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アナザー本スレ

1せと:2003/03/06(木) 08:47
アナザーをアップする掲示板です。
ここに書かれた作品は、本HPのギャラリー等に転載されることがあります。
どしどし書きこんでください。

2RDFX(仮):2003/03/26(水) 08:33
えーっと、新参者です。RDFX(仮)といいます。
360話がもしこんな展開だったら、というアナザーを書いてみました。

3歪む思い(1/2):2003/03/26(水) 08:34
 藤田さん、あかりさん――
 琴音はただ、その二人の名前を呟きながら、森の中を走っていた。
 この島で、信じられる人。二人の先輩。
 その二人に会いたい――ただその一心で。
 二人に会って、ほめてもらうのだ。
 強くなったことを。
 こんなに、私が強くなったことを――
 ほめてもらって、そして、それから。
 それから――

 ――私は、どうすればいいんだろう?

 不意に、琴音は立ち止まる。
 私は裏切られた。いっぱい裏切られた。
 信じていた人たちみんなから、裏切られた。
 ……浩之さんたちも、裏切るかもしれない。
 あの人たちみたいに、私を裏切るかもしれない。
 不意に脳裏をよぎったその考えに、琴音は慄然とする。
 もし、浩之やあかりにまで裏切られたら。

 どうすればいい?
 どうすれば――

 琴音は両手に視線を落とす。
 右手に握る、ナイフ。左手には、拳銃。
 ――あぁ……そうだ。簡単なことだった。
 裏切られないために、どうすればいいか。
 本当に、簡単なことだった。

4歪む思い(2/2):2003/03/26(水) 08:34
 ――殺せばいいんですよね。
 藤田さんも、あかりさんも。
 殺してしまえば、裏切りませんよね。
 私を、ほめてくれますよね――


 ――歪みは、どこまでも歪みのまま、捻れ続けていく。
 そして、その行き着く先に。

「……琴音ちゃん? 琴音ちゃんか?」
 不意に背後から聞こえた声に、琴音は振り返る。
 その声は。聞きたかったその声は。
 浩之の声。
「琴音ちゃん……無事だったんだね」
 あかりの声。
「……藤田さん……あかりさん……」
 会いたかった二人が、そこにいた。

 琴音は、二人へ向かって、笑顔を向けて。
 駆け寄った。

5引き金は別れを告げる(1/4):2003/03/26(水) 08:36
「……琴音ちゃん? 琴音ちゃんか?」
 どこか呆然と佇む後ろ姿に、声をかける。
 振り向いた琴音の顔を見て、浩之は笑みをこぼした。
 ……良かった、琴音ちゃんは生きていた。無事だった。
「琴音ちゃん……無事だったんだね」
 隣で、あかりも安堵の声をあげる。
 それに対して、琴音は。
「……藤田さん……あかりさん……」
 笑顔を、向けた。

 ――その笑顔が誰のものなのか、一瞬浩之には理解できなかった。

(……え?)
 それは確かに琴音の顔だった。琴音の笑顔だったはずだった。
 それなのに――その笑顔は、ひどく歪んで。
 底知れぬ深淵をたたえた瞳に見据えられ――浩之は背筋が寒くなった。

 要するに、それは……満面の狂気をたたえた、笑顔。

 琴音が、こちらへと駆け寄る。
 そして、浩之は。
 その手に煌めくものに、気付いた。
 ――琴音自身の血で汚れた、ナイフに。
「!」
 反射的に持ち上げた右腕に、ナイフが突き立てられる。
「あぐっ――」
 琴音は驚いたように目を見開き、ナイフを抜いて二、三歩下がった。
 鮮血が、浩之の足下に飛び散る。

6引き金は別れを告げる(2/4):2003/03/26(水) 08:37
「浩之ちゃん!?」
 あかりの悲鳴。浩之は傷口を左手で押さえる。ぬるりとした、生暖かい感触。
「――琴音ちゃん……なんで」
 痛みに顔をしかめながら、浩之は琴音を見据える。
 不思議そうな顔で、琴音は首をかしげる。手に、赤いナイフを握ったまま。
「ふじたさん、どうしてころされてくれないんですか?」
 ――それは、ひどく抑揚のない声だった。
「わたし、せっかくつよくなったのに。わたしせっかく、だれにもうらぎられないほうほうをみつけたのに」
 それは、意味すらも失われるほどに、平板な言葉。ただの音の羅列。
「わたし、たくさんうらぎられたんですよ」
「だからわたし、うらぎられないためにどうすればいいかかんがえたんです」
「すぐにわかりました。ころせばいいんです」
「ころせば、だれもうらぎりません。ずっとともだちでいてくれます」
「そうですよね、ふじたさん。わたし、つよくなりましたよね」
「つよくなりましたよね――」
 琴音は語る。語り続ける。意味のない言葉を。歪みきった言葉を。
 間違いではない、しかしそれ故に、救いようのないほどに間違った理論を。
「琴音……ちゃ」
「だから」
 ――はっきりと。
 琴音は告げる。
 己の決意を。
 歪んだ決意を。

「ふじたさんも、あかりさんも、ころします」

7引き金は別れを告げる(3/4):2003/03/26(水) 08:37
 琴音が一歩前へ踏み込む。
 その右手に煌めく、ナイフの切っ先。
 浩之は動けない。
 一歩も動けなかった。

 ――そして、ナイフの切っ先が。
 赤い刃が、浩之の腹を捕らえようとした、瞬間。

「浩之ちゃんっ!」

 あかりの声が聞こえて。
 浩之の身体が、ぐらりと揺らいで。
 琴音の刃は。

 あかりの身体を、貫いた。

 何が起こったのか解らなかった。解りたくなかったのかもしれない。
 あまりに多くのことが、一瞬の間にありすぎて。
 ただ――刹那の後に、浩之の眼前にあった光景は。
 ナイフから鮮血を滴らせて、佇む琴音と。
 その足下にくずおれる、あかりの姿。
「――あかりっ!」
 叫び、浩之はその身体を抱え上げようとして――琴音のナイフがまたも煌めく。
「!」
 ナイフは左手の甲に突き刺さり――そのまま琴音の手を離れた。
 激痛が全身を駆けめぐる。だがそれすらも構わず、浩之はあかりを抱き上げた。
「あかり、あかりっ!」
 仰向けにして、必死で呼びかける。腹部の刺された傷からは、赤がとめどなく溢れて。
「あか――」
 呼びかける声は、自分の額に突きつけられたもので遮られた。

8引き金は別れを告げる(4/4):2003/03/26(水) 08:38
 浩之の視線が、ゆっくりと上を向く。
 そこにあったのは、小銃の銃口。
 琴音の構える、小銃の銃口。
「ふじたさん、しんでください」
 抑揚のない声で。光のない瞳で。
 琴音は、それを告げて。
 引き金を、

 引いた。

 引いてしまった。

 壊れた小銃の、引き金を。


 反射的にあかりをきつく抱いた浩之の頭上で、何かが弾ける。
 そして、二人へと降り注ぐのは、鮮血と肉片。
 ――それは、吹き飛んだ琴音の右腕の、残骸だった。

 最期の言葉をあげる間もなく。
 右腕を吹き飛ばされた琴音の心臓は、簡単にその動きを止めた。

 何もかもに裏切られた少女は、
 最期は、凶器にまで裏切られて。

 そして――琴音の身体が、どう、と仰向けに倒れる。
 浩之は、ただ、それを呆然と見届けていた。

【074 姫川琴音 死亡  残り47人】

9こぼれ落ちた砂(1/2):2003/03/26(水) 08:39
「……ひろゆき、ちゃん……?」
 抱えた腕の中で、あかりが弱々しい声を漏らす。
 その唇の端から、一筋の鮮血が伝った。
「あかり……っ」
 その赤は、少しずつこぼれ落ちていく、あかりの命。
「……ごめんね、ひろゆきちゃん……約束、まもれないよ……」
「馬鹿、何言ってんだよ! こんな傷、大したこと――」
「ひろゆき……ちゃん」
 震えながら伸ばされたあかりの手が、浩之の頬に触れる。
 そこで浩之は、自分が泣いていたことに気付いた。
「ひろゆきちゃんは、死んじゃだめだよ……」
「……あかり?」
「私、もうだめだけど……ひろゆきちゃんには、生きてほしいよ……」
「……馬鹿、お前がいなくて、生きてる意味なんかあるかよ!」
 浩之の叫びに、あかりはゆっくり、首を横に振る。
「ひろゆきちゃんは……たくさんの人を助けられると思うんだよ……
 ひろゆきちゃんがいれば……私みたいにならなくてすむ人が、きっといるんだよ……
 だから……しんじゃだめだよ……ひろゆきちゃん……」
「無理だ……そんなの無理だ! お前一人守れない俺に、守れる誰かなんて……っ」
 必死で、あかりの言葉を――目の前の現実を拒絶しようとする浩之。
 あかりは、そんな浩之に、精一杯の笑顔を向けて。
「ひろゆきちゃんは、やればできるんだよ」
 そう言った。
「だって……それが私の大好きな、ひろゆきちゃんだもん……」
 そう言って。

 あかりは、瞳を閉じた。

10こぼれ落ちた砂(2/2):2003/03/26(水) 08:40
「……あかり? あかり?」
 かくん、とあかりの首が、横に倒れる。
 伸ばされていた手が、とさりと落ちる。
 まるで、魂が抜けてしまったかのように――腕の中の身体が、軽くなる。
「あかり――」
 しばし呆然と、浩之はあかりの穏やかな顔を見下ろして。
 それはまるで、安らかな眠り。無垢な眠り。
 ――それはもう二度と、目を覚まさないのだけれど。

 次の瞬間。
 静寂の中に響きわたったのは、一人の少年の慟哭だった。




 ――そうして、どれだけそのままでいただろう。
 涙の乾いた頬もそのままに、あかりの亡骸を抱えて浩之は立ち上がった。
「……あかり」
 その、冷たく乾いた唇に、最後の……本当に最後のキスをして。
 浩之は、歩き始めた。

 砂時計からこぼれた砂を、必死で探し求めるかのように。
 大切なものの亡骸を抱えて、さまよう少年。
 彼の行き着く先はどこなのか。
 知るものは、いない。


【025 神岸あかり 死亡  残り46人】

11RDFX(仮):2003/03/26(水) 08:46
以上3話です。つーかこんなので良かったんでしょうか(汗
私なんぞの作品で良ければまた何か書くかもしれません。
でわ〜

12神臣鈴音:2003/04/09(水) 20:12
新参者です。神臣鈴音と申します。
どうしても書いてみたかったので、エンディング後…です。
色々突っ込みどころはあると思いますが、勘弁してください(汗

13Farewell Song:2003/04/09(水) 20:13
七人を労わる様に、雨は柔らかく降り注いでいた。

かつて想っていた夢や希望、そして人々。
それらはあたかも簡単に消え去っていった。
ひゅうっ、と。まるで風に飛ばされたように、あっさりと。
愛惜が無いといえば嘘だろう。
でも。
風に飛ばされたのなら、また新しくつかまえればいい。
あの島で散った人たちの、その意思を継ぐ事。
あるいは、その人たちの分まで背負って生きていく事。
そして、自分たちの夢を追いかける事。

走り続ける。決して、止まったりなんかしない。
それだけを想っていた。


どのくらいの時間そうしていたのだろう。既に辺りは夕焼けの紅い光に包まれていた。
「へくしっ」
椎名繭が小さくくしゃみをする。
「みゅー…寒い…」
「確かに…ちょっと冷えてきたかも……ぶえっくしょい!」
七瀬留美がそれに継いで――あまり小さくとはいえない――くしゃみをする。
「何が『乙女志望』よ。それじゃまるっきりおっさんよ」
巳間晴香はそれを見てくすりと笑いそう揶揄った。
少しむっとした表情を見せた留美は、すぐさま切りかえした
「うるさいわよ、ブラコン」
晴香もむっとした表情を見せた。
「何よ」
「あんたこそ」
「「やるか?」」
二人は少々ドスの効いた声でハモった。
二人の間から滲み出るもの凄いオーラに周りの人間が一歩下がる。
「うぐぅ…ケンカはダメ…」
月宮あゆが、やっと、という感じで二人を制する。
その声に留美と晴香がギロリ、と視線を向けた。あゆがうぐっ、と妙な声をあげて一瞬硬直した。
そして二人は、ぷっ、と吹き出した。
「冗談よ、乙女はこんなことでキレたりはしないのよ。悪いわね、晴香」
「こっちこそ、七瀬」
張り詰めた空気が一瞬にして和み、全員がホッとした表情を見せる。
「そろそろ戻ろう、このままじゃ風邪引くぞ!」
柏木耕一が全員をそう促すと、七人は急ぎ足でその場を立ち去った。
雨はまだ霧の様に降っていた。

14Farewell Song:2003/04/09(水) 20:13
「うわ、びしょびしょ…」
鶴来屋の玄関をくぐるなり、観月マナがそう漏らす。
「よくあんな雨の中ずっと黄昏てたわよね、わたし達…」
「どうする? ウチは旅館だから泊まっていってもいいわよ」
柏木梓が皆に向かって提案する。
「待ってよ、私達そんな余分なお金持ってきてないわよ」
留美がそう返すが、梓はにっこり笑ってそれに答える。
「大丈夫よ、お通夜の費用の一環として工面するから」
「おい梓……ま、いっか」
耕一もそれに同意する。
そしてそれを聞いたあゆが一気に表情を明るくさせ言った。
「じゃあ、今からお料理の準備するからみんな食べてね!」
しかし、他の六人は薄く苦笑いを浮かべるだけだった。
「うぐぅ…」
あゆは不満そうにそう呟いた。



結局、料理は梓が担当する事になり、あゆも手伝ったが鍋から黒い煙がもくもくと立ち昇り大騒ぎになった。
そんな賑やかな夕食が終わり、風呂を済ませ、食器などを片付けた大部屋に集まった。
耕一が何気なしにテレビのリモコンのスイッチを入れた。
ブラウン管から流れてきたそれは特別番組だった。
映ったのは、ステージに立ち煌びやかな姿で歌う、森川由綺の姿だった。
『森川由綺メモリアルライブ』
そんなテロップが画面の端っこに見える。
由綺が歌い終えると、巨大なモニターの前に、タレント数人とアナウンサーが座っていた。
司会者と思しき初老のタレントが、重苦しい顔つきでこう告げる。
『失踪した森川由綺さんの最後のライブ、いかがだったでしょうか』
そして、いろいろな事をその場のタレント達が話し合う。
リクエストのファックスの画像なども映った。
そして最後に副司会者の女性アナウンサーが告げる。
『ではお別れに森川由綺さんで『WHITE ALBUM』、お聞き下さい』
アップで映った由綺が歌いだす。
――やがて、スタッフロールと共に歌はフェードアウトしていった。
沈黙がその場を支配した。
やっとの事で梓が口を開く。
「そっか…あの島での事は誰も知らないんだね…私達以外…」
「失踪…か」
留美が遠い目をして呟く。
――瑞佳も、折原も。きっとそういう事になっているのだろう。だって、まだ欠席扱いではなかったか。
「いい気なもんよね」
マナのその棘のある声に、一同の目が集中する。
「勝手に大スターだなんだってお姉ちゃんを祭り上げて時間を奪って、いざ居なくなったら失踪した大変だって言うくせに真相を知ろうともしない。そしていつか忘れてしまうの」
マナは俯いたまま続ける。
「所詮、そんなものなのよね、芸能界って。ううん、人間って」
その時、マナの身体がぶるりと震えたような気がした。
泣いているのか。
「マナちゃん…」
耕一が声をかける。それ以上そんな悲痛な言葉を聞きたくなかったから。折角あの場所で、別れを告げたのだから。
しかし、マナの口から出た言葉は、そんな物ではなかった。
きっ、と頭を上げたマナの目に涙は無かった。その瞳には強い意思が溢れていた。
「でも、私は負けない。絶対に医者になって、強い人間として生き続ける。お姉ちゃんのためにも、藤井さんのためにも、先生のためにも。それが私の誓い」
――わたしは、わたしだからね。
マナだって、強い人間の一人なのだから。
「そうだよな」
耕一は一言だけ呟く。
「さっさとチャンネル変えてよ。辛気臭いじゃない、なんか面白い番組やってないの?」
留美がそんな空気を吹き飛ばすかのように、いつもの口調で耕一に指示する。
めんどくさそうに耕一が変えたチャンネル。
映画をやっていた。フィリップ=マーロウが主演だった。
『長いお別れ』だった。
あの島で死んだ親友、七瀬彰の大好きな作品だったが、そんなことは耕一が知る由も無かった。
そして留美も、浩平に揶揄われた独り言を思い出した。
なんだか、懐かしかった。

15Farewell Song:2003/04/09(水) 20:14


その晩、繭は夢を見た。
瑞佳と、浩平と、留美と。
死んでしまったフェレットのみゅーを埋めていたところを手伝ってくれた浩平と瑞佳。
制服を貸してくれて、いつも髪の毛を引っ張って遊んでもらった七瀬。
そして、お別れの時に貰ったたくさんのてりやきバーガー。
あの時の思い出がいくつもフラッシュバックされる。
そんなとき、目が覚めた。
「みゅー…トイレ…」
そんな理由だった。
ふらふらと起きだし、きぃ、と軋んだ音を立ててドアを開ける。
その途端、人影が目に映った。
「うぐぅぅううー!!」
人影が大きな声をあげたので、繭はとてもびっくりしてしまった。
「みゅー!!!」
先を争うように二つの人影は、奇声をあげながらどたばた走っていった。
月の光に照らされてようやくお互いがあゆと繭であることを認識した時は、既にトイレのドアを通り過ぎた所だった。

「繭ちゃんだったんだ、ボク、すごくびっくりしたよ…」
「みゅー…びっくりした…」
トイレを済ませた二人は大騒ぎの末、完全に目が覚めてしまったので、廊下の縁側に腰掛けてすこし話し合うことにした。
あゆもトイレに起きたのだが、何分暗いところが大の苦手のあゆにとって鶴来屋の長い廊下は未だに慣れない。
そこに繭が丁度ドアをあけたから、幽霊と勘違いしてあの大騒ぎである。
誰か起きてしまわないか心配だったが、その気配は無いようだった。
あゆは、ちょっとした既視感を覚え、くすりと笑った。
「みゅ?」
その顔をみた繭が、不思議そうに首を傾ける。
「ううん、なんでもない。ちょっと思い出したんだ」
「みゅー?」
あゆは目を反らして空を見上げる。繭もそれに倣う。
「あのね、祐一君覚えてる?」
「うん」
繭は頷く。
性格反転している間、相沢祐一と行動を共にしていたのだから。
そして、その祐一はあの島で死んだ。里村茜を助けに行って崖から落ちて――そこからどうなったか。
「ボクはね、祐一君の家に泊まったことがあったんだよ。それで、ボクその時も今みたいにトイレに起きたんだ。そしれで祐一君の部屋の前を通った時に、ちょうどドアが開いたんだよ。ボク、とてもびっくりしたんだ。そしたら祐一君もトイレに起きてたんだよ。なんだか凄い偶然だなって」
そこであゆがいったん言葉を切った。
「夢を見たんだ。それでね、そのときのこと、色々思い出したんだよ。…祐一君、秋子さん、名雪さん…うぐぅ…」
切なそうに呟いた。
「わたしもね」
繭が笑顔であゆの顔を見上げる。
「ゆめをみた。こうへいさんと、みずかさんと、ななせさん。みんなで、いっしょにがっこうにかよったの」
まるで本物の母親のようだった瑞佳。
どたばたと一緒に大騒ぎした留美。
そして、子供だった繭をしっかりと躾けてくれた浩平。
「すごく、なつかしかった」
そしてあゆと繭は、月明かりに照らされながら、自分の想い出を二人で代わる代わる語っていった。

――もう、どんなに目を擦ってもあの頃の優しさは戻ってこない。その目には映らない。
  自分達の夢に向かって、一人で、一歩ずつ、一歩ずつ。踏み出していく。

そして、何度か思い出にふけった後、二人は寝床に戻っていった。



そして、翌朝。
朝ご飯を終えて、そろそろ帰り支度をしようかというときだった。
「みゅー」
繭が何かを見つけて、庭の隅に駆け寄った。
「どしたの? 繭」
留美がそれを追いかける。すると、そこには紅い実をつけた花が一本植わっていた。
「何の花?」
「みゅー…知らない…」
すると梓が横から覗き込んで、ああ、とそれに答えた。
「ほおずきね…もう夏だから」
そよ、とほおずきが風に少し揺れた。
「みゅー…」
繭が留美を見上げる。摘んでいい? とその顔にはしっかり書かれていた。
「ダメ、もって帰るのが大変じゃない」
留美は、それを却下した。
「それに、折角生きてるんだから、ね?」
にこりと笑って、繭に諭す。
それは、まるで子供に優しく言い聞かせる母親のようだった。

――その顔が、一瞬瑞佳のものに見えた。そんな気がした。

私は瑞佳のような乙女にはなれないかもしれない。
けど、この優しさはちゃんと覚えているから。

――いつか知ったこの優しさは、きっとまた同じ風景を見せてくれる。

16Farewell Song:2003/04/09(水) 20:14


そして、正午を少し過ぎた頃、そろそろ解散しようということになった。

晴香は、昨日塀に突っ込んだバイクを、門の前に出していた。
元々荷物は少ないから、今すぐにでも出発できる。
けれど、何故かそれがなんとなく躊躇われた。
晴香はバイクをそこに置くと、いったん鶴来屋の玄関に戻った。
「あれ? 晴香、もう行くんじゃないの?」
丁度玄関に現れ、支度を済ませた風の留美が訊く。隣りには繭が玄関の段差に座っていた。
「ちょっと忘れ物」
ふぅん、と留美は納得した風に下駄箱から靴を取り出す。
晴香はその隣りを抜けて、いったん自分の部屋に向かった。
――忘れ物なんてなかった。
だから部屋には戻らず、そのまま廊下を歩く。
その壁を、床の木目を、窓の外を、庭を、何気なしに見渡しながら歩く。
ぼんやりとしていたら、ふぁぁ、と欠伸が漏れた。

――昨日、なかなか寝付けなかった。
郁末と、由依と、あの二人と一緒にここに泊まったらどんなに楽しかっただろう?
吹っ切ったはずだったのに、ちらりとそんなことを考えた。
柄でもない、と思った。でも、それは止まらなかった。
3人で露天風呂に浸かって、由依をいつもの貧乳ネタで揶揄って、浴衣姿で町を歩いて、豪華な夕食を食べる。
そして、川の字になって3人で寝る。
それができたら、どれだけ楽しかっただろう。
そんなことを考えていて、やっと眠る事が出来たのはもう3時くらいだったような気がする。

とてて、と廊下を走る音が聞こえて晴香は我に帰った。
すると廊下の角から丁度あゆが走ってきたところだった。
そのショートカットにカチューシャの姿が、一瞬だけ、ほんの一瞬だけ由依と重なったような気がした。
「あれ、晴香さんどうしたの?」
あゆがきょとんとしたように訊く。
「ううん、なんでもないの」
晴香はその幻想を追い払うと、踵を返して玄関へ戻り始めた。
「早く行こうよ、みんな待ってるよ」
そう言ってあゆも、とてとてと付いてきた。
晴香にはその意味がわからなかった。

玄関へ戻ると、後からついて来るあゆ以外の全員が集まっていた。
どうやら、全員帰り支度を済ませたらしい。
マナは、何故か頭にぴろを乗せていた。
「お、全員集まったな」
耕一がやっと、という感じで言う。
「どうしたの? まだ出発してなかったんだ?」
晴香が首を傾げて聞く。
耕一がにっ、と笑い、カメラを取り出した。
「どうせだから、記念写真撮ろうと思って」
すると、他の全員は靴を履いて立ち上がった。
晴香もなんとなくそれに倣った。

写真はすぐに撮り終った。
「現像したら、焼き増ししてすぐに送るよ」
梓がカメラの脚立を片付けながら言う。
「みゅー、たのしみ」
繭が嬉しそうな声をあげる。あゆも似た様な顔をしている。
「あ、でも晴香さんの住所は?」
あゆが何気なく言う。
耕一と梓もすぐに気づいた。晴香はバイクの旅を続けているから普段どこにいるのかわからないのだ。だから招待状を送っても届かなかった。
しかし、晴香はゆっくり首を振っただけだった。
「私の分はいいわ。ここの玄関にでも飾っておいて」
「でも…」
「そうよ晴香、どうせだから受け取っておきなさいよ」
耕一と留美が声をあげる。
しかし、晴香はもう一度首を振った。
「私は、良祐も、郁末も、由依も、誰も居ない生活は耐えられない。だから旅に出ることにしたの。生きる目的を見つけるために」
その場を沈黙が支配する。
晴香はいったん言葉を切ると、髪を掻き揚げ後ろにやった。
「私はここに来て、郁末たちと一緒に遊んでる私を思い浮かべた。楽しい想像だったけど、やっぱり哀しかった。もういない、って分かってるのから」
だから。
「あの島での出来事も、今までの思い出も、全部この場所に置いて行く。それが私の決着のつけ方。そうしないと、きっと私は前に進めない。
――もし踏ん切りがついて、私が生きる目的を見つけられたら、その写真は、その時に貰うわ。だから、今はいらない」

「そっか」
耕一が納得したようにぽつり、と呟く。
「じゃあ、その時になったら電話でも手紙でもいいから、ちょうだいね」
梓もそれに同意する。

「あっ! もうこんな時間!」
そして、留美の大声でその場の空気は一気に変わった。
「ええっ!? 早くしないと電車に乗り遅れちゃう!」
マナも腕時計を確かめ、慌てた。
「足立さんに車出してもらうわ、急いで乗って乗って!」
梓がカメラを担いで玄関をくぐる。
晴香は、クスッと笑った。

17Farewell Song:2003/04/09(水) 20:14


絶対に振り返らない。
もう折原とどつきあうことも、瑞佳の優しさに触れることもないけれど。
私は、私の乙女の道を歩むのだ。
だから――



こうへいさんも、みずかさんもいない。
ななせさんはいるけど、ななせさんはともだち。
おかあさんのようだったみずかさん。
おとうさんのようだったこうへいさん。
でもわたしは、もうひとりであるいていける。
だから――



医者になる。そう決めた。絶対にこの意思だけは曲げない。
できるだけたくさんの人を助ける。
そして、霧島先生のような、尊敬されるようなすばらしい人間になる。
お姉ちゃんも藤井さんも絶対に忘れない。
だから――



当てのない旅。
もう良祐にも郁末にも由依にも会う事はない。
その想い出は、この場所にそっと置いておく。
私は進む、誰にも負けずに。
だから――



ボクはたくさんの友達と好きな人を失った。
でも、その代わりにたくさん大事な物が出来た。
もうそれを二度と無くしたくない。
祐一君、秋子さん、千鶴さん。
ボクはそのために強くなる。
だから――



もう私に姉妹はいない。
今度会えるのはいつになるだろう。
もの凄く後。ひょっとしたら、永遠に会えないかもしれない。
それでも構わない。私は私で生きていく。
私は大事な人間を忘れるほど薄情じゃない。ずっと、いつまでも大好きだから。
だから――



大切な仲間が居る。
そして今、その仲間達はまた離れようとしている。
それでも、俺たちの絆は絶対に切れる事はない。
永遠に。
俺たちが生き続ける限り。
だから――



バイクのエンジン音と、車のエンジン音が重なって、賑やかな温泉街に響く。
「今度はいつ会えるかな…?」
あゆが寂しそうに呟く。
「また今度の休みに遊びに来るから、そんな顔しないの!」
留美がエンジン音に負けないくらいの声をあげてあゆを励ます。
「みゅーっ!」
繭も満面の笑顔で手を振る。
マナも、ぴろを頭に乗せたまま窓から顔を出す。
「それじゃあ、私行くね」
晴香がバイクをふかす。
「ああ、手紙待ってるからな!」
耕一もエンジン音に負けじと大声を張り上げる。
「それじゃあね! みんな!」
梓の大声を合図に、車のドアが閉まり、晴香のバイクのエンジンがうなりを上げる。


そして、あの島での物語は終わりを告げる。
そう、終わりは別れとある物だから、全て置いて行く。
雲に隠れていた夏の太陽が顔を覗かせ、辺りに光が満ちた。
彼らの新しい物語は、ここから始まる。

そして、最後の言葉は。


『さようなら』

18Farewell Song:2003/04/09(水) 20:16
長いですね・・・こんなに長くする必要はあったんでしょうか?
『鳥の歌』をラストに持ってきたのに痺れたので、どうしてもFarewell Songでもやってみたかったんです。
それでもKanonとAIRしか知らず、ONEは小説しか無くて、
leaf作品はキャラしか知らないという強行軍でしたけど…
とりあえず、この辺で…ではまたー・・・

19源氏丸:2003/04/13(日) 16:56
こんにちは、源氏丸と言います。
095話からのアナザー書いてみました。
いや、アナザーと言うよりかは千鶴さんの内面を書いてみたのですが。

20私が私でいるべく、いられるべく:2003/04/13(日) 16:58
私が無理をしているのは昔からだったと思う。
会長になってからもう3年になるが、相変わず無理をしている。
いいえ、相変わらずならもっともっと昔から。
「会長、大丈夫ですね?」
にっこりと、だけど心もとなげに笑う老人。
足立さん。私の、私たちのおじいちゃん。
「はい、大丈夫です。足立さんがいなくなるのは、本当は不安なんですけど、でも、いつまでも頼りっきりじゃいけないですもんね」
我ながら完璧な答え。足立さんに心配をかけたくないから。
「うん。今のちいちゃんなら、もう押しも押されぬ会長だ。安心して僕も引退できる」
足立さんが、笑ってそう言う。
入社してから、もう四十年。足立さんは僕も十分に働いてくれました。
もう、休息の時。
安心して休んでください。
「お体に、気を付けてくださいね」
「無論、そのつもりさ。また、ちょくちょく訪ねて良いかい?」
「勿論です。妹たちも、心から歓迎しますよ」
足立さんは最後まで優しい笑みを浮かべたまま。
ずっと、ずっとそうだった。
今も昔も変わらない。
「ありがとう。それじゃ」
彼はは自分の身の回りの道具を入れたバッグを、脇に抱えた。
私は、その様子をじっと見つめる。
その眼差しに、ゆっくり背を向ける。
「…足立さん」
「うん?」
「今まで、本当にありがとうございました。あなたがいなかったら、今の私はないでしょう」
目を瞑ってそう言った。
「そんな事はないよ。…でもね」
足立さんが答える、感情を抑えて答える。
目を瞑っているけど、私にはわかった。
「出来る事なら、ちいちゃんの側に一瞬でも長くいたかったな」
「足立さん?」
「…賢治さんが、いなくなった後」
私が目を開ける。視線が一瞬ゆらぐ。視線が横へ。

「ちいちゃんの側には、誰もいなかったから」
「そんな事はありませんよ。会社の皆さんがいましたし、妹たちも…」
必死になって答えるけれど、足立さんは首を振る。
「…ちいちゃんが、ちいちゃんでいられるようにしてくれる人が、だよ」
足立さんは、辛そうに目を伏せながらこう言う。
だけど、最後なら、言わなければならないから。
私は聞かなくてはならないから。
「勘違いしないでね、ちいちゃん。僕がそういう人間だと己惚れるつもりはないよ。でも、少しでも力になれたら、って思ってた。不遜だけどね」
「…」
「他の三人も、きっとそう思ってたと思う。だけど、ちいちゃんは一人で頑張りすぎてる」
私は笑う。足元を見る。
そう、私は泣かない。
「でも僕は、ちいちゃんにとっては「目上の人」だった。だからこそ、ちいちゃんも気が楽みたいだってのは分かったよ」
私は何も答えない。だから、しばらく間を置く。
「でも、今日から君に意見したり、命令したりする人はいなくなる。それは、ちいちゃんが、会社でも全責任を負う、って言う事だよね」
「はい、…そうですね」
「その時を少しでも後にしてあげたかった。…本当に不遜で傲慢だと思うけど、そう思ってた。でも、それじゃ、僕が邪魔になる時が来る。僕も永遠に生きていられるわけでもないしね」
「足立さん…」
「でもね、ちいちゃん。僕みたいな老人じゃなくても、君と責任を分かち合ってくれる人は、絶対いるはずだ。変な事を言うようだけど…」
「…」

「探すんだよ、ちいちゃん。そういう人を」
私はその言葉を肯きながら聞いていた。
でも、それは心の奥には届いてこない。
頭では分かってるのに、心では。
「老婆心、って奴だけどね。説教になっちゃったけど、それじゃ」
「足立さん。ありがとうございました。傲慢とか、不遜だとか、そうは思いません。本当に、私に良くしてくれて…」
「ちいちゃん…」
私の声が震えて、聞き取れなくなる。でも、涙はない。
私は、泣かないのだ。
あとはもう、どちらも何も言わなかった。
足立さんは、会長室を出ていった。
今日付けで、彼は定年退社する。
――本当に、ありがとうございました。
私は足立さんの出て行った扉に頭を下げた。

21私が私でいるべく、いられるべく:2003/04/13(日) 16:59
「こちら側に回って、平和ボケしている連中を一緒に殺しませんか?」
この島に送られて私が佇んでいると、男がやって来た。
「―――やっていただけるんでしたら、せめてあなたの縁者の 方々だけでも命を救って差し上げましょう」
私の縁者―――初音、楓、梓、そして耕一さん。
助かる、なんという魅力的な言葉だろう。
「―――姉妹思いのあなたのことです―――」
それは違う、いや、あっている?
私が姉妹思い?
そうかもしれない。
だけど、そうであっても、それは偽善。そう、私は偽善者。
「―――もちろん、それでもご家族の命は保障しますよ。でもまあ、あんまり決断が遅いと誰か亡くなっているかも知れませんがねぇ―――」

私は何?
私は鬼。狩猟者。そして偽善者。
『…ちいちゃんが、ちいちゃんでいられるようにしてくれる人が、だよ』
私が私でいるということ。
それは私が狩猟者でいるということ。

『探すんだよ、ちいちゃん。そういう人を』
私が偽善者でいるということ。
それは姉妹思いの姉でいるということ。

『ちいちゃんの側には、誰もいなかったから』
私の側に居てくれる人がいるならば、それは耕一さん。

そう、私が私でいる為の人たちを助ける。
私が偽善者で居る為に、私は狩猟者になる。

22私が私でいるべく、いられるべく:2003/04/13(日) 17:00
私は爪を両手に装着していた。
最も私に馴染んだ武器。
馴染むというのは、手にしっくり来ると言うのでは無く、もっともっと根本的に―――
「――――え?」
気が付くと、目の前に女性が佇んでいた。
本当に今日は訪問者が多い日。
私は、そっと両手の爪に視線を落とす。
「え、えーとこんばんわ?」
そしてまっすぐ、その人を見る。
心中で自分に問いかけながら。
私は何?
「あのー……」
そして、答える。
私は狩猟者。
「……こんばんわ」
それを聞いて、相手は、ほんの少し安堵したみたいだった。
この人は人殺しじゃない、とでも思ったのかしら。
私はもう一度、先ほどの問いを繰り返す。
私は何?
「えっ?」
気が他所に向いているを、私は一気に十時切りにした。
「そん……な」
私は、そんな彼女を眺めながら問いに答える。
私は偽善者。

月光が私を、そして爪を照らす。
そして滴り落ちる血を。
私は月夜の森を走り出した。
偽善者であるべく。
姉妹を、従兄弟を助けるべく。
そして、狩猟者であるべく。

23源氏丸:2003/04/13(日) 17:05
どうも、源氏丸です。
千鶴さんが殺人者として動き出した動機などを考えて―――というか、捏造してみました(笑
出来れば以降も千鶴さんの行動をトレースして書ければなぁ〜と思っております。
ま、それはそれで別の話、今回は三話完結です。
読んでくださった方には『感謝感激、雨あられ』です。

24解き放たれる想い:2003/04/19(土) 18:44
「実に心地よい……」
神奈の声が聞こえる
「自分に近い体を再び持てること……」
自分の体に容赦なく降り注ぐ攻撃
「その、なんと心地よいことか……」
いつまでも避けられるものではない
「わかるか? 無力な人よ……」
わかるわけがないだろう 人なのだから。

衝撃が体を貫く。
意識が飛びそうになる。
気絶することなど許されない。 許されるはずもない。
自分に課せられた仕事はまだ終わってはいないから。

左腕を貫かれた感覚があった。
神奈の放った光の矢。
次いで右の脚、右肩、腹部。
体がうつ伏せに倒れる。

まだ終わらないのか。
発動まであとどのくらいなのか。
どのくらいの間時間を稼がなくてはならないのか。
もう…動けない…

「そんなに後ろのそれが気になるか?」
ハッと、顔をあげた。 なんだ、まだ動ける。
「余は先程の女の記憶も覗いておる。そう驚く事はないであろ。
 あの女がおぬしに希望を託したことも知っておるぞ?
 ……残念よの」
体の中で何かが沸き起こった。
霹靂のような、業火のような激しいもの。
――怒り。
「それは余にとってあまり好ましくないものであるそうじゃ。
 いっそおぬしの命を奪う前に、片付けて――」
「やめろ」
「……そう言うと思ったぞ。
 そこで、余がおぬしに一つ機会を与えてやろう。
 余がそれを破壊することをその場で見届けるなら、余に手をあげたことは水に流す。
 おぬしの命は、今は見逃そうというわけじゃ。
 それができぬなら、おぬしを殺したすぐ後にそれも一緒に破壊してくれよう。
 どうじゃ、面白いであろ。五つ数える間に自分で決めよ」

25解き放たれる想い:2003/04/19(土) 18:44
 選択肢は始めから一つしかない。
「五つ……」
 だが、本当にそれだけでいいのか。
「四つ……」
 格好をつけて、あっさり、楽な死に方をしてもいいのか。 
「三つ……」
 いい筈が無い。
「二つ……」
 最後の最後まで醜く足掻いて足掻いて足掻いて…
「一つ……」
 それから死んでやる。
「俺を先に殺せよ」
「……それの時間稼ぎを選んだか。
 余の問いかけに時間を置いて応えたのも、時間稼ぎの一つじゃな。
 自分の命を捨ててでもというわけじゃ……」
「……」
「いい心構えと言うておこう。
 だが、それが、余にとては実に「……それの時間稼ぎを選んだか。
 余の問いかけに時間を置いて応えたのも、時間稼ぎの一つじゃな。
 自分の命を捨ててでもというわけじゃ……」
「……」
「いい心構えと言うておこう。
 だが、それが、余にとては実に不愉――」
跳ね起き観鈴の――神奈の顔に拳を飛ばす
大人しく死んでやるつもりなど無い


体が動く。
当たり前だ、生きているのだから。
動かなくなる時は、それは死ぬ瞬間。
神奈の起き上がり様を蹴り飛ばす。
『なかなかの意志力。もしかしたらこのまま余を滅ぼせるかもしれぬぞ?』
神奈の言葉が頭をよぎる。
意思力で――
倒せる。倒さなくてはならない。
「おのれ――図に乗るなッ!」

光が体を貫いた。
まだ――動け―――

26解き放たれる想い:2003/04/19(土) 18:45
「ええい、忌々しい!」
重症であったのに自分に殴りかかってきた力はなんだったのか。
そして、あの意思力。
鳥肌が立った。
「死んでいるであろうが、駄目押しは刺しておくか――余への侮辱の罰としても。」
『ダメ・・・だよ』
「ッ!!」
『これ以上、誰かを苦しめちゃ、ダメ。』
「消えろッ!! この体は最早余のものなのだぞ!!」
『北川さんを巻き込んじゃダメ。北川さん、いっぱいがんばったから
 いっぱいいっぱい、大変な思いして、悲しい思いしたから』
「五月蝿いッ! お主から消してくれる!!」
自分の内へ精神を集中した。



天井を見ていた。
流れる血が力をも押し流してゆく。
ぼんやりと、顔が浮かぶ。
沢山の顔。
クラスメイト、従弟、島で出会った人達――
まだ早い
まだ来るな!
まだ迎えは要らない!!


「やっと消えおったか・・・ 自分に近い体だけあってしぶといの。
 次はあの男を――」
言葉が途切れた。
見たものは、死人が立ち上がった光景。
何故立てるのか。
何故あれほどの傷を負って死なないのか。
腹も、腿も、足も、腕も、肩も、胸にも穴が空いているというのに――
「うわああああ!!」
背筋が凍る。 恐怖。
恐怖に駆られ、狙いも録につけずに光を乱射する。
更に傷つきながらも、北川は一歩、一歩と距離を詰め――


ぽすっ


神奈の頬に拳が触れる。

神奈を倒す、倒す、倒す倒す倒す倒す倒す――
観鈴を助ける、助ける、助ける助ける助ける助ける助ける――
CDを発動させる、させるさせるさせるさせるさせるさせるさせる――

莫大な意思が神奈の中に流れ込んで――


涙が出てくる。
自分にもこの意思力があれば、
大切な人を失わなかったかもしれなくて。
自分の弱さが憎くて、悔しくて。
『だいじょうぶ、だよ』
――またか。
『会えるよ、大切な人に。いっしょいこう。 
 多分、私の大切な人もそこにいるから。』
――どうやって。
『そらがいるよ。そらが連れて行ってくれる。空の向こうまで。』
お主の良きにせい。
『にははっ うんっ』



【神尾 観鈴 神奈備命 そら 消失】
【北川 潤 死亡】
【CD発動せず】

27れの:2003/04/19(土) 18:49
えーと、843話のアナザーです。
北川があれで逝っちゃうのは個人的に惜しいと思ったので・・・
これはちょっと活躍しすぎな気もしますけどね(汗
でわ。

28償い:2003/06/22(日) 01:00
「これ受け取ってくれよ」
「これ……瑞佳のリボン?」
 瑞佳のしていた黄色いリボン。
「お前は生き残ってくれよ……七瀬」

 どこか遠くで声が聞こえる。
 それは随分と懐かしい声だった。
 幼い頃からいつも聞いていた声、
 朝になれば俺はいつもこの声に起こされて、
 どたばたとしながら学校へ向かう。
 そこにはいつもと変わらない友達が居て、
 いつもと変わらない日常が待っていて、
 俺はいつもどうり居眠りや悪戯にいそしむ。
 それは永遠に続くような、平穏な世界。

「悪いな永森、また約束守れなくて」
もう、何も見えない。何も聞こえない。そんな空間。
俺は、その先にいる誰かに語りかけるように呟く。
「本当なら、ずっと後に会う約束だったのにな、結局、戻ってきちまった。」
苦笑いを交えながら話しかける。闇の向こう。
彼女は寂しそうな、それでも穏やかな笑顔でいてくれるのがわかる。
「リボン、七瀬に渡した。あいつなら…」
そこまで言葉を繋げて、若干言葉に詰まった。
本当なら、そんな身勝手な事は言いたくなかった。その言葉が、自分の
責任を放置した勝手な言葉だとわかっていた。
「あいつなら、きっと俺たちの日常に持っていってくれるから。」
だけど、信じた。アイツは強い。きっと俺なんかよりもずっと。
アイツなら、きっとこのゲームに生き残って「なめないでよ、七瀬なのよ、
私」なんて言いながら勝ち誇ってくれると信じてる。
きっと、俺や瑞佳の思いを。あの場所へ持って行ってくれると信じている。
「なぁ、永森。俺この狂ったゲームの中でも信頼できる人を見つけたんだ。
 七瀬は今、その人達と一緒にいる。七瀬なら、きっとこのゲームに生き残
 ってくれるさ。だからな―」
目を開けて、しっかりと瑞佳を見ようと思った。この真っ暗な闇の中で、そ
れでもしっかりと目を開けて。
『なんだか、今度は七瀬さんの話ばっかりだね。』
困ったような笑い。いつもの瑞佳がそこにいる。
「悪いな、言い訳がましくて。」
その顔を見て、なんだか照れくさくて。俺も笑いが零れる。
俺が求めていた日常はそこにあった、俺が求めていた幸せは―
『いいよ、だって浩平と私の永遠はここにあるもん。だからね―』
瑞佳が笑う。この川を渡る前に、ちゃんと伝えておいでっと笑っていた。
俺は少しだけめんどくさそうに頭をかく、照れくさいのか、それとも
わざとなのかはわからない。でもそれが俺達の日常だから―

「折原……折原ぁ」
いつも強気の癖に、そういうところは乙女らしいな。そんなことを思
う。でも、それを認めることは俺達の日常じゃないから。
最後の力を振り絞る。のどが焼けるように熱い、それでも伝えないと。
俺達の日常を、俺と七瀬の最後の日常を。
「いいか……漢と漢の約束だぜ」
 眠る前の耕一との約束を破っておいてよく平気でそんな事が
 言えたもんだと自分で呆れたが、そう言って精一杯の笑顔で
 七瀬を見た。
 最後までお前に怒られてばっかりだったなぁ……

 最後の日常を終えて、川を渡る。
 これから始まる永遠の中で、俺は瑞佳と一緒に。
 無二の親友を待とうと心に決めた。
 いつかの三人の日常へと、帰れるように。

十四番 折原浩平死亡
【残り35人】

29死神:2003/06/22(日) 01:05
ハカロワのアナザー、どうしても書いてみたくて書いたんですけど。
やっぱり難しいですね。っというかまだ最後まで読んでないので似
たような箇所が後半であったらどうしようかと不安に思いながら書
いてたりします(滝汗)
個人的に二巻で瑞佳が死んでしまった瞬間に、あぁもうあの三人は
あの日常には帰れないのかってすごい悔しかった思い出があって。
折原が死ぬ瞬間に、少しその話があったらなぁっと思って書いてみ
ました。(^^;

30名無しさんだよもん:2003/07/14(月) 10:18
永森 ×
長森 ○

31あゆの観察日記:2003/08/19(火) 17:46
9月1日 晴れ

長い長い夏が終わりかけている
あの日のあと柏木耕一さんと梓ちゃんの家でお世話になる
千鶴さんの妹としてくるはずだったけど
僕は僕の居場所をくれた二人に感謝した

そしてこの日記を書く3日前
洗濯するからと梓ちゃんにお気に入りのダッフルコート
を渡した時ポケットから一つの種が落ちた

それはおじさんが死んじゃうとき僕に残してくれた物

次の日、耕一さんに頼んで植木蜂とかの栽培セットを買ってもらった
そして今日、なれない手つきで僕は種を植えた
何の植物が咲くかはわからないけど楽しみだな♪

32あゆの観察日記2:2003/08/19(火) 17:50
9月23日 曇り

毎朝欠かさず水をあげたり話し掛けていた種が芽を出した
10日もしないうちに僕は芽が出なくって心配になって
何度も何度も耕一さんや梓ちゃんに大丈夫かな?
って聞いていた
そのたびに二人と笑って大丈夫だよって言ってくれた
生えたばかりの芽は昨日の夜の雨のうちに出てきたのか
露がついていてそれらがキラキラ輝いていて綺麗だった

33あゆの観察日記3:2003/08/19(火) 17:53
10月10日 晴れ

うぐぅ、前の日記より随分と日があいちゃった・・・
芽はとても成長が遅い
ひょっとしたら木みたいに大きくなっちゃうのかなぁ?
今は10cmほどの大きさに育っている
いったいどんな植物に育つのか楽しみだな・・・

34あゆの観察日記4:2003/08/19(火) 17:59
12月1日 雪

朝起きてすごーく寒くて外を見たら雪が降っていた
雪を見ると昔いた街を思い出す
絵を書くのが好きだった栞ちゃん
ピロっていう猫といつも仲良しだった真琴ちゃん
無口で怖いけどほんとは優しかった舞さん
あの日なぜかわからないけど僕のことを殺そうとした名雪さんと秋子さん
でもきっと二人には何か事情があったんだと思う
あんな事になる前は二人ともいつも優しくて
羨ましいほど仲が良かったから
そして大好きだった祐一君・・・

植物の中には雪に弱いものがあるから
冬の間、雪の降るときは家の中に入れることになった
そんな9月に埋めた種はもう立派な小さな木になっていた

35あゆの観察日記5:2003/08/19(火) 18:06
3月20日 晴れ

雪の降る季節が過ぎて
暖かな春がやってきた
まだ名残雪がたまにあるけれど
家の裏庭にはタンポポの花が咲いていた

そういえば小さな木は日に日に大きくなって植木蜂に入らなくなったから
耕一さんの提案で庭に埋めることになった
僕と梓ちゃんはちいさなシャベルで
耕一さんは大きなシャベルで穴を掘る
途中耕一さんがおもいっきり掘った時埋まってた岩に当たって
手をいためちゃって大騒ぎになった
耕一さんは大丈夫って言って続けようとしたけど
僕と梓ちゃんでそれを止める
少し時間はかかったけれど埋め終わる
埋め終わった頃には夕日が出ていて
木が茜色に染まっていて綺麗だった

36あゆの観察日記6:2003/08/19(火) 18:14
8月21日 晴れ

もうすぐこの家に来てから一年が経とうとしている
そしておじさんの植物ももうすぐ1歳になる
何かお祝いにプレゼントをしたいと思うけど何がいいかな?
うぐぅ・・・植物にプレゼントなんてあげた事ないからわからないよ・・・
耕一さんや梓ちゃんにも聞くと肥料とかいいかもと言われる
・・・・・でもそんなものじゃない
もっときっといいプレゼントがあるはずなんだよ

37あゆの観察日記7:2003/08/19(火) 18:25
9月1日 晴れ

ついにおじさんの植物が1歳を迎える
おじさんの植物も種の頃に比べてすごく大きくなった
うーん・・・僕の3倍くらいはあるんじゃないかな・・・?
前々からプレゼントのことで相談していた梓ちゃんが
この日のために腕によりをかけてご馳走を作ってくれた
食べる場所もいつもの場所でなくおじさんの木の見える縁側

ご飯を食べ終えたあと梓ちゃんお手製のたいやきを食べる
僕が住み始めてから毎日のようにたいやきを作ってくれてたから
その味はあの街のおじさんのたいやきと同じくらいおいしかった
食べていると梓ちゃんがプレゼントはどうしたのかと聞いてきた

そう、おじさんの木へのプレゼント
この日のために色々考えてやっと思いついたプレゼント
僕はおじさんの木に近づき木を見る
近くで見るとやっぱりでかい
まるでおじさんそのものだった
そんなおじさんの木へのプレゼントそれは

名前

耕一さんが学校からたくさんの植物の本を持ってきてくれて
この木がどんな木かわからなくって、呼び名に困っていたけど
今日1歳の誕生日を迎えたこの木に名前をつける

といっても今日の朝、梓ちゃんに聞いただけなんだけどね
この木の名前
君の名前は


―――御堂

38名無しさんだよもん:2003/08/19(火) 18:28
↑の作者です
無駄に長いです
構想三分執筆数十分の品のため
めったくそいい加減です。最後どうやって
まとめるか分からなくなって結局こんな結末ですみませんでした;;

39セルゲイ@D:2003/08/24(日) 14:00
これから投稿するのは、随分前に執筆したものの、ちゃんとした発表の場所を得られずにいた作品です。
ストーリー的には、物語本編が全て終わったあとのものなので、その辺ネタバレ注意です。
プロットが絞り込めなかったので2パターンあり、執筆以来結局手を加えていません。

40大樹(パターンⅠ)_1:2003/08/24(日) 14:01
  
 何処までも広がってゆく蒼穹の下。
 その広がりに劣らぬようといわんばかりに、益々勢いを増して伸びゆき、
生い茂ろうとする枝葉を抱えて、大樹はどっしりと根をおろしていた。  
  
  
  
 −−みんな、今でもボクらを見守ってくれていますか?  
  
  
  
 色々な事があったあの島を抜け出し、ボクらは本土に帰ってきた。  
 それから、少しだけ時が経って、少しだけみんなが落ち着いてきたところで、
この柏木のお屋敷でお通夜をしたんだ。あの島で失われた人達、みんなの。
 楽しく思い出語りなんかをしている姿を見せて、安心して逝ってもらうんだよ、
って千鶴さんは言ってたのに、みんなしめっぽくて。
 ……ボクなんかは何度も泣いちゃったりした。
 それからね、御堂さんが亡くなった後に、ぽつんと残された一粒の種、
あれをお屋敷の庭にみんなで植えました。 
 いつまでも、ボクたちのことを御堂のおじさんが見守ってくれますようにって。
 送ってあげる為にお通夜をしたのに、ボクたちをずっと見守っていて欲しいなんて、ずいぶん変なお話なんだけど、当時のボクは変だなんて思ってなかった。
 多分、みんなも。
 そしてボクは、あの時誓ったんだ。
 生きていく中で、辛い事苦しい事、悲しい事にぶつかるような事があっても、ボクたちは、そんなものに負けてはいられないんだと。
 だってボクらは、みんなの分まで幸せにならなくちゃいけないんだから。
 だから、それを忘れちゃいけないんだって。

41大樹(パターンⅠ)_2:2003/08/24(日) 14:03
  
  
 ボクたちはそれぞれの道を自分たちの足で歩み続け、それぞれが充実した人生を送ってきました。
 マナさんは、必死に勉強してお医者さんになりました。開業したマナさんは、
腕がいいと評判な上に、患者さんにとても慕われています。けれどもマナさんは、
自分なんてまだまだだって、未だに勉強を続けているみたいです。マナさんの瞳の向こうには、
もっと大きな目標がそびえたっているに違いありません。
 七瀬さんは、お琴とお料理の先生です。当時は体育教師説がみんなの予想ナンバー1だったのに。
 いつか挫折するに違いないなんてからかいながら、皆で応援したのがいい結果につながったのかも。
 おまけに、「あたしが一番幸せになるっ」とかいって、七瀬さん真っ先に結婚しちゃうし。
 それにしても、お琴とお料理という意外なとり合わせに、皆が首を傾げている中、
晴香さんだけが訳知り顔でうなずいていたのも印象的でした。
 本人の居ないところで『七瀬の漢女(おとめ)像は、そこにあるんだから』って言ってましたけど。
 その晴香さんは、今でも、あまり自分の事を語ってくれません。
 だけど、この季節には必ず便りがきます。みんな元気でやってますか、って。
 ただ、その投函もとがいつも違うところで、昔のボクにとっては不思議でなりませんでした。
 振りかえってみれば、晴香さんなりの決着の仕方を探していたのかも。
 ボクらが本土に戻って、ずいぶんと時が経ってから、ボクらはことの真相を知るために、
色々と動いてみました。
 だけど、国内には全然、長瀬一族の痕跡も、RARGO教団の痕跡もなくて、
まるでボクたちが経験した事は全て幻だったんじゃないかと思わされるくらい。
 あの日を境に、黒幕たちの存在した証はどこにも、何一つ残っていない。 
 晴香さんは、多分、その結末をどうしても知りたかったんじゃないかと思う。  
 たまにこの土地を訪れてくれても、いつも険しい顔をしていたから。
 そんな晴香さんも、何処かで踏ん切りがついたのか、今では楽しんで旅をしている様子です。
このところ送られてくる便りも、旅情を記したものになってます。  
 梓さんは結局、地元の短大に通いながらも鶴来やグループを継ぎました。   
 当初は大きな混乱もあったみたいだけど、後見役の足立さんの取りまとめもあって、
うまくことが運んだみたいです。
 ただ、梓さんも耕一さんもずっと一緒に暮らしているけれども、結婚はしていません。
 何でも、鬼の血にまつわる悲劇を二度と繰返さない為なのだとか。
 正直、僕は今でも納得していません。理解はできても、やっぱり……。
 でも、それはあくまで二人が決めたことで、ボクがとやかくいうことではないのかもしれません。

42大樹(パターンⅠ)_3:2003/08/24(日) 14:04
 そして、ボクは……。  
 普通に学校に通い、普通の日常を満喫して、普通に就職を果しました。
 そして、もちろん、普通の恋愛もして……。
 みんなの中ではボクが一番平凡かもしれない。
 だけど、それでもボクはとっても幸せです。
 皆に生かされたという、ボクの存在。
 眠ったまますごした数年間を取り戻すように、あの島で感じた哀しみなんかの、
数倍もの幸せを吸収しなきゃならない……。
 そんな気負いなんかなくても、ボクは精一杯堪能したこの日常というものの幸福を、
決して忘れない。
 幼いころのボクや、今を生きるほとんどの人は、こんな幸せを知らないだろう。
 日常というこのかけがえのない生活を送る幸福を、どれだけ貴重な幸せであるかということを
気にもかけずに日々を送るんだろう。
 ボクはそんな人たちの数倍も幸せなんだ。
 それに、それだけじゃない。
 みんなに愛されて、ボクだけを見てくれる素敵な人にも出会って……。
 あの時に植えた種のようなものも、今ではこの庭、じゃなくて、
この地域で一番の大樹になりました。
 ずっと僕達を見守ってくれていた、御堂さんの樹。
 長い人生の中で、何度もこの縁側から樹の生長を眺め、その根元にたたずんでは、
生きる力を分けてもらってきました。
 この年まで、大した病気もせずにこれたのもそのせいかも。
 こうして幹に額を預けて、目をつぶると、とても心が落ち着いてくるんです。
 まるで、命の音が聞こえてくるようで。
 この安心感は、大切なあの人の胸に身をあずけるときの感覚に、どこか似て。
 ――ああ。ボクは幸せだ……。

43大樹(パターンⅠ)_4:2003/08/24(日) 14:05
  
   
「おーい、あゆ? あゆ〜?」
 玄関の方からボクを呼ぶ声が聞こえてくる。
 あの人がボクを迎えに来たんだ。もう、行かなければ。
 じゃあ、ボク、いくね?
  大樹の幹に預けるようにしていた頭を上げ、玄関に向き直る。
「いまいくよ〜っ」
 小走りに駆け出したボクの後ろで、御堂おじさんの声が聞こえた気がする。
――ああ、そうだな。それでも、辛くなったらいつでも戻って来いよ? ――
 辛くなんかならないもん。
 これから、ボクはもっと幸せになるんだから。 
――達者でなっ。ピーピー泣くんじゃねーぞっ――
 ボクはもう、泣かない。
 こんなに幸せなのに、泣くもんかっ。
――相変わらず、強がりばっかりは一流だな――
 強がりじゃないもん。
 おじさんの方こそ、強がってばかりだったよね?
 あれ、涙が……おかしいな?   
――ふん、何処へいっても、俺の手のうちさ。いつまでだって、守ってやる――     
 ……うん、ありがとう。
 ボクは最後に一度だけ振りかえって、御堂さんの樹を見上げた。
 その青々と茂った枝葉は、何処までも広がっていきそうな勢いで。
 この星の何処に居ても、ボクのことを見守っていてくれそうな、そんな強さと優しさを感じさせた。
「じゃあね。……またっ!」
 ボクは玄関に向けて走り出す。 
――ああ、またな……――
 ボクは走り出した。
 ボクの、新しい幸せに向かって。

44大樹(パターンⅠ)_5:2003/08/24(日) 14:05
   
  
    
 人は生き、そして死んで行く。
 その営みは、この地球(ほし)が屑星のようになって消えうせるまで、ずっと繰返されていく。
 大樹は、それをずっと見守っていくのだろう。
 自らが生き続ける限り。
 人がこの星で生き続ける限り。
 人がこの星で生を営み続ける限り。
 ……永遠に。
  
  
              いまさらのアナザー、大樹      〔 了 〕

45大樹(パターンⅡ)_1:2003/08/24(日) 14:09
  
 色々な事があったあの島を抜け出し、ボクらは本土に帰ってきた。  
 それから、少しだけ時が経って、少しだけみんなが落ち着いてきたところで、
この柏木のお屋敷でお通夜をしたんだ。あの島で失われた人達、みんなの。
 楽しく思い出語りなんかをしている姿を見せて、安心して逝ってもらうんだよ、
って千鶴さんは言ってたのに、みんなしめっぽくて。
 ……ボクなんかは何度も泣いちゃったりした。
 それからね、御堂さんが亡くなった後に、ぽつんと残された一粒の種、
あれをお屋敷の庭にみんなで植えました。 
 いつまでも、ボクたちのことを御堂のおじさんが見守ってくれますようにって。
 送ってあげる為にお通夜をしたのに、ボクたちをずっと見守っていて欲しいなんて、
ずいぶん変なお話なんだけど、当時のボクは変だなんて思ってなかった。
 多分、みんなも。
 そしてボクは、あの時誓ったんだ。
 生きていく中で、辛い事苦しい事、悲しい事にぶつかるような事があっても、
ボクたちは、そんなものに負けてはいられないんだと。
 だってボクらは、みんなの分まで幸せにならなくちゃいけないんだから。
 だから、それを忘れちゃいけないんだって。
  
  
 しかし、あの種は芽吹かなかった。
 あゆや梓、耕一達が肥料や水を盛んに与えてやっても、決して芽吹かなかった。
 一堂は始め、その事をひどく残念がった。
 特にあゆなどは、いつの日に必ず芽を出すのだと、おじさんはボクとずっと一緒だって、
約束したのだからと、拘った。
 しかし、あの種は芽吹かなかったのだ。……が。
 代りにというべきか、その近くに植わっていた樹木は次第に、しかし確実に際立った
生長を見せるようになり、やがては町内一、県下一の大樹へと育っていった。
 仙命樹とは元来、群体であり、また他の存在と寄り添う事でのみ生き長らえられる生き物であった。
 その樹の生長は、かつて御堂に根付いた仙命樹による奇跡だったといえよう。
 あゆたちにはそれらの事情は無論わからない。
 だが、人は、人とは物事に自ら意味を与えて生きていくものだ。
 あゆたちにとって、その大樹は御堂の樹として認識されるに至った。
 そしてさらに時は流れる……。

46大樹(パターンⅡ)_2:2003/08/24(日) 14:10
  
  
 ずっとボクたちを見守ってくれていた、御堂さんの樹。
 長い人生の中で、何度もこの縁側から樹の生長を眺め、その根元にたたずんでは、
生きる力を分けてもらってきました。
 この年まで、大した病気もせずにこれたのもそのせいかも。
 こうして幹に額を預けて、目をつぶると、とても心が落ち着いてくるんです。
 まるで、命の音が聞こえてくるようで。
 この安心感は、大切なあの人の胸に身をあずけるときの感覚に、どこか似て。
 ――ああ。ボクは幸せだった……。
  
  
 何処までも広がってゆく蒼穹の下。
 その広がりに劣らぬようといわんばかりに、益々勢いを増して伸びゆき、
生い茂ろうとする枝葉を抱えて、大樹はどっしりと根をおろしていた。
 N県 隆山温泉街のややはずれ、鶴来屋柏木邸の庭である。
 柏木邸のある一面の縁側からはその大樹を正面から見渡す事が出来る。
 いや、そうする事ができるように、この樹は場所を決められて育ったのだ。
 そしてその縁側に、男が1人。
 幸福な年輪を重ねてきたらしい、老齢の男だ。
 茶と、茶請けとを盆に載せ、腰を下ろしている。
「おい、あゆ。いつまでそこにいるつもりだい? あゆ、あゆ?」
 老人の呼びかける方向、つまり大樹の前には、その幹に頭を預けるようにしている老女がいる。
 老人の声に、あゆは応えない。
 さもあろう、彼女は既に息を引取っていたのだから。
 しかし、その表情は安らぎに満ちていた。
 この世で一番の幸せを抱いているような……。
 そんな笑顔だった。
  
    
 人は生き、そして死んで行く。
 その営みは、この地球(ほし)が星屑のになって消えうせるまで、ずっと繰返されていく。
 大樹は、それをずっと見守っていくのだろう。
 自らが生き続ける限り、人がこの星で生き続ける限り。
 ……永遠に。
 いまさらのアナザー、大樹      〔 了 〕

47セルゲイ@D:2003/08/24(日) 14:15
お粗末さまでした。
ちなみにパターン1が、御堂の遺した物が本当に種だった場合を想定していたプロットで、
パターン2が、仙命樹本来の生態と機能を反映したら、というプロットでした。
……多分。

今、ざっと読み返してみると随分懐かしい感じだ(笑
両プロットとも、相容れない部分があるから結局一つにまとめられなかったんだなぁ。

48セルゲイ@D:2003/08/24(日) 14:20
あ、コピぺミスを発見した……ちょっとぷちブルー。

パターン1の冒頭に以下の一行が入ってたっす。なんか今更だが。一応。


       ──今を生きる、全ての人々に……。  

                                』


(……今見ると押しつけがましい感じもする一文だけど、発表形態は執筆当時のままに)

49あの広い空の向こうで:2003/08/26(火) 01:42

私は、いつの間にか此処に帰ってきていた。
あの日、あの子と約束をした、この永遠という空へ。
いつものように聞こえる彼女の寂しそうな声、それは遠くてとても近くて。
空気が悲しみで満ちていて、もしも鳥達がここにいるならば、きっと泣き
出してしまうくらいに、此処は悲しみに満ちていた。
あの子は今も泣いている。私の役目は彼女に幸せな記憶を伝えることだった。
それを条件に、私は彼女から命と記憶を貰った。
「何奴じゃ?」
彼女の声が何処かから聞こえる。悲しみに満ち溢れたこの大気に、異質な声。
その口調が彼女が高圧的で、気高い心を持っている事を教えてくれる。
「誰かと思えば、そちであったか。」
高圧的な声が、柔らかくなった。私によく似た少女、それは外見ではない。
どちらかといえば雰囲気が似ていた。
「ずっと、待っておったぞ、さぁ早く聞かせてくれ、そなたの記憶を。あの時
 約束した幸せな記憶を。」
白い翼を持った少女は溢れんばかりの笑顔で訊ねてくる。ずっと待っていたのだ
ろう、この悲しみに満ちた世界で。彼女の心の一部が泣きつづけるこの世界で。
「どうした…?はよせぬか?」
彼女の口調がきつくなる。まるで駄々をこねる子供のように、そう言いながら歩
み寄ろうとする彼女から、私は、一歩だけ身を引いた。
「どうしたのじゃ?」
不思議そうな、苛立ったような、彼女の声。
「みちるは…」
私は首を横に振って、語りかける。この子に伝えないといけない。
「みちるは…君に、記憶をあげれないよ。」
私はそう言って首を振って、一歩後ろに下がった。
女の子の顔から笑顔が消える、悲しそうな心が大気を揺らしていた。
「なぜじゃ、余は待っておったのだぞ、ずっと!ずっと待っておったのだぞ!
 約束が違うではないか!余は!余は!!」
「違うよ、だって、これはみちるの記憶だもの。君には伝えられないよ。」
苦しかった。この子がどんなに私の記憶を、幸せな記憶を楽しみにしていたの
かわかってしまったから。だから、苦しかった。
「みちるは幸せだった。美凪や、お母さん、ポテトやポチ、秋子さんや名雪さん
 達、それに……国崎往人に会えて。」
「それならば何故その話を余に伝えない。」
彼女の怒りが大気を振るわせたのがわかった。悲しみに満ちた空気が、さらに
色濃く、悲しみを伝えてくる、
「でも、幸せは本当の幸せは…、美凪の幸せが、貴方のせいでなくなってしま
 ったものっっっ!!」
腕が吹き飛んだ、そこにあったはずの腕が吹き飛んで、シャツが少しずつ紅に
染まっていく。一瞬止まっていた脳が、体に痛みを伝える。
「黙れ、黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ!!」
彼女の怒りが空を揺るがしていた。光の塊がいくつも生まれ彼女の周りを飛ん
でいる。それが私の体を消すのに十分なものだということは本能的にわかった。
「いらぬ、いらぬ、いらぬ!そなたも、そなたの記憶も!皆、要らぬ!」
叫びが空気に消えるか消えないかという瞬間、光の塊のいくつかが私の体を
えぐっていった。血は溢れない。痛みも感じない。けれど光の塊に触れた部分
は、まるで初めからそこに存在していないかのように消えていた。
「駄目だよ、こんなのじゃ、君は幸せじゃない!幸せになんてなれない!」
必死に声をあげる。欠けてしまった体で、必死に彼女に伝えようとした。
「五月蝿い!余の力の一部が知ったような口を利くでない!」
光の塊がさらに飛交う、あれに触れれば私の存在は跡形も無く消される。記
憶も、心も、そして偽りの魂でさえも。

光が満ち溢れていた、もう消えているはずの体がまだ残されていた、記憶も
心も、体も、魂も。全てが残っていた。
私はそっと顔をあげる。光の塊が。

消えていた。

50永遠という場所:2003/08/26(火) 02:08

「永遠というこの世界より生まれた、副産物が、余に楯突くか。」
忌々しそうな彼女の声が聞こえる。私には何が起こったのかわからなかった。
「この結界の副産物でありながら、余の結界の一部であり。余の叶えた少女の
 願いのほんの一部。それなのに余に楯突くか。永遠をつかさどることすらま
 まならなかった時間のひずみの一部が!」
光の塊が剣へとその形を変えていく。一本の剣へと変わったその光を掴むと、
彼女はその切っ先を一人の少女へと向ける。白い服を着た、この世界の一部で
ある少女に。
「私は永遠という存在、でも、私もまた貴方の一部。」
白い少女の周りに歪が生まれる。翼の少女の剣の切っ先は空間の中に呑まれて、
そして消える。彼女の存在は、この世界の一部。だから翼の子は、白い子には
手出しをすることだできない。
「もう、やめようよ、貴方は自分の欠片を消してるだけなんだよ?」
白い少女が手を差し伸べようとする。空気が変わる。あんなに怒りに震えていた
空気が、もとの穏やかさを、静けさを取り戻していく。
「五月蝿い!主らなぞ、余の一部に過ぎぬ!なのに何故逆らう!何故…」
翼の少女が新たな剣を作り出し、白い少女へと向け、突き出した。

鮮血が舞った。白い少女の服を剣が貫き、そして白い服が少しづつ赤く染
まっていく。届かないはずの剣先が。確かに少女を貫いていた。
「見よっ、お前らの望んだ永遠なぞ存在せぬ。」
翼の少女が笑った。剣を伝って、白い少女の鮮血が一滴、一滴と翼の少女の
手を赤く染めていく。
「愚かな人間達のおかげで結界がほころぶと同時に、そなたの一部である人
 間も死んだときから、この永遠などという下らないものもまた、消えかけ
 ているのじゃ。」
引き抜いた剣をゆっくりと下ろす。翼の少女はそういって笑っていた。自分
の心の一部を貫いたその剣を見ながら。

「そう、貴様らの存在などいらぬ、余は、余の幸せを。楽しみを見つけよう。
 この綻びた結界から、解き放たれたとき。余の幸せを。」
どこまでも続く待機の上、一人の少女が狂ったように笑っていた。
彼女の足元に転がるのは、白い服をまとった幼い少女と、かつて幸せを伝える
ために此処へ舞い戻ってくることを誓った少女のリボン。
悲しみに満ちた空の上、堪えられない涙を流しながら少女は、笑っていた。

【みちる、みずか(永遠)消滅】
【結界がほころび始め】

51死神:2003/08/26(火) 02:10

相変わらず文章が下手で申し訳ないです(TT)
神奈とみちるの絡みが書きたくって書いてみました(^^;
構想は結構昔から考えていたのですが、上手くまとめれなくって。
お目汚し申し訳ないです(TT)

52パラレル・ロワイヤル(略してパロアル):2003/08/26(火) 20:17
ハカギ・ロワイヤル紙媒体化無事完結記念祝賀会(ああ、なんて長い名前だ)
会場となった孤島に建てられし超巨大テーマパーク『来栖川アイランド』の
中央イベントホール、ここから史上最?のサバイバルゲームの幕が今、
開かれようとしていた。
「え〜これから御来場の皆様にはバトル・ラワイヤルして頂きます。」
ペットボトルロケットランチャーを装備したセリオ(53番)と投げパイを
満載したカートを押したマルチ(82番)を横に連れ、祝賀会の主催者であり
ゲームの企画者でもある来栖川綾香(36番)はマイク片手にいきなりこう
のたもうた。
突然発せられたその言葉に殆どの人間が反射的に口を押さえた…唯一人だけ
押さえ損なって『禁句』を漏らしてしまった者がいた、長森瑞佳(65番)で
ある。
「ええっ?それって一体どういう…。」最後まで言い切る前に瑞佳は隣の席
にいた折原浩平(14番)に床に押し倒された。間一髪!瑞佳の居た空間を
跳び抜けて行った投げパイは身代わりの犠牲者を得る事もなく空しく会場の
壁に張り付き大きな汚れを飛び散らせた。
タックルベリーよろしくお代わりの投げパイを構え、他の声の主を求めて
キョロキョロしていた綾香は地団駄を踏んで悔しがっている、
「ああん、折角お約束のイベントチャンスだったのにいっ!」
そんな綾香の目にテーブル越しに掲げられたスケッチブックの文字が目に
入った、掲げてる本人は隠れて見えないが恐らく上月澪(39番)であろう、
『事情と ルールと ごほうびを 教えてください』
「え〜ゴホン」綾香が会場に向き直って発言を再開した、
「ルールは簡単、この来栖川アイランドの中で希望者全員によるサバイバル
ゲームを行い、勝ち残った成績優秀者はハカギ・ロワイヤルアナザー本の
表紙絵に御登場!他にも裏表紙・挿絵・プロモその他が上位入賞者の御登場
を待っているわ。」
おお〜っ、と会場がどよめきに包まれる中綾香が更に説明を続ける、
「参加希望者は皆、体のどこか見える位置にこの発信機兼カメラ兼集音機兼
緊急通信機を着用して貰うわ…これを元に相手からの有効打もしくは相手へ
の有効打を受信元の来栖川アイランド総合統括コンピューター『G.N』が
判定して失格者に判定を伝えるわ、万一の大怪我・迷子・事故・遭難等で
救助が必要となった場合もこれを使えば救助信号が送れるわ…勿論、失格に
なっちゃうけど…後、ルール違反・反則行為の監視もこれで行っているから
…外すのは勿論、他人のを外そうとするのも即失格よ…例え水浴びの時でも
肌身離さず持っていて頂戴…。
…更に、長期戦に備えて複数の『戦闘及び待ち伏せ・狙撃対象禁止区域』に
フードスタンド・トイレ・仮眠室を準備してあるわ…残念ながら、お風呂は
準備してないから、不潔さに耐えられなくなったら水浴びかリタイアを選択
して貰うことになるわ…。
…そうそう、フードスタンドは何度利用しても一向に構わないけど、
ランダムの確立で『調理人・宮内あやめ賛』だったり『性格反転キノコ』が
一服盛られていたり『公認ジョーカー1号・川名みさき賛との負けたら即時
リタイアの大食い1本勝負』が待ってたりするかもしれないからその覚悟で

53パラレル・ロワイヤル(略してパロアル)続き:2003/08/26(火) 20:21
…後、フィールドにはG.Nと供にゲーム参加者の公正と安全を護る為の
こちらの特別スタッフが常時巡回しておりますので、必要な時は声をお掛け
下さい…それでは紹介します、
『HMX−14P・ピースです。』『HMX−14C・コードです。』
『HMX−14F・フレアです。』『HMX−14M・ミリアです。』
『HMX−14Ma・マリアです。』『HMX−14K・カノンです。』
…ここまでで何か、質問等はありますでしょうか?」
「あの…装備とか携行品等は一体どうなるのでしょうか…?」挙手の後
質問を行ったのはリアン(100番)である。
「装備は例によって例のごとく参加者一人一つずつ、食料・飲料水と供に
こちらからランダムに支給致します…後、持参装備はリーサルウェポンと
みなされる物は携行禁止とさせて頂きます…通信機・携帯電話等は一応は
使用可能ですが、全ての通信はG.Nによって傍受されており、これまた
ランダムの確立で全島公開放送される可能性がありますのでその積もりで…
…それと、現在着用されております服装での参加を望まない方は、その旨
及びサイズを申請して下されば、代わりのゲーム用衣装をこちらから支給
させて頂きます…デザインはこちらのランダム決定になってしまいますが…
…あと、自己顕示欲はあるものの、気力体力上どうしてもゲーム参加不能の
方の為に、代戦士の登録の方も行っております…既に登録完了の方の名前を
挙げます、
神岸あかりさんの代戦士で坂下好恵さん、  『ま、しかたないわなあ。』
立川郁美さんの代戦士で立川雄蔵さん、   『オイ、チョット待て!』 
杜若きよみ(原身)さんの代戦士で光岡悟さん、『なんじゃそりゃああっ!』
現在の所以上です…他にご質問はありますでしょうか?」
「おい…俺達も参加していいのかい?」一角のテーブルを囲んでいる高槻s
の内、1番がぶっきらぼうに尋ねた。
「本作で管理側だった方達も今回は参加可能です…便宜上、本作参加者に
追加カウントする形で101番より五十音順にナンバーエントリーして頂き
ます、HM−12・HM−13は長瀬主任の装備ではなく、個別の参加者と
して扱わせて頂きます…最後に…高野さんも今回は、特別参加可能とさせて
頂きます。」
「至れり尽くせり、だな…。」会場の隅で一人、黙々と煙草を燻らせていた
高野は苦笑して呟いた「それにしても、『ルールありのクリーンなゲーム』
になった途端のこの文字数…何とかならんのかな?」
TO BE CONTINUED?!

54是空:2003/08/26(火) 20:27
あ〜あ、とうとう書いてしまいました…反応次第では隠れハカロワファンと
なってひっそり身を隠す羽目になるかも、それにしても…自宅端末がない為
漫画喫茶の端末から書かせて頂きましたが、文字数が多すぎて一発送信が
出来なくなり分割送信する羽目になるは下書き原稿にあかり・郁美・きよみ
の番号を書き忘れるはでもうNGの連発でした…申し訳ありませんでした。

55やっぱりNG発見しました〜是空:2003/08/26(火) 20:45
綾香のルール説明の台詞の中に以下の一文を加えて下さい
「結界はありませんので能力者の方は存分に能力を使って頂いて構いませんが
相手にオーバーダメージを与えたもしくは与えそうになったとG.Nが判定を
行った場合は即失格となりますので御注意下さい。」

56パラレル・ロワイヤルその③:2003/08/27(水) 19:07
その頃、来栖川アイランドの賓客宿泊施設『リバーサイド・ホテル』(非戦闘区域兼
ゲーム敗退者待機場予定所)にて、モニター画面に映し出される祝賀会場の様子を
わくわくしながら眺めている3人の少女がいた…杜若きよみ<原身>(15番)・
神岸あかり(25番)・立川郁美(56番)である。
「…堅く口止めされておりましたが、代戦士が要りそうな方にはあらかじめに、
代戦士登録もしくはジョーカー登録の問いかけが祝賀会招待状と供に送られて来て
おりますのよね…。」
「ごめんね浩之ちゃん、ごめんねみんな…ずっと黙ってて。」
「でも…これから一体、どういう展開になるのでしょう?」

「そうじゃなあ…ワシがシュミレートした予想展開を楽しみを奪わない程度に
紹介するとじゃ…」モニター横にあるG.N の端末機が3人に淡々と語り出した、

「恐らく、最初は団体戦じゃろう…特に不仲な間柄でない限り、各作品別にチームが
合流され、別のチームと戦う…といった形じゃ…じゃが、本作ハカロワにおいて
『作品別を越えた間柄』になった者同志が、果たしてどちらを仲間として選ぶか?
そこが最初の『見所』となるじゃろう…そして、それは主催者側の長瀬一族にも
同様に当て嵌まる問題となるであろう…最も、源四郎だけは躊躇う事はあるまいが

…逆にいえば、♂巳間の様に元ゲーでも本作ハカロワでも見事浮いてしまっている
存在が一番ピンチだ…最も本作ハカロワで似たような立場を覆した御堂みたいな者
もいるから断言は出来ないがのう…

後、こみパの大志…本作ハカロワ同様、あさひちゃん表紙化の為に今回も修羅と
化す事は必至…果たして今回、こみパの連中とどのタイミングまで同盟関係を
続けるつもりでおるのか見所じゃのう、

後は、今回は『有効打が当たったら即失格』のサバゲーである点にも注意すべきか
…『能力者』にとっての回復力・耐久力はスタミナに対して以外の用は成さない
ケースが多そうじゃからのう…」

そこまでG.N が話した時、部屋のドアが開き、更に二人の少女が入って来た。

57パラレル・ロワイヤルその④:2003/08/27(水) 19:40
「にゃあ〜、おじゃましますです〜。」「…御邪魔、致します…。」
入って来たのは、代戦士登録を終えてココへとやって来た塚本千紗(58番)と
長谷部彩(70番)である、丁度モニターの中では代戦士エントリーをしている
ハイテク特殊装備を野戦迷彩服に施した痩せたメガネの男と忍者装束に身を包んだ
でっぷりと太った男の姿が映っている

「…ほうほう、これはとんだダークホースの御登場だ。」G.Nが感嘆を漏らす、
「縦王子・横蔵院…供に、サバゲーにおいても日本ベスト5に入るオタク達だ、
御嬢さん達もなかなかの代戦士を呼んできたものじゃな。」
「にゃあ〜、そんな凄い方達だったのですか。」「…以外、でした…。」


…その頃、フードスタンドAの控え室では特別料理人・宮内あやめとジョーカー1号
・川名みさきの二人が、今出て行かんとする赤い服をまとった金髪髭面の偉丈夫に
別れの挨拶を行っていた、
「いってらっしゃいまし、あなた。」
「澪の代戦士…どうか宜しくお願い致します。」
「OKOK、任せてくれ…じゃあ行ってくるから、お前達も立派に頑張ってくれ。」

…その時、控え室備え付けのモニターに『がんばって おじさん』と書かれた
スケッチブックをカメラ目線で掲げた上月澪が映ると供に、一際高いアナウンスと
絶叫に近い会場のどよめきがスピーカー越しに伝わって来た、

「それでは、第6番目の代戦士を発表します…39番・上月澪の代戦士として…
ジャーン!Mr.ジョージ・宮内ィィィィッ!!」
『ヤメテくれええええええええええええっ!!!』

TO BE CONTINUED?!

58パラレル・ロワイヤルその⑤:2003/08/29(金) 19:00
 再び舞台をリバーサイド・ホテルに戻そう、VIPルームには更に7人の
代戦士申請者が到着していた…高倉みどり(54番)、椎名繭(46番)、
氷上シュン(72番)、桜井あさひ(41番)、美坂栞(86番)、神尾観鈴
(24番)、霧島佳乃(31番)である、彼女等がケーキバイキングを満喫
しながら固唾を呑んで見守っているモニターの方でも、そっちの方の紹介が
始まっている。

「続いて、第7番目の代戦士を発表します…54番・高倉みどりの代戦士で
高倉宗純会長!」…左程逞しそうではないものの、ライオンのような感じの
初老の男性が壇上でエントリーを行い、席へと戻って行く。
「更に、第8番目の代戦士は…46番・椎名繭に代わりまして椎名華穂!」
美人目ながらもどう見ても普通の主婦にしか見えない女性が優雅に壇上で
エントリーを行い席へ戻って行った。

「そして、第9番目・41番桜井あさひの代戦士及び、第10番目・72番
北川シュンの代戦士が続けて入場しますっ!」
綾香のアナウンスと共に会場の扉が勢いよく開き放たれて、まず1台の黒い
モトクロスサイクルが会場の通路を走り抜け、ハンドルを捻りジャンプした
次の瞬間、壇上にふわりと着地した、駆っていたライダーは黒いライダー
スーツに身を包み黒いヘルメットとフェイスガードで顔を完全に覆っている
…続いて、会場の通路をのっしのっしと歩いて来るのは…
「あっベイダー卿だあっ…凄い良く出来てるうっ♪」
芳賀玲子(70番)の感嘆の叫びの通り、ダースベーダーの出で立ちをした
人物が、会場の通路からこれまたふわりと跳躍して壇上に立った。

「え〜御静粛に…。」綾香がどよめく会場を押し鎮めて事情を説明する、
「御覧の通り、第9の代戦士(ライダー)と第10の代戦士(ベイダー)は、
謎の覆面プレイヤーとしてエントリーします…その正体は私も知りません
…知っているのは、本人・依頼者・G.Nのみです。」

「おまけに」綾香は続ける、
第11の61番・月宮あゆ、第12の86番・美坂栞、第13の24番・
神尾観鈴、第14の31番・霧島佳乃の代戦士4名はシークレットプレイヤー
として、正体は勿論外見も不明のままこのゲームにエントリーします…
これも、その正体を知っているのは、本人・依頼者・G.Nのみです…
以上を持ちまして、全ての代戦士発表を終わります。」

「ふむ、代戦士は全員で14名か…思ったよりも少なかったのう…頼んだ者
そうでない者それぞれ、思う所があるのじゃろうが…。」G.Nは素直に
感想を述べた。
「あ…判っておるであろうが念のために言っておくぞ…謎の代戦士の正体を
依頼者に尋ねるのは絶対御法度じゃ…別のVIPルームに丁重に『隔離』
させて貰う事になるからその積もりでな。」

部屋の皆が「はい」「は〜い」「判りました」と返事をする中、
「それよりもさあ、」栞が呟くようにG.Nに尋ねた、
「どうして…あゆさんここにいないんでしょう?」

59パラレル・ロワイヤルその⑥:2003/08/29(金) 19:49
さて、いよいよゲームスタート直前である…その前に改めて説明を行おう、

この来栖川アイランドは島の中央部に巨大イベントホール兼ホテル(戦闘・
プレイヤー通過禁止区域)を構え、その周囲に時計回り順に
①飛行場&ヘリポート(戦闘・プレイヤー通過禁止区域)、
②巨大公園、
③植物園   (戦闘禁止・フードスタンド&仮眠室棟有り・スタート地点A)
④スタジオ&舞台村、
⑤土産物商店街(戦闘禁止・フードスタンド&仮眠室棟有り・スタート地点B)
⑥海水浴場、
⑦水族館、
⑧大灯台広場 (戦闘禁止・フードスタンド&仮眠室棟有り・スタート地点C)
⑨ヨットハーバー&港、
⑩博物館&美術館、
⑪遊園地、
が存在し、各エリアは一応舗装された道路でつながっている…車両類は、
私設消防車・救急車以外は皆、最高時速40km止まりのエレカ(電気車)か
自転車のみである、川が一本流れておりスタジオ&舞台村〜中央部〜遊園地
をつなぐ形で島を跨いでいる。

後、ルールの補足として各プレイヤーに『見える場所に絶対装着』を義務
されている識別装置(略称)は『他人のを外そうとするのも即失格よ』と先述
したが、それはあくまで『非交戦中の不意打ち行為(余りにアンフェア)』に
限っての事で、交戦中に急所狙いの要領でちぎったり、叩き落したり、狙い
撃ちしたりする事は『可』とします…例えるならば、どんなに相手が甲冑等で
『有効打判定を小さく』していたとしても、識別装置の叩き落しに成功すれば
その相手を『倒した』事になる訳です。

もう一つ、倒した相手からの『戦利品』についてですが、無条件奪取が可能な
物は『支給された武器及び食料類』のみです、個人装備及び衣装は相手の同意
がない限り奪取不可です、勿論同意の強要は反則行為として裁かれます。

…では、ゲームスタートに話を戻しまして…総勢115名の参加者は、
Aスタート組36人・Bスタート組36人・Cスタート組38人に分かれ、
そこからG.Nが『自称ランダム』に弾き出した3人ずつを1度に時間差で
計12回に分けて(Cの13回目組のみ2人)出発させてゲームに参加・
スタートを行います。

…今まで、長い説明及びオープニングセレモニーにお付き合い頂きまして、
誠に有難う御座いました…では次回より本編・ゲームのスタートです!

TO BE CONTINUED?!

60是空:2003/09/04(木) 20:23
パラレル・ロワイヤルその⑦

 日が昇って間もない海水浴場、荷物を広げて岩場の影で一息ついてる3人の女、
Bエリア1組目の三井寺月代(83番)、砧夕霧(30番)、桑島高子(38番)である

「1番のりで到着う〜♪って、高子さん夕霧ちゃんこれからどうしよう?」
「他力本願ですが、やっぱり蝉丸さんと合流したい所ですね。」そう言う高子の
いでたちは麦藁帽子にモンペ姿…美人台無しだが、ミニスカートでサバゲーを
やる訳にも行かない上に季節は盆休み(推定2004年夏?)である、実用性と
いう面では支給衣装はアタリの部類だ。衣装に合わせられたのであろうか、
装備の方は肩下げ式の電動農薬散布機である…恐らく、中身は水なのだろうが…
シングル・バースト・拡散と使い分けられる分水鉄砲より強力かも。

「そういえば、貴方達の装備ってどんな物を貰ったの?」高子のその質問にやっと
思い出したかのように月代と夕霧はごそごそと、それぞれ支給された大きな袋を
開き始める…その袋の大きさ故にお面や包丁でない事を確信しての躊躇ない開封
ののち、月代は袋から出てきたモノを早速組み立て始めたそして…

「よし、出来たっ!」雨樋のようなレールと回転式のアームを持つ機械、それは…
「ロ…ロボピッチャー!?」高子がつぶやく、
「みたいだね…でも、肝心の球が…。」
「月代ちゃん、球なら私の袋に。」夕霧が袋に詰まった沢山のゴムボールを見せる
よく見ると普通のゴムボールとは素材が違う様だ…最近のBB弾で使用されてる
自然分解する素材で出来ているようだ、来栖川はバイオテクノロジーでもその力
を示しているようだ。

「じゃあ、早速試しに投げてみようか。」月代は興味津々である…そして、
後の2人も『支給武器』の試し撃ちに依存はない様だ、早速セッティングし
マシンのスイッチをオンにした、後は発射ボタンを押すだけだ。

「あ…こんな所にダイヤルが。」そのとき月代は本体横にあるメモリ付きダイヤルを
発見した、それには『弱・中・強・カタパルト』と表記してあった。

「カタパルト?…訳わかんないな…じゃあ、このカタパルトってのでやってみよ。」
月代は深く考えもせずにダイヤルをカタパルトに合わせると発射ボタンを押した。

すると…
「ウィンウィンウィンウィンウィンウィンウィンウィンウィンウィンウィン」という
某宇宙戦艦が切り札を使う時の様なモーターの力強い駆動音が1分程続き…そして
「ビュオンッ!!!」という風切り音と供に見えない速度でアームが1回転した、
ボールはタイガーウッズがドライバーでかっ飛ばしたゴルフボールのような高度と
スピードで視界のかなたへと消えていった…どうやら、カタパルトの時は自動的に
曲射モードに起動変更されるようだ…当たり前だ、こんなモノが水平射撃出来たら
大変だ。

「う〜ん、何か思いっきり飛んでっちゃったね…。」月代はあっけにとられて呟いた
「でも、大丈夫かしら…球が飛んでっちゃったのって私達がきた方角じゃない?」
高子は心配そうだ。

…そして、心配は見事的中した。

『ビーッ、67番・名倉有里、有効打直撃により失格…直ちに交戦エリアより
退いて下さい』
『ビーッ、66番・名倉由依、有効打直撃により失格…直ちに交戦エリアより
退いて下さい』
「そんなぁ、姉さんはともかくとして私は…姉さんに当たって1度バウンドした
ゴムボールに当たったんじゃないの?」
『66番は被弾時にバッチリ転倒してしまいましたため、判定上有効打です。』
「そんなぁ…。」

 かくしてBエリア第2組は、いきなり2名が脱落、残る一人柚木詩子(99番)
は「きゃ〜っ、やめて〜っ、置か…頃されるぅ〜」と見えない狙撃者(?)に半ば
パニクリながら、事もあろうに海水浴場目指して猛ダッシュで逃げ出した…。

…Bスタート地点境界にほどない戦闘エリアに残されたのは、文字通りの
青天の霹靂に半ば石像と化していた名倉姉妹とその支給装備であった…。

【66番・名倉由依 67番・名倉有里 脱落…残り113人】

TO BE CONTINUED?!

61パラレル・ロワイヤルその⑧:2003/09/06(土) 20:16
「わははははははははははははははははははははははははははははははは」
「わ、笑うな折原っ!」
「わははははははははははははははははははははははははははははははは」
「や、やめて折原っ、お願い止めてっ、一度ならず二度までも…。」

 スタジオ・舞台村の時代劇長屋の一室、そこで腹を捩じらせて笑い転げ
回っているのは折原浩平(14番)、その横で悔し涙をぼろぼろ流している
のは我等が『漢』七瀬留美(69番)である。

Aグループ第1組である浩平・七瀬・そして長森瑞佳(65番)は取り敢えず
隠れられそうな場所を求めてスタジオ・舞台村に突入、時代劇エリアの下町
長屋の一室に落ち着いたのである、そしてそこで改めて支給装備の確認をば
行った際、七瀬の大きなバックから出てきたモノは浩平の横隔膜及び七瀬の
精神に甚大な打撃を与えたのであった。

…それは金属ではなくプラスチックだった、
…それは銀色ではなく白色だった、
…そしてそれは凹んだ円盤状ではなく白鳥の形をしており蓋が付いていた…

弾が防げる分、そして水が汲める(今の奴でも汲めない事はないがどうして
そんな物で汲んだ水を飲んだり浴びたり出来ようか?)分、本作のタライの
方が全然マシであった、そしてそれを本来の目的で使う位なら、危険を承知
してトイレのあるエリアへ突撃するか、そこらの茂みで済ませるほうがまだ
マシであった。

瑞佳が笑わなかったのは七瀬の装備を視認する前に(先に視認してしまった)
浩平の大ボリュームの笑い声に思わず耳とともに目を塞いでしまった事と、
その後目を開いてまず目に入ってしまったのが悔し涙をボロボロ流している
七瀬の痛々しい姿だったからに他ならない。

「それにしても…」ようやく笑うのを止めた浩平が「幾らサバゲーとはいえ
これじゃあ装備が心許ないなあ…。」そう言うと、自分に支給された2丁の
ワルサーP38…を模した銀玉鉄砲を両手の平でクルクルと回し始めた
…中の銀玉がカラカラと乾いた音を立てている。
「うん…。」力なく頷く長森の支給装備は『来栖川アイランド(裏)』と題
された観光パンフレットであった、一応丸めれば得物にはなりそうだが…

長森はそれをざっと読みしているかのようにパラパラとめくっていたが…
「ねえ、浩平っ七瀬さん…『舞台村時代劇エリア裏名所・呉服問屋越後屋
の秘密の隠し部屋に眠る御禁制の品』だって…確か越後屋ってココに来る
途中に通り過ぎて行かなかったっけ?」
「ああ、確かにあのデカイ店の看板には越後屋って書いてあったよな…
て事は、行ったら何か調達出来るんじゃないのか?」
「もしかしてそのパンフレット、前作の支給武器リストみたいなゲーム情報
源アイテムなんじゃない?だったら行ってみようか、今から。」
浩平と七瀬は、行動指針らしきものの発見でにわかに活気付いた様だ。
「よし決まりだ、早速越後屋まで戻ってみよう、まだゲームスタート直後
だから、今から急げば誰とも会わずに辿り着ける筈だ。」
自分の銀玉鉄砲の片方を七瀬に渡しながら、浩平は即時出発を即結論した。

…三人が慌しく出た行った後の下町長屋の一室には、取り残されたおまるが
寂しそうにポツンと鎮座ましましていた…。

TO BE CONTINUED?!

62パラレル・ロワイヤルその⑨:2003/09/10(水) 19:27
「い、陰謀だ…。」その顔を真っ赤に染め上げながらCグループ第1組の
長瀬裕介(64番)は絞り出すようにその言葉だけを呻いた。
「ゆ、裕介…私、恥ずかしい…。」その横に立つ天野美汐(5番)も羞恥に
全身を真っ赤に染めて俯いていた。

二人はこのゲームの参加に臨んで、ゲーム用衣装の支給を要請した…いや、
してしまった…そして、主催者側から貸し与えられた衣装というのが…
確かに、ゲーム用に水や汚れに強く丈夫な素材で出来ており、袖や胴回り
そして足元も動き易くそして風通し良く出来ていた…が…

誰がどう見ても裕介の衣装はタキシード(しかも純白!)以外の何物でもなく
美汐の衣装はウェディングドレス以外の何物にも見えなかった、

おまけに支給された装備ときたら…
裕介に支給された装備はコッキング式のパーティーガンである、銃口に
クラッカーを先込めしてトリガーを引くとクラッカーの紐が引っ張られる
仕組みである、
美汐の方はワインバスケットの形をした水鉄砲であった、マズル兼用の
ワインボトル型のカートリッジを装填して使用する構造となっており、
カートリッジからはシャンパンの香りがプンプンと漂っていた…。

よくもここまで拵えて揃えてくれたもんだ全く、
ランダム支給だなんて誰が信じるものか、
どんな形であれこのゲームが終わったら必ず、
この念の入ったお膳立てをしてくれた主催者の皆様に心からのお礼をしよう
特にG.N本体にはありったけのシャンペンシャワーをお見舞いしてやろう
…裕介は心に誓ってしまった。

それでも、二人が『ゲームを降りる』選択をしなかったのは意地と決意が
あったからである…『今の姿』で『ゲームを降りる』事だけは『今の姿』を
『否定する』かのようで、二人ともどうしても選ぶ事が出来なかったのだ。

そして、例え中途脱落する結果となろうとも今度こそは繋いだ手を最後まで
離したくはなかった…そんな意地が今の二人にゲーム参加継続を決意させて
いたが…

「あう〜っ、結婚式だーっ!あう〜っ、美汐お嫁さんだーっ!」
「お…お願い真琴…それ以上、言わないで…。」弱弱しく哀願する美汐を
よそに、美汐の衣装から借りたヴェールを被って沢渡真琴(45番)はもう
ノリノリではしゃぎ回っていた。本作で『言葉で人を刺し殺す』シーンが
あったが、今の裕介と美汐は正に『言葉で人を炙り殺す』寸前であった。

「と、取り敢えず、知り合いに見つからない内に、人目に付きにくそうな
場所に避難…いや、移動をしよう。」「う…うん。」
やっとの事で血の上った頭で裕介が賢明なる行動指針を打ち出し、
美汐がそれに頷くと二人手に手を取って真琴と共に港・ヨットハーバー
エリアへと急行した、鍵の掛かっていない暫くの間隠れられそうな船舶を
求めて…。

その頃、リバーサイドホテル緊急医療室で犬飼俊哉(ゲスト)は杜若祐司
(ゲスト)に、力任せの激しいツッコミを入れられていた、
「…しかしだな、『いつまでも祐一とずっといっしょにいたい』という
本人たっての望みで尚且つ、余命一刻の猶予が無さそうな死相を携えて
訪ねてきたものだから、つい…。」
「だからって、他の誰にも相談せずに、年端の行かない少女にいきなり
仙命樹を植え付けるなドアホウッ!!」

「…緊急救命行為だった事はある程度、認めますが…。」弟の隣にいた
きよみが、ゆっくりと静かに…そして力強い声で尋ねた。

「…まさか、覆製身作成用のサンプル細胞を摂取だなんて真似はなさって
おりませんでしょうね?」
「…ギクッ。」

TO BE CONTINUED?!

63パラレル・ロワイヤルその⑩:2003/09/11(木) 20:06
舞台村時代劇エリア内呉服問屋・越後屋内客間にある床の間の奥を、浩平は
ごそごそと探っていた。
「…で、続きは何て書いてあるんだ、瑞佳?」
「え〜と、床の間の天井奥の死角にレバーがあって…。」
「レバー?ああこれか。」 グイッ…ガチャンッ
「え…ち、違うよおっ!」急に瑞佳が慌てて叫んだ、
「レバーは罠のスイッチになっているダミーで、レバーの陰に隠れている
紐を引っ張るのが正解なのっ!」
だが時既に遅し…いきなり客間の襖が一斉に閉まってロックされ、不気味な
軋み音と共に天井がゆっくりと降りてきた。

「お前が紛らわしい言い方するからだぞ瑞佳、一体どうしてくれるんだ
 この状況?」
「浩平がそそっかしいだけだよっ、話をちゃんと最後まで聞かないから
 こうなっちゃったんじゃないのっ!」
「瑞佳のばかっ!ばかばか星人っ!」
「浩平のどじっ!どじどじ星人っ!」

「いい加減にしなさいよ!こんな時に何二人で漫才やってるのよっ!!」
叫んだ七瀬は既につっかえ棒になりそうな物を探している…しかし、畳は
剥がせない造りになっているし、室内の家具といったら行燈と布団と花瓶位
しかない、無論襖は鍵が掛かっているし、木の板が中に仕込まれてるらしく
空手家か能力者でもない限り素手では破れそうにない。

「…多分、ギリギリの所で止まってこちらから救援信号を送らせるように
 出来ているのかな…。」
天井が立ち膝位までに下がってきた時、万策尽きたらしい七瀬がポツリと
呟いた。
「…ゴメン、瑞佳…今度こそお前を護れる所か、逆に心中沙汰に巻き込んで
 終わらせちまうなんて…俺ってホント、どじどじ星人だよ。」
「…もういいよ、浩平…ねえっ、この後ホテルに戻ったら、今度はホテルの
 流れるプールで一緒に逆泳でもしてみようか?」
「ケンカしたり仲直りしたり…全く、『どこでも二人きり』なんだから。」

とその時、三人が背もたれていた襖越しに声が3つ、聞こえてきた。
「あははーっ、誰かピンチのようですよーっ。」
「その声…折原君に、七瀬さん、長森さんねっ?」
「雪見の知り合いか…今、助ける…聞こえてたら襖から離れろ…。」
中の3人は反射的に襖から離れた。

次の瞬間、木板入りの襖が叩き切られたのか叩き割られたのか判らないが
真っ二つに割れて弾け飛んだ…そして、その向こうに立っていた西洋剣を
持った少女が残り高さ1メートルを割った天井と床の間に剣の鞘を差し込み
落とし天井を停止させ、ゆっくりと口を開いた。
「…もう、大丈夫だ…落ち着いて…出てくるんだ。」

TO BE CONTINUED?!

64パラレル・ロワイヤルその⑪:2003/09/11(木) 21:02
Aグループ第1組が窮地を救われた丁度その頃、来栖川アイランド水族館に
この日1番目と2番目の客が来訪していた。

「ところで…どうなのかなマナ君、その貸衣装の気心地は?」
観月マナ(88番)の出で立ちを見つめ、霧島聖(32番)は含み笑いを
しながら尋ねた。
「男物っぽいデザインだけど…悪くないわね。」マナはその全身を覆って
いる自分に支給された衣装の着心地を確かめていた。

ライダースーツの様なスピードスケートスーツの様なその黒一色のスーツは
肩・肘・膝そして何故か背中にも、シンプルなデザインのパット状の防具が
付いていた…そして見掛けよりも軽くて動きやすく、割合涼しかった。
ゲームでの実用性という面では、マナにとって申し分のない衣装だった。

「ところでセンセ…。」マナが尋ねた、
「何だ?」
「さっきからアタシの姿見て含み笑いしてるけど…この衣装って、何か
 センセの知ってる元ネタでもあるの?」
「ああ、ある。」
下手に隠すと却って怪しまれそうなので、聖はあっさり肯定した。
「昔、読んでいたマンガの主人公だ、含み笑いをしていたのはその主人公が
男だったからだ。」教えても差障りない真実だけを選び、続けて回答した。
「ふ〜ん、そうなんだ…で、その主人公ってやっぱアクションヒーローなの?」
「そうだ」
「カッコイイ役?」
「…微妙だな。」
聖はマナの衣装の背中の防具に白く書かれた『1』の字を見つめつつ、
こみ上げて来る笑いをかみ殺しつつ答えた。
(流石に、靴の踵に仕込み刃は入っていないだろうが…いや、彼女の場合は
やっぱり爪先に仕込むべきなのかな?)
「ふ〜ん、微妙なんだ…ところでセンセ…。」
「何だ?…まさか『うに、つまんないね』だなんてボケは許さんぞ。」
「真面目な質問(怒)!なぜアタシ達…Cグループ第2組はアタシとセンセの
 2人しかいないんだろ?」
「あくまで推測だが…恐らく、3人目の該当者は『既に出撃済み』のジョーカー
 なのだろう…大方、ホテルの連中が見ているモニターの方にはG.Nの作った
 合成CGか何かで3人出発にでも見せ掛けているのだろうが。」
聖は続ける、
「心配するな、相手を殺さずに止めるのが今度のゲームのルールなのならば、
 私にとっては有利な事この上ない…そうそうマナ君を窮地に巻き込むような
 ミスはしない積もりだから安心したまえ。」
そう言うと聖は自分に支給された装備…竹製の粘土ベラの内8本を取り出し
ジャカ!ジャカ!とクイックドロー(というのだろうか?)の練習を始めた。
「ふむ…やはり金属でないと今一つ、体に馴染まないものだな。」

「それにしても…。」マナが不機嫌そうに愚痴をこぼした。
「祐介君に美汐ちゃん…すぐ次がアタシだって事は分かってる筈なのに…
 『一緒に行こう』って、待っててくれてたっていいようなものなのに…
 どーしてずんずん、人を勝手に置いてけぼりに出来るのかな、もうっ。」
「そう無闇に怒ったりするものではない、二人にも待てないそれなりの事情が
 あったのかもしれないのだし。」

…事情は大ありだった。

TO BE CONTINUED?!

65パラレル・ロワイヤルその⑫:2003/09/14(日) 19:39
「初音ちゃん、ほらやって来たよ。」
「千鶴お姉ちゃ〜ん、梓お姉ちゃ〜ん。」
「…耕一さん。」
植物園・交戦禁止エリアから左程離れていないスタジオ・舞台村入口付近、
Aグループ第3組の七瀬彰(68番)と柏木初音(21番)、柏木楓(18番)は
笑顔で後続第4組の3人、柏木耕一(19番)・柏木千鶴(20番)・柏木梓
(17番)を迎えた。

「本作では考えられない程あっさり合流出来ましたね。」
初音の頭を愛おしげに撫でながらいう彰の体には、今も初音から与えられた
鬼の血が流れている。
「ああ、おかげで本命チームいきなり結成だな」耕一が親指をグッと立てて
答える、「今回は千鶴さん一人に苦労と心配を背負わせずに済みそうだ。」
「もうっ、耕一さんたら…。」千鶴もゲーム開始直後だというのに、すでに
半ば安堵の笑みさえ浮かべている。

それも無理もない、柏木四姉妹(四女を戦力に入れるかは微妙だが)に加えて
耕一に鬼の同属入りを果たした(果たしてしまった?)彰まで揃っているので
ある、彼らに対抗できそうなメンツは、現状推測可能なメンバーの中では、
不可視4人組か強化兵4人組位である。

「それにしても…。」彰が言葉を続ける、
「初音ちゃん、今回よく頑張ろうって気になったね…てっきり代戦士を依頼
するのかなって正直思ってたんだけど。」
「ひどいよ、彰兄ちゃん。」むくれた初音が彰の胸の辺りを拳(というより
は『グー』)でポキュポキュ殴って(というよりは『スキンシップして』)
抗議する、「私だけ仲間外れなんて嫌だよ…それに今度こそは彰兄ちゃんと
信じあえた上でキチンと…エヘへ、最後まで『護って』貰いたいし。」
「は、初音ちゃん…そ、そういう反撃は…。」いつの間にか初音に右掌を
両手で包むように優しく握られながら抗議を聴かされていた彰が、見る見る
その顔を赤くしてうろたえ始める、
「…御馳走様です。」さり気無く突っ込みを入れる楓も表向きは平静だが、
皆と一緒にいられる嬉しさを隠し切れない様子だ。

「だが…。」今度は耕一が口を開いた、
「初音の代戦士を半ば確信しきって、鼻息荒く胸膨らませていたかおりには
気の毒な結果となったな…『今度こそはゲームに参加して梓先輩と愛の冒険
活劇をやるんだ』って、張り切っていたからな。」
「…かおりさんには気の毒ですけど、作品別参加枠数制限ばかりは私達でも
どうにもなりませんものですね。」千鶴も申し訳なさ気な表情で呟き頷く、
「かおり…。」梓もこの時ばかりは流石に寂しそうだ、そんな梓を元気付け
ようとしたのだろうか(…って、もともと話を振ったのは当の本人なのだが)
耕一は…うっかり禁句をその口にしてしまったである、
「…梓にとっても、初めてのその体を許しあった愛する者と共に戦えないと
いう事は、俺達には想像出来ない様な不幸であり苦しみでも…。」
「んな訳あるかあっっ!!くおの、馬鹿耕一っっっっ!!!!」
因果応報、耕一は最後まで話し終わる前に、支給装備・ボクシンググラブを
その手に嵌めた梓の『顎から脳天へと突き抜ける』リフトアッパーをお見舞
された…耕一のマッチョボディーがたっぷりメートルを付けられる程に浮き
そして、音を立てて大地へと叩き付けられた…。


…それは、日常生活では許される行為であった事だろう、
仮に百歩譲って、本作ハカロワでもこの程度のツッコミは珍しくもない
一般的イベントだったに違いない、が…

『ビーッ、19番・柏木耕一、有効打直撃により失格…直ちに交戦エリアより
退いて下さい』…耕一の識別装置から非情のアナウンスが発せられた。
「な…。」顔に縦線を立てて固まる一同。
「おい、チョット待てよ!今のは…今のは只のツッコミじゃないか!」
梓が必死になって弁論を行う、
『本作ハカロワ2巻における観月マナVS住井護戦の例に習い、突っ込みも
ルール上は攻撃の一種と見做します…加えて19番は17番の攻撃を受けた
際、白目を剥いて頭から落ちました…誰がどう見ても立派な有効打です。』

と、その時…ドサッと人が倒れる音がした。
「楓!」「楓お姉ちゃんっ!」千鶴と初音が血相変えて楓に走り寄る、
「…耕一さん、どうして私達は…巡り会った途端、別れるのですか?…」
楓が卒倒し、弱々しくうわ言を呟いていた…どうやら、慕い人の余りにも
唐突かつ不用意なリタイアに失望とショックで失神してしまったようだ。

『ビーッ、17番・柏木楓、ナースストップの為失格…失格地点最寄の
14P・ピースさんは直ちに救急搬送車で17番の元へ急行して下さい』
…楓の識別装置からも、アナウンスが発せられた。

【19番・柏木耕一 17番・柏木楓 脱落…残り111人】

TO BE CONTINUED?!

66パラレル・ロワイヤルその⑬:2003/09/18(木) 20:26
…唐突ではあるが、ここのみ他の地点より大きく時間が進む事となる…。
他の地点の話を間に挟むなりして何とか調整をして行く事を約束しよう。

海水浴場を望む松林の陰に潜む3つの影、
Bグループ第6組の別名『東鳩マーダーチーム』、
藤田浩之(77番)、長岡志保(63番)、HMX−13セリオ(52番)である。
「…海水浴場に待機集結中のメンバーの解析完了しました、
 第1組三井寺月代さん・砧夕霧さん・桑島高子さん、
 第3組マルチさん・佐藤雅史さん・新城沙織さん、
 第4組芳賀玲子さん・雛山理緒さん・御影すばるさん、
 第5組相原瑞穂さん・太田香奈子さん、以上11名です。」

浩之と志保に伝達するセリオの出で立ちは黒いセンサースーツという表現が
最も近い…加えて表現するならば頭部以外の肌の露出していた部分は柔らか
そうな黒の素材でぴったりと覆われている…一方、志保ちゃんレーダーにて
配置の再確認を行っている志保の方の出で立ちはといえば、能や歌舞伎の
黒子の衣装そのまんまである…素材の方はゲームに適した物へと変更されて
いるようだが…至急装備の方はといえば、セリオの方はサバゲー用の大型
ゴムナイフと手品・曲芸用投擲ゴムナイフが数本、志保の方はスコープが
付いたウェザビーMK−Ⅱ(エアガン)である、

「11人か…第3組がフレンドリーなメンバーだった事と、Aスタートの
エリアと隣接してるが故に激戦区と予想されるスタジオ・舞台村ルートを
避ける選択が重複した結果なんだろうな、この大人数は…とはいえ、例え
油断してくれてたとしても楽な人数ではないし、本作で見知ったメンツも
混じっているから下手すりゃ返り討ちになりかねねぇな。」
そういう浩之の支給衣装は学ランだった…そして支給装備の方は2丁の
イングラムM10(エアガン)、それにポマード・櫛・両面とも裏面が刻印
された500円玉が一枚…。

「やれやれ、何が何でも少数熱烈なるマーダー浩之のファンの皆様方の
 御期待にお答えしてくれってのかね、G.Nは?」
「…で、アタシ達にはそのマーダーヒロのバックアップをしてくれと!」
志保が不平気味に言葉を返す。
「…でも、悪くはないわ…あかりには絶対出来ない形でヒロに貸しを
 作れるというのも…。」
「志保?」
「…だって、アタシだって、アタシだって…ヒロの事、ずっと前から…。」
残念な事に、黒子頭巾のお陰で今の志保の表情を浩之が見る事は出来ない、
しかし浩之は、そんな志保に向かって自分の表情を隠す事無く言葉を返す、
「志保…俺も悪くないと思っている…あかりに絶対に文句を言われない形で
 今、お前の好意に甘えられる事を…。」
「な…バ、バカッ!!」耐えられなくなったのか我に返ったのか、志保は
いきなり浩之に怒鳴り返してそっぽを向く、恐らくは両方が原因だろうが。

67パラレル・ロワイヤルその⑭:2003/09/18(木) 20:27
「可能な限りの武装判別が完了しました、まず83番装備のロボピッチャー
 1基、49番装備の手回し式台車付きエアガトリングガン1基、70番
 装備の巨大十字架型エアマシンガン1基、73番装備のスコーピオン型
 エアガン1丁、38番装備の電動式農薬散布機1基、42番装備の吸盤
 付きボウガン1丁、2番装備の赤外線内蔵型双眼鏡1個、82番装備の
 ワンタッチ式雨傘1本、84番は防具着用・10番・30番は装備不明
 以上です、後周囲の砂浜には落とし穴等の罠は存在しないようです。」
セリオの追加報告に最後の作戦会議が始まった、
「対能力者補正もあるのだろうが凄まじい装備だなお嬢さん達、しかも
 未知の装備が後2つ3つか…まあ仕方ない、まずは志保の安全を確保
 する為に俺が…を実行する、志保は一発必中でまずアレを潰してから
 続いて順にソレ→コレの順に手際よく沈黙させてくれ。」
「判ったわ、任せてヒロ♪…でも、無理しないでね。」
「セリオは先行して大きく迂回して貰ってだな……という手筈で頼む。」
「了解しました浩之さん…どうか、お気を付けて。」

最後に浩之は志保とセリオの肩を抱いて引き寄せると二人に呟いた、
「俺はこれから…G.Nの意向とやらにあえて甘んじ踊らされ、お前達を
 巻き添えに修羅道へと走る事となる…勝って顰蹙負ければ失笑、結果が
 転ぼうといいとこ無しの役回り、ホテルでモニターを御覧になっている
 皆様方やコレを呼んで下さっている奇特な皆様を喜ばせる事だけが華の
 道化に等しい存在なのだが…それでもお前達、俺について来るのか?」
「くどいわよ、ヒロ。」
引き寄せられたついでに浩之の頬に唇で触れる志保、
「委細承知です、浩之さん。」
思わず志保の真似をして浩之の反対側の頬に唇で触れるセリオ、

「お…俺からの言葉は以上だっ!各自速やかに持ち場に付いて行動を開始
 せよっ!!」
赤面しつつも最後の号令を下した浩之は一人、海水浴場の砂浜へと足を
踏み入れると、岩場を目指してゆっくりと歩いていった。

TO BE CONTINUED?!

68パラレル・ロワイヤルその⑮:2003/09/19(金) 20:16
所変わって水族館、こちらもCグループ第2組のマナ・聖が通過してから
それなりに時間が経過している…幾つもの巨大な水槽と幾層もの連絡通路に
壁と天井を囲まれた巨大な中央ホール、そこに潜む二つの影…

「むっ、来たでござるよ。」赤外線スコープで自分たちが元来た大廊下を
監視していた方がインコムで報告を開始する、
「ライバル接近、頭数6…推定第4組の95番・宮田健太郎殿、9番・
江藤結花殿、79番・牧部なつみ殿、5組の50番スフィー殿、100番
・リアン殿、74番・姫川琴音殿と思われるでござる…確認済の装備の方は
95番・コルトガバメント(エアガン)、9番・両手用ピコピコハンマー、
79番・コルトXM177E2ライフル(エアガン)、50番・投げパイ、
100番・不明、74番・ブリキのバケツ、以上でござる。」
「り、了解したのだな…あ、姐さん、ど、どうするのだな?」
「…6人なら充分相手に出来る人数だ…まずはエアガンの2人を最初の攻撃
で黙らせるんだ…続いて、粗末な装備の連中に気を付けろ…能力者の可能性
もあるから水槽の側近くにいて能力を使わせ難くするんだ…もし逃げられた
時は逃走経路と予測先を逐一、私に連絡しろ…以上だ、それじゃあ御前達…
しっかりおやり!」
「ヨイヨイサー!でござるよ。」
「ホイホイサー!…なんだな。」

一方、水族館にてハーレムデート状態の宮田健太郎(95番)、江藤結花
(9番)、牧部なつみ(79番)、スフィー(50番)、リアン(100番)
達と行動を共にしている姫川琴音(74番)は苦悩していた…というのも、
水族館に入り奥へと進む度に自分の能力が危険を訴えているのだ…しかも、
場所はガラスだらけの水族館…間違っても自分達の能力は充分な制御の元で
ないと…緊急時にいきなり反射的に使用する事は余りに危険過ぎて出来ない
…そして更に彼女が苦悩している事は、それをすぐにも他の5人に訴えたい
所であったが、5人とも内輪であっさり合流させて貰った事に上々の雰囲気
の様であり、一人顔見知りもいない部外者的存在である自分が今の雰囲気に
水を差すような警告を行うという事がどうしても出来ないでいる事だった。

「どうしたの?顔色、悪いじゃない?」結花がようやく琴音の様子に気付き
心配そうに声を掛ける、
「あ、あの…。」琴音が伏目がちにポツリポツリと口を開く、
「私…一人部外者ですし、その…宜しいのでしょうか?…このまま皆さんと
ご一緒させて頂いても…?」
「何水臭い事言ってるのよ!」スフィーが琴音の背をポンポン叩いて言う、
「そうですよ、『袖触れ合うも多少の縁』です、仲間の方とお会い出来る迄
の間、是非とも御一緒して下さい。」リアンも笑顔で琴音に答えた、
「駄目よ、『部外者』だなんて『壁』を自分から造ってちゃあ。」なつみも
なかなか好意的な反応を示す、
「むしろ、私と店長さん…それに琴音さんに付いて来て欲しくないのは…」
「言ってくれるわね、幼馴染水入らずの状況に皆で後からやって来ておいて」
「皆勝手ばかり言ってるよ!私とけんたろは運命の腕輪で結ばれた誰よりも
密接なる間柄で…。」
…中央ホールに入ってきた所で三つ巴の女の戦いが始まろうとしていた。

「み、皆さん落ち着いて下さいっ!」
「そうだよ、琴音ちゃん困っているじゃないか!」
流石に健太郎もこの状況下で内輪の誰かの名前での仲裁が油を注ぐ結果と
なる事を充分、心得ていた…琴音ちゃんがいてくれて本当によかった、
「そ、そうね。」「うん分かった。」「ゴ…ゴメンね。」
「み、皆さん有難う御座います…。」5人に快く受け入れられた事実を
やっと確認出来た琴音は、まず心からの礼を述べた…そして、
「実はその…ずっと気になっていたのですが、先程から先へ先へ進む度に
よくない予感が…」
…琴音はその言葉を最後まで伝え切ることは出来なかった、

ビシッ!「きゃああっ!」
『ビーッ、79番・牧部なつみ、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』

…後頭部にBB弾の直撃を受けたなつみの悲鳴と識別装置のアナウンスが
琴音の言葉を掻き消してしまった…『警告』は間に合わなかった。

【79番・牧部なつみ 脱落…残り110人】

TO BE CONTINUED?!

69パラレル・ロワイヤルその⑯:2003/09/20(土) 20:09
「き…来ましたっ、藤田浩之ですっ!」
岩場の比較的高い所から赤外線双眼鏡を覗いて索敵を続けていた藍原瑞穂
(2番)は下の仲間へと大声で叫んだ。
「もう2人は?」期待と不安を半々に佐藤雅史(42番)が瑞穂に尋ねる、
「いませんっ、藤田さんだけです!」
その瑞穂の返事にその場にいた皆が緊張した…まさか、後2人は既に…?

「各自、第一次迎撃体制っ!」
巨大な十字架を模したエアマシンガンを構えつつ、自前のガッシュのコスに
身を包んだ芳賀玲子(70番)が号令をかける、
「出来れば藤田君とは戦いたくないけれど、『二度目』は絶対嫌だよっ。」
雛山理緒(73番)の呟きに「ええ、全くよ」と相槌を打つ新城沙織(49番)
は横の太田香奈子(10番)と供にエアガトリングガンの砲身を既に肉眼でも
確認出来る距離…50メートル程にまで歩み寄って来た浩之へと向けた、
とその時、
「皆さん、待って下さい!」「僕達が説得…いえ確かめて来ます!」
集団最後方から止める間も無く、傘を持ったHMX−12マルチ(82番)と
吸盤付きボウガンを持った佐藤雅史(42番)が飛び出して行き、浩之の前へ
と歩いて行った…「浩之さんっ!」「浩之っ!」

残り40メートル、
…浩之は歩きながら胸ポケットよりポマードを取り出し、前髪を後ろへと
固めながら語り始めた、
「これは、このディア…ゲフンゲフン、藤田浩之に与えられた…試練だ。」

残り30メートル、
…浩之は再び胸ポケットから今度は櫛を取り出し、後ろへと固め終った髪を
丁寧に整えながら更に語り続ける、
「里村茜さんを超えて非情になれという…G.Nより与えられた試練だ。」

残り20メートル、歩み寄って来るマルチ・雅史との距離は5メートルと
離れていない、
「俺は超える…里村さんも、国崎さんも、そして…あの弥生さんをも!!」
…浩之が頭上から櫛を下ろす、そして櫛を持った腕が浩之の顔の上、双眸の
上を通過する…

「!」「!」マルチと雅史の体が石化する!さながら大魔神の如く、本作の
『アレ』へと豹変した…浩之のその眼をまともに見てしまったからだ。

そして…浩之はズボンのポケットから500円玉を取り出すと、ピィーンと
指で高く弾き上げた…

「そ…そのコスプレ…!」玲子が叫ぶ、「ぜっ、全員撃ち方用意っっ!!」

TO BE CONTINUED?!

70 パラレル・ロワイヤルその⑰:2003/09/21(日) 19:28
「うわあっ!」健太郎は間の抜けた声をあげて右手に持っていたガバメントを
取り落とした…なつみと同時に健太郎を狙って飛んで来たBB弾のセミオートは
狙いがそれて健太郎の支給装備へ命中したのだ…ガバメントが床の上を音を立て
滑って行く、

「何をしておるでござるか!」水族館中央ホール内、連絡通路の暗がりの中で
暗視スコープの付いたFN−FAL(エアガン)を構えた縦王子鶴彦(58番・
代戦士)がインカム越しに叱咤の声をあげる、
「そ、そっちこそ、ライフル再利用されてしまうのだな!」ホール内休憩エリア
の自動販売機とベンチの影でAK47(エアガン)を構え直している横蔵院帶麿
(71番・代戦士)がそれに答える、その言葉通り江藤結花(9番)が『死体』
となったなつみの手から彼女の支給装備であるコルトXM177E2ライフルを
ひったくり、弾が飛んで来たと思しき場所を目掛けて乱射を始める、
「何処にいるのよおっ!出てきて勝負しなさいよおっ!」

「一人、見付けました…。」「こちらにもう一人おります。」リアンと琴音は
冷静に探知魔法と超能力で縦王子・横蔵院の潜伏位置を発見した、
「居場所が分かればこっちのモンよ、マ・ジ・カ・ル…」
「姉さんっ、ここじゃ駄目っ!!」
妹に叫ばれたスフィーは、やっと気が付いた…ここは水族館だ、魔法に限らず
破壊力の高い能力を使う訳にはいかない、しかも敵は二人とも水槽のすぐ近くに
陣取っている…マジカルサンダーを発動し掛けたまま、スフィーは動きを止めて
しまった…発動の間の一瞬だけのつもりで、遮蔽物の前から飛び出してしまった
まま…
ビシビシビシビシビシッ!「キャ〜〜〜〜〜ッ!!」
『ビーッ、50番・スフィー、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリアより
退いて下さい』
「すすす、『水槽が盾』作戦、大成功なんだな。」

「健太郎さん、危ないっ!」ビシビシビシッ!「キャアアアッ!」
『ビーッ、100番・リアン、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリアより
退いて下さい』
…スフィーのリタイアとほぼ時を同じくして、床に転がっていったガバメントを
拾おうとした健太郎は拾う瞬間の無防備な所を縦王子に狙い撃ちされた、そして
それを庇うために飛び出したリアンが健太郎の身代わりにゲームから脱落した、

「リアンっ!…くそっ、結花!琴音さんっ!このままじゃ全滅だ…右の通路から
逃げるぞっ!」縦王子・横蔵院が潜んでいそうな辺りに牽制射撃を加え、琴音の
手を引きながら健太郎がホール右通路へと後退し、XM177で乱射を繰り返す
結花がそれに続く、

縦王子・横蔵院も深追いはせず、打ち合わせ通りにインコムでの通信を始めた。

【50番・スフィー 100番・リアン 脱落…残り108人】

TO BE CONTINUED?!

71パラレル・ロワイヤルその⑱:2003/09/22(月) 18:22
…500円玉が舞い上がると同時に玲子が慌てて号令を掛けた、とその時…

ビシッ!「キャアッ!」
『ビーッ、2番・藍原瑞穂、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリアより
退いて下さい』…囮も兼ねていた浩之に釘付けになっていた瑞穂の眉間に、
志保が放ったウェザビーMK−Ⅱの第1弾が見事にヒットした、
…もうこの場にいる他の誰も、志保を見付ける事は出来なくなった…。

そして、瑞穂の識別装置からのアナウンスが、その場にいた浩之以外の
全員を混乱させた…『何処?!…何処か他にも敵がいるの?!』皆が一瞬、
浩之から視線を外してしまった…500円玉が砂浜に落ちる迄の短い一瞬…

その一瞬の間に、浩之はマルチと雅史に走り寄り…非戦意・非武装同然の
2人を敢えて撃たずに盾として隠れるように回り込むと、後方集団目掛け
イングラムによる先制の一斉射をバラ撒いた、

ビシビシビシビシッ!「ううあああっ!」
『ビーッ、73番・雛山理緒、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』…マルチ・雅史が盾となってしまった事に応射を躊躇
してしまった雛山が浩之最初の餌食とされた、

「よくも…よくも瑞穂を!」「香奈子ちゃん、待って!」
親友瑞穂のリタイアに我を失くした加奈子は沙織の制止を聞かず、怒りに
任せてエアガトリングガンの砲身を浩之達に向けるとハンドルを滅茶苦茶に
回し捲くった…シパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパッ!

浩之は加奈子がハンドルを握ると同時に、ワンタッチ傘をマルチもろとも
引っ掴むと、素早くボタンを押して開きBB弾の横殴りの雨を防いだ、

ビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシッ!!
「ひどいよひろゆきひどいよひどいよひどいよひどいよおおおおおっ!!」
『ビーッ、42番・佐藤雅史、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』…哀れ、一人防ぐすべなく取り残された雅史は加奈子の
放ったエアガトリングガンの斉射を後ろから全身に浴びまくってゲームから
脱落した。

ビシッ!「アーッ!」
『ビーッ、10番・太田香奈子、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』…親友瑞穂の真の敵、志保の第2弾によって、香奈子も
リバーサイドホテルへと送られた、

浩之は傘(+マルチ)を翳したまま、玲子を一直線上に捕らえる形で走って
エアガトリングガンへと回り込むと、香奈子に続いてハンドルに飛び付いた
沙織目掛けてマルチカタパルト弾を御見舞いした、ガトリングガン越しに
山なりに飛んで来たマルチのキュートなお尻を沙織は受け止め…損なった。

ボスッ!!「ムギュウッ!!」
『ビーッ、49番・新城沙織、有効打直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』…沙織はマルチのヒップボンバー→ヒッププレスの
2連コンボをまともに食らって砂浜に仰向けにブッ倒れた。

一方、お尻から沙織の頭越しに砂浜へ着地したマルチはそのままショックで
目を回して伸びてしまい、最後の最後まで戦線から離脱する羽目となった。

…かなり後になり判った余談事であるが、奇しくも沙織の頭越しの着地で
有効打判定に引っ掛からず、失神・気絶ではなく朦朧状態でナースストップ
判定にも引っ掛からなかったマルチの識別装置は沈黙したままであった…
しかし、当時の混戦状態でそれに気付く者は誰一人としていなかった。

【02番・藍原瑞穂 73番・雛山理緒 42番・佐藤雅史 
 10番・太田香奈子 49番・新城沙織 脱落…残り103人】

TO BE CONTINUED?!

72パラレル・ロワイヤルその⑲:2003/09/23(火) 19:01
「こちら縦王子・横蔵院、ライバル6名中3名撃破残り3名は第二連絡通路
より『触れる海棲哺乳類』エリアに逃走中、武装はガバメント・XM177
・バケツ…以上でござる。」
「…判った、逃げた3人は私自らが狩る、お前達は戦利品をチェックした後
新手に備えよ。」「了解でござる。」「了解したのだな。」

そんな通信がなされているとは夢にも思っていない健太郎・結花・琴音は
そのまま連絡通路を通って『触れる海棲哺乳類』エリアに到着していた。
ここはさながらフロアそのものが巨大な堀となっており、縦横に橋状の
通路が敷設されている、堀の中には十数頭のイルカが泳いでおり、時折
こちらに顔を出しては人懐っこそうな鳴き声を上げていた。

その様子を眺めているうち、奇襲を受け仲間を半分失って逃げてきた3人の
心の中にようやく落ち着きが戻ってきた…3人は更なる移動もかねて、
エリア中央の連絡通路を泳ぐイルカを眺めながら並んで渡り始めた…と、
結花は通路の下を泳いで潜るイルカ達の中に奇妙な影を見たような気がした
…もっとよく確かめて見ようと腰を屈めようとした、その瞬間…

ザバアアアアッッ!!
いきなり結花の背後に水柱が立ち、人影が勢いよく飛び出して来た、
その人影は後ろを取られた結花に飛び出した勢いそのままドロップキックを
かましてきた…手すりもない狭い橋の上でしかも不意打ちでドロップキック
された結花はたまらない、
「ギャーーーーーーッ!!」ドッポーーーン!!
『ビーッ、9番・江藤結花、アタックダイブにより失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』

人影はドロップキックの反動でバク転しつつフワリと通路の上に降り立つと
「ゆ、結花〜〜ッ!!」と叫んでいる健太郎目掛け鎖分銅の如く振り回した
鎖付きの風呂桶のゴム栓を飛ばして来た、
「危ないっ!」琴音がとっさに持っていたバケツでゴム栓を跳ね返したが、
バケツの方も反動で琴音の手から弾き飛ばされ、堀の中へと沈んでいった、
そして、人影こと岩切花枝(8番)は反対側の手に持ったもう1セットの
ゴム栓を飛ばして反撃に転じようとした健太郎のガバメントも堀の中へと
弾き飛ばした。

「くうっ、これまでかっ…。」「け、健太郎さん…。」健太郎と琴音は
狭い通路の上、武器を失い二人なす術なく身を寄せ合いながら、一歩一歩
近付いて来る岩切へと厳しい視線を向けるだけで精一杯…絶体絶命だった。

「そっちの女…能力者だな。」岩切の仙命樹が琴音の内に秘めし『能力』の
匂いをたちまち、嗅ぎ当てた。
「何の能力なのかは判らないが…使われる前にまずはお前から片付けさせて
貰うぞ。」

琴音の方はといえば、既に岩切の刺すような鋭い視線に射竦められ健太郎に
しがみ付いて震えているだけである…もっとも、今の間合いでは強化兵の
反応速度を考えれば仮に勇気があったとしても能力を発動させる前に確実に
琴音は岩切に仕留められてしまうだろう…健太郎が盾となったとしても。

しかし、実は既に『能力』は『発動』していた…岩切は勿論の事、琴音本人
すらも自覚していない形で…。

73パラレル・ロワイヤルその⑳:2003/09/23(火) 19:02
「悪く思うなよ。」岩切がゴム栓の鎖で琴音を捕らえ水中へ引き摺り込もう
としたまさにその時…岩切の背後に巨大な水柱が上がった、
「!?」岩切が驚き振り返った瞬間にはもう既に、水飛沫の中の巨大な影が
そのまま体当たりするが如く、岩切に盛大なる頭突きをお見舞いしていた、
たまらず水中へと叩き込まれた岩切に更なる頭突きの連打が襲い掛かって来た
「うわわっ、やっ止めろおおおっ!!」もうこうなるといかに水戦試挑体とは
いえ相手が悪過ぎるし第一、頭数が違い過ぎる。

「イルカさん…。」「ああ、でも…どうして?」
思いもがけない事態で窮地を免れて呆然としている琴音と健太郎の前に、
バケツとガバメントを咥えた二頭のイルカが顔を出して来た。
「きゅ〜〜〜〜っ♪」「きゅ〜〜〜〜っ♪」
「あ…有難うイルカさん…。」
琴音は臆する事無く身をかがめ二頭のイルカの口からバケツとガバメントを
受け取ると、精一杯の感謝の気持ちを込めて濡れるのも厭わずに二頭の頭に
頬擦りし優しく撫で回した。「きゅーっ♪」「きゅーっ♪」

「…すまないけど琴音ちゃん、先を急ごう…最初の2人が追って来るかも
しれないし…。」「はい…判りました、健太郎さん。」
イルカに別れを告げた2人が手に手をとって水族館反対側出口方面に移動を
開始した頃、堀には頭突きをしこたま食らって目を回している岩切が、
仰向けにプカリと浮かび上がって来た。
『ビーッ、8番・岩切花枝、ナースストップにより失格…失格地点最寄の
14Mミリアさんは直ちに救急搬送車で17番の元へ急行して下さい』…

「何という事でござるか!」
「や、やられてしまったのだな…。」
「う〜む、惜しいリーダーを失くしてしまったでござるよ。」
「こ、これからどうするのだな?」
「どうするもこうするもござらん…場を変えて再び、戦いの中に身を投じる
のみでござるよ。」
「そ、そうなんだな…ぼ、僕たちの戦いもまだ始まったばかりなんだな…。」

【09番・江藤結花 08番・岩切花枝 脱落…残り101人】

TO BE CONTINUED?!

74パラレル・ロワイヤルその21:2003/09/25(木) 19:18
「…………………………………………。」
「…………………………………………。」
「…………………………………………。」
「…………………………………………。」
「ふむ……………………………………。」
「アンタら雁首並べて何にらめっこしとるんや、もう過ぎた事なんちゃうか
?ホンマアホらしいわ。」
「『過ぎた事』で済まされてたまるか!」

Aスタート地点交戦禁止エリアに程遠くない巨大公園入り口、そこに現在
集結中のメンバー(現在計6名)は、Aグループの
第5組 藤井冬弥(76番)・森川由綺(97番)・緒方理奈(13番)、
第6組 緒方英二(12番)・保科智子(78番)そして住井護(51番)という
組み合わせ…しかし当然ではあるが、他のメンバー同様に後続の
第7組 北川潤(29番)・宮内レミィ(94番)そして澤倉美咲(44番)の
到着を待っている住井の心中は穏やかであろう筈が無い、

本作にて自分を裏切った男&その妹・銃撃した女&止めを刺した男と一緒
なのである…しかも4人とも自分より美咲さんと旧知の間柄である上に、
4人ともアタリの支給装備もとい、エアガン・エアライフルで武装している
、それに引き換え自分は…
住井は自分の支給装備であるハエタタキを握り締めながら、自分の無力さと
クジ運の無さにもう、完膚なきまでに打ちひしがれていた。

本作では結果的に間違いであった選択を今回も再び選ばざるを得ないのか?
…確かに、状況的には美咲さんの安全を第一に考えればそれが賢明な選択で
あろうが、自分の意思で『再び』そんな選択をしなければならない位なら…

いっそ北川や美咲さんと合流する前にあの4人を相手に勝ち目の無い戦いを
挑んで…しかし、それでは残された北川に自分の因縁を引き継がせる事に…

そうか、それならば自分には残された行動選択肢はもう1つしか残ってない

住井は自嘲めいた笑みを漏らすと、自分の胸部に装着されている識別装置の
安全テープにそっと手をかけた。

75パラレル・ロワイヤルその22:2003/09/25(木) 20:12
「…早まる必要は無い、住井君。」住井の意図を悟った英二が笑うでもなく
慌てるでもなく…そう一言ポツリと呟いた。
「?…どういう意味だ。」住井は英二の言葉の意味が瞬時には判りかねた、
「まさか俺が美咲さん目当てにあんた達4人の後をついて行かせて貰おうと
するとでも思っているのか?」
「思っていない…いや、住井君が僕達と一緒に来てくれるというのならば
話は別だが、そうでないなら沢倉さんは僕達との同行は選ばない、絶対に…
そもそも、僕達が待っているのは沢倉さんではない…後続第9組の中にいる
篠塚弥生君と河島はるか君だ。」
「何だと?」
「!…成る程、そうだよな…。」今度は冬弥が納得したように声を上げる、
「沢倉先輩は例えゲームだとしても荒っぽい争い事はまるっきり苦手な性格
なのに、敢えて代戦士を頼まずに自らこのゲームに参加した…という事は、
理由は一つしかない。」
ふむ、英二が頷き再び口を開く、
「恐らく…いや絶対に、間違った選択の『やり直し』をしたいがために
沢倉さんは自ら、このゲームに参加したのだろう…そこの二人の様に。」
「え、英二さん!」「最後のは…余計です。」
冬弥と由綺がバツが悪そうに、英二に抗議の声を上げた。

「『やり直し』…」住井はその言葉を自分の中で幾度も反芻した、  →「

…やれるだろうか?…いや、やらなければならない、もし緒方のオッサンの
言葉が本当なら、不安かつ不本意なのを押して美咲さんは自分の為にここに
来てくれているんだ、何が何でもやらなければならない…ナイトとして嫌、
男として…ハエタタキが獲物だからってそれが何だというのだ?思い出せよ
住井護、マシンガンよりも爆弾よりも強い武器がこの世にあるという事を
忘れていたのか?…例えこの手に残っているのが形も色も無い唯一つの意思
だけだったとしてもそれだけで充分だそれだけで美咲さんを護って見せる、

護ってみせる、護ってみせる、護ってみせる…美咲さんと脱落者としてでは
なく勝者としてホテルに帰って…二人にこやかに笑い合いながら、美味しい
モーニングコーヒーを飲みつつ、水平線に上る朝日を一緒に見るんだ………

。」←



「ワォ、護クン大ハッスルしてるネ!」
巨大公園入口近くにある大樹の影で、合流前の先行待機集団の様子を覗き見
していたAグループ第7組・宮内レミィ(94番)が感嘆の声を上げている。
「アイツって昔から興奮し過ぎると考えている事がソノママ口から出て来て
しまうタチでさぁ、特に嬉しい事柄だともう、本音ダダ漏れ状態なんだよ…
まあ、沢倉さんみたいな綺麗な人が相手じゃあ、仕方ないっていえば仕方が
ないんだけどな。」レミィの隣で同じく覗き見をしていた北川潤(29番)が
ヤレヤレといった顔で、恥ずかしさの余り合流前の心の準備を『やり直し』
させられてしまっている澤倉美咲(44番)を見やりつつ、レミィに答える。

「ソレはソーとして、ジュン」急にレミィが真顔になって北川をみやった、
「ワタシ達も『やり直し』気合い入れてガンバルネ!」
「イエス、オフコース!って…確かレミィ、本作で気合を入れ過ぎて大失敗
やらかしたんじゃなかったのか?お前。」
「気にシナイ気にシナイ…智子も言ってタネ、もう過ぎた事だってネ!」

…一抹の不安を隠せない北川であった。

TO BE CONTINUED?!

76パラレル・ロワイヤルその23:2003/09/27(土) 23:22
玲子と高子は状況の不利を悟らざるを得なかった、既に過半数の6名が脱落
(彼女達はマルチに失格判定が下っていない事に気づいていない)し、しかも
眼前の浩之のみならず狙撃者にも一方的に狙われている・・・頼みのエアガン
3丁も内2丁が既に沈黙させられており、更に浩之は傘というエアガン相手
に格好の盾を得てじりじりと肉薄をしている、今は玲子のエアマシンガンで
辛うじて抑えてはいるが・・・そんな中、月代のロボピッチャーが遂に浩之を
捕捉した、

今まで一体月代は何をしてたんだと思われる所だが、実はロボピッチャーは
連射・曲射・長距離射・強打の点では申し分の無いアイテムなのであるが、
実は狙い撃ちにはまるで向いていないのである、だからこのような局面では
思い切り引き付けてから傘もろともゴムボールの連打の圧力で押し潰す様に
使うのが正解といえば正解なのである、

しかし、その時月代の中のわずかな仙命樹が背後からの気配を感じさせた、
「背後は海なのに・・・まさか?!」
月代はその予感の儘にロボピッチャーを旋回反転させ発射ボタンを押した。

セリオは驚愕した、自分は殆ど完璧にその気配を消して集団後方の海岸まで
潜水して泳いで来た筈である、それなのに水面から顔を出した瞬間、眼前に
ゴムボールが連続飛来して来たのである!

しかし・・・その驚愕も彼女にとってはコンマ1秒の間だけの事であった、
1発目を辛うじて回避、2発目は隠し武器の『魚焼きレーザー』で撃墜した
・・更に3発目が!・・・ぱくっ!!・・・何とセリオはそのまま口を大きく開けて
アンパン丸かじりの如くゴムボールを咥えてキャッチしたのである!更に、
続けて飛んで来た4発目・5発目のゴムボールを両耳のセンサーを外して
握り直すと・・・ラケット代わりにして打ち返したのである!

打ち返したゴムボールは片方はロボピッチャーに命中して向きを再反転旋回
させ、もう片方は月代を掠め彼女の後方にいた砧のお凸にクリーンヒット!
バコッ!!「Qッ!!」
『ビーッ、30番・砧夕霧、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』

「夕霧ちゃんっ!」月代が一瞬、お凸にゴムボールの跡を付けて目を回して
いる砧の方を振り向く・・・その一瞬の間にセリオは海中から海岸に跳躍し、
ゴムナイフを構えて一気に月代へと走り寄った、
「あっ・・・。」
「ほはふほふははひ。」(お覚悟下さい)

・・・とその時、横から素早く走り寄った袴・鉢金・胴丸姿の女性が、月代を
目掛けてゴムナイフを突き出さんとしたセリオの右手を絡め取り、そのまま
セリオの突進力を利用して向こう側へと投げ飛ばした、
「!」
セリオはそれでも冷静にくるりと身を捻り、ふわりと砂浜に着地した。

「…ずるいですの。」袴の女性、御影すばる(84番)は怒っていた、
「騙まし討ちしたり不意打ちしたり仲間を盾にしたり・・・卑怯ですの。」
「ひひょうへふは?ひゅうひっはひはんほ、ひんふーはほほひはふはへほ
ふふうはほ、はひはふひへふははひ。」
(卑怯ですか?11対3の人数差を補う工夫だと解釈して下さい)
「そうですか・・・ではこれから私と正々堂々1対1・助太刀無用の勝負を
お願いしても宜しいですか?」
「ほほほひへ、はひはひはは。」(お望みでありましたら)
そういうとセリオはナイフをしまい、ここにはいない来栖川綾香との幾度も
のスパーリングでいい加減サテライトなしでもメモリーに染み付いている
エクストリームのファイティングポーズを優雅に決めた(ボールも吐いた)、
「凄いですの、流石はエクストリームチャンプ・来栖川綾香さんのお手伝い
さんですの。」
すばるは眼前の強敵を前に、武者震いが止まらなくなりそうになっている
自分を深呼吸で鎮めると、これまた大影流の構えを優雅に決めた、

『それでは・・・参ります』両者ハモったその時、

「撤収するわよ!」「月代ちゃん、すばるさん…早くこっちへ逃げて!」
背中合わせにエアマシンガンと農薬散布機で必死に浩之を牽制し続けている
玲子と高子がすばる達に呼び掛けた、すばるはセリオから目線をそらさずに
後手のゼスチャーで月代を先に2人の元へ行かせると、セリオも後方へと
ステップして下がり、そのまますばるにしばしの別れを告げた、
「今は引くのがお互い好都合の様です・・・続きは、またいずれ。」
「・・・是非とも楽しみにしてますですの。」

セリオが志保のトラブルを察知し浩之に伝達したのと、すばるが生き残り
3人と供に元来た松林・・・Bスタート分岐地点の方へと撤収を完了したのは
殆ど同時のことであった。

【30番・砧夕霧 脱落…残り100人】

TO BE CONTINUED?!

77パラレル・ロワイヤルその24:2003/09/28(日) 19:37
セリオが海中からの奇襲を開始した頃、松林の昼なお暗い影の中に潜む
長岡志保(63番)は第3の標的・芳賀玲子をウェザビーのスコープ内に
捕捉していた、
「ふんふん♪ふふんふ〜ん♪最後に彼女をスナイプすればエアガン組は
全滅…後はヒロとセリオで充分カタが付きそーね♪」そう言って、指を
トリガーに掛けたその時、頬に冷やりとしたヌルリとした張り付く様な
感触がいきなり襲ってきた。

「!?」志保は条件反射的に起き上がり、感触のきた方へウェザビーを
素早く向け直した…しかし、そこには誰もいなかった。
「…気のせいなの?」気を取り戻そうとした志保はその時いきなり後ろから
両肩を掴まれた!思わず振り返って…大アップで視界に入ってきたものは…

「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?」
『ビーッ、63番・長岡志保、ナースストップにより失格…失格地点最寄の
14Maマリアさんは直ちに救急搬送車で63番の元へ急行して下さい』…

「お昼前だけど、大成功だよ〜♪」片手にコンニャクをぶら下げた釣竿、
もう片手に鉈の深々と刺さったラバーマスクを持った水瀬名雪(91番)が
泡を吹いて横たわる志保の後ろでガッツポーズをとっていた。
「ぱちぱちぱちぱち………。」
「うに、今の面白かったね。」
Bグループ第7組の残り2人、遠野美凪(62番)とみちる(87番)が
名雪の見事な健闘(?)を称えた。

「試しに途中下車してみたら、あんな場所に出て来たんですね〜。」
「うに、誰か遠くからこっちへ来るよ。」
「…それでは見付からない内に…元の道に戻りましょう。」

3人は志保のウェザビーとBB弾をゲットすると、急ぎ足で松林の隅に
ある神社の扉を開き、順々に中へ入って行って中から扉を閉めた。

余談だがみちるが発見したのは、浩之とセリオの迎撃に失敗して撤退中の
高子・玲子・すばる・月代であり…本来志保の待ち伏せと裕之・セリオの
追撃を受けて恐らくはそのまま全滅は免れない筈であった。

彼女達に退路を与えたのは名雪の気まぐれとイタズラ心に他ならなかった。

【63番・長岡志保 脱落…残り99人】

TO BE CONTINUED?!

78パラレル・ロワイヤルその25:2003/09/28(日) 20:10
「…それでは、ここにて失礼致します。」
「ほな気ぃ付けてな。」「お気を付けて。」
Cグループ第6組はそれぞれの目的に向かって早くも2分割された、
天沢美夜子(4番)はBグループにいる娘・天沢郁未(3番)と合流する為に
水族館→海水浴場ルートを選び、神尾晴子(23番)と橘敬介(57番)は
ヨットハーバー・港の方へと移動を開始した、
理由は敬介の支給装備がヨット又はクルーザーのハンドルだったからである
意味もなくそんなものが支給される筈もないだろう、恐らくこのハンドルを
待っている船がヨットハーバーか港にある筈なのではないだろうか…?
そんな根拠に乏しいものの好奇心をそそる理由から、彼等2人は美夜子とは
行動を分かったのである。

「晴子さん、御迷惑をお掛けします。」今現在、丸腰も同然の敬介が晴子に
深々と頭を下げる、
「何あらたまっとんねん、何時までたってもそんなんやからウチに
『義兄さん』やのーて『敬介』呼ばれてしまうんや。」晴子は自分の
支給装備・シグサウエルD230(エアガン)の調子を確かめながら
もどかしさを込めたツンツン声で敬介に言葉を返す、
「大体、嫁の妹に『さん』付けするような、その失格者根性何とかしいや、
そんな調子で観鈴と3人水族館行ってみいや、アンタはともかくウチまで
観鈴に誤解されてまうわ!」

敬介は言った…いや、言ってしまった。
「『義妹だから』という理由では『晴子』と呼びたくないし…『義兄さん』
と呼ばれるよりは、僕個人としても『敬介』って呼ばれる方が…。」

チャキッ、パスパスパスパスッ!パスパスパスパスッ!
晴子は敬介の足元目掛けてシグの試し撃ちを行い、
敬介は己の失言を詫びながらタップダンスを踊らされる羽目となった。

…『あらたまるな』言うたら、いきなり直球かい!?不器用な不意打ち
かましおって、このアホッ!!

辛うじてポーカーフェイスを保ち切った晴子は、
心の中で敬介を思い切り怒鳴っていた。

TO BE CONTINUED?!

79パラレル・ロワイヤルその26:2003/09/28(日) 20:34
『俺様は佳乃の為に…お前達は誰の為に戦う?』
『観鈴に決まってるだろーが、このオレはよ!』
『真琴の為…って言いたい所だったが、真琴は喜んでゲーム参加しちまった
…仕方ないから、何とか名雪さんと祐一のツテで美坂栞さんの代戦士資格を
ゲットして来たぜ…縁もゆかりも薄い御嬢さんだがよ、病弱だってんじゃあ
男として一肌脱いで奮い立つには充分な事情だぜ。』
『そういえば、一番新入りはどうしたんだ?』
『あいつは今回も装備で参加だ…仕方あるまい、識別装置付け様がないんだ
から、アイツ。』
『不憫だな…同情したG.Nにみちるさんの所へ回されたそうだが。』
『おっとイケねえ、もう出撃の時間だぜ!』
『オレはA、お前がB、そんでもってお前がCからか。』
『多分、そんな事は起こり得まいが、一応集合場所を決めておこうか。』
『そんなら、可哀相な新入りの所が第1で、例の老人の所が第2の集合地点
って事でどうだ?』
『い〜ねえ、ソレ!よし、ソレで決まりだ。』
『じゃあ行くぞ、お前らも達者でな!』
『おう、あまり無茶すんじゃないぞ!』
『正体バラした相手に逃げられるんじゃないぞ!』

…彼らの会話が行われてから、現在約2時間が経過している…。

TO BE CONTINUED?!

80 パラレル・ロワイヤルその27:2003/09/29(月) 20:02
Cスタート地点の交戦禁止エリア境界線近くにて、Cグループ第7組の少年
(48番)は…それこそ、彼を知る者が聞いた所で絶対信じないような顔…
後頭部に大きな汗の雫をへばり付け、目を文字通りに点にした顔で目の前の
男に(別の意味で)恐る恐るに尋ねた、
「あの、貴方が立川郁美ちゃんの…その…お兄さんなのですか?」
「いかにも。」
尋ねられた男・立川雄蔵(56番・代戦士)があっさり即答が返ってきた。
「あの、大変失礼な質問をさせて頂きますが…郁美ちゃんとはその、実…の
兄妹なのでしょうか?」
「無論だ。」雄蔵から再び即答が返ってきた。

『…きっと郁美ちゃんは100%お母さん似で、この雄蔵さんは100%
お父さん似なのだろう…きっとそうだ、そうに違いないんだ…。』
少年はそう自分を納得させて目の前の尋常ならざる(?)疑問に無理矢理
終止符を打つ事にした。

「それにしても香里…。」
雄蔵は第7組3人目の人物・美坂香里(85番)に向き直って口を開く、
「ええ、まさかこんな場所で…こんな形で貴方と再会出来るなんて、
夢にも思わなかったわ…雄蔵。」
香里は雄蔵にニッコリと微笑んで言葉を返した。

さて、ココでこの56番・代戦士立川雄蔵と85番・美坂香里のやりとりに
「(゚Д゚)ハァ?」の読者の方の為に、この余談を記させて頂く事にしよう…

…かつて一昔…本作ハカロワとも勿論このパロアルとも違う、また更に別の
『葉鍵キャラによるバトル・ロワイヤル』が某所で行われていたという事を
…そして、その中の戦いに於いて…立川雄蔵と美坂香里が病弱な妹のために
共闘しその絆を深めた末、再会を誓って生き別れとなり…そのまま生死不明
となったという事を。

だが、雄蔵の口から出てきた言葉は…香里にとって頭に思い浮かべていたで
あろう感動の再会シーンを木っ端微塵にするのと同時に、香里自身にとって
目を背き続けたくてたまらない現実へと一気に呼び戻す一言であった…。
「…なかなか似合っているぞ、そのコスプレ…。」
「!…言わないで…。」
「確か、『ベルばら』のオスカルとかいう主人公の…。」
「!!…言わないでよ…。」
「…こみパどころか宝塚でも充分、通用するな。」
「!!!…言わないでぇぇぇぇぇっ。」
現在確認済みの女性参加者内では、天野美汐の次にトンデモナイ衣装を支給
されてしまった香里が、見る見る顔を紅く染め上げて雄蔵へと突進した、

「…以前から郁美の紹介でこういう趣味の世界がある事は知っていたが…」
「もう〜っ、雄蔵の莫迦っ!莫迦莫迦莫迦莫迦莫迦莫迦莫迦ぁ〜っっ!!」
香里は、オイタをして閉じ込められたワンパク坊主が物置の扉を連打するか
の如き勢いで両の拳を振り回し、雄蔵の学ランから肌蹴ている胸やら腹やら
を滅多打ちにし始めた…火に注がれ続けている油の蛇口を何とか止めようと
必死のようである、
「…しかし、モデルと衣装を正しく美しく選べば『多寡がコスプレ』とは
侮れない芸術に昇華するものなのだな…ところで、少年はこういう趣味の
世界を果たして、どう思っているのかな…?」
香里の必死の努力も空しく、油は注がれる一方であった…。

81パラレル・ロワイヤルその28:2003/09/29(月) 20:02
その頃、リバーサイドホテルのモニターの一つにて立川郁美(元56番)と
美坂栞(元86番)は自分達の兄と姉達のボケとツッコミをくすくすと笑い
ながら鑑賞していた。「でも、どうして兄は失格にならないのでしょう?」
殴られ続けている兄を見ていた郁美が思い出したかの様にG.Nに尋ねた、
「素手による攻撃は、相手からの手応えが確かめられない限りは例え急所を
連続攻撃されても有効打とは認められないのじゃ…おぬしの兄を見てみい、
屁とも応えた様子もないわい。」

一方、少年もしばし雄蔵と香里のボケとツッコミを面白そうに眺めていたが
ふと何かを思い出したかのように立ち上がると、
「雄蔵さ〜ん、香里さ〜ん、Bグループに仲間がいるんで、おじゃま虫は
そろそろ先に移動させて頂きま〜す、じゃあっ。」と言うと、一人水族館
エリアの方へと素早く駆け出して行ってしまった。

「香里。」雄蔵は自分を拳で『撫で回し続けている』香里の頭にそっと手を
乗せて制すると、「俺達はどちらへ向かおう?」と希望を尋ねた、
香里は雄蔵の頑丈さとマイペースさにそれ以上怒る気力も失せてしまった、
さりとて、即答してあげられる程機嫌を直す積もりもなかった、
「…………………………………。」
「もしかして、怒っているのか?」雄蔵もようやく香里の様子に気付いた、
「あんな褒め方する人、嫌いです…第一この衣装、支給品だから恥ずかしい
のを我慢して着ているんです…。」
「そうだったのか、それは済まない勘違いをしたな。」
「はあっ…。」香里は溜息をついた、
「もう許すわ…それよりも、折角のいい機会なのだしコース…ゲフンゲフン
…ルートは、ヨットハーバー・港を抜けて、博物館・美術館→遊園地と行く
のを私は選びたいのだけれど…。」
「うむ、悪くないな。」雄蔵は頷いた、
「…なかなか理想的順番だが、水族館が反対方向なのだけはなんとも残念な
事だな、香里。」
「もおっ、どうしてそういう時だけ鋭いのよ、雄蔵って!(怒)」

TO BE CONTINUED?!

82パラレル・ロワイヤルその29:2003/10/01(水) 20:22
「…………………………………………。」
「…………………………………………。」
「あ、茜…………………………………。」
交戦禁止エリアを抜け、巨大公園へと向かっているAグループ第8組の
相沢祐一(1番)は、スタート直後においていきなりDEADorALIVEを
満喫させられる羽目となっていた…と、いうのも
「今度は一体、何人狩るつもりなんだ?本作のトップスコアラーさんよ。」
「…マーダーじゃない振りして結局ちゃっかり2位になられた偽善者の方に
誉めて頂けますなんて、とても光栄です。」
「何だとテメエ!?」
「…やるのですか?」
「国崎さんっお願いしますっどうか茜を煽らないで…もとい、許してやって
下さいっ!…本作に続いてこっちでもマーダーモードじゃ茜が…茜が余りに
可哀想過ぎますっ!!」

最悪2度目の『バトル仲裁リタイア』の危険も顧みず、祐一は必死になって
里村茜(43番)と国崎往人(33番)の間に立ち、両者の説得を続けていた。

「相沢とかいったか、オメエもオメエだ、ホレた弱みとはいえヘタレっぷり
にも程というものがあるぞ。」
「…惚れる事に一生縁が無さそうなマユナシガンタレ変態誘拐魔なんかより
は遥かにマシです。」
往人が無言で支給装備のデザート・イーグル(エアガン)をゆっくりと抜くと
茜も何も言わず支給装備のグロック17(エアガン)をゆっくりと抜いた、
…両者はそのまま、得物の照準を其のまま互いの顔に合わせて、引き金に…
「だから、2人とも止めて下さいっっ!!」
祐一は慌てて、再び両者の射線に割り込んで説得を繰り返す、
そんな3者それぞれの緊張感が臨界に達しようとしたその時、

「カァーッ。」
道の茂みの向こうの方から、甲高いカラスの鳴き声が聞こえてきた、
ここにいる3人の中で唯一、往人には確かに聞き覚えのある鳴き声だった、
往人は2人に向けて手の平をかざし停戦のポーズを取ると、声のした方の
茂みへと用心深く足を踏み入れていった…と、程なくして往人は支給装備を
入れるバックの中から首を出して鳴いている見覚えあるカラスを発見した…

『…大方、先行したライバルの誰かにハズレ装備とみなされバックもろとも
投げ捨てられたのだろう…まったく、不憫なヤツだぜ。』
往人は周りに伏兵や罠の無い事を改めて確認し終わるとデザートイーグルを
下ろしてしゃがみ込み、バックのファスナーを開けてやった、
「クワーッ!」バタバタバタバタ!
カラスは余程嬉しかったのか、ファスナーが開いた瞬間に往人の頭の上へと
飛び乗ると、爪を思い切り立ててから往人の眉間に鋭いキッスの雨を何回も
浴びせて来た、『見たか、伝家の宝刀・ココナッツクラッシュ!』
「イテーッ、イテイテイテーッ、コラッやめねえかクソガラスッ、喜ぶのも
いい加減にしやがらねえと…。」…往人の台詞は途中でかき消された、

『ビーッ、33番・国崎往人、有効打直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』

…アナウンスにギョッとなった往人の目が初めて、今は頭の上を離れ目の前
の枝に留まっているカラス…そら(24番・代戦士)が、胴に括り付けている
小型識別装置の存在を捕らえた…そして、往人の中の時間が止まった…

…最後に判明した事実だが、33番・国崎往人の石化のレベルは全ゲームを
通してトップクラスの固まり様であったらしく、最後は救急搬送車と台車で
ゴロゴロとホテルに運び込まれる顛末となったそうであった…。

一方、茜と祐一は茂みの中へと入って行った往人が戻って来るのを(一応は)
待っていたが、しばらくして茂みから聞こえてきた往人失格のアナウンスに
心底の驚愕をさせられる事となった、
「…まさか、あの男がいきなり?…一体何者が?…とにかく、危険ですね…
祐一、先を急ぐ事にしましょう。」
「え?あ…わ、分かった茜。」
2人は往人を脱落させた謎のライバルとの交戦を避けて、巨大公園へと道を
急ぐ事とした。

【33番・国崎往人 脱落…残り98人】

TO BE CONTINUED?!

83パラレル・ロワイヤルその30:2003/10/01(水) 21:12
『本作ハカロワでの雪辱のため、この2人は何が何でもゲームを降りまい』
G.Nは…この2人の支給衣装に関して言えば、裕介&美汐以上の陰謀を
企んだ上での選択を行ったであろう事は、まず間違いない事実であろう…。

「確かに…確かに着ていた覚えがある衣装よ…でも、だからといって…。」
赤皮のボンテージに赤皮の鞭、そして鎖付きの皮の首輪を握り締め、必死に
羞恥を押し隠し平静を装っているのは、Bグループ第8組の石原麗子(6番)

「アンタなんかまだ全然マシな方だ、俺なんか…。」そう言って、さながら
氷川へきる先生調の涙目に膝小僧を抱えながら支給装備のアストラM902
(エアガン)を握り締めている柳川祐也(98番)が身に着けているものは、
…一応、靴・靴下・ネクタイもオプションで支給されてはいるが、
耐久力と伸縮性に優れた素材で出来た『鬼と化しても破れない!』
…黒の成人男性用水着一枚だった。

一人ずつでも結構凄いものがあるが、二人揃うと想像沸き立ち破壊力3倍の
出で立ちである、

「柳川さん、この首輪…もし欲しければ、あげてもいいわよ♪」
「いらんわっ!…それよりも一体どうしてくれるんだ?刑事長がアンタの…
アンタのせいで…。」
「そんなの知らないわよ…そもそも、貴方がそんな格好しているのが最大の
理由なんじゃないの?」

因みに、第8組3人目の長瀬源三郎(113番)であるが…2人の出で立ちを
いきなり見てしまっただけでも充分やばい所へ、麗子が柳川を見るなり口に
漏らした「亀有の海パン刑事。」の一言がツボに嵌まってしまったらしく、
本作23話にてタライを見た折原浩平の数倍のリアクション・数倍の時間で
延々笑い転げた挙句、横隔膜の痛みに耐えかねて失神、戦わずして脱落こと
出走取り消しとなってしまったのである。

「ともかく、上に着られるものが欲しい…確率的にもスタジオ・舞台村の
方へ行きたいと思うのだが。」
「その意見には私も賛成ね。」

かくしてBグループ第8組は、Bグループ中では初めて、舞台村ルートを
選択して出発を開始した。

【113番・長瀬源三郎 脱落(出走取り消し)…残り97人】

TO BE CONTINUED?!

84パラレル・ロワイヤルその31:2003/10/03(金) 20:54
「…成る程そらオッサンも長い事大変やったんやな〜、何が悲しゅうて
こんな大バカの面倒延々、見てやらにゃあアカンかったんか。」
「ゲーック、大バカとはなかなかいい得て名だな。」
「ふみゅうっ、誰が大バカよぉっ!」
「アンタだ。」
「オメーだ。」
「何ですってえええっ!!(怒)」

期待の皆様、長らくお待たせ致しました…という訳で、現在水族館を通過中
なのはCグループ第8組の猪名川由宇(7番)・大庭詠美(11番)・そして、
本作のナイスガイこと御堂(89番)である。

「…止まれ!」御堂が中央ホール入口近くで連れの2人を制した、
「どないしたん?」「なによ、したぼく?」
「戦闘の形跡がある…心して付いて来な。」
実際の所、伏兵や罠等が無い事は既に御堂自身の能力と経験で探知済みなの
であるが、能力者は自分だけではないのだから用心に越した事は無い、

それに…御堂は自分や連れの2人が手に持つ支給装備に複雑な視線を向けた
…Cグループ第8組3人の支給装備は、祭りの出店でよく見掛ける射的用の
コルク銃である…形状のみそれぞれ差があり、由宇のは普通のライフル型
(由宇曰く「見てよ相棒、ウチの得意武器やわ〜。」)で、詠美のは拳銃型、
御堂のは水平二連猟銃型である…構造上、装弾に手間取るためいざ戦闘では
無駄弾外しは許されない、ハズレ装備とまではいわないものの、連発式の
エアガンを持った複数のライバルに襲われた際、自分は兎も角連れの2人の
身が危うい(…といっても、守る義理は無いのかもしれないのであるが)、

まあ、早い所Bグループにいるらしい千堂和樹とやらに合流してこの2人を
押し付けて、今度こそ蝉丸と勝負を付けてやりたい所だ。

御堂はそんな事を考えながら、所々にBB弾が散らばり支給品用のバックが
放置されているホール中央部をより詳しく探ってみる…と、
「にゃ〜。」
「!」
「!」
御堂と詠美にとって聞き覚えのある猫の鳴き声が聞こえて来た、
「あっ、いたいたっ!」詠美が中央ホール休憩エリアのベンチの上に
置かれた支給装備用のバックの中から、首だけを出して鳴いている猫を
発見した、
「アンタまた支給装備だったの?しかも捨てられちゃってかわいそうに。」
詠美は猫の入ったバックを空けてやろうと、バックのファスナーへと腕を
伸ばした…とその時、
「ゲーック!」何時の間にか詠美の隣に来ていた御堂が、詠美の伸ばした
腕を握って制した、
「な、なにするのよおっ?」詠美は御堂に食って掛かる、
「こういった物はまず、罠の有無を確かめ、それからゆっくりと開けるんだ
…そして、」御堂はコルク銃の銃口を猫の頭へと向けた、
「に、にゃあっ?!」
「ちょ…ちょっとしたぼく、どういうつもりっ?!」
「オッサン?!アンタ一体何のつもりや?!」

85パラレル・ロワイヤルその32:2003/10/03(金) 20:55
「ゲーーック!!」
御堂は騒ぎ出した2人を一喝して黙らせると、コルク銃を突き付けたままの
猫の首根っこを反対側の手で掴んでバックから引き摺り出した、
「!」
「!」
「…本作で随分長い事一緒にいたからな、コイツの事は大体分かるんだよ、
まず、オメーは拾われるのを待ってる様な捨て猫根性丸出しの猫じゃねえ、
んで、オメーは本作で俺様のバックから自力脱出しやがったんだよなあ?」

御堂の手に掴まれぶら下がっている猫…ぴろ(86番・代戦士)の背中には
小型の識別装置が括り付けられていた。

『フッ、流石だぜじいさん…まさかそこまで俺の行動パターンを見切って
やがったとはなあ…悪かったなネエチャン、優しさに付け入って悪企みを
しちまって…ま、事ここに至っちまった以上、敗者の掟には逆らわねえ、
好きに裁いてやってくんな…。』

「…ねえ、したぼく。」状況をやっと理解した詠美が暫くして口を開いた、
「アタシは怒ってないから、その子…許してやって。」
「へ…?」ホールに放置されていた大型ピコピコハンマーを回収していた
由宇が、詠美の言葉に目を丸くした、

詠美は…以前自分の知っていた大庭詠美は…自分を騙したり裏切ったりした
(思い込みによるものも含めて)相手を決して許したり認めたりはしなかった
筈だ…無論、猫だからって特別扱いしたりなんかしない筈、なのに…。

「たりめーだろ、まさかホテルに突き返す積もりじゃあるめぇし。」
御堂もさらりとそういうと、ぴろを無造作にそのまま頭に載せてしまった、
ぴろは御堂の頭の上で一声、にゃうと鳴いた。
『面目ねえ、この借りは必ず返させて貰う事にするぜ。』

「詠美…アンタ、随分大人に変わったんやなあ。」
由宇がしみじみとした口調で詠美に語った、
「ふみゅ?そ、そうかなあ…。」
詠美もそう言われると満更、悪い気がしないようだ、
「よっぽど本作でドラマという名のエエ勉強してきてたんやろなあ。」
「エッヘン、アタシを誰だと思ってるの?こみパのみならずハカロワ界でも
クイーンオブ・クイーンの大庭詠美ちゃん様よおっ、いきなりリタイアした
誰かさんとは、格というモノが…。」
「コラァ!誰のせいでリタイアした思とんねん、この大庭か詠美がぁっ!?」
「ナニよ、今ココで勝負する気なの?この温泉パンダ!?」
「オメーら、2人ともうるせぇぇぇっ!!」
「にゃ〜。」

TO BE CONTINUED?!

86パラレル・ロワイヤルその33:2003/10/04(土) 12:36
植物園→巨大公園を繋ぐ舗装された道を走り抜ける2台のモトクロスサイクル
青い1台目を駆っているのはAグループ第9組の河島はるか(26番)、
黒の2台目を駆っているのは謎の覆面ライダー(41番・代戦士)で、
その背後には篠塚弥生(47番)がスタンディングスタイルで2人乗りを
している…バランス的にも重量的にもはるかよりもはるかに(駄洒落ではなく)
大変な筈なのに覆面ライダーは弥生を乗せて苦もなくはるかと併走している。

桜井あさひの代戦士と森川由綺のマネージャーの2人乗りというのも奇妙な
組み合わせではあるが、覆面ライダーは弥生の「先を急ぐので乗せて欲しい」
という頼みを疑う事無く聞き入れて、弥生を巨大公園まで背中を委ねて賃走
(運賃・カロリーメイト1箱)しているのである。

「ねえ、貴方。」弥生が尋ねる、
「どうしました、お客さん?」ライダーは慣れた口調で受け答える、
「私が裏切る…とか、そんな心配はしない訳?」
「裏切るも何も、料金先払いで受け取っておりますので。」
「…いえ、そういう意味じゃなくて…。」弥生は頭を抱えた、
「森川由綺さんのアナザー本表紙化のためにゲーム参加している私が、
桜井あさひさんの表紙化のために代理参加している貴方の背後を
取っているのよ…不安とか疑念とか感じないの?」

「そう言われてみましたら、確かにそうなのかもしれませんけど…。」
ライダーは答えた、
「まず第一に、自分は『運んで欲しい』と頼まれると体が勝手に運んでしまう
根っからの運び屋なんですよ…自転車から補助輪外したばかりの頃からもう、
新聞だの牛乳だの…その内、寿司や郵便物なんかも運ぶようになって…高校に
入った時にはすぐにバイクの免許取っちゃって、バイクのローンを払うために
放課後は配達のバイトを梯子し捲くりましたよ…今は最終的な独立を目指して
宅配業者で最後の修行をしている所です…あっ、でも人を運んだのはとっても
久しぶりですね…そうそう、それとあさひさんの代わりにゲーム参加しました
理由なんですが、あさひさんが常日頃ご贔屓頂いているお得意様だからです、
巡業のお手伝いが主な所ですが、まれに自分御指名でプライベートのお買い物
で大人買いをされてしまった…おっと、ここから先はお客様のプライベートに
なってしまいますので、どうかご容赦を…。」

「…………………………………貴方、いいタクシードライバーになれるわね。」
弥生はやっとの事でそう言った。

TO BE CONTINUED?!

87パラレル・ロワイヤルその34:2003/10/06(月) 20:39
『詠美…お前は今、何処で誰と一緒にいるんだ?…頼むから俺が駆け付ける
その時までどうか無事でいてくれ!』
『あさひちゃんアナザー本表紙化は我輩に課せられし崇高なる使命であり、
失敗を許されない至高の大任…この九品仏大志、本作の篠塚弥生さんをも
超越する修羅と化して、何が何でもあさひちゃんを…。』

「チョット和樹?大志?さっきっからずーっと黙り込んで、一体何を考えて
いるのよお?」
『ギクッ。』
Bグループ第9組、千堂和樹(53番)・九品仏大志(34番)・高瀬瑞希
(55番)は、先行した玲子とすばるの後を追う形で海水浴場近くの松林を
現在通過中であった、

「ところで…MYシスター瑞希よ、」大志が恐る恐るに口を開く、
「何よ?」厳しい目線を流しながら瑞希が答える、
「何故、我輩の支給装備を取り上げてしまうのだ?…ここから先の戦場を
我輩に丸腰で進めというのか?」
「当たり前でしょうっ!!…まさか私に、2度同じパターンでゲームから
降りかねない真似をさせろだなんていわないわよねえ、大志!?」
瑞希が大志から力ずくで巻き上げた支給装備・先行者改の指令機を付けた
腕を振り回しながら凄みを利かせた声を上げる。

…ついでに言えば、和樹の携帯電話も既に瑞希に巻き上げられていた…と
いうのも、Cグループの大場詠美(11番)との合流連絡を行った際、まず
第一声でお互いに愛を囁き合ってしまい…しかもそれが見事のG.Nの手に
よって、全島公開放送されてしまったからであった…瑞希の装備没収行為は
厳密にはルール違反なのであるが、事情があったり結果的にその方が面白い
と認められた場合は、多少の反則にはG.Nは寛大なる傍観を決め込む節が
ある様である。

「そ、そういえば瑞希の支給装備って一体、なんだったんだい?」
何とか瑞希の機嫌を直そうと、和樹が懸命に話題をそらして尋ねた、
「ああ、そういえば大志の装備取り上げてたからすっかり、忘れてたわ。」
瑞希が自分に支給されたバックを開いてみると、「何?これ…。」

…バックの中にはホテル名が入った袋入りの菓子パンやら焼き菓子やらが
ぎっしりと詰まっていた、

それを見ていた3人は、ふと思い出した事柄があった…そういえば、確か
祝賀パーティーの前の日に希望者全員にてホテルの厨房で調理実習を行い、
ケーキだのクッキーだの菓子パンだのを皆で沢山作ったのであった…それの
一部が瑞希のバックの中身に入っていたのである…もちろん、武器としては
役に立たないが、長期戦においては貴重な食料となるし、場合によっては
戦利品を獲ているライバルとの物々交換にも使える筈だ…捨てる手はない。

瑞希は急に優しい口調になって口を開いた、
「ねえ、大志…確かに戦場を丸腰で歩かせたりしちゃあ可哀想ね…だから、
取り上げた大志の装備の代わりに、私の装備を貴方にあげるわ♪」
「くううっ、MYシスター瑞希よ…それが我輩への慈悲だというのかっ?」

大志は渡されたバックの中身を暫くの間、涙目でぼんやりと眺めていたが…
…急に希望の光をその瞳に輝かせて和樹に叫びだした!

88パラレル・ロワイヤルその35:2003/10/06(月) 20:40
「いよう!MY同志和樹よ!!」
「ど、どうしたんだよ大志、いきなり…?」怪訝な表情の和樹が尋ね返す、
「聞いて喜べ、見て喜べ…そして思いっ切り味わって喜ぶがいいっ!何と、
あの同人誌界のクイーン・オブ・クイーンこと大場詠美ちゃん様が拵えた
究極のジャムパンがあああっ…今…今ココにいいいッ!!」

大志がバックの中から袋入りのジャムパンを取り出し、和樹に向けて高々と
突き出し、目配せをしながら手渡した、
『頼むぞMYブラザー、我々の未来はこの後のお前にかかっておるのだ!』
『…判ったぜ、大志…もししくじったら、万事休すだな。』
…袋の裏面をチラリと見た和樹は、大志の意図を瞬時に察してしまった。

痛む良心をマーダー弥生さんの如き心境にて押し殺してしまった和樹が、
大喜びでジャムパンの袋を開封するやいなや、
「うわ〜っ♪詠美の焼いた出来立てのジャムパンっ…くう〜っ、最高の香り
だあ〜っ♪」とオーバーゼスチャー気味に狂喜した表情でジャムパンを口に
入れようとしたその瞬間、
「んもうっ!和樹の馬鹿あああっ!!」
素早く駆け寄った瑞希が和樹の手からジャムパンをひったくった、
「なによジャムパンなんかでデレデレしちゃってえ!こんなものおっ!!」
そして、ひったくったジャムパンを無理矢理に一口に押し込むと、一気に
モグモグと食べ始めた…。



『ビーッ、55番・高瀬瑞希、ナースストップにより失格…失格地点最寄の
14Maマリアさんは直ちに救急搬送車で55番の元へ急行して下さい』…

「許せMYシスター、抗議はホテルで聞こう。」
「瑞希ゴメンっ!…ヒドい幼馴染を許してくれ…。」
瑞希から没収された装備を回収し終えた和樹と大志がホテルへと帰って行く
救急搬送者を見送りながら呟く足元で、ジャムパンの空き袋が風にふわりと
高く舞い上がった、

…袋にはこう書かれていた『レシピ提供・水瀬秋子 製作者・柏木千鶴』

【55番・高瀬瑞希 脱落…残り96人】

TO BE CONTINUED?!

89パラレル・ロワイアルその36:2003/10/07(火) 19:13
…風に吹かれたジャムパンの紙袋が、再び地面へと舞い降りたその瞬間、

パラララララララララララララララララララララララララララララ
パラララララララララララララララララララララララララララララ
パラララララララララララララララララララララララララララララ

「お…俺達の今迄の長いフリと苦労って、一体…。」
「む、無念だ…縦王子、横蔵院、そして鈴香よ、後の事は任せたぞ…。」
『ビーッ、53番・千堂和樹、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』
『ビーッ、34番・九品仏大志、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』


「…冷酷とか何とか言う以前に、身も蓋も無いオチになりましたね。」
「救急車が来て帰って行くまで、ボーっと突っ立っているから悪いんだ。」
松林の茂みからイングラム2丁持ちの藤田浩之(77番)と雛山からの戦利品
であるスコーピオンを持つHMX−13セリオ(52番)が姿を現した、
「デカいサイレン音に敵が引き付けられて来るんじゃないかって、ちょっと
考えればすぐ気付く事だろーに。」
「…注意して下さい『次は我が身』の可能性も考えられるパターンです。」

「全く持って、おっしゃる通りですね♪」
道を挟んで反対側の茂みの奥から、スコープ付きのドラグノフ(エアガン)の
照準を定めているのは、Bグループ第5組3人目に該当していた人物である
牧村南(80番)…彼女の支給衣装は電視戦・赤外線迷彩服であった…故に、
セリオのレーダーには南は殆ど感知されていなかった…ましてや、故郷にて
忍術を齧っている南にとって、素人に毛が生えた程度の浩之から身を隠す事
など朝飯前であった、

「まずは気付かれたら手強そうなセリオさんから、浩之さんはその次…。」
南のスコープがセリオの顔を正面から捕らえた…とその時、

…かぷっ「きゃあああああっ!!」
『ビーッ、80番・牧村南、有効打直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』…肉眼でもレーダーでもない索敵手段により獲物を
探知する狩人が、南のお尻をその顎に見事捕らえた(一寸羨ましいネ)。

「?!」「…対電視迷彩ですか?迂闊でした!」
反対側の茂みから聞こえてきた南の悲鳴と失格のアナウンスに、浩之と
セリオはやっと、今更ながらの臨戦態勢をとる…と、茂みを掻き分けて
ドラグノフを携えた狩人が、ゆっくりと2人の前に姿を現した。

【53番・千堂和樹 34番・九品仏大志 80番・牧村南 脱落…
  残り93人】

90パラレル・ロワイアルその37:2003/10/07(火) 20:11
「ぴこ。」
「??…コイツ、犬…なのか?」
「…その様です…どうやら、私達はアナウンスで聞こえて来た牧村南さんと
いう方にあのドラグノフで狙われてた所をこの子に助けて頂いた様です。」

セリオは足元まで近付いて来た、ベルト付きのドラグノフを引き摺っている
毛玉のような犬の頭を優しく撫でながら言う、
「ぴこっ!」
「…そして、どうやらこの子は綾香御嬢様がアナウンスでおっしゃられた、
シークレット・プレイヤーの内の1名の様です。」
セリオが犬…ポテト(31番・代戦士)の背中に括り付けてある小型識別装置
を指して言葉を続ける。

「コイツは驚いたぜ…まあ、何にせよ俺達の恩人(?)には間違い無いんだ、
マーダーモードは一休みにして…ありがとよっ!」
浩之は戦利品のバックの一つから『ツユ無し肉じゃがパン』(柏木梓作)を
取り出してポテトに差し出す、
「ぴこぴこ〜♪」…ポテトの方も疑う事無く大喜びでパンにかぶり付いた
「そんなに嬉しいんなら、重すぎる程あるからもうどしどし食ってくれ。」
浩之はポテトをもてなしながら、セリオと共に戦利品のチェックをてきぱき
と行って行った。

「千堂和樹さんの持っておられたこの装備は掘り出し物かもしれません。」
「掘り出し物?…この変テコなロボットよりもか?」
浩之が先行者改を指差してセリオに尋ねる、
「場合によっては比べ物になりません、何故なら…。」
浩之はセリオの説明に思わず手を叩いた、
「そりゃ凄え、上手くやればあのオッサンにリベンジが出来るかもな。」
「…上手くやれれば宜しいのですが…。」

「じゃあ、結局勿体無いが…このロボットだけは放置して行くしかないと
いう事か。」
「…仕方ありません、隠密行動が取れなくなってしまいますし…とはいえ、
やっぱり話のネタとしましては勿体無い気が致しますね…あっ、そうです!
いい考えが浮かびました…。」

セリオは何かが閃いたらしく、先行者改の腕時計型指令機を自分用のメンテ
ナンスツールとサテライトサービスを使用して、暫くの間いじくり回した…
最後にベルトを延長し…それをポテトの首へと掛けた、

「宜しければ…そして、もし動かす事が出来るのでしたら…ドラグノフとの
トレーディングという事で、このロボットを貴方に差し上げますが…?」
「ぴこっ?…ぴこぴこ、ぴこっ!」
ポテトが先行者改の指令機に向かって吠えた、すると…

「!…成功しました、指令機の言語変換を日本語から犬語へと変換し直して
みたのですが…。」
「随分と、訛りが強い犬語のような気もするが…。」
2人と1匹の前で、先行者改がゆっくりと動き出した、
「ぴっこぴっこ♪」…ポテトもこの新たな装備にすこぶるご満悦のようだ。
(補足であるが、そら・ぴろ・ポテトにも実はちゃんと支給装備が存在する)

…と、セリオのセンサーが新たなライバルの接近を感知した、
「…!浩之さん、…。」
「…!判った、セリオ。」
浩之とセリオは速やかに荷物をまとめると、先行者改に夢中になっている
ポテトに気付かれない様こっそりと、その場を去って行った。

「ぴこ?ぴこぴこぴこっ?」ポテトがようやく浩之とセリオがいなくなった
事に気付き、二人の匂いを探ろうとした時…
「ふえ〜ん、浩之さぁぁん…どうして、どうして悪い人になってしまったん
ですかああっ…。」…晴天の下、雨傘を差した小柄な少女(型メイドロボ)が
ベソをかきながら、とぼとぼとポテトの方へと歩いて来た。

TO BE CONTINUED?!

91パラレル・ロワイアルその38:2003/10/09(木) 18:10
「ふうふうふうふうっ…。」
「はあはあはあはあっ…。」
由宇・詠美・御堂・ぴろが去って一刻経った水族館中央ホール、
そこで頭を落とし肩で息をしているグローブ&レガースを装備した
体操着と空手着の二人の少女はCグループ第9組の松原葵(81番)と
坂下好恵(25番・代戦士)、そして少し離れた所では3人目の広瀬真希
(75番)も、支給装備の竹刀を取り落として荒い息を吐いている。

その3人の前では茶目っ気交じりの勝利のポーズを取っている2人…
Cグループ第10組の椎名華穂(46番・代戦士)と謎の覆面ベイダー
(72番・代戦士)である。

「ぱちぱちぱち…。」
「うにぃ、おばさん達強いね。」
「お母さんとどっちが強いのかなあ?」
「もう名雪ったら…それよりも皆さん、お弁当の用意が出来ましたわよ。」

…中央ホールの休憩所には第10組3人目の水瀬秋子(90番)のみあらず、
更にどういう手段を使ったのかはまだ秘密ではあるが、Bグループ第7組の
遠野美凪(62番)・みちる(87番)・水瀬名雪(91番)まで揃っていた。

元々、Cグループ第9組はCグループ第11組の来栖川綾香(36番)との
対決を望んで水族館で待ち伏せしていたのである、そこで第10組と遭遇し
一旦は戦闘になったものの、第10組は第9組が3人とも飛び道具を使わず
肉弾戦を挑んで来た事にノリを良くし、第9組を失格にならないよう手加減
付けて見事に返り討ちにしてしまったのである…そして、その結果に度肝を
抜かれた第9組の3人は教えを請うという形で第10組の2人に模擬再戦を
お願いしていた所、そこへBグループ第7組が更に合流して来たのである。

…という訳で、9人と1匹は現在昼食タイム中である。
「しっかし、見事に騙されちゃったな〜アタシてっきりベイダーさんの正体
は南明義だとばかり思ってたのに…って、この厚焼き玉子凄くうめぇっ!」
「実ハ私、氷川サントハ面識ナクッテ…トニカク参加シテミタカッタモノデ
あやめサンヤ美夜子サン、晴子サン秋子サンノツテカラ華穂サンニ御紹介ヲ
シテ頂イタノデスヨ…。」
「…で、貴方達2人はエクストリームチャンプの来栖川綾香さんに格闘技の
実力で勝つために…?」
「はいっ、そうなんですっ。」
「…だけど、いきなりこんなザマじゃ自信失くしそうだ…私達ってまだまだ
井の中の蛙なのかなあ…。」
「何言ってんのよ、その若さで!」
「…………………………とても、美味しいです。」
「にゅ〜、ぽち、ゆで卵一気食いだよ〜。」
「嫌だ、お母さんっ!…このジャムサンド、ひょっとしてええっ!」

92パラレル・ロワイアルその39:2003/10/09(木) 18:15
…などと騒ぎながら食事を楽しんでいると、中央ホールに更に2人の男が
入って来た…他の6人も勿論そうだが、秋子・華穂・ベイダーの驚き様は
尋常ではなかった、賑やかに食事を取っている最中でも…いや最中だから
こそ3人とも索敵を怠る事無く中央ホールのみならず、周囲の足音・空気の
流れすらにも五感を研ぎ澄まして網を張っていた筈なのに、その2人の男は
気付かれる事無く懐深くまで肉薄していたのである…。

…3人は思い知った、上には上がいるという事を…そして、もしこの結論が
間違っていなければ、3人…いや、9人と1匹の総掛かりでもこの2人には
恐らく、太刀打ちは出来まい…。

「驚かせて済まなかった…しかしげーむとはいえ、食事中の婦女子に戦いを
挑むつもりは全く無いのでどうか安心して頂きたい。」
「…驚カセテ頂キマシタ…今以上ニ驚カサレル事ハコノげーむ中ニハ恐ラク
無イ事デショウネ…。」
やっとの事でベイダーが口を開き、残り8人と1匹の緊張を解いた。

勿論の事であるが…入って来た『尋常ならざる2人の男』とは、Cグループ
第13組…全参加者中最終の組の2人でもある坂神蝉丸(40番)・光岡悟
(15番・代戦士)の2人だ。

「えええっ?じゃあ、まさか…?」「そうか、しまったあ!」
いきなり、葵と坂下が素っ頓狂な声で叫ぶ…どうやら、2人が待ち受けて
いた第11組は港・ヨットハーバー方面のルートを選んでしまったらしい
その事実にやっと気付いてしまったようだ、
「どうも、ご馳走様でしたっ!」「色々とお世話になりましたっ!」
言うが早いか、葵と坂下は荷物を掴んで蝉丸・光岡の横を走り抜けると
自分達が元来た連絡通路を大急ぎで逆走して行った、
…そしてワンタイミング遅れて、
「置いてきぼりにすんじゃねーよ、全くあのバカ供があっ!…あっおばさん
達、ホンとに色々と有難う御座いましたあっ!!」と叫ぶ広瀬が後に続いて
逆走して行った。

「…でも大丈夫かしら、あの3人…?」
蝉丸と光岡にもお弁当を差し出しながら秋子が呟く、
「確かに…蝉丸さん達がここにいらっしゃるという事は…。」
華穂の言葉に魔法瓶入りの味噌汁を味わっている蝉丸も頷く、
「第12組の高槻03・04・05も港・ヨットハーバー方面へ向かったと
結論さざるを得ないからな。」

「…しかし、それが彼女達が望んで受けた試練なのだというのなら…我々の
手出しは無用の干渉であろう…。」
光岡は冷静にそれだけを言うと、タコさんウインナーを口へと運んだ。

TO BE CONTINUED?!

93パラレル・ロワイアルその40:2003/10/10(金) 18:13
…ココはスタジオ・舞台村の植物園側入口前にある駐車場、
「ヘイ高野!御前未だに現役で戦場で頑張ってイルソーダト聞いてたガ。」
「…ふむ、以外ですね…まさかその貴方にこんな副業がありましたとは。」
「会社社長で所帯持ちとか喫茶店のマスターとかに言われたくないスよ。」
Aグループ第10組の高野(110番)はジョージ宮内(39番・代戦士)と
フランク長瀬(116番)のツッコミをツッコミで返すと、タンクトップに
タオル鉢巻とエプロン姿で汗だくになりながら、目の前の熱した鉄板型と
格闘を開始した、
「…俺だって年中日がな、傭兵ばかりやってる訳じゃないんですよ…春夏
そして秋と世界中の戦場を駆け回って…いい加減、心に荒みを感じてきた
冬にだけは故郷に帰って北の街でひっそりと鯛焼き焼いて売って暮らして
…心神のリフレッシュを図っているんですよ…。」

「しかし、ユーは昔から…射撃・格闘・ブービートラップ・爆発物の腕の
方は仲間内でもピカ一と評判の腕前ナノダガ。」
「…何故か、走るのが異常に遅い上に、追跡とか尾行とかがからきしダメ
なんですよね。」
「何が言いたいんです?2人してさっきからロクでもないツッコミばかり
入れて…。」
ジョージとフランクはそれ以上は何も言わず、汗だくの高野の前で一緒に
汗だくになりながらもニコニコ顔の少女の方に、すっと目線を向けた。

「おじさんっ、はやくはやくっ!」…高野の前で興奮してはしゃいでいる
その少女は毎年北の街で高野の焼く鯛焼きを食い逃げ…もとい食べに来る
お得意さんであった、

「ぱりっとして、ふわっとして、あんこがしっぽまでだよっ!」
その食べる姿が余りにも嬉しそうで余りにも愛らしいが故に…何度食い逃げ
されようとも、おねだりをされるとつい又、所持金を確かめる前に鯛焼きを
焼いて差し出してしまう…そんな不思議な少女だった。

…しかしまさか、こんな真夏にクソ熱い思いをして鯛焼きを焼く羽目に…!

高野の支給装備は発泡スチロール弾頭のM203ランチャー付きM16A2
ライフル(エアガン)と…鯛焼き屋の屋台(材料・燃料及び麦茶入り冷蔵庫付)
であった、
『G.Nは俺の副業も知ってやがったのか…しかし悪いが、真夏の炎天下で
鯛焼きを焼く趣味なんて俺にはねえ。』…そう即決し、舞台村に侵入したら
麦茶だけ頂いて屋台は駐車場にうっちゃってしまおう…ところが、果たして
それをいざ実行しようとした、まさにその時…
「おじさんっ!たい焼きだよっ!」
…いま、目の前にいる少女…月宮あゆ(元61番)に見事、バッチリ捕まって
おねだりをされてしまったのである。

「お嬢ちゃん、悪いけどこんな真夏日には、鯛焼き屋は店仕舞なんだよ。」
「うぐぅっ、そんな事言ったらダメなんだよっ…。」

…やはり食い下がられてしまったか…しかし、冬の北の街なら兎も角として
こんな真夏の島で、しかもかつての戦友達の見てる前で鯛焼きなんかを…。
「第一、お金を払ってくれない悪い子に焼いてあげる鯛焼きは…。」
…心苦しいが、切り札の台詞を…。
「うぐうっ、そんな事言ったらひどいんだよおっ…うぐっ、えぐひぐっ。」
目にいっぱい涙をためて、あゆは鯛焼き屋のオヤジこと高野に縋り付いた、
「うぐうっ、おじさんのたい焼き…食べたいよおっ…うぐっ…えぐっ…。」

…………………………………………………………………………………………
…………高野は観念した…あゆが満足してくれるまで一時の間だけ冬の街の
鯛焼き屋のオヤジに戻る事にした。

94パラレル・ロワイアルその41:2003/10/10(金) 18:14
【しうーーー。
焼き音と共にたいやきの皮の、甘く香ばしいにおいが広がっていく。
暴れ回っていたあゆが、ようやく動きを止める。
「しっぽまでだよっ!」結局、言う事は変わらなかった。
            本作・354話『たいやきだよっ!』より抜粋】

「ヘイ、高野!御客サンが来たゾ!!」ジョージが叫んだ、
「!」高野は素早く肩から背負ったM16を構え直すと、喜色満面に鯛焼き
を頬張っているあゆの手前に回り込んだ…この間2.5秒、
「…違いますよ、高野さん…そういう意味ではありません…。」フランクが
そう言い、指差すほうを見た高野の顔色が変わった、
「いい仕事なさってますねえ…私にも作っては下さらんかな。」
「かような戦場にて鯛焼き屋を営むとはその意気や良しっ!…主、是非とも
味の方を確かめさせて頂こうっ!」
「…それにしてもよくまあ、これだけメンズミドルばかり揃ったものねえ…
ま、それはそれとしておじさん…私にも鯛焼き食べさせて頂戴な。」
Aグループ第11組の長瀬源之助(115番)・高倉宗純(54番・代戦士)・
杜若きよみ【覆製身】(16番)が追い付いて来て一斉に鯛焼きを注文した。

…不本意ながら、高野の鯛焼き屋は第2ラウンドへ突入しようとしていた。

その頃、植物園では…
『操縦席は俺が乗る、お前等は銃座へ回れ!』
支給衣装をその身にまとった3人のマ・クベ大佐が真剣な表情で同じ言葉を
ハモっていた…

Aグループ第12組の高槻01(104番)・高槻02(105番)・高槻06
(109番)に支給された装備は、1台の装甲エレカであった、
オープンカータイプで装軌式、操縦席の他に電動エアマシンガン銃座一基と
放水銃座ももう一基取り付けられている、最高時速は40kmでライバルを
轢いてしまわないよう、緩衝材付のドーザーブレードが取り付けられている
…三人頭の支給ではあるが、先行者改に引けを取らない重装備だ。

…G.Nに共闘を半ば強制された事は些か不本意な気もするが、それならば
優秀な頭脳を結集させた時の俺達の力を見せ付けてやるのもまあ悪くない、
出会った奴を片っ端から蹂躙してやろうではないか。

…という訳で、装甲エレカは巨大公園へ向けて出発した…見通しの悪そうな
スタジオ・舞台村での近接戦・ゲリラ戦を避ける高槻らしい選択であった。

TO BE CONTINUED?!

95パラレル・ロワイアルその42:2003/10/11(土) 13:30
「しかしまぁ、うっかり見落とす所だったわね。」
Bグループ第10組の巳間晴香(92番)は、自分の支給装備である木刀の
具合を確かめながら口を開いた、
「確かに…『不可視』の私達3人いきなり集めて、飛び道具ではないにしろ
ルールスレスレの強さの得物を支給して…。」
「後から来る『隠れ大本命』さんと是非とも戦って頂きたい…と、そういう
訳でありましたか。」
10組の残り2名、天沢郁未(3番)・鹿沼葉子(22番)も、それぞれの
支給武器であるトンファーと六尺棒を軽く振り回してみせる、

「G.Nの御膳立てにまんまと乗る形となってしまったが、『連中』を
手際良く迎撃・無力化できる最大のチャンスが今なのも事実だしな。」
「確かに、『力』の加減を間違えてオーバーダメージを与えてしまわない
限りはこちらの圧勝以外は考えられないが…例え万一の事態でもこれだけ
揃えておけば間違いはないだろう。」
Bグループ第11組の巳間良祐(93番)は、持参装備であるリボルバー式
ランチャーのマガジンにギッシリ詰まったトリモチ弾を見やって頷いた。

「それに僕達兄妹もいる…力押しの相手に敗れる事はまず有得ない筈だ。」
同じく第11組の月島拓也(59番)が妹・月島瑠璃子(60番)の頭を撫で
ながら自信満々に笑みを漏らす…彼等にも巳間の持参装備であるランチャー
が(拓也・ペイント弾、瑠璃子・閃光音響弾)が手渡されている。

取り敢えず彼等の作戦はこうだった…Bグループ第12組に肉薄されるまで
の間は、トリモチ銃・ペイント銃・閃光音響銃でひたすらに銃撃を浴びせて
無力化に勤め、肉薄されたら不可視三連星に肉弾戦でトドメを刺して貰う…
その際、月島兄妹には『電波』による援護を行って貰い、巳間は識別装置の
狙撃を行う…といった手順である。

…果たして、隠れ大本命・Bグループ第12組が急速接近でやって来た…。

96パラレル・ロワイアルその43:2003/10/11(土) 14:33
…Bグループ第12組の長瀬源五郎(112番)は、今…己の身に纏っている
己の持つロボット工学の全てを結集して作成した試作装甲強化服のその力を
試す事が出来るこの瞬間を、長い事待ち望んでいた…。

この来栖川アイランドには他の来栖川家所有の巨大施設同様、VIP護衛や
カウンターテロを目的とした直属の最新鋭・最精鋭の自警組織が存在し、
そのメンバーをサポートすべきハイテク装備や専用メイドロボ(というより
はむしろガードロボ)は採用品・試行途中品・試作段階品を問わずストック
を豊富に有していた、

源五郎はその中から是非とも試してみたい装備を選りすぐり、搭載武器のみ
サバゲー用に換装した物を持参装備としてこのゲームに参加したのだった、
武器の殺傷能力制限を除けば事実上、持参装備に制限はないというルールを
最大限利用したのである…勿論、源五郎に随行している戦闘用HM−12
(101番)・戦闘用HM−13(102番)にも、同様の装備・改造を施して
ある。

その目的は唯一つ、『対能力者模擬戦闘実験』…源五郎がハイテク装備や
専用メイドロボを開発するに当たって、カウンターテロ能力に対する問題で
最も懸念したのは『能力者テロリストに対する対応能力及び性能』である、
特に最近はFARGOを初め、そういった『能力者』をストックしていると
思しき組織・団体が少なくなくなってきた…是非とも実戦実験をしてみたい
所であるが「はい、そうですか」と協力してくれる能力者がいてくれる筈も
なく、これまでの源五郎の対能力者実験はコンピューターシュミレーション
の域を出る事が出来なかった…そこへこの、千載一遇の大チャンスである、
彼にとってなぜ利用しない手があるものか?

「交戦禁止区域ヲ離脱…更二前方200めーとるノ森林二らいばる集団ヲ
発見…。」…戦闘用試作HM−13改(102番)より通信が入る、
「HM−12へ、ライバル集団の分析を可能な範囲で頼む。」
源五郎が戦闘用試作HM−12改(101番)へと通信を行う、
「分析完了、らいばる集団人数6名、
03番・天沢郁未…装備・とんふぁー、
22番・鹿沼葉子…装備・六尺棒、
59番・月島拓也…装備・特殊銃器デ弾種不明、
60番・月島瑠璃子…装備・特殊銃器デ弾種不明、
92番・巳間晴香…装備・木刀、
93番・巳間良祐…装備・特殊銃器デ弾種不明、以上デス。」
「リークした甲斐があったな…彼らは案の定、私達を倒す為に集結して
くれていた様だ。」源五郎ははやる気持ちを一旦静めると、冷静に現状を
分析した後、娘達に指令を送った、
「HM−12は右側面、HM−13は左側面よりライバル達の退路を断つ
形で回り込んでから各自攻撃を開始してくれ…私は一番手で正面から進み、
フリージーヤード及び脳波強制安定装置の調子を存分に試させて頂く事に
する。」 「…父様!」 「余り二危険過ギマス!」
「案ずる必要は無い…『虎穴にいらずんば虎児を得ず』だ、もし私の設計と
シュミレーションの結果が正しければ…連中の攻撃は私に通じない筈だ。」
「…解カリマシタ。」 「父様ドウカ、オ気ヲツケテ。」

…源五郎は、自分達を待ち受ける第10組・11組の前へとその姿を現した。

TO BE CONTINUED?!

97パラレル・ロワイアルその44:2003/10/13(月) 16:09
「ば…化け物め!」巳間良祐(93番)は交戦開始直後に早くも自分の読みの
甘さを思い知らされる事となった…頼みの綱のトリモチ弾はもう既に何発も
目前まで迫り来る強化服に命中しており、巳間の隣にいる月島拓也(59番)
の放っているペイント弾も強化服のセンサーと思しき場所に次々と命中して
赤い飛沫を飛び散らせている…のだが…

強化服から分泌され、その全身を覆ってヌラヌラと滑った光沢を放っている
ゲル状の液体装甲がたちまちの内にトリモチを溶解し特殊塗料を洗い流して
しまっているのである…しかも閃光音響弾に至っては全く手応えらしき反応
すらない…更に、

「お兄ちゃん、おかしいよ…電波、届いてる筈なのに…」
瑠璃子が首を傾げて言う、
「嘘だ、俺の…瑠璃子の電波が…通じないなんて、そんな…そんな事がっ…
そんな事は有り得ない、有り得ない有り得ない有リ得ナイイイイイイッ!」

「…ふむ、源一郎さんから頂いたオゾム波電気パルス関連のデータはかなり
正確だったようですねえ…それにしても、流石に完全に無効化という訳には
いかないようですね…。」
源五郎は先程から仕切りとこみ上げて来る不快感・頭痛・吐き気に悩まされ
ながらも、電波の発生源目掛けて反撃の口火を切った、
強化服右肩部に装備された電動式のエアガトリングガンが、前方10m程で
自分目掛けて特殊銃器を撃ち続けている、巳間・拓也・瑠璃子にBB弾の
シャワーを容赦無く浴びせ掛けた。

ビシッ!「ぐふおっ!」
ビシッ!「馬鹿なっ!」
ビシッ!「…………!」
『ビーッ、93番・巳間良祐、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』
『ビーッ、59番・月島拓也、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』
『ビーッ、60番・月島瑠璃子、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』

…勿論、巳間・拓也・瑠璃子とてガトリングガンの前に無防備で突っ立って
いた訳ではない…事前に巳間の本来の支給装備であったサランラップを森の
木々の間に光の反射で見付らないよう幾重にも張り巡らして、対BB弾用の
不可視のトーチカを構築していたのである、そして彼等3人は張り巡らした
サランラップの間の銃眼状の隙間からそれと悟られないように銃撃していた
筈なのである…なのに、ガトリングガンの弾はその銃眼状の隙間を目掛けて
殆ど正確無比に殺到し、柱である木々に当たってトーチカの中を跳ね回った
のである…

…彼等は知る由も無かった、余りにも隙間無くサランラップを張り巡らした
ために、トーチカ内に溜まった3人の呼気が、源五郎の強化服に内蔵された
サーモグラフィーに、3人の周囲の空間の僅かな気温上昇を表示していたと
いう事を、そして源五郎が拡大映像で確認した結果『空中に止まっている』
一匹のセミを発見し、3人のカラクリを反撃前に見破っていたという事を…
後は、気温上昇した空気の漏れ口をサーモグラフィーで探知発見し、そこへ
砲火を叩き込む…それだけで反撃は完了した。

【93番・巳間良祐 59番・月島拓也 60番・月島瑠璃子 脱落…残り90人】

98パラレル・ロワイアルその45:2003/10/13(月) 16:47
…失格判定が下るおよそ1分前、月島瑠璃子(60番)は既に、自分の電波が
迫り来る強化服に対し無力である事を悟らされた時点で自分のゲーム脱落を
確信してしまっていた。

…彼女にはこのゲーム中に是非とも探し出しておきたい人物が一人いたので
あるが、事ここに及んではもう会う事など叶いそうにも無い…。

…瑠璃子は彼女なりの最後の意地と執念で精神を集中させ、能力を限界まで
増幅させると、このゲームにおける自分最後・最大出力の電波を遥か遠くに
いるであろう目標の人物目掛けて、思い切りに解き放った…そして次の瞬間
エアガトリングガンの跳弾の嵐の中で、彼女はこのゲームから脱落した…。


「…長瀬ちゃん…電波、届いた?」


…その頃、鯛焼きパーティー真っ最中であるスタジオ・舞台村入り口にて、
A12組(高槻01・02・06)の追撃警戒の為、交代で歩哨に立っていた
フランク長瀬(116番)をいきなり、ダイレクトで激しい快楽が襲来した。

「え゛っ!?…あっるっルリコっ…そっそこはっ!あっ!ルリコ止めっ…!
イッ…イク!?…あうあうあうあうはうはうはうはう…う、うほおっ!!」

…そして、フランクの最後の叫びと共に快楽は去って行った…短い間の快楽
ではあったが、絶頂に達し思い切り果てるには充分過ぎる位の快楽だった。

…しかし、現実へと戻ったフランクが最初にさせられた事は、一時の快楽の
代償として…湯気と臭いを放ってシミを広げていく、己のズボンの中一杯の
温もりに顔色を青白く変える事であり、そして…

『ビーッ、116番・フランク長瀬、アタック・メルトダウンにより失格…
最寄のしかるべき施設にて下半身を洗浄後、直ちに交戦エリアより退いて下さい』

のアナウンスに、鯛焼きに全神経が傾き切っているあゆあゆを除いたその場の
全員が一斉に自分の方を向いて絶句している…その視線に耐える事であった。

【116番・フランク長瀬 脱落…残り89人】

TO BE CONTINUED?!

99パラレル・ロワイアルその46:2003/10/14(火) 20:26
「ああっ、兄さんっ!」巳間晴香(92番)は前方で跳弾の嵐と化している
サランラップのトーチカを見て思わず声を上げた、
「…熱くなってはいけません、作戦に狂いが生じた上に長射程飛び道具を
持った相手3名を同時に相手するのは現状得策ではありません…ここは、
包囲網の一角を切り崩して撤収し、再び作戦を練り直した上で次の機会を
待った方が宜しいかと思います。」
鹿沼葉子(22番)の冷静な意見に天沢郁未(3番)も頷く、左側面後方に
回り込んでいるHM−12(101番)を集中攻撃で素早く倒し、そのまま
脱出するという結論に達した…HM−12は晴香が交戦歴があり、得物も
大型放水銃という、HM−13(102番)のM60型エアマシンガンより
機動性と命中精度に劣る物であったからである。

「!…3番・22番・92番、共ニコチラヘ急速接近中…当方迎撃用意開始
当方ノミニヨル阻止成功率15%、至急当方へノ支援攻撃ヲ求メマス…。」
HM−12は木々を盾に不可視三連星が自分目掛けて肉薄して来るのを確認
すると、長瀬源五郎(112番)及びHM−13に報告し、迎撃態勢を整えた

…木々が盾となってしまっている以上大型放水銃は重いだけの無用の長物で
ある、足元へ破棄する…3人は目の前だ、一体誰から…?…やはり見覚えの
ある木刀を持った女性が一番手で踏み込んで来た…木刀の先は自分の顔面を
狙っている…事実上回避は不可能だ、回避すれば次の瞬間、両隣後方の残り
2人に確実に仕留められる…獅子哮・改を使うなら口を、さもなくば自分の
右即頭部にスコープ状に固定されている識別装置を狙う二段構えの模様だ、

…結論…識別装置をやらせる訳にはいかない!…HM−12は口部を大きく
開き、獅子哮・改を使う『そぶり』を見せた、

「貴方なら木刀でもオーバーダメージの心配はまずないわ、だから遠慮なく
やらせて貰うからねっ!」…案の定(シュミレーション通り)、晴香は木刀を
HM−12の口へと思いっ切り捻じ込んで来た…HM−12は木刀を其の儘
思いっ切り咥え込んだ…鉄パイプや日本刀ならともかく木刀ならば噛み砕く
までは行かなくても歯を食い込ませる事は充分、可能である。

「な…!」HM−12の予想外の反応に加え得物が一瞬、ビクとも動かなく
なった事により、驚き慌てた晴香の動きが一瞬止まる、その一瞬のスキを
見逃さず、HM−12は両の手首を切り離してワイヤー付きロケットパンチ
(正式名称・鉄腕砲)を晴香目掛けて射出した!

しかし…「やらせませんっ!」右手首は葉子の六尺棒に足元へ叩き落された
そして…「ハアッ!」左手首も郁未の左のトンファーで足元へ叩き落された
更に、流れる様に郁未の右のトンファーが其の儘連撃で振り下ろされる…。

…木刀を咥え、両手首を切り離した今、この郁未の繰り出した有効打を回避
する事は、ほぼ100%不可能である…コンマ1秒の間に自分のゲーム脱落
が確定だと結論付けたHM−12は、最後の戦術を実行開始した、
足元に叩き落された両手首が、既に足元へと破棄していた大型放水銃の高圧
ポリタンクに手を掛け、力任せに握って大きな亀裂を入れた。

…不可視三連星がHM−12の大型放水銃が、電気式ではなく高圧空気式で
ある事にやっと気付いた時には…HM−12の周りには轟音と共に盛大なる
水飛沫が飛び散り舞い上がっていた。

100パラレル・ロワイアルその47:2003/10/14(火) 21:25
「…報告致シマス、当方…徹底交戦ノ末、脱落致シマシタ…。」
「う、うそでしょ…。」
「お、お粗末…。」
「………………。」
『ビーッ、101番・HM−12、自爆攻撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』
『ビーッ、92番・巳間晴香、有効爆風直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』
『ビーッ、22番・鹿沼葉子、有効爆風直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』
『ビーッ、04番・天沢未夜子、有効爆風直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』

「え!?」
…轟音と水飛沫に朦朧状態となっていた天沢郁未(3番)は、自分ではなく
母・未夜子の名を呼ぶ失格アナウンスに驚き、瞬時に意識を取り戻した、

…そして、自分に覆い被さって濡れ鼠になってしまっている母・天沢未夜子
(4番)の姿に二度、驚かされる事となった。

「お母さん、どうして…?」
「よかったわ、郁未…お母さん急いで走って来て…何とか間に合ったみたいね。」

未夜子の息は荒い…当然である、大灯台広場から土産物商店街外れまでは決して
近い道のりではない…なのに母は、自分のために敢えて強行軍を行いそして、
最後は自分の盾となってゲームから脱落したのである。

「お母さんっ…。」
郁未は『“脱落→死体”となったプレイヤーはエリア撤収完了するまでの間、
“遺言”一言分のみの発言・会話しか許されない』というルールに従って
沈黙した母・未夜子の体をしっかりと抱き締めた。


そして、その頃…
『ビーッ、102番・HM−13、識別装置離脱により失格…直ちに
交戦エリアより退いて下さい』

ひねりを加えて飛んで来た三枚の牛乳ビンのフタに、HM−12と同様に
右側頭部に装着されていた識別装置の固定ベルトを全て切断されてしまった
HM−13(102番)が、驚愕の表情をその機械の瞳に浮かべて、目の前の
少年(48番)を見やった、「ア、貴方ハ一体…。」

「…もしかしたら、ある意味…同族なのかも知れないね…。」
少年は、支給装備である牛乳ビンのフタの残りを袋にしまうと、
「それにしても…間に合ったのやら間に合わなかったのやら微妙な所だね。」
とひとりごちた。


…余談ではあるがB12組最後の一人、長瀬源五郎(112番)は既に撤収を
完了していた…というのも、C6組の未夜子の電撃合流はある程度予想して
はいた源五郎であったが、まさかC7組の少年までもが信じられない速さで
この戦場まで到達していたという事実を、HM−13の接敵・脱落報告を
受けてから初めて、知らされたからであった。

…自分の『能力者』に対する過小評価を思い知らされた源五郎は、賢明にも
最強クラスの『能力者』との現段階での交戦を避ける決断を下したのであった。

【04番・天沢未夜子 22番・鹿沼葉子 92番・巳間晴香 
 101番・HM−12 102番・HM−13脱落…残り84人】

TO BE CONTINUED?!


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