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尚六幾星霜

226「確信」7:2019/08/18(日) 18:52:36
尚隆が部屋に戻ると、榻に寝転んでいた六太が肘をついて上半身を起こし、意外そうな眼差しを向けてきた。
「……早かったな。利広と飲むんじゃなかったのか」
「飲むとは言っとらんだろう」
「そうだっけ?……まあ、いいけど」
尚隆は無言で上衣を脱ぎ、腰に帯びていた刀を外して床に放り投げてから榻に座る。隣に寝そべる軽い身体を両手で持ち上げて、自分の膝の上に跨らせた。
六太は驚いた表情をしたものの、特段の抵抗を示さずにおとなしく座った。正面から目を合わせ、六太は小首を傾げる。
「……何かあったか?」
「……」
尚隆は沈黙したまま金髪を撫でる。髪を弄んでから両手を滑らせて頰を挟み、柔らかな感触を確かめる。
「あ、分かった。利広と喧嘩したんだろ?それで飲めなくなって拗ねてんだ」
冗談めかした六太の推測に対して、尚隆は深く溜息をついた。
「……見当違いも甚だしいな」
頰を挟んだ両手をしっかりと固定して、六太の瞳を覗き込む。努めて平静な口調で尚隆は問うた。
「––––約束とはなんだ」
「約束、って……誰と誰の?」
「お前と、利広のだ」
六太は思い当たることがない、という風情で眉をひそめたが、すぐにはっとした表情になった。
「あー……あれは別に、約束ってほどのもんでもねえよ。えーと……まあ、ちょっとした頼み事」
「頼み事だと?」
「いや、そんな、たいしたことじゃないって」
どこか気まずそうに、六太は視線を彷徨わせる。
「たいしたことじゃないなら、言ってみろ」
「え、それは……」
「俺に言えないことか」
「言えないっていうか……」
六太は顔を背けようとするが、尚隆は両手を動かさない。
「六太」
低い声で名を呼ぶと、六太は観念したように目を伏せて、小さく息を吐いた。
「……お前には内緒にしといてくれって、頼んだんだよ」
「内緒?––––何をだ」
抑えようのない苛立ちが、声音に滲んだ。
六太は居心地悪そうに身を捩り、視線を彷徨わせる。
「それは、えーと……利広に、いま幸せかって訊かれたからさ……。うんって答えたんだけど、それが利広から尚隆に伝わるのがなんか嫌だったから、風漢には内緒なって頼んだ。それだけ」
六太の説明は途中から早口になる。頰を僅かに赤らめて、言い訳のように続けた。
「利広は明らかにおれの正体に気づいてたし、麒麟に幸せかどうか訊くことで、雁の民意を推し量ろうとしたんじゃねえのかな。だから、うんって答えといた」
早口の言い訳が終わると、六太は気恥ずかしげに再び目を伏せた。
その仕草が堪らなく可愛らしく見えて、尚隆の頰は自然と緩む。それと同時に先程までの苛立ちは瞬く間に消えていった。
「……だから惚気か」
「え、惚気?」
尚隆は六太の頰から手を離し、くしゃっと頭を撫でてから細い腰に両腕を回した。
「六太と何を話したのか利広に訊いたら、惚気だと言っていたからな。どういうことかと思ったが」
「えぇ……。そんなこと言ったのかよ、利広……」
ほんの僅か顔をしかめて、六太は軽く溜息をついた。


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