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アナザー本スレ

1せと:2003/03/06(木) 08:47
アナザーをアップする掲示板です。
ここに書かれた作品は、本HPのギャラリー等に転載されることがあります。
どしどし書きこんでください。

2RDFX(仮):2003/03/26(水) 08:33
えーっと、新参者です。RDFX(仮)といいます。
360話がもしこんな展開だったら、というアナザーを書いてみました。

3歪む思い(1/2):2003/03/26(水) 08:34
 藤田さん、あかりさん――
 琴音はただ、その二人の名前を呟きながら、森の中を走っていた。
 この島で、信じられる人。二人の先輩。
 その二人に会いたい――ただその一心で。
 二人に会って、ほめてもらうのだ。
 強くなったことを。
 こんなに、私が強くなったことを――
 ほめてもらって、そして、それから。
 それから――

 ――私は、どうすればいいんだろう?

 不意に、琴音は立ち止まる。
 私は裏切られた。いっぱい裏切られた。
 信じていた人たちみんなから、裏切られた。
 ……浩之さんたちも、裏切るかもしれない。
 あの人たちみたいに、私を裏切るかもしれない。
 不意に脳裏をよぎったその考えに、琴音は慄然とする。
 もし、浩之やあかりにまで裏切られたら。

 どうすればいい?
 どうすれば――

 琴音は両手に視線を落とす。
 右手に握る、ナイフ。左手には、拳銃。
 ――あぁ……そうだ。簡単なことだった。
 裏切られないために、どうすればいいか。
 本当に、簡単なことだった。

4歪む思い(2/2):2003/03/26(水) 08:34
 ――殺せばいいんですよね。
 藤田さんも、あかりさんも。
 殺してしまえば、裏切りませんよね。
 私を、ほめてくれますよね――


 ――歪みは、どこまでも歪みのまま、捻れ続けていく。
 そして、その行き着く先に。

「……琴音ちゃん? 琴音ちゃんか?」
 不意に背後から聞こえた声に、琴音は振り返る。
 その声は。聞きたかったその声は。
 浩之の声。
「琴音ちゃん……無事だったんだね」
 あかりの声。
「……藤田さん……あかりさん……」
 会いたかった二人が、そこにいた。

 琴音は、二人へ向かって、笑顔を向けて。
 駆け寄った。

5引き金は別れを告げる(1/4):2003/03/26(水) 08:36
「……琴音ちゃん? 琴音ちゃんか?」
 どこか呆然と佇む後ろ姿に、声をかける。
 振り向いた琴音の顔を見て、浩之は笑みをこぼした。
 ……良かった、琴音ちゃんは生きていた。無事だった。
「琴音ちゃん……無事だったんだね」
 隣で、あかりも安堵の声をあげる。
 それに対して、琴音は。
「……藤田さん……あかりさん……」
 笑顔を、向けた。

 ――その笑顔が誰のものなのか、一瞬浩之には理解できなかった。

(……え?)
 それは確かに琴音の顔だった。琴音の笑顔だったはずだった。
 それなのに――その笑顔は、ひどく歪んで。
 底知れぬ深淵をたたえた瞳に見据えられ――浩之は背筋が寒くなった。

 要するに、それは……満面の狂気をたたえた、笑顔。

 琴音が、こちらへと駆け寄る。
 そして、浩之は。
 その手に煌めくものに、気付いた。
 ――琴音自身の血で汚れた、ナイフに。
「!」
 反射的に持ち上げた右腕に、ナイフが突き立てられる。
「あぐっ――」
 琴音は驚いたように目を見開き、ナイフを抜いて二、三歩下がった。
 鮮血が、浩之の足下に飛び散る。

6引き金は別れを告げる(2/4):2003/03/26(水) 08:37
「浩之ちゃん!?」
 あかりの悲鳴。浩之は傷口を左手で押さえる。ぬるりとした、生暖かい感触。
「――琴音ちゃん……なんで」
 痛みに顔をしかめながら、浩之は琴音を見据える。
 不思議そうな顔で、琴音は首をかしげる。手に、赤いナイフを握ったまま。
「ふじたさん、どうしてころされてくれないんですか?」
 ――それは、ひどく抑揚のない声だった。
「わたし、せっかくつよくなったのに。わたしせっかく、だれにもうらぎられないほうほうをみつけたのに」
 それは、意味すらも失われるほどに、平板な言葉。ただの音の羅列。
「わたし、たくさんうらぎられたんですよ」
「だからわたし、うらぎられないためにどうすればいいかかんがえたんです」
「すぐにわかりました。ころせばいいんです」
「ころせば、だれもうらぎりません。ずっとともだちでいてくれます」
「そうですよね、ふじたさん。わたし、つよくなりましたよね」
「つよくなりましたよね――」
 琴音は語る。語り続ける。意味のない言葉を。歪みきった言葉を。
 間違いではない、しかしそれ故に、救いようのないほどに間違った理論を。
「琴音……ちゃ」
「だから」
 ――はっきりと。
 琴音は告げる。
 己の決意を。
 歪んだ決意を。

「ふじたさんも、あかりさんも、ころします」

7引き金は別れを告げる(3/4):2003/03/26(水) 08:37
 琴音が一歩前へ踏み込む。
 その右手に煌めく、ナイフの切っ先。
 浩之は動けない。
 一歩も動けなかった。

 ――そして、ナイフの切っ先が。
 赤い刃が、浩之の腹を捕らえようとした、瞬間。

「浩之ちゃんっ!」

 あかりの声が聞こえて。
 浩之の身体が、ぐらりと揺らいで。
 琴音の刃は。

 あかりの身体を、貫いた。

 何が起こったのか解らなかった。解りたくなかったのかもしれない。
 あまりに多くのことが、一瞬の間にありすぎて。
 ただ――刹那の後に、浩之の眼前にあった光景は。
 ナイフから鮮血を滴らせて、佇む琴音と。
 その足下にくずおれる、あかりの姿。
「――あかりっ!」
 叫び、浩之はその身体を抱え上げようとして――琴音のナイフがまたも煌めく。
「!」
 ナイフは左手の甲に突き刺さり――そのまま琴音の手を離れた。
 激痛が全身を駆けめぐる。だがそれすらも構わず、浩之はあかりを抱き上げた。
「あかり、あかりっ!」
 仰向けにして、必死で呼びかける。腹部の刺された傷からは、赤がとめどなく溢れて。
「あか――」
 呼びかける声は、自分の額に突きつけられたもので遮られた。

8引き金は別れを告げる(4/4):2003/03/26(水) 08:38
 浩之の視線が、ゆっくりと上を向く。
 そこにあったのは、小銃の銃口。
 琴音の構える、小銃の銃口。
「ふじたさん、しんでください」
 抑揚のない声で。光のない瞳で。
 琴音は、それを告げて。
 引き金を、

 引いた。

 引いてしまった。

 壊れた小銃の、引き金を。


 反射的にあかりをきつく抱いた浩之の頭上で、何かが弾ける。
 そして、二人へと降り注ぐのは、鮮血と肉片。
 ――それは、吹き飛んだ琴音の右腕の、残骸だった。

 最期の言葉をあげる間もなく。
 右腕を吹き飛ばされた琴音の心臓は、簡単にその動きを止めた。

 何もかもに裏切られた少女は、
 最期は、凶器にまで裏切られて。

 そして――琴音の身体が、どう、と仰向けに倒れる。
 浩之は、ただ、それを呆然と見届けていた。

【074 姫川琴音 死亡  残り47人】

9こぼれ落ちた砂(1/2):2003/03/26(水) 08:39
「……ひろゆき、ちゃん……?」
 抱えた腕の中で、あかりが弱々しい声を漏らす。
 その唇の端から、一筋の鮮血が伝った。
「あかり……っ」
 その赤は、少しずつこぼれ落ちていく、あかりの命。
「……ごめんね、ひろゆきちゃん……約束、まもれないよ……」
「馬鹿、何言ってんだよ! こんな傷、大したこと――」
「ひろゆき……ちゃん」
 震えながら伸ばされたあかりの手が、浩之の頬に触れる。
 そこで浩之は、自分が泣いていたことに気付いた。
「ひろゆきちゃんは、死んじゃだめだよ……」
「……あかり?」
「私、もうだめだけど……ひろゆきちゃんには、生きてほしいよ……」
「……馬鹿、お前がいなくて、生きてる意味なんかあるかよ!」
 浩之の叫びに、あかりはゆっくり、首を横に振る。
「ひろゆきちゃんは……たくさんの人を助けられると思うんだよ……
 ひろゆきちゃんがいれば……私みたいにならなくてすむ人が、きっといるんだよ……
 だから……しんじゃだめだよ……ひろゆきちゃん……」
「無理だ……そんなの無理だ! お前一人守れない俺に、守れる誰かなんて……っ」
 必死で、あかりの言葉を――目の前の現実を拒絶しようとする浩之。
 あかりは、そんな浩之に、精一杯の笑顔を向けて。
「ひろゆきちゃんは、やればできるんだよ」
 そう言った。
「だって……それが私の大好きな、ひろゆきちゃんだもん……」
 そう言って。

 あかりは、瞳を閉じた。

10こぼれ落ちた砂(2/2):2003/03/26(水) 08:40
「……あかり? あかり?」
 かくん、とあかりの首が、横に倒れる。
 伸ばされていた手が、とさりと落ちる。
 まるで、魂が抜けてしまったかのように――腕の中の身体が、軽くなる。
「あかり――」
 しばし呆然と、浩之はあかりの穏やかな顔を見下ろして。
 それはまるで、安らかな眠り。無垢な眠り。
 ――それはもう二度と、目を覚まさないのだけれど。

 次の瞬間。
 静寂の中に響きわたったのは、一人の少年の慟哭だった。




 ――そうして、どれだけそのままでいただろう。
 涙の乾いた頬もそのままに、あかりの亡骸を抱えて浩之は立ち上がった。
「……あかり」
 その、冷たく乾いた唇に、最後の……本当に最後のキスをして。
 浩之は、歩き始めた。

 砂時計からこぼれた砂を、必死で探し求めるかのように。
 大切なものの亡骸を抱えて、さまよう少年。
 彼の行き着く先はどこなのか。
 知るものは、いない。


【025 神岸あかり 死亡  残り46人】

11RDFX(仮):2003/03/26(水) 08:46
以上3話です。つーかこんなので良かったんでしょうか(汗
私なんぞの作品で良ければまた何か書くかもしれません。
でわ〜

12神臣鈴音:2003/04/09(水) 20:12
新参者です。神臣鈴音と申します。
どうしても書いてみたかったので、エンディング後…です。
色々突っ込みどころはあると思いますが、勘弁してください(汗

13Farewell Song:2003/04/09(水) 20:13
七人を労わる様に、雨は柔らかく降り注いでいた。

かつて想っていた夢や希望、そして人々。
それらはあたかも簡単に消え去っていった。
ひゅうっ、と。まるで風に飛ばされたように、あっさりと。
愛惜が無いといえば嘘だろう。
でも。
風に飛ばされたのなら、また新しくつかまえればいい。
あの島で散った人たちの、その意思を継ぐ事。
あるいは、その人たちの分まで背負って生きていく事。
そして、自分たちの夢を追いかける事。

走り続ける。決して、止まったりなんかしない。
それだけを想っていた。


どのくらいの時間そうしていたのだろう。既に辺りは夕焼けの紅い光に包まれていた。
「へくしっ」
椎名繭が小さくくしゃみをする。
「みゅー…寒い…」
「確かに…ちょっと冷えてきたかも……ぶえっくしょい!」
七瀬留美がそれに継いで――あまり小さくとはいえない――くしゃみをする。
「何が『乙女志望』よ。それじゃまるっきりおっさんよ」
巳間晴香はそれを見てくすりと笑いそう揶揄った。
少しむっとした表情を見せた留美は、すぐさま切りかえした
「うるさいわよ、ブラコン」
晴香もむっとした表情を見せた。
「何よ」
「あんたこそ」
「「やるか?」」
二人は少々ドスの効いた声でハモった。
二人の間から滲み出るもの凄いオーラに周りの人間が一歩下がる。
「うぐぅ…ケンカはダメ…」
月宮あゆが、やっと、という感じで二人を制する。
その声に留美と晴香がギロリ、と視線を向けた。あゆがうぐっ、と妙な声をあげて一瞬硬直した。
そして二人は、ぷっ、と吹き出した。
「冗談よ、乙女はこんなことでキレたりはしないのよ。悪いわね、晴香」
「こっちこそ、七瀬」
張り詰めた空気が一瞬にして和み、全員がホッとした表情を見せる。
「そろそろ戻ろう、このままじゃ風邪引くぞ!」
柏木耕一が全員をそう促すと、七人は急ぎ足でその場を立ち去った。
雨はまだ霧の様に降っていた。

14Farewell Song:2003/04/09(水) 20:13
「うわ、びしょびしょ…」
鶴来屋の玄関をくぐるなり、観月マナがそう漏らす。
「よくあんな雨の中ずっと黄昏てたわよね、わたし達…」
「どうする? ウチは旅館だから泊まっていってもいいわよ」
柏木梓が皆に向かって提案する。
「待ってよ、私達そんな余分なお金持ってきてないわよ」
留美がそう返すが、梓はにっこり笑ってそれに答える。
「大丈夫よ、お通夜の費用の一環として工面するから」
「おい梓……ま、いっか」
耕一もそれに同意する。
そしてそれを聞いたあゆが一気に表情を明るくさせ言った。
「じゃあ、今からお料理の準備するからみんな食べてね!」
しかし、他の六人は薄く苦笑いを浮かべるだけだった。
「うぐぅ…」
あゆは不満そうにそう呟いた。



結局、料理は梓が担当する事になり、あゆも手伝ったが鍋から黒い煙がもくもくと立ち昇り大騒ぎになった。
そんな賑やかな夕食が終わり、風呂を済ませ、食器などを片付けた大部屋に集まった。
耕一が何気なしにテレビのリモコンのスイッチを入れた。
ブラウン管から流れてきたそれは特別番組だった。
映ったのは、ステージに立ち煌びやかな姿で歌う、森川由綺の姿だった。
『森川由綺メモリアルライブ』
そんなテロップが画面の端っこに見える。
由綺が歌い終えると、巨大なモニターの前に、タレント数人とアナウンサーが座っていた。
司会者と思しき初老のタレントが、重苦しい顔つきでこう告げる。
『失踪した森川由綺さんの最後のライブ、いかがだったでしょうか』
そして、いろいろな事をその場のタレント達が話し合う。
リクエストのファックスの画像なども映った。
そして最後に副司会者の女性アナウンサーが告げる。
『ではお別れに森川由綺さんで『WHITE ALBUM』、お聞き下さい』
アップで映った由綺が歌いだす。
――やがて、スタッフロールと共に歌はフェードアウトしていった。
沈黙がその場を支配した。
やっとの事で梓が口を開く。
「そっか…あの島での事は誰も知らないんだね…私達以外…」
「失踪…か」
留美が遠い目をして呟く。
――瑞佳も、折原も。きっとそういう事になっているのだろう。だって、まだ欠席扱いではなかったか。
「いい気なもんよね」
マナのその棘のある声に、一同の目が集中する。
「勝手に大スターだなんだってお姉ちゃんを祭り上げて時間を奪って、いざ居なくなったら失踪した大変だって言うくせに真相を知ろうともしない。そしていつか忘れてしまうの」
マナは俯いたまま続ける。
「所詮、そんなものなのよね、芸能界って。ううん、人間って」
その時、マナの身体がぶるりと震えたような気がした。
泣いているのか。
「マナちゃん…」
耕一が声をかける。それ以上そんな悲痛な言葉を聞きたくなかったから。折角あの場所で、別れを告げたのだから。
しかし、マナの口から出た言葉は、そんな物ではなかった。
きっ、と頭を上げたマナの目に涙は無かった。その瞳には強い意思が溢れていた。
「でも、私は負けない。絶対に医者になって、強い人間として生き続ける。お姉ちゃんのためにも、藤井さんのためにも、先生のためにも。それが私の誓い」
――わたしは、わたしだからね。
マナだって、強い人間の一人なのだから。
「そうだよな」
耕一は一言だけ呟く。
「さっさとチャンネル変えてよ。辛気臭いじゃない、なんか面白い番組やってないの?」
留美がそんな空気を吹き飛ばすかのように、いつもの口調で耕一に指示する。
めんどくさそうに耕一が変えたチャンネル。
映画をやっていた。フィリップ=マーロウが主演だった。
『長いお別れ』だった。
あの島で死んだ親友、七瀬彰の大好きな作品だったが、そんなことは耕一が知る由も無かった。
そして留美も、浩平に揶揄われた独り言を思い出した。
なんだか、懐かしかった。

15Farewell Song:2003/04/09(水) 20:14


その晩、繭は夢を見た。
瑞佳と、浩平と、留美と。
死んでしまったフェレットのみゅーを埋めていたところを手伝ってくれた浩平と瑞佳。
制服を貸してくれて、いつも髪の毛を引っ張って遊んでもらった七瀬。
そして、お別れの時に貰ったたくさんのてりやきバーガー。
あの時の思い出がいくつもフラッシュバックされる。
そんなとき、目が覚めた。
「みゅー…トイレ…」
そんな理由だった。
ふらふらと起きだし、きぃ、と軋んだ音を立ててドアを開ける。
その途端、人影が目に映った。
「うぐぅぅううー!!」
人影が大きな声をあげたので、繭はとてもびっくりしてしまった。
「みゅー!!!」
先を争うように二つの人影は、奇声をあげながらどたばた走っていった。
月の光に照らされてようやくお互いがあゆと繭であることを認識した時は、既にトイレのドアを通り過ぎた所だった。

「繭ちゃんだったんだ、ボク、すごくびっくりしたよ…」
「みゅー…びっくりした…」
トイレを済ませた二人は大騒ぎの末、完全に目が覚めてしまったので、廊下の縁側に腰掛けてすこし話し合うことにした。
あゆもトイレに起きたのだが、何分暗いところが大の苦手のあゆにとって鶴来屋の長い廊下は未だに慣れない。
そこに繭が丁度ドアをあけたから、幽霊と勘違いしてあの大騒ぎである。
誰か起きてしまわないか心配だったが、その気配は無いようだった。
あゆは、ちょっとした既視感を覚え、くすりと笑った。
「みゅ?」
その顔をみた繭が、不思議そうに首を傾ける。
「ううん、なんでもない。ちょっと思い出したんだ」
「みゅー?」
あゆは目を反らして空を見上げる。繭もそれに倣う。
「あのね、祐一君覚えてる?」
「うん」
繭は頷く。
性格反転している間、相沢祐一と行動を共にしていたのだから。
そして、その祐一はあの島で死んだ。里村茜を助けに行って崖から落ちて――そこからどうなったか。
「ボクはね、祐一君の家に泊まったことがあったんだよ。それで、ボクその時も今みたいにトイレに起きたんだ。そしれで祐一君の部屋の前を通った時に、ちょうどドアが開いたんだよ。ボク、とてもびっくりしたんだ。そしたら祐一君もトイレに起きてたんだよ。なんだか凄い偶然だなって」
そこであゆがいったん言葉を切った。
「夢を見たんだ。それでね、そのときのこと、色々思い出したんだよ。…祐一君、秋子さん、名雪さん…うぐぅ…」
切なそうに呟いた。
「わたしもね」
繭が笑顔であゆの顔を見上げる。
「ゆめをみた。こうへいさんと、みずかさんと、ななせさん。みんなで、いっしょにがっこうにかよったの」
まるで本物の母親のようだった瑞佳。
どたばたと一緒に大騒ぎした留美。
そして、子供だった繭をしっかりと躾けてくれた浩平。
「すごく、なつかしかった」
そしてあゆと繭は、月明かりに照らされながら、自分の想い出を二人で代わる代わる語っていった。

――もう、どんなに目を擦ってもあの頃の優しさは戻ってこない。その目には映らない。
  自分達の夢に向かって、一人で、一歩ずつ、一歩ずつ。踏み出していく。

そして、何度か思い出にふけった後、二人は寝床に戻っていった。



そして、翌朝。
朝ご飯を終えて、そろそろ帰り支度をしようかというときだった。
「みゅー」
繭が何かを見つけて、庭の隅に駆け寄った。
「どしたの? 繭」
留美がそれを追いかける。すると、そこには紅い実をつけた花が一本植わっていた。
「何の花?」
「みゅー…知らない…」
すると梓が横から覗き込んで、ああ、とそれに答えた。
「ほおずきね…もう夏だから」
そよ、とほおずきが風に少し揺れた。
「みゅー…」
繭が留美を見上げる。摘んでいい? とその顔にはしっかり書かれていた。
「ダメ、もって帰るのが大変じゃない」
留美は、それを却下した。
「それに、折角生きてるんだから、ね?」
にこりと笑って、繭に諭す。
それは、まるで子供に優しく言い聞かせる母親のようだった。

――その顔が、一瞬瑞佳のものに見えた。そんな気がした。

私は瑞佳のような乙女にはなれないかもしれない。
けど、この優しさはちゃんと覚えているから。

――いつか知ったこの優しさは、きっとまた同じ風景を見せてくれる。

16Farewell Song:2003/04/09(水) 20:14


そして、正午を少し過ぎた頃、そろそろ解散しようということになった。

晴香は、昨日塀に突っ込んだバイクを、門の前に出していた。
元々荷物は少ないから、今すぐにでも出発できる。
けれど、何故かそれがなんとなく躊躇われた。
晴香はバイクをそこに置くと、いったん鶴来屋の玄関に戻った。
「あれ? 晴香、もう行くんじゃないの?」
丁度玄関に現れ、支度を済ませた風の留美が訊く。隣りには繭が玄関の段差に座っていた。
「ちょっと忘れ物」
ふぅん、と留美は納得した風に下駄箱から靴を取り出す。
晴香はその隣りを抜けて、いったん自分の部屋に向かった。
――忘れ物なんてなかった。
だから部屋には戻らず、そのまま廊下を歩く。
その壁を、床の木目を、窓の外を、庭を、何気なしに見渡しながら歩く。
ぼんやりとしていたら、ふぁぁ、と欠伸が漏れた。

――昨日、なかなか寝付けなかった。
郁末と、由依と、あの二人と一緒にここに泊まったらどんなに楽しかっただろう?
吹っ切ったはずだったのに、ちらりとそんなことを考えた。
柄でもない、と思った。でも、それは止まらなかった。
3人で露天風呂に浸かって、由依をいつもの貧乳ネタで揶揄って、浴衣姿で町を歩いて、豪華な夕食を食べる。
そして、川の字になって3人で寝る。
それができたら、どれだけ楽しかっただろう。
そんなことを考えていて、やっと眠る事が出来たのはもう3時くらいだったような気がする。

とてて、と廊下を走る音が聞こえて晴香は我に帰った。
すると廊下の角から丁度あゆが走ってきたところだった。
そのショートカットにカチューシャの姿が、一瞬だけ、ほんの一瞬だけ由依と重なったような気がした。
「あれ、晴香さんどうしたの?」
あゆがきょとんとしたように訊く。
「ううん、なんでもないの」
晴香はその幻想を追い払うと、踵を返して玄関へ戻り始めた。
「早く行こうよ、みんな待ってるよ」
そう言ってあゆも、とてとてと付いてきた。
晴香にはその意味がわからなかった。

玄関へ戻ると、後からついて来るあゆ以外の全員が集まっていた。
どうやら、全員帰り支度を済ませたらしい。
マナは、何故か頭にぴろを乗せていた。
「お、全員集まったな」
耕一がやっと、という感じで言う。
「どうしたの? まだ出発してなかったんだ?」
晴香が首を傾げて聞く。
耕一がにっ、と笑い、カメラを取り出した。
「どうせだから、記念写真撮ろうと思って」
すると、他の全員は靴を履いて立ち上がった。
晴香もなんとなくそれに倣った。

写真はすぐに撮り終った。
「現像したら、焼き増ししてすぐに送るよ」
梓がカメラの脚立を片付けながら言う。
「みゅー、たのしみ」
繭が嬉しそうな声をあげる。あゆも似た様な顔をしている。
「あ、でも晴香さんの住所は?」
あゆが何気なく言う。
耕一と梓もすぐに気づいた。晴香はバイクの旅を続けているから普段どこにいるのかわからないのだ。だから招待状を送っても届かなかった。
しかし、晴香はゆっくり首を振っただけだった。
「私の分はいいわ。ここの玄関にでも飾っておいて」
「でも…」
「そうよ晴香、どうせだから受け取っておきなさいよ」
耕一と留美が声をあげる。
しかし、晴香はもう一度首を振った。
「私は、良祐も、郁末も、由依も、誰も居ない生活は耐えられない。だから旅に出ることにしたの。生きる目的を見つけるために」
その場を沈黙が支配する。
晴香はいったん言葉を切ると、髪を掻き揚げ後ろにやった。
「私はここに来て、郁末たちと一緒に遊んでる私を思い浮かべた。楽しい想像だったけど、やっぱり哀しかった。もういない、って分かってるのから」
だから。
「あの島での出来事も、今までの思い出も、全部この場所に置いて行く。それが私の決着のつけ方。そうしないと、きっと私は前に進めない。
――もし踏ん切りがついて、私が生きる目的を見つけられたら、その写真は、その時に貰うわ。だから、今はいらない」

「そっか」
耕一が納得したようにぽつり、と呟く。
「じゃあ、その時になったら電話でも手紙でもいいから、ちょうだいね」
梓もそれに同意する。

「あっ! もうこんな時間!」
そして、留美の大声でその場の空気は一気に変わった。
「ええっ!? 早くしないと電車に乗り遅れちゃう!」
マナも腕時計を確かめ、慌てた。
「足立さんに車出してもらうわ、急いで乗って乗って!」
梓がカメラを担いで玄関をくぐる。
晴香は、クスッと笑った。

17Farewell Song:2003/04/09(水) 20:14


絶対に振り返らない。
もう折原とどつきあうことも、瑞佳の優しさに触れることもないけれど。
私は、私の乙女の道を歩むのだ。
だから――



こうへいさんも、みずかさんもいない。
ななせさんはいるけど、ななせさんはともだち。
おかあさんのようだったみずかさん。
おとうさんのようだったこうへいさん。
でもわたしは、もうひとりであるいていける。
だから――



医者になる。そう決めた。絶対にこの意思だけは曲げない。
できるだけたくさんの人を助ける。
そして、霧島先生のような、尊敬されるようなすばらしい人間になる。
お姉ちゃんも藤井さんも絶対に忘れない。
だから――



当てのない旅。
もう良祐にも郁末にも由依にも会う事はない。
その想い出は、この場所にそっと置いておく。
私は進む、誰にも負けずに。
だから――



ボクはたくさんの友達と好きな人を失った。
でも、その代わりにたくさん大事な物が出来た。
もうそれを二度と無くしたくない。
祐一君、秋子さん、千鶴さん。
ボクはそのために強くなる。
だから――



もう私に姉妹はいない。
今度会えるのはいつになるだろう。
もの凄く後。ひょっとしたら、永遠に会えないかもしれない。
それでも構わない。私は私で生きていく。
私は大事な人間を忘れるほど薄情じゃない。ずっと、いつまでも大好きだから。
だから――



大切な仲間が居る。
そして今、その仲間達はまた離れようとしている。
それでも、俺たちの絆は絶対に切れる事はない。
永遠に。
俺たちが生き続ける限り。
だから――



バイクのエンジン音と、車のエンジン音が重なって、賑やかな温泉街に響く。
「今度はいつ会えるかな…?」
あゆが寂しそうに呟く。
「また今度の休みに遊びに来るから、そんな顔しないの!」
留美がエンジン音に負けないくらいの声をあげてあゆを励ます。
「みゅーっ!」
繭も満面の笑顔で手を振る。
マナも、ぴろを頭に乗せたまま窓から顔を出す。
「それじゃあ、私行くね」
晴香がバイクをふかす。
「ああ、手紙待ってるからな!」
耕一もエンジン音に負けじと大声を張り上げる。
「それじゃあね! みんな!」
梓の大声を合図に、車のドアが閉まり、晴香のバイクのエンジンがうなりを上げる。


そして、あの島での物語は終わりを告げる。
そう、終わりは別れとある物だから、全て置いて行く。
雲に隠れていた夏の太陽が顔を覗かせ、辺りに光が満ちた。
彼らの新しい物語は、ここから始まる。

そして、最後の言葉は。


『さようなら』

18Farewell Song:2003/04/09(水) 20:16
長いですね・・・こんなに長くする必要はあったんでしょうか?
『鳥の歌』をラストに持ってきたのに痺れたので、どうしてもFarewell Songでもやってみたかったんです。
それでもKanonとAIRしか知らず、ONEは小説しか無くて、
leaf作品はキャラしか知らないという強行軍でしたけど…
とりあえず、この辺で…ではまたー・・・

19源氏丸:2003/04/13(日) 16:56
こんにちは、源氏丸と言います。
095話からのアナザー書いてみました。
いや、アナザーと言うよりかは千鶴さんの内面を書いてみたのですが。

20私が私でいるべく、いられるべく:2003/04/13(日) 16:58
私が無理をしているのは昔からだったと思う。
会長になってからもう3年になるが、相変わず無理をしている。
いいえ、相変わらずならもっともっと昔から。
「会長、大丈夫ですね?」
にっこりと、だけど心もとなげに笑う老人。
足立さん。私の、私たちのおじいちゃん。
「はい、大丈夫です。足立さんがいなくなるのは、本当は不安なんですけど、でも、いつまでも頼りっきりじゃいけないですもんね」
我ながら完璧な答え。足立さんに心配をかけたくないから。
「うん。今のちいちゃんなら、もう押しも押されぬ会長だ。安心して僕も引退できる」
足立さんが、笑ってそう言う。
入社してから、もう四十年。足立さんは僕も十分に働いてくれました。
もう、休息の時。
安心して休んでください。
「お体に、気を付けてくださいね」
「無論、そのつもりさ。また、ちょくちょく訪ねて良いかい?」
「勿論です。妹たちも、心から歓迎しますよ」
足立さんは最後まで優しい笑みを浮かべたまま。
ずっと、ずっとそうだった。
今も昔も変わらない。
「ありがとう。それじゃ」
彼はは自分の身の回りの道具を入れたバッグを、脇に抱えた。
私は、その様子をじっと見つめる。
その眼差しに、ゆっくり背を向ける。
「…足立さん」
「うん?」
「今まで、本当にありがとうございました。あなたがいなかったら、今の私はないでしょう」
目を瞑ってそう言った。
「そんな事はないよ。…でもね」
足立さんが答える、感情を抑えて答える。
目を瞑っているけど、私にはわかった。
「出来る事なら、ちいちゃんの側に一瞬でも長くいたかったな」
「足立さん?」
「…賢治さんが、いなくなった後」
私が目を開ける。視線が一瞬ゆらぐ。視線が横へ。

「ちいちゃんの側には、誰もいなかったから」
「そんな事はありませんよ。会社の皆さんがいましたし、妹たちも…」
必死になって答えるけれど、足立さんは首を振る。
「…ちいちゃんが、ちいちゃんでいられるようにしてくれる人が、だよ」
足立さんは、辛そうに目を伏せながらこう言う。
だけど、最後なら、言わなければならないから。
私は聞かなくてはならないから。
「勘違いしないでね、ちいちゃん。僕がそういう人間だと己惚れるつもりはないよ。でも、少しでも力になれたら、って思ってた。不遜だけどね」
「…」
「他の三人も、きっとそう思ってたと思う。だけど、ちいちゃんは一人で頑張りすぎてる」
私は笑う。足元を見る。
そう、私は泣かない。
「でも僕は、ちいちゃんにとっては「目上の人」だった。だからこそ、ちいちゃんも気が楽みたいだってのは分かったよ」
私は何も答えない。だから、しばらく間を置く。
「でも、今日から君に意見したり、命令したりする人はいなくなる。それは、ちいちゃんが、会社でも全責任を負う、って言う事だよね」
「はい、…そうですね」
「その時を少しでも後にしてあげたかった。…本当に不遜で傲慢だと思うけど、そう思ってた。でも、それじゃ、僕が邪魔になる時が来る。僕も永遠に生きていられるわけでもないしね」
「足立さん…」
「でもね、ちいちゃん。僕みたいな老人じゃなくても、君と責任を分かち合ってくれる人は、絶対いるはずだ。変な事を言うようだけど…」
「…」

「探すんだよ、ちいちゃん。そういう人を」
私はその言葉を肯きながら聞いていた。
でも、それは心の奥には届いてこない。
頭では分かってるのに、心では。
「老婆心、って奴だけどね。説教になっちゃったけど、それじゃ」
「足立さん。ありがとうございました。傲慢とか、不遜だとか、そうは思いません。本当に、私に良くしてくれて…」
「ちいちゃん…」
私の声が震えて、聞き取れなくなる。でも、涙はない。
私は、泣かないのだ。
あとはもう、どちらも何も言わなかった。
足立さんは、会長室を出ていった。
今日付けで、彼は定年退社する。
――本当に、ありがとうございました。
私は足立さんの出て行った扉に頭を下げた。

21私が私でいるべく、いられるべく:2003/04/13(日) 16:59
「こちら側に回って、平和ボケしている連中を一緒に殺しませんか?」
この島に送られて私が佇んでいると、男がやって来た。
「―――やっていただけるんでしたら、せめてあなたの縁者の 方々だけでも命を救って差し上げましょう」
私の縁者―――初音、楓、梓、そして耕一さん。
助かる、なんという魅力的な言葉だろう。
「―――姉妹思いのあなたのことです―――」
それは違う、いや、あっている?
私が姉妹思い?
そうかもしれない。
だけど、そうであっても、それは偽善。そう、私は偽善者。
「―――もちろん、それでもご家族の命は保障しますよ。でもまあ、あんまり決断が遅いと誰か亡くなっているかも知れませんがねぇ―――」

私は何?
私は鬼。狩猟者。そして偽善者。
『…ちいちゃんが、ちいちゃんでいられるようにしてくれる人が、だよ』
私が私でいるということ。
それは私が狩猟者でいるということ。

『探すんだよ、ちいちゃん。そういう人を』
私が偽善者でいるということ。
それは姉妹思いの姉でいるということ。

『ちいちゃんの側には、誰もいなかったから』
私の側に居てくれる人がいるならば、それは耕一さん。

そう、私が私でいる為の人たちを助ける。
私が偽善者で居る為に、私は狩猟者になる。

22私が私でいるべく、いられるべく:2003/04/13(日) 17:00
私は爪を両手に装着していた。
最も私に馴染んだ武器。
馴染むというのは、手にしっくり来ると言うのでは無く、もっともっと根本的に―――
「――――え?」
気が付くと、目の前に女性が佇んでいた。
本当に今日は訪問者が多い日。
私は、そっと両手の爪に視線を落とす。
「え、えーとこんばんわ?」
そしてまっすぐ、その人を見る。
心中で自分に問いかけながら。
私は何?
「あのー……」
そして、答える。
私は狩猟者。
「……こんばんわ」
それを聞いて、相手は、ほんの少し安堵したみたいだった。
この人は人殺しじゃない、とでも思ったのかしら。
私はもう一度、先ほどの問いを繰り返す。
私は何?
「えっ?」
気が他所に向いているを、私は一気に十時切りにした。
「そん……な」
私は、そんな彼女を眺めながら問いに答える。
私は偽善者。

月光が私を、そして爪を照らす。
そして滴り落ちる血を。
私は月夜の森を走り出した。
偽善者であるべく。
姉妹を、従兄弟を助けるべく。
そして、狩猟者であるべく。

23源氏丸:2003/04/13(日) 17:05
どうも、源氏丸です。
千鶴さんが殺人者として動き出した動機などを考えて―――というか、捏造してみました(笑
出来れば以降も千鶴さんの行動をトレースして書ければなぁ〜と思っております。
ま、それはそれで別の話、今回は三話完結です。
読んでくださった方には『感謝感激、雨あられ』です。

24解き放たれる想い:2003/04/19(土) 18:44
「実に心地よい……」
神奈の声が聞こえる
「自分に近い体を再び持てること……」
自分の体に容赦なく降り注ぐ攻撃
「その、なんと心地よいことか……」
いつまでも避けられるものではない
「わかるか? 無力な人よ……」
わかるわけがないだろう 人なのだから。

衝撃が体を貫く。
意識が飛びそうになる。
気絶することなど許されない。 許されるはずもない。
自分に課せられた仕事はまだ終わってはいないから。

左腕を貫かれた感覚があった。
神奈の放った光の矢。
次いで右の脚、右肩、腹部。
体がうつ伏せに倒れる。

まだ終わらないのか。
発動まであとどのくらいなのか。
どのくらいの間時間を稼がなくてはならないのか。
もう…動けない…

「そんなに後ろのそれが気になるか?」
ハッと、顔をあげた。 なんだ、まだ動ける。
「余は先程の女の記憶も覗いておる。そう驚く事はないであろ。
 あの女がおぬしに希望を託したことも知っておるぞ?
 ……残念よの」
体の中で何かが沸き起こった。
霹靂のような、業火のような激しいもの。
――怒り。
「それは余にとってあまり好ましくないものであるそうじゃ。
 いっそおぬしの命を奪う前に、片付けて――」
「やめろ」
「……そう言うと思ったぞ。
 そこで、余がおぬしに一つ機会を与えてやろう。
 余がそれを破壊することをその場で見届けるなら、余に手をあげたことは水に流す。
 おぬしの命は、今は見逃そうというわけじゃ。
 それができぬなら、おぬしを殺したすぐ後にそれも一緒に破壊してくれよう。
 どうじゃ、面白いであろ。五つ数える間に自分で決めよ」

25解き放たれる想い:2003/04/19(土) 18:44
 選択肢は始めから一つしかない。
「五つ……」
 だが、本当にそれだけでいいのか。
「四つ……」
 格好をつけて、あっさり、楽な死に方をしてもいいのか。 
「三つ……」
 いい筈が無い。
「二つ……」
 最後の最後まで醜く足掻いて足掻いて足掻いて…
「一つ……」
 それから死んでやる。
「俺を先に殺せよ」
「……それの時間稼ぎを選んだか。
 余の問いかけに時間を置いて応えたのも、時間稼ぎの一つじゃな。
 自分の命を捨ててでもというわけじゃ……」
「……」
「いい心構えと言うておこう。
 だが、それが、余にとては実に「……それの時間稼ぎを選んだか。
 余の問いかけに時間を置いて応えたのも、時間稼ぎの一つじゃな。
 自分の命を捨ててでもというわけじゃ……」
「……」
「いい心構えと言うておこう。
 だが、それが、余にとては実に不愉――」
跳ね起き観鈴の――神奈の顔に拳を飛ばす
大人しく死んでやるつもりなど無い


体が動く。
当たり前だ、生きているのだから。
動かなくなる時は、それは死ぬ瞬間。
神奈の起き上がり様を蹴り飛ばす。
『なかなかの意志力。もしかしたらこのまま余を滅ぼせるかもしれぬぞ?』
神奈の言葉が頭をよぎる。
意思力で――
倒せる。倒さなくてはならない。
「おのれ――図に乗るなッ!」

光が体を貫いた。
まだ――動け―――

26解き放たれる想い:2003/04/19(土) 18:45
「ええい、忌々しい!」
重症であったのに自分に殴りかかってきた力はなんだったのか。
そして、あの意思力。
鳥肌が立った。
「死んでいるであろうが、駄目押しは刺しておくか――余への侮辱の罰としても。」
『ダメ・・・だよ』
「ッ!!」
『これ以上、誰かを苦しめちゃ、ダメ。』
「消えろッ!! この体は最早余のものなのだぞ!!」
『北川さんを巻き込んじゃダメ。北川さん、いっぱいがんばったから
 いっぱいいっぱい、大変な思いして、悲しい思いしたから』
「五月蝿いッ! お主から消してくれる!!」
自分の内へ精神を集中した。



天井を見ていた。
流れる血が力をも押し流してゆく。
ぼんやりと、顔が浮かぶ。
沢山の顔。
クラスメイト、従弟、島で出会った人達――
まだ早い
まだ来るな!
まだ迎えは要らない!!


「やっと消えおったか・・・ 自分に近い体だけあってしぶといの。
 次はあの男を――」
言葉が途切れた。
見たものは、死人が立ち上がった光景。
何故立てるのか。
何故あれほどの傷を負って死なないのか。
腹も、腿も、足も、腕も、肩も、胸にも穴が空いているというのに――
「うわああああ!!」
背筋が凍る。 恐怖。
恐怖に駆られ、狙いも録につけずに光を乱射する。
更に傷つきながらも、北川は一歩、一歩と距離を詰め――


ぽすっ


神奈の頬に拳が触れる。

神奈を倒す、倒す、倒す倒す倒す倒す倒す――
観鈴を助ける、助ける、助ける助ける助ける助ける助ける――
CDを発動させる、させるさせるさせるさせるさせるさせるさせる――

莫大な意思が神奈の中に流れ込んで――


涙が出てくる。
自分にもこの意思力があれば、
大切な人を失わなかったかもしれなくて。
自分の弱さが憎くて、悔しくて。
『だいじょうぶ、だよ』
――またか。
『会えるよ、大切な人に。いっしょいこう。 
 多分、私の大切な人もそこにいるから。』
――どうやって。
『そらがいるよ。そらが連れて行ってくれる。空の向こうまで。』
お主の良きにせい。
『にははっ うんっ』



【神尾 観鈴 神奈備命 そら 消失】
【北川 潤 死亡】
【CD発動せず】

27れの:2003/04/19(土) 18:49
えーと、843話のアナザーです。
北川があれで逝っちゃうのは個人的に惜しいと思ったので・・・
これはちょっと活躍しすぎな気もしますけどね(汗
でわ。

28償い:2003/06/22(日) 01:00
「これ受け取ってくれよ」
「これ……瑞佳のリボン?」
 瑞佳のしていた黄色いリボン。
「お前は生き残ってくれよ……七瀬」

 どこか遠くで声が聞こえる。
 それは随分と懐かしい声だった。
 幼い頃からいつも聞いていた声、
 朝になれば俺はいつもこの声に起こされて、
 どたばたとしながら学校へ向かう。
 そこにはいつもと変わらない友達が居て、
 いつもと変わらない日常が待っていて、
 俺はいつもどうり居眠りや悪戯にいそしむ。
 それは永遠に続くような、平穏な世界。

「悪いな永森、また約束守れなくて」
もう、何も見えない。何も聞こえない。そんな空間。
俺は、その先にいる誰かに語りかけるように呟く。
「本当なら、ずっと後に会う約束だったのにな、結局、戻ってきちまった。」
苦笑いを交えながら話しかける。闇の向こう。
彼女は寂しそうな、それでも穏やかな笑顔でいてくれるのがわかる。
「リボン、七瀬に渡した。あいつなら…」
そこまで言葉を繋げて、若干言葉に詰まった。
本当なら、そんな身勝手な事は言いたくなかった。その言葉が、自分の
責任を放置した勝手な言葉だとわかっていた。
「あいつなら、きっと俺たちの日常に持っていってくれるから。」
だけど、信じた。アイツは強い。きっと俺なんかよりもずっと。
アイツなら、きっとこのゲームに生き残って「なめないでよ、七瀬なのよ、
私」なんて言いながら勝ち誇ってくれると信じてる。
きっと、俺や瑞佳の思いを。あの場所へ持って行ってくれると信じている。
「なぁ、永森。俺この狂ったゲームの中でも信頼できる人を見つけたんだ。
 七瀬は今、その人達と一緒にいる。七瀬なら、きっとこのゲームに生き残
 ってくれるさ。だからな―」
目を開けて、しっかりと瑞佳を見ようと思った。この真っ暗な闇の中で、そ
れでもしっかりと目を開けて。
『なんだか、今度は七瀬さんの話ばっかりだね。』
困ったような笑い。いつもの瑞佳がそこにいる。
「悪いな、言い訳がましくて。」
その顔を見て、なんだか照れくさくて。俺も笑いが零れる。
俺が求めていた日常はそこにあった、俺が求めていた幸せは―
『いいよ、だって浩平と私の永遠はここにあるもん。だからね―』
瑞佳が笑う。この川を渡る前に、ちゃんと伝えておいでっと笑っていた。
俺は少しだけめんどくさそうに頭をかく、照れくさいのか、それとも
わざとなのかはわからない。でもそれが俺達の日常だから―

「折原……折原ぁ」
いつも強気の癖に、そういうところは乙女らしいな。そんなことを思
う。でも、それを認めることは俺達の日常じゃないから。
最後の力を振り絞る。のどが焼けるように熱い、それでも伝えないと。
俺達の日常を、俺と七瀬の最後の日常を。
「いいか……漢と漢の約束だぜ」
 眠る前の耕一との約束を破っておいてよく平気でそんな事が
 言えたもんだと自分で呆れたが、そう言って精一杯の笑顔で
 七瀬を見た。
 最後までお前に怒られてばっかりだったなぁ……

 最後の日常を終えて、川を渡る。
 これから始まる永遠の中で、俺は瑞佳と一緒に。
 無二の親友を待とうと心に決めた。
 いつかの三人の日常へと、帰れるように。

十四番 折原浩平死亡
【残り35人】

29死神:2003/06/22(日) 01:05
ハカロワのアナザー、どうしても書いてみたくて書いたんですけど。
やっぱり難しいですね。っというかまだ最後まで読んでないので似
たような箇所が後半であったらどうしようかと不安に思いながら書
いてたりします(滝汗)
個人的に二巻で瑞佳が死んでしまった瞬間に、あぁもうあの三人は
あの日常には帰れないのかってすごい悔しかった思い出があって。
折原が死ぬ瞬間に、少しその話があったらなぁっと思って書いてみ
ました。(^^;

30名無しさんだよもん:2003/07/14(月) 10:18
永森 ×
長森 ○

31あゆの観察日記:2003/08/19(火) 17:46
9月1日 晴れ

長い長い夏が終わりかけている
あの日のあと柏木耕一さんと梓ちゃんの家でお世話になる
千鶴さんの妹としてくるはずだったけど
僕は僕の居場所をくれた二人に感謝した

そしてこの日記を書く3日前
洗濯するからと梓ちゃんにお気に入りのダッフルコート
を渡した時ポケットから一つの種が落ちた

それはおじさんが死んじゃうとき僕に残してくれた物

次の日、耕一さんに頼んで植木蜂とかの栽培セットを買ってもらった
そして今日、なれない手つきで僕は種を植えた
何の植物が咲くかはわからないけど楽しみだな♪

32あゆの観察日記2:2003/08/19(火) 17:50
9月23日 曇り

毎朝欠かさず水をあげたり話し掛けていた種が芽を出した
10日もしないうちに僕は芽が出なくって心配になって
何度も何度も耕一さんや梓ちゃんに大丈夫かな?
って聞いていた
そのたびに二人と笑って大丈夫だよって言ってくれた
生えたばかりの芽は昨日の夜の雨のうちに出てきたのか
露がついていてそれらがキラキラ輝いていて綺麗だった

33あゆの観察日記3:2003/08/19(火) 17:53
10月10日 晴れ

うぐぅ、前の日記より随分と日があいちゃった・・・
芽はとても成長が遅い
ひょっとしたら木みたいに大きくなっちゃうのかなぁ?
今は10cmほどの大きさに育っている
いったいどんな植物に育つのか楽しみだな・・・

34あゆの観察日記4:2003/08/19(火) 17:59
12月1日 雪

朝起きてすごーく寒くて外を見たら雪が降っていた
雪を見ると昔いた街を思い出す
絵を書くのが好きだった栞ちゃん
ピロっていう猫といつも仲良しだった真琴ちゃん
無口で怖いけどほんとは優しかった舞さん
あの日なぜかわからないけど僕のことを殺そうとした名雪さんと秋子さん
でもきっと二人には何か事情があったんだと思う
あんな事になる前は二人ともいつも優しくて
羨ましいほど仲が良かったから
そして大好きだった祐一君・・・

植物の中には雪に弱いものがあるから
冬の間、雪の降るときは家の中に入れることになった
そんな9月に埋めた種はもう立派な小さな木になっていた

35あゆの観察日記5:2003/08/19(火) 18:06
3月20日 晴れ

雪の降る季節が過ぎて
暖かな春がやってきた
まだ名残雪がたまにあるけれど
家の裏庭にはタンポポの花が咲いていた

そういえば小さな木は日に日に大きくなって植木蜂に入らなくなったから
耕一さんの提案で庭に埋めることになった
僕と梓ちゃんはちいさなシャベルで
耕一さんは大きなシャベルで穴を掘る
途中耕一さんがおもいっきり掘った時埋まってた岩に当たって
手をいためちゃって大騒ぎになった
耕一さんは大丈夫って言って続けようとしたけど
僕と梓ちゃんでそれを止める
少し時間はかかったけれど埋め終わる
埋め終わった頃には夕日が出ていて
木が茜色に染まっていて綺麗だった

36あゆの観察日記6:2003/08/19(火) 18:14
8月21日 晴れ

もうすぐこの家に来てから一年が経とうとしている
そしておじさんの植物ももうすぐ1歳になる
何かお祝いにプレゼントをしたいと思うけど何がいいかな?
うぐぅ・・・植物にプレゼントなんてあげた事ないからわからないよ・・・
耕一さんや梓ちゃんにも聞くと肥料とかいいかもと言われる
・・・・・でもそんなものじゃない
もっときっといいプレゼントがあるはずなんだよ

37あゆの観察日記7:2003/08/19(火) 18:25
9月1日 晴れ

ついにおじさんの植物が1歳を迎える
おじさんの植物も種の頃に比べてすごく大きくなった
うーん・・・僕の3倍くらいはあるんじゃないかな・・・?
前々からプレゼントのことで相談していた梓ちゃんが
この日のために腕によりをかけてご馳走を作ってくれた
食べる場所もいつもの場所でなくおじさんの木の見える縁側

ご飯を食べ終えたあと梓ちゃんお手製のたいやきを食べる
僕が住み始めてから毎日のようにたいやきを作ってくれてたから
その味はあの街のおじさんのたいやきと同じくらいおいしかった
食べていると梓ちゃんがプレゼントはどうしたのかと聞いてきた

そう、おじさんの木へのプレゼント
この日のために色々考えてやっと思いついたプレゼント
僕はおじさんの木に近づき木を見る
近くで見るとやっぱりでかい
まるでおじさんそのものだった
そんなおじさんの木へのプレゼントそれは

名前

耕一さんが学校からたくさんの植物の本を持ってきてくれて
この木がどんな木かわからなくって、呼び名に困っていたけど
今日1歳の誕生日を迎えたこの木に名前をつける

といっても今日の朝、梓ちゃんに聞いただけなんだけどね
この木の名前
君の名前は


―――御堂

38名無しさんだよもん:2003/08/19(火) 18:28
↑の作者です
無駄に長いです
構想三分執筆数十分の品のため
めったくそいい加減です。最後どうやって
まとめるか分からなくなって結局こんな結末ですみませんでした;;

39セルゲイ@D:2003/08/24(日) 14:00
これから投稿するのは、随分前に執筆したものの、ちゃんとした発表の場所を得られずにいた作品です。
ストーリー的には、物語本編が全て終わったあとのものなので、その辺ネタバレ注意です。
プロットが絞り込めなかったので2パターンあり、執筆以来結局手を加えていません。

40大樹(パターンⅠ)_1:2003/08/24(日) 14:01
  
 何処までも広がってゆく蒼穹の下。
 その広がりに劣らぬようといわんばかりに、益々勢いを増して伸びゆき、
生い茂ろうとする枝葉を抱えて、大樹はどっしりと根をおろしていた。  
  
  
  
 −−みんな、今でもボクらを見守ってくれていますか?  
  
  
  
 色々な事があったあの島を抜け出し、ボクらは本土に帰ってきた。  
 それから、少しだけ時が経って、少しだけみんなが落ち着いてきたところで、
この柏木のお屋敷でお通夜をしたんだ。あの島で失われた人達、みんなの。
 楽しく思い出語りなんかをしている姿を見せて、安心して逝ってもらうんだよ、
って千鶴さんは言ってたのに、みんなしめっぽくて。
 ……ボクなんかは何度も泣いちゃったりした。
 それからね、御堂さんが亡くなった後に、ぽつんと残された一粒の種、
あれをお屋敷の庭にみんなで植えました。 
 いつまでも、ボクたちのことを御堂のおじさんが見守ってくれますようにって。
 送ってあげる為にお通夜をしたのに、ボクたちをずっと見守っていて欲しいなんて、ずいぶん変なお話なんだけど、当時のボクは変だなんて思ってなかった。
 多分、みんなも。
 そしてボクは、あの時誓ったんだ。
 生きていく中で、辛い事苦しい事、悲しい事にぶつかるような事があっても、ボクたちは、そんなものに負けてはいられないんだと。
 だってボクらは、みんなの分まで幸せにならなくちゃいけないんだから。
 だから、それを忘れちゃいけないんだって。

41大樹(パターンⅠ)_2:2003/08/24(日) 14:03
  
  
 ボクたちはそれぞれの道を自分たちの足で歩み続け、それぞれが充実した人生を送ってきました。
 マナさんは、必死に勉強してお医者さんになりました。開業したマナさんは、
腕がいいと評判な上に、患者さんにとても慕われています。けれどもマナさんは、
自分なんてまだまだだって、未だに勉強を続けているみたいです。マナさんの瞳の向こうには、
もっと大きな目標がそびえたっているに違いありません。
 七瀬さんは、お琴とお料理の先生です。当時は体育教師説がみんなの予想ナンバー1だったのに。
 いつか挫折するに違いないなんてからかいながら、皆で応援したのがいい結果につながったのかも。
 おまけに、「あたしが一番幸せになるっ」とかいって、七瀬さん真っ先に結婚しちゃうし。
 それにしても、お琴とお料理という意外なとり合わせに、皆が首を傾げている中、
晴香さんだけが訳知り顔でうなずいていたのも印象的でした。
 本人の居ないところで『七瀬の漢女(おとめ)像は、そこにあるんだから』って言ってましたけど。
 その晴香さんは、今でも、あまり自分の事を語ってくれません。
 だけど、この季節には必ず便りがきます。みんな元気でやってますか、って。
 ただ、その投函もとがいつも違うところで、昔のボクにとっては不思議でなりませんでした。
 振りかえってみれば、晴香さんなりの決着の仕方を探していたのかも。
 ボクらが本土に戻って、ずいぶんと時が経ってから、ボクらはことの真相を知るために、
色々と動いてみました。
 だけど、国内には全然、長瀬一族の痕跡も、RARGO教団の痕跡もなくて、
まるでボクたちが経験した事は全て幻だったんじゃないかと思わされるくらい。
 あの日を境に、黒幕たちの存在した証はどこにも、何一つ残っていない。 
 晴香さんは、多分、その結末をどうしても知りたかったんじゃないかと思う。  
 たまにこの土地を訪れてくれても、いつも険しい顔をしていたから。
 そんな晴香さんも、何処かで踏ん切りがついたのか、今では楽しんで旅をしている様子です。
このところ送られてくる便りも、旅情を記したものになってます。  
 梓さんは結局、地元の短大に通いながらも鶴来やグループを継ぎました。   
 当初は大きな混乱もあったみたいだけど、後見役の足立さんの取りまとめもあって、
うまくことが運んだみたいです。
 ただ、梓さんも耕一さんもずっと一緒に暮らしているけれども、結婚はしていません。
 何でも、鬼の血にまつわる悲劇を二度と繰返さない為なのだとか。
 正直、僕は今でも納得していません。理解はできても、やっぱり……。
 でも、それはあくまで二人が決めたことで、ボクがとやかくいうことではないのかもしれません。

42大樹(パターンⅠ)_3:2003/08/24(日) 14:04
 そして、ボクは……。  
 普通に学校に通い、普通の日常を満喫して、普通に就職を果しました。
 そして、もちろん、普通の恋愛もして……。
 みんなの中ではボクが一番平凡かもしれない。
 だけど、それでもボクはとっても幸せです。
 皆に生かされたという、ボクの存在。
 眠ったまますごした数年間を取り戻すように、あの島で感じた哀しみなんかの、
数倍もの幸せを吸収しなきゃならない……。
 そんな気負いなんかなくても、ボクは精一杯堪能したこの日常というものの幸福を、
決して忘れない。
 幼いころのボクや、今を生きるほとんどの人は、こんな幸せを知らないだろう。
 日常というこのかけがえのない生活を送る幸福を、どれだけ貴重な幸せであるかということを
気にもかけずに日々を送るんだろう。
 ボクはそんな人たちの数倍も幸せなんだ。
 それに、それだけじゃない。
 みんなに愛されて、ボクだけを見てくれる素敵な人にも出会って……。
 あの時に植えた種のようなものも、今ではこの庭、じゃなくて、
この地域で一番の大樹になりました。
 ずっと僕達を見守ってくれていた、御堂さんの樹。
 長い人生の中で、何度もこの縁側から樹の生長を眺め、その根元にたたずんでは、
生きる力を分けてもらってきました。
 この年まで、大した病気もせずにこれたのもそのせいかも。
 こうして幹に額を預けて、目をつぶると、とても心が落ち着いてくるんです。
 まるで、命の音が聞こえてくるようで。
 この安心感は、大切なあの人の胸に身をあずけるときの感覚に、どこか似て。
 ――ああ。ボクは幸せだ……。

43大樹(パターンⅠ)_4:2003/08/24(日) 14:05
  
   
「おーい、あゆ? あゆ〜?」
 玄関の方からボクを呼ぶ声が聞こえてくる。
 あの人がボクを迎えに来たんだ。もう、行かなければ。
 じゃあ、ボク、いくね?
  大樹の幹に預けるようにしていた頭を上げ、玄関に向き直る。
「いまいくよ〜っ」
 小走りに駆け出したボクの後ろで、御堂おじさんの声が聞こえた気がする。
――ああ、そうだな。それでも、辛くなったらいつでも戻って来いよ? ――
 辛くなんかならないもん。
 これから、ボクはもっと幸せになるんだから。 
――達者でなっ。ピーピー泣くんじゃねーぞっ――
 ボクはもう、泣かない。
 こんなに幸せなのに、泣くもんかっ。
――相変わらず、強がりばっかりは一流だな――
 強がりじゃないもん。
 おじさんの方こそ、強がってばかりだったよね?
 あれ、涙が……おかしいな?   
――ふん、何処へいっても、俺の手のうちさ。いつまでだって、守ってやる――     
 ……うん、ありがとう。
 ボクは最後に一度だけ振りかえって、御堂さんの樹を見上げた。
 その青々と茂った枝葉は、何処までも広がっていきそうな勢いで。
 この星の何処に居ても、ボクのことを見守っていてくれそうな、そんな強さと優しさを感じさせた。
「じゃあね。……またっ!」
 ボクは玄関に向けて走り出す。 
――ああ、またな……――
 ボクは走り出した。
 ボクの、新しい幸せに向かって。

44大樹(パターンⅠ)_5:2003/08/24(日) 14:05
   
  
    
 人は生き、そして死んで行く。
 その営みは、この地球(ほし)が屑星のようになって消えうせるまで、ずっと繰返されていく。
 大樹は、それをずっと見守っていくのだろう。
 自らが生き続ける限り。
 人がこの星で生き続ける限り。
 人がこの星で生を営み続ける限り。
 ……永遠に。
  
  
              いまさらのアナザー、大樹      〔 了 〕

45大樹(パターンⅡ)_1:2003/08/24(日) 14:09
  
 色々な事があったあの島を抜け出し、ボクらは本土に帰ってきた。  
 それから、少しだけ時が経って、少しだけみんなが落ち着いてきたところで、
この柏木のお屋敷でお通夜をしたんだ。あの島で失われた人達、みんなの。
 楽しく思い出語りなんかをしている姿を見せて、安心して逝ってもらうんだよ、
って千鶴さんは言ってたのに、みんなしめっぽくて。
 ……ボクなんかは何度も泣いちゃったりした。
 それからね、御堂さんが亡くなった後に、ぽつんと残された一粒の種、
あれをお屋敷の庭にみんなで植えました。 
 いつまでも、ボクたちのことを御堂のおじさんが見守ってくれますようにって。
 送ってあげる為にお通夜をしたのに、ボクたちをずっと見守っていて欲しいなんて、
ずいぶん変なお話なんだけど、当時のボクは変だなんて思ってなかった。
 多分、みんなも。
 そしてボクは、あの時誓ったんだ。
 生きていく中で、辛い事苦しい事、悲しい事にぶつかるような事があっても、
ボクたちは、そんなものに負けてはいられないんだと。
 だってボクらは、みんなの分まで幸せにならなくちゃいけないんだから。
 だから、それを忘れちゃいけないんだって。
  
  
 しかし、あの種は芽吹かなかった。
 あゆや梓、耕一達が肥料や水を盛んに与えてやっても、決して芽吹かなかった。
 一堂は始め、その事をひどく残念がった。
 特にあゆなどは、いつの日に必ず芽を出すのだと、おじさんはボクとずっと一緒だって、
約束したのだからと、拘った。
 しかし、あの種は芽吹かなかったのだ。……が。
 代りにというべきか、その近くに植わっていた樹木は次第に、しかし確実に際立った
生長を見せるようになり、やがては町内一、県下一の大樹へと育っていった。
 仙命樹とは元来、群体であり、また他の存在と寄り添う事でのみ生き長らえられる生き物であった。
 その樹の生長は、かつて御堂に根付いた仙命樹による奇跡だったといえよう。
 あゆたちにはそれらの事情は無論わからない。
 だが、人は、人とは物事に自ら意味を与えて生きていくものだ。
 あゆたちにとって、その大樹は御堂の樹として認識されるに至った。
 そしてさらに時は流れる……。

46大樹(パターンⅡ)_2:2003/08/24(日) 14:10
  
  
 ずっとボクたちを見守ってくれていた、御堂さんの樹。
 長い人生の中で、何度もこの縁側から樹の生長を眺め、その根元にたたずんでは、
生きる力を分けてもらってきました。
 この年まで、大した病気もせずにこれたのもそのせいかも。
 こうして幹に額を預けて、目をつぶると、とても心が落ち着いてくるんです。
 まるで、命の音が聞こえてくるようで。
 この安心感は、大切なあの人の胸に身をあずけるときの感覚に、どこか似て。
 ――ああ。ボクは幸せだった……。
  
  
 何処までも広がってゆく蒼穹の下。
 その広がりに劣らぬようといわんばかりに、益々勢いを増して伸びゆき、
生い茂ろうとする枝葉を抱えて、大樹はどっしりと根をおろしていた。
 N県 隆山温泉街のややはずれ、鶴来屋柏木邸の庭である。
 柏木邸のある一面の縁側からはその大樹を正面から見渡す事が出来る。
 いや、そうする事ができるように、この樹は場所を決められて育ったのだ。
 そしてその縁側に、男が1人。
 幸福な年輪を重ねてきたらしい、老齢の男だ。
 茶と、茶請けとを盆に載せ、腰を下ろしている。
「おい、あゆ。いつまでそこにいるつもりだい? あゆ、あゆ?」
 老人の呼びかける方向、つまり大樹の前には、その幹に頭を預けるようにしている老女がいる。
 老人の声に、あゆは応えない。
 さもあろう、彼女は既に息を引取っていたのだから。
 しかし、その表情は安らぎに満ちていた。
 この世で一番の幸せを抱いているような……。
 そんな笑顔だった。
  
    
 人は生き、そして死んで行く。
 その営みは、この地球(ほし)が星屑のになって消えうせるまで、ずっと繰返されていく。
 大樹は、それをずっと見守っていくのだろう。
 自らが生き続ける限り、人がこの星で生き続ける限り。
 ……永遠に。
 いまさらのアナザー、大樹      〔 了 〕

47セルゲイ@D:2003/08/24(日) 14:15
お粗末さまでした。
ちなみにパターン1が、御堂の遺した物が本当に種だった場合を想定していたプロットで、
パターン2が、仙命樹本来の生態と機能を反映したら、というプロットでした。
……多分。

今、ざっと読み返してみると随分懐かしい感じだ(笑
両プロットとも、相容れない部分があるから結局一つにまとめられなかったんだなぁ。

48セルゲイ@D:2003/08/24(日) 14:20
あ、コピぺミスを発見した……ちょっとぷちブルー。

パターン1の冒頭に以下の一行が入ってたっす。なんか今更だが。一応。


       ──今を生きる、全ての人々に……。  

                                』


(……今見ると押しつけがましい感じもする一文だけど、発表形態は執筆当時のままに)

49あの広い空の向こうで:2003/08/26(火) 01:42

私は、いつの間にか此処に帰ってきていた。
あの日、あの子と約束をした、この永遠という空へ。
いつものように聞こえる彼女の寂しそうな声、それは遠くてとても近くて。
空気が悲しみで満ちていて、もしも鳥達がここにいるならば、きっと泣き
出してしまうくらいに、此処は悲しみに満ちていた。
あの子は今も泣いている。私の役目は彼女に幸せな記憶を伝えることだった。
それを条件に、私は彼女から命と記憶を貰った。
「何奴じゃ?」
彼女の声が何処かから聞こえる。悲しみに満ち溢れたこの大気に、異質な声。
その口調が彼女が高圧的で、気高い心を持っている事を教えてくれる。
「誰かと思えば、そちであったか。」
高圧的な声が、柔らかくなった。私によく似た少女、それは外見ではない。
どちらかといえば雰囲気が似ていた。
「ずっと、待っておったぞ、さぁ早く聞かせてくれ、そなたの記憶を。あの時
 約束した幸せな記憶を。」
白い翼を持った少女は溢れんばかりの笑顔で訊ねてくる。ずっと待っていたのだ
ろう、この悲しみに満ちた世界で。彼女の心の一部が泣きつづけるこの世界で。
「どうした…?はよせぬか?」
彼女の口調がきつくなる。まるで駄々をこねる子供のように、そう言いながら歩
み寄ろうとする彼女から、私は、一歩だけ身を引いた。
「どうしたのじゃ?」
不思議そうな、苛立ったような、彼女の声。
「みちるは…」
私は首を横に振って、語りかける。この子に伝えないといけない。
「みちるは…君に、記憶をあげれないよ。」
私はそう言って首を振って、一歩後ろに下がった。
女の子の顔から笑顔が消える、悲しそうな心が大気を揺らしていた。
「なぜじゃ、余は待っておったのだぞ、ずっと!ずっと待っておったのだぞ!
 約束が違うではないか!余は!余は!!」
「違うよ、だって、これはみちるの記憶だもの。君には伝えられないよ。」
苦しかった。この子がどんなに私の記憶を、幸せな記憶を楽しみにしていたの
かわかってしまったから。だから、苦しかった。
「みちるは幸せだった。美凪や、お母さん、ポテトやポチ、秋子さんや名雪さん
 達、それに……国崎往人に会えて。」
「それならば何故その話を余に伝えない。」
彼女の怒りが大気を振るわせたのがわかった。悲しみに満ちた空気が、さらに
色濃く、悲しみを伝えてくる、
「でも、幸せは本当の幸せは…、美凪の幸せが、貴方のせいでなくなってしま
 ったものっっっ!!」
腕が吹き飛んだ、そこにあったはずの腕が吹き飛んで、シャツが少しずつ紅に
染まっていく。一瞬止まっていた脳が、体に痛みを伝える。
「黙れ、黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ!!」
彼女の怒りが空を揺るがしていた。光の塊がいくつも生まれ彼女の周りを飛ん
でいる。それが私の体を消すのに十分なものだということは本能的にわかった。
「いらぬ、いらぬ、いらぬ!そなたも、そなたの記憶も!皆、要らぬ!」
叫びが空気に消えるか消えないかという瞬間、光の塊のいくつかが私の体を
えぐっていった。血は溢れない。痛みも感じない。けれど光の塊に触れた部分
は、まるで初めからそこに存在していないかのように消えていた。
「駄目だよ、こんなのじゃ、君は幸せじゃない!幸せになんてなれない!」
必死に声をあげる。欠けてしまった体で、必死に彼女に伝えようとした。
「五月蝿い!余の力の一部が知ったような口を利くでない!」
光の塊がさらに飛交う、あれに触れれば私の存在は跡形も無く消される。記
憶も、心も、そして偽りの魂でさえも。

光が満ち溢れていた、もう消えているはずの体がまだ残されていた、記憶も
心も、体も、魂も。全てが残っていた。
私はそっと顔をあげる。光の塊が。

消えていた。

50永遠という場所:2003/08/26(火) 02:08

「永遠というこの世界より生まれた、副産物が、余に楯突くか。」
忌々しそうな彼女の声が聞こえる。私には何が起こったのかわからなかった。
「この結界の副産物でありながら、余の結界の一部であり。余の叶えた少女の
 願いのほんの一部。それなのに余に楯突くか。永遠をつかさどることすらま
 まならなかった時間のひずみの一部が!」
光の塊が剣へとその形を変えていく。一本の剣へと変わったその光を掴むと、
彼女はその切っ先を一人の少女へと向ける。白い服を着た、この世界の一部で
ある少女に。
「私は永遠という存在、でも、私もまた貴方の一部。」
白い少女の周りに歪が生まれる。翼の少女の剣の切っ先は空間の中に呑まれて、
そして消える。彼女の存在は、この世界の一部。だから翼の子は、白い子には
手出しをすることだできない。
「もう、やめようよ、貴方は自分の欠片を消してるだけなんだよ?」
白い少女が手を差し伸べようとする。空気が変わる。あんなに怒りに震えていた
空気が、もとの穏やかさを、静けさを取り戻していく。
「五月蝿い!主らなぞ、余の一部に過ぎぬ!なのに何故逆らう!何故…」
翼の少女が新たな剣を作り出し、白い少女へと向け、突き出した。

鮮血が舞った。白い少女の服を剣が貫き、そして白い服が少しづつ赤く染
まっていく。届かないはずの剣先が。確かに少女を貫いていた。
「見よっ、お前らの望んだ永遠なぞ存在せぬ。」
翼の少女が笑った。剣を伝って、白い少女の鮮血が一滴、一滴と翼の少女の
手を赤く染めていく。
「愚かな人間達のおかげで結界がほころぶと同時に、そなたの一部である人
 間も死んだときから、この永遠などという下らないものもまた、消えかけ
 ているのじゃ。」
引き抜いた剣をゆっくりと下ろす。翼の少女はそういって笑っていた。自分
の心の一部を貫いたその剣を見ながら。

「そう、貴様らの存在などいらぬ、余は、余の幸せを。楽しみを見つけよう。
 この綻びた結界から、解き放たれたとき。余の幸せを。」
どこまでも続く待機の上、一人の少女が狂ったように笑っていた。
彼女の足元に転がるのは、白い服をまとった幼い少女と、かつて幸せを伝える
ために此処へ舞い戻ってくることを誓った少女のリボン。
悲しみに満ちた空の上、堪えられない涙を流しながら少女は、笑っていた。

【みちる、みずか(永遠)消滅】
【結界がほころび始め】

51死神:2003/08/26(火) 02:10

相変わらず文章が下手で申し訳ないです(TT)
神奈とみちるの絡みが書きたくって書いてみました(^^;
構想は結構昔から考えていたのですが、上手くまとめれなくって。
お目汚し申し訳ないです(TT)

52パラレル・ロワイヤル(略してパロアル):2003/08/26(火) 20:17
ハカギ・ロワイヤル紙媒体化無事完結記念祝賀会(ああ、なんて長い名前だ)
会場となった孤島に建てられし超巨大テーマパーク『来栖川アイランド』の
中央イベントホール、ここから史上最?のサバイバルゲームの幕が今、
開かれようとしていた。
「え〜これから御来場の皆様にはバトル・ラワイヤルして頂きます。」
ペットボトルロケットランチャーを装備したセリオ(53番)と投げパイを
満載したカートを押したマルチ(82番)を横に連れ、祝賀会の主催者であり
ゲームの企画者でもある来栖川綾香(36番)はマイク片手にいきなりこう
のたもうた。
突然発せられたその言葉に殆どの人間が反射的に口を押さえた…唯一人だけ
押さえ損なって『禁句』を漏らしてしまった者がいた、長森瑞佳(65番)で
ある。
「ええっ?それって一体どういう…。」最後まで言い切る前に瑞佳は隣の席
にいた折原浩平(14番)に床に押し倒された。間一髪!瑞佳の居た空間を
跳び抜けて行った投げパイは身代わりの犠牲者を得る事もなく空しく会場の
壁に張り付き大きな汚れを飛び散らせた。
タックルベリーよろしくお代わりの投げパイを構え、他の声の主を求めて
キョロキョロしていた綾香は地団駄を踏んで悔しがっている、
「ああん、折角お約束のイベントチャンスだったのにいっ!」
そんな綾香の目にテーブル越しに掲げられたスケッチブックの文字が目に
入った、掲げてる本人は隠れて見えないが恐らく上月澪(39番)であろう、
『事情と ルールと ごほうびを 教えてください』
「え〜ゴホン」綾香が会場に向き直って発言を再開した、
「ルールは簡単、この来栖川アイランドの中で希望者全員によるサバイバル
ゲームを行い、勝ち残った成績優秀者はハカギ・ロワイヤルアナザー本の
表紙絵に御登場!他にも裏表紙・挿絵・プロモその他が上位入賞者の御登場
を待っているわ。」
おお〜っ、と会場がどよめきに包まれる中綾香が更に説明を続ける、
「参加希望者は皆、体のどこか見える位置にこの発信機兼カメラ兼集音機兼
緊急通信機を着用して貰うわ…これを元に相手からの有効打もしくは相手へ
の有効打を受信元の来栖川アイランド総合統括コンピューター『G.N』が
判定して失格者に判定を伝えるわ、万一の大怪我・迷子・事故・遭難等で
救助が必要となった場合もこれを使えば救助信号が送れるわ…勿論、失格に
なっちゃうけど…後、ルール違反・反則行為の監視もこれで行っているから
…外すのは勿論、他人のを外そうとするのも即失格よ…例え水浴びの時でも
肌身離さず持っていて頂戴…。
…更に、長期戦に備えて複数の『戦闘及び待ち伏せ・狙撃対象禁止区域』に
フードスタンド・トイレ・仮眠室を準備してあるわ…残念ながら、お風呂は
準備してないから、不潔さに耐えられなくなったら水浴びかリタイアを選択
して貰うことになるわ…。
…そうそう、フードスタンドは何度利用しても一向に構わないけど、
ランダムの確立で『調理人・宮内あやめ賛』だったり『性格反転キノコ』が
一服盛られていたり『公認ジョーカー1号・川名みさき賛との負けたら即時
リタイアの大食い1本勝負』が待ってたりするかもしれないからその覚悟で

53パラレル・ロワイヤル(略してパロアル)続き:2003/08/26(火) 20:21
…後、フィールドにはG.Nと供にゲーム参加者の公正と安全を護る為の
こちらの特別スタッフが常時巡回しておりますので、必要な時は声をお掛け
下さい…それでは紹介します、
『HMX−14P・ピースです。』『HMX−14C・コードです。』
『HMX−14F・フレアです。』『HMX−14M・ミリアです。』
『HMX−14Ma・マリアです。』『HMX−14K・カノンです。』
…ここまでで何か、質問等はありますでしょうか?」
「あの…装備とか携行品等は一体どうなるのでしょうか…?」挙手の後
質問を行ったのはリアン(100番)である。
「装備は例によって例のごとく参加者一人一つずつ、食料・飲料水と供に
こちらからランダムに支給致します…後、持参装備はリーサルウェポンと
みなされる物は携行禁止とさせて頂きます…通信機・携帯電話等は一応は
使用可能ですが、全ての通信はG.Nによって傍受されており、これまた
ランダムの確立で全島公開放送される可能性がありますのでその積もりで…
…それと、現在着用されております服装での参加を望まない方は、その旨
及びサイズを申請して下されば、代わりのゲーム用衣装をこちらから支給
させて頂きます…デザインはこちらのランダム決定になってしまいますが…
…あと、自己顕示欲はあるものの、気力体力上どうしてもゲーム参加不能の
方の為に、代戦士の登録の方も行っております…既に登録完了の方の名前を
挙げます、
神岸あかりさんの代戦士で坂下好恵さん、  『ま、しかたないわなあ。』
立川郁美さんの代戦士で立川雄蔵さん、   『オイ、チョット待て!』 
杜若きよみ(原身)さんの代戦士で光岡悟さん、『なんじゃそりゃああっ!』
現在の所以上です…他にご質問はありますでしょうか?」
「おい…俺達も参加していいのかい?」一角のテーブルを囲んでいる高槻s
の内、1番がぶっきらぼうに尋ねた。
「本作で管理側だった方達も今回は参加可能です…便宜上、本作参加者に
追加カウントする形で101番より五十音順にナンバーエントリーして頂き
ます、HM−12・HM−13は長瀬主任の装備ではなく、個別の参加者と
して扱わせて頂きます…最後に…高野さんも今回は、特別参加可能とさせて
頂きます。」
「至れり尽くせり、だな…。」会場の隅で一人、黙々と煙草を燻らせていた
高野は苦笑して呟いた「それにしても、『ルールありのクリーンなゲーム』
になった途端のこの文字数…何とかならんのかな?」
TO BE CONTINUED?!

54是空:2003/08/26(火) 20:27
あ〜あ、とうとう書いてしまいました…反応次第では隠れハカロワファンと
なってひっそり身を隠す羽目になるかも、それにしても…自宅端末がない為
漫画喫茶の端末から書かせて頂きましたが、文字数が多すぎて一発送信が
出来なくなり分割送信する羽目になるは下書き原稿にあかり・郁美・きよみ
の番号を書き忘れるはでもうNGの連発でした…申し訳ありませんでした。

55やっぱりNG発見しました〜是空:2003/08/26(火) 20:45
綾香のルール説明の台詞の中に以下の一文を加えて下さい
「結界はありませんので能力者の方は存分に能力を使って頂いて構いませんが
相手にオーバーダメージを与えたもしくは与えそうになったとG.Nが判定を
行った場合は即失格となりますので御注意下さい。」

56パラレル・ロワイヤルその③:2003/08/27(水) 19:07
その頃、来栖川アイランドの賓客宿泊施設『リバーサイド・ホテル』(非戦闘区域兼
ゲーム敗退者待機場予定所)にて、モニター画面に映し出される祝賀会場の様子を
わくわくしながら眺めている3人の少女がいた…杜若きよみ<原身>(15番)・
神岸あかり(25番)・立川郁美(56番)である。
「…堅く口止めされておりましたが、代戦士が要りそうな方にはあらかじめに、
代戦士登録もしくはジョーカー登録の問いかけが祝賀会招待状と供に送られて来て
おりますのよね…。」
「ごめんね浩之ちゃん、ごめんねみんな…ずっと黙ってて。」
「でも…これから一体、どういう展開になるのでしょう?」

「そうじゃなあ…ワシがシュミレートした予想展開を楽しみを奪わない程度に
紹介するとじゃ…」モニター横にあるG.N の端末機が3人に淡々と語り出した、

「恐らく、最初は団体戦じゃろう…特に不仲な間柄でない限り、各作品別にチームが
合流され、別のチームと戦う…といった形じゃ…じゃが、本作ハカロワにおいて
『作品別を越えた間柄』になった者同志が、果たしてどちらを仲間として選ぶか?
そこが最初の『見所』となるじゃろう…そして、それは主催者側の長瀬一族にも
同様に当て嵌まる問題となるであろう…最も、源四郎だけは躊躇う事はあるまいが

…逆にいえば、♂巳間の様に元ゲーでも本作ハカロワでも見事浮いてしまっている
存在が一番ピンチだ…最も本作ハカロワで似たような立場を覆した御堂みたいな者
もいるから断言は出来ないがのう…

後、こみパの大志…本作ハカロワ同様、あさひちゃん表紙化の為に今回も修羅と
化す事は必至…果たして今回、こみパの連中とどのタイミングまで同盟関係を
続けるつもりでおるのか見所じゃのう、

後は、今回は『有効打が当たったら即失格』のサバゲーである点にも注意すべきか
…『能力者』にとっての回復力・耐久力はスタミナに対して以外の用は成さない
ケースが多そうじゃからのう…」

そこまでG.N が話した時、部屋のドアが開き、更に二人の少女が入って来た。

57パラレル・ロワイヤルその④:2003/08/27(水) 19:40
「にゃあ〜、おじゃましますです〜。」「…御邪魔、致します…。」
入って来たのは、代戦士登録を終えてココへとやって来た塚本千紗(58番)と
長谷部彩(70番)である、丁度モニターの中では代戦士エントリーをしている
ハイテク特殊装備を野戦迷彩服に施した痩せたメガネの男と忍者装束に身を包んだ
でっぷりと太った男の姿が映っている

「…ほうほう、これはとんだダークホースの御登場だ。」G.Nが感嘆を漏らす、
「縦王子・横蔵院…供に、サバゲーにおいても日本ベスト5に入るオタク達だ、
御嬢さん達もなかなかの代戦士を呼んできたものじゃな。」
「にゃあ〜、そんな凄い方達だったのですか。」「…以外、でした…。」


…その頃、フードスタンドAの控え室では特別料理人・宮内あやめとジョーカー1号
・川名みさきの二人が、今出て行かんとする赤い服をまとった金髪髭面の偉丈夫に
別れの挨拶を行っていた、
「いってらっしゃいまし、あなた。」
「澪の代戦士…どうか宜しくお願い致します。」
「OKOK、任せてくれ…じゃあ行ってくるから、お前達も立派に頑張ってくれ。」

…その時、控え室備え付けのモニターに『がんばって おじさん』と書かれた
スケッチブックをカメラ目線で掲げた上月澪が映ると供に、一際高いアナウンスと
絶叫に近い会場のどよめきがスピーカー越しに伝わって来た、

「それでは、第6番目の代戦士を発表します…39番・上月澪の代戦士として…
ジャーン!Mr.ジョージ・宮内ィィィィッ!!」
『ヤメテくれええええええええええええっ!!!』

TO BE CONTINUED?!

58パラレル・ロワイヤルその⑤:2003/08/29(金) 19:00
 再び舞台をリバーサイド・ホテルに戻そう、VIPルームには更に7人の
代戦士申請者が到着していた…高倉みどり(54番)、椎名繭(46番)、
氷上シュン(72番)、桜井あさひ(41番)、美坂栞(86番)、神尾観鈴
(24番)、霧島佳乃(31番)である、彼女等がケーキバイキングを満喫
しながら固唾を呑んで見守っているモニターの方でも、そっちの方の紹介が
始まっている。

「続いて、第7番目の代戦士を発表します…54番・高倉みどりの代戦士で
高倉宗純会長!」…左程逞しそうではないものの、ライオンのような感じの
初老の男性が壇上でエントリーを行い、席へと戻って行く。
「更に、第8番目の代戦士は…46番・椎名繭に代わりまして椎名華穂!」
美人目ながらもどう見ても普通の主婦にしか見えない女性が優雅に壇上で
エントリーを行い席へ戻って行った。

「そして、第9番目・41番桜井あさひの代戦士及び、第10番目・72番
北川シュンの代戦士が続けて入場しますっ!」
綾香のアナウンスと共に会場の扉が勢いよく開き放たれて、まず1台の黒い
モトクロスサイクルが会場の通路を走り抜け、ハンドルを捻りジャンプした
次の瞬間、壇上にふわりと着地した、駆っていたライダーは黒いライダー
スーツに身を包み黒いヘルメットとフェイスガードで顔を完全に覆っている
…続いて、会場の通路をのっしのっしと歩いて来るのは…
「あっベイダー卿だあっ…凄い良く出来てるうっ♪」
芳賀玲子(70番)の感嘆の叫びの通り、ダースベーダーの出で立ちをした
人物が、会場の通路からこれまたふわりと跳躍して壇上に立った。

「え〜御静粛に…。」綾香がどよめく会場を押し鎮めて事情を説明する、
「御覧の通り、第9の代戦士(ライダー)と第10の代戦士(ベイダー)は、
謎の覆面プレイヤーとしてエントリーします…その正体は私も知りません
…知っているのは、本人・依頼者・G.Nのみです。」

「おまけに」綾香は続ける、
第11の61番・月宮あゆ、第12の86番・美坂栞、第13の24番・
神尾観鈴、第14の31番・霧島佳乃の代戦士4名はシークレットプレイヤー
として、正体は勿論外見も不明のままこのゲームにエントリーします…
これも、その正体を知っているのは、本人・依頼者・G.Nのみです…
以上を持ちまして、全ての代戦士発表を終わります。」

「ふむ、代戦士は全員で14名か…思ったよりも少なかったのう…頼んだ者
そうでない者それぞれ、思う所があるのじゃろうが…。」G.Nは素直に
感想を述べた。
「あ…判っておるであろうが念のために言っておくぞ…謎の代戦士の正体を
依頼者に尋ねるのは絶対御法度じゃ…別のVIPルームに丁重に『隔離』
させて貰う事になるからその積もりでな。」

部屋の皆が「はい」「は〜い」「判りました」と返事をする中、
「それよりもさあ、」栞が呟くようにG.Nに尋ねた、
「どうして…あゆさんここにいないんでしょう?」

59パラレル・ロワイヤルその⑥:2003/08/29(金) 19:49
さて、いよいよゲームスタート直前である…その前に改めて説明を行おう、

この来栖川アイランドは島の中央部に巨大イベントホール兼ホテル(戦闘・
プレイヤー通過禁止区域)を構え、その周囲に時計回り順に
①飛行場&ヘリポート(戦闘・プレイヤー通過禁止区域)、
②巨大公園、
③植物園   (戦闘禁止・フードスタンド&仮眠室棟有り・スタート地点A)
④スタジオ&舞台村、
⑤土産物商店街(戦闘禁止・フードスタンド&仮眠室棟有り・スタート地点B)
⑥海水浴場、
⑦水族館、
⑧大灯台広場 (戦闘禁止・フードスタンド&仮眠室棟有り・スタート地点C)
⑨ヨットハーバー&港、
⑩博物館&美術館、
⑪遊園地、
が存在し、各エリアは一応舗装された道路でつながっている…車両類は、
私設消防車・救急車以外は皆、最高時速40km止まりのエレカ(電気車)か
自転車のみである、川が一本流れておりスタジオ&舞台村〜中央部〜遊園地
をつなぐ形で島を跨いでいる。

後、ルールの補足として各プレイヤーに『見える場所に絶対装着』を義務
されている識別装置(略称)は『他人のを外そうとするのも即失格よ』と先述
したが、それはあくまで『非交戦中の不意打ち行為(余りにアンフェア)』に
限っての事で、交戦中に急所狙いの要領でちぎったり、叩き落したり、狙い
撃ちしたりする事は『可』とします…例えるならば、どんなに相手が甲冑等で
『有効打判定を小さく』していたとしても、識別装置の叩き落しに成功すれば
その相手を『倒した』事になる訳です。

もう一つ、倒した相手からの『戦利品』についてですが、無条件奪取が可能な
物は『支給された武器及び食料類』のみです、個人装備及び衣装は相手の同意
がない限り奪取不可です、勿論同意の強要は反則行為として裁かれます。

…では、ゲームスタートに話を戻しまして…総勢115名の参加者は、
Aスタート組36人・Bスタート組36人・Cスタート組38人に分かれ、
そこからG.Nが『自称ランダム』に弾き出した3人ずつを1度に時間差で
計12回に分けて(Cの13回目組のみ2人)出発させてゲームに参加・
スタートを行います。

…今まで、長い説明及びオープニングセレモニーにお付き合い頂きまして、
誠に有難う御座いました…では次回より本編・ゲームのスタートです!

TO BE CONTINUED?!

60是空:2003/09/04(木) 20:23
パラレル・ロワイヤルその⑦

 日が昇って間もない海水浴場、荷物を広げて岩場の影で一息ついてる3人の女、
Bエリア1組目の三井寺月代(83番)、砧夕霧(30番)、桑島高子(38番)である

「1番のりで到着う〜♪って、高子さん夕霧ちゃんこれからどうしよう?」
「他力本願ですが、やっぱり蝉丸さんと合流したい所ですね。」そう言う高子の
いでたちは麦藁帽子にモンペ姿…美人台無しだが、ミニスカートでサバゲーを
やる訳にも行かない上に季節は盆休み(推定2004年夏?)である、実用性と
いう面では支給衣装はアタリの部類だ。衣装に合わせられたのであろうか、
装備の方は肩下げ式の電動農薬散布機である…恐らく、中身は水なのだろうが…
シングル・バースト・拡散と使い分けられる分水鉄砲より強力かも。

「そういえば、貴方達の装備ってどんな物を貰ったの?」高子のその質問にやっと
思い出したかのように月代と夕霧はごそごそと、それぞれ支給された大きな袋を
開き始める…その袋の大きさ故にお面や包丁でない事を確信しての躊躇ない開封
ののち、月代は袋から出てきたモノを早速組み立て始めたそして…

「よし、出来たっ!」雨樋のようなレールと回転式のアームを持つ機械、それは…
「ロ…ロボピッチャー!?」高子がつぶやく、
「みたいだね…でも、肝心の球が…。」
「月代ちゃん、球なら私の袋に。」夕霧が袋に詰まった沢山のゴムボールを見せる
よく見ると普通のゴムボールとは素材が違う様だ…最近のBB弾で使用されてる
自然分解する素材で出来ているようだ、来栖川はバイオテクノロジーでもその力
を示しているようだ。

「じゃあ、早速試しに投げてみようか。」月代は興味津々である…そして、
後の2人も『支給武器』の試し撃ちに依存はない様だ、早速セッティングし
マシンのスイッチをオンにした、後は発射ボタンを押すだけだ。

「あ…こんな所にダイヤルが。」そのとき月代は本体横にあるメモリ付きダイヤルを
発見した、それには『弱・中・強・カタパルト』と表記してあった。

「カタパルト?…訳わかんないな…じゃあ、このカタパルトってのでやってみよ。」
月代は深く考えもせずにダイヤルをカタパルトに合わせると発射ボタンを押した。

すると…
「ウィンウィンウィンウィンウィンウィンウィンウィンウィンウィンウィン」という
某宇宙戦艦が切り札を使う時の様なモーターの力強い駆動音が1分程続き…そして
「ビュオンッ!!!」という風切り音と供に見えない速度でアームが1回転した、
ボールはタイガーウッズがドライバーでかっ飛ばしたゴルフボールのような高度と
スピードで視界のかなたへと消えていった…どうやら、カタパルトの時は自動的に
曲射モードに起動変更されるようだ…当たり前だ、こんなモノが水平射撃出来たら
大変だ。

「う〜ん、何か思いっきり飛んでっちゃったね…。」月代はあっけにとられて呟いた
「でも、大丈夫かしら…球が飛んでっちゃったのって私達がきた方角じゃない?」
高子は心配そうだ。

…そして、心配は見事的中した。

『ビーッ、67番・名倉有里、有効打直撃により失格…直ちに交戦エリアより
退いて下さい』
『ビーッ、66番・名倉由依、有効打直撃により失格…直ちに交戦エリアより
退いて下さい』
「そんなぁ、姉さんはともかくとして私は…姉さんに当たって1度バウンドした
ゴムボールに当たったんじゃないの?」
『66番は被弾時にバッチリ転倒してしまいましたため、判定上有効打です。』
「そんなぁ…。」

 かくしてBエリア第2組は、いきなり2名が脱落、残る一人柚木詩子(99番)
は「きゃ〜っ、やめて〜っ、置か…頃されるぅ〜」と見えない狙撃者(?)に半ば
パニクリながら、事もあろうに海水浴場目指して猛ダッシュで逃げ出した…。

…Bスタート地点境界にほどない戦闘エリアに残されたのは、文字通りの
青天の霹靂に半ば石像と化していた名倉姉妹とその支給装備であった…。

【66番・名倉由依 67番・名倉有里 脱落…残り113人】

TO BE CONTINUED?!

61パラレル・ロワイヤルその⑧:2003/09/06(土) 20:16
「わははははははははははははははははははははははははははははははは」
「わ、笑うな折原っ!」
「わははははははははははははははははははははははははははははははは」
「や、やめて折原っ、お願い止めてっ、一度ならず二度までも…。」

 スタジオ・舞台村の時代劇長屋の一室、そこで腹を捩じらせて笑い転げ
回っているのは折原浩平(14番)、その横で悔し涙をぼろぼろ流している
のは我等が『漢』七瀬留美(69番)である。

Aグループ第1組である浩平・七瀬・そして長森瑞佳(65番)は取り敢えず
隠れられそうな場所を求めてスタジオ・舞台村に突入、時代劇エリアの下町
長屋の一室に落ち着いたのである、そしてそこで改めて支給装備の確認をば
行った際、七瀬の大きなバックから出てきたモノは浩平の横隔膜及び七瀬の
精神に甚大な打撃を与えたのであった。

…それは金属ではなくプラスチックだった、
…それは銀色ではなく白色だった、
…そしてそれは凹んだ円盤状ではなく白鳥の形をしており蓋が付いていた…

弾が防げる分、そして水が汲める(今の奴でも汲めない事はないがどうして
そんな物で汲んだ水を飲んだり浴びたり出来ようか?)分、本作のタライの
方が全然マシであった、そしてそれを本来の目的で使う位なら、危険を承知
してトイレのあるエリアへ突撃するか、そこらの茂みで済ませるほうがまだ
マシであった。

瑞佳が笑わなかったのは七瀬の装備を視認する前に(先に視認してしまった)
浩平の大ボリュームの笑い声に思わず耳とともに目を塞いでしまった事と、
その後目を開いてまず目に入ってしまったのが悔し涙をボロボロ流している
七瀬の痛々しい姿だったからに他ならない。

「それにしても…」ようやく笑うのを止めた浩平が「幾らサバゲーとはいえ
これじゃあ装備が心許ないなあ…。」そう言うと、自分に支給された2丁の
ワルサーP38…を模した銀玉鉄砲を両手の平でクルクルと回し始めた
…中の銀玉がカラカラと乾いた音を立てている。
「うん…。」力なく頷く長森の支給装備は『来栖川アイランド(裏)』と題
された観光パンフレットであった、一応丸めれば得物にはなりそうだが…

長森はそれをざっと読みしているかのようにパラパラとめくっていたが…
「ねえ、浩平っ七瀬さん…『舞台村時代劇エリア裏名所・呉服問屋越後屋
の秘密の隠し部屋に眠る御禁制の品』だって…確か越後屋ってココに来る
途中に通り過ぎて行かなかったっけ?」
「ああ、確かにあのデカイ店の看板には越後屋って書いてあったよな…
て事は、行ったら何か調達出来るんじゃないのか?」
「もしかしてそのパンフレット、前作の支給武器リストみたいなゲーム情報
源アイテムなんじゃない?だったら行ってみようか、今から。」
浩平と七瀬は、行動指針らしきものの発見でにわかに活気付いた様だ。
「よし決まりだ、早速越後屋まで戻ってみよう、まだゲームスタート直後
だから、今から急げば誰とも会わずに辿り着ける筈だ。」
自分の銀玉鉄砲の片方を七瀬に渡しながら、浩平は即時出発を即結論した。

…三人が慌しく出た行った後の下町長屋の一室には、取り残されたおまるが
寂しそうにポツンと鎮座ましましていた…。

TO BE CONTINUED?!

62パラレル・ロワイヤルその⑨:2003/09/10(水) 19:27
「い、陰謀だ…。」その顔を真っ赤に染め上げながらCグループ第1組の
長瀬裕介(64番)は絞り出すようにその言葉だけを呻いた。
「ゆ、裕介…私、恥ずかしい…。」その横に立つ天野美汐(5番)も羞恥に
全身を真っ赤に染めて俯いていた。

二人はこのゲームの参加に臨んで、ゲーム用衣装の支給を要請した…いや、
してしまった…そして、主催者側から貸し与えられた衣装というのが…
確かに、ゲーム用に水や汚れに強く丈夫な素材で出来ており、袖や胴回り
そして足元も動き易くそして風通し良く出来ていた…が…

誰がどう見ても裕介の衣装はタキシード(しかも純白!)以外の何物でもなく
美汐の衣装はウェディングドレス以外の何物にも見えなかった、

おまけに支給された装備ときたら…
裕介に支給された装備はコッキング式のパーティーガンである、銃口に
クラッカーを先込めしてトリガーを引くとクラッカーの紐が引っ張られる
仕組みである、
美汐の方はワインバスケットの形をした水鉄砲であった、マズル兼用の
ワインボトル型のカートリッジを装填して使用する構造となっており、
カートリッジからはシャンパンの香りがプンプンと漂っていた…。

よくもここまで拵えて揃えてくれたもんだ全く、
ランダム支給だなんて誰が信じるものか、
どんな形であれこのゲームが終わったら必ず、
この念の入ったお膳立てをしてくれた主催者の皆様に心からのお礼をしよう
特にG.N本体にはありったけのシャンペンシャワーをお見舞いしてやろう
…裕介は心に誓ってしまった。

それでも、二人が『ゲームを降りる』選択をしなかったのは意地と決意が
あったからである…『今の姿』で『ゲームを降りる』事だけは『今の姿』を
『否定する』かのようで、二人ともどうしても選ぶ事が出来なかったのだ。

そして、例え中途脱落する結果となろうとも今度こそは繋いだ手を最後まで
離したくはなかった…そんな意地が今の二人にゲーム参加継続を決意させて
いたが…

「あう〜っ、結婚式だーっ!あう〜っ、美汐お嫁さんだーっ!」
「お…お願い真琴…それ以上、言わないで…。」弱弱しく哀願する美汐を
よそに、美汐の衣装から借りたヴェールを被って沢渡真琴(45番)はもう
ノリノリではしゃぎ回っていた。本作で『言葉で人を刺し殺す』シーンが
あったが、今の裕介と美汐は正に『言葉で人を炙り殺す』寸前であった。

「と、取り敢えず、知り合いに見つからない内に、人目に付きにくそうな
場所に避難…いや、移動をしよう。」「う…うん。」
やっとの事で血の上った頭で裕介が賢明なる行動指針を打ち出し、
美汐がそれに頷くと二人手に手を取って真琴と共に港・ヨットハーバー
エリアへと急行した、鍵の掛かっていない暫くの間隠れられそうな船舶を
求めて…。

その頃、リバーサイドホテル緊急医療室で犬飼俊哉(ゲスト)は杜若祐司
(ゲスト)に、力任せの激しいツッコミを入れられていた、
「…しかしだな、『いつまでも祐一とずっといっしょにいたい』という
本人たっての望みで尚且つ、余命一刻の猶予が無さそうな死相を携えて
訪ねてきたものだから、つい…。」
「だからって、他の誰にも相談せずに、年端の行かない少女にいきなり
仙命樹を植え付けるなドアホウッ!!」

「…緊急救命行為だった事はある程度、認めますが…。」弟の隣にいた
きよみが、ゆっくりと静かに…そして力強い声で尋ねた。

「…まさか、覆製身作成用のサンプル細胞を摂取だなんて真似はなさって
おりませんでしょうね?」
「…ギクッ。」

TO BE CONTINUED?!

63パラレル・ロワイヤルその⑩:2003/09/11(木) 20:06
舞台村時代劇エリア内呉服問屋・越後屋内客間にある床の間の奥を、浩平は
ごそごそと探っていた。
「…で、続きは何て書いてあるんだ、瑞佳?」
「え〜と、床の間の天井奥の死角にレバーがあって…。」
「レバー?ああこれか。」 グイッ…ガチャンッ
「え…ち、違うよおっ!」急に瑞佳が慌てて叫んだ、
「レバーは罠のスイッチになっているダミーで、レバーの陰に隠れている
紐を引っ張るのが正解なのっ!」
だが時既に遅し…いきなり客間の襖が一斉に閉まってロックされ、不気味な
軋み音と共に天井がゆっくりと降りてきた。

「お前が紛らわしい言い方するからだぞ瑞佳、一体どうしてくれるんだ
 この状況?」
「浩平がそそっかしいだけだよっ、話をちゃんと最後まで聞かないから
 こうなっちゃったんじゃないのっ!」
「瑞佳のばかっ!ばかばか星人っ!」
「浩平のどじっ!どじどじ星人っ!」

「いい加減にしなさいよ!こんな時に何二人で漫才やってるのよっ!!」
叫んだ七瀬は既につっかえ棒になりそうな物を探している…しかし、畳は
剥がせない造りになっているし、室内の家具といったら行燈と布団と花瓶位
しかない、無論襖は鍵が掛かっているし、木の板が中に仕込まれてるらしく
空手家か能力者でもない限り素手では破れそうにない。

「…多分、ギリギリの所で止まってこちらから救援信号を送らせるように
 出来ているのかな…。」
天井が立ち膝位までに下がってきた時、万策尽きたらしい七瀬がポツリと
呟いた。
「…ゴメン、瑞佳…今度こそお前を護れる所か、逆に心中沙汰に巻き込んで
 終わらせちまうなんて…俺ってホント、どじどじ星人だよ。」
「…もういいよ、浩平…ねえっ、この後ホテルに戻ったら、今度はホテルの
 流れるプールで一緒に逆泳でもしてみようか?」
「ケンカしたり仲直りしたり…全く、『どこでも二人きり』なんだから。」

とその時、三人が背もたれていた襖越しに声が3つ、聞こえてきた。
「あははーっ、誰かピンチのようですよーっ。」
「その声…折原君に、七瀬さん、長森さんねっ?」
「雪見の知り合いか…今、助ける…聞こえてたら襖から離れろ…。」
中の3人は反射的に襖から離れた。

次の瞬間、木板入りの襖が叩き切られたのか叩き割られたのか判らないが
真っ二つに割れて弾け飛んだ…そして、その向こうに立っていた西洋剣を
持った少女が残り高さ1メートルを割った天井と床の間に剣の鞘を差し込み
落とし天井を停止させ、ゆっくりと口を開いた。
「…もう、大丈夫だ…落ち着いて…出てくるんだ。」

TO BE CONTINUED?!

64パラレル・ロワイヤルその⑪:2003/09/11(木) 21:02
Aグループ第1組が窮地を救われた丁度その頃、来栖川アイランド水族館に
この日1番目と2番目の客が来訪していた。

「ところで…どうなのかなマナ君、その貸衣装の気心地は?」
観月マナ(88番)の出で立ちを見つめ、霧島聖(32番)は含み笑いを
しながら尋ねた。
「男物っぽいデザインだけど…悪くないわね。」マナはその全身を覆って
いる自分に支給された衣装の着心地を確かめていた。

ライダースーツの様なスピードスケートスーツの様なその黒一色のスーツは
肩・肘・膝そして何故か背中にも、シンプルなデザインのパット状の防具が
付いていた…そして見掛けよりも軽くて動きやすく、割合涼しかった。
ゲームでの実用性という面では、マナにとって申し分のない衣装だった。

「ところでセンセ…。」マナが尋ねた、
「何だ?」
「さっきからアタシの姿見て含み笑いしてるけど…この衣装って、何か
 センセの知ってる元ネタでもあるの?」
「ああ、ある。」
下手に隠すと却って怪しまれそうなので、聖はあっさり肯定した。
「昔、読んでいたマンガの主人公だ、含み笑いをしていたのはその主人公が
男だったからだ。」教えても差障りない真実だけを選び、続けて回答した。
「ふ〜ん、そうなんだ…で、その主人公ってやっぱアクションヒーローなの?」
「そうだ」
「カッコイイ役?」
「…微妙だな。」
聖はマナの衣装の背中の防具に白く書かれた『1』の字を見つめつつ、
こみ上げて来る笑いをかみ殺しつつ答えた。
(流石に、靴の踵に仕込み刃は入っていないだろうが…いや、彼女の場合は
やっぱり爪先に仕込むべきなのかな?)
「ふ〜ん、微妙なんだ…ところでセンセ…。」
「何だ?…まさか『うに、つまんないね』だなんてボケは許さんぞ。」
「真面目な質問(怒)!なぜアタシ達…Cグループ第2組はアタシとセンセの
 2人しかいないんだろ?」
「あくまで推測だが…恐らく、3人目の該当者は『既に出撃済み』のジョーカー
 なのだろう…大方、ホテルの連中が見ているモニターの方にはG.Nの作った
 合成CGか何かで3人出発にでも見せ掛けているのだろうが。」
聖は続ける、
「心配するな、相手を殺さずに止めるのが今度のゲームのルールなのならば、
 私にとっては有利な事この上ない…そうそうマナ君を窮地に巻き込むような
 ミスはしない積もりだから安心したまえ。」
そう言うと聖は自分に支給された装備…竹製の粘土ベラの内8本を取り出し
ジャカ!ジャカ!とクイックドロー(というのだろうか?)の練習を始めた。
「ふむ…やはり金属でないと今一つ、体に馴染まないものだな。」

「それにしても…。」マナが不機嫌そうに愚痴をこぼした。
「祐介君に美汐ちゃん…すぐ次がアタシだって事は分かってる筈なのに…
 『一緒に行こう』って、待っててくれてたっていいようなものなのに…
 どーしてずんずん、人を勝手に置いてけぼりに出来るのかな、もうっ。」
「そう無闇に怒ったりするものではない、二人にも待てないそれなりの事情が
 あったのかもしれないのだし。」

…事情は大ありだった。

TO BE CONTINUED?!

65パラレル・ロワイヤルその⑫:2003/09/14(日) 19:39
「初音ちゃん、ほらやって来たよ。」
「千鶴お姉ちゃ〜ん、梓お姉ちゃ〜ん。」
「…耕一さん。」
植物園・交戦禁止エリアから左程離れていないスタジオ・舞台村入口付近、
Aグループ第3組の七瀬彰(68番)と柏木初音(21番)、柏木楓(18番)は
笑顔で後続第4組の3人、柏木耕一(19番)・柏木千鶴(20番)・柏木梓
(17番)を迎えた。

「本作では考えられない程あっさり合流出来ましたね。」
初音の頭を愛おしげに撫でながらいう彰の体には、今も初音から与えられた
鬼の血が流れている。
「ああ、おかげで本命チームいきなり結成だな」耕一が親指をグッと立てて
答える、「今回は千鶴さん一人に苦労と心配を背負わせずに済みそうだ。」
「もうっ、耕一さんたら…。」千鶴もゲーム開始直後だというのに、すでに
半ば安堵の笑みさえ浮かべている。

それも無理もない、柏木四姉妹(四女を戦力に入れるかは微妙だが)に加えて
耕一に鬼の同属入りを果たした(果たしてしまった?)彰まで揃っているので
ある、彼らに対抗できそうなメンツは、現状推測可能なメンバーの中では、
不可視4人組か強化兵4人組位である。

「それにしても…。」彰が言葉を続ける、
「初音ちゃん、今回よく頑張ろうって気になったね…てっきり代戦士を依頼
するのかなって正直思ってたんだけど。」
「ひどいよ、彰兄ちゃん。」むくれた初音が彰の胸の辺りを拳(というより
は『グー』)でポキュポキュ殴って(というよりは『スキンシップして』)
抗議する、「私だけ仲間外れなんて嫌だよ…それに今度こそは彰兄ちゃんと
信じあえた上でキチンと…エヘへ、最後まで『護って』貰いたいし。」
「は、初音ちゃん…そ、そういう反撃は…。」いつの間にか初音に右掌を
両手で包むように優しく握られながら抗議を聴かされていた彰が、見る見る
その顔を赤くしてうろたえ始める、
「…御馳走様です。」さり気無く突っ込みを入れる楓も表向きは平静だが、
皆と一緒にいられる嬉しさを隠し切れない様子だ。

「だが…。」今度は耕一が口を開いた、
「初音の代戦士を半ば確信しきって、鼻息荒く胸膨らませていたかおりには
気の毒な結果となったな…『今度こそはゲームに参加して梓先輩と愛の冒険
活劇をやるんだ』って、張り切っていたからな。」
「…かおりさんには気の毒ですけど、作品別参加枠数制限ばかりは私達でも
どうにもなりませんものですね。」千鶴も申し訳なさ気な表情で呟き頷く、
「かおり…。」梓もこの時ばかりは流石に寂しそうだ、そんな梓を元気付け
ようとしたのだろうか(…って、もともと話を振ったのは当の本人なのだが)
耕一は…うっかり禁句をその口にしてしまったである、
「…梓にとっても、初めてのその体を許しあった愛する者と共に戦えないと
いう事は、俺達には想像出来ない様な不幸であり苦しみでも…。」
「んな訳あるかあっっ!!くおの、馬鹿耕一っっっっ!!!!」
因果応報、耕一は最後まで話し終わる前に、支給装備・ボクシンググラブを
その手に嵌めた梓の『顎から脳天へと突き抜ける』リフトアッパーをお見舞
された…耕一のマッチョボディーがたっぷりメートルを付けられる程に浮き
そして、音を立てて大地へと叩き付けられた…。


…それは、日常生活では許される行為であった事だろう、
仮に百歩譲って、本作ハカロワでもこの程度のツッコミは珍しくもない
一般的イベントだったに違いない、が…

『ビーッ、19番・柏木耕一、有効打直撃により失格…直ちに交戦エリアより
退いて下さい』…耕一の識別装置から非情のアナウンスが発せられた。
「な…。」顔に縦線を立てて固まる一同。
「おい、チョット待てよ!今のは…今のは只のツッコミじゃないか!」
梓が必死になって弁論を行う、
『本作ハカロワ2巻における観月マナVS住井護戦の例に習い、突っ込みも
ルール上は攻撃の一種と見做します…加えて19番は17番の攻撃を受けた
際、白目を剥いて頭から落ちました…誰がどう見ても立派な有効打です。』

と、その時…ドサッと人が倒れる音がした。
「楓!」「楓お姉ちゃんっ!」千鶴と初音が血相変えて楓に走り寄る、
「…耕一さん、どうして私達は…巡り会った途端、別れるのですか?…」
楓が卒倒し、弱々しくうわ言を呟いていた…どうやら、慕い人の余りにも
唐突かつ不用意なリタイアに失望とショックで失神してしまったようだ。

『ビーッ、17番・柏木楓、ナースストップの為失格…失格地点最寄の
14P・ピースさんは直ちに救急搬送車で17番の元へ急行して下さい』
…楓の識別装置からも、アナウンスが発せられた。

【19番・柏木耕一 17番・柏木楓 脱落…残り111人】

TO BE CONTINUED?!

66パラレル・ロワイヤルその⑬:2003/09/18(木) 20:26
…唐突ではあるが、ここのみ他の地点より大きく時間が進む事となる…。
他の地点の話を間に挟むなりして何とか調整をして行く事を約束しよう。

海水浴場を望む松林の陰に潜む3つの影、
Bグループ第6組の別名『東鳩マーダーチーム』、
藤田浩之(77番)、長岡志保(63番)、HMX−13セリオ(52番)である。
「…海水浴場に待機集結中のメンバーの解析完了しました、
 第1組三井寺月代さん・砧夕霧さん・桑島高子さん、
 第3組マルチさん・佐藤雅史さん・新城沙織さん、
 第4組芳賀玲子さん・雛山理緒さん・御影すばるさん、
 第5組相原瑞穂さん・太田香奈子さん、以上11名です。」

浩之と志保に伝達するセリオの出で立ちは黒いセンサースーツという表現が
最も近い…加えて表現するならば頭部以外の肌の露出していた部分は柔らか
そうな黒の素材でぴったりと覆われている…一方、志保ちゃんレーダーにて
配置の再確認を行っている志保の方の出で立ちはといえば、能や歌舞伎の
黒子の衣装そのまんまである…素材の方はゲームに適した物へと変更されて
いるようだが…至急装備の方はといえば、セリオの方はサバゲー用の大型
ゴムナイフと手品・曲芸用投擲ゴムナイフが数本、志保の方はスコープが
付いたウェザビーMK−Ⅱ(エアガン)である、

「11人か…第3組がフレンドリーなメンバーだった事と、Aスタートの
エリアと隣接してるが故に激戦区と予想されるスタジオ・舞台村ルートを
避ける選択が重複した結果なんだろうな、この大人数は…とはいえ、例え
油断してくれてたとしても楽な人数ではないし、本作で見知ったメンツも
混じっているから下手すりゃ返り討ちになりかねねぇな。」
そういう浩之の支給衣装は学ランだった…そして支給装備の方は2丁の
イングラムM10(エアガン)、それにポマード・櫛・両面とも裏面が刻印
された500円玉が一枚…。

「やれやれ、何が何でも少数熱烈なるマーダー浩之のファンの皆様方の
 御期待にお答えしてくれってのかね、G.Nは?」
「…で、アタシ達にはそのマーダーヒロのバックアップをしてくれと!」
志保が不平気味に言葉を返す。
「…でも、悪くはないわ…あかりには絶対出来ない形でヒロに貸しを
 作れるというのも…。」
「志保?」
「…だって、アタシだって、アタシだって…ヒロの事、ずっと前から…。」
残念な事に、黒子頭巾のお陰で今の志保の表情を浩之が見る事は出来ない、
しかし浩之は、そんな志保に向かって自分の表情を隠す事無く言葉を返す、
「志保…俺も悪くないと思っている…あかりに絶対に文句を言われない形で
 今、お前の好意に甘えられる事を…。」
「な…バ、バカッ!!」耐えられなくなったのか我に返ったのか、志保は
いきなり浩之に怒鳴り返してそっぽを向く、恐らくは両方が原因だろうが。

67パラレル・ロワイヤルその⑭:2003/09/18(木) 20:27
「可能な限りの武装判別が完了しました、まず83番装備のロボピッチャー
 1基、49番装備の手回し式台車付きエアガトリングガン1基、70番
 装備の巨大十字架型エアマシンガン1基、73番装備のスコーピオン型
 エアガン1丁、38番装備の電動式農薬散布機1基、42番装備の吸盤
 付きボウガン1丁、2番装備の赤外線内蔵型双眼鏡1個、82番装備の
 ワンタッチ式雨傘1本、84番は防具着用・10番・30番は装備不明
 以上です、後周囲の砂浜には落とし穴等の罠は存在しないようです。」
セリオの追加報告に最後の作戦会議が始まった、
「対能力者補正もあるのだろうが凄まじい装備だなお嬢さん達、しかも
 未知の装備が後2つ3つか…まあ仕方ない、まずは志保の安全を確保
 する為に俺が…を実行する、志保は一発必中でまずアレを潰してから
 続いて順にソレ→コレの順に手際よく沈黙させてくれ。」
「判ったわ、任せてヒロ♪…でも、無理しないでね。」
「セリオは先行して大きく迂回して貰ってだな……という手筈で頼む。」
「了解しました浩之さん…どうか、お気を付けて。」

最後に浩之は志保とセリオの肩を抱いて引き寄せると二人に呟いた、
「俺はこれから…G.Nの意向とやらにあえて甘んじ踊らされ、お前達を
 巻き添えに修羅道へと走る事となる…勝って顰蹙負ければ失笑、結果が
 転ぼうといいとこ無しの役回り、ホテルでモニターを御覧になっている
 皆様方やコレを呼んで下さっている奇特な皆様を喜ばせる事だけが華の
 道化に等しい存在なのだが…それでもお前達、俺について来るのか?」
「くどいわよ、ヒロ。」
引き寄せられたついでに浩之の頬に唇で触れる志保、
「委細承知です、浩之さん。」
思わず志保の真似をして浩之の反対側の頬に唇で触れるセリオ、

「お…俺からの言葉は以上だっ!各自速やかに持ち場に付いて行動を開始
 せよっ!!」
赤面しつつも最後の号令を下した浩之は一人、海水浴場の砂浜へと足を
踏み入れると、岩場を目指してゆっくりと歩いていった。

TO BE CONTINUED?!

68パラレル・ロワイヤルその⑮:2003/09/19(金) 20:16
所変わって水族館、こちらもCグループ第2組のマナ・聖が通過してから
それなりに時間が経過している…幾つもの巨大な水槽と幾層もの連絡通路に
壁と天井を囲まれた巨大な中央ホール、そこに潜む二つの影…

「むっ、来たでござるよ。」赤外線スコープで自分たちが元来た大廊下を
監視していた方がインコムで報告を開始する、
「ライバル接近、頭数6…推定第4組の95番・宮田健太郎殿、9番・
江藤結花殿、79番・牧部なつみ殿、5組の50番スフィー殿、100番
・リアン殿、74番・姫川琴音殿と思われるでござる…確認済の装備の方は
95番・コルトガバメント(エアガン)、9番・両手用ピコピコハンマー、
79番・コルトXM177E2ライフル(エアガン)、50番・投げパイ、
100番・不明、74番・ブリキのバケツ、以上でござる。」
「り、了解したのだな…あ、姐さん、ど、どうするのだな?」
「…6人なら充分相手に出来る人数だ…まずはエアガンの2人を最初の攻撃
で黙らせるんだ…続いて、粗末な装備の連中に気を付けろ…能力者の可能性
もあるから水槽の側近くにいて能力を使わせ難くするんだ…もし逃げられた
時は逃走経路と予測先を逐一、私に連絡しろ…以上だ、それじゃあ御前達…
しっかりおやり!」
「ヨイヨイサー!でござるよ。」
「ホイホイサー!…なんだな。」

一方、水族館にてハーレムデート状態の宮田健太郎(95番)、江藤結花
(9番)、牧部なつみ(79番)、スフィー(50番)、リアン(100番)
達と行動を共にしている姫川琴音(74番)は苦悩していた…というのも、
水族館に入り奥へと進む度に自分の能力が危険を訴えているのだ…しかも、
場所はガラスだらけの水族館…間違っても自分達の能力は充分な制御の元で
ないと…緊急時にいきなり反射的に使用する事は余りに危険過ぎて出来ない
…そして更に彼女が苦悩している事は、それをすぐにも他の5人に訴えたい
所であったが、5人とも内輪であっさり合流させて貰った事に上々の雰囲気
の様であり、一人顔見知りもいない部外者的存在である自分が今の雰囲気に
水を差すような警告を行うという事がどうしても出来ないでいる事だった。

「どうしたの?顔色、悪いじゃない?」結花がようやく琴音の様子に気付き
心配そうに声を掛ける、
「あ、あの…。」琴音が伏目がちにポツリポツリと口を開く、
「私…一人部外者ですし、その…宜しいのでしょうか?…このまま皆さんと
ご一緒させて頂いても…?」
「何水臭い事言ってるのよ!」スフィーが琴音の背をポンポン叩いて言う、
「そうですよ、『袖触れ合うも多少の縁』です、仲間の方とお会い出来る迄
の間、是非とも御一緒して下さい。」リアンも笑顔で琴音に答えた、
「駄目よ、『部外者』だなんて『壁』を自分から造ってちゃあ。」なつみも
なかなか好意的な反応を示す、
「むしろ、私と店長さん…それに琴音さんに付いて来て欲しくないのは…」
「言ってくれるわね、幼馴染水入らずの状況に皆で後からやって来ておいて」
「皆勝手ばかり言ってるよ!私とけんたろは運命の腕輪で結ばれた誰よりも
密接なる間柄で…。」
…中央ホールに入ってきた所で三つ巴の女の戦いが始まろうとしていた。

「み、皆さん落ち着いて下さいっ!」
「そうだよ、琴音ちゃん困っているじゃないか!」
流石に健太郎もこの状況下で内輪の誰かの名前での仲裁が油を注ぐ結果と
なる事を充分、心得ていた…琴音ちゃんがいてくれて本当によかった、
「そ、そうね。」「うん分かった。」「ゴ…ゴメンね。」
「み、皆さん有難う御座います…。」5人に快く受け入れられた事実を
やっと確認出来た琴音は、まず心からの礼を述べた…そして、
「実はその…ずっと気になっていたのですが、先程から先へ先へ進む度に
よくない予感が…」
…琴音はその言葉を最後まで伝え切ることは出来なかった、

ビシッ!「きゃああっ!」
『ビーッ、79番・牧部なつみ、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』

…後頭部にBB弾の直撃を受けたなつみの悲鳴と識別装置のアナウンスが
琴音の言葉を掻き消してしまった…『警告』は間に合わなかった。

【79番・牧部なつみ 脱落…残り110人】

TO BE CONTINUED?!

69パラレル・ロワイヤルその⑯:2003/09/20(土) 20:09
「き…来ましたっ、藤田浩之ですっ!」
岩場の比較的高い所から赤外線双眼鏡を覗いて索敵を続けていた藍原瑞穂
(2番)は下の仲間へと大声で叫んだ。
「もう2人は?」期待と不安を半々に佐藤雅史(42番)が瑞穂に尋ねる、
「いませんっ、藤田さんだけです!」
その瑞穂の返事にその場にいた皆が緊張した…まさか、後2人は既に…?

「各自、第一次迎撃体制っ!」
巨大な十字架を模したエアマシンガンを構えつつ、自前のガッシュのコスに
身を包んだ芳賀玲子(70番)が号令をかける、
「出来れば藤田君とは戦いたくないけれど、『二度目』は絶対嫌だよっ。」
雛山理緒(73番)の呟きに「ええ、全くよ」と相槌を打つ新城沙織(49番)
は横の太田香奈子(10番)と供にエアガトリングガンの砲身を既に肉眼でも
確認出来る距離…50メートル程にまで歩み寄って来た浩之へと向けた、
とその時、
「皆さん、待って下さい!」「僕達が説得…いえ確かめて来ます!」
集団最後方から止める間も無く、傘を持ったHMX−12マルチ(82番)と
吸盤付きボウガンを持った佐藤雅史(42番)が飛び出して行き、浩之の前へ
と歩いて行った…「浩之さんっ!」「浩之っ!」

残り40メートル、
…浩之は歩きながら胸ポケットよりポマードを取り出し、前髪を後ろへと
固めながら語り始めた、
「これは、このディア…ゲフンゲフン、藤田浩之に与えられた…試練だ。」

残り30メートル、
…浩之は再び胸ポケットから今度は櫛を取り出し、後ろへと固め終った髪を
丁寧に整えながら更に語り続ける、
「里村茜さんを超えて非情になれという…G.Nより与えられた試練だ。」

残り20メートル、歩み寄って来るマルチ・雅史との距離は5メートルと
離れていない、
「俺は超える…里村さんも、国崎さんも、そして…あの弥生さんをも!!」
…浩之が頭上から櫛を下ろす、そして櫛を持った腕が浩之の顔の上、双眸の
上を通過する…

「!」「!」マルチと雅史の体が石化する!さながら大魔神の如く、本作の
『アレ』へと豹変した…浩之のその眼をまともに見てしまったからだ。

そして…浩之はズボンのポケットから500円玉を取り出すと、ピィーンと
指で高く弾き上げた…

「そ…そのコスプレ…!」玲子が叫ぶ、「ぜっ、全員撃ち方用意っっ!!」

TO BE CONTINUED?!

70 パラレル・ロワイヤルその⑰:2003/09/21(日) 19:28
「うわあっ!」健太郎は間の抜けた声をあげて右手に持っていたガバメントを
取り落とした…なつみと同時に健太郎を狙って飛んで来たBB弾のセミオートは
狙いがそれて健太郎の支給装備へ命中したのだ…ガバメントが床の上を音を立て
滑って行く、

「何をしておるでござるか!」水族館中央ホール内、連絡通路の暗がりの中で
暗視スコープの付いたFN−FAL(エアガン)を構えた縦王子鶴彦(58番・
代戦士)がインカム越しに叱咤の声をあげる、
「そ、そっちこそ、ライフル再利用されてしまうのだな!」ホール内休憩エリア
の自動販売機とベンチの影でAK47(エアガン)を構え直している横蔵院帶麿
(71番・代戦士)がそれに答える、その言葉通り江藤結花(9番)が『死体』
となったなつみの手から彼女の支給装備であるコルトXM177E2ライフルを
ひったくり、弾が飛んで来たと思しき場所を目掛けて乱射を始める、
「何処にいるのよおっ!出てきて勝負しなさいよおっ!」

「一人、見付けました…。」「こちらにもう一人おります。」リアンと琴音は
冷静に探知魔法と超能力で縦王子・横蔵院の潜伏位置を発見した、
「居場所が分かればこっちのモンよ、マ・ジ・カ・ル…」
「姉さんっ、ここじゃ駄目っ!!」
妹に叫ばれたスフィーは、やっと気が付いた…ここは水族館だ、魔法に限らず
破壊力の高い能力を使う訳にはいかない、しかも敵は二人とも水槽のすぐ近くに
陣取っている…マジカルサンダーを発動し掛けたまま、スフィーは動きを止めて
しまった…発動の間の一瞬だけのつもりで、遮蔽物の前から飛び出してしまった
まま…
ビシビシビシビシビシッ!「キャ〜〜〜〜〜ッ!!」
『ビーッ、50番・スフィー、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリアより
退いて下さい』
「すすす、『水槽が盾』作戦、大成功なんだな。」

「健太郎さん、危ないっ!」ビシビシビシッ!「キャアアアッ!」
『ビーッ、100番・リアン、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリアより
退いて下さい』
…スフィーのリタイアとほぼ時を同じくして、床に転がっていったガバメントを
拾おうとした健太郎は拾う瞬間の無防備な所を縦王子に狙い撃ちされた、そして
それを庇うために飛び出したリアンが健太郎の身代わりにゲームから脱落した、

「リアンっ!…くそっ、結花!琴音さんっ!このままじゃ全滅だ…右の通路から
逃げるぞっ!」縦王子・横蔵院が潜んでいそうな辺りに牽制射撃を加え、琴音の
手を引きながら健太郎がホール右通路へと後退し、XM177で乱射を繰り返す
結花がそれに続く、

縦王子・横蔵院も深追いはせず、打ち合わせ通りにインコムでの通信を始めた。

【50番・スフィー 100番・リアン 脱落…残り108人】

TO BE CONTINUED?!

71パラレル・ロワイヤルその⑱:2003/09/22(月) 18:22
…500円玉が舞い上がると同時に玲子が慌てて号令を掛けた、とその時…

ビシッ!「キャアッ!」
『ビーッ、2番・藍原瑞穂、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリアより
退いて下さい』…囮も兼ねていた浩之に釘付けになっていた瑞穂の眉間に、
志保が放ったウェザビーMK−Ⅱの第1弾が見事にヒットした、
…もうこの場にいる他の誰も、志保を見付ける事は出来なくなった…。

そして、瑞穂の識別装置からのアナウンスが、その場にいた浩之以外の
全員を混乱させた…『何処?!…何処か他にも敵がいるの?!』皆が一瞬、
浩之から視線を外してしまった…500円玉が砂浜に落ちる迄の短い一瞬…

その一瞬の間に、浩之はマルチと雅史に走り寄り…非戦意・非武装同然の
2人を敢えて撃たずに盾として隠れるように回り込むと、後方集団目掛け
イングラムによる先制の一斉射をバラ撒いた、

ビシビシビシビシッ!「ううあああっ!」
『ビーッ、73番・雛山理緒、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』…マルチ・雅史が盾となってしまった事に応射を躊躇
してしまった雛山が浩之最初の餌食とされた、

「よくも…よくも瑞穂を!」「香奈子ちゃん、待って!」
親友瑞穂のリタイアに我を失くした加奈子は沙織の制止を聞かず、怒りに
任せてエアガトリングガンの砲身を浩之達に向けるとハンドルを滅茶苦茶に
回し捲くった…シパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパッ!

浩之は加奈子がハンドルを握ると同時に、ワンタッチ傘をマルチもろとも
引っ掴むと、素早くボタンを押して開きBB弾の横殴りの雨を防いだ、

ビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシッ!!
「ひどいよひろゆきひどいよひどいよひどいよひどいよおおおおおっ!!」
『ビーッ、42番・佐藤雅史、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』…哀れ、一人防ぐすべなく取り残された雅史は加奈子の
放ったエアガトリングガンの斉射を後ろから全身に浴びまくってゲームから
脱落した。

ビシッ!「アーッ!」
『ビーッ、10番・太田香奈子、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』…親友瑞穂の真の敵、志保の第2弾によって、香奈子も
リバーサイドホテルへと送られた、

浩之は傘(+マルチ)を翳したまま、玲子を一直線上に捕らえる形で走って
エアガトリングガンへと回り込むと、香奈子に続いてハンドルに飛び付いた
沙織目掛けてマルチカタパルト弾を御見舞いした、ガトリングガン越しに
山なりに飛んで来たマルチのキュートなお尻を沙織は受け止め…損なった。

ボスッ!!「ムギュウッ!!」
『ビーッ、49番・新城沙織、有効打直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』…沙織はマルチのヒップボンバー→ヒッププレスの
2連コンボをまともに食らって砂浜に仰向けにブッ倒れた。

一方、お尻から沙織の頭越しに砂浜へ着地したマルチはそのままショックで
目を回して伸びてしまい、最後の最後まで戦線から離脱する羽目となった。

…かなり後になり判った余談事であるが、奇しくも沙織の頭越しの着地で
有効打判定に引っ掛からず、失神・気絶ではなく朦朧状態でナースストップ
判定にも引っ掛からなかったマルチの識別装置は沈黙したままであった…
しかし、当時の混戦状態でそれに気付く者は誰一人としていなかった。

【02番・藍原瑞穂 73番・雛山理緒 42番・佐藤雅史 
 10番・太田香奈子 49番・新城沙織 脱落…残り103人】

TO BE CONTINUED?!

72パラレル・ロワイヤルその⑲:2003/09/23(火) 19:01
「こちら縦王子・横蔵院、ライバル6名中3名撃破残り3名は第二連絡通路
より『触れる海棲哺乳類』エリアに逃走中、武装はガバメント・XM177
・バケツ…以上でござる。」
「…判った、逃げた3人は私自らが狩る、お前達は戦利品をチェックした後
新手に備えよ。」「了解でござる。」「了解したのだな。」

そんな通信がなされているとは夢にも思っていない健太郎・結花・琴音は
そのまま連絡通路を通って『触れる海棲哺乳類』エリアに到着していた。
ここはさながらフロアそのものが巨大な堀となっており、縦横に橋状の
通路が敷設されている、堀の中には十数頭のイルカが泳いでおり、時折
こちらに顔を出しては人懐っこそうな鳴き声を上げていた。

その様子を眺めているうち、奇襲を受け仲間を半分失って逃げてきた3人の
心の中にようやく落ち着きが戻ってきた…3人は更なる移動もかねて、
エリア中央の連絡通路を泳ぐイルカを眺めながら並んで渡り始めた…と、
結花は通路の下を泳いで潜るイルカ達の中に奇妙な影を見たような気がした
…もっとよく確かめて見ようと腰を屈めようとした、その瞬間…

ザバアアアアッッ!!
いきなり結花の背後に水柱が立ち、人影が勢いよく飛び出して来た、
その人影は後ろを取られた結花に飛び出した勢いそのままドロップキックを
かましてきた…手すりもない狭い橋の上でしかも不意打ちでドロップキック
された結花はたまらない、
「ギャーーーーーーッ!!」ドッポーーーン!!
『ビーッ、9番・江藤結花、アタックダイブにより失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』

人影はドロップキックの反動でバク転しつつフワリと通路の上に降り立つと
「ゆ、結花〜〜ッ!!」と叫んでいる健太郎目掛け鎖分銅の如く振り回した
鎖付きの風呂桶のゴム栓を飛ばして来た、
「危ないっ!」琴音がとっさに持っていたバケツでゴム栓を跳ね返したが、
バケツの方も反動で琴音の手から弾き飛ばされ、堀の中へと沈んでいった、
そして、人影こと岩切花枝(8番)は反対側の手に持ったもう1セットの
ゴム栓を飛ばして反撃に転じようとした健太郎のガバメントも堀の中へと
弾き飛ばした。

「くうっ、これまでかっ…。」「け、健太郎さん…。」健太郎と琴音は
狭い通路の上、武器を失い二人なす術なく身を寄せ合いながら、一歩一歩
近付いて来る岩切へと厳しい視線を向けるだけで精一杯…絶体絶命だった。

「そっちの女…能力者だな。」岩切の仙命樹が琴音の内に秘めし『能力』の
匂いをたちまち、嗅ぎ当てた。
「何の能力なのかは判らないが…使われる前にまずはお前から片付けさせて
貰うぞ。」

琴音の方はといえば、既に岩切の刺すような鋭い視線に射竦められ健太郎に
しがみ付いて震えているだけである…もっとも、今の間合いでは強化兵の
反応速度を考えれば仮に勇気があったとしても能力を発動させる前に確実に
琴音は岩切に仕留められてしまうだろう…健太郎が盾となったとしても。

しかし、実は既に『能力』は『発動』していた…岩切は勿論の事、琴音本人
すらも自覚していない形で…。

73パラレル・ロワイヤルその⑳:2003/09/23(火) 19:02
「悪く思うなよ。」岩切がゴム栓の鎖で琴音を捕らえ水中へ引き摺り込もう
としたまさにその時…岩切の背後に巨大な水柱が上がった、
「!?」岩切が驚き振り返った瞬間にはもう既に、水飛沫の中の巨大な影が
そのまま体当たりするが如く、岩切に盛大なる頭突きをお見舞いしていた、
たまらず水中へと叩き込まれた岩切に更なる頭突きの連打が襲い掛かって来た
「うわわっ、やっ止めろおおおっ!!」もうこうなるといかに水戦試挑体とは
いえ相手が悪過ぎるし第一、頭数が違い過ぎる。

「イルカさん…。」「ああ、でも…どうして?」
思いもがけない事態で窮地を免れて呆然としている琴音と健太郎の前に、
バケツとガバメントを咥えた二頭のイルカが顔を出して来た。
「きゅ〜〜〜〜っ♪」「きゅ〜〜〜〜っ♪」
「あ…有難うイルカさん…。」
琴音は臆する事無く身をかがめ二頭のイルカの口からバケツとガバメントを
受け取ると、精一杯の感謝の気持ちを込めて濡れるのも厭わずに二頭の頭に
頬擦りし優しく撫で回した。「きゅーっ♪」「きゅーっ♪」

「…すまないけど琴音ちゃん、先を急ごう…最初の2人が追って来るかも
しれないし…。」「はい…判りました、健太郎さん。」
イルカに別れを告げた2人が手に手をとって水族館反対側出口方面に移動を
開始した頃、堀には頭突きをしこたま食らって目を回している岩切が、
仰向けにプカリと浮かび上がって来た。
『ビーッ、8番・岩切花枝、ナースストップにより失格…失格地点最寄の
14Mミリアさんは直ちに救急搬送車で17番の元へ急行して下さい』…

「何という事でござるか!」
「や、やられてしまったのだな…。」
「う〜む、惜しいリーダーを失くしてしまったでござるよ。」
「こ、これからどうするのだな?」
「どうするもこうするもござらん…場を変えて再び、戦いの中に身を投じる
のみでござるよ。」
「そ、そうなんだな…ぼ、僕たちの戦いもまだ始まったばかりなんだな…。」

【09番・江藤結花 08番・岩切花枝 脱落…残り101人】

TO BE CONTINUED?!

74パラレル・ロワイヤルその21:2003/09/25(木) 19:18
「…………………………………………。」
「…………………………………………。」
「…………………………………………。」
「…………………………………………。」
「ふむ……………………………………。」
「アンタら雁首並べて何にらめっこしとるんや、もう過ぎた事なんちゃうか
?ホンマアホらしいわ。」
「『過ぎた事』で済まされてたまるか!」

Aスタート地点交戦禁止エリアに程遠くない巨大公園入り口、そこに現在
集結中のメンバー(現在計6名)は、Aグループの
第5組 藤井冬弥(76番)・森川由綺(97番)・緒方理奈(13番)、
第6組 緒方英二(12番)・保科智子(78番)そして住井護(51番)という
組み合わせ…しかし当然ではあるが、他のメンバー同様に後続の
第7組 北川潤(29番)・宮内レミィ(94番)そして澤倉美咲(44番)の
到着を待っている住井の心中は穏やかであろう筈が無い、

本作にて自分を裏切った男&その妹・銃撃した女&止めを刺した男と一緒
なのである…しかも4人とも自分より美咲さんと旧知の間柄である上に、
4人ともアタリの支給装備もとい、エアガン・エアライフルで武装している
、それに引き換え自分は…
住井は自分の支給装備であるハエタタキを握り締めながら、自分の無力さと
クジ運の無さにもう、完膚なきまでに打ちひしがれていた。

本作では結果的に間違いであった選択を今回も再び選ばざるを得ないのか?
…確かに、状況的には美咲さんの安全を第一に考えればそれが賢明な選択で
あろうが、自分の意思で『再び』そんな選択をしなければならない位なら…

いっそ北川や美咲さんと合流する前にあの4人を相手に勝ち目の無い戦いを
挑んで…しかし、それでは残された北川に自分の因縁を引き継がせる事に…

そうか、それならば自分には残された行動選択肢はもう1つしか残ってない

住井は自嘲めいた笑みを漏らすと、自分の胸部に装着されている識別装置の
安全テープにそっと手をかけた。

75パラレル・ロワイヤルその22:2003/09/25(木) 20:12
「…早まる必要は無い、住井君。」住井の意図を悟った英二が笑うでもなく
慌てるでもなく…そう一言ポツリと呟いた。
「?…どういう意味だ。」住井は英二の言葉の意味が瞬時には判りかねた、
「まさか俺が美咲さん目当てにあんた達4人の後をついて行かせて貰おうと
するとでも思っているのか?」
「思っていない…いや、住井君が僕達と一緒に来てくれるというのならば
話は別だが、そうでないなら沢倉さんは僕達との同行は選ばない、絶対に…
そもそも、僕達が待っているのは沢倉さんではない…後続第9組の中にいる
篠塚弥生君と河島はるか君だ。」
「何だと?」
「!…成る程、そうだよな…。」今度は冬弥が納得したように声を上げる、
「沢倉先輩は例えゲームだとしても荒っぽい争い事はまるっきり苦手な性格
なのに、敢えて代戦士を頼まずに自らこのゲームに参加した…という事は、
理由は一つしかない。」
ふむ、英二が頷き再び口を開く、
「恐らく…いや絶対に、間違った選択の『やり直し』をしたいがために
沢倉さんは自ら、このゲームに参加したのだろう…そこの二人の様に。」
「え、英二さん!」「最後のは…余計です。」
冬弥と由綺がバツが悪そうに、英二に抗議の声を上げた。

「『やり直し』…」住井はその言葉を自分の中で幾度も反芻した、  →「

…やれるだろうか?…いや、やらなければならない、もし緒方のオッサンの
言葉が本当なら、不安かつ不本意なのを押して美咲さんは自分の為にここに
来てくれているんだ、何が何でもやらなければならない…ナイトとして嫌、
男として…ハエタタキが獲物だからってそれが何だというのだ?思い出せよ
住井護、マシンガンよりも爆弾よりも強い武器がこの世にあるという事を
忘れていたのか?…例えこの手に残っているのが形も色も無い唯一つの意思
だけだったとしてもそれだけで充分だそれだけで美咲さんを護って見せる、

護ってみせる、護ってみせる、護ってみせる…美咲さんと脱落者としてでは
なく勝者としてホテルに帰って…二人にこやかに笑い合いながら、美味しい
モーニングコーヒーを飲みつつ、水平線に上る朝日を一緒に見るんだ………

。」←



「ワォ、護クン大ハッスルしてるネ!」
巨大公園入口近くにある大樹の影で、合流前の先行待機集団の様子を覗き見
していたAグループ第7組・宮内レミィ(94番)が感嘆の声を上げている。
「アイツって昔から興奮し過ぎると考えている事がソノママ口から出て来て
しまうタチでさぁ、特に嬉しい事柄だともう、本音ダダ漏れ状態なんだよ…
まあ、沢倉さんみたいな綺麗な人が相手じゃあ、仕方ないっていえば仕方が
ないんだけどな。」レミィの隣で同じく覗き見をしていた北川潤(29番)が
ヤレヤレといった顔で、恥ずかしさの余り合流前の心の準備を『やり直し』
させられてしまっている澤倉美咲(44番)を見やりつつ、レミィに答える。

「ソレはソーとして、ジュン」急にレミィが真顔になって北川をみやった、
「ワタシ達も『やり直し』気合い入れてガンバルネ!」
「イエス、オフコース!って…確かレミィ、本作で気合を入れ過ぎて大失敗
やらかしたんじゃなかったのか?お前。」
「気にシナイ気にシナイ…智子も言ってタネ、もう過ぎた事だってネ!」

…一抹の不安を隠せない北川であった。

TO BE CONTINUED?!

76パラレル・ロワイヤルその23:2003/09/27(土) 23:22
玲子と高子は状況の不利を悟らざるを得なかった、既に過半数の6名が脱落
(彼女達はマルチに失格判定が下っていない事に気づいていない)し、しかも
眼前の浩之のみならず狙撃者にも一方的に狙われている・・・頼みのエアガン
3丁も内2丁が既に沈黙させられており、更に浩之は傘というエアガン相手
に格好の盾を得てじりじりと肉薄をしている、今は玲子のエアマシンガンで
辛うじて抑えてはいるが・・・そんな中、月代のロボピッチャーが遂に浩之を
捕捉した、

今まで一体月代は何をしてたんだと思われる所だが、実はロボピッチャーは
連射・曲射・長距離射・強打の点では申し分の無いアイテムなのであるが、
実は狙い撃ちにはまるで向いていないのである、だからこのような局面では
思い切り引き付けてから傘もろともゴムボールの連打の圧力で押し潰す様に
使うのが正解といえば正解なのである、

しかし、その時月代の中のわずかな仙命樹が背後からの気配を感じさせた、
「背後は海なのに・・・まさか?!」
月代はその予感の儘にロボピッチャーを旋回反転させ発射ボタンを押した。

セリオは驚愕した、自分は殆ど完璧にその気配を消して集団後方の海岸まで
潜水して泳いで来た筈である、それなのに水面から顔を出した瞬間、眼前に
ゴムボールが連続飛来して来たのである!

しかし・・・その驚愕も彼女にとってはコンマ1秒の間だけの事であった、
1発目を辛うじて回避、2発目は隠し武器の『魚焼きレーザー』で撃墜した
・・更に3発目が!・・・ぱくっ!!・・・何とセリオはそのまま口を大きく開けて
アンパン丸かじりの如くゴムボールを咥えてキャッチしたのである!更に、
続けて飛んで来た4発目・5発目のゴムボールを両耳のセンサーを外して
握り直すと・・・ラケット代わりにして打ち返したのである!

打ち返したゴムボールは片方はロボピッチャーに命中して向きを再反転旋回
させ、もう片方は月代を掠め彼女の後方にいた砧のお凸にクリーンヒット!
バコッ!!「Qッ!!」
『ビーッ、30番・砧夕霧、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』

「夕霧ちゃんっ!」月代が一瞬、お凸にゴムボールの跡を付けて目を回して
いる砧の方を振り向く・・・その一瞬の間にセリオは海中から海岸に跳躍し、
ゴムナイフを構えて一気に月代へと走り寄った、
「あっ・・・。」
「ほはふほふははひ。」(お覚悟下さい)

・・・とその時、横から素早く走り寄った袴・鉢金・胴丸姿の女性が、月代を
目掛けてゴムナイフを突き出さんとしたセリオの右手を絡め取り、そのまま
セリオの突進力を利用して向こう側へと投げ飛ばした、
「!」
セリオはそれでも冷静にくるりと身を捻り、ふわりと砂浜に着地した。

「…ずるいですの。」袴の女性、御影すばる(84番)は怒っていた、
「騙まし討ちしたり不意打ちしたり仲間を盾にしたり・・・卑怯ですの。」
「ひひょうへふは?ひゅうひっはひはんほ、ひんふーはほほひはふはへほ
ふふうはほ、はひはふひへふははひ。」
(卑怯ですか?11対3の人数差を補う工夫だと解釈して下さい)
「そうですか・・・ではこれから私と正々堂々1対1・助太刀無用の勝負を
お願いしても宜しいですか?」
「ほほほひへ、はひはひはは。」(お望みでありましたら)
そういうとセリオはナイフをしまい、ここにはいない来栖川綾香との幾度も
のスパーリングでいい加減サテライトなしでもメモリーに染み付いている
エクストリームのファイティングポーズを優雅に決めた(ボールも吐いた)、
「凄いですの、流石はエクストリームチャンプ・来栖川綾香さんのお手伝い
さんですの。」
すばるは眼前の強敵を前に、武者震いが止まらなくなりそうになっている
自分を深呼吸で鎮めると、これまた大影流の構えを優雅に決めた、

『それでは・・・参ります』両者ハモったその時、

「撤収するわよ!」「月代ちゃん、すばるさん…早くこっちへ逃げて!」
背中合わせにエアマシンガンと農薬散布機で必死に浩之を牽制し続けている
玲子と高子がすばる達に呼び掛けた、すばるはセリオから目線をそらさずに
後手のゼスチャーで月代を先に2人の元へ行かせると、セリオも後方へと
ステップして下がり、そのまますばるにしばしの別れを告げた、
「今は引くのがお互い好都合の様です・・・続きは、またいずれ。」
「・・・是非とも楽しみにしてますですの。」

セリオが志保のトラブルを察知し浩之に伝達したのと、すばるが生き残り
3人と供に元来た松林・・・Bスタート分岐地点の方へと撤収を完了したのは
殆ど同時のことであった。

【30番・砧夕霧 脱落…残り100人】

TO BE CONTINUED?!

77パラレル・ロワイヤルその24:2003/09/28(日) 19:37
セリオが海中からの奇襲を開始した頃、松林の昼なお暗い影の中に潜む
長岡志保(63番)は第3の標的・芳賀玲子をウェザビーのスコープ内に
捕捉していた、
「ふんふん♪ふふんふ〜ん♪最後に彼女をスナイプすればエアガン組は
全滅…後はヒロとセリオで充分カタが付きそーね♪」そう言って、指を
トリガーに掛けたその時、頬に冷やりとしたヌルリとした張り付く様な
感触がいきなり襲ってきた。

「!?」志保は条件反射的に起き上がり、感触のきた方へウェザビーを
素早く向け直した…しかし、そこには誰もいなかった。
「…気のせいなの?」気を取り戻そうとした志保はその時いきなり後ろから
両肩を掴まれた!思わず振り返って…大アップで視界に入ってきたものは…

「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?」
『ビーッ、63番・長岡志保、ナースストップにより失格…失格地点最寄の
14Maマリアさんは直ちに救急搬送車で63番の元へ急行して下さい』…

「お昼前だけど、大成功だよ〜♪」片手にコンニャクをぶら下げた釣竿、
もう片手に鉈の深々と刺さったラバーマスクを持った水瀬名雪(91番)が
泡を吹いて横たわる志保の後ろでガッツポーズをとっていた。
「ぱちぱちぱちぱち………。」
「うに、今の面白かったね。」
Bグループ第7組の残り2人、遠野美凪(62番)とみちる(87番)が
名雪の見事な健闘(?)を称えた。

「試しに途中下車してみたら、あんな場所に出て来たんですね〜。」
「うに、誰か遠くからこっちへ来るよ。」
「…それでは見付からない内に…元の道に戻りましょう。」

3人は志保のウェザビーとBB弾をゲットすると、急ぎ足で松林の隅に
ある神社の扉を開き、順々に中へ入って行って中から扉を閉めた。

余談だがみちるが発見したのは、浩之とセリオの迎撃に失敗して撤退中の
高子・玲子・すばる・月代であり…本来志保の待ち伏せと裕之・セリオの
追撃を受けて恐らくはそのまま全滅は免れない筈であった。

彼女達に退路を与えたのは名雪の気まぐれとイタズラ心に他ならなかった。

【63番・長岡志保 脱落…残り99人】

TO BE CONTINUED?!

78パラレル・ロワイヤルその25:2003/09/28(日) 20:10
「…それでは、ここにて失礼致します。」
「ほな気ぃ付けてな。」「お気を付けて。」
Cグループ第6組はそれぞれの目的に向かって早くも2分割された、
天沢美夜子(4番)はBグループにいる娘・天沢郁未(3番)と合流する為に
水族館→海水浴場ルートを選び、神尾晴子(23番)と橘敬介(57番)は
ヨットハーバー・港の方へと移動を開始した、
理由は敬介の支給装備がヨット又はクルーザーのハンドルだったからである
意味もなくそんなものが支給される筈もないだろう、恐らくこのハンドルを
待っている船がヨットハーバーか港にある筈なのではないだろうか…?
そんな根拠に乏しいものの好奇心をそそる理由から、彼等2人は美夜子とは
行動を分かったのである。

「晴子さん、御迷惑をお掛けします。」今現在、丸腰も同然の敬介が晴子に
深々と頭を下げる、
「何あらたまっとんねん、何時までたってもそんなんやからウチに
『義兄さん』やのーて『敬介』呼ばれてしまうんや。」晴子は自分の
支給装備・シグサウエルD230(エアガン)の調子を確かめながら
もどかしさを込めたツンツン声で敬介に言葉を返す、
「大体、嫁の妹に『さん』付けするような、その失格者根性何とかしいや、
そんな調子で観鈴と3人水族館行ってみいや、アンタはともかくウチまで
観鈴に誤解されてまうわ!」

敬介は言った…いや、言ってしまった。
「『義妹だから』という理由では『晴子』と呼びたくないし…『義兄さん』
と呼ばれるよりは、僕個人としても『敬介』って呼ばれる方が…。」

チャキッ、パスパスパスパスッ!パスパスパスパスッ!
晴子は敬介の足元目掛けてシグの試し撃ちを行い、
敬介は己の失言を詫びながらタップダンスを踊らされる羽目となった。

…『あらたまるな』言うたら、いきなり直球かい!?不器用な不意打ち
かましおって、このアホッ!!

辛うじてポーカーフェイスを保ち切った晴子は、
心の中で敬介を思い切り怒鳴っていた。

TO BE CONTINUED?!

79パラレル・ロワイヤルその26:2003/09/28(日) 20:34
『俺様は佳乃の為に…お前達は誰の為に戦う?』
『観鈴に決まってるだろーが、このオレはよ!』
『真琴の為…って言いたい所だったが、真琴は喜んでゲーム参加しちまった
…仕方ないから、何とか名雪さんと祐一のツテで美坂栞さんの代戦士資格を
ゲットして来たぜ…縁もゆかりも薄い御嬢さんだがよ、病弱だってんじゃあ
男として一肌脱いで奮い立つには充分な事情だぜ。』
『そういえば、一番新入りはどうしたんだ?』
『あいつは今回も装備で参加だ…仕方あるまい、識別装置付け様がないんだ
から、アイツ。』
『不憫だな…同情したG.Nにみちるさんの所へ回されたそうだが。』
『おっとイケねえ、もう出撃の時間だぜ!』
『オレはA、お前がB、そんでもってお前がCからか。』
『多分、そんな事は起こり得まいが、一応集合場所を決めておこうか。』
『そんなら、可哀相な新入りの所が第1で、例の老人の所が第2の集合地点
って事でどうだ?』
『い〜ねえ、ソレ!よし、ソレで決まりだ。』
『じゃあ行くぞ、お前らも達者でな!』
『おう、あまり無茶すんじゃないぞ!』
『正体バラした相手に逃げられるんじゃないぞ!』

…彼らの会話が行われてから、現在約2時間が経過している…。

TO BE CONTINUED?!

80 パラレル・ロワイヤルその27:2003/09/29(月) 20:02
Cスタート地点の交戦禁止エリア境界線近くにて、Cグループ第7組の少年
(48番)は…それこそ、彼を知る者が聞いた所で絶対信じないような顔…
後頭部に大きな汗の雫をへばり付け、目を文字通りに点にした顔で目の前の
男に(別の意味で)恐る恐るに尋ねた、
「あの、貴方が立川郁美ちゃんの…その…お兄さんなのですか?」
「いかにも。」
尋ねられた男・立川雄蔵(56番・代戦士)があっさり即答が返ってきた。
「あの、大変失礼な質問をさせて頂きますが…郁美ちゃんとはその、実…の
兄妹なのでしょうか?」
「無論だ。」雄蔵から再び即答が返ってきた。

『…きっと郁美ちゃんは100%お母さん似で、この雄蔵さんは100%
お父さん似なのだろう…きっとそうだ、そうに違いないんだ…。』
少年はそう自分を納得させて目の前の尋常ならざる(?)疑問に無理矢理
終止符を打つ事にした。

「それにしても香里…。」
雄蔵は第7組3人目の人物・美坂香里(85番)に向き直って口を開く、
「ええ、まさかこんな場所で…こんな形で貴方と再会出来るなんて、
夢にも思わなかったわ…雄蔵。」
香里は雄蔵にニッコリと微笑んで言葉を返した。

さて、ココでこの56番・代戦士立川雄蔵と85番・美坂香里のやりとりに
「(゚Д゚)ハァ?」の読者の方の為に、この余談を記させて頂く事にしよう…

…かつて一昔…本作ハカロワとも勿論このパロアルとも違う、また更に別の
『葉鍵キャラによるバトル・ロワイヤル』が某所で行われていたという事を
…そして、その中の戦いに於いて…立川雄蔵と美坂香里が病弱な妹のために
共闘しその絆を深めた末、再会を誓って生き別れとなり…そのまま生死不明
となったという事を。

だが、雄蔵の口から出てきた言葉は…香里にとって頭に思い浮かべていたで
あろう感動の再会シーンを木っ端微塵にするのと同時に、香里自身にとって
目を背き続けたくてたまらない現実へと一気に呼び戻す一言であった…。
「…なかなか似合っているぞ、そのコスプレ…。」
「!…言わないで…。」
「確か、『ベルばら』のオスカルとかいう主人公の…。」
「!!…言わないでよ…。」
「…こみパどころか宝塚でも充分、通用するな。」
「!!!…言わないでぇぇぇぇぇっ。」
現在確認済みの女性参加者内では、天野美汐の次にトンデモナイ衣装を支給
されてしまった香里が、見る見る顔を紅く染め上げて雄蔵へと突進した、

「…以前から郁美の紹介でこういう趣味の世界がある事は知っていたが…」
「もう〜っ、雄蔵の莫迦っ!莫迦莫迦莫迦莫迦莫迦莫迦莫迦ぁ〜っっ!!」
香里は、オイタをして閉じ込められたワンパク坊主が物置の扉を連打するか
の如き勢いで両の拳を振り回し、雄蔵の学ランから肌蹴ている胸やら腹やら
を滅多打ちにし始めた…火に注がれ続けている油の蛇口を何とか止めようと
必死のようである、
「…しかし、モデルと衣装を正しく美しく選べば『多寡がコスプレ』とは
侮れない芸術に昇華するものなのだな…ところで、少年はこういう趣味の
世界を果たして、どう思っているのかな…?」
香里の必死の努力も空しく、油は注がれる一方であった…。

81パラレル・ロワイヤルその28:2003/09/29(月) 20:02
その頃、リバーサイドホテルのモニターの一つにて立川郁美(元56番)と
美坂栞(元86番)は自分達の兄と姉達のボケとツッコミをくすくすと笑い
ながら鑑賞していた。「でも、どうして兄は失格にならないのでしょう?」
殴られ続けている兄を見ていた郁美が思い出したかの様にG.Nに尋ねた、
「素手による攻撃は、相手からの手応えが確かめられない限りは例え急所を
連続攻撃されても有効打とは認められないのじゃ…おぬしの兄を見てみい、
屁とも応えた様子もないわい。」

一方、少年もしばし雄蔵と香里のボケとツッコミを面白そうに眺めていたが
ふと何かを思い出したかのように立ち上がると、
「雄蔵さ〜ん、香里さ〜ん、Bグループに仲間がいるんで、おじゃま虫は
そろそろ先に移動させて頂きま〜す、じゃあっ。」と言うと、一人水族館
エリアの方へと素早く駆け出して行ってしまった。

「香里。」雄蔵は自分を拳で『撫で回し続けている』香里の頭にそっと手を
乗せて制すると、「俺達はどちらへ向かおう?」と希望を尋ねた、
香里は雄蔵の頑丈さとマイペースさにそれ以上怒る気力も失せてしまった、
さりとて、即答してあげられる程機嫌を直す積もりもなかった、
「…………………………………。」
「もしかして、怒っているのか?」雄蔵もようやく香里の様子に気付いた、
「あんな褒め方する人、嫌いです…第一この衣装、支給品だから恥ずかしい
のを我慢して着ているんです…。」
「そうだったのか、それは済まない勘違いをしたな。」
「はあっ…。」香里は溜息をついた、
「もう許すわ…それよりも、折角のいい機会なのだしコース…ゲフンゲフン
…ルートは、ヨットハーバー・港を抜けて、博物館・美術館→遊園地と行く
のを私は選びたいのだけれど…。」
「うむ、悪くないな。」雄蔵は頷いた、
「…なかなか理想的順番だが、水族館が反対方向なのだけはなんとも残念な
事だな、香里。」
「もおっ、どうしてそういう時だけ鋭いのよ、雄蔵って!(怒)」

TO BE CONTINUED?!

82パラレル・ロワイヤルその29:2003/10/01(水) 20:22
「…………………………………………。」
「…………………………………………。」
「あ、茜…………………………………。」
交戦禁止エリアを抜け、巨大公園へと向かっているAグループ第8組の
相沢祐一(1番)は、スタート直後においていきなりDEADorALIVEを
満喫させられる羽目となっていた…と、いうのも
「今度は一体、何人狩るつもりなんだ?本作のトップスコアラーさんよ。」
「…マーダーじゃない振りして結局ちゃっかり2位になられた偽善者の方に
誉めて頂けますなんて、とても光栄です。」
「何だとテメエ!?」
「…やるのですか?」
「国崎さんっお願いしますっどうか茜を煽らないで…もとい、許してやって
下さいっ!…本作に続いてこっちでもマーダーモードじゃ茜が…茜が余りに
可哀想過ぎますっ!!」

最悪2度目の『バトル仲裁リタイア』の危険も顧みず、祐一は必死になって
里村茜(43番)と国崎往人(33番)の間に立ち、両者の説得を続けていた。

「相沢とかいったか、オメエもオメエだ、ホレた弱みとはいえヘタレっぷり
にも程というものがあるぞ。」
「…惚れる事に一生縁が無さそうなマユナシガンタレ変態誘拐魔なんかより
は遥かにマシです。」
往人が無言で支給装備のデザート・イーグル(エアガン)をゆっくりと抜くと
茜も何も言わず支給装備のグロック17(エアガン)をゆっくりと抜いた、
…両者はそのまま、得物の照準を其のまま互いの顔に合わせて、引き金に…
「だから、2人とも止めて下さいっっ!!」
祐一は慌てて、再び両者の射線に割り込んで説得を繰り返す、
そんな3者それぞれの緊張感が臨界に達しようとしたその時、

「カァーッ。」
道の茂みの向こうの方から、甲高いカラスの鳴き声が聞こえてきた、
ここにいる3人の中で唯一、往人には確かに聞き覚えのある鳴き声だった、
往人は2人に向けて手の平をかざし停戦のポーズを取ると、声のした方の
茂みへと用心深く足を踏み入れていった…と、程なくして往人は支給装備を
入れるバックの中から首を出して鳴いている見覚えあるカラスを発見した…

『…大方、先行したライバルの誰かにハズレ装備とみなされバックもろとも
投げ捨てられたのだろう…まったく、不憫なヤツだぜ。』
往人は周りに伏兵や罠の無い事を改めて確認し終わるとデザートイーグルを
下ろしてしゃがみ込み、バックのファスナーを開けてやった、
「クワーッ!」バタバタバタバタ!
カラスは余程嬉しかったのか、ファスナーが開いた瞬間に往人の頭の上へと
飛び乗ると、爪を思い切り立ててから往人の眉間に鋭いキッスの雨を何回も
浴びせて来た、『見たか、伝家の宝刀・ココナッツクラッシュ!』
「イテーッ、イテイテイテーッ、コラッやめねえかクソガラスッ、喜ぶのも
いい加減にしやがらねえと…。」…往人の台詞は途中でかき消された、

『ビーッ、33番・国崎往人、有効打直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』

…アナウンスにギョッとなった往人の目が初めて、今は頭の上を離れ目の前
の枝に留まっているカラス…そら(24番・代戦士)が、胴に括り付けている
小型識別装置の存在を捕らえた…そして、往人の中の時間が止まった…

…最後に判明した事実だが、33番・国崎往人の石化のレベルは全ゲームを
通してトップクラスの固まり様であったらしく、最後は救急搬送車と台車で
ゴロゴロとホテルに運び込まれる顛末となったそうであった…。

一方、茜と祐一は茂みの中へと入って行った往人が戻って来るのを(一応は)
待っていたが、しばらくして茂みから聞こえてきた往人失格のアナウンスに
心底の驚愕をさせられる事となった、
「…まさか、あの男がいきなり?…一体何者が?…とにかく、危険ですね…
祐一、先を急ぐ事にしましょう。」
「え?あ…わ、分かった茜。」
2人は往人を脱落させた謎のライバルとの交戦を避けて、巨大公園へと道を
急ぐ事とした。

【33番・国崎往人 脱落…残り98人】

TO BE CONTINUED?!

83パラレル・ロワイヤルその30:2003/10/01(水) 21:12
『本作ハカロワでの雪辱のため、この2人は何が何でもゲームを降りまい』
G.Nは…この2人の支給衣装に関して言えば、裕介&美汐以上の陰謀を
企んだ上での選択を行ったであろう事は、まず間違いない事実であろう…。

「確かに…確かに着ていた覚えがある衣装よ…でも、だからといって…。」
赤皮のボンテージに赤皮の鞭、そして鎖付きの皮の首輪を握り締め、必死に
羞恥を押し隠し平静を装っているのは、Bグループ第8組の石原麗子(6番)

「アンタなんかまだ全然マシな方だ、俺なんか…。」そう言って、さながら
氷川へきる先生調の涙目に膝小僧を抱えながら支給装備のアストラM902
(エアガン)を握り締めている柳川祐也(98番)が身に着けているものは、
…一応、靴・靴下・ネクタイもオプションで支給されてはいるが、
耐久力と伸縮性に優れた素材で出来た『鬼と化しても破れない!』
…黒の成人男性用水着一枚だった。

一人ずつでも結構凄いものがあるが、二人揃うと想像沸き立ち破壊力3倍の
出で立ちである、

「柳川さん、この首輪…もし欲しければ、あげてもいいわよ♪」
「いらんわっ!…それよりも一体どうしてくれるんだ?刑事長がアンタの…
アンタのせいで…。」
「そんなの知らないわよ…そもそも、貴方がそんな格好しているのが最大の
理由なんじゃないの?」

因みに、第8組3人目の長瀬源三郎(113番)であるが…2人の出で立ちを
いきなり見てしまっただけでも充分やばい所へ、麗子が柳川を見るなり口に
漏らした「亀有の海パン刑事。」の一言がツボに嵌まってしまったらしく、
本作23話にてタライを見た折原浩平の数倍のリアクション・数倍の時間で
延々笑い転げた挙句、横隔膜の痛みに耐えかねて失神、戦わずして脱落こと
出走取り消しとなってしまったのである。

「ともかく、上に着られるものが欲しい…確率的にもスタジオ・舞台村の
方へ行きたいと思うのだが。」
「その意見には私も賛成ね。」

かくしてBグループ第8組は、Bグループ中では初めて、舞台村ルートを
選択して出発を開始した。

【113番・長瀬源三郎 脱落(出走取り消し)…残り97人】

TO BE CONTINUED?!

84パラレル・ロワイヤルその31:2003/10/03(金) 20:54
「…成る程そらオッサンも長い事大変やったんやな〜、何が悲しゅうて
こんな大バカの面倒延々、見てやらにゃあアカンかったんか。」
「ゲーック、大バカとはなかなかいい得て名だな。」
「ふみゅうっ、誰が大バカよぉっ!」
「アンタだ。」
「オメーだ。」
「何ですってえええっ!!(怒)」

期待の皆様、長らくお待たせ致しました…という訳で、現在水族館を通過中
なのはCグループ第8組の猪名川由宇(7番)・大庭詠美(11番)・そして、
本作のナイスガイこと御堂(89番)である。

「…止まれ!」御堂が中央ホール入口近くで連れの2人を制した、
「どないしたん?」「なによ、したぼく?」
「戦闘の形跡がある…心して付いて来な。」
実際の所、伏兵や罠等が無い事は既に御堂自身の能力と経験で探知済みなの
であるが、能力者は自分だけではないのだから用心に越した事は無い、

それに…御堂は自分や連れの2人が手に持つ支給装備に複雑な視線を向けた
…Cグループ第8組3人の支給装備は、祭りの出店でよく見掛ける射的用の
コルク銃である…形状のみそれぞれ差があり、由宇のは普通のライフル型
(由宇曰く「見てよ相棒、ウチの得意武器やわ〜。」)で、詠美のは拳銃型、
御堂のは水平二連猟銃型である…構造上、装弾に手間取るためいざ戦闘では
無駄弾外しは許されない、ハズレ装備とまではいわないものの、連発式の
エアガンを持った複数のライバルに襲われた際、自分は兎も角連れの2人の
身が危うい(…といっても、守る義理は無いのかもしれないのであるが)、

まあ、早い所Bグループにいるらしい千堂和樹とやらに合流してこの2人を
押し付けて、今度こそ蝉丸と勝負を付けてやりたい所だ。

御堂はそんな事を考えながら、所々にBB弾が散らばり支給品用のバックが
放置されているホール中央部をより詳しく探ってみる…と、
「にゃ〜。」
「!」
「!」
御堂と詠美にとって聞き覚えのある猫の鳴き声が聞こえて来た、
「あっ、いたいたっ!」詠美が中央ホール休憩エリアのベンチの上に
置かれた支給装備用のバックの中から、首だけを出して鳴いている猫を
発見した、
「アンタまた支給装備だったの?しかも捨てられちゃってかわいそうに。」
詠美は猫の入ったバックを空けてやろうと、バックのファスナーへと腕を
伸ばした…とその時、
「ゲーック!」何時の間にか詠美の隣に来ていた御堂が、詠美の伸ばした
腕を握って制した、
「な、なにするのよおっ?」詠美は御堂に食って掛かる、
「こういった物はまず、罠の有無を確かめ、それからゆっくりと開けるんだ
…そして、」御堂はコルク銃の銃口を猫の頭へと向けた、
「に、にゃあっ?!」
「ちょ…ちょっとしたぼく、どういうつもりっ?!」
「オッサン?!アンタ一体何のつもりや?!」

85パラレル・ロワイヤルその32:2003/10/03(金) 20:55
「ゲーーック!!」
御堂は騒ぎ出した2人を一喝して黙らせると、コルク銃を突き付けたままの
猫の首根っこを反対側の手で掴んでバックから引き摺り出した、
「!」
「!」
「…本作で随分長い事一緒にいたからな、コイツの事は大体分かるんだよ、
まず、オメーは拾われるのを待ってる様な捨て猫根性丸出しの猫じゃねえ、
んで、オメーは本作で俺様のバックから自力脱出しやがったんだよなあ?」

御堂の手に掴まれぶら下がっている猫…ぴろ(86番・代戦士)の背中には
小型の識別装置が括り付けられていた。

『フッ、流石だぜじいさん…まさかそこまで俺の行動パターンを見切って
やがったとはなあ…悪かったなネエチャン、優しさに付け入って悪企みを
しちまって…ま、事ここに至っちまった以上、敗者の掟には逆らわねえ、
好きに裁いてやってくんな…。』

「…ねえ、したぼく。」状況をやっと理解した詠美が暫くして口を開いた、
「アタシは怒ってないから、その子…許してやって。」
「へ…?」ホールに放置されていた大型ピコピコハンマーを回収していた
由宇が、詠美の言葉に目を丸くした、

詠美は…以前自分の知っていた大庭詠美は…自分を騙したり裏切ったりした
(思い込みによるものも含めて)相手を決して許したり認めたりはしなかった
筈だ…無論、猫だからって特別扱いしたりなんかしない筈、なのに…。

「たりめーだろ、まさかホテルに突き返す積もりじゃあるめぇし。」
御堂もさらりとそういうと、ぴろを無造作にそのまま頭に載せてしまった、
ぴろは御堂の頭の上で一声、にゃうと鳴いた。
『面目ねえ、この借りは必ず返させて貰う事にするぜ。』

「詠美…アンタ、随分大人に変わったんやなあ。」
由宇がしみじみとした口調で詠美に語った、
「ふみゅ?そ、そうかなあ…。」
詠美もそう言われると満更、悪い気がしないようだ、
「よっぽど本作でドラマという名のエエ勉強してきてたんやろなあ。」
「エッヘン、アタシを誰だと思ってるの?こみパのみならずハカロワ界でも
クイーンオブ・クイーンの大庭詠美ちゃん様よおっ、いきなりリタイアした
誰かさんとは、格というモノが…。」
「コラァ!誰のせいでリタイアした思とんねん、この大庭か詠美がぁっ!?」
「ナニよ、今ココで勝負する気なの?この温泉パンダ!?」
「オメーら、2人ともうるせぇぇぇっ!!」
「にゃ〜。」

TO BE CONTINUED?!

86パラレル・ロワイヤルその33:2003/10/04(土) 12:36
植物園→巨大公園を繋ぐ舗装された道を走り抜ける2台のモトクロスサイクル
青い1台目を駆っているのはAグループ第9組の河島はるか(26番)、
黒の2台目を駆っているのは謎の覆面ライダー(41番・代戦士)で、
その背後には篠塚弥生(47番)がスタンディングスタイルで2人乗りを
している…バランス的にも重量的にもはるかよりもはるかに(駄洒落ではなく)
大変な筈なのに覆面ライダーは弥生を乗せて苦もなくはるかと併走している。

桜井あさひの代戦士と森川由綺のマネージャーの2人乗りというのも奇妙な
組み合わせではあるが、覆面ライダーは弥生の「先を急ぐので乗せて欲しい」
という頼みを疑う事無く聞き入れて、弥生を巨大公園まで背中を委ねて賃走
(運賃・カロリーメイト1箱)しているのである。

「ねえ、貴方。」弥生が尋ねる、
「どうしました、お客さん?」ライダーは慣れた口調で受け答える、
「私が裏切る…とか、そんな心配はしない訳?」
「裏切るも何も、料金先払いで受け取っておりますので。」
「…いえ、そういう意味じゃなくて…。」弥生は頭を抱えた、
「森川由綺さんのアナザー本表紙化のためにゲーム参加している私が、
桜井あさひさんの表紙化のために代理参加している貴方の背後を
取っているのよ…不安とか疑念とか感じないの?」

「そう言われてみましたら、確かにそうなのかもしれませんけど…。」
ライダーは答えた、
「まず第一に、自分は『運んで欲しい』と頼まれると体が勝手に運んでしまう
根っからの運び屋なんですよ…自転車から補助輪外したばかりの頃からもう、
新聞だの牛乳だの…その内、寿司や郵便物なんかも運ぶようになって…高校に
入った時にはすぐにバイクの免許取っちゃって、バイクのローンを払うために
放課後は配達のバイトを梯子し捲くりましたよ…今は最終的な独立を目指して
宅配業者で最後の修行をしている所です…あっ、でも人を運んだのはとっても
久しぶりですね…そうそう、それとあさひさんの代わりにゲーム参加しました
理由なんですが、あさひさんが常日頃ご贔屓頂いているお得意様だからです、
巡業のお手伝いが主な所ですが、まれに自分御指名でプライベートのお買い物
で大人買いをされてしまった…おっと、ここから先はお客様のプライベートに
なってしまいますので、どうかご容赦を…。」

「…………………………………貴方、いいタクシードライバーになれるわね。」
弥生はやっとの事でそう言った。

TO BE CONTINUED?!

87パラレル・ロワイヤルその34:2003/10/06(月) 20:39
『詠美…お前は今、何処で誰と一緒にいるんだ?…頼むから俺が駆け付ける
その時までどうか無事でいてくれ!』
『あさひちゃんアナザー本表紙化は我輩に課せられし崇高なる使命であり、
失敗を許されない至高の大任…この九品仏大志、本作の篠塚弥生さんをも
超越する修羅と化して、何が何でもあさひちゃんを…。』

「チョット和樹?大志?さっきっからずーっと黙り込んで、一体何を考えて
いるのよお?」
『ギクッ。』
Bグループ第9組、千堂和樹(53番)・九品仏大志(34番)・高瀬瑞希
(55番)は、先行した玲子とすばるの後を追う形で海水浴場近くの松林を
現在通過中であった、

「ところで…MYシスター瑞希よ、」大志が恐る恐るに口を開く、
「何よ?」厳しい目線を流しながら瑞希が答える、
「何故、我輩の支給装備を取り上げてしまうのだ?…ここから先の戦場を
我輩に丸腰で進めというのか?」
「当たり前でしょうっ!!…まさか私に、2度同じパターンでゲームから
降りかねない真似をさせろだなんていわないわよねえ、大志!?」
瑞希が大志から力ずくで巻き上げた支給装備・先行者改の指令機を付けた
腕を振り回しながら凄みを利かせた声を上げる。

…ついでに言えば、和樹の携帯電話も既に瑞希に巻き上げられていた…と
いうのも、Cグループの大場詠美(11番)との合流連絡を行った際、まず
第一声でお互いに愛を囁き合ってしまい…しかもそれが見事のG.Nの手に
よって、全島公開放送されてしまったからであった…瑞希の装備没収行為は
厳密にはルール違反なのであるが、事情があったり結果的にその方が面白い
と認められた場合は、多少の反則にはG.Nは寛大なる傍観を決め込む節が
ある様である。

「そ、そういえば瑞希の支給装備って一体、なんだったんだい?」
何とか瑞希の機嫌を直そうと、和樹が懸命に話題をそらして尋ねた、
「ああ、そういえば大志の装備取り上げてたからすっかり、忘れてたわ。」
瑞希が自分に支給されたバックを開いてみると、「何?これ…。」

…バックの中にはホテル名が入った袋入りの菓子パンやら焼き菓子やらが
ぎっしりと詰まっていた、

それを見ていた3人は、ふと思い出した事柄があった…そういえば、確か
祝賀パーティーの前の日に希望者全員にてホテルの厨房で調理実習を行い、
ケーキだのクッキーだの菓子パンだのを皆で沢山作ったのであった…それの
一部が瑞希のバックの中身に入っていたのである…もちろん、武器としては
役に立たないが、長期戦においては貴重な食料となるし、場合によっては
戦利品を獲ているライバルとの物々交換にも使える筈だ…捨てる手はない。

瑞希は急に優しい口調になって口を開いた、
「ねえ、大志…確かに戦場を丸腰で歩かせたりしちゃあ可哀想ね…だから、
取り上げた大志の装備の代わりに、私の装備を貴方にあげるわ♪」
「くううっ、MYシスター瑞希よ…それが我輩への慈悲だというのかっ?」

大志は渡されたバックの中身を暫くの間、涙目でぼんやりと眺めていたが…
…急に希望の光をその瞳に輝かせて和樹に叫びだした!

88パラレル・ロワイヤルその35:2003/10/06(月) 20:40
「いよう!MY同志和樹よ!!」
「ど、どうしたんだよ大志、いきなり…?」怪訝な表情の和樹が尋ね返す、
「聞いて喜べ、見て喜べ…そして思いっ切り味わって喜ぶがいいっ!何と、
あの同人誌界のクイーン・オブ・クイーンこと大場詠美ちゃん様が拵えた
究極のジャムパンがあああっ…今…今ココにいいいッ!!」

大志がバックの中から袋入りのジャムパンを取り出し、和樹に向けて高々と
突き出し、目配せをしながら手渡した、
『頼むぞMYブラザー、我々の未来はこの後のお前にかかっておるのだ!』
『…判ったぜ、大志…もししくじったら、万事休すだな。』
…袋の裏面をチラリと見た和樹は、大志の意図を瞬時に察してしまった。

痛む良心をマーダー弥生さんの如き心境にて押し殺してしまった和樹が、
大喜びでジャムパンの袋を開封するやいなや、
「うわ〜っ♪詠美の焼いた出来立てのジャムパンっ…くう〜っ、最高の香り
だあ〜っ♪」とオーバーゼスチャー気味に狂喜した表情でジャムパンを口に
入れようとしたその瞬間、
「んもうっ!和樹の馬鹿あああっ!!」
素早く駆け寄った瑞希が和樹の手からジャムパンをひったくった、
「なによジャムパンなんかでデレデレしちゃってえ!こんなものおっ!!」
そして、ひったくったジャムパンを無理矢理に一口に押し込むと、一気に
モグモグと食べ始めた…。



『ビーッ、55番・高瀬瑞希、ナースストップにより失格…失格地点最寄の
14Maマリアさんは直ちに救急搬送車で55番の元へ急行して下さい』…

「許せMYシスター、抗議はホテルで聞こう。」
「瑞希ゴメンっ!…ヒドい幼馴染を許してくれ…。」
瑞希から没収された装備を回収し終えた和樹と大志がホテルへと帰って行く
救急搬送者を見送りながら呟く足元で、ジャムパンの空き袋が風にふわりと
高く舞い上がった、

…袋にはこう書かれていた『レシピ提供・水瀬秋子 製作者・柏木千鶴』

【55番・高瀬瑞希 脱落…残り96人】

TO BE CONTINUED?!

89パラレル・ロワイアルその36:2003/10/07(火) 19:13
…風に吹かれたジャムパンの紙袋が、再び地面へと舞い降りたその瞬間、

パラララララララララララララララララララララララララララララ
パラララララララララララララララララララララララララララララ
パラララララララララララララララララララララララララララララ

「お…俺達の今迄の長いフリと苦労って、一体…。」
「む、無念だ…縦王子、横蔵院、そして鈴香よ、後の事は任せたぞ…。」
『ビーッ、53番・千堂和樹、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』
『ビーッ、34番・九品仏大志、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』


「…冷酷とか何とか言う以前に、身も蓋も無いオチになりましたね。」
「救急車が来て帰って行くまで、ボーっと突っ立っているから悪いんだ。」
松林の茂みからイングラム2丁持ちの藤田浩之(77番)と雛山からの戦利品
であるスコーピオンを持つHMX−13セリオ(52番)が姿を現した、
「デカいサイレン音に敵が引き付けられて来るんじゃないかって、ちょっと
考えればすぐ気付く事だろーに。」
「…注意して下さい『次は我が身』の可能性も考えられるパターンです。」

「全く持って、おっしゃる通りですね♪」
道を挟んで反対側の茂みの奥から、スコープ付きのドラグノフ(エアガン)の
照準を定めているのは、Bグループ第5組3人目に該当していた人物である
牧村南(80番)…彼女の支給衣装は電視戦・赤外線迷彩服であった…故に、
セリオのレーダーには南は殆ど感知されていなかった…ましてや、故郷にて
忍術を齧っている南にとって、素人に毛が生えた程度の浩之から身を隠す事
など朝飯前であった、

「まずは気付かれたら手強そうなセリオさんから、浩之さんはその次…。」
南のスコープがセリオの顔を正面から捕らえた…とその時、

…かぷっ「きゃあああああっ!!」
『ビーッ、80番・牧村南、有効打直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』…肉眼でもレーダーでもない索敵手段により獲物を
探知する狩人が、南のお尻をその顎に見事捕らえた(一寸羨ましいネ)。

「?!」「…対電視迷彩ですか?迂闊でした!」
反対側の茂みから聞こえてきた南の悲鳴と失格のアナウンスに、浩之と
セリオはやっと、今更ながらの臨戦態勢をとる…と、茂みを掻き分けて
ドラグノフを携えた狩人が、ゆっくりと2人の前に姿を現した。

【53番・千堂和樹 34番・九品仏大志 80番・牧村南 脱落…
  残り93人】

90パラレル・ロワイアルその37:2003/10/07(火) 20:11
「ぴこ。」
「??…コイツ、犬…なのか?」
「…その様です…どうやら、私達はアナウンスで聞こえて来た牧村南さんと
いう方にあのドラグノフで狙われてた所をこの子に助けて頂いた様です。」

セリオは足元まで近付いて来た、ベルト付きのドラグノフを引き摺っている
毛玉のような犬の頭を優しく撫でながら言う、
「ぴこっ!」
「…そして、どうやらこの子は綾香御嬢様がアナウンスでおっしゃられた、
シークレット・プレイヤーの内の1名の様です。」
セリオが犬…ポテト(31番・代戦士)の背中に括り付けてある小型識別装置
を指して言葉を続ける。

「コイツは驚いたぜ…まあ、何にせよ俺達の恩人(?)には間違い無いんだ、
マーダーモードは一休みにして…ありがとよっ!」
浩之は戦利品のバックの一つから『ツユ無し肉じゃがパン』(柏木梓作)を
取り出してポテトに差し出す、
「ぴこぴこ〜♪」…ポテトの方も疑う事無く大喜びでパンにかぶり付いた
「そんなに嬉しいんなら、重すぎる程あるからもうどしどし食ってくれ。」
浩之はポテトをもてなしながら、セリオと共に戦利品のチェックをてきぱき
と行って行った。

「千堂和樹さんの持っておられたこの装備は掘り出し物かもしれません。」
「掘り出し物?…この変テコなロボットよりもか?」
浩之が先行者改を指差してセリオに尋ねる、
「場合によっては比べ物になりません、何故なら…。」
浩之はセリオの説明に思わず手を叩いた、
「そりゃ凄え、上手くやればあのオッサンにリベンジが出来るかもな。」
「…上手くやれれば宜しいのですが…。」

「じゃあ、結局勿体無いが…このロボットだけは放置して行くしかないと
いう事か。」
「…仕方ありません、隠密行動が取れなくなってしまいますし…とはいえ、
やっぱり話のネタとしましては勿体無い気が致しますね…あっ、そうです!
いい考えが浮かびました…。」

セリオは何かが閃いたらしく、先行者改の腕時計型指令機を自分用のメンテ
ナンスツールとサテライトサービスを使用して、暫くの間いじくり回した…
最後にベルトを延長し…それをポテトの首へと掛けた、

「宜しければ…そして、もし動かす事が出来るのでしたら…ドラグノフとの
トレーディングという事で、このロボットを貴方に差し上げますが…?」
「ぴこっ?…ぴこぴこ、ぴこっ!」
ポテトが先行者改の指令機に向かって吠えた、すると…

「!…成功しました、指令機の言語変換を日本語から犬語へと変換し直して
みたのですが…。」
「随分と、訛りが強い犬語のような気もするが…。」
2人と1匹の前で、先行者改がゆっくりと動き出した、
「ぴっこぴっこ♪」…ポテトもこの新たな装備にすこぶるご満悦のようだ。
(補足であるが、そら・ぴろ・ポテトにも実はちゃんと支給装備が存在する)

…と、セリオのセンサーが新たなライバルの接近を感知した、
「…!浩之さん、…。」
「…!判った、セリオ。」
浩之とセリオは速やかに荷物をまとめると、先行者改に夢中になっている
ポテトに気付かれない様こっそりと、その場を去って行った。

「ぴこ?ぴこぴこぴこっ?」ポテトがようやく浩之とセリオがいなくなった
事に気付き、二人の匂いを探ろうとした時…
「ふえ〜ん、浩之さぁぁん…どうして、どうして悪い人になってしまったん
ですかああっ…。」…晴天の下、雨傘を差した小柄な少女(型メイドロボ)が
ベソをかきながら、とぼとぼとポテトの方へと歩いて来た。

TO BE CONTINUED?!

91パラレル・ロワイアルその38:2003/10/09(木) 18:10
「ふうふうふうふうっ…。」
「はあはあはあはあっ…。」
由宇・詠美・御堂・ぴろが去って一刻経った水族館中央ホール、
そこで頭を落とし肩で息をしているグローブ&レガースを装備した
体操着と空手着の二人の少女はCグループ第9組の松原葵(81番)と
坂下好恵(25番・代戦士)、そして少し離れた所では3人目の広瀬真希
(75番)も、支給装備の竹刀を取り落として荒い息を吐いている。

その3人の前では茶目っ気交じりの勝利のポーズを取っている2人…
Cグループ第10組の椎名華穂(46番・代戦士)と謎の覆面ベイダー
(72番・代戦士)である。

「ぱちぱちぱち…。」
「うにぃ、おばさん達強いね。」
「お母さんとどっちが強いのかなあ?」
「もう名雪ったら…それよりも皆さん、お弁当の用意が出来ましたわよ。」

…中央ホールの休憩所には第10組3人目の水瀬秋子(90番)のみあらず、
更にどういう手段を使ったのかはまだ秘密ではあるが、Bグループ第7組の
遠野美凪(62番)・みちる(87番)・水瀬名雪(91番)まで揃っていた。

元々、Cグループ第9組はCグループ第11組の来栖川綾香(36番)との
対決を望んで水族館で待ち伏せしていたのである、そこで第10組と遭遇し
一旦は戦闘になったものの、第10組は第9組が3人とも飛び道具を使わず
肉弾戦を挑んで来た事にノリを良くし、第9組を失格にならないよう手加減
付けて見事に返り討ちにしてしまったのである…そして、その結果に度肝を
抜かれた第9組の3人は教えを請うという形で第10組の2人に模擬再戦を
お願いしていた所、そこへBグループ第7組が更に合流して来たのである。

…という訳で、9人と1匹は現在昼食タイム中である。
「しっかし、見事に騙されちゃったな〜アタシてっきりベイダーさんの正体
は南明義だとばかり思ってたのに…って、この厚焼き玉子凄くうめぇっ!」
「実ハ私、氷川サントハ面識ナクッテ…トニカク参加シテミタカッタモノデ
あやめサンヤ美夜子サン、晴子サン秋子サンノツテカラ華穂サンニ御紹介ヲ
シテ頂イタノデスヨ…。」
「…で、貴方達2人はエクストリームチャンプの来栖川綾香さんに格闘技の
実力で勝つために…?」
「はいっ、そうなんですっ。」
「…だけど、いきなりこんなザマじゃ自信失くしそうだ…私達ってまだまだ
井の中の蛙なのかなあ…。」
「何言ってんのよ、その若さで!」
「…………………………とても、美味しいです。」
「にゅ〜、ぽち、ゆで卵一気食いだよ〜。」
「嫌だ、お母さんっ!…このジャムサンド、ひょっとしてええっ!」

92パラレル・ロワイアルその39:2003/10/09(木) 18:15
…などと騒ぎながら食事を楽しんでいると、中央ホールに更に2人の男が
入って来た…他の6人も勿論そうだが、秋子・華穂・ベイダーの驚き様は
尋常ではなかった、賑やかに食事を取っている最中でも…いや最中だから
こそ3人とも索敵を怠る事無く中央ホールのみならず、周囲の足音・空気の
流れすらにも五感を研ぎ澄まして網を張っていた筈なのに、その2人の男は
気付かれる事無く懐深くまで肉薄していたのである…。

…3人は思い知った、上には上がいるという事を…そして、もしこの結論が
間違っていなければ、3人…いや、9人と1匹の総掛かりでもこの2人には
恐らく、太刀打ちは出来まい…。

「驚かせて済まなかった…しかしげーむとはいえ、食事中の婦女子に戦いを
挑むつもりは全く無いのでどうか安心して頂きたい。」
「…驚カセテ頂キマシタ…今以上ニ驚カサレル事ハコノげーむ中ニハ恐ラク
無イ事デショウネ…。」
やっとの事でベイダーが口を開き、残り8人と1匹の緊張を解いた。

勿論の事であるが…入って来た『尋常ならざる2人の男』とは、Cグループ
第13組…全参加者中最終の組の2人でもある坂神蝉丸(40番)・光岡悟
(15番・代戦士)の2人だ。

「えええっ?じゃあ、まさか…?」「そうか、しまったあ!」
いきなり、葵と坂下が素っ頓狂な声で叫ぶ…どうやら、2人が待ち受けて
いた第11組は港・ヨットハーバー方面のルートを選んでしまったらしい
その事実にやっと気付いてしまったようだ、
「どうも、ご馳走様でしたっ!」「色々とお世話になりましたっ!」
言うが早いか、葵と坂下は荷物を掴んで蝉丸・光岡の横を走り抜けると
自分達が元来た連絡通路を大急ぎで逆走して行った、
…そしてワンタイミング遅れて、
「置いてきぼりにすんじゃねーよ、全くあのバカ供があっ!…あっおばさん
達、ホンとに色々と有難う御座いましたあっ!!」と叫ぶ広瀬が後に続いて
逆走して行った。

「…でも大丈夫かしら、あの3人…?」
蝉丸と光岡にもお弁当を差し出しながら秋子が呟く、
「確かに…蝉丸さん達がここにいらっしゃるという事は…。」
華穂の言葉に魔法瓶入りの味噌汁を味わっている蝉丸も頷く、
「第12組の高槻03・04・05も港・ヨットハーバー方面へ向かったと
結論さざるを得ないからな。」

「…しかし、それが彼女達が望んで受けた試練なのだというのなら…我々の
手出しは無用の干渉であろう…。」
光岡は冷静にそれだけを言うと、タコさんウインナーを口へと運んだ。

TO BE CONTINUED?!

93パラレル・ロワイアルその40:2003/10/10(金) 18:13
…ココはスタジオ・舞台村の植物園側入口前にある駐車場、
「ヘイ高野!御前未だに現役で戦場で頑張ってイルソーダト聞いてたガ。」
「…ふむ、以外ですね…まさかその貴方にこんな副業がありましたとは。」
「会社社長で所帯持ちとか喫茶店のマスターとかに言われたくないスよ。」
Aグループ第10組の高野(110番)はジョージ宮内(39番・代戦士)と
フランク長瀬(116番)のツッコミをツッコミで返すと、タンクトップに
タオル鉢巻とエプロン姿で汗だくになりながら、目の前の熱した鉄板型と
格闘を開始した、
「…俺だって年中日がな、傭兵ばかりやってる訳じゃないんですよ…春夏
そして秋と世界中の戦場を駆け回って…いい加減、心に荒みを感じてきた
冬にだけは故郷に帰って北の街でひっそりと鯛焼き焼いて売って暮らして
…心神のリフレッシュを図っているんですよ…。」

「しかし、ユーは昔から…射撃・格闘・ブービートラップ・爆発物の腕の
方は仲間内でもピカ一と評判の腕前ナノダガ。」
「…何故か、走るのが異常に遅い上に、追跡とか尾行とかがからきしダメ
なんですよね。」
「何が言いたいんです?2人してさっきからロクでもないツッコミばかり
入れて…。」
ジョージとフランクはそれ以上は何も言わず、汗だくの高野の前で一緒に
汗だくになりながらもニコニコ顔の少女の方に、すっと目線を向けた。

「おじさんっ、はやくはやくっ!」…高野の前で興奮してはしゃいでいる
その少女は毎年北の街で高野の焼く鯛焼きを食い逃げ…もとい食べに来る
お得意さんであった、

「ぱりっとして、ふわっとして、あんこがしっぽまでだよっ!」
その食べる姿が余りにも嬉しそうで余りにも愛らしいが故に…何度食い逃げ
されようとも、おねだりをされるとつい又、所持金を確かめる前に鯛焼きを
焼いて差し出してしまう…そんな不思議な少女だった。

…しかしまさか、こんな真夏にクソ熱い思いをして鯛焼きを焼く羽目に…!

高野の支給装備は発泡スチロール弾頭のM203ランチャー付きM16A2
ライフル(エアガン)と…鯛焼き屋の屋台(材料・燃料及び麦茶入り冷蔵庫付)
であった、
『G.Nは俺の副業も知ってやがったのか…しかし悪いが、真夏の炎天下で
鯛焼きを焼く趣味なんて俺にはねえ。』…そう即決し、舞台村に侵入したら
麦茶だけ頂いて屋台は駐車場にうっちゃってしまおう…ところが、果たして
それをいざ実行しようとした、まさにその時…
「おじさんっ!たい焼きだよっ!」
…いま、目の前にいる少女…月宮あゆ(元61番)に見事、バッチリ捕まって
おねだりをされてしまったのである。

「お嬢ちゃん、悪いけどこんな真夏日には、鯛焼き屋は店仕舞なんだよ。」
「うぐぅっ、そんな事言ったらダメなんだよっ…。」

…やはり食い下がられてしまったか…しかし、冬の北の街なら兎も角として
こんな真夏の島で、しかもかつての戦友達の見てる前で鯛焼きなんかを…。
「第一、お金を払ってくれない悪い子に焼いてあげる鯛焼きは…。」
…心苦しいが、切り札の台詞を…。
「うぐうっ、そんな事言ったらひどいんだよおっ…うぐっ、えぐひぐっ。」
目にいっぱい涙をためて、あゆは鯛焼き屋のオヤジこと高野に縋り付いた、
「うぐうっ、おじさんのたい焼き…食べたいよおっ…うぐっ…えぐっ…。」

…………………………………………………………………………………………
…………高野は観念した…あゆが満足してくれるまで一時の間だけ冬の街の
鯛焼き屋のオヤジに戻る事にした。

94パラレル・ロワイアルその41:2003/10/10(金) 18:14
【しうーーー。
焼き音と共にたいやきの皮の、甘く香ばしいにおいが広がっていく。
暴れ回っていたあゆが、ようやく動きを止める。
「しっぽまでだよっ!」結局、言う事は変わらなかった。
            本作・354話『たいやきだよっ!』より抜粋】

「ヘイ、高野!御客サンが来たゾ!!」ジョージが叫んだ、
「!」高野は素早く肩から背負ったM16を構え直すと、喜色満面に鯛焼き
を頬張っているあゆの手前に回り込んだ…この間2.5秒、
「…違いますよ、高野さん…そういう意味ではありません…。」フランクが
そう言い、指差すほうを見た高野の顔色が変わった、
「いい仕事なさってますねえ…私にも作っては下さらんかな。」
「かような戦場にて鯛焼き屋を営むとはその意気や良しっ!…主、是非とも
味の方を確かめさせて頂こうっ!」
「…それにしてもよくまあ、これだけメンズミドルばかり揃ったものねえ…
ま、それはそれとしておじさん…私にも鯛焼き食べさせて頂戴な。」
Aグループ第11組の長瀬源之助(115番)・高倉宗純(54番・代戦士)・
杜若きよみ【覆製身】(16番)が追い付いて来て一斉に鯛焼きを注文した。

…不本意ながら、高野の鯛焼き屋は第2ラウンドへ突入しようとしていた。

その頃、植物園では…
『操縦席は俺が乗る、お前等は銃座へ回れ!』
支給衣装をその身にまとった3人のマ・クベ大佐が真剣な表情で同じ言葉を
ハモっていた…

Aグループ第12組の高槻01(104番)・高槻02(105番)・高槻06
(109番)に支給された装備は、1台の装甲エレカであった、
オープンカータイプで装軌式、操縦席の他に電動エアマシンガン銃座一基と
放水銃座ももう一基取り付けられている、最高時速は40kmでライバルを
轢いてしまわないよう、緩衝材付のドーザーブレードが取り付けられている
…三人頭の支給ではあるが、先行者改に引けを取らない重装備だ。

…G.Nに共闘を半ば強制された事は些か不本意な気もするが、それならば
優秀な頭脳を結集させた時の俺達の力を見せ付けてやるのもまあ悪くない、
出会った奴を片っ端から蹂躙してやろうではないか。

…という訳で、装甲エレカは巨大公園へ向けて出発した…見通しの悪そうな
スタジオ・舞台村での近接戦・ゲリラ戦を避ける高槻らしい選択であった。

TO BE CONTINUED?!

95パラレル・ロワイアルその42:2003/10/11(土) 13:30
「しかしまぁ、うっかり見落とす所だったわね。」
Bグループ第10組の巳間晴香(92番)は、自分の支給装備である木刀の
具合を確かめながら口を開いた、
「確かに…『不可視』の私達3人いきなり集めて、飛び道具ではないにしろ
ルールスレスレの強さの得物を支給して…。」
「後から来る『隠れ大本命』さんと是非とも戦って頂きたい…と、そういう
訳でありましたか。」
10組の残り2名、天沢郁未(3番)・鹿沼葉子(22番)も、それぞれの
支給武器であるトンファーと六尺棒を軽く振り回してみせる、

「G.Nの御膳立てにまんまと乗る形となってしまったが、『連中』を
手際良く迎撃・無力化できる最大のチャンスが今なのも事実だしな。」
「確かに、『力』の加減を間違えてオーバーダメージを与えてしまわない
限りはこちらの圧勝以外は考えられないが…例え万一の事態でもこれだけ
揃えておけば間違いはないだろう。」
Bグループ第11組の巳間良祐(93番)は、持参装備であるリボルバー式
ランチャーのマガジンにギッシリ詰まったトリモチ弾を見やって頷いた。

「それに僕達兄妹もいる…力押しの相手に敗れる事はまず有得ない筈だ。」
同じく第11組の月島拓也(59番)が妹・月島瑠璃子(60番)の頭を撫で
ながら自信満々に笑みを漏らす…彼等にも巳間の持参装備であるランチャー
が(拓也・ペイント弾、瑠璃子・閃光音響弾)が手渡されている。

取り敢えず彼等の作戦はこうだった…Bグループ第12組に肉薄されるまで
の間は、トリモチ銃・ペイント銃・閃光音響銃でひたすらに銃撃を浴びせて
無力化に勤め、肉薄されたら不可視三連星に肉弾戦でトドメを刺して貰う…
その際、月島兄妹には『電波』による援護を行って貰い、巳間は識別装置の
狙撃を行う…といった手順である。

…果たして、隠れ大本命・Bグループ第12組が急速接近でやって来た…。

96パラレル・ロワイアルその43:2003/10/11(土) 14:33
…Bグループ第12組の長瀬源五郎(112番)は、今…己の身に纏っている
己の持つロボット工学の全てを結集して作成した試作装甲強化服のその力を
試す事が出来るこの瞬間を、長い事待ち望んでいた…。

この来栖川アイランドには他の来栖川家所有の巨大施設同様、VIP護衛や
カウンターテロを目的とした直属の最新鋭・最精鋭の自警組織が存在し、
そのメンバーをサポートすべきハイテク装備や専用メイドロボ(というより
はむしろガードロボ)は採用品・試行途中品・試作段階品を問わずストック
を豊富に有していた、

源五郎はその中から是非とも試してみたい装備を選りすぐり、搭載武器のみ
サバゲー用に換装した物を持参装備としてこのゲームに参加したのだった、
武器の殺傷能力制限を除けば事実上、持参装備に制限はないというルールを
最大限利用したのである…勿論、源五郎に随行している戦闘用HM−12
(101番)・戦闘用HM−13(102番)にも、同様の装備・改造を施して
ある。

その目的は唯一つ、『対能力者模擬戦闘実験』…源五郎がハイテク装備や
専用メイドロボを開発するに当たって、カウンターテロ能力に対する問題で
最も懸念したのは『能力者テロリストに対する対応能力及び性能』である、
特に最近はFARGOを初め、そういった『能力者』をストックしていると
思しき組織・団体が少なくなくなってきた…是非とも実戦実験をしてみたい
所であるが「はい、そうですか」と協力してくれる能力者がいてくれる筈も
なく、これまでの源五郎の対能力者実験はコンピューターシュミレーション
の域を出る事が出来なかった…そこへこの、千載一遇の大チャンスである、
彼にとってなぜ利用しない手があるものか?

「交戦禁止区域ヲ離脱…更二前方200めーとるノ森林二らいばる集団ヲ
発見…。」…戦闘用試作HM−13改(102番)より通信が入る、
「HM−12へ、ライバル集団の分析を可能な範囲で頼む。」
源五郎が戦闘用試作HM−12改(101番)へと通信を行う、
「分析完了、らいばる集団人数6名、
03番・天沢郁未…装備・とんふぁー、
22番・鹿沼葉子…装備・六尺棒、
59番・月島拓也…装備・特殊銃器デ弾種不明、
60番・月島瑠璃子…装備・特殊銃器デ弾種不明、
92番・巳間晴香…装備・木刀、
93番・巳間良祐…装備・特殊銃器デ弾種不明、以上デス。」
「リークした甲斐があったな…彼らは案の定、私達を倒す為に集結して
くれていた様だ。」源五郎ははやる気持ちを一旦静めると、冷静に現状を
分析した後、娘達に指令を送った、
「HM−12は右側面、HM−13は左側面よりライバル達の退路を断つ
形で回り込んでから各自攻撃を開始してくれ…私は一番手で正面から進み、
フリージーヤード及び脳波強制安定装置の調子を存分に試させて頂く事に
する。」 「…父様!」 「余り二危険過ギマス!」
「案ずる必要は無い…『虎穴にいらずんば虎児を得ず』だ、もし私の設計と
シュミレーションの結果が正しければ…連中の攻撃は私に通じない筈だ。」
「…解カリマシタ。」 「父様ドウカ、オ気ヲツケテ。」

…源五郎は、自分達を待ち受ける第10組・11組の前へとその姿を現した。

TO BE CONTINUED?!

97パラレル・ロワイアルその44:2003/10/13(月) 16:09
「ば…化け物め!」巳間良祐(93番)は交戦開始直後に早くも自分の読みの
甘さを思い知らされる事となった…頼みの綱のトリモチ弾はもう既に何発も
目前まで迫り来る強化服に命中しており、巳間の隣にいる月島拓也(59番)
の放っているペイント弾も強化服のセンサーと思しき場所に次々と命中して
赤い飛沫を飛び散らせている…のだが…

強化服から分泌され、その全身を覆ってヌラヌラと滑った光沢を放っている
ゲル状の液体装甲がたちまちの内にトリモチを溶解し特殊塗料を洗い流して
しまっているのである…しかも閃光音響弾に至っては全く手応えらしき反応
すらない…更に、

「お兄ちゃん、おかしいよ…電波、届いてる筈なのに…」
瑠璃子が首を傾げて言う、
「嘘だ、俺の…瑠璃子の電波が…通じないなんて、そんな…そんな事がっ…
そんな事は有り得ない、有り得ない有り得ない有リ得ナイイイイイイッ!」

「…ふむ、源一郎さんから頂いたオゾム波電気パルス関連のデータはかなり
正確だったようですねえ…それにしても、流石に完全に無効化という訳には
いかないようですね…。」
源五郎は先程から仕切りとこみ上げて来る不快感・頭痛・吐き気に悩まされ
ながらも、電波の発生源目掛けて反撃の口火を切った、
強化服右肩部に装備された電動式のエアガトリングガンが、前方10m程で
自分目掛けて特殊銃器を撃ち続けている、巳間・拓也・瑠璃子にBB弾の
シャワーを容赦無く浴びせ掛けた。

ビシッ!「ぐふおっ!」
ビシッ!「馬鹿なっ!」
ビシッ!「…………!」
『ビーッ、93番・巳間良祐、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』
『ビーッ、59番・月島拓也、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』
『ビーッ、60番・月島瑠璃子、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』

…勿論、巳間・拓也・瑠璃子とてガトリングガンの前に無防備で突っ立って
いた訳ではない…事前に巳間の本来の支給装備であったサランラップを森の
木々の間に光の反射で見付らないよう幾重にも張り巡らして、対BB弾用の
不可視のトーチカを構築していたのである、そして彼等3人は張り巡らした
サランラップの間の銃眼状の隙間からそれと悟られないように銃撃していた
筈なのである…なのに、ガトリングガンの弾はその銃眼状の隙間を目掛けて
殆ど正確無比に殺到し、柱である木々に当たってトーチカの中を跳ね回った
のである…

…彼等は知る由も無かった、余りにも隙間無くサランラップを張り巡らした
ために、トーチカ内に溜まった3人の呼気が、源五郎の強化服に内蔵された
サーモグラフィーに、3人の周囲の空間の僅かな気温上昇を表示していたと
いう事を、そして源五郎が拡大映像で確認した結果『空中に止まっている』
一匹のセミを発見し、3人のカラクリを反撃前に見破っていたという事を…
後は、気温上昇した空気の漏れ口をサーモグラフィーで探知発見し、そこへ
砲火を叩き込む…それだけで反撃は完了した。

【93番・巳間良祐 59番・月島拓也 60番・月島瑠璃子 脱落…残り90人】

98パラレル・ロワイアルその45:2003/10/13(月) 16:47
…失格判定が下るおよそ1分前、月島瑠璃子(60番)は既に、自分の電波が
迫り来る強化服に対し無力である事を悟らされた時点で自分のゲーム脱落を
確信してしまっていた。

…彼女にはこのゲーム中に是非とも探し出しておきたい人物が一人いたので
あるが、事ここに及んではもう会う事など叶いそうにも無い…。

…瑠璃子は彼女なりの最後の意地と執念で精神を集中させ、能力を限界まで
増幅させると、このゲームにおける自分最後・最大出力の電波を遥か遠くに
いるであろう目標の人物目掛けて、思い切りに解き放った…そして次の瞬間
エアガトリングガンの跳弾の嵐の中で、彼女はこのゲームから脱落した…。


「…長瀬ちゃん…電波、届いた?」


…その頃、鯛焼きパーティー真っ最中であるスタジオ・舞台村入り口にて、
A12組(高槻01・02・06)の追撃警戒の為、交代で歩哨に立っていた
フランク長瀬(116番)をいきなり、ダイレクトで激しい快楽が襲来した。

「え゛っ!?…あっるっルリコっ…そっそこはっ!あっ!ルリコ止めっ…!
イッ…イク!?…あうあうあうあうはうはうはうはう…う、うほおっ!!」

…そして、フランクの最後の叫びと共に快楽は去って行った…短い間の快楽
ではあったが、絶頂に達し思い切り果てるには充分過ぎる位の快楽だった。

…しかし、現実へと戻ったフランクが最初にさせられた事は、一時の快楽の
代償として…湯気と臭いを放ってシミを広げていく、己のズボンの中一杯の
温もりに顔色を青白く変える事であり、そして…

『ビーッ、116番・フランク長瀬、アタック・メルトダウンにより失格…
最寄のしかるべき施設にて下半身を洗浄後、直ちに交戦エリアより退いて下さい』

のアナウンスに、鯛焼きに全神経が傾き切っているあゆあゆを除いたその場の
全員が一斉に自分の方を向いて絶句している…その視線に耐える事であった。

【116番・フランク長瀬 脱落…残り89人】

TO BE CONTINUED?!

99パラレル・ロワイアルその46:2003/10/14(火) 20:26
「ああっ、兄さんっ!」巳間晴香(92番)は前方で跳弾の嵐と化している
サランラップのトーチカを見て思わず声を上げた、
「…熱くなってはいけません、作戦に狂いが生じた上に長射程飛び道具を
持った相手3名を同時に相手するのは現状得策ではありません…ここは、
包囲網の一角を切り崩して撤収し、再び作戦を練り直した上で次の機会を
待った方が宜しいかと思います。」
鹿沼葉子(22番)の冷静な意見に天沢郁未(3番)も頷く、左側面後方に
回り込んでいるHM−12(101番)を集中攻撃で素早く倒し、そのまま
脱出するという結論に達した…HM−12は晴香が交戦歴があり、得物も
大型放水銃という、HM−13(102番)のM60型エアマシンガンより
機動性と命中精度に劣る物であったからである。

「!…3番・22番・92番、共ニコチラヘ急速接近中…当方迎撃用意開始
当方ノミニヨル阻止成功率15%、至急当方へノ支援攻撃ヲ求メマス…。」
HM−12は木々を盾に不可視三連星が自分目掛けて肉薄して来るのを確認
すると、長瀬源五郎(112番)及びHM−13に報告し、迎撃態勢を整えた

…木々が盾となってしまっている以上大型放水銃は重いだけの無用の長物で
ある、足元へ破棄する…3人は目の前だ、一体誰から…?…やはり見覚えの
ある木刀を持った女性が一番手で踏み込んで来た…木刀の先は自分の顔面を
狙っている…事実上回避は不可能だ、回避すれば次の瞬間、両隣後方の残り
2人に確実に仕留められる…獅子哮・改を使うなら口を、さもなくば自分の
右即頭部にスコープ状に固定されている識別装置を狙う二段構えの模様だ、

…結論…識別装置をやらせる訳にはいかない!…HM−12は口部を大きく
開き、獅子哮・改を使う『そぶり』を見せた、

「貴方なら木刀でもオーバーダメージの心配はまずないわ、だから遠慮なく
やらせて貰うからねっ!」…案の定(シュミレーション通り)、晴香は木刀を
HM−12の口へと思いっ切り捻じ込んで来た…HM−12は木刀を其の儘
思いっ切り咥え込んだ…鉄パイプや日本刀ならともかく木刀ならば噛み砕く
までは行かなくても歯を食い込ませる事は充分、可能である。

「な…!」HM−12の予想外の反応に加え得物が一瞬、ビクとも動かなく
なった事により、驚き慌てた晴香の動きが一瞬止まる、その一瞬のスキを
見逃さず、HM−12は両の手首を切り離してワイヤー付きロケットパンチ
(正式名称・鉄腕砲)を晴香目掛けて射出した!

しかし…「やらせませんっ!」右手首は葉子の六尺棒に足元へ叩き落された
そして…「ハアッ!」左手首も郁未の左のトンファーで足元へ叩き落された
更に、流れる様に郁未の右のトンファーが其の儘連撃で振り下ろされる…。

…木刀を咥え、両手首を切り離した今、この郁未の繰り出した有効打を回避
する事は、ほぼ100%不可能である…コンマ1秒の間に自分のゲーム脱落
が確定だと結論付けたHM−12は、最後の戦術を実行開始した、
足元に叩き落された両手首が、既に足元へと破棄していた大型放水銃の高圧
ポリタンクに手を掛け、力任せに握って大きな亀裂を入れた。

…不可視三連星がHM−12の大型放水銃が、電気式ではなく高圧空気式で
ある事にやっと気付いた時には…HM−12の周りには轟音と共に盛大なる
水飛沫が飛び散り舞い上がっていた。

100パラレル・ロワイアルその47:2003/10/14(火) 21:25
「…報告致シマス、当方…徹底交戦ノ末、脱落致シマシタ…。」
「う、うそでしょ…。」
「お、お粗末…。」
「………………。」
『ビーッ、101番・HM−12、自爆攻撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』
『ビーッ、92番・巳間晴香、有効爆風直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』
『ビーッ、22番・鹿沼葉子、有効爆風直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』
『ビーッ、04番・天沢未夜子、有効爆風直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』

「え!?」
…轟音と水飛沫に朦朧状態となっていた天沢郁未(3番)は、自分ではなく
母・未夜子の名を呼ぶ失格アナウンスに驚き、瞬時に意識を取り戻した、

…そして、自分に覆い被さって濡れ鼠になってしまっている母・天沢未夜子
(4番)の姿に二度、驚かされる事となった。

「お母さん、どうして…?」
「よかったわ、郁未…お母さん急いで走って来て…何とか間に合ったみたいね。」

未夜子の息は荒い…当然である、大灯台広場から土産物商店街外れまでは決して
近い道のりではない…なのに母は、自分のために敢えて強行軍を行いそして、
最後は自分の盾となってゲームから脱落したのである。

「お母さんっ…。」
郁未は『“脱落→死体”となったプレイヤーはエリア撤収完了するまでの間、
“遺言”一言分のみの発言・会話しか許されない』というルールに従って
沈黙した母・未夜子の体をしっかりと抱き締めた。


そして、その頃…
『ビーッ、102番・HM−13、識別装置離脱により失格…直ちに
交戦エリアより退いて下さい』

ひねりを加えて飛んで来た三枚の牛乳ビンのフタに、HM−12と同様に
右側頭部に装着されていた識別装置の固定ベルトを全て切断されてしまった
HM−13(102番)が、驚愕の表情をその機械の瞳に浮かべて、目の前の
少年(48番)を見やった、「ア、貴方ハ一体…。」

「…もしかしたら、ある意味…同族なのかも知れないね…。」
少年は、支給装備である牛乳ビンのフタの残りを袋にしまうと、
「それにしても…間に合ったのやら間に合わなかったのやら微妙な所だね。」
とひとりごちた。


…余談ではあるがB12組最後の一人、長瀬源五郎(112番)は既に撤収を
完了していた…というのも、C6組の未夜子の電撃合流はある程度予想して
はいた源五郎であったが、まさかC7組の少年までもが信じられない速さで
この戦場まで到達していたという事実を、HM−13の接敵・脱落報告を
受けてから初めて、知らされたからであった。

…自分の『能力者』に対する過小評価を思い知らされた源五郎は、賢明にも
最強クラスの『能力者』との現段階での交戦を避ける決断を下したのであった。

【04番・天沢未夜子 22番・鹿沼葉子 92番・巳間晴香 
 101番・HM−12 102番・HM−13脱落…残り84人】

TO BE CONTINUED?!

101パラレル・ロワイアルその48:2003/10/15(水) 19:46
東鳩マーダーチームに破れ撤収の末、スタート地点まで戻って来てしまった
4名の内の1人、御影すばる(84番)は「腹が減っては戦が出来ないですの。」
とばかりに土産物商店街ことBエリアフードスタンドにて、カツカレーライスを
注文してしまったばっかりに、このゲーム2度目のタイメン(女同士なので)
勝負を始める事となってしまった、その対戦相手とは勿論…

「自分では確かめる事が出来ませんもので…あの、似合っておりますでしょうか
この支給衣装…?」
「ララァ・スンだよね、すっごく似合ってるよぉ、イメージピッタリ!」
ハンバーグ定食をパクついている芳賀玲子(70番)が、その美しさを手放しで
誉めそやしている盲目の少女…大食い勝負執行人・川名みさき(28番)である。

『それでは…宜しくお願い致します。』(ハモッています)


――――――――――――――― 一刻後 ―――――――――――――――


「すっご〜い、2人とも15杯目に突入したよぉっ!」鉄火丼を頬張っている
三井寺月代(83番)の歓声に対し、
「…ですが、2人の顔色にかなり差がついて来ている様な気が致しますが…。」
冷麦を啜っている桑島高子(38番)は心配そうにすばるの顔を眺めながら
言葉を返した。

…確かにすばるの顔色は、心の中で『ぱぎゅう』の絶叫を連発しているのでは
ないかと思う位、青くなり始めている…カレーを口に運ぶスプーンの動きにも
乱れが目立つようになり始めたし、時折お冷で無理矢理流し込んでいる素振り
も見える、

…対するみさきの方は相変わらず美しく正しくスプーンを動かし、よく噛んで
味わいながら嬉しそうにカツカレーを味わっている…それ以前にお冷が全然、
減っていない有様!

もう誰の目にもこの勝負の大勢は見えていた…むしろ、今までよくぞみさきの
ペースに追いついて食べ続けられたものだと、すばるを賞賛したい位である。
やはり、みさきと互角の勝負を出来るのは既にリタイアしてしまったスフィー
位であったのだろうか?

『ぱ…ぱぎゅううううっ、も…もう駄目ですのぉ。』
『美味しいカツカレーです♪これなら20杯はいけそうだねっ♪』

…それぞれの思惑を胸に、2人が15杯目のカツカレーのフィニッシュを
口に含んだ瞬間、フードスタンド備え付けの大型モニターにいきなり電源が
入り、画像が移し出された!

102パラレル・ロワイアルその49:2003/10/15(水) 21:10
すばるVSみさきの早食いバトルが佳境を迎えた頃、リバーサイドホテルの
祝賀パーティー会場は半ば、『脱落者の間』と化して危険な盛り上がりを
見せ始めていた…。

①テーブルA
「本作から続けざまの『雫』組のこの扱い、余りに酷いんじゃないの!?」
「え〜ん、香奈子ちゃ〜ん。」
「ミズホ…別れ別れじゃなかっただけでも今度の方がまだマシダッタヨ…。」
「瑠璃子…済まない、不甲斐ない兄を許してくれ。」
「もういいよ、お兄ちゃん…『最後の意地』だけはあの男にちゃんと見せて
あげられたし…。」
「それにしても…祐介君はともかく、どうして先生まで未だ残ってるのよ?」

②テーブルB(長瀬源三郎・未だ失神中)
「ゴメン、楓ちゃんっ!」
「…いいのです、耕一さん…残念ながら、私達の出番は早くも無くなっては
しまいましたが、代わりに今…こうして2人きりでいられるのですから…。」

③テーブルC
「ひどいよ、浩之…どうして僕も仲間に入れてくれなかったんだろう…?」
「仕方ないじゃないの、キャラが合わないんだから…って、まさかこのアタシ
長岡志保がこんな早々と脱落しちゃうなんてええっ!!」
「…でも、あの時の浩之ちゃん、とってもカッコ良かったよね♪」
「あかり先輩っ、そんな事いわれたら私、たまらないですよぉっ!」
『父様、ソシテ姉様…ドウカ私達ノ分マデ御健闘ヲ…。』(ハモッています)

④テーブルD
「…………………………………………。(まさか、W・Aは私一人ですか?)」

⑤テーブルE
「不覚です…やはり私は今回もスタッフ参加するべきだったのでしょうか?」
「た・い・し・ぃぃぃぃ〜っ!!か・ず・き・ぃぃぃぃ〜っ!!」
「お、落ち着くんだMYシスター!」
「み、瑞希…は、話し合いで穏便に解決を…。」
「2人共、覚悟はいいわね…特に大志、今度は反対向きにテニスラケットを
突き刺してあげるから…(じりじり)。」
「#$〇★Щ<ヾ℃@Э£%¶▲◎&◇〜〜っ!?」

⑥テーブルF
「あの〜、皆様お帰りなさいまし…どうも、お疲れ様でした。」
「み、みどりさん………………………。」
「…………………………………………。」
「…………………………………………。」
「…………………………………………。」

⑦テーブルG
「くうっ、誇り高き大日本帝国軍水戦試挑体の、この私とあろう者がっ!」
「花枝さん、どうか落ち着いて下さいっ。」「ケロケロッ。」

⑧テーブルH
「ど、どうしてっこんな事にっ?私、本作で最後まで生き残ったのよっ!?」
「…完全なる作戦ミスと、敵の過小評価をしてしまっていた様だ…。」
「お、お粗末…信心が足りませんでした…。」
「郁未…お母さんの分まで頑張りなさい。」
「お、お姉ちゃん…。」
「……………………。」

⑨テーブルI及び⑩テーブルJ・無人、…そして、⑪テーブルK
「…や、焼き鳥だ…アノクソガラス…羽をむしってローストクロウだ…
早く戻って来ないかな、あの時の雪ウサギみたいにぐちゃぐちゃにして
やりたいな…簡単に殺したりなんかしないんだ、生きたままたっぷりと
鳴かせてやるんだ、そして止めは観鈴の前で刺してやるんだ、そしたら
きっと…。」
「ゆ、往人さん…壊れちゃったら、壊れちゃったら駄目なんだよっ。」
…がすっ。
…ごとり。
…むくっ。
「うっ…みっ、観鈴…俺は今、何か呟いていたのか…?」
「よかった…観鈴ちんのまぶだち、元に戻ったよ、ぶいっ。」

…その頃、VIPルームの方では…
「あ、あの…何なんでしょうか?この、耳栓と目隠しは一体…??」
氷川シュン(元72番)は霧島佳乃(元31番)から手渡されたアイテムを見て
目を白黒させ尋ねた、
「何でも、これから50話記念で第1回目の定時放送があるんだけれども、
インパクトもとい、ショックが大きいかもしれないんで、心臓の弱い方は
見ない方がいいかもしれないからって…。」
「で、でも…立川郁美ちゃんは、ほら…。」シュンはモニターを見ながら
サンドイッチをつまんでいる立川郁美(元56番)を指差す、
「あの子は、既にそのショックを経験済みだからもう、大丈夫なんだって。」
「…経験済みって、一体何がそんなにショッキングなんだろう?」
「『なんだろう?』って、急がないともう、始まっちゃうよっ。」
「…あんな小さな子が耐えられたんだから多分大丈夫だよ、付けなくても。」
「だから、あの子は予備知識で心の準備が出来てたから…。」
『あ。』(ハモッてます)

…案ずる佳乃と、好奇心を膨らませながらそれを制するシュンの目の前で、
大型モニターの画面がいきなり切り換わり、第1回目の定時放送が始まった!

TO BE CONTINUED?!

103パラレル・ロワイアルその50:2003/10/16(木) 20:37
…その瞬間、来栖川アイランドの空及び、殆どすべての施設・設備の
モニターというモニターに、『それ』は一斉に映し出された、

…水中に設えられた安楽椅子にふんぞり返り、足を組んで葉巻を燻らしている
お世辞にも可愛いとは言い難い謎の水棲生物のCG…そして轟く失禁ボイス!

「オウ!テメエ等待たせたなっ!!このオレ様がこのゲームの定時放送を担当
してやるバロンよしお様だあっ!!それじゃあ早速、この時間までの脱落者を
敬称略・死因付きで発表してやっから、耳の穴かっぽじって聞きやがれいっ!
02番・藍原瑞穂・銃殺っ!
04番・天沢美夜子・爆死っ!
08番・岩切花枝・能力死っ!
09番・江藤結花・水死っ!
10番・太田香奈子・銃殺っ!
18番・柏木楓・憤死っ!
19番・柏木耕一・撲殺っ!
22番・鹿沼葉子・爆死っ!
30番・砧夕霧・射殺っ!
33番・国崎往人・刺殺っ!
34番・九品仏大志・銃殺っ!
42番・佐藤雅史・銃殺っ!
49番・新城沙織・圧死っ!
50番・スフィー・銃殺っ!
53番・千堂和樹・銃殺っ!
55番・高瀬瑞希・服毒死っ!
59番・月島拓也・銃殺っ!
60番・月島瑠璃子・銃殺っ!
63番・長岡志保・ショック死っ!
66番・名倉由依・射殺っ!
67番・名倉有里・射殺っ!
73番・雛山理緒・銃殺っ!
79番・牧部なつみ・銃殺っ!
80番・牧村南・噛殺っ!
92番・巳間晴香・爆死っ!
93番・巳間良祐・銃殺っ!
100番・リアン・銃殺っ!
101番・HM−12・爆死っ!
102番・HM−13・能力死っ!
113番・長瀬源三郎・ショック死っ!
116番・フランク長瀬・能力死っ!
以上31名だっ、やっぱゲームだと皆テンション高けえなあ、オイ!

他に目に付いたトコといやあ…オイオイ、いきなり主人公様3名脱落かよ…
しかも、内2名があの耕一に往人と来たもんだ、ギャハハハハッ!!

作品別に見てみるとKanon・Oneは脱落者ゼロか、大したモンだな、
代戦士の方も脱落者ゼロか、やっぱ選ばれた連中なだけはあるわなあ。

次にスコアの方だが…生き残りで今んトコ3人頃しているのが2人、
2人頃しているのが3人、1人頃しているのが6人だなっ。

後、ルールの補足になるがよお、通過及び戦闘禁止エリアについてだが…
一応断っておくが、ガダルカナル21号みてえに侵犯即失格って訳じゃねえ、
入りたきゃ勝手に入ってドンパチしてくれてもコッチは一向に構わねえんだ、
そん代わり、迎撃システムやゲストの皆様扮する警備兵様の攻撃を食らったら
ルールに準じて脱落して貰っからその積もりでなっ…あ〜そうそう、空港&
ヘリポートエリアには一応、迂回通路があるから行き止まりと勘違いすんじゃ
ねえぞ。

後、この来栖川アイランドの沖に出過ぎない限りは水上に禁止エリアは無い
からなっ、ソコんトコ上手く利用出来れば賢くゲームが出来るぞ。

じゃあ、最後に『チェイサー』という新ルールについて説明してやろう、
これはな、各定時放送毎にリバーサイドホテルの観戦者及び脱落者の皆様で
生き残りプレイヤーのワースト投票を行い、見事1位となったプレイヤー様に
ゲスト代表の刺客プレイヤーを送り込もうって企画だあ!…で、もしもその
刺客プレイヤーことチェイサーが見事、標的となったプレイヤーを脱落させた
場合、今度はそのチェイサーが代わりにゲームに中途参加出来るってゆー寸法だ。

これから、第1回目の投票を開始すっからな、当選者はチェイサーの発送をもって
発表に代えさせて貰うから、自分のプレイングに身の覚えがあるプレイヤーは
楽しみにして待ってろや…取り敢えず、何回目の定時放送までやっかはまだ未定だ。

あ…そうそう、脱落者は自分を脱落させたヤツには投票出来ない事になってるから、
マーダーの連中は安心して頃しまくってろや、

じゃあ、次の定時放送までアバヨッ!!

TO BE CONTINUED?!

104パラレル・ロワイアルその51:2003/10/17(金) 21:00
『ぶふ〜〜〜〜〜〜っ!!』(ハモッております)

原因は敢えて伏せておくが…Bエリアフードスタンドの大食い勝負は、
御影すばる(84番)・川名みさき(28番)双方の15杯目完食失敗で
終了した…しかし、判定は引き分けとはならなかった。

『ビーッ、28番・川名みさき、場外乱闘技直撃により失格…勝者である
84番・御影すばるに戦利品として支給装備を授与して下さい。』

2人の勝負を分かったのは…それまでの余裕と躾の差であった、
大食い勝負自体において精神的にも胃袋的にも余裕があり、しかも
躾厳しい育ちであったみさきは、止む無き粗相を犯した際にも、
ナプキンで口を隠して、皿の上へとリバースするだけで、何とか
不祥事を片付ける事が出来た、

しかし…既にギブアップ寸前だったすばるには、突発的不祥事に対応が
出来る余裕などあろう筈が無かった…定時放送開始直後、真正面にいた
みさきを目掛けて…胃液と米粒の混じった黄金色の毒霧を思いっきりに
ぶちまけてしまっていたのであった!


「…ううっ、ひどいよっ、ひどすぎるよおっ。」
「ぱぎゅう〜、御免なさい…本当にホントに御免なさいですのっ。」
控え室で上半身下着姿となり、何枚ものおしぼりで顔や頭・体を拭いている
涙目のみさきの前で、すばるは土下座して謝っていた。

「…もういいよ、突発的事故みたいなものだったし…そんなに頭を低くして
謝ってくれなくても。」すばるの声の方向から土下座されている事を悟った
みさきは、流石にすばるをそのままには出来なくなってしまった。

「有難う御座いますですの、許して頂けて嬉しいですの。」

「…それでは、戦利品の方をこれからすばるさんに御渡し致します。」
…キレイキレイになって着替えを終えたみさきが、パスケースに入った
チケットのような物と、所々マークが入った来栖川アイランドの地図を
手渡して説明を始めた、

「…既に御存知かも知れませんが、この来栖川アイランドには地下鉄道網が
存在します…ゲーム中は正規の駅は封鎖されておりますが、こちらの地図に
記載されております各非常脱出口からこのチケットを鍵代わりに使用する事
により、このゲーム用に製作された電動式のトロッコによる移動を行う事が
可能になります…随行者限界は6名までで、トロッコの定員も6名です。」

「重ねて有難う御座いますですの、大切に使わせて頂きますですの。」

「…それと、情報を1つ…このゲームに於けるジョーカーは全参加者中、
私を含めて2名です…もっとも私は、リタイアした事を除いても、止む無く
ゲストでジョーカーとなった立場ですので、実質このゲームに用意された
ジョーカーは1名だけです…流石にそれが何方なのかは御教え出来ませんが
G.Nに次いで全ての情報を把握しており、強力な情報操作・探知の手段を
有しておりますので、とても手強い存在です…ですが、武力の方はそれ程
でもありませんので、もし正体を突き止めて捕まえる事が出来ましたなら、
きっと何とかなる事でしょう…それでは、貴方と連れの方達の御健闘を私、
お祈りさせて頂きます。」

「本当に有難う御座いますですの…貴方のような素敵な方にお会いする
機会がありました事を私、心から幸運に思っておりますですの。」
「…申し訳御座いません、残念ですが私、アブノーマルな恋は駄目ですので…。」
「ぱぎゅうううっ!そういう意味ではありませんですのっ!!」
「くすっ…冗談、だよっ♪」

【28番・川名みさき 脱落…残り83人】

TO BE CONTINUED?!

105パラレル・ロワイアルその52:2003/10/18(土) 16:38
「わわわ、大変だよおっ、だから…だから言ったのにいっ。」
霧島佳乃(元31番)は、定時放送開始直後に意識を失い、ずるずると床に倒れ
込んでしまった氷上シュン(元72番)を慌てて介抱した。

…心臓のトラブルである以上、人を呼んだり頼ろうとしたりする時間的余裕は
恐らく無い、私が…私がこの人を助けてあげないと!

そう決心した佳乃は、以前に姉・聖から教わった救急救命術の各手順を冷静に
思い出しながら、一つ一つ実践を行っていった…。

…まず、吐瀉物が喉に詰まっていない事を確認し、それから首の後に枕を当てて
気道を確保、次に首と体を締め付けている着衣をはだけて、息を吹き込みながら
心臓マッサージを交互に繰り返していく…と、

「う…ん…。」たちまち(『しばらくして』ではなく)シュンは意識を取り戻した、
「あ…シュンさん、よかったあっ。」
佳乃は涙目でシュンのはだけた心臓の辺りを優しくさすりながら、声を掛ける、
「大丈夫ですかっ?今すぐにお医者さんを呼んで来ますから…どうか今暫くの間
辛抱して下さいっ。」

「あ…あの…。」シュンは赤面してためらいがちに口を開く、
「何でしょう?どうして欲しいのですか?」
「いやその…僕が、意識を失ったのは…実はその…眩暈と貧血による一時的なもの
でして…恐らくはその、命に別状は…。」
「そうなんだ、よかった…って、ええっ!?じゃあっ…。」
安堵すると同時に今までの自分の大胆なる行為を思い出し、佳乃は唇を押さえて
たちまち赤面した。

「ご、誤解しないで欲しい…き、君の献身的善意には心から喜んでいるし、それに
元々こうなってしまったのも、君の注意を聞き入れなかった僕が全面的に悪いんだ
…だから、その…。」
「なっ、なんでしょう?」
「君さえ許してくれるのなら、その…今の心、忘れないで欲しいんだ、ずっと…。」
「えっ………………は、はいっ…私で宜しければ…。」
「ちょっ……そ、そういう意味で言ったんじゃあ……う、嬉しい誤解だけど……。」
「あ…わ、私ったら、また、勘違いを…で、でも…でしたら約束して下さいっ…
この世界からシュンさん、絶対に消えてしまわないって!」
「だ、だから佳乃さん……とっ取り敢えず今の僕は大丈夫な筈です…佳乃さんが
僕の事を忘れない限りは…。」
「え?…あ…あのっ、でもっ、私、忘れませんっ、シュンさんの事、絶対にっ!」

…フォローする毎に余計な一言を付け足してしまっている事に気付かないシュンと、
その一言毎に素直に勘違いをしてしまう佳乃であった。


氷上シュンのトラブルを監視モニターで発見し、VIPルームへと駆け付けた
犬飼俊哉(ゲスト兼救急要因助っ人)は、シュンに大事が無いのを視認すると、
テーブル越しに並んでドキドキわくわくしている
立川郁美(元56番)・椎名繭(元46番)・桜井あさひ(元41番)と共に、
ギャラリーの列に加わる事にした。

「うむ、相手の正直さに正直さで報いようとして『良い悪循環』に陥ってしまった
ようだな…で、最終的に今、あの2人が感じ合っている感情は精神的疾患の一種だ、
私はその治し方を一応知ってはいるが…治す必要はないようだな。」
「うわ〜うわ〜、いいな〜いいな〜。」
「みゅ〜っ、覗いちゃダメだよ郁美ちゃん、まだ中学生なんだから。」
(身長差故に引っ張れないため)郁美のツインテールをにぎにぎしながら繭が突っ込むと、
「…繭さん、高校生も観てはいけないと思いますよ」とあさひが言う、
すると更に、「しかしあさひ君、未成年の君も観ては行けないと私は思うぞ。」と俊哉が…

『犬飼さんも観ないで下さいっ!!』…ハモった叫び声と共に、首枕のクッションが飛んで来た。

TO BE CONTINUED?!

106パラレル・ロワイアルその53:2003/10/19(日) 16:27
「有難う、おかげで助かったよ。」
「有難うございます。」
「有難う、ホントに危ない所だったわ。」
…舞台村時代劇エリア内呉服問屋・越後屋の使用人の間にて
口々に礼を言っているのはAグループ第1組の折原浩平(14番)と、
長森瑞佳(65番)、そして七瀬留美(69番)で、更に
「有難う、舞さん…後輩たちに加えてお礼をさせて頂きます。」
Aグループ第2組、深山雪見(96番)までもが深々と頭を下げていた。

「…は、恥ずかしい……礼は、もういい……。」
ほんのりと頬を赤くして伏目がちに4人を制しているのは、同じく第2組の
川澄舞(27番)で、当然ながら(?)第2組3人目である倉田佐祐理(35番)
は、早くも持参した弁当を広げ始めていた…。

という訳で、ココでも昼食タイムが始まったようである。

「…やはり、本作における私の過ちは『過ぎた事』では済まされない…。」
「あはは〜っ、雪見さん…少なくとも私は『過ぎた事』だと思ってますよ〜
むしろ、舞に取り返しのつかない過ちを犯してしまった佐祐理に罰を与えて
下さった事を…。」
「…佐祐理の方こそ、私は『過ぎた事』だと思っているぞ…。」
「でも、本作第1回定時放送の時は俺も危ない所だった…もしも瑞佳が
止めてくれなかったら…俺も、雪見先輩のように…。」
「だから、もう『過ぎた事』なんだよっ、せっかくのごちそうなんだから
楽しい話題で食べようよっ。」
『…佐祐理さんって、とっても理想的乙女してるな〜、ずっとそばにいて
勉強させて貰いたいな〜、あっでも舞さんみたいな“実は暖かい戦乙女”
ってのも、相性良さそうだからスキル習得したいな〜。』


「…じゃあ、折原君達は客間にある隠し通路の扉を開くために…?」
「隠し通路って…もしかして先輩、あの部屋のカラクリの事…。」
「舞台仕掛けも見破れないような演劇部部長はやってなくてよ、もう紐は
引っ張った後だから、床の間の掛け軸の向こうの壁に入口は開いてた筈よ、
ちゃんと確かめたの?」
「うっ………………ところで先輩、隠し部屋に一体何があったんですか?」
「外の川に通じている隠し係留所と…船よ。」
「船っ?」
「そう、屋形船…しかもCPU内臓の行先入力・オートクルージングの。」
「それって、凄いじゃんっ!」
「確かに凄いけど…今の所、特に行きたい当てはないし武装は積んでないし
で持て余していたんだけど…。」

「そこで、皆様に御相談なのですが…。」
浩平と雪見の会話に、瑞佳が【裏】パンフレットを携えて入って来た、
「何ですか?その変わったパンフレット?」
「…成程、各エリアごとの隠しアイテム・隠し部屋・隠し通路のマップか…。」
「あはは〜っ、隠しお手洗いに隠し浴場まで記入されてますよ〜っ。」

「…という事は、今現在最も狙い目な所は遊園地エリアのUFOキャッチャーと
いうことか…でも俺、苦手なんだよなあアレ。」
「あはは〜っ、クレーンゲームでしたらこの佐祐理に任せて下さいよ〜っ。」
「…うん、佐祐理の腕前は私も保証する…。」
「と、いう事は船で舞台村→ホテル→遊園地へと移動・上陸後、佐祐理さんの
腕を借りてUFOキャッチャーでめぼしいアイテムをゲットする…というのが、
今後の行動予定になるのかしら?」
「それで問題ないと思います先輩、そろそろこのエリアもA地点とB地点の
ライバルさん達で一杯になってる様な気がしますし…。」
「私もそんな気がする…悪い予感なのかな?…さっきから古傷がチクチクするのよね…。」

TO BE CONTINUED?!

107パラレル・ロワイアルその54:2003/10/20(月) 20:06
「な…何やねん、あんたら…その格好は…?」
ここはヨットハーバーに係留されているクルーザーのリビングルーム、
中の気配を察し、一気に扉を蹴り開け中へと転がり込んで、シグサウエルを
素早く構えた神尾晴子(23番)の顔が、中にいた連中を目の当たりにして…
………………思わず呆けた。

中にいた連中…変テコな銃を構えた白いタキシードの少年と、身を寄せる様
にしてワインバスケットを構えたウェディングドレスを纏った少女…そして
その2人の前へといきなり飛び出し立ちはだかって仁王立ちをしている、
ヴェールを被って虫取り網を構えたおでん種…いや、女の子…。

そして、その女の子…沢渡真琴(45番)は、虫取り網をビュンビュンと
振り回して、晴子を見据えると声高に叫んだ、
「あう〜っ!美汐とお婿さんに手を出す悪い人は、この真琴が…モガ?!」
…しかし、最後まで言い切らない内に真琴は後ろの2人…長瀬祐介(64番)
と天野美汐(5番)に、力ずくで取り押さえられてしまった。

「もうっ!お願いだから止めてって言ってるのに真琴ったらあっ!!」
「あっあのっ、誤解ですっ!今のこの子の言葉はまだ違うんですっ!!」

「(まだ…)………プッ、アハハハハハハハッ。」
晴子はそのまま、リビングルームの床を文字通りに笑い転げていた、
「けっ敬介、早ぅ入ってきいやオモロイモン見られるで、アハハハハッ。」


「…成る程、そーゆー訳やったんかいな…まあ悪い事したな、驚かしたり
笑うたりして。」
「…もう、いいです…。」「…こんな格好では、仕方ありません…。」
敬介がキッチンで沸かしてきた紅茶を啜りながら、5人はリビングルーム
にて自己紹介と情報交換を始めだした、

「…結局、鍵が掛かっておらへん代わりにハンドルが付いとらんクルーザー
がコレ一艘だけやったから、アタシ等出くわしてしもーたっちゅー事か。」
「あうーっ、ひょっとしておばさん達も、結婚式?」
…晴子は返事代わりに真琴の両の頬をつまむと、力を入れてひねり上げた、
「ひゃぶう〜っ!おびゃひゃーん、いひゃいよ〜っ!みぃふぃひょーっ、
ひゃふへへ〜〜っ!!」
「…助けてあげません。」

「それじゃあ敬介さん、このクルーザーはもう動かせる状態なんですね。」
「動かせる事は動かせる様だが…。」敬介の表情は複雑だった、
「どうやらこのクルーザーは、このゲーム用に特殊改造されている様だ。」
「…と、申しますと?」
「まず、このクルーザーのメインコントロールは、CPU及び外部電波に
握られているらしい…ハンドルはエンジンスイッチ兼サブコントローラーに
過ぎない様だ。」
「何故そんな造りに?」
「安全のため、ゲームのルールを遵守させるため、無免許運転を可能にする
ため…といった所だろう。」
「う〜ん…。」
「だけども、それらを差し引いても私達にとって有難いアイテムである事に
は間違いない筈だ…どうだろう?今から試しにこの島を一周してみようかと
思うのだが…?」
「悪うないな、いきなり安全なトコから高みの見物ちゅうのも何やけど。」
「あう〜っ、真琴、舟遊び初めてっ!」
「…お、降りずに済むのでしたら、それに越した事は…。」
「僕も…美汐と同意見だな…。」


…かくして、クルーザーによる遊覧タイムが始まろうとしていたが、その時
出発準備中の敬介を手伝い、係留ロープを解いていた祐介は、遥か遠くから
近付いて来る3つの人影を見付け、見付らない様に素早く船内へと隠れた。

…その時、ヨットハーバーへと近付いていたのは、Aグループ第11組の
メンバーである来栖川綾香(36番)・来栖川芹香(37番)・そして3人目の
長瀬源四郎(114番)であった。

TO BE CONTINUED?!

108パラレル・ロワイアルその55:2003/10/21(火) 19:49
「…………………………………………。」
「…………………………………………。」
「り、理奈………………………………。」
「あ、茜…………………………………。」

…巨大公園入口にて相沢祐一(1番)は、二度目のDEADorALIVEに
突入しようとしていた…。

緒方理奈(13番)は無言で支給装備のCZECZ75(エアガン)を構え、
里村茜(43番)も無言でグロック17(エアガン)を構えて、今二人は2m程
の間合いで向かい合っている…。

理奈のやや後方には構えてこそいないものの、H&K・GA3(エアガン)を
肩からベルト掛けをしている緒方英二(12番)が、そして茜のやや後方には
祐一が丸腰で立っている…。

更に、緒方兄妹のもう少し後方には、理奈と茜の睨み合いを心配そうに
見つめている森川由綺(97番)と藤井冬弥(76番)そして澤倉美咲(44番)
に住井護(51番)・北川潤(29番)・宮内レミィ(94番)・保科智子(78番)
の以下面々…本来、由綺・冬弥以外の5名は別集団として行動開始をしようと
思えば行えたのであるが、美咲が「出来る事なら、はるかちゃんとお別れの
挨拶をさせて欲しい。」と願ったため、A9組到着まで出発を引き伸ばした
のであった。

その矢先のこの睨み合いである…美咲は自分のわがままが住井やその仲間達
をも、もしもまさかの間違いに巻き込んでしまうのではないのかと、不安で
不安でたまらなくなり、思わず住井とトレーディングしたハエタタキを握り
締めて、ブルブルと震えていた。

…余談だが、美咲の支給装備はストックオプションつきのH&K・VP70Z
(エアガン)であったが、美咲には撃つどころか取り扱う事すら出来ない為、
弱い装備に悩んでいた住井とトレーディングしたのであった。

「どうしたの、美咲さん?」美咲の前で仁王立ちになって、茜からの万一の
射界の盾となっている住井が、顔半分振り返って震える美咲に声を掛ける、
「だって…私がわがまま言ったせいで、こんな…危険な状態に護君やお友達
のみんなを巻き込んじゃって…もし、もしも何かあったら私、私…。」
「大丈夫だって美咲さん、この島のどこにいたって危ない事には変わりは
ないんだし、こんなトラブル位遅かれ早かれの問題に過ぎないよ、それに…
今度こそは何があっても僕が美咲さんを…美咲さんを必ず護ってみせるから、
だから…だから安心してずっと、僕の傍を離れないで欲しいんだ…。」
「護君…。」

…一方、由綺&冬弥の方は、
「だ、だから由綺っ、今度こそは俺がっ…俺が由綺を守り抜くんだから、
由綺は大人しく俺の後ろに…。」
「駄目だよ冬弥君っ…私の方こそ、本作での償いを冬弥君にしなければ
ならないんだからっ。」
「償いをしなければならないのは俺の方なんだよっ、由綺にも弥生さんにも
…だから、俺の後ろにっ。」
「そんなの嫌だよ、私…冬弥君や弥生さんの足手纏いになりたくないよっ。」
………どちらが盾となるかで激しく争っていた…。

…更に一方、北川&レミィ&智子の方はと言えば、
「…認めたくないが、射撃戦のセンスや経験に関しては、この3人の中じゃ
俺が最下位っぽいからなぁ…余計なフォローをしようとすると、却って失敗
しでかしてしまいそうなのが、凄く惨めだぞ…。」
「ソーダネ…でもジュンは、代わり二凄ク知恵が回っテ運も強いネ!」
「あ〜確かに本作じゃうちらより随分、長生きしとったしな〜そん代わり、
ドンパチの方は見殺しとか味方殺しとか、散々やったらしいけど…。」
「お、お前等…それ、とってもフォローになってないぞお…。」
…今一つ、危機感に欠けていた…。

109パラレル・ロワイアルその56:2003/10/21(火) 20:54
…そして、本題の理奈VS茜の方であるが、
「…茜さん、貴方の所の3人目の方は一体、どうされたんですか?」
「…ここへ来る途中で…脱落しました。」
「ひょっとして、貴方が脱落させたんじゃないの?」
「…私も是非自分の手で脱落させたかった方だったのですが…残念ながら
他の方にやられたしまった様です。」

「ほっ本当です!国崎さんは探し物でもしたかったのでしょうか…道の外れ
の茂みに一人で入って行ったっきり…誰なのかは判りません、アナウンスを
聞いてから、思わず二人で逃げ出してしまったんで…でも本当なんですよ、
どうか信じて下さい!」
緊張に耐えられなくなったのか、祐一が必死に茜を擁護した。


「………………………………………。」理奈が構えていたCZを下ろした。
「!………どういう、つもりですか?」
「どういうつもりもこういうつもりも…他の人の事情は兎も角、私と兄さん
の件に関しては、私の一方的な勘違いだったのでしょう?…なのだったら、
少なくとも、私が貴方に今なお恨みを持つ理由なんて…ないわ。」
「…では何故、貴方はこのような…茶番なマネをなさったのですか?」
「怖かったのよ、むしろ貴方の方が私を恨んでいるんじゃないかって…。」
「…恨む価値すらありません…自惚れも程々になさった方が宜しいかと。」
「おっ、おい茜っ…。」…折角、消えかかった炎に、油をぶちまけた茜に
祐一は再び慌て出した。

理奈も、今の茜の一言には相当カチンと来た様ではあった…しかし、大勢が
見ている前で単純なる反応を見せてしまうのは、お世辞にも格好が良くない
…理奈は何とか意地と見栄で我慢しきった。

「自惚れている位でありませんとトップアイドルは務まりませんもので…。」
理奈はにこやかにそう言い放つと下ろしたCZ75をマイクパフォーマンスの
要領で、優雅にくるくるとガンスピンをさせてから…すうっとオプションの
ホルスターへと収めてみせた。

「……………………………。」今度は茜の方が対抗意識を燃やしてしまった、
おもむろに構えていた銃を水平にすると…ピザの生地を回して伸ばす要領で
これまた、優雅なるガンスピンをやりはじめた、


ところが…
「OH−−!NO−−!!」次の瞬間、いきなりレミィが血相変えて北川と
智子に飛びかかり、二人を押し倒してしまったのであった!
「うわっ、レミィっ!」「な、何するんやっ?!」

「?!」いきなりのレミィの奇行に、全員があっけにとられた…最も三人の
近くにいた住井が思わずレミィを制しようと、重なり合って倒れている彼等の
元へと走り寄る…嫌、『うっかり』走り寄ってしまった…。

…実は『その瞬間』レミィは、以前に父親から聞かされた『笑い事でない笑い話』を
思い出したのであった、それはこんな話であった…
『ヘイ、ヘレン…俺の数多いおバカなフレンズの中に銃砲店をヤッテル奴がいてナ、
ソイツがあろう事か、お客様へのセールス中に商品のグロックをパフォーマンスで
ガンスピンしやがったんダヨ!…グロックって銃はなレミィ、安全装置がトリガーと
一体化した造りになってイルンダヨ、そんな銃でガンスピンして果たしてドーナッタ
と思う?…幸い、死人は出なかったソーダガ、店はメチャメチャになるはポリスには
コッテリ油を絞られるはでサンザンだったソーダゼ!ワッハッハッハッハッハッ!!』


…パスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスッ!!

TO BE CONTINUED?!

110パラレル・ロワイアルその57:2003/10/22(水) 19:00
『…お嬢ちゃん、何があったのか知らないが…こんな真夏の島で涙なんかは
似合わない…どれ程の慰めになってくれるのかは知らないが、
―――さあ……、楽しい人形劇の始まりだ。』

ぴこぴこぴこっ……、ぴこっ。
ぴこぴこぴこっ……、ぴこっ。

「わ〜、犬さんすごいですう〜っ。」


「………………………………………何?………アレ?」
海水浴場外れの松林にて、観月マナ(88番)は、口をあんぐりと開けて
目の前の奇妙な光景を凝視していた、

怪しいデザインの大型ロボットが『ぴこぴこ』といいながら、
飛んだり跳ねたり踊ったり走り回ったりしているのを、雨傘を差した
来栖川製のメイドロボが、はしゃぎながら見物しているのである…。

近付いてもいきなりに危険ではなさそうだが…ハッキリいって怪し過ぎる!

「セ…センセ、取り敢えず迂回…しようか?」
振り返って尋ねるマナを霧島聖(32番)は制すると、先行者改のパフォーマンスを
観察し、耳を傾けて口を開いた、
「あの踊り…そして、あの『ぴこぴこ』…私には覚えがある…。」

そう言うと聖は、大型ロボットとメイドロボの方へと姿を現し、
ゆっくりと近付いていった、
「セ…センセ!」マナも慌てて後を追う。

「はわわっ、ど…どなたさまですか?」
「ぴこっ?」
驚くマルチ(82番)をかばうように、聖とマナの前に先行者改が
立ちはだかったが、聖の姿を認めるや否や…

「ぴこ〜〜っ!!」
先行者改の頭部から謎の毛玉が射出され、聖の方へとまっしぐらに飛んで行った、
「えっ…こ、攻撃っ?…危ない、センセっ!」思わず勘違いしたマナが危うく、
その毛玉をサッカーボールキックしそうになったのを聖は再び制すると、
その胸に飛び込んできた毛玉…ポテト(31番・代戦士)をしっかりと抱き止めた。

111パラレル・ロワイアルその58:2003/10/22(水) 19:37
…丁度その頃、同じく海水浴場岩場近くにて、
放置された手回し式エアガトリングガンの陰に隠れるように腰を下ろして、
海を眺めている2人の男女…宮田健太郎(95番)と姫川琴音(74番)である。

2人とも言葉も元気も無い様である…まあ、無理も無いのかもしれない、
健太郎は…水族館にて、自分にとって最も護るべき存在であった女の子4人が
目の前で次々と脱落して行ったのを全く、防ぐ事が出来なかったし、
琴音も…自分が心に壁を造ってしまったせいで、危険を予知していながらその
警告が致命的に遅れてしまい、重大な結果を引き起こしてしまったのであった。

「無様だな…。」健太郎は、イルカに拾って貰ったものの、水に濡れもう使い物
にはならなくなってしまったガバメントを見やりつつ、自嘲の溜息を漏らした…
「スフィー、リアン、結花、なつみ…結局、誰一人護ってやれなかった…しかも
…皆、俺の目の前で…ハハハ、本作の長瀬祐介君よりも無様だよなあ、俺って…
まるでこの、玉の出なくなったエアガンみたいだ…見掛けだけの…。」

「…どうかしっかりなさって下さい、未だ全てが終わった訳ではありません。」
しかし…琴音の言葉も、今の健太郎には正しくは届かない様だ、
「判ってるよ、琴音ちゃん…取り敢えず、君を誰か頼れる知り合いの人へと
託する事が出来るまでの間は、僕も可能な限り頑張らせて貰うから…。」
健太郎はガバメントをバッグにしまうと、近くで拾ったまだ使えそうな
吸盤付きボウガンを手に取り、琴音に向かって力なく笑って見せた。

「……………………………。」琴音は返す言葉を思い付かなかった、
かつて、他人をなかなか信じる事が出来ないでいた琴音には、今自分を信じる事が
出来ないでいる健太郎に対しては…いかなる人の言葉も心まで届いてはくれないで
あろう事を、自分自身の辛い過去の経験から、誰よりも判っていたからである…。

TO BE CONTINUED?!

112パラレル・ロワイアルその59:2003/10/23(木) 19:18
「…私とした事が…この銃の構造、すっかり忘れておりました…それにしても
私や祐一に当たっていない事は…せめてもの幸いです…。」

ビシッ!「くっ…。」
ビシッ!「あっ…。」
ビシッ!「ああっ。」
そして…
ビシッ!「ま、護君…。」

『ビーッ、12番・緒方英二、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』
『ビーッ、97番・森川由綺、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』
『ビーッ、76番・藤井冬弥、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』
『ビーッ、44番・澤倉美咲、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』


「…弁明の余地はありません…祐一、逃げます。」
「えっ、あ…茜待ってくれっ。」
茜は自分の犯してしまった事の重大さを瞬時に悟ると、祐一を伴い元来た
植物園からの舗装通路を、逆走して走り逃げ出して行った。

『…やはり私って、マーダーである事を宿命付けられているのでしょうか?』

…遅れて、巨大公園にふたつの絶叫が木魂した…
「兄さん…っ兄さん!…嘘、嘘よ!嘘嘘嘘嘘!!」
「美咲さんが脱落した。美咲さんが……ミサキサン……
そんなこと……あっていいはずないじゃないか……
嘘だ…………嘘だ、嘘だ…………嘘だあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

…そして…
「私を、撃たなかった事を……後悔させてやるわ、必ず、必ず頃してやる!」
「頃してやる…頃してやるよ、里村茜。何があっても、頃してやる。」

兄・英二の『死体』からGA3をひったくった理奈と、北川の制止を無理矢理
振り切った住井が、怒気満面に植物園へと逆走する舗装通路を駆け出していった
…里村茜にオトシマエを付けるために。

【12番・緒方英二 44番・澤倉美咲 76番・藤井冬弥 97番・森川由綺脱落…残り79人】

113パラレル・ロワイアルその60:2003/10/23(木) 20:18
「あ〜あ、何て事や…。」
「護クン、行ってしまっちゃったネ。」
「人は、同じ過ちを繰り返す…って、アムロ・レイの台詞だったっけか?
しかし…もし一歩間違えれば、俺も住井の奴と一緒になって、あの少女を
追っかけてたのかもな…そして、相沢が止めようとするのも聞かずに…。」

…次々とライバルが去っていった巨大公園入口にて、北川潤(29番)は
複雑な視線で、隣にいる宮内レミィ(94番)の顔を見やる…というのも
レミィが結局、北川と保科智子(78番)の2人しか助ける事が出来なかった
事を、いつまでも気に掛けていたからであった。

「ドーシテ私、一言『危ナイ、伏セテ!』って叫ぶ事出来なかったのカナ?
…ソーシテればキット、もっと他の人モ脱落シナイデ済んダノニ…。」
「しょーがないだろ、レミィは半分アメリカで育って来たんだから…反射的
行動がつい、実銃の時のソレになっちまっただけなんだし。」
「そやそや、クヨクヨしてももう始まらへんし、過ぎた事はもうどうにも
ならへんわ…アンタは少なくとも私等2人の恩人なんやし、そんな顔何時迄
してても、誰の償いにもならんし誰も喜んだりせーへんでえ、全く。」
「ソーダネ、ソーダヨネ…アリガト、ジュン!トモコ!」


「…しかしまー本当に助かったわ…実の所、ひょっとしたらまたしても
未来のルーレットの先は貧乏農場行きなのかと覚悟する所だったからな。」
北川は、脱落した冬弥・由綺・美咲からせん別代わりに支給装備を授与して
貰えた事を、当人達のみならず偉大なる大ガディム神にも感謝した。

それまでの3人の装備ときたら…
まず、レミィの支給装備はペットボトルロケットランチャーであった、
一応、アタリの部類の装備ではあったのだが…レミィはこのオモチャを
やたら面白がり、とにかく遠くへ飛ばせるようにしようとやたらめったらに
空気を詰め込もうとするため、身の危険を感じた北川と智子が二人力ずくで
取り上げてしまい以降、智子が装備していた。

次いで、智子の支給装備はラジコンヘリであった…小型のカメラとエアガン
が内蔵されており、使い様によっては面白い仕事をしてくれそうなアイテム
であったため、当然(?)その手のオモチャと相性のいい北川の手に渡った。

最後に、北川の支給装備で現在レミィが持っているモノに関しては…
ココでは敢えて説明は伏せておこう…北川にG.Nが支給して、レミィが
文句ひとついわずに大事に持ち続けているアイテムと言えば、大抵の読者は
『ああ、アレね。』で判ってしまう筈だからである。

かくして、かようなる装備体勢の所へ、冬弥からベレッタ92Fを2丁、
由綺からUZI−SMG1丁、美咲からハエタタキ1本を進呈されたという
訳である。

「ほなら、この新装備…どう分配して行こうか?」
智子の問いかけに、北川はアッサリと即答で返した、
「まずレミィがベレッタ2丁で智子さんがUZI、俺がハエタタキでその
代わり、智子さんのペットボトルロケットランチャーを俺が譲って貰う…
てのでどうだ?」

「…なかなかベストな選択やな、重くてクセのあるランチャーやらラジコンを
北川君が担当してくれて、私等二人はエアガンでサポート…で、命中率がええ
UZIを私に、二丁拳銃でも射的OKなレミィにベレッタ2丁…文句無しやわ。」
智子が北川の即答に舌を巻きながら即OKを返す。

「ジュンってヤッパリ、凄く知恵が回るンダネ!」レミィも感心顔を北川に向ける。

「…そんな奥深い根拠はなかったんだがな…。」北川が即答の理由を説明する、
「だって、レミィと智子さんって確か…某スパイシーロワイヤルで、ベレッタ2丁と
UZIでエントリー参加して、同率準優勝したっていう話を俺、聞いてたから…。」

「誰が知っとるんや、そんな古いネタ!」…智子からハエタタキで控えめの突っ込みが返って来た。

TO BE CONTINUED?!

114パラレル・ロワイアルその61:2003/10/24(金) 21:48
ホテル(のみ)のモニターに再び、バロンよしおの姿が映し出された、
「オウ!ワースト投票の結果が出たぞぉ、いきなり自軍主戦力を半壊させた
誰かさんが一回目のターゲットだ、んでもって栄えあるチェイサー第1号は
某アライヴ参加歴のある南明義だあっ!…相手が相手な上だけに役不足かも
知れねえが『あ〜あ、ヤッパ返り討ちだよ』とか言われねーよーにせいぜい
頑張ってくんなっ。

あ、そうそう折角だからチェイサーについてもう少し詳しく説明してやろう。」

チェイサーの特権を上げて行くとだ、
①支給装備は武器と防具の合わせて2つ支給される。
②通行禁止・戦闘禁止のエリア制限を無視出来る。
 (プレイヤーになると喪失)
③某ジョーカーよりターゲットに関するリアル情報を提供して貰える。
 (当のジョーカーが脱落するまで・プレイヤーになると喪失)

で、制限の方は、
①水と食料は支給されない(フードスタンドの利用は可)。
②ターゲット以外のプレイヤーに有効打を与えられても失格になる。
③ターゲット以外のプレイヤーに対しては先に攻撃出来ない。
 (反撃は可能かつ有効・プレイヤーになると喪失)

といった所だ…ま、狙う方も狙われる方も精々頑張ってハデに頃し合って
くんなっ、じゃあアバヨッ!!

TO BE CONTINUED?!

115パラレル・ロワイアルその62:2003/10/25(土) 17:19
「アタシだ…絶対にアタシがワーストプレイヤーだ…。」
舞台村時代劇エリアの長屋を移動する4人組、先頭をとぼとぼと歩いている
柏木梓(17番)は、定時放送が終わって以来、同じグチを何度もこぼしている。

「もうっ、いい加減シャンとしなさい、梓!」連れ添う柏木千鶴(20番)は、
不慮のNGで柏木耕一(19番)と柏木楓(18番)が脱落して以降、ただの一言も
嘆きや責めの言葉を口に出すことも無く、梓を励まし続けていたのであるが、
千鶴のその優しさを誰よりも理解している梓にとっては、それが却って
苦痛となっていたのであった…そして、更に追い打ちを掛けるように…

「梓お姉ちゃん、元気出して…。」愛する妹、柏木初音(21番)までもが心配顔で
千鶴同様に梓を励まし続けてくれている事であった…本来いつもの梓ならば、
二人の励ましをプラス思考で受け取り、心の鬼を払って立ち直る所なのであるが
今度ばかりはいかんせん結果があまりにも重大であったため流石にそう簡単には
『過ぎた事』では済まされないでいるのであった。

「………………。」七瀬彰(68番)は、そんな3人の様子を沈黙して眺めていた、
大事を誤ってしまった時の心の傷は、本人自身の力と後は時間位しか癒すすべが
無い事を良く知っていたからであった…それに、一緒にいる3人ともに、意識が
他の所に行ってしまっているであろう今、ライバルに不意を討たれないよう
周りに気を配る役は僕にしか勤まらない、彰は4人の中でいち早く『過ぎた事』
から『これからの事』へと思考を切り替え、周囲への索敵に一人専念していた。
『…そういえば叔父さん、随分早く脱落しちゃったんだな…。』

…その時、初音のお腹が「きゅるる〜♪」とかわいい音を立てた、梓も千鶴も彰も
その音でふと忘れ去っていた事を思い出す、そういえばもうお昼過ぎ…今朝は
皆で(千鶴さんのみ仲間外れに去れてしまったが)力を合わせて『これからの事』
のためにお弁当をいっぱい、こしらえたんだっけ…。

「梓お姉ちゃん…。」初音が目をキラキラさせて、梓の方をじいっと見つめる、
「…ん、そうだよな…不謹慎な表現で何だけど初音、耕一や楓の分まで腹いっぱい
食べていいからなっ。」梓はやっとニッコリ笑って初音に向かいハッキリ言った、
「!…よかった、梓…それじゃあ、長屋に来ている事ですし適当に部屋を選んで
昼食タイムに致しましょう。」…千鶴もやっと、安堵の笑みを取り戻して言った。

『…そういえば、“もうひとつ”癒すすべがあったんだっけ…しかも、今回は
おなかの音のオプション付き…効果絶大だよ初音ちゃん…。』
…彰は心底、舌を巻いていた。



…ナイ…ない…この部屋にも無い…あったのは…あったのは、このおまるだけ…
あっ!…あんな高い棚に衣装箱が…もしかして、もしかして…くそっ、届かない
…そうだ、このおまるを踏み台にして…あと5センチ…3センチ…い、1センチ…

ガララッ!その時、音を立てて部屋の入り口の扉が開いた…。

「…………………………………………。」
「…………………………………………。」
「…………………………………………。」
「…………………………………………。」
「…ねえ柳川さん、パンツ一枚でおまるに乗って何してんの?」

つるっ…ドンガラガッシャ〜ン!!

…それでも、辛うじて咄嗟に受身を取り、失格判定を免れた事に対してだけは、
流石は柳川裕也(98番)であった…と、誉めるべきなのであろうか…?

TO BE CONTINUED?!

116パラレル・ロワイアルその63:2003/10/26(日) 15:37
飛行場&ヘリポートエリアから飛び立った一機の520Nローターヘリが、
スタジオ・舞台村上空約千mの地点へと到達していた、その目的は…


「南…明義君だったかしら?…目的地上空へ到着したわよ…ちょっと、
ちゃんと聞いているの?」
ヘリを操縦しているのは泣く子も黙るコミックマガジンZ女編集長こと、
澤田真紀子(ゲスト)、

「は、はいっ。」
そして緊張した面持ちで彼女の隣に座り、最後の装備チェックをあわてて
行っているのは、チェイサー一番手こと南明義…彼は、最終的には里村茜を
最後まで護り抜いて、アナザー本表紙化を自分の手で実現させる事により、
彼女から男として認めて貰うため…それまでの長いプロセスの第一歩として
ワーストプレイヤー一号・柏木梓の参加ライセンスを奪い取る刺客として、
今彼女がいるらしいスタジオ・舞台村へとヘリで輸送されて来たのである。

「支給装備は吸盤銃で、防具は安全ヘルメット…ま、チェイサーとしては
ハズレの装備の方ね…おまけに鬼の柏木四姉妹・力の2号こと柏木梓さんが
ターゲット…実力からいっても、知名度からいっても、ましてや人気・人望
からいっても…貴方の勝率はもう、限りなく低そうね。」

「ぐぐっ…。」返す言葉もない明義、

「…でも、後から続いて投入されるチェイサーの皆々様方の士気アップの
ためにも、ココで貴方には是非とも金星を挙げて欲しい所なのよ…確かに、
ほぼ全ての面における貴方の超劣勢・超圧敗評価は覆りそうにないけれど、
逆に考えれば、勝つ為に多少手段を選ばなくても非難をされずに済むという
メリットだとも取りようがある訳だし…足りない部分は知恵と運で何とか
無理やり補って…兎に角、一番手として無様なマネだけは許されないから…
いいこと、判って?(ギラーン!)」

「は…はいっ(…ブルブルガクガク)。」
『一体貴方に何の権利があって…?』だなんて口が裂けても言えそうにない
鋭い眼光とプレッシャーに押されつつ、明義はやっとのことで返事を返すと
「そ…それでは、行って参ります…。」パラシュートを身に付けて…生唾を
飲み込むと恐る恐る、ヘリのハッチを開けた。

…その瞬間、待っていたかのようにヘリが真横方向へとガクンと傾き、
明義は絶叫を上げながら、下界へとまっさかさまに転がり落ちて行った…
高度計式自動展開パラシュートがヘリの遥か下で華を開く…。


「…確か彼、高い所は苦手でスカイダイビングどころかバンジージャンプも
駄目だって聞いていたし、ビビられちゃう前にさっさと降りて貰わないと…
幸い、和樹さんの方は早々に脱落してくれたようですし…折角なのですから
これからホテルにカンヅメ状態にして一仕事して頂く事に致しましょう♪」

…人気少年漫画雑誌編集長に完全なる盆休みは存在しない…今このリゾート
の合間にですら、既に幾つもの仕事のスケジュールを挟み込んで、今新たな
仕事のスケジュールプランを(和樹の都合も考えずに!)立案した真紀子は、
すぐさまにそれを実行するべく、ヘリをそのままリバーサイドホテル屋上の
ヘリポート目指して転進させて行った。

TO BE CONTINUED?!

117パラレル・ロワイアルその64:2003/10/27(月) 20:47
「!?」…キイ――――ッ、

植物園→巨大公園間の連絡通路のツーリングをそろそろ終えようとしていた
A9組の覆面ライダー(41番・代戦士)と河島はるか(26番)は、前方から
逃げるように走ってくる二人の男女連れと遭遇して、思わず足を止めた。

「ん、どうしたの?…誰かに、追われているの?」はるかが尋ねる、
「お願いしますっ、彼女が…彼女が追われているんですっ、もし宜しければ
…どうか僕と彼女を…植物園まで、運んで頂きたいのですが…。」
男の方が必死な面持ちで、ライダーとはるかに窮状を訴えてきた、

「…というご事情の様なのですが…?」
ライダーが背後に乗っている篠塚弥生(47番)の方を振り返って尋ねる、
「…些か不本意ですが、もうここからなら巨大公園まで徒歩でも4〜5分の
距離ですし…見た所この方達、本当に困ってる様子です…仕方ありません、
ここで私は降りる事に致しましょう…。」
弥生も男女の窮状が他人事には感じられないのか、降りる事を承諾した。

「有難う御座いますっ!本当に有難う御座いますっ!」
「…有難う御座います。」男女が口々にA9組に礼を述べた。

「それにしても、はるかさん…私はともかく貴方は巨大公園のお友達とは
会えなくなってもいいの?」
「ん…多分大丈夫、だと思う…それに、ライダーさんとのサイクリングや
人助けも、悪くないと思っているし…。」
「それじゃあ男の方は私の自転車に乗って…女の方はそっちの自転車に。」
「有難う御座います、それでは宜しくお願いします。」
「…宜しくお願い致します。」
「それでは弥生さん、ここでお別れです…御健闘を。」
「…冬弥君達にも、宜しく言っておいて下さい。」
「…貴方達の方こそ、余り無理をしない方が良いわよ。」

そして、2組の2人乗りモトクロスサイクルが、舗装された道を元来た方向へ
と走り去って行った…。


弥生が走り去る自転車を見送り終わっていざ、巨大公園へと歩き出そうとした
その時…前方から怒号と共に、更にもう1組の男女がこちらへと走って来るの
が見えた…しかも、女の方の顔には弥生には見覚えがあった、

「…理奈さん?」
「やっ、弥生さんっ!?」

声を掛けられた女の方…緒方理奈(13番)が、弥生を見るなり胸に飛び付いて
泣きじゃくった、

「どうしたのです、理奈さん?一体…何があったというのですか?」
弥生の問い掛けに我に返った理奈が、怒りの篭った言葉で弥生に問い掛ける、
「私よりも少し年下そうで…長い三つ編みで、男を連れた女を見掛けません
でしたか?」
「(…じゃあ、さっきの2人を追いかけていたっていうのは…?)その女性が、
どうか…したのですか?」

「そっ、その女が…。」
…理奈の次の言葉を聞いた瞬間…弥生の中の何かが、音を立てて弾け飛んだ、
「…その女がっ、兄さんをっ…冬弥君をっ…由綺と、美咲さんまでっ…!!」

「(!!!…由綺さん…冬弥さん……………………………………………………
……じゃあ…私が逃げ足を提供した………あの…よりによって…………………)
理奈さん、その2人…例え、地の果てまで追い詰めてでも……絶対に、絶対に…
報復、させて頂きましょう…。」
瞬間爆発しそうになった激情を、辛うじてその冷徹なるマスクに収め切ると、
地の凍る様な声を絞り出して、弥生はそれだけをやっと…言葉に出し切った。

TO BE CONTINUED?!

118パラレル・ロワイアルその65:2003/10/28(火) 19:23
「…それでは皆様、大変長らくお待たせ致しました…只今より当船は港を
離れ、来栖川アイランド一周の旅へと出発致します♪」
「アハハ敬介、アンタなかなかサマになっとるでぇ。」
「あう〜っ!パチパチパチパチ。」

ヨットハーバーから離れて航行を開始するクルーザーの中で、長瀬祐介
(64番)は、早くもこの恥ずかしい支給衣装に対する主催者側へのお礼が
出来るチャンスが来た事に喜び、船窓からヨットハーバーを歩くC11組を
見やりつつ、精神の集中を開始した…と、後ろからそっと肩を叩かれる。

「…祐介。」見ると、天野美汐(5番)が心配そうに祐介を見つめている、
「気持ちはとてもよく分かるけど、余りひどい事は…。」
「大丈夫。」祐介はニッコリ笑って言った、
「…綾香さんに少々、海水浴をして貰うだけだから。」
「…くすっ。」聞いた美汐も安心して思わず笑った。

「主催者特権マンセ〜♪」C11組の来栖川綾香(36番)はヨットハーバーに
到着すると、早くも来栖川家所有の専用大型クルーザーにタラップを渡した、
「お嬢様、その様な事はこの私めが…。」
「いいのよセバスチャン、何も他に誰もいない…まあ、いないも同然のこんな
所でまで改まったりしなくたって。」

波止場を航行中のゲーム用クルーザーとは結構距離がある上に今は風も強い、
たとえゲーム用の飛び道具を使われたとしてもこちらに当たる事はまずない、
ゆえに綾香も長瀬源四郎(114番)も、祐介達の乗るクルーザーをほぼ完全に
無視していた、むしろ…

先程から、来栖川芹香(37番)が船のタラップに足を乗せ、何度も渡ろうと
試みているのであるが、強い風に吹かれる帽子を押さえながら渡ろうとしてる
ためにフラフラヨロヨロともう、見ていて危なっかしい有様、
「あ゛〜っ、もう姉さんっ!」…とうとう綾香がたまらなくなって口を開く、
「帽子は私がかぶっててあげるから、姉さんはちゃんと手すりにつかまって
船まで渡って頂戴っ!」

その時祐介は、タラップで大型クルーザーへと渡ろうとしている女性の姿を
船窓から見付けた…もう距離があり過ぎてハッキリと顔を確かめられないが、
目印の帽子はかぶっていない…間違いない、妹の綾香の方だ!
祐介はタラップで海を渡る女性に向け、思わず声に出しながら電波を送った、
「左向け左!…位置に着いて、ヨーイ…スタート!!」

「ねっ姉さんっ!?」「お、お嬢様あああっ!?」
その時…綾香と源四郎の見ている前でとんでもない事が起こった、
何と、タラップを渡っていた芹香が右手に握った手すりを放した次の瞬間…
左を向き、競泳選手さながらのポーズで海へと…ダイブしたのである!
源四郎は慌てて芹香を制止しようと、素早くタラップを駆け渡って辛うじて
芹香の腕を摑んだものの…既に勢いのついてしまっていた芹香に、逆にその
手を引っ張られる結果となってしまい…

ダッパ――――――――――――ン!!
「お、お嬢様ああああああっっっっ!!」
「…………………………………………。」

『ビーッ、37番・来栖川芹香、アタックダイブにより失格…直ちに
交戦エリアより退いて下さい』
『ビーッ、114番・長瀬源四郎、アタックダイブにより失格…直ちに
交戦エリアより退いて下さい』


「ね、姉さん…セ、セバスチャン…。」見た所幸い、芹香は比較的落ち着いて
セバスチャンにしっかりと掴まっている様子である、

『…大きな間違いはなさそうでよかった、それにしても…。』
綾香は失格アナウンスの『アタックダイブ』という言葉から、姉が何らかの
能力者の攻撃を受け、その結果海へ飛び込んでしまったのである事を確信し、
沖へと離れつつあるゲーム用クルーザーをキッと睨んだ、

「確かに、確かに私は主催者よ…強敵として優先的に狙われたり、貧乏クジな
装備を摑まされたライバルから逆恨みの的にされる事もきっと、やむを得ない
事なのでしょうね…でも、だからといって…
なんで私じゃないのっ!?なんで姉さんなのっ!?
許さない…絶対に、許さないからっ!
どこまでも追い続けてって、必ずお礼をしてあげるからっ!!」

綾香は大型クルーザーに一人素早く飛び乗ると、エンジン起動・急発進をさせた。

【37番・来栖川芹香 114番・長瀬源四郎脱落…残り77人】

119パラレル・ロワイアルその66:2003/10/28(火) 19:51
「…………………………………………。」
「…どうしたの、祐介?」
美汐は、主催者の内の一人へささやかなる仕返しを終えたばかりの筈なのに
さえない顔をしている祐介を気にして、改めて声を掛けた。

「やっぱり、仕返しってものは済んでみて初めて…その空しさに気付くもの
なんだな。」祐介がポツリと呟くように返事を返す、
「祐介…そうですね、ゲームだからといって…恨む理由があるからといって
…先に手を出してしまうのはやっぱり、後味が悪いものですね。」
「ゴメン、美汐…僕、随分と醜い姿を見せてしまったようだね。」
「いいえ、一緒に笑ってしまった私も同罪です…祐介一人だけそんなに心を
痛めないで下さい。」


「それと、後もうひとつ…実はその…海に落とした来栖川さんなんだけど…
どうやら僕、間違えて姉さんの芹香さんの方を、うっかり…。」
「?!……はぁっ……。」
美汐は大きなため息を一つつくと有無を言わさず祐介を神尾晴子(23番)の
所へ連れて行き…晴子にお願いをした、
「…済みませんが、この方の両のほっぺたも…失格にならない程度で存分に
つねり上げて下さい。」

ゲーム用クルーザーのリビングルームに少年の絶叫が轟いた。

TO BE CONTINUED?!

120パラレル・ロワイアルその67:2003/10/29(水) 21:10
「Uターンしますか?…それとも、強行突破しますか?」
覆面ライダー(41番・代戦士)と河島はるか(26番)は進行方向より
こちらへと疾走して来る1台の装甲エレカを確認し、お客様の意向を
尋ねた。

「…強行突破でお願いします。」里村茜(43番)はあっさり即答した、
どのみち先へ進まない事には行き場がない上に、下手にUターンして
追跡者と挟み撃ちにされたら目も当てられないからである。

「解りました…それじゃあお客様、何があっても驚いて手を離さないように
しっかりと掴まってて下さいよ…はるかさん、私は先行して装甲エレカの
向って左…機関銃座の方を引きつけながら迂回をしますんで、はるかさんは
向って右…放水銃座の方から迂回を行って下さい。」
「…ん、解った…じゃあ、気を付けてね。」

「何だ、あいつらは?」装甲エレカを操縦している高槻01(104番)は、
前方から疾走して来る2組の2人乗り自転車に思わず声を上げた、
「何を考えているのか知らないが、おあつらえ向きじゃないか…蹴散らして
やるまでだ。」機関銃座の高槻02(105番)の言葉に、放水銃座の高槻
06(109番)も舌なめずりしながら頷く…と、後ろに男を乗せた黒の
モトクロスサイクルが、先行して真正面からジグザグに走って来た、
02はエアマシンガンを、06は放水銃を一斉に向けて引き金を引き、
01は体当たりをしようとアクセルを目いっぱいに踏み込んだ。

しかし、次の瞬間…黒のモトクロスサイクルは思い切りに横倒しになって
BB弾の斉射と水撃を潜り抜けると、横倒しのまま舗装された路の上を…
ライダーの左肘と左膝のパッドから激しく火花を散らしながら滑って行き、
姿勢を崩さないままペダルを踏み直すと…装甲エレカのドーザーブレードに
接触寸前の所でエレカの左側面へとギリギリで軽やかに走り抜けて行った。

続いて…ボンッ!…装甲エレカの操縦席近くから小さな爆発音と大きな煙が
上がった…ライダーが囮となった隙にエレカの右側へと回り込んだはるかの
モトクロスサイクルから、茜がはるかの支給武器・悪臭手榴弾を投げつけた
のである。

「ぶわっ!ゴホゴホ!くっ臭いいいいっ!!」01は、煙いやら臭いやらで
エレカの操縦どころではない、しかも…
『うわわっ!』(02と06、ハモッております)
装甲エレカが右へと大きくスピンしだした…ライダーが走り抜けて行く時に
エレカの無限軌道と補助輪の間にスパナを投げ入れ、挟み込んだのである。

煙を撒き散らしねずみ花火の如くグルグルとスピンし続けるエレカを尻目に
2組の2人乗り自転車はゆうゆうと、その場を走り去って行った。

「ふ〜、スリル満点だったですよぉ。」何とか恐怖に屈しての落車をせずに
済んだ相沢祐一(1番)が、ライダーに声を掛ける、
「でも、どうしてあのまま一気に装甲エレカを制圧しなかったのですか?」
「貴方達の支給装備を確かめもしないでの総力戦は出来ませんし、それに
操縦していたのが高槻Sの方達であった以上、あのエレカが支給装備だとは
限りません…もし、持参装備でしたら骨折り損もいい所です。」
ライダーは明解に即答した。

TO BE CONTINUED?!

121パラレル・ロワイアルその68:2003/10/30(木) 22:10
「畜生っ!あいつら覚えていやがれ…もし今度出くわした時は…。」
やっとの事で装甲エレカを停止させ、無限軌道と補助輪の間に挟まっていた
スパナーを抜き取った高槻01は、手榴弾の悪臭をチップルなコロンにて
上書きセーブし終えると、同じく『上書きセーブ』を終えた各銃座の02・
06と共に、再出発のスタンバイを開始した。

操縦席に腰を下ろし、各計器類の再点検を…と、
…バン!!「ぐおっ!」
…バリン!「うおっ!」

と、自分の両側で何かが割れる音とうめき声が、立て続けに聞こえてきた。

更に…、
『ビーッ、105番・高槻02、有効打直撃により失格…失格地点最寄の
14Pピースさんは直ちに救急搬送車で105番の元へ急行して下さい』
『ビーッ、109番・高槻06、有効打直撃により失格…失格地点最寄の
14Pピースさんは直ちに救急搬送車で109番の元へ急行して下さい』
の失格アナウンスが…。

慌てた01が、持参装備のベルグマン・エルベンモデル11A(エアガン)を
握りハッチから顔を出して見たものは…。

機関銃座・放水銃座にてそれぞれ…割れたビール瓶を握り締め、自分を気の毒
そうに見つめている少年と少女…そして、彼等のそばで瓶の欠片を撒き散らし
それぞれ、突っ伏して失神している02と06…。

「なっ…何だ貴様等はっ?…この俺様を一体誰だと…。」
ベルグマンを振り回して喚く01に対し、彼等は無言で01の背後を指差す、
01が思わず振り返って見たものは…般若の如き形相で手に持つビール瓶を
自分目掛けて振り下ろす女性の姿であった…。

…ボンッ!!

『ビーッ、104番・高槻01、有効打直撃により失格…失格地点最寄の
14Pピースさんは直ちに救急搬送車で104番の元へ急行して下さい』


「住井君、そして理奈さん、お疲れ様です…。」
篠塚弥生(47番)は、装甲エレカから失神した高槻01・02・06を
放り出すと、彼女の支給装備であるアクション撮影用のビール瓶(飴細工)の
欠片を片付けて、エレカの操縦席にどっかと座り込んだ。

続いて緒方理奈(13番)がエアマシンガン銃座に、住井護(51番)が
放水銃座にそれぞれ腰を下ろす…警告メッセージは来ない、やはりこの
装甲エレカは支給装備だった様だ。

弥生が口を開く「…では、これから里村茜さんの追跡を、開始します…。」

【104番・高槻01 105番・高槻02 109番・高槻06脱落…残り74人】

TO BE CONTINUED?!

122パラレル・ロワイアルその69:2003/10/31(金) 16:54
「お…おいっ、また追っかけて来たぞ!」
ライダーの背中で後を振り返った祐一が、何時の間にか自分達に追い付かん
と迫って来ている装甲エレカを再発見して、思わず悲鳴に近い声を上げた。

「…しかも、操縦者が代わっております…どうやら私達、徹底的なる追跡を
されてしまいそうですね…。」
茜がエレカを駆る弥生・理奈・住井の姿を認め、溜息をつきつつライダーと
はるかにルートの変更を依頼した。

「…目的地を植物園ではなくスタジオ・舞台村方面へと変更して頂きたいの
ですが…?」
「確かに…現在ピースさんは救急搬送中で不在ですし、ゲスト警備兵の皆様
では…あの装甲エレカが禁止エリア戦闘を行った場合の、即時制止は不可能
でしょうし…ここは舞台村・時代劇エリアの狭い路地を利用して撒く作戦を
選んだ方がよさそうですね。」

…2台の2人乗りモトクロスサイクルは、Y字状のエリア分岐点を左折して
スタジオ・舞台村方面へと疾走し、それを追う装甲エレカも当然、後に続き
スタジオ・舞台村方面へと走って行った。

TO BE CONTINUED?!

123パラレル・ロワイアルその70:2003/10/31(金) 18:01
「騒がしいわね、柳川さん…あら、お客様?」
長屋の奥の部屋から石原麗子(6番)がひょっこりと顔を出した、
丁度奥の部屋からサバイバルグッズとして使えそうな荒縄と蝋燭を発見して
携えて来た所である。

「ああ〜〜〜〜〜〜〜っ!」いきなり梓が叫ぶ、
「本作のボウガン殺人鬼じゃないの、アンタ!」
「あら、あの時の猪メイドさんね…ま、確かにあの時の私がどうかしてたと
いう事実は認めるわ…でも、今の私は…。」
麗子の言葉は続く梓の激昂の叫びによって、途中で掻き消されてしまった。

「黙れ、変態SM女王っ!今度は柳川を部屋へ拉致してパンツ1枚に剥いた
挙句、今その手に持っているムチやら首輪やらロープやらローソクやらで…
あ、あまつさえおまるなんてスカトログッズまで持ち込んでえええっ!!」

…確かに、状況的にこの有様ではある程度の誤解は止むを得ない所ではある
…麗子も、そこまでは冷静かつ客観的な判断で承知をしない訳にはいかない
所であった…が、しかし…それらを差し引いても、歴史の立会人であるこの
私に、何処の馬の骨だか知らない猪娘がかようなるセクハラ暴言を一方的に
捲くし立てる事が許されていいのだろうか?…嫌、許されていい筈がない!
例え、『傍観者』の掟を破ることとなろうとも…神は赦してくれるだろうし
……………………………………………………………………私も赦すっ!!!


「…………………………………言いたい事はそれだけ?…お譲ちゃん…?」
麗子の瞳がだんだんと冷たく…鋭いモノへと変わっていった、
「…それなら、これから私が…貴方が今言った言葉通りに貴方を可愛がって
あげるわ、たっぷりと…『御姉様、赦して下さい』って哀願するまで…。」

「待っ、待ってくれ麗子さん。」柳川が慌てて麗子を制する、
「あら柳川さん、どうして傍観してないの?…貴方としては立場上、現状を
誤解されていた方が都合がよいように、私には思えていたのだけど…?」
「確かにそうかもしれない、しかしだからといって、ここでアンタを裏切る
様なマネだけは…男としてしたくない。」
「…嬉しい事言ってくれるのね、柳川さん…でもこれはね、私の面子の問題
なのよ…どうしても私を止めたいのなら、あの猪娘に…。」

「だったら、本作の殺人未遂2件のワビの方が先だろが、コノ変態女!!」
…本作の私怨もあるのか、梓には和平で事を納める積もりは更更ない様だ。

「…と、言う訳、私は個人的にあの猪娘に口の利き方を教えてあげるための
『お仕置き』をしたいの。」…麗子は姦る気…いや、やる気満々の様である。

「麗子さんでしたでしょうか?…貴方には申し訳ありませんのですが…。」
梓の隣にいた柏木千鶴(20番)が、支給装備のネコパンチグローブを左手に
嵌めつつ麗子を見据えると、ゆっくりと静かに口を開いた、
「妹の暴言を代わってお詫びさせて頂きます…ですが、この梓は私の大切な
可愛い妹です…もし、どうしても貴方が梓と戦うのだとおっしゃるのでしたら、
私は梓のために…一緒に、貴方と戦わせて頂きます…。」


「お…お姉ちゃん達!」慌てる柏木初音(21番)をしっかりと抱き抑えている
七瀬彰(68番)に顔半分だけ振り向いて千鶴が口を開く、
「彰さん、初音の事をどうか宜しくお願いします…。」
「無論です…もっとも、初音ちゃんを護りながら戦える自信のない僕と、
立場的にどちらの側にもつき難そうな柳川さんが、『やるならやります』で
にらみ合いという形なのは…お互いに好都合なのかもしれませんし。」
「確かにな…最悪、現段階での総力戦だけは避けたい所だからな、お互い。」

戦いは。いや、頃し合いは――――――――もはや避けられないのだろうか?

TO BE CONTINUED?!

124パラレル・ロワイアルその71:2003/11/03(月) 17:58
「ヘイ、高野!今度こそお客さんが来ルゾ!」
歩哨に立っていたジョージ宮内(39番・代戦士)が遠くを凝視して叫ぶ、
「2人乗りノ自転車が2台!続イテ装甲車が1台ッ!」
「高槻Sか!?」
「イヤ…イッチマッタ目をシタ女と少年少女が操縦シテイル…ドチラに
してもヤバソウダな、アリャ。」
「自転車の連中は追われているのか?」
「ソンナ感じダナ。」

高野(110番)はM16A2ライフルの動作状態を確かめながら、
手早く客4人の避難誘導を始める、
「ハイハイ、危ないから爺さん嬢ちゃんは下がって下がって。」

と、その時高野は客4人の内の1人月宮あゆ(元61番)が、自分や他の
ライバル同様、識別装置をその身に着けている事に気が付いた、
『?…確か、この嬢ちゃんは代戦士申請をしていた筈だよなあ…?』

しかし、その疑問を本人に確かめているヒマなどがあろう筈もなく、
高野は疑問をそのままに4人を駐車場脇の茂みまで連れて行き潜ませると、
すぐさまジョージの元へと駆け付けて行った。


「はるかさん、もう一踏ん張りですっ…あの駐車場を越えればもう舞台村ですっ!」
「…う、うん…。」
流石にそろそろ、スタミナがあやしくなってきた覆面ライダー(41番・代戦士)と
河島はるか(26番)が、舞台村入口前駐車場に突入する…さっきまで誰かいたので
あろうか?…駐車場の真中に鯛焼き屋の屋台とベンチが鎮座しているのが見えた、
ライダーは一計を思い付き、支給装備の発煙筒のうち1本を焚くと、屋台の手前に
転がしてその両側をはるかと共に、舞台村の入口目指して走り抜けて行った。

続いて、装甲エレカが舞台村駐車場に突入して来た、既に駐車場には発煙筒の煙が
濃く立ち込め殆ど何も見えない状態であったがエレカは構わずそのまま真っ直ぐに
入口があると思しき方向へと疾走して行って…

ドッグアアア――――――――ンッッッ!!!

…鯛焼き屋の屋台と見事に激突・停止した。

125パラレル・ロワイアルその72:2003/11/03(月) 18:49
ドーザーブレードの付いた装甲エレカは流石にこの程度の衝撃ではビクとも
しなかったが、鯛焼き屋の屋台の方は衝撃により木っ端微塵に破壊された、
ボトボトボトボト……
屋台の搭載物が装甲エレカに雨のように降り注ぐ。

篠塚弥生(47番)の操縦席と緒方理奈(13番)の機関銃座には、焼きたての
鯛焼きが山となって降ってきた…少々熱いものの、追跡に支障を及ぼす様な
トラブルではないが…
「…そういえば、昼食をまだ摂っておりませんでした…パク。」
「鯛焼きは復讐の香り…モグモグ、でも今度はやられないわよ。」


その時、一身に貧乏クジを引かされたのは住井護(51番)であった…彼の
放水銃座には鯛焼きの材料である小麦粉の袋が口の空いたまま降って来た
「ぐえっ!目、目があっ!」
たちまち、銃座は白い空気に包まれる…たまらず住井は袋を振り回しながら
手探りでハッチを開いた…と、そこへ更に火の掻き消えたカセットコンロが
降って来た!…もし住井の頭でも直撃すればケガどころでは済まなかったが
…幸い、カセットコンロはわずかに住井の背後を抜けて銃座の床へと落下、
激しく火花を散らしただけで…散らしただけでは…済まなかった…。



次の瞬間、装甲エレカの放水銃座が…粉塵+ガスで爆発を起こした、
住井はハッチから爆風で射出され、駐車場脇を流れる川へと…
「うっ……みさ……き……さ……。」
ドッポ――――――――――――ン!

『ビーッ、51番・住井護、有効爆風直撃により失格…14Pピースさん
現在搬送中及び、爆風による負傷の可能性が高い為、14Fフレアさんは
代行で直ちに、救急搬送ヘリで51番の元へ大至急、急行して下さい』


装甲エレカの残りの2人が無事だったのは、エレカの各座席が完全独立空間
と化した造りになっていた事と、2人の座席に隙間なく降り積もった鯛焼き
がクッションになってくれた事であろう…

謎の爆発に一旦は驚いた弥生と理奈であったが、自分達とエレカのダメージが
無いに等しい事を確認すると、里村茜(43番)追跡を再開する為、エンジンを
掛け直して舞台村へと突入して行った。

【51番・住井護 脱落…残り73人】

TO BE CONTINUED?!

126 パラレル・ロワイアルその73:2003/11/04(火) 20:07
「…義君、南明義君、聞こえているかね…聞こえていたら返事をして
くれたまえ…。」
舞台村時代劇エリアの下町長屋の屋根の上で、潰れたパラシュートを
布団代わりに目を回して横たわっていたチェイサー1号・南明義は、
インカム越しに聞こえてきた男の声に慌てて目を覚ました。

「は、はいっ聞こえておりますですっ。」
「ここから先は私が情報提供を行わせて貰う…君がチェイサーでいる間
だけの短い付き合いとなるがどうか宜しく頼むよ。」
「はいっ、こ、こちらこそ。」
「早速だが、君の標的についての新しい情報が入ったので伝えよう…
君の標的である17番・柏木梓君なのだが…今現在、君の斜め下にいる。」
「へ…?」
「だから、君の斜め下にいるのだよ…。」

改めて言われてから初めて、明義は今自分が屋根の上に寝そべっている事に
気が付いた…斜め下という事は、自分が今いる部屋のお隣の部屋に梓さんが
いるという事ですか!…早速屋根から降り、自分が元屋根の上にいた部屋へ
と侵入して壁にへばり付くと、狙い撃ちとかが出来そうな穴とか隙間とかを
ごそごそと探し始めようとする明義、

「…ついでに言っておくと、柏木梓君のすぐ傍には…20番・柏木千鶴さん
、21番・柏木初音ちゃん、68番・七瀬彰君、98番・柳川裕也君、更に
6番・石原麗子さんがいる…全員が能力者で、多分…麗子さんあたりはもう
既に、君の存在に気が付いている筈だ…もっとも、気付いてて敢えて無視を
してくれていると思うのだが…標的を含めた残りの5人は、もし気付いたら
無視などはしないだろうな、多分…。」

(ブルブルガクガク)…急に動きが静かになる明義…と、その時…
遠くからドドドド……という地響きが、バキバキ……という破壊音を伴って
こちらへとどんどん近付いて来るのに、明義は気付いた。

『?…気付かれてしまったのか!…そ、それとも…?』慌てる明義に対して
インカムの男は更に口を開く、
「落ち着くんだ…むしろ、今接近している存在がもしかしたら君にチャンスを
与えてくれる事になるかもしれない…!」

TO BE CONTINUED?!

127パラレル・ロワイアルその74:2003/11/06(木) 19:50
…鞭と鎖を両手に持つ石原麗子(6番)と、ボクシンググラブを嵌めた柏木梓
(17番)、そしてネコパンチグローブを嵌めた柏木千鶴(20番)が三角形に
対峙し、じりじりと間合いを詰めていく…。

…見つめる柏木初音(21番)・七瀬彰(68番)・柳川裕也(98番)が思わず
ゴクリと固唾を呑む…と、その時…
遠くからドドドド……という地響きが、バキバキ……という破壊音を伴って
こちらへとどんどん近付いて来るのを、全員がほぼ同時に感知した。


「…作戦失敗、みたいだね…。」へとへとになった河島はるか(26番)が、
覆面ライダー(41番・代戦士)に向かってポツリと呟く、
「舞台村へ突入したら、時代劇エリアの下町長屋の狭い路地裏へ逃げ込んで
撒こうと思ってたんだけど…。」

逃げる2組の2人乗りモトクロスサイクルを執拗に追いかける装甲エレカは
時代劇エリアの狭い路地裏を、ドーザーブレードで削り破壊しながら疾走を
続けている…またしてもG.Nは、篠塚弥生(47番)と緒方理奈(13番)の
設備無差別破壊行為を、ウケオーライで黙認を決め込んでいるようだった。


「!」「!」「!」
麗子・梓・千鶴が一時休戦のポーズを取り間合いを開くのと同時に、
柳川・初音・彰が外の様子を見ようと入って来た開き戸を開けた…。
「!?」「!?」「!?」
3人の目にまず映ったのは、目の前の路地を猛スピードで走り抜けて行った
2組の2人乗りモトクロスサイクルであった…そして更に、それらが走って
来た方向に3人揃って目線を向けて…
「!!」「!!」「!!」
…慌てて部屋の中へと逃げ戻った!!

「大変っ!」「話は後だっ!」「裏口から逃げますっ!」
初音・柳川・彰の言葉に事情を聞く余裕すらない『何か』を理解した
麗子・梓・千鶴は、3人と共に開き戸とは反対側の部屋の奥の方へと進み…

『な、無い…。』(ハモッています)

そうだった、確かこの長屋は…横一列に造られた長屋の奥にもう一列長屋が
背中合わせに合体した造りになっていたんだ…裏口なんかある訳が無いっ!


と…6人のいる部屋がとうとう直に軋み始めた…表を走り抜ける装甲エレカ
のドーザーブレードが、開き戸のあった表の部屋を削り壊して…その余波が
ドミノ倒しのように6人が今いる部屋を襲って来たのである…幸いに長屋は
木造の建築物なので、そのペースは比較的ゆっくりとしたものであったが…
ついに、長屋全体の倒壊が始まっていった。

128パラレル・ロワイアルその75:2003/11/06(木) 20:45
「くそっ、こうなったら崩れる前にこの奥の壁をぶち抜いて…奥隣の部屋へ
逃げ込むまでだっ!」…梓の言葉に彰・柳川も頷いた。

…梓はボクシンググローブで、彰は支給装備である書物型鈍器で、柳川は…
後で壊れて使い物にならなくなってしまうであろうが…アストラのバレルを
握ると、台尻の部分をハンマー代わりにしてそれぞれ、漆喰の壁を殴り付け
叩き壊し始めた…。


ところが、その6人が逃げ込もうとしている、長屋の奥隣の部屋の中では…

『真ん中だ…今3つ穿たれている内の、真ん中の穴を空けているのが、君の
ターゲットだ…君の装備ではチャンスは一度きりだ、しっかりと狙いを付け
ちゃっかりと不意を撃って確実に仕留めるのだ…もし今現在の絶好の機会を
逃せば、君の出番はもう恐らく2度とはないだろう…そしてもし、首尾良く
仕留める事が出来たら直ちに逃げるのだ、万一両隣の穴を空けている2人が
壁を破り切った時に君を見付ければ、絶対に捕まって即脱落させられる事は
日の目を見るより明らかだからな…私の情報提供はここまでだ…それでは、
君の健闘を祈る…。(プチン)』

インカム越しに聞こえて来たジョーカーからの最後の通信を頼りに南明義は、
破片を撒き散らして振動する目の前の壁に、恐る恐る密着して真ん中の穴を
凝視する…既に真ん中の穴は首一つ位なら通れそうな位までに大きく穿たれ
ていた…と、比較的太ましい女性の両腕が、穴からにゅっと生えて来た!…
穴に腕を通して、力任せに一気に押し広げようというのであろうか。

(なんて馬鹿力な女なんだっ!失敗して捕まったら骨も残らんぞ絶対…だが
何とかコイツを脱落させないと俺が茜さんを護れない…こうなりゃヤケだっ
もうやるっきゃないっ!…両腕を穴に通しているという事は、顔は穴のすぐ
手前っ!…回避も出来る訳は無いっ!…よしっ今だあああっっっ!!!)

明義は壁の真ん中の穴の正面にスッと立つと、通してる両腕と穴の隙間から
自分を見付けて驚いているであろう柏木梓の顔面目掛けて吸盤銃の引き金を
引いた…

「なっ!?…何だオメエは!?…わっ、よせっ、あああっ!!」
ポンッ…ビヨヨヨ〜ン!

…梓が慌てて仰け反り穴から腕を抜いた時には既にもう、彼女の額には
吸盤の付いた棒が突き立って、勢いよく撓っていた。


『ビーッ、17番・柏木梓、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリアより
退いて下さい』


そして、見事チェイサー→2代目17番となった南明義は、壁が破れる前に
一目散に長屋から逃げ出し、快哉を叫んでいた、
「待ってて下さい茜さんっ!…貴方はこの僕・南明義が必ず見付け出して
最後まで守り抜いて見せますっ…イヤッホーッ!!」

【17番・柏木梓 脱落→17番・南明義 新規参加…残り73人(変わらず)】


TO BE CONTINUED?!

129パラレル・ロワイアルその76:2003/11/07(金) 20:31
一方、追われるライダーとはるかの方であるが…
今、2組の2人乗りモトクロスサイクルが走っている長屋通りの突き当たりは、
川で行き止まりとなっており、その両脇にある抜け道は狭過ぎて自転車では
とても通れそうにない、さりとてエレカ相手に徒歩で逃げる訳にも行かないし、
川の向こう岸まではそれなりの距離がある…例え1人乗りでジャンプしても
向こう岸まではちょっと届きそうにはない、遂に万事休したのか…?
…嫌、未だ終わらなかったようである!


「!?」装甲エレカを操縦する篠塚弥生(47番)は、遂に追い詰められた筈の
前方のモトクロスサイクル2台が、逆に速度を上げて川へと疾走して行くのを
見て自分の目を疑った、
「…あの川を自転車で走って飛び越える事は不可能な筈…一体どういう積もりなの?」

そう言っている間にも、2台のモトクロスサイクルはぐんぐん、川へと近付いて行き
…2台揃ってジャンプした!


「ああっ!」弥生はその時、初めて川の中程を横切っている1艘の屋形船を目撃した、
そして2台のモトクロスサイクルは、その屋形船の屋根の上に着地→中継地点として
再ジャンプを行い…見事に向こう岸へと到達・着地したのである。


「くうっ、何て事…。」弥生はエレカを停止させるとコクピットを叩いて歯噛みした、
…最寄の橋は渡るにしても大きく迂回しなければならないし、流石にこの装甲エレカは
水陸両用ではない…遂に逃げられてしまったのである。


…遊園地を目指して越後屋を出発した1艘の屋形船は、出発直後にいきなり上からの
強い衝撃を受けて大きく横へ揺れた。

「きゃああっ!」「うわっ!」「何?どうしたのよっ?」
「…大丈夫か?佐祐理。」「佐祐理は大丈夫ですよ〜。」

「一体、外で何が…?」
窓の障子を開けて外を覗いた深山雪見(96番)と七瀬留美(69番)の声が思わずハモッた、
『うわ!装甲車っ!しかも乗ってるのあのオバサンっ!!』

そして、反対側の障子を開けた折原浩平(14番)と長森瑞佳(65番)も、
『あっ、あの2人乗りしてる女の人…あの神の色・あの髪型はっ…!』
…やはりハモッていた。

TO BE CONTINUED?!

130パラレル・ロワイアルその77:2003/11/08(土) 19:00
「うぐうっ…たい焼き屋さん、壊れちゃったよおっ…。」
ジョージ宮内(39番・代戦士)と高野(110番)が、川から引き上げた
住井護(元51番)をHMX−14F・フレアの操縦する救急搬送ヘリに
担ぎ込んでいる頃、月宮あゆ(元61番)はしょんぼりとした顔で破壊された
たい焼き屋の屋台を眺めていた。

「そんなに沢山両手に抱えているのに、まだたい焼きに未練があるの?
おチビさん。」
杜若きよみ覆製身(16番)が、後ろからあゆの頭をポンポンとたたく様に
撫でながら声をかける、
「うぐうっ、おチビじゃないもん、あゆだもんっ。」
「………。」
うぐうぐとむくれているあゆの素直な反応に、えもいわれぬ気持ちになった
きよみは思わず、あゆの抱えている袋の中のたい焼きを2つほど抜き取ると
「今あゆちゃんの感じている感情は(…中略…)大丈夫、私に食わせろ♪」
…パックリとつまみ食いした。


「うぐう〜〜〜っ!たい焼きドロボ〜〜〜ッ!」
リュックの羽をパタパタさせながら怒って追いかけるあゆから、
たい焼きを咥えて笑いながら逃げ回るきよみの姿を、ホテルのモニターから
眺めている犬飼俊哉は思わず、後悔の混じった深い溜息を漏らしていた。

『…あれとは随分永い事共に生きて来たが、あのような表情や振る舞いが
出来る女であったという事を私は忘れてしまってかなり久しかった様だ…
…こうして見るあれの今の様子、今の表情…元のきよみと殆ど変わる所が
ないではないか…それに、今のあれの行動が意図したもの…それは、あの
月宮という少女を慰め励ますための行動…その表現の仕方こそ多少違えど
…その優しさ、慈しむ心…これも、元のきよみのそれと殆ど同じものだ…

…何という事だ…私は今迄の長い間、あれの事を失敗作だと見做し続けて
いた筈なのに、今見る限りでは…今見る限りでは少なくとも“あれ自身”
には、失敗した箇所など…失敗した箇所など見当たらないではないかっ!

…むしろ“失敗した箇所”を挙げるとすれば…それは私の、もしかしたら
私自身の………。』


…モニターの中のきよみはとうとうあゆあゆに捕まってしまい、2人して
駐車場脇の芝生の上をころころところげ回っている所であった…。

TO BE CONTINUED?!

131パラレル・ロワイアルその78:2003/11/09(日) 15:27
「動甲冑?…何それ、兄さん?」
リバーサイドホテルの祝賀パーティー会場にて、ヤケ酒でほろ酔い気味に
なっていた巳間晴香(元92番)が、兄・良祐(元93番)の口から出てきた
聞きなれない単語の意味を尋ねていた。

「装甲強化服のバリエーション…考え様では進化形態に位置する動力内蔵型の
戦闘用防具の事だ。」良祐がこれまたほろ酔い気分で妹に講釈を始めだした。

「リチウムポリマー等のバッテリー動力で、モーターにより間接やらワイヤー
やらを駆動させて、着用者の動きを模写・再現するのが装甲強化服の動きの
仕組みだとすれば、リンゲル液等の薬品の化学変化により人工筋肉や人工神経
を駆動させて着用者の動きを増幅するのが動甲冑の動きの仕組みという訳だ、

…もっと解り易く説明すれば、ロボットパーツ式のパワードスーツが
装甲強化服でサイボーグパーツ式のパワードスーツが動甲冑といった所かな、

…其々の長所短所を挙げていくと、装甲強化服はその動きが『模写・再現』
な分だけ反応速度が鈍重になってしまうが、巨大化や重装甲・重装備化が
容易でコストもまあまあであり、対する動甲冑は動きが『増幅』でしかも
人工神経を内蔵しているため、その反応速度は並の人間よりも遥かに鋭敏な
ものとなる…代わりに、その高機動性を維持するためにサイズとか重量等は
おのずと制限されて来るし、サイボーグパーツはロボットパーツに比べると
まだまだ発展途上中の代物なだけに、量産は効かない上、製造・維持ともに
その必要コストはべらぼうな額になってしまう…現に、来栖川重工では未だ
サイボーグパーツは製品化されてないし製品にパーツを流用してはいない、
…もしかしたら試作品は存在するのかもしれないが。」

「…で結局、その動甲冑がどうしたって言いたい訳なの、兄さん?」

「…実は、FARGOでは来栖川重工に先んじる事既に、性能面においては
実用的な動甲冑の開発に成功していたのだ…最終的にはその装甲に反射兵器を
コーティングした究極タイプも立案されてはいたのだが…唯一の欠点である
製造コスト・維持コストがそれぞれ、ジェット戦闘機並みだという大問題が
現在の科学・工学技術ではフォローする事が出来ず、結局…先行量産された
3着の動甲冑は未完成のまま日の目を見る事もなく組織の機密保管スペース
にて長い事、埃を被って保管されていたという訳だ…。」

「…だから、それが結局どうだって言いたいのよ?」

「…それがアレなんだよ、アレ!」良祐はモニターの一つを指差して叫ぶ、
画面の中では、さながら西洋の全身鎧に各種センサー類を取り付けて更に、
何本もの太いチューブやらパイプやらを全身関節部に接続した様な、無骨な
デザインの動甲冑が計3体、手に手に得物を持ってその見てくれとは裏腹の
俊敏なる動きで、水族館内を移動している姿が映し出されている。

「俺がアレの存在をすっかりド忘れしている間に、まんまと奴…いや奴等に
隠匿・完成化されて、ちゃっかりこのゲームに投入されてしまうとはなあ…
もし俺がちゃんと覚えてて、お前達不可視三連星に使わせてやっていたらと
思うと…いやあ、まいったまいった、アハハハハハハハッ。(ポリポリ)」

『アハハハハハハハッじゃないっ!!(ズビシッ!!)』(ハモッております)

…酔いどれ晴香と鹿沼葉子(元22番)のツープラトンの突っ込みを食らった
良祐の体が、空中で一回転して頭から落ちて行った。

TO BE CONTINUED?!

132パラレル・ロワイアルその79:2003/11/10(月) 17:33
…果たして、光岡悟(15番・代戦士)が口にしたタコさんウインナーが
その胃袋に届かない内に…遠ざかって行った3つの走っている足音が再び、
水族館中央ホールへと戻って来た。

「あら、どうしたの?何か忘れ物でも………!?」
水瀬秋子(90番)が思わず立ち上がって声を掛けようとしたその瞬間、

パララララララララララララララララララララララララララララッ!
パララララララララララララララララララララララララララララッ!
パララララララララララララララララララララララララララララッ!


…現れたのはC9組ではなかった…完全なる不意打ちが見事に決まった…


その瞬間、中央ホールにいた誰が一体この様な状況を予測し得たというので
あろうか?…Cグループ第12組と第13組の出発順番が、実は情報操作に
よって逆に入れ換えられて発表されていたという事実を?

…そして、実はC12組であった坂神蝉丸(40番)と光岡悟の後に水族館に
入って行った真のC13組こと高槻03(106番)・高槻04(107番)・
高槻05(108番)が、奥から走って来たC9組の3人を敢えて攻撃せずに
やり過ごして、中央ホールに留まっている連中の索敵網がほんの一瞬解けて
しまったスキを突いて強襲を掛けるだなどという、正しい作戦選択を行って
来よう等とは…。


…それでも、蝉丸・光岡には3丁のエアマシンガンによる制圧射撃を辛くも
回避出来るだけの技術・能力そして経験があった、

…そして、覆面ベイダー(72番・代戦士)は支給衣装のマントを、椎名華穂
(46番・代戦士)も支給装備の手ぬぐいを、それぞれ素早く一閃する事で、
自分たち目掛けて飛んで来たBB弾を何とかすべて叩き落とす事が出来た、

が…

ビシビシビシビシッ!
「そんな…ど、どうして…?」

ビシッ!
「お、お母さん…。」

『ビーッ、90番・水瀬秋子、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』
『ビーッ、91番・水瀬名雪、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』




「?!…にょわわっ、戦闘だっ!…ねえ美凪っ、どうし…モゴ。」
「……………………規模が大きい様です…それに、更に嫌な予感がします…
お世話になった方達には申し訳ありませんがみちる、このまま逃げます。」

…たまたま、海水浴場側連絡通路にある御手洗いで御不浄をしていたお陰で
難を逃れた遠野美凪(62番)とみちる(87番)は、名雪脱落のアナウンスを
聞くと中央ホールへ戻る危険を避け、御手洗いの向かいにある非常脱出扉を
支給装備の地下鉄道フリーチケットで開けると、そのまま白蛇を頭に乗せた
みちるを伴い、中へと入って扉を閉めた。


…美凪の予感は外れていなかった、彼女達が脱出を果たしたそのほぼ直後、
海水浴場側連絡通路から2人の新手が現れて中央ホールへと向かって行った
のである…。

【90番・水瀬秋子 91番・水瀬名雪 脱落…残り71人】

133パラレル・ロワイアルその80:2003/11/10(月) 18:38
「蝉丸、その2人を連れて下がれっ!そして残りの2人も一緒に保護するんだっ!」
光岡悟が支給装備の竹光を抜刀し、前方でエアマシンガンを構える3体の動甲冑こと
高槻03・04・05に向けて構えつつ、蝉丸に叫んだ。

「分かった光岡、こっちの事は気にせず存分に戦ってくれ!」
蝉丸はそういうとベイダーと華穂を伴い、海水浴場側連絡通路へと向かった。




「椎名さん、後の事は宜しく頼みます!」
華穂を海水浴場側女子トイレに見送ると、蝉丸とベイダーは再び中央ホールで
戦っている光岡の加勢に舞い戻ろうと、来た道をUターンした…しかしその時、

パララララララララララララララララララララララララララララッ!
パララララララララララララララララララララララララララララッ!

2人の後方…男子トイレの方向から、何者かが飛び出して来てエアマシンガンを
二丁斉射して来た!

…ベイダーは背後からであった事が逆に幸いし、銃声とともに反射的に屈むと、
はためかせたマントでBB弾をガードした、1発だけヘルメットに命中したが
角度が甘かったせいなのか、失格判定は降らなかった。

…蝉丸はベイダーよりも素早い反応で振り向くと…一瞬硬直し、驚愕の表情を
射手がいると思しき方向へと向けた後…辛くも斉射をかわし切って口を開いた、

「…まさか強化兵隠蔽装置がこのゲームに持ち込まれていたとはな…しかし、
その殺気…私には覚えがあるし、感じ取れるぞ…あの時の少年…いや77番・
藤田浩之君。」




「美凪さーん!みちるちゃーん!」
華穂は既に水族館を脱出した2人の姿を探し求めて女子トイレの中を移動していた。

と、一番奥のトイレから…片手にゴムナイフ、もう片手にスコーピオンを持った
来栖川製のメイドロボことHMX−13セリオが、ゆっくりとその姿を現した。

「あの〜、戦う前に一つだけお尋ねしたい事があるのですが。」
華穂は手ぬぐいをゆっくりとしごきながらセリオに尋ねる、

「…62番さんと87番さんの事で御座いましたら…私がここへ辿り着く直前に、
どういう手段を用いられたのかは存じませんが…文字通りに消えてしまわれました。」
セリオは隠す事無く淡々と回答した。

「…そういえばあの娘達って、現れた時も何だか『いきなり現れた』って感じだった
から、恐らくは上手く逃げたのですね、きっと…それだけがヤッパリ気になりました
もので、どうも有り難う御座いました…それでは、そろそろ始めましょうか。」

…華穂の握っている垂れ下がった手ぬぐいが、ひとりでにゆっくりと持ち上がって、
次第に剣の形をとり始めた…。

「…アレが『レンキ』というモノなのでしょうか…?」
セリオはセンサーをピッピッ…と鳴らしながら、目を丸くして呟いた。

TO BE CONTINUED?!

134パラレル・ロワイアルその81:2003/11/11(火) 19:00
「それにしても…。」広瀬真希(75番)は、前方を走る坂下好恵(25番・代戦士)
と松原葵(81番)の後を追いかけながら、そんな自分自身に首をかしげる。
「何故、アタシ…あの2人を追いかけているのだろう?」

C9組のメンツとして出会ったのが初めてのアカの他人も同然の2人、
しかももしゲームを有利に進めたいからという理由ならば、あの時あのまま
水族館に留まって他のCグループに編入して貰った方が、自分の生存率は
今よりも確実に上昇していた筈(実際には確実に逆であったが)なのにである…。

「武人の端くれだから…なのかな?アタシも、あの2人も…。」
広瀬はついぞ今まで自覚こそしてはいなかったものの、出会った当初から
坂下と葵に好感的な第一印象を抱いていた…というのも、2人とも自分と
互角に(それも剣道三倍段であるからこそ)戦えそうな実力を持ってそうな
程の腕前の空手家と格闘家であり、しかもどこかの猫かぶりな自称乙女と
違って、2人とも別に意味でからかいたくなる位の生真面目一途な性格の
持ち主だったからである。

そして、そんな2人が熱を上げて打倒を志しているエクストリームチャンプ
・来栖川綾香(36番)という人物に対しても少なからざる興味を抱き始め、
この2人に付いて行けばもしかしたら出会えるのではないかと、淡い期待も
秘めてこの2人に同行をしているのであった。



「ああっ!」「綾香先輩、そんな…。」
ヨットハーバーを見下ろす小高い丘の上、坂下と葵ははるか遠くに見える
ヨットハーバーにて、大型クルーザーに駆け込み発進させて行く目当ての人物
・来栖川綾香の姿を発見し、嘆息してへたり込んだ。
「何て事だ…。」「もう、追い付けないよ…。」

「…馬鹿野郎っ!オメーラココまで来てもう諦めるのかっ!?…何が何でも
勝負したい奴に会いに行くっつってたんだろおがっ?だったら、追いかける
船が見付かんなくなってから諦めろってんだ!…今までも、そんな風にすぐ
諦めていたのかオメーラ?…だったら、そんな根性で勝てる訳ネーだろが、ったく!」
…やっと追い付いた広瀬が、へたり込んだ2人を見て思わず激昂した。

「!広瀬…。」「!広瀬さん…。」
坂下と葵は広瀬の方を振り向き、そしてお互い向き合って頷き合うと
立ち上がって丘を一気に駆け下り、ヨットハーバーに停泊している船舶を
片っ端から物色し始めた…結果、

「ありましたっ!広瀬さんっ!坂下先輩っ!」
葵がキーの掛かったままの水上バイクを1台発見した…例によって、
ゲーム用に改造・配置された半自動操縦型のタイプである…が、しかし…

「二人乗りだよな、このバイク…。」「どうしよう、あと一人…?」
「ジャンケンで負けた奴が…コレだ。」
思案する坂下と葵の目の前で、広瀬が見付けて来たバナナボートのロープを
バイクの後ろに結びつけた…。


『…じゃあああんん、けえええんんっっ!!』(気合入れてハモっております)




そして…
「イケエーーーーーッ!!坂下アーーーーーッ!!」
「ウオウーーーーーッ!!」
「…せせせ先輩っ、ゆっくりスタートして下さいっ、ゆっくり………って、
キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

…この水上バイクの実質的な操縦者はG.Nである、そしてG.Nとしては
是非とも、彼女達には綾香や祐介達のクルーザーに追い付いて頂きたい所で
ある…てな訳で、水上バイクは遠隔操縦にて一気に猛スピードに加速され、
貧乏クジを引かされた葵の悲鳴をドップラー効果で轟かせながらみるみる、
港を離れて行った。

TO BE CONTINUED?!

135パラレル・ロワイアルその82:2003/11/12(水) 19:51
「……………。」HMX−13セリオ(52番)は空にされた両手を見やり、
センサーをピッピッ…と鳴らしながら、一歩一歩近付いて来る対戦相手こと
椎名華穂(46番・代戦士)の不思議な力に、改めて舌を巻いていた。

…既に、セリオの持っていたゴムナイフもスコーピオンも両方、華穂の操る
手ぬぐいによってさながらカメレオンの舌の如く、あっさりと絡め取られて
奪われてしまっていたのであった。


「では…そろそろ覚悟は宜しいでしょうか?メイドロボのお嬢さん…。」
華穂は手ぬぐいを片手に更に、一歩また一歩とセリオへと近付いて来る。

「……………。」セリオはセンサーをピッピッ…と鳴らしながら、じっと
華穂を見つめるだけで言葉を出さない。

「最後に…何か言う事とか、他のライバルさんにお伝えして欲しい事とかは
御座いませんか?」
華穂が更に一歩近付いて来てセリオに最後の問い掛けを行う、
セリオはセンサーをピッピッ…と鳴らしながら答えた、
「…そうですね、やっぱり…強い技とか力とかをいきなりに、対戦相手へと
見せてしまわれるのは如何なものかと私は思います…そのお陰で私は貴方と
戦う前に、貴方の実力を大凡察する事が出来まして…別の手段を打つ決意と
機会が得られましたのですから…。」

ピッピッピッピッ…………ピ――――――ッ!

「?!…そ、それって一体どういう意味…。」
…華穂はその言葉を最後まで言えなかった、

ジョボジョボジョボジョボ――――――ッ!!

『ビーッ、46番・椎名華穂、トラップアタックにより失格…直ちに
交戦エリアより退いて下さい』


…セリオは華穂の『レンキ』とその戦いに臨む姿より、正攻法のみによる
勝利は難しいと瞬時に判断し、保険技として水族館内のセキュリティーの
ハッキングを行い、海水浴場側女子トイレのスプリンクラーを華穂が真下に
来た時に、ノズルを直線状に絞って作動させたのである…もっとも、肝心の
ハッキングが完了するまでは相当の時間を要するため、今回の様に他の手が
無い時か時間稼ぎの当てがない限りは、使う余裕のない技なのであるが…。



「…残念だが、私にとって君が見えない事は大したハンデにはならない…
これ以上、我々に対し攻撃を続ける積りなら…君にはこのげーむから脱落
して貰う事となるが…。」

…坂神蝉丸(40番)は、支給装備である反射兵器―――少年(48番)より、
蝉丸と三井寺月代(83番)へのお詫びの計らいで、提供・優先支給をされた
らしい―――の入った茶封筒をバックから取り出しつつ冷静に言い放った。

パララララララララララララララララララララララララララララッ!
パララララララララララララララララララララララララララララッ!

返事の代わりに再び、蝉丸に向けて二丁斉射が放たれた!

136パラレル・ロワイアルその83:2003/11/12(水) 19:52
蝉丸は、落ち着き払って茶封筒から反射兵器を素早く取り出し、目の前へと
盾として翳して……………………「む?!?!」見事に一瞬、石となった。

そこへ…

ビシッ!

「た、頼む…こ、この支給装備だけは、没収…しないでくれ…後生だ…。」

『ビーッ、40番・坂神蝉丸、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』

…狙いが反れて跳弾となった内の一発が、蝉丸の後頭部目掛けてUターン
して来たのである…蝉丸が、反射兵器の図柄―――婚姻届…しかも事前に
書き込んで貰ったのであろうか、配偶者欄には既に月代の署名が本人直筆で
記入済み!―――をまともに見てしまった、まさにその瞬間に…。


「分かってるぜ、オッサン…こんな大切な物、取り上げる訳にはいかねーよ。」
装置を切り、初めてその声と姿を現した藤田浩之(77番)が、片目をつぶって
蝉丸に答えた。

(ち、違う…そういう意味で言ったのではないっ…!)…蝉丸は心の中で叫んだ。



「…浩之さん、こっちは終わりま……!」
難敵・椎名華穂に勝利して女子トイレから出てきたセリオは、男子トイレの
前で浩之と対峙している覆面ベイダー(72番・代戦士)の姿を見ると、再び
戦闘体勢を取り直した。

「待て!…待ってくれ、セリオ。」
「どうされたのですか、浩之さん?」
「何だか解らねえが、コイツ…いや、この人に引き金を引く事に俺は何だか
嫌な予感を覚えるんだ…返り討ちとか何とかいうのとは違う、又何か別の…
嫌な予感が…。」
「撃タナイノデスカ?…ソレナラ、先ヲ急ガセテ頂キマス…光岡悟サンガ、
3人相手二タッタ1人デ戦ッテオラレマスノデ…。」

「おい、待てよアンタ!…俺達はアンタの仲間を2人も脱落させたんだぜ、
それなのに何故、俺達に反撃して来ないんだっ!?」
「…既二脱落シテシマッタ仲間ノ事ヨリモ、マダ脱落シテイナイ仲間ノ事ヲ
ヨリ優先シテ、行動ヲ起ソウトシテイルダケデス…デハ…。」

言うなり、ベイダーは中央ホールへと1人、駆け出して行った。

【40番・坂神蝉丸 46番・椎名華穂 脱落…残り69人】

TO BE CONTINUED?!

137パラレル・ロワイアルその84:2003/11/13(木) 19:05
バシュウウウウウウ――――――ッ!!
…既に爆発のショックでバルブに亀裂が入っていた、装甲エレカの放水銃が
遂に暴発を起こしたのは、篠塚弥生(47番)がコクピットを叩いたその時で
あった。

偶然の神様が『もう、程々にしてくれ』と頼んで来たのであろうか、幸いに
水撃はライバルを僅かに反れ、屋形船船首右舷の障子窓に風穴を空けただけ
で済んだ。

…しかし、撃たれた側にしてみれば…特に、窓から顔を出した所をいきなり
攻撃されたと思い込んでしまった、深山雪見(96番)と七瀬留美(69番)に
とってみれば…宣戦布告以外の何ものでもなかった。


「もう、アッタマ来たあのオバサン!…こうなったら乙女の怒り、目に物を
見せてあげるわっ!!」

七瀬は障子戸を開けて船尾に辿り着くと、5・6キロはありそうな綱付きの
錨をビュンビュンと、ハンマー投げの要領で(しかも片手で!)振り回して、
「うおりゃあああああっ!!」…装甲エレカ目掛けて投げつけたのである!

ボゴンッ!!………ブシュウウウウウウ――――――ッ!!

錨は装甲エレカの放水銃に見事命中、放水銃を鉄屑で出来た噴水へと変えて
ハッチに引っ掛かった。


…この時、錨がハッチに引っ掛かるのを目にして素早く脱出を選んだ弥生と
元放水銃からの水飛沫を避けようとし、反射的に機関銃座にしゃがみ込んで
しまった緒方理奈(13番)の行動選択が、直後の明暗を分けてしまった。

3人乗りの装甲車と10人は乗れそうな動力付き屋形船で綱引きをすれば、
結果は当然…ズ、ズズズズズ……ズルッ…ボッシャ――――――――ン!!

「ひ、ひどいわっ…私が撃ったんじゃないのにいっ…。」…ブクブクブク…

『ビーッ、13番・緒方理奈、アタックダイブにより失格…直ちに
交戦エリアより退いて下さい…大型車両水没の為、14Kカノンさんは
クレーン車による現場出向・復旧作業を行って下さい。』



「…凄いな…思わず見とれ、憧れてしまったぞ…。」
船内に戻って来た七瀬に、川澄舞(27番)が畏敬の眼差しを向けていた。

七瀬は照れくさそうに舞に答える、
「ま、まあ…今のは、数ある私の乙女の魅力の一つ『戦乙女』を披露させて
頂いた訳で…。」

そして、よせばいいのに折原浩平(14番)がそれにツッコミを入れる、
「…それを言うなら“数ある漢塾究極秘奥義の一つ『鮫殺し』を披露させて
頂いた訳で…”だろ?」


「…ねえ浩平、イイ事教えてあげるわ…。」
七瀬が、元・舞の支給装備であった精神注入棒をその手にしごきながら、
にこやかに口を開いた、

「瑞佳のパンフレットに書いてあったんだけど、このゲームの隠しルールに
よると、やられた側が『有難う御座いました』って、即時に言いさえすれば
ツッコミ系の有効打判定を完全無効化に出来るんだそうよ…てな訳で浩平、
覚悟はいい?(きゅぴーーーん!)」


…ビシッ!…バシッ!…ズビシッ!!…ヒュバシッ!!
「有難う御座いましたっ!有難う御座いましたっ!有難う御座いましたっ!
有難う御座いましたああああっ!」

【13番・緒方理奈 脱落…残り68人】

TO BE CONTINUED?!

138パラレル・ロワイアルその85:2003/11/14(金) 19:13
「…それでは、お別れです。」
「本当に、本当に有難う御座いました。」

舞台村西部劇エリア内の教会正面にて、覆面ライダー(41番・代戦士)&、
河島はるか(26番)組と相沢祐一(1番)&里村茜(43番)組は別れの挨拶を
交わしていた。

「…でも大丈夫?これから先、徒歩であのエレカから逃れるのは難しいと思うよ…。」
「…これから何とか船を入手し、水路を使って逃走出来たら…と思っております。」
「上手く入手出来て、ホテルを抜けて遊園地辺りまで逃れられたら、安心出来そう
なんだけどな。」
「それにしても…当分の間、フードスタンドに立ち寄れそうにないのでしたら、
無理をしてまで運賃を払う必要はありませんよ。」

ライダーとはるかは、祐一と茜より『他に支払える物が無いので…』という理由から、
支給された水と食料を全て、運賃代わりにと渡されていたのである。

「…困らないと言えば嘘になってしまいますが、答礼の義理は果たさない訳には
参りません…さりとて、銃を手放す訳には参りませんので…。」



「済まない、茜…せめて俺の支給装備が外れで無かったなら…。」
祐一は、自分に支給された装備…バックの中のブーブークッションを覗き込んで、
思わず深い溜息をつく、
「はぁ〜っ、一体G.Nは何を考えて俺にこんな物を…。」
「…もしかして、『ヘタレ』という意味なのでは?」

…祐一は石化した。



「…行って、しまったね。」
「上手く逃げ切れたらいいね、あの2人。」
はるかとライダーは祐一・茜が去った後、教会の懺悔室でそれぞれ下着姿になって、
これまでに掻き捲くった汗をタオルでごしごしと拭っていた。

「…ライダーさんって、やっぱり女の方だったんだね…でも、どうして正体を隠してるの?」
「正体不明・実力不明の方が、サバゲーだと色々と有利かな?…っていう理由と、
2輪乗りなら誰でも一生に一度は罹ってしまう仮面ライダー症候群って奴が、もう一つの
理由…でも、失敗したかな〜どうせなら仕事着で参加した方がお店の宣伝にもなったし、
知ってる人達とも共同戦線、張れそうだったんだけど…。」
「…それにしても、これからどうしよう?」
「折角だからさ、これからも島をあちこち…サイクリングでも存分に満喫させて
貰いましょうか、勝負は2の次という事で。」
「…それなら、私も一緒させて貰って…いいかな?」
「勿論よ、喜んで…って、その前に一眠りさせて貰っていいかしら?…長い事、
ずっと派手に駆け走り続けていたからもう、疲れちゃって疲れちゃって…。」
「…ん、実は私もすごく疲れてて…一眠りしたかったんだ。」
「じゃあ、一緒に寝ようか?…見張りがいないのはもう運任せって事で。」
「…それはいいんだけど、その前に…是非良かったら、教えて欲しいな…
ライダーさんの…名前。」
「鈴香よ…風見鈴香。」
「…じゃあ、おやすみなさい…鈴香さん…。」
「おやすみ、はるかちゃん。」

汗を拭き終わり、涼しそうなTシャツに着替えたはるかとライダー…もとい風見鈴香は、
待僧室のベッドに2人横になると…寄り添うように深い眠りへと落ちて行った…。

TO BE CONTINUED?!

139パラレル・ロワイアルその86:2003/11/15(土) 16:48
…覆面ベイダー(72番・代戦士)が駆け付けた時には、中央ホールに於ける
勝負の優劣は既に決していた。

…如何に人工神経で増幅されているとは言え、大元もとい中身が肉体的には
凡人の高槻Sでは、その動甲冑の反応速度は光岡悟(15番・代戦士)のそれ
には到底及ぶものではなく…実弾さえも見切って回避出来る光岡にとって、
エアマシンガンの弾幕を回避する事というものは、ゲーセン小僧にとって、
シューティングゲームのボスキャラからの弾幕を回避する事に等しい…正に
文字通りの『児戯に等しい』事に過ぎないものであった。

…加えて、光岡程の武人ともなれば、中身を傷つける事無く防具だけを破壊
するための力加減も、さして難しい事ではなかった。

…竹で出来ている筈の刀の刃が…影花藤幻流の舞を舞う度に、動甲冑の動力
パイプが切り裂かれリンゲル液のチューブが千切れ飛び、逆手に持った鞘が
装甲を叩き割りセンサーを破壊していく…。

…如何に本体が無傷とはいえ、高槻Sがこの戦況・この状況に平常心のまま
いられる筈もなく…。



「ひ!?」光岡の鞘の一閃でヘルメットを叩き割られた高槻05(108番)
が遂に恐怖に耐え切れず…「ひっ……ひひっ……ひぃーっ、ひぃーっ!?」
錯乱・逃走した、海水浴場側の連絡通路を目指して…。

「――哀レネ、力量ヲ見誤ッタモノノ末路ハ。」

バシュウウウウウウウ!

ベイダーは逃げて来た05の露出した顔面を、ソフビ製のライトセイバーで
一凪に張り倒した…その一撃で05は完全に意識を失い、そして倒れた。

『ビーッ、108番・高槻05、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』



…しかしそれでも、坂下好恵・広瀬真希・松原葵といったエサも同然の
C9組の連中を敢えてやり過ごして能力者集団の不意を突き、水瀬秋子を
脱落させた巧みさといい…反対側通路からやって来た藤田浩之とセリオに、
坂神蝉丸と椎名華穂が脱落させられた幸運といい…このゲームに於ける
高槻03(106番)・高槻04(107番)・高槻05の強襲は、本作での
…狂気と自信過剰と虚栄心に振り回されて、自滅同然に各個敗れていった…
みじめな戦いっぷりに比べれば、そして…このゲームにて既にスコアゼロで
支給装備を奪われ、敢え無く脱落した…A12組の高槻01・02・06に
比べれば、遥かに賢明に戦いを進めて大善戦をしていたといっても過言では
ないのかもしれない。

唯、『そこに光岡悟がいた』…それだけが彼等にとっての不幸であり、
『光岡悟の力量を見誤った』…それだけが彼等にとっての誤算であった。

140パラレル・ロワイアルその87:2003/11/15(土) 16:48
(く、くそっ…俺達は何てバケモンを…狩り倒そうとしてやがったんだっ!)

後悔しても遅かった…そもそもが勝てる訳のない組合わせだったのだから。

『ビーッ、107番・高槻04、自力行動不能により失格…失格地点最寄の
14Mマリアさんは直ちに107番の元へ急行して下さい』

『ビーッ、106番・高槻03、自力脱出不能により失格…失格地点最寄の
14Mマリアさんは直ちに106番の元へ急行して下さい』

…04は動甲冑の動力パイプを全て叩き切られ、自重で横たわったまま
身動きが取れない状態になってしまった。

…03は体を『く』の字にして、休憩スペースにあるゴミ箱に尻から
スッポリ嵌まり込んで、これまた身動きが取れなくなってしまっていた。



光岡は3体の動甲冑…もとい高槻03・04・05の強襲をたった一人で
鎮圧完了すると、竹光に付着したリンゲル液を一拭いして鞘へと収め…
『駆け付けては来たものの、した事は光岡の強さに改めて驚く事だけ…』
も同然だった、ベイダーの方へとくるりと向き直った。

「…そうか、蝉丸がしくじってしまったのか…。」
「…アノ〜、私ガ言ウノモ何デスガ、モット『馬鹿ナ!アノ蝉丸ガ!』トカ
『一体何ガアッタンダ!?』トカイウりあくしょんガアッテモイイ様ナ気ガ
致シマスガ…。」
「信じられない事実と起こり得ない事実は同一のものではない、
結果に驚いて結果が変わるというのならば幾らでも驚いている所だが、
そうでなければわざわざ驚く必要などない…とはいえ、結果へと辿り着いた
過程には興味がある…是非とも過程を説明して頂きたい。」

「分カリマシタ、ソレデハ…。」
ベイダーは、光岡VS高槻Sの大乱闘の末…さながらバリアーでも張られて
いたのかの如く…奇跡的に流れ弾の一発すらも飛び込んで来る事すらなく、
強襲発生前と全く同じ状態で食べ掛けられたまま…の弁当を広げなおすと、
光岡に中断された食事の続きを促しつつ、トイレ前の攻防戦の展開をひとつ
ひとつ、説明を始めていった。



…そして、その中央ホールの脇を、戦利品の手ぬぐいでほっかむりして
隠形法をサテライトリンクしたセリオ(52番)が、強化兵隠蔽装置を作動
させた藤田浩之(77番)をおんぶして、こそこそと港・ヨットハーバー方面
連絡通路へと駆け抜けて行った…。

【106番・高槻03 107番・高槻04 108番・高槻05 脱落…残り65人】

TO BE CONTINUED?!

141パラレル・ロワイアルその88:2003/11/16(日) 18:25
「…と言う訳で、貴方達にはこれからこの99番・柚木詩子と供に、
43番・里村茜の探索を手伝って貰う事にするわっ!」

おやつの時間の大灯台広場フードスタンドにて、支給衣装・水曜スペシャル
取材班(川口浩探検隊とも言う…)の制服をその身にまとった柚木詩子が、
ホカホカのチョコレートワッフルを片手に振り回して、
テーブルの向かいにて、それぞれ杏仁豆腐とナタデココをつついている2人…
縦王子鶴彦(58番・代戦士)と横蔵院帶麿(71番・代戦士)に向かって
力説を行っていた。

「…却下でござるよ。」「ほほ、他を当たったほうがよいのだな。」

「何よ、貴方達?戦場で一人ぼっちの女の子の頼みも聞いてあげられないだなんて、
あんまりだとは思わないのっ?」…何とか自己中理論で押し切ろうとする詩子であったが、

「…確かに、『女の子』でござるな。」
「ヤヤヤ、ヤッパリ小さ過ぎるから『女の子』なんだな。」
マイペースでしたたかな事では縦王子・横蔵院も負けてはいない、


「え?…そ、そお?やっぱり私って、まだまだ貴方達のリーダーとしての度量が小さ…」
「…身長でござるよ。」
「む、胸もなんだな。」…容赦ない追い討ちが掛かる、


【勢力状況――――縦王子・横蔵院側が攻勢を維持しています――――】


「そもそもからして我々は、義理と報酬で代戦士を請け負った身でござる、
二重契約は仁義に反するでござるよ。」
「ぼぼ、僕達に二重契約を頼めるのは…ああ、あさひちゃん位なんだな。」


(!…あさひちゃん?…それって、ひょっとしたら…。)
横蔵院の挙げた名前に覚えがある詩子は反撃の準備を開始した、

「…あらやだ、私ったらワッフルのチョコレートソースでもう口がベタベタ〜…しかも、
ティッシュ切らしちゃったから拭く紙も無いじゃないのよお…もう、仕方ないなあっ。」

と、詩子は自分のバックから支給装備である…――本作でも御堂に貢献した――
とあるバインダーを引っ張り出しながらのたもうた。


「!!」「!!」ソレを見た縦王子・横蔵院の顔色が瞬時に変わった、

「ちょ…ちょっと待つでゴザルよ!!」
「ソ、ソレを一体どうする積もりなんだなっ?!」

「どうするって…中に入っているカードで口についたチョコソース拭くのに
決まってるじゃないの?」
…詩子は慌てる2人にしれっとした顔で答えた、

「ソソ、ソレで拭いてはイケナイでゴザルよっ!!」
「ティティ、ティッシュでもタオルでも幾らでもあげるんだなっ!!」

「要らないわよ別に、私はコレで口を拭きたいんだから…第一、私の装備を
私がどう使おうと、私の勝手でしょ?」
…詩子の手が容赦なくバインダーを開いた、

「かかか、勝手では済まないでゴザルよおっ!!」
「おおお、お金では買えない文化遺産への冒瀆は止めて欲しいのだなあっ!!」
…思い切りうろたえる縦王子・横蔵院、

「『限定プレミア』の方で拭こうかしら?それとも、この『絶版希少品』の方で…。」
…聞こえないフリをした詩子が今、まさにカードへと手を伸ばして…

「うわ〜っ!!うわうわ、うわかった、解かったでゴザルよお〜〜っ!!!」
「ぼぼぼぼ、僕達で代わりに出来る事なら、なななな、何でもするのだなあ〜〜っ!!!」

「交渉、成立ね♪」
…詩子は口のチョコソースを舌でペロッと舐めてVサインをした。


【勢力状況――――――――柚木詩子側が圧倒的です!――――――――】

TO BE CONTINUED?!

142パラレル・ロワイアルその89:2003/11/16(日) 18:26
「うわっ!」「なっ!」「きゃっ!」「わぁっ!」「あうっ!」
ゲーム用クルーザーにいきなり強い衝撃と振動が加わり、速度がガクンと低下した。

「な…何だアレは!?」…橘敬介(57番)が指差すクルーザーの船尾には、
ワイヤー付きのフックがガッキリと食い込んでいた、
そしてフックに繋がっているワイヤーの先には…船首にワイヤーウインチを
装備した大型クルーザーがワイヤーを巻き取りながら、徐々にこちらの
クルーザーに肉薄し、接舷しようとしていた。


大型クルーザーに人影は見えない…恐らく何処かに潜んでいるのだろう、
敬介はブリッジ備え付けの緊急脱出用の赤く塗られた手斧を取り出すと、
ワイヤーを切断しようと船尾へと駆け出して行った。

「駄目ですっ、敬介さんっ!」
「アホウ、敬介っいきなり出て行ったらアカン!」
長瀬祐介(64番)と神尾晴子(23番)も、慌てて敬介の後を追う、

しかし、懸念に外れて無事船尾に辿り着いた3人…相変わらず敵の姿は見当らない。


(…能力者相手に敵討ちをする積もりなら、隠れていて当たり前か…)
残念ながら、祐介の『電波』は月島瑠璃子(元60番)のそれと違って、位置を確認
出来ていない標的を自動追尾してくれる能力はない…視認が出来ない事には祐介も
やりようがない訳だ。

「ごめんなさい、敬介さん、晴子さん…僕のつまらない私怨と勘違いに、お二人を
巻き込む事になってしまって…。」
「ええって、ええって…恨む気持ち分からへん訳でもないし…それに、わざとや
ないんやったら、やっちまった事何時までもくよくよすんなや。」
「むしろ祐介君、ここは私と晴子さんに任せて、早く美汐君の所へ…………………
君だけでも逃げ込むんだっ!!」

祐介の方を向いて声を掛けていた敬介がその瞬間、祐介の背後に目にしたもの……
クルーザーの船縁の陰から、音も無く浮上して来た…来栖川綾香(36番)を乗せた
バケツのような飛行物体とその機首部に備え付けられた電動エアガトリングガンの
…その銃口を見るや、敬介はそのまま相撲で言う所の下手投げの型で祐介を掴み、
船内へと放り込んだ!


…次の瞬間、

シパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ!
ビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシッ!
ビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシッ!

「済まない、晴子…もし届く位置にいてくれたら最優先で放り込んでいたのだが。」
「ええわ、そんなん…それよりも『済まない、晴子ぉ…』やて、戻ったら観鈴に
教えたらなアカンなぁ♪」

『ビーッ、57番・橘敬介、有効弾直撃により失格…海上戦闘の為、
14Mミリアさんは直ちに巡視船にて57番の元へ移動して下さい』

『ビーッ、23番・神尾晴子、有効弾直撃により失格…海上戦闘の為、
14Mミリアさんは直ちに巡視船にて57番の元へ移動して下さい』




…その時、リバーサイドホテルの祝賀パーティー会場にて、ツープラトン攻撃から
やっと目を覚ました巳間良祐(元93番)が、再びモニターの一つを指差して叫んだ
「フライング・プラットホーム!…あんな物までこのゲームに持ち込まれていたのかっ!」

【23番・神尾晴子 57番・橘敬介 脱落…残り63人】

TO BE CONTINUED?!

143パラレル・ロワイアルその90:2003/11/17(月) 20:18
「んもう、和樹のドジッ!!ホントちょー信じらんなーいっ!!」

おやつの時間の土産物商店街フードスタンドにて、大庭詠美(11番)は
荒れまくっていた…まあ、愛する千堂和樹(元53番)が出会えもしない内に
いきなり脱落してしまったのだから、仕方ないと言えば仕方がない事である、
しかも、先程からずっと…



「はい、アーンして♪」
「ちょ、ちょっと郁未……いくら何でも……ライバルさん達も見てるし…。」
「アーン…す・る・のっ(怒)」
「う…………ア、アーン…。」
「ハイッ♪…じゃあもう一回、アーン♪」
「……………(ふるふるふる)」
「…しょうがないわねえ、そんなにスプーンじゃイヤなの?…それじゃあ、
恥ずかしいけど…特別サービスよ♪(ぱくっ)」
「ち、違う郁未…そ、そういう意味で首を振ったんじゃあ……モゴオ〜〜〜ッ!!」



…少し離れたテーブルにて、一方的女難に遭っている少年(48番)のとても
可哀相な有様を…

―バゴッ!!グシャッ!!
「改めて訂正を求むわ。」

わ、分かりました郁未さん…では、

…少し離れたテーブルにて、甘い一時を謳歌・満喫している天沢郁未(3番)と
少年(48番)のラブラブな様子を目の当たりにされ、羨ましさと悔しさに油を
注がれ続けていたのであった。

こ、これでいかがでしょうか?

「よろしい。」



「ああん、もお我慢出来ない〜っ!アタシもゲーム降りるぅ〜〜っ!!」
「何アホぬかしとんねん!どーせ今ホテルに戻ったって、和樹はカンヅメに
決まっとる…あの編集長が和樹の早期脱落を見逃す訳あらへん、今降りても
降り損や!」
「ふみゅ〜〜ん、そんなあ…。」



「…それにしても確かに、タダモンじゃねえ匂いのプンプンするガキだがよお…。」
詠美と猪名川由宇(7番)がフルーツパフェをつつきながらギャーギャー騒いでいる
隣のテーブルで、ぴろ(86番・代戦士)と一緒に焼き秋刀魚定食を食べている御堂
(89番)は、顔を渋くして頭を抱えた。

「…結果的に間違った選択じゃなさそうなのが余計頭を痛くする事実だがよお…
戦時中と今じゃあ、人造能力者の候補者人選基準に随分と隔たりが出来ちまった
みてえだなあ…蝉丸の奴も、本作の方じゃあさぞ別の意味で死に切れなかった事
だろうぜ、ククク…………って、それにしてもホントにそんなに強ええのかよ、
アイツ?」

本作ゲームスタート時に比べれば、相当別人化が進行してしまった御堂ではあるが、
蝉丸を始めとする強者への対抗意識は今なお健在している…もっとも、その目的こそ
劣等感や自己満足といったものから、別の方面へと変わってはいるのだが…。

…思わず湧き出た疑問に悪い虫が顔をもたげてしまった御堂は、テーブルの下から
こっそりとコルク銃を構えると、少年へと狙いを定めた…。



「…信じられないよ郁未…僕は鳥の巣の雛鳥じゃないんだから…。」
郁未に白昼堂々、衆人環視の前でエッチなご馳走を無理矢理食べさせられてしまった
少年は、その場を取り繕おうとコップのお冷を口に流し込むと、ガラガラとうがいを
始めだした。

しかし…それを見た郁未がカチンと来ない訳がない、少年の背後にそっと手を回すと
…そのお尻を思い切りにつねり上げた!

…御堂がコルク銃のトリガーに指を掛けたその瞬間に。



「ブーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
「うわわっ!コラッ!水をかけるんじゃねええっ!!」
…御堂は銃を放り捨て、間一髪で飛び退いた。

(ば、馬鹿な!この俺よりも先に…気配すらも見せねえで…し、しかも俺の弱点まで
知ってやがるのかあっ!?)

TO BE CONTINUED?!

144パラレル・ロワイアルその91:2003/11/17(月) 21:15
その頃、舞台村植物園側入口では…

「トンだ騒ぎモ落ち着いた所デ…コレカラの俺達ノ行動指針ノ方だが…ドウスルネ?」
「…まずは、爺さん嬢ちゃん達がこれから誰と同行し、何処へ行きたいのかを確認しようか。」
「爺さんとはまた、随分と私達も見くびられたものですな、長瀬さん。」
「いや、まったくですなあ…本作にて中ボス筆頭を務めたこの、長瀬源之助を捕まえて。」
「あ〜聞いた事のある声だと思ってたけど7回目以降の定時放送やってたの爺さんだったんだ。」
「…私、聞く前に死んじゃったのよねえ…。」
「うぐうっ、お爺ちゃん悪い人だったんだ。」
「むむうっ、そういう言われ方をされてしまうとお爺ちゃん、悲しいぞ。」

「ジャア、結局全員コノママ舞台村→土産物商店街ルートで行くとイウ事デ決定カ?」
「決定かっ…て、ジョージは娘さんが巨大公園の方に行っちまってる筈だったんじゃないのか?」
「ヘレンもモウ子供じゃない…ソレニ、銃ノ扱い方はモーバッチリ教えてアル…心配は無用ダ。」
「はあ、りょーかいしました。」
「それにしても、きよみさんの支給装備が人物探知機だというのは、とても助かりますよ。」
「うむ、不意を撃たれる可能性はこれで更に、大幅に減った事は間違いあるまいて。」
「まあ、お陰で何とか…お荷物なだけでなくて済みそうで、ホッとしている所ですけど。」
「うぐうっ、ボクお荷物じゃないよおっ。」
「そういえば嬢ちゃん、確か代戦士頼んでた筈なのにどうして、こんな所に識別装置付きでいるんだ?」
「うぐうっ、それは企業秘密なんだよっ。」
「企業秘密ねえ…。」


そして、更にその頃、美術館・絵画エリアでは…

「え、ええっと…ミレーの『晩秋』…。」
「…『落穂拾い』だ…。」
「じゃ、じゃああれ…ゴッホの『農夫』…。」
「…『医師ガシェの肖像』だ…。」
「わ、私…洋画は詳しくなくって…あっ、北斎の『東海道五十三次』。」
「…北斎は『富岳三十六景』だ…。」
「う゛〜!う゛〜!!(ポカポカポカポカ)」
「香里、例え他に誰もいなくとも美術館で暴れるのはよくない。」
「………………はい(シュン)。」


そして、また更にその頃、土産物商店街・交戦禁止エリア境界付近森林では…

「藤田浩之…ああ思い出した、あの時の少年か。」
「『あの時の少年か』ってセンセ、そんな言葉で済ましちゃうんですか?!あの殺人鬼を。」
「マナさんひどいですうっ、浩之さんの事を殺人鬼だなんて。」
「何言ってんのよ?!本作でアタシや霧島センセが、あの殺人鬼に…。」
「…マナ君、真実がどうあれ、誰かを信じようとする者の心を挫く様な発言は医者として不適格だぞ。」
「はぁい、センセ(シュン)。」

『…てぇ事は、俺が狙撃者から助けてやった少年は、一緒にいたロボットの姉ちゃん同様、
“本作のソックリさん”だったって事なのかな?…確かに、あのロボットの姉ちゃんは、
本作で俺や爺いが戦ってた奴とソックリだったからなあ…だが、流石の俺様をナメちゃあ
イケねえ、あの姉ちゃんがソックリさんだったって事は、鼻がバッチリと教えてくれてた
からなあ…お陰で便利な乗りモンまでゲット出来たしよお、まさに“情けは人の為ならず”
って奴だな…しかしあの姉ちゃん、間違って爺いに撃たれたりしなきゃいいんだがなあ…
ちとばかり心配だぜ。』

TO BE CONTINUED?!

145パラレル・ロワイアルその92:2003/11/19(水) 19:49
「……………。」
大型クルーザーに接舷されようとしているゲーム用クルーザーを見やりつつ
フライング・プラットホーム(以下略FPH)のコクピットにて、来栖川綾香
(36番)は苦虫を噛み潰した様な顔をしていた。


…姉芹香とセバスチャンを脱落させられた恨みを晴らさんと、こうして一人
追跡して捕捉して…主催者特権で大型クルーザーに搭載しておいた切り札の
支給装備・FPHまで持ち出して攻撃を仕掛けたものの、結局自分が頃した
相手は、捜し求める能力者とは別人らしい二人の男女…

(…これじゃあ、私だってやってる事に大差ないじゃないの!)

更に、

「あう〜つ!復讐よ〜っ!よくも…よくも、おじさんとおばさんを〜っ!!」

新たにクルーザーの甲板へと飛び出して来た女の子…
その身長に似合わない長い虫取り網を振り回し、何故かヴェールを被っている
…が、怒りに燃えた眼差しで自分を睨んでいる…。

そして、

「真琴っ、まことーーっ!」…恐らくは甲板の女の子の名前を叫んでいるので
あろう、船内から聞こえて来る女性の悲痛な叫び声…。
『ちなみに船内では、飛び出そうとする天野美汐(5番)を長瀬祐介(64番)が、
必死になって押さえ付け、制していた』

(…何よ?これじゃあ、まるで私の方が悪役じゃないの!?)

綾香は甲板の女の子を無視する事にした…明らかに捜し求める能力者とは別人
そうだし、その手に持つ虫取り網や甲板に転がったままの晴子のシグサウエル
が自分やFPHに脅威を与えて来るとは到底思えない、それにゲームとはいえ
これ以上、無用の戦果を挙げたくはなかったのである。

(…それでも、これ以上目当ての能力者が船内に閉じ篭っていた場合は、例え
素振りだけででも…あの子を人質に取らなければならないかしら?)


綾香はFPHを能力による反撃警戒のため、2隻のクルーザーの周りを巡回
する様にホバリング移動させながら次の作戦を練り始めた…と、その時…

ガツンッ!!…ボゥンッ!!バチバチバチッ!!

FPHにいきなり強い衝撃が加わった、機体がスパークしみるみる高度が
下がっていく…

今の今まで無視していた女の子―沢渡真琴(45番)が、橘啓介(元57番)が
ワイヤーを切断しようとブリッジから持ち出してそのまま、甲板に転がっていた
手斧を虫取り網で掬い上げると
…そのままビュンビュンと振り回して、FPH目掛けて投げつけたのである!

虫取り網によってさながらスタッフスリングの如く遠心力が加わった手斧は、
狙い誤らずFPHに命中、ホバーエンジンに深々と突き刺さって飛行能力に
致命的な損傷を与えたのであった。


「な…!?…何て事するのよ、あの子!?」

綾香は、高度が急激に下がりつつあるFPHを慌てつつも辛うじて制御し、
海上へ不時着する前に何とか大型クルーザーへ着艦させ、無事エンジンを
停止させた。


…しかし綾香の驚愕はまだ終わらなかった、
綾香がエンジンを止め、FPHから降りんとした時にはもう既に…
ワイヤーを走って綱渡りし、三段跳びでブリッジ天辺に飛び乗った真琴が、

「あう〜〜〜っ!覚悟お〜〜〜っ!!」

虫取り網を引っ提げて、大型クルーザー後部増設ハッチの綾香目掛けて
ジャンプとともに突進していたのだった。


仮にもエクストリーム・チャンプである綾香は真琴を徒手空拳で迎え撃ったが
…クルーザーの上の増設ハッチという、狭くて起伏に富んで更に波に揺れ動く
特設リングの上では、思う様な体捌きすら行えない有様、

対する真琴の方は、その生まれに加えて仙命樹が植え付けられていた為、この戦い
に最も要する能力…平衡感覚と反射神経のパラメーターが綾香のそれを2廻り以上は
凌駕していた…おまけに虫取り網はリーチもあり、柔軟で、更に第3の足としても
使える、このストリートファイトにおける格好の得物であった…。


「ちょっと!アンタ何者よおっ!」
「なめないでよ?沢渡なのよ、真琴。」

ああ、そう言えば。
殺村凶子の異名を持つやたら凶暴な『復讐者』が参加していると聞いた事があったわね。

追い詰められながら綾香は思った。
(……最悪、ね)


…余談であるが、綾香の乗って来た大型クルーザーの船名は『マスターモールド』であった。

TO BE CONTINUED?!

146パラレル・ロワイアルその93:2003/11/20(木) 19:29
「おっ、おい…坂下っ、あっあれっ!」
広瀬真希(75番)は、水上バイクを操縦する坂下好恵(25番・代戦士)に
向かって、驚きの声を上げる。


「あ、ああ…。」坂下はまるで信じられないものを見るような目で、前方に
見える大型クルーザー後部で繰り広げられているストリートファイトの有様
を眺めていた…。



…あの綾香が、エクストリームのリングの上では常勝不敗を誇っていた筈の
チャンプ・来栖川綾香が…おでん種みたいな女の子に一方的に、虫取り網で
滅多打ちにされ滅多突きにされた挙句、頭に網を被せられ振り回された末に
そのまま力任せに海へ…

「こんな扱い、絶対に納得出来なぁ〜〜〜〜いっ!!!」
ダッパ――――――――――――――――――――ン!!

『ビーッ、36番・来栖川綾香、アタックダイブにより失格…海上戦闘の為、
14Mミリアさんは直ちに巡視船にて36番の元へ移動して下さい』




「はあっ…。」坂下は深い溜息をついた、
「…世の中って本当に広いんだなあ…私、今まで仮にも自分の事をそれなりに
世故長けた存在だと自負していたけど…今になればよくも図々しく神岸さんの
代戦士になんて名乗りを挙げられたもんだよなあ…水族館のおばさん達といい
あのおでん種といい…お前はあれらを見てもなお自信を失わず、このゲームに
臨み続けられるのか?なあ、あお……………………いいいいいいいいっ!?」


後ろを振り返った坂下と広瀬の顔が青ざめた、いつの間にやら…恐らくは、
途中までの水上バイクの猛スピードに、結び目が耐えられなくなったので
あろう…松原葵(81番)の乗っていた(しがみついていた)バナナボートを
結び付けていたロープが…見事ほどけて消えてしまっていた。


「たっ…大変だああっ、葵っ…あおいーーーっ!?」
坂下は血相変えて水上バイクをUターンさせると、元来たヨットハーバー
までのルートを大慌てで引き返して行った。

【36番・来栖川綾香 脱落…残り62人】

TO BE CONTINUED?!

147パラレル・ロワイアルその94:2003/11/20(木) 20:00
「…………………………………………。」
「…………………………………………。」
「…………………………………………。」
「…………………………………………。」
「…………………………………………。」

舞台村・学園エリアの校舎教室にて無言の…遅い昼食会なのか早い晩餐会
なのかをやっている5人、柏木千鶴(20番)・柏木初音(21番)・七瀬彰
(68番)・柳川裕也(98番)・石原麗子(6番)の以下面々。

『あれ』から結局…千鶴VS麗子の攻防戦の対象となった柏木梓(元17番)
の不測の脱落により、争う理由を失くした双方が停戦に合意、長屋を脱出後
落ち着けそうな場所を改めて捜し求めた末に、時代劇エリアから学園エリア
へと移動…校舎の一教室にて、今は去りし弁当の製作者を偲びながら食事を
摂る事にしたのである。

「…で、貴方達はこれからどうするの?」…沈黙を破って麗子が口を開く、
「…どうするもこうするも…私には未だ、護らなければならない希望の火が
残っている…耕一さんや梓、楓の所へはまだ行ってあげる事は出来ないわ。」
かたわらの初音、そして彰を見やりつつ千鶴は言葉を続ける、
「それと、柳川さん…確か、貴方の武器は長屋を脱出する際に壊れてしまった
のでしょう?…もしよかったら、梓のボクシンググローブを代わりにお使いに
なります?…それと、この…。」
千鶴は柏木耕一(元19番)のバックから、彼の支給装備であった特殊繊維製の
トランクスを取り出した。

「…ボクシンググローブは有難く受け取っておく、しかしそのトランクスは
彰君の万一事の時のために、とっておいた方がよい。」
「僕の…万一事のため?」
「…本作序盤以降延々と続いた、柏木耕一の受難を忘れた訳ではあるまい…
君が絶対に鬼にならないと断言出来るのなら、話は別だが。」
「…忠告に従わせて頂きます。」…トランクスは彰の元へと行った。

「ねえ。」初音が口を開く、「そう言えば、楓お姉ちゃんの支給装備って…何だったの?」

TO BE CONTINUED?!

148パラレル・ロワイアルその95:2003/11/21(金) 22:14
「(小声で)美凪ーっ、2人とも寝てるよーっ」
「(小声で)……その様です…余程平和なエリアなのでしょうね、ここは…」


…美術館・博物館エリア内にある庭園内の大きな芝生の木陰の下、
さながらピクニックのごとくレジャーマットと弁当・菓子類を広げて、
午後の昼寝をしている男女…
立川雄蔵(56番・代戦士)と美坂香里(85番)である。

…そこへ通りがかったのは、水族館から地下鉄道でエスケープして来た
遠野美凪(62番)とみちる(87番)、
「(小声で)どうしよう美凪?…逃げようか?…それとも起きる前に
おっかなそうな番長だけでも………!?」

…言い終わる前に、みちるの目の前で寝ていた雄蔵が起き上がり…そして、
むっくりと立ち上がっ…

「!………みちるキィィィーーーック!!」

…起き上がろうとした雄蔵の圧倒的巨体に、みちるの防衛本能が反射的に反応
したのだろうか…次の瞬間には『立つものも立たなくなる』一撃必殺渾身の
みちるキックが、雄蔵の向こう脛に音を立ててクリーンヒットした!

が…

「にょわっ!にょわわっ!痛いっ…!痛いよお〜っ!美凪〜〜いっ!!」


…爪先を押さえて片足跳びを続けるみちるの前で、雄蔵は平然と立ち上がった。

「涙をこらえろ…こぼしたら失格になるぞ…」
「に゛ゅ〜!に゛ゅ〜っ!痛くないっ…みちる、痛くないもんっ!」

…何とか、みちるは自爆失格を免れた。

「よし、よくこらえたぞ…(なでりなでり)」
…どうやら、雄蔵には痛みはおろか攻撃されたという意識も、あまりないようである。

「えっへん…て、おいコラ番長!硬すぎるぞ!まるで電信柱…」
「…みちる(コッツン)」
「にょめりにゅ」
「…寝起きを狙った恥ずべき先制攻撃、この子に代わってお詫びさせて頂きます」

…美凪は、状況を理解出来ずに興奮しているみちるを制して雄蔵に詫びると、
芝生にしゃがみ込み、そっと目を閉じた。


…確かに、交渉どころか言い訳の余地もないみちるの所業に加え、唯一の獲物が
長岡志保(元63番)からゲットしたスナイパーライフルでは、目の前に立ちはだかる
雄蔵相手に戦い様がない…さりとて、足を痛めたみちるを残して一人逃げるなんて事は
出来ない…以上の理由から、美凪は目の前の偉丈夫にすっかり観念してしまったのである。


「だ…駄目だよ美凪い、悪いのはみちるだけなんだからあっ」
…みちるもやっと、自分の立場と状況を理解してうろたえ始めた。

「すまないが、香里…」
雄蔵は困った顔をして、既に目を覚ましている香里の方へと振り返った、
「お前の口から彼女達を落ち着かせてくれ…俺にはそっちの方の才能も自信もない…」


「くすっ…」
…雄蔵に初めてその存在を頼られた香里が、喜んで応じたのは言うまでもなかった。

TO BE CONTINUED?!

149パラレル・ロワイアルその96:2003/11/23(日) 14:28
篠塚弥生(47番)は、意気消沈して自分が破壊した下町長屋の通りを
ふらふらと歩いていた。

自分が護りたいと思う者、知り合いと呼べる者の殆ど全てが脱落して
しまった上に、ケジメにも失敗して殆ど全ての装備を水の底へとして
しまったのである。

(いっその事、もうこのゲームを降りてしまいましょうか…)
W・Aのよしみの生存キャラにしても、
①里村茜(43番)逃走に貢献した河島はるか(26番)
②本作の方で殺し損ねた観月マナ(88番)
③今や痕組にFA宣言したも同然の七瀬彰(68番)
では、義理立てて共闘する気も起こらない。

最後の希望の手段『自分が優勝して権利を森川由綺(元97番)に』を
実現化するために戦い続けようにも、三大マーダーとしてマークされている
立場に加えて、丸腰同然の現状では現実主義の弥生には、その実現成功率は
限りなく低いものだとしか考え様がなかった。

思わず腑抜けて長屋の残骸にへたり込むように腰を下ろし休息しようとした
弥生の目に、残骸の中に埋まっている白くて大きな物体が目に入った…。




メリッ……バキバキ…ドッシーーーン!!
「ぱぁぎゅうぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」

「すばるさんっ!」「すばるぅーっ!」「すばるちゃ〜ん!大丈夫〜!?」

口々に叫んでいるのは、川名みさき(元28番)からゲットした地下鉄道
フリーチケットにて事もあろうにスタジオ・舞台村へ来てしまった、
三井寺月代(83番)・芳賀玲子(70番)・桑島高子(38番)である。

彼女達は西部劇エリア→学園エリアを経て、逢魔が時の時代劇エリアへと
さまよい出て来て、装甲エレカに破壊された下町長屋を好奇心半分で探索
していたのであるが…その途中4人目の御影すばる(84番)が崩れた
板切れを踏み抜いて、その下に隠れていた古井戸(のセット)に転落して
しまったのであった。

幸い、古井戸の底からは『ボッチャーン』という音も失格アナウンスも
聞こえて来なかったため、落ちたすばるには大事はない様であったが、
それでも無事を伝える返事と救出手段が見付からない限り安心は出来ない。

…という訳で3人は声を限りに古井戸の底に向かって、朦朧状態(であろう)
のすばるに呼び掛けを行っていたのである。


視覚的にはほぼ完全に、聴覚的にもかなり無防備な状態であった事はもう
言うまでもなかった…そこへ背後から夕闇に紛れて忍び寄った影…弥生が、
エアマシンガンを背負った玲子に向かって、その両手に抱えた白くて大きな
物体を放り投げた。

150パラレル・ロワイアルその97:2003/11/23(日) 14:29
ガンッ!!

玲子は、頭上に突っ込みの金盥の如く落下して来たおまるの一撃に声もなく
ぶっ倒れた。

『ビーッ、70番・芳賀玲子、有効打直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』


「…!」「!っ」
不測の襲撃者に応戦するため、慌てて農薬散布機を振り向きざまに構えよう
とした高子の手が、弥生が続けて投げつけて来たローソクによって弾かれ、
散布機が手から落ちる…そこへ更に、荒縄で作られた投げ縄に絡めとられて
高子はそのまま、力任せに引き倒された。

「ああっ…」

『ビーッ、38番・桑島高子、有効技直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』


「!!」
弥生はその時、意表を突かれそうになった…3人の中で最も戦力外と踏み、
自分の襲撃に対してまず逃走を選ぶであろうと考えていた筈の月代が、
残骸の中から竹竿を拾って、弥生目掛けて打ち掛かって来たのである!

(すばるさんを置き去りに逃げる事なんて、出来ないっ!)
非力ではあるものの、臆する心さえなければ月代は敏捷を売りとする立派な
戦士であった…竹竿を振り回したり突いたりして、投げ縄を手放した弥生を
必死になって追い詰めようとした。


しかし、本作において七瀬留美(69番)や深山雪見(96番)との血みどろの
肉弾戦・殺し合いを経験した事のある篠塚弥生にとって、我武者羅なだけの
肉弾攻撃などは通用しない…更に、用心深い弥生が、最初の玲子への一撃が
外れた時のための備えをしておかない様な、ミスをする訳はなかった。

…追い詰められたかのように下がった弥生に、誘いに乗ってしまった月代が
踏み込んで突き掛かる、それをかわした弥生は、左の懐からおまるのフタを
取り出してフリスビーの要領で月代へと投げ付けた。

…思わず反射的に竹竿を翳しておまるのフタを弾く月代…しかし、戦い慣れ
していない少女故の悲しさ、弾く一瞬思わず硬直し、目を瞑ってしまった。

…そこへ、フタを投げると同時にダッシュして来た弥生が、右の懐から
取り出した最後の武器――飴細工のビール瓶の最後の一本――を月代の額
目掛けて、思い切りに振り下ろした。

ボリィンッ!!

「せ…蝉丸…会いたかったよ…」

高槻01・02・06同様、本物のビール瓶と思い込んでしまった月代は、
そのまま失神して弥生の胸へと倒れ込んだ。

『ビーッ、83番・三井寺月代、ナースストップにより失格…失格地点最寄の
14Pピースさんは直ちに、救急搬送車で83番の元へ急行して下さい』


…弥生は月代を受け止めてそっと横たえると、ショックで見開いたままの
彼女の目を閉じてやった後、3人の装備を素早く回収して再び動き出した、
最後の希望の手段を実現するために、里村茜にオトシマエをつけるために。


「それにしても、この展開・このパターン…って、本作でも確か…ゲフンゲフン、
…ま、取り敢えずは久々にロワイアルっぽい戦いが出来たという事で、良しと
させて頂きましょう…」




「?!た…高子さん、玲子さん、月代ちゃんっ!」
やっとの事で意識を取り戻し、自力で古井戸から這い上がってきたすばるが
目にしたものは、『死体』となって無言でフィールドから去って行く3人の
後姿だった。

【38番・桑島高子 70番・芳賀玲子 83番三井寺月代 脱落…残り59人】

TO BE CONTINUED?!

151パラレル・ロワイアルその98:2003/11/24(月) 17:27
「それでは、引き続きの御健闘をお祈りします」
…夕暮れ泥む海原にて、14−Mミリアの指揮する特別巡視船が、
半壊したFPHを載んだ大型クルーザーを曳航し脱落者達を収容して、
ゲーム用クルーザーから遠ざかって行く。

その姿をクルーザーのリビングにて見つめている長瀬祐介(64番)の顔は、
後悔と苦悩に満ちたものであった。


…隠れ場所を船に定め、主催者にささやかな仕返しを試みた…
その結果、標的の1名に加えて更に5名もの脱落者が続出したのであった。

そう、来栖川綾香(元36番)脱落直後、その後を追うかのように
沢渡真琴(45番)も、いきなり激しい嘔吐を起こして倒れ、
そのままナースストップによる脱落を余儀なくされてしまった。


…いかな仙命樹とはいえ、山野育ちの船酔いは治し様がなかったようである…。


「あう〜っ、真琴もう船こりごり〜っ!」
ヴェールを握り締めながらタンカで巡視船に運ばれて行った真琴と、
それを見送る天野美汐(5番)の痛々しい姿を目の当たりにした祐介はもう、
自分の浅はかさと迂闊さに、嫌気と吐き気が頭の中で二重奏を奏でていた。


「…祐介」リビングのテーブルにて両肘を着いて頭を抱えている祐介の隣に、
美汐がそっと腰を下ろした。
「…まさか、私を置き去り一人…自己崩壊されたりはしませんでしょうね?」
「…美汐?」
「…かつて別の島で、お知り合いの方の殆どを失われたのにも関わらず、
力の限り心の限りに私を励まし護り続けてくださった長瀬祐介という方は
まだ…ここにいてくださいますよね?」
「…だけど結局…あの島で僕は、君を護り切る事は出来なかった…それも
今の様に、僕の浅はかさと迂闊さが原因で…」
祐介は、シルクの手袋に隠れている美汐の右手を見つめながら言葉を返した。

「…どうして?…あの時もそう、二人で考えて二人で結論して二人で実行して
そして…二人で失敗したのに、祐介は責任だけは全部一人で負いたがってしまう…

どうしても全部一人で責任を負いたいって祐介が言い張るのなら、それは
『仕方がありません、それが祐介の性なのですね』と諦めざるを得ないのかも
しれません…ですが、祐介がその全ての責任とやらに押し潰されて…私の前から
消えてしまいかねないというのなら、話は違います…そのような祐介には、
私はこう言わせて頂きます、
『何故その様になってまでしてもなお、私とその悩み苦しみを分かち合おうとは
なさって下さらないのですか?…その貴方の小さな優しさが、私に大きな裏切りと
して誤解されてしまう事さえも厭わないで…?』…と」

美汐が、祐介の首に今なお残る痕を悲しそうに見つめつつ言葉を続けた、

「…祐介、私は…今の私は祐介に裏切られる事よりも、祐介を信じられなくなる
事の方が、ずっと怖い…例え、手首が片方切れてなくなったって人は生きる事は
出来ますけど、首は…切れてしまったら…失くなってしまったら…」


「美汐…ごめん」
「祐介?」
「今まで一人背負いを気取って、美汐も悔やみ悩んでいるんだって事、
すっかり考えていなかった」

「えっ…?本当に考えてくれてなかったの、祐介?」
「えっ…?『考えてくれてなかったの』って、どういう意味なの、美汐?」
「私、てっきり…悩み悔やんでいる私を奮い立たせてくれるために、祐介が
わざとあんな…より悩み悔やんでる様な芝居をしてくれていたものだと…」

「………思ってなかったよね?…本当は」
「ええ、実は…」
「ひどいよ、美汐…」
「…お互い様です」
「ぷっ…」
「くすっ…」
「あははははははっ」
「うふふふふふふっ」
大声で笑い合いながら二人は互いに思った、
『この人と一緒で本当によかった』と。




さてその頃、巡視船内では…
「ほなら綾香はん、しっかり押さえててえなぁ」
「分かりました、晴子さん(ガッシ)」
「いやだ〜〜っ!!真琴、絶対やだ〜〜っ!!(ジタバタジタバタ)」
「まあ大人しゅうしいやあ…昔から伝わる民間療法でな、ひどい乗り物酔いには
大根オロシの汁を鼻の穴にたらすんが効果あるっちゅう話やさかい、(チューッ)
…暴れたらアカンで、スポイトが鼻に刺さってまうから(プスッ…ピュルルルルルッ)」
「あ゛あ゛〜〜〜〜っ!!!あ゛あ゛〜〜〜〜っ!!!(沢渡真琴、悶絶・痙攣中…)」

「は、晴子…その治療法は確か、鼻詰まりを治すやつじゃなかったんじゃあ…?」
「へ?…あ〜、そーいやそやったなぁ、ハハハ…真琴はん悪い悪い、堪忍したってや」
「…………………………………………(絶対に、絶対に復讐してやるううううっ!!)」

【45番沢渡真琴 脱落…残り58人】

TO BE CONTINUED?!

152パラレル・ロワイアルその99:2003/11/25(火) 19:37
17:58…リバーサイドホテル・祝賀パーティー会場

テーブルA・無人

テーブルB・「オイ、オッサン!耕一と楓は一体何処に雲隠れしちまったんだ?」
      「……………何で、俺の方が取調べを受けなければならないんだ?」

テーブルC・「冗談じゃないわよっ!何で主催者組がいきなり脱落しなきゃ
       ならないのよっ!?しかもあんなやられ方でっ!?」
      「お嬢様っ!落ち着いて下さいっ!」
      「………………………(コクコクッ)」

テーブルD・「兄さん、ゴメンッ…敵、取れなかった」
      「弥生君…どうして止めてくれなかったんだ…」
      「冬弥君、美咲先輩は?」
      「医療室の方へ行ったって聞いたけど」

テーブルE・「ええっ、和樹さんカンヅメなのおっ!?…そりゃまた災難ねぇ」
      「災難なのは我輩の方だ…MY同士和樹の分までMYシスター瑞希の
      お仕置きを一身に…」

テーブルF・無人

テーブルG・「…高子、この辺で焼却炉かしゅれっだーがある場所を知らないか?(怒)」
      「ええ〜ん、蝉丸ぅ、ソレ捨てちゃダメェ〜!(泣)」
      「…あ、あの…私の名前のは、ないのでしょうか?」

テーブルH・「お母さ〜ん、早く早く〜っ」
      「お…俺は装甲車組の高槻だ…」
      「俺もだ」
      「俺も」
      「俺も」
      「俺も」
      「お、俺も…」
      「困ったですわねぇ、これでは区別がつきませんわ…仕方ありませんから
       6人とも『お仕置き』して差し上げましょう♪」
      『へっ…?』

テーブルI・「みゅ〜〜っ!お母さ〜んっ!」
      「…何だか恥ずかしいですわね、半日離れていただけで
       こんなに淋しがられてしまいますと…」
      「ううっ、い、いじわるだよっ、このカツカレー…ひょっとして、
       あやめさんが!?」

テーブルJ・無人

テーブルK・「…でなあ、観鈴そん時の敬介ったら、いきなりお母さんの事お姫様抱っこ
       してやなぁ、お母さんがいやや言うの聞いてくれへんで、そのまま…」
      「(ゴクッ)…そ、そのまま…どうなっちゃったの、お母さんっ!?」

      「…アンタ同情するぜ、これからあのオバサンと離れられなくなるのかと思うと」
      「……………………………………………………………………………………。」


そして、テーブルクロスに隠れたテーブルKの下では…

「(小声で)…爆竹に、ねずみ花火にドラゴンにロケット花火…トドメにバルサンをセットして…
さあ、いよいよ真琴の復讐タイムよお〜〜〜〜〜〜っ♪(シュボッ)」


17:58…救急医療室

「まっ護君っ!?大丈夫なのっ!?一体どうしてこんな怪我をっ!?」
「…た、たい焼き屋のタタリだとしか説明のしようが…」
「…負傷箇所こそ多数に及んでいるが、小さな擦り傷・切り傷とか軽い火傷とか
 いったものばかりだ…明日には痕も残らずほぼ完治するだろう」
「あっ…有難う御座います、犬飼先生」
「ま、大事をとって念のため…住井君には今晩の入浴とそこのお嬢さんとの営みの方は
 我慢してもら…」

ゴンッ!!

「あ、わ、私その、つい…」
(み、美咲さん…何もそんな全力で否定してくれなくたって…)


17:59…VIPルーム

「あらあら…パーティ会場が大変な事になっておりますわ」
そうポツリともらした高倉みどり(元54番)が眺めるモニターを覗いた
塚本千紗(元58番)の顔色が変わった、

轟く爆音、飛び散る火花、巻き上がる煙に唸る警報、水飛沫を撒き散らすスプリンクラー…

「にゃ〜、大変ですう〜っ」
「…まさか、テロ攻撃か何かが…?」
不安に顔を曇らせる杜若きよみ<原身>(元15番)の肩を、上月澪(元39番)がポンポンと叩き、
モニター画面端を指差してスケッチブックを掲げる、
“てろりすとさんですの”
…見ると、イスラエル・ガスマスクをしたおでん種が、喧騒と煙にまぎれて会場出口へと
抜け出ていく姿が…

「ま、真琴さん…な、何て事を…」美坂栞(元86番)が、本日33個目のバニラアイスを
握り締めたまま、ずるずると壁に倒れ込んだ。

TO BE CONTINUED?!

153パラレル・ロワイアルその100:2003/11/25(火) 20:30
18:00…来栖川アイランド放送管制室

「100話だっ!18時だっ!てな訳で2回目の定時放送を始めるぞおっっ!!
まずは脱落者発表からだっ!!

012番・緒方英二 ・銃殺っ!!
013番・緒方理奈 ・水死っ!!
017番・柏木梓  ・銃殺っ!!
023番・神尾晴子 ・銃殺っ!!
028番・川名みさき・憤死っ!!
036番・来栖川綾香・憤死っ!!
037番・来栖川芹香・能力死っ!!
038番・桑島高子 ・絞殺っ!!
040番・坂神蝉丸 ・銃殺っ!!
044番・澤倉美咲 ・銃殺っ!!
045番・沢渡真琴 ・病死っ!!
046番・椎名華穂 ・能力死っ!!
051番・住井護  ・爆死っ!!
057番・橘敬介  ・銃殺っ!!
070番・芳賀玲子 ・撲殺っ!!
076番・藤井冬弥 ・銃殺っ!!
083番・三井寺月代・撲殺っ!!
090番・水瀬秋子 ・銃殺っ!!
091番・水瀬名雪 ・銃殺っ!!
097番・森川由綺 ・銃殺っ!!
104番・高槻01 ・撲殺っ!!
105番・高槻02 ・撲殺っ!!
106番・高槻03 ・斬殺っ!!
107番・高槻04 ・斬殺っ!!
108番・高槻05 ・斬殺っ!!
109番・高槻06 ・撲殺っ!!
114番・長瀬源四郎・水死っ!!

以上、27名だっ!これにミッションコンプリートしたチェイサー1号・
南明義が2代目17番として新規参入したから、残りは58名か。

半日で半分たあ、なかなか凄いペースだな…まあもっとも、本作の方も
全7巻中2巻ケツの方で残り半分になってた筈だから…ま、もう暫くは
ゲームは続きそうだな。

今回目に付いたトコといやあ、

オイオイ、また主人公様が2名脱落してるぞお…しかも、片方は蝉丸じゃねえカヨ!

アーアー、高槻Sも全滅しちまってるし…しかも全員、武器格闘で頃されてんじゃねえか?
ひょっとしてコイツラ、あの『アタシ七瀬なのよ』にやられちまったんじゃねーだろーな?

それにしても、動甲冑だのFPHだのトンデモネー武器が、いきなり出てきちゃあアッサリと
やられちまってたな〜これからもアノ手の見掛け倒しが出続けるのかなあ、ヒョットしてよ?


次に、生き残り組のスコアの方だが、

四人頃してんのが3人、三人頃してんのが2人、二人頃してんのが3人、
一人頃してんのが9人だ…ヤッパリあの3人がトップかよ、ゲラゲラ、


次に、定時放送時間帯の説明だっ!定時放送は6時・12時・18時・0時の1日4回だが、
0時の奴のみ識別装置を受信機にした、深夜ラジオ放送モードに変更してある…だから、0時に
聞かないで寝ていたい奴は、識別装置のラジオモードをオフにして好きなだけ寝てていいぜぇ、


最後に、これからチェイサー2号のための不人気投票を始める…夜はこれからだっ、
楽しみに待ってろや、じゃあアバヨッ!!」

TO BE CONTINUED?!

154パラレル・ロワイアルその101:2003/11/26(水) 19:49
「……………」
ぷかぷか……

沈み行く夏の夕日をバックに、来栖川アイランド北西部沖を漂流する
一艘のバナナボート、
しがみついてペットボトルの水を飲んでいるのは81番・松原葵。

「ううっ、先輩っ…私、挫けそうです…」

このまま沖に流され過ぎると遭難判定が下り、救助はして貰えるものの
失格にされてしまう…それだけは避けよう…というより早い所島に戻ろうと
かなり以前から必死にバタ足漕ぎをしているのであるが、この辺は沖への
潮流が強いのか思う様に岸へと進む事が出来ず、失格を免れるだけでもう
精一杯の有様である。


そんな訳で半ば途方にくれていた葵の視界に、こちらへと近付いて来る
巨大な船影が目に入った。

「!…スタッフの船なのかなあ…?…でも、だったら助けて貰ったら失格に
なっちゃうし…それとも他のライバルの…?…あ、ひょっとして綾香先輩の
…?」


そういっている間にも船はどんどん近付いて来る…そして、夕闇の中の
葵の目でもはっきりと視認出来る距離にまで近付いたその船は…そう、
自分達が祝賀パーティー会場こと来栖川アイランドに来る時に乗って来た…

「来栖川海運の豪華客船“蒼紫”…!どうして、こんな所に!?」

そして、船は偶然なのか葵のバナナボートから100メートルと離れては
いない場所に停泊し、錨を下ろした。


「……………」
葵はバナナボートの陰に隠れ、しばらく様子を伺っていたが、こちら側への
リアクション――発見されて救助あるいは攻撃…――は行われる気配すらも
ないようであった。

「…どうやら、本当に偶然ここに錨を下ろしたという事らしいわね…さあ、
考えろ松原葵」

葵は船と搭乗者の正体を色々と推測し始めた、

「私を見付けられないという事は…あの船に乗っている人(達)には、
識別装置を探知する能力がないっていう事で…結論、あの船は
ゲームスタッフの方達の船ではない…という事は…信じられない位
大規模だけど、ライバル達の中の誰かの『装備』…それも、資力か
コネかのどちらかがある、本作主催者側もしくは来栖川家のそれである
可能性が…でも、さっきの放送で芹香先輩も綾香先輩も執事さんも既に
脱落しちゃってる筈だから…やっぱり本作主催者のそれっていう最終的
結論になっちゃうのかなあ…だとしたら侵入は勿論、見付かっちゃっても
…でも、私はどの道このまま完全に日が沈んじゃったら遭難失格確定の
背水の立場…それならもう、最後位は自分の好きなようにやっちゃっても
…いいですよね、先輩?」


葵は、後で漂流物として見付からないようにバナナボートの空気を少しづつ
抜きながら、一泳ぎ…もう一泳ぎ…と、日没直前の闇の中、無灯火で停泊を
する豪華客船へと接近して行った…。

TO BE CONTINUED?!

155パラレル・ロワイアルその102:2003/11/26(水) 20:59
「…申し訳御座いません、浩之さん」
「何を改まって小さくなってんだよ、他人行儀過ぎるぞセリオ…それに、
たまには俺にも今日の今まで、色々とお前に世話になった借りを返させて
くれたっていいだろう?」


…藤田浩之とセリオは、日没間もない大灯台広場フードスタンドにいた。
というのも、幾ら食料を途中ゲットした所で食べる事が出来るのは浩之だけ
だからである…もっとも、セリオも本来なら2〜3日位は非充電での稼動は
充分可能なのであるが、ゲームスタートからつい今までの12時間の間に、
長距離水泳やら隠しレーザー発射やらロボット改造やらハッキングやらで
予想外の電力消費が蓄積してしまったため『計画的に充電出来る保証がない
戦場ではやれる時にやりましょう』という訳で、今現在この2人を除いて
客のいない大灯台広場フードスタンドにてセリオの充電を行う事にしたので
ある。


「…それではお休みなさい、浩之さん」
「おやすみ、セリオ(なでりなでり)」

サングラスをカムフラージュにサマーベッドへ横たわって眠りにつく
セリオを背後に浩之はテーブルに腰を下ろすと、今夜の行動指針を
休息・交戦の果たしていずれに選ぶかを一人検討し始めた。

(…やっぱし、暗視スコープもなしでの夜間戦は無謀かなあ…ヘタすると、
昼以上にセリオに負担、かけちまうよなあ…かといって、今晩はココで
このまま仮眠室へ…ってのも、エンターテイナーマーダーとしての期待に
背いてる様な気がするし、う〜む…)

ぐううううっ…

(…そういえば、昼はくまちゃんパン“神岸あかり作”一個だけしか食って
なかったんだっけ…パンも食料も充分あるけど、せっかくフードスタンドへ
来たわけなんだし、晩メシはココの…)

「あやめさ〜ん、オーダーの方、お願いしま〜す!」





ピーッ、ピピピピピピ…
「…リチウムポリマーバッテリー、フル充電完了……お待たせ致しました、
浩之さん」

一刻後…充電完了したセリオはサマーベッドから上半身を起こすと、
自分に背を向けてテーブルに腰を下ろしている浩之へと声を掛けた。


「あ…あーおはよう、セリオ」
「…!?」

和み口調の台詞と共にこちらへと振り返った浩之の表情を目の当たりにした
セリオの目が、文字通り点となった…

(…こ、この寝起きの名雪さんのような目付き、そしてこの入浴後のはるか
さんのような口元…ま、まるで…!…ま、まさか…!!)


セリオは浩之の座っているテーブルの上に置かれた、フォークの乗った
空の皿へ一旦目線を移した後…恐る恐る浩之に尋ねた。

「…あの、浩之さん?…その…御夕飯の方は…何かもう、召し上がられた
…ので、しょうか…?」
「うん…ここのメニューの『山の幸盛り沢山スパゲッティー』を…隠し味の
赤いキノコが、なんかこー印象深い味をしてて…」

浩之は、紙コップに入った紅茶にブランデーをたらしながら、マターリと
セリオに答えた。


(…ああああああ、やっぱりですか…こうなってしまった以上、浩之さんには
今晩はここでこのまま、仮眠室でお休みして頂くより他は御座いませんね…)


「もしもし、セリオさん?」

その時、カウンターから宮内あやめが出て来て小包をセリオへと手渡した。

「ホテルのG.Nさんから浩之さん宛てに…たった今、届いたところよ」
「…は、はあ…有難う、御座います…」


小包を受け取ったセリオはそれを取り敢えず浩之へと渡し、そして浩之が
小包の添え書きを読み始めた。

「ええっと、何々…『今後、各エリアのフードスタンドにて高級ブランデーの
特別支給をお約束致しますので、交換条件で小包の衣装へと着替えて下さい』
…わ〜い、早速着替えて来ようっと♪」


…いそいそと小包を抱えて男子用トイレに入って行った浩之が戻って来た時、
セリオは思わず、とても人間臭いゼスチャーで頭を抱えてしまった。

(…ヤ、ヤン・ウェンリー!!…しかも階級は少将ですか…!!)

TO BE CONTINUED?!

156パラレル・ロワイアルその103:2003/11/28(金) 19:40
「ごめんね君達、驚かせてしまって」
「いえいえ、でもホントにびっくりしました」
「それにしてもまさかホントに参加者の方がいらっしゃるなんて」
「だけど、カッコイイ男の方でホントによかった〜♪」


ここは空港・ヘリポートエリア内の管制塔最上階にある警備兵詰め所、
テーブルを囲んで紅茶とピザで違反進入プレイヤーをもてなしているのは、
空港・ヘリポートエリア夜番ゲスト警備兵の月城夕香・星野美帆・夢路まゆの
3人…警備兵とは言っても事実上の警備は、G.Nの統括するセキュリティ・
システムと、来栖側重工製の大小様々なるガードロボ達であるが…。


…話を脇道に逸らして誠に申し訳ないが、ここでゲスト警備兵のルールと
ポジションについて説明させて頂くと、
①主任務は通行・交戦禁止エリア内の警備と保安(事実上建前ではあるが)
②プレイヤーへの攻撃許可条件は、
 A〜禁止エリア内不法侵入、B〜禁止エリア内不法戦闘を起こしたプレイヤーに
 対してのみ許可される
③通常エリアへの立ち入りは出来ない(例え不法プレイヤーを追跡中でも・
 特別警戒・特別巡回が施行された場合のみ、例外も有り得る)
④上記のルールに則ったバトルの結果、プレイヤーを脱落させた警備兵は、
 プレイヤーとして中途参加が許される(勿論、警備兵特典・制限は失われる・
 装備は没収→食料を除いて再支給される)、逆にプレイヤーに敗れて有効打を
 受けた警備兵は『殉職』となり、ホテルへ戻される
⑤総プレイヤー数がどの位まで減ったら御役御免になるのかは未定

と、いった所である。


話を元に戻して…果たしてその警備兵である夕香・美帆・まゆにもてなされている
プレイヤーであるが…誰あろう、女難に耐えられなくなり、御不浄の隙を突いて
痴女(匿名)の魔の手からコッソリ逃げ出してきた、黒い名無しさん(仮名)だったり
するのである。


「でも、信じられません…一体どうやって表のロボットさんをやり過ごされたのですか?」
夕香は管制塔の窓からはるか下に見える敷地・滑走路内を、夜間照明に照らされて
のっしのっしと闊歩している、白と黒のツートンカラーの試作型四脚無人歩行戦車
『ムックル』の姿を眺めながら尋ねた。

…事実、ムックルのそのフォルムは、昼過ぎに先行してこのエリアへと辿り着いた
歩く好奇心コンビ北川&レミィでさえ、迂回通路からの不法侵入を即断念した位の
物騒なものである…何でも、暴動鎮圧用に心理効果重視でデザインされたらしいが、
もしかしたら米国への輸出用なのであろうか?


「実は…こうやったんだ」
少年は支給装備の牛乳ビンのフタを4枚取り出すと、それぞれ片面のをペロリと
舌で舐め、狙いをつけて指で弾いた、

弾き飛ばされた4枚のフタは、それぞれ詰め所の四隅に備え付けられている
監視カメラのレンズに見事、フタをする形で張り付いた。

「うわぁっ、」
「スゴイスゴ〜イ!」
「パチパチパチパチ」

「…でも、すぐに乾いて剥がれちゃうから、帰りにもう一回同じ事やらなきゃ
ならないんだけどね」

TO BE CONTINUED?!

157パラレル・ロワイアルその104:2003/11/30(日) 15:44
「なるほど…それにしてもお互い、本作じゃあ数奇かつ皮肉な再会を
しちまったもんだな…俺は大切なもの全てに加え、記憶まで失っちまって…」
「…僕は、相沢さんとの約束を守る事が出来なかった無念さに、半ば壊れて
しまって…」

「「それは、私の罪です…あの時、土壇場で貴方から逃げてしまった…」」

「そ、そういってくれるのは嬉しいんだがなあ…」
「…ハモられるとかえって、落ち込んじゃうよ…」


日没の来栖側アイランド西部沖にて停泊中のクルーザー、中にいるのは
長瀬祐介と天野美汐に加えて、スタジオ・舞台村西部劇エリア沿岸にて
ヒッチハイクで乗せて貰っている相沢祐一と里村茜の計4人、

茜と美汐それに祐介はクルーザーのキッチンで夕食の準備を行っており、
一人料理とは無縁の祐一は、ブリッジで手持ち無沙汰に船内レーダーによる
監視を行っている…とはいっても、チェイサーが掛かりでもしない限りは、
襲撃を受ける可能性は限りなく低いのではあるが…


「それにしても…夏の海にクルーザーを浮かべて、皆様ご自慢の手料理を
その場で作っての夕食会…これで冷たい麦茶でもあればもう最高なんだが
…ほらこー、ぷしっと」
「…ひょっとしてその麦茶、泡が出ませんか?」
「あはは、僕はお酒はどうも…」
「私も、梅酒なら何とか飲めるのですが…」

等といっている間に船内中にいい匂いが漂い始め、テーブルに様々な料理が
並べられて夕食会は始まった…流石に極端に贅沢な食材はクルーザーには
ストックされてはいなかったものの、祝賀パーティーで食べたものとはまた
別の意味でのご馳走は、4人の過去の蟠りと今日の疲れをあっさり払拭して
くれるものであった。


「ごちそーさまでした、いや〜食った食った…ヤッパリ出来立ての手料理は
胃袋以外のトコロも満たしてくれるよな〜♪」
「…何を暢気に寛いでいるのですか、祐一?…食後の後片付けと食器洗いは
料理を作らなかった方のお仕事ですよ」
「うへえっ、夢から覚めるな〜でも仕方ねーか、今日は人の世話になりっ放しの
一日だったからな〜って、まだ半日だったっけか…」

キッチンで鼻歌交じりに食器を洗う祐一と、リビングにて食後の紅茶を楽しむ
茜・祐介・美汐との間で、定時放送と照らし合わせた初日前半12時間の間の
情報交換が始まった。

「…ゲームスタートからわずか半日で総参加者の半数が脱落し、人々は己の
行為に恐怖した…ってな訳で、現在の生き残りは俺達4名を含めて58名か…」
「雫組は早くも本作に忠実な有様になっちゃってるなあ…というより祐一さん、
申し訳ありません…沢渡さんが脱落してしまったのは、僕の…」
「天野が許しているのを今更、俺がどうこう言う必要はないと思うが?」
「相沢さん、水瀬さん…脱落してしまいましたね…」
「…その件についてはあまり触れたくない…脱落にホッとしている、もう一人の
自分の存在を、再認識する覚悟がまだ出来てないんでな…」
「…それにしても信じられませんね、あの川名先輩が大食い勝負で負けてしまい
ましたなんて…」


「…で結局、これからの行動指針はどうする?…誰か、何か是非やりたい事とか
があるっていう奴はいるのか?」
「…僕は、特にないなあ…『護る』立場で船がある上に、この衣装じゃあ…」
「私も、です」


「…詩子…」茜がポツリともらした、
「さ、里村さん…」
「里村さん、涙が…」
「茜…」

「…詩子…まさかまた、一人ぼっちで…私を探して島を彷徨っているのじゃあ…
…詩子……詩子………」




その頃、港・ヨットハーバーエリア(奇しくも来栖川アイランド東部)では…

「仲間が一人、海ではぐれちまったんだ…このままじゃあ遭難失格になっちまう」
「取り敢えず動かせる船と探す人手が欲しい…手伝ってくれないか?」
「そういう事なら、断る訳にはいかないわ…取り敢えず人手の方は大灯台広場で
夕食を食べてる連中を掻き集める事にして…貴方達二人には、私達が戻って来る
までの間に、他に動かせそうな船がないか探しておいて頂戴っ」
「うむ、了解したでござるよ」
「びび、微力を尽くすのだな」

TO BE CONTINUED?!

158是空・104話補足:2003/11/30(日) 17:15
大NG発見!…祐介・祐一達のクルーザーの現在地と
       坂下・詩子達のいる港ヨットハーバーエリアの方角を
       反対に記入してしまいました!…正しくは、
       『日没の来栖側アイランド東部沖にて停泊中のクルーザー』
       『港・ヨットハーバーエリア(奇しくも来栖川アイランド西部)』
       です、誠に申し訳ありませんデス。

159パラレル・ロワイアルその105:2003/12/01(月) 19:50
もう一度、舞台は空港・ヘリポートエリア内管制塔…

「そう言えばさ、」
少年は、彼女達が入れたとは思えないような紅茶の味と香りに少々驚きながら、
夕香・美帆・まゆに尋ねた、
「他のゲスト警備兵の皆さんって、どういう方達がいるのかな?」

「ええっとですねえ…」
「確か、私が知ってる方は…」
「今、思い出しますねー」




…その頃、リバーサイドホテル・祝賀パーティー会場爆発物テロ犯こと
沢渡真琴は、国崎往人を初めとする怒れる追っ手達を何とか撒ききると、
無人のホテルロビーにて快哉を上げていた。
「あう〜っ!沢渡真琴、復讐完了〜〜っ!!」


と、その時…ロビーの柱の影から一人の警備兵の制服を纏った金髪女性が
スッと姿を現した…その彼女の表情は、見る者全てに寒気を及ぼしそうな
…そう、まさに逆鱗に触れられた者独特の怒りをありありと表していた。

「貴方でしたカ…私の管轄区域ヲあれ程までニ…あれ程までニ派手に汚しテ下さったのハ…」
「あ、あう…」
抗弁も返し言葉も許されない様な、その女性の血も凍る様な怒りの呟きと
氷の眼差しに、真琴は慌てて逃げ出そうとした。

ポンッ!………シュルルルルル………バサッ

しかし、女性は背中から取り出したネット砲を撃ち、真琴は命中した
ネット弾によって、ロビーの床に這い蹲らされてしまった。

コツ…コツ…コツ…コツ…

身動きならない真琴の許に長靴の音を響かせながら女性は歩み寄ると、
腰を下ろして真琴のポケットを探り、100円ライターと使い残しの
(兼逃走兵器用)爆竹とネズミ花火の束を引っ張り出した。

「あ、あう〜っ…お、お姉ちゃああん…な、何をするのよおおっ…」
「『お仕置き』でス!…貴方にハ、これかラ花火の恐ろしさヲ身をもっテ
分かっテ頂きまス…言っておきますガ、私への復讐ハ利息三倍返しでス!」


「ああ〜っ!!おった、おったでえええっ、真琴はああ…ん?」
「こんのクソガキィ〜〜ッ!!オイそこの姉ちゃんっ、ソイツをしっかり捕ま…え…?」

ネット砲の発射音に引かれてロビーへと駆けつけて来た怒りの追っ手こと、
…爆心地にいたおかげでスス塗れ濡れネズミにされてしまった…国崎往人と
神尾晴子の見ている前で、女性は真琴のかぶっているイスラエル・ガスマスクを
引っ張って隙間を作ると、爆竹とネズミ花火の束に100円ライターで点火して
情け容赦なく隙間へと全部放り込んでから、マスクを戻して押さえつけた。


(*……大変危険ですので絶対にマネをしないで下さい)
(**…余りにムゴイ表現となるため、次のシーンはカットさせて頂きます)


「なあ居候…残念やけど、うちらの分の『お仕置き』はおあずけやな、こら…」
「ある意味、里村茜よりもオッカネエぜ、このネエちゃん…」

「…これに懲りたラもう2度ト、インドアで花火遊びハいけませんヨ…判りましたカ?」
…今の真琴に、言葉が届き返事が出来る筈もなかった…むしろ、更なる『お仕置き』を
余程勘弁して欲しかったのか、失禁しなかっただけでも彼女を褒めるべきであろう。




再び、舞台は空港・ヘリポートエリア内管制塔…

「確か…ホテルのゲスト警備兵の方は、金髪の綺麗なお姉さんでした」
「確か、名前はシンディ宮内さんで、39番さんの娘さんで94番さんの
お姉さんだそうです」
「何でも、潔癖症なために代戦士での参加を諦めたらしいんですけど、
お父さんや妹さんに比べてみると、割とごく普通な感じの方でした…」

「ふ〜ん…でも、ごく普通な感じの人がたった一人で警備兵なんて…大丈夫なのかなあ?」

TO BE CONTINUED?!

160パラレル・ロワイアルその106:2003/12/02(火) 20:03
ジャラジャラジャラジャラ…
「それにしても…幾らゲームだからといって、くだけ過ぎにも程というものが
ある様な気が致しますが…?」
「ほっほっほっ、それでは何か賭けてやりますかな?千鶴さん」
「トリアエズ、武器か食料当タリでイインじゃナイカ?…何ナラ、半荘4回戦
トータルでラスの奴がゲーム脱落って事デモ…」
「私は構わないわよ…だって、このメンツの中じゃあ一番、直接戦闘は弱そう
ですし…」

「…ひょっとして、こっちの卓もあっちのレートでやるのかい?」
「ふ…ワシは一向に構わぬぞ」
「右に同じく…な」
「よかったあ、阿佐田先生の本も読んでおいて…」


…日没の土産物商店街フードスタンドには、生き残りを賭けて2組の麻雀卓が
立っていた。

A卓 長瀬源之助VSジョージ宮内VS柏木千鶴VS杜若きよみ【覆】
B卓 高倉宗純VS高野VS霧島聖VS七瀬彰
観客 柏木初音&観月マナ&月宮あゆ&マルチ&ポテト&ぴろ

「あぁ〜もう、みてらんないよおぉ〜っ…彰さぁん、千鶴姉さぁぁんっ…」
「アタシだって…霧島センセがぁ、きよみさんがぁぁぁっ…」
「うぐう、千鶴さぁぁぁんっ…」
「あうあう…犬さぁぁぁんっ…」
『ポテト様だっつってんだろーが、さっきから!…それに俺はギャラリーだっ!!
…畜生め、聖…おめえのために碑を握れねえ、自分が不甲斐ねえぜ…って事より、
おいおめえ…こんな所で一匹、何してやがんだ?』
『…午後の昼寝が深過ぎて…もうろく爺さんに置いてきぼり食らっちまった…』 

TO BE CONTINUED?!

161パラレル・ロワイアルその107:2003/12/03(水) 19:22
「う〜寒うっ…まさか夏の夜に鍋を食う羽目になろうとは…」
「柳川さん、まずは貝から入れて…いい出汁が取れるから…」

植物園フードスタンドでは二人の客…共に薄着で、夜は流石に体が冷え切り
そうな柳川裕也と石原麗子が鍋料理をつつき、体を温めていた。


そこへ、更にもう一人…ライバルもとい客がやって来た、不満と苛立ちを
ぶりぶりとその表面にオーラのごとくにじませた少女…天沢郁未である。

…彼女は入って来てスタンド内を一通り見回し、柳川と麗子の姿を見るや
ずんずんと二人の方へと近付いて行った。


「ちょっと、貴方達に訪ねたい事があるんだけど」
「…今日はよくよく、口の利き方を知らないお嬢ちゃんによく会うわね…」
麗子は茹で上がった蟹の爪を串で穿りながら、不機嫌そうに呟いた。
「まあまあ麗子さん、お手柔らかに…」


…郁未は顔の筋肉で笑みを作ると、たどたどしい口調で尋ね直した。
「…訂正させて頂きます…御食事中、誠に申し訳御座いません、訳があって
お尋ねさせて頂きたい事が少々、御座いますのですが宜しいでしょうか?」

…麗子は穿った蟹の身を口に運びながら即答した。
「…私が今日出会った男は全員で三人、うち二人は目の前の一人を含めて
『鬼』で、もう一人は出走取り消しになった長瀬一族、以上…」

「どうして?…どうして、私の訪ねたい事が解ったの、貴方…?」

「見た目あからさまにサカリが憑いてる♀が訪ねてくる事といったら、
大方逃げられでもした♂の事にでも決まっているんじゃなくって…?」

「ぐ…」図星であった。

TO BE CONTINUED?!

162パラレル・ロワイアルその108:2003/12/03(水) 21:20
「ふむ、成る程な…受身がちな自分の性格を治そうと、このゲームにな…
確かに人間、チャンスとか幸福といったものは自分から動き掴み取るべき
ものであって、切っ掛けがないからといって相手の出方を待っていたり、
現実よりも夢の方へ視線を向け続けている様では、最終的に何もやっては
来ない・何一つ得られない結末を迎える可能性は、決して低くはないぞ…」


博物館・美術館エリア内にある特別警備兵(美術館のみ、特別に館内は
戦闘禁止エリアとなっているため、警備兵が配置されている)詰所にて、
フードスタンドからの出前(警備兵特権)であるざるそばを啜って談話を
している5人、立川雄蔵・美坂香里・遠野美凪・みちる・そして美術館の
特別ゲスト警備兵である因幡ましろである。


「そうだよ美凪…美凪は夢から覚めないと駄目なんだよ」
「夢って、…どういう事情なのでしょうか?美凪さん…」
「…そ、それは……………………………………………」


「…そういう事であったのか、それではそう簡単には、雄蔵殿の申した
理屈の通りには参らぬ事情も、解ろうというものだな…」
「「「「!?」」」」

…美凪の沈黙を破る様に、いきなり目頭を押さえて呟いたましろに、
他の4人が一斉に視線を向けた。

「…あ、いや…すまぬ…今の言葉は言わなかった事にして貰えるかな…?」




その頃、空港・ヘリポートエリア管制塔内警備兵詰所…

「そう言えば、美術館にも特別な方が一人、配置されているそうです」
「うんうん、名前は因幡ましろさんといって…能力をお持ちになった方らしいです」
「一説によると、15番の方同様に強過ぎるために、本作に出して貰えなかった程の方らしいとか…」
「…でも、警備兵をやっているという事は…余り戦いが好きじゃなさそうな人みたいだね」




再び、美術館内特別警備兵詰所…

「…くくっ…何と、その様な事情が…その様な過去が、あったとは…」
「…ううっ、美凪さんっ…みちるちゃんっ…えっえっ…」
「…あ、あの………………………………………………」
「うにぃ…香里さんはともかく、番長まで泣く事はないと思うぞ〜」

「…みちる殿、香里殿や雄蔵殿にも…事と次第によっては死に別れる
宿命となる病弱なる妹御がそれぞれ、おるのだよ…………………って、
またもやすまぬが、今の言葉も言わなかった事にして貰えるかな…?」

「「「「……………………………………………………………」」」」

TO BE CONTINUED?!

163れいな:2003/12/04(木) 15:41
私のお気に入り♪  
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164パラレル・ロワイアルその109:2003/12/04(木) 17:42
来栖川アイランド放送管制室・リバーサイドホテル専用回線モニター

「オウ!2回目ワースト投票の結果が出たぞおっ、エンターテイメントでも
偶発的要因でもなくて、マジでマーダーやっちまってる不憫なマネージャー
さんが同情票で次のターゲットだっ!…しかしよお、主催者側にとっちゃあ
マーダー様はゲーム進行に貢献して下さっている大事なプレイヤー様なんだ
…てな訳で、今回はジョーカーからのアドバイスはナッシングだ、まあ悪く
思わないでくれい。

その代わりといっちゃあ何だが、今回はチェイサーを2名指名した、
某葉鍵系ロワイアルリタイア1号の日吉かおりんと、
スパイシーロワイヤル優勝経験のある田沢圭子だっ!
…愛しの先輩が早期脱落して士気消沈の奴と、
知人が自分をフった野郎とメイドロボのねーちゃんの二人しか
いない影薄キャラじゃあ、今度こそ返り討ちかもしれねえが、
ま、仲良く力を合わせて精精頑張ってくんなっ!


あ、そういえば後よお…現在、綾香とか大志とか志保とかいった自己顕示欲
旺盛な早期脱落者供が、暴動やゲームへのクーデターをも辞さない構えで、
このゲームの敗者復活戦を熱望・要求していやがるんだよなあ…だがよお、
この愚作の作者もG.Nも『復活はロワイアルに対する最大の禁忌かつ冒涜』
って認識してやがるから…現在の所、連中の動きに対しては却下鎮圧の構えを
見せてるんだよなあ、残念だがよお…

…だけどよお、もし外部から『萌えキャラの早期脱落』に対する『強い不満』
とか『復活嘆願』とか『禁忌技赦免要請』とかいった声が強く挙がっちまった
場合は…外部要望に弱腰の作者の野郎とかウケ最優先のG.Nとしてはまあ、
無視は出来なくなっちまうんじゃなえの?…流石に。

…てな訳で、もし読者様がこの愚作の早期脱落者敗者復活(戦)を望んでくれてるんなら、
その旨をショートアナザーにするなり、普通のメッセージにP.Sで投票するなりして、
ネタバレ掲示板の方へ(運用側様の御指示があればソコへ)でも書き込んどいてくんなっ!

そうそう、応募のアドバイスをさせて貰うとだな…書き手にせよ復活願望キャラにせよ
だよもんよりは名前があった方が、熱意・ポイントを高く評価してく積もりだぜいっ!

〆切は3回目のチェイサー発表話だっ、具体的な話数は流石にまだ分かんねえがまあ、
3回目の定時放送話が掲載されたら、そろそろ〆切だって認識しておいてくんなっ、


話が脇道に逸れちまったが、夜も派手に頃し合ってくんなっ、じゃあアバヨッ!!

TO BE CONTINUED?!

165パラレル・ロワイアルその110:2003/12/05(金) 15:55
(…困りました、出来る事でしたら今宵は浩之さんにはここを動かないで
頂きたい所なのですが…葵さんの窮地でしかも、あかりさんの為に戦って
おられる方の頼みとあっては…私としてはもう、浩之さんの御決断に従う
より他はありませんね…)


大灯台広場フードスタンドに押し掛けるようにやって来て、藤田浩之の姿を
見るや真っ直ぐに駆け付けて、松原葵の窮状と助力要請を訴えて来た3人…
坂下好恵・広瀬真希・柚木詩子を見やったセリオは、浩之の決断に全面的に
従う覚悟を決め、その返事を待った。


果たして、当の藤田浩之であるが…3人からの訴えを一通り聞き終わると、
食後3杯目のブランデー入り紅茶をそっと口へと運びながら、セリオの方を
振り返って穏やかな口調で尋ねた、
「セリオ、僕のバックから太田さんの支給装備を取ってくれないかな…」
「…えっ?あ、はいっ」
セリオが浩之のバックから取り出した、10番・太田香奈子の支給装備…
それは、来栖川アイランド全景を一画面に収め切った高縮尺版人物探知機で
あった…性能的には確かに凄いのかもしれないが、近過ぎる対象に殆ど用を
なさない事と、団体行動をとっている対象の光点がすぐ重なってしまう事が
(光点の明度は一応変化するが)致命的欠点となり、役立たずも同然の代物と
みなして、反転前の浩之がまあ一応はで持ち歩いていただけの物であった。


「で、セリオ…写真視力を持つ君にしか頼めない事なんだけど、探知機の中の
光点を全部、カウントしてみてくれないかな?」
「…!…はいっ、分かりました浩之さん……………………………………………
カウント終わりました、光点は全部で58個です」
「て事は…葵ちゃんはまだ脱落していないという事がわかったね」

「「「やったあ〜〜っ!よかったあ〜〜っ!」」」
「有難う、藤田君」
「坂下が言ってたのとはイメージ違うけど、頼りになる奴だなアンタって」
「だけど…葵ちゃんって子、今何処にいるんだろう…?」

「…この探知機の光点によりますと、現在来栖川アイランド沖・海上に存在
しているライバルは全員で7名で、内4名が東部…スタジオ舞台村沖洋上に
一塊で存在し、残りの3名が北西部…博物館美術館〜遊園地境界線沖洋上に
もう一塊で存在しております…恐らく葵さんは、こちらの3名の内の1人で
あるものと思われます」

「そうか、大まかだけど無事と場所が分かっただけでも充分、助かった」
「セリオさんだっけ、アンタもなかなか大したメイドロボじゃないの」
「…有難う御座います、広瀬さん」
「後は、船の調達だけが問題なんだけど…」
「私達が必死に探した時も、あの水上バイクしか見付からなかったからなあ」
「それに…例え見付かっても、ゲーム用じゃないと私達じゃ動かせないし…」
「「「うぅ〜〜んっ……」」」


「いや、ひょっとしたら何とかなるかもしれないなあ…(タパタパ)」
眉根を寄せてうなってる三人に向かって、紅茶にブランデーをたらしながら
浩之が再び穏やかに呟く、

「「「ええっ、本当にっ!?」」」
「セリオ、確か…2回目の定時放送でC11組の綾香は『憤死』だったけど、
芹香先輩とセバスチャンは『水死』だったよねえ…という事は、もしかしたら
港・ヨットハーバーエリアに、来栖川家用のヨットなりクルーザーなりが停泊
させてあったんじゃあないのかな…?」
「…!…よくお気付きになられました浩之さん!確かに、港・ヨットハーバー
エリアには来栖川家所有の大型クルーザーが御座います…そして、それの使用
資格は私も持っておりますし、操縦の方もサテライトサービスを使用すれば、
全く問題はありません」

「「「やったあ〜〜っ!!藤田君っセリオさんっアンタ達って最高っ!!」」」

(う〜ん、最高なのはむしろ、僕達にここまでさせようとする、葵ちゃんの人望の
方だと思うんだけどな…)
(…流石は浩之さん、転んでも徒では反転されておりませんね、まさに魔術師…)

TO BE CONTINUED?!

166パラレル・ロワイアルその111:2003/12/06(土) 18:34
…土産物商店街フードスタンド麻雀バトルは両卓共一局目が終了していた。

A卓は最後まで僅差での膠着状態の展開であったが、オーラスでジョージが
GreenDradonをツモ上がって3コロトップ、運悪くラス親だった
千鶴が4位…
【結果】ジョージ+40 源之助−5 黒きよみ−10 千鶴−25

B卓はビシビシと引っ掛け早リーチで場のイニシアチブを取り捲った聖が、
そのまま逃げ切ってトップ、振込みゼロだが上がりもゼロの彰がツモ払いで
ジリ貧となり4位…
【結果】聖+25 宗純±0 高野−10 彰−15


出だしを悲観して泣き崩れる初音をマナとマルチが慰めている所へ、更に
2人のライバルがフードスタンドへとやって来た。
「あっ長瀬さん、それに高倉さん…」「おや、健太郎君」「おう、五月雨の」
「あっマルチさん…」「あ、琴音さん」
…やって来たのは95番・宮田健太郎と74番・姫川琴音である。


…しかし、ここへやって来た当初の意図思惑が見事に大きく外れた健太郎は、
次の言葉が出なかった…連れの琴音の知り合いそうな人物(?)はたった一人、
しかも琴音よりも小柄でいたいけそうな来栖川製のメイドロボなのである…。

…これでは、琴音を託して一人自由に…何て無責任な真似はとても出来ない…
しかも…源之助と宗純は後で必ず、まじアン女性陣全滅の過程・理由を自分に
尋ねて来るに違いない…楽になって食事にもありつこうと思っていたのが逆に、
荷物を増やしてしまった上に、懺悔の告白を求められる結果となってしまった
のである…。


「ちょっと、アンタ…」
「え…?」
「せっかく、女の子連れでフードスタンドに辿り着いたっていうのに、何で
そんな情けない顔してんのよ…?」

…健太郎の無意識下での落胆の表情を見て取ったマナが、健太郎に近付いて
尋ねて来た。

TO BE CONTINUED?!

167パラレル・ロワイアルその112:2003/12/07(日) 16:50
「ぱぎゅうううっ!詠美さーんっ!由宇さーんっ!」
「あっ、すばりゅ〜じゃないの!」
「おう、スの字!無事やったんかい!」

スタジオ・舞台村学園エリア学校校門にて、大庭詠美・猪名川由宇と
御影すばるは見事、遭遇を果たしていた。

「ぱぎゅ〜〜〜っ!ゴリラさんまで一緒ですのおお〜〜っ!!」
「誰がだっ!!!(怒)」

…そうそう、蝉丸脱落の定時放送に若干士気消沈気味の御堂も、取り敢えず
同人作家2名のお守りで行動を共にしていた。

「ほれみい!ウチの思っとった通りやろ!」
「インクにケント紙にスクリーントーンっ!Gペンにロットリングまで!」
「ぱぎゅう、凄いですの〜!流石はG.Nさんですのお〜っ!」
由宇・詠美・すばるは学校の美術室で宝(?)の山を見付けて快哉を上げていた、
「描けるでぇ〜っ!これで描けるでぇ〜っ!!」
「パラレル・ロワイアル、現地ルポルタージュ漫画よおおっ♪」
「御堂さん…ボディーガードとしての長いお付き合い、宜しくお願い致しますですの♪」

「ふ〜っ、ヤレヤレ…したぼくよりは出世したらしいがよお、何とも情けねえ
こったなあ、相ぼ……う!?」
今更になって、御堂は初めて自分の頭の上の軽さに気が付いた。
「ねえしたぼく〜、そういえばあの子どうしたの?」
フードスタンドからガメて来た夜食の山を広げながら、詠美もやっと思い出したかの様に
御堂に訪ねる、
「あ…まさか、フードスタンドにうっかり置いて来てしもうたんとちゃうか?」
フードスタンドですやすや眠っていたぴろの姿を思い出した由宇も口を開く、

「クソッ、そのまさかだ…俺とした事がうっかり、坂神が脱落しちまった事ばかり
考えてて気付かなかったぜ…アイツもアイツだ、いつもなら勝手にへばり付いて
きやがるくせに、こういう時に限って…仕方ねえ、おいテメエラ!フードスタンドまで
連れに戻るぞ!」

「何言ってんのよ?わざわざぞろぞろみんなで行かなくても、したぼく一人で戻れば
いいじゃないの?」
「確かに、オッサンなら1人で行って戻っても襲われてどうこうって事はまず、
なさそうやしなあ」
「…俺が心配される覚えはねえ、むしろ小娘を3人も戦場において行く事の方が余っ程
俺は心配だっつんだ…ましてや、夜の校舎にカーテンもかけず明かりまで点けちまって、
まさに襲ってくれといわんばかりじゃねえか…第一、そこのすばるとかいう娘の連れを
3人頃した奴がまだ、そこいらをうろついてるかもしれねえってのに…」

168パラレル・ロワイアルその113:2003/12/07(日) 16:50
詠美&由宇の脳天気さを案じて唸る御堂の前に、すばるがずいと進み出た、
「大丈夫ですの、詠美さんと由宇さんはこの身に代えましても必ず、私が護り抜いて
見せますですの…そして、今まで一緒になった方達の仇も必ず討って見せますですの」

御堂は、自分の強さ恐ろしさをまともに覚れてなおかつ、自分を見据える事が出来る
すばるの度胸に好感を覚えた、
「ほう、なかなかいい武人の目えしてやがるな、すばる…オメエがそこまで言うんなら
その覚悟、信じてやろう…但し、『この身に代えましても』ってのはナシだ…いいか、
俺が猫連れて戻って来るまで、3人とも絶対無事でいるんだぞ!」

「当たり前でしょ」
「安心しててや」
「御堂さんこそどうか、無事に戻って来て欲しいですの」
「たりめーだ、俺を誰だと思ってやがるんだ」
御堂は少年からフードスタンドでの水撃(…)のワビに譲って貰った、元HM−13の
支給装備であるM60エアマシンガンを3人に託すると、もと来た道を土産物商店街
目指して風のように駆け出して行った。



ぐるる、ぎゅるぎゅる、ぐるるるるぅっ…
「は…腹減った…フードスタンドって一体、どっちの方角だったっけ…?」
つい今しがた飛び出して行った御堂と入れ違いに、学校校門に1人のライバルが
ふらふらとさ迷い出てきた…元チェイサー1号・2代目17番の南明義である。

チェイサーであるが故にフードスタンドからのスタートではなく、食料も支給されて
いない彼は、事前の地図チェックが不完全であったツケが、今まさに回って来ている所
なのである。

「あっ、校舎に明かりが…う〜、もう敵でも味方でも構わないっ、食べる物があるんなら
めぐんで貰わないと…それに地図と、出来れば里村さんの情報も…」

明義は足をふらつかせながら、校門から校舎へと向かってよろよろと校庭を横切って行った…
腹の虫を鳴らしながら下ばかりを向いていた明義は、学園エリアの遥か上空を飛び去って行く
かつて自分も乗った520Nローターヘリの存在などに気付く訳もなかった…そして、校舎の
屋上に降下していく2つのパラシュートの存在や、学校裏門側から校舎へと入ろうとしている
更にもう1人のライバルの存在にも…。

TO BE CONTINUED?!

169パラレル・ロワイアルその114:2003/12/08(月) 17:26
またまた、空港・ヘリポートエリア管制塔内警備兵詰め所…

「そういえばキミ達って…3人ともメイドさんみたいな格好しているけど、
まさかそれが警備兵の制服なの?」
「流石にそれは違いますです」
「自分達で作って持ってきたコスチュームです」
「夕香がグラリスで美帆がW、それでもって私がテーリングです」

「(…何か、みんな同じ衣装にしか見えないんだけど…)…それって、ひょっとして
『こすぷれ』っていうものなの…?」
「わぁ♪黒い名無しさんもコスプレって言葉、ご存知なんですね♪」
「うん、実はこのゲームで最初に会った人達から聞いたばかりなんだけどね…
だけど、そんなに楽しそうな事ならもし機会があれば、是非僕もやってみたい
ものだね、その『こすぷれ』っていうのを…」


…少年は禁句を口にしてしまった…


「そういう事なら話は早いです♪」
「実は…本当は玲子が着てくれる筈だったのが、もう一着あるんですよ♪」
「サイズは大きめですから多分、黒い名無しさんでも着られる筈ですし…あっ、
ひょっとしたら黒い名無しさんの方が、玲子より似合うかもしれないんじゃあ♪」


いそいそと、ロッカーからブリーフケースを引っ張り出して来た3人に、
怪しい雲行きを感じ始めた少年が恐る恐るに尋ねた。
「あ、あの…何なのでしょうか?それは…」

夕香がニッコリ微笑んで応える、
「ご心配なさらないで下さい、きっと黒い名無しさんもお気に召しますよ♪
美帆〜っ、化粧品まだ〜っ?まゆ〜っ、カツラはロングのでお願い〜っ!」

「(け、化粧品!?…カ、カツラ!?)あ、あの僕…そろそろ、ゲームの方に…
…う、うわあっ!(ツルッ…ゴッチィーン!)」
思わず後ずさりした少年は、不覚にもイスに足を引っ掛けて転倒…不幸にも
頭をしたたかに打ってしまった。

「準備は揃った〜?じゃあマッシュ〜ッ、オルテガ〜ッ、ジェットストリームで
変身よお〜っ♪(きゅぴ−ん!)」
「「オオーーッ♪(きゅぴーん!)」」

「やっぱりやめてええええええええええええっ!!!」

…管制塔内に、遠のいて行く意識の中で必死に振り絞った少年の絶叫が、空しく轟いた…。

TO BE CONTINUED?!

170パラレル・ロワイアルその115:2003/12/11(木) 21:39
「申し訳ないでござるよ」
「み、見付かったのは…このバック2つだけなんだな」
「大丈夫、フードスタンドで見付けて来た人達が船の方の目処を付けて
くれたわ…それよりもお疲れ様」

放置されていた芹香とセバスチャンの分のバックを片手に平身低頭する、
縦王子と横蔵院を詩子がなだめる様に制している間、坂下・広瀬・浩之
そしてセリオは、特別巡視艇に曳航されて帰港・ドック入りをしていた、
来栖川家の大型クルーザーのチェックを早速始めていた…。


「…ブービートラップ・設置されておりません、燃料残量・問題ありません、
機関部・異常ありません、操舵装置・異常ありません、船体損傷・ありません
レーダーおよびセンサー類・異常ありません…このクルーザーは全く問題なく
航行可能な状態です」セリオは淡々と速やかに、各部のチェックを完了した。


「ところでさあ、後ろに積んである変なマシンは一体何だ?…物騒な武器まで
積んであるけど」
後部ハッチで首を傾げる広瀬に、縦王子・横蔵院が説明をする、
「これはホバー式の一人乗り戦闘ポッドで、FPHと呼ばれるものでござるよ」
「だ、だけどエンジンに斧が刺さっちゃってるんだな、残念なんだな」

「セリオさん、このFPHっていうマシンの修理はサテライトサービスとかで
可能なのかなぁ?」
詩子が物惜しげにセリオに尋ねる、
「…詳しく破損状況を調べませんと即答は致しかねますが、少なくとも調査と
修理にはそれぞれ、相当の時間が掛かる事が見込まれそうです…それに、その
間のクルーザーの操縦を、何方かに行って頂きませんと…」
「う〜ん、じゃあ少なくとも葵ちゃんと再会が出来てからでないと、頼むのは
無理な相談よねえ…」


「それよりも」
広瀬が皆に尋ねる、
「乗り組みメンバーは一体、どう割り振って行くんだ?」

「いや…残念だけど今回は水上バイクは使わないで、全員がこのクルーザーに
乗り込んで行くべきだろう…夜間無灯火の水上バイクは危険だし、かといって
灯かりを点けると、まだ敵か味方かの確認が取れていない葵ちゃんと共にいる
二人のライバルに、こちらの存在と接近を知らせる事になるからね…出来れば
FPHとバイクを積み換えたい所だけど、時間が掛かりそうだし…いざ着いて
みてから、どちらのメカが役に立つ結果となるのかはわからないしね…」
「だけど、どの道このクルーザーもレーダー探知に引っ掛かってしまうんじゃ
ないのかな?」
浩之の意見に詩子が質問を返す、

「大丈夫、このクルーザーは来栖川…もとい綾香の船だから、ゲームに備えて
その辺のチューニングは徹底されている筈だよ」
「…仰る通りでした、浩之さん…このクルーザーは電波吸収塗装をされており、
45%の確立で通常のレーダーを逃れられます…更にECM(妨害電波)ポッドも
搭載されておりますので、併用で75%の確立でレーダーは掻い潜れそうです」

「よし、それなら決まりだ…もう時間が惜しいしセリオさん、早速クルーザーを
発進させて頂戴」
「…分かりました、好恵さん」

「それにしても…主催者でお金持ちだからなのかもしれないけど、綾香さんって
随分気合の入ったサバゲーおたくなのねえ」
「いや、全くでござるな柚木殿」
「ま、全くなのだな…」

TO BE CONTINUED?!

171パラレル・ロワイアルその116:2003/12/12(金) 18:16
…来栖川アイランド北西部沖に無灯火で停泊している豪華客船“蒼紫”、
その船縁に泳ぎ着いた松原葵は、バックから支給装備であるワイヤーランチャーを
引っ張り出すと、船側部の通路手摺に向かって射出した。

ワイヤー付きのフックは一発で手摺に引っ掛かり、葵はランチャーのワイヤーを
巻き取る事で首尾よく船内に入り込んだ。

無灯火の為、当然船外は月明かり・船内は非常口や消火栓のランプ以外の光源が
ない…葵は、暗闇に目が慣れるまでは取り敢えず船外から探索を行っていく事に
した…空気の抜けきったバナナボートを折り畳んで、手頃な船室へと放り込むと
(この辺、地球への優しさに拘る松原葵であった)船側部の通路の影から甲板の方
をこっそり覗いて見る…と、果たして甲板に人の形をした影が2つ3つ、動いて
いるのが見て取れた…しかし、それらの動きは明らかに人とはかけ離れた…そう、
メイドロボのそれと比べても明らかにかけ離れた、よりぎこちなく機械的な動き
をしていた。

「…!っ」
葵が更に目をよく凝らし、その姿をやっと確認した時、危うく声を出してしまい
そうになった…それらの姿は、そう…例えるならばスターウォーズエピソードⅠ
に登場する、バトルドロイドにそっくりなロボット…事実、それらのロボットは
送受信機・カメラ・スピーカー・火器管制AI・オートバランサー・フレーム・
そして手持ち武器で構成された、半遠隔操縦型の廉価版ガードロボットであった。

しかも、このゲーム用に改造されたせいなのか、御丁寧に頭部と胸部には円形の
ターゲットマークの付いた被有効打用のセンサーまで装備されている…さながら、
バトロドロイドとでも命名すべきシロモノであろうか。


(なるほどね…)
葵は何となく、そのバトロドロイド達の運用理由を覚った、
(HMシリーズのような高性能・高知能なロボットだとゲームのルール上“装備”
ではなく“参加者”として扱われてしまう為に、あの様な廉価版のガードロボが
運用されているという事なのかな?…て事は、やはりこの船そしてあのガードロボ
達は、財力をバックアップにルールを最大限使用しているライバルの持参装備と
いう事なのでしょうか?…だとしたら、選択の余地が無かったとはいえ、なかなか
剣呑な所へと迷い込んでしまいましたね…果たして一体、これからどうしよう?
…さあ考えろ、松原葵…)

TO BE CONTINUED?!

172パラレル・ロワイアルその117:2003/12/14(日) 19:44
「あっきれた!それじゃあアンタ、『護る事が出来なかったから護る事を
放棄する』って言ってる様なモンじゃないのっ!」


土産物商店街フードスタンドのテーブルの一つで、観月マナの説教タイムが
始まっていた…憤慨するマナの向かいに座らされているのは、宮田健太郎と
姫川琴音。

「…そんなに健太郎さんを責めないで下さい…健太郎さんがこうなって
しまったのも、元はといえば私が…」
「琴音ちゃん…アタシは『護れなかった』結果に腹を立ててるんじゃないの、
『護れなかった』結果に対する宮田さんの無責任さに腹を立ててるのっ!」
「でも、仕方ないだろ…騎士失格者がお姫様に出来る事って言えば、
他の騎士を探して紹介してあげる事位しか…」

しかし、本作同様軟弱者の言い訳なんか聞く耳も持とうとはしないマナは、
健太郎の言葉を途中で制して口を開く、
「…こっちのゲームじゃもう脱落しちゃったけど、本作でもアタシ会ったわよ
…自分が弱いことを理由に、護れなかった大切な人に間違った努力と間違った
優しさを注ぎ続けてしまったアンタ以外の葉っぱの主人公様を!
…最後にその人、自分のしていた事が只の『諦めていた事』だったって事実に
やっと気付いて…そして気付いた時には、もう何もかもが遅すぎて、結局…」

そこまで言って、マナは悲しそうに言葉を詰まらせた。
「…………………」健太郎は言葉が出なかった…いや、何も言えないでいた。


「それと、琴音ちゃん」マナが再び口を開く、
「はいっ、な…何でしょう?」
「アンタもアンタよ…雲行きが怪しくなった途端『お姫様』から『お荷物』に
格下げされた扱いされて…それなのに『心に壁を造ってしまう人の気持ちがよく
分かるから』って、同情して扱われるままになって…何で気持ちが分かるんなら
逆に、『壁を取り払ってあげなきゃ』って考えの方には、持ってってあげらん
なかったの?…アンタの友達はアンタが心に壁を造っちゃった時…一体貴方に
どうしてくれてたのヨ…?」

「…………………」琴音も言葉を出す事が出来なかった。




…一方、麻雀バトルの方は両卓とも二局目が終了していた。

A卓は一局目と全く同じ展開で終了…但し、今回ジョージがツモ上がった役は
南北戦争だったため、ルールにより逆転チョンボ(米国側の抗議は却下された)
で4位転落、ラス親の黒きよみが棚ボタでトップ。
【 結果 】黒きよみ+21 源之助+12 千鶴−11 ジョージ−22
【トータル】ジョージ+18 黒きよみ+11 源之助+7 千鶴−36

B卓は四人の中で最も玄人麻雀を打つ宗純が、安定した実力を最後まで発揮して
堂々の3コロトップ、彰はまたしてもノーホーラで4位…
【 結果 】宗純+33 聖−2 高野−8 彰−23
【トータル】宗純+33 聖+23 高野−18 彰−38


「あ…ああ…ああああああああ(フルフルヒクヒク)」
「う…うぐ…うぐあぐえぐひぐ(ヒクヒクフルフル)」
「はわわっ、初音さんっ!あゆさんっ!どうかお気を確かにっっっ!!」

TO BE CONTINUED?!

173パラレル・ロワイアルその118:2003/12/14(日) 20:47
「源五郎さん、甲板のドロイド達がこちらへ接近するクルーザーの存在を
知らせてきましたよ…距離はもう既に500m程だそうです」
「何ですって?…一体、船のレーダーは今迄何を探っていたというのですか?」

「成る程…どうやらあのクルーザーは、叔父上と来栖川の御嬢さん達が
こちらへ合流するために使用する予定だった船らしいですよ」
「忘れていました…私の娘が一人、仮とはいえ来栖川家の権限を有して
おりました事を…」



…端末機とモニターが立ち並ぶ豪華客船“蒼紫”の操舵司令室兼船長室にて、
111番・長瀬源一郎と112番・長瀬源五郎は予期せぬ、そして時期早過ぎ
時既に遅過ぎる接敵の知らせに思わず、顔を見合わせて頭を抑えた。

本来、この“蒼紫”は長瀬一族及び来栖川家の…もとい、本作主催者及び
パロアル主催者達の共有持参装備兼、ゲーム情報収集・情報伝達基地兼、
特権兵器バトロドロイド発進基地として機能する筈だったのである。

しかし、第2次定時放送までの12時間の間に来栖川綾香・芹香…そして、
長瀬源三郎・源四郎…更には、フランク長瀬・HM−12・HM−13が
立て続けに脱落してしまったのである。

おまけに、総大将の長瀬源之助は未だ未到着な上、現在興が生じて交戦中(…)
なのであった。

…ちなみに、本作ではイレギュラーであった4名、HMX−12マルチ・
HMX−13セリオ・長瀬祐介・七瀬彰は、それを踏襲してこのゲームの
連合勢力メンバーには加えなかった…長瀬祐介が結果的に連合勢力3名を
脱落させたのは皮肉以外の何物でもないが…。



「…それにしても、まずいというか予想外というか…もう大変ですねえ、未だ
連合プレイヤーとしても表立った動きさえ起こしていないというのに、早くも
10人中7人を失い、今こうして拠点までも見付けられ駆け付けられるという
事態に陥ってしまいますとは…」
源五郎は頭を掻き苦笑しながら、装甲強化服の装着を始める。

「G.Nはこの事態を既に予想していたんだろうな…チェイサー2号・3号へ
の情報提供はなしという事になっててくれてたが…まあこれから起こる事態を
考えれば、こっち側としては確かに、それどころじゃあないだろうしな」
源一郎も煙草を燻らしながら苦笑する。

「おまけに御老は、魔法で何時でもここへ駆け付けられるとでも多寡を括って
おられるのか、未だに蒼紫にいらっしゃらないし…果たして判っておられるの
でしょうか?本作で破れた理由の一つが、人件費をケチり過ぎ各個撃破された
事であるっていうのを…」
源五郎が装甲強化服のセンサーを調整しながらボヤキ続ける、

「こういう事態になってしまいますと、HM−12・HM−13が脱落して
しまったのが痛過ぎますよ…見ての通り、この装甲強化服では狭い船内での
戦闘は出来ませんからねえ…何とか甲板上で食い止め切れればいいんですが
…あっ、成る程そういう事でしたか」
源五郎はその時やっと初めて、船のセンサーではなく装甲強化服のセンサーで
なければ探知が出来ない存在…恐らくは外のクルーザーがこちらへやって来た
理由であろうその船内の存在に気付き、再び納得の苦笑をした。

「81番・松原葵さんですか…源一郎さん、それでは御老への督促と彼女の
お相手は貴方にお願いします…私はクルーザーの方のお客さん達を歓迎して
参りますので」
源五郎…いや、装甲強化服が専用大型通路から船外へと移動を開始した。

「…判った、とはいっても実際に相手するのは俺じゃないんだがな」
源一郎は次の煙草に火を点けながら、去って行く大きな背中に返事を返した。

TO BE CONTINUED?!

174パラレル・ロワイアルその119:2003/12/17(水) 18:12
「飽きた(ぽえ)」
「出だしのネタが浮かびませんですの…」
「…なんか、まったりムードやな〜」

学校美術室の机に向かって執筆開始早々、早くも怠惰の虫が首をもたげた3人…
まあ、当たり前だといえば当たり前である…祝賀パーティーのつい先々日、夏の
こみパに向けた入稿を修羅場にケリ入れて強行軍で終わらせたばかりなのである、
…精根使い果たしてそれぞれの大任を終え『さあ、バカンスだわーいわーい』で
そのバカンス先で改めて原稿を描こうだなんて気持ちや気力なんぞが、フツーの
同人作家にあるわけなんぞが無いというものだ。


…その頃、リバーサイドホテル・最上階ロイヤルスイートルーム
「↑とは思いませんか、編集長?」
「なら和樹君、貴方が原稿を描く事を『甘くて素敵なバカンスだ』と感じる様に
すればいいのよ…こうして、長谷部さんも『和樹さんとならば…』と、喜んで
特別にアシスタントを請け負って下さっているんだし」
(トホホ…かくなる上は、大志達が暴動を成功させてくれる事を願うだけだな…
そのドサクサにまぎれて上手く逃げ出せれば…)


…再び、学校美術室
「そや、屋上で花火でもしよか〜」
由宇がビニール袋いっぱいに詰まった各種花火の山を掲げて提案した、
「いーわねそれ、ヤッパ夏といったら花火よね〜♪準備いーじゃないの温泉パンダ」
「…でも、御堂さんが『敵を呼び寄せるような事はしてはいけない』っていってた
気が致しますですの」
「かまへんかまへん…本作ハカロワ見たやろ?…生き残る奴はどんな派手な事を
しても必ず生き残るし、倒れる奴はどんなに逃げ隠れしても必ず倒れるんや」
「そーそー、それにいざとなったらこのマシンガンもあるし…」
由宇と詠美は勝手な理屈をつけると、それぞれ袋詰めの花火と水の入ったバケツ、
M60エアマシンガンと麦茶のペットボトルを両手に下げて、屋上への階段を
いそいそと駆け登って行った。
「ああっ、ま…待って欲しいですのっ!」
すばるも慌てて2人の後を追って行った。




「こ、ここだ…た、確かこの部屋だ…明かりが点いてた部屋…」
ガラガラガラガラ…
登って行った3人と入れ違いにフラフラと美術室へと入って行ったのは南明義、
明かりを点け、部屋の一角に積み上げられた夜食の山を見るや、
「辛抱、たまらんっっ!」
一目散に駆け寄って、バリバリモグモグゴクゴクと片っ端からやっつけ始めた。

175パラレル・ロワイアルその120:2003/12/17(水) 18:12

そして、由宇・詠美・すばるが登って行ったのとは反対側の階段を下りて行く2人
…スタッフ回収された元33番・国崎往人の支給装備・デザートイーグルを右手に
防弾ファミレス制服を身にまとったチェイサー2号・田沢圭子と、長柄箒を両手に
防弾割烹着を身にまとったチェイサー3号・日吉かおりである。

「ねえねえ…かおりさんって、どーしてチェイサー参加したの?」
「代戦士参加のアテが外れちゃったからよ…しかもターゲット1号が梓先輩だった
おかげで、南明義とかいう寝返りザコに一番手を譲ってやっちゃったら…あああ、
思い出しただけで!!」
「じゃあ、ひょっとしてその梓先輩に貸しを作ってあげる為に…?」
「そーゆートコロかしら…そういう圭子ちゃんは何で参加したの?」
「好きだから…サバゲー」
「バガボンド読んでる人ね、やっぱり…」
「振られちゃった佐藤さんには未練なくなっちゃったし、セリオとは友達だけど
親友かどうかは微妙な所だし…ホントに理由が他に思い付かないなあ…」




最後に、裏口を抜けてこっそりと校舎へと侵入したのは…
「まずは、美術室にいる方達を狩って…後は、同じ狙いで先に校舎へ入って行った
方がいらっしゃれば、その方も…」
…本当に不憫なのかどうかが微妙な篠塚弥生がそこにいた。

G.Nのやり方を熟知してきた彼女は、入ってからまず校舎の各出入り口を入念に
チェック・探索を行っていた…そして、案の定とでもいうべきか遂に、用務員用の
通用口で一つのスイッチを発見した、
『90番専用』のプレートが取り付けられた、鉈の形のレバーの付いた…

「…それでは、恐怖のゲームを始める事と致しましょう」
弥生はレバーに手を掛け一気にガクンと下ろした…と、校舎一階の全ての出入り口
にロックが掛かり、校舎1階と2階の全ての窓に鉄格子が降りてきた…更に校舎の
全ての明かりは消えてしまい、中は真っ暗となった。

弥生は、下町長屋の残骸からおまる・ローソク・荒縄とともに見付け出してきた
元18番・柏木楓のバックの中から、楓の支給装備であったノクトビジョン内蔵の
ホッケーマスクを取り出して装着した。
…さあ、後は暗闇の中で逃げ場もなくさ迷う獲物を狩るだけだ…

彼女は、十字架型のエアマシンガンを構えると、階段を音を立てずにゆっくりと
美術室のある3階へと登って行った。

TO BE CONTINUED?!

176パラレル・ロワイアルその121:2003/12/20(土) 18:49
「!…ひほへは…はひはひひは、はへほはへひほへは…」
(!…聞こえた…確かに今、彼の叫び声が…)
植物園フードスタンドにて、鍋で程よく茹で上がったエビを咥えながら、
天沢郁未はすっくと立ち上がった。

「ビョーキじゃないとしたら、余程強いシンパシーを感じ合ってるのねえ…
私には何も聞こえなかったけれど」
遂に主役三連星こと、ハモ・フグ・アンキモを鍋に順次投下開始した石原麗子が
チクリと突っ込みをいれる、
「…やはり、御歳を召されますと聞えるものも聞こえなくなってしまいますようで」
郁未もとうとう、反撃を始めた。

「………………本当に今日は口の利き方を知らない小娘によく出会いますこと…!」
麗子は腹立だしげに、郁未をお嬢ちゃんから小娘へと格下げした。

「…ええ、そうかもしれません…でも、例え口の利き方を知らなくとも、本作でも
立証された通り、長生きの仕方と愛への殉じ方は心得ておりますわ…女としては、
それさえ心得ておりますれば、充分だと私は思っております故…それでは失敬♪」
それだけを慇懃に言うと、郁未は行きがけの駄賃代わりのアンキモとフグを片手に
風の様にフードスタンドから、巨大公園の方へと走り去って行った。


「………………………………………………………………………………………………」
「あ、あの麗子さん…空気が冷えて来ているんですけど…」
爆発寸前の麗子を目の前に、自分が怒るどころではない柳川裕也であった。




…その頃、土産物商店街フードスタンドでは両卓とも3局目が終了していた。

A卓は、尻に火がついた千鶴さんが居直りのノーガード麻雀でゴリ押ししまくり
3コロトップで巻き返しに成功!(トータルではまだラスであるが…)
【 結果 】千鶴+24 ジョージ−8 黒きよみ−8 源之助−8
【トータル】ジョージ+10 黒きよみ+3 源之助−1 千鶴−12

B卓は聖が裏ドラ・カンドラをガンガン乗せて上がりまくり2度目のトップ、
運悪く聖にハネ満直撃された彰は3連続のラスという、絶体絶命の窮地に…
【 結果 】聖+39 高野±0 宗純−10 彰−29
【トータル】聖+62 宗純+23 高野−18 彰−67


「はわわっ、マっマナさんっ!初音さんの心拍数がっ、心拍数がああっ!…」
「えええっ!?そ、そんな事私に言われたって…」

TO BE CONTINUED?!

177 パラレル・ロワイアルその122:2003/12/22(月) 19:11
ウィンウィンウィンウィン…ポトッ
「あはは〜っ、とれましたよ〜っ…果たして、今度の福袋は一体何でしょう?」

がさごそ…
「…ぽんぽこたぬきさん」
「う〜ん、民明書房だよ〜」
「という訳で折原君、もう一回レッツプレイ♪」
「嫌だぁ〜〜〜っ!!頼むからいい加減もう、誰か代わってくれ〜〜〜っ!!」
「男の子でしょしっかりしなさいっ、我慢我慢!」

ガッコンガッコンガッコンガッコン…………プシューッ
「止めてくれえええっ!誰か助けてくれえええっ!」


さて、ココは夜の遊園地エリアである…屋形船を水上自転車置き場に停泊させて、
当初の目的通りUFOキャッチャーに勤しんでいるのは35番・倉田佐祐理、
共にいるのは27番・川澄舞、65番・長森瑞佳、69番・七瀬留美、96番・
深山雪見である。

ちなみにこの遊園地エリア、全ての乗り物・アトラクション・遊具及び簡易の
フードスタンドは皆、条件付きでタダである…その条件とは、一回分あるいは
一人分につき…本人あるいは代表者一名の、遊園地名物・100メートル級
フリーフォール“ANR4”一回プレイである。

と、いう訳で佐祐理のUFOキャッチャープレイ代金と残りのメンバー全員の
軽食代金の為に先程から人柱とされ続けているのが、14番・折原浩平だったり
するのであった。

ゴオ――――――――――――――――――――――――――――――ッ!!!!
「ぎぃやああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」




「どや、北川君?何か状況なりメンバーなり解かったんかい?」
「…………いや、まだ何とも結論を出しにくい状況だな…」
「ジュン〜、アタシ退屈ダヨ〜」

そんな遊園地の野郎地獄の有様を、潜入させたラジコンヘリのカメラから
こっそりと偵察しているのは29番・北川潤…といっても、実は北川には
偵察を続ける理由などはもうなかったのである、倉田・川澄両先輩と七瀬が
メンバーにいる以上、遊園地の連中と無闇に戦闘となる可能性は殆どないに
等しいからである…さりとて、遊園地の料金システムを聞こえずとも見るだけで
概ね覚ってしまった北川はわざと偵察情報を出し渋り、遊園地組みとの合流を
いったん避けようとしていたのである。

まあ、仕方がない…連れである78番・保科智子、94番宮内レミィ等から
人柱2号にされるのは、北川にとっては真っ平御免であるからにして。

TO BE CONTINUED?!

178パラレル・ロワイアルその122:2003/12/22(月) 19:12
ウィンウィンウィンウィン…ポトッ
「あはは〜っ、とれましたよ〜っ…果たして、今度の福袋は一体何でしょう?」

がさごそ…
「…ぽんぽこたぬきさん」
「う〜ん、民明書房だよ〜」
「という訳で折原君、もう一回レッツプレイ♪」
「嫌だぁ〜〜〜っ!!頼むからいい加減もう、誰か代わってくれ〜〜〜っ!!」
「男の子でしょしっかりしなさいっ、我慢我慢!」

ガッコンガッコンガッコンガッコン…………プシューッ
「止めてくれえええっ!誰か助けてくれえええっ!」


さて、ココは夜の遊園地エリアである…屋形船を水上自転車置き場に停泊させて、
当初の目的通りUFOキャッチャーに勤しんでいるのは35番・倉田佐祐理、
共にいるのは27番・川澄舞、65番・長森瑞佳、69番・七瀬留美、96番・
深山雪見である。

ちなみにこの遊園地エリア、全ての乗り物・アトラクション・遊具及び簡易の
フードスタンドは皆、条件付きでタダである…その条件とは、一回分あるいは
一人分につき…本人あるいは代表者一名の、遊園地名物・100メートル級
フリーフォール“ANR4”一回プレイである。

と、いう訳で佐祐理のUFOキャッチャープレイ代金と残りのメンバー全員の
軽食代金の為に先程から人柱とされ続けているのが、14番・折原浩平だったり
するのであった。

ゴオ――――――――――――――――――――――――――――――ッ!!!!
「ぎぃやああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」




「どや、北川君?何か状況なりメンバーなり解かったんかい?」
「…………いや、まだ何とも結論を出しにくい状況だな…」
「ジュン〜、アタシ退屈ダヨ〜」

そんな遊園地の野郎地獄の有様を、潜入させたラジコンヘリのカメラから
こっそりと偵察しているのは29番・北川潤…といっても、実は北川には
偵察を続ける理由などはもうなかったのである、倉田・川澄両先輩と七瀬が
メンバーにいる以上、遊園地の連中と無闇に戦闘となる可能性は殆どないに
等しいからである…さりとて、遊園地の料金システムを聞こえずとも見るだけで
概ね覚ってしまった北川はわざと偵察情報を出し渋り、遊園地組みとの合流を
いったん避けようとしていたのである。

まあ、仕方がない…連れである78番・保科智子、94番宮内レミィ等から
人柱2号にされるのは、北川にとっては真っ平御免であるからにして。

TO BE CONTINUED?!

179パラレル・ロワイアルその123:2003/12/24(水) 19:27
「あ、あの船って…」
「ひょっとして私たちが乗って来た…」
「…はい、間違いありません…あの船は私達が来栖川アイランドへ来る時に
乗船しました、来栖川海運の豪華客船“蒼紫”です…」

クルーザーのブリッジから進行方向の水平線上に見えてきた巨大な船影に思わず
息を飲み、まさか口調で呟いた坂下好恵と柚木詩子の言葉を、セリオはあっさり
と肯定した。

「も、もしかしてアレってスタッフの連中が運用してるんじゃあ…ほら、監視とか
救助とかで…」
「…恐らくそれは違うだろうと思う(タパタパ)」
広瀬真希の楽観的意見を、紅茶にブランデーを注ぎながら藤田浩之はあっさりと
否定した。
「もしもアレがスタッフの運用している船だったとしたら、葵ちゃんと他二人の
ライバルが依然として失格になっていないのはおかしいし、第一無灯火というのは
有り得ない」

「…とと、いう事はなんだな」
「大規模すぎて信じ難い事実でござるが、あの船はその他二人のライバルとやらの
装備という事なのでござるな…?」
「ちょっちょっちょっとお、いくらなんでもそれはないんじゃないのおっ?」
縦王子鶴彦の出した結論に驚く詩子、しかし浩之はそれをあっさりと肯定した。
「いや、恐らくは縦王子さんの言う通りだろう…その他二人のライバルというのが
もし財力・権力を有した者達であったとしたなら…セリオ、現在まだ生き残りの
ライバルの中で該当しそうな心当たりは見付けられるかな?」

「…少々、御待ち下さい……………………………………………………………………
生き残りメンバーの照合完了しました…該当しそうな生き残りライバルは、
20番・鶴来屋グループ会長・柏木千鶴さん
24番・正体不明の神尾観鈴さんの代戦士さん
31番・正体不明の霧島佳乃さんの代戦士さん
35番・倉田財閥御令嬢・倉田佐祐理さん
41番・正体不明の桜井あさひさんの代戦士さん
54番・高倉財閥会長・高倉宗純さん
61番・正体不明の月宮あゆさんの代戦士さん
72番・正体不明の氷上シュンさんの代戦士さん
86番・正体不明の美坂栞さんの代戦士さん
後は、本作主催者組の生き残りで
111番・長瀬源一郎さん
112番・長瀬源五郎父様
115番・長瀬源之助さん…以上です」

「か〜っ、高槻Sと来栖川姉妹が脱落してても、まだそんなに怪しい連中が残って
たんだあっ」
頭を抱える広瀬に対し、浩之が和み口調であっさりと結論を絞り出した。
「…使用している船が来栖川海運の“蒼紫”であり、なおかつたった二人で運用が
出来ているという事は、少なくともその二人の内一人は来栖川家に縁があり、更に
人手の少なさを技術力でフォロー出来る人物という事だ、つまり…」

「…父様、ですか」
セリオが心持ち、顔を曇らせる。
「その様だね…そして恐らくは残りの一人も、長瀬一族の源一郎さんか源之助さん
なんじゃあないのかなあ…(なでりなでり)」
立場を思いやってか、慰めるようにセリオの頭を優しく撫でる浩之、
「…大丈夫です、浩之さん…今の私は、父様よりも浩之さんの方を優先する事に
ためらいはありませんし、父様もそんな私をきっと理解して下さる筈ですから…」

「悪いわね、藤田君それにセリオさん…いざ蓋を開けたら随分と剣呑な所へと葵を
探し出す事になってしまっちゃって…それに、広瀬や柚木さん達にも…」
「オイオイ、アタシってまだ他人様扱いなのかい、坂下?」
「私は構わないわよ…代わりに後で、今度は私の頼み事を聞いて貰う積もりだし♪」
「柚木殿の言葉は拙者達の言葉でもあるでござるよ」
「そそ、そうなんだな…リーダーの言葉は僕達の言葉なんだな」

「…それでは皆さん、準備と覚悟の方は宜しいでしょうか?…“蒼紫”後部船側に
只今到着致しました」
セリオが“蒼紫”後部船側にクルーザーを横付けし、エンジンを切って皆へと伝えた。

TO BE CONTINUED?!

180パラレル・ロワイアルその124:2003/12/24(水) 20:49
「それにしても、何とも結果オーライの拾い物でござったな」
「ぼぼ、僕達の苦労も無駄骨にならないで済んだのだな」

果たして“蒼紫”へ接舷し、さてこれからどうやって侵入しよう?と考え掛けた
クルーザーのメンバーの前で、縦王子と横蔵院がセバスチャンのバックの中から
ロケットリュックを引っ張り出した。

「これでまず一番手が二番手を抱えてロケットリュックで船へ潜入するでござるよ」
「そ、そして片方が見張っている間に、もう片方が非常脱出用備え付けの縄梯子を
クルーザーに垂らして残りのメンバーを誘導するのだな」

「…現状では最も正しい選択手段であると思われます、縄梯子の位置もここのほぼ
真上に存在する筈です…それでは、私が一番手となりますので…」
縦王子と横蔵院からロケットリュックを受け取ろうとしたセリオを坂下が制した。

「…どうされたのですか、坂下さん?」
「そろそろ、そもそもの依頼人が一役買って出てもいい頃だと思う…危険な役回り
なら尚更の事」
「それにセリオさんはこのクルーザーを操縦出来るたった一人のメンバーなんだ、
一番奥で一番慎重に振舞って貰うべきだと思う…一番手・二番手はアタシと坂下で
いいだろう」
広瀬もセリオを制し、縦王子と横蔵院から受け取ったロケットリュックを装着中の
坂下の前にずいと進み出た。

「…うむ、確かにある意味メンバー全員の命綱を担っているかもしれないセリオは
後方支援をして貰うべきかもしれないな…それでは、一番手・二番手は立候補を
してくれた坂下と広瀬さんにお願いして、三番手・四番手は縦王子さんと横蔵院
さんに、僕は五番手でセリオは周囲の策敵とFPHのチェックの方をお願いしよう
…最後に柚木さんには万一の援軍役・セリオのバックアップ役を兼任して貰って
クルーザーに待機してて貰おう(コクッコクッ)」
優雅に紙コップの紅茶を飲みながら浩之が出した役割分担案に全員が合点納得し、
横蔵院が、来栖川芹香のバックから取り出した安全ブーメランを詩子に渡した。
「なな、ないよりはマシなんだな…どど、道具としても使えるんだな」
「判ったわ、有難う」
詩子はそれをジャングルジャケットの腿の部分のポケットに柄の部分を出して
しまい込んだ。

「高波が出てきたようだ、急いで侵入しよう」
クルーザーはもとより、蒼紫をも横へと揺らし始めている波の高さに、坂下は皆を
そして己を促すようにクルーザーの外へと進み出ると、広瀬もその後を追い竹刀を
片手に坂下にしっかりとしがみ付いた。

「…くどいようだけど、もし万一セリオの索敵を掻い潜って不意打ちされそうに
なった時は、まず躊躇わずにそのロケットリュックでの逃亡を図って欲しい」
「…分かった、だけどあくまで二人一緒に逃げられたらの話だ…」
浩之の言葉に対し、坂下はそれだけを言い返すとしがみ付いている広瀬と共に
“蒼紫”の甲板目指して、ロケットリュックでの上昇を開始した。

TO BE CONTINUED?!

181パラレル・ロワイアルその125:2003/12/27(土) 18:23
「モグモグ……モゴッ!?」
学校美術室にて詠美・由宇・すばるの広げていた夜食の山をひたすらに
食い漁っていた南明義は、その時不意の消灯に驚き思わず頬張っていた
カレーパンを喉に詰まらせてしまった。

「く、苦し…み、水を…水、水ぅ〜っ!!」
再び彼はふらつくように美術室から廊下へと這い出す羽目となった。


「きゃっ!?」
「な、何?…ひょっとして停電!?」
チェイサー2号・3号の日吉かおり・田沢圭子も階段の踊り場で不意の消灯に
思わず、たたらを踏んで抱き合ってしまう、
「こ、これってひょっとして…ターゲットさんの迎撃準備なのかな…?」
「だ…だとしたら、ちょっとヤバイんじゃあないの?…何てったって真っ暗で
何も見えないし…」
そのままうろたえるかおりと圭子、

と、その時
パンパンッ!!ヒューヒューヒューヒューッ!!パパンパンパンッ!!
上の方から派手な炸裂音がこだまして来るのが聞こえた。

「ええっ、何でえっ!?私達上からやって来た筈なのにい?」
「一体、いつの間に回り込まれたのよお?…それより何より、一体どんな武器
持ってんのよお?派手な音させちゃってさあっ!?」
「と…とにかく、明かりが何とか出来るまではあの派手な音から遠ざかる方針で
行きたいんだけどさあ…」
「さっ、賛成!とりあえず下へ…必要なら校外へ明かりになりそうな物だけでも
ゲットしてから…」
そう言い合いつつ、更に手探りで階段を降り続ける二人、だが…

シパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパッ!!
ビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシッ!!
「きゃあああっ!?」

2階から1階へと通じる階段の踊り場へと辿り着き、1階への階段へとその身を
覗かせたかおりの全身を、1階の階段下から飛んで来たBB弾の横殴りの雨が
滅多打ちにした。

『ビーッ、追跡者2番・日吉かおり、有効弾直撃により任務失敗…直ちに、
交戦エリアより退いて下さい』

「えええっ、何でえ!?どうして今度は下の方から!?…って、ヤバイよ、
逃げなきゃ、逃げないと…」
かおりの後に続いて1階への階段へと姿を現しそうになった圭子は慌てて、
その身を返して階段を逆に昇り始めた。


その頃、校舎屋上では…
「ちょっと、温泉パンダっ!!いくら開き直っての花火遊びだからって、
ロケット花火と爆竹を一緒に点火するの止めなさいよっ!もう、鼓膜が
破れると思ったじゃないのっ!!」
「なんや、だらしないな〜詠美、これしきの一斉点火でひーひー音を上げてもうて」
「ちょっと由宇さん?…今、下から何か聞こえて来ませんでしたですの?」
「そんなん聞かれてもなあ、すばる…音が派手過ぎてウチには何も聞こえへんわな」
「そうでしたですの、由宇さん…でも確かに私…今、花火以外の何かが下の方で
聞こえた気が致しましたですの…」


更にその頃、西部劇エリア教会では…
「ねえ、はるかちゃん…今、あっちの方角で花火の光と音を感じたんだけど…」
「…ん、確かに、私も何か感じた…それにしてもゲーム中の夜に花火遊びだなんて
結構、余裕ある人もいるもんなんだね…」
「ちょっと、様子見に行ってみようか?」
「…ん、確かにゲーム中に花火する人と、いきなりバトルになったりなんかは
しないよね、きっと…」
「大丈夫なんじゃないかな、多分…」

182パラレル・ロワイアルその126:2003/12/27(土) 18:57
ドンッ!!
「みずぅうっ!?」
「きゃああっ!?」

暗闇に包まれた校舎3階階段の踊り場にて、半分窒息状態で水を求めてさ迷う
南明義と、1階階段で出くわしたエアマシンガン使いのホッケーマスク(仮名)
から逃げ昇って来たチェイサー3号・田沢圭子は出会い頭の衝突をした。

「ちょ…ちょっと誰だよアンタ、びっくりしたじゃないか……って、おおっ!
今のショックでカレーパンが喉を通り抜けてくれたぜ…有難う、助かったよ」
「んもう〜痛いなあ〜っ…て、いきなり有難うって礼を言われてもさあ…って
言うより、ちょっとアンタッ!下からエアマシンガン持ったホッケーマスクが
こっちへ昇って来てるのよっ!いいから一緒に逃げるわよっ!」
圭子は相手の素性を確かめるよりも先に、起き上がりざまに明義の襟首をむんずと
引っ掴むと、そのまま彼を引き摺り偶然にも明義の元いた美術室へと逃げ込んだ。


「…という訳で、今私たちはとても危険な状態なのよ…分かった?」
「う〜ん、何となく分かったけど、狙われているのはひょっとしたらキミだけ
なんじゃあ…?」
「だと思うなら、試しに廊下へ出てみたら?…アンタが撃たれるかどうか…?」
「…遠慮しとく…」
「しっ、来たわよっ!」
圭子はデザートイーグルを抜き構えて、明義に囁いた。

【カツカツ!!
 廊下で足音が響く。

 だんだんと大きくなる足音、忍ばせているのだろうが、他に音のないこの世界では
 いやにはっきりと聞こえた。
 本作・471話及び472話より一部抜粋】


その頃、校舎屋上では…

ポフッ ポフッ ポフッ ポフッ …
「ドラゴン花火って、見た目は綺麗で派手なんやけど音がでえへんのが今イチやなあ」
「…見た目が綺麗ならそれで充分じゃないの?」
「詠美さんって、花火は視覚のみで評価されるタイプですの?」
「フツー花火って、見た目だけで勝負するモンじゃないの?…私、音も採点対象に
してる花火大会なんて聞いた事ないわよ」
「そりゃ、詠美が知らへんだけやわ…」


再び、美術室…

「とにかく、ここはひとまず力を合わせて共通の敵である厄介なホッケーマスクを
返り討ちにするわよ」
「わ、分かった…」
デッサン机の陰に隠れた圭子と明義は、美術室の前まで来た足音とほぼ同時に
それぞれ、デザートイーグルと吸盤銃を美術室の出入り口に向けて構えた。

一瞬の静寂―――――そして、

ガララララッ!
ポンッ!
パスパスパスパスパスパスパスパスパスパスッ!

美術室の扉を開ける音と2つの銃声が一斉に重なり合った。

TO BE CONTINUED?!

183パラレル・ロワイアルその127:2003/12/30(火) 18:39
「あ…あゆさん…」
「うぐ…何でしょうか、初音さん?」

土産物商店街フードスタンドのベンチに力なく横たわる21番・柏木初音の手を
握る元61番・月宮あゆが初音の呟きに問いを返す。

「自分勝手でとっても利己的なのは承知の上なんだけど…彰さんのために、どうか
あゆさんの奇跡の力を…」
「うぐぅ…ボクも出来る事ならそうしたい…けれどボク、ここにいるけど選手じゃ
ないから…助力したらルール違反で初音さん、失格になっちゃう…そうなったら
彰さん、きっと…とってもとっても悲しむから…だからボク、今は初音さんにも
七瀬さんにも何もしてあげられないよ…ゴメンね、初音さん…」
「ううん、それじゃあ仕方ないよ…困らせちゃってごめんなさい、あゆさん…」




ところ変わって、ここはヨットハーバー〜博物館間に存在する隠し露天風呂、

「ベ、ベイダー殿…」
その湯船には、珍しく半ばうろたえている15番代戦士・光岡悟がいた。
「どうされましたのですか、光岡さん?…先程から湯船の隅で、後ろを向かれて
しまわれたままで…?」
そして、もう一人…ありのままの姿で、ありのままの声で語る72番代戦士・
覆面ベイダーもそこにいた。

「し…淑女たる者、そうあっぴろげに殿方の前で肌を晒すものでは…」
「あら、…女性として隠すべき所はちゃんと、タオルを巻かせて頂いておりますのに…」
「…訂正しよう…淑女たる者、そうあっぴろげに殿方の前で布切れ一枚になるものでは…」
「嫌ですわ、光岡さん…娘もいい年になってしまったおばさんをつかまえて、その様な
事を真面目におっしゃられては…」

「自分を差し置いて言うのもなんですが、ベイダー殿も年齢不相応にお若い姿をなさって
おりますから…」
「…そうおっしゃって頂かれますと何だか嬉しいですわ、光岡さん…ところで誠に失礼な
質問をさせて頂きますが…光岡さんは本作にて一時、死亡説が流れておりましたご様子で
ありましたのに、よく今回奇跡のご復活をなされましたのですね」

「うむ…信じ難い話であろうが、元戦友の知り合いに『天使』がおられてな…その御力で
あの時の傷はおろか、何とテロメアの方まで…」
「あらあら…それじゃあ、順番こそは逆ですけれど水瀬さんの所の沢渡さんとほぼ同じ
パターンという事で…って、それにしても光岡さん、随分と痛そうな傷跡ですこと…」
「!!…す、済まぬ…わ、私としたことが思わずそちらを向いてしまった」

「大丈夫ですよ…ここはゲームエリア中、お手洗いと並んで唯一例外の非撮影エリア
なのですから」
「い、いや…だからそういう問題なのでは…」

TO BE CONTINUED?!

184パラレル・ロワイアルその128:2003/12/31(水) 19:22
(……タイムリーに便利な戦利品をゲット出来ましたね)
日吉かおりから巻き上げた箒の柄で美術室の扉を押し開け、待ち伏せの斉射を
やり過ごした篠塚弥生は、ホッケーマスクの中でほくそ笑みながら美術室へと
侵入した。

案の定、先程の一斉射で素人な獲物達二名は全弾撃ち尽くしてしまった様だ、
暗闇の中で慌ててバックを漁っているのがノクトヴィジョンで手に取る様に
見える…少しでも明かりを求めてか、二人ともバックを漁りながら窓際へと
じりじり後退しているが、その手に持つ銃には次弾はまだ装填されていない。

(勝負あったわね、二人とも大人しく私に狩られて頂戴…)
弥生はエアマシンガンを構えると、射界を得るため音を立てない様に窓際へと
静かに先回りで移動を行った。


「失格アナウンスが流れてこない…アンブッシュ失敗だああっ!」
「どどど、どうしようっ…全弾撃ち尽くしちゃったし、こんなに真っ暗じゃあ
弾の補充なんて出来ないよおっ!」
南明義と田沢圭子は暗闇の中、少しでも明かりを得ようと尻餅の姿勢で窓際に
向かってじりじりと後ずさりしていた…と、背後からチャキッという音が…。

二人が振り向くと、窓際の月明かりの中にほんのりと浮かぶホッケーマスク、
そして自分達に向けられたエアマシンガンの銃口が…。




その頃、校舎屋上では…

シュルシュルシュルシュル…………パン!
シュルシュルシュルシュル…………パン!

「いい加減にしなさいよ、温泉パンダっ!今度はねずみ花火を一斉点火する
なんて、どっかのおでん種じゃあるまいし!もおっ危ないじゃないのよおっ!」
怒鳴りながらタップダンスを踊る大庭詠美に、猪名川由宇は笑って警告した。
「ホレホレ詠美ぃ、いってるそばからそっちにひとついってるでえ♪」
「キャアアアアアアアッ!」

自分に向かって回転して来たねずみ花火を、屋上隅に追い詰められた詠美は
思わず足で蹴り飛ばした。

…蹴り飛ばされたねずみ花火は宙を舞い、そのまま屋上から落ちていった。




…美術室の窓際でエアマシンガンを構え、トリガーに指を掛けた弥生の真横の
窓の外を、何かが火花を散らして落ちて来た…そして、

パンッ!…音と火花を派手に撒き散らした。

ホッケーマスク内蔵のノクトヴィジョンは、反射的に窓の外を向いてしまった
弥生の網膜に、その火花の光を何倍にも増幅して投影した。

「ぎああああああっ!?」

TO BE CONTINUED?!

185パラレル・ロワイアルその129:2003/12/31(水) 20:03
土産物商店街フードスタンド麻雀バトルは両卓ともオーラスを迎えていた。

A卓のスコア状況は現在 *()内トータル
1位黒きよみ+10(+13)・2位ジョージ+3(+13)・
3位千鶴−6(−18)・4位源之助−7(−8)…という状況、

ラス親は黒きよみ・ドラ二筒の六巡目、115番・長瀬源之助、役なしかつ
ドラなしの面前テンパイ…索子の二三三四五六六六から三索を切って横にし
リーチ宣言、待ちは一四七・二五索の五面待ち!

「ほっほっほ、千鶴さん…どうやらこれで勝負は決まりましたな」
余裕の笑みを浮かべる源之助に対し、20番・柏木千鶴は深く静かな声で
言い放った、
「……その三索、ポンです」
そして、千鶴の手から九索が捨てられた。

「う〜ん、一発も消えた事だし、ここは勝負かな?…えいっ!」
千鶴の下家で源之助の上家である16番・杜若きよみ【覆】から八索が
捨てられた。
「むむぅ、と…通し」
源之助が惜しそうに言った直後、
「……その八索、ポンです」
再び、千鶴が動いた…そして、二枚目の九索を捨てた時の千鶴のその顔は…!

「そ…そういえば、二索も四索もションパイなのよねえ…そして、は…」
「きよみさん…私、口三味線はトッテモイケナイと思いますわ…」
たどたどしくよく冷える千鶴の一言と、今ツモってきた発にきよみは思わず
凍りかけた…そして、思わず試しに言ってみた。
「…もし、ここで私がわざと卓をひっくり返してチョンボ料を払ったら、
親流れでゲームセットという事に…」

ボゴンッ!!
雀卓をブッスリと刺し貫いた千鶴の尖った爪先が、口の代わりに警告を発した。

「ジョ…ジョークよ、千鶴さん…(冗談じゃないわっ、発なんてっ!!)」
きよみはベタオリを決意して、アンコの九万を捨てた。

それでも、源之助にはまだ余裕があった。
(フム、しかし字牌単騎と五面張ではどちらが強いかは一目瞭ぜ………ん!?)
…しかしその余裕は盲牌の感触と共に、今まさに消え尽きようとしていた…。

186パラレル・ロワイアルその130:2003/12/31(水) 20:45
一方、B卓のスコア状況は現在 *()内トータル
1位聖+9(+71)・2位高野+8(−10)・
3位宗純−7(+16)・4位彰−10(−77)…という状況、

ラス親は高野・ドラは白、

「うん、なかなか面白かった」
トップの32番・霧島聖は楽しげに笑う。
「ダブルハコ下のビリ目でなお、最後まで勝負を続けられる素人はなかなか
おらぬからな」
54番・高倉宗純が言うと、110番・高野は苦笑する
「―――まあ、俺だけは一発逆転の射程内だからな…ベタオリで親流して
サッサと終らせて貰う事にしよう」

オーラスでダブルハコ下割ったビリ目が出来ることは三つ。
負け分払わずに逃げるか、無謀なバクチをするか、奇策とも呼べぬ策を弄するか。
少なくとも上位三人の面子の前でエスケープとイカサマは通じるわけがないのに。

案の定だった。

「カン!」「カン!!」「リーチ!!!」
68番・七瀬彰はドラの白、そして中を暗カンしてリーチを掛けてきた。
カンドラが中と八万なのを見て、三人が三人とも退屈そうな溜息を吐く。
このビリ目は二番目か三番目の選択肢を選んだわけだ。
奇策(大三元)か特攻(数え役満)か。どちらにせよ、聖と宗純にはトータルの
点差上、彰からの役満直撃など全く問題ではなかった。

「三位の俺がラス親だからって理由で、ツモ上がりと裏ドラに一縷の望みを
託したってわけかね」
高野が言うのを聞きながら、聖は
「それじゃあ、早速だが…彰君にはフリテンで二人ケンカでもして頂こうかな」
と言い、いきなりリーチ一発目に浮いていた発を叩き切る。
あとは高野と彰の最下位争い。それで終わりだな、

聖の思考に違和感が走ったのが同じ瞬間。

カンをしてリーチをかけて何を狙う。高野から役満直撃しなければ四位脱出が
出来ないのなら、リーチをかけない方が高野のガードもゆるむ筈だし、第一に
フリテンにならずに狙い撃ち出来る筈だ、それに巡目はまだ八巡目…ドラ8に
役牌2組ならリーチや裏ドラを当てにせずとも、ホンイツ・トイトイ等と絡め
をさせれば、もっと狙って直撃しやすい数え役満があがれる筈だ。

このカンとリーチには何かの意味がある―――どんな奇策を用意した?
不用意に過ぎなかったか、発を叩き切ったのは。

河から手を離し、戻す事はもう出来なかった。
彰から「一発」の声が上がり、残りの手牌が開かれる、

「―――これは―――ッ!!」

発・西西西・北北北

聖が役を理解するのに掛かる時間が三秒。そして三秒が経過する頃には、
彼女の体は石と化していた。

TO BE CONTINUED?!

187パラレル・ロワイアルその131:2004/01/03(土) 21:18
『ビーッ、B卓半荘四回戦勝負終了…最終トータル計算結果発表、
1位・七瀬彰+19、2位・高倉宗純+16、3位・高野−10、
ラス・霧島聖−25…よって、32番・霧島聖失格、直ちに交戦エリアより
退いて下さい』


「先生!先生!」
「……ははっ、油断したよ……まさかトリプル役満だったとは…」
駆け寄る88番・観月マナ相手に言葉が出ない霧島聖、

既に雀卓の上には賭けの代償として、聖のバックと支給装備が置かれている。

「…やはり医師たるもの、賭け事に現を抜かしている様では駄目だという事なの
だな、マナ君…今、私はそれを見事に我が身で立証したという事だ、ハハハ…」
「…センセ…」
「私はもうダメだ…だが、マナ君は何としても生き残るんだ……達者でな……」
「…言い訳にもフォローにもなってないんですケド…怒ってもイイでしょうか、センセ…」


「大したタマだよ、少年…」
高野の声に七瀬彰は長丁場が終わって以降、やっと我に返った。
見ると何時の間にか、自分の胸に柏木初音が縋り付いて泣きじゃくっていた。
公衆の面前で流石に恥ずかしかったが、初音には最後の最後まで不安な思いを
させ続けたのだ、今恥ずかしいのを我慢するのが唯一、自分が出来る精一杯の
初音に対するお詫びなのだと彰は割り切る事にした。

「本当にやってくれるよ。表面にこそ出していなかったが、お前も相当凄い
プレッシャーと戦い続けていたんだろうな…どんなイカサマの気配も見逃さない
自信があった俺達だったが、ドラ8だのトリプル役満だのといった代物のドサクサ
だったおかげで、そこの女医さんだけはうっかり見逃してしまった様だな…もしも
女医さんが振り込まなかったら、俺もワザと発を振り込んでいた所だったぜ、俺は
最初からちゃんと気付いていたからな…恐らくは、赤五のどれかを見誤った結果の
チョンボなんだろうがな…」
「?…何を言っているのですか??高野さん???」
高野の言葉の意図に気付けない彰が思わず、キョトンとなって高野に尋ねる。
「やれやれ…だぜ、」
高野はポケットから煙草を取り出し、ゆっくりと火をつける。
「白がドラなのに…どうして中がカン出来るんだ?」

「「ああああ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」」
彰と、そしてマナに説教されて小さくなっていた聖がハモッて大声をあげる。
「ワッハッハッハ、一度清算したらもう後の祭りですな、聖さん」
高倉宗純が今までずっと堪えていたものを吐き出すかの様に大笑した。

「(運が)強くなければ生きられない。(女の子に)優しくなければ生きていく資格が
ない……だな、差し詰め」
カンで二枚裏返しのままの彰の席の中と、彰に縋り付いている初音を見やりながら
そう言って、高野も大笑した。

【32番・霧島聖 脱落…残り57人】

TO BE CONTINUED?!

188パラレル・ロワイアルその132:2004/01/04(日) 18:27
高波に揺れる“蒼紫”甲板にロケットリュックで降り立った坂下好恵と広瀬真希は
すぐさまに周りを見回した…動く物、そして近付いて来る者の気配は今の所は発見
していない…。

「坂下」
「分かった」
竹刀を構えた広瀬が索敵を続ける背後で、坂下が非常縄梯子の展開・投下作業を
始めて行く。

「…っ!!」
広瀬の顔に戦慄と驚愕が走る!
後部甲板の中央にぽっかりと穴が空き、そこ――大型貨物搬入用エレベーター――
からせり上がって出現した物…その全身に各種兵装を満載した無骨なデザインの
装甲強化服…それはその全身を現すと、その圧倒的力量と余裕を誇示するかの様に
一歩、一歩…広瀬と坂下に近付いて来た。

「おやおや…どんなお客さんがいらっしゃったのかと思いましたら…まさか、その
手に持っておられる得物で、私とやり合う積りなのではないでしょうね?」
「くっ…」
広瀬が強化服…もとい、長瀬源五郎の態度に歯噛みしながら竹刀を構え直し、
じりじりと源五郎との間合いを詰めていく…その間に、坂下はクルーザーへと
縄梯子を投げ下ろし、そして…

カチッ……ゴアビュッ!!――ガシッ!
「むっ!」
坂下はロケットリュックに点火すると、何と源五郎の強化服の懐へと飛び込んで
その頭胸部へと張り付いたのである!…源五郎は両手に何の得物を持たない坂下が
逃走を選ぶものと思い込んでいた為、見事に虚を突かれて坂下の特攻を受け入れる
もとい、(恐らくは一時的に)視界を奪われる結果となってしまったのである。

しかし、源五郎は冷静に坂下と広瀬に尋ねる。
「どういうつもりなのだか全く解りませんが…私に張り付いて一体、そこから私を
どうされようというのですか…?」

「…こうするのよっ!」

ヒュバシッ!!――――カツンッ、カラカラカラ…
広瀬も一気に強化服の懐へと飛び込むと…強化服肩部に固定されている源五郎の
識別装置を竹刀で叩き落したのであった!

「よっしゃあ!逆転勝利いいいッ!…って?」
だが、甲板に転がって行った識別装置は沈黙したままだった…驚く広瀬に一瞬、スキが
出来る…そこへサーモグラフィーと集音マイクでおおよその見当を付けたと思しき
強化服の鉄拳が繰り出されて来た!…フィストの部分からエアバックを展開させて。

「逃げろ、広瀬っ!その識別装置はダミーだっ!」
張り付いた姿勢のままで強化服の全身各所に装着された幾つもの識別装置を見やった
坂下が慌てて叫んだが、もう間に合わなかった。

ボスンッ!!
「ぐおおっ!!」
エアバッグパンチは見事に広瀬のみぞおち辺りへと命中し、広瀬の体は宙を舞って
甲板の手摺りを飛び越えて行った。

「ああっ、空を見てっ!」
「鳥でござる」
「ひ、飛行機なんだな」
「…いいえ、広瀬さんです」
「………………(タパタパ)」

「き、貴っ様等ああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
ドッポ――――――――――――――――――――ン!!

『ビーッ、75番・広瀬真希、アタックダイブにより失格…海上戦闘の為、
14Mミリアさんは直ちに巡視船にて75番の元へ移動して下さい』

【75番・広瀬真希 脱落…残り56人】

TO BE CONTINUED?!

189パラレル・ロワイアルその133:2004/01/05(月) 19:14
((?!…何だか解らないけど反撃のチャンス…!))

いきなり両目(の部分)を押さえて絶叫するホッケーマスクにスキを見出した
南明義と田沢圭子は、やっとの事でそれぞれ吸盤銃とデザートイーグルの弾の
再装填を終えた。

そして暗闇の中、獲物の狙いを定め構えたまさにその時…圭子の鼻先に何かが
飛んで来てピタッとへ張り付いた。

それは、明義がつい今しがたまでここでがっついていて、咽喉を詰まらせた時に
思わず食べかけで放り捨てていたカレーパンの残りにありついていたところを、
ホッケーマスクの絶叫に驚いて逃げ出そうと飛び上がった、茶色くて触角があり
ガサガサと疾走する生き物で…そう、まさしくその名前はゴ…

「いやあああああああああああああああっ!!」

…視力を不意に奪われ、混乱していたホッケーマスクこと篠塚弥生はその絶叫で
我に返り、次の瞬間には絶叫の聞こえて来た方向に向かって、取り落としそうに
なっていたエアマシンガンを滅茶苦茶に乱射していた。

シパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ!
ビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシッ!
ビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシッ!

「たっ、田沢さん…どっ、どうして?」
「そんな事言ったってえ…今のは、不可抗力だよおっ…」

『ビーッ、17番・南明義、有効弾直撃により失格…直ちに、
交戦エリアより退いて下さい』
『ビーッ、追跡者3番・田沢圭子、有効弾直撃により任務失敗…直ちに、
交戦エリアより退いて下さい』




…その頃、校舎用務員通用口からワンウェイロックされた扉を通って、
更に二人の新手(?)が校舎へと侵入して来ていた。

「…ん、真っ暗だね…鈴香さん」
「よかったあ、自転車のライト外して持って来ておいて…よっと(パチッ)」
「…何だろう?この『90番専用』ってスイッチ…?」
「随分変わったデザインだけど、ひょっとして電気のスイッチなのかな、これ?
…よっと(カチッ)」
「…あ、明るくなった」




「…もはやこれまでかと覚悟しましたが、まだ悪運は尽きていない様ですね…」
ようやく視力を回復させた弥生がホッケーマスクを外し、会心の苦笑を浮かべた
時、校舎の照明が再び点された。

【17番・南明義 脱落…残り55人】

TO BE CONTINUED?!

190パラレル・ロワイアルその134:2004/01/05(月) 21:34
「ああ〜〜っ!!あ、あの小娘え〜〜っ!!」
植物園フードスタンドにいきなり石原麗子の怒りの声が轟いた。

「ど…どうされたのですか?麗子さん…?」
そろそろ腹八分目の柳川裕也が恐る恐る、麗子に尋ねる、
「どうしたもこうしたも無いわよ、あの小娘っ!…人が折角楽しみに取っておいた
禁断の珍味を〜〜っ!!」
麗子は怒りにワナワナと震えながらうめく、
「き…禁断の珍味?」
「そうよっ!よくも…よくも私の河豚肝をを〜〜っ!!」

「ブーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
麗子の言葉を聞くや、柳川は口の中の鍋の中身を毒霧と化していた。
「ちょ、ちょっと麗子さん…そ、その…ふ、河豚肝って…猛毒なんじゃあ…?」
「ハア?…柳川さん、貴方ひょっとして能力者なのに河豚毒ダメなの?」
眼鏡をずり下ろして魂消る柳川に、キョトンとした顔で答える麗子、

「あの…全ての能力者が毒に耐えられる訳じゃあないと思うのですが?」
「あら、そうだったの…でも心配しないで柳川さん、貴方に何かあったら、
お医者さんとしてちゃんと、私が面倒を見てあげるから♪」
少女の様に悪戯っぽく笑う麗子、

「いえ…私は幸い、ハモの方を主に食べさせて頂きましたので、残念ながら問題は
ないと思うのですが、先程までいた少女の方が…」
麗子の笑みに少々赤面しつつも、去って行った天沢郁未を案ずる柳川、
「ああ、そう言えば…ま、今頃は多分…生きてるか死んでるかのどっちかなんじゃ
ないのかしらね?」
あっけらかんとした麗子の言葉に、柳川は次の言葉が出なかった。




その頃…巨大公園海岸沿いの砂浜にて、脱いだ衣服やバック等を傍らに置き、
首だけを出して砂に埋まっている天沢郁未がいた。

(コロス…あのクソババア、今度会ったら絶対に頃してやるからっ……!!)
と、最初は怒りと体の痺れに(穴は恐らく、不可視の力で掘ったのであろう)
ブルブルワナワナと砂の中で震え続けていたのだが、昼の疲れが出てきたのか
その内、波の音を子守唄にスヤスヤと眠りについてしまった。

しかし、郁未は気付いていなかった…今現在が干潮であるという事と、果たして
満潮になるとどこまで、海と化してしまうのかという事を…。

TO BE CONTINUED?!

191パラレル・ロワイアルその135:2004/01/06(火) 20:22
「宜しければ、適当な所でギブアップして頂けると助かるのですが…これから私、
貴方の連れの方達も歓迎して差し上げなくてはならないものでして…」
「クソッ…アンタ、全くお誂え向きの装備を支給されたものだなっ」

高波に揺れる“蒼紫”甲板上にて、ロケットリュックを背負ったまま装甲強化服に
セミの如くへ張り付いている坂下好恵に、長瀬源五郎は困惑したような声で語る。


弱点とも言うべきか、装甲強化服には密着状態で使用出来る武器は搭載されて
いなかった、BBガトリングガン・トリモチ銃・フラッシュストロボは近過ぎて
射界が得られないし、ペイントスプレーやフリージーヤードは生身かつ普通の
人間が相手では、オーバーダメージになり兼ねない、アームによる格闘攻撃も
パンチ・引き剥がし共にこれまたしかりといった所なのである。

源五郎は坂下を放置する事にした…重いロケットリュックを背負って力の限りに
へ張り付いていれば、そのうち力尽きて勝手に剥がれるか簡単に引き剥がしが
出来るだろう…と、結論付けたのである。


「…視覚が奪われているのはいささか不便ですが、サーモグラフィーと集音マイク
だけでも何とか闘えない事も無いでしょう…それにしても、360度カメラ1基
だけというのは、ひょっとしたら設計ミスだったのかもしれませんね…」
源五郎はそう言いつつ、非常縄梯子の方へと歩を進めた…と、その時

ザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラ〜〜ッ!!
足元の甲板に何か硬い物がぶち撒けられる音が響いた…と、次の瞬間

「ななっ!!」
強化服は源五郎の制御を離れて…高波に傾いた甲板の上をみるみる滑っていった。
「アンタだけじゃなかったんだよ、お誂え向きの装備を支給されていたのは」
坂下がロケットリュックを背負うために、腹に括り付けておいた自分のバック…
――突撃時に口を開いておいた――から、中に入っていた自分の支給装備である
数百個ものパチンコ玉を撒き散らしたのであった。


「し、しまった!!」
強化服は何度も踏ん張り直そうとしているが、視界を奪われている為足を下ろす
度に再びパチンコ玉を踏みつけてしまって、止まる事もバランスを取り戻す事も
出来ない…ローラーダッシュ機能も搭載されてはいるのだが、最初の踏ん張りが
出来ない事には使い様が無く、方向転換用のターンピックも鉄製の船の甲板には
楔を打ち込む事が出来ない。


「ばっ…馬鹿なっ!?来栖川最強のカウンターテロ兵器があああっ!?」
坂下にへ張り付かれた強化服はそのまま、船の手摺りを突き破って夜の海へと
放り出された。

「さらばだ」
カチッ……ボオオンッ!!
そう言い残し、坂下は強化服から腕を放すとロケットリュックに再点火した…
当然、自分だけは上空へと逃れるために。

「たった一人の女子高生にっ……!!」
バリリッ!!…スポッ…ザッポ――――――――――――――――――――ン!!


『ビーッ、112番・長瀬源五郎、アタックダイブにより失格…海底水没及び、
14M巡視船出動中のため、14Kカノンさんは大至急特殊潜航艇にて112番の
元へ移動し、112番の窒息前に速やかにサルベージ作業を行って下さい』


「ああーーーーっ!好恵さんたらーーーーっ!!」
「うおおおお!!!ホットパンツではないでござるーーーっ!!!」
「カカカ、カメラ持って来てないのが残念なのだなーーーっ!!!」
「…見てはいけません、浩之さん」
「わああ、暗いようセリオ…」

「な!?……やっ、やめろおおおおっ!!みっ、見るなっ、見るなああああっ!!」


『ビーッ、25番・坂下好恵、アタック・セクシャル・ハラスメントにより失格…
海上戦闘の為、14Mミリアさんは直ちに巡視船にて25番の元へ移動して下さい』


…かくして、優勝候補の一人112番・長瀬源五郎は夜の波間へと沈んだ、
その最後の瞬間に掴んだ25番・坂下好恵の空手着(下半分)と共に…。

【25番・坂下好恵 112番・長瀬源五郎 脱落…残り53人】

TO BE CONTINUED?!

192パラレル・ロワイアルその136:2004/01/07(水) 19:15
「!…照明が回復してしまいました…誰かがスイッチを戻してしまったのでしょうか…?」

篠塚弥生は田沢圭子・南明義の戦利品を素早く回収すると、直ちに1階への階段目指して
美術室を後にし3階の廊下を小走りに移動した…と、階段まで辿り着いた時、上の階から
声と足音が近付いて来るのに気付き、素早く角の壁際にその身を潜めた。


「ホンマ悪かったわ、だからもう怒らんといてや詠美ぃ〜」
「まったく、パンダのクセにしつこく意地悪しちゃってホント、ちょお信じらんな〜い!」
「まあまあ、詠美さん…こみパの女王はもっと寛大に振舞って欲しいですの」


…上の階から降りて来たのは、花火遊びを終えて美術室へ戻る途中の猪名川由宇・
大庭詠美・御影すばるの三人…それぞれ手に花火の燃えカスとピコピコハンマー・
M60エアマシンガン・水の入ったポリバケツと麦茶のペットボトルを手に持って
横に広がって3階への階段を下りている所であった…余談ではあるが、花火遊びが
終わる前に校舎の照明が回復した為、三人共自分達以外の校舎の侵入者の存在には
(パラシュート×2は使用者が給水塔の陰に隠した)全く気付いていなかった。


(出会い頭ですが、不意討ちで掃射出来れば勝算は充分ですね…)弥生は素早く対処法を
結論付けると、エアマシンガンを構え直し、ギリギリまで足音を引き付けてから一気に
階段踊り場へとその身を踊らせた。


…しかし、弥生がその時肩に掛けていた田沢圭子のバック――最後に圭子が弾倉交換中
だったため、口が開いてたままの――から、圭子の絶叫と弥生のエアマシンガン乱射に
驚いてバックの中へと逃げ込んでいた生き物が、バックの口から飛び出して弥生よりも
一瞬早く、階段踊り場へとその身を降りて来る三人の目の前へさらしていたのだった。


「ゴ…ゴ…」
そのいきなり目の前に飛び出して来た、茶色くて…触角があって…ガサガサと疾走して
…頭文字にゴのつく生き物を見た瞬間、三人の真ん中にいた大庭詠美は悲鳴よりも先に
エアマシンガンを御堂の如き素早さで構え直すや否や、フルオートで全弾斉射した。

シュパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ!
「ぎゃああああああ〜〜〜〜〜〜っ!!不潔っ不潔っ不潔ううううう〜〜〜〜〜っ!!」


ビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシッ!
…直後に必殺必勝の思いで飛び出した弥生は次の瞬間、自分の身に何が起こったのか
すぐには理解出来なかった。

BB弾のシャワーを浴びたんだと理解できた瞬間、そして…立ち尽くす自分の股下を
ゴ…(以下略)がカサカサと逃げて行くのを見付けた瞬間、

『ビーッ、47番・篠塚弥生、有効弾直撃により失格…直ちに、交戦エリアより
退いて下さい』

弥生は自分の識別装置が非情のアナウンスを伝えて来るのを耳にした。

(こんなところで、私は、私は……)
「終わり……ですね…」
弥生は絞り出すような声でつぶやいた。
(どこで、歯車が狂いだしたんでしょう……)
一瞬脳裏に浮かんだのは、先程男女二人を銃殺した現場。あのとき手に入れた
鞄の中に、ゴ…(以下略)が入っていたなんて……。


「ああっ詠美っ!!アンタ、何て事をっ!!」
「ふみゅうううん…だ、だってえええっ…」
「ぱぎゅうっ!その十字架型マシンガンはっ…!?」

「貴方の連れの方達でしたか…舞台村で私が頃した三人の方達は…それならばたった今、
敵は討たれました…これからは復讐を忘れ、どうか心よりゲームを楽しんで下さい…」
そう言い残し、弥生は『事切れた』。

【47番・篠塚弥生 脱落…残り52人】

TO BE CONTINUED?!

193パラレル・ロワイアルその137:2004/01/08(木) 18:46
パポプピー♪ポポパペポー♪パポパプパー♪ポポプパペー♪
「!」
長瀬源之助がリーチ一巡目に発をツモって来た瞬間、懐の携帯電話から
青空の着メロが流れて来た。

「おおっ、何とこんな時に電話が掛かって来るとは…申し訳ないが、ちと
勝負を中断させてはくれぬかの」
「…仕方ありませんね、ですがどうか…お話は極力手短にお願い致しますよ
源之助さん…」
渋々ながら、文字通り鬼気迫る表情で柏木千鶴が了承した。


…源之助はそそくさと雀卓を離れると、フードスタンドの離れた空席に腰を
下ろして携帯電話の回線を繋いだ。
「うむ、源之助だが」
『源一郎です…たった今、源五郎さんが脱落しました…蒼紫へ潜入して来た
ライバル達はドロイドを掃討しながら私の元へ刻一刻、近付いております』
「何と!あの源五郎までが…」
『御老、そろそろいい加減に蒼紫に参って頂きませんと…私ももう、時間の
問題も同然の立場ですので…』
「わ、分かった…今直ぐそちらへ行く、それまで何とか持ちこたえてくれ」


源之助は通話を終わらせるとそのまま、通話している振りをしながら密かに
上位魔法である隔地転移(ぶっちゃけていえばテレポート)の詠唱を始めた。
…源一郎の窮地と自分の窮地を両方救える一石二鳥の作戦だといえよう…。

朕深く世界の大勢と帝国の現状とに鑑み、
非常の措置を以て時局を収拾せむと欲し、
茲に忠良なる爾臣民に告ぐ。
――――。
朕は時運の趨く所、堪へ難きを堪へ、忍ひ難きを忍ひ、
以て万世の為に太平を開かむと欲す。
――――。
宜しく挙国
一家子孫相伝へ、確く神州の不滅を信じ、任重くして道遠きを念ひ、
総力を将来の建設に傾け、道義を篤くし志操を鞏くし誓って国体の精華を発揚し、
世界の進運に後れざらむことを期すべし。爾臣民其れ克く朕が意を体せよ。

 淡々とした小声が空席に囁き渡る。
 源之助の周りを取り囲むように、虹色の光が渦を巻き始めた。

 島に巻き起こる、常人には見えない不可視の嵐。
 魔法の力。魂の力。気持ちの力。それらの流れ。

「――――――――――――!!」
 源之助の口から、呪文以外の言葉が発せられる。
 これから立ち去らんとする雀卓へ、どんな言葉を投げかけたのか。
 不可視の風が集い、一つの大きな流れになった。
 空間に、島と船をつなぐ穴が開く。
『では、さらばぁぁぁぁぁーーーーーーーーーー!!!!!!!』

カッッッッッ!!

 空席で光が爆ぜ、源之助全体を閃光が包み込む

…かくして、源之助の体はフードスタンドの空席から魔法の力で移動した。
………………………………………………自分の元いた雀卓Aの席の上へと。

194パラレル・ロワイアルその138:2004/01/08(木) 18:49
『!?』
源之助は驚愕かつ狼狽した。
『馬鹿な!?この私が…魔法の発動に失敗したとでも…!?』

その時、何処からともなく…源之助に内なる声が伝わって来た。

“…いかぬぞよ、源之助殿…勝負事を途中で放り出して逃げ出すのは…”
『そ、その声は…ばっ馬鹿なっ!?…103番は…103番は確かに…』
“確かに…そちの申す通り、百三番は欠番じゃ…じゃがな、わらわがこの
遊戯に参加してはおらぬなどと…一体、何処の誰が申したというのじゃ?”
『だ、だとしても一体…一体、今まで何処に!?』
“何を申しておる、わらわはそち達とは随分…長い事一緒だったではないか?”
『!!!…そ、そうだったのか…ふ、不覚であったわ…!』
“では、納得のいった所で…わらわがそちの代わりに…その無駄自模を捨てて
進ぜようぞ”
『!!!…や、止めろっ…止めるのじゃあああっ!!!』

…源之助の右腕が本人の意思に反して動き、ツモってきた発を握ると、
容赦なく河へと叩き付けた。

「それよっ!出たわっ!緑一色発単騎っ♪♪」
対面の千鶴が喜色満面に手牌を開く…二索・四索アンコに発が一枚、
正真正銘の緑一色だった。

『ビーッ、A卓半荘四回戦勝負終了…最終トータル計算結果発表、
1位・柏木千鶴+14、2位・杜若きよみ及びジョージ宮内、ともに+13、
ラス・長瀬源之助−40…よって、115番・長瀬源之助失格、直ちに
交戦エリアより退いて下さい』




「ふ〜っ、走った走った…おっ、いたいたテメエ…ったく俺様にいい運動させやがって」
「!………にゃあっ♪」
「!………ぴっこり♪」
「あら、御堂さん」
「おや、御堂じゃないのよ?」
「うおおっ!…毛玉に千鶴に覆製身までいやがったとは…」

ぴろを回収しにスタジオ・舞台村から疾走して来た御堂は到着早々、他にも
見知った顔が3つもあるのに思わず面食らっていた、そこへ…

ぎゅっ

更に、後ろから服の裾をしっかりと掴まれた。

御堂は敢えて振り向かずに、裾を掴んだ相手へと問いかけた。
「おい………なんで代戦士頼んだ筈のお前がここにいるんだよ?」

「うぐうっ…それは秘密なんだよ、おじさん♪」
嬉しそうな返事が返ってきた。

【115番・長瀬源之助 脱落…残り51人】

TO BE CONTINUED?!

195パラレル・ロワイアルその139:2004/01/09(金) 18:38
「ふーっ、俺もそろそろ年貢の納め時っていうやつなのかなあ」
長瀬源一郎は“蒼紫”の操舵司令室兼船長室で紫煙を吐きつつ一人呟いた。

電話を掛けてから早10分は経過しているのに、源之助は未だここへ姿を
現さない…恐らくは脱落したのであろう、確か交戦中の筈だったから。

「やれやれ…かといって、これ程までのお膳立てを水泡に帰すのも些か、
勿体無いどころの話じゃあないだろうし…と」
源一郎は自分の支給装備である参加者【裏】名簿をパラパラとめくると、
あらかじめ赤鉛筆にてチェックを入れた内の一人を選んで再び、電話へと
手を伸ばした。
「なんとまあ、好都合な面子が一箇所に集っていてくれてたものだな」




ゴオ―――――――――――――――――――――――――――ッ!!!!
「WAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAOッ♪♪♪♪」
「やれやれ…とんだ杞憂で時間を無駄にしちまったな」
「そやそや、アンタまだまだレミィの事解っとらへんなあ」

ウィンウィンウィンウィン…ポトッ
「はちみつくまさん♪」
「まあ、地下鉄道フリーチケットじゃない」
「あはは〜っ、やっといいものが取れましたね〜」
「浩平、大丈夫?」
「な、何を今更…怒ってもいいか、瑞佳?」


遊園地エリアでは倉田佐祐理・川澄舞・長森瑞佳・七瀬留美・深山雪見・
折原浩平と、北川潤・保科智子・宮内レミィが遂に合流を果たしていた。

で、現在ANR4連続プレイを大喜びで満喫してるのは当然レミィである。
「ふ〜っ、それにしてもメリケン製ヤンキーというのは、胃袋だけでなく
心臓や肝までも余程頑丈に出来てるのかねえ…?」
北川が、ガッコンガッコンせり上がって行く座席の上で大はしゃぎしている
レミィを眺めつつ溜息を漏らしていると、懐の違法携帯電話がブルブル…と
バイブコールを発した。

…普段は気の利いた着メロ(最近のお気に入りはボーボボのOP)を設定して
いるのだが、サバゲーで着メロを流す訳にもいかないので、バイブモードに
切り換えていたのである。

「とうおるるるるるる、るるるるるる、るるるるるるん…はいィィ〜
もしもし…はい…ドッピオです」
電話を繋げる北川、

『29番の北川潤君だね、私は111番の長瀬源一郎という者なのだが…』
「!?」
思いも掛けない通話相手に北川は些か面食らう、
「………………本作主催者STAFFの一人が、俺に一体何の用です?」

北川のマジ声とその言葉の中身に、戻って来たレミィも含めた残りの連中も
思わず息を潜めて注目する…北川は受話器を他の全員にも声が聞き取れる様
調整しながら、源一郎の話の続きを聞く事にした。

『君の…いや、君達の才能を見込んで是非…我々、長瀬一族の持参装備を
引き継いで欲しいのだよ、我々は間もなく全滅する運命なのでね…』
「全滅!?持参装備!?…一体、どういう事なんです!?」
『我々…本作主催組の長瀬一族は、今回のゲームの主催である来栖川姉妹と
手を組み、このゲームの勝利および面白可笑しい演出を目的として、君達が
ここ来栖川アイランドへ来る時に乗って来た来栖川海運の大型客船“蒼紫”
を、ゲーム情報収集・情報伝達基地兼用のゲーム用ロボット発進基地として
運用・利用・活用する予定だった…だが、集めたメンバー10名は内8名が
既に、蒼紫に辿り着く前に脱落し…更に今し方もう1名、海の藻屑と消えて
…今や高校教師の私が1人、船内に浸入して来たライバル相手に勝目の薄い
防戦を行ってはいるが…まあ事実上、時間の問題も同然の運命なのだよ…。

そこでだ…本作にてCD解析に奔走し見事、禁呪プログラム発動に成功した
知的リーダー格の北川君と、一緒にいらっしゃる某ロワイアルの大ボスをば
務めた事もある天才ゲーマーの35番・倉田佐祐理君、佐祐理君の無二の
パートナーで能力者でもある27番・川澄舞君、某英雄伝説にて天才監督・
名脚本演出家・名優の3つの草鞋を履きこなしている78番・保科智子君他
今遊園地に揃っている、そうそうたるメンバーである君達に我々の“蒼紫”
を装備として引き継いで貰って、宝の持ち腐れにしないで貰いたいのだよ。』

「…概ねの事情は解った…だが、それを了承した場合、俺達には装備面を
除いて…一体何のメリットがあるというんだ?」

196パラレル・ロワイアルその140:2004/01/09(金) 20:03
『その質問には頼み方を変えさせて貰って答えるとしよう…今、このゲームには
エンターテイナーが不足しているのだ…本作にてその名を轟かせた三大マーダー
にした所で、47番・篠塚弥生賛も今し方脱落し、43番・里村茜君も、1番・
相沢祐一君が傍にいる上に、99番・柚木詩子君の探索を最優先行動と意図する
気配が濃く、積極的なバトルは期待出来ない…77番・藤田浩之君に至っては、
性格反転キノコを食して現在反転中…明日の朝迄は活躍を期待する事は出来ない
…48番・少年、3番・天沢郁未君、6番・石原麗子賛、98番・柳川裕也君と
いった連中は能力者ゆえ、非能力者をそうそう自分から狩るような真似はしない
だろうし、第一に現在…3番と6番は極めて非友好的な感情を抱き合っていると
いう有様なのだ…そこで、最寄の地点にいて大人数でメンバー的にも実績実力が
あってしかも、“蒼紫”の自動操縦を可能とするオートクルージングシステムを
屋形船内臓で所有している君達に、我々…いや、今となっては私が最後の一縷の
望みを託して、こうして電話を入れさせて貰ったのだよ…

強いてメリットを挙げさせて貰えば…ホテルにてこのゲームを御観戦されている
皆々様方を各々の考えた戦術演出で楽しませて差し上げる名悪役を演じられると
いう事だ…そして、デメリットはいうまでもなく、他のライバル達をほぼ全員、
敵に回す事で、最終的な優勝確立は大幅低下するという事だ…

おっと、済まない…もう扉をノックされている様だ…返事を聞く暇が無くなった
のは残念だが、これにて通話を切らせて貰うよ…じゃあ、長々と済まなかったね』

プツッ…トゥー・トゥー・トゥー・トゥー・(プチン)

「成る程…よ〜く解った…皆も聞いた通りだ」
北川は違法携帯をしまうと腕を組み、ウンウンと頷いた。

「ジュン…ドースルの?」
レミィがそんな北川の顔を覗き込むようにして尋ねる、

「俺は…ガキの頃、バルタン星人の方が好きだった」
「ジュン?」
「…ウルトラマンよりも、バルタン星人の方が好きだった…」
そう言うと、北川はバックを担いで一人、水上自転車置き場に停泊させてある
屋形船の方へと歩を進めた。

「待って、ジュン!」
レミィもすかさず、バックを担いで北川の後を追う、
「アタシも、アナキンよりもダース・ヴェーダーの方が好きダヨ!」

「…アンタら待ちいや」
続いて智子もバック片手に立ち上がる、
「ウチもな、劉玄徳よりも曹孟徳の方が好きやねん」

「あははーっ♪」
更に佐祐理も後に続く、
「佐祐理も、ピーターパンよりフック船長の方が面白くて好きですよーっ♪」

「…待て」
当然、舞も…
「私も、白い悪魔よりは赤い彗星の方がカッコいいと思っているぞ…」

最後に…雪見がすっと立ち上がる、
「私も、七原よりは桐山派なの…でも、残念だけど浩平君と瑞佳ちゃんは
見るからに七原・中川だし、七瀬さんも川田って役どころだから…だから
残念だけど、貴方達とはここでお別れの様ね…」

「「「ゆ…雪見先輩!」」」
「チケットは貴方達が持って行きなさい…船に乗る私達には用のない物かも
しれないけれど、きっと貴方達には役に立つ大切な物になる筈よ…勘だけど
…そして、もし次に会う事があれば、その時は…」
そう言いつつ、雪見は五人の後を追って行った…。




「「「………………」」」
浩平には選べなかった…瑞佳を修羅場へと連れて行くような真似は…そして、
その気持ちは瑞佳や七瀬にとってもまた、同じ事であった…結局、屋形船が
水上自転車置き場を離れるまでの間、三人は芝生に座したままであった…。




「ふ〜っ、人事は尽くしたし…後は、天命とやらを待つだけだな…」
次の煙草に火を点けながら、源一郎が電話機を戻すのとほぼ同時に、
船長室の扉が開かれ、倒れ込んだバトロドロイドを跨ぎ越えて一人の
体操着姿の少女が部屋へと入って来た。

TO BE CONTINUED?!

197パラレル・ロワイアルその141:2004/01/11(日) 16:25
「ふうっ、まるで某映画の木人組手ね…」
“蒼紫”操舵司令室兼船長室に足を踏み入れた少女…81番・松原葵はそう言って、
額の汗を拭った。

…確かに、ここへ辿り着くまでの間、葵を迎撃するために立ち向かって行った
バトロドロイドの数は、少なく見積もっても十体は下らなかった…しかし、
広い場所で纏めて囲まれてしまった状況ならともかく、狭い船内で一〜二体ずつ
のそのそとやって来る廉価版ガードロボに遅れを取る様な松原葵ではない、
中には、コッキング式の単発エアガンで武装している物も混じってはいたが、
葵はそれを壁や扉、バックを盾として防ぎ撃退した…とはいえ、もう十体も
相手にしていたら、スタミナ切れで危うかったかもしれないが。



「…とうとう、辿り着かれてしまったか…それにしても、よくもまあこんなに早く
この船を見付け、このゲーム唯一人のジョーカーの正体を見破れたものだね…いや
恐れ入ったよ、81番・松原葵君」
長瀬源一郎は紫煙を吐きながら、対峙する葵へと口を開く。

しかし、葵はキョトンとした顔で源一郎へと問い掛ける、
「あの〜私の事ご存知の様なのですが…おじさんは一体、どなたなのでしょうか?
…それに私、この船にはたまたま漂流して流れ着いて来ただけでして…確かに、
この船がコネと財力を持ってらっしゃるライバルさんの持ち船っぽかったもの
ですから、ガードロボットのお相手はさせて頂きましたけど…それよりもこの部屋、
余りに煙くて煙草臭過ぎます…お体のためにも、換気をなさった方が宜しいかと
思うのですが…?」



「え…?(ポロッ)」
源一郎が咥えていた煙草を口から落とす、

「じゃ、じゃあ…まさか、もしかして…君は、ここへは全くの偶然で辿り付いて
しまったとでも…?(コロコロ…)」
あっけに取られた顔で尋ねる源一郎、

「はいっ…ところで、おじさんもライバルの方なのですか?」
それにとことん正直に答え、正直に問う葵、

「ああ、だからバトロドロイドにて君のお相手をさせて頂いたのだが、どうやら
勝負は私の負けのようだね(ジリジリ…)」
源一郎も、葵の正直な問いに正直に答える。

「う〜ん、どうやらそのようですね…ところで、おじさんはこのような所で一体何を?」
部屋の中に立ち並ぶ端末機とモニターを眺めて、更に尋ねる葵。

「うむ、それなのだが、実は…(ブスブス…ジュウゥゥゥッ!)」
…そこまで話し掛けた時、源一郎が口から落としたままの煙草が、彼のズボンを
焼き貫いて中へと進入し…お宝に煙草灸をプレゼントしていた。

「!〜っ、!っ、!っ、!っ、!っ、!ーーーーーーーーーっ!!!!!」

…源一郎は灼熱の地獄の痛みに飛び跳ねると、葵の目の前である事もはばからずに
慌ててズボンを脱ごうとし、バランスを失い激しく転倒…椅子とテーブル、そして
ロッカーの下敷きとなった。

『ビーッ、111番・長瀬源一郎、アタック・セルフファイアにより失格…直ちに、
交戦エリアより退いて下さい』



(ああっ、なんて事…もしかして私、貴重な情報を聞き損ねたんじゃないのっ?)
葵に背を向け、コブだらけで(でもメガネは無事)火傷の手当てをしている
源一郎の『死体』を眺めながら頭を抱える葵の背後から、更に三人の男が
部屋へと突入して来た。

「Freezeでござる!」
「Hold Upなのだなっ!」
「やあ、葵ちゃん…」

「!…って、せっ、先輩ですかっ!?」

【111番・長瀬源一郎 脱落…残り50人】

TO BE CONTINUED?!

198パラレル・ロワイアルその142:2004/01/15(木) 18:25
「どうだい、セリオ?」
「…残念ですが、やはり持参装備の様です、浩之さん…取り敢えず、端末機より
現在起動中のバトロドロイドへの、停止コマンドの入力の方は完了致しました」
「あちゃ〜残念ねえ、こんなゴージャスなのに没収出来ないなんて」
「所詮、我等には無用の長物でござるよ柚木殿」
「そ、そうなんだな、豪華客船では人探し、出来ないんだな」


制圧された蒼紫の操舵司令室兼船長室には、六名の人物が集結していた。
藤田浩之・HMX−13セリオ・柚木詩子・縦王子鶴彦・横蔵院帶麿・
そして…
「うっうっ…坂下先輩っ、広瀬さんっ…」
再会を果たせずに脱落した坂下好恵・広瀬真希のために涙を流している
松原葵がそこにいた。


「さあっ、立って…もう、泣かないのっ」
詩子は葵に歩み寄ると、葵の両肩をぐっと掴んでゆっくりと立ち上がらせた。
「あの二人ならきっと満足してるよ…だって、貴方が無事だったんだもん…
それに、あの二人だって貴方に泣いて貰う為に貴方を探しに来た訳じゃあ
ないんだから…って、へへっ…本作で撃たれちゃう為に親友を探し回っていた
私のセリフじゃおかしいかしら…?」

「…そんな事無いです」
葵は顔を引き締めて首を振った、
「絶対にそんな事無いですっ!…有難うっ、柚木さん、縦王子さん、横蔵院さん、
…そして、藤田先輩にセリオさん…今度の借りは必ず返させて頂きますからっ!」


「じゃあ、折角だからバスルームでも借りてから島に戻る事にしようか」
唯二つの没収装備である参加者【裏】名簿と甲板に転がっていたダミーの
識別装置をちゃっかり回収した浩之の意見で六人は順次の入浴後、蒼紫を
後にしてクルーザーの中の人となった。


「セリオ、上陸予定地点のライバルの存在は確認出来るかな?(タパタパ)」
「…港・ヨットハーバーエリア及び島の南方面は、大灯台広場〜水族館〜海水浴場
に至るまで無人で、北方面は博物館・美術館〜港・ヨットハーバー間の境界線上の
山中に光点が6個、遊園地に光点が10個存在しておりましたが、今しがた内7個
が海上へと移動を開始したところです…」
「じゃあ、取り敢えずは港・ヨットハーバーエリアへと上陸して、大灯台広場で
食べて寝る予定には、問題はなさそうだね(コクッコクッ)」
「ホカホカの晩御飯にふかふかのベッド♪…待っててね、今行くからあ♪…って、
茜…今頃ひもじい思いや寂しい思いをしてなければいいんだけど…心配だなあ…」
「柚木さんって、本当に友達思いな方なんですね…聞いてて私、その茜さんって
方がとっても、羨ましくなってしまいました」
「うわ…もーっ、恥ずかしいよお、葵ちゃんたらっ…」
「今日は今日、今日が終れば明日は明日の戦いがあるでござるよ…明日もまた他の
誰かの為に…拙者達は再び、戦地に赴くのでござるよ」
「は、長谷部ちゃんのために、塚本ちゃんのために、柚木ちゃんのために、そして
あさひちゃんのために…し、死して屍拾う者、無いんだな…」


「…それにしても、一体何なのでしょう?…この、土産物商店街の光点20個と
いう集まり様は…?」

TO BE CONTINUED?!

199パラレル・ロワイアルその143:2004/01/16(金) 18:08
夜も深くなり掛けた土産物商店街フードスタンドには、かなりの大人数が
集結してしまっていた。

テーブル1・2・3
「おっさ〜ん、結局追いかけて来たでえ〜っ」
「したぼくぅ無事だったのお?…って、ああっ!アンタもここにいたんだあっ」
「ぴこぴこ〜♪」
「にゃうにゃう♪」
「ゴメンなさいですの〜、地下鉄道フリーチケットの事、すっかり忘れておりましたですの〜」
「何だとゴルァ(゚д゚)!?俺様一人にイイ運動させやがって、テメーラ(怒)
…おまけに、何だか分からない内に二人も増えちまってるようだが…?」
「初めまして、41番の覆面ライダーです(うわ…何だかおっかなそうな人)」
「…初めまして、26番の河島はるかです…あ、彰…」
「彰さん、あの女の方は一体…?」
「ああ、はるか?…大切な親友だ…初音ちゃんともきっと親友になれる
とてもイイ奴だよ」

テーブル4
「こんばんは…かな、柏木会長?ハッハッハ」
「…ううっ、合わすお顔もありません、高倉会長…」

テーブル5
「琴音ちゃん…その、なんというか…目的とか思惑とかいうのはその…まだ自分でも
ハッキリとは判らないんだけどさ…もし、もしよかったらでいいんだけど…明日も、
僕と一緒に行動して貰えないかな?」
「…ハイッ、わかりました健太郎さん」

テーブル6
「頑張りますっ、明日こそは…明日こそはきっと、浩之さんとセリオさんを…」
「そうね、精一杯頑張んなさいな、おチビちゃん」
「…なぜ『おチビちゃん』の部分だけ、アタシの方を見て言うのヨ…?(怒)」

テーブル7
「Hello…ヘレン、元気でヤッテルか?………ホウホウ、ソリャまた数奇なスカウトを
サレたモノだな、Haha!……B.Fも一緒ナノカ?ま、ハリキリ過ぎルンじゃナイゾ!」

カウンター
「おじさんっ、はやくはやくっ!」
「クソッ…ココにも調理道具と材料が揃ってやがったとは…不覚だったぜ」

しぅーーー。

「ホイお待ちっ!」
「わーい、いただきまーす♪」
「うまいか?」
「うんっ、おいしいよっ♪」
「…中の人も、うまいか?」
“………な、中の人などおらぬわ…”
「…いるじゃねえかよ」
“…何故、判ったのじゃ?”
「源之助の爺さんが魔法で逃げ損ねた時、ピンと来て…そして思い出した」
“…お、怒っておるのか?恨んでおるのか?…”
「戦場で人を殺すのは当然の習い…ましてや戦争屋が、殺されたからって相手に文句を言えるか?」
“…そちがそう申してくれるのは嬉しいがのう、他の堅気の衆はわらわを許してくれるかのう?…”
「…ま、少なくともその娘が体を貸してくれるほどに信頼してる相手ならば、
何が何でも絶対許さないって言い張る輩は、多分いないんじゃないの?」
“…だと嬉しいのじゃがのう…それにしてもこの体、なじむなじまぬ以前に
なんともポカポカ暖かくて気持ちがよいわ♪”

しぅーーー。

「ホイお代わりっ!」
“…もう…食べられぬ…あゆに戻るぞ、ムニャムニャ…”
「わーい、お代わりお代わり〜♪」

TO BE CONTINUED?!

200パラレル・ロワイアルその144:2004/01/17(土) 21:02
「いざ行かん、我等が悪の要塞へっ!(ビシッ)」
「Hello dad!元気で狩ッテル?…ソーユー訳でワタシ、明日から
ジャンジャン狩ルネ!…最後に誰ガ笑うニシロ、取リ敢エズは狩ルネ!!」
「あははーっ、勇ましいですねレミィさん」
「…しかし、これからはより慎重に行動するべきだ…さもないと、長瀬一族
の二の舞になる…」
「確かにそーやな…生き残り総数から考えてもウチ等、七倍強の人数を相手
にせんとアカンのやからなー」
「…でも折角だから、どうせだったらプラスもう一名で“ワイルドセブン”
結成したかったわねえ」
「「「「「ソレ、とっても言えてる!」」」」」


…長瀬源一郎の遺志を受け取り急遽、マーダーチームを結成した五人、
北川潤・宮内レミィ・倉田佐祐理・川澄舞・保科智子・深山雪見は現在、
来栖川海運の豪華客船“蒼紫”目指して屋形船で来栖川アイランド沖を
南下中であった…とそこへ新たなライバルが現れて、屋形船にふわりと
舞い降りて来た。
『話は聞かせて貰った…僕も仲間に加えさせて貰おうか』

「ああっ!オマエは!」
北川が不意の闖入者を指差して叫ぶ、
「何やアンタ、随分変わった知り合いがおるんやな〜」
「Let,s…って、ダメなの?ジュン」
智子の突っ込みとレミィのハンティングポーズを制し北川が言葉を続ける、
「いや、コイツを侮ってはいけない…本作では何とこの俺を肉弾戦で制し、
更には、俺を倒したラスボスの攻略にも大きな貢献をしたらしい奴なんだ」

『フーン、覚えていてくれたのかい?照れるなあ』
「あははーっ♪この子、小さいけれどちゃんと識別装置付けてますよーっ」
「…噂のシークレットプレイヤーの内の一名、という事か…」
「ともあれこれで何とか“ワイルドセブン”になったわねえ…って、あっ!
見えて来たわよ…あれが“蒼紫”ね…御誂え向きに、船尾に縄梯子が下りて
いるけど…」
雪見が水平線に月明かりで照らされた“蒼紫”を指差して皆に伝えた。

「先行して潜入した長瀬一族討ち入り組がおったっちゅー話やけど…」
智子が緊張する、

「でも、乗って来たと思しきお船がありませんから、きっともう下りて島に
戻られてしまわれた事と思えなくもありませんが?」
「…成る程…」
「恐らく、倉田先輩の言う通りだと思うが、念のため…それと、スカートの
娘もいるから、俺が一番手で縄梯子を上って来る…異常がないのを確認して
から皆も、オートクルージングシステムを各個分解して担ぎながら、後から
続いてくれ…それとカラス君、お前も俺と一緒に一番手で船に上ってくれ」
『分かった、安心して上ってくれ』

北川がそらを肩に乗せて先端に移動するのとほぼ同時に、屋形船は蒼紫後部
船側へと横付けされた。

TO BE CONTINUED?!

201パラレル・ロワイアルその145:2004/01/18(日) 17:34
「あら、貴方達いらっしゃい…それにしてもよく、ここを見付けられましたね?」
「けいびのひとのあんないでやってきたのだー」
「す…済まぬ、みちる殿…わ、私の頭の上の…は、白蛇を…(ブルブルガクガク)」
「………ましろさん…蛇、苦手なのですか…?」
『失礼しちゃうわねえ、折角お風呂案内してもらったお礼に、お愛想を振りまいて
あげてるっていうのに…でも、このましろさんって人、何だか美味しそうな匂いが
するのよねえ…?』
「はい、香里です…あら、北川君なの?…って、ハア?…貴方もよくやるわねえ、
感心するわよ…ま、せーぜー頑張りなさい…それと、宮内さんの事ちゃんと守って
あげるのよ…ハア?別働隊?…一応は雄蔵と考えといてあげるけど、過度の期待は
しないで頂戴…」


博物館・美術館〜港・ヨットハーバーエリア間に存在する隠し露天風呂の方も、
美術館警備兵(深夜番と交代して現在非番)の因幡ましろの先導により、入浴客が
増えていた(ぽち込みで女性六名)。

そして、その隠された出入り口で海を見下ろしながら語らう男が二人…
「雄蔵殿…」
「どうされた、光岡殿?」
「一応、お主に尋ねさせて貰うが…俺は、男だよな?…正真正銘、ちゃんと立派に
殿方に見えるよな…?」
「…その問いに疑問の余地は全く無いと思うが…?」
念を押すように尋ねる光岡の問いを、雄蔵は平然と肯定した。

「では、では何故…脱衣所で居合わせたお主の連れの娘達は…俺を見て悲鳴一つ
上げないどころか、平然と挨拶して服を脱ぎだしたりするというのだ…?」
ある種の面子を傷付けられたと思しき怒りに震える光岡…しかし、雄蔵の方は
にべもなく言葉を返す、
「…悲鳴など上げられぬに越した事は無いと思うが?…第一に、俺はその必要性が
無い限り、自分の見てくれなど意識した事も考えた事も無いが…?」

「むう…」
雄蔵の正論に思わず、蝉丸の如く唸る光岡、

「それよりも…」
雄蔵が話題を変えて言葉を続ける、
「先程から沖の方に停泊している巨大な船なのだが、あれはもしや…?」

「ほう、雄蔵殿にもあの船が見えておるのか…いかにも、あれは俺達がこの島へ
来る時に乗って来た客船であるが…」
かなりの大型とはいえ、無灯火で沖合いに佇んでいる船である…てっきり自分に
しか視認は出来まいと思い込んでいた光岡は、雄蔵の視力に思わず感嘆する、
「それにしても大した視力だな…帝国海軍の水先案内人にもそうはいない視力だ」

「うむ…しかし、流石に先程あの船から離れて行った小型船と、今し方あの船へと
接舷した別の小型船の詳細までは、俺には見分けられぬのだが…?」
含みを持たせて光岡へ問い掛ける雄蔵、

「…離れて行った小型船は自家用舟艇の様だった、そして今接舷している小型船は
俗に言う屋形船だ…って、おお!?」
光岡が話の途中で叫んだ、
「…大型客船の船腹が割れて、屋形船が飲み込まれて行った…!」




「ところで、おばさんはいったい、だれなのだー?」
「(鼻をつまみながら)アラ、ヒドイワミチルチャン…オバサンノ事、モウ忘レチャッタノ?」
「「『うそっ!!』」」

TO BE CONTINUED?!

202パラレル・ロワイアルその146:2004/01/18(日) 18:24
「カプラのお嬢様方、大変長らくお待たせ致しました♪」
「ご苦労さん、早いとこホテルに戻ってゆっくり休みな」

「はーい、それでは深夜番宜しくお願いしまーす」
「はーい、それではお先に失礼致しまーす」
「はーい、それではお先におやすみなさーい」
「…………………………………………………」

空港・ヘリポートエリアの警備兵が夜番から深夜番に交代となった、
ちなみに交代に来たのは、フリマ屋に〜ちゃんと靴屋の大山さんである。

「ところで大山さん?」
「どうした、若いの?」
「ココの夜番って…確か三人だったと聞いてた筈なんですが…どうして
カプラさん、四人もいたんでしょう?」
「ん〜…ま、別に大した問題でもねえだろう…まさか参加者が一人、一緒の
部屋で一緒の服を着ていたって訳でもあるめえし?」
「それもそーですね」




「よかったですねえ、深夜番さんもムックルちゃんも全く気が付かなかった
みたいですよ〜♪」
「そりゃそうよお、だってこんなに似合うんですもの〜♪」
「玲子、これ見たらきっと羨ましがるわ〜♪」
「しくしく………デジカメだけは、カンベンして欲しかったよおっ…」
おおはしゃぎで移動用エレカを運転しているグラリス(仮名)・W(仮名)・
テーリング(仮名)と共にいるソリン(仮名)は何故か唯一人、泣いていた。


と…
「!…聞こえた…確かに今、彼女の叫び声が…」
ソリン(仮名)は急にマジ声で呟くと、
「急用が出来たみたい…君達とはここでお別れの様だ」
と、バックからズルリとキックボードを引っ張り出し、あっという間に
組み立て終わるや否や、
「じゃあねっ♪」
の一言と共にエレカを飛び降り、スカートをはためかせながら猛スピードで
巨大公園方面へと走り去って行った。


「ああっ、行っちゃった…」
「う〜ん、残念だけどエレカじゃ追い付けないよお」
「…そーいえばさー、今更だけど私達のしてた事って、ひょっとしたら
警備兵としては職務不履行って言われるものなんじゃないのかしら…?」


…余談ではあるが、ソリン(仮名)がバックから出したキックボードは、
本人脱落後放置されていた元66番・名倉由依の支給装備だったりする
(対HM−13戦後回収)…。

TO BE CONTINUED?!

203パラレル・ロワイアルその147:2004/01/19(月) 20:37
「ここが蒼紫の操舵司令室兼船長室やな」
部屋中に立ち並ぶ端末機とモニターを眺め回して保科智子がまず第一声、

「それじゃあ、オートクルージングシステムの再組み立て→接続の2連コンボと
行きますか…保科様、どうか手伝っておくんなまし」
北川潤は早速、分解して運び込んだ屋形船のオートクルージングシステムとの
格闘を開始する、

「あははーっ、それじゃ佐祐理はキッチンに行ってますねーっ」
倉田佐祐理はパタパタと船内キッチンの方へと移動し、案じた川澄舞が慌てて
その後を追う、

「え〜っ?それじゃあ、澪の代戦士の方って…?」
「Ye−s!ジョージ・宮内はワタシのdadデース!」
『………………』
深山雪見と宮内レミィ、そしてそらは船の索敵システムが再調整出来るまでの間、
前部甲板より島を中心にして肉眼による監視・索敵巡回を行っている…とはいえ、
HMX−13セリオの操縦する大型クルーザーは蒼紫を離れて久しく、また二人共
流石に光岡悟には到底及ばない視力(鳥目のそらは尚更)では今の所、何も発見は
出来ていない。


そうこうしている内に、
「よっしゃあ!オートクルージングシステム、接続完了っ!」
「お疲れや、北川君」
「晩御飯、出来ましたよ〜♪(キュルキュルキュルキュル)」
「…カートがあってよかった(キュルキュルキュルキュル)」


果たして、某四人乗りクルーザーに遅れる事四時間後…ここでも船上夕食会が始まった…

…場所は、北川と智子の強い意向で操舵司令室艦橋部窓際という事で決定した…
と、いうのも…北川と智子は、偶然ある物を作業中に見付けてしまったのである
…司令室内オブジェに組み込まれていた、撮影用の隠しカメラの存在を。
「「!」」
早速、北川は各メンバーに伝令に走った、
「実はな、ヒソヒソ…だから、そういう訳でヒソヒソ…」

「OK!ワカッタヨ、ジュン!」
「あははーっ♪お食事会テレビ中継ですか〜っ、ちょっと恥かしいですけれど
OKですよ〜っ♪」
「…断るには及ばないのだが、微妙だな…趣味がいいのか、悪いのか…」
「別に構わないけどひょっとして、ホテル組へのアピールとかプロパガンダなの?」
『観鈴も観てて、くれてるかなあ…?』


そして、ワイルドセブン夕食会テレビ中継は北川と智子の頭脳をフル回転させた
脚本・演出の元で、定時放送30分前を切ったリバーサイドホテルへと一方的に
流されたのであった。

「テーブルの同士諸君っ!(ビシッ)そしてホテルの諸君っ!(ビシッ)…私は敢えて
問うっ!…本作・今作主催者連合は何故、敗れたのかあああっ!?(ビシッ)」

「嬢ちゃんだからや…」
「トモコー、その台詞ジャ内一人にしか当て嵌まらナイヨー」
「「「「「「『アハハハハハハッ!!』」」」」」」

「あははーっ♪綾香さーん、この佐祐理が貴方の代わりに頑張りますよーっ♪」
「…まさかとは思うが、佐祐理を悲しませるような不人気投票は、私が許さない…」
「国崎さん、見てます?…今度のはきっと、つまんなくは無い事なんだと私、信じて
おりますから…それと…みさきっ、澪ちゃんっ…美容に悪いから、そろそろお休み
しなさいよ…いいわね?」
『観鈴もねんね、するんだよ』


…各人、カメラ目線で台詞打者一巡した所で北川がいきなりわざとらしく叫んだ、
「うおおっ!何とこんな所に隠しカメラがあああっ!…誰の、一体誰の仕業なのだあああっ!!」
「何言うてんねん!こんな仕掛けこしらえるん、主催者連合じゃ一人しかおらへんやろが!」
「違いナイネ、トモコ!」
「「「「「「『アハハハハハハッ!!』」」」」」」




…バゴッ!!ボウンッ!バチバチバチバチ…
ピッピッピ、ピポパパポピポ…

その頃、リバーサイドホテル・ロイヤルスイートルームの一室で、室内に備え付けの
モニターを正拳一撃で破壊するや、怒気満面で特殊回線仕様のインコム型携帯電話で
あちこちへと連絡を行いながら、着替え・荷造りを行ってる来栖川綾香の姿があった。

「…以上よ、集合場所は地下駐車場入り口、集合時刻は…」

TO BE CONTINUED?!

204パラレル・ロワイアルその148:2004/01/20(火) 19:44
23:55…リバーサイドホテル地下2階・地下鉄道駅プラットホーム
      (ゲーム中『原則的に』路線閉鎖区域)

「ねえ、岡田あ〜っ(ポリポリ)」
警備兵の制服を纏い、パイトミーガンを放り出したままで暴君ハバネロを食べながら、
松本佳帆は退屈そうに声を掛けた。

「何よ?」
答える岡田美奈子も警備兵の制服を纏っており、右肩からはG11(エアガン)を
ベルト下げしてはいるが、目線は現在プレイ中のゲームボーイにクギ付けである。

「いっくら路線開放の可能性があってなおかつ、ゲーム用の予備兵器・防具・識別装置が
ホームに停車中の貨物列車内に全部ストックされているからって、こんな所に殴りこんで
来ると思う?」
「…思わないわよっ!…フンッ、どーせこんな遭遇率・交戦率のド最低なポジションに
回されたのは、全〜部私のクジ運の無さのせいよ、悪かったわねっ!」

「まあまあ、落ち着いて…深夜番が来るまで後、五分の辛抱なんだから、ファ〜…」
三人目の吉井信江に至っては、ホームに待機中の先行者参號の指令機を装着した右腕を
ブラブラさせながら、ホーム脇のベンチに寝っ転がっている。

「ええ〜っ、後五分も待たないとダメなのお〜っ?」
松本が思わず、吉井の方を向いてブーたれる。
とその時、ホームの柱から音も立てずに現れた人影が、小さな何かを松本の
ハバネロの中へとこっそり投げ入れた。
「も〜私、サッサと帰って休みたいよ〜(ポリポリ)…う゛うっ!?…ご、碁石…!?(バタリ)」
松本は知らずにそれを口にして…そのまま倒れた。
『ビーッ、ホテル地下警備兵・松本佳帆、ナースストップにて殉職しました』

「!?…どうしたのよ、松も…とおおおおおっ!?(バタバタバタバタ)」
松本に声を掛けようとした吉井は何時の間にか、ベンチごと雁字搦めに縛られていた。
『ビーッ、ホテル地下警備兵・吉井信江、完全捕縛にて殉職しました』

「松本っ!?吉井っ!?」
岡田は慌ててG11を構え直して目線を上げるが、その時視界に映ったものは、自分目掛けて
飛んで来る、マジカルサンダーの大アップであった…。
『ビーッ、ホテル地下警備兵・岡田美奈子、有効打直撃にて殉職しました』




「…警備兵は何とか上手く黙らせられた様ね」
足元に倒れ伏す地下鉄道駅深夜番・渡辺茂雄の『死体』を後にして、改札口から颯爽と
入って来た来栖川綾香に向かって、ホーム柱で月宮あゆ作のクッキーをお手玉している
九品仏大志・ベンチの下から這い出て来た長岡志保・キヨスクの屋台裏から顔を出した
スフィーが親指をグッ!と突き出した。

「しかして…これからどうするのだ、MY同士綾香よ?」
吉井から巻き上げた先行者参號の指令機を腕に装着しながら大志が問う、
「まずは、残り全ての予備識別装置をガメる所から始めて…勿論、うち一つは
自分に装着するのを忘れないで頂戴」

貨物列車から略奪して来た予備識別装置の内三つを配り、自身も一つ装着しながら
綾香は説明を続ける、
「…これで、警備兵の再補充とチェイサーの新規派遣が出来なくなったG.Nが
こちら側に譲歩してくれればこっちのもの…アドリブ重視型のG.Nがホテルの
視聴者の目の前で、スタッフのHM−14達やガードロボをけしかけて武力鎮圧
で解決するような、興冷めな対処をしてくる可能性はかなり低い筈だから、必ず
交換条件代わりのゲームを提案して来る筈、それさえクリア出来れば…」
「私達、戦線復帰出来るのねっ!」
スフィーがパイトミーガン片手にはしゃいで叫ぶ、
「でももし…G.Nが譲歩しなかったり、無視されたりとかしたらどーするの?」
G11を点検しながら志保が不安そうに綾香に問う、

「…その時は、ホテル20階にあるコントロールルームを制圧して、G.N御本体直々に
直接再交渉をするまで!…伊達に主催者はやっていないわ、全ての経路とパスワードは
私がちゃんと覚えているから…」
答えながら綾香は、ホーム備え付けの監視カメラへと目線を合わせて更に呟く、
「…後は、この状況を今モニターでご覧になってる元脱落者の皆様方が果たして
どれだけ、私達に協力・賛同して残りの識別装置を受け取りに来てくれるのか?
…それこそが、この敗者復活作戦の成否を握る、最大の要となるわねえ…」

TO BE CONTINUED?!

205パラレル・ロワイアルその149:2004/01/23(金) 19:29
23:56…リバーサイドホテル・第2VIPルーム
      (祝賀パーティ会場清掃中のため・長瀬源五郎現在サルベージ中)

テーブルA及びB・無人

テーブルC・「うっうっうっ、広瀬っ…もう私、お嫁に行けないっ…」
       「泣くな、坂下…今夜は(未成年だけど)二人で思いっきり飲み明かそうぜ」

テーブルD・「…まさか、由綺さん達が私に不人気投票を…?…だとしたら、だとしたら
       結局…私が今迄してきた事って、一体…(グビッグビッグビッ…プハァーッ)」
       「国崎君の言葉を借りてしまいますが、意味のある事をやったのだと信じる
        べきだと思いますよ…私も、勿体を付けた設定でジョーカーを演じさせて
        貰った割にはあっけなく終わってしまいましたが、それまでの間に自分の
        やった微々たる仕事にはきっと、それなりの意味があったのだろうな…と
        信じておりますから…(シュボッ…プハァーッ)」

テーブルE・無人

テーブルF・「あっ、なつみさんっ…それに源之助さん、大変ですっ!姉さんがっ、姉さんが…」
       「…多分聞こえてないわよ、リアン…ご覧の通り、完全に灰になっちゃってるから…」

テーブルG及びH・無人

テーブルI・「ゴメンっ…ホントにゴメンね、南君…」
       「いいよ田沢さん、もう過ぎた事なんだし、そんなに謝ってくれなくったって…
        (っていうか、このままだと俺、何だか君に寝返ってしまいそうなんだけど…)」

テーブルJ及びK・無人


23:57…救急医療室

「犬飼先生、不覚ながらただ今戻って参りました…」
「うむ聖君、丁度いい時に戻って来てくれたね…では、後を頼んだぞ」
「『後を頼んだ』って、先生?…一体何ですか?その、怪しい機械仕掛けの車椅子は…?」
「…もしも、あっちのきよみがこのゲームに正規参加する事となった時の為に、予め作成しておいた
特製車椅子だ…結局、光岡の代戦士参加で用無しになるものとばかり思っていたのだが…」
「せ…先生は、生物学&医学専門なのではなかったのですか!?」
「戦時中、『東洋のアインシュタイン』とまで呼ばれた事もあった私を侮ってはいかんよ、それに…」

「犬飼先生、深夜番ノ交代お願イしまース!」
「おお、シンディ君!済まなかったね、わざわざ出向いて頂いて…」
「それでハ先生、お休みなさーイ♪」

「…先生って、警備兵兼任だったのですか!?」
「まあ折角なんだし、機会があればゲーム参加するのも悪くないと思ってな…」
「あー成る程(ポン)、こっちのきよみさんの為に…(ニヤリ)」
「!…ち、違うっ!それは断じて違うっっ!!」


23:58…最上階スイートルーム

「…あの、和樹さん…(ツンツン)」
「?…どうしたのですか、彩さん…?」
「…しいっ…編集長さん、居眠りしてしまっております…脱出をなさるのでしたら、今しかありません…」
「!…あ、有難う彩さん…(ソロリソロリ…カチャッ…)」
「…どうか、ご無事に逃げおおされて…その、詠美さんと…」
「本当に…本当に有難う、彩さんっ…それでは、行って参ります…(…パタン)」


23:59…1階エレベーターホール

「…一体、貴方は何者なのです?…佳乃を、佳乃を…何処へ連れて行こうというのですか…!?」
「この子は優し過ぎるから…この遊戯に参加するなんて到底無理な話。だから私が参加するの…
納涼特別深夜番として…私にならばそれが出来るから」
「…そんな事は…佳乃に、そんな事をさせる訳にはいきませんっ…!」
「ならばいっそ、貴方はわたくしの手で…!!(ちゅうっ)」

206パラレル・ロワイアルその150:2004/01/23(金) 20:15
00:00…来栖川アイランド放送管制室

「午前0時です、ゲームも二日目に突入致しました…選手の皆さんっ、ホテルの皆さんっ
こんばんわっ♪…残念ながら、聞いてらっしゃらない方にはお休みなさいっ♪…3回目の
深夜ラジオ定時放送担当の辛島美音子ですっ♪…それでは、18時から今現在までの間に
惜しくも脱落されてしまわれた皆様方の、お名前の発表の方から始めさせて頂きますっ。

017番の南明義君っ、撃たれちゃいました〜…残念っ♪
025番の坂下好恵さんっ、恥ずかしかった事でしょう…心中お察し申し上げます♪
032番の霧島聖先生っ、麻雀でドボンですか〜…イケナイお医者様ですネ♪
047番の篠塚弥生様っ、撃たれてしまいましたか〜…もっと頑張って頂きたかったですね〜♪
075番の広瀬真希さんっ、海に落っこっちゃいましたか〜…夏風邪などひきません様にっ♪
111番の長瀬源一郎さんっ、煙草一本火事の元…火の始末には気を付けましょうねっ♪
112番の長瀬源五郎さんっ、つい今しがた無事(?)サルベージ完了されたそうです…よかったですね〜♪
115番の長瀬源之助様っ、このお方も麻雀でドボンだそうです…年の功とはいかなかったみたいですね〜♪

以上の8名様です、残念でした〜っ♪
…残りの選手の方達は全員で50名、夜だからなのでしょうか?お昼と比べますと
随分と、ペースが緩やかになって参りましたね♪

今回注目なのはやっぱり、本作主催組の長瀬一族の皆様方達が全滅されてしまった事でしょうか?
…高槻さん達も日没前に全滅されてしまわれましたし、ここは本作主催者組最後の一人となられて
しまわれた高野さんには是非とも、ご奮戦されて頂きたいところですねっ♪

次に、スコアランキングの方ですが、
四人KOの方が2名、三人KOの方が1名、二人KOの方が3名、一人KOの方が11名ですっ♪

それではココでお知らせを…この来栖川アイランドは青少年育成法を『尊重』させて頂いております…ですので、
特に未成年の選手の皆様は、次の朝からの作戦計画も踏まえて頂いて、夜戦は程々に抑えてキチンと睡眠時間を
摂りましょうねっ♪

と、いう訳で…ホテルの皆様と選手の皆様共々の快適なる睡眠の為に、今回は不人気投票は行いませんっ♪
…ですが現在、とある事情によりチェイサーさんの出動の方は、ひょっとしたら行われるかもしれませんっ
…もし詳しくお知りになりたい方は、この後の続報の方をお待ちになって下さいっ…そうでない方はどうぞ、
ゆっくりとお休み下さいませ…以上、第3回定時放送担当の辛島美音子でしたっ♪」

TO BE CONTINUED?!

207パラレル・ロワイアルその151:2004/01/27(火) 17:15
「長谷部さん…貴方、裏切りましたね…?」
リバーサイドホテル最上階スイートルームにて、冷ややかな怒気を秘めた眼差しを
向けて来る澤田真紀子編集長を目の前に、元71番・長谷部彩は部屋の扉の前で
両手を広げて、震えながら仁王立ちをしていた。

そして真紀子の腰にはもう一人、台車…もといカートを押して夜食の出前に来ていた
元58番・塚本千紗が、彩と思いを同じくしてこれまた、震えながらもしっかりと
しがみ付いていた。


「…編集長さん、和樹さんにも敗者復活を目指し、ゲーム再参加という名前の自由を
取り戻そうと試みる権利はあるはずです…!」
「にゃあ〜、彩さんのおっしゃるとおりですぅ〜、千堂さんもせっかくバカンスに
来た島でお仕事させられ続けていたら、きっと可哀相なんですぅ〜っ!」

「それは、自由なる立場の同人作家のみに許される理屈…天下のコミックマガジンZ
相手に、ビジネスとして漫画を描く者には決して許されはしない戯言です…ましてや
、編集長たるこの私自らが時間を割いて出向き、取次ぎを行っている作家にとっては
尚更の事…!」

…言いながら、真紀子はゆっくりと上に纏っていたジャケットを傍らのソファーへと
脱ぎ捨てる…ブラウスの肩から胸、そして腰へと巻かれたガンベルトとベルト胸部に
固定された識別装置、更にベルトから吊り下げられた二丁のレーザーサイト付AMT
ハードボーラー(エアガン)のステンレス銃身が、金属の反射光と共に露わとなった。


「「!!」」
「まさか…私がこのゲームに対して、何の権限も持たない徒のお客として顔を出して
いたとでも、思っていたんじゃないでしょうね…?…分かったところでもう一度だけ
言うわ…貴方達、取り返しのつかない事になる前に私の追跡を邪魔しないで頂戴…」

「…い、嫌です…」
「にゃあ〜、この手を離す訳には行きませんですぅ〜」




スイートルームに断続的なエアガンの銃声が、小気味良い音で静かに響いた。

…一刻後、標的を求めて颯爽と部屋を後にする隠れ警備兵・澤田編集長…そして
部屋の中には、至近距離からのBB弾直撃の痛みに涙目で蹲る2つの『死体』。




時を同じくした大灯台広場仮眠室…

『ビーッ、58番・縦王子鶴彦、リンク・デッドにより失格…直ちに、
交戦エリアより退いて下さい』
『ビーッ、71番・横蔵院帶麿、リンク・デッドにより失格…直ちに、
交戦エリアより退いて下さい』

「何という事でござるか…!」
「おお、終わりはいきなりあっけなくなんだな…!」
青天の霹靂ともいうべき失格アナウンスにがっくりと腰を落とし、帰り支度を始める
縦王子・横蔵院の姿に、隣室からアナウンスを聞き付け駆け付けて来たパジャマ姿の
松原葵と柚木詩子が驚きの声をあげる、

「縦王子さんっ!?横蔵院さんっ!?」
「これは一体、どういう事なのっ!?」

「代戦士の隠しルールでござるよ…どうやら、ホテルで変事が起こった様でござるな…」
「い、依頼人がゲームの参加者に『殺害』されちゃうと、だ、代戦士も一緒に『死亡』
しちゃうんだな…」
…それぞれの『遺言』を残し、縦王子・横蔵院は『事切れた』。


「ま、待って!」
詩子は、それきり無言でホテルへと帰ろうとする二人を一旦制すると、自分の部屋から
支給装備のバインダーを引っ張り出して来て、二人へと手渡した。

「このまま私が持っていても重いだけの無用の長物だし…短い付き合いへのせめてもの
お礼代わりよ♪」

「「!!…………(うるうるうるうる)」」
二人は歓喜の涙で詩子に答えると、代わりに自分達の本来の支給装備と更にもう一つ、
水族館にて入手した元100番・リアンの支給装備を、無言で詩子と葵へと差し出し…
今度こそ振り返る事無く、ホテルへと帰って行った…。

【58番・縦王子鶴彦 71番・横蔵院帶麿 脱落…残り48人】

TO BE CONTINUED?!

208パラレル・ロワイアルその152:2004/01/31(土) 19:13
巨大公園エリア・海辺沿い(元砂浜・現在満潮により水没)


―――再会の瞬間は、ひどく滑稽だった。
「……凄い格好ね」
「君のほうが凄い格好だよ」
思い出したかのように天沢郁未は赤面する。

……郁未は自分の装備はおろか、来ていた服までも満潮に流されてしまった事を
思い出した(…というよりは、河豚毒の痺れが今一時残っていたら溺れて遭難失格
確定だった)…今彼女が着用しているのは、念のため及びレジャー用に下着代わり
に着けていたビキニ水着だけである。

「い、い、いろいろあったのよ!」
「いや、それにしてもその格好は―――」
「し、し、仕方ないじゃないのよ!第一、本作の柏木耕一さんと今の貴方にだけは
そんな台詞、言われたくないわよっ!!」
「け、け、警備兵とガードロボを欺くための変装だったんだよ、これは!」
「…河豚毒がまだ残っている事と、また逃げられでもしたら目も当てられない事に
免じてまあ、お仕置きの方だけは許してあげるわ」
「そ、それはどうも郁未さん…」
むくれながらも、自分の悲鳴を聞き付けて駆け付けてくれた少年に内心喜んでいる
郁未であった、しかし…

「その代わり…脱ぎなさい」
「…え!?」
「私はともかくとして、貴方にとっては女装もすっぽんぽんも恥ずかしい姿である
事に大差はないでしょう?…だから、私のために脱ぎなさい」
そう言って少年のカプラスーツに手を掛ける。

「い、いや、まだ女装の方がましだよ、僕は…」
いやいやする少年、だがそんな彼に郁未は容赦なく迫る。

「良くないわよ。そういう事いう人に限って、なんか知らない世界に染まって
怪しい趣味に目覚めたりするのよね。折角貴方に名前が付いてもそれがソリン
ちゃんじゃあ、私が困るだけなのよっ」

「い、いや、僕は断じてそっちの気はないし…」
スカートの裾を押さえ後ずさりする少年、だが郁未も全く同じ速度でじりじりと
少年ににじり寄る。

「逃がさないわよう…着る物を提供するまでが救難活動というものなんだから…」
「で、でも何とかした結果、僕は今の君以上に救難活動を必要としてしまう気が…」

引きつり笑いしながら突っ込みを入れる少年、無論自分の元の衣服はバックに詰めて
持って来てはいるのだが、元の衣服に着替えてからカプラスーツを渡すまで、郁未は
待っててくれそうにない…ましてや再逃亡の可能性がある以上、自分の目の届かない
場所に着替えに行かせてくれだなんて頼みを、郁未が聞いてくれる筈もなく―――


「もう、きゅぴーん!は嫌だぁぁぁああ!!」
一刻後、静かな海辺沿いに、またも少年の悲鳴が木霊した。




…舞台村沖→巨大公園沖へと漂流していたゲーム用クルーザー、なかなか寝付けず
クルーザーの外に出て、二人寄り添って星空を眺めていた5番・天野美汐と64番
・長瀬祐介は、クルーザーにゴツンと漂流物がぶつかる音に思わず揃って、目線を
下に移動した。

「「!?」」
…クルーザーの船側に、木刀と女物の衣服・そしてゲーム用のバッグが流れ着いていた。

「「…?」」
…思わず揃って、目線を今度は流れて来たと思しき方向―――来栖川アイランド側へと
再移動させる。

「「………………………………………」」
そして、二人は本作において自分達の最期を看取り、埋葬してくれた方達のトッテモ
イケナイ光景を目撃してしまった。

「…な、何も見なかった事にするのが、(漂流物を)届けてあげる事よりも…全員に
とって、最善の結果をもたらしてくれそうな気がするのは、僕だけかな?美汐…」
「…わ、私もその考えに是非是非賛成したいです、祐介…」


…ついぞ、この遭遇におけるコンタクトは行われず、闇から闇へと葬り去られた。

TO BE CONTINUED?!

209パラレル・ロワイアルその153:2004/02/03(火) 19:25
「よしよし…大分役者が揃って来た様だぞ♪」
北川潤は蒼紫船長室にて、備え付けのモニター群に次々と映し出されている
リバーサイドホテル内の様子を順次、チェックしながら快哉を上げている。

「どうやら、綾香はん煽った甲斐はあったようやなあ♪」
隣の席に座っている保科智子もモニター内の様子に満足げに頷いている。

「ジュンー、トモコー、ホテルで騒ぎが起コルとワタシ達、何か得するワケー?」
二人の様子を今一つ理解出来ない宮内レミィが質問を投げ掛ける、

「断然お得のマツキヨメンバーズカードだ、レミィ」
「詳しく説明するとやなー、もしホテルで敗者復活戦が行われるとや、
①動員及び殉職にて警備兵の数が減る
②敗者復活支援、もしくは逆に復活阻止のためにホテルへ出向いて戦った
 ライバルの数が減る
③生き残った連中の睡眠時間が減る、あるいは睡眠時間帯がずれる
ま、以上の三点やな…いずれもウチ等の払暁攻撃にとって、有利な要素が
増えるっちゅー事やな」

「フツギョウコウゲキ?」
智子の説明の中の聞き慣れない日本語にキョトンとして鸚鵡返しのレミィ、

「戦場でやな、奇襲に極めて敏感にならなアカン時間帯の夜が無事終わって
心情的にも最も、警戒の気持ちが緩みがちになってまう日の出前の時間帯に
奇襲攻撃を掛ける戦術や、覚えとき!」

「…という事は、敗者復活戦の終了〜朝6時の定時放送開始の間の時間帯に
バトロドロイド軍団を上陸させて…」
「まっさっにっその通りっっ!(ビシッ)」
智子の再説明に対する深山雪見の推測を、待ってましたとばかりに指差しで
肯定する北川、

「ふえ〜それでは速やかに作戦計画を決めまして、作戦準備を整えまして、
睡眠を摂らなければなりませんね〜」
「…まず、七名各自の役割分担決定と稼動バトロドロイドの残り数の確認、
各メンバーへの割り当て数の決定から始めて、それから上陸地点と進攻地点
の決定、最後に万一事の撤退方法と連絡方法及びそのタイミングまでは一応
事前に決めておく必要があるな…」
倉田佐祐理と川澄舞も話し合いの輪に加わって来た。

「それらは全て、俺と智子様の頭の中にて既に大筋決められている…まあ、
細かい説明は翌朝5:00に起床して頂いて後、出撃決行前に説明するから
皆様方にはここは速やかに睡眠を摂って頂きたい」
「ジュンとトモコは何時寝るノー?」
「来栖川アイランド放送管制室に、定時放送続報時の情報操作依頼を行って
それから眠りに就く予定だ…謀り事は俺と智子様の管轄だから、他の皆まで
俺達に付き合って貴重な睡眠時間を削る必要はない」

「OKワカッタヨ、ジュン!ソレジャ、オヤスミー♪」
「それじゃあ、お先に休ませて頂くわ…お休みなさい」
「あははーっ、余り夜更かししちゃダメですよーっ♪」
「…何か必要になったら、遠慮なくコールしてくれ…」
レミィ・雪見・佐祐理・舞はそれぞれ、ベッドを求めて客室の方へと移動を
開始し、船長室には北川と智子…それに、生まれて始めて飲んでしまった
ビールという飲み物のために、不覚にもテーブルのワインバスケットの中で
既に眠りについているそらだけとなった。

「「…それでは、作戦開始と参りますか♪」」
北川と智子はそれぞれ椅子を座りなおすと、キーボードとの格闘を開始した。

TO BE CONTINUED?!

210パラレル・ロワイアルその154:2004/02/03(火) 21:22
拝啓おふくろ様、貴之です。遅ればせながらも暑中見舞いなるものを
送らせて頂きます。

この度、警部補をやっております親友に半ば強引に誘われまして南の島へと
バカンスにやって参りましたが、過去の出来事を発端と致します持ち前の
悲観主義と無気力がそう簡単には拭い去られる訳もなく、朝から昼過ぎより
独り、ホテルのロビーにて黙々とさながら冴えない流しのごとく、ギターの
腕慣らしをやっておりました。

ところが。

突然拍手をされました事に驚き顔を上げてみますと、自分はこちらを
物珍しそうに眺めております三人の少女に囲まれておりました。

よく見ますと、一人は目が不自由そうな娘さんで、もう一人は言葉が不自由
そうな娘さん、三人目は病的な迄に…いえ、本当に病気でそうなったとしか
思えない程、華奢で白い肌の娘さんでした。

そして、その三人は三人とも、自分より年下で自分に負けない位に重そうな
十字架を背負っているのだろうというのに、そのような事は微塵も感じさせ
ない調子で自分の演奏に興味を示してくれて、あれやこれやと自分に尋ねて
参りました。

これがもし他の相手でありましたなら、己の不幸を心の壁としまして無視と
沈黙にて対応している所なのですが、流石にかようなる娘さん三人を相手に
そのような恥知らずな真似は、男の端くれとして出来る訳などありません。

…気が付いた時には、一人二役でテツ&トモの物真似までやっていた始末、
もしかしたらその瞬間、自分はこの作品の中で一番…そう、フランクさんや
広瀬さんを追い越して…キャラの違うキャラクターと化してしまったのかも
しれません。



聞きました所、言葉の不自由な上月澪さんと華奢で白い肌の美坂栞さんは、
バカンス先で行われておりますサバイバルゲームにて、代打役の選手による
参加を行っており、三人の中でも一際に強さ・明るさ・優しさを放っている
目の不自由な川名みさきさんはハンデを押して参戦し、正午に惜しくも敗退
されたという話…それを聞きました時、川名さんのためにその代打役の選手
として参加を行わなかった事を心底、残念に思ってしまっておりました。

そして、今更ながらにも川名さんのために何かをして差し上げたいと思って
しまった自分は、ゲームの運営スタッフであるメイドロボの内一人に参加の
相談を持ち掛けましたところ、納涼特別深夜警備兵という色モノ系の役柄を
拝領させて頂きました。

やはり、今の自分の表情・顔付きでは『納涼特別』なのは止むを得ない事情
なのでしょうか?…少なくとも、川名さんの瞳が光を取り戻せるその日が
やって来る迄には、何とか治しておきたいものだと本気で思っております。



それではそろそろ出番のようです、希望を武器に想いを盾に、自分は貴方の
息子としてそして男として、恥じない戦いを行って参ります。



追記
自分が言うのも何ですが、白い肌の美坂栞さんも別な意味で『納涼特別』の
素質がとってもありそうな気が致します…もっと日の光に当たって、好物と
思しきアイスクリームよりも栄養のある物を同じ位、もりもり召し上がって
頂ければ幸いだと、自分は思っておりますのですが…。

TO BE CONTINUED?!

211パラレル・ロワイアルその155:2004/02/09(月) 19:18
ブルブルブルブル…ブルブルブルブル…
ピッ

「はい、もしもし…あら、シュンさん?…まあ、佳乃さんが中の人に徴兵を?
それは大変ねえ…確か聖さん脱落されてしまってもう、干渉が出来なくなって
しまわれている筈ですし…それでシュンさんも止めようとなされて…逆に彼女
から心臓に危うい一撃を受けてしまわれる所だったの?……そういう事情では
致し方ありませんですね…分かりました、私自らがこれからホテルに出向いて
佳乃さんをいえ、佳乃さんの中の人をお止め致しましょう…ですから、シュン
さんは無理をなさらないで、私の到着まで今一時辛抱してて下さい、では…」

露天風呂から戻るや、翌朝に備えてすぐさま美術館応接室のソファーにて横に
なっていた覆面ベイダーは、代戦士依頼人・氷上シュンからの窮状を訴える
電話連絡にすぐさま、出撃体制を整えた。

ボイスチェンジャー付きヘルメットに人工神経内臓のコスチューム、ソフビ製
のライトセイバーに高槻04から没収したステアーAUG(エアガン)を携えて
マントを羽織ると、応接室を抜け出て足早に廊下を走り抜け美術館の外へと…

「!…何者デスカ?」
「私だ、ベイダー殿…急なご出立、いかがなされた?」

美術館の出口にて、竹光片手に高槻03のガリルアサルトライフル(エアガン)
を背負った光岡悟と出くわすベイダー、

「…ト、イウ訳デシテほてるヘト向カオウトスル所デス…トコロデ、オ言葉ヲ
返ス様デスガ光岡サンノ方ハ、一体…?」
「じ…実はその、きよみがわがままを申してな…それでその、何と言うか…」
「アア、しんでれら・たいむヲオネダリサレテシマッタト…」
「…率直に申すとまあ、その通りなのだ…奇しくもホテルへご同行という事に
なる様だな、ベイダー殿」
「ソノ様デスネ」

二人は頷き合うと美術館を後に、通過・交戦禁止エリア上等でホテルの方へと
飛ぶ様に移動を開始した。




「!…行かれたのか…方角は…ホテル…郁美…」
こちらは博物館館外に屋外展示されているアポロ11号の着陸カプセル内部、
宇宙飛行士用のベッドに横たわりながら旋回望遠鏡の映し出すモニター光景を
眺めていた立川雄蔵がポツリと呟く。

「?…どうしたの、雄蔵?」
もう一つの宇宙飛行士用ベッドからむくりと、Tシャツ姿の美坂香里が上半身
を起こした。

「済まない、起こしたか香里」
「ううん、実はずっと眠れなかったの…こんな暗くて狭い所だと、何だか胸が
ドキドキしちゃって…」
「救心は持って来ている…それとも、閉所恐怖症なのか?香里」
『…ううっ、鈍感っっ!!』
「?…何をむくれている?」
「…何でもありませんっ…」




「光岡さんとベイダーさんがホテルの方角へ?」
「うむ、たった今完全武装でな」
「ホテルで何かあったのかしら?」
「分からぬ…もっとも、ホテルは元々、通過・交戦禁止エリアだから必然的に
警備兵やガードロボと遭遇すれば戦闘にならざるを得ないのだが…」
「私達はどうするの?雄蔵」
「定時放送続報の内容次第だな…もしホテルで何かあったなら、それに関する
説明はなされるだろうし…それに、もしもあの二人がホテルへ向かった理由が
代戦士がらみの事情であるのならば、俺もここで睡眠を摂り続けている訳には
いかなくなるからな」

「…『俺達』、でしょ?」
いつの間にか雄蔵のベッドに腰を下ろした香里がポカリと突っ込みを入れた。




と、
「!…誰かが来る…遠野殿が申していた地下鉄道用非常脱出口の方角からだ」
旋回望遠鏡のモニターが、精神注入棒を携えた少女と銀玉鉄砲を持った少年、
そしてパンフレットを外灯の下で広げている少女の計三人連れの姿を捉えた。
「急な別れから気を取り直して、隠し露天風呂を捜し求めて来たものの」
「パンフだとこっからまた、結構な歩きになるようねえ」
「でもやっぱり、一日の最後はサッパリ汗を流してから休みたいよっ」




「成る程…連中はどうやら何らかの情報源を元に、隠し露天風呂を目当てに
移動を行っている様だな」
「大丈夫かしら、雄蔵?…確か、露天風呂のラウンジには美凪さん達が床を
取っている筈なんじゃあ…?」

心配げな香里の言葉に、その頭を撫でながら雄蔵が答える、
「人間、憩いの場である浴場では、そう簡単に争うものでもあるまい?」
「あ、そっか…そういえば私達って、光岡さんやベイダーさんともすんなり
お話出来たのよねえ…」

TO BE CONTINUED?!

212パラレル・ロワイアルその156:2004/02/09(月) 21:00
ぐうううう〜〜っ…

真夜中のリバーサイドホテルVIPルームの一室に快音が鳴り響いた。

「……ううっ、おなかが空いたよおっ……」
ベッドからむくりと起き上がり、明かりも点けずにふらふらと出口へと
歩いて行く浴衣姿の少女、元28番川名みさき。

と、部屋の明かりが点き、浴衣の裾が引っ張られた。

「!?…栞ちゃん?それとも澪ちゃん?」
「両方共です…」
みさきの後ろにいたのはネグリジェの上にストールを羽織った、元86番
美坂栞とパジャマ姿の元39番上月澪、共にみさきと同じ位ひもじそうな
顔をしていた。

「ご、ごめんねっ、ひょっとして起こしちゃった?」
「そうじゃないんです、私達も恐らくは…みさきさんと同じ理由で今し方
目が覚めてしまったんです…澪さんは、『おすし』と申しております…」

「ま、まさか栞ちゃんはまたアイスクリーム…?」
「…はい…今日はまだ1個も食べておりませんもので…」

ふらふらふらふら…みさきは危うく転倒するところであった。
きゅるきゅるきゅるきゅる…澪はスケッチブックにアマゾン川を一筆書き
していた。




「ギャーーーーッ!!出たああああっ!!」
「!?」
VIPルームフロアを巡回中であった納涼特別深夜警備兵の阿部貴之は、
エレベーターホールから聞こえて来た少女の絶叫を聞き付け、ソフビ製の
ヒートホークとグフシールドを構えながらそちらへと駆け付けた。

と、

「おっ…おっ…お化けええっ…(ブクブクブクブク)」
「そ、そんな事言う人嫌いですっ…どうして私がお化けなんですかあっ?」
「大丈夫ですか?しっかりして下さいっ(ユッサユッサユッサ)」
『失神してますの、お医者さん呼びますの』

…深夜減灯された薄暗いエレベーターホールにて、口から泡を吹いて倒れて
いるのは元49番新城沙織、そして彼女を介抱している川名みさきと涙目で
様子を見守る美坂栞、そしてスケッチブックを抱き抱えておろおろしている
上月澪の四人の姿、

「ああっ、阿部さんっ!」
「えっ?貴之くんなの?」
『大変ですの』




「報告ご苦労、任務を続行してくれ」
「了解しました」
元32番霧島聖の押すキャスター付きベッドに横たわり、エレベーターへと
搬送されて行く沙織を見送りながら、ふと貴之はエレベーターホールの床に
散らばっている幾つかの吸盤手裏剣を発見した。

(もしかしたら、あの少女は敗者復活戦に参戦に行く途中だったのかなあ?)
そう思いながら手裏剣を拾い集め、警備兵制服のポケットに詰め込んでから
貴之は残りの三人の少女の方へと振り返った、
「ところで、川名さん達はこんな時刻にこんな場所で一体、何を…?」

「実はその、貴之くん…私、どうしてもおなかが空いちゃって、その…」
「私もその、どうしてもアイスクリームが食べたくなっちゃって…」
『おすしおすし』

(困った、川名さんに…いや、三人掛かりでそんなひもじそうな顔でおねだり
されてしまうと…かといって、自分の巡回区域にある食事可能な設備は皆既に
閉店してしまっている筈だし…あっそうだ!自分は巡回区域の鍵を支給されて
いるんだった、それならば…)
「…アイスクリームとお寿司なら何とか心当たりがあります、もしよかったら
ついて来て下さい」

「「『はい(なの)っ♪』」」

TO BE CONTINUED?!

213パラレル・ロワイアルその157:2004/02/10(火) 20:18
00:45…リバーサイドホテル地下1階・エレカ駐車場

「奇しくも、こっちの方でもワイルドセブン結成という訳ね」
元36番・来栖川綾香は渡辺茂雄から没収したヌンチャクの具合を確かめながら
敗者復活戦を望んで集まって来たメンバー全員をずらりと見渡して呟いた。

元09番・江藤結花
元34番・九品仏大志
元50番・スフィー
元53番・千堂和樹
元63番・長岡志保
元70番・芳賀玲子
それに自分を加えて計七名、これがこのゲームにて敗者復活戦を望む者全員の数である。

「何だか、余りにも少な過ぎるんじゃないの?」
レーダーのメンテをしながら志保が信じられないという顔つきで口を開くと、
大志がそれに答えた。
「フム、理由は色々ある…しかしやっぱり最大の理由は『復活は最大の禁忌かつ恥』
という生き残りモノの不文律のせいであろう…今ここに集まった七名はそれぞれ、
その自己顕示欲がプライドとか睡眠欲を凌駕する程に極めて旺盛な者から、止むに
止まれぬ事情故にゲーム参加という名の自由を勝ち取りたいと切に願っている者、
はたまた、本作ハカロワにてその過ち故に強い業を残して倒れ、しかもこのゲーム
においてのやり直しすら満足に出来ぬ内に早期脱落を余儀なくされた者といった、
例え誰にどう思われようと形振り構わず何が何でもこのゲームの世界に戻りたくて
たまらないという、我輩を含めて正に選りすぐりの修羅も同然のメンバーなのだ…
それが115名中の7名だったとしても、決して少ない数ではないと我輩は思っておるぞ」




「そうだよね、結花はその過ちに後悔どころか自覚も出来ない内に死んじゃったんだから」
「!…かっ、勘違いしないでよスフィー!私の参戦動機はあくまで、まだ頑張ってる
健太郎のバカのためなんだから…そういうスフィーこそ、その過ちに後悔した後で
更に、○○さんを始めに○人も蜂の巣に…」
「!…う、うるさいわねっ!アレは結花に比べればはるかに不可抗力だったんだよっ
!…もー、結花と一緒にしないでよっ!」
「なんですってええっ!?」
「何よっ!?」
それぞれ、パイトミーガンとシュマイザーMP40(エアガン)を構え付きつけ合う
スフィーと結花、

「ちょっ、ちょっと二人とも…幾らロワイアルだからって、いきなり同士討ちもない
でしょうっ(汗)」
ザクマシンガン・人間サイズ(エアガン)を携えた玲子が、慌てて二人を仲裁した。

「とにかく、これから私達がどう動くかは定時放送続報の内容次第ね…それまでは
各自、索敵を怠らずに支給装備の再チェックでもやってて頂戴」
綾香は駐車場監視カメラに目線を合わせてポーズを取りつつ、指示を下した。




「ところで、大志…」
「What,s?どうしたのだ、MY同士和樹よ?」
「どうして…どうして、俺の支給装備は…桃缶七個なんだよおおっ!?」

214パラレル・ロワイアルその158:2004/02/10(火) 21:34
00:50…蒼紫・操舵司令室

「結花お姉さま、それにスフィー…か」
…かつて川名みさきが御影すばるに情報伝授を行った通り、ジョーカーのために
提供された持参装備の情報探知設備はG.Nのそれにほぼ準ずるものであった。

ホテル地下駐車場内部の様子をモニターの一つから手に取るように眺めながら、
北川潤は思わず二つの名前を口から漏らした。


「…アンタにとっては、ラスボス以上に思う所ある連中なんやろうなあ」
隣に座っている保科智子がボソリと突っ込みを入れる、
「でもな、ウチに言わせて貰えばやな、護る者持っとるオトコの癖に取り返しが
つかん事なってまうまでず〜っと、ガンジーやっとったアンタも同じ穴のムジナ
なんやでえ」

…過剰なる親愛のゼスチャーというのも辛いものがありますが、過剰なる親愛の
トークというのも、なかなかにキツイものがございます。

「ま、もっとも一番言わせてもろてしかりなんは、あん時もしあの二人への最初の
挨拶に言うとったらめっちゃヒーローやった台詞をや、最期の遺言まで言わへん
かったアンタのダチなんやけどな」

…ああ、可哀相な相沢…関西弁は喋る凶器です。

「何か言うたかい?」

…何も言ってません…。



「閑話休題、そろそろ情報操作一発目・送信開始と行きますか」
キーボードの前で手を擦り合わせて北川が智子の方を向く、

「送信先は来栖川アイランド放送管制室で、内容は…へ?たったこんだけかい?」
二人掛かりでゲーム参加者の全情報を船内データバンクから全部引っ張り出し、
徹底分析した末に厳選抽出完了した筈の操作依頼情報のその余りにも短い内容に
智子は唖然となって北川に向き返る、

「オホン、幾ら設備が充分だからといって手段・工作の過剰な乱用は、それが成功
した時の爽快感を損ね、ホテルの観戦者の興を削ぎ、下手をすれば…

『あぁ、高槻か。君はさっきの放送でまた、無駄な介入をしたね?(以下略)』

てな感じで、無能エンターテイナー御役御免の憂目を見る結果にもなり兼ねない、
我々の行うべき工作とは、このゲームにおいて見事、水瀬親子を脱落に追い込んだ
C12組・13組メンバー順逆発表のような、小さな工作で大きな成果を生み出す
ものでなくてはならないのだ」
「あー成る程なあ、本作におけるフランクはんの最初の銃弾とか、天沢郁未はんの
名台詞『見付けたわよ、○○…』みたいなものやな…それで、この名前に白羽の矢
立てたっちゅー事かい……フッフッフ北川、そちもワルよのう(笑)」
「いえいえ、智子様程では御座いませんよ(笑)」

「でもや、せめて後もう一つ…蝉丸はんの名前だけでも入れてええんとちゃうか?
出来ればやっぱ、御堂はんにも動いて貰いたい所やしなあ」
「その必要はナッシングだ」
智子の追加案を北川は一蹴して、端末モニターの“送信”をマウスクリックした。
「和樹さんが動けば詠美さんも動く、そして詠美さんが動けば…」
「あ…成る程♪」

「さてと、これでこちら側の人事は尽くしまたし…」
「後は天命を待って一眠りやな」
「「お疲れ様でした((ペコリ))」」

“送信完了”のモニター画面を後に、二人はねぐらを求め操舵司令室を後にした。




「「!?」」
「ジュン〜、ワタシ…寂しくテ眠レないヨー(涙)」
「うわわっ!!レミィ!!ア…アンタ、その格好っっ!!」
「トモコー…ダッテ、パジャマのサイズ、小サ過ぎるのシカ無いんだモノー」
「だからってアンタ、そんな格好で…ああっ、北川はんっ!!しっかりしいやっ、
アカンでっ!こんなとこで出血多量で脱落したらアカンでえっ!!」
「!?…ジュンーッ、何だかワカンナイケドシッカリシテーッ!!(ギュウウッ)」
「アホかレミィッ!!!アンタ、トドメ刺す気かいっっ!!!」

TO BE CONTINUED?!

215パラレル・ロワイアルその159:2004/02/16(月) 16:48
00:55…来栖川アイランド放送管制室

「ハハハハハ、諸君…美音ちゃんじゃなくって残念だったなぁ、
こういう状況下ではやはり俺様でなくてはとお呼びが掛かって
定時放送続報を急遽、担当してやる事となった高槻研さまだぁ、
…ナンバーの方は勝手に想像でもするんだなぁ。

まぁ、俺様もこんなゲストしてやる予定はなかったんだがなぁ。
往生際の悪いクローン供がいけないんだぞぉ?
とはいえ、俺様もG.Nも慈悲深い、どうやらクローン供の首謀者への
エントリーの方もやっと終わりやがったようだし、今から敗者復活戦の
ルール説明とメンバー発表の方を始めるぞぉ。

まず、開始時刻は01:00ジャストで、05:00ジャストに終了だぁ、
交戦可能なエリアはリバーサイドホテル及び敷地内絶対厳守で、一歩でも
ホテルの外に出やがったクローンは即失格だぁ、忘れるんじゃあねえぞぉ。

で、クローン側の勝利・復活条件は至ってシンプルだ、
…………………………………制限時間内に四人頃せぇ。

頃せる対象は警備兵とそれにホテルにやって来たプレイヤー…後は代戦士の
依頼人も頃せるって事は、首謀者も知ってる筈だから改めて教えてやろう、
更に…一人以上頃しているクローンも、同士討ちで頃したらスコアに加えて
よい事にしてやろう…よぉく覚えておけよぉ。

警備兵供の方への説明は、
クローンなら二人以上、プレイヤーなら通常通り一人頃せば新規参加だぁ、
代戦士依頼人や警備兵同士は裏切り・妨害行為等が認められた場合のみ
クローン供と同じスコア算出を行う事とする…そうでない時もスコアは0点
だが一応、頃す事は可能だ。

あ、そうそう、恐らく人手が不足するだろうから他の部署に回っている
警備兵や、非番の警備兵もどしどし参加してくれると助かるぞぉ、
警備兵にとっても手っ取り早く正規参加出来るチャンスだからなぁ。

あと、ホテルの外にいやがる敗者復活支援を意図しているプレイヤー供に
伝えておくぞぉ、
敗者復活戦の間は、リバーサイドホテルの通過・交戦禁止エリア制限を
地上15階〜地下2階の区域に限って一時解除しておくぞぉ、
…とは言っても、ガードロボットはともかく警備兵供が侵入プレイヤーを
どう扱うかは知ったこっちゃないがなぁ。

更に、もう一つだけおまけで言っておいてやるが、ホテル20階にある
G.Nコントロール管制室の制圧も、クローン供の勝利条件に加えて
やるとの御達しがきてたぞぉ…だがなあ、四人頃すよりも楽そうだなんて
大甘な事考えてやがったら、大きな間違いなんだぜぇ、言っとくがよぉ。

じゃあ、最後に敗者復活戦参加メンバーを発表するぞぉ、
元09番・江藤結花
元19番・柏木耕一
元34番・九品仏大志
元36番・来栖川綾香
元50番・スフィー
元53番・千堂和樹
元63番・長岡志保
元70番・芳賀玲子
以上八人だ。

じゃあな。せいぜい俺様に面倒臭い事やらせた分くらいは楽しませてくれよぉ」

216パラレル・ロワイアルその160:2004/02/16(月) 17:33
00:56…大灯台広場仮眠室

『御免なさい、詩子さん…御免なさい、藤田先輩、セリオさん…
私…私、綾香先輩と勝負して参ります…』


00:57…土産物商店街仮眠室

「行くわよ、したぼく供!」
「言ってろや、大庭か詠美!」
「和樹さんのためなら、エンヤコラですの!」
「ま、恐らくは和樹さんの助太刀があさひさんの望みでしょうし…」
「大人数の屋内戦は不利だ…ホテルに着いたら二手に分かれるぞ!」
「ぴっこり!」
「にゃうにゃう!」

「スフィー…結花…待ってろよ、今行くからな…」
「…健太郎さん、急いで参りましょう…」

「みどり…間違いはないと思うのだが…」

「ウーム、何テ事ダ…依頼人の部屋二、電話が繋がらナイゾ…」

「耕一さん、私の到着までどうか御無事で…貴方の邪魔をする方は、
私が全て殲滅致しますから…」


00:58…リバーサイドホテル2階・ドーム開閉式大露天風呂

「いや〜、極楽極楽…これで、ベルリンの壁がなければもっと、
極楽なんだけどなあ♪」
「ヘッ、また耕一が馬鹿言ってるよ…楓、まともに聞いてやらなくても
いいんだからな、ったく…」
「…(千鶴姉さんや初音、七瀬彰さんの無事を確かめられたからといって、
続報を確認しない内に三人揃って入浴して…何だか胸騒ぎが致します…)」


00:59…博物館庭

「香里…もし一緒に来るのなら、俺にしっかり捕まっていろ」
「?…博物館から引っ張り出してきた大型投石器と背中のパラグライダーで
一体、何をする気……………って、まさか!?」
「…そのまさかだ、弾道計算及び重量計算は未検算だが割り出し済みだ」
「……………う゛ぅ〜〜っ、分かったわよ…離れ離れになる位なら雄蔵、
貴方と一緒に全身打撲で死ぬ方を選んであげるわよっ!!」


01:00…リバーサイドホテル・地上1階地下駐車場入口

「ジャストだ!全車一斉突撃開始ィィィィィッ!!」
「「「「「「オオウッ!!」」」」」」
「ナメナイデヨ?ナナセナノヨ、アタシッ!」

TO BE CONTINUED?!

217パラレル・ロワイアルその161:2004/02/17(火) 18:32
「!…駐車場東口・南口・西口から二人ずつ、北口から一人突入してくるわっ!」
長岡志保がレーダーを見やりつつ叫んだ。

「志保さん玲子さんは南口、スフィーさん結花さんは西口、和樹さん大志さんは
北口の敵を迎え撃って後、それぞれ最寄の階段からコントロール管制室を目指して
上がってって頂戴っ、私は東口から…破亜ッ!!」
駆け出しながら手早く指示を下した来栖川綾香は、駐車場東口から走り降りて来た
エアマシンガン銃座付きのサイド・エレカに向かって跳躍すると、某ゲームの百式
もかくやの速く鋭い跳び蹴りを操縦者に向けて放った。

ドゴオッ!!
「ぐえぇっ!!」
「うわあっ!!」ズガシャアッ!!ガリガリガリガリ…

哀れ、操縦者はヘルメットもろとも顔面を蹴り抜かれて、切り切り舞いして落車、
サイド・エレカも機銃手もろとも転倒して派手に火花を散らした。

『ビーッ、交通警備兵・久瀬、有効打直撃にて殉職しました』
『ビーッ、交通警備兵・斎藤、アタック・クラッシュにて殉職しました』



シュパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ!
シパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパッ!
ビビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシッ!
ビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシ!
「どうなってんだ!?一体っ!?」
「全然、不意打ちになってないじゃないかっ!?」

南口から走り降りて来たサイド・エレカも、志保・玲子の待ち伏せの十字砲火を
まともに喰らい、あっけなくその動きを止める事となった。

『ビーッ、交通警備兵・矢島、有効弾直撃にて殉職しました』
『ビーッ、交通警備兵・垣本、有効弾直撃にて殉職しました』



ビシャアアアンンッ!ビリビリビリビリ…シビシビシビシビ…
「「ぎゃおおおおっ!!」」グワシャアッ!!ガガガガガガ…

西口から走り降りて来たサイド・エレカに至っては、スフィーの本気狩るサンダー
を出入り端に喰らって、一番いきなりにもんどりうって転倒した。

『ビーッ、交通警備兵・南森、アタック・クラッシュにて殉職しました』
『ビーッ、交通警備兵・村田、アタック・クラッシュにて殉職しました』



綾香・志保&玲子・スフィー&結花はそれぞれ、当面の敵を見事返り討ちにすると
打ち合わせ通り、各最寄の別々の階段からG.Nコントロール管制室のある20階
目指しての移動を開始した。

218パラレル・ロワイアルその162:2004/02/17(火) 18:36
しかし…

「ゆけッ!先行者」
ジョボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボッ!!
クルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクル…

九品仏大志の指示の元、ゲーム用中華キャノンから高圧噴射される烏龍茶の飛沫を
これまた某ゲームのシャアゲルググの如く、その手に持つ物干し竿を高速回転させ
弾き飛ばして退ける、ツインテールの乙女型ロボット!

「なッ……!」
「ナメナイデヨ!?ナナセナノヨ、アタシッ!!」



「フッフッフッフッ…」
乙女型ロボットの後方に待機している小型装甲指揮車から、スピーカーを通して
不敵な笑い声が発せられる、

「ブァカ者供がァアアアアッ!!我が中崎家の財力とオオオオ、コネで仕入れた
戦闘用HMのデータを基準にイイイイイイイ…このNMX−07SE・ナナセは
オーダーメイドされておるのだアアアア!!」

交通警備兵隊長(の座をオークションで競り落とした)中崎努の得意気な叫び声が
駐車場内に響き渡った。



「…MY同士和樹よ」
大志が顔半分後ろの和樹を振り返って言う、
「ここは我輩が何としても食い止める…だから和樹は一足先に、後ろの階段から
皆を追って上へと上がるのだ…」

「た、大志!?」
「…代わりといっては何だが、もし…あさひちゃんがこの戦いに巻き込まれそうに
なった時は…例え、皆を裏切る結果となろうとも…最優先であさひちゃんを護って
欲しい…それだけが我輩の最後の願いだ」
「大志…」

「さあ行くのだ和樹!自由と愛する人…そして、あさひちゃんの為にいいいっ!!」
大志は後ろ手に和樹を階段入り口の方へと突き飛ばすと、再び乙女型ロボットと装甲
指揮車の方へと向き直った。

「わ…分かった大志!必ず…必ず、後から追い付いて来てくれっ!」
和樹は桃缶が入ったバックを片手に北の階段へと走り込み、駆け上がって行った。



「美しい友情だ…しかーしィ!残念ながら僕のナナセへの深ーいィ!愛情にはっ、
はるかにっ、はるかにっ、はるくああああああああにっっ!及びはしないのだっ、
従ってェ、絶対にっ、絶対にっ、絶とああああああああいにっっこの勝負、お前に
勝ち目などなあああああああいっっ!!そ・し・てぇ残りの連中もぉ僕とナナセで
皆頃しイイイイイイイイッッ!!」

自分の圧倒的優位を確信し月島拓也チックにエキサイトしている中崎であったが、
彼は己の致命的失策から既に、その命の導火線に灯りを点してしまった様である。


と、いうのも…(みちる・ぽち睡眠中)
「わははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」
「こっ、浩平!?しっかりしてお願いっ!?」
「…………留美さんに、“あまり似てないで賞”です…」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!
中崎…ブッ頃す!!!(超激怒)待ってなさいよおおお、今行くから〜っっっ!!!」

…隠し露天風呂ラウンジにも、中継モニターは設置されていた…そして、ホテルへと
向かうライバルがまた一人…。

TO BE CONTINUED?!

219パラレル・ロワイアルその163:2004/02/17(火) 19:28
シュパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ!
シパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパッ!
カンカンカカンカンカンカカンカンカンカカンカンカンカカンカンカンカカンッ!

「げげっ!?うっそお!?」
「全弾…跳ね返されたのお!?」
「…この一斗缶は私の体そのものです」

1階・エレベーターホール…早くも横着かつ危険な近道を選ぼうとした長岡志保・
芳賀玲子組は、警備兵の制服をその身に纏い右手にバンダナを巻き左手にブリキの
一斗缶を持った納涼特別警備兵・霧島佳乃(の中の人)に出くわし、エアマシンガン
での二丁斉射を全て一斗缶で弾き返されて唖然となっていた。

「…あなた達も……無駄な抵抗だからいっそ、この手で……」
一斗缶をおもちゃの様に振り回しながら一歩、また一歩と二人へと歩み寄って来る
佳乃(の中の人)に、志保と玲子は足元をガクガクと振るわせ始めた。

「かかか、階段まで、逃げ逃げ逃げ逃げ…」
「あああ、足が足が、動か動か動か動か…」
「……わた、しが……やるの……」
階段までの撤収を決意したものの、足がすくんで動けない志保と玲子の頭上へと
今まさに佳乃(の中の人)の振り上げた一斗缶が…涙目を瞑る志保と玲子…と、

ガキイッ!!
…振り下ろされようとした一斗缶が、ライトセイバーの突きによって押し止められた。

「アナタ達、ココハ私ニ任セテ先ヲ急ギナサイ…」
ホテルへ到着した覆面ベイダーが、瞑った目を開けた志保と玲子にこの場からの離脱を促した。

「うっ、うん助かったっ!」
「有難う、ベイダー卿っ!」
…反撃の可不可とか敵味方の誰何とかを思いつく余裕も有らばこそ、志保と玲子は
ベイダーへの礼もそこそこに、脱兎の如くエレベーターホールから元来た階段へと
逃げ出して行った。

ベイダーにとっても、余計な助太刀で“外の佳乃”にまで死亡判定が下ってしまう事に
なってしまっては目を当てられたものではないので、志保・玲子の逃亡は却って好都合
であった。



「…母親として、最後までこの子と戦いたい…だから私が頃す。どうしても邪魔を
するというなら…私が……同じ母親である、あなたも……」
「私ハ、代理人デス…姉トシテ…恋人トシテ…貴方ノ子ヲ戦ワセタクナイトイウ、
意思ヲ受ケ継イデ…ソノ代ワリトナッテ…貴方ヲ、オ止メサセテ頂キマス…」

互いが手に持つ鉄パイプと日本刀…ではなく、ライトセーバーと一斗缶がぎらりと照明に輝いた。

220パラレル・ロワイアルその164:2004/02/17(火) 20:15
「貴之くん、偉いっ♪私、“お寿司とアイスクリーム”だからてっきり、コンビニ
なのかなあって思ってたんだよ」
「いえいえ、姫君を三人もかどわかしておきながら粗末な物を御馳走するわけには
参りませんよ」

納涼特別警備兵・阿部貴之の案内の下、彼と川名みさき・美坂栞・上月澪の四名は
ホテル17階・グルメフロアに軒を連ねる内の一軒・回転寿司屋“風車羽根”の
カウンターにその身を移していた。

「なるほどです…デザートのアイスクリームに着目したという訳ですか♪」
栞は早くも銀のスプーンを咥えて、その瞳をキラキラさせている。

「回転寿司とはいいましても、ネタもシャリも名産地直送品ですし勿論、アイスの
方もハーゲンガッツなのはもう、チェック済みですから♪」
…えっへん調の貴之にみさきが尋ねる、
「ねえ、貴之くん…いつ、どうしてグルメフロアにチェックを入れてくれたの?」

「(ギクッ)ゲフンゲフン、それでは早速握って参りましょうか」
昔取った杵柄もといバイト先での経験そのままに、手早く準備完了の貴之、
「ねえ、どうして?」
聞こえない振りをしている貴之にいたずらっぽく食い下がるみさき、

「まず、澪ちゃんは『たまご』…早速、自分の腕の見せ所のネタですね…よっと
(パカッ、チャチャチャ…シュ〜ッ)…みさきさんは何になさいます?」
「どうしてなの?貴之くん?」
「お客様、当店には“どうしてなの”という名前の寿司ネタは御座いませんが…」
「ううっ、ずるいよっ…必ず仕返しするからね」



「うんっ、美味しいよっ♪山葵もいいもの使ってるね♪」
「〜!っ」
「この店のは天城の四年モノですよ…って、みさきさんって山葵の味に拘るんだ」
「〜!〜!っ」
「うんっ勿論だよっ、お寿司といったらまず山葵だよっ」
「〜!〜!〜!っ」
「じゃあ、ひょっとして山葵巻きなんてのも食べちゃうのですか?みさきさん」
「〜!〜!〜!〜!っ」
「山葵巻き?アレ大好きだよっ♪握ってくれる?貴之くん」
「〜!〜!〜!〜!〜!っ」
「ハイお待ちっ!…折角の良い山葵だから、下ろしてない細切り山葵に下ろした
山葵をコーティングしてみたんだけど…」
「〜!〜!〜!〜!〜!〜!っ」
「モグモグ…うんっ、最高だよ貴之くん♪…この、独特の香りが鼻の奥にガーンと
来てキーンと抜けて行く感じがもう…って、どうしたの澪ちゃん?」
『栞さん、泣いてますの』
「え?…あの、どうされたのですか?美坂さん?」
「?…栞ちゃん、どうしたの?何で泣いてるの?」
「しくしく…お二人とも、人間界の敵ですっ!!」
「「…なんで!?」」

TO BE CONTINUED?!

221パラレル・ロワイアルその165:2004/02/22(日) 19:32
『ビーッ、非番動員警備兵・月城夕香、アタック・クラッシュにて殉職しました』
『ビーッ、非番動員警備兵・星野美帆、アタック・クラッシュにて殉職しました』
『ビーッ、非番動員警備兵・夢路まゆ、アタック・クラッシュにて殉職しました』

「和樹さん、いたいですー」
「和樹さん、ひどいですー」
「和樹さんに頃されちゃいましたー」
「…ご、ごめんね君達って、…なんで謝らなきゃならないんだろう?俺…」

九品仏大志と生き別れて早数分、5階・ビジネス&エコノミーフロア最下層まで
階段を駆け上がった千堂和樹は、巡回中の非番動員警備兵こと夕香・美帆・まゆに
出くわしフロアの廊下を一目散に逃げ回っていた…しかし、途中転びそうになった
和樹のバックから転がり落ちた一個の桃缶が、先頭に立って追っていた夕香の足を
捕らえ、夕香は派手に転倒…後続の美帆・まゆも巻き込んで三人揃って派手に殉職
を果たしてしまったのであった。

とはいえ、三人の支給装備ときたら…
「ふ、布団叩きと防塵マスク・柄付き束子とゴムエプロン・ハタキとチリトリ…」
桃缶よりはマシかもしれないが、『早三名倒せども、最後の一人が…』と言わしめ
そうな戦利品の山をポカンと眺める和樹。

と、

「あっ」
「うわっ…早くも最後の四人目デスカ?」

体操着をその身にまといグローブ&レガースを装着して千人針(by横蔵院)を
きりりと締めた少女が、廊下の向こうから和樹を見付けずんずんと近付いて来た。

武器らしき物はその身にも手にも付けてはいないものの、御影すばると半分同じ
世界の住人でありそうな事は、その出で立ちと身のこなしから何となく分かる、
和樹は思わず戦利品の山からハタキと柄付き束子を両手に持って構えてしまった
ものの、勝てる自信はあまりない…勿論、丸腰の女の子に束子を投げ付ける様な
マネも(多分、無駄な抵抗であろうが)、男のプライドが許す訳がなかったので
あるが…。

「あの、待って下さいっ」
その少女は和樹がハタキと束子で身構えたのを見ると、困惑した様な顔になって
両手をあげるとヒラヒラさせてみせた。

「えっ?」
和樹が少女のこちらへの態度に驚きつつも緊張を解き構えを解くと、少女は更に
言葉を続けた。

「あのっ、私…出来れば貴方とは戦いたくはないのですが…じっ実はその、私…
一人だけどうしても戦いたい人がいて…それでここへと探しに来た訳なんです…
だけどもし、貴方に…私と戦わなければならない理由が存在されるのでしたら…
そっ、その時は仕方がないんだなとは、思っておりますが…」

TO BE CONTINUED?!

222パラレル・ロワイアルその166:2004/02/23(月) 19:34
「わ…私はもう、あと二人だから結花に譲るわよ…」
「わ…私も実は、ゲームスタート前に父さんを布団蒸しにして来ちゃったから
残りあと二人なんだ…折角だからスフィーに譲ってあげるわよ…」
「…どっちでモいいですかラ、さっさト止めさしテ下さ〜イ!」

ホテル10階・ビジネス&エコノミーフロア最上層のロビーにて、江藤結花の
シュマイザーの斉射を食らい一足先に『死体』となって退出して行く足立さん
を横目に、弾の無くなったネット砲を足元に放り出して両手を上げているのは
非番出勤警備兵シンディ宮内、そして彼女にパイトミーガンとシュマイザーを
突き付けながらもどちらが彼女を『殉職』させるかで互いに譲り合ってるのは
スフィーと江藤結花。

というのも、シンディが万事休した時に漏らした台詞、「Oh,shit!…
愚妹ノ二の轍ヲ踏む羽目二なろうとハ…」を二人が聞きとがめてしまったから
である…スフィー達にとって見れば、レミィの姉は心情的にも頃し難い。

…余談ではあるが、警備兵として敗者復活戦に参戦予定であった江藤泰久は、
娘結花の手による不意打ちを食らって布団蒸しにされ、開始前に戦わずして
『殉職』を果たしてしまっていた。

しかし、もう一方のシンディはスフィー達に対して、特別なわだかまりは殆ど
抱いていない様であった…それどころか本作で妹が死んだ理由は途中で北川の
叫びにサイドブレーキを掛けて、結花への止めを不十分なままで余所見をして
しまったレミィ自身の迂闊さが第一だとさえ考えている様である。どうやら、
シンディは宮内家の中では最も、ステイツ寄りなのかもしれない。

「…戦場デ疑わしきヲ捕らエ拘束シ、必要ならバ殺す事…かつてベトナムでハ
それガ出来ず二殺されたステイツの兵士、沢山いましタ…結花さんノあの時ノ
考え方、私ハ間違っていないト思っておりまス…ましてヤ、明日ノ脱出よりモ
今日ノ仲間をよリ優先する事、私ハ正しい判断だト思っテおりまス…もしも、
結花さんノ間違いヲ指摘させテ頂くトするならバ、愚妹に銃ヲ突き付けられタ
時ノ反撃手段ノ選択でス…ゼロ距離で銃ヲ突き付けタ相手ガ隙ヲ見せた時ハ、
自分ノ銃ヲ取りに逃げルのではなくテ、そのままノ位置デ相手ノ銃ヲ捻り上ゲ
格闘戦に持ち込ムのガ正解でス…その点、住井護君ヲ返り討ち二しタ観月マナ
さんノ手際ハお見事でしタ…」

「う〜っ、私は…日本人だし、ましてや軍人じゃないんですよおシンディさん
…対処法はともかく、私の最大の間違いは『疑わしきは無力化しろ』の考え方
だったんだと思うよ、やっぱり…」
「結花の言う通りだよシンディさん、本作で私達が失敗後悔した理由が戦い方
だったなんて、そんなものじゃ断じてない筈だよっ!…そんなものであんなに
…後悔の涙が流れたりはしないよおっ!」

「うーン…確か二貴方達の場合ハ、最初のコンタクトで相手ヲ疑ってしまっタ
事ガ、結果的二そもそもノ失敗であったのかモ知れませんガ…本作でにおいテ
住井護君ト澤倉美咲さん、それ二遠野美凪さんハ、相手ヲ信じテしまった為二
悲惨ナ最後ヲ辿ル結果となりましタ…後ハ、○○○丸(一部変換ミス?)さんト
○○○○○ちゃんモ…詰ル所、疑う事・信じる事ノどちらガ正しいのかなんテ
一概に決められる事なのでハないト言ウ事なのでしょうカ?…最後にハ本人ノ
嘘・本当ヲ嗅ギ分ける力こそガ、戦場におけル生死ヲ分けル鍵となり得るト…
…ところデ貴方達、後ろ二誰カいるわヨ」

「…アハハ、もうシンディさんたら♪」
「…流石に、この状況でその言葉を信じる訳には行かないわよ♪」

「…ハアッ…確か二、嗅ギ分ける力は戦場でハ必要不可欠の様ネ…」
「「…え!?」」

スパパン!スパパン!
ビシシッ!ビシシッ!

『ビーッ、元09番・江藤結花、有効弾直撃にて復活失敗しました』
『ビーッ、元50番・スフィー、有効弾直撃にて復活失敗しました』




「Hey!オ前は相変わらずヒドイ娘だなシンディ!…モシモ彼女達がオ前を
信ジテ本当に後ろを向イテタラ、ドースル積もりダッタンダ?」
「その時ハその時でしょウ、Dad?…確か二私達、私的にハ父と娘ですけド
ゲーム上でハプレイヤーと警備兵なのですかラ…ところデDad、後ろ二誰カ
いるわヨ」
「Hahaha!マタ、そんな事言ッテルノカ?シンディ!」

「…ハアアッ…その時ハその時、信じない時ハ信じない時だト言っタばっかリ
だというの二…」
「What,s!?」

ヒュウウッ…
ポンッ…ビヨヨヨ〜ン…

『ビーッ、39番・ジョージ宮内、有効弾直撃にて失格しました』

元09番・江藤結花 元50番・スフィー 復活失敗…残り5人
【39番・ジョージ宮内 脱落…残り47人】

223パラレル・ロワイアルその167:2004/02/23(月) 20:56
「はわわ〜、大変ですう〜」
「ムニャムニャ…何よ?うるさいわねえ…こんな真夜中に何が大変なのよ、
おチビちゃん?」
「け、け、健太郎さんに頼まれて修理して差し上げたエアガンのパーツが、
ポ、ポ、ポケットにまだ残っていました〜」


「と、いう訳で紆余曲折を経て私達は土産物商店街からリバーサイドホテル
へと移動している―――」
「誰に説明してるんですか〜〜?しかもはしょりすぎだと思いますよ〜〜」
寝惚けながらとんちんかんな台詞を吐きつつ、人物探知機片手に元フランク
長瀬の支給装備のステアーTMP(エアガン)を携えた杜若きよみ【覆】と、
ワンタッチ傘・ホッケーマスク・農薬散布機を担いだHMX−12マルチは
夜道を急いで移動していた。


そして、舞台は再び…
「スフィーっ!結花ーっ!」
「…ああっ、間に合いませんでした健太郎さん…」

…足立さんが去ってなお、スフィー・江藤結花・ジョージ宮内の『死体』が
失格にへたり込んでいるホテル10階のロビーに、ジョージを頃した吸盤付
ボウガンを携えた宮田健太郎と、健太郎から護身用にと手渡されたコルト・
ガバメントを握り締めた姫川琴音が走り込んで来た…ロビーからは相当遠く
離れた反対側吹き抜け通路からシンディ宮内に銃を突き付けているスフィー
と結花を発見した健太郎と琴音は、彼女達と合流しようと急いでロビーへと
向かったのであるが、途中の道から一足先にひょっこり顔を出したジョージ
に遮る間もなく二人を銃殺されてしまったのである。

「「!」」
チャッ…

そして、健太郎と琴音のやり場の無い視線と得物の矛先は現在、シンディの
方へと向けられていたのであった。


「フ〜ッ、借りヲ作ったト思ったのモつかの間…武器回収のヒマすら無ク、
状況ハ振出し二…Dadハ太っ腹過ぎテ些カ、細心さ二欠けル様ですネ…」
少し離れた所に転がってるシュマイザーとM14ライフル、ビックリナイフ
をチラリと見やりながら再び、両手を上げているシンディ。

「…悪く思わないで下さい、美人の警備兵さん」
健太郎がボウガンをスッとシンディの方へと向ける、

「…Hey,boy!ボウガンは矢ヲ再装填しないト撃てないわヨ」
「!…そうだった」
慌てて矢の再装填を始める健太郎、

言葉と共にシンディは廊下を転がり、その手をM14ライフルの方へと…

「じ、銃を取らないで下さいっ!」
「………」
琴音がガバメントをシンディの方へと向け、発射する構えを見せた。

「……分かったわヨ……だかラ、引き金ヲ引いちゃだめヨ……嫌ナ、予感ガ
するかラ……絶対二、よくないことガ起きるから……」
シンディは廊下に転がり止った儘、ライフルへと伸ばした手を引っ込めた。

しかし……琴音は見てしまっていた、
シンディがライフルの方へ向かったのは見せ掛けで、実は転がり止った儘の
姿勢でビックリナイフの方を片足でこっそり、背中の方へと隠すような形で
引き寄せていた所を…

「信じていたのに……裏切るんですね?」
琴音の指が引き金に掛かり…そして、きっかけは、全く違う所から訪れた。

健太郎が再装填にしくじって飛んで行ってしまったボウガンの矢がロビーに
飾ってあった花瓶に命中、落ちた花瓶が静まり返ったロビーに音を立てて…

ガシャーーーンッ!!

琴音はその音に思わず、握る両手に力を込めてしまい。
引き金を引いた。
引いてしまった。

弾は発射されなかった。
代わりに、エアガンだった物のパーツがロビーに散らばった。
そして、ハンマーピンを失ったスライドが、琴音の顔面に音を立てて跳ね返った。
その打撃は琴音を転倒させ、失格判定をもたらすには充分だった。

「こっ、琴音ちゃんっ!?」
ショックで倒れる琴音に駆け寄り抱き起こす健太郎、

「…け、健太郎さん…誰が、この銃を…修理、されたの…ですか?」
「く、来栖川製の小さなメイドロボさんに…」
「…納得…(ガクリ)」

『ビーッ、74番・姫川琴音、自爆にて失格しました』

…しかし、この時隙だらけの健太郎にシンディからの反撃は加えられなかった、
というのも、シンディは琴音のバケツを片手に砕けた花瓶と分解したエアガンの
処分清掃へと、体が勝手に動いてしまったからである。

「…BB弾ハ後デ、掃除機ヲ掛けるかラ良しと致シましテ…この銃だけハ誰にも
使わせたくハ、ありませんネ…」
そして今、パイトミーガンが分解されてバケツの中へと捨てられてしまった…。

【74番・姫川琴音 脱落…残り46人】

224パラレル・ロワイアルその168:2004/02/23(月) 21:34
ゆらり…

健太郎が立ち上がった、その手にはやっと再装填完了したボウガンとシュマイザー、

「マダ続けるノですカ?…というより最早、全てヲ失いバーサーク状態寸前ノ様ですネ…」
当面のゴミをバケツへと詰め終わったシンディが健太郎へと向き直る、反対側の
手にはM14ライフルが握られていた。


「…あなたが誰も頃していないのは充分、承知しているんだけど…」
「気遣いハ無用でス…ルール上でハ、間違っタ行動でハありませんシ…心情的
にモ、今ノ貴方ノ気持ちハ充分理解出来ル積もりでス…ところデ貴方、後ろに誰カいるわヨ」

「またですか?…いい加減にそのネタはもう止めましょうよ」
「…ハアアアッ…まさカ、まじアン組最後ノ生き残りガ高倉会長だっタなんテ
…流石二作者モ、最初からハ考えてハいなかったンでしょうネ…」

「へ!?」

スパンッ!!
ズビシッ!!

『ビーッ、95番・宮田健太郎、有効弾直撃にて失格しました』
『ビーッ、隠れ警備兵・澤田真紀子、スコアノルマ達成しました…貴方の参加
ナンバーは95番となります…それでは引き続き、ゲームをお楽しみ下さい』




「…私の目的は、千堂君を連れ戻して仕事の続きをやらせる事だけなのに…
それにしても、もし本当に振り向いてたらどうする積もりだったのですか?」
「…仮二振り向いタところデ、貴方ガ遅れヲ取るとハ思っておりませんガ?キャプテン・サワダ」
「…今の私は編集長よ…それにしても、随分と頃されたものね」
「…残念ながラ、私のスコアは未ダ0点でス」
「…それはそうと、この青年を貴方は見掛けてなくて?」
「…カズキ・センドウさん…残念ですガ、未ダ…」
「…じゃあ、見掛けたら連絡頂戴…それと、このシュマイザーとビックリナイフ、貰って行くわよ」
「…構いませんけド、余リ派手二散らかさないデ下さいネ…ところでキャプテン!後ろ二誰かガいまス!」


「…今度こそジョークでしょう?…私はそんな弱い運を持った覚えは無くてよ?」
「…ハアアアアッ…恐れ入りました、キャプテン」

【95番・宮田健太郎 脱落→95番・澤田真紀子 新規参加…残り46人(変わらず)】


TO BE CONTINUED?!

225パラレル・ロワイアルその169:2004/02/28(土) 16:07
「……くッ」
「ワハハハハ見たカァァァ!これがアアア、ナナセのオオオ、一撃必殺技アアア、
ベアァァァァァキルゥゥゥゥゥパンチィィィィィッ!!」

ホテル地下1階駐車場、九品仏大志は驚愕の表情で先行者参號だったものを見て
いる。その機体からは煙が上がり、ばらばらと部品が飛び散り崩れ落ちて行く。

大志は歯軋りした。

装甲指揮車から降り立った相手の男――中崎務はヘッドギアのガラスの向こうから
余裕の表情を浮かべ、得意げに言葉を続ける。
「これでェェェェェ、貴様のォォォォォ、勝てる見込みはァァァァァ、万に一つも
万に一つも万に一つゥゥゥゥゥも、無くなったという事だァァァァァッ!!」

それを聞き、大志の表情が緩む。

「フフウウン!覚悟を決めたのかァァァァァッ!?」
NMX−07SE・ナナセが中崎の意を汲んだかのように一歩一歩、歩み寄って
くる。大使はきっ、とナナセそして中崎を睨み付け、笑みさえ浮かべ言い放った。
「……ならば、それを覆して見せれば良いのだろう?」

その刹那、大志は跳んだ……もとい、垣本&矢島の乗っていたサイド・エレカに
飛び乗り反転、地上敷地内へと逃走すべく駐車場出口目指して一気に疾走させた
……が、

「ニゲナイデヨ!?ナナセナノヨ、アタシッ!!」
ナナセは足の裏から車輪を射出し、瞬時に大志のサイド・エレカに追い付くと、
回転する後輪のスポークの間を見切って物干し竿を突き込み、強引にブレーキを
掛けたのであった。

「Noooooッ!?」
大志は反射的にサイド・エレカにしがみ付き幸いにも転落こそは免れたものの、
無防備も同然でナナセの目の前にその身を伏せている状態となった。

後から徒歩で追い付いて来た中崎が誇らしげに叫んだ、
「戦闘用HMのデータは全てェェェェェェェェェェ武器としてこのナナセの体に
おさまっているといったろーがァァァァーッ…さァァァァァ、ナナセェェェェェ、
手間取らせた礼にィィィィィ、その手に持つ得物でェェェェェ、奴のォォォォォ、
頭を一本足打法でェェェェェ、思いッッッ切りカッ飛ばすのだァァァァァッ!!」




「…分ったわ、その頭を…一本足打法で思いっ切りに、カッ飛ばせばいいのね…?」
中崎の真後ろから、トテモよく澄んだ乙女の囁きが優しい声色で聞こえて来た…。

「その通りだァァァァ………ア!?」
中崎は、聞き覚えのあるその声に思わず後ろを振り返ろうとした…しかし、振り返る
その前に…精神注入棒が相打ちで折れ飛んだ凄まじい打撃音とヘッドギアが力任せに
叩き潰される音、そして一瞬遅れて潰されたヘッドギアが被っている中身もろともに
駐車場の路面に思い切り叩き付けられ、余った勢いで強引に滑って行く耳障りな音が
、駐車場内に血も凍るような三重奏を奏でていた。

『ビーッ、交通警備兵隊長・中崎務、有効打直撃にて殉職しました』

226パラレル・ロワイアルその170:2004/02/28(土) 16:58
「Oh〜っ、かたじけない…助けて貰った事、心より感謝するぞ」
「別にアンタのためにやった事じゃないわ…それよりも、感謝してくれてるんなら
コイツをブッ壊すのを手伝って頂戴っ」
「それは何とも勿体無い気がするぞ、もしも味方に出来ればかなりの戦力になって
くれそうな気がするのだが…」
「…文句あるの?(ジロリ)」
「Noooooッ!Noshingッ!(フルフルフルフル)」

ホテル地下1階駐車場にて七瀬留美と九品仏大志は、離れた所からその後頭部より
火花と煙を散らして棒立ちしているNMX−07SE・ナナセを見やりながら会話
していた…ちなみにナナセの方だが、大志にとどめを刺す寸前に折れて飛んで来た
七瀬の精神注入棒の上半分を後頭部に受けて以降、その動きを止めていた。

…余談であるが中崎の方はといえば、幸いにもヘッドギアがその頭蓋骨の代わりに
なったくれた様ではあるが、マスターモールドのポーズで路面に突っ伏したまま、
ピクリとも動く気配はない。

と、

「コマンド、ヘンコウナノヨ、アタシッ!!」
短く、ひとこと。何を意味するか解らない。だが不吉な予感を漂わせ、ナナセは
静かに宣言した。七瀬と大志の、目の前で。

「……くっ!」
恐怖に屈することなく、七瀬は両足を広げ重心を下げる。横から振り上げたつま先を
踵落しへと変化させて振り下ろす。叩きつけるように振り下ろされた、必殺の一撃。

しかし、それをかわすようにナナセは瞬時に路面に突っ伏し声高に叫んだ、
「アアッ、アタマヲイタメタジャナイノッ!ドウシテクレンノヨッ?」

「「!?」」
七瀬と大志がその反応と台詞の変化に戸惑っている隙に、ナナセは背中に物干し竿を
背負うと、突っ伏したままの姿勢で跳躍して二人を飛び越え、四つ足走行にて北側の
階段をあっという間に駆け上って行った。


…もう一つ余談ではあるがこのゲームのルール上、参加者の“装備”としての条件を
満たす為に、ナナセに搭載・使用されている人工知能は最低ランクのものであった。
そして、その人工知能に組み込まれている単調なる思考回路の内一つに、このような
行動パターンが存在していた…それは、ナナセは―――命令なき場合は20階G.N
コントロールルームに最も近付いて来ているプレイヤー及びクローンをより優先して
攻撃を行うというものであった。

…更に余談をもう一つ、ナナセにもバトロドロイド他、ゲーム用のガードロボット達
と同様に被破壊判定用の“アキレス腱”が2箇所、設定設置がなされている…それが
後頭部ではない事がまずは確認されたのであるが…。


「おっ、追い掛けるわよっ、アンタも付いて来て手伝いなさいっ!」
「Y…Ye―s,取り敢えずは借りを返す事に最善を尽くそうぞ…」

227パラレル・ロワイアルその171:2004/02/28(土) 18:02
(遠野美凪・みちる・ぽち睡眠中)
「わははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははははははははははははははは」

…七瀬留美がホテルへと出撃し長森瑞佳が入浴に行った後も、折原浩平はひとり
隠し露天風呂のラウンジにて、中継モニターを見て笑い転げ続けていた。

「わははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははははははははははははははは」

ゴキッ…ガクッ
「…は?」
浩平の体に異変が起こったのはその時であった。

「はが?(な、なんだ?…顎が…閉まらないぞ?)」
「はがが〜〜〜??(閉まらないぞっつーか、俺…顎の閉め方、忘れたのか??)」
「はぐあ…?(も…もしかして、これって…?)」

浩平は現在状況を確認する為、近くにあった鏡を覗いた…そこには、顔の下半分が
チャイコフスキーのくるみ割り人形の如くパックリ口と化した、自分のマヌケ顔が
写っていた。

「はががががががががががががががががががががががががががががががががががが
ががががががががががががががががががががががががががががががががががががが
がががががががががががががががががががががががががががががががががががが」

…横隔膜は人一倍頑丈らしい浩平は、今度は自家発電でひとしきり笑い転げた後、
止まらなくなった涎を啜り閉じなくなった顎に手をあてがいながら、現在状況への
対処の仕方を考えた。

『…そーいえば、昨日から今まで俺って七瀬の装備で笑ったり、七瀬に棒で殴られ
まくって悲鳴を連発したり、遊園地で絶叫マシンに計1万8千円分も乗せられ続け
たり…顎が過労気味だったのかなあ?…それよりもこの外れた顎、スタッフの医者
に閉じて貰ったら失格なんだろうなあ、やっぱり…というかっ、こんなマヌケ顔で
マヌケな理由で脱落になったなんて事が他人様に知られてみろ…いや、それ以前に
そもそも、今の顔を肉眼やカメラで見られる訳には絶対に行かないだろっ!』

まず浩平はラウンジに備え付けの手ぬぐいを持って来ると、顎の下から頭の上へと
ぐるりと巻いて縛り付けた。そして更に、ミニタオルで顔の下半分を覆面状に縛り
付けた…顎を応急閉鎖し、みっともない顔下半分を隠し、涎を抑え吸い取らせる為
である。

『さて、次はどーする?…このまま涎垂れ流しで、瑞佳の入浴姿を覗きに行ったり
でもしたら変態以外の何者でもないし、さりとてこのまま寝ちまう訳にも行くまい
…そうだっ!確かに、スタッフの医者に診て貰ったら失格になっちまうだろうけど
ライバルの医者に診て貰うのなら問題は無い筈だっ!…え〜と確か現在も生き残り
のメンバーの中で、医師の能力を持っていそうなのは……………………いたっ、
 ①06番・石原麗子 ②52番・HMX−13セリオ ③88番・観月マナ
…今は深夜だが…いやまてよ、却って居場所を各仮眠室・ホテルに絞れそうだな…
よしっ、何としても一晩掛かりで一巡りなり何なりして、三人の内の誰かを何とか
見つけ出し、この顎を何とかして貰わん事にはっ!…かつて永遠へ行った時の如く
黙って消え去る俺をどうか、許してくれ瑞佳…今のこの顔では、とても別れの挨拶
なんか出来たものじゃあないし、事情や理由なんかも説明出来たもんじゃないっ!
…七瀬、もしもお前が無事にホテルから戻って来られたら…そして、俺が戻っては
こられなかったら…非常に勝手で済まない頼みだが、瑞佳の事…お前に頼んだぞ』


…浩平は右手に銀玉鉄砲、左手に地下鉄道フリーチケットを握り締めると、覆面の
下から涎のシミを広げつつ、夜道をもと来た博物館方面目指し一目散に駆け出して
行った。

228パラレル・ロワイアルその172:2004/02/28(土) 19:16
ギリギリギリギリ…
ホテル1階・エレベーターホールの戦闘は佳境を迎えようとしていた。

人間離れした怪力で一斗缶を振るう霧島佳乃(の中の人)に、覆面ベイダーは圧倒
されていた。事実、ソフビ製のライトセイバーが未だに破壊されていないのは、
ベイダーの技量による負荷・ダメージの巧みな分散の結果こそであった。しかし
現在、佳乃(の中の人)の振り下ろした一斗缶を、追い詰められたベイダーが片膝
付いてライトセイバーで受ける形となっており、
「……ふふ……」
『入口デ光岡サント別レタノハ、間違イダッタノデショウカ…?』
上と下の位置差、力の差、得物の耐久力とどの面からも、ベイダーの分の悪さは
一目瞭然の状態であった。

「……し……んで…」
更に力を込める佳乃(の中の人)……勢いが一気にベイダーのライトセイバーへと
かかり、大きくしなる…が、ベイダーは第三の得物を使うこの瞬間を待っていた。

シュッ!
「…!?」
いきなりベイダーはライトセイバーを一斗缶から離した。急に力の均衡が失われ、
バランスを崩す佳乃(の中の人)。そこへ、打撃としての加速が加わる前の一斗缶に
向かって、ベイダーが首の筋肉と片膝のバネを込めた、ヘルメットによる頭突きを
繰り出した…遠心力で脱げるような姿勢をとって。

ガンッ!!ガラガラガラガラ……
ヘルメットと一斗缶が激しくぶつかり合い、エレベーターホールの床を音を立てて
転がって行った。

佳乃(の中の人)とベイダーもともに勢い余り、重なり合って転倒した。そして、
ベイダーが思わず(外の)佳乃へのダメージを案じ、佳乃をしっかりと抱きしめて
そのまま、自分の背中から倒れ込んだ時…戦いは終わっていた。




「………………」
「大丈夫ですか、ベイダーさん?…それに、佳乃は…?」
「助かりましたよ、シュンさん…もし、あの体勢のまま最後まで倒れ込んでいたら
…ヘルメットがありませんですし、確実に後頭部を打って失格になる所でした…」

『ビーッ、納涼特別警備兵・アナザー霧島佳乃、棄権により辞職しました』

「あ…おばさん…それに、シュンくん…ごめんなさい……ごめんね……」
「…じゃあ、もう私は御役御免ね…今度は、シュンさんが抱っこしてあげなさい」
「べ、ベイダーさん…」
「…恥ずかしいです、コスプレママ1号さん」




その時、ホールのエレベーターの一つがチーンと音を立てて開き、中から霧島聖と
巳間良祐が、担架を押して現れ出て来た。

「あははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははははははははははははははは」
「しっ、しっかりしろ晴香っ、もうすぐ医務室だっ」

続いて、地下1階への階段を四つん這い走行で駆け上がり、ホールへと走り込んで
開いたエレベーターへと入れ違いに飛び乗ったのは…

「ウエヘイクノヨッ、ナナセナノヨ、アタシッ!」
ポチッ
“上へ参ります…ドアが閉まります…”

「あははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
(バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタ)」
「はっ!?…晴香っ!?晴香〜〜〜っ!?」
「いかんっ!発作元をまともに見てしまって、笑いが激しくなってきたぞ!」

更に続いて…

「ちょっと、アンタ達この辺で…って、ゲッ、巳間兄妹じゃないのよッ!?」
「あははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
(ピクピクピクピクピクピクピクピクピクピクピクピクピクピクピクピクピクピク)」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!わっ、笑うなっ!!晴香あっ!!(怒)」
「七瀬さん止めてくれっ、晴香がっ晴香が死んでしまうっ!」
「駄目だっ、もう間に合わないっ…ここで今直ぐ、鎮静剤の投与から始めるぞっ!」
「「「………………」」」
「…ヤッパリ、無事二貴方達ヲ部屋ヘト送リ届ケルマデハ、モウ暫ク一緒ニイサセテ
頂ク事ニシマショウ…」

TO BE CONTINUED?!

229パラレル・ロワイアルその173:2004/03/06(土) 13:38
「ふむ…予想出来たとはいえ、かなりの苦戦をしておる様だな」
ホテル19階の警備兵詰所内にあるホテル内監視施設にて、次々とモニターに
映し出されて行く敗者復活戦の模様を眺め続けているゲスト警備兵総司令官・
犬飼俊伐は、ふむふむといった感じで頷いて見せた。

「小出さん…現在、ホテル内・ホテル外でまだ生き残っている全ての警備兵を
リストアップしてみてくれ…それと、相田さんには現在最も20階へ近付いて
来ているプレイヤー及びクローンが誰なのか、何人で何処まで来ているのかを
割り出してみてくれ」
「「了解しました」」
監視オペレーターの小出由美子と相田響子がそれぞれの仕事を調べ上げた。

「今現在まで生き残りの全警備兵の皆さんは、まずホテル内の方からですが…
私達三名の他はシンディ宮内さんと阿部貴之さん、それと石橋先生に覆面ゼロ
さん、それに元警備兵の澤田真紀子さんの五名だけです…次にホテル外の方は
靴屋の大山さんとフリマ屋にーちゃんがもう間もなくヘリコプターで31階の
ヘリポートに到着する所で、後は美術館の因幡姉妹と特別警戒区域の坂神蝉丸
【覆】さんですが…こちらには動く気配は全く見えません」

「今現在最も20階へ近付いているプレイヤーですが…団体で来ております!
7番・猪名川由宇さん、11番・大庭詠美さん、31番・シークレットさん、
41番・覆面ライダーさん、84番・御影すばるさん、86番・シークレット
さん、89番・御堂さんの計七名で、現在は15階にて休憩中です…続いて、
元36番・来栖川綾香さんが現在12階から13階へ移動中で、それを追うか
の様に元53番・千堂和樹さんと81番・松原葵さんが急ピッチで11階から
12階へと移動を行っております…あっ…たった今、エレベーターが1階より
使用されました…乗っておりますのは…!?な…ナンデスカ、アレハッ!?」

モニターの中には、後頭部からスパークしているNMX−07SE・ナナセの
姿が映し出されていた。




ピロロロロ…カチャッ
「はいっ、こちらホテル管制室です…はいっ、少々お待ち下さい…犬飼先生、
フリマ屋さんよりお電話です」

「犬飼だ」
「フリマ屋です、たった今ホテルへ到着しました、大山さんも一緒です…では
これより、ランディングに入ります…」
「うむ、ヘリから降りたら30階・ロイヤルスイートフロアにて待機しておる
専用ガードロボットを伴って、直に18階へ急行し防衛ラインを構築してくれ
…こちらからも防火隔壁を一部操作して、ライン構築に協力を行う」

「了解しました、犬飼先せ…ええええええええええええええええっっ!?!?
(ドガッ!!…バキバキボキボキ…グシャンッ!!…プチッ…ツ―――――)」
「!?…おい、応答しろ…フリマ屋!?大山さん!?…どうした!?一体何が
あったんだ!?…フリマ屋っ!?大山さんっ!?」

230パラレル・ロワイアルその174:2004/03/06(土) 13:39
…このゲームにて使用されている520Nローターヘリは、騒音減少のために
テイルローターの部分が尾翼となっている…そして今ホテル31階ヘリポート
にランディング寸前であった520Nは、空より降って来た合計200キロを
超えるであろう総重量の落下物に、いきなり尾翼に圧し掛かられてバランスを
崩し、機体が尻餅をつく姿勢での不測の胴体着陸を敢行させられていた…。

『ビーッ、空港警備兵・フリマ屋にーちゃん、アタック・クラッシュにて
殉職しました』
『ビーッ、空港警備兵・靴屋の大山さん、アタック・クラッシュにて
殉職しました』




「…どうだ、香里?概ね、計算通りの位置・タイミングであっただろう?」
パラグライダーを切り離し、片腕だけで美坂香里を抱き抱えていた立川雄蔵が
各坐した520Nの尾翼からふわりとヘリポートへと降り立ち、香里をそっと
抱え下ろした。

「…計算通りになってくれなかったら、ヘリのローターにブッ飛ばされていた
様な気がするのは…私だけなのかしら?」
香里は、520Nのコクピットで目を回して伸びているフリマ屋と大山さんに
同情の眼差しを向けつつ、雄蔵にポカリと突っ込みを入れた。

「で、これからどうするの?…郁美ちゃんや栞の所へ向かうの?」
見上げる様に尋ねて来る香里に、雄蔵は携帯片手に首を振って答えた。

「…いや、もし起きていてこの状況を観ていれば、彼女達の方からメールなり
何なりのアクションがある筈だ…さもなくば、起こすのは可哀想だから…」
「可哀想だから?」

「…復活希望者に代わって俺が20階を制圧し、手っ取り早く敗者復活戦を
終わらせる…生き残りの復活希望者は全員復活出来、代戦士依頼人の安全も
保たれる…一石二鳥という訳だ」

「…だから『俺達』でしょ?」
腰に支給装備のフェンシングサーベルを下げ、右手に高槻05→光岡悟経由の
FA−MAS(エアガン)を持った香里が再び、雄蔵にポカリと突っ込みを入れた。

231パラレル・ロワイアルその175:2004/03/06(土) 14:59
「「「STO〜〜P!!」」」
「!…貴方達、何故私の邪魔をするの…?」
1階・エレベーターホールにて、柏木千鶴は翳し掛けたネコパンチグローブを
一旦引き、獲物の前に立ち塞がる三人に向かって、焦れた様な声で尋ねた。

その三人とは、ライトセイバーを構えた覆面ベイダーと、丸腰ではあるものの
思わせぶりに懐に掌を突っ込んだ九品仏大志、そして霧島佳乃(の中の人)から
拝領した一斗缶を引っ提げた七瀬留美の事であり、獲物というのはその三人の
後ろで氷上シュンに庇う様に(結局のトコ)だっこされている、警備兵の制服を
着た少女こと霧島佳乃の事である。

「あの…千鶴さんって、ひょっとしてマジで踊らされちゃっていたんですか?
あの放送に…」
七瀬がキョトンとした顔で千鶴へと尋ね返す。

「踊らされちゃっていたって…それって、どういう意味なの…?」
七瀬の言葉に思わず、ギョッとなる千鶴。

「一寸冷静ニ考エレバ、アノ放送ガオカシイ事ニスグ気付カレル筈ダト思ッテ
オリマシタガ…何故、ド根性ハアッテモ根性ハ欠ケテオラレル耕一サンダケガ
御参戦ナサレテ、千鶴サント想イヲ同ジクサレテイル筈ノ、梓サンヤ楓サンガ
御参戦ナサラナイノデショウカト…」
「!…」

ベイダーの指摘に千鶴はやっとその点に気が付いた、確かにおかしい…しかし
、千鶴はそれでも反論した。
「…確かに、今更ですがあの放送におかしい点があった事は認めます…ですが
仮に事前に気が付いていたとしましても…私はきっと、ここへ来ておりました
…耕一さんとまた、一緒にいられる…その一縷の望みが…可能性が存在します
限りは…ですから私は、その為ならば…その可能性を阻む存在は…例え、誰で
あろうとも、何人いようとも…」
語りながら再び、ファイティングポーズを取り始める千鶴。



「「「………」」」
しかし三人はとことん冷静に、ガラス張りの内壁越しであるホテル中庭に見て
取れる光景を揃って指差した。

「?…!!!ッ」
千鶴は思わず指差された方へとその視線を向けて…愕然となった。そこには、
入浴後、浴衣姿で線香花火を楽しんでいる柏木梓・楓そして耕一の姿があった
…どういう視点・角度から今の耕一を見ても、その姿は敗者復活戦に勤しんで
いる姿に見える筈もなく…
「耕一さん、梓…楓…どうして…どうして…みんな…私を置いて、逝ってしまったの…」



「う〜ん、まさか私以外にも、高槻の言葉を信じようって人がいらっしゃったとは…」
「千鶴サンノ場合ハ正確ニハ『信ジル以外ニ道ハナイ』トイウ状況ニ追イ込マ
レテシマッタトイウノガ正解ナ気ガ致シマス…ソウ、本作デ初メテ、げーむニ
乗ッテシマワレタ時ノ様ニ…」
「いや、アレに関しては吾輩が仕入れた一説によるとなのだが…高倉さんが、
たまたま『若く』て『巨乳』で『くびれ胴』でしかも『善人』だったからこそ
いきなり殺されたのだという話も…」



「……九品仏さん、貴方を頃します……」
「Nooooooooooooooッ!」
『ビーッ、元34番・九品仏大志、有効打直撃にて復活失敗しました』



「…んふふふふ。そうよね〜。ゲーム上での演出だもん、仕方ないわよね〜。
…でも、折角ホテルまで来てしまった事ですし…わたしの心の平穏のために、
本作で立てたっきりの誓いの方を…今からでも遂行しに行く事に致しましょう
…だって、誓ってしまったんですもの…うふっ、」



『『『『顔は笑っている、にこやかだ。でも圧力が違う……』』』』
七瀬・ベイダーが止める間もなく変な形になってホールに転がっている大志と、
揚がり切った後一気に沈み切ったテンションを再び、怪し気に盛り返して始めた
千鶴を交互に見ながら、七瀬がベイダーにそっと口を開く、
「誓いの遂行って、千鶴さん…?」
「…手ブラデ仮眠室ニ戻ルノモ癪デスノデ、取リ敢エズハ高槻サンニ落トシ前ヲ
付ケテ差シ上ゲマショウ…ト、イウ御積リナノデハ…?」

元34番・九品仏大志 復活失敗…残り4人

232パラレル・ロワイアルその176:2004/03/06(土) 16:11
「何という事だ、まさか上からやって来る連中がいようとは…」
ホテル19階・警備兵詰所内のホテル内監視施設にて、31階のモニターが
映し出している光景を目の当たりにした犬飼俊伐は思わず、頭を抱えた。

支給装備であるジュラルミンシールドを軽々と、そして用心深く左腕一本で
構えながら、立川雄蔵は現在28階から27階へと通じる南の階段を背後に
美坂香里を伴いながら、のっしのっしと降り続けていた。



「ガ…ガードロボットはどうした?それに、防火隔壁は…?」
思わず慌てる犬飼、

「30階及び29階のロイヤルスイートフロア専用の重装甲ガードロボット
『ビッグガディム』及び『エンペラーリーフ』は共に56番との格闘戦の末
、背負い一本投げと上手出し投げでそれぞれ大破させられております…更に
防火隔壁は、塞ぐ端から56番に素手でこじ開けられている模様です…」
30・29階用のモニターの映し出す光景に目を丸くして答える相田響子、

「何だと!?…一体誰だ、こみパ組に能力者はいないだなんて大ウソついた
奴はっ!?…こうなったら止むを得ない、現在20階に待機中の石橋先生に
直ちに、56番の代戦士依頼人を『暗殺』してくるように指令を出すんだ」

犬飼の指示に驚く小出由美子、
「せ…先生、その様な事をして…もし、48番さんに知られちゃったら…」

「…いや、今となっては何処にいるのか分からない48番よりも降りて来る
56番の方が遥かに脅威だ」
「り、了解しました…ピッピッピッ…石橋先生へ本部より指令です…56番
代戦士の依頼人である立川郁美ちゃんの『暗殺』を行って欲しいとの事です
…彼女の部屋は22階・第1VIPフロア最下層の2222号室です…なお
同室の宿泊者は、54番依頼人・高倉みどりさんと元46番依頼人・椎名繭
さんの二名です…それでは、成功をお祈りします」



「先生、20階最接近組が分割再編成して北階段より移動を再開しました、
現在先鋒で17階から18階へと移動中なのは84番と86番と89番で、
中軍で16階から17階へと移動中なのは11番と41番、後詰で7番と
31番が15階から16階へと移動中です」

響子からの続いての知らせに犬飼はすぐさまに指令を返した、
「よし…先鋒・中軍・後詰がそれぞれ、18・17・16階へ到達した瞬間
に使用している北階段と東・西の階段の各防火隔壁を一斉に閉鎖してくれ、
連中を各階に分断するんだ…続いて、17階の南階段とエレベーターホール
を阿部に、16階の南階段とエレベーターホールを『武田』にそれぞれ徹底
防戦させるんだ…更に、18階に『ナナセ』が到着し次第、全エレベーター
を『強制各駅停車モード』に切り替えるのだ…以上全てが完了したら最後に
19階及び20階の最終防衛システムの準備を開始してくれ、それと…君達
の個々の戦闘準備の方も、今の内にそろそろ始めておいてくれ」
「「分かりました、先生」」

TO BE CONTINUED?!

233パラレル・ロワイアルその177:2004/03/12(金) 16:19
時を少しだけ遡って―――

「「『ご馳走様でした(なの)っ♪』」」
ホテル17階・回転寿司屋“風車羽根”のカウンターに並ぶ三人の少女こと
川名みさき・美坂栞・上月澪は、対面に立っている臨時調理人こと納涼特別
警備兵・阿部貴之に向かって揃って手を合わせ、ぺこりとお辞儀をしてから
一斉にお礼を述べていた。

「お粗末様でした…」
そう返した貴之の顔は、達成感による満足とそして…栞の前のカウンターに
積み上げられたアイスカップの白い巨塔、更にはみさきの前のカウンターに
そびえ立つ小皿のツインタワーに対する尋常ならざる驚愕とが入り混じった
複雑なものであった…まあ、ともあれこれにて一件落着…名残惜しいものの
無事彼女達を送り返したら、本来の任務に戻る事に致しますか。

『御満足頂けました所で早速、部屋まで御送り致しますので…』そう三人に
言おうとした矢先…

「素敵な前菜だったよ、貴之くん…次は、何処へ連れてってくれるの?」
小皿のツインタワーのその中身を消し去った少女が、わくわく笑顔で貴之に
尋ねて来た…。




「と、いう訳で紆余曲折を経て、自分達は今も一緒に行動している―――」
「貴之く〜ん、誰に説明してるの?…それに、話を端折り過ぎてるよ〜」
…満腹お眠むの栞と澪を部屋へと送り届けた後、貴之とみさきは再び17階
・グルメフロアに軒を連ねる内の一軒“鍵っ子壱番屋来栖川アイランド店”
のカウンターに向かい合っていた…現在、貴之はカツカレーのルー及び具の
トンカツを揚げるためのラードを作成中である。

「少しばかり時間が掛かってしまいそうですので、その間これでもお飲みに
なって待ってて下さい」
「クピッ…あっ、ビックリ…とっても美味しいよ、このアイスコーヒー♪…
クピックピッ…♪」
「でしょう?この店のアイスコーヒーは、独自のブレンドをした豆の渋皮を
徹底的に取り除いてから、じっくり時間を掛けて水出ししているんですよ」
「クピッ…えへへ、貴之くんちゃんとチェック入れててくれてたんだね♪」
「ええ、そりゃもう…ゲフンゲフン、いえ、親友からの伝聞なのですが…」
「むーむー、そこで嘘ついちゃだめなんだよっ」
「んー、何とか、許して下さいな♪」
「むー、いいよ、許してあげるよ♪」

と、
カランッ…
念の為、鍵を掛けていた筈であった店の入り口の呼び鈴が鳴り、誰かが店の
中へと足音を忍ばせて侵入して来た。

「!…どなたですか?」
貴之は素早くギターのピックのように吸盤手裏剣を摘み上げると、侵入者の
方へと視線を向けた。

「あっ、川名先輩」
「その声…住井君?」
「お知り合いの方ですか、みさきさん?」
「うんっ、学校の後輩さんだよ」
「元・51番の住井護です…どうしても欲しい物がこの店にあったもので、
敢えて不法侵入させて貰いました…」
「納涼特別警備兵の阿部貴之です…住井さん、特性水出しコーヒーでしたら
まだ在庫に余裕がありますのでどうぞ、持って行って構いませんよ」

「え!?…アンタ、どうして俺の欲しい物がコーヒーだって解ったんだ!?」
「「わからいでか(だよ)っ」」

―――阿部貴之に19階本部からの17階防戦指令が下ったのは、それから
しばらく後の事である…。

234パラレル・ロワイアルその178:2004/03/12(金) 17:56
「中にはいると誰もいない♪伝言板にただひとこと書いてある〜♪
神田さんから金太君へのことづけで「 金太 待つ 神田 」と書いてある〜♪
金太・待つ・神田♪金太待つ神田♪キンタマツカンダ〜♪
御存じ金太の大冒険〜♪これから先はどうなるか
またの機会をごひいきに〜♪それでは皆さんさようなら〜♪
……やたっ、志保ちゃん90点〜っ!!…じゃあ次、あさひちゃんの番よおっ♪」
「(ううっ、そ…そんな歌、歌えませんっ…鈴香さんっ、どうか許して下さいっ)
……わ、わたしの負けでいいですっ…(泣)」
「やたっ、依頼人打倒で志保ちゃん三人目よおっ♪」
「卑怯ね…」
「卑怯です…」
「何よおっ、いきなり襲い掛かって銃乱射して頃すのに比べれば、はるかに
正々堂々と戦ってるじゃないのよおっ、何てったって声優アイドルを相手に
カラオケ勝負を挑んで戦っているのよおっ、卑怯だなんて心外だわっ♪」




ホテル14階・第2VIPフロア中層の1432号室、霧島佳乃(の中の人)
から逃げ延びて来た長岡志保は、代戦士の依頼人狩りでスコアを伸ばそうと
緒方理奈・森川由綺・そして標的である桜井あさひの宿泊している部屋へと
侵入、持参装備である採点機能付きハンディカラオケにてあさひにカラオケ
勝負を挑んだのである…そして、カラオケ勝負ならと受けて立ったあさひが
カラオケの選択曲目に気付いた時にはもう後の祭り。


―――その頃、ホテル17階―――
『ビーッ、41番・覆面ライダー、リンク・デッドにより失格しました』

「そ、そんな…あさひさん、頃されちゃったの…?…詠美さん、私はここまでと
なってしまいました…でも、詠美さんは何とか今の苦境を乗り越えて和樹さんと
一緒にこのホテルから脱出して下さい、装備はここへ置いておきますから…」
「ふみゅうううっ、ちょっとおお…突然隔壁に分断されて困っちゃってんのに、
いきなり私、一人ぽっちなのおおっ!?」


―――再び、ホテル14階・1432号室―――
「志保ちゃん、ナイス知能プレイっ!…でも、やっぱり一寸、卑怯っぽい気が…」
志保と行動を共にしている芳賀玲子も、少々ジト目気味の視線を志保に向けていた。

「うっわ〜っ、玲子までアタシの事、卑怯だってゆ〜のおっ?…アタシが卑怯に
振る舞うのはまだまだ、これからが本番だってゆ〜のに…」
「ええっ?志保お…それって、どういう意味なのおっ?」
「実はねえ〜玲子…昨日の朝、藍原瑞穂さんと太田香奈子さんを撃ち頃ちゃった
のって…実はアタシなのよねえ〜♪」
「えっ!?じゃっ、じゃあ…」

シュパパン!シュパパン!
ビビッシュ!ビビッシュ!

『ビーッ、元70番・芳賀玲子、有効弾直撃にて復活失敗しました』
『ビーッ、元63番・長岡志保、スコアノルマ達成しました…それでは引き続き、
ゲームをお楽しみ下さい』




「こーゆーのを、ホントの卑怯ってゆーのよ、ねえ…悲しいけど、これって戦争なのよね♪」
『『『もう、卑怯過ぎて何も言えない…』』』
「〜〜っもう私、アニメ版でやってた志保のコスプレ、二度とやんないからっ!!(噴)」

元63番・長岡志保 復活成功 元70番・芳賀玲子 復活失敗…残り2人
【41番・覆面ライダー 脱落 63番・長岡志保 復活参加…残り46人(変わらず)】

TO BE CONTINUED?!

235パラレル・ロワイアルその179:2004/03/13(土) 16:30
「綾香先輩…ただ先輩との斗いを望み、その為だけにここまで参りました」
「嬉しいわ、葵…貴方が4人目なら負けても悔いはないわ…負ける積もりは
ないけれどね♪」

ホテル15階・第2VIPフロア上層のロビーでは千堂和樹を傍観者とした
来栖川綾香VS松原葵による闘いのための戦いが始まっていた。

しかし早くも…というか当然というべきなのか勝負そのものは綾香が圧倒的
優勢の元で展開された…元の技量・経験もさる事ながら、昼の沢渡真琴との
ストリートファイトにおける屈辱的敗北と恥をかなぐり捨てての復活戦参加
へ懸ける執念が綾香により慎重な闘いを行わせていた。一つ一つのガードを
確実に行い、隙の出来てしまう大技を敢えて我慢して、小技の連撃を葵へと
見舞い続ける…焦りと焦らしを掛け葵からの捨て身の大技を誘う形である。

案の定ともいうべきか、一方の葵の方は防具そしてガードを掠め続けている
パワーを殺した分よりスピーディーかつトリッキーな綾香の連撃に半ば翻弄
され続けており、相討ち技と言う名の捨て身のバクチへの誘惑と戦いながら
反撃の糸口を探し続けていた。

そして、その糸口は偶然…思いも掛けない所からやって来た。

葵が額に締めていた千人針がいきなりずり落ち、葵の視界をまともに塞いで
しまったのである。

「な…!?」
「!…」

より慎重な戦い方を続けていた綾香もこれには流石にきゅぴーん!と来た、
この機に一気にけりを着けるべく思い切りよく攻めの姿勢で踏み込んで来た
…誘いによるものではなくマジで出来てしまった大きな隙故の、綾香がつい
見せてしまった鉄壁の構えからの綻びであった。

しかし、葵は冷静にその先を読んでいた…元々、バレないように隙を見せて
誘い込む手をずっと考えていたからである。自分に偶然に出来た大きな隙を
次の瞬間には其の儘、誘いの手へと見事に転じていたのであった。

…葵は視界が塞がってしまうと同時に、次には身を引くような形で後ろへと
倒れ込んだ、そしてそのままくるりと床の上を一回転して両脚を床へと着け
直し、その姿勢から屈まった脚をバネとして両側頭部をガードした構えから
の飛び頭突きを、そこへ踏み込んで来るとバクチ読みした綾香へと目隠しで
繰り出して来たのである。

「…!…」

前のめりの攻撃態勢で強気に踏み込んで来た綾香はそれでもとっさに何とか
横へと避けようとした…しかし、葵が飛び頭突きを繰り出すために屈めた脚
を思い切り床に踏ん張った際、思い切りがよ過ぎたためなのか…床に敷かれ
ていた廊下・通路用の細長のカーペットが摩擦力から開放されて引っ張られ
、綾香の軸足からバランスを見事に奪い去り、そのために綾香の回避行動が
ほんの一瞬だけ遅れてしまった。

…綾香は頭突きこそは喰らう事を避けられたが、側頭部をガードするために
繰り出された腕と、腕を支えるために強張らせていた肩口による体当たりを
カウンターで受ける形となりたまらず床に尻餅を着かされた。そして、その
まま葵は、綾香と接触しなかった方の手で素早く千人針を剥がし視界を回復
させながら、尻餅を着いてしまった綾香に体当たりの余った勢いそのままに
圧し掛かり、見事マウントポジションを取る事に成功した!

236パラレル・ロワイアルその180:2004/03/13(土) 16:41
「………」
こうなってしまっては綾香ももう、観念するより他はない…というのも、
これは格闘技戦ではあるものの、最初の一撃を与えた時点で勝者・敗者が
決まってしまうルールなのである…流石の綾香とはいえ、格闘技の心得が
ある者からバッチリと決められたマウントポジションから無傷で脱出する
術も道理も持ち合わせてはいない…綾香の倒された所からすぐ近くの床に
は、試合前に不要と見做してうっちゃっておいたヌンチャクが転がっては
いたものの、これ以上の恥の上塗りは流石に出来る訳がない。

「?…綾香先輩?」
「…強くなったわね、葵…『最初の一撃を与えた者が勝者』である以上、
この状態では勝負は決したも同然ね…悔しいけど葵、この勝負は貴方の…」

「せ…先輩!?…じゃ、じゃあ私…先輩に、先輩に…!?」
葵の顔にみるみる、歓喜の色が浮かび上がってくる…そして思わず、この
闘いを見守っていてくれたであろう和樹の方へとその顔を向ける、
「和樹さんっ、私っ、私…」




…ところが、その瞬間葵の目に映った和樹は…葵の真後ろ―――葵と綾香が
闘っていた場所を挟んで正反対の位置―――を凝視してから、葵に向かって
一言、「伏せろおおっっ!!」と叫ぶや、一目散にロビーからそのまま南側
階段目指して通路より逃げ去って行ったのである…。

「え?…和樹さん?…それって一体、どうして…?」
綾香への勝利への喜びが大き過ぎたのか…葵はその一瞬、闘いのなかで戦い
を忘れてしまっていた…。

シパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパッ!
ビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシッ!

『ビーッ、81番・松原葵、有効弾直撃にて失格しました』




「逃げられてしまいましたか…しかし和樹さん、貴方の還るべき所は今や
一つしかないのですよ…」
和樹の凝視していた北側の廊下より颯爽とロビーへ足を踏み入れて、南側の
通路へと獲物を狩る鷹か狼の如き眼光を飛ばしつつ、シュマイザーを持った
死神が現れた。

【81番・松原葵 脱落…残り45人】

237パラレル・ロワイアルその181:2004/03/13(土) 17:44
「そんな…私…あと一歩で、あと一歩で綾香先輩に…なのに、なのに…」
無念の涙を流しながら呟き続ける葵を上半身を起こして抱き締めながら、
綾香はロビーに現れた、江藤結花の(恐らくは)形見を持つ女性の方へと
激しい敵意の視線を向けた。

「敗者復活戦の主催者・来栖川綾香さんだったかしら…?」
南側通路の方を向いたまま瞳の動きだけで視線を合わせて、綾香の眼光を
平然と受け止めながら、死神こと澤田真紀子編集長は淡々と口を開いた。
「『貴方は勝負を汚してくれた。その罪の重さ、身を以って知らせてあげるわ!』
とでも、言いたそうな感じね…でも、私にとっての貴方も和樹さんを敗者復活戦へ
と走らせたいわば『ビジネススケジュールを狂わせてくれた罪深き存在』なのよ。
まあ、それはおいといて…貴方は結果オーライで首が繋がり、私は更なる予想外の
事象にこれ以上の不利益を被らないで済む…という事でこの状況を解決しては頂け
ませんかしら…?」




果して真紀子が話している間…綾香は小声で葵に自分の上から退く様に指示し、
先程までは手を伸ばす事を恥としたヌンチャクをこっそり手元まで引き寄せた。

「…見えておりますよ、仕方ありませんね」
真紀子のその言葉がゴング代わりとなった。

「うおおおおおおおおお!」
咆哮と共にヌンチャクが殻竿の様に大きく振り回されて来た。
それと同時に綾香が低い体勢からの急突進を繰り出して来た。

―――この瞬間を待っておりました!見えます。今の綾香さんならば見えます。
冷静さを失い、鉄壁の構えを解いた心の隙間。遠心力の利いた得物片手の強引な
急突進、絶対の隙が全く晒し出されております!真紀子は対応を一瞬で割出した。
死角に構えられた逆手が背中越しにビックリナイフを掴む!もちろん同時に高速で
綾香に接近している。この動きは、綾香の目には入っていない!

ぶぅんと言う風を切る轟音が、そのまま綾香のヌンチャクの威力だった。真紀子の
シュマイザーにぶち当たる凄まじい衝撃、流石に今回のでオシャカかもしれませんと
真紀子は黙考する。

……ですが、カウンターを阻むもの、何も無し。結論と同時に、真紀子はナイフを
振り下ろした。




『ビーッ、元36番・来栖川綾香、有効打直撃にて復活失敗しました』




……。
…………。
……………………。
アナウンスのしばし後、追跡者は追跡を再開しロビーを静寂が支配する。
それはひどく白々しい閑けさ。

元36番・来栖川綾香 復活失敗…残り1人

TO BE CONTINUED?!

238パラレル・ロワイアルその182:2004/03/19(金) 16:16
「ばっ、馬鹿な…22階には未だ侵入者は達していないと聞いた筈だ…!」
「ふっふっふっふ、若いの…ホテルを昇る術は何も、階段とエレベーター
だけだとは限らんぞ…」

ホテル22階・2222号室で得物を片手に相対するのは、56番代戦士の
依頼人である立川郁美の『暗殺』指令を受け侵入して来た警備兵・石橋先生
と、郁美と同じく2222号室に宿泊している54番・高倉みどりの代戦士
である高倉宗純…ちなみに、共に依頼人である郁美とみどりはパジャマ姿で
ベッドの陰から二人の戦いを傍観している。

「そうか、成る程…窓拭き用のゴンドラを利用して消防隊突入窓から入って
来たという訳か…しかし爺さん、まさかその手に持つ扇子で俺のゴムグルカ
とやり合おうって積もりじゃあ…」
「積もりも何も、これがワシの支給装備で当たりかどうかは兎も角としても
貴様如き若いのの一人や二人なら充分、得物として役に立つと思うておるぞ」

「言ってな!」
石橋が両手二本・二刀流にてゴム製のグルカナイフを構えて突進して来る、
対する宗純は両手二本の扇子をばばっと広げると、右手に持ってた方を石橋
目掛けて水平に投げ付けた。

「おっと!」
ヒュウウンッ!
石橋は身を屈め、飛んで来た扇子を頭上スレスレでかわす。
そして更に、

「やっぱりな!」
ヒュウウンッ!
石橋は再び身を屈め、ブーメランの如く戻って来た扇子を再び、
頭上スレスレでかわし切った。

「悪いが爺さん、男塾は全巻読んでいるんだよ、俺…とはいえ、流石に
その扇子、一往復半はしなかったようだな…」
間合いを詰めた石橋がゴムグルカを翳してゆっくりと立ち上がる。

「流石にそこまではのう…まあ、それに元々、一往復さえしてくれれば充分、
用は足りておる事だしのう」
戻って来た扇子を受け止めて、パタパタと扇いで見せる宗純。

「?…何を言っているのか分からないが、その余裕ももうそこまでだ爺さん、
覚悟してもらうぜ…ええっ!?」
いつの間にやら両足を釣り糸で一回り絡め取られた石橋は、宗純に向かって
一歩踏み出そうとした右足が前に出ず、立ち上がったままの姿勢から思わず
バランスを崩してしまった。

そこへずいと一気に石橋の懐まで踏み込んで行く宗純、

「くうっ!」
不安定なまま、反射的に両手のゴムグルカを繰り出す石橋、しかし踏ん張りが
不充分な体勢で繰り出されたゴムグルカは宗純の右の扇子に易々と受け流され
、逆に畳まれた左の扇子にて額をしたたかに打ち据えられ、尻餅をつく形で
あっさりと転倒した。

「ぎえっ!!」
「ふっふっふ、男塾のみならず、JOJOも全巻読んでおくべきだったぞ、若いの」

『ビーッ、深夜番警備兵・石橋先生、有効打直撃にて殉職しました』

239パラレル・ロワイアルその183:2004/03/19(金) 17:04
…チャッ、

石橋先生が侵入してから開け放たれたままであった2222号室の玄関に、
再び侵入者の気配がしたのは次の瞬間の事である。

「むっ、何奴じゃっ!?」
「敵の増援でス、注意して下さイ♪」
宗純の叫びに応じながら新手の刺客・シンディ宮内は、突入するなり得物の
M14ライフルを一斉射した。

パッシュシュ!パッシュシュ!
パンパンパパンパンパンッ…パラパラパラパラ…

宗純は素早く一足跳びで郁美とみどりの前に立ちはだかると、両手に持つ
扇子を広げて振り回し、放たれたBB弾を全て叩き落としていった。

と、
スカスカスカスカスカスカスカスカ…
「Oh!Jesus!」
「迂闊じゃな、お嬢ちゃん!」

シンディの構えていたM14の弾切れを機と見た宗純は、扇子を畳んで構え
直すや、一足跳びでシンディとの間合いを詰め一気に打ち掛かって行った。

『まだまダ…これハDadが使っていタ銃、それならバ必ずヤあの仕掛けガ
改造されテ…』
シンディは弾切れのM14を飛び掛って来る宗純に向け直すと、祈る気持ち
でそのトリガーを力一杯に引き絞った。

すると、
カキン!・バシュウウッ!
M14ライフルの銃口部に据え付けられていたM6ゴム銃剣が、スプリング圧
から開放されて射出されたのである。

ズンッ…!

扇子を畳まなければ払い落とせずとも受け止める事は出来たのかもしれない、
銃剣は不意を突かれた宗純の腹へと見事に命中した。

「な!?…ぬ、抜かったわ…」
「お…お父様っ!」

『ビーッ、54番・高倉宗純、有効打直撃にて失格しました』
『ビーッ、非番警備兵・シンディ宮内、スコアノルマ達成しました…貴方の参加
ナンバーは54番となります……それでは引き続き、ゲームをお楽しみ下さい』




「さてト…」
シンディは高倉父娘から視線を立川郁美へと向け直すと、最後の得物である
吸盤付きボウガンを取り出し、狙いを彼女へとゆっくりと定めていった。

「ええっ!?私っ、わた…し、またボウガンで頃されちゃうんですかっ!?」
「…でハ、ぽんぽんヲ狙いますのデどうゾ、ベッドへ横になっテ下さーイ!」
「ううっ、ごめんなさい……もう……むり……みたい……」
ぶてないバリアーもなんのそののシンディの処刑宣告に、涙目でベッドの上に
横になる郁美。

そこへ、

「郁美ちゃんっっ!?」
玄関から三人目の侵入者が駆け込んで来た。

【54番・高倉宗純 脱落→54番・シンディ宮内 新規参加…残り45人(変わらず)】

240パラレル・ロワイアルその184:2004/03/19(金) 18:12
「何者ですカ!?」

「味方の援軍よっ、それまで持ち堪えて頂戴っ!」
そう叫びつつ駆け込んで来たのは――――17階の回転寿司屋からの帰室直後
、隣室からの石橋先生と高倉宗純との戦いの喧騒を聞き付け、ガラスコップと
壁越しに立川郁美が狙われている事を知った妹・美坂栞からの緊急のメールを
受け取り、機動力に欠ける相棒・立川雄蔵を抜き去って一人、疾く速く駆けた
――――2222号室まで全力で駆け降りて辿り着いた85番・美坂香里であった。

「!」
香里はシンディが既にボウガンを郁美へと向けているのを見て取るなり、その
手に構えていたFA−MASを放り捨てて、腰のフェンシングサーベルの方を
抜き構えた。

…これには、エアマシンガンによる誤射や跳弾を懸念する意味もそれなりには
あったが、最大の理由はマシンガンVSボウガンの戦いとなった場合、脱落を
確信したシンディが、郁美を道連れに選び頃す可能性こそを香里が最も恐れた
からであった。

案の定、シンディはサーベル片手の香里を見て取るや、まず香里をボウガンで
仕留めそれから郁美を頃す作戦へと切り換えて来た…それならそれで構わない
、例え自分が頃されても雄蔵が来るまでの間の時間稼ぎにはなる…そう思いを
巡らしながら、香里はサーベル片手にシンディへと突進して行った。

「隣室ノ妹さんの思イ、無駄になりましたネ…」
シンディは真正面から突進して来る香里の胸へと冷静にボウガンの狙いを
付け直し、トリガーへと指を掛けた…それが彼女の命取りとなった。

それまで戦力外の標的だとみなし、香里を仕留める為に無造作に視線を外して
しまった郁美がベッドの上の枕をつかむや、シンディ目掛けて投げ付けたのである。

ぽふっ…

その一撃は有効打には程遠い、か弱いものではあったが、その瞬間に発射された
ボウガンの狙いを…ほんの僅かだけ狂わせた。

ヒュウウッ…
ポンッ…ビヨヨヨ〜ン…

…ズシュウッ!

「ま、まるデ…七瀬サン二人に踊らされタ…源三郎サンですネ…(ガクリ)」

『ビーッ、54番・シンディ宮内、有効打直撃にて失格しました』




「香里ィっ!!…郁美ィっ!!」
今更ながらに立川雄蔵が息せき切って2222号室に駆け込んだ時には、

「貴方って、電撃戦には向かないのね、雄蔵…それにしても、恥ずかしいだけだ
と思っていたオスカルスーツが、まさか命綱になるなんて…まあ最も、それすら
郁美ちゃんの助けがあってこその結果なんだけどね」
オスカルスーツの房の付いた巨大な金属製肩飾り(左側)に吸盤付きの矢を突き
立てた儘の香里がベッドに腰掛け、だっこしている郁美の頭を優しく撫でていた。

「でも、残念です…もし、私がもっと速くメールを送信出来ていれば、高倉さんも
もしかしたら…」
戦い終わって隣室からやって来ていた美坂栞が、申し訳なさそうな視線を高倉父娘
へと向ける…だが、高倉みどりはおおらかな笑顔を栞に向けて答えた。

「どうかお気になさらないで下さい、香里さんがご到着なされるまでの間、何とか
時間を稼げました事を、お父様はとても満足しておられますから…ところで皆様、
(キョロキョロ…)繭ちゃんはいったい、どちらへ行かれたのでしょう…?」

「「「「「あ…」」」」」

2222号室の三人目の同室者である元46番・依頼人の椎名繭がいつの間にやら
部屋からいなくなっていた事に、皆がやっとその時気付いた。

【54番・シンディ宮内 脱落…残り44人】

TO BE CONTINUED?!

241 パラレル・ロワイアルその185:2004/03/25(木) 18:40
“じゃまをするなよいいところなのに”
“ちょっ……やだっ……かずきっ……”
“もうイッちゃうよ、母さん、もう僕、僕!”
“そろそろお前の処女をいただくぞっ!”
“うるさいわね!大人しくマグロやってなさい!!”
“ごめんなさい、彰お兄ちゃん……”
“葉子さん……。これじゃきりがないわよ……。”




「…それにしても流石だよなぁ、俺達って、ハァハァ(;´д`)」
「…このカメラ配置、このアングル、この集音精度…やっぱり天才だよなぁ、
俺達って、ハァハァ(;´д`)」
「…モザイクを入れちまったのが少々、惜しい気がするなぁ、ハァハァ(;´д`)」
「…第二弾で無修正版を売るためだぁ、仕方ないだろう、ハァハァ(;´д`)」
「…特に、○○○の方は兎も角、顔は…俺もだが、万一時の身の安全のために
モザイクをかけざるを得まい、ハァハァ(;´д`)」
「…試射…じゃなく、試写の方の感想はどうかね?消費者代表の月島君、ハァハァ(;´д`)」
「(・∀・)イイッ!トッテモ(・∀・)イイッ!!」

ホテル14階・第2VIPフロア中層の1405号室では、高槻Sとモニター役の
月島拓也計7名による製作DVD『ハカギロワイアル・その時隠しカメラは見た!』
の試写会が行われていた。FARGOの資金源に当てるつもりなのか、はたまた
私腹を肥やすためなのかは置いといて。

「それにしても676話は惜しかったなぁ、ハァハァ(;´д`)」
「まさか御堂の血には催淫効果がなかったとはなぁ、ハァハァ(;´д`)」
「仕方ない、それに止めておけ…あれはあれで超名作だし、反撃を食らったら
こんな愚作ひとたまりもないぞぉ、ハァハァ(;´д`)」
「そういえば…07はどうしたんだぁ?ハァハァ(;´д`)」
「07って、確か『ちびあゆを7年間育成し続けた』という擬似記憶を植えつけられた
俺達の最新クローンの事かぁ?ハァハァ(;´д`)」
「流石にこの島へ連れて来るのは憚られた…アイツは今回は本部でお留守番だぁ、
ハァハァ(;´д`)」
「それもまぁ、仕方あるまい…これ以上本作参加者の逆鱗に触れないに越した事はないし、
暴走しだしたら手が付けられないからさしものアホ作者もボツキャラにしちまった筈だし…
第一あいつは変態過ぎて俺達の品位まで疑われるからなぁ…それにしても月島ぁ、何を泣いて
いるんだぁ?、ハァハァ(;´д`)」
「そ、その『変態過ぎる奴』に…俺は、俺は妹を、瑠璃子を奪われてしまったんだ、シクシク…」
「…あー、そういえばお前の妹…この俺達を出し抜いて本作変態NO1に輝いた、あの○○○○に
ゾッコン状態だったんだっけかなぁ、ハァハァ(;´д`)」
「…確かに、『妹相手』VS『○○相手』じゃあ『○○相手』の方に軍配が
上がっちまうよなぁ、ハァハァ(;´д`)」
「し、しかも瑠璃子の奴…ナイフの味にまで目覚めてしまって…今じゃあ、
匕首程度なら平気で呑み込んでしまう程に…」
「…ウヒャヒャ、剣を呑み込む中国の大道芸人もビックリだなぁソリャ、ハァハァ(;´д`)」
「…などと言ってたらDVDの方が話題のシーンに到達してるぞぉ、ハァハァ(;´д`)」
「うっうっうっ、瑠璃子…兄さんは悲しいぞ…」
…と、室内の熱気と○○臭さが最高潮に達しようとした正にその時である、




「ヒィィィィィィィィッッッッッッッッッ!」
「どうした月島ぁ?確かに多少グロかもしれんが、まるでホラーDVDでも
見てるような顔だぞぉ、ハァハァ(;´д`)」
「ままま、窓…窓に、爪を立ててへ張り付いてる…鬼っ、鬼がぁぁぁぁぁっ!!」
「「「「「「ハァハァ(;´д`)鬼だぁ?」」」」」」




DVDから視線を離して高槻Sは一斉に振り返り、何事かと事態を確認する。
確認するまでもなかった。
自分達を頃しに窓から鬼がやってきた。
「……こんばんわ」
月の光に照らされたその顔。それはとても人のものには見えなかった。
長い真っ黒な髪がその顔の半分以上を覆い隠している。
大きな瞳が高槻Sを射抜くようにきゅぴーん!している。
高槻Sは、本当に心底、彼女を鬼だと思った。

242パラレル・ロワイアルその186:2004/03/25(木) 19:51
―――一刻後―――
さながら、殺し屋1が侵入した後の垣原組裏ビデオ工房の如き有様となった
1405号室にて、柏木千鶴の尋問タイムが始まっていた。

「それじゃあ、質問を始めるわ…定時放送続報で、耕一さんの名前を口にした
高槻さんは…貴方達の内の…だぁれ?」
「「「「「「…………(ふるふるふるふる)」」」」」」
「嘘つきは、コソ泥の始まりなのよ、コソ泥には、地獄行きの切符を…」
「し、しかし…本当に俺達六人…本日00:00からずっと揃って、この部屋で
DVD鑑賞会及び試写会をやっていたのだ」
「嘘じゃない、こっちのモニター客が証人だ」
「怖いんだ、瑠璃子……兄さんを助けて瑠璃子、るりこ、ルリコ……」
「更に、鑑賞会の邪魔にならないように、部屋の館内放送用のスピーカーは
OFFにしちまってた…だから、00:00から今の今まで、いつ誰が何を
放送していたかなんて、全く分からねぇ…」
「そ、それともまさか…07がこっそりこの島へやって来て…?」
「嫌、それは有り得ねぇ…それに万一、仮にこの島へやって来てたとしても、
アイツは三女や四女なら兎も角、年配の女にちょっかいを出すような趣味は…
(ザシュウッ!!)しゃぎゃあああっ!!」
「……最悪、だな」




「俺だよ」

その声が聞こえて来た方向は丁度、千鶴が侵入して来た窓のある位置からで
あった…千鶴が破った窓の外には、いつの間にか窓拭き用のゴンドラが到着
しており、そこには一人の虚無僧が立っていた…深編笠をすっぽりと被って
いるため、その顔は全く見る事が出来ない。

「そうですか……」
千鶴はしゃがんだまま腰を上げて、極端な前屈姿勢をとる。それはクラウチング
スタートの姿勢に良く似ていた。違うのは左手にネコパンチグローブを嵌めている
という事だけ。

「あなたが、踊らしたんですね」
その声に虚無僧は自分が震えている事に気づいた。
(おびえている?俺が?…流石は柏木賢志の姪というしかないな…)

「あなたがああああああああ!!」
裂ぱくの気合というには猛々しすぎる雄叫びを上げて、
千鶴は放たれた矢のごとく飛び出す。

しかし、虚無僧は次の瞬間には左手を首から下げた喜捨箱へと伸ばし、右手に
握った尺八を千鶴の方へと向けて、カチリという音を二つ立てていた。

「!?」
千鶴の矢のような動きが急激に鈍り、常人のそれへと戻っていくのと同時に、
その身に付けている識別装置を赤いレーザー光線が体ごと刺し貫いていった。

『ビーッ、20番・柏木千鶴、有効弾直撃にて失格しました』
『ビーッ、隠れ警備兵・覆面ゼロ、スコアノルマ達成しました…貴方の参加
ナンバーは20番となります……それでは引き続き、ゲームをお楽しみ下さい』




「迂闊だったわ…この作品の設定上、貴方が生きてここにいても全くおかしく
ないという事をすっかり忘れていたわ…」
無念の表情をありありと浮かべてゼロを見据える『死に行く』千鶴。

「…最も、余りに長い事死人として生きていたが故に、ある意味死んだも同然に
なってしまったらしいのが運命の皮肉なのだがな…それよりも千鶴さん、貴方が
最も迂闊であった事は…長瀬源之助殿の戦利品装備を予めにでも行わなかった事
だと俺は思うぜ…」
千鶴が携行していた…麻雀の賭け代として巻き上げた…長瀬源之助のバックから
中身をがさごそと引き摺り出すゼロ、その中身をば目の当たりにした千鶴の顔が
たちまちの内に蒼白になった。

『わたしはいつだってそう……。肝心のところで判断を間違えるの……』

ゼロが引き摺り出した源之助の支給装備、
…それは分厚い本の形をしたケースに入っていた選手データ未入力の識別装置だった。

ケースの表紙にはこう書かれていた。
“復活の呪文書”

【20番・柏木千鶴 脱落→20番・覆面ゼロ 新規参加…残り44人(変わらず)】

243パラレル・ロワイアルその187:2004/03/25(木) 20:31
「待て…待ってくれ、アンタ…アンタは、ひょっとして俺達の…?」
そのまま部屋より去ろうとするゼロを、無実の罪で千鶴に折檻された
ダメージを押して半身を起こした高槻06が慌てて制した。

「…半分正解、といったところかな…」
ゼロが深編笠の向こうから06の方を見据えて答える、
「肉体的にはそうなのかも知れんが…引き出しが開いちまった奴は最早、
高槻と呼べる存在ではあるまい?…これからはお前達だけが高槻だ、懺悔も
後悔も贖罪も…それにこのゲームも俺が一身に請け負っていく積もりだから
、お前達はこれからも高槻として己の生き方を好きに真っ当していくがいい
…まぁ、07の奴にも一応はそう伝えておいてくれ」




その時、部屋の入り口から更にもう一人客が入って来た。その客は高槻Sと
同様に千鶴の折檻のとばっちりを受けて一時人事不省となっている月島拓也
の方へと、すたすたと近付いて行った。

「何て事だ…しかし、止めの一撃の相手が君なら、これも天命というものなのかな…?」
「…残念だけど、こういう時に限っていたって正気なのよね…さ、帰るわよ」

そう言うと、元10番・太田香奈子は片手で拓也を担ぎ上げ、肩を貸して
部屋の外へと歩かせて行った。

「…意外と力持ちなんだな?香奈子君…」
「知らなかったの?…貴方に人形にされていなくても消火器位なら片手で
振り回せるのよ、私」
「しかし、何故?…恨み骨髄の筈の私を…?」
「瑞穂に対してもそうなんだけどさ…一度信じた相手・好きになった相手には
反応は兎も角で、最後まで筋なり誠なりを通し尽くすのが私の主義なのよ…」
「…詫びる資格はない…だがせめて、今肩を貸してくれている事への礼だけでも
言わせてくれないか、有難うと…」

TO BE CONTINUED?!

244パラレル・ロワイアルその188:2004/03/26(金) 18:19
「どうしても行くのですか、阿部さん?」
「貴之くん…」

ホテル17階“鍵っ子壱番屋”のカウンターにて、特製水出しコーヒーの詰まった
ポットを抱えている住井護と、悲しそうな顔をしつつもてきぱきとカツカレーを
口へと運んでいる川名みさき、相対しているのは深夜納涼特別警備兵の阿部貴之。

「俺は自ら志願して警備兵となり、そして今改めてこの階を守れとの使命を受けた
…男として一度請け負った勤めは果たすのが当然の義務だろう」
貴之は平然と言い放った。

「本当にそれでいいのかよ?阿部さん…アンタだってとっくに気付いてんだろう、
恐らくは先輩のために警備兵に志願したんだろうけど、先輩がアンタに求めている
事はもっと別の事なんだって事に…もし、俺とアンタがこの店からいなくなったら
いったい誰が…先輩のためにカレーのお代わりをよそってくれるって言うんだ?」

貴之の言葉に薄情さを感じたのか、初対面の時とはうって変わったぶっきらぼうな
口調で貴之に詰め寄る住井…唯、深夜二人きりで一つ店の中にいたというだけでの
住井にとっては憶測も同然の突っ込み…たとえ外れてても最後のカレーのお代わり
の部分によって言葉の対妻は合わせられるという、保険を掛けた上での当て推量で
あったのだが…その憶測は見事に当たっていたようであった。

「「……」」
カレーのお代わりという例えは兎も角、それまで互いに曖昧にしてきていた領域を
第三者に鋭く切り込まれた二人は、即座には言葉を返す事が出来なかった。

『まあ、何にせよ…今の俺の顔を川名さんが確かめられないのが幸なのか不幸なのか…』
ほんの一瞬だけ紅く染まった表情を引き締めて、貴之は住井にきっぱりと答えを返した。
「決まっているだろう、川名さんが自分でよそうんだ」




「!!…何だと、貴様ぁっ!?」
貴之の返答に強い怒りが湧き上がった住井は思わず、自分より上背のある貴之の
胸倉を掴み、自分の顔の高さまで引っ張って叫んだ。
「どういう積もりでそんな事言ってるんだっ!?分かっててわざと言ってるのかっ!?」




「待って!違うんだよ、住井君っ!」
みさきが銀のスプーンを握った手を振り回しながら、慌てて住井を制する叫びをあげた。

「!?…先輩?」
貴之の返答に最も怒り悲しんでしかるべきみさきの、思いも掛けない擁護の叫びに
住井は貴之の胸倉を掴んだまま、みさきの方を向いて目を丸くした。




「…住井君はまだ気付いてなかったのかもしれないけど…とてもよく『見える』
お店なんだよ、ここ」
「とてもよく『見える』…?」
「うんっ、だってこのお店…床には段差を全く感じないし、通り道には厚い絨毯が
敷かれているし、カウンターは真っ直ぐで手すりもちゃんと付いているし、椅子や
テーブルは角が無くて脚は真ん中に一本だけのタイプだし、壁も出っ張りは今の所
感じていないし、壁材も床材も全然匂って来ないから…だからねきっと、カレーの
お鍋やご飯の電気釜は…近くにある座りのよいカートにがっちりと乗っかってて、
火傷をしないように鍋つかみがちゃんと付いているんだよ…それでね、揚げられた
トンカツは油取りの美濃半紙の敷かれた温められた陶器のお皿にきれいに切られた
状態で取りやすいように並べて盛り付けてあるんだよ…そうだよね、貴之くん?」

245パラレル・ロワイアルその189:2004/03/26(金) 19:12
「…全部、先輩の言う通りだ…どうやら俺、見当違いの事で腹を立ててたみたいだな…」
ばつが悪そうに貴之の胸倉から手を離す住井…一方、貴之の顔は再び紅く染まっていた。

「…折角、さり気なくセッティングをしてあるんですから、気付かない振りをして下さる
のが礼儀というものでしょう?…しかも、第三者の知人へそれをぺらぺらと喋ってしまう
なんて、あんまりですよ…」
「お寿司屋さんでいじわるな受け答えしたでしょ?だからその仕返しだよっ」




「阿部さん…俺、アンタの事凄くカッコイイと思うよ、マジで…実は俺にも川名先輩と
同じ名前の、好きで好きでたまらない女の人がいるんだけど…俺も、安部さんみたいに
さりげなくそれでいて心のこもった愛し方が出来たらいいなって、今マジでそう思って
いるよ…」
「だったら、朝に備えてさっさと部屋に戻るべきでしょう…大切な朝に、血走った目を
その愛しい人に見せるべきではありませんですから」
コーヒーポットを抱えた住井と、ヒートホークを握り締めグフシールドを構えた貴之が
それぞれの目的のために二人揃って店の出口へと足を進めて行く。

「貴之く〜ん、お勤め頑張ってきてね〜っ…でも、早く戻って来てくれないと、私、
きみの事を嫌いになっちゃうかもしれないよお」
すでにお代わり三杯目を自分でよそっているみさきが、カウンターからエールを送る。

「みさきさんが俺を嫌いでもいい―――俺は、みさきさんの事が。…さあ、行こうか住井君」
「ううっ、相沢さんみたいにちゃんと最後まで言ってくれないと今すぐ嫌いになっちゃうよおっ」
「さあ、お仕事お仕事」
「…お邪魔虫はオアツイのが嫌いですから先に行ってますよ〜」

慌てて、先に店を出ようとする住井を追い掛ける貴之…しかし、彼の帰還は余りにも早かった…。




ガチャッ…
カランッ…
ヒュザシュバアアッ!!
「ぐええっ!」
「さっ、悟さんっ!いきなり過ぎますっ!」
「い、いや、気を抜いていた所を出会い頭だったものでつい…すまない、大丈夫か少年?」

店の出入り口でいきなりばったり住井と出くわしたのは、深夜のホテルを逢引中の
15番代戦士・光岡悟とその依頼人である杜若きよみ【原身】であった…余談では
あるが、19階の小出由美子・相田響子は陰形法の為に彼の発見は終始出来ないで
いるままだったりする…。

いきなり必殺の間合いに踏み込まれた事と、すぐ傍らに護るべき人がいた光岡は、
次の瞬間には反射的に居合抜きの竹光で住井に一閃を加えてしまっていた。

当然ながら住井は避けられる訳も無くしばき倒され、持っていたコーヒーポットは
天井高く飛んで行った…。




バシャアアッ!!
「ヒア――――――――――!!」
『ビーッ、深夜納涼特別警備兵・阿部貴之、有効間接攻撃直撃にて殉職しました』




「お帰りなさいっ、貴之くん♪」
「お、俺のモーニングコーヒー……」

貴之からもらった住井のコーヒー 死亡
【鍵っ子壱番屋名物・特製水出しコーヒー 残り1ポット】

TO BE CONTINUED?!

246パラレル・ロワイアルその190:2004/04/01(木) 16:00
「みゅーっ、おなかすいた……」
2222号室を抜け出し、17階グルメフロアを目指して降り続けていた
階段に座り込み、元46番依頼人・椎名繭はぼやいた。

「みゅーっ、あともう1かいかいだんをおりないと……みゅ?」

その時…繭の目の前を、食べ物とはまた別のお気に入りの物体が、音を立てて
通り過ぎていった。

「みゅうっ♪」




「コイツ、ドウシテヤロウカシラ」
ホテル18階・スポーツ&レジャー百貨フロアでは、防火隔壁により後続と
分断された先行偵察部隊こと84番・御影すばる、86番・ぴろ、そして
89番・御堂VS、NMX−07SE・ナナセの壮絶な追撃戦が展開されて
いた。

連れているすばるもぴろも、自分には及ばないもののその敏捷さ故に今の所は
足手纏いにこそはなってはいないが…御堂は本作のHM−13以上に今相手に
している、物干し竿片手の少女型メイドロボに手を焼かされていた。

―――いや、少女は止めよう。表現的におかしいぜ。
「オカシクナイワッ!」

って、冗談じゃねえぜ!これがめいどろぼだといえるのか!?
俺が放った必殺必中の銃撃を、片手で回転させた物干し竿ですべて叩き落し、
もう片手で商品棚のぼーりんぐ球や鉄亜鈴を(オーバーダメージの心配の無い
俺様にだけ)ぽいぽいと投げ付けてきやがるっ!オマケに口からは最悪最強の
いんどあさばげー兵器・すーぱーぼーるをぶっ放してきやがるっ、コイツの
高速連続跳弾攻撃はとてもじゃないが俺様にしか見切れやしねえ…全く何て
トンデモナイめいどろぼだ!悪魔かよっ!

「アクマッテナニヨッ!」

また口に出しちまった。ちなみにわざとやっている。
めいどろぼの攻撃目標を自分に集中させるためだ。




「ぱぎゅう〜っ、おじさんの言い付け通りに後ろに退がっておりますけれど、
このままではおじさんが危ないですの〜っ!」
「うにゃあっ!」
現在、ビーチバレー&サーフィン用品売り場にて膠着状態の御堂とナナセの
戦いの模様を、少し離れたボディビル用品売り場の陰から、ぴろを頭の上に
のせたすばるが焦りを顔に出して観戦していた。

「でも、一体どう戦えばおじさんの迷惑にならずに助けることが出来るのか
判らないですの…」
彼女の持つ飛び道具は、大影流奥義・地竜走破のみであったが、人間の固有
振動数に合わせ共振を起こしダメージを与える地竜走破では、メイドロボの
ナナセには有効なダメージは与えられない。さりとて、懐へと飛び込んでの
流牙旋風投げも、長い物干し竿を振り回し口からスーパーボールを吐き出す
ナナセが相手では、策の無い突撃を敢行しても、間合いに届く前に玉砕する
可能性が圧倒的に高い。

…でも、だからといって何時までも手をこまねいて戦いを見守っているわけ
には行かないですの、いざという時に役に立たない大影流でしたら看板ごと
捨ててしまったって構わないですの、もう例え後で怒られようと早く助けに
行かないとおじさんが頃されてしまいますですの、
あの鬼畜に拷問されてぐっちゃぐっちゃのぽいですの。

「キチクジャナイワッ!」

声に出していたようですの、でも向こうからこちらへ来てくれるのでしたら
突撃する手間が省けますですの。

247パラレル・ロワイアルその191:2004/04/01(木) 16:58
すばるは離れた間合いから自分へと視線を切り換えてきたナナセに向かって
迎撃体勢をとり始めた、続いてぴろもすばるの頭から降りて近くの物陰へと
潜み、彼女を援護できる体勢をとり始めた。

しかし、ナナセはすばるへと突進しなかった…代りに商品棚のバレーボール
をひとつ網ごと素早く引っ掴むと、ぶんぶんと振り回しすばるへと投げ付け
たのである!

キィーーーン…バゴオッ!!

しかし間合いがあったため、高速飛来したバレーボールはすばるに易々と
回避され、背後にある袋入り・箱入り・ボトル入り各種のプロテインが山と
並べられた巨大な商品棚に音を立てて命中した。

「この間合いでは投擲は当たりませんですの、さっさとこちらへ掛かって来る
です…の?」
バレーボールを回避して改めてナナセを誘おうとしたすばるは、不意に自分へと
影が差し、プロテインがバラバラと落ちて来る事に気付き思わず後ろを向いた。

「はにゃ!!!」

バレーボールの強い衝撃を受けた商品棚がバランスを崩し、あまつさえ転倒防止
柱もショックで外れた状態ですばるへと倒れ掛かって来たのである。

すばるはとっさに避けようとした…が、

「ぱぎゅううっ!?」
すぐそばの物陰に何も気付いていないぴろが潜んでいるのを見て、次の瞬間には
思わず飛び込みぴろを掴んで放り投げていた、

「にゃにゃっ!?」

…当然、すばるから脱出の機会は失われた。

ズシーーーーーン!…バラバラバラバラ…

「………」
…すばるは閉じていた目をそっと開けた。頭上にはぎりぎりの所まで商品棚が
倒れ掛かっていた…しかし自分は押し潰されていないし、どこも体を挟まれて
いない……
……。
……?

すばるは大分定まってきた視界で、周りを見回してみた。そして、すぐに理由を
発見した。

御堂が、棚が完全に倒れ切る前に稲妻のような速さで飛び込んで来て、すばるの
背中にさしてあった、日吉かおり→篠塚弥生→大場詠美経由の長柄箒を抜くや、
つっかえ棒代わりにして、棚を受け止め何とか支えていたのであった。

「どじっ……ちまったな……お互い……」
バランスをとるように両手で箒を握り締めている御堂…さもないとたちまち、
不均等な力が加わった箒はへし折れて、二人とも押し潰されてしまう事だろう。

そして、無防備同然の二人の前に、物干し竿を持った死神がやって来た。

「ほうきを放すですのっ!!逃げて欲しいですのおじさんっ!!」
「けっ……猫のために逃げ損ねたおめぇに言われたかねーやな……それに第一、
もう間にあわねえ……」

御堂の言う通り…迫り来るナナセは物干し竿を御堂に、スーパーボールガンを
すばるへとスキ無く構え、左右別々の目でそれぞれ狙いを定めている…オマケに
物干し竿を持っているのとは反対側の手には、二人を救わんと特攻して行ったと
思しきぴろが首根っこを掴まれてぶら下げられている始末。

「ナキゴトハイッテラレナイワヨ、アタシハナナセデオトメナンダカラ」

すばるはぴろのために。
御堂はすばるのために。
そしてぴろはすばると御堂のために。

結果は皆、全て裏目に。
でも、結果=結末ではないのだ。
救世主はいるのだ。




ひょこっ。
「みゅう♪」

…ぐいっ。
…カチッ。
…ピタッ。

「…と、止まりやがった…」
「…まるで、ドラえもんのしっぽですの…」
「…にあ…」




チーン。

少し離れた所にあるホールのエレベーターが音を立てて開き、五人の客が
降りて来たのはその時の事であった。

248パラレル・ロワイアルその192:2004/04/01(木) 18:01
「このガキが!おいしいところ持って行きやがって!…それにしても、まさか
『今の』お前の方に借りを返されるとは夢にも思わなかったぞ」
「有難う御座いますですの、本当に助かりましたですの」
「にゃうにゃう♪」
「みゅ〜っ♪ぴろ、みゅ〜っ♪」
「へえ、ぴろちゃんていうんだ、この子」
「みゅーっ、真琴おねえちゃん、そうよんでた」
「それにしても、どうして繭ちゃんはあのロボットのお下げ髪を無事に捕捉
出来たんだろう?」
「恐ラク、アノろぼっとハ、識別装置ヲ通シテデシカ相手ノ認識ヤ判別ヲ行ウ
事ガ出来ナカッタノデハナイデショウカ…?」
「成る程な…あのろぼっとにとっちゃあこのチビガキは、透明人間とか動く
おぶじぇみてえなモンだったという訳か」
「みゅう……がきじゃないもん、繭だもん」
「…どっかで聞いたようなツッコミだな…」

ホテル18階・スポーツ&レジャー百貨フロア内ボディビル用品売り場にて、
バーベルで突っかえ棒が補強されたプロテイン陳列棚をそのままに放置して、
御堂・御影すばる・ぴろ・椎名繭・霧島佳乃・氷上シュン・覆面ベイダー・
そして…

今や動かず、物干し竿を握り締めたまま後頭部より火花と煙を吹いて立ち尽くし
ているNMX−07SE・ナナセを睨み付け、恥ずかしさと怒りをぶつけるべく
得物を握るその手に力を込めている七瀬留美が合流を果たしていた。

「こんの……っ、ブスがぁぁぁっ!」
およそ乙女とは似つかわしくない台詞。
それと同時に、振りかぶりつつ、体の撓りを加えた一斗缶の一撃をナナセの
頭頂部に見舞った。丁度面打ちに似た感じだ――――が、その威力は数倍。
一斗缶は、その一瞬恐るべき『鉄槌』と化した。

がすっ!

クリーンヒット。衝撃にナナセの体が顔面から叩き付けられた――――流石に
起きあがってはこなかった。

「機械のくせに……」
悔しさを吐き出すように、一際激しくなった火花と煙を注視していた七瀬が
ぎょっとした。

うつ伏せになった頭部がぐるんと、と。180度旋回で動いたのだ。
その眼はすぐそばにいる七瀬、もしくは先ほどの大音響で駆け寄って来るで
あろう、残りの六人と一匹を捉えたのか。

「しぶといヤツね……!」
忌々しげに七瀬がぼやく。

しかし、戦闘用HM−12とは違って装甲を持たず、フレームもノーマルな
造りであるナナセはもう起きる事はなかった。火花と煙は更に激しさを増し、
微かに異質な音すら立てつつある。その体が歪み始めた。

「――――ミチヅレヨ、ナナセナノヨ、アタシッ!!」

その最後の台詞とともに、閃光と爆音に包まれてナナセは四散した、
部品と、破片と、そして…内蔵されていた数百個ものスーパーボールと共に。








「ーーーったく、何余計なバカやってやがんだ、オメーは!スーパーボールの
跳弾の嵐で危うく、全滅する所だったぞ!!」
「うううっ、皆さんごめんなさいっ……それとベイダーさん、引っ張ってって
下さってありがとうございますっ……」
「無事デ何ヨリデス、留美サン…アトハ、スバルサンニしゅんサン、佳乃サン、
繭チャン二ピロチャンモ、大丈夫デスカ?」
「ぱぎゅ〜、何とか大丈夫でしたですの」
「有難う御座いました、ボディーガード巫女1号さん」
「僕も何とか大丈夫です…」
「みゅーっ、すしづめだよー」
「にあにあ〜」

…ナナセの爆発寸前、御堂は繭をひっ掴み、ベイダーは七瀬を引っ張り、
すばるは佳乃を抱え、シュンは頭にぴろを乗せて、すぐそばのキャンプ用品
売り場にセット状態で展示されていたテントの中へと一斉に飛び込んだのであった。

TO BE CONTINUED?!

249パラレル・ロワイアルその193:2004/04/02(金) 18:24
「ふ〜っ、ホンマ危機一髪やったわ…それにしても助かったで、おおきにな毛玉はん」
「ぴこっ!」

ホテル16階・アミューズメントフロア内で繰り広げられた戦いは、今丁度一幕
降りた所である…防火隔壁で先行部隊と分断された7番・猪名川由宇&31番・
ポテトVSアミューズメントフロア用自動販売機型ガードロボット『武田』の戦いは
、武田の正体を見知っていたポテトの警告によって辛くも不意打ちを免れた由宇が、
芳賀玲子→篠塚弥生→大庭詠美経由で所持していた十字架型エアマシンガンで派手な
銃撃戦を展開、最終的にポテトの駆る先行者改の必殺兵器・シャングリラキャノンが
武田を大破せしめた事により終了した。しかし、この戦いにおいて武田の『乾くと
固まる』どろり濃厚ビーム味の集中砲火を受けた先行者改も、漏電と間接粘着の為に
擱坐という結果に相成った。

「残念やがロボットはダメになってしもたけど安心しててや、アンタの事はバカ詠美の
借りの分まで、ウチがちゃんと守ったるさかいに!」
『いってくれやがるぜ、あの女に貸し作ってんのはお互い様だろうが…おめーの方こそ
俺が付いていてやるから、あの女や爺いにまた合える時までヘタ打つんじゃねえぞ!』

と、

「!…新手かいっ!?…って、和樹やないか!やっと会えたわ、無事やったんやな!」
「由宇っ!?…どうして、こんな所に…!?」
「何言うてんねん、詠美のアホが和樹助けるゆーて聞かへんから、ウチらもこーして
復活戦に顔出しとんのや…ウチだけやないで、スの字も覆面の鈴香はんも、したぼく
2号の御堂のオッサンも、それにこの毛玉はんに本作生き残りの猫はんも一緒やがな」
「そんな…俺なんかの為に…で、その残りのみんなは?」
「それなんやけど…実はな、ウチら縦長編成で階段上っとったら防火隔壁で分断されて
しもたんや…ウチと毛玉はんが殿やったから、残りの連中は更に上の階なんや」
「そうか、じゃあ急いで上の階に…ゲームの性質上、必ずどこか一箇所は無事な階段が
残されている筈だ」
「成る程、流石は和樹はんや♪」
「ぴこぴこっ♪」

そして、17階“鍵っ子壱番屋”…(ポテト仮眠中)

「やっと会えた…愛してる……。和樹……」
「俺も会いたかった、愛してるぜ詠美……」

「ううっ、貴之くんっ…ちゅーの音が聞こえて来るよおっ(汗)」
「…ところで安部さん、その着替えは…?…それに、その仮面は…?」
「先程、お出かけピースさんが届けに来てくれた衣装なのですが…オプションで扇子と
仮面が付いているのが…あ、大丈夫ですよ、どうやら呪いの類はなさそうですから」
「…というか、阿部殿…今の姿、どこからどう見ても立派な…」

「おうっ、ハクオロの兄ちゃんっ、ウチな『謎ジャム入り激辛スタミナカレー』や!」
「…止めた方がいいと思いますよ、先程も一口食べて『とってもいじわる』と言って
涙をこぼした挑戦者が一名ほど…」
「だって、本当にとってもいじわるなんだもん、だけど何とかちゃんと完食したもん」
「あんなイタイケなお嬢はんが完食出来るんなら心配は無用や…それに一度、鍵で噂の
謎ジャム、食べてみたかったんや♪特盛りでドカーンと出して来いやあっ!」
「…知りませんよお、ナースストップで脱落する事になってしまっても…(カタッ)」
「マッタク、何大げさな事言うてんねん、所詮はジャムの入ったカレーやんか(パクッ)
『なんやこれ?…なんやこれはっ!!……アカン、雪見はんのサバイバルナイフ並みの
殺傷力や…し、しかも特盛り…しかし、コレ何とか完食せえへんと…“パンダのクセに
でしゃばるからよ!”とか詠美に笑われてしまうがな…』」

250パラレル・ロワイアルその194:2004/04/02(金) 19:18
「ぐぉっ…ぐぉちそうはんっ!!(カランッ)…ど、どやぁっ!!」
「ゆ、由宇…顔色がいや、体の方も真っ赤っかだぞ…」
「ふみゅ…それに汗も体中から…ちょっとヤバイんじゃないの?」
「ななな・何言うてんねんねん、ウウウ・ウチはウチはいたいた・いたって正常常常
やがが・がな(ハァハァ)」

「猪名川さん、せめて少しだけでもこの店で休んでいった方が…それと、待たせたね
住井君、みさきさんが飲んだ分は何とか継ぎ足しておいたから…でも、これでラスト
1杯だから今度はこぼさないようにね…水出しコーヒーはポット1杯半日掛けなきゃ
抽出が出来ないんだから」
「有難う…ならば、―――もう二度と、このコーヒーポットを、離したりするものか」

「(きゅぴ〜ん!)カカカ・カフェインや、しょっしょっ・食後の重〜い後口を洗い流し
、眠れぬ・れぬれぬ同人作家の、ねねね・ねむねむ眠気をぶっ飛ばす・ばす、ままま・
魔法の飲み物やないか…おじさまぁ…ウチね、のどがかわいちゃった……(じゅるっ)」
「んなっ……!畜生、俺のコーヒーに手を伸ばすなっ!この―――この―――貧乳!」
「誰が貧乳や……(ごきっ、)」
「ぐがあっ!?う、腕がぁ!」
「大丈夫、朝になれば跡は消えとるから(どぽどぽどぽ…ごっごっごっ…どぽっどぽっ
どぽどぽどぽぽ………)ぷはぁっ…なんか生まれ代わったよ〜やわ(ハァハァ)…ホナ、
20階ちゃっちゃっと制圧してや、さっさと寝る事にしよやないかい…ハクオロはん、
そこのヒートホークとグフシールド借りてくでえ(ハァハァ)」
「…ど、どうぞご自由に…」
「おっおい、由宇っ!?」
「チョット、待ちなさいよっ温泉パンダっ!?」
「待っとられへんわ詠美、ウチ…体動かさへんかったらもう、今にも爆発してまうがな
(ハァハァ)、アンタ達こそこの店で二人仲良う、復活アナウンスが流れて来るのをやな
待っとったらエエがな(ハァハァ)…ホナ行って来るでぇっ!!」

「「ああっ、由宇っ!!」」
「行って、しまわれました…」
「それにしても、戦時中に試験投入された士気高揚剤みたいなカレーだな…」
「みさきさん…『とってもいじわる』程度で済んでしまう貴方は一体…って、満腹即御就寝デスカ!?」
「く〜っ♪すやすや…」

「お…おれのおれのおれのコ、ココココーヒーがコーヒーが!コーヒーがコーヒーがコーヒーが!」

貴之からもらった住井のコーヒー 大往生
【鍵っ子壱番屋名物・特製水出しコーヒー 全滅】

251パラレル・ロワイアルその195:2004/04/02(金) 20:53
「コントロールルーム一番乗りようこそ、こみパのタフ・ガイと華音のクール・
ビューティーさん」
壁と窓、柱と床天井、階段とエレベーターのみが存在するホテル20階・G.N
コントロール管制フロアにて、機械仕掛けの巨大な車椅子に腰を下ろしたままの
ゲスト警備兵総司令官・犬飼俊伐は、21階から階段を下りてやって来た二人、
立川雄蔵と美坂香里にふむふむといった感じで頷いて見せた。

「雄蔵、どうか気を付けて」
「うむ」

階段の出口で香里は立ち止まり雄蔵だけが20階の床へと足を踏み入れ、犬飼の
方へと歩を進めて行く…そして、フロア中央付近〜犬飼との間合いは10m程〜
の所で雄蔵は足を止めた…雄蔵の意志の強そうな眼光を臆する事無くサングラス
越しに受け止める犬飼。

「…一つ、尋ねたい事がある」
先に口を開いたのは雄蔵の方であった。

「君の妹に刺客を差し向ける指令を出したのは私だ」
犬飼は事実のみを簡潔に回答した。

「…ならば一つ、頼みたい事がある」
雄蔵が再び口を開く。

「そちらのお嬢さんには君との勝負がつくまでの間、先制攻撃は控えよう」
犬飼が再び回答した。

「それにしても…恐らくは敗者復活戦最後の戦いとなるであろう組み合わせが、
まさか本作不参加キャラ同士だったとはな…」
左手にジュラルミンシールド、右手にFA−MASを握り締め、M14をベルトで
肩掛けした雄蔵が苦笑いを浮かべる。

「君はまだましな方だ…私なんかリーフファイトTCGにすら出して貰っていないのだから…」
犬飼も車椅子の手摺に設置された各種スイッチをパチパチと操作しながら苦笑を返す。

「…始める前にもう一つだけ、尋ねたい事がある」
雄蔵が真顔に戻ってまた再び口を開いた。

「G.Nは既に別の場所へと移された…だが安心したまえ、もし…私が敗北して
このフロアが君達に制圧された時は、ルール通りに敗者復活戦は復活希望者側の
全面勝利となって終了する…しかしそうはさせん、私も澤田編集長や覆面ゼロの
ように、勝利して『一般参加者への昇進』を果たす事を熱望しているのだからな」

犬飼がまた再び回答するのと共に、車椅子の方からは駆動音が鳴り響き、その下
側面からはホバーユニットやら巨大なスプリングやらが、上側面からは折畳み式
の銃砲身やらロボットアームやらが、ぞろぞろと一斉に展開を始めていた。

「用意はいいな。ならば――――――」
一瞬の静寂が流れる。
雄蔵も、犬飼も、香里も口を閉ざし。そこから音が消え失せる。
……この男から感じる古き良き時代の男の匂いが、私を惹き付けたのやも知れぬな。
「――――――いざ!!」

そして、闘いの幕は上がる。

252パラレル・ロワイアルその196:2004/04/02(金) 20:56
「ごっついタイガーバズーカじゃあああ〜〜〜っ!!!」

その叫びは、18階・スポーツ&レジャー百貨フロアの天井から轟き渡り、
キャンプ用品売り場のテントの中にすし詰め状態であった七人と一匹の耳にも
ハッキリと届いて来た。

「!…あの声、由宇とかいう女の…チッ、モタモタしている間に追い越されちまったぜ」
「ぱぎゅ〜っ、急いで助太刀に行きますですの〜っ!」
「にゃうにゃうっ!」

天井からの声を聞くや、御堂・御影すばる・ぴろの三名はテントを飛び出し一目散に
南側階段を目指して駆け出して行った。

「私達モ先ヲ急グ事ニ致シマショウ…しゅんサン、佳乃サン、オ部屋ノアル25階マデ
ドウカ頑張ッテ参リマショウ」
「分かりましたベイダーさん…急ぎましょう、佳乃」
「ごきげんよう、大和撫子一号さん」

続いて、覆面ベイダー・氷上シュン・霧島佳乃の三名がホールのエレベーターの中へと
再び戻って上の階を目指して行った。

「えへへ、そんな、大和撫子だなんて……っぎゃあああっ!」
「みゅう♪」

もしかして、ババ引いた?…そう思わずにはいられない七瀬留美であった。

19階・ホテルスタッフ専用フロアに辿り着いた御堂とすばる、そしてぴろは
通路という通路の天井に設置されていた監視カメラ兼用のエアガン砲台が全て
叩き壊されているのを、まず発見した。

『黒ずくめの覆面女が確か、光岡もこのホテルに来ているとか言ってたが…
この力任せの壊し方は光岡じゃあねえな…』
御堂は警戒しながら歩を進め、フロア内の警備兵詰め所へと肉薄して行く、
そしてすばるとぴろが忍び足でそれに付いて行く…と、

「うっうっうっ…」
「しくしくしく…」

御堂の耳に女のすすり泣く声が二つ、詰め所の奥の方から聞こえて来た。

『この声…由宇とは違うな…やられた味方、もしくは警備兵か…?』
御堂は油断なくコルク銃を抜き構えると、詰め所へと音もなく浸入し、二つの
泣き声の主がいるのであろう、詰め所内ホテル監視施設へとその身を忍び込ませた。

「「ひいいっ!」」

ホテル内監視モニターが立ち並ぶ室内の中央には、見るも痛々しい半裸姿の
小出由美子と相田響子の『死体』が震えながら抱き合って泣いていた。

…オトリの類ではない事とワナがない事を確認してから、すばると選手交代して
二人に事情を聞いた所、どうやら斧と盾を持ったケダモノのような丸眼鏡の女が
19階のセキュリティシステムを片っ端から叩き壊しながら詰め所内へと侵攻、
「ウチは猪名川裕也〜!!(一部変換ミス?)」と叫びながら、二人の識別装置を
制服はおろかその下の下着もろともケダモノみたいな力でムリヤリむしり取った
後、20階への階段目指して駆け出して行ったという事であった。

「…なあ、すばる…由宇ってのは、そういうきゃらだったのか…?」
「私も知りませんでしたですの…あ、でももしかしたら本作の佐藤雅史さんみたいに
怪しい薬を服用してしまったという可能性もあるかもしれませんですの」
「ん〜、取り敢えず更に上って確認してからの話だな」
「では、先を急ぎますですの」
「にゃ〜」

TO BE CONTINUED?!

253パラレル・ロワイアルその197:2004/04/08(木) 19:57
パラパラパラパラ…
スパパンッスパパンッ!

柱を除いて一切の遮蔽物がないホテル20階・元G.Nコントロール管制室に
おける立川雄蔵と犬飼俊伐の戦いは、次第にその銃声・砲火の数を減らしつつ
あった。

雄蔵が柱を背にジュラルミンシールドを構え犬飼の銃撃砲火を全て防ぎ切れば
、犬飼も巧みな車椅子の操作によって反転させた椅子の背もたれや展開させた
銃眼つき防弾盾、時には自分のサングラスまで駆使する事により雄蔵のM14
やFA−MASによる乱れ射ちや狙い撃ち、跳弾撃ちをことごとく弾き返して
いった。

プシュッ…プシュッ…
「!…うぬ!」

遂に先に全弾撃ち尽くした雄蔵が、M14とFA−MASを放り捨てると、
ジュラルミンシールドを背負い、両手に2本のグルカナイフを握り締めて、
タックルに似た低く構えた姿勢から犬飼への強行突撃を敢行した。

迎え撃つ犬飼は車椅子のホバーを吹かし、瞬時にして180度の反転を行うと
背もたれに背中合わせの形で設置されてた車椅子内蔵の最後の飛び道具である
電動エアガトリングガンの一斉射を見舞った

ブ〜ン、ブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブ…

雄蔵も瞬時に身を翻してしゃがみ込み、背負ったシールドで横殴りのBB弾を
全て弾き返す。

ツカーン、ツカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ…

スコッ、スコココココココココココココ…

「!」
「!」

長きに渡る銃撃戦の末、膨大な装弾数を誇っていたエアガトリングガンも遂に
弾切れを起こし、それを機と見た雄蔵はそのまま仰向けに倒れて床を蹴ると、
シールドをそりに散らばったBB弾を潤滑油にしてのスライディングで一気に
間合いを詰めに掛かった。

ガリッ、ガガガガガガガガガガガガガ…

バシュウウウウッ!!

しかし、車椅子は今度は真下にホバーを全開で吹かし、2メートルほどの瞬間
垂直上昇を行った…雄蔵のスライディングは外れ、上昇した車椅子のほぼ真下
に停止してしまう、そこで車椅子はホバーを全て停止させた…乗り手も含めて
総重量400キロを越える物体が真下の雄蔵へと落下して行く。

「うぬっ!」
ガッ!

仰向けに倒れたままの姿勢から膝を立てて脚を伸ばした雄蔵が、上から落ちて
来た車椅子をゴムグルカを放り捨てた両腕と両脚の裏で受け止めた。

「ぬ……!」
ミシミシミシミシ…

しかし、車椅子には搭乗する犬飼抜きでも能力者でさえ押し潰しかねない重さ
があった。しかも、車椅子に内蔵された4本のロボットアームが天井へとその
腕を伸ばし、掌を押し付けてバランスをとりながらパワーをかけて下へ下へと
パワーを掛けて踏ん張り始めたため、雄蔵の折り曲げた脚と体にはたちまち、
強烈な重量と重圧が圧し掛かって来た。

「ぬぬっ…!!」
「早い所降参するべきだと思うぞ…これ以上圧力を加えればいかなタフ・ガイ
といえど、怪我をしない保障はない」

…パンッ!…パンッ!

先ほどから雄蔵の背中では激しく音が鳴っている…背負ったシールドによって
上からの圧力に耐えられなくなったBB弾が次々と砕け散っているのである。

「…雄蔵ッ!」
「おっと、お嬢さんには今暫く参戦は控えさせて頂こう…私も、彼と交わした
約束を出来る事なら守らせて頂きたいからな…」

雄蔵の窮地を見ていて我慢が出来ず、両手にフェンシングサーベルと吸盤付き
ボウガンを握り締めて助太刀しようとした香里を、犬飼は車椅子内臓の防弾盾
越しに、手に持った南部14年式(エアガン)を突き付けて制した。

「くっ…」
香里は歯噛みして立ち止まり、打開策を考える。
『せめて、上からの力のバランスだけでも崩せれば…雄蔵の腕力と脚力なら
間違いなく押し戻し蹴り飛ばす事は出来る筈なのに…一体どうすれば…?』

254パラレル・ロワイアルその198:2004/04/08(木) 21:00
遂に雄蔵の体は逆立ちしたカエルも同然の体勢を取らされていた。
犬飼の車椅子はその重量と天井にバランスを取って踏ん張っている4本の
ロボットアームから繰り出される圧力によって、確実に雄蔵を押し潰しに
掛かっていた。

今や雄蔵の両腕と両肘は直に床に付いて、上から圧し掛かる車椅子を受け止めて
いる両手足の平をやっとの事で支えている…しかし、それもそう長くは持たない
事であろう。

更に、雄蔵の窮地を見かね助太刀しようとした美坂香里は、車椅子に座している
犬飼に懐に温存していた銃を突き付けられて進退窮まっている。

『…上からの力のバランスだけでも崩せれば…』
雄蔵は香里と同じ考えを頭の中で反芻しながら、狭まった視界の中で左側に位置
した窓に映し出されている、天井へとアームを伸ばして踏ん張っている車椅子の
全容をざっと確認した。

『…4本のアームの内、1本でも破壊出来れば…車椅子はバランスを崩し、反撃
に転じられる…今の状態から右腕を自由に振るえる時間は約1秒、その1秒の間
に…逆転の一発を叩き込む…!』
雄蔵は今取らされている体勢から頭を上げると、首と額へと未だ残っている力を
込めてから、右腕を離してその代わりに両脚左腕とともに車椅子を支えさせた。

そして更に狭まった視界の中、あらかじめ覚えておいた車椅子のアームの位置を
目掛けて、跳ね返って飛んで行くよう狙いを付け、右側に位置した柱に向かって
右手に握り締めた物を思い切りに投げ付けた。

それはチャリーンという甲高い金属音を立てて柱に当たって跳ね返り、
バキッという音を立ててアームの1本に見事命中した。

「!?」
犬飼は驚愕した、この状況下で雄蔵が投げ付けられそうな物といえば、床に
転がっているゴムグルカか、胸ポケットに収まっていた扇子ぐらいの物しか
思い当たらない…しかも、そんな物でロボットアームに破壊を及ぼす事は、
直接手に持って力任せに殴ってみてやっと上手く行くか行かないかのレベル
だし、第一にそんな長物を柱に当てての跳弾投擲など、例え忍者でも狙いが
定まるわけがない…。

そう考えを巡らした犬飼の目の前に、二つの物体がポトリと落ちて来た。
一つは、破壊されたロボットアームの手首から先の部分、そしてもう一つは
…雄蔵の着ている学ランの襟にぶら下がっていた鎖であった…。

圧力のバランスが不均等になった車椅子はたちまちガクンと体勢を崩し、窓の
側へと弾かれたかのように傾いて行く、そして…

『南側は消防隊突入窓…ホテル南側真下には、広く深く川が流れている…』
頭の中でそれらの確認を瞬時に行った雄蔵が、上からの質量と圧力より解放された
勢いをそのままに、両腕両脚のバネの力を車椅子に向かって思い切りに爆発させて
いた。

ボンッ!!…パリパリパリパリ…

万一時の消防隊突入がスムーズに行えるように、そして突入時・脱出時に怪我を
しないように造られた突入窓が、脆くそして厚くて丸い破片となって砕け散り、
車椅子は搭乗者もろともホテルの外へと放り出された…転落事故防止用ネットは
そのすぐ真下に存在してはいたのだが、

ミシッ、ブチブチ…ブチンッ!!

流石に総重量400キロオーバーの落下物を受け止め、支えられる造りとはなっていなかった。




犬飼は、手を伸ばした―――
もし、この車椅子に飛行能力があるのなら―――
最後に、もう1回、敗者復活戦があるのなら―――
私は。
あの女と共に戦うために。
生きたい―――

『参加者』として。

けれど。
車椅子はあまりに重すぎて。
壁に爪を立てた残りのアームは皆、あっさりと千切れてしまった。

それは。
あの女に愛想を尽かされたようで。
―――ふふふ。

何となく、笑えた。

どぼっ。
―――随分と、豪快な音。
それが、彼の聞いた、最後の音だった。

『ビーッ、ゲスト警備兵総司令・犬飼俊伐、アタックダイブにて殉職しました』

ホテル在中警備兵全滅 及び 20階G.Nコントロールルーム被制圧
敗者復活戦終了 及び 千堂和樹復活成功

255パラレル・ロワイアルその199:2004/04/08(木) 22:08
ホテル31階・屋上へリポート、そこから眺め渡せる星空の片隅に陽光が
差し始めた丁度その頃、氷上シュンと霧島佳乃を25階の自室に無事送り
届けた後の覆面ベイダーは、未だ擱坐したままの520N・ローターヘリ
を通り過ぎて一台のミシンみたいなマシンに乗り込んでいる所であった。

U−NORTH社の空陸両用送迎機“ジャノメ”(大型4人乗りタイプ)
である。

「晴子サンニ操縦法ヲ教ワッテオイテ幸イデシタ」
ベイダーがヘルメットの中であくびを噛み殺しながらジャノメのエンジンを
起動させていると、フロントガラスの両脇にて親指を突き出している二人の
人物に気が付いた。

「アラ、雄蔵サンニ香里サン…ひっちはいくデスカ?」
「ハイ、もし宜しければ私達もホテルから手っ取り早くお暇させて頂きたい
ものでして…」
ベイダーの問いに答える香里もあくびを噛み殺していた。

「貴方達、運ガイイワヨ」
ヒッチハイクを了承し、助手席に香里を後部座席に雄蔵を座らせながら、
ベイダーが(ヘルメット越しに)にこやかに語る。

「コレカラ私、安全デ快適デ眺メモ最高ノ隠シ仮眠すぽっとニ向カウ所ナノ
デスケド…貴方達モ、コノママ御一緒シマス?」
「話は余りにお誂え過ぎる気もするけど…でも、ベイダーさんは信じられる
人です…是非とも喜んで!」
「うむ」
「ソレデハ、早速参リマショウ♪」

三人を乗せたジャノメがホテル屋上からテイクオフした丁度その頃、
ホテル20階・元G.Nコントロールルームでは、三番乗りを果たしたものの
謎ジャムの効能がピークに達し、目を回して凄く綺麗なお花畑を彷徨っていた
猪名川由宇が、コントロールルーム制圧・復活戦勝利の功労者として、詠美や
和樹、すばる、御堂、光岡、ポテト、ぴろ達からの介抱と賞賛を一身に受けて
いた。




来栖川が買収した洋上の島。その更に上空に浮かんだ一隻の飛行船。魔方陣に
囲まれた神秘的な一室。目の前には占いに使うにはいささか大き過ぎる水晶の
球が一つ、仰々しく鎮座ましましている。

「……眠ってしまいましたか。いけませんね」
誰へともなく呟いた女性は、眼下の洋上に差し始めた異界の陽光の美しさを
しばし堪能した後、水晶の球越しに自分が管理の一端を担っているゲームの
様子を確認する。

最も実際の所、彼女にとって確認したい事のその殆どは既に失われて久しい。
娘はゲーム開始早々水族館にて脱落し、
脱落させた人物も、夜半にあっけなく脱落してしまった。
そして、それから更にしばらく後には元ゲー組は事実上全滅してしまった。
心情的に強いて応援すべき存在がいるとすれば後は残り二人、
一人は美術館で警備兵をやっている元ゲーの憑依神、
もう一人は開始時には五人いた母親組の最後の生き残り。

と、その元ゲーの憑依神から科学によるものでない力による通信が入って来た。
「…はい、私ですが」
「来栖川芹香殿が御就寝中なので私が代行してG.N殿よりの現状報告と要望をば
お伝え申す…敗者復活戦は復活希望組がホテルの警備兵を全滅させ、コントロール
ルームを制圧した事により、時間切れ5分前に終了したとの事、その間にG.Nは
お引越しを無事、完了したとの事…続いて、本日の天気の方じゃが…昨日と同じく
基本的には晴れの方向で宜しくお願い致すとの事…それと、もし可能であられるの
ならば、早朝から朝にかけて島を濃霧で覆って頂きたいとの所望である」
「…この世界の今の季節的に、長時間の濃霧には多大な魔力を消費してしまいます
…二時間位が通常儀式での限界といった所なのですが…?」
「了解致した…さすれば、四回目の定時放送をまたぐ時間帯…午前五時半前後から
七時半前後までの間という事でお願い申すとの事」
「…了承しました…それでは本日もお互い、裏方に精を出す事と致しましょう」

彼女は通信を終わらせると早速、魔法陣にて儀式の準備に取り掛かった。

そして丁度その頃、飛行船の飛行甲板に一台の空陸両用送迎機がふわりと着艦を果たしていた。

256パラレル・ロワイアルその200:2004/04/08(木) 23:04
……全く、何てざまを晒しているのかな、私は。
それにしてもこの頃の非能力者は光岡や御堂すらをも出し抜いて
一気呵成に攻めて来る信じられない輩が現れるようになったのだな。
タフ・ガイよ、ちゃんと勝ち残れるのか?
勝ち残れるよな?
でないと私が虚しすぎるぞ
しっかり連れの女共々勝ち残ってくれよ……。

……そして最後に、きよみ。
本当は一緒に戦い護って行きたかったのだが……。
私は、今まで愛したもう一人のきよみへのような、
おまえに報いてやれるようなことは何もしてやれなかったが、
だが、そう思っているだけでただ観戦しているだけよりは
ましな事だけはできたと思う。

不首尾に終わってしまったが、言い訳にしてもいいだろう?
それぐらいのことは、私にもできたんだと。
……それにしても、いざ『死ぬ』となったらあっさりとしたものだな。

自分の存在価値に悩みながら登場を重ねる内にもう200話。
私は充分に活躍できた。
最後にボスキャラ役ができて良かった。それで充分。
そういう事にして先にホテルで待っているよ、きよみ。
こっちにきよみが帰って来るのをゆっくりと待つことにするよ……。

……或いは。
或いは、きよみの心は帰って来た時には
私のところへは戻って来てくれないのかもしれない。
そもそもが、同じ人気・知名度というキャラクターではないのだから。
そんな立場でおまえに今更報いようということ自体が間違いなのかもしれない。
……嫌な考えだ。
しかし、もしそうならば、もしそうならば、私の行き着く先は……。

嗚呼、光が……。
広がって……いく……。




『ビーッ、16番・杜若きよみ、セルフ・アタックダイブにて失格しました』
「おチビちゃん、お腹を押してっ、水を吐き出させて頂戴っ!」
「はっ、はいですう〜(汗)」

その時、16番・杜若きよみ【覆】は救助活動スタッフに先んじて一番手で
自ら川へと飛び込み、車椅子もろとも川へ落ちて行ったゲスト警備兵総司令
・犬飼俊伐を川から引き揚げると、連れである82番・HMX−12マルチ
と共に犬飼の蘇生処置を開始した。

掛けているサングラスを取り払い、躊躇う事無く息を吹き込むきよみと、
水を飲んで膨らんでいる腹をゆっくりと押すマルチ…と、

「ブーッ!ゲホゲホゴホゴホッ……き、きよみ……どうして、ここに…?」
サングラスが外されている事にも気付かないまま、驚き慌てて尋ねる犬飼、

「このおチビちゃんのお供でホテルへ付いて行ってあげる所だったんだけれど、
おチビちゃんがとんだ方向音痴だったおかげで今、やっとたどり着いたところ…
そうしたら、まさか俊伐さんが空から降ってくるところを目撃することになるだ
なんて夢にも思わなかったけれど…」

「済まない…私を助けてくれるために棄権する羽目になってしまったようだな…」
犬飼がびしょ濡れになってしまっているきよみを見て、済まなそうに頭を下げる。

「……」
きよみは言葉を返さず、ただその顔をほんのりと赤く染めて犬飼に微笑んだ。

「どうしたきよみ?…まっ、まさか…?」
慌てて自分の体を見回す犬飼、だが濡れてはいるものの身には傷一つ負ってはいない。

「……私の方を見て喋ってくれるなんて、とっても久しぶり……それもじかに……」
本当に嬉しそうな顔をするきよみ、あまつさえ涙まで流している。

(光が広がっていくと思ったのはこれのせいだったのか……)
慌ててサングラスを掛け直し、犬飼はやっとの事で嬉しさを押し隠して口を開いた、
「……助けてくれた事には感謝するが、息を吹き込むのと水を吐き出させるのを同時に
やるのは無茶というものだ…今度、私が正しい救急救命術を講義する事にするから…」

「……その時は是非、手取り足取りでね、俊伐さん」

口を開いた結果は墓穴に終わった。

【16番・杜若きよみ【覆製身】 脱落…残り43人】

TO BE CONTINUED?!

257パラレル・ロワイアルその201:2004/04/15(木) 19:57
午前5時を少し回った頃、海水浴場沖に錨を下ろしている豪華客船“蒼紫”の
揚陸艇用隠し格納庫にて、六名+一羽によるブリーフィングが行われていた。

簡略化された来栖川アイランドの全体地図の書かれたホワイトボードの両脇に
立っているのは北川潤と保科智子、向かい合って耳を傾けている四名と一羽は
倉田佐祐理・川澄舞・宮内レミィ・深山雪見・そしてそらである。

「え〜お集まりの皆様、それではこれより我々ワイルドセブンによる払暁攻撃
作戦の説明を行います…」
「…あのー、開始する前に一つだけ質問したい事があるんですが」

これから作戦説明を開始しようとした北川を制して、雪見が(皆を代表して?)
質問を投げかけた。
「北川君…どうして青い顔をして血染めのティッシュを鼻に詰めているの?」
「「『うんうん』」」

「…それはやな」
北川を代弁して智子がニヤニヤ顔で回答する、
「北川はん、昨晩遅く…突起の付いた一対の異物でやな、顔面をイヤという程
グリグリされてもーてなあ…」

「はぇー、襲われてしまったのですかー?」
「…かなりのダメージのようだが、よく失格にならないで済んだものだな…」
「でも一体誰が…?それに、智子さんもその時一緒だったみたいな感じだけど
貴方は大丈夫だったの?」
「そりゃ大丈夫に決まっとうや、下手人のお目当ては北川はんやったし、第一
それに…」

「トモコー…アタシの銃は引き金軽いヨー、閑話休題デ作戦説明に戻った方が
イイと思うヨー…(プルプルプルプル)」
「…レミィの言う通りだ、過ぎ去った過去よりもこれからの大事のために残り
少ない時間を有効活用すべきだと俺も思うぞ…」

「あーハイハイ、分かった分かった…(ヒラヒラ)」
「「「『?』」」」




「まず、この船に配備されていた軍備の方のリストをあげるとやな…乗りモン
の方は、水陸両用型の無限軌道付き上陸用舟艇が一隻に通常型の上陸用舟艇が
三隻、それにうちらが乗って来た屋形船一隻に潜水機能付水上バイクが一台や
…いずれも半自動操縦型やな。

ロボット兵器の方は、バトロドロイド――――正式名称・朝鮮製コピーガード
ロボット“甲漢O0O0”――――が稼動可能数120体…元々150体配備
されとって、源一郎はんが脱落した際の戦いで30体が『破壊』されたことに
なったらしいんや…そして、来栖川のコレクションなんか長瀬主任が裏取引で
入手した秘密兵器なんかは不明やけど、NECインターチャネル社製の非公式
最新型レイバー“O−THE−O”が一機…」

「「「「『…“お嬢”?』」」」」
「“O−THE−O”や…」
「はぇ?私の事、呼びましたか〜?」
「やから“オ・ジ・オ”やて、佐祐理はん…ちなみに、サポートAI内臓に
よるレバー&ABCDボタン操縦型・ノンリーサルウェポン装備のゲーム用
レイバーに改造されておるけど…」

「「「「『…ヤッパリ、“お嬢”じゃん…』」」」」
「…そうかもしれへんな…」
「ふぇ?私の事、呼びましたか〜?」

258パラレル・ロワイアルその202:2004/04/15(木) 21:50
「――という訳で、午前5時現在確認した所の生き残り総数は復活に成功した
千堂和樹殿及び長岡志保殿と、警備兵からの昇進を果たした澤田真紀子編集長
及び覆面ゼロ殿を含めた、推定40余名であると思われる」
「内輪連中の蜜月関係が崩れるにはまだまだ早い人数やな…それに、千鶴はん
が脱落してくれたんは作戦成功としてもや、御堂はんとか光岡はんはまだ健在
やし、郁未はんと石原先生の衝突もまだ起こってへんし…とてもやあらへんが
まだまだ、楽観は出来へん状況やな…」

「そういえば、別働隊募集の件は結局…どうなったの?」
軍備に続いて、参加者生き残り状況に説明が移った時、雪見が再び質問した。

まず智子が揚々と回答した、
「77番・藤田浩之君と52番・セリオはんには、つい今しがた連絡が付いて
合流を了承して貰うた所や…今現在大灯台広場におるさかい、そこからヨット
ハーバー・港の方へ向かって後、大型クルーザーで海水浴場へ向かって来るっ
ちゅー話や」

「残念ながら、85番・美坂香里大明神と56番立川雄蔵大魔神は復活戦への
参加で昨晩は不眠のため、眠らせて貰いたいとメールが届いていた…残念だが
まあ、仕方のない事情だろう…」
次いで、(色んな意味で未練があるのだろう)さも残念そうに北川が回答した。




「で、いよいよ本題の作戦と役割分担の説明に移らせて頂くが…」
北川がホワイトボード上の地図を指し示しながら解説を始める、
「今現在、“蒼紫”は海水浴場沖に錨を下ろしている…というのも、藤田殿と
セリオ殿のいる大灯台広場及び、石原先生と柳川裕也殿のいる植物園の仮眠室
へは攻撃の必要性は殆どなく、従って残る土産物商店街の仮眠室をこそ我々の
攻撃目標とする事を選んだからである…基本的な作戦展開としては、まず…

①水陸両用型及び通常型の上陸用舟艇にて各舟艇25体・計100体の感感…
ゲフンゲフン、甲漢及び、戦果確認・援護射撃役の部隊長3名を海水浴場より
上陸させ、そのまま商店街仮眠室を払暁攻撃して貰う

②それに先んじて、強行偵察隊2名を水上バイクにて商店街沖を通り越して、
スタジオ・舞台村沖より川を遡ってホテルへと向かわせ、復活戦帰還組の現状
確認と機を見ての奇襲、そして仮眠室裏手への援護奇襲を行って貰う

③残る2名には“蒼紫”モニター室より、戦況と上陸した5名の指示に応じた
甲漢部隊の指揮操作と、残りの軍備による“蒼紫”及び撤退路の確保・防衛を
行って貰う

とまあ、こんな所だ…藤田殿とセリオ殿には到着次第、その時もっとも必要と
思しきポジションに後から加わって貰う形とする…それで、一体誰がどの役を
割り当てするのかを実はまだ決めていない…役によって危険度に差があるし、
任務の的確不適格や好き嫌いもあるだろうから、こればかりはやはりみんなで
相談した上で決めていこうと思うのだが…」

「じゃあ、早速だけど…私は強行偵察隊に志願させて貰うわ…」
雪見が事も無げに最も危険な役割を買って出た。

259パラレル・ロワイアルその203:2004/04/15(木) 21:54
「ちょっ、ちょっと雪見はん…何でそんな貧乏クジ、自分から選ぶんや?」
思わず驚きの声をあげる智子を雪見は制して言葉を続ける、

「どの道誰かがやらなきゃならない任務なのよ…本陣は佐祐理さんと舞さんに
、侵攻部隊長は智子さんにレミィさんに北川君…作戦効率上、そして大芝居と
しての配役上でもこれ以上の理想の組み合わせが存在したら、是非とも御指摘
願いたいわ……という訳で、こっちへいらっしゃいな、カラスさん」

『ヤレヤレ…貧乏籤の筈なのに不思議と幸せな気分だな…って、おおっ!?』
「…ぽんぽこたぬきさんっ…(ぎゅっ)」

雪見の肩へと飛んで行こうとしたそらを舞がしっかりと捕まえて、隣にいた
佐祐理の肩へとそっと載せて口を開いた。
「…唯一人の能力者が…戦力の要として仲間に加わった私が…皆を戦線へと
送り出し本陣に引き篭もっている様な事では、ブルース・アッシュビー元帥
に怒られてしまう…だから、私が雪見に同行する…おまえは、私に代わって
佐祐理をしっかりと護ってくれ…(なでなで)」
『分かった…いざという時は本作の毛玉を見習う覚悟で引き受けよう…』




「…これでいいのかも知れません」
舞の決断にどういう反応を示すのか、残りの連中が心中危惧しながら見守って
いた佐祐理が、ポツリと結論を下した。
「…残念ですけど、元のゲームでも本作ハカロワでも、舞と一緒の戦場に顔を
出した佐祐理は、私情に溺れて舞の足を引っ張る事しか出来ませんでしたから…」

びしっ。

「あいた〜」
「佐祐理を悲しませる奴は、許さない…例えそれが佐祐理自身であったとしても…」
「ふぇ〜、ご免なさいです舞〜…でも、でも…だったらもし、無事に帰って来て
くれませんでしたら、佐祐理を悲しませた舞を…佐祐理は許してあげませんよ〜」

「…分かった、万一その時になった場合は…罰として潔くこの剣で切腹して、自分を
成敗………待て、佐祐理…今のはほんのジョークの積もり…そ、そのジャムは…?」
「あはは〜っ、佐祐理の支給装備ですよ〜っ…舞〜っ、ア〜ンするのですよ〜っ♪(…ガシッ)」
「…さ、佐祐…悪かった、謝る…だから、許し…止め…(バタバタバタバタ)」




「…本作ハカロワでは銃弾を受ける事すら厭わなかった舞はんが、あんなに嫌がるなんて…」
「…マルデ、ストームブリンガーネ…」
「鍵の世界の諺にはこうある、“ジャムは剣よりも強し”と…」

TO BE CONTINUED?!

260パラレル・ロワイアルその204:2004/04/21(水) 19:14
「…何故、今すぐに追わないのかなぁ、澤田君?復活に成功された以上、標的が
ホテル外に脱出してしまうと追跡の難易度は段違いに高くなるぞぉ(モグモグ)」
「…今は取り巻きが多すぎるわ…おまけに御堂さんや光岡さんまで合流している
以上、下手な手出しは返り討ちに遭うのが必定…もっとも、その取り巻きさん達の
おかげで行方を突き止めるのは左程難しくもなさそうだし…これからはじっくりと
時間を掛けて隙を窺う事にするわ(モグモグ)」

「な〜に?ナニ?何?…要は、出会ったカモを片っ端から機会見付けて頃してけば
いいだけの話でしょー?…んな事、この長岡志保ちゃん率いる東鳩マーダーチーム
に任せておけば、あっという間に皆頃しよおっ♪(モグモグ)」
「……随分と威勢のいいクローン返りちゃんだなぁ(モグモグ)」
「何よおおっ!ちょっと不覚にも不意を討たれちゃっただけじゃないのよおっ!…
大体にして、戦線復帰を果たした今、このアタシが6人頃しでトップスコアなはず
なんだから、マーダー同士としてちょっとは敬意ってモノを払って欲しいものだわ
(モグモグ)」

舞台は再び、ホテル17階の“鍵っ子壱番屋”…今は彼等だけとなった店内にて、
大テーブルを囲んで早めかつ重めの朝食を摂っているのは、実力で敗者復活戦の
勝利者となった三人、覆面ゼロ・澤田真紀子・長岡志保である。

「それにしても以外ね…」
真紀子が思い出したかのようにゼロに向かって口を開く、
「私、てっきり貴方がそれを持って水瀬秋子さんの所へ向かうものとばかり思って
いたのだけど…どうせ、所有者自身には仕えない物なのですし…」

…ゼロの座る長椅子の脇には、バックや装備とともに“復活の呪文書”が無造作に
置かれていた。

「それも一時は考えた…」
ゼロは真紀子の問いに淡々と答える、
「しかし、それでは愚弟供の血と汗と強運の金星を無下に塗りつぶしてしまう事に
なるしそもそも、スーパー秋子ちゃんが跳梁する物語なら他の作品でも拝読出来る
だろう…今の所、取り立てて使用目的は思い付かないがまあ、持ってればその内、
エサなりネタなりにはなってくれるだろうし…って、何で澤田君は俺と秋子ちゃん
の事、知っているんだぁ?」

「企業秘密…とだけ、今の所は言っておきましょうか…」
…そう答える真紀子の顔に、一瞬だけ切なそうな表情が浮かんで見えた様に思えた
のは、果たしてゼロの気のせいであったのだろうか…?




「…に、してもアッタマくるわね〜、食後の楽しみ・鍵っ子名物水出しコーヒー…
先客がみ〜んな飲んじゃった後だなんて、チョットは後から来るお客様のコト考え
なさいよ、マッタクぅ!」
一方、二人の会話の内容に左程理解も関心も無さそうな志保の方は、この店に来た
もうひとつの理由・楽しみが既に無くなってしまっている事に対して、プンプンと
腹を立てていた。

261パラレル・ロワイアルその205:2004/04/21(水) 19:16
「怒ると消化によくない…それに、本当に美味いコーヒーというものは、香辛料の
効果の強いカレーを食した後に飲んでもその真価などは決して判りはせぬ、食前に
飲むべきだと思うぞぉ(カパッ、コポポポポポポ……)」

ゼロは志保の不平にうんちくで答えながら、持参している水筒より注いだ飲み物を
さも美味しそうに口に運んだ。
「(グイッ…グビッ、グビッ…)くう〜〜ッ、ヤッパリ朝一番はコイツに限るぜぇ」

「チョット虚無僧さん、何自分だけ美味しそうに何か飲んでるのよぉ、アタシにも
チョットだけ飲ませなさいよぉっ」
志保はテーブルに置かれていたゼロの水筒をひったくるように取り上げると、直接
水筒に口をつけて一気に中身を流し込んでしまった。

「ブブ〜〜〜〜ッ!!ゲェ〜〜〜〜ッ、オエ〜〜〜〜ッ、ゴホゴホ、ペッペッ!!
まっずう〜〜〜っ!にっがあ〜〜〜っ!くっさあ〜〜〜っ!…何よおおおおっ!?
…何なのよおおおおっ!?この…ヘンな飲み物おおおおっ!?」
流し込むや否や、水筒を放り出し咳き込んで中身を吐き、抗議的質問を投げ掛けた
志保に対し、

「俺様の健康法・其の1…」
水筒をナイスキャッチしたゼロは、五七五でしれっと回答した。
「朝一番、搾り出したて、尿療法」





……
………
…………バタッ。

『ビーッ、63番・長岡志保、ナースストップにて失格しました…霧島先生は、
直ちに搬送用ベッドを用意して、ホテル17階・“鍵っ子壱番屋”まで向かって
下さい』





「とんだ聖水だったなぁ、まぁ文句はリムゾン河の神様にでも言ってくれぇ」

「(ズズズ…)ドクダミ茶で人を頃すとは、貴方なかなかやるじゃない……でも、
もう二度と、私の食事中に下品なネタを使うのだけは、やめて頂きたいわ…で、
早速なんだけど、G11と志保ちゃんレーダー、貰ってってもいいかしら?」
「別に構わないが…志保ちゃんレーダーは彼女の持参装備じゃないのかぁ?」
「問題ないわ…この程度のルール違反で今更、杓子定規に失格を下すG.Nじゃあ
ないでしょう?」
「……流石に其処までは俺様も読んでいなかった…敵に回したくない女だなぁ、アンタ」
「秋子さん程かは…どうかと?」

【63番・長岡志保 脱落…残り(今度こそ)43人】

262パラレル・ロワイアルその206:2004/04/21(水) 20:30
「彩さん…大志…玲子ちゃん…あさひちゃんに千紗ちゃんまで…」

ホテル19階・警備兵詰め所内ホテル監視施設にて、敗者復活戦の各所趨勢を
記録再生にて確認した千堂和樹は、ガックリと腰を落としへたり込んでいた。

自らが手に掛けてしまった夕香・美穂・まゆや代戦士の鈴香・縦王子・横蔵院
を含めれば、敗者復活戦におけるこみパ組の犠牲者の数は相当な数に登ったの
である…しかも、その内過半数は自分の復活に関わったがために『死亡』して
しまったのも同然なのであったのだから。

「ふみゅう…駄目だよ、和樹ぃ…私みたいに、悲しみに押し潰されちゃあ…」
「わかっている、詠美…絶対に二人で勝ち残ろう…そして、重ね重ねの由宇へ
の借りも返した上で、憎しみに囚われる事なく、自分の自由に対するケジメも
キッチリと着けて見せよう…!」
「エライッ!よー言うたわ、和樹ぃ!」
「それでこそ、和樹さんですの☆」

「じゃあ…俺はそろそろ、お役御免といったところだな」
「「「「ええっ!?(ですの)」」」」
和樹と、その奮起勝ち残り宣言に共に奮い立つDC版こみパ三人娘を前に、
御堂はさらりと離脱宣言を言ってのけた。

「ちょっ…ちょっとお、どういう事なのよ、したぼく2号ぉ!?」
「なんやオッサン、いきなりツレナイんとちゃうかぁ!?」
「ぱぎゅうっ、本物の武人さんとせっかく一緒になれましたのに、それじゃあ
余りに寂しいですのっ」

「ゲ――――ック!!」
『『『びくっ』』』

御堂は案の定、自分の発言に騒ぎ出した三人娘を一喝して黙らせると、諭す様
に口を開いた。
「理由は三つだ…まず一つ目は、俺には俺の私的にやるべき目標というものが
ちゃんと存在するんだ…確かに、坂神の野郎は脱落しちまったが、本作やこの
ゲームで坂神をリタイアさせた連中は恐らく、まだ脱落しちゃいねえ…それに
、そいつらの他にも安宅とか本作のろぼっとの姉貴分達とか、あと光岡…一応
、一番後回しにしてやる積もりだが…オメーも、腕を競いたい奴の内に入って
いるんだぜ…なぁすばる、オメーも武人なら強そうな奴相手に血が騒いじまう
俺の悪いクセ、分からん訳でもあるまいが?」
「ぱぎゅう…確かに、分からない訳ではありませんですの…」
「御堂…確かに俺は、お前の友に唯一の弱点を解決して貰った訳なのだが…」

「二つ目の理由はだな、そこの和樹とやらを付け狙っている女が、彼女なりの
正義のために単身で戦いを挑んで来ているって事だ…俺にはソイツに干渉する
理由も立場も義理もねえ…和樹と女に頃された連中のダチだけでケジメ着ける
べき問題じゃあないのか?」
「ウンウン、確かに真紀やんも編集部とZ読者の期待を背負って和樹に戦いを
挑んで来とるんや、コチラもそれなりに武士道は通すべきかも知れへんなぁ」
「しかし、俺もまだ『本格連載には時期尚早、今しばらくは読み切り断続連載
にて自由の満喫を』というZ契約条件を通して貰わない事には…どうやらこの
『場外乱闘版・契約条件交渉』卑怯な手段を選ぶ訳にはいかないようだな…」
「ふみゅ…和樹がそう決心したんなら、私も反対する訳には行かないようね」
「正々堂々、渡り合うですの☆」

「で、最後の理由はだな…(ひょいっ)」
「にゃあっ?」
「ぴっこり?」
…御堂は、ぴろとポテトをひょいと摘み上げるとボソリと呟いた、
「以上の理由から、お荷物は必要最小限…コイツ等だけで勘弁して欲しいっていう訳だ」

「ふみゅうっ、じゃっじゃあ、土産物商店街のあゆあゆはどうするのよっ!?
…千鶴さん、頃されちゃったのよっ!?」
「確か、鯛焼き屋のオヤジが一緒にいた筈だろう?…そこそこ強そうだったし、
お守りはアイツに任せればイイだろう…大体、あゆには代戦士がいたんじゃねぇ
のか?…全く、今の今まで何処で何やってやがるのか知らねーがな…てな訳で、
そろそろ行かせて貰うぜ…じゃあなっ!」
「にゃあ〜!」
「ぴこぴこ〜!」

「「「「ああっ!(ですの)」」」」
それっきり、御堂は風の様に詠美達の前から姿を消した。




「五時を過ぎている…このホテルは再び、通過・交戦禁止エリアへと戻り、
補充のガードロボットも間もなく大量に到着・各所再配備される事だろう…
御堂の代わりと言っては何だが、私が土産物商店街まで同行しよう…だから
、速やかにここから脱出するんだ」
「そうやった、忘れとった!」
「もたもたしてたら大変ですの!」
「さって、行くか詠美!」
「うん!」

光岡の指摘の元、和樹・詠美・由宇・すばるも速やかにホテルからの脱出を開始した。

TO BE CONTINUED?!

263パラレル・ロワイアルその207:2004/04/22(木) 18:02
「お早うございます、石原先生…若い男の精気を吸い取られたせいでしょうか、
今朝は角を曲がりきったお肌が随分と、ツヤツヤテカテカしていらっしゃいます
わね…(笑)」
「お早う、郁未さん…どうやら昨晩は嫌がって逃げ出した坊やを一晩中追い掛け
回した挙句、夜通しで責め立て続けていたようね…可哀相に、坊や髪が真っ白に
なっちゃってるじゃないの…(笑)」

「「なんだとぉ、このブスぅ〜〜〜〜っ!!(バチバチッ)」」

「「……」」

霧の立ち込め始めた早朝の植物園フードスタンドにて、仲良く(?)大テーブルを
囲んで、早めのモーニングセットを口に運んでいる四人…スッキリした顔立ちで
先程から口攻撃を応酬している3番・天沢郁未と6番・石原麗子、…そして共に
虫刺されやら、負傷と呼ぶにはチョットアレなアザとか爪の痕を顔や体に幾つも
付けまくって、先程から何回もあくびを繰り返しているのは、48番・少年と、
98番・柳川裕也…ちなみに、現在まともな服装をしているのは少年だけだった
りするのであるが…。

果たして昨晩…夜半過ぎから今朝方まで、巨大公園および植物園にて、一体何が
起こったのかは最早、誰にも分からない…というのも、両エリアに無数に設置が
なされていた隠しカメラや集音マイクは、何故かその殆どが電源を何者かにより
切られてしまっており、記録としては一切、何も残されてはいないからである…
そのため、今朝はHMX−14M・ミリアがスタッフ作業補助用のHM−12を
2ダースほど引き連れて、それの復旧作業に取り掛かっている。


「おばさん、口がイカ臭いわよ…今朝はちゃんと入れ歯を磨いたの?」
「お嬢ちゃんこそ、髪がチップル臭いわよ…ひょっとして、わざと愛しの高槻様
のモノマネでもしてるワケ?」

「!…(プチッ)」
先にキレたのは、郁未の方であった…ふわりと席を跳ね上がり、真正面の麗子を
目掛けて、カプラスーツのスカートを舞い上がらせての回し蹴りを放った。

「!…」
しかし麗子は、椀入りのシジミの味噌汁をこぼす事無く啜りながら平然とそれを
かわす。

「…ダメだよ、郁未」
少年が郁未を制する、
「ここで僕達が潰し合って…結局、誰が得をすると思ってるんだい?」

「わ…わかっているわよお…」
少年の、稀にしか見せない有無を言わせない口調に思わず、おとなしくシュンと
なってしまう郁未。


「…?」
柳川はその時―――麗子が郁未の回し蹴りをかわしたその瞬間―――に、麗子の
箸を持った方の手が稲妻の様な速さで郁未のスカートの中へと一瞬、伸びたかの
ように見えた。
『…そんなまさか、宮本武蔵じゃあるまいし、な…』


と、そこへ更に…霧を裂いて新たな客が、その手に持つ竹刀にしがみ付きつつ、
ふらふらとよろけながら、四人の方へとやって来た。

「「「「…!?ッ」」」」
四人は(内一名を除いて)自らの出で立ちを棚に上げ、その新たな客の怪しい姿に
しばし唖然となった。




「ひがっ…ひぎはばへんへぇ〜〜〜っ!!(涙)」
大灯台広場そして、土産物商店街を経て植物園へと地下鉄道を乗り継いでやって
来た14番・折原浩平は、顔からは涙の、タオル覆面からはヨダレの雫を滴らせ
ながら、麗子を見るや竹刀を引き摺りよろよろと近付いて来た…道中、恐らくは
誤解と襲撃と拷問を受けたのであろう、よく見ると背中にはジャングルブーツの
足跡が(大いなる誤解と共に)付けられており、ズボンの両裾は膝上まで捲り上げ
(られ)て、その脛は毛が殆ど毟り取られており、右手には(元・縦王子の支給装備
である)手錠が嵌ったままでぶら下がっており、尻にはスリッパが深々と突き刺さ
っている何ともムゴイ有様である。

『『『『ネタにするためにわざと失格判定甘くしてるな(わね)、G.N…』』』』

「あっ、あの少年は…」
「知っているの?郁未」
「(ポッ)…本編で、私の水浴び、覗いた人…」
「…命知らずというべきなのか、物好きというべきなのか…(どげしっ!)あぐっ!
……痛い(涙)」

「何だか、あの少年…覆面越しの顎のラインが不自然なような…?」
「裕也君の言う通り、あの少年は顎を外しているわ…戦闘能力の方は取り立てては
なさそうだし、まずは顎を戻してあげてから、情報その他をお返しに頂く事に致し
ましょうか…」

264パラレル・ロワイアルその208:2004/04/22(木) 19:12
「はわわ〜っ!怖いですぅ〜っ!ピンチですぅ〜っ!助けてくださあいっ!
浩之さああんっ!セリオさああんっ!智子さああんっ!晴香さああんっ!」
「わ…悪かった、悪かったわよ驚ろかしてっ…だから、お願いだからもう、
落ち着いてっ、落ち着いて頂戴っ!…てアンタ、本当にメイドロボなの?」

リバーサイドホテル・西口玄関外…頭を抱えお尻を突き出したあられもない
ポーズで悲鳴を上げてブルブルと震えているのは、きよみ【覆】と『死に』
別れてしまった後、誰かを求めて一人、とぼとぼとホテルの周りをウロウロ
していた82番・HMX−12マルチ…そして、謝りながら彼女の首根っこ
を摘み上げて座らせ、何とか落ち着かせようと不器用になだめているのは、
69番・七瀬留美…椎名繭をホテル16階・アミューズメントフロアに設置
されていた自販機のハンバーガーで何とか満足させて送り返した後、元いた
隠し露天風呂ラウンジに戻るため、ホテル西口玄関をくぐった所でマルチと
出くわし…本編よりつい今し方まで延々とつちかってきた経験(?)のままに
、己の認識によるメイドロボへの正しい(?)対処法を、その手に持つ一斗缶
にて実践を行おうとした結果が、今現在の状況なのであったりする…。

「あぅぅぅ、怖かったですぅぅ…って、『本当に?』なんていうのはひどい
ですぅぅ…これでもこの私、HMX−12マルチ…夢は世界一のメイドロボ
なんですよおっ(胸をぐいっ)」

「……はぁ、よ〜く分かったわ…で、メイドロボの貴方がどうして、こんな
時刻にホテルの入口で一人、ウロウロしてたの?」
「ハイ、それなんですが…実は、敗者復活戦に参加されたお知り合いの方の
ために、故障したエアガンの修理をして差し上げたのですが、必要なパーツ
をひとつ、うっかり戻し忘れてしまいまして…」
「……(汗)」
「それで…一人では心細かったものでしたもので、他のお知り合いになった
方と一緒に迷子になりながら先程、やっとホテルまでたどり着いたのですが
…そのお知り合いになった方も、人助けをするためにゲームから脱落されて
しまわれて…おまけにもう敗者復活戦の方も終わってしまっておりまして…
もと来た所へ帰ろうにも、霧が深くたち込め始めて一人ではやっぱり怖くて
…もうどうしたらよいものかと途方にくれておりまして…(涙)」
「……(汗)」

七瀬は、今迄自分が長い事つちかい続けてきた、メイドロボに対する認識が
音を立てて崩壊していくショックから立ち直るのに、頭を抱えたままの姿勢
でしばしの時間を必要としてしまった。

「あの〜、大丈夫ですかー?…頭、痛むのですかー?」

「大丈夫よ、おかげさまで……って、それよりアンタさ、さっき泣いてた時
『晴香さああんっ』って叫んでたけど…それってさ、巳間…晴香の事?」
「はいー、本編では短いお付き合いで生き別れになってしまいましたけれど
、とっても強そうでカッコイイ方でしたー」
「カッコイイねぇ…それで、その時…晴香とはどういうお付き合いだったの?」
「え〜っとですねぇー、最初にほっぺたをつねられて…次にスカートをぴらっと
めくられて…更にその次は銃を渡されて…最後は…最後は首根っこをつかまれて
、『いけえっ!マルチカタパルト弾』と叫ばれて…(しくしくしくしく…)」

「(汗)……まあ、大体のところは分かったわ、有難う…」
思い出し泣きを始めたマルチを見て再び頭を抱える七瀬。
「それで結局貴方…マルチちゃんはこれから、行く当てがなくて困っている所
なのよねえ……じゃあさ、もし良かったら…私と一緒に来る?」

「ええっ?よろしいのですかぁっ?」
泣いていたマルチの顔にたちまち、パアッと華が咲く。

「………………やっぱりやめた」
「はぅぅぅぅぅぅっ……(涙)」

「………アハハ、冗談よっ…私は七瀬留美、よろしくねマルチちゃん♪」
「ふえーん。あんなコト言う人嫌いですぅー」
「……いらない敵をつくるわよ、そのセリフ」

TO BE CONTINUED?!

265パラレル・ロワイアルその209:2004/04/28(水) 16:03
…ぱちっ。
すがすがしい目覚めだ。

俺こと1番・相沢祐一は、洋上の(まだどこかは知らないが)ゲーム用クルーザーの
ベッドの上で、陽光の入ってくる窓の方へと思わず枕の上の頭ごと視線を傾ける。

…そして、思いもかけない人物と視線がかち合ってしまった。

「……お早うございます、祐一さん…それにしても、貴方という人は…中途半端に
積極的な方、だったんですね…」
俺の隣の枕元には……枕元には、43番・里村茜がパジャマ姿で横になりながら、
俺の方を何か言いたげにじぃっと見つめていた。

『!?』
…俺は慌てて眠る前の自分の記憶を掘り起こした…俺の記憶が確かなら、俺は確か
64番・長瀬裕介と同じ部屋のベッドで眠っていて、茜は確か…5番・天野美汐と
共に別の部屋で一緒に眠っていた筈だ…それに、確かにこの部屋は俺が眠っていた
部屋の筈…という事は、茜が裕介と部屋を入れ替わり俺の眠っていたベッドに入り
込んで来たという事に…?

「…信じられません、ここは私の眠っていた部屋ではありません…まさか…まさか
、小坂さんが眠っている私を夜の内にこのベッドに運んで…って、流石にそんな訳
ありませんですよね、祐一…」
茜の方も、記憶を掘り起こしていささか、混乱を起こしているようである。

「まあ、取り敢えずは…お早う、茜…」
混乱のドサクサに乗じているようで(いや、実際乗じているのだが…)少し後ろめた
かったが、俺は茜に朝の挨拶を返すのと同時に、

ちゅ…。
お早うのキスを…してしまっていた。

「……嫌です、と言う前にそのような事をいきなりなさるのは卑怯です…」
茜は火の出るような顔色をしてそう告げると、そっと俯いて自分が頭を乗せている
枕としばしにらめっこをしていた…が、顔を上げて俺の方を向くと、真面目な顔を
して俺に尋ねてきた。
「…いきなりですが、祐一…そういえば祐一は昨晩、どのような…どのような夢を
見ましたか…?」

「夢?…そういえば、昨晩は…とってつけたみたいな内容でウソ臭く聞こえるかも
しれないが、昨晩俺が見た夢は…茜、お前との幸せな未来の生活を一緒に過ごして
いる内容の夢だった…」
「……私も、です…実は、私も祐一と同じ様な内容の夢を見ておりました……」

「何とも奇遇というか、運命の赤い糸を感じさせる夢のお告げ…」
「……そんな事はどうでもいいのです…」
『うぐぅっ、そんなのひどいようっ…どうでもよくないようっ…』

「…問題なのは、私が祐一の部屋に…そして、祐一のベッドに潜り込んで、祐一と
同じ『幸せな内容の夢』を見させられていたという事です…」

「『見させられて』?……ああっ!」
そこまで茜が告げた時、本編にて参加者名簿を読んでいた俺の頭の中にも、とある
疑念がやっと浮かんできた。

長瀬裕介には、『電波』という催眠術のような能力があるらしい…ほんの少しだけ
、他の人の自由を奪ったり、体を自由に操ったりできるのだという…天野も確か、
その力で眠らせて貰い、幸せな夢を見せて貰った事があったと話していたし、俺も
その話を茜に語って聞かせていた。

…確かに、裕介の電波の力がその話の通りならば、茜が自覚もなしに自分の部屋を
抜け出して俺のベッドに潜り込んだり、茜と揃って同じ内容の幸せな夢を見ていた
事も話のつじつまが合ってくる。

…そういえば、一緒に寝ていた筈の裕介はどこへ行ったんだ?…もしかして、茜と
入れ違いに天野の部屋へと入っていったのか?…そして、その間間違っても俺達が
目覚めて、その時に行われていた何かに気付いたりしない様に、幸せな夢を見せて
朝まで、寝かし続けていたんじゃないのか…?

…と、いう事は昨晩、裕介と天野は…ひょっとして、ひょっとしたら…?

…怪しい、とっても怪しいぞお。

266パラレル・ロワイアルその210:2004/04/28(水) 17:15
「(ゴッキン)…うん、これで取り敢えず顎の関節は元通りに戻しておいたわ…
でも、筋が落ち着くまでの間は、しばらく大あくびと大笑いと大声は厳禁よ…
もし、今一度外れちゃった時は、本格的な設備でそれなりに精密な治療が必要
になっちゃうから…無論、100%ナースストップ失格は覚悟しなさいよ」
「はっはいっ、本当に、本当に有難う御座いましたっ、石原先生っ…(感泣)…
ああああああっ、喋れるって素晴らしいっ!唾を飲めるって素晴らしいっ!」
「言ってるそばから、何馬鹿喚いてんのよっ、この覗き魔っ!(びしっ)」
「…じゃ、じゃあお先に移動させて頂きますので…後は宜しく、柳川さん…」
「…ご、ご配慮感謝する…どうかご達者で、黒い名無し殿…」

植物園フードスタンドでは、モーニングセットをたいらげた後の石原麗子が、
柳川裕也と二人掛かりで、尋ねて来た折原浩平の外れて久しい顎を元に戻し、
『お互いに相棒が制御出来る内にここは一旦…』と配慮した少年が天沢郁未を
伴って、スタジオ・舞台村方面へと霧の中へ消えて行った。そして今、自分の
顎にて喜びのモーニングセットを噛み締めている浩平に対する、女王様の質問
責めと海パン刑事の事情徴収が行われていた。

「…で、貴方は度重なる酷使による結果、顎を外してしまったと…(汗)」
「…で、道中、大灯台広場の52番・HMX−13セリオを尋ねたが、部屋の
中は留守だった上、99番・柚木詩子に、部屋を覗き込むその怪しい出で立ち
と滴り落ちるヨダレの雫を目撃→誤解され、後ろから支給衣装のものと思しき
ジャングルブーツを投げ付けられ、思わずひざを着いた所を更に右手に手錠を
掛けられ窓のサッシ枠へと繋がれて、正規の警備スタッフを呼びに行かれたが
何とか手錠を外して逃亡…その際、部屋で発見した竹刀を回収…次に、土産物
商店街の88番・観月マナの部屋を訪ねるが、前回同様にその風貌を思い切り
に誤解されて伝家の宝刀を繰り出され、避けた弾みに尻餅を着いて尻がゴミ箱
に嵌って身動きが取れなくなってしまい、そのまま脛毛抜きの拷…嫌、尋問を
彼女から受けるが、何とか脱出…その際、追い掛けて来たマナからスリッパに
よるイチ流キックビームを発射されて尻に命中するが、激痛に堪えてそのまま
逃走に成功、そして今現在に至る…(汗)…何とも悲惨な話だな…しかし、遂に
失格になる事も、顎の外れた素顔や正体を晒す事もなく、治療復帰を果たした
その根性はまあ、大したモノだとしかいいようがないな…」

「そりゃそうですよ、俺にも大切な相棒がいるんですから…って、ああっ!」
モーニングセット完食後、爪楊枝で歯をせせりながら浩平は答えて…そして、
やっと何よりも大切な事を、今更ながらに思い出した。

「そうだった、一刻も…一刻も早く、戻ってやんないと…瑞佳っ!」
慌てて席を立ち、麗子と柳川に改めて礼を述べると再び、霧の中へと大急ぎで
駆け戻ろうとする浩平を、柳川を伴って麗子が追って来た。

「ねえ、折原君…もしよろしければ、私達もその…地下鉄道っていう乗り物に
便乗させて頂きたいのだけれど…?」
「問題ありませんよ、確か…6人までは同乗は可能な筈でしたから」
「麗子さん?どうして、我々まで…?」

「…しばらくは、郁未さんとは顔を合わせないでいた方がこれから先、面白く
なりそうだから…それにしても郁未さん…下着代わりに水着着けて来るなんて
ある意味準備がよろしいです事…でも、紐パンにしたのは致命的にまずかった
わねえ〜♪(ポイッ)」
麗子はそう言うと、ニヤニヤ笑いながら箸の背中で摘んだ、紐付きの布切れの
ようなモノをフードスタンドの可燃ゴミ箱にそのまま、放り込んでしまった。

『!…や、やっぱり…あ、あの回し蹴りの瞬間に…!』
『!…ま、まさかアレって、郁未さんが着けていた…?…ああッ、畜生ッ…!
何て…ナンテモッタイナイ事ををッ…!!』

267パラレル・ロワイアルその211:2004/04/28(水) 18:12
―――ジャーーーー―――
―――ジャブジャブ―――

「ふあぁ…」
110番・高野はトレードマークの髭をきれいに剃り整えると、あくびをしながら
朝霧の立ち込める海水浴場エリア内に建てられている、海の家の流しで顔を洗っていた。

「うう……」
こめかみに指をあて、うめいてみる。

ツープラトンだった。
コンビネーションアタックだった。
一晩夜通しだった。
逃がしてはもらえなかった。
しっかりと握られていたのだから。
二人の好き嫌いが正反対に分かれてしまった。
多分そんなところだ。

ジャブジャブ
なんだか情けなくなってきやがった。

―――「う〜。暗いの嫌だよう、怖いよう」
―――“…何を申しておる、このような月の綺麗な晩には、月光浴をしないで
     何とするのじゃ…”
―――「それに、今夜は夏休み深夜特番でしすぷり連続放送があるんだよう、
     見逃したらもう二度と見れなくなるかもしれないんだよう」
―――“…折角、南の島にばかんすに来たのじゃ、家ででも出来る様な事を
     するでない…しすぷりなど帰ってから、れんたるびでお屋にでも
     借りに行けばよいではないか…”
―――「いやだよっ、そんなレンタル料払うお金があったら、たい焼きの一個でも
     買ってるよっ」
―――“…交戦領域内では、依頼人や不参加者よりも遊戯の参加者に主導権が
     あるのじゃ…うだうだ申さずに潔く、月光浴へいざ参るのじゃ…”
―――「いやだよっ、しすぷりだよっ」
―――“…だめなのじゃっ、月光浴なのじゃっ…”
―――「うぐうっ、しすぷりっ!」
―――“…月光浴なのじゃっ!…”
―――「しすぷりっ!」
―――“…月光浴じゃっ!…”
―――「しすぷりっ!」
―――“…月光浴じゃっ!…”
―――「(ムクッ)ムニャムニャ…お前等なー、何器用に一人でケンカしてやがんだ
     …ったく、うるさくて眠れやしねえ…俺は他の部屋で寝かせて貰うぞ、
     じゃあな…」
―――((ぎゅっ))
―――「うぐう〜っ(はっし)、おじさんっ、行っちゃやだようっ!」
―――“…これ、コウヤ(ぐいぐい)、わらわを置いて行くでないっ!…”
―――「おい、食い逃げ娘…俺を三人目の保護者にする気か?…それと、中の人、
     俺の名字は『タカノ』だ…確かに、曾爺さんの代までは『コウヤ』って
     読んではいたがな」
―――「うぐうっ、食い逃げ娘じゃないもん、あゆだもんっ」
―――“…他の者が居らぬ時まで『中の人』と呼ぶでないっ…”
―――(以下、延々…)

ううう……思い出しただけで!!
歯ブラシがガリガリ君のようにきつくかじられる。

…結局、あゆと一緒にしすぷりとかいうTVアニメを延々、見されられたあげく、
あゆ御就寝後の神奈と、海水浴場浜辺にて朝まで月光浴をさせられる羽目に…あ、
一応言っておくが、借り物の体だし何処にカメラが隠されているかわかんねーから
って、裸んぼになるのは止めさせたからな。

…翼の方は生えちまっていたけどな。
…しかも四枚も。
…ぱたぱたっといった感じで。

…しかしお陰で昨晩は殆ど、眠れなかった…とはいってもまあ、戦争屋にとっては
徹夜の一晩や二晩ごとき、大したペナルティにはなりはしないのだが…とはいえ、
(俺にとっては)実害が少ないだけにかなり頭に来てはいるのだが。

「はぁ……」
思わず溜め息。

…潮の香りが染み込んだ海の家の畳敷きの間に、座布団を枕に夏蒲団にくるまって
すやすやと眠っている、61番代戦士&依頼人コンビを恨めしげに見詰める高野。

「…それにしても、濃い霧だ。払暁攻撃には持って来いの朝だな…」

TO BE CONTINUED?!

268パラレル・ロワイアルその212:2004/05/05(水) 16:14
「…それにしても済まなかった、セリオ…俺のドジから余計な苦労と面倒を
思いっきり掛け通す結果となってしまって…」
「…大丈夫です、浩之さん…それでは、ハッキングによって得られました
敗者復活戦に関する報告を行わせて頂きます…」

霧の立ち込めた港・ヨットハーバーエリアを出航する、来栖川家所有の大型
クルーザーブリッジにて、目覚めとともに性格反転キノコの効果が切れて、
今またマーダー復帰を果たさんと再び、学ランに身を包みオールバック姿に
立ち戻った77番・藤田浩之と、折角なので…と前夜浩之が身に着けていた
ヤン・ウェンリーの衣装を自分用のサイズに仕立て直して、漆黒のセンサー
スーツの上からその身にまとっている、52番・HMX−13セリオによる
、ゲーム二日目朝からの作戦スケジュール会談が行われていた。


「しかしセリオ…本家バトロワの桐山和雄は、自分の子分達ですら、ゲーム
参加セレモニーで血祭りにあげちまった正真正銘のマーダーだったんだぞ、
脳ミソ役のお前はまあともかくとして…さらに他の連中との共闘関係を結ぶ
事にあっさりと承諾するとは、ちょっと意外だな…もっとも、委員長からの
要請メールを見せて提案の可否を相談してきた張本人がこういうのは極めて
トンでもない事なのかもしれないが…」

バツが悪そうにそっぽを向いて頭を掻いている浩之に、レーダー・ソナー・
アクティブソナーを駆使して霧中操航を行っているセリオが淡々と答える、
「…状況が些か違います…確かにバトロワの桐山和雄はプレイヤーの一人で
ありましたが、彼はラスボス兼任のゲーム最強の存在でもありました…この
ゲームにおける私達とは、ライバルの皆様方との力関係が余りにも違い過ぎ
ます…やはり、利用が可能な人や物や状況は可能な限り、最大限に利用して
参りませんとこのゲーム、とても勝ち残れたものではありません」

「成る程、『利用』というわけか…」
「…そうです、『利用』です…差し詰め的な表現をさせて頂きますと、保科
賛はガルマ大佐で、ワイルドセブンはデラーズフリートといった所です…」
「成る程…やっとセリオの意図する所が俺にも飲み込めて来た様だ……で、
最後の質問だが……じゃあ、彼女は一体、誰に表現されるんだ?…(汗)」

浩之は、ブリッジの窓の外…クルーザー船首部の手摺にしがみ付いて、朝の
潮風を満喫している99番・柚木詩子を指差してセリオに訪ねた。


「…全くの、唯一の誤算でここにいらっしゃっている方ですから…(汗)」
「さりとて、本編では彼の5巻御三家には及ばないものの喜怒哀楽に富んだ
活躍の末になかなか泣かせる最期を遂げながら、あの連作アナザーに出して
貰えなかった可哀相なキャラクターだったからなぁ…流石にそんな彼女から、

『縦王子さんも、横蔵院さんも…そして、葵さんまでもいなくなってしまい
ました…(うるるん)…藤田さん、セリオさん…お願いっ、私に…どうか私に
…茜の手…握らせて…下さいっっ(ぽろぽろっ)』

だなんて、泣き付かれたら…(汗)」
「…当の里村さんじゃありませんが、『障害の排除』とか『再起動のための
生贄』だなんてイベントはとても…(汗)」




…ちなみに、顎を外した折原浩平が大灯台広場仮眠室を訪れた際、セリオが
不在だった理由であるが、その時セリオは港・ヨットハーバーエリアにて、
元45番・沢渡真琴に壊されたFPHのエンジンを修理していたからであった
…そして、その時の浩之といえば、性格反転がまだ解けていなかった上に、
摂取し続けていたブランデーによる酔いも相当なものであったため、思い切り
に部屋で終始爆睡していた(万一時に備えセリオが敷設したブービートラップ
に囲まれて)。

…そのため、セリオも浩之も、昨晩の浩平に対する詩子の所業については、
全くといっていいほど、何も気付いていなかったのであった。




「…そういえば、浩之さん…昨晩私の部屋に置いておいた竹刀がなくなって
しまっていたのですが…?」
「?…葵ちゃんが持って行っちゃったのかなぁ…?」

269パラレル・ロワイアルその213:2004/05/05(水) 17:30
「……」
「……」
「……」
「え〜ゴホン、では長瀬祐介君には昨晩…我々が素敵な夢を見せて頂いた間に、
自室を抜け出して行っておりました事につきまして、ご説明を頂きましょう。」

現在、水族館エリア沖→海水浴場エリア沖間を移動中のゲーム用クルーザーの
リビングにて、紅茶とツナトーストによる軽い朝食をとりながら、相沢祐一は
長瀬祐介を笑い半分怒り半分(理由はどうあれ、茜を本人無断で操られたため)
で取調べを行っていた。

対する祐介の方は、昨晩祐一と茜に電波を使ってしまった事に対してはあっさりと
それを認め潔く二人に詫びたものの、自分の昨晩の行動については、顔を真っ赤に
しいしい、ひたすら黙秘権を行使していた。


「…ゆ、祐介…相沢さん、私からも…私からも謝らませて頂きますから、どうか…」
「……祐一、私は怒っておりませんから、程々の所で許して差し上げて下さい」

それぞれの相棒の傍らに座っている天野美汐と里村茜も、今や可哀相な位に顔を、
耳を、手まで赤くして俯いている祐介を見かねてとうとう、揃って祐一を宥めだした。


「…ったく、しょーがねーなぁ…おい祐介、俺だってなあ、夢じゃなく現実世界で
茜との幸せな夜が満喫したかったんだぜい…なのに、お前達二人だけで…」
「……私はまだ、現段階では素敵な夢とおはようのキスだけで充分、お腹は一杯ですが…」
『!…そんな酷なことはないです…(←祐一です)』

「「…い、いや、だから僕(私)達は…そ、その…」」

「……じゃあ、何故…天野が寝ていた部屋のベッドのシーツに…紅い染みが
ついていたんだ…?」

「「!!」」

「う…嘘です、相沢さんっ…私は…私は確かに、朝食前に染みはキチンと…
…………………ああっ!?」
「ああっ、…み、美汐ぉ…」
「……祐一、カマを掛けるのは卑怯です…」

「心配するな…失敗だ、茜…天野の証言では残念ながら、証拠にはならない…」
「?……どうしてですか、祐一…?」
「理由は二つある…一つは、天野はこういった話題に関しては、妄想特急列車モードに
突入する事があって、果たして本人にすら言っている事が真実なんだか妄想なんだかが
ハッキリと区別がつかないんだ…もう一つは、もしかしたら天野も俺達同様、祐介から
電波を受け続けて、実は幸せな夢を見続けていたのだという可能性もあるからにして…」

「相沢さん、そんな酷な見方はないでしょう(怒)…相沢さんは私の体に今なお残っている、
昨晩の余韻の痛みですらも、祐介の電波や私自身の妄想によるものだとおっしゃ……………
…………………あああっ!?」
「あああっ、…み、美汐ぉ…」
「……祐一、誘導尋問はもっと卑怯です…」

270パラレル・ロワイアルその214:2004/05/05(水) 18:33
「佐祐理はんからの調査結果が来たでえ」

海水浴場エリア砂浜に上陸を完了後、無限軌道にて土産物商店街を目指して、
砂浜からは徒歩の甲漢O0O0を百体もぞろぞろ引き連れ、濃霧の中を移動を
行っている水陸両用型上陸用舟艇にて、本陣もとい“蒼紫”のモニター室より
倉田佐祐理から送られてきたメールを見た保科智子は、上陸用舟艇に同乗して
今は、砂浜にて発見→回収→搭載した台座付き手回し式エアガトリングガンと
ロボピッチャーのメンテナンスと弾補給を行っている北川潤にその内容を報告
していた。

「…土産物商店街には現在の所4人程おって、ホテルから土産物商店街方面に
向かっている連中が6人、更にスタジオ・舞台村方面から土産物商店街方面に
向かっているんが2人っちゅー事や…後は、ヨットハーバー・港及び博物館・
美術館の境界線に3人待機しとって、そっち方面目指してホテル側から移動を
しておるんが1人と2人連れの計3人で、未だホテルに待機しとるんが1人、
ほんでもって…げげっ、通り過ぎてもうた海水浴場の海の家にも2人おったん
やて!」
「…今更戻って掃討するのもタイムロスな気がするしなあ…さりとて、う〜ん
…倉田先輩にその海の家の2人が誰だか、調べて貰えないかな?」
「よっしゃ、分かった…もしもし、佐祐理はん?………………分かったで、
北川はん…モニターに映っとるんは、あゆちゃんに…たい焼き屋のおやっさん
やて」
「あゆちゃんにお得意様のコンビか…まあ、後回しっつーか、無理に頃しに
行かなきゃならないメンバーじゃあなさそうだな…もしこれが、七瀬彰さんと
柏木初音ちゃんの“我々は鬼を見た…そして…その鬼と戦う事を余儀なくされ
多くの兵士を供物に捧げたコンビ”だったら、大損害を覚悟の上で包囲殲滅戦
を行っている所だったが…ま、無視して前進を続ける事にしよう」


…見知った連中であるが故に、さゆりんが『61番・依頼人』とか『110番
・高野』とかいう呼び方をしなかった事が北川の戦力過小評価を招き、海の家
の2人(正確には計3人)は、放置される結果となった。


「それよりも気になるのは…俺たち6人+1羽と藤田さんセリオさんを加えて
9人に、倉田先輩が所在確認出来たライバルが合わせて21人で、ここまでで
合わせて30人…確か、今現在の生き残り総数が仕入れた情報だと43人…
霧の中で発見が困難な(多分参加しているのだろう)ピロシキを抜いても12人
も所在発見未確認者がいるのかよ、まいったなあ…それに、舞台村から商店街
に向かっている2人連れ…“本編見掛け倒シーズ”かはたまた“僕達イクミン
・侵蝕されても付いて行きます組”か?…いずれにしても手ごわいユニットが
戦場予定地に近付いて来ているって事かあ…」

「……本人達の前でソレ言ったら、絶対に頃されるで、アンタ…(汗)」

「あと、もう一つだけ気になる事がある…猜疑心がこのゲームの最大の敵で
ある事は充分承知してはいるのだが…本編マーダーの藤田さんと、智子様に
とっては某英雄伝組最後の恋仇であるセリオさんが、結果的にソレがネタに
なりさえすれば、俺達を裏切る可能性が無きにしも非ずって所な気がするの
だが…」
「…それも充分に計算に入れてあるわ、特にセリオはんには“蒼紫”に乗り
込まれたら色々シャレにならん事になりそーやさかい、“蒼紫”の周囲には
出撃前に予め、積まれとったゲーム用信号識別式誘導機雷“棘タイプⅢ”を
ぎょーさん、敷設させてもろといたわ♪…オマケに、対空用のエアバルカン
・ファランクスも計4門、待機状態でセット済みやで、大丈夫や♪」
「い、何時の間に…(汗)」
「アハ!何トモ手回しのイイコトネ♪トモコ!」

TO BE CONTINUED?!

271パラレル・ロワイアルその215:2004/05/14(金) 17:05
05:40…土産物商店街フードスタンドキッチン

―――目標!彰さんの本日分のお弁当を作って喜んでもらおう!by初音

「…というわけで、お手伝いは私、河島はるかで…初音さん、美味しいのを
作ろうね…」
「はいっ、どうかよろしくお願いしますっ!」
「…じゃあまず、彰の好き嫌いの方から説明していくとね…」


05:41…リバーサイドホテル31階・展望台

「莫迦な護君…水出しコーヒーなら、就寝前に私が注文しておいたのに…
(コポコポコポコポ…)」
「うっうっ、美咲さぁんっ…」
「……泣かないの…(指で涙を拭って)何があったのかは分からないけど…」
「……ありがとう」
「どういたしまして」


05:42…スタジオ・舞台村川辺

「どうしたの、舞?」
「…作戦変更の指令が北川から来た…能力者と思しき二人連れが舞台村を
商店街方面に移動中だという事だ…私はここで降りて、その二人の正体と
様子、目的を探る…雪見には、一般の参加者を装って商店街へと潜入し、
商店街にいる者・やって来る者合わせて十人程のメンバーの構成と配置を
調べて報告した後、…コレを…フードスタンドの浄水タンクに放り込んで
欲しいとの事だ…(汗)」
「…さ、佐祐理さんのジャム……ショッカーじゃあるまいし…(汗)」


05:43…リバーサイドホテル地下2階・地下鉄道駅プラットホーム

「…貴方、意外と義理堅いのね…確かに、今度の復活戦でゲスト警備兵の数
は激減してしまったのですけど…」
「最後の務めってぇ訳じゃあないがなぁ、ちょっとばかり面白いアイデアが
ひらめいたんでなぁ」
「ま、この地下列車が果たして何処へ行き着くのやら…何れにせよ、G.N
の引っ越し先であろう事だけは確かそうですけれど…兎に角、貴方の健闘を
祈らせて貰うわ、研ちゃん」

「……なぁ、澤田君…まさかと思うんだが…俺、ひょっとして昔、何処かで
アンタと遭っているような気が、するんだがなぁ…?」
「……そう思うのなら、開いた引き出しの埃を綺麗に取り払ってみなさいな
…じゃあね」
「おっ、おいっ……埃だとぉ?」


05:44…美術館

「…何と!…どうしてもゲームに参加したいから、警備兵権限を譲った上で
私の力も貸して欲しいとな?……何とも都合のよい要求であるが、別に私に
損をする所はないし…元々正規のゲーム管理スタッフである故、私にとって
の警備兵権限などただの飾りに過ぎないしな…ミュージィ殿の期待を裏切る
事は申し訳ない気がするのだが……大切な者達を今度こそは護りたいという
そなたの気持ち分からぬでもない…宜しい…私、因幡ましろの警備兵権限を
そなたに譲り、更には識別装置を装着するための仮の姿を授けよう…装備は
博物館の方から適当に見繕って持って行くがいい…あ、それと私の妹の方で
あるが…落ち着きがない奴故、スタッフとしても警備兵としても職務怠慢で
あるからにして、姉が言うのもなんであるがもし見付けたら『殉職』させて
正規参加者に昇進すれば、手っ取り早くていいと思うぞ…最後に、仮の姿に
対する『制約』の方であるが……」


05:55…飛行船・客間寝室

「…それにしても雄蔵、まさかこんなアクセサリーの鎖で逆転ホームランに
なっちゃうなんて…(チャリッ…ズシッ!!)きゃっ!?お、重っ!?…何よ
この鎖っ!?…一体、どんな金属で出来ているのよ!?」
「…貰い物だ…昔、互角の戦いを繰り広げた相手からのな…これ以上の説明
を行うには、作者がまた別の物語を書かねばならなくなるから、詳しい事は
内緒にさせて貰うが…」


??:??…??・??
「!…ふわ、ふわ……ぶえっくしょいっっ!!」
「カルラ姉ちゃん、すごいくしゃみー」
「どうした、カルラ殿?…風邪でもひかれたのか?」
「(グスッ)…違う、誰かが私の武勇伝でも語っているのであろうぞ…」

272パラレル・ロワイアルその216:2004/05/14(金) 17:43
―――午前5時46分

ゴォーッ、ゴトゴトゴトゴト……
植物園からホテル方面へと繋がる地下線路を走り抜けて行く一台の電動トロッコ、
中に乗っているのは折原浩平、そして石原麗子に柳川裕也。浩平は隠し露天風呂の
ラウンジに置き去りにしてしまった長森瑞佳の元へと戻るため、島の中心部にある
リバーサイドホテル・地下2階のターミナルを経由して博物館・美術館エリアへと
向かわんとし、麗子と柳川はそれに便乗して移動を行っているのであった。

しかし、トロッコが今まさにホテル地下ターミナルに差し掛かろうとしたその時…
反対側路線から、自分達が元いた植物園方面目指してすれ違いで出発進行して行く
列車…そう、ゲーム中は使われず全車車庫入りになっている筈の正規の地下鉄道の
車両が目に入った時…麗子と柳川は好奇心という物の匂いを、そこから嗅ぎ取って
しまっていた。

「灯りも点けずに何処へ行くのかしら?…気になるわね、裕也君」
「今ならまだ間に合います…行きますか?麗子さん」

「???…あの、石原先生、柳川さん…行くって…?…ああっ!?」
二人の会話を今一つ理解出来ずキョトンとしている浩平に、麗子は軽く手を振って
見せると、柳川と共に大きく跳躍し、複線をすれ違って走る列車最後尾車両の屋根
へと音もなく飛び移った。

「……」
浩平はしばしの間、すれ違って後方の坑道へと消えていく列車を振り返って眺めて
いたが、再び気を取り直すと博物館・美術館方面へと乗っているトロッコの向きを
切り替え指示を行い、今は誰も何も存在しない地下ターミナルを一人、ゴトゴトと
走り抜けて行った。




「ゼ…塚北殿」
「どうされたぁ、坂神殿?」
通信が入って来たモニターに背を向けたまま。気障なポーズで答える覆面ゼロ。

「……じつは、参加者用トロッコの所在確認を見落としてしまい、輸送列車の内の
一組が参加者に発見され、屋根の上に取り付かれてしまった様だ……申し訳ない」

「こまるんだよなぁ、あんまり危険なことをされちゃあ……万一、事故とか怪我で
済まなくなったら、ゲームは中止になっちゃうんだよぉ?」
チャリ……
振り向きざま、モニターに向かって錫杖片手に困惑のポーズを取る。

「つ、塚北殿…」

「で、誰が取り付いているんだい?…相手によっては、そのまま目的地に運ぶか、
緊急停止をさせるかするが」
苦い笑みを浮かべながら回答を待つ。

「ああ、た、確か。石原麗子殿、柳川裕也殿のお二人だ」

「そうか」
うれしそうな表情を浮かべ、錫杖を下ろす。

……そうか、おもしろい。大怪我の心配をせずにすむ連中なら話は別だ。

273パラレル・ロワイアルその217:2004/05/14(金) 19:32
―――午前5時47分

『やれやれ、少し意地悪に追い詰め過ぎちまったかなぁ…』

舞台はゲーム用クルーザー内、『ぷしゅ〜』とか『ぴ〜』とかいう蒸気音を
発してもおかしくない位に真っ赤っ赤っ赤になってしまっている長瀬裕介と
天野美汐を見つめて、今更ながらに気の毒さを感じ、リビング越しに見える
ブリッジの窓を背にして頭を掻いている相沢祐一。

『まさかとは思うけど裕介、俺の記憶を電波で消去しようだなんて考えてん
じゃないだろうなあ(汗)…まったく何を馬鹿やり過ぎてんだろ、俺…裕介が
追い詰められたらとっても危険に暴走しかねない事は、本編で思い知ってる
筈なのに…まして、逃げ場のない海上のクルーザーの中なんだぞ、俺と茜』

考えれば考える程、嫌な予感がしてならない…しかも、自分の支給装備は
ブーブークッション、盾になる分だけやかんの蓋の方がまだマシというもの
…確かに茜はグロック17を持ってはいるが、自分のせいで茜がマーダー化
してしまうのだけは何としても御勘弁願いたい…それじゃあまるで、本編の
藤井冬弥そのものではないか!




「!……祐一……」
その時、裕介や美汐と共にリビングに腰を下ろしていた里村茜が、祐一の方へ
と視線を向けるや、いきなり驚愕の表情で立ち上がって口を開いた。
「……きらい、です」

「「「!!」」」

そして茜はそのまま、驚く三人を無視すると祐一の脇をすり抜け、ブリッジの
方へ移動しようと足早に歩を進めて行った。

「茜……あかねええっ!」
しかし、祐一はすり抜けようとした茜を次の瞬間にはしっかりと抱き止めて
絞り出すような声で尋ね返していた。
「駄目……なのか?……俺では、届かないのか?」

だが、茜は祐一の腕から逃れようと必死でもがきながら、再び口を開く。
「……離して下さいっ、ですから、きらい、なんですっ!」

「俺は、茜、お前を愛しているよ。それでも……それでも、お前には届かない
のか……」
祐一は涙目を瞑ると、腕の中でもがいている茜をますます強く、いとおしげに
抱き締めた。




「……わかって下さい、祐一、きらい、なんですっ!」
「お前が俺を嫌いでもいい―――俺は、お前の事が。好きだったよ」

「「……」」
一方、真っ赤っ赤っ赤になってうつむき続けている裕介と美汐の方であるが、
いきなり始まった祐一と茜の絡みに一体、どうした事かと唖然としていたが、
二人の背後…ブリッジの窓から見える光景に気が付くや否や、思わずハモって
叫び声を上げた、
「「あっ、相沢さんっ、きらいですっ!」」

「…オイ(怒)……人が本気で心を苦しめている時に、オマエラまで下らない
モノマネをするというのか…確かに先に恥ずかしい思いをさせたのは俺だし、
その事については今更ながら、やり過ぎたなと認めてはいるが…」

「で、ですから、相沢さんっ!…」
「…駄目だ、美汐っ…!相沢さんに説明してブリッジを通して貰う(進路変換
を行う)時間的猶予は、最早ないっ…!(ぐいっ)」
裕介はそう叫び、半ば強引に抱え去るかのように美汐を連れると、リビング横
の通路から船外を目指して、大慌てで走り去って行った。

連れられて行く美汐の瞳が、祐一と茜に別れの挨拶を述べていた。

274パラレル・ロワイアルその218:2004/05/14(金) 20:27
05:48…土産物商店街入口

「何とか、無事に辿り着く事が出来た様だな」
「ふわぁ…眠いよぉ、和樹ぃ…」
「こら、仮眠室直行やなぁ…って、あと10分チョットでヨシオの定時放送かいっ!」
「どうせ起こされてしまいますなら、フードスタンドでご飯食べて参りますですの」
「しかし、おかしいな…正規の交戦禁止エリア監視用ガードロボットの数が
極端に減っているぞ…?」
「ふむ、恐らくは復活戦にて激減したホテル側の補充に回されたのであろう」
「ふみゅうっ、じゃ、じゃあ…もしここで戦闘が起きても、相手によっては
やり得って事も…?」
「ふむ、充分有り得るな」




「北川君?こちら雪見です…たった今、復活戦帰還組が商店街に入りました
…人数は約六名、霧でハッキリとは判別し難いんだけど、御堂さんはいない
模様、その代わりに光岡さんらしき人影を目撃しました……了解、これより
一般参加者を装い商店街に侵入します…」


05:49…土産物商店街郊外森林

「北川はん、雪見はんの潜入が完了して甲漢の包囲網も完成したでえ…って
、何しとんのや?」
「舞台村方面の監視だ…このラジコンヘリ、思った以上に高性能なカメラと
広範囲な送受信機能を持っている様だな」
「ワォ、舞台村のマイが映ってイルヨー♪」
『(ピッピッピ…)マイサン、センコウシテテイサツニマイリマス、ソノママ
ゴジョウオオハシノシタデ、タイキシテイテクダサイ』
『(カメラ目線で)……(こくり)』
「…てな訳で、しばらく舞台村の新手候補能力者二名の様子を探り続けたい
…払暁攻撃予定時刻は6時ジャスト、バロンよしおの第一声を合図に一気に
商店街へ攻め込む予定だ…それまで後残り十分程…まさかトラブルがあるとは
思えないが、それまでの監視と指揮を智子様とレミィに任せる」
「わーった、任しとき」
「OKネ、ジュン♪」


05:50…美術館

「姉上……プレイヤーを棄権されるとは…そして、私を頃させるとは…これは
一体、どういう積もりでの所業なのでありますか…?」
「お前はどの道、ゲームにも職務にも殆ど無関心でずっと怠けておったでは
ないか…故に、止まれぬ思い故に肉体的問題を押し、やる気満々の参加希望者
に権利と希望を委ねさせてやったのだ……私は信じておる、あ奴は必ず、この
ゲームをより面白いものにしてくれるとな…それにしても、わずか五分で…」


05:51…ホテル〜植物園間地下鉄道路線

「れ、麗子さん…妙なトロッコが1台、間合いを開けて追尾して来てます!」
「大丈夫、このまま屋根にいれば、風下でより低い位置にいる向こう側からは
こちら側へ飛び道具を当てる事は出来ない筈よ…それにしてもこの列車、一体
何処へ向かっているのかしら…?」


05:52…海水浴場沖・大型クルーザー

「きゃああっ!?…何よっ!?今の音は一体っ!?」
「!?…なっ、何だあ、セリオ…!?…今の、今のバカデカイ音は一体…!?」
「…!…確認しました、“蒼紫”の手前前方に…いえ、周囲にゲーム用機雷源…
更に、触雷したと思しきクルーザーを一隻発見…!」


05:53…リバーサイドホテル25階・第1VIPフロア2501号室

「?…どうしたの、シュンくん?…いきなり白衣なんかまとっちゃって…あ、
ひょっとしてお姉ちゃんにお手伝い、頼まれたの…?」
「…済まない、佳乃…実は僕も、もう一人の自分が別口エントリーしているんだ
…だから、もう、行かなくては…」
「ええっ、嘘だよ……シュンくんが、シュンくんが……。そうだ!これを外せば
魔法が使えるんだよぉ。お姉ちゃんが言ったんだ、シュンくんにずっと一緒に
いてもらうんだあ……」
「思い切り腰を折って済まないが、佳乃…この白衣は対魔法防護服なんだ、実は…(汗)」

275パラレル・ロワイアルその219:2004/05/14(金) 22:23
―――午前5時54分

(超低音で)シャシャシャシャシャシャシャシャ……

…霧のスタジオ・舞台村を長距離偵察飛行を行っている特製ラジコンヘリ、
強行偵察役として先んじて移動を行い、今は時代劇エリア内・五条大橋袂に
潜伏している川澄舞を通り過ぎて、西部劇エリア教会前通りに差し掛かった
ヘリが、遂にそのカメラに移動する人影を捕らえた。

「!…遂に見付けたぞ」
土産物商店街郊外森林にて待機中の水陸両用型上陸用舟艇内にて、北川潤は
思わず快哉を上げていた。

「…どうやら、移動しているのは48番・名無しの少年さんの様だな……
よしよし、こちらにはまだ気付いていない様だ…上手くやれれば、このまま
ヘリの内蔵エアガンでご脱落して頂く事も充分、可能かもしれないぞ♪」
ラジコンヘリは北川の遠隔操作の元、霧に紛れながら巧みに、教会前通りを
時代劇エリア方面に歩いて行く少年の背後へと近付けて行った。

「…エアガン射程内に到達、風向き良し、角度良し、サイトロックオン完了
…やったぜカアチャン、金星ゲットだぜい♪」
北川がコントローラーのエアガンのトリガーに指を掛けた瞬間、その脳裏に
一つの(今更ながらかつ重大な)疑問がよぎった。

『?…そういえば確か…少年さんと行動を共にしている筈のもう一人、3番
・天沢郁未さんは一体何処に?………………ななっ!?』
いきなり、コントローラー内のモニター映像が真っ暗になった。




「つっかまえた〜と♪」
囮役の少年を狙って低空飛行していたラジコンヘリは、教会通りに立ち並ぶ
建物の屋根から飛び降りて来た天沢郁未によってしっかりと捕獲されていた
…ラジコンヘリは今や、郁未が風呂敷の様に広げたカプラスーツのスカート
の中にしっかりと包まれて、立ち膝をついた姿勢の彼女にスカートの上から
押え付けられている。

「…そんなオモチャ、放っておいてもよかったのに…それにしても、随分と
まあ大胆かつあられもない捕まえ方だね」
「うっ、うるさいわねえ…別に生脚と水着位見せてあげたって減るもんじゃ
ないでしょうっ?その位、サービスよ、サービス!」
「サービスも程々にした方がいいと思うよ、きっと…」




「なっ、何だあっ!?…モニターの故障か、それとも破壊されたのかっ?…
い、いやこれは…袋か何かをかぶせられたのか…クソッ、ひょっとして捕獲
されちまったのかよ……しかしまてよ、もしエアガンがバレていなければ、
そして相手が油断してくれればまだ、最後の逆転攻撃は可能な筈だっ…!…
ともかく、まずは視界を取り戻さない事には…」
北川は、ラジコンヘリによるエアガンでの最後の抵抗を試みるべく、ヘリの
カメラに内蔵されているナイトビジョンのスイッチをONにした。

してしまった。




ぱたたっ。
生暖かい何かが舟艇の床に降り注いだ。
初めは、涙のように。
やがて、滝のように。
北川は動かなかった。
いや、動けなかったというべきだ。
視界がえろい。

(本編171話で14番・折原浩平君が大はしゃぎしていたけど、まだまだ
大人の世界を知らない子供だったんだな……)

昨晩失われて、残り少ない血液が栓を飛ばして再び、鼻から放出されて行く
のを最後に感じながら、北川はもはや出血多量で朦朧とした意識の中、床に
水溜りを造った己の血で最後の一仕事を終わらせた…。




『ビーッ、29番・北川潤、ナースストップにより失格…失格地点最寄の
14Maマリアさんは直ちに、救急搬送車で29番の元へ急行して下さい』

「北川はんっ!?」
「ジューンッ!?」
失格アナウンスに驚愕した保科智子と宮内レミィが操縦室と砲座から転がり
出る様に掛け付けて来た時には、もう既に北川は床に出来た血溜まりの中に
物言わずくずおれていた。

血塗られた指で床に“イクミンズ キター!”の『ダイイング』メッセージ
を残して。

【29番・北川潤 脱落…残り42人】

TO BE CONTINUED?!

276パラレル・ロワイアルその220:2004/05/20(木) 18:17
05:54…海水浴場沖

「どうだ、セリオ?」
「…駄目です浩之さん、これ以上の接近はこちらも触雷する危険があります」

大型クルーザーのブリッジから“蒼紫”を霧の向こうに望みつつ、その手前の
海上に浮かぶ、ゲーム用信号識別式誘導機雷“棘タイプⅢ”…爆薬の代わりに
頑丈で柔らかなバルーンが吸着→瞬間肥大膨張して標的船のバランスを崩し、
転覆・航行不能に陥れる。ちなみに、魚雷タイプは“槍タイプⅢ”である…の
触雷を受け、殆ど真横に垂直状態もとい転覆寸前のクルーザーと、その船側の
上に立ち進退窮まっている様子の相沢祐一と里村茜を見やりつつ、藤田浩之と
セリオはさてどうしたものかと顔を見合わせた。

「取りあえず、先制攻撃されない限りは『今楽にしてやるぜ、あばよ!』とは
しないとしても…どうやってあの二人を回収するんだ?」
「…接舷は駄目ですし、さりとてこのクルーザーのパッシブレーダーポッドが
“蒼紫”からのエアバルカン・ファランクスらしきレーダー波をキャッチして
おります…FPHで近付けばたちまち、BB弾の豪雨にさらされてしまう事と
なるでしょう……そうです!小回りの利く水上バイクで慎重に近付いて行くと
いう手がありました!」
「ナイスアイデアだセリオ(なでなで)、よしそれで行こう!」

…と、救出作戦会議の結論が出たその時、

シュゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………
船外からロケットエンジンの音が轟いて来た。

「しまった!もう一人いたのをすっかり忘れてたっ!」
「…大変です!坂下さんが使ったきりのアレをデッキに置きっ放しでした!」




「茜っ!祐一君っ!今行くよ待っててえっ!」
大型クルーザーからゲーム用クルーザー目指し背負ったロケットリュックで
勇ましく飛び立ったのは、誰あろう柚木詩子。

茜の窮地に詩子さん。
神出鬼没が代名詞。
誰が言ったか風車の詩子。

“蒼紫”のCPUに味方登録されていない番号の識別装置が、熱源を背負って
射程内に飛来して来た…たちまち最寄のエアバルカン・ファランクスが反応し
標的・柚木詩子をBB弾の豪雨で滅多撃ちにした。

ブ〜〜〜〜〜〜ン・ブブブブブブブブブブブブブブブブブ………………
ビシシ!ビシビシ!ビシシシシシシシシシシシシシシシシ……………!

「!?…ぎゃあ〜〜っ!痛いっ、イタイイタイイタイイタイ〜〜ッ!」

『ビーッ、99番・柚木詩子、有効弾直撃により失格…海上戦闘のため、
14Mミリアさんは直ちに、高速巡視船にて99番の元へ移動して下さい』

「「「「「「!!」」」」」」

そして、合わせて6人が見ている前で、撃墜された詩子は体勢を崩して錐揉み
状態で墜落…ゲーム用クルーザーを転覆寸前まで傾け、持ち上げている機雷の
バルーンに駄目押しのロケット特攻を敢行した。

遂に転覆するクルーザー。
霧の波間に上がる三つの水飛沫。
誰が言ったか神風詩子。

『ビーッ、1番・相沢祐一、アタックダイブにより失格…海上戦闘のため、
14Mミリアさんは直ちに、高速巡視船にて1番の元へ移動して下さい』
『ビーッ、43番・里村茜、アタックダイブにより失格…海上戦闘のため、
14Mミリアさんは直ちに、高速巡視船にて43番の元へ移動して下さい』




「…浩之さん。私たちのしたことって……何なんでしょう……(汗)」
「わからないよ……わからないよ、畜生……折角頃すの我慢してたのに……
しかし、立ち止まっている暇はない、次の戦場に急ぐとしよう」
「…分かりました、浩之さん…クルーザーはここに錨を降ろして、ここからは
FPHでまず、海水浴場へ上陸しましょう…」




「……祐一、詩子、貴方達に話したい事があります、聞いて頂けますか?(怒)」
「「(ギクッ)イヤです、お願いだから…」」
「……祐一、詩子…『おんなへん』に『かねる』と書いて……(怒)」
「「イヤ……言わないで」」
「(すうっ)……大っ嫌い、です…!!!(噴)」
「「イヤァァァッ!!!(泣)」」




「祐介…藤田さんとセリオさんに3巻の台詞、取られてしまいましたね」
「それにしても…昨晩流れ着いた(天沢美夜子→天沢郁未経由)バッグの中身が
小型ゴムボートだったというのは幸運という他はなかったね、美汐」
「…幸運という言葉は、無事に島へ戻れた時まで我慢致しましょう、祐介」
「…そうだね、(このまま、霧に紛れて)もうひと頑張りしようか美汐…って
(チャプチャプ)、やっぱり木刀って漕ぎ辛いなあ」
「…(落ちて来たのを拾った)安全ブーメランもなかなか、漕ぎ辛いものが
あります(チャパチャパ)…」

【1番・相沢祐一 43番・里村茜 99番・柚木詩子脱落…残り40人】

277パラレル・ロワイアルその221:2004/05/20(木) 18:59
―――午前5時56分

「貴方の名前は…?」
地下路線を走り続ける列車の屋根の上よりその姿を隠しながら、石原麗子は
追尾して来る屋根付きトロッコに乗ってる虚無僧にその素性を問い掛けた。

「2代目20番・覆面ゼロ…元ゲスト警備兵だが、今も思う所あり警備兵の
手伝いみたいな事を行っている…」
淡々と答える覆面ゼロ。

「!…2代目20番、という事はあんた、千鶴さんを倒したのか…!」
一瞬驚く柳川裕也。

「もう二つばかし質問させて貰うわ…私達を追う貴方の目的は何?…そして
、この列車は一体、どこへ向かっているの…?」
再び問い掛ける麗子。

「それらの質問に答えるためには…そうだなぁやっぱり先に、これから言う
俺の提案に答えて貰ってからというのが、条件になるなぁ」
深編笠越しに伸ばしたストローからオレンジジュースをチューチューと吸い
ながら(煙草は昔止めた)、抜け抜けと質問返しをするゼロ。

「………………………わかったわ、何が聞きたいの?」
根負けしたのか機嫌が良いせいなのか、あっさりと折れる麗子。




「こちら側に回って、蜜月ボケしている連中を一緒に頃しませんかぁ?」
ゼロが持ち掛けてきた提案は、二人を揺らがせるのに十分な内容だった。

こちら側……
なんという魅力的な取引だろう。
しかし取引を行うには……

「成る程……そういう役の人間がいないとゲームが盛り上がらない、だから
ささやかな演出を我々にして貰いたいという訳か…だが、残念だな…」
「確かに、残念ね…能力といい、性格・性質といい、私達は主催者側が求める
人材にはうってつけなのでしょうけど……でも、そういうのって、本編の方で
それなりの存在なり成績なりを残せたキャラクターがやらないと、ただの物笑い
にしかならないのよ…例え、それがただ長生きしただけだったという事実にしか
過ぎないものだったとしても…悪いけど私達、セリオちゃん程には若くないし、
本編は本編、コレはコレって割り切って考える事も出来ないし…まして、死して
ウイルス…もとい皮を残す手段も持ってないのよ…ま、以上の理由で残念だけど
他を当たって頂戴な……じゃあ、今度は私の質問の方をお願い出来るかしら?」

麗子・柳川の回答に、深編笠越しに咥えたストローをピコピコさせながらゼロが
答えた。
「うむ、最初の質問の方は…先ほど述べた君達のスカウト役と、スカウトが失敗
した時の刺客の役だなぁ」

「「!…」」

「そして、次の質問の方の答えは…」
その瞬間、列車が急ブレーキを掛けた。

「……地獄の一丁目だ!」

278パラレル・ロワイアルその222:2004/05/21(金) 18:19
「「では、いただきま……」」

ぶ〜〜〜〜〜〜ん…

シュッ…ピシッ!…ブブブブブブ……

「ぱぎゅうっ!?凄いですの、光岡さん!…まるで、宮本武蔵ですの!」
「いや、この位の芸当が出来る者なら、私はもう二人ほど知っている…更に、
内一人は逆手箸で爆弾解体すらやりかねない超人で…しかも、このゲームに
参加し今も勝ち残っている…」

パッ…ぶ〜〜〜〜〜〜ん…

「……」
「?…どうなさいましたですの?」
「……背中で、摘むべきだった…」

テーブルに向かい合い、朝の焼鮭定食を前に技を肴に語り合っているのは、
御影すばると光岡悟…と、その少し離れた所にあるテーブルに、パンケーキ
・モーニングセットのトレイを持ったソバージュヘアの少女が現れ、すっと
腰を降ろした。

「あ…初めましてですの〜、あたし84番の御影すばるですの☆」
「え…ええ、初めまして…私は96番の深山雪見です…(汗)」
「…15番代戦士の光岡悟だ」
「もしよろしければ、雪見さんもご一緒しますですの☆」
「うむ、食事は大勢の方が楽しいからな」
「わかりました、ではお言葉に甘えまして…まず、荷物の方から運ばせて
頂きます…よいしょっと(ゴトッ)」
「ぱぎゅう、アタッシュケースですの☆」
「随分変わった支給装備なのだな…」

『…騙し討ちは卑怯で心苦しいですが、特に現代兵器に詳しくなさそうな
光岡さんを今、この秘密兵器で金星に出来ましたら仲間の生還率はきっと
大幅に上がる筈なんです…ごめんなさいっ、どうか許して下さいっ…!』
雪見は心の中でそうつぶやくと、テーブルに上に置いた自分の支給装備…
H&K−MP5inアタッシュケースバージョン(エアガン)の狙いを光岡
、そしてすばるへとこっそりと定め、その取手型トリガーに指を伸ばし…




((がしっ))
「がしっ?」

寸前に背後から伸びた二本の腕に両肩を掴まれて、たちまち取り押さえられる
雪見、驚いて振り向くと…そこには、本編で見知った顔が二つ並んでいた。

「ココで会ったが百面相…しかも、乱射未遂の現行犯…コリャ、ちょー文句
無しに本編のお礼も込めたお仕置きタイムねっ♪」
「ソレをゆーなら百年目やろが…って(ゴソゴソ)、おっや〜雪見はん、アンタ
なかなかオモロイモン持っとるやん♪」
事情を理解したすばるに取り押さえを交代して貰い、雪見の所持品をチェック
していた猪名川由宇が、一つの瓶詰めを見付けて妖しい笑みを浮かべた。

「(ギクッ!!)…な、何で葉っぱ系の貴方がそのジャムの事、知ってるの…?」
とっても嫌な予感にたちまち、顔色を変えて尋ねる雪見。

「ホテルでなあ、この瓶の半分位カレーに入れて食べて来たんでなあ…おかげで
ウチ、すっごく綺麗なお花畑を斧片手に鼻息荒く散歩して戻って来たんやわ…」

「お、お願い、頃される時は本編269話みたいに…感動的に、劇的に、そして
美しく…」

279パラレル・ロワイアルその223:2004/05/21(金) 18:49
「さあ、自分で食べるんかい?それともウチにあ〜んして欲しいんかい?」
「やめてぇ!近付かないで!」
「瑞佳はんは他人様宛ての鉛弾でも食ろう剛の者やでぇ」
「もう、いいよね」
「みさきはんは半ベソかいとったけど、キチンと完食したでぇ」
「いやぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーー!!!」
「七瀬はんやないんやから、救世主はやってこんでぇ」
「どうして……貴方は笑ってるんですかっ……!」
「茜はんは本編の仇役やろが」
「こわいの。嫌なの……」
「コレで、何も考えずにすむでぇ」
「みゅー!やだよ、おいしくないんだもん!」
「詠美、口を開きいや!突っ込んじまえば何とかなるでぇ!」
「こっ、こっ、こんなことなら通信教育の合気道習っておけばよかったぁ」
「詩子はんがおったら一番面白そうやさかい、キッチンのキノコもセットで
食わしたるでぇ」
「…………」
「もう終わりかいや?」
「い、猪名川殿…」
「み、光岡さん、助けてく……」
「悟はん、食べたいん?」
「健闘を祈る!」




「むぐぐぅ〜!?」
「さあ、全部食べたら許してやるさかい、がんばって食べるんや」
「むご〜むぐもがくへ〜ぐぁぁおいぃ〜」
「あ・か・ん」
「ぐおぁ〜」




『ビーッ、96番・深山雪見、ナースストップにより失格…失格地点最寄の
14Maマリアさんは直ちに、救急搬送車で96番の元へ急行して下さい』

詠美のくすぐり地獄に思わず笑った雪見はんの顎に手を当てて上に向けさせると
ウチはおもむろに瓶を口の中に押し入れたった。

その瞬間、雪見はんは手足をばたつかして暴れだしはったけど、スの字を叱咤
して両腕を離させへんかった。

たっぷりと天国と地獄を味わったらエエんや。




05:58…再び飛行船・客間寝室

「………!!!(ガバッ)」
「!…(ムクッ)…どうした、香里?悪い夢でも見たのか?」
「……な、何か今…トンデモナイ元ネタが何処かで使われたような気が…
『こっちの世界ではもしかしたら雄香・雄理(読みも同じだし…)って事に
なるのかしら?あの娘達…ってもうヤダ、何考えてるのかしら、私…』」

【96番・深山雪見脱落…残り39人】

280パラレル・ロワイアルその224:2004/05/21(金) 19:34
05:59…再び土産物商店街・郊外森林

「ジュンのしたかったコト。ユキミのしたかったコト。アタシが受け継ぐヨ」
水陸両用型上陸用舟艇の中で、血まみれで意識が飛んだままの北川潤の『死体』
を抱き締めたまま涙をこぼしていた宮内レミィは、傍らの通信機から入ってきた
深山雪見の『お…お願い、頃される時は…』の『遺言』を耳にした時、そういって
スッと立ち上がった。

「よー言ってくれた、レミィ。もしかしたらこっから先、私一人で何とかせな
ならんやろかって、内心ドキドキしとったわ、正直な所…って、レミィっ!?」
既にトラブルと悲しみから立ち直り、『カタパルト』モードのロボピッチャーを
タイマーセットして、手回し式エアガトリングガンのハンドルを握り直していた
保科智子が、やっと立ち上がったレミィに向かってニヤリと笑い掛けようとして
…たちまち顔をこわばらせた。

レミィはペットボトルロケットランチャーを背負い、ベレッタ92Fを両腰に下げ
、手には進軍中に拾ったたんぽ槍(月島瑠璃子のスタッフ側支給装備)を握り締め、
更には腿のポケットにハエタタキを差し込んで目を真っ赤に血走らせていた。
「オネガイ、トモコ…何も言わナイデ、アタシに行かせてチョーダイ!」

「ハァッ……わーったわ、レミィ…こーなったらアンタ、止めても聞いてくれへん
やろしなぁ……でもな、レミィ…『死ぬ』時は一緒やで…そんで、面白おかしゅう
私等の全てが終わったらや…北川はんと三人、ホテルでウマい朝飯食いに行こや」
そう言うと智子は、自分のUZI−SMGをポンとレミィに手渡した。

「トモコ?…コレ、トモコの武器ジャ…!?」
「心配あらへん、私は自分の武器はちゃーんと持参してきとるさかい…それに、
この舟も、ガトリングガンも、ロボピッチャーもある…心配いらへんわ!」
「アリガトー、トモコ!…トモコはズット、アタシの大切なフレンズダヨッ!!」
「私もや、レミィ…って、おっとそろそろ定時放送カウントダウンや!…ほな、
悔いを残さんよーに派手に暴れまわって来いや、レミィ!」
「Good−bye トモコ! See−you−again!」

レミィが舟艇から飛び降り、土産物商店街入口目指して駆け出すのと同時に、
商店街を包囲する甲漢O0O0の格闘武装・煙幕装備部隊がレミィに追従する
かのように突撃を開始し、更に牽制・いぶり出し用のカタパルトモード設定の
ロボピッチャーが、無差別の遠距離射撃を開始した。

丁度、通信機越しに深山雪見の失格アナウンスが聞こえて来た時であった。




かくして、第7話から始まったこのゲームは、217話後にしてようやく、
24時間が経過しようとしていた。

281パラレル・ロワイアルその225:2004/05/21(金) 20:16
06:00…来栖川アイランド放送管制室

「グッモゥゥゥゥゥゥニィィィィィィィィン ヴェトナァァァァァァァム!!!
4回目の定時放送の時間だぁぁぁっ!!
例によって脱落者の発表からだぁぁぁっ!!

001番・相沢祐一  ・水死っ!!
016番・杜若きよみ ・入水っ!!
020番・柏木千鶴  ・射殺っ!!
029番・北川潤   ・失血死っ!!
039番・ジョージ宮内・射殺っ!!
041番・風見鈴香  ・依頼人心中っ!!
043番・里村茜   ・水死っ!!
054番・高倉宗純  ・射殺っ!!
同じく
054番・シンディ宮内・斬殺っ!!
058番・縦王子鶴彦 ・依頼人心中っ!!
063番・長岡志保  ・再びショック死っ!!
071番・横蔵院蔕麿 ・依頼人心中っ!!
074番・姫川琴音  ・自爆っ!!
081番・松原葵   ・銃殺っ!!
095番・宮田健太郎 ・銃殺っ!!
096番・深山雪見  ・服毒死っ!!
099番・柚木詩子  ・銃殺っ!!

以上、17名だっ!これに敗者復活戦の勝者として、

020番・覆面ゼロ
053番・千堂和樹
095番・澤田真紀子が新規参加で加わり、更に、
117番・匿名希望も訳アリで追加参加したから、残りは39名かっ!

オイオイ…残り39名じゃあ、本編だと3巻真ん中過ぎだゾ、コリャ絶対に
リアルタイムに追い越されるなぁアホ作者、ゲラゲラ!!

で、今回は作品別に生き残り状況をチェックしてみよーかい!ちなみに、
依頼人と代戦士は別カウントだ…まず、葉っぱ組の方は、

【雫 残り1人】【痕 残り2人】【東鳩 残り6人】【こみパ 残り7人】
【まじアン 全滅】【誰彼 残り4人】

次に、鍵組の方は、

【月 残り3人】【一 残り4人】【華音 残り8人】【大気 残り7人】

って、いった所だ!

次に、生き残り組みのスコアの方だが、

五人頃してんのが1人、四人頃してんのが1人、三人頃してんのが5人、
二人頃してんのが3人、一人頃してんのが9人だっ

…意外なトップスコアラーが台頭してんなぁ、オイ!

最後にチェイサーの方だが…残念だが今回でチェイサーはファイナルだっ、で、
ファイナルのチェイサーは2名…不人気投票は抜きで、運用側スタッフの方で
独自の考えの下に勝手にターゲットを選ばせて貰ったぜ、悪く思うなよ…更に、
ファイナルチェイサーとターゲットの名前・正体は今回全くの秘密だ…しかも、
ファイナルチェイサーは特別に、ターゲット以外への先制攻撃も有効という事に
させて貰った…どうだ?ドキドキワクワクしてきただろう?…団体様だからって
安心は出来ないぞお、楽しみに待ってろや!

じゃあ、今日も一日元気に頃し合ってくんなっ、アバヨッ!!」

282パラレル・ロワイアルその226:2004/05/27(木) 19:09
「チョット、アンタ達…交戦禁止エリアで何て事してんのよ!」

土産物商店街フードスタンドにて、猪名川由宇・大庭詠美・御影すばる・
光岡悟らがその怒りの叫び声に一斉に振り返ると、深山雪見の断末魔の
呻き声を聞き付けて駆け付けて来た観月マナが、その口に空っぽの瓶を
突っ込まれたままで気絶している雪見を介抱しつつ、振り返った四人を
睨み付けてプンプン怒っていた。

「ふみゅうっ、何て事って言われてもねぇ…(ポリポリ)」
「先に禁止エリアで挑んで来たんは雪見はんの方やし、失敗した以上は
罰ゲームにて答礼して御退場頂くんは当然やろ?」
「何トボケてんのよ!本編の私怨をゲームに持ち込んで…」




「!……一寸待て!」
光岡が、怒りと興奮で捲くし立てようとするマナを制し、元通ってきた
商店街通りの方を指差した。

…立ち込める霧の中を更に濃い霧を撒き散らしながら、もっくもっくと
前進して来る人影…そのぎこちなく直線的な動きは人のそれには見えな
かった。

「なんや、あれ?……なんやあれはっ!!」
「ふみゅ…減っちゃったガードロボの補充がやって来たんじゃないのお?」
「でも、それにしては陣形を組んで前進しているみたいですし第一、煙を
吹いているのはおかしいですの」
「チョ、チョット…じゃ、まさかあのロボットの集団って…」
「うむ、恐るべき手段を有しているライバルが存在しているという事だ…」


近付いて来るにつれ、そのロボット…甲漢O0O0はそれぞれ小型のCSD
(ケミカル・スモーク・ディスチャージャー〜煙幕発生装置)を搭載し、腕に
それぞれ、造り付けのチャンバラスティックとシールドを構えているのが
何とか見て取れるようになった。

「しかし、今なら何とか対処出来そーやな、何てったって見た所、飛び道具
持っとらへんし…」
「縁日の射的より、ちょー楽勝なんじゃない?」
そう言うと、由宇はフードスタンドで弾補充をして貰った十字架型のエア
マシンガンを、詠美は(国崎往人→田沢圭子→篠塚弥生経由の)デザート・
イーグルをそれぞれ取り出し、舌なめずりしながらロボット集団の方へと
ゆっくりと構えた。

…余談かつ補足であるが、由宇の支給装備であるライフル型コルク銃は、
昨晩ここフードスタンドにて合流をした時河島はるかに、詠美の拳銃型
コルク銃は再開を果たした千堂和樹の手に渡されており、M60型エア
マシンガン(HM−13→少年→御堂→詠美)も御堂の元へと返されている。
…代わりに詠美は敗者復活戦にて脱落した風見鈴香より発炎筒を、はるか
より悪臭手榴弾を一個受け取っている。

283パラレル・ロワイアルその227:2004/05/27(木) 19:10
「待て!」
光岡が慌てて、飛び道具を構えた由宇と詠美を制した。

「ふみゅ?どうしてよ?」
「今撃たな、ロボット供に肉薄されてまうでぇ、光岡はんっ?」

抗議の声を上げる詠美と由宇に光岡が状況を説明する、
「ここは交戦禁止エリアだ…ここに配備されている本来のガードロボット
達は、先に手を出した方を違反者とみなして攻撃を開始する筈だ…」

「うげ、それって、ヤバイやん…」
由宇は頭を抱えた…空港・ヘリポートエリアのみならず、各交戦禁止エリア
には、最低でも一体の試作四脚無人歩行戦車“ムックル”が配備されている
である。
「アレが敵として襲って来る位なら、あのバトルドロイドもどきや“武田”
に囲まれた方がナンボかまだマシやがな…(汗)」

「でも、どうするのですの?このままではあのチャンバラロボットに一斉に
殴り掛かられてしまいますですの」
「ふみゅ…商店街から、逃げるの?」

「いや…それも駄目だろう」
光岡がかぶりを振る、
「敵があれだけの大兵力を正面から押し出している以上、商店街が完全に
包囲されているか、他の脱出経路に罠なり待ち伏せなりがなされていると
考えるべきだろう」

「じゃ…じゃあ、どうするのよっ!?」
我関セズといった感じの2体のスタッフ用HM−12が雪見を担架で搬送
して行くのを目で追いながら、マナが光岡に結論を求める。

「幸い、エリアガードロボットはアウトドア戦用の大型タイプだ…従って、
まず仮眠室棟まで退却した後、篭城戦という形であの闖入ロボット達を迎え
撃つ…それでも尚持ち堪えられそうにない時は、地下鉄道のピストン輸送で
脱出を行う…流石に、地下鉄道までには包囲網は及んでないだろうからな」

「あ、なるほどな…ヤクザ映画の出入り迎撃みたいに、一斉に突入出来ない
ロボットを一体ずつフクロにしていって…飛び道具の方もムックルちゃんが
おらん方角でだけで限定的に使っていけば…」
「それに、地下鉄道駅は、仮眠室棟のちょうど真裏…いざという時は屋根を
つたってけば、脱出の方もちょー楽勝♪」
「それなら、急いで仮眠室棟に戻らないとっ!…まだ、この状況を知らない
人達が…早く教えてあげないとっ!」
「マナさんのおっしゃる通りですの、早く戻りますですの…(ガシャン!!)
ぱぎゅううううっ!?」

すばるの目の前をゴムボールが掠め飛び、すぐ横のテーブルへと落下して
食べ終ったばかりの焼鮭定食の空食器をトレイもろともに弾き飛ばした、
…水陸両用型上陸用舟艇に搭載されたカタパルトモードのロボピッチャー
から発射されたものである。

「アチラさん、先に撃って来たでえ!これでコッチも飛び道具解禁やあ!」
「よっしゃあ!みーんな、いてまうわよおっ!」
「やりましたですのねぇ、覚悟するですのお!」
次の瞬間には由宇は十字架型エアマシンガンを腰だめにし、詠美はデザート
・イーグルをニーリング・ポジションで、すばるは雪見のアタッシュケース
マシンガンをロケットランチャーの如く肩に担ぎ上げてそれぞれ、迫り来る
甲漢供を目掛けて一斉にトリガーを引いていた。

シパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパッ!
スパパンッ!スパパンッ!スパパンッ!スパパンッ!
パララララララララララララララララララララララララララララララッ!




ビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシッ!!
「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?」

『ビーッ、88番・観月マナ、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』

「はにゃあああっ!?」
「アホウ、スの字!!…それじゃ銃が反対向きやっ!!!」




「な…なんで、このアタシが話中盤で“ヤマなし・オチなし・イミなし”に
脱落しなけりゃならないのよおっ!?(涙)」
「フェイント攻撃だとでも思っとんのちゃう?…作者アホやさかい」

【88番・観月マナ脱落…残り38人】

284パラレル・ロワイアルその228:2004/05/27(木) 20:03
その頃、キッチンの方では…

「…後は、冷ましてから蓋をすれば出来上がり…お疲れ様、初音さん♪」
「ありがとうございました、はるかさんっ!」

キッチンの大きなテーブルの上に様々な調理器具・食材・調味料などなどに
囲まれた中、四組の重箱が並んで積まれていた。

「これがわたしの、そして千鶴姉さんのに、はるかさんのに…彰さんの!」
重箱を一つ一つ指差しながら、喜声を上げている初音を優しいまなざしで
見守りながら、今度は水筒の中身をこしらえるための準備を始めるはるか…
と、そんな時である。

『グッモゥゥゥゥゥニィィィィィィィン ヴェトナァァァァァァム!!!』

「…あ、よしお君の声…」
いきなり朝一の失禁ボイスにも手元を狂わす事も全くなく、鼻唄交じりで
レモネードの甘味と酸味を整えているはるか、一方の初音は思わず耳を押え
うずくまっている。

しかし、初音の押えていた耳にバロンよしおが発表している脱落者の名前の
一つがハッキリと届いてしまった。

『020番・柏木千鶴・射殺っ!!』




お姉ちゃん達が頃された。みんな頃された。涙がこぼれた。
絶望に拉がれた。膝が崩れてへたり込んだ。

それでも五秒ほどの放心の後には膝を起こして涙を拭って、心配顔の
はるかに笑ってみせると、窓際に向かって歩を進めた。

「…は、初音さん…」
「泣くのは、もう少し後でも良いよね」

初音はそう言うと、キッチンのサッシ窓を元気よくがららっと開いた。
朝の光と朝一番の空気でその悲しみを吹き飛ばそうと。

その瞬間、初音の双葉クセ毛を掠めて何かが、窓から中へと弾丸ライナーで
飛び込んで来た。




ばこっ。ばこばこっ。……がっしゃーん。……ぽんっぽんぽんぽんぽん…。

…水陸両用型上陸用舟艇に搭載されたカタパルトモードのロボピッチャー
より発射されたゴムボールの内一発が、初音の開いた窓からキッチン内へと
飛び込み、テーブルの上の重箱をストライクでぶっ飛ばし、三菱によく似た
マークと『CAUTION!』のロゴが入った、黄色と黒の縞模様の食材棚
の扉をも破壊した後、バウンドしながら床を力なく転がって行った…。




…初音は半ば呆けた様な表情でよろよろとテーブルの方へと戻ると、床に
散乱する重箱とその中身をしばし眺め続けていたが、重箱の中身に混じって
食材棚からこぼれ落ちて来たと思しき毒々しい色のキノコが幾つか転がって
いるのを見付けると、はるかと供にそっとそれを拾い上げた。


……
………
…………ぱくっ。




「おうっし、行くぞぉはるかっ!!」
「…と、いうわけで、お料理教室Part2もお手伝いはアタシ、河島はるかだ
…初音さん、こってりとオトシマエ付けてあげようね」
「あたぼうよ、彰が起きてくる前に手っ取り早くケジメ付けてやろうやっ!!」




…外から、
「い、今のゴムボールはこちらの混乱及び先手発砲を誘うために禁止エリア
外から遠距離砲撃で飛んで来た牽制球だ…!」
「ええっ!?何やて、光岡はんっ!?」
「ふみゅーん!…って、いう事は…?」
「ぱぎゅ〜〜〜〜っ!来たですの〜〜〜〜っ!!」
という叫び声と喧騒音が聞こえて来たが、今の初音とはるかにとっては、
それはもう、どうでもよい事に過ぎなかった。

285パラレル・ロワイアルその229:2004/06/03(木) 20:01
シュルッ……スルスルッ……スポッ!

地下路線を走る列車が急ブレーキを掛けた瞬間、その屋根にいた石原麗子は
いきなり柳川裕也がその身にまとっているネクタイを解き、革靴を靴下ごと
引っぺがした。

「!?…ななっ、れ、麗子さんっ!?…何を、いきなり……!?」
驚いた柳川がそう麗子に尋ね終わる間も有らばこそ、柳川と麗子は地下路線
をトンネル状にびっしりと囲んで並び立つノズルからの一斉放水により、
列車諸共水浸しにされた。


『ビーッ、6番・石原麗子、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリアより
退いて下さい』


「れっ、麗子さん!…って、何故?…何故俺は失格にならない…ああっ!」
その時になって初めて、柳川は自分が特殊繊維製海パン一枚だけにされてる
ことに気が付いた…確かに、今の自分の服装ならば、ずぶ濡れにされた所で
失格に値する打撃を被ったとの判定は出来ない。

「じゃ、じゃあ……でも、どうして俺を…?」
「何、言ってんの」
麗子は余裕の表情で柳川に答える、
「二人とも脱落するよりは一人でも脱落を免れる方を選ぶ…当然の考えじゃ
なくて?……それとも貴方、まさか私がどうでもいいと思っている男とでも
肌を重ねる様な女に見えて?」

「いや、それはその…何と、言うか……」
「…だったら早く、地上へ逃げなさい……アレを食らったら、今の貴方でも
失格は免れなくてよ」
頬を染めてしどろもどろになっている柳川を制し、麗子が水を吹出し続ける
無数のノズルの間から、ところてんの様にニョキニョキと顔を出して来た
無数の回転ブラシを指差してせきたてる―――地下列車が急停車した行き先
は地下に設置された洗車トンネルだったのである―――恐らくは覆面ゼロが
行先変更の手筈を行ったのであろう。

「そんな…逃げる位なら、あの虚無僧野郎を…!」
柳川が、後方に停車している屋根付きトロッコの中から自分達の成り行きを
眺めている覆面ゼロを睨み付けて叫ぶ…が、麗子はもう何も答えない―――
『遺言』の時間はもう、終わってしまった為である。

「……分かりました、麗子さん…『今は駄目だ』という、貴方の言葉に従い
ますよ…」
柳川は最後に余裕の表情のままの麗子にもう一瞥して頭を下げると、彼女の
分も合わせて二つのバッグを掴むや、列車の屋根を飛び降り水撃のトンネル
の中をゼロのトロッコが停車している方とは反対方向の線路を走って行き、
行き止まりの脇に見付けた整備員通用口の扉の中へと消えていった。




「……柳川さんの事だからてっきり、怒りに任せて反撃に打って出て来ると
思ったんだがなぁ」
屋根付きトロッコの中で覆面ゼロは、意外そうな表情を深編笠の中で浮かべ
ながら呟いた。

「こちら側の迎撃準備の臭いでも嗅ぎ取ったのかなぁ?…そうだとしたら、
いい勘してるよなぁ」
ちょっぴり不満げに、トロッココクピット脇のレバーとボタンに目をやって
いる。―――ゼロが乗っていたのは、地下構内で火災が発生した際に消火・
救出作業を行うための特殊車両で、広範囲・高出力の科学消化剤拡散噴射砲
と、車両扉の強制開放も可能な器用かつハイパワーのマニュピレーター一対
が装備されていたのである―――相手を選ばないと大怪我しかねないため、
麗子・柳川組ならばと至近距離戦も想定して今回、投入したのであるが…。

「まあ仕方ない…洗車が終わったら予定通り、あの列車を目的地まで再誘導
する事にしようか」
そう呟き終えるとゼロは洗車が終わるまでのしばらくの間、トロッコの座席
にもたれるように座り直すと、通勤途中のサラリーマンのごときポーズで、
ぐぅぐぅと居眠りを始めだした。

『昔』と比べると、その慎重さの中にも不敵な大胆さが混じるようになった
ゼロであった。

【6番・石原麗子脱落…残り37人】

286パラレル・ロワイアルその230:2004/06/03(木) 20:53
「…そのヘリコプター、北川の……お前達が、頃したのか…?」

スタジオ・舞台村内の時代劇エリア、霧の五条大橋で向かい合う三つの人影
…カプラスーツに身を包み、今は動かなくなったラジコンヘリを抱えている
天沢郁未と少年、そして抜き身の西洋剣を右手に下げている川澄舞である。


「北川…北川潤…ああ、確か別のロワイアルで一番手に頃した、スチャラカ
クセ毛男君の事ね…」
「…そういえば、確かあの時…お前にはまんまと一杯、食わされた……調度
いい機会だ、あの時のけりを今、付けて…」
「まあまあ、二人とも…これは一応、本家ハカロワのアナザーなんだからさ
、その手のネタで(『あの時』既に死んでいた僕を置いて)盛り上がるのは
ちょっと(悲しいから)…」


「確かに、さっき聞いた定時放送の話じゃ、北川君脱落しちゃったみたいだ
けれど……私、別に彼を頃す様な事はしていない筈よ……あ、ひょっとして
私の『サービス』に、悩殺されちゃったのかな〜?」
「…サービス?」

「実はこのヘリコプター、私がスカート被せて捕まえちゃったから…でも、
そんなにエッチな水着じゃない積もりだったんだけど…」
そう言うと郁未は、悪戯っぽくカプラスーツのたっぷりとしたスカートを、
少年と舞に向かってぺろりんこと、大胆にまくり上げて見せた。

「ヤッパリちょっと、大胆過ぎたかしら?」

「「!!!!」」

―――ソレを見た瞬間の舞と少年の顔は。
不思議なことに、驚愕の色に染め上がっていた。

「!?…チョットぉ、舞さんも大袈裟過ぎるけど、昨晩巨大公園で鑑賞した
筈の貴方まで何オーバーに驚いて見せてんのよ?………?(ちらっ)」


……
………
…………

「ぎあああああああああああああッッッッッッ!!」
遠く島の果てまで届くような、そんな絶叫をあげて郁未はその手で自分の
股間を覆う。汗が流れない。絶望だけが頭の中に押し寄せて、郁未の血圧を
急上昇させていく。すべて見せてしまったのだ。羞恥心が真っ赤なペンキと
なって郁未を染めていく。郁未を染め上げていく。




…一刻後、戦場となった土産物商店街郊外森林にて、水陸両用型上陸用舟艇
による援護射撃を行っている最中の保科智子の元に、緊急通信が入った。

「はいな、こちら智子や」
「…舞だ…遺憾ながら務めを果たせず、更には玉砕する勇気すらも挫かれて
現在…水上バイクにて海水浴場方面に撤退中だ…私を、許して欲しい…」
「!?…と、取りあえず、体勢を立て直す余地があるんやったら、本陣の
佐祐理はんとカラスはんに総力戦出動して貰うて海水浴場で合流、それから
土産物商店街の戦闘に加わって欲しいんやが…」
「…わ、分かった…こちらも務めて戦線復帰を急ぐから、再合流まで何とか
戦線を、維持しておいてくれ…」

通信を切りながら、智子は思い、呟いた。
「それにしても何があったんやろ?…特に通話の後ろから聞こえちょった、
『おまえのぱんつをよこせえええええっ!!』ちゅー、女(?)のアブナイ
金切り声は、一体…(汗)」




更に同じ頃、海水浴場沖“蒼紫”モニター室では、

「はぇ〜、信じられません〜、舞が恐れおののいて逃げ出してしまいました〜」

ばっさばっさ
『相手が悪過ぎますよ、佐祐理さん…今の彼女が相手ならば、リプリーだって
逃げ出してます…』

287パラレル・ロワイアルその231:2004/06/03(木) 22:01
「佳乃さん、だめなんだよ…泣いてちゃ、だめなんだよ…」
「だって、観鈴さん…だって、だってえ……」

リバーサイドホテル25階・第1VIPフロア2501号室…少し早めの
朝食をお誘いに来ていた神尾観鈴は、玄関の扉が放たれた室内でしくしくと
泣いていた霧島佳乃の姿に驚き、慌てて駆け込むやしっかりと抱きしめて、
慰めながら佳乃から事情を説明して貰っていた。

「う〜ん……そうだ!もう一度、そのベイダーさんって方にまたお願いして
、シュン君を連れ戻して貰ったらいいんじゃないかな…?」
「だめなんだよぉ、観鈴さん…ベイダーさん、今電波の届かない場所にいる
らしくて…それに、ベイダーさんには昨晩も、私のために徹夜して貰っちゃ
ってるから…今一度の頼み事は今すぐには、とても…」

「それじゃあ、う〜ん……あっ、そうだ!」
観鈴は各部屋に設置されているネット端末のキーボードに向かうや、三つの
部屋宛てにメールによる依頼送信を始め出した。

『…と、いうわけで、集合予定時刻は七時です。場所は地下1階の駐車場で
、必要と思しきアイテムは各自持参でお願いします。あと、途中で見付けた
使えそうなアイテムの発見・回収の方も協力して貰えると観鈴ちんはとても
うれしいです。それではよろしくお願いします。かしこ。』




そして、06:50…地下1階・エレカ駐車場

「皆様、この度は佳乃さんのためにお集まり頂いてありがとうございますっ
(ぺこりっ)」
「みなさん、本当にありがとうございます…観鈴さんも、本当にありがとう
ございますっ(ぺこりっ)」

「「「いえいえ、困った時には出番のチャン………お互い様です」」」

手に手にバッグと、入手した戦利品・拾得物を持ってそれぞれ集まって来た
、生き残りのホテル残存代戦士依頼人達…美坂栞・立川郁美・杜若きよみに
向かって礼を述べている観鈴と、重ねて観鈴にも礼を述べている佳乃。

「ところで皆様、アイテムの方は何か、げっと出来ましたでしょーか?」
「はーい」
「はいっ」
「はい」

観鈴の問い掛けに、明快なる肯定の返事が三つ、返って来た。

「それでは…きよみさんの方から発表をお願いします、にははっ」
「はい…私が見つけましたものはこの…14階の廊下で拾いました爪と肉球
の付いた手袋と…10階のロビーで拾いましたバケツに入っております分解
された銃です…組み立て直せばまだ、何とか使えそうです…」
きよみが、ネコパンチグローブとバケツ入りのパイトミーガンを差し出して
見せた。
「にはは、かわいい手袋♪」

「私の方ですが…」
続いて栞が、大きな包みに入っている頓服薬を差し出して見せた。
「1階の医療室で佳乃さんのお姉さんから、私と郁美さんの常備薬に加えて
、不思議なお薬を…何でも、長瀬源三郎さんの支給装備の予定だったお薬と
いうお話でして…幸い、漢方系で副作用の心配等はないとのご説明だったの
ですが…」
「が、がお…ほんとに大丈夫なのかな…」

「最後に私ですが…」
郁美が台車で押してきた、大きな金属製の筒のような物を指し示した。
「16階で各坐しておりましたロボットから、シャングリラ・キャノン砲を
取り外して持って参りました…変なジュースで汚れておりましたが、何とか
キレイにして参りました…後は、ノートパソコンを持参して参りました」

「がおぅ、変じゃないもん、おいしいもんっ…」
「まあまあ、観鈴さん…」
悲しげな表情の観鈴をなだめつつ、大きなバスケットとクーラーボックスを
携えた佳乃が、交通警備兵隊長・中崎勉が乗車していた小型装甲指揮車を
指して最後の説明を行った。
「それでは、あちらに見えます車が今回の作戦におけます私達の移動手段で
ございます…では、シャングリラ・キャノンの設置および、銃の組み立てが
完了しましたら早速、出発に参りたいと思います。どうか皆様、あらためて
よろしくお願いいたします」

「「「「では、がんばってまいりましょう」」」」




かくして、依頼人連合による“ジョージマッカーサー(仮名)追跡作戦”が
チェイサー・オブ・チェイサーという形によって開始された。

288パラレル・ロワイアルその232:2004/06/10(木) 19:25
「「「「では、いただきま〜す!(ます…)」」」」

早朝の隠し露天風呂ラウンジは、土産物商店街以上の大所帯と化していた。

「それにしても浩平は馬鹿馬鹿だよっ、どうして何ひとつ教えてくれないで
いきなり消えちゃうのよっ?(モグモグ)」
「ゴメンッ、本当に悪かった瑞佳…しかし本当に、どうしても誰にも教え
られない事情が出来てしまったんだ、許してくれ…(モグモグ)」
「せっかくの夏の夜に、お邪魔虫の乙女がいなくなってあげたというのに、
どうして離れ離れに過ごしているんだか…」
まずは、ゲーム開始以降唯一、分裂・脱落者がいない元A1組の三人こと、
折原浩平・長森瑞佳・七瀬留美。

「…何故だ?何故、孤独を愛するが故に、あゆや詠美と分かれて来た筈の
俺様が、こんな大所帯で賑やかに朝飯なんぞを…?」
続いて、箸と丼を握り締めたまま、自分の運命(?)にわなわなと震えている
御堂。

「うえ〜ん美凪ぃ〜っ!ぽちが…ぽちが、いなくなっちゃったよぉ〜っ!」
「…泣いてはいけません、みちる…ぽちにもきっと、いなくなった訳がある
のです…それにみちる、どんなに悲しくても、きちんとご飯を食べませんと
体によくありません…(もぐもぐ)」
更には、朝起きてみたら何時の間にやら、ぽちがいなくなってしまった事に
気付き、ずっと泣き続けているみちると、それを一生懸命になぐさめている
遠野美凪。

「にゃ〜、にゃにゃ♪にゃにゃにゃ♪(泣〜かした♪泣かした♪)」
「ぴっこりぴっこ♪ぴこぴっこ♪(だ〜れかさんが♪泣かした♪)」
加えて、朝食もそこそこに聞こえよがしに歌を合唱しているぴろとポテト。

「…………(…いい加減にしなさいよ、あなた達…さもないと、終いには
ほかの皆様のための食後のデザートに致しますわよ…)」
そして、御堂の真横に並んで、シンクロしたかの様に同じポーズで箸と丼を
握り締めてわなわなと震えているのは…白い髪に白い肌、水紅色の瞳と唇を
した妖艶な女性、117番・匿名希望…ちなみに、身に着けているのは漆黒
のチャイナドレスで、スリット部から覗いて見える腿のベルトには可動部に
仕掛けを施した大きな扇子が収まっている。

そうそう、最後の一人ことHMX−12・マルチは現在充電中で、部屋の隅
のコンセントから端末越しにケーブルを繋いだままで、眠りに就いている。
(はうう〜っ、そんな紹介の仕方、ひどいですーっ、しくしく……)

余談であるが、朝食を注文し持って来たのは、石原麗子・柳川裕也と別れた
後、思い直してホテルへUターン・途中下車をした浩平で、博物館・美術館
で下車した際に匿名希望と出会い合流、そろって隠し露天風呂ラウンジへと
(半分、朝食を担いで貰いながら)向かったという訳である…キチンと九人分
そろっていた理由については、余った分を昼の弁当に充てようとする積もり
で浩平が多めに注文したから…という事にでもしておこう。




「…一応、尋ねておこうか」
シンクロを先に解き、割り箸を咥えて割りながら、御堂は横目で匿名希望を
じろりと見ながら口を開いた。

「……何を聞きたいの?……一応、先に言わせて貰うけど、名前が示す通り
詮索には答えかねないわよ…(ぱく)」
匿名希望は毒見をして見せるかのごとく、先に丼の中身を口へと運びながら
じろりと見返した御堂へと釘を刺した。

「……おー恐わ、やっぱ止めだ」
御堂はあっさり引き下がると、ラウンジ内の中継モニターの方へと丼と箸を
持って移動して行った。


丁度モニターでは、舞台村時代劇エリア内にある五条大橋の上で、こうなる
事を予測していたG.Nの修正により下半身にモザイクがかかった天沢郁未
が絶叫するシーンが映し出されており、その前では、

「モザイクを認識したその瞬間、俺の中の期待は砕けた。
 モザイクを修正することなど、出来る筈もなかった。
 とても“覗きばんざい!!”なんてやれない。
 へたり込むように座布団に腰を落とす。見たい所の焦点が定まらない。
 彼女の絶叫が終わるとともに、めくれていたスカートが戻り、
 モザイクも消えていく。
 だが、その瞬間まで、俺の目は悲しいくらいに、モザイクを透かそうと
 空しい努力をしていた。
 十四番、折原浩平は、隠した奴を許すことなど……」

と、モニターにへばりついて涙目でぶつぶつ言っている浩平の頭に一斗缶を
かぶせて、
「浩平のアホっ!すけべっ!へんたいだよっ!」
「折原のアホっ!もう一回死ねっ!もう一回地獄に行けっ!」
という、なんとも息のあったツッコミを入れている瑞佳と七瀬がいた。

289パラレル・ロワイアルその233:2004/06/10(木) 19:28
「悪いな嬢ちゃん達、チャンネル換えさせて貰うぜい」
「「どーぞ、どーぞ」」
御堂はモニターのチャンネルを舞台村・時代劇エリアから、今現在激戦区と
なっている土産物商店街・仮眠室棟へと切り換えた。

すると、モニターの画面に棟内の廊下をせわしなくダッシュしている右手に
デザートイーグルを引っ下げた大庭詠美が映し出された。
(…流石はG.Nだぜ、俺の映したい場面をあっさりと見破りやがった)

…映し出されている詠美が大声で叫び声をあげていた。
「ぽちぃぃ〜〜〜〜〜〜っ!?ぽちはどこなのぉぉ〜〜〜〜〜〜っ!?」




(びくっ。…………はっ!!)
チャンネルを時代劇エリアに戻した御堂が、匿名希望を振り返ってニヤリと
していた…彼女はその瞬間、思わず体に出し掛けた反応をしっかり見られて
しまっていた。

「にゃあ(何でえ、バレバレじゃん)」
「ぴっこり(いや、じじんの眼力の方も評価すべき所だろう)」


「出演作品名は“鍵2001年度年賀状”ってか?くくく…って、そんなに
怒るなよ、アレが最初で最後にするからよ」

「……怒ってなんかいないわ…でもその代わり、みちるさんを慰めるために
あなたにも協力して頂きますから…」
そう言い放つと匿名希望は、自分のバッグの中から、みちると再開した時の
おみやげ用に入手しておいたシャボン玉セットをおもむろに取り出した。

「協力って?…オイ、テメエッ!まさかソイツで…!?」
「……火戰試挑体さんは、石鹸水に触れると果たしてどうなるのかしら?
うふふっ(ぷく〜〜〜っ…)」

「だ〜〜っ!わ、分かった!悪かった!謝るっ!謝るからっ!なあっ!?」
「……あら、どうしたの?ご自慢の射撃で打ち割ればすむ事じゃないの?」
「…そうした時には、ビンの中身の方を直接、ぶっかける積もりだったん
だろーがっ!?」
「……あらあら、よくお分かりになられておりますこと(くすくす)」




…その頃、瑞佳と七瀬から息のあったツッコミを入れられてた浩平の方は、
再びトンデモナイ災難に見舞われていた。

「あああ、折原っ!?」
「こっ、浩平っ!?」
「と、取れないよぉ〜、ペンキ屋さんくさいよぉ〜」
ツッコミを入れられた際に、変な具合に変形してしまったのであろうか、
かぶせられた一斗缶が……取れなくなってしまったのであった……幸い、
空気の通り道は残っているようではあるが。
「誰でもいいからこれ取ってくれ〜〜〜」

290パラレル・ロワイアルその234:2004/06/10(木) 19:29
「やべえな、コイツは…」
御堂が変形した一斗缶をまじまじと調べた末、結論を出した。

「「「や、やばいって…?」」」
「無理に取ろうとすると空気穴が塞がるか…さもなくば頭蓋骨もろともに
変形してペシャンコになるかのどっちかだっつー事だ」
「「「そっ、そんなあっ!?」」」
「もし、棄権してスタッフに外して貰うってのが嫌なら……光岡の野郎に
影花藤幻流の奥義ででも使って(缶だけ)叩き切って貰うか…さもなくば、
本編で坂神を頃した小僧に、連れのガキの仮面みてーに叩き割って貰うか
のどっちかだなあ…ま、いずれにせよ、スリル満点なのは間違いなさそー
だが…」




「おおーーーーっ、しゃぼん玉だ〜っ、みちるにもやらせておばさんっ!」
「……お、おばさん……(ま、まあ、仕方ないわよね…確かに、美凪さんと
比べたら、お姉さんとは呼びづらいかもしれませんし…)」

「にゃあ、にゃあにゃ……に゛ゃああああああああっ!!(よかったなあ、
おばさんだってよ、オイ……ぎゃああああああああっ!!)」

薬味の山椒を鼻の穴にたっぷり詰め込まれて悶絶しているぴろを放り出し、
匿名希望はみちるを優しい笑顔で諭した。
「……みちるちゃん、しゃぼん玉はちゃんとごはんを食べてから。それまで
おばさん、ちゃんと待っててあげるわ」

「…匿名さんの仰る通りです…みちる、冷めないうちに召し上がりなさい…
それと、どうもありがとうございました…」
美凪はみちるに蓋を開けた丼を、そして匿名希望にお約束の粗品をそれぞれ
すっと差し出した。

「……お米券…米で出来た液体とは、取り替えて貰えるのかしら…?」
「…おもゆでしたら、お米を貰ってからご自身でお作りになられても…」
「……いえその、わたしが指しているのは、般若湯の方なのですが…」
「…お米屋さんによっては…でしょうか」
「もぐもぐっ…初めてだけど、ハンバーグほどじゃないけど、おいしいよっ
美凪っ!」
「…よかった、です…」
「……それは何よりね」


「ごちそーさまーっ♪おいしかったのだーっ♪ふっくらほこほこした具と、
甘辛いたれがなれてくるとけっこう、くせになるのだー…………ねーねー、
おばさんっ、これは何というどんぶりごはんなのだーっ?」

「……みちるちゃん、これはね“まむしどんぶり”っていう名前なのよ」
「…地方色豊かな、呼び方です…」
匿名希望の回答に思わず、目を丸くする美凪…しかし、みちるの方はその
程度ではすまなかった。

「(ま…ま…まむし→へ…へ…蛇→ぽ…ぽ…ぽち………ってことはっ!?)
にょわああああああああああああああああああッッッッッッッッッッ!!」
次の瞬間、みちるはラウンジから泣き叫びながら外へと駆け出して行って
しまったのであった。


平和ながらも、イベント連発の朝食会であった。

(はうう〜っ、私だけ出番があれっぽっちだなんて、ひどいですうう〜〜っ)

291パラレル・ロワイアルその235:2004/06/16(水) 19:01
海水浴場エリア内、海の家の方でも朝食タイムが始まっていた。


 神奈(あゆはまだ寝ている)は、ほくほく顔だった。
目の前のちゃぶ台に鎮座する、どでかい皿に盛り付けられたハンバーグを、
オムライスを、ホットケーキを、スライスフルーツを、そしてプリンを、
慣れないフォークとスプーンを何とか振り回し、そのまま口に持っていく。

“…うむ、コウヤ。たい焼き以外の料理の腕も、なかなかのものではないか…”

口の周りについたデミグラスソースとトマトケチャップ、メイプルシロップの
競演などまったく気にせず、ぱくぱくとかぶり付いていく。

 許される時が来たら柳也と裏葉と、三人でまた食卓を囲みたい。
湧き上がる感傷を必死に押し静めるようにして、神奈は一心不乱に食べていた。

“…ところで、コウヤ…”
「どうした、神奈?」
ちゃぶ台に向かい合って、自分の分の納豆定職を食べていた高野が、初めて
神奈の名前を口にした。

“…気安く呼び捨てるでない、無礼者め…”
「わかった…では、神奈ちゃん♪」
“………次に子ども扱いしたら…ぜったいに許さぬぞ、コウヤ(怒)…”
「へえへ、りょーかい…で、どうした?」
 どうやら神奈は読みの響きが気に入ったらしく、高野の事を『コウヤ』と
呼び続けており、高野もどうぞ勝手にといった感じで呼ばせている様である。

“…このおむらいすの上に立っておる、紙と楊枝でできた小さな、日の本の
國の旗は、一体何じゃ?(つんつん)…”
「うむ、よい質問だ…実は、その旗にはな…その皿に盛られている全ての料理を
統括する、ある重要な意味が込められているのだ(ぷっ…)」
“…おお、するとこの、はんばーぐもおむらいすもほっとけーきもくだものも
ぷりんもみな、この旗の下につどって一そろいの料理と化しておるのか?…”
「そういう事だ(…ぷぷっ)」

“…この時代の料理にも、作る人のこだわりと想いが、何かのかたちをなして
込められておるという事なのじゃな(しみじみ)…”
 再び、もぐもぐと高野の作った(海の家にも食材が豊富にストックされていた)
朝食との格闘を再開する神奈。

「うぐぅ、ムニャムニャ…」
月宮あゆが目を覚ましたのはその時であった。

“…おお、目が覚めたかあゆ…早起きは三文の徳と申すが、おかげでそちの
寝ている間にこうして、美味を満喫させて貰うておるぞ♪…”
「………(ぶすっ)」
 上機嫌の神奈とは反対に、あゆは目が覚めるなりあからさまに不快そうな
表情を顔に出していた。

“…どうしたのじゃ、あゆ?何をむくれておる?…おお、まさかそちは食べ物の
うらみが強い方なのか?…”
「うぐぅっ、ボク………お子様ランチなんか食べたくないようっ!」

“…な、何じゃとっ!?……この、はんばーぐとおむらいすとほっとけーきと
くだものとぷりんの事なのか?…”
「…旗がついたら、ぜんぶまとめて、りっぱなお子様ランチだようっ!!」

“…何じゃとおおおおおおおおおおおおおおお〜〜〜っっっ!!”
 神奈の背景に、どっかんと派手に火柱が立ちのぼった。

「ぷ…ぶわははははははははははははははははっ(すたこら)」
高野は既に爆笑しながら逃走を開始していた。

292パラレル・ロワイアルその236:2004/06/16(水) 20:00
 ご拝読中の皆様、お早う御座います、天野美汐です。

 じ、実はその…今私、とっても甘くて骨抜きな状態に陥っております。
 私今、海よりゴムボートにて参りました海水浴場砂浜に上陸せんと致し
ましてる所でありますが…その、私…実はその…共に行動をしております
長瀬祐介さん…いえ、祐介に…抱き上げられてしまって…いるのです。

 そうです、お嫁さん抱っこです。
 「足が濡れてしまうのは僕だけでいいから」
そう一言告げるや否や、私の了承も確かめないでいきなり、抱っこされて
しまいました…祐介は常に限りなく私に優しくしてくれるのに、そのくせ
この様にいきなり強引なのです。

 ですが、そんな強引に付き合わされるのは、実は嫌いではありません。
 確かに気苦労はあります。けれども、私は何かしたいと思っていても、
なかなか自分から一歩を踏み出す事のできない性格ですから。手を引いて
もらって、背中を押してもらって、随分助かっております。

 もっとも、そんな事祐介には言えません。あんまり焚き付けてしまうと
苦労だけになってしまいますから。

 閑話休題。
 それにしても、くどいようですが、とっても甘くて骨抜きな状態です。
何せ私と祐介が今、身に着けております衣装は、24時間前と全く同じなの
です。しかも場所が……本編491話と全く同じ様な…少々、霧がかかって
おりますが、

 どうしようもなく美しい空。輝く海。白い砂浜。きらめく世界。
流れる雲と風の中、景色だけは変わらずにある。
――――――――希望の空は二人の手の中にある。

といった感じでありまして、あの…初めて祐介との告白と…は、初めての、
その…く、く、くち…くちづ…だ、ダメですっ、某宗教国家の第二皇女では
ありませんのですから、しっかりと、はっきりと言わなくてはっ。

 何しろ、もう二度と、長瀬祐介の手を放さないと誓ったのですから。
 だって誓ってしまったんですから。
 祐介の与えてくれた夢の中でという事は置いといて。

 話を戻しましょう。
 そう、初めての祐介との告白と口付けを交わした場所・状況と、ほとんど
そっくりなのですから…ダメです。とてもダメです。確かに嬉しくて幸せな
事実は否定しませんが、恥ずかしいというか照れくさいというか、とにかく
ダメです。砂浜に辿り着いて祐介から下ろされても、果たして私がちゃんと
立っていられるかどうか怪しいくらいにダメなんです。

 立っていられるかどうか。
 思い出してしまいました。私が祐介から砂浜に下ろされてたっていられる
かどうかが怪しい要因がもうひとつありました。

 お腹の下に…未だに痛みが残ってしまっているのです。
 何の痛みなのかは尋ねないで下さい。
 想像もなさらないで下さい。
 ともかく私は昨晩、とうとう…今の今まで、例え、際立てて、ヒトサマの
お役に立てずとも、決して、決してヒトサマの道を、外さないように、外さ
ないように、と気に掛けて来たこの、まっさらならまるで洗い立ての木綿の
ような私の一生に…婚前交渉という、限りなく甘い名前の…真っ赤な汚点を
付けてしまいました。うう。そんな酷なことはないでしょう……。




 「ねえ、美汐…」
長瀬祐介は、上陸した海水浴場の砂浜の上で天野美汐を抱き上げたまま、
ポツリと突っ込みを入れた。

「汚点は『真っ黒な』だと、僕は思うんだけど…」
「ゆゆゆゆ、祐介はどうして、私の考えている事がわかってしまっているの
ですかッ!?」
「…美汐が、考えている事をそのまま、口に出してしまっているから…」
「わわわわ、私はいつから、口に出してしまっておりましたかッ!?」
「…美汐が、大阪駅を出発した時から…京都着の時点でアナウンスするべき
だったのかなあ……こんな特急券、いらなかったなら、ごめんね」
(最後の台詞のみ祐介が暗号めいた言葉を連発しております、ご了承下さい)




 「許さあああああああああああああああんっっっ!!」

 そうです、許しませんよ祐介…って、今のは誰の叫び声なのでしょう。
 そう思い、祐介と共に声の方へと向いた私が見た光景は…

 祐介はともかくと致しまして、私には見知った顔が二人…月宮あゆさんと
鯛焼きやのおじさんが、私達がいる場所とは少し離れた砂浜で追いかけっこ
をしておりました。

 それにしても……追う方と追われる方がいつもとは逆なのは、一体何故で
ありましょうか。

293パラレル・ロワイアルその237:2004/06/16(水) 20:42
 昨晩、光岡悟と立川雄蔵が言葉を交わしていた場所…露天風呂の出入り口
前で、しゃがみ込んで海を見下ろしながらみちるは一人、涙にくれていた。
「………どうしよう…みちる、みんなといっしょにぽち、食べちゃった…
しかも、けっこうおいしく…ぐすっ」


「…違います、みちる…“まむしどんぶり”の材料は、まむしでは、ありま
せん…」
「……ごめんなさい、みちるさん…私のせいでとんだ勘違いをさせてしまい
まして…」
「にょわっ、美凪っ!それにおばさんっ!」
 ラウンジから一気に駆け去って来た筈のみちるであったが……匿名希望は
ウェザビー片手の遠野美凪を抱き抱えたままであっさりと、みちるのもとに
追い着き、辿り着いていた。




「…と、いうことは“まむしどんぶり”の材料はうなぎなのかー?…ふー、
よかったーっ、みちる、ぽち食べちゃったんじゃなかったんだーっ!」
「……(食べてませんっ、食べられてませんっ)」
「…それでは、早く戻りましょう…皆がきっと、心配しております…」

「そーゆーこった、一応ここは戦場なんだからな」
「ぴっこり」
 遅れて、M60を引っ提げた御堂が、ポテトをへばり付けて三人の元へと
辿り着いた。

「……ちょっと、私とあなたが二人ともに飛び出してきちゃったら、今度は
ラウンジの方が危ないんじゃないの…?」
 匿名希望が、信じられないといった顔をして、御堂に詰め寄った。

「その心配はない筈だ…ラウンジにはあの七瀬に連れの男がもう一人いる…
それに、充電中のめいどろぼが持っていたライフル(フランク→黒きよみ→
マルチ経由のステアーTMP)に、人物探知機もある。そう簡単に襲撃され
たりは…」
「……その七瀬さんの武器が、連れの男の頭にスッポリかぶさって取れなく
なっちゃってるんじゃあなくって?…それに、七瀬さんは肉弾戦系で、飛び
道具の扱いは一切不明な上に、人物探知機はチェイサーにもキチンと反応を
するんだっていう確認はしたの、あなた…?」
「うっ…」
「……う、じゃないわ、急いで戻るわよ」


 みちるはその二人の会話を聞いて、
「うにぃ…でも、ラウンジのみんなに、チェイサーにねらわれる理由なんて
あるのかなー?」
と聞こうとした。

―――だが、そのセリフが言い出されることは無かった。

異変は、そのほんの一瞬前に。
あまりにも巧妙過ぎて、誰も気づかないほどの。

ドカァアァァァン!!

響く。
楽しいパーティの花火が。ラウンジからの爆音が。
……所詮はうたかたの平穏だった。
チェイサーは、どこまでも近いところに潜んでいた。




「では、さっさと仕上げに掛かるとしよう…私的には早い所、53番と84番に
たっぷりと、元ゲーでのお礼をしてやりたいしな…」

294パラレル・ロワイアルその238:2004/06/23(水) 19:42
「FREEZE!」
「「…んん〜?」」

 フードスタンドキッチンより土産物商店街アーケード出口へと移動していた
柏木初音と河島はるかは、横から届いた叫び声に対し、面倒臭そうな唸り声を
ハモらせながら揃って声の方へと向いた。

「動かないで!動くとこのダブルベレッタがユー達の頭をぶち抜くネ!!」
 澄んだ蒼色をしていたその瞳を、赤く血走らせて二人に二丁拳銃を突き付け
たのは、宮内レミィだった。

「ふ…」
「はぁ…」
 その姿を認めた初音とはるかは、顔を見合わせるとさも退屈そうに溜め息を
吐き合った。

「WHAT,S!?…ユー達、このベレッタが目に入らないノ!?」
 二人の意外な反応に、怪訝そうな表情を見せながらも、改めて警告を発する
レミィ。

「…シュガーなレディーだね、初音さん?」
「おうよ!…ったく、四の五のくっちゃべってるヒマがあったらよ、さっさと
引き金を引いてりゃいいのになぁ、はるか…ベレッタ二丁にUZIにたんぽ槍
にペットボトルロケットランチャーにハエタタキか…どーやら、お礼の相手と
は違うよーだな」
「…と、いう訳でね、私達は貴方には用はないの…悪いけど、そういうモノを
突き付けたり振り回したりする相手なら他を当たってくれると助かるんだけど
…ま、もっともどうしてもソレをぶっ放したいというのなら話は別だけど…」
 他人事の様に平然と警告を警告で突っぱねる初音とはるか。

「ユー達、ステイツではね…警告は一度だけネ!!」
 レミィはその言葉とともに引き金を……引いた!!

((カキンッ!!))
 …二丁のベレッタのハンマーが落ちる音だけが、レミィの両掌の中で空しく
響いた。

「WHAT,S!?……OH−NO!!」
 驚いたレミィが弾の出ないベレッタを見やって再び、驚愕した…二丁拳銃の
銃口には―――いつの間にやら、金属製の焼き串が深々と突き刺さっていた。

「ぱちぱちぱち……流石だね、初音さん…垣原組長も真っ青の離れ業だよ」
「おうよ!伊達に鬼なんざやっちゃあいないぜ、はるか」
 驚倒するレミィの目の前では、キッチンから調達してきた焼き串を鬼の手で
お手玉している初音と、彼女に拍手しているはるかがいた。

 レミィは思わず、怒りと驚きの抗議の声を初音たちにあげた。
「HEY−YOU!一体ドーイウ積もりなノッ!?…そんなリーサルウェポン
アタシに投げ付けて来るなんテ!…モシ外れたらドーナルと思ってるノッ?」

「ドーナルと思っているってったって…まあ、もし外れちまったら標的以外の
何かに当たっちまうか外れるかのどっちかだよなあ、はるか?」
 しれっと答える初音。

「…でも、多分外れる心配はないんじゃないの初音さん?…今の所、百発百中
みたいだし」
 言いながら後ろ―――もと来た道を見やるはるか。

 …レミィははるかの視線の先につられるように目をやり…三たび恐慌した。
それまで、霧に隠れてハッキリとは見えなかったそれ…先行して商店街に突入
して行った、甲漢O0O0の第一陣こと格闘武装・煙幕装備部隊の内、初音と
はるかを発見して攻撃を行おうとしたと思しき約半数の頭数が、判定センサー
の部分に焼き串を突き立てて、死屍累々と横たわっていたのを、目の当たりに
してしまったからである。

295パラレル・ロワイアルその239:2004/06/23(水) 20:30
「OH!!SIT!!FUCK!!SACK!!BITCH!!COCK!!」
 次の瞬間、レミィの生存本能が彼女をHunting―Modeに突入させた
…使えなくなったベレッタ二丁を放り捨てて、初音とはるかから飛びずさると、
首から提げていたUZI−SMGを構えて―――再び引き金を……引いた!!

カキンッ!ウィーン、ガッガッガッガッ…
 電動式コンプレッサーのモーターの歯車が滑っていく音が、レミィの手中にて
空しく響いた。

「JESUS!!」
 Hunting―Modeに強制的にキャンセルを掛けられたレミィは、四度
目の戦慄に慄いていた。
―――UZIの銃口には、今度は金属製のフォークが深々と突き刺さっていたの
である。

「おう!はるか、オメーもなかなかやるじゃねえかっ」
「いやぁ…確か彰が『出来るわけがなかった』とか、本編でボヤイていたからね
…ホントに無駄な抵抗なのかどうか試してみただけなんだけど…」
 キッチンから調達してきたフォーク片手に、ちょっとだけ照れくさそうに頭を
掻くはるかの背を、初音がババンガバンバンと叩いていた。

「だがなぁ、はるか…一言だけ言わせて貰うが、彰の事を『彰』って呼んでいい
のは、このアタシだけだって事にさせて欲しいんだな、悪いけどよ」
「…あらあら、初音さんらしくない拘り方ですね…別に、お互いの絆がしっかり
してれば、気に掛ける必要なんかない事柄だと、私は思うのですが…」
「…ばっ馬鹿野郎っ!!(赤面)…そっそんなんじゃあねえんだよ、はるかっ!!
…確かに彰はな、本編でアタシの事を○○○で○○した末に○を○○て○○した
ニクい鬼畜生なんだがよお…(ポリポリ)」
「…確かに、本編で彰…先輩が初音さんを○○した時も、○○した時も…された
初音さんの方が、先輩にまんざらでもなさそうな感じで謝っていたもんねえ…」




その頃、リバーサイドホテル1階・元祝賀パーティ会場→清掃完了→朝食会会場
・テーブルBでは…

「ブブーーッ!!ゲホゴホッ…わっ、わっ私の…私の可愛い初音がああっ!!」
「ギャーーッ!!アチチチッ…ちっ、ちっ千鶴姉ぇッ!何しやがんだよ、アタシ
の顔目掛けてっ…て、コラかおりっ!拭いてくれる振りして顔に舌を…イヤッ、
止めてええっ!!」
「……ピクッ、ピクピク…(←噴き出すのを無理やり堪えて息を詰まらせた楓)」
「かっ、楓ちゃんっ!?…霧島先生ぇーーっ!!」
「…ええっと、ご拝読中の皆様、小出由美子です。ただいまの初音ちゃんの台詞
ですが、『○○○で○○した』というのは、『命懸けで保護した』でありまして
、『○を○○て○○した』というのは、『嘘を吐いて泣かした』でありますっ…
ほ、本当なんですよっ(汗)」
「ところで相田さん、阿部君は一体何処へ…?」
「野暮な事は聞かないの、長瀬警部」

296パラレル・ロワイアルその240:2004/06/23(水) 21:29
再び、土産物商店街・正面アーケード出口近辺…

「ケッ、本編で冥土の土産に乳ナメさせたズーレーなんかに言われたかねーや」
「…初音さんの冥土の土産には、レベルが遥かに及びませんが」

「「何だと(ですって)、コノ変態〜〜ッ!!(怒)」」
 次の瞬間、初音とはるかは互いを目掛けて片手四本持ちの焼き串とフォークを
一斉に投げ付け合っていた。


ブスブスブスブスッ!!
ビスビスビスビスッ!!

奇っ怪な何かを刺すような音が響いた。

「眉間に一本、鼻に一本、首に一本、心臓に一本…致命傷だな」
「…こっちも眉間に一本、両目に一本ずつ、口に一本…決定打ね」
 初音とはるかは互いの背後の商店前から肉薄して来た、隠しガードロボットの
ペ○ちゃんとカーネ○サン○ースの返り討ちにされた姿を見て、スコアを競って
いた。


(イケナイ…ああいうトリガーハッピーを野放しにしちゃ、ヤバ過ぎるヨ…)
 その光景を目の当たりにしたレミィは、自分の事を棚にあげて危険視した二人
を止めるべく、最後の攻撃を試みた…フォークの刺さったUZIを足元へと破棄
すると、両腰に固定されたレバー式スイッチに手を回し、思い切り捻りあげた。
((((シュッババババーーッ!!))))
 レミィの両腰及び両肩に括り付けられ、固定されていた計四本のペットボトル
ロケットが、初音とはるか目掛けて一斉に発射された。

 今現在の至近距離では避ける術はない筈だった…事実、初音もはるかも飛んで
来たペットボトルロケットを避けようとすらもしなかった…代わりに、はるかは
飛んで来たペットボトルロケットを二本とも弾頭部を掴んでキャッチし、初音に
至っては飛んで来た残り二本のペットボトルロケットの前半分側面分にそれぞれ
右と左の手の甲を当てて、そのままくるりと回転扉を回すがごとくにロケットを
180度捻って転進させてしまったのだった。

(三度引き金を引いテ、三度返り討ちに遭うなんテ…昔からソンナ試し、聞いた
事もナイヨ…コーユーのを『刀折れ矢尽きる』って、ユーノかな?ジュン……)
 レミィの最期の思考はそこまでいった所で、顔面とみぞおちに命中した二本の
ペットボトルロケットの衝撃によって断ち切られた。…はるかに掴まれた残りの
ペットボトルロケットからのバックファイヤーにより降り注ぐ水の感触が、暗転
する視界の中で最期に感じられた。

(…もしコノママ失神したら、ジュンと一緒の治療室に運んで貰えるのカナ?…
だったらトッテモ、うれしいネ。)
―――そして、宮内レミィの思考は閉じられた。


『ビーッ、94番・宮内レミィ、有効弾直撃により失格…被弾時失神の模様の為、
14Maマリアさんは直ちに、救急搬送車で94番の元へ急行して下さい』




「残念だが、戦利品の方は殆ど全滅みたいだなあ、はるか」
「…うん、拳銃もSMGも壊れちゃってるみたいだし、ロケットの方も再装填に結構
手間取りそうだし…結局、このたんぽ槍とハエタタキだけみたいだね」
「ま、しょーがねぇわな…それにしても道草食っちまったな、さっさと本来の獲物を
探すとしよーぜ、はるか」
「OK、初音さん」


【94番・宮内レミィ 脱落…残り36人】

カー○ルサンダー○型ガードロボット 死亡
不○家の○コちゃん型ガードロボット 死亡

297パラレル・ロワイアルその241:2004/06/29(火) 19:06
ズガーン!!……ズガーン!!

 土産物商店街の仮眠室棟は、断続的な衝撃による振動を繰り返していた。
交戦禁止エリア内で(うっかり)先手発砲してしまった猪名川由宇・大庭詠美
・御影すばるを追って来た、エリアガード用の試作型無人四脚大型歩行戦車
“ムックル”は、突破口作成及び標的への心理攻撃を目的として、本体背部
に搭載されたクレーンユニットより、鎖で吊り下げられた錨を振り回しては
棟の外壁へと繰り返し、叩き付けていた。


「アカン、このままでは『浅間山荘・ムディカパの錨の前に陥落』になって
まうわ」
「ふみゅう、早速になっちゃうけど裏から地下鉄道で脱出する?」
「ぱぎゅう〜っ、ですが裏口にはコッキング銃を持った新手のロボット達が
沢山、待ち構えておりますですの〜っ!」
「どうやら、全員無事脱出は至難の様だな…それに、この少年が共に脱出を
了承するとは私には到底、思えない」
「はっ、離して下さい!光岡さんっ、千堂さんっ…初音ちゃんが、はるかが
まだ外に残っているんですよっ!!(←彼はあのモニター中継を見てない)」
「七瀬さん、落ち着いて下さいっ!今無闇に飛び出して行っても、狙い撃ち
の的にされるだけですからっ!」
「千堂さん!理屈だけで物事をおっしゃっておられる様ですが、仮に貴方が
僕の立場で大庭さんが外にいらっしゃっても、その説得で引き下がるお積り
なのですかっ!?」
「うっ…そ、それを言われてしまうと…」
「確かに、その論法で問われてしまうと我々も返す言葉がなくなってしまう
な、七瀬君…では致し方ない、私が囮となって大型ロボットを引き付けよう
…七瀬君はその間に、他のロボットの包囲網を突き破って行ってくれ」
「「「「「光岡さん(はん)!」」」」」
「勘違いしないでくれ…どの道、地下鉄道を使っても使わなくても、全員の
脱出のためには敵を引き付ける囮役が必要なのだ、別に気に負う必要はない
…それにこの光岡悟、そう簡単にはやられる積もりはない」
「ほなら詠美にスの字、それに和樹…ジャンケンや!」
「「「「由宇(さん)!?」」」」
「勝ち残りの二人が裏口からの地下鉄道脱出一番手や…んで、負け組の二人
がそれを援護射撃してやるんや!」
「ふみゅ…じ、じゃあ、負け組の二人はその後どーするのよっ!?」
「七瀬はんが、はるかはんと初音ちゃん連れて戻って来たら合わせて五人で
またジャンケンや…ほんで、次の負け組み二人がまた、勝ち組二人の脱出を
援護するんや…最後に、残った三人でまたジャンケンや…で、最後に残った
一人が、光岡はんに助けて貰いながら徒歩で脱出や…トロッコの定員は確か
六人やったし、援護射撃なしで駅から脱出しよー言うんは、下手すりゃ徒歩
脱出より危険やさかいしな」
「分かった由宇、それじゃあ詠美、すばる…」
「「「「ジャーンケーン、ポイ(ですの)!」」」」




「ホレ和樹、ビーチパラソルや!ホナ詠美、達者で行けやっ!」
「ふみゅう、こわいよお和樹ぃ…」
「いいな、詠美…駆け出したら俺の傍を絶対に離れるんじゃないぞ!」
「うっうんっ、わかった、和樹!」
「それでは、これが地下鉄道フリーチケットですの…和樹さん、詠美さん、
あたしと由宇さんにバックアップはお任せあれですの!」
「よし…では、私が一番手で飛び出すぞ…七瀬君の方も準備はいいかな?」
「はいっ、大丈夫です!…では、宜しく頼みます、光岡さん!」

 光岡が仮眠室棟正面二階の窓からムックル目掛けて飛び降り、それに一瞬
遅れて彰が正面玄関から飛び出し、裏の屋根からはビーチパラソルを掲げた
和樹が、詠美を寄り添わせて地下鉄道駅への突進を開始し、由宇とすばるが
二丁のエアマシンガンによる、和樹達への援護射撃を開始した。

「なぁ、スの字…アンタ、ワザと後出しして負けたやろ?」
「そうおっしゃる由宇さんも、とっても後出し臭かったですの☆」

298パラレル・ロワイアルその242:2004/06/29(火) 19:46
「…浩之さん、只今海水浴場エリアを抜けまして土産物商店街エリア・郊外
森林上空に差し掛かりました…下前方の離れた位置に水陸両用型上陸用舟艇
が一台…搭乗者は現在、保科智子さん一名だけだと思われます…」

 海水浴場エリアから上陸したFPHにより、土産物商店街エリア上空へと
到達したのは、ワイルドセブン支援(もとい利用)の為にやって来た藤田浩之
とHMX−13・セリオ。

「…!…新手が一名、商店街郊外森林北側より、こちら側へと移動を行って
おります…」
 セリオが、藍原瑞穂より入手した赤外線双眼鏡にてその姿を確認する。

「一体、何者だ?セリオ」
「…03番・天沢郁未さんです…現在カプラスーツを着用、原因までは判り
かねますが、その表情からして極めて危険な精神状態に陥っている模様です
…現在の進行方向及び、進行速度から計算しますと、約二分後には智子さん
の上陸用舟艇と接触する事が予想されます…」
「委員長に、迎撃なり退避なりの報告連絡を行うべきかなあ…?」

「…その必要はないと思われます」
「へ!?」
 あっさりと非情の決断を言ってのけたセリオに唖然とする浩之。

「…拝見しましたところ、現在の郁未さんは相当切羽詰って自らバーサーク
状態と化しております…直接干渉を行うのは自殺行為に等しく、さりとて、
このまま商店街に侵入されましたら予想不能の大混戦となり、私達の作戦に
も少なからざる支障をきたしてくる恐れが多大にあります…ですので、ここ
は防御力と機動力を兼ね備えた上陸用舟艇に乗ってらっしゃる智子さんに、
囮役兼壁役となって貰って、郁未さんの足止めをなさって頂きましょう」
 セリオはそう言うと、その身に纏っているヤン・ウェンリー(というより
は事実上、アレックス・キャゼルヌ)の衣装のポケットより携帯電話を取り
出し、G.Nの傍聴をこそ目的とした空電話による通話を開始した。

「……もしもし、川口茂美さんでしょうか?もし宜しければ、03番・天沢
郁未さんを煽るのに打って付けのネタを探し出して貰って、それを公開放送
なさって頂きたいのですが…ええ、映像までは必要ありませんから…」

299パラレル・ロワイアルその243:2004/06/29(火) 20:51
 リバーサイドホテル1階・救急医療室(現在、霧島聖及び桑嶋高子出動中)
では、とある施術に対する術後24時間経過確認結果を見て、呆然となって
いる犬飼俊伐と、その姿を見て失笑している杜若祐司の姿があった。

「ばっ、馬鹿なっ!?…植え付けた筈の仙命樹が…仙命樹が、跡形すらなく
消えて無くなってしまっているぞ!?…しかも、しかも、彼女の生命力は…
生命力は、施術前よりも…遥かに急上昇して!?…まさか、元の体組織に…
く、食われてでもして消滅したとでもいうのかっ…!?」
「…大自然の未知の生命力と、超自然の奇跡の御力の前ではな、人間に毛の
生えた程度の存在の小賢しい小細工など、入り込む余地は無いと言う事なの
だよ」
「随分と嬉しそうに言ってくれるじゃないか、クソッ…しかしまあ、ここは
第一に、清く小さく暖かな命がひとつ、神に見捨てられずに済んだ事を好し
として乾杯といこうではないか(ポンッ、トクトクトクトク…)」
「…昔に当て付けた様な台詞なのが気に入らないが、今現在のあの娘の事に
対しては同意見だ、それでは…」
「「…乾杯(カチンッ)」」




 …そして、二人がいる場所からカーテン仕切り一枚隔てた向こう側では、
犬飼のお下がりの白衣を纏った杜若きよみ【覆】が、検査が終わってぱんつ
一枚の姿で仏頂面している沢渡真琴を、一生懸命になだめていた。

「ほらほらほら〜っ、早く服を着なさいって…確かに、朝食前にこんな所に
連れてこられて、ぱんつ一枚にされて健康診断された、あなたの不機嫌さは
理解出来るわ…だけど、その代わりに朝食には野村屋の肉まん、好きなだけ
食べさせてあげるって、お姉さんと約束したでしょう…?」
「肉まんだけじゃあ納得できないわっ…今月号のどぼんとZもセットで付け
て貰わないとっ」
「…せっかく、南の島へ来て、マンガ読んで時間過ごす気?…ひょっとして
あなた、馬鹿?」
「あうーっ、ばかじゃないもんっ!つけてくんなきゃ服なんか着てやんない
もんっ!」
「そういう発想が馬鹿だって言うのよ、こうなったら力ずくで…(ガシッ)」
「ひうーっ、なにすんのようーっ(じたばたじたばた)」
「馬鹿が、馬鹿ならではの夏風邪をひかないよーにしてあげよーとしている
のよっ(ぐいぐい)」
「もうっ、やめてよおっ…それに、さっきからばかばかうるさいのよおっ、
このっ――――――デコオバサンッ!!」

 ぷちんっ。

 無理矢理服を着せようとする黒きよみに対し、とうとう真琴は禁句を口に
してしまった。

「…よ〜く分かったわ…それじゃあ、この服は私が買い取ってあげるから、
真琴ちゃんは好きなだけぱんつ一枚でこの島にいるといいわ…」
 そう言うや否や、真琴の着衣一式を脱衣籠もろとも引っ掴んだ黒きよみは
、医療室の出口目指してずんずんと歩いて行った。

「あっ、あっ、あっ、あうーっ、なに持ってってんのよばかーっ」
 意表を突いた反応に真琴はそんな間の抜けた声を上げ、慌てて黒きよみの
後を追った。黒きよみは追って来る真琴の伸ばして来る手をひらりひらりと
かわしながら、脱衣籠片手に医療室内を駆け回る。

「まこぴぃはぁ♪ぱんついちまいがー♪すきー♪ぱんつーぱんつー♪」
「歌わないでよおっ!踊らないでよおっ!」
「れんさぁいーはーいつーだってーとうとつーだーあ♪れーんさーいの
ゆくーえーはーぱぁんつがー♪にぎっーてーるー♪」
「握ってないわよっ!!」
「あーきーこーさーんがー♪かぁーってきたーこっとんおこさまぱーんつー♪
まこぴぃすきーすきー♪」
「大きなお世話よっ!」

 どたどたどたどた。
 ばたばたばたばた。




「…随分と明るくなったな…『姉に似て異なる者』と内心、毛嫌いしていた
頃が嘘の様だ…」
「…いや、それまでの彼女は、私が間違って壊してしまったままだったんだ
…今の姿こそが、本来の彼女の姿なのだよ…」

 老練な生物科学者である二人は、(多寡が)ぱんつ一枚で医療室を駆け回る
真琴(ごとき)には、全く動じていなかった。

300パラレル・ロワイアルその244:2004/06/30(水) 21:37
 土産物商店街郊外森林北部…海水の滴を滴らせたカプラスーツをまとった
天沢郁未は、一人土産物商店街方面へふらふらとその歩を進めていた。

 舞台村時代劇エリア・五条大橋の上で、恐怖におののいた顔をして橋から
飛び降り、水上バイクに乗って逃走した川澄舞を追いかけて行った所までは
一応、覚えている…材木問屋のセットの横の川沿いにあった筏に飛び乗り、
竹竿を舵に不可視の力を推進力にして…一昔前のリゲインとかいう栄養剤の
CMで、若い刑事が水上自転車を漕いで犯人のモーターボートを追いかける
シーンがあったけど、アレにそっくりだったような気がする…だけど結局、
追跡は頓挫してしまった…海にまで出てしばらく後、推進力に耐えられなく
なった筏が分解してしまったからである…こうして私は結局、岸に上がって
かの地を彷徨っているのである…。

 彼は、何処へ行ってしまったのだろう?…置いてきぼりにしてしまったの
であろうか?…それとも、舞さん同様に逃げ出してしまったのだろうか…?

 どうすればいいのだろう、と思う。

 郁未は思考を停止させる。今は何も考えるな。走れ。走って何か履く物を
入手しろ。履いてからそういう事は考えろ。まだ自分は脱落した訳じゃない
。走れ。この曖昧模糊とした世界で自分の下半身をくすぐる、すーすーした
感触だけがリアルだ。思考は思考でしかない。

 ずっと後でも思考は出来るのだ。

 霧を掻き分け、郁未が再び走り出そうと右足を踏み出したそのとき、
不思議な歌が聞こえてきた。

「―――っ♪」

 そして、歌の歌詞を理解して―――理性の盾が砕け散った。

「れんさぁいーはーいつーだってーとうとつーだーあ♪れーんさーいの
ゆくーえーはーぱぁんつがー♪にぎっーてーるー♪」


 キャタピラの駆動・急停止音とともに、自分の前に大型車両が後ろ向きに
姿を現したのはその時であった。




「何や…なんなんやあっ!?あの…あの、ミスキャスト供は一体〜っ!?」
 保科智子は水陸両用型上陸用舟艇の操縦室で、モニターから送られて来た
映像を目の当たりにして頭を抱えていた。

「土産物商店街の強敵は光岡はんと七瀬はんだけやと思っとったのに〜っ!
何なんやねん、あの極悪コンビはっ!?」
 モニターには、宮内レミィをこともなげに『死体』へと変えた後、智子が
レミィのために送り込んだ最後の兵力…甲漢O0O0の第四陣・ゴム銃剣付
コッキング式エアライフル装備部隊二十体を、その射撃をかわしては次々と
たんぽ槍で薙ぎ倒している柏木初音と、ライフル型コルク銃をバットの様に
振り回し殴り倒している河島はるかが、悪鬼の様に映し出されていた。

「アカン…こんな事なら、甲漢を第三陣まで続けざまに仮眠室棟に送り込む
んやなかった…」
 お陰で現在、智子の上陸用舟艇の周りには、一人一体の味方も存在しては
いない。

「どないしよ…佐祐理はん舞はんの本軍とか、浩之はんセリオはんの援軍が
来るまでは一旦、後退しておくべきなんやろか?…何といっても、ムックル
ちゃんを『敵の敵』にする事は成功したんやし、ムックルちゃんがやられん
限りは向こうさんも、体勢立て直すんは出来へん筈やし、仮眠室棟の甲漢も
そう簡単には全滅したりはせえへんやろ…それより何より、このままやと…
あの極悪コンビがここに到達してしまうわ……決めた!後退やっ!」
 熟考の末に後退を結論し上陸用舟艇を直ちにバックさせた智子は、前方の
様子にばかり気をとられていた事と、突如流れてきた変な歌唱の放送に気を
とられていた事が重なって、後方の霧と大樹の陰よりふらふらと現れ出でた
人影に気付くのが遅れ、慌てて急ブレーキを掛ける羽目と相成った。


「アホンダラッ!ドコ見て歩いとんやッ!?…って、ア…アンタはっ!?」
 思わず、ハッチから顔を出して怒鳴り付けた智子の顔が、人影の正体をば
知った瞬間、忽ちの内に凍り付いた。


「……ぱんつ、見つけたわよ」

 そう言った郁未の表情は。
本編終盤の少年に、そっくりであったかもしれない。

301パラレル・ロワイアルその245:2004/06/30(水) 22:39
シパパパパパパパパパパパパパパパパッ!
ビュオンッ!ビュオンッ!

 土産物商店街郊外森林から海水浴場へと後退する水陸両用型上陸用舟艇、
そして、それを怪しい眼差しで追う天沢郁未…砲塔と銃座に鎮座した二体の
甲漢O0O0が郁未(の不可視の障壁)目掛け、手回し式エアガトリングガン
とロボピッチャーで空しい迎撃砲火を先程から浴びせ続けている。

 保科智子は舟艇の操縦席で、通信機片手に必死の緊急連絡を行っていた。

 ガチャ……。

「…はい……」
「セリオはんか……私や……智子や……助けて……欲しいんや……」
「…智子さん……貴方達は、合流も待たずに自分達だけで勝手に飛び出して
いかれたんじゃないですか?」
「そ、それはそやけど……頼むわ……助けて欲しいんやセリオはんっ、浩之
はんっ……!!」
「…と、言われましてもですね……」
「も、もう戦えへんのや……ヤバそうな追手が三人も掛かってしもたし……」
「…智子さん、貴方もマーダーなら、御自身で広げた風呂敷ぐらいは御自身で
たたんで頂けますでしょうか?」
「これまでの戦闘で北川はんや雪見はんが倒れたんやっ!さらにレミィまで
やられてもうた……もう、切羽詰っとるんやっ!」
 悲痛な叫び。

「見とったんやろう?ええっ!?セリオはんっ!!」
「……ハイ。見ておりました…ですので、天沢郁未さんに土産物商店街へと
そのまま進入された場合の混戦を避けるために、G.N様に郁未さんを煽る
ための放送をなさって頂き……今はこうして智子さんに、海水浴場方面への
郁未さんの誘導をお願い致している…という訳で御座います―――」

「やっぱり……あの放送はあんたやったか。……セリオォ!」
 悔しそうに歯軋りし、苦渋に満ちた表情で智子は叫んだ。

「…海水浴場はすぐそこです。それだけ喋れる余裕が御座いますならきっと
大丈夫なことでしょう……装甲と水陸両用性を生かして御無事に逃げ延びて
下さい」
「ちょっ…セリオ―――」

 プチッ……。

「…さて……とです」
 下方を逃げて行く上陸用舟艇とすれ違う様に上空を飛行するFPHの上で、
セリオは再び双眼鏡を見つめる。既にそこで戦っている味方はロボット達だけ
だけでしかなかった。




 足元に流れ弾のゴムボールが転がってきたのを目にした時、柏木初音の目が
キラーンと怪しく光った。
「おう、はるかっ!遂に尻尾を見せやがったぜ!」

 自分達に襲い掛かって来た甲漢O0O0の最後の一体を殴り倒したばかりの
河島はるかが、グニャグニャにひん曲がってしまったコルク銃をゴミ箱に放り
捨てながら、初音の方を振り返る。
「…上空からはホバーの、森の奥からはキャタピラの音が聞こえてくるけど、
どっちなんだい?」

「方向からすると、間違いなくキャタピラの方だ…畜生、ワクワクして来や
がったぜ!」
「…いよいよ、お礼の相手とご対面ね…しかも、歯応えのありそうな乗り物に
乗ってるみたいだし…楽しみだね、初音さん?……ちょっと、どうしたのよ、
初音さんっ!?」

「ううっ、どうしようっ……も、もしも…もしも、今までの姿を…彰さんに、
彰さんに見られちゃってたら…どうしようっ!?…………しくしくしくしく」
「…あちゃ〜〜〜っ、既に、体に抗体がバリバリに出来ちゃってんのかなー、
初音さんって…ともかく、彰のためにも何とか守ってやりたい所だね…って、
それにしても…果たして今現在、どこへ向かうのが一番安全なんだろーね?」

302パラレル・ロワイアルその246:2004/07/06(火) 20:15
 本来の乗り手である交通警備兵隊長・中崎勉がその財力を注ぎ込んで改造
でもさせたのであろうか、小型装甲指揮車は流石にやや狭いながらも五人の
少女達が乗ってなお、快適な空間を保っていた。


「ええっと、確かこの道をこのまままっすぐ行くと…土産物商店街に着くの
かな?」
 操縦席でハンドルを握るのは24番・依頼人の神尾観鈴。

「そうだよーっ、フードスタンドでいい情報が聞き込めたら嬉しいんだけど…」
 助手席にてレーダーとカーナビで索敵及び、道路情報提供を担当するのは
31番・依頼人の霧島佳乃。

「…接続、完了しました!…これで、この車に設置しましたシャングリラ・
キャノン砲は、このノートパソコンからのキーボード入力で照準及び射撃が
可能になりました!」
「…どうやって行うの?郁美ちゃん」
「このみきぽんさんの顔の形をしました照準マークを、画面上に移った標的
の上までマウスもしくは↑↓←→キーで持っていきますと、照準マークより
フキダシが出て参ります。そして、砲撃プログラムが標的の回避力・防御力
・耐久力を分析及び算出を行い、標的に対する命中及びノックアウトに必要
なシャングリラ・キャノン砲の命中精度及び必要チャージ量の度合いをその
文章のタイピング入力難易度に変換して、フキダシの中のセリフという形で
表示をしますので、あとは射手がそのセリフをローマ字にてタイピング入力
すれば、標的に対して妥当な威力と命中精度によるシャングリラ・キャノン
砲での砲撃が行われる…と、いう訳です!」
「…もしかしたら昔、某アーケードゲームで登場した、キーボード・ガンの
シャングリラ・キャノン砲バージョンなの?」
「わかり易く説明しますと、栞さんのおっしゃる通りです!」
 装甲指揮車の屋根に設置完了したシャングリラ・キャノン砲に配線接続を
された、ノートパソコンの画面及びキーボードの調子を確かめながら、発射
システムの講義と講習を後部座席にて行っている二人は、56番・依頼人の
立川郁美と86番・依頼人の美坂栞。

「アーアー、ただいまマイクのテスト中です…聞こえますか?ホテルにいる
皆さん、聞こえますか?…私は今、土産物商店街近くの車の中にいます。…
映ってますか?」
 最後に、同じく後部座席にて車載スピーカーの調子を確かめているのは、
15番・依頼人の杜若きよみ【原】である。


「「「「あの〜、きよみさん…」」」」
「はい、なんでしょうか?」
「「「「…嫌な予感が致しますので、本編ネタをスピーカーで喋られるのは
、その……(汗)」」」」




「商店街へ到着だよ…って、フードスタンドにたどり着くまでが到着だったね」
「わわわ、早速誰かが猛スピードでこっちへ近づいて来るよおっ」
「念のため、キーボード・キャノンをロックオンします…って、えええっ!?」
 照準用みきぽんマークのフキダシに出てきたセリフは、
“影花藤幻流の使い手で、跋扈の剣・麟の持ち主”だった。

「かなり長めだし…読みがな通りに入力しても正しく変換される訳が…あああ、
入力時間が…(汗)」
「変換難易度からしても、相当強そうな方の様な気が…(汗)」
「待って下さいっ、あれは…あれは、悟さんですっ!」

303パラレル・ロワイアルその247:2004/07/06(火) 21:10
 土産物商店街の奥の方の通りから走って来たのは、片手に竹光もう片手に
吸盤手裏剣(新城沙織→阿部貴之経由)を持って、ガリルを背負った光岡悟。
 そして更に、彼の後を追ってやって来たのは…

「がお…」
「わわわ、おっかなそうなロボットだよお」
 …自ら囮役をかって仮眠室棟より飛び出して来た光岡から、竹光の鞘及び
吸盤手裏剣による先制の一撃を受けた、無人四脚歩行戦車“ムックル”が、
脚からトラベルホイールを展開して光岡を執拗に追跡しているのであった。

 光岡にとって不幸であった事は、ムックルのセンサーが昨晩の内に緊急で
改装されたという事であった…というのも昨晩の日没頃、空港・ヘリポート
エリアを警備していた別のムックルが、48番・少年が唾を付けて弾き飛ば
してきた牛乳ビンのフタによってあっさりセンサーを無力化されてしまった
がために、正規の警備スタッフが全ムックルのセンサー用カメラレンズに、
対吸着系用の突起を貼り付けてしまったのである…おかげで、偶然にも少年
と同じ作戦を吸盤手裏剣にて行おうとした光岡は当てが外れて、次なる作戦
案を練りながらムックルを引き付けつつ、逃走しているのであった。


「郁美さん、お願いしますどうか、悟さんを…」
「わかりました、きよみさん!…みきぽんさんを大型ロボットにロックオン
…しました!」

 ピーッ、
“そこには、布団を被った血塗れの死体がいらっしゃった”

「!…長めですけど、変換は楽そうですね……って、い、郁美ちゃんっ!?
どうして、スキップさせてしまうのですかっ!?」
「…聞かないでくださいっ(泣)」

 ピーッ、
“嫌われてもいい。それでも、一緒に行けない”

「さっきのよりも短めです!これなら簡単に入力でき……って、栞さん!?
どうして、スキップをさせちゃうんですか!?」
「…そんな事聞く人、嫌いですっ(泣)」

 ピーッ、
“往人くんに、もう一度会いたかったな”
「「それじゃあ、今度こそ……って、か、佳乃さんっ!?」」
「ごめんね、郁美ちゃん……ごめんね、栞さん(泣)」

 ピーッ、
“何か、異物が、腹で膨らんでいる”
「「「本当の本当に今度こそ……って、きよみさんまでっ!?」」」
「……私は、嫌です(泣)」

 ピーッ、
“カラスさん”
「「「「本当の本当の本当に、今度こそ今度こそ絶対にっ……」」」」
「ががが、がおっ…もう、間に合わないよおおっ!(泣)」

 操縦席の観鈴が前方を見るや、悲鳴を上げて頭を抱えた…チャージ臨界に
なったシャングリラ・キャノン砲の蒼く輝き始めたその砲口が、先ほどから
自分に向けられている事にいい加減、気が付いてしまったムックルが、攻撃
優先順位を変更して今度は装甲指揮車の方へと、機体下部に装備された折り
畳み式のドーザーブレードを展開して突進して来ていたのである。


 ガンッ!!
「「「「「キャーーッ!!」」」」」

 球状の車輪を持ち、低い重心で耐衝撃性にも優れた造りになっていた装甲
指揮車は殆どそのダメージを受けず、中の五人もそれぞれ、特製の座席へと
シートベルトを締めて搭乗していたおかげで、悲鳴を上げるだけのショック
で済んだのは幸いであった。

 しかし、チャージ臨界だったシャングリラ・キャノンは、体当たりの衝撃
で砲身を跳ね上げ、見事な暴発を起こしてしまった…暴発した蒼いビームは
ムックルの本体をそれ、上部のクレーンユニットを貫き抜けるとそのまま、
ムックルと光岡が元来た方角へと、遥かに伸びて消えていった。

304パラレル・ロワイアルその248:2004/07/06(火) 21:38
「何だ、たった二人しかいねーじゃねーか…これじゃあ、FPHに乗って来た
甲斐もあまりねーな」
 仮眠室棟二階窓から、棟を取り囲んでいる数十体の甲漢O0O0を目掛けて
十字架型マシンガンを撃ちまくる猪名川由宇と、アタッシュケースマシンガン
を撃ちまくる御影すばるを見おろし、その上空を飛行するFPHの助手席から
藤田浩之はつまらなそうに言った。

「…まだ、分かりません…光岡さんや七瀬さんの生死行方が確認出来ていない
以上、楽観は禁物です、浩之さん」
 他の建築物や霧濃く覆われた箇所を隈なく索敵しながら、セリオがすかさず
そんな浩之に釘を刺す。

「とは言ってもなあ、セリオ」
 浩之はセリオのまめとも言える慎重さを苦笑するかのように言葉を返す。
「例え、光岡さんや七瀬さんが一緒にいたとしても…電動ガトリングガンに
弱催涙ロケット弾まで搭載して上空を飛ぶFPH相手に、彼らに何が出来る
とでもいうんだよ、一体?」

「…逆に言えば、何も出来ないという証もありませんよ、浩之さ……!?」
 そう言い返そうとしたセリオは次の瞬間、少し離れた島の内側(ホテル側)
の方角の、商店街を覆い隠している霧の中が。

青白い光を放っているのが見えて。
――それは、本能的な恐怖。
セリオは。
もはや光岡や彰の存在すら忘れたかのように、
浩之を引っ掴むと脱兎の如く、飛び降りた。
――そして、それは間違いではない。
セリオに掴まれた浩之は。
今更ながらにその理由に気付き、再びその身を震わせた。
展開の甘さを痛感するように。
だから。
もはや、乗ったままで緊急回避など試みられるはずも――
なかった。
無人のFPHは。
蒼く輝く、心持たざる物のみを破壊対象とするよう“調整”された魔法科学の灼熱の光に包まれた。

305パラレル・ロワイアルその249:2004/07/13(火) 19:20
「……あ……あ……ああああ」
「な……!?」
 隠し露天風呂ラウンジに驚きの声があがる。
そしてそれはすぐ悲鳴に変わる。
胡椒の煙の様に舞い上がり飛び散る粒子とその刺激臭が彼女の目をそして、
鼻腔をえぐって行く。
――胡椒爆弾は、長森瑞佳の背後で炸裂した。

「い、いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ……!ゴホッ、ゴホッ……」
 瑞佳が叫び声とともに目頭を押さえて咳き込み、ぐったりとなる…勿論、

『ビーッ、65番・長森瑞佳、有効爆風直撃により失格…最寄の然るべき
施設にて目を洗浄後、交戦エリアより退いて下さい』

これは『助かり』様のない、一撃であった。




 床下の畳の内一枚が持ち上がり、ガスマスクを付けたスキンヘッドの男が
そこから這い上がってラウンジ内へと進入して来た。

(ふっふっふ、悪く思わないでくれお嬢さん、ファイナルチェイサーである
俺のターゲットは、お嬢さんが持っているアイテムなんだよ、実はな…)
 男は小声で呟きながら、倒れている瑞佳の方へと近付いて行くと、瑞佳の
支給装備である来栖川アイランド【裏】パンフレットを手に取り、ページを
パラパラとめくっていき…そして、とあるページの項目内容を確認した。

(間違いない、コレがターゲットだ…後はとっとと、このページさえ、抹消
してしまえば…)
 男が、手に取った【裏】パンフレットのとあるページに手を掛けて、破り
取ろうとした時である。


「瑞佳ああっ!?」
(!?っ)
 男はいきなり、背後から手探りで近付いて来た何者かに羽交い絞めの形で
抱き締められてしまったのである。

(馬鹿な!?…この、胡椒が激しく舞い上がり立ち込めている室内で、この
俺の背後をくしゃみの一つもしないで……って、なな、何だお前わっ!?)
 抱きしめられた男は振り返って危うく、驚きの叫びを漏らしそうになった
…自分を抱きしめているのが、頭に凹んだ一斗缶を被った男だったからだ。


「瑞佳っ、大丈夫かっ!?瑞佳っ、頼むから、返事をしてくれえええっ!!
(ぎゅううっ、すりすり……)」
(…ななっ!?や、やめろ、この馬鹿!おっ、俺は、俺はテメーの彼女じゃ
ねえんだっ!)
 ガスマスク男は、背後からがっしりと(脚まで絡めて!)自分を抱き締めて
くる一斗缶男にまさか正体をバラす訳にもいかず、さりとて自分の前で倒れ
伏している瑞佳の振りをする訳にもいかずで、どうやれば離して貰えるのか
予想外のトラブルへの対応判断にすっかり迷ってしまった…と、

「ならば…本編にて効果的面だった、あの手を…(むにゅり。むにゅり。)」
(ひええええっ!?何胸揉みやがるんだ、この変態野郎っ!…違う、だから
俺はテメーの彼女じゃねえんだって、止めろぉ!止めてくれええええっ!)

「ん…?よく考えてみたら、随分と大柄だな、コイツ…」
(フ〜ッ、やっと気が付いてくれたのかよ…)
「(むにゅり。むにゅり。)ワリィ、間違えて胸揉んじまったよ、七瀬…」
(…ちっ、違うわ、ボケェーーーーッ!!)
「もしかして、俺の被り物を気遣って殴るに殴れなかったのか?…だったら
なおさら、済まない事しちまったな……って、うっ…重ねて済まねぇ七瀬、
お前の胸揉んだの初めてなんで、思わず興奮し過ぎちまったよーだ…(♂)」


 …ガスマスク男こと、金森弥太郎は…遂に耐え切れず、声に出して絶叫を
高らかにあげていた。

「う゛おおおおおおおおおおおお〜っ!?いっ、異物がああああああっ!?
俺のっ、俺の尻にっ、硬くてデカい異物の感触があああああああああっ!?」

【65番・長森瑞佳 脱落…残り35人】

『こんなおわかれのシーン…私、やだすぎるもんっ…(しくしくしくしく)』

306パラレル・ロワイアルその250:2004/07/13(火) 20:30
ゴットン、ゴットン…プシューッ。

“塚北様、ご指定の駅に到着しました…お忘れ物の無い事をお確かめの上、
足元にお気を付けてお降り下さい”

「…ムニャムニャ、俺様とした事が、オート操縦に任せて随分と眠りこけて
いた様だったなぁ」
 …駅のアナウンスにしばしの間の眠りを覚まされた覆面ゼロは、身支度を
整え終わると乗っていた化学消防用車輌より、駅のホームへと降り立った。

 その駅は、島の中央に位置するリバーサイドホテルの地下鉄道駅と同様、
幾つもの複線及び幾つもの路線切換用のポイント、更には幾つものプラット
ホームを有する大きな駅であった。

 そして、ゼロが降りたのとは両隣に当たるプラットホームには、何両かの
貨物列車が停車しており、搬送用と思しき大型のロボットがHM−12達の
サポートを受けながら、貨物の積み下ろし及び搬送作業を行っていた。

 ゼロはそんな自分の左右で行われている、人ならざる者達のあわただしい
動きに対し、警戒はおろか関心を示す素振りすら見せずに、そのままホーム
から駅の―――使用されたことはおろか、まだ電源すらも入れたことがない
のであろう―――ビニールを被ったままの無人改札機を通り抜けて、外へと
通じる階段を下りて(上ってではなく)行った。

「来栖川アイランドの新しい目玉かぁ……今冬オープン予定とは聞いてたが
もう殆ど、完成していやがるじゃないかぁ」

 階段を降りた先には、エレバス・エレタクシー用のターミナルが広がって
おり、そこにはVIP用と思しきエレハイヤーが一台、後部の扉を開放して
停車していた…ゼロが平然とそのエレハイヤーの後部座席へと乗り込むと、
扉は閉まりエレハイヤーは静かに発進した。

 最終案内先へと向かって移動するエレハイヤーの中で、ゼロは車内に設置
されている端末を開くと、チャットによる通話を始めだした。

“引っ越し祝い一番手として来訪させて貰ってるよ、長瀬ではない長瀬さん”
“ご来訪ようこそ、高槻では無い高槻君”
“…二度と、その姓では呼んで貰いたくは無いなぁ(怒)”
“自分から振っておいて、勝手じゃのう”
“まぁ、それは置いておいてだなぁ…こうして、ポッと出に閃いたアイデア
一つで動き出した俺様を、引越し先の奥深くまでこうして招いてくれるって
事はだなぁ…一体、話のどの辺りから、アンタの計算通りに進んでくれてる
事になるんだい?…俺に、敗者復活戦の説明放送担当を依頼した時からかい
?それとも、北川とかいう少年が、源之助の爺さんを脱落させた千鶴さんを
かつごうと画策した時からかい?”
“それを尋ねられてしまったらの、そもそも、源之助さんに他者復活・新規
参加用の『復活の呪文書』を支給して、ゼロ殿には『金の』地下鉄道フリー
チケットを支給した事…そして、長瀬一族・主催者連合の最後の生き残りが
あの源一郎さんであった事まで、遡る事になるかも知れぬかものう”
“成る程なぁ…だがもしも、これから俺様の『事が成って』しまった暁には
、このゲームは果たしてどういう展開になっちまうのかなぁ?…やっぱり、
『G.Nvs全生き残り参加者』ってゆー、本編で見たよーな展開になっち
まうのかなぁ?”
“…お約束がお約束であるべき場合を除いて、先の展開が読めるようでは、
物語としては詰まらんからのう…じゃから、本編過去のゲームで名演出家を
噂されたゼロ殿には、更にこれからも頑張って貰いたい所なのじゃがな”
“困るよなぁ、俺様にだって純粋にゲームを楽しみたい心もあるんだしよぉ
、それに…”
“…私的に気になる参加者でも未だ、生き残っておるのかな?”
“……やっぱ、帰ろうかなぁ(怒)”
“まあ、落ち着くのじゃ”
“それはそれとして、今後ジャッジは誰がやる事になっちまうんだい?”
“確かに、気になる所じゃろう…『長瀬』が全滅した時、残りの参加者達が
ゲームを停滞させないよう、バレない内は仕掛人として、バレてしまったら
ボスキャラとしてゲームに参加するのがワシの役目といえば役目なのじゃが
…例え、このワシが私心を差し挟む事なく、選手と審判の二足の草鞋を履き
こなせる能力を有しておるとはいっても、もし実際にそれをやったらやはり
不平等的・反則的なイメージは払拭出来んからのう…だが、心配は無用じゃ
ちゃんと、ジャッジの『備え』もしておるからのう♪”
“オイオイ、まさかまたキャラが増えちまうんじゃあないだろーなぁ(汗)”

 エレハイヤーは走る、チャットは続く…。

307パラレル・ロワイアルその251:2004/07/13(火) 20:32
「一体、どうなっちまってるんだ?…扉が開かないぞ?」
 地下鉄道構内にて石原麗子と『別れた』後、整備員通用口を抜けて非常用
脱出通路に辿り着いた柳川裕也は、地上へ戻るために通路脇の階段を上って
地上の何処かとの出口を隔てているのであろう扉に手を掛けたのだが…扉が
(非常開放コックを捻っても)うんともすんとも動かなかったのであった。

「クソオッ!」
 思わず扉に拳を叩き付ける柳川。
「仕方ない、他の出口を探すしかないか…」
 諦めた彼は再び地下鉄道構内へと戻るべく、元来た階段を小走りに降りて
行った。

 因みに、柳川が開けようとしていた扉の出口なのであるが、土産物商店街
〜海水浴場エリア境界に存在する松林の隅にある神社の形をした出入口で、
24時間前にはBグループ第7組(水瀬名雪・遠野美凪・みちる)が下車後、
長岡志保を脱落させて再び乗車を行った出入口でもある。

 扉が開かない理由の方はといえば…土産物商店街郊外森林より全速後退で
移動中であった水陸両用型上陸用舟艇が後方不注意にて衝突事故を起こした
ため、神社型のゲートが壊れてしまったからである。

 更に、上陸用舟艇の方も、衝突したショックでエンストを起こしており、
砲塔と銃座にそれぞれいた二体の甲漢O0O0も、衝撃で車外に放り出され
転げ落ちて横たわっていた。

 そして上陸用舟艇内では…

「とうとう、追い詰めたわよう…さぁ、しゅるしゅるっとな」
「ア、アホぬかせ、このえちり女!…私のぱんつは私のもんやッ!」
 先程の全島公開放送により、今の自分の有様をG.Nに感知された事実を
悟り、もはやなりふり構う事なく白く木綿な物体を求める天沢郁未は遂に、
セリオの謀略によって生け贄に仕立て上げられた保科智子を操縦席の片隅に
追い詰めていた。

 がらんっ、がらがらがらがら……

 最後の切り札で隠し持っていた持参装備のたこ焼きプレートも、不可視の
弾幕によってあっさりと弾き飛ばされ、甲高い音を響かせつつ空しく床へと
転がっていった。

 沈黙が、横行する。
「言うこと聞かない子なんだから……」

(……武器は無い、逃げ場まで失っている。ハッ、ホンマもんの窮地やな!)
 智子は……心の中で自分を嘲っていた。…と、壁を背にへたり込んでいた
智子の右手が、積み込んでいた事も忘れて久しかった“ある物”に触れた。

(!…これはっ。)
 その“ある物”がたこ焼きプレートと同じ運命をたどった場合の結果を、
智子は頭の中で素早くシミュレートした。

(道連れ爆死確定やな…でも、幕切れとしては、悪くない方やと思うなぁ。
……なんて、確かアイツは逆に、道連れで『爆死』させられたんやっけか。
――――――な、晴香)
 智子は次の瞬間、その右手に触れた物―――長期戦となった場合の非常食
という名目で上陸用舟艇に積み込んでいた宮内レミィの支給装備…ジッパー
がキツキツの巨大なデイパックを、火事場のクソ力で一気に引き寄せると、
迫り来る郁未目掛けて、両足で思い切りに蹴り飛ばした。

308パラレル・ロワイアルその252:2004/07/13(火) 20:33
「無駄だって言ってるでしょ!!」
 不可視の力を振り絞って再び、蹴り飛ばされた物体に対して、能力全開で
弾幕を張る郁未…しかし、飛んで来た物体―――巨大なデイパックは弾幕に
当たる前に既に、蹴り飛ばされたショックでジッパーが壊れて裂け、その中
に入っていた、もずく。もずくもずく。もずくもずくもずくもずく。小さな
チューブに詰められた黒い黒い、スーパーで投げ売りにされている一パック
五十八円のドメスティックな雰囲気漂うもずくチューブ(某氏曰く、硬めの
ビニールだから頑丈だと信じていたのですが……。)の集中豪雨が、郁美を
目掛けて一斉に―――の正体に気付き、慌てて弾幕を防壁へと変換しようと
する郁未。

 だがもうそれは遅く。

 上陸用舟艇内に、緩衝用のプチプチ・エアクッションを力任せに雑巾絞り
した時のような音が鳴り響いた…そして、絶叫。

『ビーッ、3番・天沢郁未、有効爆風直撃により失格…最寄の然るべき施設
にて体を洗浄後、交戦エリアより退いて下さい』
『ビーッ、78番・保科智子、有効爆風直撃により失格…最寄の然るべき施設
にて体を洗浄後、交戦エリアより退いて下さい』




「ぐすん…あっ、はるかさんっ!?」
「!?…なんだろ、ありゃ一体…」
 先に反転が解け、今更ながらに恥ずかしさにめそめそしている柏木初音を
なだめながら海水浴場方面に移動していた河島はるかは、後部を神社に衝突
させ、更にはハッチから、砲塔から、銃眼から、それこそもう、隙間という
隙間から、活火山の溶岩のごとくもずくを噴き出しあふれさせている一台の
水陸両用型上陸用舟艇を発見した。

「…アーア、アレじゃあ、再利用出来ないよ、勿体無いなぁ…それにしても、
まさかあの中、流石に人がいたりはしないよね…考えただけでも気持ち悪いよ」

【3番・天沢郁未 78番・保科智子 脱落…残り33人】

309パラレル・ロワイアルその253:2004/07/20(火) 20:14
「済まないが神奈ちゃん、どうせ怒りをぶつけてくるのなら、もっと強く
叩いてくれないか?…こんな、失格判定も下らないような中途半端に痛い
だけの攻撃は…痛てっ、痛てててて…」
“(ぽかぽかぽか)ええい、余を子供扱いしたら許さんと言っておる先からっ
(怒)…うぬのような痴れ者は、脱落なんかにさせてやらぬわっ、この遊戯が
終わるまでずうっと、余の肉…もとい、お付きの者として従わせ…もとい、
こき使ってくれるのじゃっ…”

「へえへえ、りょーかい…それにしても神奈ちゃんって足、速いんだな…
まさか、全部綺麗に平らげてから追い駆けてきて、飛ばずに追い付かれて
しまうとは思わなかったぞ、本気で」
“伊達に十二単(推定20キロ!)など、着てはおらぬわ(えっへん)…って、
また余を子供呼ばわりしたなっ、うぬはっ(ぽかっ)うぬはうぬはうぬはっ!
(ぽかぽかぽかっ)…”

「だから、痛いってばよ〜」
“当たり前じゃっ、痛い目にあわせようとしておるのじゃからっ”

「…ところで、興奮して思わず元へと戻ってしまったのだろうが、やっぱり
その呼び方の方が神奈…お前さんぽくてよいと思うぞ…いいんじゃねえの、
焦って不必要な所まで改めようとしなくたって…」
“ううっ、しまった余ともあろう者が……じゃが確かに、慣れない呼び方を
する度に余は己を改めておるのではなく、偽っておるだけなのではないかと
いう疑念を払拭出来ず、知らず知らずの内焦りの悪循環を繰り返しておった
所があったようなのじゃ…どうやらおぬしの言葉でまた一つ、過ちから目が
覚めたようじゃ…よってコウヤ、それに免じておぬしが余を神奈と呼び捨て
る事を、特別に許して進ぜようぞ…言っておくが、余がこれを殿方に許した
のは、千年の過去に渡り唯一人しかおらなかったのじゃぞ…”

「…それはどーも、神奈ちゃん♪」
“ちゃんは余計じゃと言うておろうが〜〜〜〜っ!(ぽかぽかぽかぽかっ)”
「痛痛痛…そろそろ、蓄積ダメージでマジに脱落するかもな…(涙)」
“そ、それはダメなのじゃ、コウヤっ…(おろおろ)”

「それと、言っておくが…一人ぼっちで寂しい気持ちはわかるが、俺はその
千年の過去の唯一人と思しき男…リュウヤとやらとは別人だし、代わりには
なってやれないんだぞ」
“!!…な、何故、柳也殿の名を知っておるのじゃっ!?”
「…海の家で、寝言を呟いていた…あの口調は、あゆの寝言じゃねえよな」

“ううう、余とした事が(赤面)…コウヤ、余を…こんな余を軽蔑するか?”
「だが、年頃の娘が一人ぼっちで知人の面影をついつい求めてしまう気持ち
も分からなくもない…特権返しという訳でもないが、少なくともこのゲーム
の間だけは神奈…お前にだけは好きな様にこき使われてやろうじゃないか」

“おおっ、そうか有り難いのじゃコウヤっ…(どてっ!)って、こらコウヤ!
いきなり立ち上がるでないっ”
「うっかり近付かれた、そのまま俺の後ろにいろ!…って、お前等…女の方
は肉まん娘のダチで、男の方は…何となく似ているが、ひょっとして男七瀬
の兄弟親戚か…?」


 海の家より逃げ続けた末に追い付かれ、うつ伏せに倒れたところを神奈に
馬乗りにされお仕置きを受けていた高野は、海より上陸して来た長瀬祐介と
天野美汐に接近遭遇を受ける事となった。


「うぐぅ、美汐さんとっても綺麗だよう(うっとり)」
「あ、あゆさんっ、そんな素直に感動なんかなさらないで下さいっっ」

310パラレル・ロワイアルその254:2004/07/20(火) 21:30
 灼熱の光に包まれたFPHから藤田浩之を引っ掴んで間一髪で飛び降りた
HMX−13セリオは、まず商店街の軒先に広がるテント屋根に降り立ち、
そこからトランポリンのように軽く跳び上がってから、ふわりと商店街通り
へと見事に着地を果たした。

「…何という事でしょう、修理には4時間32分と52秒も掛かったのに、
再び壊れてしまうのはあっという間でした…」
「助かったぜセリオ…それにしても、今のは一体…!?」
「…確かあのビームは、先日昼前に私達を助けて下さった犬さんに差し上げ
ましたロボット兵器・先行者改に搭載されてましたシャングリラ・キャノン
です…」
「昨日の友は今日の敵なのか、はたまた、再鹵獲されちまっているのか」
「…いずれにせよ、私は光岡さんを第一標的に、シャングリラ・キャノンが
発射された方へ行って参ります…浩之さんは仮眠室棟のお二人を」
「分かった…セリオ、気をつけてな(なでなで)」

 セリオは浩之より強化兵隠蔽装置を受け取ると、首からはスコーピオンを
肩からはドラグノフをベルト掛けし、両腰のベルトとブーツにゴムナイフを
刺し、腰のポケットには手拭を仕舞い込んで、霧の裏通りをホテル方面へと
駆け去って行った。

「さてと……」
 浩之はバッグの中から菓子パンの“メイプルパンケーキ(江藤結花作)”を
取り出しパク付きながら、強化兵隠蔽装置と交換で渡された赤外線双眼鏡で
向かいの大通りにある仮眠室棟の二階の窓から、ちらちらと姿を見せている
猪名川由宇と御影すばるのデータを【裏】名簿にて確認していった。
「二人とも同人作家か…すばるって娘の方は、セリオも話した通り腕利きの
格闘家さんで、地竜走破という飛び道具も持ってるって情報だし、ちと厄介
そうだなあ…いやなに、それでもまさか蝉丸のオッサンより強いって訳でも
ないだろうし…」

 浩之は情報収集と軽い朝食を兼行しつつ、仮眠室棟の獲物二人が甲漢部隊
を相手に弾を使い果たしてくれるのを今しばらくの間、待つ事にした。




「!?……な、何やねん、あれはっ!?」
 仮眠室棟の二階の窓から、突入しようと前進して来る甲漢O0O0の集団
に十字架型エアマシンガンでBB弾を断続的に浴びせ続けていた猪名川由宇
は、海水浴場側の離れた上空で、閃光・爆音と共に乗用メカニックと思しき
飛行物体が分解して、大小の部品を撒き散らしていくのを目撃した。

311パラレル・ロワイアルその255:2004/07/20(火) 21:32
「そういや確か、毛玉犬はんのロボットに積まれとった兵器やないか、あの
ビームは…援軍に来てくれて、敵の新手をやっつけてくれたっちゅーんなら
有り難い話なんやけど…」
「!……やっつけられたのが敵の新手だというのは間違いなさそうですの」
 由宇の隣で弾の切れたアタッシュケースガンを脇へどかした御影すばるが
緊張した面持ちで口を開く―――仮眠室棟より一つ向こうの裏通りを、霧に
紛れて素早くホテル方面へと走り抜けて行く完全武装のHMX−13セリオ
を偶然にも目撃・発見したのである。

「なんやて、スの字!?」
「丁度、昨日の今頃…その時海水浴場にいたあたしとお仲間の十人を、連れ
の学ランの男の人とたった二人で襲撃して潰走させた、来栖川のメイドロボ
さんが…光岡さんが移動した方角へと走って行くのが見えましたですの!」

「それって、いかな光岡はんでもヤバイんちゃうか?…あのデカブツガード
ロボットに加えて戦うメイドロボまで増援で襲い掛かられたんじゃあ…」
「由宇さん…あたし、光岡さんを助太刀に参りたいのですの!」
「確かに、バトルドロイドもどきの方も大分、頭数が減ってきたよーやし、
ヘタうたない限りはウチ一人でも何とか、持ち堪えられるやろ…やけんど、
スの字、アンタの銃は弾切れになってもーたみたいやし、加えてロボットが
相手やと地竜走破は殆ど、役に立たへんのやったやろ?…飛び道具なしで、
あのデカブツとメイドロボをどう相手するっちゅーんや?」
「(ごそごそ)観月マナさんの支給装備ですの☆」
「ウォーターガンかい…って、ロボット相手にウォーターガンで何する気や
ねん?…ハッ、チョイ待ち!まさかコレ…H2Oの代わりにH2SO4が注入
されておるとか…!?」
「開明墨汁が入っておりますですの★」
「あ〜成る程、目潰しするっちゅー訳かい…ホナ気ぃ付けて早ぅ行きぃや、
そんかし…必ず、無事で戻って来るんやで!」
「由宇さんこそ、本当に危ない時は先に駅まで退避なさって欲しいですの」
「早ぅ行け!同人女は夏こみ終わっても死なんのや!」

 すばるは更なる返事の代わりに、長柄箒を片手にふわりと二階のベランダ
から飛び降りると、立ち塞がろうとした甲漢二体を箒の一閃で張り倒して、
商店街の大通りをホテル方面へと大急ぎで駆け抜けて行った。




「…どうやらすばるさんの方は、セリオだけを発見したみたいだな…待って
大正解だったようだぜ」
 そう言って浩之は【裏】名簿をバッグにしまうと、二丁のイングラムを
両手に拾い上げた。

「まずは猪名川さんだな」
 浩之は、セリオの敵ではないだろうと判断したすばるには目もくれず
その場を後にした。

312パラレル・ロワイアルその256:2004/07/20(火) 22:16
「!!…その声、きよみかっ!?」

 土産物商店街・ホテル側入口近くにて、追って来る試作無人四脚歩行戦車
“ムックル”を引き付けつつ逃走(後日本人曰く「移動だ…」)を続けていた
光岡悟は、ムックルが急に目標変更して襲い掛かって行った小型装甲指揮車
から、聞き覚えのある悲鳴が他の黄色い悲鳴の中に混じって聞こえて来た事
に驚き、思わず大声で叫びつつ小型装甲指揮車の方へとUターンして駆けて
行った。

「!…悟さんっ、御免なさいっ…訳がありまして私、他の皆さんとご一緒に
戦場へと顔を出してしまいました…許して下さいっ…」
 思わず車内マイクを取り、車載スピーカーで光岡に向かって叫ぶきよみ。

「観鈴さんっ、一旦後退して反撃の為の間合いを取りましょうっ」
「う、うんっ、わかったよ郁美ちゃんっ、バックだねバック…」
「わああ、追っ掛けてくるよおっ!」

 後退する装甲指揮車、それを追い掛けるムックル…更にそれを追う光岡の
目の端にとまった宅配ピザ屋のエレ・スクーターの本体に、鍵が置いてある
のが見えた。G.Nはおそらくゲームを盛り上げる為にいくつかそういった
アイテムを用意してあるのだろう。それはセットの中に用意してある屋形船
だったり、今回のようにピザ屋のスクーターだったりする。

 もしかしたらどこかにはド派手な蹂躙兵器が隠されてあったりするのかも
しれない。だが、今となっては当の光岡にはもうどうでもいいことだった。

 シートに跨り、光岡が飛び乗る。エンジンを掛け、前を見据える……
霧でほとんど見えなくなっている視界に、再びこちらへとUターンする
ムックルを確認する。

(きよみ……今、助けるからな!)

 本能的にシートの上で体を捻った瞬間、スクーターに幾つもの対能力者用
ゴムスタン弾が飛んで来る。同時に粘ついた捕獲用のトリモチが光岡の両脇
で飛び散った。

 辛くも被弾の直前にスクーターの(ゴムスタン弾で)皹だらけになった風防
の上へと曲芸乗りして、更に高く跳躍する!

 目標は目の前の戦車――――!
「戦車が怖くて――――軍人は務まらぬわっ!」

 光岡はスクーターの保温トランクから手早く抜き取っておいたピザ数枚を
空中で抱えながら突進して来る四脚戦車を迎えうつ。

 止むことのないピザの手裏剣。

 吸着系兵器対策が施されたムックルの各センサーレンズに、今度こそは
目論み違わずトマトケチャップが飛び散り、溶けたチーズがへばり付き、
ベーコンの油が塗りたくられた。

ドガシャアッ――――!

 無人のスクーターに激突され、道を大きくそれたムックルはアンティーク
ショップの中へ突進し、激しい激突音・続く倒壊音と共に、もうもうと舞い
上がる粉塵の中へと包まれた……

313パラレル・ロワイアルその257:2004/07/26(月) 19:02
 長瀬祐介に抱き抱えられていたとはいえ、流石に天野美汐の身に纏っている
支給衣装のウェディングドレスには、そこかしこに波飛沫のかかってしまった
所があった。そこが朝日を反射して光りだし、更には赤いウェーブのかかった
髪やシルクの手袋、ヒールまでもが濡れた箇所をきらきらと煌き始めていた。

 すぐ近くにいたが故、その事に今迄全然気付いていなかった祐介も、あゆの
感嘆の呟きに思わず、今は間合いを取り言葉を無くして大切な人を眩しそうに
見詰めていた。

 一方の美汐は恥ずかしさを共有していた筈の祐介までもがあっち側へ行って
しまったために、24時間前以上にいたたまれない立場へと一人追いやられて
しまっていた。

「…に、似合いませんよね…こういうのは、もっと大人の人のものですよね…」
「……綺麗だよ、美汐」
「そんな…祐介まで…他の人達が見ているっていうのにっ…あ、あ、あぁ……」

「…結局、お邪魔虫にされるために接近遭遇されたのかよ、俺達って…(汗)」
「うぐぅ、でもやっぱり今の美汐さん、とっても綺麗だよう」
“…そうなのじゃ、もしもここにおるのならば裏葉にもあのような召し物を是非
着せて、見てみたいものなのじゃ…”

「「――っ!?(くるっ)」」
「うぐ!?(あたふたっ)」
“…(し、しまったのじゃ!)…”
(だ〜っ、このおドジ娘が…!)

 五人目の気配に、彼女が―――美汐が振り向く。
 あゆの中に潜む誰かを感じて明らかに顔色を変えていた。

(!…あれは……美汐っ!)
(うぐぅ、美汐さん…)
(拒まれるだろうか…本編では間接的にではあるが…果たして彼女は神奈に対し
辛い想いを未だに、抱いているのだろうか…?)

 だが、美汐は一歩一歩高野達へ近づいて来た。
 そして、今は外の人と化しているあゆとしっかりと向き合った。
 ふたりとも、無表情のままだった。美汐があゆの中へとことばをかけた。

「はじめまして。天野といいます」

 挨拶されても、神奈は自分の名を名乗ることができない。それは美汐にも
わかるはずだ。

「あなたのお名前は?」

 美汐は、さらにうながした。

“…う……う…”

 怯えたように口ごもる神奈。お名前は、と繰り返す美汐。その口調は、
いままで祐介が知っていたどの美汐よりも優しくて、神奈を見る目は、穏やかな
愛情に満ちていた。

「お名前は?」

 すべてを知って、なお大きな慈愛で見守るような母の優しさ、それは祐介には
持てないものだ。

(僕の場合、『この人も被害者なんだ』じゃなく『都合のいいことを言うな!』
を選ぶと、トゥルーエンディングになるんだけど…トゥルーがベストという訳で
はないのは、今に始まったことじゃあないんだよね…)

 優しさの中にはつよさがある。相手の心に響くつよさだ。
 神奈は、少しずつ、美汐の問いかけに答えようとしていた。過去が疼いて、
苦しいのかもしれないが、必死に自分をさらけ出そうとしている。

「いらっしゃい」

 美汐が呼ぶと、神奈は翼で体を隠しながらするりとあゆから抜け出て、
広げた腕の中におさまった。抱いて、神奈の髪を撫でる美汐。そしてまた、
お名前は、と繰り返す。

“……か…神奈じゃ…”

 拒絶を恐れる心を振り切って目を閉じて、それからやっと神奈は言った。

「…神奈さん、あなたを許します…これからは、私たちとも…お友達ですから」
“…!!…”

 嬉しそうに、神奈は美汐を抱き返した。髪飾りの鈴が、ことばのかわりに
ちりんちりんとにぎやかに跳ねた。




「やれやれ…よかったな、神奈」
「うぐうっ、ありがとう美汐さん」
「まいったなぁ…今の美汐、外見だけじゃなくって中身も光り輝いてるよぉ…」

「もうっ、どうして話をそっちの方へと戻してしまうんですかっ、ば、ばかっ、
祐介のばかっ…」

314パラレル・ロワイアルその258:2004/07/26(月) 20:04
「だめだ……」

 その時、海水浴場の砂浜に、六人目が姿を現した。

「「「“!”」」」
「あ、舞さん!」

 岩場の陰に水上バイクを隠し、倉田佐祐理率いる本軍と合流すべく砂浜へ
と徒歩でやって来た川澄舞は、合流予定地点に先に存在していた四(五)人の
ライバルを発見し、今度こそは『マーダーの務めを果たす』ため、あるいは
『後からやってくる佐祐理への危険を排除する』ために、24時間前にここ
へと姿を現した藤田浩之のごとく五人への奇襲を行おうと、魔物を潜めつつ
肉薄を行っていた。

 しかし、元ゲーで見知った顔が三人…更に、本編で見知った顔が一人の上
、唯一絶対的に攻撃して然るべき理由がある本編ラスボスが、ウェディング
ドレス姿の―――さながら朝日の中で女神の様に光り輝いている―――天野
美汐に優しく抱き締められて、泣きじゃくっているのを目の当たりにして、
またしても戦意喪失してしまったのである。

「…既に、散ってしまった北川や雪見に申し訳ない…未だ戦っている智子や
レミィにも申し訳ない…これからやって来る佐祐理にも申し訳ない…私は…
想いに縛られていない今の私は…かくも、弱い存在なのか…」

「…詳しい事情はわからねーけどよ、みたらしの嬢ちゃん」
 万一を警戒して、無造作に近付こうとしたあゆを後ろに隠すようにして、
高野が舞へと歩み寄る。

「縛られている強さ…そんなもんに、どれ程の価値があるっていうんだ?」
「……だが、強ければ…取り敢えずは、大切な者を護る事が出来る…」
「しかし、その手の強さは、一歩間違えれば護る者護ろうとする者、双方に
とっての災いにしかならない事を、本編で思い知らされたんじゃあなかった
のか、お前?」

「…う…」
 腹を押さえて、舞は思わずうなだれてしまった。




「…佐祐理……見えて、いるか……?」
 舞は、携帯電話を取り出すと、霧の晴れ始めた沖の海上にその姿を現した
豪華客船“蒼紫”の中で出撃準備を整えているのであろう、倉田佐祐理へと
通話を試みた。

「はい…見えておりますよ、舞…」
“蒼紫”の揚陸艇用隠し格納庫にて、ゲーム用レイバー“O−THE−O”
のコクピットへと腰を下ろしていた倉田佐祐理は、携帯電話を握り締めて…
そして、機内モニターの映し出している、海水浴場砂浜の望遠・拡大映像を
目の当たりにして…思わず、溜め息を漏らしてしまっていた。

「舞…智子さんも、レミィさんも既に脱落してしまわれたのを艦橋モニター
室で、佐祐理は確認しました…それと、援軍の方々も、謎のビームによって
乗機もろともに、撃墜されてしまった事も…ですから、佐祐理や舞の出動を
助けと待っておられる方は…もう、どなたもいらっしゃらないのです……」
「…佐祐理……」
「遺憾かつ、脱落された方達への裏切りになってしまうかもしれませんが、
佐祐理はここに…払暁攻撃作戦の失敗と中止を宣言して、舞への撤退命令を
出させて頂きます……一旦休戦しテンションを回復させて後、再び攻撃作戦
を立案・実行するのか…それともマーダー役を降りて、別のライバルさんへ
と任務と装備を引き継いで頂く事にするのかは、舞が戻って参りましてから
相談して決める事にしま……」

「その様な事では困るのですが、佐祐理お嬢様…」
 佐祐理の通話は、いきなりのそして、ある筈のない艦内放送によって途中
で遮られてしまった。

「はえっ?…これは、一体…?」
 コクピットのモニターを隠し格納庫内に戻した佐祐理は、自分達の制御を
いつの間にやら離れてしまったと思しき甲漢O0O0達が、そらを鳥篭へと
押し込んで得物を突き付けているのと、ブッシュマスター(エアガン)を手に
持った一人の男が、O−THE−Oの足元に立ち、自分を見上げている事に
今更ながらに気が付いた…再び艦内放送用スピーカーより声が発せられる。

「取り敢えずは佐祐理お嬢様…そのレイバーよりお降り頂いて、そこにいる
私の仲間と共に、蒼紫艦橋までお戻り頂けますでしょうか…」

「ふえ〜っ、分かりました〜…ですから、カラスさんにはひどい事をなさら
ないで下さい〜っ」
 佐祐理は慌ててO−THE−Oのハッチを開くと、直ちに搭乗用昇降機で
下へと降り立ち、ブッシュマスターを持った男へと投降の意を示した。

315パラレル・ロワイアルその259:2004/07/26(月) 21:59
「あの〜、今更ながらにですが、ご質問をさせて頂きたいのですが…」
「「な、何で御座いましょうか?佐祐理お嬢様」」

 蒼紫の操舵司令室兼艦橋部へと連行されて、昨晩ワイルドセブン夕食会を
行ったテーブルの席に腰を下ろしてお茶を飲みながら、倉田佐祐理は蒼紫を
シージャックした、今は二人組の男達へと質問を行っていた。

 ちなみに、そらの方はといえばテーブルの上に置かれた鳥篭の中に未だ、
監禁中だったりする。
『………』

 佐祐理の方は、拘束や身体検査・装備没収等されてはいなかった…元より
携帯装備といえる物は、携帯電話しか持っていなかったのであるから。

「貴方達は一体、何者なのでしょうかー?」
「僕の名前は城戸芳晴…そして、ブッシュマスターを持った方が伯斗龍二…
共に、このゲームのゲスト傭兵として参加させて頂いております…」

「では…どうして、そのゲスト傭兵さんが蒼紫をシージャックして、私達を
捕まえてしまうのでしょうかー?」
「ゲスト傭兵の使命は、中途より選手参加予定の来栖川アイランドのマザー
コンピューターことG.Nの私兵となって、ゲームのルールや運用よりも、
G.N自身の都合を第一に添って行く形をとって、影となり日なたとなって
参加選手達と戦ったり協力をしていく事なのでありまして…この度はG.N
が近々、正規の選手として参加する事が秒読み段階へと入りそうなもので、
ここはG.Nの参戦前の下準備的意向という事で、このゲームに於いて重要
かつ強力な移動要塞であるこの蒼紫と、ここの搭載戦力を停戦休戦で休ませ
てしまったり、降伏によって非マーダープレイヤー側に利用されてしまう事
は好ましくないという要望を、G.Nより伝えられてしまいまして…」

「なるほどです、分かりました〜…それで、佐祐理とカラスさんはこれから
一体、どうなってしまうのでしょうか〜?」
「川澄舞さんに再起して戦い続けて頂くために是非、人質となって頂きたい
所なのですが…」

「それでは、一つだけ…お願いしても宜しいでしょうか?」
「…何をでしょうか?」

「舞は…佐祐理の窮地に対しまして、ゲームである事を忘れてとても、思い
詰めてしまったり、熱く激しく燃え上がってしまったりする所が御座います
…ですので、舞がゲームである事を忘れ…想いに縛られてリミッター解除を
されてしまう事の無い様に、殺しの文句は慎重なるさじ加減の上でなさって
頂けますように、どうかそこの所だけは宜しくお願い申し上げます」

 それだけを言い終えると、佐祐理は自分の携帯電話をスッと城戸へと差し
渡した。




 一方、海水浴場砂浜では、川澄舞が通話の途切れた携帯電話を握り締めて
叫び声をあげ続けていた。

「…佐祐理っ、どうしたんだっ!?…佐祐理…佐祐理ーっ!?」

 異変に返事を待ちきれなくなった舞が、水上バイクの隠し場所へ戻ろうと
したその時…携帯電話と海水浴場のインフォメーション用のスピーカーから
同時に、男の声が発せられた。

316パラレル・ロワイアルその260:2004/07/26(月) 22:01
「もしもし、27番の川澄舞さんですか?」
「…誰だ、お前は?…佐祐理を、佐祐理を一体、どうしたんだ…!?」
「35番・倉田佐祐理さんの身柄は当方で丁重に預からせて頂いております
…今の所、危害は全く加えていない事を誓って伝えさせて頂きます」
「…今すぐに、佐祐理を解放しろ…!さもないと…!」
「解放には、条件が必要です」
「…何が、条件だというのだ…?」
「舞さんに是非とも、今一時マーダーとして御奮戦頂きたいのです…勿論、
佐祐理さんとカラス君を除いた蒼紫の残存戦力は、貴方への援軍として提供
させて頂きますので」
「…もし、断ったら…佐祐理を一体、どうする積もりなのだ…!?」
「断った時は…う〜ん…………………断った時は、人質をだ…………………
……………どうしよう?おい………………よし決めた!……断った時には、
人質を…ゲーム脱落させない代わりに…グェンディーナ秘伝の魔法によって
…性転換させてしまうのだっ!!」
「(どきっ)…な、何だとっ…!?…何という、事を…(どきどき)」
「では、蒼紫艦橋モニター室で貴方の活躍が見られる事を期待しつつ、一旦
通信を切らせて頂く事にしよう…(プチッ)」




 その頃、リバーサイドホテル1階・朝食会会場・テーブルJでは…

「「駄目だああッ!!それだけは…それだけは例え、生徒会が崩壊しようと
断じて駄目なのだああああああああああああああああああああああッ!!!
(ジタバタジタバタジタバタジタバタジタバタジタバタジタバタッ)」」
「お母さ〜ん、うるさいよ〜」
「大丈夫よ名雪、すぐに静かにさせてあげるから……石橋先生、あの二人を
押さえ付けるのを手伝っては、頂けませんかしら…」
「(ゴクッ…)りょ、了解しました…」




 再び、海水浴場砂浜…

「…佐祐理が…このままでは、佐祐理が……でも、ちょっとだけいいかも…
じゃなくて、私は…私は一体、どうすれば、いいというのだ…」
「一緒に、助けに行こうよ」
「…え?…」

 いつの間にやら、高野の陰から飛び出して来ていたあゆが、自分の傍らに
座って顔を覗き込んでいる事に、舞は目を丸くした。

「確かに…俺達が揃って助けに行ってもいきなり人質をどうこうしようとは
考えてなさそうな調子だったよなあ、連中」
 高野があっけらかんとあゆの意見を肯定したのに舞は驚いて尋ね返す、
「……どうして…そうだと言い切れるのだ、たいやき屋?」

「連中が本当に要求通りの動きをみたらしに要求しているのならば…何故、
電話とスピーカーで同時放送してきたんだ?…内密に電話だけでみたらしに
伝えた方が、連中にとっては俺達に正体目的がバレずに済むし、みたらしに
とっては、事情を知らない俺達の不意を撃ち易い筈だろうが」
「……成る程、道理があるな…」

「連中の本当の目的は多分、①参加者の頭数を減らす事②参加者にあの船を
利用させず、自分達で利用する…といった所なんじゃないのか?…だから、
もしここにいる俺達全員がたこさんウィンナー救出に打って出ても、連中に
とっては予想外の不具合どころか、一気に参加者の頭数を減らせるチャンス
としか考えはしないと思うのだが」
「…待て、たいやき屋…じゃあお前は、私達が元マーダー役でしかも、罠が
待ち構えている事を承知の上で、私と共に…佐祐理を助けに行ってくれると
いうのか…?」

「実はな、今の今まで全く戦っていなかったから、俺自身ヒマを持て余して
いた所だったんだよ…それに、少々不利な条件があった方が歯応えがあって
面白そうだしな…第一、地元商店街の屋台仲間にとっちゃあ、買い食い学生
さんは宝のような存在だ、困った時には助けてやらない訳など無い…特に、
キチンと代金を払ってくれるお客さんはな」

「うぐうっ、最後の一言だけ余計だよおっ…それに、おじさんが行くのなら
ボクも一緒に行くよっ」
「…祐介、また海に逆戻りですね」
「…しょうがないよ美汐、知らんぷりできそうにない空気なんだし」

「…有難う、みんな感謝する……それと、あゆの中の本編ラスボス…私も、
お前を…許してあげる…」
“…うう、嬉しいけれど…その様に呼ばれるのは余はとても嫌なのじゃ…”

317パラレル・ロワイアルその261:2004/08/02(月) 19:32
「どうしたのよ、一体…って、なっ、何よ!?このコショウの煙はっ!?」
 舞台は隠し露天風呂ラウンジ、みちる同様に匿名希望の説明を勘違いして
洗面所にリ○ースしに行き、いざ戻ろうとした七瀬留美は、ラウンジからの
金森弥太郎の絶叫を聞き付けて思わず駆け戻り、中の異変を見せられるや、
口を拭った後首に掛けていたタオルを、マスク代わりにぎゅっと締めながら
叫び声で尋ねた。

「ああっ、瑞佳っ!?…それに折原っ!?ちょっと誰よ、そのアンタが抱き
ついている、あからさまに怪しいサ○コ○ョッカーみたいな奴はっ!?」

「ゲッ!?他にも、巻き込み損ないが近くに居やがったのかッ!?」
 弥太郎は、いきなり現れるなり即席のマスクをしラウンジに転がっている
竹刀(広瀬→セリオ→折原経由)を拾い上げようとしてる七瀬を見て、思わず
懐に忍ばせていた茶色をした光線銃と思しき得物を抜き、その銃口を七瀬へ
と向けた。そして、無情にも引き金が引かれた。

「いひぃぃぃぃぃぃぃッ!!…きっ貴様ッ、だから俺の尻に異物を押し付け
るんじゃねえええええッ!!」
 凹んだ一斗缶を被った男――折原浩平が再び、背後から弥太郎に組み付い
て来たのである。

「お前かっ!?…お前が瑞佳を頃したのかっ!?」
 弥太郎の狙いは逸れ、レーザーは七瀬の頬を掠めて壁に当たった。
 うろたえた弥太郎は今度は腕を後ろに捻り、組み付いて来た浩平のわき腹
へと光線銃を押し付けて引き金を引いた。

「にゃーーう!」
 その瞬間、次は猫――既に、匿名希望の手によって山椒で嗅覚を麻痺させ
られたぴろが弥太郎の顔面を覆い隠す。そして、反射的に振り払おうとした
ため、また狙いが逸れる。

「……!!」
 弥太郎はへばり付いたぴろを引き剥がすと竹刀で打ち掛かろうとしていた
七瀬へと投げつける。

「ふぎゃっ!」
「きゃあっ!」
 とんでもない飛び道具に、たまらず七瀬は竹刀を離してぴろを抱き止める
…そのままバランスを崩し、瑞佳の倒れている隣へと尻餅をついてしまう。
弥太郎は同時に、今度は浩平を力任せに振り払いながら立ち上がった。

「あうっ……!」
 浩平もまた床に転がる。その時手にふれたもの。マルチが持って来ていた
(高子→弥生→詠美経由の)農薬散布機。浩平は手探りにてそれの水タンクを
素早く外しつつ叫んだ。

「七瀬っ!俺はいいから瑞佳を連れて逃げてくれっ!!」
 叫びながらタンクを振り回して、あてずっぽうに中身の水を撒き散らす。

ビシャアッ!!「うおっ!?」
 撒き散らされた水は見事に命中し、水浸しにされる弥太郎…しかし、失格
アナウンスは下らなかった。

「くっくっく、残念だったなあ…ファイナルチェイサーであるこの俺のいで
立ちは、このゲームの最終戦場への移動に備えた潜水・防水コスチュームに
なっているのだよ…」

「…最終戦場への移動に備えた?…ひょっとして、“蒼紫”の事かっ!?」
 時間を稼ごうとする浩平、その意を汲んでぐったりした長森瑞佳を抱えて
水浸しのラウンジを脱出する七瀬、ぴろは再び援護の機会をうかがい、部屋
の隅の端末機の陰へとその身を潜める。

「残念ながら違うな…もっとも、今頃蒼紫の方でも、G.N及びその私兵と
なったゲストプレイヤー供が、G.Nの正規選手参加に備え行動を開始して
いる筈だが…」
「G.Nが…ゲームプレイヤーとして参加するのか!?」
「…悪いが、これ以上のお喋りは我々にとっての機密漏洩に繋がるし、読者
様へのネタバラシにもなりかねん…冥土の土産はここまでだ」
「『我々にとっての』…か、『G.Nにとっての』と言わなかったという事
は、さてはお前、第三勢力の…」
「!…キミ、死、確定」

 浩平の最後の質問はあっさりと遮られ、茶色い光線銃の銃口が浩平の胸へ
ピッタリと向けられた―――一つの現象が発生するための条件が満ちたのは
丁度、まさにその瞬間であった……ラウンジに撒き散らされた大量の水が、
部屋の隅で眠りに就いていたHMX−12・マルチの剥き出しになっていた
右手首の充電ケーブル接続部分にまで、遂に到達してしまったのである…。

318パラレル・ロワイアルその262:2004/08/02(月) 19:36
「はわわわわわわわわわわっ!?いったい、なにごとですかあああっ!?」
「ぎえええええっ!?てっ手錠があああっ!?いっ一斗缶があああっ!?」
「に゛ゃああああっ!?に゛ゃあ、に゛ゃあに゛ゃっ!?(じょ、冗談じゃ
ねえっ!?支給装備もつかわねえ内に俺、逝っちまうのかよおおっ!?)」
「ぐわわわわわわわわわわっ!?おっおっ、俺のっ、とっとっ、取って置き
の、『グロリン』と『ゲロリン』が…ぼぼぼ、暴発しちまううううっ!?」

 ラウンジの中を最初に激しい火花が…続いて、弥太郎を中心として閃光と
悪臭が、爆風と轟音を伴って派手に駆けずり回っていった。

『ビーッ、14番・折原浩平、アタック・ボルトにより失格…感電による
負傷の可能性が高いため、14Fフレアさんは直ちに、救急搬送ヘリで
14番の元へ急行して下さい』
『ビーッ、82番・HMX−12・マルチ、アタック・メルトダウンにより
失格…最寄の然るべき場所で衣類を乾燥後、交戦エリアより退いて下さい』
『ビーッ、86番・ピロシキ、アタック・ボルトにより失格…感電による
負傷の可能性が高いため、14Fフレアさんは直ちに、救急搬送ヘリで
86番の元へ急行して下さい』
『ビーッ、追跡者4番・金森弥太郎、アタック・ボルトにより任務失敗…
感電による負傷の可能性が高いため、14Fフレアさんは直ちに、
救急搬送ヘリで追跡者4番の元へ急行して下さい』




 その頃、土産物商店街ホテル側入口付近では…
「あっ、車内電話です…(ガチャッ)もしもし…はいっ、美坂栞は私ですが…
…え!?代戦士のぴろちゃんが脱落っ!?…私に、派遣送迎車に乗り換えて
ホテルへ戻って欲しいと……えう〜、そんな事いう人、嫌いですっ…(涙)」




 再び、一刻後の隠し露天風呂ラウンジ…(主電源停止・全窓開放中)

「……すまない七瀬、またしても瑞佳と二人してお前を置いてけぼりにしち
まって……」
「折原ぁ…」
「浩平…」

「…幸い死んではいないようだけど、まさか今度はあなたが脱落一号になる
なんて…」
「ぴっこり…ぴこ、ぴっこ(仲間と認めた奴を見捨てるに忍びず、こういう
結果になっちまったんだ、笑うのはナシにしようや…それと、生存者の掟と
してお前の装備、有難く使わせて貰うからな)」
「にゃあ(ケッ、好きにしな…それと、ホテルへ戻ったらしばらくは真琴と
のんびりしてーからな、当分の間は俺に捻られに戻って来んじゃねーぞ)」

「………この、大きな追跡者さんの足元に転がっている、瑞佳さんの【裏】
パンフレット……唯一、人為的に破られ掛けているページ……」
「ね〜っ、美凪美凪〜っ、ひょっとしてこの、茶色い光線銃って、あの…」
「…私も、第一回大会の覚えがあります…間違いありません、この光線銃は
ゾリオンです…」

「はぁ…ったく、今まで俺様が出くわした中では一番、情けねえめいどろぼ
だな、お前…まさか、電気ショックで寝小便たれやがるとは…」
「はわわっ、違いますようっ!…充電中の漏電によるショックで、冷却水が
偶然、一時的に漏れ出してしまっただけなんですようっ!!(怒)」
「わわわっ!コラ、変な所から水を飛ばしながら立ち上がんじゃねえっ!」




「ええっ!?どこどこっ!?(メリメリ…スポンッ!)」
「「「「「「「「………………………」」」」」」」」
「……あ、取れました……」

「浩平のアホッ!すけべっ!やっぱりへんたいだよっ!」
「折原のアホッ!やっぱりもう一回死ねっ、やっぱりもう一回地獄へ行けっ
!(ズポッ!)」
「わっ!?や、止めろおっ!もう一回かぶせんじゃねええっ!!」

 かくして、自爆・道連れなれど、予告通り次の犠牲者は……………出た。

【14番・折原浩平 82番・マルチ 83番・ぴろ 脱落…残り30人】

319パラレル・ロワイアルその263:2004/08/02(月) 21:05
「こちら城戸、龍二と共に“蒼紫”の占拠及び、35番・倉田佐祐理嬢並び
24番代戦士そらの身柄を確保完了した…打ち合わせ通りコリンとユンナは
本隊を先導して直ちに、蒼紫への降下・合流を果たして欲しい………おい、
返事はどうした?コリン、ユンナ?………どうしたんだ、何かあったのか、
応答してくれっ、コリンッ!?ユンナッ!?」

 テーブルに置かれている卓上通話モードの携帯電話が、むなしい叫び声を
先程からあげ続けていた…そして、そのテーブルには、パンを咥えたままで
意識が飛んでしまっているコリンが突っ伏しており、さらにそのテーブルの
下の絨毯の上にはこれまた、意識の飛んでしまっているユンナが倒れ伏して
いた…。

 ここは飛行船、ゲスト傭兵待機場所として用意されていた客室の内の一つ
である…そして、その部屋にて戦わずして出走取り消しとなった二人の天使
の未開封のバッグを漁っている三人目は、全てが謎のラストチェイサーこと
ジョージ・マッカーサー(仮名)だったりするのであった。

「…あった、M3べネリだ!…それに、こっちは黄色のゾリオン!…ふーっ
やれやれ…まさか、ラストチェイサーである僕のための支給装備が、何処の
店の物だかもわからない様な、試食用の新作パン詰め合わせだったなんて…
最初は作戦バグなんじゃあないのかって頭を抱えてしまったけれど…まさか
千鶴さんや秋子さん、あやめさんやあゆちゃん以外にも、こういうお料理を
作れる人がいたんだとは知らなかったよ…それにしても、朝食の給仕さんが
メイドロボさんだと、『ついでの一品』を簡単に盛り付けさせて貰えるし、
食べさせられる方も、うっかり無防備に口に運んでくれるしでこういう時は
助かるねえ…さてと、これからが本番だな…何といっても、僕のターゲット
もとい、正規選手参加条件は『ゲスト傭兵の全滅』なのだから…最強の二人
をまずは倒せたものの、まだまだ苦労は続きそうだし…更に、こうして僕が
指令を実行したという事は、正規選手参加を心待ちにしているG.Nの方も
このラストチェイサーに対する『自分に不利益なバグ指令』に気付き驚き、
その出所を大慌てで調べ始め出すのも最早、時間の問題だろうし…果たして
他の方面の『皆様方』は、上手くやって下さっているのでしょうか…?」




「読者様向けの状況説明お疲れ様でした…ところで一つ、お尋ねしたい事が
あるのですが…もし、あなたがご首尾よく正規選手参加を果たされた場合、
以降のわたしの立場と処遇は、どのようになってしまうのでしょうか…?」
「わわっ!!驚かさないで下さいな…それと、今迄別口エントリーを内密に
してしまった事、大変申し訳ございませんでした、神岸さん…でも、どうか
ご安心なさって下さい…神岸さんには以降も引き続いて、他の方の代戦士を
お願いさせて頂くつもりでございましたので…」

「他の方の…?正規の選手登録は昨日までに終わったものと思いましたが」
「ええ…ですが、実は正規参加最終枠の三名の参戦が、合衆国におられる内
一名の、諸事情による代戦士登録を緊急に行った関係で大幅に遅れてしまい
その結果、二日目の昼前からの参戦という結果になってしまったのです」

「(くんくんくん…)ああ、思い出しました、誰の事なのか…懐かしいわね、
このパンの香り…確か、大学の同級生だった頃は彼女と二人揃って『きっと
、娘さんが生まれたら“喰われ”ちゃって可哀想なんだろうな』だなんて、
しょっちゅうからかわれておりましたっけ、くすくす…」

「あ、あのそれでは…」
「ええ、勿論了承させてもらうわよ♪」

「有難う御座います、重ねて本当に有難う御座いますっ」
「…わたしへのお礼はよろしいですから、まずは首尾よく正規参加なさって
下さいな…それと、一人ぼっちの佳乃さんに、後で十二分な償いをなさって
あげて下さいな」
「ハ、ハイッ、それは、もう…」




「ああっ、た、たまがっ!…こ、このパンは…!?…ル、ルミラ様っ!?」
「どうやら、既に『ゲーム』が始まっているようね…この飛行船の中の一体
誰が敵で誰が味方なのやら、全く分からないのが非常に厄介かつ面白い状況
なんだけど…仕方ないわ、こうなったら無差別攻撃で各自強行脱出した上で
取り敢えずは島へと降下する事にしましょうか…私はメイフィアと、イビル
はエビルと組んで…アレイはコリンとユンナにこの事を報告しに行って後、
万一の監視も兼ねて彼女達と行動を共にして頂戴…合わせて三組、各自それ
ぞれ障害を排除しながら飛行甲板へ向かい、手頃な機体を奪ってこの飛行船
からの…脱出・降下を試みるっ!!」
「「「「わかりました(わかったわ)、ルミラ様ッ(ルミラさん…)!!」」」」

320パラレル・ロワイアルその264:2004/08/08(日) 17:55
「!…追っ手が掛かってしまいましたか…作戦を変更致しましょう…」




 土産物商店街・ホテル側入口近くにて、恐らくは狙われているのであろう
光岡悟を援護するために仮眠室棟から打って出て来た御影すばるは、狙い手
と推測したHMX−13・セリオの姿を捜し求めて、裏通りを音も無く移動
を行っていた…と、前方に見えるアンティークショップの裏口の扉が開き、
先ほど目にしたばかりのヤン・ウェンリーのコスチュームの後姿が、右手に
スコーピオンを提げてそのまま、自分に背中を見せるかたちで更にホテル側
へと移動して行くのを発見した。

(ベレー帽からのぞいているバーミリオンの髪と、側頭部の二つの突起物…
間違いありませんですの…!)
 すばるは自分の幸運に感謝しながらそろそろとその後を追って行く。

(そう言えば、彼女が出て参りましたアンティークショップは、粉塵が舞い
上がって建物が大きく損傷しておりましたですの…もしかして、つい今し方
聞こえて参りました、大きな激突音と倒壊音は…?)
 更に標的へと肉薄するすばる…と、標的がぴたりと移動を止めた。

(?………!)
 そして、振り向きもせず…右手に提げたスコーピオンを、すばる目掛けて
後ろ手に乱射した!

シパパパパパパパパパパッ!

 間合いがあったお陰で、すんでの所で喫茶店の立看板に転がり込み避ける
すばる。

プシュッ!スココココココココココ…

 続いて聞こえてきたコンプレッサー音に、すばるは半ば反射的に反応して
いた…立看板から飛び出して、一気に間合いを詰めに突っ込んで行く。

(後向きで逆腕を伸ばしておりますと、こういう場合絶対的に反応が遅れて
しまいますですの…!)
 標的は弾切れのスコーピオンを足元へと落とし、逆腕のままで腰のベルト
よりゴムナイフを抜いた…しかし、抜いたその腕は既に、密着したすばるの
腕によって見事に絡め取られてしまっていた。

「大影流合気術奥義っ、流牙旋風投げ!!ですの〜〜っ☆」

 無論、昨日セリオの反射神経と平衡感覚を目の当たりにしてたすばるは、
もしこれが決定打とはならずとも、着地の際に絶対に出来る筈の一瞬の隙に
追い討ちをかけられる様、開明墨銃を片手に投げ飛ばされた標的をすばやく
追尾した…しかし、標的は受身を取ろうともしないまま、裏通りのアスファ
ルトへと音を立てて叩きつけられ…バウンドして横たわりそのまま動かなく
なった。

「!?…ぱぎゅう、大変ですの〜っ!!」
 すばるは血相を変えて、自分が投げ飛ばした標的の元へと駆け寄り、その
傍らにしゃがみ込んだ。

321パラレル・ロワイアルその265:2004/08/08(日) 19:35
「間に合わなかったか……ごめんよ、郁未…」

 土産物商店街〜海水浴場エリア境界に存在する松林の隅…神社に衝突して
もずくを噴き出している水陸両用型上陸用舟艇のハッチから、もずくまみれ
になって這い出して来た天沢郁未の『死体』を見て、少年はがっくりと肩を
落とした。

「あの時、ちゃんと僕が手を握ってさえいれば…今更かもしれないけれど、
これ…」
 少年は郁未に追い付く前に遭遇した七瀬彰から、情報と共に交換入手した
装備である特殊繊維製トランクス(耕一→千鶴→彰経由)を、郁未にそおっと
差し出した。

「………」
 郁未は無言でそれを受け取ると、早速もそもそと履き始めた…その表情は
怒っている訳でも悲しんでいる訳でもといった、何とも複雑かつふっ切れた
感じのものであった。

「あのさ、郁未…」
 少年は却って、その顔に感情を出していない郁未に危険な予感を感じて、
思わず更に言葉を掛けた。

「気持ちはわかるけど…くれぐれも戻ったホテルで石原麗子さんと頃し合い
をするのだけは、我慢して貰えないかな?……だってホラ、君と麗子さんが
もし本気で暴れ出したら、きっと大変な事態になりそうだし…(汗)」

「………(ふるふるぶんぶんっ)」
 …案の定、郁未は首を横に激しく振った。

「駄目?…どうしても?…(大汗)」
 何とかなだめようとする少年…しかし、今の郁未のその決意は、本編にて
少年を止めようとした時のそれよりも遥かに高い様であった…郁未は遂に、
少年に向かって『遺言』をその口に出して、大声で叫んでしまった。

「嫌よっ!!…例え貴方や、姫君に真っ向から楯突く事になったとしても、
あの二度までもの屈辱を我慢するのだけは…絶対に、イヤッッ!!!」
「い、郁未…(滝汗)」

 と、その時…そんな二人の頭の中に、内なる声が届いて来た。

“……安心するがよい…一度死んでしまったからなのであろうか、今の余と
お主達の間には、吸収という名の意識の共有は存在してはおらぬのじゃ…”
「そ、その声はっ!」
「…やっぱり…姫君も、このゲームに参加して…」

“…ついでに少年、お主に更に伝えておく事があるのじゃ…今現在のお主に
は、不可視の力を継承させる能力は、最早無いのじゃ…”
「「ええっ!?」」
“…代わりにあるのは、お主が契った女性に…新たな命を与える能力じゃっ
…今なら、余が友の奇跡の力で絶対におめでたになるのじゃっ…”
「「ななっ!?」」

“…では、これにて一旦、お主達とはお別れじゃ…どうかこの遊戯、そして
未来を達者に過ごして欲しいのじゃ…”
「まま、待って下さい姫君っ!!…何ですか、その最後のメガトンクラスの
爆弾発言はっっ!?………………………………………………………………
………………………………………あ、あのさ、郁未…ま、まさか、その…」

322パラレル・ロワイアルその266:2004/08/08(日) 19:36
「(ルールに触れない様、少年をシカトし独り言風に)…あーあ、残念だけど
あのクソババアへのリベンジは諦めなくちゃならない様ね、…これから先、
大事な体にもしもの事があったら大変だし…それにしても、何だか酸っぱい
物が食べたくなってきちゃったわ、チュルチュルッ(体にへばり付いている
もずくをすすっている)…確か、車の中に破裂しなかったもずくがまだ幾つ
か転がってた筈よね…よいしょっと(ガサゴソ)」

「あの、郁未さん……(ヨロヨロ)」
「お母さんも、きっと喜ぶだろ〜なぁ♪…あっでも、あの年でおばあちゃん
にされちゃった事、ちょっぴり怒ったりするかもしれないわね?(チューブ
をペキン)」

「あ、あの……(フラフラ)」
「それにしても、姫君もイキな罪滅ぼししてくれるじゃないの♪んもうっ、
本編の過ぎた事なんて、許しちゃう許しちゃうっ(チュルチュルチュルッ)」

「(クラッ…バタリ)反則だよ。こんなの。こんなふうに…未来を拘束される
なんて…(ピクピク…ガクッ)」
「――なんだか、ショックを受けてるみたいなんやが――(←やっと登場の
保科智子)」

『ビーッ、48番・少年、ナースストップにより失格…強い精神的ショック
を受けている可能性が高いため、14Maマリアさんは直ちに、救急搬送車
で48番の元へ急行して下さい』




 その頃、海水浴場・海の家では…
「お〜い、これから作戦会議という時に何処へ『行って』たんだ、神奈?」
“…松林の方から、懐かしい力の匂いがしたのでな…ちょっとばかり挨拶を
して参ったのじゃ…”


 更にその頃、土産物商店街〜海水浴場境界森林では…
「!…初音ちゃ〜〜ん!はるか〜〜ッ!(ダダッ)」
「!…彰さんっ!(タタッ)」
「あ、彰じゃんか…」

「初音ちゃ〜〜〜〜ん!!(ダダダダダダダダ…)」
「彰さ〜〜んっ!!(タタタタタタタタ…)」
「あーあーもう、二人とも一目散に駆け出しちゃって…」

((パンッ!!))

「「あ……」」

『ビーッ、21番・柏木初音、トラップ・ヒットにより失格…直ちに交戦
エリアより退いて下さい』
『ビーッ、68番・七瀬彰、トラップ・ヒットにより失格…直ちに交戦
エリアより退いて下さい』

「…はあっ、これで痕もWAも全滅にリーチって事ですか……まあいいか、
(4代目水沢まい風に)ひとりでできるもんっ!」


 そして更にその頃、リバーサイドホテル1階・朝食会会場・テーブルH…
「あ……」
「どうしたの?友里」
「あれ…私が最初に仕掛けていた支給装備の紙火薬地雷です、晴香…」
「なんて置き土産を、姉さん…て、もしかして月組も全滅にリーチなの?」
「彼。なんだか、ショックを受けてるみたいなんですけど……」
「よっぽどうれしいのよ、葉子さん…それにしても、まさかこの年でおばあ
ちゃんにされちゃうなんて…進み過ぎよ、郁未♪」
「「「「「「それはそれとしてだぁ、ここは全員で最後の一人を心から応援…」」」」」」
「「「「「「誰がするかっ(しますかっ)(するのよっ)(するってゆーのよっ)
(するもんですかっ)(するのですかっ)!!」」」」」」


 また再び、土産物商店街〜海水浴場境界森林…
「そう言えば、初音さんの支給装備って一体、何だったんだろう?(ガサゴソ)
……おっ、どこかの大会で見た事のある空色の光線銃だ…確か、コイツは…」


【21番・柏木初音 48番・少年 68番・七瀬彰 脱落…残り27人】

323パラレル・ロワイアルその267:2004/08/13(金) 18:20
「チッ……当たっとけよ、めんどくせー」
「一つ聞かせてもらおうかい。この場を平和的に解決する気はあるんか?」

 仮眠室棟内・2階休憩室…窓から飛び出して地下鉄道駅へと撤退しようと
した猪名川由宇は、すんでの所で甲漢O0O0の生き残りとともに棟内へと
突入して来た藤田浩之に捕捉され、開け放しの窓を背にソファーとテレビを
盾にして、突き進んで来る甲漢と、無料開放されているUFOキャッチャー
及びパチスロ台・北斗の拳を盾にして二丁のイングラムを斉射してくる浩之
に、十字架型エアマシンガンによる乱射を行い続けていた。

 ソファーのクッションを盾に一か八か窓から飛び出す手もあった。しかし
エアマシンガンの二丁斉射をクッション一枚だけで掻い潜るのは、限りなく
成功率が低い上に、仮に成功しても結局は、駅で待っている千堂和樹と大庭
詠美の元へ浩之を連れて行くという、最悪の結果にも成りかねない。

「あん?命乞いなら言うだけ無駄だぜ」

 最初から一対一の銃撃戦ならば互角の条件・状況であった…だが、浩之の
方はオトリ特攻兵同然とはいえ、甲漢が新手新手で突撃を行ってくれるし、
インドアでの重機関銃VS短機関銃二丁では、どちらが有利に戦いを行える
かは考えるまでもない、オマケに由宇のエアマシンガンは続く銃撃戦により
今まさに装弾が尽き果てようとしていたのであった。

「形勢不利やな……」
 自嘲気味に吐き捨てる――自己犠牲なんてまっぴらだった。詠美も自分も
和樹達も、まだみんなでゲームを楽しむんやってそう思っとったのにな……

カキンッ!プッシュッシュッシュッシュッシュッ……

(なんや、なんでこんな時に!)
 休憩室に突撃して来た最後の甲漢を倒した直後、非情のコンプレッサー音
が耳へと届くや、由宇は慌ててエアマシンガンを放り捨てて、次の瞬間には
自分の手前の床に倒れ伏している甲漢が持っていたコッキング式ライフルを
奪い拾い上げて、ソファーの陰へと再び隠れた。

(あかん、絶体絶命や!)
 マガジンを改め、残弾が三発だけなのを見た由宇の背筋を冷や汗が伝う。

「聞こえたぜ、コンプレッサー音…弾、ねぇんだろ。おとなしくしてな」
 北斗の拳の陰から、イングラム二丁持ちの浩之がゆっくりと姿を現した。
そして、一歩ずつ近づいて来る。

(狙って撃ち合おうとしたら、確実に手早い反撃を食らって即アウトやな…
…こうなったらあの手しかあらへん…名付けて、霧島流赤い雨作戦やッ!)
 由宇はソファーから身を乗り出すや、左手に持ったヒートホークを投げ付
け、続いて右手のコッキングエアライフルを三連斉射した!

 が、身体を動かすまでもなく、その攻撃は浩之に命中する事はなかった。
二丁持ちのイングラムを意識してか、完全に腰が引けていた。

(なんだよ、この女――ビビってんのか?…いや待てよ、確か本編でもこの
様なパターンが…!)
 本能的に後ろへと飛びずさる浩之。その直後、それまでいた空間の床に、
真上の電灯のケーブルに引っ掛かったヒートホークが垂直に落下して来た。

「けっ、こりゃ一発逆転のチャンスを逃したな。俺が肉薄するまで待ってか
ら、ソイツで切り掛かって来れば……それで俺を頃すことが出来ていれば、
生き残ることが出来たのかもしれないのによ」

 ピク……。
 由宇のまゆが一瞬上がる。

「生憎、今の俺は二度も同じ手を食らっちまうほど間抜けじゃねーんだ」
 それに呼応するように、浩之の目も細まる。

324パラレル・ロワイアルその268:2004/08/13(金) 18:22
「あんた、知っとるか?」
「あん?だから命乞いなら言うだけ無駄だぜ」
「気づいとらへんのか?あんたが今まで盾にしとった北斗の拳……この作品
ならではの特別バージョンになっちょるっちゅーことを」
「何を――」

(ドドドドッ♪♪)
 言いかけた浩之の背後で、豪快なBGMが流れ出した…続いて休憩室中に
轟き渡ったのは、あの世紀末覇者の怒りの雄叫び――

「浩之ちゃん!(ドン!!)その女は誰だ!!(ババーーン!!!)」

「―――っ!?」
 気が付いた時には、身体が勝手に180度反転してしまっていた浩之……
そして、再び向き直ろうとした時には、既に一気に踏み込んで来た由宇が、
両手持ちピコピコハンマー(結花経由)をフルスイングで側頭部へと叩き付け
ていた。

ビゴンッ!!(ボキッ…)

 カッ飛ばされた浩之の体はそのままパチスロ台へと衝突し、そのまま衝撃
で倒れて来た台に、仰向けに押し潰されて下敷きとなってしまった。

『ビーッ、77番・藤田浩之、有効打直撃により失格…自力脱出不能のため
失格地点最寄の14Maマリアさんは直ちに77番救助に向かって下さい』

「まさか、パチスロの目押しが見事成功するとは自分でも驚きや…やっぱり
ウチって、縁日だけやのーてライフルの天才なんやなぁ♪」
「て、テメェ……関西大手のクセして……東京のサークルのネタなんか利用
してんじゃねーよ……」

「さあ、早く帰ろうぞ!!(ゴゴゴゴゴゴ…)」
 台に押し潰され、目の前に大アップで映し出されている神岸あかり(仮名)
の叫びに、目玉と鼓膜を揺さぶられた浩之は、はううっと誰かみたいな声を
あげて盛大に落涙し、伸びた。




 その頃、飛行船内・休憩室では…
「これで、浩之ちゃんと一緒なのだ!そうだよな。浩之ちゃん!?ならば、
我が生涯に…一片の悔いなし!!(バーーーーーーーーーーーーーン!!)」

「うふふっ、お先にあかりが天に召されましたわ、メイフィアさん♪」
「うう〜ん、残念…パチンコなら自信あったんだけど…この勝負、私の負け
ね、マダム神岸…(ポリポリ)」
「でも、メイフィアさんには因幡御姉妹をやっつけられてしまいましたわ」
「術と術の戦いでは二対一になっちゃいますから、平和的対決を望む振りを
して源之助さんをテレビ電話に呼び出し、古美術鑑定勝負に切り替えたのは
我ながらにナイス頭脳プレイだったと思うわ…動物絵皿VS美人絵画の価格
対決なら、勝てる自信は充分ありましたし…」
「ううう、姉上…(涙)」
「まさか、ハイグレードクラスの怪物だったとは…(泣)」
「…でも、エビスビールに枝豆で武装して、パチスロ勝負を私に挑んで来た
マダム神岸は、私以上の頭脳プレイヤーだったわ(グビッ…プハーッ)」
「ルミラさんよりも先にメイフィアさんが勝負を受けてたたれたおかげで、
ルミラさんが艦長室の方へ行かれてしまったのは、誤算でありましたけれど
(クピクピ…プフッ)」

【77番・藤田浩之 脱落…残り26人】

325パラレル・ロワイアルその269:2004/08/13(金) 19:25
 海水浴場エリア・海の家内女子更衣室…

「うむ…ではこれから、たこさんウィンナー救出作戦会議を始める」
 更衣室のすのこ床にぐるりと五人で円陣を組み、高野がまず第一声。

「…ところで、鯛焼き屋…どうして、女子更衣室で作戦会議を行うのだ?」
「「「“うんうん(なのじゃ)”」」」
 川澄舞の第二声に、一斉に第三声をあげる残りの四人。

「倫理上、ライバルに盗聴盗撮される可能性が限りなく低いからだ」
「「「「“成る程、確かに…例え相手がG.Nでも…(なのじゃ)”」」」」
 高野の回答に頷く五人。

“…それで、具体的にはどのようにして倉田殿を助け出そうというのじゃ、
コウヤ?…”
 存在を許されたからなのであろうか、積極的に次の問い掛けを行う神奈。

「それに答えるためにはまず、各自の持ち物とこの海の家にストックされて
いるアイテム…それに、あの豪華客船へと辿り着くための移動手段をチェッ
クしてからの結論という事になるな…まず、俺の支給装備はこの、M203
ランチャー及びスコープ付きのM16ライフルで、他の戦利品はゼロだ」

「僕の方は、このパーティガンと弾のクラッカー…それに虫取り網と木刀が
拾得戦利品です」
「私の持ち物は、このワインバスケット型の水鉄砲と…あと、神尾晴子さん
がもっていらした拳銃(シグサウエル)に、安全ブーメランです…」
「…私は、リーサルウェポンだが特別に許可を貰って持参したこの剣だけだ
…あと、二人しか乗れないが水上バイクを一台、隠してある…」
「うぐ…そういえばボク、自分が預かっていた神奈さんの装備、確かめるの
忘れてた…(ごそごそ)…あっ、これって確か…」
“…なんじゃ、この人形は?…ひょっとして、手に嵌める人形なのか?…”
「…うしさんに、かえるさん…」
「う〜ん、それをいうなら、うしく…(くいくいっ)…どうしたの、美汐?」
「川澄先輩の場合は、あれが正しい呼び方なのですよ、祐介」

「次に、海の家にストックされているアイテムの方だが…まあ、確かに海の
家の常備品ですねって、いった感じのものばかりだなー(ポリポリ)」
「!……鯛焼き屋、まずは水上スキー板とサーフボードは絶対必要になると
思う、何故ならば………」
「!…なるほど、流石納豆食ってる奴は頭がよく回るな…それならついでに
浮き輪もあるだけ膨らまして持って行こう、その理由はだな………」
「!…それは良い考えですね、高野さん…でしたら更に、簾も頂戴して行き
ましょう、その訳は………」
「!…名案です、祐介…で、その…実は私も、エアーマットも拝借して行っ
ては如何なものかと思いまして、それはですね………」
「うぐぅ、ナイスアイデアだよ、美汐さん…実はボクも、持って行って得す
るアイテムのアイデアが浮かんだんだよ、それはねえ………(ごそごそっ)」
「「「「!…いいかも知れない…」」」」




“…おい、あゆ…なんじゃこの、ごむの帽子とごむの眼鏡と現代風水浴着の
組み合わせは?…”
「…今回の作戦における成否の要を握っている、最有力期待戦力的存在は…
間合いのある能力を持ち、なおかつ飛行能力を有している神奈、お前なんだ
…だからこそ、依頼人のあゆに識別装置を付けて、心中ルールという名前の
喰らい判定を同行させるというハンディを背負わされてのゲーム参加をさせ
られたんだろうが…」
「うぐうっ、ボク、神奈さんのワラ人形じゃないよっ」
“…むむむ、確かにそうかも知れぬが…余にもまだ、己の姿を晒して遊戯に
参加する勇気がないのじゃよ…かといって、合意のない者の体を乗っ取る事
は、もう二度としたくはないし…源之助殿にはやってしもうたが…故にな、
この遊戯における余とあゆは立派な共存関係なのじゃよ…で、その話とこの
衣装の組み合わせと一体、何の関係があるのじゃ?…”
「…あゆが喰らい判定であるというハンデを逆に、裏技として利用するのだ
…」
「あ、成る程川澄さん、もし残りのみんなであゆちゃんをしっかりと守って
あげれば、神奈さんはR−TYPEのフォースも同然の存在になれますね」
“…いやな例えなのじゃ、長瀬殿…”
「それに、ゴム帽子と水中眼鏡とスクール水着着用のお姿でしたら、たとえ
あゆさんから離脱されていても、その正体はそう簡単にはばれそうにはあり
ませんですし、翼の方は…確か、神奈さんは翼を体に隠す事が出来ました筈
ですよね?」
「ああ、エヴァ量産型みてーにな…イテテテテテテッ!尻をつねるなッ!」
“…もっと嫌な例えをするでない、コウヤッ!…”

326パラレル・ロワイアルその270:2004/08/18(水) 18:28
 土産物商店街・ホテル側入り口近くの裏通りの路上、投げ飛ばされて叩き
付けられ、仰向けに倒れていたのは…アレックス・キャゼルヌの衣装を着せ
られ、両側頭部にゴムナイフの鞘を嵌め込まれて、頭部にはベレー帽で押さ
える様にしてダスキンモップの雑巾部分をかぶせられて…コントロールジャ
ックによって操られていた、甲漢O0O0の内一体であった。

 そこへ近付いて行ってしゃがみ込み、やっとその正体理解し、叫んだ者が
いた。投げ飛ばした張本人こと、御影すばる(八十四番)。

「ちょっと、どういうことですの!?これは……」
 パンッ!

 軽い音が響く。言葉を続けることなく、すばるはその場にへたり込んだ。
標的の正体への理解が遅れた結果、今現在の自分の立場への理解も遅れて
ゲームから脱落した。

「…どういうこととは、こういうことです…!…おわかり頂けましたでしょ
うか?」
 アンティークショップの、開け放たれたままの扉の向こう側…店内にて
ドラグノフ狙撃銃(南→ポテト経由)を構えたまま、スコープ越しに見える
すばるの言葉を読唇した、黒いセンサースーツ姿のHMX−13・セリオは
そうポツリと呟いた。

『ビーッ、84番・御影すばる、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』

「…こちらは片付きました…次はいよいよ、光岡さんです…」
 セリオは、光岡との交戦で視界を奪われた末に、今は瓦礫の中に埋もれて
いる無人四脚歩行戦車“ムックル”の本体の方へと近付くと、ストックオプ
ションの接続ケーブル数本とメンテナンスツールを取り出し、次の作戦作業
へと手早く取り掛かった。




「えう〜っ、それでは皆さんのご健闘を祈っております〜っ(涙)」
 代戦士・ピロシキの脱落により、現在は今まさにホテルへと走り去らんと
する送迎用エレカの中の人となってしまった美坂栞へと、別れの敬礼を送っ
ていた光岡悟は鋭いその視線を、視界を奪われたムックルが突入して行った
きりの半壊したアンティークショップの方へと、再び戻した。

「光岡さん、キーボード・キャノンの方には今の所、反応はありませんっ」
 光岡の近くに待機している装甲指揮車の内部にて、ノートパソコンの画面
内へと収めたアンティークショップの上を、みきぽんさんカーソルによって
ぐりぐりと索敵していた立川郁美が、車載スピーカーで光岡へと結果連絡を
行う。

「ふむ、建築物に突っ込んだだけで戦闘不能とは…もう少しは頑丈そうで、
もう少しはしぶとく攻撃して来るものと思っていたのだが…」
 光岡は警戒を一旦解くと、装甲指揮車の方へとくるりと向き直って、一歩
一歩と近付いて行った。

 ウィィィィン…

 後部席のシャッター窓が開き、中から杜若きよみがそっと顔を覗かせた。

「悟さんっ!」
「きよみ……まさか、戦場でお前の声が聞けるとは……思ってもみなかった
ぞ……」
「そんなっ、わたしの声でよければ、いつまでも聞いてください」

「がお、何気におのろけだよぉ…」
「私も早くおのろけたいよぉ…シュンくん、どこいっちゃったんだろう?」
「往人さんのバカ……一体、誰にやっつけられちゃったんだよおっ……」
「「「……知らぬが仏とは、よくぞ言ったものです……」」」

 裏通りの方から御影すばるの失格アナウンスが聞こえて来て、ノートパソ
コンのみきぽんカーソルのフキダシがズラズラと文字列を並べ出したのは、
まさにその時であった。

「えっ?えっ?えええっ!?何なのっ、このトンデモナイ長文はっ!?」
「どうしたの、郁美ちゃん?…て、こ…この文章はっ!?」

「!…御影殿っ……まだ他に敵が近くにいるという事かっ!……きよみっ、
早くその窓を閉め―――」
 光岡がアンティークショップからその周囲へと再び、索敵の範囲を変更し
きよみの方を向いて振り返ったその一瞬―――

ドン!ドン!!
「なっ……!」

 光岡の左胸に、正確に二発、対能力者用軟弾頭ゴムスタン弾が撃ち込まれた。

「あ…っ…」
 きよみは倒れゆく光岡を、何が起きたか分からないように見つめることしか
できなかった。

【84番・御影すばる 脱落…残り25人】

327パラレル・ロワイアルその271:2004/08/18(水) 19:12
 土産物商店街・仮眠室棟二階休憩室…元77番・藤田浩之の『死体』を見
下ろしていた猪名川由宇は、大きく安堵の溜め息をつくとともに、へなへな
とその場に腰を下ろした。

「やったで、スの字!…ウチ、本編筆頭マーダーの藤田はん、やっつけたん
やで…やからスの字、アンタもや…早くセリオはんやっつけて無事に戻って
きいや…そして、和樹や詠美とまた落ち合うて、このゲームに絶対―――」
 そこまで言い掛けて、窓の方へと振り返った由宇の顔が、たちまちの内に
戦慄と絶望に凍り付いた……窓のサッシ枠にはいつの間にやら、元81番・
松原葵の支給装備であったワイヤーランチャーのフックが引っ掛けられてい
た…そして窓際には、その葵を頃した人物…95番・澤田真紀子が腰を下ろ
し、右手に持つAMTハードボーラーに装着されたレーザーサイトの光点を
由宇の識別装置へとドンピシャで合わせていた。

「『落ち合う』…という事は、千堂君の居場所を知っているのね、猪名川さ
ん…?」
(し、しもた!…こんな事なら、何かすぐに拾うておくんやった…!)

 今の由宇は殆ど全ての装備を…使い果たすか、放り出しているか、壊して
しまっているかのいずれかであった。

「断っておくけれど、千堂君の居場所を教えてくれるまでは、一物たりとも
拾う事は許しませんよ…」
 由宇のさまよう目線の動きに対し、真紀子は素早く彼女へと釘を刺した。

「わ…分かったわまきやん、しゃ、喋るから…あ、あのな、和樹はんとえ、
詠美のおる場所っちゅうんは…」
「…いる場所は…?」

 由宇は最後の所持品であるグフシールドを素早く構えると、タックル気味
の突進を真紀子へと繰り出した、…繰り出しながら、真紀子越しに窓の外へ
と声を限りに大きく叫んだ。

「行くんや、詠美ぃ!!ウチの屍を踏み越えてえええっ!!」

 真紀子は盾を翳して突進して来る由宇に向かって、左手に隠し持っていた
ヌンチャクを最上段から振り下ろした…握った方の柄が、盾と受け止め合う
様な型で。

 ズバンッ!!

 グフシールドによって受け止められなかったヌンチャクの鎖から先の部分
が、遠心力のままに由宇の脳天で音を立てて跳ね返った。

(えいみ……アカン、二度目のお花畑が、見え……)
 そして、徹夜の眠気も後押しした由宇の意識はそのまま、深い闇の底へと
消えて行った――――――

『ビーッ、7番・猪名川由宇、有効打直撃により失格…完全K・Oのため、
失格地点最寄の14Maマリアさんは救急搬送車で直ちに、7番の元へ
回収に向かって下さい』




「成る程、地下鉄道ですか…厄介な逃げ足を持たれてしまいましたね…」
 窓の外、地下鉄道駅より発炎筒の煙が立ち昇るのが見えたのと同時に、
屋根を伝った逃走経路を覚り、即時追跡を諦める事にした真紀子は、後に
残された“4人頃し二名”の遺品チェックをテキパキと開始し出した。

【7番・猪名川由宇 脱落…残り24人】

328パラレル・ロワイアルその272:2004/08/18(水) 20:37
 晴れ渡った来栖川アイランド上空……遥か合衆国より飛来して来た一機の
チャーターVTOL機が、今その近空に達しようとしていた。

「うっし、たった今G.Nよりゲーム参加の許可が下りたぞ♪…俺達杯嵐枠
は島への到着が完了し次第、直ちに戦闘開始という訳だ」
 機内のVIPルームにて、銜え煙草にTシャツ・Gパン姿のニヒルな男が
両腰に下げたホルスターをポンポンと叩きながら、同室している二人―――
ボバ・フェットを模した動甲冑をその身へとまとった金髪の少年と、サマー
ドレス姿の三本触角の女性に向かって、ニンマリと笑い掛けた。

「よかったですね、遅刻を大目に見て頂けまして」
 三本触角の女性がホッとした様な表情を、男に向かって返す。

「近々ゲーム参加する積もりのG.Nにしてみれば、自分の準備で忙しい上
に、こちらの事を『役者が三人増えた』程にしか考えてないのでしょうね」
 金髪の少年が女性の言葉に相槌を打つ。

「…でも、どうして私…ひかりさんに、代戦士を頼まなければならないので
しょうか…?」

 次に出てきた女性の言葉に怪しい雲行きを感じた男が、先手を打つように
優しく女性をなだめにかかる。
「早苗よ…仮にゲームだとはいえ、万が一にもお前と『死に別れる』なんて
事態に陥るなんて事は、俺にはとても耐える事が出来ないからよ…それと、
春原…」

 男は今度は少年の方へと向き直る。
「確かに俺は『なにがなんでもゲームに参加したいというのなら、合衆国の
ハクオロの所へでも直接出向いて、土下座なりなんなりして代戦士の資格を
貰って来るんだな』とは言ったが…まさか、本当に単身渡米してそれを実践
して来るとは夢にも思わなかったぞ…しかも、帰りの運賃を工面するヒマが
なかったからといって片道切符で特攻し、あまつさえ芽衣ちゃんまで後から
付いて来て一緒に土下座するもんだから、さしものハクオロも流石に断る事
が出来なくなっちまった上、帰り兼会場移動の足まで提供させられちまって
…だが、一体何が…お前をそうさせてまでのゲーム参加への熱烈たる執念へ
と駆り立てたとでもいうんだ…?」

「運命です…僕が生きる目的の為です」
 少年は胸を張って答えた。

「住井護――僕の、旧友ですが――の本編での台詞を借りるのならば、僕は
…僕に『人は、誰かに好きになってもらわなければ生きていけないんだ。』
と思い知らせた女性と、第一回ゾリオン大会にて供に戦いました…こうして
今、再び彼女と供に戦い…この胸の内の熱い想いを伝える機会が与えられた
以上、多寡が合衆国へと渡り一人の男性を探し出して土下座する事が一体、
僕にとってどれ程までの試練なのだとおっしゃるのですか?」

329パラレル・ロワイアルその273:2004/08/18(水) 20:37
 少年の言葉を聞いて、男が頷く。
「ふむ、確かに尋常ならざる気合の入り様だな、春原…幸いな事に、俺達の
このゲームにおける最終目的は、倉田家にとっても大きな利に繋がる事だ…
この機会に、お前には是非ともネゴシエイター兼ボディーガードとなって、
倉田のお嬢ちゃんとその人脈を、俺達の陣営にスカウトして来て貰いたい所
なのだ…互いの勝利と利益のためにもな」

 少年が動甲冑の胸を叩いて勢いよく答える。
「任せて下さいっ、上は杯嵐枠・蔵等組のために、下は僕・春原陽平の恋愛
成就のために、全死力を尽くしてこの戦い・この任務に当たらせて頂きます
から…って、ところでなんですが…どうして僕の出で立ちは、こんなに派手
かつ重装甲・重装備にされてしまっているのでしょうか…?」

 男はあっさりと回答する。
「お前が元ゲーで、磁石の様に皆様方の攻撃を喰らう『突っ込み喰らい判定
200%の男』だからだ…こればかりは、お前の気力ではどうにもならない
致命的弱点だし、故にあんまりあっさりやられてしまったら、ハクオロにも
申し訳が立たないからな…この程度の防御策を講じておくのはお前の場合は
至極当然の事だろうが……それと早速だが、お前には直ちにパラシュートと
動甲冑内臓のロケットリュックにて、現在眼下の海上に見えている豪華客船
“蒼紫”への強行着艦を行って貰おう…大丈夫、スカイダイビングは教えた
通りにやれば問題ないし、パラシュートの安全装置は全自動式になってる」

「へ!?」
 少年が驚きの声をあげる。
「ちょっと待って下さいよ、眼下の豪華客船って…木の葉よりもちっちゃく
しか見えないじゃあないですかっ!?…大体、万一パラシュートが開かなか
ったら…」

「…入った最新の情報によると今現在、G.Nの指示を受けたゲスト傭兵が
二名程、倉田のお嬢ちゃんを人質に取って“蒼紫”をシージャックしている
そうだ…幸い、緊急を要する危機には陥ってはいない様だが、我々としては
早くその身柄を無事保護出来るのに越した事はないと思って…」
「イエッサーーーッ!!この春原、直ちに降下して佐祐理さんを救い出して
参りますッッ!!(ドタドタドタドタ……ガララッ!!…タンッ!)」




「行かれてしまいましたね…」
「じゃあ、俺達は飛行船の方へと向かう事にするか…保科さん、牧部さん、
強行着艦宜しく頼むぜ!」
「了解、ミスター古河」
「着艦許可の通信が来ませんね…念の為、ベルトを締めておいて下さいよ、
それと…戦闘準備の方も」

【118番(代戦士)・春原陽平 新規参加…残り25人】

330パラレル・ロワイアルその274:2004/08/24(火) 20:47
「…やれやれ、やっと118番・119番・120番の新規参加登録が完了
したわい…これでワシの参加ナンバーは、121番という事になるかのお」
「そうだなぁ、欠番とか俺みたいな重複ナンバーを整理すると、123番目
の正規参加者という事になるかなぁ」

 エレハイヤーの行き着いた先、とある施設内に設けられた巨大なコンピュ
ーターに囲まれた円筒形の一室。そこの一端末機の前に座り込み、モニター
及びディスプレイと睨み合いをしているのは、20番・覆面ゼロ。

「それにしても随分と変わったデザインじゃのお、ワシの後釜さんのマザー
コンピューターさんは」
「来栖川…もとい、長瀬テクノロジーに勝るとも劣りはせんぞぉ、この倉田
コーポレーション・謎の天才新人研究室長こと北塚様が造り上げた、複合式
マザーコンピューター“スターフィッシュ(以下略S.F)”は」
 ゼロは誇らし気に室内をぐるりと取り囲んでいる七百機もの単機能型人工
知能と、十三機の処理管制用大型人工知能の巨大な複合ユニットを、ずずず
いっと見やると、最後にモニター画面脇のマイクが付属されたカメラに向か
って、ニヤリと笑って見せた。

「ほうほう、ワシには擬似人格すらも持つ事が出来ない、低機能でリーズナ
ブルな人工知能の寄せ集めにしか見えぬがのう」
 対抗意識を燃やし出したのか、やや挑発的な態度のG.N。

「と、思うだろぉ」
 挑発的なG.Nになお、自信たっぷりな表情を崩そうともしないゼロ。
「このS.Fはなぁ、確かにアンタの言う通り擬似人格すら持てない、ごく
ありきたりの人工知能の集合体に過ぎない…だがなぁ、実際にコイツが稼動
する時にはなぁ、その仕事の内容や難易度に応じてだなぁ、単機能型と処理
管制型が合計五十機から五百機位連動してだなぁ、その結果最もその仕事に
対して適切かつ効率のよいハイレベルマザーコンピューターとして機能する
ように、俺様が特別に設計したんだよ…そして、連動時の副産物としてだ、
アンタの様な擬似人格も同時に発生するという訳だぁ…だから当然、連動の
パターンの数だけ、様々な擬似人格のバリエーションが何通りも存在し発生
するという仕組みになっているという訳だぁ…どうだぁ、凄いだろぉ?」

「むむむ、確かにそれは運用面においては凄いと認めざるを得ぬな…しかし
管理面ではどうかの?…お主の話の通りだとすると、S.Fを構成している
計713機の人工知能は全て、予備を持たない別機能品であるからにして、
そのメンテナンスは技術的にも能力的にも相当苦労しそうじゃし、713機
の内の1機でも万一に故障が発生した場合は、連動に支障をきたして残りの
712機も事実上の故障状態に陥る可能性があるんじゃないかの?」

「チッ、やっぱり気付きやがったか…」
 的確かつ即座に自慢作の短所を指摘され、思わず舌打ちをするゼロ。
「確かにそれだけはこのS.F唯一かつ最大の弱点だと認めざるを得ない…
だがな、それは少なくとも今行われているこのゲームに対しては、全く弱点
を持たないという、揺ぎ無い事実の証明でもあるんだがなぁ」

「うむ、確かにお主の言う通りじゃが…何故ワシは兎も角としてジャッジの
後釜役のS.Fが、このゲームに対する弱点に拘る理由があるのじゃな?」
「(ギクッ!!)…そ、それはだなぁ、その、なんだ…」
 思わずむきになってうっかり口を滑らしそうになり、G.Nからの危うい
突っ込みにしどろもどろになってしまうゼロ。と…

331パラレル・ロワイアルその275:2004/08/24(火) 20:49
「!?…な、何じゃ、これは!?……これは一体どういう事なのじゃ!?」
 今現在、飛行船内にいる三人の正規参加プレイヤー・そしてラストチェイ
サーの装備している識別装置から送られて来た、画像と音声による彼等四人
の活動データの内容とその事実を、遂にG.Nが把握・理解してしまったの
である。

「何故じゃ?何故彼等は、ワシの切り札であるゲスト傭兵達と戦っておるの
じゃ!?……なっ、何じゃと!?ワシはそのような勝利条件を、ラストチェ
イサーに出すよう指示した覚えなどはっ…!?」
 慌てて、主催者側指令伝達履歴を検索しようとするG.N…しかし、その
作業はゼロによって遮られてしまった。

「御取り込み中の所悪いが、データ検索は今は後回しにしてくれないかなぁ
…長い所待たせてたマザコン用の改造エントリーコマンドが、今やっとこさ
完成した所なんだよ、実は…」
「!…うぬぬ、よりによってこんな時に……よし分かった、早速じゃが出来
るだけ手短に終わらせてくれぬかの、緊急事態故急いでおるからにして…」

「まあ、そう焦るなって、今から早い所チャッチャッと終わらせてやるからよぉ」
 そういったゼロの両手の指が、稲妻のような速さでキーボードを滑り出した。




「あ……あ……悟さん…悟さんっ!」
 土産物商店街ホテル側入口、目の前で倒れ行く光岡悟の姿に杜若きよみは
思わず、乗っている装甲指揮車の扉に手を掛け、開けようとした。

「わわわ、まだ駄目ですよお、きよみさんっ!(ハッシ)……観鈴ちんっ!」
「わかったよ、かのりんっ!」
 開けようとしたきよみを霧島佳乃が制するとともに、操縦席の神尾観鈴が
車を、アンティークショップ側から光岡を庇える向きへと移動させた。

「佳乃さん?…それに、観鈴さん?」
「「早まらないで下さい、きよみさん…光岡さんはまだ、終わってはおりま
せんっ!」」
「ええっ!?でも……あっ、そういえば……」
 二人の言葉に驚きつつも、きよもは被弾した筈の光岡から失格アナウンス
が流れて来ない事に、今やっと気付いた。

 と、光岡がむっくりと―――ギリギリブリッジの体勢から―――その全身
を起こし、今は盾となっている車へとすうっと、その身を寄せた。

「相撲でも、相手の膝から上を地に付けない限りは、敗北判定にはならない
んだっけな…心配掛けたな、きよみ?」
「さ、悟さん……って、でもどうして?確かに、撃たれてしまったのに…」
「「うんうん」」
 光岡の無事を喜びつつも、驚きを隠せないでいる代戦士依頼人達。

332パラレル・ロワイアルその276:2004/08/24(火) 20:50
「…ここへ辿り着くまでの間に、一緒にいたライバルからの交換装備を胸に
括り付けて置いたのだよ。流石に完全防御とはいかないし、衝撃で一瞬バラ
ンスを崩してしまったが……何とか、失格だけは免れたみたいだ。1000
ページは伊達ではないな」
 かつて七瀬彰が、仮眠室棟にて各自出撃前に、光岡より提供されたガリル
(高槻03経由)との交換装備として、粘土ベラ(霧島聖経由)と共に提供した
支給装備…漆喰の壁も破壊可能な清涼院の小説型鈍器を、ポンポンと叩いて
見せた。




「わわわ、さっきのロボットさんがまた出て来たよおっ!」
 佳乃が、今の車の向きからは左側面の位置となってしまっているアンティ
ークショップの中から再び現れ出でた、無人四脚歩行戦車“ムックル”の姿
を見て声を上げた。

「!…どういう事だ、これは…?」
 光岡が驚きの声を漏らす…ムックルの各種センサーカメラは…恐らくは、
スクーターに激突→店内に突入の時点でそうなったのであろう…既に完全に
破壊された状態になっていた…勿論最早、レンズへのピザ攻撃による汚れが
どうのこうのどころではない損害状況に陥っている筈なのである。

「…あれで、どうやって我々の事を索敵出来ているというのだ?…そして、
今度は一体どこを狙えば、あの戦車の動きを止める事が出来るとでもいうのだ?」
 光岡の背筋に初めて、冷たいものが走った。と、その時…

「出来ましたっ!!」
 それまで、車の後部座席にて黙々とキーボードに両手の指を滑らせ続けていた
立川郁美が、快哉をあげながらノートパソコンのエンターキーをペコンと押した。

 奇しくもそれは、今は離れた場所にいる覆面ゼロが、エントリーコマンド入力を
完了させるためのエンターキーを押したのと全く同じタイミングであり、その入力
文章の意味内容も、全く同一のものであった…唯一違う点を挙げるとするならば、
ゼロの入力文章は原文のままで、郁美の入力文章は和訳文であった事であろうか。

 かくして、戦場の違う場所にて同時に、二つの文章が入力された。

“Hallelujah!
 For the Lord God Omnipotent reigneth
 The Kingdom of this world is become the
  Kingdom of our Lord and of His Christ,
 and He shall reign for ever and ever,
 King of Kings, and Lord of Lords,
 Hallelujah! ”

“ハレルヤ!全能の神が君臨しますように、ハレルヤ! 
 この世の国々は、我々の主と、その救世主(メサイア)のものとなり、
 世々限りなく主が統治されますように!
 ハレルヤ!王のなかの王、主の主、ハレルヤ!”

333パラレル・ロワイアルその277:2004/08/31(火) 20:07
 爆発!!真っ赤な爆炎が大量に舞い散る。
 高度、約二千メートルの艦長室。
警報の中で応援に駆け付けて来た内縁の夫・まきべつとむも、部屋を覆うように
まき散らされた大量の攻撃魔法によって、既に倒れ伏していた。

「……もはや……これまでですか……」
 ミュージィも全身の力を失い、大きく音を立てながら前のめりに倒れ込んだ。

 外からも派手な戦闘音が漏れ聞こえていた。

「まだ、まだ足りないわよ、出番……」
 闘志むき出しで自答するルミラ・ディ・デュラル。
 そして、数瞬後。
顔を上げた彼女の頭脳は、次の行動ステップを彼女自身に指令していた。




―――僅かな時を経て。飛行船内、客間寝室。

ズズーーーーンッ!!

「…!(ムクッ)」
 艦橋方面より伝わって来た船体を細く揺さぶる振動に、立川雄蔵は反射的に
目覚めてその身を素早く起こした。

「香里…!」
 そして、床を共にしていた筈の相棒・美坂香里が、衣装装備を残したままで
姿を消している事に気付くや、上半身に何も着けないままでジュラルミンシー
ルドを片手に客間玄関の扉へと足を急がせた。

 ドアノブに手を掛けそれを押そうとした時、雄蔵は扉越しに強い力の手応え
を感じた。

「む!……ふんっ!!」
 飛行船内が異常事態に陥っている事実、そして香里とは桁違いの力の手応え
である事実、更にはノックがなかった事実を踏まえた雄蔵は、次の瞬間には、
扉を力任せに鉄砲押ししていた。

ドガン!!

 重量のあるものが、扉の向こうの壁に叩き付けられる轟音。

『ビーッ、ゲスト傭兵・アレイ、有効打直撃により失格しました』

 一度引き戻し、今度はゆっくりと雄蔵が扉を開くと……訪ねる部屋を間違え
たアレイが、甲冑姿で向かいの壁にめり込んで目を回していた。

「ぬ!……むうっ!!」
 しかし、そんなアレイに声を掛ける間もあらばこそ、雄蔵は次の瞬間には、
続けざまに飛んで来た鋭い殺気の方向へ向かって、反射的にジュラルミンシー
ルドを構え直していた。

((ガギンッ!!))
 ジュラルミンシールドに届いた、二つの衝撃……ブレード・プロテクターを
装着された大鎌の刃と槍の穂先が、ジュラルミンシールドに標的への突進をば
阻まれて、派手な火花を散らしていた。

「仲間か……だとしたら、弁解の余地はないようだな…」
 雄蔵は今一度目を回しているアレイの『死体』の方をちらりと見やった後、
廊下の向こう側に立っている殺気の主達―――死神の鎌を引っ提げたエビルと
魔物の槍を構えたイビルの方へと、改めてその視線を向け直した。

「「…………」」
「むむぅ……」
 剣呑な状況に表情を堅くして、無言でじりじりと間合いを詰めてくるエビル
とイビルを見やる雄蔵…狭い廊下の中、長物を持った―――しかも、伸縮自在
とおぼしき―――二人組に、前後という最悪の状況ではないにしろ、左右から
迫られており、しかも最初の防御行動の際に部屋から飛び出してしまい、もう
無事に戻る事は出来なくなってしまっているという有様…盾こそ持ってはいる
ものの、喰らい判定の大きな自分が、鎌と槍の連携攻撃を防ぎきれなくなるの
は最早、時間の問題であろう。

 思わず裸の背筋に一筋、汗が流れ落ちて行く。

334パラレル・ロワイアルその278:2004/08/31(火) 20:08
「「…………」」
 エビルとイビルがさながらシンクロしたかのように、無言のまま左右に別れ
雄蔵を見据えたまま、それぞれの獲物を次の瞬間のために構えた……と、その
瞬間…

クワーーーンッ!!

 背後から無音で飛来して来た金属製の汚物入れ(!)に、いきなり後頭部を
直撃されたエビルが、無言のままぶっ倒れて動かなくなってしまった。

『ビーッ、ゲスト傭兵・エビル、有効打直撃により失格しました』

「ななっ、エビルッ!?」
 倒れるエビルの姿に驚愕し、慌てて振り返ろうとしたイビルも、

バコンッ!!

 続けて飛来して来た芳香消臭剤に顔面を直撃され、もんどりうって倒れた。

『ビーッ、ゲスト傭兵・イビル、有効打直撃により失格しました』




「雄蔵ーーーっ!」
 エビルとイビルの立っていた所からはるか後方、廊下の突き当たりにある
個室トイレの扉が開いており、そこからTシャツ一枚の美坂香里が、雄蔵を
目掛けて駆け寄って来た…右手に即席でこしらえた投石器を持ったままで…
ちなみにその材料は、柄付きタワシ・それと、便座カバー。

「助かったぞ、香里…今度ばかりは俺も脱落を覚悟する状況だった…」
「何言ってるのよ雄蔵、私だってやるべき時にはちゃんとやれるわよ…正直
な所、ちょっとだけ無我夢中だったけれど」

「!…な、成る程…確かに、無我夢中で俺の事を助けてくれた様だな、香里…」
 そう言いながら急に顔を赤らめ、そっぽを向く雄蔵。

「?…どうしたのよ、雄蔵?」
「大変言いにくいのだが香里、下…」

 一瞬その意味が分からなかった香里だが、ゆっくりと首を曲げ、自分の足元の
方を見て。右の足首に薄桃色の木綿な物体が絡まったままである事に、気付き。

「……あっ、あっ、あっ……あぁーーーーーーーっ!!!」

 叫んだ。叫んだ。叫び続けた。死ぬほど恥ずかしかった。それ以上に混乱して
いた。数秒間『さっさと履かなくちゃ』という事実にすら気付かなかった。
 やっとのことでそれに気付いたならば、両手で摘んで、大急ぎで引き上げて、
雄蔵に対しやり場のない怒りと恥じらいのこもった目を向ける。

 そんな目で見られ雄蔵は
「済まない、この様な状況下で掛けるべき言葉が分からない…」
と言いつつ、両手を上げて降伏体勢。

 しかし香里は取り合わず、
「私の心の平穏のために!覚悟して!雄蔵!」
 そんなことを言いながら、トドメの右拳を握り締め。
 両手を上げながら、困ったような赤い顔で目をつぶる雄蔵を見つめ。
 だん、と床を蹴り雄蔵に近づき、髪の毛すら触れるほどの距離に立ち。
 そして。
 握り締めた手をほどき、その手を雄蔵の胸に合わせた。
 雄蔵がまだ目を閉じているのを確認して、思いっきり背伸びをして。
 瞳を閉じ、その温もりを感じながら、ゆっくりと、雄蔵の唇に。
 
 そっと、触れるだけの最高の攻撃を敢行した。

335パラレル・ロワイアルその279:2004/08/31(火) 21:07
……風が、遅れて吹いてくる。

―――更に、僅かな時を経て。飛行船内、飛行甲板では、一機のチャーター
VTOL機が着艦を完了していた。

「今現在、飛行船内ではラストチェイサー・正規参加者・飛行船スタッフと
G.N指揮下のゲスト傭兵との間で戦闘が行われている模様です」
「既に、飛行船内のゲスト傭兵は残り一名となったそうですが、飛行船長兼
父兄組リーダーのミュージィ殿を初めとするスタッフにもかなりの犠牲者が
出たという事です」

 スタッフパイロットの保科・牧部両氏からの報告を聞きながら、119番
・古河秋生は巨大なクリームパイを片手に機を降りに掛かろうとしていた。
「そうか……で、肝心の神岸夫人は無事なのかな?」
「神岸さんは……脱落してはいない模様です」

「よかったですわ、ひかりさんご無事で…」
 秋生の隣で機の出口へと共に歩を進めている、三本触角の女性…120番
依頼人・古河早苗はホッとした表情を秋生の方へと向ける。

「ああ、まったくだ」
 秋生が相槌を打つ、
「代戦士と依頼人…例え共に合意していようと、一度は本人同士が直接出会
って『以来契約』を交わさない事には、互いの関係が成立しないのがルール
だったからな…早い所、早苗の識別装置を神岸夫人にお渡しする事にしよう」

「そうですね、秋生さん……ところで、なのですが」
 早苗が、秋生の持つ巨大クリームパイをしげしげと見つめながら尋ねる。
「どうして秋生さんは、ここにおられるスタッフの皆様方のために心を込めて
私が作ったおみやげのクリームパイを、そのようにむき出しで捧げ持っておら
れるのですか…?」

 秋生がニヒルに笑いながら答える。
「早苗よ…俺としては、早苗の心のこもった傑作はだな、最後まで生き残った
ゲスト傭兵一名様に、その健闘を称えつつ『御馳走』してやるべきなんじゃあ
ないかと、思ったわけでよ…」

「「うんうんっ」」
 後頭部に汗の滴をへばり付けながら、操縦席にて頷いている保科と牧部。

「そうだったのですか…じゃあその、最後のゲスト傭兵さんとも無事にお会い
出来ればよろしいですね」
「あ、ああ確かにそうだな、早苗…」
 『御馳走』の意味を深く考えずに笑顔で納得する傍らの早苗に、曖昧な答え
を返しつつ、秋生はクリームパイを持っていない方の手を、機の扉のコックへ
と掛けて、捻ろうとしていた。

336パラレル・ロワイアルその280:2004/08/31(火) 21:09
……裂けた大気の、泣き声は。

 辛くも飛行甲板へと辿り着き、艦長室から奪ってきた鍵によって、艦長専用
ジェットヘリコプター“マジカル・ブルー・サンダー”を急発進させた、最後
のゲスト傭兵こと、ルミラ・ディ・デュラルが、甲板上の障害物―――チャー
ターVTOL機―――を強引な体当たりで跳ね除けて、来栖川アイランド本島
を目指して飛び去っていったのは、まさにその時であった。

……短く鋭いローターの音。

 「「何てことだ!!」」
 最初に機首風防からそれを目撃していた保科と牧部が、頭を抱えながら
 操縦席から逃げ出し、異変の予感に慌てて振り向こうとしていた秋生に接触
 ・転倒してしまう。
 そのとき、笑顔が見えた気がした。
 早苗さんの笑顔が、見えた気がした。

……それは。

 ズドン!
 銃声にも負けぬ巨大な衝撃が、機体を揺さぶる。
 飛行船ごと、いや世界が揺れたようにさえ、感じられたが。
 にわかに静寂が訪れる。
 何も動かず。
 誰も話さず。
 無音の空間が拡がっていた。

……「真空」だ。

 のろのろと立ち上がる、保科と牧部の目前に。
 ひとつの喜劇があった。

 「さ…なえ…」
 秋生さんが、震える手を巨大クリームパイから離す。
 それでもパイは落ちなかった。

 パイは。
 パイは、壁に貼りついていた。
 パイは、早苗さんの笑顔を。
 パイは、早苗さんの笑顔を真っ白けっけに塗りつぶし、壁に貼り付けていた。

『ビーッ、120番依頼人・古河早苗、有効打直撃により参加取消となりました』
 
 「おおおおおおおおおおおお!!」
 秋生さんが崩れ落ちる。
 もはや何も見えていないのだろう。
 何も聞こえていないのだろう。
 保科と牧部に背を向けて、壁に祈るように泣いていた。

……それは。

 二人を残し、チャーター機を逃げ出すとき。
 保科が牧部を見つめて、ぽつりと呟いた。
 「どう、したものかな?」
 牧部が答える。
 「どうにも…ならないだろうな…」
 そうだ。
 もう、どうにもならない。
 秋生さんは、思い切り出鼻を挫かれたのだから。

……それは、「真空」。

【119番・古河秋生 新規参加 120番依頼人・古河早苗 参加取消…残り26人】

337パラレル・ロワイアルその281:2004/09/07(火) 19:25
「!…おい城戸、砂浜の連中が動き出したぞ…」
「真正面から倉田のお嬢さんを助け出そうという積もりなのか?……やはり
と言うべきなのか、まさかと言うべきなのか……ところで連中、渡りの足は
どうする積もりなんだ、一体……?」
「…どうやら、甲漢O0O0の部隊が乗り込んでいた上陸用舟艇の内一隻を
再利用する積もりの様だな…」
「おいおい、正気かよ?……保科智子・北川潤・宮内レミィ達が乗っていた
水陸両用型と違ってアレは只のドック型・いわば大型装甲ボートなんだぞ、
一度砂浜に乗り上げちまったら最低、大人十人力でないと再び海へは……」
「…早朝に乗り上げた時よりも潮がかなり満ちている…おまけに連中、海の
家から調達して来た水上スキー板やらサーフボードやらにサンオイルを塗り
たくって、どんどん船底にかませて押し滑らせているぞ…」
「ななな、何だってぇ!?」
「まさかとは思うが、一応迎撃体勢は整えておいた方が良さそうだな…」
「クソオッ!全く、こんな時に……いまだに連絡も返さなければ、降りても
来ないなんて……上空の女達は一体、何をやっているんだよっ!?」
「案外、既に戦ってたりしてな…」

 …海水浴場エリア・沖合いに停泊している豪華客船“蒼紫”の艦橋では、
先行して上空の飛行船より降下後、蒼紫へと潜入して24番・そら、そして
35番・倉田佐祐理の身柄を、鳥籠とVIPルームへと軟禁したゲスト傭兵
こと伯斗龍二と城戸芳晴が、二名の人質を盾にマーダー活動続行を要求した
相手・川澄舞が遭遇者四名と共に人質救出に動いた事を、予想内の出来事で
あると受け止めつつも、肝心の本軍こと女性陣からの連絡もなければ降下も
して来ないという予想外の出来事に、困惑した状態での今後への対応手段の
選択を迫られていた。

「しっ、しかしこの蒼紫の周りには、相沢祐一・里村茜の二名を海の藻屑と
した、ゲーム用の識別誘導型機雷源が敷設されている筈だ、まだまだ時間は
稼げる筈……」
「そうでもない様だ…連中、海の家から調達して来た浮き輪を近付いて来た
機雷に片端からかぶせて、触雷しないようにしちまっているぞ…」
「ううう、嘘だろおっ!?」
「嘘なものか…おまけに連中の乗っている上陸用舟艇…前面には簾が立て掛
けてあり、喫水線にはエアーマットが括り付けてある…エアバルカン・ファ
ランクスもゲーム用魚雷も、連中を止める事は出来なさそうだぞ…」
「マママ、マジかよおっ!?……それじゃあ最早、この蒼紫への乗り移り際
を直接襲撃するか、乗り込んで来た所を待ち伏せなり罠なりで迎撃するしか
ないという事かっ!?」
「…更にもう二つ、降伏と人質利用という選択肢もあるにはあるが、観戦者
の前で見苦しい手段は選びたくはない所だしな…結局の所城戸、お前の提案
した二つの選択肢しかない様だが…どうする?一人一策受け持ちで二段構え
の迎撃体勢を取るとしたら、お前はどっちを受け持ちたいのかな…?」

338パラレル・ロワイアルその282:2004/09/07(火) 19:27
「……よし分かった、まずは俺が連中の乗り移り際を攻撃しよう……龍二、
俺に倉田の嬢さんが乗っていたレイバーを使わせてくれ!」
「…分かった、それなら船内にいる残りの甲漢も全員、連れて行ってくれて
構わない…隠し銃座に配置するなり囮特攻をさせるなり、枯れ木も山の賑わ
いで、使い道はあるだろう…」
「しかし龍二、それじゃあお前の方が……」
「…俺の方は人質を連れて船内をウロチョロする戦いになりそうだ…鈍重な
ガードロボットなど、援護どころか却ってお荷物にしかならないだろう…」
「そうか、それなら遠慮なく総力戦をやらせて貰う事にするよ……後の事は
宜しく頼んだ……もし女達から連絡か何かあったら、すぐに知らせてくれ」
「分かった…気を付けてな」
「そっちこそ……じゃあ、行ってくるぜ!」




 一方その頃、上陸用舟艇では…
「攻撃が止んだな…敵は次の手を打って来るぞ、注意しろ」
「次の手…ですか?」
「どうなるのでしょう?」
「…恐らくは、佐祐理の乗っていた“O−THE−O”という試作レイバー
を使用してくる気だろう…佐祐理が乗ってこそ、無敵の強さを誇るレイバー
なのだが、他の人間が乗っても難敵である事に、違いはないだろう…」
「うぐぅ、どうしよう?」
“…みなの者、案ずるでない…今こそ、余が力…とくと見せて進ぜようでは
ないかっ!…”
「(頭をムギュッ)時期尚早だ、神奈…いかに変装しているとはいえ、お前の
力と正体は最後の手段に等しい、隠せるに越した事はない」
“…(バタバタ)むぅ、無礼者め…ではどうするというのじゃ、コウヤ?…”
「出来るならば、別の手を打ちたい所なのだが…みたらし、そのレイバーの
搭載兵装とか電子戦装備とかは、解るか?」
「…確か、出撃前に船内ドックで佐祐理の整備と試運転を手伝った際に確認
したものは…まず、武装の方は専用手持ち型の空気圧式ゴムボール射出機が
一丁と、脚部内蔵型折り畳み式隠し腕四本にそれぞれチャンバラスティック
が一本ずつ…それと、電子戦装備は望遠・広角・赤外線汎用のカメラアイが
一基に、対メカニック・大型兵器用のレーダー及びパッシブレーダーポッド
が一基ずつ…あとは、対人索敵・ライバル狩り用の音量増幅型超高感度集音
マイクが全身各所に設置されている…私が知っているのは、これだけだ…」
「!…素晴らしい情報だ、おかげで攻略への糸口が見えてきたぞ、みたらし
…じゃあ後は俺達にまかせて、積んできた水上バイクで先に蒼紫の裏手へと
潜行・潜入を果たして来てくれ」
「…わかった、行ってくる…皆には、感謝している…」
「おう、気を付けてな」
「お気を付けて」
「どうか、ご無事で…」
「また後でね、舞さんっ」
“…舞どの、『死』なないで欲しい…”

339パラレル・ロワイアルその283:2004/09/07(火) 20:17
「…『来栖川アイランドに新名所!倉田コーポレーションの技術力と資力の
提供の元、遂に今冬堂々オープン!!海底ドーム型モデル都市“倉田アイラ
ンド”…オープンに先立って現在、先行テスト体験入場を金のチケットなら
一枚・銀のチケットなら三枚にて、特別路線よりご招待中!!』……皆様、
この破れ掛けている広告ページの内容って、もしかしましたら…」

 所変わって、博物館・美術館エリア内にある元特別警備兵詰所…水浸しに
なってしまった隠し露天風呂ラウンジよりここへと場所を移動して二日目の
作戦行動予定計画を思案中であった、七瀬留美・みちる・匿名希望・ポテト
・そして御堂が囲んでいるテーブルの前に、元65番・長森瑞佳の『遺品』
である【裏】パンフレットの破れ掛けたページを開いて、遠野美凪はずずず
いっと皆の顔を見渡しながら、対する反応と意見を求めた。

「金のチケット銀のチケットって…それって、ひょっとして地下鉄道の?」
 最初に反応したのは七瀬だった。

「うに、ひょっとして三枚一緒に使用すると、その海底どーむ行きの線路に
ぽいんとが切りかわったりするのかなー?」
 続いて、みちるがなかなかに推理を働かせた意見をのたまう。

「……御堂さんが言ってたG.Nの引越し、折原さんが最期に言い残してた
G.Nの選手参加説、そして第四のチェイサーが破り取ろうとしていたその
【裏】パンフレットのページ広告…どうやら、断片的だったそれぞれの情報
が、ピッタリと繋がってきたみたいね……」
 匿名希望も、深刻かつ複雑な表情で意見を繫げていく。

「ぴこ、ぴっこり…(ともかく、重要なのは…)」
「そう、果たして俺達がこの情報に対して、乗るか黙殺するかっていう結論だな…」
 最期にポテトと御堂が、単刀直入に最重要議題を叩き出した。

「「「「…………」」」」
「まぁ、まずは銀のちけっとの所有者の二人から、要望を聞かせて貰いてぇんだが」
 沈黙した女四人を見やりつつ、御堂が更に口を開く。

「折原と長森さんに刺客を送り付けたG.Nには是非とも、落とし前を付け
に行きたい所なんだけど」
「…やっぱり、行動目的があった方が、ゲームにも張り合いがあると思います…」
「うに、つまんないよりはやっぱりつまんなくないほうがいいよね、美凪」

 そんなやる気満々の三人に対し、匿名希望は慎重論を唱えた。
「……だけれど、目的に沿って動くという事は、それだけ最前線で積極的に
動くという事で、脱落の危険性も増えてしまう事になるんじゃないの?……
それに」

「「「「「それに(ぴこり)?」」」」」

「……相手は、施設・設備・そして、警備戦力や内応ライバル戦力をフルに
活用出来るG.Nよ……余程上手く立ち回らない限りは、敗者復活戦の様に
目的・結果とは割に合わない犠牲を強いられる事になる可能性も……」

「ああ、確かにそーだな」
 御堂があっけらかんと匿名希望に相槌を打った。

「「「「ええっ!?じゃっじゃあ、御堂のおじさんもまさか、黙殺の方を…
(ぴこっ!?ぴこ、ぴこり、ぴこっこ…)!?」」」」

「…俺達五人と一匹、余程上手く立ち回るより他に道はないって事だなぁ、
コイツはよ」
 御堂は思い出したかのように、ゲーム開始時よりその身に装着したままの
識別装置を皆に向かって指し示した。

340パラレル・ロワイアルその284:2004/09/07(火) 21:03
「!……ああっ、なんて事なの…そもそも、相手がG.Nである以上、私達
には最初から行動選択の余地なんてなかったのよね……」
「…しっかりなさって下さい、匿名さん」
「うにい、大丈夫だよおばさんっ、何があっても何がきても、美凪と一緒に
おばさんの事、しっかりまもってあげるからっ」
「……お、お願いみちるちゃん、どうかおばさんの方に、貴方達を護らせて
頂戴……(泣)」
「ぴこ、ぴこぴこ(それと、俺様にもな)」

「じゃあ結局の所、乗るという事で一件落着のよーね……そーなると、次に
決めなくちゃならないのは、あたし達がこれからどう動くのかって事なんだ
けど…」
「……七瀬さんの言う通りね…まず、私達が海底ドームに侵入を果たす為に
取る事が出来る手段捜索選択肢は今現在の所、最低五種類程存在するわ……

その1・三枚目の地下鉄道フリーチケットを所有している御影すばるさんを
    探し出す
その2・ここ博物館にて使用可能な潜水メカニックを探し出す
その3・港・ヨットハーバーエリアにて使用可能な潜水艦を探し出す
その4・リバーサイドホテル18階のスポーツ&レジャー百貨フロアに戻っ
    てスキューバダイビング用品を人数分調達してくる
その5・金の地下鉄道フリーチケットもしくはその所有者を探し出す

……と、いった所かしら」

「成る程な、ぽ…いや匿名…だが、俺が思うに五番はどー考えても非現実的
な成功率しか見込めそーにないし、四番も今はがーどろぼがウジャウジャと
いる筈のほてるにUたーん・最脱出しなければならない上、潜水具をここの
全員が果たして上手く扱えるのかどーかが怪し過ぎる…ってオイテメーラ、
何で一斉に俺の方を見やがるんだよ、クソッ……話を戻すぞ、結局の所はだ
理想は仲間が増やせる一番、手っ取り早いのが移動をしなくて済む二番で、
成功率が高そうなのが場所が場所だけに三番…といった所なんじゃあないのか?」
「ぴこ、ぴこぴこり(と、いう事はだ)」
「…まずは全員で2番、それから二手に分かれて1番と3番を同時に…と、
いった所なのでしょうか?」
「時間効率を考えれば、米問屋の言う通りだ」
「でも、別れちゃっても大丈夫かなー?」
「……みちるちゃんの言う通りよ、万一各個撃破されてしまったら目も当て
られないわ」
「だけど匿名さん、さっきのチェイサーの時には、別れていたお陰であたし
達、全滅を免れたのよ…どっちが正しい選択なのかは結果次第みたいだし、
ここは時間効率優先で考えてもいいんじゃないのかしら?」
「おし、ここは七瀬の言う通り時間効率優先で動く事にしよう…分割内訳は
俺と七瀬が一番で、残り四人が三番という事でどーだ?」

「…確かに、飛び道具も増えましたし、匿名さんは肉弾戦がお得意そうですし…」
「ぴっこ、ぴこりぴこ(それに、この俺様もな)」
「このぞりおんがあれば、みちるも立派に戦えるのだー♪」
「……でも、御堂さんと七瀬さんはお二人だけで大丈夫なの?……って、夢の
本編MVPタッグがお相手じゃあ、余計な心配だったわねえ♪」
「う〜ん、どうせなら本編の乙女と野獣とかさ、もっとこう、言い方が…」
「はあっ…何、詠美と同れべるなこと言ってんだ、オメーは…じゃあ早速、
博物館の捜索からさっさと始める事としよーぜ!」
「…わかりました」
「わかったのだー」
「……わかったわ」
「ぴっこっ(OK)」
「チョット、待ちなさいよオッサンッ!誰が誰と同レベルなんですってええっ!?(怒)」

341パラレル・ロワイアルその285:2004/09/13(月) 18:18
 土産物商店街ホテル側入口、半壊したアンティークショップから姿を現した
四脚無人歩行戦車“ムックル”と対峙している小型装甲指揮車より、搭乗者で
ある立川郁美のコマンド入力によって搭載されているシャングリラ・キャノン
の砲口から、二回目の蒼いビームが発射された。

 センサーカメラが全壊状態のムックルの後部…丁度、対峙している装甲指揮
車及びそのそばに立っている光岡悟からは死角となっているそのポジションに
は、強化兵隠蔽装置を発動させ、ケーブルによってムックルと相互接続する事
により、ムックルに自分の視覚とサテライトサービススキルを提供して攻撃を
行わさせていた…もとい、事実上は操縦して攻撃を行っていたHMX−13・
セリオがその身を潜めるように張り付いていた……そして、装甲指揮車に搭載
されてるシャングリラ・キャノンの砲口が蒼く光り出すのを確認した時点で、
セリオはいつ何時でも防御・回避が行える様、一旦はその反射神経を尖らせて
警戒態勢をとってはいたのであるが…

「…?…射線が微妙にずれてしまっております…あの砲口の向きのままでは、
たとえ発射されてもギリギリのラインでこちらには避けずとも命中しません…
衝突されてしまった時に照準系に異常が発生したのでしょうか…?」
 自分にとって都合のよいトラブルが発生した様でしかも、相手はそれに気付
いていないらしい…セリオはこの絶好のチャンスを利用して勝負を一気に片付
けてしまおうと警戒態勢を解くと、カウンターによる搭載兵装一斉射撃の準備
に取り掛かった。そして…

 飛来して来た蒼いビームは、果たしてセリオの弾道計算の通り、ムックルの
左側面ギリギリを掠めて通過して行った。

「ええっ!?せっかく苦労して入力したのに、外れちゃったのおっ!?」
「照準装置に、誤差があったのでしょうか…?」
 思わず装甲指揮車内で落胆の声をあげる、立川郁美と杜若きよみ。だが…

「…!!!」
 反撃の一斉放火を浴びせようとしたセリオはその瞬間、危険を感じさせる
微弱なパルスが体中に駆け巡ったのを、ハッキリと感じ取った…そして次の
瞬間には、その感じ取ったものに応じるかのごとく、接続コードを切り離し
ムックルの後部より、高くそして素早く跳躍を行っていた。

シュバッッ!!

 ムックルの左側面をギリギリで通過していった蒼いビームが、アンティーク
・ショップに展示されていた商品の内の一つ・集魔の鏡へと命中して反射し、
セリオが元いた場所・ムックルの後部へと命中したのは、その更に次の瞬間で
あった。

342パラレル・ロワイアルその286:2004/09/13(月) 18:19
 跳躍したセリオはそのまま、光岡目掛けて素早く急降下を行った…武器であ
り壁であって、盾でもあり、そして短い付き合いだったがロボットの戦友でも
あったムックルから離脱し、オッズ最強説の流れる強化兵並びに、抜群の射程
と命中率を誇る飛び道具の前に、その姿を現してしまう羽目となってしまった
以上、最早逃亡は望めない…発動中の強化兵隠蔽装置を頼みの綱に、シャング
リラ・キャノンの再チャージが完了するまでのその一瞬の間に懐に飛び込んで
まずは光岡さんを、次いで近接戦闘能力に劣るであろう装甲指揮車の皆さんを
…そう思考・結論付けたセリオはゴムナイフを二刀流で構えて、音も無く光岡
の頭上へと…装甲指揮車の依頼人達が、援護どころか声すら掛ける暇も無く…

――――――ズバッッ!!
 斬撃音。
――――――カンッ、カラカラカラカラ…
 続いて、硬いものが落下し、アスファルトを転がって行く音。

『ビーッ、52番・HMX−13セリオ、識別装置離脱により失格…直ちに、
交戦エリアより退いて下さい』
 そして、最後に失格アナウンス。

「……どうして…?…私は、音一つ立てていなかった筈…強化兵隠蔽装置も、
正常に作動をしていた筈、なのに…?」
 竹光による斬撃により、妹・HM−13同様に識別装置の固定ベルトを叩き
斬られてしまった、その結果・現実に呆然とへたり込むセリオ。

「君の攻撃が極めて正確無比だったからだ…例え、その姿を全く確認出来なく
とも、あの戦車後部に砲撃が命中した瞬間、飛び出して来た殺気を起点とした
現実の君のその動き・その技量が、私に匹敵しなおかつ、私を倒すために正確
無比な動きをとっていたならば…後はもう一人の自分との現実影闘法(リアル
・シャドー)でタイミングをキッチリと合わせた反撃を繰り出しさえすれば…
見えている時と、聞こえている時と…同じ結果へ辿り着けない筈は無いという
事だ…」

「…そ、そんな……限りなく、理屈の上のみに等しく…限りなく、お約束の中
でしか実用性が無い様な…綾香お嬢様でさえ会得が叶わないとこぼしていた…
その様な闘法を、実戦でお使いになられる方がいらっしゃたなんて…」
 光岡のその回答に、ロボットである自分以上に、理屈の上としか思えない事
を理屈通りに実現してしまう人間に対する脅威を禁じ得ないでいるセリオ。




「あっ、あの闘うメイドロボ一号さんっ、最後にお尋ねしたい事があるのですがっ」
 霧島佳乃が、転がるように装甲指揮車から飛び出し、『死に行く』セリオの前へと
進み出た。

「私、人を探しているんですっ…あなたは、白衣をまとった若い男の方を、何処かで
見掛けられませんでしたでしょうかっ!?」

「……申し訳、ありません…」
 セリオは首を横に振った…それが彼女の、『最期の遺言』となった。

【52番・セリオ 脱落…残り25人】

343パラレル・ロワイアルその287:2004/09/13(月) 20:01
『ビーッ、来栖川アイランド総合統括コンピューター・G.N、新規参加を
受け付けました…貴方の参加ナンバーは121番となります……それでは、
どうぞゲームをお楽しみ下さい』

 海底ドーム“倉田アイランド”中央部に位置する、ドーム管理・環境維持
施設エリア“MINMES”…そして、そこに聳え立つマザーコンピュータ
ーステーションビルの最上階に位置する総合指令端末室に今、ゲームの正規
選手の新規参加を伝えるアナウンスが朗々と響き渡った。

「…むむっ!?」
 そして、新規参加アナウンスを受けた当の御本人(?)ことG.Nは、その
瞬間に意外そうな呟きを室内設置のスピーカーより、思わず漏らしてしまっ
ていた。

「おやあっ?どうされたのですかなG.N殿ぉ?…めでたく、念願の正規選手
参加を果たされたというのに、その様な呟きをもらされてしまわれるとはぁ?」
 そんなG.Nに対し、端末機の前でニヤニヤ顔で突っ込みを入れているのは、
20番・覆面ゼロ。

「フンッ、白々しいの!…塚北殿はそもそも、ここのS.Fをこそ正規選手登録
の対象とする事を、目論んでおられてたんじゃあなかったのかのお?」
 最初から感づいていたぞと言わんばかりのG.N…しかし、ゼロはその質問に
対して、さらっとかつしれっとした感じで質問返しをした。

「どうして…俺様がそんな事をする必要なんかがあるのかなぁ?」
「どうしてって…そりゃあ、いうまでもなく、自分の作ったマザコンが正規選手
で参加出来れば、塚北殿にとっても貴重な戦力かつ情報源にもなる筈だし何より
、その存在を誇示出来るというものなのではないかの?」
 極めて正論ともいえようG.Nの回答を、ゼロはやれやれといった感じで肩を
竦めて一蹴した。

「G.N殿…確かに、アンタの言ってる事はもっともな考えだなぁと俺も一時はそう
思ってはいたがなぁ…『ふぅ、全く柔軟な思考というのも考え物じゃな。』とでも、
もう一度言って貰うべきなのか…大切な所を二つ程、見落としているんだよアンタ」
「二つの見落とし!?…このワシが、いったい何を見落としておると言うのじゃ?」
「最終決戦予定ステージがここ、倉田アイランドであるという事だよ…それが、果た
して何と何を意味するのか…G.N殿はまだ、気が付かれてはおられぬのかなぁ?」

「何と何を意味するのかだと……ななっ!?何ですとーーーーー!!」
 倉田アイランドに関する資料を、来栖川アイランド側データで検索していたG.N
が、遂にその『見落とし』を発見して…思い出したかのように驚愕の声をあげた。

「そういう事なんだなぁ」
 堪え切れなくなったのか、ゼロが椅子に踏ん反り返って笑い転げた。
「確かに、倉田アイランドは形式上は、来栖川アイランドの一つのエリアとしての
扱いこそはされてはいるが…来栖川系企業と倉田系企業間に於ける、相互の機密を
尊重・保持するために、保安警備及びアクセス権限の絶対的な優位者は、ここ倉田
アイランドに限っては倉田アイランド専用の総合統括コンピューターであるS.F
であるという事だぁ…従って、倉田アイランドへとゲームの舞台が移った場合は、
例えG.N殿が正規選手登録をしなかったとしても、管理者権限は自動的かつ絶対
的に、G.N殿からS.Fへと移権が行われるという訳なんだなぁ、これが…要は
、S.Fがゲームに参加出来れば俺様にとっちゃあ貴重な戦力かつ情報源になる訳
なんだから、だとしたら、選手としてよりは管理者としてゲームに参加させた方が
あらゆる面で断然お得なのは、当たり麻枝のソロシナリオでしょう?」

344パラレル・ロワイアルその288:2004/09/13(月) 20:02
「オオオ、オノレッ、まんまと出し抜いてくれたの、塚北殿っ…だ、だがしかし、
来栖川アイランドにおける権限者はこのワシだっ、こっ、こうなったら…」
「もう手遅れですなぁ、G.N殿」
 憤激するG.Nに対し、ひらひらと手を振ってみせるゼロ。

「ゲームの参加者たちは皆、アンタの正規選手参加及びここ倉田アイランドの存在
を既に察知して、侵入する為の行動をそれぞれ開始してますよぉ…現段階でもし、
G.N殿が地下鉄道封鎖等の強硬手段を取ったりしたら、ホテルの観戦者はそれを
果たしてどう思うとお考えで?…第一、その様な事をなされたら、駅の列車の中に
積まれたままのG.N殿の御本体も、本島へと戻れなくなってしまいますよぉ?」
「ぐぬぬ……」

「あ〜でも、G.N殿のための識別装置はここにある訳ですから、列車で他の体を
取りに戻ったら、識別装置離脱で失格になっちゃうんでしたっけぇ?」
「ぬああ……」

「そもそも、『先の展開が読める様では物語としてつまらない、だからゼロ殿には
これからも頑張って欲しい』って、俺様に頼んだのは…何処の誰だったのかなあ?」
「あうう……」

「いや〜、それにしても『復活の呪文書』の入手は俺様にとっちゃあ、タナボタに
ラッキーイベントだったなぁ…まさか、最初からココが戦場として使えるなんて、
夢にも思っていなかったしぃ♪」
「うぐぐ……」

「おまけにG.N殿が、敗者復活戦での御本体移動の手段で地下鉄道を利用して
その上ココを目指してくれるもんだから、急遽倉田アイランド戦場化の為の舞台
セッティングに必要な資材やら物資やらも、一緒に搬送出来ちゃったしぃ♪」
「ぐおお……」

「で、どうしますG.N殿?…駅の列車内の御本体の処遇に関しましては…?」
「ふ、不覚じゃ…何故…何故、ワシは本編における『管理者が参加者となる時』の、
その実態を深く、理解していなかったのじゃ…権限は諸刃の刃である事を深く、理解
していなかったのじゃ…」
 
 自分に対する呪いの言葉を吐きながらG.Nはコンソールパネルに何事か指示を入力した。

【121番 G.N 棄権】




 G.Nは、“MINMES”エリアを離れ、“THE−TOWN”エリア内に位置
する海中(地下)鉄道駅にて貨物となっている本体の元へと戻ると、その周辺で積み下
ろし命令待機中のHM−12達を列車内に収容させた。

「道化、だな……」
 そう呟くと、G.Nは列車を元いたリバーサイドホテルに向け発進させた。
 そして……。
 ゲーム終了までの間、二度と倉田アイランドに戻ってくることはなかった。

【121番・G.N 新規参加→棄権…残り25人(変わらず)】

345パラレル・ロワイアルその289:2004/09/20(月) 19:37
「ムムム、連中め隠れてしまったのか…無理もないといえば無理もないが…
海の上だというのに、どういう手品を使ったというのだ…?」

 海水浴場エリア・海水浴場沖…
備え付けのCSD(ケミカルスモークディスチャージャー〜煙幕発生装置)の
立ち込める、今は無人の上陸用舟艇を見やりつつ、ゲーム用の試作レイバー
“O−THE−O”に搭乗して豪華客船“蒼紫”より打って出てきたゲスト
傭兵・城戸芳晴は、自分達が蒼紫内に軟禁しているそらと倉田佐祐理を救出
するために攻め込んで来た川澄舞他四名の姿を捜し求めて、O−THE−O
の切り札ともいえる電子戦装備―――対人索敵・ライバル狩り用に全身設置
された音量増幅型超高感度集音マイク―――の集音増幅力を、少しずつボリ
ュームアップしながら、舟艇の周りをゆっくりと巡回し始めた……と、

『い、いやっ……祐介っ…私、やっぱり恐いっっ…』
『美汐、しっかりして……ほらっ、ちゃんと握って……あ、あんまり強くは
握らないようにね…』

 集音マイクが遂に、近くで交わされているらしい男女の極めて小さな……
いかにもヒソヒソといった感じの会話をキャッチし、芳晴の耳へと伝えた。

『こ、こうですか?』
『うん、そうそう…そうやって軽くふんわり優しく…そこは親指でぎゅうっと』
『え、ええっと、こうですか?』
『うん!そ、そうだよそんな感じ』

(!?…な、何だぁ!?…コイツら、一体海の上で何をやっているんだぁ…!?)
 会話の内容にギョッとなり、思わず更にボリュームアップさせて聞き入って
しまう芳晴。

『位置はそれでいいの?美汐』
『ええっ?』
『そのまま、上下に動かしてみて』
『は、はいっ……』
ぎゅ。ぎゅ。ぎゅ。
『そして、美汐の握りやすいところで止めて』
ぎゅ。

(オイオイ、マジですか!?…いくら煙幕張っているからって、ライバルさん
の前で大胆過ぎやしませんか、アンタタチッ!?)
 更にボリュームアップさせて聞き入ってしまう芳晴。

346パラレル・ロワイアルその290:2004/09/20(月) 19:38
『このあたりでしょうか…』
『美汐の手って、ちっちゃいんだね』
『祐介のが大きすぎるんです……握り辛いし……固いし……』
『そうなのかなあ……』

(くぅ〜っ、たまりませんなぁ、もうっ…そろそろ、映像の方ででもキャッチ
出来れば最高なんですけど…)
 とうとう、ボリュームをMAXにして広角のカメラアイをくるくると旋回
させてしまう芳晴…と、カメラアイが煙の中に、そして会話が聞こえて来た
方角に、ゴムボートに乗って浮かぶ男女の姿を発見した。

(うふふ、そこにいらっしゃいましたか……それではカメラの方も、高密度に
切り換えさせて頂きま………!?)
 高密度に切り換わったO−THE−Oのカメラアイが、操縦席の芳晴の目の
前に、煙を通してくっきりと映し出した映像…それは、

『さあ、美汐…握った指にぐっと力を入れて…恐くないから…』
『あ、あ、ああああああ……』

 ゴムボートの上で半ば目をつぶり、震える手でこちらへと向けたパーティ
ガンのトリガーを引く天野美汐と、その弾でもあるクラッカーの紐を引いて
長瀬祐介の姿であった。

 更にその時O−THE−Oの背後には、煙の中で大道芸人よろしく、機雷の
上に片足立ちして月宮あゆを肩車した上、右手人差し指から小指までの間に計
三本、口にもう一本のクラッカーを構えて、左手と舌で紐を引く高野と、恐る
恐る高野の上でクラッカーの紐を引くあゆ、更にあゆから半身を抜け出して、
翼で高野への重量とバランス負担をフォローしながら、クラッカーの紐を引く
神奈の姿があった。

((((((((ぱんっ!))))))))

………………。

『ビーッ、ゲスト傭兵・城戸芳晴、ナースストップにより失格しました…
海底水没のため、14Kカノンさんは至急特殊潜航艇にて、窒息前に速やかに
サルベージ作業を行って下さい』

 煙幕の波間にクラッカーの一斉砲火音に続いて失格アナウンスが響き渡り、
そしてO−THE−Oは音も動きもないままに、ゆっくりと沈んでいった。

「しかしなあ…」
 ふわりと、あゆかんを肩車したままで機雷の上から元いた上陸用舟艇へと
飛び移った高野が、ぽりぽりと頭を掻きながら呟く。
「本来の作戦では、長瀬少年が“電波”とやらの力を使って、あのレイバーの
パイロットにマイクのボリュームをアップさせる予定だった筈なんだがなあ…
ったく、何てトンデモナイ夫婦漫才やってんだよ、お前達は…」

「「ええっ?……!!!……あっ、あっ、あっ、ああああああ〜っ!?」」
 思い出したかの様に、本日二度目の相合赤面で俯いてしまう祐介と美汐。

「流石は伴侶を得た大人の女性だな…お子様コンビのうぐうぐやおじゃる丸
には、とても出来ない芸当だぜ…」

 …この後、口を滑らせた高野が女三人から(失格にならない程度に)袋叩きに
遭わされたのは云うまでもない事であった。

347パラレル・ロワイアルその291:2004/09/20(月) 20:47
 その頃、豪華客船“蒼紫”の揚陸艇用隠し格納庫では、ブッシュマスター
片手のゲスト傭兵・伯斗龍二が、烏の閉じ込められた鳥籠を抱えた倉田佐祐理
を連行しつつ、格納庫内の最後に残った一隻となった屋形船へと、その身を
移していた。

「迂闊でしたね芳晴さん。実はもう一つ、逃亡という選択肢もあったのですよ
…と云う訳で佐祐理お嬢さん、今しばらくのお付き合いをお願いしますよ」
「ふえ〜、これからどういう展開になってしまうのでしょうねえ、カラスさん」
「ばっさばっさ(時期尚早かと使用を躊躇していた支給装備ですが…この際、
使用も止むを得ないのでしょうか…?)」

「颯爽と現れたカッコいい騎士が悪い龍を退治して、麗しの姫君を竜宮城へと
連れ帰るというのが、僕は定番だと思いますよ♪」

 二人と一羽が入って来たのとは反対側の障子戸がかららと開き、完全武装の
ボバ・フェットが船内へと来訪したのはまさにその時であった。

「はえ…?」
「ばさ…?」

「ななっ、新手かっ!?いっ、一体何処から何時の間にっ!?」
 最初に反応したのは龍二であった…素早く傍らのブッシュマスターを引き
寄せ構え直すと、ボバ・フェット目掛けて一斉射を加えた。

スパパラパラパラパラ!スパパラパラパラパラ!
ビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシッ!

『ビーッ、防御装置作動しました…残り63HITです』
「へ!?」

 その瞬間、アナウンスの内容を即座に理解出来なかった龍二を、ボバ・フェット
が構えた橙色のゾリオンから発射された光線があっさりと貫いた。

『ビーッ、ゲスト傭兵・伯斗龍二、有効弾直撃により失格しました』
「なんじゃ、そりゃああああああああっ!?」




「あはは〜っ、御久し振りです春原さん♪…ひょっとして佐祐理、助けて頂いた
のでしょうか〜っ?」
 鳥籠から開放したそらを肩にとまらせて、佐祐理はニコニコ笑顔でボバ・
フェットへと挨拶をした。

348パラレル・ロワイアルその292:2004/09/20(月) 20:50
「えええっ!?どっ…どうして、僕だってわかっちゃったんですか〜っ!?
…嬉しい事でもあるんですけど」
 びっくり仰天しつつ、ヘルメットを取る春原。

「こう見えましても佐祐理、人の声を覚えるの得意な方なんですよ〜っ♪…
ところで春原さん、佐祐理の質問のお答えを頂けますでしょうか?」

「ああっ!?こ、これは僕とした事がっ(あたふた)…わかりました佐祐理さんっ、
じっ、実はですね…公的な深い事情と私的な熱い感情から、こうして佐祐理さんを
お迎えに参った次第なのですが…」
 言いつつ佐祐理の手をうやうやしく取った春原は、ジェントルマンよろしく
その掌に、唇を……

 クワーッ!バッサバッサ…コッコッコッコッコッコッコッコッ!!
「いでーッ!いでいで、いでぇーーーッ!!」

『ビーッ、防御装置作動しました…残り62HITです』

「あはは〜っ、春原さん、カラスさんを許してあげて下さい〜っ」
「いてて…でも、そー言われちゃったら仕方ないなーっ、僕と佐祐理さんの
仲ですし…それでですが、まず公的事情の方から説明させて頂きますと…」

 再び懲りずに佐祐理の手をうやうやしく取る春原。そして唇を……

 ベシンッ!!
「うぐおっ!?」

『ビーッ、防御装置作動しました…残り61HITです』

「…助けに来たぞ、佐祐理…」
 潜水可能な水上バイクにて、隠し格納庫へと一番乗りを果たした川澄舞は、
屋形船の中で佐祐理の手を取る、見知らぬ男の続きの行為を本能的に阻止
しようと、その後頭部を西洋剣の両刃の峰でしたたかに打ち据えていた。
 たまらず昏倒する春原。

「ふえ〜っ、舞〜っ、助けに来てくれたのは嬉しいのですが、この春原さんも
佐祐理の事を助けに来てくださった方なんですよ〜っ」
「……そうか…だが、カラスさんも…私に続いて、攻撃をしているぞ…」

バッサバッサ…コッコッコッコッ!!

『ビーッ、防御装置作動しました…残り60HITです』

「はえ〜っ、カラスさんもやめて下さい〜っ……大丈夫ですか、春原さん?」
 流石に慌てて春原を介抱する佐祐理。

「…うおおっ、愛がある限り何のこれしきですよっ、佐祐理さんっっ」
「……大丈夫か?妙な事を口走っている様だが?……ともかく、誤解をして
済まなかった、春原とやら…私は川澄舞という…佐祐理の、友人だ…」

 やおら身を起こし、舞をしげしげと見詰める春原。
「やあ、初めまして…舞さんとおっしゃるんですかーっ、へーっ…それにしても
舞さんって…おっぱい、でかいんですねぇーっ♪」

 …次の瞬間、西洋剣の柄がタイガージェットシンもかくやの垂直降下で春原の脳天に炸裂した。

 ガスッッ!!
「ほげええっ!?」

『ビーッ、防御装置作動しました…残り59HITです』

 云うまでもなく、失格判定に対してのみの『防御装置』だったりする。

349パラレル・ロワイアルその293:2004/09/26(日) 17:48
「あらあら、何という事でしょうか…」

 ここは飛行船内・監視モニター室。顔面…いや、上半身クリームまみれに
なって泣きながら各坐したVTOL機から駆け出して行く元120番・古河
早苗と、それを追う様によろめきながら這い出して来た119番・古河秋生
の様子を、飛行甲板を映し出しているモニターの一つから眺めているのは、
72番・代戦士であり120番・代戦士予定者でもあった神岸ひかり。

 更に別のモニターでは、強行発艦を行ったものの機体のどこかにダメージ
を負ってしまったのであろう、黒い飛行機雲〜♪たなびいてたなびいて〜♪
しつつ、来栖川アイランド本島へと降下(墜落?)をしていく、ゲスト傭兵・
ルミラの操縦する艦長専用ジェットヘリの姿が映し出されていた。

 そして又更に別のモニター群では、海水浴場沖に水没していくゲスト傭兵
・城戸芳晴の操縦するゲーム用試作レイバーの姿と、ボバ・フェット(仮名)
の放つゾリオンのレーザー光に貫かれる、同じくゲスト傭兵・伯斗龍二の姿
が映し出されていた。

「城戸さんも、伯斗さんも脱落されてしまわれて、正真正銘・最後のゲスト
傭兵となってしまったルミラさんは飛行船から脱出されてしまいました…」

 その時、背後にあるモニター室の自動扉がシュウッと音を立てて開いた。

「…ファイナルチェイサーの城島さんとしては、この後一体…どうなされる
お積もりなのでしょうか…?」
 扉の方へ振り向こうともせず、モニターの方を眺めながらつぶやき続ける
ひかり。

 そんなひかりの背中に…扉から入って来た白衣の少年が、その震える右手
に握り締めている黄色のゾリオンから発射された一条のレーザー光が…狙い
違わず命中した。

『ビーッ、72番・神岸ひかり、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい…』




「許して下さい、神岸さん…まさか、早苗さんが参加取消になってしまわれ
るなんて……かといって今更、僕が72番・依頼人に戻る訳にはいかない…
…これには、深い事情があるのですよ…」
 申し訳なさそうに大きく俯いてポツリポツリと参戦理由を告げようとする
ファイナルチェイサー・城島司。
「じ、実は…」

 だが。

「えいっ♪」

 ぽこっ。

 俯いたその司の頭上に、ソフビ製のライトセイバーが小気味良い音を立て
てヒットした。

『ビーッ、最終追跡者・城島司、有効打直撃により任務失敗しました』




 来る筈のない頭上への一撃と、聞こえて来る筈のない自分への失格アナウ
ンスに、司は呆然となりながら俯いていた顔をゆっくりと上げた…

 そこに立っていたのは、自分の方を向いてニコニコ顔をしているひかり。
その右手にはおなじみのライトセイバーが…そして、その左手には…

「そっ、それは!?…ベイダーメットの、ボイスチェンジャー!?…じゃっ
じゃあ、さっきの神岸さんの失格アナウンスは!?……」
『ごめんなさいね、だましたりして…』
 ボイスチェンジャー越しにアナウンサーボイスで答えるひかり。

「…だ、だとしても、確かに…僕の撃ったゾリオンのビームは確かに、神岸
さんの背中に…絶対に、命中していた筈…なのに、何故…!?」
 『死に行く』司に尋ねられ、ひかりはばつが悪そうに頭を掻きながら少し
だけ赤面して口を開く。
「……他の方には内緒にして下さいね、やっぱりおばさんくさいなぁって、
みんなに笑われてしまいますから…」

 言いながら、右手をパジャマの背中に潜らせてごそごそとやっている。
「私もびっくり致しました…ドラマや映画でメダルとかドッグタグ、やかん
のフタとかで銃撃を受け止めるシーンは見た事があるのですが…」

 潜らせていた右手を戻し、掌に載せたモノをそっと司に差し出して見せる
ひかり。
「光線銃で一発だけ…というのが私にとっては幸運だった様です♪」

 見せられたモノの正体に思わず、ガクンと脱力し尻餅を付いてしまう司。
「ピッ…ピッ…ピッ●エレ●バンっ!?…そ、そんな馬鹿なあああっ!?」




“ひかりさま、なんともご強運な……わたくし、ついにわたくしの力を使う
時が参りましたかと内身、冷や冷や致しましたわ…”
『う〜ん…もし、そうなりましたら大変でしたわねえ……旦那様の剣術の方
は、補完の力という事で何とかごまかしが利きましたですが、奥様の法術の
方は、そうは参りませんでしょうから……でも、内心ならぬ内身とは、よい
得て妙ですわね、うふふっ』
“ひ、ひかり殿…その、我々を旦那様とか奥様とか呼ばれるのは、その…”

350パラレル・ロワイアルその294:2004/09/26(日) 19:18
 再び、モニター室の自動扉がシュウッと音を立てて開いた。

「!…ベイダーさん!」
「…香里さん、それに雄蔵さん…」

 入って来たのは…ゲスト傭兵三名を倒した後身支度を整え直し、状況確認
のために飛行船内を連れ立って探検していた立川雄蔵と美坂香里…そして、
香里は昨晩、隠し露天風呂にて覆面ベイダーの素顔を既に見知っていたので
ある…一方の雄蔵は、少なからず驚きを顔に出している様子。

「何と!…まさか御婦人の方であったとは…」

「ごめんなさいね、貴方達」
 ひかりが、雄蔵と香里に頭を下げて詫びる。
「まさか、貴方達を誘った場所が戦場となってしまうなんて…却って危険に
巻き込む結果になってしまうなんて…」

「いけませんっ、止めて下さいベイダーさん!」
「どうか頭を上げて頂きたい、不測のトラブルであろう事は確信承知です」
「…そうですよ、そもそもここが戦場となってしまった原因は…」

 その時やっと雄蔵と香里は、ひかりと共にいる白衣姿の少年の存在を思い
出した。
「あのう、ベイダーさん…?」
「うむ…こちらの少年は…?」

 言葉の続きを言おうとする少年を制して、ひかりが彼を雄蔵と香里に紹介
する。
「氷上シュン君…本編では72番の、私の代戦士依頼人です…ここへは訳が
あってやって来て頂いたの」

「そうだったの…初めまして、私は美坂香里…本編85番。彼は立川雄蔵…
本編56番の立川郁美ちゃんのお兄さん」

「こ、こちらこそ、初めまして…」
 挨拶を返しながらも、雄蔵に驚きの視線をちらちらと向けずにいられない
シュン。

「クスクス…雄蔵、どうやらシュンさんも郁美ちゃんの事、知ってるらしい
わね♪」
「ええっ!?…ど、どうしてわかったのですか、美坂さん!?」
「「「わからいでか(ですよ)!」」」




 モニター室に発艦警報が鳴り響き、飛行甲板の安全を確かめるために設置
されたモニター群の内の一つが、甲板上から今まさに飛び去って行く一台の
メカニックとその乗員を映し出したのは、丁度その時であった。

「「!…あれはっ!」」
 モニターが映し出したメカニックはそう、ベイダー・雄蔵・香里がここへ
と来るためにリバーサイドホテルから徴用してきた空陸両用送迎機“ジャノ
メ”であり、それを操縦しているのは…

「「古河さん!……はっ、まさかっ!?」」
 操縦者である119番・古河秋生の姿を確認したひかりとシュンの脳裏に
危険な予感がよぎった…慌てて、コンソールパネルを操作して非常脱出用の
各設備をモニターに映し出す二人。

「「ああっ、やっぱり……」」
「どうなされたのですか、ベイダーさん?それに、シュンさん?」

 香里の質問に対して、沈痛な表情で答えるひかり。
「今、ジャノメに乗ってこの飛行船を飛び立った方は、新規のゲーム参加者
で119番・古河秋生さんといいます…」

351パラレル・ロワイアルその295:2004/09/26(日) 19:20
 続いてシュンが説明を続ける。
「…彼がこのゲームに新規参加した理由…それは、この来栖川アイランドの
新規増設名所である海底ドーム“倉田アイランド”が、あるゲーム中の出来
事をきっかけに、このゲームの最終決戦場となる確率が極めて高くなったの
を機に、過去の名を捨て今は倉田コーポレーション・開発研究室長となった
二代目20番・覆面ゼロこと塚北氏と手を組んで、一大ビジネスPR作戦を
企てたのです…」

「「ビジネスPR作戦?」」

「…このゲームでの『最終決戦場である隠しステージ』という事実は、倉田
アイランドにとっては大きな宣伝PRとなりますし、かつて某所にて大々的
に開催をされながらも大盛況とは言い難かった第一回ゾリオン大会の結果に
頭を抱えていた、ゾリオン振興委員会の指令でもある古河さんにとっては、
この一大サバイバル・ゲーム大会にて、幾多のサバゲー・ウェポンやノン・
リーサルウェポンを退けてゾリオンが勝利者の得物となる結果が、ゾリオン
振興のための大きな布石になるのではないかと目論んだ訳なのです…そこで
、塚北氏と古河さんとの利害が一致した訳なのです…ゾリオンは元々、倉田
コーポレーションにおける研究の試作品…いわば、副産物を廉価版の玩具と
して再設計・商品化した物なのですから」

「成る程ね…確かに、いくら何でも人員と設備にお金をかけ過ぎた大会だな
とは、思ってはいたけれど…」
「もっとも、一番多く大会費用を負担していたのは元々、来栖川アイランド
の宣伝PRと税金対策を兼ねて、大赤字上等のこの一大サバイバル・ゲーム
を企画した来栖川家と長瀬一族な訳なのだが…結局は、まんまと少ない資金
提供でより大きな宣伝PR効果を、倉田コーポレーションが今まさにせしめ
ようとしているという現状なのか…ライバル企業にまんまと一本取られて、
来栖川・長瀬組は面目丸潰れだな」

 納得する雄蔵と香里、そして更に質問を続ける二人。

「でも…それって、主催をしている側の…上のお偉いさん同士がやりあって
いる、別の意味での『ゲーム』の問題なのじゃあなくて?……確かに、20
番も119番も直接、こっちのゲームにも参加している訳なんだけど…」
「うむ、確かにホームグラウンドを最終決戦場とする事により、連中はこの
ゲームをより有利に戦う事が出来そうなのは察しが付くが、ホテルで観戦し
ている者達が、度を越したハンディとかエコ贔屓、ヤラセ・イカサマ判定を
決して許す筈はないだろうし、現在の状況ではそうそう連中の目論んでいる
様には、上手く展開して行くだろうとは思えないのだが…」

「…そうとも言えません」
 シュンが答える。
「既に古河氏は、倉田アイランド専用の新規ゲスト警備兵部隊として、あの
特務機関CLANNADのメンバーを総召集して、要所要所に配備を行おう
としております…ロボット工学において来栖川重工に明らかな遅れを取って
いる倉田コーポレーションが、その現実をまんまと逆手にとって召集口実と
しているのです」

「なかなか巧妙だな」
 苦笑する雄蔵。

「…更に、暴走してしまいました最後のゲスト傭兵ことルミラ・ディ・デュ
ラルさんの手により、父兄スタッフ唯一の大魔術師であるミュージィさんが
『殉職』されてしまいましたため、源之助さんが脱落されてしまった来栖川
・長瀬組…いえ、葉組は最早、異界への扉を開いて新規の参加者を募る事が
出来ません…フィルスノーン組も、うたわれ組も…おまけに合衆国の聖上様
は、兄妹愛にほだされて御自身の参加資格をあろうことか、CLANNAD
の主力メンバーの一人に、代戦士依頼で譲り渡してしまうという有様で…」

「見事なまでに反撃手段を封じ込められてしまっているわね、来栖川・長瀬
組……これ程の作戦上手が、こちら側にとってもライバルだと考えると…」
 眉根を寄せる香里。

352パラレル・ロワイアルその296:2004/09/27(月) 18:49
「……で、その作戦上手な古河さんに早速手を打たれてしまったのですよ、
私達は…」
 沈痛な表情のまま、ひかりはモニターへと映し出した船内・非常脱出用の
各設備の画像を指し示した。

「「「こ、これは……!?」」」
 画像を見て呆然となる、残りの三人。

 映し出されていたのは、飛行船の要所要所に用意されている非常用脱出扉
…そして、その脇に設置されているパラシュート用ロッカーの扉に貼り付け
られた“DESTROYED!”と書かれたステッカー。

「恐らく、古河さんは倉田アイランドへ向かうべくエンジン直結で奪取した
ジャノメでこの飛行船を脱出するついでに、飛行船に残っている全員を早苗
さんの道連れで遭難失格させるために、全てのパラシュートをルール上にて
『破壊』したのでしょう……飛行甲板の飛行メカニックは全て、飛び去るか
使用不能になってしまっておりますし、恐らくはあの各坐したVTOL機の
非常用パラシュート『破壊』されてしまっている事でしょう……」

「でっでも……下へ通信連絡を取って、本島で待機中の父兄スタッフさんに
別の飛行メカニックで迎えに来て貰うとか…」
 香里の提案にも、ひかりは残念そうに首を振る。
「父兄スタッフ及びゲスト警備兵共用の飛行メカニックは…あのジャノメと
艦長専用ジェットヘリコプター、各座しているVTOL機を除くと…残りは
ホテル屋上で貴方達もご覧になった520N・ローターヘリだけなの…」

「何と!…今になって己の行為が己の首を絞めようとは…」
 頭を抱える雄蔵。

「あとは、セキュリティスタッフのHMX−14・フレアさんの救急搬送用
ヘリコプターがございますが…」
「確か、アレって…失格者を運ぶためのヘリなのですよね…」
 初日観戦者のシュンが、オチを悟ってひかりの言葉をつなげてしまった。

「ところで、氷上さんはどうやってこの飛行船へ?」
「ミュージィさんの召喚・転移魔法なんです、美坂さん…」
「だが、もしかしたら…この飛行船の何処かに、古河殿でも気付かなかった
見付けられなかった隠しパラシュートが未だ、存在している可能性も…」

「!…一つだけ、ごさいました…」
 雄蔵の言葉に、ひかりが思い出したかのようにポンと手を叩いて、三人を
自分の客間へと案内し、招き入れた。




「「「これは…」」」
「はい、私の支給衣装のオプションパーツです」

 客間にてひかりが三人の前へと取り出して見せたパラシュートは、彼女に
支給されたベイダースーツのオプションパーツの物であった。

「でも、これだけでは…ここにいる全員の脱出は…」
「ええ、そうね…」
 香里の言葉に頷くひかり。
「それでも、フル武装・フル装備の私を安全に降下させられるだけの耐久力
設計はなされている筈ですから…一人目が着用して、二人目が一人目にしっ
かりと安全固定されていれば…いいえ、もしも必要最少限の…一人当たり、
小物の一つ二つ位までに携行品を減らせれば、三人目も安全固定して一緒に
降りられる筈よ…勿論、雄蔵さんの体重を考慮しても」

「そ、それでは…ベイダー殿?」
「「誰が…ここに残って遭難失格になるべきだとお思いなのでしょう?」」
 ひかりの次の結論の言葉を待って、思わず息を呑んで尋ねる三人。

 一瞬、間をおいて……ひかりがぽつりと結論を下した。
「私が…代戦士を降板し、ゲーム参加資格を依頼人のシュン君に返還します
……その上で、雄蔵さんと香里さん…そして、正規選手となったシュン君が
このパラシュートで降下すれば…どなたも失格にならなくて済みますわ」

「そ、そんな…駄目ですよ神岸さん!」
 シュンが慌てて反論する。
「それならば…僕が、僕が依頼人の座を降りてベイダーさんに…神岸さんに
正規選手となって頂いて、このお二人と一緒に降りて頂きたいです…実は、
先ほどのビジネスPR作戦に関する情報と共に主催者側から得た(城島司の
記憶であった)情報筋によりますと52番セリオさん・77番藤田浩之さん
・78番保科智子さん・82番マルチさん・94番宮内レミィさんが、今朝
から今現在までの間に脱落されております…ですから、今もしも神岸さんが
このゲームから降板してしまわれたら…父母組のみならず東鳩組も最終決戦
前に全滅という事になってしまうのですよ…!」

353パラレル・ロワイアルその297:2004/09/27(月) 18:51
「…そうでしたか、それは残念な事ですね…ですが、シュンさん…貴方は、
佳乃さんが貴方を探し出すために、他の代戦士依頼人達と一緒に交戦エリア
内へと侵入・探索を始めだした事を、ご存知なのですか?」
「ええっ!?そんな、佳乃が…!?」
 ひかりの言葉に愕然となるシュン。

「もしも貴方が、一人ここに留まる事となってしまったら……佳乃さんは、
川で里村茜さんを探しさ迷う相沢祐一さんと、同じ立場となってしまいます
…『残された者の苦悩を、君は知らないわけじゃないだろう。』と、その時
おっしゃったのは、確か……」

「神岸さん……」
 シュンがひかりに深々と頭を下げる。
「今の今まで…代戦士を請け負って頂いて、本当にありがとうございました
……僕といい佳乃といい、神岸さんから受けたご親切は、例えこのゲームが
終わりましても決して…決して忘れませんから…!」

「ベイダー殿…」
「ベイダーさん…」

「!…あっ、そうでした」
 思い出したかの様にいきなり、雄蔵と香里の方へと向き直るひかり。
「このような事をお願いして宜しいものかと迷いましたが…雄蔵さんと香里
さんが、仲睦まじそうなお二人である事を見込みまして、最後に是非お願い
したい事があるのですが…」

「「あ…」」
 思わず顔を赤らめて、今朝から近付き気味だったお互いの間合いを開いて
しまう雄蔵と香里。
「「そ、それは勿論ベイダー殿(さん)の…しかも、最後のお願いである以上
、我々(私達)でお役に立てる事なら出来る限りの…」」

「あ、あの…僕じゃ、ダメなのでしょうか…?」
「御免なさい、シュン君…もし佳乃さんとご一緒でしたら是非とも、お願い
している所なのですが……それともう一つ御免なさい、シュン君…これから
お二人にお願いする事は、例え誰であろうとも第三者が知ってはいけない事
なのです…一時の間、お部屋を外しては頂けませんでしょうか?」

 涙目のシュンが客間を退出すると、ひかりは更に盗聴盗撮の可能性が限り
なく低いであろう浴室へと雄蔵と香里を招き入れて、扉をロックすると口を
そっと開いた。
「実は、………………………………………………………………………………
……………………………………………………………………………という訳で
こちらのお二方を、私の代わりに貴方達に連れて行って頂きたいのです…」
「各々方、是非ともお願い申す…」
「どうか、お願い申し上げます…」

「…そういう事情ならば断るわけにはいかないな、香里」
「…千年の時を超えた、貴重な体験が出来そうね、雄蔵」




―――その一刻後、パラシュートを装着した立川雄蔵とその両脇に安全固定
された美坂香里と氷上シュンが、二千メートル下の来栖川アイランド本島を
目指して降下を開始した。

【現在の彼等の装備(今回のみ補足)】
立川雄蔵  衣装・学ラン 所持品・扇子二本、ゴムグルカナイフ二本
美坂香里  衣装・オスカルスーツ 所持品・ソフビ製ライトセイバー、
         ベイダーメット用ボイスチェンジャー
氷上シュン 衣装・白衣型オルボ  所持品・ゾリオン(黄色)

*ジュラルミンシールド、吸盤付きボウガン、フェンシングサーベル、
 ベイダースーツ、ステアーAUG、ベネリM3は飛行船内に放置。

【72番・覆面ベイダー 御役御免→72番・氷上シュン 引継参加…
 残り25人(変わらず)】

354パラレル・ロワイアルその298:2004/10/03(日) 21:02
11:50…海水浴場エリア〜水族館エリア間海中

「大灯台広場沖・海底100メートル程ですので、もうしばらくで到着の筈
ですよ、佐祐理さん・舞さん」
「はえ〜それにしても、話の展開と立場の急変が唐突過ぎまして、未だ気持
ちの整理と心の準備が出来ませんですよ〜っ」
「…安心しろ、佐祐理…佐祐理が例えどの様な決心を行ったとしても、私は
必ず、佐祐理の傍に居続けるから…」
「僕もですよ、佐祐理さん……って、舞さんっ、どうして僕の事、睨むんで
すかっっ!?(汗)」
「…お前には、邪念こそは感じられないが、何やら危ない悪寒を感じるのだ
、悪く思うな…」
「それにしても、春原さんから渡されましたこの、緑色と青色のゾリオン…
何だか、水鉄砲を思い出してしまいますね………」
「…な、泣くな佐祐理……春原、お前佐祐理を泣かせた……許さない…」
「そそそ、そんなあああっ!?」

げしっ!!

『ビーッ、防御装置作動しました…残り58HITです』
「ばっさばっさ」


11:51…リバーサイドホテル1階・昼食会会場・テーブルC

「まったく…揃いも揃って、何てザマやねん私ら!!」
「…智子さんの仰る通りです…もしも後六時間程、出撃のタイミングを遅ら
せていれば…」
「最終決戦前の不毛な潰し合いは避けられた筈だっつーのに、うっかり死に
急ぎ過ぎちまったよーだな、俺達」
「先輩達はまだマシな方ですよ、私達なんて…ね、姫川さんっ(涙)」
「…松原さんはまだまだマシな方だと思います…私なんか、本編ネタなので
すよ、最期が…(しくしく)」
「マッタク、みんなだらしがないんだから〜っ、このアタシなんか、自力で
敗者復活戦に勝利したのよっ、アンタ達よりは全然頑張ったんだからねっ」
「はわわ〜っ、志保さんすごいですう〜っ…でも、じゃあどうして志保さん
は今、ここにいらっしゃるんですかあ〜っ?」
「ずるいよ、お母さんっ…あたしに内緒で参加してるなんてっ」


11:52…同じく、昼食会会場・テーブルE

「…由宇さん…」
「にゃあ〜、猪名川さん…」
「スマヘン彩、それに塚ちぃ、ウチ…和樹の力になってやれへんかった…」
「ドンマイですの、由宇さん!…残念ですけれどこれであたし、光岡さんや
御堂さんの戦い方を、バッチリ勉強出来ますですのっ!」
「ごめんなさいっ、重ねてごめんなさい、鈴香さんっ(ぺこぺこぺこぺこ)」
「モモさん、そんなに謝ってばかりですと、正体がバレてしまいますよ……
それにしてもカッコいいなあ、反転はるかちゃん…今度は是非とも、バイク
でツーリングしてみたいなあ…」
「こ、こ、これから、どういった展開に、なるのだなっ?」
「頭脳の20番・戦闘能力の119番・そして魅力と人望の35番…三つ巴
のラスボス椅子取りゲームに、生存者が果たしてどう絡んで行くのかが注目
点となるでござろう…」


11:53…同じく、昼食会会場・テーブルI

「あ、茜…あの飛行船のモニター室で、尻餅をついて絶叫してた奴って…」
「…尋ねたら、嫌です……本編の私が、尚更に情けなく思われてしまいます
から…」
「心配しないで、どんなに茜が情けなくなっても、私はいつも茜のそばに…
(びしっっ)あいた〜」


11:54…リバーサイドホテル15階・第2VIPフロア大部屋

「ええっと、ツモりました……ミドリ一色に四暗刻ですので、親が三万二千
点で、子が一万六千点という事になるのですね♪」
「OH−NOッ!!みどりサン、シャレがキツ過ぎマスッ!!」
「HEY!MR・高倉ッ!アンタのオ嬢サン、さっきからトンデモなさ過ぎ
ルゼッ!!」
「言われるな、ジョージ殿…こっちの『親』も、ワシである事に免じて…」


11:54…リバーサイドホテル1階・救急医療室・診察室

「あ〜〜!医学って難し過ぎる……所詮、南の島にバカンスに来て一生懸命
お勉強しようだなんて事自体が間違っているのよね…やっぱり、バカンスに
来たら遊ぶのが本分というものなのよね〜っ、という訳で…」
「駄目だぞ、マナ君…そもそも、豪華教師陣が集結しているこの機会に是非
…とやって来たのは、マナ君なのだから」
「そういう事、二度目の敗者復活戦はないのだから、心置きなく覚悟を決め
なさいな、おチビちゃん♪」
「もし、エスケープしようとした時は、お仕置きに加えて…(ジャラジャラ)
本当は高子さん用なんですけど…マナちゃんにもなかなか似合いそうねえ、
この首輪♪」
「うう……。超墓穴……(涙)」
「にゃあ(まぁ、がんばりな…じゃ、俺は真琴ン所にいってっからよ)」

355パラレル・ロワイアルその299:2004/10/03(日) 21:04
11:56…同じく、救急医療室・病室玄関及び病室内

「こんにちは、北川君……みんなの優しいお姉さん・柏木千鶴が、お見舞い
及び手作り昼食のデリバリーにやって参りましたわよ……早くここを開けて
下さいな……(メキメキメキメキッ)」
「ちっ、千鶴さんっ…落ち着いて下さいっっ」
「おっ、お姉ちゃんっ…ゲームの上の駆け引きだったんだから、どうか許し
てあげて…」
「……少し、作り過ぎちゃったみたい…彰さん、初音…折角だから、味見を
してみてはくれないかしら…?」
「「(ズザザッ)…えっ、遠慮させて頂きます……さようなら、北川さん……
(ズザザザザッ)」」

「バ…バレてる、バレちまってるっ……七瀬さん&晴香さんのツープラトン
……いや、神奈ちゃんの一撃よりも強大な殺意の拡散波動砲が、ドア一枚の
向こうまでやって来ちまっている……(ブルブルガクガク)」
「アキラメちゃダメよジュン!…急いで天井裏からエスケープするネ!」


11:57…リバーサイドホテル1階・キッチン・食材貯蔵室

「ああ〜っ!いたいた…こら、スフィー!」
「み、みさきさん……」
「あ…けんたろ、どしたの?」
「貴之くんも、どうしたの?」
「ど、どうしたのって…」
「昼食会デザート用の、植物園直送・正真正銘折り紙付きののもぎたて完熟
バナナが全部…」
「全部って言われてもねえ、みさきさん」
「そうだよっ、スフィーちゃんとふたりで、一房ずつしか食べていない…」
「「アンタねえ…木に生っている段階での一房を、一房だと言い張るつもり
なの?(んぎゅううううっ)」」
「あいたたたっ、ごめんよ雪ちゃ〜ん(じたばた)…痛いよおっ、助けてよ、
スフィーちゃ〜んっ!」
「だめだよ、みさきさ〜ん!(ゴキゴキメリメリ)許してよ、結花〜っ!」


11:58…リバーサイドホテル1階・屋外プール・プールサイド

「知らなかったわ、ここでも食事が取れるなんて…って、何も昼食会ブッチ
する程、恥ずかしがる事でもないと思うんだけど?」
「…充分過ぎる程恥ずかしい出来事だよ、郁未……(涙)」
「あのさ……どうしても嫌だって、いうんなら私……だって、貴方にマジで
逃げられちゃったら…」
「…何、馬鹿な事言ってんだい?……今回のみ100%って事らしいから、
こうなっちゃったらしいけど、通常での君と僕との間での受胎率は0.01
%未満らしい事が、医療室での調査で判明したんだよ…それでも、君は……
(どげしっっ!!)…痛い(泣)」
「何トンでもないカン違いしてるのよっっ!!(怒)……私が言ってるのは、
できちゃった入籍の話よっっ!!(怒)……幾ら、貴方への愛の為だからって
、私にも絶対に殺せない相手だって存在するのよっっ!!(噴)」
「ゴメン…今のは、完全に僕が間違っていたよ…」

「……できちゃった入籍……流石は郁未さん、進んでんなー……(がぼっ!)
うおおおおっ!?またしても一斗缶があああっ!?」
「七瀬さんからの餞別よ(怒)……浩平がまた、ばかばか星人になったらもう
一回、これで懲らしめたらいいよって…(怒)」
「ゴメン、許して、もう馬鹿言わねえからっ……それに、例えスクール水着
でも…もう俺には、瑞佳しかいないんだからっ…」
「な…(赤面)何言ってんのよっ、いきなりもうっ…浩平のばかっ、ばかばか
星人っ…(ベコンッ!)」
「「あ…!」」


11:59…本島上空二千メートル・飛行船内・休憩室

「早苗さん、もうそろそろ泣くのはお止めになってはどうかと思うのですが…」
「しくしくしく、ひかりさん……私は、私は所詮…このゲームでは、秋生さ
んのお荷物に過ぎない存在だったのですねーーっ!!……しくしくしくしく
しくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしく…」
(困りましたわねぇ……そうですわ、いい考えを思いつきました!)

「大丈夫。
 お母さんはもう早苗を泣かせたりしないから。
 だから笑ってちょうだい。
 お母さん、早苗がそうして笑っていられるのが一番の幸せだから。
 もう大丈夫。
 大丈夫だから。
 ―――早苗。
 ―――サ苗。
 ―――さなえ。…」

「(ぶるぶるがくがく)ひっ、ひかりさんっ…ごっ、ごめんなさいっ…私はもう
大丈夫ですっ…大丈夫ですからっ、もう泣いたりしませんからっっ」
「…………効果絶大ですねえ、秋子さん♪」

356パラレル・ロワイアルその300:2004/10/03(日) 22:19
12:00…来栖川アイランド放送管制室

「戦場二日目の午後、テメェ等いかがお過ごしでやがりましょうかっ!?
五回目の定時放送の時刻がやってきやがったぞぉっ!!

 まずは、お約束の脱落者発表からだっっ!!
 新規参加者も加えて発表してやるぞっっ!!

003番・天沢郁未・爆死っっ!!
006番・石原麗子・水死っっ!!
007番・猪名川由宇・撲殺っっ!!
014番・折原浩平・感電死っっ!!
021番・柏木初音・爆死っっ!!
048番・少年・ショック死っっ!!
052番・セリオ・斬殺っっ!!
065番・長森瑞佳・爆死っっ!!
068番・七瀬彰・爆死っっ!!
077番・藤田浩之・撲殺っっ!!
078番・保科智子・爆死っっ!!
082番・マルチ・メルトダウンっっ!!
084番・御影すばる・銃殺っっ!!
086番・ぴろ・感電死っっ!!
088番・観月マナ・銃殺っっ!!
094番・宮内レミィ・射殺っっ!!
120番・古川早苗・ドメスティックバイオレンスっっ!!
121番・G.N・憤死っっ!!

 以上、18名だっっ!!
 続いて、残り二割近くになっちまったから生存者発表も行ってやるぞおっっ!!

『今度こそ信じ切りなっ、今度こそその手を放すんじゃあねえぞっ!』
005番・華音・天野美汐っっ!!

『勝って南国リゾート天国かっ?敗れてホテルで原稿地獄かっ?どこまでも
二人三脚だあっ!』
011番・こみパ・大庭詠美っっ!!

『説明無用、戦場最強なのは当たり前っっ!!』
015番代戦士・誰彼・光岡悟っっ!!

『トンデモナイぞっ、本編不参加なのにラスボス候補筆頭だあっっ!!』
020番・月・覆面ゼロっっ!!

『本編の義理を通すか?今現在の義理を通すか?運命の二択はすぐそこだっっ!!』
024番・大気・謎の代戦士っっ!!

『超マイペース娘の、超マイペース反転だあっっ!!』
026番・WA・河島はるかっっ!!

『右手に剣を、左手に奇跡を!上に“戦”と付くけれど、コイツだって立派な天使だ!』
027番・華音・川澄舞っっ!!

『マスター・オブ・サイドガーデンの秘技が、今度こそベールを脱ぐのか!?』
031番・大気・謎の代戦士っっ!!

『主催出身のヒロインとなるのか?ホームグラウンドのラスボスとなるのか?』
035番・華音・倉田佐祐理っっ!!

『自由を勝ち取るために、唯一人川から戻ってきた男…しかし敵は強大過ぎるぞ!』
053番・こみパ・千堂和樹っっ!!

『補完パワーでどこまで突き進むのか?破壊スコアなら文句なしにトップだ!』
056番代戦士・こみパ・立川雄蔵っっ!!

『スコアこそゼロだが、本編超大物二名の脱落に大きく貢献してやがるぞおっ』
061番・大気・謎の代戦士っっ!!

357パラレル・ロワイアルその301:2004/10/03(日) 22:21
『本編短命タッグ合流なるかっ!?…パートナーは現在、暴走反転中だっ!!』
062番・大気・遠野美凪っっ!!

『男なら今度こそ、電波の力でない幸せな夢を見せてやりやがれっ!』
064番・雫・長瀬祐介っっ!!

『今度は何をしてくれるんだっ!?オメーがいなけりゃロワじゃないっ!』
069番・一・七瀬留美っっ!!

『代戦士様お疲れ様っ、二日目は私自らが出るっ!』
072番・一・氷上シュンっっ!!

『何気に相棒の窮地を二度も救っていたりするぞっ、やらせはせん!やられはせんぞっ!』
085番・華音・美坂香里っっ!!

『まだスコアがゼロなのが残念だっ、マナの分まで宝刀を振るって欲しいぞっ』
087番・大気・みちるっっ!!

『そろそろ何かやってくれっ!アンタが燃えなきゃロワじゃねえっ!』
089番・誰彼・御堂っっ!!

『原稿は私が描かせる!逃げる者は追い続け、邪魔する者は排除するのみ!』
095番・こみパ・澤田真紀子っっ!!

『本編早期脱落の汚名返上なるかっ!?エルクゥ最期の希望』
098番・痕・柳川裕也っっ!!

『現在、両手にお荷物状態…しかし、読者様は誰よりもテメエが羨ましいのは間違いなしっ』
110番・華音(仮)・高野っっ!!

『護りたいから参戦したっ、データは一切不明だっ』
117番・大気(仮)・匿名希望っっ!!

『本人のみが許される、超インチキ装備を引っ提げての新規参戦だぁっ!』
118番・蔵等・春原陽平っっ!!

『最初の犠牲者は何とカミサンだアッ!!本編の里村茜よりも気合入っているゾォッ!!』
119番・蔵等・古河秋生っっ!!

 以上、25名だっっ!!
 次に、生き残り組のスコアの方だが、

6人頃してんのが一名、4人頃してんのが二名、3人頃してんのが四名、
2人頃してんのが二名、一人頃してんのが七名といった所だっっ!!

 …何やら、新規発見されちまった隠しステージを巡って、ゲーム主催の
お偉方達が水面下でもめちまってるようだが、んな事ぁ、テメェ等にゃあ
今ンとこ関係ねーよーだし、特に気にしねえでラストに向けてどしどしと
頃しあってくんなッ、ンじゃあ次の放送までアバヨッッ!!」

358パラレル・ロワイアルその302:2004/10/10(日) 20:36
「…空から随分と派手な御登場の仕方ですね、ルミラさん」
「…地下から随分と派手な出で立ちでのお出ましですこと、柳川さん」

 大灯台広場・フードスタンド…眼下に見えるテニスーコートの上で黒煙を
噴き出しつつ不時着しているジェットヘリに向かって消火剤を散布している
、HMX−14・カノンが操縦している化学消防エレカの姿を見やりながら
、昼食の300グラムステーキとガーリックライスを食べているのは、特殊
繊維製海パン一枚の98番・柳川裕也…そして、そのテーブルの向かいにて
頬杖をつきながら食事中の柳川に悪戯っぽい眼差しを向け続けているのは、
先程二千メートル上空より降下(?)を完了した、ゲスト傭兵最後の生き残り
ことルミラ・ディ・デュラル。

「定時放送の生存者発表・ネタバレキャッチフレーズと君がG.Nから得た
依頼情報を照らし合わせた結果、導き出された現在状況は……」
「倉蔵連合軍VSゲーム勝ち残り組…つい先程、ゲスト傭兵としてのパトロ
ンが、脱落してしまったG.Nから来栖川翁にバトンタッチされちゃったわ
…重ねて、ショップ屋ねーちゃん代行の分を含めたゲスト傭兵最後の四人の
情報提供と、倉蔵からゲームの勝者を出さないで欲しいとの依頼更新をされ
ちゃたばかりなの…」
「内3人は察しが付く…思い当たる節で異界の門を開けられる存在は最早、
ガディム神以外には存在しない筈だからな…だが、最後の一人は一体誰だと
いうのだ…?」
「ミュージィさんが『殉職』直前に召喚完了した、更にもう一人の長瀬一族
…」
「!?…Routes・天師走・鳩Ⅱ組は今回完全不参加だと聞いていたぞ
…何故、源二郎さんが…?」
「そっちじゃないわ、もう一人の“ゲンジ”さんよ……詳しい過去経緯は、
源之助さんのみが知るらしいのだけれど…」
「長瀬一族は三界に跨っていやがるのか…全く、とんでもない組織力だな…
とはいえ、こうまでに双方の魂胆が見え透いてくると、気の毒過ぎてとても
ツッコめないな…さりとて、20番にだけは私的にもケジメを付けてやりた
い所があるし、今の所は来栖川・長瀬組との利害関係は一致しているな…」
「それにしても、私とした事が早まった事しちゃったわね〜、こういう事情
だと最初からわかっていれば、私だってミュージィさんを『殉職』なんかは
させなかった所なのに…」
「まあ、やってしまった事を今更言ってもしょうがない…それに、倉蔵には
戦力的に大きな問題がある筈だから、更なる新規援軍の見込みがなくとも、
何とかなるんじゃないかと思っているのだが」
「戦力的大問題?」
「わかっている限り、倉蔵連合軍側には能力者は27番一人しかいない筈…
元より、鍵組は月組を除けば能力者は極めて少ない傾向だからな…」
「でももし、倉蔵がその問題点を克服出来る対策を立てていたとしたら…」
「有り得るな〜…あの20番が、お約束の能力結界を今更使ってくる事は、
まず恐らくはないだろうとは思ってはいるのだが……」




 その頃、倉田アイランド“MINMES”エリア内・マザーコンピュータ
ーステーションビル最上階の総合指令端末室では…

「おおぉい、塚北ぁっ、たった今潜水艦ドックの方に、合衆国原潜“アヴ・
カムゥ”が入港して来たぞおおっ」
「そうかぁっ、報告ご苦労様だぁS・Fぅっ(なかなか俺様に似た、ナイス
な擬似人格パターンだなぁ)」
 ご機嫌上々で席を移動し、TV電話の回線を“アヴ・カムゥ”艦橋部へと
接続しているのは、20番・覆面ゼロ。

「やれやれ…幾ら古河司令及び春原兄妹への義理立てとはいえ、私を葉組へ
の不義者にでもする積もりなのかな、貴公等は…」
 電話のモニターに映っている“アヴ・カムゥ”の艦橋艦長席にて、不機嫌
そうに頬杖をつきつつ腰を下ろしているのは、118番・依頼人のハクオロ
その人である。

359パラレル・ロワイアルその304:2004/10/10(日) 20:37
「これはこれはようこそ倉田アイランドへ、ハクオロ殿ぉ…古河氏を代弁し
て特務機関CLANNADへの『対能力者猟兵部隊』の御提供、誠に感謝を
させて頂きますぞぉ」
「その件なのだが……貴公も存じておろうが、途中で邪魔が入ってしまった
……それ故、六名しかそちらへ派遣する事が出来なくなってしまった事を、
最初に詫びさせて貰おう」
「…あの最後のゲスト傭兵の仕業かぁ…当の本人は、自分たちの首を絞めた
だけの結果だと思い込んでいる様だが、我々にとってはとんだアクシデント
になっちまった様だなぁ…折角、ハクオロ殿に骨を折って貰ってミュージィ
殿をもこちら側へと引き込み、これで我事万事安泰と思っておった所だった
んだがなぁ…」
「残念ながらウルトリィの法術のレベルでは、再びこちらの世界への新規乱
入者のための扉を開くには、ゲーム終了もいいところの時間が必要となって
しまう……済まないが、派遣出来た六名だけで何とか、勝ち残りの能力者の
お相手をして頂きたい」
「まぁ、しょうがないだろぉ…元々、条件的にはココで戦う以上、我々側の
圧倒的な有利の筈だ…六名だけでもま、何とかなるだろぉ…では早速だが、
その六名の方々にそれぞれ御相手して頂きたい、勝ち残り能力者の中の要注
意リストのメンバーなのだがぁ……」




 再び、大灯台広場・フードスタンド

「それじゃ、早速参りましょうか、ルミラさん」
 空になった昼食のトレイを戻しながら柳川はそういうと、フードスタンド
のテニスコートがある側とは反対のフェンスを飛び越え、海岸のある岩場へ
とウォームアップしながらゆっくりと歩を進めて行った。

「あっ…ちょ、ちょっと待ってよ!」
 慌ててその後を追うルミラ。
「参りましょうかって…何処へ行く積もりなのよ、柳川さん!?」

「何処へ行くって…そりゃあ、君が言っていた倉田アイランドへ顔を出しに
行くのに決まってるじゃあないか?」
 振り返り平然と答える柳川。

360パラレル・ロワイアルその305:2004/10/10(日) 20:38
「顔を出しに行くって……ま、まさか貴方っ!?」
「…付いて来るのなら、防護魔法でも自分に掛けてから、しっかりと背中に
摑まっててくれ」
「貴方正気なの!?…倉田アイランドは1キロ沖の水深100メートル地点
にあるのよ…例え、沖まで泳ぎ着けたとしても、それから先……」
「別段、驚く程でもあるまい……岩切やギネス記録保持者、某最凶死刑囚も
この程度の事はやってのけれたのだし」
「…わかったわ、じゃあお願い……だとしても、こんな真似をしようとする
エルクゥは、貴方が最初で最後でしょうけど…(ギュウウッ……プスッ!)」
「あ、あの、ルミラさん…飛び込むと同時に鬼化を行いますので、出来れば
爪を立てるのはそれまで、我慢して頂きたいのですが…」
「爪なんか立てていないわ……只のお昼ご飯よ♪(ちうちう)」
「知りませんよ、海中でガス欠になってしまっても…(怒)」
「大丈夫よ、少なくとも私は不死身だし♪」




 そして再び、倉田アイランド(以下略)の方では…

「……という事で、宜しくお願いしますよぉ、ハクオロ殿ぉ…それと、もし
思い直して貴方御自身も七人目の隊員で御参加なさりたいと望まれましたら
、何時でも受け付けておりますのでこちらへ御連絡下さいなぁ、じゃあ…」
 TV電話を切り、上機嫌で腰を下ろしている椅子をくるくると回していた
ゼロは、ふと新規ゲスト警備兵・CLANNAD正規メンバー組の現在配備
状況を確認したくなり、再びTV電話の受話器へと手を伸ばした…その時。

ピロロロロロロロロ……ピロロロロロロロロ……

 ゼロとの対話を望む、何者からかの通話がTV電話へと届いて来た。

 ゼロは受話器を取った。
「はいはい、こちらは20番だぁ」




 おまけ…その頃、リバーサイドホテル2階・フィットネスクラブ内にある
マッサージルームでは、上半身裸になった長瀬源之助・源一郎・源三郎・
源四郎・源五郎・フランク…更にはビキニ水着着用の来栖川綾香が一列に
マッサージ・ベッドにうつ伏せで横たわり、そのそれぞれの背中に乗せた
幾つものもぐさの山に、来栖川芹香が手に持った線香で点火を行う度に、
(源四郎とフランク以外)一斉に悲鳴を上げていた。

「(ジリジリ…)おおお、おゆるしををををををッッ!!」
「(ジリジリ…)…お灸は煙草灸だけでご勘弁頂きたくううううッ!!」
「(ジリジリ…)な、な、七瀬ツープラトンの方がまだマシだああああッッ!!」
「(ジリジリ…)…………お嬢様、是非もう一山、この辺りにくべては頂けませぬかな?」
「(ジリジリ…)ととと、父さん、余計な事はおっしゃらないでええええッッ!!」
「(ジリジリ…)…………熱い…………」

「…来栖川翁よりのお言葉です…この不祥事を起こした現況はお主達にある
、身を謹しみ甘んじてこのペナルティを受けるように…との事です」

「(ジリジリ…)ちょ…ちょっとセリオ!それに姉さんんんんッ!!何で私までお仕置き
されなくちゃならないのよおおおおおおッ!?」
「……綾香お嬢様は、敗者復活戦に見事敗北した罰であるとの、翁よりのお言葉です…」
「…………(こくこく)」
「(ジリジリ…)そそそ、そんなああああッ!?私、頑張ったのよおおおおッ!!」

「…人間ハ何カト、責任問題ガ大変ソウデスネ」
「ソノ様デスネ…」
「まったくじゃな…」

361パラレル・ロワイアルその(今度こそ)305:2004/10/13(水) 20:16
「「「ごちそうさまでした(なのじゃ)」」」
「「いんや(いえいえ)、お粗末様(でした)」」

 海水浴場エリア沖に停泊中の豪華客船“蒼紫”内キッチンでは、調理人・
高野とアシスタント・天野美汐による昼食会が丁度終わり、会合のテーマが
次なるもの―――上陸用舟艇よりここへの突入を敢行した倉田佐祐理救出班
が艦橋にて発見した、三通の置き手紙とその内容―――へと移行している所
であった。

「一通目が先行突入時の詳細及び現在の立場を綴ったみたらしの詫び状で、
二通目が定時放送で言ってた海底ドーム・倉田アイランドの姫君・たこさん
ウインナーの招待状、そして三通目が特務機関CLANNADのいじめて君
・春原陽平の挑戦状か……ご丁寧に、金の地下鉄道フリーチケットまで添え
付けてありやがるぜ」
 開いた三通の手紙を他の四名に読み易いように反対向きにして広げた後、
煙草を銜えてジッポライターに点火するのは110番・高野…と、ライター
の火が一点集中の突風―――空気の塊とも呼ぶべきか―――により、いきな
り掻き消された。

「駄目なのじゃコウヤ、何時の世も台所と食事場は禁煙なのじゃっ」
 スクール水着姿(よくよく考えてみたら、絵にも描けない萌え姿なのかも)
で翳した指を突き付けて、諭すように高野を睨み付けているのは、61番・
代戦士の神奈備命。

「うぐう、神奈さんの言うとおりだよ、おじさんっ」
 手紙そっちのけで食後のデザートと格闘しながら神奈に相槌を打っている
のは、61番・依頼人の月宮あゆ。

「恐らく…その金のフリーチケットは本来、春原さんが倉田さんを救出した
後、倉田アイランドへ移動するための手段として持参していたのではないで
しょうか?……あ、そんなに慌てなくてもいいよ美汐、後片付けは後で皆で
やればいいんだから…」
 高野へと意見を返しながらも、大事な人への労わりを欠かさないでいるの
は、64番の長瀬祐介。

「成る程です、祐介。川澄先輩の使用していた潜水機能付水上バイクを利用
出来るのでしたら、春原さんにとってはフリーチケットは最早、必要のない
物の筈ですよね」
 後片付けの手を止めて、そのままちゃっかりと祐介の隣へと腰を下ろしな
がら相槌を打っているのは、5番の天野美汐。

「…にしてもだ」
 食後の一服をお預けされて不満そうに頭を掻きながら、更に意見を求める
高野。
「何故連中、俺達を同志に勧誘・懐柔しようともせず、最初からライバルと
割り切って別れちまったのかなー…例え決裂したからって、いきなり戦闘と
ならなきゃならない訳でもあるまいし…」

「…恐らくは、僕のせいでしょう」
 祐介がポツリと口を開く。

「成る程な…一族への忠誠とか義務感とかは二の次に置いといても、お前も
紛う事なき長瀬一族の御曹司……如何なる事情があろうとも、倉田に組する
行為は色々、面倒な事になりそうだしなあ」

「それに、舞殿は余の心情も察してくれたのであろうぞ…」
 祐介に続いて神奈も、静かに口を開いた。

「確かに…お前も如何なる事情があろうとも、主催者に組する行為が出来な
い立場だったよなあ……二人とも済まない、もっとよく考えてから口に出す
べき質問だった」

「うぐぅ…それで結局どうするの、これから?」
「…やっぱり、行くべき所へ行かなければならないのでしょうか…?」

「そうだな」
 あゆと美汐の質問に、高野はあっさりと肯定の返事をした。

362パラレル・ロワイアルその306:2004/10/13(水) 20:17
「たこさんウインナーが家の名に殉ずる決意をし、みたらしがたこさんウイ
ンナーに殉ずる決意をしちまった以上、味方してやれない俺達に出来る事と
いったら、その結末を見届けてやる事位なんじゃあないのか?」
「だがコウヤ、お主自身はどうなのじゃ?……お主はそもそも、主催者側の
存在だったのではないのか?」
「ふーん…砂浜で誰かさんと契約をしたばかりだと思っていたが…それでも
構わないと神奈がいうのなら、俺は遠慮なく主催者側に…」
「(んぎゅうううっ)わ、悪かったっ、今のは完全に余の愚問じゃったコウヤ
っ、だから…だから余の元を二度と離れ様とするでないっ(んぎゅぎゅっ)」

「うぐうっ、神奈さんっ!」
「どうしたのじゃ、あゆ?」
「そんな力いっぱい口と首にしがみついてたら、おじさんと本当にお別れに
なっちゃうよおぉっ!」
「おおっ、余とした事が……危うくコウヤをもう一度、手に掛けてしまう所
じゃった…済まない、許して欲しいのじゃコウヤっ(ぽろぽろぽろぽろっ)」
「多寡が一分や二分の窒息で倒れる軍人はいねーって、だから泣くなっ!」

「あのさ、美汐…僕、僕は…」
「…ええ、解っておりますよ、祐介…倉田先輩が決意されている以上、祐介
が決意しない訳には参りませんですし、それならば私も…川澄先輩と同じ道
を歩む決意をさせて頂くまででありますから…」
「有難う、美汐…」
「ううん、祐介…」

「…兎も角、何とか全員結論は纏まったみたいだな…じゃあ各々、軽く食休
みをとったら乗って来た舟艇で水族館まで移動し(海水浴場の駅が破壊され
ているのは船内モニター室で確認済み)、そこの駅から地下鉄道で倉田アイ
ランドへとお邪魔するぞ……ってオイ、聞いてんのかお前等!…特にそこの
御曹司と甘野っ!何二人だけの世界でちゅーしてんだコラッ!そーゆー事は
せめて、お子様供が見てない場所でしろッ!」
「うぐうっ、お子様なんてひどいよおじさんっ(怒)」
「どうしても余に、もう一度手に掛けて貰いたい様じゃな、コウヤ…(怒)」
「わああ、止めろ神奈っ、何時の世も台所と食事場は能力厳禁だあっ!!」

363パラレル・ロワイアルその307:2004/10/13(水) 21:08
 一方、今再びの大灯台広場・フードスタンドには、新たなる団体客が到着
しようとしていた。

「…結局、潜水メカニックは見付からずじまい…本編で晴香と一緒に探した
時の様には、上手く行かなかったわねー」
「見付かったのが回天だけじゃあしゃーねーわな…予定通り、ここで昼飯を
済ませたら二手に分かれる事にしよーぜ」
 先頭を歩くのは、竹刀を肩に掛けた69番・七瀬留美と、M60マシンガ
ンを引っ提げた89番・御堂。

「でもオッサン、さっきの定時放送の話だと…」
「ああ、確かにすばるはやられちまったらしいな、それに由宇も…おまけに
、安宅や本編蝉丸キラーの坊主までやられちまうとはなぁ…」
 思わず溜め息をついてしまう御堂。
「だが、恐らくはすばるや由宇が、その身を挺して護り抜いたのだろうな…
11番の詠美と53番の和樹はまだやられちゃいない…もしかしたら、奴等
が逃走手段として銀のちけっとをすばるから受け取っている可能性がなきに
しもあらずって事だ…」

「……あれは…」
「ねえ美凪ーっ、ヘリコプターが不時着してるよーっ」
「…飛べないヘリに、意味はあるんでしょうか」
「……おっしゃると思いましたわ(汗)……それよりも、操縦者は一体?……
御堂さんが発見出来ていないという事は、このレーダーが示す通り既に立ち
去ってしまったという事なのでしょうか……?」
 続いて歩いているのは、腿の鉄扇に加えて肩提げのステアーTMPと左手
に持つ人物探知機が新装備となった117番・匿名希望と、ウェザビーを背
中に日傘代わりのワンタッチ傘を差している62番・遠野美凪、茶色のゾリ
オンを(美凪が即席裁縫で作った)腰のホルスターに提げている87番・みち
るの三人。

「ぴこ(学ランの兄ちゃんにメイドロボの姉ちゃん二人…それに、関西弁の
姉ちゃんまでやっつけられちまったのか…幸い、本編おなじみの姉ちゃんと
本編初対面のカップルさんはまだ元気に頑張ってるよーだが…不安だぜ)」
 そして、しんがりを歩いているのは、31番・代戦士のポテト。

 と、その時である。

「!……新たなライバルを発見したわ!…仮眠室棟より二名、こちらへ接近
してくるわ…!」
 匿名希望が、手にした人物探知機に現れた新たな二つの光点に気付いて、
皆へと注意を呼び掛けた。

 たちまちの内に、五人と一匹によるフォーメーションが組まれる…御堂と
匿名がそれぞれM60とステアーを手に前衛に立ち、七瀬とみちるがそれぞ
れ銀玉鉄砲とゾリオンを手に美凪の両側面をカバーする…そして美凪はウェ
ザビーを構えると、匿名の言った仮眠室棟の方角を見やって手早く調整した
狙撃スコープを覗き込んだ……ちなみにポテトはしんがりで後方を監視して
いる。

「…若い男の人と、緑色の髪をした女の人…男の人の得物は、拳銃型のコル
ク銃で、女の人の得物は、デザートイーグルです…」

 美凪の報告に二度目の溜め息をつく御堂。
「オイ匿名…人物を探知した時はまず、光点の番号をチェックしてから俺達
に報告してくんな……それと米問屋、多分そいつ等は俺の知ってる連中だ、
撃つのは待ってくれ」

「じゃあオッサン、ひょっとしてその二人って…」
「……御免なさい御堂さん…おっしゃる通り、光点の番号は011と053
よ…」
「ぴこぴこ(おいおい、しっかりしてくれよ)」
「んにっ、それではみんなでお昼ごはんなのだー」




「!…詠美、あの団体さんは…」
「ああっ、したぼくじゃないのよぉっ!」

 …予告編に背いて大変申し訳ない事ではあるが、三枚のチケットはここに
集まる事となった様である。

364パラレル・ロワイアルその308:2004/10/19(火) 18:52
 やあ、読者君。愛想を尽かさず未だにコイツを読んでてくれてるのかい?
私は26番の河島はるか。今現在、土産物商店街のフードスタンドで十人近
く集まっての昼食会の真っ最中…って、まあ現在状況だけを語ってたら極め
て平凡そのものなんだけど、そこに至るまでの経緯って奴がさあ……まずは
、昼のヨシオの定時放送のちょっと前の話から…そーいや、あの定時放送も
怪しからんよね、何が『超マイペース娘の超マイペース反転だあっっ!!』
よ、大きなお世話なのよ、ったく…あのイカレナマズめ、終いにゃブラウン
管から引き摺り出して、ミシシッピ名物ナマズフライにするわよ、ホント…

 って、ええっと何処まで話したんだっけ?…そうそう、定時放送ちょっと
前の話、おドジ彰とうっかり初兵衛ちゃんが紙火薬地雷で『爆死』しちゃっ
たんで、折角だから遺品を漁らせて貰ってたんだ…結局GET出来たのは、
彰からはガリル・アサルトライフルで、初音ちゃんからは空色のゾリオン…
後は金髪のレディから巻き上げたたんぽ槍とハエタタキ…吸盤銃(南明義→
弥生→詠美→初音)もあったけど、残り弾1発だけだったんで貰うのは止め
といた…ついでに、踏まれ損なった残りの紙火薬地雷も見付けて掘り出そう
かどうかと考えていたその時、アンビリな事件が起こったんだ。

 空から大男がパラシュートで、土産物商店街の方へと降りて来たんだよ…
敵か味方か、はたまた何かのイベントか?…興味を引かれて商店街の方へと
戻ってみると何とその大男…余程体重があるのか、降下速度に勢いがあった
のか、はたまたその両方なのか…着地した仮眠室棟の二階の屋根を突き破っ
ちまったんだよ、メリメリズシーンって感じでね…オイオイデカイの、失格
アナウンスは聞こえて来ないみたいだけど、本当に大丈夫なのか〜?って、
流石に気になっちまったんで、そのまま仮眠室棟へと近付いて行ったんだ。
 そしたら更にもう一つ、アンビリな事態に遭遇しちまったんだよ。

365パラレル・ロワイアルその309:2004/10/19(火) 18:53
 日本刀を携えた帝国軍人さんが、装甲車の屋根に座って御参上…その軍人
さんは私の背負っているガリルを見るなり、彰の事を尋ねて来た。レディに
物を尋ねる時にはまず自己紹介からでしょーが!…って、その時思ったけど
、怒らせたら勝ち目なさそうだから我慢して、南の森で紙火薬地雷踏んじま
ったって教えてやったら、残念そうな顔をしていた。

 それから互いに自己紹介。更に装甲車から降りて来た可愛い面々に思わず
びっくり仰天…全く、近頃のお嬢様達ときたら…ちゃんと免許、持ってんの
かい?…ともかく連れ立って仮眠室棟へ。恐る恐る二階へ上がって、降りて
来た大男をいざ間近に…そこで再びびっくり仰天、パラシュートで降りて来
たのは、実はもう二人おりましたっていう事実。三人乗りとは恐れ入ったね
、それじゃあ屋根を突き破って当たり前だよね…だなんて思っていたらさ、
いきなり歓喜の叫びが背後から…装甲車を運転してた内の一人、私と同じ位
の長さの髪で右手に黄色いバンダナを結んだ女の子が、あっという間に飛び
出して、パラシュートで降りてきた内の一人…白衣を着た少年に抱き付いて
わんわん泣き出し始めちゃって……ま、そっから先はそいつらだけの世界に
なりそうな予感がしたので、取り敢えずシカト…残りのパラシュート組の二
人…学ラン姿の大男と、宝塚にでも出て来そうな出で立ちの姉ちゃん…年下
っぽかったけどまあ、装甲車に乗ってた嬢ちゃん達よりは大人びて見えたか
らこう呼んでもいいでしょう…の方へと視線を向ける。こっちはこっちで、
軍人さんと話をしている…どうやら以前から顔見知りだったようね、この連
中……何やら、72番のコスプレ代戦士が降板した話を聞いて、軍人さんが
残念そうな顔をしていた…確かに、アンタ達にとってはコスプレ仲間が減っ
ちまったら、残念というものでしょうね…ありゃりゃ、オスカルさんも残念
そうな顔に変わってしまったね…あー成る程ね、こっちは妹さんの代戦士が
やっつけられちゃったんだ、そりゃ残念なのも当たり前ね。

 この時になって私は初めて、この場所で戦闘が行われていた事に気が付い
た。あちらこちらに倒れているガードロボット、ひっくり返ったパチスロ台
、散乱してる様々な武器・アイテム…えっ!武器・アイテムっていったら、
お宝の山じゃないのよ、ラッキー♪……てな訳で、軍人さんにトラップ類が
仕掛けられていない事をチェックして貰ってからそれらを回収、揃ってフー
ドスタンドへ民族大移動、そして改めての自己紹介と戦利品の山分け・トレ
ーディングを兼ねた昼食会が始まった…

 と、いう訳で紆余曲折を経て、私達は今を一緒に行動している――――
(…って確か、この台詞って既に二人程使っていなかったかしら…?)

366パラレル・ロワイアルその310:2004/10/20(水) 17:22
「うむ、成る程な……シュン殿、大体の所は理解出来た」
 現在二組目の生き残り組昼食会が行われている土産物商店街フードスタン
ド、うんうんと頷きながら鰻重を口に運んでいるのは15番代戦士の光岡悟
。その隣では15番依頼人の杜若きよみ(原身)が、肝吸いをふうふういいな
がら上品に啜っている。
「未来都市にて未来兵器をお相手になさるのですか…いかな悟さんとおっし
ゃっても…不安です…」

「…って、ゆーよりさ」
 キッチンを借りて自ら作ったBLTサンドに齧り付きながら、前話登場の
26番・河島はるかが、装甲指揮車に乗っていた4人こと、きよみと24番
依頼人の神尾観鈴・31番依頼人の霧島佳乃・56番依頼人の立川郁美の方
を見やって尋ねた。
「アンタ達は、これからどーすんだい?…本来の目的は達成が出来たみたい
なんだけど…?」

「「「「…………」」」」

「私は……出来る事なら、これからもシュンくんと一緒にいたいよお…」
 最初に答えたのは、正規選手となった72番・氷上シュンと供に流しソー
メンを啜っていた佳乃であった。
「シュンくん…正規選手になっちゃったし、それに…降板しちゃったベイダ
ーさんの分まで何かをやり遂げられるまではホテルに戻りたくないってその
気持ち…私も、ベイダーさんにはお世話になったからとてもよくわかる様な
気がするし、だから…」
「佳乃…」

「私は……そろそろ、ホテルの方へ戻ろうかと思っております」
 続いて、海の幸盛り沢山・南海風シーフードサラダを食べ終え、ナプキン
で口を拭きながら郁美が答えた。

「「「「「郁美(ちゃん)(殿)…」」」」」

「今の佳乃さんにはシュンさんがいて下さいます…ですから、今の私はホテ
ルに戻って皆様への情報支援を行わせて頂いた方が、お役に立てるのではな
いかと思っております」
 エヘヘといった感じで、言葉を続ける郁美。

「郁美ちゃん…」
「!…違いますよお、香里さんっ…そんなんじゃあ、ありませんからっ」
「済まない、香里…郁美は昔から、嘘が顔に出てしまうのだ…」
「おっ、お兄ちゃんっ!(怒)」

「悟さん…私、私もやっぱり……」
 更に続いて、口を開いたきよみ…だが、

「…そうか、いつまでもお前の声を聞かせてくれるのか…それは有難いな、
きよみ」
 その言葉は、途中で見事に光岡に遮られてしまった。

「な(赤面)……つ、月代さんですねっ…この様な切り返しを、悟さんに教え
たりなさったのは(怒)……でも、もしもの時は二人一緒に、同じ場所で…と
いうのも悪くはない気が致しますわ、悟さん(にこにこ)」
「き、きよみ…頼むから、そういう考え方をするのだけは……(汗)」

「ど、どうしようかな……」
 最後にポツリと、自信なさげにそう漏らしたのは、ラーメンセットを食べ
終えて、食後のジュースを口に運んでいた観鈴であった。

「「「「「「「観鈴ちん(さん)(ちゃん)(殿)…」」」」」」」
 何となく、気まずい空気が流れる…だが、それは一瞬の間だけであった。

「いてくんないと困るなーっ、私一人だけあぶれモンじゃあ、カッコが悪い
じゃんっ!」
 そう叫んで、後ろから観鈴を抱き締めたのは、言い出しっぺのはるか。

「う…うんっ」
 押されてしまう様に、頷く観鈴……思わず安堵の空気が流れる…しかし、
それも一瞬の間だけであった。

「「「「「「「え…!?」」」」」」」
「ちょ、ちょっとはるかさんっ!?……」
「よろしくね、観鈴ちゃん♪(すりすり)」
「がお…」

「お返事は?(すりすり)」
「が、がお…」
「「「「「「「………(汗)」」」」」」」

「がお〜って、して欲しいのかなあ?(わきわきっ)」
「がおがおがおっ(ふるふるぶんぶんっ)」

「駄目?…しょうがないなー…じゃあ、代わりにお近づきの印という事で、
観鈴ちゃんのジュースで間接キッスう〜〜♪(パッ、ゴキュゴキュゴキュッ)
…………………………………………………………………………………………
…………………………………………………………………………………………
…何?…この、のどに…のどにへばり付くジウスわ…?(ピクピクピクッ)」

「わわわ、やっちゃったよおっ…まるで、在りし日の往人くんだよおっ…」

367パラレル・ロワイアルその311:2004/10/20(水) 18:38
「え〜と、それでは仮眠室棟で得ました戦利品の分配及び、トレーディング
の方にでも参りましょうか」
 はるかが辛くも脱落を免れ、郁美が送迎用エレカで去った時点で、シュン
が一つのテーブルに積まれた戦利品の山を指差して、皆の反応を待った。

「うむ…では、まず誰から順番に選んで持って行くのだ?」
 光岡が質問する。

「第一発見者のはるか殿からでよいのではないか?」
 雄蔵(ちなみに、昼食のメニューは香里と供に骨付きスペアリブ)の言葉に
皆が頷き、まずははるかが、次いで降下の際に装備の大半を上空に放置する
事となったパラシュート組が、そして戦力的に不安な残留依頼人組が、最後
に一番装備を選ぶ必要のなさそうな光岡が選ぶ事となった…更に、トレーデ
ィングが行われた結果…


【現在の彼等の装備(今回のみ補足)】

河島はるか 衣装・私服 所持品・ゾリオン(空色)、ガリル、悪臭手榴弾、
                投擲用ゴムナイフ

氷上シュン 衣装・白衣型オルボ 所持品・ゾリオン(黄色)、グフシールド
                    漢方系頓服薬

立川雄蔵 衣装・学ラン 所持品・ゴムグルカナイフ二本、パイトミーガン
            特製長斧(ヒートホーク+たんぽ槍+ヌンチャク)

美坂香里 衣装・オスカルスーツ 所持品・ライトセイバー、G11、
                    ボイスチェンジャー

神尾観鈴  衣装・私服 所持品・ネコパンチグローブ

霧島佳乃  衣装・私服 所持品・扇子二本

杜若きよみ 衣装・私服 所持品・手拭い、吸盤手裏剣

光岡悟   衣装・軍服 所持品・竹光、ドラグノフ、千人針、粘土ベラ

装甲指揮車内に装備・保管 イングラムM10×2、十字架型マシンガン、
高縮尺人物探知機、強化兵隠蔽装置、参加者裏名簿、菓子パン詰め合わせ

368パラレル・ロワイアルその312:2004/10/20(水) 18:40
「それにしても、随分と大した戦利品だな……仮眠室での戦いに勝利した者
が腕も頭脳もあり、特殊な目的を持った存在なのだと察しが着く」
「同感だな、雄蔵殿」
「「「「「「どうして、そうだと解かるの(ですか)?」」」」」」
「まず第一に、我々が分配した戦利品を不要物として放置した……これは、
勝利者がより強力な装備・戦利品を所有あるいは持ち去ったのだと、解釈す
べき事実であろう…」
「「「「「「成る程ね(です)、雄蔵(さん)」」」」」」
「うむ、次いで第二に参加者名簿が放置されていた…これは、勝利者が名簿
を持ち去らずとも、その内容を把握出来る能力を有してる事を示している」
「「「「「「確かにそうですね、光岡(悟)さん」」」」」」
「そして第三に、これだけ参加者にとっての格好の餌があるのに、罠が全く
仕掛けられてはいない…これは勝利者が我々の脱落を、少なくとも第一には
望んではいないという事だ」
「「「「「「…という事は、一体誰が…?」」」」」」

「流石にそこまでは、今現在の情報では判りかねるな…それよりも、今後の
我々の行動方針なのだが…」
「それなのですが…もしも、皆さんが倉田アイランドへ向かわれる積りなの
でしたら、僕が得た情報の中に、来栖川アイランド〜倉田アイランドの間を
通じている車両用トンネルに関する情報があるのですが」
「それは本当か、シュン殿?」
「ええ光岡さん…ですが、情報そのものは不完全なのです……完全な情報は
城島司が、ファイナルチェイサーとしての任務を達成した時に与えられる事
になっておりましたもので…」
「仕方あるまい…そう簡単に通り抜けられるトンネルならば、わざわざ地下
鉄道網をこのゲームのために開放した意味もないだろうし」
「確かにね、雄蔵……って、雄蔵はもしかして、地下鉄道用トンネルも倉田
アイランドに通じていると考えてるの?」
「来栖川・倉田双方が宣伝しているのだ、施設としての使い勝手やイメージ
を考えれば、通じていて当然だろう香里?」

「た、確かにね…ところで氷上君、そのトンネルがどのエリアに存在するの
かは、わかっているの?」
「残念ながらはっきりとは…ですが、確か倉田アイランドは来栖川アイラン
ドの南西沖1キロに存在している筈ですから……恐らくは、水族館エリアか
大灯台広場エリア……雄蔵さんの言葉をお借りして、施設としての使い勝手
を考えますと…」
「大灯台広場の方が、それっぽい気がするよお、シュンくん」
「よし、ならば早速全員で大灯台広場へ向かおうではないか……どうされた
、はるか殿?」
「…どう考えても、定員オーバーだよね、あの装甲車…」
「むむむ、確かに…私は屋根の上でも全く問題はないのだが、後二人分…」
「!…光岡殿、心配御無用…香里、懐かしいアイテムがあるぞ」
「!…出前用なのが、ちょっぴりムードぶち壊しだけど…あの時を思い出す
わね雄蔵♪」

 かくして、小型装甲指揮車と出前用エレバイクに分乗した八名が、土産物
商店街より大灯台広場を目指して出発した。

369パラレル・ロワイアルその313:2004/10/26(火) 21:27
 リバーサイドホテル地下二階・地下鉄道プラットホームを発車した一両の
貨車牽引車両―――かつて、元121番G・Nの本体が倉田アイランドより
撤退するのに使用した貨物列車の先頭車両―――の操縦席より、社内備え付
けのスタッフ用特殊回線電話(完全非傍聴)の受話器を手にした95番・澤田
真紀子は、もしも『彼』が自分の仕事を首尾良くやりおおせたら多分そこに
いるであろう場所―――倉田アイランド“MINMES”エリア内・マザー
コンピューターステーションビル最上階の総合指令端末室へと、その電話回
線の接続を試みていた。

トルルルルルルルル……トルルルルルルルル……
「はいはい、こちらは20番だぁ」

「…もしもし、研ちゃん?」
「!……これは驚いたなぁ、澤田君かぁ……一体、俺様に何の用だぁ?」
「研ちゃんに是非お願いしたい事が出来たから電話させて貰ったの……先に
言っておくけど、下品なジョークを聞く気分じゃあないから、私……」

「うおお、それはあんまりだあぁ……で、俺様にお願いしたい事って、一体
何だぁ?」
「私の大切な標的に、そちらへと逃げ込まれてしまう可能性が大きくなって
しまったの……だから、私が操縦している車両を倉田アイランドへと通れる
様にして貰いたいのだけど…」

「それは願ってもない事だあぁ、是非とも来てくれ給え澤田君んっ……倉蔵
内応者用の倉田アイランド侵入パスコードは『死の災禍・最下六災』だぁ、
操縦席の端末よりそれを入力すれば、倉田アイランドへと向かうための切り
換えポイントの選択肢が一つ増えている筈だぁ」
「『しのさいか・さいか6さい』ね、協力に感謝するわ、じゃあ…」


「ま…待て!!」
 通話を終え、受話器を耳から離そうとしたその時…真紀子の耳にそれまで
とは違う、聞いた事もない切実な声で更なる通話を求めるゼロの声が届いた

「待ってくれ―――――――――――――――――――――あきこちゃん」




「………………思い出しちゃったのね、研ちゃん……確か、当時の私って、
とても舌足らずで…自分の名前の出だし、どうしてもうまく発音出来なくて
……だから研ちゃん、いつも私のこと、間違った名前でしか呼んでくれなか
ったのよね…」

「だが…だが何故、あ…まきこちゃんは、今もここに……?」
「61番・代戦士さんに聞いてみたら?……もっとも、61番・依頼人さん
の時と違って、夏の山中で腐っちゃった上に、司法解剖に掛けられちゃって
、挙句に荼毘に付されちゃったから…また戻ってくるまでには、それなりの
タイムラグが生じてしまったみたいだったけど…」

「真紀子ちゃん…」
「忙しいから、プライベートな会話は悪いけどここまで…どうしても続きの
お話がしたいのなら、今度は電波の要らない場所にまで出向いて頂けると、
こちらとしても助かるのですけれど?」


「!…わかったああぁぁぁっ、じゃあ倉田アイランドで絶対に遭わせて貰う
ぞおおぉぉぉっ!」

プチッ…ツー・ツー・ツー・ツー・……
 いつも通りの口調に戻ったゼロが、彼の側から通話を切った。




 たとえどんな内容であろうとも、ビジネスライクに手短に…それが澤田流
……てのは建て前なのかもしれない…受話器を置いた直後の真紀子の表情は
それこそある意味、『見られたからには生かして置けない』代物であったの
だから。

370パラレル・ロワイアルその314:2004/10/26(火) 22:23
「あ…あのっ、運転手さん……」
 リバーサイドホテルへと向かう送迎用エレカの後部座席にて、立川郁美は
エレカを運転している燕尾服姿の初老の男性へと、声を掛けた。

「どうしたかの、お嬢ちゃん?」
 運転手はバックミラー越しにその細い視線を郁美へと合わせて尋ね返す。

「どうして…助手席に清掃職員さんの制服が畳んで置いてあるのですか?」
「ん…実は色々と、掛け持ちで仕事を行っておっての」
 ふむふむ、といった感じで郁美の質問に答える運転手。

「あの…失礼かもしれませんが、あまりお忙しいと大変なのではありません
ですか…?」
 運転手の細めで小柄な体格を気にして、再び尋ねてしまう郁美。

「ん…適度に済ませておるから、問題はないがの」
 変わらずふむふむ、といった感じで答える運転手。

 そうこうしている間に送迎用エレカは、リバーサイドホテルへと到着した
……ところが、ホテルの車両用通路の様子が異常に慌しい。片道車線通行を
指示されて敷地内へと進入したエレカの窓からその様子を視認した、郁美の
目が思わず丸くなった。

「なっ!?……何があったのですかっ、一体……!?」
 郁美の目に最初に飛び込んだのは、コンテナ部を大きく傾けて、その中身
を思い切り通路へとぶちまけたのだと思しき、可燃ゴミ搬送用の大型エレカ
…続いて、車両用下り側通路に絨毯の如く撒き散らされた、大量なバナナの
皮、皮、皮…更に、死屍累々とその無残な姿を晒している、玉突きスリップ
でガードレールにめり込んだままの無人四脚戦車や、横転した無人兵員輸送
用エレカ、その中から放り出されたと思しき、横たわったままの何十体もの
廉価版人型ガードロボット…そして最後の極めつけは…ガードレールを突き
破ったと思しき、ホテル南側を流れる川に突っ込んだ一台のエレジープと、
目を回しているずぶ濡れのゲスト警備兵を肩に担いで、濡れ鼠のしかめ面で
ザブザブと川から上がろうとしている、隻眼髭面の大男の姿―――

 それは、来栖川・長瀬組最後の虎の子部隊―――指揮官・ゲンジマル、
案内人・坂神蝉丸【覆】による、来栖川アイランド各エリアの全残存ガード
ロボットを掻き集めて急遽編成された、無人機動部隊“倉田アイランド殴り
込み軍団”の地下一階駐車場よりの出撃直後に訪れた、無残かつあっけない
最期の姿であった…。


「う、運転手さんっ…(汗)」
 その時になって初めて、郁美は清掃職員の制服が畳んで置いてあるエレカ
の助手席のシートの下に、バナナの皮が一枚落ちている事に気が付いた。

「ん…『戦わずして、敵を屈服させる事こそ、善なり』と、孫子も申して
おるでの」
 HMX−14C・コードの指揮する事故復旧部隊とすれ違うエレカの操縦
席にて飄々と答える運転手の後姿に、郁美はとある伝説の人物の噂を思い出
していた。

『…特務機関CLANNADの創設者であり、初代司令でもあった人物……
そして、現在は倉田コーポレーションの非公式の相談役をも務めていると噂
されている、その人物……名前は、確か…』

「到着じゃの…おや、どうしたかの、お嬢ちゃん?」
「(ドキッ)あっ…な、なんでもありませんですっ…どうも、ありがとうござ
いましたっ…(汗)」




 その頃…リバーサイドホテル一階・昼食会会場・テーブルFでは…

「わ、わ、私は悪くないもんっ…何も聞いてないもんっ…ねっ、みさきさんっ…(汗)」
「わ、わ、私も悪くないよおっ…何も見てないよおっ…ねっ、スフィーちゃんっ…(汗)」

371パラレル・ロワイアルその315:2004/10/26(火) 23:01
「ティ…ティリアさん、サラさん……あっ、あれって……(汗)」
「!!…あ〜あ〜、何て事になっちゃってるのよおっ!…(汗)」
「だ〜っ、あの見掛け倒しどもっ……ったく、出だしからこんな調子じゃあ
先が思いやられるよっ…」

 リバーサイドホテル一階・南口玄関前…送迎用エレカより降りた立川郁美
と運転手はそこで、車両用下り側通路にて発生した大惨事の現場を目撃して
頭を抱えている三人連れの女性―――ファイナルチェイサーの脱落を機会に
追加補充された、新規ゲスト傭兵の残り三人と遭遇する事となった。

「あっティリアさん、あの車とこちらの運転手さんって、もしかしたら…」
「あのう、そこの運転手さん…」
「なにかの?」
「お尋ね致しますが、運転手さんはひょっとして、参加者送迎スタッフの方
なのでしょうか…?」
「そうだの」

「助かった!コイツは有難いぜっ……ティリア、エリア、取り敢えずはこの
オッサンに大灯台広場まで運んでもらう事にしよーぜ♪」
「そうだね、サラ」
「オッサンだなんて失礼ですよ、サラさん……あのう、運転手さん…実は
私達、ゲームの新規参入組なのですが、大灯台広場まで私達を運んでは頂け
ませんでしょうか…?」
「いいがの」

「「有難う御座いますっ、宜しくお願いしますっ」」
「あら、ところでこちらのカワイイお嬢ちゃんは、誰なのかしら?」
「もう、サラったら!」
「ティリアに突っ込まれたらおしまいな気がするんだけど、この状況(笑)」
「何ですってえ?(怒)」
「まあまあ、二人とも…」

「初めまして、私56番・代戦士依頼人の立川郁美と申しますっ(ペコリ)」
「こちらこそ初めまして、私は新規ゲスト傭兵のティリア・フレイ、見ての
通り、剣を振りまして如何程の肉弾派さんなの」
「わ〜っ、いかにも勇者様って感じですね〜っ」

「私はエリア・ノースと申します、源之助さんやミュージィさんには流石に
及びませんが、魔法にはそれなりの自身を持たせて頂いております」
「う〜ん、杖ご持参で、なかなか本格的な魔法使いさんとお見受けします」

「アタシはサラ・フリート、ティリアみたいに重たい武器はダメだけれど、
鞭の扱いならそれなりに自信があるし、エリアみたいにレベルの高い魔法は
ダメだけど、あると便利程度の魔法なら十分心得てるわ…どっちもそこそこ
出来ると言ったら、解かりやすいかしら?」
「ん…例えるならば、サマルトリアの王子様といった所なのかの?」




「ああ〜っ、大変っ!サラが腐って、飲みに行っちゃった〜っ!!(汗)……
ちょっとサラ〜っ、早まって棄権しちゃダメ〜〜ッ!!」
「あっ、済みません運転手さんっ、すぐに連れ戻って参りますので…(汗)」
「ん」

『巧みですっ……この運転手さん、とても…とても巧みですっ…(汗)』

372パラレル・ロワイアルその316:2004/11/02(火) 18:49
「ティリアさん、サラさんはエレベーターで上の階へと上って行ったみたい
ですよ」
「わかったわ、多分17階の居酒屋へ行くつもりね…あたし達も後を追うわ
よ、エリア」

 意気消沈して棄権のヤケ酒をあおりに行った新規ゲスト傭兵のサラ・フリ
ートを追う、同じく新規ゲスト傭兵のティリア・フレイとエリア・ノースは
、サラが乗ったと思しきエレベーターを追って降りて来た隣のエレベーター
へとそのまま駆け込むと、17階のボタンを押し、そのまま扉の閉鎖ボタン
を押した。

 たちまち扉が閉まり、上昇を開始するエレベーター。と、エレベーターが
4階・フィットネスクラブのフロア(304話のはNG・2階は大露天風呂
とサウナのフロアでした)で停止し、更なる客が中へと入って来た。
「お急ぎの所ごめんなさい、お邪魔させて頂きますわ」
「いえいえ、用があるのはお互い様ですから」

「あの…何階へ参りますのでしょうか?」
「同じ階で結構ですわよ、エリアさん」
 酒瓢箪をぶら下げて、枷の様な首飾りを付けたその女性客は、エレベータ
ーの奥へと移動しながら、ニッコリとそう答えた。

 再び扉が閉まり、上昇して行くエレベーター。
 ここでエリアはやっと気が付いた。
『…そういえばあのお客さん、どうして私の名前を知ってらっしゃったので
しょう…?』

 尋ねようとして奥へと振り向くエリア。しかし声は出せなかった。
 振り向いたその唇を、唇で塞がれてしまったのだから。
「!!っ…○×△◎□〜〜っ!!(バタバタバタバタ)」




『ビーッ、ゲスト傭兵エリア・ノース、ナースストップにより失格…霧島先
生は直ちに搬送用ベッドを用意して、第4番急行エレベーターまで向かって
下さい』

「エっ、エリアっ!?」
「あらあら……彼女、お酒はあまり強い方ではなかったのですね…ごめんな
さいね、無理矢理飲ませちゃって」
「あなた、何者っ!?」
「特務機関蔵等臨時支援要員もとい、対能力者猟兵・カルラ……短いお付き
合いになりそうですけれど、貴方も宜しくね、ティリアさん」
「くっ、そう易々とは……(ガッ!…ブスッ!!)ああっ、フィルスソード
がっ!?」
「御自慢の剣も、ここで使うのには余りにも長過ぎたようですわね……大事
なお酒をそうそう振舞う訳にも参りませんので、貴方には少々手荒に参らせ
て頂きますわよ…」

 ケタ外れの怪力による卍固めが速攻で決まり、肉が絞られ間接が軋む不快
音が、エレベーター内に楽器の様に響き渡った…………そしてタップの音。

『ビーッ、ゲスト傭兵ティリア・フレイ、ギブアップにより失格…自力移動
不能のため霧島先生は直ちに搬送用ベッドを用意して、第4番急行エレベー
ターまで向かって下さい』




 チーン“17階です…ドアが開きます…”
 17階・VIPルーム用グルメフロアに降り立ったカルラを迎える、不快
顔の女剣士の姿がそこにあった。
「カルラ殿…」
「あなたの方の御首尾はどうでしたか、トウカ?」

「見ての通りだ……某は、酒の臭いを撒き散らせたり、相手の剣を蹴り上げ
て天井に突き立てる様な戦い方など致さぬわ!」
 そうまくし立てるエヴェンクルガの武人…二人目の対能力者猟兵・トウカ
の足元には、新規ゲスト傭兵となり再び戦場への駆け落ちをと目論んでいた
柏木楓…もといエディフェルが、妖刀・無銘を握り締め前世の自分に戻った
柏木耕一…もとい次郎衛門と共に、トウカの峰打ちによって志半ばにして、
哀れにも倒れ伏していた。

「これはお見事…蔵等のみならず、鶴来屋会長からも抜け駆け阻止のご褒美
が期待出来そうですわよ……ところでトウカ、肝心のサラ・フリートさんの
方はどうなさったのですこと…?」
「!!…そっ、某とした事がっ!!」

373パラレル・ロワイアルその317:2004/11/02(火) 20:07
((チュイイイ〜〜ン…ギャギャギャギャギャギャギャ…ギュンッ!!))

((((パチパチパチパチ…))))
「え〜と、それでは皆さん、祐くんと阿部さんの審査の方をお願いします…
あ、私は公平な審査が出来ないかも知れませんのでパスをさせて頂きます」

「芳野さんだからエレキっていうんです」
『スパナなの』
「ごめんねっ、残念だけど貴之くんの負けだよっ」

「……くくうっ(涙)」

 ホテル1階・昼食会会場隅の一角にて、エレキギターの二重奏をしていた
二人の男…の内の一人・阿部貴之は、美坂栞・上月澪・そして川名みさきの
三名から敗北宣言をされ、力なく絨毯の上へと膝を付いて、涙を拭った……
そして、そんな彼の隣に立っているもう一人は…フィニッシュポーズのまま
で立ち尽くしている、エレキを構えた電気工。

「…決して、侮蔑の意味を含めるものではないが…(キュイイン…)長い事
はぐくんで来た愛が…(キュルルルルルル…)昨日始まったばかりの恋に…
(キュキュキュキュキュキュキュ…)そう簡単には敗れたりはしないという
事だな…(キューーーーーーンン…)」
 左手の親指と人差し指第二関節で、目深に被ったヘルメットのつばを持ち
上げ、右手のピックでエレキの弦を擦りつつ、勝利の言葉を語る電気工。

「う〜ん…(ポンッ)そうだ、いい考えを思いついたよっ(ガサゴソッ)」
 電気工の言葉にもしや…と思い付いたみさきは、バッグから音楽鑑賞用の
MDウォークマンを取り出すと、先ほど審査をパスした女性へとおもむろに
差し出した。

「あら、何かしら?(スポッ)……ああ、バッハね…」
「と、いう訳で今の内にもう一度芳野さんに勝負だよ、貴之くん」
「勝負だよって、みさきさん…?」

「うおお、少女よっ…君は何という強烈で残酷な妨害工作をするというのだ
っ……愛する歌を、愛する者に届かない状態で、俺に歌ってくれとは……」
 決めポーズのままで、よよよと号泣する電気工。

「『「…………」』」
「…それでも、届く事を信じて歌う事こそが、愛というものなのではないで
しょうか?芳野さん…」
「!!…届く事を信じて…そうか、そのハートがあったからこそ、阿部君…
君はあれ程までに、フォームとポーズにも拘っていたという事なのか…そう
だよな、この俺とした事が…かつての挫折、試練と障害を乗り越えた安堵が
、いつの間にか俺自身を甘やかしてしまっていた様だな…まあいい、お陰で
俺の愛の叫びはより完璧な物へとまた一歩、近付く事が出来たのだからな…
勝負は引き分けに戻ってしまった様だが…感謝するぞ、恋する青年少女よ」

374パラレル・ロワイアルその318:2004/11/02(火) 20:08
「オ、オーラが…(汗)…いろんな意味で、凄いキャラクターだ、この人…
(汗)…やはり、蔵等は一味違うという事なのか…(汗)」
「でも、お姉さんは普通の方のような気がするよっ」
「ですが、それをおっしゃったら芳野さんも、古河さんよりは普通の方の様
な気が致しますが…」
『きっと結婚したら、個性あふれる旦那様といつまでも若くて素敵な奥様に
パワーアップするの』
 などと、貴之とギャラリー三名が、新作カップルへの勝手な想像を膨らま
せていると…

「祐くん、いよいよ出番が来たみたいよ」
 いつの間にやらMDウォークマンを外し、バイブコールの携帯電話を手に
していた女性が、電気工の方へと呼び掛けた。

「そうか……ならば今日も、愛を語り続けられるよう…俺は戦おう」
 おもむろにエレキギターを下ろすと、代わりにEAW−DCデュアルキャ
ノンをベルト下げする電気工。

「そうだね、祐くん……じゃあ皆さんこれから私達、行って参りますので」

「「『「い…いってらっしゃいまし(なの)」』」」




 再び、ホテル1階・南口玄関前…

「か、可愛いにゃ〜(ぷにぷになでなで)カルラ殿、某…不覚ながら、この
まま萌え死にしてしまいそうだ…」
「オボロとユズハさん以上のギャップでしょう、ユウゾウの妹君は…」
「あ、あの…もしかして、貴方達は…昔、兄が謎の失踪を遂げた時にお世話
になった方達だと、名前を教えてくれました、あの…」
「「ええ、昔…ウルトとカミュ(ウルトリィ殿とカミュ殿)が法術修行を行
った時に起こった事故では、私達の世界へと迷い込ませてしまった貴方の兄
君には、とんでもない迷惑を掛けてしまって…」」

「…狂獣・カルラさんと凶刃・トウカさんですかっ?」
「ユ、ユウゾウ殿…(怒)…なんという、勝手な仇名をっ…(怒)」
「まったくですわ(怒)…せめて、アンチェイン・カルラと魔剣・トウカ位
には、呼んで頂きたいものですわ(怒)…」
「そっちの方で、怒ってらっしゃるのですか…(汗)」

「先生っ、申し訳ありません遅れてしまいまして」
「にゃ〜〜っ」
「ん、では頼みましたぞ、美佐枝さん……待たせましたの、カルラさんに
トウカさん、早速こちらのドライバーに倉田アイランドまで、お送りさせて
頂きますでの」
「ご協力感謝致しますわ…それにしても、なかなか素敵なドライバーさんね
…私、気に入りましたわ」
「うおおっ、郁美殿の次は猫さんと一緒とは…至れり尽くせりとはまさに、
この事だにゃ〜」

375パラレル・ロワイアルその319:2004/11/09(火) 19:33
「この地点の直線上という事なのか、シュン殿?」
「はい、ここから沖の方面へ向けまして幾つもの光点が確認出来ます」

 大灯台広場・巨大灯台前…灯台を海の側より囲んでいるフェンスから沖の
方へと視線を向けているのは光岡悟、そして共有戦利品である高縮尺人物探
知機の来栖川アイランド沖に散らばっている光点を再確認しているのは氷上
シュン。

「現在この地点から沖へ向かって移動している光点は全部で十個…内二つは
間もなく探知エリア外へと消えようとしています……残りの八つも遠からず
探知エリア外へ消えるものと思われます……あと、水族館エリア沖にも五つ
ほどの光点が確認出来ますが、これは逆に沖から本島の方へと移動を行って
おります…」
「移動手段…恐らくは、雄蔵殿の申された地下鉄道か何かであろう…を入手
し、既に倉田アイランドへと先行したライバル達がいるという事か…」

 光岡は巨大灯台の根元…巨大な鉄筋コンクリートで堅牢に固められた土台
の手前側にて、その巨大な扉を閉ざしている鋼鉄製のシャッターをポンポン
と叩いている立川雄蔵の方へと歩み寄って行く。

「先行している連中を急いで追うのか、それとも後続と思しき水族館の連中
を待つのか、さもなくば我々だけで独自に行動を行う事にするのか…?」
「いずれにせよ、まずはこのシャッターを開ける事が出来てからの話だな」


《**パスコードを入力してください**》
「……何かしらコレ」
 美坂香里はシャッター脇で、小首をかしげていた。

《**……か……し……ら……コ……レ……**》
 香里の発言が小さなモニターに流れて行く。そしてまた、最初のパスコー
ド要求画面に戻る。

「…音声認識パスコード…開けゴマ、みたいな…」
 ようやく反転が解けた河島はるかが、とろんとした目つきで腕を組む…
定時放送ネタバレキャッチコピーであらかじめ状況説明されていたお陰か、
本編椎名繭の時の様な混乱は生じていない模様である。


「死の災禍・最下六災!」
 探知機から目を離したシュンが、城島司の記憶の中から引っ張り出した
パスコードを口にした。

《**……ろ……く……さ……い……**》
 しかし、反応はなく再び、最初のパスコード要求画面に戻った。

「ダメか……やっぱり、地下鉄道用と車両用は別のパスコードなのか…」
 がっくりと肩を落とすシュン。

「確か…本編終盤でもこういうのって、ありませんでしたでしょうか…?」
 杜若きよみも興味深げにモニターを覗きにやって来た…と、くるりと神尾
観鈴の方を振り向いて尋ねる。
「観鈴さん…本編の終盤と本作の現在で共通して生き残ってらっしゃる方に
心当たりはありませんでしょうか…?」

「え…えと、う〜ん…」
 きよみにいきなり質問を振られた観鈴が、本作生存者発表時にチェックを
入れた戦利品の参加者裏名簿を片手に、必死に思い出そうと頑張り始めた。

376パラレル・ロワイアルその320:2004/11/09(火) 19:34
『まず、ここの皆さん…光岡さんと雄蔵さんは不参加で……他のみんなは、
一番頑張ったかのりんが何とか4巻……だ、だめだよおっ……後は、え〜と
……カラスさんは連絡手段持ってるはずがないし、第一言葉がわかんないし
……はうっ、まただめだよおっ……じゃあ、じゃあ、え〜と、え〜とっ……
あっ、いたよっ!』
「詠美さんに留美さん、あとは高野さんといった所かなあ…?」
(*…観鈴ちんは、あゆあゆの戦場入りと匿名希望の正体は知らなかった)

「差し当たって七瀬さんを僕で詠美さんを雄蔵さんが、高野さんを美坂さん
がそれぞれ当る事にしましょう」
「うむ」
「わかったわ」
 シュンと香里がそれぞれ携帯電話で、雄蔵が装甲指揮車の社内電話でそれ
ぞれの相手へと通話を試みた……その結果。

「繋がりませんね……まさか、地下鉄道で移動中なのでしょうか…」
「さもありなん……こっちもだ…」
 残念そうに首を振るシュンと雄蔵…一方、香里は高野と通話が繋がった様
である。

「……解りませんか、残念です……え?そちらには美汐ちゃんにあゆちゃん
もいるのですか?…では、あゆちゃんに代わって頂けますでしょうか?」
「もしもし、香里さん?」
「あゆちゃん?実は私達、…………………………………………という状況
なんだけど、あゆちゃんはその時の本編ネタを、覚えていないかしら…?」
「うんっ、覚えてるよ香里さんっ……あの時、詠美さんが元ネタを提供して
千鶴さんが採用して、メイドロボさんが実行したんだよっ」
「じゃあ、教えて貰えないかしらあゆちゃん、その時に使ったパスコードが
何だったか」
「えーとね、確かね…」

 しかし、香里はあゆの言葉を最後まで聞き取る事が出来なかった…その
背後でいきなり。
「きゃああああああ〜〜っ!!」
 黄色い、大きな悲鳴があがったせいで。


「どうしたんです、佳乃っ!?」
 悲鳴をあげてうずくまった霧島佳乃に、血相変えて走り寄るシュン…と、
その目の前をプ〜ン…と羽音を立てて飛び去って行く、一匹の…

「蚊…?」
 唖然とするシュンの前で涙目で頷く佳乃…丁度、左の二の腕にポツリと
赤く腫れている箇所がある。

「…何て大げさな悲鳴をあげるのですか…危うく、もう一度心臓マッサージ
をして貰う所でしたよ、佳乃…」
「ごめんねシュンくん、でもだってえ…あ〜っ、かゆいよかゆいよ…もうま
ったくうっっ!」

《**……か……ゆ……う……ま……**》

バッシュン!!……ギチギチギチギチ…ウィィィィン…キキキキキキ……。

 空圧の変調する音、大型モータの駆動する音が続いて聞こえ、シャッター
扉がゆっくりと開いていった。

「「「「「「「………………」」」」」」」
「…もう一回いうよ香里さんっ、『かゆ』で始まった後に『うま』って続け
ていったら扉が開くんだよっ…わかった?」
「……あゆちゃんの言う通りみたい……ありがとう、あゆちゃん…」

377パラレル・ロワイアルその321:2004/11/09(火) 20:29
「何とか見事、倉田アイランドまでの道がこうして開けた訳なのであるが」
「うむ…果たして我々は、トンネル移動中と思しき先行集団を追うべきなの
か、水族館に到着した頃であろう後続集団を待つべきなのか?…香里、その
まま高野殿に後続集団の面子とか状態とかを教えて貰ってくれ…勿論、我々
側の情報と交換してくれて構わない」

「わかったわ、雄蔵、…………………………………向こうのメンバーは、
高野さんにあゆちゃん、長瀬雄介さんに美汐ちゃんにあと一人、あゆちゃん
の謎の代戦士さんの計五人で、移動手段は上陸用舟艇から地下鉄道へ変わる
所だという事よ…」

 雄蔵と香里がまずお互いに小さく頷き合い、更に観鈴の方をちらりと見て
頷いた後、皆の方を向いて尋ねる。
「どうやら後続組は、倉蔵ではない華音及び雫組で構成された五人で、これ
から地下鉄道を移動手段に使うみたいなの」
「御堂殿・七瀬殿・遠野殿・みちる殿・大庭殿に千堂達は、先行集団の方に
いる様だ…ここは先行集団を追うべきと思うのだが、皆はどう思われる?」

「確かに…後続組との移動手段が違う上に、積極的な合流を行う事情のある
面子が含まれていない事が判った以上、我々としては一刻も早く先行集団に
追い付き、然るべき援護を行うべきであろうと俺も思うが…」
 光岡が答える。
「後続組の戦力状況の方はどうなのだ?……倉蔵側の参加者が全員、倉田ア
イランドにいるとは限るまい、来栖川アイランドにも待機伏兵している可能
性だって充分、考えられる」
「「「「「うんうんっ」」」」」

「うむ、その通りだな……香里、今一度確認を取ってくれ」
「任せて、雄蔵……もしもし、鯛焼き屋さん?…実はもう一つ、確認を取り
たい事があるのですが…そちら側は、援軍を必要としますでしょうか…?」

「ああ、戦力状況の方か…多分問題はないと思うぞ、俺と長瀬の電波御曹司
に加えて、あゆの代戦士が戦力として充分に期待が持てるからな……性格に
多少、問題があるが」

“どういう意味じゃっ!(ぽかっ)”
 携帯電話の向こうから、少女の怒声が香里に届いて来た。

「すまん、違った…反抗期なのが玉に瑕だが」

“余を子ども扱いするなと言うておろうがっ!(ぽかっ)”
 再び、携帯電話の向こうから、少女の怒声が香里に届いて来た。

「重ねて訂正させて貰う…躾がなってないのが欠点だが」

“訂正になっておらぬわっ!(ぽかっ)”
「高野さま。それは聞き捨てなりませぬ」
 今度は高野は、後ろの少女と携帯電話の両方に怒られた。

「このわたくしの躾が間違ってたふうにおっしゃらないでくださいまし」
『やっぱり、そっちに対して怒るのか…』
 香里の隣にいた雄蔵(の中の人)が思わず頭を抱える…しかし、すぐ我に返
ると、香里(の中の人)を肘でそっと小突いて目配せをした。

「!……あ、あの鯛焼き屋さん…さ、さっきの言葉は、その…(どぎまぎ)」
「…すまない、殴られた拍子に電話を落としてしまって、全く聞き取れて
なかったのだが……なんて言ってたんだい、さっき?」
「(ホッ)…ええっと、いえその……戦力的に問題がありませんのでしたら、
私達は一足先に倉田アイランドへ向かわせて頂きますと……」
「わかった、我々も出来る限り先を急ぐ事にするから、最先頭組共々、各個
撃破されかねない様な突入は極力、避ける様にしてくれ……そっちの連中の
健闘を祈る」
「わかりました、そちらもご健闘を…では、失礼させて頂きます…(ピッ)…
ふ〜っ、やれやれですわ」

『はうっ…さっきの香里さん、何だか…私の夢に出てくる女の人にそっくり
だったようっ……』

378パラレル・ロワイアルその322:2004/11/15(月) 20:12
「まあ、御堂さんではありませんか……一体、何十年振りでしょうか…」
「な!?……お、おめえ…」
「戦争前にお別れになって以来、もう二度とお会い出来ないものとばかり、
思っておりましたわ…」
「ま、まさか…お、岡崎……!?」

 倉田アイランド…その来栖川アイランド側から延びて来ている、海底トン
ネルの玄関口に位置しているDREAM(公園・庭園)エリア…古き良き70
年代を彷彿とさせる鉄道駅《*補足…覆面ゼロが250話で降車した駅は、
ここから更に奥へと繋がっている、THE−TOWN(町)エリアである》の
向かいにぽつんと建てられている、今時地方の旅先でもなかなかお目に掛か
れなくなった様な、古びたデザインの木造旅館――――一階が食堂・浴室・
ロビー・土産物屋で二階が客室となっている――――その、倉田アイランド
唯一の交戦禁止エリア・ゲーム用仮眠室棟兼用フードスタンドにて、

 大灯台広場での千堂和樹・大庭詠美との合流および、銀の地下鉄道フリー
チケットの三枚入手に気を良くし、先を急ぐ事にした御堂・七瀬留美・遠野
美凪・みちる・匿名希望・ポテト達一行が、後回しにしていた参加者三組目
の昼食会を今ようやく行わせて貰おうと、万一に備えその先頭となり、磨り
ガラスの引き戸を音もなく開けて、木造旅館内へと一番手で足を踏み入れる
事となった御堂が、

「ようこそ、いらっしゃいまし」
 の声と共に出迎えて来た、老いた女将さんの姿を見るなり、気が遠くなる
程びっくり仰天して腰を抜かす事となったのが、つい先程の出来事だったり
するのであった。


「…で、どうだったんだ岡崎?……今更もいい所になっちまうが、満足な今
現在を迎える事は出来たのか?」
「おかげ様で何とか……離れ離れに暮らしているけれど、息子や孫も立派に
成長しましたし…悔いは残さずに済みそうな今現在を過ごさせて頂いており
ますわよ」
「そいつは良かったな……それを聞いて俺も安心したぜ」

 珍しく饒舌な御堂と女将との会話に同行者の緊張もあっさりと解けた中、
正規参加者三組目の団体昼食会が始まる事となった(ちなみに、献立は女将
手製の海の幸定食…浜鍋・シラス御飯・イカソーメン・鰹のタタキ・最後に
デザートのスイカ)。

「ねえねえ、したぼくって女将さんと知り合いなのお?」
「るせえ、オメーにゃ関係ねえ」
「……『戦争前にお別れになって以来』って、女将さんも言ってたしぃ……
あ〜っ♪コレって、ひょっとするとひょっとしてぇ……」
「オメー、これ以上その無駄口を開きやがったら…(怒)」
「え、詠美……御堂さん、マジで照れ…いや、怒っているぞ…(汗)」
「それって、ちょー変なんじゃない?……今のアタシと和樹みたいに、御堂
のおじさんにだって、古き良き甘酸っぱい青春時代があっても、おかしくは
ないんじゃないの?…隠そうとするからかえって恥ずかしく感じてるんじゃ
ないの?したぼくぅ?」
「〜〜〜っ!!都合のいい時だけ、もっともそうな理屈こねやがって…!」
「お平らになさい、御堂さん」
「!……チッ、二度目は許さねーからな、詠美」
「チではありません、大人げありませんですよ」
「勘弁してくれよぉ、岡崎ぃ……(泣)」

「あの〜、ところで女将さん…」
「はい、何でしょうか七瀬さん?」
「単刀直入にお尋ね致しますが、倉田アイランドに関する資料とか情報とか
は、こちらに置いてありますのでしょうか?」
「良い所にお気付きになられましたね……そちらに関しましては、こちらの
インフォメーション用のDVDを御覧になって下さいな……(パチン)」
「にょわわっ!お店にマッチした古めかしいテレビだと思っていたらっ!」
「…DVD内蔵・しかも液晶画面……凝って、おります…」
「……始まったわ、丁度トンネルを抜けてここの駅に到着した所からね…」
「ぴこ(見せて貰おうか、倉田コーポレーションが提供する戦いの舞台とやらをっ)」

379パラレル・ロワイアルその323:2004/11/15(月) 22:02
「なるほどね。来栖川アイランドの最南西・大灯台広場下を通っている海底
トンネルを私達は潜って来て…」
「ここ、倉田あいらんどの北東部・DREAM(公園・庭園)えりあへと辿り
着いたという訳かよ、オレ達は…」
「え〜と、それで倉田アイランドは計五つのエリアに分かれていて…」
「残りの四つのエリアは…北西部のTHE−TOWN(町)エリアに、南東部
のFOREVER(別荘地)エリア、南西部のMINMES(管理施設・港)
エリアで…そして、中央部のSUMMER(森林・緊急施設)エリアとなって
いるのね、和樹」
「……鉄道(倉田アイランド内では線路は地上敷設)の路線は、ドームの外周
をぐるりと囲むように敷設されていて、SUMMER以外の各エリアに駅は
存在するものの、現在はドームの玄関エリアであるここと来栖川アイランド
を繋ぐ路線を除いて、運行停止状態…」
「…更に、SUMMERエリアは進入禁止エリアに指定されております……
そのため、DREAMエリアからMINMESエリアへは直接通行で向かう
事が事実上、出来なくなっております…」
「ぴこり、ぴこ(交戦禁止指定されていない所が、何だか怪しい所だぜ)」
「くるまのための道は、まん中のエリア以外は全部つながっているんだね」

 DREAMエリア内・木造旅館…昼食会を終え、インフォメーション用の
DVDを観照し終った七瀬・御堂・和樹・詠美・匿名・ポテト・みちる達は
次に、今後の行動指針を決める作戦会議モードへと、そのまま移行する事と
なった。

「まずは、定時放送と裏ぱんふれっとの内容から察するにだ、このげーむの
主催権限を来栖川から乗っ取って、この海底どーむに立て篭もっていやがる
仮称らすぼす候補が合わせて、少なくとも三名いるって事だが…」
「ちょっと待ってよ、したぼく……あの時よっしーがネタバレキャッチコピ
ーで『ラスボス』ってゆー単語を使った生存参加者は、確か二人だけじゃあ
なかったんじゃないのお?」
「はあっ……オメーって、ホントに大馬鹿だよな、詠美」
「何ですってえええっ!?(怒)……チョット、和樹ぃ!うんうん頷いてない
で、可哀想な愛するアタシのために何とか言ってやんなさいよッ!!」

「なあ、詠美…さっきのDVDで、確か倉田アイランドにはガードロボット
が不足している事情から、新規ゲスト警備兵として特務機関CLANNAD
のメンバーが緊急招集・特別配備されてるって、言ってたよな…」
「ふみゅうっ、それがどーしたってゆーのよっ?」
「…詠美さん、それでは質問です…特務機関CLANNADの現在の司令官
は一体、何という名前でしょう…?」

「美凪ちゃん、そんなの同人界のくいーんおぶくいーんの大庭詠美ちゃん様
にとってはちょー簡単な質問よっ♪確か、古河秋………あああっ!!」
「うに、やっと気がついたのだー」
「う〜ん……詠美さんって本当に、このメンバー中でアタシの次に、本編で
長生きが出来た人なの…?」
「……実は、三番目です…」
「ぴっこり(ふう、やれやれだぜ)」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

380パラレル・ロワイアルその324:2004/11/15(月) 22:03
※大庭詠美・逆切れモード発動中です、しばらくお待ち下さい。





「……えぐえぐ、本編で死ぬほど後悔したけど、もーいっぺん浅薄な行動が
取りたいよぉ……(涙)」
「やめてくれ詠美、今度はその後…編集長の踵で踏み頃されるヴィジョンが
脳裏に浮かびそうだ…(汗)」
「しょーがねーな、オメーら…やっぱり俺様が面倒見るしかねーのかよ?」
「…御堂さん、お言葉ですが、俺にも男としての面子があります……申し訳
ありませんが、僕自身と詠美は…僕に護らせて下さい!」
「オメーらな、頃されるぞ?……確か例の編集長って、あの牧村南とかいう
本編じょーかーの先輩格なんだろ?……拳銃二丁に手榴弾、布団叩きに桃缶
七個…太刀打ち出来ると思ってんのか、マジで?」
「その時は仕方ないわよ、したぼく…」
「「詠美…?」」

「……たのめないよ……だって、和樹頑張ってるから。一生懸命だから。
頼めば、良いのかもしれないけど、やっぱり、たのめないよ。 
頑張ってるから、敗者復活しちゃったから、たのんで、面子のない和樹は
……頃されてもベストを尽くした和樹よりも、一緒にいて後悔するって、
思うから……」
「(ばかやろー…)わかった、それならこっから先…今度こそは、俺様のやり
たい様にやらせて貰う事にするぜい」
「「「「「「「御堂さん(したぼく)(おじさん)(オッサン)(ぴこ)?」」」」」」」

「なあ、岡崎…ここへ辿り着いた非倉蔵の参加者って、ひょっとして俺達が
一番乗なのかい?」
「(本当は、先に泳いでいらっしゃた方がいるのですが…)そうですよ、御堂
さん…全然変わっておりませんのですね、無茶をなさるのがお好きなのは」
「るせい、ほっとけ」
「ちょっと、それってどーゆー意味なの……まっ、まさかしたぼくっ!?」
「オレが思うに、らすぼす候補の三人はそれぞれ、別々の所に陣取っていや
がるんじゃあねーかってな……何てったって、共通の敵―――俺達や後続の
非倉蔵の参加者どもが全滅した暁には結局、連中だってお互い敵同士になっ
ちまうんだからな……まぁ、ソレは俺達も同じ事なんだが、ひとまずソレは
置いといてだ……DVDを見る限り、35番はFOREVERえりあの倉田
別邸、119番はTHE−TOWNえりあの喫煙可能な高い所、そして20
番はMINMESえりあの、どーむ統合管理施設辺りにでも、立て篭もって
るんじゃねーのか?……もしそーだとしたら、三対一じゃあなくて一対一が
三回…互角の条件での各個撃破なら、オレ様一人でも充分、勝算があるって
ゆー事だ」

「オッサンっ!そりゃオッサンのとんでもない強さは噂で聞いてるし、もし
もラスボス候補の三人とやり合って共倒れしてくれたら…っていう、セコイ
期待も完全否定出来ない立場なんだけどさ、アタシ達……だけど、今こんな
形でオッサンが一人で死地に突っ込んで行くのを、後々の打算で黙って送り
出せる程アタシ達、寄り合いチームじゃないつもりよっ!」
「ぴこ、ぴっこ(その通りだぜ、爺い)」
「新規ゲスト警備兵の装備と頭数を考えて下さい…消耗戦に陥ったらいかに
御堂さんとはいっても…」
「…そんなの、へっちゃらへー……とは、いきませんです…」
「……後続の…せめて、光岡さんあたりでもその到着・合流を待つべきだと
思うわ」
「にゅ〜、みんなでいこうよ、おじさんっ」

「ありがとよ…だが、心配しなくていい…自信過剰ってのとはちと、違うん
だよ……考えても見ろよ、ハイテク施設に立て篭もる、ハイテク装備の特務
機関…対するは、機関銃片手の強化兵…まともに考えりゃあアホらしくなる
程の戦力の違いかもな……だがよォ……そーゆーのこそがオイシイんだよ、
オレにとっちゃあな………………………………………………………………
……ごちそーさん、岡崎!ン十年振りにイイモン食わせて貰ったぜい!!」

381パラレル・ロワイアルその325:2004/11/22(月) 21:27
「み、皆さん……!」
「「「「「「「!…こ、これは…?」」」」」」」

 大灯台広場・巨大灯台前…来栖川アイランドと倉田アイランドの間を繋ぐ
海底トンネルの入口を閉ざしていたシャッターが開き、いざ突入を!と装甲
指揮車及びエレバイクのエンジンを掛け直していた、光岡悟以下八名の正規
参加者及び依頼人達一行は、内一人の氷上シュンが叫び声とともに指差した
高縮尺探知機の中に出現した、来栖川アイランド上を高速移動している光点
の群れに、思わず驚いてその動きを止めていた。

「わわわ、水族館エリアを抜けて、まっすぐこちらへと向かって来るよお」
「地下鉄道組の鯛焼き屋さん達なんじゃないのかなあ、かのりん?」
「…違うみたい……光点の数、多過ぎる…」
「先頭が二つ、続いて四つ、更に遅れて一つ、また更に遅れて四つで、最後
にもう二つ……二番手と四番手の四つの光点の内、どちらかが鯛焼き屋さん
達なんだろうとは思うんだけど」
「それよりも、果たして…どの光点が地上移動でどの光点が地下移動なので
しょうか…?」

 霧島佳乃・神尾観鈴・河島はるか・美坂香里・杜若きよみが光点群に対し
ての意見・質問をあげていき、最後に立川雄蔵と光岡が結論を述べた。

「確かに、内四つは高野殿達であろう…そして、残りの九つは恐らく…」
「うむ、CLANNADの来栖川アイランド待機組であろう…先行した組の
正規参加者が推定八名から十名、我々の中の正規参加者が五名、高野殿の中
の正規参加者が四名…ここまでで十七名から十九名…そこへ倉蔵側の倉田殿
・川澄殿・古河殿・春原殿を加えれば、二十一名から二十三名…定時放送に
おける生存者発表数が二十五名という点から考えても、この光点の数はそう
としか結論付ける事は出来まい」

「がお…じゃ、じゃあどうしよう、これから…?」
「取り敢えず、急いで先行組を追いましょう……ついでに、トンネルのシャ
ッターを閉鎖して、(飛行船のパラシュートみたいに)張り紙で『破壊』して
追っ手が通れない様にしてしまえば…」
「それはダメだよお、シュンくん」
「佳乃さんのおっしゃる通りです…もしも、残り九つの光点の中に、CLA
NNADに追われて地上を逃げておられる、単独正規参加者の方が混じって
らっしゃった場合…その方の倉田アイランドへの逃げ道を断ち切ってしまう
事になってしまいます…」
「…そうだね、きよみさん…」
「さりとて、このまま後方を無防備にしてトンネルへと突入するのも…どう
したものかな…?」

「装甲車組六人にはこのまま先行して貰う事にして、トンネルの入口に殿を
二人程潜ませておく事にしよう……囲まれる心配はなく、向かってくる側は
遮蔽物がないから、最悪九対二でも互角以上には戦う事が出来るだろう……
そういう訳だが、頼めるか香里…?」
「当たり前でしょう?…もしも、『お前は先に行け』だなんて言ってたら、
何をしてたかわからなかった所よ…!」

「雄蔵殿・香里殿…ならば、殿には私が残って…」
「…きよみ殿にはバイクの二人乗りは酷であろう…それに、倉田アイランド
にて待ち構えている倉蔵本軍の方が、光岡殿にはより相応しい真打ちの筈…
どうか、先行しているライバル達のためにも光岡殿は皆と先へ」
「これ以上立往生して話している暇はありません、私達に任せて先をお急ぎ
下さい」

「分かった…どうか御無事で、雄蔵殿・香里殿」
「……どうか『死な』ないでください、私達も頑張りますから…」
「また、倉田アイランドでお会い致しましょう」
「待ってるよお、モブップル一号さん」
「…心配は、無用かな?」
「にははっ、夢の人達もがんばってね♪」

「「ゆ…夢の人など、おらぬ(おりません)…」」

382パラレル・ロワイアルその326:2004/11/22(月) 22:47
 水族館エリア〜大灯台広場エリア間を繋いでいる舗装された道路、そこの
それぞれ別の地点を同じ方向へと向かってひた走る、三台の車輌…最も先頭
を移動しているのはかつて、高槻01・02・06→篠塚弥生・緒方理奈・
住井護が乗車していた装軌式装甲エレカ、そのはるか後方を移動しているの
は、美坂栞・立川郁美が乗車した事もあった送迎用エレカ、そしてまた更に
はるか後方を移動しているのは、覆面ベイダー・立川雄蔵・美坂香里が乗車
した事もあった空陸両用送迎機(現在地上走行モード)である……そして今、
その三台の間で車内電話による通話が行われていた。

「古河司令へ、こちら芳野…俺の叫びが届いてたら、答えてやって下さい」
「おう、こちらは『悲しみを乗り越えた強き』古河様だ」
「俺と公子は間もなく、大灯台広場へ突入する事となる……もしも、司令の
読みが当たっておりましたら、きっと…トンネルの入口で、『彼』が俺達を
温かく、迎えてやってくれる事でしょう」

「俺様は現在、水族館エリアをやっと通過した所だ…そして、対能力者猟兵
のカルラちゃんとトウカちゃんを運んでいる美佐枝さんが、俺達の中間地点
を移動している所だ……後は、最初の指示通りに行う事とする」
「もしも、光岡悟さんがトンネルの前で待っておりましたら、全員が合流を
してからの一斉攻撃、誰もいらっしゃらない場合はそのまま、トンネルへと
突入を行って追跡続行、そしてもし別の参加者がトンネルの前で待っており
ました場合は、私と祐くんが足止めあるいは対決している間に、後続の相楽
さん達と古河司令がトンネルへ突入し追跡続行……という事なのですね?」
「そういう事だ、公子さん……美佐枝さん達も、了解してくれたかな?」

「解かったわ……確かに、これまでの戦いぶりを拝見した限りでは、15番
代戦士の光岡さんが正規参加…いえ、全参加者中でも一番、手段を選べない
超難敵となりそうな事はほぼ、間違いなさそうですものね…」
「もっとも…私達にとりましては、その位の骨のあるお相手でございません
と、はるばる遊戯に参加しに参った意味がございませんですわ」
「某も……某は断じて、戦いを好む者ではない積もりなのだが…葉界最強を
噂される武人殿のお相手を勤めさせて頂けるとあらば、やはり…どうしても
この血が騒いでしまう…未熟者であるな、某は」
「にゃあ」




「古河司令へ、こちら伊吹です」
「俺が『ビッグな』秋生様だ」
「只今、大灯台広場へ到着しました…トンネル前には正規参加者が二名ほど
、待機しております…」
「かぁっ、やっぱり待っていたのかよ、光岡の旦那様はっ」
「いいえ、15番・代戦士の光岡悟さんのお姿はありません……モニターに
映っておりますのは、56番・代戦士の立川雄蔵さんと、85番の美坂香里
さんです」

「ほおう…確か、敗者復活戦を事実上制した、合計スコア七人のモブップル
供だったよな……とはいえ、いくら何でも流石に、非能力者相手に合流一斉
攻撃には及ばないだろうし…おい芳野、装甲車とデュアルキャノンで早い所
チャッチャッと片付けといてくんなっ、俺達はこのまま真っ直ぐ光岡の旦那
を追っ駆けさせて貰うからよっ……美佐江さんも、了解してくれたかな?」

383パラレル・ロワイアルその327:2004/11/22(月) 22:49
「解かったわ」
「露払いか……しかし、それもまた、大任……ならば、大人のモブップルの
愛の強さを彼らに教えてやるまでの事……その為にも、俺に力を貸してくれ
、公子」
「うん、がんばろうね祐くん」




 一方、大灯台広場・巨大灯台下トンネル前…

「!…来たか」
「装甲車っ!?……何とも、剣呑なお相手ですこと」
「そうでもなさそうだ…見た所、武装はエアマシンガン一丁だけ(放水銃は
84話で破壊されたまま)の様だ…俺が相手をしてくる、香里は不測の事態
と新手の出現に備えてくれ」
「解かったわ、雄蔵…その代わり、間違いがあったら許さないわよ」
「心配するな、二度目の『あなたが側にいてやれば、こんなことにはならな
かったと思います』は、絶対に起こさない積もりだ」




 更に一方、送迎用エレカ内…

「先行している吉野さん達に伏兵達を任せて、私達は真っ直ぐに光岡さん達
を追うという事に決まったみたいよ」
「にゃああ」
「ところで、ミサエさん?」
「はい、何かしらカルラさん?」
「そのヨシノさんって方…お一人でユウゾウのお相手が務まる程に、お強い
方なのかしら?」
「強い方?…って、如何に補完パワー全開でこのゲームでの好成績を収めて
いる方達とはいえ、立川雄蔵さんは一般人の大学生なんでしょう?…仮にも
CLANNAD先輩組で、しかも強力な乗り物と装備を有している芳野さん
が相手なら、まず間違いはないというのが…」

「…よい秘密を教えて進ぜよう、ミサエ殿…」
「?…何を教えて貰えるのかしら、トウカさん?」
「ミサエ殿は、ユウゾウ殿の外見はもう、ご存知なのであろう?」
「ええ、CLANNADより全生存者のデータは、ゲーム参加前に配布して
頂けましたから…特に先輩組の私は立場上、全データのチェックはバッチリ
と行いましたわよ」
「ユウゾウ殿の顔の傷……実は、某が付けてしまったいわば『免許皆伝』の
証なのだよ…(刀の刃をチラリ)」
「胸の七つの傷は、私……こういう風にしてね(左手で目潰し・右手で指立て
掌底のポーズ)」
「……心ならずも、命懸けの本気を出させられた……と、いう事なの…?」
「「想像に御任せ致す(任せるわ)…」」
「…………………………(汗)」
「に〜あ」

384パラレル・ロワイアルその328:2004/11/29(月) 20:35
「まったくもうっ、とうとう行っちゃったよオッサン!」
「…そうですね、七瀬さん…ですが、私達には本当に何もして差し上げる事
は、出来なかったのでしょうか…?」

 倉田アイランドDREAMエリア内・木造旅館…そこの一階ロビーにて、
落ち着かなさと気まずさを綯い交ぜにしたムードを漂わせながら、テーブル
とテレビをコの字型に囲んでいるソファーにそれぞれ、マターリと腰を下ろ
したり寝転がったりしているのは、七瀬留美・遠野美凪・みちる・匿名希望
・千堂和樹・大庭詠美の六名…つい今し方まで行動を共にしてきた御堂は、
半ば強引にその後を付いて行ったポテトと供に既にこの場を立ち、倉田アイ
ランドの更に奥のエリアを目指して姿を消していた。


「ねえチョット、そこの白い女の人」
 ソファーにうつ伏せに寝転がって膝から先をせわしなく交互に動かしなが
ら、詠美は匿名に少しだけ棘のこもった言葉をかけた。

「……何かしら?」
 匿名は斜め隣のソファーにて、チャイナドレスのスリットから覗いている
その細く長くしなやかそうな脚を組みながら、手持無沙汰そうに支給(調達)
装備の自在鉄扇を棒状・円状・稲妻状にくるくると変形させていた。傍らの
みちるがその様を、
「おおーっ」
といった感じで、目と口を見開いて先程からずっと眺めている。

「あたし達はともかくとして、アンタ強そうじゃないのよおっ…それなのに
どーして、御堂のおじさんと一緒に行ってあげなかったのよおっ!?」
「……私だって、行けるものならば一緒に行きたかったわ……だけど、今は
どうしても行けない事情があるの、私には……」
「どんな事情だってゆーのよっ!?…(ネタバレキャッチコピーで)『護りた
いから参戦した』んじゃなかったのっ!?…それともアンタ、御堂のおじさ
んは護りたくないとでもゆーのっ!?」

「言い過ぎだぞ、詠美」
 詠美の隣で桃缶をカコカコ…と開けていた和樹が、詠美を制しに掛かる。

「ぽちは黙っててよっ!」

「黙らないぞ詠美っ!…激昂した時が、お前の危険信号なんだ…俺は兎も角
、他の四人を危険に巻き込む訳には行かない…」
「……黙る訳には行かなくなったわ、詠美さん……人物探知機が、新手の接
近を表示してます……光点は五つ、ナンバーは“GP”(ゲスト・ポリス)」

「ふみゅ…ごめんね、和樹…それに、匿名さんにみんな…」
 タイムリーな接敵情報が効果覿面だったのか、あっさりと反省して引き下
がる詠美…しかしその直後にふと彼女の脳裏に疑問符が浮かんだ。そして、
そのままそれを口に出して尋ねようとした。

「でも…どうして、和樹はともかく匿名さんまで、返事が『黙る訳には行か
なくなった』なの?……まさか、匿名さんの本名まで、ぽ…」

『……!!』
 匿名は次の瞬間には、手にした自在鉄扇を伸ばし、テーブルの上に置かれ
ていた和樹が開けたばかりの桃缶を、カメレオンの舌の如き電光石火でかっ
ぱらうと、素早くその中身を驚いている詠美の口の中へと、そのまま一気に
流し込んだ。

「……時間がないわ、デザートは早めに終わらせて頂戴♪(ふ〜っ、危ない所
だったわ…)」
「もご〜〜っ!?もごご、もごもご〜〜っ!!」

 木造旅館の外にエレカの停車する音が聞こえ、続いて正面玄関の磨りガラス
の扉が外からガララッと、開け放たれた。

385パラレル・ロワイアルその329:2004/11/29(月) 21:23
「何すんのよおッ!蛇じゃあるまいし丸呑み出来る訳ないでしょおッ!!」
 口から半分黄桃をはみ出させた詠美が、そう怒鳴りながら投げ付けて来た
二個目の桃缶を、新手迎撃のために玄関手前へと移動していた匿名がひらり
と回避したのと、

「特務機関CLANNADの宿改めよおッ!!」
 の声も高らかに、スクーターに跨り特殊ゴム製のブックバンドで縛られた
漢和辞典を片手に構えた、新撰組の羽織姿の少女が玄関から突入して来たの
は、ほとんど同時の出来事であった。

バッコンッ!!
「あ゛む゛っ!!」
ドサッ…バタリ、コロコロコロコロ…

『ビーッ、新規ゲスト警備兵・藤林杏、有効弾直撃により殉職しました』
(な…なんでいきなり、こんな春原みたいなやられ方ををっ…)

「……ぱちぱちぱちぱち、ナイスコントロールですわ詠美さん♪」
「まるで、スカッドミサイルVSパトリオットだったな…」
「チョット、匿名さん!アタシはそもそも、アンタを狙って投げたのヨ!…
それに和樹!アンタまで、何一緒になって感心してんのヨッ!!」




 …一方、来栖川アイランド大灯台広場・巨大灯台下トンネル前でも、高速
飛来した物体が標的に見事に炸裂していた。

バギン!!
ボトッ…ガッチャン、ゴロゴロゴロゴロ…

「!?っ…どうしたっ、何があったというのだ公子っ!?」
「立川雄蔵さんが投げ付けて来ましたソフビ製のヒートホークが、この車の
機関銃の支柱を破壊してしまいました!…そのため、機関銃が外れて道路の
上へと転がり落ちてしまい、車内から使用出来る飛び道具がなくなってしま
いました!…更に、立川さん接近中…武器はたんぽ槍とヌンチャクの二刀流
ですっ!」
「成る程な、流石に機関銃クラスは無理だが、それ以下の連射能力しかない
飛び道具なら弾き返せる自信があっての、二段構えでの突撃というワケか…
しかし、相手が悪かったようだな……公子、車を止めろ…俺が打って出て、
あの男に『弾き語り』、決着をつける事としよう」
「気を付けてね、祐くん」
「ああ、心配は要らない…」


「!?」
 立川雄蔵は分解した長柄戦斧からヒートホークの部分を投げ付けて、迫り
来る装甲車に積まれていたエアマシンガンの支柱を叩き折る(叩き落す)と、
そのまま残りのたんぽ槍とヌンチャクの部分を分解して二刀流で構え直し、
更なる突進を行った……と、装甲車が停止し、そのハッチよりエレキギター
…もとい、エレキギターに似た何かをベルト提げした、ヘルメット姿の電気
工がひらりと飛び出して来て、そのまま装甲車手前の舗装道路の上にふわり
と降り立った。

「愛する者の手前なのかも知れぬが、仲間が追い着くまで待つべきだと俺は
思うぞ…」
「…一部間違っている、『愛し合う者』だ……そして、有史以来『愛し合う
者』が、『恋を交わすもの』に敗れ去るお約束などは存在しない……だから
、仲間の心配は俺になど必要ない……」
「そうか…ならば、遠慮なく行かせて貰うまでだ…こちら側としては、各個
撃破を出来るに越した事はないのだからな…!」

 自信満々にベルト提げの得物を構え直した芳野に対し、雄蔵は盾代わりの
左手のヌンチャクを振り回しながら右手のたんぽ槍を構えて、真正面からの
突進を行った……芳野は、そんな雄蔵に向かって平然と、構えた得物―――
EAW−DCデュアルキャノン―――のトリガーを引いた。

386パラレル・ロワイアルその330:2004/11/29(月) 22:21
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!!!!!!!

 芳野が構えたEAW−DCデュアルキャノンのコーン状になった銃口より
、志向性の音響衝撃波が放たれて、雄蔵の全身…もとい鼓膜に、290話の
城戸芳晴が食らう羽目になったモノを遥かに上回る打撃を、容赦なく叩き付
けた。

 芳野祐介の支給装備…一見、EAW−DCデュアルキャノンに見える物の
その実体は、相手によっては対能力者用としても充分に通用するソニック・
スタンガンであった…当然ながら、音という飛び道具は耳栓以外では防ぎ様
がない、芳野が仲間を待とうともせずに交戦に踏み切ったのも納得が出来る
ハイテク秘密兵器であった。

 しかし。

「ななああっ!?」
 失格アナウンスは聞こえて来なかった…そして、雄蔵の突進も止まらなか
った…そのまま、突き出されたたんぽ槍にベルトを掛けられ、デュアルキャ
ノンは宙高く舞い上がった。




 その頃、リバーサイドホテル1階・南口ロビー…

「お嬢ちゃん…今の攻防の意味が解るかの?」
「はいっ、何にせよ―――応援団長の兄を相手に鼓膜を攻める作戦はあまり
感心出来ません」
「ん、上出来だの」

 ソファーに並んで腰を下ろし、テーブルの水出し玉露を時折、口へと運び
ながらモニター観戦しているのは、燕尾服姿の初老の運転手と56番依頼人
の立川郁美…と、そこへ麦藁帽子片手の農作業着姿の新たな客が来訪した。

「南口では随分と派手にやって下さいましたな、幸村さん」
「おお、久方振りですの…熱射病の方は、良くなられましたかの?」
「試合観戦している内に冷汗三斗、お陰ですっかり良くなってしまいました
よ……それよりも、私もこちらでご一緒させて頂いても宜しいですかな?」
「大歓迎だの」
「お茶をどうぞ」
「有難う、お嬢さん…ではお返しに、この植物園から摘んで来た苺でもどう
ですかな」
「はいっ、ご馳走になりますっ(どうやら、こちらのお爺さんも正体がばれ
てしまわれたようですね…)」




 再び、大灯台広場・巨大灯台下トンネル前…

「…楽器の力に溺れ過信し過ぎた時点で、お前の音楽は人の鼓膜を打つ力を
失ったのだ…」
 言いざま、雄蔵の続けて繰り出したたんぽ槍が、芳野の首へぴたりと当て
られた…本来なら、この『有情の一撃』を認めて降伏を選んだであろう芳野
であるが、それをするには雄蔵の殺し文句は余りにも自尊心を突付きかつ、
ノリが良いモノであった。

「まだだ…まだ、俺の音楽は全部終わっちゃあいないんだあッッ!!」
 芳野はそう叫び、会釈をするかの様に雄蔵の方へ首を傾けると、作業着の
ポケットからはみ出ていたコード付きのスイッチを、カチリと音を立て握り
締めた。

 次の瞬間、芳野がかぶっているヘルメットに内蔵されていた高圧スプリン
グの留め金が外された…芳野のヘルメットはゲーム用にスプリング仕掛けの
ロケットヘッドパッド射出機としての改造がなされていたのである…射程・
照準が短いので緊急不意討ち用ではあるが、肉弾戦間合いで射出が出来れば
まず相手は避け様がない。事実、雄蔵は避けなかった。

 ヌンチャクを離していた左手で芳野のヘルメットが射出される前に、真上
から完全に押さえ付けたのである。
『香里から、高倉会長が“飛び出す銃剣”にやられた話を聞いていなかった
ら、危ない所だったな…救われたのはこれで三度目という事か…』

 行き場のなくなったスプリング圧は当然、芳野の首筋に反動となって戻って来た。

 ごきり、と音がした。
 芳野は小さく痙攣すると、それを最後に白目を向いた。

『ビーッ、新規ゲスト警備兵・芳野祐介、ナースストップにより殉職しました
…殉職地点最寄の14Kカノンさんは直ちに、救急搬送車で急行して下さい』

387パラレル・ロワイアルその331:2004/12/05(日) 20:34
「……ガラス戸を開けた方達、こちらへ出て来ては頂けませんでしょうか?
……そちらが攻撃を続行なさらないのでしたら、私達側も無闇に戦い続ける
積もりはありませんわよ」

 再び倉田アイランドDREAMエリア内・木造旅館玄関…顔面に桃缶の跡
を付けて倒れている藤林杏の『死体』から視線を外し、開かれたままの磨り
ガラスの扉に向かって、匿名希望は自在鉄扇を片手に淡々と語りかけた……
と、左右の磨りガラスの扉の陰から二つの物体がひょっこり顔を覗かせた。

「…三角帽子、です…」
「うにっ、ぬいぐるみのくまさんだー」
 意外な得物の出現に思わず、それぞれ手にしてたウェザビーとゾリオンを
引っ込める遠野美凪とみちる。

「うたないでくださいよー、大人の女性同士の約束ですからー…という訳で
風子参上!」
「いじめる?……いじめない?」
「お、お姉ちゃん…」
「こっここは確か、交戦禁止エリアの筈なんですよね、アハハハハハ…」
 それぞれの台詞を口に、少年一名・少女三名の四人連れがオープンハンド
でぞろぞろと旅館へ入って来た。

「何だか、突入部隊にはらしくないメンバーねえ…最初の一名を除いては」
 竹刀で肩をトントンと叩きながら、頭を掻いてやや脱力気味な様子なのは
七瀬留美。

「なるほどね☆謎はぜんぶとけた!おーかた、そこで横たわってるおみくじ
リボンのイノシシ女に、ムリヤリつき合わされたんじゃあないのお、こっち
の四人は?」
 デザートイーグル片手にくるりと一回転し、ビシィ!と杏を指差し、かれ
ーなる推理をのたまっているのはエセ探偵・大庭詠美…しかし、

「「「「(こくこくっ)」」」」
 彼女の推理はおおむね正解であった様だ。

「チョットアンタ!…誰がおみくじリボンのイノシシ女ですってえッ!?」
 顔の上半分を闇色に隠し、双眸を光点と化して、むっくりとゾンビの様に
起き上がる杏。

「あーハイハイ、ルール違反になっちゃうから、アタシが頃した筈の『死体
』くんが、しゃべったりしちゃいけないのよお♪」
 自在鉄扇片手に仁王立ちしている匿名の背中にちゃっかりと隠れながら、
手をひらひらさせて更に茶化す詠美。

『あーんーたーねー、覚えてなさいよおっ!……アンタも脱落になった時が
今からとっても待ち遠しいわっ…!(ゴゴゴゴゴゴ…)』


「でも…どうしてなのでしょう、勝平君?」
 未来先取りでナース姿の、倉田アイランド専用救急スタッフ(ちなみに、
専用ゲーム・ドクターは未だ『死亡』していない杜若祐司を急遽スカウト)
・藤林椋が、救急搬送エレカドライバー役の柊勝平に向かってトランプを
手にポツリと呟く。

「えっ、何がですか?」
「実はその……私、お姉ちゃんに先手奇襲攻撃の成否を占ってって、頼まれ
ちゃって…で、出た結果が実は大吉だったんで…もしお姉ちゃんがその結果
に喜んで出撃しちゃったら、私や勝平君やみんなが一緒につき合わされちゃ
ったりして大変だろうなあって思って…お姉ちゃんには逆に『奇襲は大凶』
だって、嘘の結果を教えたんです…なのに、どういう訳なのかこんな結果に
なってしまって…」

「えええっ!?じゃ、じゃあ……」
 後頭部に汗の滴をへばりつけて、恐る恐るに杏の方を向く勝平。

『!?っ…なっ、なっ、何ですってえええっ!?…何て嘘吐いてくれんのよ
、椋っっ!!』

 そこには、ルールという名の『檻』に閉じ込められた、ひとつの『危険』
だけが存在していた…。

388パラレル・ロワイアルその332:2004/12/05(日) 21:12
「じつは、もうすぐ風子のお姉ちゃんが結婚するんですが、そこでみなさん
にもよろしければ、ぜひ一緒に祝っていただきたく―――」
 ロビーのテーブルの方では、三角帽子をかぶった少女が遠野美凪とみちる
に向かって、両手に握り締めた星型の木片を差し出しつつ力説を行ってた。

「…それはとても、おめでたい事でございます…では、伊吹さんには前祝い
でこちらを贈呈させて頂きたく…」
「おめでたいのだー」
 対抗するかの様に、少女・伊吹風子にお米券を差し出してお見合い状態と
なる美凪と、風子に自分とそっくりな共感を覚えてとても好意的なみちる。

「決闘?……それはまた、随分と勇ましいお姉さんねー」
 横のソファーにて聞いていた七瀬は、くまのぬいぐるみの爆発物チェック
(ちなみに、七瀬に宝物を無理矢理奪い取られた持ち主・一の瀬ことみは、
可哀想に思った匿名に抱き締められて、しくしく号泣中…)に夢中だからか
、見事な聞き間違いによるツッコミを入れていた。

 当然のごとく、それを聞いた風子はぷりぷりと怒り出した。
「んーっ、この人最悪ですっ、決闘ではありませんっ!…おまけに、ことみ
さんの宝物まで無理矢理奪い取ってしまうなんて、本当に最悪ですっ!」

「しょうがないでしょう?本編ネタに準じたくまちゃんだったら、一大事に
なりかねないんだから…」
「…ですが、大人の気品漂う風子は、失礼な本場のツッコミになんか、いち
いち腹を立てたりなんかしません、大人の女性は寛大なのです(えっへん)」

「あたしは大阪人じゃないわよっ!!…けどまあ、乙女を目指すこのあたし
も、ちびっ子の失礼には寛大なのよ、安心しなさい(ふふ〜ん)」
 ようやくぬいぐるみを涙目のことみへと返しながら、ついつい風子へむき
になって対抗してしまう七瀬。

「乙女……ですか」
 本編の天野美汐と同じ事を思ったのだろう、風子が更に口を開く。
……ただ問題なのは、やはり語尾に(笑)がついていたことで。

「何よ!アンタもなんか文句あるっていうの!」
 あぁ、またしても本気で怒った。

「うわっ!」
「…許してあげて下さい、留美さん。伊吹さんもきっと悪気があって言って
しまったわけではないと、私は思います」
 怒りの剣幕に涙目でおびえる風子を庇う様に抱き締めながら、慌てて美凪
が止めに入る。

389パラレル・ロワイアルその333:2004/12/05(日) 22:06
「あのさあ…伊吹ちゃん、だっけ?」
 七瀬とは向い側・反対横のソファーに腰を下ろして、先程から備え付けの
テレビモニターの方をちらちらと見ていた千堂和樹が、今度は美凪の腕の中
にいる風子へと口を開いた。

「けっこう大人の方らしいので我慢をしますが、いきなりちゃん付けなのは
風子、あまり好きでは…(心地よいので、抱かれたままになっております)」
「じゃあ、伊吹さん」
「はい、なんでしょう?」
「あの、まさかと思って尋ねてみるけど…伊吹さんのお姉さんってひょっと
して、栗色のショートヘアーに黒い上着で、グレーのロングスカートの人…
だったりするのかな…?」

「わわっ!その通りですっ!ひょっとしてあなた、能力者なのですかっ?」
 美凪の腕の中でそのつぶらな瞳を、鳥の足跡へと変形させて驚く風子。

「いやその、今テレビモニターに映っている女の人の片方が…」
 和樹が指差すテレビモニターの方へと向いた風子の瞳が再び、鳥の足跡と
なった。

「なんて事です!風子の姉がテレビの中で決闘してますっ!」




「指すま、3!…やりますね」
「指すま、2。あっ、抜けましたっ!」
「指すま、1。ああっ、どうしてあげて下さらないのですかっ」
「そう簡単には、勝ちをお譲りする訳には参りません…指すま、0!
やりました、私も抜けですっ♪」

『ビーッ、新規ゲスト警備兵・伊吹公子、という訳で殉職しました』

 またまた舞台は大灯台広場、自動操縦モードで港・ヨットハーバー方面へ
と勝手に移動している軌道装甲車の上で、向かい合って腰を下ろし『決闘』
を行っていたのは、伊吹公子と美坂香里…そして今、丁度決闘の幕が下りた
所である。

「でも、これで良かったのかも知れません…祐くん、ひとりに寂しい思いは
させられませんし…ふぅちゃんをひとりぼっちにしてしまった事は可哀想な
気は致しますが、その結果ふぅちゃんが感じた寂しさが、この島にて新しい
お友達を作る意気込みへと変わってくれれば…私にとってそれは、何よりも
幸いな事ですから」
「みんな大変ねえ…大変でないお姉さんって、シンディさん位なのかしら?
…それにしても、いつの間にか随分と勝手に移動しちゃったのねえ…」

「香里ーっ!」
「あ…待ってて雄蔵、今飛び降りるから」
 芳野祐介との対決に勝利した後、装甲車の後をエレバイクで追い駆けて来
た立川雄蔵に向かって、手を振りながら道路へと飛び降りる香里…しかし、
そのとき既に二人は自分達に課せられたその最も重要な使命を、うっかりと
しくじっていた。


「…相楽より古河司令へ」
「俺が二本角の秋生様だ」
「元・交通警備兵指揮官用の小型装甲車を、前方に捕捉しました」
「俺様は今丁度トンネルに突入した所だ…逃げられそうにならない限りは、
追い着くまで無理をしないように…健闘を祈る!」
「了解しました。これより、攻撃を開始します…」

390パラレル・ロワイアルその334:2004/12/12(日) 20:16
「ぬ!…あの電気自動車は…?」

 来栖川アイランド〜倉田アイランド間を繋いでいる巨大な海底トンネル…
その長さ・構造は、山口・下関〜福岡・門司間を繋いでいる関門トンネルと
概ね、同じと考えて頂いてもいいであろう…その上半分を占めている車両用
トンネルを、倉田アイランド目指して疾走(…といっても、安全速度制限を
させられているため、そんなに速くもないのであるが…)している小型装甲
指揮車…(定員オーバーのため)その屋根の上に胡坐をかいていた光岡悟は、
後方より見覚えのあるエレカが、自分達のそれを明らかに上回るスピードで
ぐんぐんとこちらへ近付き追い着こうとしているのに気が付いた。

「確か…栞殿と郁美殿をホテルへと運んでいた、参加者送迎用の車両ではな
いか……しかし、あの速度の速さは一体?……まさか!」




 その頃、倉田アイランド“MINMES”エリア内・マザーコンピュータ
ーステーションビル最上階の総合指令端末室では…

「うらうらうら〜っ!信号あらへん所でチンタラ走ってられるかいっ!」
「こらああっ、S・Fぅっ、水上バイクじゃないんだから、余り無茶な遠隔
操縦をするんじゃなああいっ(…何で、擬似人格パターンがよりにもよって
晴子なんだああああっ!?)」




 再び、海底トンネル内…光岡が竹光を抜刀して、粘土ベラを構えたのと、
高速接近中の送迎用エレカのサンルーフより現れた巨大な首輪をした女性が
、その手に持った飛び道具を小型装甲指揮車へと向けつつ、引き金を引いた
のとは殆ど同時の出来事であった。

 ポポポポンッ!……((((シュルシュルシュルシュル…))))

 小気味よい音と供に連続で発射されたものは、四発の榴弾であった…見る
見るそれが、光岡と小型装甲指揮車目掛けて飛んで来た。

 ((((シュッ…))))(((カキン!)))
「!…くっ、俺とした事が…」

 光岡は粘土ベラを棒手裏剣のごとく一斉に投げ付け、榴弾の内三発を叩き
落とした…しかし、四発目は外してしまったため、弾種不明の榴弾を格闘で
受け止める危険を避けて、後退する様なかたちでボンネットの方へと退避を
行った。

 シュルルルルルルル…ベシャン!

 榴弾は、屋根上部に設置されたシャングリラ・キャノンへと命中し、飛び
散ったトリモチがその可動部と支柱を、包み込む様に固め付けてしまった。

「…ん!?」
 その時、小型装甲指揮車内でハンドルを握っていた河島はるかは、屋根の
上から伝わって来た衝撃と目の前のボンネットに降りて来た光岡に驚いて、
思わず車内の後ろを振り返った。
「…氷上さん?」

「後方から飛んで来た粘着系の飛び道具が、シャングリラ・キャノンに命中
してしまった様です…困った事に、今の一撃でキーボード・キャノンは照準
を行う事が、出来なくなってしまったみたいです…」
 車内のノートパソコンで被害状況をチェックした氷上シュンが、同乗者達
に敵の出現と攻撃を受けた事、そして反撃手段を失った事を順次に告げる。

「わわわ、後ろから見覚えのある車がやって来るよおっ…ドライバーさんと
お客さんは、別の人に代わっちゃってるみたいだけどっ」
「さっ、悟さんっ、ご無事ですかっ?」
「駄目だきよみっ、俺は大丈夫だから、自動車泥棒の時みたいに窓から顔を
出すんじゃないっ!」
「が、がおっ…ど、どうしようっ?」

「…ん、(助手席の)観鈴さん、操縦を代わってくれないかな?…確かまだ、
車相手にも反撃が出来そうな装備が積まれていた筈…(ゴソゴソ…)」
「う、うんっ…観鈴ちん、がんばる。にはは…(少々、やせ我慢気味)」

「まずいな、更に近付かれてしまっている…」
「おまけに、更にもう一斉射を行おうとしているみたいです…」
「がおお、(彼女にとっては)速いよおっ、怖いよおっ…」

「神尾さんっ、怖いかもしれませんが、スピードは落とさないで下さいっ」
「観鈴ちんっ、当てられ難い様にジグザグ走行で運転してみてっ!」
「…でも、悟さんが振り落とされたりしません様、余り激しくはなさらない
で下さい」
「俺は大丈夫だ…観鈴殿、御母堂の様に思い切り良く操縦してくれないか」
「(ゴソゴソ)…ん、やっぱりあった♪…観鈴さん、後もう少しだけ頑張って
て、くれないかな…」
「がががが、がおっ!観鈴ちん、聖徳太子じゃないんだようっ!」

 しかし、そんな観鈴と光岡の悪戦苦闘も空しく、送迎用エレカからの第二
斉射の内一発が、今度は小型装甲指揮車の後部タイヤへと見事に命中した。

391パラレル・ロワイアルその335:2004/12/12(日) 21:47
「やりました、命中ですわ♪」
 前方を走る小型装甲指揮車を追跡する送迎用エレカ、そのサンルーフより
身を乗り出して、支給装備のリボルバー式トリモチランチャー(元42話・
巳間良祐の持参装備、裏取引によってCLANNADに貸与・再支給)片手
に快哉をあげてるのは、新規ゲスト警備兵・対能力者猟兵の一人・カルラ。
「飛び道具による戦も、たまにやってみますとなかなかにオツなものですわ
ね♪」

「やりましたね、カルラさん♪」
 送迎用エレカの操縦席の方でも、ドライバー・相楽美佐枝が相槌を打って
いた。
「あのスローダウンの様子なら、トンネルを抜けられる前に停止してくれそ
うだわ」

「つ、続いて、ミツオカ殿との、いよいよなる…いずれにせよ、ユウゾウ殿
に追い着かれる前には、決着が着いてしまいそうであるな…」
「にゃあん」
 一方、後部座席にて猫と戯れていたもう一人の対能力者猟兵・トウカの方
は、次なるステップに待ち構えし決戦を思えばこそか、流石に緊張の面持ち
を崩せない様である。

 …程なくして小型装甲指揮車は停止を余儀なくされ、その屋根の上にいた
光岡が今度は、ドラグノフを片手にひらりと手前へ降りて来た。それを見た
カルラは賢明にも光岡との銃撃戦を避けて、サンルーフより車内へと素早く
その身を沈めた…早い話、トリモチランチャーはもう既にその大任を見事に
果たしているのである、後は肉薄してからの格闘戦へと持ち込んでしまえば
いい…飛び道具を持たない女性を飛び道具で攻撃する様な事は、光岡ならば
しないだろう…そして、他の連中の素人射撃ならばそうそう、当てられる事
もないだろう…ましてや、こちら側が連発式のトリモチランチャーを持って
いる事を理解出来ている以上、手痛い反撃を食らう事を覚悟の上で、敢えて
銃撃戦を挑んでくるような事は、光岡以外の連中に限っては十中八九、有り
得ない筈である…と、送迎用エレカの三名はてっきり思い込んでいた。

 ところが。

 停車した小型装甲指揮車の前部の扉が開き、中から巨大な十字架を抱えた
緑のショートヘアの少女が、扉を盾にするようなかたちですうっ…と降りて
来た。

「どういう積もりなのかしら、あの娘…?」
 美佐枝は思わず首を傾げた…過去の交戦モニター記録を確認した限りでは
、あの少女が抱えている十字架はエアマシンガンである…歩兵相手ならいざ
知らず、例え装甲が施されていないからといって、この送迎用エレカや中の
自分達相手に脅威など与えられる訳なんか、無い筈だというのに…?

 …そう結論付けて前進を続ける美佐枝の前方にて、少女の構えている巨大
十字架の長い砲身が、レール状にぱかりと割れた。そして、そのレールの端
には、翼の付いた巨大な弾丸…いや、弾体が一発。




 その頃、リバーサイドホテル15階・第2VIPフロア…

「あああっ!?いっ猪名川さんっ、あっあの十字架型マシンガンって!?」
「何て事や玲子はんっ!ウチらてっきりアレの元ネタ、『トラ○ガン』やと
ばかし思い込んどったわっ!」

392パラレル・ロワイアルその336:2004/12/12(日) 21:48
 再び、海底トンネル内…

「ん、発射…」
 緑のショートヘアの少女・河島はるかの気合の入っていない掛け声と供に
トリガーは引かれ、十字架の長い砲身が分かれて出来た2本の加速用レール
に、強力な電流が流された…その電流によって翼の付いた巨大な弾体のスカ
ート部分が蒸発・プラズマ化し、そのプラズマによって弾体は迫り来る送迎
用エレカに向かって高速で射出された。

「せせせ、せっせっ、せんたあへっどおおおおおおっ!?」
 ハンドルを握り締めたまま目を見開き、素っ頓狂な叫び声をあげる美佐枝
…避けられぬ脅威を悟ったカルラとトウカはそれぞれ、後部座席の左右の扉
を開けて、素早く外へと脱出した…しかし、耐衝撃シートに三点式シートベ
ルトでがんじがらめに事故対策が施されている美佐枝の方は、そういう訳に
はいかなかった。

 バッ…ゴォォォォンッ!!!

 はるかの発射した巨大な弾体は、射出直後に弾頭部がX字状に展開して、
送迎用エレカのフロントグリルを強打した…エンジン貫通こそしなかったが
(と、いうよりも貫通させない為にX字展開される造りになっているのだが)
その強い衝撃はエレカの進行方向を狂わせ、ボンネットを捲り上げるのには
充分過ぎるものであった。

 キキキキキキ……グシャン!!…バフッ!
「ぶわっ!」

 ブレーキを踏まれるタイミングが一瞬遅れたエレカはガードレールに衝突
し、美佐枝はハンドル内蔵のエアバッグによって、したたかなジャブを一発
食らう羽目となった。

『ビーッ、新規ゲスト警備兵・相楽美佐枝、アタック・クラッシュにより
殉職しました…本人KOのため柊隊員は至急、救急搬送車で海底トンネル
まで向かって下さい』




 …操縦席の中で失われていく意識の中、美佐枝はその傍らにて自分を介抱
してくれている何者かの気配を感じていた…膨らみきったエアバッグの空気
を抜いて、シートベルトによる体の拘束を解いて、シートのリクライニング
を全開にして、自分を楽に横たえさせてくれている、何者かの気配を。

 …カルラさんなの?それとも、トウカさん?…ううん違う、この気配には
確かに、過去の覚えがある…とても懐かしくて、そして、とてもいとしい…

 …そうよ、きっと間違いない…この気配は…この気配の持ち主は、志……




 彼女の口から「…麻」という囁きが漏れた。俺の心と美佐枝の心が、彼女に
残った記憶を共有する。閉じ掛かった彼女の瞼の隙間から、俺は確かに見た。
美佐枝が、自分を見て嬉しそうな顔で笑ったのが。医療室へ搬送されるまでの
しばしの眠りの中で、確かに彼女は、笑った。だから俺は、心底から―――
良かった、と思った。今の俺に支給された装備が発動して、美佐枝に、束の間の
素敵なゆめを見せることが、奇跡の再会を果たせることが出来たのだろうと思う。
 人として行き続けることが出来たならば、確かにあった筈の関係。なんて、
残酷な再会だろう。一瞬の間微笑わせることしか出来ない、束の間の夢しか見せ
られない、支給装備。こんな使い方なんて、して欲しくなかったなら、ごめんな。


 かくして、正規参加の24番・代戦士、31番・代戦士、元86番・代戦士
と全く同じ効果を持つ装備を支給された、某新規ゲスト警備兵は、彼等の中では
一番手でその効果を発動させた後、トンネル脇に設置された鉄道用トンネルへと
通じている緊急避難通路の中へと、こっそりとその身を潜め、戦場を一旦離れて
行った。

393パラレル・ロワイアルその337:2004/12/19(日) 18:57
 時をややさかのぼって―――丁度、海底トンネル入口にて、雄蔵&香里組
VS芳野&公子線が行われている頃―――

『ビーッ、新規ゲスト警備兵・クロウ、有効打直撃により殉職しました…
本人自力移動不能のため柊隊員は至急、救急搬送車でTHE−TOWN
エリア・駅前交差点まで向かって下さい』

「クックックック、チョロイ、チョロイぜえっ」
「ぴこぴこ、ぴっこり(口で言ってるほどスマートじゃねェぜ、じじい)」

 倉田アイランド・THE−TOWNエリア…現在、歩行者天国状態になっ
ている駅前交差点車道上―――ひん曲がってしまったM60エアマシンガン
をゴミ箱へとナイスシュートで放り捨てながら勝利の快哉をあげているのは
、現在単独先行中の89番・御堂と31番・代戦士のポテト。

「ぐ、ぐおお…な、なんという卑劣な攻撃を、をををををを……」
 その少し離れた路上にて、股間を押さえてのた打ち回っている、全身防弾
服にヘッドギアを着用した大男の『死体』―――倉蔵側対能力者猟兵の一人
、クロウである…押さえている股間の部分のセラミックプレートが粉微塵に
なって、アスファルトに破片を撒き散らしている。

「ゲーック!生半可に俺様の攻撃手段を封じようとすっから、かえって余計
痛い目に遭っちまったんだぜ、デカブツさんよお!」
「ぴこぴこっ、ぴこ(覚えときな、防弾装甲は格闘攻撃には弱いんだぜ)」
 装備的優位と(外見上の)体格的優位さをカサに着て、力押ししようとして
来たのが気に入らなかったのか、辛辣な言葉でクロウの『遺言』へと答えな
がらも、戦利品のチェックに余念のない御堂。

「ぴこっ……(なんてこった……)」
「……悪リィデカブツ、さっきは言い過ぎた……支給装備がコイツじゃあ、
その位の防具つけてねぇと、俺様の相手なんぞ勤まるワケがねェよな…」
 苦笑いの御堂がぶら下げている、バッグから引っ張り出したクロウの支給
装備…それは、柳川裕也や柏木耕一に支給されたモノと同じ、特殊繊維に
よって造られた、まごうことなき“ふんどし”であった。

「しかし、まぁなんだな」
 相棒に向かってふんどしをぶら下げて見せる御堂。

「ぴこ?(どうしたじじい?)」
「季節が季節だしなぁ…実は今穿いてるヤツぁ、最後に洗濯してから随分と
久しい有様でよぉ…」
「ぴっこ、ぴこ(おいおい、勘弁してくれよ)」
「もう、色といい形といい…そのままオメーの依頼人の右手首に結んでも、
多分区別が付かねェ有様なんだよ、ゲーッ、ゲッゲッ」
「…ぴこぴこ、ぴこり!(…もーいっぺん言ったら蹴り頃すぞ、じじい!)」
「そーゆーワケでよ、折角だからあそこの公衆便所で穿き替えてくっから、
オメーそこで大人しく待ってろや」
「ぴっこ、ぴこぴこ!(頼まれたって、おめーのフルチンなんぞ見るか!)」


 ―――かくして、駅前交差点歩道上に設置された公衆トイレへとその姿を
消した御堂……そして、再び公衆トイレから姿を現した御堂は、相棒が待っ
ている筈のその場所に、予測し得ない光景を垣間見たのであった…!

「まさかこのようなところで貴様と会うとはな」
「かの裏庭で一戦を交えた以来か。俺を破るまでは山へ帰らぬと誓いを立て
たと聞いていたが」
「おお。あのときの屈辱はいまだ忘れられぬ」
「誓いを果たすには絶好の機会とでも言いたいのか?あのときの惨敗忘れた
わけではあるまい」
「黙れ!今の俺は違う!今の俺には…」

 車道上に向かい合って仁王立ちで睨み合っている、二人の筋肉達磨…体格
は両方とも甲乙つけ難い程酷似してるが、片方は褐色のモヒカンに突き出た
八重歯、もう片方はもじゃもじゃの泥棒髭に巨大アフロと、こちらも甲乙を
つけ難いうさん臭さを放っている。

『…またかよ……しかも、ぽち以上にあからさまじゃねェかよ……』
 ため息を吐きながら、バス停のベンチへと腰を下ろして、その成り行きを
見物する事にした御堂。

「オウじじい、戻って来たか…今度は俺がコイツを片付けてやるから、そこ
で俺の戦いっぷりって奴を、とくと見物しててくんな」
 巨大アフロの方が、戻ってきた御堂に向かって威勢のいい言葉を掛けた…
御堂もそれにすかさず答える。

「…やっぱり、オメーの方かよ…芋」
「和訳して呼ぶんじゃねえええッ!ついでに頃されてェのか、ゴルァ!!」

394パラレル・ロワイアルその338:2004/12/19(日) 20:08
「ンギャハハハハハッ!!コイツは傑作だぜ、芋だってよ芋ぉ〜ッ!!」
「やかましいッ!!覚悟は出来てやがんのか、このタンツボがァッ!!」
「タ・ン・ツ・ボだとぉ〜ッ!?…貴様ァ、ワンパンだけで勘弁してやろー
かと思ってたが、気が変わったぜい…オイ、ジャッジっ!これから始まる
コイツとのバトルはだな、K・Oかギブアップまで勝敗判定ナッシングの
デスマッチ勝負だっ!!…まさか断らねーよなァ、芋ぉ?」
「アホぬかせ!願ってもない半頃しのチャンスだぜぃ、タンツボよぉ!…
おいジャッジぃ!俺の方も聞いての通りだ!!」

 倉田アイランド・THE−TOWNエリア・駅前交差点車道上―――股間
を押さえたまま、すぐそばで『死体』と化しているクロウと、木造旅館から
頂戴したコップ酒片手に、歩道のベンチで見物人と化した御堂を他所にして
向かい合い、罵倒と怒声の応酬を続けている、褐色モヒカンと巨大アフロの
謎の筋肉達磨二名―――口攻撃が肉弾攻撃へと切り換わろうとしたその時、
駅前ビルの巨大パネルスクリーン上に、あの定時放送担当者が姿を現した。

「オウ!俺様が代理のバロンよしお様だ!…テメー等の言い分はよーく分か
った…当事者同士が合意の上なら、どんな対戦方法もアリアリなのが、この
ゲームのルールだ…従って、テメー等のデスマッチバトルの申請は了承だと
いう事だ…その代わり、マジ死ににならねー様にドクターストップもアリと
いう事と、折角だからテメー等のバトルを俺様のアナウンス付きで全島実況
生放送させて貰う事を交換条件にしてえんだが、構わなねーかい?」

「「上等だぜ!コイツの公開処刑をとっくりと全島生放送してやっからなァ
!!(指をビシッ!!)」」

「オーシ決まりだ、ンジャ始めっゾ!…(ブッ)…オウ!時間外特別勤務中の
バロンよしお様だあっ!!…これからデスマッチルールによるタイマン実況
生中継を始めるゾオッ!!」




 …その頃、リバーサイドホテル15F・第2VIPフロア…

「あうーっ、ぴろーっ、なんか面白そうなのが始まるよーっ!」
「にゃあっ!?にゃあにゃ…(何てこったぁ!?マスターオブ裏庭VSマス
ターオブ広場のデスマッチかよぉ…)」

「な、なぁ居候…あっちのアフロの方なんやがなぁ…」
「佳乃の代戦士で、『芋』…ま、まさか…」


 …同じくその頃、ホテル1F・救急医療室…

「!?っ…どっ、どうしたんですか、センセっ!?」
「…いやそのな、モニターを見てたら何やら頭痛と眩暈が…」


 …更にその頃、倉田アイランドDREAMエリア内・木造旅館ロビー…

①モニター右側のソファー
「おおーっ、ぷろれすだよ美凪ーっ」
「…どちらかと申しますと、ストリートファイトですね、みちる…」
(↑二人とも気付いていません)
「あ〜っ、椋も勝平君も救急搬送に出動しちゃったし退屈でたまらなかった
から、こーゆー景気のいいバトル中継があると助かるわーっ…だけど、あの
モヒカンの方、どっかで見たよーな気がするんだけど…?」
(↑倉田アイランド用脱落者の間のため、発言のみ許可されております)

②モニター正面のソファー
「きゃーっ、ふたりともかなりきもいですっ…負けてしまいましたが、風子
のお姉ちゃんの決闘相手が、風子みたいに優雅で気品のある方で本当によか
ったですっ」
「…確かに、二人とも濃いキャラクターだな、そのままでもネタに使えそう
な位に…」
「それはそれとしてさぁ、和樹…あの二人ってば一体、葉鍵のどのゲームの
何てキャラクターなのお?…まーそれを言い出したら、匿名さんも謎キャラ
なんだけどさあ…あ、もしかして匿名さんはあの二人の事、知ってたりする
のお?」
「(ギクッ)……だっ、断じて知らないわっ…(何をやっているのよ、ったく
あのお馬鹿達はっ…!)」

③モニター左側のソファー
「うううっ、そのカバンとくまちゃんに、そんなドラマがあったなんて……
本編で嫌という程、ドラマを体験させられた乙女のあたしでも、思わずとっ
ても泣けてくる話だわっ…ごめんねっ、ひどい事しちゃって…」
「…だいじょうぶ、おかげで留美ちゃん、おともだちになれたから、おこっ
てなんかいないの」

 …実況中継を他所に、旅行カバンとくまのぬいぐるみを前にして、仲直り
モード進行中の七瀬留美と一ノ瀬ことみ…しかし、そのカバンの中身の封筒
が、ファーストガンダム大好き人間の古河秋生司令のイタズラ心によって、
ニセ封筒とすり替えられていた事など、神ならぬ身の二人にはその時知る由
もなかった事である。

395パラレル・ロワイアルその339:2004/12/19(日) 21:23
「トウカさん…よろしいですか、二人で同時に突撃を行います…今は理由を
説明している余裕はありませんが、私の読みが正しければミツオカ殿は必ず
貴方に背中を見せてしまいますから、その瞬間を逃さず確実に一太刀を加え
で下さいな」
「分かった、カルラ殿…某、カルラ殿の読みが正しい事を信じようぞ」
「こちらこそ貴方を信じますわ、トウカ…もし、貴方が仕損じた時は…私の
『命が絶たれる』時となるでしょうから…」
「カ、カルラ殿…!」
「その位の危ない橋を渡りませんと、ミツオカ殿のお相手は務まりそうには
ありませんわ…例え、二対一である事を差し引いたとしても…」


「シュン殿…皆を連れて、緊急避難通路の方まで下がって頂けるかな…?」
「みっ、光岡さんっ!?」
「…悟さんのお言葉に従いましょう…つまり、あの方達は悟さんの力を持っ
てしても最悪の事態を憂慮しなければならない程の、力の持ち主だという事
なのです…」

 …海底トンネルの方では、特務機関CLANNAD・対能力者猟兵最後の
二人であるカルラ&トウカが、正規参加生き残り組中最強の能力者であろう
光岡悟と対峙しており、他の同行参加者である氷上シュン・霧島佳乃・河島
はるか・杜若きよみ・神尾観鈴が光岡の忠告に従って、トリモチランチャー
にて動かなくなってしまった小型装甲指揮車から緊急避難通路の方へと退避
移動を行っていた…ところで、何故カルラ&トウカが対能力者猟兵“最後の
二人”なのかと申しますと…




 その頃、倉田アイランド“MINMES”エリア内・マザーコンピュータ
ーステーションビル最上階の総合指令端末室では…

トルルルルルルルル……トルルルルルルルル……

「はいはい、こちらは20番だぁ」
「塚北殿…」
「おおお、どうされたぁ、ハクオロ殿ぉ?」
「つい今し方、潜水艦ドッグから89番・柳川裕也殿と来栖川側ゲスト傭兵
のルミラ・ディ・デュラル殿が潜入して来た……幸い、“アヴ・カムゥ”の
方は無人のオブジェだとでも認識したのか、素通りして行ってくれたのだが
、その後の足取りが不明なのだ…」
「ほおぉ、戦いはまだまだ遠くでと思っていたがぁ、そういう手段でやって
来る奴等がまさか本当にいたとはなぁ」
「しかし私が見た所、どうやら連中は、潜水病にこそ罹ってはいなさそうで
あったものの…」
「窒素酔いだなぁ?」
「…そういう事だ」
「高水圧下で圧縮された空気は、成分中の窒素が血液中に高濃度で溶解し、
アルコール酔いに似た症状を引き起こす…徹底順応化をされた花枝ちゃんの
血液以外なら、ほぼ絶対的にこの現象への耐性はない筈…連中を脱落させる
ならば、今すぐこそが絶好のチャンスだという事だなぁ」
「そういう事だ…既に、私の独断で待機中の対能力者猟兵を二名程、刺客と
して送り込んだ…もうそろそろ、戦果報告が聞ける頃だろう」
「なかなか、手回しが宜しい事ですなぁ……で、誰と誰を送り込んで頂けた
のですかなぁ?」
「ベナウィとグラア&ドリィ(彼等は二人で一人扱い)だ」
「……………………………………………………………………………………
……………………………………………………………………………………」
「?…どうされた、塚北殿?」
「馬・鹿・か・お前わああああああああああああああああああああっ!!
エサをくれてやってぇ、どうするんだあああああああああああああっ!!」

396パラレル・ロワイアルその340:2004/12/19(日) 21:25
 更にその頃、“MINMES”エリア内、空気清浄・浄水施設前では…

「ルミラさん、お昼ご飯は私からたっぷりと頂いた筈なんじゃあ?…しかも
二人分も…ヒック!」
「うるさいわねえ、美少年のは別腹なのよお…ヒック!…それに、柳川さん
こそ遠泳・素潜り直後だっていうのに、何を余計なスタミナ使っちゃってい
るんだか…ヒック!」
「ほっといてくれ、美青年の分は別モノなんだよ…ヒック!」

 …ちなみに、二次被害を避けるため、本件の殉職者回収のための救急搬送
車ドライバーは、ジェット斉藤が代行で行う事となった…そして、六人目の
対能力者猟兵であるオボロの方はといえば…




 また更にその頃、来栖川アイランド・大灯台広場巨大灯台・海底トンネル
入口では…

「やはりな…あのハクオロ殿が免罪符も買わないで、ただ葉組に不義理を犯
す様な真似はすまいとは思っていたが…まさか、うたわれ組一の突っ込まれ
属性の(ヌワンギは不参加なので)お前が、ダブルスパイ役だったとはなあ、
オボロ」
「そういう言い方はないでしょう、ユウゾウ殿…せめて、三人目の妹馬鹿と
か、二人目の義賊とか…」
「まぁ、私達はともかくとして、サラさんは許して差し上げるのですか?」
「仕方ないでしょう、香里さんとやら…折角ホテルを飛び出して来て、ティ
リアやエリアの仇連中の一人目をやっとこさ見つけられたかと喜んでいた所
だったけれど、こんなんじゃあ頃してもウサは晴らせそーにもないし…それ
よりも、先を急がなくていいの?CLNNADの連中がアンタ達の深追いの
隙を突いて、アンタ達の仲間の後を追って先にトンネルの中へ入ってっちゃ
ったんでしょう?」
「!そうであった、先を急ぐ事としよう…オボロとサラ殿は、この装甲車を
使って下され」
「う〜ん、それよりもアタシ達義賊組に、そっちの二輪車の方を使わせては
貰えないかしら…?」

397パラレル・ロワイアルその341:2004/12/25(土) 21:09
「後は頼みましたわよ、トウカ」

 来栖川アイランド〜倉田アイランドの間を結んでいる海底トンネル…移動
不能となった小型装甲指揮車から退避する同行者達を護るため、殿となって
追手と睨み合っている光岡悟…そして、追手である事実上最後の倉蔵側の対
能力者猟兵の内の一人カルラは、もう一人であるトウカへそう一言告げると
、トリモチランチャー片手に突撃を開始した。

「承知致した、カルラど…のっ!?」
 続いて、腰の得物―――支給装備の逆刃竹光を抜刀して駆け出すトウカで
あったのだが、次の瞬間目の前で起こった、彼女にとっては余りな出来事に
思わず、棒立ちとなってしまった。

 自分の目の前を突進して行くカルラが何と、光岡ではなくトンネル内緊急
避難通路へと退避中の他の正規参加者達に向かって、トリモチランチャーを
片手で乱射しながら突っ込んで行ったのである…!




 その頃、リバーサイドホテル1階・屋外プール・プールサイドでは…

「チョット何よ、あの筋肉女っ!?まさか、一番卑怯な手段に訴えるつもり
なのっ…!?」
「忘れてやいないかい、郁未…相手が光岡さんだって事を…」
「あ…」
「多脚戦車に強化兵隠蔽装置という万全といっても過言ではない装備で彼に
挑んだ52番さんでさえ、あっさり返り討ちにされてしまったんだ…リンク
・デッドを狙う以外に、彼を脱落させる手段はないと言っても間違いはない
だろうね……第一、僕ですら本編では蝉丸さんを倒すために…」
「そ、そうよね…私だって人の事言えない様な手段、晴子さんに使っちゃっ
たのよね…直後に報いを受けちゃったんだけど…」


 同じくその頃、ホテル1階・南口ロビーでは…

「はて、来栖川殿…らしからぬ失策ですの、カルラ殿らしくもない」
「いかにも…エヴェンクルガの誇りを忘れた訳でもあるまいし、事前の相談
もなしにかような作戦を行うとは…」
「…もしかしましたら、カルラさんなりの免罪符だったのではないでしょう
か?…使命感への誇りと、ギリヤギナの誇りの板挟みに悩んだ末の…」
「成る程の、それでより誇り高きトウカ殿に同じ以上の苦しみを与えぬため
に、敢えて…」
「後は、トウカ殿次第という事ですな、この戦いの結末は…」

398パラレル・ロワイアルその342:2004/12/25(土) 21:10
「!…ぬうっ!」
「「「「「!?っ」」」」」
 再び、海底トンネル内…緊急避難通路へと退避中の五人の最後尾を守って
いた氷上シュンは、自分達に―――いや、恐らくは光岡の依頼人である杜若
きよみを狙って、トリモチランチャーを乱射しながら突進して来るカルラに
一瞬仰天しながらも、慌てて左手のグフシールドを構えなおしつつ、右手の
黄色いゾリオンを抜いて…撃つのを躊躇してしまった。カルラの気迫に押さ
れたのも理由の一つではあるが、カルラの背後より更に一直線に迫り来る、

「それだけは…絶対に許さん!」
 怒気を秘めた面持ちで竹光を抜き放った、光岡の姿が見えたからである…
右手のゾリオンは光線銃である、カルラに命中すれば十中八九、背後の光岡
にも貫通して命中してしまう。

『神岸さんの時といい、意外と欠点があるものなんだね、光線銃というもの
も…』
 心の中で毒づいたその時、いつの間にかシュンの背後に伸びていた手が、
開いていた彼のバッグから引っ張り出した物をそのまま、勢いよくカルラへ
と投げ付けていた。

「バイバイ、鉄砲玉一号さん……」
「……!!」
 ソレが宙へと舞った。

ボンッ!!

 宙を舞ったソレ―――頓服薬の紙袋―――が反射的に繰り出された…いや
繰り出してしまった、カルラの剛拳によって叩き落され…いや叩き割られて
しまったのは彼女の顔の前。

 中の微粒子が、散る。

「くっ……」
 カルラは視力を奪われると、盲撃ちによる最後の一斉射を行った。

ポポポポンッ!
…ズバンッ!!

 続いて、打撃に等しい強烈な斬撃音。カルラの体が勢いよく、跳ねた。

『ビーッ、新規ゲスト警備兵・カルラ、有効打直撃により殉職しました』

「やっぱり…ダメでしたわね、トウカ……ですけど、最期の最後に…私にも
とびっきりの魔法が使えたみたいですわね…例えこの目で見えなくとも、耳
でわかりましたわ……では、今度こそ後は頼みましたわよ、トウカ…」


 激昂による力の加え過ぎが原因なのか、それとも首輪にも命中してしまっ
たのであろうか、光岡の竹光はカルラを『斬殺』した時、根元からぽきりと
折れて、その刃が宙を舞っていた。

 更に、カルラの最後の一斉射はシュンのグフシールドに続け様に命中した
…直撃こそは食らわなかったものの、連続被弾の衝撃は及び腰だったシュン
をシールドごと後方へと突き飛ばし、背後にいた正規参加者達―――四人の
少女達へ、見事な玉突き衝突を起こしていた。

「わわわ!」「…ああっ」「うわわ…」「はうっ」
 そして、最も緊急避難通路の入口近くに立っていた神尾観鈴は、入口より
中の下り階段へと足を滑らせ、

「…観鈴ちゃんっ!」
 それを庇おうとした河島はるかも、ぶつかられた勢いそのままに下り階段
内へと飛び込んで行ってしまった。

399パラレル・ロワイアルその343:2004/12/25(土) 21:57
 霧島佳乃の投げ付けた頓服薬に視力を奪われた末、無防備に晒した背中に
光岡からの斬撃を受けてカルラが脱落した時、トウカは最後までそれを茫然
と見ていた…カルラの読み通り、その時の光岡もまた、トウカに対して全く
無防備の背中を晒し続けていたのであった…もしもトウカが、カルラに続い
て突進を続けていたならば恐らく、直接大事な人を狙われて少なからず逆上
していたであろう光岡は、カルラを脱落させる前にトウカの斬撃を背後より
受けて脱落していたのかもしれなかった。

「何という事だ…某は、己の誇りに縛られて、某を信じてその背中を託した
カルラ殿を裏切り、無駄死にをさせてしまった…」
 それでもその場にへたり込まなかったのは、エヴェンクルガの誇りという
もののせいなのであろうか…?


「…まるで、史記で呼んだ事のあります始皇帝暗殺劇の様な展開でした…」
「そっ、それよりも観鈴ちんとはるかさんが、避難通路の階段の中に…」
「気を付けて下さい!きよみさん、佳乃…光岡さんの刀が、今の一撃で折れ
てしまいました…危機はまだ終わってはおりません!」


 ゆらり…と逆刃の竹光を構えつつ、何かを決意した様な重い表情のトウカ
が、じりじりと光岡の方へとにじり寄る。

「かくなる上は、ミツオカ殿…御身の刀が折れておられども……情け無用!
せめて、その首を…そして、他の衆の首をも頂いた後…この腹を切って果て
、カルラ殿と聖上への償いとさせて貰おう!」
 そして……駆けた!

「来られよ、マーダーと呼ぶには余りにも誇り高き武人よ!」
 平静を取り戻した光岡は、折れた竹光をトウカへと投げ付ける様な事無く
捨てると、竹光の鞘を逆手に持ちトウカを迎え撃つ。

「某はやり遂げる!!エヴェンクルガの誇りに懸けて!!」
 フェイントも何もない逆刃竹光による真正面からの渾身の一撃が、トウカ
より光岡へと勢いよく振り下ろされた!

ガギン!!!

 …しかし、念が天に通じるには今一歩足りなかったのかそれとも、光岡の
受けの技量によるものなのか…トウカ渾身の斬撃は光岡の翳した鞘を見事に
両断したものの、その勢いはそこまでで力尽き、その刃先は空しくも光岡の
胸を掠めただけで終わってしまった…そして、光岡の両断された鞘の片方が
スライドして、中から小太刀の刃が顔を覗かせたのは、次の瞬間の出来事で
あった。

ズンッ!!

「なっ!?…何と、ミツオカ殿の竹光も、同じ作品からの出典にて作られし
ものであったとは…そ、某とした事が!…示唆となる装備を支給して頂いて
おりながら、何という観察力無き故の失態を…」

『ビーッ、新規ゲスト警備兵・トウカ、有効打直撃により殉職しました』


 光岡は、倒れ伏したトウカから逆刃竹光を回収しようとして…今は諦めた
…既に、シュン・佳乃・きよみは転落した観鈴とはるかを追って、避難通路
の方へと入っていた。

「まだ、終わってはおらぬという事か…」
 光岡は右手に抜き身の竹光小太刀を握り締めたまま、ガードレールに衝突
した送迎エレカの横へと停車した空陸両用送迎機“ジャノメ”より、つい今
し方降り立った、Tシャツに防弾エプロン・腰にホルスターを提げた、銜え
煙草の男の方へとゆっくりと向き直った。

「パン屋、参上!…ってか」

400パラレル・ロワイアルその344(半休載させて頂き、今回は1話だけ):2004/12/31(金) 23:19
「食らえ!F(フェティッシュ)P(ポテト)M(ミネラル)P(パンチ)!!アリ
アリアリアリアリアリアリアリ」
「うるせえバカ犬!(ガスガス)」
「な、なんてパワーだ!」
“オォーっと、07年!06年の連続パンチを受け切った上での頭突き連打
だァッ!!…06年、アフロから激しく流血〜ッ!!”

「07年に06年?…あー成る程な、そーゆー事かよ…って事ぁ、24番は
05年…果たして鍵の年賀状の方は来年以降、ネタ三連荘ってえ事になるの
かねえ…?」

 倉田アイランド・THE−TOWNエリア駅前交差点…謎のモヒカン男対
謎のアフロ男のデスマッチ勝負はピークを迎えていた…路面のアスファルト
の所々にはヒビや陥没が入り、標識は捻じ曲がり、停留所看板はぽっきりと
へし折れてしまっている…当の二人も全身流血と汗に塗れ、息を荒げながら
もその闘志を剥き出しにして、真正面から相手へとぶつかっては離れるのを
先程から延々と繰り返しているのだが、そのパワーとスピードは衰えを見せ
る気配すらなく、むしろパワーアップ・エスカレートしていく一方である。

 と、コップ酒片手に歩道のベンチで観戦していた御堂の所へ、頭突き連打
に流血してのた打ち回っているアフロを放置して、モヒカンがのっしのっし
とやって来た。

「ヘイじーさん、お代わりがあるんなら俺にも酒を恵んじゃくれねーか?」
「おらよ!…それにしても、流血中の身の上で酒飲もうたぁ、テメーも豪気
だな…07年ってえ事ぁ猪かよ、パワフルだからてっきり熊かと思っちまっ
てたぜ」
「(グビッグビッグビッ、プハーッ)ありがとよ、じーさん!…でもよ、俺に
とっちゃあこの程度は流血には入んねーし、熊は他の仲間にちゃーんと別に
いるんだぜい、んじゃな!」

 渡されたコップ酒を一息で飲み干すや、再び立ち上がったアフロの方へと
突進して行った、モヒカンの背中を見送る御堂。
「ほうほう、別口で熊までいやがるとはな、動物枠もなかなか侮れねえモノ
がありそうだな……まぁ、何にせよこのげーむ、やり合ってみてえ強者供が
知らねえ所でバタバタと脱落しまくりやがって…おかげでこちとら、随分と
張り合い甲斐のねえ状態が続いちまってっからなぁ…折角、最前線まで出張
って来てんだ、もうこの際歯応えがありそうな奴なら例え、熊だろうが坂神
だろうが大歓迎で…」

たすっ、たすたすたすたす……

 駅の階段を下って、自分の腰を下ろしているベンチの方へと近付いて来る
肉球の静かなる足音に御堂が気付いたのはその時であった。

「ゲーック!言ってたら本当に熊が来やがったぜ!…まあ、着ぐるみなのは
いいオチだと思うがよお」
「……そこの御老人」
「いきなりトンデモねぇご挨拶だな、嬢ちゃん…中の奴が野郎だったら早速
戦闘態勢の所だぜい」
「それでは、何と御呼びすれば宜しいのですか?」
「御堂でいいぜい…熊ちゃんは、熊ちゃんでいいのかい?」
「さっき、名前で呼ばれていた覚えがあるのですが」
「?…!お、おめえ、まさか坂神とかいうんじゃあ…?」
「坂上智代と申します」

「ゲーッ、ゲッゲッ、まさか本当に、熊ちゃんと坂神ちゃんがやって来たと
いうワケかよ!」
「坂上、で結構です…ちなみに“がみ”は“上”なのですが…」
「ならオメーも、年長相手だからってそんな改まった口調でなくてもいいぜ
い…ホントは、そういうイメージのキャラなんじゃあねえんだろ?」
「その通りかもな…わかった、おやっさん」
「そうそう、そんな感じでいい……で、俺様に一体何の用だ?まさか相手を
しろとでも言うんじゃあねえだろうな?」

「最初はその積もりだった…しかし、今おやっさんの空気を嗅いだ限りでは
、残念ながら私の勝ち目は到底なさそうだ」
「賢明というべきなのか、諦めの早いというべきなのか…俺がこう言うのも
何だがよ、せめて支給装備と相談してからでも結論は遅くはねえんじゃ……
ん?何だこの絵本は?」
「私の、支給装備だ…」
「成る程な、思いっきりハズレというワケかよ……何々、『偉い人のお話・
じょーじ・わしんとん』?…るーずべるとの何代前だったけか、コイツって
よ?……で、読んで見てど−だったんだ?」

「父親が許しても、私は絶対に許さない…と思った」
「??」

401パラレル・ロワイアルその345:2005/01/04(火) 16:14
パーポーパーポーパーポーパーポーパーポー…キーッ。

 駅前交差点の車道に、一台の救急搬送用エレカがサイレンを鳴らしながら
やって来た。自力移動不能になった殉職新規ゲスト傭兵・クロウを収容する
ためである。で、当のクロウの方なのであるが…

「ウルァ!なめるなコラ!(ガスガス)」
「いででででっ……今だっ!スキありっ!!(ズビシ)」
「ギャッ!?……そのへんにしとけよバカ犬(メリメリ…)」
「ギャアアア!コンニャクプレイ反対ー!!(ドタンバタ)」
“オォーッと、再び激しい攻防が展開されてるゾォッ!…両者ともに路上の
『死体』を武器に防具に踏み台にィ!何とも巧みな使いこなしだが、使われ
ている『死体』の方は、全く飛んだ災難だァァッ!”

 モヒカンVSアフロのデスマッチ勝負のとばっちりで、声も出せない有様
にされてしまっていた。と、そこへ救急搬送エレカから降りて来たのは搬送
ベッドをゴロゴロと走らせている柊勝平、一方相方の藤林椋の方は医療道具
の準備に手間取ってしまい、まだエレカから降りられないでいた。

「あのー、お二人ともすみませーん…実は、そちらで倒れておられるクロウ
さんを回収……」
 クロウの『死体』そして、乱闘中のモヒカンとアフロの方へと近付きなが
ら掛けた勝平の言葉は、途中でバロンよしおの大音量のアナウンスによって
大いなる誤解とともに掻き消されてしまった。

“オオーッと!ここで蔵等の柊勝平が、タンカ持参で乱入だァァーッ!!”

「「んん〜!?何だとォッ!?(…ギロリ)」」
「え…?」
 乱闘中のモヒカンとアフロに一斉に睨まれ、愕然となる勝平。

「「動物組竜虎対決のォ…邪魔だァァァァァァッ!!」」
 二人が叫ぶと同時に繰り出して来た左右からのダブルラリアットが勝平に
炸裂したのは次の瞬間の事であった。

((ガゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!))
「くらぴかっ!」

 勝平の体は宙を舞い、交差点中央の噴水池へと水飛沫を上げて落下した。

『ビーッ、○06年アフロ&07年モヒカン(9秒・ダブルラリアットによる殉職)●柊勝平』




「初めてバッチリとウマが合ったなあ、芋」
「当たり前だあ!おめえを倒すのは、この俺様唯一人なんだからなあ!」
 決着をつけるべく、再び組み合うモヒカンとアフロ…しかし、次なる新規
乱入者が、電気エンジンの起動音と共にやって来た。

402パラレル・ロワイアルその346:2005/01/04(火) 16:15
「「!!」」

 エンジン音の方へと思わず向き直ったモヒカンとアフロの方を目掛けて、
救急搬送エレカが猛スピードで突進して来たのであった。

“オオーッと!更に蔵等の新手が、何と救急車持参で乱入だァァーッ!!”

 もっとも、本来の二人の瞬発力ならば、その突進をかわす事はそう難しい
事ではなかった筈であった。しかしどういう理由なのであろうか、モヒカン
は迫り来る救急搬送エレカの運転者―――怒気満面たる藤林椋―――の顔を
認めるなり、アフロに組み付いたまま恐怖で全身を硬直させてしまったので
ある。

「!?っ…おっ、おいタンツボッ!お前何組み付いたまま固まってんだよっ
!?…バカっ、はっ離せっ!はなしてく……ギャアアアアーーーーッ!!」

((バゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!))

 モヒカンとアフロの体は宙を舞い、歩道のベンチの方へと飛んで行った。

「ゲーーック!?」
「危ない、おやっさん!」
 コップ酒のせいか、不覚にも一瞬反応が遅れた観戦者をかばう様に、熊の
着ぐるみがベンチの前へと素早く立ちはだかった。

ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!
「うりぼっ」
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!
「げだまっ」

“オオーッと!鉄拳の熊ちゃんもビックリのスーパーダブルコンボだァ!”
「ヒューッ、オメエ素人にしちゃあなかなかイイ格闘センスじゃねえか」

 モヒカンとアフロの巨体は宙を舞い、今度は交差点中央の噴水池に揃って
盛大な水飛沫を上げて落下した。

『ビーッ、○藤林椋&坂上智代(15秒・綾香特攻&32HIT×2連打による殉職及び失格)●ボタン&ポテト』




「ええ〜ん、勝平く〜ん…ボタンちゃんもごめんねえ…でも、ボタンちゃん
だって悪いんだよお」
「取り敢えず、代わりのドライバーが手配出来る迄は私がハンドルを持とう
、先輩…次は、海底トンネルの美佐枝さんを収容するのか……そういう訳だ
、済まないがおやっさん、ここで一旦お別れの様だ」
「おう、芋の事を宜しく頼むぜ…それと坂上ぃ、よかったら折角だから餞別
代わりによぉ、おめえのツラ見せちゃあくれねえか?」
「見せ物ではない…だが、断る理由もない…(すぽっ)」
「まるでというか、やっぱりというか…坂神とあゆを足して2で割った様な
きゃらだったんだな、オメエ」
「褒め言葉として受け取っておこう…とはいえ、『むぐう』が口癖だったら
嫌だな…」
「ゲーゲッゲッ、確かにそりゃ嫌過ぎるに違いねえやな」

 …かくして、クロウ・勝平・ボタン・ポテトを収容した救急搬送エレカは
坂上智代の運転の下、THE−TOWNエリアを発ち、DREAMエリア・
木造旅館を経由での海底トンネルへの移動を開始し、御堂はポテトが残した
支給装備…元・ぴろの使い損ないの支給装備を『遺品』として入手した後、
再び倉田アイランドの奥深く目指しての移動を開始した。

【31番・ポテト 脱落…残り24人】

403パラレル・ロワイアルその347:2005/01/04(火) 17:05
「…ん、観鈴ちゃん、大丈夫?」
「ううーん…ゴールしちゃいそう…」
「…その例え、笑えないよ…」
「…でも本気で死ぬかと思ったよー、みすずちん瀕死!ってところかな」
「…同人ネタ言ってる余裕はあるんだね」

 海底トンネル内緊急避難通路…その車両用トンネルから階下の鉄道用トン
ネルへと通じている階段の一番下で、怪我こそしてはいないものの、流石に
ぐったりふらふらしているのは神尾観鈴と河島はるか…で、何故この二人が
怪我をせずに済んだかとの理由を言えば、

「「「「「「「「「「「「(ぴくぴくぴくぴく…)」」」」」」」」」」」」

 既に殉職した新規ゲスト傭兵・相良美佐枝の事前の援護出動要請を受け、
トロッコ2台に分乗して緊急避難通路へとやって来て、鉄道用から車両用へ
そのまま駆け上がって行き、光岡悟他の正規参加者を美佐枝達と挟み撃ちに
するために階段を上って来ていた特務機関CLANNADの実働部隊の一つ
“ラガーメンズ”のメンバー12名が、

「はうっ」「…観鈴ちゃんっ!」

 の声と共に、いきなり階段のてっぺんから降って来た二人の少女の直撃弾
を受け、その下敷きにされたまま全員ドミノ倒しで階段を転げ落ちて行った
末、身代わりで脱落してくれたお陰であった。


「観鈴ち〜ん!」
「はるかさ〜ん!」
「…お二人とも、大丈夫ですかあっ?」
 階段のてっぺんから今度は、霧島佳乃・氷上シュン・杜若きよみが、下の
観鈴とはるかを心配そうに見下ろしながら声を掛けて来た。

「…ん、大丈夫っ…観鈴ちゃんも、大丈夫だからっ」
「うんっ、観鈴ちんも元気、にははっ」
 はるかと観鈴も階段の下から、『死屍累々』たるラガーメンズを下敷きに
したまま、上の三人へと元気に応えた。
「…それよりも、こっちに地下鉄道用のトロッコが二台も停まっている…」
「そうだよ、光岡さんも呼んでみんなで降りてこっちに乗って行こうよっ」


「…それは、良い考えです」
「シュンくん、光岡さんを呼びに戻ろうよっ」
「分かった、きよみさんと佳乃はここで待っていて下さい」

 黄色いゾリオンを片手に再び、避難通路内から車両用トンネル内へと足を
踏み入れたシュンは、そこにて抜き身の竹光小太刀を片手の光岡悟と、赤い
ゾリオンを片手の特務機関CLANNAD司令こと、119番・古河秋生が
カルラとトウカの『死体』を挟んで睨み合っているのを目撃した。

「!」
 思わず光岡を援護せんと、片手の黄色いゾリオンを秋生へと向かって構え
ようとするシュン…しかしその瞬間、トンネル内の非常用兼インフォメーシ
ョン用スピーカーが、彼にとって青天の霹靂たる内容の放送を開始した。

『31番依頼人・霧島佳乃、代戦士脱落のため直ちに交戦エリアより退いて
下さい』

「ええっ、佳乃っ…!?」
 思わず避難通路の方を振り向こうとした…いや、してしまった瞬間。

「スキありだな、元ラスボス候補!」
 秋生の赤いゾリオンから発射されたレーザー光が、避難通路の佳乃の目の
前でシュンの体を貫いた。

『ビーッ、72番・氷上シュン、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』


「!…おのれっ」
 シュンの失格アナウンスと同時に、光岡は秋生に向かって駆け出した。

【72番・氷上シュン 脱落…残り23人】

404パラレル・ロワイアルその348:2005/01/10(月) 19:47
「…佐祐理」
 倉田アイランド・FOREVERエリア内某別邸…その応接間のソファー
に座り、奥に鎮座している巨大液晶テレビのモニター画面を凝視しながら、
川澄舞は隣に座っている倉田佐祐理へと声をかけた。
「…いよいよ、始まる…」

「勝者はどちら様になるのでしょう?…そして、例えどちら様が勝者になら
れましても、佐祐理達の形勢傍観態勢はお終いになるかもしれませんねえ」
 佐祐理もモニター画面内の光景―――車両用海底トンネル内で睨み合って
いる光岡悟と古河秋生の様子を眺めながら、舞へと言葉を返す。

「…どうして、おしまいになってしまうのだ佐祐理?」
「正規参加生き残り組と倉蔵連合軍…それぞれの陣営に於けます、戦闘能力
とリーダーシップを併せ持った二大巨頭の内の片方が、あとわずかな時間で
このゲームの舞台より去って行かれてしまうのです…そして、例え古河司令
が勝ち残られたと致しましても(当たり前だが、佐祐理も舞も現在の時点で
は光岡の勝利を確信している)、勝ち残った側にとっての佐祐理達の存在は
…正規参加者にとっては『倉蔵』ですし、蔵等にとっては『正規参加者』と
なってしまう事でしょう…もっとも、ハクオロさんや塚北さん、御堂さんと
違いましてひとりぼっちではありません分、佐祐理はまだとっても幸せな方
なのでしょうが…」
「…確かに、古河司令が敗北すれば幸村前司令や岡崎一族がどれだけのサポ
ートを試みた所で、CLANNADは個人・小部隊単位でしか統制が取れな
くなり、総崩れは必至な筈……というか、今現在も正規参加者達を相手に、
ゲスト増援の対能力者猟兵共々、相当な苦戦を強いられている様な気がする
のだが…?」
「考え様によっては、それは当然なのかもしれません…そもそも、特務機関
CLANNADはそのメンバーの大半が、戦略戦術指揮官や諜報工作要員、
軍事アナリスト等々で構成されました、作戦コーディネイト・プロデュース
機関といった色合いが強くて、実際の作戦時に於けます実動部隊のその殆ど
は、地元の特殊部隊の協力あるいはレンタルによってまかなわれている…と
表現しても、差し支えはないのが実状・実態なのですから」
「…なるほど、本編859話での大量の兵的人員はその殆どが、各地元での
特殊公安部隊によってまかなわれていたという訳なのか…では、859話に
おけるCLANNADのメンバーは、実際の世界各国の突入現場には指揮官
クラスが一〜二名といった所で…」
「ええ。ですが、100%のケースで地元調達が出来ますとは限りませんの
でCLANNADにも一応、比較的小規模ながら私設実動部隊が存在するの
ですよ、その一つが…」
「…先程、神尾さんと河島さんに全滅させられた“ラガーメンズ”か」
「そして、もう一つが…」
「…今、倉田別邸を『警護』しているのか『監視』しているのかが判りかね
る“ストライカーズ”…それにしても佐祐理、はたして春原が言っていた事
は、本当なのだろうか…?」

 舞は佐祐理の反対隣でソファーに横たわり、幸せそうに眠っているCLA
NNADの使者・春原陽平の能天気で無防備な寝顔に神妙な視線を向けた。

「うー…うん?ああ…それはおかまいなく…(すぴー)」
「―――…それにしても、何の夢を見てるんだ…こいつは」

 思わず、テーブルの上のコーヒーメーカーの漏斗の部分を、その開いた口
に刺し込んで、ペットボトルのエビアンを流し込んでみたい衝動に駆られる
のを必死で抑えてしまう舞。

「あははーっ、駄目ですよ舞ーっ、恐れ多くも本編絵描き様の同人誌ネタを
実践しようなんてーっ」
「…何故わかったのだ、佐祐理?」
「佐祐理は舞の考えている事なら、何でもわかっているつもりですよーっ…
それと春原さんですが、ご自身の煩悩に忠実であられます分、誠実で正直な
方だと、佐祐理は信じておりますですよーっ」
「…春原自身がかつがれていたり、利用されてたりしない限りは…か」
「正直、そっちの方が佐祐理もとっても心配ですねー」

「…それと、カラスさん…」
 続いて舞は、今は自分の肩へとまっているそらへそっと視線を合わせる。

ばっさばっさ。

 舞の言葉を認めその続きを促すかの様に、そらは舞の肩の上で羽ばたいた。

405パラレル・ロワイアルその349:2005/01/10(月) 19:48
「…カラスさんも、町のエリアの駅前で戦っていた犬さんや猪さんみたいに
、変身アイテムを支給されているのか…?」

 そらが再び、舞の言葉を理解出来たかの様に、ひょいと左脚の足輪に付け
られた動物組用小型識別装置を舞へと突き出して見せた。

「…!これは!?」
 舞は、識別装置の側面に磁石の様に吸い付いて固定されてる、小さな水晶
に気付いて声をあげた。

「はえ〜、綺麗ですね〜っ…もしかして、魔法の国伝来の使い捨てマジック
アイテムなのでしょうか〜っ?」
 佐祐理もその、小さく不思議な輝きを発している水晶に驚嘆の声をあげて
いた……と、

ころり。

「…あっ!」
 いきなり水晶が識別装置から勝手に外れ、慌てて差し出した舞の右手の平
の中へと転がり落ちた。

「…どうして?…何が起こったというのだ…?」
 驚きながらも、受け止めた水晶をそらへと戻そうとする舞……しかし、

ばささっ。

「…ああっ」
 そらは舞の肩を離れ、応接間の開いた窓をすり抜けると外へと飛び去って
行ってしまった。

「…何故だ?…何処へ行ってしまおうというのだ…?」
 唐突なるお別れに驚いて窓の外へと駆け寄り、上空(もといドーム天井)を
目で追ってしまう舞。

「…カラスさんの依頼人さんが、この倉田アイランドへやって来ようとなさ
っておられるのでは、ないでしょうか?…ですから、佐祐理達へのお別れの
挨拶代わりに、その水晶を…」
「…そうか…だが佐祐理、私は動物さんでは…」
「もしかしたら、人間にも使用出来る物なのかもしれませんねー」
「…だったら、佐祐理が…何かの時に護身の力になってくれるかも…」
「いいえ、舞が受け取った物なのですから、舞が持っているべきだと佐祐理
は思いますよーっ…それにもしかしたら、カラスさんはちゃんと理由があっ
て、舞を選んで渡したのかもしれませんしー」
「…わかった、それならば一応私が預からせて貰う事にするぞ、佐祐理…」

 くるりと振り返って、窓の外から応接間のソファーへと戻る舞。
「…お、おい……何をしている?」

「はえ?何って……膝枕ですよーっ」
 春原の頭が、佐祐理の聖域とも男の浪慢ともとれるしなやかな太腿の上に
乗っかっている。

「……だ、駄目だ……」
「……ふえ?どうしてですかーっ?枕もなくこんな所で寝続けておりました
ら首筋痛くしちゃいますよーっ。水中バイクで移動中、楽をさせて頂きまし
たから、この位はさせて頂きませんと……適材適所ですよーっ♪」
「…嫌、待つんだ佐祐理……そんな大サービス……(ふるふる)……もとい、
いたいけな佐祐理にそんな事はさせられない……これが魔物を討つ者の定め
なのだ……だから、私が代わろう」
「あははーっ、舞ってレディにしてジェントルマンですねーっ。佐祐理、感
激しちゃいましたーっ!」

 まさか、春原陽平・天国の仮眠時間からくる嫉妬とは口が裂けても言えない。
春原の頭の上方にまで移動すると、そっと春原の頭を自分の膝に乗せた。
(…うっ……私の膝に男が乗ることになるなんて……この川澄舞、一生の不覚……!!)

「ふえ?何か、苦虫を噛み潰した様な顔をなさっておりますよ、舞……」
「…え?…いや、そんなことはないぞ?…私は、女にも男にも優しい積もりだ…」

 その後、春原陽平・天国の仮眠時間は更に十分程で終わりを告げた。
 寝返りを打った春原が、舞の両腿の付け根と下腹部の間によだれを垂らしながら、ぐりぐりと顔をうずめた直後に。
 防御装置八回作動分の、川澄舞・怒りの活入れコンボと共に。

【春原陽平 残り50HIT】

406パラレル・ロワイアルその350:2005/01/10(月) 20:45
 車両用海底トンネル内…光岡悟は、秋生に向かって―――依頼人撤収放送
に気を取られてしまった瞬間の氷上シュンを赤いゾリオンで『射殺』した、
特務機関CLANNADの古河司令に向かって、全速で駆けて行った。

 秋生は、元90番・水瀬秋子特別調査官や95番・澤田真紀子、56番・
立川雄蔵等と同様、非能力者の中では補完の力に長けた傑物ではあったが、
それでも、その動きは経験をも有した能力者である強化兵・光岡悟には到底
及ぶ物であろう筈がなかった。

 秋生の赤いゾリオンが再び、光岡へと向け直されようとした時には既に、
駆け抜けた光岡が秋生の真正面を必殺の間合いに捕らえていた。




 その頃、リバーサイドホテル15階・第2VIPフロア…

「ああっ、蝉丸うっ!」
「どうした、月代?」
「あの光岡さんと戦っている人…あの人って確か、バスジャック事件の…」
「む!…いかん、光岡!その刃渡りでは…腹を刺すな、駄目だぁーっ!!」




『ビーッ、15番・光岡悟、有効弾直撃により失格…依頼人・杜若きよみと
供に、交戦エリアより退いて下さい』

 光岡の竹光小太刀が、秋生の防弾エプロン越しに腹へと突き立てられた…
そして、失格アナウンスが発せられないという異常に気付いた時には既に、
秋生の赤いゾリオンのレーザー光が、光岡の腹部を貫通していた。

「敗因その一・カルラ殿に刃渡りの長い得物を折られてしまってた事…敗因
その二・命中判定が高く、防具付きでオーバーダメージの心配のない腹部を
こちらの読み通りに刺してくれた事…敗因その三・刺した際、伝わって来た
確かな手応えに気を緩めて、異常に気付くのが一瞬遅れてしまった事…敗因
その四・月代ちゃんと一緒にいる坂神さんと違って、マスメディアに疎かっ
た事…まあ、そんな所かな?」
「そうか…古河殿が、あのバスジャック事件の英雄であったとは…ならば、
この程度の刃渡りの得物で、腹を刺した所で……無念だ」




 一方、避難通路階段上り口では、杜若きよみが車両用トンネルで膝を付く
光岡の『死体』と、既に無言で寄り添っているシュンと霧島佳乃の『死体』
を見やった後、下り口のトロッコの中にて自分達を待っている、神尾観鈴と
河島はるかの方を向いて『遺言』を伝えた。

「アナウンスが聞こえましたか?私達は、もう、ダメです。でも、悲しまな
いで。私は私の大切な人に従って、戦うことが出来たのです。私はこうして
、出番を保ちました。だから、はるかさん、観鈴さんをみんなを助けてあげ
てください。私は、台詞だけ3巻裏表紙のヒロインでしたけど、でも観鈴さ
んなら、アナザー本の表紙にもなれる。そう、信じてま……」

 その瞬間、トロッコが動いた…ラガーメンズの全滅を察知したS・Fが、
正規参加者に鹵獲利用される事を避けて、自動操縦による回収を試みたので
あった。

「ががが、がおっ!やだよおっ、離してよおっ、降ろさせてよおおっ!」
「…駄目、後で存分に恨まれてあげるから…今だけは我慢して、観鈴ちゃん」
 唐突に訪れた別れの瞬間を拒もうともがく観鈴と、それを何とか押さえ
付けているはるかをのせたまま、トロッコは自動操縦で倉田アイランドへ
と移動して行った。




「!…あの声は?」
 高野は、トロッコで移動中の海底トンネル前方から聞こえて来た少女の声
と思しきものに気付くと、支給装備のM16ライフルのスコープ越しに遥か
トンネル前方を凝視した。

【15番・光岡悟 脱落…残り22人】

407パラレル・ロワイアルその351:2005/01/17(月) 21:36
「なるほどね☆謎はぜんぶとけた!」
 DREAMエリア内木造旅館・1階ロビー…ポテトとボタンの『死体』が
噴水池からずぶ濡れで収容されていく様子をテレビで眺めた後、大庭詠美は
再びくるりと一回転し、いまや満面に汗を浮かべている匿名希望をビシィ!
と指差した。

「つまり、匿名さんも…」
「……そんなに、編集長さんに売り渡して貰いたいのかしら?…それとも、
茶色くて触覚があってガサガサと疾走する虫を、生きたままお口にポイして
貰いたいのかしら…?」
「なっ!?チョット待ちなさいよッ、編集長はともかくとして、もう一つの
選択肢っていったい何なのよッ!?」
「……私、見ていたんですよ…昨晩、学校で詠美さんが47番さんをやっつ
けてしまう所…よっぽどお嫌いな様ですわねえ、あの虫の事…でも、いざと
いう時には食べられない事もないという話ですわよ…試して見られますか、
詠美さん?」
「(ぞくぞくびくびくっ)え、遠慮させて、貰うわ…」
「……あら、残念ねえ(出来立ての海底ドームで果たして、あの虫が手に入
れられるのかどうかお気付きにならない所が、詠美さんらしいですわね)」

 無論、編集長に売り渡して貰いたくない千堂和樹の方はその点に気付いて
いたのであるが、余計な事を詠美に教える筈もなかった。


『……ふーっ、取り敢えずは当面の危険は去ってくれたみたいね…七瀬さん
は人(?)のプライベートを詮索するような方ではなさそうですし、杏さんは
今の所どうやら、ポテトの対戦相手の猪の事で頭がいっぱいみたいですし、
風子ちゃんに至っては疑う事すらも知らなそうな、純粋そうないい子みたい
だし………………って、あああっ』
 その時になって匿名は漸く、自分にキラキラとした視線を向けてくる遠野
美凪と、わくわくとした視線を向けてくるみちるの存在に気が付いた。
『……こ、これってひょっとして、万事休す…って、事なのかしら……?』

「…あの、匿名さん?(ぽ)」
「……な、なんでしょうか美凪さん?それに、みちるちゃん…?(汗)」
「うに、ひょっとしておばさんも、変身動物さんなのかーっ?」
「……の、のーこめん…」
「…さあ、お答え下さい(ずいっ)」
「隠し事はだめなのだー(ずずずいっ)」
「……い、いえす…」
「…素敵です…」
「やっぱりそうなのかーっ、で、いったい何が変身してるのだーっ?」
「……へ!?(ひ…ひょっとして、まだ完全にはバレてなかったのっ!?)」
「「…『へ…』?」」
「(!!)……び…じゃなくて、へへへへ…へとでっ!」
「…海の、生き物さん…(にっこり)」
「ヒトデかー、さすが南の島だなーっ…それにしても、ひょっとしたらぽち
も、この島のどこかで変身しているのかなーっ?」
「(ぎくっ)……そ、そうかもしれないわねえ…」

 恫喝ととっさの機転により、何とか当面の危機を回避した匿名であったが
、代わりに挙げた生物の種類が偶然にも最悪であった事に気付かされたのは
その直後の事であった。




「……と、いう訳で紆余曲折を経て、私達は今も一緒に行動している―――
(……幾ら圧縮に重宝しますからって、使い過ぎですよ作者さん…)」
 モニターで所在確認出来た御堂を応援に行くという口実で、口の軽そうな
詠美と離れるべく、木造旅館を後にTHE−TOWNエリアへの移動を開始
した匿名希望に、何故かなし崩し的にぞろぞろと付いてきた者達が三名程。

「……ど、どうしてなのですか…?」
「…ヒトデさん(ぽ)」
「美凪がいくなら、しかたないのだー」
「風子は実は、ヒトデの国のプリンセスだったのですっ!」

『……美凪さんとみちるちゃんはまあ良しと致しましょう…付いて来て下さ
るのでしたら、それは危険との隣り合わせでこそありますが、お二人の傍を
離れずに済みました分、好都合とも解釈出来ましょう……ですが』

「……風子さん、あの…」
 匿名は頭を押さえながら、ニコニコ笑顔で美凪・みちると供に付いて来た
伊吹風子の方へと振り返る。

408パラレル・ロワイアルその352:2005/01/17(月) 23:19
「はいっ、なんでしょうかっ?」
「……確か、風子さんは特務機関CLANNADのメンバーで、新規ゲスト
警備兵さん…即ち、私達正規参加者とは敵対関係だった筈なのではなかった
かしら…?」
「はっ、これはこれは風子としたことがすっかりヒトデのお姉ちゃんの虜に
なってしまいましたっ。おそるべしヒトデの魔力……いえいえっ、ヒトデの
偉大さが敵味方の壁をこえてしまったのに間違いありませんっ。それはもう
、ヒトデですから。ああ、今こうしてじかにヒトデとお話ができますなんて
、考えただけで……(ぼ〜〜〜)」
「ヒトデなー……ありゃーうまいよなー」
「ええっ!?(ガーン)うわーん、みちるちゃん食べちゃダメですーっ!」


『……処置なしみたいね…でも、もしこの子に嘘がばれてしまった時の事を
考えますと、他のお二人以上に胸が痛みますのはどうしてなのでしょう…?
それはさて置きまして一応、形式的には捕虜という事で割り切りましょう…
でも果たして、この子から何か情報を得る事は出来ますのでしょうか…?』
 気を取り直した匿名は、風子へと質問を開始した。

「……風子さんは、CLANNADの中ではどういったお仕事をされている
のかしら?」
「ええっと、ですねえ…」




「…行ってくれたみたいね」
 木造旅館を去り行く匿名・美凪・みちる・風子を赤外線双眼鏡の彼方より
見送る、一人の元ゲスト警備兵と一人の新規ゲスト警備兵。

「澤田さん、やっぱり自分も一緒に突入しますよ…幾ら何でもたったお一人
で…」
 そう口を開いた新規ゲスト警備兵は、その頭部にタイガーマスクの覆面を
すっぽりと被っていた…それは、縦王子→詩子→浩之→真紀子の間を巡って
今ついに日の目を見る事となった、元100番・リアンの支給装備である。

 ちなみに、もし支給装備一覧表なるモノを作っておられるツワモノな読者
様がいらっしゃった場合のために補足させて頂きますと、

 元59番・月島拓也〜ガムテープ…44話にて不可視のトーチカ構築に使用。
 元ゲスト警備兵・小出由美子〜ホテル19階・監視カメラ兼用エアガン砲台用リモコン。
 元ゲスト警備兵・相田響子〜紙火薬ダーツ…由宇に全弾グフシールドで防がれた。
 元ゲスト警備兵・坂神蝉丸(覆)〜ストック付きルガー(エアガン)
 ゲスト傭兵は全員持参(支給辞退)、新規ゲスト警備兵は現時点ではネタバレ防止のため内緒という事で。


 では、話を元に戻しまして…
「志摩君、貴方には私が目的を果たすまでの間、余計な新手が乱入して来な
い様に外回りを見張って貰えればそれが一番私にとって助かるの…今現在、
あの木造旅館内に残っているメンバーは千堂君に大庭さん、それと七瀬留美
さんに貴方の仲間の一ノ瀬さんと、女将の岡崎さん……本編にて篠塚さんに
研ちゃんの弟さん、長瀬源三郎さんと渡り合った七瀬さんだけは油断が出来
ないですけれど、飛び道具が銀玉鉄砲だけですし、いざとなれば仲良しにな
って下さった一ノ瀬さんを人質に取れば、後は何とかなるでしょう」
「容赦、ありませんね……確かに、同盟者である塚北氏からは、澤田さんは
頼もしい味方だから全面的にバックアップを行うよう、頼まれてはおりまし
たが…」
「そうして貰えないと、私も海底トンネルで貴方をヒッチハイクした甲斐が
ないわ……戦闘能力が高そうでしかも人物探知機を持っている匿名さんが、
スナイパーライフルとゾリオンを連れて離れて行ってくれた今こそが絶好の
機会なのよ……これ以上話している暇はないわ、行って来るからしっかりと
見張ってて頂戴」
「…わかりました、どうかお気を付けて」

409パラレル・ロワイアルその353:2005/01/17(月) 23:22
“ふむ、不殺の誓いを立てた自分には、まさに打って付けの得物だな”
 車両用海底トンネル戦場跡―――路面に転がっていた逆刃竹光を手に取り、
感嘆の呟きを漏らしている男が一人。

「ふん、偽善だな」
 そこへ、もう一人いた男の無遠慮な突っ込みが入った。

“偽善だと…?”
「本人も無事でなければ、護った事にはなりはしない…残されて逝かれた者
の事も考えずただ、誓いを守り抜き主も護り抜きましたと、自己満足の中で
死んで行く行為など、偽善以外の何物とも俺は認めん……そもそも、『牙が
あっても使わない』のこそが不殺であり、『牙がないから使えない』という
非力な不殺は不殺とは言わん」
“俺の非力を責める事は百歩譲って認めよう、だが…”
「非力なのに、誓いと目的を両立させようとする事自体が偽善であると俺は
言っているのだ…俺だったら、世間知らずの主の命を無視して、現実を前に
した最良の手段を選択して護り抜いた末に、主から不忠者・人殺しと罵倒を
受ける結果の方を選ぶぞ」
“さ…さような行為、武人の振舞いではない!…それでは忍ではないか!”


「大丈夫かしら?…これから先、一心同体で戦わなくちゃいけないっていう
のに…」
“うふふ、御心配は要りませんわ…御相手をより深く理解なさるためには、
喧嘩は殿方達の格好の交渉手段というものですわよ”

「カルラ殿、トウカ殿…うおおっ、帝国の強化兵は化け物なのかっ!?」
「アタシにはむしろ、この世界のパン屋さんの方がよっぽど、化け物に思え
るわ…」

 更に女性が(計)二人と、少し離れた所に別の男女が一組。

「しかしまさか、光岡殿が敗北させられるとは…今更ながらにトンネル入口
を突破されてしまった事が、悔やんでも悔やみ切れぬ」
「悔やんでも仕方ないわ雄蔵、先を急ぎましょう…残された高縮尺探知機を
見る限り、新規出動がない限りは私達が最後尾みたいだし」
「うむ、どうやら古河殿は黄色のゾリオンと強化兵隠蔽装置のみを持ち去っ
た様だな…他は、センターヘッド射出によって正真正銘の弾切れバッテリー
切れとなってしまった十字架に、トリモチまみれのシャングリラキャノン…
何とも勿体無い気がするが、使い様がないのでは仕方がないな」
「EAW−DCデュアルキャノンを高く舞い上げ過ぎて御釈迦にしちゃった
雄蔵が言うのもアレね」


「じゃあ、先に行ってるわよーっ」
「また会おうぞ、ユウゾウ殿・カオリ殿」
 先に再出発準備を整え終わった義賊組のサラ・フリートとオボロが、二人
乗りのエレバイクを発進させた……と、

キキキーッ…ガシャンッ!

「チョット何やってんのよオボロッ!危うく脱落する所だったじゃないのッ!!(怒)」
「ままま、待ってくれサラ殿、今のは完全な不可抗力による事故なのだっ」

 出発早々、転倒したエレバイクを挟んで痛罵するサラと平身低頭のオボロ。


「…いきなり何やってんのかしら、あの人達?」
「恐らくはあれを見て、余所見運転でもしてしまったのだろう」
 軌道装甲車銃座の雄蔵が指差す方を見て、操縦席の香里はひとしきり口を
あんぐりと開けてその『不可抗力さ』を納得した後、心の準備を終えてから
装甲車のエンジンを掛けた。

 対向車線からやって来た救急搬送エレカ…その前面が血糊に染まって大きく
二つの人型に凹み、しかも運転しているのが熊だったのであるからにして。

410パラレル・ロワイアルその354:2005/01/24(月) 18:39
「こちら赤いゾリオンの秋生様だ!オレと早苗の愛の結晶とコスモ岡崎ッ!
聞こえてたら返事をするんだ!」
 DREAM〜THE−TOWNエリア間を空陸両用送迎機で移動中の古河
秋生は、携帯電話で通話中であった。

「渚です、お父さん」
「YO!YO!こちら岡崎だぜっ…それにしてもよく勝てたなーオッサン、
さすがはドメスティック…」
「ドメスティック…なんだよ、オイ!?(ゴゴゴゴゴゴ…)」
「ド…ドメスティック・ヒーローッすね…」
「オウよ、オレ様は何時でも家庭的英雄だぜ…で、今現在の倉田アイランド
内の各エリア状況はどーなっているんだ?」

「現在、DREAMエリア・木造旅館内に11番さん・53番さん・69番
さんで、同伴しておりますのはことみちゃんと岡崎様、そして駅より95番
さんと謎の覆面隊員さんが接近中です…同じくDREAMエリアからTHE
−TOWNエリアへと移動を行っておりますのが、まず徒歩組が62番さん
・87番さん・117番さんで、ふぅちゃんが同行しております…さらに、
自動操縦のトロッコに乗って26番さんと24番・依頼人さんが移動中で、
自動操縦のための路線一時開放に便乗される形で、5番さん・61番さん・
61番依頼人さん・64番さん・110番さんが乗られたトロッコも、後に
続く形で移動中です…27番さんと35番さんは依然、FOREVERエリ
アの別邸に待機中で、118番さんこと春原さんが同伴で更に実働部隊“ス
トライカーズ”が包囲を行っております…それと、56番さんと85番さん
が乗っておられる軌道装甲車が今海底トンネルを抜けてDREAMエリアへ
と到着した所で、続いて対能力者猟兵のオボロさんと来栖川側ゲスト傭兵さ
んの乗ったエレバイクと、椋ちゃんと智代さんの乗った救急搬送エレカが今
後に続いて海底トンネルを抜け出ようとされております…後は89番さん・
98番さんが来栖川側ゲスト傭兵さんとともにMINMESエリアを20番
さんの待機地点に向かって徒歩移動中で、最後に24番さんが現在DREA
Mエリアを出奔後行方不明となっております……現在までにやっつけられて
しまいました皆さんは、芳野さんに公子さん、杏ちゃんに勝平くん、美佐枝
さんにボタンちゃん、そして“ラガーメンズ”の皆さんにオボロさんを除く
対能力者猟兵の方たちです」

「流石、渚…よく全部覚えてキチンと言い切れたな、親の顔が見てみたいぜ
…つうか、オレ様だが」
「忘れてるぜ渚…親の顔で思い出したがオッサン、いきなり頃されてしまっ
た、とてもとても可哀相なメンバーがあともう一人…」
「あ!?何か言ったか、ギャラクシー岡崎!?(ズモモモモモモ…)」
「いえ、不慮の事故で早苗さんが…心中、お察し致します…」
「大丈夫だ…こんな事になってしまったが、早苗は今も…この高い空の下か
らオレ達の事を、ちゃあんと見守ってくれてるんだからな…何といっても、
オレ達は、家族だ」
「具体的な高さは、2000+100メートル位でしたっけ…」

「ともかくだ、参加生き残り組の巨頭の一角はオレ様が崩した、残りのニュ
ータイプ連中…89番と98番、それとゲスト傭兵の方は20番にお相手を
して頂く事にしよう…同じく69番は95番にお相手をして頂き、27番と
35番は118番とラガーメンズにこのまま監視を続けて貰う事にすれば、
当面の問題はないだろう…」
「…こういっちゃあなんだがオッサン、あの春原が倉田さんに敵対する事は
例え、俺達を裏切っても絶対にありえねーと思うんだが?」
「ソレに関してはチャンと別の考えがあるんだ、心配はいらねえ…それと、
56番と85番には今後、絶対にこちらからは手を出すんじゃないぞ」
「?…確か、あの二人に芳野さん達をぶつけたのはオッサンなんじゃあ?」
「ワケアリだ、ぐだぐだ言わねーで言われた通りにしろ!」
「どうしてなのですか、お父さん?」
「今は企業秘密だ、その時が来ればわかる…それまでは黙ってオレを信じる
んだ、渚」
「はい、お父さん」

411パラレル・ロワイアルその355:2005/01/24(月) 18:40
「するとだオッサン、もしかしてオッサンがこれから向かう戦場は、THE
−TOWNエリアの…」
「オウよ、61番・64番・110番・117番と他の皆々様をトロッコを
誘導して駅で合流させる…そしてそこを、完全に包囲して一気に殲滅させる
という訳だ……でだスペース岡崎、大至急有紀寧ちゃんと“チーマーズ”を
THE−TOWNエリア駅前まで出動させ、陰身包囲陣を構築しておくよう
指令を出しておくんだ…更に智代ちゃんには救急搬送車のドライバーを鷹文
に代わって貰って、ジェット斉藤とともにTHE−TOWN駅前まで今一度
戻るように、こちらも指令を出しておくんだ…それと最後に、ことみちゃん
と風子ちゃんと覆面野郎に、脱落する前に連絡が取れたらそっちの本陣へと
戻るように伝えとくんだ、わかったな?」
「りょーかい、オッサン」




「はい、わかりましたの。ただちに朋也くんと渚ちゃんの所に戻りますの」
 DREAMエリア内・木造旅館ロビー…モニターテレビ左対面のソファー
に腰を下ろしていた一ノ瀬ことみは、そう言い終わると携帯電話を折り畳ん
でスカートのポケットへとしまい込んだ。

「…行っちゃうの?ことみちゃん」
 隣に腰を下ろしていた七瀬留美が、正規参加者とゲスト警備兵という現実
の間柄へと戻ってしまおうとすることみへと、思わず惜別の言葉を漏らして
しまう。

「ことみも残念なの。でも大丈夫、心配いらないの。留美さんは本編のヒロ
インさんだから、ちゃんとこのお話をめでたしめだたしで終わらせてくれる
の。これは絶対なの」
「ことみちゃん…」
「だから、ことみは留美さんとおともだちだから、きっと大丈夫なの」

 そう言うとことみはバッグを抱えて立ち上がり、隣のソファーに腰を下ろ
している千堂和樹と大庭詠美へとぺこりと一礼し、最後にもう一度七瀬に礼
をしてから、旅館玄関のガラス戸へと向かって行った。


「ねねっ、言った通りでしょっ…何かこう、ゾクゾクってキちゃう程いいコ
でしょお、ことみって♪」
「うんうん、アタシの知り合いにもいるのよお…もぅ負けない位いじめっ子
誘引フェロモン全開の、ちょーイタイケ系のういコがさぁ♪」
 一方の詠美といえば、脱落をさせた藤林杏との間でそれまでの経緯を水に
流しての、葉鍵いじめっ子サミットを行っていた。

「チョット、アンタ達…」
 そんな二人に、当然のごとく厳しい視線を向けてくる七瀬。

「チッチッチッチッ…七瀬さん、一応断っておくケド、アタシ達は王道系の
いじめっ子なんだからねぇ♪」
 七瀬の視線に対して、右手人差し指を振ってみせる詠美。

「そうそう、アナタの天敵の広瀬さんや、東鳩のオカマ強し(岡松吉→岡田
・松本・吉井)みたいな、テロリスト系のいじめっ子供と一緒に扱っちゃあ
ダメなのよお♪」
 詠美に続いて、右手人差し指を振る杏。

「でも、彼女達は代わりに、男へのいじめは行わない…」
「「…何か言ったぁ(和樹)?」」
「…何も言ってません」
「「よろしい」」



 ガラス戸が開く。
 開けたのはことみではなかった。
 現れた女の気合の入った目の輝きを捉え、思わずことみは足を止めてしまった。
 それだけの気合が、その瞳にはあった。
「千堂君、ようやく見付けたわよ…」

 女が、言った。
 鋭い声で、完全武装の姿で。
「編集……長?」
 和樹は呆然とつぶやく。
「ええ、そうよ」

 大事な問題を忘れていた。
 目の前の光景を事前回避できなかった。
 用心棒役の去った木造旅館に、
 原稿の取り立て人が舞い降りた。

412パラレル・ロワイアルその356:2005/01/24(月) 19:48
 長い長いトンネルを潜り抜けると、そこには広大な庭園が広がっていた。
 さわやかな風が私の頬をなで、草の匂いが私の鼻腔をくすぐる。

「わ……あ」
「うむ、ようやく到着したようだな」

 驚いている私の耳に、雄蔵のいつもの無愛想な声が届く。
 私は、ゆっくりと背筋を伸ばし、周りをよく見ようとして立ち上がろうと
して、尻餅をついた。

「うむ、まだ動かない方がいいぞ。ゴムタイヤではないこの装甲車は感じて
いる以上に揺れているからな。大体、香里の乗っている操縦席もより大柄な
成人男性用に造られているのだ。応急処置はしておいたのだが」

 言われて私は、下を、座席を見る。確かに参加者裏名簿で上げ底がなされ
ていた。
「ありが……と」
 そういって私はゆっくりと首を回す。
 進行方向の少し外れには二つの建築物があった。貨物列車の先頭車両が
停車している鉄道駅と、二階建ての木造旅館だ。

「……なんで、立ち寄らないの?あそこへ」
 確か、こみパ組も華音組も全滅していないはずよね。

「うむ」
 雄蔵は苦笑した。
「オボロもサラ殿も素通りして行ってしまったからな。しかも我々の秘密を
知るらしい古河司令はわざと、通用しない武器を支給された芳野殿達を我々
にぶつけて来たからな。幸村前司令は秘密を知らないらしい。知っているの
はベイダー殿と古河司令を始めとする父母組と、我々二人だけの様だ」

「なるほど……無用な寄り道と無用な危険は避けようというわけね」
 けだるく私は返事した。

「どうした、もっと驚く事なんじゃあないのか?」
「だって、どうでもいいもの」

 私、覚ってしまったんだもの。
 何もかも覚ってしまったんだもの。
 その態度は変わらず泰然自若なままなのに、その表情は変わらず飄々と
したままなのに。
 私と心から大切に思っている人はもうこのゲームに勝利出来ないって事を。

「かつてはベイダーさんが、そして今は私達が、ジョーカーだって事を、
覚ってしまったのだもの」
 そっと、庭園を風が吹き抜ける。

「……そうか、香里も覚ってしまったか」
 雄蔵も変わらない調子で続けた。

413パラレル・ロワイアルその357:2005/01/24(月) 19:49
「……悲しく、ないの?」
「悲しくないといったら、嘘にはなるな。まあ、本来ならあるべきモブキャラ
に戻れたのだから安心するべきなのだろうが」
「これからどうするの?」
「うん?勿論ベイダー殿の望む通りこの大会を進行させて貰う積もりだ。
確かにこれは落ちとしては最良のものだからな、ただ……」

 わずかに、雄蔵の瞳が鋭くなる。
「何故、ベイダー殿は古河司令にではなく我々に秘密を明かし委ねたのかが
気になるな……何を考えているのだろうな?」
 雄蔵は肩を竦めた。
「結局、特務機関CLANNADには感謝するべきだろうな。我々と最終的
受取役とのつながりを隠す、いいカモフラージュになってくれたからな」

「……なぜ、私を疑わないの?」
 それが、最後の質問だった。

「……想像はついているだろう?」
「確認したいのよ。せめて、甘い期待だけはさせて貰いたいわ」
「そうか」

 雄蔵はうなずいた。そして、私の座っている操縦席の中へと狭そうにして
入ってくると、自動操縦に切り替えてから私をしっかりと、優しく抱き締めて
くれた。

「……しかし、まさか装甲車の操縦席でとは……うん?何という事だ香里、
残念だがSUMMERエリアに到着してしまったぞ」
 雄蔵はそう言うと結局、私の唇を吸っただけでひらりと操縦席から出て行って
しまった。


 なんで、そんな我慢が平気でできるのよっ。
 さっきまで。ほんのさっきまで、私たちいい雰囲気だったのにっ。
 私、こんなに切ないんだよっ。張り裂けそうなんだよっ。
 なのに、なぜ我慢してられるのっ?あなたはっ。
 そして、なぜ私は。そんなあなたに反抗できないのっ?

「一つだけいっておくわ」
 私はかすれた声で言う。
「貴方を助けるわ。今の続きも待ってるわ。それができないなら。あなたを
頃してあげる」

 雄蔵は、しばらく私を見て。
「そうだな。香里ならそう言ってくれるだろうと、思っていた。甘えているな、
確かに俺は…装甲車はおいて行こう。装甲車に残されていた分も含めてこれだけ
の装備があれば充分だろう」

 雄蔵は装備で膨れたバッグを担ぎ上げるとこちらを振り返って手を差し伸べた。
 私はそんな雄蔵の方を見ようともしないで差し伸べた手を強く握った。


 どうして、どうしてなんだろう。
 どうして、私は大切な人に、見栄と片意地を張るのだろう。
 命が危うかった頃の栞にも、昨日やっと再会できた雄蔵にも。

 わたし、あいしかたをまちがえているのかなぁ……。

414パラレル・ロワイアルその358:2005/01/30(日) 21:00:45
「編集……長?」
 声が静かに響いた。止まった時の中で。
 誰もが動かなかった、動けなかった。危険な雰囲気に包まれて。

 完全武装の猛き女性が、ゆっくりと近づいてくる。

 脱落している杏はもちろん、意識のあるものもまた、体の動かし方を忘れてしまったかのように。

「……」

 和樹の唇が、かすかに動いた。ただし、それはただ売上不振に震えるような長谷部彩のように。

 そして、猛き女性が紡ぐ言葉。

―――やっと……会えましたね?―――

「こんな所で何をしているのかしら、千堂君?」
 不気味な微笑み。
「……(汗)」
 それを呆然と眺めることみと七瀬。
 天才女性編集長の出現への萎縮、恐怖、驚愕そういったものも含まれていたかもしれない。
 だが、それ以上に圧倒的だった。

「ヒマそうにしている所を見ると当然、原稿の直しは終わってるのよね?」
 ことみの目の前を気にした風もなく通り過ぎる。ことみの目線だけが左から右へと流れた。

「ま、千堂君のことだから落とすなんてことないだろうけど……まさか、デビューもしていない
新人以前の人間が落とすなんてありえないけどね」

 ゆっくりと三人の前まで歩み寄って、止まった。
 動くことができない詠美と、
 動けなかった和樹と、
 もう『動かない』杏と。

「信用してたわよ……」

 上から和樹の顔を覗き込む。

 唐突に和樹は理解した。事態は最悪の方向に転がったのだと。和樹の顔に
絶望が浮かぶ。

「同人作家の千堂君がいるから、私を編集長としてお仕事してくれるプロの
千堂君がいないのですね。同人作家でさえなくなればプロの千堂君に戻って
くれるのですね。さようなら、同人作家の千堂君」

 あたかも大手が壁サークルにケジメを付けるかのような高圧的な口調で、
真紀子はビジネスの論理を口にする。

 そして真紀子はビックリナイフを振り上げた。




ドガッ!

 強烈な衝撃。
 掴んだナイフを放さなかったものの、その身体は、通り過ぎたソファーを
飛び越え玄関の床へと着地した。

 失格アナウンスは流れない。胸のガンベルトのAMTハードボーラーが盾となって
その部品を床へとばらまく。

(パロの筈なのに…本編で相手にした連中に劣らない手強さじゃないの――)
 竹刀による居合い突きを不意討ちで食らわした当人である七瀬は、驚きを隠せない。
 視線を真紀子からそらすことなく、竹刀を構え直す。

415パラレル・ロワイアルその359:2005/01/30(日) 21:01:54
「―――さっさと逃げなさいよ」
 辛うじて我に返った和樹に、七瀬は言った。
 和樹は、自分のバッグと拳銃型コルク銃を素早く掴むと、七瀬に向き直った。
「……俺だけ逃げろと言うのか?」
「違うわっ」
 ぎゅ、と竹刀を握り直す音。
「詠美さんを守る……そう決めたんでしょ?だったら、ここで頃される訳にはいかないわよね。
―――彼女を連れて、さっさとどっか行きなさいよッ」
「―――っ」
 口を開く―――しかし、和樹は何も言い返せない。
 詠美は、まだ動くことができない。自分一人でも編集長に対するに不安だというのに、
万が一その矛先が詠美に向いたら守りきれるとは思えない。
(助けられるまま、か……これじゃ、楓ちゃんに、合わせる顔がないじゃないか。くそっ!)
「……すまない」
 そうとだけ告げる。
 詠美を抱き抱える。おっ、重い…。
 その様子に、真紀子は目を細める。
「プロたる者―――己の基礎体力の管理と維持が出来てないようでは、まだまだといったところね
……もっとも、身一つで全力疾走をした所で、私からは逃げられる筈もありませんけどね」

 和樹は恐怖と共に真紀子から背を向け駆け出す。
 それに凄まじい速度で近付く影。
 それが放つ殺気が、和樹の背中に圧倒的な存在感で襲いかかってくる。

速い―――!

ギイッ!

 擦過音。竹とプラスチックが奏でる悲鳴。
 それは和樹のすぐ後ろでおこった。
 和樹は走り去るに忍びず、振り向く。
 その後ろでは、七瀬の竹刀が真紀子のビックリナイフを受け止めていた。
「邪魔をしては―――いけませんよ、ねえ?」
 ぐぐ……
 竹刀が軋む。驚異の腕力。七瀬は、鉄パイプを振り回せる両手で竹刀を持っているというのに!
 だからこそ、胴ががら空きであった。
「うぐっ!」
 急な膝蹴り。それと共に、七瀬の身体が跳んだ。
 下腹部に痛み―――咄嗟に引いていなくば、失格判定となっていただろう。
アナウンスが発せられなかったことに、七瀬は内心安堵した。
 だが―――厳しい瞳は、それを見逃さない。一瞬の緩みを。
 稲妻の如く、近付く。見えない死角から伸びた手が、七瀬の胸倉を掴んだ。
 ビックリナイフであったなら脱落していた―――だが、どっちにしろ、同じだ。
 ゴール。
「うっ……!」
 竹刀が動かない。強烈な腕力に、体が止まる。ビックリナイフの刃先が近付いてくる―――
「本編発行者様には、大変申し訳ありませんが」
 真紀子が苦笑を浮かべる。
 本編歴代の、七瀬の対戦者達に似た顔で。
 そして、それが一瞬の下に。
 一瞬だけ。
 真紀子に戻った。
「…漢伝説はここにて、完です」
 一閃。

 それは、七瀬のツインテールを少し掠めたに過ぎなかった。
 上に跳ね上がった腕―――その先に七瀬のリボンが絡んでいる。
 それを、真紀子は、やはり厳しい目で見ていた。
 状況は、焦った頭にもよく分かった。“何者か”が後ろから体当たりした―――と。
 首が放される。咄嗟に身を引くと、先程まで真紀子の身のあった空間で、何者かがよろけてたたらを踏んでいた。

 ことみ。

「「ことみちゃんっ!?」」
「一ノ瀬さんっ!?」
 一瞬、九死に一生で態勢を立て直した七瀬と、ようやくそれぞれコルク銃と
デザートイーグルを構えようとした和樹と詠美の注意が目の前のことみの方に
向けられる。

 その一瞬に真紀子は、
先ほど狙いを外したビックリナイフを逆手に握り直すと、

                       その行動は

その動作とともにことみの腕を引っ張り、

           三対一の戦いとなるなら
             有利な状況に持ち込むべき
                という理屈ではなく

その身を盾にして、

             相手の隙を見つけたならば
              それに乗じて動くという

刃先を首に突きつけて、

              既に染み付いてしまった

宣告した。

                 仕事の鬼としての
              性だったのかもしれない

「致し方ありません、最後の手段です……皆さん、得物を床へ置いて頂きましょうか」

416パラレル・ロワイアルその360:2005/01/30(日) 22:16:37
『ビーッ、新規ゲスト警備兵・藤林椋、ナースストップにて殉職しました』
『ビーッ、新規ゲスト警備兵・坂上鷹文、ナースストップにて殉職しました』
 いきなりの失格アナウンスの声を聞いて、ぱちりと目を開ける。
 人は起きた瞬間から、初めて自分が寝ていたことを理解できる。
 そう。私は、まさに寝てしまっていた……ようだ。
 春原ほどではないけれど、血圧が高くないせいだろう。起きがけは少々頭の回転が鈍る。
 しょぼつく眼をしばたいて、自動操縦に切り替えた救急搬送エレカの操縦席を見回してみた。
 すぐに違和感を覚える。
(……後部搬送室から人の気配が、しない)
 あの元気溌剌な前会長の美佐枝さんや、負けないくらい活発な鷹文、現在
らぶらぶな椋、負けないくらいらぶらぶな柊。そんなかしましい面々が揃って
いるにも関わらず、誰ひとりとして声を発していなかった。奇跡と言っても
いいだろう。とにかく、静かだった。

 ほとんど無音なエレカの電気エンジン音だけが、わずかに静寂を乱している。
(……おかしい)
 全員意識は回復していたはずなのに、まさか椋と鷹文が再び全員KOした
あとダブルKOしてしまったというのか。
 鈍った思考では付いて行けないほどの急展開に、焦りを感じて頭を振る。
 エレカを急停止させ降り立ち、最後部に回りこんで搬送扉を開いた、その瞬間。

 搬送扉の車内側の取っ手をひねろうとしたかのように座ったまま、だらりと
倒れ込んで来た誰かを受け止めた。
(……椋!?)
 肩を掴み、顔を確認すると、やはり彼女だった。
 あとは探すまでもなく、他の面々が視界に入ってくる。車内搬送ベッドに、
泡を吹いて倒れているクロウと涙を流して倒れている柊。そのまた後から口元
をハンカチで押さえたまま倒れている美佐枝さん。加えて瓜坊。さらに毛玉。
少し離れて、中途にて合流・同乗していた鷹文。すぐそばには、黄色い何かが
広がっている。
(……バンダナ?)
 私のバッグがひっくり返っており、開いた口から黄色い布切れが大きくはみ出していた。
 拾って、広げ直してみる。よく見てみると、元は白い木綿だったものが黄色く染まりあがったもののように感じられる。
 しかし変だ。確か私のバッグの中身は支給装備の絵本しか入っていなかった筈だ。
 長さ二メートル程度の太い帯状の何かの匂いを、確かめてみることにする。

「ね……ねぇちゃんっ!それを嗅いだら駄目だっ!」
 すっぽん。
 苦しげな鷹文の声を聞くと同時に。
 私は、着ぐるみの被り物を外してしまっていた。

 ……怒っている。
 あれは、かなり怒っている。わずかだけど、ねぇちゃんの白い額に青く血管が
浮いてるのが見て取れた。これは間違いなく、危険な兆候だ。
 僕たちは、すべてのドアを換気のために全開にした搬送エレカの止まっている
車道のそばの芝生の上に正座をして、小さくなっていた。正確に言うと、美佐枝
さんと動物たちは倒れたまんまだったけど。
「……一体、どういう事なのだ?」
 ねぇちゃんが、努めて怒りを抑えながら、状況を確認しはじめた。

417パラレル・ロワイアルその361:2005/01/30(日) 22:17:43
「なんだ、こりゃあっ!?」
 その少し前、MINMESエリア・マザーコンピューターステーションビル前通り…
 四人いるはずの葉組アンチヒーローの内、三人が生きて合流出来たので、情報交換の
後、鍵のアンチヒーロー絶対筆頭の立て籠もっているのであろうマザコンステーション
ビルへの殴り込みの準備を始めた。そしてほぼ所持品の再確認が終わったと考えた頃、
御堂がバッグから見覚えのある絵本を引っ張り出して、目を白黒させていた。
「……なんだそれは?」
「……絵本?」
 柳川とルミラが二人で呆れ果てている。
「こりゃあ、坂上の……ひょっとして、THE−TOWNえりあで出会って分かれた時、
間違って互いに相手のばっぐを持ってきちまったんじゃあ……?」
「……と、いう事は?」
「……その坂上って人は、代わりに御堂さんの何を持って行ってしまったのかしら?」
「実はよぉ、新品を現地調達出来たんでよぉ、坂上に会う直前に穿き替えた、オレの長年穿き古しの……」
「「ま、まさか……」」




 ねぇちゃんの説教のもと、真実は解き明かされた。
 原因はやっぱり黄色いバンダナ(注:入手者仮称)
 僕が興味半分で開けてしまったねぇちゃんのバッグは、実は遭遇した別の
正規参加者のバッグだったようだ。
(あのう、鷹文君)
 ねぇちゃんに説教されながら、柊さんが肘でつついてくる。
(一つだけ聞きたいんだけど)
(なんですか?)
(どうして、さっき匂いを嗅いだはずの智代さんは……倒れないんでしょう?)

 そういえば。
 いまや絶好調の演説をしているねぇちゃんに、ダメージの気配はちらりとも見えない。
 ……地獄の鼻か、鉄の意志か。
 きっと、ねぇちゃんには謎の悪臭は効果がないんだ。
(あのう、柊さん)
(……その悟ったような表情はなんでしょうか?)
(着ぐるみ大好きなねぇちゃんが、汗や体臭でまいりますでしょうか?)
(((そういう理屈ではないと思う……)))
(確かに、ねぇちゃんがあんな危険物を間違えて車内に持ち込んだりしたのが、そもそもの発端のような気が……)
「ちゃんと話を聞け鷹文!」
「はい……」




「ヘイ、行かないのかい!」
 倉田アイランド救急医療ドクターとしてスカウトされた杜若先生を乗せた
サイド・エレカにまたがって、ジェット斉藤さんが呼んでいる。
 ええと、すみません。
 僕たちが移動中止してしまったから、後から追いついてやって来たんですね。
 でも、だめです。
 あなたのお誘いも、ねぇちゃんの説教が終わるまでちょっとタンマです。

418パラレル・ロワイアルその362:2005/02/06(日) 19:50:08
(結局、みんな武装解除しちゃったわけ……)
 自分も含めて一人残らずお人よしとは、恐ろしくもおめでたい一団すぎて
涙が出るわね。

 七瀬留美は溜息と共に床へと放り出した竹刀と銀玉鉄砲を見やり、そして
横に並ぶ千堂和樹と大庭詠美の方も見やった……彼らの前の床にも、コッキ
ング式コルク銃に布団叩き、デザートイーグルに発炎筒、そして悪臭手榴弾
が放り出されていた。

 一方の澤田真紀子は覚悟していたとはいえ、選んでしまった手段の後味の
悪さと、自分の左腕の中で涙目で震えている一ノ瀬ことみへの気まずさに、
思わず顔をしかめていた…しかし、ここで最後の詰めを誤ってしまったら、
今までの苦労が水の泡である…真紀子には、標的の和樹にビックリナイフに
よる止めの一刺しを加える前に、万一に備えてやっておかなければならない
次の手順があった。

「ごめんなさいね、一ノ瀬さん…その熊さんは抱いた儘で構いませんから」
 そういいながら真紀子は、ことみの抱えていたバッグの口を開いて、中に
武器が入っていないかどうかをチェックし始めた…無論、他の三人への警戒
を怠るような真似はする筈もない。

 と、真紀子の左手がバッグの中に入っていた、何か薄っぺらい物に触れた
―――引っ張り出して見てみる。それは、一枚の封筒―――古河秋生がすり
替えたニセ封筒であった。

「手紙…?」

 中に入っていた便箋には、まず流暢な文字で四行、更に力強い文字で加筆
されたかのようにもう二行、合わせて六行の英文でこう書かれてあった。


 If you find
        this suitcase,

 Please take it to
        our daughter,

 THAT’S VERY VERY
        BEAUTIFUL THING!


 狩人とその囮とも呼ぶべき二人の関係は、その英文章を和訳した真紀子の
うっかり発してしまった一言により、次の瞬間大きく揺らいだ。

「この鞄を見つけたら、どうか娘に届けてください―――あれはいい物だ!…?」

 怖い、いじめないで、とかそういうことを一切抜きにして、先にことみの
身体が動いていた。条件反射だった。
 押さえつけられていた左腕をするりと抜き解くと、真紀子がなっ、という
顔をした次の瞬間には、そのまま思い切り九十度左にスイングさせる。
 ズビシ!と小気味よい音がした。

「なんでやねん!」

 無抵抗な、暴力に対して怯える事しか出来ないと認識していた相手からの
予期せぬ攻撃に、真紀子は焦った。
 一瞬のうちに、真紀子の体がことみから弾かれ、半歩程の間合いを広げていく。

 ―――今だ!
 目の前の三人は誰からともなく、踏み込んだ。
 狙うは―――ことみが盾となっていない頭部。
「うおおおおおおおおおおっ!!」
「小癪なっ!!」
 七瀬の雄叫び。そして弾かれながらもことみを盾にする、真紀子の叫び。
一瞬にして和樹の隠し持っていた柄付き束子を弾き飛ばし、詠美の隠し持っ
ていたハタキを叩き折る。ビックリナイフは勢いを増して、そのまま七瀬の
側頭部を―――

419パラレル・ロワイアルその363:2005/02/06(日) 19:51:19
 ずんっ

 ―――肉が肉を激しく殴打する音。
「ことみちゃん……」
「やっぱり、留美さんはヒロインさんなの……」
 七瀬が膝をつく。そして真紀子が振り上げた右手のビックリナイフを、胸を抑えるよう
にしまいこんでいた、ことみが膝をつく。真紀子のナイフは軌道を変え、ことみの腹部に
命中していた。
 そして七瀬渾身の右ストレートは―――カウンターで真紀子の左頬を、打ち抜いている。
「留美さん、ありがとうなの……」
「ことみちゃん―――!」
「会えなくなっても、応援してるの……約束なの」
「ことみちゃんっ!!」

 最期に勇気を奮い立たせたことみが、ナイフの軌道に干渉していたのだ。
 ことみの肩を、七瀬が抱きしめる。しかし、その抱擁から逃れるように、
熊のぬいぐるみはぽとりと床へ転がり落ちた。
「……ありがとうって……なによぉ……」

 七瀬は涙を流し、床に付した。

『ビーッ、新規ゲスト警備兵・一ノ瀬ことみ、有効打直撃にて殉職しました』
『ビーッ、95番・澤田真紀子、有効打直撃にて失格しました』

 そして、失格アナウンスが流れる。
 突撃編集は、終焉の時を迎えたのだ。




「……千堂君」
 ぽつりと。
 か細い声。
「……はい」
 和樹は、床に倒れている人の顔を見た。
 それは、先程よりもずっと腫れ上がった顔で。
 もの凄く痛そうな顔で。

「―――原稿を、よろしくお願いするわね?」
 その声が、力を失って行く。
 終わり行く、最後の出番。
 それは、最後まで―――編集長の立場で。
「―――待って―――ますよ―――」

 そして、『遺言』は終わった。

 来栖川アイランド沖。
 倉田アイランド。
 DREAMエリアで。
 その中に建つ建物の中で。
 和樹は。
 既に脱落者となった人に―――言葉を返した。
 上を見上げて。
 本島ホテルの観戦者達に。
 中継が届くように、と。
「……すみません、俺は、今の俺には―――もっと、大切な用事が、ありますから」
 モニターカメラはゆっくりと動き出し。
 和樹の全身をアップで映した。
 神が見ているかのように。
「―――さようなら、編集長―――」

              95番・澤田真紀子 脱落  【残り21人】

420パラレル・ロワイアルその364:2005/02/06(日) 20:41:03
 某新規ゲスト警備兵は、その覆面の下に思いっ切り汗をかいていた。

 澤田真紀子に命じられ、木造旅館内に新手の正規参加者が乱入して来ない
ように、相楽美佐枝の支給装備であったFN−HIPOWER(エアガン)を
片手に旅館敷地内を見張っていた彼は、サイド・エレカと救急搬送エレカに
分乗してやって来た面々を前に、立往生を余儀なくされていたからである。

 彼等はその侵入を防ぐべき正規参加者ではなかった、なかったのではある
のだが……。

「今ごろ、どこで何してるのやら……って、一体何度思った事やら……」

 木造旅館は倉田アイランド内のゲーム脱落者の間でもある…それ故に、
脱落者でも生存参加者相手に会話のみは、行う事が許されているのである…
そして、今現在そのルールが適用されている対象は、旅館内にいる藤林杏
のみならず、旅館敷地内に足を踏み入れたメンバーの内の一人、相楽美佐枝
にも当然、当て嵌まっていたのであった。

「……わ、私の名はタイガージョー!ア、アナザー参加枠より只今推参…」
「あなたの声、聞き覚えがあるわ。そうでしょうっ?あ・な・た・は―――
(ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………………………………………)」

 苦し紛れのアナザーネタもすぐさまに怒りのアナザーネタで切り返された
…そして、美佐枝の意を汲むかのように、同行していた熊の着ぐるみが一歩
また一歩と、タイガージョー(自称)に向かって前進を開始した。思わず後ず
さるタイガージョー(自称)…と、旅館内から二つの失格アナウンスが彼の耳
へと届いてきた…その内の片方が、彼の御役御免を意味するアナウンスが。

「さ、さらばだ!美女よ、私は生き残る!」
 次の瞬間には再び同じネタで逃走を試みるタイガージョー(自称)しかし、

「甘 い ぞ ぉ っ!!」

ガシッ!!

「かいちょおおっ!?」
 一陣の風の様に一気に間合いを詰めた熊の掌が、背を見せたタイガージョ
ー(自称)の襟首を引っ掴んだ。そのままずるずると美佐枝の方へ引き摺って
行く。

 次の瞬間の出来事を想像し、思わず心身ともに竦み上がってしまうタイガ
ージョー(自称)。しかし…

「もう!勝手にダウンした私を置いてこんな所までやってきちゃってー!」
「え…?」
「いつまでも一人ぼっちで遊んでいないで、ほら、がんばって来なさいよ」
「き…気付いて、いたのか…?」
「さすがに確信は出来なかったけど、薄々…ね」
「お…俺の今までの気苦労は一体、何だったんだよ…」
「私の脱落に余計な本編ネタくっ付けようとするからよ、馬鹿…でも、最高
クラスの本編ネタだったから、悪くは思っていないわよ」
「ああ、今度こそ俺の出番と変身と、恋心が……」
「終わるなっ!(がすっ!)」
「痛つつ…」
「…取り敢えず、帰ったらものみの丘ででも、沢渡さん相手に修行して貰う
事は確定として……坂上さん、彼のバックアップと見張り役をお願い出来る
かしら?」
「前会長の頼みとあらば」
「じゃあ、そういう事で…がんばって来なさい、タイガージョー!」
「では行くぞ、タイガージョー」
「た、助けてくれ、タイガージョー……(泣)」

【次回、虎と熊の覆面蔵等戦士! その名は……!?】
(↑嘘です)

421パラレル・ロワイアルその365:2005/02/13(日) 16:15:40
 ……そして、『その時』は、来た。

 旅館に設置された集音マイクは耳ざとくその音を掴みとったし、旅館に
設置された監視カメラは目ざとくその姿を映し出していた。

 誰が悪い?と訊かれれば、俺が悪い。
 すべては、俺のバックアップが足りなかったせいなのだから。
 だが。
 納得できるか、と言われれば、別だ。

 今から俺が起こす行動は、間違いなく間違った行動であり、エゴ以外の、
そして倉蔵の統制を乱す不利益な行為以外の何ものでもない。

 そんなものは些事だ、かつての俺ならばそう判断したかもしれない。

 結果的に、実力が、そして運が彼女を頃したというのは、疑いようもない
事実なのだから。

 結局はこういうオチになるだろう、という諦めのようなものも、確かに抱いていた。
 だがそれでも。
 俺は……

 編笠をかぶり、尺八を分解して組み立て直す。偽装が解除されたそれは、
三点バースト機能を備えた紫色のゾリオンへと変貌を遂げる。
 これならば、柏木千鶴をも頃したこれならば、という実感のようなものが
じわじわと湧き上がってくる。


「行くのかい―――?」
 倉田アイランド戦場化の際、どういう経緯なのか、他の資材や機材に紛れ込
んでここへと一緒に運び込まれたなぞの物体が、俺に声を掛けてきやがった。

「……そういう事だ」
 決行するに当たって、俺も最後の義務を果たす必要がある。
 遠路はるばるやって来た、葉組のアンチヒーロー供を迎え入れてやるために。

「ビル内の警備兵供の指揮権及び、迎撃システムの使用権限をお前に委ねる…
…いかなる手段を使っても構わん、あの三人を丁重に返り討ちにしてくれぃ」
「相手が相手だけに、荷が取っても重たい気がするんだけど……報酬とボーナスと
口止め料はどの位、貰えるのかな?」
「しっかりしてやがるなぁ……報酬は俺が高槻だった頃のエロコレクション全体の
一割、ボーナスでもう一割、口止め料で更に一割だぁ」
「ええ〜っ?合わせて最高でも三割だけなの〜?」
「オイオイ、俺の愚弟供が各一割相続なんだぞぉ、破格だとは思わないのかぁ?」
「しょうがないなあ、それで手を打ってあげるよ……その代わり、本当にヤバそう
になった時は、降りるなり裏切るなりさせて貰うから、いいね?」

 …それにしても、滑稽な見てくれしてやがるくせに、この俺様を相手に何て
偉そうで生意気な口利きやがるんだろうか、こいつは。高槻の頃だったらもう
とっくに、木っ端微塵にしてやってるぞぉ。

 なぜかたまらなく可笑しくなり、口元が歪んだ。

 振り返り、山のように並べられたモニターの中、そのひとつを見る。
 決して映りの良いとは言えないその画面の中には、一台のトロッコ。
 複数人がチームとなって協力態勢を作り、今はその中で暫しの休息を取っている。
 ……その中に、神奈もいる。
 どうやら、あいつはこのゲームで優勝商品よりも有難いものを見つけたようだ。
 見た目は兎も角、信頼を得た仲間もいるようだ。
 きっと、問題ない。そう思わないと、俺はここから一歩も動けない。
 俺のすることが終わったその後に、運良く俺が、そして彼女が脱落していないよう
なら……そうだな、罪滅ぼしと真紀子ちゃんの借りを返させて貰う事にでもするか。
 どうせ俺は遅かれ早かれ脱落する。そのくらいの恥の上塗り、屁でもない。
 とは言っても、結局彼女には信用されず、積年の恨みを晴らされるかもしれないな。
 それでも、仕方ない。間違いなく俺は罪人であり、長い事偏った食事ばかりを
与え続けられた挙句、心を壊してしまった彼女には、そんな俺を裁く権利がある。

 もうひとつ、モニターをチェックする。
 映っているのは、旅館裏口から抜け出していく三人の生き残りの姿。
 もしかしたら、正面玄関前の連中に見つかって、互いに頃しあうかもしれない。
 だが、奴だけには脱落してもらっては困る。
 奴は――――――俺が、頃す。
 MINMESエリアの統括者であること。ラスボス候補筆頭であること。どうでもいい。
 このビルを脱出した瞬間から、俺もまた、このゲームの一般参加者の一人に戻るだけなのだから。
 そして、今俺の頭の中にあるビジョンはひとつ。
 奴がずっこけ、地面に突っ伏し、縞模様のパンツ丸出しで見事討ち死にしている、その姿のみ。
 それさえ全島生中継が出来れば、俺のこの出番など、いつ終わっても構わない。
 奴にも、真紀子ちゃんと同じ屈辱を味あわせてやる。
 さぁ、行くぞぉ。
 奴の伝説を、潰しに。

422パラレル・ロワイアルその366:2005/02/13(日) 17:28:29
 THE−TOWNエリア・鉄道駅前階段…かつて覆面ゼロ、続いては坂上
智代が下りて行った階段をちょうど今下りて行く二人連れと、かつて御堂と
ポテトが通り掛かってまずクロウと、続いてはボタンと出くわした階段前の
通りをちょうど今通って行く四人連れの邂逅こそは―――

「……」
「……」

 運命の悪戯―――
 そんな言葉で片付けてはいけない事なのかもしれない。

 河島はるか(二十六番)他一名
 遠野美凪 (六十二番)他三名
「……こんにちは」
「……どうも」
 それでも、お互いの挨拶は何気なかった。


「おー、かみやんだーっ」
「……観鈴さん」
「あっ、みちるちゃん!……それと、そちらの方は…?」
「!……はっ、初めまして観鈴さんっ……私、117番の匿名希望と申しますっ……(汗)」
「こちらこそどうも初めまして(ぺこり)…みちるちゃん、あとそちらの三角帽子の方は…?」
「ふーこだ!」
「くらなどの伊吹風子です、はじめまして(ぺこ)」




 ―――その頃、駅前階段通りを含む駅前交差点を既に完全包囲していた、そこここの物陰では―――

「有紀寧さん、現在駅前階段通りに六人合流です」
「司令さんから特にターゲットにされました方達は、いらっしゃいますでしょうか?」
「ええっと…見た所、117番さんだけみたいッス」
「うう〜ん…それでは他の皆さんが揃いますかもしくは、司令さんがご到着しますまで待機という事に致しましょう」
「それでですね、有紀寧さん…」
「はい?どうかなさいましたか?」
「その…六人の内、一人は伊吹風子ちゃんみたいなんですが…」
「えええっ?何という事でしょう……捕まってしまっちゃったのでしょうか…?」
「更に、もう一人は、その…」
「はい?もう一方は、どなたなのでしょうか?」
「俺達の見間違いじゃあなければ……河島…はるかさんッス」
「そそそそ、そんなっ!?…それって、お兄さんが…お隣さん同士のっ!?」
「そーゆー事なんですよ、困った事に…」
「困りましたね〜、とても私には攻撃の命令が出せませんです〜」
「出し辛いッスね」
「あっ、そう言えば、司令さんはまだここへはご到着なさらないのですか〜?」
「それなんですが有紀寧さん、先程急報が入りまして…」
「急報?」
「古河司令は乗用機の燃料切れと敵の追撃の為にこちらへの到着がおくれるとの事です…」
「(ガーン!)ほほほほほ、本当なのですかあ〜っ!?」
「…幸い、敵の戦力は小さく、援軍は既に出撃済みですので、こちらからの援軍は不必要との事なのですが…」
「(しおしお…)事なのですが、………………続きは、何なのでしょうか…?」
「到着までの間は有紀寧さんに包囲作戦の遂行及び、包囲部隊の指揮権を委ねるとの、司令よりのお言葉です」
「(よろ〜)さ…最悪です……と、取り敢えず、司令さんからターゲットにされておられる方達が全員お集まりに
なりますか、さもなくば私達が生き残りの皆さんに見付かってしまいますかした時には、止むを得ず攻撃させて
頂くという事に致しまして、それまでは攻撃準備態勢のまま待機という事で、皆さんご了承をお願いします…」
「了解…(汗)」
「こちらアルファ、了解(汗)」
「ブラボー、了解しました(汗)」
「チャーリー、了解ッス(汗)……あ、えーと現在、階段前の六名に新たな動きがっ…」
「新たな、動きですか…?(ガサゴソ)」
「…伊吹風子ちゃんが、24番依頼人さんと何やら物々交換を行っておりますっ」
「(オペラグラス片手に)ええっ?……あああっ、あのジュースはっ!?……たたたた、大変っ、伊吹さんがっ!」

423パラレル・ロワイアルその367:2005/02/13(日) 17:30:38
「にははっ、かわいらしいヒトデさんっ♪どうもありがとー風子さん」
「いえいえ、こちらこそありがとうなのです、観鈴さんっ。実は風子、とってものどが渇いていたのですっ」

 ぷすっ。

「!…あっ」
「…どうされました、河島さん?」
「…あのジュース…駄目、飲んじゃあ…!」

 ちゅーちゅー。

「「…あああっ(←有紀寧&はるか)」」

 ちゅー……。

「「…い、伊吹さんっ…!」」

「なんですか、これはっ!やばいぐらいにおいしいですっ!」

 ちゅーちゅー!

「「ズ ル ッ !!」」

「…あ、河島さん…大丈夫ですか?」
「んに、それよりもいま、ずっこけた音がハモったような気がしたのだー?」
「……みんな物陰に隠れて!誰かが周りに潜んでいるわっ!」




「ゆっ、有紀寧さんっ!?」
「…すっ、すみませんっ……つい、思い切りに脱力をしてしまいまして…」
「それよりも、今のリアクションで117番さんに見付かってしまったようッス!」
「…しょっ、しょうがありませんっ…どうか皆さんっ、各自攻撃を…開始して下さいっ!」

424パラレル・ロワイアルその368:2005/02/20(日) 19:42:16
バシッ…バシバシバシバシバシバシ…ズビシッ!!
「みさわっ!」

バシッ…バシバシバシバシバシバシ…ズビシッ!!
「おおもりっ!」

 MINMESエリア・マザーコンピューターステーションビルで始まった
突入・攻防戦は、当初想像されていた以上に侵入者側の圧倒的な蹂躙という
形で展開が成された。

 無論、迎撃側もそうぞんざいなる迎撃態勢を敷いていた訳などではない、
ステーションビルの内壁が、硬質ガラスを主とした透明な建材によって造ら
れている事実を最大限利用して、殆ど全てのビル内警備兵は防弾チョッキに
ヘッドギア、透明プラスチック製シールドに単発・簡易型の黒いゾリオンを
支給されていたのであった……つまり、ビル内から外へ出ない限りは、内壁
とかシールド越しに一方的に侵入者へ対して発砲を行う事が出来るという、
とんでもなく有利な環境下で侵入者を迎え撃つ事が出来る筈なのであった。

 ところが。

「ゲーック、またいたぞぉ、そりゃ〜っ!」

バシッ…バシバシバシバシバシバシ…ズビシッ!!
「ちばっ!」

 侵入者の内の一人、御堂がポケットに詰め込んであった物を次から次へと
潜んでいる警備兵や、シールドを翳している警備兵目掛けて投げ付け続けて
いたのであった。

 彼がポケットから投げ付けていた物…それは、昨晩リバーサイドホテルで
行われた敗者復活戦において、御堂本人を敗北寸前まで追い詰めた後に七瀬
留美によって破壊されたメイドロボこと、NMX−07SE・ナナセに搭載
されていた、口腔部射出機の弾であるスーパーボールであった。

 御堂はそれを、インドア用の跳弾投擲兵器として回収していたのである…
御堂が狙いを付け投げ付けたそれは内壁を反射し続けながら確実に、遮蔽物
越しの標的の防具を付けていない場所へと命中していったのである。内壁を
隔てた標的に対しても、換気用の上下の隙間から容赦なくスーパーボールが
飛び込んでくる始末。

「うりゃ〜っ!」

バシッ…バシバシバシバシバシバシ…ズビシッ!!
「さとうっ!」

「とりゃ、とりゃ〜っ!」

((バシッ…バシバシバシバシバシバシ…ズビシッ!!))
「たなかっ!」
「すずきっ!」

「ゲーッ、ゲッゲッ、コイツは面白ぇ、百発百中だぜぃ!」


チーン…プシューッ。

 正面ホールのエレベーターの扉が開き、対能力者用のスタングレネード・
ランチャーを携えた黒い動甲冑が三体、中から飛び出して来た。

「出るモンが出て来ちまったよーだな…頼めるか、柳川?」
「ああ、任せてくれ」

 新手の重装甲を認めてタイミングを悟った御堂が、出番待ち状態であった
柳川とバトンタッチするや、さっさと物陰へとその身を隠す…直ちに柳川は
全身に意識を集中させる。

「行くぞお前達!侵入者供にジェットストリームアタックを…」
「……セリフはもういい、キサマら死ね」

 瞬時にして動甲冑達の目の前へと飛び込んで来た、海パン刑事…もとい、
海パンエルクゥ…その伸びた腕が、次の瞬間には鎌鼬の如くに一閃された。

(((ズバッシュ!!)))
「がいやっ!!」
「まっちょっ!!」
「おのれてがぁぁぁっ!!」

425パラレル・ロワイアルその369:2005/02/20(日) 20:38:46
「まだ誰も侵入者の撃退が出来ないのか?」
 塚北は汗を流しながらそう呟く。
「す、すいません……支給装備の漢字テスト集では歯が立ちませんでした」
「そんな物で歯が立つかッ!迎撃はもういい、早く隔壁を閉鎖しろッ!!」
「りょ、了解しまし…………う、うわあっ、(ズビシッ!!)みどうっ!」
「……」
 塚北は苛立ちの儘に無線機の電源を切る。元ゲーの戦利品である江藤結花
の部屋から盗み出した水玉模様のパンツで汗をぬぐう、早く侵入者を何とか
してしまわねば自分の命まで危ない。こんな女っ気のない場所で瓦礫の山に
されるのなどまっぴらだ。

 クライアントと連絡を取るか?いや、まだだ、まだ待て、連絡を取った所
でどうしようもないだろう。それにこちらには切り札の総合統括コンピュー
ター“S.F”と直属のガードロボット達がいる。自分だって高圧空気銃を
持っている!

 塚北は早鐘の如く高鳴る鼓動を押さえながら、ゴムの長くなったパンツを
握り締めている。

 彼は実は本物の塚北ではなく、ただの影武者役でしかない。本物より劣っ
た知性と力しか持たない、ただのドスケベなオブジェなのだ。

 ドスケベなオブジェはがくがくと震えている。

ヒィィィィン……。

 階下の方から、こちらへと急上昇をして来るようなロケットエンジン音が
聞こえて来たのは次の瞬間である。思わず本能的に、座っていたスチール製
デスクの下へと慌てて潜り込んで隠れる影武者。そして、更に次の瞬間……

バリィィィン!!

 影武者のいる階の窓ガラスが、大音響と共にビルの外側より破壊魔法かと
思しき力によって木ッ端微塵に打ち砕かれた……そして、中へと飛び込んで
来たのは、飛行メカニック―――元対能力者猟兵・ベナウィの支給装備であ
ったFHPに颯爽と乗り込んだ三人目の侵入者こと、ゲスト傭兵のルミラ・
ディ・デュラルその人。

「うん?……変ねえ、確かに誰かの気配を感じ取ったような気がしたのだけ
れど……?」
 ルミラはFHPからガラス片が飛び散る床の上へとふわりと降り立つと、
デスクとモニターと端末が立ち並んだフロア内をゆっくりと探索し出した。

 並んでいるデスクの一つに、影武者が潜り込んでいた…そして、ルミラの
足音は一歩、また一歩とお約束の如く、そのデスクの方へと確実に近付いて
行ったのであった。

コツ、コツ、コツ、コツ……。
『……(ブルブルガクガク)』

 そして、案の定ともいうべきか、足音は影武者が潜り込んでいるデスクの
前でぴたりと止まった……影武者の目線の先にてにょっきりとそびえ立つ、
ハイヒールを履いたすらりとした太腿。

「あら、こんな所にセキュリティ開きっ放しの情報端末があるわ…この際、
逃げ出しちゃった家主様は柳川さんと御堂さんにおまかせという事にして、
この海底ドームとゲームに関する情報でも頂く事にしちゃおうかしら…?」
 そのままデスクに腰掛け、端末をいじくり始めてしまうルミラ…影武者の
目の前の太腿が、スチール製回転椅子の手前に投げ出され、その膝が影武者
の方に向かって、タイトスカートの裾を大きく捲り上げる形で色っぽく組ま
れた。

『た、棚ボタ……(ハァハァ)』
 思わず、心の中で快哉をあげてしまう影武者……とはいえ、彼にとっては
無茶苦茶残念な事に、椅子の角度不足とルミラの氷の微笑風速攻組み替えの
せいで、後ほんの少しという所で肝心のおぱんつ様を拝む事が全く出来ない
でいるという最悪のオチ。

『ぐ……うおおッ、殺生過ぎるぞぉぉぉッ!……せ、せめてあともう五度…
いや、もう一度だけでも傾いてくれればぁぁぁッ…!』
 見付かった時の恐怖も忘れ、目の前にて繰り広げられるギリギリおあずけ
状態に、持ち前のスケベ根性を大きく揺さぶられ続ける事となった影武者は
とうとう辛抱たまらなくなり、後先考えない暴挙へと打って出てしまった。

426パラレル・ロワイアルその370:2005/02/20(日) 21:26:11
『鑑賞したいかぁ……?』
 呆けたような口調で、だが、目だけは真剣にスカートの裾にギリギリで隠れて
いるルミラの両腿の付け根を真剣に見据えて、変身元の擬似人格と自問自答した。
 ゆっくりと、その意味を噛み締めながら頷く。
『自分の欲望から、存在理由から逃げて……後悔は、したくないですから』
『結果がどうあれ、相手に……頃されるっ……てことだぜぇ……』
『……ええ』
『しく……じれば……全くの無駄死にだぁ、……それでも……かぁ?』
『……ええ』
『成功すれば、しくじった時よりもつらいかもしれないぜぇ……ルミラを…
…怒らせるってなぁ……そういうもんだぁ……』
『覚悟完了です』
『逃げるより……後悔するかも……しれないぜぇ……彼女に未来すらも……
奪われるかもなぁ……』
『それも―――覚悟完了です』
『……』
『……』
『けッ……おめぇなら、大丈夫だぁ……やっちまえ。魔力ではなく、高圧空
気銃の方でなぁ……』
『わかった……』
『椅子のレバーへ、下半身に力を入れて銃を構えろぉ……』
 言われたとおりに、両足でウンコ座りで踏ん張りながら両手で高圧空気銃を構える。
『こ、こうですか?』
『そうだぁ……』
『一発勝負だぁ……俺が照準を合わせてやるぅ……』
 マナに敏感なルミラに、憑依神の影武者では魔力攻撃は事前感知の恐れがある。
 あえて、高圧空気銃での一発に賭けさせた。
『もっと……腰を……落とせぇ……腕はこうだぁ……』
『はい……』
『狙うのはレバーだぁ……俺が撃て……と言ったら……撃てぇ……覚悟は……』
『できてます』
『そうかぁ……。いいなぁ……撃て、……と言ったら……引き金……を引く
……だけで……いい……』

「ええっ!?何て事なのっ…20番は既にこのビルを脱出していて、ここに
残っているのは只の影武者っ!?…おまけに、このビルの端末機からによる
S.Fへの直接アクセス回線は完全閉鎖されちゃって、残された直接回線は
最早、SUMMERエリアの緊急施設にしか存在しないっていうのは…結局
私達って、見事にやり過ごされちゃったっていう事なのね、あーあ……」
 端末をいじくり回した挙句に、骨折り損を覚らされて脱力したルミラは、
思わず椅子の背もたれに力一杯体を投げ出すように寄り掛かると、そのまま
腕と腹筋を思い切りよく伸ばし、脚も思い切りに拡げ伸ばして溜息混じりの
大きな欠伸をしでかした。

『撃てぇっ―――!』
 声。

 ―――轟音、続けて二つ。
 ―――殉職アナウンス、続けて二つ。




 長い長いエレベーターを登り、柳川と御堂はやっとたどり着いた。合流の地点へ。
 そこにいたモノは。
 そこには。
 リクライニングレバー全開状態の回転椅子の上で、パンツ丸出し・一人バック
ドロップ状態で失神しているルミラ。
 バックドロップした際に蹴り倒したと思しきスチールデスクと、上に乗って
いたのであろう壊れた端末。
 脱げたルミラの右のハイヒールの踵で無残に脳天を刺し貫かれた、狸の置物。
 転がっている水玉模様のパンツと高圧空気銃。

「おそらくは相撃ちか…(汗)」
「おそらく、すべては終わっちまったんだな。―――オレ達が辿り着く前に…(汗)」
「流石にこのままマジ死には可哀相だからな…源之助の爺さんに修繕を頼んでおくか(ピッピッ)」
「……けっ。たかが置き物のくせに、大したことしやがるじゃねえか」

427パラレル・ロワイアルその371:2005/02/27(日) 18:23:38
「そんなに簡単に頃されちゃあたまらないぜっ!」
「そんなに簡単に頃されるのが嫌ですかあっ!?」

 DREAMエリア〜THE−TOWNエリア境界線近く…燃料切れで停止
を余儀なくされた空陸両用送迎機“ジャノメ”を盾に、赤と黄色のゾリオン
を構えているのは特務機関司令・古河秋生。そして、離れた場所から出前用
エレバイクを降り物陰に潜んでいるのは、海底トンネル戦場跡から回収した
ドラグノフ狙撃銃を構えている最後のゲスト傭兵サラ・フリートと、同じく
二丁のイングラムを構えている葉組内応した元対能力者猟兵・オボロ。

 本来ならば、窓ガラス越しに一方的に射撃が出来るゾリオンを持った秋生
の方が優勢な筈なのであるが、サラもオボロも隠身に長けた義賊であるため
秋生は索敵の段階で相当な苦労をさせられていたのであった。しかも二対一
である上に狙撃銃と二丁SMGの組み合わせである、迂闊な強行突撃や強行
脱出は秋生といえども行えない。

 しかし、実際により内心焦っていたのはむしろサラとオボロの方であった
…というのも、特務機関司令がたった一人で足止め状態という絶好の大金星
チャンスに、あと一歩という所で膠着状態に陥ってしまっているのである…
このままぐずぐずしていたら司令に呼ばれる呼ばれないに関わらず、援軍が
駆けつけて来るもしくは通り掛ってしまう可能性は極めて高い。

「あの…サラさん?」
「何よ、オボロ?」
「ここはその、我々の現在位置を悟られてしまうデメリットを犯してでも、
古河司令を燻り出す作戦に切り替えるべきだと思うのですが…?」
「…その作戦にはアタシも賛成ね…だけどねオボロ、アンタ果たして上手く
燻り出せる見込みはあるの?…もし上手くいかなかった時はアタシ達のいる
場所がバレてしまうだけなのよ?」
「実は拙者、発声を増幅させるからくりを装備として支給されておるのだ…
更に、兄者から教えられた情報によると、あの古河司令は実は大変な愛妻家
であるという事なのであるが…」
「何よ、それなら後は簡単じゃないの♪…余計な邪魔がやって来ない内に、
さっさと燻り出して決着をつけましょう、オボロ」


ピ――――――ッ。

「!?」
 燃料切れの空陸両用送迎機…開放した扉を盾に右手に赤いゾリオンを握り
締めたまま、左手の黄色いゾリオンを携帯電話へと持ち替えて、THE−T
OWNエリアにて鉄道駅を包囲している“チーマーズ”へ急報を伝えていた
秋生は、拡声器のスイッチを入れた時に発せられるノイズの音を耳にした…
そして、続いて彼の耳の入って来た言葉は……

「『頃した。
  可愛い女房を、あっさりと。
  罪悪感は感じなかった。
  俺は、絶対に優勝しないといけないから。』

…アハハハハッ、なかなか上手いわねえオボロ。じゃあ、今度はアタシが…
 『あなたの大切な早苗さんは死んでしまったのよ。
  わかるはずですよ?
  だってあなたが頃してしまったんだから。
  可哀想に。大好きなあなたに頃されるなんて。』

…ウワ〜ッ、サラさん、それはチョットネタがキツイんじゃあ…?」

428パラレル・ロワイアルその372:2005/02/27(日) 19:44:22
「キサマ等……っ」
 怒りよりも先に熱が全身を走る。怒りの熱ではなく闘志の熱だ。
 早苗の不幸をダシにするとは何事だ。
 ―――生半では済まさない。
 怒りを前面に出した顔で秋生はゆっくりと立ち上がり、携帯をポケットに
放り込むと、新しいタバコを銜えてジッポライターで点火する。
 言うまでもないが、この表情は演技だ。

「『しかし…よくもまァ…柳也さんならその場でハラキリだぜ』……って、
出て来ましたよ、サラさん!」
「あらあら、観念なさいましたか?」
「―――人の愛妻をネタにしやがったな、テメェ等」
 怒りに震えた声。これも演技だ。本当である。
「―――それは申し訳ありません、ドメスティック・バイオレンサー。しか
し、すぐ頃して差し上げますからお許しください」
「―――滅殺してやるぜ」
 このドスの利いた声も演技なのだ。本当だ。
(本当にな。少なくとも女には手を上げたりしねえぜ!)
 怒りの表情の下で秋生の心は達成感に充ちた。
 ドラグノフを構えたサラ・フリート。二丁イングラムを構えたオボロ。銜
えタバコで赤いゾリオンを構えた古河秋生。そして肉球で気配を消していた
「騎兵隊」。笑顔が漏れた。やっと勝利が目の前に見えたのだ。頼もしい「
騎兵隊」がサラ・フリートのすぐ背後に見える。
 完全に気配を消した「騎兵隊」は黄色いバンダナを右手に構えている。
 その「騎兵隊」の名前は勿論、坂上智代だ。

 サラ・フリートはまるで気付かなかった。自分のすぐ背後に気配が迫って
いることに。用済みなのにスイッチを切り忘れた拡声器がノイズを散らしっ
放しであったのではそれも仕方ないと言えようか。古河秋生に声など掛けず
にさっさと撃っていれば彼女達は勝利できたのだ。だがその勝利は覆面隊員
ふたりによって奪われた。
 そのことにも気付かずに、会心の笑みを浮かべてサラは呟く。
「おしまいね、古河司令!」
「―――終わるのはおまえだ!!」
 背後からの叫びと同時に、サラの頭部が黄色いバンダナでぐるぐる巻きに
される。何かが鼻を突き抜けたような衝撃。

『ビーッ、ゲスト傭兵サラ・フリート、ナースストップにより殉職しました
…ジェット斉藤さんは直ちに、救急搬送車にてDREAMエリア〜THE−
TOWNエリア境界線まで急行して下さい』
 殉職アナウンスが流れるまでに一秒。
「だ、誰だっ!!」
 振り返ったところで立っていたのは坂上智代。オボロは彼女がここまで接
近していたことに気付かなかった。足音の一つも聞き取れなかったのだ。心
の力が秋生に集中し過ぎていたから気付けなかったのか。
「クマさん、参上」
 バンダナをサラもろとも放り捨て、クマの着ぐるみは真っ黒でつぶらな瞳
をオボロに向けている。
「ちいっ!」
 オボロはイングラムを放り捨てると、立川雄蔵から譲り渡されたゴム製の
グルカナイフをクマの着ぐるみに向けて二刀流で構える。着ぐるみ相手には
BB弾で有効打は与えられない。スピードを乗せたゴムグルカを首の接ぎ目
に一刺しして、更に次の瞬間に一本投げつければ古河司令も頃せる。瞬時に
そう判断しゴムグルカを着ぐるみの首に向け、接ぎ目に突き立てようとし、
「愚 か 者 ぉ っ !!」
 突き立てる前に、今度は虎の男が現れ、サラから奪ったドラグノフでオボ
ロの股間を狙い撃つ。直撃こそはしなかったがBB弾はオボロの股間をした
たかに跳弾した。
「うがあああっ!」
 脳天にしたたか響く衝撃だった。しかしそれでも葉組の誇りは意識を繋ぎ
止める。まだ握り締めたままのゴムグルカを今度は虎の男に向けて振り返り
ながら叫ぶ、
「おのれら―――いいかげんに」
 叫び切る事が出来なかった。
 クマの左の拳が振り返りかかったオボロの頬に叩き込まれる。頬から顎に
かけて打ち込まれた痛烈な打撃は喋りかけのオボロに手ひどく響く。脳が揺
れて誇りが崩れ落ちる。今度こそオボロはゴムグルカを取り落とし、身体も
また地面に崩れ落ちようとする。だが崩れ落ちることをクマが許さない。ク
マはオボロの襟首を掴んで無理矢理身体を真上へ高く放り上げると叫ぶ、
「司令!止め頼みます!」
「やらいでかっ!!」

429パラレル・ロワイアルその373:2005/02/27(日) 19:45:17
見るとクマは身体のバネを溜め込んでいる。そして、その左脚を強く踏ん
張り右脚を高く振り上げる。車に撥ねられた筋肉達磨二名を易々蹴り返すク
マの、その脚だ。
「や、やめ―――っ」
 止めるわけがなかった。
 その体重と速度と脚力をひとつの爪先に詰め込んで、クマは連続の蹴りで
突き上げる。どぐしっ、どぐしっ、どぐしっ、どぐしっ、どぐしっ、どぐし
っ、どぐしっ、どぐしっ、と鈍い音がした。コンボスタートの音―――虎の
男と秋生へと繋げる音だった。
 クマが突き上げていた物体が蹴り飛ばされた。クマの爪先には物体が担い
でいたバッグが引っ掛かって残り、バッグの持ち主は二メートルもの前方に
吹き飛んでいた。コンボは止まらない。すぐに虎の男が持ち主に駆け寄る。
中空に舞い上がった状態になってもなお、オボロは無事に着地を行おうとす
る。最後に残された誇りだった。
 虎の男は脚を高く振り上げた。古河秋生も同じように高く。虎の男の脚は
着地予想地点へ。古河秋生の脚は再着地予想地点へ。
―――時間差で、真っ直ぐ突き上げられる。

どぐしっ、どぐしっ、どぐしっ、どぐしっ、
どぐしっ、どぐしっ、どぐしっ、どぐしっ、

「ん!?」

 コンボが繋がった!

「おっと、失礼」

どぐしっ、どぐしっ、どぐしっ、どぐしっ、
どぐしっ、どぐしっ、どぐしっ、どぐしっ、

「ふんっ」

どぐしっ!

『ビーッ、新規ゲスト警備兵・オボロ、有効打直撃により――死ぬわっ!!
あんたら酷いっすよっ!』
 すでに失神したサラですら聞こえるような、凄まじいテンションでの殉職
アナウンスが流れた。悶絶の『遺言』すらアナウンスに代弁させたかの様に
、オボロの出番は今度こそ完全に吹き飛んだ。




「『がんばってもらいたいところ。』そういうエールも読者様より頂いたと
いう話だが、相手が悪過ぎた様だな」
 もうすっかりと短くなってしまったタバコを携帯灰皿へと処分しながら、
秋生が倒れたままの義賊組に向かって呟く。
「―――ですが司令、ここで時間を奪われた事が彼らの放った犠牲フライへ
となり兼ねないかもしれません…THE−TOWNエリア駅前の包囲戦は、
既に口火が切られたという急報が本陣から届いております」
 被り物を外した智代が真面目な顔になって秋生に報告する。
「そうか」
「どうします、司令?…」
 義賊組に忍び寄るため途中で置いて来たサイドエレカを運んで来た志摩が
秋生に尋ねる。
「よし、俺様と志摩はこのままサイドエレカに乗ってTHE−TOWNエリ
アへと急行する、智代は義賊組が乗って来たエレバイクで万一に備えて本陣
の守りに回ってくれ」
「了解!」
「解った!」
 殆ど同時に叫んで、二台の単車が再び走り出す。

430パラレル・ロワイアルその374:2005/03/06(日) 20:06:22
「うにゃ、美凪〜っ、これっていったいどういう事なんだ〜っ!?」

 THE−TOWNエリア・鉄道駅前…同行者合流者計五名もろともに周り
を囲まれてのいきなりの集中砲火から、間一髪匿名希望の警告に素早く反応
して歩道脇のゴミ箱へとその身を隠しながら、みちるは茶色のゾリオン片手
に、すぐ隣でウェザビーを構え直している遠野美凪の方に向かってハイテン
ションで疑問をぶつけた。
「みちるたち、まるでカゴの中の鳥さんなのだーっ!」

「…わかりません……ですが言えますのは、あの装備といいあの人数といい
…たった六人の非能力者を待ち伏せ攻撃されるのには、余りに大掛かり過ぎ
ると思える事だけです…」
 言いながら、美凪は注意深く狙いをつけたウェザビーのトリガーを引く。

ぱすっ。
びしっ。

 発射されたBB弾は狙い違わず、噴水池の中から吸盤水中銃を構えていた
囚人水着のチーマーに命中、水飛沫の中に沈める。

「……困ったわね、出来れば階段を駆け上がって駅建物の中にまで逃げ込み
たい所なのですが…」
 電話ボックスの陰からステアーTMPを斉射しながら匿名が、郵便ポスト
の陰からガリルを撃っている河島はるかに向かって口を開く。

「…ん。階段を駆け上がるのは、私と匿名さんとみちるちゃん以外きつそう
だね…幸い、美凪さんは傘を持ってたのをさっき確認したんだけど…」
 返事をしながら、車道に向かって悪臭手榴弾を投げつける…マンホールに
隠れていたチーマーが燻り出され、逃げ出す所を匿名に撃ち頃される。

 ちなみに伊吹風子は匿名の、神尾観鈴ははるかのすぐ隣にて、震えながら
じっとうずくまってしまっている。いざとなれば匿名が風子を抱えダッシュ
するのはそう難しい事ではないだろう。しかし、残念ながらはるかにとって
は観鈴は決して軽い荷物とは言い難かった。

(……どうしようかしら……この子達……守り切れる?)
 相手が少数ならともかく大人数だと危険だ。ともかく集団突撃や陰身肉薄
されないことを願いつつ、匿名ははるかにバッグの中から取り出した人物探
知機を投げて渡した。
「……聞いてるかどうか知らないけれど、一つ言っておくわ。私は貴方達を
見捨てたりしない。絶対にね」




「こちらアルファ、完全に物陰に隠れられてしまいました。膠着状態に陥り
そうです」
「ブラボー、こちらからも射界から隠れてしまっております」
「チャーリー、敵は飛び道具が意外と豊富で、ライフル・狙撃銃・ゾリオン
・手榴弾で果敢に反撃してくるッス、肉薄はかなり難しそうッス」
「ああっ、何て事に……私が奇襲のチャンスを自ら、潰してしまったせいで
(へろへろ〜)……あの、投擲系・曲射系の飛び道具による燻り出しは、可能
でしょうか…?」
「それが有紀寧さん…我々の用意した手榴弾・ランチャー系は全て、対本来
の標的用の、彼女達には強力過ぎる物ばかりでして…」
「こ、困りました…そ、それでは仕方ありません…ここはいかほどの効果が
ありますかはいささか疑問ですが、私の支給装備での燻り出しを試みてみま
しょう」
「有紀寧さんの支給装備って……これですか??」
「は、はい…」
「た、確かに…イタイケ系の女の子達にはもしかしたら効果が期待出来そう
ッスけど…」
「しかし試してみる価値はあるかもしれないな…こんな時こんな状況でこう
いった相手にしか、使用する機会がなさそうな代物だし」
「確かにな」
「その通りッスね」
「え、え〜と…それでは皆さん、投擲の方をどうか宜しくお願い致します…
ちょうど数は六つで、お相手は六名いらっしゃいますので…それぞれお好き
なデザインのをお選び下さい」
「…にしても、なかなかリアルに出来てるッスねコレ」
「全員持ったかぁ?じゃあテメーら、いっせーのせで同時に投げるぞぉー…
それ、いっせーの…」
「「「「「「せっ!!(ぽいっ!)」」」」」」

431パラレル・ロワイアルその375:2005/03/06(日) 21:13:27
 駅前を包囲する“チーマーズ”の強面系六名が、それぞれリーダーの宮沢
有紀寧より渡された、彼女の支給装備である超リアル系ビックリオモチャを
それぞれ一つずつ、物陰に潜んでいる正規参加者五名+一名に向かって掛声
と同時に一斉に投げつけた。

「ところで疑問に思ったんスが、有紀寧さん…」
「はい、どうなさいましたか?」
「あの…どうして、伊吹さんにも投げつけなければならなかったんスか?」
「あ…(ガーン!)」
「「「「「そーゆー事は投げる前に聞けヨッ!!」」」」」

 果たして、六つのビックリオモチャは狙い通り、駅前の物陰に隠れている
六名それぞれのいる場所へと、ドンピシャでポトリと落ちて来た。

「…この子、動きませんね…」
 美凪はウェザビーの銃身の上に落ちて来たムカデを摘み上げると、弾切れ
のガリルを破棄して新たに取り出してきた空色のゾリオンを構え直している
はるかに向かって尋ねた。

「…ん。おもちゃみたいだね」
 はるかは、足元へと落ちて来たゲジゲジを一瞥すると、あっさりと美凪に
結論を述べた。

「気持ち悪いぞ!!」
 ガッ!!
 みちるは落ちて来たゴキブリをそのまま伝家の宝刀で蹴り返した。

 パキョ!
「ギャオオオオッ!!」
 蹴り飛ばされたゴキブリはそのままソレを投げつけた強面の右目に命中、
絶叫をあげ右目を押さえて転がり回る強面。

「にははっ、ザリガニさんだよーっ♪」
「風子のは、オニヒトデなのですっ♪」
 観鈴と風子に至っては、落ちて来たサソリとタランチュラを互いに見せび
らかしあっている始末。


「…効果、なかったようですねえ…」
「やっぱり、今時の女の子はあんなオモチャじゃ驚いてくれないんスね…」
「「「「うんうんっ」」」」
 元々期待薄だったとはいえ、その反応を改めて目の当たりにした事によっ
て、つい溜め息を漏らしてしまう有紀寧達。と、その時……

「ぎゃあああああ〜〜〜〜〜っ!!ナナナ、ナメナメ、ナメック〜〜!!」
 ステアーTMPを放り出し、絶叫をあげながら電話ボックスから飛び出し
て来たのは、頭の上にナメクジを乗せている匿名希望。半ばパニクりながら
右手で鉄扇左手でブックバンドを振り回しつつ、有紀寧達の方へと向かって
真一直線に急突進して行った。

「「「「「「!?」」」」」」
 もっとも意外な相手の意外すぎる反応に一瞬、呆気に取られた有紀寧達で
あったが、直ちに燻り出された匿名を制圧せんと迎撃準備を開始した。


「ああっ、お姉さんっ………………え?と、何でしょうかコレは?」
 風子はその時、いきなり絶叫して駆け出して行った匿名を追いかけようと
してふと、それまで彼女がいた電話ボックスの角に何かが引っ掛かっている
のを発見した。

「漢和辞典…ですか?」
 風子は思わずそれに手を伸ばし、拾い上げようとして…触れてしまった。

 ばびゅんっ!!
「わーっ!」
 次の瞬間、元藤林杏の支給装備であった漢和辞典は引っ掛かりが外れて…
それまでの間にイヤという程までに伸びきった、特殊ゴム製のブックバンド
の超伸縮力の勢いのままに、風子の目の前から超高速で飛び去って行った。

 漢和辞典の飛び行く先は当然、それを木造旅館で回収し、そしてたった今
それを置き去りにして急突進して行った、匿名が握って振り回している左手
である…更に、漢和辞典は惰性と遠心力が加わったせいなのか、本来飛んで
行く先よりも若干、右上の方へと向かう弾道軌道を描いて飛んで行ってしま
ったのであった。

 ばごんっ!!
「ぴりりっ!」

 …包囲応射撃ち方準備完了したチーマーズの目の前で、重量・硬度・回転
速度ともに良好なる有線誘導式全空域射程ミサイルの直撃を後頭部に受けた
匿名が、もんどり打って車道のアスファルトの上へとぶっ倒れた。




 その頃、木造旅館ロビー…

「ぶひっ、ぶひぶひ(だらしねーなー、やっぱり女かよ)」
「ぴこ…ぴこ、ぴっこ(その言い方はねえぜ…確かに、悲しきは蛇の性だが)」

432パラレル・ロワイアルその376:2005/03/06(日) 22:17:51
「おっとっと、案の定とも言うべきか、外の方ではもう派手におっ始まって
いるようだぜ」
 THE−TOWNエリア鉄道駅改札口を一番手で通り抜けた高野はM16
ライフルを引っ提げて、階段口目指しダッシュで駆け出して行った。

「これコウヤっ!いきなり一人駆け出して行っては危険なのじゃっ!」
 二番手でスクール水着にサンダル履き・ビーチバッグを担いだ(海水浴場
エリア・海の家で入手)神奈備命が改札口を駆け抜けて行く。

「おじさああんっ、神奈さああんっ、お願いだから待ってよおおっ!」
 三番手は羽リュックを背負い駅のホームをとことこ駆けている月宮あゆ。

「ごっ、ごめんなさい祐介…70話振りの出番ですというのに、私のせいで
すっかり出遅れてしまって…」
「大丈夫だよ美汐、だから慌てないで…」
 そして、しんがりはウェディングドレス姿で難儀そうにトロッコを降りて
いる天野美汐と、それを手助けしているタキシード姿の長瀬祐介である。


「117番さんが倒れたぞっ!」
「よしっ、今こそ階段を下りて残り五人を挟み撃ちにするんだっ!」
 駅内キヨスクの店舗内に辛抱強くずっと潜んで、今こそ完全包囲の時だと
打って出て来たチーマーズの別働隊四名は、図らずも新手こと本来の本命達
にいきなり鉢合わせする事となってしまった。

「あんたらが特務機関のメンバーか。装備は一人前だが、ガキだな」
 髭の男に笑ってそう言われた。たった一人で余裕の表情を浮かべて笑う男
に四人とも背筋に冷気、慌てて応戦を試みる。

 ぱらららららららららららら、ぱらららららららららら、
「なんだ、つまんねえ」
 興醒めしたような顔で肩を竦める高野。勝負は一瞬にしてついた。

「…知っておるか?お主のような奴をうつけものというのじゃぞ(ぽくっ)」
 後から追い付いて来た神奈が、高野の後頭部を軽くに小突いてから、駅の
案内所の方を指差す。高野がそっちの方を見ると、短パンにランニング姿の
五人目だと思しき少女が、スコープ付きのレミントンを放り出して床の上を
のた打ち回っていた。何枚かの羽によるくすぐり攻撃を受けているようだ。

「この島に来ても何も学んでおらぬのか?ふんっ!阿呆を助けてもうれしく
もないわ。興醒じゃな」
 口ではそう言いながらも、“もしかしたら、余を当てにして背中を任せて
くれたのじゃろうか…?”と、ついつい考えてしまう神奈。一方の高野は、
それまで四人が潜んでいたキヨスクの中へと入り、裏手側の窓から階段下・
駅前の状況・様子を確認している。

「…古河司令や戦闘メカニックとかは見受けられないが、敵さんはかなりの
大人数だな…応戦している正規参加者と思しき連中は、昨晩商店街で見掛け
た男七瀬のダチ以外は、俺にとっては初顔合わせばかりだぜ…突撃してやら
れたのか、チャイナドレスのねえちゃんが車道で倒れていて、敵か味方かが
判らねえ三角帽子のお嬢ちゃんが、そっちへと駆け寄って行っているが…」
「のけいコウヤ、余にも見せるのじゃっ(ぐいぐいっ)……観鈴っ!おおおっ
間違いない、あの郵便ぽすとの陰におるのは観鈴なのじゃあっ!……行くぞ
コウヤっ、余とともに今すぐ直ちに観鈴を助けに参るのじゃっ!」
「助けに行くのは賛成だが、余り派手な真似はまだしないで欲しい、神奈…
それと、さっきの礼がまだだったな…有難うよっ(なでりなでり)」
「ううう、また余の事を子供のように(ぷー)……しかし、あの人数を相手に
派手な真似をするなとはまた難儀な注文をしてくれるものよのう、コウヤ…
おお、そうじゃ!…確か乗り換えのため通った水族館で、あゆが持って行く
を泣いて嫌がった戦利品があったのじゃ(ごそごそ)……うむ、これに余が羽
を詰めて飛ばせば、立派に正体不明な法術ふぁんねるの出来上がりなのじゃ
っ♪これならば文句はなかろうぞ、コウヤ?」
「た…確かに、アイデア面・作戦面では全然間違ってはいないのだが…」
「―――さあ、楽しい人形劇の始まりなのじゃっ」
「た…楽しいのか?(汗)」




 …その頃、改札口では頭から転倒して鼻を打ったあゆあゆと、彼女を助け
起こしている祐みしが、駅のモニターカメラに向かって涙目で文句を訴えて
いた。
「うぐうっ、ひどいようっ」
「…やっと久しぶりだと思ったのに、僕達…もう出番終わりなの…?」
「ううっ…そんな酷な事はないでしょうっ…」

433パラレル・ロワイアルその377:2005/03/14(月) 21:26:52
「変ですねえ?…駅内キヨスクの別働隊の皆さんが一向に打って出て参りま
せんです…?」

 駅前交差点を包囲している“チーマーズ”のリーダーこと宮沢有紀寧は、
117番こと匿名希望が燻り出された末に自爆した今こそが絶好の挟撃タイ
ミングな筈なのに…?と、思わず再びオペラグラスを手に取り、駅階段上部
の様子を望遠・拡大して覗き込んでみた。

 そして、階段奥の方からふわりと飛んで来た、謎の飛行物体を目の当たり
にしてしまった…しかも、いきなり大アップで。

「!…………」
 ばたっ。

『ビーッ、新規ゲスト警備兵・宮沢有紀寧、ナースストップにより殉職しま
した…ジェット斉藤さんは直ちに、救急搬送車にてTHE−TOWNエリア
鉄道駅まで急行して下さい』

「なななっ、いったい何が起こったんスか、有紀寧さんっ!?」
「うおおっ、何じゃあの空飛ぶ生首わああああっ!?」
「ひええっ、こっちに来るううううっ!!」

 駅階段から飛び出し、チーマーズの包囲陣の方へと突進して行く飛行物体
……それは、水族館エリアで神奈が拾った元91番・水瀬名雪の支給装備の
『鼻筋を境に鉈で上下に分離しているように見える』ラバーマスクであった
…その内側には神奈自身の羽がすし詰め状態で入っており、それがマスクの
内側からぼこぼこと喰らい掛けの北斗神拳のように蠢いて見えてしまって、
もうキモい事この上ない有様である。有紀寧の脱落による相乗効果も相成っ
て、包囲陣はたちまち混乱状態と化した。

「ええいっ、ひるむなっ!有紀寧さんの弔い合戦だあっ!こうなったら玉砕
覚悟で総力戦を行うぞっ!!」

「…外見はともかく、援軍が来てくれたみたい…」
「…ぱちぱちぱち」
「んにっ!こうなったら逆におばさんのかたきをうってやるのだーっ!」




『ビーッ、117番・匿名希望、有効打直撃により失格…負傷の可能性が
高いため、ジェット斉藤さんは直ちに、救急搬送車にてTHE−TOWN
エリア鉄道駅まで急行して下さい』

 そんな周りの大騒ぎを全く目に止めようともせず、耳に入れようともしな
いで、伊吹風子は車道のアスファルトの上に仰向けで倒れている匿名希望の
元へと一直線に駆け寄ると、自分も車道に膝を付いてそのまま匿名を膝枕で
介抱した。

 後頭部に受けたショックと、発せられた自分の失格アナウンスに虚脱して
ずっとその目を閉じ続けていた匿名であったが、ふと自分の頭が固くて冷た
いアスファルトから柔らかくて暖かい太腿の上へとそっと運ばれた感触に、
思わずその瞳を開いた。

 目の前に涙目で自分を見下ろしている風子の顔が、逆さまに映っていた。

「お姉さん、ごめんなさいです。とてもとても、ごめんなさいですっ」
「……風子さんのせいじゃないわ、私がドジだっただけ。だからもう、そん
な顔をしないの……それと、私も風子さんに謝らなければならない事がある
わ……もうじきバレてしまう事なのですけど実は私、ヒトデさんではなくて
別の変身動物さんなの……御免なさいね、貴方を騙してしまって……」
「そんなことはどうでもかまいませんっ、お友達になってくれた方ともう、
じかにお話ができなくなってしまうのは風子、とてもとても悲しいです」
「……お話が出来なくなってしまったら、もう風子さんとはお友達にはなれ
ないのかしら……?」
「そんなことはありませんっ、たとえお話ができなくとも風子はゲンゴロウ
さんと同じくらい、動物さんが大好きです」
「……それ、多分ムツゴロウさんね」

434パラレル・ロワイアルその378:2005/03/14(月) 21:27:50
 笑う。笑えば、笑う程に頭の中に霧がかかり、新規参加以来、人間として
五感で感じ取って来た膨大な情報量がどんどん収縮されて行き、自分の本来
の体―――蛇のそれへと置き換わって行く。もはや笑う事すらままならない。
 ……それでもいい。自分が畜生なのは分かっている。
 顔。顔。人間の感覚で刻み込まれたそれが、走馬灯のようにぐるぐると回る。
 神奈―――何て事なの、結局彼女にはリベンジ出来ないのね。ちぇっ。……
でも、しょうがないわ、ね。その代わり、みちるちゃんや美凪さん、観鈴さんの
面倒、代わりに見て貰うわよ。どうせ、すぐ近くにまで来ているんでしょう?…
…私には判るのよ。
 詠美―――さんだったかしら?うっかり編集長さんの事忘れて飛び出して来て
しまったけれどまさか、本編の時みたいに別れたきり各個撃破なんて事はないわ
よね?……だって今度は彼氏や七瀬さんが一緒だったんだし、きっと大丈夫です
……よね?

 ぐるぐる。ぐるぐると回る。全く、こんな所で脱落するなんて、ね。
 ―――護りたかった。だから、何よりも、まずは慎重に動こうとした。最初は
、その為にみちるさん以外のライバルが危険に陥る状況・可能性なんて全く頓着
なんかしていなかった。
 ―――それなのに。今じゃ、元の姿に戻る前に蔵等のお嬢ちゃんを悲しませま
いと笑おうっていうのですから……。ふっ。身の程もわきまえないで、一人残ら
ずみんな護ろうなんてするから。とりあえず、そう、ぼやく。でも、心の何処か
で―――それでもいいと。そう思っているのである。自分は、変わったのでしょ
うか?本編の自分は言った。仲間なんて薄っぺらいって、と。しかしついさっき
の自分は言った。私は貴方達を見捨てたりしない。絶対にねと。
 ……自分は、自ら、この展開を買って出たというのでしょうか。本当に、これ
を望んでいたというのですか。
 これが。これが、本来の、私なの……?
 風子―――さん、もう何時までも悲しんでいないの。貴方は戦う事も出来ない
優しい子なのに、周りは名目上敵だらけなのよ。それなのにそんな有様でどうす
るの?
「……さぁ、笑って」
 細く、細く。声は虚ろに響く。
 それでも、風子さんが一生懸命笑顔を作っているのが見えた。…そう、それで
いいのよ。
「悲しんでいるのは、貴方らしく、ない、からね……」
「―――」
「笑って―――笑って、お友達をもっといっぱい作りなさい。そうでなくちゃ、
あ、貴方らしく―――」
 しゃーーっ。
 舌が鳴った。勝手に回りだした舌が、変身の終わりが近い事を示していた。
 もう、これまでですか。
 いや、もはや、目の前すら変わりつつあった。赤外線視力変換。…まったく、
私の出番ももう限界なんですって。期待の新規参加者もあっけないものねぇ……
「……ぁっ」
 何を言っているの?いえ、そもそも、何か言ったのかしら?
「―――」
 自分も何かを返す。いえ、返した、筈よ。どちらかなんてもう解らないけど。
 視覚も。聴覚も。もはや全てが元に戻ろうとしている。
 それでも、体だけが最後まで戻らなければ。少なくとも、それなら、この子は
……泣いたりはしないでしょう・
 ―――そして、もはや両手両足の感覚概念すらも、元通りに消え去って。
 ……人間の思考で最後に、思った。支給装備のままでいたなら結末はどうあれ
ずっと一緒にいられたのに……って。
 確かにそうかもしれないわね。でも、それでも、

 ―――満足だったわ。
                        117番・匿名希望 脱落
                             【残り20人】

435パラレル・ロワイアルその379:2005/03/14(月) 22:09:21
 FOREVERエリアの長くて広い道を、三人の男女が歩いている。
「ねぇ、一体どこに向かって歩いてるの?」
 大庭詠美が半ば、怒り気味な声で訊いた。
 彼女は先程から七瀬留美が自分と千堂和樹の前を偉そうに歩いているのが
気に食わないらしい。
 彼女は知らない。先程から七瀬は戦利品の赤外線双眼鏡と志保ちゃんレー
ダーで敵味方の存在を確認しながら歩いている。
「……知らないわよ、私はとりあえず、敵か味方かわかんなくなっちゃった
けどこのゲームで生き別れになっちゃったライバル達の生き残りを探してい
るだけなんだから、あんた達が厄介事に巻き込まれるのがイヤだって言うの
なら、無理にあたしについて来なくてもいいのよ」
 七瀬はつっけんどんに答えた。
「むかむかむかぁーーーっ!なによその態度っ!借りがあるからってちょお
なまいきよおっ!」
 そんなやりとりを交わしている内に、周りと比べても一際目立つ大きさ・
広さの邸宅が双眼鏡の視界に入った。
「間違いないわね……あれが倉田別邸だわ」
「どうしたのよ?やっと目的地が見つかったワケ?どーでもイイけどアタシ
、いーかげん休みたいわ…こーずーっと歩きっぱなしじゃあ、もー足が…」
「シッ!静かにして……何者かしら、アイツ等?」
「あ、あの七瀬さん?探している人以外にも誰かいるんですか?」
 和樹と詠美は七瀬が指を指す方向に向かって、渡された双眼鏡を覗いた。
 見るとそこには広大な庭を持つ大きな邸宅があった。そして、その周りの
外壁を囲んでいる十数名ものサッカーのユニフォームを着た武装した男達。
「何だろ……邸宅を警護しているのかなあ、あの連中……?」
「もし、邸宅の中にいる人に会いに行こうとしたら、それって自殺行為なん
じゃないの……?」
「詠美さんだけならまだしも、千堂さんまでそんな結論しか出てこないの?
……連中の向いてる方向はどっちなの?」
 七瀬に突っ込まれてあわてて再確認する和樹と詠美……果たして、外壁を
囲んでいる男達の向きは、その手に構えている小銃から、連中が乗って来た
のであろう兵員輸送車の機銃座に至るまで全て、邸宅内部の方へと向けられ
ていた。
「ちょっとお、これって一体、どーゆー事なの?」
「三段階別に考えてみれば、監視・軟禁・包囲っていう所なんじゃないの?
……どの程度の緊張状態なのかは、すぐには判りかねないけれど」
「…て事は、七瀬さんが会おうとしている邸の中の人達はまだ俺達にとって
敵だと決まった訳ではないという事なのかな?」
「そういう事よ……ちょっと、こっそりいって様子を見て来るわ。あんた達
とはここで一旦、お別れね」
「な!?……まっ、待ちなさいよっ!……ガンジーじゃあるまいし、アンタ
一人行かせられるワケないじゃないのよっ!」
「それ、ランボーだろ、詠美…」
「でも、これはあたしが私情から危険を冒そうとしているのよ、あんた達を
その危険に巻き込む訳にはいかないわ……心配しないで、ランボーじゃない
けれど、あたしは七瀬で乙女なんだから」
「「乙女なんだからって……ちょっ―――」」
 和樹と詠美が反論に詰まった時には、七瀬は既に邸宅に向かって疾りだし
ていた。

436パラレル・ロワイアルその380:2005/03/14(月) 23:13:38
 裏道の木々の間を摺り抜けて、七瀬は自分でも信じられない程に手際よく
兵員輸送車の陰にその身を潜める事に成功した。やはり思った通り、連中の
監視の目はほぼ完全に、邸宅内へと向けられ切っていたのであろう。
 輸送車の車体……七瀬はそこに耳を当てる。
 素人だとはいっても、車の内部にいる人間の会話ならはっきりと聞き取れる。
 中の声……全部で5名全員男!
『しかし、いつまでこーやって睨み合いを続けてるつもりなんでしょーね』
『とりあえず、正規参加者の中の本命組があらかた片付いて、ゲームが事実上の
蔵等VS倉田状態になってからだろう……もっとも、そうなっちまった時には、
ココとは逆に、倉田側の推進派・親衛隊に包囲されているSUMMERエリアの
連中が果たして、どういう目に遭っちまうのやら…』
『岡崎の事なんざ知らねーよ、それよりも早いところサッサと突入して、この際
春原の奴もドサマギにフクロにしてやりてーぜ』
『『『『ああ、まったくだぜ』』』』
『それにしても、本命組ってまだこんなに残ってやがるのかよ(カタカタカタ)
……って、オイ見ろよオメーラ、この69番の女…』
『うわ、スゲー画像だな…春原の妹みたいな髪型で、キムチラーメンすすって
やがるぜ、キモ〜〜ッ!』
『資料の方もスゲーぜ、なんでも“常日頃から乙女を目指し、乙女となるべく
日々修練を重ねている”んだってヨ!』
『ゲラゲラ、マジかよ〜ッ!?』
『こーいっちゃあ何だがよ、こんな生徒会長よりも凶暴そうな女が乙女を自称
してた日にゃ、まるで平成版きんどーちゃんだぜ』
『ちげえねえ!』
『『『『『ギャハハハハハハハハ!!』』』』』
 七瀬は体全体がカッと熱くなるのを感じた。奥歯を噛み締めギリッと音がする。
(こいつらに、生きる資格は……ないわね)
『あ、俺小便行ってくらあ』
『気をつけろよ、そろそろ他の正規参加者もやってくるかもしれねーからな』
『へーきへーき!』
 足音が移動する……出口へ向かっているようだ。どうやら一人の警備兵が外へ
出るようだ。
 七瀬はすかさず扉が開いた時、死角になる場所へ隠れた。
 ガチャ……。
 わずかなきしみを帯び、金属のドアが開いた。
 出た来たのは、同年代の男……サッカーのユニフォームを身にまとい、手には
モグラ叩きのハンマーを持っている。
 バタン!
 ドアが閉まる。
 すかさず七瀬は男の背後に回り、首に左腕をまわし、ぐいっと引き入れる。
 隠し露天風呂ラウンジでマスク代わりに使用した丸めたタオルを持った右腕
は、男の開きかけた口へとあてがい、そのまま押し込んでから一気に頭突きを
かます。
「!!」
 男は不意を討たれ、何も言わぬ『死体』となり、地に伏した。

437パラレル・ロワイアルその381:2005/03/14(月) 23:14:40
「この人……瞬殺されてる……?」
 声の主は詠美だった。後ろに(二丁目の)AMTハードボーラーを持ち、
ベルトにビックリナイフを刺している千堂和樹を従えている。
「……待っていてと言ったでしょ?」
「「だ、だって……」」
 詠美達は黙り込んでしまった。七瀬は悟った。今現在の生き残り人数的に、
二度と会えなくなる展開になり兼ねないのが不安だったのだろう。
「分かったわ。残り四人・四秒で片付けて来るから」
 今の彼女にとっては四人の乙女を侮辱した愚か者を頃す事など一秒一殺で
事足りる行為であった。
 あえて詠美から発炎筒・手榴弾は借りない。車の周辺の他の警備兵を呼び
寄せてしまうし、この車には次の用事があるからだ。
 男の握り締めたままのモグラ叩きハンマーを奪取すると、七瀬はドアノブ
に手をかけた。
 ドアのすぐ前に後向きに一人……。
 流石にハンマーの柄では太過ぎるし長過ぎるので、出番なしのまま終わり
そうな元折原浩平の支給装備・ワルサーP38型の銀玉鉄砲の銃身の部分を
一気に尻に突き刺す。男の体が痙攣し、そのまま崩れる。
「なっ!?」
 三時の方向約二メートルに二人目……。
 七瀬は床を蹴り、二人目の男の顔面をすれ違い様に先程奪った右手のハン
マーで殴りつける。
「ぐぁっ!」
 ハンマーは男の花を捕らえ、盛大に血飛沫を上げ、床を紅く彩った。
「「くそっ!!」」
 残りの二人……一番奥のイスに座っている。距離はともに約四メートル。
 一人はエアガンに手をかけ、もう一人は警報用ボタンに手を―――
「遅いっ!」
 七瀬は右手のハンマーを投げ放つ。ハンマーは宙を薙ぎ、男の顔面に深々
とめり込む。
 男の手からするりとニューナンブがこぼれ落ちると同時に、
 ガチャン!コロコロコロコロ……
 七瀬が左手アンダースローで投げた桃缶が最後の一人の頭部に命中する。
 彼女の予告通り四秒で制圧されてしまった。




 おまけ…その頃、倉田別邸内・応接間のソファーでは。
“お兄ちゃん…”
「んー」
“さっき言った事…嘘だよね…?”
「―――ウソじゃないって言ってんだろ?ウソだって言う証拠でもあるのかよ!ったく」
“だ…だってそうとしか思えないもん…!”
「へっ知らないね!芽衣の勘違いじゃないの?あーあ、すぐ泣けばいいと思ってさ」
“―――っ!ひ…酷いよぅ!お兄ちゃんが持ってったんでしょっ、私の識別装置!!(わぁぁぁん)楽しみにしてたのにっ!!”
「芽衣にはまだ大人のゲームは早いんだよ!!そんな事言うなら識別装置に名前でも書いててよねっ!!」

「…佐祐理、TV電話で春原が何やら、バッチリ実践しているぞ…」
「はぇー…」

438パラレル・ロワイアルその382:2005/03/21(月) 19:16:59
「おお観鈴、無事で何よりなのじゃ!……って、どうして依頼人である筈の
お主が、こんな所におったりするのじゃ?」
「え、えっと……それよりも神奈ちゃんこそ一体、いつの間にゲームに参加
してたの?」
「そ、それはじゃな……って、質問を質問で返すでない!(ぽくっ)」
「が、がお……」

 THE−TOWNエリア鉄道駅前の包囲戦はほぼ決着が着こうとしていた
…宮沢有紀寧をリーダーと慕う“チーマーズ”全ての男達は、唯一遠慮なく
襲い掛かれる高野と長瀬祐介に殺到したのが裏目に出て、M16とブッシュ
マスターの斉射の前に倒され、女達も有紀寧を介抱しながら、河島はるかの
説得に応じて白旗を掲げた。

「河島さん……」
「…成功、しちゃったみたい…運動神経、自信あったし」
「すみません、河島さん……私は、自分の使命に……」
「…気にすることないよ」
「私はここまでみたいですが、頑張って下さい」
「…何か……何か、できる事は無いかな?」
「少し甘えさせてください」
「…ん。好きだね、膝枕」

「ヘイ、ヘビさん来ないのかい!」
「こら、ふーこ!みちるのぽちをかえすのだーっ!(どたどたどたどた)」
「ダメです、お姉さんは風子の大事なお友達ですっ!(ばたばたばたばた)」
(……あ、あの…まさかとは思いますが、体が二つになる様な取り合いだけ
はしないで頂戴ね……)

「…(キラキラ)では、美しい花嫁さんには是非ともこちらを進呈させて頂き
たく……」
「ゆ、祐介…私、もうイヤ……(涙)」
「が、我慢しよう美汐…残り人数的にも、もう少しの辛抱の筈だから……」

「うぐぅ…ねえおじさんっ、これからどうしよう?」
「御堂の旦那がMINMESエリアで、たこさんとみたらしがFOREVE
Rエリアにいるらしいって事だから…このままドームを左回りに移動する事
になりそーだな……」




「クソッ、なんて事だ!…既に全滅ぶっこいてやがったとはあああああ!」
「司令、どうか落ち着いて下さいっ」
 そして、そんな駅前交差点の様子を離れた場所から苦虫を噛み潰した様な
顔で眺めているのは、古河秋生と志摩賀津紀。坂上智代が案じた通り、サラ
とオボロの奇襲攻撃は正規参加者達への犠牲フライとなって、彼等から時間
を削り切る結果となってしまったのである。

「…結局、貴重な実働部隊一つと引き換えに倒す事が出来たのは、117番
一人だけだったというのか……」
「司令っ、緊急通信です!…FOREVERエリアの倉田別邸を包囲してる
“ストライカーズ”が、乗っ取られた兵員輸送車の機銃掃射を受けて全滅を
したと、本陣からの……」
「何だとおおおおお!?…で、ではMINMESの方の戦況の方は…!?」
「ゲスト傭兵は倒す事に成功出来たものの、残り二人はFARGO警備兵を
殲滅、20番も行方不明となってしまっているとの事です」
「もはや、これまでかもしれないな……」
「情けない事をおっしゃらないで下さい、司令……本陣のお嬢さん達のため
にも出来る限りの事をしましょう……それに、MINMESエリアにはまだ
手付かずの切り札が残されている筈です」

439パラレル・ロワイアルその383:2005/03/21(月) 19:18:07
「志摩…気付いていたのか、お前……」
「当たり前です、古河司令はきっと、CLANNAD司令である以前に葉鍵
父母組の一員である事を選ぶんだろうなって事くらい…ゾリオン振興なんて
二の次・口実に過ぎなくて、本当はお嬢さんにご自身の可能性と晴れの舞台
―――ラスボスの座と最後の戦場となるであろうSUMMERエリアを託す
るために最前線を東奔西走しているんだろうなって事くらい、メンバー殆ど
が薄々気付いておりましたよ…お嬢さんご本人はどうかはわかりませんが」
「ああ……そのために、俺は様々な連中から協力を頂いてきた……しかし、
飛行船で早苗を失ったショックから、56番と85番を敵だと誤認しちまっ
てパラシュートを破壊して、その結果神岸殿を戦線離脱させてしまった事は
俺にとって、悔やんでも悔やみ切れない忘恩行為となってしまった……それ
でも、56番と85番…そして中の方達は俺と渚のために動いてくれている
……そんな俺に出来る事はもはや、61番以外の本命正規参加者を一名でも
多く道連れに脱落させる事…もう、それしかないのだからな」
「そんな、道連れだなんて、司令……」
「それしかないだろう、誤解だったとはいえ協力者を裏切り、この特務機関
CLANNADに対しても目的を偽ってゲスト参戦させているのだからな…
例え生き残れたとしても、どのツラ下げてアナザー本に登場しろっていうん
だ……!」
「司令は真面目過ぎます、愛する者のために修羅の道を選ぶ行為は、ロワの
世界ではごくごく普通のパターンなんですから…」
「…そして、選んでしまった者の死亡率が100%だというパターンもな」
「……決意は解かりました…でもせめて、それでも出来るだけ長く…本編の
七瀬彰さんの様に長生き出来るに越した事はありません……ですから司令、
64番と110番への奇襲は…俺が行います」
「志摩…!」
「司令はMINMESエリアへ急いで下さい、俺は道連れと一緒に一足先に
美佐枝の所へ戻らせて貰いますから…」
「すまない、志摩……ではせめて、コイツを持って行け」
「黄色のゾリオン!…しかし、司令…!」
「FN−HIPOWER一丁だけでは満足に戦えまい、俺にはこの赤い奴が
一丁あれば充分だ……しかし、こんな事なら戦利品を全部智代にくれてやっ
たりするんじゃあなかったな」
「仕方ありませんよ、智代さんだってこれからはきっと、もっと大変な事に
なりそうですし」
「それもそーだな、何てったって本陣防衛の大任だしな……じゃあ、健闘を
祈るぞ志摩!」
「司令こそ、ますますのご健闘を…!」




 駅前交差点近くの雑居ビル…三階まで上がったところで、ようやく満足の
いく視界が確保できた。連中が移動を開始したのでなければ、ここから見え
る範囲に本命達はまだ存在しているに違いない。
(…………!?)
 少し頭を巡らすと、ゾリオンを構えるまでもなく、およそ五十メートルの
距離に標的―――64番と110番を見つけた。
 想像以上に、遠い。おまけに、64番に幸せそうに寄り添っている5番が
物理的にもそして心理的にも邪魔で、狙撃は困難だ。
 サイトを覗く。やはり命中角度は狭い。狭すぎる上に、外せば5番に当た
るだろう。
 もし、当ててしまったら―――二人もろとも貫通ならばなお更だ―――。
 虎の男は、微動だにせず考え続ける。
 ……61番の即時発見・報復を受ける結果となっても、本来は順逆の11
0番から先に撃つべきかもしれない。
 しかし流石に本職なのか、110番は常に辺りを警戒し、左手にスコープ
付きのM16を構えている。
 ……更に別の参加者を撃って、注意をそらしてみるか?
 いや、迷うな。戦いのプロを脱落させる事も重要な事だ。しかし、能力者
である長瀬の御曹司を脱落させる事こそが、最重要だ。結果的には、汚れた
役回りを演じた末に正規参加者の怒りの前に頃されても、司令のお嬢さんの
手助けになる。それでいい。
 ……迷う事は、無い。
 5番にも当たろうが、外れようが同じ事だ。要は64番だけに当たるか、
二人もろともに貫通してしまうか。ただ当てる事を考えていればいい。
 意を決すると、そこからは早かった。そのまま両手をいつもの位置に据え
る。軽く息を吸い、少しだけ吐く。呼気を肺に幾らか残したまま、息を止め
て微調整。光線銃なので軌道をイメージする必要はない。

 ぴたり、と動きを止めて一秒ののち。
 虎の男は、引き金を絞った。

440パラレル・ロワイアルその384:2005/03/21(月) 20:59:34
「あははーっ、御久し振りです留美さん、よくご無事でーっ」
「…なかなか、凛凛しい登場の仕方だな…」
 FOREVERエリア・倉田別邸…倉田佐祐理と川澄舞は、敷地内車両用
通路へと乗り入れて来た兵員輸送車からさながら梯子車のゴンドラのごとく
伸び出している重機関銃座に、悠然と腰を下ろしている七瀬留美を、三階の
バルコニーから丁重に出迎えた。

「初めの話過ぎてもう忘れてる読者さんもいるかもしれないけれど、一度は
あなた達に助けられた命、そう簡単には散らせないわよ、ランボーじゃない
けれど、あたしは七瀬で乙女なんですから」

((先程の機銃掃射殲滅劇は、ランボーというよりむしろターミネーター…))
 そう思った佐祐理と舞ではあったが、思っただけで口には出さなかった…
…七瀬さんはまだ、機銃座を離れておりません事ですし。


 その頃、一階玄関前車両用通路では…

「ホント、それにしてもデカイお屋敷だな、詠美」
「!―――ちょ、和樹っ!前っ、ブレーキブレーキっ!!」

 キキーッ……ドガッ!!
 「ひぎい!!」
『ビーッ、防御装置作動しました…残り49HITです』

「わ〜っ、大変だぁ〜っ!!」
「どーしよ、和樹っ!?ボバ・フェット思いっ切り撥ねちゃったわよ!?」
 急停止した兵員輸送車の操縦席から血相変えて飛び出して来たのは、千堂
和樹と大庭詠美。操縦者達を迎えに行き、そのまま芝生の中へと跳ね飛ばさ
れたボバ・フェット―――もとい、春原陽平の元へ慌てて駆け寄って行く。

「…心配には及ばない、その男…春原はそう簡単には壊れたりしないから」
 そんな和樹と詠美に向かって、バルコニーから身を乗り出した舞が、七瀬
が機銃座から移ろうとしているのを手助けしながら、冷静に声を掛ける。

「―――っ、何勝手な無茶苦茶言ってるんですか、舞さんっ!」
 芝生に仰向けで横たわりながら、抗議の声をあげる春原……と、いきなり
その苦痛に歪んでいた顔がだんだんと紅く染まり、至福の笑みへと変わって
いった。
「わ〜い、白に縞々だ〜っ♪」

「白に縞々…?って、それってひょっとして…?」
 春原の笑みに思わずつられて上を向こうとした和樹を、詠美がプンスカと
怒りながら後ろから両手で目隠しする。
「もー何よ、和樹ったら!デレデレとうれしそーに上を向こうとしちゃっ…
てええええええっ!?」
 和樹の代わりに上の光景を眺めた詠美が、目を白黒させてそのまま和樹を
引き摺り、全速で後退した。
「どどど、どうしたってんだよ詠美っ!?痛ででで、目が、目がーっ!?」

「舞さん…(怒)」
「…解かっている(怒)」
 上のバルコニーでは、二十キロはありそうな重機関銃を外して担いで来た
七瀬が、舞と二人掛かりでそれを横へと担ぎ直すと、いっせーのせの掛け声
と同時に真下へと放り投げていた。

 芝生に横たわったままの標的を目掛けて。

 グシャン!!
「ウボオーーッ!!」
『ビーッ、防御装置作動しました…残り48HITです』




「…惜しかったな、ガンベルトの部分しか直撃してくれなかったとは…」
「冗談じゃないよッ!?あんな物が直撃したら―――舞さんも七瀬さんも、
僕の事本気で殺す積もりだったとでも言うんですかッ!?」
「「うん」」
 一刻後、再び応接間に集結した計六人による情報交換は長きに渡った……
無理もなかった、特に佐祐理と舞・和樹と詠美は、初対面も同然だったので
あったのだから。

441パラレル・ロワイアルその385:2005/03/21(月) 21:00:32
「それにしても、まさか俺達の本編共通点が、南さんと…」
「…雪見に受難した事だけだとは、皮肉としか言いようがないな、詠美」
「かと思えば、払暁攻撃作戦で敵味方に分かれたアタシ達がこーしてお茶を
飲みながら情報交換なんだもの」
「ある時は普通の参加者、またある時は来栖川さん・長瀬さんのピンチヒッ
ターによる仕掛人、更にまたある時は隠しステージを支配するラスボス候補
…佐祐理達って、本当に波瀾万丈な役どころですねーっ」
「聞いてると皆さん、ゲーム初日は随分と楽しかったみたいですねー」
「ったく、あたし達がただ楽しい思いだけをしてただなんて本気で思ってた
ら呆れるわよ、春原……って、ところであたし達これからどうするの?」
「!…そうでした、すっかり忘れておりましたですー……それでは皆さん、
これから急いでSUMMERエリアの緊急施設の方へ参りましょう」
「緊急施設って、倉田さん?」
「そんな所に一体、何の用事があるってゆーのよ?」
「…このゲーム最後の隠しルール『脱出』を行うために必要な設備が、緊急
施設の中に存在するのだ…」
「『脱出』ですって…?」
「知る人ぞ知っておられる、次の定時放送によって正式に説明される予定の
事実なのですが…今現在この倉田アイランドは閉鎖空間となっておりまして
、潜水してMINMESエリア内の港を通り抜けしません限りは、外部との
行き来は事実上不可能となってしまっておりますのですよー」
「「「ええっ!?」」」
「しかも港には、合衆国原子力潜水艦“アヴ・カムゥ”が停泊しておりまし
て、乗っておられますハクオロさんが特務機関の方達以外が港を出入りする
のを全力で阻止しようと、待ち構えておられますーっ」
「「「マジッ!?」」」
「そこで佐祐理達はこれよりSUMMERエリア緊急施設へと向かいまして
、海底トンネルの再解放を行うかもしくは、ここ倉田アイランドの海面上昇
機能を起動させる事によりまして、『脱出』ルール適用によるこのゲームの
勝利を目論んでおります訳ですよーっ」
「か、海面上昇機能って……昇降機能もあるんですか、この海底ドーム?」
「それはそうですよーっ、いつもいつも海の底では、精神面に於きましても
居住性に不具合がありますですしーっ」
「…今現在、SUMMERエリアの緊急施設は、特務機関CLANNADの
エース・岡崎朋也と、同じくCLANNADのホープ・古河渚の二名によっ
て事実上占拠されており、それを奪還すべく、佐祐理を慕ってくれる者達で
編成された部隊が周りを包囲して突入の機会を狙っている」
「成る程ね、佐祐理さん達がここでCLANNADに包囲されていた理由が
なんとなく解かったみたい」
「だけど、どうしてそれならCLANNADの春原君は、ここで倉田さんと
協力し合っているんだい?」
「フッ、良くぞ聞いて下さいました…実は何を隠そう、この春原陽平こそ、
実は……」
「…土壇場で大失敗されたり寝返られたりしたら目も当てられないからと、
私達の監視役という名目で厄介払いされて、ここに来たのだ…」
「「「あー」」」
「そりゃないですよ、舞さんッ!…アンタらも何ですか、その『あー』って
のはッ!?」


「はえ?…たたた、大変ですーっ!」
「…どうしたのだ、佐祐理?」
「SUMMERエリアのモニター画面……推進派と親衛隊の皆様が…」
「全滅!?」
「見事にやっつけられちゃってるわねー」
「CLANNAD…もしくはCLANNAD側にも、七瀬さんのような…」
「あたしみたいな…?」
「……戦乙女な方が、いらっしゃるのでしょーか?」
「プッ、命拾いしたわね和樹」
「いる…確かに一人いるッ…いつもいつも僕の事を足蹴にする、凶暴な漢女
が一人ッ……」
「…何だか、その女とは気が合いそうな予感がするぞ、留美…」
「ええ、あたしも…もし上手く説得出来れば頼もしい仲間になってくれそう
ね、舞」
「チョットアンタたちッ、どーしてそーゆー結論になるんですかッ!?」




 …その頃、SUMMERエリア緊急施設近辺では。

「―――こちら坂上だ…岡崎、渚、聞こえていたら“御殿”の扉を開けてく
れ…お前達にとって大切なゲスト達を外の協力者共々連れて来た……なお、
外を包囲していた倉田側の警備兵は、私達で全て倒し……クシュンッ!!」
「風邪か、熊の娘?」
「着ぐるみだからてっきり、私よりも暑いんだと思ってたけど…大丈夫?」
「心配ない、立川に香里…誰かが私の悪口でも言ったのだろう…大方、春原
あたりか…?」

「―――こちら岡崎…了解した、今から扉を開ける」
「―――お疲れ様です、智代さん…そして、遠路はるばるようこそお客様」

442パラレル・ロワイアルその386:2005/03/27(日) 21:32:52
 その直前、その瞬間に気付いた者は三人。

「高野は、その長年培ってきた歴戦の戦士としての勘故に」
 寄り添う少年少女と、自分を結ぶ線の延長上。
 感じた殺気の先に、銃を構える虎の男がいた。

「神奈備命は、偶然が生み出したその視界の先に」
 宮沢有紀寧とぽちを収容するためにやって来た、ジェット斉藤の運転する
救急搬送エレカ。その停止した車のサイドミラーに映る光景が、神尾観鈴の
頭越しに彼女の瞳の中へと飛び込んで来た。

「そしてみちるもまた、偶然が生み出したその視線の先に」
 逃げ回る伊吹風子のかぶっている三角帽子、そこに巻き付いているぽちの
姿を追う彼女のやや上向きな視線の先に、雑居ビルの三階にてなされようと
している行為が映った。

 高野は駆け出した。不意の突進に呆然と立ち竦んだままの長瀬祐介と天野
美汐を突き飛ばして立ち塞がると、片手で構えたM16を狙いを付けて発射
した。

 神奈は飛び込んだ。反撃を試みる余裕すらもなく、ただただその身を盾に
立ち塞がらんとしている、反撃の発砲を行っている男を庇う為に。

 そして、二つの軌道が駅前と雑居ビルの間を交差した。


『ビーッ、87番・みちる、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリアより
退いて下さい』
『ビーッ、新規ゲスト警備兵・タイガージョー(仮名)、有効弾直撃により
殉職しました』

 流れる二つの失格アナウンス。

 寄り添う少年少女、そこへ突進して来て仁王立ちで銃を撃った男、その前
へと翼を広げ、初めて公衆の面前でその力を解放させて飛び込んで来た翼人
の娘…更にその前方へと駆け込み、両手を広げ跳躍した少女の胸にレーザー
光線が命中した……そして、男の撃った銃のBB弾は、時間をなして狙撃が
なされたかのごとく、正確無比に虎の男の眉間に命中していた。

 虎の男―――志摩賀津紀は最期の瞬間、苦虫を噛み潰したような顔をして
、射線の前の少女を見た。だが、潰したものは苦虫どころではない。口の中
に酸っぱい罪悪感が広がる。俺は、あの少女の胸を撃ち抜いて、そう、頃し
てしまった。
 俺は、優勝候補者を頃し続けなければならないのだ。このゾリオンで、容
赦なく、無慈悲に。戦果ゼロで頃されたくはない。
 だからといって、あんな小さな少女を道連れに頃すなど、それこそ後味最
悪だった。
 少女よ。―――お前は、俺を悔やませたいのか。
 何故あんな真似をしてくれるんだあああ!
 俺は、このような少女を―――春原の妹と然程変わらない年齢の少女を頃
したのだ。ぼんやりとなった思考のままに首を上げ視界を覗く、後から来た
娘に抱かれていた。その瞳から夥しい涙を流し、恐らく姉だろう。
 ああ、罪悪感で、胸が、壊れるううう。

443パラレル・ロワイアルその387:2005/03/27(日) 21:37:21
 後になって知られた事実であったが、志摩の撃ったゾリオンのレーザーが
最前でそれを受けたみちるで止まり、後方の四人へと貫通しなかった理由は
、みちるが背負っていたバッグの中身―――昨日の昼前、水族館で入手した
元50番・スフィーの支給装備である投げパイのアルミホイル製のトレーが
レーザーを受け止め、更なる貫通を食い止めていたからであった。

 もしも、狙われている銃の種類まで把握出来ないままに飛び込んで行った
高野や神奈がその身に志摩の銃撃を受けていたら…背後の祐介や美汐もろとも
に四人貫通でゲームから集団脱落している所であった。




「みちるね、あのひとのおかげで美凪からたくさんの思い出をもらうことが
できたんだよ。大切な思い出をたくさんもらったから、だからとっても感謝してる。
感謝しても足りないほど、感謝してる」
 みちるが、自分を抱き締めている遠野美凪の涙を、取り出したハンカチで拭う。
「だからね、みちる、あの人に恩返ししたかったんだよ。あの人の役に立ちたかったんだよ」
 S・Fの厚情によるものなのか、独り言のようなみちるの『遺言』は止まらない。
「ね。これって、余計なお世話だったかな」
 みちるは美凪へ、そして風子の元を離れてやって来たぽちへと、視線を巡らす。
「みちるのでしゃばりかな?……みちるのわがままかな?」
 美凪は首を振ろうとして、できなかった。
 わがまま……そう、間違ってはいない。ううん、きっと当たってる。
 ただ違うのは、それはみちるのわがままじゃなくて、私のわがままだってこと。
 私がみちると離れたくない、他の誰がどうなろうと危険な目にあわせたくない
という、わがままにも似た想い。
 ぽちもまた、首を振ろうとして、できなかった。
 でしゃばり……そう、間違ってないわ。恐らく、みちるさんの言う通り。
 ただ違うのは、それはみちるさん一人がでしゃばりなのではなく、高野という男も、
神奈という娘も、そしてかつての私もでしゃばりだったって事。

「ヘイ、みちるちゃんも一緒に来ないのかい!」
 ジェット斉藤が救急搬送エレカのエンジンを掛けながら声を掛けてきた。
「みちる、もう、ぽちといっしょに旅館へ帰っていいかな」
「……嫌」
 せっかくがんばったのに。せっかくここまで生き残れたというのに。
「やだ……やだよ……ひとりはやだよ……」
 だってみちるといっしょに居ることで、ちゃんと生存してくれてることで、
私はひとりじゃなかったのに。
「だいじょーぶだよ。みちるがいなくなっても、美凪はひとりぼっちじゃないんだから」
 美凪はみちるを抱き締めたまま、首を振り続ける。
 悲しくて……悲しくて。私は泣きじゃくるしかなくて。
 でも、みちるは、泣いてなんかいなくて。
「ばいばい……美凪」
 そして、最初から。
 みちるとゲームにエントリーしたその瞬間からこうなる事がわかっていたような、
そんな気がした。

                        87番・みちる 脱落
                          【残り 19人】

444パラレル・ロワイアルその388:2005/03/27(日) 22:54:35
「チョット、倉田さ〜ん…」
 FOREVERエリア・倉田別邸応接間にて、液晶モニター内の光景を目
の当たりにした大庭詠美は後頭部に汗の滴をへばり付けつつ、マジですか?
といわんばかりの顔で倉田佐祐理へと突っ込んだ。
「ヒョッとして、倉田さんの提案どーりにSUMMERエリアに向かうのっ
て、自殺行為以外の何物でもないよーな気がするんだけど…?」

「あっはははーっ、もしかしたらそーなのかもしれませんねーっ」
 突っ込まれた佐祐理も、こんな筈じゃあ…(汗)といった顔で、傍らにいる
川澄舞へと視線を泳がす。

 舞は春原陽平の方へと向き直って、その目を見ながら口を開く。
「…春原、岡崎朋也と古河渚、そして先程お前が言っていた坂上智代…その
三人がもしSUMMERエリアにいたとして、彼等はあれ程までの事をやっ
てのけられる位の実力者達なのだという事なのか…?」

 春原は、本来ならばボケて大袈裟に答えていたであろう(特に坂上智代に
関しては)分野であった質問に対して、問いかけて来る舞の真面目な態度に
思わず、素直に思ったままの感想を述べていた。
「岡崎は……確かに、葉鍵を通して『学校に通っている非能力者の主人公』
というカテゴリーの中では強い部類に入るんだろうけど、流石にあの東鳩の
藤田浩之には及ばないレベルに位置するんだろうなっていうのが僕の率直な
感想だし、渚ちゃんはあの父親とは似ても似つかない…どっちかとゆーと、
むしろ岡崎の方が司令から血か遺伝子を分けているんじゃないかって位の…
とにかく、暴力とは無縁のイタイケ系のヒロインだし、あとは智代……確か
に、智代は強い…リングの上でない戦いなら御影すばるさん…いや、来栖川
綾香さんとも対等に戦えるんじゃないかなって位、強い……だけど、それは
あくまで格闘戦においての話で…あのモニターに映っているような、防具に
身を固めて飛び道具や捕獲兵器を携えてる二十人以上の男達を、真正面から
踏み潰すように殲滅するというのは、いくら智代でも難しい事なんじゃない
かと僕は思うんだけど…」

「…つまり、こういう事ね」
 七瀬留美が頭を掻きながら事態の進展を整理しだした。
「佐祐理さんと舞、そして岡崎っていう人と渚さんは、お互いに相手の実働
部隊に包囲されちゃってて、『どちらかが襲われれば、もう片方も襲われて
しまう』という緊張状態へと置かれちゃってたんでしょ…なのに、あたしは
そんな事とは露知らずに、佐祐理さんと舞を包囲していたCLANNADの
実働部隊をやっつけちゃって…だけど、それから大して時間がたっていない
筈のSUMMERエリアの佐祐理さん側の実働部隊も、すでにやっつけられ
ちゃっていた……あたしが襲っちゃった時に、CLANNADの包囲部隊が
佐祐理さんを攻撃する態勢に入っていなかった理由として考えられるのは、
佐祐理さんがたった今SUMMERエリアの包囲部隊に攻撃指示を送る暇が
ない内にSUMMERエリアの戦闘が終わっていたのと同じ事情で、CLA
NNAD側にもここの包囲部隊に攻撃指示を出す暇が存在しなかったという
事だったんじゃあないかしら…?」

445パラレル・ロワイアルその389:2005/03/27(日) 22:55:28
「もっと手短に言ってしまうとだ」
 千堂和樹が妥当かつ簡潔に結論を述べた。
「ここが七瀬さんという、倉蔵双方の当事者・リーダーにとってその可能性
を預かり知る由もないイレギュラーこと、双方共に敵としてしか扱われない
筈の正規参加者によって襲われ、全滅したのと同様に、SUMMERエリア
の包囲部隊も、古河司令や倉田さんにその情報が伝わらない・伝えられない
内に、CLANNADに協力的なイレギュラーかつ強力な正規参加者による
襲撃を受けた後全滅してしまったという事だ……偶然にも、こことほぼ同じ
タイミングで」

「…成る程、状況的にもなかなか辻褄が合っているな」
 舞がふむふむといった感じで頷き、続いて佐祐理と七瀬が頷く…先程から
一人、ややこしい状況説明を理解出来ず、詠美ちゃんがふみゅふみゅとむか
ついている様子であるが、再説明の時間を惜しまれ取りあえずは無視されて
いた。

「ちょ…ちょっと待って下さいよっ!」
 最後の一人、春原が和樹の結論に対して異を唱える。
「佐祐理さん達はともかくとして、特務機関CLANNADは本編でもその
存在がエキストラ同然の新参の勢力ですよっ、僕と佐祐理さんの様な特別な
例外を除けば、本編ゆかりの正規参加者が積極的に繋がりを持つなんて事は
まず考えられない事だと、僕は思うんだけど…」

「あのさあ、春原…」
 七瀬がやれやれといった感じで、モニターを指指し示す。モニターは画面
が切り替わり、現在はTHE−TOWNエリア・鉄道駅前の状況を映し出し
ていた。
「あたしの目の錯覚じゃあなければ、正規参加者達と一緒にいる、スクール
水着を着ている御方は本編のラスボス様で、三角帽子をかぶっている子は、
CLANNADのメンバーなんじゃなかったかしら…?」

「どどどど、どうしてっ!?考えられない現象が起こっているよっ!?」
「九人ですかー、大所帯なグループですねー」
「そーか、アレが本編でアタシを蜂の巣にしてくれちゃった、スフィーちゃ
んの中の人なのねーっ!」
「許してやってやれ、詠美……私は既に一度会ったが、今は別人だ…それに
、お前同様に蜂の巣にされた鯛焼き屋も一緒に行動しているぞ…」

「……確かに、全然別人だわねえ……おまけに、あゆちゃんに観鈴ちゃん、
長瀬君に天野さんまで……」
 …こっちのゲームでは初めて目にする本編ゆかりの面々に、思わず唖然と
なってしまった七瀬はうっかり気付いていなかった。遠野美凪と常に行動を
共にしていた筈の二人の顔が、そこには存在しなかったという事を。

446パラレル・ロワイアルその390:2005/04/03(日) 20:56:59
 17:40…MINMESエリア内・管理施設〜港間車道上

「クソッ、なんてこったぁ!」
 MINMESエリア・港埠頭に近い倉庫の立ち並ぶ車道を疾走する一台の
エレバイク…乗っているのはCLANNAD司令・古河秋生。

「チョロチョロと、しぶとい金星さんだな!」
 そして、そのエレバイクを追い空を駆ける一台のFPH…乗っているのは
98番・柳川祐也。

 マザーコンピューターステーションビル最上階・総合指令端末室内にて、
最期のゲスト傭兵ルミラ・ディ・デュラルの脱落を見届けた柳川と89番・
御堂は、20番・覆面ゼロの脱出情報及びビル内の非常用脱出通路を壊れた
端末機より何とか割り出す事に成功すると、直ちにゼロの追跡を開始する事
にした。しかし、その脱出通路は万一隔壁などで塞がれたり、対能力者用の
催涙・催眠ガスでも流し込まれたら逃げ場などない地下通路であったため、
ジャンケンで負けた御堂が地下通路からの追跡を行い、勝った柳川はルミラ
が元ゲスト傭兵のベナウィから取り上げて乗って来たきりのFPHにて、空
からSUMMERエリア方面へと移動を行う事となった。

 しかし柳川は、ステーションビルからの移動を開始してから間もない内に
、眼下の港方面へと通じる車道を走っている、秋生のエレバイクを発見した
のである…そしてそのため、身体的能力・装備共に圧倒的優位であった柳川
の、狩猟者としての悪い癖が出てしまったのであった。

「ククク、逃げる積もりならもっと頑張るんだな…そのままじゃあ追い付か
れてアウトだぞ…!」

 ぱらららららららららららららららららららっ、
 背後からタイプライターの弾ける音、避ける、今度は随分近付かれた様だ、
エレバイクを至近弾が掠める、恐怖、ブレーキを掛けたら負けだ、自分に言い
聞かせて必死に耐えるマダダッマダオワランヨ!スロットルを握り締めてその
硬さと振動で平常心を保つ、見えた!目的の13番倉庫だ!だがダメだ、扉が
閉じてしまっている、オレ様の運はここまで悪かったのか。今の自分の有様で
どうすればあの倉庫へと飛び込めるんだ、運命、そうだ、運任せに突っ込んで
行くしかない。あいつらがもしも、この状況をモニターで見ていて、オレ様の
使用としている事を悟って、対処してくれてる事を祈るしかない。そう思った
瞬間に再びタイプライターの音と至近弾。防弾エプロンを後前に付けていれば
と思う。




 17:41…SUMMERエリア・緊急施設内アクセスルーム

「ああっ、お父さんっ……と、朋也君……」
「取り敢えず、こちらからの緊急要請はS・Fへ送信した…あとは、それが
間に合うか間に合わないか……もう、こんな所でオッサンの運命を見届けて
ても仕方がない、早いとこ智代とゲスト達を迎えに行く事にしよう、渚…」
「ええっ?そ、そんな…ああっ、こんな時にまで背中を押さないで下さいっ」




 17:42…再び、MINMESエリア内・港地区車道上

 距離は残り八十メートル、走れ、走れ、走れっっ!その途中に荷物上げ下ろし用
の長いベルトコンベアがある筈だ、それをジャンプ台にし今やっと開き掛けている
13番倉庫の唯一の突入出来る場所、
 扉を狙って飛び込むんだぁ!

「なっ―――」
 異様な状況に気付いた柳川が驚きの声を上げる。
 遅い。ホントにアイツは最後の痕組なのか?走れ。ベルトコンベアに乗り上げる、
あと五十メートル、狼狽した柳川が乱射するFPHのエアマシンガン、避けるのにも
限界が来て何発かバッグに命中、あと四十メートル、遂にオーバーワークで熱を持ち
過ぎた電気エンジンが断末魔の破裂音を連発する。あと三十メートル、だが今の速度
なら、惰性で充分ジャンプ出来る。両脛に伝わってくる高熱、耐えろ、あと二十メー
トル、あと十メートル、
ジャンプ、
「ハアアアアッ!」
 バイクを飛び降り、バッグを放り捨てた秋生の宙を舞う姿に、驚愕に歪む柳川の顔。
 両肩に何かを掠めて潜り抜ける感触が確かにあった。
 次の瞬間、耳をつんざく激突音が受身を取った秋生の背後で派手に響く。
 鉄砲水のように飛び込んでくるバイクの部品とバッグの中身を、秋生は転がって避ける。
 扉はまだ完全には開き切ってはいない、FPHに乗った柳川の突入までにはまだ時間があるだろう。

「―――ふうっ」
 秋生は小さく息を吐いて立ち上がると、
 エプロンから取り出した煙草を銜えて点火した。
「ま、ホメてやるぜコスモ斉藤♪」

447パラレル・ロワイアルその391:2005/04/03(日) 21:41:48
 17:43…FOREVERエリア・倉田別邸内応接間

「…取り敢えず」
 川澄舞が、液晶モニター画面を囲んでいるソファーからすうっと立ち上が
って口を開いた。
「…確かめに出向く必要がありそう……SUMMERエリアに存在している
者達の、その正体と実力……多分、こういう肝心な情報、モニターは教えて
くれないから…」

「チョット、舞さんっ?だからさっきから言ってんでしょっ!」
 大庭詠美が続いて立ち上がり、慌てた調子で舞を制する。
「今SUMMERエリアへ向かうのは自殺行為以外の何物でもないって!」

「詠美の言う通りですよ川澄さん」
 さらに、千堂和樹がつられるように立ち上がって、詠美の意見に同調した
慎重策を提案する。
「折角、こうして別の生き残り組の所在確認も出来た事なんですし、この際
彼等とも連絡を取り合って情報交換なり合流なりしてから、次の行動方針を
決める事にしても…」

「…確かに、千堂の言う通り……より堅実な手段選択だと、私も思う…」
 それでも舞は和樹と詠美に向かって、申し訳なさそうに首を振る。
「…でも、私はダメ……たいやき屋達とは、私の方からわがままで、借りも
返さないで決別してしまったから……レミィならきっと『覆水盆に返らず』
と言っている…」

「そのことわざ、初音ちゃんの前では絶対禁句よ、舞……」
 七瀬留美が座ったまま、じいっと舞を見上げて突っ込みを入れる。
「それはそれとして、何とか考え直す事は出来ないの、舞?」

「…例え、最終的に合流するにせよ…せめて、手土産が欲しい……だから、
私は一旦SUMMERエリアに行ってみる…」
 立ち上がったまま腰の剣を抜き放ち、国定忠治のポーズで決意を示す舞。
「…留美は、他の皆を連れてMINMESエリアを経由でTHE−TOWN
エリアのたいやき屋達の所へ向かって欲しい……私もSUMMERエリアを
経由でTHE−TOWNエリアへ必ず来るから…」

「ふえ?……他の皆って、まさか…佐祐理もその中に入ってしまっているの
ですかー、舞?」
 いつの間にか倉田佐祐理が、笑おうにもうまく笑えないという顔で舞の横
に立っていた。
「……じゃま、かな……佐祐理…………ふぇ……ごめんね……舞……」

「…そのネタ、ぽんぽこたぬきさん。佐祐理…」
 舞は佐祐理にチョップを入れつつ、優しく諭すように語って聞かせる。
「…これは、遊びじゃなくはない……でも、今度ばかりは佐祐理…私よりも
倉田である事、優先して行動した方がいい…見て、モニター…あんな小さな
子でも、大切な相棒より己の出自に殉じる道、選んでいる…」

 モニターの中では……泣きじゃくる遠野美凪に抱かれながら、西部警察の
モノマネで最期のシャボン玉を吹かしているみちるの姿が映っていた。

「「「わわっ、みちるちゃんやられちゃってるっ!?……って事はまさか、
匿名さんもっ!?」」」
 思わずハモッテ驚いている、七瀬に和樹、それに詠美。

「……それなら、豪華客船で鉄道チケットのオマケ付きで挑戦状叩き付けて
来た僕なら、一緒に行っても構いませんよね、舞さん…?」
 最後に口を開いたのは、ソファーに座ったまま一人悠然と足を組み替えて
いる春原陽平だった。

448パラレル・ロワイアルその392:2005/04/03(日) 22:18:52
「…春原……だけどお前は、佐祐理の……」
「勘違いしないで下さい(ポリポリ)…舞さんあっての佐祐理さんのようです
し、佐祐理さんもきっと、こうして欲しいと思ってるでしょうから僕は…」
「もちろんですー、舞をよろしくお願い致しますー、春原さん」
「確かに、盾としてだけは誰よりもアテになりそーねー」
「え、詠美…でっ、でもCLANNADのメンバーでもある春原さんが一緒
なら、岡崎君や古河さんともいきなり戦闘しないで済むかもしれませんし」
「でも責任は重大よ、春原…舞に万一の事があったらアンタ、佐祐理さんに
合わせる顔、なくなっちゃうわよ?」
「…本編で、よせばいいのに柏木初音ちゃんを学校へ連れて行って、七瀬彰
さんを泣かせた誰かさんに言われるのは、心外というもの…」
「(パキポキ)…何ですってえええええッ!?」
「(ガクガク)ひいいーーっ、すいません、すいませんんーーーっ!!」
「……ぷ」
「はぇ〜?信じられませ〜ん!?」
「「舞さんが、吹き出しちゃってるっ!?」」
「大した神っぷりねえ、春原」
「アンタら、何ワケわかんない事で感心してるんですかっ」


「…では、行ってくる…」
「舞ーっ、絶対THE−TOWNエリアで再会ですよー、約束ですよーっ」
「春原、舞の事宜しく頼んだわよ…アンタの事、信じてるから」

  外に微笑を絶やさずに。
  内に嘲笑を含ませて。

  春原は答える。

 ええ―――こう見えても、腕には自信がありますから―――なんてね♪」
「チョット、詠美さんっ!!」
「何という本編ネタを、詠美……(汗)」
「……ぷぷ…!そうだ、忘れてた…折角だから今、試しに使ってみよう…」
「なーになに、ソレーっ?」
「詠美さん達と合流する前に別れてしまったカラスさんからの贈り物ですー
……恐らくは変身アイテムだと思うんですけどー」
「へへへ、変身っ!?(ずざざざざっ)」
「?…どうして退避するんだい、春原君?」
「あーなるほど和樹、アレよアレっ♪」
「大丈夫よー春原っ、こっちはまだ2004年8月なんだから、葉子…じゃ
なくて陽子ネタは、多分ない筈だから」
「あははーっでも、読者様が『面白いからOK』って許可をして下されば、
もしかしたら…」
「僕は絶対嫌ですよっ!!」
「…とにかく、始めるぞ……えいっ」
(パァーッ!!)
「平成十二(詠美)」
「昭和六十一(七瀬)」
「平成二(和樹)」
「あははーっ、やっぱり皆さんその本編ネタですかー…って、はぇ?舞…」
「ねー和樹ぃ、舞さんどっか、変わって見えるー?」
「ヒョッとして、全然変化なしなんじゃあ…?」
「あっ、舞っ…チョッとあんた、その右手の剣…もとい、刀っ!」
「!……またしても本編ネタか……でも、どうして?……まさか、あの子が
今一度、らすぼすを演じるという訳でもないのに……?」

449パラレル・ロワイアルその393:2005/04/10(日) 18:54:20
 17:44…MINMESエリア内・港埠頭地区13番倉庫

「チッ、往生際の悪い司令さんだ…逃げ場のない所へわざわざ自分から逃げ
込んでくれるとはな」
 FPHに乗り込み、開き切った倉庫の扉から中へと侵入した柳川祐也は、
今度は手動によるパネルタッチで倉庫の扉を内側から、ぴったりと閉ざして
しまった。無論、倉庫の中は真っ暗闇の状態である。

「可哀想に、素直に外で撃たれていれば余計な恐怖を味わう事もなく、楽に
脱落出来たものを…」
 鬼の赤外線視力を持つ柳川は勿論、ライトを灯す事もなく真っ暗闇のまま
の倉庫の中をFPHでゆっくりと索敵を始める。
「さあ、楽しい狩りの始まりだ…」




 17:45…リバーサイドホテル1階・北口ロビー

「ああっ、駄目だよ祐也……これで、痕組もおしまいだ…」
 右手で頭を押さえながら、阿部貴之はナイトビジョン画像に切り替わった
モニターを見てがっくりと肩を落とした。

「えっ?どういう事なんですかっ、阿部さん?」
 ソファーの右隣に腰を下ろしていた柏木耕一が、驚いて貴之に尋ねる。
「どう見ても、状況は柳川の圧倒的有利にしか見えないんだけど…?」

「…狩りを楽しむ狩猟者は、追い詰めている相手を獲物としてしか認識出来
ないから…その相手がまさか、自分より一枚上手の狩猟者だったらなんて事
は、夢にも思わないでしょうから……そのせいで、私も……」
 耕一の右隣に座っていた柏木千鶴が、苦虫を噛み潰したような顔で、貴之
の回答を代弁した。

「そういえば、千鶴さん?」
 耕一が恐る恐るといった感じで、今度は千鶴に尋ねる。
「北川君の事、許してあげたんですか?……レミィさんに泣き付かれながら
助けを求められたって、梓から聞いたんですけど…?」

「あら嫌ですわ、耕一さんたら……まるで、私の事を鬼か何かみたいに…」
 千鶴がテレ隠しの仕草をしながらころころと笑ってみせる。

「そうですよねえ、千鶴さん」
 思わず相槌を打つ耕一のホッとした表情は、次の千鶴の言葉によって一瞬
にして凍りついた。

「北川君には、ただ私の作ったお昼ご飯を残さず食べて貰っただけなんです
から……それで北川君ったら、まるで味皇様みたいに、口から光を吐き出し
ちゃって…」

『『光じゃないっ、絶対に別のモノを吐き出していたに違いないっ…!』』
 思わず手の平に汗を握り締めて、北川順へと心からの黙祷を捧げている、
耕一と貴之。

「へえ、そうなんだ」
 それを聞いて、貴之の左隣に座っていた川名みさきが驚くべき一言を発し
ようとした。
「それなら私も、千鶴さんのお料理を…」

 次の瞬間、貴之はみさきに対して人工呼吸ではないマウス・トゥ・マウス
による救急救命活動を躊躇う事無く実践していた。

 モニターはその時には既に、別の戦場を映していた。

450パラレル・ロワイアルその394:2005/04/10(日) 18:55:48
 17:46…再びMINMESエリア内・港埠頭地区13番倉庫内

 古河秋生は、笑っていた。
 コクピットの中で、笑っていた。
 かつて倉田佐祐理が、そして城戸芳晴が搭乗していたコクピットの中で、
笑っていた。
 何というパワーだ。何という重装甲だ。
 オレ様は断然のファースト派だが、Zも見直してもいいかもしれないと、
そうさえ思ってしまった。
 正面モニター越しの暗視光景を見てつくづく、そう思ってしまった。
 ゴムボールに撃墜され、コンテナに激突し火花と煙を吹いているFPH。
 四本の隠し腕から繰り出された、四本のチャンバラスティックによる滅多
打ちで、鬼に変化する間もなく叩き伏せられて、横たわっている柳川祐也の
『死体』。

「残る能力者達…89番は射撃系だし、61番は岡崎達に相手をして貰えば
それで済む…あと、27番と64番もガードロボット達に相手をして貰えば
余裕でカタが付くだろう…つまりこれで、この軍人将棋にはもう恐いコマは
存在しねえって事だな……そうと判れば、手っ取り早くカタをつける為に、
このゲームに事実上の時間制限でも設けてやる事にしようか♪」

 そう言うと、秋生はコクピット内の機内端末機からS.F.へと、SUM
MERエリア経由によるアクセスを開始した。
“こちら、S.F.…ご用件は何でしょうか?”
「こちらCLANNAD司令・古河秋生、そちらを警護している特注ガード
ロボットのゾディアック・ムーンライト・ムーンダーク・カオスクイーン・
シャドウクイーン・ノヴァを大至急、司令権限に於いてこちらの管制下へと
回してくれ……それと、こちらのアクセス回線を篁財団の宇宙ステーション
と来栖川ツインタワーの超巨大スクリーンパネルに音声・画像入力でこれも
大至急、無理矢理で構わねえから何とか繫いで貰いたいっ」
“こちら、S.F.…了承…ゾディアック・ムーンライト・ムーンダーク・
カオスクイーン・シャドウクイーン・ノヴァ各機起動及び発進完了…了承…
篁財団宇宙ステーション及び来栖川ツインタワー超巨大スクリーンパネルへ
の強制回線接続処理完了……カウントダウン終了後、メッセージを一分以内
で音声及び画像による入力を行って下さい……5…4…3…2…1…接続”

 S.F.よりのカウントダウンが終了した瞬間、秋生は端末カメラに中指
を立ててワイヤレスマイクを握り締めると、声も高らかに叫びまくった。

「ハズレ組の葉っぱ組達ぃー、せっかくの楽しいパーティーの日にパーティ
ーにやって来ないで、いったい何やってんだい?おウチで仲良くゲームでも
やってんのかいっ?ま、お呼びのかかってないキミ達にはソッチの方がお似
合いなのかも知れないがなぁ?じゃ、そういう事で、キミ達もキミ達なりに
楽しい夏休みをエンジョイしてくれたまえよ♪んじゃアディオスッ!」

                       98番・柳川祐也 脱落
                           【残り18人】

451パラレル・ロワイアルその395:2005/04/10(日) 19:47:30
 17:47…本島上空二千メートル・飛行船艦橋

「来ましたよ!現在27番所有のクリスタルより、変身要請の“念”が!」
 オペレーター席に腰を下ろしている保科が、艦長席の神岸ひかりに向かっ
て快哉に近い声を上げた。

「とうとう来ましたか、真打ちさんからの変身要請が!」
 ひかりもつい思わずわくわくした声になって保科へと答えると、そのまま
自分の内に向かってそっと語り掛けた。

「お聞きしましたか800192(仮名)さん、いよいよ貴方のお力をお願い
する時がやって参りましたわ」
“こちらこそ感謝致しておりますわ、ひかりさん……柳也殿に裏葉殿、次い
では私めの体の為に、この遊戯を降りてまで頂きまして……それでは早速、
現在の持ち主様と本来の目標であられます御二方に、我が力によります変化
の術を……!”


 …余談ではあるが、来栖川アイランド本島の総合統括コンピューターでも
あるG.N.に対して強制的に実行された、篁財団宇宙ステーション及び、
来栖川エレクトロニクスからの、目標確認のための逆探知アクセスの痕跡を
牧部が発見し、古河秋生の暴走が明るみに出たのはその直後の事であった。




 17:48…リバーサイドホテル26階・第1VIPフロア3150号室

 黄昏時。
 観戦にも飽き、かといってする事のない俺は、自室のベッドで昼寝をして
いて……しばらくして目が覚めた時、俺は……カラスになっていた。

「!?っ」
「…目が覚めたか」

 聞き覚えのある声に思わずそちらの方を向くと……俺、国崎往人がいた。

「!?っ!?っっ」
「…慌てるなよ」

 混乱している俺にもう一人の俺が、淡々と口を開きやがった。
「…僕の支給装備の力によって、僕と君は今、姿が入れ替わってるんだよ」

「!!」
 なんだと。
 と、いう事は…今、ここにいる…いや、いやがるもう一人の俺様は……!
「クワ〜ッ!クワクワクワ〜ッ!!(噴怒)」

「…待て、落ち着くんだ」
 枕を盾に、変わり果てちまった俺の攻撃を防ぎながら、俺の皮をかぶった
クソガラスが、付けっぱなしだった観戦用モニターを指差した。

「!」
 観鈴が映っていた。
 涙を流していた。
 ギャップのある服装をしているが見間違う筈もない、本編ラスボス―――
神奈備命を抱き締めて、涙を流していた。
 神奈もまた、涙を流していた。
 観鈴にしがみ付いて、観鈴よりももっと顔をぐしゃぐしゃにして、泣いていた。
 俺が眠っちまってた間に、戦場で一体何があったというのか。


「…急げ」
 カラスヤローが、呆然とモニターを見ていた俺の足を指差し、せっついて
きやがった……見ると、変わり果てた俺の右足には、動物組用の小型の識別
装置がくくり付けられていた。

「…今から、24番の代戦士は君だ。早く行って観鈴を護るんだ」
 カラスヤローが、再び俺をせっつく。

「!!」
 いろいろな意味で口惜しいが、これ以上いちいち事態事情を確認している
暇はないようだ……クソガラスにはこのゲームが終わってから(それが出来
ればの話だが)ちゃんとした説明と(これは絶対)俺を頃してくれた礼を済ま
させて貰う事にして、今はまず…

 バササッ!

 ホテルの窓から一羽の烏が、夕焼けの空を南西の方角目指して、勢いよく
飛び去って行った。

 24番・そら 極秘(?)降板→元33番・国崎往人(第二形態) 替玉参加
                      【残り18人(変わらず)】

452パラレル・ロワイアルその396:2005/04/10(日) 20:36:20
17:49…再び本島上空二千メートル・飛行船艦橋

「…とんでもない事をなさって下さいましたね、古河さん」
 艦長席の神岸ひかりは憂いに満ちた表情で小首を傾げながら、TV電話の
モニターに映っている古河秋生に向かって、深い溜息を漏らして見せた。

「なーに、心配はいらないって事ですよ、神岸さん」
 モニターに映っている秋生は、勝利を確信したかのような余裕の表情で、
ひかりに答えて見せている。
「もしも、衛星軌道上の篁財団宇宙ステーションからRoutes組が空挺
部隊を急遽編成して降下→上陸→強制乱入を行うためには、少なく見積もっ
ても五時間以上は掛かりますし、関東来栖川空港発の高速便が鳩Ⅱ組・天い
な組の乱入希望者を乗せて、来栖川アイランドの空港・ヘリポートエリアへ
と到着するまでにもこれまた、五時間以上は掛かる事でしょう……つまり、
明日の0時0分までの6時間の間にゲームの決着さえ着いてしまえば、俺が
やっちまった事は、正規参加者達に時間制限をちらつかせた事以外に、何の
影響もゲームそのものに対しては与える事にはならない筈なのですから♪」

「最強クラスの対能力者用装備を入手した事と、深夜戦へと突入した場合の
渚さんのお体を案じられての事なのでしょうですけれど、古河さん…」
 ひかりは憂いの表情を崩さない。
「もしも貴方が挑発なされた方達の中に、今すぐそちらの戦場へと乱入する
事が可能な能力者の方がいらっしゃった場合、一体どうなさるおつもりなの
ですか、古河さん?」

「そんな馬鹿なッ」
 ひかりの言葉に相好をやや崩してしまう秋生。
「Routes・天いなのメンバーにつきましては、我がCLANNADの
芳野が既にレポート調査を済ませておりますが、その様な突拍子もない能力
を有した者についての記録なんか一人も発見出来ませんでしたし、新作過ぎ
たがためにデータ収集が不充分だった鳩Ⅱ組にしましても、本編で最も成す
術もなく全滅してしまった区分作の次回作なんですよ……確かに、長瀬一族
の者達も中には含まれているらしいですけど、所詮は…」


「ちょっと、お待ち下さい…今、関東来栖川空港へと移動中の柚原春夏さん
から連絡が届きました……鳩Ⅱ組の乱入希望者の確認済みメンバーの方々は

 河野貴明さん
 向坂雄二さん
 向坂環さん
 玲於奈さん
 薫子さん
 カスミさん
 笹森花梨さん
 姫百合珊瑚さん
 姫百合瑠璃さん
 HMX−17a・イルファさん
 十波由真さん
 ダニエルさん

 …挑発に乗ってしまわれた方、それに付き合わされてしまわれた方、更に
追っかけをなされている方、それぞれ以上の十二名に加えまして、春夏さん
も是非、秋生さんへお説教をなさりたいと加わられまして、計十三名です」

「やべーなぁ、春夏さんの説教だけはゲームが終わっても無効化出来ないぞ
(汗)……で、ところで神岸さんが懸念されてるその能力者ってのは、以上の
メンバーの中に含まれているのかい?」
「おりませんですわ、幸いな事に…」
「なら、もう安心だな♪」
「いえ、そういう意味で『幸いな事に』と申し上げたのではありません…」
「え?……じ、じゃあ?」
「その能力者はその気にさえなれば、いつでもそちらへ来れるのです…私が
『幸いな事に』と申し上げましたのは、その能力者の能力で先程のメンバー
十三名が今すぐ、そちらへと連れて来られずに済みました事を指して申して
いるのです」
「………ホ、ホントにそんな凄いヤツがいるんですか…?鳩Ⅱ組には…?」

453パラレル・ロワイアルその397:2005/04/17(日) 02:53:00
 17:50…K,s Cafeteria

「殆ど出かけてしまったのか、うーとは実に好戦的な者たちばかりだな」

 来栖川ツインタワーを間近に見上げられる場所に位置しているオープンカ
フェ…本編とは無縁の区分作品であるが故に招待を受ける事もなく、この店
へとぞろぞろ集まって遠い南の島にて行われている葉鍵のサバイバルゲーム
をさながら別世界の出来事のように、ツインタワー名物の超巨大スクリーン
パネルを通して観戦を続けていた客の面々は、自分達と殆ど同じ時期の完成
なのにちゃっかりとゲーム参加を果たしてしまった鍵作品の看板キャラから
あからさまかつ下品な挑発を受けた事が決定打となり、さながら民族大移動
のごとく、神風タクシーと化した黒塗りのリムジンにすし詰め状態となって
、関東来栖川空港を目指しぶっ飛んで行ってしまったのであった。

 そして現在、オープンカフェのテーブルに残っているメンバーはといえば
、この店のアルバイトのウェイトレスことるーこ・きれいなそらと、母親・
春夏に一旦はつき合わされそうにはなったものの、神風リムジンに乗り込む
事が出来る訳もなく結局置いてけぼりになってしまった柚原このみ、そして
つい今しがたまで居眠りをしていた草壁優季の三人だけである。

「でも確か、元のネタ話では挑発をされていたかたの方がダニエルさんなん
ですよね」
「アハハッ、草壁さんも映画を見てらっしゃるんですね〜……それとるーこ
さん、みんな好戦的とかいうんじゃなくって、なんていうのかな〜集まって
元気よくお祭りさわぎをするのが大好きなんじゃないのかな〜って、わたし
は思っているんだけど…」
「では、あのうーたちの狩り合戦は互いに交流を深め腕を競うための楽しい
スポーツ大会だというのか?」
「概ね、このみさんのおっしゃるとおりでしょうか…」
「そうか……では、うーたちもるーとともに、あの大会へ参加しに行く事に
するか?」
「「ええっ?そんな事が出来るのですか、るーこさんっ?」」
「心配はいらない、この作品あの大会に関しては、“るー”を3回まで使う
事を許されている……とはいっても、会場までの移動及び参加登録のために
2回使ってしまう事となってしまうのだが」
「「??」」
「ともかく、行くのなら準備はよいか、うーたち?」
「まっ、待ってくださいるーこさん!」
「どうしたのだ、うー?」
「妹さんのお見舞いに立ち寄ってらっしゃる小牧センパイが、もうしばらく
したらここへやって来られる筈なんですっ、出発はそれからという事にした
方が…」
「それでは仕方ないな」
「私も賛成ですわ、このみちゃん……小牧さんがいらっしゃれば丁度四人で
、シナリオ担当・デザイン担当各一名さんづつという事になりまして…」
「なるほどでありますっ、草壁さんっ」
「説得力のあるメンバー解説だぞ、うー」

454パラレル・ロワイアルその398:2005/04/17(日) 02:54:01
「実はその件なのですが、四人目はサブヒロイン担当という事で…」
「「「??」」」
「あ…初めまして、小牧愛佳の妹で郁乃と申します……実は、お姉ちゃんが
急なアクシデントでこちらへと参る事が出来なくなってしまいましたもので
、代わりにやって参りました……つきましては、お姉ちゃんの代わりに同行
させて頂きたく…」
「なかなか健気だな、うー、しかし…」
「あっ、あの郁乃さんっ、詳しい事情はわからないのでありますがっ」
「車椅子の方を保護者の許可もなしに、サバイバルゲームに同行させますと
いうのは、流石に…」
「そこを何とかっ(ぱんぱんっ)……参加まで望みませんっ、ホテルの医療室
からかぶりつきで、いろんな葉鍵の方達と一緒に観戦をさせて頂けるだけで
、それだけでもう充分ですからっ(ぱんぱんっ)」
「確か…会場の医療設備は万全で、担当のお医者さん達も葉鍵各作品の優秀
な方達揃いだった筈です」
「それに、参加はともかくホテルでの観戦でありましたらば、保護者の方が
いらっしゃらなくても間違いはないと思います」
「では、決まりだな…早速出発するぞ、うー」
「わーっ♪ありがとうございますーっ♪(ごめんね、お姉ちゃんっ♪)」


 余談であるが、見舞い先の妹の病室にてうたたねしていたスキを衝かれ、
誰かさんにぐるぐる巻きに縛られた上にさるぐつわをかまされた小牧愛佳が
救出されたのと、代戦士起用を避けたい誰かさんによってオープンカフェの
トイレのドアにモップで突っかえ棒をされて監禁状態にされていた(このみ
達は挑発に乗って出撃して行ったものと勘違いをしていた)、山田ミチルと
吉岡チエが救出されたのは、それからしばらく後の事であった。

123番・柚原このみ 124番・草壁優季 125番・るーこきれいなそら
新規参加(122番の新規参加者については後述)      【残り22名】

455パラレル・ロワイアルその399:2005/04/17(日) 04:33:40
 17:51…倉田アイランドDREAMエリア・木造旅館内
       屋外庭園ガーデンパーティー会場

 テーブルA
「しくしく…ひどいよお姉ちゃん、どうして私がお食事のお手伝いをしたら
だめなのっ?……占いの結果でも、今日は大丈夫だって出ているのに…」
「…勝平君、アンタ代わりに説明してあげなさい」
「そっ、そんなぁ…どうして僕に振るんですかっ!?」

 テーブルB
「何というざまだ、現役武人で構成されたこのメンバーが、六時間ももたな
かったとは…」
「ベナウィ、それよりもむしろ内応したオボロ以外の全員が葉組に倒された
事の方が、俺としては…」
「残るは依頼人の兄者のみ……果たして、他の依頼人の様に打って出られる
のであろうか?」
「「若様…」」
「某、やはり聖上のお役には立てないのであろうか…そ、某は情けなく…」
「気負い過ぎですわよトウカは、もっと楽しみませんと……今はこうして、
うまい食事とうまい酒、そして何より……ですよね、サラ?」
「へっ、言われるまでもないさカルラ!」

 テーブルC
「!…吉報ね、未参加のうたわれ組による異界間突破乱入が、予想を遥かに
上回る早さで果たされる可能性が高いみたいよ……更に、テネレッツア組や
TtT組もこの世界この大会に乱入を果たさんと、急ピッチで異界間突破を
準備しているという話ですし……古河司令の挑発が原因でRoutes組は
既に衛星軌道上から、天いな組と鳩Ⅱ組は関東来栖川空港からそれぞれ出動
準備を開始しているという話よ……ゲームが三日目に突入さえすれば、葉組
の猛烈な巻き返しが期待出来るわよ♪」
「…お言葉ですけどルミラさん、私にとっての吉報は、千堂君が私のために
仕事をしに戻ってきてくれる事だけなの……もっとも、私がここでの待機を
許されております以上は、脱落しようがしまいが千堂君が戻ってくる場所は
ここしかありませんのですけれども…」

 テーブルD
「それなんですけど真紀子さん、実はこのゲームの勝利条件の一つにですね
『脱出』という隠しルールが存在するという、もっぱらの…くっくるしっ、
くっ首があああッ!?」
「だっ、ダメです真紀子さんっ、祐くんを連れて行かないで下さいっ」

 その下
「にゅ〜、ぽちもみんなもケンカはダメなのだ〜っ」
 しゃ〜っ、しゃーっしゃーっ!(ぎりぎりぎりぎり…)
 ふぎゃーっ、にゃあにゃあっ!(ぴくぴくぴくぴく…)
 ぴこぴこぴっこ、ぴこぴっこ!(ぽてぽてぽてぽて…)
 ぶひぶひぶひ、むいむいむい!(てててててててて…)

 調理場
「皆さん助かりますわ、御手伝いして頂きまして…ところで相楽さん、志摩
さんが危機に陥ってるみたいですが…」
「あ〜っ、見事にリベンジされちゃってるじゃないの〜っ!」
「有紀寧ちゃん、なにをしてますの?」
「ミンナデタノシクミンナデオイシクミンナデタノシクミンナデオイシク」


 17:52…本島リバーサイドホテル1階

 夕食会会場・テーブルG
「痕が全滅し、夜打・フィルス組も全滅…更にはホワルバ・誰彼・うたわれ
組も全滅にリーチが掛かっているとは……想像以上の押されようだな」
「…大丈夫ですよ悟さん、このままで終わってしまうような葉組では決して
ありません筈ですから」

 夕食会会場・テーブルK

「残念だったねえシュンくん、でも楽しかったよお♪」
「ところで佳乃、国崎さんの姿が見えないんだけど?」
「居候なら訳アリで自室にカンヅメや、んな訳でなウチがこれから差し入れ
持ってったる所なんや(ま、ホンマにいてはるんは影武者はんなんやがな)」

 南口ロビー
「これでまた情勢が大きく変わってきましたの、会長」
「取り敢えずは、財団に漁夫の利を取られる結果だけはお互い、何とか避け
たい所ですな、幸村さん……おっと、もう夕食会の時間でしたな」
「それだはわたし、テーブルEの方に戻らせて頂きますので…」

456パラレル・ロワイアルその400:2005/04/17(日) 04:34:49
 17:53…ホテル17階・居酒屋“墓六”
「…まったく、なんてザマさらしてんでしょーか、アタシ達って…ヒック」
「サラさん、がんばっていましたよね、私達に比べれば…ヒク」
「くくっ、ゲンジマル殿申し訳ない……私を見捨てるに忍びず、揃って脱落
されてしまわれるとは…」
「申されるな、坂神殿……そもそも、この宿屋も戦場であった事を忘れた、
我々二人の失敗なのだからな」


 17:54…ホテル29階・ロイヤルスイートルーム2914号室
「ゆ…結花殿、どうか落ち着かれるんじゃ、たった今やっと修繕が終わった
ばかりなのじゃあっ」
「源之助さんっ、そこをどいてちょうだいっ!……そのエロダヌキ、今すぐ
この場でぶっ壊してやるんだからっ!!」
「(ブルブルガクガク)ハァハァ、助けてえええッ!!」


 17:55…ホテル20階・G.N.総合管制室
「HMX−14各機・ピース、コード、フレア、ミリア、マリア、カノン、
ディアナ…各担当の人工衛星による篁財団宇宙ステーションへの監視衛星・
ジャマー衛星包囲網完成しました」
「うむ、では直ちにRoutes組空挺部隊出撃に先んじた、監視及び妨害
行動の開始に移るのじゃっ」


 17:56…倉田アイランドMINMESエリア・港埠頭地区
       潜水艦ドッグ内、合衆国原子力潜水艦“アヴ・カムゥ”艦橋
「聖上!?」
「事態が急変した、作戦を変更する……“アヴ・カムゥ”緊急出港準備!!
準備完了次第、直ちに出港する!!」


 17:57…本島南西部・洋上、巡視艇艦橋
「MINMESエリア潜水艦ドックに新たな動きをキャッチしました!……
“アヴ・カムゥ”緊急出港を試みている模様ッ!……岡崎さん、いかが対処
しましょうっ!?」
「急いでくれたまえ、大木艦長……各要員、ゲーム用対潜戦闘準備開始!」


 17:58…来栖川アイランド放送管制室
「メイデイ!メイデイッッ!…倉田アイランドッ、こちらはバロンよしお様
だァッ!鳩Ⅱ組の憎っくき珊瑚にハッキング攻撃を受け、俺様は戦術的撤退
を余儀なくされちまったゼ…だからヨ、六回目の定時放送はソッチで適当に
人選を行ってやっといて貰いてェんだ……これから放送内容を転送するッ、
じゃあ後は頼んだゼ、アバヨッ!!」


 17:59…倉田アイランド・SUMMERエリア緊急施設内端末室
「では、行って来るぞ…」
「行ってらっしゃい、智代さん……でも初めてですね、拡声器で定時放送を
行うなんて、朋也君」
「そうだな、渚…もっとも、肉声放送なら立川さんの方が適任のような気が
しないでもないんだけど」
「仕方あるまい、まだまだ俺や香里のその存在と立場を、他の参加者に察知
されたくはないからな」
「それはいいんだけど果たして、今度のがちゃんと最後の定時放送になって
くれるのかしら…?」

457パラレル・ロワイアルその401:2005/04/17(日) 05:48:34
 18:00…倉田アイランドSUMMERエリア・緊急施設内監視鉄塔

「(カチッ、ピーッ)…アーアー、(コンコン)只今戦利品の拡声器のテスト中
……ゲームに参加している皆へ伝える。現在18時ちょうどなのだが、定時
放送担当のバロンよしおがトラブルにより放送を行えなくなってしまった為
、私CLANNADの坂上智代が代行してこれより六回目の定時放送を行わ
させて貰う。では最初は、例によってこの時刻までに脱落してしまった正規
参加者達の発表からだ、敬称は略で呼ばせて貰う。

 015番・光岡悟・119番の古河司令がやっつけた。
 031番・ポテト・私がやっつけた。
 072番・氷上シュン・彼も、古河司令がやっつけた。
 087番・みちる・既に殉職した警備兵がやっつけた。
 095番・澤田真紀子・69番の七瀬留美がやっつけた。
 098番・柳川祐也・彼も、古河司令がやっつけた。
 117番・事実上は自爆だが、警備兵がやっつけた事になっている。

 以上7名だ。続いて、新規参加者の発表を行う。

 122番・坂上智代・私だ。撃破スコアノルマを達成し、正規参加者へと
      昇進した。どうか宜しく頼む。
 123番・柚原このみ・東鳩2のヒロインだ。どういう手段を使ったのか
      は不明だが、いつの間にか正規参加登録を済ませていた。
 124番・草壁優季・彼女も、東鳩2のヒロインだ。参加経緯もこのみと
      同じだ。
 125番・るーこきれいなそら・……な、名前なのかこれは?…兎も角、
      彼女もまた、東鳩2のヒロインだ。参加経緯もまた、このみと
      同じだ。

 以上4名だ。従って、現在までの生き残り正規参加者数は、差し引きして
22名となる。

 更に続いて、撃破数ランキングの発表を行う。今回は我がCLANNAD
の実働部隊が多数投入された関係で、読者様にもサーチを行いやすいように
特別に、参加者名と内訳の発表も行う。

  1位・056番・立川雄蔵…フリマ屋・大山さん・犬飼・アレイ・芳野
               ・親衛隊12名で計17名。
  2位・069番・七瀬留美…理奈・中崎・真紀子・ストライカーズ
               12名で計15名。
  3位・122番・坂上智代…ポテト&ボタン(共同)・椋・サラ・鷹文・
               推進派8名で計12名。
  4位・110番・高野…チーマーズ10名・志摩で計11名。
  5位・085番・美坂香里…シンディ・イビル・エビル・公子・推進派
               4名で計8名。
  5位・089番・御堂…クロウ・FARGO兵7名で計8名。
  7位・064番・長瀬祐介…芹香・セバス・チーマーズ5名で計7名。
  7位・026番・河島はるか…美佐枝・ラガーメンズ6名で計7名。
  9位・依頼人 ・神尾観鈴…ラガメーンズ計6名。
 10位・119番・古河秋生…早苗・光岡・シュン・オボロ・柳川で
               計5名。
 11位・053番・千堂和樹…夕香・美穂・まゆで計3名。
 11位・020番・覆面ゼロ…千鶴・志保・麗子で計3名。
 13位・011番・大庭詠美…弥生・杏で計2名。
 13位・061番・シークレット…有紀寧・チーマーズで計2名。
 13位・警備兵 ・幸村俊夫…ゲンジマル・蝉丸(覆)で計2名。
 16位・警備兵 ・伊吹風子…匿名1名。
 16位・062番・遠野美凪…チーマーズ1名。
 16位・005番・天野美汐…城戸1名。
 16位・118番・春原陽平…伯斗1名。
 16位・警備兵 ・神岸ひかり…城島1名。
 16位・024番・シークレット…国崎1名。

458パラレル・ロワイアルその402:2005/04/17(日) 05:49:30
 以上だ。後、最後に二点……119番・古河秋生の挑発行為により、現在
衛星軌道上よりRoutes組が、関東来栖川空港より残りの東鳩2組及び
天いな組が、このゲームへの強制乱入を目論んで此方へ向かおうとしている
…更に、残りのうたわれ組やテネレッツア組、TtT組までもが予想を遥か
に上回る早さで異界間突破による強制乱入を果たそうとしている。しかし、
これ以上の参加者増加はスタッフ側処理能力許容オーバーによる没収試合と
なる可能性が極めて高いため、皆には是非とも連中がここへ到達する前に、
このゲームの決着を着けて貰いたい。G.N.及びS.F.が予測計算した
タイムリミットの目処は明日の0時0分、丁度今から6時間後だ。…無論、
ゲームスタッフも総力を挙げて連中の乱入阻止及び時間稼ぎの為の妨害工作
に全力を尽くすとの事だ。

 二点目は、隠しルール『脱出』についての説明だ。今現在、この倉田アイ
ランドは閉鎖空間となって、本島より切り離された海中孤島となっている。
しかし、あるキーアイテムを揃える事により脱出が可能な状態へと変化する
…もし脱出に成功すれば、個人であれ団体であれ、その時点でそいつが勝者
となる。そのキーアイテムは果たして一体何か?ヒントとなるキーワードは
“虹”だ。残念だが、それ以上は教える事が出来ない。

 それでは放送を終わる、果たして今回がこのゲーム最後の定時放送となる
のかどうかは私にもわからないが、ともかく各自の健闘と無事決着を祈る。
(…プチッ)」

459パラレル・ロワイアルその403(半休載させて頂き、今回は2話だけ):2005/04/23(土) 18:53:42
「…眠ってしまいました」
「…ん、こっちもね」

 夜間照明へと切り替わりつつある倉田アイランドTHE−TOWNエリア
駅前広場、歩道脇の芝生へと腰を下ろしているのは遠野美凪と河島はるか、
それぞれの胸に顔をうずめるようにして神奈備命と神尾観鈴が眠っている。
 二人の目の下には泣き腫らしたあとがある。
 でも、それなりに穏やかな寝顔であった。
 美凪はさわさわと神奈の髪を撫でている。

「……神奈さんのおかげというべきなのでしょうか?……私、いつのまにか
自分のために悲しむことをすっかり忘れてしまっておりました……そして、
神奈さんを恨んでしまうことも……みちるがいなくなって、奪われてしまっ
たみたいに感じてしまって」
 美凪は愛しそうに神奈の髪を梳いている。

「…ん、よかった……美汐ちゃんの方は、大丈夫?」
 はるかもさらさらと観鈴の髪を撫でながら、歩道のベンチに腰を下ろして
いる天野美汐の方へと声をかける。彼女は月宮あゆを後ろから、包むように
して抱き締めていた。みちるとは直接面識のないあゆではあったが、神奈と
観鈴が泣き疲れて眠ってしまうほどに悲しい出来事は、あゆにとってもそれ
なりに悲しい出来事であるのだろう、美汐の腕の中でしょんぼりしている。
「…私は大丈夫です、河島さん……あゆさんも、もうすぐ慰めてくれる側に
なってくださるはずですから」

「うぐうっ、ボクならもう大丈夫だよっ、こんなんじゃあまるで美汐さんの
方がお姉さんみたいだようっ」
 匂い付けをするかのようにあゆの髪に優しく鼻を押し付けている美汐の腕
の中で、思い出したかのように恥ずかしそうにあゆは小さくもがいていた。

460パラレル・ロワイアルその404(半休載させて頂き、今回は2話だけ):2005/04/23(土) 18:54:52
「FN−Hipowerに黄色のゾリオン…」
「それに、後は虎の覆面だけですね……かぶっていた中の人は、一体何処へ
行ってしまったんでしょう…?」

 駅前交差点近くの雑居ビル三階…志摩の狙撃ポイントの現場検証を行って
いるのは、高野と長瀬祐介…そして、オマケが約1名。

「…で、ところでラスボス候補のたこさんウィンナーは、お前のお嫁さんに
何て連絡よこしてきたんだ?」
「た、高野さん…その呼び方止めて頂きたいんですけど……倉田佐祐理さん
は今現在、FOREVERエリアに七瀬留美さん・千堂和樹さん・大庭詠美
さん達と一緒にいらっしゃるんで、これよりMINMESエリアを通過する
ルートでこちらへ向かわせて貰うとの事です……それでなのですが、川澄舞
さんだけは今更空手では僕達に合わせる顔がないとおっしゃって、118番
の春原陽平さんと一緒にSUMMERエリアへと立ち寄り、何らかの手土産
代わりになりそうな情報を入手してから、こちらへ向かわせて貰うと言って
いたそうなんです」
「義理堅いな、やはりみたらしは……じゃあ仕方ねえ、向こうが二手ならば
こちらも二手だ」
「二手って…高野さん?」
「俺はSUMMERの方へ出向いて、みたらし達を迎えに行く……御曹司は
すまねーが、嬢ちゃん達のお守りの方を宜しく頼む」
「ちょ…ちょっと高野さんっ!……そんな事されたら僕、あゆちゃんと神奈
ちゃんに絶対恨まれちゃいますよっ!?……第一、そうと知ったら二人とも
絶対強引に高野さんを追って、SUMMERエリアへと突進して行っちゃう
に決まってますよっ!?」
「そこを何とか頼む、夕食の調達に言ったとか何とか言って、適当に時間を
時間を稼いでくれ…なーにすぐに戻る、みたらし達を見つけて連れて戻って
くるだけの事だ」
「それでももし、あゆちゃんと神奈ちゃんをどうしても止められなくなって
しまった場合は、一体どうすればいいんですか?」
「うーん、その時はだな…」
「…その時は、風子がここでおるすばんしておりますので、ぜひみなさんで
さまーえりあへ向かってあげてくださいっ」
「!…成る程なっ、伊吹ちゃんは確か、七瀬・千堂・大庭の三人とはすでに
面識があったんだっけか、これは頼もしいお留守番だぜ」
「それじゃあ、どうやら決まりのようですね……高野さん、どうかなるべく
早く、そしてお気をつけて…それと伊吹ちゃん、万一の時には宜しくお願い
するから」
「…………わかりました高野のおじさんっ、この風子っ、命にかえましても
立派におるすばんをつとめて見せますっ……それとユウスケさんっ、高野の
おじさんはともかく、ユウスケさんにちゃん呼ばわりされるのは風子、いさ
さか心外ですっ」
「?……あ、あの伊吹さん……気のせいかもしれないんだけど、何だか僕、
さっきから、その…伊吹さんに嫌われているような気がするんだけど、何か
怒らせるような事…したのかな、僕…?」
「気のせいですユウスケさんっ、名前がどうとか、おムコさんの格好をして
いるのがなおさらムカつくだなんてこと、風子、絶対にありませんからっ」

461パラレル・ロワイアルその405:2005/04/30(土) 16:51:02
「食らえっ!この%&@@#\**野郎っ!!」
 MINMESエリアを通っている地下通路、既にそこへと足を踏み入れて
先行脱出したであろう覆面ゼロを追跡していた御堂は、最後のFARGO兵
が搭乗して操っている、フル武装した海底ドームメンテナンス用の潜水強化
服に出くわし、必死の応戦を試みていた。

スパン!スパン!スパン!スパン!
ガギン!ガギン!ガギン!ガギン!

 御堂の斉射している高圧空気銃は、本来なら強化服には全く歯が立たない
代物であった所であるが、御堂ならではの一転集中狙撃によって、頭部装甲
に大きな亀裂を入れる所まで漕ぎ着ける事に成功していた…が、しかし。

ガチン!ガチン!

「弾切れかよ、お約束だな!」
 舌打ちをしながら、弾切れとなった高圧空気銃と水平二連コルク銃を二丁
持ちトマホークの様に持ち替え、強化服へと投げ付ける。頭部装甲に更なる
打撃が加わり、亀裂が一気に縦横へと広がっていく。しかしまだ一撃足りず
崩壊へと至らなかった、反撃で強化服肩部に装備されたネット砲が、御堂を
目掛けて発射された。

バシュウッ!
「ゲーック!?」

 幸い、欠陥弾であったのだろう、発射されたネット弾は横方向へは広がら
なかった。しかし、縦に伸びたネット弾はそのままボーラの様に飛んで行き
、避け損なった御堂の右足へとぐるぐる巻きに絡み付いた。

「チイッ、縦方向へと逃げようとしたのが裏目に出ちまったぜ!」
 再び、舌打ちをして天井を見上げる御堂。丁度、御堂と強化服の交戦して
いる場所は、地下通路の中でも地上部分との物資・機材の上げ下ろしに使用
する為の空間となっていたのであろう、天井が高い吹き貫き状となっており
、人間用とその他用のものと思しき、普通サイズと大型サイズのマンホール
状の蓋が二つ、遥か上方に取り付けられていた。今となってはもうそこへは
辿り着けないが。

「クソッ!」
 御堂は今現在の持ち物を再確認する。
『すーぱーぼーるはもう全部使っちまったからな、残っているのは…①吸盤
弓(Byグラドリ)、②絵本(By智代)、③水晶(By芋)……ったく、なんて
こった!』

 迫り来る強化服は、その腕部に装備されているシリコン製プロテクターの
付いた巨大な蟹鋏で、逃走もままならない御堂にトドメを刺さんとじりじり
にじり寄って来た。

「光岡も柳川も逝っちまったらしいがよ」
 ネットを引き摺りながら、絵本と水晶を左右の手へと握り締めると、強化
服を真正面から睨み据えて咆える御堂。
「こうなったらタダでは『死な』ねェゾ!来やがれ、鉄クズめがッ!!」




 起こり得ない現象が起こってしまったのは、次の瞬間の事であった。

……グワシャ!!
「なんばぁふぉおおおっ!?」

 蓋がされていた筈の高い天井の上から丸テーブルが落下して来て、強化服
の頭部を直撃したのである。果たして、今度こそはトドメの一撃となって、
パーツを散らしながら頭部の装甲を崩壊させた強化服は、脳震盪を起こして
白目を剥いた搭乗者の頭部を剥きだしにして、ドウと仰向けに倒れ込んだ。

462パラレル・ロワイアルその406:2005/04/30(土) 16:52:19
「!?」

 続いて上から落下して来て、目の前の出来事に呆然となっている御堂の前
へとふわりと降り立ったのは…。

「ルー、店ノてーぶるマデ一緒ニ『移動』サセテシマッタ様ダ…」
 ティーカップとポットを載せたトレイを携えた、赤いメイド服のウェイト
レス。

「な…な…なんだお前わっ!?」
 危機を脱した事実を二の次にして、開いた口が塞がらないでいる御堂。

「付イテ、来イ……狩リノ、時間ダ……待て、翻訳機の調子が悪いみたいだ
(コンコン)……待たせたな、うー、るーはるーだ、うーこそ何者だ?」
 恐れる風もなく胸を張り、質問返しをしてくる赤いメイド服のるーこ。

『……本編といい、こっちといい、数々の変キャラの相手をさせられてきた
俺様だが、どうやらコイツも同じ類の、しかも極め付けの部類の様だな…』
 過去の経験より瞬時にして、例えカワタ同士である事を差し引いてでも、
関わり合いになるべきでないという、賢明なる(?)結論を導き出した御堂。
「ま…まあ、助けてくれた事にゃ一応、感謝してやるぜ…見た所、定時放送
でいってた新規参加者の一人のようだが、お互い運があったら又会おうや、
じゃあな」

 御堂は立ち去ろうとしたが……足に絡みついたままのネット弾が、それを
許してはくれなかった。
「チクショウ!余りの出来事にコイツをすっかり忘れちまってたぜ!」

「狩られている様だが、うーは獲物なのか?…それにしては食べる所が少な
そうだな」
 絡み付いた網を懸命に解こうと四苦八苦している御堂の有様を興味深げに
覗き込むるーこ。

「何だとこのアマ!よりにもよって葉鍵最強の狩人であるこの俺様を、獲物
呼ばわりしやがるとはッ!!」
 プライドを傷付けられ、思わず網を解く事も忘れて憤慨してしまう御堂。
と、るーこはそんな御堂の足元へそっとティーカップを置くと、ポット片手
に諭す様な口調で御堂に口を開いた。

「冷静になるのだ、うー。今うーが感じている感情は精神的疾患の一種だ。
鎮め方はるーが知っている……心落ち着かせて茶でも飲むといいのだ」

じゃ――――――――――――っ。

「あべっ!!」
 顔面蒼白で後ろに飛びずさろうとして、網に足を取られてでんぐり返って
しまう御堂。

「なんてマネしやがるんだ、このアマ!」
「なぜ怒る?うーはもしかして、饅頭と熱いお茶が怖い、うーなのか?」

463パラレル・ロワイアルその407:2005/04/30(土) 17:37:48
「………………」
 ぷかぷか……。

 沈み行く夏の夕日をバックに、来栖川アイランド南西部沖を漂流している
一艘のゴムボート……かつて、長瀬祐介と天野美汐がクルーザーからの脱出
に使用して以降、海水浴場浜辺に放置されてあったそれは、強風により再び
海へと飛ばされ、潮流に流されて今現在、倉田アイランドの丁度100メー
トル真上の位置へと差し掛かっていた。

 そして…そのゴムボートの中にて、自分の『移動先』に茫然自失となって
いるのは…。
「るーこ隊長っ!?……このみは一体、どこにいるのでありましょうか?」

 そんな訳で半ば途方にくれていた柚原このみの視界に、こちらへと近付い
て来る、巨大な船影が目に入った。
「!…隊長っ!あれは巡視艇でありますっ!……もしかしたらいきなり遭難
失格となってしまうのかもしれませんが、今のこのみにはもう、他の選択肢
は見つからないのでありますっ!」

 そして、このみはどんどん近付いて来る巡視艇の方に向かって、ゴムボー
トの中で立ちひざとなると、ぶんぶんと両手を振り回し始めた。
「ここであります!ここであります!!」

 果たして、沖に浮かぶゴムボートの上で手を振っているこのみを発見し、
近付いて来る存在が一つあった……しかし、それはこのみが手を振っていた
当の巡視艇などではなく…。

『くそっ…来てみたはいいが、海底トンネルの入口は完全に締め切られちま
ってたし…一体どうすれば侵入出来るってんだよ、丁度この真下辺りだっつ
ーのによ……ん?何だ、あのゴムボートは?』
 リバーサイドホテルから飛び立ち、大灯台広場沖1キロの上空を旋回して
いた一羽のカラスが、ふわりふわりと滑空しながらゴムボートへと近付いて
行った。

『あの少女は…もしかして、新規参加した鳩2組のメンバーか?それにして
も、どうやら受難状態に陥っているようだが……ちっ仕方ねえ、こういう時
観鈴がいたら絶対、助けてあげて欲しいって頼んで来るに違いねーからな』
 そしてカラスはそのまま、このみの背後へとふわりと降り立ち、とことこ
と近付いて行くと、そのやわらかい部分を後ろからそっと嘴でつついた。

 つんつん。

「ひゃわわ!?」
 後ろからのいきなりの予期せぬ感触に思わず、慌てふためいた声をあげて
しまうこのみ。思わずバランスを崩してしまいそうになるが、そのパターン
を予測していたカラスがしっかりと法術でフォロー。このみは船内に置かれ
ていたゲーム用支給バッグと持参装備(?)の大きな買い物袋によろけて寄り
掛かってしまうだけで何とか、驚きを抑え切る事に成功した。

「び、びっくりしたでありますよ、カラスさんっ」
 ばっさばっさ。

『役得、役得…って、ゲフンゲフン、まぁそれは置いといてだ、まずは落ち
着かせて、それから陸とあの船のどちらに送り届けてやるのかを考える事に
でもしようか…』

「あっ、あの、さわってもよろしいでありますか、カラスさん?」
 ばっさばっさばっさ。

 遠くの巡視艇よりは目の前のカラスさんという思考回路なのか、たちまち
助けを求める事も忘れ、人なつっこい(?)カラスとのコミュニケーションに
夢中になってしまうこのみ。しかしその時、このみが先程寄り掛かった買い
物袋の口が開いて、中から紙の袋に詰まったある商品が海へと落ちて沈んで
しまったなどという事実は、神ならぬ身のこのみやカラスには知る由もない
出来事であった。

464パラレル・ロワイアルその408:2005/05/07(土) 18:06:42
「……と、いうわけ。僕が高野さんの言葉に何かためらうものを感じていれ
ば、誰も別れずに、誰も困らないで済んだんだ。だから……僕が悪い。僕を
恨んでくれていいよ」
 俯きがちに、祐介は言った。非は、自分にあるのだと。

「お主」
 神奈が、祐介の肩に手を乗せる。
 祐介が顔を上げ、神奈の方を見やるよりも早く、神奈は祐介を、思い切り
抓り上げていた。

「ひぎれるー!ひぎれてひまいまふ、はんなはま!」
 ひぃひぃと悲鳴を上げながら、祐介は手をばたつかせる。
 引っ張られた顔面から、目線だけ動かすと、その先には神奈が睨み付けて
いた。

「お主な、何が『僕が悪い』じゃ?お主と風子とで何とか止められるような
コウヤではあるまいが、もともと。自惚れるのもいい加減にするのじゃっ!
それにな、お主が本気で悪いと思っておるなら、そうやって責任を放棄する
ような真似をするでない!責任を感じておるなら、逃げておらずに、恨まれ
ようが脱落しようがちゃんと頼まれた使命をまっとうせいっ!」
 一気に捲し立てた後、暫し息を荒げる神奈。

 その神奈の姿を唖然と見ていた祐介だったが、
「……ぷっ」
 気づいたときには、何故か笑っていた。

「……まったく、恥ずかしいこと言わせおって」
 神奈は、照れたように美汐や観鈴、あゆ達の方へ向き直った。
 何も言わず、余のわがままを、見守ってくれておった。

 心のモヤモヤが、全部吹っ切れた気がして、
「ごめん……僕が間違ってた」
 その言葉を言う祐介の表情も晴れやかだった。




「祐介、それに美汐…余は、怒ってなどはおらぬ…もしや、責任を感じての
罰げーむのつもりならばあえて、愛別離苦を味わうような真似などせずとも
よいのじゃぞ…いや、本当にじゃ」

「そんなんじゃあありませんよ、神奈さん」
 そう言って、少し陰のある表情で祐介は笑う。

 美汐も心配顔の神奈に微笑みかけ、
「そうですよ、神奈さん……高野さんのおっしゃってた通り、ほんの少しの
辛抱で、みんな揃って一緒の晩御飯を頂く事が出来るのですから」 
 と優しく語り掛けた。

「その通りだよねっ、美汐さんっ」
 そう言ってあゆはガッツポーズをとってみせる。その溌剌とした動作に、
八人の間に自然と笑みがこぼれる。

465パラレル・ロワイアルその409:2005/05/07(土) 18:08:01
「さて、僕達は早速高野さんを追っ掛ける事にしようか……伊吹さん、皆を
宜しくお願いするよ。僕も、時間が許すまでは出来る限りの事をやって来る
から」
 祐介のその台詞は、このゲームが本当の最後の最後になった時は、お互い
戦う結果となっても止むを得ない、という覚悟の表れだろうか。

「風子もがんばりますっ、ですからユウスケさん達もぜひ、がんばって来て
くださいっ」

「…ん、そうだね」
「…頑張って来ます、風子さん」
 はるかと美凪を連れ、祐介は手を振りながら、SUMMERエリアの方角
へとやがて消えていった。




 ふぅ、と残りの五人同時に溜息をつく。
 やがて、よし、と観鈴が気合を入れると、

「さぁ……観鈴ちんたちも負けずに、れっつごーだよ」
「…ええ」
「そうじゃな」
「うんっ」
「そうですっ」

 五人は歩き出す。
 自分達の目的を果たすために。
 佐祐理さんや留美さんと合流する。
 詠美さんや千堂さんと合流する。
 ……そして、御堂のおじさんとも。
 どこまでやれるかは分からない。
 だけど、次に再会する時までは絶対に誰一人、脱落はさせない。

 今一度SUMMERエリアの方角を向いた美汐の目には、これまでなかっ
た決意の色が表れていた……と、その時、美汐の手に握られていた、はるか
が別れ際に渡してくれた人物探知機が、参加者の光点がひとつ、こちらへと
近付いて来ているのを表示していた。

「!」
 慌てて残りの四人に伝え、一緒になって物陰へと潜む美汐。光点はその間
にもどんどんと近付いて来る。

「うぐぅ、美汐さん…」
 あゆが、美汐のドレスの裾を引っ張って尋ねる。

「なんですか、あゆさん?」
「番号の表示は、どうなっているの?」

 思い出したかのように光点の上の番号を確認する美汐、しかしそれよりも
先に、光点の対象が遂に、隠れている五人の前へとその姿を現した。

「「「「「あ……」」」」」
「♪」

 白いブラウスに藍色のスカート、黒いロングヘアーの見知らぬ女の子が、小さくハミングしていた。
 光点の上の番号は、124と表示されていた。

466パラレル・ロワイアルその410:2005/05/07(土) 18:56:00
「出港してきましたっ!岡崎さん…脱落したCLANNAD三個実働部隊を
収容した潜水揚陸艇“スメルライクティーンスピリッツ”に続いて、“アヴ
・カムゥ”ですっ!」
「やはりな…」
 来栖川アイランド本島南西部洋上を急速航行中の巡視艇艦橋にて、ソナー
及びアクティブソナーの索敵情報を元に、対潜戦闘準備の指揮を執っている
のは、特務機関CLANNAD副司令・岡崎直幸。

「しかし…何故、岡崎さんはハクオロ殿が裏切ると踏まれたのですか?」
「それはだな、大木艦長…手勢であった対能力者猟兵が全滅し、加えて当初
ハクオロ殿が諦めていた筈の残りのうたわれ組が、後五時間半ほどで参戦を
果たそうとしているのだ…彼等の為に時間を稼ぎたい所であろうハクオロ殿
が、このゲームの早期決着を目論んでいる古河司令と、共同戦線を張り続け
られる訳があるまい」
「確かに、おっしゃる通りです」
「それより何より、あの“アヴ・カムゥ”は、合衆国の最新鋭原潜だ…エー
ジェントも付けないでレンタルする訳がない…いや、むしろ、レンタル側が
口実としてエージェントを付けてくる方が、余程自然な行いだと言うべきで
はないかな?」
「じゃ、じゃあまさか、岡崎さん…」
「大木艦長の考えている通りだ……Routes組はこういった事態を見越
して、少なくとも先遣隊はこの来栖川アイランドに潜入させている事だろう
……先程、リバーサイドホテルから入った情報によると、夕食会の会場にて
バニラアイスの早食い競争が即興で行われて、結果あの美坂栞が対戦相手の
謎の少女に、まさかの敗北を喫したという事だ」
「で…では岡崎さん、ハクオロ殿はRoutes組と…」
「葉組同士である事、後から来る者たちの為に時間稼ぎをしたい立場同士で
ある事を考えれば、協力関係を結んでもおかしくはあるまい?…第一、本編
最終巻373ページ挿絵右端の女性を、一体誰だと思っていたんだ?」
「そ、そういえばあの女性は……で、ところで岡崎さん、ハクオロ殿は一体
“アヴ・カムゥ”を倉田アイランドから出港させて、何を行う積もりなので
しょうか?」
「知れた事だな、大木艦長…恐らくハクオロ殿は、倉田アイランドのドーム
隔壁に魚雷でも打ち込む積もりなのだろう」
「そ、そんなっ…そんな事したらドームに穴が開いてしまいますよっ!?」
「…しっかりしてくれ、ゲーム用の模擬魚雷に決まっているだろう」
「そっ、そうですよね、考えてみれば当然……でも一体、何のために?」
「ドームに破損判定を与えて、緊急海面上昇を行わさせる為だ…確か、倉田
アイランドは、居住性と安全性を重視して昇降機能を兼ね備えた海底ドーム
だったからな……海面に顔を出した海底ドームならRoutes組を初めと
する乱入希望者達の、来栖川アイランド到着後の戦場突入の為の時間も大幅
に節約出来る事になるからな……もっとも、隠しルールであった『脱出』の
難易度も、大幅に下がってしまうというデメリットも生じる訳なのだが」
「……なぁんてこった!」
「だから我々は、これからゲーム用対潜兵器群によって“アヴ・カムゥ”を
『轟沈』し、ハクオロ殿の思惑を阻止しようという訳なのだよ」
「…分かりました、岡崎さん……それにしても、ここといい、衛星軌道上と
いい、こんな場外乱闘戦が行われているだなんて事、正規参加者達は夢にも
思っていない事でしょうね」
「…もしかしたら、空中戦も行われるかもな…」

467パラレル・ロワイアルその411(半休載させて頂き、今回は1話だけ):2005/05/13(金) 18:06:53
「FOREVERから27番と春原、THE−TOWNからは110番……
合わせて三人か」
「後たった今、THE−TOWNから26番さん・62番さん・64番さん
が続いてこちらへと向かっております、朋也くん」

 SUMMERエリア・緊急施設内アクセスルームにて並んでいるモニター
群を眺めているのは、岡崎朋也・古河渚・坂上智代・立川雄蔵・美坂香里の
五人(+中の二人)。

「果たして、それぞれ誰がどのように迎撃していく事になるのだ…?」
 モニターの方を向いたまま、腕組みをして尋ねる智代。

「それに、倉田先輩達にはこのまま、MINMESエリアであゆちゃん達に
合流されるのは避けたい所なんでしょう?…今の装備の古河さんが神奈ちゃ
んと接敵してしまったら必ず、どちらかが脱落する戦いとなってしまうでし
ょうし……当然、古河さんが脱落してしまったら私達が困っちゃうし、神奈
ちゃんがここ以外で脱落してしまう事も、中の方達には絶対に避けて欲しい
選択肢なのでしょう?」
“美坂様の、仰る通りです…”
“済まないが、それだけは我々にとって唯一の、絶対的条件なのだからな”
 続いて、渚と朋也に向かって尋ね掛ける香里。そして、その一瞬だけ別人
の様な表情・素振りとなって香里の質問に肯定の言葉を返す、渚と朋也。

「更には、FARGO警備兵用の黒い廉価版を除いて、九丁用意されていた
ゾリオンの内、空・茶・黄の存在を知った連中と青・緑・橙の存在を知った
連中が合流・情報交換しようものなら、本来の使用方法を悟られる可能性が
極めて高くなるだろう……漫画に詳しい千堂と大庭が生き残っているのなら
ば、尚更な」
 最後に、雄蔵が重々しく口を開く。
「結局の所、迎撃に二手・刺客に一手、合わせて三手こちらには必要になる
という事だ」

「攻撃優先順位は、一体誰からになるのかしら?」
 香里の問い掛けに対し、智代がさらりと答える。
「やはり、中の方達にまで失格判定を及ぼすものと思われる獲物に加えて、
ゾリオンを計二丁持っている27番と春原が第一だろう……しかし、27番
は剣技を心得た能力者である上に、春原には『命』がまだ計五十回分残って
いる、そう簡単には倒せない…110番と合流を果たそうものなら尚更だ」

「うむ、それならば27番と118番の相手は俺と香里で受け持とう」
 雄蔵が事も無げに難敵の相手を請け負った事に、目を丸くする朋也。
「ちょ…ちょっと立川さん、勝算はあるんですかっ!?」
「ない事はない……それに、俺も香里もある意味、もう『本来の役目』は終
わってしまっているのだ、万一しくじった所で大した問題もあるまい」
「もっとも、そう簡単には脱落する積もりもないけどね♪」

「では、5番・27番・53番・69番への刺客役は、私が受け持とう……
見た所、実質戦闘能力を有しているのは、69番一人だけのようだしな」
「そうか、では頼んだぞ、智代……それなら俺は残りの一人こと、110番
の相手をして来る事にするぜ」
「と、朋也くんっ!?…だいじょうぶなんですかっ!?」
「男として、主役キャラとして、そしてCLANNADのエースとしても、
もうこうなったらやるしかないだろう、渚……それに、今は実戦経験豊富な
中の人と一緒なんだぞ、そう簡単には負けたりはしないだろう……なーに、
たかが歴戦の傭兵ごとき、主人公特権の2乗で打破してやろうじゃないか」
“…饒舌だな、緊張してるのか?”
「うるせえよ、馬鹿……そういう訳だ渚、最後の一人に貧乏クジを引かせて
済まないが、中の人と一緒にこの施設の留守番、よろしく頼む……オッサン
が手配してくれた援軍もじきに到着する筈だ、心配は要らないだろう」
“御安心下さい、岡崎様…渚様は必ず、このわたくしが御守りしますから”
「それよりも、朋也くんも智代さんも立川さんも香里さんも…みんな、どう
か無事に帰って来て下さいっ」
「当たり前だ」
「心配要らない」
「承知した」
「勿論よ」

468パラレル・ロワイアルその412:2005/05/20(金) 20:01:46
「対潜魚雷“槍タイプⅢ”、一番より四番まで発射準備完了です!」
「よしっ、直ちに発射だっ!」

 来栖川アイランド本島南西部洋上を急速航行中の巡視艇より、倉田アイラ
ンドMINMESエリア・潜水艦ドッグを出港して来た合衆国原子力潜水艦
“アヴ・カムゥ”を目掛けて、四本のゲーム用対潜魚雷が発射された。

「ふぅ、これで何とか一安心だな」
「!……た、大変です岡崎さんっ!」
 無事にゲーム続行のための大任を果たし終え、巡視艇艦橋にて安堵の溜息
を漏らした岡崎直幸に、緊張を漲らせた表情をした大木艦長がオペレーター
からの状況報告を伝えに来た。

「オペレーターからの分析結果によりますと、“アヴ・カムゥ”は既に魚雷
発射準備を完了していた模様で……時間計算の結果、こちらの発射した魚雷
が“アヴ・カムゥ”に命中するよりも先に“アヴ・カムゥ”から魚雷が発射
されてしまう可能性が高いという事です!」
「何だと……!」
「更に、こちら側の今発射した四本の魚雷は、急ピッチで発射準備を行った
がために、自爆プログラムの入力がされておりませんでした!……もしも、
“アヴ・カムゥ”に命中しなかった魚雷は、そのまま海中を直進して行って
しまい…」
「ドーム隔壁に命中してしまうというのか!?……ああ、何という事だ!」




「聖上!ゲーム用魚雷“さくら”“二郎”“大八郎”“影清”、一番発射管
から四番まで発射準備完了しました!」
「よし、直ちに倉田アイランド・ドーム隔壁に向かって発射するのだ!」
 一方こちらは合衆国原子力潜水艦“アヴ・カムゥ”艦橋部。艦長席に悠然
と腰を下ろし今最後の命令を下しているのは、118番・依頼人のハクオロ
その人。そして、その横には一組の男女がこれまた悠然と佇んでいた。

「ハクオロさん、ご協力に感謝いたします……これで、降下組の醍醐隊長や
ウルトリィさん率いる強行乱入部隊の為の、貴重な橋頭堡が築けますよ」
「なんのなんのNASTY−BOY、これはお互いの利益の為の行為だ……
もうこれ以上、鍵の連中ばかりに美味しい思いばかりはさせられんよ」
「美味しい思いって言えば…そうそう、リサさんもゆかりも勝手に上陸しち
ゃって、もー!こっちは延々、潜水艦の中にこそこそと引き篭もって、飛躍
の時を今か今かと辛抱強く我慢しているってゆーのにっ!」
「それも、もうしばらくの辛抱だよ皐月。よく今までずっと我慢出来たね」
「当たり前でしょう、宗一。宗一が我慢してるんなら、あたしだって一緒に
我慢するわよ」
「二人とも…そういう話はせめて、艦橋ではヒソヒソ声で…」

 “アヴ・カムゥ”艦橋内に警報が鳴り響いたのは、その時の事であった。

「「何事だっ!?」」
 慌てて状況を確認しようとするハクオロと那須宗一……と、湯浅皐月が、
「ななななっ!?……何よアレッ!?」
 艦橋の窓から見える光景(?)を指差して顔色を変えていた。そして、連ら
れるように窓の方へと視線を向け直した宗一とハクオロも、
「げげッ!?」
「こ…これは一体っ!?」

469パラレル・ロワイアルその413:2005/05/20(金) 21:18:02
 その時、“アヴ・カムゥ”艦橋部の窓から見えた光景…それは、窓一面を
覆い尽くす一面の泡、泡、泡……それも、赤・青・紫・ピンクにオレンジ、
黄色に乳白色と色とりどりの泡のカーテンが“アヴ・カムゥ”艦橋の窓を、
いやもしかしたら“アヴ・カムゥ”の船体全体を、外の世界から遮っていた
のであった。

「ま…まさか、メタン・ハイグレード・コントロール!?……空気より軽い
メタンガスを噴出させる事によって船の浮力を奪い、沈めてしまうっていう
、リサさんのお父さんが研究していた…?」
「ばっ、馬鹿な!……まさか、リサ殿が裏切りを!?」
「それこそ馬鹿なっ!?…一体、何のメリットがあってリサが裏切らなくて
はならないんです、ハクオロさんっ!?……それよりも今はまず、正体確認
と原因究明は二の次にして早い所、この船を泡のエリア外へと移動させまし
ょう」
「うむ、宗一殿の申す通りだ……操舵班に告ぐ、“アヴ・カムゥ”魚雷発射
体勢のまま180度回頭、直ちにこの未知の泡のエリアから緊急離脱を行う
のだ!」

 慌てて、ハクオロの指令の元、船体を180度反転させて色付き泡のカー
テンを振り切ろうとする“アヴ・カムゥ”……しかしこの時、船内の誰一人
として、今起こっている怪現象に関する二つの事実には、全く気付いていな
かった。

 一つ目は、色付き泡のカーテンの発生源が、艦橋窓より死角となっている
窓の外真下にある、船体浮上時にベランダ通路となる部分に落ちて転がって
いたという事実。

 そして二つ目は、泡のカーテンの効果により今現在、“アヴ・カムゥ”に
搭載されているソナー・アクティブソナーを始めとした、音による索敵の為
の機能が、一時的に大幅低下してしまっていたという事実である。

 果たして、“アヴ・カムゥ”が海底ドーム隔壁に対して平行となるような
形で船体を90度まで反転完了させたその時、機能低下していた索敵機能が
新たな脅威に対して遅すぎる警報を、思い出したかのように鳴らしだした。

「!?……何事だっ、今度は一体!?」
 驚くハクオロに対して、顔面蒼白となった宗一と皐月が、泡のカーテンが
薄らいできた窓の方を指差しながら、絶望の叫び声でそれに答えた。

「ギャーーッ!!ハクオロさんっ、左舷から魚雷が四本ッ!!」
「イヤーーッ!!四本ともド真ん中じゃないのーーっ!!」
「駄目だっ、避けられない……クソッ、こうなったらせめて、こちらの魚雷
だけでも発射するんだっ!」
「駄目です聖上、完全に真横を向いてしまっておりますから、今発射しても
ドームに命中させる事は不可能ですっ!」
「冗談じゃないっ、俺達は一体、今まで何のために雌伏の時をこんな場所で
待ち続けていたんだあっ!?」
「こんな事なら、宗一と一緒にさっさとドームで降りてればよかったー!」

((((ズドン!))))
『ビーッ、合衆国原潜“アヴ・カムゥ”、有効弾直撃により轟沈判定……
直ちに本島のヨットハーバー・港エリアに帰港後、全乗組員はリバーサイド
ホテルまで向かって下さい』

470パラレル・ロワイアルその414:2005/05/20(金) 21:18:59
 …その頃、巡視艇艦橋では。

「やりましたっ、『轟沈』ですよ、岡崎さんっ!」
「全魚雷命中でドームも無事で済むとは、何とも幸運だな……しかし、何故
“アヴ・カムゥ”は魚雷発射をしないでわざわざ、船体を横になどしたのだ
ろう?……ともかく、“アヴ・カムゥ”が『轟沈』した以上、最早私がここ
に留まっている理由などない、倉田アイランド内の戦闘に参加する事にする
……大木艦長、早速で済まないが巡視艇に積んである小型潜行艇の発進準備
に取り掛かってはくれないか?」
「ハッ、了解しました!」




 …更にその頃、『轟沈』した“アヴ・カムゥ”の真上約100メートルの
海上では。

「ええ〜ん、どうしようっ…お母さんに頼まれてみんなの分、たっぷり特売
つかみ取りしてきたお風呂の入浴剤、紙袋ごと海の中へ落としちゃったよぉ
〜…あとで絶対にお母さんに怒られちゃうよぉ〜(しくしくしくしく…)」

ばっさばっさ。
『やべーな、泣かしちまったよ…やっぱり、俺のせいなんだろうな、一応…
それにしても、凄い焦りっぷりだがひょっとして晴子並におっかねえのかよ
、こいつの母親ってのは…?』




 …また更にその頃、倉田アイランド・SUMMERエリア内森林では。

『ビーッ、118番・春原陽平、リンク・デッドにより失格…直ちに、交戦
エリアより退いて下さい』

「(ガーン!)ななななっ、なんですってええええ〜っ!?」
「…潜水艦にいると聞いた筈の依頼人に一体、何が起こったのかは全く見当
がつかないが?……ま、取り敢えずは気の毒な事だな、春原」
「何てタイミングが悪い時にっ!――――――こんな事になるのならせめて
あと一時、失格が早かったら…舞さんを一人ぼっちで、こんな危険区域へと
行かせる事にはならなかった筈なのにっ…」
「…そういえば春原、確かお前…妹さんの分の識別装置を隠匿していたとか
電話で話していなかったか…?」
「!…確かにそうでしたっ!!(ゴソゴソ…ピッピッ)今この場で新規警備兵
として登録を行っちゃえば…いやー、助かった助かったーっ!正規参加者で
はなくなっちゃいましたけど、これでまだ舞さんと一緒にいられるーっ♪」
「…おい、春原…一応、確認しておくが…お前はあくまで、佐祐理のために
、私と行動を共にする事を望んでいるのだよな…?」
「えっ!?……え、えーと、その(ポリポリ)…そうですよっ、その筈に決ま
っているじゃあありませんかっ…!(だよな、僕?)」

            118番・春原陽平 脱落(警備兵として再参加)
                          【残り 21人】

471 パラレル・ロワイアルその415:2005/05/27(金) 18:32:58
 …DREAMエリアからMINMESエリアへと通じている車道を走る、
一台の兵員輸送車。その車内後部の兵員搭乗室の中で椅子に腰掛けて机上の
端末機相手に悪戦苦闘をしているのは、ラスボス候補の一人・倉田佐祐理。

「あははーっ、やりましたよーっ。お姉さんはね、こう見えても本当はハッ
キングも得意なんですよー♪」

 佐祐理がエンターキーを叩くと同時に、端末機の画面がSUMMERエリ
ア緊急施設のホストコンピューターメニュー画面へと切り替わる。
「もっと早くこの手段に気付いていれば……いえ、今からでもきっと遅くは
ない筈です。何か情報を入手して、早く舞と春原さんを呼び戻してあげませ
んと…」

 ゆらり。

 その時、兵員搭乗室の中にじっと潜んでいた虚無僧が、情報収集に夢中に
なっている佐祐理の背後へとゆっくり忍び寄って行き、彼女の背中へと手に
持った紫色のゾリオンの銃口を押し当てた。
「動くなぁ…」
「はえっ!?……一体、どなたですかっ!?」
「実は、俺様なんだなぁ、倉田のお嬢様ぁ……ま、取り敢えずは俺様の言う
質問にさえ答えて頂ければぁ、特にコイツの引き金を引く気もハッキングの
邪魔をする気もさらさらないんだがなぁ…」

「…申し訳ありませんが塚北さん、留美さんが操縦席と機関銃座のどちらに
いらっしゃるのかというご質問には佐祐理、お答えする事は出来ませんです
よ〜…」
「おおお、どうしてなのだぁ〜っ?……ここは無難に頃されずに済む行為を
選んでおいた方がぁ、少なくとも自分自身と大切な親友のためになるとぉ、
俺様は思うんだがなぁ〜っ?」
「…佐祐理はもうやめたんです、自分や舞のためならばと他の方を切り捨て
たり、売ったりするような行為を選ぶ事は…」
 振り向く事無く、端末の画像を眺め続けたまま、背後でゾリオンを突き付
けているのであろう、覆面ゼロの要求をきっぱりと拒絶する佐祐理。

「うおお、それでは仕方がないなぁ……では不本意ではあるがぁ、引き金を
引いてから俺自身でゆっくりと調べさせて貰う事にでも、し……」
 ゼロがそこまで言い掛けた瞬間、ゼロがその手に持つゾリオンの引き金を
引くよりも先に、一条のレーザー光が佐祐理の体を椅子ごと貫いて行った。

『ビーッ、35番・倉田佐祐理、有効弾直撃により失格…降車する機会を
得次第、直ちに交戦エリアより退いて下さい』




「…まさか、俺を道連れにするために、自分もろともゾリオンで撃ち抜こう
としてくるとはなぁ……もし、普通に背後に立っていたら、俺も

『ビーッ、20番・覆面ゼロ、有効弾直撃により失格…降車する機会を
得次第、直ちに交戦エリアより退いて下さい』

って、なってた所だぜぇ……それにしても、スコア0のクセしてためらう事
なく、本編の九品仏を気取ってくるとは……流石はクラスBのラスボス候補
といったところだぜぇ…」

 天井に張り付き、ぶら下がっていたゼロが、とんぼ返りをしながら搭乗室
の床へと降り立つと、佐祐理が隠し持っていた緑色のゾリオンを没シュート
してから、天井ハッチの方へと素早く移動して行った。




「ごめんね、…舞…佐祐理はだめならすぼす候補でした……それと、勝手な
お願いかもしれませんが……舞の事はよろしく頼みましたよー、春原さん」
 端末機に最後の一仕事を記した後、佐祐理は踏切で一旦停止した兵員輸送
車の後部扉をこっそりと開けると、ひらりとその身を車道へと降り立たせて
戦いの舞台をひとり、去って行った。

35番・倉田佐祐理 脱落
【残り 20人】

472パラレル・ロワイアルその416:2005/05/27(金) 19:31:09
「タタ〜 タ タタタタ〜♪」

 THE−TOWNエリアからMINMESエリアへと通じている長い車道
…その真ん中を街路灯の淡い光に照らされて、向こうから楽しそうに歩いて
来る少女こと、124番・草壁優季。

「「「「「……」」」」」
 そして、そんな彼女を物陰からこっそり眺めている五人こと、天野美汐・
月宮あゆ・神尾観鈴・神奈備命・伊吹風子。

「…それにしても、緊張感のない娘じゃのう……本編序盤のあゆや、風子と
よい勝負なのじゃ」
 今の自分の出で立ちを棚に上げて、神奈が率直な感想をのたもうた。

「うぐうっ、緊張感がないなんてひどいよ神奈さんっ」
「そうです、神奈さんは間違ってます。どちらかと言えば、風子はシリアス
でゲートボールな世界が似合う女性なのです」
「がお…それ多分、ハードボイルドだよ…」
 ぷりぷり怒り出すあゆと風子に、突っ込みを入れる観鈴…と、ノッて来た
のか、優季は二曲目を歌いだした。

「すきとーおーるー♪ゆ めをみーていたー♪」

「あっ、メグミルクです」
「風子…自分の作品の曲名ぐらい、きちんと覚えるのじゃっ……しかしあの
娘、どうやら葉にこだわる葉組ではないようじゃのう…」

「き えるひ こう  きぐもー♪ぼくたちはみ  お  くったー♪」

 …続けて見ていると、ノリノリで小躍りしながら三曲目に入ってしまった
優季。

「にはは、今度は鳥の詩だよー」
「…次はもしかして、Last regretsなのでしょうか…?」

 更に見ていると、とうとうハイテンションになってしまったらしい優季は
五人の前で髪を振り乱しながら、ついに四曲目へと突入してしまった…!

「会いたいあいあいあいあい……♪(ぶんっぶんっ)」

「うぐうっ!ダメだよっ、ボクの歌歌っちゃああ〜っ!」
 …誠に不本意ながら、一人の聴衆の乱入により草壁優季リサイタルはここ
にていったん、お開きとなってしまった。




「どうも初めまして、月宮あゆさんに伊吹風子さんですね……私、草壁優季
と申します(ぺこり)」
 さっきまで歌い続けていた優季が、最初に駆け寄って来たあゆと風子に、
笑顔で挨拶した。

「…どうも済みません、新規参加の方らしいですのでつい、一体どんな方
なのでしょうかと、無用な警戒をしてしまいまして…」
「にははっ、綺麗な歌声だったよっ」
「気を悪くしないで欲しいのじゃ、新たなる参加者よ」

 続いてぞろぞろと物陰から現れ出でた残りの三人を見て、思わず目を丸く
してしまう優季。
「あっ、本編の本の表紙で長瀬さんと手を握り合ってらした方と、神尾観鈴
さんに神奈姫さんですね…御本人の方達にこうしていきなりお会い出来ます
なんて、素敵な偶然です♪」

「「「え?」」」
 優季の言葉に思わず、揃って目を丸くしてしまう三人。

「…あ、あの草壁さん…確かに私、天野美汐は長瀬祐介と一緒に一度だけ…
ですが、それは確か、裏表紙だったような気がするのですが?……それに、
手はあの絵では確か、画面からはみ出しておりまして…握り合ってたかどう
かを確認する事は…?」
「ど…どうして草壁さん、観鈴ちんの名前、知ってるのかな…?」
「間違っておるぞ、優季…余の名は神奈備命なのじゃ……されど、姫と呼ば
れるのも悪い気はしないのじゃ、好きに呼んでくれて構わぬぞ」

 三者三様の返答に柔らかく笑いながら答える優季。
「鍵のヒロインの皆様のお噂は、本や映画などから入って来るものがござい
ますもので……ですがやっぱり、こうして直接お会いしてみますと、お噂は
真実とは食い違っている部分もあるという事なのでしょうか…?」

「…本や映画ですか、それでは仕方ありませんですね」
「でも映画って一体…ひょっとして、来春公開予定の観鈴ちんたちの…?」
「と、いう事は、余は映画では姫君になってしまうのか?…しかし、それに
しても現代の情報網というものは、公開半年前の映画の設定まで調べられる
ものなのか…?」
 優季の答えにうんうんと納得する三人……と、その時、優季が左手に持っ
ていた大きめの手帳から、小さな紙片がひらりひらりとアスファルトの上へ
舞い落ちた。風子がそれを目ざとく見つけて拾い上げる。

「…きねまくるすがわ20050204えーあいーあーる…?」

「あ…!」
 それに気が付いた優季は、慌てて風子から取り上げるように、紙片を受け
取った。

「あ、ありがとうございます伊吹さん」
「いえいえ、どういたしましてなのです草壁さん」

 息を切らせながら、風子にお礼を言う草壁さん。
 よほど大事なものなのだろう。

473パラレル・ロワイアルその417:2005/06/02(木) 19:36:04
「進路クリアー、発進準備よし!」

 来栖川アイランド本島南西部洋上にて、航行を停止した巡視艇から、船内
備え付けの大型クレーンによって搭載されていた小型潜航艇が、日没直後の
洋上へと降ろされて固定ワイヤーが解除された。そして、渡されたタラップ
の上を今、岡崎直幸が大木艦長と共に移動していた。

「岡崎さん、それではご健闘をお祈りしております」
「大木艦長の方も、強制乱入組の迎撃の方を宜しく頼む」

 お互いに最後の挨拶を終えて、直幸が潜航艇の甲板へと足を踏み出そうと
したその時である。

「…そこまでよ」
 ぱすっ ぱすっ。
 びしっ びしっ。

『ビーッ、新規ゲスト警備兵・岡崎直幸、有効弾直撃により殉職しました』
『ビーッ、巡視艇艦長大木、有効弾直撃により殉職しました』

 巡視艇甲板より発射された二発のBB弾が、直幸と大木艦長をあっけなく
ゲームの舞台から引き摺り下ろした。

「…魚雷への自爆プログラム入力妨害だけで充分、使命を果たせるものだと
多寡をくくっていたのに、まさかここまでやらなければならなかったなんて
とんだ計算ミスだったわ」
 巡視艇甲板に立っていたのは…オペレーターの制服を脱ぎ捨てて、本来の
コスチュームへと身を包み、デトニクス(エアガン)を構えた金髪の女性。

「リ…リサ・ヴィクセン特務少佐……ア、アヴ・カムゥに乗っていたのでは
なかったのか…」
 驚愕の表情を浮かべてくず折れる大木艦長。

「まさか…あんな逃げ場のない場所に閉じ篭って、船員さんに『命』預けて
い続けられる程私、能天気じゃあない積りよ…あ、ちなみにこの識別装置は
裏取引でクルスガワ・アメリカに造って貰ったレプリカなの…じゃあ、そう
いう訳でその潜航艇は、私が有難く使わせて貰うから…」
 
 悠然とタラップを渡ると、二つの『死体』の横を通り抜けて小型潜航艇の
甲板へと足を踏み下ろすリサ。そのまま搭乗ハッチへと手を掛けようとした
その時、リサは小型潜航艇の海側の船側に、小型のゴムボートが流れ着いて
いるのを発見した。すぐさまに臨戦態勢でデトニクスを構え直したリサは、
自分側からは死角になっている搭乗ハッチの海側の陰に向かって、鋭い口調
で言い放った。
「そこへ隠れていらっしゃる方、大人しく出て来ては頂けませんこと…?」

「あ、あのっ」
 そこにいたのは。
 買い物袋とバッグを両手に提げた桜色のリボンの小柄な少女。
「す、すみませんっ、実はわたし漂流していたのでありますっ、どうかこの
船に避難させて下さいっ」

「……」
 リサはその、到底自分の敵にはなり得ないであろうその少女・柚原このみ
をしばし、拍子抜けをしたかのように目の当たりにしていたが、やがて気を
取り直し、更にはこのみの装着している識別装置に気が付くや否や、持って
いたデトニクスを再び、このみに向かって構え直した。

「ひゃわわっ!?」
「ご免なさいね、コノミ・ユズハラ…今現在、この状況で直接初対面さんを
信用する事も、見逃す事も私にはどうしても出来ないのよ…そう、だって私
はエージェントなんですから…」
「嫌であります、嫌でありますっ!(ふるふる)」
「…それにそもそも、この生き残りゲームではいずれ、貴方と私はこういう
間柄にしかなりようがないのよ…だからお願い、『死んで』頂戴」

474パラレル・ロワイアルその418:2005/06/02(木) 19:37:11
 ばっさばっさ。
(頃させるわけには、いかない……)
 そして同時に、これは最初で最後のチャンス。
 リサに遭遇したとき、姿を最後まで見付からずにいられた。だから冷静に
敵味方の判別が出来た。
 自分が本来の姿なら、このみは助けを求める視線を、隠れている死角へと
流してしまい、その存在をリサに察知されていた所であろう。しかしリサは
まだ自分の存在には全く気付いていない様子だ。今ならわずかな隙をつける
だろう。
 リサを見る。そして彼女が身に着けているコスチュームに念を集中する。
 法術、それはほんのわずかな力に過ぎない。だが……ただジッパーを引き
下ろすだけなら、それで充分。

(さあ……楽しいストリッ…ゲフンゲフン、人形劇のはじまり、だ)

 唐突に、リサの服のジッパーがパッツンパッツンの胸元からへその上まで
縦一文字に引き下ろされた。

ジ――――――――――――ッ!

「NOッ!?……これはっ!?」

 立て続けに股下まで引き下ろす。

ジ――――――――――――ッ!(…プルンッ)

「NOOOOOOOOOッ!?」
 二度のセクハラでリサの両腕は本能的に胸元で交差し両脚は内股に大きく
かがんだ。同時にカラスが、全身の力を振り絞って飛び出す。

「クワァァァァァァァァッ!!」
 叫ぶ。通常ならばともかく今のリサならば、威嚇は充分通じるし、素早く
動くこともできなかっただろうから。
 カラスはすぐさま、小型ゴムボートの中にて転がっていた安全ブーメラン
(芹香→横蔵院→詩子→美汐経由)を両脚にて構えると、リサに躍りかかる。

 リサの体勢は崩れたまま。
 立て直す暇を与えず、カラスは〇.一八キロの飛行物体をその顔面に叩き
込む―――

 ―――その途端、一つの大波が横から小型潜航艇を揺さぶり、バランスと
視界を奪われたリサは海へと吹っ飛んだ。

『ビーッ、隠れ新規ゲスト警備兵、リサ・ヴィクセン、アタックダイブに
より殉職しました』




 一刻後、柚原このみはその肩へととまらせたカラスと共に、小型潜航艇の
中の人となっていた。最初は、海底の事情を知らないが故に乗る事を恐れて
ぐずっていたこのみを、ドーム侵入手段を得た事に必死のカラスが、身振り
手振りで何とか彼女を説得したのであった。幸い、小型潜航艇はS.F.の
管理・制御下に置かれた乗物であったため、その操縦は殆ど全自動であった
しそれでも足りない部分はカラスが法術でこっそりフォローを行っていた。

「それでは出発でありますよーっ」
 ばっさばっさ。
(待ってろよ、観鈴…今、そっちへ行くからな…!)

 余談となってしまうが、そう口にするこのみのスカートのポケットには、
朱色のゾリオンがパンパンの状態で詰め込まれていた……巡視艇のタラップ
に横たわっていた、岡崎直幸の『死体』と共に転がっていたのを、カラスが
回収してこのみに持たせたのである。

 そして今、海中に没して行く小型潜航艇を見やりながら、タラップに横た
わったままの直幸は、ようやく『遺言』をポツリと漏らした。
「ドームの防衛…そして、最後のゾリオン……何とか、もう…おれはやり終えたのだろうか…」

475 パラレル・ロワイアルその419:2005/06/09(木) 18:01:19
 一方、こちらはFOREVERエリア(415話出だしのはNG)を抜け
MINMESエリアへと侵入した兵員輸送車。操縦しているのはハンドルを
握っている千堂和樹と助手席の大庭詠美…ちなみに、二人とも兵員搭乗室の
変事には全く気付いていなかった。

「今のところはちょおスムーズに移動してるわねぇ和樹っ、どうやらゲスト
警備兵の連中も、もうほとんどやられ尽くしちゃって、アタシ達を止める所
か、探す人手も足りなくなっちゃってるってトコなんじゃないかしらっ?」
 緊張感が失せかけている詠美の言葉に、和樹は厳しい口調で返事をする。
「オイ詠美…お前、編集長が脱落したからって、緊張感が抜け過ぎてるぞ…
確かに主催者側の総人数は減っているけど、ラスボス候補の方は後ろの倉田
さんを含めて三人とも健在で、しかも倉田さん以外の二人は編集長にも劣ら
ない実力派の成人男性なんだぞ、そこの所判っててリラックスしているのか
、お前は?」

「わかってるわよぉ、もー、和樹ったら…いくらアタシだってそー簡単には
本編の二の舞を踏むようなドジなんか……くっくまっ!?」
 頬を膨らませながら扉の窓枠に頬杖をついて外の景色を眺めていた詠美は
その時、サイドミラーに映る一台のエレバイクの姿を目の端に捉えた。

 手放し運転で後ろからぐんぐんと近付いて来るそのエレバイクは、何と熊
(の着ぐるみ)が搭乗しており、両手で構えたドラグノフ狙撃銃をいきなり
…発砲して来た!

 チュイーン!

 間一髪、偶然発見出来たが故に、詠美の回避行動はギリギリで間に合い、
BB弾はサイドミラーの支柱へと命中して跳ね返った。

「敵襲か、詠美っ!?」
「そーよ和樹っ、後ろからバイクに乗ったクマゴローが接近中よっ!」
 驚く和樹へと叫んで答えつつ、バッグから発炎筒と悪臭手榴弾を引っ張り
出す詠美。いざという時は意外と冷静だったりする。

「何てこった、機銃座の七瀬さんは気付いていなかったのかっ?」
「ヒョッとして、アタシの前にもうクマゴローに撃たれちゃったとかいうん
じゃあ…?」




 その頃、上部機銃座の方ではエレバイクのエンジン音に後ろを振り向いた
七瀬留美が、後部ハッチを開けて顔を出してきた虚無僧を偶然発見し思わず
ギョッとなっていた。
「なななななななっ!?誰よアンタッ!?」

「20番の覆面ゼロだぁっ!会いたかったぞぉ、69番・七瀬留美ぃぃ!」
 網笠をかぶり首に喜捨箱を下げ、両手に紫と緑のゾリオンを構えた虚無僧
が、屋根の上へとその姿を現し、声も高らかに名乗りをあげた。

「!!…その声、どうしてっ!?…TEAM高槻は24時間以上も前に既に
全滅しちゃったはずよっ!?」
 ゼロの名乗りに対して思わず、驚愕の表情で再び疑問符付きで叫ぶ七瀬。

476 パラレル・ロワイアルその420:2005/06/09(木) 18:02:42
「ほほぉぉぉっ?この俺様の完璧なる変装を一発で見破るとは流石だなぁぁ
ぁ七瀬ぇぇぇっ…確かにぃぃぃっ、No.1からNo.6まではぁぁぁっ、
昨日の晩までにぃぃぃっ、全滅ぶっこいてやがるよなぁぁぁっ」
「!…成る程ね、それで“本編不参加のゼロ”と名乗っていたという訳なの
アンタ……確かに、あの千鶴さんがそうそう無名の警備兵にやられちゃうだ
なんて、おかしいなとは思っていたけど……って、チョットアンタッ!その
緑のゾリオン…まさか、倉田さんをっ!?」
「お前の居場所を尋ねてみたんだがなぁ、仲間を売るのは嫌だと断ったんだ
なぁ、これが……ま、後は想像に任せるぜぇぇぇっ」
「よくも!…で、アンタは一体、アタシを探して何の用があるっていうの?
…まさか、本編不参加のアンタがアタシに借りがあるっていう訳じゃあある
まいし第一、TERM高槻の仇討ちだなんて、些細かつナンセンスな行動を
選ぶ様なアンタじゃあないんでしょっ!?」
「半分正解だぁ、仇討ちである事には間違っていないなぁ」
「一体、誰の…?」
「これ以上の問答は無用だぁっ…行くぞ七瀬ぇっ、覚悟はいいかぁっ!?」
「…よくないって言った所で、やめる気なんかないんでしょおっ!?」




「外れてしまった…やはり、クマさんの格好で手放しバイクでは無理という
ものか」
 そうつぶやくと、エレバイクに乗ったクマさんこと坂上智代は構えていた
ドラグノフをあっさり放り捨て、今度はイングラムを荷台から取り出した。

「こうなったら、直接操縦席に弾を撃ち込むより他に手はないか」
 言いつつ、前方を走る兵員輸送車の屋根の上を見やる。

 屋根の上に設置された機銃座が、梯子車のゴンドラの様にぐんぐんと上へ
と伸びて行き、その中には銀玉鉄砲を乱射している七瀬留美がいる。そして
それに対し、伸びて行く支柱の影に隠れて紫と緑の二丁ゾリオンで応射して
いるのは謎の虚無僧・覆面ゼロ…もとい、元MINMESエリアの統括者で
あった塚北研究員。

「敵の敵は何とやら、か…取り敢えずは助太刀の義理も必要もなさそうなの
が幸いだな」
 智代はエレバイクを加速させ、そのまま兵員輸送車の左側面へ回り込もう
とする。

「助手席に姿が見えたのが11番で、屋根にいるのが69番…と、いう事は
恐らく操縦席にいるのは53番…残りの35番は兵員搭乗室にいるのか?…
…うっ!」
 突然、智代の視界が濃い煙に覆われた。助手席にいる大庭詠美が、発炎筒
を焚いて窓の外へと突き出したのである。
「クマゴローのクセに生意気なのよっ!この大庭詠美ちゃん様は、そー簡単
にはやられないんだからっ!」

「戦力外だと多寡をくくっていたが…なかなかの粘りを見せてくれるな」
 智代はエレバイクを減速させ、今度は右側面の方へと回り込もうとする。

「和樹っ、そっちへ回り込んだわよッ!」
「わわわ、詠美っ、俺越しにそんな物、窓に投げつけるなっ!」
 操縦席の窓から和樹の叫び声とともに煙を吹く発炎筒が飛び出して来た。

「愚かな…投げ付けてしまったら、煙幕はその一瞬だけで終わってしまうと
いうのに」
 構わずそのまま直進して煙幕を突っ切る智代、しかし。

「!!」
 一瞬の煙幕を突き抜けた直後、智代の目の前へといきなり現れた物体は、
ピンの抜けた悪臭手榴弾であった。

 …ボンッ!!

 爆発音と共に、再びエレバイクがクマさんもろとも激しい煙に包まれた。

477 パラレル・ロワイアルその421:2005/06/09(木) 18:57:07
「はっ…くしゅんっ!」
 THE−TOWNエリアを抜けて、MINMESエリアへと進入した六人
連れ…その先頭を歩いている黒ロンゲコンビの内の片方こと神奈備命がいき
なり、くしゃみと共に小さく身震いをした。

「まあ、大丈夫ですか神奈姫さん?」
 隣を歩いていたもう一人の黒ロンゲこと草壁優季が神奈を優しく抱き締め
ると、スクール水着で露出している神奈の二の腕や腿を、暖めようとするか
のようにすりすりとさすり始めた。

「うわ…よ、よすのじゃ優季っ…くすぐったいのじゃ、くすぐったいのじゃ
…うふふふふふぅ、余なら大丈夫じゃというておるのじゃ、うふふふふふぅ
(じたばたじたばた)」

「…確かに、本当のアウトドアでしたらばともかく、それなりの温度調節が
なされている海底ドームの中では、神奈さんにとってはいささか、寒いかも
しれませんね」
 天野美汐の思い出したかのような言葉に、月宮あゆも思い出したかのよう
に神奈に尋ねる。
「うぐ、神奈さん…さむかったらもういっぺん、ボクの中へ戻る?」

 しかし神奈は首を横に振った。
「確かに、合理性のみを考えればその案は極めて妥当な策なのじゃが…あゆ
一人だけならばともかく、もし同時に五人をとっさに護らねばならぬ時の事
を考えた場合、余は外におった方が何かと都合がよいのでな」

「あっ…そうでした!」
 優季がポンと手の平を叩くと、持っていた買い物袋の中をごそごそと漁り
始めた……余談であるが、(未着組を含む)鳩Ⅱ組の殆どは、この日揃って
来栖川ツインタワーにショッピングに行った帰りに、るーこ・きれいなそら
がバイトをしているK,s Kafeteriaに立ち寄ってゲーム観戦を
していたのであった……果たして、優季が買い物袋から取り出し差し出した
物を見た神奈は思わず一瞬、目を輝かせた。

「おお、浴衣ではないか」
「はい。お盆の縁日も近いことですし、今年はぜひ新しいのをと思いまして
…サイズは大きめですが、神奈姫さんでもお召しになれることでしょう」

「しかしじゃな優季、これは優季が自分のために買うた物であろう。折角の
おろしたてをいきなり余が袖を通してしまうというのは、やはり勿体無いし
申し訳ない事だと余は思うぞ」
 目を輝かせてはみたものの、やはり自分のために大切な物を躊躇いもなく
差し出そうとする優季の善意にそのまま甘えてしまうのには忍びなくなり、
思わず両手を突き出しいやいやをしながら辞退しようとする神奈。しかし、
優季の方も神奈に負けない位その瞳をキラキラと輝かせて神奈の手を取り、
すぐ近くにある扉の開け放たれたままのビル―――奇しくもそこは戦場跡の
マザーコンピューターステーションビルだった―――へとワクワク顔で引っ
張って行った。

「優季……?おい……」
 うっとりと目を輝かせた優季は、すっかり自分の世界に浸っていた。
「でも、えっと……縁日の自分の晴れ姿を楽しみにして待つのもすごく素敵
ですけど、神奈姫さんの晴れ姿と今のゲームを楽しもうというのも、大切で
すよね」

 そして、そんな二人のやり取りを何も言えずに傍観していた残りの四人の
目の前で、手を取り合った二人の姿はビルの中へと消えて行ってしまった。

「うぐぅ…ふたりとも、着替えにいっちゃったよぉ」
「にははっ、でもやっぱり神奈ちゃんの浴衣姿、楽しみだね」
「それはそれとしまして、風子たちも何かお手伝いに行きましょうか?……
不肖ながら実は風子、和服の着付けはまだできないのですが」

「!…行きましょう皆さん、着付けの出来る出来ないはともかくとしまして
、これ以上のメンバー分断は例え一時的なものだとしても、やはり危険な気
が致します」
 美汐が慌てて三人を誘い、神奈と優季に続いてビル内部へと侵入しようと
したまさにその時、ビルの開け放たれたままの扉が突然閉まり、シャッター
までもが続いて下ろされてしまった。




「やりましたお父さんっ…教えられました通りに、神奈さんと他の皆様との
分断に何とか無事成功しました」
「よくやった渚、流石はオレ様と早苗の愛の結晶!……これで、心置きなく
MINMESエリアへと侵入して来た連中を片っ端から攻撃出来るぜっ……
待っていてくれ渚、MINMESエリアの連中を全部きれいに掃除したら、
すぐそっちへ駆け付けてやるからなっ……それでこのゲームも無事終了だ」
「はいっ。待っております、お父さんっ」

478パラレル・ロワイアルその422:2005/06/16(木) 20:42:08
「援護を、頼むぞ」
 SUMMERエリア・緊急施設を取り囲むように鬱蒼と存在する大森林…
その南東部を迎撃のために移動していた立川雄蔵は、相棒の美坂香里にそれ
だけ言うと、駆け出して行ってしまった。大きく回りこんで、雄蔵と香里で
見付けた相手を挟み込む形になるよう、接近するつもりなのだろう。

「ちょ、雄蔵!待って!」
 香里の制止の声さえ聞かず、雄蔵はみるみる離れていった。

「ん、もう!」
 とにかく、雄蔵を放ってはおけない。遅れてしまえば包囲とならず、各個
撃破されかねない。そう考えた香里はパイトミーガンを握り締め、川澄先輩
たちを牽制するべくその一歩を踏み出した。




 ダッ! ダッ! ダッ! ダッ!
「しまった!気付かれちゃったっ!?」
 雄蔵の敵意を持った露骨な接近は、完全に気配を消していたと思っていた
春原陽平と川澄舞にとって、いきなりの戦闘開始の合図となった。

(だが!舞さんを狙う奴なら容赦はしないぞっ!)
 春原は右手に持ってた橙色のゾリオンを構え、躊躇わず、引き金を引く。

 ビッ!ビッ!
(くそおっ……木の幹に当たっただけか……)
 そのまま、雄蔵の姿が木に隠れる。

(飛び道具は持っていないのか……いや、フェイントの可能性もあるな……くそっ!)
 春原は舌打ちをし、敵の姿を探りながら、舞に声をかける。
「舞さんっ!向こうが何を持っているかわかりません!気をつけてっ!」

「…分かった」
「じゃあ、後ろのオスカルを頼みますっ!」
 そう言って春原はゆっくりと横に歩く。
 林の中の木に隠れつつ、自分の位置から半円を描くような形でじっくりと
雄蔵の隠れている木に接近する。
 ゾリオンの射程まで本当に、じっくりと。


 数十秒の後、もう少しで雄蔵の側面に回り込める位置に春原はいた。
(くそおっ……向こうの姿が見えないのが気になるけど、さっさと済ませて
舞さんの援護に行かないと……)
 手強そうな巨人番長とオスカルにもう一人坂上智代まで増援に来て三対二
になってしまったら、いくらこちらが二人供ゾリオンを持っているとはいえ
、自分の実力分舞さんがかなり不利になってしまう。
 この場を切り抜けるには、番長を手早く脱落させ、一刻も早くオスカルの
相手を頼んだ舞さんを助けに行くのが、春原の策だった。
 だから自ら仕掛けるというヘタレの春原にとって極めて度胸のいる状況を
番長に提供する代わりに、手早く戦いを終わらせられる状況を、春原は作り
出したのである。

(あと三歩……)
 ザッ
(あと二歩……)
 ザッ
(あと一歩……)
 ザッ

 そして、射程内。
(喰らい……)
 ビュン!
 最後の一歩を踏み出してゾリオンを向けようとしたその瞬間、たんぽ槍が襲い掛かった。

 バキン!
「グエッ!!」
『ビーッ、防御装置作動しました…残り47HITです』

 ヘルメットを吹っ飛ばした頭への一撃にもめげずに、ゾリオンの引き金を
連続で引く。

 ビッ!ビッ!ビッ!ビッ!
 ほとんど威嚇射撃のようなものであったが、それを制しようと振り回した
雄蔵のたんぽ槍が樹木に当たり、槍を破壊する。
 そこに、雄蔵が素早く春原の正面に踏み込んだ。

「せやっ!」
 ブゥン!。
 槍の柄を投げ捨て、雄蔵が春原の顔面に、反対側の手に持ったヌンチャク
を叩き込む。

「ひぎいっ!!」
『ビーッ、防御装置作動しました…残り46HITです』

 予想してなかった強襲に春原はバランスを崩して五メートルほど吹っ飛び
、衝撃でゾリオンをさらに後ろの方に落としてしまった。
(ちくしょうっ!なんて無様なんだよっ!)
 毒づいた台詞を心で一人吐きながらフラフラの頭を抑え、立ち上がろうとした時。

479パラレル・ロワイアルその423:2005/06/16(木) 20:43:20
 ブンッ!
「ウボオッ!!」
『ビーッ、防御装置作動しました…残り45HITです』

 二撃目のヌンチャクが春原に当たる。
 再び顔面に炸裂する衝撃に春原が耐えられるはずもなく。今度は仰向けに
なって倒れた。

(くそおっ!智代じゃあるまいし何度も何度も……)
 頭を振りながらチラッと目だけで前を見ると、ゆっくりと雄蔵が近づいて
くる。そして、同情の視線を一瞬だけ向け―――

 がすっ!がすっ!がすっ!がすっ!がすっ!
『ビーッ、防御装置作動しました…残り44HITです』
『ビーッ、防御装置作動しました…残り43HITです』
『ビーッ、防御装置作動しました…残り42HITです』
『ビーッ、防御装置作動しました…残り41HITです』
『ビーッ、防御装置作動しました…残り40HITです』

 何度も何度も春原の頭を打ち据えた。
(くそお…調子に……調子に……)




 一方、立川雄蔵は自分の揺ぎない勝利を確信していた。
(上手くいった、といった所か)
 春原がこちらへ向かって来るのは予想していた。
 こっちの武器がわからず自分から仕掛ける時には最良の手なのだから。
 だが、戦素人の春原では無茶な戦法だ。
 数秒でしかないが、春原が何処にいたかは雄蔵には解った。
 否、春原が居場所を宣伝していた。
 あとは簡単だ、春原が木と木の間に隠れて、自分が一瞬見えなくなるの
と同時に、自分も移動すればよい。
 そして、先手を取る。頭に一発喰らっても乱射してきたのには正直驚いたが。




『ビーッ、防御装置作動しました…残り0HIT、作動終了です』

(さあ、止めだ)
 春原は、動いていない。

(流石に、体の方が『装備の性能』についていけなかったようだな、武士の
情けだ、最後はヌンチャクではなく俺自らの拳でつけてやろう)
 そうして、両膝を着くと、マウントポジションとなり春原の顔面へと狙いをつける。
 パワーを殺せば当たり所が悪くても、鼻血ブーにはならないだろう。
 そして、拳が春原の顔面に振り下ろされたその時―――

「調子に乗ってんじゃ……ねえよっ!!」
 突如思いっきり体を起こした春原が、雄蔵の顔面に拳を叩きつけた。

 ドガッ!!
 雄蔵の顔面に、銀色に光る―――桃缶がカウンターでめり込んでいた。

「馬鹿な!?……な、何故、俺の拳は外れたのだ…!?」
 マウントポジションからの必殺必中の一撃をクロスカウンターされた雄蔵
が、血しぶく顔面に驚愕の表情を浮かべて春原を凝視した。

「そ、そんな……己れの頭部を凹ませて、拳を避わす、男がいたとは……」

 ズズゥゥゥン。
『ビーッ、56番・立川雄蔵、有効打直撃により失格…直ちに交戦エリア
より退いて下さい』

 格闘マンガ調の昏倒音と失格アナウンスが森に、響いた。

「ハア……ハア……ハア……助かりましたよ……千堂さん」
 そう、春原の『命』を救ったのは倉田別邸にて千堂和樹に渡された桃缶で
あった。夕飯返上の強行軍に当たって、空きっ腹を鳴らした春原に、和樹が
渡してくれたのである。

(終わったら……陽子本執筆特別OKかな……)
 そんな事を思いながらゆっくりと春原は立ち上がり、動かなくなった雄蔵
から離れ、桃缶を回収する。
 そして、自分の鼻を摘んで踏ん張ると、凹んでいた頭部を元通りに膨らませる。

(まさか、48回も頃された末に、必殺カウンター奥義に目覚めるとはね)
 その時、この技でなら、このゲームが終わってから坂上智代にリターンマッチで
勝てるかもしれないな、と春原は思ったが。

(さて…行くかっ)
 そう、彼は赴く。
 再び戦場へ。

 56番・立川雄蔵 脱落
【残り 19人】

480パラレル・ロワイアルその424:2005/06/22(水) 21:22:19
「ビンゴッ!やったわ和樹ッ、クマゴローに直撃よぉっ♪」
 MINMESエリア車道を走り続ける兵員輸送車の助手席にて、大庭詠美
は操縦席の千堂和樹に向かって、ぐっ!とウインクしながらのガッツポーズ
を決めて見せた。

「やったのか、詠美っ?」
 春原陽平に緊急連絡を行っていた携帯電話をポケットへとねじ込みながら
、和樹がハンドル片手に安堵の笑みを詠美へと返す。

「クマゴローの顔面まっしょーめんで悪臭手榴弾が炸裂したのよっ…まー、
アレなら例え神奈備前でも、絶対お陀仏に決まってるわよっ」
「なら、そっちは大丈夫か……て事は、残るは屋根の上の虚無僧だけか……
仕方ない、俺が操縦室後ろの通用扉から兵員搭乗室を通って、後部のハッチ
から屋根へと登り、現在七瀬さんと交戦中の虚無僧を背後から奇襲する事に
する……詠美、悪いがその間、操縦の方をよろしく頼む」
「わかったわ…でも、気を付けてね和樹っ」

 キスを交わした後、AMTハードボーラーとビックリナイフを持った和樹
が通用扉から兵員搭乗室へ、ハンドルを握りデザートイーグルを腰のポケッ
トに突っ込んだ詠美が助手席から操縦席へと、それぞれの新たな持ち場へと
移動して行った。

 しかし、彼等は忘れていた。
 失格アナウンスを確認するという大事な事を。




「狭いぞ どぅー、なんとかしろ(ぐいぐい)」
「何とかしろってな…オイコラ、そもそもいっぺんに出よーとすんじゃねぇ
、るーこッ!」
 マンホール状の蓋を開けて、地上部分―――MINMESエリア内車道・
工事車両用停車スペースへと二人同時に(無理矢理)這い上がって来たのは、
御堂とるーこ・きれいなそら。強化服との戦闘によるロスタイムを考慮した
御堂が地下通路からの覆面ゼロ追跡続行を諦めて、地上からの追跡へと作戦
変更したのである。

「よし、準備はいいか?…んじゃあ、北東に移動を再開するぞ、るーこ」

「……いや、違うぞ どぅー、獲物は南だ……正確には、ここから南南東の
方角にいるぞ」
 さながら獲物の正体を委細承知なのかのごとく、御堂の追跡指示を真っ向
から否定するるーこ。

「おいコラるーこ、俺は元々、地下通路を南方面からやって来てたんだぞ、
どーして南に獲物がいやがるんだ?いーかげんな事言ってやがると、おめえ
……ってオイおめえ、そんなモンどっから持って来たんだっ!?」
 てっきり、知ったかぶっただけの適当な指示返しをされたものと腹を立て
掛けた御堂は、睨み付けようとしたるーこが持っているドラグノフ狙撃銃に
思わずギョッとなった。

「歩道脇の茂みに落ちていた」
 坂上智代が放り捨てたドラグノフの調子を確かめるかのごとく、御堂に背
を向けて一発試し撃ちするるーこ。発射されたBB弾は見事、20メートル
程離れた歩行者用信号機の押しボタンに命中した。
「銃に異常はないようだ…使うか どぅー?」

「い、いや…それはお前の戦利品だるーこ、お前が使えばいい」
 御堂は、るーこの射撃の腕に(流石に自分には及ばないとはいえ)内心舌を
巻きながら、まさかとは思うがもしかしたら…という考えを起こして、車道
の南方面を遥か遠くの方まで、じっと眼を凝らして眺めやった。

「!」
 果たして、御堂の視力の中に、遥か南の車道上にて、荷台にバッグを括り
付けたまま転倒しているエレスクーターと、燃えカスとなって転がっている
発炎筒が発見された。
「発炎筒?……確か、発炎筒を持ってやがったのは、敗者復活戦で同行して
いた……おいるーこ、もしかしたらお前の勘通りかもしれねぇ、言った通り
南の方へ移動するぞッ」

 るーこはドラグノフの再調整を終わらせると、御堂に向かって返事代わり
に元気よくるーをした。

481パラレル・ロワイアルその425:2005/06/22(水) 21:23:50
 詠美と和樹にとっての不幸は、この兵員輸送車が、360話の救急搬送車
と違って、操縦室と後部搬送室の間の遮音性が高かった事だろう。七瀬留美
がストライカーズを奇襲した時はそれがプラスとして働いたが、倉田佐祐理
が脱落した時にはそれがマイナスに働いてしまった。そしてもう一つの不幸
は、黄色いバンダナ(仮称)にもびくともしなかった坂上智代が、クマさんの
状態で悪臭手榴弾を喰らったとしても、脅威となるのはせいぜい、爆風位で
あるという事実である。更に第三の不幸は、倉田佐祐理が退場する際に通過
した輸送車の後部扉が、ロック不十分で半開きの状態になってしまっていた
事実であった。

 いきなり操縦室の通用扉が開き、兵員搭乗室へ行った筈の和樹が倒れ込んで来た。

「かず……き……?」
 詠美が操縦席に凍り付いた。

 ―――ハナが、いたい……。
 ―――くさい、を通り越してすごく、いたい…何も、違う、うまく、かんがえられないけど。
 ―――おれ、脱落……かな……わからない。

「―――」
 声が聞こえる……彼女の、声が……。
 最後に残された気力で、目を、開く。

「―――」
 かすみがかかった視界の中で、詠美が、驚いていた。

(うかつだった。クマゴローはやられていなかった。……爆風でこの車へと飛び移り、
後部扉から車の中へと入ってきやがってた……逃げろ……詠美……ゴメン、俺はもう、
護れない……)

 更に…和樹の倒れ込んだ体に続いて、悪臭手榴弾の爆風をたっぷりと吸い込んで
毛皮が黄色くなり掛けた熊の着ぐるみが、操縦室へと入って来た。


 だが、その行為は
「あああああああああああっ!」
 逃げ場のない詠美に、耐えがたい悪臭をもたらすものだった。

 臭い臭いっ!息が出来ないっ!
「ぎゃああああああああああああっ!」
 死ぬっ!このままでは『死んで』しまうっ!
 嫌よっ!
(『死に』たくない……や……だ……)
 籠もる悪臭の中、詠美は自分達の運命を呪う。
(アタシが、なにをしたってゆーのよっ?……したけど)
(ああ……臭いっ……『死に』たく……ない……『死に』たくな……い……)
 体が力を失い、倒れこむ瞬間に熊と、目が合った。
(どーしてアタシを頃すのよっ?アタシがやっつけた筈なのにっ!……この……あ熊……)

 自分の攻撃でひどく黄色がかっている、熊の着ぐるみ。
 そんな熊を恨みながら、
「……ああああああああっ!」
 断末魔の悲鳴と共に、彼女の出番が終わりを告げた。




 言葉が出ないぞ。
 ハハ……ちくしょう……。
 できることなら……もう一回やり直したかった……。
 詠美のことだけ……考えてればよかったんだ……。
 ちくしょう……ちくしょう……。
「……詠美……護れなくてすまな―――」

『ビーッ、11番・大庭詠美、ナースストップにより失格……ジェット斉藤さんは直ちに、
救急搬送車にてMINMESエリア・マザーコンピューターステーションビル前通りまで
急行して下さい』
『ビーッ、53番・千堂和樹、ナースストップにより失格……ジェット斉藤さんは直ちに、
救急搬送車にてMINMESエリア・マザーコンピューターステーションビル前通りまで
急行して下さい』

 ちょっと待て……最後に一言だけ……。
 一言……。
 ……ヒトコト……。

「……リアルタイムな話だが、こみREBOに、栄光あれ……」


11番・大庭詠美 53番・千堂和樹  脱落
【残り 17人】

482パラレル・ロワイアルその426:2005/06/29(水) 17:53:01
 話は少し遡る。

 ブルブルブルブル…ブルブルブルブル…。
 ピッ。

『ザケテンじゃあねーぞッ!!なんでこんな時に電話してくんだあああああああッ!!』
 尻ポケットの携帯電話からのバイブコールに対し、春原陽平はそう心の中
で絶叫しながら着信ボタンを押した。

「春原ですっ……悪いですが時間がありませんっ。今戦っている筈の舞さん
を今すぐ直ちに助けに行かなくてはならないんですっ」
「千堂だ、ほんの少しでいいんだ、頼むから聞いてくれないか」
「三十秒だけです、それ以上は待てませんよっ」
「充分だ、すまないな春原君」

 電話越しに爆音が一つ。恐らくは千堂達も交戦中なのだろう。
「謎の虚無僧とバイクに乗った熊の奇襲を受けている」

 ここで一度言葉を飲み込みながら和樹は続きを話す。
「そ、それで倉田さんがやられてしまった。俺達の知らない間に」

 春原の意識が遠くなっていく、ま、まだ心が折れては駄目だ……。

「乱暴な言い方になるが……CLANNADの春原君にとっては最早、自分
の組織を裏切り続ける理由はなくなったんだ……もしも、春原君が元ゲーの
仲間達の元へ戻りたいのならば、今からでも……」
「馬鹿言わないでくださいよッ!!だって僕には、僕にはまだ……」

 スパン!スパン!
 音が、森に響き渡る、銃声だ。

「しまった!始まっちゃったのか!悪いけどもう聞けないよッ!」
 そう言うと春原は携帯を再び尻ポケットへとねじ込んで銃声が聞こえた方に走って行った。




「…香里、今のアナウンスを聞いたか?勝ったのは、春原だ」
 諭すようにして、刀と青色のゾリオンを構えたまま立ち上がった川澄舞が、高らかに宣言する。

「……そのようね。だけど、だからといって私が戦い続けない理由はありませんわ、川澄先輩」
 立川雄蔵のみの失格アナウンスが聞こえたのなら、雄蔵の敗北は決定的だ。
 だが現状では、まだ認めたくない。

 その辺の女心は舞も解っているのだろう。生存本能に身を任せ、発砲してきた。
「…観念するんだ」

 ビッ!ビッ!

 青いゾリオンのレーザー光線は、香里の視界を遮っている茂みや枝葉を、易々と
貫通していく。好きに撃たせれば、舞のペースにのせてしまわれるかもしれない。

「そう簡単にはやられませんよっ!」
 威嚇のために、パイトミーガンで応射する。狙いは適当。

 スパンッ!ベチャッ!
 木の幹に命中したパイ弾が派手に飛び散って、期待通り銃撃が止まった。

483パラレル・ロワイアルその427:2005/06/29(水) 17:54:09
「…失うものを無くしたが故の、哀しき強さか……」
 やりきれなそうな舞の声が肉薄していた。多分、倉田先輩はまだ脱落して
いなくて(実はもう『いない』のだが)、相棒を失った自分に同情して、降伏
させるための戦いを挑んでくるつもりなのであろう。

 それだけ解っていれば、対応は簡単だ。
 ……肉薄された分後退すれば、それでいい。
(川澄先輩は―――今度は刀で、挑んでくるのだから)
 するすると後退する。後は燻り出すだけ。
 なんのことはない、たった一つの本編ネタで、それは成る。

「あなたも舞を頃そうとするんですねーっ。あははーっ、そんなこと、この佐祐理が許しませんよーっ」
 そう言った香里の表情は。
 城島司を返り討ちにした神岸ひかりに、そっくりであったかもしれない。

「…!? どうしてっ、佐祐理っ!!」
 驚きと焦りに我が身を忘れて、舞が飛び出す。

(本当に―――女でも萌えてしまいたいくらい)
 ボイスチェンジャーを放り捨てた香里が、引き金を引く。
 その真正面に、舞。
(―――お約束な、先輩ね―――)

 スパン!ビチャッ!
 直撃したパイ弾が、一瞬にして胴体を真っ白にする。ドリフのコントのように染め
上げられた腹部から大量の飛沫を撒き散らし、舞は吹き飛んだ。
 脱力し、刀とゾリオンを手放したころには、すでに目の焦点があっていなかった。

『ビーッ、27番・川澄舞、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリアより退いて下さい』

 ―――勝負はついた。
「何て結末なのかしら―――私一人、生き残っちゃってもしょうがないのに―――」
 香里は呆然としていた。
 自分は、大事な人と『生き別れ』ても平然と作戦を立てて強敵を倒せるような女だったのか。
 しかし、そんな自己嫌悪の時間は。
 泡沫のような、一瞬のイベントでしかなかった。

「……それなら僕が、撃ってやるッ」
 舞の飛び出してきた場所から、満身創痍の男が飛び出して来たからだ。
 その眼に鋭い怒りの光を宿した、声の主がいたからだ。

 その姿を確認すると同時に、銃を構え直す暇もなく、

 「あうっ!」
 レーザー光が、香里の身体を貫いた。

『ビーッ、85番・美坂香里、有効弾直撃により失格…直ちに交戦エリアより退いて下さい』




 事実上の死亡判定。
 最後の最後に、雄蔵の傍らにいられなかったことだけが、心残りだった。

 自分は絶対に、選択肢を間違えてはいなかったと、自信を持って言える。
 何故なら、今現在までに発表されている、いずれの葉鍵系ロワイアルでも(生死不明の一作及び、
連載中の某アライブを除けば)、出番が極めて短命がちな自分がここまで頑張る事が出来たからだ。

 不本意な戦いもあった。
 主催側に寝返った。
 後悔がないわけではないけれど。
 飛行船で、雄蔵に別の選択肢を選ばせていたらと思うこともあるけど。
 最後に辿り着いたこの結果に満足できれば。全て許される。
 最後まで雄蔵と二人三脚で進み続けられた私の選択は。
 間違ってはいなかった。

 27番・川澄舞 85番・美坂香里  脱落
【残り 15人】

484パラレル・ロワイアルその428:2005/07/06(水) 21:11:28
「どうじゃ、似合っておるかの優季?」
「うふふっ、大変よく似合っておりますよ、神奈姫さん♪」

 MINMESエリア内・マザーコンピューターステーションビル最上階の
総合指令端末室にて、草壁優季に下ろしたての浴衣を着付けてもらった神奈
備命は、とても嬉しそうな笑顔を浮かべながら優季の前でくるりと一回転を
して見せていた。

「では…そろそろ本題に入るとしようかのう、優季?」
 一回転を終えた神奈ははしゃぐのを止めると、急に真顔に戻って優季の顔
を真正面からきりりと見据えた。

「え…あ、あの神奈姫さん…それは一体、どういう意味なのでしょうか?」
 ぎくり、とした表情を隠しきれないままに慌ててる優季に対し、更に突っ
込む神奈。
「百歩譲って、確かに、ほんの少しだけは子供なのかも知れぬがのう、こう
見えても余は阿呆ではない、伊達に千年も時を過ごしてはおらぬぞ。映画の
話といいあゆや風子の名前といい、お主は余りに知り過ぎておる…そもそも
からして、お主は西暦二千四年八月現在、その存在が公とはなってはおらぬ
きゃらくたーなのではなかったのかのう?」

「………………」
「しかしな優季、そなたは会うたばかりの余を信じ、優しく接してくれた。
それに免じて、真実を教えてくれさえすれば、全てを水に流して進ぜるぞ。
余もそなたを信じておる、故に他の者達を置き去りにして、ここまでそなた
に付いて参ったのじゃ」

「…そこまでおっしゃられて頂いてしまっては私は最早、神奈姫さんにだけ
には隠し事を続ける訳には参りませんね…」
 優季は観念したかの様に小さく頷くと、ぽつりぽつりと口を開き始めた。
「……それではまず、読者様へのネタばらしになり過ぎてしまいません様に
お話をして参りますと……」




「…成る程のう優季、お主はこの作品が執筆されておるりあるたいむ―――
十一か月後の時空からやって参ったという訳なのか、これは驚きなのじゃ」
「…千年の時を過ごされた神奈姫さんが、たった十一か月に驚かれるのも、
どうかと思いますが…」

「しかしやはり、過去よりも未来からやって来た者の方が余は凄いと思うて
おるぞ…でだ優季、そなたが観戦しておった巨大すくりーんぱねるとやらに
柳也殿と裏葉が映っておるのが見えたというのはそれは本当の事なのか?」
「はい…確か、あれは神奈姫さんが水族館で電話をしている110番さんの
頭を、後ろから怒りながら三回殴っておりました時、通話相手でありました
85番さんから興奮し過ぎたと思われる裏葉さんがはみ出して、電話に向か
って怒っておられ、それを56番さんからはみ出して参りました柳也さんが
慌てて止めておられました…もっとも、柳也さんの方は映画でご覧になりま
した方とは少々、違って見えておりましたが」

「そうか……柳也殿といい裏葉といい、余をたばかってこっそりとこの遊戯
に参加しておったとは……恐らくは、らすぼす候補の一役として主催者側に
すかうとされたのじゃな……」
「あ、あの……神奈姫さん、もしかして、怒っていらっしゃるのですか?」

485パラレル・ロワイアルその429:2005/07/06(水) 21:12:21
「いやいや、なんのじゃ……大方二人とも、余が千年前に非殺を命じた末に
辿り着いた結末を悔やんでおる事を気にして、今一度余に非殺を命じさせん
がために、強力無慈悲ならすぼすを演じていきなり、余の前に参上しようと
いう腹積もりであるのじゃろう……あの時の非殺の誓いが過ちではなかった
という事を、余に遠回しに悟らせんがためにな……それにしても、この調子
では多分、母上すらもこの島に来ておってもおかしくはないのう……って、
おい優季、なぜ泣いておるのじゃ?」
「ご免なさい、神奈姫さん。つい映画の可哀相な神奈姫さん達を思い出して
しまいまして…」

「同情するでない。その分、この作品の本編では悪意の権化として憎まれ役
をば存分に勤めて参ったのじゃからしてな……それはさて置いてじゃ優季、
果たして鍵組の方からは誰か、優季のようにりあるたいむからやって参った
者はおるのかの?」
「残念ながら神奈姫さん、もしもやって来てしまいますと、同じ時空に同じ
キャラクターがお二人存在してしまいます関係で、2005年7月現在から
やって参りましたのは私一人でございます…ですが、その代わりに2005
年7月現在のとある、未だ名前も不明な作品の鍵キャラクターの方々より、
2004年8月に存在する、過去の自分自身宛のメッセージを、機会あらば
是非伝えて欲しいと、こちらのディスクに記録され、託されて参りました」

「ほう、未来の鍵組からの言伝手とな、それは興味深い話じゃな……じゃが
しかし、当の言伝手相手は果たしてこの遊戯で今も生き残っておるのか?」
「幸いな事に、お三方ともまだ生き残ってらっしゃいます……ですので早速
、このディスクをS.F.へとインストール致しまして、当のお三方宛ての
メール送信を行おうかと思っているのですが……」

「しかし、逆に考えてみるとじゃ…生き残っているその三名の者達へ、例え
相手が本人同士であるとはいえ、未来の情報を伝えてしまうとじゃ、それが
原因でこの遊戯の結末が大きく変わってしまう可能性もあるやもしれぬぞ」
「それをおっしゃってしまわれては神奈姫さん、私が柳也さんと裏葉さんの
極秘参加を神奈姫さんへと明かしてしまいました時点で、この作品の展開も
既に大きく変わってしまいましたと思うのですが…」

「そっちの方は別に構いはせぬのじゃっ。いかなる動機・思惑があろうと、
余をたばかろうとする者達は、返り討ちにあってしかるべきなのじゃからな
……それでその、名も決まっておらぬ鍵作品の三名とは一体、どの様な連中
なのじゃ?」
「はい……こちらのお三方です」

「むむむ、これは…事と場合によっては、この遊戯の結末のみならず、元の
作品の真実の未来にまで影響を及ぼすやも知れぬな…」
「神奈姫さんの仰る通りです…ですからこそ、主人公の方からのメッセージ
が存在しないのでしょう……いずれの未来を真実とすべきかなんて、主人公
の方にだけはとても、選ぶ事等出来る筈はありませんでしょうから」

「うむ、それを唯一に選ぶべき存在は、その時現在の主人公のみであるべき
じゃからのう……じゃが、しかしな優季…例え本人から本人へと当てた伝言
であるとはいえ、その手に…幾多の他人の未来への影響を及ぼすやも知れぬ
情報の扉の鍵を握り…そして敢えて、それを差し込んで捻ろうという、その
事に対する覚悟は出来ておるのか…?」
「確かに……もしもそれが結果的に間違った行為であって、間違った結末を
招いてしまったとしたら…自分の未来ではありません分、そのことで一生、
私は私なりに悩み、苦しみ続ける事になるかもしれません……。

でも……でも……。
もしそれが未来の私自身から託されたものだとしたら。
私なら……試してみたいと思います。
その先に何が起こるのか……」


 どこか思い詰めたような優季は、神妙なる面持ちの神奈が見守っている中
、バッグから取り出したディスクをS.F.にそっとインストールさせた。

 S.F.はディスクより受け取った情報にて三通のメールを作成し、それ
ぞれの宛て先である携帯電話に向けて、メールの一斉送信を開始完了した。

486パラレル・ロワイアルその430:2005/07/12(火) 17:58:28
 一体どれほどの間、春原は立ち尽くしていただろう。
 それまでの出来事は、あまりにも唐突な事ばかりだった。

「…春原……」
 その声と供に、春原の立っていた近くの茂みが、明るく光り出した。
「…悲しむな……、お前のそんな顔を見るために、私はお前を同行させたんじゃない……」
 そう、あまりに突然。
 春原の耳に入ってきたのは、護るべき人の声。

「ま……舞さんっ!」
「…うん、そうだ、私だ……」
 やがて、光を発している刀を持った人の姿が、むっくりと茂みの中から起き上がる。

「良かった……『生きて』たんですねっ……」
 ああ、嬉しいっ。
 僕が本当に護りたかった人は、『生きて』いた。
 そんな事を思っていた矢先。

「…すまない……もう行かなくてはいけないのだ……」
 舞が、微笑む。
 だが、その笑顔は春原にはあまりにも残酷で、

「やだっ!やだっ!やだっ!やだっ!やだよっ!」
 春原があらんばかりの声を上げ、大粒の涙を流す。
「お願いですっ!行かないでよ舞さんっ!佐祐理さんもやられちゃって、舞さんまでいなくなったら僕、何もできなく
なっちゃうよっ!僕だけが『生きて』たって、ちっとも嬉しくないよっ!どうしてっ!ねえっ!お願いだからっ……」
 春原は泣く、溢れる涙を、拭うことなく。
「行かないでくれよおおおおおおおおおおおおっ!!」

 だがその願いはかなわない、ルールは厳正で、春原の想いは、届かない。
 それは彼にも、解っているはずなのに、
 どうしてなのだろうか、涙が止まることはなかった。




 パシンッ!

 ふいに、春原は自分の頬に熱い痛みを感じた。
 目の前には、悲しい顔をした自分の護りたかった人。

「…私を困らせるな……。いいか、よく聞くんだ……」
 まるで子供を諭すかのように、ゆっくりと舞が話す。
「…私は、お前の事が嫌いじゃない、
 お前が、
 物笑いの種にされている時も、
 情けない時も、
 滑稽な時も、
 ヘタレな時も、
 そして、珍しくも格好いい時も、
 このゲームが終わっても、お前を嫌いじゃない。
 ずっと、ずっと嫌いじゃない………………陽子の時だけは、ちょっとだけ微妙だけど……」

487パラレル・ロワイアルその431:2005/07/12(火) 17:59:34
 そう言いながら、舞が両手に持っていた刀と青いゾリオンを差し出し、春原に手渡す。
「…だから今だけは情けない顔を、見せないで欲しい。それが私の、このゲームが終わる
までのたったひとつの願いなのだ。しっかり前を向いて『生き残って』くれ、春原……」
 それは、悲痛なまでの彼女の願い。
 『死』してなお、いきなり知らされた佐祐理の『死』を悲しむ事すら後回しにして、彼女が望んだ、願い。

「……」
 それは、彼に今、確かに伝わり―――
「舞さん……わかったよ……」
 今度は春原が、舞に微笑む。

「僕……がんばるよっ!舞さんの言うように、しっかり前を向いて、一生懸命『生きる』よっ!」
「…そうだ……それでいい……。大丈夫だ……お前はある意味、鍵唯一の神キャラなのだからな……」
「そうですよっ、この僕を今まで誰だと思っていたんですかっ、ボンバヘ〜♪」

 でも、どうしてだろう。
 どうしてもお茶らけながら、僕の涙はいつまでも流れ続けているんだろう。
 ああっ、彼女に残された最後の時間が刻々と過ぎていく。
 でも、最後に、
 もう、一言だけ。

「舞さん、僕たちずっと親友ですよね」
「…お前は、親友止まりで満足なのか?………陽平」

 しおらしい顔をした、最後の舞の『遺言』を聞いた時、
 春原の意識は、ドキュン!と天に舞い上がっていった。




「う……うん……」
 生い茂る草原の中、春原が目を開ける。
(夢・オ・チ・か…)
 なぜだろう、記憶がはっきりとしない。
 自分が夢ではないと覚えているのは茂みが光りだした所までだ。
(夢オチでも……いいっ!)
 例え夢オチでも、舞は自分にはっきりと言ってくれたのだ。
 嫌いでは、ないと。『生きて』、欲しいと。

 そして、ドーム天井を見上げ、設置された中継モニターの視線を浴びながら、
「舞さんっ、僕、がんばりますからっ!絶対『生き残って』みせますからっ!だから……ずっと、観戦しててねっ!」
 決意をしっかりと言葉に出して叫んだ時、なぜか本当に、舞が見ててくれてるような気が、春原にはした。
(まずは緊急施設へ行こう、舞さんが危険を冒してまで、やりたかった事を僕が代わりに成し遂げよう、それから…)

 残された戦利品の山を、荷物になり過ぎないように分別して、春原は情報収集の後、正規参加者で
面識がある生き残りの七瀬・千堂・詠美(←実は、後者二人はもういないのだが…)を頼る事にした。

(絶対に『生き残る』ぞっ。それが、舞さんが佐祐理さんの事を後回しにしてくれてまで、僕に望んだ、願いだから。だから、今なら……)

 と、春原は足元にあった(!)刀と青色のゾリオンを手に取って肩に掛け、
(今なら……大丈夫っ!もう、つまらないツッコミで失う『命』がなくなってたって、絶対に『死んだ』りしないっ!)
 決意と供に春原は、歩き出す。
 その瞳に、確かな意志を受け継ぎ、舞の形見である刀は、更に光を増していた。

488パラレル・ロワイアルその432:2005/07/19(火) 21:18:22
 それまでの彼女の存在とは、THE−TOWNエリアにて正規参加者達と
交戦を繰り広げていた、特務機関CLANNADの実働部隊“チーマーズ”
の一隊員に過ぎなかった。

 河島はるか等の説得によって一旦は降伏した彼女ではあったが、他の降伏
メンバー及び脱落メンバーとは唯一人行動を異にして、MINMESエリア
潜水艦ドッグに待機中であった潜水揚陸艇“スメルライクティーンスピリッ
ツ”による、来栖川アイランド本島への帰還を選ばなかった。

 隊長である宮沢有紀寧も、彼女の帰還拒否を事情ありと認め、DREAM
エリア内・木造旅館の脱落者達との合流を特別に許可した。

 その事情とは―――2004年8月現在、彼女がCLANNAD構成員の
一人・坂上鷹文のガールフレンドであったという事実。


 その彼女が今、木造旅館をこっそりと抜け出して、SUMMERエリア内
・緊急施設の前にいた。かつて、MINMESエリアにてビルを脱出して、
FOREVERエリア・倉田別邸へと電撃移動を行った覆面ゼロと同様に、
木造旅館から伸びていた緊急避難用の地下通路を利用し、驚くべき早さにて
緊急施設までの移動を果たしたのであった。

 それまで、この作品・元ゲー共に無名・無設定にも等しい、本来そのまま
消え行く存在でしかなかった彼女をそうさせたのは、木造旅館ガーデンパー
ティー会場にて偶然、坂上鷹文の携帯電話へと送られて来た一通のメールを
一緒に読んでしまった事からである。

 恐らくは、送信元は鷹文の脱落の事実を見落としていたのであろう。だが
それ故、そのメールを読んだ鷹文の無念な様子はとても見ていられない程の
ものであった。

 ならば、私が鷹文の代わりに行こう。未来の鷹文は自分にとって元カレに
格下げされた存在らしいけど、少なくとも今は“元”は付いていないのだか
ら。

 思い立ったが早いか、彼女は迅速かつ隠密に事を起こした。メールを消去
して、鷹文に堅く口止めをさせて……まずは、他の誰にも気付かれないよう
秘密を確実に保ってから、SUMMERエリアへの電撃移動を開始した…。

 そして今、CLANNAD司令・古河秋生が護衛のためにとMINMES
エリアより派遣して来たガードロボット二体と合流した後、緊急施設の扉の
前へと、彼女は首尾よく辿り着いたのであった。




「―――あの〜岡崎朋也さんと古河渚さんはいらっしゃいますでしょうか?
古河司令の指示により、ガードロボットの“ゾディアック”と“ノヴァ”を
援軍調達に参ったのですが…」
 彼女は中途合流したガードロボットの調達立会人を装い、緊急施設の扉に
設置されたカメラ付きインターホンのモニターに向かって、何食わぬ顔して
呼び掛けを行った。

「―――ご、ごめんなさいっ、待たせてしまいまして……私が古河渚です。
お父さんの用事のためにわざわざお越し頂いて、大変お疲れ様です」
 ややあって、インターホンのモニターに、寝ぼけ眼を慌ててこすりながら
受け答えをする、二本触角の少女の顔が現れた。

489パラレル・ロワイアルその433:2005/07/19(火) 21:20:19
(……主人公さんはいらっしゃらないみたい、ですね……)
 誰かと一緒に施設内にいるのなら、居眠りなどしている解はないですし。
 ですが、メールの内容とCLANNAD裏事情から察するに、主人公さん
に並ぶ、真のらすぼす候補と思える彼女達を、ここで脱落させることができ
れば僥倖というもの。彼女達を倒せる機会など、そして、“達”の語源たる
中の人の存在を知る者など、他には存在しないでしょうから。なればこそ、
自らが手を下す必要性が生じるというもの。
 いけない悪意を深く心に秘め、微笑を浮かべながら、彼女は口を開いた。

「―――それではガードロボットの“ゾディアック”と“ノヴァ”の、緊急
施設敷地内への調達・配備完了しました……それでは、私は再び、戦場へと
戻らせて頂きますので…」
 渚さんの頭がまだ、中の人共々、眠りから完全に覚醒し切れていない事を
願ってそっと一押し。軽い疲労を装った微笑を浮かべて、そう言い切る。

(ちょっとした、賭けね)
 失敗したら、改めて施設内へ侵入する手段を考えなければならない。成功
すれば……一気に彼女達の懐間合いへと近付く事ができる。
(さあ、どうなるのかしら?)

 ワンテンポの沈黙ののち、渚が慌てて気が付いたかのように口を開く。
「―――あっ、まっ、待ってくださいっ、…見た所、任務でとてもお疲れの
ようにお見受けしますっ…もしよろしければ、中へ入って少しだけでもお休
みしませんか?…すぐに冷たい物と、お望みでしたらお夜食も用意致します
から…」

「―――え?疲れているように見えてしまってますか?……確かに少しは、
役目柄ですので危ない橋も渡ってきましたけれど。ですが、このくらいは、
CLANNAD実働部隊員でしたら許容範囲の内というものですよ」
(自分ながらに……しらじらしいわね)
 成功を確信しながらも、彼女は肩をすくめて返答する。

「―――どうぞ待っててください。今、扉を開けますから…」
 渚は決意を印象付けるように、はっきりと言った。

 ……その答えは、彼女の予想通りであった。




 緊急施設への侵入を果たした彼女は、渚と供に応接室のソファーへと腰を
下ろしている。
「お一人ですと、退屈ですし寂しいんじゃありませんか?」
「いいえ、みなさんの苦労に比べれば、お留守番ぐらい何でもありません」

 そうなんだ、と無感動に答える彼女。
 実際、特に感動はない。中にもう一人の“仲間”が存在していることは、
メールで判っているからだ。

「……ところで渚さんの出番ですけれど」
「……はい?」
「やっぱり、最後の最後まで出番待ちになっちゃうのですか?」
「はいっ……たくさんの人たちに支えられて、わたしはこのゲームで、隠れ
らすぼすの大役をになうことができました。もしわたしの活躍が、ご協力を
いただいた人たちの夢になるのなら、わたしは最後まで待ち続けたいと思い
ます。たくさんの、感謝と期待に応える気持ちを込めて」

490パラレル・ロワイアルその434:2005/07/19(火) 21:21:54
 それは大任ですね、と彼女はそう言いながら自分のバッグを開く。
 わたしの出番とバッグの中身に関係があるのかしら?
 そう思って渚が顔を近付ける。中の人共々の興味津々というやつだ。

「何が、入っているのですか?」
「……えっと、これであなたの見せ場を今すぐ作れないかなと思いまして」
 くしゃ、と彼女の中で紙切れの握られる音がする。

 渚にとっては、何のことだかさっぱり解らない。どうして彼女のバッグの
中身で自分の見せ場が作れるというのだろう?

「あの……?」
 そう尋ねようとした渚に、彼女が言葉をかぶせた。
「……痛ましい頃され方というのも、このゲームでは珍しくも貴重な見せ場でしょうからね」

「……え?」
 驚き、見上げたその眉間に。
 ぺたり、と梵字の書かれたお札が貼り付いた。

「……!?」
 かくん、と体の力が抜けて、ソファーに倒れこむ渚。
 ぱさり、と力なく垂れ下がる渚の二本触角。しかし彼女の支給装備―――
裏高野のお札は、そのまま彼女の顔から離れることはなかった。

『ビーッ、新規ゲスト警備兵・古河渚、有効打直撃により殉職しました』
『ビーッ、新規ゲスト警備兵・裏葉、有効打直撃により封印されました』


 すやすや、と軽い寝息が始まって、渚が眠る。彼女―――可南子はあっけ
なさ過ぎる大金星への実感と使命への達成感を自覚できないまま、自分と渚
の二人分のバッグを担ぎ上げると、主人公―――岡崎朋也の居場所の情報を
求めて、モニター室へと移動した。
「トモトモトモ・我奇襲ニ成功セリ……とはいえ、これからも少々、忙しく
なりそうね」

 応接室から出て、廊下を移動する。まだ他のエリアへは入ってないはずよ、
そう思いながら壁の案内見取り図を見る。
 モニター室の表示を探しながら無意識に二つのバッグを担ぎなおし、右手
から左手に持ち替えたそのとき。

『朋也くん……』
『柳也様……』

 声が、響いた。
 坂上智代の定時放送にも劣らぬ、大きなささやき。
 そして声の主は、もはやこのゲームに参加していないはずの渚と中の人。

『……ごめんね、らすぼす……なれなかった……』
『……申し訳ございません、わたくしともあろう者が……しくじってしまいました……』

 可南子は驚き、左右を見る。
 いや、原因は背後から迫って来ていた。
「あっ、あのぬいぐるみは……?」

『朋也くん……お父さん……』
『柳也様……神奈様……』

 そのぬいぐるみには、警報と護衛を兼ねて、渚の中の人によって言霊と式神が
封じ込められていたのだろう。
 今では護る相手すらいないというのに、渚に敵対行動を起こした、自分という
外敵を排除しようとしている。

「……ご同類っていうやつなのかしら」
 自分の出演作品のヒロインのために、母体作品のヒロインを手に掛けた自分とは、
似たような鉄砲玉だ。

『……さようならっ』
『……お別れです』

491パラレル・ロワイアルその435:2005/07/26(火) 18:49:40
 ―――なんだか、ショックを受けてるみたいですが―――

「渚ーっ!何があったんだッ!?渚ーっ!!」
 自らが乗り込んでいるレイバーのコクピットで叫ぶ秋生。
 マザーコンピューターステーションビルのいる入口にて、着替えのために
中へと入って行った草壁優季と神奈備命の二名と分断されて戸惑っている、
四人の内の三名こと月宮あゆ・天野美汐・神尾観鈴に向かって、呼び寄せた
ガードロボット“ムーンライト”・“ムーンダーク”・“カオスクイーン”
・“シャドウクイーン”による一斉攻撃指示を下した直後に聞こえてきた、
あの声。
 己の耳に届くはずのない、あの悲痛な声。
(何故聞こえてきた?いや、何があったというんだ!?渚、渚ッッッ)
 未だはっきりとした形を持たぬ焦燥感に襲われながら、秋生はS.F.に
アクセスした。

「渚に何があったっ!何処にいるんだ渚はッ!!」
“………………(字幕→ごめんなさい、答えられないの)”

 訊ねども、返事はない。

「まさか、中の助っ人とも、『ルール上、生存者への直接回答不可』な目に
あってしまったのでは……?」
 何か手がかりはないものかと、秋生はS.F.経由の通信記録を端末機で
開いて内容を調べて回る。

(俺は……いい気になっていたんじゃないのか?年下の隊員達に囲まれて、
渚のためとはいえ、CLANNADを事実上私兵として扱って。仕舞いには
あんな、葉組を挑発するような言葉まで発して……。その結果で渚と、中の
人の出番を失ったのだとしたら……)

「俺は何という愚者なのだッ!」
 叫び、歯ぎしりする秋生。握り締めたマウスにひびが入っている。
 しかし、秋生はそのままでいることを良しとしなかった。
 何とか己の納得がいく理屈を組み立てる。

(いやまて、俺様。そう決めつけるな。いいから落ち着くんだ。まだ希望は
……ある。生き残りの参加者の内の誰かが、俺を混乱させるためにS.F.
を利用して合成発声による擬似放送を行っている可能性だって……)
「……だとしたら、落ち着かなければならないのは俺の方なのか?」
 可能な限り範囲を広げつつ、小声で渚の名をつぶやきながら、秋生は再び
S.F.の記録を検索しはじめた。




「…果たして、可南子さんは首尾よく金星を挙げて下さったようですね」
 来栖川アイランド上空約二千メートルに浮かぶ飛行船の艦橋にて、機関室
よりやって来た整備班長の坂上はモニターの一つを眺めながら一人ごちた。
 つい先程まで完全無敵モードだった司令を見るにつけ、何度トモトモトモ
を通告してみせたいという誘惑に駆られたことだろう。
 しかし、自分の娘が即時報復を受ける事は絶対に避けたかったし、ここぞ
というタイミングで決定的な精神的打撃と共に、現在接近中の葉組生き残り
中最強の参加者と衝突してくれた方が、あわよくば共倒れという素敵な結果
も期待できるだろう。

「通告のタイミングは一度きり……。慎重にならざるを得ませんね」
 自らを最後のジョーカーになぞらえてた秋生が、真に最後のジョーカーを
挑発にて呼び寄せてしまった皮肉。神の思考を持たざる秋生がその事実をば
知らなくとも、それは仕方のないことであった。

「うむ、やっとメール送受信記録を発見したようですね」
 秋生は今や、S.F.経由で草壁優季が送信した三通のメールの記録内容
を発見し、機内端末機の画面に開示していた。間もなくその内容を把握し、
そして次に、受け取った者達の行動パターンを悟る事だろう。

「さて、そろそろ決めませんと……S.F.へこちら坂上、古河司令の乗る
レイバーへSUMMERエリア緊急施設・応接室内のモニター画像の転送を
お願いします」
“…こちらS.F.、了承……画像転送を開始します…”




「これは、麻枝氏が制作予告をしていた…!?」
 視界の文面に十一ヶ月後の情報を捉えた秋生。
 その動揺は大きかったが、しかし、渚の変事との因果関係を見つけたわけ
ではない。
 秋生は改めて文面に視線を投げた。
 結果、文面の末尾に揚げられたスローガン“トゥルーアフターを我等の手
に!トゥルーENDINGを智代AFTERSTORY(仮称)の元に!”を
見つけるに至り、秋生は渚の辿った運命を嫌が上にも悟らされた。

「嘘だッ、そんな結末は俺様が認めんっ!」
 そう唸り検索画面を閉じた途端、今度はS.F.より転送されたモニター
画像が画面に映し出された。

492パラレル・ロワイアルその436:2005/07/26(火) 18:50:39
「う!」
 映された画像の渚は眠っていた。しかし、額にはお札が貼られている。
「う!」
 胸元に装着された識別装置を見れば、死亡判定が下った事実がありありと
分かる。

「嘘だろう、渚っ。まだ何も終わっていないっ。最終決戦は、これから始ま
るんだ。これからはじめるんだ。お前と、みんなとでッ!」
 端末機を思わず揺すって叫ぶ。
 しかし、画面の中の渚が言葉を返す筈はなかった。彼女は『即死』だった
のだから。裏葉の術がなければ、遺言の言葉一つ残さずに、『死に至る』筈
だった。

「ぐおおおぉぉぉーっ!」
 それでも秋生は、端末機を揺する事をやめなかった。

「渚、渚、渚ッ!!らすぼすを演じてみせるのだと、言っていただろうッ!
さあ、目を開けるんだ渚ッ!開けてくれ、渚……」
 揺すり続けた挙句、コードが引きちぎれてしまった端末機をかき抱いて、
秋生は泣いた。
「あれは嘘だったというのか!?違うっ。違うだろ、渚……」


 密閉状態にしては涼しいコクピットの中、端末機を抱いたまま。
 秋生の慟哭が辺りにスピーカーで響き渡る。
 しかし、そのレイバーには一体のガードロボットが迫っていた。

「あ、うー!」
 その身に迫った危機を、司令ならではの感覚で察知し、素早くレイバーを
操作してかわそうとした秋生だったが、辛うじてコクピットへの直撃を免れ
たのみだった。

 地下通路にて倒した強化服から分解したシリコンプロテクター付きの巨大
蟹鋏によって力任せに掴まれた上、無理矢理投げ付けられたガードロボット
“ムーンライト”は、驚くべき速さで飛来し、その総重量を十分に発揮して
レイバーの右腕部に激突した。
 完全に渚に気を取られており、かつ秋生自身の目的・士気が失われている
中では、それさえも奇跡的な回避操作だった。

 秋生は、同時に間近から聞こえてきたエレスクーターのエンジン音に振り
返った。
「!?」
 秋生が振り返るとそこには、不可に耐え切れずひん曲がってしまった蟹鋏
を放り捨てている軍服の男と、その後ろでエレスクーターにまたがっている
赤いメイド服の少女の姿があった。


「御堂ッ!?……しまった、何という最悪のタイミングで……しかし、後ろ
にいるあの少女は一体何者だッ?……ま、まさか、神岸さんが言っていた、
鳩Ⅱ組の能力者だとでも……?」
“おっしゃる通りですよ、古河司令。貴方自身が挑発して呼び寄せたのです
……しかも、拝読した私達を『侵蝕』してしまった、未来の私達自身からの
メールを携えた、このゲームにおける恐らく最後のジョーカー役を担われた
方をも一緒に同行されましてね”
 異常なほど低い声で呻く秋生。
 対する、二千百メートル上方からタイミングを合わせるように入って来た
機内通信は、屈託のない朗らかな口調でそう言い放った。
“古河司令。なんだか、ショックを受けてるみたいですが……”

「坂上ッ、貴様ッ!」
 ギリギリの線で耐えていた秋生の、堪忍袋の緒が音を立てて切れた。
「よくも俺様を裏切りやがったなッ!」

 機内通信からの、坂上の朗らかな口調は変わらない。
“裏切るもなにも、司令自らが本来、ゲスト警備のみを請け負っていた我々
CLANNADを裏切ってメンバーを私兵化し勝手にやってきた事でしょう
?そもそも私達が、裏切る原因となった未来の情報をもたらした人物がここ
へとやってくるきっかけを作ったのは、挑発を行った他ならぬ司令ご自身で
ある事もご存知のはず。どこに、貴方に責められる不義理がありますか?”
 理路整然と答える坂上に自業自得を指摘されて、怒りのやり場も仇討ちの
矛先の向け場もない。撒き散らそうとした激情を、かえって溜め込む結果と
なっていた。

“それはそれとしまして……御堂さんが、迫っておりますよ”
 駄目押しの一言。何を隠そう、秋生自身が最重要警戒正規参加者になると
値踏みした相手が御堂だった。

「な……にィ……」
“司令の予想が正しければ、司令も殉職は免れないでしょうね。では、次の
機会がお互いありましたら、恨み言の続きを聞いて差し上げますので―――
ご健闘を”

 ブチッ、と耳障りなノイズが響いて、通話が閉ざされた。

493パラレル・ロワイアルその437:2005/08/02(火) 04:33:01
 話は少し遡る。

(さっき届いて来た、未来の私自身からのメール。そして今さっき聞こえた
渚の悲しい声……。今、他にメールを送られた父さんや可南子の手で、既に
事が起こされているというのか……)

 MINMESエリア車道を走り続ける兵員輸送車の操縦室で、坂上智代は
悟った。しかも、自分ならそれでも自ら手を掛ける事を躊躇したであろう、
古河渚の『死』。
 渚のためにSUMMERエリアを出撃して、どれだけの時が経ったのかは
正直分からないけど、それほど多くの時間を浪費したつもりはなかった。
 しかし、その間にもう、可南子(鷹文は脱落済・父は飛行船内の事実から
推測)は私がらすぼす化を支援していた母体作のヒロインをその手に掛けて
しまったのだろう。

『…みんな、どうか無事に帰って来て下さい』
 私や朋也、立川や香里に渚が向けてくれた言葉が頭中で空回りしていく。

 願望はないわけではない。仮に今、手を伸ばして届く範囲にあるというの
なら、例え渚と争ってでも朋也は欲しい。
(…まず、取り敢えずは朋也の心を助けなくてはいけない。未来の私と共に
いる未来の朋也は、現在の朋也にメールを送っていない。それは仕方のない
事だが、それ故に今の朋也は、渚を失った事実に苦しんでいるだろうから。
しかし一体、どのような顔をして私は朋也に顔を合わせ、事情を説明すると
いうのだ……?可南子は事実上の新キャラ、父さんも設定キャラという影の
薄さ故に、あっさりとメールに『侵蝕』されてしまったらしいが、サブヒロ
インのステータスを有する私にはまだ、感傷に浸れるCLANNADの私が
残っている。渚の悲しい声を思い出す事で心が痛む。この様な痛みが完全に
なくなってしまえば、躊躇なく行動が出来るのに……。この様な痛み、早く
なくなってしまえばいい……)

 しかしその時こそ、智代が未来の智代・名も知れぬ新作のヒロインである
もう一人の智代の完全なる影響下に納まるという瞬間でもあった。


 感傷に浸り続けていた智代は、その時になってやっと、ある重大な事実に
気が付いた。自分が乗っているこの兵員輸送車は、主催者側の提供アイテム
ではなくて特務機関CLANNADの持参アイテムであるが故に、自動操縦
機能もS.F.からの遠隔操縦機能も持ってなんかはいないという事実を。
 そう、今この兵員輸送車を操縦しているのは、操縦席にてハンドルを握り
締めて、アクセルを全開に踏み込んだまま失神した、大庭詠美の『死体』で
あるという事実を。




「がお、開かないよう…」
「…分断、されてしまったのでしょうか…」
「ぷち最悪ですっ」

 一方、マザーコンピューターステーションビルの入口前では、入口を閉ざ
してしまったシャッターの前で、神尾観鈴と天野美汐・伊吹風子がどうした
ものかと半ば途方にくれていた。

「神奈ちゃんと優季さん、どうしているのかなあ?」
「…もし異常に気付いて下さって、内側から非常コックか何かで開けて下さ
れば、万事めでたしめでたしなのですが」
「中で誰か悪いライバルに教われてたりしていなければよいのですがっ」

494パラレル・ロワイアルその438:2005/08/02(火) 04:34:14
「うぐう、何かこっちへ近づいてくるようっ」
 唯一人、ビル前の通りの方を眺めていた月宮あゆが、聞く人に嫌な予感を
連想させるぶるぶる声で、三人に向かって声を張り上げた。

「「「???………………!!!」」」
 三人は一斉に通りの方へと振り返り……そして一斉に顔色を変えた。周り
にあるビルのあちらこちらの陰から、大柄な体躯のロボットが計四体、多脚
歩行・車輪・キャタピラ・ホバーユニットにてそれぞれ、自分達の方へ向か
って包囲するような隊列を組みながら一斉に近付いて来ていたのであった。

「でで、でもっ、もしかしたら味方の援軍さんなのかもしれませんですっ」
「…私も出来る事ならそう思いたいです、風子さん…ですが、あのロボット
達が構えている飛び道具の向きは、間違いなく私達の方向です……」
「観鈴ちんたち、ぴんち……」
「出番、まだ……?おじさ〜ん!(←高野)おじさ〜ん(←御堂)」




「ようやく観念したかああ、七瀬留美いい!」
 更に、走る兵員輸送車の高く伸び切ったゴンドラの上では、七瀬が弾切れ
になった銀玉鉄砲を遠くに放っていた。もう例え投げ付けても編笠越しでは
有効打すら与えられない、只のプラスチックの塊だ。それを見て、とうとう
ゴンドラまで登って来た覆面ゼロが、紫色のゾリオンの銃口を七瀬に向けた
まま高く笑っていた。

「―――ええ」
「ぶっ頃すよりは貴様を憤死させてやりたいなあ。オレ様を私情に走らせる
様なマネをしてくれた貴様を、同じ位激怒させたまま脱落させてやりたい」
「―――『ストリップでもやってくれ』とでも、いうつもり?」
「愚弟と一緒にするな。どうせならお得意のずらしパンツでもやってくれ」

 ななな、なんてネタを読者様にっっ…(激怒)。マジでアタシを憤死させる
つもりなのかこいつわっ。…もはやこれまでねっ、もうこれ以上読者様から
清純なる乙女のイメージを損なう、口攻撃を食らい続けて憤死させられる位
なら、せめてその手に持つゾリオンで撃たれた方がよっぽどマシだわよっ!
…待ってなさいよおっ、今、乙女の誇りを掛けた最後の一撃をお見舞いして
やるんだからっっ!


 説明するまでもない状況なのかもしれないが、それぞれの思惑を胸に半ば
興奮状態で対峙している二人には、周りの状況とか車の動きとかに対しては
全くといっていいほど、関心も警戒も行き届いてなんかはいなかった。




「るー、あの自動車、動きがおかしいぞ」
「確かにな、あのままじゃあ真正面のでかいビルに突っ込んじまうぞ…って
何だぁ?あのビルの前のろぼっと供はっ?……何てこった、しかも囲まれて
いる中に、あゆまで混じっていやがるじゃねえかッ!?」
 続いて、兵員輸送車を後ろから追い掛け追い付こうとしている二人乗りの
エレスクーター、操縦をしているのはるーこ・きれいなそら。

「クソッ仕方ねえ、作戦変更だッ!」
 そして、ゴンドラの上のゼロを狙撃するのを諦め、得物をドラグノフから
蟹鋏へと変更しているのが、後部座席に腰を下ろす御堂その人であった。

「もう車には構わなくていい、兎に角ビル前までフルスピードで突っ込んで
ってくれ、そしてビル前で俺をろぼっと供目掛けて振り飛ばす様な感じで、
一発景気よくスピンターンをかけてくれい、るーこ!」
「るー。了解したぞ、どぅー」


 もしもドーム天井から眺めたなら。
 彼らが大きな輪の上に居るように見えただろう。

 大きな。
 大きな。
 輪を描いて。
 運命の流れは、今一点に集中しようとしていた。

495パラレル・ロワイアルその439:2005/08/09(火) 04:00:48
 SUMMERエリア外周部大森林の北西部。
 一歩。また一歩。元来た場所へと引き返す。
 ―――その足取りは重い。
 だが、岡崎朋也はそれでも歩みを止めない。
 心痛に歯を食いしばって耐えながら、彼は歩き続けた。
 自分の存在理由を見失って。前へ、前へと。
 ―――俺の出番が続くうちは。
 中の人の術によって、彼(等)の全てが終わった事実を悟ったとしても。
 ―――渚を頃した奴を。“裏葉を頃した者を”
 腹の虫が収まらない。
 ―――そのままにしておける訳なんかない。
 鼓動は早鐘を撞くように乱れ続ける。
 ―――でも、出来る事ならば。
 ふらつき、膝を着いて。また、立ち上がる。
 ―――今の気持ちが早く終わってくれるように。
 そう願いながら、朋也はひたすら前へ進む。
 ―――出来れば、早くゲームの心に戻れるように。
 彼(等)を突き動かすのは、狂おしいほどの激情。
 ―――出来れば、早く戻らせてくれ。




「そんな顔をして、どこへ行くんだ?」
 男の声がした。

 朋也は立ち止まり、荒れた呼吸の中から搾り出すようにして答えた。
「……人を、探している」

「どんな奴だ?」
「二本触角の、いたいけそうな女の子と、“長い黒髪の聡明な感じの女性”
この二人を頃した奴を探している。……知らないか?」

「知らないな」
 男はあっさりと答える。

 朋也(達)は注意深くこの男の表情の変化を見極めようとしていたが、そこ
に動揺は見られなかった。
「……そうか。じゃあ用はねえ。とっとと行ってくれ」
 考えてみれば、元迎撃目標だったこの男が当りである筈がない。
 朋也(達)は落胆の色を隠せない。まだ始まったばかりだというのか。
 オッサンも同じ気持ちでこのドームを探し回る羽目に陥っているのか。

「こっちも、ひとつ聞いていいか?」

「とっとと行けって言っただろう!」
 朋也は中の人とシンクロし切れていない手つきで逆刃竹光を抜刀すると、
男に向けて二、三度切り付ける。

「くっ!」
 素早く飛び退いて、刃を避ける男。
「おいっ!お前等は今みたいに、モラルそっちのけでゲームに参加し続ける
積もりなのかっ!?」

「関係ないだろう!俺は、二人を頃した奴を探さないといけねえんだ。……
邪魔をするなっ!」
 うっとうしげに朋也は再度、竹光で切り掛かる。

「……そうはいかないな」

 打突音が響く。

 その刹那、朋也(達)は持っていた竹光を突き抜けて腹部が爆ぜた様な感覚
を、中の人の分も合わせて二発味わい―――そして、その場に倒れた。

「エンターテイメント性もなしにゲームに参加してるような奴等を、放って
おくわけにはいかない」
 高野はそう言うと、長瀬祐介より『重いし、力の加減も難しいですから』
と、THE−TOWNエリアでの別れ際に譲って貰った木刀を下ろした。

『ビーッ、新規ゲスト警備兵・岡崎朋也、有効打直撃により殉職しました』
『ビーッ、新規ゲスト警備兵・柳也、有効打直撃により調伏されました』

496パラレル・ロワイアルその440:2005/08/09(火) 04:01:55
『ビーッ、新規ゲスト警備兵・可南子、自力脱出不能により殉職しました』

「くぅ……」
 もう……もう、終わりなの?
 まだ出番が続くかと思ったけど。もう、万事休している。
 だったら何とかしないと。生き残らないと。
 二人を頃した分まで活躍しないと。

 SUMMERエリア・緊急施設内の廊下で、式神と化しただんご大家族の
ぬいぐるみに押し潰されて足掻く可南子に、遅れて施設内へ潜入・探索中に
その現場へと遭遇した河島はるかは、遠野美凪を背中に庇いながらゆっくり
と歩み寄る。

「…あなたの顔にはTHE−TOWNエリアで見覚えがあるね……苦しいん
だったら、もう一回降伏する?」
 空色のゾリオンの銃口を可南子の識別装置へと突き付け、無表情のままで
はるかは言った。

 しばしの沈黙。
 可南子は、目の前の銃口をただ無感動に眺め続けて、それから震えた声で
そっと呟いた。
「いいわ……渚さんも、中の人も……きっと、出番の無さには無念だったと
思うから……」

「…だから、あなたもその無念さを共有するため、悪足掻きを敢えて演じて
みせるってわけなの?」
「……うん。もう、私にはこれぐらいしか……出来なくなっちゃったみたい
だから……ね」

 その言葉を合図に、銃口が可南子から逸れる。
 はるかは一瞬、何とも言い難い表情で可南子を見た後、彼女の傍らに腰を
屈めてこう言った。
「…変なところで律儀なんだね、あなた」

「そうかもね」




 朋也(達)の荒れた息は、次第に力なくひゅうひゅうと掠れた吐息となって
漏れるだけになる。
 そんな様子を、高野は何をするでなくじっと見つめていた。

「……おい。何で行かねえんだ?」
「もう少し、ここにいる事にする」
「てめえで頃しておいて、この上どうするつもりだ?」
「さあな」

 朋也の問い掛けに、高野は静かに肩を竦める。
「悪いが、俺自身にもよくわからねえ。ただ仲間の中にも『中の人と一緒』
の娘がいるんだがな」

 『中の人と一緒』という表現。
 ―――もしかしたら、自分を返り討ちにしたこの男は、味方になってくれ
たかも、いや、なるべき相手だったのかもしれない。
 そんなことを、今更ながら思った。

“…何故その、『中の人と一緒の娘』と……同行していなかったのだ?”
「確か、リュウヤとか寝言で言ってたよな……こうなっちまう可能性を予測
している以上、間違ってもこんな場面を見せてやりたくは無かった」
“…だったら、最初にその事を切り出せば、我々が戦う事は無かったのでは
ないのか?”

 高野は表情を変えずに、その問いにこう答えた。
「俺の連れは他にもいる。もしもそいつ等とあんた達の反りが会わなかった
ら困るからな」

 朋也(達)はちょっと驚いた顔をして、それからふっと唇の端を歪めて微笑
んだ表情を見せた。
「変なところで慎重なんだな、オッサン」

「……そうかもな」




 ちなみにその頃、緊急施設の入口前には『チーズでナイフを切るように』
刀の一閃で倒された“ゾディアック”“ノヴァ”が横たわっており、そして
入口通路の途上には、自ら切り付けた刀の威力に腰を抜かした儘の春原陽平
と、そんな彼を引き摺り引き摺り、先行突入したはるかと美凪の後を追って
いる長瀬祐介の姿があった。

497パラレル・ロワイアルその441:2005/08/15(月) 21:39:38
 キキキキーッ!……ドガン!!……ズガン!!……ガシャン!!

 MINMESエリア・マザーコンピューターステーションビル正面玄関。
 間一髪で間に合ったというべきなのか。暴走していた兵員輸送車は、中に
いた坂上智代がサイドブレーキを引いた事により、ビル玄関への激突する事
は何とか免れた。
 その代わりに、正面玄関前にひとかたまりとなって窮地に立たされていた
天野美汐・神尾観鈴・月宮あゆ・伊吹風子らに今まさに攻撃を開始しようと
していたガードロボット“カオスクイーン”は彼女達の盾となって跳ね飛ば
され、その頭上を飛び越えて正面玄関を塞いでいた防災シャッターに激突、
これに大きな穴を穿ってめり込み、その機能を停止した。
 更に、梯子部分が延び切っていたため、下の車本体よりも前方に位置して
いる形となったゴンドラ部分は、無情にもビル三階部分の消防隊突入用の窓
に激突、これを派手に突き破る結果となった。



「ががが、がおっ……びっくりしたよ〜」
「うぐうっ、観鈴さん大丈夫?」
「!…それよりもチャンスです、ロボットさんがぶつかってくれましたお陰
でシャッターが開いてくれましたっ!」
「…風子さんのおっしゃる通りです、急いで中に入りましょう!」
 美汐が先導する中、急いで開かれたビルの玄関へと突入しようとする四人
、しかしその背後からガードロボット“ムーンライト”と“ムーンダーク”
そして“シャドウクイーン”が三機一斉に彼女達目掛けて殺到して行った。
 そして、その搭載火器郡が揃って火を吹こうとしたその瞬間。

 ギュキキキキキキ……ゴン!!……ガキン!!

 三体のロボットの更にその背後から猛スピードで走り込んで派手なスピン
ターンを行う一台のエレスクーター、そこから放り出される様に飛び降りた
のは右腕に蟹鋏を装着した御堂その人。そのまま力任せに“ムーンダーク”
を蟹鋏で殴り倒し、続けて“ムーンライト”を強引に挟み込むや、

「ゲーック!ガラクタどもの司令塔はそこかよッ!」

 叫びつつ、挟み込んだ“ムーンライト”を、少し離れたビルの陰に潜んで
いたゲーム用レイバー目掛けて、力任せにブン投げていた。

 ズガッ!!……ボキン!!

 何故か、回避反応が一瞬だけ遅れてしまったレイバーは、投げ付けられた
“ムーンライト”を避け切る事が出来ず、その右腕部に激突を食らい、その
まま持っていたゴムボールシューターごと、右腕を捥ぎ取られてしまった。

 グシャン!!

 また更に、最後の一体となった“シャドウクイーン”は、その攻撃目標を
“ムーンライト”を挟み込んだ御堂へと変更して、その腕部に持つホッケー
スティックにて御堂を殴りつけようとしたその瞬間に、ビルの窓への激突に
よって梯子の部分がポッキリと折れてしまった兵員輸送車のゴンドラが真上
から落下して来て、見るも無残に叩き潰された。


 そして、そのゴンドラに激突寸前まで乗っていた、二名の正規参加者の方
はというと。

「七瀬えええっ……お前一体、どういう積もりなんだあああっ!?」
「くうッ……アタシにも解らないわよッ……とにかく今、引き上げてあげる
からっ」
 ビル三階の窓枠に腹ばいになって肩より上を乗り出し、虚空にぶら下がる
覆面ゼロ―――もっとも、今は激突のショックで網笠が脱げてしまい、素顔
丸出し状態なのであるが―――の腕をひっ掴んで必死に引き上げようとして
いる七瀬留美。
 だが、
「ちっく…しょう…っ」
 それは無理だ。とても無理だ。
 確かに七瀬は比較的怪力で、ゼロもどちらかといえば痩せ型の方ではある
が、それでも大の大人をこの体勢で引き上げることはできない。
 そう、大人の人間は。
 ズリッ、ズリッと、七瀬の体が前に引きずられていく。



「ああっ、大変です!」
「どうしたの、風子ちゃん?」
「先ほどあわててビルへ入ろうとした時に、三角帽子が脱げ落ちてしまった
ようなのです。もう最悪ですっ」
「うぐ……でももう、戻るのは危ないよ風子ちゃん」
「…あゆさんの言う通りです……振り返る余裕もないまま、みんなこうして
ビル内へと無事駆け込む事が出来ましたが、よくロボットに追い付かれずに
済みましたものですと、それだけでも奇跡に等しい位ですから。さあ、早く
上の階へ…神奈さんと優季さんの所へ急ぎましょう」

498パラレル・ロワイアルその442:2005/08/15(月) 21:41:07
「やってくれるじゃねぇか、御堂の旦那っ……!」
 古河秋生がレイバーのコクピットの中で透明カバーに覆われたスイッチを
手の甲で叩きつける。

 ウイーン……

 黄土色のレイバーの脚部プロテクター部分が展開して、中からチャンバラ
スティックを構えた四本の隠し腕が展開されてくる。
 秋生がここで徹底抗戦を決意した最大の理由。坂上親娘が反乱を起こし、
ガードロボット達が全滅した今となっては、自軍戦力最大最後の切り札。
『……俺様の出番も多分ここでもう終わりだ……だが、せめて旦那も道連れ
の金星にしてやるぜっ……!!』

 手塩にかけてプロデュースした娘はもういない。
 仲間も正規参加者達に全滅寸前までやられてしまった。
 もう、特務機関司令としても存在価値などありはしない。
 失うものなど、何もなかった。



 御堂は、エレスクーターにまたがったままゲーム用レイバー“O−THE
−O”の五刀流モードの勇姿を目の当たりにしてしばし呆然となっている、
るーこ・きれいなそらの方へと、肩越しにちらりと振り返って口を開く。
「るーこ、ここは俺に任せて、早いトコあゆ達を助けに行ってやってくれ」

 るーこは慌てて首を横に振り、御堂が初めて耳にする口調で反論した。
「どぅー、幾ら何でも無茶だぞ……手負いのレイバーを相手に、丸腰同然で
一対一で挑むなんて……狩られるために戦うようなものだ」

「何を言ってやがるるーこ、この俺様は葉鍵最強の狩人だと言ったろーが?
……それにな、るーこ」
 御堂はビルの方をるーこへと指し示す。るーこがそちらを向くと、ビルの
入口に駆け込むクマの着ぐるみと、三階の窓枠から男を引き上げようとして
逆に引き摺り落ちそうになり掛けているツインテールの女の姿が、その視界
へと入ってきた。
「俺にとっちゃあ、あっちの方を助けてもらった方が万倍も有難ぇんだよ、
るーこ……そうそう、あのクマの着ぐるみ―――中身は坂上ってんだがよ、
立場上アイツはコイツの仲間だ。格闘戦に滅法強い筈だから、なるべく近付
かないで倒す手段を考えろ、いいな?」

「どぅー!」
「行ってくれ、るーこ」
 今の会話で自分のやるべき事を実感出来たのだろう。るーこは悲しそうに
るーをした。
「絶対に『死ぬ』んじゃねぇぞ。それから……」
 ビルの中の用事が全部片付くまで、ここへは戻ってくるなよ。



「……行ったみたいだな」
「すまねぇな、わざわざ待ってて貰っちまってよ……」
「旦那は一つ間違ったことを言ってたぜ。今の坂上は俺達――いや、仲間は
全滅しちまったっぽいから俺様――にとっても敵と呼ぶべき存在なんだぜ。
それとも、『鍵』というカテゴリーの中では今も味方と呼ぶべきなのかな?
だからむしろ俺様の方が旦那の足止めをしているというべきなのかもしれね
えぜ。もっとも……」
 秋生は一度言葉を切る。
「まだ脱落するつもりはないけどな♪」
「俺もガキ供のお守りがあるからな。それと最後の誰彼組としての立場もある。
脱落するわけにはいかねえぜ♪」

 長い間のにらみ合い。
 二人とも動かない。
 きっかけを待っている、間合いを詰めるきっかけを。
 ロボットと兵員輸送車の激突のショックによるものなのか、街路灯が不意に
消灯し、二人の間に闇のカーテンを敷いていた。

(随分と我慢強いんだな、旦那)
(精神の方もタフなんだぜ)

 回復機能によるものなのか、街路灯が再び点滅を開始した。
 点滅が点灯となる。
 訪れた光が、一人の男と一機のレイバーの姿を照らし出す。
 そして、時間は過ぎて―――

499パラレル・ロワイアルその443:2005/08/21(日) 21:05:46
「うぐうっ……」
 きしむ腕、悲鳴をあげる筋肉。
 恐ろしいほどの血管を浮かび上がらせながら、七瀬留美は呻いた。
「チョッと、アンタッ!どっかに足場……ないのっ……!?」

「残念だが……ない」
 そう言いながら、自分の体に括り付けてあった荷物を捨てる覆面ゼロ。

 ガクン……若干、両腕にかかる重量が一気に軽くなって、バランスを崩し
かける。
「むぅ……」
 だが、七瀬も漢。そこは持ち直した。
 おかげでもう少し保ちそうだったが、それも時間の問題だ。
(くううっ……こんなときにもっと力があればっ……!!)
 脂汗が、七瀬の全身を包み、力を奪っていく。

「……じゃあ、こういう手はどうだぁ?」
 荷物を捨てた方の右手で、唯一捨てなかった紫色と緑色のゾリオンを取り
出す。

「な、なにしてんのよアンタっ!?」
「このままじゃあオチも無しで二人とも終わっちまう。それよりは……いい
だろう」
 言いざまに二丁のゾリオンを、七瀬が腹ばいになっているビルの窓枠へと
放り上げる。

「アンタっ!?」
「無駄死に、すんなよ、七瀬」

 七瀬留美はまだ驚いたままだった。ゼロも改めて、驚きつつもずっとその
手を離そうとしないお人好しの七瀬に対して心底からの笑みを見せて―――
ゆっくりと呟く。

「……潜航艇が、このエリア内の港埠頭地区にある…いや、『来る』筈だ。
それを探せ……それで、隠しルールの『脱出』の条件を果たせられる、筈だ
……潜航艇を起動させるための鍵は、定時放送で言ってた『虹』の七色……
紫と緑は今、お前に渡した……ゲーム中の不測の破損に備えて、茶色と空色
の鍵もある筈だ…とにかく七つ集めれば、いい……」
 気まぐれで秘密を教えてしまう。もうどうせ自分は脱落する。何もしない
まま脱落するよりも、スタッフの端くれとしてゲームの無事決着に貢献した
方がマシだと思った。
「―――ちゃんと生き残れよ、七瀬」
 かつて敵として、全てをかなぐり捨ててまで付け狙った筈の七瀬留美に、
ゼロは囁いた。

「―――ありがとう―――ところでさ、折角の美しいオチ話に思い切り水を
差しちゃって悪いんだけど」
 七瀬留美は一旦目を閉じて、目の前で果てようとしている男に向かって、
口元だけでくすりと苦笑して見せた。
「―――例え今からこの手を離しても、もう手遅れみたいなのよね」
 見ると既に、七瀬の体は腹の辺りまで手前に引きずられてしまっていた。
踏ん張る事すらももう出来ない。摩擦力によってかろうじて、最後の秒読み
段階をゆっくりと迎えているだけに過ぎなかった。

「馬鹿な女だ。本編ワイルドセブン筆頭・最後の尾根組の立場をこんな男の
ために放り捨ててしまうとは」
「馬鹿は余計よ、アタシの意思とは関係無しに体が勝手に動いちゃった結果
なんだから」

 その言葉と同時に、ついに七瀬の体が窓枠との摩擦力から開放された。

500パラレル・ロワイアルその444:2005/08/21(日) 21:07:00
「…なるほどです、そういう機能も秘めていたという訳なのですね」
「…確かに、同じ性能の装備が色違いで何丁も支給されているなんて、何か
オチがあるんだろうなとは思っていたけど」
 SUMMERエリア・緊急施設内応接室。備え付けの冷蔵庫の中身を材料
にした夕食を摂りながら端末機を操作し情報を収集しているのは、遠野美凪
と河島はるか。加えて、長瀬祐介に春原陽平、そして途中にて追い越されて
後から合流するかたちとなった高野も一緒に同室している。因みに、古河渚
の『死体』は既に、ジェット斉藤の手によって眠りについたまま担架で搬送
されており、ここにはもう存在しない。

「それで今の所、僕達の手中にあるゾリオンは合計何丁になるんだっけ?」
 立川雄蔵の返り血を流しにて洗い落とした桃缶をカコカコと開けながら、
春原が尋ねる。初めてここに来た際、“ゾディアック”と“ノヴァ”に襲撃
されそうになっていた美凪とはるかを目撃して半ば本能的に助けた春原は、
警備兵でありながらもあっさりと新メンバーとして受け入れられたようだ。

 祐介が春原の質問に対して、指を折りながら答える。
「ええと、今現在ここにあるのが…河島さんが持っている空色に、春原君が
持っている橙色と青色で…後は、今MINMESエリアで別行動中の美汐に
月宮さん・神奈さん・神尾さんに伊吹さんの五人に、護身用で茶色と黄色の
ゾリオンを渡している筈だから、合わせて五丁という事になるのかな」

「すると、残り必要数は二丁……残りの四丁は果たして、何処で誰が持って
いるのか目星は付けられるのかな?」
 夕食担当でエプロン姿の高野が、立場上警備兵の春原を見やって訪ねる。

「僕が知っている限りでは、赤色のゾリオンは古河司令が、緑色のゾリオン
はラスボス候補支援装備として、僕が元35番の倉田佐祐理さんへとお渡し
しました」

「…『元』と、おっしゃいます事は…?」
「はい……それにこの青色のゾリオンも、元は大事な人の形見なんですよ」
 美凪の質問に、力なく答える春原。
「…ごめんなさい」
「大丈夫です、遠野さん……それよりも、僕が知っているのはこの二丁だけ
です。とはいえ、緑の方は現在所有者不明になっている事でしょうが…」

「ラスボス候補支援装備という事は、恐らく残り二丁の内のどちらかは20
番の手にある事だろう……色の好みからして多分、紫の方だと思うがな」
 高野が再び口を開く。
「それで最後の一丁―――朱色の方なんだが、こればっかりはまるで見当が
つかねえな、一体何処で誰が装備していやがる事だか……ま、ゲームの本質
上、このドームの何処かにある事だけは間違いなさそうだが」




“…到着致しました……倉田アイランド・MINMESエリアへとようこそ
お越し下さいました……それではどうか、心行くまでゲームの方をお楽しみ
下さい……なお、当潜航艇の再起動・再操縦をお望みの際は必ず、七本の鍵
をお集めになって御持参頂けますよう、宜しくお願い申し上げます…”

「う〜ん、戻るためには鍵が七本も必要なのでありますか。それにしまして
も、そもそも一体どのような形をした鍵なのでありましょうか…?」
 ばっさばっさ。

 MINMESエリア・港埠頭地区……入港・停泊と同時にS.F.からの
インフォメーションがひとしきり流れた後、全ての機能が自動停止した小型
潜航艇のハッチよりひらりと降り立って、柚原このみは肩にカラスを留らせ
ながらぽりぽりと頭を掻いていた。

「まずは、るーこ隊長と優季さんを探す所から始めましょう、カラスさん」
 ばっさばっさ。

501パラレル・ロワイヤルその445:2005/08/28(日) 19:24:29
 びしっ!―――びよよよ〜ん…

「「!」」
「るー、間一髪だったぞ」

 ビル三階の窓枠から今まさに滑り落ちて行かんとする七瀬留美の右足首に
投げ縄が勇次の三味線糸の様にクリーンヒットして、七瀬と手を繋いだまま
の覆面ゼロをさながら空中ブランコの様にビル側面へと宙ぶらりんにした。

「うー達、今引き上げるぞ」

 投げ縄のもう一方の端を、跨っているエレスクーターの荷台に括り付け、
赤いメイド服姿のるーこ・きれいなそらは、窓枠から七瀬とゼロを見下ろし
ながら言った。ちなみに、投げ縄はエレスクーターの荷台にあったバッグの
中身の一つで、元藤林椋の支給装備であったりする。

「あっ、ありがとう…って、アンタは一体っ!?」
「説明は後でもいいだろう。それと…見えてるぞ、うー」

 バンジージャンプ終了直後状態の七瀬は一瞬、るーこのその言葉の意味が
分からなかったが、るーこの顔を確かめるために曲げた首をそのまま、自分
の背中の方へと向け直して。
 スカートが、重力の法則に従って見事、全開になっている事に、気付き。
「……あっ、あっ、あっ……あぁーーーーーーーっ!!!」
 叫んだ。叫んだ。叫び続けた。スカートを押さえたくとも、手は覆面ゼロ
と繋いでいるため両方とも塞がってしまっている。と、七瀬の識別装置から
S.F.からの通信が入って来た。

“…只今の状態に対します、69番・七瀬留美に対する判定でありますが、
脱落者投票及び審査の結果、撃破数15名の猛者であります貴方の場合は、
失格判定となるべきアタック・セクシャルハラスメントには該当しない事と
決定しました。69番・七瀬留美は引き続いてゲームに御参加下さい…”

「ギャハハハハ、よかったなああ、七瀬留美いいい!」
 『討ち死に』でこそはないものの、瓢箪から駒の結果から『パンツ丸出し
全島生中継』という本来の目的を遂げる事が叶ったゼロが、心底嬉しそうな
笑い声を上げた。自身も両手拘束によって目的の一役を担っているのだから
、その喜びもひとしおという奴である。

「チョ…チョットアンタッ!!わっ、笑っていないでせめて、片手だけでも
離しなさいよッ!!」
「いやあ、幸せだなああ……僕は、『死ぬ』までキミを離さないぞおお♪」
 羞恥の怒りに喚く七瀬に対して、加山雄三のモノマネで笑い飛ばすゼロ。
 と、その時。逆さ全開となっている七瀬のスカートのポケットより、ある
物体が、カチッ…ブィ〜ンと、不吉なバイブ音を奏でながら、七瀬の腰より
背中・左腕を伝って、ゼロの頭上へと勢いよく滑り落ちて来た。
 それは…ゴンドラがビルの窓に激突した際に自分のバッグを落としてしま
っていた七瀬にとっての最後の装備であった―――一ノ瀬ことみの支給装備
であった―――充電式コードレスバリカンであった。

502パラレル・ロワイアルその446:2005/08/28(日) 19:26:01
 頭が吹っ飛んだと思った。

 何が起こった。頭髪が弾けて頭皮が吹っ飛ぶような衝撃があったが、辛う
じて自分は『生きて』いる。七瀬から視線を離して、ゼロは何事かと事態を
確認する。
 確認するまでもなかった。

 ブィ〜ン…ジョリジョリジョリジョリジョリジョリジョリジョリジョリ。

「な……」
 バリカンは、ゼロの頭部を。
 バイブ音と供に、自慢のハートチップルヘアーを。
 情け容赦なく蹂躙して。

「アンタッ!?」
「ギャアアアアアアッ!?離せ七瀬ええええッ、離せ離せ七瀬ええええっ!
やっぱりその手を離すんだああああッ!!」

 ―――結局……戦線復帰は……出来なかったなああ。

 最後の力で、七瀬の手を振り払って。
 ゼロの姿が吸い込まれていく―――下へ、下へと。
 ゼロにとって幸いだった事は、三階の窓から逆さ吊りにされた七瀬留美に
ぶら下がっていたため、実質的な落下距離は3メートルにも満たず、頭から
落ちない限りは大怪我の心配はなかったという事である。事実、ゼロは尻餅
をつくかたちでビル入口前へと落下した。
 そして、ゼロにとって不幸だった事は。



 ―――それは酷く長い一瞬だった。
 手を払う。
 それは、トレードヘアーを護るための最後の力。
 七瀬の手は不測のハプニングに緩み。
 ―――その手は離れた。
 途端に襲い掛かる、無重力感。
 上に見えるのは。
 手を離した七瀬の、丸出しの縞々パンツ。
「冥土の土産は充分頂いた積もりだったが。まさか、俺にまでこんな屈辱的災難が襲って来やがるとは―――」
 そう、言いたかった。
 けれど、声は出なくて。

 ぶすりっ。ずぶずぶずぶっ。
 「―――!!!」

 不測の屈辱的二次災難によって、尻を刺し貫いた三角帽子は、瞬時にしてゼロの意識を断ち切り。
 奪って行く。
 底知れぬ闇へと―――

『ビーッ、20番・覆面ゼロ、ナースストップにより失格……ジェット斉藤さんは直ちに、
救急搬送車にてMINMESエリア・マザーコンピューターステーションビル前通りまで
急行して下さい』

 20番・覆面ゼロ 脱落
【残り 14人】

503パラレル・ロワイアルその447:2005/09/04(日) 19:11:38
「あ…ありがとう、おかげで助かったわ…死ぬほど恥ずかしい目にはあった
けどね」
「それはいいとしてだ うー、もう一人のうーは一体どうしたのだ?」
「……残念だけれど、途中で力尽きちゃって……『生きてお礼が出来なくて
済まなかった』って、あなたに伝えて欲しいって……(汗)」
「るー、それはとても残念な結果だ」

 ビル三階の窓際の床の上、荒く息を吐きながら右足首に絡みついたままの
投げ縄を解いている七瀬留美と、エレスクーターに跨ったままそれを見下ろ
している、るーこ・きれいなそら。互いの自己紹介と行動目的を伝え合い、
その結果天野美汐・月宮あゆ・神尾観鈴・神奈備命・伊吹風子の五人に加え
、あの春原が恐れおののいていた噂の坂上智代までが、このビルの更に上の
階にいるらしい事をるーこから教えられる七瀬。

「…にしても御堂のオッサンたら、本当にマッタク……でもそれがオッサン
のご希望だってんなら、先に上の階の連中を助けに行ってやるのが正解なの
かしら、るーこさん?」
「るー、るーもそう思うぞ、うーみ」
「(自分を指差し)うーみっ!?……ま、まあそれはいいとして、それじゃあ
早い所このまま上の階まですっ飛ばしてってくれるかしら、るーこさん?」
「もちろんだ、うーみ。しっかりと摑まっているんだぞ」

 七瀬が後ろの荷台に跨って二人乗り状態となるや、階段を目指してエレス
クーターを急発進させるるーこ。しかし、その急発進は不意に転がって来た
ある物体によって、いきなり止められてしまう事となった。

「るうっ!?」
「きゃああっ!?」

 フロア内を疾走していたエレスクーターは桃缶を踏み付けバランスを崩し
転倒、派手に火花を散らしながら床を滑って行き、階段前の柱にぶつかって
停止した。

「るぅぅ、何奴!?」
「アッ、アンタはッ…!?」

 とっさに制御不能となったエレスクーターから、とんぼを切ってふわりと
降り立ったるーこと、受身を取って床へと転がった七瀬の前に現れたのは、
クマの着ぐるみを脱ぎ捨ててアンダーウェア代わりの黒いレオタードに身を
包んだ、黒いカチューシャに銀の長髪の一人の少女。その右手には見覚えの
ある竹刀が握られている。

「アーッ!その竹刀、あたしのッ…」
「そうか、入口前で拾った竹刀とバッグはお前の物だったのか……早速だが
中身の桃缶を使わせて貰ったぞ」
「…思い出したわ、その声!……アンタ、もしかして春原が言ってた…?」

「春原?…ならば恐らく、その通りだ。私が六回目の定時放送の担当を代行
した、CLANNADの坂上智代だ」
 互いの立場は理解出来たか?と言わんばかりに、凛と言い放つ智代に対し
七瀬は慌てて説得を試みる。
「ま…待って、坂上さんっ!どうしていきなり、あたし達が戦わなくっちゃ
いけないのっ?」

「お前…このゲームの目的と勝利条件を分かってて、そう言ってるのか?」
「分かっているわよッ!……それにたった今あたし、隠しルールの『脱出』
のための潜航艇がこのエリアの埠頭地区に隠されている事と、その潜航艇を
動かすための鍵として、最低七丁のゾリオンを集めて揃えなければならない
って事を教えて貰ったばかりなのよっ……坂上さん、もしあなたも協力して
くれれば一緒にこのドームを脱出してゲームに勝利する事だって不可能じゃ
ないわっ……春原や風子ちゃんももう、あたし達の仲間になってくれてんの
よっ……だからお願い、無意味な戦いは……」

504パラレル・ロワイアルその448:2005/09/04(日) 19:13:06
 懸命に説得を続ける七瀬を、智代は首を振って制した。
「残念だが、留美……春原や風子は兎も角、私は六回目の定時放送の担当を
した時点で既に、『脱出』のルールについてその全内容を、バロンよしおを
通してS.F.及びG.N.から教えられてしまっているのだ……そんな私
が『脱出』でゲームに勝利する事は、例えルールに触れなかったとしても、
エンターテイメント上尻窄みである事極まりないし第一、その様な勝ち方は
私の自尊心が許しはしない、それに…」
「るー、それに何だ?」
「私は…私はもう、このゲームに於いて既に一回、CLANNADに対して
許されざる謀反を起こしてしまっているのだ……今更罪滅ぼしにもならない
事だろうが、私は自分が脱落するかゲームが終了するかまではもう二度と、
CLANNADを裏切る行為はすまいと心に誓ってしまっている……だから
私は今のお前達に対しては、CLANNADへの義理を果たす道を選ぶより
他はないのだ……そういう訳だ、済まないが覚悟してくれ」


「そう……残念だけどそれじゃあ、仕方がないわね」
 七瀬はそう言うと、覆面ゼロと共に落ちていったバリカンの代わりにスカ
ートの両ポケットへと詰め込んでいた紫と緑のゾリオンを、るーこへと投げ
渡しつつ叫んだ。
「るーこさんお願いっ、ここはあたしに任せてあなたはそれを持って一足先
に上の階のみんなの所へ行って頂戴っ!」

「るうっ!?一体どういう事なのだ、うーみっ!?……わざわざ飛び道具を
放棄して、しかも一対一で戦う積もりなのか!?」
「万全の策を取るためよ、仕方がないわ」
「万全の策だと…?」
「確かに、あなたとわたしでゾリオン片手に二対一で戦えば、あたしが素手
で一対一なのよりは圧倒的に有利なのは間違いないわ……でも、でも万が一
敗れてしまった時には、『脱出』のための貴重な情報とキーアイテムが二つ
まとめて、葬り去られてしまう結果になってしまうのよ……生き残っている
みんなの事を考えれば、多少のリスクを背負ってでも冒険は避けて通りたい
所……あたしにもしもの事があっても、あなたの手でみんなへと情報と鍵が
確実に渡せる手段の方を、あたしは選びたいのよ……解ってくれた?」
「るー、それで生じるリスクを背負うために、うーみが残って戦うのか?」
「そういう事……そもそも、あなたに助けて貰わなかったら一度は失くした
『命』なのよ……そんな事よりも、お使い…頼まれてくれるかしら?」
「るー、任せておくのだうーみ、終わったらすぐに戻って来るから…」
「もう一つお願い、るーこさん……お使いが終わったらそのまま、みんなと
一緒にいて、護ってあげてはくれないかしら?」
「うーみ……」
「大丈夫っ、勝ち残ったらちゃんと、あたしも後から合流するから」
「わかった……『死ぬ』んじゃないぞ、うーみ」
「るーこさん、あたしを誰だと思ってるの?あたしは七瀬で乙女なのよ♪」

 心配顔のるーこに向かって、親指をぐっ!と突き出し片目を瞑って見せる
七瀬。そんな七瀬に向かってるーこはエレスクーターのバッグに入っていた
もう一つの装備・元坂上鷹文の支給装備であった硬質ゴム製の十手一対を、
走り去り際に投げて寄越した。

「るー、それを使うのだうーみ」
「サンキュっ、るーこさん♪」




「さて…そろそろ、準備と覚悟のほうはいいか、留美?……因みに、そこで
横転しているスクーターに投げ縄・十手は皆、元は私の戦利品だった物だ」
 階段を駆け上がって行くるーこから視線を正面へと戻しつつ、智代が手に
した竹刀で肩を叩きながら口を開いた。

「なーんだ、それじゃあ装備のネコババはお互い様だったって事なのね」
 両手に握った十手を順手逆手とくるくる回しつつ、七瀬が智代へと苦笑い
を浮かべて見せる。

 不意に、外からビルを揺るがさんばかりの激しい破壊音が、破れた窓越し
に届いて来た。恐らくは、ビルのすぐ外にて繰り広げられているこのゲーム
の推定セミファイナル第一試合が、佳境に差し掛かっているのであろうか。

 そして奇しくもその轟音が、ビル三階を闘技場とした推定セミファイナル
第二試合開始のゴングとなった―――

505名無しさんだよもん:2005/09/10(土) 07:46:30
かーん!!
http://love2house.h.fc2.com/

506パラレル・ロワイアルその449:2005/09/11(日) 03:50:55
20:58…来栖川航空・来栖川アイランド行き高速便機内・ファースト
クラス席

「ご搭乗のお客様、この度は当来栖川航空をご利用頂きまして、誠に有難う
ございました。それでは、ご利用の皆様には細かいご説明は後回しにさせて
頂きまして……失格判定によりますご退場をさせて頂きます♪」

((シュパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパッ!))

 インフォメーションの隙を突いて、両手に隠し持っていた二丁のケーキ・
デコレーター(エアガン)による乗客全員の『射殺』に成功した、スチュワー
デス姿の小坂由紀子は早速機内TV電話を使って、来栖川アイランド上空に
浮かぶ飛行船への結果報告を開始した。




 20:59…来栖川アイランド上空二千メートル・飛行船艦橋部

“……こちら小坂です。只今、来栖川航空高速便に搭乗されました、ゲーム
乱入希望者の皆様方全員の資格剥奪に成功しました♪”
「こちら神岸です、ご用件承りました。お疲れ様です、小坂さん……どうぞ
そのまま、機を本島飛行場・ヘリポートエリアへと着陸させて下さい」

 ピッ。

 高速便より入って来た機内TV電話からによるモニター通信を切り終えた
神岸ひかりは、彼女の後ろにて油断する事無く(297話にて勇蔵・香里・
シュン達が放置して行った)ステアーAUGとベネリM3を二丁持ちで彼女
と保科・牧部に向かって構えている坂上へと向かって、くるりと振り返ると
口を開いた。
「結果報告はお聞きになった通りですわ、坂上さん」

 坂上も満足そうな笑みを浮かべて、ひかり・保科・牧部を見渡すとそれに
答える。
「いや、誠に結構な事です。これで、このゲームの無事決着を阻まんとする
乱入希望葉組勢の内、まず鳩Ⅱ組と天いな組が殲滅された事になりましたね
……ところで八百比丘尼様、異界間突破乱入勢の抑えの首尾は如何なもので
しょうか?」

“……当初の予定限界時刻までは、何とか持ち堪えられそうです……神奈が
未だに頑張ってくれてるせいなのでしょうか?今宵は、術の具合がなかなか
宜しい様で……”
 今現在のひかりの中の人が、坂上の更なる問いに対して淡々と回答する。

「首尾上々ですね、それは素晴らしい。それでこそ私も安心して下の戦いに
加わりに行けるというもの……それでは最後に保科さんに牧部さん、昼前に
各座してしまいました、飛行甲板のチャーターVTOL機の方の修理・清掃
の方は終わっておりますでしょうか?」

「完了はしております」
「何時でも発進は可能ですが」
「有難い事です。それでは早速、下へ私を下ろしに行って頂きたいのですが
、機の操縦の方をどうか宜しくお願いします」
 最後まで笑みを絶やさず、そして得物の構えを解く油断も見せずに、坂上
はパイロット要員としての保科と牧部を伴いながら艦橋を後にした。

「では御機嫌よう、神岸さん」
「坂上さん……早苗さんが、泣いておりますわよ」
「う……そ、それだけはどうか、おっしゃらないで下さい(滝汗)」

507パラレル・ロワイアルその450:2005/09/11(日) 03:52:17
 21:00…飛行船備付・航空機用飛行甲板

 保科と牧部を伴って飛行甲板へと足を踏み入れた坂上は、修理及び整備が
完了したVTOL機の方へと向かいながら、すぐにある違和感を覚えた。
(……甲板に、直後のものと思しき離着陸の痕跡がある……しかしそんな訳
がある筈がない。確か昼前、古河司令に奪取をされた空陸両用送迎機がこの
甲板を最後に飛び立って以来、唯の一機たりともここを離着陸なんかはして
いない筈なのですが……?)

 違和感に気を取られ過ぎていた坂上は、お目当てのVTOL機の物陰から
すうっと現れた、迷彩服に64式小銃を携えた一人の女性の姿に気付くのが
一瞬、遅れる事となった。

「こんばんわ、坂上さん♪」
「―――っ!!」

 スパン!スパン!
 パラララララッ!

 慌てて女性の方へと向かって、両手のベネリとステアーを乱射する坂上。
しかし、拳銃ならまだしも、散弾銃とブルパップ小銃をそれぞれ咄嗟に片手
で構えて発砲した所で、狙いが正確な訳などがない。
 自分の両側面を掠めて飛んで来る一連のBB弾を冷静に無視した女性は、
手にした64式小銃をゆっくりと構えてから引き金を絞った。

 シュパパパパパパッ!
 ズビシビシビシビシ!

「ぐおおっ!そんなッ……」
『ビーッ、新規ゲスト警備兵・坂上、有効弾直撃により殉職しました』




「ぐ……ば、馬鹿な……」
 驚愕に顔を歪ませながら、呻く坂上。

「な……何故、貴方がここにいらっしゃるのですか、柚原さん……?」
 呻きながら坂上はやっと気付いた。自分が搭乗せんとしていたVTOL機
の隣に、黒塗りの全翼機が何時の間にか着艦していたという、その事実を。
「成る程、そういう事だったのですか……来栖川航空高速便に搭乗していた
のは、実は天いな組だけ……鳩Ⅱ組は実は、貴方の御主人の勤め先のコネに
よりレンタルした、テスト運用中の来栖川製ステルス機によって、より早く
より秘密裏に、ここへと到着していたという……」

「ご明察ね、坂上さん♪」
 女性こと柚原春夏が、坂上に向かって片目を瞑り、にこやかに答えた。

508パラレル・ロワイアルその451:2005/09/17(土) 23:16:02
 飛行船の航空機用甲板上にて、鳩組の神岸ひかり・保科に牧部もついでで
加わって、鳩Ⅱ組本部隊のブリーフィングが始まった。暫定でリーダー格に
推された柚原春夏が、時間を惜しんでてきぱきと部隊分割を行っていく。

「それでは、これから各々の目的に応じて部隊を三分割していくわ。まず、
第一の部隊は長瀬源蔵さんと十波由真さんを中核とした『主催者特権・ゴリ
押し乱入部隊』、メンバーは長瀬さんに由真さん・姫百合珊瑚さん瑠璃さん
・HMX−17aイルファさん以上5名!第二は先行突入に成功したこのみ
に草壁優季さんとるーこ・きれいなそらさんを突入支援する事を目的とした
『赤いネコミミの環隊』、メンバーは向坂環さんに雄二くん・玲於奈さん・
薫子さん・カスミさん以上5名!第三は葉組父母の皆さんと協力して別口の
乱入組を牽制しつつ、間接的に先行突入隊及び第一第二部隊を後方支援する
『やむなく留守番の主人公部隊』、メンバーは私柚原春夏に河野貴明くん・
神岸ひかりさん・保科さん・牧部さんの以上5名!……それでは、第一第二
部隊はステルス機によって発艦・大灯台広場に強行着陸の後、海底トンネル
を強行突破して、倉田アイランドへ強行突入を試みるルートで、第三部隊は
VTOL機によって発艦・倉田アイランド真上の洋上にて無人となっている
巡視艇に垂直着艦して船を占拠、各部隊の支援となりそうな情報の収集並び
に、隠しルールの『脱出』ルートの確保を当面の行動目的とする……以上、
ここまでで何か質問がある方はいらっしゃいますか?」

「あのう、早速なんですが春夏さん」
「何かしら、環さん?」
「どうしてタカ坊は主人公なのに、間接支援部隊配属なのですか?」
「それなんですけど、環さん……実はタカくん、乗って来たステルス機が、
この飛行艇へと着艦した時に運悪く機内トイレにいて、着艦時のショックで
便座に尻餅をついちゃったみたいなのよ……幸い、便座は便器の方からだけ
は取り外せたのですけど、本編のお面よりも厄介なアイテムが外れるまでは
最前線でのアクションは無理そうなのよ。だから……」
「…タカ坊もツイてないってゆーのか、懲りないってゆーのか…(汗)」

「はいはい、質問やー」
「何かしら、珊瑚ちゃん?」
「メンバーの内分けの中に、かもりんの名前があらへんのやけど?」
「ああ、笹森さんね……私があれ程、『一仕事終わるまで大人しく待ってて
頂戴』って言ったのに、それを聞かないで私の後をこっそりと付いて行った
ものだから……坂上さんの最期の流れ弾に見事に当たっちゃって…」
「それは気の毒やー、キャラが弱いモンの宿命みたいな瞬殺オチやなー」




 それから一刻後―――河野貴明に生じた些細なるトラブルは解決されない
ままであったが、第一第二部隊の搭乗したステルス機が第三部隊の搭乗した
VTOL機に先んじて飛行甲板より発艦を開始した……そして、ステルス機
が飛行艇を離れ、車輪を格納し終わるか終わらないかという、その時。

 ボゥンッ!!

『ビーッ、来栖川重工製試作ステルス機“ムツミ”、有効弾命中により撃墜
判定……直ちに本島の空港・ヘリポートエリアに着陸後、全搭乗員はリバー
サイドホテルまで向かって下さい』

509パラレル・ロワイアルその452:2005/09/17(土) 23:16:59
 漆黒のその機体を、SAM(空対空ミサイル)内蔵のペイント弾によって、
黄色く染め上げて急速下降して行くステルス機をVTOL機客席より呆然と
見つめる、第三部隊の面々。

「これはまた……随分と一気に人数を減らされたものね」
「…それよりも春夏さん、今の攻撃は一体どこから…?」
「神岸さん、あれですよ、あれっ!」
 現在余りにシャレにならない格好の貴明が、島の外側の上空を指し示して
絶叫した。見ると、(ゲーム用)SAM・ATM・ガトリングガンで武装した
小型戦闘機の編隊が、矢の様にこちらの方へと向かって来ていた。 一方、
その時VTOL機操縦席の方では。

「何だ、あのコクピットの付いていない戦闘機の群れはっ!?」
「…恐らく地上基地か何かから出撃をした、篁財団の音速無人戦闘機による
先遣部隊でしょう、保科さん。後発の衛星軌道降下シャトルや、有人航空機
・艦船の到着まで時間を稼ぐために、無差別攻撃モードで投入されたものだ
と思われますね……では、仕方がありませんね保科さん、VTOL機の操縦
の方は貴方一人にお願いしまして、私は囮役として飛行船に戻り、対空兵器
であれの注意を引く事にしましょう」
「牧部さん…!」
「保科さん、私は皆さんの中では唯一人のまじアン組です……それに、神岸
さんの中の方には、異界間突破組の抑えをこれからもなさって頂かなくては
ならないのですよ……さあ、急いで発艦して下さい。出来る限りの援護射撃
でサポートを行いますから……では皆さん、ご健闘を!(ガチャッ…)」

“ご搭乗の皆さん、牧部が申しました通りの現状況です。よって、只今から
三十秒後に当機は安全確認無用の強行発進を行いますので、皆さんはその間
に速やかに最寄の席にお着きになって、安全ベルトをお締め頂けますよう、
どうか宜しくお願い申し上げます”

「ま、待ってくれ!俺は便座のせいでベルトを締めたくても締められな……
ぎゃああああああああああああああああああああああああああああっ!?」




 おまけ・21:01…??・??

「(ちゅるちゅるちゅるちゅる)何よ、この塩加減のいい加減な出汁?折角の
自然薯が台無しじゃないの?」
「申シ訳、ゴザイマセン」
「まあ、それはいいとして、オートクルージングシステムの調子の方はどう
なっているの?」
「再検査ハ、70ぱーせんとマデ終了シテオリマス。現在ノトコロ、異常ハ
発見サレテオリマセン」
「じゃあ、早い所終わらせて頂戴。それから、ゲーム参加が可能なあなた達
の仲間は、今現在どの位『生き残って』いるの?」
「ワタシヲ込ミデ、計二十体デス……操舵・おぺれーしょんニ計五体、隠シ
砲塔・機銃座ノ操作ニ計十体、船内警備・緊急予備要員ニ計五体…作戦行動
ニ於イテノ最低必要数ハ、丁度揃ッテオリマス」
「ん、結構結構(ちゅるちゅるぱくぱく)……それにしても、流石だわねえ、
るーこ隊長。ここったら最高の観戦スポットだわ♪」

510パラレル・ロワイアルその453:2005/09/24(土) 22:56:56
 おまけその2・21:20…本島リバーサイドホテル20階・G.N.
総合管制室

「こちらノブコ、篁財団の先遣部隊とおぼしき無人戦闘機群、本島へ来襲!
総機数93機、すでに本島上空の飛行船および、空港・ヘリポートエリアが
交戦状態に入りました!」
「こちらイズミ、ジャマー衛星包囲網が、篁財団衛星軌道空挺部隊によって
突破されました!…HMX−14の各機、オーバーワークにより緊急停止、
明日の0時0分までの再起動・ゲーム再参加は事実上不可能です!」
「こちらノブコ、空港・ヘリポートエリアの乱入者迎撃用シーハリアー2機
が鹵獲され、警備を行っていた吉田由紀・桂木美和子警備兵が『殉職』され
ました!…犯人は、ゲスト警備兵に扮した篁財団の寝返り工作員だとの情報
です!」

「篁めは大軍を投入して参りましたな、幸村さん…現状では撃退はおろか、
妨害すらも難しい所ですな」
「まさか無人戦闘機が、可変して地上戦可能なタイプであったとは…こんな
事でしたら、もう少しガードロボットの消耗を抑えておくべきでしたのう、
会長」
「それのしても、ほぼ同時到着しました鳩Ⅱ組が、正規参加を果たした三名
の支援のため、ゲームの無事決着協力側に回ってくれたらしいのが、不幸中
の幸いですな」
「しかし、他の葉組…篁と異界間突破組は、正規参加者数ゼロであるが故、
絶対に我々の敵の立場であり続ける事じゃろう」
「神岸さんの中の方には、出来る限り頑張って頂かなくては…かくなる上は
我々も、前線に出る必要がありそうですな、幸村さん」
「それでは、参りますかの会長……では、済まないがノブコ君・イズミ君、
大至急で博物館・美術館エリア行きの地下鉄道用トロッコを一両、地下二階
のプラットホームへと手配してはくれぬかの」

「「了解しました」」




「うぬぬう、おのれっ!不意討ちとは卑怯千万ッ!!」
 発艦直後に被弾し、撃破判定を受けたステルス機の操縦席にて、長瀬源蔵
は無念の呻き声をあげていた。

「こっ、これで…これで勝ったと思うなよぉぉぉーーーッ!!!」
「いったれ、いっちゃんっ!ウチらのウラミ晴らしたってやーっ!」
「さんちゃんのカタキやーっ!全弾まとめていてもうたってやーっ!」
 怒り心頭の十波由真と姫百合珊瑚・瑠璃姉妹のエールのもと、副操縦席の
HMX−17a・イルファは、機が空港・ヘリポートエリアへと急速下降を
して行くその殆ど一瞬の間に、人間技では成し得ないであろう、多目標への
ロックオンを完了させると、機の両翼に備え付けられたAAMのトリガーを
一気に引き絞った。
「第三部隊の皆様、どうかご健闘を―――!」

 ボンッ!…ボンッ!…ボンッ!…ボンッ!

 果たして、最前列で編隊を組み、飛行船を通過して後発にて発艦した第三
部隊の搭乗するVTOL機へと接近していた四機の無人戦闘機が、立て続け
に飛来して来た四発のAAMを一発づつ受けて、その機体を黄色く染め上げ
ながら、もと来た空域へとUターンして飛び去って行った。

「感謝致しますわ、イルファさん」
 柚原春夏は下降して行くステルス機に向かって窓から敬礼を送ると、すぐ
さま操縦席の保科の元へと駆け付けて次なる指示を行っていた。
「幸い、後続の無人戦闘機群は、対空砲火を開始した飛行船の方へ引き付け
られているみたいだわ…保科さん、改めて発見されませんように、このまま
下降して、スタジオ・舞台村→土産物商店街→海水浴場エリアを大回りする
低空迂回ルートから水族館エリア沖→大灯台広場沖の巡視艇を目指すルート
で飛行を行って頂戴」

「解りました、柚原さん…!…こっ、これはっ!?」
 低空飛行を開始した保科はその時、巨大公園方向からいきなり出現・接近
して来る航空機の反応を、機内レーダーに捉えた。

「神岸さん、北の方角に機影が見えるかしら?」
 客室の方へと首を出して尋ねる春夏に、望遠鏡片手の神岸ひかりがすぐに
答える。
「ハリアー…いえ、シーハリアーが二機、こちらへ向かって来ております」

511パラレル・ロワイアルその454:2005/09/24(土) 22:58:49
「う〜ん、これではまだ、敵か味方か判りませんね……保科さん、あの二機
との通信は取れないかしら?」
 そう言いながらも、最悪の事態を想定し、てきぱきと機内装備のチェック
を開始している春夏。

「通信は……おや、向こうから入って来ましたよ。今、回線を繫げて見ます
……(パチッ)」
 保科が機内無線の接続を行うと、二機のシーハリアーより待ってましたと
ばかりに、パイロットであろう男二人からの、威勢の良いキメ台詞が入って
来た。

“よう、鳩組の皆様”
“さあて、頃しあうかね”

「ははあん…」
 春夏はたちまち、相手の正体に気が付いたようである。
「今度のクライアントは篁財団という訳ですか?…それにしましても、正規
参加を果たされました高野さんと比べますと、天と地の様な出番の扱いです
わねえ♪」

“そっ…それを言わないでくれよぉっ……それにしても本編で、名前が出て
長生きが出来たってゆーだけでよ、高野のヤローばかり若い娘どもと一緒に
早い出番で延々、楽しい思いをしやがってよぉ…って、余計な事言わせんな
大きなお世話だ、この年増女ッ!!”




「……………………誰が、年増だ?」
 春夏は一言そうぼそりと呟くと、VTOL機の胴体下部に装着されている
空の増槽タンクの切り離しボタンを無造作に押した。

 ガコンッ……ヒュウウウウウウッ……バキンッ!!

 切り離された増槽タンクは空中を舞い、後を追う一機目のシーハリアーの
尾翼に命中、これをあっさりともぎ取ってしまった。

“な!?…ぎええええええ〜〜〜っ!?”
 ドッパーーーン!!

 尾翼をもぎ取られたシーハリアーはたちまち失速し、スタジオ・舞台村の
学校エリアのプールの中へと波飛沫を上げて不時着した。

『ビーッ、篁財団内応ゲスト警備兵・歴戦の傭兵その2、アタックダイブに
より殉職しました』




 今となっては余談となるが、撃墜されたステルス機の搭乗員の中で唯一人
機よりの脱出に成功した、鳩Ⅱ組が存在した。
 そのキャラクターは機が被弾すると同時に、自分を拘束するシートベルト
を引きちぎり、天井に格納されている脱出用のパラシュートを、天井板ごと
引き摺り出すや扉の方へと猛ダッシュして、非常用のコックを使用しないで
無理矢理扉をこじ開けると、パラシュートを背負って夜の空へと、その身を
躍らせたのであった。
 無論、パイロットとして着陸まで機体を離れる事の出来ない長瀬源蔵や、
姫百合姉妹を見捨てる事など出来る訳のないHMX−17a・イルファは、
ともに怪力の持ち主であるとはいえ、上述のキャラクターである筈もない。
 そう、そのキャラクターとは…

512パラレル・ロワイアルその455:2005/09/24(土) 23:00:06
「おおお、おのれっ、よくもやってくれやがったなッ!」
 学校のプールにブクブクと沈んで行く、相棒のシーハリアーを眼下にし、
もう一人の歴戦の傭兵は直ちに、機載AAMによるロックオンを開始した。
「馬鹿めっ、民間機が軍用機から逃げ切れるとでも思っていたのかっ!?」
 移動速度に劣る第三部隊が搭乗のVTOL機はたちまち、シーハリアーに
ロックオンを完了された。後はAAMが発射されれば、この低空では脱出も
不可能・全滅確定の筈である。

「これで終わりだ、死にやが……れれれっ!?」
 今まさにトリガーを引こうとした傭兵の大柄な体が、その瞬間垂直に宙に
『浮いた』。
 いや…正確には、後ろから両手でヘルメットを掴まれ、持ち上げられた。

「ななな、何だっ!?何が起こったというんだっ!?」
 持ち上げられた傭兵は、首が回らず状況も理解出来ないまま、慌てて手足
をばたつかせた。と、不意に後ろから少女の声が聞こえて来た。
「お取り込み中悪いんだけれど、あの飛行機への攻撃を中止して、それから
私を大灯台広場まで、連れて行ってはくれないかしら…?」

「何だとテメエッ!?誰に命令してやがんだ、コノアマッ!今すぐさっさと
離しやがれッ!さもないと……」
 更に暴れだして、ヘルメットを掴まれている手を無理矢理引き剥がそうと
した傭兵のヘルメットが。

 メリメリメリメリベキベキベキベキ……

 と、握力に屈した悲鳴を上げ始めた。当然、そのヘルメットの着用者にも
握力はダイレクトに伝わり始めて。

「もぽえええええええええーーーっ!?割れる割れる割れるぅーーーっ!?
判りましたわかりましたうわかりましたあああああああああーーーっ!!」

「よろしい♪」
 両手の力を心持ちゆるめてやってから、少女―――向坂環は、ニッコリと
そう言った。と、その肩をチョンチョンと叩く、二人目の脱出者の姿がその
肩の上にあった。

「あら?……もしかして、あなたミルファちゃん?」
 コクコク。
「もしかして、珊瑚ちゃん瑠璃ちゃんに後事を頼まれたの?」
 コクッ。
「それなら一緒に頑張りましょうね、ミルファちゃん♪……ところで、一応
聞いてみるけれど……もしかしたらミルファちゃん、この飛行機の操縦って
出来るのかしら?」
 コクコク、グッグッ。
「回線直結で、お茶の子さいさい?」
 コックン。
「……それなら、もうコイツは必要ないわね」


 ズリズリ……ポイッ。
「へ!?…ギャアアアアアアアッ!?」


「という訳で、早速だけどミルファちゃん、操縦の方お願いね♪」
 グッグッ。


 スタジオ・舞台村、時代劇エリア…五条大橋の通る川辺に、天から降って
来た脱落者による、派手な水柱が一つ上がった。


『ビーッ、篁財団内応ゲスト警備兵・歴戦の傭兵その1、アタックダイブに
より殉職しました』

513パラレル・ロワイアルその456:2005/09/30(金) 20:54:12
「へちょい攻撃だ」
 ステーションビル三階、誰かさんの決め台詞をパクリながら、坂上智代は
七瀬留美の十手をいなす。

「言わせておけば……!!」
 連続攻撃を仕掛ける七瀬。そこに、智代の的確なローキックが炸裂する。
「っぐう……!!」
 そこは古傷のある場所だ。七瀬は顔をゆがめる。

「やはりな……資料通りか……」
 本編の巳間晴香とは逆に、情け容赦なく更なる追い討ちを繰り出し続ける
知代。正中線に四連コンボ!!七瀬の足はもう既にかなりふらついている。


 打撲音、打撲音、加えて更に打撲音。
 いたい、いたいっ!いい加減にしてよ、お願いだから!
 私はずっと、守りを固めて得物をかざしながら後退していた。
 今まで経験した事のない、一部の慢心も隙も情けもない正確無比な攻撃が
続いている。
 もういや、なんなのこんな展開。
 こんなの認められない、こんなのは嘘。
 ……なによ、なんなのよ、これは!!
 そう、こんな展開は認められない。こんな現実は許せない。
 私が、この七瀬留美が、こんな時にずっと押されっ放しだなんて……!!
 こんな展開を許すわけにはいかない。
 なめないでよ、ふざけないでよ、ワイルドセブン筆頭の七瀬留美なのよ、
私……!!
 私は目を見開くと、ありったけの気力をこめて、吼えた。飛び掛かった。

「おんどりゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 智代の振り下ろしてきた竹刀を二刀流持ちの十手の又の部分で受け止め、
力任せに捻る。梃子の原理を応用した七瀬の反撃に智代はバランスを崩す。

「くっ、しまった…!」
 体勢を崩す知代。
 そこにタックルをしかける七瀬。
 二人は得物を離してごろごろ転がりながらフロア内を移動する。

 マウントポジションを取ったのは七瀬の方だった。
 七瀬が智代の首根っこを掴むと智代も七瀬のツインテールをひっ掴んだ。
 ((ごっ、))
 互いの額がもとい、パチキが火花を散らしそうな勢いで激突した。

514パラレル・ロワイアルその457:2005/09/30(金) 20:55:12
「がぁ……!?」
 声をあげたのは七瀬の方だった。更に智代は肘で七瀬の顎を突き上げた。
「ぐぁっ!!」
 たまらず身を除ける七瀬。その隙をついて知代は七瀬を蹴り飛ばし間合い
を取り直した。

「どうした」
「……………………」
「頭突きはオマエの領域だろう……とはいえ、ゲームが始まってからの39
時間余り、殆どマトモに睡眠を摂らなかった、今のオマエの精神的・肉体的
スタミナ量では、こうなっても仕方がないか」
「!?っ……知っているのっ!?」

「乱入に先立った際の、特務機関CLANNADの情報収集力・情報分析力
を甘く見ない事だ……後の事を考えず、一時の怒りに任せて、敗者復活戦に
参加してしまったのは、結果的に大きな間違いとなったようだな……こみパ
の同人作家や、戦争のプロである御堂や高野ならいざ知らず……それに」
「それに……何よっ!?」
「オマエが本編にて数々の奇跡的逆転勝利を可能にした『火事場の戦乙女』
現象―――あれは、『敗北が絶対許されない状況』そして『噴怒の闘志』の
二つの起動条件を必要としている。しかし、オマエは今の戦いに先立って、
るーこに『万一時の後事を託す』という、保険を掛けるようなマネをした。
すなわち、オマエは自ら、自分の必殺技の起動条件の片方を封じてしまった
という訳なのだ」

「!…じゃ、じゃあアンタ、逃げて行くるーこさんの事、わざと……?」
「勿論だ。もし私が彼女を頃して止めようとしたら、私は本編にて柏木耕一
の中華キャノンチャージを拳銃で阻止しようとした、長瀬源三郎と同じ運命
を辿り、オマエに敗北していた事だろうしな……しかし、今のオマエは精々
頑張った所で、巳間晴香と殴り合ってダブルKOとなった時と、同レベルの
力しか出し切る事は出来ない筈。それでは、この私には絶対に勝てない」

「大したご高説と戦略眼ですわね、恐れ入ったわよ!!」
 智代に怒鳴り返す七瀬。逆ギレともいう。
「おかげさまで、現状がアタシに圧倒的に不利だっていうのはよく分かった
わよ!!けどね!!」
 七瀬は息を吸った。
「不利になったらオメオメさがって、有利だったらイケイケで押して!私が
経験して来た戦いってのはそんな理屈倒れの底が浅いものじゃない!!……
第一、そこに転がっている、毛の生えた全身防具を脱ぎ捨てちゃったアンタ
なんかに、有利不利をツッコまれる覚えなんてないわッ!!」
 言うや、七瀬は再び拳を振り上げ突進して来た。
「おんどりゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「……それこそ、底の浅い勘違いだ」
 智代は首を振りつつ、迎撃の構えを取りながら言った。
「ボクサーがグローブを外し、拳をムキ出しにする行為と同じなのだ、私が
クマさんを脱ぐという事は……どれだけ有利な条件であろうとも、私は最初
から100%、オマエを侮ってなどいないのだぞ、七瀬留美」

515パラレル・ロワイアルその458:2005/10/07(金) 19:37:12
 土産物商店街上空を移動するVTOL機。その移動速度の差故に、自分達
を追い越し先へと飛び去って行く向坂環とミルファが搭乗するシーハリアー
を窓から眺めながら、(未だ受難状態の)河野貴明は柚原春夏に向かって、
ふと疑問に思った事を尋ねてみた。

「あの、春夏さん…?」
「何かしら、タカくん?」
「どうして自分達は、このみ達の支援のためだとは言いましてもわざわざ、
無人の武装巡視艇の無血占拠を行ってまでして、『脱出』のためのルートを
警護する必要があるのでしょうか?……ドームのこのみ達が潜航艇に再搭乗
して、倉田アイランドから『脱出』する事に成功しさえすれば、このゲーム
はこのみ達や自分達鳩Ⅱ組の勝利で無事決着、という事になるのではないで
しょうか…?」

「甘いわね、タカくんったら」
 春夏は人差し指をちちち、といった感じに振りながらその質問に答える。
「『脱出』っていうのはねタカくん、無事に来栖川アイランド本島まで辿り
着くまでが『脱出』の必要最低条件になっているのよ。もし、『脱出』狙い
の参加者が見事、倉田アイランドからの脱出を果たしたとしても、そこから
更に、無事来栖川アイランド本島まで辿り着く前に、何者かの攻撃によって
頃されてしまうような事になってしまったら、それまでの苦労は全て水の泡
になっちゃうという訳なのよ」

「じゃ、じゃあ篁財団や異界間突破組の狙いというのはひょっとして…?」
「そういう事。『脱出』を目論んで倉田アイランドから脱出して来た参加者
を、来栖川アイランドに辿り着くまでに皆頃しにしてしまって、勝者ゼロに
よる没収試合→自分達を参加枠に加えてのゲーム再スタート、にあるのだと
睨んで間違いはないでしょうね。ですけど、海千山千の篁さんの事ですから
加えて、別の手段も絡めてこのゲームの決着に更なる妨害を仕掛けてくる事
でしょうね、きっと」

「それなんですけど、春夏さん…それならばもし、ドーム内の正規参加者達
が『脱出』を選ぶ事無く、あくまで最後の一人もしくは二人になるまで戦い
続けて決着を着けようとした場合、決着妨害派にはその動きに対して妨害を
行う手段は存在しないんじゃあないでしょうか?」
「…お言葉ですが、現在のドーム内の状況から考えますとそういう展開から
決着へと向かって行きます可能性は限りなく低そうですわ、貴明さん」

516パラレル・ロワイアルその459:2005/10/07(金) 19:38:10
「どうしてなのでしょうか、神岸さん?」
「21:00を少し回りました頃、飛行船のモニター室にて倉田アイランド
内のゲーム生存参加者状況をチェック致しました所、(岡崎史乃・杜若祐司
・ジェット斉藤を除く)生存正規参加者が十四名・生存警備兵が二名の合計
十六名……その内、未だに交戦に重きを置いて行動されてました参加者は、
特務機関CLANNADの古河司令と坂上智代さんのお二方のみでした……
しかも、そのお二方は残りの十四名の中でもトップ3には入りますでしょう
実力実績の参加者の方々とそれぞれ、交戦状態へと入っておられました……
今現在の状況がどうなっておりますのかは調べる事は出来ませんが、お二方
がお二方とも勝ち残り、これからも勝ち進んで行かれる可能性は、恐らくは
高くないものと思われます」
「ひかりさんのおっしゃる通り、遅くても明日の午前0時までには、ドーム
内での全ての戦闘は終結する事でしょうね……とは言いましても、仮にタカ
くんの言った通りのゲーム展開になったとしても、決着妨害派には全く打つ
手がないという訳じゃあないのですけど」

「だとしますと、他にどのような手を打って来ると思われますか?」
「そうねえ…まず考えられる手としては、やっぱり買収交渉かしら?…この
ゲームの運営権を来栖川・倉田から買い取る事さえ出来てしまえば、篁さん
はもうこのゲームの中止も再スタートも全ては自分の思うがままですから」

「でっ、ですが…来栖川・倉田側がハイそうですかと、そんな交渉に応じる
理由なんかが存在する訳は…?」
「分からないわよ。仮に、もしもこのゲームが決着妨害派の攻撃によって、
最終的に回復不可能なまでの暴走状態に陥ってしまっちゃったら、保安部隊
のその殆どを消耗し切ってしまっちゃった今の来栖川・倉田側も、やむなく
交渉に応じないとも限らないし。それと、もう一つの手段として『核攻撃』
というのも充分、篁さんなら選んでもおかしくはない手段だわ」

「かかか、『核攻撃』ですかっ!?」
「当たり前でしょう?模擬核ミサイルもしくは模擬核魚雷は、このゲームの
勝者をゼロにする、という目的においては一番手っ取り早くかつ確実な手段
じゃないの?……とは言っても、余りに強引なゲームの潰し方を行ってしま
った場合、興をそがれてしまった葉鍵の元参加者達が、ゲームの再スタート
を集団ボイコットしてしまう可能性が極めて高い訳ですから、余程に絶好の
発射ムード・発射タイミングが偶然発生しない限りはあくまで、心理兵器に
とどまってくれてるとは思っているけど」
「…是非とも、そう願いたい所ですわねえ…」

「ふぅ…それにしても、皮肉なものねえ」
 春夏が、迷彩服のポケットから引っ張り出した赤いバンダナを額へと巻き
ながら、しみじみといった感じで呟いた。
「古河さんの挑発に乗せられてしまった当初は、私達鳩Ⅱ組も決着妨害派の
一勢力だった筈なのに、このみや草壁さん・るーこさん達の正規参加のお陰
で行動目的が見事180度変わっちゃって、今や無時決着に協力するため、
それまでの間は古河さんへの怒りを共有していた筈の、残りの葉組と戦火を
交えようっていうのですから」

517パラレル・ロワイアルその460:2005/10/10(月) 19:00:10
「実に最高だ。自分の作品を作って貰いサブヒロインからヒロインへと昇格
する事。その、何と気分爽快・士気旺盛になれる事か……わかるか?過去の
武闘派よ」

 話しながら次々と容赦なく繰り出される攻撃の前に、七瀬は最早なす術も
なかった。気力も闘志も、未だに残っている頭突きの衝撃と、それに伴って
耐え難いレベルにまで急上昇した睡魔によって、既に殆ど失われている。
 いっそ、そのまま眠った方がどれだけ楽だっただろう。
 しかし、それは許されなかった。
 るーこさんのための時間を稼ぐ、せめてその役目だけでも全力を尽くせず
して倒れる事は、七瀬自身許せなかった。

「なかなか耐えるな。しかしこれ以上は時間を無駄に出来ない。そろそろ、
終わらさせて貰おう」
 それまで冷静さを絵に描いた様であった智代の顔に、薄く氷の膜が張り付
いていくかの様に、冷徹な色のオーラが浮かび上がった。

(まだ……まだ完全に本気を出していなかったとでもいうの、この人!)
 この際、自分がここで脱落するという(相場上の)番狂わせも止むを得ない
と覚悟していた。だが、自分の行動選択が結局、智代の言っていた通り完全
に間違っていたという結果を出させたまま『死ぬ』のだけは嫌だった。先に
逝った全ての尾根組に、自分を助けてくれた舞とるーこさんに、会わせる顔
がないではないか。
 脱出の鍵を握るゾリオンの内の二丁を、覆面ゼロより託されたのは七瀬で
あった。そして、竹刀一本片手の智代を相手に正々堂々のタイマン(メン)を
せずに、るーこと二対一でゾリオンによる銃撃戦を挑む事だって出来た筈で
あった。後少し早く智代の実力を見抜いてさえいれば、本編ワイルドセブン
筆頭という乙女の自尊心を捨てて戦いに臨んでさえいれば、せめて、相討ち
ぐらいには出来たのではなかったのかと思った。
 生き残りの皆が、智代の次の標的にされるであろう事は、間接的に自分の
せいであると思う。そんな自分が、最後の意地一つすら見せる事も出来ずに
、終わってしまうのだろうか。
(ちくしょうっ……アタシって一体何だったのよお……っ!)

「そんなに上の階の連中が気になるか?」
 七瀬はハッと、智代の手に持つ志保ちゃんレーダーを見た。
「私は、お前のバッグの中身は確認している。そう驚く事ではないだろう。
千堂和樹と大庭詠美の所有物も知っているぞ?」

「なら……」
 智代を見る目に怒りがこもる。
「ならなんだっていうのよっ……」

「残念だったな、という事だ」
「―――っ!」
 怒りで眠気を吹き飛ばせたら……七瀬はこの時初めてそう思った。

「潜航艇は私にとって余り好ましくない物である様だ。いっそ、ゾリオンが
そろった所でどうにもならなくなる様に、港埠頭へと先回りして、『破壊』
―――」
「やめてぇっ!」
「…そう言うと思っていた。そこで、私がお前に一つ選択肢を提供しよう。
今から私が潜航艇を『破壊』し、『脱出』ルールを参加者達に選べなくする
事を邪魔しないというのなら、これまでの経緯は水に流す。お前の出番を、
今は奪わないという訳だ。それが出来ないなら、お前を頃したその後港埠頭
に出向き潜航艇を改めて『破壊』させて貰おう。どうだ、いささか悪趣味な
余興だったかな。ともかく、五数えている間に自分で決めてくれ」

518パラレル・ロワイアルその461:2005/10/10(月) 19:01:17
 選択肢は初めから一つしかない。
「五……」
 どちらが、より長く、時間を稼げるか。
「四……」
 ただそれだけだった。
「三……」
 そのわずかの時間差で、るーこさんが上の階の参加者と合流し、いち早く
港埠頭へと急いでくれるかもしれない。さもなくば、外での戦いに勝利した
御堂のオッサンがこの場へと駆け込み、なんとかしてくれるかも知れない。
「二……」
 可能性に賭ける他はなく、また与えられた選択肢以外に、道は思い浮かば
なかった。
「一……」

「喰らいなさいよッ!コレがアタシの返答よおおおおお―――――ッ!!」
 最後の気力を振り絞り、拳を構えた七瀬が智代目掛けて突進して行った。

「……結局は、時間稼ぎを選んだという訳か。私の問い掛けに時間を置いて
答えたのも時間稼ぎの一つだな。自分の出番を捨ててでもという訳か……」
「―――――――――――――――――――――――――――――ッ!!」

「いい心構えだと褒めさせて貰おう。だが、私は言った筈だ。お前のバッグ
の中身は既に確認済みだとな」
 脱ぎ捨ててあったクマさんの腕部の中に隠してあったワイヤーランチャー
の引き金を握ると、智代は七瀬のみぞおち目掛けて、肉球ロケットパンチを
躊躇なくぶっ放した。

 ズンッ!!

『ビーッ、69番・七瀬留美、有効弾直撃により失格……本人自力移動不能
のため、ジェット斉藤さんは直ちに救急搬送車にて、MINMESエリア内
・マザーコンピューターステーションビル三階まで急行して下さい』




 結局、何も出来ないまま終わってしまった……。
 口では不死身の戦乙女を自称しながら、智代を倒す事も、自分が生き残る
事も出来なかった。
 睡魔に屈する前に何故か、るーこさんの顔が脳裏に浮かんだ。
 自分達の世代では想像すらつかなかったであろう、新世代とのギャップを
感じさせずにはいられない、何もかもが新鮮かつ不思議だった少女。
 彼女は出会ったばかりの時に何を話していただろうか。

『るーとは、次元中に漂う可能性を手繰り寄せる力だ。確かに、るーがるー
の力を行使するに越した事はない。しかし、うーにだって、るーの力を導き
出せない訳ではない。何故なら、最も必要なのは『想い』であるからだ』
『想い?』
『るーの力は思いを実現させるための物、想う力が強ければそれだけ、るー
の神も力強く応えてくれる。強い想いがあれば、るーは誰にでも導き出す事
が出来る。うーみ……うーみにも、るーが共にあらん事を』

 最後に、一つの可能性が七瀬の頭をよぎった。
 まさか、そんなことでいいの?
 あの台詞を曲解しないと、その結論には届きそうもない。
 だけど……、
 最後の最後まで、自分にやれる可能性のある事は試そうと思う。
 るーこさんは『るーの力は想いを実現させるための物』と言った。
 るーこさんは『強い想いがあればるーは誰にでも導き出せる』と言った。
 あたしはそれを遂行させたいと思っている。
 どんな事があっても絶対に遂行させたいと思っている……。

 睡魔の力が、七瀬を完全に支配した。
 想いの行き場を肉体から開放されて。
 小さな、ほんの小さな、るーの力が今、発動した。

 69番・七瀬留美 脱落
【残り 13人】

519パラレル・ロワイアルその462:2005/10/17(月) 18:58:31
「うぐぅ〜、ボクもうダメだようっ」
「観鈴ちん、へとへと〜」
「風子、おめが最悪です〜っ」
「皆さん、もうひと頑張りです……次が最後の、最上階の筈ですから…」

 ステーションビル15階から16階もとい、最上階へと通じている階段を
よろよろとした足取りにて登り続けておりますのは、月宮あゆ・神尾観鈴・
伊吹風子・天野美汐の四人連れであります……さて、ところでどうしてこの
四人連れが、階段にてこのような難儀な目に遭っておりまのすかを説明して
参りますと……突発イベントの連発の末に何とかビル内へと侵入をしました
この四人、早速先にこのビル内へと入って行きました神奈備命と草壁優季の
二名の探索を始めようかとしました所、いきなり不幸なトラブルが発生して
しまいました。以前に河島はるかより渡されました便利アイテムであります
人物探知機のバッテリーが切れてしまい、使い物にならなくなってしまった
のであります。更に具合の悪い事は重なってしまいますもので、このビルに
設置されておりますエレベーターは、1階と最上階を除いては偶数階停止・
奇数階停止の飛び階停止型の物しか存在しませんでした。そのために結局、
『飛び階移動による行き違い』『偶数階探索組・奇数階探索組へのメンバー
分割』の両方とも避ける道を選ぶ事に決めました四人は何と、1階から順に
階段で上の各階へと登っては探索するのをこれまで延々15回も繰り返して
いたのでありました。何とまあ、その手間と時間の掛かる事!

 かくして、遂にビル最上階へと辿り着きました四人は、辿り着くと同時に
エレベーターホールより聞こえました“チーン!”という音を聞きまして、
思わず愕然となってしまったのでありました。

「「「「まさか…このタイミングで行き違いになっちゃったの!?」」」」

 思わず血相を変え、それまでの疲れも忘れてエレベーターホールの方へと
猛ダッシュをしてしまう四人。果たして、ホールへと駆け付けました四人の
前で、開いたエレベーターの扉より現れ出でました、その人物は。

「るー?」
「「「「…………」」」」




「それでは、るーこさんも優季さんと一緒に新規参加をされた鳩Ⅱ組の…」
「そういう事だ、宜しく頼むぞ、うー達」
「うぐうっ、それよりも、おじさんや七瀬さん達が今戦っているというのは
本当なのっ?」
「本当だ。そして、るーはうーみより、残りの参加者達のための『脱出』の
ルールの詳細と必要なアイテムであるゾリオンを託されて、ここまで何とか
辿り着いたのだ。こうして無事巡り会えた事は実に幸運な事だぞ、うー達」
「それじゃあ、るーこさんは、『脱出』の方法とそのための道具をもって、
やってきてくださったのですかっ?もう、闘うこともなくみんなでゲームに
勝つことができるんですかっ?それなら風子、るーこさん大歓迎ですっ!」

「そんな事よりもるーこさんっ!はやく、早くみんなでおじさんや七瀬さん
の事、助けに行こうようっ!」
「!…待て……………………今、るーの力による声が、聞こえた……………
………うーみの、声だ……………………たった今、うーみが、狩られた…」
「…そ、そんな…」
「うぐう、七瀬さんっ…」
「どうしてなんですかっ…」

「うーみは言っていた…自分を倒した敵は、全参加者の『脱出』を阻止する
ために、港埠頭にある潜航艇の『破壊』を目論んでいるから、まずはそれを
止める事を第一に行動を行って欲しい、と…」
「そんなのいやだよっ!神奈さんや、優季さんがまだみつかっていないのに
、おじさんだってまだ戦っているのに、みんなで置いてけぼりなんかにして
、ボク達だけで逃げ出すなんて、そんなこと…ボクには絶対できないよっ!
……それに、七瀬さんだって本当はきっと、きっとまだ『生きて』いるのに
決まっているよっ!」

520パラレル・ロワイアルその463:2005/10/17(月) 18:59:45
「しかし、うぐーよ……るーが見た所では、どぅーにしろ、うーみにしろ、
対戦相手共々、うー達の助太刀が勝敗に影響出来るようなレベルの戦いでは
なさそうだったぞ……迂闊に助けようと顔を出して、却って足手纏いになる
ような結果にでもなったら、悔やんでも悔やみ切れない事になってしまうぞ
……それにな、うぐー、うーきの特技のひとつは、『鬼ごっこ』なのだ……
不意討ちをされない限りは、どんな敵からでも走って逃げ切る事が出来る筈
なのだ……だからきっと、心配は要らない筈だ」
「…それでしたら、確かに…残る神奈さんの戦闘力・移動力を考えてみまし
ても今、私達が助けに行こうとするのは、却って足手纏いとなってしまう事
なのかもしれません…それに、今の私達にとって最強の装備であるゾリオン
が、実は『脱出』のための必要アイテムであるという、貴重な、おいそれと
危険な場所へと持って行けない物であると、判ってしまいました以上は…」

「う、うぐうっ。そ、それでもボクは行きたいよっ!それがみんなを危険に
巻き込む事になるんだって言うんなら、ボク一人ででも行って来るよっ!」

「うぐー…願っても、信じても、あまつさえその身を犠牲にしたとしても、
叶わない事だってあるのだ……希望や憶測・感情だけで今の行動を決めたり
起こしたりするのは愚かな事だぞ………………ん?どうした、ふぅー?」
「おことばですが、るーこさんは間違っていますっ。『奇跡』というものは
願ったり信じたりするところから始まるものですと、風子はこの身をもって
経験したことがあるのですっ」
「ふぅー…」
「…じ、実は私も、つかの間のものでしたら、二回ほどあるのですが…」
「そうだよっ、ボクだって経験した事、あるんだよっ…だから止めてもダメ
だよ!ボクは絶対に行くからっ!」

「行くからっ…て、お前は行くべき先を知っているのか、うぐー?」
「うぐうぅ〜っ!……。るーこさああん、おねがいだよううっ(えぐえぐ)」
「泣くな、うぐー……まさか、うー達に、るーの力の原理を教え直される事
になろうとはな……それならば、るーはもう、うー達にあれこれ指図したり
はしない、皆がそれぞれ、自分が正しいと思う事を行えば良い……まずは、
どぅーが今戦っている所は、ビル1階の正面玄関外だ……どの道、ここから
港埠頭へと向かうためには、絶対に辿らなければならないルート上の所だ、
取り敢えずそこまでは皆で一緒に行く事にしよう」

「ありがとう、るーこさんっ!」
「…それでは、急いで参りましょう……ところで、るーこさん(ヒソヒソ)、
もしかしてその、御堂さんの居場所からまず、あゆさんへとお教えしました
のは…?」
「そういう事だ、うーみし……うーみの気持ちを無駄にしたくない、るーに
とっての、これがギリギリの妥協点といった所なのだ……この事は、決して
うぐーに悟られぬ様、頼むぞ」
「…解りました、るーこさん」

「にはは、ただいまー♪」
「…お帰りなさい……って、いったい今まで何処へ行ってらしたのですか、
観鈴さん?」
「せっかく最上階までたどり着いたから、このビルのマザーコンピューター
さんに、ご挨拶に行ってましたー」
「行ってましたー…とは、一人フラフラと、なかなかの強者ぶりなのだな、
すずーは……で、結果として何か収穫は得られたのか?」
「えッ!?……え、えとその……な、なにも……何も見つからなくって残念
だったよー、にははっ(あたふたっ)」
「観鈴さん、なんだか顔がとても赤いですっ」
「そ、そんな事ないよ風子ちゃんっ(わたわたっ)……み、観鈴ちん、メイン
モニターに映しっぱなしだった、新作ゲームサンプルの、とってもえっちな
画像なんて、ぜんぜん見てなんかいないんだようっ(わたたたたっ)」

「「……」」
「とっても解りやすいな、すずーは…」
「もーみんな、なにをしているんだようっ、急いでエレベーターで1階まで
戻るんだようっ!」




 余談だが、最初にエレベーターホールにて“チーン!”という音がした時
、実は最上階にて稼動していたエレベーターは、二台存在していた。あゆ・
美汐・風子・観鈴の四人共に、るーこの乗って来た、扉が開いた方のエレベ
ーターにのみ注意が向けられてしまい、るーことは行き違いになるような形
で、扉が閉まって下降して行く、もう一台のエレベーターの存在には、誰も
全く気付いていなかった。

521パラレル・ロワイアルその464:2005/10/17(月) 19:09:13
 エレベーターが一階に到着し、弾かれたようにあゆは走り出す。
 『ここへは戻ってくるなよ』と言っていた。
 るーこのその言葉が気掛かりだった。
 戻ってきてはいけない。
 それはきっと、危険なことが起きるから。
 だからじっとしているなんて、あゆに出来るわけがなかったのだ。
 正面玄関を潜る。暗くて、何も見えない。
 再度消灯してしまった街路灯のせいで、何も見えない。
 また、再点滅。
 周囲が照らされる。
 あゆが見たものは、ぐしゃぐしゃに叩き潰されたレイバーのコクピットでエアバッグに生き埋めにされている、二本触角の男の姿。
 そして、特殊繊維製の褌を穿いている、紅い双眸を光らせた青緑色の巨人の姿。
 点滅が、点灯に戻った。

 119番・古河秋生 脱落
【残り 12人】

522パラレル・ロワイアルその465:2005/10/23(日) 19:58:54
「わーっ!」
「あ、あゆさん……!」
「が、がお……!」

 ステーションビルの正面玄関…車道の上に立ち尽くしている、紅い双眸を
光らせた青緑色の巨人の姿と、そちらの方へとことこ近付いて行くあゆの姿
を見た風子と美汐それに観鈴は思わず、緊張状態となって玄関に立ち竦んだ
まま、互いに抱き合ってしまっていた。

「るー、案ずるな…落ち着くまではそこでそのままじっとしているがいい」
 抱き合う三人の肩を優しくポンポンと叩くと、るーこはあゆの後を追って
これまた巨人の方へとすたすた近付いて行った。




「おじさん……?」
 あゆは恐る恐る、それでも確かめずにはいられないといった感じで、眼前
の巨人の顔をしっかりと見つめながら尋ねかけた。

「おう、あゆ。まだしっかり『生き残って』やがったようだな」
 巨人―――御堂は、口の端だけを吊り上げて(今の面構えとしては)何とか
器用に笑いに表情を造って見せると、あゆとその隣へとやって来たるーこの
方へと、その巨体をゆっくりと屈めて向けなおした。

「それにしても物凄い姿だな、どぅー。まさか、あの水晶にこれほどまでの
変身能力が秘められていたとは…」
「水晶だけの手柄じゃねえ、この俺様の潜在能力があってこそ、ここまでの
変身が出来たんだぞ、るーこ」
「とにかく、おじさんが無事(?)でよかったよ……それじゃあるーこさん、
次は七瀬さんに神奈さん、それに優季さんの居場所を、大急ぎで教えて…」

「待て、そう慌てるな、うぐー……」
 急き立てようとするあゆを制しながら、るーこは一縷の望みを託しつつ、
そっと御堂へと目配せを行った。

「なんだぁ?オメーラ…まだ、他にも連れが残っていやがるのかぁ?」
 瞬時にして目配せの意図を覚った御堂が、事態をより詳しく知ろうとして
わざと、とぼけた質問を口にした。

「うんっ、そうなんだよおじさんっ、実はねっ、実はねっ……」
 より多くの助けを欲する思いのあゆは素直に御堂に向かって、『脱出』の
ための情報とアイテムを手に入れた事・そして、『脱出』のための乗り物が
一刻を争う『破壊』の脅威に晒されている事・けれども、ビルの中で別れた
ままである仲間がいて、置き去りにして乗り物を守りにいく事がどうしても
出来ない事等を、堰を切ったように滔々としゃべり続けた。

523パラレル・ロワイアルその466:2005/10/23(日) 20:00:30
「…成る程な。本編わいるどせぶんや本編らすぼすの身の危険を案じる辺り
がいかにもお前らしいな、あゆ……よし分かった、それなら俺様が代わりに
その三人を探しておいてやるから、お前達はこのまま港埠頭まで先に行って
、俺が三人を連れて戻って来るまでその乗り物とやらを守っていやがれ」
「おじさんっ!」
「おいあゆ…まさかお前、この俺様の身の危険まで案じようとか、考えてん
じゃあねえだろうなっ!?……解ったらさっさと行きやがれっ、いつまでも
女五人にジロジロと見られてちゃあ変身も解けやしねえっ、こちとら褌一枚
なんだよっ!」

「うぐー、やはりここは適材適所、どぅーの進めに従うべきだ…早速移動を
開始するぞ、ふぅ、うーみし、すずーも準備はいいか?」
「わかりましたっ、こわがったりして本当にごめんなさいですっ(ぺこり)」
「…有難う御座います。どうか宜しくお願いします(ぺこり)」
「ごめんなさいっ…まだびっくりしちゃってて、きちんとお礼が出来ません
…ですが、港でお会いした時には必ずさせて頂きますので(ぺこぺこぺこ)」




「じゃあ港埠頭で待ち合わせって事にすりゃあ、いいだろう。だが万一って
事がある。時間制限を考慮して、もし二十三時になっても俺やその三人共が
来なかった場合は、先にその乗り物とやらで…って、うん?」

「ねえ、おじさん?」
 斜め前で、褌を引っ張りどおしのあゆが、上目遣いで睨んでいやがった。
「港で、また会おうね?」

「あー、そうだな」
 適当に返事をしてやる。

「絶対、だよ?」

「あー、そうだな」
 怪しまれてるのか、しつこい。
 いまだに褌を離そうとしない。

「約束、だよ?」

「あー、うるせえな!」
 堪忍袋の尾が切れた振りをする。
 褌を引っ張り戻して、本編の時のように叫んでやる。
「……バカ野郎、本編の時と同じパターンだからって、俺がパターン通りに
『死ぬ』わけねえだろうが!解ってるよ、俺があの漢女とか露出狂の幼児に
変態とか敵に間違われないように、二十三時までに全員助け出して待ってて
やりゃあいいんだろうが!」




 他にいかなる事態があっても、二十三時までには絶対に出港しろ。
 ……思えば、港で再びうぐーがぐずった時に備えて、るー達の為の口実を
作ってくれたのだな。
 目配せ一つで事を察し、うぐーに的確に対応してくれた事といい流石だぞ
、どぅー。
 るーはこの時はまだ、ゲーム決着妨害派が既に来栖川アイランドへと入り
込んでいるだなんて……思いもよらなかったぞ。

524パラレル・ロワイアルその467:2005/10/30(日) 19:36:48
 果たして一刻後のステーションビル玄関前に、ゴンドラのもげ落ちた兵員
輸送車へと乗って今まさに港埠頭を目指さんとしている、五人の少女の姿が
あった。

 操縦席にはるーこ、助手席には美汐が座り、そして後方の兵員搭乗室では
あゆ・風子・観鈴の三人が後部扉より顔を覗かせて、外の路上に立つ御堂に
向かって別れの言葉を送っていた。

「「「おじさん……」」」
「いいか、あゆ。おめえは『生き残れ』。るーこも、そこのヒトデも、がお
がおも、赤毛も、なんとしてもだ。俺は一緒に行ってやる事は出来ねえが、
少なくともおめえらは今の今まで『生き残れた』。『生き残れる』さ。そし
てこのげーむに勝って本編編集者からご褒美でも貰え。……ところであゆ、
お前よく一目で今の俺様が誰なのかわかったな?」
「おじさん……本当にありがとう。ボク、今のおじさんのこと、一目でわか
ったよ……だって今のおじさん、柏木のお屋敷の庭に生えてる樹にそっくり
なんだもんっ」
「こらまてい。……あゆ、もしかしたら、お前は、俺の種を?……」

 御堂さんの沈黙。
 何故、リアクションの途中で……。
 まるで……時間制限?

 美汐と同じ疑問に気付いたのか、隣の席のるーこが慌てたように、出発を
促す。

「うぐー達、出発するぞ……」
「るーこさん、お待たせしてごめんなさい。ボク達、もう行くよ。おじさん
には、ちゃんと、また会おうねって約束できたから」


 美汐はふと、気づいた。
 物言わずハンドルを握るるーこの瞳、じっと前を見据えてるその目尻に。
 一粒の、大きな滴。
 いや、涙としか呼べないモノ。
 るーこはそれを、そっと指先でぬぐった。

「るーこさん……?」
 思わず声に出して尋ねてしまった美汐に向かって、るーこは兵員輸送車の
サイドミラーを黙って指し示して見せた。

525パラレル・ロワイアルその468:2005/10/30(日) 19:38:01
 美汐がサイドミラーの方を向いて、そこに映し出されている背後の光景を
目の当たりにする。
 サイドミラーには、御堂の対戦相手であったのであろう、ぐしゃぐしゃに
叩き潰されたレイバーの無残な姿が映し出されていた。

 だが、その腕部には。
 最後に一本だけもぎ取られずに残っていた、その隠し腕には。
 引きちぎられた装着ベルトに固定されている、死亡判定の表示された識別
装置が握り締められ、ぶら下がっていた。


「!!…そんなっ、それじゃあまさか、御堂さんはっ……!?」
「冷静を保て、うーみし。どぅーの気持ちを無駄にするな」

 しかし、美汐を制しているるーこの声も、悲しみに震えるものであった。
 悲しんでいるるーこを、美汐は無言で見つめる。

「どうして……何故こんなに苦しい思いをしてまで……このような、いずれ
ばれてしまうような嘘を……るーも、どぅーも、吐かなければならなかった
のだろうか……?」

「…わかりません」
 と、美汐はるーこのために車内備え付けのカーナビのスイッチを入力する
と、そのまま遅い夕食の準備を始める。
「…ですが、どんなに後ろめたい嘘でしたとしても、せめてご自身だけでも
意味のある嘘だったとお信じになって下さい。…最後まで、嘘を吐き通して
下さい。…私も、嘘の黙認を正当視する積もりはありませんが、るーこさん
や御堂さんが吐いている嘘は間違っていない事だと信じております」

 るーこはしばらく言葉を返さなかったが、やがてゆっくりと顔を向けると
、美汐に言った。
「……るー、そうしよ……う」
「…はい」


 るーこと美汐は、エンジンを掛けると発車する。
 仲間の『屍』を踏み越えて行くのは―――やはり、つらい。
 そう思いながら、二人は涙をそっとぬぐった。
 矛盾した行動。
 仲間達が『死なない』ようにするために、仲間達をだます。
 自分達で嘘を吐いて、その嘘に苦しむ。
 終了間近のこのゲームで。
 ―――果たして自分達は最後まで、最善の手段を選び続けてると信じ続け
られるのだろうか?

 月の光すらも届かない天井越しの夜の海中は照明で照らせぬほどに暗く、
それは、哀しみを感じさせた。


 89番・御堂 脱落
【残り 11人】

526パラレル・ロワイアルその469:2005/11/06(日) 19:24:12
 話は少し遡って。

 ステーションビル最上階に美汐・観鈴・あゆ・風子・そしてるーこが到着
した時、行き違いとなるかたちで最上階から下降して行ったエレベーター。
 しかし、そのエレベーターは、先述の五人が1階へと戻って御堂と遭遇を
したくだりを見る限りは、先に1階へと到着した気配がまるでありません。
 果たして、それが一体何故なのかをご説明してまいりますと。

「気が付いたらすっかり長居し過ぎてしまったのじゃ。早くあゆ達の所へと
戻らんといい加減、余も心配になって来たのじゃっ」
「…お言葉ですが、神奈姫さんがいけない事をなさったのが最大の原因です
と、私は思うのですが…」
「仕方がないであろうが優季、めーるに画像ふぁいるが添付けされておれば
、思わず開いて覗いて見たくなるのが、人情というものであろうぞ」
「ですからって、まさかあんな、過激な映像を次から次へと……あああっ」
「恥じらうでない、女性たる者、ああいう風に大人の階段を登って行くもの
なのじゃ。おかげで余も大分、勉強になったのじゃっ♪」
「それは断じて違うと思います……そもそも、伽の相手を勤める女性という
ものは、もっとこう……」
 下降するエレベーターの中の二人こと、神奈備命と草壁優季が、S.F.
より送信したメールの中の添え付け画像を、勝手に覗き見してしまった事に
対して言い争っている間に、ガクンとエレベーターが止まり“チーン!”と
到着音がした。

「話は置いておきまして、急いで皆さんの所へ急ぎましょう、神奈姫さん」
「いや待て、ここは1階ではないのじゃ!……優季、余の背後に隠れておる
のじゃっ!」
 エレベーターの到着表示が3階なのを見て、3階にいる何者かがエレベー
ターのボタンを押したのだという事を素早く察知した神奈が、たちまち臨戦
態勢へと変わり、背後に後退した優季を庇うと、扉が開く寸前に前方の空間
へと向けて、壁のイメージでの意識の集中を完了した。
 
 そして、エレベーターの扉が開いた。
 その、次の瞬間。

527パラレル・ロワイアルその470:2005/11/06(日) 19:26:10
((スパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパッ!))
 スパン!スパン!スパン!スパン!スパン!スパン!スパン!スパン!
 パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!
 バシュウッ!
 ポンッ!
((ヒュン!))
 ヒュッ!

 エレベーターの内部を狙って、3階の備品であったキャスター付き戸棚に
並べて括り付けられていた、イングラムM10×二丁・デザートイーグル・
AMTハードボーラー・ワイヤーランチャー・コッキング式コルク銃が一斉
に火を噴き、更にゴムグルカナイフ×二本とビックリナイフがタイミングを
同じくして一編に飛んで来た。

「やはりな。この手のよからぬ企みは、余は既に本編で経験済みなのじゃ」
 準備万端にて張られた障壁は、横殴りの豪雨の様に降り注ぐBB弾の雨と
ワイヤー付きのフック・コルク弾にゴムグルカナイフ二本とビックリナイフ
を完全に受け止め、弾き返していた。それらがばらばらと、3階入口の床に
空しくこぼれ落ちて行く。


「精魂込めてなかなか用意周到なる罠をこしらえたようじゃが、相手が悪過
ぎたのが、そなたの運の尽きのようじゃな……既に勝敗は決したも同然じゃ
、かくなる上は潔く出て参るがよいぞ」

「…流石は、本編のラスボス・神奈備命……一筋縄では倒されてはくれない
と、いう事か…」
 そう言いつつ戸棚の影より現れ出でたのは、戸棚に括り付けられている各
銃器の引金に結び付けられた紐の束を放り捨てた、体の前半分が黄色く変色
したクマの着ぐるみ。声からして、中身は少女の様であるが、その動きが何
ともぎこちない。


「その口振りから察するに、本編不参加の者のようじゃが……もしかすると
お主、裏葉と柳也に助勢を頼んだ、らすぼす候補筆頭所縁の者なのかの?」

 神奈の問い掛けに対して、クマはふらふらと焦点が定まらない視線を向け
ながら、淡々と答えた。

「その推測はあながち、外れてはいない…だが、その結果はもうあの『声』
を聞いているのならば、察しは付いている事だろう……かくなる上は、次点
候補の朋也や古河司令のみを当てにしてばかりもいられまい。特務機関CL
ANNADで戦闘可能な者達は皆、一人一人がラスボス候補と化して、他の
参加者達の殲滅を行うのみ……そういう訳で私は今、お前達へと先制攻撃を
行ったという事だ」


「成る程のう……」
 既に勝利を確信しているのか、それとも止む無く修羅道へと走ったクマに
対し共感を覚えてしまったのか…恐らくはその両方だったのであろう。神奈
はクマに向かって、余裕たっぷりに過激な労いの言葉を送ったのであった!

「それはそれは…うちの裏葉が余りにもだらしない事に、頼まれた使命一つ
満足にこなせない駄目駄目な女官であるが故に、そなた達にはとんだ迷惑を
掛け申したというものよのう♪」

528パラレル・ロワイアルその471:2005/11/12(土) 20:57:05
「秋子さんはおばかさ〜〜〜ん♪千鶴さんに斬り付けて〜〜♪名雪ちゃんを
割ってしまったの〜♪」

 来栖川アイランド海域近くの洋上を、G.N.やS.F.の予想算出時刻
を遥かに先回って航行中の、巨大な軍用艦の姿があった。
 米合衆国試作高速実験空母“キング・バシリスク号”である。
 その艦橋部艦長席にどっかりと腰を据えて、空母より発艦して行った無人
戦闘機隊の戦況を確認しながら、先程から鼻歌を歌っているのは誰あろう、
葉組ゲーム決着妨害派の暫定筆頭格である篁総帥その人である。


「そ、総帥殿(汗)……もう既に、来栖川アイランド2大統括スパコンの諜報
活動可能領域内に入っておるのですぞ。その様な、危険極まりない替え歌を
歌っては……(汗)」
 そう言いつつ、取り出したハンカチで汗を拭きながら、無人戦闘機群より
中継されて来るメインスクリーンの交戦映像を基にメインコントロールパネ
ルより作戦行動指示をコマンド入力しているのは、長瀬一族最後の登場人物
であろう、長瀬源二郎である。


「何を案じておるのだ」
 総帥は源二郎の懸念など、全く歯牙にも掛ける様子もない。
「民間船舶ならばともかく、この“キング・バシリスク号”はS級ランクの
機密軍用艦なのだ。ソフト面でもハード面でもセキュリティは最高レベルだ
、そう易々と盗聴・盗撮など出来る訳がない……それに万が一、秋子さんに
バレてしまった所で、彼女は既にこのゲームから脱落しているのだ。我々が
『死亡』しない限り手出しをする事は許されはしない筈だ……更に万が一、
我々が『死亡』してしまったとしても、彼女は島のホテルの中。我々がこの
艦を降りたりしない限りは、手出しは絶対届かない筈だ……従って、心配は
全くもって不要という事なのだよ、解ったかな?……秋子さんはおばかさん
ーーー♪(熱唱)」




 その頃、(何故かいきなり殆ど無人と化してしまった)来栖川アイランド内
・リバーサイドホテル1階の夕食会会場では。

『あーあーすごーくおばかさんーーー♪おおーーばかもーーのーーー♪』

「あーあ、あんなに音痴じゃあ鐘は一つだけですよー、総帥さん……それに
しても他の皆さん、いきなり一斉に血相を変えちゃって、一体どこへ行って
しまったんでしょうか?」

 会場内大型観戦中継用モニター画面を見てそう言いながら、業務用の大型
カップアイスを銀のスプーンにてほじくりほじくり、せっせと中身を口へと
運んでいるのは、Routes組先行突入メンバーの最後の生き残りである
(…というか、最早行動目的を忘れているっぽい)伏見ゆかり。そして、その
隣の席では、うたわれ組先行突入メンバー最後の生き残りである(…ていうか
、カルラ&トウカと一緒にこっそりオマケで付いて来ただけ・215話最後
の台詞を、見逃さずチェックしておられた読者様がいらっしゃったら、凄い
ですが)アルルゥが、満腹満足で先程からすやすやと居眠りをしている。更に
その隣の席にて悠然と腰を下ろし、顔の筋肉だけでニコニコと笑顔を浮かべ
ながら、モニター画面の総帥を危険な光を帯びた視線にてじっと眺め続けて
おられる、その人物こそは。

「しょうがないですわね。皆さんったら、もう……どうしてかしら、お食事
中に一斉に中座してしまいますなんて……ですが、名雪ももう、早々と自室
に眠りに行ってしまいました事ですし、お母さんとしては私も皆さんを注意
する事は出来ませんのかしら。うふふ」

 …なお、思わずつられて一緒に替え歌を口ずさんでしまった勇者・北川潤
が、涙目の宮内レミィに引き摺られて再び、救急医療室へと搬送されて行っ
たというのは、些細なる余談である。

529パラレル・ロワイアルその472:2005/11/12(土) 20:58:11
 そして更にその頃、倉田アイランドDREAMエリア・木造旅館ガーデン
パーティ会場では。

『…うちの裏葉が余りにもだらしない事に、頼まれた使命一つ満足にこなせ
ない駄目駄目な女官であるが故に…』

「あの、岡崎さん…?何だか急に寒くなってきたのですが、ドームの空調が
トラブルでも起こしてしまったのでしょうか…?」
「そう思いたい所なのでしょうが相楽さん…恐らく原因は、新規に参られた
脱落者の方にあるものと思われますわ」

「鷹文っ……実はアタシ、今凄く怖くてたまらないのっ…!(ぎゅうっ)」
「こ、怖くって……確か、可南子がやっつけた人の筈だよね…?あの、古河
さんの中にいらっしゃった方って…(じ、実は僕も、凄く怖くてたまらないの
だけど…)」

「う、裏葉……(汗)」
「どうかなさいましたか、柳也様?」
「そ、そのだな……万が一、神奈が敗れるような事があっても、くれぐれも
寛大にその、大人の女性の包容力をもってしてだな……」
「あら、いやですわ柳也様ったら。私は少しも怒ってなどおりませんですよ
、ええ」
「し、しかしだなその……先程からお前を中心に会場が涼しくなり過ぎて、
他の客人が一斉に引いてしまっておるのだが(汗)……頼むから、お前と同じ
声をした某女神様と同じ反応行動を起こしたりするのは、どうか……」
「おかしな柳也様。先程から私目は笑っているではありませんか?」
「だ、だからその目が笑っていないような、気が……」
「気がなさるだけですわ。うふふ」
「……(心しろ神奈、万が一にお前が破れた先に待っているのは、俺が救いの
手を差し伸べる事かなわない、もう一つの生き地獄なのだぞ…)」




 またそして更にその頃、MINMESエリアステーションビル3階では。

「かっかっかっ、神奈姫さんっ!…そ、その様な事をおっしゃってしまって
は(汗)……も、木造旅館にも実況生中継されているのですよっ…!」
「案ずるでない、優季。要は余が敗北しなければそこへ行かずにすむ話では
ないか……それに、それを申したらな優季、そなたも言っておったではない
か、『映画版大気の裏葉さんは、カリ城の石川五右衛門さんよりも台詞の数
が少ない上に、柳也さんの伽のお相手役まで神奈姫さんに奪われてしまって
おりました』とな♪」
「(カメラ目線で)あーっ!あーっ!裏葉さんっ、裏葉さんっ!…今のは耳の
錯覚・目の幻聴なんですーっ!(わたわたわたわたっ!)」
「…余裕を見せ付けると同時に、自ら背水の陣を敷いて来るとは……やはり
流石は本編ラスボスという事だな、神奈備命…」




 またまたそして更にその頃、MINMESエリア・ステーションビル前〜
港埠頭間を移動中の兵員輸送車車内前部では。

「……るうっ?!」
「?…どうかされましたか、るーこさん?」
「うーみし……今、とても強力な暗黒面のるーを感じた……少し離れた北東
に一つ。そして、かなり離れた北東にもう一つ……幸い、共に脱落者のもの
のようではあるが、まさかあれ程のるーを感じさせるうーがいたとは……」

530パラレル・ロワイアルその473:2005/11/19(土) 23:05:19
「?……おや、何という事だ」
 場所は再び“キング・バシリスク号”艦長席。目の前の専用モニターにて
戦況確認中であった篁総帥の眉が思わず寄ってしまうトラブルが発生した。
「中継映像がうまく切り替わらなくなってしまった……切り替え機能に異常
が発生したのか、それともプログラムのバグによるものなのか?……長瀬君
、済まないが喫煙室で一服してくる間に、コンソールの様子を見ておいては
くれないかな?」

「分かりました、総帥殿。どうぞごゆっくりと」
 そして総帥が艦橋を一旦去り、その間に源二郎が代わりに艦長席へと腰を
下ろして、早速艦長専用モニター及びコンソールのトラブル対応をてきぱき
と行い始めた。




 場所は更に変わって、来栖川アイランド遥か上空の大気圏。そこでは宇宙
ステーションを発進し妨害衛星の包囲網を突破完了した、篁財団の空挺部隊
を搭乗させたシャトルが、来栖川アイランド内の空港・へリポートエリアを
目指して降下中であった……そして、その操縦室では。

「こちら醍醐、只今大気圏に突入しました。後三十分程で来栖川アイランド
に到着及び部隊展開が可能です。最終的な倉田アイランド到着予定時刻は、
二十三時前後になりそうです。以上、報告終わり(ピッ)」
「今の所、首尾は上々の様ダナ。“キング・バシリスク号”の無人戦闘機供
はオレ達の着陸予定地域をバッチリと確保してくれている様ダシ、後はこの
シャトルに積んで来た、淵独楽式小型戦闘ポッドに乗った空挺部隊が、地下
鉄道用のトンネルを利用シテ、ゲーム参加者が『脱出』を果タス直前に倉田
アイランドまでの電撃移動を成功させレバ…」
「倉田アイランド完全制圧による勝者ゼロでのゲームオーバー…そして我々
を参加枠に加えての明朝6:00からのゲーム再スタートとめでたく相成る
という訳だ」
「ソウナッテくれたら有難いネ、ソーイチやリサ達に貸しを作れタラ、これ
以上に愉快な事は無いからネ……ッテ、ヘイ醍醐ッ!アノ目の前の黒い雲は
一体何ナンダッ!?」
「おいおい、何寝惚けた事言ってるんだエディ、この高高度に雲なんか存在
する訳が無いだろう……って、なななっ!?」

 その眼前に、その高度に存在する事が在り得ない筈の雷雲を目の当たりに
して愕然となる醍醐とエディ。そして、雲よりゴロゴロという凄まじい轟音
と共に、一筋の稲妻が問答無用の勢いで放たれた。

「「ギャ〜〜〜〜ッ!?」」




 “キング・バシリスク号”艦橋外れの喫煙室にて愛用のパイプを燻らせて
いた篁総帥は、いきなり艦橋を揺るがせた凄まじい轟音に思わず座っていた
椅子から転げ落ちそうになった。
「なななな…何だっ!?」
 慌ててパイプの火を消し、状況を確認しようと艦橋に戻って来た総帥が、
目の当たりにした、その光景は。

531パラレル・ロワイアルその474:2005/11/19(土) 23:06:14
 木っ端微塵に撃ち砕かれた、特殊防弾偏光ガラス製の天窓。
 その真下の艦長席にて、(あくまでもギャグの範疇で)黒焦げ状態となって
コンソールに突っ伏し、ひくついている長瀬源二郎。
 そして、そんな源二郎を指揮棒でつんつんしている、艦内有人部隊司令官
の福原庄蔵。
「あ〜こりゃ、見事なまでに黒焦げじゃのう……ところで総帥殿、この結果
は果たしてどこまで計画的に行った行為なのかのう…?」

 許されない・届かない筈のまさかの『手出し』を見事されてしまった事に
しばし呆然となりながらも、ブルーの入った表情でやっとに口を開く総帥。
「い、いやその(汗)……け、決して、万一事の身代わりにするためにわざと
長瀬を艦長席に座らせたのではないぞ……ほ、本当だ…」

「でしょうなあ」
 庄蔵は総帥へと向けた厳しい表情を崩さないまま、装着しているインコム
を溜息混じりで外した。
「…たった今、遥か上の醍醐とエディから連絡が入りおったぞ……謎の雷雲
から発せられた落雷によって、空挺部隊のシャトルが撃墜判定を食らったと
な……これらの大損害の元凶が、総帥殿の替え歌のせいであったとしたら、
並大抵の落とし前では済まん事だぞ、総帥殿(怒)」

「そ、そんな馬鹿な……確かに、水瀬秋子の補完能力が尋常ならざる代物で
あるという事は資料で理解していた積もりだが、まさかシャトルを『撃墜』
し、あまつさえ対装甲粘着榴弾の直撃にすら耐え得る筈のガラスを撃ち抜く
事が出来る程の稲妻を放つ力など、持っている解が……?ま、まさか、更に
他の補完能力者の、怒りの力と偶然合体技となって…?」

 ゴンゴンゴンゴン…

 半ばうろたえながら起こった補完現象の究明を行おうとする総帥に、今度
は別の轟音が聞こえてきた。今度の轟音の発生源は、艦外ではなく艦内から
のものであった。
「??…!!」
 その轟音に心当たりを見付け、ハッとなった総帥が艦橋窓の方へと慌てて
駆け寄り、恐る恐るに外の様子を見る。

 総帥の心当たりは的中していた。
 艦橋から見下ろしている空母の飛行甲板の中央部が内側から二つに割れ、
中から発射台に乗せられた、先が尖って尾翼のついた円筒形の巨大な物体が
その姿を現していた。

「見直したぞ、総帥殿♪」
 一転、晴れやかな表情となって総帥を褒め称える庄蔵。
「これがもし、こうなる結果を予測した『偶発的発射計画』であったとした
らば、長瀬殿の『命』と空挺部隊の代償でも充分、お釣りの来る作戦成功と
相成ったという訳じゃからのう♪」
 言いつつ庄蔵が見下ろしている黒焦げの源二郎の『死体』は、よく見ると
突っ伏したその額が、コンソールパネルの上のカバーを頭突きで見事に叩き
割っており、カバーの下の虎縞模様の枠に囲まれた、三菱によく似たマーク
の入ったボタンをも、思いっ切りに押していた。

 ゴゴゴゴゴゴ…

 かくして、『余程に絶好の発射ムード・発射タイミングが偶然発生しない
限りは』という柚原春夏の懸念は見事に的中し、このゲームの勝者をゼロに
するという目的においては一番手っ取り早く且つ確実な手段が、多大な犠牲
の元、今まさに行使されてしまったのであった。

「おっ、おっ……押しちゃってる」

 タッタカター♪

532パラレル・ロワイアルその475:2005/11/26(土) 16:45:12
 舞台はMINMESエリア内ステーションビル3階・推定セミファイナル
第3試合の、その現場。

「許せ神奈…私は今この一瞬のみ、子供に暴力を振るわないというポリシー
を、破らせて貰う」
「余を子ども扱いするなと言うておろうがああああああっ!」

 焦点の定まらない視線とおぼつかない足取りにて、それでも猪突猛進とも
呼べそうな勢いにて、突進して来るクマの着ぐるみ。その突進方向は、神奈
を挟んでエレベーターホール入口の方へと、一直線に向いていた……それは
即ち、もし神奈が突進を回避すれば、直線後方に位置して立ち尽くしている
草壁優季が代わりにそれを受けてしまうという、位置関係を示していた。


「エレベーターの罠といい、余の心理的劣等感を突いたらしい挑発の台詞と
いい、余を討たんとするならばまず優季からという二段構えの突進といい、
そちもなかなか、考えて挑んで来ておるのう」
 それでも、迎え撃つ側の神奈備命は余裕綽々であった。
「じゃがな、この程度の小細工をいくら弄してみた所で……この圧倒的なる
実力差は覆りようがないというのが、現実というものなのじゃ」

 今まさに突進が命中せんという間合いにて、クマの真正面から神奈の姿が
忍者の如く弾ける。
 そして立ち止まるクマの周囲で代わりに、真白き羽が舞い散った。
 その先には何もない。何を意味しているのか。
 フェイク―――

「余の、勝ちじゃな」
 クマの背後に出現した神奈が、クマの後頭部に右手を首の付け根に左手を
それぞれ、すうっと伸ばす。

「いや、勝つのは私だ」
 その時、背後を取られたはずのクマの両腕が、有り得ない角度にいきなり
曲がると、見えているかの様な正確さで神奈の方へと伸びて行った。勿論、
腕のリーチはクマの方が断然上である。

「じゃから、余の勝ちであると言うておろうが」
 しかし、神奈はその奇襲を予期していたかの様に、伸びて来たクマの両腕
を、伸ばした二枚の翼でひらりと軽く受け流して見せた。

―――着ぐるみを後前に着けておる事は、始めからわかっておった。大方、
用意周到であるそちが、余の身に纏っておる浴衣が借り物であるという事を
既にわかっておったであろう以上、余がそちに攻撃を行う箇所が、着ぐるみ
の汚れておらぬ背後の部分であろう事は充分、読まれておってもおかしくは
ない事じゃしのう。ならばこういう手もある、という事じゃ。おぬしらから
教えられた事じゃしな―――

 神奈はそのまま伸ばした右手を、クマの後頭部へと当てて意識を集め。そして開放した。
 同時に伸ばした左手で、首の付け根に装着されていた識別装置を掴み。そして引きちぎった。

「これで野望は潰えたかの?」

533パラレル・ロワイアルその476:2005/11/26(土) 17:43:53
 だが、その次の瞬間。
 勝利を確信した神奈のその眼前にて、起こり得ない現象が二つ、立て続け
に起こった。
 右手を当てて意識を開放したクマの頭部が、もげて吹っ飛んで行った。
 左手で掴み引きちぎったクマの識別装置が、アナウンスを発しなかった。
 もしも、イレギュラーがどちらか一つだけだったなら、それでも隙は一瞬
だけのもので済んだであろう。

 しかし、
「どういうことじゃこれは!」
 その言葉を吐いたその直後には、
 首なし着ぐるみの両腕は今度こそ、神奈の胴体を抱きしめる様にがっちり
と挟み込んでいた。

「ゲーム・オーバーだ」
 神奈が、今度こそ被り物越しではない人の声の方へと向くと、
 着ぐるみの股間に開けられた穴から、こっそり覗き見した添え付け画像で
見覚えのある少女の顔がこちらを覗いていた。

「おっ、おまえはっ…!?」
 そして、その事実が神奈に駄目押しの隙を生じさせてしまった。優季の前
ではおませに振る舞っていた神奈も、やっぱり少女だったのである。

―――着ぐるみを、後ろ前に着けていた所までは読まれていた様だが、更に
倒立状態であった事までは、看破が出来なかった様だな……加えて、途中で
便利な戦利品《読者説明経由・源五郎→浩之→由宇→真紀子→七瀬(護身用
で譲渡)→詠美→智代》を上手く利用出来た事も、幸いだったな―――

 首なし着ぐるみは挟み込んだ神奈を反撃のいとまも有らばこそ、そのまま
ジャーマン・スープレックスもとい、中の人の体の向きからはフランケン・
シュタイナーの体勢で一気に、エレベーター待合用で脇に置かれていた高級
ソファーのクッションとクッションの間の谷間へと、その頭部を情容赦なく
打ち込んだ。




「―――長い長いお勤め御苦労様だ、本編のラスボス様」
 ソファーにそそり立つ逆さ人柱を前に、クールビューティーの現れの様な
皮肉さを隠しもせずに、可笑しそうに首なし着ぐるみは言ってのけた。
 疑うことなくずっと感じ続けていた中の人の正体が、今、ファスナーの音
と共に姿を現そうとしていた。
 逃げる事も忘れ立ち尽くしている優季の頬が熱く激しく紅潮してしまった
のが、わかった。




「さ…坂上、智代さん…ですか?」
「お前が、草壁優季か……メールの受け渡しをしてくれた事に関しては感謝
している……正直な所、果たして今の私がCLANNADの坂上智代なのか
それともT・W・Lの坂上智代なのかは、私自身にも判らない……だが、私
が今の私となった結果に対しては、全く後悔などはしていない……お前も、
この変事の立会人として興味深々らしそうな事だし、今は見逃してやるから
このゲームの最後まで、私のこれから行き着く先を気の済むまで存分に見届
けているがいい……と、言いたい所だったのだが、今のお前の、その顔…」
「えっ…?(ぎくっ)」
「誠に残念な事ではあるが、アレを見てしまった者を…『生かして』おく訳
には、絶対いかない…(きゅぴーん!)」

「と、智代さん…?(たじ…)」
「優季、覚悟はいいな(じりじり…)」
「ま、待って下さい智代さん」
「言い残す事があるなら、聞いておこう」
「智代さん、目がとても怖いですっ」
「気のせいだ、それに私は笑っているだろう」
「ですから、その目が笑っておりませんっ」
「気のせいだ」
「でっ、でしたら…私の顔が紅いのも、気のせいという事で…」
「いや、それは気のせいではない」
「そんなのずるいですっ、たすけてください〜!」

 その後、逃げ回る優季を捕まえて(足が凄く速かったために相当手間取った
が)、その美しい旋毛に拳骨ぐりぐり五分間を一回してやった。
 ぐったりして失格アナウンスが流れたので、先に倒した留美と一緒にその
ままソファーへそっと寝かせてやった。
 神奈の方は既に、回収されようとしている所であった。




―――嫌じゃあ、余は戻るのは嫌じゃああ。

 哀れな敗北者による最後の、そして無駄な抵抗が、特別回収役の許可を得
て、待ってましたとばかりに空間の扉よりやって来た裏葉の腕の中で行われ
ていた。
 ある意味では、何よりも、それこそ自身の封印並みに恐れていたこと。
 お仕置き。そして折檻。

534パラレル・ロワイアルその477:2005/11/26(土) 18:22:46
 ずっと僕と一緒にいてくれた神奈備命さん。
 長い出番の中で、ある時は一心同体でまたある時はケンカをして、いつもそばに寄り添っては、その力で護ってもらってきました。
 この話数まで、大きな危険にあわずに済んだのもそのせいかも。
 神奈さんもボクの中に入って、目をつぶると、とても心が落ち着いてくるんだっていってました。
 まるで、希望が音みたいに伝わってくるようだって。
 この安心感は、大切なあのものの胸に身をあずけたときの感覚に、どこか似ているって。
 ―――ああ。ボクたちは幸せだったんだ……。




『ビーッ、61番・月宮あゆ、リンク・デッドにより失格……直ちに、交戦エリアより退いて下さい』

 装置からボクを呼ぶ声が聞こえてくる。
 神奈さんが戦いに負けてしまったんだ。もう、いかなければ。
 じゃあ、ボク、いくね?
 遅い晩ご飯と向き合っていた頭を上げ、道で停車中の車の扉に向き直る。
「みんな、がんばってねっ」
 小走りに駆け出そうとしたボクの後ろで、みんなの声が聞こえちゃったから。
 ボクは立ち止まった。

「…あゆさん、とても残念です。とうとう、本編生き残りの方が皆いなくなってしまいまして」
「だいじょうぶだよっ。だって、本編でもっともっとざんねんだった、美汐さんと観鈴さんが
きっと生き残ってくれるに決まってるもん」
「でも、観鈴ちん……今までずっとみんなの役に立てなくて……本編の時から、ずっとずっと
足手まといで……」
「そんなことないよっ。観鈴さんが、今ここにいてくれているっていうことは、きっと正しい
ことに決まっていて、観鈴さんにはがんばったことへのごほうびがきっと待ってるに決まって
いるよっ。何でだかわかんないけど、ボクにはどうしてもそんな気がしてならないんだ」
「あゆさんがそういうのでしたら、それはきっと間違いありませんっ。なんといっても、あゆ
さんは奇跡の人一号さんなのですからっ……あゆさんの大予言、およばずながら二号の風子も
三号のるーこさんといっしょに、力をあわせて協力させていただきますっ」
「どぅーとうーみの事、今まで騙してしまって済まなかった、うぐー。もしそれが罪滅ぼしに
なるというのなら、すずーとふぅーとうーみしのご褒美の為、るーは全力を尽くす事を誓おう」
「……うん。ありがとう……風子さん、るーこさん」

 ボクはDREAMエリアに向けて走り出す。
「じゃあね。……またっ!」
 ボクは走り出した。
 ボクの、新しい出会いの場所に向かって。


 61番・月宮あゆ 124番・草壁優季 脱落
【残り 9人】




―――嫌じゃあああ、余は、もう二度とせぬからああああ―――

 彼女はただ、泣き叫ぶ。たとえそうしたところで、柳也には救ってやる術などなかったとしても。

535パラレル・ロワイアルその478:2005/12/02(金) 22:37:27
 22:40…来栖川アイランド海域上空

「パンパカパ―――ン・パンパン」(←474話から飛び続けているICBM
『学者の電球』号)


 22:41…倉田アイランドSUMMERエリア緊急施設アクセスルーム

「やれやれ、どーやら最悪の展開になっちまったようだな」
 立ち並ぶモニター群の一つに映し出されている空飛ぶICBMを発見した
高野が、口をあんぐりと空けて景気のいい溜息を吐いた。

「…一体何なのでしょうか、あのロケットは…?」
「ん。何だか、嫌な予感がするね…」
「!!…ああああ、あれって、ひょっとしてヒョットするとッ…!?」
 それぞれのリアクションをする遠野美凪・河島はるか・春原陽平を代弁し
、長瀬祐介が高野に単刀直入に尋ねる。
「強制乱入組が暴挙に出た、という事なのでしょうか?…恐らくは、合衆国
との繋がりが強い、Routes組あたりが…」

「そんな所だな。大方、篁財団の連中だろう、あんな派手な打ち上げ花火を
乱入前のセレモニーにここへと送りつけてくるよーな、無茶なマネしやがる
のは」
 答えながら早くもコンソールパネルへと向き直り、到達予定時刻の算出を
始める高野。

「…あれは打ち上げ花火だったのですか。夏の夜空になんとも風流な、乱入
希望の方達だったのですね」
「ん…でもね美凪さん、もしもあの打ち上げ花火が『間違って墜落』しちゃ
った場合、そこから最大半径約一〇〇km内で参加している選手はみんな、
『不幸な事故』による失格判定を受ける事になっちゃうから…」
「トホホ…か、河島さんまったくもってナイスなご説明ですねえッ…もう、
オシマイですよォ、何もかもが…(ヘナヘナ)」

「いや、まだ諦めるのは早い。幸いというべきなのか…精度といい時間不足
な事といい成功率は低めだが、ここには迎撃ミサイルが一基配備されている
様だ」
 コンソールと悪戦苦闘しながら、早速迎撃ミサイルの発射準備を始め出す
高野。

「へっ、この期に及んでまだ何とかしようっていうの、オッサン?……こう
なったらむしろ、あの核ミサイルが到達する前に早いトコ互いに頃し合って
、サッサと決着着けた方が、手っ取り早くゲームのカタが着くってモンじゃ
ないの…?」
 へたり込んでた腰を上げつつ半ばヤケ気味にボヤきながら刀を抜く春原。
しかし、そんな春原に対して向き直ろうともせず、幾つものモニターをチェ
ックしながらコンソールを操作し続ける高野。
「御曹司・金髪・マイペース・米問屋…施設巡視用のMTB二台に分乗して
直ちにMINMESエリア・港埠頭へ急行しろ……分かれた連中も『脱出』
ルールを知り、ゾリオンを集めてそこへと急行している。合流していち早く
、この倉田アイランドから脱出するんだ」
「判りました高野さん、高野さんの成功を信じて最後まで全力を尽くさせて
頂きます」
 背を向けた高野に対し深々と頭を下げる祐介を肘で小突きながら、驚いて
尋ね返す春原。
「オイオイ、それじゃあオッサンは一体どうなるんだよッ!?」

536パラレル・ロワイアルその479:2005/12/02(金) 22:38:16
「迎撃ミサイルを操作出来るのはこの面子の中じゃあ俺一人だけだ、だから
俺が脱出を諦めてここに残る、ただそれだけの事だ……例えICBM撃墜に
成功した所で、その後の俺が港埠頭へやって来るまで待ってたら、致命的な
タイムロスになりかねないからな……それにしても金髪、さっきと言ってる
事が逆の考えになっているぞ?」
「かっ、勘違いしないでくれよッ…僕はたまたま、今モニターで智代の奴が
まだ『死に』損なっているのを見付けたんで、折角だからトドメは僕の手で
刺してやろーと思ってですねえっ…」
「…高野さん、有難う御座います。そして、とても残念です…」
「…代わりに何か、できる事、あるのかな…?」

「そうだな…」
 初めて高野が四人の方へと向き直った。そして、自分のみに装着している
識別装置を選手登録の抹消を行ってから、美凪へと手渡した。
「このまま、ただ脱落するってのも勿体ねえ話だしな…こいつをあの、風子
とかいうチビスケに渡してやってくれねえか。それであの娘も晴れて正選手
の仲間入りってワケだ」
「…わかりました高野さん。必ずお渡しさせて頂きますから」
「ええっ?じゃあ、どうせなら今ここにいる僕が正選手になった方がっ?」
「ん。でも春原さんって確か、あと一人やっつければスコアノルマ達成で、
正選手になれるんじゃなかったっけ?」
「あっそうかっ。じゃあ、智代のヤツをシメちまえば、一石二鳥というワケ
だったんだね、アッハッハッハッハッハッハ♪」
「「「………」」」

 再び四人に背を向けて、作業を再開する高野。
「時間を無駄にするな、そろそろ出発しろ」
「わかりました、今まで色々と有難う御座いました」
「…贈り物は必ず、風子さんへお渡しします」
「ん。おじさん、カッコ良過ぎ」
「ま、それでもこの僕には残念ながら及ばないけど…って、チョットアンタ
達っ、僕の事置いてかないでよっ!!」

 慌しく去って行く複数の足音を背に、高野はほんの一時だけ…室内備付の
モニターカメラに目線を向かって、片目を瞑って見せながらそっと呟いた。
「そーゆー訳だ、用事が済んだら行ってやるから今暫く我慢しててくれな、
神奈♪」




 22:45…DREAMエリア・木造旅館ガーデンパーティー会場

『…今暫く我慢しててくれな、神奈♪』

「も、もう待てぬ……た、頼むから、余が頃されてしまう前に早くこっちへ
来るのじゃ、コウヤっ…ぐ、ぐるじい…」


 110番・高野 降板
【残り 8人】

537 パラレル・ロワイアルその480:2005/12/09(金) 18:57:43
「えええっ、何ですってえええっ!?」

 22時46分…来栖川アイランド南西沖合上空を飛行中のシーハリアー。
 VTOL機より倉田アイランド真上の洋上に停泊中の巡視艇へと、移乗を
無事完了した柚原春夏から、決着妨害派がICBMによる攻撃を開始したと
いう情報連絡を受けた高坂環は、そのコクピットで思わず素っ頓狂な叫び声
をあげていた。

「それで春夏さん、何か防ぐ手立ては見付かってないのでしょうか?例えば
、来栖川アイランドに配備されている各種防衛・迎撃システム等を利用する
とかして…」
「それに対しては、非常に皮肉な話なんだけど…来栖川空港からステルス機
で移動している間に、私が珊瑚さんにお願いしてハッキングで使用不可能に
させちゃったものだから…」
「えええっ、ど、どうしてそんな事をっ!?」
「その時はまだ、私達も決着妨害派だったものだから…」
「そうだった…」
「もしも、このみ達の正規参加をもっと早くに知っていればねえ」
「…といいますかそもそも、このみ達ってどうやって私達を先回りした上に
正規参加が出来たのかしら?」
「しかも、珊瑚さんもG.N.さんももうリタイアしてしまいましたから、
システムを復旧させる事はルール上、もう出来なくなってしまいましたし…
その上残念ながら、今乗り込んだ巡視艇にも対ミサイル用のミサイルは搭載
されてはいなさそうなのよ」
「じゃあ残る頼みの綱は、倉田アイランドとS.F.の設備と性能にかかっ
ているという訳かしら?」
「そういう事になるわねえ…現在、神岸さんが倉田アイランドへ通信を繋ご
うと努力されている所なの」
「こうなった以上、私も一か八かもう一つの解決手段を試す事に致しますわ
、春夏さん」
「試すって…まさか、環さん!?」
「ミルファちゃんの説明ですと幸いに、この戦闘機には対艦ミサイルが搭載
されているみたいですし…もしも、無人戦闘機の発進基地とICBMの発射
基地が同じだとしましたら、上手くやれればICBMの誘導だけでも中途で
食い止めることが出来るかもしれませんし」
「…成功率が低そうでとても無理強い出来る手段ではありませんが、もしも
環さんがそれでもやって下さるのでしたら、是非お願いしますわ」
「任せて下さい、春夏さん……無人戦闘機隊の第二波が近付いて来ました。
それではそろそろ通信を切らせて頂きます、御健闘を」
「御健闘を、環さん」




 22:48…シーハリアー・コクピット内

「幸い、空中戦の方はミルファちゃんが(珊瑚ちゃん特製の)ドッグファイト
・プログラムで何とかこなしてくれているけれど、ICBMの方はマジメな
話、一体どうしたものかしらねえ…・」
 グイグイ、コックリ。
「えっ?自爆命令プログラムも持っているって…それって本当なのっ!?」
 ブブン、ブイブイ。
「だけど、この戦闘機からはICBMの発射元を経由してICBM本体への
自爆命令を送る手段が存在しないし、存在したとしても自分はハッキングの
ためのプログラムを持っていないから、現状況では手の出しようがない?」
 コクコク、ペコリ。
「そんな謝らなくてもいいわよ、ミルファちゃん。でも、今は僅かな可能性
でも探りを入れたい所だわ……ミルファちゃん、お願いだからその自爆命令
プログラムを、何時でも送信が出来るように準備をしておいては、貰えない
かしら?」
 コクリ。

538 パラレル・ロワイアルその481:2005/12/09(金) 18:58:41
 22:52…巡視艇艦橋

「各状況の方はどうなっているのかしら、神岸さん?」
「倉田アイランド・DREAMエリアへの接続は完了しました…今、岡崎様
にSUMMERエリアへの再接続をお願いしている所ですわ、春夏さん……
他の状況の方は、保科さんと河野君の方は、乗って来ましたVTOL機への
燃料補給と緊急武装を完了させた所です…それと、昼前から不時着しており
ましたマジカル・ブルー・サンダーの修理が完了しまして、宮内あやめさん
が登場・出撃をされているそうです……最後に、たった今飛行船が轟沈判定
を受けまして、牧部さんが『殉職』されてしまったとの事です」
「牧部さん……取り合えず神岸さんはそのまま、SUMMERエリア・緊急
施設へのコンタクト作業をそのまま続けて頂戴。それと保科さんとタカくん
それに宮内さんには、環さんの援護に大急ぎで駆けつけて欲しいってお願い
して頂戴」
「了解しましたわ、春夏さん」




 22:56…“キング・バシリスク号”艦橋

「!」
「どうされたかな、福原殿?」
「有人戦闘機が一機、こちらの艦載機を『撃破』しながら近付いて来ている
…久し振りに空中戦を楽しみに行ってくる積もりじゃが…?」
「多寡が戦闘機の一機ぐらい、ここから対空ミサイルを発射すれば済む話で
はないのかね?」
「しかし、対空ミサイルの射程までやって来るのを待って、墜とす前に万一
対艦ミサイルを発射される危険を待っている事もあるまいし、ゲーム終盤も
近付いて来ている今、出番のチャンスは是非とも有効利用せぬ事にはな♪」
「そうか、では宜しく頼むとしよう…御健闘をな」




 23:00…SUMMERエリア内緊急施設・アクセスルーム

「やれやれ、準備は急ごしらえで頼みの弾は一発か…見事当たってくれれば
お慰みなんだがな……5…4…3…2…1…FIRE!(ポチッ)」

539パラレル・ロワイアルその482:2005/12/16(金) 23:09:39
 23:05…MINMESエリア港埠頭地区・潜水艦ドッグ脇突堤…その
先端部


「るー…うーみし、大丈夫か?『生きて』るか?」
「…ちょっと辛いですけどとりあえず、今の所はOKです」
「腰に上着当てると楽だよ〜」
「ぷちバランスです」

 ぐらぐらぐらぐら。

「「「「…………」」」」

 『脱出』用の潜航艇を目指しステーションビル前からここ港埠頭地区へと
兵員輸送車でやってきた、るーこきれいなそら・天野美汐・神尾観鈴・伊吹
風子は、目標の潜航艇を目の前にして不測のアクシデントに見舞われ、絶対
絶命のピンチに追い込まれていた。原因は今を遡る事17:40頃、元98
番・柳川裕也によって述べ二分間ほど派手にばら撒き続けられた、BB弾を
踏み付けた事によるスリップ。その結果による現在の状況の方は…元ネタが
かなりメジャーですので、敢えて説明は省かせて頂きます(ちなみに、車の
向きは元ネタとは逆方向です)

「…るーこさん、私たちこのまま落ちてしまうのでしょうか?」
「るー、多分何かに引っかかっている様だから大きい重量が移動しない限り
大丈夫だ」
「おねぇちゃんの携帯でユウスケさんたちとお話しました。大いそぎで来る
そうです」
「よくやったふぅー、見事だ」
「でも、助けて貰える方法なんてあるのかなあ…?」
「なくはないぞ、すずー。船舶係留用のロープを車に繋いで、それから積荷
牽引用のウインチに固定して巻き取って貰えれば何とかなるだろう」
「さすがるーこさん、ぷち天才です」
「もっとも、うーみしのらぶらぶ達よりも先に、潜航艇の破壊者が来てしま
った場合は、万事休すと相成る訳だが」
「…もう、るーこさん!そんな呼び方なさらないで下さいっ!(ずびし!)」

 ぐらぐらぐらぐら。

「がががが、がおがお、美汐さ〜んっ(泣)」
「美汐さん、おめが最悪ですっ!(泣)」
「…ううう、すみません皆さん、私とした事が…(泣)」
「…………(るー。そもそも、ポーズさえ何とか取れれば、最後の“るー”で
この状況からすぐにも脱出する事が出来るのだが…)」
「!…誰かこっちへ近づいて来ますっ」
「なんだか、初めて見る人だね〜」
「…『潜航艇の破壊者』とは、イメージがかけ離れている様ですが…」
「るー!あのうーは!」

 そう、その時兵員輸送車へと向かって駆けて来たその人物こそは…MIN
MESエリア内の港地区から管理施設地区までの間を36話…もとい一時間
半余りもうろうろと探索を続けた挙句、途中で見付けた無人フードスタンド
にて食事中の所を、脇の車道を見覚えのある顔が運転する兵員輸送車に見事
通過されて、慌てて元来た道を一直線にUターンして駆け戻って来る羽目と
なった、123番こと柚原このみその人であった。

 そして、その姿をサイドミラーによって確認したるーこは直ちに、車載の
拡声器のマイクを取るとスイッチをオンにして早速このみへと呼びかけた。

『島内に生き残る、全ての善意あるうー達よ!……ではなくて、うー!無事
に生き残っていたのか!?』
「その声、やっぱりるーこ隊長でありましたかっ!?」
『いいか、よく聞けうー…見ての通り今るー達は身動きもままならないDE
ADorALIVE状態に陥ってしまっている…この状況を打破する為には
是非ともうーの助けが必要なのだ』
「どっ、どのようにすればよろしいのでありましょうかっ!?」
『そこに置かれているロープをこの車の尾部に繋いで、それからその近くに
あるウインチで巻き取って貰いたい……もしウインチの操作方法が解らなか
った場合は、しっかりと固定してくれるだけでいい』
「了解しましたであります、るーこ隊長っ!」

 早速突堤脇にあるロープの元へと駆け付け、その一方の端を拾い上げると
車の元へと駆けて行くこのみ。
「今、参るでありますよっ」
 しかし、このみが車まであと一歩という所まで駆けて行った、その瞬間。

 …がりっ。
「ほり?」

 突堤を駆けるこのみの靴底にていきなり、BB弾が耳障りなスリップ音を
奏でた。

 がりがりがりがりがりがりがりがりっ。
「ひゃわわわわわわわわわわわわわわっ!?」

 滑って行く両足の靴底に次々と連鎖反応で巻き込まれて行く。このみの体
は車をすり抜け、車の停止位置よりも先の方へと飛び出して行った…即ち。

 ずぽーーーん!!

『ビーッ、123番・柚原このみ、アタックダイブにより失格…転落事故
救助用ネットにて脱出後、直ちに交戦エリアより退いて下さい…なお、所持
装備のゾリオン・朱は、破損判定により使用不能となります』

540パラレル・ロワイアルその483:2005/12/16(金) 23:10:51
「がお…救世主さんとゾリオンが、いきなり海に落っこちちゃったよう…」
「ぷち最悪ですっ」
「…何という、運の悪い方なのでしょう。まさか、車よりもスリップが止ま
らなくなってしまいますなんて…」
「……いや、違うなうーみし」
「「「え?」」」
「あのうーは、本来靴底を断裂させる程の、スタッドレスタイヤ並みの緊急
停止能力を有したうーの筈だ……今のスリップは敵によって行われた、間接
的攻撃の結果によるものだろう」
「「「間接的攻撃…?」」」
「そして、それを可能とする装備は、長射程でなおかつ正確な射撃でBB弾
を射出するエアーガン…即ち、るーがステーションビルの三階で、転倒させ
乗り捨ててきたエレスクーターの荷台に括り付けていた、ドラグノフ狙撃銃
のみ(るーこは、遠野美凪のウェザビーMK−Ⅱの存在は知らないので)……
以上の事実から、それを回収する事が出来る参加者は、その時その場に留ま
っていた、うーみを倒したのであろう…」
「「「まさか…」」」

 果たして…背後あるいはバックミラーに注目する四人の見ている中、次に
辿り着いた参加者が、港埠頭へ颯爽とその姿を現した。
 エレスクーターに跨りドラグノフを片手に持ち、そして…クマの着ぐるみ
をその身に纏って。

「CLANNADに資料が存在していて助かったぞ…流石はおもしろビデオ
で名を馳せたメインヒロイン、予想通りのオチだな♪」




 23:10…MINMESエリア内・管理施設地区〜港地区間車道


 ばっさばっさばっさばっさ。
『クソッ、なんてこった!俺とした事が、エロ画像鑑賞に夢中…じゃなくて
、情報収集に熱心になり過ぎて、連れが車を追っかけて行っちまった事にも
気付かなかったなんて!』

 港地区へと向かって、元来た車道を飛んで行く一羽のカラス。無人フード
スタンドに備え付けてあった端末機で情報収集の為にS.F.へとアクセス
を行っていた(…幸いにも、来客用インフォメーション機能付きであった為、
操作難易度はビデオデッキや携帯電話以下であったものと思われる)カラスは
偶然、S.F.のメインモニターに開きっ放しであったメールもとい、それ
の添え付け画像に釘付けとなってしまった余りに、連れの柚原このみがスタ
ンド脇の車道を通り過ぎて行った兵員輸送車を追いかけて行ってしまった事
にしばし全く気付いていなかった…というべきかそもそも、車が通り過ぎて
行ったという、ゲーム終盤においては重大イベントであろう事実を全く気に
すら留めてもいなかった。まあ、それだけ添え付け画像の釘付け効果が♂に
とっては絶大だったのかもしれないのだが。

 ばっさばっさばっさ。
『…しかし、それにしてもあの、パンツ半脱ぎでOTLのヤツは、俺的には
かなりツボだったなぁ…い、いつか観鈴にも、あんなポーズを……!?っ』
 飛びつつも、半ばお得意の妄想モードに突入し掛けていたカラスは、背後
より走り追い付いて来た、二台の二人乗りMTBの存在に驚き、危うく失速
しそうになる所だった。

「いよう、また会ったなクソガラスっ!」
 長瀬祐介が漕いでる一台目のMTBの後ろに乗っている春原陽平が、右手
中指を立てながら半分憎々しげな挨拶を掛けて来た。

「春原さん、このカラスの事知っているんですか?」
「おうよ、舞さんの元ツレじゃなかったらとっくに、後ろから撃っちまって
るトコロなんだけどねっ!」

「…あ、カラスさん…」
「…ん。美凪ちゃん、あのカラスさんの事、知ってるの?」
「…観鈴さんの、代戦士の方です…初めて、お会い出来ました…」
 勿論、二台目のMTBに乗っているのは、河島はるかと遠野美凪である。

 ばっさばっさ。
『美凪以外は知らない顔ばっかしだな…一人だけ、元の姿なら何故か思わず
後から殴ってやりたくなる金髪野郎もいやがるが、一応は観鈴の味方っぽい
し行き先も同じみたいでホッとしたぜ』


 123番・柚原このみ 脱落
【残り 7人】

541パラレル・ロワイアルその484(半休載により1話のみ):2005/12/22(木) 23:57:12
 23:11…倉田アイランドSUMMERエリア緊急施設アクセスルーム

「し、失敗なのかっ……!?」
 モニターの一つに映し出された、海面へとパラシュート降下していく模擬
弾頭を目の当たりにして、高野は無念の表情を浮かべて、がっくりと椅子に
腰を落とした。

「ア、ICBM到達まで、残り四分……万事、休したのか……?」
 力なく項垂れる高野の視界の隅に偶然、別のモニターに映し出されている
海上を飛行中のシーハリアーの機影が、ちらりと飛び込んで来た。




 23:12…来栖川アイランド水族館エリア沖・豪華客船“蒼紫”艦橋

「ええっ、どうしてっ!?…何が起こって迎撃失敗しちゃったのおっ!?」
 モニターの一つに映し出された、海面へとパラシュート降下していく模擬
弾頭を目の当たりにして、小牧郁乃は癇癪気味な表情を浮かべて、こぶしを
振り回していた。

「情報分析、完了シマシタ」
 傍らに控えている、オペレーター役のバトロドロイド“甲漢O0O0”が
郁乃へと分析結果を報告した。
「倉田あいらんどカラ発射サレマシタ迎撃みさいるト、当船ヨリ発射サレマ
シタ迎撃みさいるガ、互イヲ標的ト誤認シテ、同士討チトナッテシマッタ事
ガ、失敗ノ原因ノ様デス」

「ケッサク過ぎて、このまま横になっちゃいたい気分だわ(怒)……ミサイル
到着まで残り三分……果たして、るーこ隊長以外に誰か、更なる手を打てる
人は残っているのかしら…?」




 23:13…来栖川アイランド南西海上・シーハリアー操縦席

『いよう、どうやら大勢は決した様だな…残念ながらお前らのクライアント
様がこのゲーム、見事にぶっ潰しちまったという事だ』

 向坂環は、いきなり入って来たぶっきらぼうな機内通信に、しばし呆然と
なっていたが、通信元を確かめるため大急ぎで装着しているインコムのスイ
ッチを入れ直した。

「…誰よ貴方、いきなり名前も言わないで?」
『誰よって?…女か!?……おい女、元々そのシーハリアーをかっぱらって
きた筈のヤロー供は一体、どうしちまったんだ?』
「質問を質問で返さないで頂戴、戦場にも最低限の礼儀ってものがある筈で
しょう?」
『……(神奈に劣らねー鼻っ柱してやがるな…)解かった、俺の名は高野、元
正規参加者110番、今はスタッフに自主降板した末に倉田アイランドSU
MMERエリアから、ゲーム決着妨害派によるICBM攻撃のミサイル迎撃
に見事しくじっちまって凹んでいる所だ』
「了解。私の名前は向坂環、元決着妨害派鳩Ⅱ組、今は決着支援派に寝返っ
てICBM攻撃の阻止策を検討中…取り敢えず現在はICBMの発射元へと
カミカゼ上等で移動中…ちなみに、元のパイロットさん達は、来栖川アイラ
ンド・スタジオ舞台村で水泳中♪以上」
『なかなか勇ましいな、じゃあ今やお前さんだけがこのゲーム存続のための
最後の希望っていう訳だ』
「残念ながら、成功の可能性は限りなく低そうなのですけど……って、ちょ
っと貴方っ!今確か、倉田アイランドSUMMERエリアからって言ってた
わよねっ?」
『ああ、それが今更どうしたんだ?』
「私と一緒にいる相棒さんがミサイル用の自爆命令プログラムを持っている
のよ。今からそっちへ転送するから、そっちからS.F.へ再転送出来ない
かしらっ!?」
『そうか成る程、そっから更にS.F.がICBM発射元へとプログラムを
流し込められれば…解かった、直ちにプログラムの転送を開始してくれ!』
「了解、始めるわ。ミルファちゃんお願い……って、キャアアアアアッ!?
どうしたのミルファちゃん、いきなり急上昇して!?」
 ブンッ、ブイブイブイ。
「えええっ!?強敵が現れたから、止む無く空中戦に専念させてもらうって
!?…全く、何て最悪のタイミングでッ!!」




 23:14…来栖川アイランド南西海上、F−104・スターファイター
操縦席

「御前達は援護しろ、ワシが片付ける!」
「了解、みすたー福原!」
「了解!」

542葉鍵ほぼ初心者の工房:2005/12/28(水) 10:52:36
葉鍵ロワイアルRevenge 〜復讐の交響曲〜

交響曲第1楽章「序曲」


第1小節「イントロダクション」

時は200X年・・・
無差別に選出した100人の男女を絶海の孤島に集め、殺し合いをさせるという恐ろしい”ゲーム”が
都市伝説として語られて久しい頃・・・
数年前の”ゲーム”で図らずも命を落とし、未だに救われぬ一人の少女の霊は
その”ゲーム”が行われていた孤島を彷徨い続けていた・・・
その少女の名は―――高瀬瑞希であった。
顔見知りであった男―――九品仏大志の手により一瞬にして肉体もろともに
この世から存在を抹消された瑞希は天に帰ることを拒み、
望まぬ最期を遂げた孤島に永住する事を誓った。


「やれ、先行者」
「え?」


これが”復讐の交響曲”の始まりである。

543パラレル・ロワイアルその485(↑祝・新連載!):2005/12/29(木) 21:04:02
「もう時間がないわっ!…ごめんねミルファちゃん、貧乏籤を引かせてしま
っちゃうけど、今すぐプログラムの転送を開始して頂戴っ!」
 コクコク、ピッピッ。

 急上昇中のシーハリアーの操縦席でそう叫ぶ向坂環の姿に最早一刻の猶予
も残されていない事を悟ったミルファは、シーハリアーのペガサスエンジン
を急停止させると、すぐさま自爆命令プログラムの転送作業を開始した。
 自然落下もとい、急降下による簡易的回避行動中の間の一発転送を試みた
のである。

「フハハハハッ、甘いわっ!今時、トモエ戦も出来ない老いぼれが戦闘機に
乗っとると思うたか!」
 それでも福原庄蔵はF−104を強引な荒業で急制動・急旋回させて見せ
ると、いきなりの敵味方のサーカス芸にまごつく支援役の無人戦闘機二機を
尻目に、素早く落ちて行くシーハリアーをロックオンした。

「旧式機だと思うて、横着な避け方しようとするからじゃっ!」
 庄蔵が、ロックオンしたシーハリアーに向かって模擬AAMを発射しよう
とした、まさにその時。

 ボンッ!…ボンッ!

 福原の背後で模擬対空ミサイルの着弾音が二発、立て続けに起こった。

「!…何があったっ!?」
 背後の支援機二機が『撃墜』された事を悟った庄蔵は、次の瞬間には既に
ロックオンを解除して、機体の急反転を完了させていた。

 一機のVTOL機がF−104へと急接近を果たしていた。そして、その
機体側面の開いた扉からは。

「タマ姉ぇーっ!!」
 いまだに外せないでいる便座に命綱を括り付けて、三基目のブローパイプ
対空ミサイルを構えている河野貴明の(珍妙なる)勇姿が現れていた。

「ほほう、総重量20キロ強のブローパイプを…なかなか骨のあるボウズの
ようじゃな♪」
 それでも庄蔵は状況確認と共に、不測の新手に対する冷静なる反撃を開始
していた。
「じゃが所詮は民間機、ワシの敵ではないわぁっ!!」
 機体を急転進させて貴明のいる側面の反対側の向きから一気にVTOL機
へと急接近し、すれ違いざまにエア・チェーンガンの斉射を浴びせ掛けた。

 ビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシッ!!

「のわっ!?」
 風貌をブリザードのごとく叩き付けて来たBB弾の嵐に、操縦席の保科は
椅子から転げ落ち、機体は大きくバランスを崩した。

『ビーッ、特務機関CLANNAD所属チャーター機“ベイカーズ”、有効
弾直撃により撃墜判定……直ちに本島の空港・ヘリポートエリアに帰還後、
搭乗員はリバーサイドホテルまで向かって下さい』

 しかし、その失格アナウンスが機内スピーカーより発せられる直前に。

 すぽんっ。
「え!?」

 機体がバランスを崩して傾いた衝撃で、便座が外れてしまうと同時に。

 ふわっ。
「わああああああっ!?」

 開いていた扉から貴明は機体より放り出され、空の人と化していた。

544パラレル・ロワイアルその486:2005/12/29(木) 22:17:47
 ブイブイブイッ、グイグイグイッ。
「転送完了っ?やったわねミルファちゃんっ!それじゃあ急いであの戦闘機
から逃げ……って、タ…タカ坊っ!?」

 海面擦れ擦れで垂直浮遊しているシーハリアーの操縦席にて、プログラム
転送完了に快哉をあげている暇もあらばこそ、右手上空にて『撃墜』された
VTOL機より転げ落ちていく河野貴明の姿を目撃してしまった向坂環は、
思わず操縦席より飛び出し、機体右翼の上を一気に駆け渡って行った。
「タカ坊ーーーっ!!」

 ギュイン、ギュイギュイッ。
 ミルファも環の突然の動きに呼応するかの様に、機体を素早く右方向へと
ホバリング移動させた。

 ガシッ!!

 間一髪!環は右翼の端に腹這いとなって、落ちてきた貴明の襟首を右手で
キャッチした。

「タ、タマ姉っ!?」
「タカ坊っ!……助けに来てくれたのは嬉しいけど、あんまりお姉ちゃんを
ハラハラさせちゃあ駄目じゃないのよ♪」
 襟首を摑まれ、思わず上を見上げてしまった貴明に向かって、軽く片目を
瞑って笑う環、だが…。

 キィィィィィィン…
「「!!」」

 VTOL機を『撃墜』した庄蔵のF−104が、大きく低空を旋回して、
真っ直ぐにシーハリアーへと向かって来ていた。

 ブブン、ブイブイッ。
 操縦席のミルファも、翼の上の環達を振り落とさずにシーハリアーに回避
行動をとらせる事など、流石に出来る訳もない…万事休すである。

「許せ、若いの…これもまた、戦場の習いなのじゃ」
 庄蔵が、真正面に捉えたシーハリアーに向かって、エア・チェーンガンの
トリガーを引き絞ろうとした、まさにその時。

 シュルルルルルルルルルルルルルル…

 庄蔵は、自分の機体を目指して飛んで来る、一本の対空ミサイルの存在に
気付き。
「何っ!?…馬鹿なッ、一体何処からッ…!?」
 慌てて、フレアーによる回避行動をとろうとした、その瞬間。

 バリンッ!!…ガンッ!!
「べんざッ!?」

 『撃墜』VTOL機の側面扉より、命綱がほどけて時間差で落下して来た
ある物体に、風防貫通でヘルメットを思い切りに直撃されていた。そして、
そこへ到達して行く対空ミサイル。

 ボンッ!

『ビーッ、篁財団所属・F−104スターファイター、有効弾命中により
撃墜判定……直ちに本島の空港・ヘリポートエリアに着陸後、搭乗員はリバ
ーサイドホテルまで向かって下さい』

545パラレル・ロワイアルその487:2005/12/29(木) 22:19:03
「何とか助かりはしたみたいだけど、今の対空ミサイルは一体何処から?」
「!…タマ姉っ、あれっ!」
 翼の上へと引き上げられた貴明と引き上げた環が、共に翼上に腰を下ろし
て見上げた上空では、今まさに来栖川アイランドの空港・ヘリポートエリア
への着陸態勢を開始している、来栖川航空高速便の巨大な機影が通り過ぎて
行く所であった。

「…どうやら、小坂さんが何か手を打って下さったみたいね…って、あら?
いつの間にか23時15分を回っちゃったみたいだわ」
「じゃ、じゃあっ…俺達が失格になっていないのは、ICBMによる攻撃が
失敗したっていう事なのかな?」
「やったわね、ミルファちゃん!大手柄じゃないのっ♪」
 ブイブイ、ブブイブイッ。
「ええっ!?」
「何だって、タマ姉?」
「…垂直飛行のし過ぎで、燃料切れ寸前なんですって」
「あっちゃあ〜…結局俺達、失格になっちゃうのかよぉ…」
「ま、それもいいじゃないの」
「え?」
 ブイ(?)。
「大任は無事果たせたみたいだし、脱出用のゴムボートはちゃんと搭載され
ているみたいだし……夜の海で、タカ坊と二人っきりだなんて、うふふ♪」
「ま、待ってタマ姉…ほ、ほらミルファちゃんも一緒にいる事だしさあ…」
「いいじゃないのよ、タカ坊だってミルファちゃんの恥ずかしい所覗いちゃ
った事があるんだし、タカ坊が今恥ずかしい所を見られたっておあいこって
事で、万事解決じゃないの?」
「そそそ、そんなあっ…(汗)」
「じゃあ、そういう事で♪……タカ坊みーっけ、つっかまえた〜っ♪」

 バリバリバリバリバリバリバリバリ…

「「!?」」
「こちら“マジカル・ブルーサンダー”宮内あやめ、ただ今到着しました…
…早速、シーハリアーへの空中燃料補給を開始致します」
「た、助かったぁ〜…」
「〜っ、ミルファちゃんっ!あのヘリコプター今すぐミサイルで叩き落して
頂戴っ!!!(怒)」
 フルフル、ブンブンッ。




 23:16…来栖川航空高速便機内

 「…ご協力、感謝致します小坂さん」
 発射済みのスティンガーを下ろした黒いリボンの少女が、今度はパラシュ
ート内蔵のロケットリュックを身に付けて、開いたままの側面扉からその身
を降下させようとしていた。

「こちらこそ。どうかお気を付けて……それにしましても、まさか高速便に
ご搭乗の鳩Ⅱ組の方がいらっしゃいましたなんて」
「…元々、夏季休校を利用しての海外旅行帰りに関東来栖川空港で、移植前
の者達を目撃してしまった事…それから、草壁からのリアルタイムメールが
実はもう一通、私の分も存在していて、それが高速便出航前に私の所へ転送
されて来た事…全ては、偶然が生み出した結果に過ぎませんわ、私が今この
機に搭乗しておりました理由は」
「これから、どうなされるのですか?」
「…可愛い後輩さんが、留守番のお姉さんの代わりに無茶をしようとしてる
らしいですから、まずはその子の装備を引き継いで、ホテルへと丁重に帰還
して貰ってから…それから、もし必要ならば更なる助太刀でもして差し上げ
ましょうかと」

 ドドーーーン!

「あら?青い花火が本島上空に……確か、赤い花火なら核攻撃成功で青なら
失敗の判別発火式になっておりました筈ですから、篁財団のICBM攻撃は
どうやら見事に阻止出来ました様ですね」
「…当然の結果ね。その位はやって頂きませんと…では、効果予定ポイント
の水族館エリア沖上空ですので、失礼させて頂きます」
「では、改めてご武運を…久寿川さん」

546パラレル・ロワイアルその488:2006/01/05(木) 22:19:42
 23:15…MINMESエリア港埠頭地区・潜水艦ドッグ脇突堤

 智代が次の獲物に選んだのは、兵員輸送車の搭乗者達であった。エレスク
ーターを降りると、車の元へと歩み寄る。
 近くに落ちていたそれ―――このみが運んでいたロープを、蹴り飛ばし。
「これで希望は潰えたかな?」
 車のバンパーに足を乗せた。そして体重をかける。

 ぐらぐらぐらぐら。

「が、がお、おお!」
 驚き、泣き、震えあがる観鈴。
 ようやく足をどけたかと思えば、今度は後部扉に肉球パンチを叩き込む。
 美汐は冷や汗を全身から噴き出した。
 より一層のピンチと、より一層のスリルと、より一層のプレッシャーと。

(るー、こんな状況で身体が動かせないのか―――!)
 かろうじて冷静を保っていたるーこではあったが、身体を動かすことは
できず。観鈴、美汐、風子―――皆、動けない。誰もそれを止められない。
 その事態を覆したのは、誰も―――恐らく智代ですらも―――予想しなか
った者だった。

「おらああああああああああああ!」
「な―――」

 ヘタレの筈―――あるいは絶対的にヤラレ役を宿命付けられているキャラ
のものとは思えない。
 動甲冑内蔵のロケットリュックによって、祐介のMTBよりスクランブル
発進して突撃してきた救世主2号の雄叫びを聞き、驚愕する智代。それは隙
しては充分すぎる間だった。
 かつて118番・代戦士であった者は、智代の汚れ傷ついた着ぐるみを
飛行しながら掴んで、とんでもない勢いのままに放り投げた。智代には何故
依頼人脱落情報を入手したはずの彼の参加継続がなされているのかは分から
ない。しかも、彼は止まらなかった。今の智代の状態―――クマの着ぐるみ
を着けた状態では、投げ技で失格判定―――正規参加者昇進のための最後の
撃破スコアと化することを期待はできないからだ。
 彼は腰にさしていた刀を抜きながら、赤外線ゴーグル(公子の支給装備→
香里→春原経由)を装着し放り投げた智代の飛び込んでいった先を追った。
かつて、古河司令が、柳川を返り討ちにした戦場でもあった、扉が開け放た
れたままの、13番倉庫の中へと。

547パラレル・ロワイアルその489:2006/01/05(木) 22:21:08
 ―――暗い。

 生身の人間が、ここに足を踏み込むのは危険なのではないか。そう考えさ
せられるほど、倉庫内は深遠なる闇に包まれていた。

(……春原君は?)
 MTBにて後から駆けつけてきた長瀬祐介は目を細め、頭を巡らして姿を
求める。戦闘の音は聞こえている。しかし、その主たちは見当らない。
(視界が……狭いんだ)
 目を慣らしながら、音を頼りに進む。
 一方的な打撃音が続いている。音が聞こえる限り、勝負は続行中なのだろ
うが……不安だった。いくらなんでも、タイマン勝負なんて―――

『ユウスケ!アッチダ!!』
 ―――叫び声に反応して、振り向く。カラスの声だ。
 自分が進んできた方向とは逆の、むしろ破壊されたFPHが転がっていた
側だった。
 音の共鳴が位置取りを誤らせていたのであろう。遠く闇の中、ゾリオンの
レーザー光がさながら花火のように閃いている。

(春原君―――無駄に『死んじゃあ』駄目ですよっ!!)
 祐介は心の中で案じながら、近づいて行った。




「……み……美凪ちゃんっ!」
「…観鈴さん……」
 初顔のうーと、車より救出されたすずーが、お互いにすがり付いている。
 うーみしとふぅーは、安堵でへたり込んでいる。

 さんざん自分のミスで時間を浪費する結果にさせたるーが言えた立場では
ないのだが―――急がなければならない。

「るー、行くぞ」
「がお……」
 余程怖かったのだろうか、すずーはまだ泣いている。接客用の上等そうな
ナプキンをメイド服からとりだして、涙をぬぐってやる。
「しかたがないな……ほら……」
 すずーの目頭をふきふきしながら、全員の主な武器・装備を確認する。
 るーは、二丁のゾリオンと交換に受け取ったワインバスケット型水鉄砲に
万能変形鉄扇、それにワンタッチ傘。
 すずーとすがりあっていた初顔のなぎーは、スコープ付きウェザビーMk
―Ⅱに茶色のゾリオン。
 もう一人の初顔はるーは、空色のゾリオンに投てき用ゴムナイフ。
 うーみしは、黄色のゾリオンにシグサウエル。
 なぎーからの贈り物によって正規参加者になったふぅーは、るーが渡した
緑と紫のゾリオン。
 すずーは、うぐーがどぅーから渡されていた赤色のゾリオンにネコパンチ
グローブ…他にも小物が少々あるが、アイテムとして期待するのは間違って
いそうだった。

 るーと、らぶらぶが先行してしまったために奮起したらしい、うーみしに
加えて、なぎーとはるーも射撃戦ならば期待できそうだ。
 るーをして、二人の前に立つ。
「最後の獲物は、極めて手強そうだ。説得とBB弾は通じそうにない」
「…ん、そうみたいだね。でも、これで最後なら―――」
「―――七瀬さん魂、皆さんで見せてご覧に入れましょう」
 そこは戦乙女という程度で、とうーみしが修正する。
 ……残念ながらるーは、戦乙女という柄ではない。たぶん、ここにいる他
のうーたちも柄ではない。

『ユウスケ!アッチダ!!』
 何者かが叫んでいる。恐らくは味方なのだろう。
「行くぞ!急ぐんだ!!」
 そう言いながら、るーたちは各々の可能な限りの速さで走り出していた。
「…あそこです!ああっ!」
「「「「「な―――――!?」」」」」

548パラレル・ロワイアルその490:2006/01/05(木) 22:22:56
 喧騒がやんだ。
 偶然それを発見した伊吹さんが、倉庫内の照明の電源を入れてくれていたが
―――そのためではない。


『ビーッ、新規ゲスト警備兵・春原陽平、ナースストップにより殉職しました』


 失格アナウンスが響き渡る。そしてアナウンスの余韻の中、外から美汐達が
駆けつけてくる。

 ひとつの勝負が、ついていた。

 そのシルエットは、祝杯をあげるように、高らかに右手を上げている。左手に
戦利品の刀を持ち、頭部の被り物を外して代わりに、(ノクトビジョン付きの)
ホッケーマスクを顔に付けて、そして掲げられているそれは―――

「……春原君」
 ―――春原君、だった。

 ホッケーマスクは首を掴んで、軽がると持ち上げている。一方のゴーグルが
半分ずり落ちた春原君は、無事なところなど見当らない。

「みんな……遅かったじゃないっスか」
「……ごめん」
「新連載のこと……応援頼むよ」
「……うん……最善を尽くすよ」

 新たなるアナザーのことなのか。
 ―――それともまさか。月刊COMIC RUSHの…春原君の思考はもう
リアルタイムにまでぶっ飛んでしまっているのか。むしろそのほうが、春原君
らしいのかもしれないが―――真実は、最後までわからずじまいだった。

 ごきり

 核攻撃の脅威すらも忘れてしまいそうな光景の中で、全員がその音を聞いた
という。続いてひゅう、と擦れた吸気音のようなものが一回。

 橙色のゾリオンは、踏み砕かれていた。

 支えを失い、だらりと垂れ下がった春原君の首に、鬱陶しげな一瞥をくれる
と、ホッケーマスクは無造作にそれを捨てた。そしてホッケーマスクを脱いで
素顔を晒した彼女は、パートナーを導く踊り子のように、優しげとさえ言える
、滑らかな仕草で手を差し伸べた。
「次は、誰かな?」
 
 僕を、美汐を、遠野さんを、河島さんを、伊吹さんを、初めて見るメイド服
の女の子を見て、上機嫌に言い放った彼女は、最後の一人の顔を見て、ついと
片眉を吊り上げた。
「……お前も、アレを見て、しまったのか……」




(……アレ?)
 物陰に潜んでいた俺は、相手にそう言われてより一層赤面している観鈴の顔
を見た。どういう訳なのか、観鈴が次なるピンチの矢面へと、立たされそうな
雰囲気だ。一体観鈴は、あの女の何を見たとでもいうのだろうか。
 しかし、心当たりがある。あの女の顔、確か見覚えが……?

(そうか―――あのエロ画像かっ!?)
 俺の脳裏に、理解の色が拡がった。あの女の素顔は、あのエロ画像のキャラ
と全く違わないのだ!


(二代目)110番・伊吹風子 新規参加
【残り 8人】

549パラレル・ロワイアルその491:2006/01/12(木) 21:46:13
 23:20…潜水艦ドッグ脇13番倉庫

「大層便利な刀だな、春原が単身私に挑んで来た理由も解らなくない程に…
とはいえ、私に当てる事が出来なくば只の棒切れに過ぎないという事実を、
あいつは気付いていなかったのが致命的な失敗だった…」
 智代に睨まれ、赤面したまま後ずさる観鈴を庇う様に立ち塞がった祐介が
発射した緑のゾリオンレーザーを、智代は手にした刀の防御の構えだけで、
難なく弾き返して見せた。更に発射されたはるかと美凪のゾリオンレーザー
もあっさりと弾き返す。

「智代さんっ…ど、どうしてなんですかーっ!?」
 風子はゾリオンを抜く事すら忘れ、拳を握りながら智代に向かって大声で
叫んだ。

 智代は風子の方に顔を向けると、一瞬だけ切なそうな表情を浮かべてから
凛とした声で答えて見せる。
「…風子、私もお前同様、自分のルールを曲げる事が出来ない不器用な人間
なのでな……それに」
 智代は着ぐるみの懐から高縮尺人物探知機(香奈子→浩之→シュン→秋生→
智代経由)を取り出して、七人へと見せた…全ての光点は、DREAMエリア
木造旅館付きのスタッフ達と思しきものを除いて、ここMINMESエリア
潜水艦ドッグへと集中していた。
「このゲームの生き残り参加者は(一部スタッフ・乱入者を除いて)、今ここ
にいる全員で全てのようなのだ…そう、朋也も…朋也も、私の知らない間に
…私には、私にはもう……」

「?…智代さんっ、そのような事をたずねているのではありませんっ」
 風子は目をぱちくりさせると、首をぶんぶんと振って大声で尋ね直した。
「…観鈴さんがあんなに真っ赤っ赤っ赤になってしまいまして、智代さんが
そんなにおっかない顔になってしまいまして……いったい観鈴さんが、智代
さんの何を見てしまったとでもいうのですかっ?まさか、全年齢対象の蔵等
きゃらの智代さんが、とってもえっちなところでもいっぱいいっぱい見られ
ちゃったとでも、おっしゃるおつもりなのですかっ?」

「ふ、風子っ……せ、せめてお前だけは…お前だけは同じ蔵等組のよしみで
、生かして見逃してやろうと、思っていたのに……(怒)」
 フルフルと震えだした智代を見て、思わず手をポンと叩くるーこ。
「るー、そういえば確か、すずーが最初に赤面していたのは、ステーション
ビル最上階で、一人S.F.に挨拶に行った戻りの時の事だったな」

「…はい、確か『メインモニターに映しっ放しだった、新作ゲームサンプル
の、とってもえっちな画像』ですとか観鈴さんはおっしゃっておりました」
 故意か思わずか、るーこに相槌を打つように答えてしまう美汐。

「ス…S.F.のメインモニターに、映しっ放し、だっただとぉっ…!?」
 フルフルがワナワナにパワーアップして、震え続ける智代。

「…な、何だか推定ラスボスさんの最優先事項が、僕達の殲滅から別の用事
へと変わってくれそうな雰囲気なんだけど…」
 そんな智代を見て一縷の光明を感じ、そう漏らす祐介であったが、
「…ん。でも、私達の殲滅が最優先ではなくなったかもしれないけど、必要
事項である事に変わりはないと思うんだけど」
「…むしろ、秘密を知ってしまいました分、口封じの対象が観鈴さんお一人
から、私達全員に増えてしまっただけの様な気が致します」
 はるかと美凪の状況悪化論に、軽く一蹴されたしまったのであった。

「…その通りだ」
「「「「「「「!」」」」」」」

 震えるのを止めた智代が、その言葉に思わず向き直った七人へと向かって
ファイティングポーズを取り直した。
「まずは、速やかにお前達を殲滅して……それから、ステーションビルまで
戻らせて貰う事にしよう…!」

 智代がちゃきりと刃音を鳴らして刀を構えた。照明を反射して、ぎらりと
光る刃……と、その時。

550パラレル・ロワイアルその492:2006/01/12(木) 21:48:15
『(;´Д`)ハァハァ……車内端末に、エロ画像がいっぱい……も、萌えーーーー!』
「何っ!?」

 倉庫外から飛び込んで来た拡声器越しの歓声に智代は仰天して向き直った。
(まずい、S.F.の画像情報が外部に漏れてしまっているのか?だとしたら何とかせねば……!)
 智代は目の前の七人を放り出して、歓声の発声源=兵員輸送車へと血相変えて駆けて行った。
 思わず、間合いを取りつつその後を追ってしまう七人。

「誰だっ!?いますぐその画像を見るのを止めろっ!!」
 車の後部扉から飛び込み、智代は言い放った。凡人ならすくみ上がってしまうほどの迫力だ。

『(;´Д`)何を言ってるの?せっかくのお宝画像だよ?ダウンロードして永久保存しない訳
なんかありえないんだよ。それにしても、パンツ半脱ぎでOTLのヤツも、も、萌えーーーー!』
「ぐ…」

 手の打ちようが無かった。操縦室に篭っているのであろう拡声器の発声源は嚇しに怯む気配すら
見せない……そればかりか、己の欲望……つまり正直な気持ちの元に、アレを保存・外部持ち出し
しようとまでしているのだ。

『(;´Д`)これを無事に持ち帰れたら、ホームページの壁紙にしたい……壁紙……ハァハァ』
「……(激怒)」
『(;´Д`)プレミアついたら……ネットオークション、どこに掛けようかな?……ハァハァ』
「……(超激怒)」
『(;´Д`)18禁だと大胆なんだね?69?ずらしパンツ?……智代タンてヤパーリ、エロい
んだね?ハァハァ』

「ーーーっ、痴れ者がぁっ!!返せぇっ!!貴様の存在もろとも今すぐ直ちに消去してやるっ!!」
 智代は操縦室の鍵の掛けられた扉を全身全霊を込めたタックルでこじ開け、そのまま操縦室へと
突入した。

 状況非認識。兵員輸送車は今度こそバランスを崩し、智代と共に……

 グラグラッ!…ズルズルズルッ!……ドボン!!

 潜水艦ドッグの人工海底へと飛び込んだ。




「カラスさん……!」
 落ちて行く兵員輸送車の後部扉を(法術で)バタンと閉じて宙を舞う、ワイヤレスマイクを握った
カラスを驚く観鈴……不思議と観鈴の頬を涙が伝わる。

「る、るぅ、あのカーは……すずーの知り合い……なのか?」
 初対面のるーこはカラスを一応警戒している。目があったからか、カラスはふわりと近付いて来る。

「うん、知ってるよ……490話以上も前から」
 何故か観鈴の表情には『懐かしさ』ではなく、『愛しさ』がより色濃くあらわれていた。


 122番・坂上智代 入水

551パラレル・ロワイアルその493:2006/01/19(木) 19:29:55
 23:30…MINMESエリア港埠頭地区・潜水艦ドッグ

“こちらS.F.赤・青・緑・黄・紫・空・茶…レーザー、照合しました。
操作系統のセーフティロックを解除します”
 S.F.からのアナウンスが響く。聞くなり、七人は手にしたゾリオンを
それぞれの荷物の中に戻した。
 ごとり、という音がした。どうやら物理ロックだったらしい。本編に忠実
だね、とはるかは思った。
(*NG報告…491話で祐介が所持していたのは緑ではなく青のゾリオン
でした。あと、智代が高縮尺人物探知機でSUMMERエリアの高野の光点
を見落としておりました。重ねて、どうかお許しを)

「一見二人乗りで、実は最大収容人数が七人+aっていう所も、本編に忠実
なのかな?」
 ハッチの上からのぞいていた祐介が思わず言う。
 さすがに(まさかそれに乗ってやって来た事など知る由もない)カラスが、
一番手で入り込んで手際よくあれこれ試動させていたのには驚いたが…。

「ん。祐介さんの予想通りみたいだね」
「…加えて、最大収容人数乗り込みますと、強制的に空気節約モードが発動
してしまうみたいですよ」
「美凪ちゃん、それって一体…?」
「…出港直後に最寄の海面まで自動的に浮上して、再潜水が行えなくなって
しまうらしいですよ、観鈴さん」
「がお…」
「…な、何もそこまで忠実に再現なさらなくてもっ…今現在、ドームの真上
は新規乱入者の方達の場外乱闘現場と化しておりますと、お聞きしたばかり
ですのに、うう…こんな酷なことはないでしょう」

「るー、それにしても気になるな…」
「何がですか、るーこさん?」
「ふぅー、どうして492話で…半ば本能的な反射行動であったとはいえ、
うーともは車を端末機もろともドッグに突き落とそうとはせず、敢えて車の
中へと乗り込んで行ったのだろう…?」
「特務機関蔵等の兵員輸送車が、低水深渡河能力を持っているからかもしれ
ませんですっ」
「(…読者様への説明のために、なかなかの専門用語を勉強したらしいな…)
なるほど、だとすれば突き落とした場合、そのままドッグ水底を走って逃げ
られる可能性が高かったから、やむをえず乗り込んで行ったというわけか…
…るー、待て!という事は、落ちて行ったうーともは水没こそはしたものの
まだ脱落はしていない可能性が高いという事なのか?…492話のラストで
参加生き残り人数が無修正だったのが上記のNG報告に入っていないのは、
もしかしたら…」
「いそいで出発した方がよいのかもしれませんっ…ドームから外に出てさえ
しまえば、もう智代さんには再追跡の方法は残されてはいないはずですっ」
「そうだな、場外乱闘現場へと浮上してしまうであろうリスクを考えても、
ここは急いでドームを出るべきであろう…………それにしてもうーともよ、
るーには何故かお前のハプニングが他人事のようには、思えない……いつか
るーにも、ユーザー様の前にあられもない姿を晒してしまう日が来てしまう
様な気がするぞ…」

552パラレル・ロワイアルその494:2006/01/19(木) 19:31:50
 23:35…海水浴場エリア沖・来栖川家専用大型クルーザー内リビング

 …今を遡る事17時間と40分前、元77番藤田浩之と元52番セリオが
FPHで出撃して以来、長きに渡り無人であった大型クルーザーのリビング
に今、中継モニターの機能を果たしていると思しき水晶球の置かれた円卓を
囲んでいる三人の男女の姿があった。

「漸く一番手で『突破』を果たす事が出来たとはいえ、どうやら空気的には
時既に遅しといった感じの様だな、オガム」
「拝見しました所、参加者達にとっての最後の障害は、切り札による攻撃に
既に失敗してしまった篁総帥殿及び、ご同行の鎖組のみ……我々を呼び寄せ
ました特務機関司令も脱落してしまって久しい今となっては、我々が更なる
乱入を行い強引な手でゲームを潰してしまう事は、長期的展望から考慮しま
しても、余り得策ではないようで御座いますな」

「では、私めの提案致しました通り、私達の表立った乱入は中止という事で
よろしゅうございますか、アロウン殿?」
「うむ、今年が駄目でも来年がある……来年夏、葉鍵ロワイヤル・コミック
アンソロジーの発行によってもう一度、紙触媒化無事完結記念祝賀会が開催
されるであろう事は、リアルタイム情報によって確実な未来となっているの
だからな」
「それ即ち、次回の祝賀会もとい、次回のゲーム会場を巡って葉鍵各派閥が
表に裏にの誘致合戦を繰り広げていくであろう事は、明白なる今後の展開…
ならば、マイナスイメージへとなりかねない今大会への強引な乱入は避けま
して裏から決着を支援しました方が得策というものですな、ウルトリィ殿」

「既に来栖川アイランド本島には、当方のクーヤとムックルを極秘支援の為
潜入させましたし、テネレッツァ組の方々やフィルスノーン不参加組の方々
ともそういう事で話は付いております…ここは皆で一致団結しまして、次回
会場主催権を私達葉組異界勢の手へと握り取ります事こそを、第一の目標と
致しましょう」
「依存はないぞ」

「では、次回大会の企画書を御預かり致しますという事で…これでTtTの
皆様もめでたく、葉組異界連合の仲間入りですね」
「しっかりと機密管理して頂きたい…万が一、これがネタバラシされてしま
いましたら、もう我々は進退が極まってしまうのですからな」

「では、各組よりお預かりしました企画書は、私がまとめて大熊座47番星
第3惑星へ…あの方達にお預りして頂ければ、絶対に安全ですわ」

553パラレルロワイアル・その495:2006/02/01(水) 23:24:49
 23:36…来栖川アイランド本島・飛行場&へリポートエリア内滑走路

「この度は当来栖川航空高速便をご利用頂きまして誠に有難う御座いました
…それではあちらに送迎用バスが待機しておりますので、天いな組の皆様は
お乗りになってリバーサイドホテルへとお向かい下さい」
「「「「「「「「「………………………(すごすご)」」」」」」」」」

「無事着陸出来ました事は何よりですが、それにしても凄い量の無人戦闘機
の残骸ですねえ。……たぶん味方だと思うのですが、もしかして貴方が全部
やっつけてしまったのかしら?」
「ヴォフーーー!」


 23:37…来栖川アイランド本島・地下鉄道用地上ターミナル(博物館・
美術館エリア〜遊園地エリア間に存在)

「何はともあれ、どうやら無人戦闘機隊の脅威からは助けられたみたいです
な、幸村さん」
「…しかしまさか、本物のアヴ・カムゥが我々の味方として異界間乱入して
くれおるとは…なにやら後日、高いツケとなってしまいそうですの、会長」
「そうかもしれませんが、今は篁総帥殿へと切り札返しをお見舞いして差し
上げる事を第一に考えましょう」
「それにしても、まさかこんな大戦時の超弩級骨董品が博物館に展示されて
おりましたとは、しかもゲーム用特殊弾頭による発射体勢で…流石は来栖川
グループといった所ですの」
「いやいや、お褒め頂きますと恥ずかしいですな…それでは、邪魔者も排除
して頂けた事ですし早速、発射準備を再開すると致しましょう」
「…ではワシは、小坂さんが連れてきおりました子達に、中継照準をお願い
する事としましょうかの」


 23:38…海水浴場エリア沖・豪華客船“蒼紫”艦橋

「…了解しました、それでは直ちに“標的”の現在位置の座標の確認を開始
致します(ピッ)」
「ねーねー、いったい何の連絡だったの、さーりゃん?」
「(ずざざっ!)ま、まーりゃん先輩っ!?…どっ、どうしてここにっ!?」
「私のさーりゃん誘導追尾能力は、柚木のしーりゃんの約1.5倍の能力を
誇るんだよーって……ま、ホントは空港で旅行帰りのさーりゃんをこっそり
お出迎えしよーかなーって待っていたら、さーりゃんが携帯片手にいきなり
飛行場の方へと戻ってっちゃうもんだから、あーもしかしたらと後をつけて
来ちゃって…エヘヘッ♪」
「エヘへって、まーりゃん先輩…他の飛行場でそれをやっちゃったら立派な
犯罪ですよっ」
「そっかーそっかー、まー気にしない気にしない♪……さーりゃんだって、
私がいた方がきっと助けになると思ってるでしょー?」
「そ、それはっ…」
「それに、結局無理矢理ホテルへ送り返すのに忍びなくなって一緒にいさせ
ているいくりゃんだって、もしもの時の対処法なら私ならキチンと応急処置
出来る自信があるし」
「た、確かにそうですけど、先輩…」
「い、いくりゃん……あ、あのー、こう言っては何ですが、幾ら先輩の先輩
ですからって、初対面の方にいきなりいくりゃんなんて呼ばれる覚えは…」
「うんうん、勇気があって元気もいーわね、いくりゃん♪ごほうびに後で、
お姉ちゃんとスイカでも食べようか?…でももう、そろそろ夜更かしが体に
毒な時間だぞー、いくりゃん♪」
「………………(プルプルプルプル)」


 23:39…海水浴場エリア・海の家

「?…おかしいですねえ、さーりゃんから郁乃ちゃんを“蒼紫”より送り届
けて来るという連絡を受けましたので、こうして同行希望の乱入者さん達と
一緒に、(巡回用ホバークラフトで)こうしてお迎えに参ったのですが…?」
「ん〜っ冷た〜い♪…森本さん、ここのアイスも本当に冷たくって美味しい
ですねえ♪」
「ミキポン、ユカリン、アルルゥ花火で遊ぶー」
「ふ、伏見さんっ、アルルゥちゃんっ……(も、もしもここのアイスまで食べ
尽くされてしまいましたら、次はいよいよ“蒼紫”の厨房室まで向かわなけ
ればならないのでしょうかっ…?)」


 23:40…大灯台広場約2キロ沖洋上・試作高速駆逐艦“ソルジャー・
バシリスク号”艦橋

「篁のICBM攻撃が失敗に終わり、来栖川アイランド内の無人先遣部隊が
予想外の反撃により大損害を被っているとの事だ……次はいよいよ総力戦、
俺達鎖組の出番というワケだ……早い所、ウロチョロと鬱陶しい巡視艇及び
ハリアーとヘリを蹴散らして、倉田アイランドからの脱出者どもを俺達の手
で補足するぞ!」
「「「「「「「……(キャラとネタの相性上とはいえ、岸田が暫定リーダー格
なのは絶対、納得出来ないっ…)」」」」」」」

554パラレルロワイアル・その496:2006/02/01(水) 23:26:37
23:41…倉田アイランドDREAMエリア木造旅館二階客室・“幻世壱の間”

「け…結局、こうなっちまうのが俺の運命なのかなぁ…?(泣)」
「ふみゅ〜ん、和樹ぃ〜っ…(泣)」
「運命よ。自業自得とも、言えるのかしら?……そもそも、“HAKAGI
ROYALE THE MOVIE”だなんて大風呂敷な連載企画をZへと
持ち込んで来たのは、他ならぬ千堂君なんですから」


 23:42…同じく二階客室・“幻世七の間”

「ねえ、雄蔵…結局、私達のした事って、出来た事って…一体、何だったの
かしら?……確かに、破格の長命だったって事は認められるけど、サブの壁
を超える事だけはとうとう出来なかったみたいだし……私と雄蔵の元ネタを
書いてくれた出典元の作者様にも、作者を代弁しても申し訳が立たない結果
に終わっちゃって…」
「それでも俺達は全力を尽くした…出来る限りの事はやったし、その時考え
得る限りの最良の選択を選び続けようと努力もした、もうそれで充分なので
はないか?……そもそもからして、そういった結果に対してのみの拘りこそ
が、自らをサブへと位置づけてしまっているのではないか、香里?」


 23:43…同じく二階客室・“幻世拾弐の間”

「……おじさん……ムニャムニャ……うぐぅ」
「ぐうぐう―――みてなさいよおっ…乙女の誇りにかけても、次はきっと、
絶対、勝つんだからぁっ!―――ぐうう」


 23:44…木造旅館一階・ガーデンパーティ会場跡

「はぁ…オレ様って、失格だよなぁ……夫としても、父親としても、そして
司令としても全部、中途半端で終わらせちまって……」
「ゲーック!何言ってやがんだ、読者様に名指しでかっこよすぎとホメられ
、(現在坂上が異様な追い上げを見せているとはいえ)金星の数ではこの俺様
を道連れにして、最高得点を叩き出しやがった若造がぁっ!」


 23:45…木造旅館一階ロビー

「そそそそ、それで、ミミミミ、ミルクとここここ、紅茶どどどど、どちら
から入れ入れ、入れましょうかっ?……(どぎまぎっ)」
「?……どうしたのでありますか、草壁センパイ?」
「?……草壁さん、何だか急に朋也くんの顔を見て、赤くなってしまわれた
みたいなのですが…?」
「………………(そうか、そういう事だったのか…やはり、あのエロ画像こそ
が、もうひとつの未来の…渚を選ばなかったIWLの、もう一人の俺からの
無言のメッセージだった、という訳なのか……確かに、確かに俺ならもしも
智代が相手ならば、その位の事はやりかねないだろうからなぁ……しかし、
出来る事ならば、俺の携帯にも…エロ画像、送信して欲しかったなぁ……)」

555パラレルロワイアル・その497:2006/02/01(水) 23:27:41
 23:46…木造旅館一階・庭園前縁側

「もう、遅いのじゃあ、コウヤ……ムニャムニャ……次からは、許してやら
ぬのじゃあ、ムニャムニャ……」
「高野様、ご面倒をお掛け続けてしまっております」
「それにしても、この神奈になつかれる男が、まさかこの世にもう一人存在
しようとはな」
「……俺の家系は、親父がヤクザで祖父が軍人、曾祖父も軍人っていう代々
修羅道に縁深い家柄でな…そうなっちまったのも元々、平安時代の御先祖様
が妖し狩りで功を立てて、高野山から高野の姓を賜って以来の、子孫代々に
伝っている妖しの祟りだとかゆー話でよ、俺はその話を今の今までてっきり
只の御伽噺だとばかりに思い込んでいちまったが、こーしてアンタらの昔話
を聞いていると、ひょっとしたら…」
「…只の、御伽噺ですわ。もうそれでよいではありませんか、高野様」
「千年の時を越えてまでそなたが背負う問題ではあるまい…それよりむしろ
修羅道から縁を切る術を真面目に考えてみる気はござらぬのか、高野殿?」
「そうは言ってもなぁ……一度足を突っ込んじまったら、そう簡単には…」
「そこを何とかするのじゃコウヤ、ムニャムニャ…余も手伝ってやるから、
これは命令なのじゃあ、ムニャムニャ……」
「「……」」
「……こいつ、本当に眠ってんのか…?」


 23:47…木造旅館一階・医療室ベッド

「僕…あの連中に何かしてあげられたのかな…?」
「あははーっ。春原さん、あなたは充分すぎる程よくがんばりましたよーっ」
「…うん。お前、よくやったぞ」

「ボンバヘ〜♪僕、がんばりましたか〜っ♪」
「それじゃあ、佐祐理はそろそろ行きますよーっ」
「え?…佐祐理さん、僕のお見舞いに来てくれたんじゃあないんですかっ?」
「…そうだ、佐祐理。まだ来たばかりなのではないか?」
「違いますよーっ……佐祐理はただ、戦い破れて傷ついてしまった春原さん
への差し入れに、舞をここへと連れて来ただけですよーっ」

「え…?」
「…何を言っている佐祐理。私はただ、剣を奪われた陽平の事を……」
「(ビクッ)あわわわ、ゴメンなさい舞さんっ、この春原陽平一生の不覚っ……
この償い、どうすれば…?」
「…どうするかはまだ、決めていない……しかし、時間をかけてじっくりと
償って貰うつもりだ。…文句は、ないな?」

「あははーっ。何だか舞、遠まわしな事言ってますよーっ。今の言葉、芽衣
ちゃんにも教えてあげますよーっ」
「…佐祐理っ!!」
「佐祐理さんっ!!」
「あははーっ、何だか二人とも耳まで真っ赤になってますよーっ。あははーっ」


 23:48…その隣の集中治療室

「ぐおおおおおお〜っ!杜若あぁ〜っ!取れたのかぁぁぁ〜!やっと、やっと
取れたのかぁぁぁぁぁぁ〜〜〜っ!?」
「うむ…三角帽子本体の摘出は何とか完了した。しかし、先端の丸い部分が
外れて、直腸部奥深くへとまだ残ってしまっている。こうなってしまっては
もう、致し方がない……早速、切開手術の準備を始める事としよう」
「うひぃぃぃぃぃぃっ、嫌だぁぁぁぁぁぁっ、手術はっ手術されるのだけは
、絶対に嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜っ!!!」
「…麻酔(…プスッ)」


 23:49…再び、医療室

「はえ〜っ!?佐祐理、実は(結果的に)大変な事をしてしまいましたのを、
すっかり忘れておりましたーっ!」
「…どうした、佐祐理?」
「どうしたというのですか、佐祐理さんっ?」
「実は佐祐理…脱落して兵員輸送車を降りる前に、生き残り参加者の皆様の
ためになればと思って、車内端末機に『最後の一仕事』を記録してきてしま
ったのですが…」

556 パラレルロワイアル・その498:2006/02/02(木) 15:17:21
 23:50…大灯台広場沖約1キロ・倉田アイランドほぼ真上の洋上

「シーハリアー、弾薬切れにより緊急帰投・着艦します!…更にマジカル・
ブルーサンダー、被撃墜判定により戦線離脱しました!」
「この巡視艇の被害判定の方はどうなっていますか、ひかりさん?」
「…主砲は全て『破壊』されております、ミサイルの方も全て撃ち尽くして
しまいましたし、魚雷発射装置もやられてしまいました…もう、対空機銃と
携帯火器に頼って戦う他はありませんわ、春夏さん」
「……ひかりさん、ハリアーの弾薬補給の手伝いの方をお願いするわ、私は
このカール・グスタフM2で…」
「は、春夏さんっ!?」
「言わないで…古河さん同様、司令官も戦士の一人なのよ…ひかりさんも、
手伝いが終わったら…」

 巡視艇の艦橋及び、垂直離着陸機用の小型飛行甲板では、倉田アイランド
真上の海域―――もとい、正規参加者達の『脱出』用ルートを死守せんと、
迫り来る空母“キング・バジリスク号”そして駆逐艦“ソルジャー・バジリ
スク号”に対して抗戦を行い続けていた鳩・鳩Ⅱ組が、今まさに玉砕寸前の
所まで追い詰められようとしていた。

 ブブイ、ブンブンッ。
「…それにしてももう最悪の状況ね、タカ坊」
「!…タ、タマ姉っ…あ、あそこの海面にっ…!」
「!…何て時に何て場所へっ…しかも、わざわざ浮上してくるなんてっ!」
 カックン、ブルブルッ。

 弾補給のためにハリアーを降り、飛行甲板の上の人となっていた貴明と環
そしてミルファは、見事に揃って頭を抱えていた……横に並んで進軍中の、
“キング・バジリスク号”と“ソルジャー・バジリスク号”。それに500
メートル程離れて対峙している巡視艇―――その丁度中間点に位置する海面
に、大量の泡沫とともに小型の潜航艇がぽっかりとその姿を現してしまった
のであった。

 ――ギ……ギギィ……――
 そして、ハッチが開かれた。




「お初にお目に掛かる、ゲームの生還者達よ。私も諸君等の活躍はモニター
にて延々と観戦させて貰っていたが、何れの者も葉鍵の歴史に残る戦い振り
を見せてくれていた。…しかし、それももう終わりだ。特典有利条件を保証
しよう、全員大人しく降板し、私の統括下で翌朝からのゲーム再スタートに
望んで頂きたい」

 この星の時刻にして23時と52分14秒、浮上とともにハッチを開けた
るーの前に姿を見せていたのは、この潜航艇の左右をはさむ様に停泊・対峙
している空港母艦と護衛駆逐艦…そして、空港母艦の飛行甲板にて護衛部隊
と思しき戦闘メカニック・ロボット・兵隊達に周りを囲まれながら、マイク
を片手に雄弁を振るっている、年を召したうーの姿であった。恐らくはあの
ロワ2にて大ボスを務めている、うーすいなのであろう。

557 パラレルロワイアル・その499:2006/02/02(木) 15:19:02
 駆逐艦の方にも、手に手に赤や青のペットボトルカンプピストルや、吸盤
付きクロスボウ、黒塗りの竹光などを持ったうーたちが甲板上に並んでいる
…あっちは、鎖組のうーたちなのだろう。

 潜航艇の後方には更にもう一隻、コルベット艦(巡視艇)が停泊しており
、後部の小さな飛行甲板にはうーとうーたまの姿が見える。幸い、こちらは
味方という事らしいのだが、船の殆どの箇所には被弾判定ランプが点灯して
いる事実から、るーたちへの助太刀は期待するのは難しそうだ。

 と、ハッチから上半身を乗り出して状況確認をしているるーのスカートを
船内からはるーがそっとひっぱって、外のうーたちからは死角になっている
位置からそっとメモをるーに見せた。外部から潜航艇へと暗号文通信が届け
られてきたらしい。

 !…ここに来ていたとは。るーの文字をちゃんと覚えていてくれたとは。
さすがだぞ、うーりゃん。るーの次なる行動は直ちに決定した。バッグから
ワンタッチ傘を取り出して、肩にとまらせているカーへとそっと手渡す。
「これを、後ろの船にいるうーに渡すのだ」

 るーの期待通り、カーはなかなか聡明だったようだ。傘を両足でしっかり
掴むと、ふわりとコルベット艦目指して夜の海面すれすれを滑空して行って
くれた。保護色効果からしてあっちのうーたちには見付からない事だろう。




「さて、そろそろ返事の方をお聞かせ願おうかな?」
 23時54分15秒、うーすいが二択の選択を迫ってきた。しかし、返す
言葉は全員一致で一つしかない。
「うーすいよ、ロワ2の現状の方は理解出来なくもないが…やはり、引き際
というものは認識しておいた方が役柄上カッコいいと、るーは思うぞ」

「…言ってくれおるではないか。確かに、そうなのかも知れぬな……だが、
一度拳を振り上げてしまった以上は、機を逸してしまったからといって何も
せずに下ろしてしまう事など、我が権威・我が同盟者達の立場に掛けても、
出来る訳等ないであろう?……ともかく、君達の状況は既に決しておる……
移動速度に勝る空母と駆逐艦に間合いを詰められ、全ての対艦・対潜兵器は
そちらと、後方の巡視艇へと向けられておる……それにこの空母“キング・
バジリスク号”そして駆逐艦“ソルジャー・バジリスク号”は完璧なる対艦
ミサイル・対魚雷・対航空機防衛網によって護られており、第三者の乱入に
よる奇襲・妨害・救出は絶対に不可能なのだ……更には、本編にて高槻君が
使用したものを大型化したこの簡易式結界装置を、既にそちらと上空に対し
て照射させて貰っている……諸君らの『能力』は全て、封じさせて頂いたと
いう訳だ……勿論るーこ君、君の『るー』の力でさえも、その例外ではない
という事なのだよ……では、納得のいった所で覚悟の方は、いいかね…?」


「そうか。よく分かったぞ、うーすい……だが、それでもかまわないから、
とりあえずはるーに“るー”を、最後はきちんとやらせるのだ。お前の言葉
がその通りだというのなら、問題はあるまい…?」

558パラレルロワイアル・その500:2006/02/08(水) 22:54:46
 23:55…巡視艇飛行甲板

『…ったく、この状況下でこんな事をやって一体、何になるって言うんだ?
……象形文字みたいなのがズラズラ書かれたメモを見せられるなり、決意を
秘めた目をして躊躇う事無く頼んできやがったもんだから、つい思わず引き
受けちまったがよ……るーことかいってたな、もしもこのまま何も起こらず
やっと出会えた観鈴と『死に』分かれる羽目にでもなったりしたら、どろり
濃厚梅干味一気飲みの刑だからな……!』

「あっ…?」
「あら…?」
 飛行甲板上にて、ホールドアップまでこそはさせられてはいないものの、
駆逐艦“ソルジャー・バジリスク号”より向けられている各種対艦兵器群の
砲口を前にして、迂闊なリアクションを取れないままでいた河野貴明と向坂
環は、保護色となって深夜の海面からふわりと自分達の方へと舞い上がって
来た、折り畳まれた傘を持ったカラスの姿に驚かされる事となった。カラス
は貴明と環の手前へばさりと降りて来ると、持っていた傘を二人の足元へと
そっと転がした。

「傘…?」
「何か落描きがしてあるわね?(バサッ)…!これって、ひょっとしてるーこ
ちゃんの…?」
 傘に何かが描かれているのを見付けて、拾い上げて広げてみた環の目に、
蛍光マジックペン(元・城戸芳晴の支給装備→春原経由)で描かれたナスカの
地上絵が飛び込んできた。

「だけど一体、るーこは何の意味・目的があってこんな物をわざわざ…?」
「私にも解らないわ…だけど、もしかしたら私達の理解を超えた特別な事情
があっての事なのかもしれないわ。そう、今の私達やるーこちゃん達の状況
をひっくり返してみせてくれるような…」
「だけど、あの空母に搭載されているらしい結界装置で“るー”の力だって
封じ込められてしまっているんじゃないのか?…それでも、るーこにはまだ
打つ手が隠されているっていうのか…?」
「しっかりしなさい、タカ坊!貴方が信じてあげなくってどうするのよ?」
「ゴメン…ありがとうタマ姉。じゃあこの傘、俺が……(バサッ)」

 ばっさばっさ。
『…ほう、結構信頼されてるんだな、あのるーるー女…こいつぁ、ひょっと
してひょっとすると…って、やっぱり解からねえ、今度ばかりは正真正銘に
意味不明だ…この状況・このアイテムからどういう展開で奇跡が起きるって
いうんだよ、マジで……!?』




 23:56…潜航艇ハッチ

“…ふむ、それほどまでに“るー”をやりたいのかね?るーこ君……まあ、
君がそこまでに求めるのならば、君の故郷での文化や習慣というものを尊重
して差し上げるのも、『死に』行く者達への礼儀というものであろうな……
宜しいるーこ君、君に“るー”の為の時間を三分間だけ許可しよう、それで
いいかな…?”
「充分だ。感謝するぞ、うーすい…………るぅーーーーーーっ!(ぐぐっ)」




 23:57…“蒼紫”艦橋モニター室

「よっしゃーよっしゃー♪まあ何とか、るーりゃんのお船に暗号文は届いた
みたいねー」
「後は、るーこちゃんが上手く手を打ってくれるかどうかですね…」
「それにしても映りの悪い衛星画像ねえ…これじゃあ、どの船が敵か味方か
が、全然判んないじゃないのよっ」
「しょうがないよいくりゃん、なんてったって真夜中だし、敵さんも味方も
サーチライトは赤外線式みたいだし」
「ま…また、いくりゃんって…(怒)」
「真ん中に一隻、周りを囲むように三隻……あっ、今真ん中の船に見覚えの
あるポーズの人影がっ」
「やっぱり真ん中の小さなのが、るーりゃんのお船だったんだねー♪」
「!…囲んでいる三隻の内の、北東寄りの船に何か、丸くてうすぼんやりと
光っているものが…!」
「んー、どれどれー?」
「ひょっとして、蛍光色で落描きされた、傘か何かじゃないのかしら…?」
「そーだ、そーだよ…あの落描きは間違いなく、るーりゃんのだよ!」
「じゃあ、これで敵味方の識別は完了ってワケね」
「(ピッピッ)…もしもし、幸村さん?中継砲撃の為の照準座標の割り出しが
完了しました、これより直ちにデータ転送を行います…」

559パラレルロワイアル・その501:2006/02/08(水) 22:55:41
 23:58…再び、潜航艇ハッチ

 ドン…!!!!!

“な!?…何だ、今の轟音は一体っ!?……ま、まさか…るーこ君、まさか
とは思うが、君は今一体…何を行ったのかね…?”
「見ての通りだ。るーは“るー”をさせて貰ってただけだぞ……そもそも、
先ほどのうーすいの言葉が真実ならば、るーにそれ以上の行為がどうやれば
出来るというのだ?……第一、今の轟音は天空からではない。北東もとい、
来栖川アイランド本島の方角から、聞こえて来たものではないのか…?」
“む……た、確かにそうなのだが……”
「それとうーすい、先程のお前の説明なのだが…数十センチ単位の解析度を
誇る軍事偵察衛星や、精緻を極める来栖川製の軍事用レーダーによる、対艦
ミサイル・対魚雷・対航空機防衛網等によっても、物理学上そしてこの星の
科学技術のレベル上、阻止する事が不可能な兵器攻撃手段が、この星の産物
にも一応存在しているのだぞ」
“ほほう。そんな物が果たして、本当に存在するのかね…?”
「すぐに解る……そろそろ、落ちてくる頃だからな」
“何っ!?……うわっ、うわわわわわわっ!?”

 るーこの言葉に思わず上を向いた総帥が最後に見たものは、来栖川会長と
幸村俊夫によって来栖川アイランド本島・博物館美術館エリアより地下鉄道
用地上ターミナルへと移動させられた後、海水浴場エリア沖を航行中の豪華
客船“蒼紫”の久寿川ささら達が行った偵察衛星の映像による中継照準の元
にて発射された列車砲“ドーラ”の800ミリ砲弾が、高空より“キング・
バジリスク号”と“ソルジャー・バジリスク号”の中間点の海面(もちろん
潜航艇からは、両艦が盾となってくれる位置)へと落下・着弾をするまでの、
ほんの一瞬の、奇跡の残像であった。

 ザバン!!!!!

 時と共に海へと還るよう結晶岩塩で作られた10トン近い巨大な弾頭は、
両艦への直撃こそは(当たり前だが)しなかったものの、至近弾となって巨大
な水柱を築き上げ、その飛沫は奔流と化して両艦の甲板上にいる全ての存在
を一瞬にして流し去り、海へと叩き落していった。

「全員アタックダイブか……それにしても、全てを合理性のみで考えて対処
しようとする様では、ロワイアルでは生き残る事は出来ないぞ。うーすい」




 23:59…倉田アイランド真上海中

「…恐らく倉田佐祐理は、生き残り参加者の人数が、潜航艇の定員を超えて
しまった時の場合を想定して、自分達が乗って来た潜水機能付き水上バイク
の隠し場所を、車内端末機に記しておいたのだろうが…それがまさか、私の
役に立ってくれる結果になろうとは私も夢にも思わなかったぞ…とはいえ、
先程の海面からの轟音…ゲーム決着妨害派と支援派の戦いはどうやら、大方
のケリが付いたようだな…まあ、どちらが勝ち残ったとしても、私にとって
は『脱出』した七人に加えて、敵の数が増えてしまうだけのようなのだがな
…それにしても、時間だし取り敢えず受信出来る様にはしておいたのだが、
果たして…終了間近の、しかも海の上で、次の定時放送は行われるのだろう
か…?」

560パラレルロワイアル・その502:2006/02/15(水) 18:35:49
 00:00…大灯台広場沖1キロ・倉田アイランド上部海上

“始まりは、百十五人。
 今は、たったの八人。
 いくつもの野望と奇跡、自業自得と因果応報。
 この仁義なき戦いは、
 今、まさに最終章を迎えました。
 大会三日目、七回目の定時放送の時間です…”

 深夜の洋上にいきなり響き渡った、拡声器越しの定時放送開始の言葉に、
潜航艇と巡視艇にいた全員が驚き、放送の流れてきた方角へと慌てて、その
視線を巡らせた。

「「「「「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」」」」」

 視線の先…もとい北の洋上に存在していたのは、倉田アイランドでのモブ
脱落者を来栖川アイランド本島へと降ろした後、港・ヨットハーバーエリア
を出航してこちらへと南下をしていた、潜水揚陸艇“スメルライクティーン
スピリッツ”であった。

“放送は私達、特務機関CLANNADの杉坂と原田が、BGMの‘鳥の詩’
ヴァイオリン演奏は、同じくCLANNADの仁科りえが行わさせて頂きます”


「?…定時放送はありに致しましても、随分と変わった人選ですねえ…?」
 まず、巡視艇艦橋の神岸ひかりが率直な感想を述べた。
“…確かに、鍵側の参加人物も底は尽きかけてはおりますものの、幸村様や
岡崎様といったより適任そうな方がまだ、いらっしゃる筈なのですが…?”
「…て言うのか、そもそも正規参加者の生き残りは、あの潜航艇に乗ってる
メンバーで全員なのはもう判りきっている事なのですから、もしも適任者が
いらっしゃらない場合だったとしても、無理に定時放送なんかを行う必要は
ないんじゃないのかしら…?」
 ひかりの中の八百比丘尼も一緒にいる柚原春夏も、ひかりとほぼ同意見であった。


 ……伴奏


“では、この時刻までの脱落者の発表から行わさせて頂きます。

 011番・大庭詠美さん
 020番・覆面ゼロさん
 027番・川澄舞さん
 034番・倉田佐祐理さん
 053番・千堂和樹さん
 056番・立川雄蔵さん
 061番・月宮あゆさん
 069番・七瀬留美さん
 085番・美坂香里さん
 089番・御堂さん
 118番・春原陽平さん
 119番・古川秋生さん
 123番・柚原このみさん
 124番・草壁優季さん

 以上の十四名に加えまして、
 110番・高野さんが降板しております。

[♪―♪♪♪ ♪♪ ♪ ♪♪――― ♪♪♪♪♪♪ ♪ ♪♪♪―]”


 ブブイ、ブイブイッ。
「ミルファちゃんのいう通りねえ…確かに、一生懸命っぽいのは何となくは
解かるんだけど、あのヴァイオリン…時々調子がぎこちなくなっちゃって、
厳しい言い方しちゃうと特別、放送のBGMに使わなきゃ勿体無いっていう
レベルの演奏には感じられないのよねえ…?」
「と言うか、今更劇場版本家バトロワBGMネタ+本編ハカロワ・ラスエピ
ネタを使わなくっても、いい気がするんだけどなあ…?」
 飛行甲板のミルファや向坂環、河野貴明も今回の定時放送とBGMには、
何か違和感を感じている様であった。


“続いて、新規引継参加者の発表です。

 二代目110番・伊吹風子さん

 以上一名です。

[♪―♪♪♪♪ ♪♪♪―  ♪♪♪♪♪♪ ♪♪♪―♪ ♪ ♪ ♪ ♪]”


「ふむふむー、これはひょっとして、ひょっとするとー…」
「…なんでしょうか、まーりゃん先輩?」
「まだ戦いは終わってないって事なんじゃないのかなー?」
「えええっ!?…でも、決着妨害派の連中はついさっきの砲撃で一網打尽に
なっちゃったんじゃないんですか?」
「郁乃ちゃんのいう通りです…それに、異界間突破組もこの時刻を過ぎても
現れないという事は、機を逸した事を悟ってもう乱入を断念してしまったと
考えるべきなのでは、ないのでしょうか…?」
「んー、甘いぞ甘いぞー…本島にたどり着くまでが『脱出』なんだよー…と
いう訳で、さーりゃんは早速ロボットさん達連れて、屋形船でるーりゃん達
を迎えに行ってちょーだい!」
「あ…は、はいわかりましたっ…」
「で、私達はどうするんですか、大先輩?」
「まずはるーりゃん達に、海水浴場を上陸目標に選ぶように連絡して、次に
海水浴場で待機中のみきりゃんを私達の下船の為にコールしてちょーだい」
「取り越し苦労だと思うんだけどなあ…ま、それでも暇を持てあますよりは
余程マシかしら…?」

561パラレルロワイアル・その503:2006/02/15(水) 18:36:47
“いくつもの出会いがありました。
 いくつもの珍事がありました。
 いくつもの秘話がありました。

 孤島で繰り広げられました、
 騒乱の遊戯も、遂に終わろうとしています。

[♪♪♪♪― ♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪――]

 それではフィナーレに向かって最後の最後まで、ご健闘下さい。

[♪―♪♪♪ ♪♪♪♪― ♪♪♪♪♪♪ ♪ ――♪ ♪♪――♪]”


「う〜ん、はっきりと確信は持てないんだけど、これってもしかしたら…」
 一路、大灯台広場への『上陸』を目指して北北東へと移動を開始していた
潜航艇の操縦席で、長瀬祐介はポツリと意見を口にした。

“[♪♪♪♪ ♪ ♪ ♪ ―♪  ♪  ♪♪♪―♪♪―♪♪]”

「…何でしょうか、祐介?」
 傍らに寄り添っている天野美汐が、クルーを代表して意見を尋ねた。

“[♪♪♪♪♪♪♪ ―♪♪ ♪♪♪――]”

「もしかしたら、この最後の定時放送には何か、別の目的があるんじゃない
のかなって…」

“[♪♪♪♪ ♪ ♪ ♪ ―♪  ♪  ♪♪♪―♪♪―♪♪]”

「「「「「「別の目的!?」」」」」」
 残りの六人が、祐介の方へとはたと振り返った。

“[♪♪♪♪ ♪♪―♪♪♪ ♪ ♪ ♪ ♪―]”

「…ん。もしそうだとすると、目的はあのヴァイオリンの演奏には何か意味
なり目的なりがあるんじゃあ…って事かな?」
 河島はるかが、放送内容が終わってもなお続いているヴァイオリンの演奏
に推理の矛先を向けた。

“[♪   ♪♪♪♪♪――♪♪♪  ♪ ♪ ♪  ― ♪♪♪―]”

「…だとしましたら一体、どなたに聞かせるためのものなのでしょう…?」
 遠野美凪が、推理の続きを求めた。

“[♪♪♪♪♪―♪♪ ♪ ♪ ♪♪♪ ♪ ―]”

「!…るー、確かそう言えば定時放送の冒頭で『今は、たったの八人。』と
言っていたな……カーがすずーと一心同体である以上、八人目はうーともと
いう解釈になるぞ」
 るーこきれいなそらが、思い出したかの様に対象該当者の名前を挙げた。

“[♪♪♪♪♪――♪♪♪  ♪ ♪ ♪  ― ♪♪♪―]”

「そういえば風子ちゃん、今ヴァイオリンを演奏してる仁科りえちゃんって
どんな子なの…?」
 神尾観鈴が、同区分作の伊吹風子に演奏者のプロフィールを尋ねてみた。

“[♪♪♪♪― ― ♪♪ ♪♪♪♪♪―♪ ―]”

「えっとですねえ……あああっ、これはおめがミラクルなのですっ!?……
風子がしってる限りの仁科さんはかつて不幸な事故で生きがいともいえます
ヴァイオリンの演奏ができなくなってしまった、とてもとてもかわいそうな
方のはずなのですっ…!?」
 風子が今更ながらの仰天をしながら、みなにりえのプロフィールを身振り
手振りで解説した。

“[♪―♪♪♪ ♪♪ ♪ ♪♪――― ♪♪♪♪♪♪ ♪ ♪♪♪―]”

「そうか、そういう事だったんだ……坂上さんにも最後まで諦めず頑張って
貰いたいっていう、特務機関CLANNADとっておきの、奮起のエールと
いう訳だったんだ。あの定時放送…いや、ヴァイオリンの演奏に込められた
真なる意図と呼ぶべきものは…」
 そして祐介は、自らの意見を確信付ける結論を遂に弾き出した。

“[♪―♪♪♪♪ ♪♪♪―  ♪♪♪♪♪♪ ♪♪♪―♪ ♪ ♪ ♪ ♪]”

「…ええっ?でも、坂上さんにはもう倉田アイランドから『脱出』する手段
は残されてはいない筈、だったのではありませんか…?」
 美汐が驚いて、クルー全員が思っている筈の疑問を、代表して尋ね返した。

“[♪♪♪♪― ♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪――]”

「…うーみし、こういう時にるーのパパとママは言っていた。『真実とは、
自分の目で確かめてみるものだ』と」
 るーこが、操縦席モニター上の海面を指差しながら祐介の結論を肯定した。

“[♪―♪♪♪ ♪♪♪♪― ]”

「いや、幸村先生もキツいエールを手向けて下さったものだな……これでは、
例え何対一であろうとも、もう一頑張りしない訳にはいかなそうじゃないか」
 浮上時に自分達の元いた、今はやや離れた海面から、潜水機能付水上バイク
に跨り黒いレオタード姿に刀を背負った坂上智代が、颯爽とその姿を現した。

“[♪♪♪♪♪♪ ♪ ――♪ ♪♪――♪]”

「あ…最後に平仮名四文字の読者様、折角定時放送まで待っててくれたのだ、
出来れば今回もカッコよく書いて欲しいぞ」

562名前: パラレルロワイアル・その504:2006/02/21(火) 19:17:59
「そそそ、そんなぁ〜ひかりさんっ…これからがクライマックスだという時
ですのに〜!(涙)」
「駄目ですよ、春夏さん。脱落者の救助・回収活動はスタッフの最優先任務
なのですから」
「ううっ…お願いひかりさんっ、私に…私にこのみの仇を討たせてぇっ!」
「春夏さん…ウズウズ顔でそう申されましても、説得力はございません」
「しくしく…」
“では私は、救難活動が終わりましたら神奈の所へ参らせて頂きます…今迄
有難う御座いました、ひかり様…”

「では、私たちは二隻目のお船の方たちをお助け致しましょう」
「あああっ、りえちゃんやっぱりそう言うと思ってた…(涙)」
「仕方ありません、幸村先生から『部長の要望は絶対』と命じられています
から…(涙)」


 かくなる理由で、倉田アイランド上部洋上へと取り残される結果となった
巡視艇と潜水揚陸艇を置き去りにして、海水浴場エリア砂浜をゴールと目指
したシーチェイスが開始された。
 先頭を進むのは“蒼紫”からの二度目の連絡指示を受けた生き残り組七人
を乗せた潜航艇、続くは坂上智代の駆る水上バイク、そして三番手が向坂環
・河野貴明・ミルファ・カラスの乗っているシーハリアーである。
 しかしながらも、それぞれの移動速度の方はといえば当然、水上バイクは
潜航艇より速く、シーハリアーは水上バイクよりも更に圧倒的といっていい
ほど速い。たちまちシーハリアーが水上バイクを後方から必殺の間合いまで
詰め寄って行った。

「情け無用よ!ミルファちゃん、機銃でもミサイルでもいいからとにかく、
あの水上バイクに何かお見舞いしてあげて頂戴っ!」
 ブルブル、ブブンブンッ。
「弾薬補給出来てないまま、急発進しちゃったんだって、タマ姉…」

「えええっ!?んもう、しょうがないわねえッ…いいわ、それなら代わりに
あの水上バイクの左横へ並んで頂戴っ…!」
 環はそう言うとシーハリアーのコクピットを降りて、巡視艇から徴用した
飛行甲板清掃用のデッキブラシを握り締めると、右翼の上をのっしのっしと
移動を開始しだした。

 ばっさばっさ。
『…何だかこっちのタマ姉とかいう女の方が、見た目このみとかるーことか
よりも、より主役っぽくより武闘派っぽい感じがするが…こいつはヒョット
してヒョットすると…』




「わーっ!一騎討ちの始まりですっ!」
 潜航艇の操縦室…サブのモニターへと映し出された併走する水上バイクと
シーハリアー、そしてその翼の上をデッキブラシ片手にバイクの方へと移動
して行く環の勇姿に思わず歓声をあげてしまう風子。

「ど…どっちが勝つのかな…?」
 雰囲気に押されてか、観鈴もいささか興奮気味のようである。

「…当然、挑戦者の赤毛の方に勝って頂きませんと、こちら側としましては
困ってしまうのですが…」
「…同じ鳩Ⅱ組としての目から見て……るーこさんはこの勝負、どうなると
思うかな…?」
 美凪とはるかは早くも結果の方に関心がいったのか、早速るーこに予想を
尋ねてみた。




「…抜いて、下さるかしら…?」
 海面擦れ擦れを右側に傾きながら飛行するシーハリアーの翼の上。ほんの
わずか離れた眼下に見下ろす位置にある、疾走中の水上バイクに跨っている
黒いレオタード姿の智代とその背中の刀を見やり、環は静かに言い放った。

「…悪いが、モブキャラの相手をしている暇はない」
 それでも、バイクに跨る智代はそんな環に対して刀を抜くどころか、身構
える気配さえ見せようとはしなかった。

563名前: パラレルロワイアル・その505:2006/02/21(火) 19:18:58
「(怒)…いかにも暫定ラスボス様らしいお言葉ですけど、私もそこまで軽く
あしらわれる程、お粗末な存在ですと自負してはいる積もりなのですが…」
 ついと眉根を寄せながら、環が手にしたデッキブラシの柄を、智代の喉元
へとすうっと伸ばし、突き付けた。
「もう一回だけ言うわよ……抜いて、下さるかしら?」




「確かに、うーたまは非能力のうーとしては只者ではないだろう……リアル
タイムTV版では、野点の会の招待状にうーしか知らない筈のるーの本名を
宛名書きしてきた位だからな。だが…」
「…駄目、なのですか…?」
「うーみし…普通に考えてみて、うーみやうーなびを狩った相手が更に超絶
奮起している状態なのだ…うーともが狩られる理由が一体、どこにある?」
「確かに、言われてみればそうなのかもしれないね……あっ、前方に新たな
船影が…や、屋形船っ!?…あの中にいる、女の子はっ…!?」
「安心しろ、うーすけ。あのうーさらはるーの先輩、つまりは味方だ…」




「…抜くには及ばん」
 智代はポツリとそう言うと、ハンドルのグリップ脇にあるスイッチを右手
親指でポチッと押した。

 ちゅーーーーーーっ!

 次の瞬間、バイクの風防のワイパーが動き出し、更に下部にある小さな穴
から洗浄液が噴き出して、高速に煽られて環の顔面へと勢いよく飛び散って
きた。

 しかし、それでも環は飛沫を易々とかわしてみせる。
「悪いけど、ワイパーが動いた時点でバレバレなのよっ!」
 そしてそのまま、持っていたデッキブラシを遠慮なく右へと薙いだ。

 その喉元へと突き付けられ、今薙ぎ払われんとされていたブラシの柄を、
智代は状態を大きく仰け反らせて見事にかわす。勿論、上体だけではかわし
切れない、バイクをウイリーさせての超マトリックス避けである。

「なななっ!?」
 必中の筈の大振りをスカされ、たたらを踏み掛ける環。その次の瞬間には
既に智代はウイリーを解除して、バイクの前半分を再着水させた…そして、
バイクの重心移動の遠心力のままに下半身をふわりと浮き上がらせるとその
まま、新体操の鞍馬の様な姿勢からの倒立回し蹴りを繰り出して、環の足を
払いに掛かった。

「まだまだっ!」
 バランスを崩し掛けながらも辛くもそれを垂直ジャンプで大きくかわして
みせる環。そのままストンと着地し、反撃を試みようとするが。

 つるんっ…。
「に゛ゃあああっ!?」

「愚か者め、洗浄液は最初から翼へと撒いたものなのだ」

 ひゅうううううううううっ………どっぽーーーん!!!




「タタタ、タマ姉っ!?」
 ブルブル、ブイブイッ。
 あわてて環を回収しにUターンするシーハリアーを尻目に、水上バイクは
潜航艇の追跡を再開した。


《勝 VICTORY 利》 坂上智代
「次は、どいつが海に入りたいか?」

564名前: パラレルロワイアル・その506:2006/02/28(火) 21:18:43
「るーこちゃん、ここは私が食い止めるから、そのまま先に逃げて頂戴っ」
 水族館エリア沖海上…海水浴場エリア沖の“蒼紫”から、バトロドロイド
こと甲漢O0O0十体を同乗させて出撃した、屋形船に搭乗している久寿川
ささらは、大灯台広場エリア沖を抜けでて水族館エリア沖まで到達して来た
潜航艇のハッチから身を乗り出している、るーこきれいなそらに向かって、
擦れ違いざまにそう呼び掛けた。

「るー。うーさら、身を挺しての助太刀とても有難いぞ。だが…」
 言うなりハッチに足を掛け、ひらりと跳躍し屋形船へと飛び移るるーこ。

「るっ、るーこちゃんっ!…ど、どうしてっ…?」
 その身を犠牲にしてでも生還させなければならない筈の相手に防衛ライン
の助太刀へと押し掛けられて、激しく動転してしまうささら。

「るーがうーさらの事を知り過ぎてしまったからだ……大方、うーりゃんに
『新ヒロイン様の名に掛けて』とか言われて、無茶な役所を押し付けられて
しまったのだろう。違うか、うーさら?」
「う……うん。だけど…」
「だから、るーが一緒に手伝ってやる。喜べ」
「そ…そんなの駄目よっ!…もし、もし私のせいでるーこちゃんが脱落しち
ゃったら、私、私っ…」
「心配するな。それでもうーさらはきっと、うーりゃんの事が大好きなまま
の筈なのだから……それよりもしっかりするのだ、うーさら…うーさらの事
をよく知らない観衆や読者様にとっては、これから起こる事は『燃える戦い
その4 葉鍵恐怖の生徒会長対決 勝利の女神にはどちらがなるか?』なの
だから、こうなった以上はいい加減腹をくくってエンターテイメントの鬼と
なるのだ、うーさら」
「……わかったわ、援護お願いねるーこちゃん!」
「ん。めでたしめでたし……という訳だから、ここは一致団結・一蓮托生。
彰や弥生さん、誰彼組の皆さんだけがカワタの戦士じゃないんだって事を、
みんなに見せてあげようね♪」
「!」
「後から飛び移ったのか。なかなかの動きなのだな、はるー」




「たたたた、大変ですっ。るーこさんとはるかさんが屋形船へと飛び移って
しまいましたっ!」
「…祐介、まさか…」
「うん。足止めをしてくれる積りなんだよ、きっと…」
 一方、こちらは潜航艇。るーことはるかのまさかの独断行動に、驚き迷う
残りの五名。

「…どう致しましょう?今なら搭乗員が定数を割っておりますので、潜航艇
の再潜水を行う事も可能なのですが…」
「なんて事をおっしゃるのですか美凪さんっ!風子は断固、お二人の助太刀
をさせていただくつもりですっ!」
 そう言うなり伊吹風子は操縦室中央へと大またで歩み寄り、操縦用のハン
ドルへとその両手をずいと伸ばした。

 ―――その時、不意に、背中が温かくなった。後ろから伸びてきた両腕が風子の自由を奪う。ハンドルへ両手が届かない。

 ―――振り向く―――風子の体は、観鈴の腕の中にあった。首を振る。戻ってはいけない、と。

 見捨ててしまうのですかっ?
 だが、目に、顔に浮かぶ、悲痛な表情。それは、本当なら助けに行きたいと語っていた。
 だけどそれは、あの二人を却って悲しませる結果になるかもしれない行為。悲痛な『命』の選択。
 ―――見ている祐介の顔が、歪む。畜生。
 気付けば、祐介の体はハンドルへと一歩前に出ていた。先にあるのは、最後の総力戦開始の事態。
 そこには確かに、『全滅』があった。戻れば、『全滅』するかもしれない。
 ……だが。
 …………。


“いよっ、皆の衆!快適な船旅を楽しんでいるかなー?”

 そんな重苦しい雰囲気を粉々にぶち壊して、ゴミ箱へと放り込んでしまうような、
ハジケた通信が船内へと飛び込んで来たのは、その次の瞬間の事であった。

565名前: パラレルロワイアル・その507:2006/02/28(火) 22:01:38
「こちらささら。迎撃準備、完了したわ」
「…こちらはるか。準備完了」
「こちらるーだ。うーともが来たぞ」
 遂に坂上智代の駆る水上バイクが、大灯台広場エリア沖を抜けでて水族館
エリア沖へと到達し、逃走する潜航艇へと向かう進路を妨げようとしている
屋形船に向かって、真一直線で疾り迫って来ていた。
「さて。今度は一体、どう料理すればよいものやら…」

「優季ちゃんにこのみちゃん、環さんの仇を…討たせて貰うわっ!」
 口火を切ったのは尾部に待機していたささらであった。素早く屋形船尾部
に設えられていた燈篭を模した大型の行燈のカバーを外し、偽装を解く…と
それは見る間に、トイレ掃除にそのまま使えそうな程の巨大な吸盤を穂先に
着けたケーブル付きの捕鯨砲へと変貌を遂げる……同時に、屋形船中央部の
障子が一斉に開放され、中から手に手にエアライフルを持った甲漢O0O0
十体が揃ってその姿を現した。

「抜くしか…なさそうだな」
 智代が背中の刀へと右手を伸ばす。チャキリ…と小気味よい音とともに、
覗き出て来た刀身が月の光に眩く光った。

「撃ち方、始め!」
 ささらの号令と共に甲漢達が、智代を目掛けて一斉にエアライフルによる
射撃を開始した。

 パパパパパパパパパパン!
 カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンッ!

「ぬるいな、所詮は単発式の弾幕に過ぎないという事だ」
 その集中砲火を智代は、バイクをウイリーさせ盾とする事により難なく、
全弾防ぎ切ってみせる。


「流石やるわね…ですが、これはどうやって防ぐお積りなのかしら?」
 カチッ…ボウンッ!

 ささらが捕鯨砲の引き金を引いた。ケーブルの付いた吸盤銛が命中すれば
例え脱落させる事が出来なかったとしても最低、バイクの足止めは出来る筈
である。

 シュルシュルシュルシュル…

「…もし、同時に撃っていれば、何とか出来たのかもしれないのだがな…」
 ウイリーを解除した智代が、飛来して来た銛を刀の一閃で弾き返す。

 カキン!

 弾かれた銛は180度飛来先を転じて、発射元のささらの方へと風切音と
共に見事、舞い戻って来た。

 シュルシュルシュルシュル……

「きゃああああああっ!?」
 不足の反撃に驚き慌てたささらは、戻って来た銛を避け…損なった。

 シュルルンシュルルンッ!

 銛の直撃こそは辛くも避けたもののケーブルの方が足に接触し、たちまち
腕を腿を胸の谷間を、そして股間をケーブルでぐるぐる巻きに縛り取られて
尻餅をつく羽目となった。
「やだやだやだっ!中継しちゃやだぁーっ!!」




「ありゃりゃん。さーりゃん、やっぱし駄目だったみたいだねー」
 ホバークラフトの座席にて、潜航艇への三度目の通信を終わらせながら、
ポータブルモニターの映像を見ていたまーりゃんがころころと笑っていた。

「でも、黒いパンツにケーブルが食い込んじゃってるあたりのネタへの忠実
さが、流石さーりゃんといった所だねー♪」
「大先輩…あなた、鬼ですかっ…!?(汗)」

566名前: パラレルロワイアル・その508:2006/03/07(火) 22:19:38
「残念だが、足止めにすらもならなかった様だな」
 水族館エリア沖。ささらを脱落させた智代はその機動力の差を持って水上
バイクを駆ると、屋形船の尾部側からすり抜けさせ、先を逃走しているので
あろう潜航艇の追跡を再開しようとしていた。

 が、その時。

 ボウンッ!…シュルシュルシュルシュル…スポンッ!
「ん。命中♪」
「何っ!?…しまった!」

 慌ててやり過ごした筈の屋形船の方へと向き直る智代…バイクの尾部には
吸盤付きの銛が命中しており、そのケーブルが船首の方へと伸びている。
 船首側にも二基目の捕鯨砲が装備されていたのである。勿論発射したのは
河島はるかである、そして…。

 ストンッ…
「行くぞ、うーとも」

「なな!?」
 バイク尾部と屋形船船首の間を繋いでいる一本のケーブル…そのケーブル
の上へと屋形船の屋根から飛び移って、バイクの方へと一歩一歩歩いて行く
赤いメイド服の少女―――るーこ・きれいなそらの姿があった。

「…………」
 決して、気圧されている訳などではない。当たり前だ、今まで倒して来た
どんな相手にも、自分は全く臆する事などなかったのだから。なのに何故か
刀でケーブルを叩き切るという全く持って単純明快なる解決手段を選ぶ事が
どうしても出来ず……気が付くと智代も、足の親指と人差し指を器用に使い
ながら一歩一歩、ケーブルの上をるーこに向かって歩いて行っていた。

 そして…絶妙なる間合いを残して、両者の歩みはピタリと止まった。

「一つ、尋ねてもいいか、るーこ?…もしも私が刀でケーブルを切断したら
お前は一体、どうする積もりだったのだ…?」
「…質問を質問で返してしまってすまないがうーとも、では何故お前はケー
ブルを切断しなかったのだ?」
「…最終決戦とも呼ぶべき今現在の展開…今の私にとっては果たして一体、
何時誰との戦いが最後の戦いとなるのかが全く、判らないのだ…だから後々
自慢の出来ない戦手段は極力、選びたくはなかったのだ…ましてや相手が、
503話の段階で“るー”とかいう能力による、本島への“迅速な転進”を
敢えて行わなかった能力者とあらば、尚更というものだろう」
「…仕方あるまい。もしもソレを行ったら、パラロワの完結後に『るーるー
エンド』とかいう、不名誉極まる新【用語】が生まれ兼ねないのだからな…
それは置いておいて…やはり、誉れ高いのだな。うーともは」
「私にそれを教えたのはるーこだ…ステーションビルで始めて対峙した時、
お前は七瀬の『命』よりも名誉の方を重んじて敢えて、助太刀の押し売りを
せず、彼女の要求通りに上階への逃走を行ったのだろう?…その後、結果が
どうなるのかを承知した、その上で…」
「…その質問には肯定も否定も出来ないぞ、うーとも…それよりも、バイク
の上まで移動する事にしないか?恐らく現在の土俵では、るーの方が圧倒的
に有利だと思うぞ」
「折角だからお言葉に甘えさせて貰おう…正直、『お気遣い無用、得物では
こちらの方が有利なのだから、これで互角といった所だろう』と言いたい所
だったのだが、今の土俵では満足に振り回せる自信が正直無いし…第一に、
革靴でケーブルの上を歩けるるーこの事だ、刃の上に乗る位の芸当はきっと
やられ兼ねないだろうからな」
「るーのママは、ハイヒールでもそれ位の芸当は平気でやれるぞ…というか
そもそも、うーの平衡感覚レベルが余りに低すぎるのだ。だから、本編では
多寡がつり橋程度の土俵位で、あれだけ派手なアクション活劇へと発展して
しまうのだろうがな」




 その頃、来栖川アイランド本島・リバーサイドホテル一階南口ロビーでは。

「おっ…おっ…大きなお世話や〜〜っっ!!(怒)」
「(怒)…………!(チャキッ)」
「ぱぎゅ〜っ!?由宇さん、ロビーで暴れてはいけないですの〜っ!」
「ううっ…駄目だよ雪ちゃんっ、モニターにエアマシンガン向けちゃあ〜!」

567パラレルロワイアル・その509:2006/03/07(火) 22:21:13
 再び、舞台を戻して。

「今更言うのも何だが、お互い随分と長い前口上となってしまったようだな
うーとも」
「恐らくはお互い、これがこのゲーム最後の決闘となるであろう事を悟って
の、本能的惜別行為なのかもしれないな…」
「そうなのかも知れないのだが…お陰で暫定最後の決闘だというのに、随分
と緊張感というものが失せてしまった様な気がするぞ…」
「別に構わないだろう。その手の決闘は既に、セミファイナル三試合で行わ
われている事だし、仁科への義理の方も鳩Ⅱのヒロインクラス二名ならば、
そこそこ果たしてはいるのだからな…たまには、こういう雰囲気から始まる
決闘が一つ位あっても、いいのではないのかな?」
「いいかも知れないな。ではそろそろ始める前の最後の一言だ…うーとも。
るーは、誉れ高いラスボスであるお前にならば、例え狩られる事となっても
悔いは無いぞ」
「るーこ。私も…孤高ながらに義理人情に厚いお前になら、例え倒されても
悔いは無い!……では」

「「…いくぞ!」」

 互いの手に手に刀と自在鉄扇を握り締めて、水上バイクの上という必殺の
間合いにて向かい合って構える智代とるーこ……しかし、暫定最後の決闘は
二人の予想だにしなかった形でいきなり急展開を見せてしまう事となった。

 ゴン…カキンッ!
「え…?」
「る…?」

 今を遡る事、約18時間と30分前…元78番・保科智子が払暁出撃前の
“蒼紫”より敷設を行った、信号識別式誘導機雷“棘タイプⅢ”の内の一発
が長い漂流の末に水族館エリア沖へと辿り着き。まさに今、この瞬間…


 …ボンッ!!!




 その頃、海水浴場エリア〜水族館エリア間境界沖では。

「うわっ!?二人ともバイクごと、ぶっ飛んじゃったよーーーっ!?」
「えええっ!?何があったんですか、まーりゃんさんっ!?」
「…ゆ、祐介、私にも見せて下さいっ…!」
「チョ、チョットあんた達、押さないでよ狭いんだからっ」
「…と申しますか、お二人への助太刀希望の方だけが、このホバークラフト
へと乗り移る予定でした筈ですのに…」
「ですから美凪さんっ、みんなでこれからお二人を助けに行くのですっ」
「がお、せまいようこわいよう…」
「やっぱり、定員五名の所へ九人乗りでは少々危険なのかもしれませんねー」
「ユカリン、アイスたれてるたれてるーっ」




 更にその頃、海水浴場エリア沖では。

「何で、私だけが?……しくしく(←ジャンケンに負けた潜航艇回収役の森本さん)」

568パラレルロワイアル・その510:2006/03/13(月) 22:48:41
 また更にその頃、大灯台広場沖・潜水揚陸艇“スメルライクティーンスピ
リッツ”艦橋では。

「りえちゃん、“ソルジャー・バジリスク号”の脱落者回収、完了したわ」
「―うん…どうも皆様、お疲れ様です」
「それでは、“キング・バジリスク号”の脱落者救助活動をまだ行っている
巡視艇の方々に先んじて、早い所戦線復帰のために南東への移動を開始しま
しょう」
 鎖組の脱落乱入者の救助回収作業を手早く終えた特務機関CLANNAD
の杉坂と原田そして仁科りえが、坂上智代あるいは伊吹風子の支援を行う為
に、海水浴場エリア海域を目指して移動を開始しようとしていた。しかし、
その時の事である。

 パコンッ!
「きゃっ!?」
 ポコンッ!
「ああっ!?」

 小気味よい殴打の音が立て続けに二発、そしてそのままショックで失神し
くず折れる杉坂と原田。

「―え?」
 思わず二人の方へと振り向いたりえの前に、立っていたその人物は。

「まさか、俺の方が足掻かされる羽目に陥ろうとは…しかし、足掻いてみる
ものだな、元ゲーの獲物どもにはこういう、イタイケ系の娘は一人もいなか
った事だしな…」
 右手にセルロイドとビニール紐で作られたビックリ鉄条網バットを握り締
め、唯一人艦橋にて生き残っているりえの方を向いてニタニタ笑っている、
ウエットスーツ姿のその男は。

「―あのう、もしかしまして貴方は、鎖組の岸田さんでしょうか…?」
「ククク、その通りだ…定時放送直前に何やら嫌な予感がして“ソルジャー
・バジリスク号”の艦橋に待機していたお陰で一人生き残る事が出来たって
ワケだ」
「―まあ、それはとっても幸運でしたね…という事は岸田さんはもしかして
これから、このお船をシージャックなされるおつもりなのでしょうか…?」
「ピンポーン♪そういう事になるなあ…では、正解者のりえちゃんには俺様
からの取って置きの『ご褒美』をもってしてこのゲームからご退場頂く事と
しようかな?ククク…」
「(鉄条網バットの方を見ながら)―あのう、宜しければ余り痛くなさらない
で欲しいのですけど…」
「(ナイスなボケだぜ、りえちゃん♪)ククク…今の彼女の台詞はそれ即ち、
『不慮の聞き間違いでした』という事で、これから俺が元ゲーみたいに船内
実況生中継でりえちゃんにあんなコトやこんなコトをヤっちまったとしても
観客も読者様も絵描き様すらも、だーれも文句を言う事が出来ないっていう
とってもラッキーな状況だという…」

“んなワケあるかッ!…失格通り越して逮捕されたいのか、この変態殺人鬼
めがッ!!”
 突如艦内通信によるツッコミが入り、メインモニターに怒気満面たる男の
顔が飛び込んで来た―――元98番・柳川祐也である。

「チッ、役職柄ゲーム内で事件が起こりかねない状況だと、特別スタッフと
しての介入を許可されているという訳か…それにしてもアンタに変態殺人鬼
呼ばわりされちまうとは、俺も随分とホメられたものだな♪」
“大きなお世話だ(怒)…ともかく、そこの少女に対し、ゲームの枠を越えた
『攻撃』を行う事は絶対許さん…逮捕に加えて、次回大会への参加資格剥奪
処分も検討したっていいんだぞ!?”
「クソッ、痛い所を突いてきやがるな…仕方ねえ、一部の読者様には大きな
期待を裏切る事となって本当に悪いが、りえちゃんの開通式船内実況生中継
は残念ながらおあずけとなっちまったぜい」

「―開通式?…ヴァイオリン演奏の船内実況生中継の方は先程、行わさせて
頂いたのですが…??」

569パラレルロワイアル・その511:2006/03/13(月) 22:50:04
「……バットで頃すのは楽だがな。ククッ。せっかくだからりえちゃんには
本当のショックで死ぬほどの頃し方を味わってもらおうか。この俺の自前の
バットをポロリと見せてやろう。死ぬほど驚いて大人の階段を登らなくちゃ
いかん。見えちゃう瞬間まで恐怖に怯えてなくちゃいかんのだ」

 そう言ってウエットスーツを脱いだ岸田がりえの方を向きながらズボンの
ベルトに手をかけるのを見て、柳川は本当に退屈そうな顔をする。

「柳川刑事。確か、元3番・天沢郁未が股間ポロリで一人頃して、しかもだ
その後モザイク入り実況生中継されても、失格にはならなかった筈だよな。
開通式をしたならばルールにも法律にも引っ掛かるだろうが―――この程度
なら文句はあるまい?」
 岸田がベルトを外し、ズボンをゆっくりと下ろし始める。
「クククク!りえちゃんに見えちゃうまであと何秒だあ!?恐怖に怯えろ、
目を見開いて見物しろお!!汚されちゃうその瞬間まで俺達鎖組をあっさり
と潰した事を後悔して」

“(馬鹿だな、こいつ。本当に鎖組暫定リーダーか?)……馬鹿か?お前”
 そもそも、篁総帥があの替え歌を歌ってしまった時点で、
「はあ?何を言っている、柳川?」
 裏葉同様に、脱落を見越しての特別回収役を申請したであろう水瀬秋子が
その船に乗っていないと誰が決めた。

「問答、無用です」
 いきなり艦橋に飛び込んで来た人影が、躊躇わずその手に持っていた小型
紙火薬式爆導索で、岸田の股間をブリーフごとぐるぐる巻きにする。悲鳴は
2B弾の束が炸裂する音に似た轟音で簡単にかき消される。白いブリーフが
煤で黒く染まって、次の瞬間には岸田は白眼吹泡で崩れ落ちる。作品別最後
の生き残りの中で一番あっけない存在だった。


「大丈夫ですか、仁科さん?」
「―はい。あの…詳しい状況はよくわからないのですが、もしかしたら私は
とてもピンチだったのでしょうか…?」
「わからないのならそれに越した事はないわ。私がただ、お年を召した総帥
さんの代わりになってくれそうな方に、ちょっぴり八つ当たりのお仕置きを
させて頂いただけの事なのですから。うふふ」

570パラレルロワイアル・その512(半休載により1話のみ):2006/03/20(月) 16:22:33
 そして、舞台は再び水族館エリア沖へと戻って。


「うーとも、見えているか?」
「当然だ。ここまで引っ張って、心中落ちになどなってたまるものか」
 誘導機雷に触雷した衝撃で虚空へと飛ばされ舞い上げられたるーこと智代
は、視界に飛び込んで来た聳え立つ一本の太い柱から、真横へと伸びている
枝の部分を目掛けそれぞれ、紐状に伸ばした自在鉄扇とワイヤーランチャー
を一斉に放った。

 …シュルルッ!
 …カッキン!

 放たれた鉄扇とワイヤー付きフックは見事に枝へと命中して引っ掛かり、
二人はそれを命綱代わりにして柱の生えている場所へふわりと、無事に着地
を成功させた。

「このような所に大型クルーザーが漂流していたとは。何とも幸運なる偶然
だな、うーとも」
「ああ……しかし妙だな、るーこ。確かこのクルーザーは、昨日の早朝から
長い事無人であった筈なのは、乱入前にCLANNADが調査済みだった筈
だし……それにこのクルーザーは漂流してここへと来たのではない、海面に
航行のものと思しき軌跡がかすかに残って…」
「!…どうやら、調査は後回しになりそうだぞ、うーとも」
「!…ああ、私たちの決着の方も後回しになってしまいそうだな」


 先客のただならぬ気配が近付いて来るのを覚って向き直ったるーこと智代
の前に、二人の少女が姿を現した。一人は金髪碧眼で白いワンピースに紅の
スカーフ、手には競技用のフェンシングレイピアを構えている。もう一人は
草色の髪に茶色の瞳、割合露出度が高めの民族衣装を身にまとって、両手に
エスクリマ棒を構えている。

「一応尋ねておくぞ、うー達。得物を使わない交渉は選ぶ事は出来ないのか?」
「魔王様の言い付けだ、この船に立ち入った者は即刻排除しなければならない」
「『魔王』?…そうか、お前達はTtTの異界乱入勢という事か…と言う事は
、私にもるーこにも味方という訳ではなさそうだな」
「迂闊だぞモルガン…とはいえ、お前達にとっては事態も状況も相手の正体も
解からぬまま排除されるのは、余りにも気の毒というものかな?」
「お陰で随分と理解出来たぞ。つまり、この船ではこのゲームの勝利条件とは
無関係だが、ゲームそのものとは縁深くなおかつ要機密なイベントが行われて
いるという訳なのか」
「だ、だとしても、そのイベントの正体をお前達が知る事は絶対にないっ!」
「なかなか鋭い読みだな、うーとも」
「カマを掛けただけだ、今のは」
「うううっ、ま、またしてもっ…!」
「本当に迂闊だな、モルガン…ともあれ、つまりはそういう訳なのだ。では
早速、見せて頂く事としようか?このゲームの生き残り参加者の、その実力
というものをな」
「いいだろう。お前はこの私が隣のモルガンとやらは、るーこが相手をしよう」

571パラレルロワイアル・その513:2006/03/27(月) 22:28:34
「おーおー♪二人とも何とか無事何を逃れたみたいだけど、今度はTtTの
武闘っ娘達とのタッグマッチを始めだしたぞ〜♪」
 水族館エリア沖海域へと到達したホバークラフトの操縦席で、ポータブル
モニターを半ば独り占めで鑑賞しながら、まーりゃんはハジケた歓声をあげ
ていた。

「まーりゃんさん、僕にも見せて下さい……って、まずそうだなあ。早くも
押されてる感じだよ、二人とも…」
「…二人ともって、思わず智代さんの身まで案じてしまいたくなるぐらい、
大変そうなのですか、祐介…?」
「ある意味当然でしょ。TtT組はうたわれ組同様、実戦叩き上げの異界勢
よ。そしてうたわれ組にしても、三対一でフクロにされたオボロと潜水艦ご
と魚雷でやられたハクオロ、それに人名救助のためにやむなく降板したにも
等しいゲンジマルを除けば全員、能力者の手によってのみ倒されてるのよ」
「…ですが郁乃さん、それを申されましたらるーこさんも立派な能力者の方
だと思うのですが」
「じゃっじゃあ、美凪さんっ、智代さんはいったいどうなってしまうのです
かーっ!?」
「ところで…はるかさんの方は一体、どうなっているのかなあっ?…ゆかり
さん、見えますかー?」
「待っててね、観鈴ちゃん…あっ今、屋形船がクルーザーに後ろ側から接舷
した所みたいですねーって、あららっ?…クルーザーから現れました新手の
お兄さんが、突入しようとしたロボットさん達をなぎ倒して逆に屋形船へと
入って行きましたよーっ?」
「あー、デリホウライだー」




「まっ…待ってくださーい(泣)……お願いですからカミュの事、無視しない
でくださーいっ(泣)」
 ちなみに、ホバークラフトの足止役としてクルーザーから出撃して行った
ものの、夜の空に黒い翼と黒い衣装、加えて控えめな声であったがために、
モニター中継に夢中な誰からも気付かれず見事に通過されてしまったカミュ
が、遊戯用の炮烙玉(手投げ式クラッカー)の入った籠を提げたまま半泣きの
状態でホバークラフトの後を追い戻って行ったというのは余談である。




「…わわわ、なんだかとってもやばそうな人が、こっちへ乗り込んで来ちゃ
ったよ」
 一方、屋形船尾部へとこっそり移動して、接舷したクルーザーから乗り込
んで行こうとする甲漢O0O0の様子を屋根から覗き見していたはるかは、
クルーザーから現れ出でた三人目(実は四人目だが)の新手ことデリホウライ
が、その両腕より繰り出すトンファー攻撃によってたちまち甲漢を一掃させ
て逆に屋形船へと乗り込んで来たのを見て、(彼女なりにだが…)大いに慌て
ふためいていた。

「…えーと、どうしよう?…まともに戦ったらとても勝ち目はなさそうだし
……ん?」
 (彼女なりにだが…)必死に対抗策を思い巡らすはるかの視線の先に、麦茶
の入ったブリキのやかんと、未だにケーブルでぐるぐる巻きにされたままの
久寿川ささらの『死体』が飛び込んで来た時、はるかの脳裏にひとつの作戦
が閃いた。

「…緊急事態なの、ささらさん。申し訳ないんだけど、ここは勝利のための
デストラップ構築に是非とも協力して下さいね♪」
「え?ちょ…ちょっとはるかさんっ?…そ、そのやかんで一体何を!?……
ええっまさか!?…嫌っ、いやいや、お願いやめてええええええ〜っ!!」

572パラレルロワイアル・その514:2006/03/27(月) 22:29:34
「どうしたのだ、先程の威勢は?……やはり平和慣れした世界の人間の実力
というものは、16分の1に絞られた正規参加者の生き残りでも、この程度
のものという事なのか…?」
 クルーザーの右舷側にて繰り広げられている坂上智代VSオクタヴィアの
斬り合いの方は、早くもオクタヴィアの圧倒的優勢の元に展開されていた。
 本能に基づき反射神経を頼りにしながら刀を振るっている智代に比べて、
オクタヴィアの剣術は英才教育と実戦経験にて磨き抜かれた一部の隙もない
正確無比な腕前によるものである。たちまち智代は傷こそ負わされていない
ものの、その身に纏っている黒いレオタードのあちらこちらを恐怖の屈辱技
の如く小さく切り裂かれ続けていった。

「貴様…私を嬲るかっ!?」
「嬲る?…勘違いをされては困るな。私はお前に傷を負わせずして力の差を
見せ付けつつ、降伏の機会を与えてやっているのだ……この様にしてな!」

 シュッ…!
 スパンッ!

 遂に、オクタヴィアのフェンシングサーベルが、智代のレオタードの左肩
の部分を完全に切り裂いた。

「くっ…!」
 思わず次の瞬間、めくれてはだけそうになった左の胸元を反射的に左腕で
押さえ、庇ってしまう智代。そこへオクタヴィアの更なる剣撃が稲妻の様に
襲い掛かる。

 ヒュッ…!
 カキンッ!

「うっ…!」
 左手を離してしまっていたために右手一本で握っていた智代の刀が、その
剣撃によって強く弾かれ、宙へと舞い上がる。

 …パシッ

「ぬっ…!」
 そして、フェンシングサーベルを収めたオクタヴィアの掌へと、舞い上が
った刀は吸い込まれる様にあっさりとキャッチされた。蔑みを含んだ笑みを
浮かべつつ手にした刀を向けて、オクタヴィアは智代に向かって最期通告を
言い放った。

「もう結構だ。お前がこのゲームにおける只の『死に』損ないに過ぎなかっ
たという事実は、もう充分に理解が出来た。さっさと失格の名簿にその名を
刻ませてやる事としようか……だが、私を失望させた罰だ。お前には最期の
屈辱として、お前の刀でその『命』とその出番、そしてその衣装へと引導を
渡してやる事としよう…」




「るー。やはり形勢不利な状況に追い込まれているようだな、うーとも…」
「コラコラコラッ、戦闘中によそ見してちゃあダメだぞッ!…大体、仲間の
心配してる余裕なんかあるのかな?るーこちゃんっ!」

 ブブンブブブン、ブンブンブブンッ!
 カキカキカキン、カンカンカキンッ!

 一方、クルーザー左舷側にて行われているるーこVSモルガン戦の方は、
概ね五分五分の膠着状態ではあるものの、狭めの土俵である事が原因なのか
パワフルかつ二刀流のモルガンの方が、るーこを少しづつじりじりと後退を
させていた。

「るー。こんな事ならるーも二刀流で戦いたかったぞ」
「うっふっふ♪るーこさん、どうやら後退出来るスペースももう、残り僅か
みたいだね♪」
「…楽しそうだな、うーがん」
「うん、楽しい。全力を出せる相手との真剣勝負…その闘いの為に為される
闘いの純粋さがあたし、大好きなんだ♪」
「うむ。実を言うとるーも、それはあながち嫌いなものではなかったりするぞ♪」

573パラレルロワイアル・その515:2006/04/02(日) 17:29:11
「どうやら船尾に引き篭っている様だな……だが、乗り込んで来ようとした
以上情けは無用……加えて、我がトンファーの前には捕鯨砲など通用せぬ。
大人しく覚悟を決めるのだな」
 屋形船に乗り込み、十体の甲漢O0O0全てを討ち果たしたデリホウライ
は次なる獲物―――屋形船の操縦者の姿を求めて屋形の部分を通り抜けると
、船尾部側の出口である障子戸へと手を掛け、臨戦態勢を崩さないまま一気
にそれを開け放った。

 ガラガラガラガラッ…ピシャン!
「…なな!?」
 障子戸の向こうにあった光景は、海千山千のデリホウライでさえも一瞬に
して凍り付かせた。

「むぐぅぅーっ!むぐうぐむぐうぐぅぅーっ!!(いやぁぁーっ!見ないで
見ないでぇぇーっ!!)」
 弾切れ状態の捕鯨砲の前で、猿ぐつわをかまされた黒いリボンに黒いワン
ピース姿の少女が、大開脚でぐるぐる巻きに縛られていた…その上、丸出し
になってケーブルが縦に痛々しく食い込んでる彼女の黒い下着を中心にして
、船床一面が透明かつ黄金色に激しく水浸し状態となっていたのであった。
ジャーン!

「シシシシシシシシ、シキーーーーーーーーン!?��((゜Д ゜))」

「…スキあり」
 ガン!!
 屋形の屋根に潜んでたはるかが落下させた空のやかんを頭上に受け、強豪
デリホウライはあっけなく舞台から消え去った。屋根から下りてきたはるか
が、申し訳なさそうにささらの猿ぐつわを解きながら礼を言う。
「ん。ご協力ありがとうね、ささらさん♪」
「ううっ、信じられないっ(泣)…貴方って、先輩よりも悪魔だわっ…(怒)」




「ふっふっふ。るーこさん、お・か・く・ご♪」
 クルーザー左舷では船縁まで後退したるーこを眼の前にして、モルガンが
必勝確信の笑みを浮かべながら、両手のエスクリマ棒をドラムスティックの
様にくるくると威勢良く回転させていた。
「何か最後に言い残す事は、あるかなーっ?」

 その様な状況でも、るーこは至って平然と言葉を返す。
「解っているのか、うーがん?…るーが海面すぐ近くにまで移動したという
事は即ち、うーがんも海面の近くまで移動したという事なのだぞ…?」

「??…何を言ってるのかしら、るーこさん?…もう少し解り易く説明して
もらえるかなー?」
 一瞬、るーこの言葉の意味が理解出来ず、説明を求めるモルガンに対し、
るーこは指差ししながら簡潔なる説明を行った。
「右のサンダル、足の甲だ」

574パラレルロワイアル・その516:2006/04/02(日) 17:30:20
「?(チラッ)……サソリイイイイイイイイ〜〜〜〜ッ!?」
 自分の右足の甲にて蠢いているモノに仰天し、モルガンは思わず反射的に
大きく左へと飛び退いた。

 ダッパーーーーン!!

「るー。やはりこの手の玩具は、異界人の方がより現実的反応を示しやすい
という事なのだな……それにしても、ないすな人形劇だったぞ、カー。」
 モルガンの入水した海面へと備え付けの浮き輪を放り投げながら、マスト
の上に向かって右手親指をぐっと突き出したるーこの肩へ、向坂環脱落時に
ハリアーを降りてやって来ていた一羽のカラスがふわりと舞い降りて来た。

 ばっさばっさ。
『もしかしたらと思って499話直前に観鈴から拝借したビックリオモチャ
が、まさか本当に役に立つとは……それにしても、俺に仕業と見抜いてなお
かつ全く動じていない所が、ありがたくもトンでもない奴だぜ……で、とこ
ろで、あっちでヤバそうになっている暫定ラスボス様の方は一体、どうする
つもりなんだ、るーこさんよ?』

 反応(返事)を促すように肩口を突付くカラスに対して、泰然自若と答える
るーこ。
「案ずる必要はないぞ、カー。勝つのはうーともだ、絶対に」




 クルーザー右舷…丸腰でしかも左胸を庇った状態の智代に向かって、オク
タヴィアは奪い取った刀の刃先をその真正面へとついと突き出した。
「さらばだ。かつてお前が倒したのであろう、更なる弱者達と同じ場所へと
行くがいい…」

「……感謝するぞ、オクなんとか」
 絶対的なる窮地を自覚して俯いていた智代が、その口元に笑みを浮かべて
ぼそりとそう呟いたのは、その時の事であった。

「??……何?」
 不可解なるその返答にオクタヴィアが思わず尋ね返した次の瞬間、彼女は
いきなり手に持った刀に耐えがたい重みを受け止めた。そして―――

 …バシンッ!!
 視界を封じられると共に、強烈な回し蹴りを顔面に食らわされた。

「なううっ…!?」
 それでも倒れずに踏み止まったオクタヴィアの朦朧とした視界の先に、刀
の刃の上に右足の親指と人差し指を器用に使いながら片足立ちしている智代
の姿がぼんやりと映っていた。
「片刃で刃渡りのある、飛び乗り易い得物へとわざわざ、持ち替えてくれる
とはな……そんなお前には意趣返しとして、次の一撃でその誇りとその伝統
、そしてその出番へと引導を渡してやる事としよう…」

「ばっ、馬鹿なッ…帝国指折りのこの私が、丸腰のしかも、片腕が使えない
素人相手にっ…!?」
 狼狽しながら刀を捨てて、再び腰のサーベルを抜き放とうとするオクタヴ
ィア。しかし、抜かれるその前に、智代の繰り出した戻りの回し蹴りが再び
その顔面を激しく殴打した。

「…難易度の高い、芸同然の大技なのでな。るーこのお陰でケーブルによる
リハーサルが行えなかったら、多分成功はしなかったのだろうが」
 右足で放り投げた刀を右手で受け止めながら、智代は今度こそぶっ倒れた
オクタヴィアに対して、そうあっさりと言い放った。

575パラレルロワイアル・その517:2006/04/09(日) 22:26:16
「るーこさーんっ!はるかさーんっ!」
「智代さああんっ!!」
 遂にホバークラフトがクルーザーへと接舷し、ブッシュマスターを構えた
長瀬祐介とFN−Hipower片手の伊吹風子が一番手で船首へと乗り込
んで来た。
(注・ゾリオン七丁は潜航艇の起動アイテムとして、起動と共に艇内に固定
されてしまっております)

「…祐介っ、それに風子ちゃんっ…そんないきなり駆け込んだら、危険過ぎ
ますっ…」
「あーっ、るーこさんだーっ。それに、カラスさんもーっ」
 続いて乗り込んで来たのは、シグサウエル片手の天野美汐と、ネコパンチ
グローブをぶら下げた神尾観鈴。

「…それでは押します。用意はよろしいですか?」
「いいですよー。それじゃ、せーの…どっこいしょっと」
「感謝するわ、美凪さんにカミュさん……あ、でもお米券はいらないから」
 三組目は、ウェザビーMk−Ⅱを肩掛けした遠野美凪と籠を小脇に抱えた
(やっとアルルゥに見付けて貰えた)カミュに、接舷した二隻の間へと渡され
たタラップの上を押して貰っている、羽毛扇片手の小牧郁乃。

「うわわ半チチッ!…さすが鍵最新作のオ●ドル、大胆な格好だな♪」
「ユカリン〜、『おな●る』ってなに〜?」
「え゛!?……あ゛〜っ!?アイスが海にぃーっ!!(泣)」
 最終組は、乗り込むなり『我が辞書に“口は災いの元”という文字はない
』的発言をぶっ放しているまーりゃんと、それに対して汚れを知らない素朴
な質問を行うアルルゥ、そして最終的な被害者となってしまった伏見ゆかり
であった。




「さて…残念な事に、意に反して皆戻って来てしまったようだな、るーこ」
 右手に持った刀を構え直して、まーりゃんの方へと一瞬だけ殺意を向けた
智代は、クルーザーの中央部―――ブリッジの屋根の上にふわりとその身を
跳び上がらせる。
「それでは、ドーム港埠頭での決着を今、着ける事としようではないか」

「うーとも」
 カラスを肩に留まらせたまま、るーこもブリッジの屋根の上へと跳び上が
った。
「お前の不退転の決意は理解出来なくもないが…今のうーともでは、戦いの
決着はもう着いているのも同然だぞ」

576パラレルロワイアル・その518:2006/04/09(日) 22:27:14
「どういう意味だ、るーこ?……仲間と己への信頼からか?それとも、左腕
を封じられた私への勝算からか…?」
「どちらでもないし、説明するのは却って酷というものだ。答えはお前自身
が十分、悟っている筈なのだからな。うーとも」

「……」
 るーこの言葉に思わず、唇を噛んでしまう智代。確かに事実その通りなの
であったから。
 智代がその身にまとっているレオタードは、先のオクタヴィアとの戦いに
より、既にはだけてしまった左胸の部分のみならず、他にも幾つかサーベル
で切り裂かれ、はだけ掛かってしまっている箇所が実は、存在していたので
あった。しかも、オクタヴィアを倒す時に放った回し蹴り二発の為に更なる
負荷が蓄積し、もしも全年齢対象のサバゲーならば、レフェリーストップを
掛けられてもおかしくはない程の状況へと陥ってしまっていた。
 刀の能力にモノを言わせて力押しをしようにも、右腕一本でより大振りと
なってしまうであろう剣撃を、他の連中は兎も角としてるーこに命中させる
のは至難の技であろうし、大振りである以上反撃に対する回避も当然、それ
なりに難しくなってくる筈なのである。第一、今のレオタードの耐久力では
攻撃回避を問わずして、大きなアクション行動を起こしてしまう事それ自体
が、一生モノの身の破滅を伴う死亡遊戯的行為と化していたのであった。




 ばっさばっさ。
『来るなら来てみろ……観鈴を、そしてこいつらを護るためなら、海上スト
リップショーPartⅡをやっちまう事に、躊躇をするつもりはないぞ…』
「カー。落ち着くんだ」
 肩へと留まったまま、興奮気味に羽ばたくカラスを制しながら、るーこが
メインマストの影の方へとちらりと視線を流した。
「まだ先客が残っていた様だぞ、うーとも」

「…なかなかに鋭い感覚だな。流石は、今年度のゲーム生き残りの猛者達と
言った所か」
 マストの影から、黒いローブを身にまとった銀髪紅眼ですらりとした体格
の男が一人、すうっとその姿を現した。
「我が名はアロウン。このゲームに乱入しそびれたTtT組の暫定リーダー
格といった所だ。思う所あって、このゲームにおいて無用のオブジェと化し
ていたと思しきこのクルーザーを徴用させて貰っていたのだが…まさか最終
決戦に巻き込まれてしまう事となろうとは…正直、こちらにとってもイレギ
ュラーなるトラブルだった…加えて、私からの命令を文字通りに受け取り過
ぎてしまったせいなのであろうか。我が連れ達の敵対行動、代わって侘びを
入れさせて貰う事としようか」

「出方から察するに…お前自身にはどうやら、このゲームの決着を妨害する
意図はない様だな、あろうー?」
「…そこの、口の利き方が不完全な宇宙人の言う通り、こちらにはその様な
意図は全くない。だから、後ろにいる性別不詳の参加者も、こっそりナイフ
を投げ付けようとするのは止めたまえ」
「…ん。(←はるか、船首の十名の方へと移動)」
「と、いう訳でだ。諸君らにはこちらがこれ以上の攻撃を行わない事を交換
条件に、このクルーザーから速やかなる退出を行って頂きたいのだが、さて
いかがなものであろうか…?」

「十二対一であんな口聞けちゃうんだから、実力相応な暫定リーダー格さん
なんだっぽいけど……それにしても、変な髪形ねえ」
「あ、郁乃ちゃんっ…」
「「「「「「「「「「「「ぷぷっ…(笑)」」」」」」」」」」」」

577パラレルロワイアル・その519:2006/04/11(火) 20:37:25
“き…貴様まで笑うかっ…!!(怒)”

 パコンッ!!
「えるみんっ!」

 次の瞬間、何処からともなく木霊した怒号と共に、小気味良い金属打音が
船上に響き渡った。そして、音と共にバタリと崩れ落ちた、その人物は。

「あ、あろうー…」
「いや待て!……姿が、変わっていくぞ…?」
 何と、倒れ伏したその人物こそは、本来怒号の主であるべきアロウンその
人だった…だが、智代の指摘とともにその姿が次第に青いローブをまとった
老人の姿へと変化していく。
 そして、その真後にいきなり姿を現した、クルーザーのキッチンから調達
したアルミ製手鍋を片手に握り締めて、怒気をその紅い瞳に隠し切れないで
いる、その人物こそは。

「…成る程です。こちらこそが本物のアロウンさんでしたのですね、はるか
さん」
「…ん。多分、倒れちゃったおじいさんは、影武者さんだったんだね…それ
にしても、518話ラストの台詞で“「」”の数が一人分多かったのって、
NGじゃなかったんだね」

「…そ、そういう事だ。見苦しい所を見せてしまったな…」
 魔術によるものなのか、手鍋を手品の様にパッと消し去ると、本物のアロ
ウンは改めて、船上の十二名+一羽+カミュをずらっと見渡してから再質問
を行った。
「…そこの諸葛孔明みたいな娘の失言は聞かなかった事にしてやるとして、
話を続ける事としようか?…俺との交戦を避ける条件としてこのクルーザー
から諸君には退出して頂くという、交換条件なのだが…イエスか?それとも
ノーか…?」

「るー。基本的にはイエスだ。利害・目的が交差しない以上、るーたちには
あろうーと積極的に交戦を行う理由は存在しないし、るーたちの乗り換えの
船も、ホバークラフトと屋形船があれば充分、余裕があるからな……だが、
あろうー。もしも可能ならばもう一つだけ、交換条件にして貰いたい要求が
こちらにはあるのだが?」
「ほう。更なる条件を求めるのか?この俺に…」
 連れを代表して魔王・アロウンに向かい、更なる交渉を求めるるーこと、
篁総帥のみならず自分に対しても全く動じないるーこに、不敵な苦笑を浮か
べてしまうアロウン。
「よかろう、言ってみるがいい。多少の要求なら聞き入れてやる」

「そこのうーとものために、着替えを一着調達して貰いたい」
「成る程。そこの娘がその様な姿にされたのも、元はといえばオクタヴィア
の仕業である以上、着替えの要求は至極当然というものだな」

「ま…待て!」
 智代が、るーことアロウンの交渉に口を挟もうとした。
「私達の戦いの決着はまだ、着いていないぞっ!…だからるーこ、今ここで
お前に大きな借りと情けを、受ける訳には……?」
 そう捲くし立てていた智代の、抗議の勢いが急に止まった。
 いや、止められた。
『くっ、しまった。これは…この、能力はっ…!』




 このゲームでは鑑賞したことがないような、萌えな光景が中継されていた。
 眠りについている渚の脇を抜けて、俺はモニターに急接近する。
 …智代がピンチになっていた。

 少しだけ迷ったが、やはり戦い続けたことに悔いはなかった。
 朋也が喜んでくれると私も嬉しい。
 どこまで期待にこたえられるかどうかは、わからないが……
 それでも私なりに一生懸命にラスボスを演じるから、恥ずかしい光景には目をつぶってくれ。

 智代は左胸をはだけられていて、左手が離せない状況だ。
 今ならどんな戦いを行っても、派手な動きをするわけにはいかないはずだ。
 それは、モザイク修正を入れてもらってあっても…。

 人のピンチに食い入るように観戦して何を期待しているのかと思えば、まったく仕方のない奴だ。
 しかし、私を見てそういう風に萌えてくれるのは、その、悪い気はしないものなのだが……。


 やっぱり恥ずかしい。最後だ、許せ。

578パラレルロワイアル・その520:2006/04/18(火) 02:51:40
「よくも…よくもやってくれたな……064区分[SZ]クラスAこと、長瀬
祐介っ……」
 一刻後、『白昼夢』状態から目覚めた智代は、その身に青と白のツートン
カラーのメイド服(何故かスカートは短めで、代わりに黒いニーソックスが
オプションとなっていた)を、レオタードの上からその身にまとっていた。
 羞恥と怒りで思わず、体中がワナワナと震え出している。

「…あ、あのっ…と、智代さんっ…ど、どうか……」
 その鋭い視線にて射竦められている祐介の前へとおどおどと立ち塞がり、
両手を広げている美汐と腰にしがみ付いている風子の姿に一旦、激情の起爆
を辛うじて押し留めた智代は、その手に何も持っていない事に今やっと気が
付いた。
「ううっ!?…ま、まさかっ…」

「そのまさかだ、うーとも。着替えの代償という訳ではないのだが、この刀
は没シュートだ」
「チャラッチャラッチャーン…だね、ともりゃん♪」
 何という事か、刀はよりにもよって奪還成功率がアロウンの次に低そうな
るーこの手中にあった。かつて相楽美佐枝に『自分と追極的存在とも呼べる
葉界最強の生徒会長』と称されていたまーりゃんが、るーこを代弁して終戦
勧告を手向けてくる。

「くうっ、馬鹿な…こんな、こんな形で私の戦いが…最終決戦が、終わって
しまうと言うのかっ!?……こんな事が…こんな馬鹿な決着の付き方など、
私は、私はっ…!」
 それでも智代には、本来あるべき姿ともいえる『徒手空拳で戦い続ける』
という、選択肢がない訳ではなかった。しかし今現在、腰の風子を振り払い
立ち塞がる美汐をなぎ倒してまで戦い続けるべき空気は舞台からは失われて
おり、また智代自身からも定時放送直後の沸き立つ闘志は、それまでの戦い
によって半ば、失われて久しいのも同然の状態だった。
 そして何よりも、智代から戦意を決定的に奪い取ったのは、祐介の前にて
立ち塞がったままの美汐が智代を見据えたまま勇気をもって面と言い放った
、次なる言葉であった。
「…智代さん、これだけはご説明をさせて頂きます……祐介の“電波”には
確かに、対象となりました人物に“夢”を見せて、意のままの想いへと走ら
せる能力があります……ですが、いかにその“電波”の力でとはいいまして
も、対象となりました人物が全く望んでいない行動を行わさせるという事は
、少なくとも祐介の“電波”の力では、ゲームのルールを逸脱しました加害
的な本気を出さない限りはとても不可能な事なのです(65話における来栖
川芹香への電波攻撃は、必要持続時間が5秒足らずであった事と、指示行動
内容が単純だったがために成功した)…ですから智代さん、智代さんが刀を
手放してでも着替えの方を望み、その身にまとわれたという事実の中には、
智代さんご自身の中にもきっと、その結果を望む心が奥底に存在なされたと
いう事なのです…!」

『馬鹿なっ!?…この私に、戦いよりも保身を望む心がその奥底に存在して
いただとっ…!?』
 辛うじて口で頭ごなしに否定する事を押し留め、頭の中にて美汐の発言に
対して自問自答を試みる智代。

『確かに…確かに、実況生中継の元で肌を晒し過ぎてしまう事に対しての、
抵抗と拒絶そして保身の意思が本能的に存在していたという事は認めよう。
だが…だがしかし、刀を渡す事を…戦いを放棄するなんて事を、私が望んだ
筈はないっ!……第一そんな、中途半端な結末を望む理由も、きっかけも、
この私には存在する覚えなんて………………きっかけ?』
 自問自答を続けている智代の頭の中でその時、ゲームの中で自分の行った
『頃し』のワンシーンが、鮮明に甦った。

『元124番・草壁優季。
 アレを鑑賞してしまったからというそれだけの理由にて、積極的なる攻撃
意思の元にこの手に掛けてしまった、正規参加者。
 
 いや、恐らくは“鑑賞してしまった”なのではなく、“鑑賞させられた”
というのが正確な所だったのだろう。
 同行していた、元61番代戦士・神奈備命が、その戦いでの最後に見せた
リアクションと彼女達の性格を考えてみさえすれば、それは容易に推測出来
た筈の経緯であった。

 だがあの時…私は経緯を確かめようともせず“アレを鑑賞してしまった”
という結果のみに基づいて、優季をゲームの舞台から引き摺り下ろしてしまった。

579パラレルロワイアル・その521:2006/04/18(火) 02:54:52
武器も能力(戦闘系)も持たない、他人のプライベートを第三者に喋ったりする筈のない彼女を。
 “命”を見逃した所で、全く差し障りはなかろう事が明白だった彼女を。
 半泣きしながら逃げ回って、最後は私の腕の中でひたすら許しを請い続けていた彼女を。
 意識を失う最後の瞬間、“ではせめて、どうか私の分まで…”と、言ってくれていた彼女を。

 元69番・七瀬留美と神奈を立て続けに討ち果たしたばかりの、その時の
私は…金星の余韻にすっかり酔いしれてしまっていた私は…情け容赦もなく
この手に掛けてしまったのだ。
 
 そして、ぐったりとなった彼女をソファーに寝かした時、我に帰った私が
胸に感じてしまった、刺す様な小さな心の痛み。
 “もう二度と、この様な痛み、感じたくはない……”

 ああこれだ、これだったのか。
 何という事だ。
 またしても、理解より感情を先走らせたツケを回される結果となろうとは…!
 かつての鷹文の不幸を、より厳しく戒めとさえしていれば。
 戒めとさえ、していればっ……!』




「…まさか、ラスボスを止める役所を、祐介さんと美汐さんが受け持つ結果
となってしまいますなんて…」
「…ん。ともかく、最終決戦もこれでめでたく終結みたいだね」
 甲板にOTZ状態となって燃え尽きようとしている智代を目にしながら、
美凪とはるかが一つの話の大きな区切りとも呼ぶべき宣言を口から出した。

「でも、このクルーザーを撤収してから生き残りの正規参加者計8名様は、
その後一体どーすんのよ?『この戦いに引き分けはない』だとか、ネタバレ
掲示板の方にリアルタイムで書かれちゃってたみたいなんだけど…?」
「それに関しましては、この風子によい考えがございますっ。要は、8名様
全員が表紙絵に掲載可能となりさえすれば、問題はない筈なのですからっ」
 郁乃の問いかけに対して風子はえっへんと胸を張りながら、自分のバッグ
から彼女の支給装備を、本邦初公開で引っ張り出して見せた。

「三脚付きポラロイドカメラ…にははなるほどっ、本編二巻裏表紙大作戦と
いうわけなんだねーっ♪」
「ナイスアイデアです、風子さんっ…そうと決まりましたら早速、海水浴場
まで戻るとしましょう。実といいますと私、もうお腹が空いちゃって…そろ
そろ夜のおやつが食べたいなーって、思っていた所なんですよ♪」
「がお、ゆかりさん…」
「カミュちも、いっしょにもどるー」
「も、もどるって…カ、カミュはその…(とりあえずは、お姉様さえご無事に
エスケープされましたら、特に問題はないのですが…)」




「…色々とトラブルや行き違い等はあったものの、最終的には最終決戦終結
に協力してくれた事を皆に代わって礼を言うぞ、あろうー」
 甲板で撤収の支度を始めている仲間達を背後に、ブリッジの屋根の上にて
カラスを肩に留らせたまま、るーこはアロウンに別れの挨拶を述べていた。

「うむ。こちら側としても、来年に備えて葉鍵各組の連中に恩義と好感度を
売り込んでおく分に、損はない事なのだからな」
「…打算あっての事だったのか」
「当然だ。訳も無く魔王が寛大だったら却って滑稽だし威厳にもかかわる」
「るー、確かにその通りかもな……ところで、最後に一つだけ質問があるの
だが?」
「何だ?言ってみろ」
「うーともの着替えがメイド服なのは、あろうーの趣味か何かか?」
「そうではない(怒)…最初にこのクルーザーへと進入した時、たまたま発見
した隠し部屋から出て来た女性用上着がメイド服だったというだけの事だ」
「るー、隠し部屋の中にメイド服があったという訳なのか?」

「(質問が増えてるぞ…)いや、正確には隠し部屋に安置されていたこの人形
が、あのメイド服を身にまとっていたので、あの娘の着替え用に現地徴用を
させて頂いたという訳なのだ」
 アロウンはそう言いながら、手品の様に虚空から半裸の朱桃色の髪をした
女性型の等身大人形を引っ張り出し、その首根っこを掴んでるーこの前へと
ぶら下げて見せた。

「あ、あろうー…その解釈はちょっとだけ間違っていると、るーは思うぞ…」 
 …しかし、それが正確には『人形』ではなく、『現在の状態では人形』な
ものであったという事など、この世界の住人ならぬ身のアロウンにはそれを
るーこから指摘を受けるまでは、知る由も無い事実だというものであった。

580パラレルロワイアル・その522:2006/04/24(月) 22:57:40
 丁度その頃、来栖川アイランド本島・リバーサイドホテル1階北口ロビー
では。
「あ〜っ!!長瀬のおっちゃん、あんな所に“隠し予備戦力”でボディ隠匿
しちょったんや〜っ!!」
「でも、さんちゃん確か今あの子、貴明と一緒に接近中なんやろ?ひょっと
したら、このままやと…」
「あああ、大変ですっ!…このままですと、あの魔王様の身に危険な事がっ
…!」




 更にその頃、脱落した向坂環を回収・Uターンして、大灯台広場海域沖の
巡視艇へと送り返した後、再び海水浴場エリア海域方面へと再発進を行った
シーハリアーが、遂に海水浴場エリア〜水族館エリア間境界海域沖の洋上に
浮かんで接舷している大型クルーザー・ホバークラフト・屋形船、計三隻の
甲板上の出来事を目視する事が可能な位置にまで到達しようとしていた。

「各船の甲板上に大きな動きが見えないみたいだ…ひょっとして最終決戦は
どんな形でなのかはまだ分からないけど、もう決着の方は着いてしまったの
だろうか?……それにしても、ルーシー…いや、るーこ…信じてやれなくて
まともに構ってやれなかった頃の事は、あれから俺なりにずっと深く戒めに
してきた積もりだったけれど…まさか今度は信じ過ぎてここへ来ている事も
定時放送直前まで知らないまま、ずっとほったらかしにしちまってたなんて
……勝手な都合だけど、まだきっと無事なんだよな?……いずれにしても、
あの時断り切れずにお前を置いてきぼりにして空港へと連れてかれちまった
事…まずそれだけでも、キチンと謝らなきゃいけないよな?…………って、
あっあの……ミルファちゃんっ!?」
 コクピット備え付けの望遠・拡大モニターから送られて来る中継映像へと
夢中になっていた河野貴明はこの時になって初めて、モニターの上へと立ち
風防にへばり付いて前方を直接眺めているミルファの頭頂部から、黒い煙が
ぶすぶすと一筋二筋、立ち昇っている事に気が付いた。あまつさえブルブル
と、振動まで始めだしている。

「こ…これって、まさか…?」
 貴明にも容易に悟る事が出来た。ボディやプログラムのトラブル等による
ものなんかではなく、これは明らかに彼女自身の怒りの感情による身体異常
なのであると。

“HMX−17c・ミルファ、本体へのダウンロード開始します…本体への
転送完了まで、残り三十秒…”
 コクピット内にインフォメーションが流れ出してからしばらく後、貴明は
とある重大かつ、嫌な予感のする疑問に気が付いた。
「ひょっとして…もしも、ミルファちゃんがダウンロード完了しちゃったら
…この飛行機、一体誰が…操縦してくれるんだああああああっ!?……ねえ
ちょっ…ちょっと待ってくれよ、ミルファちゃんんんんんんっ!?」

“ダウンロード完了しました…これより当機は、オートパイロットよりマニ
ュアル操縦へと切り替わります…”
 待っては、貰えなかった。
 モニターの上から、抜け殻となった『現在の状態では熊のぬいぐるみ』な
ものがポトリと、煙を棚引かせながら貴明の膝の上へと落ちてきた。

581パラレルロワイアル・その523:2006/04/24(月) 22:58:40
「間違っているだと?…ふむ、ではこれはもしかすると、我々の世界で言う
所の『生き人形』と、呼ぶべき存在なのかな…?」
 そして舞台は再び、クルーザーのブリッジ屋根上へ…るーこからの指摘を
受けたアロウンは改めて、自分が右手でぶら下げている『人形』をまじまじ
と眺め直した。そして、左の掌にてゆっくりとその体をあちらこちらと興味
深げにいじくり回して、その触感を確かめてみた。
「成る程、なかなかよく出来た『生き人形』だ。これならば夜の伽の相手も
立派に勤めてくれそうだな……で、この耳に付いている覆いのようなものは
一体、何なのだ?(さわさわ)」

「るー。それは、生みの親であるうーごの説明によると、感覚増幅の機能を
兼ね備えた亜人識別章のようなものらしいぞ……でだ、差し当たっての問題
点なのは、彼女の存在目的はあくまでも両性・全年齢対象の家政使役活動で
あって、成人男性用性的奉仕活動では断じてないという事なのだが…?」
「何を言っておるのだ?(なでなで)成人男性への性的奉仕というものはな、
古今世界を問わず家政使役の中での立派なる一使命とも呼ぶべき、大切なる
活動なのだぞ?(ふにふに)……とは言っても、お前の様な異星の未成年者を
相手にそんな事を力説してもどうしようもない事だったかな?(もみもみ)」
「…失礼な物言いだぞ、あろうー。確かに、対象となる主人によりけりで、
家政使役の中の最重要使命が果たしてどの様な事柄になるのかは、千差万別
に変わっていくだろう…しかし問題なのは、対象となる主人が決めた最重要
使命との相性が良いものも存在すれば悪いものも存在するという事だ、彼女
達にだって『心』は立派に存在しているのだからな……そして、るーは以前
に別の小さな器に入っていたそこの彼女の『心』と出会い、どの様な『心』
の持ち主であったのかを、るーなりに理解させて貰っているのだ…はっきり
言って、成人男性への性的奉仕活動に関して言わせて貰えば、彼女の『心』
との相性は極めて悪いもののように、るーにはそう思えたぞ…」

「…長話しているのも別に構わないんだけどさ、魔王さん?」
 下の甲板の方から、美凪に車椅子を押して貰っている(…しかし、お米券の
受け取りはきっぱりと拒否している)郁乃が、南の星空を眺めながら呆れ顔で
アロウンに向かって皮肉めいた口調で言った。
「いい加減、そろそろ自分の世界に戻った方が身のためだって警告しておく
わよ…この作品のタイトルを『葉鍵残酷物語』に変えたくないのならね?」

「(むにゅむにゅ)…まったく、次から次へと失言が飛び出てくる困ったお嬢
ちゃんだな…」
 流石にアロウンも二度目の失言には本気で怒ろうとせず、やれやれという
感じで苦笑しながら郁乃の方を見下ろして皮肉めいた口調を返す。
「…早々に自世界へ退散しないと一体、何が起こるというのかな?まさか、
魔王であるこの俺の身に『葉鍵残酷物語』と呼ぶべき危険が及ぶとでも言う
のかな…?」
 そんな事がどうしたら起こり得るものか?…考えてみればみるほど滑稽で
たまらなくなり、アロウンは大人気なくもつい、笑いながら郁乃に向かって
お約束なる啖呵を、大声で連呼してしまった。
「フフフ、俺を頃せる者でもいるのか?頃せる者がいるのかっ?…この俺を
頃せる者なんかが、いるとでも言うのかっ…!?ハッハッハッハッハッ!」




「…ここにいるぞおッ!!」
 グシャン!!

 怒声と共に右真横から飛んで来た肘打ちに鼻っ柱を叩き潰され、アロウン
は血煙を棚引かせながら声も出さずに昏倒した。




「…取り込み中済まないのだが、うーみる…」
 ピクリとも動かなくなったアロウンに容赦なく追い討ちのストンピングを
続けているセンサースーツ姿のHMX−17c・ミルファに、るーこが後ろ
から声をかける。

「衣装の件は仕方がありません。ゲーム終了後にお返し頂ければ結構です」
「済まない。感謝するぞ」

 ミルファの了承を確認したるーこは、アロウンの『死体』を運命に任せて
今度は、目の前の突発イベントにしばし呆然となったままであった智代の方
へと、ゆっくりと歩いて行った。

582パラレルロワイアル・その524:2006/05/01(月) 23:28:05
「るーこ……?」
 ブリッジ屋根上にてOTZ状態からこそ立ち直ったものの、いまだに腰を
上げる事の出来ないままであった智代の元へと歩み寄ったるーこは、なんと
あろう事かその手に没シュートしたばかりの刀を、事も無げに智代へと手渡
した。
「!?…どういう積もりなのだ、るーこ…!?」

「済まないが持っていてくれ、うーとも。『その時』がついにやって来た。
直ちに対応を行わなければならない……済まないが、カーもすずーの所へと
戻ってくれ」
 るーこは南の星空を見上げながら、両の腕をYの字に高く掲げた。間違い
なく“るー”の、それも能力を使うためのポーズである。

 ばっさばっさ。
『まさか、観鈴意外にもこんな無茶する奴がいやがったとはな…』
 カラスは観鈴の所へは戻らず、唖然となったままの智代が握り締めている
刀の鞘へとふわりと留まった。臆する事無く智代の顔をはっしと見据える。
『悪いがるーこ、俺はアンタを見捨てねえ。その心配はねえだろうが、万一
時の脱落者は俺と観鈴が一番手だ』

 そんなカラスに対して智代は、このゲームにおいてはもしかしたら初めて
になるのかもしれない、そんな慈愛に満ちた眼差しを向けてしみじみと語り
かけた。
「やれやれ…るーこといい、オマエといい、何だってそう信じちゃヤバそう
な相手…いや、この場合は相手のモラルをあっさりと信じてしまうのかな?
……そんな事では、真面目なロワイアルだったらとても長生きなんか出来は
しないと思うのだが……って、ロワ2で長生き出来なかった私に言う資格は
なかったのかな…?」

 もしも492話での声の正体がバレていたならば、きっと対応は180度
変わっていたのであろうが……それは置いておいて、智代は今度は、自分に
背を向けポーズをとったままである、るーこへと尋ね掛ける。
「『その時』というのは一体、何なのだ?“るー”の力を使わないと対応は
出来ないのか…?」

 るーこは微動だにしないままに答える。
「出来ない。…うーとも、503話の段階でるーが本島への“迅速な転進”
を行わなかった本当の理由はこれなのだ。…実は、このゲームへと新規参加
をする直前に、うーきが予知をして、るーに警告を与えてくれていたのだ。
『あのゲームが終了せんとする未明、流星群はやって来ませんが、貴明さん
の身には大きな危険が訪れます』とな。…そのために、『その時』がやって
来てしまうまでは、余程の事がない限りは三回目の“るー”の力を使う事は
出来なかったのだ」

「そっそっ、それではるーこさんっ!?」
 風子が神出鬼没に屋根の上へと登って来て、驚いたようにるーこへと尋ね
掛ける。
「もしも482話でポーズがとれまして“るー”の力で兵員輸送車をピンチ
から脱出させていたとしましたら、今現在のるーこさんは一体…どうなって
しまっちゃったってたのですかっ…!?」

 るーこは事も無げに即答する。
「あれは、余程の事だ。るーを含めて四人…いや、四人と一羽の『命』が、
るーの失敗で失われようとしていたのだからな…というか、低水深渡河能力
があの車に備わっていたのならば、最初からそう言え」
「あああっ、そうでしたっ…風子、あの時はすっかり忘れておりましたっ」
「…そして、もう一つの答えの方は…今現在の“るー”の力が四回目となる
だけの話だ」

 ばっさばっさ。
 目の前で羽ばたくカラスの言葉を代弁したかの様に再び、智代が尋ねる。
「しかしだ、るーこ。三回目の使用をこれだけ慎重に自制をしていたのだ。
四回目の使用はもしかしたら…“慎重”を通り越した“禁断”とか“代償”
とかいう単語が付いてくるレベルのものなのでは…?」

「るー個人の問題だ、詮索の必要はない」
 るーこが途中で智代の言葉を遮った。…と、その時。

「あああ、大変っ!?…あたしったら大事なコト忘れちゃってたあっ!?」
 アロウンの『死体』に鞭打っていたミルファが漸く、それまで仮ボディで
行っていた重要な仕事を放り出してココへと来てしまってた事を思い出し、
思い切りにうろたえ始めた。
「どどど、どーしよどーしよどーしようっ!?…逆方向へのダウンロードは
今の状態じゃあ出来ないしっ…!?」

「安心しろ、うーみる。るーに任せるんだ」
 るーこはポーズをとってから四回目の応答を行うと、その遠い視線の先に
捉えた対象―――南の星空からこちらへと急速接近で降下中のシーハリアー
―――の上空にかかっている月…もとい、くーの方を見上げ、長く、澄んだ
声で、祈る様に唱えた。
「Ruuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuu!」

583パラレルロワイアル・その525:2006/05/01(月) 23:29:17
“高度10メートル未満となった時点で当機は不時着判定となり、S.F.
のオートパイロット操縦へと切り替わって、来栖川アイランド本島への帰還
飛行を行います…”
「…何て情けない、カッコ悪いザマで終わっちまうんだろう、俺…」
 飛び続けつつも次第に高度が下がり続けていくシーハリアーのコクピット
にて、観念してしまった貴明は遠い目をしてシートに座り込みながら、機内
モニターが映し出す光景をぼんやりと眺めていた。

「ごめんなるーこ、俺…お前に結局、何もしてやれなかったよ…周りの同行
組にこっそり内緒にされていたからって、そんなの言い訳にもなりはしない
よな?…出来る事なら、一緒に戦いたかった…そして、守ってやりたかった
………………って、るーこっ!?」
 貴明の眺めているモニターの中に、月の光に照らされたクルーザーの屋根
の上で、別れた時の姿のままのるーこが、こちらに向かって“るー”をして
いる姿がくっきりと映し出されていた。

「はははっ、なんだよ。…ミルファちゃん思い切りあわてちゃって、上手く
説明が出来てないみたいだ。それなのに、るーこは俺がこの飛行機でピンチ
になっちゃっているって事が、すっかり分かってるみたいな感じで…はは…
まるで“奇跡”みたいだ…」
 貴明がモニターから視線を外し、ハリアーの風防を開放していく。
「一度目の奇跡は月に最も近い木の上で。二度目の奇跡は自宅の台所だ。…
まさか三度目が月に照らされた海の上になるなんて…そんな事を考えながら
再開するのも悪くない…かな?」

「…悪くないんじゃないのかしら?」
「えええっ!?…って、神岸さんっ!?」
 いきなり後ろから掛かった声に驚き、振り向いた貴明の目の前で、後部副
操縦席にてにこやかに手を振っている、神岸ひかりの姿があった。

「巡視艇で向坂さんを降ろしている際に、入れ替わりでこっそり乗せて貰っ
ちゃっていたのよ、うふふっ♪…S.F.へのオートパイロット回線接続は
私が今、こちら側から行ったからもう大丈夫よ」
「…春夏さん、きっと一人置いてきぼりで激怒している事でしょうね(汗)」
「仕方がありませんわ、練習用の副座席は一人分しかございませんですし…
こういう展開となってしまいましたのも全ては、るーこちゃんの“るー”の
導きによる定められし結果なのですから春夏さんだってきっと、喜んで納得
なさってくださる筈ですわ♪」
「だと、いいのですけど…」
「それよりも、クルーザーに到着しましたわ。早く降りて行って差し上げま
せんと」
「わかりました、ありがとうございます神岸さんっ」
「お礼なら、るーこちゃんに言ってあげませんと」
「はいっ」

 02:59…月夜の海水浴場エリア〜水族館エリア間境界海域沖の洋上に
接舷している計三隻の船の上へと、その側面すれすれをホバリングしている
シーハリアーから、操縦席を降り片翼の上を走り抜けて今、一人の男が飛び
移って行った。こう大声で叫びながら。

「るーこーーーっ!?…今のって、4回目じゃないよなーーーっ!?」




 03:00…来栖川アイランド西端、港・ヨットハーバーエリア内船着場
に、南の沖から来た一台の水上バイクが到着を果たしていた。
 その水上バイクは、海水浴場エリア〜水族館エリア間境界海域沖の洋上で
信号識別式誘導機雷に触雷し、以来乗り手を失って洋上で放置されていた筈
の水上バイクであった。
 そして今、停止した水上バイクから茶封筒を持った一人の女性が現れて、
その背中の白い翼を使ってふわりと飛び立って行き、そのまま突堤の方へと
見るも優雅に降り立った。

「ようこそ。おつかれさまです、翼人の姫様」
 突堤には一人の出迎えが、女性の到着を待っていた。
 白いワンピースを着た、雪のように白い、幼い少女だった。
「さっそくですが、結果を聞かせてもらえるかしら?」

 翼人の姫、と呼ばれた女性は茶封筒の封を開くと、中に入っていた企画書
の束を取り出して少女へと見せながら、微笑んで答えた。
「良い知らせです。『えいえん』です」

「すばらしいわ。すべては予定のとおりね」
 涼やかな少女の笑顔。
 伏線オチのとっても似合う少女。
 そして少女は、次回のゲームに思いを馳せて、つい心から、笑いを漏らしてしまった。
 本編より出番がなくずっと堪え続けていた、あのキャラの自己顕示欲が、遠くない内に、存分なまでに満たされようとしていた。
 全身に熱く武者震いまでもが走ったのが、わかった。




「あ…お気持ちはわかりますが、その暁にはどうか、お手柔らかにお願い申し上げますわ」

584パラレルロワイアル・その526:2006/05/07(日) 23:14:49
 05:30…海水浴場エリア内・海の家畳敷きの間

 ピピピピピピピピピピピピ…
 ポチッ!

 枕元に置いてある目覚まし時計を止めて、つかの間の仮眠から長瀬祐介は
目覚めた。つかの間だったせいか、特に夢は見ていなかった。
 ろくに確かめもしないで匂いだけで確信し、腕の中の柔らかく暖かいもの
へと、いきなり起こしてしまわない様にそおっと、そして長い時間を掛けて
口付けてしまう。
 ああ、この感触…まぎれもない、忘れる事などない…!

「目覚めよ、うー!決着の時が来たぞ!」
「わわわっ、るーこっ!?いきなり耳元で叫ぶなよっ!?」
 二つ向こうの夏蒲団から、景気のよい朝の第一声がユニットで飛び出して
きたのは、その瞬間であった。

 何という最悪のタイミングで…美汐が寝付きの良い子で本当によかった。
 …と、思っていたら。

「…長瀬さん、美汐さん。朝ごはんが炊けました…」
「…ん。みんなでそれぞれ作ってたら、和洋折衷になっちゃったけど」
「おいしくできているかどうかは、わからないが……それでも私たちなりに
一生懸命に作ったから、多少のことには目をつぶってくれ」
 遠野さん、河島さん、そして坂上さんがすでに記念撮影の前の腹ごしらえ
の準備を整えてくれていた。……それ自体はまったくもって有難く嬉しい事
なのであるのだが、問題なのは三人とも、頬をほんのり赤く染めて僕達の方
を向いていた事なのであった。
 ……見られてる。

「そっそっ、それでは風子っ、ごっごっ、ごはんの前のラジオ体操をやって
まいりますっ……!」
 そんな僕達と遠野さん達の間を、伊吹さんが外の砂浜めざして、勢いよく
駆け出して行った。…だが、その顔はスイカの実のように真っ赤っかなので
あった。
 心臓が早鐘を打つ。

「それではうー、そこのうーすけの風習に従って、るーにも目覚めのちゅー
を行うのだ」
「えええっ、るーこっ!?…っていうよりは、そのう、長瀬さんっ…?」
 ―――るーこさん、うーすけの風習とはあんまりです。
 逃げ出したいよお。

 とどめはたった今目を覚ました美汐であった。
「おはよう、祐介」
 満面の笑みで。
「私は別に構いませんよ。恥ずかしかったですか?私にキスするの」
 穴掘って入りたいよ。そしてその上に砂を被せて僕を永眠させて下さい。

 ちなみにその頃、最後まで起きてこない夏蒲団の中では。
「往人さんはねえ…今もここにいるんだよお…ムニャムニャ(ムギュウッ)」
 ばたばたばたばたっ
『のおおおおっ!?潰れるっ、潰されるううっ!?』




「では、無事生き残れた事を神に感謝して…」
「「「「「「「「「いただきます(るー)(ばっさばっさ)」」」」」」」」」
 今は、525話から早二時間半。…あれから、海水浴場エリアへの上陸を
無事に果たした僕達は、本編二巻裏表紙大作戦に移る前に、海の家にて一旦
仮眠を取る事でその意見が一致した。伊吹さんの支給装備であるポラロイド
カメラには三脚は付いていたもののストロボは付いていなかったし、何より
皆、眠くてたまらなかったからである。
 そして仮眠に入るまでの間に、同行していた新規合流の非正規参加者達も
その殆どが、この場所から姿を消していく事となった。

585パラレルロワイアル・その527:2006/05/07(日) 23:18:06
 まずHMX−17cミルファさんが、暴れ過ぎによるセンサースーツ破損
により、止むを得ず一人大型クルーザーに留まって、港・ヨットハーバーへ
と別帰投を行う羽目となってしまった。
 続いて、砂浜に上陸した際、「ここはやっぱり、元ゲーネタだよね〜♪」
と言いながら、神尾さんを『波打ち際で読者様の目にも感動的なるゴール』
をさせようとした朝霧さん(本名)が、謎のムカデの人形劇に驚かされて逆に
波打ち際に大の字でずっこけて、見事自殺点ゴールを遂げる羽目となった。
 そして、カミュさんとアルルゥちゃんは砂浜で待っていた大きな白い虎の
背中に乗ってホテルの方へと戻り、伏見さんは更なる夜のおやつを求めて、
土産物商店街エリアの方へと向かって行ってしまった。
 更に、HMX−17bシルファさんが駆る三機目のシーハリアーによる、
関東来栖川空港からの第三次航空便に乗ってやって来た、お姉さんと思しき
女性に車椅子もろとも無理矢理連行されて、小牧さんもホテルへとその姿を
消して行った。
 そして、最後に神岸さんが、海の家にあった夏蒲団が五組だけであったが
ために、11人目的存在と自分をみなして、ハリアーごと空港・ヘリポート
エリアへと向かって行ってしまった。…正確には、神尾さんの分の夏蒲団の
パートナーはカラスくんなのだから、神岸さんが更に一緒に寝てもスペース
の問題はなさそうだったのだけど、神岸さんは意味ありげに「カラスさんに
悪いですから…」と、辞退して行ってしまったのであった。

 そのような訳で現在海の家にて食卓を囲んでいるメンバーは、正規参加者
7名+1羽と依頼人の神尾さん、そして最後まで残った新規の合流者である
河野さんの、計9名+1羽という事なのである。

586パラレルロワイアル・その528:2006/05/07(日) 23:19:19
 ともかく、僕達はそれぞれ座布団に座って、思い思いに箸を取った。料理
は美味しいうちに食べなければ、料理人の方達に対して不義理になる。

「るー、これは美味いぞ。はるーはなかなか洋食が上手だな。今度るーにも
伝授して貰いたいぞ?」
「ん。でもそんなに大したもんじゃないよ。基本とコツを覚えればすぐ上手
くなるよ」
「るぅ……」
「私は正直、自己採点が及第点ギリギリといった所だな…」
「…智代さんは、この中では一番疲れておりましたはずです。…そもそも、
ありあわせの材料で即興でこしらえました朝食なのですし、その様な条件の
もとでは、朝の和食は朝の洋食より色々と手間がかかって大変なはずです」
「むむぅ……美凪は博識なのだな……。では次こそは、精進させて貰おう」

 女の子達がそれぞれ楽しそうに談笑しているのを、料理をつっつきながら
僕達は見る。やはり食事はいい。食事は心にゆとりを与えてくれるものだな
と思う。穏やかな時間が流れる。

「うわ、やばいぐらいにおいしいですこれっ!どうなっているのですか?」
「ん。これは揚げ粉にちょっと色々工夫している」
「…こちらは何でしょう。私にはわからないのですが…」
「…それは内緒。企業秘密の隠し味なんだ、美汐ちゃん」
「にはは、おいしいおいしい、もうひとつおいしい〜♪」
「…うれしいな、観鈴ちゃん」

 楽しげな食卓だった。僕もまた河野さんと会話に相槌を入れながら目の前
に広がる大量の料理に箸を伸ばし、そしてふと、食卓に座る他の八人と一羽
の顔ぶれを眺め直した。
 みんな少しだけ顔立ちが変わったように思う。それはそうだと思う。あの
不思議かつ不条理な舞台で見た表情と、このような安息のある場所で見せる
表情が全く同じである筈がない。
 そしてそれだけではない。それぞれに現在に至るまでの経緯を思い起こす
時間があったのだ。生き残ったこと、出会い別れていったことを噛み締め、
目の前に近付いているこのゲームの終着点のことを考える時間を、僅かとは
いえ経たのだ。多分、出会ったばかりの河野君や僕自身の顔立ちだって少し
は違っているのだろう。自分達の前に待つ勝者の報酬は、果たしてどんな形
で与えられるのだろうか。

 食事が進むにつれて会話の種がなくなっていって、やがて食卓には会話が
なくなってしまった。気まずい雰囲気というわけではない。お互いがお互い
に、この後の記念撮影の事について考えているのだろうと思う。まだ完全に
ゲームが終了してない事を自覚して、最後の最後に自分はどうするべきなの
だろうかと、それを考えているのだろう。
 けれど。それだけじゃあダメなんだ。考えているだけじゃ。考えて考えた
だけの結果に終わって、それでは戦い抜いた事にはならないんだ。
 最後の闘志を吐き出して、最後の本音を吐き出して、最後の想いを吐き出
して…それでやっと僕達の内の誰かが、本編の七瀬さんの様な、このゲーム
の『勝者筆頭格』と呼ばれる存在になれるのだと、僕は思うのだ。

587パラレルロワイアル・その529:2006/05/14(日) 22:42:31
「うわあ……――――」
 ほぼ一日前に見た事がある美汐と僕以外の皆が一斉に驚嘆の声を上げた。
 そこにあるのは、視界の果てまで広がっている水平線だった。
 朝陽を反射して光り輝いている大海原を、僕たちは砂浜の上から眺める。
 僕は横目で美汐をちらりと見る。頬を紅く染めながら何かを思い出してい
るように恍惚としている(…)。もし三度目があるとしたら、今度はどんな顔
をして朝ここへ来ればいいのだろう。ここは、奇しくも甘い僕たちの思い出
の場所となってしまった。
 けれど、そんな思い出はこれから僕たちがしようとしている事には、直接
の関係はない。直接な関係というか動機があるのは、僕と美汐だけだ。ここ
は、僕が知る限りで一番、至福な一時を過ごす事が出来た場所なのだから。

「うーにしては綺麗な場所だ」
 るーこさんが楽しげに微笑する。他の皆も、凄く楽しそうに海面を眺めて
いる。神尾さんと伊吹さんに至っては、今にも海水浴を始めてしまいそうな
雰囲気さえあった。

「ほんとだ。流石は南の島だ。汐の香りまで綺麗だな」
「…真夏なのに空気が湿っておりません。素晴らしい場所です」
 皆がそれぞれいろんな笑顔を見せてくれただけでも、ラストにこの場所を
選んだ収穫ではあったけれども、僕が一番望んでる果実は実はそういうもの
じゃあなかったんだ。

 僕の隣に寄り添う美汐が尋ねる。
「…それでは、みんなで記念撮影を始めましょうか……祐介?」
 僕は美汐の問いにはすぐには答えない。答えないで、僕はただ、美汐の髪
を優しく撫でる。物問いただ気な顔をしたけど、美汐は大人しく受け止めて
くれた。
「…祐介……?」

 僕は勝利の言葉を言おうと息を大きく吸った。

「晴子さあああん!相沢さあああん!神奈さあああん!春原さあああんっ!
僕たちはっ!最後まで、生き残れましたよおっ!!」
 大気を震わせる大きな声で、出来る限り力強い声で。明るい太陽が輝く下
で、僕は力の限り、叫んだ。出会った人たちのことを叫んだ。笑われない様
に、恥ずかしくならない様に、胸を張って叫んだ。他の皆は僕のそんな様子
を呆然と見ている。僕が何をやっているのかをまだ理解が出来ていない人も
いる。僕は構わず叫ぶ。共に戦った人たちへと、最初で最後の報告を叫ぶ。
「リベンジは、歓迎するからっ!絶対に負けないからっ!次も勝たせて貰う
からっ!!」
 顔が紅潮していた。僕は本来気が弱い人間だ。だから、顔が紅潮してしま
うのだ。ここには自分たち以外に誰もいない。だから顔が紅潮しても突っ込
む人たちはいない。叫びを聞くのは、僕たちと―――早起きなモニター観衆
の人たちだけだ。どこよりもこの島の南の場所で、北のホテルや西のドーム
にいる人たちへと、お世話になった人たちへと結果を伝えよう。勝利の言葉
は力一杯、心の底から叫ばなければならない。共に戦った人たちへの結果の
報告は、大切な義理だから、ちゃんと伝えなければいけないのだから。それ
はすごく得意気なことだが、得意気に出来ない結果ならば、それは勝利とは
言えないのだから。得意気でない勝利なんか、勝利とは呼ばないのだから。

588パラレルロワイアル・その530:2006/05/14(日) 22:43:28
 僕の隣で呆気に取られていた美汐もまっすぐに顔を上げると、僕と同じよ
うに大きく息を吸った。
「…真琴ーーっ!橘さん、里村さんに川澄先輩ーーっ!私も生き残れました
からっ!皆さんの、おかげですからーーっ!!」
 力いっぱい叫んで、そのまま僕の様に紅潮した。

「…鈴香さんっ!初音ちゃんに彰っ!…立川さんに美坂さんっ!…とうとう
死に損なっちゃったっ!……いいのかなあ?素直に喜んじゃっても……?」
 河島さんが、坂上さんが、伊吹さんが、遠野さんが、るーこさんが、河野
さんが、そして神尾さんが。
「朋也っ!渚っ!鷹文っ!可南子っ!…私はもうどちらの存在なのかなんて
拘ったりはしない。私は坂上智代なのだから。そして私は今でも朋也の事が
大好きなのだから…!」
 力いっぱい想いを叫ぶ。心を強く奮い立たせて、お腹に力を入れて、実況
生中継委細承知で。
「白いお姉さんっ!高野のおじさんっ!おねぇちゃんに一応、ユウスケさん
もっ!…風子はがんばりましたっ!いっぱいいっぱいがんばりましたっ!」
「…みちる。長森さん、折原さん、ベイダーさんっ!…とうとう、ここまで
きてしまいました―――本編や劇場版では想像出来ない成績でしたね…」
「どぅー!うーみ!それにうぐー!…本編花形のお前たちと共に戦えたこと
をるーは心底、誇りに思うぞ!」
「タマ姉に春夏さんっ!まーりゃん先輩にささら先輩っ!…経緯はともかく
鳩Ⅱ主人公として、るーこと共に何とか勤めを果たす事が出来ましたっ!」
「かのりーんっ!シュンさーんっ!光岡さんときよみさーんっ!…観鈴ちん
こっちでもがんばったよーっ!!にははっ♪」
 神尾さんの肩にとまっているカラスくんも羽ばたく。
『俺の名前が出てこなかったが…ボケてやがるのか、それともまさか…』

 正規参加者だけでも百二十一名という多くのライバルが、この島で破れて
あるいは降板をして、表舞台から去って行った。それぞれに出会いと別れを
繰り返して、自己顕示欲に任せてエンターテイナーマーダーとなって、強い
運で窮地をあっさりやり過ごして、優しい心で愛しい人と共に生き残ろうと
した。全てが上手くいく訳がない。上手くいったのなら、ゲームとして成り
立つ事などないのだから。これも一応、ロワイアルなのだから。
 ゲームとしてのラストが目の前にある。勝者同士による最後の戦い、勝者
筆頭格を決める戦いが目の前まで迫ってきている。

 だからこそ、僕は果たして現在その事実に気付いているのかどうかすらも
わからない皆の前に立ち、心中の野望を隠しながら言った。
「―――じゃあ、記念撮影を始めようか。それとともに、このゲームはもう
おしまいなんだし」

「「「「「「「「「―――了承(るー)(ばっさばっさ)」」」」」」」」」
 皆は興奮を鎮めて、最高の笑顔を見せてくれた。

589パラレルロワイアル・その531:2006/05/21(日) 23:41:19
 05:45…リバーサイドホテル20階・G.N.総合管制室

「それでは、始めます…」
「さあ…このゲームもついに、この時が、やってきました…!」
「ストップ!」
 仁科りえが一行読み始めた直後に、ストップがかかる。
「はい?」
「ちゃう、違うんや、そうやない」
「さぁ、このゲームもついにこの時がやってきました。って、感情を入れて
読むんや!あんたのならオペラ歌手のコンサートみたいやないかっ!」
 あの、私…一応は合唱部部長なのですけれど……。
 アナウンサーではございませんのですけれど……。
 ともかく、ここは朝から騒々しかった。

 元二十三番・神尾晴子の特出アナウンサー教室が開講したのは、朝の四時
過ぎ。いまだにそれはまだ、続いていた。
「ちゃう、そうやない。もっと気合入れぃ!今、女性実況アナなんかおらん
で?あんたがその一号やっ!えいえんでも幻想世界でもディネボクシリでも
夢の中でもどこでもメシが喰っていけるでっ!」
 神尾晴子は、鬼コーチだった。
「リエチャン、ファイトッ!」
 晴子さんの肩にとまっているカラスさんがなぜか応援してくれていた。
 わたしは思いました。
 最後を締めくくるということも大変なのですね。
 それに、きっと神尾さん親娘の愛情も加わってらっしゃるからなのですね
…と。
 いえその、ええっと…とっても不可解な現象が何か目の前で発生している
ような気がするのですけれど……。
 りえは果たしてそれが何なのか、その時気付くことはできなかった。
 それからもう十分間、更にトレーニングは続いた。

「完璧や、完璧すぎや、嬢ちゃん」
「あ、ありがとうございました、先生っ…」
 仁科りえは完璧に本番五分前でやりとげた。
 ゲーム終了・結果発表放送(晴子予想・神尾観鈴勝者筆頭!)のアナウンス
実況を。さすが合唱部部長、仁科りえ。




 一方、管制室の反対側の一角では、来栖川会長・幸村俊夫・神岸ひかり・
小坂由紀子がこのゲームの最後の瞬間を固唾を飲んで観戦していた。多分、
岡崎史乃と八百比丘尼も倉田アイランド・DREAMエリアにて観戦をして
いるのであろう。…ちなみに、柚原春夏は巡視艇で帰投中に発見した、謎の
水上バイクを深追いして反撃され、轟沈判定を受けてしまった。

「神尾さんにはお気の毒ですがどうやら、勝者筆頭となるのが果たして誰な
のかはもう、十中八九決まったも同然ですな」
 背後でまだハイテンションの晴子の方を一瞥してから、ご満悦でそう口を
開いたのは、来栖川会長であった。

「確かに…記念撮影の写真判定によって勝者筆頭格が決定されるとしました
ら、“電波”はこの上なく有効かつ強力な能力となりますね」
 由紀子が中継モニターに映し出されている、記念撮影の準備の様子を鑑賞
しながら思わず相槌を打った。

 モニター画面の中では、暫定リーダー格となった長瀬祐介が、てきぱきと
指示を出しながらポラロイドカメラのセッティングや、被写体である九名の
立ち位置などを次々と決めていっている。

「ふむ…どうやら長瀬くんは記念撮影が意味する、勝者筆頭格決定のための
最大最後のチャンスをしっかりと理解し、そのための手順を確実に一つ一つ
行っておるようだの」
 幸村がふむふむといった感じで、祐介の準備指示の手際の良さを評価解説
していく。
「まず、三脚上のポラロイドカメラと九名の立ち位置との間合いが、るーこ
くん所持の万能変形鉄扇のギリギリ射程外に決められているという事だの。
これにより、すでに“るー”の力が打ち止めになってしまったるーこくんは
手も足も出せなくなってしまったという事だからの。…更に、すでに野心を
燃やし尽くしたと思しき智代くんや、勝者筆頭への野心もとい関心に乏しい
であろう河島くん・遠野くん・神尾くんは警戒する必要はなかろうし、勿論
天野くんは論外であろうしの。それに河野くんは性格からして、例えるーこ
くんのための野心があったとしても、そのきっかけがない限りは実力行使は
ためらうであろうし…そして何よりも、長瀬くんの手順の完璧とさえいえる
ポイントは、撮影担当役をカメラの持ち主であり、撮影に際しての小細工を
行う可能性が最も低いと思われるであろう風子くんにまかせておるという点
だの。…一見、公正そうに思われる長瀬くんの人選が実は、ユウスケの名を
持ち結婚衣裳を身にまとった自分とその連れ合いへの集中拡大による撮影を
“電波”誘導するのには最も適した人選であった…などという事実は、興奮
沸き立つゲームのフィニッシュの中で即座に看破する事はまず、不可能だと
考えてもよいだろうしの」

590パラレルロワイアル・その532:2006/05/21(日) 23:42:37
「つまりは、そういう訳ですな」
 改めてご満悦の表情の会長。
「『生存者は誰だ!』改め、『勝者筆頭は誰だ!』の最終配当は、単勝⑤で
2.2倍、複勝①−⑤4.2倍で、大気組鉄板は無しという結果で終わって
くれそうですなあ…」

 この時、真の最終配当を予想して悪戯っぽく含み笑いを漏らしてしまった
観戦者が、約二名ほど存在していたというのはまさに、神のみぞ知る余談で
あった。




 海の底のお宿におじゃましてからは、毎話がヒトデ狩りでした。とっても
楽しかったです。本当にみなさん、ありがとうございました。そして、美汐
さんも、おめでとう。いつまでも、幸せに……。

 風子は、ゆうすけさんのこともユウスケさんと同じくらい、嫌いなわけで
はありません。さすがに初めておねぇちゃんのコイビトとして紹介されまし
た時には、ユウスケさんにはひたすらにいやがらせをしたものです。でも、
ユウスケさんもゆうすけさんみたいにそれなりにですが格好はよい方ですし
、積極的にしゃべってはくれませんがきちんと相手をしてくれます。それに
何よりおねぇちゃんの事を天野さんみたいに大事にしてくれますし、おねぇ
ちゃんが大好きな人なのです。ちょっとだけ不満ですが、やっぱり嫌いには
なれません。

 ゆうすけさんはちょっとだけユウスケさんと同じにおいがします。なので
、記念撮影もゆうすけさんと天野さんのためにちょっとだけアップします。




 05:59…海水浴場エリアの砂浜を、伊吹風子がみんなの元へと駆けて
いた。記念撮影のカメラのセッティングを終え、セルフタイマーのスイッチ
をスタートさせて。

 ジーーー………

 光量とピントの調整はカメラの全自動式だから、風子でも絶対に大丈夫で
あった。そして風子も無事に自分の位置へとたどり着いて、みんなと一緒に
無事ポーズをとり終えた。

 そして…セルフタイマーが切れるその最後の瞬間、心に『!』を浮かべた
者は、その中の二名ほど。

 まず一人目は、『白昼夢』状態から目が覚めた、伊吹風子。
『あああ、大変ですっ…ちょっとだけのアップが、過激な大アップになって
しまってましたっ!』
 続いて二人目は、カメラに映像転送機能がある事をもバッチリと見抜いて
、野望成就を確信した長瀬祐介。
『決まったっ!…長い、長い事、ネタとキャラのその相性の悪さに…生還者
としては異例な程までに…その出番と活躍の場に不自由し腐心し続けてきた
、この僕がっ…最後の最後、このゲームのフィニッシュでっ…あああっ!』

 …いや、実は他にもいたりしていた…。
『ん…今だね!』
『…あ、はるかさん…!』
『決めた……やはり私は、今更生き方を変える事など出来はしないっ…!』
『…ダメです、させませんっ…!』
『今だっ、るーこっ!』
『甘いぞ、うーすけ!』
『ぶいっ!』
『やっぱり、気付いていたんだな…だからこそ撮影直前に、俺が姿を隠して
も慌てる事なく平静を保って…もう一度、絶対に、出会える事を確信して…
おまえは、本当に強い子だ…そのおかげで、俺は…!』

 …パシャッ!

 午前六時ジャスト。カメラのシャッターが下りるのと同時に、このゲーム
における、全てのアクションが完全に終了した。

591パラレルロワイアル・その533:2006/05/28(日) 02:40:20
『…今になってようやく、あのクソガラスの謎の行動が、俺にも何とか理解
できてきたぜ…どうやらあのクソガラス、ホテルで一人ぼっちの観鈴のため
に、俺をゲーム開始直後に脱落させやがったという訳なんだな…だが、クソ
ガラスの想像以上に肝心の観鈴は強い子だった。二日目の朝、あいつは佳乃
のためにホテルを出奔して、戦場へと足を踏み入れちまった。クソガラスに
とっては墓穴モノの大誤算だったという結果だ…結局、自分の手では観鈴を
護り切る事ができねえと判断したクソガラスは、夕方ホテルへと舞い戻って
自分で頃しちまった俺への再出馬を要請する羽目になりやがったという事だ
…しかし真に恐るべきは、クソガラスの分の変身アイテムだけ特別製にした
スタッフ連中というべきか。三日近くも前からいかにもこういう決着を予知
していやがったかのようにな…』




“さあぁっ、このゲームもついにこの時がやってきましたーっ!ゲーム終了
・結果発表の時間ですーっ!……放送はこの私、特務機関CLANNADの
仁科りえが行わさせて頂きまーすっ!”
 ハイテンションながらも、そうする(させられている?)事への恥じらいを
隠し切れないでいるような少女の声が、八回目の定時放送に代わって来栖川
アイランド全島に響き渡ったのは、次の瞬間の事であった。

『やっぱりだっ!僕が思っていた通りの展開だっ…!!』
 放送を耳にすると同時に事が予想通りに進んだのを確信し、思わず感極ま
ったといった表情でガッツポーズをとって震えだした長瀬祐介へと、思わず
怪訝そうな顔をして尋ね掛ける天野美汐。
「…どうしたというのですか、祐介?……今に改まって、そんな嬉しそうに
興奮してしまうなんて…?」

「やった…やったんだよ、美汐っ!……今の、今の記念撮影で、このゲーム
の勝者筆頭核が誰になるかが決まったんだよっ…!」
 言いつつも興奮に打ち震えている祐介に向かって、にっこりと会心の笑み
を浮かべて返す美汐。
「…やっぱりそうでしたか。あの瞬間、何か緊張が走った気がしましたので
……だとしましたら、私も祐介の最後の戦いをお手伝いする事ができまして
とても幸いでした…」
 そう答える美汐の左手は、隣で抜剣を試みた坂上智代の右手をしっかりと
押さえており、右手で抜き撃ちしたシグサウエルは、河島はるかがカメラの
角度を変えようと狙って投げつけていた投擲用ゴムナイフを、見事に弾き飛
ばしていた。
 更に、遠野美凪の手から風に飛ばされたお米券が河野貴明の視界を遮り、
るーこから渡されてたワインバスケット型水鉄砲の狙いを狂わせこれまた、
カメラの角度を変える企みをものの見事に失敗させていた。

“もうご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、只今生き残りの皆様が
記念撮影を行いましたカメラには、撮影した映像を転送する機能が付属して
おりましたーっ!そこで、只今の記念撮影を写真判定の材料とさせて頂きま
して、このゲームの勝者筆頭格の方を決めさせて頂く事と致しますーっ!”

「ん。失敗しちゃったね、智代さん」
「…信じられない力だった。私はいまだかつて、これほどまでの愛と補完の
結集とも呼べる刹那の剛力を経験した事はなかった…」
「(ぽっ…)…いやですわ、智代さんったら…」
 砂浜にがっくりと腰を落としたはるかと智代に対して、赤面しながら慰め
の言葉を掛けている美汐。
『…しかし、どうして?……いつの間にか、刀が剣に…?』

「…申し訳ございません、河野さん。…お詫びといっては何ですが、どうぞ
このままお受け取りを…」
「あのう、遠野さん?……ひょっとして、その…僕にお米券を受け取らせる
ために、わざと…?」
「……最近皆さん、貰って下さらないのです…(涙)」
 トホホ顔にて顔に張り付いたままのお米券をポケットへとしまう貴明と、
それを見て心底嬉しそうに笑って礼を述べる美凪。

「大丈夫?風子ちゃん」
「だ…大丈夫ですっ。…風子としたことが、あわててカメラへかけよろうと
して、思わず砂に足をとられてしまいましたっ」
 自分の撮影設定ミスに気付き急いでカメラとへ駆け戻ろうとしてバランス
を崩した伊吹風子と、それに追い付き何とか転ぶ前に抱きとめた神尾観鈴。

“お待たせしましたっ!只今、こちらへと転送されました写真判定の結果が
出ましたっ!”

592パラレルロワイアル・その534:2006/05/28(日) 02:42:39
「…るー、お見事…」
 るーこ・きれいなそらは波打ち際に落ちているゴムナイフとゴムボールを
見下ろしながら、感嘆の意を込めてぼそりとそう呟いていた。
 ゴムボールは元々、23話にて元83番・三井寺月代がロボピッチャーで
射出し、元52番・セリオがセンサーで打ち返して、元30番・砧夕霧へと
命中した一球がそのまま砂浜に転がっていたのを、約四十七時間ぶりにその
至近距離にて撮影位置に立っていたるーこに発見されたものであり、セルフ
タイマーが切れると同時に伸ばした自在鉄扇で、カメラ目掛けてビリヤード
の玉の如く弾き飛ばされていたものであった。
 だが結局、そのゴムボールはカメラへと到達する前に、はるかが投げつけ
美汐に弾き飛ばされたゴムナイフと空中衝突し、共に空しく波打ち際の方へ
と落ちて行く結果となったのであった。
「…るー、流石だ…」

 そんなるーこの元へ、満面の笑みを浮かべた祐介が美汐を伴って足取りも
軽く近付いて来ていた。
「…どうか、そんなに神妙に恐れ入らないで下さい、るーこさん…正直な所
、るーこさんのゴムボールだけは実は偶然、運良くナイフが当たってくれて
防ぐ事が出来ただけなのですから…」
「本当に謙虚なんだね、美汐は。……でも美汐のおかげだよ。実際、あの時
の僕はほとんどカメラと風子ちゃんの事しか作戦の視野に入っていなかった
のも同然だったし、まさかみんなも最後の瞬間にアクションを起こすなんて
夢にも思わなかったし……それにしても、さすがに河野さんの水鉄砲だけは
本当に、回避出来た事自体が奇跡というのか幸運というのか…でも最後には
何とかこの通り、僕と美汐で…」

“さあぁっ、それではいよいよ、勝者筆頭格の方のお名前の発表ですっ!”

 …しかし…それでも祐介たちの方へと振り返る事も無く、波打ち際の方を
向いたままのるーこが呟き続けていた、賞賛の言葉―――その最後の瞬間に
起こった数々の出来事の真実たる内容―――は、聞いた祐介と美汐にとって
は、本編544話並みの青天の霹靂であった。

「…るー。確か、本編792話のアナザーだったな。…ベネリM3S90・
投げナイフ二本・シグサウエルP230の四刀流という超離れ業でうーねん
を倒してのけて見せたのは…今度はそれを、うーともの剣・なぎーのお米券
・うーみしが弾き飛ばしたゴムナイフ・そして、ポラロイドカメラの四刀流
でやってのけたという事なのか、しかも全て法術で…心底に恐れ入ったぞ、
カー……いや、元33番・うーきと!」

「…ええっ!?る、るーこさんっ、何をおっしゃってっ…!?」
「四刀流っ!?ポラロイドカメラっ!?…も、元33番っ…!?」
 信じられない言葉の連続に耳を疑いうろたえ始めた美汐と祐介の視界の中
、るーこが向いている波打ち際の海中から、水飛沫を上げて一人の男がその
姿を現した。

593パラレルロワイアル・その535:2006/05/28(日) 02:44:21
「…ったく、焦ったぜ。530話直後にいきなり変身が解け始めやがるもん
だから、水着じゃねえのに海水浴だ…」
 そうぼやきつつ濡れ鼠で砂浜へと上がり、るーこへと会心の微笑を向けた
男は次の瞬間、一直線に駆け寄って来た少女にいきなり飛びつかれバランス
を崩し、再び少女もろともに波打ち際へと水飛沫を上げて転倒した。無論、
下敷きとなっているのは男の方だ。

「こっ…こんなぶっ飛び方ないだろ、あんまりだ(泣)……どうして、こんな
再開を……俺はただ……お前がそばに来てねぎらいとタオルの一枚でも欲し
かっただけだったんだ」
「ごめんねっ、往人さん…でもわたしは、ゲームが終わって濡れちゃっても
失格の心配なくなったから…だから、思いっきりにゴールしちゃった…♪」

“おおーっと、この大アップのVサインはっ…24番依頼人・神尾観鈴さん
でーすっ!…写真判定の結果は、リハーサル通りの単賞⑨の1.1倍、連勝
②−⑨の1.4倍…勝者筆頭決定戦は、ガチガチの出来レース鉄板で決着が
着きましたーっ!”




「いろいろなことあったけど…ぼく…がんばって、よかった。つらかったり
、苦しかったりしたけど…でも…がんばって、よかった。ゴールは…幸せと
いっしょだったから。ぼくのゴールは、幸せといっしょだったから(ざぶ…)
ひとりきりじゃなかったから…(ざぶざぶ…)」
「…あああっ。ですから祐介はひとりきりじゃないんですっ。ずっと、私と
一緒なんですっ。ですから…祐介っ!(わたわたっ)」

「るー。やはり万全の筈の策が破られたショックは相当なものだった様だな
、うーすけ…」
「でも、るーこ…天野さんの方も、何かもの凄く大胆な事をポロリと言って
のけちゃった様な気が、するんだけど…」



【残り 8名】
 ゲーム終了/勝者以下
①024番依頼人・神尾観鈴及び、024番代戦士(替玉)元033番・国崎往人
 (替玉発覚はゲーム終了・判定発表後のため、反則ペナルティは免除)
②005番・天野美汐
③064番・長瀬祐介
④026番・河島はるか
⑤062番・遠野美凪
⑥110番(二代目)・伊吹風子
⑦122番・坂上智代
⑧125番・ルーシー・マリア・ミソラ




 ちなみに…この直後往人本人の声を聞いた智代が、492話の謎の歓声の
正体に気付いて暴れ出し大変な騒ぎになってしまったというのは、些細なる
余談であった。

 そして―――
 to be continued……last episodes……

594パラレルロワイアル・その536:2006/06/03(土) 21:36:12
 ボーーーッ!!…

 ゲーム開始から約84時間後・ゲーム終了から約36時間後…港・ヨット
ハーバーエリアより来栖川アイランドからの帰路についた葉鍵の来訪者達を
乗せた豪華客船“蒼紫”が、日本を目指して出港していた。 他にも、原潜
“アヴ・カムゥ”や揚陸艇“スメルライクティーンスピリッツ”原子力空母
“キング・バジリスク号”や高速駆逐艦“ソルジャー・バジリスク号”とか
更には、来栖川航空高速便やステルス核爆撃機“ムツミ”といったそれぞれ
の帰還手段で帰路についた者達の船影・機影も周りにちらほらと目視出来る
し、ゲーム終了後の島の各所の修理・清掃・回収作業をするために未だ島内
に留まっている者達もきっと存在するのだろう。特殊な手段で自分達の住む
世界へと戻っていった者達もいるのだろう。

 そんな“蒼紫”に乗ってないそれぞれの者達へと別れの一瞥を送りながら
、“蒼紫”最後部のVIP用デッキの手摺りの部分で涼みながらたむろして
いるのは、ゲーム勝者の三人。元026番・河島はるかと元062番・遠野
美凪、そして元125番・るーこきれいなそらである。

「るー。さらばだ、来栖川アイランドよ」
「…それにしても、ずいぶんと歩いてしまいました」
「ん。閉会式でもあの鼻にデカイ絆創膏を付けていたアロウンさんって人が
言ってたけど、来年の戦いはもっと派手になるみたいだね…」
「…といいますか、閉会式・授賞式が見事に省略されてしまいましたね…」
「るー、本編名物・スタッフロールもだ。…ゲーム終了後をデレデレと未練
たらしく引き伸ばしたくないからというのが作者の言い訳らしいが、あれは
恐らくは面倒臭いからというのが本音なのだろうな」
「ん。特にスタッフロールの方はそれに間違いなさそうだね。…で、ところ
でみちるちゃんは?」
「…河野さんと、往人さんのお見舞いに船内医療室へ行っている筈です」
「全治一週間だったからな…うーはらなら全治三日程度で済む所なのだろう
が…で、うーすけとうーみしの方はもう大丈夫なのか?」
「ん。草壁さんのお見舞い品の本編ファンブックの表紙絵のおかげで、精神
的にはほとんど立ち直っていたって、これまたうれしそうな顔した彰と初音
ちゃんが言ってたよ」
「…そうでしょうね。何といいましても本編絵描き様の方々の中で唯一方、
二冊分ご担当なされた方の作品なのですから…そういえば、風子さんは一体
どうしているのでしょうか…?」
「るー。ふぅーなら最初からここにいるぞ…もっとも、中身の方はあっちの
世界へ行ってしまっているようだな…作者からも頭数に入れられてないから
恐らく、この話での出番は回ってこないとるーは思うが…」

「ハイ、と言う訳でMM…ではなくて、パラロワ最終話前部も私たち三人で
“蒼紫”船尾よりお送りします。」
「…ん。美凪もアンソロ参加者様の世界へ行ってなくていいから」
「るー…ダイエットコーラの入ったるーはちょっぴりトーキングヘッドだ…
もう、あることないこと喋ったりするぞ。」
「……だから、るーこも一緒に行ってるんじゃないって!」
「…ですけどそろそろ、このお話を読んで下さっている読者様からご質問の
おハガキが届いてきそうな雰囲気なのですが、はるかさん」
「うむ。『大切な最終回なのにどうしてたった三人だけしか登場していない
のか』と尋ねたくなるのが当然というものだな」
「ん。その辺の理由はこの後の最終話中部・後部にて説明させて貰うって事
なんだけど……作者さん半休載取っちゃって、今週分はここまでなんだって
さ…」

「と、言う訳で改めて残り2話、宜しくお願いしますね。」
「もう飽きたとか言わないでほしいぞ。」
「………だから二人とも、戻らないと怒るよっ…!」

595パラレルロワイアル・その537:2006/06/10(土) 19:37:27
【最終話中後部・パラロワの環】
*535話ラストの『些細なる余談』が補完されて偶然誕生した、パラロワ
ラストエピソードである。535話を理想の決着と思われている読者様は、
読まないことをおすすめします。




「るー。それにしても、535話ラストの『些細なる余談』は結果的には、
本家『灯台編』本編『小屋編』に並ぶ、『砂浜編』とも呼ぶべき(?)何とも
痛ましい出来事だったな」
「ん。まずは元033番こと、024番代戦士の国崎往人さん。怒気満面の
元122番・坂上智代さんに…って、そうそう、智代さんの方は今一体どこ
にいるのかな?」
「るー。うーともはこの船ではなく“スメルライクティーンスピリッツ”の
方に乗って行ってしまった……一人になって考えたい事があるそうだ」
「…ある意味一番、色々とイベントがございました方ですしね……果たして
次回は蔵等とIWL、どちらの枠からの御参戦になるのでしょうか…?」
「というよりはもしかしたら次回、男うーともが両枠から一人ずつ参戦する
という、超現象が起こったりするのかもしれないな…(汗)」

「…ある意味相当キモいかも、それ(汗)……じゃあ、話を戻すね。で、その
智代さんに手に持ったままの剣で手加減なしの滅多打ちにされちゃって…」
「…全身打撲で全治一週間……あのう、るーこさん…こう言っては何なので
すが、あの時そばにおられたのですから、智代さんを何とかお止め下さる事
は出来なかったのでしょうか…?」

「無理だ(キッパリ)。…あの時のうーともの怒りの表情は尋常の域をはるか
に超えていた(汗)…いかなるーとはいえど、あの時はすずーがとばっちりを
受けないように無理矢理抱えて逃げ出すのが精一杯だった…」
「ん。確かに、あの時の智代さんの顔は凄まじいものがあったね(汗)…確か
三ヶ月ほど前、“維納夜曲”のオジサンが柏木家長女用のバースデーケーキ
の注文を受けた時に、蝋燭の数を十本ほど間違えちゃって……」
「…よく、生きてらっしゃいましたね(汗)…」
「るー、それでか…お陰で店ちょうー退院の7月になるまで、あの店の美味
しいケーキが食べられなかったのだ」

「…その時の長女様の顔と甲乙つけがたいものがあったって、モニター観戦
していた初音ちゃん、思い出し泣きしながら言ってたよ(汗)……で、話を元
に戻すよ。次に元110番・伊吹風子ちゃんが、その智代さんの超憤怒相を
すぐ隣で見てしまったショックで、慌てて逃げ出そうとしちゃって…」
「正直、ふぅーの場合はその場で失神とか失禁とかしなかっただけでも賞賛
に値するぞ…」
「…それで、三脚付きポラロイドカメラの方へと突進して行ってしまって、
真正面から接触してしまって…」
「ん。東スポ風にいう所の『プチ最悪!!伊吹風子、三脚相手に垂直落下式
ブレンバスターKO負け』になっちゃったんだよね(汗)…」
「本当に妙な所で器用なのだな、ふぅーは(汗)…」

「…とまあ、智代さんご自身の方の騒動はここまでで何とか収まりがついた
のですが…」
「るー、その後に更なる大問題が発生してしまったのだったな」
「…風子ちゃんにブレンバスターをお見舞いしちゃった三脚が、ポラロイド
カメラにまで死亡ダメージを与えちゃって…」
「…その結果、本来535話にてスタッフ側に転送されて、勝者筆頭判定に
採用されたはずの、元024番依頼人の観鈴さんの大アップVサインの映像
データがものの見事に壊れてしまいまして…肝心のフィルム現像が出来なく
なってしまったのですよね…」
「ん。特務機関CLANNAD最悪最後のコンビプレーというべきなのか」
「るー。そのために、一旦終了宣言がなされていた筈のゲームが、図らずも
次の瞬間再スタートする事となってしまい、その結果……

 024番代戦士・国崎往人…終了前不正発覚及びドクターストップで脱落
 024番依頼人・神尾観鈴…リンク・デッドで脱落
 064番・長瀬祐介…既に肩まで入水により脱落
 005番・天野美汐…064番を追い、胸まで入水により脱落
 110番・伊吹風子…自爆により脱落
 122番・坂上智代…ゲーム最初で最後のオーバーダメージにより脱落
【残り 3名】





……次の瞬間、ホテルで待機観戦をしていたすずーママは、20階の窓から
下の川目掛けてゴールしそうになったそうだぞ」

596パラレルロワイアル・その538:2006/06/10(土) 19:39:21
「…一気にドミノ倒しのように脱落者が続出してしまいましたのですね…」
「…それで結局、残ったのが私達三人…カメラも壊れちゃった以上は最後の
一人になるまで頃し合いしなきゃダメかな?…って、それぞれ、最後の投げ
ナイフとウェザビーMk−Ⅱと自在鉄扇を構え合いながらそう思っていた所
に、河野君が海の家から写るんですを持って来てくれて…」
「…河野さんの記念撮影で今度こそ無事、ゲーム終了となったのでしたね」
「でもよく、うーの記念撮影をはるーもなぎーも信用して大人しく写された
ものだな?」
「…そりゃそうだよ。もし河野君がるーこ一人を勝たせたいって思ってたの
なら、カメラなんか持って来ないで最初から黙って見ていたはずだし」
「…二対一でも、るーこさんにはきっと勝てそうにありませんですから…」
「いや、もしもはるーがキノコの食べ残しをなぎーと分け合っていたらば、
勝負はどう転んだか判らなかったぞ」
「「…そうかもしれない(ません)ね…」」

「るー。で、配当の方はというと……
 単勝・③3.3倍、④3.2倍、⑧2.5倍
 連勝・③−④10.6倍、③−⑧8.3倍、④−⑧8倍
 三連単・③−④−⑧26倍
 ……という高配当になったそうだぞ」
「…ですが果たして、この組み合わせに賭けて下さった方がいらっしゃるの
でしょうか?…なにぶん、本編では最短命のタッグでした、私とはるかさん
なのですから…」
「そう自分達を卑下するものではないぞ。確かに、目立った活躍もなければ
異性の相棒も得られなかったうーたちだったが、最初期からゲーム参加して
見事、最後まで生き残って見せたのだからな…これは大変誉れ高き事だぞ」
「…そんな、廖化さんみたいな褒められかた、嫌です…」
「…それに、私達から見れば、ゲーム終盤に颯爽と能力乱入して、本編花形
の参加者達と競演しまくった挙句に、智代さんと一緒にラストの美味しい所
を二人占めして、異性の相棒とちゃっかり生き残ったるーこの方がよっぽど
羨ましいよっ」

「るー!そんな、しばうーたつみたいな褒められ方、るーは嫌だぞっ!…と
まあ、そっちの話はひとまずおいて置いてだ、③−④−⑧の三連単の方だが
…大枚注ぎ込んで大儲けしたうーが、実は一人だけいるらしいと、うーかり
ママから聞いてたりするぞ」
「…ベイダーさんからなのですか?…一体、どなたなのでしょう…?」
「るー。うたわれ組の遅刻不参加者で、名前の方は確か…うー、うー、うー
ると………………るぅ、済まない…思い出せなくなってしまった…」
「ん。でもひょっとしたらその、うーると何とかさんって人、実はラストの
全てを仕組み、この決着を確信した上で三連単に注ぎ込んじゃってた、次回
の黒幕だったりなんかして…」
「…そうだとしましたら、お金だけではなくて、次回ゲームの会場主催権も
賭けの対象になっていたのかもしれませんね…」

「るー。幾らなんでも、そんな出来過ぎた伏線は流石に無いと思うぞ…」
「…私もそう思います。…ですが、もしそうだとしましたら、そのうーると
何とかさんって方はどうして、私達を最終勝者に選んだのでしょうか…?」
「…ん。もしかしたら、チャンスはどんなキャラクターにでもあるんだって
、本命クラス以外のみんなにも次回の危険をさせないために、私達を選んだ
のかもしれないね……って、言いだしっぺでなんだけど、るーこのいう通り
やっぱりこの最終決着が計画的に仕組まれてただなんて…そんな事、絶対に
ありっこないよねっ」
「るー。同感だ」
「…うふふ、そうですね」




「…お客様方、夕食の準備が整いましたので、どうぞ食堂の方へとお越し下さい」

「ん。それじゃ行こうか…ありがと、金髪のメイドさん」
「るー、そうしよう…報告感謝するぞ、巨乳のメイドうーよ」
「…では、参りましょう…お疲れ様です、羽付きのメイドさん」
 そして、あっちの世界へ行ったままの風子を連れた三人の姿がデッキより消えていく。




(――――――お三方とも)
 最後に。
(――――――感謝致しますわ――――――)
 そういって、金髪巨乳の羽付きメイドは自世界へと姿を消していった。


 TO BE CONTINUED NEXT GAME.SEE YOU SOON.

《パラレルロワイアル 終》


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