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尚六幾星霜

227「確信」8/E:2019/08/18(日) 18:54:59
「なんか利広ってさあ、ぱっと見の印象では人が良さそうだし、まあ話も面白いんだけど、肚の底では何考えてるか分かんない感じなんだよなぁ」
「同感だな。あいつは相当根性が悪いぞ」
「尚隆と同じくらい?」
「おそらくな」
言って尚隆が笑うと、六太もくすくすと笑い声をたてる。
「––––だから六太、気をつけろよ。初対面の男に簡単について行くな」
「ついて行ったわけじゃないって。むしろ逆だろ?利広がおれについて来たんだから」
「たいして変わらん。しかも二人で酒まで飲むとは、警戒心が薄すぎるだろう」
「最初から酒飲む気だったわけじゃないよ。利広がお前のこと知ってるって言うし、奏の太子だって分かったから。––––お前、昔話してくれたじゃん、出奔先で奏の太子に会ったって。利広に初めて会った時にさ」
「そうだったか?」
「そうだよ。ずっと昔のことだけど、一度だけ話してくれた。……それから何度も会ってるってのは、初耳だったけどさ」
どこか拗ねたように、六太は言う。
出奔先で誰と会ったとか何をしたとか、そういうことは以前は六太に殆ど話さなかった。利広に前回会った五十年程前にも、話した覚えはない。そもそも奏の太子に会ったという話は、六太以外の誰にもしていないはずだ。
「前回会ったのが五十年も前のことだ。六太とて、俺に何でも話していたわけではなかろう?」
「……そうだったかな」
六太はくすりと笑って、尚隆の首の後ろに両腕を絡める。下から覗き込むように少し顔を近づけて、軽く首を傾げた。
「今夜は酒飲まねえの?」
「少し飲んできた」
「今から二人で飲み直すか?」
「いや……、酒はいらん」
言い終わるのとほぼ同時に唇を合わせた。六太の柔らかい唇を軽く甘噛みするようにしてから、少しだけ離れる。
「……いま欲しいのはこっちだ」
至近距離から囁くと、はにかんだように六太は笑う。濡れた唇が形のよい弧を描いた。
「––––俺の麒麟はいま幸せだと言うが、何故かそれを主に知られるのは嫌らしい」
「え……」
「閨でじっくり聞き出してやろう」
笑い含みに言って、六太を抱えたまま尚隆は立ち上がった。牀榻へ向かう尚隆の耳元で、六太の不貞腐れたような声が囁く。
「もう……。お前がそういうやつだから、内緒にしといて欲しかったのに……」
尚隆は小さく吹き出した。笑いながら、こういう素直でないところも六太の可愛気だな、と改めて思う。

牀榻に入り抱えていた身体を寝台にそっと降ろしながら、ふと先程の利広との会話が脳裏を掠める。
あのやり取りで、六太に対する尚隆の執着心に利広は気づいただろう。それを雁の行く末と関連付けて、憂慮や不安を覚えたかもしれない。
だがそんなのは尚隆の知ったことではない。勝手に思い悩むがいい、と尚隆は内心嘯いて、利広のことは頭の中から消去する。
「……尚隆?」
名を呼ぶ声と同時に、六太の指先が尚隆の頰に触れた。褥から見上げてくる紫の瞳と視線を合わせ、尚隆は微笑する。
そのまま覆い被さって唇を重ね、舌を差し入れて、柔らかく甘い感触を思うさま貪る。応じる舌がねだるように動いて、細い腕が尚隆の頭を掻き抱く。理性は瞬時に遠のいて、尚隆は本能の赴くままに己の麒麟に耽溺していった。




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