したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

短編総合スレッド

1管理者:2013/09/01(日) 20:30:21
短編のSSはこのスレにどうぞ!いつでもご自由に投稿いただけます。
ただし、誰かが投下中の場合はお待ちください
細かい決まりとかは現在特にありません、基礎ルールを守っていただければ大丈夫です
コメントは執筆者さんが書き終わってからのほうがよいかと思われます。

※短編の定義はよくわかっていません。10レス以下ぐらいでしょうかね?

110M ◆XaXp325K/w:2014/01/23(木) 18:49:57
これでおしまいです!思いのほか長くなってしまった……

111名無人目のスタンド使い:2014/01/24(金) 21:57:48
ブラボー!おお…ブラボー!
読み応えたっぷりで楽しませてもらった!

112名無人目のスタンド使い:2014/02/10(月) 03:42:20
注意

妄想EDスレの「7人目アルティメット化」ネタ
毒島普通女子


それでもよければ、よろしくお願いします




 それは、まさに化け物だった。

 五十メートルほど上の天窓しか足場がないはずの廃工場のど真ん中に突然降り立った。
 即不審者と判断され、火を噴いたサブマシンガンの弾を何十発も受けて平然と立っていた。
 ばらばらと鉛玉が転がり出た傷口が、瞬時にふさがって元通りになった。
 さらなる追撃をしようとした悪漢たちが、見えないものに切り裂かれて倒れた。

 そのさまを残らず見ていた囚われの子供たちは、恐怖で怯えるのも忘れて座り込んでいた。
 自分たちにとっての恐怖の対象があっさり倒されたのと、その化け物から害意を感じなかったからだ。

「……立ち向かってたのは、あなたね」

 近づいてきたそれは、子供たちの中で唯一立っていた者だった少年の前に立った。
 そして、全身を頑なに隠そうとしているかのように着こんだコートから手だけを出し、彼の頭を撫で、そして頬の傷に触れた。
 若く柔らかな女の手だ。

「相手はあんなに銃を持っていたのに、どうして逆らったの?」

 当然のような質問だが、相手が相手なので妙に滑稽だった。

113名無人目のスタンド使い:2014/02/10(月) 03:44:36
 そんな銃から撃ちだされた弾丸を一身に受けて、血の一滴も流さない者がそれを言うのだから。
 だが、少年は言った。

「……あいつらが、俺の妹を殴ったから」

 その言葉に、フードの奥で化け物は微笑んだ。

「……そう。でも、もう心配ないわ。あなたが身体を張らなくても、守ってくれる人たちがじきに来る」
「……ホント?」
「ええ。帰りたい場所があるなら、行きたい場所があるなら、連れていってくれる人たちがすぐ来るわ。だから、みんな、もう少しいい子でここにいるのよ」

 そう言うなり、彼女は踵を返した。
 そして壁の前に立ち、なにかを探すようにじっと見る。
 瞬間――。

ガラッ。

 なんの脈絡もなく、壁がパズルを崩すように壊れた。
 そして淡い月明かりといっしょに、長い影が射し込んできた。

「久しぶりね。承太郎」
「……」

 三十前後と思われる男は、その言葉には答えず、言った。

「……生きているなら、なぜ帰らねえ」
「……帰れないわ。こんなナリじゃ」

 脈絡のない問いに、少女は正しく答えた。
 そしてフードを剥ぐ。

「人間やめました、なんて、どうして言える?」

 男の前に立っていたのは、まだ少女と言えるほど若い娘だった。
 十数年時を重ねたはずなのに、その顔はまだセーラー服を着られそうなほど若い。

「こんなんで帰ったらパニックよ」
「だが……」
「だめ」

 彼が続けようとする言葉を、彼女は止めた。

「私が、だめなの」

 そうして浮かんだのは、悲しい笑みだった。

「帰って、もし受け入れられたとするわ。ちょっとおかしい私に目をつぶって、笑ったり泣いたりしながら何十年か経つでしょう。いつか、パパとママは死ぬわ。お姉ちゃんも死ぬ。その子どもも、孫も、ひ孫も、いつか死ぬの……私を置いて」
「……」
「私は化け物になった。何十年と空の下を歩いても、全く姿の変わらない化け物に」

 彼女は笑う。
 決然とした表情で、諦観した双眸で。
 相応の歳を重ねた友人に、笑いかける。

114名無人目のスタンド使い:2014/02/10(月) 03:45:53
「こうなってしまった以上、私が辛いだけなの。いつか失うと決まってしまった人たちの隣で笑い続けるなんて、私にはできない」

 だからこそ、と、彼女は後ろを振り返る。

「――誰かの笑顔は守りたいの」

 彼女の目線の先には、子どもたちの大きな瞳があった。
 痩せて殊更大きく見える目が、月明かりにきらきら光っている。
 涙の跡が分かる顔もあったが、それでも、彼らがすでに恐怖から解き放たれていることは見て取れる。

 やがて、彼女がぴくりと顔を上げた。

「もう行かなきゃ。ヘリが近づいてる」
「……聞こえないが」
「私は化け物だもの」

 言うなり、彼女は両手を広げた。
 途端に袖が膨らんでいき、やがてパン! とはち切れる。
 そこから現われたのは、鉤爪のついた翼だった。

「バイバイ承太郎。みんなによろしく」
「言いたきゃ直接言え」
「それは無理」

 彼女は飛び立とうとする。

「お姉ちゃん!」

 が、それは止められた。
 突然呼び掛けられびくりとした彼女が再び振り返れば、先刻言葉をかわした少年がいた。

「お姉ちゃん、いっちゃうの?」
「……ええ」
「もう会えないの?」
「そうね」
「ヤダよ。一緒にいてよ」
「それはだめ」
「なんで?」

 広げられた翼がゆっくりと下ろされる。
 そして、子どもの頭にかぶせられる。

「私が人間じゃないから」
「……でも、僕を助けてくれたよ」
「それは私が、そういうスタンドだからよ」
「すたんど?」
「そう。誰かを守りたいのに力がない人のところに行って、傍にいて守ってあげるもの」
「……僕はもう守ってもらえない?」
「今はもう平気だもの。この人とこれから来る人にまかせれば、あなたたちが安全に過ごせる場所に連れていってくれる」

 柔らかな羽が子どもを撫で、静かに離れる。

「でも約束するわ。あなたが誰かを守りたいのにどうしようもなくなっちゃったときには、必ずあなたのところへ来る」
「ほんと?」
「うん。だからそれまでは、さよなら」

 次の瞬間、一枚のひらひらとした羽根を残して、彼女は夜空に消え去った。
 少年は見失った彼女を探していたが、やがて視線を下げた。

「……おじさん」

 少年にとっては巨人のように思える彼は、ゆっくりと視線を下ろす。

「なんだ」
「おじさん、スタンドさんの友達?」
「……あいつはスタンドじゃない。スタンドってのは、こっちだ」

 そういうと、男は自分の背後を指し示した。

「……なに?」
「分からないならそれでいい」

 そう言うと、男は無線を取り出し、それに向かってなにか言った。
 やがて、バラバラと空気を打ち鳴らす音が近づいてきた。
 SPWと書かれたヘリコプターがゆっくりと地面に降りてくる。

「……ねえおじさん」
「なんだ」
「あのお姉ちゃん、スタンドさんじゃないなら、名前はなんて言うの」
「……毒島だ」
「ブスジマさん?」
「ああ。覚えておいてやれ。もしまた会ったとき、あいつを呼んでやれるようにな」
「……分かった」

 ヘリコプターから人が降りてきて、子どもたちを救出する。
 少年は不安だろう妹の傍にいてやるべく駆けていく。

 男は落ちた羽根を拾いあげ、やがてくしゃりと握り潰し、自らもヘリへと向かったのだった。

115名無人目のスタンド使い:2014/02/10(月) 03:47:11
おしまいです
毒島使い増えればいいのにっ!

ここまで読んでいただきありがとうございました

116名無人目のスタンド使い:2014/02/10(月) 08:42:30
おお!!ベネッ!ディモールト・ベネッす!!
どういった経緯で究極化したか想像させられます!

117 ◆mnucXZmKTM:2014/03/03(月) 22:38:00
空気を読まずに投稿
短編ならずss風味
※注意事項※として
小柄♀主人公(影山-ミラクルズ)で
本体情報の性格診断と作者さん解釈から、「人見知り要素」、そこからさらに「犬要素」を主人公に入れてます
以下連投します
以上でよろしければ、読んでやってください

118 ◆mnucXZmKTM:2014/03/03(月) 22:39:55

①スタンド使いは惹かれあう


「ねぇねぇ、スティール。一つ、聞きたい事があるのだけれど。」
「うん?なんだい、影山。なにか問題でも起きたのか?」
「お、起きてはいないのだけれど……。あのね、『強くてニューゲーム』に、スタンド診断があるじゃない?」
「あぁ、すまない、影山……。そのような話を振られても、私は何も言えないのだ……。」
「見えざる手によってバニースーツを強要する癖になのに?私のこと嫌がると言う事は分かるのだけど、」
「それは違う、影山。私は君のことを嫌いじゃない。人として好きだぞ。」
「それより、そこでスタンド診断、するじゃない?」
「あ、あぁ……。」
 そのバニースーツを強要する事はその「見えざる手」によってなのだ。
 私がバニースーツを強要しているのではなく、
 その見えざる手の所為であって私の所為ではなく、
 逆を言えば、それは
 私にあらぬ濡れ衣を着せているだけなのであって……
 ……そう言いかけた言葉をスティールはグッと飲み込んで、相槌を打った。
 影山はその相槌に釣られて、グッと言葉を飲み込む事を止めて話を続ける。
「それで、いつも違うスタンドが結果に出てくるんだけど……これって、どう言う事なんだろう?」
「……。」
 影山が両手で支えるラジオから砂嵐が入り込む。
 間が長くなるにつれて大きくなる音に影山は首を傾げた。
「えっと、それで、スタンド結果なんだけ」ど、と影山が先に言葉を紡ぐ前に、ブツン、とラジオの電気が落ちた。

119 ◆mnucXZmKTM:2014/03/03(月) 22:41:37

②スティールと会話する時の誤魔化し方


「……のう、承太郎。影山の持っているラジオのことなんじゃが……。」
「あ?」
「あれ、マジで携帯電話なのか?わしゃぁ、あんなタイプのを、見た事がないんじゃが。」
「……フン、知るか。」
「あ、影山のラジオについてなら、僕、聞いた事がありますよ。」
「なにっ?!それは本当か、花京院!で、あれはマジで電話だったの!?それともひ、一人芝居、だ、と、い、言う、のか……?!OH!MY GOD!!」
「いや、違います。落ち着いて下さい、ジョースターさん。」
 わなわなと震えた後に片手で両目を覆いながら天を仰いで突如膝をついたジョセフへ、花京院は冷静に言った。視線を外へ向けながら、花京院はその時の事を思い出して言う。
「確か……。スティールと言う人が持ってけと言ったから、持ってきた、と彼女は言っていましたよ?」
「へ、へー……。スティールって、影山の知り合いなの?ねぇ、承太郎。何か知ってる?」
「チッ、知らねぇよ。」
「むむ……中途半端に知ってしまったら、最後まで知りたくなるのぉ。偶に流れとるアイキャッチも気になるし……。」
「「我がナチスの科学は世界一ィ!」って、早口で言ってるアレですか?アレ、僕も聞きました。」
「俺は、糞ムカツク声で「ディオだ」と自己紹介している曲を聞いたことがある。」
「なに!?か、影山は……DIOの、トロイの木馬であるのか?!」
「いえ、その前に、何故、影山は「ナチスの科学は世界一ィ」だとかDIOの自己紹介だとか聞くのかと言う事を先に考えた方がいいかと。」
 考え込む花京院と受けたショックから立ち直れないジョセフ、考え事をしながら煙草を吹かす承太郎を余所に、ポルナレフがくしゃくしゃの紙を片手に、ラジオを両腕で抱える影山に近づく。挨拶をした声に気付いて、影山は声のした方へ振り向く。挨拶をしたポルナレフは続けて、影山に話をした。
「お、影山。今度、こっちの方を聞かせてくれよ。最近、ワックスに凝っててさぁ。」
 バーでだべった酔っ払いから得た局名の番号が書かれた紙を、ポルナレフは影山に見せる。開いたポルナレフの手の中にある紙を、影山はただ凝視する。そしてその内容を確かめるかのように、影山は声に出して言った。
「……。えぇっと、女の子の、おと」
「お、オホン、オホン!そ、それにしてもそのラジオ、便利だよなぁ。どこで買ったんだっけ?それ。」
「え。ネットに繋がるだけって、言うけど……。」
 ネット(net)って、どこのネットなんだろうね。とぼんやりと話す影山を余所に、影山のラジオについてひそひそと会議を行っていた三人は、無言で、一斉に振り向いた。慌てて話を反らしたポルナレフは、興味深そうに影山の手にあるラジオを見ながら話を続ける。影山はその話に相槌を打つ。影山の言った単語に驚いた承太郎・ジョセフ・花京院の三人が自分たちの会話に耳をそばだてている事を知らずに、ポルナレフはただ、早くラジオを貸してくれ、と影山に強請っていた。

120 ◆mnucXZmKTM:2014/03/03(月) 22:49:33
以上です。
駄文で失礼しました。
とりあえず、難しい事考えて結論を、スタンド診断の変わる結果について出したんですけど、ストーリーの主軸から逸れそうになったんで、削りました。
サラッと読めてクスッと笑っていただければ僥倖です。
とりあえず、三部アニメ化が楽しみです。

121名無人目のスタンド使い:2014/05/26(月) 14:38:17
3次創作の影山(小柄♀)SS
花京院EDとか全員生還EDではこんな学生生活を送ったのかもしれないという妄想を書いてみた。

 ミラクルズは学生生活では結構役に立つ。
 たとえば先生に差されそうになった時とか、面倒くさい委員を押し付けられそうになった時とか。
 それに承太郎も花京院も結構人気があるものだから、下手に近くにいるとファンの嫉妬を買うんだけど、
 存在感を薄くしてるおかげでほとんど気にとめられていないし。
 力はそれほどないけど小物を持ってくる事ぐらいは出来るから、自販機の下の隙間に落っこちた小銭を拾ってくるとかも得意だ。
 …スタンド使いってそういうものだっけ? と思う事もあるけれど、私にとってはこれぐらいが身の丈に合ってる。
 スタープラチナのオラオラとかハイエロファントグリーンのエメラルドスプラッシュなんて日常生活じゃあんまり役にたたないだろうし。
 それに

(ねね、花京院。ちょっと8番の問題教えて?)
(影山…スタンドで会話するのはいいけど、先生の話をしっかり聞いていればわかる問題だよ)
(私、書くの遅いからノートに取ってる間に次の話に移っちゃってるの…あ、それと帰りに寄ってくスーパーでさ…)

 こういう風にスタンド使いだけで会話が出来るのは地味に便利。
 放課後遊びに行く話だって出来ちゃうし。
 今日もホリィさん…聖子さんに誘われて、夕飯をご馳走になりにいくんだけど、食材は何を買っていこうか、なんて話もこっそり出来るし。

(ごちゃごちゃ煩いぞお前ら。そんな話は後にしろ)
(あう。ごめん、承太郎)
(そうだね。じゃあ、次の休み時間に)
(…228ページの公式でも見てろ)
(え?)

 教科書に目を落とす。
 228ページ。
 まさに問8に関する公式が載っている箇所だ。

(ありがと、承太郎)
(ふふ…)
(何がおかしい、花京院)
(いや、なんでもないよ承太郎)
(…ふん。やれやれだぜ)


そんな日常。

122名無人目のスタンド使い:2014/06/04(水) 02:48:14
唐突に投下。四部での幽霊が見える伊佐治の話。
長いのと、七人目じゃない七人目が出てきたりするので注意です。

123名無人目のスタンド使い:2014/06/04(水) 02:49:18
「これからぼくが話す間、決して口を開くな」

『伊佐治』と書かれたネームシートを首から下げ、沈む夕陽を背景にして空き教室の机に腰掛け、確かにぼくの目を見てそう言った。
「……なんか様子がおかしいですよ?」
「ああ、伊佐治さん、康一の言う通りだぜ」
「喋るな」
鋭く打ち込んだ一言は、スタンドが持つメスよりもキラリと光る何かを持っているように思えた。
「康一くん」
「は、はい」
「仗助くん」
「……ウッス」
「億泰くん」
「なんだよォ」
「……君たちがぼくよりも強いスタンドを持っていることは既に存じているし、きっとぼくがいなかろうと君たちの青春とか、少し変な言い方をすれば『物語』はきちんと回るのだろうけど……ここは一つ、スタンド使いの先輩であるということに免じて、付き合って欲しいんだ」
そう言いつつ、相変わらず何故かぼくだけに視線を外さない。どことなく居心地が悪くなって、ぼくは窓の向こう、落ちる太陽に目を逃がした。
今ぼくの耳に聞こえるのは、何も言葉にできずただ呼吸する音。遠くで聞こえる吹奏楽部の練習音。走り回る運動部員の掛け声。
そんな『ごく普通の高校』でぼくたち以上に『普通じゃない』んだ……と、そう実感させる雰囲気を帯びていた。
「いいかい?」
しばらくして、ぼくたち全員が頷く。それを聞いて、何やら重い口を再び開く為に一瞬目を伏せた隙をついて、仗助くんはちらりと目配せで、ただそれだけで雄弁に語った。
『スタンドに何かされているのかもしれない』、と。
ただぼくには『だからこそこうしているのかもしれない』とも思えた。『無意味な事をする筈が無い』。きっとこれには何か意味がある筈で、それをぼくたちに解ってほしいんだろう。なら、やるしかない。
「……ありがとう」
ぼくたちの無言の意見が一致した瞬間、彼はそう言って少し笑った。

124名無人目のスタンド使い:2014/06/04(水) 02:50:06

「この話はひょっとしなくとも誰にもすること無い話になる筈だったんだろうけど……まあなんというか、不幸な巡り合わせ?幸運にも?どちらかは分からないけどとりあえず『君たちに話す』ことにするよ。多分ちょくちょく『嘘くせえ』なんて思う所もあるだろうけど、ぼくがこれから話すものは全て真実だ。とりあえず何も言わず何も語らず、ぼくの話を聞くだけにしてくれ。言いたいことは後で聞くから。
そうだな、それは今日の君たちみたいに健康診断の日だったのだけど……ああ、ぼくが高校生の頃の話だ。昔も今と変わらず、一年に一度全学年健康診断って言って、丸一日の授業潰してこうやって教室回って色んな医者に回されてたんだ。……いや、今日ぼくは医者の立場を経験して分かったけど、生徒が勝手に回るのが正しいな。顔も一瞬で覚えられない生徒達を何百人単位で見ていくんだから。まるでベルトコンベアの回転する様をただ見ていく工場って感じかな。
違った違った、そういう健康診断の日って話だ。まあ何事もなく無事に終わり──ぶっちゃけて言えば悪い所は全て事前にカーディガンズに治療させていただけの事なんだけども──いざ帰り支度を始めた時に、同じく仕事を果たした看護師の二人とすれ違ってね、ある話を聞いたわけだ。
『病院の清掃員が足りないという話』。
その時丁度ぼくはいいバイトを探していた。本当に少しでも、大学に進学するにあたっての学費を貯めたかったんだ。だけど中々いい環境の店が見つからなかった。その矢先にその話だ。
ぼくは合理的という言葉が大好きだが、別に『運命の巡り合わせ』とかそういう非科学的な事を否定はしないし、それに乗ってみることもある。自分のスタンドからして、病院自体にちょっとした接点を見出していたしね。
いざ調べてみれば、まさにビンゴ。夜だけど日付が変わる前には解放されるくらいの拘束時間、その割に給料は良い。難点なんて、その病院まで少し歩くしかないことしか無かった。そして案の定、応募したらすぐさま受かったという訳さ。
ぼく達の住んでいた町には病院はあったのだけど、アルバイトをしたのはそことは別の病院だった。かなり大きい病院でね、一階部分は外来、二階部分は急患、そこから上六階が入院用の病室で、地下二階部分はレントゲン室とか売店とか色々。あと別棟とかもあったな。ぼくが最初に担当したのは本病棟の二階部分。清掃員の先輩──と言ってもかなりの中年だったけど──その先輩に教えられて、ぼくは夜の病棟で働き始めた。
でもぶっちゃけ、掃除なんて誰しもすることだろう?清掃範囲は大きい分、それ専用の道具も出てくるし。仕事内容を覚えるのも早く、ある程度のエリアを任されるのもこれまた随分と早かった。だけど一番早かったのは……仕事をこなす速度かな。他の清掃員はみんな良くて中年、高齢の人間ばかりだったんだ。ぼくの上は確か40代だった。元からあまり汚さない性格もあったんだけど、一番早く仕事を終えるようになった。
そうして毎晩アルバイトに励んでいたある日の事なんだけど──ああ、なんと言えばいいんだろうな。ここからひょいと唐突でまたもや怪訝な顔をされそうなんだけど……実際君たちの立場だったらぼくはこの教室から去ろうと思うのだけど……言わなきゃいけない事があるから、それは言うよ。

『ぼくは──幽霊が見える』」

125名無人目のスタンド使い:2014/06/04(水) 02:52:05
……笑ったり、あるいはくだらないと呆れたり、怒ったり、そういう反応は一切出来なかった。静かに、ただ淡々と語る表情は、無表情に見えて何か深いものを湛えていて、バカにしようとかいう感情は浮かんできさえしなかった。
「……君たちってとても良い聞き手だよ」


「何を唐突に、とか思ったりはしたんだろ?幽霊が見えるとか言う奴は胡散臭いのが通例だから。ぼくが小学校の時にもそういう奴がいたよ。みんなの注目を集めるが為に声高らかに言う奴が。真偽はその時は確かめようが無かったんだけど……まあそれが本当であっても、そもそも自己顕示欲で死者を使う奴は人間としてダメだよな。元よりそのつもりは無かったけれど、まあ幽霊が見えるなんてこと自体、誰かに話す気はなかった。現にこれまで内緒にしてきたしね。承太郎にも、ジョースターさんにも。
ぼくが見えるようになったのはそれもまた君たちと変わらない年の時だ。スタンドに目覚めた頃、日、と言っても正しかったような気がする。経緯は省くけど、ぼくの地元に廃屋があってね、そこの壁に寄りかかった直後、ぼくは見知らぬ部屋の中にいた。扉じゃない、壁だぜ。そこは忍者屋敷じゃなかったけど幽霊屋敷だった。その時は誰もいなかったからそれを知ることは無かったけど、不思議なことに、承太郎達と行ったあの旅の道中、頻繁にそこに辿り着いたんだ。大抵必ず町のどこかに屋敷に繋がる壁があって、そこに行くと道中死んでいった敵やらもしくは巻き込まれた一般人の幽霊がいた。
幽霊がどんなものかって言うと……まあ生きてた頃とそう変わらないんだけど、スタンドは出せなかったし、幽霊だから『取り憑いてやるゥ〜』っていうのも無かった。話はするけど『ただそこにいるだけ』……屋敷の外でも見かけることはあったんだが、変わりなかったな。
──そういう経験があって、病院で最初に幽霊を見かけた時、ぼくは『ようやくいたか』と思ったんだ。ほら、場所が場所なだけにだろ。バイトを始めて数日後、遅過ぎたくらいだった。
幽霊っていうのは半透明でね、見るとすぐ分かる。まあ危害を加えないならそっとしておこう、なんてぼくは思ってその横を通り過ぎ──ようとした時、その幽霊はぼくを見た。気のせいかなって思ったけれど、振り返るとやはりぼくをじっと見ていた。
そいつは男性で、患者衣を着ていた。ほら、よく医療ドラマで手術を受ける人間が着てるだろ?あれだよ。普通の入院患者は自分のパジャマを着ているから、おそらくそいつは『間に合わなかったヤツ』なんだなって分かった。
その幽霊はぼくを凝視してくる。居心地が悪くなってぼくは聞いた。
「何かご用でも?」
『着いてきてほしい』と彼は言った。だけどその日、ぼくに仕事を教えてくれた先輩が風邪で休んでしまって、二倍の量の仕事をこなしていた直後だったんだ。疲労とかは無かったが、時間はきっちり二倍かかっていた。「明日でもいいなら明日にして欲しい」と言うと、彼は頷いた。
そしてその日は帰って、次の日またいつものようにぼくはアルバイトに向かって病院の裏口を開くと、もうそこに彼はいた。休んだ事を謝ってくる先輩もそこそこに、ぼくは仕事にとりかかり、背後から見てくる彼を放っておきながら普段以上に早く終わらせた。
夜の病院、とか言うと怖く感じるのだろうけど、実際時間は深夜と言うほどそう遅くはない。既に消灯時刻は過ぎていたものの非常灯は着いていたし、ナースステーションは一日中灯りが着いている。何より、窓ガラスの向こうの街の灯りが随分と華やかだった。遠くで繁華街の光源が色めいていた。リノリウムの床を踏み、ぼくは先導する幽霊に付き従って廊下を通り、階段を下りた。後で思ったのだけど、ぼくの担当階が二階というのは幸運だった。あまり階段を下りなくて良かったから。いくら病院の人員が少ない時間帯とはいえ、やはり見回りとかに引っかかる可能性があるし。その心配は常に幽霊に従っていれば無用ではあったのだけども。
どんどん階段を下りて行って、遂に地下二階に到達した。さて、着いてきてほしい部屋は、と考えると、幽霊は更に階段を下りた。いや実際に階段はきっちり地下二階以降もあった、けどそこはロープが張ってあって、普通の人間は立ち入り出来ないようになっていた。──もう分かるね?
ぼくが入ったのは霊安室だった。
病院のアルバイト、深夜に入る霊安室。怪談としては定番だよな。これでホラーになればいいんだけど、ぼくはそういう経験はしなかった。きっと、他人から見たら怖い現象は起きていたんだろうな。
その幽霊は唯一あった遺体を指さした。被せてあったシートをめくると……うん、直接的には言えないけど、『グロい遺体』だった。白布じゃなくシートをかけられてる意味をそこで理解してしまって後悔した。思わず手を離したぼくに対して、幽霊は一言、
『なおしてほしい』
と言ったんだ。

126名無人目のスタンド使い:2014/06/04(水) 02:58:21
『なおして』っていうのは、この場合、カーディガンズじゃなくてクレイジー・ダイヤモンドの意味だぜ。治療じゃなくて修理。死んでる人間は、どんなスタンドを使おうと生き返らせることはできない。ぼくのカーディガンズは治療専門スタンドだけれど、電気ショックとかそういうこと以前に『完全に生命活動のしようもない遺体』は守備範囲外だ。だけど──だけども、『身体を直すことは出来る』。幽霊がグロい遺体に誘い込んだのもそれが目的だったんだろう。正直どうしようか迷ったけれど、ぼくはカーディガンズで遺体を『修理』することにした。スタンド糸で縫合し、足りない部位は埋めたり、回復させたりする。この場合、肉体の自己治癒力依存の能力じゃなかったことを感謝した。
少し手間取りながらも、なんとか遺体を少しは綺麗に出来たかと感じた時、幽霊は『もういい』と言った。彼にはスタンドは見えない様だったが、不思議な力で直していたことは、まあ見れば分かるな。だから、敢えて『やろうと思ってやれるレベルまで』にとどめたんだろう。そこらへんは強かというか、賢い。
出る時もぼくは彼に付き従って裏口までやってきた。帰る時も彼は病院から出ることなく、ぼくを見送るみたいにずっと佇んでいた。意外と律儀なんだな、とぼくはその時思った。けれど、次の日また彼が裏口で待っていたのを見てはっきりと悟ったんだ。『あれは一回きりじゃない』、ってね。


大丈夫?着いてきてるか?もうすぐ終わるよ。
それから毎日とまではいかなかったけどかなり頻繁に、ぼくは二階から霊安室へ、そして家へという奇妙なワークライフをこなし続けた。遺体の修理は難しかったけれど、恐怖の念は感じなかった。むしろ死者に感謝される行為なんじゃないか──依頼人が幽霊なだけに、そんな考えも湧いてきた。だが、その男の幽霊の遺体は、見なかった。最初は自分の遺体を修理させる為なんじゃないかと思った、が、一向に出てこない。顔が分からない遺体だろうかとも思った。けどそういうのってそうそう無いんだよな。その時一度だけ見たのは女だった。そしてそろそろ『遺体が勝手に修復されている』と噂になって霊安室に行きづらくなるんじゃないかと思っていた頃──男の幽霊は、めっきり姿を消した。

霊安室での一件はぼくに何の感慨も無かったよ。頼まれてやっていただけ。むしろ清掃員とはいえ範囲外の場所へ侵入することに罪悪感さえあった。幽霊が出なくなって淋しいとかいう感情は無かった。解放されたという爽快感も無かったし、『ああ、終わったのか』と思った。それだけだった。
また清掃を続けて、先輩が辞めることになりその範囲もぼくが受け持つようになった。時間は伸びたけど給料は上がったから別に問題無かった。そんな日に、彼は現れた。
──幽霊じゃなく、人として。
顔を思わず凝視してしまったのを、彼は怒られると思ったらしい。頭を下げて、「ちょっと探検したかっただけなんです」と言った。
「俺、この前目が覚めたばっかで。で、退屈なもんだから、深夜の病院の探検でも、って」
そう、彼は幽霊は幽霊でも生き霊だったって訳さ。肉体があっても相変わらず病院内をうろちょろしているようで、ぼくは笑った。咎められないと察した彼も笑った。
「ほら、ここ、明るくてあんまり怖くないでしょ?」
「ああ、怖いのは地下三階の霊安室くらいかな」
「エッ、地下三階なんてあるんスか!?」
「一般の方お断り、だけどね」
「ふーん。……アノ、変なこと聞きますけど、どこかでお会いしたことあります?なんかデジャヴっつーんですかね、これ」
「いいや、無いよ。……ぼくも一つ変なことを聞くのだけど、君は例えば原型をとどめないまでも、残酷な形の遺体があったとして、そしてそれを直せる人間がいたとして、君は遺体の人とは見ず知らずでも、頼むか?」
「え?そりゃ頼むでしょ」
それで十分だった。

127名無人目のスタンド使い:2014/06/04(水) 02:59:12
──これで、この話はおしまい。」
フゥー……と誰もが息を吐いた。ぼくはなんだか不思議な心地だ。いつの間にか窓の外は暗くなっている。トロイメライはもう鳴ったんだろうか。全然気が付かなかった。
「さて、言いたいことがあるなら言えばいい。じゃあお前から」
指をさされて、ぼくは逡巡した。
「あるだろ?」
「いや……それが……」
「そう、例えば『なんでこんな話をしたのか?』とか。お前はきっと『何か裏があるはず』と思ったんだろう。スタンド攻撃を受けている?何かのメッセージ?敢えて言うなら、『きっと分からないだろうとは思っていた』」
「じゃあ無意味じゃ、」
「いや、意味ならある」
「伊佐治さんッ!!」
突然、仗助くんが大声をあげた。見ると、非常に強張った顔をして、彼を見据えている。
「オレには『これ』が『幽霊』なのか、それとも『スタンド攻撃』なのかがサッパリ分からねーンスけどよォ〜……」
その言葉の続きを、『康一くんが続けた』。
「僕も、億泰くんも、仗助くんも、本当にサッパリ理解不能だ。伊佐治さん、あなたは──




──『さっきから一体誰と話してるんですか?』」




……何を言ってるんだ?
「……それは、何の冗談だ?」
ぼくは声を荒げて彼らに詰め寄る。しかし彼らは伊佐治の方だけを見ている。
「ぼくはさっきからここに居た!君たちが教室に入ってくる時から!」
「ああ、ぼく達が入ってくる時からな」
「伊佐治、君には見えてるんだろ!?何だこれは!スタンド攻撃か!?」
「……お前の名前を、言ってみろ」
伊佐治が、目を伏せて言う。その姿は、言葉とは裏腹にぼくの言葉を聞きたくないみたいだった。
「伊佐治……」
「……言ってみろよ」
ぼくの名前……ぼくの名前は、



「……ぼくの名前は、花京院典明」



ああ、と伊佐治が首を振った。
「……伊佐治さん、幽霊答えたんすか?なんて?」
「……花京院、典明、と」
「カキョーイン?それってよォ〜」
「ああ……」




「……花京院典明は、10年前エジプト・カイロで、DIOに腹を破られ──死んでいる」

128名無人目のスタンド使い:2014/06/04(水) 03:00:13
その日の夜、大した運動をしていない代わりに精神が磨耗し、うたた寝をし始めた頃に突然玄関のチャイムは鳴った。
はとして飛び起きるのは、眠りが浅いのも含め医者の職業病だ。時計を見ると午後九時二十分。こんな時間にこんな人間を訪ねてくる心当たりは一人しかいない。
「仗助くん、また荒事起こしたのか?吉良吉影の事を任せておいた身だけど、無茶するなってあれ程……」
「やあ」
「……ジョースターさん」
「らしくないのう、相手も確認せずドアを開けるなど」
予想外の来客に戸惑っていると、目の前の老人は「入れてくれるか?老いた身には外の空気はこたえるわ」と朗らかに笑った。

「さっき、学校での話を聞いての、不思議な事があったものだから疑問を解消しに来た訳じゃ」
「だからって一人で?危ないですよ」
「矢も盾もたまらず、じゃよ。しかし初めて家に来たが殺風景じゃのー」
ジョセフは伊佐治が出した麦茶を口にしつつ、部屋を見回した。その様子を見ながら、伊佐治は元々小さな自分の家が益々小さくなってしまったように感じられた。杜王町で巡り合うまで久しく会っていなく、再会した時も第一に思ったことだが、老いても相変わらず大きい。立派に成人した自分でもまだ届かない。ジョースターの血筋か……とひとりごちて麦茶を飲み干した。
「承太郎の部屋クッソ汚いぞォ」
「彼は博士号とってますから。色んな資料もあるでしょう」
「医者とて大概じゃろ、伊佐治の部屋は医療書ばかりじゃし、家具が無かったら生活感一気に吹っ飛ぶぞ」
「……大きなお世話ですよ」
カッカッカ、と笑うジョセフ。その姿に10年前を重ねて、伊佐治の心の寂寥感がぶわっと膨らんだ。
「それで、不思議な事ってなんですか?というか仗助くん達、話したんですね」
「そりゃスタンド使いを捕まえたから、詳しい話は聞いとかんとのう。それに、お前さんをかなり心配しておったようじゃから」
「……」
疲れ過ぎてかなり前のことのように感じられるが、ほんの三時間程前の出来事だ。潜んで、『幽霊を出す』という能力で攻撃して来たスタンド使いを捕まえた。それだけの事だ。それだけの事にして眠ろうと思っていたのに、予想外の方向から予想外の人間が、伊佐治の記憶を温めた。
「……それで、不思議な事っていうのは?」
「色々あるんじゃがな、まあ一番大きいのは『なんで幽霊が伊佐治の能力を知っていたか』じゃな。お前さんの話じゃ、唐突に現れ、そして頼んできたんじゃろ?スタンドが見えない者が、そんな事出来るわけがない」
「……嘘は吐いてませんよ?」
「じゃろうな。それも含めてわしは考えたんだが……」
聡明なこの爺さんは、聡明過ぎる。伊佐治が知る人物の中で、老いてもなお、という言葉が一番相応しい人間だと、再確認する。
「『伊佐治は幽霊が見える』、『幽霊はスタンドが見えない』、そして『全て真実』。全て本当なのに隠されたものがある……それは決まって『話していない事柄がある時』じゃ。それを踏まえた結果、清掃員を始めた前か後かは分からんが、ひょっとするとお前さん、『一度霊安室で遺体を直したことがある』んじゃあ……ないのかね?」
「……その遺体のことも、分かります?」
「ああ。お前さんの近辺で亡くなり、尚且つあの病院に遺体が運び込まれた人物。まず第一の条件で大体は絞り込める。高校生、あるいはそれまでに誰かが死ぬこと、そんなもの、大した数はいない。もしくはいないかもしれん。現にお前さんの家族で誰一人亡くなった者はおらんかった」
「ええ」
「じゃあ誰か?わしらはよォーく知っとる筈じゃ。残るのはあの旅の中で死んだ人物……遺体が残り、詳しく知らない両親の意向で検死が行われ、あの病院の霊安室で安置された男が、一人いるじゃないか」

「……伊佐治、お前さん、花京院の遺体を『修復した』んじゃろ」

伊佐治は、空になったグラスを手に持ったまま、何も言葉を発さなかった。誰にも口を止められてなどいない。それなのに、声が出てこない。見えない感じられない何かが喉に詰まったままのようだった。それを分かっているのか、ジョセフもまた黙り、静かに、
「……………はい。」
という言葉を聞き取った。

129名無人目のスタンド使い:2014/06/04(水) 03:03:27
「……どうしてやったかとか、聞かないんですか?」
「話したいのなら、構わんが」
「……どうでしょうね。でも、ああ多分本当に、もうこうする機会が無いだろうから、話しときます」
冷蔵庫から出していた麦茶のボトルは、水滴を全身に帯びていた。それを二人のグラスに注ぐと、ジョセフは「ぬるい方が助かるわい」とおどけた。
「ぼくが最初に思い付いたのは、葬式の連絡が来た時です。その時に、なんだかあいつが──高校生としての花京院典明が死んだ事を、初めて実感したんです」
まだ出席していないのに、両親の顔さえ見てないのに、棺にもたれかかる両親の姿が見えるようでした、と伊佐治は語った。
「そして、きっと棺に花束を入れることも出来ないのだろう。彼の腹は無くなっていて……見えなくとも、何かで覆われていても、両親はそれを実感するんだろう、と。そう思って、気が付いたら病院の前にいました。正直言うと、幽霊がいなくとも、霊安室までのルートって簡単なんですよね。裏口は清掃員が帰るまで開けっ放しですし、その近くに階段があり、またその階段の近くに霊安室がありますから」
「……道理で、花京院の遺体は、やけに綺麗じゃった訳じゃな」
「本当は、アヴドゥルやイギーにも、してあげたかったんですけど、片方は遺体そのものがなくて、もう片方は既に埋葬れてましたから……こう言うのもなんですけど、検死に出されたのは幸運でした」
伊佐治の顔に影が落ちる。思わず『幸運』という単語を使ってしまった自分に、嫌悪感が膨らんだのだ。
「……すみません、あの、ごめんなさい。言葉が変でした。」
「……次にお前は『本当に幸運なら死ぬことすら無かったのに』と言う」
「本当に幸運なら死ぬことすら……、……ジョースター、さん」
「そう自分を責めるな。さて次は、スタンド使いの事じゃが」
幽霊を生み出すスタンド。
その幽霊は本物ではなく、あくまで対象の「後悔」から生まれるものだ。だから対象にしか見えない。
スタンド使い曰く、成功すれば本当に『幽霊に取り憑かれたように死ぬ』らしい。──成功すれば、の話だが。
「あの時のこと、お前さんから見てどうじゃった」
「あの時──健康診断を終えて、一緒に帰ろうと仗助くん達が来て、ぼくは教室を出ました。そして歩いていた時に……教室に、花京院が見えました。最初は何が何だか分からなかった。まるで10年前に戻って、みんな生きたまま帰って来たんじゃないかと──『アヴドゥルから手紙が届いた、イギーも元気らしいぜ』って、そう言いながら、教室に入って、承太郎も来て、三人で帰るんだ、ってそんな事を考えて──でも、ぼくの隣には、突っ立ったぼくを不思議そうに眺める仗助くん達が、いました。だから導入からして失敗だった訳で」
「幽霊、見えるんじゃろ?花京院の幽霊だとは思わんかったのか?」
「思いました。だけどそれが無いことも、『ぼくは良く知っていた』」
本棚の三段目、一番右の本。あれは自分が清掃員のバイトを辞めた頃に買った、自分が初めて手にした医療関係の本だ。
「鈴美ちゃんを抜きにして、あの病院の幽霊を最後に、ぼくは幽霊を見なくなりました。旅を終えてからしばしば見ることはあったけれど、それを機に、全く前と同じ視界が戻ってきました。それが悪いことだって、ぼくにはハッキリ言えません。あの二人と一匹の幽霊を、ぼくは一度も見ることは無かったから」
「見ることが……無かった?」
「ええ、彼らは一度も出てきはしなかった。その理由は分かります。『彼らは納得していた』。『覚悟』と言ってもいい。志半ばで死ねど、DIOはぼくらが倒したから」
幽霊屋敷にいた幽霊も、道で遭遇した幽霊も、みんな決まって死ぬことに納得がいかなかったり、あるいは死んだ事に気が付いていなかったりした。伊佐治が見た幽霊は、『現世に未練を残していた』。
「だから、ぼくは分かった。今更幽霊が出てくるなんて──あり得ない」
「それでスタンド攻撃にも引っかからなかった、と」
「はい」
「ふゥーむ。……お?」

130名無人目のスタンド使い:2014/06/04(水) 03:04:21
またもやチャイムが鳴った。「今度は確認しろよォー」という助言を背にし、伊佐治は玄関に立つ。
「……どちらさまですか」
「俺だ」
聞き覚えのあるどころの話では無かった。ドアを開けると、そこには十年来の親友がいた。
「ジジイがこっちに来てねえか」
「ああそれなら」
「オォー?承太郎かァー」
「ビンゴか。おいジジイ、ホテルに帰るぞ。伊佐治、世話んなったな」
どうやら承太郎はまだ詳しい話を聞いていないらしい。伊佐治について一切訪ねることなく、玄関に来たジョセフに帽子を被せた。
「帽子忘れてたぞ」
「おお、忘れとった忘れとった。まだ伊佐治に聞きたい事あったんじなが」
「明日にしろ」
「いや、今ここで聞いてくわい。なあ伊佐治」
「はい」
この時……伊佐治は、今日初めて、ジョセフの目をハッキリと見た。話した今、もう怖いものは無いと、後ろめたい気持ちは無いと、そう胸を張って見据えて──後悔、した。
「なんで、『誰にも言わない話』をしたのかだけども」


覚悟が足りなかったのは、自分だ。
彼らの幽霊が出てこない事について理由は察していながらも、ひょっとすると『自分が見えなくなっただけのことなんじゃないのか』と思った。
懐中電灯で照らして見た花京院の顔は、土気色で、彼が確かに死んでいることを思い知った。だが、伊佐治はそれを確かめたのだ。
死んでいるならば、幽霊で出てくる筈だと。
けれど、彼らは伊佐治の前に二度と姿を現さなかった。そうして10年後、『高校の教室』という懐かしい場所にいたのが良くなかったのかもしれない。長らく潜んでいた後悔はスタンドによって『悪霊』へと昇華され、それを見たとき、伊佐治は一瞬喜んだ。
『やはり自分が見えなくなっていただけだったのだ』、と。
けれど、自分は自分だ。人を治したい伊佐治が何故に仗助のクレイジー・ダイヤモンドのようなスタンドではないのか、それを伊佐治はよく知っている。
大きな傷を見たら、『それを直そう』とは思わない。『消毒して』『縫い合わせて』『くっつけて』『抜糸して』、そこで初めて『治した』のだと、そう考える人間だから。
喜ぶ自分の横で、疑う自分がいるのを、伊佐治は感じた。だから彼は、『誰にも言わない話』をしたのだ。『誰にも言わない話』は『誰も知らない話』。けれどもし、遺体の側に幽霊がいたとしたなら。自分の遺体の元へ友達が来る。そんなシチュエーションで、当人の幽霊がいない筈はない。
『ぼくのことも修復していたな』、とその一言を聞きたいが為に、あの話をした。


伊佐治はベッドの上に寝転がると、携帯電話を取り出した。アドレス帳を下からめくり、出てきたのはつい最近登録したばかりの電話番号だ。躊躇いつつも、通話ボタンを押す。夜遅くだったが、彼女は3コールも鳴らない内に出た。
『はい、大和です』
「伊佐治です」
『あ、元気してた?と言ってもそんな日は経ってないか。今日襲って来たスタンド使いを捕まえたって、報告来てるよ。ご苦労様』
「ええ、ありがとうございます。その件については後ほどお願いするとして、伝えたいことがあって連絡しました」
『なーに?』
「スピードワゴン財団に所属する件、お引き受けしたいと思います」
しばらくして、大和さん?と呼びかけるまで、彼女は押し黙った。
『……確かに、勧誘したのは私だけど』
「何か問題が?」
『いや……問題、ね。問題……伊佐治くんがこっちに正式に所属してくれるのは嬉しいし、メリット盛りだくさんよ。回復系スタンドは、やっぱり貴重だし……人間の本質から来るからどうしても攻撃系に寄っちゃうのね、私が言えた義理じゃないけど……。だけど、なんていうか、伊佐治くん、君は……私とは、違うでしょ?物事を単純に考えちゃう私とは違って、用心深いって、空条さんから聞いた。だから、まさかこんな短期間で……駄目元で頼んだことを、引き受けるなんて、うん、おかしい』
数日前、伊佐治は大和と出会った。引き合わせた承太郎によれば、スピードワゴン財団スタンド対策室室長で、世界中を飛び回っては戦闘や勧誘など、『正義の味方』のように飛び回っているらしい。そして後でぼつりと漏らした「単純なやつだ」という台詞を、伊佐治は聞き逃さなかった。だから了承されてそれで終わりと思ったのだが、根が単純……まっさらなだけに、機敏の細かさも感じてしまうのだろうか。
伊佐治は、自分を振り返った。今日のことと、今日までのことを。
「大和さん。……聞いてくれますか」
『ええ』

131名無人目のスタンド使い:2014/06/04(水) 03:05:06
「ぼくは、あの旅で助けられなかった奴らへの罪滅ぼしで、医者を始めたのかもしれないと思っていました。ぼくはあの中で唯一助けられる人間だったのに、助けられなかった」
『話には聞いてます。だけど、だからこそ言うけど、それは違うわ。あなたのことを話す空条さん達は仲間を想う顔をしてた。あなた、例えば目の前で急患患者が来て、それなのに笑いながら漫画を読むとか……そういう人間じゃないし、そういうことをしないでしょう?合理的っていう側面があるのは知ってる。だけど、助けられる人間をわざと助けないほど、器用じゃない。その場にいられなかった、スタンドが届かなかった。それは、あなたの罪じゃない』
「……ええ、今なら分かります。だけど、思春期の人死にってのは結構響くんですよ。その傷を負ってこれまで生きてきた。今日のスタンド使いも、傷を負ってなかったら相手にもならなかった。まあその件で色々と思ったんですけど」
『誰にも言わなかった話』、そしてジョセフへの話。
10年間溜め込んだ気持ちを、今日一気に吐き出した。ひょっとすると、一瞬信じてしまった花京院の幽霊との会話もあったのかもしれない。
「それで、ぼくは罪滅ぼしを辞めることにしました」
彼らは幽霊として出てこなかった。現世に未練を残さなかった。
花京院達は──伊佐治を恨んでいなかったのだ。
「それで、じゃあぼくは一体何をしたいのか?──やっぱりぼくは、人を助けたい。医者として、そして、スタンド使いとして。スタンド対策室は、『普通じゃない医者』がご入用なんでしょう?だから受けます。利害の一致。実に合理的だ」
大和は笑った。『そう。ならいいわ。……相変わらずね』
「吹っ切れました」
『危険なところにも行ってもらうかもしれないけど』
「この間まで普通の町が危険だったんだ、ぼくがスタンド使いでいる限りどこも危険だ。なら元から危険な場所に飛び込めばいい。そういうところにこそぼくが必要なんだから」
『分かったわ』
「あともう一つ。これは完全にぼくのお願いなんですけど」
勉強をさせてください、と伊佐治は言った。
「医者として、スタンド使いとして……それ以前に人間として、ぼくはこれからもっと成長しなきゃあならない。じゃないと人を助ける資格がない。依頼も受けます。仕事をします。だけど医療の勉強もさせてください」
『許可します』
間髪を入れない返事だった。
『スピードワゴン財団スタンド対策室室長、この大和が、伊佐治くん、あなたの望みを許可し、保証します。……だから存分に、腕を振るっちゃいなさい。誰にも文句は言わせない、自分に治せないものは無いって、断言しちゃいなさい』
「ええ、言われなくとも」
翌日の夜には到着することを伝えて、大和は清々しく電話を切る。その間際、
『ねえ伊佐治くん、この前出会ったばかりで、なんだか知ったように言っちゃうんだけど、いい?』
「なんですか?」
彼女は深呼吸すると、温かな声で言った。

『よく、頑張ったわね』

喉まで不意をついた声が出かけた。油断すれば自分の中の何かが決壊する。
先程、玄関で全てを話し終えた自分に、ジョセフは言った。
「よく、頑張ったな」
褒めてほしかったんじゃない。ただ、認めてほしかっただけだ。どこにも行き場が無かった自分の青い衝動を、誰かに認めてほしかったのだ。
我慢が出来ず玄関で泣きじゃくったばかりなのに、また同じ言葉をかけられるなんて。
「……これから、頑張るんですよ」
『……そうね。そうだったね。……これからもよろしく、伊佐治くん』
そうして、電話は切れて、伊佐治は今度こそベッドに突っ伏した。

132名無人目のスタンド使い:2014/06/04(水) 03:06:02
殺人鬼はいなくなり、物語はイタリアへと移る。そんな最中、とある人物も同じ場所へと旅立ったことは少しの人間しか知らない。
それぞれの思惑が交差して戦火が巻き上がる五日間、その男は唐突に姿を現す。
ぼくのスタンドは非戦闘向きだ、と嘯きながら、その非戦闘向きのスタンドで戦局を瞬く間に変えていく。
彼の信念は、人を助けること。
「──死線を退けろ、ぼくは医者だッ!」
そう叫んで、彼は親友と再会する。
「……久しぶりだな、ポルナレフ」



彼のゆく道は、まだ誰も見ることがない。
ただ、これまでとこれから、彼を知る人物達はこぞってこう言うのだろう。
「怪我をしたままあいつの目の前に立ったら、やべーぞ」と。
きっと聞かれたらぼくもそう言う。今のぼくらは見守ることしか出来ないけれど──不思議と伊佐治なら、なんとかなりそうだと思うのだ。
「君達はまだこっちへ来るんじゃあないぞ」
ぼくの呟きに横にいた一人と一匹は頷いて、そして笑った。




133名無人目のスタンド使い:2014/06/08(日) 12:04:27

伊佐治さん好きだからうるっときた

134名無人目のスタンド使い:2014/10/01(水) 01:53:57
短編伊佐治さん、乙です。不覚にも最後に涙腺やられました

135名無人目のスタンド使い:2015/10/20(火) 21:25:14
法皇の緑戦・承太郎との共闘シーンについて書きました。
スタンドはキャラバン、主人公は普通少女です。
タイトルは「『隊商』、砂漠をゆく(仮)」。

1361/9:2015/10/20(火) 21:27:22
金田は、ただただ立ち尽くしていた。
承太郎のスタンドが、女医を操っていた花京院のスタンド『法皇の緑』を引きずり出した。
光ったメロンと形容されたそのスタンドが、頭を締めつけられ、だらりと手足を投げ出す姿に、勝敗は決したかと思われた……その時。
「エメラルド・スプラッシュ!!」
法皇の緑の掌から流れる体液が、宝石状の物体となって無数に発射され、予想外の動きに承太郎は攻撃を食らってしまった。
「これがわたしのスタンドの必殺技だ。体液に見えたのは“破壊エネルギーの像”! 
 貴様のスタンドの胸を貫いた……よって貴様自身の内臓もボロボロよ。そして、その女医も」
女医は血を噴き出して倒れた。法皇の緑は引きずり出される際に、彼女の喉を傷つけていたのだった。
「貴様が最初から大人しく殺されていれば、この女医は無傷で済んだものを……」
事態の急変に、もともと血や肉の類が得意ではないのに、金田は惨状から目が離せなかった。
花京院が、ゆらりと頭を動かした。
「……それから、そこのお前」

1372/9:2015/10/20(火) 21:29:51
自分に向けられた視線に、金田は車道の真ん中で立ちすくむ猫のように身体を強張らせた。
「エメラルド・スプラッシュを目で追ったという事は、お前もスタンド使いだな? 下手に動けば、そいつと同じ運命になるぞ」
「う……」
花京院の言葉が地面を這ってきて、足元から纏わりついて絡め取られている気分だ。逃げ出そうにも、もはや身体が動かない。
「……彼の次は君の番だ。奴は“DIOに従わない者”を始末しに来たのだからな……」
スティールが冷静に言った。ラジオから聞こえているせいか、その声はことさら無機質に感じられた。
なぜ、こんな事に? それが金田の正直な思いだった。
君が自分で選んだのだと奇妙な能力を押しつけられ、そのせいで敵が迫っている、死にたくなければ戦えと放り出された結果が、この状況だ。
そもそもDIOという男について何も知らないし、何の関係も無い。それがどうして命まで狙われなくてはならないのだ。
方向の定まらない恐怖と怒りがないまぜになって、混乱のままに膝を屈しそうになった……その時。

承太郎は血を流しながら……立ち上がっていた。

1383/9:2015/10/20(火) 21:31:22
「………この空条承太郎は……いわゆる不良のレッテルを貼られている…
 喧嘩の相手を必要以上にブチのめし、いまだ病院から出てこれねえヤツもいる…
 威張るだけで能無しなんで気合入れてやった教師はもう二度と学校へ来ねえ…
 料金以下のマズイめしを食わせるレストランには代金を払わねーなんてのはしょっちゅうよ。
 だが…こんな俺にも吐き気のする『悪』はわかる!!
 『悪』とは、てめー自身のためだけに弱者を利用し踏みつけるやつのことだ!!」
承太郎の怒声がびりびりと腹に響き、崩れ落ちかかっていた金田の意識が、顔を上げた。
「おめーの『スタンド』は被害者自身にも法律にも見えねえしわからねえ……
 だから…… 俺 が 裁 く !」

1394/9:2015/10/20(火) 21:34:13
花京院は嘲笑った。
「『悪』とは敗者の事、『正義』とは勝者の事……生き残った者のことだ。過程は問題じゃあない。敗けたやつが『悪』なのだ」
承太郎から花京院までは距離がある。承太郎のスタンド能力の詳細はわからないが、相手が飛び道具を持っているのでは明らかに不利だ。
このままではやられてしまう。殺される。死。
「とどめくらえ!」

その瞬間、金田は走り出していた。ようやく動き出した足で、後ろではなく、前へ。

「『キャラバン』ッ!」
金田は、彼女のスタンドと共に、承太郎の隣に並び立っていた。

「……動いたな。動けばそいつと同じ目にあわせると忠告したはずだぞ。いいだろう、その男と一緒にここで死ぬがいい!」
法皇の緑が掌を金田に向けるのと同時だった。

「動かないで!」
金田が花京院に伸ばした腕、その先には拳銃が握られていた。

1405/9:2015/10/20(火) 21:36:12
「貴様……」
「……スタンド使いも、不死身ってわけじゃあない……う、撃たれたくなかったら、そっちこそおとなしくしてなさい……」
少女には似つかわしくない物騒な武器と文句の登場に、空気が張り詰める。両者はしばらくの間、無言のまま睨み合っていた。
限界まで膨れ上がった緊張感が徐々にしぼみ始め、承太郎が様子を窺うと、拳銃を構える本人の顔に隠し切れない動揺の色が浮かんでいた。
(こいつ……)
「……フッ。ただの脅しか。撃つ気は無いのが見え見えだぞ」
「! くっ!」
金田は歯噛みして、拳銃を思いっきり投げつけた。頭部を狙ったが、事も無げにかわされてしまい、うぅと声を詰まらせる。
「キャ、『キャラバン』ッ! 何か、何でもいいから出して!」
『……おたく、無策で突っ込んだんか? なんちゅー無鉄砲な……あ、鉄砲なら今捨ててしもたんやったな』
「早くーッ!」
金田は手当たり次第に石を投げ始めた。花京院は低く笑った。
「ふん、飛び道具の使い方を知らないのか? ならば教えてやろう! エメラルド……!」

1416/9:2015/10/20(火) 21:38:33
パパパパパン!

突然、花京院の背後で破裂音がした。先程投げつけられた拳銃の存在が頭をよぎり、花京院は思わず二、三歩踏み出す。
振り返ると、音の出所は拳銃ではなく、石だった。
「これは……癇癪玉?」
今度は金田がにぃっと笑った。
「はッ!」
癇癪玉に気を取られている隙に、承太郎が花京院の懐に飛び込んでいた。

「エ、エメラルド・スプラッ……!」
「オララララオラッ! 裁くのは! 俺の!」
「私の!」金田も声を合わせた。「「『スタンド』だ!」」

1427/9:2015/10/20(火) 21:41:20
承太郎のスタンドのラッシュにより、法皇の緑は激しく叩きつけられた。あまりの轟音と衝撃に、金田は反射的に腕で顔を覆っていた。
おそるおそる目を開けると、窓ガラスが粉々に割れ、天井には深い亀裂が走っていた。
校舎のあちこちから悲鳴が聞こえ、余波がどこまで届いたのか判然としない。
「な………なんてパワーのスタンドだ」
血を噴き出した花京院は、うめきながら倒れた。
呆然とする金田をよそに、キャラバンは『あわわわわ』『えらいこっちゃ』『修理費いくらすんねやろ』などと言っている。
「危ないところだった……助かったぜ。だが」
承太郎は金田を、正確には彼女の背に隠れるようにして浮かんでいる奇妙な鳥を指差した。
「てめーのそれは……『スタンド』か?」
はっと我に返った金田が口を開く前に、それはひょっこりと顔を出し『まいど! わし、キャラバン言いますねん』と愛想よく名乗った。
『いやー、助かったんはこっちですわ、ホンマに頼りになりますなぁ、どっかの誰かと違うて』
キャラバンは承太郎の周りをくるくると陽気に回っている。
「普段はこんなにおしゃべりなヤツが、どーしてさっきの戦いでは呼ぶまでだんまりしてたのかしらね」

1438/9:2015/10/20(火) 21:43:11
「……まさかとは思うが、てめーもDIOの手下か?」
「えっ!? ち、」『ちゃいますちゃいます!』
金田は慌てた。キャラバンも両手を振って必死に否定している。勘違いでオラオラされるなんてまっぴらゴメンだ。
「だろうな」承太郎はあっさりと信用した。
「だが、今回の事と一緒にじじいに話をしておきたい。今日はこのまま学校をフケるぜ、お前も来な」
「ええ!?」
「ここにいたらとっ捕まって何か言われるだけだろーよ。オマケにこんなモンまで持ち込んでやがるしな……」
承太郎は拳銃を拾い上げた。すでに留置場で実物を見ていた承太郎は、違和感にすぐ気づいた。
「なんだ? この銃……よく見りゃ構造がデタラメじゃあねーか。これじゃあただの鉄の塊でしかねえ」
最初から撃てるはずがなかったのだ。
「ふざけたハッタリが、てめーのスタンド能力か?」
「鉄だし当たればダメージになるじゃない。まぁ、当たらなかったけど」
承太郎の呆れた表情に、金田はわずかに引き攣った笑顔で応えた。キャラバンはぷかぷかと浮かびながら、そんな本体を見下ろして肩をすくめた。

1449/9:2015/10/20(火) 21:45:50
「こいつにはDIOについて、いろいろしゃべってもらわなくてはな……」
金田は、花京院を担ぎ上げた承太郎と倒れている女医とを交互に見た。
「ちょっとちょっと、あっちは大丈夫なの?」
「先生も手当てすりゃ助かる」
何度か小さく頷いてから、承太郎に続いて歩き始めたが、やはり後ろ髪を引かれて足を止めた。すると、キャラバンがふわりと目の高さに降りてきた。
『やめとき。今のおたくの知識じゃ大した手当てなんて出来ひんよ。
 それに、たとえ薬やら包帯やらを作り出せたとしても、能力の射程外に出たら、みーんな塵になって消えてまうねんで』
“能力の射程”、初めて耳にした言葉に金田は反応した。
「あ……あんたねえ、そういう大事なことは最初に言っておきなさいよッ! それで死んだらどうしてくれんのよッ」
『考えなしに敵の正面に飛び出す人に言われたかないわ』
「おい、てめーのスタンドと揉めてねーでサッサと来い」
自身もスタンドが発現したばかりで、それほど多くを見てきたわけではないが、言葉を話せるタイプまで存在するとは。承太郎はため息をついた。
「やれやれだぜ」

⇒To Be Continued...

145135:2015/10/20(火) 21:47:10
書きながら自分で気になった事

・私自身が女で、女主人公でプレイしていたのでこちらにしたけど、キャラバンには男主人公の方が合っているのでは?
・既存の展開に7人目を組み込むことで、承太郎の見せ場を奪ってしまっていないか?
・関西弁はむずかしい

146名無人目のスタンド使い:2015/10/30(金) 14:26:13
キャラバンさんかわいい
乙でした

私的には女主人公でも違和感無かったし話のテンポも良い感じであの
とっても面白かったです…キャラバンさんかわいい…

147135:2015/10/31(土) 00:09:42
キャラバンさんかわいい(ピシガシグッグッ)

ありがとう!
金田とキャラバンの掛け合いを考えるのがすごく楽しかった
女の子でも大丈夫なら、このまま続けてまた書きたい

148何処かのスタンド使い:2016/11/23(水) 22:29:32
とりあえず、みてくれてる人が居るのかわからないけど
適当に短編を書いてみる。
病院で花京院護衛してる時のです。
小柄子で、スタンドはオーシャン·ブルーです
今回の話、スタンドあまり関係ないけど。
始める。
...次のから。

149何処かのスタンド使い:2016/11/23(水) 23:01:27
「いいよ。肩貸してあげる」
「え。でも僕と君では体格差が...」
「...これでも、あなたをあの茶室に運んだのは私だよ?」
髪を引っ張って、だが。
許せ。
それしかなかったのだ小柄な私には!
「ところで、肩を貸してくれるなら貸してくれないかい?
 そろそろ、診察室に行きたいのだが...」
「ん?あぁ、ごめん。
 じゃあ、行こうか」
まぁ、やっぱり体格差はあるよね。
肩を貸す。
と、言うよりは腕を引っ張って行く感じになってる...
「ここを右だ!お、時間ピッタ!」
「ありがとう。明日からはもう大丈夫だよ」
む、無視された!?
渾身のボケなのに!?
「いいや...個室戻ろ」
そして、診察が終わった後オーシャン・ブルー使いが居なくて
花京院が困ったのは...また別の話...

150何処かのスタンド使い:2016/11/23(水) 23:19:49
はい、短編どころかssにも及ばない短さですね...
しかも、展開が無理矢理だしオチもよくある終わり方...
ところで、花京院と仲良くし過ぎてポルナレフの好感度が酷い事になってました。
(ポルナレフが2Pで、花京院が21P)

1517スタ初心者:2017/06/23(金) 20:56:47
うーん、私が好きなスタンドはミラクルズとワイルドハーツかな。  
私が考えてるのは7主の家族はdioに殺された。、、、言う設定、、、
イイかな?

1527スタ初心者:2017/06/24(土) 12:44:44
7主は、片目が閉じてて-の感情がたまると片目が開眼して開眼した目は、赤い目で暴走する。   旅に参加していく内に暴走しなくなる。
面白いかな?

153名無人目のスタンド使い:2022/10/22(土) 22:25:29
「ザ・ジョイキラー」で一本書こうと思ったのですが、頓挫したので花京院戦だけ貼っておきます

154153:2022/10/22(土) 22:26:20
花京院「引きずりだすと怒ってしまう・・・だからのど内部あたりを出る時傷つけてやったのだ。」
毒島「そうかい。ところで俺もそーいう陰気な攻撃は嫌いでね。ギリギリ射程距離内に入っていた法王の一部をちょいとこの「手斧」で傷つけてやったんだ。」
花京院「フン・・・だからどうした?今言われなければ気づかないほどのダメージ・・・フフ、お前の幽波紋が、見かけによらず破壊力が無いとアピールしたいのか?」
毒島「ああ・・・そうだな。「気づかないほど」のダメージ・・・それが重要なんだ。俺の能力ではな。俺が切った箇所・・・大体右足のふとももあたりかな?見てみろよ。見なくても、いやでも気づくことになると思うがな!」
花京院「・・・これはッ⁉」
承太郎「・・・なにッ⁉花京院の膝から下、右足の真ん中あたりがッ!」

155153:2022/10/22(土) 22:27:49
毒島「そう!もうバレちゃっただろうからネタばらし!俺のスタンド、「ザ・ジョイキラー」の能力は「手斧」で切ったものを
「腐食」させることッ!攻守逆転!ッてやつかねェー!さっきみたく人質を取ったりして無駄な時間をかけずに、俺を必死に倒
さねーと、残り五分とちょっとで腐食が侵食していって、DIO様とやらの性根の腐り具合と同じくらい、テメーの身体は腐って
いくぜェーッ!ホラ!かかってこいよ!」
承太郎「(コイツ・・・一つ何かを踏み外せば邪悪になってしまうような・・・やっていることがえげつねェぜ・・・だが・・・
人質を取っている時間はない・・・そこは気に入った・・・敵じゃあなさそうだ・・・もちろん、花京院とやらと協力しなかった
時点で薄っすら分かっていることだったが・・・)」
承太郎「助太刀するぜ。だが、コイツが気絶したら「腐食」の能力は解けよ・・・聞きてえこともあるし、俺に感染したら冗談じゃねえ。」

156153:2022/10/22(土) 22:28:22
花京院「ほう・・・貴様ら・・・倒した後の話をするとはずいぶんと余裕だな・・・?ならば、その余裕を打ち崩してくれるッ!とどめ食らえッ!「エメラルドスプラッシュ」‼」
承太郎「ッ!」
承太郎はとどめ、という言葉に反応して自分の身体をスタンドで咄嗟にガードした!しかし!
承太郎「なにィッ!」
エメラルドスプラッシュの矛先は毒島に向かっているッ!
毒島「ザ・ジョイキラーッ!」
ザ・ジョイキラーは手斧でエネルギーを切り裂いた!だが!
毒島「ウゴッ」

157153:2022/10/22(土) 22:29:03
花京院「ククク・・・承太郎よ、まんまと引っ掛かったな。その男・・・エメラルドスプラッシュをその細い斧では受け止めきれなかったか・・・」
承太郎「オイッ!テメエッ!」
承太郎は毒島に向かって走り出す!
毒島「だい・・・じょうぶだ・・・「ザ・ジョイキラー」で頭から心臓にかけてのラインで切り裂いた・・・致命傷じゃあない・・・だが・・・正直、早く治療して欲しいぜ・・・」
承太郎「・・・五分とちょっと、といったな。「腐食」を保てるか?」
毒島「ああ・・・出来るが・・・無駄だ・・・」
承太郎「!・・・どういうことだ?」

158153:2022/10/22(土) 22:29:57
毒島「ハッタリだよ・・・人質を取らせないのと、やつを焦らせるための・・・全身に「腐食」を回らせるには・・・俺の今のスタンドパワーだと30分はかかる・・・」
承太郎「テメエ・・・もういい。眠ってろ。」
承太郎はスッと立ち上がる。
花京院「ほう?もうお別れは終わりかい?」
承太郎「テメエの右足を見てみな・・・「腐食」はまだまだ進んでるぜ・・・やつは生きている・・・」
花京院「いいや、お別れさ・・・君を殺した後、そいつにもとどめをさす・・・あの世で会うまで、しばしのお別れだよ・・・」
承太郎「この空条承太郎は・・・・・いわゆる不良のレッテルを貼られている・・・」
To Be Continued

159153:2022/10/22(土) 22:41:04
お粗末様でした。
7スタ本編に近づけようと思っていたので、敢えて句読点を使わなかったり、
主人公の一人称視点じゃなかったりするのでSSって感じが無かったかもしれ
ませんが読み切ってくれたならありがたいです。
この短編について、ちょっと言いたいことがあるので語らせてもらいます。
毒島は書いたことが無かったので、作者の「憎めない悪友」という注釈を基
にして書いていました。しかし、進めていけばいくほど、次第に「これ若ジョセフだ」
という感情が強まっていき、抜け出そうと思えば思うほど、「それ別にこのスタンドじ
ゃなくて良くね?」や、「いや、この理屈はおかしい。」などなど穴が出てきたので泣
く泣く没にしましたが、序盤だけやけくそで投下しておきました。願わくば、この犠牲
が毒島を書く後世の3次創作者の踏み台にならんことを。……もっと危うい感じにすれば
良かったのかな……


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板