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なりきりリレー小説スレッド

1 ◆r7Y88Tobf2:2016/08/22(月) 23:04:59 ID:p8T3DASU
【基本ルール】
 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
 勝者のみ元の世界に帰ることができる。
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられ地図上にバラバラに配置される。
 プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。

【スタート時の持ち物】
プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」

「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。詳しくは別項参照。
「地図」 → MAP-Cのあの図と、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。
「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。
「名簿」→全ての参加キャラの名前がのっている。
「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。


【バトルロワイアルの舞台】
http://gazo.shitao.info/r/i/20160815012100_000.png

パー速VIPなりきりロワイアル 2nd wiki
http://seesaawiki.jp/narirow_2nd/

103先行不安、行先不明:2016/09/05(月) 23:51:35 ID:nt9fR7G6


「───へぇ、じゃあそのレナートって人が今は二人を仕切ってるのかな」
「別に仕切っているという風ではありませんが…」
「利害が一致したってだけだ、俺は下に付いたつもりはねェ」

邂逅から少しして、有坂と黒繩はノラを加えて来た道を戻っていた、その間に簡単な自己紹介と現在の状況など、情報交換も序でに。
ノラはこのバトルロワイアルに巻き込まれてから初めて出会ったのが有坂達だったようで、殺し合いに参加するつもりはないらしい、対運営を目的としている彼等との出会いは幸運だった。
レナートを中心として対運営に向けて動く事を有坂が伝えると、ノラもそれに加わる事を了承した、晴れて同士を増やした彼等は一度タワービルに戻ってレナートに伝える事にした。

「……おい有坂ァ」
「はい?どうしました?」

有坂とノラに続いて少し後ろを歩いていた黒繩、彼が突然思い立ったように立ち止まり、有坂に声をかけた。
声をかけられた有坂は立ち止まって振り向き、釣られてノラも同じく黒繩を振り向く、黒繩は二人が振り向いた頃には既に背中を二人に向けていた。

「あの爺ィにはテメェらだけで報告してこい、俺は一人で行く」
「行く……って、どこにですか?まさか知り合いの二人を探しに?」

返ってくるのは無言、それは肯定を意味していた。黒繩はこの場で単独行動をしてまで知り合いを探しに行くと言うのだ。
突然の事に黒繩以外の二人は困惑を隠せない、何がそこまで彼を執着させるのだろうか?
しかし、それをさせるのは危険だ、先程の事でダメージの残る黒繩が単独行動しては格好の的である。

「一人じゃ危険かな、それに、腕のダメージもまだ残ってるでしょ?」
「そうですよ、知り合いの人が心配なのはわかりますけど───」
「心配なんかしてねェよ」

また有坂の言葉を途中で遮り、その場に沈黙を齎す黒繩の言葉。
ピリピリとした空気が広がり、その中で先に再び会話を始めたのは黒繩だった。

「…別に、心配してる訳じゃねェ……」
「じゃあ、何故…」
「さァな」

歩き出す黒繩、その背中を見つめながら二人は、どうするかを切り出せずにいた。
協力関係である筈なのに、協調性がまるで無い、このまま放って置くと後でどう響くかわからない。
それでも貴重な戦力だ、ここは無理矢理連れ帰ってでも休ませるか、もしくは切り捨ててしまうか。



───あいつらもこの世界にいる、狂った蠱毒壺の中に放り込まれた毒虫だ。
運営とかいう気に入らない糞共を殺す為の協力はしているが、そこに他人を殺さないという約束は無い。

(……別に、ぶッ殺しちまっても構わねェんだろ?)

協力?協力だと?どうしてあんな奴らと協力しなければならない?どうしてこんな絶好の機会に手を取り合う必要がある?
あの糞番長も、大木も、引導を渡してやるにはこれ以上に無いチャンスじゃないか。
それで運営の掌で踊らされているというのなら上等だ、見惚れるようなダンスを踊ってやる。
そうして、精々笑っている間に後ろから刺されるがいい、俺は俺のやりたい事をやるだけだ。

(───俺がブチ殺しに行くまでに死んでんじゃねェぞ、死んでたらブチ殺す)



【F-3/1日目 午前】
【黒縄揚羽@学園都市】
[状態]:腕に結構な痛み それ以外は健康
[装備]:不明
[道具]:不明支給品、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:レナートとの協力関係は続行のまま、大木陸と高天原いずもと戦う為に探しに行く。
1.取り敢えず北に歩く。
2.取り敢えず南に歩く。
3.取り敢えず東に歩く。

【有坂大輔@能力者高校】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:不明支給品、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める、その為に協力する仲間を集める。
1.黒繩を一人で行かせるのは危険だ、無理矢理にでも止める。
2.そこまで言うなら黒繩は放っておいて、一旦タワービルに戻る。
3.心配なので黒繩に付き添う。

【ストレイキャット(ノラ)@聖杯】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:不明支給品、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:こんな殺し合いに参加するつもりはない、同じ考えの人がいるなら協力して運営に立ち向かう。
1.言うことを聞かないなら体に分からせる、無理矢理黒繩を止める。
2.もう勝手にすればいいんじゃないかな。
3.しょうがないから黒繩の探索を手伝ってあげる。
※聖杯戦争開始直前からの参戦です。

104希望へと歩み寄るモノ ◆r7Y88Tobf2:2016/09/06(火) 21:48:26 ID:p8T3DASU

「……あーっ、歩くのつっかれたー……」
「もう少しで商店街だから頑張って、あまこ!」

気怠そうに肩を落とし息を吐く天子に、活き活きとした様子でルーシーが激励を送る。
結局あの後、何時までも電車の中に居るのは進展がないという判断に至り南の商店街を目指すこととなった。
とはいえ地図上でも駅から商店街までの距離はそう遠くはなく、1時間ほど歩けばたどり着くだろう。
しかしこの提案には乗り気でなかった天子は、人探しに意気込むルーシーとは気合いの入り方が違うようだ。
己の支給品である小人サイズの短剣を指で弄びながら、何度も欠伸を溢していた。

「オクタヴィア……それと、きょーこ?を優先して探さねぇとな…」
「うん……どっちも大切な友達だから、早く見つけてあげないと。
 それと、遥歩って人も会って確認しなきゃ……、…商店街にいればいいけど」
「あのケンと同じ苗字の奴か……確かにあたしも気になってきたな」

ふと、天子の顔付きが神妙なものに変わる。
名簿に記されていた相良遥歩の文字――相良、というのは紛れも無く彼女の結婚相手である相良健一の苗字だ。
偶然なのか、はたまた必然なのか。どちらにせよこの名前に惹かれるものがある事に変わりはない。
興味本位、というと言い方が悪いが、天子自身胸のつっかえが取れないような気がしてならなかった。
それはただ親近感を感じるから、という理由だけで片付けられるものではない事は天子も知っている。
もっと別な、そして大きな何かが――――

「――天子、見てっ!」
「んぁ?…あ、……商店街?」

ルーシーの指し示す方向へ顔を向ければ、『商店街』と書かれたシンプルな看板が自分たちを見下ろしていた。
どうやらあれこれ思考している内にたどり着いてしまったらしく、先程までの気怠さも今では微塵も感じられない。
様々な出店を見渡しながら歩を進めるルーシーに隣並び、天子は静かに気持ちを切り替えた。

「ここなら食料も見つけられるかもしれないし、拠点も見つけられるかもしれないね……。
 問題は私達以外に誰かいるか…というか、それが目的で来たんだけど…」
「ああ……出来りゃ、話の通じる奴がいいけどよ…――っ!?」

気紛れに背後に視線をやったその時、天子の視界に映し出されたのは拳銃を持った二人組の男女。
天子は自分の目の良さには自信があった。故にその姿を認知した瞬間、気が付けばルーシーの体を物陰へと押し倒していた。
驚愕と困惑に目を見開くルーシーの口を咄嗟に手で塞ぎ、銃弾が飛んでこないことを確認する。
だが、相手は既に此方の姿を認知している――となれば、隠れてやり過ごすなんてことは不可能だ。

「ぷはっ…あ、あまこ……」
「銃を持った奴がいやがる、それも二人だぜ……」
「そ、それって…!」
「ああ、もしかしたら……」


――殺し合いに乗っているかもしれない。


その言葉は口にせずとも、ルーシーには嫌と言うほど理解できた。
手持ちの武器は刀と短剣。戦闘になった場合、まず此方の圧倒的不利は覆せない。
ではどうするか――そんな思考をとっ払うかのように物陰の奥、即ち男女の方向から声が響いた。

105希望へと歩み寄るモノ ◆r7Y88Tobf2:2016/09/06(火) 21:49:09 ID:p8T3DASU


「そこのお二方っ!わたくし達は殺し合いに乗っていませんわっ!
 あなた方がどちらかなのかは分かりませんが、とにかくわたくし達は仲間を集めているんですの!!」
「あー…えと、そーだそーだーっ!!」


纏め役らしき女性からの高らかな宣言と、それに便乗する男の言葉。
周りに外敵が潜んでいるかもしれないというのに大声を上げる様子からは、とても殺し合いに乗った者だとは思えなかった。
しかし、生憎と天子は言葉一つで信じられるような世界で生きてはいない。
牽制にもならない拳を握り締め、不安げなルーシーを手で制し天子は慎重な動作で物陰から顔を覗かせた。

「言葉ではどうとでも言えるだろ?……銃を捨てやがれ。るぅしぃが怯えてるだろ」
「ちょ…あ、あまこ!?」
「……む、確かに無礼でしたわね…謝罪致します。今すぐ捨てますわ」

天子の言葉に納得したと言わんばかりに深く頷き、銀髪の女性が拳銃を地面に置き横へ滑らせる。
迷いのない一連の動作に意外そうに目を見開くも、天子の視線は女性の隣へと向けられた。

「お、おい…いいのか美弥子さん?」
「無論ですわ、アキレスさんも早く銃を捨ててくださいまし」
「は、はぁ……」

アキレス、と呼ばれた男は渋々といった様子で己の得物を乱雑に放り投げる。
緩い放物線を描き落下したそれを目に納めれば、天子も涙の剣を地に落とし無手の状態となった。
言うまでもなくそれはルーシーも同じであり、未だ不安の残る表情でありながらもいつの間にか天子に隣並ぶ形になっている。

「よし、これでお互いに武器は持っていない状態になりましたわね……。
 それに貴女達もお互いを信頼し合っている様子ですし、殺し合いに乗っているとは思えませんわ」
「あたぼうよ!あたしらはこんなゲーム死んでもごめんだぜ…な、るぅしぃ?」
「うん……それに、命っていうのはきっと、こんな形で散らされるものじゃないと思う…」

僅かに視線を俯かせ震えた声で呟くルーシーからは、様々な感情が見て取れた。
憤慨、悲観、恐怖――友人である天子でなくとも、彼女がこの殺し合いにどんな想いを抱いているのか汲み取れただろう。
そしてそれは、天子や美弥子も同じなのだ。ゲームと名を打ち無造作に生命を散らされる現実に何も思わないわけがない。
帰るべき場所が、待っている人間が居る。だからこそ誰もが死にたくないと願っていた。

「立派な思想ですわ。……わたくしも、大切な従者が帰りを待っているんですの。
 こんなところで無様に死んでやるつもりなど毛頭ありませんわっ!」
「あたしもだッ!ケンが頑張ってるってのに、おっ死んじまったら何も残らねぇだろ!」
「……私も、折角出来たお友達を残してなんて……っ!」


「あ、あのー……」


重苦しい方向へ傾きつつある雰囲気に限界が訪れたのか、半ば空気と化していたアキレスが恐る恐る声を上げる。
その際美弥子に睨み付けられた気がしたが気のせいだと割り切り、アキレスは一軒の喫茶店を指差した。

「まずは中に入って、自己紹介でもしようぜ?」

そう言われて初めて、天子達は互いの名も聞いていないことに気がついた。
思わず天子とルーシーは顔を見合わせ、やがて可笑しそうに笑みを浮かべる。
得意気にドヤ顔を浮かべるアキレスへ、美弥子はこの時ばかりは素直に感謝の意を示した。




106希望へと歩み寄るモノ ◆r7Y88Tobf2:2016/09/06(火) 21:49:46 ID:p8T3DASU


「へぇ〜…アキレスさんって、色んな世界を旅してるんですね……!」
「ただの子供っぽいお人ではなかった、という事ですわね……」
「へへ、おうよっ!……って言っても、俺一人じゃなくて仲間とだけどな」

横長のモダンなテーブルにて向かい合い、珈琲を啜りながら語り合う四人組。
どうやら喫茶店というだけはあり珈琲豆も本場のもので、状況が異なれば優雅なひと時となっていただろう。
サンドイッチでもあれば最高なんだけどな……。などと、会話の中心であるアキレスは何処か気楽な思考を持っていた。

「その仲間ってのはどんな奴らなんだ?」
「よく聞いてくれたぜ天子タン!……あー、説明するのは難しいんだけどさ」

不意に掛けられた天子の言葉にガタン、と椅子から立ち上がり喜色を顕にするアキレス。
ルーシーと天子は勿論、美弥子もアキレスの仲間というのに興味を示したのかジッと視線を送っている。
ごほん、と咳払い一つ。アキレスは何時になく饒舌に”仲間”を語り始めた。

「ジョッシュは仲間想いのイイ奴で、ティースタンは大人ぶった子供って感じだぜ。
 ニアタンは……ティースタンを更に生意気にしたような奴で、ジョッシュが大好きなのがバレバレだ!
 イムカタンは頼りになる皆の指揮官って感じだ、……そしてベティは蠍の相棒!」

―――ギィ!

聞き慣れた相棒の声が上がらない事に少し寂寥を覚えながら、アキレスは静かに席に着く。
自分としては最高のアピールであったつもりだったが、どうやら大雑把すぎたようで8割は伝わっていないだろう。
しかしそれでも伝わった2割の中には、よほど大切な仲間なんだろうという当たり前のことが含まれていた。
故に、気になってしまう。今さっきアキレスが語った仲間というのは――…。

「……でも、アキレスさんが言ったお仲間さん達って……」
「…ああ、その通りだぜルーシータン……このクソみたいなショーに参加させられてるんだ。
 いや、ベティは分かんねぇけど!…ま、アイツ等なら大丈夫だと思うけどね」
「そ、そんな楽観的な……お仲間が心配じゃないんですかっ!?」
「心配じゃないわけねーっての」

何処か熱の入った様子のルーシーに、あくまでアキレスは珈琲に目線を落としたまま答える。
え、と思わず言葉を漏らしそうになるのを堪えて、ルーシーはアキレスの雰囲気が僅かに変わるのを感じた。

「ただ……信じてるんだよ、アイツ等はこんなゲームに乗らないし死にもしないって。
 勿論確証はないけどさ…でも、こういう時に信じてやるのが友達ってもんじゃないかね?」
「……それ、は……」

一切澱みなく紡ぐアキレスに、ルーシーは反論の言葉を浮かべる事ができない。
それは単に言葉が浮かばなかったわけではなく、彼の言葉に反論する事が間違いだと認めてしまったからだ。
固く口をつぐみ、顔を俯かせるルーシー。物の弾みで言ってしまった言葉は即ち”仲間を信用していない”と同義のものなのだ。
それを自覚してしまったならば当然凹まない訳もなく、重い雰囲気を醸しながら砂糖たっぷりの珈琲に口をつける。
と、その時。ルーシーの両肩に二人分の手の重みが乗せられた。

「ふふ、アキレスさんに一本取られてしまいましたわね」
「だな……るぅしぃ、あたしがそんな簡単に死ぬような奴に見えるか?」
「見えないよっ!…でも、…もし死んじゃったらって考えたら、すごく怖いよ…」

ふるふると首を振り、今にも泣き出しそうな声で答えるルーシーに天子は苦笑を溢す。
こいつはこんなに弱気だったか?――フラッシュバックする記憶と当て嵌め、ああそうだったと納得した。
そしてそんな時は決まって励ましてやるのが友達、随土天子の役目なのだ。

「大丈夫だ、あたしは死なねぇ。それにルーシーの事も死なせねぇ……だから、安心しろよ」
「……!…あま、こ……」

屈託のない笑顔に当てられたように、ルーシーの沈んだ表情に光が差し込む。
それは言うなれば言葉だけの確証のないものだ。しかし、今のルーシーにとっては何よりも心強く見えた。
目尻に浮かぶ涙を指で拭い、控えめな笑顔を浮かべる。
天子もそれに応えるように満面の笑顔を見せて、それに伴うように美弥子の手拍子が響いた。

「さーて!話もまとまったことですしこれからの方針を決めますわよ!」
「すっかり美弥子タン…じゃなくて、美弥子さんがリーダーなのね……」
「勿論ですわっ!他に誰が務まりますの?」
「あ、あまことかは……?」
「はっ!?いやいや、あたしこういう役無理なんだって!」

ではやはりわたくしですわねっ!――何故だか興奮気味の美弥子の一言で、場が締められる。
恐らく何を言ってもこの人がリーダーになるのだな。と、三人は同時に理解した。




107希望へと歩み寄るモノ ◆r7Y88Tobf2:2016/09/06(火) 21:52:04 ID:p8T3DASU


「では、今言った通りこの場所を拠点にして大きなチームを作りますわよ。
 放送は確か12時でしたわね…その放送を聴いたら、二人一組のペアで同志の捜索に当たりますわ。
 そしてもう一組はこの場で待機し、安全を確保……よろしいですわね?」
「はいっ!」
「おう!」
「了解っ!」

確認を込めた美弥子の指揮に全員が頷き、方針が確定する。
現在の時間は9時頃。定期放送の12時までには約3時間の余裕があり、休憩を摂るには十分な時間だろう。
ペアは例の如く天子とルーシー、アキレスと美弥子の二人一組だ。尤もこれは、天子達の希望によるものだが。

「わたくしたち四人がこうして集まれたのは幸運ですわ!
 このままチームを大きくしてゆき、ゲームを破壊しますわよっ!」
「言われずともそのつもりだぜ。あのアジとアリスとかいう女ども……お灸を据えてやらないとな!」

掲げられる正義の旗は小さい。だが、決して無意味などではない。
旗を見たものが一人、また一人と増えていき、最後は大きな光の集団となるだろう。
バラバラではあるが、この殺し合いで最も協調性のある第一のチームだという事は――事実だ。





【E-7/商店街/喫茶店内/一日目 午前】
【天穹院美弥子@能力者高校】
[状態]:健康
[装備]:緋色のリボン@能力者 ベレッタ90-Two (残弾15/15)@能力者高校
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いの破壊、生存。
1.殺し合いに反対する者を集め、この喫茶店を拠点にチームを結成する。
2.ルーシーさん、天子さん……いいお友達ですわね。
3.時間があれば真雄、三橋、橘、大輔の捜索。
4.能力の制限に対する不安。

※能力には制限が掛かっており、制圧火器、対物ライフル、スナイパーライフルの生成は不可能です。
 また、その他の銃器の生成にも精神を消費する為連続での使用は厳しい状態です。


【アキレス・イニゴ・ブランチ・セペダ@境界線】
[状態]:健康
[装備]:デザートイーグル(残弾8/8)@能力者高校
[道具]:基本支給品(食料小消費) モンキーレンチ@学園都市
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いの破壊、生存。
1.殺し合いに反対する者を集め、この喫茶店を拠点にチームを結成する。
2.なんだかよく分からないけど、纏まったようでめでたしめでたし。
3.ベティは……いないかな。


【隋土天子@旧俺能】
[状態]:健康
[装備]:涙の剣@魔法少女
[道具]:基本支給品 DOSU@新俺能
[思考・状況]
基本行動方針:仲間と協力し、ゲームから脱出。
1.殺し合いに反対する者を集め、この喫茶店を拠点にチームを結成する。
2.オクタヴィアの無事を確かめねーと…
3.相良遥歩について気がかり。

※本編トゥルーエンド後からの参戦です。


【ルーシー=グラディウス@旧俺能】
[状態]:健康
[装備]:妖刀叢雲@境界線
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:仲間と協力し、ゲームから脱出。
1.殺し合いに反対する者を集め、この喫茶店を拠点にチームを結成する。
2.……信じなきゃ、仲間を。
3.オクタヴィアさん、鏡子さん…どうかご無事で。
4.相良遥歩について気がかり。

※本編トゥルーエンド後からの参戦です。


【涙の剣】
魔法少女のメリー・メルエットが所持する、錆びついた螺子を素材に鍛冶魔法で作った小人サイズの剣。
無色の刀身は水で濡れて水晶のように輝いている。
水の魔力を持ち、刀身から溢れ出る水を自在に操ることが出来る。
剣自体はメリーサイズの為殺傷能力は乏しく、水の操作が要となる。

108音楽のおくりもの ◆r7Y88Tobf2:2016/09/10(土) 23:59:35 ID:p8T3DASU

「……僕が、あの人を死なせたのか……?」

頭を抱え苦悶の表情を浮かべる少年、桐生真雄は静かに会場での出来事を思い返していた。
このバトルロワイヤルの元凶であるアジ、そしてアリスの目の前に立ち反抗を決意した自分。
だがその直後、まるで自分らに見せつけるかのように名も知らぬ女性の首輪が爆発される事になってしまった。
その原因の一端は間違いなく自分であり、結果その惨劇を目の前で見せられ嫌でも思い知らされてしまったのだ。
人が死ぬ光景を、それも自分の目の前で見てしまったのだ。忘れられるわけなどないだろう。

「…………」

首筋の枷にそっと触れる。
指先に伝わるのはひやりとした無機質な感触で、今自分の命が風前の灯だという事を実感させられる。
思わず頭部を失ったヘレネの遺体を思い出し――込み上げられる胃液が喉を焼いた。

「…ダメだ、立ち止まってたら僕も……」

マイナスな思考を振り払うように首を振り、言い聞かせるように独りごちる。
そう、まずはやるべき事がある。ここが何処なのか、そしてデイパックの中身を見なければならない。
しかし、流石に街路の中で呑気に支給品確認などしていたら殺してくださいと言っているようなものだ。
手頃な施設でも見つけて中に入ろう。そう考えた真雄の視界に映ったのは、一棟の銭湯だった。





「翼に進、美弥子に大輔……勢揃いだな……」

銭湯内の休憩所にて、参加者の名が綴られた名簿を開き静かに知人の名を呟く真雄。
三橋翼、橘進、天穹院美弥子、有坂大輔――全員同じ高校の生徒であり、翼と大輔に関しては友人と言える仲だ。
一刻も早く合流したいのが本音だが、彼らも動き回っていると考えるとそれも難しい。
だからといって一人でこの場に留まり再会を望むのは……絶望的だ。

「あー…こういうの、苦手なんだよねー…」

彼の言う”こういうの”、というのは殺し合いの事ではなく計画を立てる事である。
大体流れに身を任せてきたが故にあれこれと考え込むのは好ましくなく、どうにも上手くいかない。
だからこそ真雄の導き出した答えは”気分によって”、というなんとも気楽な考えだった。

「……っと、…楽器…?」

次に真雄がデイパックから取り出したのは、変わった形状をした弦楽器だった。
三味線のような見た目でありながら、その手触りはギターを彷彿とさせる。
一緒に出てきた説明書のような紙に目を通してみると、どうやらこの楽器の名前は《Somnium》というらしい。
キラキラと煌く雲と花の透かし模様は真雄の目を惹き、同時に美しいという感情を抱かせた。
しかし何もただの楽器という訳ではないようで、サイドの部分のカバーを外せば鋭い刃が顔を出す。
一応武器にはなるだろうが取り扱いは難しいだろう。しかし、真雄にとってはこれ以上ない程の当たりだった。

109音楽のおくりもの ◆r7Y88Tobf2:2016/09/11(日) 00:00:29 ID:p8T3DASU


(……これがあれば、僕の能力も使える……!)


桐生真雄の能力、それは音に意思を乗せるというものである。
意思の乗せられた音を聞いた物はそれを受け取り、例えば「切る」意思を持った紙ならば刃物のような切れ味を持つ。
普段は音楽プレーヤーから流れる音を使用していたが、音ならばそれに限った話ではない。
無論自分が演奏しなければいけないというデメリットはあるものの、無手よりは遥かに心強い。
試しにポロン、と音を鳴らしてみる。澄み渡った音色からは余程の高級品であることが伝わった。

なんにせよこれは重要なキーアイテムだ。
丁寧に手元に置き、再びデイパックを漁り出す。
と、真雄の指先に触れたのは、一冊の分厚い植物図鑑と赤色のマントだった。

「……これは……」

植物図鑑に至っては説明書もない上に、その中身も花や草の事ばかり記述されている。
パラパラとページを捲ってみるも最後まで魔導書のまの字も見えず、俗に言うハズレアイテムなのだと理解した。
そしてマント。こちらも一見ハズレのように見えるが、こちらの方は簡素な説明書が付属されていた。

(……おぉ、中々いいな……)

説明書によると、このマントには対象を”隠す”能力があるらしい。
無論それは人間も例外ではなく、これを羽織れば手軽に透明人間が完成するというわけだ。
習うよりも慣れろ。マントを羽織り首元で結んで、姿見鏡の前にひょこっと移動する。

「…お…おぉぉ…!?」

するとどうだろう、鏡には背景が写し出されるだけで女性的な真雄の顔は完全に消失していた。
思わず驚愕の声を漏らしハッと口を塞ぐ。しかし、その動作すらも目の前の鏡は写してくれない。
半信半疑ではあったが実践してみて確信した。この支給品は指折りのアタリアイテムだと。
自分が透明になるなど子供時代の夢であるが故に、年相応に気分を高揚させてしまう。
しかし残念ながら今彼が目の当たりにしている状況は地獄のデス・ゲーム。
折角透明化して燥いでいても、存在がバレてしまっては凄惨な未来が待っている。
取り敢えずマントを羽織った事で身の安全はぐんと上昇した。ならば、行動あるのみ。


「よし、危険が及ばない程度に行動しよう……!」


そう決意するやいなや、手元の弦楽器を拾い上げ銭湯の出口へと早足で向かう。
だがその途中で彼の行き先を阻むように立てられた姿見が、宙に浮かぶ弦楽器を写していた。
慌てて弦楽器をデイパックに仕舞い込む真雄。――すっかり忘れていたが、このマントは被った物にしか効果がない。
透明人間ではなくポルターガイストになってしまうという最悪な結末に至らずに済んだ事を、彼は心から安堵した。

(透明化中は攻撃できない、か……ま、仕方ないか)

新たに発覚したデメリットは大きいものの、やはり透明化に比べればお釣りが出るものだ。
気を取り直して、真雄は緊張と僅かな好奇心を抱きながら扉に手を掛けた。






【C-6/銭湯付近/一日目 朝】
【桐生真雄@高校】
[状態]:健康 隠恋慕により透明化
[装備]:隠恋慕@高校
[道具]:基本支給品 植物図鑑@旧俺能 魔導式六弦琴斧《Somnium》@旧厨二
[思考・状況]
基本行動方針:この殺し合いを終わらせる。
1.まずは仲間を見つけなきゃな。
2.高校のメンバーと合流したい。
3.首輪の解除法を見つけ出す。

【魔導式六弦琴斧《Somnium》】
旧厨二の【倚斧旋律】、マヤ=フィオレットが所持する弦楽器。
ラテン語で「夢」の名を関しており、三味線のような形状にアコースティックギターと似た素材で作られている。
所々に雲と花を象った透かし模様があしらわれており細かな造形が美しい。
見た目はただの楽器であるものの、精巧かつ頑強に作られており、一級品の音を奏でつつちょっとやそっとじゃ傷もつかないほど。
更にサイドの部分が鋭い刃として形成されており、フィンガーボードを握って振るうことで、斧のように扱える。
刃部分は怪我防止のために普段はカバーで覆っている。

【植物図鑑】
旧俺能のルーシー=グラディウスが所持している植物図鑑。
様々な植物の事が記載されており、分厚い。

【隠恋慕】
高校の病神虚虚虚が所持するワインレッドのマント。
この中に隠れればステルス効果が付与され、周囲から見れなくなる。
しかしあくまで姿を隠すだけであり、気配や足音などは遮断することはできない。

110名無しさん:2016/09/14(水) 15:40:22 ID:M4/OMZk2
【???/1日目 午前】

彼の者は何時だって突然であった。不意に目の前を埋め尽くす絶望の、その色は白い。
白は何色にでも染まるなんて、そんな話は嘘だ。目が眩む程の絶対の純白は遍くモノを呑み、他色の存在など一片たりとて許さないだろう。
純粋故の無垢、無垢故に孕む狂気は誰に理解される事もない。否、理解する事など出来はしないだろう。無垢なる純白に生物は耐えられやしないのだから。
それに比べ純黒のなんと心地の良いことか。何も見えぬ黒の中、何も見る必要の無い漆黒の闇は正しく己のみを見つめる事が出来る。
他を閉ざし自己のみに耽る。臆病の色。さりとて生物は闇を恐れ本質的には求めている。無間の安心感が約束されたその色を。

「……ぼちぼち動き始めたみたいだな。早速おっ始める奴らにチームを組む奴ら……くくくっ、劣等共が無い知恵絞ってるサマは滑稽じゃねぇか」

純白の部屋に備え付けられた大型モニター。それを眺めほくそ笑むのは純白のドレスを身に纏う女性、龍の眷属アジ=ダハーカだ。
モニターに表示されるのは周辺地域の地図と、そこに点在する赤い印は参加者たちを縛る枷が機能している証。
つまりモニター上から赤い印がひとつ消えた時、ひとつの命がこの狂気めいたゲームの犠牲となったという事を意味している。

「しっかし監視カメラまであるとは便利なもんだな。これもお前さんの力なんだろ?」

モニターから視線を外し振り向くアジ=ダハーカ。その先に居るのは勿論このゲームのもうひとりの主催者、アリスと呼ばれた少女であった。
アジの問い掛けにアリスは傾けていたティーカップをソーサーへと戻し、そしてくすりと微笑む。
椅子に腰掛け紅茶を嗜むその姿だけみればただの少女。しかし内面に秘めしモノを直人が窺い知る事など叶わず、龍であるアジですらアリスの金眼に映る世界を見極められずにいた。

「ふふ、『ソレ』では全てを把握する事は出来ないけれど、でもそうでなくてはつまらないわ。
これはあくまでゲームなのだから、イレギュラー要素には期待するものでしょう?
決まりきったレールの上で、ニンゲンたちが只管に殺し合うのを見てたって何も面白くないもの」

大型モニターの脇を固める様に配置された小型のモニター群。そこには各所のリアルタイムの映像が映し出されている。
アリスの力によって生み出された動植物が目となり耳となり、ゲーム会場の至る所で参加者たちを監視しているのだ。
その映像がこのモニタールームに映し出されているのだが、その目は参加者ひとりひとりについて回る訳ではない。つまり敢えて不正を見逃す可能性を作っているという事だ。
しかしアジ=ダハーカにはそれが面白くない。アリスが何のつもりなのかは分からないが、アジにはアジの確固たる目的がある。
アリスの道楽めいた酔狂に付き合ってやる暇も義理もない。参加者たちに付けられた首輪を盾に、ルール通り滞りなくバトルロワイヤルを遂行する事が己の目的への最短距離だ。
誰が死に誰が生き残ろうがアジにとってはどうでもいい事である。危惧する事は参加者が団結して運営に牙を剥く事。勿論ある程度は想定内ではあるのだが、それでもイレギュラー要素や不安要素の発生は喜ばしい事などではない。
自身の目指す頂、その目的の為だけにこのイカれたゲームの主催に与したアジにとって、それ以外のモノは全く見る必要の無い瑣末な事象に過ぎないのであるから。

「……ケッ、まぁお前さんが何を考えてどうしようが別にいいけどよ。
そんかわし私も私で好きにやらせてもらうからな? もし邪魔しようってんならそん時はてめぇでも容赦しねえぜ」
「まあ怖い。怖いわ怖いわ。ふふ、安心してアジさん。私も自由にさせて貰うもの、貴女も好きになさって?
きっと私たち最高のパートナーになれるわ。ね、アジさんもそう思うでしょう? だからいいの。いいのよいいのよ、これでいいの」

釘を刺すようなアジの視線であったが、アリスは微笑みを湛えて受け流す。
そうして徐ろに立ち上がれば右手で円を描くように空間を撫でる。すればそこに歪みが生まれ、喰い破るようにゲートが口を開けた。

「では、ではでは私少し遊んできますので御機嫌よう」
「遊ぶ……? おい、どこに行くつもりだ? てめぇ、まさか参加者と遊ぶってことじゃないだろうな?」

アリスは無言だ。しかしアジに向かって浮かべた表情が、その問いに対する肯定と捉えるには十分過ぎるものであった。
歪む小さな唇を上品な所作で包み隠すも、その細い指に遮られた口角は明らかに嗤っているのだろう。

111名無しさん:2016/09/14(水) 15:41:05 ID:M4/OMZk2
「バカかてめぇは!? 私らが直接ゲームに干渉するなんて、バトルロワイヤルの根本からぶっ壊すようなもんじゃねえか!
あいつらの、私ら主催に対する不信感と敵対心を煽るだけだ! 結束されるのが一番面白くねえのはてめぇもわかってんだろ!?」

アジは激昂する。当然だろう、理不尽なゲームに理不尽に参加させられ、あまつさえそのルールすら運営者側の匙加減によって捻じ曲げてしまおうというのだ。
アジの主張はマトモであり至極正論である。目的が何であろうと、バトルロワイヤルという体でこの様な催しを開催しているのだ。アリスにとってはどうなのかわからないが、アジに限れば遂行の綻びとなるものは看過できるものではない。
参加者ひとりひとりの力でみれば自分に及ぶべくも無いとの確信はあるが、その力が個から群となれば話は別だ。如何に劣等と断ずれども、彼らは無力なる烏合の衆ではないのだから。

「それが何か問題かしら? ふふ、アジさん。貴女の目的はこのゲームを運営するコト?
違うでしょう? ええ、きっと違うわ。だって貴女の瞳はずっと遠くを視ているもの。
だめよだめ。いけないわ、手段にとらわれては。本当に大事なものが視えなくなってしまうから。
それに、さっき言ったでしょう? お互い好きにしましょうって。そんなに怖がっていてはらしくないわ、アジさん。
ふふふ……いいわ。それでも私を止めるのならば……いいのよいいのよ、それでもいいのよ。怖がりさんには『枷』をつけてあげても。
そうすればきっと、きっとルールとやらが貴女を護ってくれるでしょうから」


――ざわ。


部屋の空気が一瞬にして重くなる。まるで重力の井戸の底、ふたりの視線は交錯していたがやがてアジはその眼を逸らした。この世の全てを映していながらそれでいてどこも見ていない様なアリスの金眼に気が触れそうになる。
アジは総毛立つ思いであった。アリスの挑発的な態度に対する怒りではない。まるで無防備な背中、その素肌を鈍く冷えた刃で撫ぜられたような寒気と、恐れ。
何故あんな眼が出来るのだろうか。どう生まれどう生き、どんな思念を持っていればあの様な瞳に至るのか。アジには理解できなかったし理解したいとも思わなかった。

「……チッ、勝手にしろ。そのかわり私に尻拭いさせる様なことになったら、てめぇマジで許さねえからな」

アリスに背中を向け、モニターに視線を戻すアジ。アリスは満足した様にくすりと微笑み、そして口を開けたゲートの、ぽっかりと覗く深淵へと消えていった。
結局アジがアリスの我儘に折れた形になったが、今はそれでいい。アリスの目的は未だわからないままであるが、自身の頂はしっかりと見据えられているのだから。
不要な争いは避け、求められた役割を淡々とこなしていればいいのだ。雌伏する事には慣れている、どんな事でも耐えてみせよう。生き残り、己が理想をその手に掴むその日までは。

「バケモノめ……。至高だか新生命だか何だか知らねえが、支配者気取りで見下ろしてられるのも今だけだ。
いずれ私が全て手に入れてやる……! 全知も! 全能も! 結局は私に全てひれ伏す運命なんだからなぁっ! ククク……ハハハハハハハハハハッ!!」

112名無しさん:2016/09/14(水) 15:42:13 ID:M4/OMZk2
【映画館/1日目 午前】

「先程の映画、二時間半程であったか。既に何処かしらで戦闘が行われていると見るべきであろう。
つまり我々は後発組、より一層の慎重さが求められる事となる。あまり軽はずみな行動は控える様」
「お前のせいでな! ……ったく、おっさんと呑気に映画なんて観てる場合じゃないってのに……ルーシー……」

映画館を後にするふたり。陽光に照らされた木山鏡子は瞼を細めながら友人の名を呟く。
かつて己が命を賭しても彼女と、彼女の世界を護りたいと思った。そしてそれはこの場においても変わらない。
一度死んだ身、それがどうして再び肉体を持ってこの場に現界しているのか確かなことはわからないが、恐らくはあのアリスの力によるものだろう。以前もそうであった様に。
木山鏡子。彼女は自由世界と言われるリベルタスにおいて一度死んでいる。最初に蘇った時はアリスの強力な力により魂が現世に縛り付けられた為だ。そして今回、二度目の復活に鏡子は自分でも驚くくらい冷静であった。
それは自分の為すべき事がわかっているからだ。最初に蘇った時と何も変わらない。大切なモノを護る――自分の存在理由はそれだけでいい。かつてそうした様に、またここでもアリスを斃しそれを為す。

「いつだって護ってやるさ……だから私が見つけるまで、死ぬなよルーシー」

少女の瞳に決意が宿る。絶対に折れる事のない覚悟と、明確で強靭な意志によるそれはたとえどんな事がこの先待ち受けていようとも決して濁る事はないだろう。

「ふむ、その齢にして見事なものだ。どのような半生を辿れば君のような少女がその様な瞳に至るのか、私にはわからないがそれだけ興味深くもある。
だが詮索するのは無粋というもの。今、この場においてはアリスの情報が君から聞けただけでも重畳だ」

木山鏡子の横に並び立つルーラー。その表情は白い仮面の下窺い知ることは叶わないが、感情映さぬその仮面とは裏腹に男の声は確かに人の感情を湛えたものである。
サーヴァントとしてではない現界、自分の為すべき事に戸惑いが無いと言えばそれは偽りである。しかしその意志か揺らぐ事は無い。
彼は人間が好きだ。どの様な愚かさを孕もうとも、同じ過ちを何度繰り返そうとも、それは人間であるが故。自身を含めてそれが人間なのだ。
鏡子から得たアリスの情報に偽りが無いのであれば、ルーラーは至高の存在を看過する訳にはいかない。至高の存在を許せば人類は終わる。今迄築き上げてきたその歴史も、そしてこれから辿る道程も、その先に待つ来るべき未来も。
全てが虚無へと還る。鏡子の話はルーラーにそう確信させるだけの情報であり、何より己が眼で見たあの力はそれを裏付ける確証としては十分なものであった。

「……終わらせるものか。あの運営者を野放しにしては何れ全ての世界でこの様な残酷な茶番が……否、さらなる凄惨が待ち受けていよう。
因果はこの場にて断つ。血濡れた道になろうが、クク……何、私には似合いの道だ。征くぞ鏡子、はじめよう」
「けっ、何いきなりやる気出してんだこのおっさんは。それと、ひとつ訂正してやる。私には……じゃない。私達には、だ」

希望。それは人が未来を望む夢。守るべきモノに抱く望み。高潔な精神に依ったそれは如何なる兵器よりも靭く、如何なる邪よりも尊いモノ。
希望は人を歩ませる。歩んだ先にそれがあると信じているから。見据えていれば見失わぬと信じられる程に眩いモノだから。その歩みを止めるモノがあるとすれば、光を包み隠し道標を喰らう、絶望。

113名無しさん:2016/09/14(水) 15:43:20 ID:M4/OMZk2
「……? 鏡子、待て。何か来る」

歩みを止めるルーラー。鏡子を制する様に口を開く。その視線の先には僅かな、しかし確かな空間の歪みが確認できる。そしてそれは加速度的に大きくなって。

「……っ!! 知っている……! 私はアレを見た事があるっ……!! 忘れもしない……忘れられるもんか……!!」

絶望。それは人の未来を奪うモノ。望むモノを、見ていた光を包み隠し見えなくするモノ。
それは何時だって突然だ。突然に現れて人の明日を奪う。それを前にある者は首を垂れある者は背を向けて、そしてある者は喰われてしまう。
しかし人は知っているのだ。知っていたのだ。ただ自分の目指す光が眩しすぎて、何時だって側にある絶望に気付かないだけなのだ。気付かないフリをしているだけなのだ。
だからそれに直面した時、人は何も見えなくなってしまう。そして人は怒る。その理不尽さに。そして人は泣く。その無慈悲さに。
ぽっかりと口を開けて待つそれに立ち向かう事が出来るのは極僅か、一部の人間だけだ。既に絶望を知り、抗う術とその力を持った戦士だけ。


「――アリスッッ!!!」


歪みは軈て空間に大穴を穿つ。開かれた深淵の窓口――そのゲートから現れたのは紛れもない、このゲーム主催のひとり、アリスであった。
口を開くが先か鏡子は彼の者の姿を視界に捉えた瞬間、その名を吠える様に呼び、そして駆けた。それを制止しようとするルーラーの声は最早鏡子に届いてはいない。

ギィンッ!

木霊する金属音が空気を揺らし、衝撃波となって空間を空間を薙ぐ。長大なアナザームーンを槍の様に構えての突撃は、いつの間にかアリスの手に握られていた漆黒の剣によって阻まれていた。

『随分なご挨拶ね、鏡子さん? お久しぶり、と言っても死んでいた貴女にそんな感情があるのかはわからないけれど』
「うるさい……! 死んでたのはお前も同じだろ!? どうやって生き返ったのかはわかんねーがとにかくもう一回殺してやるよ!!」

鍔迫り合いの中ふたりは視線を交わし言の葉を交わす。必死の形相の鏡子とは対照的にアリスは嬉しそうな微笑みを湛えている。
それが気に食わないとばかりに鏡子は歯軋り、アナザームーンに更に力を加えていく。しかしどれだけ力押ししようとも、その刃とアリスの首までの距離が途方もなく遠いものに感じられてしまう。

「相変わらず気に食わねーツラしやがって……! すぐに吠え面に変えてやる!」
『ふふ、酷い言われよう。貴女こそ相変わらず口が汚くてよ、鏡子さん?
それに勘違いをしているようだから教えてあげるわ。私はあの時死んでなんていないのよ?
貴女たちが殺したのは私と同化したマリアフォキナの魂。次元の狭間に放逐された私の身体はやがて意志を持ち今に至るというわけ。
きっと説明しても理解できないと思うからどうでもいいのだけど。だってそんな事は重要ではないもの』
「ああ……! どうでもいい! 殺せていなかったのなら今この場でこの私が殺してやるだけだ!! そうすれば後はあのアジとかいう女を殺ってこのふざけたゲームも終わりだからなぁ!!」
「くす……おかしいわ鏡子さん。わかっている筈でしょう? 貴女ごときではどうにもならないってことくらい」

アリスが言い終えるや否や鍔迫り合いの均衡が崩れる。黒剣を薙ぎ払う様に振るえばいとも容易く鏡子の身体を後方へと弾き飛ばしたのだ。
互いに一合目であるが鏡子は紛れもなく全力であった。それに比べてアリスは持てる力の一体何割であったのだろうか。猫を撫でる程度、アリスにとってそのレベルでも鏡子たち人間を相手にするのに訳はないのである。

「……鏡子、軽率は控えよと言った筈。我々ひとりでどうにかなる相手ではない事は君が一番よく知っているだろう?」
「ちっ……くしょう……! 悪い……あいつの顔を見たら身体が勝手に動いちまった。
けど、ここで奴を殺るのに躊躇う道理はねぇ……! 手ェ貸せ、ルーラー!」

圧倒的な力の差を見せつけられようとも鏡子に怯んだ様子はない。何時だってそうだ。何時だって何度だって立ち向かっていったのだ。決して折れない心、それこそが木山鏡子最大の武器であり、心に携えた一本の槍だ。
しかしルーラーは躊躇いを見せていた。例の如く仮面の下の表情は見えないが、恐らくは難しい顔をしているのだろう。鏡子とは交換した支給品の槍――ニーズヘグを構えてはいるが、その穂先に戸惑いが見える。

114名無しさん:2016/09/14(水) 15:44:46 ID:M4/OMZk2
「……なんだ? お前アリスを前にして怖気付いたってのか? チッ、ならいい! 臆病者は去れ! 私ひとりでやってやる――」
「そうではない。思い出せ、我らの頸に付けられたこの枷を。これがある限り、我々は奴に勝つ事はできない。
どれだけ優勢に立とうとも、奴の操作ひとつで我々の命は終わってしまうのだからな。
故に一先ずは、この場は冷静になれ。機を待つのだ。我らの決戦は此処ではない」
「くっ……! くそ……!!」

ルーラーの言葉にハッとする鏡子。苦虫を噛み締めた様な表情を浮かべ地面を殴る。激情に任せて首輪の存在を完全に失念していた鏡子は、最初に見せられた首輪が作動した光景――ヘレネの死に様を思い出すと悔しそうにアリスを睨み付けた。

(……しかしどうする? 一先ず退却すると言ってもこの怪物が相手。そう易々と逃がしてくれる訳もない。
奴がこの我々の前に現れた理由はなんだ? 主催である奴らが直接我々に手を下すなどは考えにくい。何か別の目的がある筈)

ルーラーは鏡子とは対照的に冷静であった。退却する方法、アリスの目的。この場における最善策を模索する。その才は死して英霊となって尚健在である。

「……アリス、と云ったな。貴様の目的は何だ? 何故この様な不躾な理不尽を一方的に課し、更には何故我々の眼前に現れた?
よもや直接にその手を下そうと言うのではあるまい? 一体此処へ何をしに来た?」
『いいえ? 直接手を下しに来たのよルーラーさん。本来であればこんな事はしたくないのだけれど、鏡子さんは知ってしまっているから。私を一度は退けた、その結末を。
知っている、というのは面白くないもの。予定調和に胡座をかいてしまっては存在し得る可能性すら閉塞させかねない。
私は知りたいの。かつて私を次元の狭間に突き落としたあの力が、あの意思が真実であったのか。世界の選択が正しかったのか。
だからそれを成し得た事を知っている鏡子さんは邪魔なの。まだ見えぬ可能性に辿り着くには経験は不純物に他ならないわ。
ふふ、貴方は鏡子さんから私のこと聞いているのでしょう? 残念だけどルーラーさんも此処で死んでもらうわ』
「馬鹿な……何を、言っているのだ……!?」

アリスから返された言葉はルーラーが想定していないものであった。主催側がゲームに介入するなどデメリットはあってもメリット等何もないではないか。
普通に考えればその結論に至る筈。アリスの思考も言葉も、ルーラーには全く理解が及ばない。瞬時に理解できた事はひとつ、突き付けられた絶望のみだ。
ルーラーは自身の身体が強張っていくのを感じた。死に対して恐怖しているのではない。この首輪がある以上何も抗うことすら許されず、眼前の絶望を甘んじて受け入れるしかない事実。それに対する怒り。

115名無しさん:2016/09/14(水) 15:45:28 ID:M4/OMZk2
『……自分でも笑ってしまうけれど、私は求めているのよ。だから貴方たちにも、可能性をあげるわ。その為にわざわざ貴方たちの前まで出向いてきたんですもの』

す、とアリスが手を翳す。その直後、鏡子とルーラーの頸に存在した違和感が消えた。ふたりを縛る枷が外されたのだ。
想像し得る事象を遥かに超えた、しかし紛れもない現実。ありえない現状を受け止め、理解するためにふたりは言葉を失った。
それを見てアリスは嗤うのだ。淑女の様に慎ましく、少女の様に無邪気に。

『ふふふ、それで戦えるのでしょう? なら思う存分見せて? 貴方たちが護ろうとしているモノを。貴方たちが希望と呼ぶモノを。
果たしてそれらがこの私の前で真実であり得るのか。可能性として存在できるモノなのかどうか。
このアリスの――三千世界の高みに至り、生まれ出でしその瞬間より未来永劫を過去とした万物の霊長――至高のアリスの眼の前で!!!』

瞬間。世界が反転する。否、視覚的には何も変わってはいない。ただそう感じてしまう程の絶対的な力の奔流がアリスという少女の体内に渦巻いているのがわかる。
それはアリスの周囲の空間を歪ませる程に濃密で、等しく命を持つモノとして疑いを持つ程に禍々しく、そして畏れと憧憬を感じる程に神々しくもあり。


――これが至高《アリス》


鏡子とルーラー。抱いた感情の趣は違えども脳裏を支配する言の葉は同じ。そしてふたりが倒すべき敵を認識し戦闘態勢に移行するタイミングも同じ。

「願ったり叶ったりではないか。なれば今この瞬間を決戦と断じるに些かの躊躇も持たぬ。はじめよう」

穂先を少し下げて腰を落とし、水平にニーズヘグを構えるルーラー。槍兵《ランサー》のクラスに恥じぬ戦闘能力は持っている。
元々の獲物である聖槍と聖杯は現状持ち合わせていないが、それでも彼には虎の子の宝具があるのだ。この様なチャンスを逃す道理はない。

「アリス、変わってないなその慢心は。それがお前の眼を曇らせてるって事をもう一度わからせてやるよ! お前の居場所は私たちのこの世界の、どこにも無いって事もな!!」

鏡子も槍を得物としていたが、ルーラーと支給品を交換した為に手元に構えるのは長剣だ。だが長物の扱いには慣れている。それに彼女自身の槍は折れず曲がらず心の中に。
その意思の槍がかつてアリスの齎す虚無を貫き打ち払ったのだ。大切な友の為、その世界の為に鏡子は三度牙を剥く。己が命に代えてでも喉元に食らいついてみせると。

くす。

アリスが笑みを、その口元を歪めた瞬間鏡子とルーラーは駆けた。そのタイミングは同時。即興のタッグに高度な連携などは求めるべくもない。故に戦闘の中で互いが互いをフォローし合うのがベストだと瞬時に、そして同時に理解した。
彼我の距離を一気に詰めたふたりの刃、その鋒がアリスに届くその時、これも同時だった。ふたりの視界を漆黒が埋め尽くしたのは――。

116名無しさん:2016/09/14(水) 15:46:25 ID:M4/OMZk2
『少しは期待したけれど、やっぱりこんなものでしょうね』

何が起きた? 短時間だが意識を失っていたのだろうか。アリスの声が耳に届けばルーラーは地に伏した自身の身体をニーズヘグを支えに起き上がらせる。
状況を確認すれば衣服が所々損傷している。そして顔に手を当ててみれば仮面が無い。どうやら破壊されてしまったらしい。眉間を伝う温かいモノは額が割れたのだろう。

「何を……貴様、何をした?」
『ふふ、それすらもわからなかったのかしら? 少しだけ力を放出しただけ。殺すつもりでやった訳ではないけれど、貴方は軽傷で済んだみたい』

恐らく魔術に対する抵抗がルーラーを軽微なダメージで済ませたのだろう。それでもアリスの扱う膨大な魔力は人間が使用する魔術とは根本から違うものであり、アリスにとって簡易的な魔力放出でも無力化には至っていない。
鏡子は、とルーラーが視線を動かしたその先。彼女は地に伏しぴくりとも動かない。呼びかけても返事がないことから完全に気を失っているか、あるいは――。

『仮面で疵でも隠しているのかと思っていたけれど、そういう事でもなかったようね? お髭がダンディズムで、ふふ……まるでどこかの世界の独裁者みたい』
「……貴様の想像通り、そのどこかの世界の独裁者が私だ。真名をアドルフ・ヒトラーと云う。まさか異世界の人ならざる者にまで知られているのは流石に驚愕であるがね」
『まぁ貴方が誰であろうと私にとってはどうでもいいのだけれど。ではどうしましょうか、アドルフさん。潔く諦めますか? 元より人間が私に立ち向かうなんてやっぱり無理だったのよ。自刃するなら止めはしないわ』
「戯言を。鏡子が動かないのは好都合、余計な気を割く必要が無いのだからな。貴様は私が、否。我ら最強の独逸第三帝国が此処で幕を引いてやろう!」


「其は永劫の第三帝國《ドイチェス・ライヒ》」


――宝具解放。ルーラーの持つ宝具のひとつ『其は永劫の第三帝國(ドイチェス・ライヒ)』
それは固有結界を展開し、ルーラー自身の心象風景を実像と共に映し出すものだ。今アリスの視界に映っているのは独逸第三帝国が首都、ベルリンの街並みである。
この結界内でルーラーは己の能力が強化されるが、それでもってアリスと直接刃を交える事などはしない。彼には彼と同じ夢を見、志を共にし、その力となる者たちがいるのだから。

『面白い力。すごいわ、街をひとつ再現するなんて。人間でもこんな芸当ができるのね。でもそれでどうするの? まさか死地を自分で選んだ訳でもないのでしょう?』
「ああ……私のでは無く、貴様の死地となる。人間を軽んずる貴様は人の力と、その叡智によって死を迎えるのだ!」


「最終秘術・最後の大隊《ラスト・バタリオン》!!!」


ルーラーは吠えるように叫べば大きく跳躍し、そして着地。空中に? 否。ルーラーが着地したのは『戦艦』の艦橋だ。
アリスの視界を埋め尽くす程に巨大なその雄姿は、世界最大の80cm砲を主砲とし、それを8問備えた計画上の怪物――H45級戦艦であった。
ルーラーを見上げる格好となったアリス。やがてその耳に響くのは夥しい数の、しかし規則正しくリズムを奏でる軍靴が打ち鳴らす行進の足音。
そしてそれを掻き消す様な轟音は、空を埋め尽くす程の戦闘爆撃機の大編隊。国防軍の、独逸第三帝国一国の火力が正に今此処に集結したのである。アリスと云うひとりの少女を斃す、その為だけに。

「さぁ、はじめるぞアリス! これぞ我らが戦争――人を、人類を嘗めるなぁ!!!」

117名無しさん:2016/09/14(水) 15:47:34 ID:M4/OMZk2
ジーク・ハイルの大号令と共に火を吹く銃火器、雨の様に降り注ぐ爆弾、出鱈目な程に巨大な砲弾を吐き出す砲門。独逸第三帝国が、人類史が誇る暴力が業火となりてアリスを包み込む。
凡そ一個の生命体を殺すには過ぎた火力、それはルーラー自身も理解している。決して狂奔した訳ではない、力に溺れそれを振り翳し嗤う男でもない。
判断したのだ、此処で為さねばならぬと。決戦なのだ、人類史の存続を願う。人の未来は人によってのみ選び取られなければならない。人でない彼の者にそれが為されるなど、人類を渡す訳にはいかないのだから。

「……惜しむらくは。私と、我が独逸が未だ存命であったのならば、必ずや貴様のその力を解析し人類の力とする事が出来たのだが……それは最早叶わぬ夢。フフフ、フハハハハハハハハハハ!!」

ルーラーは嗤う。英霊となりて尚人として夢を想う自分に対して。人をやめて尚人類史の糧となる物を求める独裁者に対して。
ルーラーの嗤い声がベルリンの空に木霊する頃、アリスを包み、その全てを食らいつくさんとしていた炎は不自然に消失していた。その残火すら一片と残さずに。

『人の飽く無き欲求、飽く無き欲望。それが生み出すものを人の叡智と呼ぶのなら、やはり人間は愚かと言わざるを得ないわ。
でも、そうね。持たざる者が憧れ、欲するのは当然のことなのかしら? 全てを持つ私には理解できないけれど。
ふふ、理解できないものを愚かと片付けてしまうのは、私の思考も些か貧弱かしら?』

ルーラーの耳に届いたアリスの言の葉は眼下からではない。ルーラーの足場、宙に浮かぶ戦艦を更に見下ろす様にアリスは浮遊していたのだ。
その姿は全くの無傷。信じられない事だが身に纏う衣服にすら損傷が無い。その光景にルーラーは驚愕し、それを隠す事なく面に見せる。正しく人間の表情であった。

「……貴様ッ!? どうやって――いや、それはいい。それは許そう。だが許せぬのは人を、人類を持たざる者と嘲るかッ!!!」

その表情は驚愕から怒りを孕んだものへ。ルーラーがニーズヘグの石突きで足元を力任せに叩けば、彼の周囲に飛行物体が出現する。人類が宇宙へ進出する礎となった――V2ロケットである。

『ああ、ルーラーさんいけないわ。そんなものでは私を斃すことなんて叶わない。所詮は兵器、所詮は道具。
ひとつことのみの為に作られたそれらに意思はないもの。例えどれ程の火力があろうとも意思無きものに力は無いわ。
それは私にとって玩具と何ら変わらない。力とは明確な意思によって為される結果なんですもの』

出現したロケットがアリスに向かって飛ぶことはなかった。理由は明確、ルーラーも瞬時に理解した。破壊されたのだ。ただそれだけの事。
アリスが片手を掲げればその掌に力が収束、漆黒の魔力の奔流は球体を形作る。それはバスケットボール大の大きさでありながら内包するエネルギーは筆舌に尽し難く。
V2ロケットが噴射炎を撒き散らし始めた瞬間、まるで黒い太陽の様なそれから爆発的なエネルギーが放出された。黒き光状となったアリスの魔力は全方位に発射され、国防軍を戦艦をロケットを、そして空を埋め尽くす爆撃機の全てを薙ぎ払った。
焼き払われる英霊たち、火の海と化すベルリンの街並み。轟沈する巨大戦艦とルーラーの眼に映るは正に終末。全てを吞み込み終わりを告げるメギドの火。

『ふふ、ここが結界の中で良かったわ。折角のフィールドが台無しになるところだったもの。
でももうここも壊れてしまいそう。私の力に耐え切れなかったのかしら? それともルーラーさんの命が尽きようとしているから? まぁどちらでもいいわ、同じだから』

燃ゆるベルリンに悠然と降り立つアリス。そしてゆっくりと、仰向けに倒れ伏したルーラーへと歩み寄る。トドメを刺そうというのだろうか。ルーラーはそれに気付いていながらも動くことはしなかった。
最早受け入れるしかあるまい。彼自身の力も、独逸第三帝国の全てを以ってしての結果なのだ。聖杯も聖槍も持たぬ今、自身に出来ることはもう何も残されていない。
あるとすればただひとつ。祈り、願うこと。同じ様に人類を愛するたちが、彼の者を打ち倒しその未来を護り繋いでくれる、そんな希望を――

118名無しさん:2016/09/14(水) 15:48:16 ID:M4/OMZk2
「勝手に諦めてんじゃねぇーーーーーーッ!!!」


声の主は木山鏡子。恐らく戦闘の轟音で目を覚ましたのだろう。地に伏すルーラーとアリスとの間に割り入る様に近接した鏡子はアリスにアナザームーンを振り下ろす。
不意打ちではあったもののアリスは後方へと跳び難なくこれを回避、そして息を荒げる鏡子をその金眼が見やる。

『あら、鏡子さん生きてらしたのね。相変わらず諦めが悪いわ。ひとりで出てきたって何もできない事はわかっているでしょう――』
「黙れ! できるできないじゃない……! お前に言ったってわからないだろうが、やらなきゃならないんだ! お前を殺すまで私は何度だって立ち塞がってやる!
――おいルーラー! お前自分の仲間が諦めてねーのに何でお前が諦めてんだ!? しっかりしやがれ!」
「……仲間……だと……?」

ルーラーは鏡子の言葉に重い半身を擡げれば、己の視界に映るそれに眼を疑った。燃え盛る炎の中ひとつ、またひとつと立ち上がる人影を見れば己が頬を伝うものを止める事など出来はしない。
親衛隊、独逸国防軍――最期は散り散りになってしまったが、確かに彼らとは同じ夢を見ていた。独逸の、ひいては人類の為と同じ希望を抱いていた同胞たちであり――仲間であった。

「おお……オオオオ……! 最早枯れたものだと思っていたが、これ程人間として諸君らと戦えた事を嬉しく思った事はない……!
我が独逸第三帝国が最大最悪の独裁国家であった事は認めよう……! だがそれと同時に、諸君らが居たからこそ……その鉄の意志があったからこそ我が独逸は人類史の誇りであるのだ!
全ては人類史その未来の為に――ジーク・ハイル!!!」

ルーラーの言葉に呼応するかのように立ち上がる英霊たちはその数を増やしていく。しかし皆が皆満身創痍、アリスを相手にまともに戦える状態でない事は明らかだ。
それでも彼らに宿る心は、人類の未来を願うその意思は決して折れてはいない。そして折れぬ人の意思は何よりも強い力となる事をかつて鏡子が証明していた。

『ふふ……あははっ! アハハハハハハハハっ! もう虫の息よ? 全員で掛かってもやられちゃったのに、今更そんなボロ雑巾集めてどうしようというの?
もう刃向かう牙も、立ち向かう力も何処にも残されていないじゃない。人間はそんなに戦うのが好きなの? もう可能性なんて何ひとつ残されていないのに』
「――いや、あるぜ。お前に突き立てる牙も力も、未来を切り開く可能性も! お前は知ってるはずだアリス! 一度その力に敗れたお前はッ!」

鏡子の身体が光を帯び始めるのを見ればアリスの顔から笑みが消える。アリスは知っているから……その光が何なのかを。アリスは見ているのだから……その光が齎した結末を。
その光は意思の光。決して希望を諦めぬと、未来を欲する人の意思の光。鏡子が心に携えた決して折れぬ槍のその刃の輝き。
どこか暖かで淡く、それでいて見るものを安心させるだけの力強さを感じられる光が鏡子のアナザームーンを包み込んでゆく。
アナザームーンは勇者の剣のレプリカであり、それ故元来宿している破邪の力は失われていた。だからこれは武器の力では無い。紛れも無く鏡子の内から湧き出る力だ。否、その光の……力の源泉は鏡子からだけではない。

『これは……このザラついた不快な光は間違い無くあの時の――』

かつてリベルタスにおいてアリスを次元の狭間へと送り返し齎された虚無を打ち払った光。それは人間たちの意思の力が起こした一種の奇蹟であった。
無論それは鏡子ひとりの力ではない。数多の人間たちの意思、明日を願う揺るぎなき希望が共鳴して力となったものだ。
そしてこの場においてもその奇蹟が顕現しようとしているのだ。鏡子とルーラー、独逸第三帝国の英霊たちの願いという名の意思の元。偶然などではない、奇蹟とは人々の想いが願いとなって共鳴し起こる必然なのだから。

「ああ、そうだ! 忘れたとは言わせねぇぞアリスッ!! これが私たちの、人間の願いの力!!」


「――神槍ッ!!! ロンギヌスだぁーーーーーッ!!!!」

119名無しさん:2016/09/14(水) 15:48:55 ID:M4/OMZk2
鏡子の咆哮――刹那、それと同時に『神殺しの神槍ロンギヌス』と化したアナザームーンを構え、持てる力の全てを振り絞りアリスへ向かって投擲する。
よく見ればロンギヌスを形作る光は曖昧であり、リベルタスで起きた奇蹟の時のように完全な状態で現界されていない事がわかる。
恐らくは依代となる人の願いの力、その規模が足りていない、小さ過ぎるのだ。しかしそれでも鏡子はこの一擲を躊躇することはない。死に体ながらも立ち上がった英霊たちの意思を無駄にはできない。
打ち出される様に投げられたロンギヌスは爆発的な速度で以ってアリスへと迫る。アリスは上方へと跳躍する事でそれを回避しようとするも、美しい光の尾を引きながらロンギヌスは何処までもアリスを追尾し、遂に穿つ。
上空で炸裂する光は超新星爆発の如く眩く世界を白く染め上げる。やがてその光が霧散すれば世界は色を取り戻す。在るべき世界、その光景も。

「最早見事と云う他にあるまい……どちらもな」
「ウソだろ……!? 悪い、あんたらの力無駄にしちまったよ……バケモノめっ!」

上空より落下したアナザームーンは在るべき姿を取り戻し大地に突き刺さる。そしてその直上にはアリスが未だ圧倒的な存在感を示しふたりを見下ろしていた。
どうやら先の一撃を左手で受け止めたのだろう。ドレスの左袖だけがボロボロに吹き飛び、掌からは赤い血液が滴っている。
やはり足りなかったのだ。アリスを斃す為にはもっと莫大な力がいるということだ。それこそ人知を超越した、奇蹟の様な力が。
しかしてふたりを見下ろすアリスの表情には焦りも、傷付けられた事に対する怒りすらもない。それどころかどこか悦びを得た様な表情にも見える。

『……血が出ちゃったわ。ふふ、この痛みは本物。やっぱりあの力は嘘ではなかった。
ふふふ……アハハハハハハハハっ! 嬉しいわ鏡子さん! 漸く、漸く確信を得る事が出来たのだもの! でもまだ足りないわ。こんなものではない筈よ。
ふふ、いいわ。一先ずはこれで満足。では御機嫌よう』

アリスはひとり嗤い、そしてひとり何かを得心し再びゲートを開けばふたりの前から姿を消した。突然の襲来、そして嵐の後。鏡子とルーラーは茫然とするしかなかった。
アリスが消えて数秒か数分か。魔力の枯渇によりルーラーの結界が崩壊し、彼らはの景色は再び映画館の前へと姿を戻す。

「……何だってんだ、一体。クソっ……! アリス……! 次は必ずぶっ殺してやる」
「……取り敢えずは、良い。我らだけで太刀打ち出来ぬ事は身に沁みた。そして何をする前に休息が必要だ。暫くはまともに戦えそうにない」
「悔しいけど、私も同感だ……ルーシー、もう少し……待っててくれ……」

鏡子は言葉を紡ぎ終えると倒れる様に地に伏し、そしてすぐに寝息を立て始めた。戦闘中既に限界を超えていたのだろう。暫くは起きそうもない。
ルーラーはやれやれと、自身も疲労で重くなった身体に鞭打ち鏡子を抱きかかえそのまま映画館へと戻り箱の中の椅子へと寝かせ、そして自身も着座しゆっくりと目を閉じた。
ふたりとも外傷だけで言えば致命的なものはないが、精神的な疲労と体力の消耗が激しすぎる。この先の事を考えればこの場で休んでおくのは賢明な判断である。
彼らを縛る枷は外され仮初めの自由を得たふたり。やがて目を覚ませば負傷の治療の為病院を目指し、さらに運営を打倒するための同志を探すだろう。
捕らえられ首輪を付けられた籠の鳥たちが、自由の翼を持つ二羽に対して何を抱くのかはこの時点では誰が知る由もない。

120その先に見るものは:2016/09/14(水) 15:54:19 ID:M4/OMZk2
【映画館/館内シアター 午前】
【木山鏡子@旧俺能】
[状態]:疲労(大) 火傷(小) 打撲(小)
[装備]:『アナザームーン』@境界線
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ルーラーと共闘する。出会った奴は話せそうなやつとは話す。話せないやつは倒す。
ライダーは倒せるようなら倒す。
1.アリス……必ずもう一度斃倒す! でもその前に少しだけ休憩だ。
2.ルーシー……必ず護るから。
3.とりあえずルーラーと協力していくか。
4.あの力……やっぱり幻なんかじゃない。

※アリス戦終結後、消滅する直前の状態です。
※アリスの能力などを知っています。
※ロンギヌスを発動するには少なくとも10人以上の願いを受ける必要があります。
※アリスにより首輪が外されています。

【映画館/館内シアター 午前】
【ルーラー(ランサー)@聖杯】
[状態]:疲労(大) 火傷(中) 打撲(小)
[装備]:『ニーズヘグ』@魔法少女
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:鏡子と共闘する。対話が可能なものとはできるだけ共闘したい。ルーシーと出会っても手は出さない。
1.運営サイドは極めて強大、しかし倒せなばならん。何をしても。
2.ライダー……天蓋……貴様らも来ているのか。
3.今は鏡子と共に行くことしか道はない。信じるしかあるまい。
4.鏡子のロンギヌス……あれは。
5.首輪が無い事が面倒の種にならぬ様にせねば。

※聖杯と聖槍は持っていません。
※『闘争の彼方』は魔力不足で使用できません。
※受肉しています。
※アリスの能力などについて鏡子から聞いています。
※アリスにより首輪が外されています。

『ニーズへグ』@魔法少女
魔法少女である紗奈の魔具
穂先に様々な属性を纏わすことができたり投擲時に手元に戻ってくるといった性能がある。
さらに、これは絶対に壊れない上に戦闘終了時に紗奈の手元に戻る。
だが、地面に突き立てたとき攻撃力を持った魔力を受けると地面から抜かれて紗奈の手元に戻ってしまう。
普段は万年筆となっていて魔法少女のコスチュームを纏う時にも使用する。

「アナザームーン」@境界線
ジョシュア・アーリントンがかつて保持していた剣。
エリュシオンにてかつて代々魔王を討伐し続けていた一族『勇者』の末裔が所持していた破邪の聖剣。…のレプリカ。
科学の発展した自由世界リベルタスにおいて何故か別世界である魔法世界エリュシオンの勇者を複製する計画が過去に実行されており、この剣はそのクローン体に装備させる為に開発されたもの。
外見、性能こそはコピー元まで後一歩といった所だが肝心の破邪の力は備わっていない。
本物の材質を再現することは不可能であった為、それに近い強度を持った特殊合金で代替している。
無限を象った両手剣並みの刀身の長さを誇る太身のロングソードである。
普段は不可視の粒子状態でジョシュアの周りを漂っている。光子転送によって何もない空間から取り出すことが可能。

/タイトル入れ忘れてました

121【最善への希求】 ◆r7Y88Tobf2:2016/09/15(木) 03:52:50 ID:QYZ6qcAA
歩き続けて約一時間ほど、イムカ達一行は無事病院地点へとたどり着いた。
ニアの体力を考慮し途中休憩を挟みながらであったため予定よりも遅れてしまったが、敵に遭遇しなかったのは僥倖と言えよう。
前方に病院が浮かび上がった辺りで、イムカはふと立ち止まり二人の進行を制した。

「待て二人共、私が先にあの病院に危険がないか見てこよう」
「えぇっ!?……ひ、一人じゃおっかねぇってんですよぉっ…?」
「同意。我々は今や一つの団、独りでの行動は身を滅ぼします。
 指揮を執る者が倒れたら崩壊を招く。それは、宗教においても変わりはないのです」

イムカの突然の提案にニアは勿論、今まで押し黙っていたアルトリアでさえも反対の意を述べる。
ニアの反対は予測できていたもののアルトリアまでも彼女に同意するとは予想外だった。
しかし予定は狂わせない。三人で足並み揃えて地雷原に突入するほど、イムカは愚か者ではないのだ。

「心配するな、仮に何者かに襲われたとしても大方は相手取れる自信がある。
 それでも危なくなった時は……そうだな、その時は君たちを頼ることにしよう」
「了承。貴公の意志の固さは把握しました、余程仲間を大切に想っているのですね。
 無論、貴公の有事の際は必ずや駆けつけましょう」
「ふ、頼もしいな……本当に」

相変わらず無表情で感情の見れないアルトリアであったが、彼女が嘘をつくような人間ではない事はこの数時間の同行で知っている。
取り敢えず自分の背中は任せてもいいだろう。そして、問題のニアに関してだが。

「い、イムカぁ…気をつけてくださいってんですよぉ……」
「当然だ、何が起きても対処できるようにしよう」

流石に状況が状況だと理解したのだろう、普段よりも大分すんなりとイムカの行動を受け入れた。
少しずつだがニアも成長している。その事実が何よりも嬉しく、そしてこれからもその成長を見届けたいと誓った。
ナナカマドを片手に構え、遠くに聳える病院を見やる。他の建物とは異なる雰囲気を醸すそこは、恐らく他の参加者も目をつけている事だろう。

「では、行ってくる」

その刹那、イムカの雰囲気は急変し”将校イムカ・グリムナー”のものとなる。
元の世界では垣間見る事の少なかった変化にニアは僅かに怯え、しかしすぐにその背中を見届けた。
自分もああなりたいと切に願って、ポケットに詰め込まれたエクソダスを固く握り締める。
この御守りが願いを聞き届けてくれるかどうかは分からないが、願うべくはイムカの無事と、そして平穏――




122【最善への希求】 ◆r7Y88Tobf2:2016/09/15(木) 03:53:45 ID:QYZ6qcAA


「…………」

気配を一切遮断し、慎重に病院へと歩き進めてゆくイムカ・グリムナー。
流石軍のエキスパートといったところか、その姿は見惚れる程に美しくそして様になっている。
もしも場所が場所でなければナンパの一つや二つは起きていたであろうそれも、この場では意味を成さない。
やがて病院の前へと辿り着き、イムカは僅かに安堵の表情を浮かべ再三周囲へ警戒を促した。

――そして、イムカははっきりと”捉えて”しまった。

「…ッ……!」

自分以外の何者かの気配。いや、それは気配というにはあまりに禍々しく微弱なもの。
イムカが知っている言葉で表すのならば最も当て嵌るのは殺気。どちらにせよ、いい感情ではない事は確かだ。
何処にいる?――イムカは全神経を張り巡らせて、一筋の冷や汗を地面に落とした。

と、その時。


「ごめんなさい」


イムカが振り返る事はない。
死の警報を鳴らす本能に従い、その声の正体を確かめる事なく前方へと飛び込んだのだ。
瞬間、自身の上を通り過ぎてゆく白刃と極寒の冷気。文字通り、イムカの背中は一瞬にして凍りついた。

「く――ッ!」

ハンドスプリングの要領で跳ね上がり即座に襲撃者と対峙するイムカ。
片手に握られたナナカマドの銃口は確りと相手の眉間に定められており、一切震えのない辺り流石プロというべきだろう。
しかしイムカの動揺は外見以上に大きい。ナナカマドを向けられても尚、その男は動じた様子もなく次なる攻撃に備えているからだ。
直人ではないという事は理解している。だからこそ、イムカがナナカマドの引き金を引くのにも躊躇はなかった。

「……銃、か……」
「な……っ!?」

眉間と喉、人体の急所である二箇所へと飛弾する光線はいとも容易く男の持つ長剣に弾かれた。
光線銃の威力が低いから、などという理由ではない。男の剣【爆進氷刃】は異能を持つ魔剣だからである。
真正面からの銃は効かない、ならば直接近接し肉弾戦と行きたいところだが剣から荒ぶ吹雪がそれを許してはくれない。
コンマ1秒にも満たない思考の末、イムカが選択したのは光線銃での牽制と後退であった。

出鱈目に放たれる橙色の光線は多くが零を通過し、電柱や看板を貫く。
その内の幾つかは零へと放たれるが、当然ながらそのどれもが彼の一撃の元斬り伏せられた。
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、とは言うもののそれは常識の範疇を超えない限りの話である。
銃弾を斬り伏せる生物を前にした時、全ての弾丸は等しく価値がなくなるだろう。


「――掛かったな」


尤もそれもまた、”常識”の中での話だが。

123【最善への希求】 ◆r7Y88Tobf2:2016/09/15(木) 03:55:10 ID:QYZ6qcAA

零の周囲の影が濃くなる。釣られて上を向けば、そこには猛スピードで落下する巨大な病院の看板の姿が。
初めて零に喫驚の表情が刻まれるがそれも一瞬。咄嗟に振り抜いた長剣で看板を両断し難を逃れる。
それは1秒にも満たぬ時間の出来事だった。――逆を言えば、1秒の隙が出来たという事。

「イヤーッ!!」
「ぐっ…!」

肉薄したイムカの強力な脚撃は零の肉体を容易く吹き飛ばし、体勢を大きく崩させる。
反撃せんと零も長剣を振るうが、この距離ではイムカの方が断然速い。
振るわれたボディブローは勢いよく鳩尾に叩き込まれ、零は空気を吐き出しゆっくりと膝を着いた。

「ど、うし…て……」
「先程の看板か?……簡単な事だ、あの出鱈目な弾道は君を狙ったものじゃない。看板の留め具を狙ったものだ。
 真正面からが通じないならば上から……しかし君はその上からの攻撃も対処してしまった。
 だから最終的に、近接戦闘という賭けに出たのだが……どうやら、私もまだまだ捨てたものじゃないらしい」
「……強いん、ですね……」
「君も、な……」

ふ、と微笑を浮かばせるイムカの後方から漸くニアとアルトリアが大慌てでやって来る。
ナナカマドの銃声を聞いて只事ではないと察したのだろう。イムカが膝を着く相手と相対しているのを見て、ニアは安堵した。

「イムカぁ……っ!」
「そんな泣きそうな顔をするな、少し肝が冷えただけさ。……アルトリア、迷惑をかけて申し訳ないな」
「打消。私は私の思うように行動したのみです。
 その事実に貸しも借りもあらず、よって謝罪は不必要なのです」

言いながら、アルトリア――否、法王アルトリアはダインスレイヴの鋒を零へと向ける。
底無しの闇を孕む双眸は零をの行動を束縛し、反抗を許さないと言わんばかりの威圧を放出した。

「質疑。何故お前は殺し合いに乗ったのですか」
「……俺は、この争いに溢れた世界を……壊すんだ。
 事ある毎に争い事を起こし、理由もない暴力が人々を傷つける……そんな世界は間違っている!
 俺が、俺がこの手で……この世界に調和を齎すんだっ!」
「……調和?」

足掻きとも思える零の決死の叫びは意外にもアルトリアの動きを止め、その鋼鉄の表情を僅かに歪ませる。
世界の破壊。一個人が描くには滑稽で無様な願望だが、法王であるアルトリアにとっては戯言と片付けるには余るもの。
アルトリアの目指す世界。それは零のような破壊のものとは異なるものの、一切の”穢れ”が存在しない世界だ。
参加者の全ての意思が統一され、その中で不要とされた穢れなるものを排除する事で世界はより美しく価値あるものに変わる。

その穢れというカテゴリに納められるのは一体どのようなものか?
答えは無論、自分を含めた人々が”邪”と定めた者である。

イムカとニアは言った。殺し合いに乗ったものは全て、邪悪な者であると。
しかし零は言った。この世界に溢れる人間そのものが、邪悪な者であると。
ここで生じるのは矛盾だ。相反する意見は意思の統一を目指すアルトリアにとって、最大の壁となって立ちはだかる。


勿論、その隙を見逃さない人物が此処には居た。

124【最善への希求】 ◆r7Y88Tobf2:2016/09/15(木) 03:56:26 ID:QYZ6qcAA

「……! 危ない、ニア――ッ!」
「へっ……?」

瞬間、零の背後から無数の雪玉が展開されニアへと降り注ぐ。
当然ながらニアにそれを対処する術はない。呆けた表情を浮かべる彼女の前へイムカが咄嗟に躍り出た。

「ぁっ…!…づ……っ!」
「い、イムカぁぁっ!?」

右腕で己の顔を覆い盾としたものの、その雪玉はイムカの右腕を瞬く間に凍てつかせてしまう。
全身に伝わる極寒の感触と痛みに気を失いかけるも、ニアの絶叫が鼓膜を叩きイムカの意識を覚醒させる。
ぼやける視界に映し出されたのは、体勢を立て直した零が自身の長剣を手にしている光景だった。

「ニア、アルトリアっ!ここは一旦引くぞっ!!」
「い、イムカぁっ……ごめ、ごめんなさいってんですっ……!」
「後で聞く!……アルトリア!何をしているっ!」

剣を持った相手は実力が存分に発揮できる状態だ。そんな敵と戦えば今の状態では甚大な被害が及ぶ。
そう判断しての撤退指揮であったが、アルトリアは一人ダインスレイヴを構えたまま微動だにしない。
そんな彼女を格好の獲物だと思ったのだろう。零は今にもアルトリアを凍てつかせんと剣を振り上げていた。

「くっ、手間をかけさせる……!」

未だ動かせる方の左手で手裏剣を掴み、ロクに狙いも定めぬまま零へと全力で投擲した。
ダメージを与えることさえ叶わなかったものの、動きを止めるという目的は果たす事はできたようだ。

「アルトリア!撤退だッ!!」

三度目のイムカの指示。それにより漸くアルトリアは我に返り、零の剣戟を弾きつつ戦線を離脱する。
負傷するイムカに付き添うようにニアが隣並び、その後ろでアルトリアが零から飛来する雪玉を打ち落とす。
一種の綱渡りじみた逃走ではあったが、零は追う気がないのか雪玉の雨は意外にもすぐに収まる事となった。
なんのつもりかは分からないが、イムカ達にとっては幸いに他ならない。
病院という目的地からは遠ざかってしまうものの、命が助からなければ意味はないのだから。
世界の破壊者零は遠ざかる三つの背中を見つめ、静かにその場に座り込んだ。


◆◇◆◇◆


「はぁ…っ、…ここまで来れば……大丈夫、だろう……」
「い、イムカぁっ……い、今手当てするから待っててくださいってんですっ!」
「……はは、手当てか」

撤退を初めて約5分後、彼女らは広い住宅街に辿り着いていた。
疲労と負傷の反動がやって来たのだろう。イムカは覺束ない足取りでコンクリート製の塀に手を置く。
ニアが大慌てで叫ぶ手当てという言葉にもイムカは乾いた笑いを溢し、自身の右腕を改めて見つめる。
青白く変色したその腕は一発で異常だと判断できるものであり、治療にもきちんとした器具が必要だろう。
勿論ニアにもイムカにもそのような支給品は配られていない。だからこそ、この傷が治せないのはイムカ自身がよく知っていた。

「ニア、気持ちは嬉しいが今はまだ無理だ。
 病院に行きたいが、先程の奴が陣取っている……なに、この位なんて事はない」
「で、でもでもぉっ…イムカ、すごく苦しそう……」
「……気のせい、さ」

こんな時、嘘をつくのが苦手な自分をイムカは酷く恨んだ。
きっと強がりだということがバレているだろう。ニアが鋭いのは長年の付き合いで知っている。
自分でも無意識にニアから視線を逸らしてしまっていた。罪悪感という、人間くさい感情によって。
そしてその視線の行く先は、先程から一切言葉を発しようとしない法王へ。


「アルトリア、さっきのは一体――」


――どうしたんだ。

イムカが紡ごうとした言葉は最後まで発される事なく、夢想に溶ける。
彼女の言葉を中断させたのは、法王アルトリアその人の凶刃であった。




125【最善への希求】 ◆r7Y88Tobf2:2016/09/15(木) 03:57:11 ID:QYZ6qcAA


「……か、…ひゅっ…」
「イムカあぁぁっ!!」


ニアの悲痛な絶叫を何処か遠くに感じながら、イムカは腹部にじわりと滲む痛みに意識を遠のかせてゆく。
崩れ落ちるイムカの肉体を見下ろし、アルトリアは一切感情の灯らない様子で淡々と血濡れのダインスレイヴを引き抜いた。

「猛省。私は甚大な勘違いをしていました」

常闇の双眸が泳ぐ。
涙を溜めイムカの体を抱き寄せるニアへ、非情なる”法王”の視線が注がれる。

「浄化。そう、浄化こそが我が使命。貴公らの様相を目にして確信しました。
 私が此処に呼び寄せられた理由はただ一つ。穢れを浄化せよという神からの導きなのです」
「な、何言ってるですかぁっ…!よくも、よくもイムカをっ…!」

アルトリアの言っている事はニアは理解出来ない。するつもりもない。
元よりアルトリアの纏う雰囲気は不気味だと認識していたが、イムカを刺した事で不信は確信に変わった。
エクソダスを両手に握り締め法王の前へ踏み出す。多大なる恐怖に支配されているのだろう、その手は小刻みに震えている。
しかしそれでも尚ニアを奮い立たせるのは、イムカの存在があるからこそだろう。
ここで退いてしまってはイムカが死んでしまう。――その想いが、ニアに勇気を与えた。

「ニアがっ…ニアが、お前なんかやっつけてやるってんですよぉっ!」
「笑止。勇気と無謀を履き違えし者よ、私がこの手で浄化を与えましょう」

振り上げられる大剣。陽光を反射し気高く翳されるそれは、ニアの肉体を容易に両断するだろう。
だがニアは退かない。手中の”御守り”を強く握り締めて、アルトリアの深淵の瞳と真っ向から対峙する。
大気を切り裂き迫る剣戟は、小さな希望を叩き切らんと唸りを上げた。





「――よく言った、ニア」





そして、奇跡は起こる。




126【最善への希求】 ◆r7Y88Tobf2:2016/09/15(木) 03:58:28 ID:QYZ6qcAA


「なっ……」

アルトリアの凶刃はニアへ到達する事なく、逆にアルトリア自身が仰向けに倒れ伏す形となっていた。
僅かに揺らぐアルトリアの視界に浮かび上がるのは、本来ならば立っているはずのない存在だ。
金色の髪を清風に靡かせて、紫色の双眸を逆光に負けず輝かせるその人物は――


「イ、ムカ……?」


将校イムカ・グリムナーは、ニアの頭に手を置き応える。
髪を梳かすように優しく丁寧に撫でるその様子はまるで、我が子を愛でる母親のように暖かなものだった。

「逃げろ、ニア……出来るだけ、遠く…へ……」
「いや、嫌ですよぉっ!ニアが居なくなったら、イムカは本当にぃっ……!」
「頼むからっ!」

イムカの悲痛な叫びに、ニアは肩を震わせる。
指揮官としての命令ではなく、仲間としてのお願い。
普段イムカが見せる事のないあまりに感情的な言動に、ニアは自然と大粒の涙を溢していた。

「……大丈、夫だ……ここには、アキレスや…タェン、ティース達も…居る……。
 それに、ここで君を死なせたら……ジョシュアに、申し訳が…立たない、からな……」
「イムカ……ニアは、ニアはぁっ…!」

穏やかな笑顔を見せるイムカの顔は、ニアでも分かる程蒼白だ。
それも当然。右腕の凍傷に加えて腹部への大きな裂傷は何処からどう見ても致命的なものだった。

今のイムカは文字通り、吹けば消えてしまうようなか弱く儚い存在だろう。
それでも、ニアの目には何者よりも強い存在に見えた。

「行くんだニア。君は……私の”希望”だ」
「……っ!」

その言葉は、ニアという少女を突き動かすには十分すぎて。
零れ落ちる大量の涙もそのままに、ニアはイムカを真正面から見つめた。


「ニアは――生きるってんですっ!」

.

127【最善への希求】 ◆r7Y88Tobf2:2016/09/15(木) 03:59:03 ID:QYZ6qcAA
その言葉を聞いてようやく、イムカは心から安心する事ができた。
ぐじぐじと乱暴に涙を拭き走り去ってゆくニア。遠ざかる小さな足音を聞きながら、イムカは目の前の悪と対峙する。
勝ち目はない。彼女の戦いは勝利を目指すのではなく、如何に長引かせるかどうかなのだ。
ナナカマドは握れない、故にイムカは無手の状態で構えを取った。

「さぁ、どうし…たアルトリア、…死ぬ気、で…かかってこい……。
 でなければ、……死ぬのは、君の方…だぞ?」
「不明。何故、自ら死に行くような真似をするのか私には理解できません」
「ああ、理解出来ない…だろう、な……君のような、感情を持たない…者には」

嘲笑を交えたイムカの言葉に、アルトリアはほんの僅かに人形のような表情を顰めた。
自分を否認されるという侮辱を受けて、統一意思の絶対なる指導者が黙っているわけもない。

「打消。個々の感情など不要、我々はただ神の示すままに生きれば良いのです」

言うが否や、アルトリアは全身全霊の刺突をイムカへと放った。
巨大すぎる剣から生み出されるそれは突き刺すという行為だけでも暴風を生み、触れた物を例外なく吹き飛ばす。
無論イムカとて同じだ。例え万全の状態であったとしてもその一撃を耐える事など出来ないだろう。
だがそれは、イムカがアルトリアの刺突を見切れないという決め付けの基での話だ。

超速の刺突をイムカは屈んで回避し、同時に突き出されたアルトリアの腕を力強く掴む。
アルトリアが自慢の怪力でイムカを引き剥がすよりも早く、イムカはアルトリアの懐へ潜り込んだ。
危機を抱いた頃にはもう遅い。競技や遊びのものではなく人を殺す為の背負投げが炸裂する。
固いアスファルトに頭から突き刺さるアルトリア。その衝撃に耐え切れず地面には亀裂が走った。

アルトリアは投げ技という存在を知らなかった。故に、自分が何をされたか理解出来ない。
唯一理解できる事は、無類の膂力を誇る自分が満身創痍の女一人に打ち負かされたという事だ。
アルトリアに湧き上がる熱い感情。自ら不要と称したそれに刺激されたように、再びイムカと相対する。
今度は無言のままに剣を翳し、肉片さえも残さぬ勢いで袈裟斬りを放った。
だがイムカは凶刃が到達する前にアルトリアの腕を掴み、再び自らの体を捻り込むように投げへと転ずる。


メキリと、嫌な音が鳴り響いた。

恐らく今の一撃でアルトリアの左肩が外れたのだろう。
だがその音の原因はアルトリアだけではない。――イムカもまた、左腕が曲がっていた。
しかしそれも当然の事といえよう。凍てついた右腕は使用できず、実質左腕だけでアルトリアの巨体を投げていたのだから。
そしてその左腕も限界が訪れた――両腕を失った今、イムカがアルトリアに抵抗する術はない。

(これが……私の選んだ、”最善”だ……)

ゆらりと立ち上がる聖職者の影を見て、イムカは静かに瞼を閉じる。
次の瞬間振り下ろされたダインスレイヴは寸分違わずイムカの心臓へ到達し、彼女の儚い命に終止符を打った。






「…………」

物言わぬ遺体となったイムカを無感情な瞳で見下ろし、アルトリアは無言のまま踵を返す。
達人の投げを二度も食らったのだ。アルトリアの足取りは普段のそれよりもずっと遅く、また左腕も動かない。
それでも絶命に至らないのは彼女の生命力からなるものか、はたまた狂気じみた精神力からか。
法王アルトリアは歩む。穢れを浄化するために、清き世界の生誕の為に。
血濡れた道を歩む聖職者へ、神はどのような審判を下すのか――――






【イムカ・グリムナー@ここだけ世界の境界線 死亡確認】
【残り51名】

※イムカの支給品は遺体と共にE-3に放置されています

128【最善への希求】 ◆r7Y88Tobf2:2016/09/15(木) 04:01:21 ID:QYZ6qcAA



【E-3/一日目 午前】
【ニア・シューペリオリティ@ここだけ世界の境界線】
[状態]:健康 深い悲しみ
[装備]:エクソダス@境界線 終願のロザリオ@新俺能
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。
1.イムカ……!
2.イムカの願いを聞き届け、生きる。
3.仲間たちと合流。

※本編中からの参戦です。
※終願のロザリオの効果を理解していません。武器としてすら認識していません。


【法王アルトリア@新俺能】
[状態]:背中に打ち身(中) 頭部負傷、出血(中) 左肩脱臼
[装備]:魔刃皇ダインスレイヴ@魔法少女
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:穢れを浄化する。
1.穢れは。
2.全て浄化され。
3.清き世界が誕生するでしょう。

※本編中からの参戦です。
※盾となる物を持っていない為、執行形態となる事が出来ません。
※【爆進氷刃】の言動によりマーダーと化しました。


【爆進氷刃@旧厨二】
[状態]:打撲(小) 鳩尾に痛み(小) 疲労(中) 絶望 悲壮感
[装備]:爆進氷刃@旧厨二
[道具]:基本支給品 不明支給品×1
[思考・状況]
基本行動方針:この世界を破壊する
1.世界の破壊者として、あらゆるものを破壊する。
2.……明日架さん達も参加しているのか。

※不殺同盟を脱退した後からの参戦です
※名簿には【爆進氷刃】吹雪零と記されています
※能力には制限が掛けられており、長剣を抜刀しただけの状態では吹雪は出現しません。
 長剣を振るうことで初めて吹雪が出現するようになっています。
※【爆氷天刃】への覚醒は現時点では不可能です。

129始まりはいつも突然に ◆r7Y88Tobf2:2016/09/19(月) 05:30:17 ID:QYZ6qcAA

「はぁ〜……どうしてこうも人と会わねぇもんかね」

ラジオ局を後にして優に一時間、三橋は宛もなく会場を彷徨っていた。
正確には宛がないというよりも地図を読むのを放棄し歩き出した訳だが、それは然程問題ではない。
彼にとって問題なのはこうして自分が一時間歩いてやっているのに、人どころか雀一匹さえも出向かない事だ。
これではラジオ局での意気込みが無駄となってしまう。一度発散した怒りが有頂天に達するのも、そう遠くないだろう。
そんなこんなで三橋翼は今、バトルロワイヤルという場でありながら退屈していた。

「運営のクソ共は俺が一人で衰弱死するのが見たいのか?なぁ、聞いてんだろ主催者さんよ?
 三橋寂しくて死んじゃうの〜!ってか?笑えない冗談だなオイ」

ブツブツと悪態なのか挑発なのかよくわからない事を呟きながら、右の拳に嵌められた籠手に視線を注ぐ。
この籠手の破壊力は先程の激昂によりよく知っている。三橋自身の体質も相まって、並以上の実力を発揮できるだろう。
だからこそ三橋は自信を持っていた。言い方を変えれば、慢心しているとも言える。
この退屈な時間を凌いでくれるのならば仮に話が通じない相手であろうとも、サンドバッグにでもなってもらえればいい。
そんな単純明快な考えの基、三橋の足が自然と向かっていたのは博物館の方向だった。

手入れのされていないコンクリートには亀裂が入っており、その隙間から所々雑草が顔を覗かせる。
海岸付近からの植物が侵食しているのだろう。それでも、ネズミの一匹も草陰に潜んでいる様子はないが。
あの主催者の事だ、参加者以外の不要な動物は消してしまったのだろうと、三橋は結論づける。
現に三橋の目に映る景色は殺し合いという要素を除けば大変平穏なものであり、動物が住むにはうって付けだった。

そこまで思考したところで思わず三橋は舌打ちを鳴らす。
ありもしない仮定を想像してしまうのは悪い癖だが、どうにも胸糞が悪かった。
もしこの会場が用意されたものではなく、以前は人々が住み活気に溢れていた何の変哲もない街だったら?
答えは簡単だ。アジやアリスはその”活気”を全て奪い去り、平穏な時が流れていたこの場所を地獄の会場にしたのだろう。
三橋の額に青筋が浮かぶ。ふつふつと湧き上がる激情を無理やり抑え込み、デイパックから取り出した水を勢いよく飲み干した。



「いい飲みっぷりじゃのう」


.

130始まりはいつも突然に ◆r7Y88Tobf2:2016/09/19(月) 05:31:11 ID:QYZ6qcAA
瞬間、三橋は全力の籠手を背後へと叩きつける。
しかし当の声の主は紙一重でそれを躱し、口元を手で覆い隠しながら緩い微笑を浮かべていた。

「おーおー、物騒じゃのう……ちぃとばかし気になって声を掛けただけだというのに」
「……お前、いつからだ?いつから俺の後を付けてやがった?」
「んー、『はぁ〜……どうしてこうも人と会わねぇもんかね』の部分からかのう?」
「ついさっきじゃねぇか!……尾行なんて随分いい趣味してるんだな」

ピリピリと殺気を垂れ流す三橋は反面、目の前の女性に対して危機感を抱いていた。
自惚れる訳ではないが、三橋は自分がそれなりに場数を踏んでいると自負している。
当然尾行されていたとしても気配を察知できるだろうし、そうでなくとも違和感ぐらいは抱いても可笑しくはない。
しかし今回は、この女は違う――もしあのまま襲いかかられていたら、間違いなく自分の首は飛んでいただろう。


「まぁまぁそうカッカするものでもないぞ、青年。
 お主が望んだのじゃろう?人と出会いたい、と……その願いを聞き届けてやったのが儂なのじゃ」
「ふざけるなコスプレ女。お前みたいなイっちまってる女なんかチェンジだチェンジ」

軽口を叩きながらバックステップで距離を取り、コスプレ女こと凛音の小太刀の範囲から逃れる。
反して凛音の方は構えらしい構えも見せず、じっくりと見定めるような視線を三橋に浴びせていた。
緊張を巡らせる自身に反し飄々とした様子を見せる凛音に対し、三橋は恐怖よりも先に怒りが沸いた。
何故自分がこんなに警戒しているのに目の前の女は余裕なのか。――その事実が、なんとも気に食わなかったのだ。

「ふむ、まぁお主がその気でなくとも儂がそうなんじゃがのう。
 つまるところ儂も人と出会いたかったのじゃ、……如何せん一人では退屈なのでな」
「……そうかよ、で……俺はその退屈しのぎの相手に選ばれてしまった憐れな子羊って事か」
「ご名答、賢い男は好きじゃぞ?」

クスクスと、またもからかうように笑ってみせる凛音。
彼女にとっては笑うなと言う方が無理な相談なのだろう、先程から一切笑顔を崩さない。
尤もその”遊び相手”である三橋にとっては、何一つ面白いことなどないのだが。

「お前が何処の病院から抜け出した患者なのかは知らないが、生憎俺は遊んでる時間はないんだよ。
 それとも何か?ひとり遊びを教えて欲しいんなら喜んで教えてやるが?」

自身の持ちうる威圧と殺気を乗せ、凛音の済んだ瞳を睥睨する三橋。
一介の不良程度ならその威圧に怯え戦意喪失したであろうが、相手は歴戦の魔法少女だ。
凛音は三橋の返事に大層満足そうに頷いては、パチン!と両手を合わせ重苦しい雰囲気を打ち破った。

「よいぞ、その雲の如く捉えることの出来ぬ姿勢!
 ますます興味が湧いたぞ、さぁ、早く儂と”遊ぼう”ではないか!」
「ちっ……!」

言うがいなや、凛音は腰に携えた一本の小太刀を両手に構えキラキラと瞳を輝かせる。
途端に場を制する凛音の威圧にいつもの軽口を叩く暇もなく、三橋は右腕の籠手を正面に翳した。

「消えやがれっ!!」

ドンッ――!
響く銃声、放たれる銃弾。
それは真っ直ぐに凛音の元へと突き進み、その腹を食い破る。
噴出する血液、穿たれる銃痕。その瞬間三橋は確かに己の勝利を確信した。


「今度はこちらの番じゃな」
「――っ!?」


しかし、その確信はすぐさま裏切られた。

131始まりはいつも突然に ◆r7Y88Tobf2:2016/09/19(月) 05:32:22 ID:QYZ6qcAA


ゆらりと凛音の体が揺れたのは一瞬。神速の速さで肉薄し、三橋の首元を刈り取らんと小太刀が迫る。
常人ならば目で追うことすら難しいそれを本能のみで反応し、咄嗟に籠手で首元を覆った。
間一髪三橋は自らの籠手を盾とする事で死を逃れ、ギリギリと火花を散らしながら拮抗を保つ事に成功する。

「ぐ…っ!!」
「ほう?よもや受け止めるとはのう……これは楽しめそうじゃ」

しかし片手で防ぐ三橋と両手で攻める凛音では、どうしても力の差が生まれてしまう。
目に見えて分かる程に三橋の籠手は押し負けており、持久戦に持ち込めば結果は言うまでもない。
だがそれで三橋という男が諦めて三途の川を渡る準備をするかと問われれば、答えは絶対にNOだ。

「勝手に、楽しんでんじゃ……ねぇぞぉッ!!」
「ぬ……っ!」

気合一閃、サイボーグの怪力から放たれる膝蹴りが凛音の腹部に突き刺さる。
意図せぬ反撃に凛音は思わず苦悶の表情を浮かべ、柄に込めた力を僅かに緩めた。
当然三橋がそれを見逃す訳もなく、凛音の頬へと拳を振るい強制的に後退させる。
しかし三橋の表情は未だ晴れる事はない。
当然だ、自身の怪力を持ってしても”後退させる”程度の成果しか上げられなかったのだから。

「ふむ、重い拳じゃな……魔法少女に匹敵すると言っても過言ではないぞ」
「魔法少女だと?……ああ今理解した、お前ソッチ系の人間かよ。だったら――」

三橋が構える。何かが来るということは、凛音でなくとも察する事が出来ただろう。
しかしそれを理解して凛音はほう、と僅かに声を漏らし、両腕を組んだままさぞ楽し気にその様子を見つめていた。


「――こういうのはどうよッ!!」
「……むっ!?」


そしてそれは、すぐさま驚愕の表情へと変えられる。

凛音が見たのは巨大な槍だった。いや、それ自体は問題ではない。
問題なのはその根源――無手であった三橋の左腕が、突如ぐにゃりと捻じ曲がり槍の形を作り出したのだ。
その異様な光景を前に凛音は驚愕に時間を要する。故に、突き出される巨槍を完全には躱しきれず右肩に裂傷を刻んだ。
所詮肩と侮るなかれ。不意打ち気味の攻撃は肉を深く抉り、迸る激痛に凛音の表情は苦いものへと変わっている。

「どうしたメルヘン女、こういうのを見るのは初めてかい?」
「……驚いたぞ、よもやお主……クリーチャーの類だったとはのう」
「人に向かってクリーチャーなんて失礼な野郎だな……俺からしたらお前の方がよっぽど化けもんだぜ」

軽口を叩く三橋であったが、先程の一撃で仕留めきれなかったのは相当の痛手。
完全なる初見の攻撃なら通じると思ったが、それすらも精々ダメージを与える程度に終わってしまった。
こうなれば相手は既に三橋の能力に対して対処の術を持ち、二度同じことをしようものなら逆に一発もらう羽目になるだろう。
激昂を発散した事が今頃効いてきたのか、不思議な程冷静な思考は三橋の命を繋いでいた。

132始まりはいつも突然に ◆r7Y88Tobf2:2016/09/19(月) 05:33:21 ID:QYZ6qcAA

(真っ向から勝負なんざ論外、……だとしたら、逃げるっきゃないが……)

思考の最中、三橋はふと自分の右手に嵌められた籠手に視線を向ける。
一瞬の逡巡の末に、意を決したように三橋は体勢を立て直す凛音へと一歩踏み出した。
そして踏み出した足を軸に、生み出された凄まじい加速度に乗せられ凛音の元へと肉薄する。
接近戦を持ちかけるか。願ってもない展開に凛音は愉快そうに嗤い、『畦火』を振り上げ獲物を待った。

「……良いのか?」
「ああ、”良いぜ”ッ!」

しかし、凛音の予想に反し三橋は小太刀の範囲に入る直前に急停止しガン・ガントレットを水平に翳す。
銃弾か――!確信した凛音はすぐさま小太刀を下段に構え銃弾への対処へと精神を注いだ。
しかし、それも”フェイク”――翳された籠手から銃弾が発射される事はなく、金属の触手と化した左腕が唸りを上げ襲いかかる。
二重に渡る騙しに対して凛音は意外そうに声を漏らした。
そう、声を漏らした”だけ”だった。

三橋が知る由もないが凛音はかつて何百ものの魔法少女を相手にし、そして喰らってきた。
その中には当然自分よりも実力が上な者も居れば、頭の切れるような者も居た。
しかし凛音はそれを持ち前の判断力と魔法、そして己の剣術で叩き伏せ勝利を奪い取ってきたのだ。
単純に場数が違うのだ。いくら三橋が頭を働かせようとも、凛音は真っ向からその全てを無へと帰すだろう。



しかしそれが”三重”ともなれば話は別だ。



「なに……っ!?」

振るわれた金属の触手は凛音に衝突する事なく、そのすぐ横を猛スピードで通り過ぎてゆく。
思わず疑問の声を上げ触手の先へと視線を移す。しかし、彼女が気づいた頃にはもう遅い。
通過する触手は遥か後方の樹へと巻き付いて、凄まじい勢いで収縮されるそれは高速で三橋の肉体を運んでいった。


「あばよメンヘラ女っ!リベンジマッチは受け付けねぇぞっ!」


高らかな笑い声と共に、目にも止まらぬ速さで木々の奥へと消えてゆく三橋。
サイボーグにのみ許される動きが生じたスピードは、恐らく凛音の身体能力を持ってしても追う事は不可能だろう。
イチかバチかの逃走に成功する三橋を何処か呆けた表情で見つめ、やがて口角を三日月に釣り上げた。

「ふっ、ふふ……ップ、ハハハハハハッ!!
 面白い!面白いぞッ!よもやこの儂がまんまとハメられるとはのう!気に入ったぞ!!」

パチ、パチ――

もう既に姿の見えなくなった三橋へ、怒りをぶつけるどころか賞賛の言葉を浴びせる。
彼女にとって三橋が逃走した事は責めるべき事ではない。むしろ自分相手によく逃げ延びたと称えたいところだ。
認めるべきはその行動力の高さと狡猾さだ、咄嗟に考えついたとて中々実行できるものではあるまい。
惜しいのは種族の違いだ。もしも三橋がクリーチャーではなく人間であったら心から認めることが出来ただろう。
尤も――凛音が勝手にクリーチャーだと思い込んでいるだけで、実際三橋も立派な”人間”なのだが。

事実を知る由もない狂犬は、これから起こるであろう激闘の予感に身を馳せた。
今度こそは仕留めたい。殺したい――如月凛音は今、そんな気分だったのだ。

「さて、次はどんなものを見せてくれるんじゃ?――バトルロワイヤルよ」

双刀の片割れを地に突き刺し、大空を仰ぐ。
陽光の加護を受けるその姿はとても様になっており、幻想の世界の如き美麗さを醸していた。
だが惑わされてはいけない。可憐な花ほど強力な毒を持ち、鋭利な刺を持つものだ。
その幻想に魅せられた者は例外なく――その身に刻むことになる。




133始まりはいつも突然に ◆r7Y88Tobf2:2016/09/19(月) 05:35:26 ID:QYZ6qcAA


「はぁーっ……クソ、無駄に体力消費しちまった……」

無事に凛音から逃げおおせた三橋は、木々を抜け市街地に出ていた。
無茶な動きをしていたからだろうか、その顔色は決して良いものではなく息も乱れている。
元よりサイボーグ特有の動きに人間である三橋が長く耐えられるわけもなく、精々数分が限界だろう。
実際、木々を抜けた矢先体が疲労を訴えて今こうして一本の電柱に寄りかかっているのだから。

「……でもまぁ、命あるだけマシ……ってな」

自分を言い聞かせるように呟けば、よっこらせとおっさん臭い動作で電柱から身を離す。
すっかり失念していたがまだやるべき事はたくさんあるのだ。
先程の狂人のような者ではなく話が通じる人間の捜索。そして、会えるかわからないが知り合いも。
幸先いいとは言えないが、無傷で生還できたのは僥倖。
間違いなく運は傾いている――そうでも思わないとやってられないというのが本音だ。
気を落ち着かせる為のため息を一つ。とぼとぼと覚束無い足取りで歩き出し、その場を後にした。





【G-2/一日目 午前】
【如月凛音@魔法少女】
[状態]:腹部に銃痕(行動に支障なし) 右肩に裂傷(小) 自動回復中 戦闘欲求
[装備]:双刀『畦火』@新厨二
[道具]:基本支給品 手回し充電式ラジオ@境界線
[思考・状況]
基本行動方針:気分次第、死んでやるつもりはない
1.戦闘欲求に従い行動する
2.暇があればメリー・メルエットを探す
3.三橋とはいつか再び戦いたい
4.首輪が邪魔じゃのぅ……

※魔法少女としての機能に制限が掛かっており、普段よりも自動回復能力が格段に落ち、飛行にも疲労を伴います。
※結界魔法『ゲヘナ・ウィッチクラフト』は現状使用不可です。
※三橋翼をクリーチャーだと思っています。


【三橋翼@能力者高校】
[状態]:健康 疲労(中)
[装備]:『ガン・ガントレット改』@境界線
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:この殺し合いを台無しにする。主催側も全員殺す。話しても襲ってくるなら他の参加者も殺すか逃げる
1.まずは話の通じそうな人間を探す。話はそれからだ
2.名簿を見る限り何人か知ってる連中もいる。期待はしないがそいつらに会えたらいいかな
3.出来れば戦闘は余裕で勝てるもの以外避けたい
4.凛音とはもう二度と出会いたくない。

※魔法少女というワードを聞きましたがその存在は知りません。

134【必ず最後に――――――】:2016/09/21(水) 01:37:19 ID:fc7C2EzE
息を荒げて、汗を垂れ流し、小人の魔法少女―――――メリー・メルエットは"一人"で飛び、逃げていた。
幸運にも出会えた信用できる相手は隣に居ない。何故か、それは数刻ほど前の出来事。
メリーと月影虎次郎の前に現れたプラチナブロンドの女。運営打倒を目指し同士を集めようとしていた二人であるが、声をかけることは無かった。
その女が、"ゼアグライト・オールディ・ルヴィー・マルクウェン"がどうしようもなく"邪悪"な存在だと感じたからだ。
そしてそれを肯定するように、ルヴィーは巨大な火球を二人に放つ。威力の一切無い虚栄魔法だが、熱、光、相手を脅すには十分すぎる要素を持ち―――――
―――――今に至るように怯えさせ、視界を埋め、逃げるメリーとニンジャを分断する程度は容易であった。



「嗚呼、良い。良い。実に素晴らしい舞台だ。」

一歩、一歩、恐怖を煽るように。虚栄を撒き散らしながらルヴィーは歩く。
生れ落ちた時より膨大な魔力を持つ彼女の暇を潰せるのは強者との戦いと、目の前で繰り広げられる"悲劇"のみ。
いかにもか弱い小人と、男。暇を潰すならこの二人は格好の標的といえた。ふと先ほどまでともに居た小人が無残に死んだと、守れ無かったと知ったならば男はどんな顔をするだろうか。
きっとそれは素晴らしい悲劇。マップの端まで態々来たのもそれが理由。悲劇とは守るべき弱者が死んでこそ成り立ち、得てして弱者とは隅に逃げる。

「うぅ……う……」

一度は止まった涙が、またメリーの瞳から零れだした。安息を与えられ、奪われ、代わりに絶望を植えつけられたのだ。当然だろう。
飛行魔法により虚栄を避てはいるが、魔力はいずれ尽きる物。このまま逃げていても埒が明かないと、それはメリー自身でもわかっている。
纏うエプロンドレスに火球が掠っても、焦げない事にも気づかない程余裕が無いのだ。メリーに立ち向かう勇気など出せるはずもなく。
不安とか細さだけが脳を埋め尽くし、逃走以外の選択肢を消してしまっていた。

「あっ―――――――」

遂に、その時がやって来た。飛行する魔力は尽き制御を失った体は慣性に引かれて、木に正面から衝突しずり落ちる。
赤くなった顔を上げれば、眼前にはルヴィーと、その背後に浮かぶ火球。

「さぁ、幕引きに相応しく鳴くのだぞ?」

指先をメリーに向け、ルヴィーは笑った。



「―――――月影、さん。」




死を確信したメリーの、唇から零れ落ちたのは男の名。涙を受け止めて、拭ってくれた彼の名前。
この地獄の中で、彼は安心を与えてくれた。名前を呼べば、またそれをくれるかもしれないなんて。思ってしまったのかもしれない。
けれどそれが届く先は目の前のルヴィーにだけ。

そのメリーの反応に対して、ルヴィーは笑みを更に強めた。死に際の女が男の名を口にする。なんと良くできた悲劇だろうか。
この火球は虚栄ではない。≪希望≫に込められていた栄光の欠片である―――――欠片でも、小人を焼くには十分すぎるが。
さぁ、断頭台の刃が今にも落されんとしていて――――――

135【必ず最後に――――――】:2016/09/21(水) 01:40:23 ID:fc7C2EzE





ルヴィーは驚きなどとは無縁の存在だった。記憶にある限り数えるほどしかないだろう。
それが、たった数時間で二回も起きた。一度目はあの青年。二度目は今、あの小人が"消えた"事。
あの火球には死体ごと消し去る程の威力は込めてい無い。逃げたのか、そんな力も気力も残っていなかったはずだ。
ならば、何故――――――ふと辺りを見回せば、燃える木の直ぐそばにて。少年が小人を抱えて立っていた。

「〜〜〜〜〜〜〜〜っ、やっちまった……」

こいつは、このどこをどう見ても普通な、どころかどう見ても情けないこの男は何だ。"突然現れた"のか。
体制を見るに、小人は逃げたわけではなくこの少年に助けられたようだが。
ルヴィーの魔法の中には当然探査魔法がある。なのに、こんな状況になるまでこの少年を認識できなかったのは―――――

「面白いではないか。これからどう足掻く、貴様。」

期待のまなざしを目の前の少年に向ける。が

(こうするしかないに決まってんだろ!あぁクソっ!!)

少年が取った行動は背を向けての全力逃走。骨があるように見えたのは気のせいか。
興ざめだ。これ以上楽しめそうにもないなら、折角の悲劇を汚されただけである。
≪希望≫により栄光の欠片を、巨大な火球を再展開。汚した分は、精々悲劇を歌って貰うとしよう。
狙う先は足元。直接は当てないが、代わりに着弾した地面が思い切り抉れる。こうして火球に当たれば死ぬと植えつけてやれたなら、あとは虚栄で気の向くまま遊んでやればいい。

(なんで、動いちまったんだ……)

そして虚栄から必死に逃げ惑う少年、早瀬琢磨は激しく後悔していた。
自分の能力は【影-シャドウ-】、気配を消す能力であり、茂みでおとなしくしたままならばやり過ごせたはずだった。
なのに体が動いた。考えるよりも遥かに早く動いてしまった。
他人などどうでもいいはずだ。常に理性で己を支配する事こそが生きるコツだと理解していたはずだ。
今からでも遅くない。こんな得体の知れない小人なんて捨ててしまえばいい。なのに、なのに、なのに、なのに、なのに、なのに――――――
余計な考えは動きを鈍らせる。今はただどうやって逃げるかだけを考えろと自分に言い聞かせて、早瀬は思考を切り捨てた。

弄ばれているのか、火球の速度は速くない。身体能力の高くない早瀬ですら何とか避けられている。
されどメリーがそうであったように、限界はいずれやってくるのだ。

「―――――ぐっ、あ・・・・・・」

火球が腕を掠める。爆発を起こすことは無かったが、それでも服は焦げ、皮は爛れて肉が露になっている。
そもそも早瀬は既に火球を避けていたわけではなく、触れても何も起きない虚栄であっただけである。
そこにふと本物の攻撃が混じれば、避ける事ができないのは明白だ。

「もう、もういいですっ……あなたまで死んじゃいますからっ!!」

腕の中でメリーが泣きじゃくり、腕の中でもがき始める。ここでメリーを手放した所で二人とも死ぬだけだ。
二人で逃げ切るか、死ぬか。その二択だけ―――――

―――――いや、ある。一つだけ。

思い立った体は直ぐに動き出した。メリーを手から離して、逃がして

「逃げろ!!」

136【必ず最後に――――――】:2016/09/21(水) 01:41:01 ID:fc7C2EzE

叫ぶ。自分がメリーを逃がしてやれば良い。可能性はこれしかない。
背負ったデイパックの中身から二振りの刃を、【森寵七武】を取り出し、構える。
早瀬が何故メリーを見捨てることが出来なかったのか、それは存外簡単な話。
彼が捨て猫を放っておけない人間だから。倒れた女性を放っておけない人間だから。
人を信じることは出来なくなっても、優しさを忘れなかった強い人間だから。
いつのまにか泣き声は止んでいた。後ろを向いて確認する余裕などは無い。
もういいと泣く彼女が素直に逃げてくれたとは思いにくいが、そうだと思う事にした。

「ほう、期待外れではなかったか。」

二刀の切先を、口角を上げるルヴィーに向けた。それを重ねれば、早瀬の手に握られるのは"七武刀"。
弾幕を張られてしまえば一瞬で消し炭、今剣を構えても射程の外。だが、手段はある

「覚悟の決まった良い目をしている。見違えたぞ。」

火球を背後に待機させ、両手を広げ、来いといわんばかりに両手を広げるルヴィー。ならば望み通りにしてやると、早瀬は剣を振るった。
空を裂く音が響き、剣から伸びた七本の枝が姿を変えて。七本の刃が鳥と化しルヴィーを襲う。
本来ならばこの刃鳥は精密な操作を売りにしたものだが、元は他人の持ち物だったそれを完全に扱うことは出来ていない。
ここにくるまでに持ち物の確認は済ませていたが、それでも七匹同時に一点を、首元を狙うので精一杯。

「どうした、これが切り札とは言うまい。次の手は」

そして火球に叩き落される七匹の鳥。だが――――――




(―――――――読み通りだクソ野郎ッ!!)




そう。切り札は"これ"じゃ無い。突如として早瀬の足元で"爆発"がおきる。
【翔靴】 踏んだものを爆破に変換し、上昇気流を発生させる特殊な靴が彼に支給されていた。
爆破の力を全て前方へ、ルヴィーに待機中の魔法は無い―――――当たる!!


「〜All-Veil〜」


重圧。飛翔する早瀬の体に降りかかる圧力。前方へと発生していた推進力は叩き落され、何も切り裂けずに早瀬は地面に転がる。
水だ。水の幕に叩き落されたのだ。詠唱も、待機魔法も無かったはずだ。何故。
答えはただの勘違い。ルヴィーは敵対者の恐怖を煽る為、魔法を見せびらかすように事前に展開していただけでなのだ。本来ならば詠唱も準備も不要なのだ。
体はもう動かなくなっていた。敗北。馬鹿な事をしたものだと自嘲する。だが、彼女を逃がすことが出来たなら。

「悪くなかったぞ。この私に冷や汗をかかせたのだ、誇るが良い
 褒美だ。"貴様を殺すのは後にしてやる"」

ルヴィーが歩き出した先には、逃げたはずの小人がまだそこ居た。
逃がせてなどいなかったのだ。

「……………なんで」
「わたしだけ、逃げるなんて……駄目ですっ!戦いますっ!!」

メリー・メルエットは強い少女だった。泣き虫で、臆病で、それでも他人のために奮い立てるのだ。
涙の剣もない。何も出来ないかもしれない。けれど自分を助けてくれた人を放って逃げる事だけは出来なかった。

「馬鹿ッ!!逃げてくれよぉおおおお!!!」

だが、早瀬を包んだのは絶望。全部無駄だったのか、もうどうしようもないのか。慟哭混じりの叫びが響く。
早瀬の心象を映すかのように、辺りが影に包まれ、太陽が雲に隠されて――――――否。
影はこの辺りだけだ。"空はまだ晴れている"。ならば、これは

「――――――"戦車"」

太陽を隠したのは"戦車"。戦車がルヴィーの頭上に。それだけじゃ無い。

137【必ず最後に――――――】:2016/09/21(水) 01:41:35 ID:fc7C2EzE










「ゴrrrrrルァァァァァ!!!!乙女のラブ☆タンクじゃああああああああああ!!!」





戦車の上には所謂農作業服を纏った金髪ツインテールの……はっきり言ってちょっときつい少女が、"戦車を掴みルヴィーに叩きつける様な体制"で。
ルヴィーも頭上のタンクに隆起させた地面をぶつけて対抗する。ならばと農作業服の少女(24)、北条豊穣通称自称ハベ子が選んだ追撃は――――――拳。
戦車ごと相手の魔法を砕き、叩き潰そうという凄まじく脳筋な方法を選んだのだ。
やがて中心の戦車は上下からの攻撃に耐え切れず爆発。

そして爆風が晴れて――――

「ふざけた格好だが……面白いぞ。」
「このぐらいじゃ潰れねーか☆ だが安心しやがれ、まだ本気の乙女の愛の力(ラブパワー)は見せてやってねぇからよ☆」

―――――ルヴィーは未だ何事も無かったようにたち、北条も同じく軽やかに地面に降り立った。

「おいそこの……影薄。格好良かったぜ☆マイプリンスほどじゃあねぇけどな☆
 (人生の)後輩がこれだけ根性見せたんなら――――――ハベ子ちゃんが後押ししてやんねーとな☆」

138【必ず最後に――――――】:2016/09/21(水) 02:08:49 ID:fc7C2EzE
【A-1/一日目 朝】

【【絵空に彩る真偽の導き】ゼアグライト・オールディ・ルヴィー・マルクウェン@厨二能力】
[状態]:健康
     欲望  ディザイア ディストピア
[装備]:『≪希望≫』〜Desire Dystopia〜
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:強い者と戦い、暇を潰す。殺し合いの末の悲劇を見る。
1.まずは目の前の強者との戦闘を楽しむ
2.そして小人を殺し、小僧を殺し、悲劇を愉しむ
3.あの者の最期が楽しみだな。kkkk

※ゼオルマ本人か仮の姿かは後の書き手さんにお任せします
※13の鐘の詠唱を経た場合のみ栄光魔法が使用可能です
※虚栄魔法は使用可能ですが、瞬間移動系のものは封じられています

【メリー・メルエット@魔法少女】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 不明支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:誰も殺さず皆で生き残る
1.あの、あの服は・・・・・・
2.ハベ子ちゃんさん!!!
3.あの人を倒せたら、虎次郎さんを探さなきゃ……

※名簿はまだ確認していません
  その為他にどんな知り合いが参加しているのかまだ理解していません
※制限から普段より魔力の消費が激しくなっています

【早瀬 琢磨@ここだけ異能力者の集まる学園都市】
[状態]:健康 唖然
[装備]:【翔靴】【森寵七部】
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:出来るだけ安全に脱出……と思っていたが馬鹿やっちゃったので無理ですね。はい。
1.なんだ、あの、ダサ・・・・・・なんだあの人。
2.とにかく救援はありがたい。
3.ここまでやったんだ。動けるようになったら俺も戦ってやる。

【北条 豊穣@ここだけ魔法少女の街】
[状態]:健康
[装備]:戦車(『伐號』)の残骸
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いなんて乗るわけねーだろ☆マイプリンスに顔向けできなくなるわボケ☆
1.この金髪をぶっ飛ばす☆
2.月間農具がないならステゴロじゃああああああ!!!
3.なるべく早く終わらせて、影薄に治癒魔法をかけてやらねーとな☆

【森寵七武@厨二能力スレ】
【森寵七武】が所持していた刀。
刃が湾曲しておらず真っ直ぐな直刀、細い刃に鳥が刻まれた鍔を持たない二対の刀。
この刀の表面にはには四枚と三枚、二本合わして合計七枚の隠し刃が仕込まれておりそれは二本を組み合わせる事により、古来の王が使用した七武刀と変化する。
この七武刀の属性は宿り木。振るう事により刃に宿る刃の斬れ味を持った神鳥を召還。
なお、この神の鳥は異能による効果を受け付けず触れた物を切断するチカラを持つ。
また、出せる神鳥は7羽まで、チカラは鉄に傷をつける程度。操作は障害物が把握出来る距離、位置まで。
本来ならば七羽の操作はそれなりに正確に出来るのだが、早瀬は不慣れなためかあまり複雑な操作は出来ない。

【翔靴@厨二能力スレ】
【鏡心一閃】が所持していたブーツ。通常時と戦闘時によって形が変わる。正確には日緋色の金属板が表面を薄く張られる。金属板は軽く、移動の際でも重さに違和感は無いほど軽い。
『爆破変換』という能力を有しており、踏んだものを爆破し、そのちからを上昇気流に変換することが出来る。爆破自体にダメージはなく、爆発によって衝撃も熱も生じることはない。所有者の意志によって発動される。
少しの間なら飛行も可能だが、その後はオーバーヒートを起こししばらくの間能力は使えなくなる。
能力発動中は、かかと部分に小さな炎の羽らしくものが出ていたりする。読み方はしょうか。

【伐號@能力者スレ】
カノッサ機関の傑機『三真甲』の一機。何らかの異能的方法でデイパック内に収納されていた。
〝傑機〟と書かれた漆黒の装甲が特徴でキャタピラは二股に分かれ、非常に小回りが利く設計となっている。
素材を雷属性を通しやすい物で統一しており、レールガンや電撃弾を発射することが出来る
電撃使いの能力者と合わせれば、さらに強力な兵器となる。
が、弾薬はなく移動の燃料しかなかったため、北条はこれをただの重い物として使用した。
しかも現在は残骸と化しているため、現状ただのデカくて重い鈍器でしかなく、北条も拳での戦闘を好むため使われるかどうかは不明。

139小さな太陽 ◆r7Y88Tobf2:2016/09/24(土) 15:43:51 ID:QYZ6qcAA

「は……っ!…はぁ、っ……は、…っ……!」

大地を蹴り上げ、住宅街を駆け抜ける青年。
まるで何かに囚われたように疾駆する彼に、明確な目的などはない。
この殺し合いが始まった時点で彼は足を動かしていたのだ。その理由は簡単、”救う”為だ。
今この瞬間狙われている命があるかもしれない。そんな彼、大木陸の行動ははっきり言って軽率だろう。
意味のない体力の消耗は後に響くだろうし、何より開始早々に狙われている存在など極一部でありそれを見つけだすのは無謀の他ならない。
大木自身、その事に気がついていないわけではない。

だが、それでも駆ける。

自分が助けられる存在が一人でも、一匹でも居るのならば。
もしも生きたいと願う者が居るのならば。
やるべき事など、決まっている。

それが大木陸という人間だ。





俺はこの殺し合いの中で、どんな事が出来るのだろう。

我武者羅に走り続ける中で、ふとそんな事を思った。
この場に呼び出されたのは俺だけじゃない。あの強大な主催にも立ち向かったいずもは、きっと誰かを救おうとする筈だ。
そして、黒繩――彼奴は人を殺すことを厭わない、というよりも寧ろ快楽殺人者に近い。

黒繩の生き様を否定する権利なんて俺にはない。所詮俺の掲げる正義の意志はエゴなんだろう。
でも、俺は止める――偽善者と呼ばれても、泥沼のような結末が待っていたとしても。
黒繩だけじゃない。他にもこの殺し合いに乗る人間はいる筈だ。
だから俺は、そんな奴らを止める。例えどんな理由があろうとも、殺しなんてしちゃいけないんだ。
そこに風紀委員も、暗部も関係なんてない――。

「はぁっ……、…げほっ、…は、……はぁ…っ…!」

支給品の短剣――元は大剣だったが――を握り締めて、未来を描く。
殺し合いという場でも、俺の脳は正常に働いていた。描き出された未来は、誰もが笑顔を見せる世界だったから。
まだ、まだ俺は大丈夫。それが分かってとても安心している自分が居ることに気づく。
人間の精神はとても簡単に壊れてしまう。かつて自分がそうだったように、ひょんな事で崩壊してしまうんだ。
だから、自分が……少なくとも今この瞬間は”正義”で居られる事に、とても安心した。


『何たってオレは――この学園都市の番長だからな!!』


蘇る記憶に映し出された背中は、自分よりも小柄なものだった。
それでもあの時の背中は自分より遥かに大きく見えて、何処か遠くに感じられた。
彼奴は俺にとって眩しすぎて、そして手の届かない――俗に言う憧れの存在だったんだろう。
一切臆する事なく不良たちを薙ぎ倒していく番長の姿は、今でも脳の奥底に刻まれている。

今の俺の背中は、小さい。
人一人守れるかどうかすら分からない程に、小さい。

けれど――もし自分も、ああなれるのならば。
この体ぐらい、いつだってくれてやる。




140小さな太陽 ◆r7Y88Tobf2:2016/09/24(土) 15:44:24 ID:QYZ6qcAA


「…は、ぁ……ぇ…?」

気付けば自分の体は仰向けに倒れ込み、大空を仰いでいた。
如何せん走りすぎたんだろう。蓄積された疲労は強制的に体を制止し、足も悲鳴をあげている。
瞬間、大雨のように降り注ぐ反動が体の重圧を何倍にも増幅させたような感覚を呼び起こした。
休憩を挟まなければ暫くは動けそうにないだろう。ふくらはぎが幾度も痙攣しているのが分かる。

――――情けないな。

意気込んだ途端にこのザマとは、失笑すら浮かばない。
今の自分の姿はさぞかし無様なものだろう。意味のない疾走の末、こんな格好になっているんだから。
無理に体を起こそうとすれば苦痛が襲いかかる。現に今も、抑止からなる痛みが体を蝕んでいる。

けれど。

「……こんな、の…認めないぞ……」

自然と俺の体は動き出し、街灯を支えにして起き上がった。
足が震える。思い切り叩いて無理矢理にでも動かそうとするが、すぐにもつれてしまう。
仕方がないからこの短剣を大剣に変形させ、支え棒のようにして歩き出した。
俺に支給された武器はどんな仕組みか、ありとあらゆる剣や刀に形を変えることが出来るらしい。
尤も本来こんな使い方じゃあないんだろうが――そこは、許して欲しいな。

大剣を地面に突き刺し、一歩踏み出す。
何度も何度も、それを繰り返す。

今の自分の歩みは遥かに遅いけれど、止まってはいない。
それはつまりまだ折れていないということだ。案外、俺の意志も脆弱ではないようだ。
三度足をもつれさせたあたりで視界もぼやけてきた。けれどまだ、その歩みは止まっていない。

偽善でもいい、確かな意志を掲げた俺は――――強いぞ。





【G-7/一日目 朝】
【大木陸@学園都市】
[状態]:健康 疲労(大) 意識朦朧
[装備]:ソドラルク(大剣形態)@旧俺能
[道具]:昇華の宝玉@能力者 マジック道具@魔法少女
[思考・状況]
基本行動方針:殺しをする人間を止め、皆を救う。
1.この歩みを止めず、助けを求める人間を探す。
2.いずもやこ黒繩を探し出しす。黒繩の事は止める。

※昇華の宝玉により肉体の回復が速まっています。


【ソドラルク】
旧俺能のオクタヴィアが所持する3m程の刀身を持つ大剣。
この大剣は現実世界に存在する剣や刀に変形させられる。
全長3m以上の大きさの武器に変形した場合、3mまで縮小される。

【昇華の宝玉】
能力者の学生服の少年の右腕に埋め込まれた宝玉。
『祝福』の属性を持ち、手にした者の肉体に絶対性を与え魔力を何倍にも高める効果がある。
単体では効果を持たないが、他の物と組み合わせることで真の効果を発揮する。

【マジック道具】
魔法少女の朝顔小雨が所持するマジック道具。
トランプやコイン、シルクのハンカチなど様々なものが揃っている。
特に異能の力などは存在せず、ただの市販品。

141レプリカ:2016/11/02(水) 20:00:17 ID:ul4a9bPM
剣槍一合、交わる。

エドワード・エクセルシア、清宮天蓋の特性は非常に似通ったものであった。起源をほぼ同じくする以上、当然の話ではある。
ただし、それらの関係は贋作と真作でもあった。贋作は清宮天蓋であり、真作はエドワードだった。
店外は本来では魔術師の域を出ない存在だったが、サーヴァント・ルーラーの外法、『英霊兵』の力を以てその身にアルトリア・ペンドラゴンのコピーを降ろしたに過ぎない。
技術、ステータス、スキル、全てが借り物。その宝具も、自身のものではない。
対して、エドワードこそ真作であった。真なるアーサー・ペンドラゴンより、聖剣の担い手として選ばれ、正統なる聖剣を振るう、真なる騎士の王であった。
天蓋の世界に当てはめるならば、エドワードは伝承保菌者、或いは擬似サーヴァントやデミ・サーヴァント……更に言うならば、現存する『英雄』と呼んで差し支えない。

「……くそっ!!」

「どうした《騎士王》! そんなものか!?」

だが。その力関係は、ほぼ逆転していた。
当然の話ではあった。このロワイヤルに向けた調整が施してあるとはいえ、天蓋はサーヴァントという超常の存在と比較して差し支えない存在なのだ。
対して、エドワードは、特別秀でた戦闘能力を持つわけではない。剣の腕では、ランスロットやガウェインと比較して……いや、そうせずとも平凡の域を出ない。
繰り出される槍撃に対して、選定の剣と化したそれで対応する。『魔力放出』を用いて打ち合うものの、その力の差は歴然であった。
打ち下ろされたロンゴミニアドを、選定の剣を以て受け止める。甲高い金属音が響き、その向こうの贋作の騎士王を睨む。

「俺はそんな大層な人間じゃない……ただ、偶々聖剣の資格を手に入れただけの、凡人だ」

「ならば都合は良いかもしれんな。最果ての槍に滾る叛逆者の殺意、先ずは収めなければ落ち着いて殺し合いも出来ん」
「その血を以てこの槍の熱を沈めてもらおうか、王よ。そして真なる王の座、私に譲って貰うとしよう」

「黙れ贋作、お前に騎士王を騙る資格はなく。その聖槍を振るうことも許されん」

ただ、その性能差へとエドワードは強靭極まりない意思を以て食らいついていった。それこそが騎士王の証であった。贋作には存在しない、王の証明だった。
だが、それすらも嗤うまでに、贋作の力は大きかった。サーヴァントとして最上級のそれの模倣は、着実に打ち合う選定の剣へと傷を入れていった。
数度の交錯。槍と剣という、単純な攻撃範囲の差を埋めながらも、エドワードは肉薄し、接近し、離れ、という銭湯を繰り返す。
確かな『技量』を持った人間同士の殺し合い。高次元の斬り合いは……然し、一旦の終わりを迎えた。

「……選定の剣が……!!」

突き出した聖槍の穂先と、選定の剣の剣先がぶつかり合い、そして選定の剣がそのまま粉砕される。
聖槍ロンゴミニアドの強固さは、エドワードもよく知るところである。故にありえないことではないし、かの贋作の強さを考えれば当然とも言える結末ではあった。
選定の剣は折れた日本刀に舞い戻る。それを握る様は……天蓋には、酷く滑稽に見えた。

「フフ……フフフ……フハハハハハ!!! どうする、剣が折れたぞ!! それで終わりか? それで終わるか?」
「いや、語らずとも。終らせてみせよう。この最果ての槍を前にして、騎士王たるお前は刺し貫かれるが必然だ」

「引導を渡そう、騎士王よ。その心臓を一突きにしてみせようか!!!」

そして、天蓋は高らかに歌い上げた。その口上は勝利の凱歌の代わりであった。そして、その槍をもう一度、エドワードへと向けて、突き出した。
それで終わる、つもりだった。この異常な殺し合いの中で、天蓋は一つ、大切な事を忘れていた。いや……それは、どんな魔術師でも、想定外に他ならないだろう。
その槍を払うものがあった。天蓋が本能的に後ろへ飛び、そして目にしてのは。光り輝く、一振りの剣であった。

142レプリカ:2016/11/02(水) 20:01:18 ID:ul4a9bPM

「……まさか」

「ああ、そのまさかだ」

驚愕に見開いた赤い瞳に、エドワードは頷いた。

「……ありえん。ありえるか、そんなことが、そんなことが!!! 確かに貴様は騎士王だ、それは事実だ、私とて認めている!!」
「だが、だが、こんなことが有り得るか。今、お前の剣は砕き切った。だと言うのに!! その手に握るのは!!」

「――――――"約束された勝利の剣"」

「宝具を……創り上げたというのか……?」

ホムンクルスの白い肌を真っ赤に染めて、清宮天蓋は困惑した。
彼の世界からすればあり得ぬ事であった。騎士王の剣、約束された勝利の剣を、今、此処で、創り上げるなど、そんな事はあり得なかった。
それはもはや魔法の域に達するそれであった。神造兵器を作り上げる……それこそ。贋作には、絶対に不可能な事であった。

「驚く事もあるまい。王に聖剣は付き物だ。そして俺は聖剣に選ばれた者。俺こそが聖剣であり、聖剣こそが俺だ」
「聖剣を持たぬ俺は王ではない。そして、俺が聖剣を握る限り、俺は騎士王に他ならない」

「行くぞ、贋作。その槍、モードレッド卿に返還して貰うとしよう」

今度はエドワードから斬りかかる。然し、動揺しているとはいえ性能の時点で遥かにそれを上回る天蓋。それを見切れない筈は無く、一旦はその槍の柄で止める。
そして、しかし余裕を取り戻した。そう……その剣こそ変わったが。その実力は、変わっていないと。

「ハッハハ……ならば好都合。お前のその聖剣、奪い取ってみせようか!」
「騎士王たる英霊をこの身に宿す私の力、見誤ったな!! 聖剣を握った程度で、私に勝てると思ったか!!」

「いや、勝てる」

エドワードは断言する。そして、天蓋は疑問を浮かべる前に、Aクラスの直感がそれを理解した。その光景を、垣間見た。
そして、同時に聖剣が光を湛え始めた。聖槍にも匹敵する騎士王の剣の輝き……それが、天蓋の顔を照らしていった。

「ま、まさか、貴様……」

「そのまさかだ。喰らうがいい。真なる聖剣の輝き、その一端を以て焼き尽くそう」

全開の一撃は叩き込まない、叩き込めない。此処から、先がある。先を計算に入れるまでの余裕が、エドワードにはあった。
聖剣が光り輝く。聖槍は砕けないだろう。だが……その肉体は、果たしてその力の奔流に。耐える事はできるか?

「――――――チェックメイトだ」

教会を、光の刃が斬り裂いた。

143レプリカ:2016/11/02(水) 20:01:49 ID:ul4a9bPM




「……逃がしたか」

その場に死体も、またロンゴミニアドも残らなかった。
死体が残らないならまだしも、聖槍も搔き消えるという事はあるまい。という事は、という結論に至った。
だが、これだけやりあって再度立ち向かうだけの力も向こうには残されていないだろう、という判断を下し……取り敢えずは、戦闘を終了したと判断する。

「さて……これからどうしようか」

そういえばと、かの贋作は槍以外の物を持っていなかった事を思い出し、数分程度の時間を以てデイパックを回収する。
中身には水と食料以外の物は無かったが、それでも今は十分だろう。
後は、取り敢えずはここを離れた方が良いか。何せ聖剣の一撃は目立つ、教会の天井と壁の一文叩き斬ったのだ、誰かに見られていると考えた方がいい。
荷物を抱えて、教会を後にする。取り敢えず、考えるのはそれからだ、と。



【騎士王剣@新厨二】
【B-6/教会内/一日目 朝】
[状態]:疲労大 魔力消費中
[装備]:騎士の剣@新厨二
[道具]:基本支給品&清宮天蓋のデイパック
[思考・状況]
基本行動方針:円卓の仲間と合流しつつ殺し合いを止める。仲間に出来る人間がいれば仲間にする
1.取り敢えずここから離れることが先決か
2.円卓の仲間達と合流したいところだ
3.あの男はまた現れるだろうか

※振動剣は騎士の剣に変化しました




「はぁ……はぁ、ククク、してやられたな」

騎士の剣によって焼き尽くされる直前。清宮天蓋は、全力の魔力放出を以て、その場から離脱した。
後先を考えずに我武者羅に逃走した結果、辿り着いたのは集団墓地。余りに不吉な結果に、思わず笑いすら飛び出てくる。
だが、兎に角逃げ出せたのは幸運だった。ロンゴミニアドも無事で、負傷は比較的軽く抑えられた。それならば、何とか殺す機会を、また物にできるだろう。
荒い呼吸を抑えて、何とか気配を殺そうとしていた。此処にも誰かいないとは限らない。そして……その想定は。自らの直感を以てして肯定される。


「なぁ、あんた」


「可能性って奴を、信じるかい?」


紅く染め上げられた聖剣と、世界に置き去りにされた"英雄"が。目の前に立っていた。


【清宮天蓋@聖杯】
【B-6/教会内/一日目 朝】
[状態]:疲労大 顔面半分ほどに火傷中
[装備]:聖槍ロンゴミニアド@新厨二
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:精々殺し合いを楽しむ、勝ち残ったら運営も皆殺しにする
1.取り敢えず、今は傷を癒したい
2.騎士王の打倒はその後
3.なんだ……この男は……

※本編終了後からです
※英霊兵としてアルトリアの能力を扱う事が出来ます
※『約束された勝利の剣』は所持していないため使用できません

【斬撃行軍@新厨二能力】
[状態]:健康
[装備]:哭雷刃@旧厨二能力
[道具]:デイパック ランダムアイテムいくつか
[思考・状況]:
基本行動方針:とにかくこの殺し合いから脱出する。手段は選ばない
1."可能性"を信じるやつは殺す
2.殺して帰る
3.とにかく帰る

※まだ名簿を見ておらず、【殲滅指揮】の存在には気づいていません。
※名簿には能力名が【軍刀闊歩】と記載されています。
※デイパックの中身は後の書き手様にお任せします。
※三条雪音のデイパックは集団墓地に放置されています。直接的な武装になりえないランダムアイテムがいくつか入っています。

144悪魔の美酒 ◆r7Y88Tobf2:2016/12/05(月) 02:52:19 ID:d1Paaf0A

「なぁ〜エヴァちゃんよ、いい加減機嫌直してくれって……」
「知らんっ!……あ、あの屈辱は忘れないぞ……」
「屈辱って……たかが肩車だろ?」

街道を歩く二人、否二匹の悪魔。
エヴァとヴェルゾリッチがオンモを退けてから数時間程、彼らは意見の合致のもと協力者の捜索に出ていた。
協力者、と言ってもヴェルゾリッチにとっては同族以外の種族と行動を共にする気はないが、エヴァはそうではない。
運営の打倒を第一とし皆との結束を求める彼女にとっては、種族の違いなど微塵も気にするものではなかった。
ヴェルゾリッチにとってエヴァはこの場で初めて出会った悪魔。その意見を無視することなど、出来はしない。
よってヴェルゾリッチは不本意でありながらも、悪魔以外の種族との結束という選択を取った。

「……にしても、魔法少女ねぇ」

オンモとの激闘の最中では聞き出せなかったが、改めて聞き慣れぬ単語を口にする。
彼の世界、少なくとも海馬市では魔法少女などというワード聞いたことがなかった。
性質的に言えば人間が”契約”なる儀式を行い、常軌を逸した力を手に入れるという後天性の力だという。
尤も、エヴァージェリンは吸血鬼でありながら魔法少女という特殊な例ではあるが。

「私からすれば、魔法少女以外に君程の実力者が居ることに驚きを隠せないな……」
「おいおい……エヴァちゃんが思ってるよりずっとこの世界は広いんだぜ?」
「ふっ、そうらしいな。さっきの大男といい君といい……下手すれば魔法少女より厄介だ」

苦笑交じりに語るエヴァであったが、その心は沈んでいる。

協力者の捜索を行う前、ビルの屋上にてエヴァは参加者名簿に目を通していた。
他に魔法少女が参戦させられている事は予想はついていたが、問題はその数だ。
黒百合学院の生徒会長『藤宮明花』、魔法十二戦姫少女第一位『如月凛音』。
そして他にも『水無月水月』は藤宮明花と親しい魔法少女であると聞いている。
『北条豊穣』に至っては、魔法少女界では知らない者は居ないと称される程の変人だ。

今述べただけでも4名――そしてきっと、自分が知らないだけでもっと多くの魔法少女が参加させられている。
顔も知らぬフリューゲルスを除けば一切知り合いが居ないヴェルゾリッチとは、心の持ち方が違っていた。

「……私は、一体どうしたら……」

それ故に、エヴァの心には迷いが生まれる。

無論殺し合いなどするつもりはないが、凛音などの所謂マーダー気質の魔法少女も多数存在する。
果たして自分はそんな同族を前にして戦う事が出来るのか、一種の不安のようなものを感じていた。
エヴァは自身のメンタルがお世辞にも強いとは言えないことは自覚している。
特にこの殺し合いという状況では、そんなものふとした拍子に折れてしまうだろう。

「おい、エヴァちゃん」
「……なんだ、ヴェルゾリッチ」

そんなマイナスの思考を遮るように、隣並ぶ悪魔からの一声に身を強ばらせる。
視線を合わせるのがやっとという程の身長は、長身痩躯という言葉がよく似合うと心の中で感想づけた。
しかしそんな威圧感たっぷりの容姿とは裏腹に、エヴァの名を呼ぶその声は酷く穏やかなものだった。

「そんなしょぼくれた顔してんなよ、心配しなくとも……お前の事は俺が守ってやるからさ。
 なんたって俺たち、仲間だろ?」
「…………仲間、か……」

仲間、当然の如く紡がれたその言葉が頭の中で何度も反響を残す。
エヴァの世界、即ち魔法少女の世界では各々が敵同士という状況が当たり前で、同盟はあっても仲間というものは早々ありはしなかった。
尤も、彼女の加入しているリブラス・サークルは例外だが……それでも、敵という存在の方が断然多かったのは否めない。
それに加えてこの状況だからか、エヴァはヴェルゾリッチという男を少なからず信頼していた。
勿論不満に思うところもあるが、自身のことを仲間と躊躇いなく断言する辺り傍に置いておいても問題はないだろう。
戦力においても自身と同等かそれ以上――傍目から見ても、この二人は相性のいいコンビと言って差し支えない。

145悪魔の美酒 ◆r7Y88Tobf2:2016/12/05(月) 02:52:55 ID:d1Paaf0A

「いいだろう、ヴェルゾリッチ……君の事を信頼してやる。
 但し変なことをしようとしたら……その、怒るぞ……!」
「へへ、……了解」

変なこと、というのは当然先ほどの肩車のような事態である。
それを加味しての忠告だったのだが、ヴェルゾリッチの飄々とした様子から意図が伝わっているのかイマイチ分からなかった。
随分な曲者をパートナーにしてしまったなと、エヴァは無意識のうちに苦悶の表情を浮かべ額に手を当てていた。

「……ん、下がってろエヴァちゃん」
「なんだ、一体どうし――…!」

不意に立ち止まるヴェルゾリッチの視線の先。そこには、心臓に大穴を穿たれた女性の死体が無造作に転がっていた。
興味深そうに凝視するヴェルゾリッチは勿論、一瞬視界に入り直様視線を逸らしたエヴァでさえその遺体の惨さを理解する。
左腕は完全に折れ曲がり、右腕は不自然に凍てついている。加えて、一番酷いのは心臓部に刻まれた裂傷。

死体遊びを嗜好とする持ち主に殺められたのか、激闘の末に力尽きたのかは定かではない。
どちらにせよこのバトルロワイヤル開始から今刻までの数時間の間、つまりつい最近に死亡したのは間違いないだろう。
もし自分がもう少し早く来ていれば――そんな事を考えても仕方ないと分かっていても、エヴァは自責の念に囚われていた。
だからこそだろう。一度逸らしたはずなのに、再び遺体へと向けられた視線は囚われてしまったように固定されている。


「……一体、誰が……っ!」


やっとの思いで吐き出した疑問の言葉に、目の前の死体が口を開くことはない。
その代わりに口を開いたのは、今まさに隣で死体を鑑定している悪魔だった。

「……フリューゲルス、かもな……」
「フリューゲルス……って、お前の!?」
「ああ、同胞だ……奴は氷を使う悪魔だ。……まさかな…………」

重々しげに告げるヴェルゾリッチの視線は、一切溶ける様子の無い凍てついた右腕へ向けられている。
心臓部への裂傷、そして左腕の骨折だけならば到底犯人など特定する事など出来なかっただろう。
精々刃物を持っているという事ぐらいか――だが、この右腕を見ればぐんと候補が絞られる。

ここまで完璧に右腕だけを凍り付かせられるとすれば、自然とそれに準じた能力や魔法を持っているという事だ。
無論フリューゲルス以外にも氷の能力を持っているという可能性は、十分に有り得る。
しかしヴェルゾリッチは、フリューゲルスが「氷を使う女性の同胞」という事以外一切情報を知らないのだ。
故にその性格や人柄を知らない。この殺し合いに乗った可能性も、否定する事はできないだろう。
問題はそれを踏まえてのヴェルゾリッチの思考だ。……同胞を助けるという使命を捨てる気など、更々無い。

同胞であるエヴァは運営の打倒を、そして未確定ではあるがフリューゲルスは優勝を。
悪魔を救うという信念を貫くのならば、どちらの願望も叶えなければならない事になる。
予期せぬ壁に衝突し、ヴェルゾリッチは思わず顔を顰めた。

「ちぃっ……、……エヴァちゃん、行こうぜ」

悩んでいても仕方がない。
脳を苛む思考から逃げ出すようにそう切り捨て、死体から目を離さずにいるエヴァへ声を掛ける。
当の彼女は一瞬の間を置き「ああ」と短く答え立ち上がったかと思えば、ふと何かを思い出したように足を止めた。
疑問を抱いたヴェルゾリッチが問い掛けるよりも早く、エヴァは真剣な眼差しでヴェルゾリッチの双眸を射抜く。

「ここら辺一帯はアスファルトだ……埋葬はできない。
 だからせめて、黙祷を捧げたいんだ……こんな巫山戯たゲームで失ってしまった命に」
「…………」

その言葉を聞いて、ヴェルゾリッチはまず初めに疑問を抱いた。
何故自身と同じ悪魔でない種族に対してそこまでの情を抱くのか?という、シンプル且つ単純なもの。
ヴェルゾリッチ自身人間や他種族へ敵意はないが、仲間意識や情を抱く事もない。
だからこそ彼にとって今エヴァが取ろうとしている行動は不可解でしかなかった。

「……、…………」

しかしエヴァはヴェルゾリッチの反応を待たずして、一人地に片膝を付き両手を重ね祈るような体勢を取る。
暫しの静寂が場を支配し、悪戯に時が流れる。やがてたっぷり一分ほど過ぎた頃、ようやく顔を上げ瞼を開いた。
エヴァを見つめるのはやはり無惨に殺害された女性、イムカ・グリムナーの生気を失った瞳。
未練を残した視線に耐えかねて、エヴァはイムカの瞼をゆっくりと丁寧に下ろさせた。




146悪魔の美酒 ◆r7Y88Tobf2:2016/12/05(月) 02:53:55 ID:d1Paaf0A


「終わったみたいだな」
「ああ……先を急ごう、ヴェルゾリッチ」

放置されていたイムカの支給品を一通り自身のデイパックへ詰め込み、座り込んでいた体を立ち上がらせる。
電柱に背を預けていたヴェルゾリッチが、エヴァが立ち上がるのを見計らい体を起こした。
この場で初めて遺体を目にした為か、エヴァは何処か疲労した様子に見える。
そんな彼女を気遣ってか、ヴェルゾリッチは態とらしくエヴァの隣へずい、と忍び寄り笑顔のまま覗き込んだ。
厳つい顔面が和やかな笑顔を浮かべる様子は中々に不気味だ。思わずエヴァは眉間に皺を寄せる。
しかしよくよく眺めている内に段々と可笑しくなってきたのか、堪えきれず吹き出してしまった。

「お、おいっ!人が折角元気づけてやろうとしたのに笑うこたぁねぇだろっ!?」
「ぷっ……ははっ!す、すまん……なんだか可笑しくて……!」
「む、俺の顔が可笑しいだとぉ……?
 そんな事言うエヴァちゃんにゃ、こうしてやるぜっ!」
「わ、わっ!?貴様、また…っ!」

いきなり腕を引っ掴まれたかと思えば、そのまま小柄な体をいとも容易く抱え上げられ肩車をさせられてしまう。
つい十分前に注意したばかりなのに懲りずに挑戦する様子は、怒りを通り越して呆れさえも湧いてくる。
しかしそれ以上に、ここが殺し合いの場だということを忘れさせてくれるヴェルゾリッチに対して感謝を抱いた。
尤もそれを口にすることなど絶対ないが、せめて心の中では礼を言っておいてやろう。
何処か偉そうな思考の基ありがとうと、届くはずのない言葉を心の中で反芻させれば小さな悪魔は普段よりずっと高い視線を楽しんだ。



人間と共に戦う事を選んだ悪魔、同族にだけ心を開く悪魔。
似ているようで全く異なる二人の悪魔はきっと、これからもその意思が変わる事はないのだろう。
もしも変わる時があるとすれば、それは――どちらかが、どちらかを喪う時だ。
その時が来るのか、或いは永久に訪れないのか、それを知る者はまだ――居ない。




【E-3/一日目 午前】
【エヴァージェリン=ナイトロード@魔法少女】
[状態]:右足に軽傷(行動に支障なし) 魔力消費(小程度) 精神疲労(小)
[装備]:GGT-209 光線短銃『ナナカマド』@境界線 手斧@学園都市
[道具]:基本支給品×2 レザーアーマー@境界線
[思考・状況]
基本行動方針:運営打倒の方法を探す
1.ヴェルゾリッチととりあえず同行。
2.戦闘は可能な限り避けたい。
3.知り合いとの合流、救出。
4.如月凛音、フリューゲルスを警戒。

※制限により、普段より魔力の消費が激しいようです。


【ヴェルゾリッチ@悪魔】
[状態]:健康
[装備]:サングラス@ここだけ悪魔が侵食する都市
[道具]:基本支給品 祓い煙草@ここだけ悪魔が侵食する都市
[思考・状況]
基本行動方針:強敵との戦いを楽しみつつ、悪魔を助ける
1.フリューゲルスを探し、危ない様子なら助ける?
2.強敵との戦いを楽しむ。できれば、真の姿になれる夜に戦いたい。
3.大男(オンモ)とは、いずれ決着をつけてぇな。


※制限と悪魔の種族特性により、太陽の昇っている間は真の姿(悪魔時の姿)にはなれません。

147其は超越の物語:2017/08/29(火) 16:30:27 ID:fc7C2EzE
一矢。木製の弓より放たれる木製の矢。それは"英霊"にとっては玩具に等しい物であろう。
しかしてこの"不朽不滅の弓矢"も、無名の英雄に握られたものであり、故にそれは英霊へと届きうる。


そう、"英霊"であれば。


蒼天を叩き割る、赤い"爪"。
其の身は日輪。其の羽は白雲。其の"竜"は――――遺物王の"僕"たる"赤き竜"
其の身を震わせれば都市一つを焼き潰す。"まるで超人の仇敵のように"

「―――試してやろう、"人間"」

赤い爪は不朽不滅の矢をただの木矢として叩き潰し、そのままツァラトゥストラへと迫る。
その爪は人薙ぎにして山々を消滅させたという逸話すら持つ。宝具として現界している以上、劣化していることは確かであれど。
それは間違いなく、人の身にて受けられるものではない。
だが、これは期待を以って振るわれた一撃であった。
魔術で構成される存在でありながら、その御技は科学の頂より落ちる。英霊という存在の一つの頂点たる"遺物王"にとって、赤き竜すらも手段の一つである。
"超人"を名乗るのであれば、この程度は超えて見せろ、と。

"超人"の対応は極単純であり―――拳を振り上げるのみ。
全身の血管の赤が高速で巡りだす。それは超人のエンジンが駆動することを意味し
小細工の一切ない、純粋な暴力に対する暴力は―――――確かに日輪を打ち破る。

「王よ、奇蹟を超え科学を振るうものよ!
 おまえは神にも値するのであろう。あの唾棄すべき神にすらも、おまえは届くのであろう!!」

超科学により生まれた存在である超人は、本能にて英霊の真髄を理解する。
古代にて未だ超人すら届かぬ領域の科学を完成させた者。その遺物ですらも、"独裁者の帝国"を打ち破る。
きっと、それは神にも等しい存在である。


「――――試練は終わりか、王。」


一歩、一歩、大地を踏みしめる。拳を握り、一歩、一歩、王の喉下に刃を近づけていく。


「クックック……」

自身に立ち向かう超人を見据える王は、口元に笑みを抑えられぬようであった。

「―――――― アーッハッハッハッハッハ!クッハッハッハッハッハ!!」

昂ぶっていた。滾っていた。その声は―――正しく、歓喜の声であり。

「そうか!!!ここまで、我が子はここまでたどり着くのか!!!
 あの"独裁者"を見直そう。確かに何れ追いすがったやもしれぬ。」

既に分析したと言った超人の性能を直に見て、数字でなく現実として認識しそれは歓喜する。
――――しかして決して、子が親を超えることはないと確信している。あくまで追い縋れど、追い抜くことはない。

「生物兵器風情と言ったな、撤回しよう。
 貴様は我が全てを見せるに足る。
              シレン
 ここに"王"の"遺物"を見せよう―――――十二程度では終わらんぞ?」





      オーシ・ラフン・バクトゥン
『       滅び納めし石の装具       』





金色の光が景色を染める。神々しく、神々しく、しかしてそこに神意の一切はなく。純粋すぎる科学のみによって構成されるその"正体不明"の"正体"。
全長7m、全高2.4m。パカル王の技術の結晶たるこの形状を表す言葉は未だ人の手にない。
ただ、その役割に、今人類が持つ技術を当てはめるのであれば

 ロケット
"宇宙艇"

である。

148其は超越の物語:2017/08/29(火) 16:31:16 ID:fc7C2EzE
一切の亀裂の存在しない宇宙艇より、"ハッチ"―――――"ミサイルポッド"が現れる。
宇宙艇の外装の5割を占めるそれより放たれるミサイル、"トルコの古代ロケット"の数は文字通りの無数。

「褒章をくれてやろう!あの"独裁者"と同じように!」

ツァラトゥストラは無数の一つ一つに拳をぶつけていく。
木矢しか装填できない不朽不滅の矢は、もはや玩具にしかならず。現状の彼は拳以外を持たない。
であれば対応など唯一つ。拳による撃墜のみ。

無数のミサイルに応える拳は無数かと言えば、否。当然ながらミサイルは超人の肉を喰らっていく。

「褒章―――成る程、王に相応しい傲慢である。」

肩、腹部、腿、抉られた肉は確かに超人の動きを阻害する。
それでも、超人はその不遜なる態度の一切を変えやしない。

「然し王、偉大なる遺物の王よ。
 ―――――超人の栄誉には"この程度"では足りやしないのだ。」

幾ら肉を抉られど、超人は未だ立っている。無数が零になった今も、尚。

「私は更なる褒章を願おう。
 ―――――おまえはこの蟲毒の先に何を望む。」

超人の問いに対して、王は上がりきった口角を更に、強く、吊り上げる。

「決まっている。」

それは民に望まれた王。民に望まれたままに、予言を成就させる者。

「―――世界を滅ぼす。
 我が予言が世界を滅ぼすのだ!民が望むままに、私はそれを叶えるのだ!!」

答えは超人の"望んだとおり"。自然と口角が上がっていく。

王の理屈など分かりやしない。滅びを望む民など居るものか。
滅び行く世界に生きるからこそわかる。人は如何なる危機に当たっても、強く、意思を持って生き抜くのであり
故に彼は"ツァラトゥストラ"。超える者の名を冠するのだ。

「嗚呼―――――やはり"おまえ"はこの超人が超えるべき、踏み潰すべし存在!
 
 わたしは神の死を知らせるもの。故、おまえの死を以って"超人の世"を証明しよう!!!」

抉れた肩より伸びる腕、その先の指を王へと向ける。
"おまえは必ず超える"と、その意思をここに示す。

「ククク―――アーッハッハッハッハッハ!」

王は昂ぶりを抑えられない。
我が子の成長はここまで達した。今、親を超えると宣言して見せた。愉快で愉快で仕方なく―――愉悦すらも感じうる。
ここまで子が吼えるのであれば。一度"現実"を突きつけてやるのも親の勤めであろう。

「あの程度では足りぬと言ったな―――良い。王の"予言"をくれてやろう。」

宇宙艇の前方が十字に展開し、極大の砲塔が現れる。その中心の一点に光が収束し―――その様相こそ、人類が焦がれど、幾ら焦がれど辿り着けなかった"光線砲"
これこそが王の"予言"する"滅び"の形。その威力は日輪そのものにすら匹敵する。

科学による超人であるツァラトゥストラも、この収束の瞬間に威力を理解していた。
手札にあるのは拳と木矢、それは余りに頼りなく、絶望を生み出す道具にしかならないはずだった。
然して超人は"嗤う"。その予言を"嘲笑う"。

「誇るが良い、王よ。
 ―――――おまえの予言は、超人の手により超えられるのだ。」

確信があった。眼前に立つは滅びの予言、であれば"それ"は必ずこの手に来ると

149其は超越の物語:2017/08/29(火) 16:33:41 ID:fc7C2EzE






暴風が吹き荒ぶ。超人と王を包み込むそれは極小規模に、視界の範囲のみを荒らしているようであった。
それはこの二人にとってはなんてことのない現象であった。どちらも暴風程度で揺れる存在でない。
だが、だがしかし。その風は祝福であった。声無き賛美歌であり、音無き福音であった。



王のデイパックが開き、"それ"は翼を広げ、風に乗り、"超人"の下へ。



                  デーア・ユーバーシュトゥック
「さあ、共に超越を――――――"超人の杖"。」




その先端には翼を広げた鷲、黄金に輝く柄には蛇が巻きついている。
鷲は、蛇は、ツァラトゥストラと生態金属を共有し、意志すらも同じくする。
それには可能性があった。機械的な秩序に納まり切らぬ可能性が―――ここに今、"証明"された。

王は意に介さず。その杖すらも、予言の前には玩具であると。
収束する光が止まり、充填が終わる。なればここに予言は成就し、焼けた大地に超人の肉片すらも残らない。

放たれる"予言"は超人の目の前で"止まる"。

眩く輝き、紅焔を撒き散らす"球体"がそこにあり、"予言"の光と拮抗していた。
莫大な熱と熱が衝突し、漏れるフレアが辺りの緑を黒へと塗り替える。
予言のその熱は日輪にすら匹敵する――――なれば日輪そのものたる球体と拮抗するのは当然であり。
今、この瞬間、"人類"は"遺物王"へと追い縋っていた。

「……あり得ん。」

王より零れたその言葉には、久しく感じていなかった感情が篭る。
"悔しい"と言う感情。それが人の範疇を超えてからは忘れていた――――否、あの時。
この世界に来た時の影響か、あいまいだった記憶が鮮明によみがえる。
あの満身創痍の"独裁者"が築いた帝國に、自信の科学は征服されたのだ。

「巫山戯るな!!!!
 その程度の玩具で、その程度の帝國で、このパカル王を――――」

そして日輪の衝突による光と"悔しさ"が、王より視界を奪っていた。球体の向こうに、超人は既に居ない。
突如、頭部に強い衝撃が発生し、全身より蒸気を噴出す超人を、その視界の最期として意識を閉じた。

「――――証明終了
 王よ、人間は超えられるのだ!!如何なる滅びも、超人と化して乗り越える!!
 "お前たち"、その神々が如く胡坐を掻く"運営"よ!!
 そうだ、如何なる滅びをも乗り越えるのだ!!」

ああ、だが、しかし。超人の機能はここで終了する。
日輪の衝突を間近で受け、それでも尚動ける領域には未だ人類は立っていない。
その一瞬の限界の超越は、彼が"ツァラトゥストラ"、"超人"であった故。

「なぁに……超人は未だいるとも。」




「だが―――今際に叫ぶにはやはり、雅が過ぎる名だ。」





焼け焦げた森の中心にて。今はただ、機能を終えた超人と、"超人の杖"が立つのみ。







【A-8/一日目 朝】
【ツァラトゥストラ@魔竜世界】
【ライダー(黒)@聖杯】
以上二名、脱落
二人のデイパックはA-8地点に放置されています

150もう何があっても挫けない ◆AXS9VRCTCU:2019/04/07(日) 06:18:59 ID:ImJaPKXw


「あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!」


そびえる灯台を何度も殴りつけながら、青髪の少女は絶望と恐怖の入り混じった叫びを木霊させる。
こんな意味不明な殺し合いに巻き込まれたのだ。こんな幼い少女が現実を受け入れられるわけはないだろう。

と、傍から見た人はそう思うかもしれない。

しかし少女の、オクタヴィア・クロイツェルに限っては違う。
何が違うのか。それは、少女にとってこの残虐な”殺し合い”など微塵も眼中にないのだ。それどころか、命を懸けた戦いなど彼女の日常の一部なのだから。
彼女の心をどす黒く支配しているもの。それはただ一つ――




151もう何があっても挫けない ◆AXS9VRCTCU:2019/04/07(日) 06:20:21 ID:ImJaPKXw


ルーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシールーシーッ!!!


理性の失った瞳、絶え間なく零れ落ちる涙、獣のように荒い息遣い。
辛うじて状況を把握しようと名簿を握り締める手は小刻みに震えており、それが彼女の心を乱す原因なのだと察するのは容易い。

オクタヴィアは純粋な少女だった。
元々精神は不安定で多重人格の持ち主でもあったが、心の底では友人を大切に想う一人の年相応な少女だった。
事実、元の世界では紆余曲折を経たものの最後には親友に囲まれ幸福な生活を手に入れている。

だが――一度だけ、彼女は心を壊したことがある。
殺人を犯し、親友であるルーシー・グラディウスに拒絶された瞬間だ。

自分の薄汚い”仕事現場”を最愛の友人であるアルテーチカに見られ、動揺していた心にとどめを刺すように上記のことが起こってしまったのだ。
その際のオクタヴィアは無差別に能力者に襲いかかり、その場に居合わせた天子は勿論、ルーシーにさえ剣を向けるほど取り乱していた。
結果的に数多の能力者によって敗北し、それを大きな切り口に幸福への道を歩み始めたのだが。

長々と語ったが、つまり何が言いたいのか。
それは、今ここに連れてこられたオクタヴィアは幸福な生活を手にしたあとの彼女ではなく、まさにルーシーに拒絶された絶望の淵に叩き落とされた瞬間の彼女だということだ。
もっとも、この殺し合いが始まってすでに数時間が経過している分、最低限の理性は取り戻しているが。
しかし中途半端に思考能力があるということは、より彼女の狂気を引き立てるということだ。

152もう何があっても挫けない ◆AXS9VRCTCU:2019/04/07(日) 06:20:56 ID:ImJaPKXw

「ねぇ、ルーシー。貴方は優しいからきっと話し合えばわかってくれるよね? だって貴方は私の友達だもん。私を受け入れてくれないなんておかしいもん。きっとルーシーは少し怖がっていただけだよね。ああ、きっと今もすっごく怖がってるだろうなぁ。大丈夫、私が守ってあげるから。ルーシーに手を出す奴らは皆殺しにしてあげる。ううん、手を出さなくても殺す。私とルーシー以外の奴らが生き残るなんて許さないから。でもルーシー、貴方がもし私を受け入れてくれなかったら最後にルーシーを殺すね。私の気持ちをわかってくれないルーシーなんていらない。ふふ、そんなこと絶対にないだろうけど。だって私とルーシーは親友だから。はやく帰ってずっと幸せに暮らそうね」

一瞬の息継ぎさえなく己の思考全てを口にするオクタヴィア。
彼女のスタンスは言うまでもなくマーダー。それも、ルーシー以外の参加者を無差別に殺害する傾向だ。
場合によってはルーシーさえも殺害を視野に入れている。冷静さを取り戻した獣は、より凶暴に牙を剥いた。

乱雑に投げ出されたデイパックから真っ先に取り出したのは大きな鎌。
武器になりそうなものはこれだけだった。他のアイテムにどのような効果があるのか、それすらもろくに確認していない。
そう、武器さえあれば人は殺せるのだから。至極当然にして、彼女が今まで何度もやってきたことだ。

大鎌を右肩に掛け、不敵な笑みを携えながらオクタヴィアは幽鬼の如く歩き出す。
ここがどこかもわからないし、地図で確認するのも億劫だ。ならば、とりあえず目指すのは人が多そうな場所。
できれば大人数。一斉に殺せればその分ルーシーを狙う可能性のある人物も排除できる。

漆黒の殺意を基に思考を働かせるオクタヴィアの胸には、自分が敗北する未来など絶対ないという確固たる自信が掲げられていた。


【H-7/灯台付近/一日目 午前】
【オクタヴィア・クロイツェル@旧俺能】
[状態]:狂戦士モード
[装備]:•ヘレボルス=ニゲル@魔龍
[道具]:基本支給品 不明支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:ルーシー以外の全ての参加者を殺す。
1.他の参加者を探し、殺す。
2.メタモルゼを見つけたい。

【ヘレボルス=ニゲル】
魔龍のサザンカが所持する、龍を屠る為に一人の超人に託された白雪のように純白な大鎌。思考制御による遠隔操作機能を搭載。
白光の残光を残しながら振るわれるその鎌にはサザンカの因子が組み込まれており、能力の影響を受ける事が出来る。


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