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尚六SS「三日夜(みかよ)」

1一人カウントダウン企画 ◆y8UWMRK39I:2019/09/04(水) 21:30:25
『一人カウントダウン企画』第七弾は、この企画一番の長編。
仁重殿に通ってくる尚隆と六太の、前振り+三晩の話です。

基本は甘々でラブラブながら、一部泣き虫ろくたん。

2前振り(1):新刊発売まであと38日:2019/09/04(水) 21:33:03
 いちおう恋人同士なのかな、とは思う。だがその表現に常にさりげなく疑
問符がついてまわるのは確かで、六太にはよくわからなかった。
 最初は他愛のない触れあいに過ぎなかった。少なくともそう思っていた。
 尚隆と一緒に王宮を抜けだして遊びまわるのはめずらしいことではなかっ
たし、同じ舎館に泊まり、宿代を浮かせるため同じ房間、同じ衾褥で寝るの
もいつものこと。男同士という気楽さもあって、特に寒い冬などは褥の中で
くっついて互いを温めた。「もっと寄れよ。俺が寒いだろ」「ひとりで衾を
取るな。こっちは足が出てしまうだろうが」などと楽しく文句を言いあいな
がら。
 そうやってじゃれあっていると、ふとした拍子に頬と頬が触れあうくらい
は普通にあるし、頬に軽く唇がかすめることだってある。だから六太はそう
いうものだと思っていた。何より尚隆と触れあったり、湯たんぽ代わりとは
いえ抱きしめられたまま眠るのは嬉しかったので、それ以上は深く考えな
かった。
 しかしあるとき長楽殿の一室で尚隆とふざけていると、市井の舎館でのと
きのようにふと頬が触れあい、それのみならず軽く唇に口づけされた。さす
がにびっくりした六太が相手を凝視すると、尚隆は「そうまで驚かれてもな」
と苦笑した。六太はただの偶然だったのだと解釈し、自分の過剰な反応に恥
じいって、逆にそれを隠すためにふくれっ面でぷいと横を向いた。
「何をむくれている」
「べーつにぃ」
「今のでは不満だったか」
「今のって何だよ?」
 顔から火が出そうな思いをしながらも、挑戦的に相手を睨みつける。する
と尚隆は困ったように笑うと六太を抱きよせ、また唇を寄せてきた。六太は
反射的に彼の胸に手をついて相手を押しやり、首まで真っ赤になりながら、
袖口で自分の口をぬぐった。
「へ、変なこと、すんな!」
「ふうむ」
「な、何だよ?」
「いや……」
 黙りこんでしまった尚隆を尻目に、六太は何とか彼の腕を逃れると、あか
んべえをして房室から駆け去った。
 それが始まりだった。少なくとも六太にとっては。

3前振り(2/E):新刊発売まであと37日:2019/09/05(木) 21:31:24

 尚隆はそれ以来、さりげなく、だがひんぱんに体に触れてくるようになっ
た。肩に腕を回されたり、そのまま抱きよせられることも多くなった。六太
はどうしていいかわからず、単なるおふざけの延長という反応を装っていた
が、そうされること自体は嫌ではなかったので、相手の行動に慣れるにつれ
自然に受けいれていった。
 そこに湿っぽさはみじんもなく、尚隆があっけらかんとしていたせいも大
きいだろう。あまりにも当たり前のように大らかに接せられたので、六太の
ほうも深く考えずにすんだのだ。
 とはいえ、たまに軽く口づけされるときは、いくら尚隆が冗談めかしてい
てもさすがに恥ずかしく、そのときばかりは緊張した。尚隆が体を離してく
れたあとは、六太は羞恥を誤魔化すためにわざと無関係の話題を振ったり、
用事を思いだしたと嘘を言って房室から逃げだしてしまうことも多かった。
 いずれにしろここまで来ると、こういうことに疎い六太でもさすがに「俺
たちって……?」と疑問が頭に浮かぶようになった。ふざけて抱きあったり
するくらいならまだしも、偶然でも何でもなく故意に口づけるのは、やはり
それなりの関係ということではないのだろうか。
 その割には今まで愛の言葉だの何だので口説かれたことがないのが腑に落
ちなかったし、そういう手間を省いて既成事実化されてしまったようで、何
とはなしに腹の立つことでもあった。そもそも尚隆は相変わらずひとりで下
界に遊びに行くこともひんぱんで、別に彼が白粉の匂いをさせて帰ってきた
ことがあるわけではないが、たぶん女と遊んでいるんだろうと想像するのは
おもしろくなかった。
(俺がいるのに)
 もやもやとした気持ちのまま、そんなことを考える。もっともすぐに、
はっきり恋人とも言えない自分がいだいて良い不満なのかわからずに困惑す
るのだったが。
 そして尚隆の愛撫に慣れるにつれ、いつしか六太自身も彼に甘えたり、時
にはすねて見せたりもして、既に相応の関係の相手として振る舞っているこ
とはまったく自覚していなかった。

4一日目(1):新刊発売まであと36日:2019/09/06(金) 00:19:53

 その日、六太が榻で尚隆の隣に座り、相手の手元の書を何気なく覗きこむ
と、彼はいつものように六太に腕を回してきた。そうして彼の腕にすっぽり
収まってしまうのはとても嬉しかったが、同時に恥ずかしくもあった。おま
けに最近は彼に触れられると体がとても熱くなってしまうので、それを相手
に悟られるのではと思うと羞恥の度合いも増した。
「あのさ……。こうやってくっついてると、暑くねえ?」
「暑いのか?」
「うん、まあ……ちょっと」
 すると尚隆は「確かに顔が赤いな」と事も無げに言って、六太の頬に手を
当ててきた。さらに「まさか熱でもあるのではあるまいな」とつぶやきなが
ら頬を寄せてくる。麒麟である六太にとって、角のある額は弱点だから、そ
こを避けてくれるのはわかるが……。
 頬と頬が触れあい、その仕草に何となくこれまでとは違うものを感じて六
太がどぎまぎしているうちに、尚隆の唇が頬をかすめた。そのままそっと口
づけされ、六太が緊張していると、抵抗されないのを見定めたかのように尚
隆はふたたび口づけてきた。
 いつもとは違う口づけ。彼は六太の背に腕を回して胸元に強く抱きよせ、
自然とあおのく形となった六太の口を押し開くと舌を入れてきた。熱い舌で
口腔内をゆっくりとなめまわされる感触に、六太はうろたえながらもぼうっ
となってしまった。口の中をなめられているだけなのに、その熱が全身が広
がっていくようだった。
 やがて尚隆は自分の舌を六太の舌にからめると、きつく吸いはじめた。既
に体が痺れたようになってしまっていた六太は、もはや体中の力が抜けてし
まい、内心でうろたえながらもなされるがまま。尚隆の胸元をつかんでいる
手にも力が入らず、呼吸は早く、体はますます熱くなってきて、特に下半身
は爆発しそうだった。
「尚――」
 接吻の合間に何とか彼の名を呼んで押しとどめようとしたが、すると今度
は首筋に顔を埋められて息を飲んだ。舌のはう熱い感触に、ぞわぞわとした、
これまで経験したことのない奇妙な感覚が背筋に走り、思わず体をのけぞら
せる。
 それからもう一度接吻され、深く長いその口づけのあとで、ようやく尚隆
は顔を上げて六太を見た。あんなことをされたあとで彼と見つめあうのは恥
ずかしくて、六太はつい目を伏せてしまった。すると尚隆は耳元に唇を寄せ、
低音の声音で官能的にささやいてきた。
「今夜、おまえのところに行く。待っておれ」
「え」思わず目を上げて彼の顔を見つめる。「今夜って……」
「今夜だ」
 尚隆はもう一度ささやくと体を離した。

5一日目(2):新刊発売まであと35日:2019/09/07(土) 11:35:55

 その夜、夕餉が済むと、六太は女官に湯の用意をさせて湯浴みをした。そ
れから乾きにくい長い髪に扇の風を当てて急いで乾かし、湯を使った痕跡を
隠す。だって、まるで尚隆のために湯浴みしたみたいじゃないか……。
 どうせ酒でも飲みにくるんだろ、そう六太は思ったが、今まで尚隆が仁重
殿でそんなことをしたことはない。ふたりして正寝で飲むならともかく、そ
もそも尚隆は滅多に仁重殿にはやってこないのだ。
(まさか、な……)
 それでもいちおう酒でも用意させるかと思いつつ、踏ん切りはつかなかっ
た。何か話があるだけかもしれない。だが。
 ――今夜、おまえのところに行く。
 耳元でささやかれたあの言葉。
(だってまさか、そんなはずはない……)
 落ち着かずに室内をうろうろ歩きまわったり榻に座ったり、いたずらに髪
をいじったり。
 今さらながらに「どうしよう」とおろおろする。どうせ女官が先触れに来
るだろうから、その間に気持ちを落ち着かせるしかないが……。
 そんなふうに考えていたのに、気づいたとき、既に王気はすぐ近くにあっ
た。
 「六太、入るぞ」と声がするなり居室の扉が開かれたので、六太は文字通
り飛びあがり、座っていた榻から反射的に立ちあがっていた。扉の前の衝立
の陰から姿を現わした尚隆は、いつもの鷹揚な笑みを浮かべると、六太が
立っている隣にどっかと腰をおろした。
「ほら、みやげだ」そう言って、榻の上に素朴な紙の包みを置く。「下でお
まえの好きな栗饅頭を買ってきたのだが――夕餉で満腹したあとだろうな。
まあ、明日にでも食ってくれ」
「あ、う、うん、ありがと」六太はどもりながらも、何とか礼の言葉を押し
だした。「ちょうど小腹がすいてたし、今もらうよ。そ、そうだ、女官にお
茶、頼んでくる」

6一日目(3):新刊発売まであと34日:2019/09/08(日) 10:27:09
 そう言うと六太は、これ幸いとばかりに榻の傍らを離れ、近習の女官を呼
んで茶の用意をするよう言いつけた。そして尚隆のそばにはさりげなく戻ら
ず、花瓶だの何だのが置かれていた壁際の細長い小卓の上に行儀悪く座りこ
んだ。
 すると、その様子を見た尚隆が呆れたように言った。
「おまえな。せっかく恋人が夜に訪ねてきたというのに、それはないだろう。
つれないやつだな」
 六太は目をまばたいた。まじまじと尚隆と見つめる。
「……俺らって、恋人同士なわけ?」
 やっぱりそうなんだ、とほっとしつつも、今ひとつぴんと来ない六太だっ
た。
「なんだ。おまえは恋人でもない相手と、ひんぱんに接吻を交わしておった
のか?」
「だってさ……。おまえ、相変わらず遊んでんじゃん。女のところへも、
しょっちゅう行ってんだろ?」
 俺がいるのに、という言葉はさすがに飲みこんだ。
「街へ降りるのにもいろいろあるぞ。まさかおまえは、俺がいつも女をあさ
りに行っていると思っているわけではあるまいな」
「そりゃ――そういうわけじゃないけど、さ……」
 そうこうしているうちに女官がやってきて、茶を満たした茶杯を置くと、
邪魔にならないようすぐに退出していった。尚隆は先ほど持ってきた包みを
開いて茶杯の横で広げ、小さな饅頭の山を六太に示した。
「ほら。小腹がすいているのではなかったのか」
「う、ん……」
 仕方なく尚隆の隣に座り、栗饅頭をひとつ口に放りこむ。確かに好物だっ
たし、美味でもあったが、今は緊張のあまり味わうどころではなかった。
 ぎこちない六太の様子を、尚隆はしばらく目を細めて眺めていたが、「う
まいか?」と問うなり、肩に腕を回してきた。六太は危うく、持っていた食
べかけの饅頭を取り落とすところだった。
「う、うん。うまいよ」

7一日目(4):新刊発売まであと33日:2019/09/09(月) 07:04:45
 やっとのことでそれだけ答えながら、饅頭の残りのかけらを何とか口に押
しこむ。しかし顔は赤く、熱を帯びているのが自分でもわかったので、尚隆
にも知られてしまっているだろうなと思いながら、どうすることもできな
かった。
(夜、『恋人』のところに来るってことは、やっぱり――)
 尚隆との関係がこれ以上のものになることについて、具体的な想像がまっ
たくできなかった六太は、この場を自然に辞するだけの言い訳を見つけるべ
く必死で考えをめぐらせた。しかしうろたえた頭には「どうしよう」という
言葉ばかりが反響していて、大した思案が浮かぶはずもない。何とか普通に
喋って話をそらして誤魔化して――。
 そう考えながらも、「男同士でいったい何をするんだろ?」という単純で
素朴な疑問が頭をかすめた。これまで色恋の経験がないということもあって、
尚隆の意図が今ひとつつかめない六太だった。
 そうやって戸惑っているうちに、尚隆が六太の体をなでまわすようにゆっ
くりと手をすべらせてきたので、六太はいよいよあせった。赤くなった顔を
見られまいとさりげなく顔を伏せ、力を込めてきた尚隆にあらがうように体
を硬くする。
 すると尚隆は、しばらく相手の反応を見守ったあとで、不意に腕に力を入
れて六太を強引に抱きよせた。六太が気づいたときには、尚隆の腕の中、
しっかりと胸元に抱きしめられていた。驚いて反射的に相手の胸に手をつき
顔を見あげてしまってから、迂闊にも至近距離で見つめあう格好になったこ
とに気づく。
「あ……」
 首まで赤くなってうろたえていると、尚隆はそのまま六太の後頭部に手を
添えてあおのかせ、性急に口づけてきた。
「尚――」
 あわてて尚隆の名を呼ぼうと開いた唇の間から熱い舌が入りこんできて、
口腔内を蹂躙しはじめた。たくましい腕にしっかりとからめとられている上、
頭まで押さえられていると身動きが取れず、動揺しきりの六太はなされるが
ままだ。触れられているところから甘い痺れが全身に広がって体に力が入ら
ず、まったく抵抗できない。

8一日目(5):新刊発売まであと32日:2019/09/10(火) 21:52:07
 深く激しい接吻のあとでようやく口を離してもらえたときには、六太は腰
が抜けたようになってしまった。そこへ昼間のように、耳元から首筋にかけ
て、たっぷりとなめまわされてはたまらない。六太は熱い体をもてあましな
がら、すがるように尚隆の衣をつかみ、浅く早い呼吸を繰り返すしかなかっ
た。
 やがて尚隆は六太の耳元に口を寄せると、かすれた声で淫靡にささやいて
きた。
「そろそろおまえも準備ができたようだな……」
 そうして相手の反応を待たずに、六太の体をかかえて立ちあがる。すっか
り力が抜けてぐったりとしてしまった六太はまったくあらがえず、すんなり
隣の臥室に連れていかれた。
 そのまま牀榻の奥の臥牀におとなしく横たえられた六太だったが、帯を解
かれて衣を脱がされようとするに至って、さすがに相手の手を押しとどめた。
尚隆は苦笑した。
「睦みあうには普通、服を脱ぐものだぞ。そう心配せずに任せておけ」
「む、睦む……!」
 やっぱり、と思いつつも、気が動転した六太は尚隆の腕を強く押さえたま
ま離さなかった。すると尚隆はまた苦笑し、「仕方がない」と言うなり、
さっさと自分が装束を脱ぎはじめた。
「え? あの。ちょっと」
 何が起きたのかわからずに茫然としている六太の前で、鍛えぬかれたたく
ましい裸身があらわになる。六太は目をみはった。これまで一緒に水浴びし
たこともあるから、初めて彼の肌を見るわけではない。しかしこんな状況で
は、いったいどうしてよいものやらわからなかった。
「な――に脱いでんだよ……」
 動揺を隠すように言った六太だったが、語尾が震えてしまっては単なる虚
勢にしか聞こえない。おまけに相手が全裸になってしまったのに、このまま
自分が抵抗を続けるのも何だか悪いような気がして、六太はためらった。そ
うしてその隙につけこんだ尚隆に、あっという間に衣を脱がされてしまった。
 つい衾に手を伸ばして下半身を隠そうとした六太だったが、その暇もなく
尚隆に押し倒され、気づいたときにはその大きな体躯に完全に組み敷かれて
いた。

9一日目(6):新刊発売まであと31日:2019/09/11(水) 23:43:33
「ちょ、ちょっと待ったぁ!」
「うん?」
「ちょっと――その、話くらいしないか? そんでもって、こういうことは
それから――」
「これから俺たちがやろうとしているのはな、この体での語らいなのだぞ」
「え。あの」
「いいから少し黙れ。まったく雰囲気も何もあったものではない」
 困ったように笑われ、六太は顔を赤らめたまま口をつぐんだ。
(そっか、雰囲気か。確かに雰囲気は大事だよな――たぶん)
 尚隆は六太をがっしりと捕らえて体を密着させると、さっきのように耳元
から首筋を激しくなめまわしはじめた。下半身は六太の膝を割って腰を入れ、
これまた密着させたまま、股間を六太のものにこすりつける。汗のせいか湿
り気を帯びている尚隆のそれは、熱く大きく固かった。
 あおむけで強引に体を開かされた六太のほうは、何とかあらがおうとした
ものの、これだけしっかりと絡めとられていては、せいぜい手足を無意味に
動かすくらいが関の山だ。こんなふうに大股を開いて尚隆の腰を受けいれさ
せられ、ぴったりと密着されながら股間を刺激されると思わなかった彼は、
もうどうしていいかわからなかった。
 尚隆の一物にこすられはじめてすぐ、奇妙な感覚が腰に走る。それは瞬く
間にはっきりとした快感になり、奥のほうからじわりとわきあがってくる得
体の知れぬ感覚に、六太は我知らず甘いあえぎをもらしてしまった。
「し、尚隆――」
 その先に行くのが何となくためらわれて、六太は尚隆の重い体を押しのけ
ようとした。しかし尚隆はそれを許さず、いっそう腰を精力的に動かして六
太を刺激した。
「お、俺、何か――変――」
 うわずった声を上げて思わず尚隆の肩にすがったとき、慣れない刺激に耐
えられなくなった六太は腰を震わせて精を吐きだした。長い一瞬の激しい快
感に、頭の中が真っ白になる。しかし射精のあとは、熟れすぎた果実のよう
に熱く混沌としていた思考がかなりすっきりして、少し冷静に状況を見られ
るようになった。

10一日目(7):新刊発売まであと30日:2019/09/12(木) 23:51:42
 だがその様子を見ていた尚隆が体を下方にずらし、六太の太腿をつかむと
股間を覗きこむようにしたので、六太は仰天した。
「そんなとこ、見るな!」
 反射的に叫んで、あわてて両手で股間を隠す。だが尚隆は六太の手首をつ
かむと、黙ったまま力をこめて強引に引きはがした。濡れて萎えたものがあ
らわになり、六太は羞恥のあまり思わず顔をそむけた。女仙やら女官やら、
他人に裸を見られることには慣れていたし、これまで別に何とも思ったこと
はないのに、こんなふうにされると恥ずかしくてたまらなかった。
 尚隆の大きな手が、六太のものを覆うようにしてゆっくりとなでまわした。
妖しくうごめく指先の絶妙な感触に、本能的に腰を振って彼の手に股間をこ
すりつけたくなった六太だったが、何とか耐えた。
 やがて尚隆は、一物をなでまわしていた片手をずらすと、尻の下にそっと
差しこんだ。指先が奥にあるものに触れてきた――と思うや否や、中に入り
こんできた。
「ちょ――おま、何す――!」
「だからさっきから黙れと言っておろう」
 またまた苦笑されたものの、こんなに変なことをされてはたまらない。つ
い後ろに肘をついて上体を起こした六太だったが、自分の股の間に陣取って
愛撫を続ける尚隆の股間が目に入るなりぎょっとなった。黒ずんだそれは、
六太のものとは比べものにならないほど大きく形も異なっていて、それ自体
がまるで生きものであるかのようだった。水浴びやら何やらで見たときとは
大きさがまるで違う。たくましく屹立しているそれと尚隆の行動とが頭の中
で即座に結びつき、相手の意図を悟って一気に冷や汗が噴きだした。
「む、無理! 絶対無理! 入らない!」
 悲鳴じみた声を上げた六太だったが、尚隆は平然としていた。
「無理かどうかは、やってみなくばわかるまい。だがまあ、大丈夫だ。任せ
ておけと言ったろう」
「んなこと言ったって、んなでかいもん、入るわけねーだろっ!」
「これは褒められたと思っていいのかな」
 尚隆は低く笑ったが、六太のほうはそれどころではなかった。尚隆はなだ
めるように言った。

11一日目(8):新刊発売まであと29日:2019/09/13(金) 19:04:21
「わかった、わかった。試して入らなければ諦める」
「……本当だな?」
「本当だ。だからしばらく黙ってここをほぐさせろ。でないと試すとき、お
まえのほうがつらいことになるぞ」
 六太はつい疑わしそうな目を向けたが、尚隆もこれだけたくましく勃起し
たままではつらいだろうことは何となく想像がついたので、とうとう「わ
かった」と答えた。
 尚隆の無骨な指先がそろりと奥に入りこんでくる。正直なところ気持ちが
悪かったが、六太は我慢した。「力を抜け」と言われてまた褥に背をつけ、
何とか下半身の力を抜く。そうこうしているうちに指の本数が増やされたよ
うで、六太の中で生きもののように尚隆の指がうごめいていた。それは何度
も入口に戻っては広げるようにし、また奥に侵入してはゆっくりと中をかき
まわした。
 じいん、とする奇妙な感覚が奥のほうにあって、そこに触れられるたび、
六太は形容しがたい感覚に襲われた。痛いわけではないし、かといって明確
に気持ちが良いと言えるわけでもない。何か――奇妙としか言いようのない
感覚。
「けっこうやわらかくなったから大丈夫だろう。俺のものには香油もたっぷ
りと塗るしな」
 やがて尚隆はそう言うとそっと指を引きぬき、六太は彼に体をひっくり返
されてうつぶせにされた。先ほど彼が臥牀の下に脱ぎ捨てた装束をさぐる気
配がして、ほのかな良い香りとともに、すぐにぺたぺたと香油を塗る音がし
た。
 ほどなく六太は腰の両側をつかまれて後ろに引かれ、四つんばいで股を開
いて尻を突きだす卑猥な格好にさせられた。そうして先ほど指で広げられた
場所に、もっと熱く、はるかに質量を持ったものがあてがわれる。
「力は抜いたままにしておけよ」
「う、うん」
 尚隆がぐいっと腰を入れた途端、それが自分の中に入りこんでくるのが六
太にはわかった。熱くて大きくて、しかもびくびくと脈動していて、本当に
生きものみたいだ……。
「やはり狭いな。なかなか入らん。だがいい感じだ。おまえも別に痛くはな
かろう?」

12一日目(9):新刊発売まであと28日:2019/09/14(土) 09:35:55
「でも、なんか――」
「なんだ?」
「なんか、妙な感じ……」
 鼻の穴に無理やり大根を突っこまれているみたい、とはさすがに言えず、
言葉を濁す。それでも香油ですべりが良くなったせいか、尚隆の一物は少し
ずつ確実に六太の中に埋もれていった。六太には、ずるり、という絶え間な
い挿入音が聞こえるような気がしたが、それは内部の肉壁全体をこすられて
いることによる錯覚だったろう。
「おまえの中は熱いな……」
 先ほどまでと違い、尚隆の息は荒かった。時折、快感を窺わせる軽いうめ
きをもらしながら、肉壁をいっぱいに押しひろげて、ほどなく彼の男根は根
元まで六太の中に収まった。あれほど大きなものが自分の中にすんなり入っ
てしまったことが、六太には信じられなかった。
「どうだ。ちゃんと入ったろうが」
 かすかに喘ぎながら嬉しそうに言った尚隆を尻目に、六太のほうはもはや
自分で腰に力を入れようとしても入らなかった。腰だけでなく全身に力が入
らず、上半身を支える腕の力も抜けてしまって、自然と顔を褥に埋める形に
なる。先ほど指で刺激されたときに感じた、じん、という感覚が、今度は尚
隆の男根にこすられて蘇り、しかもその度合いはずっと大きかった。
 少しの間、動きを止めていた尚隆は、すぐにゆっくりと腰を動かしはじめ
た。熱く、絶え間なくびくびくと脈動するそれは、六太の中で生きもののよ
うに自在に動いた。
「だ――め……!」
 じんじんする箇所を彼のたくましい雄で刺激された六太は、明らかな快感
の発露に思わず敷布を強くつかみ、喘ぎながらも抵抗の声を上げた。尚隆が
塗った香油のせいか、彼の動きとともに、結合部のこすれる湿った妖しい音
が辺りに響く。
「だ――だだ、め、動い、ちゃ――」
 だが尚隆はやめなかった。むしろ六太の反応を楽しむかのように、「ここ
か?」と問うなり敏感になっている場所を重点的に責めてきたので、六太は
尻を高く掲げたまま敷布に顔を埋め、ただただ耐えるしかなかった。尚隆の
ものを飲みこんだ体は既に自分のものではなくなっていた。尚隆が腰を引け
ば自分も後ろに引かれ、奥まで突っこまれれば反動で体が前に出る。すべて
が相手の動きに完全に支配されていた。

13一日目(10/E):新刊発売まであと27日:2019/09/15(日) 10:51:33
 尚隆はひとしきり抽送を繰り返して自分の男根を六太の秘所に馴染ませた
あと、おもむろに片手を六太の股間にもぐりこませると、そこをしごきはじ
めた。思いがけず前後から与えられた激しい快感に、六太はつい背をのけぞ
らせ、悲鳴じみた嬌声を上げてしまった。後ろに深々と尚隆を飲みこんだま
ま前をしごかれる際のすさまじい悦楽は、最初に彼の股間でこすられて射精
してしまったときの比ではなかった。
 六太は反射的に後ろに力を入れ、尚隆の一物を強く締めつけていた。とた
んに尚隆が「うお」という獣めいた叫びを上げて腰の動きを止めたので、六
太はまずいことをしたのだと思い、何とか力をゆるめようとした。しかし高
みへと上りつつある体は自然と筋肉を収縮させる方向に動いており、もはや
自分ではどうすることもできなかった。
「ふっ……」既にじゅうぶんすぎるほどなめらかになった抽送の過程で、ま
た深々と六太の中に身を埋めた尚隆は、笑みを含んだ満足の吐息を漏らした。
「そんなに何度も強く締めつけるな。これではさすがの俺も長くはもたん。
夜はまだまだこれからだというのに」
 そう言いながら幾度か小刻みに浅い突きを繰り返したあと、ふたたび容赦
なく突きあげてきたため、六太の体は慣れない快感の中でびくびくと大きく
波うった。今や六太のそこは膝で立った尚隆の股間にしっかりとつなぎとめ
られている上、脚の付け根を尚隆の両腕にかかえられて太腿で相手の腰を挟
む格好にさせられていたので、下半身が半ば浮く状態になっていた。それだ
けに尚隆に突きあげられれば、そのまま腰は反動で前に出る。
 六太は褥に突っ伏して敷布を噛み、ともすれば漏れてしまう喘ぎを必死に
抑えようとした。これは自分の体じゃない、と彼は思った。こんなふうに淫
靡な性の快楽に囚われ、恥ずかしげもなく悦びに満ちた嬌声を上げるなんて。
しかし尚隆によって腰が激しく前後に振れるたび、喉の奥から悦楽に満ちた
声がほとばしるのをとめるのは不可能だった。
「初めてだというのに、ずいぶん感じているな。そんなに俺のものは良いか?
これでどうだ?」
 六太に苦痛がないどころか、早くも犯される快楽に囚われていることを確
かめた尚隆のほうは、もう何の遠慮もない。とろとろにとろけてしまってい
る中をぐちゃぐちゃにかきまわしては、ひたすら精力的に腰を六太の尻に打
ちつけるだけだ。既に六太は無意識のうちに、みずから腰をひっきりなしに
振って快感を誘っていた。そうしておいて敏感な部分をこすられるたび、入
口だけでなく、腹筋全体をつかって尚隆をきつく締めつける。
 やがて六太は、脚の付け根をさらに強くつかまれて後ろに引っ張られた。
逆に尚隆は腰を突きだし、下半身をすべて突っこむ勢いで、六太の股を裂か
んばかりにぐいぐいと乱暴に突きあげる。
 気の遠くなるような快感の中で、六太はいっそうの嬌声を上げると、激し
く頭を振りながら体をのけぞらせた。そしてついに尚隆が放った熱いほとば
しりを、体内の奥深くで受けとめたのだった。

14一人カウントダウン企画 ◆y8UWMRK39I:2019/09/15(日) 10:53:48
これで一日目が終了。
いつの間にか新刊発売まで一ヶ月切ってて、ますます待ち遠しい……。

15二日目(1):新刊発売まであと26日:2019/09/16(月) 11:10:56

 尚隆は夜明け前に臥室を立ち去った。六太は浅い眠りの中で、唇に軽く接
吻を落とされたこと、ついでぴったりと寄り添っていた温かい体が自分から
離れたことを感じた。ちょっと淋しいなと思ったものの、一晩中あんなこと
をしたあと、明るいところで顔を合わせるのは恥ずかしかったので助かった
とも思った。
 それからまた一眠りしたらしく、気がつくともう朝だった。
 女官に起こされて臥牀の上に起きあがった六太は、腰の奥に昨夜の名残で
ある甘いうずきがあるのを感じた。そこに尚隆のものが入っていたのだと思
うと、嬉しさと同時に恥ずかしさがこみあげてきて自然と顔が赤くなった。
 女官たちにいつものように体を清められながら、すべてわかっているだろ
う彼女らの態度がまったく変わらないことに感謝する。今何か言われたら、
それが好意的なものであれ否定的なものであれ、何と返したら良いかわから
ずに動揺するだけだったろう。
 椅子に座って髪をくしけずられていたとき、別の女官がにこやかにやって
きて「主上から贈り物が届いております」と告げた。未経験の事態に六太が
「え?」と問い返すと、大勢の女官が手に手に何かを捧げるように持って、
誇らしげに房室に入ってきた。山のような菓子に果物に、何枚かの美しい衣
に――そして文箱。
 むろんこれまで尚隆から何かを贈られたことがないではない。そもそも宰
輔である六太は、王から儀礼のおりに形式的な贈り物を受けとることはたま
にあった。しかしこんなふうに起き抜けに贈られるなどというのは初めてで、
どう考えても昨夜の交情と関係があるとしか思えず、六太は激しくうろたえ
た。
「せっかくの主上のお心ですから、こちらの果物はさっそく朝餉でお出しし
ましょう。お菓子も午後、休憩なさるときに広徳殿にお持ちいたしますね」
 そう言われて、考えのまとまらない六太はただうなずくしかなかった。
「こちらは主上からのお文でございます。どうぞ、台輔」
 うながされた六太はどぎまぎしながら文箱を開け、入っていた文を開いた。
まかりまちがって、もし雅な歌でも書かれていたらどうしよう、同じように
歌を返さなくてはいけないのだろうかと心配したが、そうではなかったので
ほっとした。

16二日目(2):新刊発売まであと25日:2019/09/17(火) 01:30:28

『忘れっぽいおまえのことだから、一晩寝たら昨夜のことも綺麗さっぱり忘
れているかもしれんが、そうはさせんぞ。これだけ贈り物をすれば、いくら
ぼんくらでも思い出すだろう。今日は一日、俺のことを考えていろ。俺がお
まえのことを考えているようにな。
                          おまえの伴侶より』

「あいつ……」
 文から尚隆の声が聞こえたような気がして、六太は思わずくすりと笑った。
 朝餉を摂り、その際に早々と添えられていた数切れの果物に、とても穏や
かで幸せな気分になる。
 それにしてもこの上等の果物といい、見た目も凝った菓子といい、豪奢な
刺繍が施された衣といい、尚隆は前々から準備していたのだろう。いつもそ
うであるように今回も彼の掌の上で躍らされているような気がして、そう考
えると少々しゃくではあった。それもあって朝堂で尚隆と顔を合わせたとき、
含み笑いとともに意味深な視線を投げてきた彼に、六太はここぞとばかりに
あかんべえをして返した。
「こら。それが『伴侶』に対する態度か」
 尚隆は以前なら「主」と言っていたところをさりげなく言い換え、六太の
頭を乱暴にわしづかみにした。髪をくしゃくしゃにされた六太は大声でわめ
いた。
「離せってば! 麒麟の尊い頭に何すんだっ」
「どうやらこのぼんくら頭は、体でしつけねば覚えぬようだからな」
「わーっ、離せーっ」
「主上! 台輔! 何をなさっているんですかッ!」
 そのはた迷惑なじゃれあいも、朝堂に入ってきた朱衡の一喝で幕をおろし
た。
 毎朝の定例の謁見のような朝議は、何か事件でも起きない限りは退屈なも
のだ。六太は「王に『今日は一日、俺のことを考えていろ』と命じられたん
だから、ぼーっとしててもいいよな」と勝手なことを考え、あくびをかみ殺
しながら、書類を奏上する官の様子をぼんやりながめて過ごした。
 ふと、冢宰から書類を渡された尚隆と目が合い、どちらからともなく意味
深な微笑を返す。おかげで眠気が覚めた六太はちょっとどきどきしながら、
何だかこういうのっていいな、と思った。

17二日目(3):新刊発売まであと24日:2019/09/18(水) 01:29:32
 格式張った朝議が終わり、ようやく解放された六太は、広徳殿に行く前に
休憩しようと退出しかけた。そこで何となく後ろ髪を引かれるような思いで
尚隆を振り返る。目と目が合い、いつものように何か生意気な言葉を投げよ
うとし――自分が言いたいのはそんなことではないことに気づいて彼はため
らった。
「あの……。今夜も来る……?」
 気後れしながらも思い切って尋ねる。すると尚隆は破顔して言った。
「おう。嫌だと言っても押しかけるぞ」
「ん」
 はにかんだ笑顔を彼に向け、六太はうなずいた。
 はずむような気持ちそのままに小走りで通路を駆けていった六太は、胸が
どきどきして、すぐに夜になればいいのにと思った。接吻したり抱きしめら
れたりというのもいいけど、いろいろなことを話したい。言ったそばから忘
れてしまうような、他愛もないことでかまわない。ただ彼と寄り添って触れ
あって、ゆったりとした温かな時間を共有したかった。
 こんなふうだから広徳殿に行っても政務どころではなかった。そのせいで
令尹に小言を言われてしまったが、妙に上機嫌な六太をどう思ったのか、令
尹は結局、困ったような笑顔で溜息をついて諦めたのだった。
 午後になって、そういえば女官が菓子を届けてくれると言っていたな、と
思いだした六太は、どうせ近日中に食べきれるとは思えないのだから広徳殿
で皆に配ろうと考え、仁重殿に使いを出してその旨を伝えた。ついでに仁重
殿の女官にも果物を含めてお裾分けすることにした。
 女官たちがたいそう喜んだのはもちろん、男でも甘味好きな者は少なくな
かったから、宰輔の突然の大盤振る舞いに広徳殿中が大喜びだった。小言を
言っていた令尹ですら苦笑いしながらも菓子を受けとった。そしてそれが王
からの下賜であることを知って驚きの中にも合点がいったような顔を向けて
きたが、六太は何も気づかないふりをした。
 夕刻近くになって仁重殿に戻った六太は、時ならぬ大掃除でも始めたかの
ように女官たちがせわしなく働いていたので首を傾げた。それに気づいた女
官のひとりが問いかけてきた。
「台輔。主上は今宵もお越しになるのでしょうか?」
「え? あ、うん。そう言ってた」
 何となくどぎまぎしながら答えると、その女官は心得顔でうなずいてから、
さらにこう尋ねてきた。

18名無しさん:2019/09/18(水) 22:45:31
わー、三日もあるんですね、ラブラブ期間。楽しみに読んでますありがとうございます😊

19二日目(4):新刊発売まであと23日:2019/09/19(木) 20:27:47
「それでしたらお酒のご用意でもいたしましょうか。昨夜は突然のお越しで
したし、何もかまうなとのおおせでしたので、わたくしどもは下がっており
ましたが……。夕餉は正寝でお済ませに?」
「あー……。どうだろ。そうじゃないかな」
 六太が適当に答えると、女官は思いのほか強い口調で「台輔、はっきりし
てくださいませ」と迫った。
「主上のおもてなしに落ち度があれば、わたくしどもの恥でございます。そ
れに万事手抜かりなくお迎えして、これから毎晩でもお渡りいただけるよう
努めなければ」
「ま、毎晩って」
 六太は面食らった。そうしてやっぱり全部ばれているんだと恥ずかしく思
い、何と言うべきかうろたえた。そんな主に女官は言い聞かせるようにこう
言った。
「よろしいですか、台輔。こういうことは最初が肝心でございます。居心地
よくお世話申しあげて、ずっと仁重殿でお過ごしになりたいと主上がおぼし
めすよう計らってこそ、ご寵愛も長くいただけるというもの」
「えーと……」相手に気圧された六太は、何とか言葉を押しだした。「夕餉
は正寝で食べてくる――と、思う。うん」
 その答えに女官はしっかりとうなずいた。
「それでしたらとりあえず、いつご用命があってもよろしいように酒肴のご
用意をしておきましょう。それから台輔は、夕餉がお済みになったらお湯浴
みを。すべて用意はととのってございます」
 有無を言わさぬ強い態度に押され、六太はただひたすらうなずいた。そし
て内心で大変なことになったと思ったのだった。
 夕餉はいつもよりずっと豪華で、これまでに何となく予想がついていたも
のの、六太は気恥ずかしくてたまらなかった。女官たちが喜んでくれている
のは嬉しかったが、要するに尚隆と一線を越えたことを祝われているわけで
……。
 おまけに湯浴みの湯は色とりどりの花弁が浮かべられた花湯で、湯上がり
には三人がかりで全身にたっぷり香油をすりこまれた。その上で今朝贈られ
たばかりの衣の一枚を着せかけられたため、さすがにそれは恥ずかしくて断
ろうとした。しかし「これは主上のお心でございます。台輔もお応えになら
なくては」と強く言われ、結局六太はしぶしぶながらも従った。

20二日目(5):新刊発売まであと22日:2019/09/20(金) 07:15:57
 そんなふうだから思いのほか身支度に時間がかかってしまった。そのため
居室に戻ったのは昨夜尚隆が訪れたのと同じ頃合いだったが、彼がまだ姿を
見せていなかったため、六太は「今夜はちょっと遅れるのかな」と思い、間
に合って良かったと安堵した。
 しばらくすると女官がやってきて尚隆からの伝言を伝えた。冢宰が緊急の
書類を持ってきたため、その対応で少し遅くなるとのことだった。しかしそ
れから一刻が過ぎようとしても、いっこうに尚隆が訪れる気配はなかった。
 夕餉からしばらくばたばたしていたこともあって、言伝を伝えられたとき
の六太は「少しひとりで落ち着けるな」とほっとする気持ちがあった。しか
しこれだけ待たされると、楽しみにしていた反動もあってさすがにいい気持
ちはしなかった。
「何だよ。人を待たせておいて」
 誰もいない房室でそんなふうにつぶやいてみる。しかしさらに半刻が過ぎ
ると六太も不安になってきた。尚隆は本当に来るんだろうか……。
 六太はひそかに女怪をやって様子を見てこさせることにした。
 すぐ戻ってきた沃飛は、「書類を前に、何やら冢宰と話しておいででした」
と報告した。尚隆に気配を悟られないようにと厳命されていたため、沃飛は
遁甲したまま遠くから眺める程度だったらしいが、少なくとも尚隆からの伝
言どおりの光景が展開されていたのは確かなようだった。
 国を治めるのに時刻は関係ないから、夜間に冢宰が正寝に赴くことはまま
ある。特にこの雁では、出奔好きな王が宮城にいる間に必要な御璽をいただ
かねばとはりきる官も多く、その意味では決して特別なことでも不自然なこ
とではない。六太にしてみれば単に時機が悪かったというだけだ。
「じゃあ、仕方ねえよなー……」
 六太はがっかりしながらも、自分に言い聞かせるようにそうつぶやくしか
なかった。
 尚隆から贈られた菓子や果物のほとんどは下賜してしまったが、いくらか
は自分のために残してあったので、それを食べて気を紛らわすかと考える。
しかし特に空腹を感じていないとあって気は引かれなかった。そうこうして
いるうちにまた女官がやってきて、ふたたび尚隆からの伝言を伝えてきた。
「『遅くなりそうだから、先に寝ていてかまわない』とのことです」

21二日目(6):新刊発売まであと21日:2019/09/21(土) 11:52:17
 女官の申し訳なさそうな気後れした態度が、逆に六太の心にぐさりと突き
刺さった。しかし意気消沈したその女官がおずおずと、もしかしたら昨夜の
自分たちの態度にどこか落ち度があり、そのせいで主上がお出向きにならな
いのかもしれない、だとしたら本当に申し訳ないというふうなことを言いだ
したので、六太はびっくりした。
「はは、そんなこと、あるわけないじゃないか」相手を気遣ってわざと明る
い声を出す。「だいたい尚隆は、何もかまわなくていいと言っておまえたち
を下がらせたんだろ? あんなバカ殿でもいちおう王だからな、何かと忙し
いんだよ。今朝の朝議だって官府によってはけっこう煩雑な問題があったよ
うだし、今頃は書類に埋もれてぼやいているさ」
「台輔……」
「もうおまえたちも休んでいいぞ。せっかく酒肴を用意して待っていてくれ
たのにすまないが、遅れる尚隆が悪いんだからな。あとであいつが来たら、
おまえたちのぶんも文句を言っといてやるよ」
 はりきって六太の身支度を整えてくれた彼女たちの気持ちを考えると、も
しかしたら自分以上にがっかりしているのかもしれないと思い、心が痛む六
太だった。彼女たちの前で自分が落ちこんでいる姿は見せられない。
 しかし女官を下がらせたあと、ひとりになると不安がよみがえった。沃飛
によれば尚隆は確かに忙しそうだったとのことだが、もしや来ない言い訳の
ために自分から官を呼んだのではと疑ってしまう。むろんそんなことがある
はずもないのに、つい暗い方向に思考が泳いでしまうのは、待たされて不快
になる段階はとうに過ぎていたからだろう。今は何よりも不安で心細かった。
 手持ちぶさたのまま榻に座りこんでいた六太は、さらに四半刻(約30分)
が過ぎる頃、今夜はもう来ないだろうなとぼんやり思った。気が抜けたよう
にのろのろと立ちあがり、尚隆に贈られた衣を脱ぐと、それを隣の続き部屋
にあった衣桁にかける。
 もし二度と尚隆がここに来なかったらどうしよう、そんな思いが心に浮か
ぶ。そんなことはないと内心で自分に言い聞かせながら、何度もそっと手を
すべらせて衣桁にかけた衣のしわを丁寧にのばした。
 被衫に着替え、もう寝てしまおうと思う。そうすれば妙なことを考えずに
すむ。仮に昨夜の出来事が一晩限りのものだったとしても、あれは確かに現
実だったのだ。それだけでもいいじゃないか……。
 考えれば考えるほど涙が出そうになり、六太は臥室の牀榻の扉を開けると
褥にもぐりこんだ。

22二日目(7):新刊発売まであと20日:2019/09/22(日) 06:02:50

 それからどれくらいの時間が経ったのか。
 六太が気配を感じて目を覚ますと、暗い牀榻の内に単衫姿の尚隆がいて、
そっと衾の下に入ろうとしているところだった。六太にちょっかいを出すつ
もりはなく、単に添い寝をしようとしただけらしい。身じろぎして反射的に
彼のほうを向いた六太に、尚隆は「すまん、起こすつもりはなかったんだが」
と静かに詫びた。
 六太のほうは彼の姿を見るなりいろいろな感情が渦を巻き、何と返してい
いものやらわからなかった。おまけに目が覚めたばかりということもあって
頭が働かず、結局、何も言わずに背を向けて体を丸めてしまった。
「怒っておるのか……?」
「別に」
 できるだけ感情をこめずに言葉を出したつもりなのに、思いのほか硬い声
になってしまい、六太は自分でひるんだ。だが尚隆はむしろ気兼ねするよう
にもう一度「すまん」と言った。彼は褥にもぐりこむと寄り添うように横に
なり、後ろからそっと片手を六太の肩のあたりに置いた。
「秋官府と夏官府から急ぎの書類が回ってきてな。明朝でも間に合わんこと
もなかったが、午前中は朝議があるから、どうしても今夜中に裁可がほしい
とのことでな」
 尚隆が六太に対して、何かを言い訳することはまずない。国政に関わる内
容ならなおさら。それだけにこんなふうに弁解されるのは不自然な気がして、
六太はもやもやとした気持ちを鎮めることはできなかった。
 もっとも接吻されたり抱きよせられたりするようになった頃から妙に気遣
われることが多くなったから、その意味では不思議でも何でもないのかもし
れない。罪人の処罰だの税を増やすだのといった六太が好まない話題も、以
前の尚隆はむしろあけすけに語ったものだ。というより六太が反発するのを
おもしろがっていた節さえある。しかし最近は同じ話すにしても遠回しに表
現するなど直截な言いかたを避けたり、あいまいにぼかしたりするように
なった。むろんこうして深い関係になってしまったことを考えれば、さすが
の尚隆も「伴侶」の感情に気を遣うようになったのかもしれず、遅れたこと
の説明を言い訳のように口にしても不自然というほどではないのかもしれな
いが。

23二日目(8):新刊発売まであと19日:2019/09/23(月) 08:58:30
「別に無理して来なくていいよ」
 背を向けたまま、六太はぽつりと言った。尚隆が来てくれて嬉しいと思う
気持ちはあったが、眠りについたときの不安と心細さはそのまま残っており、
弁解されてしまうと今までそういった経験があまりないだけに却って不安が
募るようだった。
 もし全部ただの言い訳で、本当は来たくないと思っていたのだとしたら…
…。落ちこんでいた気持ちは、そんな馬鹿馬鹿しい疑いさえいだかせてしま
う。背に感じる彼の体温に切ないほどの嬉しさを感じながらも、長い時間
放っておかれたことが悲しくてたまらない。昨夜、初めてあんなふうに過ご
したばかりなのに。
「無理などしておらん」
「だって変じゃないか。いつもなら官の奏上なんか、いくらでも自分の都合
で後回しにすんのに。わざとらしい言い訳なんかすんなよ」
「言い訳ではない。本当だ」
 本当に困ったような声音だったので、六太はいっそう気持ちが沈んでし
まった。以前の尚隆ならこんなことで困ったりはしない。少なくとも表面に
は出さない。むしろ「これだけ言っておるのにわからんのか。面倒なやつだ
な」などと呆れたように言って六太を放っておくか、でなければ逆に抵抗も
かまわず強引に抱きしめるなどの行動に出るだけだ。
 なのになぜ、こんなふうに彼らしくない言動を取るのだろう。
「おまえみたいなやつでもいちおう王だからな、来るかもしれないとなれば
仁重殿の女官たちだっていろいろ準備があるんだよ。いくら『かまわなくて
いい』と言われてもそれが務めだから。なのに無駄になって可哀想じゃない
か」
「すまん」
「明日になったら、ちゃんとうちの女官に謝れよ。みんな遅くまで待ってい
てくれたんだ」
「むろんそうする」
「だいたいこんな夜更けに来るなんて迷惑じゃないか。おまえの勝手に振り
回されるほうの身になってみろ」
「本当にすまなかった」
「なんでいちいち謝るんだよ!」

24二日目(9):新刊発売まであと18日:2019/09/24(火) 00:05:49
 ついに六太は癇癪を爆発させ、衾をはねのけて飛び起きると尚隆に向きな
おった。臥牀の上で座りこみ、わけのわからない憤りと惑いが混ざった視線
を相手に投げる。理不尽な物言いはむしろ六太のほうなのに、なぜ一方的に
なじられるままに甘んじているのだろう。
「急ぎの書類なら優先するのは当然だろう。それもおまえが先送りにしな
かったくらいだから、本当に重要な内容だったんだろう。だったらそう言え
ばいいじゃないか。おまえは悪くないんだから、『俺は忙しいんだ』って、
『何時だろうと臣下が王を迎えるのは当然だ』って、ふんぞり返ってりゃい
いじゃないか。なのになんでいちいちすまなそうにするんだよ!」
 尚隆はゆっくり体を起こすと、六太と同じように臥牀の上で座りこんだ。
妙に静かな風情でつぶやく。
「おまえを待たせた」
「待ってなんかいない」動揺を隠そうと顔をそむけた六太の目に涙がにじん
だ。
「おまえを泣かせた」
「泣いてなんかいない」言ったそばから涙がぼろりとこぼれる。
「六太」
 尚隆に手をつかまれた六太はそれをふりほどこうとしたが、尚隆はしっか
りと握って離さなかった。
「六太」
 もう一度名前を呼ばれたが、涙に濡れた頬を見られるのが嫌で、六太は顔
をそむけたままだった。尚隆が静かに問いかける。
「俺がここに来たがっては変か? おまえとともに過ごしたいと思っては変
か?」
 そのままずっと答えを待っている様子だったので、六太はようやく口を開
いた。
「……そんなの、わかんねーよ……。わかるわけねーじゃん。おまえがどう
思っているかなんて……」
「そうか」尚隆は短く応えると、低く笑ってひとりごとのようにつぶやいた。
「そうだな。はっきり言わねばわからんな……」
 そうして少しだけ沈黙したあと彼はこう言った。

25二日目(10):新刊発売まであと17日:2019/09/25(水) 19:11:25
「俺はな、おまえとともにいたいのだ。おまえの声を聞き、顔を見、おまえ
に名を呼ばれ、おまえの名を呼び、水入らずで過ごしたい。そう思ってでき
るだけ早く来たのだが、泣かれてかなり凹んでいるところだ。嫌われたので
はないかと心配でな」
 やわらかな響きのある優しい声だった。しかし六太はどうしても、その言
葉を額面通りに受けとることはできなかった。
 むろん「面倒な餓鬼だ」と言われて捨て置かれたなら、それはそれで苦し
いだろう。だがこんなふうに不自然に優しく接せられることにくらべれば、
いくぶんかはましだと思えた。
 とはいえ理性では、こうして気遣われているのに反発することがどれほど
身勝手かわかっていたので、六太はただ黙りこんだ。そして心配だと言いな
がらも尚隆から窺える余裕に、いつも彼の掌の上で踊っている自分を思い、
これまで自分に選択権などあったためしがないことをひしひしと感じた。
「六太」
 肩にそっと片手を置かれたとたん、ふたたび涙がぼろっとこぼれ落ちた。
六太はようやく尚隆に顔を向け、泣き濡れた頬をさらした。
「ば――莫迦みてぇ……。いつも俺ばっか、いっぱいいっぱいで……」
 震える声が唇から漏れた。
 そのまま涙を流しながら茫然と座りこんでいると、体に腕を回されて抱き
よせられた。気が抜けたようになってしまった六太はまったくあらがわず、
なされるがままになっていた。そうしていつまでこの腕の中にいられるのだ
ろうとぼんやり考えた。
「六太、明日は一緒に街に降りよう。何かうまいものでも食いに行こう」
 放心したように六太が尚隆を見あげると、彼はやわらかな笑みを向けてき
た。
「何かほしいものはあるか? 行きたいところはあるか? ん?」
 そっと唇をついばまれながら優しく問われ、六太は無理に笑みを浮かべた。
「うん……。いいよ、まだ忙しいんだろ? 俺のことは気にしなくていいか
ら」
「気にせずにいられるわけがなかろう。今日は一日中、おまえのことばかり
考えていたのだぞ」

26二日目(11):新刊発売まであと16日:2019/09/26(木) 20:57:13
 六太が曖昧な微笑を浮かべたままでいると、尚隆は六太の髪に指を通して
頭をなでながら言った。
「俺がどれほどおまえのことを想っているか、おまえは知らぬだろうな」
「うん……。知らない」
「俺はおまえには絶対に勝てん。何しろおまえに惚れすぎているからな、な
じられるくらいならともかく、泣かれてしまっては手も足も出ん。許しても
らえるまでこうしておろおろしているだけだ」
「……嘘ばっかり」
 六太が笑ってつぶやくと、尚隆も笑いながら「嘘なものか」と返してきた。
「だからこそ俺はおまえには負けんぞ。恋愛というものは、より惚れたほう
が負けだという。相手の仕草のひとつひとつに見とれ、ほんの一言を気にし、
ちょっと笑いかけてもらっただけで有頂天になり、何か言われればどんどん
譲歩してしまうからな。惚れた弱みというやつだ。だがな、本当はそうやっ
て負けたほうが勝ちなのだ。恋人のことばかりで頭が満たされて幸せでない
わけがない。そしてこういうことは幸せになったほうが勝ちだ。笑いかけて
もらっては心がはずみ、名を呼ばれてはうっとりとする。俺はおまえには勝
てん。負けて負けて負けつくして、俺の中がおまえでいっぱいになる。そう
して幸せになって、負けるが勝ちという言葉の意味を知るのだ」
 朗らかに語る尚隆を、六太は微笑したまま見つめていた。そしてわけのわ
からない切なさを秘めたまま、優しい言葉が次々とつむがれていくのを黙っ
て聞いていた。
 尚隆はみずからの王としての部分を厳然と区別しながら、優しい想いを向
けてくれている。国の安寧を保ったまま、つまりはふたりがともにいられる
平和な状態を保ったまま六太を愛してくれている。これほど幸せなことはな
いはずなのに、それでも淋しいと思ってしまうのは不思議なことだった。
 だがきっと、こうして尚隆が自分を見失わないでいるかぎり雁は安泰なの
だろう。そうして尚隆が余裕をもって六太をあしらってくれるかぎり、六太
のほうで多少すねたり淋しがったりしても大丈夫なのだろう。
「どうした。おとなしくなってしまったな」
 頬に掌を添えて顔をのぞきこんできた尚隆に、六太はまた曖昧な笑みを返
した。「もう寝るか」と言われて、「ん」とうなずく。

27二日目(12):新刊発売まであと15日:2019/09/27(金) 19:56:01
 尚隆の腕にとらわれたまま六太は褥に横になった。尚隆は六太に腕枕をし、
もう一方の腕を伸ばして肩まで衾をかけてくれた。
「あの、さ……」
「ん?」
「……しなくていいの……?」
 そのために深夜になっても来たのだろうから。そう思っておずおずと六太
が問うと、尚隆は低く笑った。
「おまえにその気はあるまいが」
「でも……」
「かわいいおまえに泣かれて、俺のほうも萎えてしまったでな」
「え?」
 六太が思わず尚隆の顔を凝視すると、彼はまた笑った。
「なんだ、信じんのか? いくらその気でおっても、恋人に泣かれれば萎え
るものだぞ。最初から体だけが目当てだというのならともかく、恋人と睦む
のはそれとは違うからな」
 尚隆はそう言いながら六太の片手をつかみ、自分の股間に導いた。六太は
びっくりしたが、うながされるままにおっかなびっくりで単衫の合わせ目か
ら手を差しこんでみると、確かにそこはふにゃふにゃとやわらかかった。昨
夜の精力的な面影はどこにもない。
「ご、ごめん」
 六太が謝ると、尚隆は「おまえが謝ることはなかろうが」と笑った。
「うん……でも……」
 六太は口ごもった。だがそのまま何となく尚隆のそこをもてあそんでいる
と硬度が増してきたように感じられ、内心で「あれ?」と思った。確かめる
ように両手でさらにまさぐると明らかに先ほどより硬くなっていたので、六
太は戸惑って尚隆の顔を見た。
「えーと……。おまえのここ、硬くなってきたんだけど……」
「そりゃあな、恋人にいろいろさわってもらえれば硬くもなる」
 苦笑しながら言われ、六太は赤くなりながらも手を引っこめるべきか迷っ
た。だが尚隆は嬉しそうだったし、呼吸が少し荒くなってきたところを見る
と気持ちがいいのかもしれない。そういえば昨夜、尚隆に股間でこすっても
らったり手でいじられたとき、すごく気持ちが良かったっけ……。

28二日目(13):新刊発売まであと14日:2019/09/28(土) 10:52:20
 六太はそのことを思いだし、彼に見通されたとおり今夜の自分にその気が
ないのは確かだったので、せめてこうやっていい思いをしてもらうというの
もありかもしれないと考えた。
 握ったままでいても尚隆が何も言わなかったため、要領がわからないなが
らも手を小刻みに動かしてそこをこすっていると、やがてためらいがちに声
をかけられた。
「六太。その、ちょっと、な」
「何?」六太は手を止めて彼を見た。
「ちょっとなめてみる気はないか? そのう――俺のものを、だ」
 六太は仰天して尚隆の顔をまじまじと見つめた。そんな発想のかけらもな
い六太にとって、驚天動地と言っても過言ではない言葉だった。
「なめんのか? ここを?」
「そうだ」
 六太は考えこんだ。昨夜、尚隆とこういう関係になるまで、彼にとってそ
こは単なる排泄器官に過ぎなかった。それを思えば抵抗はあるが、こすった
りすれば気持ちいいことはわかったし、経験豊富な尚隆がそう言うというこ
とはちゃんと意味があるのだろう。
「よし」
 六太は自分たちを覆っている衾をはいだ。昨夜と同じように尚隆の男根が
たくましく屹立しているさまに、さすがにちょっと怖じ気づきながらも股間
に顔を近づける。
 といってもどこをどうなめればいいのかわからなかったので、とりあえず
手を下半分に添えて支え、一番なめやすそうな先端の裏側にちろりと舌を当
てた。そのままぺろりとなめあげると尚隆の口から「ふっ」というあえぎが
漏れ、乱れた単衫からのぞいていた彼の腹が大きく波うったのがわかった。
 ――気持ちいいんだ。
 それがわかると普段尚隆が感情をむきだしにすることはないだけに新鮮で、
もっと言えばおもしろくもあり、六太はさらに舌を這わせた。
 相手の反応に注意を払いながら、先端から根元まで、筋に沿って裏側を丁
寧になめる。そうやっているうちに、いまだ要領はわからないながらもだん
だん余裕が出てきて、ぺろぺろとなめるだけでなく口に含んだり吸ったりし
はじめた。といっても六太の口には大きすぎて、歯を立てないように注意す
ると先端しか入らなかった。これが尚隆が六太のものを含む場合は、全部口
の中に入れられるのだろうが。

29二日目(14):新刊発売まであと13日:2019/09/29(日) 10:27:45
 男根の先端からは変な味のする液体が出ていたが、六太は気にならなかっ
た。それよりも尚隆がひっきりなしにあえいでいるのがめずらしく、もっと
声を上げさせたいと思って、ぎこちないながらも一生懸命になめたりしゃ
ぶったりした。
「ろ、六太、ちょっと離せ」
 先端だけでなく、がんばって喉に当たりそうなところまで含んで舌を這わ
せていたところに、尚隆にうろたえた声をかけられ、六太は動きを止めた。
口に含んだままとあって声は出せなかったが、「せっかくやってやってんの
に、何だよ」と思いつつ、それまでとは違う切羽詰まった反応に仕方なく口
を離した。
 途端に突き飛ばされるように腕で押され、文句を言おうとしたとき、尚隆
がうめいて褥の上に射精した。それで六太はやっと、六太の口の中に射精し
ないためにやめさせたのだとわかった。
 しばらく褥の上で息を整えていた尚隆はやがて、すぐ隣で横になって見
守っていた六太の体に手をかけると心配そうに問うた。
「大丈夫だったか? まさか飲まなかったろうな?」
「え? うん、平気。飲まなかったけど」そう答えてから首を傾げる。「精
液って危険なものなのか?」
「阿呆。肉も魚も食う人と違い、麒麟は生臭はいっさいだめだろうが。とい
うことは精液もまずかろう。明らかに動物性のものだからな」
「あ、そうか。でも肉や魚の切り身を見るときと違って、別にやな感じはし
ないけどな」
「まあ、蓬莱と違ってこっちの世界では子種ではないわけだから、もしかし
たら害はないのかもしれんが……」
「それに先に出てた汁みたいなのならなめちまったけど、何ともないし。味
はちょっと妙だったけど」
「ほう」尚隆は少し驚いたように六太を見た。「考えてみれば汗のたぐいも
平気なわけだしな。分泌物とはいえ、害ではない可能性もあるわけか……」
「もっとやってほしい?」
 六太がいたずらっぽく尚隆の顔をのぞきこむと、彼は困ったように笑って
六太を胸元に抱きよせた。

30二日目(15):新刊発売まであと12日:2019/09/30(月) 01:28:20
「あまりにもおまえが一生懸命やってくれるものでな……」
 そう言った尚隆にそのまま体重をかけられた六太が、太腿を膝で割られて
どぎまぎしていると、耳元に口を寄せてきた彼に「したくなった」とささや
かれた。六太が顔を赤くしてうろたえていると、続けて「おまえに挿れたい」
とささやかれた。
 実のところ先ほど尚隆のものをなめていたとき、何となく六太もその気に
なりはじめていたのだった。そのためこうやって淫靡にささやかれると、途
端に体が反応して熱くなった。それを察したのだろう、尚隆はきつく六太を
抱きしめると、耳の穴に舌の先端を入れてなめはじめた。六太は甘いあえぎ
をもらし彼にしがみついた。
 尚隆は六太の被衫を脱がせながら、肌のあちこちを丹念になめていった。
耳元から首筋、胸元、乳首、へそ……。しかし一番敏感な部分を避けて太腿
の内側をなめられたときは、六太はじれったさに身もだえして腰をくねらせ
た。そして初めて、尚隆に自分のものをなめてほしいと切実に思った。さっ
き自分が彼にしたように舌を這わせて、口に含んで吸いあげて――。
「尚隆……」
 哀願をこめて彼の名を呼ぶと、尚隆は顔を上げてふっと笑った。六太の欲
求などとうに見通しているのだろう。それでもさらにじらすことはなく彼は
六太の股間に顔を埋め、可愛らしく勃っていたそれを口に含んでくれた。熱
い口腔によって与えられた刺激に六太は声も出せず、思いきり背をのけぞら
せた。
 尚隆は太腿をしっかりとかかえたまま、六太のものをたっぷりとなめまわ
しては吸いあげた。六太はあえぎ、首を振り、腰をくねらせて激しい快感に
酔った。そしてすぐ尚隆の口の中に射精して果ててしまった。
 褥の上で長々と伸びてしまった六太を見おろした尚隆は、ようやく自分も
単衫を脱いで全裸になると、昨夜のように六太の秘所をほぐしはじめた。今
度は何をされるのか最初からわかっているし、昨夜も痛みはなかったので、
六太のほうもさほど緊張することなく尚隆の愛撫に身を任せた。
 うつぶせにされた昨夜とは異なり、今度は尚隆は六太をあおむけにしたま
ま太腿を押しやるようにして腰を持ちあげた。そうして現われた秘所に自分
のものをあてがう。

31二日目(16/E):新刊発売まであと11日:2019/10/01(火) 19:47:50
 尚隆の男根が少しずつ侵入してくるのを感じ、六太はあえいだ。一物のた
くましさそのものが、六太に対する激しい欲情を――愛情を――表わしてい
るようで嬉しかった。
 やがて尚隆は根元まで自分のものを収めると、そのまま六太に覆いかぶさ
るようにして上体を横たえた。
「大丈夫か?」
 六太の額にかかった髪をそっと手でのけながら、ささやくように問う。六
太は「ん」とうなずき、甘えるように彼の首に腕を回してしがみついた。体
内に彼の熱い存在を感じるのも嬉しかったし、こうして間近に顔が見えるの
も嬉しかった。これだけ体重をかけられているのに、不快に思うどころか彼
の重みを全身で感じること自体が悦びだった。
 尚隆は六太の反応を見ながら、ゆるゆると腰を動かしはじめた。昨夜のよ
うな激しさはなかったが、六太のほうも激しく睦むような気分ではなかった
ので、彼と心が通じあっているようで嬉しかった。それでも尚隆は既に六太
の感じやすい部分を把握しているのだろう、徐々に、だが確実に快感が腰に
広がっていき、六太のあえぎはいっそう甘くなった。
 後ろから入れられるより、こっちのほうがずっといいと六太は思った。昨
夜は体位を変えるまで尚隆の様子がわからなかったし、いくら体が快感に冒
されても少し心細さがあった。でも今こうして抱きあって間近に顔を見なが
ら、優しく唇をついばまれたり欲情と愛情に彩られた情熱的なまなざしを向
けられたりすると、何の不安もなく彼の愛撫に身を任せることができた。
 尚隆の腰の動きが徐々に速まると、六太も自然と腰を使って自分から快感
を求めた。そうして互いの口から漏れる快感のあえぎとうめきにいっそう刺
激され、ふたりして高みへと昇りつめていく。
「尚隆――好き――」
 彼の首にしがみつきながら、六太はうわごとのように幾度も繰り返した。
尚隆もそのたびに耳元で「俺もだ」と荒い息でささやいてくれ、六太の中が
歓喜で満たされていく。
 夜の始まりにあった不安や心細さは既になかった。快楽に溺れながら他の
いっさいを頭から閉めだした今、そこにあるのはただ愛しあう幸福だけだっ
た。

32一人カウントダウン企画 ◆y8UWMRK39I:2019/10/01(火) 19:50:05
二日目も終了、無事ラブラブになりました♥
このまま三日目はゆるゆる行きます。


ところで遅まきながら本屋に行って、噂のカウントダウン日めくりを眺めて
置いてあったリーフレットもついでに貰ってきました。
本当に続きが出るんですね……感無量です。
もっとも雁主従は、出るとしても端役なんでしょうけど。

33名無しさん:2019/10/01(火) 21:47:01
ラブラブ尚六ありがとうございまーす!
一日目はちょっと強引で「ちゃんと口説けや尚隆!」なんて思っちゃいましたが(もちろん強引なのも好きですけどw)
二日目の尚隆は優しくて六太にぞっこんでとても素敵でした(//∇//)
三日目も楽しみにお待ちしてます!

いよいよ新刊発売日迫ってきましたね…!
公式ページの表紙絵を毎日眺めてドキドキしてます

34一人カウントダウン企画 ◆y8UWMRK39I:2019/10/02(水) 21:47:02
尚隆は「言わなくてもわかってるだろう」という感じだった模様。
何にせよ、あとはもうラブラブというより溺愛ですw

35三日目(1):新刊発売まであと10日:2019/10/02(水) 21:50:33

 もともと尚隆が訪れたのはかなり夜が更けてからだったし、なのに一刻以
上も睦みあったせいだろう、前日と異なり尚隆が正寝に戻るべく体を起こし
たのは随分と遅く、そろそろ女官が起こしにくるという時分だった。
 その動きに気づいてうっすらと目を開けた六太の唇に、尚隆はそっと接吻
を落とした。六太の髪に指を通し、名残惜しそうに頭をなでる。
 やがて褥から出ようとした彼を、六太は腕を伸ばして引きとめた。
「行っちゃやだ」
 すねるように言って体を寄せる。
 もっとも本気で引きとめようとしたわけではない。単にちょっとわがまま
を言って甘えてみたかっただけだ。あっさりあしらわれるだろうことはわ
かっていたが、それでも口に出すことである程度は気が済むと思ったのだ。
 だから尚隆がふっと笑ってふたたび褥にもぐりこみ、六太を抱きよせたと
きはびっくりした。
「……帰らないの?」
「おまえが引きとめたのだろう?」
 そう言って尚隆は優しく笑い、ふたたび接吻を落とした。
「でも、あの……」
「なんだ、俺にいてほしくないのか?」
「ううん」
 六太はあわてて首を振った。だがこのままでいればすぐ、ふたりでいると
ころを女官に見られてしまうことになる。既に関係を知られているとはいえ、
こうして全裸で抱きあっているところを見られてもいいのだろうか。
 むろん六太とて恥ずかしさはあるが、それでも尚隆と一緒にいたいという
欲求のほうが強かった。尚隆も同じように思ってくれているということだろ
うか。それにしても朝議があるから尚隆も礼装をしなければならないのに、
ここにあるのは彼が前夜に脱いだ装束だけだ……。
 嬉しいという思いの中にも、本当にいいのだろうかという戸惑いがぐるぐ
ると頭に渦巻く中、耳元に口を寄せてきた尚隆に「今日は一日、ずっと一緒
にいよう」とささやかれた。信じられない思いで彼の顔を凝視する。

36三日目(2):新刊発売まであと9日:2019/10/03(木) 19:47:33
「……いいの?」
「むろん」
 尚隆はそう笑って、また接吻を落としてきた。
 思いがけない誘いに六太がぼうっとしているうちに臥室の外がざわめいて、
女官たちが入ってくる気配がした。牀榻の扉を開けた彼女たちは、しかし内
部の様子など、とうに承知していたのだろう。内心でどう思ったかはさてお
き、「主上、台輔、どうぞお起きくださいませ。ご起床の時刻でございます」
と朗らかに声をかけてきた。
 尚隆の腕に囚われたまま、彼とともに六太が上体を起こすと、驚いたこと
にそこには正寝で見かける女官たちの顔もあった。彼女たちは手際よく、正
寝の女官は尚隆の、仁重殿の女官は六太の世話をし、体を清め、装束を着せ
かけた。
 正寝の女官が尚隆に「朝餉はこのまま台輔とご一緒に?」とにこやかに問
いかけると、尚隆は「ああ。献立も同じにしてくれ」と答えた。そして仁重
殿の女官たちにこう言って詫びた。
「昨夜はすまなかったな。おまえたちが遅くまで起きて待っていてくれたと、
六太に叱られた。あくまで政務の都合で、おまえたちに他意があったわけで
はない。勘弁してくれ」
「そんな……。とんでもないことでございます」
 まさか王から詫びを入れられるとは思わなかったのだろう。女官らは感激
の面持ちになりながらも、しきりに恐縮して頭を垂れた。六太もびっくりし
たし、実際のところ結局は彼と甘い一夜を過ごしたあとは忘れかけてもいた
のだが、八つ当たりに等しい約束を尚隆が守ってくれたことが嬉しかった。
 朝餉の膳にはもちろん六太の厭うものは何もなかったが、豆やきのこをふ
んだんにつかって腹にたまる、いつもよりこってりとした味つけの、尚隆の
好む品々も多く出された。六太にとっては尚隆が朝まで仁重殿に留まること
は突然のことに思えたが、女官たちはちゃんと見越して準備を整えていたら
しい。六太の給仕は尚隆自身がやってくれ、他愛のないおしゃべりとともに
まめに取り分けてくれて、六太はいつもよりずっと食べてしまった。

37三日目(3):新刊発売まであと8日:2019/10/04(金) 19:27:08
 食事が済み、六太の腕に肩を回したままゆったりと茶を飲んでいた尚隆は、
仁重殿の女官たちにこう言った。
「今夜は夕餉もここでもらうでな、用意しておいてくれ」
「かしこまりました。献立はいかがいたしましょう」
「こいつと同じにしてくれ」
 そう言って腕の中の六太を見、回した腕に力を込めて胸元に抱きよせる。
 起き抜けから思いがけずわがままを聞いてもらって、興奮のあまりぼうっ
となっていた六太だが、いっそう頭がのぼせるように感じた。こんなに優し
くされるなど、夢でも見ているのではないかと、つい頬をつねりたくなる。
 見守る女官たちも嬉しそうで心からの笑顔を浮かべており、主に応対する
声は普段よりずっと明るく張りがあった。ここには穏やかで幸福な空気だけ
が満ちていた。
 尚隆と連れだって仁重殿を出た六太は、朝堂に向かうのにこれほど心が浮
き浮きしていたことがあっただろうかと思った。頭はまだぼうっとしている
し、足元はまるで宙を踏むよう。
 やがて朝議が終わり、政務のためにそれぞれ執務室に行く段になって、尚
隆は官に「今日は六太も内殿で政務を執る」と告げた。
「しかし……急にそうおっしゃいましても、台輔のご覧になる書類は広徳殿
に」
「所轄の官もあちらですし」
 王の気まぐれはめずらしくないとはいえ、官らは戸惑いの中でざわめいた。
官に迷惑をかけるのは本意ではなかったし、起き抜けからたっぷりと甘やか
してもらって機嫌の良かった六太は、寄り添っていた尚隆の手にそっと触れ
て「いいよ、俺、広徳殿に行く」とささやいた。
「やっぱりみんな大変だろうし」
 すると尚隆は残念そうな顔をしたものの、無理押しをすることなく「そう
か」と答え、そしてこう言った。
「だが昼餉は一緒に食うのだぞ。それから午後も一緒に休憩しよう。ゆっく
り茶を飲んで菓子でも食おう」

38三日目(4):新刊発売まであと7日:2019/10/05(土) 09:57:57
「うん」
 うなずいて満面の笑みを向けた六太に、尚隆は腰をかがめて頬に接吻した。
突然のことで仰天した六太は、途端にかあっと顔が熱くなるのを感じたが、
呆気にとられた官らが茫然と立ちつくしたまま注視する中、何事もなかった
かのようにその場を退出した。
 気分が高揚していたせいだろう、昼餉まではあっという間だった。なかば
諦めたような令尹らの笑みに見送られ、六太は自然と小走りになって尚隆の
元に向かった。
 息せき切って房室にたどりつくと、尚隆は「そう慌てんでも食い物は逃げ
んぞ」と苦笑した。
「だって、早く尚隆に会いたかったんだもん」
 何のてらいもなくそう言って、尚隆が示した彼の隣に元気良く腰をおろす。
尚隆は「そうか」と嬉しそうに言って、六太の髪をくしゃくしゃにした。
 その有様をにこやかに眺めていた女官らがいそいそと給仕をする。今朝と
違って王の食卓なのに、六太の苦手なものは一品もなく、ふたりで同じ料理
を取りわけながら仲良く食べた。
 午後の休憩時も同じようになごやかにお茶を飲み、種々の木の実を砕いて
餡にし、固く焼いた薄い生地でそれを挟んだ香ばしい菓子を食べた。尚隆は
甘い餡がたっぷり詰まった柔らかい饅頭のたぐいは好かないが、こういう菓
子なら食べるのだ。
「今晩か明日の朝あたり、宮城から抜けだすか?」
 そっと耳元でささやかれ、六太は「それもいいな」と笑みを返した。
 とはいえ本当のところはどうでも良かった。こうしてふたりで仲良くして
いられるのなら、それが宮城であれ市井であれ、どちらでもかまわなかった
からだ。今の六太にこれ以上の望みはない。
 だからせっかくの誘いとあって少し迷いながらも、結局は正直に言った。
「でも俺、どっちでもいいや。尚隆と一緒にいられるなら、どこにいたって
楽しいし」
 すると尚隆は驚いた顔になったが、すぐに「それもそうか」と笑った。

39三日目(5):新刊発売まであと6日:2019/10/06(日) 10:36:02
「尚隆が抜けだしたいなら、つきあうけど?」
「いや……。おまえがそろそろ遊びに出たいかと思って言っただけでな。ま
あ、そう急ぐことでもないか。それに今晩はせっかくの三晩目だし、ゆっく
りするとしよう」
 彼の物言いは謎めいていたが、首を傾げた六太にそれ以上何も言わなかっ
たため、大した意味はないのだろうと六太も聞き流した。
 それぞれ政務に戻り、やがて執務を終えた六太が仁重殿に帰る途中、ちょ
うど護衛を従えた尚隆がやってくるのと行き合った。政務のときのままの装
束で、どうやら正寝には戻らずにそのままやってきたものらしい。
 六太は尚隆の元に駆け寄ると、連れだって主殿の居室に入るまでの短い間
に、今日あったことの他愛のないあれこれを報告して楽しく語りあった。仁
重殿の女官らもはりきって主を迎え、既に待機していた正寝の女官らととも
にかいがいしく世話を焼いた。
 彼女らのはりきりぶりは大したもので、「おみ足をお拭きいたします」
「こちらへおかけください」「お髪(ぐし)のお手入れを」等々、指図される
ままに六太があちらへ座り、こちらで世話を焼かれているうちに、政務の疲
れも一日の汚れもすっかり落とされ、最後に華やかな衣装を着せられて、尚
隆との夕餉の場に送りだされた。女官らがかいがいしいのはいつものことと
はいえ、あまりの手際の良さに、六太は「流れ作業に乗せられたみたいだな」
と内心で苦笑した。
「うむ、なかなか似合うな。どうだ、俺の見立ても悪くはなかろう」
 六太が着せられたのは尚隆に贈られた衣の一枚だったから、やってきた六
太を見た尚隆は女官らに自慢した。応対する女官のほうも、飾りたてた六太
を王に見せられなかった昨夜のことがあるので、上機嫌な王の様子に至極満
足げだった。
 六太のほうは着るものなど別に何でも良いと思っているし、むしろ宮城で
まとう大仰な装束は面倒なくらいだったが、こうして皆がそろって喜んでく
れているのは嬉しかった。

40三日目(6):新刊発売まであと5日:2019/10/07(月) 00:37:39
 夕餉も済み、寒冷な雁の気候のせいもあって普段は毎日湯浴みをするもの
でもないのに、女官らに強引に湯殿に追いたてられた六太がやっと落ち着い
たのは戌の刻の頃だった。
「なんか今日は一日中ばたばたしていた気がする。でも、もう飯は食ったし
湯浴みもした。これでやっと落ち着けるよな」
 六太はそう言って、榻に座っていた尚隆の隣に腰をおろした。尚隆のほう
はさっさと湯浴みを済ませたあとは酒肴を運ばせて一杯やっていたとあって、
既にほろ酔い加減といったふうだ。上機嫌のまま六太にも杯を勧めてきた。
「最近はあまりおまえと飲んでいなかったな。まあ、一杯やれ」
「うん」
 ちょうど喉が渇いていたこともあって、ぐっと杯を飲みほす。六太に供さ
れる酒はいつもかなり弱いものなので、頭がくらくらすることもなく気持ち
よく飲めた。
「今日は令尹に何度小言を言われたっけかな。うわついて全然仕事にならな
かったから。さすがに明日は謝っとかないと悪いや」
 六太がぺろりと舌を出しながら言うと、尚隆は「ほう、俺のほうは逆に何
も言われなかったぞ」とおかしそうに答えた。
「むしろ、あえて話を避けているふうだったな……。うむ、なかなかおもし
ろかった。何か聞きたそうにしている官をじっと見るとだな、こう、さりげ
なく視線をそらすしな」
「からかって遊んでんじゃねーよ」
 六太が笑いながら拳を突きだすと、尚隆は簡単にそれを受けとめ、そのま
ま六太の手をつかんで胸元に抱きよせた。
 接吻された六太が、このまま牀榻になだれ込みかな?と期待を込めて相手
を見あげると、しかし尚隆はあっさり六太の体を離した。
「そろそろいいだろう」
「え?」
 そう言って尚隆が女官を呼び、菓子が載っているらしい高坏(たかつき)を
運ばせたので六太はがっかりした。夕餉のあととあって別に腹は減っていな
いし、いつも身の回りの世話をしてくれている女官とはいえ、せっかくふた
りきりでくつろいでいるときに余人を交えることもないのにと思ったからだ。

41三日目(7):新刊発売まであと4日:2019/10/08(火) 22:57:53
 それでも尚隆が運ばせてくれたものだし、と思って高坏を見やると、一口
大の綺麗な切り餅が盛られていた。尚隆はさっさと手を出して小さな餅とは
いえ三切れも食べたので、夕餉が足りなかったのだろうかと六太は不思議に
思った。
「おまえ、腹減ってんの?」
「いや、そういうわけではない。まあ、おまえも食え」
「俺、腹減ってねーんだけど」
「一切れでいいから」
 普段はこんなことを無理強いする尚隆ではないのに、と不審に思いながら、
六太は仕方なく餅を口に入れた。すると味や歯ごたえから、餅米をついて
作った蓬莱風の餅であることがわかった。
 空腹時ならありがたかったのにな、と少し残念に思いながら六太が食べ終
わると、尚隆は「よし、食べたな」と何やら満足そうにうなずいた。
「これ、何か意味あんの?」
 ようやく尚隆の言動を訝しく思った六太が問うと、尚隆は笑いながら「い
や、別に他愛のないことでな……」と答えた。
「おまえは知らんかもしれんが、昔の蓬莱では通い婚でな。つまり男が気に
入った女のもとに通うわけだが、そうすると当然ながら単なる遊びと結婚と
は区別がつかん。だから決まりがあって、結婚しようと思う男は三晩続けて
女のもとに通うのだ。それで婚姻が成立し、その祝いの儀式のひとつとして
三晩目に夫婦で餅を食ったのだそうだ」
 六太はぽかんとしたが、何を言われたのかがわかると、とたんに顔が赤く
なった。
「それって……」
「他愛もないと言ってしまえばそれまでだが、いちおうけじめはつけておこ
うと思ってな。昨夜は来られないかと思ってさすがにあせったが……。まあ、
忘れてくれてかまわん。ここは蓬莱でもないし、要するに遊びのようなもの
だからな」
 あらためて六太が高坏を見ると、盛られた餅は紅白の色彩だった。蓬莱で
の祝いごとの色だ。

42名無しさん:2019/10/08(火) 23:57:19
可愛い尚隆w こういう風流なこと趣味じゃないのに本命にハヤトやりそうなところ、ほんと尚隆ww

43一人カウントダウン企画 ◆y8UWMRK39I:2019/10/09(水) 20:45:15
この尚隆は本命にはデロ甘です♥

44三日目(8/E):新刊発売まであと3日:2019/10/09(水) 20:47:57
 六太は手を伸ばし、餅をひとつ手にとって口に入れた。
「腹は減ってないのではなかったのか?」
 尚隆の問いをよそに、六太はがんばってさらに餅を食べた。
「おい、無理はするな」
 困惑したような尚隆の声音に、六太はもうひとつ餅を取ると、尚隆の口元
に差しだして「おまえも」と言った。「せっかく女官が用意してくれたのに、
残したらもったいないじゃないか」と言い訳しながら。
 尚隆は差しだされた餅をじっと見ていたが、すぐに微笑を浮かべると「そ
うだな」と答え、勧められるままに餅を口にした。そうやってふたりでせっ
せと食べたので、盛られていた小餅はほどなく彼らの腹におさまった。
「さすがに全部食うときついな。米の餅はうまいが、腹にたまりすぎる」
 苦笑する尚隆のかたわらで、六太も満腹して腹をさすった。
「このまま寝ると、もたれそうだな。ちょっとその辺を散歩してくるか」
「うん」
 六太も同意して、ただし護衛を引きつれるのは面倒なので、使令に見張ら
せてこっそり仁重殿を抜けだした。不寝番もいるから官を出し抜くのは大変
だが、こういうことに慣れている彼らには大した問題ではない。人目につか
ずに歩ける場所もいろいろ知っている。
「ああ、いい月だ」夜空を振りあおいだ尚隆が、満月に近い輪郭の月に声を
上げた。「これで少し雲がたなびいていると風流なのだが、雲海の上で雲は
ないしな」
「おまえ、普段は風雅とはほど遠いのに」六太は吹きだした。
「なに、俺とてたまには雅び男(お)を気取っても悪くあるまい。何しろ空だ
けでなく地上にも、光を放つ月がここにおる」そう言って六太の頭に手を置
いて、金髪をくしゃくしゃにする。「ただしこちらの月は、よく減らず口を
たたくがな」
「どうせ」
 六太はすねるようにわざと頬をふくらませたが、笑った尚隆にいっそう髪
をくしゃくしゃにされただけだった。そうして互いに寄り添って、月明かり
に照らされた静かな宮城をゆったりと歩いていく。
 ふたりきりで過ごす夜は、きっと今夜も甘い。

45一人カウントダウン企画 ◆y8UWMRK39I:2019/10/09(水) 20:52:02
というわけで、どこまでもラブラブな雁主従でした。

さてこの企画も終わりが見えてきましたが(3日後には新刊ですよ、皆さん!)、
次は、2レスに分けると明らかに短いけど、1レスにまとめるとなんか長い、
と微妙な長さの掌編を2分割にしてラストにする予定でした。
しかし最後の最後に微妙な長さの2分割もないだろうと、土壇場で1レスにまとめることにしました。
足りなくなったもう1レス分は別の掌編で補います。

46名無しさん:2019/10/09(水) 23:26:01
とっても素敵なお話でした!二人のほのぼのラブラブのおかげで、私まで幸せ気分です。尚六いいな〜。新刊でも出てくれるといいな〜。
ついに残り2日!新刊も、残りのお話も楽しみにしてます!


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