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仮投下スレ

1管理人◆777Wt6LHaA★:2015/04/08(水) 14:21:51 ID:???
作品の仮投下はこちらのスレで。

200魔術師とスクールアイドルの夜 ◆YD4qd4xJMs:2015/05/03(日) 18:10:20 ID:t1lAL0eI



***


連れられてきた場所は、森の中でも少し開けた空間だった。その空間の中心には焚き火があり、
このような状況でありながらも、海未はキャンプに来ているかのような場違いなことを思った。
地面に倒れていた倒木に座る海未、焚き火を間に挟み彼女の反対側に立つ時臣。
今更だが、海未は一度落ち着いたことで、かなり年上の男性と一対一で対面している状況に緊張する。

(こんなとき、穂乃果なら自分から話しかけられるのでしょうが………)

自分の友人を思いつつも、海未はなかなか自分から時臣に声を掛けることができず、悶々とする。
すると、彼女から見て背を向けていた時臣が振り向き、語りかける。

「さて、まず君は魔術について、どの程度聞いたことがあるだろうか?」
「ま、まじゅつ。ですか?」

正直戸惑った。もしかして遠坂さんなりの場を和ます冗談………では、ないようだ。目が真剣である。
スクールアイドルとして活動していることを除けば、一般的な女子高生である海未は反応に困った。

「ええっと、漫画やアニメに出てくる想像上の技術のことでしょうか?あ、もしくはオカルト的な…」
「いや、もう結構だ…秘匿が正しく為されているとわかっていても、頭が痛い」

時臣は、こめかみに手を当て嘆かわしいと言わんばかりに顔を歪める。
女子高生に聞いておいてこの態度である。その動作に不満げな表情の海未、
ふうっ。と、一息吐いた時臣は改めて彼女へと視線を合わせた。

「海未。これから話すことを理解する為には、まずは私のことを知ってもらう必要がある」

先ほど、森の中で使っていた松明を再び手に時臣は持つ。すでに火は消されていた。
いったい何をするのか?疑問に思う海未。
時臣は目を閉じ、何か呟いた様子であったが、彼女の耳にはなんと言ったのか、聞き取れなかった。

「えっ!?」

そんな彼女の目の前で、一瞬で松明に火が灯った。
松明の火は次第に強まり、時臣の頭を軽く越す。
そして、まるで意思を持った炎のように、時臣の体を回り始める。
時臣が、松明ごと焚き火の方へと向けると、
釣られるように回っていた炎は勢いよく焚き火の中へと飛び込んで行く。
一瞬、焚き火が激しく燃え上がった。

(今のは…火を操った…?)

海未は目の前でおきたことに驚きを隠せない。

「にわかには信じ難いだろうが、今見せたのが魔術のほんの一端。私は魔術師と呼ばれる人間なのだよ」
「魔術師………」

放心状態の海未に、時臣は松明を置き、魔術の説明を始める。
この島へと着いてから時臣は、魔術で強化した方位磁針を使って周辺の警戒をしていた。
凡そ1キロメートル程度にいる生物に反応するようにしたのだ。
だが、自身が得意とする宝石等の、魔術に使える触媒が無い状態の為、
自分の魔術回路と魔術刻印による魔力の精製で、魔術の行使をしなければならなかった。
時臣は数分おきに発動させることで、魔力の消費を抑えつつ周囲の様子を探っていた。

そして、反応があったのが海未であった。
ただ、この時点では、どういった生物であるのか詳細は分からなかったため、
放射能によって死んだフクロウの遺骸を利用して、これを使い魔として海未の下へと放った。
視覚の共有で監視を行い、海未が自分の方へと向かっていることが分かったので、
途中で人目につかなくする結界を張った上で待ち伏せていたのだ。

「ずっと、見られていたのですか…」
「何か不都合なことでもあったかね?」

いや、監視されていい気分のする女性はいないだろうが、
自分の魔術を語り聞かせることに少々熱くなった時臣には、察すことができなかったようだ。

「何でもありません!遠坂さんが魔術師だということは納得しました」
「うむ、海未は理解が早くて助かるよ」

201魔術師とスクールアイドルの夜 ◆YD4qd4xJMs:2015/05/03(日) 18:11:33 ID:t1lAL0eI

満足した様子の時臣は、海未から見て右手にある金属球に近づく。
火の灯りに照らされることで初めて金属球の全体像が見えた。
それは思ったより大きく、周りの風景から浮いた異質な存在であった。
これはおそらく時臣が入っていた物のようである。
時臣は、左手でその球へと触れながら語り始めた。

「まず私が試みたのが、魔術による金属球の解析だ」

解析ということは、魔術を使って構造を読み取るということだろうか。

「魔術的に調べた限り、この金属製の球体には我々を転移や召喚、あるいは記憶操作を施すといった魔術は仕組まれていないことがわかった」
「…えっと、それはつまりどういうことでしょうか?」

海未は話を促す。

「つまり、この金属球には魔術の痕跡はなかった。参加者を入れるための、単なる入れ物に過ぎないというのが私の推測だ」

そこまで話を聞いても、ああ、そうかもしれませんね。と海未は思うくらいだった。
正直、あの通信にあった核、とか放射能が本当なのか?そちらの方が重要に思っていたからである。
しかし、時臣は金属球を擦りながら、自分の調べた成果を話すことに夢中な様子である。
ひょっとして、聞き役が欲しかっただけではないかと思う海未であったが、
次の質問で意識が変わった。

「では海未、質問だ。我々は“どうやって”この金属球に入った?」

どうやって?この金属球が単なる入れ物であるとするなら、
海未は自分から入った記憶など、もちろんありはしない。だから答えは、

「それは“誰か”が私達を入れたのではないでしょうか?この球の中に………あれ?」

一瞬、海未の中でカチリと何か意識がズレた気がした。
さっきまで、穂乃果達に会いたい気持ちや、生きて帰りたい気持ちで一杯だった心に、
別の視点が生まれた。いや、違う。目を背けていたことに気付かされたのだ。
海未の様子を観察するように目を向ける時臣。

「現状を正しく認識できたかね?」
「あれ、そうですよね……誰かって…いったい誰ですか?私、何をされてこの島に………」

寒気がした、なぜ、こんな簡単なことに気付かなかったのだろうか。

「無理もない、人は無意識のうちに理解が及ばないことから逃れようとするものだ」

決め手となったのはあの通信だと、時臣は言う。

「分かりやすい現状の説明と生存のための行動指針の提示、だが、その裏には参加者達から余裕を奪う思惑がある」
「余裕ですか?」
「生き残ることに必死にさせ、そもそも何故この島にいるのかという根源的問題から目を背けさせようとしているのだよ」

ごくりと、海未は唾を飲み込んだ。
時臣の語る推測が自分の状況にピタリと嵌まっていたからだ。
私達をこの現状に引き入れた何者かの思惑が、この島には存在している。
それが、私達の意志など関係なくこの金属球にいれ、この島へ連れてきたと、時臣は補足した。

「いいかね、私達は断じて、災害に巻き込まれただけなどという“生存者”ではない。何者かの思惑によってこの島へと連れてこられた“参加者”なのだ」

202魔術師とスクールアイドルの夜 ◆YD4qd4xJMs:2015/05/03(日) 18:12:36 ID:t1lAL0eI

焚き火の中の炭が燃え尽き、甲高い爆ぜる音が響いた。
ここで一息ついた時臣は、海未の様子を観察しながら、
彼女を中心にゆっくり時計回りに歩きながら話を続ける。

「そして、魔術師である私からすると、この何者かはとても興味深い存在だ」
「興味深いですか?」

海未とは対照的に時臣は興奮した様子である。

「ああ、そうだとも。なぜなら、ここに来る直前の記憶では、私は殺されたはずなのだよ」
「えっ!?こ、殺されたってどういうことですか!?」

今度の発言には純粋に驚いた海未。
どうやら時臣は、ここに来る以前は、聖杯戦争と呼ばれる儀式に参加していたのだという。
概要を説明してもらったが、海未は恐ろしいと感じた。
本当にそんなことが日本で起きていたのか、と。
その聖杯戦争の終盤で彼は魔術の弟子に…裏切られ、
刺された所で意識を失い、気がつけばここにいた。ということらしい。
何といったらいいのか分からない海未だったが、
時臣の「君も死んでここに来たのかね?」という発言は、断固否定した。

「じゃあ、遠坂さんはこの島に連れてこられて………生き返った、ということになるのでしょうか」
「おそらくそうだろう。魔術において、死からの肉体、魂を含めた完全蘇生など最早魔法の領域だ。それを成した存在とは…矮小の我が身では測ることすら適わないだろう」

しかし、自分がその成功例だというのに、何も分からないというのは、
魔術師として腹立たしい。と、時臣は言う。
やはり、その観点は一般人からするとおかしい。そう海未は思わずにはいられなかった。

203魔術師とスクールアイドルの夜 ◆YD4qd4xJMs:2015/05/03(日) 18:13:51 ID:t1lAL0eI


***


「…なるほど、君と同じ高校の友人達も、巻き込まれているとは…心中穏やかではないだろう」
「はい…私は遠坂さんと出会えて幸運でしたが、みんなも無事だといいのですけれど…」

あれから海未が友人を探していることを時臣に伝えると、
「なぜ、友人がこの島にいると分かったのかね?」と聞いてきた。
不思議に思いつつも、彼女はタブレットを操作し、名簿を見せると時臣はひどく驚いた様子だった。
………ひょっとして、時臣さんは機械が苦手な人かもしれない。そう思うと、海未はちょっとおかしかった。
魔術師で一見すると完璧人間に見えるこの人にも苦手なことがあるのだと、気が楽になる。
名簿を慣れない操作で動かしながら、時臣は確認していく。
すると、その手が止まった。
おそらく時臣さんの関係者ではないだろうか。海未はそう当たりをつけた。

「これは………まずいな」

名簿から目を離した時臣は鋭い目つきでそう呟いた。

「何か名簿を見て分かったのですか?」
「うむ、私が考えるに、この島の参加者達は大きくニ種類に分けられる」

右手の人差指を伸ばして、一つ目を示す時臣。

「一つ目は“生存”を第一に行動する者達だ」
「防災試験センターで救助を待つ人達ということでしょうか」

確かに、あの放送を聞いた人間ならまず考える選択肢であるといえるだろう。
それに島の中央ならば、仲間たちに遭遇する可能性が高くなる。

「大多数はそうだろう。ただ一部の人間は港や軍事基地等で、船などがあれば、独自にこの島を脱出しようとするかもしれない」
「なるほど」

問題なのはもう一つのグループということだろう。
右手の中指も伸ばして、二つ目を示した。
時臣はゆっくりと口を開く。

「二つ目は…自分の“願望”を第一に行動する者達だ」
「願望、ですか?それは、生きてこの島を出たい。ということではないのでしょうか?」

違う。と、時臣は否定する。
名簿を見て確信した者達を、時臣は指差した。

「キャスターとライダー、そしてバーサーカー。彼らは本来なら聖杯戦争にサーヴァントとして呼ばれる英霊達のクラス名だ」

先ほど聞いた聖杯戦争の情報を思い出しながら、
海未は名簿の名前を凝視した。

「最も重要なことは、英霊にとって、生きることよりも優先される願望をそれぞれが持っている可能性が高いということだ」
「生きることよりも優先される願い…ですか?」

大雑把にしか英霊と呼ばれる存在について、海未は理解ができていないが、
かつての英雄であるならば、逆に、私達を助けてくれないのか。
純粋にそんな感情を抱いていた。

「例えばだ、第四次聖杯戦争において召喚されたキャスターは、自分たちの存在を一般に隠そうともせず、児童の誘拐・殺人などの凶行を繰り返した」

断じて許されない行いだ。と、時臣の表情は苦虫を潰したかのように歪む。
海未もその情報に驚く。時臣が危惧しているのはこのことであった。

この島にいるとされるサーヴァントが、
自身の経験した第四次聖杯戦争に召喚されたサーヴァントであるという確証は時臣にはない。
しかし、キャスターを含め、サーヴァント達にはそれぞれが叶えたい願いがあって、
聖杯戦争に招かれるという共通点がある。
他者の魔術師と英霊を倒してでも叶えたい、死後の願い。
この島で彼らが行動を起こす際に基準となるのは、核や放射能から逃れるということではなく、
その願いにあるはずだと、時臣は判断した。

「海未。バーサーカーとはどんなクラスなのか想像がつくだろうか?」
「言葉どおりの意味なら狂戦士といった意味でしょうか」
「その通り、聖杯戦争においてバーサーカーとは、狂化のスキルによって全体の能力を上げる代償に、英霊の理性を狂わせ、ただ戦いのみに特化させたクラスだ」

理性が狂っている?
それはつまり、本能のみで動く存在ということなのだろうか。

「間違いなく危険な存在だ。普通の人間はおろか並みの魔術師では、襲われれば殺されるという選択肢しかない」
「そんな人物がこの島にいるのですか………」

海未にもようやく時臣の言いたいことがわかった。
つまり、この島には生存を求める者達とは別に、他者を害する可能性のある者がいるということだ。
タブレットに表示されている名簿の中の知らない人物達。
この人たちが何を考えて行動しているのか。
もし、μ'sの仲間達が、悪意ある人物に出会っていたとするならば………
想像すると、海未の不安はこれまで以上のものとなった。

204魔術師とスクールアイドルの夜 ◆YD4qd4xJMs:2015/05/03(日) 18:15:20 ID:t1lAL0eI



***


時臣は焚き火に追加の薪を入れた。
火が爆ぜる音が再び鳴り、それが今の沈んだ気持ちの海未には少し心地よかった。

………色々な情報を聞いた。
私たちをこの島へと連れてきた何者かの思惑。魔術。参加者の中に危険人物がいること。
常人ならば尻込みしてしまうような事態に置かれていることを認識してなお、海未は絶望していなかった。
それは、スクールアイドルとして諦めず努力を続けた経験のおかげかもしれない。
事の大きさは違えども、決して自分が望んだ状況でなくとも、挫けたくはない。

(今、穂乃果は何を考えているのでしょうか…)

彼女の持ち前の明るさと行動力が、今、無性に羨ましく感じた…みんなに、会いたい。
一人ぼっちは嫌だった。結局、彼女の一番したいことは決まっている。
俯いていた顔を上げる。海未の覚悟を決めた表情を見て、時臣は感心したと同時に、望郷の念を抱く。

(高校生となれば凛も、きっとこんな表情をする日が来るのだろう)

魔術師である時臣は、この島からなんとしても帰還を果たさねばならない。
自身の体にある遠坂家の魔術刻印、これを娘である凛に継承して貰わなければ、
遠坂家は没落してしまうこととなる。
冬木の地で死んでいれば、凛に移植される可能性はあったが、この島でそれは叶わないからだ。
徹頭徹尾、自身の成すべきことは決まっていた。

「………遠坂さんはこれからどうされるおつもりですか」
「当面の目的は、この地の詳しい調査。そして別分野の知識、情報をもった参加者との接触が妥当なところだろう」

先に口を開いたのは、海未からだった。
時臣の返事には、やはりという気持ちが大きかった。
この人は私と違って一人でもきっと、前へ進める人なのだ。でも、私ではだめなのだ。
時臣に仲間探しを手伝ってもらうことは、迷惑、いや足手まといになると、
これまでの会話で海未は判断していた。

「そう…ですか………」
「ふむ。もしよければ、君の友人の保護と並行して行おうと考えていたのだが…何か都合が悪いだろうか?」

ところが、時臣の口から出た言葉に海未は意表を突かれた。
なぜ?そういった気持ちが強かった。
ただの高校生に過ぎず、何の役にも立たない人間をそばに置く理由が無いはずである。
しかし、当の本人は、顎に手を当てて、当てが外れたかな?と考えるしぐさをしていた。

「でも、私みたいな普通の高校生が、遠坂さんのお役には立てません。いいえ、むしろ迷惑なのでは…」

視線を泳がせながら海未は答える。
その答えを聞いた時臣は、ああ、と納得した様子で海未を見ていた。

205魔術師とスクールアイドルの夜 ◆YD4qd4xJMs:2015/05/03(日) 18:16:01 ID:t1lAL0eI

「常に余裕を持って優雅たれ」
「え?」

流暢な声で目を瞑り微笑みながら、そう呟く。

「我が遠坂家の家訓だよ。このような危険な状況で普通の女子高生をそのまま放任するなど…遠坂の人間として恥ずべき行いだろう」

呆気に取られた表情の海未に対して、
まるで、娘に語りかけるような優しい口調であった。
確かに、多くの魔術師は、魔道を知らぬ一般人からすれば、
魔術の探求のために非道な行いをする人種にみえるだろう。
事実、時臣は聖杯戦争において、監督役の神父とともに、
巻き込まれた一般人の被害よりも魔術という神秘の秘匿に重点を置いていた。

だが、聖杯戦争とこの島で行われていることは違う。
海未は自分のことを一般人と言ったが、時臣にとっては同じ参加者であることに重点を置いていた。

(この島全体を使った61人による大規模儀式、集められた多様な参加者に何をさせたいのか。それを見極める必要がある)

だからこそ、普通の女子高生に自身の魔術の一端を見せ、彼女の状態を観察していた。
極端な話だが、彼女自身は何も特別ではないと思っていても、ここに送られた時点で、何か影響を受けている可能性があったからである。
もちろん家訓を理由に挙げたのも本当ではある、が。

「常に余裕を持って優雅たれ…ですか。ふふっ、素敵な言葉ですね」
「そうだろうとも。海未、君はなかなか聡明なようだ。この地で最初に君に出会えたことは、私にとっても僥倖だったようだ」

海未はもう遠慮はしなかった。それに今まで話した中で、
この人は自分の家名に誇りを持っていることはよく分かった。その家訓を理由にしたのだ。
信じられる。μ'sで作詞をしている海未からして、その言葉はあまりに綺麗で憧れた。
この紳士的な魔術師が言って初めて似合う言葉ということかもしれない。
一方で、家訓を賞賛された時臣は気分が良くなり、お互い笑顔になった。





―――夜の森に、焚き火の灯りが一つと、魔術師とスクールアイドルの影が一つずつ。
   混迷の夜は過ぎてゆく、やがて訪れる困難を覚悟しつつ、二人は語り合った―――

206魔術師とスクールアイドルの夜 ◆YD4qd4xJMs:2015/05/03(日) 18:16:39 ID:t1lAL0eI

【J5/金属球近く/一日目/深夜】
【遠坂時臣@Fate/Zero】
[状態]:健康
[服装]:いつもの赤スーツ
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、アゾット剣@Fate/Zero、
    ブラック・マジシャンのカード@遊☆戯☆王デュエルモンスターズ
[思考]
基本:自分達を連れてきた存在の調査。冬木市へ帰還して魔術刻印を娘の凛に継承させる。
1: 島と参加者の調査 
2: バーサーカーを含めた危険人物への対抗手段の確保
3: 園田海未と友人達の捜索と保護
[備考] アニメ第17話で殺された後からの参加、うっかり属性。


【園田海未@ラブライブ!】
[状態]:健康
[服装]:音乃木坂高校の制服
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、封印の杖(鍵の状態)@カードキャプターさくら、
    海パン刑事の海パン@こちら葛飾区亀有公園前派出所。
[思考]
基本:μ'sの仲間達と生還する
1: 時臣さんに協力してもらい仲間達を探す
2: この島で起きていることを知りたい
3: ………魔術って私にもできるでしょうか?
[備考] 時期はお任せします

207 ◆YD4qd4xJMs:2015/05/03(日) 18:18:25 ID:t1lAL0eI
仮投下終了します

208名無しさん:2015/05/03(日) 20:15:31 ID:jy.vNgMg
投下乙です
やっぱ回るのかw

209名無しさん:2015/05/03(日) 20:35:33 ID:jy.vNgMg
道具なのですが本文中で存在を描写するか不明にしたほうがよいのではないでしょうか

210 ◆YD4qd4xJMs:2015/05/03(日) 20:58:27 ID:t1lAL0eI
>>209
ご指摘ありがとうございます。
当初、道具を含めて話を書くつもりでしたが、文章が多くなりそうだったので、泣く泣く削った名残でした。
本スレに投下する際には、道具の欄は二人とも不明に変更します。

211 ◆dKv6nbYMB.:2015/05/04(月) 01:08:08 ID:EjRjQcUI
投下します

212 ◆dKv6nbYMB.:2015/05/04(月) 01:10:02 ID:EjRjQcUI
どうしてこんなことになったんだろう。
決まっている。これは、あたしへの罰だ。

『あなたは、その人を助けたいの?それとも、その人を助けた恩人になりたいの?他人の願いを叶えるのなら、尚のこと自分の望みをはっきりさせておくべきだわ』

先輩からの忠告を蔑ろにして、勝手に奇跡を願ってしまった。

『私、もう自分に嘘はつかないって決めたんですの。さやかさん、あなたはどうですか?本当の気持ちを向き合えますか?』

勝手に嫉妬して、自分の身体を言い訳にして、本当の気持ちに向き合うことから逃げ出した。

『痛くないから傷ついていいなんて、そんなの駄目だよ。...それで勝っても、さやかちゃんのためにならないよ』
『...だったら、あんたが戦ってよ』


勝手に自暴自棄になって...大切な友達を傷付けた。


あたしはマミさんみたいにはなれない。あたしには正義の味方なんて無理だったんだ。
あたしなんか、消えちゃえば...


「なにをそんなに悲しんでいるんだね、お嬢さん」

213 ◆dKv6nbYMB.:2015/05/04(月) 01:12:24 ID:EjRjQcUI
背後から声をかけられた。その低い声音からして、男性のようだ。
「怖がらなくてもいい。私は見ての通り刑事だ。さあ、こちらを向いて事情を話してくれたまえ」
「刑事...?」
刑事。それは、市民の味方...つまりは、正義の味方だ。あたしが憧れて...でも手の届かない人たちだ。
その事実が、心優しくも心配してくれる人に対して、あたしを強く反発させてしまった。
「うるさい...放っておいて」
「そうもいかない。こんな危険な状況だ。一般市民を見捨てるわけにはいかない」
だというのに、刑事さんは一歩もひいてくれない。それどころか、あたしを見捨てないとまで言ってくれている。
「あはは、なら大丈夫だよ。だってあたし人間じゃないもん。あたしなんかに構ってるひまがあるなら他の人を探しに行ってあげてよ」
「...いまの私の目には、か弱い女子中学生しかうつっていないがな」
刑事さんの優しい言葉が、あたしの心を抉ってくる。そして、そのぶんだけあたしの心は妬みで汚れていく。
人の都合も知らずに―――!
そう言いかけてふりむいたとき、あたしは言葉を失った。
なんでかって?だって考えてもごらんよ。刑事さんだと思って振り向いたらさ


海 パ ン 一 丁 の 変 態



がいたんだよ?そりゃ思考の一つや二つ、フリーズもするわ。

214 ◆dKv6nbYMB.:2015/05/04(月) 01:14:45 ID:EjRjQcUI
い...いやいや。落ち着け美樹さやか。ここは島だよ。ひょっとして、海水浴かなんかでたまたま来てて巻き込まれただけかもしれない。
それで、着替える時にネクタイから先に着けちゃったうっかりさんなだけかもしれない。
それを変態扱いは...

「む。そういえば自己紹介をしていなかったかな。私としたことが、これは失礼した。では改めて名乗らせていただこう。
股間のモッコリ伊達じゃない!
陸に事件が起きた時、
海パン一つで全て解決!
特殊刑事課三羽烏の一人
海パン刑事、ここに参上!」


どうやらこれがデフォらしいよチクショウ。どうみても変態です、本当にありがとうございました。


「さあ、きみが悲しんでいた理由を話してくれるかね?」
変態のかけてくる言葉で、ハッと我に返る。同時に、またも心が歪んでいくのがわかる。
ああ見えても、この人は刑事なんだ(本当かどうかはわからないけど)。あたしなんかとは違う、本当の正義の味方なんだ...
「何度も言わせないで。あたしなんか放っておいてよ」
「言葉を返すようだが、それは無理だ。私は市民の安全を守る刑事なのだからな」
(違うんだよ、刑事さん。あたしは卑怯で、汚くて、どうしようもない屑なんだよ)
あたしたちの間に、沈黙が流れ、代わりに風が木々をざわめかせる。
「...どうやら、警戒は解いてもらえないようだ」
しばらくすると、刑事さんは両手を腰に当て
―――スルルルル
あまりに自然な流れで、何の躊躇いもなく海パンをずりおろした。
あたしがその行為を認識できるまでにかかった時間、約3秒。
「!?」
「恐れることはない。これで私は、正真正銘の無防備状態だ」


海パンが下ろされ、露わになった男の勲章。
普段は見慣れないそれを見たあたしは叫んだ。
「ぎゃあああああああああああああぁぁぁぁぁ!!」
...ええ、それはもう清々しいくらい叫びましたとも。

215 ◆dKv6nbYMB.:2015/05/04(月) 01:16:23 ID:EjRjQcUI
なにが刑事よ!こんな正義の味方がいてたまるか!
「いいかい、今からそちらに行くが...落ち着いて私の話をきいてくれないか?」
股ぐらのキノコをぶらつかせながら、変態はあたしにゆっくりと歩みよってくる。なんかもう色んな意味で泣きたくなってきた。
「むかし...むか〜しのことじゃった。あるところにお爺さんとお婆さんが...」
人はどうやって産まれるかって話!?この状況にかこつけて手を出そうなんて...この変態ロリコン刑事!
「こ、来ないで!」
あたしは、魔法で剣を作り、変態を牽制する。
「......」
「ち、近づいたら、その粗末なものブッた斬るからね。この変態!」
言葉に出して、馬鹿らしく思う。
(あたし、この期に及んでまだ自分が可愛いの?...ほんと、どうしようもないよ)
あたしが一瞬目を伏せた瞬間、変態が信じられない速さで駆けだしてきた。
「とうっ!」
そのまま、空高くジャンプ!あたしは反射的に剣をふるってしまう。
だが、変態は空中で開脚し、あたしの両手首を蹴りつける。その衝撃で剣を落としてしまう。
(こ、この体勢は...)
変態のカメさんがあたしとコンニチワする。おそらく1秒後には、この子とキスすることになるだろう。
(おわった...)
全てを諦め、目を閉じる。あたしに押し付けられるのは、変態の生暖かいキノコ


「ようやく、わかってくれたようだね」


ではなかった。

216 ◆dKv6nbYMB.:2015/05/04(月) 01:22:25 ID:EjRjQcUI
変態のゴツゴツとした逞しい手の平が、あたしの頭に乗せられる。
フルチン丸出しの変態なのに、不思議と嫌悪感がわかなかった。むしろ、優しい温もりに包まれているかのようだ。
この人は、やましい心無しに、あたしを純粋に心配してくれていたんだ
だからこそ、疑問に思う。
「...して」
「ん?」
あたしは、この人に対して剣を向けた。罵声も浴びせた。なのに、この人は憶せず裸で向き合ってくれた。
「どうして...あたしなんかを気にかけてくれるの?」
彼は、大人の渋みを漂わせる笑顔で答えた。
「私は特殊刑事課三羽烏の一人、海パン刑事だ。刑事たるもの、困っている市民は見捨てれん」
もう三度目になるこの返答。でも、今までとは違い、彼の言葉を素直に受け止めることができた。
「何も隠すことはない。さあ、心を裸にして全てを吐きだせばいい。そのための私だ」
何も隠すことは無い。全てを吐きだせばいい。その言葉で、あたしの溜まっていたものが蠢いていく。
気が付けば、涙が頬を伝っていた。
「あ、あれ?なんで...」
目を擦り、涙を止めようとするが、その手を刑事さんに止められる。
刑事さんは、それでいいと言わんばかりに、微笑んでくれた。


―――気が付けば、あたしは、涙と共に刑事さんに全てを吐きだしていた。
その行為になんの気恥ずかしさも感じず、むしろ、全裸でお風呂へ跳びこんだときのような清々しい解放感すら感じていた。

217 ◆dKv6nbYMB.:2015/05/04(月) 01:26:56 ID:EjRjQcUI
刑事さんは、あたしの独白を同情も批難もせず、ただ黙って聞いてくれていた。
いまのあたしには、それがとてもありがたかった。
「...よく、話してくれたな」
再び、頭に手を乗せられる。
なんだか、自分が思ったより子供だってことを思い知らされてこそばゆく感じた。
「それで、きみはこれからどうしたい?」
「あ、あたし...」
さっきまでは、なにをどうすればいいのか頭の中でこんがらがってた。
でも、全部吐き出してからは強く思える。
「あたし...みんなに謝りたい。謝って、みんなと一緒にいたい」
自分勝手に皆を振り回してきたのは自分だ。そんなことが許されるはずもないかもしれない。
でも、刑事さんは力強く答えてくれた。
「ならば、私が力になろう。きみを必ずこの島から脱出させると約束する」
「あ、ありがとう...みんなとまた、仲直りできるかな」
「なあに、最初はわかってもらえなくても、このように裸になって伝えれば、必ず解りあえるさ」
「それはちょっと勘弁」


あたしがやるべきことは決まった。
まずは、この場を生きることを考えよう。生きて、ちゃんとみんなに謝るんだ。
そして、もう一度あの日常へ...



「ところで、刑事さん。そろそろアレを...」
「むっ?ああ、すまない。ネクタイが緩んでいたか」
「そっちじゃなくてもっと下!」


【B-7/一日目/深夜】
【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康、だいぶスッキリ
[装備]: 制服、ソウルジェム
[道具]: 支給品一式、その他不明支給品
[思考・行動]
基本方針: 生きて帰って、みんなに謝る。
1: 海パン刑事と行動する。
2: とりあえずパンツを穿いて

※支給品一式には目を通していません。そのため、まどかたちがいることを知りません。
※魔法少女のことについてだいたい話しました。
※心を裸にすることに喜びを憶えました。ただ、全裸自体にはまだ抵抗があります。
※参戦時期は、8話でまどかを罵倒して別れた後です。

218 ◆dKv6nbYMB.:2015/05/04(月) 01:27:48 ID:EjRjQcUI

うむ、いつも通りうまくいったようだ。
検挙率100%の私にかかれば、傷心の少女を説得することなど容易い。
全裸になって全てを曝け出すことにより、誠意を持って相手と接し、我が汚野家に伝わる秘伝のオイルで相手の気持ちを落ち着かせる。
やはり私のやり方は合理的だな。
(それにしても、魔法少女か...)
両津が聞いたら利用して金儲けに使おうと考えるかもしれんが、私は違う。
いくら不思議な力を持っていようと、やはり彼女は一般市民なのだ。保護しないわけにはいくまい。
そう...私は、刑事として市民を保護しなければならないのだ。
おそらく、巻き込まれた者の中には、この異常事態に錯乱してしまう者もいるだろう。
そんな状況で皆を纏めあげることは普通の刑事には不可能かもしれない。
だが、この島には私と両津たちがいる。
私と奴らが力を合わせれば、どんな困難もたちどころに解決できる。
しかし、私としたことが、ネクタイが緩んでいたことに気が付かなかったとはな。
気が緩んでいた証拠だ。反省しなければ。



【海パン刑事@こちら葛飾区亀有公園前派出所】
[状態]: 健康、全裸
[装備]: いい匂いのするオイル@こちら葛飾区亀有公園前派出所(支給品)
[道具]: 支給品一式、その他不明支給品1〜2、海パン
[思考・行動]
基本方針: 島からの脱出。
1:刑事として市民を守る。
2:怯える者・錯乱する者には全てを曝け出して語り合う。
3:両津たちと合流する。
4:気を引き締める

※支給品には目を通してあります。
※海パンからは何も出せません。
※魔法少女のことはだいたい把握しました

219 ◆dKv6nbYMB.:2015/05/04(月) 01:30:28 ID:EjRjQcUI
投下終了です。
タイトルは『人魚姫の涙』です。
誤字・脱字・その他問題などあればご指摘お願いします。

220名無しさん:2015/05/04(月) 05:14:18 ID:pGk4rATE
投下乙です
変態だあ…(どん引き)

221名無しさん:2015/05/05(火) 09:22:34 ID:mxantBIg
マミ、まどか、ラバーソールを投下した人は指摘もあるようですが説明や修正などの意思はありますか?

222 ◆/ebAZhNPSM:2015/05/05(火) 10:52:42 ID:cv7oMdag
没SSを投下します

223 ◆/ebAZhNPSM:2015/05/05(火) 10:53:42 ID:cv7oMdag
目が覚めると犬吠埼樹は謎の乗り物に乗せられて島に運ばれていた。
思考を働かせるが、自宅のベッドで眠りに付いた所までは覚えているが
それからの記憶は無い、気づいたら乗り物の中に乗せられていた。

(どうして私はここに入れられてるんだろう?)

何かの目的を果たすために大赦が与えた指令なのだろうか?
乗り物の中を見回すとデイバッグが収納されており
中を見てみるとさまざまな道具が入っていた。
道具の一つから光っている物を見つけるとそれはタブレットだった。
からの情報では島が放射能に汚染されていて
アンテナには核が設置されていると書かれていた。

どうしてこんな事になっているのか。
樹には到底理解出来なかった。
タブレットには島に集められた人達の情報も載っていた。
その中には勇者部の仲間達の名前も記載されていた。
会いたい、皆と会いたい。
しばらくすると外部へ出るための扉が開かれた。
乗り物から抜け出した樹は皆に会いたい一心で歩み始めた。

(……そうだ!携帯で連絡を……)

制服のポケットに手を入れると、樹が普段愛用している携帯電話が入っていた。
さっそくお姉ちゃんに向けて電話をかけるが一向に繋がる気配が無い。
他の部員へかけても同様に繋がらなかった。
この島では携帯での連絡のやり取りが出来ないようだ。

(どうしても繋がらない……それにこれは……)

携帯を操作している時にあるアプリがダウンロードされているのに気付いた。
勇者アプリ、樹が勇者へと変身する時に必要になるシステム。
これはバーテックスとの戦いが終わり、勇者を引退した時に削除されたはず。
なぜこの機能が追加されているのか。
謎は解けない、けど連絡が取れない今はお姉ちゃん達との合流を優先したい。
携帯を制服のポケットへ入れた樹は再び歩いた。

224 ◆/ebAZhNPSM:2015/05/05(火) 10:55:44 ID:cv7oMdag
「ここは………学校……?」

夜道を進んでいった先に木造の大きな建築物が視界に入った。
明かりが点いていない所から、今は使われていないのだろうか。
でももしかしたら中に誰かがいるかもしれない。
不安と期待が入り混じった不安定な感情を胸に秘め
樹は廃校舎の入口へと入っていった。

(く……暗いよ……)

犬吠埼樹は人一倍怖がりであった。
夏休みの合宿中に怪談話を聞かされた時は、真っ先に姉のいる布団の中に潜り込んでしまうほどに。
それだけ今の廃校舎は不気味だった。

校内は非常灯すら付いておらず、窓から差す月明かりによって
辛うじて明るさが保たれている薄暗さ。
床はかなり古く、歩くだけでギシ……ギシ……と木が軋む音が
静寂に包まれた旧校舎に鳴り響く。
まさに肝試しをするにはうってつけのホラースポットと呼べるだろう。

「すいませーん!誰かいませんかー!?」

今すぐにでも逃げ出したい怖さだが、それ以上に誰かに会いたい想いが強い。
樹はデイバッグから懐中電灯を取り出してライトを付けた。
怪我をしないよう周囲を明かりで照らしながら廃校舎の探索を開始した。

教室を一室ずつライトで照らして確認していく。
机と椅子が散乱したまま放置されていて凄く荒れていた。
誰かが暴れていたのか砕かれている物もある。
4つ目の教室に入り、明かりを照らす。
そこには窓の方を向いて椅子に座っている人の姿がライトに映った。
校内に人間は残っていたのだ。

「……あ、あのー!………」

樹は心臓のドキドキを抑えながら声をかけるが反応は無い。
座ったまま眠っているのか、頭が下へ向いたまま動かない。

「すみません……聞きたいことがあるんですが………」

樹は椅子に座る人物にゆっくりと近づく。
申し訳ないと思いつつも背中を擦って起こそうとした。

ドサリ……。

ほんの少しの力で背中に触れただけで相手は椅子から倒れた。
床に叩きつけられた衝撃で顔の向きが変わり
相手の顔が樹の視界に入った。

225 ◆/ebAZhNPSM:2015/05/05(火) 10:56:51 ID:cv7oMdag
「ひっ……いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」

恐怖で一瞬青ざめた後、樹は悲鳴を出して教室から飛び出した。
教室に座っていたのは腐敗した死体だった。

「うう……お姉ちゃん、お姉ちゃん……会いたいよぉ……」

涙目になりながら廊下を走っていると樹の体に生理現象が襲い掛かる。
恐怖のせいで体が縮み上がり、急に尿意が催してきた。
丁度目の前に女子トイレを発見した樹は迷わずトイレの中に向かった。

「……はぁ」

和式トイレの便座の上で屈んで下着を下げると
秘所からチョロチョロ……と黄金色の尿を放出した。
最後の一滴まで出し切り、一呼吸置いてから紙へと手を伸ばした。

「な、ない……」

ここは廃校舎、とっくに使われていない学び舎である。
そんな場所にトイレットペーパーの補充などあるはずも無く
とっくに紙など切らしていた。

紙で秘所を吹くのを渋々諦め、下着の位置を戻した樹。
だがそれだけではない。
トイレのレバーを押しても反応が無かった。

もちろん水道もとっくに止められている。
樹が出した黄金水は流される事なく、便器の中に留まり続けるのだ。
自分のおしっこが流せずに放置するのはとても恥ずかしい。
しかし水道が使えないなら諦めるしかない。
樹は羞恥心で顔を赤くしながら便器から離れた。

「……はぁ、やっぱり出ない……」

試しに手洗い場の蛇口を捻るが水は出ない。
トイレの後の手を洗う事すら出来なかった。
年頃の少女には酷な環境である。

樹は暗い気分で手洗い場の鏡を見た。
落ち込んだ自分と、背後から近づくミイラ男の姿……ミイラ男!?

226 ◆/ebAZhNPSM:2015/05/05(火) 10:58:06 ID:cv7oMdag
「―――ッ!!?」

鏡に映るミイラ男に驚き、樹は後ろへと振り返った。
そこには誰もいない、気のせいだったのか。
教室で死体を見たショックで幻覚を見ていたのだろうか。
落ち着くよう自分に言い聞かせた樹は振り返るのをやめて再びを鏡を見た。

「きゃあッ!!」

幻覚ではなかった。
鏡に映るミイラ男は樹のすぐ傍まで迫っていた。
現実の世界ではミイラ男の姿を認識できない。
鏡の中でのみ、その姿が映し出されていたのだ。

『おまえ……おれの姿が見えているのか?スタンド使いか?』
「だ、誰なの……?」

鏡の中からミイラ男が語りかける。
聞きなれない単語が出てくる。
バーテックスとは全く質の違う怪物の出現に、樹の理解は超えていた。

『まあいい……どのみち、おまえはここで死ぬのだからなぁ〜〜〜ッ』
「―――ッ!?」

ミイラ男の手首に装着されたナイフが樹の胸元に向かって振り下ろされる。
ナイフが胸に突き刺さる瞬間、植物の種を連想させる精霊が出現した。

『なに……ッ!?スタンドだと……いや、腕から伝わるこの感じはそれとは別、この能力は……』

自らが盾となってミイラ男のナイフを受け止める精霊。
それは勇者になった樹が与えられた『木霊』と呼ばれる精霊であった。
勇者の身に危険が訪れた時、本人の意思とは関係無く自動的に精霊が命を守ろうと行動する。

(……今のうちに逃げないと)

空中で攻撃を受け止めて、火花を散らしながら防ぎ続けている隙に
女子トイレから出ようとする。

『させるかッ!!』

精霊の防御を強引に突破したミイラ男は樹に向かって飛びかかった。
ナイフが背中に届く寸前で樹は女子トイレから抜け出す。
ミイラ男は自分がいる鏡に映らない場所までは攻撃できなかった。

227 ◆/ebAZhNPSM:2015/05/05(火) 10:59:04 ID:cv7oMdag
(はぁはぁ……早く学校から出ないと……ッ!!)

ミイラ男の襲撃から逃れようと樹は玄関に向かって走る。
すると鋭い痛みが足に伝わり、バランスを崩して倒れる。
右足のふくらはぎが、刃物でぱっくりと抉られていた。
これでは走ることが出来ない。

『クククッ……逃げられると思ったかぁ〜〜〜?』
「ひぃっ!」

廊下のガラスにミイラ男の姿があった。
鏡だけではない。
光が反射する物、全てが鏡の中の世界でありミイラ男が行動できる範囲内である。

「……逃げ………ないと、はやく……」

目の前に保健室がある。
片足を引きずりながらも体勢を整えなおした樹は
保健室の中に入り、急いでドアを閉じて鍵をかけた。

「これで……きゃぁぁぁ!!」

ミイラ男が保健室の窓に張り付き樹の様子を伺っていた。
樹はドアの鍵を外して廊下に出ようとするが
ミイラ男の歩みの方が速い。

『おまえはもうここから生きて出られることは無いッ!!』

樹は反射的にデイバッグを盾代わりにしてかざす。
ミイラ男のナイフがデイバッグを切り裂いて中身をぶちまける。
樹に支給された愛用のタロットカードが勢いよくバラまかれ
カードの一枚がミイラ男の傍に映るように舞った。

それは『吊るされた男』

暗示は『無意味な犠牲』『無駄な我慢』『固定概念に縛られる』

228 ◆/ebAZhNPSM:2015/05/05(火) 11:00:43 ID:cv7oMdag
ミイラ男が樹の喉元を掴んだ。
樹の両足が床から離れて、首の締め上げが強くなる。

「ぐぐっ……お姉ちゃん……」
『んんっ?おまえ、姉がいるのか?なら丁度いい。おまえを殺したあとで、姉の方も殺しといてやるよ』
「……いや……おねえ……ちゃんは……やめ、て……」
『あの世で姉妹仲良く報告するんだなぁ〜〜〜おれにどうやって殺してもらったかをなぁ〜〜〜ヒャハハハッ!!』

殺される?
お姉ちゃんが殺される?
私の大事なお姉ちゃんがあの怪物に?
……それだけはさせない。
世界で一番大切なお姉ちゃんをあんな怪物なんかにッ!!

『なんだッ!?』

樹の体から緑色の輝きを放ち、ミイラ男を怯ませた。
緑の花びらが舞い散り、樹の姿が変化した。
一度は勇者システムを手放し、引退をした。
だが新たな地で、最も大切な人達を守るべく
犬吠埼樹は再び勇者になる。

「あなたなんかにィ――ッ!!お姉ちゃんをッ!!殺させないッ!!」

樹の腕に装着された武器からワイヤーを飛ばして保健室の窓ガラスを全て切り裂く。
廊下のガラスに移動したミイラ男は一瞬、呆気にとられた表情をしたがすぐににやけ面へと変わる。

『ククク……驚いたぞ。まさかそんな力を隠し持っていたとはな
 だがおまえは鏡の中に入れない。鏡を壊すことは出来てもおれに攻撃することは不可能なのさ』

ミイラ男のナイフが樹の右肩に突き刺さる。
以前、樹が劣勢であることには変わりない。
それでも樹の瞳には闘志が消えていなかった。

勇者部五箇条『なるべく諦めない』

例えどんな困難が目の前にあろうとも最後まで足掻けばきっと乗り越えることが出来る。
勇者として活動してきた樹は臆病だが、その信念は本物である。

229 ◆/ebAZhNPSM:2015/05/05(火) 11:02:04 ID:cv7oMdag
樹の放たれたワイヤーが廊下のガラスを次々と破壊する。
それでもミイラ男の体には傷一つ付かない。

『ハァッ!!』
「くうっ……まだまだァ!!」

左脇腹が切られる。
反撃にワイヤーを飛ばすもガラスが細かく砕けるのみ。
ミイラ男の居場所が増え続けるだけであった。

『もう、諦めて大人しく―――ッ!?』

樹の体が再び輝きだす。
先ほど変身した時とは大違いの輝きで。
樹の背後に巨大なユリの花が咲き誇り、更に進化を遂げた。
樹は満開ゲージが溜まるのを待っていた。

満開、それは勇者が使う最強の切り札。
溜まったゲージを消費して新たな姿に変わり
更なる力を得る事ができる。

『何度も姿を変えようが結果はかわらんぞッ!!』
「そんなのやってみなくちゃ分からない!!」
『は、速いッ!?』

樹はミイラ男のスピードを凌駕した動きで攻撃を躱し校舎の外へ出た。
上空へ飛んだ樹は大量のワイヤーを放出し、廃校舎全体を包み込んだ。

『おまえッ!!まさか〜〜〜ッ!!?』
「これでぇぇぇ!!終わりぃぃぃぃぃ!!!!」

大量のワイヤーが廃校舎を内部まで切り刻み、倒壊が始まる。
校内にある全てのガラスが砕け散り、ミイラ男の頭上に瓦礫が降り注いだ。

『ぐぅおおおおおおおおおおおッ!!!』

樹の目の前で廃校舎が崩れ落ち
空高く舞い上がる粉塵が瓦礫の山を覆い尽くした。

230 ◆/ebAZhNPSM:2015/05/05(火) 11:03:12 ID:cv7oMdag
「………………………………」
(やったよ……お姉ちゃん……)

変身が解除されて元の制服姿に戻った樹は
廃校舎跡からゆっくりと立ち去った。

満開を使った者は代償を支払うことになる。
それは満開を使用した後に散華と呼ばれる現象が起こり
身体の機能の一部を失うことになる。

それでも樹は悲しみはしない。
姉の命を狙う怪物を倒すことが出来たのだから。

【J3/廃校舎跡/一日目/深夜】

【犬吠埼樹@結城友奈は勇者である】
[状態]:疲労(大) 声帯の機能の損失、右肩裂傷、左脇腹裂傷、右ふくらはぎの一部欠損
[装備]: 無し
[道具]: 樹の携帯
[思考]
基本: 勇者部の皆に会いたい
[備考]
※アニメ最終回終了後からの参戦です。
※散華によって声帯の機能を失いました。
※樹の所持品は廃校舎跡の中で埋まっています。
※制限により精霊の自動防御は連続で行えません。
※散華の後に精霊の追加はありません。
※バトルロワイアル中での散華の回復は不可能です。







廃校舎跡の瓦礫の中で砕け散ったガラスの中でミイラ男はほくそ笑む。

『ククク……』

まさか俺が再び生を受けるとはな。
板のような機械から『君を生き返らせた。好きなだけ殺戮を行え』と命令されたのは癇に障るが
せっかく貰った命だ、やりたいことを楽しませてもらうぜ。
だが俺を殺した連中には用心をしておこう。
あの時は油断した俺が独断専行をしたから敗れたのだ。

この島には相棒やお袋が来ているらしい。
連中と組んで共同で仕掛ければ俺たちが負けることは無いだろう。
今度は逆に俺たちがてめえらを地獄に送ってやるぜ。

『ククク……ハハハ……ハァーハッハッハッハッハッハッ!!!!』


【?????@??????????】
[状態]:???
[装備]:???
[道具]:???
[思考]
基本:殺戮を楽しむ。
1: 逃げた少女(犬吠埼樹)を追い詰めて殺害する。
2: 相棒(?????)やお袋(?????)と合流する
3: 自分を殺した連中には用心して挑む。
[備考]
※状態表の一部が隠されています。
※本体の存在や能力を看破することで隠された情報が提示されます。
※主催者から個別で指示を与えられています。

231名無しさん:2015/05/05(火) 11:04:47 ID:cv7oMdag
没SS投下終了 タイトルは『犬吠埼樹は再び勇者になる』です

232名無しさん:2015/05/05(火) 18:26:21 ID:2kNV1Lwo
え?

233 ◆qB2O9LoFeA:2015/05/13(水) 15:56:17 ID:a0NJ6wa6
投下します

234embryo&incubator ◆qB2O9LoFeA:2015/05/13(水) 16:03:08 ID:a0NJ6wa6







「もう一度言う、動くな。」

 そう言うとマリク・イシュタールは、千年ロッドを『人質』に突きつけた。
 その杖の先があと数センチ動けば、どうなるかわかったものではない。

「テメェ‥‥汚ぇぞ!」

 悔しそうに叫んだのは佐倉杏子だ。マリクから離れること5m強。『人質』を挟んで向かい合っている。

「汚い?オイオイ冗談キツいねぇ。先にふっかけたのはどっちだぁ?」
 コツン、とマリクはロッドで『人質』を叩く。
 それを見た杏子は踏み出しかけていた足を止めざるを得なかった。

235embryo&incubator ◆qB2O9LoFeA:2015/05/13(水) 16:11:29 ID:a0NJ6wa6



 卵である。
 最初にマリクが球体から出て見たものは、まさしく卵としか言い様のないものだった。

(‥‥なんだアレ‥‥)

 傍らのデイパックを漁り中の物を確認し、とりあえず球体から出ようとしたところで発見した卵。
 なにか台座のようなものに乗せられているそれは、懐中電灯で照らすとまだら模様の黒い部分で鈍く光を跳ね返しながらでんと鎮座している。

(で、上には鉄塔と。)

 マリクは懐中電灯を上に向けた。
 見れば、アンテナのようなものが付いた鉄塔が建っている。どうやら、自分が最初に入れられていた玉は鉄塔の敷地にあったらしい、そうマリクは理解した。

 ドン。

 理解して、心臓を貫かれるような感覚を覚えた。
 なにか、とても嫌な、とても嫌なことになりそうな予感がする。
 それはマリクが決闘者として磨かれた勝負勘のようなものかまたは本能的なものか。それはマリク自身にも解らなかったが、予感にしたがって警戒するのに変わりはなかった。

(鉄塔、アンテナ、卵‥‥なんだ、なんだこの嫌な感覚は!)

(落ちつけ、ヒントはある‥‥!)

 マリクはデイパックを開けた。
 千年ロッド、ペットボトル‥‥タブレット。
 目当てのタブレットを見つけると引っ張り出して操作する。その時間は数十秒から一分弱といったところか。その僅かな時間にマリクの顔はひきつりにひきつっていた。

(まさか‥‥いや、アレが‥‥)
「核、か?!」

 マリクは懐中電灯で『卵』を照らした。
 アンテナのようなものが付いた鉄塔と、アンテナの近くにあるという核爆弾。この鉄塔がもしアンテナならば、あれが核である可能性はある。

 マリクは『卵』に近づくと子細にあらためた。よく見ればところどころ土で汚れ、それをこそげおとすと金属でできているような黒い部分が現れる。まだらに見えたのは付着した土のせいだろう。ダチョウの卵ほどの大きさ、というのはマリクには解らなかったが、それが『核爆弾』としては小さいというのはマリクにも思えた。
 次に、マリクは台座に目を向けた。『60』と表示されたディスプレイを除き『卵』と同じ材質でできているようだ。

(いや、いやいやいや、いくらなんでも核って)
「こんなもんがか‥‥?」

 ツン、と『卵』をマリクはつついてみた。
 特に異常は見られない。
 コン、と『卵』をマリクは叩いてみた。
 特に異常は見られない。
 ガン、と『卵』をマリクは蹴ってみた。
 ビイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ。
「うおォ!?」

 ぐらり、と『卵』が台座の上で傾くと同時にけたましくブザーが鳴り響いた。同時に台座のディスプレイがカウントダウンを始める。
 ズンと『卵』が自重で戻ると、二つとも収まった。

「なるほど‥‥」

 マリクは、ニヤリ、と舌なめずりをしながら笑みを浮かべた。

「━━ひょっとしたら、使い方次第で楽しめそうだな。」

236embryo & incubator ◆qB2O9LoFeA:2015/05/13(水) 16:45:18 ID:a0NJ6wa6



「あ?」

 佐倉杏子がその音に気がついたのは風向きのせいか、鋭敏な聴覚のせいか、それとも他の巡り合わせか。
 金属球の扉が開いてすぐに移動を開始し、開けた荒野から手近な建物を目指した彼女は、すぐに目当ての廃墟へとたどり着いていた。

 しかし、入ることはためらわれた。

 廃墟から起きたブザーのような異音。
 建物の中庭からだろうか、突き出た鉄塔。
 そしてその鉄塔に付いているアンテナ。

(あれ?ヤバくね?)

 杏子が思い出したのは先程の放送だ。体のだるさを覚えながらも、『聞いておかないとマズイ』と感じて頭に叩き込んだそれは、くしくもマリクと同じようにある可能性に気づかせた。

「アンテナの近くに核爆弾とか言ってな‥‥」

 すっ‥‥、と廃墟の入り口に張り付く。中からは僅かに人の気配がした。

「核か‥‥まあ魔法少女なら‥‥」

 が、慢心。
 慎重に内部へと歩みを進める。
 幅の狭い通路を挟んですぐに中庭が見え‥‥同時に一人の人影を見つけた。

(デイパックは持ってるみたいだな、よし。)

 クラウチング。
 低く体勢を取ると、狙いをつける。
 なんと言うことはない、彼女がこれからしようとしているのは略奪。このような、まさしく食うのに困る異常事態で最初にすべきは自身の安全と衣食住の確保。

(ま、殺しはしないけど━━)

 魔力を足に集める。いつでも飛び出せる。

(━━頂く━━なっ!?」

 そして飛び出し、二歩目で横への移動へと変える。音をたてて飛来した礫を交わすと杏子はマリクと向かい合った。そして。

(?なんだあの卵みたいなの?棒なんか突きつけて。)
「動くなぁっ!!動けばこいつを爆破する!」
(‥‥!?まさか、おい‥‥!)

 ニヤリ、とは言えない異形の笑みを浮かべてマリクは叫んだ。


「この核爆弾が人質だァッ!」

237embryo & incubator ◆qB2O9LoFeA:2015/05/13(水) 17:08:48 ID:a0NJ6wa6



「もう一度言う、動くな。」

 そう言いながらマリクは、内心安堵のため息を吐いていた。彼が杏子の接近に気がついたのは、杏子が飛び出す寸前のことだ。放射線により感知しがたいとはいえ、千年ロッドは魔法少女の強い魔力を嗅ぎ付けたのだ。とはいえ、それもたまたまマリクが礫を持っていたからこそ活きたことだ。さすがに千年ロッドで『卵』を叩くのには抵抗のあった彼が何気なく持っていたそれが、彼の立場を大きく変えた。

「テメェ‥‥汚ぇぞ!」

 一方の杏子はそう叫びながら、マリクとの会話を試みようとしていた。今すべきことは、あの『人質』が果たして本当に核爆弾なのか。それとも違うのか。そして。
(アイツの持つ杖‥‥とりあえずアレを弾き飛ばす。)
 集中する意識はマリクの持つ杖、その下の地面。自分から離れたところに正確に槍を生み出すために魔力を調整する。

「汚い?オイオイ冗談キツいねぇ。先にふっかけたのはどっちだぁ?」

 コツン、とマリクはロッドで『人質』を叩く。



 故に、それを見た杏子は方針を変更決定した。

(アレが核爆弾って証拠はない。)

(もしアレが核爆弾でもあんぐらいならぞんざいに扱ってもセーフ。)

(なにより、コイツはなんかヤバい!)

 杏子は踏み出しかけて止まっていた足を戻す。マリクはそれを見て薄く声をあげて笑う。僅かに意識がそれる。足を戻して。


 千年ロッドが光ると同時に飛び上がった。

「何ぃ!」

 千年ロッドの異変に気づいたマリクの腕に衝撃が走る。荒れたコンクリの地面から、確かに『槍』が生え、千年ロッドをあらぬ方へ向けさせていた。

(弾き飛ばせなかったか、ま)
「終わりだよ。」

 壁を蹴っての三角飛びで上をとった杏子は倒れこむようにマリクを押さえつけた。

238embryo & incubator ◆qB2O9LoFeA:2015/05/13(水) 17:29:51 ID:a0NJ6wa6



「ナメるなァァァッッッッッ!!!」

 吼えるマリクを無視して杏子は腕を極めにかかる。うつ伏せの状態で腕を抑えられて拘束されている以上、もっともいくらマリクの上背があるとはいえ魔法少女に敵うはずがないが、杏子の優位は揺るがない。

「静かにしな、男だろ?」
「ぐぅ‥‥っ‥‥!」

 腕を極めると今度は喉を抑える。叫べなくすると同時に、杏子はマリクを落としにかかった。

「手こずらせやがって、落ちろ!」

 だから油断した。
 千年ロッドを弾き飛ばせなかったことを軽視し、千年ロッドに集められた『力』を見落とし、その光が弾き飛ばそうとしたときから増しているのが視界に入らなかった。


 ばき。


「落ちた、なあ!?」

 杏子は首に衝撃を感じながら、奇妙な解放感を感じた。と、同じくして自分が乗っている男、マリクの背に妙な機械が落ちているのを見た。それはちょうど、マリクの首にはまっている物と瓜二つだ。

「もしかしてこれっ。」
「形勢逆転、って言うんだったかァ。フハハハハハァ‥‥」

 ゴフゴフと咳き込みながら、マリクは哄笑を上げると、首だけ向けて杏子に目を合わせた。

「その首輪似合ってなかったんでなぁ‥‥外してやったよ。」

239embryo & incubator ◆qB2O9LoFeA:2015/05/13(水) 17:49:41 ID:a0NJ6wa6


「ざっけんな!!!」
「グガアッ!!‥‥ゴフ、フフ、フハハハハハ、アァハハハハハハハハハハハッッ!!」

 杏子は怒りに任せてマリクを叩きつけた。魔法少女のそれも半ば加減なしの力である。普通なら気絶するか、痛みで息ができないか。その一撃を受けて。

「フハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!」

 マリクは狂ったように笑っていた。自分へと一撃をくれた杏子の行動が、おかしくておかしくてたまらないといった具合に高笑いを響かせた。

 ビイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ‥‥

 そしてマリクの哄笑に合わせるように、ブザーが鳴り響いた。マリクにぶつかられころころと転がった卵。そしてその台座はけたましくブザーを鳴らしてカウントダウンを進める。

(ヤバい。)
 高笑いとブザーの二重奏が廃墟に鳴り響く。
(ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい。)
 刻一刻と終焉がやってくる。
(ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい)

 カウントダウンはあと20。

240embryo & incubator ◆qB2O9LoFeA:2015/05/13(水) 18:06:30 ID:a0NJ6wa6



【C6(とD7の境)の核爆弾設置地点/廃村/1日/深夜】

【マリク・イシュタール@遊☆戯☆王デュエルモンスターズ】
[状態]:闇マリク、ハイテンション。
[服装]:いつものアレ。
[装備]:千年ロッド。
[道具]:デイパック一式(内ランダム支給品の一つは千年ロッド)
[思考]
基本:とりあえずはこの状況を楽しむ。
1:いいねぇ‥‥その顔。
2:もう少ししたら『卵』を『台座』に設置する。
[備考]

【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:呆然自失から立ち直った?首輪なし(マリクとほぼ同位置のため放射線障害はまだ起きない。)
[服装]:魔法少女。
[装備]:なし。
[道具]:デイパック一式
[思考]
基本:死にたくはないしとりあえず島の中央に向かう。
1:首輪が、いやまず核を、てかあれ核爆弾か?それとも‥‥
[備考]
●首輪が取れました。
●『台座』の横に『卵』が転がっています。あと二十秒以内に戻さないと起爆します。また『卵』内部の核爆弾になんらかの影響があった可能性があります。

241 ◆qB2O9LoFeA:2015/05/13(水) 18:11:19 ID:a0NJ6wa6
投下終了です

242名無しさん:2015/05/13(水) 20:36:27 ID:dI1XTh8o
投下乙です。
ただ首輪が外れたあたりがよくわからないのですが…
千年ロッドで切れ目がついて外れた?
それとも元々、簡単に外れるようになっていた?
OPのバーサーカーは殴った衝撃で首輪の機能を止めた感じでしたがそんな感じでしょうか

243名無しさん:2015/05/13(水) 21:18:31 ID:N.QKPXwg
投下乙です
今のところマリクさんに何の非も無いな
マリクさんが楽しそうで何よりです

244名無しさん:2015/05/14(木) 11:19:16 ID:AsqoVoMg
投下乙です。ちなみにキャスターと子狼のSSは本投下されないのでしょうか?

245 ◆qB2O9LoFeA:2015/05/18(月) 23:44:45 ID:JHsxIBTw
>>242
返信が遅れてすいません
マリクが杏子の首輪を破壊したくだりは、アニメ遊戯王デュエルモンスターズの王国編より、バクラがペガサスから千年眼を奪おうとしたときのレーザーの打ち合いの描写から千年アイテムに共通する能力として判断しました
腕を極めようとしている間にレーザーが首輪を直撃した感じですかね


まず先に小狼とキャスターの話を投下してきます

246 ◆11MEKbPvno:2015/07/25(土) 18:21:24 ID:nVr/BNVA
こちらにも投下とあったので投下します

247 ◆11MEKbPvno:2015/07/25(土) 18:22:08 ID:nVr/BNVA
「死ねっ・・・死ねっ・・・アカギ・・・!!!」

鷲巣が発射した無数のミサイルが次々と島に降り注ぐ。
それに巻き込まれてアカギに加えて何人もの参加者が何も分らぬまま散っていった。
皆それぞれ何かを為そうとしていた。
この状況下で何とかしようと模索していた。
だがそれは全て爆発に消えていった。
そしてミサイルの爆発は核爆弾の爆発を誘発していき--。

ドンッ

――ついには島の火山を噴火させるまでに至った。
この島は火山の影響で出来た島であり、島の中央の山はまさにそれだった。
もう長い間休火山化していたが、今回の多大な爆発で火が付いてしまった。
その二次災害によって辛うじて生き残っていた参加者達も、島の地下に本拠を置いていた鷲巣達も、全て死んでいった。
元々島の監視・緊急時の干渉を目的に本拠地は島の地下にあったが、それが裏目に出た結果となった。
誰にも何も出来ぬまま人の作りだした兵器と自然の脅威によって島は跡形もなく消え去った。

こうして歴史の修正力に踊らされたバトルロワイアルは島ごと消滅した。

宇宙の中に浮かぶ一つの星。
地球という名の星の何処かの島で起きた出来事。
奇妙で不可思議とも言える最後を知る者はいない。
理由なき見えざる意思によってもたらされた結果がただそこにあった。

【全参加者 死亡】
【全主催者 死亡】

【アニメキャラ・バトルロワイアル4th 完結】

248 ◆11MEKbPvno:2015/07/25(土) 18:22:55 ID:nVr/BNVA
投下終了します

249名無しさん:2016/03/04(金) 00:04:42 ID:roob1M9Q
感動しました


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