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尚六SS「六太、猫になる」
6
:
六太、猫になる(3)
:2019/08/03(土) 09:04:28
「まずいぞ、台輔がご一緒だ」
「そこに積んである書類を全部隠せ!」
六太が尚隆にまとわりついている隙に、彼らはむきだしの書類を布で覆っ
たり扉のついた棚にしまいこんだりと、慌ただしく立ち働いた。幸い六太は
尚隆の肩に駆けあがったり、長い袖に爪を引っかけてぶらさがったり、主を
遊びに誘うのに忙しい様子。裳から肩口まで幾度も駆けあがっては駆けおり、
衣装に爪を引っかけつつ肩から反対側の肩へと移り、腕の中にもぐりこみ、
さすがに閉口した尚隆に振りはらわれて床に降りては、またおもしろがって
駆けあがる。
だが尚隆もいつまでも相手をしているわけにはいかない。にゃーにゃーう
るさく鳴いて気を引こうとする声を無視して椅子に座り、官らに渡された書
類を順に繰った。その合間にも六太は、尚隆の膝に乗ったり、卓に広げられ
た重要な書類の上で長々と寝そべったり、別の書類をくわえて振りまわした
りと、執務の邪魔に余念がなかった。
「猫じゃらしを持ってこい」
「は?」
「何でもいいから、こいつが好きそうな玩具を持ってこい」
尚隆は官に命じて、小さな房のついた紐を持ってこさせた。目の前で房を
振ると、目の色を変えた六太が嬉々として飛びついてきたので、高く掲げた
り左右に振ったりして激しく注意を引いてから、紐を房室の隅に放り投げた。
つられた六太はそれを矢のように追いかけ、床に落ちた紐にじゃれつくなり
体をひねって盛大に転げまわった。
「よし。これでしばらくは一人遊びをしているだろう」
猫がこの手のものに飛びつくのは、肉食動物ゆえの狩りの本能からである。
本性は麒麟なのだからそれもどうかと思った尚隆ではあるが、当の六太が喜
んでいるようなので、まあいいかと本日の政務に取りかかった。
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