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没BB先輩劇場

1しゃくかえせ:2016/10/07(金) 21:31:58 ID:tqLCvApQ
BB先輩劇場として作ろうとしたけど諸所の理由により没にした動画をSSとして供養する予定。

2しゃくかえせ:2016/10/07(金) 21:39:33 ID:tqLCvApQ
ホラー淫夢『てんでんご』

没理由
①面白くない
②演出ができない

「これが目的の祠か。本当にあるんだな」

道路の脇にポツンと小さな祠がある。俺が探していたものだ。

「どうされたかな?」

長身痩躯、ちょっと時代錯誤感もある作務衣を纏った中年の男に話しかけられた。

「いえ、私大学の卒業研究で過去の津波被害について調べているのですが、ここに祠があると知ってやってきた鴻野昴という者です。
失礼ですが貴方は?」

「私、平野源五郎と申します。その祠に興味を持つ人が珍しくてつい声をかけてしまったよ。」

「そうなんですか。祠があるということはここに津波被害があったというのは本当なのですか?」

「熱心なんだね。」

「ハハァ・・・。先人が残したものを正しく伝えるのは私たちの責務ですから」

「真面目な子だねぇ。祠の中を覗いてごらん。当時津波被害で亡くなられた方々の名前が記されているよ。」

祠の中を覗いてみると20名程度だろうか、津波被害で亡くなられたであろう方々の名前が連なっている。

「確かに。でも妙なんです。立地的にも津波が来るとは考えにくいですし、そもそも何時作られたものかも定かじゃない。
公の津波想定にも記されていない。」

「そうなのか。」

「あと気になったんですけど、半分の10名程「平野」という性の方が連なっているのですが、源五郎さんとゆかりがあるのですか?」

「当時は大家族も珍しくなくてね。君が言う通り立地的な油断もあったんだろう。平野家は津波で皆死んだんだ。」

3しゃくかえせ:2016/10/07(金) 21:40:38 ID:tqLCvApQ
「え?じゃあ平野さんは・・・もしかして幽霊?」

「ハハハ。そんなわけないだろう。家族の一人が津波の発生時偶然隣の県にいたらしくてね、一人津波の被害から免れたんだ。
この出来事を決して忘れてはならないと伝え続けられてきたんだよ。
第一、私が津波で死んだならそこに名前がないとおかしいじゃないか。」

「そうですよね。変なこと言ってすいません。」

「生き残りの一人の子孫がこの私、そう子供の頃から教わってきたよ」

「ああ、そうだ。このへんだとここは怪談スポットとしても有名でね。出るって噂だから、日の落ちた頃に来るのはよしたほうがいいよ」

場面転換

小さな飲み屋の一室にて。

「でよぉ。昴、今やってるバイト時給いくらよ?」

「はちごー」

「はちごー!?マジでぇ↑↓?」

「お前そのバイト大学入ったころやってんのにまだそれっぽちなのかよ。」

二人は子供の頃からの親友で桜井豪、岡田義徳だ。
長期休暇ということで皆で集まって飲むことにしたのだ。

「やっぱ変な気がするんだよなぁ。江戸時代以降の津波記録はかなり正確に・・・」

「お前まだそのこと言ってんのかよ。真面目なのはいいけどもっと気楽にいこうぜ。」

「まぁまぁそれも昴の個性ってやつだろ。こっから近いんだろ?怪談スポットとしても有名なら酔い覚ましにいってみようぜ」

場面転換

4しゃくかえせ:2016/10/07(金) 21:41:14 ID:tqLCvApQ
日も落ち影が広まりだし頃、三人は例の祠がある場所へきた。

「ふぅん。確かに津波なんかとは縁遠そうな場所だなぁ」

「薄暗い中佇んでる祠ってのも怪談ぽい雰囲気でていいじゃん。」

「そんなこと言っちゃぁ駄目だろ!」

「昴は相変わらず真面目だなぁ。」

ぴちょん。

「ん?雨でも降ってきたか?」

ぴちょん。ぴちょん。

「いや全然。雨なんか降ってねぇぞ」

ぴちょん。ぴちょん。ぴちょん。

「おい、祠の前の道見てみろよ・・・」

祠の前のアスファルトがおかしい。
固形物であるはずのアスファルトかどろどろと溶け液体のようだ。
無機物であるはずのそれは嫌な水音を伴いながら、目的をもったかのようにうごめいている。
少しずつだが確実に俺たちがいる方向へ。

「やべぇだろ!なんだあれ!は、はやく逃げようぜ!」

ぴちょん。という水の音はやがてさらさらとした川の流れになり、三人が逃げる覚悟を決めた時には濁流なった。
周りの景色を巻き込み三人の足元を走る。

「逃げろつったってこれじゃ身動きとれねぇよ!気を抜いたら倒れちまいそうだ!」

次第に水位は高まる。
三人の動きを奪いながら足首、膝、腰と徐々に侵食していき、あっという間に肩にまで登ってきた。

「なんなんだよ一体!」

水、というよりは景色そのものが暗色に怪しく染まったものが三人の自由を奪う。

「身動きがまるでとれない……」

水面、と呼ぶにはどろどろと不規則に運動するそこから、何かが見え隠れする。

『ワ………デ』

5しゃくかえせ:2016/10/07(金) 21:41:51 ID:tqLCvApQ
「何か聴こえる……?」

「昴!何言ってんだ何も聞こえねぇぞ!さっさと逃げるんだよ!」

桜井と岡田は近くに生えていた木にしがみつきながらすこしずつだが祠から遠のいていく。
反面鴻野は流れに足を奪われそうになりながらも少しずつ祠へ向かっていく。

人、というには体毛もなく服も着ず、全身を白に塗りつぶされている。
生物、と表現するにはあまりに存在が希薄。

数にして20程度だろうか。
漆黒から這い出てきたそれ達は、昴の周りを取り囲み、口のように見える穴から不快な高音を吐き出している。

「なんだよあいつら…。昴!早く逃げろよ!」

「(ナ…イ?この人たちは何を言ってるんだ……?)」

「馬鹿野郎!なに祠へ向かってんだよ!さっさと逃げろよ!」

『ワ…イ…デ』

化物達は一定の間隔で同じ音を発している。

鴻野は化物と真正面から対峙しているにも関わらず歩みを止めない。

鴻野が流れに足を取られそうになりながらも、必死に祠に近づいていくにつれ、化物達も鴻野に近づいていく。

「君たちは…君たちは何か津波について知っているんだろう?ぼくに教えてくれないか?」

化物達は依然として一定の間隔で同じ音を発するのみである。

しかし、化物と鴻野の顔がほとんど目と鼻の接触するか否かという刹那、鴻野は化物の言葉を聞き取ることができた。

「ワスレナイデ?」

「コラ!何をしている!」

すんでのところで鴻野の体に縄が幾重にも縛り付けられ、暗雲とした世界から救い上げられた。

場面転換

6しゃくかえせ:2016/10/07(金) 21:42:28 ID:tqLCvApQ
作務衣の中年、平野源五郎に助けられた三人は、男の家に招きあげられた。

「死ぬかと思いました。」
疲弊しきった顔で岡田が尋ねる。

「だから言っただろう。危険だからいくなと。特に鴻野君のような子がいるときは」

「一体なんなんですかあれは。」
桜井がやつれた顔で尋ねる。

「津波に襲われて溺れ死んだ人たちだ。」

二人は「やっぱり」と納得した顔だが一人は疑問の色を隠さない。

「確かに僕は不思議な体験をしました。でも『死んだ霊に襲われたから実際に津波はあった』なんてことは口が裂けても言えない。」

「でも君は聞いたんだろう?」

「『忘れないで』ですか。」

「そうだ。あそこの霊たちはお前たちを苦しめようとしているわけじゃない。ここを実際に津波が襲ったということを知らしめるために
あんなことをしているんだ」

「んなこと言っても本当に死にかけたんすけど……」

「江戸時代以降津波被害を報告する仕組みはかなり整いました。だからなんの公の記録も残っていないなんてことはあり得ないんです。」

しばしの沈黙の後

「昭和東南海地震」

ぽつりと平野が呟いた。

7しゃくかえせ:2016/10/07(金) 21:44:03 ID:tqLCvApQ
「……え?」

「第一次世界大戦の真っただ中、軍部は日本の弱い部分など他国に知られるわけにはいかなかった。無論、どれだけ大きな津波が襲ってきようと、それが外部に漏れることがあってはならない。」

「軍部は津波による被害を徹底的に規制したんだ。」

「で、でも立地的にあり得な……」

「君は彼らの必死の思いを否定するのかね?直に聞いたんだろう?」

「……」

「やっぱりありえないと思います。でも、彼らの言葉を信じます。」

「この先ぼくは大学でも社会でも研究を進めていくと思います。幽霊は信じないけど、彼らの言葉を信じることはできる。
ここだけじゃない。完璧な津波想定を完成してやろうと思います。」

「……ありがとう。そう言ってもらえると彼らも報われる。」

「助けて下さりありがとうございました。また、いつか会いましょう。」

三人は平野への感謝をそれぞれ口にし、静かに立ち去った。


「君のおかげで私たちは報われたよ」
平野はポツリ、と呟いた。

回想

昴が化物に囲まれた時と似たような状況に源五郎が追い込まれている。
化物達は昴の時と比べ、人間としての面影を残しており、それ故にグロテスク。

「父さん!母さん!姉さん!どうしちまったんだよ!俺だよ源五郎だよ!わかるだろ!?」

「独りぼっちだったけどここまででかくなったんだ!女もできた!これから平野家を再興するんだよ!」

少しずつ源五郎が化物の波に飲み込まれていく。

「やめて…やめてくれ。なんで、なんで…」

源五郎は波に飲み込まれ見えなくなった。

回想終

ED「不老不死」

源五郎の周りに十名程の化物が集まっている。

「意味は知らないまま」までの間に化物達は少しずつ人としての姿を取り戻していき、そして消えていく。最後に「ありがとう」と源五郎が呟く。

怪談新玉袋ED(@を付けるんだゾ作)にのせて、動画の終わりに祠の中に平野源五郎の名が浮かび上がって終わり。


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