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13アウラ・Y・ミューリライネン:2015/08/30(日) 22:46:50 ID:8bbWws/U0
>>12

「はぁッ……はぁ……」

それはまさしく呪いだ。自分が今、勇気を貰っているそれとは違う。自分の物が正であるならば、それは負だ、と。
ソビエト人民の呪い。机上の空論を真実と崇めた労働者たちの怨念。殺戮の丘の怨嗟。それが、その男を支配しているのだろう。
刃が食い込み、鮮血が噴き出し、倒れ込もうとしていた筈だ。それだと言うのに、動かしているのは、信じられないほどの執念、執着。
お互いに。ソヴィエトなんて経験していない年齢である筈なのに、彼の意思は蝕まれている。最早問答など無意味であり。どうしようもない"怪物"だ。
だから、ここで打ち倒さねばならない。これはフィンランドの敵だ。これは――――――――――――今を生きる全ての人民の、敵である。

「だからそれは……失敗したって言ってんでしょうが……」

だから前に進む。この、焼き尽くす焔の前に、退く訳にはいかない。ソヴィエトの支配を、もう一度再現する訳にはいかない。
サーベルを握り締める。白刃より滴る鮮血を振り払う。古いフィンランドの大地に、露西亜人の血が点々と鮮やかに映える。
今度こそ、完全に叩き切ると心に決めた。逃げる事は出来ない。雪原は溶けていく、自分の体を覆う吹雪たちは、共産主義の焔に溶かされていった。
これ以上、小細工は出来ない。真正面からいくしかない。大丈夫、この雪原は―――――――――――― 白い死神が戦った殺戮の丘、英雄たちが立った大地。

「行くわよ、クソったれな平等主義者!!! 幻想に倒れた、バッカみたいな共産主義者ぁ!!!!!」

そして、駆け出した。其処にいる彼らを、"今度こそ斬り捨てんと立ち向かっていった"。
頬を焼く焔。圧倒的な焔。亡国それ自体の意思。ほんのちっぽけな少女の身体で対抗するには、余りにも膨大過ぎる熱量に。その歩みは、ゆっくりと落ちていった。
髪を焼いて、服を焼いて、剣を焼いて。肌を焼いて、肺を焼いて、一瞬で、其の身体は限界にまで追い込まれていた。そこで斃れる、はずであった。
彼と同じく、聖遺物で強化された身体でも耐え切る事の出来ない焔に、焼かれて死んでいく。その運命は決して変わる事は無いと言うのに。

「……負け、るかぁ」

「アンタ達が台頭したら……またみんな、貧しい思いをしなくちゃならない……そんなのは、駄目なのよ……」
「私は、聖遺物を持った、エリートだ……聖遺物部隊の……特務大尉……誰にもできない事を、私がする……私がやらなくちゃいけない事を……」

「私がぁ……守るんだぁ!!!!」

立ち止まった。けれどその顔は前を向いた。見開かれた瞳は焼かれながらも爛々と輝いていて、男を睨みつけていた。
剣を、振り上げていた。決して彼に当たる距離では無いと言うのに振り上げて――――――――――――全身全霊の力を籠めて、その剣を彼へと投げつけた。
最後の足掻き。気力だけで振るった……正真正銘、アウラ・ミューリライネンの、命を振り絞った一撃だった。それが、彼へと突き刺さるかどうかは。

「……ちく、しょう」

アウラ・ミューリライネンは、見届ける事は叶わなかった。
フィンランドの大地に倒れ伏す。そうすれば、アウラの意思と聖遺物によって成り立っていたこの世界は終わりを迎える。
全身を負った傷は、確かに致命傷であった。そしてその通りに――――――――――――アウラ・ミューリライネンは、振り絞って、最後にそう呟いて。
その動きを、止めた。


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