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【TRPG】ブレイブ&モンスターズ!第四章

1 ◆POYO/UwNZg:2019/03/18(月) 20:11:11
――「ブレイブ&モンスターズ!」とは?


遡ること二年前、某大手ゲーム会社からリリースされたスマートフォン向けソーシャルゲーム。
リリース直後から国内外で絶大な支持を集め、その人気は社会現象にまで発展した。

ゲーム内容は、位置情報によって現れる様々なモンスターを捕まえ、育成し、広大な世界を冒険する本格RPGの体を成しながら、
対人戦の要素も取り入れており、その駆け引きの奥深さなどは、まるで戦略ゲームのようだとも言われている。
プレイヤーは「スペルカード」や「ユニットカード」から構成される、20枚のデッキを互いに用意。
それらを自在に駆使して、パートナーモンスターをサポートしながら、熱いアクティブタイムバトルを制するのだ!

世界中に存在する、数多のライバル達と出会い、闘い、進化する――
それこそが、ブレイブ&モンスターズ! 通称「ブレモン」なのである!!


そして、あの日――それは虚構(ゲーム)から、真実(リアル)へと姿を変えた。


========================

ジャンル:スマホゲーム×異世界ファンタジー
コンセプト:スマホゲームの世界に転移して大冒険!
期間(目安):特になし
GM:なし
決定リール:マナーを守った上で可
○日ルール:一週間
版権・越境:なし
敵役参加:あり
避難所の有無:なし

========================

2 ◆POYO/UwNZg:2019/03/18(月) 20:12:03
【キャラクターテンプレ】

名前:
年齢:
性別:
身長:
体重:
スリーサイズ:
種族:
職業:
性格:
特技:
容姿の特徴・風貌:
簡単なキャラ解説:


【パートナーモンスター】

ニックネーム:
モンスター名:
特技・能力:
容姿の特徴・風貌:
簡単なキャラ解説:


【使用デッキ】

合計20枚のカードによって構成される。
「スペルカード」は、使用すると魔法効果を発動。
「ユニットカード」は、使用すると武器や障害物などのオブジェクトを召喚する。

カードは一度使用すると秘められた魔力を失い、再び使うためには丸一日の魔力充填期間を必要とする。
同名カードは、デッキに3枚まで入れることができる。

3崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/03/18(月) 20:13:31
「みのりさん! 無事でよかった……! 怪我はない?」

ユニサスに乗ったみのりが上空から降りてくるのを見ると、なゆたは嬉しそうに右手を大きく振った。
戦闘の最中は前方に集中していたため、みのりの行動に注意を払うことができなかった。
だが、みのりは持ち前の機転で見事に窮地を凌いでみせたらしい。

「明神さんもありがとう。いい仕事だったよ! やっぱり、わたしたちは最高のチームね!」

まんまとミハエルを出し抜き、ミドガルズオルム鎮静の糸口を作った功労者の明神に対しても、そう言葉を投げかける。
ぱちんとウインクし、悪戯っぽい笑みを浮かべながらぐっと右手の親指を立て、サムズアップしてみせた。

>君達がミドガルズオルムを消えさせてくれたんだよね、本当助かったよ!
 カザハ、こっちはカケル。良かった〜、会えて。
 メロちゃんに君達に合流するように言われて……丸投げでどっか行っちゃうんだから。
 ホント無責任だよね!あとトーナメント見てた! マジで恰好よかったよ!

「へっ? ……あ、ありがとう……。カザハ君と、カケル……ちゃん?」

みのりを伴って舞い降りてきたシルヴェストルとユニサス。その妖精の少年のまくし立てる言葉に、なゆたは僅かに気圧された。
シルヴェストルもユニサスも、共に風属性のモンスターだ。しかしそのペアというのは少し珍しい。
みのりがユニサスに乗っている辺り、敵ではないのだろうと思う――が、どうも言っていることがおかしい。
メロに合流しろと言われた、とカザハは言った。
自分たちが異世界から来た『異邦の魔物使い(ブレイブ)』と知った上で、パーティーに加わろうとしているのだろうか?
カザハとカケルもまた『異邦の魔物使い(ブレイブ)』であるということを、なゆたはまだ知らない。
ただ、今はこの妖精たちもウィズリィと同じくアルフヘイムの住人でありながら仲間に加わろうとしているのか――?
そう推察するばかりだ。

そして。

「あーっ! ウィズ! ウィズ忘れてた……!」

戦闘こそ終わったものの、万事が一件落着というわけではない。
明神率いる潜入チームに割り振って以来、姿の見えなくなっていたウィズリィのことを遅まきながらに思い出す。
明神やメルトに問いただしてみるものの、ウィズリィはトーナメントの途中から忽然と姿を消してしまっていた。

「どっ、どうしよう……! もし建物の倒壊だとかに巻き込まれてたら……。
 みんな! 疲れてるところ悪いけど、ウィズの捜索を――」

慌ててその場にいる全員に指示を飛ばそうとする。
と、そんなとき、やや離れた場所にいたエンバースがなゆたに歩み寄ってきた。
焼け焦げた屍だというのに、その眼窩にあるひび割れた瞳は驚くほど澄んでいる。
なゆたもエンバースを見上げ、ふたりは暫時見つめ合う。
自分を見下ろす眼差しに、僅か――とは言えない憐憫が湛えられているのを、なゆたは悟った。

>俺は何度でも言うよ。君達は、物語に関わるべきじゃない……君だって分かってるはずだ。

……むかっ。

>今回死なずに済んだのは、たまたまだ。運が良かっただけ……次はどうなるか分からない

……いらっ。

>大丈夫だ。君達は、俺が守ってみせる

……かちん。

エンバースの言いざまを聞いて、なゆたの眉間にみるみる皺が寄る。
崇月院なゆたは血の気が多い。熱くなればなるほど冷静になる幼馴染と違い、なゆたは熱くなればなりっ放しである。
そして、極度の負けず嫌いでもある。万事において自分が誰かの後塵を拝することに抵抗を示すタイプであった。
ブレイブ&モンスターズにおいて『スライムマスター』『月子先生』と綽名されるほど研究と育成を重ねたのも。
モンデンキントとしてフォーラムで明神と夜っぴてレスバトルを繰り広げたり、PKしていたメルトをタコ殴りしたのも。
すべては『負けたくない』という極度の意地っ張り気質が齎したもの――。
日頃は自己を律して節度を保とうとしているが、ふとしたはずみでその負けず嫌い精神が鎌首を擡げてくる。
そして。
エンバースの物言いに対して、その負けず嫌いが敏感に反応した。端的に言えば――

エンバースは『なゆたの地雷を踏んだ』。

「ちょっと、なんか好き勝手上から目線で言ってくれちゃってますけど。わたしたちはあなたに守られるほど弱くありませんけど?
 だいたい『物語に深入りするな』とか言ってるけど。じゃあ、物語に深入りしない方法って何?
 この、360度どこを見たって異世界なこの空間で。深入りしないことなんて物理的に不可能じゃないの?
 それとも何かしら? 家の中に閉じこもって、どこかの知らない誰かが手を差し伸べてくれるのを待ってろとでも言うつもり?
 ナンセンス! そっちの方がよっぽど非現実的だし、バカらしいし――何より、わたしらしくない!!」

激怒すると口数が多くなるのはなゆたの癖である。マシンガンのようにエンバースへと感情をぶつける。

4崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/03/18(月) 20:14:47
「わたしたちはこのメンバーで何度も絶望的な状況を覆してきた。死と隣り合わせの戦いに勝ち残ってきた!
 たまたま? 運がよかった? 次はどうなるかわからない? ええ、ええ、そうでしょうね。
 でも、それなら『次だって勝ち残ってみせる』! それだけよ――そして、わたしたちならそれができる!
 真ちゃんが、明神さんが、みのりさんが、しめちゃんが、ウィズが……そしてわたしが! 力を合わせればね!
 わたしたちがどういう経緯でここまで来たのか、どんな戦いを繰り広げてきたのか!
 なんにも知らないあなたが、訳知り顔で偉そうに『守ってみせる』なんて言わないで!」

負けん気の強いなゆたにとって最も許せないのは『自分が下に見られる』ことだ。
まして、信頼する仲間たちを。ポッと出の焼死体に『守ってやる』などと言われて、いい気分でいられるわけがない。

「わたしたちの強さが分からないって言うんなら、デュエルしましょうか?
 わたしでも、真ちゃんでもいい。他の誰でも。あなたなんてどうせ、初心者のしめちゃんにだって太刀打ちできないわ!」

「なゆ、その辺にしとけ」

なおも矢継ぎ早にエンバースへ言葉を叩きつけるなゆたに対し、さすがに見かねたのか真一が口を挟む。
なゆたは不満げに真一を見た。

「だって! 真ちゃん……!」

「守ってやるなんて言うってことは、その自信があるんだろ。お手並み拝見といこうぜ。
 どのみち俺達には戦力が足りない。こいつがまがりなりにも『異邦の魔物使い(ブレイブ)』だってんなら、願ったりだ。
 仲間になってもらえばいいさ」

真一はエンバースの態度に対して特に蟠りのようなものはないらしい。
が、なゆたはそれでは収まらない。ぶんぶんとかぶりを振る。

「必要ないよ。さっきだって、逃げてって言ったのに戻ってきちゃったし。パーティーに勝手に動く人がいるのは崩壊の元!
 それに、戦力だって真ちゃんとわたしがアタッカーで、みのりさんがタンク。明神さんとしめちゃんとウィズがサポーター。
 今のままで充分バランスが取れてるし――」

「いや。アタッカーが足りなくなる」

「え?」

「……俺が抜けるからな」

「……はぇ?」

真一の言葉を聞いて、なゆたは一瞬間の抜けた声を出してしまった。

「ぬ、……抜ける? 誰が?」

「その話はまた改めてする。まずは家に戻ろうぜ、みんな疲れてる。特にしめ子は一度死んだんだからな、休養が必要だろ。
 ウィズリィのことなら心配ないさ、まがりなりにも魔女だぜ? ブックもいる。うまく避難してるさ」

そう言うと、真一はくるりと踵を返して歩いていってしまう。

「ち、ちょっ……真ちゃん!」

>俺は認めねえぞ。こんなよく分からん、自分の名前も思い出せねえような死体の世話になるなんざ。
 旅についてくるのは勝手だけどよ、足引っ張ったらその時はウジ虫の餌にしてやるぜ。げひゃひゃ

明神も、焼死体の一方的な『守ってやろう』発言には不服らしい。
だが、勝手についてくる分には自由だと言い足すあたり、人の好さが滲み出ている。

「わたしも反対! 自分の身くらい自分で守るわ、あなたなんかの力を借りなくたってね!
 真ちゃんはあんまり人が増えちゃうとよくないからって、パーティー離脱を切り出したに決まってる。
 それなら余計な人を増やさなきゃいい! わたしたちのパーティーは今まで通り! それでなんにも問題なんてないから!」

エンバースから離れると、なゆたは一足先に家に戻ろうと歩いている真一の後を追う――が。

「べぇぇぇぇ〜〜〜〜っだ!!!」

ふとエンバースを振り返り、思い切りアカンベーをすると、また真一の背を追って駆けていった。

5崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/03/18(月) 20:16:52
「……で……真ちゃん。前に言ったこと、説明してもらいましょうか」

ミハエルたちとの戦いから、丸一日が経過した。
奇跡的にミドガルズオルムの被害に遭わず、難を逃れていたなゆたハウス(仮称)の食堂。
まずなゆたはエンバースとカザハを問いただし、ふたりから事情を聞いて一定の理解を見せた。
どういうわけか未実装のエリアに放逐され、失意の死を迎えたのちになぜか蘇った元『異邦の魔物使い(ブレイブ)』。
なんだかギャグマンガのようないきさつでアルフヘイムへやってきた、カザハとカケル。
色々信じられない話ではあったものの、一番の問題はふたりではない。
雁首揃えた一行の中、おたまを持ちエプロンをつけたなゆたが仏頂面で真一に説明を求める。
ともすれば弾劾裁判めいたものに発展しそうな雰囲気の中、真一は悪びれもせずに口を開いた。

「悪いな、みんな……あの金獅子と戦ってるときから、ずっと考えてたんだ。俺はこれで一旦抜けさせてもらう」

突拍子もない提案だった。
真一が抜ければ、アタッカーがなゆただけになってしまう。それはパーティーにとっては大きな痛手だ。
ガンダラでも、決め手になったのは真一とグラドのコンビだった。彼らがいなければこのパーティーはとっくに全滅していただろう。
それが欠ければ、今後の冒険そのものにも支障が出る。

「ど……、どうして……?」

「フェアじゃないからな」

「……フェア? それってどういう――」

「だってさ。金獅子のヤツは、誰の力も借りずに自分ひとりで世界チャンピオンにまで昇りつめたんだろ?
 なのに、俺たちは寄ってたかってあいつを攻撃した。そりゃ、勝てて当たり前だろ。フェアじゃない」
 
真一はさも当然のように言った。
なゆたは絶句した。

「そ、そりゃそうだけど、あのときはそんなこと言ってる場合じゃなかったでしょ!?
 どうやっても金獅子を倒さなきゃ、リバティウムが壊滅してたんだから! わたしたちだって死んじゃってただろうし……」

「あの戦いがずるいとか、そういうことじゃねえよ。あの戦いはあの戦いで仕方なかった。
 でもな……それは本当の意味での勝ちじゃない。少なくとも俺の中では。
 だからさ。次にあいつと会う時は、俺ひとりで。タイマンであいつを倒したいって……そう思うんだ」

ケンカはあくまで一対一。どういう理由があるにせよ、多対一は矜持が許さない――というのが真一の言い分らしい。

「あいつはひとりで最強になった。なら、俺もそうでなくちゃいけない。
 みんなとのパーティープレイは楽しいけど、そうして強くなるのもやっぱり、フェアじゃないと思う。
 だから……悪い。みんな、ワガママ言わせてくれ。俺はひとりであいつをブッ倒せるくらい強くならなきゃダメなんだ」

唖然とするなゆたを尻目に、真一はエンバースを見た。そして、決然とした口調で告げる。

「エンバース……だっけ? あんたが現れたとき、いい機会だって思ったんだ。
 みんなを守るって言ったよな? なら是非そうしてくれ。俺の代わりに、こいつらを守ってやってくれ。
 男の約束だ……たがえるなよ。もし万一のことがあったら、金獅子の前にあんたをブチのめしに行くからな」

「し……、真ちゃ……」

「なゆ」

真一がなゆたに視線を向ける。その眼差しは優しい。
なゆたはそんな彼の眼差しを、そして強い意志を知っている。こうなってしまっては、もう何を言っても説得できない。
幼馴染ゆえの理解力で、なゆたは自分の胸に右手を添えると、はーっと一度深呼吸した。

「……みんなは、どう思う……?」

ゆっくりと長テーブルについたメンバーを見回し、なゆたは訊ねた。
が、訊ねたからといってどうなる訳でもない。真一は既に結論を出しているし、その理由も説明された。
その上で、彼の行動を拒絶できる者などいるはずがない。

「………………」

真ちゃんが行くなら自分も行くと。連れていってと。そう言うのは簡単だった。
けれど、それはできない。ひとりで往く、と彼が言ったからには、自分はそれを笑って見送るしかないのだ。
それが自分の役目であり、真一が自分に対して望むものなのだと、なゆたは知っている。
なゆたは束の間固く目を瞑り、強く唇を噛みしめた。
そして暫時して目を開くと、

「……真ちゃん」

右拳を真一に突き出す。
真一もそれに応え、右拳を差し出す。こつ、こつ、と互いに拳を触れ合わせ、最後にハイタッチする。

「わたしを片手で軽く捻れるくらい強くならないと、承知しないんだから……!」

「おう。今までの負け分、一気に取り戻すからな。俺に負けても泣くんじゃねえぞ?」

生まれたときから一緒にいるふたりの、一時の別離。
強い決意を前に、ふたりは微かに笑い合った。

6崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/03/18(月) 20:19:14
『皆さま、準備は宜しいですカ?
 当魔法機関車は間もなくリバティウムを離れまス。お忘れ物などございませんよウ――』

真一のパーティー離脱宣言から、さらに一週間後。
魔法機関車の乗り口で、ブリキの兵隊のようななりをしたモンスター、車掌兼運転士を務めるボノが言う。
リバティウムを離れる時間だ。
せめて復興のめどが立つまでは滞在したかったが、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』には重要な目的がある。
一箇所に長らく留まってはいられない――ということらしい。
また、時間の許す限りリバティウム内を捜索したものの、結局ウィズリィを見つけることはできずに今日を迎えた。

「寂しくなるが、復興に関しては任せていたまえ。必ず、このリバティウムをかつてを上回る美しい都に蘇らせてみせよう。
 あたかも、この私のようなね……! フフフ……」

見送りに来ていたポラーレが、そう言っていつものようにキラキラと周囲に光を振り撒く。
ポラーレは戦いが終わった後も何だかんだと一行の前に現れ、世話を焼いてくれた。
『弟に頼まれているから』とは言うものの、ポラーレ本人も相当の世話好きだというのは用意に見て取れた。

「ありがとう、ポラーレさん。いっぱいお世話になっちゃった。
 マスターといい、あなたたち姉弟はわたしたち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の一番の恩人だね」

「短い間だったが、私の方こそ楽しかったよ。
 けれど、気を引き締めていくように……これからの戦いは、このリバティウムでのそれよりも過酷になるだろう。
 決して命を無駄にしないように。みんなで力を合わせて困難を乗り越えるんだ」

「……はいっ!」

「それとナユタ、私と離れた後も訓練は欠かさず行うよう。
 たゆまぬ努力こそが美しさを形作る。決して忘れるのではないよ」

「了解です!」

懇ろにポラーレと握手を交わし、なゆたは笑った。
この一週間、なゆたは暇さえあればポラーレにせがんで特訓の相手をしてもらっていた。
まだまだ粗は目立つが、このまま特訓を欠かさずに続けていれば。いずれ窮地を脱する切り札になってくれるに違いない。

「さて……。じゃあ、俺も行くよ」

真一がザックを担ぎ、グラドを促す。グラドがぐるる、と低く唸る。

「真ちゃん……」

「そんな顔すんなよ、なゆ。これからは新しいパーティーでやっていくんだ。仲良くやれよ」

「……そんなこと言ったって」

一度は納得したつもりだったが、いざ別離となるとやはり躊躇いがある。割り切れない思いが首をもたげる。
真一は笑った。

「戦力については心配ないだろ? ちょうど、お誂え向きに新しい仲間が出向いてきたんだ。
 そこのカザハだって結構やると思うぜ? ミドガルズオルムを足止めしたのだって、カザハの功績があったんだろうしな」

「そっか……」

なゆたはカザハとその傍らのカケルを見た。
メロが彼らになゆたたちと合流しろと言ったということは、つまり信頼できる相手ということだろう。
少なくとも、なゆたにとってはエンバースよりは信用できる。

「そうだね、今は信じること! 先へ進むこと! じゃあ……改めてよろしく、カザハ君! カケルちゃん!
 わたしのことはなゆ、って呼んで? パーティー入り、歓迎するよ!」

なゆたはにっこり笑って、カザハへ右手を差し出した。それから、ぎゅっと握手する。
もちろん、エンバースに対して握手はなかった。

7崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/03/18(月) 20:23:06
「次の目的地はどこなの? ボノ。砂漠エリアのスカラベニア? それとも寒冷エリアのフロウジェンかしら?」

快適に進む魔法機関車。その客車の中で椅子に腰掛け、なゆたが問う。
ボノは小さく頷くと、

『大変長らくお待たせいたしましタ。次の目的地は王都キングヒル、王都キングヒルでございまス』

と言った。

「!! ……いよいよ、か……」

当面の旅の目的地。アルフヘイム最大の王国、アルメリア王国の首都。
なゆたたち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』をこの世界へと召喚したとおぼしき『王』の住まう都。
ガンダラ、リバティウムと思わぬ道草を喰わされたが、元々は一直線にこのキングヒルに行くつもりだったのだ。
そこで王と面会し、自分たちがこの世界に喚ばれた目的を訊く。そして、現実世界に戻る手段も――。
キングヒルへ到着したなら、今まで霧の中を歩くようだったこの旅の目的も明確になることだろう。

「じゃあ……キングヒルに着く前に、もう一度今までのことをおさらいしてみよう。
 まず、わたしたちは『ブレイブ&モンスターズ!』っていうゲームのプレイヤーで。
 ある日突然、ワケもわからずこのアルフヘイムに召喚された……それはいいよね」

そもそもプレイヤーなのか、それともトラックが悪いのかよく分からないカザハはさておいて、そう前置きする。

「わたしたちは現実世界でプレイしたゲームの内容そのままの世界に放り出された。
 パートナーの性能も、出てくる敵キャラたちも、町に住む人たちも――みんなゲームの通り。攻略法も。
 けど、時系列だけは狂ってる。死んでるはずの大賢者ローウェルが生きてたり、ガンダラの様子が違ったり。
 ゲームのストーリーモードより前の話なのかな? と思ったら、リバティウムにわたしの家があったり」

仲間たち(除くエンバース)の顔を見回し、説明を続ける。

「マルグリットによると、アルフヘイムは今『侵食』という危機的状況にある。
 ローウェルはそれを食い止めるために動いてて、わたしたち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の出現も予言されてた。
 となれば、王さまやローウェルはわたしたちにその侵食を食い止めてほしいって思っていると考えるのが妥当かしら」

姫騎士防具一式を着込んだ姿で、脚を組む。ニーハイブーツとミニスカートの間から絶対領域がちらりと覗く。

「けど、アルフヘイムと対を成すニヴルヘイムの連中も介入してきてる。
 イブリースが言うには、ニヴルヘイム側にもわたしたちと対応するような『異邦の魔物使い(ブレイブ)』がいる。
 その中のひとりが、金獅子ミハエル・シュヴァルツァー……彼とはまた戦うことになるでしょうね。
 イブリースは生きるためにアルフヘイムを破壊すると言ってた。
 ひょっとしたら、ニヴルヘイム側でも『侵食』が起こっているのかも。
 それを食い止めるために、アルフヘイムに侵攻している……とか……」

そんなことを言うも、推察の域を出ない話だ。確証を得るには材料が足りなすぎる。
右手を自らの顎先に添え、うーん、と唸る。

「みのりさんの言う通り、わたしたちはアルフヘイム側のガチャで無作為に召喚されたキャラクター扱いなのかもしれない。
 それならしっくり来るよね、王さまやローウェルが一方的にクエストを押し付けてくるのも。
 ゲームキャラに説明はいらない。ただ、粛々とクエストをこなせ! って言えばいいだけだもの
 明神さんが前に言ってたこと。そう……彼らにとっては、わたしたちこそがキャラクター。『モンスターズ&ブレイブ』なんだ」

だとすれば、益々この世界を救わなければならない。きっと、そうしなければ元の世界にも戻れない。
それに何より、どんな困難が目の前に立ち塞がったとしてもクエストはクリアする。それがゲーマーの性というものである。

「イブリースの言ってた『今度こそ』発言とか、まだ色々わかんないことはあるけど。
 とにかく当たって砕けろ! みんなで力を合わせて、現実世界へ帰ろう! おーっ!!」

がばっ! と立ち上がると、なゆたは大きく右腕を天井に突き出した。
……が、仲間たちの反応は薄い。なゆたは小首を傾げた。

「どしたの? みんな……」

『ご歓談中のところ誠に申し訳ありませんガ、間もなく王都キングヒルに到着致しまス。
 皆さま、降車の準備をお願い致しまス』

なゆたの覚えた小さな違和感は、ボノの言葉によって掻き消された。
前方にキングヒルの荘厳華麗な門が見えてくる。そして、その先にある白亜の王宮の姿も――。

8崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/03/18(月) 20:27:56
「次も僕に行かせてもらうよ、イブリース……。
 彼らは僕に恥をかかせた。この怒りは、彼らを八つ裂きにすることでしか晴らせない!」

廃墟と化した城塞。その一室で、ミハエル・シュヴァルツァーは憎しみの籠った眼差しをイブリースへと向けた。
明神やエンバース達『異邦の魔物使い(ブレイブ)』に一杯食わされ、退却を余儀なくされたことがだいぶ堪えたらしい。

「そうさ、僕は彼らを侮っていた。取るに足らない虫ケラと見下していた。そこに隙があったのは認めよう。
 だが――次はない。次は全力で潰す! 『堕天使(ゲファレナー・エンゲル)』と『あれ』の力を使えば造作もない!
 そう……彼らは反撃さえ許されず、一方的に死ぬんだ! アハハハッ、アッハハハハハハ……!」

超絶レアの『堕天使(フォーリン・エンジェル)』以外にも、ミハエルには手駒があるらしい。
確かに、リバティウムでの戦いでは『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちはミハエルの慢心に付け入った。
もし、ミハエルが微塵の油断もなく全力を出したとしたら、今度は勝てないかもしれない。

しかし。

「駄目だ」

椅子に腰掛け、上体をやや前に傾けたイブリースが却下する。

「なんだって? どうし……」

「確かに、アルフヘイムの喚んだ『異邦の魔物使い(ブレイブ)』に対抗する手段としてオレたちは貴様らを喚んだ。
 だが、それよりももっと重要な役目がある。それを忘れるな……ミハエル・シュヴァルツァー。貴様の役目は――」

「わかってるさ。自分の最優先すべき役目くらいはね。
 でも、その前に……」

「駄目だ」

取り付く島もない。
沈黙したミハエルは僅かに恨みがましい視線を向けたが、すぐに仕方なさそうに肩を竦めた。

「フン……いいだろう。僕は君たちに招聘された身だ、ここは従ってあげよう。
 けれど……彼らは僕の獲物だ。僕が叩きのめし、絶望を味わわせてやらなくちゃ気が済まない……!
 僕以外の誰かに彼らの始末なんて命じてみろ。許さないからな!」

「わかった、わかった。約束しよう。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』どもの始末は貴様に任せるさ。
 ――というか、ミハエル・シュヴァルツァー……貴様はしきりに負けたことを悔しがっているが。
 オレは少なくとも、連中に完敗したとは思っていない。それどころか、連中に大きな痛手を与えた。
 戦果としては上々と思っているくらいなのだがな」

そう言うと、イブリースは広間の一角にちらと視線を向けた。
つられるようにミハエルもそちらを見、小さく溜息をつく。
 
「こんな手段は美しくないよ。僕の美学に反する」

「かもな。だが、なりふり構ってはいられん。目的のため利用できるものは何でも利用するさ……。
 幸い、オレは魔族だ。この悪党! と罵られることには馴れている」
 
「ゲームの中の君も大概のバカだったけれど、君も相当のバカだね。イブリース」

「忠実だろう?」

呆れたようなミハエルの物言いに、イブリースは左の口角を吊り上げて嗤った。
ミハエルは興味なさそうに小さく鼻を鳴らすと、踵を返して部屋を出ていった。
イブリースはゆっくり立ち上がると、もう一度部屋の一角に視線を向ける。

「光が善で闇が悪だなどと、誰が決めた? 夜の帳に微睡む安らぎを、誰もが知悉しているはずなのに。
 しかし、しかしだ。それでもなお貴様らがオレたちを、闇を厭うというのなら――オレは抗う。叛逆する! 
 貴様ら光を撃ち払おう。光が招いた者どもを一匹残らず駆逐しよう。……貴様らがオレたちに定めた、悪の手法によって」

確固たる意志の下、イブリースは朗々とそう告げる。





漆黒の悪魔の視線の先には、寝台に横たわる“知恵の魔女”ウィズリィの姿があった。


【真一離脱。カザハ&カケルはパーティーメンバーとして認めるものの、エンバースには反発。
 水の都リバティウムを離れ、王都キングヒルへ。ウィズリィを拉致した魔族たちの暗躍。】

9カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/03/19(火) 23:23:17
>「まあ、落ち着いたところで、一応紹介しておくわー
なんやもう馴染んでる感じになってるけど、シルヴェストル(風の妖精族)とそのパートナーユニサスなんやけど、うちらと同じブレイブやって云うてはるんやわ
ミドガルズオルムを抑えるのに高機動でずいぶん助けてもらったけど……人やないし、あっちのエンバースもやけど、どういう事なんやろねえ?
まあ、後でゆっくりお互い自己紹介しよか」

さっきみのりさんからそこはかとなく殺気を感じたんだけど――気のせいだよね!?
先程まで鎌を携えていたのは世界チャンピオンに警戒して、ということにしておこう。
とはいえ、向こう目線でいけば実はこっちは敵の刺客でいったん信用させといて後ろからグサッも有り得ない話ではない。
いくらブレイブの証である魔法の板を持っているとはいえこの世界の異種族は全てモンスターの枠らしく、
そもそもこれじゃあモンスター&モンスターなのだ。
それだけでニヴルヘイム側と解釈されてしまう危険性すらある。
その点においては焼死体さんも同じようなものなのだろう。

>「あっ?他にもって、お前もブレイブなの?何だよ今日はマジでブレイブの大安売りだな。
 モンスターになってんのも意味わかんねーし、俺の知らない間に新パッチでも当たったのかよ」

「当たったのは当たったんだけど新パッチじゃなくてトラックに当たったというか……」

>「……俺は、一回死んだんだよ。そしてこうなった」
>「俺は何度でも言うよ。君達は、物語に関わるべきじゃない……君だって分かってるはずだ。
 今回死なずに済んだのは、たまたまだ。運が良かっただけ……次はどうなるか分からない」

焼死体さんがそう語る瞳には哀しみが宿っていた。
彼の言う一回死んだは私達とは意味合いが違って、
一度こっちの世界でブレイブとして活動してこっちの世界で死んだ、ということらしい。
きっと前の時に壮絶な戦いの果てに哀しい結末を迎え、皆にはそうなってほしくないと思っているのだろう。

>「……元ブレイブ、ってのはそういうことか。
 するってえとお前はアレか、俺たちより前にこの世界で活動してたブレイブなのか?
 ほんでどっかでおっ死んで、燃え残りとして蘇ったと。
 アンデッドなら、しめじちゃんと同じやり方で蘇生できるんじゃ――そうだ、しめじちゃん!」

>「だけど……奴らの方から、君達を狙ってくるなら仕方がない。
 大丈夫だ。君達は、俺が守ってみせる……捨てゲーはしない主義なんだ」

無気力系かと思いきや意外と熱血なことを言うなあ、等と思っていると、トーナメントに出ていた少女がいきなりキレた。

>「ちょっと、なんか好き勝手上から目線で言ってくれちゃってますけど。わたしたちはあなたに守られるほど弱くありませんけど?
(中略)
なんにも知らないあなたが、訳知り顔で偉そうに『守ってみせる』なんて言わないで!」

超マシンガントークにも拘わらず長い!
よくそれだけの長台詞を噛まずに言えるな、と妙なところに感心してしまう。
少女の言い分も分かるが焼死体さんは特に喧嘩腰だったり馬鹿にする風でもなく、そこまでキレる程のことだろうか。
あまり物事を深く考えない姉さんだったら”訳ありげな焼死体が何か意味深なことを言ってるなあ”ぐらいにしか思わない案件である。

10カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/03/19(火) 23:24:29
>「わたしたちの強さが分からないって言うんなら、デュエルしましょうか?
 わたしでも、真ちゃんでもいい。他の誰でも。あなたなんてどうせ、初心者のしめちゃんにだって太刀打ちできないわ!」

「え、ちょっと……」

これには姉さんも焦り始めるが、突如現れた怪しい奴という点では焼死体さんと同じ立場なので、どうすることも出来ずにわたわたするのみ。

>「なゆ、その辺にしとけ」

トーナメントに出ていた少年が制止に入ってことなきを得た。
この少年は今までアタッカーを務めていたらしいが、パーティーを抜けると唐突に言い出す。

>「その話はまた改めてする。まずは家に戻ろうぜ、みんな疲れてる。特にしめ子は一度死んだんだからな、休養が必要だろ。
 ウィズリィのことなら心配ないさ、まがりなりにも魔女だぜ? ブックもいる。うまく避難してるさ」

真ちゃんと呼ばれた少年となゆと呼ばれた少女はひとしきり言い争いをした後、
近くに拠点らしきものがあるらしく、少年はそこに向かって歩いていく。

>「へっ、一回死んでる奴が吹かすじゃねえか。喋って動くだけの焼死体に何が出来るんだ?
 紙防御の肉壁にでもなろうってのかよ」
>「俺は認めねえぞ。こんなよく分からん、自分の名前も思い出せねえような死体の世話になるなんざ。
 旅についてくるのは勝手だけどよ、足引っ張ったらその時はウジ虫の餌にしてやるぜ。げひゃひゃ」

サラリーマン風の青年が一見辛辣な言葉を浴びせかけるが、こちらは”旅についてくるのは勝手”と、さりげなくついてくるのを認めている。
いわゆるツンデレ気質というやつかもしれない。

>「べぇぇぇぇ〜〜〜〜っだ!!!」

>『グフォフォフォフォフォ……!』

「え、今ウジ虫が笑った……!?」

少女が少年の後を追い、みのりさんやサラリーマン風の青年がその後に続く。

「えーと……行こう!
あの子は仲間になってもらえばいいって言ってくれたし
あのお兄さんもなんだかんだついてきていいって言ってるしきっと大丈夫だよ!」

姉さんが焼死体さんを促し、躊躇っているようなら背中を押してか腕を引っ張ってでも後を付いていく。
姉さんと私はもともと彼らに合流するように言われていたから付いていかない選択肢が無いし、
一度壮絶な終わりを迎えて哀し気な目をしている人を一人捨て置いてはいけない、姉さんはそんなタイプだ。

11カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/03/19(火) 23:26:23
こうしてなゆたハウスというらしい拠点に半ば押し掛けた姉さん(+私)と焼死体さん改めエンバースさんは、
問い質されて今までの経緯を話すと思ったよりはすんなりと一定の理解を得た。
それは相次いでの謎の新キャラ登場よりも更に衝撃的な案件へと話題の中心が早々に移ったことが多分に影響しているのかもしれないが。

>「悪いな、みんな……あの金獅子と戦ってるときから、ずっと考えてたんだ。俺はこれで一旦抜けさせてもらう」

その理由は、タイマンでチャンピオンを倒せるようになるまで一人で修行したいというものだった。
熱血主人公気質にも程がある。

>「エンバース……だっけ? あんたが現れたとき、いい機会だって思ったんだ。
 みんなを守るって言ったよな? なら是非そうしてくれ。俺の代わりに、こいつらを守ってやってくれ。
 男の約束だ……たがえるなよ。もし万一のことがあったら、金獅子の前にあんたをブチのめしに行くからな」

会ったばかりの見ず知らずの人にいきなりそんな重要なことを頼んじゃう!? と思うが、
熱血主人公気質の者同士の間だけで通じ合う何かがあったのかもしれない。

>「……みんなは、どう思う……?」

なゆたちゃんはその場にいる全員に尋ね、全員の意思確認という形を取る。
しかし例えここにいる全員に反対されようと、真一君の意思は変わらないであろう。

「一人で行くならくれぐれも気を付けてね――それとトーナメント見てた。かっこよかったよ!」

>「……真ちゃん」
>「わたしを片手で軽く捻れるくらい強くならないと、承知しないんだから……!」
>「おう。今までの負け分、一気に取り戻すからな。俺に負けても泣くんじゃねえぞ?」

そんな幼馴染同士のやりとりを、姉さんは少しだけ眩し気に見ているのであった。
こうして私達は一応のパーティー入りを認められ、それから一週間ほどリバティウムに滞在することになった。
騒動の中でウィズリィという現地の案内役のようなポジションの仲間が行方不明になったらしく、
私達も機動力を生かして捜索に協力したが、結局見つからなかった。
彼女と一緒に旅をしてきたのであろう仲間達は心配はしているが滅茶苦茶取り乱す風はなく、なゆたちゃんは空いた時間に特訓などをしている。
元々こっちの世界の現地民だし魔女だしまあ大丈夫だろう、ということだろう。
昼はウィズリィさんを探したり街の復興に協力したりして過ごし、
夜は姉さんと一緒に攻略本を読み込み、あの時イブリースと戦いになってたら積んでたなあ、と遅ればせながら戦慄したりした。
それにしてもこの攻略本、そこそこやりこんだプレイヤーなら当然知っている程度のことしか書かれてないが、
もしこちらの現地民にうっかり見られようものなら『予言の書じゃぁあああああ!』と大騒ぎになりかねないので注意しなければいけない。
どうやらこの世界は、ゲームの舞台になっている時代よりも過去の時代らしい。
そして、出発の前夜――

12カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/03/19(火) 23:28:49
「兄弟で冒険ってちょっと鋼○錬金術師みたいでいいよね!」

《謝れ! ハ○レンに謝れ! 兄弟以外に何一つ共通点ないし!》

「あはは、言えてる! ボク達、本当の本当に世界を救う冒険に旅立つんだ……!
ねぇ、あの時、死ぬかもしれないけど久しぶりに生きてるって思ったよ!」

《……正直私も同じことを思いました》

私達姉弟の地球での境遇は、決して不幸ではなかった。
ただ、漠然とした疎外感をずっと感じていた。なんというか、自分達の世界はココジャナイ感。
中学二年生前後には割と大勢の者が思うことだろうが、私達の場合、歳を重ねるごとに大きくなる一方だった。
虐待やら超貧乏やら壮絶な境遇に見舞われた者から見ればそんな悩みは贅沢の極み。
そんなことを考えてる暇があるだけ幸せな証拠と言われればその通りなのは分かっているのだが。
リア充という高等人種になれるはずはなく、ヤンキーやギャルのカテゴリーにも参入できるはずもなく(むしろこの辺りは天敵)、
かといって優等生カテゴリーに所属できるほどの頭もなく――いつの間にやら消去法的にオタクカテゴリーに落ち着くことになった。
こうして学生時代はスクールカーストのド底辺を這いずり回るように過ごし、
そして姉さんは売り手市場だかなんだかでなんとか就職出来て窓際会社員、私は見事に自宅警備員。
それでも親より先に死ぬのはまずい、程度の意識はあったが、両親が失踪してからは”適当に余生過ごして死ぬか”のような無気力な生活を送っていた。

「……もしかしたら、ボク達の世界はこっちなのかもしれないね」

――もしかしたら、本当にそうなのかもしれない。私の中では、姉さんはずっと昔から勇者だった。
幼い頃、いじめっ子を追い払ってくれたあの時からずっと。
具体的には「うちは代々伝わる勇者の家系で……」という脳内設定を垂れ流し
「ここに選ばれし者にしか見えない紋章がある!」と左手の甲を見せつけるといじめっ子共は恐れをなして散り散りに逃げて行った。
今だったら『はい邪気眼邪気眼』で流されるだけだが、まだそのような概念が一般化する前の話だ。ある意味パイオニアである。
それから地球社会に揉まれるうちにそんな姉さんの勇者の素質は埋もれていったが、
時は流れ私が就職に失敗し自宅警備員が確定しお茶の間になんともいえない雰囲気が流れる中。
姉さんが「自分が面倒みるから大丈夫」と言ってくれた。
「いつクビになるかもしれない窓際族が何言ってんの!」という母さんを尻目に、姉さんは私にとってはやっぱり勇者だったことを改めて思い出した。

《この世界で、私が姉さんを本物の勇者に……》

姉さんを勇者にする――その言葉を言い終わる前に、姉さんが突拍子もない決意表明をした。

「――決めた! 世界を救って……君を美少女にしてあげる!」

《はい!?》

「ユニサスって超絶進化すると美少女に擬人化できる能力を得るんだって!
でも普通にやってるとそこまで進化できないらしくて……世界救ったら余裕っしょ!」

13カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/03/19(火) 23:31:07
攻略本の該当箇所を指さしながら力説する姉さん。イケメンという選択肢は無いのか……? 無い仕様なんだろうな。
いやいや、でも冷静に考えると美少女、悪くない、というかむしろいいかも……?
美少女になれば人型になれるということだし、元のオッサンニートよりは翼の生えた美少女の方がいいに決まってる――のか!? じゃなくて! 

《私が、パートナーモンスターとして姉さんを勇者にする! だから姉弟はしばらく休業。
これからは私たちはブレイブ&モンスターだ! 分かりましたね姉さん……いや、カザハ!》

「言ったね――尻に敷きまくるから覚悟しときなよ、カケル!」

こうして、共に世界を救って私がカザハを勇者にし、カザハは私を美少女にする(?)という密かな約束が結ばれたのだった。

「そういえばエンバースさん、最初にこっちの世界に飛ばされたのは二年前って言ってたよね……」

《二年前って……丁度父さんと母さんが失踪した時期……いやいやいや、無い無い無い》

家族揃って異世界転移ってどんな一家やねん。
――とにもかくにも夜は明け、いよいよ出発の時が訪れた。

>『皆さま、準備は宜しいですカ?
 当魔法機関車は間もなくリバティウムを離れまス。お忘れ物などございませんよウ――』

それは幼馴染同士の暫しの別れの時でもあった。
名残惜しげに別れを惜しむなゆたちゃんに、真一君が新しいメンバーで仲良くやるようにと諭す。

>「戦力については心配ないだろ? ちょうど、お誂え向きに新しい仲間が出向いてきたんだ。
 そこのカザハだって結構やると思うぜ? ミドガルズオルムを足止めしたのだって、カザハの功績があったんだろうしな」

>「そっか……」
>「そうだね、今は信じること! 先へ進むこと! じゃあ……改めてよろしく、カザハ君! カケルちゃん!
 わたしのことはなゆ、って呼んで? パーティー入り、歓迎するよ!」

「こちらこそ、よろしくね。なゆ!」

笑顔で握手に応じるカザハ。
カザハはなゆたちゃん達が見ていない時を見計らって、エンバースさんに声を掛ける。
なゆたちゃんの彼に対する態度が自分達に対する態度と明らかに違うのを気にしているようだった。

「あのさ……同期同士仲良くやろうね! きっとみんなすぐ打ち解けてくれるよ!
ちょーっと見た目にインパクトがあるから戸惑ってるだけで!」

そうこうしているうちに列車は順調に進み、目的地が近づいてくる。

14カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/03/19(火) 23:32:49
>「次の目的地はどこなの? ボノ。砂漠エリアのスカラベニア? それとも寒冷エリアのフロウジェンかしら?」
>『大変長らくお待たせいたしましタ。次の目的地は王都キングヒル、王都キングヒルでございまス』
>「!! ……いよいよ、か……」

目的地を前に、なゆたちゃんが今までの経緯をおさらいする。

>「みのりさんの言う通り、わたしたちはアルフヘイム側のガチャで無作為に召喚されたキャラクター扱いなのかもしれない。
 それならしっくり来るよね、王さまやローウェルが一方的にクエストを押し付けてくるのも。
 ゲームキャラに説明はいらない。ただ、粛々とクエストをこなせ! って言えばいいだけだもの
 明神さんが前に言ってたこと。そう……彼らにとっては、わたしたちこそがキャラクター。『モンスターズ&ブレイブ』なんだ」

カザハはうんうん、と頷きながら聞いている。
そう、カザハはこの世界でクエストをこなして世界を救って、勇者になるのだ。
が、彼女の次の言葉で、カザハはなゆたちゃんと自分達との決定的な違いを知ることとなる。

>「イブリースの言ってた『今度こそ』発言とか、まだ色々わかんないことはあるけど。
 とにかく当たって砕けろ! みんなで力を合わせて、現実世界へ帰ろう! おーっ!!」

正直なところ、私達のこの状況が異世界転生なのか、異世界転移なのか――それは分からない。
トラックにひかれて死んでこの世界に転生したのか、それとも衝突の瞬間に忽然と消えてこちらの世界に転移したのか、地球の状況を観測できない以上、知る術はない。
一つ確かなことがあるとすれば、私達は別に帰りたいとは思っていない、ということだ。
なゆたちゃんは与えられたクエストをクリアーすれば現実世界に帰れると漠然と思っているようだが本当にそうなのだろうか。
そうだとして、それ以外にも永住権を貰う、という選択も出来るのだろうか――

「お、おーっ!」

今はそんなややこしいことを言い出すべきではない空気を察したのであろうカザハが一瞬おくれて右腕を振り上げる。
奇妙なことに、他の皆も反応に一瞬の間があり、なゆたちゃんがそれに疑問を呈した。

>「どしたの? みんな……」

――明神さんも「世界救って定住してやろう」と私達と似たようなことを考えており、
みのりさんに至ってはアルフヘイムに敵意すら抱いていることを知るのはまだ少し先の話。

>『ご歓談中のところ誠に申し訳ありませんガ、間もなく王都キングヒルに到着致しまス。
 皆さま、降車の準備をお願い致しまス』

列車は豪華な門をくぐり、ついに王都キングヒルに到着した。
駅から出て大通りを真っ直ぐ行った先には、白亜の王宮が見えている。
ファンタジー世界の壮麗なる王都に、カザハは大はしゃぎだ。

「うわぁ、すっごーい! 今からあそこに行くんだよね!?」

15カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/03/19(火) 23:34:03
当然、目的地の王宮に直行するものと思われたが、カザハは何か考えるような素振りを見せ始めた。

「でも大丈夫かな? 案内役を仰せつかっていたウィズリィちゃんは行方不明。
パーティーは当初想定してたメンバーが抜けて代わりに想定されてなかったメンバーが増えてる……。
ボクはメロちゃんに合流するように言われてたから多分ギリギリ大丈夫だとしても……」

そう、王側の人達にとって、エンバースさんはおそらく全くの想定外人員なのだ。
しかもぶっちゃけ見た目が焼死体のモンスターである。
王宮に入ろうとした瞬間に衛兵に取り囲まれて討伐されかねない。

「エンバースさん、王宮に行くんだからボロ布同然のローブはまずいよ! いかにも燃えちゃった感が凄いじゃん!」

遠回しに言っているが、要するに服装でどうにか焼死体感を胡麻化してもぐりこもうという作戦らしい。
なるほど、一応五体は満足なので、全身を覆う綺麗目のローブでも着て顔は目深にフードを被ればなんとかなるかもしれない。

「お金が無い? 大丈夫、リバティウムの復興手伝ってたらちょっとお礼をもらえたんだ!
そんなに高いのは買えないけどね!」

果たして見た目焼死体からの雰囲気イケメン化作戦は功を奏すのか!?
それ以前にそもそもエンバースさん本人は乗ってくるのだろうか!?

16embers ◆5WH73DXszU:2019/03/25(月) 06:59:29
【ニューゲーム・プラス(Ⅰ)】


なゆたの眉間に走る皺/鋭く尖る眼光。
焼死体は瞬時に、自分が彼女の機嫌を損ねた――それも、著しく――事を理解した。

『ちょっと、なんか好き勝手上から目線で言ってくれちゃってますけど。わたしたちはあなたに守られるほど弱くありませんけど?』

「……誤解しないでくれ。これは相対的な話だ。君達が幾ら強くても――」

『だいたい『物語に深入りするな』とか言ってるけど。じゃあ、物語に深入りしない方法って何?』

「それは――」

『この、360度どこを見たって異世界なこの空間で。深入りしないことなんて物理的に不可能じゃないの?』

「ああ、だが少なくとも積極的に――」

『それとも何かしら? 家の中に閉じこもって、どこかの知らない誰かが手を差し伸べてくれるのを待ってろとでも言うつもり?』

「……なあ、頼む。話を――」

『ナンセンス! そっちの方がよっぽど非現実的だし、バカらしいし――何より、わたしらしくない!!』

尚も続く、なゆたの怒声――絶句/天を仰ぐ焼死体。
諦めの境地/完全に甘受の姿勢。
それが怒れる十代女子への最適な攻略法。
焼死体はその事を覚えている――かつては己の日常の一部だった事を。

『わたしたちの強さが分からないって言うんなら、デュエルしましょうか?』

「……なんだと?」

しかし不意に、焼死体が再びなゆたを見下ろす。
重く冷たい鋼の如き声音/ひび割れる眼球/赤熱する眼光――それらと共に、一歩前へ。
一連の現象から導き出される明白な事実――今度はなゆたが『焼死体の地雷を踏んだ』。

『わたしでも、真ちゃんでもいい。他の誰でも。』

「待ってくれ、それは困る」

『あなたなんてどうせ、初心者のしめちゃんにだって太刀打ちできないわ!』

「――来るなら、全員で来てくれないか。その方が後腐れないだろ」

強気/大人げない/無益な言動――焼死体に残る人間性の発露。
絶大な自信/円滑な人間関係よりも優先される挟持。
つまり――根っからのゲーマー気質。

17embers ◆5WH73DXszU:2019/03/25(月) 07:01:01
【ニューゲーム・プラス(Ⅱ)】

『なゆ、その辺にしとけ』

『だって! 真ちゃん……!』

『守ってやるなんて言うってことは、その自信があるんだろ。お手並み拝見といこうぜ。
 どのみち俺達には戦力が足りない。こいつがまがりなりにも『異邦の魔物使い(ブレイブ)』だってんなら、願ったりだ。
 仲間になってもらえばいいさ』

だが『異邦の魔物使い(ブレイブ)』同士の決闘は――“保留”に終わった。

「……思わぬ援護射撃だけど、助かるよ。出来れば手荒な真似はしたくない」

バッドエンドの経験値分、焼死体は先に冷静さを取り戻す。
それでもごく自然に紡がれる挑発的言動――無論、本人にその自覚は無し。

『必要ないよ。さっきだって、逃げてって言ったのに戻ってきちゃったし。パーティーに勝手に動く人がいるのは崩壊の元!
 それに、戦力だって真ちゃんとわたしがアタッカーで、みのりさんがタンク。明神さんとしめちゃんとウィズがサポーター。
 今のままで充分バランスが取れてるし――』

――出たよ。後発組はいつもこう言うんだ。『Wikiにはこう動くって書いてある』ってな。
呆れ混じりの笑みを浮かべる焼死体/とは言えこれ以上話が拗れるのは避けたい。
故に再び無言/謹聴の姿勢――怒れる少女に対する最適解へ移行。

『俺は認めねえぞ。こんなよく分からん、自分の名前も思い出せねえような死体の世話になるなんざ』

不意打ちのウザ絡み/振り返る焼死体。

『旅についてくるのは勝手だけどよ、足引っ張ったらその時はウジ虫の餌にしてやるぜ。げひゃひゃ』

憎まれ口を叩く明神――小悪党丸出しの笑み/不気味なウジ虫の笑い声。
焼死体の動揺を誘うには、些か迫力不足。

「生憎、見ての通り全身黒焦げでね。食える部分なんて……待て、ウジ虫だって?」

肩の上で揺れるウジ虫を思わず二度見/明神へと一歩詰め寄る。

「ソイツ……負界の腐肉喰らいか!?すごいな!一体幾ら使ったんだ?
 餌は何をやってる?まさかバカ正直に腐肉だけを与えたりしてないよな?
 ブレモン開発の事だ。腐肉以外にも絶対、実は餌に出来るアイテムがあるぞ」

異様な食いつき/見違えるような饒舌――炸裂するゲーマー気質。

18embers ◆5WH73DXszU:2019/03/25(月) 07:03:48
【ニューゲーム・プラス(Ⅲ)】

『わたしも反対! 自分の身くらい自分で守るわ、あなたなんかの力を借りなくたってね!
 真ちゃんはあんまり人が増えちゃうとよくないからって、パーティー離脱を切り出したに決まってる。
 それなら余計な人を増やさなきゃいい! わたしたちのパーティーは今まで通り! それでなんにも問題なんてないから!』

「……悪いけど、お言葉に甘えて勝手に付き纏わせてもらうよ。
 追い払いたければ、好きにすればいい……出来るものならな」

振り返らないままの返答/興味の対象は未だ幼き蝿王。
離れていく二つの足音――だがその内の一つが、不意に鳴り止む。
背後から感じる今なお冷めぬ怒りの熱気――焼死体は嘆息と共に振り返る。

「なんだ、ホントにここでやるつもり……」

『べぇぇぇぇ〜〜〜〜っだ!!!』

右手人差し指を下瞼に添え/舌を出す――幼稚さすら感じる仕草。
対する焼死体の反応は、絶句――呆れているのではない。
固茹での脳髄を満たし/支配するのは――戦慄。
或いは――とうに失われた日常のリフレイン。

「……どうかしてる。よりにもよって、アイツを思い出すなんて」

嘆息/呻き声/右手で頭を抱える。

「あんなヤツ……これっぽっちも似てやしないのに」

過去の残滓を払い除けるように、頭を振った。
もう二度と取り戻せない――最も大切だった存在。
愛しき白昼夢――だが脳裏に留め続けるには、生じる苦痛が大きすぎる。

『えーと……行こう!
 あの子は仲間になってもらえばいいって言ってくれたし
 あのお兄さんもなんだかんだついてきていいって言ってるしきっと大丈夫だよ!』

「……ああ、すまない。大丈夫だ。自分で歩ける……。
 ちょっと、これからどうしたものか考えてただけだ」

よろめきながらも、なゆた達の後を追う。
例え彼女に嫌われようと/彼女がいけ好かなくとも、する事は変わらない。
もう何も失いたくない/偶然すれ違っただけの命でも――今度こそ、守り抜く。

19embers ◆5WH73DXszU:2019/03/25(月) 07:08:07
【ニューゲーム・プラス(Ⅳ)】


蹂躙された街を通り抜け、辿り着いた先は――見上げるほどの豪邸。

「……マイハウス。実在したのか、こっちの世界に」

スライム尽くしの内装を見回しながら、呆然と呟く。

「俺のギルドハウスは……もう撤去されてるだろうな。
 少なくとも一年、放置してたんじゃ……サーバー容量の無駄遣いだもんな」

箱庭エリアを管理しているサーバーの容量には当然、上限がある。
主人に忘れられた幽霊屋敷を、いつまでも残しておく理由はない。

「……ああ、すまない。ええと……俺が何者か、だったっけ。
 だけど、既に言った通りだ。元ブレイブで、名前は思い出せない。
 君達より前にこの世界に来て……一度死んだ。そして目覚めたら、こうなってた」

やや早口/無感情な声――無益な懐古を掻き消すように。

「光輝く国ムスペルヘイム……まだ内部データすら不完全な、未実装エリアだった。
 だけど攻略自体は出来たんだぜ。ただエンディングまで生き残ったのは俺だけで、
 そのエンディングも……バッドエンドか、デッドエンドの二択だったってだけで」

不必要な捕捉――そういう結末もあると印象付ける為/自己防衛の喚起。

「……なゆた、だったよな。確か俺の事を『燃え残り(エンバース)』と呼んだろう。
 それがこの……モンスターの名称か。呼び方はそれでいい。まぁ……そんなところだな」

話を切り上げる――詳細を述べて面白い物語でもない。

『……で……真ちゃん。前に言ったこと、説明してもらいましょうか』

そして始まる、本命の話題。

『悪いな、みんな……あの金獅子と戦ってるときから、ずっと考えてたんだ。俺はこれで一旦抜けさせてもらう』

『ど……、どうして……?』

『フェアじゃないからな』

『……フェア? それってどういう――』

『だってさ。金獅子のヤツは、誰の力も借りずに――』

『そ、そりゃそうだけど、あのときはそんなこと――』

『あの戦いがずるいとか、そういうことじゃねえよ――』

『あいつはひとりで最強になった。なら、俺もそうでなくちゃいけない。
 みんなとのパーティープレイは楽しいけど、そうして強くなるのもやっぱり、フェアじゃないと思う。
 だから……悪い。みんな、ワガママ言わせてくれ。俺はひとりであいつをブッ倒せるくらい強くならなきゃダメなんだ』

焼死体の反応――理解不能/理解する気にもならない。
手札/手駒の相違はゲームの常――そこを否定すれば、あらゆる勝負が成立しない。

20embers ◆5WH73DXszU:2019/03/25(月) 07:10:03
【ニューゲーム・プラス(Ⅴ)】

『エンバース……だっけ? あんたが現れたとき、いい機会だって思ったんだ』

「……まぁ、君には君の考えがあるんだろう。あれこれ口出しするつもりはないさ」

己には理解し得ぬ信念――だが、焼死体は知っている。
信念なんて代物は往々にして、他者には理解し難いモノ。
要はただの戦術/プレイスタイルの相違――他人が口出しする事でもない。

『みんなを守るって言ったよな? なら是非そうしてくれ。俺の代わりに、こいつらを守ってやってくれ。
 男の約束だ……たがえるなよ。もし万一のことがあったら、金獅子の前にあんたをブチのめしに行くからな』

「勿論そのつもりだ。君に頼まれなくともな――だから、そんな約束を聞き入れるつもりもない」

剣呑な態度/真一に一歩詰め寄る――その胸へと突きつけられる、焦げた指先。
余計な口出しはしない/だが過度の尊重もするつもりはない。
自己流のプレイスタイルを貫くのは自由だ。

「不安があるなら、さっさと強くなるんだな」

だが自由には責任/リスクが伴う――それを肩代わりしてやる理由は、ない。
リスクを背負えないなら、何の為の信念だ――無言のまま語る焼死体の眼差し。

『し……、真ちゃ……』
『なゆ』

幼馴染へと視線を戻す真一。
焼死体も身を翻し二人から離れる/壁に背を預けて腕を組んだ。

『……みんなは、どう思う……?』

――これ以上は、彼らが自分達で、話をつけるべきだ。

『……真ちゃん』

見つめ合う真一/なゆた――拳を触れ合わせ、ハイタッチ。

『わたしを片手で軽く捻れるくらい強くならないと、承知しないんだから……!』
『おう。今までの負け分、一気に取り戻すからな。俺に負けても泣くんじゃねえぞ?』

自分が失い/二度と取り戻せぬ日常――美しい、幸福の光景。
それを見つめる焼死体/静かに、より一層、深まる決意――守らなくては。
義務感にも似た感情――失ったからこそ、誰よりもその価値を知るが故に。

21embers ◆5WH73DXszU:2019/03/25(月) 07:13:04
【ニューゲーム・プラス(Ⅵ)】


そして出立の日/別れを惜しむ当代『異邦の魔物使い(ブレイブ)』。
焼死体はその輪に加わらない/やや離れた位置で一人、魔法列車を見上げる。

「……クソ長いロード画面なんて、見飽きてたはずなのにな」

どうしようもなく湧き立つ郷愁/目を閉じ/拒む――思い出すほど、辛いだけ。

『あのさ……同期同士仲良くやろうね! きっとみんなすぐ打ち解けてくれるよ!
 ちょーっと見た目にインパクトがあるから戸惑ってるだけで!』

「……気を遣わせて悪いな。だが心配はいらない。要は聞き専とのPTプレイだ。
 するべき時に、するべき事をすれば……何の問題もなく攻略は進められるよ」

列車へと乗り込む/致命的にズレた返答。
焼死体の自意識――自分は既に終わった者/これはもう一度死ぬまでの、ほんの寄り道。

『じゃあ……キングヒルに着く前に、もう一度今までのことをおさらいしてみよう。
 まず、わたしたちは『ブレイブ&モンスターズ!』っていうゲームのプレイヤーで。
 ある日突然、ワケもわからずこのアルフヘイムに召喚された……それはいいよね』

王都キングヒルへ向かう魔法列車の中、なゆたがそう切り出す。
恐らくは新入り二匹への心遣い――つまりカザハ/カケルへの。
焼死体――壁に凭れ、揺れる列車内で微動だにせず。

『わたしたちは現実世界でプレイしたゲームの内容そのままの世界に放り出された。
 パートナーの性能も、出てくる敵キャラたちも、町に住む人たちも――みんなゲームの通り。攻略法も。
 けど、時系列だけは狂ってる。死んでるはずの大賢者ローウェルが生きてたり、ガンダラの様子が違ったり。
 ゲームのストーリーモードより前の話なのかな? と思ったら、リバティウムにわたしの家があったり』

「……なぁ、ネタバレには十分配慮してくれよ。ストーリーモードは攻略済みだけどさ。
 俺がやってた頃はまだ未完結のサブクエが色々あったんだ。
 空飛ぶ安楽椅子探偵とか……もうプレイ出来ないとしても、ネタバレは聞きたくない」

『マルグリットによると、アルフヘイムは今『侵食』という危機的状況にある。
 ローウェルはそれを食い止めるために動いてて、わたしたち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の出現も予言されてた。
 となれば、王さまやローウェルはわたしたちにその侵食を食い止めてほしいって思っていると考えるのが妥当かしら』

「付け加えるなら、どういう働きを期待されているのかも凡その予想はつく。
 こと武力に関しては、アルフヘイムには十二階梯がいる。
 ローウェルが事態を主導しているなら、ヤツらを駆り出せない理由はない」

十二階梯の全召集――アルフヘイムは現時点で超レイド相当の戦力を確保可能。

「なら、俺達に求められているのは……まぁ、“魔法の板”の可能性が高いよな。
 “テイム”か“インベントリ”か……システムを超えた使用法は幾らでもある」

注意喚起――『王』の望むモノが冒険の途中で変わる可能性は、ゼロではない。
つまり『異邦の魔物使いによる助力』から、『魔法の板の奪取/支配』へと。

『けど、アルフヘイムと対を成すニヴルヘイムの連中も介入してきてる。
 イブリースが言うには、ニヴルヘイム側にもわたしたちと対応するような『異邦の魔物使い(ブレイブ)』がいる。
 その中のひとりが、金獅子ミハエル・シュヴァルツァー……彼とはまた戦うことになるでしょうね。
 イブリースは生きるためにアルフヘイムを破壊すると言ってた。
 ひょっとしたら、ニヴルヘイム側でも『侵食』が起こっているのかも。
 それを食い止めるために、アルフヘイムに侵攻している……とか……』

――ヤツらの事情なんか、考えたって仕方ないだろう。殺意を向けてくるなら、対応策は一つだ。
一度死んでいるが故の冷徹さ/言葉にはしない――今以上に顰蹙を買うのは明白。

『みのりさんの言う通り、わたしたちはアルフヘイム側のガチャで無作為に召喚されたキャラクター扱いなのかもしれない。
 それならしっくり来るよね、王さまやローウェルが一方的にクエストを押し付けてくるのも。
 ゲームキャラに説明はいらない。ただ、粛々とクエストをこなせ! って言えばいいだけだもの
 明神さんが前に言ってたこと。そう……彼らにとっては、わたしたちこそがキャラクター。『モンスターズ&ブレイブ』なんだ」

「……つまりは、舐められてるって事だろ」

焼死体の悪態/明確な嫌悪感――デッドエンドへ追い込まれた者の恨み節。

22embers ◆5WH73DXszU:2019/03/25(月) 07:17:33
【ニューゲーム・プラス(Ⅶ)】

『イブリースの言ってた『今度こそ』発言とか、まだ色々わかんないことはあるけど。
 とにかく当たって砕けろ! みんなで力を合わせて、現実世界へ帰ろう! おーっ!!』

意気揚々と右拳を掲げるなゆた――仲間達の反応は、芳しくない。

『どしたの? みんな……』

漂う微妙な空気――焼死体は皆を一瞥/妙な様子だとは感じつつも、その原因は分からない。
元は人生を謳歌していた学生――永住を望むという発想自体が出てこない。

『ご歓談中のところ誠に申し訳ありませんガ、間もなく王都キングヒルに到着致しまス。
 皆さま、降車の準備をお願い致しまス』

不意に、車内に響くアナウンス/車窓から見える白亜の王宮。

『うわぁ、すっごーい! 今からあそこに行くんだよね!?』

――ああ、お使い爺さんの根城に晴れてご招待って訳だ。今から気が滅入る。
脳裏に浮かぶ、エンドユーザー流のブラックジョーク――言葉にはしない。
新規ユーザーの楽しみを奪うなど――ゲーマーとして恥ずべき行為。

『でも大丈夫かな? 案内役を仰せつかっていたウィズリィちゃんは行方不明。
 パーティーは当初想定してたメンバーが抜けて代わりに想定されてなかったメンバーが増えてる……。
 ボクはメロちゃんに合流するように言われてたから多分ギリギリ大丈夫だとしても……』

「そんな事より、カザハ。確かゲーム本編は未プレイだって言ってたな。
 だったら、王宮に直接向かうのは……少し勿体無いと思わないか?」

『エンバースさん、王宮に行くんだからボロ布同然のローブはまずいよ! いかにも燃えちゃった感が凄いじゃん!』

「……話が早いな。確かに、新エリアに突入するなら装備更新はしておきたい」

『お金が無い? 大丈夫、リバティウムの復興手伝ってたらちょっとお礼をもらえたんだ!
 そんなに高いのは買えないけどね!』

「心配はいらない。ルピなんてものは、あるところには、たんまりあるんだ」

ブレモン起動直後に異世界転移したカザハ/カケル――当然インベントリの中身は空/装備品も皆無。

「そう、装備更新が必要なのはむしろ君達の方だ、カザハ、カケル。
 新たな仲間を裸で戦場に立たせるのが、当代ブレイブの流儀か?」

そして既に仲間と受け入れられた二匹の為なら、なゆた達も出資は惜しまない筈。

「……まずは武器と防具だな。馬上で戦うなら防具は軽くて丈夫なクロスか、レザー系統。武器は槍ってとこか。
 確か……王都のショップなら『闇狩人のコート』が手に入るよな。防具はそれでいいだろう。
 武器は……『血浸しの朱槍(ヴァンパイア・クロウ)』か。多少重いが、重さは強さだ。
 四足獣型なら鞍袋が装備出来るんだから、サブウェポンやアイテムも揃えたいな。
 色々使ってみないと、何がしっくり来るかも分からないもんな」

そうしてカザハに押し付けた装備品/アイテムの殆どが、焼死体の身に纏われていったのは、言うまでもない。
黒一色のコート/目深に被ったフード/僅かに漏れる燐火の眼光/背負った槍/盾/手斧/エトセトラ。

「――よし、十分だ」

つまり“エンバース・エンバーミング大作戦”は――対象の不審者から武装犯へのクラスアップという結果に終わった。

23明神 ◆9EasXbvg42:2019/04/01(月) 04:28:25
俺だって、何も始めっからクソコテだったってわけじゃあない。

まぁ当然っちゃあ当然なんだけど、初めから貶める目的でゲームをプレイする人間なんざそうそう居ねえよな。
好きの反対は無関心って言葉はぶっちゃけ嫌いだけれども。わりと正鵠を射た表現だとは思う。
俺がここまでブレモンに粘着すんのも、実際のところそんだけブレモンに熱中してた裏返しなんだ。

フォーラムで暴れまわっては厚顔無恥な要求を声高に喚き立てる、害悪以下の鼻つまみ者。
正なる者に唾を吐き、逆張りと屁理屈で誰彼構わず嫌気を振りまくクソの塊。
そんな存在に身を貶す前は、俺もまた"真っ当"なプレイヤーだった。

度重なるクローズドβを経てついにロールアウトした新作ソーシャルゲーム『ブレイブ&モンスターズ』。
俺はその先行登録組として、仕事する間も惜しんで攻略に挑んでいた。
レイドコンテンツは実装初日にクリアしてたし、意識高いフレンドと意識高い固定PTなんかも組んでた。
月の給料の半分近くは課金に費やしてる、まぁどこに出しても恥ずかしいガチ勢の一人だった。

楽しかった。輝いていた。
リアル生活はとっくの昔に荒廃しきってたけど、その分ゲーム内での俺は充実してた。
毎月のように実装される新規レイド、注いだ金の額だけ強くなれる新規カード。
会社では窓際族の俺も、ブレモンの世界でなら、皆から頼りにされるPTの花形アタッカーだった。

だけど……どこかでぷつりと糸が切れた。
きっかけは多分、実装されたばかりのPVPコンテンツ――対人戦だ。
レイド級と課金スペルを携えて、意気揚々と対戦に挑んだ俺は、そこで現実に打ちのめされた。

レベルを上げてパターン把握すれば誰でも勝てるPVEと違って、PVPは駆け引きの世界だ。
リアルマネーやリアル時間を費やした数よりも、センスと発想力がものを言う。
モンデンキントとかいう当時はまだポっと出のプレイヤーにぐうの音も出ないほど完敗して、
ガチ勢としてのプライドやら何やら残らずへし折られて、俺はブレモンで初めて挫折を経験した。

情けない話だけど……俺はそれに耐えられなかった。
ゲーム内で積み上げてきた自分の価値が、全て崩れ去ってしまったように思えて。
気づけば俺は累計50万近く課金してきた自分のアカウントを、削除していた。

これですっぱりブレモンから足を洗ってさえいれば、多分俺の人生はもうちょいまともに推移してただろう。
しかし宙ぶらりんになったゲームに対する熱量は、行き場を別のところに求めた。
公式の運営するゲームに関する話題を取り扱う掲示板、いわゆるフォーラムだ。

幸か不幸かガチ勢だった俺は、ブレモンの仕様にも、不満点にも精通していた。
俺の言葉は多くの潜在的なアンチの共感を生み、運営批判の旗頭として持ち上げられた。
日がな一日クソゲー批判に精を出す、稀代のクソコテうんちぶりぶり大明神は、こうして爆誕したのであった。

つまりは――単なる逆恨みなのだ。
そして今。なんの因果か、俺はあれほど陰湿な恨みを抱えていたブレモンの世界を、楽しんじまってる。
このゲームを、もう一度好きになり始めてる。

これがアンチを成敗する運営の目論見だってんなら……クソったれ、効果は抜群だぜ。
もうシャッポを脱ぐしかねぇ。クソコテを貫けねえ俺の負けだ。
負けちまったからには、奴らの思い通りに動いてやるしかない。

世界を救ってくれっつうんなら、救ってやる。他のブレイブを助けろっつうなら助けてやる。
何度でもな。

24明神 ◆9EasXbvg42:2019/04/01(月) 04:30:45
   ◆ ◆ ◆ 

ミドガルズオルムの出現によって大規模な破壊に見舞われたリバティウム。
しかしその程度で人類はへこたれないとばかりに、急ピッチでの復旧作業は滞りなく進んでいた。
ボロボロになった大通りの石畳も、馬車が通れる程度には修復されている。

被災地復興においてネックとなるのは、やはり物流だ。
修復のための資材も、それを行う人員も、さらには彼らの食料や仮住まいも。
馬車や船などによる輸送が完全でなければまともに機能しない。

逆に言えば、物流さえ復旧してしまえば作業スピードは格段に上がる。
もともと物流のほとんどを水路で行ってただけあって、リバティウムの物流網は運良く壊滅を回避できた。
馬車道さえ元通りになれば、後は俺たちが手伝わなくても遠からず復興は終息するだろう。

そんなわけで、俺は埠頭でのんびり釣り糸を垂れていた。
なゆたちゃんなんかはお姉ちゃんと修行パートかましてるらしいが、俺はそーゆーの興味ない。
じきにこの街を旅立つ日が来るだろう。それまでは、しばしの休息だ。
ぶっちゃけやることないからずうっと釣りしてるわ俺……

「釣れますか?」

適当に竿をたぐる俺の背後で声がした。
しめじちゃんだ。朝から市街のどっかに出掛けてたっぽい彼女は、俺のすぐ後ろで水面を眺めている。

「ボーズだな。そもそも魚がいねえんだよここ」

リバティウムは海運拠点であると同時に、海産物を特産する漁港の街だ。
町中で売られてる魚介類は、鮮度から見るにこのあたりの海で採れたものに違いないだろう。
でも俺のいる埠頭には魚の姿一匹見当たりゃしない。

「漁師のおっちゃんに聞いた話じゃ、このあたりは釣りも網漁もやってねえらしい。
 なんでも、海の魚やら貝やらのべつ幕なしに飲み込むでっけえ魔物がいて、
 漁師たちはそいつを仕留めて腹かっさばいて中の魚を取り出すんだってよ」

無駄にファンタジー感のある漁法だ……。
システム的に言えばドロップアイテムだな。
多分俺たちが同様にその魔物を倒せば、インベントリに魚が格納されることだろう。
漁業権がないから、魔物に手を出そうものなら漁師共に袋叩きに遭うだろうが。

「えっ……魚が居ないの分かっててどうして釣りを……?」

「乱数調整だよ。こうしてアタリのない釣りを続けることで、ガチャ運を蓄積してるんだ。
 俺は確率収束論を信じてる。ハズレが続けば、後半にアタリを引く確率はきっと上がる」

そういうのあるだろ?不運が続けばきっとその分幸運が巡ってくるみたいなの。
まぁ科学的な根拠なんて一切ねえけどよ。ここは剣と魔法のファンタジー世界だぜ。
きっと神様が見てるよ。「あっこいつハズレ続きだしそろそろアタリ引かせてやっかな」ってさ。
しめじちゃんは俺の披露した学説を一通り遮らずに聞いて、

「暇人過ぎる……」

とばっさり切り落とした。ワイトキングもそう思います。
しめじちゃんは呆れたように息を吐いて、俺の隣に座った。
その視線は未だに、俺の垂れる釣り糸の先で止まっている。

俺の方を見ようとしない、その理由に、心当たりがあった。
そして、わざわざ俺の元を訪ねた理由も、もうわかってる。

25明神 ◆9EasXbvg42:2019/04/01(月) 04:32:12
「しめじちゃん。リバティウムに残るってのは、もう覆す気はないのか」

「……はい」

――リバティウムを壊滅の危機から救った翌日。
カザハと名乗った妖精さんと、エンバースとかいう焼死体。
二人のブレイブと元ブレイブを迎えた俺たちは、なゆたハウスで今後の方針を会議した。

その中で、真ちゃんがパーティ脱退を表明。
来たるべくミハエルとの再戦に向けて、自分を鍛え直したいとか言いやがる。
正直お前マジかって思った。お前が突撃しなきゃ誰が突っ走るのよ。
いやそれ以前になゆたちゃん置いてどっか行くんじゃねえよって言いたかった。

ただ……奴の気持ちも少なからず、俺には分かった。
ミハエルの強さは、俺たちとは別格で……別種のものだ。
今回は油断と満身に漬け込んでどうにか出し抜けたが、次は間違いなくうまくいかない。
もう一度、あいつを真っ向から下すには、あいつと同種の力が必要だ。

こいつは考えなしの突撃バカだが、ちゃんと考えればしっかりした結論の出せる奴だ。
戦いの場での機転や勘ばたらきには目を見張るものがあるし、本質を見抜く目を持ってる。
その真ちゃんが、熟考して出した結論なら、俺はもう異論を挟めない。

それに……きっと、真ちゃんを一番行かせたくない奴は、俺じゃない。
なゆたちゃんは、幼馴染二人の間に交わされた言葉の果てに、真ちゃんの脱退を認めた。
その選択が後悔を生まないよう、エンバース君には頑張ってもらわねえとな。

閑話休題。
パーティを離れる決意をしたのは、真ちゃんだけじゃなかったらしい。
リバティウムの復興を見守ること数日後、しめじちゃんは皆に言った。

――旅をここで中断し、しばらくリバティウムに残ると。
俺はそれを聞いて、少し時間をくれと答えた。
畳み掛けるように訪れる変化を心の中に整理する、暇が欲しかった。
そして望み通りに俺は暇になり……しめじちゃんはもう一度、俺の元を訪れた。

「……結論を出すのは、ちっと早くねぇかなぁ。俺もアルフヘイムへの永住には賛成だけどよ。
 住む場所を決めるタイミングは今じゃなくたって良いじゃねえか。
 アズレシアとか、バルディア自治領とか、リバティウム以外にも良いとこ色々あるだろ?」

だから――もう少しだけ。俺たちと一緒に旅をしないか。
俺はそう言いたかった。けれども、彼女の翻意を無責任に煽ることはできなかった。
しめじちゃんは一度死んでる。瀕死とか九死に一生とかじゃなくて、本当に一度死んだのだ。
二度と同じ思いはしたくないし、しめじちゃんに死ぬ思いをさせるのも、嫌だった。

リバティウムから王都キングヒルの間に目立った中継都市はない。
だから、この街を発てば、直通で王の元に参上することになるだろう。
王に会ってしまえば、今度こそ後戻りはできない。世界を救うまで、逃げることはできない。
途中下車できる最後のタイミングが、このリバティウムだった。

26明神 ◆9EasXbvg42:2019/04/01(月) 04:33:35
「『王』が信用できない以上、クリア後に生活する基盤は確保しておかなきゃいけません。
 この街が良いんです。裏社会を支配していたライフエイクが消えて、復興需要に湧くこの街が」

俺たちには、帰る場所がない。
いや現実世界にはあるかもしんないけど、そこに戻るつもりもねえしな。
せっかく世界を救っても、その後野垂れ死にしちまうんじゃ意味がない。

そして生活基盤を王に用意させるのは、その後の生殺与奪をアルメリアに握られることと同義だ。
アルメリアの王様に頼らない、俺たち独自の『帰る場所』を、用意しておく必要があった。

しめじちゃんはクリアの先を見据えてる。
ライフエイクが消え、裏社会に大きなエアポケットの生まれたこの街は、
遠からず空の玉座を巡った大規模な利権闘争に巻き込まれるだろう。
同時にそれは、ゲーム知識を活かしてうまく立ち回って、自分の拠り所を作り上げるチャンスでもある。

「明神さん達が、世界を救った後に……戻ってくる場所を、私が作っておきます。
 だから、未来のことは後回しにして、気兼ねなく世界を救ってきてください」

「……覚えててくれたのか、俺が交易所で話したこと」

トーナメントが始まるまでの待機期間、俺たちはリバティウムの街をぶらつきながら情報収集していた。
その時、俺はウィズリィちゃんに言ったのだ。
世界を救った後のこと。この世界に、俺たちの寄る辺がないこと。
そして彼女なりに、帰る場所を手に入れる方法を、考えた。

「一人でやるのは、しんどい仕事かも知れないぜ」

「慣れっこですよ。明神さんもそうでしょう?『邪悪は馴れ合わない』。
 それに……私には、ゾウショクも居ますから」

「頼りねえパートナーだ」

「それ、ブーメランです」

お互いのモンスターを揶揄して、俺たちは笑った。
しばらく別れを惜しむように他愛のない話をして、しめじちゃんは立ち上がった。

「出発は今日でしたよね。しばらく、お別れです」

「そうだな……しばらく」

もう一度この街に来れるのは、いつになるだろう。
"しばらく"なんて曖昧な言葉は、それが一ヶ月後なのか……十年後なのか、誰にも分からないからだ。
ここから先の旅路は、そういう覚悟をしなきゃならなくて、しめじちゃんはそれを済ませていた。

27明神 ◆9EasXbvg42:2019/04/01(月) 04:34:59
「これを持っていって下さい。使えるかどうか分からないけれど、餞別です」

しめじちゃんが差し出した小瓶には、どす黒い紫の液体で満たされている。
見たことないアイテムだ。いやマジで何よこれ?俺が見たことないって相当やぞ。
『狂化狂集剤(スタンピート・ドラッグ)』なるアイテムを、俺は恐る恐るインベントリに仕舞った。

「お礼っちゃあなんだけどよ。……ガチャ、引いてけよ。約束してたろ」

リバティウムに着いた当初、俺はしめじちゃんと一つの契約を交わした。
彼女が一度だけ、その力を俺のために使う。その代わりに、俺は彼女に10連のガチャを引かせる。
きっと契約履行のタイミングは、今しかない。

「そのために俺は今日まで乱数調整してたんだぜ。アタリが出ると良いな」

「別アカウントの乱数も影響するものなんですか……?」

しめじちゃんは胡散臭そうにこっちを見て、俺の送信したガチャチケットを受け取った。
10連ガチャは最低1つ、上位レアリティが保証されてる。
きっと彼女のこれからの戦いに、役立つものが入っているに違いない。
そうだろ神様。ツイてないことづくめの俺たちの運を、そろそろ収束させてくれよ。

しめじちゃんがスマホをタップして、ガチャを開封する。
他人の画面を覗き見るのはノーマナーだ。良いスペルとか出ると良いなぁ。

「どうだった?」

結局気になったので俺は聞いた。
しめじちゃんはしばらく画面を眺めたあと、不意に顔を上げて、微笑んだ。

「……秘密です」

それは、俺が初めて見た、彼女の笑顔だったのかもしれない。
そんな顔でそう言われちゃあお手上げだ。
また今度、結果を聞きに来よう。この街に帰ってくる理由がもう一つ増えた。

世界を救うその日まで。"ただいま"を言えるその日まで。

――行ってきます。

   ◆ ◆ ◆

28明神 ◆9EasXbvg42:2019/04/01(月) 04:36:04
明神ですが列車内の空気が最悪です。
いや言うほどそうでもねえけども。素敵なギスギスが車内に満ちていた。
原因は期待の新顔、(故)エンバース君と我らがリーダーなゆたちゃんだ。

唐突に出てきて唐突に『護る』などと宣ったエンバースに、なゆたちゃんは激おこだった。
まぁわかるよ。俺たちここまで死線だって何度も越えてきたもんな。
つまりは自負だ。俺たちは、ニブルヘイムのクソ共になんか負けないプライドっつうんすか?
エンバースの言葉は善意からのものだったのかもしれんが、俺たちのプライドをぶん殴るのに等しかった。

ただ、なゆたちゃんが率先してカッカしてくれたおかげで、却って俺は冷静になれた。
どうにも信用ならねえ胡散臭い死体野郎だが、俺達に害なすつもりはないらしい。
もちっと言い方とか考えろやって感じだけど、まぁその辺を司る脳味噌も焼けてんじゃない?(適当)

それに、俺自身の感情面で言えば、こいつのことは嫌いじゃない。
マゴット……『負界の腐肉喰らい』の価値の分かる奴は良い奴だ。
おかげで腐肉以外のエサを探す余地もできたしな。

>『大変長らくお待たせいたしましタ。次の目的地は王都キングヒル、王都キングヒルでございまス』
>「!! ……いよいよ、か……」

出発した魔法機関車の中で、ボノが停車先をアナウンスした。
王都キングヒル。アルメリア王国の首都にして、俺たちを召喚した『王』のおわす場所。

これまでいろんな紆余曲折があった。
荒野でハエを狩ったり、鉱山で古代兵器と戦ったり、港街で邪悪なおっさんの恋を応援したり。
その紆余曲折した道程の終着点が、この鉄道の先にある。

>「じゃあ……キングヒルに着く前に、もう一度今までのことをおさらいしてみよう。

車室を丸々貸し切って、俺たちは王都突入前のブリーフィングを行った。
カザハ君(と、IQ高そうなお馬さんのカケル君)は何も知らねえみたいだしな。
エンバース君ちゃんと聞いてる?お前の為の会議でもあるのよこれ?
こいつ寝てんじゃねえだろうな。目ん玉焼け焦げてるからわかんねえわ。

>『わたしたちは現実世界でプレイしたゲームの内容そのままの世界に放り出された。
>「……なぁ、ネタバレには十分配慮してくれよ。ストーリーモードは攻略済みだけどさ。

「ああ、うん……安楽椅子探偵な。結末知らなくて良かったと思いますよ俺は」

エンバースがやりのこしたサブクエへの未練を語るのを、俺は微妙な顔で聞いた。
あれなぁ。途中まではすげえ面白かったんだけどなぁ。なんでああしちゃったかなぁ。
俺は確信したね。ブレモン開発の性根は腐りきってる。奴らに人の心などない。

>『マルグリットによると、アルフヘイムは今『侵食』という危機的状況にある。
>「付け加えるなら、どういう働きを期待されているのかも凡その予想はつく。

「……確かに。俺たちは単なる使い捨ての傭兵ってわけじゃねえってことか」

エンバースの指摘は尤もだった。
単純な戦力増強の為なら、わざわざ召喚ガチャを引くまでもない。
十二階梯はそれぞれ単独でもレイド級とやり合える実力があるし、全員揃えば超レイド級だってどうにかできるだろう。

そして俺たちは、超レイド級と真っ向からぶつかりあって勝てるとは言い難い。
タイラントにしたって、ミドやんにしたって、戦力以外の要因の方が大きかった。

29明神 ◆9EasXbvg42:2019/04/01(月) 04:36:36
「ま、戦力が欲しけりゃ俺やしめじちゃんが呼ばれるわきゃねえわな。
 何か、別の要因でピックアップ召喚されたのか、完全にランダム選定なのか。
 そうでないなら……」

>「なら、俺達に求められているのは……まぁ、“魔法の板”の可能性が高いよな。

アルフヘイムが本当に欲しかったのは、ブレイブの持つスマホ。
ブレイブはあくまでスマホのおまけ、異世界の希少物資を王都まで運んでくる便利屋に過ぎない。
連中の意図を、そう推察することもできる。

「そうなると、安易に王の元に馳せ参じるのもやべえかもしれねえな。
 王が俺たちの価値をスマホ以下と値踏みしたら、取り上げられて俺たちは牢屋へGO!ってこともあり得る。
 スマホの指紋認証はちゃんと設定しとけよ。パスワードもな」

>「けど、アルフヘイムと対を成すニヴルヘイムの連中も介入してきてる。

「するってえと……この先アルフヘイムが勝ったら、ニブルヘイムは滅ぶのか?
 だとすりゃ俺たちゃ勇者様にゃなれねえな。奴らにとっては俺たちこそが魔王だ」

そんでミハエル君がニブルヘイムの勇者(ブレイブ)と。やっべえ超腑に落ちる。
ふざけんじゃねーべや。くだんねえ生存競争に異世界のパンピーを巻き込みやがって。

>「みのりさんの言う通り、わたしたちはアルフヘイム側のガチャで無作為に召喚されたキャラクター扱いなのかもしれない。

今の段階じゃ何も分かりゃしねえけれど、なゆたちゃんの分析は多分当たってる。
俺たちはずっと、クエストという形で、スマホの向こうの何者かに操られて戦ってきた。
これじゃ世界を救う勇者だの英雄だのじゃなくて、単なるパシリじゃねーか。
そのうち焼きそばパン買ってこいとかいうクエストが出てくるぞ。

>「イブリースの言ってた『今度こそ』発言とか、まだ色々わかんないことはあるけど。
 とにかく当たって砕けろ! みんなで力を合わせて、現実世界へ帰ろう! おーっ!!」

「お、おう……」

気合溌剌意気軒昂とばかりになゆたちゃんは立ち上がる。
俺はその場で小さく右腕を上げた。

>「どしたの? みんな……」

なゆたちゃんの戸惑いは、俺たちと彼女との温度差にある。
少なくとも俺は、現実世界に戻ることを目的にしていない。世界救うのもほとんど成り行きだ。
王様の出方次第じゃ、闇系の仕事があるのでこれでとばかりにアディオスすることも考えてる。

イマイチなゆたちゃんみたいにノリ切れないのは、ひとえにアルフヘイムに対する不信感が募ってるからだ。
先の見えない雑なクエスト指示に、未だ連絡の一つも寄越さず呼びつけやがるアルメリアの王様。
エンバースの示唆したような、ブレイブとスマホの価値の差も疑心暗鬼に拍車をかける。

ぶっちゃけて言えば、このまま王様無視して他の街に行くべきなんじゃねえかとすら思う。
王に謁見すれば、俺たちの顔と名前を覚えられれば、もう逃げ場はない。
下手打てば国賊として指名手配だ。

ただまぁ、どうであれ王に合わなきゃ話が先に進まないってのも確かだ。
少なくともクエストを進めない限り現実世界に帰る手がかりはこれで途絶える。
なゆたちゃんや真ちゃんは、ここで立ち止まることを良しとはしないだろう。

30明神 ◆9EasXbvg42:2019/04/01(月) 04:37:32
このまま王都の権謀術数に巻き込まれて幽閉されたり……殺されたりするかもしれない。
だけど俺は、こいつらを死なせたくはない。
仲間だからとかそういう青臭い理屈じゃなくて、単純に――見知った顔を見殺しにはできねぇからな。

「まぁ、現実世界に帰るってのはともかく、力を合せるのには賛成だ。降りかかる火の粉は払わねえとな。
 どの道ニブルヘイムのクソ共は遠からずもっかい侵略してくるだろう。
 生き残るために、アルフヘイムを利用する。俺はそういうスタンスで王に会うぜ」

>『ご歓談中のところ誠に申し訳ありませんガ、間もなく王都キングヒルに到着致しまス。
  皆さま、降車の準備をお願い致しまス』

「お、噂をすればなんとやらだ。行こうぜ、俺ぁ腹減っちまったよ。キングヒルって何が美味いの?」

微妙な空気を車内に残して、俺たちは王都の凱旋門に降り立った。

――王都キングヒル。
アルフヘイムに覇を唱える大国、アルメリア王国の首都だ。
ゲーム中盤に訪れるこの街で、プレイヤー達はニブルヘイムと、世界を脅かす闇の存在を知る。

王都編のラストで十二階梯の一人、『創世の』バロールがニブルヘイムに渡り、魔王として君臨する、
いろんな意味でシナリオの転換点となる場所である。
主要キャラが何人かここで死ぬので、シナリオクリア後もこの街に近づかないプレイヤーは多い。
施設は一通り揃ってるから、滞在するには便利な街なんだけどな。

閑話休題。
門をくぐれば、王宮までの目抜き通りとその脇を飾る建物の数々が目に飛び込んできた。
都市防衛という概念を真っ向から投げ捨てた碁盤状の街路図は、どこか日本の『京』を彷彿とさせる。

これ門から王宮まででけぇ道路が一直線なんだよ。攻められたら即アウト。大部隊で突撃し放題。
よっぽど防衛戦力に自身がおありでおますやろなぁ。

>「うわぁ、すっごーい! 今からあそこに行くんだよね!?」

「こらこら、おのぼりさん丸出しの行動はやめなさい。
 俺?俺は都会人よ。名古屋に住んでっから!名古屋に!」

王都の景観にテンアゲ気味なカザハ君をシティーボーイの俺は諌めた。
そういやこいつ何歳なの?シルヴェストルって年齢わかんねえわ。
この落ち着きのなさを見るにしめじちゃん以上なゆたちゃん以下ってところか……。

>「でも大丈夫かな? 案内役を仰せつかっていたウィズリィちゃんは行方不明。
 パーティーは当初想定してたメンバーが抜けて代わりに想定されてなかったメンバーが増えてる……。
 ボクはメロちゃんに合流するように言われてたから多分ギリギリ大丈夫だとしても……」

「そこの死体はなぁ……そもそもブレイブですらねえんだろ今は。
 門前払い受けない?そのビジュアル都会の女子供にはちょっと刺激が強すぎるッピよ」

せめてウィズリィちゃんが居てくれればうまいこと取りなしてくれたんだろうが。
あの子どこ行ってしもたん?フラっと現れてフラっと消えるよな……。
俺の揶揄するような視線をスイっと躱して、エンバースはカザハ君に水を向けた。

31明神 ◆9EasXbvg42:2019/04/01(月) 04:38:14
>「そんな事より、カザハ。確かゲーム本編は未プレイだって言ってたな。
 だったら、王宮に直接向かうのは……少し勿体無いと思わないか?」

「おっ、お前もマップ埋めてから次に進むクチか?わかるぜそーゆーの。
 路地とか全部見とかないとアイテムの取りこぼしが気になって落ち着かねえんだ」

ダンジョンとかでさ、二又の分かれ道があったら両方見とくよな。
そういうところに限ってつよつよ武器が宝箱の中にあったりするし。

>「エンバースさん、王宮に行くんだからボロ布同然のローブはまずいよ! いかにも燃えちゃった感が凄いじゃん!」
>「……話が早いな。確かに、新エリアに突入するなら装備更新はしておきたい」

「カザハ君はそーゆーこと言ってんじゃねえと思うけどな……」

どうもこの妖精さん、わりと身だしなみとか気にするタイプっぽい。
まぁそりゃそーだわ。なんぼ暑くたってパンツ一丁で街を歩く奴はいないように。
見る人を不快にしない程度に見た目を整えておくってのはとても重要なマナーだ。

エンバースは目下、パンツ一枚でその辺うろついてる変質者に等しい。
死体だって今日日ちゃんとおめかしするっつーの。俺おくりびと見たからそういうのわかっちゃう。

>「そう、装備更新が必要なのはむしろ君達の方だ、カザハ、カケル。
  新たな仲間を裸で戦場に立たせるのが、当代ブレイブの流儀か?」

「いやおめーだよ!おべべが必要なのはおめーなの!
 いーよいーよお前の死に装束もカザハ君のおべべもまとめて選ぼうぜ!
 エンバースをエンバーミングしてやろうぜ!!!!!!!」

上手いこと言いたかったので俺は勢いで言い切った。
そんなわけで王宮を目の前にして、俺たちはウィンドウショッピングと洒落込む。

女子のお洋服選びにはぴくちり興味ねーけど装備の選定なら話は別だ。
俺の培ってきたRPGの経験が奮い立つぜ!

「攻撃と守備の数値だけ見て装備決めんのはトーシロだぜカザハ君!
 このゲームの装備はシナジーが全てだ。風属性、妖精族にボーナスのかかる装備を探そうぜ。
 『精霊樹の木槍』、こいつは攻撃力こそ低いが妖精族が持つと魔法に威力20%補正がつく。
 20%だぜ!?やばくない?これがあるとないとでヴァジロゴブリンの確定数が変わるんだぜ!」

俺はめっちゃ早口で喋った。
確定数ってのはざっくり言えば敵を倒すまでにかかる攻撃回数のことだ。
スペルのリキャストがクソ重いこのゲームにおいて、二発かかる敵を一発で倒せることの価値は計り知れない。

一方でエンバースもカザハ君に武器と防具を持ってくるが、どうもお気に召さなかったらしく、
それらはベルトコンベアの如く流れ作業でエンバースの元へ戻った。
スタボロの焼死体が、いかにも闇系の仕事してそうなやべえ奴の姿に変わっていく。

32明神 ◆9EasXbvg42:2019/04/01(月) 04:39:09
>「――よし、十分だ」

「十分だ、じゃねーーーよ!どこ見てその判断に落ち着いた!?王に会うんだよ、これから!
 おめー暴君にカチコミかけたメロスだってもうちょい常識的なカッコしてたよ!?」

まぁメロス君はほとんど裸だったけれども!
こいつは逆ベクトルでやっべぇ。門前払いどころかその場で射殺モノだわ。
でも……かっこよくない?常識的な部分は置いといて、見た目はすごいグっとくる。

「駄目だ、俺たちのセンスじゃどうやってもカッコ良くなっちまう!
 なゆたちゃん、そろそろ機嫌直してくれよ!石油王もカモン!
 女子力アゲアゲでこいつをゆるふわモテカワ愛されコーデにデコってくれ!」

そんなこんな、ワイワイキャイキャイ言いながら、カザハ君とエンバースのメイクアップは進んでいく。
ふと、俺はパーティの輪から少し離れて、石油王に声をかけた。

「石油王。――『王』のこと、どう思う?」

王同士思うところがあるのかも知れん、っつうのは冗談だとしても、
石油王がアルフヘイムに対して好意的な印象を持ってないのは、ミハエル戦後のやり取りでなんとなく察してた。
少なくとも、無条件に信じて良い相手だとは思えない。
奴らは俺たちにまともな情報もあたえず、ただただクエストで振り回すばかりだ。

「焼死体の野郎も言ってたが、王の目的が俺たちブレイブ自体じゃなくスマホだった場合。
 このまま何の備えもなしに王宮に入って、王様に謁見賜るのは正直危険だ。
 俺たちは奴らにとって、美味しいネギ背負った不味いカモかもしんねーからな」

本当はバックアップとして誰かをここに残しておきたい。
だが、メロを通して俺たちの人数構成が割れてる以上、全員で謁見しなけりゃ余計な疑惑を生む。

「ことと次第によっちゃ、その場で戦闘になるかもしれん。
 それは専守防衛に限らねえ。つまり……俺たちの方から、王宮を制圧することになるかもしれねえってことだ。
 あくまで可能性の話だが、一応あんたにゃ覚悟を決めといてもらいたい。
 俺もなゆたちゃんも、ポーカーフェイスとは言い難いからよ」

俺たちがこれから向かう、アルメリア王宮。
もしかしたらそこは、魔王城より醜悪な、伏魔殿かもしれないのだ。


【エンバースのコーデに失敗。女子力が足りない!】

33五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/04/07(日) 20:25:45
キングヒルスへ向かう車中、なゆたがこれまでの状況をまとめ、現実世界に帰るための気勢を上げる
その気勢にみのりは微笑みをもって応えるのだが、周囲の反応は見ていて十分すぎるほどにぎこちないものだった

というのも、それはそうだろうと思える
カザハとカケルは元人間だったらしいが、モンスター化に狼狽える様子もなくこの世界に馴染み切っている
エンバースに至ってはデッドエンドかバッドエンドしかないような韜晦したところであるが、実際既に死んだ残り火なのだから仕方があるまい
明神に至っては帰還どころかこの世界に永住しようとしている事をみのりは知っている
しめじが一度死んだことを理由にリバティウムに残ったのもその為であろう
そしてかく云うみのりも現実世界に戻る気はなく、永住するつもり「だった」

いまPTは目的が統一されていない、ただ一緒にいるだけの存在だ
そう思いながらリバティウムで別れた真一の事を思い浮かべた

リバティウムでの戦いから一夜明け、カザハ&カケルとエンバースのPT入りの承認
そして真一の離脱
離脱の理由が金獅子と1対1で戦える強さを付ける為、というまことに男の子らしいお話で
みのりからすれば話にならず、両手両足を叩き折ってでも列車に積み込んで同行させるべきだと思っていた

何処までも誰もが、まだこの世界を、状況を、ゲームだという認識が抜けていないと呆れてしまう

【生存をかけた戦い】とイブリースに宣言されている以上、正々堂々も強いも弱いもない
生きるか死ぬかだけなのに、単独行動をとろうなんて理解できない
のだが、それもまたみのりとPTの間に存在する溝なのだろうと口をつぐむしかなかった

何よりも唯一止められるであろうなゆたが真一を笑顔で送り出してしまっているのだから


こうしてPT編成を新たに車中の人になったわけだが、やはり気になるのは新加入の参院である
特にエンバース
焼死体という以前に記憶がないというのが扱いに困るもので
無自覚な刺客である事すらありうるのだから


他の視線のない時を見計らいエンバースに声をかけるカザハ
それに対してズレた返答をしているエンバースの返答を聞き取ってからみのりは姿を現した

「それまで築かれてきた輪に入るのって、入る方も受け入れる方もどう扱ってええかわからへんからギクシャクしてしまうんよね〜
それはしゃあないし、お互いの扱い方わかるように少々無理しても話ししていくのがええんよ
お互いエスパーやあらへんのやから、言わなわからひんし
どんどん口に出して知ってもらって知っていって仲良くなろね〜」

エンバースとカザハの手を取って三人で輪を作って笑って見せた
これは本心ではあるが、カザハが人の目がない時を見計らってエンバースに接触したにもかかわらず首を突っ込めたのは、当然エンバースを監視していたからだ
本来ならば藁人形を持たせて盗聴していたいところなのだが、リバティウムでクリスタルを大量消費してしまったので節約中なのだ

その後、王の目的に話が及んだ時にエンバースから
>「……つまりは、舐められてるって事だろ」
という言葉が出たところで、思わず【気が合う】と思ってしまいながら苦笑したのは秘密だ

34五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/04/07(日) 20:29:58
そうこうしている間に列車はキングヒルに到着
荘厳なる門と白亜の宮殿
ゲーム画面では見慣れたグラフィックだが、それを実際の風景として見ると改めて圧倒されるというものだ

>「こらこら、おのぼりさん丸出しの行動はやめなさい。
>俺?俺は都会人よ。名古屋に住んでっから!名古屋に!」

この光景に大喜びなカザハやカケルに明神から思わぬ言葉が零れ出た
本名も明かしていない明神から現実世界の言葉が出るとはそれだけ気を許しているという事なのだろうか
その言葉に思いがけずみのりも反応して言葉がつく

「名古屋やったんね、意外と近いんやわねえ。うちは京都。言うても本宅は御所裏にあるけど、大概畑のある市外を転々としてるから京都という感じせえへんのやけどね」
そして、更に言葉が続き
「みんなはどこらに住んでいるんやろうね、戻ったらオフ会でもしたいわ〜」

これは本来出るはずのない言葉だった
なぜならば、みのりはリバティウムまでは現実世界に帰るつもりはなく、この世界に永住するつもりだったのだから
だが、今現在、状況は変わり現実的にそれが難しいと心のどこかで認めてしまっていた
それをこの言葉により自覚することになったのだった

そんな流れの中で、これから王の謁見というのに焼死体では拙い。
という事でエンバースのエンバーミング作戦が発動
しかし出来上がったのは焼死体から武装強盗にランクアップしたエンバースであり、とても礼装とは呼べないものだ
明神からダメ出しが入り、なゆたとみのりに援軍が要請されるのだが

「うちはあかへんよ〜野良着しか知らへんからねえ。私服も呉服屋さんが見繕ってくれるの着ているだけやしねえ」
そうである
みのりの現実世界の生活は殆どが農業で埋め尽くされている
収入は豊富であるが、使う時間がない
故に服も出入りの呉服屋がコーディネートしたものをそのまま来ているようなもので、本人のファッションセンスはとても人様にアドバイスを出来るようなものではないのだから

という事でそっと躱して一歩離れたところで見ていると、いつの間にか明神が隣に立っていた
傍から見れば買い物を楽しむPTメンバーを見守る大人チームなのだろうが、そういう状況を作り出したという事なのだろう
と、明神のしたたかさを再認識するのであった
なぜならば、隣に立った明神から出た台詞が

>「石油王。――『王』のこと、どう思う?」

だったからだ
ある種核心を突く一言に小気味良い気持ちになり冷ややかな笑みを浮かべる

「ほぉやねえ。王様は王様でこの世界の事を思うてやっているんやと思うえ?
ほやけどねえ、うちにとって、アルフヘイムに味方する理由は【ゲームの設定】以外何もあらへんのよね
アルフヘイムもニヴルヘイムも表裏ではあってもうちらの基準で善悪を決めてええもんやない
そういった意味では問答無用で召喚して何の説明もなしに振り回して、なし崩しに世界を救えな流れにしようとしているのなら、業腹やねえ」

ここに至りてみのりは正直な気持ちを明神に話した
そして王宮制圧の可能性を切り出そうとしたところで、明神に先手を打たれ、さらに苦笑をしてしまった

35五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/04/07(日) 20:36:00
スマホがん目的であるのは間違いないだろうが、だからとと言って、スマホ単体が目的だとは思えなかった
この世界の人間が魔法の板であるスマホが使える所も疑問であるし、今までの道中十二使徒を使い殆ど監視されていたようなもの
ならばスマホを奪う機会はいくらでもあっただろうし、王宮で捕縛するより手っ取り早く目的は達成できたであろうから

「ふふふ、王宮制圧とは剣呑な話しやねえ
明神さんがうちと同じこと考えていたとは思いもよらへんかったわ」

そういいながら二台目のスマホを差し出し、画面に映し出された6枚まで揃っているパズズを見せる
これだけで明神には伝わっただろう
みのりが今まで2台目のスマホを隠していたこと
そこに控えていたのは超レイド級のパズズであり、必要であればそれを謁見の間で発動させるつもりもあったことを

だが同時にクリスタル残量7に気づけばリバティウムで超レイド級であるミドガルズオルムを相手になぜ3ターン持たせられたかも理解したであろう
そしてもはやパズズを呼び出せなくなっている、という事も

「もう少し余裕を持たせてたかってんけど、そうも言うとれへんくなったし
ここらで腹割らせてもらいますわ
王宮制圧や王様を捕獲<キャプチャー>してしまえば手っ取り早いんやろうけどね
王都のど真ん中王宮謁見の場ではどないな仕掛けがあるかもわからへんし
それこそサモン自体封じられているかもしれへん
ほやからあまり血気に走らんと、退路の確保(良好関係の維持)を確実にしておくことを勧めしたいわ〜
ま、どうしても、となればしゃぁあらへんけどね?」

みのりの心は大きく変わっていた
仕事に追われる現実世界より、ブレモンの世界で自由を満喫して暮らしていたい
と思っていたのだが、それはあくまで圧倒的な武力と財力があってこその話
その両方を失った今、どうしても生きていくには後ろ盾が必要になる

アルフヘイムに不信感を持ち、ニヴルヘイムに敵対視されている以上、みのりにこの世界に居場所はないのだ

明神に話した通り、みのりにとってどちらの陣営に加担する理由がない
もし現実世界帰還を条件にするというのであれば、勝手に召喚しておいて随分な言い草となるわけなのだから
みのりはゲーマーであるが、この世界をゲームとしては捉えていない
だからこそ、身の安全を保障される力を失った今、戦闘に対する恐怖心が身を覆ってしまっているのだ

それ故にエンバースの言葉に共感していたし、盾になるというのであれば盾になってもらおうと疑いつつPTに受け入れた
逆にこの状況にあっても全くひるむ事のないなゆたに恐れと敬意……そう、畏怖の感情を持ちそのため少し距離を置いたような状態になってしまっていたのだった

36五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/04/07(日) 20:41:00
「はーいみんな聞いたってぇな、買い物が終わったところで、ちょうどキングヒルにいる事やしね
王様に会いに行く前に、うちのハウスにも寄って欲しいんやわぁ」

明神との会話の終わるとともに買い物チームも終わったようなので声をかける
なゆたのハウスがリバティウムにあったように、みのりの家はここキングヒル、それも王宮の裏手にあるのであった

「ああ、ここやえ〜なゆちゃんの家があったから多分とは思うてたけどぉ
ちゃんとあるもんやねえ、良かったわ〜」

その声と共に案内されたのは小広い庭園……いや、公園のような広場であった
芝生にテラコッタの床タイルが敷かれ、小川が流れている
中央には豪奢な東屋が立っており、その横に……黒い石板モノリスが鎮座していた


「知っての通りキングヒルズでの家は景観規制があって色々と面倒やろ?
うちはそういのに手ぇかけられへんから初期設定の庭園のまま、モノリス買うて倉庫にしているんやわぁ
て言うても、基本解放しているし、ゲーム内で来たことある人もおるカモやねえ」

モノリスには手形がついており、それはみのりの手と完全一致していた
手を当てられるとモノリスは微かに鳴動し東屋内の空間に亀裂を生み出した

亀裂の先に見えるのは庭園とは全く違う風景
みのりの「家」の内装であった
それはなゆたの家とは全く違い、生活感がない風景

足元は枯山水のように砂利が敷き詰められ、ポツンとある野点セット
後はただただ広い空間に棚が林立し、その棚には無数の額縁がかけられていた
・三角魔海の幽霊船団
・結晶具現体トライライオット
・聖域に突き立てられしカースソード
・シャドーストーカー影鮫
・ミミック種箱入り娘
・馬鈴種メイ・クイーン
・エアプラント入道草
・スライムキングダム
・etcetc……
かけられているのはカード
ガチャ産ではあるが、どれもレアリティで言えば並みの重課金者であっても1枚所有できているかどうかのレアカードだった
負界の腐肉喰らいをポンと渡してしまうのも納得なカードの羅列であった

何処からとも聞こえる穏やかな琴の音の音源を探れば野点セットの下にうずくまり奏でる琴と竜の合成獣モンスター龍哮琴がいたが、こちらも育てればレイド級になる恐るべきモンスターであった

「モノリスを使うと家専用サーバーが用意されてそこを使えるんやけど、ここではこうなるんやねえ
ジュークボックス代わりに放しておいた龍哮琴もいはるし、ほんに不思議やわー」

ブレモン時の箱庭はコミュニケーションツールである
そこでは様々な設定が可能で、入出許可からストレージ使用許可まで家主は設定できる
みのりはゲーム時では入室制限をせずにプレイヤーならば誰もがモノリスからこちらの空間に入れるようにしてあった
故にゲーム上ではある種博物館的な扱いを受けた観光スポットとなっている

勿論ストレージ使用許可は解放していないので、カードをとられることはなかったのだが

37五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/04/07(日) 20:42:14
「わざわざ来てもらったんは、ここで欲しいカードがあったら持っていって〜っていう話で
モンスターはどれも育ててへんから使い物にならへんけど、あっちの列はスペルカードになってるからねえ
スペルカードは使えるものがあれば使ってもらってええよ」

そういいながら、みのりは入室者をまとめて家の共有者登録
それにより、各人のスマホには鍵が一つストレージに登録されたであろう

モノリスを購入し、専用サーバーに「家」を持つことにより受けられるサービス
キングヒルにいる限り、何処にいようと「家」に戻れるというものだ
ゲーム場ではマップ移動するだけなのでさほど意味があるサービスではないのだが、事ここに至っては貴重な「退路」として機能するかもしれない、という判断だからである

その旨を皆に告げ、王宮での謁見に臨むのであった

38ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/04/07(日) 22:19:48
名前:ジョン・アデル
年齢:23
性別:男
身長:184
体重:90
スリーサイズ:筋肉質
種族:人間
職業:自衛官
性格:通常時;陽気 戦闘中;冷静
特技:小さな頃から学んだ様々な武術
容姿の特徴・風貌:金髪のショート・青い目・白人/デニムパンツに紺のパーカー
簡単なキャラ解説:
日本生まれ・日本育ち・両親がアメリカ人、100%外人なのだが英語等は一切喋れない。
「強靭な肉体には健全な心が宿る」という両親の教えを守り、体を鍛え続けてきた。
しかし彼にはどこか満たされない気持ちがあった。

ジョンは人の役に立てるように自衛官になり訓練の日々を過した。
大きな地震が発生した時、ジョンは誰よりも先頭に立ち、誰よりも動き、数多くの命を救った英雄と称された。
だが違和感が消える事はなかった。

とある日いつものように出勤したジョンは、いつも物静かな同僚が奇声を上げる所を目撃する。
どうしたのか?と尋ねると同僚は彼にスマホの画面を見せた、そこにはブレイブ&モンスターズ!と書かれていた。
それから彼は両親の教えを忘れるくらい不健全にブレイブ&モンスターズの世界にのめりこんでいった。

いつもの様にゲームを起動しようとした瞬間、光に包まれ、ジョンはアルメリア王宮に飛ばされていた。
ジョンはストーリーを読み飛ばしていた為、アルメリア王宮だという事に気が付かなかった。
とりあえずここはどこなのかを尋ねようと近くにいたメイドらしきコスプレをした人に話しかけた。
彼は不審者として牢獄に捕らえられた。


【パートナーモンスター】

ニックネーム:部長
モンスター名:ウェルシュ・コトカリス
特技・能力:耐久力が高い・自分を含めた周りの味方を自動微量持続回復
容姿の特徴・風貌:
標準サイズのコーギー
普段は胴体には金属製の鎧を着用し、命令すると全身鎧に変形する事ができる。
胸元にネームプレートが付いており「部長」と書かれている。

簡単なキャラ解説:
エイプリルフールのネタで登場したネタモンスター。
見た目はコーギー、泣き声はニャー、モンスター名はコトカリスといういかにもネタなキャラ。
コトカリスセット!とスペルカードと共に一日限定で売り出されたが、エイプリルフールにぶっとんだネタ設定のせいで当時のプレイヤーは冗談だと決め付け無視した者が大半だった。
そのため最高レアではないが希少度が高い。
見た目以上に最大HPがあり、小柄故にそこそこの俊敏性もあり、存在しているだけで周囲の味方の援護ができる。
のだが、体当たりと噛み付き以外の攻撃方法がスペルカードしか存在しない為、瞬間火力も高くない上に持続火力が皆無であり。
補助スペルカードの使用に関しても召喚している事が前提の等使い難い一面も。
泣き声が渋い。


【使用デッキ】

・スペルカード
「雄鶏乃怒雷(コトカリス・ライトニング)」×3 ……口から電撃を吐き出す、威力は低いが相手の最後に付与された強化効果を一つ削除する。
「雄鶏絶叫(コトカリス・ハウリング)」×2 ……気合の叫びで自分の素早さを下げる変わりに攻撃と防御を上昇させる、この効果は強化解除されるか任意で解除されるまで続く。
「雄鶏疾走(コトカリス・ランニング」×2 ……防御力が低下する代わりに自分を10秒間超加速状態にする。
「雄鶏乃啓示(コトカリス・ヴィクトリア)」×1 ……60秒間持続する太陽を口から射出し、その光を浴びた味方の攻撃・防御力を倍にし敵には沈黙効果を与える(レイド級には無効)。
「雄鶏守護壁(コトカリス・バリア)」×3 ……自分のHPを小回復しバリアを付与する、バリアはどんな攻撃でも耐えるが一度のみ。
「雄鶏源泉(コトカリス・フンスイ)」×2 ……30秒の間、中にいる味方のHPを徐々に回復し、防御が上昇するエリアを作成する。
「雄鶏乃栄光(コトカリス・グローリー)」×2 ……15分の間味方、もしくは自分一人の攻撃力と防御力を1・5倍にする。
「雄鶏示輝路(コトカリス・ゴールデンロード)」×1 ……味方の次に発動するスペルカードの効果を倍にする。この効果は戦闘中にしか付与できず、戦闘終了と共に回数が消費されていなくても効果が終了する。

・ユニットカード
「雷刀(光)(サンダーブレードユピテル)」×2 ……雷属性の刀を召喚する。
「漆黒衣(忍)(シャドウアーマー・ザ・ニンジャ)」×2 ……闇属性の軽鎧を召喚する。

39ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/04/07(日) 22:21:49
「強靭な肉体には健全な心が宿る」という親の教えに従ってきた。
疑った事などないし、いまでもそう思っている。
見せ掛けの筋肉にならないよう、思いつく武術を全て学んだ。

空手・ボグシング・剣道・・・その他色々、それぞれで優秀な成績を残した。
だけど満たされなかった、なにかが足りなかった、プロに誘われたがその道はやめた。

その後人の役に立つ為に自衛官になり、訓練に明け暮れた。
大きな地震が発生した時に現場に行き、持ち前の力で多くの命を助け、感謝され、英雄扱いされた。
その後も、やりたくも無い自衛官健全PRの為のアイドル活動もした、数多くの女性と意味も無くデートしたりもした、色んなスポーツに手を出したりもした。
だがなにをしてもジョンが満たされる事がなかった。

「キョエエエエエ!イマノデ負けるのかよ!!!」

「どうしたんだい?静かな君が大きい声を出して」

とある日の休憩中、同僚が絶叫していた。
話を聞けば新作のゲームの対人戦をしていたらしい。

「たかだが1ゲームに熱中しすぎだよ・・・ほらコーヒー」

「お前もやってみろって!ジョン!まじで面白いんだって!」

体を鍛えること以外の趣味を持たないジョンは、同僚との話の種になれば、と軽い気持ちでブレイブ&モンスターズ!をダウンロードした。
そして彼のゲーマー(ブレイブ&モンスターズ限定)人生が始まった。

今まで経験したことのないブレイブ&モンスターズ!の対人戦にハマり、4月1日に実装された後の相棒を特に疑う事なく3万円で買い、同僚と休憩中にヒートアップした。
満たさせることのない気持ちはいつしか影を潜めていった。

友人に素早く追いつく為ストーリーを読み飛ばし、素材だけを回収する効率的なプレイを徹底した。
課金額は大した額ではなかったしゲーム自体も始めてだったが、持ち前の対人戦闘における経験や知識でそれなりの成績だった。

休日のとある日の朝、ジョンはいつもの様に日課の筋トレこなし、ブレイブ&モンスターズ!を起動するとジョンは眩い光に包まれ気を失った。
気づくとそこはお城のような・・・西洋によくありがちなお屋敷のような・・・場所であった。
不幸なのはジョンがストーリーを読み飛ばしてしまっていた為、アルメリア王宮と気づかず、夢だと勘違いしてしまった事であった。

「そこのお嬢さん!お仕事中にすみません、ここが一体どこなのか教えて頂けるとありがたいんですが」

「え・・・えーと・・・?」

「失礼、まずは自分から名乗るのが先でしたね。私はジョン・アデルという者です、決して怪しいものではありません」

王宮に現れた見慣れない名前の人物、不審者じゃないといわれても説得力は皆無であった。
がしかし余りにも正々堂々とした態度で接するジョンに動揺しメイドらしき女性も戸惑いながらも挨拶してしまう。

「いいお名前ですね、かわいいお嬢さん。とっても素敵だ」

不信感を取り除くように相手を褒めちぎりながらハグをする、いやジョンは別に意識して褒めちぎっているわけではない、ハグも挨拶の一種だと思っている。
つまりこれが素なのだ、アイドルをしていた時代はこれでファンから喜ばれていたし、実生活でも大体男女問わずこの挨拶の仕方で生きてきた。
しかしこの行為はこの女性には逆効果というか逆に効果的過ぎたというか・・・だったようで。

「あの・・・あの・・・スミマセン!失礼しましたああああああ!」

顔赤らめながら女性が逃げていってしまった。

「えっ!?ちょっとまってお嬢さんできれば案内を!」

「なんだお前どこから入った!」

そして女性の声を聞きつけた兵士にみつかり案内(牢獄に)されるのであった。

40ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/04/07(日) 22:23:22
「最初はどっきりか夢かどっちかだと思っていたのだが・・・」

不審者と間違われ牢獄に捕まってから数日立つだろうか。
最初はほどなくしてドッキリの看板をもった人間達が現れると思っていたのだが、くる気配がまったくないし、目も覚めない。

定期的に巡回に来る兵士。
手入れの届いていない牢屋。
質素な食事。

「もしかして・・・僕は・・・誘拐されたのか?」

まさかがここがゲームの世界だとは思わず、現実的にできる回答を導き出す。

「うーむ困った・・・」

脱走自体はしようと思えばできるだろう、とジョンは踏んでいた。
兵士は定期的に巡回しているといっても2~3時間周期で、夜間には巡回すらしない。
そもそも手入れをだいぶ前から怠っているのか檻がボロボロだ。

しかし不審者と間違われ捕まるまでこの建物の中をそれなりに探索したが、かなり大きい屋敷のようだ。
それこそまるでお城のような・・・。
外にでれても現在位置がわからない以上、路頭に迷う可能性がある。

「それでもここよりはマシだろうけどね」

後はタイミングだ、なにか起こってくれればかなり脱走しやすくなるのだが・・・。
しかし上でなにが起ころうと地下の牢獄には情報が伝わってこないだろう。

「やっぱり見切り発車しかないのかなあ〜」

と考え事をしていると兵士と思われる装備を身にまとった女性が食事が運んできてくれた。
なにかを閃いたジョンは飲み水として用意された水で顔を洗い。

「そこのかわいいお嬢さん・・・もし時間が許すのであれば・・・僕とお話しませんか?」

昔無理やりやらされた自衛官PRのアイドルとして勝手に鍛えられた対女性技術で情報を聞き出す事にした。

41ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/04/07(日) 22:24:55
「楽しい話をありがとう、お嬢さん」

頬にキスをし軽いハグを交わし別れを告げると女性はまた来ますね、といいながらフラフラと立ち去っていった。

「こっちも余裕がないとはいえ罪悪感すごいな・・・」

もしまた会う事があったら今回の事をちゃんと謝ろう。

だが十分な情報は得られた。
この辺は王都キングヒルというアルメリア王国の首都である事。
今僕が監禁されているこの場所はアルメリア王宮という本物の王宮である事。
近々特別なお客様達が来ると言う事

「・・・そしてここが少なくとも地球ではない別の世界だと言うこと」

話を全部信じれば、の話だ、だが少なくとも彼女は嘘をついているようにはみえなかった。
しかし余りにも現実離れしている、余りにも馬鹿げている、嘘はついていないのはわかる、でも簡単に信じられる事じゃあない。

混乱して頭を抱えていた時、胸ポケットから振動がした。

「これは・・・スマホ?」

ポケットからでてきたのは自分が使っていたスマートフォンがでてきた。
画面を付けると画面の中央にブレイブ&モンスターズ!のアプリだけが存在していた。
通話もできない、メールもできない、でもブレイブ&モンスターズ!だけが。

「なんだこれ・・・壊れちゃったのか?」

とりあえず唯一のアプリを起動しようとする、そうするといつものログイン画面ではなく。
【部長】と書かれたモンスターを召喚するかどうかの確認画面だった。

「僕の相棒じゃないか!ああ・・・現実にいてくれたら心強いのに・・・」

不安からくる心細さからなんとなくサモン(召喚)のボタンを押すとするとスマホの画面が光り・・・。

「眩しい!・・・なんなんだよまったく!・・・・え?」

「ニャー」

目の前に現れたのはニャーと鳴く重そうな金属鎧を着たコーギー。
その胸には部長と書かれたネームプレート。
間違いない、これは・・・こいつは・・・僕の・・・。

「ぶちょおおおおお!」

目の前に仮想世界の相棒がいる、触れるしめっちゃモフモフする!。
だがパートナーモンスターの存在がこの世界が自分のいた世界ではなくブレイブ&モンスターズの世界だという事を裏づけしてしまった。
しかしそんな不安は、喜びやこれから待ち受ける冒険に比べればちっぽけな事であった。

「いや待てよ・・・?」

もしかして特別なお客様、というのはもしかしたら自分と同じ現代世界からの来訪者かもしれない、あくまで可能性だが。
ここが自分の知っている世界とは別だというならば、十分に可能性はある、特別な力なしでもこのスマホだけで十分な価値があるだろう。
仲間ができるかもしれないという期待にジョンは心躍らせる、まあできなくても相棒といっしょなら問題なく生きていける。
たぶん。

「よーし!そうと決まれば脱走の準備だ!・・・特別なお客様とやら来るまで寝てるだけだけどね」

「ニャー・・・」

ジョンの冒険が今始ま・・・らない

42崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/04/09(火) 23:08:58
王都キングヒル。
その名の通り、アルメリア王国の最奥に存在する小高い丘を中心とした都市である。
伝承(という名のフレーバーテキスト)によると、初代アルメリア王がこの丘に刺さっていた選定の剣を抜き、国を作ったのだという。
今はその丘にいくつもの尖塔を備えた荘厳な王宮が建造され、自らの版図を睥睨している。

「ふぉぉ〜……ゲームではしょっちゅう見てたけど、実際はこんなになってるんだ……」

おのぼりさん度ではなゆたもカザハたちと変わらない。右手で額に庇を作り、王都の目抜き通りを遠望する。
猥雑なガンダラやとにかくカラフルだったリバティウムとは違い、キングヒルには荘厳、重厚という言葉がよく似合う。
敷き詰められた石畳も、民家の壁も、ことごとく白い。まさに白亜の王都といった感じだ。
ブレモンはブラウザ非対応のソシャゲのため、グラフィックには限度がある。
だが、今なゆたの目の前に広がる光景はどんな据え置き機のCGムービーよりも美しく、かつ異界的な情緒に満ちていた。

>こらこら、おのぼりさん丸出しの行動はやめなさい。
 俺?俺は都会人よ。名古屋に住んでっから!名古屋に!
>みんなはどこらに住んでいるんやろうね、戻ったらオフ会でもしたいわ〜

明神がカザハ相手に都会人ぶり、みのりがいつもの様子ではんなりしている。
そんな一行の目の前を、銀色の甲冑に身を包んだ一団が通り過ぎてゆく。

「わたしと真ちゃんは神奈川! 湘南! うん、みんなでオフ会、絶対やりましょう! 
 そして、みんなでお茶しながら。あの時は大変だったね〜って笑い合えたら――。
 だから。わたしたちは絶対に元の世界に戻らなくちゃいけないんだ」

みのりの言葉を受け、なゆたは一度頷いた。そして改めて現実世界への帰還を決意する。
もちろん、仲間たちの胸中には気が付いていない。いまだに自分たちは一枚岩だと信じている。

>エンバースさん、王宮に行くんだからボロ布同然のローブはまずいよ! いかにも燃えちゃった感が凄いじゃん!
>……話が早いな。確かに、新エリアに突入するなら装備更新はしておきたい

カザハとエンバースがそんなことを言っている。同時期参入のよしみか、カザハはエンバースに配慮しているようだった。
確かにいかにもニヴルヘイム側でございと言いたげなエンバースの姿は色々と都合が悪い。
パーティーの共有財産は潤沢である。装備を買い与える自体はやぶさかでない。
そうこうしているうちに、王に謁見する前に王都の商店街でショッピングをすることになった。

「あ、『炎魔の剛剣(イフリート・ツヴァイハンダー)』。いいなぁ……これ、真ちゃんなら似合うだろうなぁ」

最初は皆から離れ、自分の必要なものを見繕っていたなゆただったが、気付けば真一に似合いそうな装備を物色している。
今ごろ、真一はどこで何をしているだろうか……と思ってしまう。
笑顔で送り出し、それぞれの為すべきことをしようと決意したつもりだったが、やはり簡単に忘れられるものではないのだ。

>駄目だ、俺たちのセンスじゃどうやってもカッコ良くなっちまう!
 なゆたちゃん、そろそろ機嫌直してくれよ!石油王もカモン!
 女子力アゲアゲでこいつをゆるふわモテカワ愛されコーデにデコってくれ!

傍らから明神の悲鳴が聞こえてくる。なゆたはそちらを振り返った。
見れば、襤褸布を纏った死体であったはずのエンバースが闇の狩人のような格好に変貌している。
死体らしさはほぼなくなったが、別ベクトルに振りきっている。なゆたは苦笑した。

「……別にいいんじゃないです? もし不審者扱いされるとしたって、牢獄に入れられるのはその人だけだし」

ついつい、そんなつっけんどんな態度を取ってしまう。

――あんなヤツ。真ちゃんの代わりになんてなるもんか。

初めて会ったときの居丈高な態度といい、頼まれもしないのにパーティーについてくる厚かましさといい、何もかも気に入らない。
けれど、真一が後を託した相手である。無碍にもできず、何より他の仲間が彼を受け入れてしまっている。
仲良くしなければいけない。それは理解している。このままの関係がよくないということも。
だというのに、感情が彼を拒絶している。仲間と認めたくない、と言っている。
それが子供じみた、ただのワガママだということも。自分でわかっているはずなのに――。
決して交じり合わない絵の具のようにぐるぐると渦を巻く気持ちを持て余しながら、なゆたは息をついた。

>うちはあかへんよ〜野良着しか知らへんからねえ。私服も呉服屋さんが見繕ってくれるの着ているだけやしねえ

明神の要望を受けたみのりが早々に戦力外宣言をする。
残るはなゆただけだ。なゆたはたまたま手に取っていたアクセサリの紅いリボンに目を落とし、つかつかとエンバースに近付いた。
そして、リボンを彼の首にチョーカー代わりに結んでみる。
黒一色の狩人装束の首元に、鮮やかすぎる真紅のリボン。それはとてもアンバランスに映えることだろう。
しかし、そんなエンバースを見てなゆたはククッ、と悪戯っぽく目を細めて笑うと、

「かわいい」

と言った。

43崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/04/09(火) 23:09:50
>はーいみんな聞いたってぇな、買い物が終わったところで、ちょうどキングヒルにいる事やしね
 王様に会いに行く前に、うちのハウスにも寄って欲しいんやわぁ

「おお〜! そういえばみのりさんのハウス、前に行ったことある! そっか、キングヒルでしたもんね〜あれ!」

なゆたはテンションを上げてまくし立てた。
ブレモンにおいて地主がどれだけのステイタスであるかは、今さら語るまでもない。
そして、地主には等級がある。無論栄えている、人気のある場所に土地屋敷を持っている者が上級とされる。
キングヒルは覇権国家の首都。しかも王宮の裏手となれば、その価値たるや天文学的でさえあろう。
なゆたが沖縄のリゾート地に家を持っているとしたら、みのりは都心の一等地に土地屋敷を持っているようなものだ。

「まさに石油王の面目躍如って感じだね……」

みのりの案内でハウスに到着し、モノリスを起動させて中に入る。
ハウスと言う割に生活感のない内部は、まさに博物館の様相を呈していた。
額縁に飾られたレアモンスターやスペルカードは、まさにみのりが費やしてきた金額の成果と言うべきであろう。
なゆたも歳の割には課金している方だが、しょせん学生。みのりのそれとは比べるべくもない。
まるで綺羅星のようなレアカードの展覧会に、はぁ〜……とため息をつく。

「スラキン(スライムキングダムの略)、鍛えたな〜。取り回しの悪さで持ち駒にはしなかったけど。
 こっちで召喚したら、スラキンの中に住めるってことだよね? う〜ん……わたしの長年の夢が……!」

自分も持っているスライム系のレアカードの存在に唸る。
それを手に入れるのに、なゆたは当時費やせる限りの財力とコネと時間を使ったが、みのりは当然のようにそれを持っている。
ソシャゲとはマネーイズパワー。その原則をまざまざと見せつけられる思いだった。

>わざわざ来てもらったんは、ここで欲しいカードがあったら持っていって〜っていう話で
 モンスターはどれも育ててへんから使い物にならへんけど、あっちの列はスペルカードになってるからねえ
 スペルカードは使えるものがあれば使ってもらってええよ

「……いいんですか?」

みのりの提案に、ぱちぱちと目を瞬かせる。
みのりが太っ腹なのは知っていたが、ここにあるカードたちはどれもリアルマネーでウン万円もする高レアばかりだ。
それを仲間とはいえポンと他人に預けるというのは、気前がいいとかそういうレベルですらない。
もちろん、それがみのりの打算による行動――パーティーの戦力を底上げすることによる自己保身――とは欠片も気付かない。
ただただ、みのりの厚情に感激するばかりである。
錚々たる高レアスペルカードの羅列に目を通し、なゆたは熟考した。
そして、一度かぶりを振る。

「ありがとう、みのりさん。気持ちはとっても嬉しいけれど、でもわたしはいいや。
 わたしはわたしの持ち札だけで戦う。それが、ブレモンのプレイヤーとしてのわたしの矜持。
 わたしは今までもわたしの選んだカードを信じて戦ってきた。勝ってきた――。
 今までもそうするだけだよ。依然変わりなく」

そう言って、にっこり笑う。

「けど、それじゃみのりさんのせっかくの親切を台無しにしちゃうから。
 だから、デッキには組み込まないけれど――みのりさんの厚意ってことで、一枚だけカードを借りるね。
 みんなで王都へ来た記念に。そして……冒険が全部終わったら、きっと返すから」

額縁のひとつに歩み寄ると、なゆたはカードを一枚だけ手に取る。
そしてみのりの前に掲げてみせ、また嬉しそうに白い歯を覗かせて笑った。


数多のレアカードの中から、なゆたが選んだのは――――

44崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/04/09(火) 23:10:13
「いやぁ〜、ずいぶん遅かったね〜! もう待ちくたびれちゃったよ〜!」

王都の宿屋で一泊し、準備を整えて王宮へ向かうと、旅の最初期に出会った懐かしい顔が王宮の入り口で一行を出迎えた。
スノウフェアリーのメロ。赭色(そほいろ)の荒野で別れて以来、姿を消していた案内役だ。
突然いなくなって案内役も何もないものだが、なゆたや明神、みのりらと別れてからはカザハの所に行ったりしていたらしい。

「あ、キミたちも無事に合流できたんだね。よかったよかった!
 じゃっ! 王さまもお待ちかねだし、さっそく謁見の間まで行こう!」

メロは透き通った虫の翅を羽ばたかせると、すいすいと先に立って王宮の中に入ってゆく。

「……行こう」

こく、と唾を飲み込むと、なゆたは仲間たちを促して王宮へと足を踏み入れた。
白亜の王宮は広大で、中に屹立する柱も何もかも白く輝くようだった。
王の住処というよりは神殿のようでさえある。そんな王宮の中を、物おじもせずに歩いてゆく。
やがて辿り着いたのは、身の丈の優に4倍はあろうかという巨大な両開きの扉。
それがゆっくりと軋みながら開いてゆくと、真紅の長絨毯が敷かれた謁見の間の奥に輝く玉座が見えた。

「王さまー! 『異邦の魔物使い(ブレイブ)』をお連れしましたー!」

メロの場にそぐわない陽気な声が、まるでイコンのような天井画の描かれた広い空間に響き渡る。
長絨毯の両脇には焦げ茶色のローブを着た侍従官たちが居並んでおり、どん詰まりに豪奢な玉座がある。
そして、まるで光背のような意匠の背凭れの玉座に、大柄な体躯の人物が座っている。――が、人ではない。モンスターだ。
生成りのトーガ状の衣服のあちこちに宝石を身に着け、頭に王を示す王冠をかぶっている。
ただし、その顔貌は人ではなく獅子である。筋肉質の身体に獅子の頭部を持つモンスター『百獣の王(ロイヤルレオ)』。
『鬣(たてがみ)の王』――それがアルメリア王国の王の名であった。
フレーバーでは幾多の戦争を勝ち抜いてきた強壮な英雄という触れ込みだが、今の鬣の王にはその覇気は感じられない。
むしろひどく疲弊しているようにさえ見える。
そんな王の玉座の右隣には、魔術師らしき風貌の男性が佇んでニコニコ笑っている。いわゆる宮廷魔術師というやつだろうか。

「お疲れさま、メロ。あとでおいしい蜜をあげよう、下がっておいで」

「ホントですか!? やったー! じゃ、ごゆっくりー!」

年の頃は三十代前半くらいだろうか、魔術師風の男性が物柔らかな声をかけると、メロは諸手を挙げて喜んだ。
そして、自分の役目は終わったとばかりに謁見の間を出ていってしまう。
なゆたが王を見ると、目が合った気がした。

――こういう場合って、こうするんだっけ?

ファンタジー小説などを読んだときの知識で、絨毯の上で跪いてみる。
姫騎士装備一式を身に纏った状態でそんな姿勢になると、いかにもファンタジーといった絵面になった。

「ようこそ、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たち。遠路はるばるご苦労さま、大変だったろう?
 食べ物は大丈夫だったかな? 水には馴染んだ? 何せ君たちの住んでいた世界とこちらでは勝手が違いすぎるからねえ!」

魔術師が一行に声をかける。光の加減でほの青くも見える、腰までの長いミルク色のゆるふわな癖っ毛が揺れる。
白いローブの胸元や袖口などにこれでもかとつけているタリスマンや宝石がきらきらと輝く。

「こちらがアルメリア王国の王、すなわちアルフヘイムの王。『鬣の王』にあらせられる。
 私は宮廷魔術師。王と私とで、君たち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を召喚したんだ。この世界に」

どうやら、一行の目の前にいるこの二名が首謀者ということらしい。

「ある日突然異世界に喚び出されて、命の危険にさらされて。さぞかし私たちを恨んでいるだろう。
 理不尽なことだとね……けれど、それにはやむを得ない事情があったんだ。それを、これから説明しようと思う。
 どうか非礼を許してほしい。王に代わり、私が王国を代表して謝罪しよう。すまなかった」

そう告げると、宮廷魔術師は右手を胸元に添え、恭しく頭を下げた。

「――そして、だ。その上でもう一度お願いする。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちよ、この世界を救う手助けをしてほしい。
 目下この世界に迫っている危機に対し、私たちはあまりにも無力だ。
 けれども、君たちの力があればそれを変えられる。滅びの運命を覆し得る希望になる――。
 この世界にとって、君たちは最後の希望なんだ」

姿勢を戻すと、宮廷魔術師は再び朗々と言葉を紡ぐ。

45崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/04/09(火) 23:10:33
「では、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』――」

「待て」

宮廷魔術師が何か言おうとしたところ、王が口を開いた。掠れた、聞き取りづらい声だった。
宮廷魔術師が王を見る。

「……いかがされました、王?」

「ウィズリィは。ウィズリィはどうしたのだ……私の敬愛する森の魔女は……?」

王が一行へと問いを向ける。なゆたは口ごもった。

「ウ、ウィズは――」

そういえば、ウィズリィは王の命令で一行に合流したと言っていた。
宮廷魔術師の言葉を聞く限り、きっと王の期待を一身に背負っていたのだろう。
そんなウィズリィのことを、戦いの最中ではぐれました、生死も安否もわかりません、とはさすがに言いづらい。
どう説明すべきか、咄嗟にうまい言葉が思いつかない。なゆたは思わず顔を伏せてしまった。
しかし。

「王よ、ご心配召されますな。ウィズリィには只今、私の指示により別行動をさせております。
 世界各地に召喚された、他の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちのために――。
 必ずや朗報をもって帰還することでしょう、御心安んじられませ」

「……そうか。ウィズリィは無事なのだな。ならばよい……あの娘が無事ならば、私は……」

魔術師がすかさず進言する。返答に窮する一行に助け舟を出した形だ。
鬣の王は満足したように頷いた。それを見届けると、魔術師は一行へ向けて茶目っ気たっぷりにウインクした。
安心して気が緩んだのか、王が深い息を吐く。
すかさず魔術師が侍従官たちに命じる。

「王はお疲れであられる。御寝所までお連れして差し上げなさい」

侍従官たちが王に付き従う。それを右手で軽く遮ると、王は一行を見た。

「大儀である、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』。異議も異論もあろうが、先ずは我が宮廷魔術師の言葉に耳を傾けよ。
 そなたらの要望はできる限り便宜を図る。決して悪いようにはせぬ……ゆえ、どうかアルフヘイムを救ってくれ。
 我らアルフヘイムに生きる者を、侵食の餌食にしてはならぬ……そなたたちだけが頼りなのだ……」

獅子頭の王はそう言うと、侍従官たちに付き添われて謁見の間を出ていった。
王が退室するのを見届けると、魔術師はうん、と頷き、ポンと一度手を打った。

「じゃっ! 王さまに後を託されたことだし、説明タイムと行こうか!
 場所を変えよう、こんな堅苦しい場所じゃ舌の滑りも悪くなるというものだしね。
 庭園へ行こうか? ちょうどお茶の時間だ――おいしいお茶を飲みながら、和気藹々といきたいね!」

「え? あ、ちょっ――」

なゆたは呆気にとられた。言うが早いか、魔術師はこっちこっち、と両開きの巨大な扉の外へ出ていってしまう。
世界の危機の割にはどうにもふわふわした印象の魔術師だが、今は話を聞く以外にない。

「う、うーん……。行こっか?」

躊躇いながらも、なゆたは手招きする魔術師の方へと歩いていった。

46崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/04/09(火) 23:11:11
庭園は王宮の中庭にあり、庭師たちによって数多くの花々が丹精されていた。
その一角、様々な種類の薔薇だけを集めた薔薇園に、魔術師は一行を導く。

「私は薔薇が好きでね。綺麗だろう? いい香りだし、何より見た目が派手だ。中には私が魔術で作り上げた品種もあるんだよ」

魔術師は嬉しそうに笑った。丸いガーデンテーブルを中心に、チェアを全員に勧める。
一行が腰を下ろすと、透き通った水晶の身体を持つ女性型の魔物『水晶の乙女(クリスタルメイデン)』のメイドがやってくる。
メイドは人数分のティーカップにお茶を注ぐと、ぺこりと一礼して去って行った。

――薔薇、か。

確かに、周りでは見事な薔薇が数多くその花弁を咲き綻ばせ、自らの美しさを競い合っている。
ポヨリンが薔薇園の中でひらひらと舞う蝶を追いかけ、ぽよんぽよんと跳ね回っている。
毒見とでも言うのか、魔術師は同じティーポットから注がれたお茶を真っ先に飲んだ。
そして、喉を湿らせると話す準備が整ったとばかりに口を開く。

「……さて。私たちは今まで、あまりにも君たちを放置しすぎた。それに対して不審に思っている部分は大きいだろう。
 我々は君たち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の力を必要としている。
 良好なパートナーシップを築く上で、猜疑心はできるだけ取り除いておく必要がある。
 だから……ここからは解説編と行こう。諸君の聞きたいことに、私が答える。
 その上で、諸君の協力を仰ぎたい。何度も言うが、君たちは我々の最後の希望なんだ。
 君たちの力なくして、この世界は救えない。この世界はこのまま行けばあと5年、いや3年で跡形もなくなる。
 そして――それは、君たちの元いた世界にとっても他人事じゃないんだ」

「他人事じゃない? それってどういう――」

なゆたが目を瞬かせる。

「それについては後で話そう。……君たちを召喚以来放置していた理由だが、まずひとつはウィズリィを遣わしていたため。
 かの森の魔女が君たちを導き、可能な限りのバックアップをする手筈だったんだ。
 彼女はこちらの都合も、内情も全て知っていたからね。それを『異邦の魔物使い(ブレイブ)』に伝えてくれと頼んだんだが。
 まさか失踪してしまうとは……我々も彼女とは連絡が取れていない。無事だといいのだけれど」

魔術師は沈痛そうな面持ちで呟いた。ウィズリィの失踪はキングヒルサイドでも既に周知のことであったらしい。
王ほどではないにせよ、正真、ウィズリィの安否を気遣っているのだろう。

「もうひとつの理由は、召喚した『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の数に対して、こちらの数が足りなすぎてね。
 もう知っていると思うけど、我々は目下のところもう一つの世界……ニヴルヘイムの勢力と戦っている。
 我々は世界に散らばった『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を回収すると同時――
 ニヴルヘイムの尖兵にも対処しなければならなかった。割ける人数と打てる手段には限りがあったんだ」

手ずからティーポットのお茶をカップに注ぎ、一口含む。
それから、メイドが持ってきたスコーンにマーマレードのようなものをこれでもかとつけて食べる。
君たちもおあがんなさい、なんてにこやかに言う様子は、まさにお茶の時間といった風情だ。

「ただ、それでも君たちは恵まれている……と言わせてもらうよ。メロとウィズリィを遣わせ、魔法機関車も出した。
 召喚した『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の中には、なんのケアもしてあげられなかった者も数多くいたから。
 彼らは……可哀想なことをした」

もう一度、魔術師はすまなそうな表情を浮かべた。
きっと、王国のサポートを何も受けられなかった不遇な『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちは、もう――。

「私たちも、生き残るためには手段を選んでいられなかったんだ。どんな方法であっても、手立てがあるなら試す。
 そうせざるを得なかった……とばっちりだと、業腹だと思うだろうが、どうか許してほしい。
 そして、私たちに手を貸してほしい。そのためには、我々も可能な限り君たちの望みを叶えたいと思う。
 ああ、だから、それを踏まえて――君たちの質問にすべて答えるよ。私の知りうる情報ならね」

魔術師は軽く両手を広げて告げた。本当に、胸襟を開いて話そうとしているらしい。
マルグリットにひけを取らない整った顔立ちと、物柔らかな態度。優しい言葉は、いかにも善人のような印象を与える。

しかし。

「そうそう、自己紹介がまだだったね? いや、すっかり忘れていたよ! ごめんごめん!
 私はご存じの通りの、アルメリア王国の宮廷魔術師。と言っても普段は何もしてない、ただの無駄飯喰らいだけどね!
 ま、それはいい。先だっては、私の弟弟子と妹弟子が世話になったね。私は――」

弟弟子と妹弟子。
それは、おそらく十二階梯の継承者のことを指しているのだろう。ガンダラで出会った『聖灰の』マルグリット。
リバティウムで共に戦った『虚構の』エカテリーナ。
そして、そのふたりのことを弟妹だと言える者は少ない。
魔術師の虹色の双眸が一行を見る。それは底知れない魔力を秘めた、いわゆる魔眼というものだった。
十二階梯の継承者の中で、いやこのブレイブ&モンスターズの世界で、魔眼の持ち主はひとりしかいない。
瞳に宿す莫大な魔力によって、すべてを創り出す。世界すらも改変させることのできる魔法使い――


「私の名はバロール。十三階梯筆頭継承者……『創世の』バロールだよ」


本来ならばアルフヘイムの王宮にいるはずのない存在。ゲームの中のキングヒルでは会うはずのない人物。
宮廷魔術師、バロールはそう一行に告げると、もう一度優雅な所作でお茶を飲んだ。


【王との謁見。『創世の』バロール登場。質問&回答タイム突入】

47カザハ ◆92JgSYOZkQ:2019/04/10(水) 23:38:52
>「こらこら、おのぼりさん丸出しの行動はやめなさい。
 俺?俺は都会人よ。名古屋に住んでっから!名古屋に!」

>「名古屋やったんね、意外と近いんやわねえ。うちは京都。言うても本宅は御所裏にあるけど、大概畑のある市外を転々としてるから京都という感じせえへんのやけどね」
>「みんなはどこらに住んでいるんやろうね、戻ったらオフ会でもしたいわ〜」

>「ボクの住んでたところなんか日本一の砂場があったんだよ! 京都と名古屋ってそんなに近いっけ……?」

突如始まる地元―ク。京都と名古屋が近いと言っちゃうあたり、やはり新幹線沿線の住人は一味違う――!

>「わたしと真ちゃんは神奈川! 湘南! うん、みんなでオフ会、絶対やりましょう! 
 そして、みんなでお茶しながら。あの時は大変だったね〜って笑い合えたら――。
 だから。わたしたちは絶対に元の世界に戻らなくちゃいけないんだ」

多分転生なので帰れないんですけど……と言い出せる空気でもなく、オフ会の話題は愛想笑いで流すカザハ。
ここはどうやら神奈川やら京都やら名古屋の都会っ子の集まりらしいが、私たちは何を隠そう鳥取である。
東日本の人間はかなりの確率で島根とどっちがどっちだったか認識しておらず、
秘境グンマーと並び立つ、ド田舎をネット上でネタにされる県ツートップ。
いい歳した大人が巨大な砂場で遊んだり、やれスタ○バックス上陸やらセ○ンイレブンオープンで大はしゃぎ。
いつまでも純粋な心を持ち続けることが出来るある意味幸せな県なのだ。
砂場といえば、大学時代に所属していた(二学年上のカザハに引っ張り込まれた)勇者部(ブレイブと読む)の新入生歓迎行事は、
“サンドワーム討伐!”と銘打って砂漠もとい砂丘に遠足に行くのが恒例になっていた。(もちろん実際に出現したことはない)
探検部とボランティアサークルとゲームサークルとコスプレサークルやらを足した上に思い付きでその他諸々をぶち込んだようなカオスなサークル。
カザハが“マジでいつかここでサンドワームが暴れてた気がする……”と割と本気っぽい顔で言い出した時はどうしようかと思った。
いつもカザハ達に振り回されてツッコミ役と驚き役やってたけど、今思えば、
ずっとココジャナイ感に支配された地球人生の中で、大学時代だけは楽しかったなぁ。

>「そんな事より、カザハ。確かゲーム本編は未プレイだって言ってたな。
 だったら、王宮に直接向かうのは……少し勿体無いと思わないか?」

>「おっ、お前もマップ埋めてから次に進むクチか?わかるぜそーゆーの。
 路地とか全部見とかないとアイテムの取りこぼしが気になって落ち着かねえんだ」

「言われてみれば確かにそうかも……。
オンラインゲームは管轄外だけどオフゲは結構やってるんだよね。
スーファミからプレステになったときの感動は凄かったなあ」

そんな事言ってもなゆたちゃん達は絶対分かんないし明神さんも結構若くも見えるから分かるか分からないかギリギリだよ!?
エンバースさんは完全年齢不詳だけど! とにかく歳がバレるからやめて!?
(ちなみに最初の事情聴取の時、地球での年齢性別職業等の不必要な情報は省略して、必要最小限のこちらの世界に来た経緯だけ説明してある)
――と思ったが、割とどうでもいいような気もしてきた。というのも実際何歳と言えばいいのだろうか、自分でも分からない。
転移だとしたら地球での年齢になるのだろうが、転生だとしたら発生直後の0歳、ということになるし、
もう一つの大穴の可能性として、昔話の竹から生まれたお姫様みたいに訳あって一時的に地球に飛ばされていて、
その上元々こっちにいた時の事を忘れているのだとしたら、実はとんでもなく長い時を生きているのかもしれない。
いずれにせよこちらに永住することになったら、精霊シルヴェストルと幻獣ユニサス――人間よりずっと長い時を生きることになる。
そうなってしまえば、地球で生きた時間が十○年だろうが○十年だろうが誤差の範疇になるのだろう。
それはそうと、カザハがエンバースさんに装備更新を切り出すと、何故かこちらの装備更新を提案された。

48カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/04/10(水) 23:40:31
>「そう、装備更新が必要なのはむしろ君達の方だ、カザハ、カケル。
 新たな仲間を裸で戦場に立たせるのが、当代ブレイブの流儀か?」

「裸!? もしかしてこれって便宜上画面上には服着てるように表示されてる的なやつ!?
大変、逮捕されちゃう!」

裸スーツが実際には着てても裸に見えるからNGならば、逆に裸でも裸に見えなければOKじゃないだろうか。
三人寄れば文殊の知恵というが、ボケ役が集まれば集まるほど指数乗数的に場のエントロピーは増大し収拾がつかなくなるのだ。
ツッコミ役を切実に求む! 地球では私がカザハのツッコミ役をしていたが、馬なので喋れない。
テレパシーみたいなのでカザハとは会話できるにはできるが、声に出してこそ漫才は成立すると思うのだ。

>「いやおめーだよ!おべべが必要なのはおめーなの!
 いーよいーよお前の死に装束もカザハ君のおべべもまとめて選ぼうぜ!
 エンバースをエンバーミングしてやろうぜ!!!!!!!」

――良かった! ツッコミ属性がここにいた!
こうして明神さんが上手い事まとめてくれ、装備更新のショッピングが始まる。

>「……まずは武器と防具だな。馬上で戦うなら防具は軽くて丈夫なクロスか、レザー系統。武器は槍ってとこか。
 確か……王都のショップなら『闇狩人のコート』が手に入るよな。防具はそれでいいだろう。
 武器は……『血浸しの朱槍(ヴァンパイア・クロウ)』か。多少重いが、重さは強さだ。
 四足獣型なら鞍袋が装備出来るんだから、サブウェポンやアイテムも揃えたいな。
 色々使ってみないと、何がしっくり来るかも分からないもんな」

「怖っ、コートは真っ黒だしその槍なんてなんか血がついてるんだけど!」

>「攻撃と守備の数値だけ見て装備決めんのはトーシロだぜカザハ君!
 このゲームの装備はシナジーが全てだ。風属性、妖精族にボーナスのかかる装備を探そうぜ。
 『精霊樹の木槍』、こいつは攻撃力こそ低いが妖精族が持つと魔法に威力20%補正がつく。
 20%だぜ!?やばくない?これがあるとないとでヴァジロゴブリンの確定数が変わるんだぜ!」

「いいね! それ買いだね! まず”精霊樹の木槍”ってネーミングセンスがいい!」

結局カザハは明神さんお勧めの『精霊樹の木槍』と、シルヴェストルの防具として無難なところで『風のローブ』を買ってもらった。
見た目のイメージ的には元と殆ど変わらない。
一方のエンバースさんはというと……ある意味絶大なイメチェンを果たし、早速明神さんに全力でツッコまれていた。

>「――よし、十分だ」

>「十分だ、じゃねーーーよ!どこ見てその判断に落ち着いた!?王に会うんだよ、これから!
 おめー暴君にカチコミかけたメロスだってもうちょい常識的なカッコしてたよ!?」
>「駄目だ、俺たちのセンスじゃどうやってもカッコ良くなっちまう!
 なゆたちゃん、そろそろ機嫌直してくれよ!石油王もカモン!
 女子力アゲアゲでこいつをゆるふわモテカワ愛されコーデにデコってくれ!」

49カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/04/10(水) 23:42:00
>「……別にいいんじゃないです? もし不審者扱いされるとしたって、牢獄に入れられるのはその人だけだし」

「いや、不審者連れてったら全員ひっくるめて不審者扱いされるかもしれないし……」

>「うちはあかへんよ〜野良着しか知らへんからねえ。私服も呉服屋さんが見繕ってくれるの着ているだけやしねえ」

早々にリタイアするみのりさん。最後の希望がなゆたちゃんに託された。
なゆたちゃんは何を思ったのか、深紅のリボンをエンバースさんの首に結ぶ。
そしてカザハは、おそらくリボンの効果について他のゲームと勘違いしている感想を述べるのであった。

「うわあ、良かったね! 状態異常無効だね! 触手もじゃもじゃの大先生に出会っても大丈夫だね!」

と、こんな感じで装備更新が無事に(?)終わったところで、みのりさんが皆に声をかける。

>「はーいみんな聞いたってぇな、買い物が終わったところで、ちょうどキングヒルにいる事やしね
王様に会いに行く前に、うちのハウスにも寄って欲しいんやわぁ」

リバティウムにはなゆたハウスがあったが、ここにはみのりハウスがあるらしい。
しかも王宮の裏手という超好立地。
まず公園のような広場に案内され、みのりさんがモノリスに手を当てると家の内部が姿を現す。

>「知っての通りキングヒルズでの家は景観規制があって色々と面倒やろ?
うちはそういのに手ぇかけられへんから初期設定の庭園のまま、モノリス買うて倉庫にしているんやわぁ
て言うても、基本解放しているし、ゲーム内で来たことある人もおるカモやねえ」

棚には無数の額縁がかけられ、琴と竜の合成獣モンスターが雅な音楽を奏でている。

「何これ、博物館……!? いいな〜」

>「モノリスを使うと家専用サーバーが用意されてそこを使えるんやけど、ここではこうなるんやねえ
ジュークボックス代わりに放しておいた龍哮琴もいはるし、ほんに不思議やわー」

そして、みのりさんが一行をここに呼んだのは、ただ自らのコレクションを見せるためではなかった。

>「わざわざ来てもらったんは、ここで欲しいカードがあったら持っていって〜っていう話で
モンスターはどれも育ててへんから使い物にならへんけど、あっちの列はスペルカードになってるからねえ
スペルカードは使えるものがあれば使ってもらってええよ」

>「……いいんですか?」

「本当にいいの!?」

50カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/04/10(水) 23:43:09
なゆたちゃんと同様、カザハも目を輝かせながら選び始める。
尤も、こちらはド素人なので選ぶ基準はゲーム内での希少価値というよりも専ら感覚である。
随分気前がいいことは確かだが、そこまで不自然なことではない。
純粋な厚意かもしれないが、パーティー全体の戦力の増強は、自らの身の安全にも繋がる。
そして、これで分かったことは少なくともみのりさんは皆を裏切るつもりはないということだ。
最初に会った時に感じた底知れなさは、やはり気のせいだったのだろうか――

「じゃあこれ借りるね!」

カザハが選んだのは『幻影(イリュージョン)』。
巨大なものから小さな物体まで、人にまとわせるのも大規模な情景を作り出すのも、静止画も動画も自由自在。
ありとあらゆる幻影が作り出せるスペルカードだそうだ。
差し当たっては、結局何故か闇の狩人のような格好に落ち着いてしまったエンバースさんが
門前払いされそうになった時に備えての選定だろうが、それ以外にも汎用性は高いだろう。
一方のなゆたちゃんは、しばらく熟考した後にかぶりを振る。

>「ありがとう、みのりさん。気持ちはとっても嬉しいけれど、でもわたしはいいや。
 わたしはわたしの持ち札だけで戦う。それが、ブレモンのプレイヤーとしてのわたしの矜持。
 わたしは今までもわたしの選んだカードを信じて戦ってきた。勝ってきた――。
 今までもそうするだけだよ。依然変わりなく」

真一君ほどではないにしても、こちらも相当熱血気質のようだ。
もちろんド素人のカザハはプレイヤーとしての矜持も何もないし、もらえるもんはもらっとけ派である。
しかし、なゆたちゃんはみのりさんの厚意を無駄にすることはなかった。

>「けど、それじゃみのりさんのせっかくの親切を台無しにしちゃうから。
 だから、デッキには組み込まないけれど――みのりさんの厚意ってことで、一枚だけカードを借りるね。
 みんなで王都へ来た記念に。そして……冒険が全部終わったら、きっと返すから」

彼女は選んだカードをみのりさんに見せてから嬉しげにしまったのであった。
一体何のカードを選んだのだろう。
こうしてスペルカードを選び終えた一行は、王都の宿屋で一泊した後、満を持して王宮へと向かう。
警戒しつつ王宮に足を踏み入れようとした一行を出迎えたのは――

>「いやぁ〜、ずいぶん遅かったね〜! もう待ちくたびれちゃったよ〜!」
>「あ、キミたちも無事に合流できたんだね。よかったよかった!
 じゃっ! 王さまもお待ちかねだし、さっそく謁見の間まで行こう!」

「あーっ、お前! ってか今までどこ行ってた!?」

チョイ役とばかり思っていたスノウフェアリーのメロ。実は王直属だったらしい。
闇の狩人っぽい人が混ざり込んでいることに対して特にツッコミは無いので、黙っておくことにした。

51カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/04/10(水) 23:43:53
>「……行こう」

>「王さまー! 『異邦の魔物使い(ブレイブ)』をお連れしましたー!」

王様は、人ではなく『百獣の王(ロイヤルレオ)』というモンスターだ。
いかにもファンタジーって感じでいいねぇ。でも、百獣の王という割には憔悴しきっているようにも見える。

>「お疲れさま、メロ。あとでおいしい蜜をあげよう、下がっておいで」
>「ホントですか!? やったー! じゃ、ごゆっくりー!」

なゆたに倣い、絨毯の上に跪くと、魔術師風の男が声をかけてきた。
年のころは30台前半だろうか。
少なくとも明神さんよりは年上だと思うが、ゆるふわロングヘア―が良く似合う美形の優男なのでおっさん感は全くない。

>「ようこそ、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たち。遠路はるばるご苦労さま、大変だったろう?
 食べ物は大丈夫だったかな? 水には馴染んだ? 何せ君たちの住んでいた世界とこちらでは勝手が違いすぎるからねえ!」
>「こちらがアルメリア王国の王、すなわちアルフヘイムの王。『鬣の王』にあらせられる。
 私は宮廷魔術師。王と私とで、君たち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を召喚したんだ。この世界に」
>「ある日突然異世界に喚び出されて、命の危険にさらされて。さぞかし私たちを恨んでいるだろう。
 理不尽なことだとね……けれど、それにはやむを得ない事情があったんだ。それを、これから説明しようと思う。
 どうか非礼を許してほしい。王に代わり、私が王国を代表して謝罪しよう。すまなかった」

まあ普通はいきなり命の危険と隣り合わせの世界に召喚して何やねん!というのが常識的な反応だろう。
カザハや私としてこっちの世界に来たことを別に恨んでもいないし喜んですらいるのだが。
その後王はウィズリィがいなくなったことに焦りはじめ、魔術師が上手く胡麻化したりのやり取りの後、仰々しく退場していくのであった。

>「大儀である、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』。異議も異論もあろうが、先ずは我が宮廷魔術師の言葉に耳を傾けよ。
 そなたらの要望はできる限り便宜を図る。決して悪いようにはせぬ……ゆえ、どうかアルフヘイムを救ってくれ。
 我らアルフヘイムに生きる者を、侵食の餌食にしてはならぬ……そなたたちだけが頼りなのだ……」

そして王様が退場した途端に、軽いノリになる魔術師。

>「じゃっ! 王さまに後を託されたことだし、説明タイムと行こうか!
 場所を変えよう、こんな堅苦しい場所じゃ舌の滑りも悪くなるというものだしね。
 庭園へ行こうか? ちょうどお茶の時間だ――おいしいお茶を飲みながら、和気藹々といきたいね!」

あれよあれよという間に庭園に案内された。

>「私は薔薇が好きでね。綺麗だろう? いい香りだし、何より見た目が派手だ。中には私が魔術で作り上げた品種もあるんだよ」

その中には、地球では未だ実現できていない鮮やかな青い薔薇もあった。
異世界から人を召喚できるほどの魔術師だ。きっと彼の魔術は不可能すらも可能にできるのだろう。
ポヨリンが楽し気に跳ね回り、私もスマホから出してもらって時々ポヨリンと戯れつつ一行の様子を見る。

52カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/04/10(水) 23:46:28
>「……さて。私たちは今まで、あまりにも君たちを放置しすぎた。それに対して不審に思っている部分は大きいだろう。
 (中略)
 我々は世界に散らばった『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を回収すると同時――
 ニヴルヘイムの尖兵にも対処しなければならなかった。割ける人数と打てる手段には限りがあったんだ」

ゆるふわ魔術師に釣られるように、お茶を飲んでもしゃもしゃお菓子を食べ始めるカザハ。
世界に散らばった『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を回収とさらっと言ったけど、普通は召喚者の目の前に召喚するもんじゃないんかーい!
召喚は出来るけど世界のどこに出るかの指定は出来ないとは難儀な話である。

>「ただ、それでも君たちは恵まれている……と言わせてもらうよ。メロとウィズリィを遣わせ、魔法機関車も出した。
 召喚した『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の中には、なんのケアもしてあげられなかった者も数多くいたから。
 彼らは……可哀想なことをした」

カザハは手に持っていたスコーンを取り落とし、ガタッと立ち上がる。

「そんな……召喚するだけして野垂れ死んだってこと!? あんまりだよ……!」

魔術師はそれに気圧されるでもなく、話を続ける。

>「私たちも、生き残るためには手段を選んでいられなかったんだ。どんな方法であっても、手立てがあるなら試す。
 そうせざるを得なかった……とばっちりだと、業腹だと思うだろうが、どうか許してほしい。
 そして、私たちに手を貸してほしい。そのためには、我々も可能な限り君たちの望みを叶えたいと思う。
 ああ、だから、それを踏まえて――君たちの質問にすべて答えるよ。私の知りうる情報ならね」

「それじゃあ……」

カザハが早速質問を始めようとしたときだった。

>「そうそう、自己紹介がまだだったね? いや、すっかり忘れていたよ! ごめんごめん!
 私はご存じの通りの、アルメリア王国の宮廷魔術師。と言っても普段は何もしてない、ただの無駄飯喰らいだけどね!
 ま、それはいい。先だっては、私の弟弟子と妹弟子が世話になったね。私は――」

魔術師は、不思議な虹色の瞳でカザハ達を見つめた。

>「私の名はバロール。十三階梯筆頭継承者……『創世の』バロールだよ」

その名を聞いた一行に緊張が走る。
“『創世の』バロール”って確か……ゲームのブレモンのストーリーモードのラスボスじゃん!
しばしの沈黙が場を支配した後――

53カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/04/10(水) 23:48:24
「よろしくね、バロールさん。知ってるかもしれないけどボクはカザハ、こっちはカケルだよ」

カザハは何事もなかったかもように質問を始めた。ド素人故の怖い物知らずのなせる業かもしれない。

「じゃあまず……世界を救ったら元の世界に返してもらえるの?」

なゆたちゃんはすっかりそのつもりでクエストクリア―に乗り気になっている。
その前提が崩れたら全てが破綻してしまうだろう。
彼女のような地球に居場所がある者はなんとしてでも帰らなければならないのだ。

「それから……元の世界に返してもらう以外の選択肢はある?
たとえばちょっといい条件で永住させてもらったり……ボクの場合多分転移じゃなくて転生なんだよね!」

しめじちゃんはリバティウムに残る選択をしたらしいが、それはなゆたちゃん理論でいくと、元の世界に帰るのを諦めたということになる。
でもしめじちゃん自身は元の世界に帰ることを望んでいないのではないだろうか――
入れ違いで殆ど接点は無かったが、どことなく薄幸そうな少女だった気がする。
地球で最も平和とされる日本ですら、虐待やDVで日常的に命の危険に晒されている者はいるのだ。
そのような者なら、こちらの世界に定住を望んでも何ら不思議はない。
しかしなゆたちゃんは、未だに皆が元の世界に帰りたがっているのが当然だと思っている。
そしてカザハは、”別に帰りたくない”ではなく”多分帰れない”という体裁を取り、その思い込みを壊すまいとした。
実際死んでる可能性が高いので全く嘘ではなくその通りなのだが、それに加えて、
なゆたちゃんのある種考え無しとも言える推進力が無くなったら、このパーティーは瓦解してしまう、そんな気がするのだ。

54embers ◆5WH73DXszU:2019/04/17(水) 06:36:58
【ブレイズアップ・ジェントリー(Ⅰ)】

『十分だ、じゃねーーーよ!どこ見てその判断に落ち着いた!?王に会うんだよ、これから!
 おめー暴君にカチコミかけたメロスだってもうちょい常識的なカッコしてたよ!?』

「ああそうだ。これから王に会う。だから装備を整える……何もおかしくないだろ?」

焼死体の言葉は――あまりに抜き身すぎた。

ふざけている訳ではない/極めて真剣――攻略重視の思考、それ故の結論。
つまり――王の腹中に害意/謀略があるなら、ここで揃えた装備は役に立つ。
一方で王が真に友好的/寛容なら、これらの武装は大きな問題にはならない。

無論、王宮内における報連相が不十分である場合に生じる衛兵との一悶着は、些少な問題に分類される。

『駄目だ、俺たちのセンスじゃどうやってもカッコ良くなっちまう!
 なゆたちゃん、そろそろ機嫌直してくれよ!石油王もカモン!
 女子力アゲアゲでこいつをゆるふわモテカワ愛されコーデにデコってくれ!』

対する明神の反応――女性陣への援護要請/賢明な判断。

『……別にいいんじゃないです? もし不審者扱いされるとしたって、牢獄に入れられるのはその人だけだし』

『いや、不審者連れてったら全員ひっくるめて不審者扱いされるかもしれないし……』

冷ややか/胡乱な視線――焼死体はまるで聞く耳持たない。
暫し思索の仕草を見せた後、再びアイテムの物色を開始。

「明神さん、やっぱりこれも必要だ。支払いを……」

更なる“初期投資”を引き出すべく振り返る焼死体。
まっすぐと己へ歩み寄るなゆたが目に留まった。

「……なんだよ。言っとくけど、装備の粗探しをするつもりなら、時間の無駄だぞ。
 『闇狩人のコート』も『血浸しの朱槍』も、アンデッド系が装備した時に限り――」

焼死体の先制攻撃/しかし、なゆたはまるで気にしていない。
歩調を緩める事なく間合いを詰め切ると――その指先が、焼死体の首元に触れる。

「お、おい?一体なんのつもり……」

自分の首がリボンで飾り付けられているのは分かる。
分からないのはその意図――何故、そんな事をされているのか。
首に巻き付けてまで装備する必要があるほど、有用な効果を持つリボン。
そんな装備は記憶にない――何か、自分が知らない間に追加実装された代物なのか。

そんな焼死体の戸惑いを置き去りに、なゆたは一歩下がって、紅く彩られた黒衣の男を見上げる。

『かわいい』

そして、そう言った。
予想外の返答/悪戯な笑み――焼死体は二の句が継げない。

55embers ◆5WH73DXszU:2019/04/17(水) 06:39:59
【ブレイズアップ・ジェントリー(Ⅱ)】

「……は、はは。かわいいだって?それだけか?拍子抜けさせないでくれよ。
 装備の見栄えにこだわるなんて……精々、アコライト外郭までだろ」

振り絞るような悪態/鈍らのような切れ味――火を見るより明らかな動揺。
誤魔化すように、リボンを解こうと、焼死体は結び目に指をかける。
だが、それすら最後まで成し遂げられない。

「……下手に外して、また口うるさく噛みつかれても堪らないな」

なゆたに背を向け――見え透いた言い訳/右手を下ろす。

『うわあ、良かったね! 状態異常無効だね! 触手もじゃもじゃの大先生に出会っても大丈夫だね!』

「……まさか。そんな装備、実装される訳がない……とは、ブレモンだと言い切れないけど。
 回復に必要な各種リソースを全て攻撃に回せるようになるのは、幾らなんでも強すぎるよ」

努めてゲーマー的な返答/冷静さを取り戻す為の試み。

『はーいみんな聞いたってぇな、買い物が終わったところで、ちょうどキングヒルにいる事やしね
 王様に会いに行く前に、うちのハウスにも寄って欲しいんやわぁ』

「ハウス?あんたも地主なのか?しかもキングヒルの……すごいな。
 差し支えなければ、プレイヤーネームを教えてくれないか。
 もしかしたら、俺の知り合いだったり……」

自然体の言動――しかし最後まで紡がれる事なく途絶える。

「……いや、なんでもない」

そのままふらりと、見方によっては逃げるように、焼死体はショップを出ていった。
当然――首元を飾ったままのリボンの支払いはされていない。

56embers ◆5WH73DXszU:2019/04/17(水) 06:43:48
【ブレイズアップ・ジェントリー(Ⅲ)】


『ああ、ここやえ〜なゆちゃんの家があったから多分とは思うてたけどぉ
 ちゃんとあるもんやねえ、良かったわ〜』

王宮裏手の貴族街ブレイズフロスト。
そこが、五穀みのりの所有するハウスの所在だった。
その土地は冒険者の中でも指折りの実力者にのみ与えられる。
家を持てば当然、所有者はそこに財を集める――故に、キングヒル王宮の守りは堅い。

「……よりにもよって、ブレイズフロストか。あんた、まさか石油王なのか?」

当然である――貴族とは原初、国防の要たる戦士の階級なのだ。
という設定の下、ここは他の土地よりも更に一際高い。
実装当初は、拝金主義だと大いに荒れた。

『知っての通りキングヒルズでの家は景観規制があって色々と面倒やろ?
 うちはそういのに手ぇかけられへんから初期設定の庭園のまま、モノリス買うて倉庫にしているんやわぁ
 て言うても、基本解放しているし、ゲーム内で来たことある人もおるカモやねえ』

焼死体は庭園を見回して、しかし無言――すぐに目を伏せる。
みのりの言う通り、場所自体には、何処となく見覚えがある。
だがそこにあった筈の人との関わりが、まるで思い出せない。
もっとも――焼死体は思い出したいとも、思っていなかった。

――今更何を思い出したって、虚しいだけだ。これでいい。

庭園中央のモノリス――その表面にある手形へと、みのりが手を重ねる。
生じる空間の裂け目――中には侘び寂びを超え、ただ虚ろな砂利の海。
だが足を踏み入れれば待っているのは、数え切れない程のカードの羅列。

『モノリスを使うと家専用サーバーが用意されてそこを使えるんやけど、ここではこうなるんやねえ
 ジュークボックス代わりに放しておいた龍哮琴もいはるし、ほんに不思議やわー』

焼死体が息を呑む――呼吸を忘れ/周囲を見回す。

「ああ……ここは、覚えてるぞ。そうだ、ここには……何度もお世話になった。
 新カードの効果が見たかったら、wikiよりここを訪ねた方が早かったもんな」

『わざわざ来てもらったんは、ここで欲しいカードがあったら持っていって〜っていう話で
 モンスターはどれも育ててへんから使い物にならへんけど、あっちの列はスペルカードになってるからねえ
 スペルカードは使えるものがあれば使ってもらってええよ』

「相変わらず、すごいな……この辺は、俺がこっちに来てから実装されたのか」

目移り/右往左往する足取り/定まらぬ手付き――まさしく彷徨う死体。
ふと、その黒焦げの右手が、額縁の一つに手を伸ばした。
左手も、また別の額を手に取り――並び替えていく。

「これと、これはセットで使えるな。こいつも、あのカードと組み合わせれば……。
 はは……こんなカードも実装されてるのか。こっちも、相変わらずの神ゲーだな」

【決死(ライフ・フレア)】/【哲学的不死者(ワンダリングデッド)】/【来春の種籾(リボーンシード)】
【眠れる殺戮兵器(ヒット・ミー・イフ・ユー・キャン)】/【見え透いた負け筋(ルーザー・ルール)】
【超安全増強剤(ブランニュー・ラベル)】/【星巡逆転(アンチ・クロックワイズ)】
【妖精宿の大樹(フェアリーズ・パーチ)】/【枝折りの報い(ブランチ⇔ボーン)】
【民族大移動(エクソダス)】/【魂香る禁忌の炉(レベルアッパー)】

際限なくカードを弄る焼死体の奇行は、捨て置けばいつまでも、続くように見えた。

『じゃあこれ借りるね!』

それを止めたのは、広大な宝物庫の中でもよく響く、カザハの声。
我に返った焼死体が背後を振り返って、気まずそうな表情を浮かべた。

「……っと、すまない。少し……夢中になってた。
 スマホも使えないくせに……何やってるんだか。
 邪魔、だったよな……場所を譲るよ、明神さん」

謝罪/自嘲/手にしたカードを棚に戻す――名残を惜しむように、ゆっくりと。
深く溜息を零す焼死体――壁に背を預け/俯き/それきり、動かなかった。

57embers ◆5WH73DXszU:2019/04/17(水) 06:48:32
【ブレイズアップ・ジェントリー(Ⅳ)】


『いやぁ〜、ずいぶん遅かったね〜! もう待ちくたびれちゃったよ〜!』

翌日、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』一行は王宮を訪ねた。
訪問の連絡は入れていない筈が、何故だか出迎え役がいた。

「……護衛は付けられないが、目は付けられる……ってか。
 それともNPCよろしく、ずっとここで突っ立ってたのか?」

『あ、キミたちも無事に合流できたんだね。よかったよかった!
 じゃっ! 王さまもお待ちかねだし、さっそく謁見の間まで行こう!』

皮肉げに呟く焼死体――妖精は構わず、エスコートを開始。
聞こえていなかったのか/聞こえた上で、この態度なのか。

『……行こう』

真っ先に一歩目を踏み出したのは――やはり、なゆただった。
焼死体は競うように前に出ると、姫騎士のすぐ後ろを歩く。
絢爛豪華な内装を見回しているのは、感嘆故ではない。
目的はゲーム由来の知識と現実のすり合わせ。

――見える範囲では、衛兵はゲーム本編と同じ『アーマード・ソルジャー』系統。
つまり――ただの雑魚だ。育成途中で低レベルのモンスターでも、まず負けない。
昨日買った指鎖にも、反応はない――こっちを舐めてるにしても、不用心過ぎる。
まさか本当に……ブレイブは言われるがままに力を貸すものだと、思ってるのか?

『王さまー! 『異邦の魔物使い(ブレイブ)』をお連れしましたー!』

生じた違和感の解を得るには、謁見の間までの距離はあまりに短すぎた。
焼死体は思考を中断/空間の最奥に見える玉座――その主、『鬣の王』を睨む。
だが刃のような視線の矛先は、すぐに逸れた。臆した訳ではない――“異物”を見つけたのだ。

『お疲れさま、メロ。あとでおいしい蜜をあげよう、下がっておいで』

「なぁ、明神さん……あいつは、誰だ?」

小声の問い――宮廷魔術師然の優男/焼死体には見覚えのないキャラクター。
そして周囲の反応を見るに、恐らくは、なゆた達も同様だった。
とは言え――この状況では作戦会議は始められない。
せめて焼死体は姿勢を崩さず/視線を逸らさない。

『ようこそ、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たち。遠路はるばるご苦労さま、大変だったろう?
 食べ物は大丈夫だったかな? 水には馴染んだ? 何せ君たちの住んでいた世界とこちらでは勝手が違いすぎるからねえ!』

「見ての通りだ。肌荒れが酷いし、目が光ってやまないんだ。水と飯と、どちらが不味かったんだろうな?」

『こちらがアルメリア王国の王、すなわちアルフヘイムの王。『鬣の王』にあらせられる。
 私は宮廷魔術師。王と私とで、君たち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を召喚したんだ。この世界に』

「……潔いじゃないか。諸悪の根源が自己紹介をしてくれるのは、ありがたいよ」

『ある日突然異世界に喚び出されて、命の危険にさらされて。さぞかし私たちを恨んでいるだろう。
 理不尽なことだとね……けれど、それにはやむを得ない事情があったんだ。それを、これから説明しようと思う。
 どうか非礼を許してほしい。王に代わり、私が王国を代表して謝罪しよう。すまなかった』

謝罪など、必要なかった。
必要なのは、贖罪だ/或いは、断罪である。
焼死体には、この世界の物語に従う義理も人情もない。

『――そして、だ。その上でもう一度お願いする。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちよ、この世界を救う手助けをしてほしい。
 目下この世界に迫っている危機に対し、私たちはあまりにも無力だ。
 けれども、君たちの力があればそれを変えられる。滅びの運命を覆し得る希望になる――。
 この世界にとって、君たちは最後の希望なんだ』

だが――なゆた達は既にニブルヘイムから敵対視されている。
この上、独断で/衝動的に、敵を増やすのは愚策。
ひとまずこの場は、口を閉ざした。

58embers ◆5WH73DXszU:2019/04/17(水) 06:55:31
【ブレイズアップ・ジェントリー(Ⅴ)】

『では、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』――』
『待て』

己で招いた賓客を前に、黙したままでいた王が、口を開いた。
――自分の首の上にあるそれの代わりに、他人のを下げさせるのは無礼に当たると、やっと気づいたか。

『……いかがされました、王?』

『ウィズリィは。ウィズリィはどうしたのだ……私の敬愛する森の魔女は……?』

焼死体の予想は、裏切られる形で外れた――誰だって身内が可愛いのは当然だ。
だが残念な事に、彼の王はアルメリアによる日本人拉致事件の首謀者。
焼死体は当然、こう思う――それがお前達の優先順位か、と。

『ウ、ウィズは――』

焼死体が左足を半歩引き、僅かに背を曲げ、頭を下げる。
敬意や、遺憾の意を示す為の所作ではない――口元を隠す為だ。

「……正直に答えてやるのも、一つの手じゃないか?
 向こうがどういう態度を取るのか、知っておいて損はない」

小声の提案――返ってきたのは、無言の却下。

『王よ、ご心配召されますな。ウィズリィには只今、私の指示により別行動をさせております。
 世界各地に召喚された、他の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちのために――。
 必ずや朗報をもって帰還することでしょう、御心安んじられませ』

魔術師がすかさず進言/これ見よがしな目配せ。
まるで返答に窮する一行が助け舟を出された『ような』形だ。
実際には、案内役の職務放棄に関する報告を封殺、更に恩を着せる――巧妙な手口だ。

『……そうか。ウィズリィは無事なのだな。ならばよい……あの娘が無事ならば、私は……』

『王はお疲れであられる。御寝所までお連れして差し上げなさい』

王を玉座から起こすべく、侍従達が集う。
その様に目を細めつつ、焼死体は口を開く。

「……なぁ、ここは俺達の知るブレモンより過去の時点じゃなかったのか?
 『百獣の王(ロイヤルレオ)』は、あんなしょぼくれたヤツじゃなかっただろ」

疑問の提起/求めているのは回答ではない――不明点の共有は攻略の基本。

『大儀である、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』。異議も異論もあろうが、先ずは我が宮廷魔術師の言葉に耳を傾けよ。
 そなたらの要望はできる限り便宜を図る。決して悪いようにはせぬ……ゆえ、どうかアルフヘイムを救ってくれ。
 我らアルフヘイムに生きる者を、侵食の餌食にしてはならぬ……そなたたちだけが頼りなのだ……』

「……それで、もう俺達に聞いておく事はないのか?今日の朝食は聞かなくて平気か?」

王が謁見の間を去り、焼死体は宮廷魔術師にお伺いを立てる。

『じゃっ! 王さまに後を託されたことだし、説明タイムと行こうか!
 場所を変えよう、こんな堅苦しい場所じゃ舌の滑りも悪くなるというものだしね。
 庭園へ行こうか? ちょうどお茶の時間だ――おいしいお茶を飲みながら、和気藹々といきたいね!』

『え? あ、ちょっ――』

胡散臭い笑みを絶やさぬその男は、皮肉を軽く受け流して、一行を手招きした。

『う、うーん……。行こっか?』

王宮の中庭、庭園――その花園の奥に、宮廷魔術師の聖域はあった。
薔薇の示す無数の彩りは、かえって焼死体の警戒心を焚きつける。
自然を超越した美しさは、ここが既に魔術師の影響下にある証でもある。

59embers ◆5WH73DXszU:2019/04/17(水) 06:59:33
【ブレイズアップ・ジェントリー(Ⅵ)】

『私は薔薇が好きでね。綺麗だろう? いい香りだし、何より見た目が派手だ。中には私が魔術で作り上げた品種もあるんだよ』

『水晶の乙女(クリスタルメイデン)』のメイド達が、茶会の準備をしている。
ティーポットは一つだけ/魔術師は率先してカップに口を付けた。
だが焼死体は、カップに指一本触れない/席にも着かない。

『……さて。私たちは今まで、あまりにも君たちを放置しすぎた。それに対して不審に思っている部分は大きいだろう――』

『他人事じゃない? それってどういう――』

『それについては後で話そう。……君たちを召喚以来放置していた理由だが、まずひとつはウィズリィを遣わしていたため――』」

『もうひとつの理由は、召喚した『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の数に対して、こちらの数が足りなすぎてね――』

魔術師は心底、同胞を案じ/友好関係を望んでいるように見える。
だが焼死体は知っている――全ての悪意ある嘘を暴く事は、現実的に不可能。
故に必要なのは、全てを信じない事/つまり何が嘘でも困らない距離感を見極める事。

『――君たちもおあがんなさい』

魔術師の提案/いち早くティーカップに手を伸ばしたのは――焼死体。
空を仰ぎ/中身を一息に飲み干す――水分が勢いよく蒸発する音。
エンバースの体は薪も同然/全身の亀裂から蒸気が漏れ出る。

「……美味いな。まともな茶なんて、久しぶりだ」

自身の状態を鑑みずに零す感想は、至って真面目な目的を帯びたものだ。
魔術師は自分がこのような姿に成り果てた経緯を知らない筈。
つまり――負い目を着せ返す事が出来るかもしれない。

『ただ、それでも君たちは恵まれている……と言わせてもらうよ。メロとウィズリィを遣わせ、魔法機関車も出した。
 召喚した『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の中には、なんのケアもしてあげられなかった者も数多くいたから。
 彼らは……可哀想なことをした』

『そんな……召喚するだけして野垂れ死んだってこと!? あんまりだよ……!』

「どうだろうな……一人くらい、アンデッドとして復讐に来るかもな」

薄情/無責任な言動――だが焼死体は諧謔を零すのみ。
少なくとも“自分達”を召喚した連中は――アルメリアではない。
己の不快感を晴らす為だけに、断罪者を気取るつもりはなかった。

『私たちも、生き残るためには手段を選んでいられなかったんだ。どんな方法であっても、手立てがあるなら試す。
 そうせざるを得なかった……とばっちりだと、業腹だと思うだろうが、どうか許してほしい。
 そして、私たちに手を貸してほしい。そのためには、我々も可能な限り君たちの望みを叶えたいと思う。
 ああ、だから、それを踏まえて――君たちの質問にすべて答えるよ。私の知りうる情報ならね』

「……それなら、丁度いい。一つどうしても腑に落ちない事が……」

『そうそう、自己紹介がまだだったね? いや、すっかり忘れていたよ! ごめんごめん!
 私はご存じの通りの、アルメリア王国の宮廷魔術師。と言っても普段は何もしてない、ただの無駄飯喰らいだけどね!
 ま、それはいい。先だっては、私の弟弟子と妹弟子が世話になったね。私は――』

「ああ、そうだったな……確かにそっちも気になるよ。
 だけどいい加減、話の主導権をこちらに譲って……」

『私の名はバロール。十三階梯筆頭継承者……『創世の』バロールだよ』

瞬間、焼死体は絶句――[宮廷魔術師/バロール]を見つめる。
虹色の虹彩/魔眼は、確かに魔王バロールの双眸と相違ない。

60embers ◆5WH73DXszU:2019/04/17(水) 07:04:35
【ブレイズアップ・ジェントリー(Ⅶ)】

――なん……だと……?こいつ、このタイミングで……どういうつもりだ。

未来の魔王を前にして、焼死体はどう接するべきか決めかねていた。
『創世のバロール』がここにいる。なら魔王はどうなっているのか。

パターンA:現時点では不在――この場合、バロールを殺す事で魔王の誕生自体を阻止出来る可能性がある。
デメリットは、魔王の存在と世界の危機がイコールでなかった場合、物語がややこしくなるだけである事だ。
大きな疑問点としては、このパターンが正解だとすると、イブリースが何者の指示で動いているのかが不透明だ。

パターンB:魔王バロールは別に存在する――ゲーム内におけるIDが別である事を鑑みれば、可能性はゼロではない。
この場合は、創世のバロールは現時点では信用出来る。恐らく、ローウェルが死ぬまでは。
逆説、最悪の場合、魔王バロールが二人に増える可能性が発生する――故にこの推論の論理的強度は、かなり低い。

パターンC:既に『創世』であり『魔王』である――これが最も、整合性/論理的強度の高い推論だ。
しかし――だとすると、今度は自身がバロールである事を明かした事の意図が読めない。

『よろしくね、バロールさん。知ってるかもしれないけどボクはカザハ、こっちはカケルだよ』
『じゃあまず……世界を救ったら元の世界に返してもらえるの?』

結局、思考の袋小路に解はなかった。
ここで行き止まり――デッド・エンドだ。

『それから……元の世界に返してもらう以外の選択肢はある?
 たとえばちょっといい条件で永住させてもらったり……ボクの場合多分転移じゃなくて転生なんだよね!』

「……ローウェルの事なんだが」

カザハへの回答が終わると、焼死体は前置きもなしに切り出した。
質問は一人一回という訳ではないが、早めに明らかにしておきたい事があった。

「今は、何処にいるんだ?さっきは手が足りないなんて言っていたが……
 どうも話を聞く限りじゃ、王国と大賢者の間に意思疎通が見出だせない」

これが、“本来”焼死体の明らかにしておきたかった疑問。

「だがローウェル曰く『次にすべき事はあんたに託してある』だそうだ。
 こりゃ一体どういう事だ。なんでこんなややこしい事になってるんだ?」

そしてこれが“バロールの性質を判別する為”の質問――鎌かけだ。
焼死体の嘘に便乗してきた場合に限り、バロールは確実に“黒”と判定出来る。
無論、この虚言には穴が多い。容易に見抜かれる可能性は、高いと言わざるを得ない。
例えばローウェルとバロールが同勢力及び敵対勢力であった場合には、無条件で看破される。

その場合も、焼死体は悪びれる事なく開き直るだろう。
「悪く思うな。最終的に友好関係を築く為に、必要なワンステップだ」と。

61明神 ◆9EasXbvg42:2019/04/24(水) 02:21:51
>「ほぉやねえ。王様は王様でこの世界の事を思うてやっているんやと思うえ?

エンバースのお色直しを眺めながら、石油王の見解を聞く。

「……だな。今更ニブルヘイムに鞍替えする気もねーけどよ。
 このままなぁなぁでアルフヘイムに使い潰されるのだきゃあ御免だ。
 連中に味方するなら、味方するだけの理由が欲しい。具体的には……報酬とかな」

アルフヘイム……より正確にはアルメリアの腹の裡は未だに読めない。
そのあたりの説明はちゃんと王宮でしてもらえるんだろうな?
俺たちは勇者じゃない。少なくとも現段階では、巻き込まれただけのパンピーに過ぎない。

逆に言えば、奴らを手助けするに足る理由があるならアルフヘイムの尖兵になっても文句はねえよ。
それは金銭的な報酬でも、社会的な身分でも、それこそ精神的な大義だって良い。
パシリにされんのも、世界を救うのも、慣れてるからな。

連中がきっちり筋を通して頼んで来るならそれで良し。
俺たちを単なる召喚獣としか見てなくて、然るべき義理を蔑ろにするなら、その時は――

>「ふふふ、王宮制圧とは剣呑な話しやねえ
 明神さんがうちと同じこと考えていたとは思いもよらへんかったわ」

石油王は答えつつ、俺にスマホを見せる。
これまで使ってたのとは別機種だ。石油王はスマホを二台、この世界に持ち込んでいた。
特にびっくりしなかったのは、まぁこいつならそのくらいやるだろうって妙な納得があったからだ。
俺だって仕事用と私用でスマホ2つ持ってるしな。会社のデスクに置いたままだから手元にはないけど。

「――って、ちょっと待て。え、なにそれ???」

石油王のスマホ――サブアカウントだろうその画面には、見慣れないモンスターが鎮座していた。
お前、お前これ、パズズじゃん!ウソだろおい、アレ揃えてる奴この世に存在したの!?
その悪意に満ちた報酬システムから崩壊した固定PTが続出した、ブレモン7黒歴史の一つ!
通称友情の破壊者、六柱の魔神じゃねえか!

見たところ腕と足が一本ずつ足りねえようだが、これでも十分レイド級を超越した戦力だ。
世界ランキングでもまともに揃えてるプレイヤーはいないとされる、正真正銘の雲の上。
マジかよこいつ。底知れねえとは思ってたが、まだこんな隠し玉があったってのか。

そらミドやん抑え込めるわけだ……でも、石油王の本題は単なるパズズ自慢じゃあないらしい。
スマホのクリスタルがもう幾許も残っちゃいない。
強力なモンスターはサモンのコストも桁違いだ。
こんなミソっかすのクリスタルじゃ、戦闘はおろか召喚すら不可能だろう。

>「もう少し余裕を持たせてたかってんけど、そうも言うとれへんくなったし
 ここらで腹割らせてもらいますわ(中略)
 ほやからあまり血気に走らんと、退路の確保(良好関係の維持)を確実にしておくことを勧めしたいわ〜
 ま、どうしても、となればしゃぁあらへんけどね?」

つまり……『アテにはするな』と、そう石油王は言いたいのだ。
俺はどこかで、石油王なら大抵のムチャ振りも飄々とこなしてくれると思っていた。
いや実際これまで何度も助けられたし、パズズが居なくてもこいつは十分に仕事をこなすだろう。
恐れ一つなく、飄々とした物腰で。

いつからか俺は、信頼なんていう綺麗事で誤魔化して、石油王の力を当て込んでいた。
無責任な丸投げでもなんとかしてくれると、甘えていた。
その裏で、こいつがどれだけ身銭を切っていたかも考えずに。

「ぐぅの音も出ねえ。優先すべきは意地じゃなくて俺たち全員の安全だな。
 王様の捕獲ってのはちっと面白いが……王宮のど真ん中でHP削るわけにもいかねぇ」

62明神 ◆9EasXbvg42:2019/04/24(水) 02:22:32
石油王がこの段階で限界を明らかにしてくれたのは僥倖だった。
ミドやんの時みたいな後ろ盾がもう見込めない以上、より慎重な立ち回りが必要になる。
適当に王宮突っ込んで適当に暴れまわる脳筋プレイはご法度になったわけだ。

そして同時に、これまで頑なに実力の底を見せなかった石油王が、
致命的なウィークポイントとも言えるサブ垢の存在を明かしたのがどことなく面映い。
これを信頼の証と受け取っちまうのは些か頭がお花畑かもしれないけれど。
こいつはもう、得体の知れない実力者なんかじゃなくて――気心の知れた俺の仲間だ。

>「……別にいいんじゃないです? もし不審者扱いされるとしたって、牢獄に入れられるのはその人だけだし」

エンバースのデコレーションは佳境に突入しようとしていた。
水を向けられたなゆたちゃんはぷいっと視線を反らしてしまう。
へいへいいつまでプンプン丸だよ女子高生!お前らデコんの得意だろ?

最近はケータイにラインストーン貼り付けたりしないらしいし、代わりに死体に色々くっつけようぜ。
ほらよく見たらエンバース君なかなか愛嬌ある顔立ちして……ねぇな!
なんぼよく喋るからって焼死体はやっぱ焼死体だよ!ふつーに正気度下がる案件だわ!

カザハ君のとりなしが奏功してか、なゆたちゃんはエンバースに歩み寄る。
その手には、赤いリボンが握られていて……それを焼死体の首に巻きつける。
真っ黒づくめのエンバース、その首元に紅一点。
これじゃ焼死体じゃなくて縊死体やな!とか不謹慎極まりない発想が脳味噌を擦過していく。

>「かわいい」

リボンでプレゼント仕様に飾られたエンバースを眺めたなゆたちゃんは、一言そう零した。
小悪魔のような微笑みは、俺でもちょっとドキっとしちゃうくらい、蠱惑的だ。
どこで覚えたのそんな仕草。女の子って知らない間に成長するよなぁ……。

>「……は、はは。かわいいだって?それだけか?拍子抜けさせないでくれよ。
 装備の見栄えにこだわるなんて……精々、アコライト外郭までだろ」

蠱惑の直撃を食らったエンバースは流石にHP(はぁとポイント)を削られたらしい。
微妙にどもりながら精一杯の皮肉を返す。
そのままリボンを外そうと首に手をかけて――

>「……下手に外して、また口うるさく噛みつかれても堪らないな」

――やめた。またなんか言い訳しつつやめた。

「ぐおおおお……」

何なのだこれは!俺は一体何を見せられているんだ!!
凄まじい青春の波動が押し寄せてくる!なにエモいことやってんだこの焼死体!
いとおかし。マジあはれ。俺は多分今日ここで死ぬ。

>『うわあ、良かったね! 状態異常無効だね! 触手もじゃもじゃの大先生に出会っても大丈夫だね!』

そんな中で空気を読まないコメントぶちまけるカザハ君は俺の心の清涼剤です。
おめーはほんとブレねぇな!実家みたいな安心感あるわ。

「先生の吐息は全体攻撃だからなぁ。バーサクした俺がこいつを殴り殺してしまうかもしれない」

ギリギリのところで一命をとりとめた俺はエンバースに肩パンくれてやった。
バーサク中だから仕方ないね。エスナはやくしてやくめでしょ。

63明神 ◆9EasXbvg42:2019/04/24(水) 02:23:25
>「はーいみんな聞いたってぇな、買い物が終わったところで、ちょうどキングヒルにいる事やしね
 王様に会いに行く前に、うちのハウスにも寄って欲しいんやわぁ」

一連の茶番にキリがついたところで、石油王がさらなる寄り道を提案した。
この辺に石油王御殿があるとかなんとか。え?マジで?
王宮裏に広がる小さな公園といった広場。そこに鎮座するモノリスが、石油王をオーナーとして認識した。

「おいおい。おいおいおいおい!ここ王宮裏だぜ?多分アルメリアで一番地価高いよ?
 なんぼ石油王でもこんな超絶一等地に家なんか――あるやんけ!」

俺は夢でも見てるのか?
ここって運営がユーザーにマウントとるためだけに存在する見せ物件じゃなかったのかよ。
ウン百億ルピ積んだって手の届きようがない、ガチの天上人の住まいだ。

>「まさに石油王の面目躍如って感じだね……」

リバティウムに家持ってるなゆたちゃんすら舌を巻く、圧倒的財力の権化。
石油王こいつリアルでも御所裏に住んでるとか言ってたよな。
いけずと権謀術数渦巻く京都シティー、そのカースト最上位が御所裏在住だ。
田舎のちょっと金の余ってる豪農とか、そういうレベルを遥かに超越してやがる。
ビル・ゲイツとだっていい勝負できるんじゃねえの……?

>「知っての通りキングヒルズでの家は景観規制があって色々と面倒やろ?
 うちはそういのに手ぇかけられへんから初期設定の庭園のまま、モノリス買うて倉庫にしているんやわぁ
 て言うても、基本解放しているし、ゲーム内で来たことある人もおるカモやねえ」

「来たことあるぅ……ふつーに運営が所有する博物館かなんかだと思ってたわ。
 これお前の家かよ。運営さん足向けて寝られねーだろこれ。筆頭株主より金注いでんじゃねえの」

>「ああ……ここは、覚えてるぞ。そうだ、ここには……何度もお世話になった。
 新カードの効果が見たかったら、wikiよりここを訪ねた方が早かったもんな」

「あ?マジ?じゃあ生前のお前とニアミスしてるかもな。スマホ越しだけどよ」

俺がまだ若かりしガチ勢だった頃、レアカードの効果とか確認しに通いつめてた記憶がある。
何が恐ろしいって、焼死体の言う通り有志の攻略Wiki見るよりここにカードが追加される方が大抵早えんだよ。
誰よりも多く、誰よりも早くガチャを回して、実装直後のレアカードを確保する。
これを一プレイヤーがやってるなんて誰が気づくってんだ。

「……まさかまた来ることになるとはなぁ。万象法典(アーカイブ・オール)」

当時のガチ勢達の間でそう呼ばれていたこの空間は、まさにレアカードのアーカイブだ。
『剛柔能制(マイルドボイルド)』、『脳髄直結(ブレイントレイン)』、『存在転換(ギフトドメイン)』、
『顕在する痛み(ペイントペイン)』に、『覚醒メノ領域(ヨコシマキメ)』。
古今東西、あらゆるイベントやレイドで実装されたカードがここに集ってる。

メインシナリオの舞台がキングヒルだったこともあって、多くのプレイヤーがここで様々な出会いを経験した。
まるでアレよ、ショーケースの中のトランペット物欲しそうに眺めてるガキみてーな。

>「モノリスを使うと家専用サーバーが用意されてそこを使えるんやけど、ここではこうなるんやねえ
  ジュークボックス代わりに放しておいた龍哮琴もいはるし、ほんに不思議やわー」

「なゆたハウスにも大概驚かされたけど、石油御殿はまた別ベクトルでやべーって感想しか出てこねーや。
 つーかここ、寝泊まりできんの?枯山水の上で雑魚寝とか風流が過ぎるぜ」

あとトイレな。猫ちゃんじゃあるめえし、枯山水掘って用を足すわけにもいくまい。
おおよそ生活感というか生活拠点としての設備が見当たらないのは、
石油王がここを家じゃなくて単なる倉庫兼ガレージとしてしか使ってなかったからだろう。

時間のあるやりこみ勢は、大抵箱庭機能を使うときは内装にもこだわるからな。
どこぞのスライム女みてーに。
ほんで、石油王が俺たちをここに呼んだのは、単なるお宅拝見隣の晩ごはんってわけでもねーらしい。

64明神 ◆9EasXbvg42:2019/04/24(水) 02:23:59
>「わざわざ来てもらったんは、ここで欲しいカードがあったら持っていって〜っていう話で
 モンスターはどれも育ててへんから使い物にならへんけど、あっちの列はスペルカードになってるからねえ
 スペルカードは使えるものがあれば使ってもらってええよ」

「……ほんまに?」

あかん、あまりの驚愕に口調が感染ってしもうた。
気前が良いとかそんなレベルじゃねーぞ。ここにあるカードはどれも一枚で俺の月収以上の価値がある。
一部の極レアに至っちゃ、一年飲まず食わずで貯金したって手が届かねぇだろう。
『視外戦術(ゴーストタクティクス)』とか、期間限定排出で二度と手に入らないモンもあるしな。

「戦力の拡充は確かに必要だけどよ。こいつはヒャクパー老婆心で言っとくぞ。
 "良い"のかよ?ここで配ったカードの矛先が、お前に向く可能性だってあるんだぜ。
 他ならぬ俺自身、この先ずっとお前らの味方で居続けるとは限らねえんだ」

俺は他の連中に聞こえないよう声を落として石油王に問いかける。
現状、俺たちはパーティ内での方針が微妙に揃ってない。
新顔も増えたし、今までみてーな仲良しこよしがいつまでも続くわけじゃないだろう。
どこかで俺が敵対した時、結果的に石油王は敵に塩を送ったことになる。

>「……いいんですか?」

なゆたちゃんも遠慮がちだ。レアカードの価値はこいつが一番良く知るところだろう。
だからこそ、10万ドルぽんとくれるような石油王の大盤振る舞いにためらいが出る。
返しきれない借りが出来ちまうしな。
まぁこいつはもともと綿密にデザインしたコンボデッキ使いだから、新カードの入る余地もないかも知れんが。

>「じゃあこれ借りるね!」

デッキに組み込まないカードを一枚受け取ったなゆたちゃんと対照的なのがカザハ君だ。
こいつはズブのトーシロっぽいし、そもそもカードの価値にそこまで明るくないんだろう。
腹芸とは無縁の世界に居るのは危なっかしくもあり、どこか羨ましくもある。
俺だってあれこれ気ぃ回したくねーもん。カザハ君はそのままの君でいてくだしあ。

>「これと、これはセットで使えるな。こいつも、あのカードと組み合わせれば……。
 はは……こんなカードも実装されてるのか。こっちも、相変わらずの神ゲーだな」

そんでエンバースは、カードの飾られた列をふらふら行ったり来たりしながら何かうわ言呟いてる。
こっちに飛ばされてからどれくらいの空白期間があるのか知らないが、
ソシャゲの世界は日進月歩だ。一月休止してただけでも浦島太郎状態だろう。

>「……っと、すまない。少し……夢中になってた。スマホも使えないくせに……何やってるんだか。
 邪魔、だったよな……場所を譲るよ、明神さん」

俺の視線に気付いたのか、エンバースはばつが悪そうに道を空けた。
……随分しおらしくなってるじゃねえの。パリパリに乾いた焼死体の癖によぉ。
こいつにはこいつなりの望郷の念やらブレモンへの未練やらあるんだろうが、んなこた知ったことじゃない。
俺はエンバースの隣にズイっと移動して、半分炭化した肩を強引に組んだ。

「水くせえこと言うなよ。お前は炎属性だろーが。
 こうしてカードの組み合わせやらレシピやら顔突っつき合わせて議論すんのもブレモンの醍醐味だぜ。
 攻略Wikiのコピーデッキなんかクソくらえだ。そうだろ?」

Wikiで公開されてるデッキレシピなんざ対策研究され尽くしてるだろーしな。
やっぱデッキは自分で考えて組んでこそ。実戦を経て微修正を繰り返す時間がたまらなく愛おしい。
俺たちゲーマーは、そういう習性の生き物だ。

「ちっと付き合えよ焼死体。俺は、お前の意見が聞きたい」

そうして喧々諤々の議論の結果、俺が石油王から借り受けるカードは決まった。
『焼き上げた城塞(テンパード・ランパード)』、『寄る辺なき城壁(ファイナルバスティオン)』。
この二枚は、それぞれ物理と魔法に対し無類の防御力を誇る盾を出現させるユニットカードだ。
ミハエルのイージスみたいな問答無用の迎撃能力はないし、出現させた場所から動かせないが、
硬さだけはイージスに比肩する上位レアの防御カードである。

そして……『虚構粉砕(フェイクブレイク)』。
ご存知虚構のエカテリーナの御業を借り受ける、という設定のこのスペルは、
極めてシンプルな『指定のバフ解除』という能力を持つ。バフォメットの無敵剥がしたアレな。
如何に強力な最上位バフでも、一切の阻害を無視して粉砕される。

単なるディスペルなんざ他のゲームならちょいレアくらいの価値だろうが、ことブレモンにあっては話が異なる。
クソ重いリキャストっていう代償を払って張ったバフが解除されるってのは、ガチ勢ほど脅威が理解出来るだろう。
ミハエルとやりあったときにこいつがあればどんなに楽だったか。いや、あいつはこれも織り込み済みで対策してくるか。

「俺はこの三枚を借りるぜ石油王。世界救ったら利子付けて返すからよ」

まぁ世界救うかどうかはこれから決めるんですけどね、初見さん。

 ◆ ◆ ◆

65明神 ◆9EasXbvg42:2019/04/24(水) 02:25:00
その後、やっぱり寝泊まりできそうになかった石油御殿を出た俺たちは王都で適当に宿をとった。
翌日朝イチで王宮に向かうと、そこに居たのは……誰だっけコイツ。

>「いやぁ〜、ずいぶん遅かったね〜! もう待ちくたびれちゃったよ〜!」

あーはいはい居た居たいましたねこのあからさまな案内役っぽい羽虫。
なんか知らん間に消えたしハエの群れにでも食われたと思ってたわ(皮肉)。
クソ無責任極まるメロの態度に他の連中もぷんぷん丸だが、この際それは置いとこう。
アルメリアがろくすっぽ仕事しねえのは今に始まったことじゃねえしな。

妖精のケツを追いかけながら、王宮を進んでいく。
念の為脇を固める警備の連中を確認して見たが、どいつもこいつもコモン兵士ばっかだ。
確かキングヒルにゃ精鋭の近衛騎士団が常駐してたはずだが、そいつらの姿はない。
主力が出払ってるなら色々都合が良い。コモン兵士なら束で来ようが蹴散らせる。

とはいえ油断は出来ねぇ。石油王から貰った御殿の鍵はいつでも起動できるようにしとかねえとな。
流石に王宮の連中も、厳重に閉ざされたモノリスの下までは辿り着けまい。

>「王さまー! 『異邦の魔物使い(ブレイブ)』をお連れしましたー!」

クソでかい扉を開けた先には、謁見の間が広がっていた。
一糸乱れず整列してる侍従共に、近くでヘラヘラ笑ってる宮廷魔術師らしき男。
その囲いの中央、玉座に腰掛ける巨躯の男こそが――アルメリアの『王』。
筋骨隆々の首から上は、人間のそれじゃない。ライオンの頭部を持った、獣人の王だ。

――あれ?なんか王様えらくしょぼくれてね?
アルメリア王の姿はブレモン本編で何度となく見てるけど、グラフィックはもっと威風堂々としてたはずだ。
まさに百獣の王を冠するにふさわしい、充溢した覇気と武力をみなぎらせた"獣"。
だが目の前のこの男は、なんというか……老いて痩せ細った猫ちゃんを思わせる憔悴ぶりだ。

>『お疲れさま、メロ。あとでおいしい蜜をあげよう、下がっておいで』
>「ホントですか!? やったー! じゃ、ごゆっくりー!」

魔術師がメロを労い、クソコモン妖精はそのままログアウトしていった。
受付嬢だって茶の一杯くらい淹れてくれるってのによぉ。
まぁ今の会社はどこも人件費削減で受付嬢とか置いてないみたいね。
というか受付嬢って呼び方自体ポリコレ棒で殴られそう。看護婦と看護師みたいに。

>「なぁ、明神さん……あいつは、誰だ?」

「え……わかんね。誰あのイケメン」

隣でエンバースが問うのは、メロをよしよししていた魔術師の男について。
見たことねぇキャラだ。王様もメロも、なんなら侍従連中だって本編で見たツラだってのに。
あの優男だけはどんだけ記憶をかっぽじっても該当する情報が出てこない。
王の隣を許されてるってことは、かなり高い身分の人間ではあるんだろうけど。
アルメリアの幹部にあんなんいたっけか……。

>「ようこそ、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たち。遠路はるばるご苦労さま、大変だったろう?
 食べ物は大丈夫だったかな? 水には馴染んだ? 何せ君たちの住んでいた世界とこちらでは勝手が違いすぎるからねえ!」

王の御前でヒソヒソやってたら、件の優男が場を仕切り始めた。

「おかげさまで二回くらい腹壊したよ。コカトリスの焼き鳥なんざ二度と喰いたくねえもんだな」

>「こちらがアルメリア王国の王、すなわちアルフヘイムの王。『鬣の王』にあらせられる。
 私は宮廷魔術師。王と私とで、君たち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を召喚したんだ。この世界に」

ははぁ。なるほどなるほど。……こいつらが、俺たちをこの世界に呼びつけくさった張本人様か。
すまなかったじゃねーよ。ゴメンで済んだら俺は三回もアカウント凍結食らってねえぞ。

66明神 ◆9EasXbvg42:2019/04/24(水) 02:26:34
>「――そして、だ。その上でもう一度お願いする。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちよ、この世界を救う手助けをしてほしい。

謝罪が済んで筋は通したとばかりに宮廷魔術師が話を進めようとする。
気に食わねえがここは黙って謹聴しておく。俺は相手の言い分に耳を傾けられる男だ。
傾けたうえで論点ずらしつつマウント取るのが俺のレスバトル必勝形よ。
ほらなゆたちゃんもなんか跪いて……雰囲気でやってるだけだなおめー!

>「では、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』――」
>「待て」「ウィズリィは。ウィズリィはどうしたのだ……私の敬愛する森の魔女は……?」

続けんとした魔術師を、王の言葉が遮る。
おっさんやっと喋ったと思ったらいの一番に出てくる言葉がそれかよ。躾のなってねえ猫ちゃんだ。
いや俺たちもウィズリィちゃんの消息は気になるけどよ。
そういうの身内だけでやってもらえませんかね。
魔術師がなだめすかして、ようやく納得した王様は疲れ切ったように目を閉じる。

>「……なぁ、ここは俺達の知るブレモンより過去の時点じゃなかったのか?
 『百獣の王(ロイヤルレオ)』は、あんなしょぼくれたヤツじゃなかっただろ」

「だよなぁ。あながち同一人物とは限らねえのかもな。
 ほら、獣人ってみんな似たようなツラしてんじゃん。その辺の老ライオンと入れ替わってても気付かねえよ」

なんかちょっと喋っただけで酷く疲れたらしい王様は侍従に運ばれてログアウトしていった。
あとに残ったのはわずかばかりの侍従と俺達と、宮廷魔術師。

……しかし、アレだな。王様俺たちとほとんど会話しなかったな。
それどころか、こっちにゃ一瞥くれただけで後はずっと虚空かこの魔術師を見ていた。
人を異世界から呼びつけといてどーいう態度だよ。マジで耄碌してんじゃねえだろうな。

>「じゃっ! 王さまに後を託されたことだし、説明タイムと行こうか!

こっちの業腹などどこ吹く風で、宮廷魔術師は俺たちを庭園へといざなう。
どうにもこの男を相手にしてると毒気を抜かれるというか、怒りがどっかに霧散しちまう。
いや確かに腹は立つしぶん殴ってやりてえ気分なんだが、それが胸の裡でうまく形になってくれない。

魔術師の軽妙な話術と仕切りがそうさせてるのか……あるいは感情を抑制する魔法でも使ってるのか。
やべえやべえと理性は警鐘を鳴らすが、促されるままに足は自然と庭園へと向いた。

>「私は薔薇が好きでね。綺麗だろう? いい香りだし、何より見た目が派手だ。
 中には私が魔術で作り上げた品種もあるんだよ」

「わりーけどそういうのわかんねえわ。俺たちの故郷にゃこういう言葉がある。
 『花より団子、薔薇よりトンカツ、歩く姿はカリフラワー』。次は食える薔薇でも作ってくれ」

魔術師のクソどうでも良い自慢は適当に聞き流して適当にコメントした。
薔薇を愛でる仕草がいちいちキマってんのが本当に腹立つ。
魔物のメイドさんがサーブしてくれた紅茶を、魔術師が真っ先に飲んで毒の不在を示す。
次いでエンバースも紅茶を飲んで、蒸気が身体のあちこちから噴出した。

>「……さて。私たちは今まで、あまりにも君たちを放置しすぎた。それに対して不審に思っている部分は大きいだろう。

長い長い前置きの果てに、魔術師はようやく本題を話し始めた。
けっ、何がパートナーシップだよ。どの道俺たちに選択権なんてねえじゃねえか。
アルフヘイムが消滅したら、俺たちもそれに巻き込まれておっ死ぬだけなんだから。

そうなる前にニブルヘイムに渡るってのはアリかもな。
それこそあのバロールみたく、王様の素っ首手土産にしてよ。

>「……君たちを召喚以来放置していた理由だが、まずひとつはウィズリィを遣わしていたため。
>「もうひとつの理由は、召喚した『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の数に対して、こちらの数が足りなすぎてね。

「人手不足だ?その割にゃマル公は試掘洞でのんびりレベリングしてたし、カテ公はリバティウムで暇してたぜ。
 他の十二……十三階梯が何やってるのか知らんが、連中を総動員しても追いつかねえような状態なのか?」

67明神 ◆9EasXbvg42:2019/04/24(水) 02:27:43
問いに意味なんかない。ただ魔術師の言葉に何かしら反論を挟みたかった。
そういうつもりでいないと、俺の中の敵対心というか戦意というかそういう原動力がどんどん鎮まっていきそうだ。

>「ただ、それでも君たちは恵まれている……と言わせてもらうよ。メロとウィズリィを遣わせ、魔法機関車も出した。
 召喚した『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の中には、なんのケアもしてあげられなかった者も数多くいたから。
 彼らは……可哀想なことをした」

――ただ。魔術師のこの物言いには、霧散しようのない熱を腹の底に感じた。
カップを握る手に無意識に力が籠もる。こいつを浴びせかけてやりたいが、流石に俺もそこまで迂闊じゃない。
アルメリアとの協働関係を、潰すわけにはいかない。

>「そうそう、自己紹介がまだだったね? いや、すっかり忘れていたよ! ごめんごめん!
 私はご存じの通りの、アルメリア王国の宮廷魔術師。と言っても普段は何もしてない、ただの無駄飯喰らいだけどね!
 ま、それはいい。先だっては、私の弟弟子と妹弟子が世話になったね。私は――」

「あ?弟弟子と妹弟子?お前は一体――」

魔術師がこちらを見据える。
相貌の色は、虹。極彩色の瞳孔は、その眼が只人のものでないことを意味している。
――魔眼。魔を宿し、この世の法則を覆す、人越者の眼。
俺が知る限り、魔眼を持つのはこの世界にただ一人だけだ。

>「私の名はバロール。十三階梯筆頭継承者……『創世の』バロールだよ」

「なんだと」

俺は思わず素で聞き返した。それくらい、衝撃的な事実だった。
バロール。かつて十三人居たローウェルの直弟子、その筆頭。第一階梯の継承者。
『創世の』バロールは、ブレイブ&モンスターズにおけるメインシナリオの、最後の宿敵。

――ラスボスだ。

師・ローウェルの死を契機として闇に墜ちたバロールは、アルメリアの王を殺してニブルヘイムに渡った。
そこで三魔将を従える魔王に君臨し、部下と共にアルフヘイムへ自分自身を再召喚。
キングヒルを火の海に変えて……エカテリーナや『詩学の』マリスエリスを始めとするメインキャラが何人も死んだ。
シナリオが一気に薄暗いシリアスなものになる、転機とも言える存在だ。

プレイヤーは、闇墜ちする前のバロールの姿を知らない。
本編に登場した時には、既に魔王の異形にその身を変えていたからだ。
人間体のグラフィックなんて存在しないし、最新パッチでも未だ過日のバロールは語られていない。

つまり……俺たちは、今目の前で茶をしばいているバロールが、どういう存在なのか何も分かりゃしないのだ。
確かに闇落ちするきっかけはローウェルの死だったが、本当は師匠が死ぬずっと前から狂っていたのかもしれない。
一方で、ローウェルの死さえ食い止められるなら、バロールはアルフヘイム最強の守護者のままで居てくれるかもしれない。

状況を類推する根拠はあまりに足らず、俺はしばらく硬直していた。
どうする?いますぐコイツを仕留めるか?油断してる今ならクリティカル取れるんじゃないか。
だが下手打ちゃ返り討ちだし、仮に首尾よく仕留められたとして、アルフヘイムの強力な駒を一つ失うことに変わりはない。

気になるのはイブリースの存在だ。
バロールが育てたんじゃなけりゃ、奴らの糸を操ってるのは一体誰なんだ。
ミハエルはイブリースの操り手じゃなかった。ニブルヘイムも一枚岩じゃねえってのか?

68明神 ◆9EasXbvg42:2019/04/24(水) 02:28:46
>「よろしくね、バロールさん。知ってるかもしれないけどボクはカザハ、こっちはカケルだよ」

「おまっ――」

まんじりともせず沈黙が支配する空気をぶち破ってカザハ君が自己紹介に応じた。
俺は思わず止めようとして……思い直した。や、これで良い。
むしろ空気を一切読まないカザハ君のムーブに助けられた。

俺たちがバロールについて、何を知ってて何を知らないのか……情報の手札を悟られたくない。
だからここは、あえて何も知らない体で応じるのがベスト。カザハ君が満点回答だ。

バロールがもしも『ブレイブがバロールの正体を知ってる』ってことに感づいてりゃ、
何かしら訝しがるなり、カマかけるなりしてくるだろう。案外普通に認めるかもしれない。
いわば情報戦における威力偵察は、既に始まってて……立ち止まるのは隙を見せることになるだけだ。

カザハ君に続いてエンバースも質問を投げかける。
奴らが稼いでくれた時間で、俺は考える。
こっちの情報はなるだけ与えず、かつ不審にならない範囲でバロールの真意を掴むには、どうすべきか。

「……なるほどな、てめーが十三階梯筆頭のバロールか。ツラを見るのは初めてだ。
 まぁツラの話なんかどーだって良い。虚しくなるだけだしな。とりあえず言っときたいこと言って良いか」

俺は浮きかけた腰をどっかり椅子に降ろして、なるべく見下す感じでバロールを睥睨する。

「頭湧いてんのかテメーらは」

バロールに目立った反応はない。怒りの矛先を向けられるのも覚悟済みってわけだ。

「生き残る為に手段を選んでられなかった?知ったこっちゃねえんだよそんなもん。
 てめーらが異世界から拉致して見殺しにした人間にゃ、帰りを待つ家族だって居たんだ。
 そいつらは今でも待ってる。ある日突然消えちまって、死体も見つからない家族をずっと。
 人手が足りてない?だったら初めから呼ぶんじゃねえよ。人命を無意味に浪費してるだけじゃねえか」

懐からスマホを出す。ロックは解除せず、机の上に置く。

「それともてめーらが本当に欲しいのはこいつか?
 魔法の板さえ回収できりゃ、付属品のブレイブなんざその辺で野垂れ死んでも構わねえのか?
 喚ばれた連中にはズブの素人も居る。初手で荒野に放り出されたら、早晩サンドワームの餌食だ。
 俺たちだって、運良く他のブレイブと合流出来なけりゃハエに消し飛ばされてた」

そして、ウィズリィちゃんが居なけりゃ仲良く荒野で干からびてたことだろう。
そうやって知らないフィールドで人知れず死んでいったブレイブは少なくないはずだ。
アルフヘイムが回した十連ガチャのハズレ枠達。俺も含むそいつらの末路がそれだ。

「何が可哀想なことをした、だ。勝手に納得してるようだから改めて言うぜ、『創世の』バロール。
 死んでいったブレイブ達はな、てめーらが殺したんだ。掛け値なく、てめーらのせいで死んだ。
 何の罪もない、ただゲームをプレイしてただけの、善良な連中を殺したんだっ!」

俺の批判は、多分バロールに何も響きはしないだろう。
こいつも自分の世界を救うのに必死だ。言葉通り、手段を選べはしなかった。

俺だって、アルフヘイムと現実世界どっちが大事って聞かれたら迷わず後者を選ぶよ。
俺自身の安否はともかく、親父もおふくろも向こうにいる。死なせたくない。
いいように弄ばれた怒りとは別のところで、妙な納得があった。

――だから、せめてこの怒りを俺は最大限利用する。
ブレイブとして持って当然の憤りをぶつけることで、御しやすい直情型の人間だと認識させる。
「納得いかねーけどしょうがないから今だけ力を貸してやる」ってスタンスは、向こうにとっちゃ望むところだろうからな。

69明神 ◆9EasXbvg42:2019/04/24(水) 02:30:05
俺は正直今でもアルフヘイムに反旗を翻したって良いと思ってる。
だから今は面従腹背だ。激しい怒りで、もっと暗くて根深い敵意を覆い隠す。
怒りそのものは本物だから嘘じゃねーしな。

肩で荒い息をして、俺は腹に溜まった熱を吐き出した。
半分、いや八割くらい本音ぶちまけたからなんか結構スッキリしちゃった。

「言いたいことはこんだけだ。世界救い終わったら、死んでった連中を弔いに行けよバロール。
 そんときゃ、俺も付き合ってやるからよ」

暗に現実世界に帰還しないことを示しつつ、俺は話を続ける。

「聞きたいことは3つ。まず、俺たちはどういう基準で喚ばれた?
 強い戦力が欲しいのなら、俺みてーな中級者未満を召喚する理由がねぇ。
 持ってるモンスターの強さで言えば俺は多分最下層、この王宮の兵士にもボコられるぜ」

完全に無作為で選出したってんならまだ納得が行く。
ニブルヘイムはどういうわけか強いプレイヤーをピンポイントでピックアップする術があるらしいが、
アルフヘイムはひたすら十連ガチャを回し続けてるとすれば、なゆたちゃんや石油王はようやく引けたSSRってとこか。

「2つ目。王宮にたどり着いたブレイブは俺たちだけか?他に所在を把握してるブレイブはいねえのか。
 ガンダラでも、リバティウムでも、ブレイブを知ってる人間を何人か見た。
 運良く生き延びた野良ブレイブってのは、実際のところ結構な数居るんじゃねえのか」

そいつらが既に一度王宮にたどり着いて俺たちと同じようにバロールの手駒になった連中って可能性も多分にあるが。
初手でクソゲーフィールド引かなけりゃ、パートナーと手持ちのスペル次第で生き延びることは十分可能だ。
王都からのクエストをぶん投げて、適当な街で永住決め込んでる奴もいるだろう。
今からでも人員割いてそいつらを保護できりゃ、動員可能な戦力の実数は今よりもっと大きくなる。

「最後に――」

俺はずっと我慢していた。腹の底に溜まったものを我慢していた。
王都に来てからこっち、それを吐き出す機会がなくて、そろそろ何かがはち切れそうだ。
ぶつけるのは、初めてウィズリィちゃんに会った時と同じ問い。

「――この王宮、トイレある?」

流石に枯山水掘ってするわけにもいかなかったしな。


【腹の探り合い。質問事項1:ブレイブ召喚の選定基準は?2:他にブレイブいないの?】

70五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/04/30(火) 16:23:40
万象法典(アーカイブ・オール)
自分のハウスがそう呼ばれている事は知っていた
しかしその実態はイベントリから溢れ出たカードを並べておいただけの産物
故に生活感もなくアセット配置も枯山水と野点セットしか置いていない
この立地も、ハウス実装された時も仕事に追われ、何処に居を構えるかなどという選択肢がなかったのだ
土地確保の争奪戦は烈を極めるのだが、事ここに至っては地代が高すぎて誰も手を付けられなかったという話

事も無げにさらりと来歴を語るみのりだが、関心はそこにはなかった
今だ正体も目的も掴み切れないエンバースの言いかけた言葉
キングヒルに土地を持つ人間が知り合いにいる、という事を示唆しているのだから

「ほういえばエンバースさんやカザハさんには教えてへんかったねえ
うちのプレイヤーネームは五穀豊穣。
どこかですれ違っていたかも知れへんけど、こうやって顔を合わせたのも何かの縁やわ〜」

改めて自己紹介をし、内部へと案内をする

内部でカード譲渡と共有者登録を済ませた後、メンバーの反応を見ていた
四者四様の反応

なゆたは丁重に辞退し、記念として一枚のカードを受け取った
これは想定内
スペルカード、ユニットカードは単体で意味を成すものではない
デッキ構築と戦術の流れの中に組み込むことで力を発揮するのだ
なゆたのように緻密なコンボを組み立てるものにとって、不用意にカードを組み入れてもそれは異物でしかないのだから
それでも気持ちを無碍にしない為に一枚借りるというのはいかにもなゆたの人柄を現していると納得し、にっこりと微笑み頷いた

カザハの選んだのは『幻影(イリュージョン)』
エンバースの姿が問題視された時のため、そして他の用途でも使いやすいだろうとの事
なゆたとは対照的にデッキ構築ではなく用途としての選出
選ぶカードによってそれぞれの個性や戦術が見えてくるものだ

71五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/04/30(火) 16:24:34
そしてエンバース
トランペットを眺める黒人少年のような眼差し
記憶が飛んでおり正体不明ではあるが、やはり他の三人と同じゲーマーなのだと思わせる
しかし選ぶカードはなく、明神に席を譲る
いや、選ぶのではなく選べないとの談にみのりの思考が巡る

しかしその思考を遮ったのが明神の言葉だった
老婆心からの警告はみのりの心に深く刺さる

そうなのだ
明神の言葉、それはみのりも考えていた
この世界に来て最初に合流しベルゼブブを撃退した時からその可能性は常に考えていた
故に二台目のスマホを、パズズをひた隠し、いつ誰と戦っても生き延びられるように立ち振る舞ってきた

だが、今はそうではない
買い物中に明神にパズズを見せその内情を教えた
それで大方の事は察してもらえただろうが、それでも明神は思い違いをしていた

みのりの性格は生来のものでもあるが、それは充実し充足した生活環境によって培われたもの
経済的に恵まれたみのりには、飄々としておっとりしていられるだけの環境が整えられていた
それはブレモンの世界に来ても同じ
パズズが、カンストレベルのクリスタルが、唸るほどのルピがみのりを支えていたのだ

しかしパズズと二台目スマホのクリスタルが喪失状態になった今
ある意味みのりは生まれて初めて丸腰で立っている状態になっていると言える
あまりにも不慣れな丸腰状態に思考は混乱し、明神に言われるまで「それ」について頭から抜けて落ちていた
常に可能性を考え続けていた仲間との戦闘を

「あははは、そうなったらそうなったでしゃぁないわねえ」

お茶を濁すように笑い、肩を竦めながらの言葉には力がなかった
その時の為の対策をみのりは考えつくことができないでいたのだから

72五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/04/30(火) 16:25:05

明けて翌日、一同は王宮へと入った
久しぶりに合流したメロに引きつられ玉座の間へ

姫騎士鎧姿で王の前に跪くなゆたとは対照的に、体のラインのでないゆったりとしたペンギン袖のローブで直立の姿勢を崩さず王に対面するみのり
その姿勢は王との立場に上下を認めていない意思表示
臣下でも客人でもなく、無理やり連れてこられた被害者としての憤りの表れなのだから

体のラインを見せない大きなローブの内側には形を崩したイシュタルが巻き付いている
これは王との謁見ではなく、戦闘すらも視野に入れサモンを封じられている事を想定しての用意であった
戦闘はできない、故にあらゆる準備をみのりに講じさせていたのだ

獅子頭人身『百獣の王(ロイヤルレオ)』を前に、その威厳を感じる事は出来なかった
焦燥、疲弊、というイメージが色濃く映し出されていた

それ故に、魔術師の語る
やむを得ない事情
滅びを覆しうる力
という言葉にも説得力と重みを感じた

が、それはあくまでアルフレイムの事情であり、みのりの事情ではない
ウィズリィの所在に話が及んだ時に、魔術師が助け舟を出したかのように言葉を遮りウインクをして見せたが、それは大きな間違いだ
そもそも自分たちは訳も分からぬまま召喚された実であり、保護しエスコートするのがウィズリィの役割
決して逆ではない
その優先順位の付け方と、この貸しを作ったかのような行動に嫌悪感すら抱いた

たとえ頭を下げたとて、高台からならばそれは見下ろしているのに変わらないのだから
だがそれと同時に選択の余地がないという事も把握していた

理不尽な事をしていると自覚しながらも、なおも実行している
ならばもはや結論ありきの交渉しか用意されていないのだろうから

エンバースの小言の提案に沈黙をもって答えたのは、口に出してしまえば戦闘に至りかねない事まで言ってしまいそうだったから
この時点で既にみのりの気持ちはそれほどまでに煮えたぎっていた
それでも沈黙を守れたのは、リバティウムで切る札のパズズを使ってしまっていたという幸運のおかげだとしか言いようがない

73五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/04/30(火) 16:25:52
王が退席し、魔術師に促され中庭に
そこは見事なバラの庭園

お茶菓子が用意され、魔術師が毒見と言わんばかりに口にするが、誰がそれに手を付けようというのか?
いや、いた
カザハが何の躊躇いもなく茶菓子とお茶を頬張るのを見て思わず力が抜けそうになる
が、それに続きエンバースもお茶を飲み干し亀裂から蒸気を噴出させる
こちらは憤りの感情が見て取れる

そんな二人の様子を見ながら一瞬穏やかな空気になりかけたのだが、それは本当に一瞬
次に紡がれる魔術師の事何より空気は凍り付く

召喚された者たちは他にもいて、フォローが行き届いていなかった者たちには「可哀想な事をした」で切って捨てたのだ

その言葉にスコーンを落とすカザハ
この反応は意外だった
どこか現実味のない印象を持っていた
それはモンスター化した影響だろうか?と自分を納得させていたが、人としての倫理観はまだあったのだな、と。

そう、人としての倫理観
魔術師の言葉を聞いた瞬間、みのりは全身が総毛だつ思いがした
しかしその感情を表に出すより優先したのはなゆたの反応
正義感の強く時にそれ故に暴走しがち、それがなゆたに対する印象である
真一という存在が離れ、バランスを欠いているのはエンバースへの対応を見れば一目瞭然
そんな状態のなゆたが今の発言を聞き流せるとは思えない

とはいえ、今ここで感情のまま対立を表面化させるのは拙い
なぜならば、何もわかっていないから、勝算がないから
丸腰状態に陥り、より慎重になったからこそ踏みとどまれ、なゆたに注意を向ける事が出来たのだった

咄嗟になゆたの肩に手を置き、抑え込み「まだ、あかんよ〜?」と囁くと薔薇の方へと歩き出す
抑え込まれたなゆたは感じるだろう
いくら農業で培われた筋力があるとはいえ、その抑える力が強い、と
それもそのはず、大きな袖口からイシュタルの手がみのりの手に這うように出て抑えていたのだから

「まぁまあ、人出が足りない中でサポートよこしてくれてうちらラッキーやったわぁ
こうやって綺麗なバラも見られて嬉しいし
うちは向こうの世界では土いじりやってましてなぁ、こういう花を育てるのもやってましてん
お礼も兼ねてお手伝いさせてもらいたくなるんや」

そういいながらスマホを取り出し、土壌改良(ファームリノベネーション)をプレイ
フィールドを土属性に変え、土属性の魔法効果を倍増させるカードである
効果を現せば薔薇はさらに咲き誇るであろう

一見すればお礼と称してのブレイブのスペルカード披露
ではあるが、真の目的はこの場でスペルカードが使えるかの確認
事前に土壌改良(ファームリノベネーション)をかけておくことで品種改良(エボリューションブリード)荊の城(スリーピングビューティー)のコンボを一気に成立させることにある
そう、既にみのりは臨戦態勢に入りつつあるのだ

74五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/04/30(火) 16:26:13
スペルカードの効果を確認する前に、魔術師から衝撃の事実が発せられた
自分の名を
創世のバロールである、と
ブレモンプレイヤーならば誰もが知るラスボス

しかしバロールはストーリーモード最初から君臨しているタイプのラスボスではなく、ストーリーの進行とともにラスボスになるタイプである
こうなるとゲームとこちらの世界の時間軸の狂いが大きく予測を阻む
現状バロールは弟子なのか、魔王なのか
この期に及んでも姿を現さぬローエルは何処なのか?
鬣(たてがみ)の王のあの弱体ぶりは疲弊によるものと思っていたが、バロールによる仕業の可能性すら出てきた

思考の混乱による一瞬の空白
それに切り込むのはいつも思考を超越するもの
それがカザハである

許された質問に、戦後の扱い
モンスター化しているカザハにとっては重大な問題であろう
が、それ以上にこの世界と現実世界との関係性にまで踏み込む質問となるであろう

続いてエンバースのローウェルについての質問
しかし質問の仕方が危うくも感じた
反応によってはローウェルの現在を見出すことができるかもしれないが、ローウェルの立ち位置によっては意味をなさない質問だからだ

フォローを入れるべきか迷っていたところで明神が爆発した
これまでの状況を鑑みれば誰もが抱くであろう怒り
しかしそれを爆発させるのはなゆただと思っておりだからこそ抑えに回っていたのだが、まさかここで明神が爆発するとは
想定外の勢いに驚くみのり

しかし、その怒りはバロールには響かないであろう
最初になりふり構っていられない。と宣言している以上、あらゆる犠牲を許容するのであろうから
明神ならばそれをわかっていそうなものだが、それでも抑えられなかったのか

と、みのりもまた明神のブラフにはまりながら、それならばと明神の怒りに乗る事に

「まあまあ、バロールはんも王様も苦渋の決断やったやろうし
後がない以上、うちらに選択肢なんてあらひんのやからそこらへんは言うても困らせるだけやえ?」

選択肢なんてない……それは友好的に信頼関係を結ぶためというバロールの言葉は結論ありきでしかないという言外の抗議
そういった意図を含めながら冷ややかな笑みを浮かべ、言葉を続ける

「この世界が危機に陥っていて、救えるのがうちらブレイブや云うのはわかったわ
ほれで具体的にうちらに何をさせたいのン?
お宅さんらはうちらに対してできうる限りのことしてくれる云うけど、何ができますのン?」

テーブルに置かれた明神のスマホに手を置き、バロールを見つめる

「うちらブレイブの生命線はこの魔法の板なんやね
これについてどのくらい知ってますん?
発動させるためにクリスタルが大量に必要、そう、それこそ万単位で必要やし?
それに物は物
壊れてしまう事もあるけど、うちらは使う事は出来ても修理とかは手間やし、そちらの方の援助も受けられるんですかいねえ?」

アルフレイムがどれだけの技術を持っているか
数多くのブレイブを召喚している以上、自分たち以外の人間も多くいたのだろうし、半ばで死んだ者もいるだろう
たとえ死んでも死体は、遺品は残る
世界の命運をかけた召喚をしておいてそれを放置するとは考えにくく、手が回らないから、などという理由を信じるつもりはないのだ
遺品としての魔法の板を回収し研究をしているのかどうか

前日カードを見ながらため息をついたエンバースを思い浮かべながら、質問をする

75五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/04/30(火) 16:26:44
そして最後に核心たる質問を

「それで、うちらがアルフヘイムを救わなあかへん理由ってありますのン?」

ゲームならばストーリーという強制力により「お願い」が絶対の理由になる
だが現実ではそうではないのだから

更に言葉をつづけ詰めていく

恐らくこれは「君たちの世界も他人事ではない」という話に関わってくるのだろう
浸食とは何か?
リヴァティウムで出合った魔将軍は金獅子を召喚した、と言っている
ニヴルヘイム側もブレイブを召喚している
それは単なる代理戦争や戦力増強という話ではないだろう

数年でアルフヘイムが攻め滅ぼされるのではなく、跡形もなくなるというのは表裏世界であるニヴルヘイムにも言える事なのでは?
しかしにもかかわらずアルフヘイムとニヴルヘイムはいまだに戦いを続けている
これほどの危機を前にして、だ

浸食・現実世界を含めた世界の危機・具体的な回避法を続けて尋ねた
これからどう行動するにしても、理由と事情をしっかり知っていなければ動くに動けないのだか


【怒りを抑えて戦闘回避に努めるも戦闘準備は進めておく】
【具体的にやるべき事・受けられる支援について質問】
【協力しなければいけない理由・浸食・現実世界とのかかわり・ニヴルヘイムの状況などについて質問】

76ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/04/30(火) 20:45:29
「さて・・・そろそろいくか」

話が本当なら今日のこの時間に来るはず。
話が違うにせよなんにせよ、もう牢屋に帰ってくるつもりなんてないけど。

「雷刀(光)!」

眩い光と共に目の前に刀が召喚される。
部長が召喚できてるのだ、なにも驚く事じゃない、じゃないのだが。

「本当に召喚できた・・・!」

未知体験に喜ぶ大男とそれを見て喜ぶ犬(?)が一匹。
場所が牢獄じゃなければもっと爽やかな場面だったに違いない。

「っと・・・喜んでる場合じゃないね!部長!」

部長が軽々と人でも振り回すにはつらいような大きさな雷刀を口に咥え持ち上げる。
そして鉄格子に向い数回振り回す、すると鉄格子はいとも容易く切断された。

「ナイス部長!」

いくら錆びているとはいえ予想以上に簡単に切断できてしまった。
この世界の住人がどれだけ強いかまだ不明だがこの監獄をみても部長の力が特別な事がわかる。

(大抵の人間はこんな牢屋でも拘束できるって事だもんな・・・)

自分がいた牢屋を出て周りを見渡す、どこも似たような廊下が続いていた。

「しまったな〜・・・外に出るまでの道もきいておくんだった!」

まあなるようになるだろう。
部長の召喚を解除し、周りを警戒しながら歩き出しながら想う。



ブレイブ&モンスターズを始めてから小さくなっていったが、最近また膨れ上がる心のなにかがこの世界で見つかるかもしれないと。
この世界が今だ消えぬこの気持ちを、違和感を、心を満たしてくれると。
違和感がなんなのか知ることでもできれば、と。

「自分探しの旅って奴だな!・・・ちょっと違うか!」

77ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/04/30(火) 20:46:10
「思ったよりすんなり外にでれたな・・・」

そんな広い牢屋でなくて安心したのも束の間。
警備の兵士達に頭を悩ませる、だがジョンは気づいた。

(警備の数が少ない・・・?)

王は今現在、城にいるはずだ、なのに思った以上に人がいない。
この世界の兵士がどのくらいの強さはわからない、精鋭の可能性もあるけれど、侵入者を見つけられなかったら強さなんて意味がない。

「(もしくはそれだけこの国が相当追い詰められているという事か・・・)」

異世界から人間を呼ぶくらいだ、相当厳しい状況なのだろう。
それに今の場合に限り好都合なのは間違いない。

欺くのは簡単だった、そもそも警備の人数が足りなくて監視の目が行き届いていないからだ。
いとも簡単に謁見の間らしき所まできてしまった、兵士がまだいなかった為、すんなり入れた。
自分には好都合なので、とりあえず心の中だけで感謝だけして、壁に掛けられた絵画を足がかりに天井のシャンデリアの上に移動する。

「(なんだライオンか・・・!?)」

人の形をした・・・獣が王座に座っている。
百十の王以外のなにものでもない、しかし近くにいる怪しげな人物は特に驚く様子が無い。

「(つまりあれが王様?)」

たしかに王の風格がある、気品に溢れている、・・・少し疲れた様子で覇気を感じないが。
なにを話しているのか小声で喋っててわからない。

>「王さまー! 『異邦の魔物使い(ブレイブ)』をお連れしましたー!」

重い空気をぶち壊すように謁見の間の中に妖精が入ってくる、ライオンの次はフェアリーか!。
いよいよファンタジー空間が展開され始めた時、妖精の後を付いてくるようにゾロゾロと人が入ってくる。
このファンタジーな空間に現代風の服装の服を着た連中・・・と思いきやなんか人間じゃないの何人かいる。

>「ようこそ、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たち。遠路はるばるご苦労さま、大変だったろう?
 食べ物は大丈夫だったかな? 水には馴染んだ? 何せ君たちの住んでいた世界とこちらでは勝手が違いすぎるからねえ!」

ジャックポット!大当たりだ。
いやでも人間じゃないの何人かいるけど、異世界人ってのは僕の知ってる地球以外からもきてるのか・・?。

78ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/04/30(火) 20:47:11
>「こちらがアルメリア王国の王、すなわちアルフヘイムの王。『鬣の王』にあらせられる。
 私は宮廷魔術師。王と私とで、君たち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を召喚したんだ。この世界に」

>「ある日突然異世界に喚び出されて、命の危険にさらされて。さぞかし私たちを恨んでいるだろう。
 理不尽なことだとね……けれど、それにはやむを得ない事情があったんだ。それを、これから説明しようと思う。
 どうか非礼を許してほしい。王に代わり、私が王国を代表して謝罪しよう。すまなかった」

「――そして、だ。その上でもう一度お願いする。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちよ、この世界を救う手助けをしてほしい。
 目下この世界に迫っている危機に対し、私たちはあまりにも無力だ。
 けれども、君たちの力があればそれを変えられる。滅びの運命を覆し得る希望になる――。
 この世界にとって、君たちは最後の希望なんだ」

一気に謎が解明されていく。
自分達異世界人は"ブレイブ"と呼ばれていて、この国のお偉いさんがこの世界を救うという大義名分で異世界人を召喚して戦わせようとしている事。
とんだ迷惑な話だ、理不尽を押し付けておいて助けてほしいとは。

>「ウィズリィは。ウィズリィはどうしたのだ……私の敬愛する森の魔女は……?」

>「王よ、ご心配召されますな。ウィズリィには只今、私の指示により別行動をさせております。
 世界各地に召喚された、他の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちのために――。
 必ずや朗報をもって帰還することでしょう、御心安んじられませ」

>「……そうか。ウィズリィは無事なのだな。ならばよい……あの娘が無事ならば、私は……」

どうやら王は一人の魔女にご執心らしい、それも病気的に。

「(ウィズリィ、ね。覚えておいて損はないだろう)」

>「大儀である、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』。異議も異論もあろうが、先ずは我が宮廷魔術師の言葉に耳を傾けよ。
 そなたらの要望はできる限り便宜を図る。決して悪いようにはせぬ……ゆえ、どうかアルフヘイムを救ってくれ。
 我らアルフヘイムに生きる者を、侵食の餌食にしてはならぬ……そなたたちだけが頼りなのだ……」

元の世界に返してあげる約束よりも前にまず自分達の要求をするライオン(王)。
確かに現代人の中にもこの世界に移住を望む者はいるだろう、世界を救いたい"勇者"になりたいと思う者も。

だが実際には人間を無差別に召喚している上に全員を管理できていない、その証拠に城に現れた僕が彼らの庇護を受けれていない。
いやまだこの人達や僕は運がいい。
こっちにきたのが子供だったら?いきなり危険地帯だったら?迎える準備ができていなのに人を呼び寄せておいて助けてくれ?。

そもそも無差別に呼び出すという事はこの世界に新たな厄をもたらすかもしれない。
悪意を持った人間がその悪意で、この国に迫る危機はさらに強大になる可能性は全然あるのだ、いや、むしろそっちのほうが高いだろう。
僕達には確かに特殊な力があり、王様達はこの力を欲しがって異世界人を召喚したのだから。

「切羽詰ってるにしてもあまりにも無計画すぎる・・・いやなにか裏があるのか?
 そんな考えすら無視しなきゃいけないほど追い詰められてるのか?」

つい小声で呟いてしまう
しかしまるで裏があるかのようにずさんな計画。
この世界にきて外を知らない僕にはわからないのかもしれないけれど、なにか裏があるとしか思えないし、なにもなかったら王あるまじき計画性のなさ。
どっちにしても信用できる物ではない事だけはたしかだ。

>「じゃっ! 王さまに後を託されたことだし、説明タイムと行こうか!
 場所を変えよう、こんな堅苦しい場所じゃ舌の滑りも悪くなるというものだしね。
 庭園へ行こうか? ちょうどお茶の時間だ――おいしいお茶を飲みながら、和気藹々といきたいね!」

>「え? あ、ちょっ――」

マジメ(?)な雰囲気を解除し怪しい魔法使い風の人物が場所を変えようと提案している。
自分も移動しなくては。

79ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/04/30(火) 20:47:44
中庭に案内されたブレイブ一行と怪しい男は腰を落ち着けると話を始める。
周りに気を配りながら物陰に隠れ話を聞く。

>「……さて。私たちは今まで、あまりにも君たちを放置しすぎた。それに対して不審に思っている部分は大きいだろう。
 我々は君たち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の力を必要としている。
 良好なパートナーシップを築く上で、猜疑心はできるだけ取り除いておく必要がある。
 だから……ここからは解説編と行こう。諸君の聞きたいことに、私が答える。
 その上で、諸君の協力を仰ぎたい。何度も言うが、君たちは我々の最後の希望なんだ。
 君たちの力なくして、この世界は救えない。この世界はこのまま行けばあと5年、いや3年で跡形もなくなる。
 そして――それは、君たちの元いた世界にとっても他人事じゃないんだ」

他人事じゃない・・・?。

>「他人事じゃない? それってどういう――」

>「それについては後で話そう。……君たちを召喚以来放置していた理由だが、まずひとつはウィズリィを遣わしていたため。
 かの森の魔女が君たちを導き、可能な限りのバックアップをする手筈だったんだ。
 彼女はこちらの都合も、内情も全て知っていたからね。それを『異邦の魔物使い(ブレイブ)』に伝えてくれと頼んだんだが。
 まさか失踪してしまうとは……我々も彼女とは連絡が取れていない。無事だといいのだけれど」

どうやら王様ご執心の魔女は現在行方不明らしい。
怪しい人物の表情はよくわからない。

>「もうひとつの理由は、召喚した『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の数に対して、こちらの数が足りなすぎてね。
 もう知っていると思うけど、我々は目下のところもう一つの世界……ニヴルヘイムの勢力と戦っている。
 我々は世界に散らばった『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を回収すると同時――
 ニヴルヘイムの尖兵にも対処しなければならなかった。割ける人数と打てる手段には限りがあったんだ」

>「ただ、それでも君たちは恵まれている……と言わせてもらうよ。メロとウィズリィを遣わせ、魔法機関車も出した。
 召喚した『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の中には、なんのケアもしてあげられなかった者も数多くいたから。
 彼らは……可哀想なことをした」

>「私たちも、生き残るためには手段を選んでいられなかったんだ。どんな方法であっても、手立てがあるなら試す。
 そうせざるを得なかった……とばっちりだと、業腹だと思うだろうが、どうか許してほしい。
 そして、私たちに手を貸してほしい。そのためには、我々も可能な限り君たちの望みを叶えたいと思う。
 ああ、だから、それを踏まえて――君たちの質問にすべて答えるよ。私の知りうる情報ならね」

たしかに仕方なかったんだろう、切羽つまっていたのかもしれない。
だが、「君達は恵まれている」とは?理由があったにせよ他の世界の人間達を無差別に呼んだ張本人達が言っていい言葉ではない。
無責任すぎる、あまりにも。

>「私の名はバロール。十三階梯筆頭継承者……『創世の』バロールだよ」

ジョンはストーリーこそ読み飛ばしていたがゲームのラスボスの名前まで知らないわけではない。

バロール?バロールだって?
衝撃の真実を突きつけられて動揺するのだった。

80ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/04/30(火) 20:48:16
場が一瞬硬直し、全員が混乱してる中空気を壊すように異世界人・・・ブレイブの一人が話し始める。

>『よろしくね、バロールさん。知ってるかもしれないけどボクはカザハ、こっちはカケルだよ』

>『じゃあまず……世界を救ったら元の世界に返してもらえるの?』

妖精の彼?彼女?は至極当然な質問をする。
全員が全員、この世界に移住したいわけではないのだ。

>「それから……元の世界に返してもらう以外の選択肢はある?
たとえばちょっといい条件で永住させてもらったり……ボクの場合多分転移じゃなくて転生なんだよね!」

全員がしたいわけではないだろうが・・・この妖精の子は永住したいのか、この世界に。
確かにこんな力を持っていたらそんな考えも出るのは当然の事かもしれない。
異世界にきて俺TUEE能力、最近のラノベ?マンガ?をみた人間なら憧れているだろうね。

ていうかこの妖精、僕がしってる世界の元人間なのか?死んだ人間でさえ呼び寄せられるのか?。

>「……ローウェルの事なんだが」

こんどはゾンビが話を切り出す。
妖精にゾンビにどうみたって僕と同じ世界出身者には感じられない、妖精の名前はアニメにでてくるような日本人みたいな名前だけれども。
妖精はともかくゾンビって、なんかがんばってゾンビじゃありませんよー感だしてるみたいだけど。
どうみたってただの死体だ。

>「だがローウェル曰く『次にすべき事はあんたに託してある』だそうだ。
 こりゃ一体どういう事だ。なんでこんなややこしい事になってるんだ?」

ローウェル・・・ローウェル・・・たしか魔王的なアレだったはずだが、よく覚えてない。

「(こんな事になるならストーリー読み飛ばすんじゃなかった・・・!)」

今になってストーリーを読み飛ばした事による事を後悔している。
おそらくこの場全員が分っている事前提で話を進めるだろう。
そうなれば外野で聞いていて質問できない僕には、理解できない会話が続くのは明白。

どうする素直に姿を現すか・・・?

だめだ今更リスクが高すぎる!。
出て行った瞬間こんどこそ不審者で投獄どころかその場で殺され兼ねない。

一体僕はどうしたら・・・

81ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/04/30(火) 20:48:42
ジョンが今後を決める脳内会議を必死にしてる時。
ブレイブの一人が大きな声を上げる。

>「頭湧いてんのかテメーらは」

>「生き残る為に手段を選んでられなかった?知ったこっちゃねえんだよそんなもん。
 てめーらが異世界から拉致して見殺しにした人間にゃ、帰りを待つ家族だって居たんだ。
 そいつらは今でも待ってる。ある日突然消えちまって、死体も見つからない家族をずっと。
 人手が足りてない?だったら初めから呼ぶんじゃねえよ。人命を無意味に浪費してるだけじゃねえか」

よかった、どうやら全員が全員がこの国に従うつもりではないらしい。

>「それともてめーらが本当に欲しいのはこいつか?
 魔法の板さえ回収できりゃ、付属品のブレイブなんざその辺で野垂れ死んでも構わねえのか?
 喚ばれた連中にはズブの素人も居る。初手で荒野に放り出されたら、早晩サンドワームの餌食だ。
 俺たちだって、運良く他のブレイブと合流出来なけりゃハエに消し飛ばされてた」

スマホだ!間違いない!やはりこの人間達は僕と同じ世界から来ている!。
・・・てことはやっぱり妖精とゾンビも?。

>「何が可哀想なことをした、だ。勝手に納得してるようだから改めて言うぜ、『創世の』バロール。
 死んでいったブレイブ達はな、てめーらが殺したんだ。掛け値なく、てめーらのせいで死んだ。
 何の罪もない、ただゲームをプレイしてただけの、善良な連中を殺したんだっ!」

敵意をむき出しにし声を荒げる。
当然の怒りだ、だれにもこの怒りを止めてもいい者など存在しない、たとえこの国の王でも。

>「聞きたいことは3つ。まず、俺たちはどういう基準で喚ばれた?
 強い戦力が欲しいのなら、俺みてーな中級者未満を召喚する理由がねぇ。
 持ってるモンスターの強さで言えば俺は多分最下層、この王宮の兵士にもボコられるぜ」

たしかにこの質問は気になる。
もってるモンスターの強さでいえば部長は高ランクではない。
僕の持っているモンスターは部長だけだ、という事はランキング上位を召喚してるわけではないだろう。

>「2つ目。王宮にたどり着いたブレイブは俺たちだけか?他に所在を把握してるブレイブはいねえのか。
 ガンダラでも、リバティウムでも、ブレイブを知ってる人間を何人か見た。
 運良く生き延びた野良ブレイブってのは、実際のところ結構な数居るんじゃねえのか」

ガンダラ・・・りばていうむ?どこそれ。
ここにもストーリー読んでない弊害が・・・!
いやまてよプレイヤーがいける場所にあった気がする。

しかし対人プレイに関する事しか興味なかったジョンには結局わからないのであった。

82ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/04/30(火) 20:49:09
>「まあまあ、バロールはんも王様も苦渋の決断やったやろうし
後がない以上、うちらに選択肢なんてあらひんのやからそこらへんは言うても困らせるだけやえ?」

最後に質問を始めたのは、よく言えば落ち着いた・・・悪く言えば威圧するように喋る女の子。
顔は笑っているのに目が笑っていないというのはまさにこの事だろう。
明らかにジョンより年下なのにも関わらず、まっすぐと自分の必要な事を話す。

>「この世界が危機に陥っていて、救えるのがうちらブレイブや云うのはわかったわ
 ほれで具体的にうちらに何をさせたいのン?
 お宅さんらはうちらに対してできうる限りのことしてくれる云うけど、何ができますのン?」

テーブルにスマホを置きつつバロールからは目を離さない。
普通の人間だったら怒ったり困惑したり、そもそも喋れなかったりするものだが彼女の態度は常に一定だ。
顔は笑っているが、目も雰囲気も、笑っていない。

「(もし、もし僕はあのご一行にこれからの縁で加わる事になっても、彼女を怒らせないようにしよう・・・)」

女性は男性より感情的になり易いが、一度落ち着いた女性は本当に凄まじい、なにが凄まじいかは内緒だ。
ちなみにジョンの実体験からくる情報である。

>「うちらブレイブの生命線はこの魔法の板なんやね
これについてどのくらい知ってますん?
発動させるためにクリスタルが大量に必要、そう、それこそ万単位で必要やし?
それに物は物
壊れてしまう事もあるけど、うちらは使う事は出来ても修理とかは手間やし、そちらの方の援助も受けられるんですかいねえ?」

「(え)」

クリスタルが大量に必要?万単位で必要?そんなに使うの?マジ?
牢獄にいるとき隙あらば召喚や解除、スペルカードの確認や、ユニットカードのテストは繰り返していた。

「(それなりに課金はしていたけれど、どれだけ減ったなんて確認すらしてないんだけど!)」

最初の頃いくら使うのかわからず適当にかなりの額は入れていた。
部長を買った後は結局使わず、そのまま貯めていたはずだ、減らされる量にもよるがそんなにすぐ枯渇することは・・・ないはず。
たぶん。

ジョンが何回目かの頭を捻らせているとき、この日一番の爆弾が投下される。

「それで、うちらがアルフヘイムを救わなあかへん理由ってありますのン?」

これだ、僕達異世界人が命を賭してまで戦う理由があるのか。
ゲームなら主人公達が正義感で世界を救ってしまうが、僕達は勇者でも、英雄でもない。
たしかに特殊能力はある、あるがこれは自分の命を保障してくれる万能な力ではないのだから。

83ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/04/30(火) 20:49:28
中庭にきてからどのくらい・・・。
何分くらいたっただろうか、自分的には一時間くらい経っている気がする。

「っ!」

ふと後ろを見るとさっき紅茶を入れてたメイドが後ろにいた。
話に聞くのに集中しすぎて背後の気配に気づかなかった。

「(騒がれる前に黙らせなければ!)」

素早く、静かに、傷つけず、水晶の乙女に掴みかかり押さえ込もうとするしかし。

「えっ・・・?」

傷つけないように力を抜いた一瞬、ほんの一瞬で体が縦に回転し、そのまま投げ飛ばされてしまう。
投げ飛ばされながら思う、そりゃそうだ、非戦闘員のメイドとはいえ仮にも魔物と人間なのだ、と。

「ぐはっ!」

お茶会のど真ん中に投げつけられる、幸い濡れなかったが、お茶会がこれじゃ台無しだな・・・そんなこと考えている場合じゃない!
だめだ集中しなければ、本当にこの場で首を刎ねられかねない、なにを・・・なにをすれば・・・。

素早く立ち上がり、距離を取り、一礼し、冷静に話し始める。

「突然のお茶会失礼しました、私は決して怪しい者ではありません」

ポケットからスマホを取り出し両手を上げ無害アピールをする。
我ながらあまりにも不恰好だとは思うがこれ以上できることはない。

「失礼ながら今まで貴方達の話を全部を聞かせていただきました、自分の立場を知る為とはいえ盗み聞きしていたことをどうかお許しください。」

いつも通り堂々と、ここでビビったら負けだ。
ここで動揺して言葉に詰まったりしたら大変な事になる。

「このスマホを見ればご理解頂けると思うのですが、僕も貴方達と同じ『異邦の魔物使い(ブレイブ)』です」

「一週間か・・・二週間か前にこの城に飛ばされてしまったのです、不審者と間違われていた私は今まで投獄されていました」

当然まだ疑いの目を向けられている、当然の反応だった。
焦るな、まだ、まだ諦めるな。

「今から証拠をお見せします・・・召喚を」

アプリから部長を選択し召喚する。
これは博打だ、"スマホを持っていても本人じゃない限り召喚できない"というルールがあった場合の。
しかも部が悪い賭けだ、さっきの会話で魔法の板、つまりスマホを欲しがってるんじゃないかという質問があった。
もし"スマホさえあればだれでも召喚できる"だった場合待っているのは。

死。

この人数相手に逃げ切ることはほぼ不可能だろう。
無理やり逃走しようにも反撃してだれかを傷つけたりでもしたら、誤解は本物になり、この世界に、国に、ブレイブに追われる事になる。
つまり詰んでいるのだ。

「ウェルシュ・コトカリスです、ブレモン初のエイプリルフールで実装されたモンスターの
 スマホを見ていただければ限定スペルカードもあります・・・逆に言うと僕はそれしかもっていませんが」

「ニャー」

「こんな事言われても無理なことは十分承知の上ですが・・・僕を信じてください」

頭を下げ、頭を挙げ目を瞑る、後は祈る事しかできなかった。

84崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/05/01(水) 12:13:51
「バ……、バロール……!?」

宮廷魔術師の名乗りに、なゆたもまた双眸を見開いた。
『創世の』バロール。大賢者ローウェルの直弟子、十二階梯の継承者のロストナンバーであり、第一の使徒。
そして魔界に君臨し、プレイヤーたちと血で血を洗う死闘を繰り広げる――魔王バロール。
その名を冠する者が、目の前に座って優雅な所作でお茶を飲んでいる。
むろん、魔王の名を騙っているだけの真っ赤な偽者という可能性も……いや、ない。
虹色の瞳孔、世界を改変する魔眼を所有する存在は、アルフヘイムとニヴルヘイムを合わせても一人しかいない。
それは、単に名を騙っただけでは誤魔化しようのない彼の顕著な特徴なのだ。

『創世の』バロールに関して、プレイヤーが持ちうる情報は多くない。
かつて、大賢者ローウェルの一番弟子であった。
ローウェルからすべての智慧を伝授され、世界をも改変する技術を得た。
ローウェルの死を契機として闇に堕ち、鬣の王を殺害してニヴルヘイムに渡った。
瞬く間に魔界を掌握し、兇魔将軍イブリースを筆頭とする魔族たちを従えて、アルフヘイムへ侵攻した。
プレイヤーたちに手勢を次々と撃破され、居城である天空要塞ガルガンチュアまで攻め入られると、最終決戦ののち敗北。
最期に『これはすべての序章に過ぎない』と言い残して死亡――
この程度だ。

バロールがかつて何をしていたのか、どういった外見の、どういった性格だったのか。
何を考えて闇に堕ち、魔王に変貌してしまったのか……。
そのすべては説明されておらず、謎に包まれている。
魔王が斃れたことで、世界は束の間の平和を取り戻す――というのが、現在までのストーリーモードの流れだ。
バロール討伐までを第一章とするなら、今後のアップデートで続編の第二章が配信されるのではないかと噂されている。
しかし。
プレイヤーである『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の知らないバロールが、今ここにいる。
むろん、Wikiを編纂するほどゲームに精通しているなゆたにとってもこの展開は予想外だ。
けれども、そんな予想外の展開よりもなゆたの心を支配したのは、烈しい怒りだった。

『君たちは恵まれている』――

『異邦の魔物使い(ブレイブ)』がこの世界に召喚されたのは、完全にアルフヘイムの都合だ。
ならば、せめて自分たちの都合で召喚したのなら、出来得る限りの厚遇をすべきではないのか。
だというのに、そんなことを恩着せがましく言われて、いったい誰がありがたいと思うだろう?

バァンッ!

気付いたときには、なゆたはテーブルの盤面を手のひらで思い切り叩き、立ち上がろうとした。

「あな―――」

あなたには、人の心が分からないの!?
そう言おうとした、その刹那。
その出鼻は隣にいたみのりによって挫かれた。

「みのりさん……!」

なゆたは咄嗟にみのりを見た。が、みのりによって肩をがっしりと押さえ込まれている。
一見ただ肩に手を置かれただけだが、凄まじい力だ。赤城家で剣道を嗜み、それなりに鍛えている自分がまるで抵抗できない。

>まだ、あかんよ〜?

みのりの囁きに、なゆたは幾許か冷静さを取り戻した。仕方なさそうに居住まいを正し、バロールの様子を見る。
その視線に不満がありありと浮き出ているのが、他のメンバーにも見て取れるだろう。

85崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/05/01(水) 12:20:53
>よろしくね、バロールさん。知ってるかもしれないけどボクはカザハ、こっちはカケルだよ

「ああ、よく知っているとも……おかえりカザハ、カケル。ううん、違うな……今は初めましてと言うべきかな。
 まぁいいさ、どっちでも! とにかく会えて嬉しいよ、また……じゃない、どうか力を貸してほしい」

カザハのまったく空気を読まない挨拶に対して、バロールが微笑む。
なんでも質問に答えるというバロールの言葉に対して、カザハは早速疑問をぶつけてきた。

>じゃあまず……世界を救ったら元の世界に返してもらえるの?

「もちろん。異世界から来た『異邦の魔物使い(ブレイブ)』は、ことが終われば必ず元の世界に送り返そう。
 その術は私の頭の中にある。それは約束しよう、心配はいらないよ。
 もっとも、君たちふたりにその必要はないと思うけれどね」

バロールは荘重に頷いた。
異世界の人間をアルフヘイムに召喚する方法があるように、アルフヘイムの人間を異世界に送る方法もあるという。
これで、帰還を望む者たちは少なくともこの世界への永住を余儀なくされる、という心配はなくなった。

>それから……元の世界に返してもらう以外の選択肢はある?
 たとえばちょっといい条件で永住させてもらったり……ボクの場合多分転移じゃなくて転生なんだよね!

「永住。それもいい。アルフヘイムが平和を取り戻した暁には、我々にできる限りの希望を叶えよう。
 キングヒルに居を構えるもよし、リバティウムやハイネスバーグ、バルディア自治領……風光明媚な場所はいくらでもある。
 ついでに言うと、君は転生じゃなくて混線、と言えばいいかなぁ? まっ、それもおいおい説明しようとも!」

カザハとカケルについて、バロールは何か知っているらしかった。
しかし、それは今言うべきことではない、とばかりに次の質問へ意識を向けてしまう。

>……ローウェルの事なんだが
 今は、何処にいるんだ?さっきは手が足りないなんて言っていたが……
 どうも話を聞く限りじゃ、王国と大賢者の間に意思疎通が見出だせない

カザハに次いで、エンバースが口を開く。
バロールは一口紅茶を飲んで喉を湿らせると、ゆっくり語り始めた。

「師ローウェルについては、私たちもその消息を追っている最中だ。ご指摘の通り、我々と師の間では意思疎通ができていない。
 君たちも知っていると思うけど、我が師はひどい放浪癖の持ち主だからね。
 どれだけ厳重に監視していても、ふらりと姿を消してしまう。まったく困ったご老人さ!」

やれやれ、とバロールは大袈裟な身振りで肩を竦めた。
ゲームのブレイブ&モンスターズの時間軸ではローウェルは既に死んでいるため、プレイヤーが生前の本人に会うことはない。
が、その人となりは継承者たちの話などから知ることができる。
大賢者ローウェルは漂泊の賢者。アルフヘイムの各地を転々とし、有事に備えて見込みのある者を弟子とし、教えを授けた。
それが十二(十三)階梯の継承者である。

>だがローウェル曰く『次にすべき事はあんたに託してある』だそうだ。
 こりゃ一体どういう事だ。なんでこんなややこしい事になってるんだ?

エンバースは次の質問を投げかける。次は引っかけだ。
巧妙なエンバースの言葉に対し、しかしバロールは怪訝な表情を浮かべた。

「え? そうなの? どこでそんな話を聞いたんだい? ご老人に会った……んじゃないよね?
 おかしいなあ。私がここにいることを彼が知っていても変ではないけど、そんなことを言うとは思えないんだけど……?」

緩く腕組みし、右手で顎に触れて考え込む。本当に分からない、という様子だ。
その問いがエンバースの張った罠であるということさえ気付いていないように見える。

86崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/05/01(水) 12:23:44
「ま……いずれにしても、我が師がそう言っていたというのなら願ったりだ。私は私のすべきことをしよう。
 徘徊老人のことは、今はいいさ。どこにいるのかなんて、考えたところで仕方ないからね。
 聖灰たちには指示を出しているみたいだし、師は師で侵食に対していろいろ考えているんだと思うが――」
 
お茶を飲みながら、バロールは小さく息をついた。
みのりがスペルカードを使って庭園の土に豊穣の加護を与えると、薔薇の色艶や芳香が一層増す。
スペルカードは通じる。正真、この薔薇園はただの無害な薔薇園ということだ。
もしみのりがコンボを使うつもりなら、それも効果を発揮することだろう。
カザハが能天気に自己紹介し、エンバースが罠を張る。
なゆたは怒りを押し殺して黙り込み、みのりが周到に戦いの準備を進める中――
まず爆発したのは、明神だった。

>頭湧いてんのかテメーらは
>生き残る為に手段を選んでられなかった?知ったこっちゃねえんだよそんなもん。
 てめーらが異世界から拉致して見殺しにした人間にゃ、帰りを待つ家族だって居たんだ。
 そいつらは今でも待ってる。ある日突然消えちまって、死体も見つからない家族をずっと。
 人手が足りてない?だったら初めから呼ぶんじゃねえよ。人命を無意味に浪費してるだけじゃねえか

「…………」

バロールは虹色の虹彩で、じっと明神を見詰めている。

>それともてめーらが本当に欲しいのはこいつか?
 魔法の板さえ回収できりゃ、付属品のブレイブなんざその辺で野垂れ死んでも構わねえのか?
 喚ばれた連中にはズブの素人も居る。初手で荒野に放り出されたら、早晩サンドワームの餌食だ。
 俺たちだって、運良く他のブレイブと合流出来なけりゃハエに消し飛ばされてた

ゴトリ、とテーブルに置かれるスマートフォン。
『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の証にして生命線。

>何が可哀想なことをした、だ。勝手に納得してるようだから改めて言うぜ、『創世の』バロール。
 死んでいったブレイブ達はな、てめーらが殺したんだ。掛け値なく、てめーらのせいで死んだ。
 何の罪もない、ただゲームをプレイしてただけの、善良な連中を殺したんだっ!

明神は忌憚ない怒りをぶつける。
そして、それはなゆたが感じた憤りとまったく同じものだった。
自分が爆発しなくとも、言いたいことはすべて明神が言ってくれた――。
そのことに、なゆたは胸がすく思いだった。
が、仲間が自分の気持ちを代弁してくれることと、それが相手に伝わるかどうかは別問題である。
バロールは眉ひとつ動かさず、

「そうだよ。私が殺した」

と、それがさも当然であるかのように答えた。

「私のしたことに対して、緊急避難であるとか。これもまた正義だとか。そんなことを言うつもりは毛頭ないよ。
 私は罪を犯しているし、そもそもこのやり方が正しいのかもわからない。望みの結果が得られるかどうかも。
 だから、君たちの怒りは尤もだと思う。ふざけるな、と思う気持ちもね」

テーブルの上に組んだ両手を置き、バロールは語る。

「それを踏まえて……だからこそ君たちにも私を信用してほしいとか、そういうことは求めない。
 良いパートナーシップと言ったのは、友情だとか。信頼だとか。そういうものはこの際必要でない――ということさ。
 あくまで、使い使われる関係。ビジネスライクな関係でいいということ……。私はこの世界を救いたい。
 君たちが協力してくれるなら、私はそれに見合った対価を払う。たったそれだけのシンプルな関係さ。
 なんて言うと、また君たちの神経を逆なでしてしまうかもしれないけれど」

バロールはテーブルの上の明神のスマホに手を伸ばすと、それを明神の方へと押しやる。
それは、スマホ自体が目的ではないという意思表示だった。

87崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/05/01(水) 12:28:37
「スマートフォンは確かに我々の目的のひとつではある。その凄まじい力は知っているからね。
 でも、惜しむらくは我々アルフヘイムの住人にそれは使えないんだ。同様、ニヴルヘイムの住人にもね。
 それは君たち、異邦からこちらにやってきた者にしか使用できない。そういうものなんだ。
 だからこれは君たちが持っているのがいい。――それから、これは蛇足かもしれないけれど――」

虹色の双眸が、魔力を湛えた魔眼が明神を射抜く。

「善良かもしれなかった者たちを、無辜の存在を自分の願いのために殺したのは、君たちもじゃないのかい?」

それまでのおちゃらけた態度が鳴りを潜める。バロールは低い声でそう告げた。

「思い出してごらん。君たちにも心当たりがあるはずさ……クエスト達成のため、経験値獲得のため。
 トロフィーを揃えるため……君たちはこの世界のモンスターたちを数多く狩った。殺した。捕獲(キャプチャー)した。
 ブレイブ&モンスターズの世界のモンスターはけだものばかりじゃない。人間と変わらない文化を持つ者も多い……。
 その彼らを殺した君たちと、私の目的のために『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を召喚した私。
 そこに何の違いがあるのかな……?」

魔術師はまったく悪びれなかった。
しかし、バロールのこの物言いで重要なのは、勝手なのはお互いさまでしょう――なんて部分ではない。
“クエスト達成”“経験値獲得”“ブレイブ&モンスターズ”
バロールの言葉の端々に、ごく当然のように出てくる単語。そう――

『バロールはゲームのことを知っている』。

かつてリバティウムでイブリースが『ゲームの中のオレが世話になっている』と発言したように。
バロールもまた、ブレイブ&モンスターズをゲームとして認識しているらしかった。

「……な〜んちゃってね! 冗談冗談!」

しかし、バロールはすぐにそんな剣呑な気配を引っ込め、また陽気な調子で前言を翻した。

「心配しなくたっていいよ、君たちのやっていたのは正真正銘ただのゲーム! モンスターたちも単なるデータでしかない!
 何も罪悪感を覚えることなんてないからね! ただ――ここは違う。この場所は現実だ、君たちもすでに知る通り。
 ゲームオーバーはない。あるのは破滅だけだ、バックアップも当然ない。
 けれど『コンティニューはある』。いや、『あった』と言うべきかな」

組んでいた手指を解くと、バロールは軽く両手を広げた。

「とにかく……私の望みはただひとつ。『この世界を救いたい』それだけなんだ。
 そのためなら私は何だってする。非道なこともしよう。非人道的なことだってやる。これからもね、だって――
 それがこの私。『魔王』と呼ばれた、『創世の』バロールなのだから」

そう。
エンバースの予想したバロールの正体、その正解はパターンC。
『創世』であり『魔王』。『ブレイブ&モンスターズ』を識る、本来データにないアルメリア王国の宮廷魔術師。
それが、一行の目の前にいる男だった。

>言いたいことはこんだけだ。世界救い終わったら、死んでった連中を弔いに行けよバロール。
 そんときゃ、俺も付き合ってやるからよ

「ああ、いいとも。一人旅は苦手なんだ、というか一人ぼっちが好きじゃなくてね、賑やかなのがいい。
 君が付き合ってくれるなら願ってもない――すべてが終わった暁には、世界に詫びに行こう」

バロールはにっこり笑った。

>聞きたいことは3つ。まず、俺たちはどういう基準で喚ばれた?
 強い戦力が欲しいのなら、俺みてーな中級者未満を召喚する理由がねぇ。
 持ってるモンスターの強さで言えば俺は多分最下層、この王宮の兵士にもボコられるぜ

「残念ながら、我々には指定した人間を召喚する技術がない。
 ある程度の地域に範囲を絞って、そこでブレイブ&モンスターズをやっているプレイヤーを無作為に抽出した。
 ニヴルヘイムにはピックアップ召喚の技術があるらしいが……詳しいことは不明だ」

無作為の10連召喚と、ピックアップ召喚。
アルフヘイムとニヴルヘイムの召喚には、そんな違いがあるらしい。
だが、二つの世界を合わせても五指に入る魔術の使い手であるバロールをもってしても、ピックアップ召喚はできないのだという。

88崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/05/01(水) 12:29:50
>2つ目。王宮にたどり着いたブレイブは俺たちだけか?他に所在を把握してるブレイブはいねえのか。
 ガンダラでも、リバティウムでも、ブレイブを知ってる人間を何人か見た。
 運良く生き延びた野良ブレイブってのは、実際のところ結構な数居るんじゃねえのか

「いい質問だね。君たち以外に我々が所在を把握している『異邦の魔物使い(ブレイブ)』は何人かいる。
 次に君たちに頼みたいのは、まさにそれだ。
 君たちには、各所にいる『異邦の魔物使い(ブレイブ)』と合流してほしい。力を束ねて、侵食に対抗するために」

例え『異邦の魔物使い(ブレイブ)』が強大な力を持っていたとしても、今のままでは各個撃破されるだけだ。
アルフヘイムの各地にバラバラに点在している『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちを一箇所に集める必要がある。
そうすることで、初めてアルフヘイムは脅威に対抗できるようになるだろう。

「ここキングヒルから一番近いのは、アコライト城郭。
 君たちにも馴染みの場所なんじゃないのかな? ゲームでは必ず行く場所だそうだからね」

「……アコライト城郭……」

なゆたは小さく呟いた。
ストーリーモードでは序盤に位置する城塞都市だ。そこでプレイヤーは初めて十二階梯の継承者に遭遇する。
その化物じみた恐るべき強さと、城郭を攻める正体不明の敵――後にバロールの手勢と判明する――が印象的な場所である。
もし、バロールの依頼を受けるなら、次の行き先はそのアコライト城郭となるだろう。

>最後に――
>――この王宮、トイレある?

「ああ、これは気付かず失礼! お連れして差し上げなさい」

バロールが『水晶の乙女(クリスタルメイデン)』の一人に命じると、乙女は明神をトイレへと案内した。

>この世界が危機に陥っていて、救えるのがうちらブレイブや云うのはわかったわ
 ほれで具体的にうちらに何をさせたいのン?
 お宅さんらはうちらに対してできうる限りのことしてくれる云うけど、何ができますのン?

明神が離席すると、今度はみのりが口を開く。
バロールが目を細める。微笑んだようだった。

「先程も言った通り、まずはアコライト城郭へ向かってもらう。
 そこにいる『異邦の魔物使い(ブレイブ)』は強力なプレイヤーで、もう長いことアコライトを防衛している。
 だが、城郭の周囲はニヴルヘイムの勢力に包囲され、孤立無援の状態だ。
 いくら強くとも限界は訪れる。いつまでもはもたない。その前に、君たちに救出してほしいんだ」

>うちらブレイブの生命線はこの魔法の板なんやね
 これについてどのくらい知ってますん?
 発動させるためにクリスタルが大量に必要、そう、それこそ万単位で必要やし?
 それに物は物
 壊れてしまう事もあるけど、うちらは使う事は出来ても修理とかは手間やし、そちらの方の援助も受けられるんですかいねえ?

「君たちと同程度の知識は持っている、と思ってくれて差し支えないよ。
 だから、話題が前後するがクリスタルもある程度支給できる。……普段の行動に差し支えない程度には、ね。
 君たちに対して何ができる? と問われれば、君たちのこれからするであろう旅と目的達成に対してバックアップができる。
 装備、ルピ、それからある程度のクリスタルとスペルカード……それらはこちらが用意しよう。
 魔法機関車も使ってくれていい。他にも、何か欲しいものがあるなら言ってもらえればできる限りは。
 ただ、スマートフォンの修理はできない。それに対しては……気を付けて、と言うしかない」

バロールはかぶりを振った。
遺品の回収をしているかどうかは不明だが、少なくとも修理などができる技術は持っていないらしい。
元より、スマートフォンを修理できるほど構造を理解していれば生み出すこともできる。
そうすれば、わざわざ『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を異界から召喚する必要もない。
仮に死んだ『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の遺品があったとしても、他の人間には使えないのだろう。

89崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/05/01(水) 12:31:09
>それで、うちらがアルフヘイムを救わなあかへん理由ってありますのン?

今まで、多くの会話をした。多くの質疑応答があった。
しかし。
みのりの投げかけたこの問いこそが、すべての本質であろう。

「それを説明するには、かつてこの世界に起こったこと。そして――君たちの世界に起こったことを説明しなければいけない」

バロールは頷いた。そしてもう一度紅茶を飲み、少しだけ深呼吸をすると、意を決したように口を開く。

「この世界と君たちの住む世界とは、お隣同士の世界なんだ。
 天文学的な距離はさておき――次元が隣接している、と言うべきか。
 この世界に来てから、夜に空を見上げたことはないかい?
 天気のいい夜には見えるはずさ……君たちの本来いるべき星がね。そう、私たちの世界は兄弟なんだ」

そう言って、バロールは空を見上げた。が、今は昼間なので星も月も、そして地球も見えない。

「あるとき、王宮占星院の導師がこの世界に小さな綻びを見つけた。
 ほんの小さな、直径1メートル程度の『穴』だ。……それがすべての始まりだった。
 王宮占星院は現地調査のため調査隊を組織し、穴を調べに行ったが、誰も帰ってこなかった。
 そう、誰も。誰ひとりだ……そして、穴の正体を掴みあぐねているうちに、それはどんどん大きくなっていった」

「……穴」

それはいったい何なのだろう。なゆたは眉間に皺を寄せた。
たんなる物理的な穴ということではないのだろう。魔術的なものだろうか? まるで想像がつかない。
バロールは続ける。

「穴はすべてを呑み込みながら、日に日に拡大していった。
 人を。家畜を。モンスターを。建造物を、村を、街を、国を、山を、湖を――何もかもを喰らいつくし、世界を侵すもの。
 それを王宮占星院は『侵食』と名付けた」

侵食はまったく正体不明の存在だった。
アルメリアの、否、アルフヘイムの知の最高峰である王宮占星院の導師たちをもってしても、その正体を掴めなかった。
そして、それを食い止める方法も。

「侵食によって失われるのは、目に見えるものだけじゃなかった。
 世界そのものの力とも言えるクリスタル、それもまた枯渇していった。
 お蔭でクリスタルを巡り、各国では諍いが絶えなくなった。戦争を起こす国もあったりでね。
 アルフヘイムはどんどん荒廃していった。いや、アルフヘイムだけじゃなく、ニヴルヘイムでも侵食は起こっていた。
 そんな折だ。私たち『十三階梯の継承者』が集められたのは――」

「……えっ? ち、ちょっと待って!
 それって、もしかして……」

思わず、なゆたは声を荒らげた。
バロールの語る話は、なゆたの知る物語とあまりによく似ている。
すなわち、『ブレイブ&モンスターズ!のストーリーモード』と。
なゆたの言いたいことをバロールも察したらしく、うん、と小さく答える。

「大賢者ローウェルの死をきっかけとして、私はニヴルヘイムへ渡った。
 鬣の王の首を手土産にね。それから魔王に変じて闇の世界を掌握し、ニヴルヘイムのために戦った。その結果――
 君たちに敗れ去った。正確には、君たちの操るモンスターたちに……かな。
 そう、君たちの知る『ブレイブ&モンスターズ』。そのシナリオは、その昔現実に起こったことなのさ」

なゆたたちがゲームとしてプレイしていた物語が、実は実際に起こった出来事をなぞるものだった。
そのことに、なゆたは衝撃を受けた。
だが、それならば。この場にいる『創世の』バロールはいったい何者なのだろう?
バロールは討伐され、世界には平和が戻ったはずだ。それに、この世界ではローウェルが存命なのも気になる。
ストーリーモードのシナリオが今いる世界の過去譚なのだとしたら、バロールと同じくローウェルも死んでいないとおかしい。

90崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/05/01(水) 12:35:03
そもそも、バロールの言葉が真実かどうかを裏付ける証拠など何もない。
しかし、本人は至って真面目に言葉を紡いでいる。
ライフエイクばりのとんでもない詐欺師なのか、それとも本気で突拍子ないホラ話を語る誇大妄想狂なのか――。

「君たちの知る物語は、そこでおしまいだろう?
 魔王の脅威を退け、アルフヘイムには平和が訪れました。めでたしめでたし……ってね。
 でも、『この世界』では物語はそれでは終わらなかった。それは滅亡のプレリュードでしかなかった」

ローウェルの死を契機にバロールが魔王となり、アルフヘイムへ侵攻を開始した、というのがストーリーモードの骨子だ。
そこに、侵食に関することは一切記述がなかった。従って魔王は単に世界征服が望みだと思われていた。
だが実際のところ、そこにはふたつの世界の熾烈な生存競争があったのだ。
 
「私が討伐されたことで闇の勢力は崩壊し、ニヴルヘイムという世界も消滅した。
 だが、侵食はその後も広がり続けた。アルフヘイムは消滅の危機に瀕し、誰ひとりそれを止められなかった。
 それでも、アルフヘイムの者たちは生き残らねばならなかった……生き残ることを願った。
 その結果――」

すう、と魔王が目を細める。
なゆたは寒気を覚え、我知らず自分の身体を自分で抱きしめていた。
自分が生き残るべき場所。周囲を見回してみて、一番先に目につくのは――

「そう。アルフヘイムの者たちは、君たちの世界へと侵攻を開始したんだ」

異世界の人間を召喚する方法があるのなら、自分たちが異世界へ行く方法も当然あるだろう。
自分たちの住まう世界の消滅に対して、アルフヘイムの者たちが取った手段は極めて簡単。
ニヴルヘイムを滅ぼしたように地球の人間も攻め滅ぼし、自分たちの居場所を確保する――。

「そんなバカな! そんなのデタラメよ!」

耐え切れず、ついになゆたは立ち上がってそう叫んだ。

「アルフヘイムの人間が、地球に攻め込んだ!? そんなことあるわけない!
 もしそれが事実だとしたら、どうしてわたしたちにはその記憶がないの!?
 わたしたちの住む世界が侵略されるなんて、どんなに小さな出来事だったとしてもニュースにならないわけないじゃない!」

「それにも理由がある。アルフヘイムの者が君たちの世界、地球に攻め入ったことで、地球は火の海に包まれた。
 地球の人々も当然、抵抗したからね。それは地球すべてを舞台とした戦争だった。
 だが……このままではアルフヘイムの者も、地球の者も滅ぶ。このルートは間違っている……。
 そう考えた者がいたんだ。そして、その人物が用いたのさ。『究極の魔法』をね」

「究極の……魔法……?」

「ああ。究極の魔法――名を『機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)』という」

バロールは軽く右手を空に掲げた。
しかし、バロールの語った突拍子もない物語と同様、機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)にも聞き覚えはないだろう。

「究極の魔法、機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)とは、時間遡行の魔法だった。
 この魔法によって、世界は元に戻った――侵食が発生したころまで時間が巻き戻った。
 死した者たちは蘇り、消滅した世界も元に戻った。だけど、なにも事態は好転していない。巻き戻っただけだ」

「それって、つまり……」

「当然、何も対策をしなければ同じことが繰り返される。再び世界は侵食に呑まれ、アルフヘイムの者たちは地球に攻め込む。
 君たちにも他人事じゃない、と言ったのは、つまりそういうことなんだ」

91崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/05/01(水) 12:37:29
「機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)は不完全な魔法だった。
 極端な話『とにかくある程度まで時間を元に戻せさえすれば、小さいことは知ったことじゃない』な代物だったんだ。
 時間は元に戻ったものの、その副産物として様々な歪みが――君たち風に言うとバグが生まれてしまった。
 私やイブリースがそうだ。本来『一巡目』の記憶は失われるはずが、それを持ったまま蘇生した」

機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)が完全に発動すれば、すべてが巻き戻る。
当然、その間に起こったことや見聞きしたもの、記憶も一切が消滅する――はずだった。
しかし、不完全な魔法であったがゆえの歪みで、一部の存在は前世の記憶が残ってしまった。
イブリースの言った『今度はこちらが勝つ』と言うのも、きっとこのことなのだろう。
また、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の中でブレモンの正式サービス開始時期にズレがあるのもこのバグが原因に違いない。
他にも、機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)の生み出したバグはあるかもしれなかった。

「私には『一巡目』の記憶がある。だから、もう同じ轍は踏まない。
 だが、私の力だけでは限界がある。よって君たちの力を借りたいんだ。
 君たちには、絶望を希望に変える力がある。未来を切り開く力がある――この世界の住人にはない力が。
 私のことをどう思ってくれてもいい。胡散臭い、ペテン師、偽善者、悪党……どう罵ってくれても。
 信用だってしてくれなくていい、私は魔王だ。罵倒の言葉なら言われ慣れているからね!
 信じてくれなんていくら言葉で言ったって、なんの意味もない。
 だから――私のこれからの行動を見て評価してくれればと思うよ」

もしも、これからバロールが『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を欺いたり、罠に嵌めようというそぶりを見せるなら。
今までの言葉を反故にするような仕草を見せたなら――そのときは逆らってくれていい。牙を剥いてもいい。
そう言っている。
言葉よりも、行動で。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちの信頼を勝ち得るようにしよう、と。

「この世界が崩壊すれば、地球も危機に瀕する。だから、君たちもただ地球に帰れさえすれば一件落着……とはならない。
 救ってもらわなければならないんだ、この世界を。
 侵食を食い止め、それに対処する方法を探さなければならない。でなければ――
 いつか、地球にも侵食は発生するだろう。そうなったらもう、本当におしまいだ」

そこまで言うと、バロールは小さく息をついた。
これで、あらかた言うことは言ったということらしい。

「私の伝えたいことはこのくらいかな。他に質問はあるかい?
 なければ客室に案内させよう。疲れただろ? 今日はゆっくり休んでほしい。
 明日になったら、アコライト城郭へ向かうためのミーティングだ。忙しくなるからね」

バロールは踵を返して、庭園から立ち去ろうとした。
しかし。

「……バロールさん!」

その背中に、なゆたが声をかける。
一拍の間を置いて、バロールは振り返った。

「何かな?」

「……ひとつだけ。最後にひとつだけ、質問を……いいえ、お願いをしてもいいですか?」

「お願い? もちろん。何なりと」

微笑を湛え、バロールが虹色の魔眼でなゆたを見つめる。
なゆたはほんの少しだけ深く息を吸い込むと、まっすぐにバロールの魔眼を見つめ返し、

「じゃあ、誓ってください。あなたは本当に、この世界と地球と。ふたつの世界の平和と幸福を願ってるって」

そう告げた。

92崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/05/01(水) 12:39:05
「誓いだって?」

さすがに予想外だったのか、バロールは虹色の双眸を瞬かせた。

そんなものに一体なんの意味があるのか。涼しい顔で綺麗ごとを並べ立てる悪人など世間には腐るほどいる。
しかし、なゆたにとっては大事なことだった。
なゆたは真っ直ぐにバロールを見つめ続けている。

「いいとも、誓おう。……何に対して誓えばいいかな? 神? でも、私は魔術師だから神には仕え――」

「ううん、神に対してじゃない。もっと別のものに誓ってください」

「わかった。それは?」

「……あなたの良心に」

冗談で言っているわけではない。なゆたは大真面目だった。
どんな悪党も、いかなる詐欺師も。
自分の心だけは、欺くことはできないのだから。
バロールは『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちの前で右手を胸に添えると、目を閉じた。
そして、よく通る涼やかな声で言葉を紡ぐ。

「私、『創世の』バロールは、いついかなるときも……全ての世界の安寧と平和を願っている。――我が良心に誓って」

かつて、いや今なお魔王の力と記憶を有する、喪われた『十三階梯の継承者』が、そうはっきりと宣誓する。
その光景に、なゆたは満足そうに頷いた。
束の間の討論会は終わった。あとは、水晶の乙女に導かれて各々用意された客室に行くだけ――
のはず、だった。

ドシャアッ!

>ぐはっ!

突然、空から大男が降ってきた。

「ひょっ!?」

思わず変な声が漏れた。よくよく今日は予想外のことばかり起こる日である。
素早く飛び退いたので事なきを得たが、ガーデンテーブルとティーセットはメチャクチャになってしまった。
バロールも戸惑いの表情を浮かべている。ということはバロールの演出でもないのだろう。
そうこうしている間に男は立ち上がり、やや距離を離すと落ち着いた様子で喋り始めた。

>突然のお茶会失礼しました、私は決して怪しい者ではありません
>失礼ながら今まで貴方達の話を全部を聞かせていただきました、自分の立場を知る為とはいえ盗み聞きしていたことをどうかお許しください
>このスマホを見ればご理解頂けると思うのですが、僕も貴方達と同じ『異邦の魔物使い(ブレイブ)』です

「……???」

なゆたは首を傾げた。
確かに、スマホを持っているということは『異邦の魔物使い(ブレイブ)』なのだろう。服装もいかにもファンタジーらしくない。
しかし、それなら自分たちと同じようにバロールに把握されていて然るべきではないのか?

>一週間か・・・二週間か前にこの城に飛ばされてしまったのです、不審者と間違われていた私は今まで投獄されていました
>今から証拠をお見せします・・・召喚を

自分が疑われているということを察したのか、男はすぐにスマホをタップして召喚を始めた。
現れたのは、ウェルシュ・コトカリス。コーギーに犬用鎧を着せた、見た目通りのネタキャラである。
エイプリルフールにジョーク企画として実装されたが、見事に滑ったというある意味伝説のモンスターだ。

93崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/05/01(水) 12:42:01
>ニャー

薔薇園を包む重苦しい沈黙。それを打ち破るかのように、部長が鳴いた。
なゆたはぷるぷると肩を震わせた。そして、次の瞬間――

「ふおおおおおおおおおお!!! か〜わ〜い〜い〜〜〜〜〜っ!!!」

ばっ! と素早く部長の傍に駆け寄り、跪いてその頭を嫌というほど撫でた。
なゆたは自他共に認めるスライムマニアであるが、別にスライムにしか興味がないというわけではない。
年頃の女の子が全般そうであるように、基本かわいいものには目がないのである。
コーギーの愛くるしい顔立ちや短い脚、ぷりぷりのお尻などはなゆたの大好物だ。
『本尊を傷つけられたりしたら困る』と父親がペット禁止令を出したため、実家の寺では犬猫は飼えない。
なゆたが一見無害なぷるぷるのスライムに傾倒したのは、ペット禁止令を出された反動なのかもしれなかった。

『ぽよっ! ぽよぽよっ、ぽよよ〜っ!』

ポヨリンも部長の周りを嬉しそうにぴょんぴょん跳ねている。
カワイイモノ繋がりで仲間ができた! と認識したのかもしれない。

>こんな事言われても無理なことは十分承知の上ですが・・・僕を信じてください

男は慇懃に頭を下げた。そして、判決を待つ被告のように直立不動になった。
突然空から降ってきた挙句、自分を信じろとのたまう正体不明の大男。
先程バロールと『信用、信頼は無用』云々という話をしていたのとは正反対の流れだ。
……しかし。

「オッケー! 信じましょう!」

部長の頭を撫でながら、なゆたはイイ笑顔で空いた方の手を突き出し、ぐっ! と親指を立ててサムズアップした。
彼を信じるに足る要素は全くない。全くないが――ただひとつ。唯一。

『連れているモンスターがかわいい』

それだけで、なゆたにとっては充分なのだった。かわいいは正義である。

「うっそぉ……二週間前? そんな昔に? よりによってこの王宮に? なんで気付かなかったんだ私……」

バロールが額に手を添えてショックを受けている。
相変わらずとぼけた物言いだが、これがこの人物の紛れもない素であるらしい。
ゲームの中で遭遇したときは既に人外になっており、ザ・悪魔! のような外貌をしていた上、さして会話もなかった。
従ってバロール本人のパーソナリティは不明のままだったのだが、意外なものである。

「わたしはなゆた。崇月院なゆた……なゆって呼んでくれればいいよ。あなたは?
 ……どうかな、みんな。この人にも仲間になってもらうっていうのは?
 さっきの話にもあったけど、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を集めなきゃ。仲間はひとりでも多い方がいいもの」

仲間たちを振り返り、そう提案する。
元々なゆたは社交的な性格だ。友達も仲間も多ければ多いほどいい、と思っている。
元いた世界でも生徒会の副会長を務め、名前だけのお飾りの生徒会長に代わって生徒会を纏め上げていたのだ。
基本的に性善説の信者で、話せば分かるのお気楽気質だということもある。
男の誠実そうな態度も好もしい。この人は信用してもいい、と直感が告げている。
そして――



そんなニューカマーへの好感度と反比例して、なゆたのエンバースキライ度は上がっていくのだった。


【質問タイム終了。ジョンのことは仲間として迎え入れたい方向。】

94カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/05/03(金) 00:17:04
>「ああ、よく知っているとも……おかえりカザハ、カケル。ううん、違うな……今は初めましてと言うべきかな。
 まぁいいさ、どっちでも! とにかく会えて嬉しいよ、また……じゃない、どうか力を貸してほしい」

“おかえり”――その言葉に一瞬思考停止する。
カザハの“知ってるかもしれないけど”という前置きは、飽くまでもここに呼び出したブレイブの一人として、ということ。
しかし、それどころではなくまるで旧知の仲のように知っているような物言い。
それ以後も、言葉の端々にそれが感じられる。
“君たちふたりにその必要はない”“ 君は転生じゃなくて混線”

――もしかしたら、ボク達の世界はこっちなのかもしれないね

リバティウムを発つ夜の、カザハの言葉が思い出されたが
なんとなくそうなのかもしれないと思ってみるのと、実際に信憑性の高い情報が出て来るのは全く違う。
カザハも突然のことですぐには切り込めなかったのだろう、
その間に、今はまだ言うべき時ではないという雰囲気で話題は次に移ってしまった。
それはそうと、世界を救えば帰還を望む者は帰還させてもらえ、永住を望む者は永住させてもらえるらしい。
全員が帰る気満々だと思っているなゆたちゃんだが、どっちにしろ世界を救えばいいのなら
その部分を巡って対立する必要はないわけで、とりあえず不安要素が一つ減った。

続いてバロールは、ローウェルがどこにいるのかといったエンバースの質問にはどこにいるのか分からないと答え、
ローウェルからの言付けについても、本当に分からないという様子を見せた。
(ほぼ同時にパーティー加入したエンバースさんがローウェルからそんな伝言を受け取ったとは思えないのでおそらくこの質問自体引っ掛け)

>「ま……いずれにしても、我が師がそう言っていたというのなら願ったりだ。私は私のすべきことをしよう。
 徘徊老人のことは、今はいいさ。どこにいるのかなんて、考えたところで仕方ないからね。
 聖灰たちには指示を出しているみたいだし、師は師で侵食に対していろいろ考えているんだと思うが――」

「ふーん、ローウェルさん、どうして居場所を明かさないんだろうね。
敵対勢力に狙われたらいけないからとか……?」

続いて、ビジネスライクなタイプかと思っていた明神さんが感情を爆発させる。
爆発するとしたら直球熱血のなゆたちゃんか変化球熱血のエンバースさんあたりだと思っていたので、これは意外だった。
尤も、わざと激しい態度を取る事で相手の反応を見ている、という可能性もある。
そして、本心にせよ作戦にせよ、それはバロールから重要な情報を引き出すこととなった。
この人は、ゲームとしてのブレイブ&モンスターズの存在を知っているのだ。
皆が地球でやっていたブレモンはただのゲームだが、ここは現実の異世界だということを語るバロール。
しかしなゆたハウスやみのりハウスがあったことを考えると、全くの無関係ではないのだろう。
謎は深まるばかりだ。

95カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/05/03(金) 00:18:22
>「とにかく……私の望みはただひとつ。『この世界を救いたい』それだけなんだ。
 そのためなら私は何だってする。非道なこともしよう。非人道的なことだってやる。これからもね、だって――
 それがこの私。『魔王』と呼ばれた、『創世の』バロールなのだから」

「魔王!? はいいとして……“呼ばれた”ってどういうこと!?」

バロールがあっさりと自分は魔王だと認めたのも驚きだが、ここはゲームのブレモンより過去の時間軸のはず。
しかし、魔王と”呼ばれた”と過去形で言った。

>「言いたいことはこんだけだ。世界救い終わったら、死んでった連中を弔いに行けよバロール。
 そんときゃ、俺も付き合ってやるからよ」

世界を救って帰還するなら、弔いに行くときには彼はこの世界にはもういないはず。
もしかして、明神さんも永住する気でいる――?
その後明神さんはブレイブの選定基準や他のブレイブについて質問し、話はアコライトを防衛しているブレイブ救出の依頼へとつながっていく。

>「ここキングヒルから一番近いのは、アコライト城郭。
 君たちにも馴染みの場所なんじゃないのかな? ゲームでは必ず行く場所だそうだからね」
>「……アコライト城郭……」

次の依頼と、出来る限りこれからの旅をバックアップをするというところまで話が進んだところで、
みのりさんがそもそもの本質に切り込む質問を投げかけた。

>「それで、うちらがアルフヘイムを救わなあかへん理由ってありますのン?」

>「それを説明するには、かつてこの世界に起こったこと。そして――君たちの世界に起こったことを説明しなければいけない」

バロールは、こちらの世界と地球の関係性と、それらの世界にかつて起こったことを語り始めた。

>「大賢者ローウェルの死をきっかけとして、私はニヴルヘイムへ渡った。
 鬣の王の首を手土産にね。それから魔王に変じて闇の世界を掌握し、ニヴルヘイムのために戦った。その結果――
 君たちに敗れ去った。正確には、君たちの操るモンスターたちに……かな。
 そう、君たちの知る『ブレイブ&モンスターズ』。そのシナリオは、その昔現実に起こったことなのさ」

「昔……? じゃあここはゲームの本編よりも未来ってこと?
でもローウェルさん生きてるし過去っぽいんだけど……!?」

皆混乱しているようだが、バロールはとりあえず説明を続ける。
結局のところアルフヘイムとニヴルヘイムの争いは浸食により領土が減っていったことによる陣取り合戦で、
ニヴルヘイムを倒したところで浸食は止まらず、一時しのぎにしかならなかったとのこと。
そして追い詰められたアルフヘイムが打って出た手段は――

96カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/05/03(金) 00:19:33
>「そう。アルフヘイムの者たちは、君たちの世界へと侵攻を開始したんだ」

>「そんなバカな! そんなのデタラメよ!」

そんなはずはないと食ってかかるなゆたちゃんに対しての答えは、驚くべき内容だった。

>「究極の魔法、機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)とは、時間遡行の魔法だった。
 この魔法によって、世界は元に戻った――侵食が発生したころまで時間が巻き戻った。
 死した者たちは蘇り、消滅した世界も元に戻った。だけど、なにも事態は好転していない。巻き戻っただけだ」

この世界はゲームのブレモンの未来であり過去でもある―― 一度巻き戻された過去ということらしい。

>「この世界が崩壊すれば、地球も危機に瀕する。だから、君たちもただ地球に帰れさえすれば一件落着……とはならない。
 救ってもらわなければならないんだ、この世界を。
 侵食を食い止め、それに対処する方法を探さなければならない。でなければ――
 いつか、地球にも侵食は発生するだろう。そうなったらもう、本当におしまいだ」

「つまり……ニヴルヘイムを倒しても何の解決にもならない……
どうにかして浸食を止めないと全部の世界が崩壊するってわけだね。
……あれ? イブリースさんも前の記憶があるなら争ってないで協力すれば……出来るならとっくにやってるか」

カザハは両陣営の有力者に以前の記憶が持つ者がいるにも拘わらず性懲りも無くまた陣取り合戦している状況に疑問を持つも、
他の人は以前の記憶は無いわけだしまあ色々あるのだろうと一人で納得したりしていた。

>「私の伝えたいことはこのくらいかな。他に質問はあるかい?
 なければ客室に案内させよう。疲れただろ? 今日はゆっくり休んでほしい。
 明日になったら、アコライト城郭へ向かうためのミーティングだ。忙しくなるからね」

そう言って去っていこうとするバロールをなゆたちゃんが呼び止め、一つの誓いを立てさせた。

>「私、『創世の』バロールは、いついかなるときも……全ての世界の安寧と平和を願っている。――我が良心に誓って」

「バロールさん……なんかボク達のこと昔から知ってるみたいだし……信じてみるよ!
その件についてはまたの機会に教えてね!」

そんなちょっとシリアスな雰囲気で会合が終わろうとした、その時だった。

97カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/05/03(金) 00:20:21
>「ぐはっ!」

突然男性が降ってきて、テーブルセットは滅茶苦茶。男性は妙に堂々と自己紹介を始めた。

>「突然のお茶会失礼しました、私は決して怪しい者ではありません」
>「失礼ながら今まで貴方達の話を全部を聞かせていただきました、自分の立場を知る為とはいえ盗み聞きしていたことをどうかお許しください。」
>「このスマホを見ればご理解頂けると思うのですが、僕も貴方達と同じ『異邦の魔物使い(ブレイブ)』です」
>「一週間か・・・二週間か前にこの城に飛ばされてしまったのです、不審者と間違われていた私は今まで投獄されていました」

「他のブレイブ案外近くにいた―――ッ!
しかもたまたまドンピシャで城に召喚されたばっかりに不審者扱いで投獄って酷くない!?
普通召喚されて荒野に放り出される方がおかしいよね!?」

>「今から証拠をお見せします・・・召喚を」

すると、『部長』というネームプレートを付けた鎧を着たコーギーが現れた。
どうでもいいけどあの部長の意味は部活の部長だろうか、会社の役職名の部長だろうか。

>「ウェルシュ・コトカリスです、ブレモン初のエイプリルフールで実装されたモンスターの
 スマホを見ていただければ限定スペルカードもあります・・・逆に言うと僕はそれしかもっていませんが」

>「ニャー」

聞き間違いでなければ今確かにニャ―と鳴いた気がする――犬なのに。

>「ふおおおおおおおおおお!!! か〜わ〜い〜い〜〜〜〜〜っ!!!」

なゆたちゃんは部長に駆け寄って撫でまくり――

「あっははははははは! コトカリスで犬でニャーで部長って!」

一方のカザハはというと、このネタモンスターが妙にツボにはまったらしく、笑い転げていた。

>「こんな事言われても無理なことは十分承知の上ですが・・・僕を信じてください」
>「オッケー! 信じましょう!」

信じてくださいと訴える男性を、なゆたちゃんはあっさり信じた。
多分いや絶対モンスターがかわいいからだ。

98カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/05/03(金) 00:21:36
>「うっそぉ……二週間前? そんな昔に? よりによってこの王宮に? なんで気付かなかったんだ私……」

バロールさんはブレイブが召喚されたにも拘わらず気付かずにいつのまにやら投獄されていたことに狼狽えていた。
まあお城って広いし組織内部で伝達が行き渡ってないことなんてザラにあるしそういうこともあるよ。多分。

>「わたしはなゆた。崇月院なゆた……なゆって呼んでくれればいいよ。あなたは?
 ……どうかな、みんな。この人にも仲間になってもらうっていうのは?
 さっきの話にもあったけど、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を集めなきゃ。仲間はひとりでも多い方がいいもの」

「賛成! この人きっと悪い人じゃないよ。だってこんなネタモンスター連れた悪役なんて絵にならないじゃん!
ボクはカザハ、見ての通り人間じゃないけどよろしくね」

文字通り突然降って湧いた男性のパーティー入りを提案するなゆたちゃんに、カザハもまたモンスターが面白いというよく分からない理由で賛成する。
新顔のインパクト抜群の登場とネタモンスター召喚により、いつの間にやらシリアスな雰囲気はどこかに吹っ飛んでしまっていた。

「あ、あと人間じゃないといえばもう一人ここに闇の狩人みたいな人がいるけど怖がらなくていいよ、いい人だから!」

もはやパーティー入り前提の気分になってそうなカザハは、次は君の番、とばかりにエンバースさんに自己紹介を促す。
(もちろんこの時の私たちは、この新顔の好感度の反動を食らったがために、なゆたちゃんのエンバースさん嫌い度数が急上昇していたことなど、知る由もない)

99embers ◆5WH73DXszU:2019/05/08(水) 22:19:56
【炎の向こう(Ⅰ)】


「■■■■。このマルグリットとかいうイケメン、何度挑んでも勝てないぞ。どうなってる」

気が付けば――焼死体は記憶の中にいた。
蛍光灯の真白い光に眩む視界/その奥から聞こえる声。
懐かしい声だ。かつて愛した――今も愛している者の声。

「……確かにそいつは面倒なやつとして有名だが、それは初見殺しが煩わしいって意味だ。
 注意すべきはセイレーンの子守唄だけだろ。『ナイトヴェイル』が何度も負ける訳がない」

「いや、あらゆる手を尽くしているんだが、どうしても一手足りない。知恵を貸してくれ」

「冗談はよせって。ナイトヴェイルなら、マルグリットくらいオート戦闘でも勝てる……
 ……ちょっと待て。そいつの頭にくっついてる、ヒラヒラした布切れは一体なんだ?」

体が勝手に動く――己の意思で動かす事は叶わない。
これは記憶なのだ。起こらなかった事は起こせない。
悪戯な笑みを浮かべる過去に触れる事は、出来ない。
どれほど愛おしいと、取り戻したいと願っていても。

「これか?これはリボンと言うんだ。かわいいだろう?」

「悪かった。その布切れの正式名称が聞きたい訳じゃない。
 何の為にそんなものを装備させてるのか、その意図を尋ねてるんだ。
 異教避けの鉄頭巾はどうした?城郭の道中で拾える、あの露骨なお助け装備だ」

「ああ、あれなら捨てたよ。今後に有効な装備だとは分かっていたが、あまりにも見た目がよくない。
 私のオウルにも、こんな装備を無理矢理着せられるなんてあんまりだと、泣きつかれてしまってね」

「呪いの子守唄で何度も殺されるのはあんまりだって、喰らいつかれるのも、そう遠くないと思うぜ」

「だからそうなる前に、知恵を貸してくれと言っているのさ」

ぱちぱちと響く音/近づく炎の息遣い。
炎が芽吹き/燃え広がり/全てを塗り潰していく。
ここは記憶の中――起きた事しか、起こってくれない。

100embers ◆5WH73DXszU:2019/05/08(水) 22:21:08
【炎の向こう(Ⅱ)】

「……子守唄と言っても、ゲーム的にはただの魔法攻撃だ。
 ナイトヴェイルの『消灯(ムーンレス)』なら回避出来ないか?」

「もう試した。回避は可能だったが、5ターンでセイレーンを倒すには火力が足りない」

「スペルの併用は……試してない訳ないか。やっぱり、そのリボンを装備してたんじゃ……
 ……いや、待てよ。異教避けを装備しないのは、見た目が気に入らないからなんだよな?」

「ああ、そうとも」

「それなら話は早い。俺が見た目も性能も悪くない装備を譲ってやるよ。それで解決だ」

「いいや……それじゃ駄目だ」

「なんだと?返答はともかく理由(ワケ)を……いや、いい。
 聞かなくても分かる。俺のセンスが信用出来ないんだな?」

「それもある……が、一番の理由はそうじゃない」

「じゃあ、どうして」

「決まってる――贈り物をするなら、モンスターじゃなくて私に宛ててくれないと」

「……なるほど、大した誘導尋問だ」

「もっとかわいく誘った方が、好みだったかな?」

「……いや、そういう訳じゃない」

「なら、よかった」

浮かぶ最愛の微笑みは、もう炎に紛れて、殆ど見えなかった。



そして視界の全てが焼却されて――気付けば焼死体は現実へと連れ戻されていた。
目の前には小悪魔の笑み――認めたくはない/だが僅かに見える最愛の面影。
幻覚を見ていたなど知られる訳にはいかない/だが動揺を隠し切れない。

「……は、はは。かわいいだって?それだけか?拍子抜けさせないでくれよ――」

狼狽えながらも、焼死体は可能な限り平静を保ち、皮肉を紡いだ。


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