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尚六SS「六太、猫になる」

1一人カウントダウン企画 ◆y8UWMRK39I:2019/08/01(木) 19:39:37
原作の新刊発売まであと72日!
雑談スレでひっそり予告していた『一人カウントダウン企画』第一弾は、ほのぼの尚六。

実は六太は麒麟ではなく猫だった?
遊び好きな猫型六太に引っかき回される玄英宮。
数レスでさくっと終わります。

2六太、猫になる(1):2019/08/01(木) 19:42:47
 その日の朝、いつものように目覚めた尚隆は、褥の中で丸くなっている伴
侶を驚きとともにまじまじと見つめた。
「……おまえは麒麟ではなかったのか?」
 目の前の小さな生きものは、やわらかそうな蜜色の毛皮に包まれた体を伸
ばすと、あくびをしながら他人事のように「さあねー」と答えた。茫然とし
ながらもあごの下をなでてやると、気持ちよさそうにごろごろと喉を鳴らす。
どう見ても――猫である。仔猫と言うほどには小さくないが、成猫でもない。
ちょうど中間というところ。
 目をしばたたいた尚隆は暫時固まったあと、とりあえず深く考えないこと
にして牀榻を出た。待ちかまえていた女官たちが、いつものようにかいがい
しく世話を焼く。彼女らは尚隆の後から身軽に牀榻を飛び出した六太に驚く
ふうもなかった。むしろ臥室をちょろちょろ走りまわる様子に、「台輔、少
しはじっとしていてくださいませ」「お支度を整えられないではありません
か」と叱りつける始末。猫にどうやって官服を着せるのだろうと思った尚隆
だが、彼女らは湯に浸して固く絞った布で六太の体を拭いてから、全身に丁
寧に櫛を入れて毛皮の手入れをした。六太は気持ちよさそうに喉を鳴らし、
時折、遊びのように女官の腕を前脚の先で軽く叩いている。しまいには「こ
こ、ここ」とでも言うようにひっくり返って腹を見せ、白い腹毛にも櫛を入
れてもらってご満悦だった。
 最後に金糸を織りこんだ絹の飾り紐を首に巻いてもらうと、どうやらこれ
で彼の支度は終わりらしい。
 隣の房室には朝餉の用意ができており、六太は尚隆と並んで座った――が、
普通に座ったのではもちろん卓に届かないので、椅子の上にさらに台を載せ、
卓と同じ高さでちょこんと座っている。傍らに控えていた女官が、六太の指
示にしたがって総菜をいちいち小皿に取り分けて目の前に置く。いくら姿が
猫でもさすがに肉や魚を食べるわけではないらしいが、乳なら飲めるらしく、
六太は浅い小皿に注がれた乳白色の液体を小さな舌でぴちゃぴちゃとなめた。

3名無しさん:2019/08/01(木) 21:21:34
可愛いw 六太が猫になってるのに侍女達は冷静ですねww 尚隆も冷静でそこがまたいいww

4一人カウントダウン企画 ◆y8UWMRK39I:2019/08/02(金) 19:20:19
尚隆はどっちかというと思考放棄ですねw

ほのぼのというか、まあコメディ寄りの話なんですけど、
尚隆も六太とは違う意味でちょっとかわいいというか、のんびりした感じです♥

5六太、猫になる(2):2019/08/02(金) 19:25:24
「うーん……」
 思わずうなった尚隆だが、他の者は誰も不思議には思わないらしい。やが
て六太は、自分に気を取られて箸が止まっている尚隆の腕の下をくぐって膝
に乗ると、そこから上体を伸ばして卓の上に前脚をついた。
「その包子」
 一瞬、意味がわからなかった尚隆だが、要は目の前の大皿に並んでいる包
子を食わせろということらしい。
 普段なら「自分で食え」と言うところだが、起き抜けからあまりの展開に
呆気にとられていたこともあり、「……これか?」と尋ねながら小さくち
ぎって口元に運んでやった。六太はくんくんと匂いをかいでから、やわらか
い包子の小片をくわえ、音をさせながら一心に食べはじめた。
 とはいえ実際には既に満腹に近かったらしく、二、三度同じことを繰り返
して尚隆に食べさせてもらうと興味をなくし、そのまま主の膝の上で寝そ
べった。それで尚隆は自分の食事を再開したのだが、朝餉を口に運びながら
も、ふたたび「うーん」とうなるしかなかった。
 正寝から、朝議を開く堂まではけっこう距離がある。小さな猫の姿のまま
ではかなり遠かろうと思ったものの、六太は人形になる様子もなく、あたり
まえのように尚隆の腕によじのぼった。今の彼は身軽な上に鋭い爪があるし、
尚隆のほうは床をひきずるような裳をつけた正装だから、よじのぼるのも簡
単だ。反射的に両手でかかえるようにした腕の中にちゃっかり納まった六太
に、まあいいかと思いながら朝議に向かう。女官たちと同じく、居並ぶ諸官
もその有様を別段不思議がる様子もなく、一刻後、膝の上に六太を乗せたま
ま朝議は無事に終わった。
 それにしても猫では筆を持てないだろうに、いつまで獣形でいるつもりな
のだろう、今日は政務をしないつもりだろうかと尚隆は訝しく思った。だが
当の六太は素知らぬふりで、堂を出た彼の周りをうろちょろしている。
 とはいえいいかげん広徳殿に行くだろうとの予想を裏切り、六太は内殿の
執務室までついてきた。長いしっぽをぴんと立てて周囲を走りまわっては主
にじゃれつく様子は、どこから見ても遊ぶ気満々である。執務室で主君を出
迎えた官らの顔に緊張が走った。

6六太、猫になる(3):2019/08/03(土) 09:04:28
「まずいぞ、台輔がご一緒だ」
「そこに積んである書類を全部隠せ!」
 六太が尚隆にまとわりついている隙に、彼らはむきだしの書類を布で覆っ
たり扉のついた棚にしまいこんだりと、慌ただしく立ち働いた。幸い六太は
尚隆の肩に駆けあがったり、長い袖に爪を引っかけてぶらさがったり、主を
遊びに誘うのに忙しい様子。裳から肩口まで幾度も駆けあがっては駆けおり、
衣装に爪を引っかけつつ肩から反対側の肩へと移り、腕の中にもぐりこみ、
さすがに閉口した尚隆に振りはらわれて床に降りては、またおもしろがって
駆けあがる。
 だが尚隆もいつまでも相手をしているわけにはいかない。にゃーにゃーう
るさく鳴いて気を引こうとする声を無視して椅子に座り、官らに渡された書
類を順に繰った。その合間にも六太は、尚隆の膝に乗ったり、卓に広げられ
た重要な書類の上で長々と寝そべったり、別の書類をくわえて振りまわした
りと、執務の邪魔に余念がなかった。
「猫じゃらしを持ってこい」
「は?」
「何でもいいから、こいつが好きそうな玩具を持ってこい」
 尚隆は官に命じて、小さな房のついた紐を持ってこさせた。目の前で房を
振ると、目の色を変えた六太が嬉々として飛びついてきたので、高く掲げた
り左右に振ったりして激しく注意を引いてから、紐を房室の隅に放り投げた。
つられた六太はそれを矢のように追いかけ、床に落ちた紐にじゃれつくなり
体をひねって盛大に転げまわった。
「よし。これでしばらくは一人遊びをしているだろう」
 猫がこの手のものに飛びつくのは、肉食動物ゆえの狩りの本能からである。
本性は麒麟なのだからそれもどうかと思った尚隆ではあるが、当の六太が喜
んでいるようなので、まあいいかと本日の政務に取りかかった。

7六太、猫になる(4):2019/08/04(日) 09:52:59
 だが平和は長く続かない。紐の先の房をくわえた六太が、そのまま室内を
全力疾走しはじめたのだ。卓の上下、棚や櫃の上、壁際等々をおかまいなく
駆けぬけ、控えている諸官の頭の上にも駆けあがると、頭から頭に飛び移り、
尚隆が筆を浸していた硯に勢いよく脚を突っこんで黒い飛沫をあげ、右往左
往する官らの官服や卓上にあった書類はもちろん、騒ぎで床に落ちた書類に
も見事な足跡を残した。
「ああああああ、書類がっ」
 その有様を、筆を持ったままの尚隆は声もなく見守っていた。
 さんざん引っかきまわすとやがて六太は気が済んだらしく、くわえていた
紐をぽとりと落として嬉しそうに「にゃー」と一声鳴き、ふたたび尚隆の膝
によじ登った。そのまま座り込み、あくびをしたかと思うと丸くなって、前
脚の上にあごを載せて目を閉じる。どうやらとりあえずは満足して眠くなっ
たらしい。
「やっとお休みになられたか……」
 髪と服を乱した官らは、うんざりとした様子ながらもほっとした顔になっ
た。
「しゅ――主上、今のうちにご政務をっ。台輔がお目覚めにならないうちに
早くっ」
「う、うむ」
 よってたかって急かされながら、尚隆は書類を片づけていった。諸官の焦
りを知らぬげに、六太は尚隆の膝で熟睡している。
 半分ほど仕事を片づけたところで休憩したいと思った尚隆だったが、その
頃には六太はひっくり返って腹を上にし、前脚後脚をびろーんと広げるあら
れもない格好で平和に眠りこけていた。起こさないよう気遣って下半身をな
るべく動かさずにいたせいで、さすがに体がこわばってしまったのだが、こ
のまま動いて起こしてしまうのも可哀想な気がする尚隆だった。
「その辺を歩きまわって体をほぐしたいのだが、どうしたものか……」
 そうつぶやきながら、何となく六太の腹をなでてやる。やわらかな白い腹
毛はなかなかの手触りで、政務の褒美としても悪くはなかった。六太はいっ
そう四肢を広げ、半分身をよじり、くつろいでいるのか何なのかわからない
器用な体勢で相変わらず爆睡中だ。

8六太、猫になる(5/E):2019/08/05(月) 20:50:26
「執務室には猫じゃらしを備えつけておくか」
 そんなことを言って満足そうに六太の腹をなでる尚隆自身、やがて眠く
なってあくびをもらしたのだった。

「――ご起床の刻限でございます。どうぞお目覚めくださりませ」
 牀榻の外からやわらかく声をかけられ、尚隆は目を開けた。政務の途中か
ら記憶がなかったので、いつの間に寝たのだろうと不思議に思っていると、
妙に腹が重い。衾をめくってみると、六太が彼の腹に頭を乗せて平和に寝こ
けていた。猫形ではなく人形だが、被衫を乱して腹を出しているだらしのな
いかっこうは、猫形での寝相を彷彿とさせた。
「おい、起きろ。朝だ」
「んー……」
 六太はうなるように応えてから目を開けた。褥の上で座りこみ、大きく伸
びをして「うーん」とうめく。
「今日は猫ではないのだな」
「はあ?」
 伸びを途中で止めた六太が、目を見開いて伴侶を凝視した。尚隆は苦笑し
た。
「いや……。昨日はずっと獣形だっただろうが」
「昨日? そうだっけ?」
「ああ、なかなかの見ものだった。これからは執務室に猫じゃらしを備えつ
けておくとしよう」
「はあ?」
 六太はまじまじと尚隆を見ると、相手の額に手を当てた。
「熱はないようだな……」
「おまえは猫ではないのか?」
 ぱちぱちと瞬いた六太は、憐れむような顔で「ボケるにはまだ早いと思う
ぜ」と言い残して牀榻を出ていった。
 残された尚隆は、ようやくあの出来事が夢だったことを悟った。そうして
しばし固まったあと我に返り、「どうせならもっとなでておくんだった」と
くやしそうにつぶやいた。

9一人カウントダウン企画 ◆y8UWMRK39I:2019/08/05(月) 20:53:04
というわけで、夢オチでした★

10名無しさん:2019/08/05(月) 23:22:36
ほのぼの尚六ありがとうございました!ろくたんはかわいいから猫姿がすごく似合いますね!ろくたみたいな猫がいたら即飼っちゃうなあ

11名無しさん:2019/08/07(水) 23:59:20
このろくたん、元気良すぎて
飼ったらカーテンとか壁とかボロボロにされそうw
あとPC操作してたら絶対邪魔しにくるタイプw

12名無しさん:2021/08/09(月) 10:30:57
めちゃくちゃ可愛いかったです!
ありがとうございます


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