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尚六SS「酔夢」

11酔夢(8):新刊発売まであと58日:2019/08/15(木) 09:23:36
 あの哀愁の気配。まるで泣いているようだと感じたこと。だから尚隆は自
分を抱くのだと、六太はやっと思いいたった。きっと尚隆はそうせずにはい
られないのだ。自分自身でいるために。王であるために。
 目から一筋の涙がこぼれ、それを袖でぐいとぬぐった六太は、もう一度尚
隆を見やった。
 自分を抱くことで、尚隆が慰められているのなら。ならば自分は何も言う
まい。気づくまい。
 それから六太は二度と酒をこぼすことはなかった。注がれるままにすべて
干して、自分の身に起こることを受け入れた。

 あるとき尚隆がからかうように言った。「礼をするなら、女どもはもっと
感謝の意を表わすぞ」と。
 尚隆が城を抜けだして半月ぶりに帰ってきたとき、彼はささやかな手みや
げを六太にくれた。市井の素朴な菓子。尚隆はいつも六太のことを「おまえ
は色気より食い気だな」と言って、そのとおりのみやげをくれるのだ。
 六太が「わーい」と無邪気に喜んでみせ、ひったくるようにして尚隆から
菓子の包みを奪ったところ、尚隆は苦笑してそう言った。
「感謝の意って何?」
「そうだな。――たとえば接吻をするとか」
 六太は吹きだした。
「接吻ひとつで済むなんて、ずいぶん安上がりな感謝じゃねーか」
「そう言うなら、おまえもたまにはその程度の感謝はしてくれても良いので
はないか? 日頃から主を主と思っていないようだしな」
 人の悪い笑みを浮かべて六太をうながす。
 ――ああ、まただ。
 六太は思った。尚隆が泣いている。どう見ても、単に相手を困らせようと
しているとしか思えないのに、いつものようにふざけた笑みを浮かべている
のに、なぜだか六太はそう感じた。


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