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アナザー本スレ

1せと:2003/03/06(木) 08:47
アナザーをアップする掲示板です。
ここに書かれた作品は、本HPのギャラリー等に転載されることがあります。
どしどし書きこんでください。

547パラレル・ロワイアルその489:2006/01/05(木) 22:21:08
 ―――暗い。

 生身の人間が、ここに足を踏み込むのは危険なのではないか。そう考えさ
せられるほど、倉庫内は深遠なる闇に包まれていた。

(……春原君は?)
 MTBにて後から駆けつけてきた長瀬祐介は目を細め、頭を巡らして姿を
求める。戦闘の音は聞こえている。しかし、その主たちは見当らない。
(視界が……狭いんだ)
 目を慣らしながら、音を頼りに進む。
 一方的な打撃音が続いている。音が聞こえる限り、勝負は続行中なのだろ
うが……不安だった。いくらなんでも、タイマン勝負なんて―――

『ユウスケ!アッチダ!!』
 ―――叫び声に反応して、振り向く。カラスの声だ。
 自分が進んできた方向とは逆の、むしろ破壊されたFPHが転がっていた
側だった。
 音の共鳴が位置取りを誤らせていたのであろう。遠く闇の中、ゾリオンの
レーザー光がさながら花火のように閃いている。

(春原君―――無駄に『死んじゃあ』駄目ですよっ!!)
 祐介は心の中で案じながら、近づいて行った。




「……み……美凪ちゃんっ!」
「…観鈴さん……」
 初顔のうーと、車より救出されたすずーが、お互いにすがり付いている。
 うーみしとふぅーは、安堵でへたり込んでいる。

 さんざん自分のミスで時間を浪費する結果にさせたるーが言えた立場では
ないのだが―――急がなければならない。

「るー、行くぞ」
「がお……」
 余程怖かったのだろうか、すずーはまだ泣いている。接客用の上等そうな
ナプキンをメイド服からとりだして、涙をぬぐってやる。
「しかたがないな……ほら……」
 すずーの目頭をふきふきしながら、全員の主な武器・装備を確認する。
 るーは、二丁のゾリオンと交換に受け取ったワインバスケット型水鉄砲に
万能変形鉄扇、それにワンタッチ傘。
 すずーとすがりあっていた初顔のなぎーは、スコープ付きウェザビーMk
―Ⅱに茶色のゾリオン。
 もう一人の初顔はるーは、空色のゾリオンに投てき用ゴムナイフ。
 うーみしは、黄色のゾリオンにシグサウエル。
 なぎーからの贈り物によって正規参加者になったふぅーは、るーが渡した
緑と紫のゾリオン。
 すずーは、うぐーがどぅーから渡されていた赤色のゾリオンにネコパンチ
グローブ…他にも小物が少々あるが、アイテムとして期待するのは間違って
いそうだった。

 るーと、らぶらぶが先行してしまったために奮起したらしい、うーみしに
加えて、なぎーとはるーも射撃戦ならば期待できそうだ。
 るーをして、二人の前に立つ。
「最後の獲物は、極めて手強そうだ。説得とBB弾は通じそうにない」
「…ん、そうみたいだね。でも、これで最後なら―――」
「―――七瀬さん魂、皆さんで見せてご覧に入れましょう」
 そこは戦乙女という程度で、とうーみしが修正する。
 ……残念ながらるーは、戦乙女という柄ではない。たぶん、ここにいる他
のうーたちも柄ではない。

『ユウスケ!アッチダ!!』
 何者かが叫んでいる。恐らくは味方なのだろう。
「行くぞ!急ぐんだ!!」
 そう言いながら、るーたちは各々の可能な限りの速さで走り出していた。
「…あそこです!ああっ!」
「「「「「な―――――!?」」」」」

548パラレル・ロワイアルその490:2006/01/05(木) 22:22:56
 喧騒がやんだ。
 偶然それを発見した伊吹さんが、倉庫内の照明の電源を入れてくれていたが
―――そのためではない。


『ビーッ、新規ゲスト警備兵・春原陽平、ナースストップにより殉職しました』


 失格アナウンスが響き渡る。そしてアナウンスの余韻の中、外から美汐達が
駆けつけてくる。

 ひとつの勝負が、ついていた。

 そのシルエットは、祝杯をあげるように、高らかに右手を上げている。左手に
戦利品の刀を持ち、頭部の被り物を外して代わりに、(ノクトビジョン付きの)
ホッケーマスクを顔に付けて、そして掲げられているそれは―――

「……春原君」
 ―――春原君、だった。

 ホッケーマスクは首を掴んで、軽がると持ち上げている。一方のゴーグルが
半分ずり落ちた春原君は、無事なところなど見当らない。

「みんな……遅かったじゃないっスか」
「……ごめん」
「新連載のこと……応援頼むよ」
「……うん……最善を尽くすよ」

 新たなるアナザーのことなのか。
 ―――それともまさか。月刊COMIC RUSHの…春原君の思考はもう
リアルタイムにまでぶっ飛んでしまっているのか。むしろそのほうが、春原君
らしいのかもしれないが―――真実は、最後までわからずじまいだった。

 ごきり

 核攻撃の脅威すらも忘れてしまいそうな光景の中で、全員がその音を聞いた
という。続いてひゅう、と擦れた吸気音のようなものが一回。

 橙色のゾリオンは、踏み砕かれていた。

 支えを失い、だらりと垂れ下がった春原君の首に、鬱陶しげな一瞥をくれる
と、ホッケーマスクは無造作にそれを捨てた。そしてホッケーマスクを脱いで
素顔を晒した彼女は、パートナーを導く踊り子のように、優しげとさえ言える
、滑らかな仕草で手を差し伸べた。
「次は、誰かな?」
 
 僕を、美汐を、遠野さんを、河島さんを、伊吹さんを、初めて見るメイド服
の女の子を見て、上機嫌に言い放った彼女は、最後の一人の顔を見て、ついと
片眉を吊り上げた。
「……お前も、アレを見て、しまったのか……」




(……アレ?)
 物陰に潜んでいた俺は、相手にそう言われてより一層赤面している観鈴の顔
を見た。どういう訳なのか、観鈴が次なるピンチの矢面へと、立たされそうな
雰囲気だ。一体観鈴は、あの女の何を見たとでもいうのだろうか。
 しかし、心当たりがある。あの女の顔、確か見覚えが……?

(そうか―――あのエロ画像かっ!?)
 俺の脳裏に、理解の色が拡がった。あの女の素顔は、あのエロ画像のキャラ
と全く違わないのだ!


(二代目)110番・伊吹風子 新規参加
【残り 8人】

549パラレル・ロワイアルその491:2006/01/12(木) 21:46:13
 23:20…潜水艦ドッグ脇13番倉庫

「大層便利な刀だな、春原が単身私に挑んで来た理由も解らなくない程に…
とはいえ、私に当てる事が出来なくば只の棒切れに過ぎないという事実を、
あいつは気付いていなかったのが致命的な失敗だった…」
 智代に睨まれ、赤面したまま後ずさる観鈴を庇う様に立ち塞がった祐介が
発射した緑のゾリオンレーザーを、智代は手にした刀の防御の構えだけで、
難なく弾き返して見せた。更に発射されたはるかと美凪のゾリオンレーザー
もあっさりと弾き返す。

「智代さんっ…ど、どうしてなんですかーっ!?」
 風子はゾリオンを抜く事すら忘れ、拳を握りながら智代に向かって大声で
叫んだ。

 智代は風子の方に顔を向けると、一瞬だけ切なそうな表情を浮かべてから
凛とした声で答えて見せる。
「…風子、私もお前同様、自分のルールを曲げる事が出来ない不器用な人間
なのでな……それに」
 智代は着ぐるみの懐から高縮尺人物探知機(香奈子→浩之→シュン→秋生→
智代経由)を取り出して、七人へと見せた…全ての光点は、DREAMエリア
木造旅館付きのスタッフ達と思しきものを除いて、ここMINMESエリア
潜水艦ドッグへと集中していた。
「このゲームの生き残り参加者は(一部スタッフ・乱入者を除いて)、今ここ
にいる全員で全てのようなのだ…そう、朋也も…朋也も、私の知らない間に
…私には、私にはもう……」

「?…智代さんっ、そのような事をたずねているのではありませんっ」
 風子は目をぱちくりさせると、首をぶんぶんと振って大声で尋ね直した。
「…観鈴さんがあんなに真っ赤っ赤っ赤になってしまいまして、智代さんが
そんなにおっかない顔になってしまいまして……いったい観鈴さんが、智代
さんの何を見てしまったとでもいうのですかっ?まさか、全年齢対象の蔵等
きゃらの智代さんが、とってもえっちなところでもいっぱいいっぱい見られ
ちゃったとでも、おっしゃるおつもりなのですかっ?」

「ふ、風子っ……せ、せめてお前だけは…お前だけは同じ蔵等組のよしみで
、生かして見逃してやろうと、思っていたのに……(怒)」
 フルフルと震えだした智代を見て、思わず手をポンと叩くるーこ。
「るー、そういえば確か、すずーが最初に赤面していたのは、ステーション
ビル最上階で、一人S.F.に挨拶に行った戻りの時の事だったな」

「…はい、確か『メインモニターに映しっ放しだった、新作ゲームサンプル
の、とってもえっちな画像』ですとか観鈴さんはおっしゃっておりました」
 故意か思わずか、るーこに相槌を打つように答えてしまう美汐。

「ス…S.F.のメインモニターに、映しっ放し、だっただとぉっ…!?」
 フルフルがワナワナにパワーアップして、震え続ける智代。

「…な、何だか推定ラスボスさんの最優先事項が、僕達の殲滅から別の用事
へと変わってくれそうな雰囲気なんだけど…」
 そんな智代を見て一縷の光明を感じ、そう漏らす祐介であったが、
「…ん。でも、私達の殲滅が最優先ではなくなったかもしれないけど、必要
事項である事に変わりはないと思うんだけど」
「…むしろ、秘密を知ってしまいました分、口封じの対象が観鈴さんお一人
から、私達全員に増えてしまっただけの様な気が致します」
 はるかと美凪の状況悪化論に、軽く一蹴されたしまったのであった。

「…その通りだ」
「「「「「「「!」」」」」」」

 震えるのを止めた智代が、その言葉に思わず向き直った七人へと向かって
ファイティングポーズを取り直した。
「まずは、速やかにお前達を殲滅して……それから、ステーションビルまで
戻らせて貰う事にしよう…!」

 智代がちゃきりと刃音を鳴らして刀を構えた。照明を反射して、ぎらりと
光る刃……と、その時。

550パラレル・ロワイアルその492:2006/01/12(木) 21:48:15
『(;´Д`)ハァハァ……車内端末に、エロ画像がいっぱい……も、萌えーーーー!』
「何っ!?」

 倉庫外から飛び込んで来た拡声器越しの歓声に智代は仰天して向き直った。
(まずい、S.F.の画像情報が外部に漏れてしまっているのか?だとしたら何とかせねば……!)
 智代は目の前の七人を放り出して、歓声の発声源=兵員輸送車へと血相変えて駆けて行った。
 思わず、間合いを取りつつその後を追ってしまう七人。

「誰だっ!?いますぐその画像を見るのを止めろっ!!」
 車の後部扉から飛び込み、智代は言い放った。凡人ならすくみ上がってしまうほどの迫力だ。

『(;´Д`)何を言ってるの?せっかくのお宝画像だよ?ダウンロードして永久保存しない訳
なんかありえないんだよ。それにしても、パンツ半脱ぎでOTLのヤツも、も、萌えーーーー!』
「ぐ…」

 手の打ちようが無かった。操縦室に篭っているのであろう拡声器の発声源は嚇しに怯む気配すら
見せない……そればかりか、己の欲望……つまり正直な気持ちの元に、アレを保存・外部持ち出し
しようとまでしているのだ。

『(;´Д`)これを無事に持ち帰れたら、ホームページの壁紙にしたい……壁紙……ハァハァ』
「……(激怒)」
『(;´Д`)プレミアついたら……ネットオークション、どこに掛けようかな?……ハァハァ』
「……(超激怒)」
『(;´Д`)18禁だと大胆なんだね?69?ずらしパンツ?……智代タンてヤパーリ、エロい
んだね?ハァハァ』

「ーーーっ、痴れ者がぁっ!!返せぇっ!!貴様の存在もろとも今すぐ直ちに消去してやるっ!!」
 智代は操縦室の鍵の掛けられた扉を全身全霊を込めたタックルでこじ開け、そのまま操縦室へと
突入した。

 状況非認識。兵員輸送車は今度こそバランスを崩し、智代と共に……

 グラグラッ!…ズルズルズルッ!……ドボン!!

 潜水艦ドッグの人工海底へと飛び込んだ。




「カラスさん……!」
 落ちて行く兵員輸送車の後部扉を(法術で)バタンと閉じて宙を舞う、ワイヤレスマイクを握った
カラスを驚く観鈴……不思議と観鈴の頬を涙が伝わる。

「る、るぅ、あのカーは……すずーの知り合い……なのか?」
 初対面のるーこはカラスを一応警戒している。目があったからか、カラスはふわりと近付いて来る。

「うん、知ってるよ……490話以上も前から」
 何故か観鈴の表情には『懐かしさ』ではなく、『愛しさ』がより色濃くあらわれていた。


 122番・坂上智代 入水

551パラレル・ロワイアルその493:2006/01/19(木) 19:29:55
 23:30…MINMESエリア港埠頭地区・潜水艦ドッグ

“こちらS.F.赤・青・緑・黄・紫・空・茶…レーザー、照合しました。
操作系統のセーフティロックを解除します”
 S.F.からのアナウンスが響く。聞くなり、七人は手にしたゾリオンを
それぞれの荷物の中に戻した。
 ごとり、という音がした。どうやら物理ロックだったらしい。本編に忠実
だね、とはるかは思った。
(*NG報告…491話で祐介が所持していたのは緑ではなく青のゾリオン
でした。あと、智代が高縮尺人物探知機でSUMMERエリアの高野の光点
を見落としておりました。重ねて、どうかお許しを)

「一見二人乗りで、実は最大収容人数が七人+aっていう所も、本編に忠実
なのかな?」
 ハッチの上からのぞいていた祐介が思わず言う。
 さすがに(まさかそれに乗ってやって来た事など知る由もない)カラスが、
一番手で入り込んで手際よくあれこれ試動させていたのには驚いたが…。

「ん。祐介さんの予想通りみたいだね」
「…加えて、最大収容人数乗り込みますと、強制的に空気節約モードが発動
してしまうみたいですよ」
「美凪ちゃん、それって一体…?」
「…出港直後に最寄の海面まで自動的に浮上して、再潜水が行えなくなって
しまうらしいですよ、観鈴さん」
「がお…」
「…な、何もそこまで忠実に再現なさらなくてもっ…今現在、ドームの真上
は新規乱入者の方達の場外乱闘現場と化しておりますと、お聞きしたばかり
ですのに、うう…こんな酷なことはないでしょう」

「るー、それにしても気になるな…」
「何がですか、るーこさん?」
「ふぅー、どうして492話で…半ば本能的な反射行動であったとはいえ、
うーともは車を端末機もろともドッグに突き落とそうとはせず、敢えて車の
中へと乗り込んで行ったのだろう…?」
「特務機関蔵等の兵員輸送車が、低水深渡河能力を持っているからかもしれ
ませんですっ」
「(…読者様への説明のために、なかなかの専門用語を勉強したらしいな…)
なるほど、だとすれば突き落とした場合、そのままドッグ水底を走って逃げ
られる可能性が高かったから、やむをえず乗り込んで行ったというわけか…
…るー、待て!という事は、落ちて行ったうーともは水没こそはしたものの
まだ脱落はしていない可能性が高いという事なのか?…492話のラストで
参加生き残り人数が無修正だったのが上記のNG報告に入っていないのは、
もしかしたら…」
「いそいで出発した方がよいのかもしれませんっ…ドームから外に出てさえ
しまえば、もう智代さんには再追跡の方法は残されてはいないはずですっ」
「そうだな、場外乱闘現場へと浮上してしまうであろうリスクを考えても、
ここは急いでドームを出るべきであろう…………それにしてもうーともよ、
るーには何故かお前のハプニングが他人事のようには、思えない……いつか
るーにも、ユーザー様の前にあられもない姿を晒してしまう日が来てしまう
様な気がするぞ…」

552パラレル・ロワイアルその494:2006/01/19(木) 19:31:50
 23:35…海水浴場エリア沖・来栖川家専用大型クルーザー内リビング

 …今を遡る事17時間と40分前、元77番藤田浩之と元52番セリオが
FPHで出撃して以来、長きに渡り無人であった大型クルーザーのリビング
に今、中継モニターの機能を果たしていると思しき水晶球の置かれた円卓を
囲んでいる三人の男女の姿があった。

「漸く一番手で『突破』を果たす事が出来たとはいえ、どうやら空気的には
時既に遅しといった感じの様だな、オガム」
「拝見しました所、参加者達にとっての最後の障害は、切り札による攻撃に
既に失敗してしまった篁総帥殿及び、ご同行の鎖組のみ……我々を呼び寄せ
ました特務機関司令も脱落してしまって久しい今となっては、我々が更なる
乱入を行い強引な手でゲームを潰してしまう事は、長期的展望から考慮しま
しても、余り得策ではないようで御座いますな」

「では、私めの提案致しました通り、私達の表立った乱入は中止という事で
よろしゅうございますか、アロウン殿?」
「うむ、今年が駄目でも来年がある……来年夏、葉鍵ロワイヤル・コミック
アンソロジーの発行によってもう一度、紙触媒化無事完結記念祝賀会が開催
されるであろう事は、リアルタイム情報によって確実な未来となっているの
だからな」
「それ即ち、次回の祝賀会もとい、次回のゲーム会場を巡って葉鍵各派閥が
表に裏にの誘致合戦を繰り広げていくであろう事は、明白なる今後の展開…
ならば、マイナスイメージへとなりかねない今大会への強引な乱入は避けま
して裏から決着を支援しました方が得策というものですな、ウルトリィ殿」

「既に来栖川アイランド本島には、当方のクーヤとムックルを極秘支援の為
潜入させましたし、テネレッツァ組の方々やフィルスノーン不参加組の方々
ともそういう事で話は付いております…ここは皆で一致団結しまして、次回
会場主催権を私達葉組異界勢の手へと握り取ります事こそを、第一の目標と
致しましょう」
「依存はないぞ」

「では、次回大会の企画書を御預かり致しますという事で…これでTtTの
皆様もめでたく、葉組異界連合の仲間入りですね」
「しっかりと機密管理して頂きたい…万が一、これがネタバラシされてしま
いましたら、もう我々は進退が極まってしまうのですからな」

「では、各組よりお預かりしました企画書は、私がまとめて大熊座47番星
第3惑星へ…あの方達にお預りして頂ければ、絶対に安全ですわ」

553パラレルロワイアル・その495:2006/02/01(水) 23:24:49
 23:36…来栖川アイランド本島・飛行場&へリポートエリア内滑走路

「この度は当来栖川航空高速便をご利用頂きまして誠に有難う御座いました
…それではあちらに送迎用バスが待機しておりますので、天いな組の皆様は
お乗りになってリバーサイドホテルへとお向かい下さい」
「「「「「「「「「………………………(すごすご)」」」」」」」」」

「無事着陸出来ました事は何よりですが、それにしても凄い量の無人戦闘機
の残骸ですねえ。……たぶん味方だと思うのですが、もしかして貴方が全部
やっつけてしまったのかしら?」
「ヴォフーーー!」


 23:37…来栖川アイランド本島・地下鉄道用地上ターミナル(博物館・
美術館エリア〜遊園地エリア間に存在)

「何はともあれ、どうやら無人戦闘機隊の脅威からは助けられたみたいです
な、幸村さん」
「…しかしまさか、本物のアヴ・カムゥが我々の味方として異界間乱入して
くれおるとは…なにやら後日、高いツケとなってしまいそうですの、会長」
「そうかもしれませんが、今は篁総帥殿へと切り札返しをお見舞いして差し
上げる事を第一に考えましょう」
「それにしても、まさかこんな大戦時の超弩級骨董品が博物館に展示されて
おりましたとは、しかもゲーム用特殊弾頭による発射体勢で…流石は来栖川
グループといった所ですの」
「いやいや、お褒め頂きますと恥ずかしいですな…それでは、邪魔者も排除
して頂けた事ですし早速、発射準備を再開すると致しましょう」
「…ではワシは、小坂さんが連れてきおりました子達に、中継照準をお願い
する事としましょうかの」


 23:38…海水浴場エリア沖・豪華客船“蒼紫”艦橋

「…了解しました、それでは直ちに“標的”の現在位置の座標の確認を開始
致します(ピッ)」
「ねーねー、いったい何の連絡だったの、さーりゃん?」
「(ずざざっ!)ま、まーりゃん先輩っ!?…どっ、どうしてここにっ!?」
「私のさーりゃん誘導追尾能力は、柚木のしーりゃんの約1.5倍の能力を
誇るんだよーって……ま、ホントは空港で旅行帰りのさーりゃんをこっそり
お出迎えしよーかなーって待っていたら、さーりゃんが携帯片手にいきなり
飛行場の方へと戻ってっちゃうもんだから、あーもしかしたらと後をつけて
来ちゃって…エヘヘッ♪」
「エヘへって、まーりゃん先輩…他の飛行場でそれをやっちゃったら立派な
犯罪ですよっ」
「そっかーそっかー、まー気にしない気にしない♪……さーりゃんだって、
私がいた方がきっと助けになると思ってるでしょー?」
「そ、それはっ…」
「それに、結局無理矢理ホテルへ送り返すのに忍びなくなって一緒にいさせ
ているいくりゃんだって、もしもの時の対処法なら私ならキチンと応急処置
出来る自信があるし」
「た、確かにそうですけど、先輩…」
「い、いくりゃん……あ、あのー、こう言っては何ですが、幾ら先輩の先輩
ですからって、初対面の方にいきなりいくりゃんなんて呼ばれる覚えは…」
「うんうん、勇気があって元気もいーわね、いくりゃん♪ごほうびに後で、
お姉ちゃんとスイカでも食べようか?…でももう、そろそろ夜更かしが体に
毒な時間だぞー、いくりゃん♪」
「………………(プルプルプルプル)」


 23:39…海水浴場エリア・海の家

「?…おかしいですねえ、さーりゃんから郁乃ちゃんを“蒼紫”より送り届
けて来るという連絡を受けましたので、こうして同行希望の乱入者さん達と
一緒に、(巡回用ホバークラフトで)こうしてお迎えに参ったのですが…?」
「ん〜っ冷た〜い♪…森本さん、ここのアイスも本当に冷たくって美味しい
ですねえ♪」
「ミキポン、ユカリン、アルルゥ花火で遊ぶー」
「ふ、伏見さんっ、アルルゥちゃんっ……(も、もしもここのアイスまで食べ
尽くされてしまいましたら、次はいよいよ“蒼紫”の厨房室まで向かわなけ
ればならないのでしょうかっ…?)」


 23:40…大灯台広場約2キロ沖洋上・試作高速駆逐艦“ソルジャー・
バシリスク号”艦橋

「篁のICBM攻撃が失敗に終わり、来栖川アイランド内の無人先遣部隊が
予想外の反撃により大損害を被っているとの事だ……次はいよいよ総力戦、
俺達鎖組の出番というワケだ……早い所、ウロチョロと鬱陶しい巡視艇及び
ハリアーとヘリを蹴散らして、倉田アイランドからの脱出者どもを俺達の手
で補足するぞ!」
「「「「「「「……(キャラとネタの相性上とはいえ、岸田が暫定リーダー格
なのは絶対、納得出来ないっ…)」」」」」」」

554パラレルロワイアル・その496:2006/02/01(水) 23:26:37
23:41…倉田アイランドDREAMエリア木造旅館二階客室・“幻世壱の間”

「け…結局、こうなっちまうのが俺の運命なのかなぁ…?(泣)」
「ふみゅ〜ん、和樹ぃ〜っ…(泣)」
「運命よ。自業自得とも、言えるのかしら?……そもそも、“HAKAGI
ROYALE THE MOVIE”だなんて大風呂敷な連載企画をZへと
持ち込んで来たのは、他ならぬ千堂君なんですから」


 23:42…同じく二階客室・“幻世七の間”

「ねえ、雄蔵…結局、私達のした事って、出来た事って…一体、何だったの
かしら?……確かに、破格の長命だったって事は認められるけど、サブの壁
を超える事だけはとうとう出来なかったみたいだし……私と雄蔵の元ネタを
書いてくれた出典元の作者様にも、作者を代弁しても申し訳が立たない結果
に終わっちゃって…」
「それでも俺達は全力を尽くした…出来る限りの事はやったし、その時考え
得る限りの最良の選択を選び続けようと努力もした、もうそれで充分なので
はないか?……そもそもからして、そういった結果に対してのみの拘りこそ
が、自らをサブへと位置づけてしまっているのではないか、香里?」


 23:43…同じく二階客室・“幻世拾弐の間”

「……おじさん……ムニャムニャ……うぐぅ」
「ぐうぐう―――みてなさいよおっ…乙女の誇りにかけても、次はきっと、
絶対、勝つんだからぁっ!―――ぐうう」


 23:44…木造旅館一階・ガーデンパーティ会場跡

「はぁ…オレ様って、失格だよなぁ……夫としても、父親としても、そして
司令としても全部、中途半端で終わらせちまって……」
「ゲーック!何言ってやがんだ、読者様に名指しでかっこよすぎとホメられ
、(現在坂上が異様な追い上げを見せているとはいえ)金星の数ではこの俺様
を道連れにして、最高得点を叩き出しやがった若造がぁっ!」


 23:45…木造旅館一階ロビー

「そそそそ、それで、ミミミミ、ミルクとここここ、紅茶どどどど、どちら
から入れ入れ、入れましょうかっ?……(どぎまぎっ)」
「?……どうしたのでありますか、草壁センパイ?」
「?……草壁さん、何だか急に朋也くんの顔を見て、赤くなってしまわれた
みたいなのですが…?」
「………………(そうか、そういう事だったのか…やはり、あのエロ画像こそ
が、もうひとつの未来の…渚を選ばなかったIWLの、もう一人の俺からの
無言のメッセージだった、という訳なのか……確かに、確かに俺ならもしも
智代が相手ならば、その位の事はやりかねないだろうからなぁ……しかし、
出来る事ならば、俺の携帯にも…エロ画像、送信して欲しかったなぁ……)」

555パラレルロワイアル・その497:2006/02/01(水) 23:27:41
 23:46…木造旅館一階・庭園前縁側

「もう、遅いのじゃあ、コウヤ……ムニャムニャ……次からは、許してやら
ぬのじゃあ、ムニャムニャ……」
「高野様、ご面倒をお掛け続けてしまっております」
「それにしても、この神奈になつかれる男が、まさかこの世にもう一人存在
しようとはな」
「……俺の家系は、親父がヤクザで祖父が軍人、曾祖父も軍人っていう代々
修羅道に縁深い家柄でな…そうなっちまったのも元々、平安時代の御先祖様
が妖し狩りで功を立てて、高野山から高野の姓を賜って以来の、子孫代々に
伝っている妖しの祟りだとかゆー話でよ、俺はその話を今の今までてっきり
只の御伽噺だとばかりに思い込んでいちまったが、こーしてアンタらの昔話
を聞いていると、ひょっとしたら…」
「…只の、御伽噺ですわ。もうそれでよいではありませんか、高野様」
「千年の時を越えてまでそなたが背負う問題ではあるまい…それよりむしろ
修羅道から縁を切る術を真面目に考えてみる気はござらぬのか、高野殿?」
「そうは言ってもなぁ……一度足を突っ込んじまったら、そう簡単には…」
「そこを何とかするのじゃコウヤ、ムニャムニャ…余も手伝ってやるから、
これは命令なのじゃあ、ムニャムニャ……」
「「……」」
「……こいつ、本当に眠ってんのか…?」


 23:47…木造旅館一階・医療室ベッド

「僕…あの連中に何かしてあげられたのかな…?」
「あははーっ。春原さん、あなたは充分すぎる程よくがんばりましたよーっ」
「…うん。お前、よくやったぞ」

「ボンバヘ〜♪僕、がんばりましたか〜っ♪」
「それじゃあ、佐祐理はそろそろ行きますよーっ」
「え?…佐祐理さん、僕のお見舞いに来てくれたんじゃあないんですかっ?」
「…そうだ、佐祐理。まだ来たばかりなのではないか?」
「違いますよーっ……佐祐理はただ、戦い破れて傷ついてしまった春原さん
への差し入れに、舞をここへと連れて来ただけですよーっ」

「え…?」
「…何を言っている佐祐理。私はただ、剣を奪われた陽平の事を……」
「(ビクッ)あわわわ、ゴメンなさい舞さんっ、この春原陽平一生の不覚っ……
この償い、どうすれば…?」
「…どうするかはまだ、決めていない……しかし、時間をかけてじっくりと
償って貰うつもりだ。…文句は、ないな?」

「あははーっ。何だか舞、遠まわしな事言ってますよーっ。今の言葉、芽衣
ちゃんにも教えてあげますよーっ」
「…佐祐理っ!!」
「佐祐理さんっ!!」
「あははーっ、何だか二人とも耳まで真っ赤になってますよーっ。あははーっ」


 23:48…その隣の集中治療室

「ぐおおおおおお〜っ!杜若あぁ〜っ!取れたのかぁぁぁ〜!やっと、やっと
取れたのかぁぁぁぁぁぁ〜〜〜っ!?」
「うむ…三角帽子本体の摘出は何とか完了した。しかし、先端の丸い部分が
外れて、直腸部奥深くへとまだ残ってしまっている。こうなってしまっては
もう、致し方がない……早速、切開手術の準備を始める事としよう」
「うひぃぃぃぃぃぃっ、嫌だぁぁぁぁぁぁっ、手術はっ手術されるのだけは
、絶対に嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜っ!!!」
「…麻酔(…プスッ)」


 23:49…再び、医療室

「はえ〜っ!?佐祐理、実は(結果的に)大変な事をしてしまいましたのを、
すっかり忘れておりましたーっ!」
「…どうした、佐祐理?」
「どうしたというのですか、佐祐理さんっ?」
「実は佐祐理…脱落して兵員輸送車を降りる前に、生き残り参加者の皆様の
ためになればと思って、車内端末機に『最後の一仕事』を記録してきてしま
ったのですが…」

556 パラレルロワイアル・その498:2006/02/02(木) 15:17:21
 23:50…大灯台広場沖約1キロ・倉田アイランドほぼ真上の洋上

「シーハリアー、弾薬切れにより緊急帰投・着艦します!…更にマジカル・
ブルーサンダー、被撃墜判定により戦線離脱しました!」
「この巡視艇の被害判定の方はどうなっていますか、ひかりさん?」
「…主砲は全て『破壊』されております、ミサイルの方も全て撃ち尽くして
しまいましたし、魚雷発射装置もやられてしまいました…もう、対空機銃と
携帯火器に頼って戦う他はありませんわ、春夏さん」
「……ひかりさん、ハリアーの弾薬補給の手伝いの方をお願いするわ、私は
このカール・グスタフM2で…」
「は、春夏さんっ!?」
「言わないで…古河さん同様、司令官も戦士の一人なのよ…ひかりさんも、
手伝いが終わったら…」

 巡視艇の艦橋及び、垂直離着陸機用の小型飛行甲板では、倉田アイランド
真上の海域―――もとい、正規参加者達の『脱出』用ルートを死守せんと、
迫り来る空母“キング・バジリスク号”そして駆逐艦“ソルジャー・バジリ
スク号”に対して抗戦を行い続けていた鳩・鳩Ⅱ組が、今まさに玉砕寸前の
所まで追い詰められようとしていた。

 ブブイ、ブンブンッ。
「…それにしてももう最悪の状況ね、タカ坊」
「!…タ、タマ姉っ…あ、あそこの海面にっ…!」
「!…何て時に何て場所へっ…しかも、わざわざ浮上してくるなんてっ!」
 カックン、ブルブルッ。

 弾補給のためにハリアーを降り、飛行甲板の上の人となっていた貴明と環
そしてミルファは、見事に揃って頭を抱えていた……横に並んで進軍中の、
“キング・バジリスク号”と“ソルジャー・バジリスク号”。それに500
メートル程離れて対峙している巡視艇―――その丁度中間点に位置する海面
に、大量の泡沫とともに小型の潜航艇がぽっかりとその姿を現してしまった
のであった。

 ――ギ……ギギィ……――
 そして、ハッチが開かれた。




「お初にお目に掛かる、ゲームの生還者達よ。私も諸君等の活躍はモニター
にて延々と観戦させて貰っていたが、何れの者も葉鍵の歴史に残る戦い振り
を見せてくれていた。…しかし、それももう終わりだ。特典有利条件を保証
しよう、全員大人しく降板し、私の統括下で翌朝からのゲーム再スタートに
望んで頂きたい」

 この星の時刻にして23時と52分14秒、浮上とともにハッチを開けた
るーの前に姿を見せていたのは、この潜航艇の左右をはさむ様に停泊・対峙
している空港母艦と護衛駆逐艦…そして、空港母艦の飛行甲板にて護衛部隊
と思しき戦闘メカニック・ロボット・兵隊達に周りを囲まれながら、マイク
を片手に雄弁を振るっている、年を召したうーの姿であった。恐らくはあの
ロワ2にて大ボスを務めている、うーすいなのであろう。

557 パラレルロワイアル・その499:2006/02/02(木) 15:19:02
 駆逐艦の方にも、手に手に赤や青のペットボトルカンプピストルや、吸盤
付きクロスボウ、黒塗りの竹光などを持ったうーたちが甲板上に並んでいる
…あっちは、鎖組のうーたちなのだろう。

 潜航艇の後方には更にもう一隻、コルベット艦(巡視艇)が停泊しており
、後部の小さな飛行甲板にはうーとうーたまの姿が見える。幸い、こちらは
味方という事らしいのだが、船の殆どの箇所には被弾判定ランプが点灯して
いる事実から、るーたちへの助太刀は期待するのは難しそうだ。

 と、ハッチから上半身を乗り出して状況確認をしているるーのスカートを
船内からはるーがそっとひっぱって、外のうーたちからは死角になっている
位置からそっとメモをるーに見せた。外部から潜航艇へと暗号文通信が届け
られてきたらしい。

 !…ここに来ていたとは。るーの文字をちゃんと覚えていてくれたとは。
さすがだぞ、うーりゃん。るーの次なる行動は直ちに決定した。バッグから
ワンタッチ傘を取り出して、肩にとまらせているカーへとそっと手渡す。
「これを、後ろの船にいるうーに渡すのだ」

 るーの期待通り、カーはなかなか聡明だったようだ。傘を両足でしっかり
掴むと、ふわりとコルベット艦目指して夜の海面すれすれを滑空して行って
くれた。保護色効果からしてあっちのうーたちには見付からない事だろう。




「さて、そろそろ返事の方をお聞かせ願おうかな?」
 23時54分15秒、うーすいが二択の選択を迫ってきた。しかし、返す
言葉は全員一致で一つしかない。
「うーすいよ、ロワ2の現状の方は理解出来なくもないが…やはり、引き際
というものは認識しておいた方が役柄上カッコいいと、るーは思うぞ」

「…言ってくれおるではないか。確かに、そうなのかも知れぬな……だが、
一度拳を振り上げてしまった以上は、機を逸してしまったからといって何も
せずに下ろしてしまう事など、我が権威・我が同盟者達の立場に掛けても、
出来る訳等ないであろう?……ともかく、君達の状況は既に決しておる……
移動速度に勝る空母と駆逐艦に間合いを詰められ、全ての対艦・対潜兵器は
そちらと、後方の巡視艇へと向けられておる……それにこの空母“キング・
バジリスク号”そして駆逐艦“ソルジャー・バジリスク号”は完璧なる対艦
ミサイル・対魚雷・対航空機防衛網によって護られており、第三者の乱入に
よる奇襲・妨害・救出は絶対に不可能なのだ……更には、本編にて高槻君が
使用したものを大型化したこの簡易式結界装置を、既にそちらと上空に対し
て照射させて貰っている……諸君らの『能力』は全て、封じさせて頂いたと
いう訳だ……勿論るーこ君、君の『るー』の力でさえも、その例外ではない
という事なのだよ……では、納得のいった所で覚悟の方は、いいかね…?」


「そうか。よく分かったぞ、うーすい……だが、それでもかまわないから、
とりあえずはるーに“るー”を、最後はきちんとやらせるのだ。お前の言葉
がその通りだというのなら、問題はあるまい…?」

558パラレルロワイアル・その500:2006/02/08(水) 22:54:46
 23:55…巡視艇飛行甲板

『…ったく、この状況下でこんな事をやって一体、何になるって言うんだ?
……象形文字みたいなのがズラズラ書かれたメモを見せられるなり、決意を
秘めた目をして躊躇う事無く頼んできやがったもんだから、つい思わず引き
受けちまったがよ……るーことかいってたな、もしもこのまま何も起こらず
やっと出会えた観鈴と『死に』分かれる羽目にでもなったりしたら、どろり
濃厚梅干味一気飲みの刑だからな……!』

「あっ…?」
「あら…?」
 飛行甲板上にて、ホールドアップまでこそはさせられてはいないものの、
駆逐艦“ソルジャー・バジリスク号”より向けられている各種対艦兵器群の
砲口を前にして、迂闊なリアクションを取れないままでいた河野貴明と向坂
環は、保護色となって深夜の海面からふわりと自分達の方へと舞い上がって
来た、折り畳まれた傘を持ったカラスの姿に驚かされる事となった。カラス
は貴明と環の手前へばさりと降りて来ると、持っていた傘を二人の足元へと
そっと転がした。

「傘…?」
「何か落描きがしてあるわね?(バサッ)…!これって、ひょっとしてるーこ
ちゃんの…?」
 傘に何かが描かれているのを見付けて、拾い上げて広げてみた環の目に、
蛍光マジックペン(元・城戸芳晴の支給装備→春原経由)で描かれたナスカの
地上絵が飛び込んできた。

「だけど一体、るーこは何の意味・目的があってこんな物をわざわざ…?」
「私にも解らないわ…だけど、もしかしたら私達の理解を超えた特別な事情
があっての事なのかもしれないわ。そう、今の私達やるーこちゃん達の状況
をひっくり返してみせてくれるような…」
「だけど、あの空母に搭載されているらしい結界装置で“るー”の力だって
封じ込められてしまっているんじゃないのか?…それでも、るーこにはまだ
打つ手が隠されているっていうのか…?」
「しっかりしなさい、タカ坊!貴方が信じてあげなくってどうするのよ?」
「ゴメン…ありがとうタマ姉。じゃあこの傘、俺が……(バサッ)」

 ばっさばっさ。
『…ほう、結構信頼されてるんだな、あのるーるー女…こいつぁ、ひょっと
してひょっとすると…って、やっぱり解からねえ、今度ばかりは正真正銘に
意味不明だ…この状況・このアイテムからどういう展開で奇跡が起きるって
いうんだよ、マジで……!?』




 23:56…潜航艇ハッチ

“…ふむ、それほどまでに“るー”をやりたいのかね?るーこ君……まあ、
君がそこまでに求めるのならば、君の故郷での文化や習慣というものを尊重
して差し上げるのも、『死に』行く者達への礼儀というものであろうな……
宜しいるーこ君、君に“るー”の為の時間を三分間だけ許可しよう、それで
いいかな…?”
「充分だ。感謝するぞ、うーすい…………るぅーーーーーーっ!(ぐぐっ)」




 23:57…“蒼紫”艦橋モニター室

「よっしゃーよっしゃー♪まあ何とか、るーりゃんのお船に暗号文は届いた
みたいねー」
「後は、るーこちゃんが上手く手を打ってくれるかどうかですね…」
「それにしても映りの悪い衛星画像ねえ…これじゃあ、どの船が敵か味方か
が、全然判んないじゃないのよっ」
「しょうがないよいくりゃん、なんてったって真夜中だし、敵さんも味方も
サーチライトは赤外線式みたいだし」
「ま…また、いくりゃんって…(怒)」
「真ん中に一隻、周りを囲むように三隻……あっ、今真ん中の船に見覚えの
あるポーズの人影がっ」
「やっぱり真ん中の小さなのが、るーりゃんのお船だったんだねー♪」
「!…囲んでいる三隻の内の、北東寄りの船に何か、丸くてうすぼんやりと
光っているものが…!」
「んー、どれどれー?」
「ひょっとして、蛍光色で落描きされた、傘か何かじゃないのかしら…?」
「そーだ、そーだよ…あの落描きは間違いなく、るーりゃんのだよ!」
「じゃあ、これで敵味方の識別は完了ってワケね」
「(ピッピッ)…もしもし、幸村さん?中継砲撃の為の照準座標の割り出しが
完了しました、これより直ちにデータ転送を行います…」

559パラレルロワイアル・その501:2006/02/08(水) 22:55:41
 23:58…再び、潜航艇ハッチ

 ドン…!!!!!

“な!?…何だ、今の轟音は一体っ!?……ま、まさか…るーこ君、まさか
とは思うが、君は今一体…何を行ったのかね…?”
「見ての通りだ。るーは“るー”をさせて貰ってただけだぞ……そもそも、
先ほどのうーすいの言葉が真実ならば、るーにそれ以上の行為がどうやれば
出来るというのだ?……第一、今の轟音は天空からではない。北東もとい、
来栖川アイランド本島の方角から、聞こえて来たものではないのか…?」
“む……た、確かにそうなのだが……”
「それとうーすい、先程のお前の説明なのだが…数十センチ単位の解析度を
誇る軍事偵察衛星や、精緻を極める来栖川製の軍事用レーダーによる、対艦
ミサイル・対魚雷・対航空機防衛網等によっても、物理学上そしてこの星の
科学技術のレベル上、阻止する事が不可能な兵器攻撃手段が、この星の産物
にも一応存在しているのだぞ」
“ほほう。そんな物が果たして、本当に存在するのかね…?”
「すぐに解る……そろそろ、落ちてくる頃だからな」
“何っ!?……うわっ、うわわわわわわっ!?”

 るーこの言葉に思わず上を向いた総帥が最後に見たものは、来栖川会長と
幸村俊夫によって来栖川アイランド本島・博物館美術館エリアより地下鉄道
用地上ターミナルへと移動させられた後、海水浴場エリア沖を航行中の豪華
客船“蒼紫”の久寿川ささら達が行った偵察衛星の映像による中継照準の元
にて発射された列車砲“ドーラ”の800ミリ砲弾が、高空より“キング・
バジリスク号”と“ソルジャー・バジリスク号”の中間点の海面(もちろん
潜航艇からは、両艦が盾となってくれる位置)へと落下・着弾をするまでの、
ほんの一瞬の、奇跡の残像であった。

 ザバン!!!!!

 時と共に海へと還るよう結晶岩塩で作られた10トン近い巨大な弾頭は、
両艦への直撃こそは(当たり前だが)しなかったものの、至近弾となって巨大
な水柱を築き上げ、その飛沫は奔流と化して両艦の甲板上にいる全ての存在
を一瞬にして流し去り、海へと叩き落していった。

「全員アタックダイブか……それにしても、全てを合理性のみで考えて対処
しようとする様では、ロワイアルでは生き残る事は出来ないぞ。うーすい」




 23:59…倉田アイランド真上海中

「…恐らく倉田佐祐理は、生き残り参加者の人数が、潜航艇の定員を超えて
しまった時の場合を想定して、自分達が乗って来た潜水機能付き水上バイク
の隠し場所を、車内端末機に記しておいたのだろうが…それがまさか、私の
役に立ってくれる結果になろうとは私も夢にも思わなかったぞ…とはいえ、
先程の海面からの轟音…ゲーム決着妨害派と支援派の戦いはどうやら、大方
のケリが付いたようだな…まあ、どちらが勝ち残ったとしても、私にとって
は『脱出』した七人に加えて、敵の数が増えてしまうだけのようなのだがな
…それにしても、時間だし取り敢えず受信出来る様にはしておいたのだが、
果たして…終了間近の、しかも海の上で、次の定時放送は行われるのだろう
か…?」

560パラレルロワイアル・その502:2006/02/15(水) 18:35:49
 00:00…大灯台広場沖1キロ・倉田アイランド上部海上

“始まりは、百十五人。
 今は、たったの八人。
 いくつもの野望と奇跡、自業自得と因果応報。
 この仁義なき戦いは、
 今、まさに最終章を迎えました。
 大会三日目、七回目の定時放送の時間です…”

 深夜の洋上にいきなり響き渡った、拡声器越しの定時放送開始の言葉に、
潜航艇と巡視艇にいた全員が驚き、放送の流れてきた方角へと慌てて、その
視線を巡らせた。

「「「「「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」」」」」

 視線の先…もとい北の洋上に存在していたのは、倉田アイランドでのモブ
脱落者を来栖川アイランド本島へと降ろした後、港・ヨットハーバーエリア
を出航してこちらへと南下をしていた、潜水揚陸艇“スメルライクティーン
スピリッツ”であった。

“放送は私達、特務機関CLANNADの杉坂と原田が、BGMの‘鳥の詩’
ヴァイオリン演奏は、同じくCLANNADの仁科りえが行わさせて頂きます”


「?…定時放送はありに致しましても、随分と変わった人選ですねえ…?」
 まず、巡視艇艦橋の神岸ひかりが率直な感想を述べた。
“…確かに、鍵側の参加人物も底は尽きかけてはおりますものの、幸村様や
岡崎様といったより適任そうな方がまだ、いらっしゃる筈なのですが…?”
「…て言うのか、そもそも正規参加者の生き残りは、あの潜航艇に乗ってる
メンバーで全員なのはもう判りきっている事なのですから、もしも適任者が
いらっしゃらない場合だったとしても、無理に定時放送なんかを行う必要は
ないんじゃないのかしら…?」
 ひかりの中の八百比丘尼も一緒にいる柚原春夏も、ひかりとほぼ同意見であった。


 ……伴奏


“では、この時刻までの脱落者の発表から行わさせて頂きます。

 011番・大庭詠美さん
 020番・覆面ゼロさん
 027番・川澄舞さん
 034番・倉田佐祐理さん
 053番・千堂和樹さん
 056番・立川雄蔵さん
 061番・月宮あゆさん
 069番・七瀬留美さん
 085番・美坂香里さん
 089番・御堂さん
 118番・春原陽平さん
 119番・古川秋生さん
 123番・柚原このみさん
 124番・草壁優季さん

 以上の十四名に加えまして、
 110番・高野さんが降板しております。

[♪―♪♪♪ ♪♪ ♪ ♪♪――― ♪♪♪♪♪♪ ♪ ♪♪♪―]”


 ブブイ、ブイブイッ。
「ミルファちゃんのいう通りねえ…確かに、一生懸命っぽいのは何となくは
解かるんだけど、あのヴァイオリン…時々調子がぎこちなくなっちゃって、
厳しい言い方しちゃうと特別、放送のBGMに使わなきゃ勿体無いっていう
レベルの演奏には感じられないのよねえ…?」
「と言うか、今更劇場版本家バトロワBGMネタ+本編ハカロワ・ラスエピ
ネタを使わなくっても、いい気がするんだけどなあ…?」
 飛行甲板のミルファや向坂環、河野貴明も今回の定時放送とBGMには、
何か違和感を感じている様であった。


“続いて、新規引継参加者の発表です。

 二代目110番・伊吹風子さん

 以上一名です。

[♪―♪♪♪♪ ♪♪♪―  ♪♪♪♪♪♪ ♪♪♪―♪ ♪ ♪ ♪ ♪]”


「ふむふむー、これはひょっとして、ひょっとするとー…」
「…なんでしょうか、まーりゃん先輩?」
「まだ戦いは終わってないって事なんじゃないのかなー?」
「えええっ!?…でも、決着妨害派の連中はついさっきの砲撃で一網打尽に
なっちゃったんじゃないんですか?」
「郁乃ちゃんのいう通りです…それに、異界間突破組もこの時刻を過ぎても
現れないという事は、機を逸した事を悟ってもう乱入を断念してしまったと
考えるべきなのでは、ないのでしょうか…?」
「んー、甘いぞ甘いぞー…本島にたどり着くまでが『脱出』なんだよー…と
いう訳で、さーりゃんは早速ロボットさん達連れて、屋形船でるーりゃん達
を迎えに行ってちょーだい!」
「あ…は、はいわかりましたっ…」
「で、私達はどうするんですか、大先輩?」
「まずはるーりゃん達に、海水浴場を上陸目標に選ぶように連絡して、次に
海水浴場で待機中のみきりゃんを私達の下船の為にコールしてちょーだい」
「取り越し苦労だと思うんだけどなあ…ま、それでも暇を持てあますよりは
余程マシかしら…?」

561パラレルロワイアル・その503:2006/02/15(水) 18:36:47
“いくつもの出会いがありました。
 いくつもの珍事がありました。
 いくつもの秘話がありました。

 孤島で繰り広げられました、
 騒乱の遊戯も、遂に終わろうとしています。

[♪♪♪♪― ♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪――]

 それではフィナーレに向かって最後の最後まで、ご健闘下さい。

[♪―♪♪♪ ♪♪♪♪― ♪♪♪♪♪♪ ♪ ――♪ ♪♪――♪]”


「う〜ん、はっきりと確信は持てないんだけど、これってもしかしたら…」
 一路、大灯台広場への『上陸』を目指して北北東へと移動を開始していた
潜航艇の操縦席で、長瀬祐介はポツリと意見を口にした。

“[♪♪♪♪ ♪ ♪ ♪ ―♪  ♪  ♪♪♪―♪♪―♪♪]”

「…何でしょうか、祐介?」
 傍らに寄り添っている天野美汐が、クルーを代表して意見を尋ねた。

“[♪♪♪♪♪♪♪ ―♪♪ ♪♪♪――]”

「もしかしたら、この最後の定時放送には何か、別の目的があるんじゃない
のかなって…」

“[♪♪♪♪ ♪ ♪ ♪ ―♪  ♪  ♪♪♪―♪♪―♪♪]”

「「「「「「別の目的!?」」」」」」
 残りの六人が、祐介の方へとはたと振り返った。

“[♪♪♪♪ ♪♪―♪♪♪ ♪ ♪ ♪ ♪―]”

「…ん。もしそうだとすると、目的はあのヴァイオリンの演奏には何か意味
なり目的なりがあるんじゃあ…って事かな?」
 河島はるかが、放送内容が終わってもなお続いているヴァイオリンの演奏
に推理の矛先を向けた。

“[♪   ♪♪♪♪♪――♪♪♪  ♪ ♪ ♪  ― ♪♪♪―]”

「…だとしましたら一体、どなたに聞かせるためのものなのでしょう…?」
 遠野美凪が、推理の続きを求めた。

“[♪♪♪♪♪―♪♪ ♪ ♪ ♪♪♪ ♪ ―]”

「!…るー、確かそう言えば定時放送の冒頭で『今は、たったの八人。』と
言っていたな……カーがすずーと一心同体である以上、八人目はうーともと
いう解釈になるぞ」
 るーこきれいなそらが、思い出したかの様に対象該当者の名前を挙げた。

“[♪♪♪♪♪――♪♪♪  ♪ ♪ ♪  ― ♪♪♪―]”

「そういえば風子ちゃん、今ヴァイオリンを演奏してる仁科りえちゃんって
どんな子なの…?」
 神尾観鈴が、同区分作の伊吹風子に演奏者のプロフィールを尋ねてみた。

“[♪♪♪♪― ― ♪♪ ♪♪♪♪♪―♪ ―]”

「えっとですねえ……あああっ、これはおめがミラクルなのですっ!?……
風子がしってる限りの仁科さんはかつて不幸な事故で生きがいともいえます
ヴァイオリンの演奏ができなくなってしまった、とてもとてもかわいそうな
方のはずなのですっ…!?」
 風子が今更ながらの仰天をしながら、みなにりえのプロフィールを身振り
手振りで解説した。

“[♪―♪♪♪ ♪♪ ♪ ♪♪――― ♪♪♪♪♪♪ ♪ ♪♪♪―]”

「そうか、そういう事だったんだ……坂上さんにも最後まで諦めず頑張って
貰いたいっていう、特務機関CLANNADとっておきの、奮起のエールと
いう訳だったんだ。あの定時放送…いや、ヴァイオリンの演奏に込められた
真なる意図と呼ぶべきものは…」
 そして祐介は、自らの意見を確信付ける結論を遂に弾き出した。

“[♪―♪♪♪♪ ♪♪♪―  ♪♪♪♪♪♪ ♪♪♪―♪ ♪ ♪ ♪ ♪]”

「…ええっ?でも、坂上さんにはもう倉田アイランドから『脱出』する手段
は残されてはいない筈、だったのではありませんか…?」
 美汐が驚いて、クルー全員が思っている筈の疑問を、代表して尋ね返した。

“[♪♪♪♪― ♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪――]”

「…うーみし、こういう時にるーのパパとママは言っていた。『真実とは、
自分の目で確かめてみるものだ』と」
 るーこが、操縦席モニター上の海面を指差しながら祐介の結論を肯定した。

“[♪―♪♪♪ ♪♪♪♪― ]”

「いや、幸村先生もキツいエールを手向けて下さったものだな……これでは、
例え何対一であろうとも、もう一頑張りしない訳にはいかなそうじゃないか」
 浮上時に自分達の元いた、今はやや離れた海面から、潜水機能付水上バイク
に跨り黒いレオタード姿に刀を背負った坂上智代が、颯爽とその姿を現した。

“[♪♪♪♪♪♪ ♪ ――♪ ♪♪――♪]”

「あ…最後に平仮名四文字の読者様、折角定時放送まで待っててくれたのだ、
出来れば今回もカッコよく書いて欲しいぞ」

562名前: パラレルロワイアル・その504:2006/02/21(火) 19:17:59
「そそそ、そんなぁ〜ひかりさんっ…これからがクライマックスだという時
ですのに〜!(涙)」
「駄目ですよ、春夏さん。脱落者の救助・回収活動はスタッフの最優先任務
なのですから」
「ううっ…お願いひかりさんっ、私に…私にこのみの仇を討たせてぇっ!」
「春夏さん…ウズウズ顔でそう申されましても、説得力はございません」
「しくしく…」
“では私は、救難活動が終わりましたら神奈の所へ参らせて頂きます…今迄
有難う御座いました、ひかり様…”

「では、私たちは二隻目のお船の方たちをお助け致しましょう」
「あああっ、りえちゃんやっぱりそう言うと思ってた…(涙)」
「仕方ありません、幸村先生から『部長の要望は絶対』と命じられています
から…(涙)」


 かくなる理由で、倉田アイランド上部洋上へと取り残される結果となった
巡視艇と潜水揚陸艇を置き去りにして、海水浴場エリア砂浜をゴールと目指
したシーチェイスが開始された。
 先頭を進むのは“蒼紫”からの二度目の連絡指示を受けた生き残り組七人
を乗せた潜航艇、続くは坂上智代の駆る水上バイク、そして三番手が向坂環
・河野貴明・ミルファ・カラスの乗っているシーハリアーである。
 しかしながらも、それぞれの移動速度の方はといえば当然、水上バイクは
潜航艇より速く、シーハリアーは水上バイクよりも更に圧倒的といっていい
ほど速い。たちまちシーハリアーが水上バイクを後方から必殺の間合いまで
詰め寄って行った。

「情け無用よ!ミルファちゃん、機銃でもミサイルでもいいからとにかく、
あの水上バイクに何かお見舞いしてあげて頂戴っ!」
 ブルブル、ブブンブンッ。
「弾薬補給出来てないまま、急発進しちゃったんだって、タマ姉…」

「えええっ!?んもう、しょうがないわねえッ…いいわ、それなら代わりに
あの水上バイクの左横へ並んで頂戴っ…!」
 環はそう言うとシーハリアーのコクピットを降りて、巡視艇から徴用した
飛行甲板清掃用のデッキブラシを握り締めると、右翼の上をのっしのっしと
移動を開始しだした。

 ばっさばっさ。
『…何だかこっちのタマ姉とかいう女の方が、見た目このみとかるーことか
よりも、より主役っぽくより武闘派っぽい感じがするが…こいつはヒョット
してヒョットすると…』




「わーっ!一騎討ちの始まりですっ!」
 潜航艇の操縦室…サブのモニターへと映し出された併走する水上バイクと
シーハリアー、そしてその翼の上をデッキブラシ片手にバイクの方へと移動
して行く環の勇姿に思わず歓声をあげてしまう風子。

「ど…どっちが勝つのかな…?」
 雰囲気に押されてか、観鈴もいささか興奮気味のようである。

「…当然、挑戦者の赤毛の方に勝って頂きませんと、こちら側としましては
困ってしまうのですが…」
「…同じ鳩Ⅱ組としての目から見て……るーこさんはこの勝負、どうなると
思うかな…?」
 美凪とはるかは早くも結果の方に関心がいったのか、早速るーこに予想を
尋ねてみた。




「…抜いて、下さるかしら…?」
 海面擦れ擦れを右側に傾きながら飛行するシーハリアーの翼の上。ほんの
わずか離れた眼下に見下ろす位置にある、疾走中の水上バイクに跨っている
黒いレオタード姿の智代とその背中の刀を見やり、環は静かに言い放った。

「…悪いが、モブキャラの相手をしている暇はない」
 それでも、バイクに跨る智代はそんな環に対して刀を抜くどころか、身構
える気配さえ見せようとはしなかった。

563名前: パラレルロワイアル・その505:2006/02/21(火) 19:18:58
「(怒)…いかにも暫定ラスボス様らしいお言葉ですけど、私もそこまで軽く
あしらわれる程、お粗末な存在ですと自負してはいる積もりなのですが…」
 ついと眉根を寄せながら、環が手にしたデッキブラシの柄を、智代の喉元
へとすうっと伸ばし、突き付けた。
「もう一回だけ言うわよ……抜いて、下さるかしら?」




「確かに、うーたまは非能力のうーとしては只者ではないだろう……リアル
タイムTV版では、野点の会の招待状にうーしか知らない筈のるーの本名を
宛名書きしてきた位だからな。だが…」
「…駄目、なのですか…?」
「うーみし…普通に考えてみて、うーみやうーなびを狩った相手が更に超絶
奮起している状態なのだ…うーともが狩られる理由が一体、どこにある?」
「確かに、言われてみればそうなのかもしれないね……あっ、前方に新たな
船影が…や、屋形船っ!?…あの中にいる、女の子はっ…!?」
「安心しろ、うーすけ。あのうーさらはるーの先輩、つまりは味方だ…」




「…抜くには及ばん」
 智代はポツリとそう言うと、ハンドルのグリップ脇にあるスイッチを右手
親指でポチッと押した。

 ちゅーーーーーーっ!

 次の瞬間、バイクの風防のワイパーが動き出し、更に下部にある小さな穴
から洗浄液が噴き出して、高速に煽られて環の顔面へと勢いよく飛び散って
きた。

 しかし、それでも環は飛沫を易々とかわしてみせる。
「悪いけど、ワイパーが動いた時点でバレバレなのよっ!」
 そしてそのまま、持っていたデッキブラシを遠慮なく右へと薙いだ。

 その喉元へと突き付けられ、今薙ぎ払われんとされていたブラシの柄を、
智代は状態を大きく仰け反らせて見事にかわす。勿論、上体だけではかわし
切れない、バイクをウイリーさせての超マトリックス避けである。

「なななっ!?」
 必中の筈の大振りをスカされ、たたらを踏み掛ける環。その次の瞬間には
既に智代はウイリーを解除して、バイクの前半分を再着水させた…そして、
バイクの重心移動の遠心力のままに下半身をふわりと浮き上がらせるとその
まま、新体操の鞍馬の様な姿勢からの倒立回し蹴りを繰り出して、環の足を
払いに掛かった。

「まだまだっ!」
 バランスを崩し掛けながらも辛くもそれを垂直ジャンプで大きくかわして
みせる環。そのままストンと着地し、反撃を試みようとするが。

 つるんっ…。
「に゛ゃあああっ!?」

「愚か者め、洗浄液は最初から翼へと撒いたものなのだ」

 ひゅうううううううううっ………どっぽーーーん!!!




「タタタ、タマ姉っ!?」
 ブルブル、ブイブイッ。
 あわてて環を回収しにUターンするシーハリアーを尻目に、水上バイクは
潜航艇の追跡を再開した。


《勝 VICTORY 利》 坂上智代
「次は、どいつが海に入りたいか?」

564名前: パラレルロワイアル・その506:2006/02/28(火) 21:18:43
「るーこちゃん、ここは私が食い止めるから、そのまま先に逃げて頂戴っ」
 水族館エリア沖海上…海水浴場エリア沖の“蒼紫”から、バトロドロイド
こと甲漢O0O0十体を同乗させて出撃した、屋形船に搭乗している久寿川
ささらは、大灯台広場エリア沖を抜けでて水族館エリア沖まで到達して来た
潜航艇のハッチから身を乗り出している、るーこきれいなそらに向かって、
擦れ違いざまにそう呼び掛けた。

「るー。うーさら、身を挺しての助太刀とても有難いぞ。だが…」
 言うなりハッチに足を掛け、ひらりと跳躍し屋形船へと飛び移るるーこ。

「るっ、るーこちゃんっ!…ど、どうしてっ…?」
 その身を犠牲にしてでも生還させなければならない筈の相手に防衛ライン
の助太刀へと押し掛けられて、激しく動転してしまうささら。

「るーがうーさらの事を知り過ぎてしまったからだ……大方、うーりゃんに
『新ヒロイン様の名に掛けて』とか言われて、無茶な役所を押し付けられて
しまったのだろう。違うか、うーさら?」
「う……うん。だけど…」
「だから、るーが一緒に手伝ってやる。喜べ」
「そ…そんなの駄目よっ!…もし、もし私のせいでるーこちゃんが脱落しち
ゃったら、私、私っ…」
「心配するな。それでもうーさらはきっと、うーりゃんの事が大好きなまま
の筈なのだから……それよりもしっかりするのだ、うーさら…うーさらの事
をよく知らない観衆や読者様にとっては、これから起こる事は『燃える戦い
その4 葉鍵恐怖の生徒会長対決 勝利の女神にはどちらがなるか?』なの
だから、こうなった以上はいい加減腹をくくってエンターテイメントの鬼と
なるのだ、うーさら」
「……わかったわ、援護お願いねるーこちゃん!」
「ん。めでたしめでたし……という訳だから、ここは一致団結・一蓮托生。
彰や弥生さん、誰彼組の皆さんだけがカワタの戦士じゃないんだって事を、
みんなに見せてあげようね♪」
「!」
「後から飛び移ったのか。なかなかの動きなのだな、はるー」




「たたたた、大変ですっ。るーこさんとはるかさんが屋形船へと飛び移って
しまいましたっ!」
「…祐介、まさか…」
「うん。足止めをしてくれる積りなんだよ、きっと…」
 一方、こちらは潜航艇。るーことはるかのまさかの独断行動に、驚き迷う
残りの五名。

「…どう致しましょう?今なら搭乗員が定数を割っておりますので、潜航艇
の再潜水を行う事も可能なのですが…」
「なんて事をおっしゃるのですか美凪さんっ!風子は断固、お二人の助太刀
をさせていただくつもりですっ!」
 そう言うなり伊吹風子は操縦室中央へと大またで歩み寄り、操縦用のハン
ドルへとその両手をずいと伸ばした。

 ―――その時、不意に、背中が温かくなった。後ろから伸びてきた両腕が風子の自由を奪う。ハンドルへ両手が届かない。

 ―――振り向く―――風子の体は、観鈴の腕の中にあった。首を振る。戻ってはいけない、と。

 見捨ててしまうのですかっ?
 だが、目に、顔に浮かぶ、悲痛な表情。それは、本当なら助けに行きたいと語っていた。
 だけどそれは、あの二人を却って悲しませる結果になるかもしれない行為。悲痛な『命』の選択。
 ―――見ている祐介の顔が、歪む。畜生。
 気付けば、祐介の体はハンドルへと一歩前に出ていた。先にあるのは、最後の総力戦開始の事態。
 そこには確かに、『全滅』があった。戻れば、『全滅』するかもしれない。
 ……だが。
 …………。


“いよっ、皆の衆!快適な船旅を楽しんでいるかなー?”

 そんな重苦しい雰囲気を粉々にぶち壊して、ゴミ箱へと放り込んでしまうような、
ハジケた通信が船内へと飛び込んで来たのは、その次の瞬間の事であった。

565名前: パラレルロワイアル・その507:2006/02/28(火) 22:01:38
「こちらささら。迎撃準備、完了したわ」
「…こちらはるか。準備完了」
「こちらるーだ。うーともが来たぞ」
 遂に坂上智代の駆る水上バイクが、大灯台広場エリア沖を抜けでて水族館
エリア沖へと到達し、逃走する潜航艇へと向かう進路を妨げようとしている
屋形船に向かって、真一直線で疾り迫って来ていた。
「さて。今度は一体、どう料理すればよいものやら…」

「優季ちゃんにこのみちゃん、環さんの仇を…討たせて貰うわっ!」
 口火を切ったのは尾部に待機していたささらであった。素早く屋形船尾部
に設えられていた燈篭を模した大型の行燈のカバーを外し、偽装を解く…と
それは見る間に、トイレ掃除にそのまま使えそうな程の巨大な吸盤を穂先に
着けたケーブル付きの捕鯨砲へと変貌を遂げる……同時に、屋形船中央部の
障子が一斉に開放され、中から手に手にエアライフルを持った甲漢O0O0
十体が揃ってその姿を現した。

「抜くしか…なさそうだな」
 智代が背中の刀へと右手を伸ばす。チャキリ…と小気味よい音とともに、
覗き出て来た刀身が月の光に眩く光った。

「撃ち方、始め!」
 ささらの号令と共に甲漢達が、智代を目掛けて一斉にエアライフルによる
射撃を開始した。

 パパパパパパパパパパン!
 カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンッ!

「ぬるいな、所詮は単発式の弾幕に過ぎないという事だ」
 その集中砲火を智代は、バイクをウイリーさせ盾とする事により難なく、
全弾防ぎ切ってみせる。


「流石やるわね…ですが、これはどうやって防ぐお積りなのかしら?」
 カチッ…ボウンッ!

 ささらが捕鯨砲の引き金を引いた。ケーブルの付いた吸盤銛が命中すれば
例え脱落させる事が出来なかったとしても最低、バイクの足止めは出来る筈
である。

 シュルシュルシュルシュル…

「…もし、同時に撃っていれば、何とか出来たのかもしれないのだがな…」
 ウイリーを解除した智代が、飛来して来た銛を刀の一閃で弾き返す。

 カキン!

 弾かれた銛は180度飛来先を転じて、発射元のささらの方へと風切音と
共に見事、舞い戻って来た。

 シュルシュルシュルシュル……

「きゃああああああっ!?」
 不足の反撃に驚き慌てたささらは、戻って来た銛を避け…損なった。

 シュルルンシュルルンッ!

 銛の直撃こそは辛くも避けたもののケーブルの方が足に接触し、たちまち
腕を腿を胸の谷間を、そして股間をケーブルでぐるぐる巻きに縛り取られて
尻餅をつく羽目となった。
「やだやだやだっ!中継しちゃやだぁーっ!!」




「ありゃりゃん。さーりゃん、やっぱし駄目だったみたいだねー」
 ホバークラフトの座席にて、潜航艇への三度目の通信を終わらせながら、
ポータブルモニターの映像を見ていたまーりゃんがころころと笑っていた。

「でも、黒いパンツにケーブルが食い込んじゃってるあたりのネタへの忠実
さが、流石さーりゃんといった所だねー♪」
「大先輩…あなた、鬼ですかっ…!?(汗)」

566名前: パラレルロワイアル・その508:2006/03/07(火) 22:19:38
「残念だが、足止めにすらもならなかった様だな」
 水族館エリア沖。ささらを脱落させた智代はその機動力の差を持って水上
バイクを駆ると、屋形船の尾部側からすり抜けさせ、先を逃走しているので
あろう潜航艇の追跡を再開しようとしていた。

 が、その時。

 ボウンッ!…シュルシュルシュルシュル…スポンッ!
「ん。命中♪」
「何っ!?…しまった!」

 慌ててやり過ごした筈の屋形船の方へと向き直る智代…バイクの尾部には
吸盤付きの銛が命中しており、そのケーブルが船首の方へと伸びている。
 船首側にも二基目の捕鯨砲が装備されていたのである。勿論発射したのは
河島はるかである、そして…。

 ストンッ…
「行くぞ、うーとも」

「なな!?」
 バイク尾部と屋形船船首の間を繋いでいる一本のケーブル…そのケーブル
の上へと屋形船の屋根から飛び移って、バイクの方へと一歩一歩歩いて行く
赤いメイド服の少女―――るーこ・きれいなそらの姿があった。

「…………」
 決して、気圧されている訳などではない。当たり前だ、今まで倒して来た
どんな相手にも、自分は全く臆する事などなかったのだから。なのに何故か
刀でケーブルを叩き切るという全く持って単純明快なる解決手段を選ぶ事が
どうしても出来ず……気が付くと智代も、足の親指と人差し指を器用に使い
ながら一歩一歩、ケーブルの上をるーこに向かって歩いて行っていた。

 そして…絶妙なる間合いを残して、両者の歩みはピタリと止まった。

「一つ、尋ねてもいいか、るーこ?…もしも私が刀でケーブルを切断したら
お前は一体、どうする積もりだったのだ…?」
「…質問を質問で返してしまってすまないがうーとも、では何故お前はケー
ブルを切断しなかったのだ?」
「…最終決戦とも呼ぶべき今現在の展開…今の私にとっては果たして一体、
何時誰との戦いが最後の戦いとなるのかが全く、判らないのだ…だから後々
自慢の出来ない戦手段は極力、選びたくはなかったのだ…ましてや相手が、
503話の段階で“るー”とかいう能力による、本島への“迅速な転進”を
敢えて行わなかった能力者とあらば、尚更というものだろう」
「…仕方あるまい。もしもソレを行ったら、パラロワの完結後に『るーるー
エンド』とかいう、不名誉極まる新【用語】が生まれ兼ねないのだからな…
それは置いておいて…やはり、誉れ高いのだな。うーともは」
「私にそれを教えたのはるーこだ…ステーションビルで始めて対峙した時、
お前は七瀬の『命』よりも名誉の方を重んじて敢えて、助太刀の押し売りを
せず、彼女の要求通りに上階への逃走を行ったのだろう?…その後、結果が
どうなるのかを承知した、その上で…」
「…その質問には肯定も否定も出来ないぞ、うーとも…それよりも、バイク
の上まで移動する事にしないか?恐らく現在の土俵では、るーの方が圧倒的
に有利だと思うぞ」
「折角だからお言葉に甘えさせて貰おう…正直、『お気遣い無用、得物では
こちらの方が有利なのだから、これで互角といった所だろう』と言いたい所
だったのだが、今の土俵では満足に振り回せる自信が正直無いし…第一に、
革靴でケーブルの上を歩けるるーこの事だ、刃の上に乗る位の芸当はきっと
やられ兼ねないだろうからな」
「るーのママは、ハイヒールでもそれ位の芸当は平気でやれるぞ…というか
そもそも、うーの平衡感覚レベルが余りに低すぎるのだ。だから、本編では
多寡がつり橋程度の土俵位で、あれだけ派手なアクション活劇へと発展して
しまうのだろうがな」




 その頃、来栖川アイランド本島・リバーサイドホテル一階南口ロビーでは。

「おっ…おっ…大きなお世話や〜〜っっ!!(怒)」
「(怒)…………!(チャキッ)」
「ぱぎゅ〜っ!?由宇さん、ロビーで暴れてはいけないですの〜っ!」
「ううっ…駄目だよ雪ちゃんっ、モニターにエアマシンガン向けちゃあ〜!」

567パラレルロワイアル・その509:2006/03/07(火) 22:21:13
 再び、舞台を戻して。

「今更言うのも何だが、お互い随分と長い前口上となってしまったようだな
うーとも」
「恐らくはお互い、これがこのゲーム最後の決闘となるであろう事を悟って
の、本能的惜別行為なのかもしれないな…」
「そうなのかも知れないのだが…お陰で暫定最後の決闘だというのに、随分
と緊張感というものが失せてしまった様な気がするぞ…」
「別に構わないだろう。その手の決闘は既に、セミファイナル三試合で行わ
われている事だし、仁科への義理の方も鳩Ⅱのヒロインクラス二名ならば、
そこそこ果たしてはいるのだからな…たまには、こういう雰囲気から始まる
決闘が一つ位あっても、いいのではないのかな?」
「いいかも知れないな。ではそろそろ始める前の最後の一言だ…うーとも。
るーは、誉れ高いラスボスであるお前にならば、例え狩られる事となっても
悔いは無いぞ」
「るーこ。私も…孤高ながらに義理人情に厚いお前になら、例え倒されても
悔いは無い!……では」

「「…いくぞ!」」

 互いの手に手に刀と自在鉄扇を握り締めて、水上バイクの上という必殺の
間合いにて向かい合って構える智代とるーこ……しかし、暫定最後の決闘は
二人の予想だにしなかった形でいきなり急展開を見せてしまう事となった。

 ゴン…カキンッ!
「え…?」
「る…?」

 今を遡る事、約18時間と30分前…元78番・保科智子が払暁出撃前の
“蒼紫”より敷設を行った、信号識別式誘導機雷“棘タイプⅢ”の内の一発
が長い漂流の末に水族館エリア沖へと辿り着き。まさに今、この瞬間…


 …ボンッ!!!




 その頃、海水浴場エリア〜水族館エリア間境界沖では。

「うわっ!?二人ともバイクごと、ぶっ飛んじゃったよーーーっ!?」
「えええっ!?何があったんですか、まーりゃんさんっ!?」
「…ゆ、祐介、私にも見せて下さいっ…!」
「チョ、チョットあんた達、押さないでよ狭いんだからっ」
「…と申しますか、お二人への助太刀希望の方だけが、このホバークラフト
へと乗り移る予定でした筈ですのに…」
「ですから美凪さんっ、みんなでこれからお二人を助けに行くのですっ」
「がお、せまいようこわいよう…」
「やっぱり、定員五名の所へ九人乗りでは少々危険なのかもしれませんねー」
「ユカリン、アイスたれてるたれてるーっ」




 更にその頃、海水浴場エリア沖では。

「何で、私だけが?……しくしく(←ジャンケンに負けた潜航艇回収役の森本さん)」

568パラレルロワイアル・その510:2006/03/13(月) 22:48:41
 また更にその頃、大灯台広場沖・潜水揚陸艇“スメルライクティーンスピ
リッツ”艦橋では。

「りえちゃん、“ソルジャー・バジリスク号”の脱落者回収、完了したわ」
「―うん…どうも皆様、お疲れ様です」
「それでは、“キング・バジリスク号”の脱落者救助活動をまだ行っている
巡視艇の方々に先んじて、早い所戦線復帰のために南東への移動を開始しま
しょう」
 鎖組の脱落乱入者の救助回収作業を手早く終えた特務機関CLANNAD
の杉坂と原田そして仁科りえが、坂上智代あるいは伊吹風子の支援を行う為
に、海水浴場エリア海域を目指して移動を開始しようとしていた。しかし、
その時の事である。

 パコンッ!
「きゃっ!?」
 ポコンッ!
「ああっ!?」

 小気味よい殴打の音が立て続けに二発、そしてそのままショックで失神し
くず折れる杉坂と原田。

「―え?」
 思わず二人の方へと振り向いたりえの前に、立っていたその人物は。

「まさか、俺の方が足掻かされる羽目に陥ろうとは…しかし、足掻いてみる
ものだな、元ゲーの獲物どもにはこういう、イタイケ系の娘は一人もいなか
った事だしな…」
 右手にセルロイドとビニール紐で作られたビックリ鉄条網バットを握り締
め、唯一人艦橋にて生き残っているりえの方を向いてニタニタ笑っている、
ウエットスーツ姿のその男は。

「―あのう、もしかしまして貴方は、鎖組の岸田さんでしょうか…?」
「ククク、その通りだ…定時放送直前に何やら嫌な予感がして“ソルジャー
・バジリスク号”の艦橋に待機していたお陰で一人生き残る事が出来たって
ワケだ」
「―まあ、それはとっても幸運でしたね…という事は岸田さんはもしかして
これから、このお船をシージャックなされるおつもりなのでしょうか…?」
「ピンポーン♪そういう事になるなあ…では、正解者のりえちゃんには俺様
からの取って置きの『ご褒美』をもってしてこのゲームからご退場頂く事と
しようかな?ククク…」
「(鉄条網バットの方を見ながら)―あのう、宜しければ余り痛くなさらない
で欲しいのですけど…」
「(ナイスなボケだぜ、りえちゃん♪)ククク…今の彼女の台詞はそれ即ち、
『不慮の聞き間違いでした』という事で、これから俺が元ゲーみたいに船内
実況生中継でりえちゃんにあんなコトやこんなコトをヤっちまったとしても
観客も読者様も絵描き様すらも、だーれも文句を言う事が出来ないっていう
とってもラッキーな状況だという…」

“んなワケあるかッ!…失格通り越して逮捕されたいのか、この変態殺人鬼
めがッ!!”
 突如艦内通信によるツッコミが入り、メインモニターに怒気満面たる男の
顔が飛び込んで来た―――元98番・柳川祐也である。

「チッ、役職柄ゲーム内で事件が起こりかねない状況だと、特別スタッフと
しての介入を許可されているという訳か…それにしてもアンタに変態殺人鬼
呼ばわりされちまうとは、俺も随分とホメられたものだな♪」
“大きなお世話だ(怒)…ともかく、そこの少女に対し、ゲームの枠を越えた
『攻撃』を行う事は絶対許さん…逮捕に加えて、次回大会への参加資格剥奪
処分も検討したっていいんだぞ!?”
「クソッ、痛い所を突いてきやがるな…仕方ねえ、一部の読者様には大きな
期待を裏切る事となって本当に悪いが、りえちゃんの開通式船内実況生中継
は残念ながらおあずけとなっちまったぜい」

「―開通式?…ヴァイオリン演奏の船内実況生中継の方は先程、行わさせて
頂いたのですが…??」

569パラレルロワイアル・その511:2006/03/13(月) 22:50:04
「……バットで頃すのは楽だがな。ククッ。せっかくだからりえちゃんには
本当のショックで死ぬほどの頃し方を味わってもらおうか。この俺の自前の
バットをポロリと見せてやろう。死ぬほど驚いて大人の階段を登らなくちゃ
いかん。見えちゃう瞬間まで恐怖に怯えてなくちゃいかんのだ」

 そう言ってウエットスーツを脱いだ岸田がりえの方を向きながらズボンの
ベルトに手をかけるのを見て、柳川は本当に退屈そうな顔をする。

「柳川刑事。確か、元3番・天沢郁未が股間ポロリで一人頃して、しかもだ
その後モザイク入り実況生中継されても、失格にはならなかった筈だよな。
開通式をしたならばルールにも法律にも引っ掛かるだろうが―――この程度
なら文句はあるまい?」
 岸田がベルトを外し、ズボンをゆっくりと下ろし始める。
「クククク!りえちゃんに見えちゃうまであと何秒だあ!?恐怖に怯えろ、
目を見開いて見物しろお!!汚されちゃうその瞬間まで俺達鎖組をあっさり
と潰した事を後悔して」

“(馬鹿だな、こいつ。本当に鎖組暫定リーダーか?)……馬鹿か?お前”
 そもそも、篁総帥があの替え歌を歌ってしまった時点で、
「はあ?何を言っている、柳川?」
 裏葉同様に、脱落を見越しての特別回収役を申請したであろう水瀬秋子が
その船に乗っていないと誰が決めた。

「問答、無用です」
 いきなり艦橋に飛び込んで来た人影が、躊躇わずその手に持っていた小型
紙火薬式爆導索で、岸田の股間をブリーフごとぐるぐる巻きにする。悲鳴は
2B弾の束が炸裂する音に似た轟音で簡単にかき消される。白いブリーフが
煤で黒く染まって、次の瞬間には岸田は白眼吹泡で崩れ落ちる。作品別最後
の生き残りの中で一番あっけない存在だった。


「大丈夫ですか、仁科さん?」
「―はい。あの…詳しい状況はよくわからないのですが、もしかしたら私は
とてもピンチだったのでしょうか…?」
「わからないのならそれに越した事はないわ。私がただ、お年を召した総帥
さんの代わりになってくれそうな方に、ちょっぴり八つ当たりのお仕置きを
させて頂いただけの事なのですから。うふふ」

570パラレルロワイアル・その512(半休載により1話のみ):2006/03/20(月) 16:22:33
 そして、舞台は再び水族館エリア沖へと戻って。


「うーとも、見えているか?」
「当然だ。ここまで引っ張って、心中落ちになどなってたまるものか」
 誘導機雷に触雷した衝撃で虚空へと飛ばされ舞い上げられたるーこと智代
は、視界に飛び込んで来た聳え立つ一本の太い柱から、真横へと伸びている
枝の部分を目掛けそれぞれ、紐状に伸ばした自在鉄扇とワイヤーランチャー
を一斉に放った。

 …シュルルッ!
 …カッキン!

 放たれた鉄扇とワイヤー付きフックは見事に枝へと命中して引っ掛かり、
二人はそれを命綱代わりにして柱の生えている場所へふわりと、無事に着地
を成功させた。

「このような所に大型クルーザーが漂流していたとは。何とも幸運なる偶然
だな、うーとも」
「ああ……しかし妙だな、るーこ。確かこのクルーザーは、昨日の早朝から
長い事無人であった筈なのは、乱入前にCLANNADが調査済みだった筈
だし……それにこのクルーザーは漂流してここへと来たのではない、海面に
航行のものと思しき軌跡がかすかに残って…」
「!…どうやら、調査は後回しになりそうだぞ、うーとも」
「!…ああ、私たちの決着の方も後回しになってしまいそうだな」


 先客のただならぬ気配が近付いて来るのを覚って向き直ったるーこと智代
の前に、二人の少女が姿を現した。一人は金髪碧眼で白いワンピースに紅の
スカーフ、手には競技用のフェンシングレイピアを構えている。もう一人は
草色の髪に茶色の瞳、割合露出度が高めの民族衣装を身にまとって、両手に
エスクリマ棒を構えている。

「一応尋ねておくぞ、うー達。得物を使わない交渉は選ぶ事は出来ないのか?」
「魔王様の言い付けだ、この船に立ち入った者は即刻排除しなければならない」
「『魔王』?…そうか、お前達はTtTの異界乱入勢という事か…と言う事は
、私にもるーこにも味方という訳ではなさそうだな」
「迂闊だぞモルガン…とはいえ、お前達にとっては事態も状況も相手の正体も
解からぬまま排除されるのは、余りにも気の毒というものかな?」
「お陰で随分と理解出来たぞ。つまり、この船ではこのゲームの勝利条件とは
無関係だが、ゲームそのものとは縁深くなおかつ要機密なイベントが行われて
いるという訳なのか」
「だ、だとしても、そのイベントの正体をお前達が知る事は絶対にないっ!」
「なかなか鋭い読みだな、うーとも」
「カマを掛けただけだ、今のは」
「うううっ、ま、またしてもっ…!」
「本当に迂闊だな、モルガン…ともあれ、つまりはそういう訳なのだ。では
早速、見せて頂く事としようか?このゲームの生き残り参加者の、その実力
というものをな」
「いいだろう。お前はこの私が隣のモルガンとやらは、るーこが相手をしよう」

571パラレルロワイアル・その513:2006/03/27(月) 22:28:34
「おーおー♪二人とも何とか無事何を逃れたみたいだけど、今度はTtTの
武闘っ娘達とのタッグマッチを始めだしたぞ〜♪」
 水族館エリア沖海域へと到達したホバークラフトの操縦席で、ポータブル
モニターを半ば独り占めで鑑賞しながら、まーりゃんはハジケた歓声をあげ
ていた。

「まーりゃんさん、僕にも見せて下さい……って、まずそうだなあ。早くも
押されてる感じだよ、二人とも…」
「…二人ともって、思わず智代さんの身まで案じてしまいたくなるぐらい、
大変そうなのですか、祐介…?」
「ある意味当然でしょ。TtT組はうたわれ組同様、実戦叩き上げの異界勢
よ。そしてうたわれ組にしても、三対一でフクロにされたオボロと潜水艦ご
と魚雷でやられたハクオロ、それに人名救助のためにやむなく降板したにも
等しいゲンジマルを除けば全員、能力者の手によってのみ倒されてるのよ」
「…ですが郁乃さん、それを申されましたらるーこさんも立派な能力者の方
だと思うのですが」
「じゃっじゃあ、美凪さんっ、智代さんはいったいどうなってしまうのです
かーっ!?」
「ところで…はるかさんの方は一体、どうなっているのかなあっ?…ゆかり
さん、見えますかー?」
「待っててね、観鈴ちゃん…あっ今、屋形船がクルーザーに後ろ側から接舷
した所みたいですねーって、あららっ?…クルーザーから現れました新手の
お兄さんが、突入しようとしたロボットさん達をなぎ倒して逆に屋形船へと
入って行きましたよーっ?」
「あー、デリホウライだー」




「まっ…待ってくださーい(泣)……お願いですからカミュの事、無視しない
でくださーいっ(泣)」
 ちなみに、ホバークラフトの足止役としてクルーザーから出撃して行った
ものの、夜の空に黒い翼と黒い衣装、加えて控えめな声であったがために、
モニター中継に夢中な誰からも気付かれず見事に通過されてしまったカミュ
が、遊戯用の炮烙玉(手投げ式クラッカー)の入った籠を提げたまま半泣きの
状態でホバークラフトの後を追い戻って行ったというのは余談である。




「…わわわ、なんだかとってもやばそうな人が、こっちへ乗り込んで来ちゃ
ったよ」
 一方、屋形船尾部へとこっそり移動して、接舷したクルーザーから乗り込
んで行こうとする甲漢O0O0の様子を屋根から覗き見していたはるかは、
クルーザーから現れ出でた三人目(実は四人目だが)の新手ことデリホウライ
が、その両腕より繰り出すトンファー攻撃によってたちまち甲漢を一掃させ
て逆に屋形船へと乗り込んで来たのを見て、(彼女なりにだが…)大いに慌て
ふためいていた。

「…えーと、どうしよう?…まともに戦ったらとても勝ち目はなさそうだし
……ん?」
 (彼女なりにだが…)必死に対抗策を思い巡らすはるかの視線の先に、麦茶
の入ったブリキのやかんと、未だにケーブルでぐるぐる巻きにされたままの
久寿川ささらの『死体』が飛び込んで来た時、はるかの脳裏にひとつの作戦
が閃いた。

「…緊急事態なの、ささらさん。申し訳ないんだけど、ここは勝利のための
デストラップ構築に是非とも協力して下さいね♪」
「え?ちょ…ちょっとはるかさんっ?…そ、そのやかんで一体何を!?……
ええっまさか!?…嫌っ、いやいや、お願いやめてええええええ〜っ!!」

572パラレルロワイアル・その514:2006/03/27(月) 22:29:34
「どうしたのだ、先程の威勢は?……やはり平和慣れした世界の人間の実力
というものは、16分の1に絞られた正規参加者の生き残りでも、この程度
のものという事なのか…?」
 クルーザーの右舷側にて繰り広げられている坂上智代VSオクタヴィアの
斬り合いの方は、早くもオクタヴィアの圧倒的優勢の元に展開されていた。
 本能に基づき反射神経を頼りにしながら刀を振るっている智代に比べて、
オクタヴィアの剣術は英才教育と実戦経験にて磨き抜かれた一部の隙もない
正確無比な腕前によるものである。たちまち智代は傷こそ負わされていない
ものの、その身に纏っている黒いレオタードのあちらこちらを恐怖の屈辱技
の如く小さく切り裂かれ続けていった。

「貴様…私を嬲るかっ!?」
「嬲る?…勘違いをされては困るな。私はお前に傷を負わせずして力の差を
見せ付けつつ、降伏の機会を与えてやっているのだ……この様にしてな!」

 シュッ…!
 スパンッ!

 遂に、オクタヴィアのフェンシングサーベルが、智代のレオタードの左肩
の部分を完全に切り裂いた。

「くっ…!」
 思わず次の瞬間、めくれてはだけそうになった左の胸元を反射的に左腕で
押さえ、庇ってしまう智代。そこへオクタヴィアの更なる剣撃が稲妻の様に
襲い掛かる。

 ヒュッ…!
 カキンッ!

「うっ…!」
 左手を離してしまっていたために右手一本で握っていた智代の刀が、その
剣撃によって強く弾かれ、宙へと舞い上がる。

 …パシッ

「ぬっ…!」
 そして、フェンシングサーベルを収めたオクタヴィアの掌へと、舞い上が
った刀は吸い込まれる様にあっさりとキャッチされた。蔑みを含んだ笑みを
浮かべつつ手にした刀を向けて、オクタヴィアは智代に向かって最期通告を
言い放った。

「もう結構だ。お前がこのゲームにおける只の『死に』損ないに過ぎなかっ
たという事実は、もう充分に理解が出来た。さっさと失格の名簿にその名を
刻ませてやる事としようか……だが、私を失望させた罰だ。お前には最期の
屈辱として、お前の刀でその『命』とその出番、そしてその衣装へと引導を
渡してやる事としよう…」




「るー。やはり形勢不利な状況に追い込まれているようだな、うーとも…」
「コラコラコラッ、戦闘中によそ見してちゃあダメだぞッ!…大体、仲間の
心配してる余裕なんかあるのかな?るーこちゃんっ!」

 ブブンブブブン、ブンブンブブンッ!
 カキカキカキン、カンカンカキンッ!

 一方、クルーザー左舷側にて行われているるーこVSモルガン戦の方は、
概ね五分五分の膠着状態ではあるものの、狭めの土俵である事が原因なのか
パワフルかつ二刀流のモルガンの方が、るーこを少しづつじりじりと後退を
させていた。

「るー。こんな事ならるーも二刀流で戦いたかったぞ」
「うっふっふ♪るーこさん、どうやら後退出来るスペースももう、残り僅か
みたいだね♪」
「…楽しそうだな、うーがん」
「うん、楽しい。全力を出せる相手との真剣勝負…その闘いの為に為される
闘いの純粋さがあたし、大好きなんだ♪」
「うむ。実を言うとるーも、それはあながち嫌いなものではなかったりするぞ♪」

573パラレルロワイアル・その515:2006/04/02(日) 17:29:11
「どうやら船尾に引き篭っている様だな……だが、乗り込んで来ようとした
以上情けは無用……加えて、我がトンファーの前には捕鯨砲など通用せぬ。
大人しく覚悟を決めるのだな」
 屋形船に乗り込み、十体の甲漢O0O0全てを討ち果たしたデリホウライ
は次なる獲物―――屋形船の操縦者の姿を求めて屋形の部分を通り抜けると
、船尾部側の出口である障子戸へと手を掛け、臨戦態勢を崩さないまま一気
にそれを開け放った。

 ガラガラガラガラッ…ピシャン!
「…なな!?」
 障子戸の向こうにあった光景は、海千山千のデリホウライでさえも一瞬に
して凍り付かせた。

「むぐぅぅーっ!むぐうぐむぐうぐぅぅーっ!!(いやぁぁーっ!見ないで
見ないでぇぇーっ!!)」
 弾切れ状態の捕鯨砲の前で、猿ぐつわをかまされた黒いリボンに黒いワン
ピース姿の少女が、大開脚でぐるぐる巻きに縛られていた…その上、丸出し
になってケーブルが縦に痛々しく食い込んでる彼女の黒い下着を中心にして
、船床一面が透明かつ黄金色に激しく水浸し状態となっていたのであった。
ジャーン!

「シシシシシシシシ、シキーーーーーーーーン!?��((゜Д ゜))」

「…スキあり」
 ガン!!
 屋形の屋根に潜んでたはるかが落下させた空のやかんを頭上に受け、強豪
デリホウライはあっけなく舞台から消え去った。屋根から下りてきたはるか
が、申し訳なさそうにささらの猿ぐつわを解きながら礼を言う。
「ん。ご協力ありがとうね、ささらさん♪」
「ううっ、信じられないっ(泣)…貴方って、先輩よりも悪魔だわっ…(怒)」




「ふっふっふ。るーこさん、お・か・く・ご♪」
 クルーザー左舷では船縁まで後退したるーこを眼の前にして、モルガンが
必勝確信の笑みを浮かべながら、両手のエスクリマ棒をドラムスティックの
様にくるくると威勢良く回転させていた。
「何か最後に言い残す事は、あるかなーっ?」

 その様な状況でも、るーこは至って平然と言葉を返す。
「解っているのか、うーがん?…るーが海面すぐ近くにまで移動したという
事は即ち、うーがんも海面の近くまで移動したという事なのだぞ…?」

「??…何を言ってるのかしら、るーこさん?…もう少し解り易く説明して
もらえるかなー?」
 一瞬、るーこの言葉の意味が理解出来ず、説明を求めるモルガンに対し、
るーこは指差ししながら簡潔なる説明を行った。
「右のサンダル、足の甲だ」

574パラレルロワイアル・その516:2006/04/02(日) 17:30:20
「?(チラッ)……サソリイイイイイイイイ〜〜〜〜ッ!?」
 自分の右足の甲にて蠢いているモノに仰天し、モルガンは思わず反射的に
大きく左へと飛び退いた。

 ダッパーーーーン!!

「るー。やはりこの手の玩具は、異界人の方がより現実的反応を示しやすい
という事なのだな……それにしても、ないすな人形劇だったぞ、カー。」
 モルガンの入水した海面へと備え付けの浮き輪を放り投げながら、マスト
の上に向かって右手親指をぐっと突き出したるーこの肩へ、向坂環脱落時に
ハリアーを降りてやって来ていた一羽のカラスがふわりと舞い降りて来た。

 ばっさばっさ。
『もしかしたらと思って499話直前に観鈴から拝借したビックリオモチャ
が、まさか本当に役に立つとは……それにしても、俺に仕業と見抜いてなお
かつ全く動じていない所が、ありがたくもトンでもない奴だぜ……で、とこ
ろで、あっちでヤバそうになっている暫定ラスボス様の方は一体、どうする
つもりなんだ、るーこさんよ?』

 反応(返事)を促すように肩口を突付くカラスに対して、泰然自若と答える
るーこ。
「案ずる必要はないぞ、カー。勝つのはうーともだ、絶対に」




 クルーザー右舷…丸腰でしかも左胸を庇った状態の智代に向かって、オク
タヴィアは奪い取った刀の刃先をその真正面へとついと突き出した。
「さらばだ。かつてお前が倒したのであろう、更なる弱者達と同じ場所へと
行くがいい…」

「……感謝するぞ、オクなんとか」
 絶対的なる窮地を自覚して俯いていた智代が、その口元に笑みを浮かべて
ぼそりとそう呟いたのは、その時の事であった。

「??……何?」
 不可解なるその返答にオクタヴィアが思わず尋ね返した次の瞬間、彼女は
いきなり手に持った刀に耐えがたい重みを受け止めた。そして―――

 …バシンッ!!
 視界を封じられると共に、強烈な回し蹴りを顔面に食らわされた。

「なううっ…!?」
 それでも倒れずに踏み止まったオクタヴィアの朦朧とした視界の先に、刀
の刃の上に右足の親指と人差し指を器用に使いながら片足立ちしている智代
の姿がぼんやりと映っていた。
「片刃で刃渡りのある、飛び乗り易い得物へとわざわざ、持ち替えてくれる
とはな……そんなお前には意趣返しとして、次の一撃でその誇りとその伝統
、そしてその出番へと引導を渡してやる事としよう…」

「ばっ、馬鹿なッ…帝国指折りのこの私が、丸腰のしかも、片腕が使えない
素人相手にっ…!?」
 狼狽しながら刀を捨てて、再び腰のサーベルを抜き放とうとするオクタヴ
ィア。しかし、抜かれるその前に、智代の繰り出した戻りの回し蹴りが再び
その顔面を激しく殴打した。

「…難易度の高い、芸同然の大技なのでな。るーこのお陰でケーブルによる
リハーサルが行えなかったら、多分成功はしなかったのだろうが」
 右足で放り投げた刀を右手で受け止めながら、智代は今度こそぶっ倒れた
オクタヴィアに対して、そうあっさりと言い放った。

575パラレルロワイアル・その517:2006/04/09(日) 22:26:16
「るーこさーんっ!はるかさーんっ!」
「智代さああんっ!!」
 遂にホバークラフトがクルーザーへと接舷し、ブッシュマスターを構えた
長瀬祐介とFN−Hipower片手の伊吹風子が一番手で船首へと乗り込
んで来た。
(注・ゾリオン七丁は潜航艇の起動アイテムとして、起動と共に艇内に固定
されてしまっております)

「…祐介っ、それに風子ちゃんっ…そんないきなり駆け込んだら、危険過ぎ
ますっ…」
「あーっ、るーこさんだーっ。それに、カラスさんもーっ」
 続いて乗り込んで来たのは、シグサウエル片手の天野美汐と、ネコパンチ
グローブをぶら下げた神尾観鈴。

「…それでは押します。用意はよろしいですか?」
「いいですよー。それじゃ、せーの…どっこいしょっと」
「感謝するわ、美凪さんにカミュさん……あ、でもお米券はいらないから」
 三組目は、ウェザビーMk−Ⅱを肩掛けした遠野美凪と籠を小脇に抱えた
(やっとアルルゥに見付けて貰えた)カミュに、接舷した二隻の間へと渡され
たタラップの上を押して貰っている、羽毛扇片手の小牧郁乃。

「うわわ半チチッ!…さすが鍵最新作のオ●ドル、大胆な格好だな♪」
「ユカリン〜、『おな●る』ってなに〜?」
「え゛!?……あ゛〜っ!?アイスが海にぃーっ!!(泣)」
 最終組は、乗り込むなり『我が辞書に“口は災いの元”という文字はない
』的発言をぶっ放しているまーりゃんと、それに対して汚れを知らない素朴
な質問を行うアルルゥ、そして最終的な被害者となってしまった伏見ゆかり
であった。




「さて…残念な事に、意に反して皆戻って来てしまったようだな、るーこ」
 右手に持った刀を構え直して、まーりゃんの方へと一瞬だけ殺意を向けた
智代は、クルーザーの中央部―――ブリッジの屋根の上にふわりとその身を
跳び上がらせる。
「それでは、ドーム港埠頭での決着を今、着ける事としようではないか」

「うーとも」
 カラスを肩に留まらせたまま、るーこもブリッジの屋根の上へと跳び上が
った。
「お前の不退転の決意は理解出来なくもないが…今のうーともでは、戦いの
決着はもう着いているのも同然だぞ」

576パラレルロワイアル・その518:2006/04/09(日) 22:27:14
「どういう意味だ、るーこ?……仲間と己への信頼からか?それとも、左腕
を封じられた私への勝算からか…?」
「どちらでもないし、説明するのは却って酷というものだ。答えはお前自身
が十分、悟っている筈なのだからな。うーとも」

「……」
 るーこの言葉に思わず、唇を噛んでしまう智代。確かに事実その通りなの
であったから。
 智代がその身にまとっているレオタードは、先のオクタヴィアとの戦いに
より、既にはだけてしまった左胸の部分のみならず、他にも幾つかサーベル
で切り裂かれ、はだけ掛かってしまっている箇所が実は、存在していたので
あった。しかも、オクタヴィアを倒す時に放った回し蹴り二発の為に更なる
負荷が蓄積し、もしも全年齢対象のサバゲーならば、レフェリーストップを
掛けられてもおかしくはない程の状況へと陥ってしまっていた。
 刀の能力にモノを言わせて力押しをしようにも、右腕一本でより大振りと
なってしまうであろう剣撃を、他の連中は兎も角としてるーこに命中させる
のは至難の技であろうし、大振りである以上反撃に対する回避も当然、それ
なりに難しくなってくる筈なのである。第一、今のレオタードの耐久力では
攻撃回避を問わずして、大きなアクション行動を起こしてしまう事それ自体
が、一生モノの身の破滅を伴う死亡遊戯的行為と化していたのであった。




 ばっさばっさ。
『来るなら来てみろ……観鈴を、そしてこいつらを護るためなら、海上スト
リップショーPartⅡをやっちまう事に、躊躇をするつもりはないぞ…』
「カー。落ち着くんだ」
 肩へと留まったまま、興奮気味に羽ばたくカラスを制しながら、るーこが
メインマストの影の方へとちらりと視線を流した。
「まだ先客が残っていた様だぞ、うーとも」

「…なかなかに鋭い感覚だな。流石は、今年度のゲーム生き残りの猛者達と
言った所か」
 マストの影から、黒いローブを身にまとった銀髪紅眼ですらりとした体格
の男が一人、すうっとその姿を現した。
「我が名はアロウン。このゲームに乱入しそびれたTtT組の暫定リーダー
格といった所だ。思う所あって、このゲームにおいて無用のオブジェと化し
ていたと思しきこのクルーザーを徴用させて貰っていたのだが…まさか最終
決戦に巻き込まれてしまう事となろうとは…正直、こちらにとってもイレギ
ュラーなるトラブルだった…加えて、私からの命令を文字通りに受け取り過
ぎてしまったせいなのであろうか。我が連れ達の敵対行動、代わって侘びを
入れさせて貰う事としようか」

「出方から察するに…お前自身にはどうやら、このゲームの決着を妨害する
意図はない様だな、あろうー?」
「…そこの、口の利き方が不完全な宇宙人の言う通り、こちらにはその様な
意図は全くない。だから、後ろにいる性別不詳の参加者も、こっそりナイフ
を投げ付けようとするのは止めたまえ」
「…ん。(←はるか、船首の十名の方へと移動)」
「と、いう訳でだ。諸君らにはこちらがこれ以上の攻撃を行わない事を交換
条件に、このクルーザーから速やかなる退出を行って頂きたいのだが、さて
いかがなものであろうか…?」

「十二対一であんな口聞けちゃうんだから、実力相応な暫定リーダー格さん
なんだっぽいけど……それにしても、変な髪形ねえ」
「あ、郁乃ちゃんっ…」
「「「「「「「「「「「「ぷぷっ…(笑)」」」」」」」」」」」」

577パラレルロワイアル・その519:2006/04/11(火) 20:37:25
“き…貴様まで笑うかっ…!!(怒)”

 パコンッ!!
「えるみんっ!」

 次の瞬間、何処からともなく木霊した怒号と共に、小気味良い金属打音が
船上に響き渡った。そして、音と共にバタリと崩れ落ちた、その人物は。

「あ、あろうー…」
「いや待て!……姿が、変わっていくぞ…?」
 何と、倒れ伏したその人物こそは、本来怒号の主であるべきアロウンその
人だった…だが、智代の指摘とともにその姿が次第に青いローブをまとった
老人の姿へと変化していく。
 そして、その真後にいきなり姿を現した、クルーザーのキッチンから調達
したアルミ製手鍋を片手に握り締めて、怒気をその紅い瞳に隠し切れないで
いる、その人物こそは。

「…成る程です。こちらこそが本物のアロウンさんでしたのですね、はるか
さん」
「…ん。多分、倒れちゃったおじいさんは、影武者さんだったんだね…それ
にしても、518話ラストの台詞で“「」”の数が一人分多かったのって、
NGじゃなかったんだね」

「…そ、そういう事だ。見苦しい所を見せてしまったな…」
 魔術によるものなのか、手鍋を手品の様にパッと消し去ると、本物のアロ
ウンは改めて、船上の十二名+一羽+カミュをずらっと見渡してから再質問
を行った。
「…そこの諸葛孔明みたいな娘の失言は聞かなかった事にしてやるとして、
話を続ける事としようか?…俺との交戦を避ける条件としてこのクルーザー
から諸君には退出して頂くという、交換条件なのだが…イエスか?それとも
ノーか…?」

「るー。基本的にはイエスだ。利害・目的が交差しない以上、るーたちには
あろうーと積極的に交戦を行う理由は存在しないし、るーたちの乗り換えの
船も、ホバークラフトと屋形船があれば充分、余裕があるからな……だが、
あろうー。もしも可能ならばもう一つだけ、交換条件にして貰いたい要求が
こちらにはあるのだが?」
「ほう。更なる条件を求めるのか?この俺に…」
 連れを代表して魔王・アロウンに向かい、更なる交渉を求めるるーこと、
篁総帥のみならず自分に対しても全く動じないるーこに、不敵な苦笑を浮か
べてしまうアロウン。
「よかろう、言ってみるがいい。多少の要求なら聞き入れてやる」

「そこのうーとものために、着替えを一着調達して貰いたい」
「成る程。そこの娘がその様な姿にされたのも、元はといえばオクタヴィア
の仕業である以上、着替えの要求は至極当然というものだな」

「ま…待て!」
 智代が、るーことアロウンの交渉に口を挟もうとした。
「私達の戦いの決着はまだ、着いていないぞっ!…だからるーこ、今ここで
お前に大きな借りと情けを、受ける訳には……?」
 そう捲くし立てていた智代の、抗議の勢いが急に止まった。
 いや、止められた。
『くっ、しまった。これは…この、能力はっ…!』




 このゲームでは鑑賞したことがないような、萌えな光景が中継されていた。
 眠りについている渚の脇を抜けて、俺はモニターに急接近する。
 …智代がピンチになっていた。

 少しだけ迷ったが、やはり戦い続けたことに悔いはなかった。
 朋也が喜んでくれると私も嬉しい。
 どこまで期待にこたえられるかどうかは、わからないが……
 それでも私なりに一生懸命にラスボスを演じるから、恥ずかしい光景には目をつぶってくれ。

 智代は左胸をはだけられていて、左手が離せない状況だ。
 今ならどんな戦いを行っても、派手な動きをするわけにはいかないはずだ。
 それは、モザイク修正を入れてもらってあっても…。

 人のピンチに食い入るように観戦して何を期待しているのかと思えば、まったく仕方のない奴だ。
 しかし、私を見てそういう風に萌えてくれるのは、その、悪い気はしないものなのだが……。


 やっぱり恥ずかしい。最後だ、許せ。

578パラレルロワイアル・その520:2006/04/18(火) 02:51:40
「よくも…よくもやってくれたな……064区分[SZ]クラスAこと、長瀬
祐介っ……」
 一刻後、『白昼夢』状態から目覚めた智代は、その身に青と白のツートン
カラーのメイド服(何故かスカートは短めで、代わりに黒いニーソックスが
オプションとなっていた)を、レオタードの上からその身にまとっていた。
 羞恥と怒りで思わず、体中がワナワナと震え出している。

「…あ、あのっ…と、智代さんっ…ど、どうか……」
 その鋭い視線にて射竦められている祐介の前へとおどおどと立ち塞がり、
両手を広げている美汐と腰にしがみ付いている風子の姿に一旦、激情の起爆
を辛うじて押し留めた智代は、その手に何も持っていない事に今やっと気が
付いた。
「ううっ!?…ま、まさかっ…」

「そのまさかだ、うーとも。着替えの代償という訳ではないのだが、この刀
は没シュートだ」
「チャラッチャラッチャーン…だね、ともりゃん♪」
 何という事か、刀はよりにもよって奪還成功率がアロウンの次に低そうな
るーこの手中にあった。かつて相楽美佐枝に『自分と追極的存在とも呼べる
葉界最強の生徒会長』と称されていたまーりゃんが、るーこを代弁して終戦
勧告を手向けてくる。

「くうっ、馬鹿な…こんな、こんな形で私の戦いが…最終決戦が、終わって
しまうと言うのかっ!?……こんな事が…こんな馬鹿な決着の付き方など、
私は、私はっ…!」
 それでも智代には、本来あるべき姿ともいえる『徒手空拳で戦い続ける』
という、選択肢がない訳ではなかった。しかし今現在、腰の風子を振り払い
立ち塞がる美汐をなぎ倒してまで戦い続けるべき空気は舞台からは失われて
おり、また智代自身からも定時放送直後の沸き立つ闘志は、それまでの戦い
によって半ば、失われて久しいのも同然の状態だった。
 そして何よりも、智代から戦意を決定的に奪い取ったのは、祐介の前にて
立ち塞がったままの美汐が智代を見据えたまま勇気をもって面と言い放った
、次なる言葉であった。
「…智代さん、これだけはご説明をさせて頂きます……祐介の“電波”には
確かに、対象となりました人物に“夢”を見せて、意のままの想いへと走ら
せる能力があります……ですが、いかにその“電波”の力でとはいいまして
も、対象となりました人物が全く望んでいない行動を行わさせるという事は
、少なくとも祐介の“電波”の力では、ゲームのルールを逸脱しました加害
的な本気を出さない限りはとても不可能な事なのです(65話における来栖
川芹香への電波攻撃は、必要持続時間が5秒足らずであった事と、指示行動
内容が単純だったがために成功した)…ですから智代さん、智代さんが刀を
手放してでも着替えの方を望み、その身にまとわれたという事実の中には、
智代さんご自身の中にもきっと、その結果を望む心が奥底に存在なされたと
いう事なのです…!」

『馬鹿なっ!?…この私に、戦いよりも保身を望む心がその奥底に存在して
いただとっ…!?』
 辛うじて口で頭ごなしに否定する事を押し留め、頭の中にて美汐の発言に
対して自問自答を試みる智代。

『確かに…確かに、実況生中継の元で肌を晒し過ぎてしまう事に対しての、
抵抗と拒絶そして保身の意思が本能的に存在していたという事は認めよう。
だが…だがしかし、刀を渡す事を…戦いを放棄するなんて事を、私が望んだ
筈はないっ!……第一そんな、中途半端な結末を望む理由も、きっかけも、
この私には存在する覚えなんて………………きっかけ?』
 自問自答を続けている智代の頭の中でその時、ゲームの中で自分の行った
『頃し』のワンシーンが、鮮明に甦った。

『元124番・草壁優季。
 アレを鑑賞してしまったからというそれだけの理由にて、積極的なる攻撃
意思の元にこの手に掛けてしまった、正規参加者。
 
 いや、恐らくは“鑑賞してしまった”なのではなく、“鑑賞させられた”
というのが正確な所だったのだろう。
 同行していた、元61番代戦士・神奈備命が、その戦いでの最後に見せた
リアクションと彼女達の性格を考えてみさえすれば、それは容易に推測出来
た筈の経緯であった。

 だがあの時…私は経緯を確かめようともせず“アレを鑑賞してしまった”
という結果のみに基づいて、優季をゲームの舞台から引き摺り下ろしてしまった。

579パラレルロワイアル・その521:2006/04/18(火) 02:54:52
武器も能力(戦闘系)も持たない、他人のプライベートを第三者に喋ったりする筈のない彼女を。
 “命”を見逃した所で、全く差し障りはなかろう事が明白だった彼女を。
 半泣きしながら逃げ回って、最後は私の腕の中でひたすら許しを請い続けていた彼女を。
 意識を失う最後の瞬間、“ではせめて、どうか私の分まで…”と、言ってくれていた彼女を。

 元69番・七瀬留美と神奈を立て続けに討ち果たしたばかりの、その時の
私は…金星の余韻にすっかり酔いしれてしまっていた私は…情け容赦もなく
この手に掛けてしまったのだ。
 
 そして、ぐったりとなった彼女をソファーに寝かした時、我に帰った私が
胸に感じてしまった、刺す様な小さな心の痛み。
 “もう二度と、この様な痛み、感じたくはない……”

 ああこれだ、これだったのか。
 何という事だ。
 またしても、理解より感情を先走らせたツケを回される結果となろうとは…!
 かつての鷹文の不幸を、より厳しく戒めとさえしていれば。
 戒めとさえ、していればっ……!』




「…まさか、ラスボスを止める役所を、祐介さんと美汐さんが受け持つ結果
となってしまいますなんて…」
「…ん。ともかく、最終決戦もこれでめでたく終結みたいだね」
 甲板にOTZ状態となって燃え尽きようとしている智代を目にしながら、
美凪とはるかが一つの話の大きな区切りとも呼ぶべき宣言を口から出した。

「でも、このクルーザーを撤収してから生き残りの正規参加者計8名様は、
その後一体どーすんのよ?『この戦いに引き分けはない』だとか、ネタバレ
掲示板の方にリアルタイムで書かれちゃってたみたいなんだけど…?」
「それに関しましては、この風子によい考えがございますっ。要は、8名様
全員が表紙絵に掲載可能となりさえすれば、問題はない筈なのですからっ」
 郁乃の問いかけに対して風子はえっへんと胸を張りながら、自分のバッグ
から彼女の支給装備を、本邦初公開で引っ張り出して見せた。

「三脚付きポラロイドカメラ…にははなるほどっ、本編二巻裏表紙大作戦と
いうわけなんだねーっ♪」
「ナイスアイデアです、風子さんっ…そうと決まりましたら早速、海水浴場
まで戻るとしましょう。実といいますと私、もうお腹が空いちゃって…そろ
そろ夜のおやつが食べたいなーって、思っていた所なんですよ♪」
「がお、ゆかりさん…」
「カミュちも、いっしょにもどるー」
「も、もどるって…カ、カミュはその…(とりあえずは、お姉様さえご無事に
エスケープされましたら、特に問題はないのですが…)」




「…色々とトラブルや行き違い等はあったものの、最終的には最終決戦終結
に協力してくれた事を皆に代わって礼を言うぞ、あろうー」
 甲板で撤収の支度を始めている仲間達を背後に、ブリッジの屋根の上にて
カラスを肩に留らせたまま、るーこはアロウンに別れの挨拶を述べていた。

「うむ。こちら側としても、来年に備えて葉鍵各組の連中に恩義と好感度を
売り込んでおく分に、損はない事なのだからな」
「…打算あっての事だったのか」
「当然だ。訳も無く魔王が寛大だったら却って滑稽だし威厳にもかかわる」
「るー、確かにその通りかもな……ところで、最後に一つだけ質問があるの
だが?」
「何だ?言ってみろ」
「うーともの着替えがメイド服なのは、あろうーの趣味か何かか?」
「そうではない(怒)…最初にこのクルーザーへと進入した時、たまたま発見
した隠し部屋から出て来た女性用上着がメイド服だったというだけの事だ」
「るー、隠し部屋の中にメイド服があったという訳なのか?」

「(質問が増えてるぞ…)いや、正確には隠し部屋に安置されていたこの人形
が、あのメイド服を身にまとっていたので、あの娘の着替え用に現地徴用を
させて頂いたという訳なのだ」
 アロウンはそう言いながら、手品の様に虚空から半裸の朱桃色の髪をした
女性型の等身大人形を引っ張り出し、その首根っこを掴んでるーこの前へと
ぶら下げて見せた。

「あ、あろうー…その解釈はちょっとだけ間違っていると、るーは思うぞ…」 
 …しかし、それが正確には『人形』ではなく、『現在の状態では人形』な
ものであったという事など、この世界の住人ならぬ身のアロウンにはそれを
るーこから指摘を受けるまでは、知る由も無い事実だというものであった。

580パラレルロワイアル・その522:2006/04/24(月) 22:57:40
 丁度その頃、来栖川アイランド本島・リバーサイドホテル1階北口ロビー
では。
「あ〜っ!!長瀬のおっちゃん、あんな所に“隠し予備戦力”でボディ隠匿
しちょったんや〜っ!!」
「でも、さんちゃん確か今あの子、貴明と一緒に接近中なんやろ?ひょっと
したら、このままやと…」
「あああ、大変ですっ!…このままですと、あの魔王様の身に危険な事がっ
…!」




 更にその頃、脱落した向坂環を回収・Uターンして、大灯台広場海域沖の
巡視艇へと送り返した後、再び海水浴場エリア海域方面へと再発進を行った
シーハリアーが、遂に海水浴場エリア〜水族館エリア間境界海域沖の洋上に
浮かんで接舷している大型クルーザー・ホバークラフト・屋形船、計三隻の
甲板上の出来事を目視する事が可能な位置にまで到達しようとしていた。

「各船の甲板上に大きな動きが見えないみたいだ…ひょっとして最終決戦は
どんな形でなのかはまだ分からないけど、もう決着の方は着いてしまったの
だろうか?……それにしても、ルーシー…いや、るーこ…信じてやれなくて
まともに構ってやれなかった頃の事は、あれから俺なりにずっと深く戒めに
してきた積もりだったけれど…まさか今度は信じ過ぎてここへ来ている事も
定時放送直前まで知らないまま、ずっとほったらかしにしちまってたなんて
……勝手な都合だけど、まだきっと無事なんだよな?……いずれにしても、
あの時断り切れずにお前を置いてきぼりにして空港へと連れてかれちまった
事…まずそれだけでも、キチンと謝らなきゃいけないよな?…………って、
あっあの……ミルファちゃんっ!?」
 コクピット備え付けの望遠・拡大モニターから送られて来る中継映像へと
夢中になっていた河野貴明はこの時になって初めて、モニターの上へと立ち
風防にへばり付いて前方を直接眺めているミルファの頭頂部から、黒い煙が
ぶすぶすと一筋二筋、立ち昇っている事に気が付いた。あまつさえブルブル
と、振動まで始めだしている。

「こ…これって、まさか…?」
 貴明にも容易に悟る事が出来た。ボディやプログラムのトラブル等による
ものなんかではなく、これは明らかに彼女自身の怒りの感情による身体異常
なのであると。

“HMX−17c・ミルファ、本体へのダウンロード開始します…本体への
転送完了まで、残り三十秒…”
 コクピット内にインフォメーションが流れ出してからしばらく後、貴明は
とある重大かつ、嫌な予感のする疑問に気が付いた。
「ひょっとして…もしも、ミルファちゃんがダウンロード完了しちゃったら
…この飛行機、一体誰が…操縦してくれるんだああああああっ!?……ねえ
ちょっ…ちょっと待ってくれよ、ミルファちゃんんんんんんっ!?」

“ダウンロード完了しました…これより当機は、オートパイロットよりマニ
ュアル操縦へと切り替わります…”
 待っては、貰えなかった。
 モニターの上から、抜け殻となった『現在の状態では熊のぬいぐるみ』な
ものがポトリと、煙を棚引かせながら貴明の膝の上へと落ちてきた。

581パラレルロワイアル・その523:2006/04/24(月) 22:58:40
「間違っているだと?…ふむ、ではこれはもしかすると、我々の世界で言う
所の『生き人形』と、呼ぶべき存在なのかな…?」
 そして舞台は再び、クルーザーのブリッジ屋根上へ…るーこからの指摘を
受けたアロウンは改めて、自分が右手でぶら下げている『人形』をまじまじ
と眺め直した。そして、左の掌にてゆっくりとその体をあちらこちらと興味
深げにいじくり回して、その触感を確かめてみた。
「成る程、なかなかよく出来た『生き人形』だ。これならば夜の伽の相手も
立派に勤めてくれそうだな……で、この耳に付いている覆いのようなものは
一体、何なのだ?(さわさわ)」

「るー。それは、生みの親であるうーごの説明によると、感覚増幅の機能を
兼ね備えた亜人識別章のようなものらしいぞ……でだ、差し当たっての問題
点なのは、彼女の存在目的はあくまでも両性・全年齢対象の家政使役活動で
あって、成人男性用性的奉仕活動では断じてないという事なのだが…?」
「何を言っておるのだ?(なでなで)成人男性への性的奉仕というものはな、
古今世界を問わず家政使役の中での立派なる一使命とも呼ぶべき、大切なる
活動なのだぞ?(ふにふに)……とは言っても、お前の様な異星の未成年者を
相手にそんな事を力説してもどうしようもない事だったかな?(もみもみ)」
「…失礼な物言いだぞ、あろうー。確かに、対象となる主人によりけりで、
家政使役の中の最重要使命が果たしてどの様な事柄になるのかは、千差万別
に変わっていくだろう…しかし問題なのは、対象となる主人が決めた最重要
使命との相性が良いものも存在すれば悪いものも存在するという事だ、彼女
達にだって『心』は立派に存在しているのだからな……そして、るーは以前
に別の小さな器に入っていたそこの彼女の『心』と出会い、どの様な『心』
の持ち主であったのかを、るーなりに理解させて貰っているのだ…はっきり
言って、成人男性への性的奉仕活動に関して言わせて貰えば、彼女の『心』
との相性は極めて悪いもののように、るーにはそう思えたぞ…」

「…長話しているのも別に構わないんだけどさ、魔王さん?」
 下の甲板の方から、美凪に車椅子を押して貰っている(…しかし、お米券の
受け取りはきっぱりと拒否している)郁乃が、南の星空を眺めながら呆れ顔で
アロウンに向かって皮肉めいた口調で言った。
「いい加減、そろそろ自分の世界に戻った方が身のためだって警告しておく
わよ…この作品のタイトルを『葉鍵残酷物語』に変えたくないのならね?」

「(むにゅむにゅ)…まったく、次から次へと失言が飛び出てくる困ったお嬢
ちゃんだな…」
 流石にアロウンも二度目の失言には本気で怒ろうとせず、やれやれという
感じで苦笑しながら郁乃の方を見下ろして皮肉めいた口調を返す。
「…早々に自世界へ退散しないと一体、何が起こるというのかな?まさか、
魔王であるこの俺の身に『葉鍵残酷物語』と呼ぶべき危険が及ぶとでも言う
のかな…?」
 そんな事がどうしたら起こり得るものか?…考えてみればみるほど滑稽で
たまらなくなり、アロウンは大人気なくもつい、笑いながら郁乃に向かって
お約束なる啖呵を、大声で連呼してしまった。
「フフフ、俺を頃せる者でもいるのか?頃せる者がいるのかっ?…この俺を
頃せる者なんかが、いるとでも言うのかっ…!?ハッハッハッハッハッ!」




「…ここにいるぞおッ!!」
 グシャン!!

 怒声と共に右真横から飛んで来た肘打ちに鼻っ柱を叩き潰され、アロウン
は血煙を棚引かせながら声も出さずに昏倒した。




「…取り込み中済まないのだが、うーみる…」
 ピクリとも動かなくなったアロウンに容赦なく追い討ちのストンピングを
続けているセンサースーツ姿のHMX−17c・ミルファに、るーこが後ろ
から声をかける。

「衣装の件は仕方がありません。ゲーム終了後にお返し頂ければ結構です」
「済まない。感謝するぞ」

 ミルファの了承を確認したるーこは、アロウンの『死体』を運命に任せて
今度は、目の前の突発イベントにしばし呆然となったままであった智代の方
へと、ゆっくりと歩いて行った。

582パラレルロワイアル・その524:2006/05/01(月) 23:28:05
「るーこ……?」
 ブリッジ屋根上にてOTZ状態からこそ立ち直ったものの、いまだに腰を
上げる事の出来ないままであった智代の元へと歩み寄ったるーこは、なんと
あろう事かその手に没シュートしたばかりの刀を、事も無げに智代へと手渡
した。
「!?…どういう積もりなのだ、るーこ…!?」

「済まないが持っていてくれ、うーとも。『その時』がついにやって来た。
直ちに対応を行わなければならない……済まないが、カーもすずーの所へと
戻ってくれ」
 るーこは南の星空を見上げながら、両の腕をYの字に高く掲げた。間違い
なく“るー”の、それも能力を使うためのポーズである。

 ばっさばっさ。
『まさか、観鈴意外にもこんな無茶する奴がいやがったとはな…』
 カラスは観鈴の所へは戻らず、唖然となったままの智代が握り締めている
刀の鞘へとふわりと留まった。臆する事無く智代の顔をはっしと見据える。
『悪いがるーこ、俺はアンタを見捨てねえ。その心配はねえだろうが、万一
時の脱落者は俺と観鈴が一番手だ』

 そんなカラスに対して智代は、このゲームにおいてはもしかしたら初めて
になるのかもしれない、そんな慈愛に満ちた眼差しを向けてしみじみと語り
かけた。
「やれやれ…るーこといい、オマエといい、何だってそう信じちゃヤバそう
な相手…いや、この場合は相手のモラルをあっさりと信じてしまうのかな?
……そんな事では、真面目なロワイアルだったらとても長生きなんか出来は
しないと思うのだが……って、ロワ2で長生き出来なかった私に言う資格は
なかったのかな…?」

 もしも492話での声の正体がバレていたならば、きっと対応は180度
変わっていたのであろうが……それは置いておいて、智代は今度は、自分に
背を向けポーズをとったままである、るーこへと尋ね掛ける。
「『その時』というのは一体、何なのだ?“るー”の力を使わないと対応は
出来ないのか…?」

 るーこは微動だにしないままに答える。
「出来ない。…うーとも、503話の段階でるーが本島への“迅速な転進”
を行わなかった本当の理由はこれなのだ。…実は、このゲームへと新規参加
をする直前に、うーきが予知をして、るーに警告を与えてくれていたのだ。
『あのゲームが終了せんとする未明、流星群はやって来ませんが、貴明さん
の身には大きな危険が訪れます』とな。…そのために、『その時』がやって
来てしまうまでは、余程の事がない限りは三回目の“るー”の力を使う事は
出来なかったのだ」

「そっそっ、それではるーこさんっ!?」
 風子が神出鬼没に屋根の上へと登って来て、驚いたようにるーこへと尋ね
掛ける。
「もしも482話でポーズがとれまして“るー”の力で兵員輸送車をピンチ
から脱出させていたとしましたら、今現在のるーこさんは一体…どうなって
しまっちゃったってたのですかっ…!?」

 るーこは事も無げに即答する。
「あれは、余程の事だ。るーを含めて四人…いや、四人と一羽の『命』が、
るーの失敗で失われようとしていたのだからな…というか、低水深渡河能力
があの車に備わっていたのならば、最初からそう言え」
「あああっ、そうでしたっ…風子、あの時はすっかり忘れておりましたっ」
「…そして、もう一つの答えの方は…今現在の“るー”の力が四回目となる
だけの話だ」

 ばっさばっさ。
 目の前で羽ばたくカラスの言葉を代弁したかの様に再び、智代が尋ねる。
「しかしだ、るーこ。三回目の使用をこれだけ慎重に自制をしていたのだ。
四回目の使用はもしかしたら…“慎重”を通り越した“禁断”とか“代償”
とかいう単語が付いてくるレベルのものなのでは…?」

「るー個人の問題だ、詮索の必要はない」
 るーこが途中で智代の言葉を遮った。…と、その時。

「あああ、大変っ!?…あたしったら大事なコト忘れちゃってたあっ!?」
 アロウンの『死体』に鞭打っていたミルファが漸く、それまで仮ボディで
行っていた重要な仕事を放り出してココへと来てしまってた事を思い出し、
思い切りにうろたえ始めた。
「どどど、どーしよどーしよどーしようっ!?…逆方向へのダウンロードは
今の状態じゃあ出来ないしっ…!?」

「安心しろ、うーみる。るーに任せるんだ」
 るーこはポーズをとってから四回目の応答を行うと、その遠い視線の先に
捉えた対象―――南の星空からこちらへと急速接近で降下中のシーハリアー
―――の上空にかかっている月…もとい、くーの方を見上げ、長く、澄んだ
声で、祈る様に唱えた。
「Ruuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuu!」

583パラレルロワイアル・その525:2006/05/01(月) 23:29:17
“高度10メートル未満となった時点で当機は不時着判定となり、S.F.
のオートパイロット操縦へと切り替わって、来栖川アイランド本島への帰還
飛行を行います…”
「…何て情けない、カッコ悪いザマで終わっちまうんだろう、俺…」
 飛び続けつつも次第に高度が下がり続けていくシーハリアーのコクピット
にて、観念してしまった貴明は遠い目をしてシートに座り込みながら、機内
モニターが映し出す光景をぼんやりと眺めていた。

「ごめんなるーこ、俺…お前に結局、何もしてやれなかったよ…周りの同行
組にこっそり内緒にされていたからって、そんなの言い訳にもなりはしない
よな?…出来る事なら、一緒に戦いたかった…そして、守ってやりたかった
………………って、るーこっ!?」
 貴明の眺めているモニターの中に、月の光に照らされたクルーザーの屋根
の上で、別れた時の姿のままのるーこが、こちらに向かって“るー”をして
いる姿がくっきりと映し出されていた。

「はははっ、なんだよ。…ミルファちゃん思い切りあわてちゃって、上手く
説明が出来てないみたいだ。それなのに、るーこは俺がこの飛行機でピンチ
になっちゃっているって事が、すっかり分かってるみたいな感じで…はは…
まるで“奇跡”みたいだ…」
 貴明がモニターから視線を外し、ハリアーの風防を開放していく。
「一度目の奇跡は月に最も近い木の上で。二度目の奇跡は自宅の台所だ。…
まさか三度目が月に照らされた海の上になるなんて…そんな事を考えながら
再開するのも悪くない…かな?」

「…悪くないんじゃないのかしら?」
「えええっ!?…って、神岸さんっ!?」
 いきなり後ろから掛かった声に驚き、振り向いた貴明の目の前で、後部副
操縦席にてにこやかに手を振っている、神岸ひかりの姿があった。

「巡視艇で向坂さんを降ろしている際に、入れ替わりでこっそり乗せて貰っ
ちゃっていたのよ、うふふっ♪…S.F.へのオートパイロット回線接続は
私が今、こちら側から行ったからもう大丈夫よ」
「…春夏さん、きっと一人置いてきぼりで激怒している事でしょうね(汗)」
「仕方がありませんわ、練習用の副座席は一人分しかございませんですし…
こういう展開となってしまいましたのも全ては、るーこちゃんの“るー”の
導きによる定められし結果なのですから春夏さんだってきっと、喜んで納得
なさってくださる筈ですわ♪」
「だと、いいのですけど…」
「それよりも、クルーザーに到着しましたわ。早く降りて行って差し上げま
せんと」
「わかりました、ありがとうございます神岸さんっ」
「お礼なら、るーこちゃんに言ってあげませんと」
「はいっ」

 02:59…月夜の海水浴場エリア〜水族館エリア間境界海域沖の洋上に
接舷している計三隻の船の上へと、その側面すれすれをホバリングしている
シーハリアーから、操縦席を降り片翼の上を走り抜けて今、一人の男が飛び
移って行った。こう大声で叫びながら。

「るーこーーーっ!?…今のって、4回目じゃないよなーーーっ!?」




 03:00…来栖川アイランド西端、港・ヨットハーバーエリア内船着場
に、南の沖から来た一台の水上バイクが到着を果たしていた。
 その水上バイクは、海水浴場エリア〜水族館エリア間境界海域沖の洋上で
信号識別式誘導機雷に触雷し、以来乗り手を失って洋上で放置されていた筈
の水上バイクであった。
 そして今、停止した水上バイクから茶封筒を持った一人の女性が現れて、
その背中の白い翼を使ってふわりと飛び立って行き、そのまま突堤の方へと
見るも優雅に降り立った。

「ようこそ。おつかれさまです、翼人の姫様」
 突堤には一人の出迎えが、女性の到着を待っていた。
 白いワンピースを着た、雪のように白い、幼い少女だった。
「さっそくですが、結果を聞かせてもらえるかしら?」

 翼人の姫、と呼ばれた女性は茶封筒の封を開くと、中に入っていた企画書
の束を取り出して少女へと見せながら、微笑んで答えた。
「良い知らせです。『えいえん』です」

「すばらしいわ。すべては予定のとおりね」
 涼やかな少女の笑顔。
 伏線オチのとっても似合う少女。
 そして少女は、次回のゲームに思いを馳せて、つい心から、笑いを漏らしてしまった。
 本編より出番がなくずっと堪え続けていた、あのキャラの自己顕示欲が、遠くない内に、存分なまでに満たされようとしていた。
 全身に熱く武者震いまでもが走ったのが、わかった。




「あ…お気持ちはわかりますが、その暁にはどうか、お手柔らかにお願い申し上げますわ」

584パラレルロワイアル・その526:2006/05/07(日) 23:14:49
 05:30…海水浴場エリア内・海の家畳敷きの間

 ピピピピピピピピピピピピ…
 ポチッ!

 枕元に置いてある目覚まし時計を止めて、つかの間の仮眠から長瀬祐介は
目覚めた。つかの間だったせいか、特に夢は見ていなかった。
 ろくに確かめもしないで匂いだけで確信し、腕の中の柔らかく暖かいもの
へと、いきなり起こしてしまわない様にそおっと、そして長い時間を掛けて
口付けてしまう。
 ああ、この感触…まぎれもない、忘れる事などない…!

「目覚めよ、うー!決着の時が来たぞ!」
「わわわっ、るーこっ!?いきなり耳元で叫ぶなよっ!?」
 二つ向こうの夏蒲団から、景気のよい朝の第一声がユニットで飛び出して
きたのは、その瞬間であった。

 何という最悪のタイミングで…美汐が寝付きの良い子で本当によかった。
 …と、思っていたら。

「…長瀬さん、美汐さん。朝ごはんが炊けました…」
「…ん。みんなでそれぞれ作ってたら、和洋折衷になっちゃったけど」
「おいしくできているかどうかは、わからないが……それでも私たちなりに
一生懸命に作ったから、多少のことには目をつぶってくれ」
 遠野さん、河島さん、そして坂上さんがすでに記念撮影の前の腹ごしらえ
の準備を整えてくれていた。……それ自体はまったくもって有難く嬉しい事
なのであるのだが、問題なのは三人とも、頬をほんのり赤く染めて僕達の方
を向いていた事なのであった。
 ……見られてる。

「そっそっ、それでは風子っ、ごっごっ、ごはんの前のラジオ体操をやって
まいりますっ……!」
 そんな僕達と遠野さん達の間を、伊吹さんが外の砂浜めざして、勢いよく
駆け出して行った。…だが、その顔はスイカの実のように真っ赤っかなので
あった。
 心臓が早鐘を打つ。

「それではうー、そこのうーすけの風習に従って、るーにも目覚めのちゅー
を行うのだ」
「えええっ、るーこっ!?…っていうよりは、そのう、長瀬さんっ…?」
 ―――るーこさん、うーすけの風習とはあんまりです。
 逃げ出したいよお。

 とどめはたった今目を覚ました美汐であった。
「おはよう、祐介」
 満面の笑みで。
「私は別に構いませんよ。恥ずかしかったですか?私にキスするの」
 穴掘って入りたいよ。そしてその上に砂を被せて僕を永眠させて下さい。

 ちなみにその頃、最後まで起きてこない夏蒲団の中では。
「往人さんはねえ…今もここにいるんだよお…ムニャムニャ(ムギュウッ)」
 ばたばたばたばたっ
『のおおおおっ!?潰れるっ、潰されるううっ!?』




「では、無事生き残れた事を神に感謝して…」
「「「「「「「「「いただきます(るー)(ばっさばっさ)」」」」」」」」」
 今は、525話から早二時間半。…あれから、海水浴場エリアへの上陸を
無事に果たした僕達は、本編二巻裏表紙大作戦に移る前に、海の家にて一旦
仮眠を取る事でその意見が一致した。伊吹さんの支給装備であるポラロイド
カメラには三脚は付いていたもののストロボは付いていなかったし、何より
皆、眠くてたまらなかったからである。
 そして仮眠に入るまでの間に、同行していた新規合流の非正規参加者達も
その殆どが、この場所から姿を消していく事となった。

585パラレルロワイアル・その527:2006/05/07(日) 23:18:06
 まずHMX−17cミルファさんが、暴れ過ぎによるセンサースーツ破損
により、止むを得ず一人大型クルーザーに留まって、港・ヨットハーバーへ
と別帰投を行う羽目となってしまった。
 続いて、砂浜に上陸した際、「ここはやっぱり、元ゲーネタだよね〜♪」
と言いながら、神尾さんを『波打ち際で読者様の目にも感動的なるゴール』
をさせようとした朝霧さん(本名)が、謎のムカデの人形劇に驚かされて逆に
波打ち際に大の字でずっこけて、見事自殺点ゴールを遂げる羽目となった。
 そして、カミュさんとアルルゥちゃんは砂浜で待っていた大きな白い虎の
背中に乗ってホテルの方へと戻り、伏見さんは更なる夜のおやつを求めて、
土産物商店街エリアの方へと向かって行ってしまった。
 更に、HMX−17bシルファさんが駆る三機目のシーハリアーによる、
関東来栖川空港からの第三次航空便に乗ってやって来た、お姉さんと思しき
女性に車椅子もろとも無理矢理連行されて、小牧さんもホテルへとその姿を
消して行った。
 そして、最後に神岸さんが、海の家にあった夏蒲団が五組だけであったが
ために、11人目的存在と自分をみなして、ハリアーごと空港・ヘリポート
エリアへと向かって行ってしまった。…正確には、神尾さんの分の夏蒲団の
パートナーはカラスくんなのだから、神岸さんが更に一緒に寝てもスペース
の問題はなさそうだったのだけど、神岸さんは意味ありげに「カラスさんに
悪いですから…」と、辞退して行ってしまったのであった。

 そのような訳で現在海の家にて食卓を囲んでいるメンバーは、正規参加者
7名+1羽と依頼人の神尾さん、そして最後まで残った新規の合流者である
河野さんの、計9名+1羽という事なのである。

586パラレルロワイアル・その528:2006/05/07(日) 23:19:19
 ともかく、僕達はそれぞれ座布団に座って、思い思いに箸を取った。料理
は美味しいうちに食べなければ、料理人の方達に対して不義理になる。

「るー、これは美味いぞ。はるーはなかなか洋食が上手だな。今度るーにも
伝授して貰いたいぞ?」
「ん。でもそんなに大したもんじゃないよ。基本とコツを覚えればすぐ上手
くなるよ」
「るぅ……」
「私は正直、自己採点が及第点ギリギリといった所だな…」
「…智代さんは、この中では一番疲れておりましたはずです。…そもそも、
ありあわせの材料で即興でこしらえました朝食なのですし、その様な条件の
もとでは、朝の和食は朝の洋食より色々と手間がかかって大変なはずです」
「むむぅ……美凪は博識なのだな……。では次こそは、精進させて貰おう」

 女の子達がそれぞれ楽しそうに談笑しているのを、料理をつっつきながら
僕達は見る。やはり食事はいい。食事は心にゆとりを与えてくれるものだな
と思う。穏やかな時間が流れる。

「うわ、やばいぐらいにおいしいですこれっ!どうなっているのですか?」
「ん。これは揚げ粉にちょっと色々工夫している」
「…こちらは何でしょう。私にはわからないのですが…」
「…それは内緒。企業秘密の隠し味なんだ、美汐ちゃん」
「にはは、おいしいおいしい、もうひとつおいしい〜♪」
「…うれしいな、観鈴ちゃん」

 楽しげな食卓だった。僕もまた河野さんと会話に相槌を入れながら目の前
に広がる大量の料理に箸を伸ばし、そしてふと、食卓に座る他の八人と一羽
の顔ぶれを眺め直した。
 みんな少しだけ顔立ちが変わったように思う。それはそうだと思う。あの
不思議かつ不条理な舞台で見た表情と、このような安息のある場所で見せる
表情が全く同じである筈がない。
 そしてそれだけではない。それぞれに現在に至るまでの経緯を思い起こす
時間があったのだ。生き残ったこと、出会い別れていったことを噛み締め、
目の前に近付いているこのゲームの終着点のことを考える時間を、僅かとは
いえ経たのだ。多分、出会ったばかりの河野君や僕自身の顔立ちだって少し
は違っているのだろう。自分達の前に待つ勝者の報酬は、果たしてどんな形
で与えられるのだろうか。

 食事が進むにつれて会話の種がなくなっていって、やがて食卓には会話が
なくなってしまった。気まずい雰囲気というわけではない。お互いがお互い
に、この後の記念撮影の事について考えているのだろうと思う。まだ完全に
ゲームが終了してない事を自覚して、最後の最後に自分はどうするべきなの
だろうかと、それを考えているのだろう。
 けれど。それだけじゃあダメなんだ。考えているだけじゃ。考えて考えた
だけの結果に終わって、それでは戦い抜いた事にはならないんだ。
 最後の闘志を吐き出して、最後の本音を吐き出して、最後の想いを吐き出
して…それでやっと僕達の内の誰かが、本編の七瀬さんの様な、このゲーム
の『勝者筆頭格』と呼ばれる存在になれるのだと、僕は思うのだ。

587パラレルロワイアル・その529:2006/05/14(日) 22:42:31
「うわあ……――――」
 ほぼ一日前に見た事がある美汐と僕以外の皆が一斉に驚嘆の声を上げた。
 そこにあるのは、視界の果てまで広がっている水平線だった。
 朝陽を反射して光り輝いている大海原を、僕たちは砂浜の上から眺める。
 僕は横目で美汐をちらりと見る。頬を紅く染めながら何かを思い出してい
るように恍惚としている(…)。もし三度目があるとしたら、今度はどんな顔
をして朝ここへ来ればいいのだろう。ここは、奇しくも甘い僕たちの思い出
の場所となってしまった。
 けれど、そんな思い出はこれから僕たちがしようとしている事には、直接
の関係はない。直接な関係というか動機があるのは、僕と美汐だけだ。ここ
は、僕が知る限りで一番、至福な一時を過ごす事が出来た場所なのだから。

「うーにしては綺麗な場所だ」
 るーこさんが楽しげに微笑する。他の皆も、凄く楽しそうに海面を眺めて
いる。神尾さんと伊吹さんに至っては、今にも海水浴を始めてしまいそうな
雰囲気さえあった。

「ほんとだ。流石は南の島だ。汐の香りまで綺麗だな」
「…真夏なのに空気が湿っておりません。素晴らしい場所です」
 皆がそれぞれいろんな笑顔を見せてくれただけでも、ラストにこの場所を
選んだ収穫ではあったけれども、僕が一番望んでる果実は実はそういうもの
じゃあなかったんだ。

 僕の隣に寄り添う美汐が尋ねる。
「…それでは、みんなで記念撮影を始めましょうか……祐介?」
 僕は美汐の問いにはすぐには答えない。答えないで、僕はただ、美汐の髪
を優しく撫でる。物問いただ気な顔をしたけど、美汐は大人しく受け止めて
くれた。
「…祐介……?」

 僕は勝利の言葉を言おうと息を大きく吸った。

「晴子さあああん!相沢さあああん!神奈さあああん!春原さあああんっ!
僕たちはっ!最後まで、生き残れましたよおっ!!」
 大気を震わせる大きな声で、出来る限り力強い声で。明るい太陽が輝く下
で、僕は力の限り、叫んだ。出会った人たちのことを叫んだ。笑われない様
に、恥ずかしくならない様に、胸を張って叫んだ。他の皆は僕のそんな様子
を呆然と見ている。僕が何をやっているのかをまだ理解が出来ていない人も
いる。僕は構わず叫ぶ。共に戦った人たちへと、最初で最後の報告を叫ぶ。
「リベンジは、歓迎するからっ!絶対に負けないからっ!次も勝たせて貰う
からっ!!」
 顔が紅潮していた。僕は本来気が弱い人間だ。だから、顔が紅潮してしま
うのだ。ここには自分たち以外に誰もいない。だから顔が紅潮しても突っ込
む人たちはいない。叫びを聞くのは、僕たちと―――早起きなモニター観衆
の人たちだけだ。どこよりもこの島の南の場所で、北のホテルや西のドーム
にいる人たちへと、お世話になった人たちへと結果を伝えよう。勝利の言葉
は力一杯、心の底から叫ばなければならない。共に戦った人たちへの結果の
報告は、大切な義理だから、ちゃんと伝えなければいけないのだから。それ
はすごく得意気なことだが、得意気に出来ない結果ならば、それは勝利とは
言えないのだから。得意気でない勝利なんか、勝利とは呼ばないのだから。

588パラレルロワイアル・その530:2006/05/14(日) 22:43:28
 僕の隣で呆気に取られていた美汐もまっすぐに顔を上げると、僕と同じよ
うに大きく息を吸った。
「…真琴ーーっ!橘さん、里村さんに川澄先輩ーーっ!私も生き残れました
からっ!皆さんの、おかげですからーーっ!!」
 力いっぱい叫んで、そのまま僕の様に紅潮した。

「…鈴香さんっ!初音ちゃんに彰っ!…立川さんに美坂さんっ!…とうとう
死に損なっちゃったっ!……いいのかなあ?素直に喜んじゃっても……?」
 河島さんが、坂上さんが、伊吹さんが、遠野さんが、るーこさんが、河野
さんが、そして神尾さんが。
「朋也っ!渚っ!鷹文っ!可南子っ!…私はもうどちらの存在なのかなんて
拘ったりはしない。私は坂上智代なのだから。そして私は今でも朋也の事が
大好きなのだから…!」
 力いっぱい想いを叫ぶ。心を強く奮い立たせて、お腹に力を入れて、実況
生中継委細承知で。
「白いお姉さんっ!高野のおじさんっ!おねぇちゃんに一応、ユウスケさん
もっ!…風子はがんばりましたっ!いっぱいいっぱいがんばりましたっ!」
「…みちる。長森さん、折原さん、ベイダーさんっ!…とうとう、ここまで
きてしまいました―――本編や劇場版では想像出来ない成績でしたね…」
「どぅー!うーみ!それにうぐー!…本編花形のお前たちと共に戦えたこと
をるーは心底、誇りに思うぞ!」
「タマ姉に春夏さんっ!まーりゃん先輩にささら先輩っ!…経緯はともかく
鳩Ⅱ主人公として、るーこと共に何とか勤めを果たす事が出来ましたっ!」
「かのりーんっ!シュンさーんっ!光岡さんときよみさーんっ!…観鈴ちん
こっちでもがんばったよーっ!!にははっ♪」
 神尾さんの肩にとまっているカラスくんも羽ばたく。
『俺の名前が出てこなかったが…ボケてやがるのか、それともまさか…』

 正規参加者だけでも百二十一名という多くのライバルが、この島で破れて
あるいは降板をして、表舞台から去って行った。それぞれに出会いと別れを
繰り返して、自己顕示欲に任せてエンターテイナーマーダーとなって、強い
運で窮地をあっさりやり過ごして、優しい心で愛しい人と共に生き残ろうと
した。全てが上手くいく訳がない。上手くいったのなら、ゲームとして成り
立つ事などないのだから。これも一応、ロワイアルなのだから。
 ゲームとしてのラストが目の前にある。勝者同士による最後の戦い、勝者
筆頭格を決める戦いが目の前まで迫ってきている。

 だからこそ、僕は果たして現在その事実に気付いているのかどうかすらも
わからない皆の前に立ち、心中の野望を隠しながら言った。
「―――じゃあ、記念撮影を始めようか。それとともに、このゲームはもう
おしまいなんだし」

「「「「「「「「「―――了承(るー)(ばっさばっさ)」」」」」」」」」
 皆は興奮を鎮めて、最高の笑顔を見せてくれた。

589パラレルロワイアル・その531:2006/05/21(日) 23:41:19
 05:45…リバーサイドホテル20階・G.N.総合管制室

「それでは、始めます…」
「さあ…このゲームもついに、この時が、やってきました…!」
「ストップ!」
 仁科りえが一行読み始めた直後に、ストップがかかる。
「はい?」
「ちゃう、違うんや、そうやない」
「さぁ、このゲームもついにこの時がやってきました。って、感情を入れて
読むんや!あんたのならオペラ歌手のコンサートみたいやないかっ!」
 あの、私…一応は合唱部部長なのですけれど……。
 アナウンサーではございませんのですけれど……。
 ともかく、ここは朝から騒々しかった。

 元二十三番・神尾晴子の特出アナウンサー教室が開講したのは、朝の四時
過ぎ。いまだにそれはまだ、続いていた。
「ちゃう、そうやない。もっと気合入れぃ!今、女性実況アナなんかおらん
で?あんたがその一号やっ!えいえんでも幻想世界でもディネボクシリでも
夢の中でもどこでもメシが喰っていけるでっ!」
 神尾晴子は、鬼コーチだった。
「リエチャン、ファイトッ!」
 晴子さんの肩にとまっているカラスさんがなぜか応援してくれていた。
 わたしは思いました。
 最後を締めくくるということも大変なのですね。
 それに、きっと神尾さん親娘の愛情も加わってらっしゃるからなのですね
…と。
 いえその、ええっと…とっても不可解な現象が何か目の前で発生している
ような気がするのですけれど……。
 りえは果たしてそれが何なのか、その時気付くことはできなかった。
 それからもう十分間、更にトレーニングは続いた。

「完璧や、完璧すぎや、嬢ちゃん」
「あ、ありがとうございました、先生っ…」
 仁科りえは完璧に本番五分前でやりとげた。
 ゲーム終了・結果発表放送(晴子予想・神尾観鈴勝者筆頭!)のアナウンス
実況を。さすが合唱部部長、仁科りえ。




 一方、管制室の反対側の一角では、来栖川会長・幸村俊夫・神岸ひかり・
小坂由紀子がこのゲームの最後の瞬間を固唾を飲んで観戦していた。多分、
岡崎史乃と八百比丘尼も倉田アイランド・DREAMエリアにて観戦をして
いるのであろう。…ちなみに、柚原春夏は巡視艇で帰投中に発見した、謎の
水上バイクを深追いして反撃され、轟沈判定を受けてしまった。

「神尾さんにはお気の毒ですがどうやら、勝者筆頭となるのが果たして誰な
のかはもう、十中八九決まったも同然ですな」
 背後でまだハイテンションの晴子の方を一瞥してから、ご満悦でそう口を
開いたのは、来栖川会長であった。

「確かに…記念撮影の写真判定によって勝者筆頭格が決定されるとしました
ら、“電波”はこの上なく有効かつ強力な能力となりますね」
 由紀子が中継モニターに映し出されている、記念撮影の準備の様子を鑑賞
しながら思わず相槌を打った。

 モニター画面の中では、暫定リーダー格となった長瀬祐介が、てきぱきと
指示を出しながらポラロイドカメラのセッティングや、被写体である九名の
立ち位置などを次々と決めていっている。

「ふむ…どうやら長瀬くんは記念撮影が意味する、勝者筆頭格決定のための
最大最後のチャンスをしっかりと理解し、そのための手順を確実に一つ一つ
行っておるようだの」
 幸村がふむふむといった感じで、祐介の準備指示の手際の良さを評価解説
していく。
「まず、三脚上のポラロイドカメラと九名の立ち位置との間合いが、るーこ
くん所持の万能変形鉄扇のギリギリ射程外に決められているという事だの。
これにより、すでに“るー”の力が打ち止めになってしまったるーこくんは
手も足も出せなくなってしまったという事だからの。…更に、すでに野心を
燃やし尽くしたと思しき智代くんや、勝者筆頭への野心もとい関心に乏しい
であろう河島くん・遠野くん・神尾くんは警戒する必要はなかろうし、勿論
天野くんは論外であろうしの。それに河野くんは性格からして、例えるーこ
くんのための野心があったとしても、そのきっかけがない限りは実力行使は
ためらうであろうし…そして何よりも、長瀬くんの手順の完璧とさえいえる
ポイントは、撮影担当役をカメラの持ち主であり、撮影に際しての小細工を
行う可能性が最も低いと思われるであろう風子くんにまかせておるという点
だの。…一見、公正そうに思われる長瀬くんの人選が実は、ユウスケの名を
持ち結婚衣裳を身にまとった自分とその連れ合いへの集中拡大による撮影を
“電波”誘導するのには最も適した人選であった…などという事実は、興奮
沸き立つゲームのフィニッシュの中で即座に看破する事はまず、不可能だと
考えてもよいだろうしの」

590パラレルロワイアル・その532:2006/05/21(日) 23:42:37
「つまりは、そういう訳ですな」
 改めてご満悦の表情の会長。
「『生存者は誰だ!』改め、『勝者筆頭は誰だ!』の最終配当は、単勝⑤で
2.2倍、複勝①−⑤4.2倍で、大気組鉄板は無しという結果で終わって
くれそうですなあ…」

 この時、真の最終配当を予想して悪戯っぽく含み笑いを漏らしてしまった
観戦者が、約二名ほど存在していたというのはまさに、神のみぞ知る余談で
あった。




 海の底のお宿におじゃましてからは、毎話がヒトデ狩りでした。とっても
楽しかったです。本当にみなさん、ありがとうございました。そして、美汐
さんも、おめでとう。いつまでも、幸せに……。

 風子は、ゆうすけさんのこともユウスケさんと同じくらい、嫌いなわけで
はありません。さすがに初めておねぇちゃんのコイビトとして紹介されまし
た時には、ユウスケさんにはひたすらにいやがらせをしたものです。でも、
ユウスケさんもゆうすけさんみたいにそれなりにですが格好はよい方ですし
、積極的にしゃべってはくれませんがきちんと相手をしてくれます。それに
何よりおねぇちゃんの事を天野さんみたいに大事にしてくれますし、おねぇ
ちゃんが大好きな人なのです。ちょっとだけ不満ですが、やっぱり嫌いには
なれません。

 ゆうすけさんはちょっとだけユウスケさんと同じにおいがします。なので
、記念撮影もゆうすけさんと天野さんのためにちょっとだけアップします。




 05:59…海水浴場エリアの砂浜を、伊吹風子がみんなの元へと駆けて
いた。記念撮影のカメラのセッティングを終え、セルフタイマーのスイッチ
をスタートさせて。

 ジーーー………

 光量とピントの調整はカメラの全自動式だから、風子でも絶対に大丈夫で
あった。そして風子も無事に自分の位置へとたどり着いて、みんなと一緒に
無事ポーズをとり終えた。

 そして…セルフタイマーが切れるその最後の瞬間、心に『!』を浮かべた
者は、その中の二名ほど。

 まず一人目は、『白昼夢』状態から目が覚めた、伊吹風子。
『あああ、大変ですっ…ちょっとだけのアップが、過激な大アップになって
しまってましたっ!』
 続いて二人目は、カメラに映像転送機能がある事をもバッチリと見抜いて
、野望成就を確信した長瀬祐介。
『決まったっ!…長い、長い事、ネタとキャラのその相性の悪さに…生還者
としては異例な程までに…その出番と活躍の場に不自由し腐心し続けてきた
、この僕がっ…最後の最後、このゲームのフィニッシュでっ…あああっ!』

 …いや、実は他にもいたりしていた…。
『ん…今だね!』
『…あ、はるかさん…!』
『決めた……やはり私は、今更生き方を変える事など出来はしないっ…!』
『…ダメです、させませんっ…!』
『今だっ、るーこっ!』
『甘いぞ、うーすけ!』
『ぶいっ!』
『やっぱり、気付いていたんだな…だからこそ撮影直前に、俺が姿を隠して
も慌てる事なく平静を保って…もう一度、絶対に、出会える事を確信して…
おまえは、本当に強い子だ…そのおかげで、俺は…!』

 …パシャッ!

 午前六時ジャスト。カメラのシャッターが下りるのと同時に、このゲーム
における、全てのアクションが完全に終了した。

591パラレルロワイアル・その533:2006/05/28(日) 02:40:20
『…今になってようやく、あのクソガラスの謎の行動が、俺にも何とか理解
できてきたぜ…どうやらあのクソガラス、ホテルで一人ぼっちの観鈴のため
に、俺をゲーム開始直後に脱落させやがったという訳なんだな…だが、クソ
ガラスの想像以上に肝心の観鈴は強い子だった。二日目の朝、あいつは佳乃
のためにホテルを出奔して、戦場へと足を踏み入れちまった。クソガラスに
とっては墓穴モノの大誤算だったという結果だ…結局、自分の手では観鈴を
護り切る事ができねえと判断したクソガラスは、夕方ホテルへと舞い戻って
自分で頃しちまった俺への再出馬を要請する羽目になりやがったという事だ
…しかし真に恐るべきは、クソガラスの分の変身アイテムだけ特別製にした
スタッフ連中というべきか。三日近くも前からいかにもこういう決着を予知
していやがったかのようにな…』




“さあぁっ、このゲームもついにこの時がやってきましたーっ!ゲーム終了
・結果発表の時間ですーっ!……放送はこの私、特務機関CLANNADの
仁科りえが行わさせて頂きまーすっ!”
 ハイテンションながらも、そうする(させられている?)事への恥じらいを
隠し切れないでいるような少女の声が、八回目の定時放送に代わって来栖川
アイランド全島に響き渡ったのは、次の瞬間の事であった。

『やっぱりだっ!僕が思っていた通りの展開だっ…!!』
 放送を耳にすると同時に事が予想通りに進んだのを確信し、思わず感極ま
ったといった表情でガッツポーズをとって震えだした長瀬祐介へと、思わず
怪訝そうな顔をして尋ね掛ける天野美汐。
「…どうしたというのですか、祐介?……今に改まって、そんな嬉しそうに
興奮してしまうなんて…?」

「やった…やったんだよ、美汐っ!……今の、今の記念撮影で、このゲーム
の勝者筆頭核が誰になるかが決まったんだよっ…!」
 言いつつも興奮に打ち震えている祐介に向かって、にっこりと会心の笑み
を浮かべて返す美汐。
「…やっぱりそうでしたか。あの瞬間、何か緊張が走った気がしましたので
……だとしましたら、私も祐介の最後の戦いをお手伝いする事ができまして
とても幸いでした…」
 そう答える美汐の左手は、隣で抜剣を試みた坂上智代の右手をしっかりと
押さえており、右手で抜き撃ちしたシグサウエルは、河島はるかがカメラの
角度を変えようと狙って投げつけていた投擲用ゴムナイフを、見事に弾き飛
ばしていた。
 更に、遠野美凪の手から風に飛ばされたお米券が河野貴明の視界を遮り、
るーこから渡されてたワインバスケット型水鉄砲の狙いを狂わせこれまた、
カメラの角度を変える企みをものの見事に失敗させていた。

“もうご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、只今生き残りの皆様が
記念撮影を行いましたカメラには、撮影した映像を転送する機能が付属して
おりましたーっ!そこで、只今の記念撮影を写真判定の材料とさせて頂きま
して、このゲームの勝者筆頭格の方を決めさせて頂く事と致しますーっ!”

「ん。失敗しちゃったね、智代さん」
「…信じられない力だった。私はいまだかつて、これほどまでの愛と補完の
結集とも呼べる刹那の剛力を経験した事はなかった…」
「(ぽっ…)…いやですわ、智代さんったら…」
 砂浜にがっくりと腰を落としたはるかと智代に対して、赤面しながら慰め
の言葉を掛けている美汐。
『…しかし、どうして?……いつの間にか、刀が剣に…?』

「…申し訳ございません、河野さん。…お詫びといっては何ですが、どうぞ
このままお受け取りを…」
「あのう、遠野さん?……ひょっとして、その…僕にお米券を受け取らせる
ために、わざと…?」
「……最近皆さん、貰って下さらないのです…(涙)」
 トホホ顔にて顔に張り付いたままのお米券をポケットへとしまう貴明と、
それを見て心底嬉しそうに笑って礼を述べる美凪。

「大丈夫?風子ちゃん」
「だ…大丈夫ですっ。…風子としたことが、あわててカメラへかけよろうと
して、思わず砂に足をとられてしまいましたっ」
 自分の撮影設定ミスに気付き急いでカメラとへ駆け戻ろうとしてバランス
を崩した伊吹風子と、それに追い付き何とか転ぶ前に抱きとめた神尾観鈴。

“お待たせしましたっ!只今、こちらへと転送されました写真判定の結果が
出ましたっ!”

592パラレルロワイアル・その534:2006/05/28(日) 02:42:39
「…るー、お見事…」
 るーこ・きれいなそらは波打ち際に落ちているゴムナイフとゴムボールを
見下ろしながら、感嘆の意を込めてぼそりとそう呟いていた。
 ゴムボールは元々、23話にて元83番・三井寺月代がロボピッチャーで
射出し、元52番・セリオがセンサーで打ち返して、元30番・砧夕霧へと
命中した一球がそのまま砂浜に転がっていたのを、約四十七時間ぶりにその
至近距離にて撮影位置に立っていたるーこに発見されたものであり、セルフ
タイマーが切れると同時に伸ばした自在鉄扇で、カメラ目掛けてビリヤード
の玉の如く弾き飛ばされていたものであった。
 だが結局、そのゴムボールはカメラへと到達する前に、はるかが投げつけ
美汐に弾き飛ばされたゴムナイフと空中衝突し、共に空しく波打ち際の方へ
と落ちて行く結果となったのであった。
「…るー、流石だ…」

 そんなるーこの元へ、満面の笑みを浮かべた祐介が美汐を伴って足取りも
軽く近付いて来ていた。
「…どうか、そんなに神妙に恐れ入らないで下さい、るーこさん…正直な所
、るーこさんのゴムボールだけは実は偶然、運良くナイフが当たってくれて
防ぐ事が出来ただけなのですから…」
「本当に謙虚なんだね、美汐は。……でも美汐のおかげだよ。実際、あの時
の僕はほとんどカメラと風子ちゃんの事しか作戦の視野に入っていなかった
のも同然だったし、まさかみんなも最後の瞬間にアクションを起こすなんて
夢にも思わなかったし……それにしても、さすがに河野さんの水鉄砲だけは
本当に、回避出来た事自体が奇跡というのか幸運というのか…でも最後には
何とかこの通り、僕と美汐で…」

“さあぁっ、それではいよいよ、勝者筆頭格の方のお名前の発表ですっ!”

 …しかし…それでも祐介たちの方へと振り返る事も無く、波打ち際の方を
向いたままのるーこが呟き続けていた、賞賛の言葉―――その最後の瞬間に
起こった数々の出来事の真実たる内容―――は、聞いた祐介と美汐にとって
は、本編544話並みの青天の霹靂であった。

「…るー。確か、本編792話のアナザーだったな。…ベネリM3S90・
投げナイフ二本・シグサウエルP230の四刀流という超離れ業でうーねん
を倒してのけて見せたのは…今度はそれを、うーともの剣・なぎーのお米券
・うーみしが弾き飛ばしたゴムナイフ・そして、ポラロイドカメラの四刀流
でやってのけたという事なのか、しかも全て法術で…心底に恐れ入ったぞ、
カー……いや、元33番・うーきと!」

「…ええっ!?る、るーこさんっ、何をおっしゃってっ…!?」
「四刀流っ!?ポラロイドカメラっ!?…も、元33番っ…!?」
 信じられない言葉の連続に耳を疑いうろたえ始めた美汐と祐介の視界の中
、るーこが向いている波打ち際の海中から、水飛沫を上げて一人の男がその
姿を現した。

593パラレルロワイアル・その535:2006/05/28(日) 02:44:21
「…ったく、焦ったぜ。530話直後にいきなり変身が解け始めやがるもん
だから、水着じゃねえのに海水浴だ…」
 そうぼやきつつ濡れ鼠で砂浜へと上がり、るーこへと会心の微笑を向けた
男は次の瞬間、一直線に駆け寄って来た少女にいきなり飛びつかれバランス
を崩し、再び少女もろともに波打ち際へと水飛沫を上げて転倒した。無論、
下敷きとなっているのは男の方だ。

「こっ…こんなぶっ飛び方ないだろ、あんまりだ(泣)……どうして、こんな
再開を……俺はただ……お前がそばに来てねぎらいとタオルの一枚でも欲し
かっただけだったんだ」
「ごめんねっ、往人さん…でもわたしは、ゲームが終わって濡れちゃっても
失格の心配なくなったから…だから、思いっきりにゴールしちゃった…♪」

“おおーっと、この大アップのVサインはっ…24番依頼人・神尾観鈴さん
でーすっ!…写真判定の結果は、リハーサル通りの単賞⑨の1.1倍、連勝
②−⑨の1.4倍…勝者筆頭決定戦は、ガチガチの出来レース鉄板で決着が
着きましたーっ!”




「いろいろなことあったけど…ぼく…がんばって、よかった。つらかったり
、苦しかったりしたけど…でも…がんばって、よかった。ゴールは…幸せと
いっしょだったから。ぼくのゴールは、幸せといっしょだったから(ざぶ…)
ひとりきりじゃなかったから…(ざぶざぶ…)」
「…あああっ。ですから祐介はひとりきりじゃないんですっ。ずっと、私と
一緒なんですっ。ですから…祐介っ!(わたわたっ)」

「るー。やはり万全の筈の策が破られたショックは相当なものだった様だな
、うーすけ…」
「でも、るーこ…天野さんの方も、何かもの凄く大胆な事をポロリと言って
のけちゃった様な気が、するんだけど…」



【残り 8名】
 ゲーム終了/勝者以下
①024番依頼人・神尾観鈴及び、024番代戦士(替玉)元033番・国崎往人
 (替玉発覚はゲーム終了・判定発表後のため、反則ペナルティは免除)
②005番・天野美汐
③064番・長瀬祐介
④026番・河島はるか
⑤062番・遠野美凪
⑥110番(二代目)・伊吹風子
⑦122番・坂上智代
⑧125番・ルーシー・マリア・ミソラ




 ちなみに…この直後往人本人の声を聞いた智代が、492話の謎の歓声の
正体に気付いて暴れ出し大変な騒ぎになってしまったというのは、些細なる
余談であった。

 そして―――
 to be continued……last episodes……

594パラレルロワイアル・その536:2006/06/03(土) 21:36:12
 ボーーーッ!!…

 ゲーム開始から約84時間後・ゲーム終了から約36時間後…港・ヨット
ハーバーエリアより来栖川アイランドからの帰路についた葉鍵の来訪者達を
乗せた豪華客船“蒼紫”が、日本を目指して出港していた。 他にも、原潜
“アヴ・カムゥ”や揚陸艇“スメルライクティーンスピリッツ”原子力空母
“キング・バジリスク号”や高速駆逐艦“ソルジャー・バジリスク号”とか
更には、来栖川航空高速便やステルス核爆撃機“ムツミ”といったそれぞれ
の帰還手段で帰路についた者達の船影・機影も周りにちらほらと目視出来る
し、ゲーム終了後の島の各所の修理・清掃・回収作業をするために未だ島内
に留まっている者達もきっと存在するのだろう。特殊な手段で自分達の住む
世界へと戻っていった者達もいるのだろう。

 そんな“蒼紫”に乗ってないそれぞれの者達へと別れの一瞥を送りながら
、“蒼紫”最後部のVIP用デッキの手摺りの部分で涼みながらたむろして
いるのは、ゲーム勝者の三人。元026番・河島はるかと元062番・遠野
美凪、そして元125番・るーこきれいなそらである。

「るー。さらばだ、来栖川アイランドよ」
「…それにしても、ずいぶんと歩いてしまいました」
「ん。閉会式でもあの鼻にデカイ絆創膏を付けていたアロウンさんって人が
言ってたけど、来年の戦いはもっと派手になるみたいだね…」
「…といいますか、閉会式・授賞式が見事に省略されてしまいましたね…」
「るー、本編名物・スタッフロールもだ。…ゲーム終了後をデレデレと未練
たらしく引き伸ばしたくないからというのが作者の言い訳らしいが、あれは
恐らくは面倒臭いからというのが本音なのだろうな」
「ん。特にスタッフロールの方はそれに間違いなさそうだね。…で、ところ
でみちるちゃんは?」
「…河野さんと、往人さんのお見舞いに船内医療室へ行っている筈です」
「全治一週間だったからな…うーはらなら全治三日程度で済む所なのだろう
が…で、うーすけとうーみしの方はもう大丈夫なのか?」
「ん。草壁さんのお見舞い品の本編ファンブックの表紙絵のおかげで、精神
的にはほとんど立ち直っていたって、これまたうれしそうな顔した彰と初音
ちゃんが言ってたよ」
「…そうでしょうね。何といいましても本編絵描き様の方々の中で唯一方、
二冊分ご担当なされた方の作品なのですから…そういえば、風子さんは一体
どうしているのでしょうか…?」
「るー。ふぅーなら最初からここにいるぞ…もっとも、中身の方はあっちの
世界へ行ってしまっているようだな…作者からも頭数に入れられてないから
恐らく、この話での出番は回ってこないとるーは思うが…」

「ハイ、と言う訳でMM…ではなくて、パラロワ最終話前部も私たち三人で
“蒼紫”船尾よりお送りします。」
「…ん。美凪もアンソロ参加者様の世界へ行ってなくていいから」
「るー…ダイエットコーラの入ったるーはちょっぴりトーキングヘッドだ…
もう、あることないこと喋ったりするぞ。」
「……だから、るーこも一緒に行ってるんじゃないって!」
「…ですけどそろそろ、このお話を読んで下さっている読者様からご質問の
おハガキが届いてきそうな雰囲気なのですが、はるかさん」
「うむ。『大切な最終回なのにどうしてたった三人だけしか登場していない
のか』と尋ねたくなるのが当然というものだな」
「ん。その辺の理由はこの後の最終話中部・後部にて説明させて貰うって事
なんだけど……作者さん半休載取っちゃって、今週分はここまでなんだって
さ…」

「と、言う訳で改めて残り2話、宜しくお願いしますね。」
「もう飽きたとか言わないでほしいぞ。」
「………だから二人とも、戻らないと怒るよっ…!」

595パラレルロワイアル・その537:2006/06/10(土) 19:37:27
【最終話中後部・パラロワの環】
*535話ラストの『些細なる余談』が補完されて偶然誕生した、パラロワ
ラストエピソードである。535話を理想の決着と思われている読者様は、
読まないことをおすすめします。




「るー。それにしても、535話ラストの『些細なる余談』は結果的には、
本家『灯台編』本編『小屋編』に並ぶ、『砂浜編』とも呼ぶべき(?)何とも
痛ましい出来事だったな」
「ん。まずは元033番こと、024番代戦士の国崎往人さん。怒気満面の
元122番・坂上智代さんに…って、そうそう、智代さんの方は今一体どこ
にいるのかな?」
「るー。うーともはこの船ではなく“スメルライクティーンスピリッツ”の
方に乗って行ってしまった……一人になって考えたい事があるそうだ」
「…ある意味一番、色々とイベントがございました方ですしね……果たして
次回は蔵等とIWL、どちらの枠からの御参戦になるのでしょうか…?」
「というよりはもしかしたら次回、男うーともが両枠から一人ずつ参戦する
という、超現象が起こったりするのかもしれないな…(汗)」

「…ある意味相当キモいかも、それ(汗)……じゃあ、話を戻すね。で、その
智代さんに手に持ったままの剣で手加減なしの滅多打ちにされちゃって…」
「…全身打撲で全治一週間……あのう、るーこさん…こう言っては何なので
すが、あの時そばにおられたのですから、智代さんを何とかお止め下さる事
は出来なかったのでしょうか…?」

「無理だ(キッパリ)。…あの時のうーともの怒りの表情は尋常の域をはるか
に超えていた(汗)…いかなるーとはいえど、あの時はすずーがとばっちりを
受けないように無理矢理抱えて逃げ出すのが精一杯だった…」
「ん。確かに、あの時の智代さんの顔は凄まじいものがあったね(汗)…確か
三ヶ月ほど前、“維納夜曲”のオジサンが柏木家長女用のバースデーケーキ
の注文を受けた時に、蝋燭の数を十本ほど間違えちゃって……」
「…よく、生きてらっしゃいましたね(汗)…」
「るー、それでか…お陰で店ちょうー退院の7月になるまで、あの店の美味
しいケーキが食べられなかったのだ」

「…その時の長女様の顔と甲乙つけがたいものがあったって、モニター観戦
していた初音ちゃん、思い出し泣きしながら言ってたよ(汗)……で、話を元
に戻すよ。次に元110番・伊吹風子ちゃんが、その智代さんの超憤怒相を
すぐ隣で見てしまったショックで、慌てて逃げ出そうとしちゃって…」
「正直、ふぅーの場合はその場で失神とか失禁とかしなかっただけでも賞賛
に値するぞ…」
「…それで、三脚付きポラロイドカメラの方へと突進して行ってしまって、
真正面から接触してしまって…」
「ん。東スポ風にいう所の『プチ最悪!!伊吹風子、三脚相手に垂直落下式
ブレンバスターKO負け』になっちゃったんだよね(汗)…」
「本当に妙な所で器用なのだな、ふぅーは(汗)…」

「…とまあ、智代さんご自身の方の騒動はここまでで何とか収まりがついた
のですが…」
「るー、その後に更なる大問題が発生してしまったのだったな」
「…風子ちゃんにブレンバスターをお見舞いしちゃった三脚が、ポラロイド
カメラにまで死亡ダメージを与えちゃって…」
「…その結果、本来535話にてスタッフ側に転送されて、勝者筆頭判定に
採用されたはずの、元024番依頼人の観鈴さんの大アップVサインの映像
データがものの見事に壊れてしまいまして…肝心のフィルム現像が出来なく
なってしまったのですよね…」
「ん。特務機関CLANNAD最悪最後のコンビプレーというべきなのか」
「るー。そのために、一旦終了宣言がなされていた筈のゲームが、図らずも
次の瞬間再スタートする事となってしまい、その結果……

 024番代戦士・国崎往人…終了前不正発覚及びドクターストップで脱落
 024番依頼人・神尾観鈴…リンク・デッドで脱落
 064番・長瀬祐介…既に肩まで入水により脱落
 005番・天野美汐…064番を追い、胸まで入水により脱落
 110番・伊吹風子…自爆により脱落
 122番・坂上智代…ゲーム最初で最後のオーバーダメージにより脱落
【残り 3名】





……次の瞬間、ホテルで待機観戦をしていたすずーママは、20階の窓から
下の川目掛けてゴールしそうになったそうだぞ」

596パラレルロワイアル・その538:2006/06/10(土) 19:39:21
「…一気にドミノ倒しのように脱落者が続出してしまいましたのですね…」
「…それで結局、残ったのが私達三人…カメラも壊れちゃった以上は最後の
一人になるまで頃し合いしなきゃダメかな?…って、それぞれ、最後の投げ
ナイフとウェザビーMk−Ⅱと自在鉄扇を構え合いながらそう思っていた所
に、河野君が海の家から写るんですを持って来てくれて…」
「…河野さんの記念撮影で今度こそ無事、ゲーム終了となったのでしたね」
「でもよく、うーの記念撮影をはるーもなぎーも信用して大人しく写された
ものだな?」
「…そりゃそうだよ。もし河野君がるーこ一人を勝たせたいって思ってたの
なら、カメラなんか持って来ないで最初から黙って見ていたはずだし」
「…二対一でも、るーこさんにはきっと勝てそうにありませんですから…」
「いや、もしもはるーがキノコの食べ残しをなぎーと分け合っていたらば、
勝負はどう転んだか判らなかったぞ」
「「…そうかもしれない(ません)ね…」」

「るー。で、配当の方はというと……
 単勝・③3.3倍、④3.2倍、⑧2.5倍
 連勝・③−④10.6倍、③−⑧8.3倍、④−⑧8倍
 三連単・③−④−⑧26倍
 ……という高配当になったそうだぞ」
「…ですが果たして、この組み合わせに賭けて下さった方がいらっしゃるの
でしょうか?…なにぶん、本編では最短命のタッグでした、私とはるかさん
なのですから…」
「そう自分達を卑下するものではないぞ。確かに、目立った活躍もなければ
異性の相棒も得られなかったうーたちだったが、最初期からゲーム参加して
見事、最後まで生き残って見せたのだからな…これは大変誉れ高き事だぞ」
「…そんな、廖化さんみたいな褒められかた、嫌です…」
「…それに、私達から見れば、ゲーム終盤に颯爽と能力乱入して、本編花形
の参加者達と競演しまくった挙句に、智代さんと一緒にラストの美味しい所
を二人占めして、異性の相棒とちゃっかり生き残ったるーこの方がよっぽど
羨ましいよっ」

「るー!そんな、しばうーたつみたいな褒められ方、るーは嫌だぞっ!…と
まあ、そっちの話はひとまずおいて置いてだ、③−④−⑧の三連単の方だが
…大枚注ぎ込んで大儲けしたうーが、実は一人だけいるらしいと、うーかり
ママから聞いてたりするぞ」
「…ベイダーさんからなのですか?…一体、どなたなのでしょう…?」
「るー。うたわれ組の遅刻不参加者で、名前の方は確か…うー、うー、うー
ると………………るぅ、済まない…思い出せなくなってしまった…」
「ん。でもひょっとしたらその、うーると何とかさんって人、実はラストの
全てを仕組み、この決着を確信した上で三連単に注ぎ込んじゃってた、次回
の黒幕だったりなんかして…」
「…そうだとしましたら、お金だけではなくて、次回ゲームの会場主催権も
賭けの対象になっていたのかもしれませんね…」

「るー。幾らなんでも、そんな出来過ぎた伏線は流石に無いと思うぞ…」
「…私もそう思います。…ですが、もしそうだとしましたら、そのうーると
何とかさんって方はどうして、私達を最終勝者に選んだのでしょうか…?」
「…ん。もしかしたら、チャンスはどんなキャラクターにでもあるんだって
、本命クラス以外のみんなにも次回の危険をさせないために、私達を選んだ
のかもしれないね……って、言いだしっぺでなんだけど、るーこのいう通り
やっぱりこの最終決着が計画的に仕組まれてただなんて…そんな事、絶対に
ありっこないよねっ」
「るー。同感だ」
「…うふふ、そうですね」




「…お客様方、夕食の準備が整いましたので、どうぞ食堂の方へとお越し下さい」

「ん。それじゃ行こうか…ありがと、金髪のメイドさん」
「るー、そうしよう…報告感謝するぞ、巨乳のメイドうーよ」
「…では、参りましょう…お疲れ様です、羽付きのメイドさん」
 そして、あっちの世界へ行ったままの風子を連れた三人の姿がデッキより消えていく。




(――――――お三方とも)
 最後に。
(――――――感謝致しますわ――――――)
 そういって、金髪巨乳の羽付きメイドは自世界へと姿を消していった。


 TO BE CONTINUED NEXT GAME.SEE YOU SOON.

《パラレルロワイアル 終》


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