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尚六SS「三日夜(みかよ)」

44三日目(8/E):新刊発売まであと3日:2019/10/09(水) 20:47:57
 六太は手を伸ばし、餅をひとつ手にとって口に入れた。
「腹は減ってないのではなかったのか?」
 尚隆の問いをよそに、六太はがんばってさらに餅を食べた。
「おい、無理はするな」
 困惑したような尚隆の声音に、六太はもうひとつ餅を取ると、尚隆の口元
に差しだして「おまえも」と言った。「せっかく女官が用意してくれたのに、
残したらもったいないじゃないか」と言い訳しながら。
 尚隆は差しだされた餅をじっと見ていたが、すぐに微笑を浮かべると「そ
うだな」と答え、勧められるままに餅を口にした。そうやってふたりでせっ
せと食べたので、盛られていた小餅はほどなく彼らの腹におさまった。
「さすがに全部食うときついな。米の餅はうまいが、腹にたまりすぎる」
 苦笑する尚隆のかたわらで、六太も満腹して腹をさすった。
「このまま寝ると、もたれそうだな。ちょっとその辺を散歩してくるか」
「うん」
 六太も同意して、ただし護衛を引きつれるのは面倒なので、使令に見張ら
せてこっそり仁重殿を抜けだした。不寝番もいるから官を出し抜くのは大変
だが、こういうことに慣れている彼らには大した問題ではない。人目につか
ずに歩ける場所もいろいろ知っている。
「ああ、いい月だ」夜空を振りあおいだ尚隆が、満月に近い輪郭の月に声を
上げた。「これで少し雲がたなびいていると風流なのだが、雲海の上で雲は
ないしな」
「おまえ、普段は風雅とはほど遠いのに」六太は吹きだした。
「なに、俺とてたまには雅び男(お)を気取っても悪くあるまい。何しろ空だ
けでなく地上にも、光を放つ月がここにおる」そう言って六太の頭に手を置
いて、金髪をくしゃくしゃにする。「ただしこちらの月は、よく減らず口を
たたくがな」
「どうせ」
 六太はすねるようにわざと頬をふくらませたが、笑った尚隆にいっそう髪
をくしゃくしゃにされただけだった。そうして互いに寄り添って、月明かり
に照らされた静かな宮城をゆったりと歩いていく。
 ふたりきりで過ごす夜は、きっと今夜も甘い。


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