したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

ここだけ能力者達の物語投下所part1

21名無しさん:2018/10/06(土) 21:58:43
♦︎


「──────の記────にする───」
ノイズ混じりの声が暗澹たる暗闇から響いてくる。視線を向ければ、チューブトップの上から白衣を纏った小さな少女。その顔は闇に呑まれて輪郭すら見えない。
「───そうか。あの時、アンタは確かに見当たらなかったもんな。先生よ」
制服の袖で目を擦り、皮肉めいて口角を僅かに吊り上げる三橋。
深い微睡みの中、切り離した暴力性、深層意識の奥に封じ込められて尚、その声は彼の記憶を呼び覚ましていた。
「だから、オレは手にかけずに済んだ……」

「アンタをあの酒場で見た時オレは心底驚いたし、正直言えば嬉しかったよ。
 今やたった二人きり、同輩の輩というヤツだったからな。懐かしいのもあるし、過去が今オレを収穫しに来たって、裁いてくれるって思ってた」
椅子に座って周囲を眺める。二人を取り囲むのは、遥か頭上でゆっくりと回転する正方形を除けば薬品臭い空気とカーテンに隠されたベッド、薬の棚に書類棚。ありがちな保健室の空間だ。

「だがアンタは何をしてくれた?何一つ無い!! …勿論怒ってなどいない。オレの、身勝手な妄想だってのは、分かってるんだ…。
 いつかその時が来たら、きっと始末してくれると分かっているから。オレは、待つと決めたんだ……」
「─────ZZ───ZZWWWWWWWM──────」
振り上げた拳をその場で下ろして椅子に座り、力無く項垂れる。目の前の少女は相も変わらずノイズで聴き取れない言葉を発するのみ。
「しかしそれも果たされなくなった今、どうして生き続ける事が出来る?どうしてこの地獄を過ごせばいい?
 労働にしろ何にせよ、つらい事は必ず最後に終わりがあると分かっているからこそ続けられるんだ。その終わりも無くなった今、どうやってオレは生き続ければいい?」
「見ろ、この手だ。この手がお前の大切な人を殺した外道の手だ。恨めしいはずだ。
 この手だ。この手がそうまでして守りたかった者も守れなかった、役立たずの手だ。殺してやりたいだろ?殴ってくれよ!罰してくれよ!オレを!!」

「償う相手もいなくなり贖う事も出来ず、どうして生き続ける、どうしてオレが裁かれる?
 また意識を切り離した肉体の檻に押し込まれるのが罰だと言うのか?───何も知らない連中に囲まれて、ヘラヘラ笑って生き続けろって言うのかよ!
 オレの人生を弄ぶ屑の決めた運命に従い続けて、自分が道化を演じて何もかもを忘れていくのを黙って見てろって言うのかよォッ!!!」
白衣の胸ぐらを掴む。少女は相も変わらず不明瞭な言葉を発し続けるだけで、何も答えはしない。
いつかの越境の際、彼は世界の隙間に触れてしまった。ここではないどこかから自分達を操り、身勝手に何かを言っている者を視た。頭上で輝く正方形がそれだ。
混沌があると言うのならまだ耐えられた。規則性も何も無いカオスの産物が自分と言うのなら、まだ受け入れられた。だが彼は自分達の人生が誰かの決めたものだと知ってしまったのだ。
狂気は覚めた。不幸の偶然と思っていた自分の全ては、手も届かない誰かの掌の上だと知った時、彼の心を襲ったのは一切の虚脱感。そして、自死願望。


「───誰でもいい……。大輔、詩織、真雄…。橘でも伊月でも……。
 ──────誰か、オレを殺してくれ……。お前らの手で、裁いてくれ……。ああ、誰か……」
まるで縋り付く子供の様に、物言わず動きもしない少女の胸板に頭を埋め、三橋は嗚咽を漏らす。
熱い液体が眼から込み上げてくる。人でなしの証、白い血涙がポタポタと溢れていた。
今や彼は粋がっていたガキだった頃の顔となっていたが、其処だけは変わらない。創られた度し難い修羅の証だけは。

「──────裁かれるべき存在なんだよ、オレは──────。
 まだお前らに失望される方がいい、軽蔑されて、嬲られて死ぬ方がよっぽどいい……。どうして、どうしてお前らは……!」
啜り哭く声もやがては消える。また、肉体の檻に閉じ込められる。どこの誰とも知らぬ誰かに勝手に充てがわれた罰を受けさせられる。
そして、残るは沈黙のみ──────。


♦︎


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板