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ネタバレ@ボロ/レゴ  いいですか

1萌えの下なる名無しさん:2005/02/19(土) 02:07:50
かつての女神樣方に一言。
お送りしたいのです。

2萌えの下なる名無しさん:2005/02/19(土) 02:12:52
すみません。
本当に、
オマージュだけです。


白く輝く丈高き塔に日射しは降る

いまを盛りと咲く花
驟雨

彼の人の面差しを問えば
花はさざめき
枝枝に鳥の羽音が
雨を追う


君よ
その暖かきまなざしを光にかえ
この緑葉を照らしてはくれまいか

君よ
その柔らかき吐息を風にかえ
この緑葉をさやがせてはくれまいか

君よ
その甘やかな囁きを雨にかえ
この緑葉を潤してはくれまいか

君よ
その清らかな涙を雪にかえ
この緑葉に叶わぬ眠りを

訪わせてはくれまいか


繚乱のただ中
緑葉は立つ

双眸に光りたたえ
永久を
たつ




つまらないものをおおくりしました。
大変、失礼を。

3萌えの下なる名無しさん:2005/02/19(土) 02:20:00
リスペクト、なんです。

4萌えの下なる名無しさん:2005/02/20(日) 20:46:59
おお! 新たな女神さまが!!
ちょっと落ち着いた時期なので新たなスレは嬉しいです。
きれいなイメージの作品をありがとうございました。

5萌えの下なる名無しさん:2005/02/24(木) 01:34:25
4さまえ

こちらこそ、ありがとうございます。
まさかお褒めの言葉をいただけるとは思いませんでした。
……そう、落ち着いている時期なので、場違いかなとは思ったのですが。
すごくうれしいです。

ありがとう。

6萌えの下なる名無しさん:2005/03/14(月) 23:32:18
作ってみました。
おそらくあまりにあっさりしすぎていて、物足りない方も多いかと。
なんかもう既に語られ尽くした感もあるのですが、
自分なりにやってみました。
ん〜もしもどっかで見たシチュエーションがあったとしても、そこはひとつ。









「大丈夫ですか?」
「ああ、たいしたことはありません」
 手許がふいに暗くなり、ボロミアは声の方に顔を向けた。そこには大きな碧い瞳が二つ。白金の長い髪が、しゃらりと音をたてそうな風情で揺れている。
「血が出ている」 
「かすり傷ですよ、すぐに始末します」

 ついさっき、ガンダルフとレゴラス、そしていささか苦労してよじ上ったギムリのあとについて、小さな岩場を越えようとしたホビットたちが、なにを思ったか四人同時に岩場に飛びつき、案の定、互いの足と手をもつれ合わせて滑り、一斉に、後ろに控えていたボロミアの上に降ってきたのだった。とっさにボロミアは両手を広げて全員を抱えようとしたがもちろん叶わず、できるだけを引っ掴んで真後ろに倒れ込み、団子になって下り坂を転がり落ちた。ボロミアの真後ろにいたアラゴルンがこぼれたのを引き受けてくれたらしく、「おう」などと言いながらそのこぼれたのを抱え、背中からひっくり返るボロミアとそのお荷物をさけるように身を引いたのを、ボロミアは何とも言えぬ想いで眺めながら転げ落ちていったのだった。
 わあ、だのひゃあ、だの口々に騒ぎながら三人のホビットたちは立ち上がり、頭を坂の下にしてぐったりしているボロミアに今一度すがりついた。
「たいへんだ!ボロミアさんが失神してるよ!ねえ大丈夫ですかボロミアさん!ねえねえ!」
「馳男さん!ボロミアさんが大変だ!」
「どうしよう!ボロミアさんが!」
 フロドとメリーとピピンは、一斉にボロミアにしがみつき、腹だの胸だのの上によじ上る。それはそれで苦しい。
「……あ、ああ、わたくしは何ともありませんぞ、小さい人々!大丈夫ですから、早くガンダルフのところまでおいでなさい」
「ボロミア、起き上がれるか。怪我は?」
 坂の少し上で、サムを抱きおろしながらアラゴルンが問う。
 こぼれたのがサムでよかったと、そのときボロミアは心のうちで思っていた。小さいとはいえ、サムまで抱えていたのであれば、この坂道の滑落はさらに尋常ではないところまで進んでいただろう、と。
「いささかなりとも……いやしかし、しばし時間をくださればすぐにでも」
 体を起こし、不安げなホビットたちに微笑んでみせる。
「体がお役に立つべき身であれば、何ともござりませぬよ、小さい人」
 駆け寄って来たサムも、フロドを気遣いながらボロミアにすまなそうな瞳を向ける。
「アラゴルン、この方々を岩場の上へお連れください。そしてできたら、その場で小休止をと、ガンダルフに」
「わかった。いくぞ、フロド、ほら、サムも。メリー、ピピン!」
 アラゴルンの、野伏らしいぶっきらぼうな指図に、フロドとサムはすぐに付き従う。メリーとピピンは、もじもじしながらおそろしそうに、ブーツの紐を解くボロミアの少し離れたところから動かない。
「……どうなされたお二方」
「……怪我をしたんですか、ボロミアさん」
 メリーが震えるピピンを後ろに従えて聞いてくる。
「だとしてもかすり傷でしょう。ただ、確かめるだけです。ご心配なされるな」
「でも」 
「大丈夫大丈夫。ご存じないでしょうが、わたくしはゴンドール随一の戦士なのですぞ。屈強な敵を相手に、日々戦ってきた者です。
 さあさあ、お仲間が心配しておられる。早くお行きなさい。アラゴルンが岩場で待っております」
 口元を引き締めて、メリーはうなずくとピピンを連れてアラゴルンの許へ走りよる。そのアラゴルンも岩場のむこうへ消えたのを確認して、ボロミアは小さく舌打ちした。
「これしきのことで」
 転げ落ちた時に具合悪く、尖った岩がボロミアの向こう脛を襲ったのだった。左足のブーツの紐を解き、脱ぎ去ると、脛の一カ所、ぶつかった拍子に裂けたのか、ぱっくりと傷口をあけている。足指が動くので、神経組織までに損傷が及んでいないのは幸いだった。
 さてどうしようかと想いあぐねていた、その時だった。

(1終わり/続く)

7萌えの下なる名無しさん:2005/03/14(月) 23:33:42
(2です)


















「大丈夫ですか?」
「ああ、たいしたことはありません」
 手許がふいに暗くなり、ボロミアは声の方に顔を向けた。そこには大きな碧い瞳が二つ。白金の長い髪が、しゃらりと音をたてそうな風情で揺れている。
 さっきガンダルフの後ろからひょいひょいと飛ぶように軽やかに岩場を登っていったはずのエルフが、ボロミアの正面に片膝をつく。傷を覗き込んだ。
「血が出ている」
「ああ、大丈夫、かすり傷ですよ。すぐに始末します」
「裂けているじゃないですか。けっこう深そうだ。腐ってしまったら大変です」
「そんなことはないでしょう」
 笑いで納めようとして、真正面の碧い瞳に射抜かれた。
「アラゴルンを呼んできます。アセラスを使えば、腐ることもない」
 大真面目に早口で言うとすぐに駆け出そうとしたエルフの手首を、とっさに掴む事に成功した。碧い瞳の闇の森のエルフは、不機嫌を隠そうともしない表情で荒々しく振り向く。
「お待ちを。……レゴラス。王の葉など、大袈裟です。消毒をして傷口を塞げば何ともありません」
「……無理に血を止めれば、あとは腐るばかりですよ」
 うわずったような、エルフの怒りの声。
「そんなことはありません」
「あなたは薬師?」
「……いや」
「なら何がわかるというのです!」
「……自分の体の事でありますれば」
 ボロミアはレゴラスの目を見た。まっすぐに。レゴラスの目が動く。掴まれた腕を気にして、幽かに身じろぐ。
「お、……ああ、失礼いたしました」
 その手を離したボロミアは礼儀正しく謝罪し、頭を垂れる。垂れた目の前にむき出しの己の向こう脛がある事は考えない事にして。
「ゴンドールを出る時に、療病院から贈られた薬があります。薬師が調合したものです。消毒をして、それを塗れば、間もなく治りましょう。
 大変、ご心配をおかけして申し訳ない。レゴラス殿」
 ボロミアはそういうと自分の荷物の中から薬のはいった容器と布を取り出す。もうひとつ小さな瓶の中のアルコールを口に含むと、ぷっと傷口に吹きかけた。ボロミアの正面に膝立ちになったまま黙りこくっていたレゴラスの手が薬の容器に伸び、布を取る。
「レゴラス?」
「ご自分ではやりづらいでしょう」
「おお、かたじけない」
 レゴラスは少し俯いたまま黙々と手だけを動かす。薬を塗り、布で巻いて、一拍息をおき、ぎゅっと力を込めて縛る。坂道を転げ落ちてから、一度も痛そうな顔も苦しそうな声もあげなかったボロミアが、その瞬間、喉の奥でうっと唸る。
「痛いですか」
「……いや、なるほどエルフの方は話に聞く通りの力をお持ちだ。しっかりと縛ってください。傷口の塞がるのが早かろう」
 ふふ、とやっとレゴラスは小さく笑い声を上げた。
「無茶なことを言っちゃいけません。血が止まってやっぱり腐ってしまう。少しきつめぐらいがいいんですが、これぐらいですか」
「はい」
 俯き気味のまま、レゴラスは薬の容器に蓋をし、余った布を丁寧にたたむとボロミアの手に戻した。そして顔を上げた。
「岩の上まで、私が運んでさしあげます」
「は?」
 薬を荷物の中にしまっていたボロミアは、思わずレゴラスの顔を見た。先ほどの険しい表情は消え去り、微笑んでいる。
「あの岩場はこちらから見るよりもずっと高いんです。その怪我では登れません。ですから私が」
「滅相もない、大丈夫ですよ」
 ブーツの紐をしっかりと結び直し、革手袋をはめながらボロミアは笑い、盾を掴むと剣を支えに立ち上がろうとした。ぐらりと傾ぐ。
「お…っと」
「ほらやっぱり!素直になってください。お願いですからボロミア!」
 あわててレゴラスはボロミアの正面に回る。首を振り、笑いながらボロミアはその腕を柔らかくどけた。
「ご親切はありがたいのですがレゴラス」
 再び眉間を寄せたレゴラスに笑顔を向ける。
「結構ですよ」
 勢いをつけて盾を担ぎ、レゴラスに背中を向けて歩き出す。傷が痛まないはずはないのだろうが、しっかりと足を踏みしめるいつもの足取りで岩場に向かい、ゆっくりと登りだす。
「あなたはお先にお行きなさい。わたくしは少し遅れるが、すぐに追いつきますと、皆にお伝えください」
 レゴラスは何も言わず、その後ろ姿が岩場をどうにかこうにかよじ上り、景色のむこうに消えるまでただ立っていた。

(2終わり/続く)

8萌えの下なる名無しさん:2005/03/14(月) 23:36:28
(3)

















 陽が暮れるとすぐに潜り込んだ小川沿いの小さな林の奥で、一同はたき火を取り囲んでの夕食をとり、今夜一晩をここで過ごす事になった。
 食事当番を自分たちからかって出た4人のホビットたちは、いつものようににぎやかに、大騒ぎをして後片付けをすませると、川からたくさんの水を汲んで来て、子馬の背に積んだ中でも一番大きい鍋と薬缶で湯を沸かし始める。サムは薬缶に薬草茶を入れて煎じ、大きなマグひとつだけに注ぐと松明を掴み、「今夜のお茶は薬湯ですだ。みなさんご自分でお好きに飲んでくだせえ」とアラゴルンたちに捨て台詞を遺し、たっぷりの湯の沸いた大鍋を、フロドとメリーとピピンがウンウンいいながら運ぶ先導に立つ。
 何事が始まるのかと顔を見合わせるギムリやガンダルフ、そして苦笑するアラゴルンをほったらかして4人が向かうのは、焚き火から少しだけ離れた大きな木の下に、もたれて座るボロミアのところだった。
「おやおや大騒ぎだ。大丈夫ですかな、小さい人々。どこにお出かけです、お持ちしましょうか?」
 火に暖められて傷がいたむのを避けていたボロミアが、顔を真っ赤にして鍋を運んで来たホビットたちを見ると破顔して立ち上がろうとする。
「立っちゃ駄目ですだ!ボロミアの旦那、これを!」
 サムが駆け寄り、薬草茶をたっぷりいれたマグをボロミアに手渡す。ボロミアから少し離れた地面に松明を突き刺して手明かりにした。
「そうだよボロミアさん!座っていてください。僕たち今日の昼間のお詫びをしに来たんですから!」
「お詫びですか」
 フロドが額の汗を腕で拭い、尻のポケットにねじり込んでいた汚れていない手ぬぐいを取り出す。
「お風呂です」
 ピピンも白い手ぬぐいを取り出して、にっこりと笑った。
「風呂ですと?」
「うん。今日僕たち無茶をして、ボロミアさんに怪我をさせてしまったから。だからさっきからボロミアさんはそこにずっと座っていて川で汚れを落とす事もできなかったし、動くのも大変そうだから、だから今からこれで拭いてあげます。ぅわあ!」
 メリーが同じように手ぬぐいを取り出し、鍋一杯の湯に手を突っ込んで叫び声をあげた。フロドとサムとピピンが暴れるメリーを押さえ、それでもやはり大騒ぎをしながら自分たちも湯に手を突っ込んでわあわあと騒ぐ。
「どこから拭えばいいですだか、ボロミアの旦那」
 湯をかぶってびしょびしょになりながら、やはりよくしぼれずにびしょびしょの手ぬぐいを手に掴んだ4人が手も顔も真っ赤にして笑いかけた。
「早く着物を脱いでください!ボロミアさん」
 目の前で繰り広げられる大騒ぎを大口を開けて眺めていたボロミアは、我に返ったように目をしばたたくと、膝を叩いてひとつ大きく頭を下げた。
「かたじけない。小さい人々。そこまでしていただいたのではかえってこちらが恐縮いたします」
「そんなことないですよ!だって僕たちには全然怪我なんかないんだから」
 メリーが待ちあぐねたようにボロミアの横に近寄り、そのひげ面をびしょびしょの手ぬぐいで拭こうとするのを柔らかく押さえ、ボロミアはにっこりと微笑んで布だけを受け取った。
「……それでは、ご好意をありがたく受け取らせていただきます。ただ自分の体は自分で拭いましょう。布をしぼって順番にわたくしにお渡しください」
「そんなんじゃあ」
「わたくしの体は皆さんの何倍も大きいですぞ。何度もしぼってお渡しいただかないといけません。そのご苦労をおかけしようと思います」
 4人は黙って目を合わせ、ややあって小さくうなずくとにこにこしながら手ぬぐいを一生懸命絞りはじめた。ボロミアの傍らにフロドが立ってマグを預かり、順番に渡される手ぬぐいをボロミアに手渡す役目をする。ボロミアはもろ肌脱ぎになり、顔やら首やらを気持ち良さそうに拭い始めた。
ンも、にこにこすると互いに頷き合い、鍋やらマグやら松明やらを抱え込み、ボロミアにおやすみの挨拶をしながら焚き火の方に戻って行った。
(3終わり/次で最後です)

9萌えの下なる名無しさん:2005/03/14(月) 23:39:18
(すみません4/この後も続きます)

















 焚き火のむこうではギムリが松明を掲げて小さい人々を迎える。鍋を受け取り、4人と一緒に川の方へ向かう。にぎやかにおしゃべりしながら、明かりの向こうに姿を消した。
 ガンダルフは焚き火の前に座り込み、とんがり帽子に隠れて顔はみえないものの、林の彼方、闇の向こうを眺めている。アラゴルンは見回りに出たのか、姿がない。
 と、ふらりと明かりの輪の中に姿を見せたのはエルフのしなやかな姿。焚き火の少し手前を横切る姿は陰になり、ボロミアから表情は見えない。その姿が立ち止まり、ボロミアの方を見た。やはり顔は見えない。じっと、ボロミアの座るあたりに顔を向けている。
 何か用事でもあるのかと体を動かそうとしたら、エルフのシルエットがそれを止めるように手を挙げ、くるりと振り向いて焚き火の側から松明を一本取りあげるとそれを捧げるように近づいて来た。目が合うと、にっこりと微笑む。松明の明かりを受けて、碧い瞳がきらきらと反射した。
「おや!随分こざっぱりとしましたね。どうしたんです?」
「小さい方々がわたくしにご奉仕くださいました。風呂をつかわせてくださったのですよ」
「それはよかったですね。さっきまでのあなたときたら、昼間坂道を転がったままの泥だらけでしたから」
「面目ない」
「今度こそあなたを川までおぶっていこうと思っていたのに、小さい人々に先を越されてしまったな」
「ご冗談を」
「本気です」
 レゴラスは真顔で言い切ると、松明をボロミアの斜め前の地面に突き刺し、正面にあぐらをかいた。片手を差し出す。
「なんです」
「寝る前に、傷の様子を見ます。さっきの薬を出してください」
 もう片方の手は、腰に下げた革製の水袋を取り出した。
「……それは、重ね重ねかたじけない」
 なぜこのエルフは、怪我の事を話す時に不機嫌になるのだろうかと、不思議に思いながらボロミアは言われた通りに荷物の中から薬を取り出した。ブーツを脱ぐために紐を解こうとすると、エルフの細い手がボロミアの手を押さえた。
「レゴラス?」
「じっとしていてください。さっきの布を傷口からはがしますから、きっと痛いですよ」
 つと顔を上げてボロミアを正面から見る。口の端を少しだけあげ、「私の肩でも腕でも、つかんでいますか?」目を細める。
「結構ですよ。レゴラス」
 つられてボロミアも微笑んだ。背を木の幹にあずけ、腹の上で両手を組む。レゴラスの手は手際よくブーツを脱がせ、昼間力を込めて縛った布の結び目を解いて行く。くるくると二回、巻きをほどき、薬と傷口からにじみ出た体液で堅く固まった布を、一気にばりっと引きはがす。瞬間、ボロミアの腹筋が揺れ、閉じた口と鼻の奥からぐっと息が漏れる。レゴラスがすかさず見上げると、ボロミアは眉を上げて、にやりと笑ってみせた。
「強情なんだから……」
 喉の奥で笑いながらレゴラスは松明の明かりが届くように自分の体をずらし、傷口を丹念に調べはじめる。革袋の水を、懐から取り出した真っ白な布に浸し、傷口をそっと拭う。
「よかった。ほとんど傷口がふさがっています。もう一度消毒をしたいのでさっきお使いだった酒の瓶を」
 ボロミアが手渡すとためらいもせずにそれに口をつけてぷっと傷口に霧を吹き付ける。瓶を眺め、何とも言えない表情でボロミアを見やる。
「どうなさいました」
「これはあなたのお国の酒ですか」
「いや、飲料用ではないですぞ。専ら医療に用いられるもので、非常にアルコールの濃度が高い」
「ならよかった。あなたのお国の人々が普段からこんな味もそっけもない、酒精だけが強いものを好んで飲んでるのだとしたら、ずいぶんひどいお国だと誤解してしまいそうだ」
「それはあんまりだ」
 手の甲で口を拭うしかめっ面の闇の森のエルフとゴンドールの大将は、目を見合わせて苦笑した。
「今度はあまり強く縛らないようにしましょう。ほとんど傷はふさがっているし、腫れてもいない。……よかった」
 傷口に薬を塗り、今度は小さく裂いた布をその傷口に当てて、残りの布を細く裂いてくるくると巻く。小さな結び目が傷口に触れないように横の方で縛り、レゴラスはそっとブーツを履かせると緩く紐を結んだ。

(4終わり/今度こそ次でおしまいです)

10萌えの下なる名無しさん:2005/03/14(月) 23:45:12
(5/最後です)















「今夜はアラゴルンとガンダルフとギムリが順番で見張りをしてくれるそうです。あなたはゆっくり休んでください」
 両腕を胸の前で組み、左足を立て膝に戻すボロミアは、その傍らであぐらをかいたままほっとしたように肩の力を抜くレゴラスを見やった。
「……あなたは?」
 問いかけに、ふと表情を翻すエルフは松明の明かりに碧い目をつい、と揺らめかせ、ボロミアの視線に瞳の焦点を合わせた。
「私は今夜、あなたの見張りだそうです」
「は?」
 同じようないらえを昼間もしたなと後悔し、しかしボロミアはそれこそどうでもいいかと、少しだけ自分を甘やかした。
「あなたが真夜中、その生真面目な性格を発揮して薪を拾いにいったり、川に魚を捕りにいったりしないように見張っておれと」
「は」
「ガンダルフに言いつけられてきました」
 随分な言われように腹も立つかと思ったのだが、ボロミアはゆっくりと喉の奥で笑い始めた。
 あぐらをかいたまま背を丸め、膝の間で白い両手を緩やかに重ねているエルフも、つられて低く笑っている。
「……驚いたな。わたくしはてっきりあなたに嫌われていると思っていたのですよ。レゴラス」 
 手を伸ばしてボロミアは自分のあごひげに触る。清潔な感触に、ホビットたちに感謝した。
「私もです。触らせても貰えないかと思っていました」
「レゴラス?」
 ボロミアの指が顎から離れる。腕を解いた。
 ボロミアの目がレゴラスの横顔に当てられて、動かなくなる。レゴラスはあぐらをかいていた膝を立てて、両膝の間に顎を乗せ、膝を両腕でかき抱く。
 目だけがボロミアを見た。
「裂け谷で」
 その目が流れる。
「レゴラス」
「私はあなたにひどいことを言った」
 流れた碧が、松明の焔の揺らめきにきらきらと何度も揺れる。
「何も知らずにのこのこ現れたのかと、私はそういう風にあなたを蔑んだんだ」
「レゴラス」
「アラゴルンの事も、指輪の事も、中つ国第三紀の事も。
 ……私だって、本当はよく知らないくせに、中つ国の事をなにもかも知っているようなつもりになって、あなたを罵倒した」
「レゴラス」
 ボロミアは立て膝を解き、傷ついた足の事を思いやる事もなく、
小さく四角く固まったエルフに近寄ろうとする。
 エルフの瞳が揺らめく。どこを見ているのかわからない。
「……エステル……アラゴルン以外の人間を身近にするのははじめてだった。私たち闇の森のエルフは、裂け谷やロリエンに住まうエルフとは違ってどこにでもすぐに旅に出るし、中つ国のいろいろなところでいろんな種族と出会う事が多いから、人間の事だって知っている。でも、人間というのは定められた命の中でしか生きないし、私たちエルフよりもとってももろくて弱い生き物だということぐらいしか知らなかった。深く親しむことなどなかったし。……人間は、エルフを気味悪がるから……。
 あなたがはじめてだったんです。あんな風にまっすぐに、思いの丈を口にする人間を見るのは、本当にはじめてだったから……私は、びっくりして。……そうびっくりして。反射するみたいに立ち上がって、あなたの目を見た瞬間に、その熱に、勝てないと思ったから、卑怯だと思ったけど、イシルドゥアの名を出せば、アラソルンの名を出せばあなたは黙ると思ったから」
「……わたくしがそれで黙りましたかな」
「黙らなかった……それに、王などいらないと……」
「わたくしはいずれゴンドールの執政となり、王のない国を治めていかねばならぬ身。二十四代、王の不在を守って来た父祖から受け継がれてきた、わたくしの中にはその血が流れている。ですからわたくしは、その出自がどうあれ、そうそう簡単に王と名乗る者を認めるわけにはいかない。しかもまだその力もない。信じる事は未だ自由だが、ゴンドールにそれを認める意志がなくば、どうしようもない。……あなたは、わたくしを買いかぶっているのか、それとも、力なき者よ能力の劣るものよと嘲り倒そうとしていらっしゃるか?まだ?」
「だから、今、許してくださいと言っているんです!」
(おわりませんでした/次最後です)

11萌えの下なる名無しさん:2005/03/14(月) 23:46:30
(6今度こそ終わりです)














 レゴラスは小さく叫ぶと首を振り、膝の間に己の顔を埋め、さらに小さく四角く固まって震える。ボロミアを恐れているのか、そうでなければ、なにに怯えているのか。
 白い指が膝頭をつかみ、白金の髪が細かく震えている。弓なりに歪んだ背を、ボロミアは気の抜けた顔で、優しくなでた。
「……許すも許さぬも、悪意でもってされた事ではなし、互いに守る者のある身。それにわたくしたちは、今や目的を同じうする旅の仲間だ」
 少しずつエルフの背の震えがおさまる。時おり肩が揺れる。
「……もう、わかりあえていると。思っていたのですが」
 その瞬間、白金の髪がひるがえり顔を上げ、しなやかな両腕がボロミアの胴に巻き付いた。幼い子供が親にすがるように、顔を見せずにぐいぐいと胸に頭を押し付けてくる。
「ごめんなさい」
 目の下でレゴラスの声がする。
「もうよいでしょう」
 ボロミアは大きく息をつく事ができた。白金の髪を撫でる。
「これでおあいこです」
 びくりと震えるエルフの背を、ボロミアはもう一度撫でさすった。レゴラスはおそるおそるといった風に顔を上げる。
「……おあいこ」
 ボロミアはにっこりと笑った。
「今日岩場で、わたくしの事をおぶっていってくださるとあなたがおっしゃったとき、邪険にお断りしてしまった」
 レゴラスは少し真顔に戻り、体を起こす。
「……そんな、そんなのと一緒にするなんて。別に私は気にしていないし、それに」
「あなたにはその細長いお体に似合わぬ強い力をお持ちだという事がわかりましたし、こんどわたくしに何かあった時には、おぶってでも担いででも、運んでいただくようお願いしようと思いますよ」
 今度はレゴラスは明らかに膨れっ面になった。
「細長いだなんて、私を材木かなにかのように……わかりました、もういいです。黙って見張っていますので、ごゆっくりおやすみなさい。
 今日のあなたの振る舞いは、いつもあなたがホビットたちに接する時の優しさが本物である事だとわかって私はとってもうれしかったのに。ご自分の事よりもいつも、小さいホビットたちの事を気遣っているのが打算などではなく、あなたの本当の優しい心根からしている事なのだということがわかって私は、あなたが少し好きになってきたのに。
 ……一生懸命謝って、損をした」
 くるりと背中を向け、ボロミアから少し離れる。幽かに猫背のその背が、拗ねている。ボロミアはそれを眺めると少し困ったような表情で額にかかった髪をかきあげ、
「そんなにまっすぐにいろいろとおっしゃられては、わたくしとて照れくさい」
 背中に向かって苦笑する。
「15で初陣に出て以来、戦ばかりの人生でしたからな。読む書物はといえば軍記物語ばかりで、伝承物にも詩歌にも疎い。あなた方エルフのように、思いを歌に託したり、気持ちを美しい言葉で飾る事もできぬ」
 エルフの背中に腕を伸ばす。肩に触れる。怒った顔のまま振り向くエルフに笑いかけ、そっと腕を掴んで引くと、レゴラスはふいに不思議そうな表情になり、されるがままになる。
「先ほどあなたの腕は暖かかった。今宵は冷える。
 あなたのぬくもりを、明け方まで分けてはくださらぬか」
 ひかれるままににじり寄り、抱え込まれるままにその腕の中におさまり、ボロミアの厚い肩に頬を乗せて、レゴラスは腕を背中に回した。
「……これでは私だけが暖かいような気がします。ボロミア」
「いや、じゅうぶんに暖かい」
 ボロミアはレゴラスの白金の額に頬を押しあて、深く息をつく。
「眠れますか」
「はい」
「歌をうたいましょうか」
「お願いできますかな」
「子守唄を」
「……わたくしは、果報者ですな」
 もうすっかり機嫌の良くなったレゴラスはふふ、と小さく笑うと自分から強くボロミアにしがみつき、やがて低く低く、歌いだした。
 
 焚き火の火は未だ赤々と燃え、眠るホビットたちと見回りの時間までを休息に費やすギムリとガンダルフを暖める。そして遠く、林の外れ、川のほとりに見回りに出たアラゴルンの耳には、闇の森のエルフの、想いの丈を紡ぐ歌が幽かに届いてきた。
 その想いを恋とも知らず、慕わしい痛みに身を浸し、その優しい暖かさを、その身のうちに小さく灯る煌めきを歌に乗せ、エルフの柔らかく細い声が、月の明かりにほどけて溶ける。

 未だモルドールの脅威の及ばぬエリアドール。霧ふり山脈の西の脇。リーベンデールを旅立ってまだ日の浅い、長い長い旅の、ほんのはじめの頃の、これは些細な出来事。
(おわりです〜!!)

12萌えの下なる名無しさん:2005/03/19(土) 00:29:03
ああ……やってまいまいた。
執政家の人数数え間違え。
ボロミアの初陣なんて適当。

滅びの山に沈んできます。

13萌えの下なる名無しさん:2005/03/19(土) 00:59:47
ごちそうさまでした……!旅の仲間の頃のおはなし、大好きです。
そして ああボロミア、あなたが大好き!
優しいお話をうpってくださった女神さまも大好きですーーー

1413:2005/03/19(土) 01:04:11
すみません、sageを忘れていました。久しぶりに来たものだから……

心の中でお話を反芻しながらお風呂に浸かってきます。(ホビット風呂だといいなぁ

15萌えの下なる名無しさん:2005/03/19(土) 02:02:10

で、コピペ間違ってたの、今気づきました。
ごめんなさいです。
欠けてますです。
今更ここに足してもヘンなので
ごめんなさいです。

ホビット風呂……
湯には浸かれずヌルい絞りの手ぬぐいでも良いと……?

あ、三助ですね。
ホビット三助衆。

入りたひ……

16萌えの下なる名無しさん:2005/03/19(土) 02:28:47
13,14 さま
ありがとうございます。
涙がでました。
落ち着いている時期ではありますから
このまま放置スレになるのだろうと、
覚悟もしていますた。

ひっそりお勤めしようかとおもいます。

次もまた、非常にあっさりなんですが。
折りをみて、うpします。

華やかなスレになるなど、もとより思ってはおりませぬ。

じみ〜に。

171.2.3.5.6.7.8.9.10.11.12.15.16:2005/03/19(土) 23:07:50
コピペの間違いは(3)でした。
あまりにも酷いので、うpします。後半部分のみです。
欠けたところの補填です。
すみません。








 4人は黙って目を合わせ、ややあって小さくうなずくとにこにこしながら手ぬぐいを一生懸命絞りはじめた。ボロミアの傍らにフロドが立ってマグを預かり、順番に渡される手ぬぐいをボロミアに手渡す役目をする。ボロミアはもろ肌脱ぎになり、顔やら首やらを気持ち良さそうに拭い始めた。
「うわあ、ボロミアさんの体、傷だらけだ!」
 ピピンが見た通りを口にする。ボロミアは腕を拭いながら、にやりと笑った。
「昼間申し上げましたでしょう。わたくしは戦士です。怪我なぞ、日常茶飯事なのですよ」
「矢が刺さった事もあるんですか?」
「ありますとも。右の腿でしたかな。その戦いは騎馬でしたので、幸い、すぐに幕僚に戻って手当を受けることができましたが」
「オークの矢ですか?」
「いや、それはハラドリム……南の民との戦でした」
「すごいなあ、強いんですねえ、ボロミアさんは」
「一軍の大将ともなれば、最も強くなければなりません」
「ふうん」
「さあ、これで綺麗になりましたぞ。小さい人々。大変なご苦労をおかけしたがわたくしも大変に気分が良くなりました。ありがとうございます」
 さっぱりとした顔をしてボロミアは微笑み、上着を素早く着ると周りのホビットたちを見回した。
「今日はありがとう。ボロミアさん。僕たち今度から気をつけます」
 少し沈んだ瞳でフロドが俯くと、ボロミアはもう一度笑い、その小さな肩に手をかける。
「もう気になさいますな。先は長いのです。お互いに気をつけて参りましょうな」
 うん、とうなずくとフロドも笑顔を見せる。サムもメリーもピピンも、にこにこすると互いに頷き合い、鍋やらマグやら松明やらを抱え込み、ボロミアにおやすみの挨拶をしながら焚き火の方に戻って行った。
 焚き火のむこうではギムリが松明を掲げて小さい人々を迎える。鍋を受け取り、4人と一緒に川の方へ向かう。にぎやかにおしゃべりしながら、明かりの向こうに姿を消した。

181:2005/03/30(水) 02:08:48
恐るべき放置スレ。

でも、1の自演ではないです。

寂しいよう。

もうすぐ次うpします。

191:2005/04/11(月) 23:43:12
次うpします。
やっぱりなんだかあっさりしすぎですが。
ボロミアのヘンな決意表明を許してやってください。




「愛するもののためには、人は強くなれるものだ、と信じております」
 囁きに近い声だった。
 モリアの洞窟で、ガンダルフは道に迷って一行はその場にとどまる事を余儀なくされた。
 記憶とは違う構造になってしまった洞窟の内部に、いささかの戸惑いを隠せぬ魔法使いは、
じっと座り込み、自分自身と長らく語り合っている。
 落ち着かなげにごそごそするホビット。
 ぶっすりと口を閉ざしたままの、しかしある種の不安に心を塞ぐ ドワーフ。
 エルフは並んで座り込むふたりの人間の背後にじっと、弓を抱えて立ち尽くしている。
 時おり、ふたりの様子を眺める。
「それがあんたにとっては、南方王国ゴンドールだという事か」
 ゴンドールの執政の息子は深く頷き、自分の顔を覗き込もうとして、
思い直しふと目をそらす野伏に目をやる。
「わたくしはそういう風に生まれつき、育てられ、これまで生きて来ました。
ゴンドールのために、強く賢くあれと、己自身を叱咤して来たのです。
 ……これはあまりにもわたくしにとっては自然な事なので、
もしもあなたが驚かれたとしても、反論などする気持ちにもなれぬし、する意味もありませぬ」
「それはまあ、そう言う事なのだろうな。いや、俺とてそれになにか口を挟む気はないよ。
 ただひとつだけ言うとすれば、もっと違うなにかに情熱を持って接する事も必要なのではないかね」
 喉の奥で低く笑い、ゴンドールの執政家の長男は、その通りとでも言いたげに頷く。
「父に、現執政に似たと、よく言われます。
 父デネソールもまた、私と同じように頑に国を思い、妻を娶るのが遅くなりました。
 父には濃い血が流れているのだと、ガンダルフも言われた事がある。
 遠いヌメノールの血が濃く、流れているのだと」
 ゴンドール南方王国の執政家はかつて、二十六代続いたそのはじめの頃、
北方王国に連なるエルフの二つ名を持っていた。
 それは既に、今となってはあまりにも遠い、忘れ去られて久しい、血なのだが。

 結局その夜はその場での野営を余儀なくされた。 
 早々と眠りこけたホビットたちの様子を眺めていたボロミアはふと、
岩にもたれて立ったまま、休もうとしないエルフに目をやった。
 順番に勤める不寝番はボロミアとアラゴルンとギムリ、
そしてそこに立ち、くっきりと目を覚ましているエルフの王子、レゴラス。
「……今はわたくしが不寝番を勤めますゆえ、あなたもおやすみなさい。レゴラス」
「私は大丈夫です。気になさらないでください。エルフは強靭なのですよ。
 あまり眠りもいたしません」
「こののちなにが起こるか、わからないのですぞ」
「大丈夫。あなたこそ、そろそろアラゴルンを起こした方がいいんじゃないですか」
「わたくしはまだ……」
 ふとエルフの体が動く。近寄ってくる。
 座り込むボロミアの傍らに片膝をついてかがみ込み、弓を持った手を床について、空いた手がボロミアの肩に触れた。
「エルフにとって、洞窟は苦痛なんです。本当は、息苦しいし、気持ちが沈む。
 ボロミア、もしもお許しいただけるのでしたら」
 アラゴルンが小さくうめくように声を上げ、体を起こす。
「……ああ、時間だ。ボロミア、交代だな。眠れ」
「アラゴルン。私は眠らないから、ボロミアとさっきの道まで行ってきます。

(2に続く)

2019:2005/04/11(月) 23:46:20
またやってしまった。行下げしないといけないのに。
すみません。













2
 危険なところには近づかないので、心配はご無用ですよ」
 額にかかった髪をかきあげながら、アラゴルンはレゴラスを見、
なんの事か意味が分からずぼんやりしているボロミアを見る。
「……ボロミアがすぐ眠れるような所にしてくれるか。気になって叶わん」
「大丈夫です。……じゃあ、ボロミア?」
「は?は。はい」
 見送る視線になっているアラゴルンに目をやり、
腕にかけた手で自分を立ち上がらせようとしているエルフに従い、
執政の息子は曖昧な気分のまま立ち上がる。
「……では、行って参りますアラゴルン」
 頷くだけのいらえに気持ちが落ち着かないまま、
ボロミアはすたすたと歩き出すレゴラスの後を追った。
 
「レゴラス……どこまで行かれるおつもりか。危険ですぞ」
「大丈夫です。ここならまだ……ボロミア」
 ふいに振り向き、ボロミアの目の前に白金の髪に縁取られた秀麗な白面があった。
「……どうなされた」
 幽かに額に刻まれたエルフの憂い。
「なにか心配事でもおありか」
「あなたたち人間は、愛するもののために命を落とされるような事があるのですか」
 ふいの問いかけに、ボロミアは黙る。
「それでなくとも定命のそれを、削り喪う事が、あるのですか」
「……なぜそのような事を問われる」
「知りたいのです。なぜだかはわからない。
私たちエルフには、あなたたち人間の事はわからないのです。
 ですから問うております。
 ……唐突に、失礼な事を伺っているのは承知の上です」
 エルフの声に、なにか尋常でない心の動きを察して、しかしそれが自分の事には結びつかず、
ボロミアは目の前の憂いに沈む、しかしそれを凌駕して輝く美貌に微笑みかけた。
「共にお座りくださらぬか。エルフの王子。
 きちんとお応えできるか自信はないが、あなたがなにをお知りになりたいのか、
もう一度伺って、そしてお応えいたしましょう。
 いかがです。おいやですか」
「いえ、べつに……」
 暗い表情、沈んだ声で、エルフは誘われるままにボロミアの隣に腰掛ける。
「先日のように、暖めてはくださいませぬのか?」
 笑いを含み、からかうように問いかけてくるそれに、レゴラスの頬と耳が薄い桃色に染まる。
「……あなたがお望みなら」
「お願いしてもよろしいのか。レゴラス」
 熱い顔をあげてボロミアを見やると、
レゴラスの幼い企みなど見抜いたような微笑みがそこにある。
「……お気づきだったのですか。……意地悪ですね」
「いや、そのようにおっしゃってくださいますな。
つい今までわかりませんでした。大変失礼をいたしました。
 あなたはわたくしに優しくしてくださる。わたくしはそれをとても嬉しく思っております。
 こちらへ、レゴラス。
 わたくしを暖めてください」
 引き寄せられてレゴラスはやはり大きな腕に抱きとめられ、あたたかな胸に抱き込められる。
 背中に腕を回し、いくら力を込めても、本当にこの人間が暖まっているのか、わからない。
「……ここでは歌って差し上げる事もできません。ゆっくりと眠って頂きたいのに」

(3に続く)

2120:2005/04/11(月) 23:49:48
3  これで終わりです















 我知らず、うわずった声が出る事に心の表側が動揺している。
 年若いエルフには、自分の想いがどういう風に働いているのか、わからない。
「おわかりにならぬか。こうしているだけでわたくしの心がゆったりと安らいでいる事に」
「本当ですか」
「あなたの暖かさはわたくしの体と心を安らげてくださる。それは真実です」
 その肩に押し付けた頬はまだ熱い。白い額に押し付けられてくる人の子のひげだらけの頬。
「くすぐったいです、ボロミア」
「申し訳ありません。だが、離したくない」
 少し動き、額に唇を感じる。小さく音をたててそれが離れ、再び額にその頬が押し当てられる。
「ご無礼をお許しください」
「いいのです!……いいのです、ボロミア。
 私の方が、今夜は失礼ばかりをしました。勝手な事ばかり……」
「わたくしは嬉しい。夜毎このように、あなたの暖かさに包まれて眠りたいものだ」
 ボロミアの胸の中で、エルフの王子は再び頬を熱くさせる。
 なぜかはわからぬが、この人の子を見るにつけ、触れるに沿って、
心の奥底に灯る小さな焔が揺らめき、煌めくのだ。
「……愛するもののためには、人は強くなれるものなのだと、わたくしは信じているのですよ、レゴラス」
 顔を上げると柔らかな微笑みが見下ろしている。
「……アラゴルンは、条件をおつけになった上で納得されていた。
 だがこれは、生きとし生けるものの、普遍なのではないかと、わたくしには思える」
「ボロミア……?」
「わたくしたちがそうなのではないでしょうか?
 あなたも先ほど問われたが、指輪所持者を守り旅するわたくしたちこそ、そうなのでは……?」
 レゴラスは見上げて人の子の瞳を覗き込み、その美しい灰緑に心を揺らめかせる。
「……はい。おっしゃる通りです」
 もっと抱きしめてほしい。レゴラスには自分の心の事などわからない。ただ自然に、切望する。
 そして人の子の腕に力がこもる。
「……嬉しい事です。あなたのご意見と一致いたしました。
 この先なにがあろうとも、その想いそのものが、わたくしたち全てを強くさせてくれるのです。
 生きとし生けるものの上に空はあります。
 人間はいつか死ぬ。ホビットもその他の種族も、エルフ以外の種族は全て。
 しかしあなた方にも、いつか訪れる終えの地があるとお聞きした。
 そしてその空に、あるいはその地の空の彼方に。
 旅立つまでの間、どれほどの困難があろうとも、愛するもののために生きる事ができる。
 なれば、旅立つ空の彼方は、想いの辿り着くところなのではないかと。
 この先になにが待ち受けていようとも、空の彼方に。
 想いの通ずるものがあるのです」
 力強い人の子の言葉。
 そう。
 この先なにが待ち受けていようとも。
 レゴラスは抱きしめる腕に力を込める。必死の想いで、抱きしめる。
 さらに強い力で抱きとめられ、再び額に唇を感じ。
 レゴラスの心の奥深くに揺らめく灯は、じれるように煌めくその日を見据えている。
 今は見る事のできぬ空の彼方に。
 それが激しいものなのか、優しいものなのか。
 伝えたい想い。
 
 未だ形にならぬ、
 それを見たいと、
 エルフは痛切に思った。

(おわり)

2213,14:2005/05/01(日) 17:12:25
女神さま
あらてめて読ませて頂き、2の詩の緑葉に思い切り感情移入・゚・(ノД`)・゚・。
ボロミアーーー!!
きっときっと、守り神となって白い塔のてっぺんから かれの国を見ていた事でしょう
(ショーン豆のボロミがギリシア神話ないでたちで髪の毛さらさら)←でもトロイとはまた違う
それにしたって指輪世界は深いですねぇ‥‥
すごく感動し胸を打たれたのに 茶化すような書き方しか出来ない自分が('・ω・`)ショボーン.....
今夜はBSでTTT-SEEですだ!

231でなおかつ21までの奴:2005/05/04(水) 03:32:17
22様
いつもいつもありがとうございます。
とても励みになります。

BSのTTT、SEE持ってるのに見ちゃったし。
やっぱいいっすねえ。

2の詩は大ラスなんですよ。ええっと、まだ続きます。
2に向けて,書くのっす。
きっとどこかで好きとか嫌いがあるんでしょうが,
できれば生温かく見守ってやってくださいますか。

指輪世界を自分解釈で描くと一緒に,
二人のラブストーリにもしたいのどす。(ええ?京都弁?)

ご感想を読ませて頂く度に、勇気が出ます。
やっててよいのね,と、そう言う勇気が。

ありがとうです。本当に。

24萌えの下なる名無しさん:2005/05/14(土) 00:44:47
月イチになってる事に今気づいた。
うpします。













「ガンダルフの死を思い煩う必要はありませぬ。
 あなたには、成すべき事がある」
 静かに告げるボロミアの目を見つめ、フロドは頷こうとした。
 その折。
「こちらへ」
 ハルディアの冷たい瞳と冷たい声が、ボロミアの存在などないもののように、フロドだけに向けられた。
 森は未だ危険の最中にある。
 ロリアンのエルフたちに対しての不信を募らせていたレゴラスはその光景を見た。
 心穏やかとは言えぬ心情の中で。

 ハルディアの案内する目的の地までの森は広く、一行はロリアンの森の守りたるエルフたちに、一夜の休息を告げられる。
「ここには夜、オークの忍び寄る危険がある。ホビットたちには、危険回避のために木の上の小屋に眠ってもらう。ドワーフの方には同じ木の上の小屋で、ホビットたちを守る役目をして頂こう。
 レゴラス、君とアラゴルンと、ゴンドールのお方には私たちと共に、地上での見張りを頼みたい。
 いかがかな、ご不満がおありか。
 ゴンドールの御大将」
 冷たく瞳を光らせるハルディアに、
「不満などありません。
 どうすればいいのかさえ、告げていただければ」
 ボロミアがいらえを返そうとしたところに、レゴラスが低く、しかし強く応える。
 アラゴルンが微かに反応し、ボロミアの目が不審げにレゴラスを見た。
「……地上には火を焚き、我々全員で不寝番を勤める。灯りの届くところまでを限界として、見回りに出る。
 それ以上外に出ては、こちらの矢も届かない。それだけは気をつけてくれるよう」
 ハルディアはボロミアからレゴラスに視線を移し、そう言った。
「今晩は誰も眠らずに。オークが追って来ている恐れがある」 
 レゴラスは俯くアラゴルンに視線を送り、ボロミアの肩に手を置くとその顔を見た。
「参りましょう、ボロミア」
 ボロミアはアラゴルンを見る。アラゴルンはレゴラスに、そしてボロミアに強い視線を送って来た。
「……では」

 ロリアンの森の住民には、裂け谷の住民たちとは比べるべくもないほど、人間、それもゴンドールの人間に対する不信感が根強くある。
 それはアラゴルンが知りすぎるほど知っている事であるが、もとよりエルフのことなど何も知らぬゴンドールのボロミアに、これまでのハルディアの、己に対する無礼な対応には理解の及ぶところではない。
「……なぜあのエルフの戦士は、わたくしにあのように厳しく接するのでしょうな。
 ご存知ですか、レゴラス」
 思ったままを隣を歩くエルフに告げ、ボロミアは首を傾げる。
「はじめてのお目もじであるにもかかわらず、きちんとしたご挨拶すら叶わなかった」
 素直な言葉に、くすりと、闇の森のエルフが笑う。しかし口元を引き締めて、一瞬間を置き、ボロミアを見た。
「あなたに、ではないのです。ボロミア。
 あなたのお国、ひいては人間全てに、かも知れません。
 この忌まわしき戦いが、全て人間の欲望によってもたらされたものなのだと、そういう風に思うエルフは多いのです。
 ……私も昔はそう思っていました」 
「……イシルドゥアの禍」
 歩を緩めるゴンドールの息子に歩調を合わせ、レゴラスはゆっくりとその足取りを止めた。

25萌えの下なる名無しさん:2005/05/14(土) 00:47:19
次行きます

















「だから私たちは、指輪を屠る旅に出たのではないですか。ボロミア。 
 その原因の全てがイシルドゥアの禍なのか、哀れなゴクリの欲望なのか、それともビルボの無知なのかはわからない。
 ああ、撤回します。ビルボは無知ではありません。ただ、ホビットであったというだけです。
 だからこそこれまで、中つ国はサウロンのもたらす災禍を押しとどめる事ができたのですから。ホビットであるからこそ、フロドは指輪所持者として今ここにあるのですから。 
 ……ただ、今このロリアンの地に指輪を持ち込んだ事に、ハルディアは酷く恐怖を感じているんです。
 指輪の誘惑を退ける力が弱いのはなにも人間だけではありません。ガンダルフですら、手にするには強い畏れが伴い、叶わなかった。
 指輪は種族を超えて、強く強く誘惑するのです。
 指輪を手に入れて、この世界を暗黒へと導き、そして、掌握せんと。
 手に入れたその瞬間から、その者はサウロンと、欲望の権化と化すのです」
 両手を絞るように切々と訴える闇の森の王子。
 ふたりは今、向かい合って立っている。
 己の祖国の君主によってもたらされた遥かいにしえの、栄光を担いながらも、いやまさる恥部に酷く心を疼かせる執政の息子。
「……しかし、全てはイシルドゥアに収束されてゆく。
 その様な気がする」
 眉間に憂いを顰め、両の拳を握りしめるゴンドールの息子に、レゴラスは思わずその腕に手をかけた。
「誰が手に入れたとしても、起こりうる過ちではあったんです!
 それほどのものなのです!
 イシルドゥアが指輪と己の命を喪い、やがてゴクリの手に渡り、そして長い時を隔てて、ホビットの手に渡った事が、ある意味では幸運だったのです。 
 ボロミア。  
 ……わかるでしょう……?」
 ビルボが、フロドが、指輪をその手にしながらすぐさま誘惑に屈する事なくいられる事が。
 だがしかし、指輪の正体を未だ理解できていないボロミアには真実を見いだす術はない。
「……わたくしは、なにを信じればよろしいのか。
 お教えください、レゴラス」
 レゴラスは言葉に詰まる。
 この、人の子の持つ憂いを知り始めて間もないエルフの王子には、うまく言葉が継げられるとも思えない。
「……私を……私の言葉を、信じてはいただけませんか……」
 欲望の強い、人間という種族の事をよく知っている訳でもない。
 しかしレゴラスは今、この目の前に立ち尽くす人の子に、ほんの少しでもいいから安らいでほしい。
 この感情が己のどこから出るものかなど、レゴラスにはわかってはいない。
 黙って身を寄せる。
 少しだけ上背のその肩に頬を寄せ、幾度かそうした覚えのある背中に腕を回す。
「お願いです」
 泣きたいような気持ちで。
 と、逞しい腕が闇の森のエルフの腰にまつわりついて来た。
「……わたくしには使命があり、全てを納得するには未だ無理がありましょう。しかし、あなたを信じる事はせねばならぬと、心のどこかが訴えてくる。……しかし、しかし……」
 目の前には苦しげなボロミアの瞳。
 微笑んでよこそうとして、どうしてもできない。
 レゴラスの体を抱き締める腕の力は強い。しかし、いくどもいくども首を横に振る。きつく閉じた瞼が苦しげに震える。
 レゴラスにはけして理解のできない、定められた命しか持たない人間の憂い。 
 忌まわしき指輪の誘惑は、その禍は、生きとし生けるもの、平等に降るのだ。
 必死の思いで胸に頬を押しあて、レゴラスは人の子を現実の世界に立ち戻らせようとした。
「ボロミア。
 ………ここなら歌をうたって差し上げる事ができます」
 顔を見ると、ゆっくりと瞼をあげ、瞳を見返してくる。
「……ここで眠る訳には参りませぬ」
「ですから……あなたのお心を安らげる事のできる歌を」
「歩きながらですか」
「そう、歩きながら」
 柔らかく、腰に回っていた腕が解け、微かにうなだれた首をそのまま、ボロミアはゆくっりと歩を進める。エルフの王子はそれに遅れないよう、しかしほんの少し後ろについて歩く。
 俯く人の子の顔をそっと覗き込み、レゴラスはだが、歌う事を畏れた。
 それはこの森に潜む恐怖に対してでもあった。また、憂いに塞ぐボロミアの心を、掻き立てるのではないかとの、杞憂もあった。

26萌えの下なる名無しさん:2005/05/14(土) 00:49:02
ロリアンに入ってもいないのに、なんでそこまで言うか
エルフよ。
とか言ってみる。
最後です。今回は短いです。














「ガンダルフの死を思い煩う必要はありませぬ。
 希望を捨ててはならぬ。フロド。
 重荷は指輪だけで充分。
 彼の死を悔いる事は、ございません」 

 フロドは思っていた。
 そう、思いたいです。ボロミアさん。
 ひょっとするとあなたには解っているのじゃあないんですか。
 指輪と、指輪にまつわる生きとし生けるものの真実。
 人間だからこそ、人間でなければわからない事。
 あなたは、実は気づいているのではないのですか。
 
 木の上の仮小屋で、眠りにつきながら。
 年若いホビットは、未だ畏れを知らずにいた。


 微かに灯りが揺らめくロリアンの森から、
 夜空を臨む事はできない。

 星の灯りも、月の輝きも届かない。
 この道の先は。
  
 見えないと、
 いうことらしい。

271,2,3,5,6,〜色々あるけど上げてるヤツです。:2005/10/04(火) 00:55:19
そろそろ次あげます。
いいですよねえ。

28萌えの下なる名無しさん:2005/10/16(日) 21:26:53
強制sage設定の為スレ移動します。

29萌えの下なる名無しさん:2005/10/16(日) 23:14:31
強制sage設定の為スレ移動します。

301,2,3,5,6,〜色々あるけど上げてるヤツです。:2005/10/18(火) 02:23:06
なななんです。だめですの。

311,2,3,5,6,〜色々あるけど上げてるヤツです。:2005/10/18(火) 02:24:14
どこに行くのですか?

32最初に詩い書いて、そのあとの小説も全部書いた奴だ。:2005/10/18(火) 02:31:08
あげちゃる
























「なぜ、わたくしに」
 真夜中をすぎても柔らかな光あふれるロリアンの巨木の根に腰を下ろし、ボロミアは今一度ひとりごちる。
 誰にも聞かれないように。
 後ろを振り向き振り向き、幾度か行きつ戻りつしながら。アラゴルンは戻るのをためらい、やがて微かに肩を落としてボロミアの側から離れていった。
 応えては。
 くれなかった。

「いつか、ともにミナス・ティリスに戻りましょう、アラゴルン。
 銀色に光り輝くエクセリオンの塔の見張りが、わたくしたちを認めてたからかに銀の笛を吹く事でしょう。
 皆が喜びにうち震え、声を上げるさまが目に浮かぶ。『指導者たちが戻られた』と」
 もはや、アラゴルンがゴンドールの世継ぎであることを否定する理由はボロミアにはない。
 アラゴルンは正しくイシルドゥアの末裔、遠くアルノールの血を継ぐ、エレンディルの子孫なのだ。
 そして今、祖国はその終焉を今か今かと恐れながら、正しく執政の跡取りが敵の武器を持ち帰り、祖国に再び力を与えてくれる日だけを待ち望んでいる。
 だが今日、ボロミアは気づいてしまった。
 祖国の民草は心身共に疲弊し、望みの全てを失っている。執政は民の信頼を失い、国は今まさに滅び行かんとしている。
 今、己のしている事に何の意味があるのか、本当に必要な事なのか。己自身は、いったいなにを望んでいるのか。
 ガラドリエルの言葉はボロミアの頭の中に、今まで気づかないように気をつけて気をつけていたものを、まざまざと思い起こさせたのだ。
 父が、弟が、臣たちが兵士たちが民草が。
 己になにをなさせようとしているのか。
 だからボロミアはアラゴルンに言ったのだ。
「ともに、ミナス・ティリスに戻りましょう。
 王よ」
 と。
 敵の武器だけが必要なのではない。指輪がいかに利用できるのかもわからない。
 それよりも。
 南方王国、大ゴンドールに王の王たる者が戻り、白銀の塔に王の旗を翻し、ゴンドールの全ての領の兵を一斉に挙げて戦えば。
 モルドールの脅威など、ゴンドール王国の終焉など霧と消えてなくなるのだと。そう、夢見る事はできる。
 王の帰還を待ち望んでいるのは、誰よりもなによりも、代々の執政、その人たちだったはずなのだから。
 だが彼は、応えてはくれなかった。
 ただ、見つめるボロミアの瞳を青灰色の瞳が見つめて返し、幾度かためらうようにその視線が揺れると。
 つと立ち上がり視線を流して。
 そして背を見せたまま数歩進むと、ふと立ち止まり振り返り、視線は落ちたまま。何度も、何度も振り返り。
 そしてやがて、立ち去っていった。

33最初に詩い書いて、そのあとの小説も全部書いた奴だ。:2005/10/18(火) 02:35:45
つぎです
タイトルあります「癒しの手」
















なぜ、わたくしにこのような試練をお与えになる」
 呆然と、ボロミアは呟く。
 守りたいもの、守らねばならぬもの、彼にはそれだけしかない。 彼は今までの人生を、守るべきものたちのためだけに生きてきたのだ。だがそれが。
 揺らぐ。
 なにが正しい事なのか、どうすれば幸福を、平和を得るための手がかりになるのか。
 わからない。

「どうしました、ボロミア」
 びくりと顔を上げると、林の陰からエルフが独り、姿を現した。
 いつもの旅の上着を脱ぎ去った銀灰色の長衣のせいで、それが闇の森のエルフだと気づくまでにボロミアには少しの時間がいった。
「……レゴラスあなたか。わからなかった」
 微笑みながら近づいてくるエルフは、近づくにつれそのおもてに怪訝な色を乗せる。
「……どうしたのです?」
「どうしたとは」
 ボロミアはレゴラスの心配そうな顔を見て、少しだけ心の奥底が和らぐのを感じた。なぜかはわからないが、今、心に立ち籠める闇が、微かに薄らいだ。
「ひどくお疲れのようだ。それに、」
 エルフは近づいて、巨木の根に腰掛けるボロミアの正面に片膝をついて座り込み、少し下の方から顔を覗き込む。
「涙の跡があります。
 いったいどうなさったんです」
 ボロミアは苦笑しながら俯いた。これを見られては言い逃れもできまいと。照れ隠しを装って頭をかいた。
「大の男がお恥ずかしいかぎりです」
 本当の事を口にするのは憚られた。しかもエルフには遅かれ早かれ気づかれるだろう。ガラドリエルの言葉は、エルフになら全て届いているはずなのだから。
「……まだお休みにならないのですか? もう皆、眠っています」
「眠れないのですよ。……ここでは特に」
「ここは守られています。おそろしい事など、危険などありません」
「……それは承知しております」
 碧い瞳は困惑する。どうすればこの人間を慰める事ができるだろうかと、ぱちぱちと目をしばたたく。
「レゴラス」
「はい」
 ボロミアは少し考え、俯いてあごひげを片手で撫で、しばしそのままの形で固まるとふと顔を上げた。
 まっすぐ己を見据えている碧い瞳を覗き込む。
「先日の」
 エルフの口元が少し微笑みの形になり、僅かに首を傾げてボロミアの言葉を待つ。
「エルフの子守唄を。
 もう一度お聞かせいただく事、その願いは叶いますか」
 唇をほころばせ、レゴラスの目元につと朱がさした。
「それをお聞かせいただければ、眠れるやも知れませぬ」
 そういいながらも唇からは溜め息が漏れ、ボロミアの目は下を向く。半ば諦めたかのように小さく首を横に振り、もう一度溜め息を漏らす。
「ボロミア、ボロミア、いったいどうなさったんです。そんなに何度も溜め息をついて。わかりました歌って差し上げます。あなたがお望みなら一晩中でも。いえ、幾晩でも。
 ですからお願いですボロミア。どうかそんなに悲しそうな顔をなさらないでください」
「あなたは……お優しいな」
 苦しげに微笑む顔がレゴラスを見る。レゴラスはそれに微笑んで返す事ができず、途方に暮れた。
 今もまだ、闇と焔に飲み込まれたミスランディアを悼むエルフたちの歌声は、ロリアンの森を低く幽かに覆っている。
 柔らかな光は絶える事なく、森を静かに輝かせている。
 モルドールの脅威も未だ僅かなこの地。ハルディアたち戦うエルフに守られたエルフの王城の許で、ただひたすらに心を沈ませる人間に、レゴラスの心は穏やかであるはずもなく。
 心に浮かぶ柔らかな焔が、この人間に近づく度にふるりと振れる事に、煌めきが増す事に、気づき始

34最初に詩い書いて、そのあとの小説も全部書いた奴だ。:2005/10/18(火) 02:36:56
3こめです




















「ボロミア」
 呟くと上体を伸ばし、その肩に両手をかけてそっとすがりつく。
「レゴラス?」 
 体を起こし、ボロミアは寄せてくるエルフの体を抱きとめた。
「どうなされたいきなり。驚きました」
「驚かないでください。怒らないでください」
「いや怒るなど、しかし」
「あなたをお慰めしたいのだけれど、私にはどうしたらいいのかわからないのです。
 でも先日、……私が無作法にも抱きついたたときあなたは、『ずっと暖めてもらいたいものだ』、と、そうおっしゃってくださった。
 それなら、私にもできる事ですから。
 暖かくなれば、少しは苦しい気持ちが、和らぐかもしれないでしょう。悲しい事も、忘れられるかもしれない」
 レゴラスの体は震えていた。ボロミアがなにに気を沈ませているのかわからない今、とんでもない事をしているようにも思えて、腕を振り払われるかもしれない恐怖にも、怯えていた。
「……レゴラス」
 いらえのあと、しばし間があった。
 と、力強い腕に抱きすくめられ、首筋に熱い息を感じた。膝が崩れ、体の全てを預ける形になる。
「ぼ、ボロミア」
「ありがとうございます。暖かい。あなたは、暖かい。
 救いのように」
 祈りのように。
 ボロミアの手がレゴラスの腰を支え、背を、腕を、髪を撫でる。苦しげな声とは裏腹な熱い手が。
 やがて両手がその頬を挟んで、暗い瞳が、碧い瞳を覗き込んできた。
 レゴラスは恐ろしさに声も出ず、しかしその手の温かさに心を揺さぶられて、ひたすらに見つめる。暗く灰緑に沈むその瞳を。
「……わたくしは、試練に打ち勝つ事ができましょうか」
 悲痛な囁き。
 レゴラスはこの時ほど、最後のエルフとしてこの地に生を受けた事を呪った事はなかった。
 強い力と強靭な肉体と永遠の命、それだけしか受け継ぐ事なくこの世に生まれてきた最後のエルフである己を。
 上つ世のエルフなれば、生まれ持つその力で、この人間の望みなど、たちどころに叶えてみせる事もできたであろう。いや、もしもそこまでの事はできなかったとしても、この悲哀を許し、守り、癒す事はできたのであろう。
 なぜ己にはその力がないのか。
 己の存在など、今この、命を削って苦しむ人の子にとって、なんの役に立つ事があるのだろうかと。
 大きな碧い瞳がふるりとさやぎ、やがて、堤防が決壊するかのごとく、涙が溢れ出す。
「なぜあなたが泣くのです」
 ボロミアが困惑して問いかける。
 大きく目を開いたまま、レゴラスの涙は止まらない。
「レゴラス」
「……私ではあなたの救いにはなりません。私にはそんな強い力はありません。私では、私などでは。……でも」
 目の前の顔がかすむほどに涙があふれてくる。ボロミアの膝に置いた手が、白い拳を握る。
「あなたのお力になりたい。あなたをお助けしたいのです」

35最初に詩い書いて、そのあとの小説も全部書いた奴だ。:2005/10/18(火) 02:42:18
最後だよ














 声を上げて泣き出したかった。それは叶わず、レゴラスは唇を噛む。ぎゅっと目を閉じる。そして目を閉じたまま、囁く。
「あ……あなたが好きだから。
 あなたに、必要としていただきたいから」
「なんということをおっしゃるのだ。
 わたくしなど、定められた命しか持たぬ人間です。
 わたくしのような者が、エルフたるあなたの事を……」 
 エルフの首が強く横に何度も振られる。頑是無い子供のように。
「私は、あなたが好きです。あなたは……私が嫌いですか」
 目を開き、レゴラスはボロミアの目を見上げる。涙で頬が熱い。 と、ボロミアの長い指が頬をそっと拭う。
 その目が柔らかく、優しく自分を見つめている事に気づき、レゴラスは見つめ返した。
「……なんとまっすぐなのでしょうな。あなたという方は。
 これでは厭う事もできません」
「き、嫌いならいいのです。
 はやく、はやくその手をお離しください」
 赤面して身じろぐエルフの体をボロミアの腕は再びひしとかき抱いた。
「誰が嫌うものか」 
 髪を撫でる手が柔らかく肩に回り、もう一方の手が背中に回る。
「あなたから求愛されて、それを袖にするような者に。
 わたくしが見えましょうか。
 ……いいや、詭弁は必要ない。
 正直に申し上げましょう。
 レゴラス。
 わたくしはあなたを愛しております。こころより。
 求愛すべきはわたくしです。
 己の物思いのみに心をとらわれて、このように大切な事を、
 あなたに、先に言わせてしまった」
 微笑みながら腕の中に震えるエルフを抱きとめて、額をこすりあわせるように視線を合わせ、もういちど微笑む。
「申し訳ありません。レゴラス。わたくしのことをお許しいただけますか」
 灰緑と碧は間近にあり、エルフは震える唇をなんとか微笑みにかえようと、もういちどあふれかえる涙を抑える努力とともに、必死になる。
「……わたくしを愛していると。
 おっしゃっていただけるのですか」
 レゴラスは頬に血を上らせたまま、灰緑の瞳を見つめ、こくんとうなずいた。
「……愛しています。ボロミア」
 灰緑の瞳が微笑み、
「では約束を」
 ボロミアの顔が少し離れ、見つめる目があらためてその美しさを感嘆するかのように、わずかに細められた。
 やがて、その手がエルフの顎にかかる。
 ゆっくりと近づいてくる灰緑の瞳を、レゴラスは静かに見つめて待った。
「……目を閉じて」
 少し困ったように優しく囁かれて、慌てて目を閉じる。
 唇に熱く柔らかな感触を受けて。

 闇の森のエルフは、涙を忘れ、恐怖を凌駕し、柔らかな心の奥底の煌めきが、華やかに燃え立つのをその瞬間、ぬくもりとともに、 感じた。
 
 エルフは恋を知った。
 人間の痛みと悲しみをも、そのとき。
 知ってしまった。

36最初に詩い書いて、そのあとの小説も全部書いた奴だ。:2005/10/18(火) 02:55:48
腹立つなあ、もう。
なんで強制するんだって。
ひつようあるの?

37最初に詩い書いて、そのあとの小説も全部書いた奴だ。:2005/10/21(金) 02:03:32
いえ。
どうしてなのかなと。
どなたがするのかなと。

38萌えの下なる名無しさん:2005/10/24(月) 01:24:03
もう少しココのお約束ってものを知った方がいいよ。

39最初に詩い書いて、そのあとの小説も全部書いた奴だ。:2005/10/25(火) 03:01:25
だあれ?

40最初に詩い書いて、そのあとの小説も全部書いた奴だ。:2005/10/25(火) 03:03:54
そこまで言われるほどおかしな事をしているとは思えないんですが。んんん。なぜそういう風に冷静に批判するのかしら。

41最初に詩い書いて、そのあとの小説も全部書いた奴だ。:2005/10/25(火) 03:10:34
と言いますか、それほどお高いところからお言葉をくれてるあなたはどなた。

42萌えの下なる名無しさん:2005/10/29(土) 14:40:03
あなたはどなた?w

>>1のお約束は読んでますか?

43最初に詩い書いて、そのあとの小説も全部書いた奴だ。:2005/11/04(金) 00:59:33
喧嘩を売っておられるのかしら?
わたくしの書くものがいやならいやとはっきりおっしゃればいいのに。
でも、喧嘩は買いません。
消えれば宜しいのでしょ。
ね。

44萌えの下なる名無しさん:2005/11/06(日) 01:56:30
書くものがどうだこうだ以前の問題。
お約束を守れない、守る気もない人間はこの場に不要。
ROMだろうと、たとえ貴重な書き手だろうと。
お分かり?

45萌えの下なる名無しさん:2005/11/06(日) 11:36:07
・最初のスレ立てから間違っている。
・この子馬亭のお約束を読んでいれば、28.29の意味も分かる。

46最初に詩い書いて、そのあとの小説も全部書いた奴だ。:2005/11/23(水) 02:24:52
了解です。
あ、あまり怒らないで下さい。
理解しましたので。間違っておりました。
ほんとうに、すみませんでした。

47萌えの下なる名無しさん:2005/12/06(火) 03:10:48
なんだか心が狭い。
せっかくの書き手を。

48萌えの下なる名無しさん:2005/12/06(火) 22:39:11
その場のルールを守る気が無いのだったら
自分でサイトなりなんなり立ち上げれば良いだけの話。
それに、>46が取り敢えずはSSを上げ終えるまで待って注意をしてくれてるんだから
心狭いって言うよりは、優しいんじゃない?

49萌えの下なる名無しさん:2005/12/07(水) 02:49:20
このところの流れだけど、確かに人が減ってしまって、
書き手は特に貴重だと思うけれど、書き手でも読み手でも、
この場を使う気ならルールは理解しなきゃいけないと思う。
たとえば>>46自身が楽しむためにも。

お約束も読んだみたいだし、また次の作品を期待しています!

50萌えの下なる名無しさん:2005/12/07(水) 02:50:17
あわわ、上げちゃった…
クッキー切れてた。スマソ

5146:2005/12/08(木) 02:40:53
ありがとうございます。
もしも許していただけるのであれば、
「萌えの下なる名無し」として、
しみじみ次のお話、上げさせていただきたいです。
(いささか長いですが)

52萌えの下なる名無しさん:2006/04/04(火) 00:00:37
では

53萌えの下なる名無しさん:2006/04/04(火) 00:05:49
うpしてもよろしいでしょうか。

54萌えの下なる名無しさん:2006/04/05(水) 20:04:02
うん

55萌えの下なる名無しさん:2006/04/09(日) 15:53:33
だめ

56萌えの下なる名無しさん:2006/04/09(日) 22:01:59
なぜ

57萌えの下なる名無しさん:2006/04/11(火) 01:49:21
えと、うpしてはいけないのですか。

58萌えの下なる名無しさん:2006/04/16(日) 20:55:32
うん

59萌えの下なる名無しさん:2006/04/23(日) 23:04:48
意地の悪い人がいる……。

60萌えの下なる名無しさん:2006/04/25(火) 01:02:26
誘い受けUZEE
まだ読んで貰えると思ってるのかこいつ・・・

61萌えの下なる名無しさん:2006/04/27(木) 03:36:52
……おもしろい

62萌えの下なる名無しさん:2006/09/29(金) 01:13:03
固まってるんだ、

63sage:2006/10/18(水) 23:43:34
つぎあるけど。

64sage:2006/10/18(水) 23:45:20
誰も読まないでしょ。

65sage:2006/10/18(水) 23:50:43
なんだろ。半年経って。

66sage:2006/10/18(水) 23:54:41
嫌われて嫌われて、久々に遊びにきたら。いや、続けていいとのお許しとはいいませんが。
書いちゃった方としても決着は付けたいような気持ちはずっとあったのですよね。
つづき、やるぜ。

67sage:2006/10/19(木) 00:36:48
読みたいでしょ?
へへへ。

68萌えの下なる名無しさん:2006/10/24(火) 19:56:46
取り敢えずsageろ。話はそれからだ。

69萌えの下なる名無しさん:2006/10/24(火) 21:13:56
こんなのが書いてるかと思うとどんな名作でも萎えるなw

70sage:2006/10/25(水) 23:30:46
固まってるのよ

71萌えの下なる名無しさん:2006/10/27(金) 00:09:37
永久凍結。

72sage:2006/10/28(土) 03:25:14
それは名案。

73萌えの下なる名無しさん:2006/10/28(土) 07:28:28
お前……馬鹿だろう。

74萌えの下なる名無しさん:2006/10/30(月) 02:15:32
かくしてスレは永久凍土と化したのであった。



----------糸冬 了---------------

75sage:2007/01/06(土) 00:40:47
ほんとに?

76萌えの下なる名無しさん:2007/01/06(土) 02:28:22
>>75
しつけーなぁ(#゚Д゚)

77萌えの下なる名無しさん:2007/01/15(月) 23:44:33
なんかしつこい。このスレ。

78萌えの下なる名無しさん:2007/01/15(月) 23:46:05
嵐だけで営業されてるような漢字するよね。

79萌えの下なる名無しさん:2007/01/18(木) 21:59:28
元々既知外が立てたスレだからw

80sage:2007/06/13(水) 01:28:26
はいいけど荒れすぎてますよ。
板自体が。

81sage:2007/07/13(金) 02:00:29
時間が空いてしまったんですが、次ができているんですが、あげてはいけないのでしょうか。


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