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ここだけ能力者達の物語投下所part1

23名無しさん:2018/10/06(土) 21:59:42
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「傭兵は早起き出来ん、目覚ましを持ってないんでな。今日はキャンセルだ」
『ハァ!?でも今日の今日のキャンセルは……』
「キャンセルだ」
ガチャリ。強引に電話を切ると、まだそっぽを向く少女に肩を竦める。
いつもの朝だ。急遽出来た休日の朝。ソーマタージには、彼女がそんなにムスッとする理由が理解出来なかった。

「そんなに怒るなよ…。この前の稼ぎもまだたっぷり……」
明るい声で通帳を開いて顔を顰める。見せない方がいいだろう。
「……とはいかなかったが、まぁまだツケに出来る。ロイの野郎からご飯ねだろうぜ」

「それともここで食ってくか?卵とベーコンがまだあったと思う。
 淫魔って固形物食べさせてもヘーキかな───」
のっそりと立ち上がりキッチンに向かう筈だった身体が止まる。前からしがみつく様に抱きついてきた少女の手によって。


「……………無理、しないで、ほしい………」
それは辿々しくひねり出された気遣いの言葉。顔を埋めて発せられるその言葉に、彼の表情は硬くなった。
「───そいつは、お前の考えた事とでも言うのか?それともその身体に残った記憶か?」
引き離す様に少女の肩を掴むと、天を仰ぎボソリと問いかける。戸惑うその身体に一気に手を回して跪くと、ソーマタージは肩に顎を乗せるようにして、蛇の如く抱き締めた。

「───名前を決めよう。考えたら名無しってのも収まりが悪い。なんて呼ばれてた?」
「…………リリィ」
朗らかな問いかけ。しかし、少女はそれにビクリと怯えた様に身体を微かに震わせる。

「違う、違う違う。そいつはその身体の名前だ。お前自身の、名前を、決めようとしているんだ。
 ───あそこでは、カノッサでは何て呼ばれてた?」
「……………ツー、アー………」
「2A?紙みたいな呼び方だな。2A、2A……。決めた、お前は今からニーアだ。ニーア、中々に良い名だ。昔のゲームから取ったんだけど」
それでいいか?と尋ねながら、くっつけた顔で笑うソーマタージ。少女は何も言えず、しかし微かに微笑んで抱き返す。
───その時だ。ソーマタージの腕に、微かに力が増したのは。


「──────ニーア、オレを恨め。いつ来るかも分からないその時のために、お前に愛する人を重ねて飼い殺そうとしていたオレを恨め。
 その時が来たら、お前の自我を消してやろうとしていたオレを憎め。お前には、当然の権利だ」
その声に朗らかさは欠片も無い。唯只管に親しかった人に罰せられる事を望む、身勝手で憐れな男の声だ。
「頼むよ───。オレの罪業を咎められるのはもうお前しかいないんだ。
 皆消えた。オレが殺したか、逃げ出したか───。遺っているのはオレと、お前のその身体だけなんだ」
泣き出しそうな声でボソリボソリと呟くソーマタージ。少女はその肩を抱き返す。残るのは涙無き嗚咽と沈黙のみ───。

救済はきっとまだ無くて。或いは気付かないだけかもしれないけど。
今しがた名付けられたばかりの少女は、それでも腕の中で呻く男を想う。───救われて欲しいと。
部屋の天井に吊り下げられた何らかの儀礼的な装飾を施された四角いライトは「因果応報」と呟いた。


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