶詠子の人間試験 :2005/07/22(金) 17:53:14 ID:pBSSTsig
「残念、ちょっと遅かったみたいだね」
 言葉とは裏腹な笑みを浮かべて、彼女は現れた。
 右手に抜き身の短剣。それ以外はディパッグすらも持っていない。
 薄手のセーターとデニムのパンツは、絞ればバケツ一杯分の水が出てくるんじゃないかと思うほどに濡れそぼっている。
 彼女は唐突に、それこそ気配から足音まで何の予兆もなく人識の後ろに立っていた。
 みれば水溜りは玄関から途切れることなく続いていて、人識は足音の不在に首をかしげる。
 そんな殺人鬼を見ることもなく、ぴちゃり、と濡れた水音を引きずって、彼女は事切れた少年へと歩み寄った。
 血だまりに躊躇いなく足を踏み入れ、その手をそっと差し伸べる。
 絡みつく水草から滴る雫が、ぽつり、ぽつりと血の池をうがつ。
 体温を感じさせない白い指が、そっと彼の瞳に添えられた。
「かわいそうな子。せっかく本質を見る瞳と、世界を知る資格をもっていたのにね」
 慰めの言葉とともに、ゆっくりと閉じさせ、黙祷。
 こうまでされると流石に人識も萎えた。
「あー、知り合いだったか? 悪ぃな」
 ぼりぼりとその髪を掻きあげ、彼なりに謝罪。
 悪びれる風もなく、しかし重さのない口調で。
 彼女は濡れそぼった髪を青白い頬に張り付かせ、緩慢な動作で振りかえった。会釈の代わりかにこり笑う。
 そして静かに首を振った。
「ううん、初対面」
 とたん人識の首ががくりと落ちる。なんだよ、だの、ダセー、だのとぶつぶつ呟き、
「『二死満塁から逆転の一撃、ただしデットボール』みたいな! ってかんじだぜ。つーか謝り損じゃねぇか」
 がぁぁー、と髪を掻き毟った。と、その手をぱたりと止めて。
「んで、結局こいつ誰なのよ」
 自らがばらした死体を指差した。

489 十叶詠子の人間試験 :2005/07/22(金) 17:54:01 ID:pBSSTsig
「この子は‘彷徨う灯火’君、昔は燃え滓だったみたいだけど、中身があんまり眩しいものだから、いろんなものを引き寄せてしまう。
でも自分の光じゃ自分の足元は照らせない、自分を見出すことは出来ない。だからいつまでも自分の立ち位置を決められないの」
 濡れた服を全て脱いだ彼女、今は患者用と思しきガウンを羽織っている。
 説明しながら少女は部屋の隅で見つけた姿見を遺体の前に置く。ちょうど窓と向かい合わせになるように。
「彼はここでも彷徨ってた。でも私の選別を受けて、物語を知って、自分の瞳を取り戻して。後は訓えを受けるだけだったのに! 
あぁ、“出会えなかった魔女の弟子”!」
 手を休め、嘆くように諸手をあげて宙を抱く。
 慣れない力仕事が裾がはだけさせ、襟元が覗かせる。
 その肌の色は蒼白を通り越してすでに淡い赤。
 濡れ鼠になって風邪でもこじらせたか。湖に落ちた、という彼女の言からすればタチの悪い感染症も考えられる。
(近寄りたくねぇ)
 適当に距離をとって適当に聞き流して、人識はなぜかお湯の入れてあったカップ麺すする。
 どこまでも優しくない男、零崎人識。
「幕はまだ残っている。最終章まではたどり着けなくても、せめて想い人には逢わせてあげたいな」
 そうじゃないと可哀想だものね。視線に気づいたか、呟く彼女は作業で乱れたガウンの裾を正す。
「彼はね、とっても特別なチカラととっても大きなチカラを秘めてるの」
 彼女の弁はまだ続く。
 語りに全く温度がないのによくも続くもんだと頷き、人識はのびっきた麺をかきこんだ。
 兄をはじめ、こういう手合いは話す内に熱をあげてくものだと思っていた彼だが、
(これが真性てやつか)
 認識を改めるとともに危険人物から一歩退く。
「でも生き残るには不十分だったんだね。あ、責めてるわけじゃないんだよ。君の殺人鬼の物語には犠牲者が必要だもの
 ただ彼は最期にその特別なチカラと大きなチカラで願うの、ああ、僕を待ってるあの娘に逢いたいって」
 そこで彼女は言葉を止めた。凄惨な、それこそ零崎のような笑顔を人識に向ける。
「魔女のあたしは彼の魂を鏡に送る」
 壁に這わせた細い手が部屋の電気のスイッチにかかる。
「私はここに合わせ鏡をしにきたの」
 かちりと部屋に光が満ちる。
「そういえば挨拶がまだだったよね」
 窓は一瞬で鏡となって、倒れた少年を無限に写す。
「夜会にようこそ、‘合わせ鏡の殺人鬼’君」

490 十叶詠子の人間試験 :2005/07/22(金) 17:57:48 ID:pBSSTsig
「もうすぐ四時四十四分。放課後の怪談の時間。ねぇ、君は不思議だと思わない? 
 時間なんて本当はどこでも同値だよね。十時五十二分も八時時十七分も区別がつかないはずなのに、何故四時四十四分なんだと思う?」
「不吉な数字てのは明らかに後付だよな。あれだろ。薄明、誰彼、逢魔ヶ時てのもあったな。柳田國男だったか? まぁいいや。
 とにかく山とか海に入った人間が帰ってこなくなる時間だ。『はないちもんめ』や『かくれんぼ』の最中に消えたりな。
 ようはさ、昼から夜に変わる中で『違う世界につながっててもおかしいねぇ』て感覚がどっかにあるからじゃねぇの?」
 魔女は彼の身体を鏡へ寄せる。死体は力なく姿見にもたれかかった。
「そうだね、最後のチャイムを聞いた人は、夜の学校に入ってしまう。黒板に円を書くと四次元の世界に連れて行かれてしまう。
 山に遊びに行った兄弟、兄は帰ってきたけれど、弟は帰ってこなかった。
 ほとんどの物語が『連れ去られる』『帰ってこない』で終わるのは、人が『違う世界』との繋がりを見出してるから
 私は鏡の世界にこの子を送るの。見立ては好きじゃないけれど、この子が望んだことだから、私はこのコを物語にする」
 欠陥製品のヤローも物語とか何とか言ってたな、人識はそんなことを思い出す。
「そして死後の世界は虚像の世界、鏡像世界は冥府の姿。狭間の時間、もしも彼女が鏡を見たら、そこにはきっと彼が映っている」
 魔女は呟く、四時四十四分。
 空気が変わる。よどんだ鉄錆の臭い。腐った水の臭い。
 零崎が注視する中で、肢体はそのまま、ずぶりと沈んだ。
 波紋のように波立つ鏡面が腕をひたし、肩を飲み込み、首までつかる。
 彼女はもはや手を離しているのに死体はゆっくりと鏡の中へと落ちていく。
 気がつけば、あれほどの雨音が消えていた。
 世界にあるのは扉だけ。何もない空間に、ただ水底の闇がぽっかり口をあけている。

 こんなにも異常な世界で二人だけが変わらない。

「すごいね、君はもう『合格』してるわけ……」
 瞬間人識のの右手が閃いた。
「悪いな、どっかの誰かのせりふとあんまり似てたもんだから」
 一筋の亀裂が世界に走る。
「殺しちまった」

 砕けた。
 ガラスの破片は水しぶきのように、光をばら撒き、床で弾ける。
 人識が覆った目の向こうで、反射光が世界を隠し、水音が世界を満たす。
 目を開ければ、全てが現実に帰還していた。
 割れた窓からは雨が容赦なく降り注ぎ、床は水とガラスで一杯だ。
 蛍光灯の明かりの下でそれらは無機質に光を反射し、空白の足跡がくっきりと玄関のほうへと続いていた。
 時計を見れば長針は、まだ行儀よく真横を指している。
 全ての異常が終わったことを知り、零崎はそれらをただ一言で締めくくる。
「ま、退屈はしなかったな」
【残り69人 】
【C-8/港町の診療所/一日目・16:45】

【零崎人識】
[状態]:平常
[装備]:出刃包丁/自殺志願
[道具]:デイバッグ(地図、ペットボトル2本、コンパス、パン四人分 保存食10食分、茶1000ml、眠気覚ましガム、メロンパン数個
          消毒用アルコール、総合ビタミン剤、各種抗生剤、注射器等の医療器具)
    包帯/砥石/小説「人間失格」(一度落として汚れた)
[思考]:電波だったなぁ、
[備考]:記憶と連れ去られた時期に疑問を持っています。
    雨が止んだら港を見てまわってから湖の地下通路を見に行きます。

【C-8/港町/一日目・16:45】

【十叶詠子】
[状態]:全身ずぶぬれは一応ふき取りました、衰弱、肺炎、放っておくと命にかかわる
[装備]:魔女の短剣、
[道具]:濡れた服
[思考]:1.悠二を物語化。
    2.物語を記した紙を随所に配置し、世界をさかしまの異界に。
[備考]:服は全て脱いで、診療所にあった患者用のガウンを着用しています。

491 案内役の魔女の使徒(仮) :2005/07/24(日) 21:09:02 ID:vfBNLoRM
あなたは彼女を覚えてる?
忘れているなら、思いだしてあげて。
忘れられるのはとてもとても哀しい事だから。
だから、みんなに思いだしてもらうの。
私が殺した少女の事を。

        落ちる先は湖。
         湖には水面。
           水面は鏡。
            鏡は扉。
  扉の向こうに誰が居る?
  扉の向こうに何が在る?

彼女は闇夜で殺された。
彼女は海辺で殺された。
彼女はメスで殺された。

夜は異界が近づく時間。
闇夜に異界が隠れてる。
海は神様が住まう場所。
海に呑まれたお供え物。
メスの用途はなおす事。
裂かれた人の病を癒す。

そして誰か、覚えているか。
殺された少女の名前を覚えているか。

魔女は言う。
「あの子の魂のカタチは『陸往く船のお姫さま』。
 王子様に誘われて陸を進むようになっても、船を降りたわけじゃない。
だって、“彼女こそが船だから”」
――そして船は、海と陸とを橋渡す。

492 案内役の魔女の使徒(仮) :2005/07/24(日) 21:09:42 ID:vfBNLoRM
「あなたが魔女になれなかったのは残念だよ」
其処は異界。
水面の鏡面から飛び込んだ、鏡の異界の何時かの何処か。
澱んだ水の臭いと、耳が痛くなるほどの静寂に包まれた世界。
「カタチを与えてあげる事さえ遅くなって、本当にごめんね」
ピチャピチャと湿った音がする。
魔女の手首から滴る一筋の紅い血を、白い少女が舐めている。
「ふふ……しばらくはそれで保つかなぁ」
魔女は血を水面に滴り落とした。
水面は鏡。鏡は門戸。血は鏡の世界に滴り落ちた。
門戸は鏡。鏡は水面。血は水面から海へと流れ……
海に呑まれた『陸往く船のお姫さま』へと贈られた。
魔女の生き血はヨモツヘグリ。
なりそこなった哀れな子に、仮の体を与えてあげる。
そうして魔女の使徒が一人生まれた。
「…………」
ピチャピチャと音がする。

「…………」
やがて、血を舐め終わった少女が立ち上がる。
魔女の手首に傷は無い。
「さあ、案内してね。私は様子を見るために、一度島へと帰るから」
「…………」
魔女の使徒はこくりと首肯すると、魔女を異界の出口へ誘った。
魔女は使徒を手に入れた。
使徒は魔女を案内し、異界の準備を整える。
24時の異界のために。

そして魔女は、再び島へと門戸を潜る。
鏡を抜けて、水面を抜けて、海から陸へと帰り着く。
物語を広めるために。

493 案内役の魔女の使徒(仮) :2005/07/24(日) 21:10:25 ID:vfBNLoRM
魔女は港に佇んでいた。
港は海から人が帰る場所だ。
「さあ、どうしようかな。
 法典君はきっと不気味な泡さんと一緒だね」
戦おうと思えば、佐山を味方に付け自分を殺そうとしたブギーポップと戦えるだろうか。
しかし、彼女にそうする理由は無い。
「そうだね、しばらくは様子を見ようかな。物語はもう広がっている」
くすくすと笑い、詠子は歩き始めた。
島を一望出来る場所……灯台へ。


【C-8/港/1日目 13:20】
【十叶詠子】
[状態]:健康
[装備]:魔女の短剣、『物語』を記した幾枚かの紙片
[道具]:デイパック(支給品一式、食料が若干減)
[思考]:灯台に向かう

鏡の異界の中に魔女の使徒ティファナが出現しました。
肉体が失われているため、異界の中にしか居られません。
魔女の使徒は記憶や人格などは有していますが、詠子に従うだけです。
基本的に言葉で相手を堕落させるだけで、戦闘能力は有りません。

494 疑惑のあやとり(1/8) ◆eUaeu3dols :2005/08/03(水) 00:34:15 ID:ASvCsZpo
され竜は読み始めようかという所でクエロ知りません。
思考とか口調について齟齬が無いか意見お願いします。
ついでにアイテムに増える奇怪肉塊Xについても。
……使用時は原作設定を利用出来そうなネタは有るけど、
現時点では原作には無かったよく判らない物体でしかないので、
変な使い方しようとしたらNGになりそうな役立たずアイテム。
流れ上、ヨルガに何か手を加えないと変なので処理しておいたとも言える。

――――――――――――――――――――――

「ん…………」
うっすらとクエロは目を開いた。
目に映るのは白い天井と蛍光灯の明かり。それと周囲を囲む白いカーテン。
保健室のベッドだ。
微かに雨音がする事からして、どうやら雨が降っているらしい。
(あれから3時間という所ね。調子は……)
シーツに肘を突いて起きあがる。
……予想以上に全身が気怠い。
最初は咒式の反動が主要因だと思っていたが、思い返してみるに
ゼルガディスに受けた崩霊裂(ラ・ティルト)の効果もかなり大きかったようだ。
3時間の睡眠を取ったというのに、あまり疲れが取れていない。
(もうしばらくは大人しくしておくべきね)
元より、身が危うくなるまでは派手に動かない予定だ。
少なくともクリーオウの信用は十分に得ているし、他の4人にもそう疑われてはいないはずだ。
そこまで考えて、ふと気づく。
「誰か居ないの?」
返事はすぐに返ってきた。
「おや、起きていたのか。おはよう」
カーテンの向こうから聞こえるのは抑揚が小さいサラの声だ。
「いいえ、今起きたわ」
「そうか。クリーオウがトイレに行くからと同伴を交替した所だ。
 クリーオウが戻ったら、眠っていた間の議事録を見せてもらってくれ」
「助かるわ」
クリーオウが自分に嘘を吐く事はまず無いだろう。
なら、彼女の見せる議事録も確実な情報と見て良い。
「ところで少し話が有るのだが、良いだろうか」
「話……?」
「クエロが持っていた弾丸についてだ」
(……何か気づかれたの?)
クエロはベッドの脇に置いていた贖罪者マグナスと高位咒式弾が無い事に気づいた。
(まずい事には気づかれてないと良いのだけれど……)
内心で少し警戒しながら続きを待つ。

495 疑惑のあやとり(2/8) ◆eUaeu3dols :2005/08/03(水) 00:35:02 ID:ASvCsZpo
「あの弾丸を借りて、少し調べさせてもらったのだが……」
サラがカーテンを開けて姿を見せる。
予想通り、その左手には4発の高位咒式弾が乗っている。
右手に持っている贖罪者マグナスも予想通りだ。予想外だったのは束ね持っている……
(断罪者ヨルガ!?)
――の、柄だけだ。どういうわけか刀身が無くなっていた。
「昼前の別行動で拾った、この刀砕けた剣に付いている弾倉にもピッタリと合うようだ。
 クエロが拾った魔杖剣とやらの別種だろう。
 それらを調べて仕組みを解明してみた所……私なら、この剣で弾丸を使う事が出来そうだ」
クエロはサラが何を言おうとしているかに気づいた。
「そういうわけで、弾丸を分けてもらえるだろうか。
 クエロもこの剣で弾丸を使えるなら話は別だが」

(……まずは慎重に行こうかしら)
下手な返答をすれば疑われる危険が出てくる。
「解明したって……異世界のアイテムなんでしょう? 本当に使えるの?」
如何にも驚いたという表情を浮かべ、返事を返す前に逆に質問を投げかけた。
魔杖剣の仕組みを知識も無く理解出来ているはずがない。
その問いに対し、サラは淡々と答えを返す。
「問題無い。もちろん本来の使い方は出来ないだろう。
 剣に仕込まれた術式とでもいう物を発動させる部分は遂に解明出来なかった」
(そう、そこは判っていないのね)
本来の用途で魔杖剣を使う為には咒式を使いこなす必要がある。
つまり、『咒式を知らない素人には使えない』のだ。
クエロは『魔杖剣と弾丸は知らない物で、説明書が有ったから使えた』と説明した。
今更明かせば、経歴に隠し事をしていたという傷が付いてしまう。
つまり、サラに咒式をどうやって発動させるかに気づかれてはまずいのだ。
「もっとも、逆に言えばそれ以外の機能は理解した。後はフィーリングだ。
 本来の術式の代わりに、わたしの魔術を流し込んでその機能の恩恵を受ける。
増幅の要となる刀身が失われているのは痛いが、
それでもこの刃無き剣と特殊な弾丸から得られるメリットは十分にすぎる」

496 疑惑のあやとり(3/8) ◆eUaeu3dols :2005/08/03(水) 00:35:49 ID:ASvCsZpo
サラは弾丸を使える。
もしクエロが弾丸を使えないならば、それを渡さない理由が無い。
「それで、クエロの方はどうなのだろう」
「……ええ、私の方も弾丸を使えるわ」
疑念を抱かれる危険が有っても、そう答えるしか他に無い。
「昼過ぎの時は疲れていて詳しい説明をし忘れてしまったけれど、
 付いていた説明書にその使い方も書いて有ったわ。
残念ながらその説明書は落としてしまったけれど」
サラなら既にクエロの荷物を調べる位はしているだろう。
もしかすると、汚れていた上着を脱がせたのも身体検査の意味が有ったのかもしれない。
そうなると説明書は落とした事にしておくべきだ。
「なるほど。
 詳細な説明書付きで対となる支給品に出会えた事は運が良いといえるだろう。
 しかし、そうすると弾丸を4発とも頂く事は出来ないな。
 ……半分の2発だけ頂いて良いだろうか?
 クエロは元々戦い向きではないのだろうし、今はその様子だからな」
否……と答える事は出来ない。
クエロはあまり強くないように装っているのだし、
ゼルガディスを殺せる程の力は無いと思われている方が良い。
「良いわ、うまく役立ててね」
クエロはサラの手から2発の咒式弾を取り返し、残り2発をそこに残した。

(それにしても、つくづく化け物揃いね。この島は)
サラはその科学知識と己の世界の魔術で高位咒式弾を使える状態を手にした。
それはつまり、もしも彼女と対立する事が有った時に、
魔杖剣による高位咒式が決定打にならない可能性が出てきたという事だ。
下手な手は打てない。
もっとも、逆に味方としてこれほど心強い者もそう居ない。
(せいぜい利用させてもらうわ)
そう考え、クエロはサラとの正面衝突を避けるように思考を組み立て始めた。
――全て、サラの目論見通りに。

497 疑惑のあやとり(4/8) ◆eUaeu3dols :2005/08/03(水) 00:36:39 ID:ASvCsZpo
(どうやらうまく行ったようだ)
クエロの魔杖剣と弾丸の関係に気づいてなかったフリをする事で、疑われてないと思わせる。
更に、弾丸を自分も使えると主張すると共に弾丸の半分を奪う事で、
自分達を裏切る事に大きな危険性を想像させる。
自分の切り札を相手も同じ数だけ使えるかもしれない。
冷静で慎重な人間ならば、そんな相手に正面衝突を挑む事は無いし、
もし衝突するとしても真っ先に排除対象として選ぶだろう。
だが、『誰が誰を狙う』事が予想される奇襲など不意打ちにはならない。
サラが仕掛けたのは疑惑で編んだ守りの網だ。
サラが確実に、本当に咒式弾を使えるかどうかは関係ない。
人を疑う事が出来る人間には『かもしれない』という疑惑だけで十分なのだ。
大胆なハッタリはサラのもっとも得意とする所だった。

  * * *

「あ、クエロ、起きたんだ!」
クリーオウが保健室に入ってくる。続いてそれに付き添って空目も。
空目は無表情なまま、すぐに横を向いた。
「どうしたの……ああ、そういえばそうだったわね」
開かれたカーテンの向こうに見えるクエロの姿は、寝る前の下着姿のままである。
実に目の保養になる姿だった。
もっとも、この場で唯一の男性である空目にそういった感想は期待できないのだが。
「私の服はどこ?」
「今から取って来よう。ひとまずはこれを着たまえ」
サラはどこから見つけてきたのかワイシャツを差し出して言った。
「裸ワイシャツで悩殺度アップだ」
「………………」

結局、一度カーテンを閉めて姿を隠して、服を取ってきてもらった。

498 疑惑のあやとり(5/8) ◆eUaeu3dols :2005/08/03(水) 00:38:40 ID:ASvCsZpo
「それじゃ、今はせつらもピロテースも居ないの?」
「うん。せつらは洗浄が済んだワイヤーを装備して地下湖の調査に向かったわ。
 ピロテースは城周辺の調査に行ってて、そろそろ帰って来ると思う」
「『実験』が終わったのはさっきだからな。ワイヤーの血が落ちる方が早かった」
サラが補足する。
続けて宣言した。
「そしてその議事録にある予定通り、わたしもしばらく寝させてもらう。
 クエロ、隣のベッドを使って良いだろうか?」
「ええ、私は構わないわ」
隣で寝るとなれば、すぐ間近に無防備な姿を晒す事になる。
クエロは内心で少し意外に感じたが、すぐに思い直した。
自分の状況は多少悪くなったように思えるが、疑われる要素は見せていないはずだ。
別に奇妙な事ではない。
「では、わたしは寝よう。
 せつらが使わなくなった銅線で簡単な警報を仕掛けておいたが、
もしピロテースやせつら以外の誰かが来る様だったらすぐに起こしてくれ。
これでも寝起きは良い方だ」
「任せて。
 せつらから銃ももらったし、何かあっても少しくらい時間を稼いでみせるから!」
クリーオウが銃を見せて言う。
慢心している様子は無い。
銃を得た所で、この殺人ゲームの中で安心を得る程の寄る辺にはならない。
それを確認して、皆は頷いた。
「頼りにしているわ」
クエロがそう言うと、クリーオウは少し嬉しそうに笑った。

(さて、他にやるべき事は寝る事だけか)
やれる事は色々有ったが、やれるだけはやっただろう。
断罪者ヨルガの刀身は、如何なる処理を経たのかピンク色の肉塊に変わっていた。
かつてサラが作ろうとしたとある魔法生物を欠片だけ作り出した物だ。
刻印解除か何かの役に立つ……かもしれないし、全く立たないかもしれない。
というより、刀身よりは可能性が高いだけできっと役には立たないだろう。

499 疑惑のあやとり(6/8) ◆eUaeu3dols :2005/08/03(水) 00:39:54 ID:ASvCsZpo
せつらの使わなくなった装備は、拳銃はクリーオウに融通し、
銅線は簡単な警報装置の材料にした。
城に行ったら城に仕掛ければ良い。
……城に電源が有るかは判らないが。

そしてクエロに対する対策は、この最後の添い寝作戦を持って完了する。
そこまで考えた所で、ふと改良案を思いつきクエロに声を掛けた。
「では、隣で寝させてもらう。
 ところで、わたしは同じベッドで仲良く寝ても良いのだがどうだろうか?」
「私はそういう趣味は無いわ」
すげなく断られた。
「……残念だ」
大人しく眠る事にする。
クエロが無防備な自分に危害を加える事はまず有り得ない。
この状況ではサラが危害を受ければクエロ以外に疑われる者が居ないのだし、
クエロにとってこのチームはとても価値のある事は間違いないからだ。
(だから、今は眠る。そして――)
サラすやすやと寝息を立てていった。

その無防備な様子を見ながらクエロは考えこむ。
彼女、サラに関する情報を纏め直す。
(私はまだサラに疑われていない。
 そして、サラは強い力と高い知性を持っており、利用する価値は高い)
何度確認してもその点は同じだ。
(サラは死体を使い捨てられる合理的思考を持つが、今の所は敵では無い。
 それどころか信用した相手にはこうやって無防備な姿も見せる。だけど……)
クエロはサラの目的が読めないでいた。
クリーオウ、ピロテースやゼルガディスなどと違い、人捜しに懸命になる様子は無い。
参加者のダナティアという女性は仲間らしいが、合流に躍起になってはいない。
これは秋せつらにも言えるが、彼にはまだ捜し屋という仕事意識が存在する。
空目の厭世的な感とはかなり近い気がする。
だが、彼ほど流れに身を委ねる性格ではないようだ。

500 疑惑のあやとり(7-8/8) ◆eUaeu3dols :2005/08/03(水) 00:42:04 ID:ASvCsZpo
他の仲間をダシにすれば利用は出来るだろう。
自分を信用もしているようだ。
にも関わらず目的の読めない事に、少々の不気味さを感じながらも……
「……まあいいわ。おやすみなさい、サラ」
(少なくとも今は利用できる)
そう結論を出すと、クエロもまた眠りに就いた。


【D-2/学校1階・保健室/1日目・15:00】
【六人の反抗者】
>共通行動
・18時に城地下に集合
・ピロテースは城周辺の森に調査に向かっている。
・せつらは地下湖とその辺の地上部分に調査に向かっている。
・オーフェン、リナ、アシュラムを探す
・古泉→長門(『去年の雪山合宿のあの人の話』)と
悠二→シャナ(『港のC-8に行った』)の伝言を、当人に会ったら伝える
>アイテムの変化
強臓式拳銃『魔弾の射手』:せつら→クリーオウ
鋼線(20メートル)   :せつら→簡単な警報装置になった。音は保健室で鳴る。
ブギーポップのワイヤー :バケツの中→せつら
断罪者ヨルガの砕けた刀身:変な肉塊になった。

【クリーオウ・エバーラスティン】
[状態]: 健康
[装備]: 強臓式拳銃『魔弾の射手』
[道具]: 支給品一式(地下ルートが書かれた地図。ペットボトル残り1と1/3。パンが少し減っている)。
    缶詰の食料(IAI製8個・中身不明)。議事録
[思考]: みんなと協力して脱出する。オーフェンに会いたい
[行動]: 空目と共に起きておき、誰か来たら警戒。

【空目恭一】
[状態]: 健康。感染。
[装備]: なし
[道具]: 支給品一式。《地獄天使号》の入ったデイパック(出た途端に大暴れ)
[思考]: 刻印の解除。生存し、脱出する。
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。
     クエロによるゼルガディス殺害をほぼ確信。
[行動]: クリーオウと共に起きておき、誰か来たら警戒。

【クエロ・ラディーン】
[状態]: 疲労により再度睡眠中。
[装備]: 毛布。魔杖剣<贖罪者マグナス>
[道具]: 支給品一式、高位咒式弾(残り4発)
[思考]: 集団を形成して、出来るだけ信頼を得る。
     魔杖剣<内なるナリシア>を探す→後で裏切るかどうか決める(邪魔な人間は殺す)
[備考]: サラの目的に疑問を抱く。信頼は得ていると考えている。

【サラ・バーリン】
[状態]: 睡眠中。健康。感染。
[装備]: 理科室製の爆弾と煙幕、メス、鉗子、断罪者ヨルガ(柄のみ)
[道具]: 支給品二式(地下ルートが書かれた地図)、変な肉塊
    『AM3:00にG-8』と書かれた紙と鍵、危険人物がメモされた紙。刻印に関する実験結果のメモ
[思考]: 刻印の解除方法を捜す。まとまった勢力をつくり、ダナティアと合流したい
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。クエロを警戒。

せつらとピロテースは別行動中です。

501 Let's begin a fake farce(1/8)  ◆l8jfhXC/BA :2005/08/03(水) 15:18:48 ID:nPGFhp1g
「……今にも降ってきそうだよね。放送で言ってたのはやっぱり雨のことなのかな」
「おそらくね。どれくらいの強さでどれくらいの時間降り続けるかはわからないけど」
 窓の外は、先程までの青空が嘘だったかのような灰色に包まれていた。
 この曇天だけで終わってくれればいいのだが、あの性格の悪そうな主催者達がそんな甘いもので終わらせることはないだろう。
「わたしたちはここにいるからいいけど……ピロテースは大丈夫かな。
雨の中戦ったりして疲れると、風邪引いちゃうかもしれないし」
「彼女は大丈夫だよ。濡れることは承知で行っただろうし、己の限界はちゃんとわきまえている人だと思う」
 せつらは先程の会議で決まった通り、しばしの休息を取っていた。
 適当にパンをかじって腹を満たしながら、同じく待機中のクリーオウの雑談に付き合うことにした。
 不安そうな顔で仲間の心配をするクリーオウは、しかし一度目の会議のときよりは明るさを取り戻している気がした。
 本来はもう少し快活な少女なのだろうが、この状況では仕方がないだろう。
「そういえば、せつらの知り合いは捜さなくていいの?」
「ん? ああ、大丈夫。あいつらは簡単には死なないから。ほっといていいよ」
「そうなの……?」
 茫洋とした表情を崩さぬまま言った。クリーオウはあまり納得がいっていない不思議そうな顔をしていたが。
 希望的観測ではなく、真実だ。
 メフィストも屍も、このような特殊な状況下には慣れているし、武器がなくとも十分戦える。
 その気になれば、大半の参加者を殺害できる人間だ。奇人や化け物が多いここでも、彼らクラスの者はそうはいないはずだ。
 だが同時に、主催者の言うとおりに動くような人間でもない。
 メフィストはここから脱出する術を考えているだろうし、屍はゲームに乗っている馬鹿を容赦なく消し去っている最中だろう。
 むしろ合流せずに別行動のまま島内にちらばり、このゲームを三方から破壊した方がいい。

502 Let's begin a fake farce(2/8)  ◆l8jfhXC/BA :2005/08/03(水) 15:20:04 ID:nPGFhp1g
(まぁ、情報も増えるし会えることに越したことはないけれど……)
 どちらかというと、彼らに匹敵する美姫の存在の方が気になっていた。彼女は危険すぎる。
 おそらく名簿を見てメフィストが対処方法を練っているところだろうが、彼一人ではややつらいかもしれない。
 昼の間に居場所が見つかれば楽なのだが──護衛を一人くらいはつくっているだろう。厄介だ。
「……そっか。信頼してるんだね、その人達のこと」
「そうとも言うね」
 ──信頼って言うよりは絶対的な事実って言った方が近いけれど──そう言葉を付け加えようとして、
「…………っ!」
 ベッドが軋む音と荒い息に混じった呻き声が耳に入り、せつらとクリーオウは部屋の奥へと目を向けた。
 ──身体を起こし、絶望と憎悪を入り交じらせた瞳で虚空を見るクエロがそこにいた。



「……! クエロ、大丈夫!?」
「……ええ、大丈夫。夢見が悪かっただけだから」
 心配してこちらに駆け寄ってきたクリーオウに向けて、クエロは歪んだ笑みを見せた。
 もう少しまともな表情をつくりだすこともできたが、ここは無理に演技をしない方がいいだろう。
(最悪の寝覚めね……)
 ガユスと鉢合わせしたせいか、あの過去の事件のことを夢に見た。
 ──師と仲間を裏切り、そして自分の唯一の望みをも、彼が断ち切った瞬間。
 あの瞬間にすべてが壊れ、すべてが絶望と憎悪へと変わった。
(こんなところで二人を、特にガユスを楽に殺させるわけにはいかない。
彼らのために無惨に死んでいった者達と……私自身のためにも)
 そう心の中で改めて決意し、溢れそうな激情を無理矢理抑えつけた。いつまでも夢に動揺している余裕はない。
「……少し、つらいものを見てしまっただけ。もう落ち着いたわ。心配してくれてありがとう」
 不安そうにこちらを見るクリーオウに対して微笑みをつくった時には、もう平常心に戻っていた。
「身体の方は大丈夫ですか? 精霊力が弱まっている、とピロテースさんが言ってましたけど」
「まだ少し疲れが残っているみたい。激しい動きは多分無理ね。……他の三人は?」
 部屋にはクリーオウとせつらがいるのみ。
 どうやら寝ている間に会議が終わり、皆次の行動に移ったようだ。

503 Let's begin a fake farce(3/8)  ◆l8jfhXC/BA :2005/08/03(水) 15:21:07 ID:nPGFhp1g
(少しまずいわね。早めに状況を確認しないと)
 自分がどの程度疑われているのか。その情報を早く得て対策を取らなければまずい。
 ……別行動を取った途端に相手が死に、怪しい──あの弾丸が入りそうな外見をした剣を持って帰ってきた。
 疑念がまったく生じなかったということはないだろう。
 このようなゲームの中で、証拠もなしに相手の話を鵜呑みにすることは(クリーオウのような人間は別だが)ありえない。
 態度や行動によりいっそうの注意を払わねばなるまい。
「恭一とサラは、拾ってきた剣とクエロの剣と弾丸を理科室で調べてる。ピロテースは城辺りの森に行ったよ。
これが話した内容を書いた紙で…………あ、せつら、ちょっと」
 クリーオウの言葉が止まったことに疑問を抱き──今更になって、今の自分の状況に気づく。
「話は後で聞くわ。……せつら、服を着るから、少しの間後ろを向いていてくれると嬉しいのだけど」
 下着しか着けていない胸に毛布を押しつけ、少し顔を赤らめ──させてせつらに言った。

「なら、私はあなたがいない間ここを守ればいいのね」
「はい。休息もかねて。襲撃された場合は無理をせずにみんなで逃げてください」
 服を着、議事録を読み終え地図にメモもした後、せつらに確認を取った。
 紙には議論された内容が簡潔に、しかし要点を欠かさず丁寧に書かれていた。
 嘘は書かれていないだろう。何らかの理由で書く必要があったとしても、すぐクリーオウにばれるので無理だ。
 しかし、何か重要な点が“書かれていない”可能性はある。行動の裏の意味や──ゼルガディスの件について。
「禁止エリアに地下、そして謎のメモ……ね。捜し人は見つからないけれど、この世界に関する手がかりは結構順調に集まってるのね」
「だいぶ楽になりました。特に地下は何かあったときの逃走経路として最適だ。武器が手に入ったことも心強い」
 部屋の隅にあるバケツに目線を移しながらせつらが言った。確かにこれがあれば彼はかなり楽になる。

504 Let's begin a fake farce(4/8)  ◆l8jfhXC/BA :2005/08/03(水) 15:22:39 ID:nPGFhp1g
(……私の立場は楽ではなさそうだけれどね)
 胸中で呟く。
 消費された一つの弾丸。議事録の内容から推測される行動。各々の思考と性格。
 それらを材料を元に状況と自らの立場を推測。既に結論は出ていた。
 ────少なくとも、空目とサラにはかなり疑われている。
(律儀に五つすべてを見せたのがまずかったわね。今更悔いてもしょうがないけど)
 支給品の確認時に弾丸をすべて見せたことを後悔する。ゼルガディスに無理に調べられる可能性を危惧しての行動だったが、失敗だった。
 現在ポケットに残っている弾丸はゼロ。一つは消費し、残りの四つは理科室に持って行かれている。
 弾丸をポケットから回収した際に、五つあったはずの弾丸が一つ無くなっていることが二人に気づかれたことは間違いない。
(ここから二人が推測するであろう事象は二つ。偶然落としたか、もしくは剣と合わせて効果を発揮させたか)
 前者は厳しい。
 ──偶然剣を見つけ、偶然それが弾丸と合う剣だった。偶然仇敵がやってきてゼルガディスを殺害し、逃亡する際偶然弾丸を落とした。
 最後の一つと結果以外は本当に事実で偶然なのだが──第三者から見れば怪しいことこの上ない。
 では、後者の場合。
 逃亡手段に使ったとするならば、疑われないだろうか。
 あの剣を偶然見つけ、マニュアルを読む。逃亡手段にすることができる効果を持っていると知る。
 その後偶然仇敵に遭ってしまい、逃げる際にそのマニュアルに記されていた通りに、何らかの逃亡できる効果を発動させた。
(……だめ。事の顛末を説明した時に、そのことをあえて言わなかった理由がない)
 もし言っていたとしても、問題を棚上げするだけだ。
 今はいいが今後窮地に陥り逃亡を強いられた場合、その効果を使えないことが知られると非常にまずい。
 こんなゲームの最中だ。窮地に立たされない確率の方が低い。危険すぎる嘘だ。
 ならばやはり、疑われることは避けられない。

505 Let's begin a fake farce(5/8)  ◆l8jfhXC/BA :2005/08/03(水) 15:24:35 ID:nPGFhp1g
(あの剣を偶然見つけ、マニュアルを読む。
自分に支給された弾丸をこの剣に装填することで何らかの現象を起こし──人間を殺害することが出来ると知る。
邪魔者を消せる好機と判断し、不意を討つ。ゼルガディスの反撃を受け精神を摩耗させられるも、なんとか彼を殺害。
──襲撃者の二人は、殺害する前に出会っていた、友好的な赤の他人──もしくは敵意を持たれていない元の世界の知り合い。
“相手を騙し油断させて寝首を掻く”スタイルと言ってしまえば、とぼけられても信用はできない。
……やっぱり、こちらの方が説得力があるわね)
 あの二人ならば、状況証拠からこのような結論に容易に達することができるだろう。
 ゼルガディスのこちらへの疑念は、その素振りから観察眼のある第三者にも見て取れるものだった。動機は十分にある。
 もちろん“確定”にまでには至っていないだろう。情報が少ない。
 だが、相当疑われていることは確かだ。
(一度疑われると完全にそれを払拭するのは難しい。……どう足掻く?)
 現時点では“マニュアルがあった”としか言っていないことが唯一の救いか。
 何をするために弾丸を消費するのか、また、具体的にどういった効果が出るのか──そのことはまだ言っていない。
 “弾丸を消費して咒式を使用可能にする”という真実はまだ隠されている。
 確かに自分はある武器を媒体に“咒式”というものが扱えるということを既に言ったが、それと魔杖剣を繋ぐ線はまだない。
(マニュアルの内容について捏造しなければならない。何ができるのか──何を使ってもいいのかを考えなければいけない。
……雷撃を扱えるというのは隠さないとだめ。
ゼルガディスの死体の切り口を調べれば、強大な熱量で一気に切り裂かれたことがわかってしまう。
地底湖とその周辺を探索に行く予定のせつらが、彼の死体を見つける可能性は高い。
さらに、電磁系以外の咒式は使えない。
高位咒弾は下位互換ができない。今の状況を考慮すれば、電磁系以外の高位咒式は脳を焼き切ってしまう事が容易に想像できる。
残るのは、ただ一つ)

506 Let's begin a fake farce(6/8)  ◆l8jfhXC/BA :2005/08/03(水) 15:26:42 ID:nPGFhp1g
 ──電磁電波系第七階位<雷環反鏡絶極帝陣>(アッシ・モデス)。
 超磁場とプラズマを利用した究極の防御咒式。
 能力が制限されナリシアがない今では、本来の展開速度と効果は期待できないが──それでも大抵の攻撃は防ぐことが出来る強力なものだ。
 攻撃咒式がすべて使えないのは痛いが、この場合はどうしようもない。
(そういえば、議事録には“クエロの持ってきた剣と同じタイプの剣の柄を拾った”ともあったわね。
……ナリシアでないことを願うけれど)
 魔杖剣の核は<法珠>と呼ばれる演算機関にあたる部分だが、刃の部分もただ殺傷武器としての機能のみを担当しているわけではない。
 咒印と組成式を描き、咒式を増幅させるために不可欠なものだ。折れれば使い物にならない。
(後は……脳に多大な負担を与えることと発動までに時間がかかることを伝えておく。
そして、魔力のようなものを持っていなければ使えないことにすれば、いける)
 前者を配慮すればクリーオウや空目には使わせないだろうし、後者でせつらも消える。
 ピロテースやサラも、小回りの良さを潰して防御結界に時間を割くよりも、魔術の使用を優先すべきなのは明確だ。
 やることがないのは自分だけだ。
(問題はあの二人自体をどうやり過ごすか。疑念を持っていることは当然隠してくる。
……ならばこちらも、それに気づかれないふりをし続けなければならない。今のところ、彼らを敵に回す利点はない)
 目標はあくまで脱出。
 そのための有能な人材を手放し、敵対しても何一ついいことはない。
(疑いは強い。それでも、まだこちらを利用する価値はあるでしょうね。
──武器を取ってしまえば反抗はできない。そして、今までの行動からして積極的にこのグループが不利になることはしない。
おそらくそう予想されている)
 事実だ。
 自分は彼らを殺すためにここにいるのではない。
 彼らを利用し脱出する──もしくは円滑に殺戮を行う下準備のためだ。
 そして彼らは、こちらに利用されているのを逆手にとって利用してくることだろう。彼らの手中に完全に収められている。
 ──上等だ。

507 Let's begin a fake farce(7/8)  ◆l8jfhXC/BA :2005/08/03(水) 15:29:34 ID:0wNbWEVw
(素直に魔杖剣と弾丸を返す気はないでしょうね。何とかこちらをやりこめて、戦力を割いてくることが予想される。
二人──特にサラは手強い。あの無表情からは感情がほとんど読み取れない)
 相当に厄介な相手だ。
 どこで妥協し、どこで踏み込むか。難しいところだ。
(それでもやるしかない。もう舞台の上にあがってしまっているのだから。
劇を上から眺めることが出来る<処刑人>ではなく、物語を自ら紡ぐ者として)
 ならば真実に気づいていない道化を演じ、手のひらの上で踊りきってやろう。
 演技なら得意分野だ。詐術は言うまでもなく。滑稽に騙されてやることも容易だ。
(こんなところで止まっている暇はない。あの二人をこの手で殺すまでは、行動に支障を来されるわけにはいかない)
 くすぶる憎悪を胸に感じながら、胸中で呟く。
 そして、覚悟を決めた。

 ──さぁ、道化芝居を始めましょう。

508 Let's begin a fake farce(8/8)  ◆l8jfhXC/BA :2005/08/03(水) 15:30:41 ID:0wNbWEVw
【D-2/学校1階・保健室/1日目・14:30(雨が降り出す直前)】
【六人の反抗者・待機組】
【クエロ・ラディーン】
[状態]: 疲れが残っている。空目とサラに疑われていることを確信
[装備]: なし
[道具]: 支給品一式(地下ルートが書かれた地図・パン6食分・水2000ml)、議事録
[思考]: 疑われたことに気づいていないふりをする。
 ここで待機。せつらが戻ってきた後に城地下へ
 集団を形成して、出来るだけ信頼を得る。
 魔杖剣<内なるナリシア>を捜し、後で裏切るかどうか決める(邪魔な人間は殺す)

【秋せつら】
[状態]: 健康。クエロを少し警戒
[装備]: 強臓式拳銃『魔弾の射手』。鋼線(20メートル)
[道具]: 支給品一式(地下ルートが書かれた地図・パン5食分・水1700ml)
[思考]: 休息。サラの実験が終ったら地底湖と商店街周辺を調査、ゼルガディスの死体を探す。
 ピロテースをアシュラムに会わせる。刻印解除に関係する人物をサラに会わせる。
 依頼達成後は脱出方法を探す
[備考]: 刻印の機能を知る。

【クリーオウ・エバーラスティン】
[状態]: 健康
[装備]: なし
[道具]: 支給品一式(地下ルートが書かれた地図・パン4食分・水1000ml)
 缶詰の食料(IAI製8個・中身不明)。
[思考]: ここで待機。せつらが戻ってきた後に城地下へ
 みんなと協力して脱出する。オーフェンに会いたい

※保健室の隅にブギーポップのワイヤーが入った洗浄液入りバケツがあります(血はもうほぼ取れてる)

509 天国に一番近い島(1/7) ◆5KqBC89beU :2005/08/20(土) 18:45:48 ID:eLGqWuUQ
 第二回放送の少し前、B-7の地下通路では、二人の男女が相談をしていた。
 EDの指さした地図の一点を見つめ、麗芳が溜息をつく。
「G-8の櫓? なんでまた、そんな逃げ場の限られた僻地を拠点にしたいのよ」
 いぶかしげな様子の麗芳を見て、EDの口元が、笑みの形に弧を描く。
「だからこそ、好都合なのですよ」
「ごめん、判りやすく簡単に説明して」
「そうですね……主催者側が禁止エリアを設置している理由は、何だと思いますか?」
「行動範囲を制限したり、人の流れを作ったりして、参加者たちが逃げ隠れしにくい
 状況を作りたいから、かな」
「僕も同意見です。だから、今、この小さな半島を封鎖しても、あまり効果的では
 ないと思われます。仲間を探す場合も、誰かを殺しに行く場合も、参加者たちは
 半島から離れたがるはずですから。隠れ場所としては良かったのですが、H-6が
 禁止エリアと化したために、逃走経路の選択肢が減り、立地条件が悪化しました。
 もはや、半島地区全域が、ほぼ無人になっている可能性さえあります」
「ああ、そうか。すごく不便だからこそ、安心して休憩できそうだ、ってことなのね。
 半島が本当に過疎地なら、禁止エリアに囲まれる可能性だって低いでしょうし。
 でも、同じように考えた人がいたらどうするの? 人の数が減るまで隠れる作戦で、
 近づく相手だけ襲うような、性格の悪い奴がいるかもよ? ……それも承知の上?」
「ええ。危険は伴いますが、賭けてみるだけの価値は充分にあります。そもそも、
 完璧に安全な場所など存在しませんし、行動しなければ状況は変えられません」
「ここまで念入りに相談したのに、次の放送で半島が封鎖されちゃったら間抜けよね」
「その時は、E-7の森を拠点にしましょう。海と湖で逃走経路が限定されている上に、
 湖と道が近いので、周囲を通過する参加者が多く、隠れ場所としては危険な部類に
 入りますが――誰も隠れたがらなそうな場所だからこそ、隠れられると思います。
 いったん隠れてしまえば、僕らの方が先に、他の参加者を発見できるでしょう。
 ただし、能動的な殺人者に会う確率も高くなります。注意しなければなりません。
 E-7も禁止エリアになった場合は、このまま現在地を拠点にしておきましょうか」
「なるほどね。……ちょっと調べたい場所があるんだけど、行ってきていいかな?」
 麗芳の問いに対して、EDは頷く。彼の手が、再び地図上のG-8を指さした。
「次の放送が終わったら単独行動しましょう。ここを拠点にして、仲間を探すんです。
 そして、第三回の放送が始まる頃に、この場所で合流したいと思います」

510 天国に一番近い島(2/7) ◆5KqBC89beU :2005/08/20(土) 18:46:49 ID:eLGqWuUQ
 曇り空の下、仮面の男が、地図と方位磁石を持って歩いている。
(やれやれ、さすがに疲れた)
 EDは今、H-4の洞窟から外に出て移動している。麗芳と別れた後、彼は地下通路を
通ってここまで来た。E-6が禁止エリアになるよりも早く通過できたのは、彼が必死で
全力疾走してきたからだ。E-7からE-5にかけての部分は、都合良く下り坂だった。
けれど、そこから城の地下までは上り坂だったので、楽ができたとは言い難い。
 汗をかいた分だけ、かなり水を消費したが、これは不可抗力だろう。
 城を探索するつもりは今のところなかった。人が集まる可能性が高く、下手をすると
何人もの参加者が殺し合いをしている最中かもしれない、と推測して、素通りした。
 EDは半島付近を、麗芳は島の東端を、それぞれ探索しながらG-8に行く予定だ。
(探している誰かか、あるいは“霧間凪”に会えるといいが)
 “霧間凪”。名簿に記された、EDが関心をもつ名前。それは、人の名であるという
感覚と共に、とある印象を、見る者に与える言葉でもある。
(“霧間凪”――“霧の中の揺るがぬ大気”。“霧の中のひとつの真実”と、何らかの
 縁がある人物なのかもしれない)
 “霧の中のひとつの真実”とは、界面干渉学で扱われる研究対象の一つだった。
界面干渉学は、一言で表すなら、異世界から紛れ込んでくる漂流物を研究する学問だ。
異世界の書物の中には、“霧の中のひとつの真実”と書かれた物もあって、それらに
EDは興味を持っている。要するに、EDは界面干渉学の研究者でもあるのだ。
 胡散臭くて怪しげな研究分野だが、彼らしいといえば彼らしいのかもしれない。
 異世界で造られた銃器も、界面干渉学の研究対象だ。業界用語ではピストルアームと
呼ばれている。研究の過程で、EDはピストルアームの扱い方をいくらか覚えていた。
 無論、彼の手元に銃器がない現状では、まったく役に立たない技能だが。

511 天国に一番近い島(3/7) ◆5KqBC89beU :2005/08/20(土) 18:48:45 ID:eLGqWuUQ
 どこからか雷鳴が聞こえてきた。天を覆う暗雲を見上げ、戦地調停士は思案する。
(この天候が、放送で言っていた『変化』なのか?)
 今までに得た情報から、有り得る、と彼は判断した。もうすぐ雨が降るだろう。
(雨の中、体力を余計に消耗してまで、探索を続行するべきかどうか……)
 考え事をしながらも、彼は警戒を怠らない。熟考した末に、EDは決断した。
(まず櫓の周辺を調べて、雨が降りだした時点で探索は中断しておくか)
 確かに、索敵は済ませておくべきだろうが、それで自滅しては本末転倒だ。
 地図と方位磁石をしまい、EDは崖に身を寄せて立った。崖の陰から顔を出し、
草原の様子をうかがう。奇妙な建築物らしき塊がある。地図に載っていない物体だ。
だが、その近くには、変な小屋などよりも気になる存在が倒れていた。
(動かない……あれは死体のようだな)
 細心の注意を払い、もう一度だけ周囲を見回し、EDは少しだけ死体に接近する。
 心当たりのある髪型や背格好などを確認し、仮面の下の唇から、表情が消えた。
 屍の周囲では、草の一部が焦げている。不自然な痕跡が、戦闘行為を連想させた。
 草原に、他の誰かの姿はない。倒れた犠牲者の荷物もない。風の音しか聞こえない。
 しばし、何も起きない時間が過ぎる。EDは動かない。遺体が動きだすこともない。
 やがてEDは、北東の森へ足を向けた。あえて、もう死体には近寄らない。
 殺人者が戻ってくる可能性があった。死体そのものが罠である可能性もあった。
 こつこつと音をたてて、EDの指が仮面を叩く。
(あの死体が、袁鳳月だったとしたら……)
 麗芳は300年以上の歳月を過ごしてきたそうだが、精神年齢は外見通りだった。
そして彼女は、鳳月との関係を「仲のいい友達よ」とだけ言っていたが……。
(恋仲ではなかったろう。けれど、いずれ、そうなるかもしれない相手だったはず)
 優れた洞察力なくして、戦地調停士は務まらない。些細な手掛かりからでも、EDは
他者の心理を読む。己の味方に襲いかかる絶望の、その重さと大きさを、彼は正確に
理解していた。仮面を叩く指先が、かすかに苛立たしげな雰囲気を滲ませる。

512 天国に一番近い島(4/7) ◆5KqBC89beU :2005/08/20(土) 18:49:50 ID:eLGqWuUQ
 森へ入って数分後に、EDは他の参加者と遭遇した。
「……こんにちは」
 EDの挨拶に対し、無邪気な笑顔で会釈するのは、傷だらけの強そうな巨漢だ。
 とりあえず交渉の余地はあるようだし、油断させて襲う作戦の殺人者にも見えない。
というか、こんな外見の参加者が現れたら、普通の人間は絶対に油断できまい。
 それに、表層的な部分だけを見て、安易に悪人だと断定するべきではない。殺人者に
襲われれば、争いたくなくても怪我はするし、返り血を浴びることもあるだろう。
(ここで逃走を選んでも、追われれば、おそらく逃げきれない)
 話し合い以外の対応策を、EDは思考の中から切り捨てた。
「僕の名は、エドワース・シーズワークス・マークウィッスルといいます。EDと
 呼んでください。ちなみに僕は、あなたと敵同士になりたくありません」
 EDの自己紹介を聞き、巨漢は満足げに頷いた。心の底から嬉しそうな仕草だ。
「私はハックルボーン。この島で苦しむ者たちを、一人残らず救いたいと考えている」
 とてつもなく純粋な善意が、言葉と共に放たれた。熱く激しい思いは、万人に届く。
他者の心理を読む技術に長けた者が相手ならば、なおさらだ。そして……。
「……素晴らしい。あなたのような人がいて、僕はとても嬉しく思います」
 思いは正しく伝わらない。
「参加者たちは、複数の異世界から集められているようです。中には、未知なる力の
 使い手もいると思われます。闘争を調停し、人材を集めれば、刻印を解除する方法を
 発見できるかもしれません。協力者が多ければ多いほど、成功率は上がるでしょう。
 刻印さえ無効化できれば、皆が殺し合いをする理由は、ほとんどなくなるはずです」
 ハックルボーン神父の尋常ではない信仰心を、既にEDは察知していた。
 だが、それ故にこそ、彼は見極めそこなった。
 偽善によって身勝手さを正当化したがる人間なら、EDは山ほど見て知っている。
だが、ハックルボーン神父は彼らと違う。本気で皆の幸福を願っている。強者も弱者も
善人も悪人も区別せず片っ端から救っていく、正真正銘の聖人だ。それが彼には判る。
 EDの誤算は、神父の救済手段が殺害だった、という一点に尽きる。
「つまり僕の目的は、殺し合いをやめさせることです。同盟を結成し、殺人者たちに
 対抗できる戦力を手に入れるため、今も、こうして活動しています」
 仮面の男が巨漢に言う。命令ではない。懇願でもない。対等な交渉だ。
「ハックルボーンさん。ぜひとも僕の仲間になってください」

513 天国に一番近い島(5/7) ◆5KqBC89beU :2005/08/20(土) 18:50:48 ID:eLGqWuUQ
 遭遇者の申し出に、ハックルボーン神父は黙考する。今すぐ神の下へ送るよりも、
まだEDに地上で頑張ってもらった方が、きっと神は喜ばれる、という結論が出た。
 自らの手で救うまで、参加者たちには生きていてもらわねば困る、というわけだ。
 だが、ハックルボーン神父にとって、神に与えられた使命よりも優先される目的は
宗教的に有り得ない。迷える子羊たちを昇天させるために、EDと別れる必要がある。
「私は行かねばならない。こうして話している間にも、誰かが苦しんでいる」
 神父の返答からは、利己や私欲の気配が感じとれない。だから、EDは自分の判断に
疑問を抱かない。神父の情熱が狂信であると、彼は気づけない。
「行動を共にしてほしい、とは言いません。手分けして探せば、他の参加者たちと
 出会える確率も高くなるでしょう。けれど、今ここで、最低限の情報交換だけでも
 しておきたいと思います。構いませんか?」
「手短に頼む」
「では、まず僕の方から話しますので、メモの用意をお願いします」
「記憶力には自信がある」
「そうですか。では……」
 EDは要点だけを簡潔に述べる。鳳月や緑麗など、探している参加者の話もする。
草原にあった死体が鳳月ではない可能性もあったので、鳳月の特徴も説明した。
「……この四人が、僕の探している参加者です」
 EDの話を聞いて、神父は悲しげにかぶりを振った。そのうちの二人は、さっき
昇天させてきたが、彼らの仲間も、あの二人と同じ場所へ送ってやらねば可哀想だ、
という意味の仕草だ。それを見たEDは、また勘違いをして勝手に納得した。

514 天国に一番近い島(6/7) ◆5KqBC89beU :2005/08/20(土) 18:51:52 ID:eLGqWuUQ
 続いて神父が、体験談を語る。時間が惜しいという理由で、大部分が省略された。
 刻印を解除する方法は知らないということ。自分の力が弱められているらしいこと。
デイパックの中から頑丈な武器が出てきたのだが、今はもう持っていないということ。
いかがわしい行為をしようとしていた男女を見つけて、たしなめたら逃げられたこと。
湖のほとりで邪悪な怪物と遭遇したので、全力で神の愛を教え、罪を償わせたこと。
その後で何人かと出会い、少し話をしたこと。城に行き、そこで襲撃されたこと。
幽霊と、幽霊に取り憑かれてしまった少女を、救おうと努力したが見失ったこと。
どうやらオーフェンという極悪人がいるらしいこと。気の短い男たちが争いを始め、
それを仲裁しようとしたら、殴られて気絶させられてしまったこと。目覚めた後は、
今度こそ皆を救済しようと決意し、他の参加者たちを探し歩いているということ。
 大雑把に説明しているため、まるで神父が穏当な人間であるかのように聞こえる。
別に、嘘をついてEDを騙そうとしている、というわけでもないのだが。
 こうして、どうにか平和的に情報交換が終わった。仮面の男が、また口を開く。
「ハックルボーンさん。また後で、僕と会ってくれますか?」
 巨漢は無言で頷いた。参加者全員を効率よく救うための手段を、神父は求めている。
EDの同盟が、無力な参加者たちを一ヶ所に集めるだけだったとしても、問題はない。
少なくとも、自分一人で探し回るよりも、参加者たちを昇天させやすくなる。
「それでは、待ち合わせをしましょう。……第四回の放送が始まる頃に、この場所で
 会う、というのはいかがでしょうか? ここが禁止エリアになった場合はこっちで、
 こっちも駄目な時はこちらで、こちらも無理ならこの辺で会う、ということで」
 地図を指さし、EDが提案する。神父は待ち合わせ場所を暗記し、首肯した。
「可能な限り、その時間までに、その場所へ行こう」
「ありがとうございます。それでは、これでお別れですね」
「無事を祈る」
「お気をつけて」
 こうして、神父とEDは、それぞれ別の方角に向かって歩き始めた。

 雨が島を濡らし始めた頃、EDは森の中で地下遺跡を発見していた。
(ここで雨宿りするか、それとも櫓に行くか)
 どちらにしろ、同じくらい危険だった。故に、EDは消耗の少ない方を選ぶ。
 地下遺跡を調べるために、デイパックの中を覗き、彼は懐中電灯を探した。

515 天国に一番近い島(7/7) ◆5KqBC89beU :2005/08/20(土) 18:53:12 ID:eLGqWuUQ
【G-6/地下遺跡の出入口/1日目・14:30頃】
【エドワース・シーズワークス・マークウィッスル(ED)】
[状態]:疲労
[装備]:仮面
[道具]:支給品一式(パン5食分・水1200ml)/手描きの地下地図/飲み薬セット+α
[思考]:同盟の結成(人数が多くなるまでは分散する)/ヒースロゥ・藤花・淑芳・緑麗を探す
    /地下遺跡を調べる/鳳月らしき死体と変な小屋が気になる/麗芳のことが心配
    /ハックルボーンから聞いた情報を分析中/今後どう行動するか思考中
[備考]:「飲み薬セット+α」
    「解熱鎮痛薬」「胃薬」「花粉症の薬(抗ヒスタミン薬)」「睡眠薬」
    「ビタミン剤(マルチビタミン)」「下剤」「下痢止め」「毒薬(青酸K)」以上8つ
[行動]:第三回放送までにG-8の櫓へ移動
※地下遺跡のどこかに、迷宮へ続く大穴が開いています。


【G-5/森の中/1日目・14:30頃】
【ハックルボーン神父】
[状態]:全身に打撲・擦過傷多数、内臓と顔面に聖痕
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:万人に神の救い(誰かに殺される前に自分の手で昇天させる)を


【B-7/湖底の地下通路/1日目・11:30】
【李麗芳】
[状態]:健康
[装備]:指輪(大きくして武器にできる)、凪のスタンロッド
[道具]:支給品一式(パン4食分・水1500ml)
[思考]:淑芳・藤花・鳳月・緑麗・ヒースロゥを探す/ゲームからの脱出
[行動]:第二回放送後から単独行動開始/第三回放送までにEDと合流

516 ◆5KqBC89beU :2005/08/26(金) 02:09:05 ID:zKv2G9e2
>>509-515の【天国に一番近い島】は没にします。

517 メメント続き◇fg7nWwVgUc :2005/09/02(金) 00:18:09 ID:hNdeEao2
疲弊し、負傷した体が森の中を疾駆する。
彼、ウルペンを突き動かすのはある種の慕情――ひょっとするなら愛とも呼べる類いの――であった。
彼の目前で多くのものが消えていった。
確かだと思うものすら、消えていったのだ。
自分の命すら失い、気付けばこの狂気の島。
もう、何も信じられない。確かなものなど、何もない。
そう感じたからこそ、彼自身もここで命を奪い、奪おうとしている、いや、していた。
だが、先ほどの確かな炎はどうだ!
あの、鮮明で、鮮烈な力の輝きを!!
常に絶対的な力とともにあった獣精霊、ギーアと再びまみえたあの瞬間、彼の中で確かに何かが変わった。
あの精霊ならば、絶対ではないのか?
確かな存在として彼とともにある事ができるのではないか?

しかし…またこうも考える。
自分の思いなど、文字どおり精霊は歯牙にもかけないかもしれない。
深紅の炎を纏ったかぎ爪が己の胴を両断する様を思い描く。
(それもまたいい)
悔いはない。美しい力の前にひれ伏すのなら、それは喜ばしい事ではないか。
実際、彼はミズーに倒された事に関して今も不思議と、憎しみを感じてはいない。
華々しくもなく、互いに疲弊しあった人間同士――そう、彼女は獣ではなかった――の戦い。
それでも彼女の力は美しかった。その時は何故だかわからなかったが。
今ならそれが分かる。
意志の力。
意識を無意識に喰わせた獣の瞬間ではなく、自分で決意し、戦い、選びとって進んでいこうとする力。
(俺にも――あの力が手に入るのだろうか)
姉妹を愛した精霊に、姉妹が愛した精霊に、触れる事ができたなら。
妻を失い、帝都も失った世界を再び愛する事ができるだろうか?

「それ」は動揺していた。「それ」に感情などはないと、「それ」自身も知っていたがそれでも。
「それ」の望みを根本から無為にしかねないイレギュラーが発生したのだ。
イレギュラー、それは排除しなくてはならない。
「それ」は静かに動き出す…

518 メメント続き◇fg7nWwVgUc :2005/09/02(金) 00:19:03 ID:hNdeEao2
はた、と意識が現実に戻り、足を止める。
何故か、ここが目的地であると感じたのだ。
禁止区域との境目のほど近く。
視線が自然と境界上の大木の手前、そこの虚空に定まる。
そこにひとひらの炎が見えた。
と、思った瞬間それは一気に増大し、紅蓮の炎を纏った獅子の姿を形成した。
まだ距離は遠いが炎熱が皮膚を焦す錯覚に襲われる。
「獣精霊!」
叫び、彼は一息に駆け寄った。
足を踏み出す毎に気温が上がるのが分かる。
あと数歩。数歩で致命的な熱波の圏内に入る。
その数歩のうちに自分は死ぬだろう。精霊に触れる事もなく。
いや、炎そのものが精霊であるとするなら自分はあの獅子に抱かれて死ぬのかもしれない。
一歩。また一歩。
ふと彼は違和感を覚えた。
あれほどまで激しかった熱気が…消えている?
足を止めて見上げると、獣の深紅の瞳がそこにあった。
そっと右腕をのばす。その時
『若き獅子、そしてあらたな獅子の子よ、お前を認めよう』
脳裏に低く振動するような声。
直感的に、それが目前の精霊のものであると知る。
若き獅子。彼もまた、ある意味あの姉妹を守ってきた。
敵としてなんどとまみえたミズーにたいしてさえ、彼は常にある種の愛情を感じてきたのだ。
獅子の子。今、彼は決意という力を手にしようとしている。
『獅子の子らを守る、それが獅子の務め』
それだけ残して、精霊は鬣を振り上げ、きびすを返した。
のばした右腕には触れさせない。それを許すのは優しさではなく甘さだから。
それを知ってか知らずか、彼は腕をおろした。
精霊が、どこに、何をしにいくのか彼には分かっていた。
獅子の子らを守る。
この狂気を…終わらせる気なのだ。
ゴォオオッ!
と音をたてて精霊の前方の湿った生木が一瞬にして燃え上がる。
まるで戦の前の篝火のようでもある。
訓練された精霊は、戦闘に余計な時間はかけない。
が、それでもこれは精霊の、いや、獅子の意志の現れであった。
力強い後ろ足が大地を蹴る。その一瞬だけで平穏を保っていた地面が赤熱する。
空気が膨張したのか、鐘の音にも似た低音が響き渡る。
それでも炎は彼を焼かない。
その炎はといえば視界の全てを埋め尽くすかのように広がり…
そして消えた。
「…っ!?」
胸の奥が締め付けられるような感情。真実への予感。
光に焼かれた隻眼の視力が回復した時、彼は確かに見た。
儚く舞い散る火の粉の中で、揺れ動く、人を醜悪に模したような奇妙な影。
「アマワァァッァァァアアアアア!」
いったんおろしていた腕を再度振り上げる。
失う事には慣れていた。
しかし、やっと掴んだ、確実なもの、それすら失い感情が崩れ落ちる。
再び甦る想い。
結局は信じるに足るものなど何もなかった!!

影は消える。
火の粉も消える。
だが、一片の火の粉が傷付いた眼の上――妻を見つめ、義妹に奪われた眼の上――
に小さな火傷を遺した。
まるで、消滅する精霊の形見のように。

519 メメント続き◇fg7nWwVgUc :2005/09/02(金) 00:19:57 ID:hNdeEao2
【E-7/絶壁/1日目・14:40】
【ウルペン】
[状態]:一度立ち直りかけるが再度暴走。前より酷い。精神的疲労濃し。
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:アマワを倒す。参加者に絶望を
[備考]:第二回の放送を冒頭しか聞いていません。黒幕=アマワを知覚しました。

【E-7/絶壁/1日目・14:30】
【オーフェン】
[状態]:脱水症状。
[装備]:牙の塔の紋章×2
[道具]:給品一式(ペットボトル残り1本、パンが更に減っている)、スィリー
[思考]:宮野達と別れた。クリーオウの捜索。ゲームからの脱出。

『サードを出ようの美姫試験』
【しずく】
[状態]:右腕半壊中。激しい動きをしなければ数時間で自動修復。
    アクティブ・パッシブセンサーの機能低下。 メインフレームに異常は無し。 服が湿ってる。
    オーフェンを心配。
[装備]:エスカリボルグ
[道具]:デイパック一式。
[思考]:火乃香・BBの詮索。かなめを救える人を探す。

【宮野秀策】
[状態]:好調。 オーフェンを心配。
[装備]:エンブリオ
[道具]:デイパック一式。
[思考]:刻印を破る能力者、あるいは素質を持つ者を探し、エンブリオを使用させる。
    美姫に会い、エンブリオを使うに相応しいか見定める。この空間からの脱出。
 
【光明寺茉衣子】
[状態]:好調。 オーフェンを心配。
[装備]:ラジオの兵長。
[道具]:デイパック一式。
[思考]:刻印を破る能力者、あるいは素質を持つ者を探し、エンブリオを使用させる。
    美姫に会い、エンブリオを使うに相応しいか見定める。この空間からの脱出。

(E-7の林の木がなぎ倒されています。 閃光と大きな音がしました)
(E-7の木(湿った生木)が燃えていました。数十秒ですが誰かが見た可能性あり)

520 メメント続き◇fg7nWwVgUc :2005/09/02(金) 00:21:40 ID:hNdeEao2
以上です。あと、何故か専ブラウザが壊れてしまって繋がらないので、
誰かよろしければ本スレで試験投下した、とお伝え下さい

521 我が家族に手向けよ業火 ◆E1UswHhuQc :2005/09/02(金) 00:57:20 ID:2hhtcUkM
 獣精霊が封じられていた檻は、思念の通り道で紡がれた、ただそれだけの寝台に過ぎなかった。
 照らし染める光も、凍て付いた夜もない、隙間でしかない空虚。確立した自我を持っているのなら、そこは確かに退屈なところだった。
 その一方的な閉鎖に満ちた空間から、全方向に広がる空間へ――つまりは外界へ、獣精霊は解き放たれた。
 獣精霊は思考する。焦りを抑えて思考する。
 水晶檻の中で、なぜか聞こえていた放送。そこで呼ばれた――ミズー・ビアンカの名前。彼女は本当に死んだのだろうか?
 答えはない。
 もとより、誰に対しても発していない問いかけに、答えが返って来るはずはない。そんなことは分かっていた。相手のない問いかけに答えが返って来る道理など、この世界にはない。
 答えを望んでいない問いかけに、答えが返って来ないのと同じ様に。
 獣精霊は疾駆する。素早く迅速に疾駆する。
 何をするにせよ、彼女が本当に死んだのであるか、確かめてからでなければ始まらない。
 周囲にいた者達を――黒が目に映える二人を無視して無抵抗飛行路に飛び込み、彼女の元へと馳せ参じる。
 これは容易なことだった。自分に彼女の居場所が分からないということなど、あろうはずがないのだから。
 そんなことは、あってはならない。彼女の――獅子となった獅子の子の居場所が分からないなど、あってはならない。
 獣精霊はうなりを発する。ほんの小さくうなりを発する。
 彼女は既に獅子となった。なのに――死んだというのか?
 だが、今は考える時間などはない。
 時間は限られている。水晶檻は退屈な空虚ではあるが、硝化の森と同等の環境を約束している。硝化の森の無い此処で、自分はどれだけ存在を示していられるのか。それは誰にも分からない。
 急ぐに越したことはない。
 獣精霊は前進する。迷いを棄てて前進する。
 近付けば近付くだけ、嫌な感覚が増していく。だが停滞には意味がない――事実はこちらが確認しようとしまいと、確実にこちらを蹂躙してくる。既に過ぎ去った事柄であるがゆえに、抗いもできない。それが恐ろしくないわけではない。
 唯一ともいえる対抗手段は、信じることだけ。彼女の生存を信じ、先の放送が虚言であったと信じる。裏切られることになろうと信じるしかない。
 獣精霊は発見する。ほどなく順調に発見する。
 無抵抗飛行路から抜ければ、無数の水滴が降り付けてくる。焦燥感から生まれる熱気が幾らかを蒸発させるが、それは湿り気を助長させるだけだった。
 そして、それを見つける。視界を狭める豪雨の中で、それは人為の直立さをもって建っていた。
 とはいえ。
 なにを見つけたわけでもない。簡単に言えば、それはただの建造物だった。力を少し振るえばそれで消え去ってしまうような、脆弱な木と石の集合体。
 ただしそれは――血の臭いに浸されていた。
 これ以上は進めないと、本能が告げている。進んでしまえば彼女への信頼を奪われることになると、奥底に潜む何かが訴えている。
 だがそれでも。

522 我が家族に手向けよ業火 ◆E1UswHhuQc :2005/09/02(金) 00:58:11 ID:2hhtcUkM
 進んだ。爪の一振りで扉を打ち破り、建造物の中へ。彼女の元へと前進する。
 部屋が湿気に満ちているのは、雨が降っている為か。それとも、血が溢れている為か。
 部屋の中には三つの死体があった。
 二つは男。一つは女だがミズー・ビアンカではない。
 若干の安堵を手に入れ、すぐにそれが無意味だと知る。三つの死体の存在は、ここで殺戮が行われたことを示している。
 それに、ミズー・ビアンカが巻き込まれていないと、どうやって証明できる?
 体当たるようにして次の扉を抜け、進んだ。進んだだけ、彼女への信頼が奪われていく。
 そしてすべてをうしなった。
 獣精霊は憤怒する。深く悲しく憤怒する。
 大量の血液を流し、壁に寄りかかって事切れている――ミズー・ビアンカの存在の残滓。
 その近くに二つ、少女の死体が倒れていた。そのうちの一つからは、ミズー・ビアンカの血が付着している。
 奪われてしまった。
 大きく、吼える。降り続ける雨水の叫びをかきけすように、大きく、強く、そして哀しく。
 咆吼と同時に広がった爆炎が、周囲を紅蓮に染め上げた。
 赤が呑み込み、紅が切り裂き、朱が渦を巻く。緋色の焚滅が蹂躙し、赫々とした火葬が覆い尽くす。
 雨滴の侵蝕すらをも駆逐する獣の炎勢の前に、全てが焼き尽くされた。
 弔葬の業火が消し飛ばした廃墟は、もはやなにもかもがない。愚かな信頼も、外れた期待も、無為な激怒も、触れ合う距離も、愛を語る言葉すらも。なにもかもが消え去った空隙に、白い灰が積もっている。
 それだけだ。
 炎が静まれば、灰は水の進撃を阻めない。一つの水滴が熱を奪い、二つの水滴が乾きを奪い、三つの水滴が灰であることを奪った。貪欲な激流と交じり合った灰は泥となり、地表と共に何処とも知らぬ処へと流れ去っていく。
 わずかにだけ残っていたすべてが、雨の中に潰えていった。豪雨の中で大きく風が吹き、無数の水滴が舞い散る。
 なにもかもがどうでもよく、一瞥もせずに歩き出した。目的がないのなら、無抵抗飛行路に入る意味はない。雨の中を、噛み締めるように歩いていく。
 ぬかるんだ土を踏みしめ、ただ悔いる。なぜ彼女を死なせてしまったのか。
 降り付ける雨を無視して、ただ怒る。なぜ彼女は死んでしまったのか。

523 我が家族に手向けよ業火 ◆E1UswHhuQc :2005/09/02(金) 01:00:52 ID:2hhtcUkM
 後悔。憤怒。それらがない交ぜになれば、哀しみと大差はない。
 どうすればいいのだろう。これから。
 怒りに任せて、この島を焼き尽くすか。獣の業火ですべてを蹂躙し、彼女への手向けとするか。
 そんなことを彼女は望んでいない――それは分かっている。既に居ないのだから当然ではあるが。居たとしても、望むはずがないだろう。
 ふと、空を見上げた。黒の雨雲で覆われた曇天を。
 雨が容赦なく降り注いでいる。陽は雲に隠れ、灰色の闇がそこに横たわっている。
 無数の水滴による雨音は他の音の存在を覆い隠し、隙間なく降り行く水滴は視界を無数の線で埋め尽くす。むせ返るような水の臭いは血の臭いすらも洗い流し、降り付ける水滴の連続が毛皮を濡らす。舌に来る刺激は金属にも似た雨の味。
 そうして。
 獣精霊は決意する。その意味を考えながら、決意する。
 何をするのか。そんなことは最初から決まっていた。
『獅子は――』
 豪雨の中、無尽の雨音を吼声が引き裂き、声が響く。
『獅子の子を守る』
 決意が生まれれば、力が生じる。
 鋭利に研ぎ澄まされた感覚が、『それ』の居場所を探り当てる。同時に、若き新たな獅子の存在も。
 行く。
 戦火を身に纏い、獣精霊は前に進んだ。

【D-1/公民館/1日目・14:55頃】
※公民館が焼失しました。落ちていた物品もほぼ全て焼失しました。

524 ホワイト・アウト(白い悪夢)(1/5) ◆5KqBC89beU :2005/09/07(水) 21:47:59 ID:rxWyBrZc
 そこは霧に満たされていた。視界は白く閉ざされて、どこを見ても変わらない。
(これは、夢)
 自分が眠っていることを、淑芳は知覚する。自覚したまま、夢を見続ける。
 数時間の睡眠でようやく回復した体調。慣れぬ術で異世界の宝具を使った影響。
制限された状態で全力の一撃を放った反動。目の前で想い人を殺された動揺。
 記憶が蘇っていく。これまでの出来事を、娘は思い出していく。
(あの後、わたしは気を失って……)
 ここには他者の姿がない。銀の瞳を持つ彼女だけが、霧の中に立っている。
 だが、それでも淑芳は言葉を紡ぐ。聞くものがいると、彼女は気づいている。
「あなたは、何です? 勝手に夢の中へ入ってくるだなんて、無粋ですわよ」
 答える声は、霧の彼方から届けられた。
「わたしは御遣いだ。これは、御遣いの言葉だ」
 どこからか響く断言。年齢も性別も判然とせず、不自然