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尚六SS「三日夜(みかよ)」

41三日目(7):新刊発売まであと4日:2019/10/08(火) 22:57:53
 それでも尚隆が運ばせてくれたものだし、と思って高坏を見やると、一口
大の綺麗な切り餅が盛られていた。尚隆はさっさと手を出して小さな餅とは
いえ三切れも食べたので、夕餉が足りなかったのだろうかと六太は不思議に
思った。
「おまえ、腹減ってんの?」
「いや、そういうわけではない。まあ、おまえも食え」
「俺、腹減ってねーんだけど」
「一切れでいいから」
 普段はこんなことを無理強いする尚隆ではないのに、と不審に思いながら、
六太は仕方なく餅を口に入れた。すると味や歯ごたえから、餅米をついて
作った蓬莱風の餅であることがわかった。
 空腹時ならありがたかったのにな、と少し残念に思いながら六太が食べ終
わると、尚隆は「よし、食べたな」と何やら満足そうにうなずいた。
「これ、何か意味あんの?」
 ようやく尚隆の言動を訝しく思った六太が問うと、尚隆は笑いながら「い
や、別に他愛のないことでな……」と答えた。
「おまえは知らんかもしれんが、昔の蓬莱では通い婚でな。つまり男が気に
入った女のもとに通うわけだが、そうすると当然ながら単なる遊びと結婚と
は区別がつかん。だから決まりがあって、結婚しようと思う男は三晩続けて
女のもとに通うのだ。それで婚姻が成立し、その祝いの儀式のひとつとして
三晩目に夫婦で餅を食ったのだそうだ」
 六太はぽかんとしたが、何を言われたのかがわかると、とたんに顔が赤く
なった。
「それって……」
「他愛もないと言ってしまえばそれまでだが、いちおうけじめはつけておこ
うと思ってな。昨夜は来られないかと思ってさすがにあせったが……。まあ、
忘れてくれてかまわん。ここは蓬莱でもないし、要するに遊びのようなもの
だからな」
 あらためて六太が高坏を見ると、盛られた餅は紅白の色彩だった。蓬莱で
の祝いごとの色だ。


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