＿＿ ｲ７ 十つ ..十
. ィ:´: : : : ミ: . .､ _ //ﾉ ィフ | フ ｰ┼‐ を
／: : :_ニ⌒ ヽ {｀ヾ{ （⌒＞=´ ´ ／ く__ .人 ＿＿
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＼ ７／ ＼ '. ﾊ る
＞ 。 i ＼ ', ⌒ヽ ﾑ
ヽ ', ＼{ ＼ ﾑ
＼ { ｀マ{
このスレは？
・安価でゲームをするスレでした。
・ルールは真・女神転生TRPG 魔都東京200Xを使ってました。
・世界観はよくある現代厨二退魔バトルものです。メガテン成分は多めですが、メガテンとは限らない。
・15禁くらいということにしておきます。セクシー系で。
・更新速度は亀の歩みです。
・月一、ほぼ予告なし、５時ごろに平均25レスの投下を予定しています。
・安価もまだあるはず？。
┏───────────────────────────────────────┓
・前スレ（上の方ほど新しい）
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・データ確認用wiki（動いてない）
ttp://www35.atwiki.jp/siwoyumeni/
・雑談所（ほぼいない）
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12368/1448323343/
・Twitterアカウント
かくうのツン@XDDDkyjV6
☆登場人物紹介
『秘密結社入即貸本』
・やる夫
もうすぐ死ぬ。
・蒼星石
やる夫に彼女できちゃったしな、なんで一緒にいるんだろうね。
・夢宮アリカ
最近異様に強い。
・シックス
元『血族』の元老院。やる夫の曽祖父。ボケてる。部下は『血族』に置いてきた。
・水銀燈
やる夫の伯母。『十二の封印像』の悪魔。アイルランドの魔女神モーリアンの戦闘分体。
・曹操華琳
元『結社』幹部。日光浴できるアンデッド。部下は各地に潜伏させている。
・金糸雀
『邪悪帝国』一の頭脳派。ぶっちゃけアイスブレスで凍結して鉄拳パンチを連打する脳筋。
・ヴィヴィアン
水銀燈の同僚、やる夫の親戚筋。マゾい。
・鏡と茨
『やる夫の中の入即貸本』にいた天使。現在存在しない。
・荒野の悪龍
『やる夫の中の入即貸本』にいるドラゴン。邪龍クロウ・クルワッハによる運命事象改変しても絶対殺す追撃ビームの名残。
・隻眼の老人
『やる夫の中の入即貸本』にいる老人。魔神オーディンによる、やる夫の父への呪いを押し付けられたもの。
・魔剣モーンブレイド
『やる夫の中の入即貸本』にやる夫が呼び寄せた上次元存在の残影。『十二の封印像』の悪魔。
『やらない夫と愉快な仲間』
・やらない夫
やる夫及び翠星石と引き離されて、主人公ぢからがメキメキ上昇中。
・仲魔
ニャンコ先生、墨目、ねずみ男。
・部下
天龍、ロビン、シグ。『血族』からつけられた班員だが、やらない夫の意に沿っている。
・ネウロ
やらない夫の最初の師。やる夫の父親。魔王ロキ。狂人。
・芦屋道満麻呂
元『血族』四天王の一人。片足切断により前線から教育係に。やらない夫の二人目の師。現在『血族』によって軟禁中。
・タカオとアサギ
ペルソナ使い。やらない子の友人。やらない夫に助けを求めてきたJK。
・謎のヒロインＸ
ネウロの弟子。セイバーぜったいころすマン。
・やらない子
現在行方不明。
・はやぶさ
やらない子の友人。やらない夫とも知己。『滅ぼす者』から助けられた。
・『破滅願望者』
『ロストマン』率いるペルソナ使いグループ。十六夜咲夜救出後、やらない夫に協調している。
メンバーは『ロストマン』こと上条さん、咲夜、雨宮夕日、美樹さやか。他に『滅ぼす者』暴走中の球磨川と島津由乃。
なお、夕日の友人の白雪ひめ。咲夜の主人マーガレット・バートン。さやかと由乃の剣の師である藤木源之助。ペルソナ事件の元凶の一人窓付きといて、総勢十名。
・警察
阿部さん、ノイマン、チャンドラ、白石らが協力してくれている。
・趙雲子龍星
利き腕切断により戦闘不能。甘味処『ニュクス』に潜伏中。
『母と七つの児』
・『母』
元は『目録』と呼ばれていた『教会』の非人道的異能者。ニャルラトホテプに異能を授けられた。
・キヨイ
『七つの児』。『目録』を虐待していた最後の主人を媒体に作られたため、嫌われている。
・ゴウト
『七つの児』。猫型。不死身。現在溶鉱炉に沈められている。
・ゴトウ
『七つの児』最強。シックスに心を折られ、アリカに戦闘能力で惨敗した。
・ふわり
『七つの児』。『目録』の世話役の少女を媒介に作られた。ユキによって惨殺された。
・ユキ
『七つの児』。山羊型。シックスによってコントロールを奪われ、仲間を三人殺してゴトウに殺害された。
・そのほかの『七つの児』。
ユキによって瞬殺された。
・アリー・アル・サーシェス
元『教会』の悪魔狩り。裏切ってニャルラトホテプの走狗になった。
色んな悪さをしていたけれど、自分の能力で自爆死亡……本当に死んだ？
・できる夫
このスレの語り部。ニャルラトホテプの下位端末。
『血族』
・フリット・アスノ
簒奪者。『血族』を『教会』に売った。
・間桐臓硯
『元老院』。
・藤堂志摩子
大首領様。軟禁中。
・翠星石
その能力を高く評価され軟禁中。
・螺旋王ロージェノム
死んだ。
・キュゥべえ
死んだ。
・ケンシロウ
『四天王』に格上げ。忸怩たる思いを抱いている。
・上杉謙信
『四天王』。馬岱を匿っている。
・『狂死』
元『四天王』。杜央町に帰った。
・鷹野三四
『教会』側の資料も見れるようになってウハウハ！ 笑いが止まらないわ！！
・先代巫女とラオウ
隔離施設で治療という名目の監禁中。
・佐倉杏子
班長になった。メンバーは横島、ヴァイジャヤ、『バーサーカー』。上に不満がある。
・キオ・アスノ
フリットにより軟禁中。
・石田
死んだと思いきや改造されていた。
・龍田
行方不明。
・ミストと四ツ目
『血族』から指名手配されている。
・ジャギ班と『グレン団』
冷や飯食わされている。
『教会』
・アンデルセン
最強の『武僧』。様子を見ている。ジェリドとカクリコンも一緒。
・エダ
詳しくは不明だがいい状況にはない。
・ヌケドナルド・トールマン
背任罪で逮捕された。
・サンダース・トールマン
邪魔な弟を排除して調子に乗っている。
・パプテマス・シロッコ
『武僧』。木星帰りの超天才。新宿衛生病院でデュランダルと何かの研究をしている。
・デュランダル
『結社』に潜入していた。華琳に呪われ余命いくばくもない。
・ジャンヌ・ダルク
『異端審問官』。やらない夫の支援要請に応えたが相手を甘く見ていたために、はやぶさの『滅ぼす者』によって炙ったチーズみたいになった。
・オズとオズマ
『十字軍』。
・『野良犬』
グリーンベレー。
『結社』
・『結社』撃滅作戦の被害者
諸葛亮孔明。馬超。加藤。そのほかたくさんの構成員。
・五島ムスカ
陸軍一佐。撃滅作戦前に『結社』を離れ、現在様子見。
『ペルソナ使い』
・不人気
ペルソナ使いではない。天上の美の具現者。ジャーナリスト。
・委員長
ペルソナ使いではない。本名不明。
・水門やんねえ香
ペルソナ使いではない。『世界守護』たる《ストレンジ・カメレオン》に選ばれた『滅ぼす者を滅ぼす者』。
・《ストレンジ・カメレオン》
やんねえ香についた世界守護者。《揺らす者》。
・ロラン・セアック
ペルソナ使いではない。ニャルラトホテプの下位端末。『月に吠えるもの』。
・聖栄刹那
ガンダム。
・蘇芳・パヴリチェンコ
ペルソナ使い。『滅ぼす者』《アトカタモナイノ国》を支配した。
・そのほかのペルソナ使い
たぶん出番はない。
『そのほか』
・遠坂家
凛と『弓兵』の愛の巣……ではなく、元夢宮宅に堂々と潜伏中。
『邪悪帝国』に滅ぼされかけ、回復中の『万魔』を解析しつつ、ルイズと凛で慎二をスパルタ教育中。
・『十二の封印像の悪魔』
『傾国』千川ちひろと『蛇身』イナミが野放し。
・伊藤誠
今月末にこなたによって殺害される予定。長門は通常営業。
・甘味処『ニュクス』
通常営業。
・でっていう
不明。
・みゆき
やる夫の無事を祈っているはず。はず。
☆ これまでのあらすじ
一幕 『十二の封印像』を盗んだニャルラトホテプを翠星石が単身追いかけたせいで大騒ぎ。
二幕 翠星石が攫われたり、新宿で大騒ぎがあって戦力がたくさん減ったりした。
三幕 やる夫たち『血族』入り、ニャルラトホテプの放逐に成功
四幕 ずいぶん長くなったうえに、当初の予定の五幕分まで食い込んでる。
五幕 いらないんじゃない？
終幕 とうきょうはほろんぶ
☆ 四幕のあらすじ
ニャルはいなくなるしやる夫は彼女ができるしやらない夫と翠星石はいい感じにまとまれそう
↓
『結社』撃滅作戦
↓
なんかひどいことに
・やる夫
できる夫に騙されて『血族』を出奔、指名手配にされる
↓
とりあえず仲間が集まって、これからまだなんかしそうなニャル残党をどうにかすることにする
↓
不人気に行方不明のペルソナ使い捜索を頼まれ、どうにかする
↓
品川大聖堂が怪しい
↓
攻め込み、『七つの児』の四体を撃破二体を無力化 ← 今ココ！
↓
できる夫とか『母』と決戦
↓
ニャル再召喚を止める
・やらない夫
フリットに睨まれ、一日24時間労働を強いられる
↓
アサギとタカオに呼び出され、爆発事故を起こすも、やらない子捜索を依頼される
↓
『滅ぼす者』関係の事態の危険さを慮り、各所に応援を要請。兄弟子的な謎のヒロインＸが仲間になる
↓
咲夜を助け、『破滅願望者』が仲間に加わる
↓
はやぶさを助けた際にジャンヌから恨みを買う ← 今ココ！
↓
やらない子を助ける
↓
功績を認められ『血族』内での地位が上がる
／´ ｀フ 新スレですニャ
, '' ｀ ｀ / ,! 楽しく使ってニャ
. , ' レ _, rミ 仲良く使ってニャ
; `ミ __,xノﾞ､
i ﾐ ; ,､､､、 ヽ、
,.-‐! ﾐ i ｀ヽ.._,,)) ))ｩ,､
//´｀｀､ ミ ヽ ∧_∧ ∧_∧
. | l ｀ ｰｰ -‐''ゝ､,,)∧ （^ω^`) （･ω･`) ﾁﾝﾎﾟ
ヽ.ー─'´) ⊂((・)ω(・)つ （つ つ （つと l
ｷｴ ｩ,､ｗ
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j ,..-'"´ ＞-､,
/ ／ ／´ﾞi ﾞ!:⌒ヽ `'"´ ヽ、
/ ／ / ,.-,ﾆ,､ﾞi,::::::::＼ ,..イ rﾆi,
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{::::::::::::::::::/ ／::::::::::::::::::::::::::::::::;:;/;;;ヽr';;;;ヽ,.:;:;:
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.）/::::::/ /::::::::::::::::,..-､ヽ::::::::,;:ノ;;;;;:::::::::::::;;;;;/
ﾞ}/:::／ /::::::::::''∠__,...､.ヽﾞ__ '"､::::::::::::::::__／
::ﾞi´ j::::::::::::::l ヽ`+､ﾞ--､ ﾞ!|::::::::::/,.-7''ﾞｰy' シュブ＝ニグラスを真似た
l:::ﾞi, |:::::::::::::::ﾞi,, ヽ,,,_ヽ/ .!|:::::://:::/,.-__;/ 出来損ないの人形ごときめが、
i,:::ヽﾉ:::::::::::::::::::::｀ﾞ'ｰ､ 〉':::://:::://:/
l,ﾞi,::;;;;;::::::::::::::::::::::::::::::;;;ﾞ''ｰ'":::://:::/-':::ﾉ 不遜だぞ。
;ﾞi,.ヽ;;;;:::ヽ､:::::::::::::::::::::;;'ﾞ:::::／ ﾚ'::,ｲ´
;;;/ ＼:::::::::ﾞ''-､:::::::'"ﾞ:::／-;:シﾞ)
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|「え？」
|
| 熱衝撃波の一撃が、彼女の下半身と癒着していた屍の山と、彼女自身を切り離した。
| 状況が理解できず、黄色い粘液と内臓をまき散らして落下する『母』の顔面を、ニャルラトホテプは明らかな怒りをもって踏みにじる。
|
|「貴様のような藁の家が、この私を走狗のごとく呼び出すなどと……ッ」
|「う、あ……？」
|
| 一撃で鼻が折れ、どろりとした鼻血が噴き出る。
| 二撃目で目が損傷したのか、血と同時に不潔な黄色い粘液が流れ出た。
|
|「Domine Quovadis（どこへ行かれるのですか？）」
|「痛い、痛い痛い……お願い、やめ……ッ！！？」
|
| 足が顔面からどいた。
| 苦痛に呻き懇願する『母』は、恐怖に片眼を見開いた。
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.::::::::::::ﾉ ｨｧvﾘ ／l ::::l│ おまえは /ﾛ木 ｌ | 亅」 だ
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､‐ｔミ､ //l::!, '´ ヽ
ヽ.┴'´ 「｀ヽ.＿___／/.／ ＼
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ミヽ＼ / ｀7ーｧヽ＼ヽ､＼、
ミ / / / / ｀7ーヽヽ､
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ﾐ､__,ノ ヽ ヽ＿ヽ_ヽ__ヽ＿l＿,ノ
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| ニャルラトホテプが生み出した無数の黄金のごとき骨槍が降り注ぎ、『母』の肉体をえぐり貫く。
|
|「ぎゃッ」
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| 悲鳴は途切れ、後に残ったのは無数の槍に貫かれて異形のオブジェと化した『母』と。
|
|「はァー！ はァー！」
|
| 荒らぶり怒り狂う一柱の神ばかり。
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☆ 次回予告！
君は誰かを好きになったことはある？
好きな人以外のすべてが色褪せて、彼だけが輝いて見えるほど好きになったことは？
私の人生において、好きの気持ちは徹頭徹尾一方向に集中していて。
いつでもたった一人だけを全速力で好きだった。
いや違う。
過去形じゃない。今でも好き。
どうしようもなくても、叶わなくても。
ずっとずっと、狂いそうなほどに好き。
少女の恋心と秘密が暴露されたとき。
地獄の窯の蓋が開く。
彼女の望む絶頂の死を、果たして死神は与えたもうか。
☆ 次回『ブギーポップ・ネームレス』
果てに見るのは破滅か死か。
目録さん徹頭徹尾不憫じゃった
恋する乙女は核爆弾
ﾉ::::;:;:;:;:;:;::::::::::::::::ノ
ﾉ⌒:;:;:;:;:;:;:､-‐‐'" )⌒'ー
ノ⌒: : : 〉⌒ {:;:;:;:;:;:
_,...-､ --く⌒: : :〈 乂⌒:;:;
--､ ﾉ⌒:;:;:;:;:;:. ,,.....､､､/:;:;:;:;:＼: : 〉' ＿,,,... --‐‐'''‐- .,_ ゝ‐‐:;:;
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. γ´:::::::::ヽー=彡:::γ´:;:;:;:;:( ::::::::::ノ:;:;:;::::::::::::／:::::::::::｀ヽ::{ ,--､-‐''"~: : : : : γ´ . ⌒ヽ 丶 : : : : : : : : : ￣(:;:;:;:; |￣
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| ―――東京が燃えていた。
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| 時間は一週間ほど遡る。
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| 『結社』撃滅作戦のどさくさにかこつけて、流言と扇動が東京に火をつけた。
| 出だしも、経過も、何もかもが曖昧で、しかし集団を支配した狂気と炎は燎原の火のごとく燃え広がった。
|
| 燃える東京。
| 狂乱した群衆。
|
| 暴徒の中には、どこで手に入れたのか銃器を持つものが多くあった。
| モラルはどこに消えてしまったか、暴行や略奪、強姦が散見された。死傷者は数えきれない数になる。
|
| そんな中で……燃え上がる雑居ビルの屋上で。
| 一人の少女が小さな石を弄っていた。
|
| 階下はすべて燃え上がり、煙立ち込める灼熱地獄。
| レスキューはすでに機能を停止し、今もどこかで燃え広がる世界に蟷螂の斧を振り回しているのだろう。
|
| 少女の立つ屋上のコンクリートもすでに熱され、炎がすぐ下まで来ていることを示していた。
| だが彼女は動かない。
|
| やけっぱちを絵に描いたかのように投げ遣りに仁王立ち。
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ﾊ⌒ 、
, ⌒ﾊ ,.::' ⌒ "Ｙ⌒^ヽ/ .::::::::i
j:::::::::ヽ,ﾍ^..::::....::::....:::: ::. .ヾ)':::::::::::i..
ﾉ:::::::::j（ﾉ:..::::....::::..:..ﾍ、: : : :: ﾉy:::::::ﾘ
ﾙ:::::ﾘγ ｉ∧{ ｰ- ヽヽ:::（（ ﾙﾘﾉ
ﾉ :ﾉ...:ﾉノ (ー ） ）:::）:: ）､
ﾘ:::(::::::ー) ﾊ::::（::( あーあ。
_r-､. ﾊ::::ﾊ ─ ´ ﾘ） ） :）
r´ - ｀ヽ. ） )）＞-- ´ ハ（::(
て＿ ／＞ ./ｌﾍ_/ ／￣＼ﾉ::））
'ヽ／ ＼ /ｌ(!´/ | |
＼ ＼ぅ／ / ∧
＼ ＼／ ／
ヽ ´ ／|
|ヽ＿_／ |
| ヽ
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| 読者諸君の知るこの日は、土砂降りの雨であった。
| そうであったならば、火事被害もここまで広がりはしなかったであろう。
|
| そして少女は、別の手段を講じていたであろう。
|
|「こりゃもう、ダメでアフロ」
|
| 記憶力に自信のある読者はいるだろうか？
| 『結社』撃滅作戦時に、この雑居ビルで何が起きたのか。
|
| 裏路地をうろついていたラーメン屋台はすでに暴徒によって破壊されていた。
| 秘蔵のスープとメンマは死んだネズミ臭い路地裏にバラまかれ、店主は袋叩きに合って意識を混濁させている。
|
| ビル前に駐車されたバトルマスターはボーナスステージだとばかりに破壊され、火をつけられて炎上している。
| このうらぶれて陰気な雑居ビル同様に。取り返しがつかないほどの破壊。
|
|「見た感じあと三分くらいで倒壊アフロ。さすがのお兄ちゃんもお陀仏ね……ガッカリでアフロ」|
|
| そんなこと言ってもやらない夫は人間である。
| 化学薬品交じりの猛毒煙と灼熱地獄に突然放り出されて生きているのは至難極まる。
|
| なにしろ彼は、必殺の冥路リオン・リンの『陣型宝貝』を辛くも突破した所である。
| 目当ての星に遭遇するどころかビルが炎上して絶体絶命なんて、だれが想像できようか。
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, ⌒ﾊ ﾊ⌒ 、
j:::::::::ヽ ,ﾍ^ ⌒ Ｙ ⌒ヽ/ .::::::::i
ﾉ:::::::::j（ﾉ ..::::....::::..:::: ::. .ヾ)':::::::::::i
ﾙ:::::ﾘγ::..:::::..:::...ﾍ、: : : :: ﾉy:::::::ﾘ
Yyﾉ ﾉ :ﾉ...:ﾉ ノ ヽ ::::::） ﾙﾘﾉ
ﾘ::::::( （ ─） (─::（ うまくお兄ちゃんに殺してもらえると思ったのになぁ。
. ﾊ::::ﾊ ,, ﾘ） ) 辿り着いてくれなきゃ心中もままならないアフロ。
） ) ）、 ￣ノくﾊ（
（,（.( ' ﾍ い ﾉ:::））
ノ/）` |＼ /|-､（( 、
,' ﾉ ￣ヽ「 ヽ .}
l: （ ...... o .....ヽ }
l ヾ. .:::::: o ::::.ノ .)
ゞ_ ＼ o / /
}＼ ＼ / /
/ ＼／>''⌒ミ
{＿〃／`／￣ヽ ￣ヽ
ヽ､￣ { ,, ) ,, )
⊂＝二二＿__ノ＿__ノ
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| 彼女の名前は備府やらない子。
|
| 東京に火をつけたのも、民衆を扇動したのも彼女。
| それもこれも秘密を知られた一握りのクラスメイトを抹殺するためであり、
| ついでにその秘密が伝わってそうな全員の口を封じるためである。
|
| 十数人を殺害するために、一万人以上を殺害した。
| 負傷者や、財産に被害を受けた人間はもっともっと多かろう。
|
| だけれど、そんなこと気にも留めない狂人。
| それが備府やらない子。
|
|
| その彼女が、ついと顎を上げて振り返る。
| いつからか、どこからか、へたくそな口笛が流れていた。
|
| そいつは口笛にするにはおよそ不似合いな、無駄に荘厳で強弱の激しいクラシック。
| ニュルンベルクのマイスタージンガー。
|
| ドイツの作曲家ワーグナーの、ワルキューレの騎行に次ぐ知名度を誇る名曲である。
| それがこの、今にも燃え尽き崩れ落ちそうな雑居ビルの屋上で流れている。
|
| やらない子が視線を止めた。
| 屋上に設置された赤錆まみれの貯水タンクに、いつの間にやら一つの影が座っていた。
|
|「誰アフロ」
|「知ってんだろ、聞くなよ」
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-―-,.- ､
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〈ﾆﾆニニゝ'〉
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／'"｀ｰィ/////{. _ソﾉ,. -、
. ,ｲ' 'ﾊ/,}ﾉﾊlゝｰ／ｲ.ﾉ.）
〈.乂.＿＿,.. ―--イ／＞- 、＿＿
｀ｰ .＿_,. '" '二二二二,ｲニニ,ニ二ヽ
＿_-‐,ｲﾆﾆニ＞"_/ニ二}ﾆﾆ二ﾉ
＿‐ﾆﾆニ,ｲニニニ／=ｲニ二/ニ二/
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￣´ .ｆﾆﾆ!
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| そいつは、人間というより筒のようなシルエットをしていた。
| 鍔の無いシルクハットみたいなへんてこな黒帽子をかぶり、胴体をすっぽり厚手のマントで覆っているのだ。
|
|「どうやってここに来たアフロ」
|「これは自動的なんでな。敵を察知したら一目散に出てきちまうんだよ」
|
| やらない子は目を凝らした。
| 東京中で燃え上がる炎と有毒ガスに遮られ、黒帽子のそいつは性別さえも曖昧だ。
|
|「ここは私とあの人のための舞台アフロ。お呼びじゃ無い」
|「それがお前さんの袋小路か。その人を舞台に上げるためだけに、こんな事までしてのけたって？」
|
| からかう様に、あるいは興味ないように。
| やらない子はジリジリと距離を詰める。ゆっくりと、そいつの顔が見えてきた。
|
|「悪いでアフロ？」
|「悪いね」
|
| やせぎすの頬に三白眼。
| 笑ってるような怒っているような、なにやらいわく付けがたい表情のそいつは、憮然と呟く。
|
|「お前はここで終われない。当てもないのにそのまま進む……世界を焼き尽くしてもまだ足りない」
|「何言ってんのか意味不明アフロ」
|
| 鼻で笑いながら、やらない子は胸の奥がざわつくのを感じていた。
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. _{ﾆニヽ∧､＞- イ_//,.イﾆﾆ!ｰ ､ ／-＼
,.イﾆﾉﾆニニ＞-,--―＜二二二ニﾆ＼ ,.イ/ ＼/
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／ﾆニニニニニニ入＿_,,. イ二二ニニニニﾆﾆヽ ／＼ /
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| ここで、やらない夫が。
| あの人が来てくれなかったら。
|
| ここで、殺すことも殺されることもできなかったら。
| 自分がその先どこに辿り着くのか想像もできない。想像もできないが……。
|
| きっと、どこまでも行ってしまう。
| そんな確信がそこにはあった。
|
|「ああでも、確かにこのままじゃあ世界くらい焼き尽くしても足りないでアフロ。
| ほしいのはただ一人。それが手に入らないならば、何もかも生贄に捧げても惜しくはない。
|
| 世界に私と彼と二人きりになったら、私以外を見ることなんてできなくなるアフロ」
|「無理だな」
|
| 甘美な、とても甘美な夢を、黒帽子は一刀のもとに切り捨てる。
| その口調は酷く厳しく、凍土のように冷酷だった。
|
|「そいつをあっけなく殺しちまった時点で、何もかも無理になったんだ」
|「うるさい！！！！」
|
| やらない子の右手が霞んだ。
| 弄んでいた小石……碁石を親指で射出したのだ。
|
| 特殊な投法による指弾は、碁石をコンクリ壁に食い込ませるほどの破壊力。
| そしてやらない子はこの射撃を、目立つ白石に隠れて二個の黒石を置くという恐るべき三段バーストでやってのける。
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__V-‐}ﾊ//l二二二二二二=-'／ .//,＼.///＞" ヽ ﾍ
_ - ,. _ '二二l!-∨!"￣￣￣￣V=／､ .////＞く//ﾊ! マヽ
. ,.イ／,イ'// ｀ _ '二/ ! ｿ __ ,／ .///ヽ//イﾆ/⌒ヽ ヾ、 マヽ
,.＜//／//// ,. ＜/ ｰニゝｰ=＞ ´ ）'"//! .////イニﾆﾆi l ヽ , ﾏ 、
. ／イ ｀"＜'/,. ＜'//// ／,ｌ ,.' ,.ィ⌒./ .///l /,／二二二ﾆl. ヽ }i , ヾ 、
. ヽ. ＼`＜'////,.イ///l / ｀´ ,.ｲ ////,／二二ニニニl ｀ l._i ヾ、
＼ ヽ ,ｲニ=‐＜///ｌ,入 _,.イ/,l///イ二二二二ニﾆﾆl ＼ lﾆl }i,
. ヽ /ﾆニニニニニ/ ￣ /二二二ニニニニニニニﾆl l.＼ / !
', /ﾆニニニニニ/ /二二二二ニニニニニニﾆﾆ, ＼ ! ヽ ＿ イ .!
l /ﾆニニニニニ/ /二二二二ニニニニニニニﾆﾆ, V ＼-‐ /
､ /ﾆニニニニニ/ /二二二二ニニニニニニニニﾆﾆ, ＼ , ＼ ／
/ﾆニニニニニ/ /二二二二ニニニニニニニニニニヽ , / ／
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| だがそいつは、指弾をふわりと、緩慢な動作でよけて見せた。
| 風にそよぐ柳のように。絶対に命中しないと確信させる動き。
|
|「くっこのっ！」
|「無駄だよ」
|
| すべての射撃をのらりくらりとかわされて、やらない子は躍起になっていた。
| 心の隅では「こいつには敵わないっぽいなぁ」なんて考えながらも、もはやどうすることもできなかった。
|
|「うう、ううぅぅ！」
|「残念ながら今やお前は世界の敵だ」
|
| 次の瞬間、空中に何かが走った。
| 黒帽子のてにはいつの間にか古ぼけた剣の柄が握られていて、刀身の無いそれが一振りされていたのだ。
|
|「え……あれ？」
|
| やらない子の首が転がり落ちる。
| 次の瞬間、そいつが剣の柄を激しく動かすと、やらない子の体と頭は粉々の血煙になってしまう。
|
| すぐに炎と有毒ガスがそれを覆い隠し、さらにはついに雑居ビルが崩壊したせいで、何もかもが瓦礫と炎に消えてしまった。
|
| ……そんな破滅の可能性を、その少女は秘めていた。
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j:::::::::ヽ ,ﾍ^ ⌒ Ｙ ⌒ヽ/ .::::::::i
ﾉ:::::::::j（ﾉ ..::::....::::..:::: ::. .ヾ)':::::::::::i
/ﾙ/:::::ﾘγ::..:::::..:..ﾍ、: : : : ::ﾉy:::::::ﾘ
Yyﾉ（::. ::.ﾉ ノ ヽ､ヾ:::::（ ﾙﾉﾘ
ヽ:::( （●） （●） ):::::ﾉ(
ﾘ（i r‐- iｨ）)｀）
（（ﾊ:.ゝ ヽ ﾉ ﾉいﾉ:（ﾘ
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| 備府やらない子。
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| 高校一年生。成績は上の下。素行に問題はないが、教師への態度に難がある。
| 彼女自身に言わせれば、それは教師側の問題なのだが……ある意味、仕方のないことと言えた。
|
| やらない子の三つ年上の兄、やらない夫は札付きだった。
| 悪いことはしない。善行と正義の男だ。
|
| だがその正義の物差しは社会ルールを破ることを許容しており、しばしば暴力沙汰に発展した。
|
| やらない夫の起こした事件で最も有名なのは、なんであろうか。
|
| 生徒に手を出す半グレ連中を片っ端から叩きのめした『血のゴールデンウィーク』か。
| はたまた少女売春の加害者教師と暴力団組員、区議員までも海に投げ込んだ『雛祭り寒中水泳』か。
|
| とにもかくにも偉大で無茶苦茶な兄の存在が、やらない子への目に色眼鏡をかけていた。
| やらない子は常々その事実に不服を漏らしており、口を開けば兄への不平や文句ばかり。
|
| 彼女は兄に「あのバカ」「クソ兄貴」などと敬意のかけらもない呼称を使う。
| 実際に苦々しく思っていることは言動から明らかで、だれもがそうだと思い込んでいた。
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| では、家ではどうなのか。
|
| もちろん家庭内でもやらない子は兄と目を合わさない。
| 最低限の会話しかせず、挨拶しない。無視。下着を一緒に洗濯すると嫌がる。おやつのプリンを勝手に食べるなど好き放題だ。
|
| 思春期特有の、家族の男性に対する反感などではない。
| 少なくとも、やらない子は父親に対しては極めて親切で、休日一緒に買い物に行くレベル。
|
| ではなぜ、やらない子は実の兄にそこまで冷たく接するのか……。
| あ、まあ。学校でのあれこれも理由に含まれるのだろうけれど。
|
| それだけの話なのか。
|
|
|
|
|
| もちろん違う。
|
|
| やらない子がやらない夫と距離を置くようになったのは二年前のクリスマスから。
| 優秀な読者諸君は、この日付に覚えがあるはずだ。
|
| 作者すら忘れかけていたこの日付。
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, -=ﾆニﾆ≧ ､
／ ´+ ※ ※ +ヽ＼
// +_r冖^::丁:｢:ﾄﾐヽ､＼ヽ、
〃 ／:l:::l::j::.::l|:::|::|::.:ヽ::.＼}〈
. ﾊ/::.::.:|::.|::l::.::l|:: ﾄ:ﾚく::.::､::.:lハ
l {::.::.::.ｌ|::|::|:::/|l:::| l|ｘ=ｬ､|::.:l}::.ヽ
| l::.l::､::Vｨ7厶ｌﾊ:j ﾍ:::ﾉ!|ﾊﾉ|::.::.:＼
｀T:ﾄ､:ヽヽれ:::〉 , "ﾘl ﾉ:_::_::_:::ヽ、
. ヽ:::ヽ::＼ﾐ｀ﾞ <__} ,.仏 ﾄ{ r'´: :｀丶ﾐー--冖､
｀ヽﾄ､｀丁≧┬r彡' _｣/ ヽ: : : : : : : :｀: : :八:_ヽ-ｭ /^h
j:::} }:｣ rｰ≠()く⌒ヽ ＼: : : : : : : : :／ｲ ｌ｢ ｀ ー--―rv､ ／ //
/:::| /: r1V／ﾉｌﾄ､＼_}＼ >r ￣､l ,‐┐ヽV | | { l|冫´-ｸノ
/::.:｢//: r1ｲ / |:ﾄ､＼ ｀丶、 /|ヽ }_:_:;:ィ! Y￢ｰ- ､ }||廴／
/::.:rく: : : >}｛// |::Vﾍ } r-vﾊ￣｀ヽﾉ::.::∨ﾄ､ﾊ＼ ￣
／::.::厶: ヽ:勹 ,'::| ヽ:∨乙ﾍﾉ, ｲ::.:丶､ ::.:::＼::.:|: : /〉 〉
／:::_r1{＞<＼/:7::::ﾄﾍr-ﾍ:＼r-'´≧ヽ､__::｀ヽ、::.｀ | :〃:/
／r‐'´※ ハ|: : ハ{:_:_广:;ゝ二ﾆこr'′: : : :Y＞､::｀丶､V／ﾄ､
. ／::.::;ヘ _／ ヽ/: : ∨_／: : ｀ヽ｢∨: : : : : : : : ＼}＼::.::.::丶、::ヽ
,.イ::.::／::.:rﾍ、 ／: ; :-'´／: : : : : : : : : :／: : : : : : : ヽ〉:｀ ｰ- ､:丶､＼
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| そう、やらない夫が翠星石に告白し、受け入れられたあの日である。
|
| 翠星石に懸想していたやる夫が心を病んだのと同様に。
| ここで一人の少女が失恋の痛手にトチ狂ったのだ。
|
| ……備府家は平均的な中流家庭である。
| ローンの残った一軒家。サラリーマンの父親。学費のためにパートに励む母親。
|
| 両親の仲は良好。
| 子供たちとの関係も悪くない。
|
| やらない夫の無茶を許容できる程度に大らかだが、責任を取って頭を下げてくれる。
| 両親に異常はない。むしろ理想的と呼べるかもしれない。
|
| だが、二人の子供はそろって異形。
|
| 道なき道を進むことに躊躇いの無い怪人と。
| ああ、なんということだろう。
|
| その兄を心底から、禁忌の垣根を容易く飛び越え。
| どんな障害をも打ち砕き貫き滅ぼしても余りある情熱をもって。
|
| 愛している妹である。
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j:::::::::ヽ ,ﾍ^ ⌒ Ｙ ⌒ヽ/ .::::::::i
ﾉ:::::::::j（ﾉ ..::::....::::..:::: ::. .ヾ)':::::::::::i
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Yyﾉ（::. ／ ﾉ:/ ﾉfヽ ヾ:::::（ ﾙﾉﾘ
ヽ::.:| /:/ /...| | : : ):::::ﾉ(
ﾘl ﾚ ./..ノ .,''´} ｨ）)｀）
（（ l ' ´ .〃 / :::（::(
（(::::ヽ. . 〈＜（(::（
ﾉ/)!:＼.,_ ._ﾉ （｀ヽ
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| 諸君も、以下のような行動に覚えがあるのではなかろうか？
|
| 好きな人の持ち物が欲しい。縦笛を舐めたい。汗の匂いを嗅ぎたい。
| 好きな人と素直におしゃべりできない。挙動不審になる。目を見て話せない。
|
| 哀れなるやらない子はそんなこんなで兄に冷たく当たっていた。
|
| メロメロに愛しているけれども決して手を出してはいけない存在と極めて親しく、一つ屋根の下に暮らしているのだ。
| 誰だってイカレてしまう。
|
| 本当は休日のお買い物だって父親じゃなくて兄と一緒に行きたい。
| でもそれってほとんど、いや完全にデートだよね？
|
| 一緒に出掛けて服を選んだり選んでもらったり、プレゼントしたりされたり。
| そのままカフェでケーキを半分こしてアーンで食べあい、カラオケとか映画を二人で楽しむ。
|
| そしていい雰囲気で手をつないで家路を歩むのだ。
|
| 完全にデートだ。
| 「今日は帰りたくない」からの密室押し倒し不可避。
|
| やらない子の理性がもたない。
| というか想像だけで頭がフットーしちゃうレベルに興奮できる。
|
| だから一緒にお出かけなんて言語道断。
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{二ニニニﾆﾆ二}
{ ･ ･ ･ |･ | ･ ･ ･ｷ ｒ＝‐-- ,,. ___ ___ .,, -=＝7
ｉ.･ ･ ･ ･| ･| ･ ･ ･.ｷ ヽ / <ﾊ> ヽ、ﾉ
{ ･ ･ ･ ･!･,ﾞ･ ･ ･ ・i . ﾍ ／
ｌ ･ ･ ヽ･l ,'/･,ｨ ･ ･} ＼,ヽ /／
{ ･ ･｀ｰTT･´ ･ ･.･j `‐､ __, ‐′
｀¨¨¨~´ .｀ ー－´
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| 洗濯物にしたって似たようなものだ。
|
| やらない夫の汗の染みついた衣服と、自分の汗の染みついた衣服が同じ洗濯機に入るのだ。
| 同じ水で撹拌され、どちらがどちらという違いが曖昧になる。
|
| 溶け合う二人の体液。
| 混じりあう、混じりあう。
|
| 考えるだけで脳がオーバーヒートしそう。
| これとセックスの違いはどこにあるのだ？
|
| いや、ない。
|
| というわけでやらない子は洗濯物も一緒にできない。
| プリンやアイスを勝手に食べるのは、やらない夫が帰ってきそうなタイミングを見計らって行う。
|
| 本当は半分食べたところで、可愛く謝って同じスプーンで残り半分を食べてもらいたい。
| 二つのものを二人で分け合う！ しかも間接キスだ！
|
| やらない子の興奮はマックスボルテージ！ そんな想像で内ももこすり合わせながらやらない夫を待つも、いつも空振り。
| うまく帰ってきたとしても、「仕方ないな」の苦笑で許してくれちゃうのだ。
|
| 兄の懐の深さと寛大さと優しさに惚れ直しちゃうものの、目論見は外れてしまうのである。
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, ⌒ﾊ ﾊ⌒ 、
j:::::::::ヽ ,ﾍ^ ⌒ Ｙ ⌒ヽ/ .::::::::i
ﾉ:::::::::j（ﾉ ..::::....::::..:::: ::. .ヾ)':::::::::::i
ﾙ:::::ﾘγ::..:::::..:::...ﾍ、: : : :: ﾉy:::::::ﾘ
Yyﾉ ﾉ :ﾉ...:ﾉ;;;;ノ;;;;;ヽ ::::::） ﾙﾘﾉ
ﾘ::::::(;;;;;( ﾟ );;。(。)::（
. ﾊ::::ﾊ;;,,ヽ∧∧ノﾘ） ) あばばばばば。
） ) ）、;ヽニ/ノくﾊ（
（,（.( ' ﾍ;;;。;U;; ﾉ:::））
ノ/）` ヾ ｿ￣（( 、
,' ﾉ ◎ Ｙ ◎ Y
l: （ ...... ..... i
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| やらない子にとって兄の存在する生活は理性とのチキンレースだ。
| しかし彼女は、自分が異常であることも、やらない夫が正常であることも理解していた。
|
| だからことさらに兄を遠ざけ、自分の心には鍵をかけた。
| 秘めた想いは秘めたまま。いつか火が消えるのを血を吐く気持ちで願った。
|
| やらない夫が『血族』の仕事で家に寄り付かなくなったのは、やらない子にとって試練だった。
| どれだけ愛おしくても、会いたくても、やらない夫は側にいない。
|
| だれといるのか。何をしているのか。
| ご飯は食べているのか。たまには連絡を寄こせないのか。
|
| 翠星石とはどこまで進んだのか。
| 環境が変わったことでこじれて消滅してはくれないものか。
|
| 会えない時間が愛育てるのだ。目を閉じれば瞼の裏にはいつも兄が思い浮かんだ。
|
| 気の狂いそうな焦燥の中で、やらない子には転機が訪れる。
| それは夢世界での戦いの一端で、彼女はペルソナ使いとして夢世界を探索していた。
|
| 兄と結ばれない世界など、滅びてしまえばいい。
| そんな投げ遣りな思いが、やらない子を暗黒魔道に突き落とし……まではしなかった。
|
|
| だが、やらない子の隠した感情の具現たるシャドウによって、その狂気は歯止めを失う。
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r 、. ,、
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/ ＠ o @ ヽ
Y , ﾍ^ ⌒ ^^⌒ヽ ヽ
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| シャドウとは何者か。
|
| ユングの心理学において、人格の『棚』を『シャドウ』と呼称する。
| 『棚』……日本語で『棚に上げる』ことを、世界的心理学者は『シャドウに隠す』と表現した。
|
| 『目の届かない場所に追いやる』『意識から遠ざける』という意味では、それは同じ意味である。
| 否定したい自己人格や、目を逸らし遠ざけた感情。記憶の集積場……それが『シャドウ』。
|
| 人間の人格や心におけるジャンクファイルやゴミ、ヘドロの廃棄場。
| ゴミ捨て場の穴。
|
| ユングはシャドウについてこうも語る。
|
| 遠ざけ隠しただけの感情は、昇華できずに心の澱に溜まっていく。
| いずれそれらはシャドウから溢れ出し、人格にも影響していく。
|
| すなわち……表向きの善なる感情や人格に『影が差す』のだ。
|
| 罪悪感という言葉を使えば理解も早かろう。
| 罪の意識がその人物の屈託を奪い、影を差す。
|
| シャドウは常に主人格に牙を剥き、傷つけようと狙っているのだ。
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l ,`- ー- ,,,,r' l
,r' ＠ o ＠ ﾞヽ
i' ,r'⌒^^ ⌒ ^ﾍ , Y
（:.ﾊ : : : ,ﾍ...:::..:::::..:ヽ l
（:::::: ,ｨ' ヽ､ (,:...(,::`}
）:: ●) （● ） )::::::ﾘ
(（i r‐; '' ﾊ::::ﾊ ……ホントに？
Y''ヽ ,ィ'ﾉ .:y
/7＿l∠＿／ヽ
/ !［＞＜］ ﾍ
/ ,i ○○ ヽ ﾍ
/_/ ', _ﾑ
7_/ ,′ V" _,入
. ｿ i i ∨<u､」
/ ｌ ｌ ヽ
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￣l ｀ Tー''" |
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| ……本当ではない。
|
| 本当ならば、シャドウに投げ込まれたゴミにはもはや成す術がない。
| 本当ならば、シャドウに棚上げした時点で何もかも取り返しがつかない。
|
| そんなことはない。
| そんなはずはない。
|
| ヒトはそれほど弱くはないし、ヒトは罪を贖うことができる。
|
| すべての罪を償い、否定を肯定し、拒絶を許し、痛みを黄金へ変えることができる。
| では、それにはどうしたらよいのか？
|
| シャドウに打ち勝つには、どうすればよいのか。
|
|
|
| ……いやいや、勝てるわけがない。
| 目を逸らした、否定した、拒絶した、そんな痛みに……立ち向かう勇気なんてどこの誰にあるというのだ？
|
| ほとんどの人間にとって、シャドウは恐怖の対象でしかない。
| 存在を恥じ、暴露を恐れる秘密の核心がそこにあるのだ。
|
| 悲鳴を上げて逃げるしかないものも多かろう。
| 精神的ショックから我を失うものも少なく無かろう。
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＼ヽ, ,、
`''|/ﾉ
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＼｀ヽ、|
＼, V
`L,,_
|ヽ､) ,､
/ ヽYﾉ
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| `ｰ-ヽ|ヮ
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|. |
ヽ、 |
ヽ ＿ _ﾉ ﾊ⌒ 、
, ⌒ﾊ ,／"Ｙ ^ヽ/ .::::::::i
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ﾙ:::::ﾘγ ｉ ｉ∧ {::::::::::::::::ヽヽ:::（（ ﾙﾘﾉ ああああああああああああああああああああ！！！
Yyﾉ ﾉ :ﾉ...:ﾉノ:::::::( ） ）:） ）.／
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＼ﾊ::::ﾊ r‐ｧ ﾘ） ) ）/ rへ,ノ
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.:／从へ、.ﾟ｀ ⌒´o.ノ从rーﾍ＿
＿::ノ :ﾉ｀⌒Y⌒´:: ＼ 人生 ┼ヽ -|r‐､. ﾚ |
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| 少なくともやらない子は耐えられなかった。
| 彼女のシャドウの言動の何もかもが、正視に堪えないものであった。
|
| あどけない微笑み。屈託ない言動。
| 清らかに、誰かを慕う純粋な瞳。
|
| 愛する人へのまっすぐな想いを、聞く者が赤面するほどきらきらと口にする。
|
| やらない子にはできない。やらない子はできない。
| 愛する兄への気持ちに蓋をしたやらない子には。
|
| 燃え上がるような愛をシャドウに沈め、のたうちながら鎮火を願うやらない子には……。
| 見ていられないものであった。
|
|
|
|
| ところでご存知であろうか。
| 人間社会において殺人の多くは、殺人者の『恥』が原動力であることを。
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Yyﾉ ｒ| ::::::::::::::( )|'子|::ｊ::::＼ 彡' ヾ
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彡' ｀￣ ヽ、＿ __... =＝（① ）:::::.ﾉ やれやれだわ…
/⌒ヽ, .ﾍ ,, ｒ‐; ,, ﾉﾉ /⌒i
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ｨ彡' ￣ / く ｀X´ >ﾍﾍ ､_ ノ ｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞ.......
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| やらない子の殺人はまさに『恥』を覆い隠すためであった。
| しかし、夢世界での殺人は残念ながら『一時的な行動不能』以上のものを生み出さない。
|
| やらない子は自らのシャドウに『汚染』された人物をつけ狙い、幾度となく殺して殺して殺す暗黒のモンスターに成り果てた。
| それは夢世界と現実がつながる前。
|
| 夢世界の記憶が現実に持ち出される前に行われた凶行。
|
| もしもこの際に現実に記憶を持ち帰られていたら？
| やらない子は同じことを繰り返したであろう。
|
| 現実でも、大量殺人犯として。
| 秘密を知ったであろう全員の口を封じるまで止まらない暴走トラクターとして。
|
| 殺戮の限りを尽くしたであろうことは想像に易い。
|
| やらない子のシャドウが悪気なく物語る。
| 己が兄への恋慕を隠すためならば……やらない子は何でもするだろう。
|
| もちろん、一か月ほど前に夢世界と現実の境界線が破れ、両方の記憶が混在した際に、
| やらない子が正気（と呼んで差し支えないならば）であったならば同様の凶行は避けられないものだったはずだ。
|
| だが、だれにとっても。
| やらない子にとっても幸運なことに、前代未聞の無差別大量殺人者は発生しなかった。
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ミ ＼
三_ ミ x,_ ／⌒ヽ
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／／／／入>入九
／／ ／ ／ 入人
／／ l ／ , ｨ ヽ
／// （ ／ , ｨ彡 _ﾘリリli
《 /( ／ , ｨ彡 V f^YVﾘ ﾘし ' （
Y' ／ ﾉ`Y彡 彳K(_lj ＼入__, ,,ノ , - －
. ＼ ／,/ :::::':: / `Yﾁ し/ li l ＼, _,, ／ :::: ::
Y ｊk勺"::::（:. ::ヽ! "`＼ li_ ﾉ li ``'"丁￣ ~ ヽ::
／`ヽ,' " ::::.. :: ゝ= 、＝= _li_ -－ ￣ ) ::::::..
,ｲ....::::::::l::.. _ :::::::.. ﾉ____ll li ⌒`＼ -－7 :::::::: - っ
/::l :::: !- '７__,,ｨｺ ::::: ' ⌒`＼ li _,,_ ｧr` ﾂ ﾊ ' :::
.l : ヽ ,::ｨ 'Tf ヽ , `i, ,／⌒ヽ,__ jjli li ￣ ／ ／ し ﾉ ::::
ﾄ :::-l li `< ￣＞ ￣`li y ' ／ ___,,,,, :::::':::::::
l :::: l i Y''" _,ゝ _,,ヽ , r '" －--－－入___::::::
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.lY '" __ﾘ ⌒ ＼j , ` ,_ ` ,_ r - ..::::: /
）.l ' ⌒ ﾊ ,_ l ヽ ` ヽ - ,i ,_ ..:::::: /
il .l ﾉ1 / , )) _l ` ,i_ ,_ - ...::/
il _li ィ( i:: ::i j ll,:::::::::..... ﾉ , ,__ ..:::::::／
,ィ_ﾜ仆 , i ,_i_,,,__i l /li ` r－:::::::......::::::,:,,::ノ l:: ` －r '"
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二二二二二二二二二二ﾆll l l .lﾕ l (￣ﾉ、_ _ヽ癶癶癶癶癶癶癶癶ll ll
⌒"⌒""⌒⌒""⌒⌒""⌒'ll l l <> l￣丁-ll Y LハハハハハﾊﾊﾊﾊﾊlF .ll
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`寸 (コ .// / l l l
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| それは隻腕かつ異能を持たなれど、そこらの有象無象では勝ち目の一つもない怪人。
| 『九鬼』候補藤木源之助という滅法強い暴力装置の抑止力ではない。
|
| そも、やらない子が本気を出せば藤木など物の数ではない。
| 何を隠そう、やらない子は手段を選ばないのだ。
|
| 卑怯、卑劣、陰謀、策略、罠、精神的追い詰め、何でもする。
|
| やらない子が藤木を殺すと決めたならば、まず間違いなく人質を使うだろう。
| 藤木が憎からず想っている島津由乃を利用する。
|
| 島津由乃に歩けない程度の手傷を負わせ、放置を許さぬ状況をつくる。
| 病院か学校にガソリンをまいて放火し、一刻も早く連れ出さねば危険な状況を作るのだ。
|
| そして他人の手を借りるなど決してできない源之助は、たった一本の腕を彼女に使う。
| 剣を握る、あるいは身を守るための手を失った藤木源之助など脆いもの……。
|
| やらない子はきっと藤木に残酷な選択を迫るだろう。
|
| 自分が確実に助かるために、由乃を見捨てるか。
| あるいは由乃を助けるために、分の悪い賭けに挑むのか。
|
| 藤木は必ず後者を選び。
| 由乃に括り付けた時限爆弾に巻き込まれて死ぬだろう。
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| 話は夢世界のシステムに変わる。
|
| 夢世界は『カイの迷宮』と呼ばれる、ペルソナ使いたちの心象風景から生まれた地下セクターと、
| それらの上に広がる『ゆがんだ王国』からなる。
|
| 各セクターはペルソナ使い個人と密接に関わり、セクター同士の繋がりも人間関係と連動している。
|
| ペルソナ使いたちは、伝えられたおふれに従ってミッションをこなす。
| そうすることで自分たちの望みがかなうと聞いていたからだ。
|
| ペルソナ使いたちは目的のために同調し、時には他のペルソナ使いを排除する。
| 死は大きなペナルティではない。無論死なないに越したことはないが。
|
| とにかくその乱戦の中で、『殺しすぎたもの』に異変が生じる。
| 肉体と能力を奪われ、破壊と破滅の化身と成り果てるのだ。
|
| それこそが『滅ぼす者』。
| 並行世界を滅ぼして次元の狭間をさまよっていた『世界の敵』。
|
| 夢世界で『滅ぼす者』に肉体を奪われた者は、破壊の限りを尽くす。
| 破壊以上の目的はない。
|
| 夢世界で『滅ぼす者』に肉体を奪われた者は現実での自己を見失う。
| 慣性のままに日々を繰り返すだけの人形。
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＿
／: : : ｀ヽ
/: : : : : : : ､＼
,': : : : : : : : : '; : ､
}!: : :､: :{ : : : : :､: V_
「＼{! ヽﾊ Y´ | ＿_
八 }.ｒｪミ､ヾ{ ,ｪャj ﾉ /､ Xｊ
＼〉｀c心､ ｨぅ少八 { ﾍノ
∧｀¨ﾟ ＿ ¨´ｲ: : ヽ , ク´
{! ≧ｒ―≦ i}＿: : ｀:ー:-≦彡'
,, -＝ｧ-ｙ'´￣ヽ ＼
, ´ / ハ {!＼ ＼
／ ／ | / ' |! ヽ ＼
／ / ! / ヽ i! ､ ＼
′ / ﾚ′ ｀ﾄ､ 、 ＼
, / ,ｲ {! ヽ '. ＼
,' / / ｊ! }! ハ :. ＼
! ′ ,' {! ｢i j! ハ :. ＼
! i : ﾊ }{ ﾘ : i ヽ
| | ! ∧ }! |! i !
| ! | ∧ }! j! | i ヽ.
| ! | ﾊ__.人__ﾉ ! ! ',
| i i ハ
', i ! ﾊ :. i｀ ー-- ＿＿.ゝ
､ ! : ヽ :. l
＼', ト､ 个 ､ :. ｊ
ヾ､ ', ≧。. ! ＼ ≧ｭ｡､_{
｀ト ､ ', ≧｡..{ ＼ !
ー-ゝ ＼ i
＼{
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| 元に戻す手段は、『夢世界』で『滅ぼす者』を排除すること。
| 口にするは易し、行うは難し。
|
| ﾀｰﾐﾈｰﾀｰ･ﾀｰﾐﾈｰﾀｰ
| 『滅ぼす者を滅ぼす者』こと『ストレンジ・カメレオン』の力を借りずに『滅ぼす者』を倒すのは至難であった。
|
| 蘇芳の『アトカタモナイノ国』を倒すために、刹那は最も大事な記憶を丸々喪失し。
| 球磨川の『そっくり人形展覧会』を突破するために、花京院は生来のペルソナ能力を失った。
|
| 『滅ぼす者』にはもう一つの発生方法がある。
| それは、『カイの迷宮』を……自分の心象風景に合わせた異界を破壊されることである。
|
| その場合は、本人の殺害人数に関係なく『滅ぼす者』が発現する。
| 糸川はやぶさのケースはまさにこの方法であり、破壊者の名は『ドッペル玄関』。
|
|
|
|
| 備府やらない子の『滅ぼす者』である。
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ﾘ:::::::y(, ::..::..:..::..:..::..:..::..:..::.（:::::ﾙ
iﾘﾙ （::::ﾊ::::..::..:..::..:..::..:..::..:)NY
）ﾊ:::ﾊ...（:..:ﾊ:.）.:ﾊﾘ)ﾘ
( /),).),).),).)(,(.(,.（,(.(
）(,(.(,(.（,(.(,(.,）.),.),).)
（:::( りイ ' ).）,）
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| やらない子の幸運。
| 絶悪の無差別殺害マシーンに成り果てて『世界の敵』として死ななかったこと。
|
| やらない子の幸運。
| その身に宿った『滅ぼす者』の強大さゆえに倒されずに放置されたこと。
|
| やらない子の幸運。
| 暗黒の魔王に囚われたお姫様のような状態に至ったこと。
|
| やらない子の幸運。
| 世界一愛するやらない子だけの王子様が、助けに来てくれたこと。
|
|
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| やらない子の不幸。
| 助けてくれた王子さまは、別の誰かのところへ行ってしまうという確信。
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ヽ::::::::';''' ''`` 。
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| 故に。
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| ―――やらない子は、やらない夫を殺して自分も死ぬこととした。
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☆ 次回予告！
カトル・カールは四分の４。
小麦粉を１ポンド。
バターを１ポンド。
お砂糖を１ポンド。
卵を１ポンド。
四つを１づつ混ぜ合わせ、焼けたケーキがカトル・カール。
カトル・カールは４分の四。
拷問を一通り。
暗殺を一通り。
誘拐を一通り。
脅迫を一通り。
４つを一づつ混ぜ合わせ、染み出た悪夢がカトル・カール。
次回『十二人の死にぞこない兵士ども』
果てに見るのは破滅か死か。
湊斗さんちの長女さん系女子にみえて全く違う女の子！
どこもかしこもドロッドロやな
こんな家族の中で異物な主人公の家族は超狂人でしたという西尾維新的世界観！
極まってるでアフロ
.:.:.:.:.:.:.:.:.. :..:⌒; " __,、
ヽ:_:.:.:.:.:.:. :. .: .:.:.:.:..:.ﾉ:::: ::: :: : ,ｒヽ'⌒ ｀＾j ヽ ..:
￣ `ー ‐-‐一´:::: ::: :: : r'´ ｀ｰ'⌒ヽ｀ｰ､:.
:::: :: ヽ, ....... ... .... . . .. .⌒ヽ
┌―――――‐‐:､ ヽ.:.:._:_:.:.:.:.___:::.:.:.:.:..:::.:.:ノ
|新宿衛生病院 | ＼
| | ｜ o
TTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTﾈTTTiヽ､
￣￣￣￣￣|￣|l￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣|＼
冂冂 冂冂 | || 冂冂 冂冂 冂冂 冂冂 .| ＼
二二二二二| |l二二二二二二二二二二二二! |
冂冂 冂冂 | || 冂冂 冂冂 冂冂 冂冂 .| |
二二二二二| |l二二二二二二二二二二二二! |
冂冂 冂冂 | || 冂冂 冂冂 冂冂 冂冂 .| |
二二二二二| |l二二二二二二二二二二二二! |
|lニニニニ三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三ニニニニ
|三三三三三三三三三三三/ /＿. / /￣ / ,ィ | 7 /ﾝ ） / /＿. / /￣ 7 /ﾝ ）. // 〉 〉 // // / /三三三三三三三三三
|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| 真夜中の廃病院は想像を遥かに上回って不気味であった。
|
| 木枯らし吹き荒む十月の夜。新宿衛生病院には非常灯すらともらない。
| それもそのはず、この病院は一か月前に突如閉鎖したのだ。
|
| 九月の満月の乱戦の中で、伊集院九平衛太の入院していた新宿衛生病院は『人間もどき』の標的になった。
| 浸透していた暗殺者『ハイウェイ・トゥ・ヘル』はやらない夫らによって退けられたが、戦いはそこで終わりではなかった。
|
| 『十二の封印像』が一つ、『万魔』が手先、魔人トミーロッドの襲撃を受けたのである。
|
| アリカの到着により、トミーロッドは打ち滅ぼされたが、それでも複数の目撃者が出た。
| こうして悪い噂に押しつぶされるように、新宿衛生病院はひっそりと消えたのである。
|
| 表向きは。
|
| 実際には、その後に続く『結社』撃滅作戦に備えて、早めに処分されたのである。
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//l / / /: : :;､ﾊ:..:.|__ヽ::: : } i i ∧ l
// ﾞｊ ｊ ヽ:.: {＝ヽ､{ﾞ＝〉::.ｲ 'l `l l |
// .l l ﾉ::::ヽ. i ｨ/::::::{ l l ', ',
{ ヽ./ / ｨ::::::::::::l､´-｀彳::::::::ヾ. l ∨｜
＼/ l ゝ:::::::::::{ミニ彡{:::. :::::ﾉ | l /
} ∧ ∠/:::: : .:ﾄヽ | | |li;:::: .. .:`ゝ ∧ l′
/ ｒく￣￣ヽ､:::::/`ﾉ 」 l ヽヽ:::::ﾙ'￣￣＞. l
ｊ } ヽ､＿ }､ﾄ/ /| |ヽ ヽﾉi:{ __／ ｊ｜
ｌ } ト--二,´ /. | | ヽ `''_二-イ ( l
,ｌ { ヽ ヽ ヽ ! ! ./ / / / l
,ｌ } ｨ ヽ ヽ !l / / ｊ､ ヽ i,
l. / ｊ ヽ ヽ ﾞ||'′/ / ヽ i i
} / ,' ヽ. ヽ || / / } ヽ .|
, -‐ー＜_⌒ / } ヽ|| / { ｜ ／ ﾌ⌒､`､‐-､
ﾆ_‐- _/ / /./ ,ｨ-ﾍ＿_/ ｊ .ｊ|| { | ヽ ∠_つi .ｊ} .〉7/ニ三
｡` -ヽヽ ｌ |! ｌ､ヽ}―＜ ／__ 」」」=＝,T ヾ､ ,＞‐ //二し{./ﾉ'´ ￣｡
｡ ﾟ ｀ﾞ`ﾞ~`´ | || ｜ } ＞‐// i ! ', | ||｜ ﾟ ｡ ﾟ
ﾟ ｜|| ｜ ｒ'￣／ { { // .| | .', | ||｜
| || ｜ ｊ ｒｊ ｊ´// l｜ ヽ｜ ||｜
､丶､ | || ｜ / |///-V_ /'"ヽヽ ヽ| || | _ -
/ヽ ｀ヽ､ | || ｜ { /.// `ヽ ヽヽ 丶 || | _ ´ _ -_
/〈 ` ﾐ ､ ｀丶､.」 || _ｊ ヽ , ' .// l｜ ヽ丶 ヽ .|| |＿_／ , ,´ ´
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､､､ ｀ ､､ i { }_/. / L＿_ l l ﾄ､ヽ !､ 「_ ,´ ´ ///
ヽ ヽ .| || |, -― / / / { ｀ｖ ´ l l ヽヽ { || | | ///
ヽ ヽ. | || { }/ / ,１ / ／ヽ ヽ ヽヾ || | | ///
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| 『教会』に内通していた『結社』幹部であるギルバード・デュランダルは、新宿衛生病院の地下施設にいた。
| そこは彼の生涯のテーマを研究する機関であり、実験場でもあった。
|
| ……人類に存在意義はあるのか。
| あるのならば、それを証明することは可能か。
|
| あるいは無いのであれば……逆に、存在意義を生み出すことは可能か否や。
|
| デュランダルはあるタイミングから、証明を諦めていた。
| それはセルン地下施設でシロッコの実験に参加してからである。
|
| 『神の存在証明』に立ち会ったデュランダルが、何を見、何を考えたかは不明である。
| しかし少なくとも、以降のデュランダルは『人間の可能性』とやらに夢を見なくなった。
|
| 夢を、見れなくなったのである。
|
|「……」
|
| そのデュランダルは今、死の淵にいた。
| 彼の研究は人間に存在意義を付与する方法である。
|
| それは全人類の生活の仕組みから組みなおす、大規模な世界征服の論理であり。
| あるいは荒唐無稽なガラクタの妄想である。
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ヽ ー- ､ }, /´/ / ヽl } }
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| デュランダルの肉体は衰弱していた。
|
| 四十代前半の若さながら、毛髪の大半は白く、肌は病人の土気色。
| 顔には複数のどす黒いシミが浮き、肉はそげ皮膚は乾き艶がない。
|
| ほんの一週間前までは、男盛りの精力的な人物であったというのに。
| 突然の変貌に誰もが愕然としたものだ。
|
|「……ふふ」
|
| 原因は、呪詛。
| 呪いを返そうにも、発信者はすでに死んでいる。
|
| 滅ぼした相手の死に際の呪詛に対処できず、気が付けばもう手遅れだった。
|
| 『結社』に潜入し、その秘術を盗み……ようやく『教会』側に戻れたというのに。
| 裏切りの罰だとでもいうのか。あるいは、これこそが運命なのか……。
|
| デュランダルは生涯をかけた研究、『コーディーネイター』の行く末を見れぬままにその人生の幕を閉じる。
| 後のことは彼を超える万能の天才、パプテマス・シロッコに任せてある。
|
| 任せてあるが……デュランダルはそれが心残りでもあった。
| シロッコは常人を遥かに超えた知能を持つ、自他共に認める天才だ。
|
| ゆえに、だからこそ、人間の機微に疎い部分がある。
| その才能に溺れ、神を冒涜し人に背かれやしないか。
|
| それだけが……。
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| 黙考を打ち破る音は、静かで、とても規則的だった。
| デュランダルは大儀そうに頭を巡らせて、ゆっくりと震える口を開いた。
|
|「入り給え」
|
| 訪問者は礼儀正しくドアを開けると、無礼にも自動拳銃を三射した。
| 不意を突かれたデュランダルは奇襲に対処できず、そのまま弾丸を受け入れる。
|
| 白髪の混じった左眉に一発。
| 落ち窪んだ左眼窩に一発。
|
| そしてひび割れ縮んだ上唇に一発。
|
| 座ったまま、状況を理解しないままに、デュランダルは絶命した。
| 無音の暗殺者は静かに、しかし迷いなく進み、至近距離でもう三発。
|
| 確実な死を与えたのちに、礼儀正しくドアを閉めて去った。
| そこには機械的な作業感のみが漂い、祈りも恨みも伺えない。
|
|
| 完全な暗殺だった。
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| 『四ツ目』を名乗る元テロリストは、特別な経歴を持っていない。
| テロによる戦闘行為を支援する、いわゆる『戦争屋』になる前の履歴は完全に消し去られているからだ。
|
| 彼自身は細身だが、頑健な骨格と色素の薄い肌。灰色の体毛はスラヴ系人種を思わせた。
| 『四ツ目』はヨーロッパから北米で主に活動した。英語やドイツ語、ロシア語にも堪能だった。
|
| しかし彼は、同じような仕事をしていたアリー・アル・サーシェスとは大いに異なる。
| 『四ツ目』はその能力にふさわしい外見をしていた。
|
| 一般人には決して交われない。近寄りがたい容姿を選んでいた。
| それが両目の下、鼻筋を横切るように彫られた入れ墨。
|
| 頬骨の下に二つの瞳を彫った、文字通り四ツ目の墨である。
|
| それは彼自身望んで入れたものではないのであるが、その容貌を悪名としてうまく操った。
| 手下にも目玉をあしらった覆面をかぶせた。
|
| 彼は、マスクの扱いが上手かった。
| 部下に覆面をかぶせ、コスチュームを着せること知ってが、彼らの精神を高揚させ、
| 敵の心を挫けさせる道具になりえることをよく知っていた。
|
| 『四ツ目』は悪名を轟かせた。
| 外見的な脅威だけではなく、爆弾とブービートラップ、そして射撃でも戦術でも超一流なのだ。
|
| その道では知らぬ人のいない有名人となり、恐怖の代名詞とまで呼ばれた。
| その末路が……2001年の夏の終わりであった。
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| 合衆国同時多発テロ事件。
| 過激派イスラム教徒による、ニューヨーク防疫センタービルへの攻撃。
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| 防疫センタービル……もう一度言おう。
| 防疫センタービルだ。いいね？
|
| 閑話休題。
| 勘違いされがちだが、イスラム教は『教会』勢力だ。
|
| 『教会』は偉大なる唯一心を崇める組織であり、世界で最も規模が大きい。
| 世界中で様々な分派があるが、大元を辿れば同じ。
|
| ヘブライの神。四文字で現わされる存在に辿り着く。
|
| さて、この場における問題だが……防疫センタービルへのテロ行為の首謀者の中に、『教会』の幹部がいた。
| 合衆国はそれを即座に突き止め、反撃を行おうとした。
|
| だが、当時は世紀末ブームで台頭した『結社』側の勢力との抗争も激化しており。
| 『教会』での内部抗争は好ましくないと判断された。
|
| そこで用意されたのが、スケープゴートである。
|
| 折り悪く、『結社』および『教会』の両方から協力を要請されていた『四ツ目』は、『教会』側に協力するためにニューヨークにいた。
| いまだ不明な形勢が『教会』側に傾きつつあるという先見の明を持っていた四ツ目の、それゆえの悲劇である。
|
| 『結社』討伐の傭兵として契約に訪れたはずが、味方であるはずの『教会』に攻撃され部下は全滅。
| 四ツ目自身も致命傷を負って海に浮かんでいたところを……『血族』の呂布に助けられたという顛末である。
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| 四ツ目を裏切ったのが『武僧』のパプテマス・シロッコだと知れたのは、数年後のことであった。
| イラク戦線には『血族』からの参戦もあり、四ツ目は嫌々ながら参加した。
|
| その過程で、四ツ目は自分をハメた宿敵の名前と顔を知り。
| そして長らく相棒として肩を並べることになる男と出会った。
|
| ……ミスト・レックスである。
|
| ミストの祖国アトリームで、非人道的な実験を行ったのもまたパプテマス・シロッコ。
| 人間の脳を戦車に組み込んだ自走戦車『ラビ』を作った男だ。
|
| その存在は幾多の悲劇と、数多の犠牲を生んだ。
| ミストもまたその犠牲者の一人で、いまでこそ不遜な言い草で胡乱に生きるのけ者だが、悲劇の主人公でもあったのだ。
|
| そしてその二人は今宵、シロッコの研究施設のある『新宿衛生病院』に潜入していた。
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!／:.:イ:./≧x､lハｊ _,,ﾘ≦二ｲ:j.:.:i:.:ハヽ＼_ アトリームにはいたんですよ。
ノﾚ´ﾑ:ｲ∧ぐｾｵ} 弋ダﾉｲ:.:.:ﾘ }｝ｿヾ
|:.∧ﾊ j ／イ:.:./ソ:/ こんな胡散臭い悪人面じゃあない、
ﾚ' ﾘ八 <、 /ｲ/ﾊ:.:/ もっと優しくて信頼できる仲間たちがね。
ﾄ､:ﾍ ､_ ＿ , /ｲ |｀ヾヽ
／ﾘ;;;;＼ - ′ !;;;;ｿ;｝}
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|「でももうみんな死にました」
|「……」
|
| 夜陰に乗じての侵入であるため、ミストの秘密兵器である自走戦車『レヴリアス』は外のトラックで待機してある。
| 二人の相棒関係は長い。のけものを詰め合わせただけの信頼関係皆無のコンビだ。
|
| 四ツ目は常日頃からミストの言動への文句を垂れ流すことに躊躇がない。
| ミストもまた、四ツ目の手段を選ばない作戦立案には辟易していた。
|
| 好き嫌いで言うと、嫌いな相手だ。
|
|「御託はいい、状況は？」
|「ここのデータは既に処分済みですね」
|
| 二人はすでに最奥、病院五階にある研究者のコンピュータをハッキングしている。
| ここまでの罠や警報装置、警備員はすべて除去した。
|
| 特に警備員は痕跡も残さず隠した。侵入者の居場所は特定困難にしてある。
|
|「外れか」
|「一応バックドアと時限型ウィルスは入れました。無駄でしょうがね」
|
| 逆に、罠の可能性が高い。
| 二人はそう踏んでいた。
|
| やる夫達の協力を拒んだ理由の一端はそこにもあった。
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-ミ＼:≧-: ､ヾ.|
,. . : :≦: :`:.ヽ: ＼ : ﾉ!彡￣ミ: . .、
＿＿/: : : : : : ／: : : : : У: :彡: : : ミ:､ヾ
＞: : : : : : :._: : -:ミ: : : : : ／: : : : : :.ヾ＼
／7': : ／: : : : : /: : : : }: : :/: : : _: : : : 八::ヾ
＿ 彡': :／: : /: : : :/: :/:/从:.:/r‐:.': :.ﾊ: : : : : ::.
〃:／ : 彡': : : : ,: :.从iゞゞヾ:.i:|: : : : : ＼: : ::≧=-
-=≦: :／:ﾉ: :.:.:ｨ:i: :,|:! ﾉ|!: : : : ヾ:.､≧ー::.
_|:/ 彡:.ｧ‐ミ＜!从 i.!:! __'__! :.!: : : :ﾊ: :≧ー: :＼
|ﾊ:///: :i:.弋弐 Nヾ=ｧ示≦､厂｢: : 小:.､: : :､: ＼ヾ
{ { i/ !从:! / `ヾ'-イ//!: :.j !ヽ.:＼: :＞-ヽ やっぱり大元を叩かないと
| { 八 ､' ／'〃/,.:.:./ﾘ} !: :∠ 根本的な解決にはなりませんね。
!ﾄ ヽ ノ' /:ｲ':/.ノ彡 ⌒
_|i.‐ヽゝ=- ノ' ノ- ゞ'' !ミ. 、
,x≦ニニハ ≠ .|=j. ＼
__i彡≦＞≦ﾆ≧z r≦ 〃 .ﾉ=:! 弋≧.､-､
Yﾆ/三三三三三={. // ,;仁/ ヽi |!
.ﾉ|ﾆ{!:三三三≫ ´.:iヾ , / ,,仁ｼ ! ! !/
／ fiⅦ!三:≫ ´ ﾉ .// ,.ｲ=.／ / :/ ,x≦
.. i .f==〈/:.:i ヽ､ / ../ ,,:仁／ , ../,:仁二
/! / ./:.:.:ﾊ ヽ __.r≦彡 ' ／ /,:仁ニニ
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| 虎穴に入らずんば虎子を得ず。
| 罠ならば待ち伏せがあるだろう。
|
| その待ち伏せを逆手に取り、襲撃者を要撃するというのが二人の判断だ。
| 危険は？ 極めて大きい。レヴリアスはいないし、何より二人の能力は『血族』を通して『教会』に伝わっているはずである。
|
|「諌山がな」
|「冥さんは強敵でしたね」
|
| 諌山冥も『血族』ののけものであるが、二人とは違い有能な『血族』の巫女だ。
| ただちょっと家族に問題があったり、本人んも『結社』と裏でつながっていたりとなんだかんだで、現在は拘留されている。
|
| のけもの繋がりで、ミストと四ツ目は時に彼女と組んでいたが、もちろん信頼関係は皆無であった。
|
| ミストは肉体を強化された、超人的な戦車歩兵である。
| 素体の才能もあったため、改造人間としてはかなり高品質だ。
|
| しかも生体部位を魔術的に強化しているので、メンテナンスも必要ない特注品である。
|
| 対する四ツ目は事故で悪魔と合体した悪魔人だ。
| その五感……いや、第六感も含めて恐ろしく研ぎ澄まされている。
|
| 異名通り、いやむしろ、四つでは足りないほどの目の持ち主である。
|
| この二人の弱点は……？
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ゝ:::ﾙ´≧s。
.__ ￣￣ ヽ､｀ﾄﾐ いくよいくよ！ いくよいくよ！
{ l:＼ ｘ ヽ:::ﾑ ／y
ヾゝｲ ゝ=､:ﾏﾑ ／彡
. ∨ﾊ ﾍ::ﾏ}y, y .／//
. ∨ﾊ ∨!:::} ｆ ／ イ r≦////
ヽ:::ヽ ｧ /}{::::| __。斗======､___ i! .／彡////////////'
＼:＼ //／ﾆ|:::::| 。r≦}: : : : : : : : : : : : :≧s。 .////////////////／イ´
＼:＼ .__./ニﾆﾆ.{:::::{￣ニﾆ∧: : : : : : : : : ＿__/ ≧s,///////////////彡イ彡´
＼:≧s。 y=､ゝ-::≧s, il:::/ニニﾆﾆ∧: : : /二_: : : : :＞､ 〕!///////////////彡´≦彡
y､ r==- ＞､::::::≧s､ ゝ､ヽ､ニヽ:::::::/ニニﾆ／: :ﾊ : /,ｲ￣｀ ＜/: : :} 〕}/////////////s≦彡イ
ﾏﾑ､ ｀ー===--- 。､:::ヽ{:､＼::＼ }::::/ニﾆﾆ/ﾆメ: : :ﾍ': : ::ヽ===ｲ∨: :〕＞､ 〕 ≧s。/////////≦///≦彡
｀ ＜≧=--､ ﾏ:::ﾊ::ﾍﾆﾏ:::::::::{ニﾆﾆﾘ／: : : ﾍ´ヽ: : : }: : : : : }: : | /------≧s。//////＞ ´彡
ゞ≧｀ー､:ﾊ ゝ=::ヽ}､:::ゝ:::::::::/ニﾆﾆ/ニ}: : : : : : ﾊ: : :}: : : : : |: : ! ./------.／---.≧s。＞ ´
｀ ＜≧ﾏﾑ､_。ｒ≦≧ゝ≧s。:::::::{ニニ.ｿニ/: : : : : : : }/／ヽ: : : ﾉ===､/----- ,ｲ--------- ≧s。
＼::＞ ´｀ ＜≧==:::::::::{.ﾉ｝;;/ﾆ,ｲ___: : : : :／メ: : : /､/ゝ===ｲ}-----/-----------｀￣.}
(ﾆ≧s。＿。ｒ≦:::::::::::::::/yﾐ,ｲﾆ/: : : :＞=イ-==== ´: :{ {l} ﾑ---〈---------------∨
｀¨ー====≦´｀＜___,ｲ:､・i}ニﾘ｀ー´／----------.ﾍ ﾊﾍ___ノ----ヽ--------------.ﾊ /
／:ヾ}ニ .｀´// ／--／--------/ ＼yrｯソシ∨---.ヽ----------- /....∨ /
_。ｒ〔---- ＼ﾆ,ｲ:/ ,ｲ--／---------,ｲ ゝ==' ゝ==､-｀ ＜------／.........∨ /
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| 突然、壁を突き破って奇妙な怪物が飛び出した。
| 最初に目についたのは赤。鮮血のように目の覚めるような真紅のボディ。
|
| 野太く、狂気を孕んだ雄たけびを上げて突撃するそいつは、シルエットだけ見るとヘラジカかトナカイのようであった。
|
|「ダクト、出口に待ち伏せ」
|「壁の向こうも分かればいいんですがね」
|
| 四ツ目とミストは冷静だった。
| 二人に奇襲する方法は限られる。
|
| 感覚の届かないところから攻撃するか、感覚を奪うかだ。
|
| 強靭なばねで飛び上がったミストが、特殊警棒を伸ばしながらトナカイを迎撃。
| 四ツ目は彼らに背を向けて、ダクトに右手を向ける。
|
| 魔法のように現れた拳銃から弾丸がありったけまき散らされる。
| 穴だらけになったダクトに向けて、四ツ目はポシェットから取り出した手榴弾を投擲。
|
| トナカイの眉間に特殊警棒を叩きつけるミスト。
| だが、ヒグマの頭蓋骨すら叩き割るはずの一撃に、トナカイは頭を割られながらも押し返す。
|
|「こいつ……ッ」
|
| ダクトの中で爆発。気圧されたミストがトナカイから距離を取る。
| 間近で見て、この怪物が悪魔ではないと気付いたのだ。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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,, -- ー-- 、
,, "´ ,,､､ ヽ
／ ／ '', ﾞ､
/ｨ ,,/ /,,ィ rｰ､ ﾞ､
ｲ ﾞ" ./ __,;;:: '',,l ｲ､} ﾐ
! l ｌ_,ィ_ソ ´! 〉{ ﾐ なんだそいつッ！？
! ,＞ｨr-ゝ-ｰ三ヽ ､_ﾉl ｼ
｀ｌｰｼ三三,ニ=＝' u ヾ{
∨ｿ_..::; / ヽ
｀ ! ＿＿ /:: :. ,,,ゝ-ｰ ､
ヽ ´ __ ｀ /;; ,;イ ', {
ヽ ,,i''ｰ-､､イ ', ' , ', ヽ
｀フ､´ ', ' , ' ,_ -ーゝ､
ィ ' , ', ,, - ´.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:’-､
<´o ' , ' , ／.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ヽ
｀）0 ／.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ヽ
/-'-－'.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:／.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:｀ｰ-､
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| 半裸の女の四肢の代わりに、機械でできた武骨な鹿足。
| 頭部から生えた枝分かれした角は、先端部分がすべて男性器を模した張型だ。
|
|「いくよいくよ！ いくよいくよ！」
|
| 内部にＬＥＤが仕込まれた角が、うねうねと動きながら色とりどりにきらめく。
| 下劣極まるが殺傷能力は少なかろう。
|
| だが次の瞬間、無数にそそり立つ疑似性器が、空気を焼きながら白熱化。
| 二人は顔を引きつらせる。
|
|「さっさと倒せ」
|「援護をください」
|「ダメだ」
|
| にべもなく四ツ目。弾倉を入れ替え、別の空気ダクトに弾丸を叩きこむ。
|
|「こっちもやれてない」
|
| 先ほどの一撃で左眼球が飛び出しかけたまま、トナカイは噴き出す鮮血を蒸発させながら再突撃。
| 狙いは四ツ目。ならばとミストはその脇腹に飛び膝を見舞う。
|
| 防弾レザー、肉、そして骨の上に金属プレートの感触。
| 内臓を破壊しきれない。なんて頑丈な奴だ。
|
|「いくよいくよ！ いくよいくよ！」
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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⌒＞ ／ ／ ／ .ｲ八 ヽ |人
／ ／ / :／ / ' / /从ﾊﾊ i| ｉ|从 乂__
,__ ／, / /: :/: :/: : / /: :/. ｲ: :〃 刈 : :| ｉ| | ＼乂__
ニニ=ー/∠/ /: :/: :/ / /:/: :/ '. :|: :i| | : : i| i| |: :＼ 乂 __
.ニニﾆ./Ⅵ/ : : : : / :/ / |/| ' /／| 从 」| : : '|: : i|八: : 乂ニﾆ
ニニﾆ/ﾆ|/ : .ｲ: : ' ｲ弍≧ﾄ.」/ / Ⅵ｣L斗i≦ |: :/ |: : i|＜/∧ーニﾆ
ニニニﾆ/／/,|: : |: :| 弋ﾋツﾄ､ 」x代ﾁツ. ﾘ/: : : :八/| | |ﾆﾆﾆニ
ﾆニニﾟ/| | |//|八| ∧ ｀¨¨´ ノ}:::. ｀¨¨´ ｲ/: ://∧//| | ﾄ、ﾆﾆﾆ 四ツ目さん！！
ニニ::/ :| | |//| | ｉ|∧ ノ/ｲ/ｲ/////| | |∧ニニ
ﾆﾆﾆ/: ::| | |//|/∧ |i |ゝ r -== ､ ｲ// / |////| | |: :‘，ニ
ニ-/ : : | 八///] ﾊ八い＼ ｛ :.:.:.:.:.:.: ｝ ｲ/' ∧'/// //:|: :‘，ﾆ
二｛. .: :::|《/∧//l ＿ 丶｀ ー‐‐ .イ ___ ∧/// //:| |:.|: ｝ニ
ﾆﾆヽ : : ∨/,∧/| ＼｝ ｀ ー'’ ｛／ ∧/／ //: :| Ｌ|.ｲﾆﾆ
ノ ｀ヽ :∨/,∧ト， ｀ ´ / ／//／}:: :|イ´i|ﾆﾆ
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|「わかっている！」
|
| トナカイの激烈なチャージを避けながら、四ツ目が無事な右目に向かって三連射。
| 正確無比の射撃が眼球を叩き潰し、トナカイはそのまま反対の壁に激突。
|
|「カリカリガリガリ！ カリカリガリガリ！」「しゃぶってやるぜ！ しゃぶってやるぜ！」
|「また来た！？」
|
| 崩れた壁の向こうから、二つの人影が飛び出した。
| 小柄で、赤い流れ星に見えるほど俊敏な動き。
|
| 壁や天井を足場に跳ね回るタイプと、地面をすさまじい速度で走るタイプ。
| もうもうと土煙立つ屋内では、捉えづらい相手だろう。
|
|「こいつら、拷問効きますかね」
|
| だが、スピード重視の遊撃手は、ミストと四ツ目にとってはいい的だ。
| 飛び回る敵の股間節に四ツ目が銃撃を集中。ノミのような巨大な機械足をもぎ取るつもりだ。
|
| ミストは喉を食い破らんと飛びかかってきたもう一方の背中を特殊警棒で強打。
| 地面に激突しバウンドしたそいつを靴底で蹴り飛ばす。
|
|「いくよいくよ！ いくよいくよ！」
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_ノ￣ ~ ｀ヽ
／ ヽ タフな奴だな……！
r' ｀､
j ィ'' ヽ } _＿
l ,,-‐--､､ ,'' } ヽ __,, ｰ-- －''´.:.:.:.:.:｀ー ､
{ { ヾ､､ ,,'' ! r' 、.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:
} ', ｀ﾞｰ'''" !/ｌ |/ ヽ.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.
ノ l i/ u ',.l, ､ /.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:
rゝ､ _ i ＼', l , !|) ﾊ.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.
l i ､ヾi ﾞ ヽ !__,､ィ‐ブ ,ィｰ j '､.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:
ヽﾞ l', ヾｔﾗ‐- ｧｬ/i iﾍー ,,,ィ三ｌ ｌｰ'i ヽ.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.
iヽ ヽ ﾞー ´7 _,,､_ィ三三三ﾆｼ/ l j.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:__,, -､
l ｀ｰ !| Ⅶ三三三三三三三三=' ! ｌ ｌ／￣￣ヾ _.;.;.;.;.;＼
/ｌ l ',ヽⅦ三三三三ニ=-'' , ! __/ィ 〉 r- ､ ｀ー--
ﾉ.:.:l ! ', ﾊ ｀ー ' ,, ィ´- ''.;.;.;.;ヽ- ' __,, >- ,,イ｀ｰ
ノ.:.:.:.:ヽ ヽ ｣ ヽ ｀ｰｒﾆﾆﾆﾆ '.;.;.;.;.;.;.;__,;.;-‐ '' / ,,
j:.:.:.:.:.:.:.:ヽ, r-‐ '' ￣.;.;.;.;.;.;.;.;__,;.;-‐ ''.;.;.;.;｀ｰ-‐'/ rｰ-‐' ヾ
ノ.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ゝ_,lヽ.;.;.;.;.;__,;.;-‐ '';.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;__,,ｨ ｌ / __,, イ
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| よた付きながら立ち上がり、後ろ足で床を蹴るトナカイ。
| 周囲を跳ね回り、死角から襲おうと画策するもう一匹。
|
| 壁に叩きつけられた奴はいったん戦力外と見なして良かろうが、可能なら素早くとどめを刺したいところ。
|
| そして、いまだに動かぬ廊下の待ち伏せと、姿を見せない空気ダクトの。
|
|「ホーッホッホ！ ホーッホッホ！ ホーッホッホッホ！」
|
| だけではない。
| 今まで動かなかった敵が、まだ隣室には潜んでいた。
|
| 細く長い機械の脚。真紅の防護服。
| さながらフラミンゴのごとき四人目が、ゲル状の液体を射出。
|
|「火炎放射器です！」
|「この狭い場所でか！！？」
|
| 粘着質の可燃物質が噴き出し、即座に青白い炎を纏う。
| 沸騰した物質は弾けながら不規則にまき散らされ、部屋中を炎で飾り付けた。
|
|「いくよいくよ！ いくよいくよ！」
|
| 炎を物ともせずに、果敢な突進を実行するトナカイ。
| 瓦礫と炎で回避場所は限られる。詰んだ。
|
| 四ツ目は赤熱する男根を避けながら、天井から飛びかかるノミ脚を意識した。
| 奴の手は鋭いフックになっている。
|
| だがフックなら。頭と胴体を庇えば致命傷じゃない。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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{,' ,ｲﾆ/ ＿
| ./ﾆ./ 。ｒ≦￣￣＞/=/
/ﾆ/ 。ｒ≦.:.:＞ﾍ ´.:.:.,ｲ=./ カリカリガリガリ！ カリカリガリガリ！
/ﾆ/ _, -- ､‐ヽ.:.:ヽ>´.:.:.:.:}／ /=.{
/ﾆ/ .,ｲ(::::::::,ｲ､ ﾔ.:.:.}.:.:.:.:,ｲ 〉 ｉ￣￣.:／
,ｲニ} { ｀￣--.´ｉ ',.:.|.:.:./ ,ｲ ./.:.:.:.:／
. /ﾆニｉ_ ﾏイ/;;;/ｉ ｉ ,' ヽ / ／ .／￣／ヽ/__。=､
/ニニニ≧====ｉ;;;(ゝ---ｲ .,ｲ／ > ´====' ｉ.:.:.:.:.:.:Y､
｀＜_ニニニニﾆﾆゝ;)ニニ /.,ｲ ／ニニニニニゝ__ｉ､＿ ノヽ ≧=-
｀ ミ==､ニニニニ＞/ 〆ニニニニニニニニニ／＿ ＼＼ ｀≧ｓ。
ゝ､ﾆ／/./ / イゝニニニニﾆ',ゝ､ニニニニ＞=--､ヽ ヽ ｀ヽ＿＿
// ,ｲ .}ニニニニ〆 ｀￣￣￣ ｀ ＜ ＼ ヽ ヽ
. //./ .ｉニニニニニ≧s。_ ｀ ＜ ヽ ＼
,ｲヽ/ {ニニ＞========ﾆﾆ} .ヽ ｉ---'
{ ノ≧s ｀ ´ ／ﾆノ } } ｉ
yゝ-ｲ／ {´ﾆ <､ ,' .〉}
/ ./ / ｀ ＜==-≧､ .{ /ｉ
ｉ ,' ! ヽ }
. | | {
| ヽ ', ノ,'
', ゝ≧==≦>イ
ゝ､＿_ ＞ ´
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| 鋭い鈎爪が四ツ目の左手首の肉と軟骨をえぐった。
| 激痛に銃を取り落としながらも、右手で銃撃。
|
| 至近距離の連射に、とうとうノミ脚が砕ける。
| 四ツ目はすかさず蹴り上げて、厄介な遊撃手を炎に叩きこむ。
|
|「ホーッホッホ！ ホーッホッホ！ ホーッホッホッホ！」
|「アトリームにもありましたよ。こんなマッチよりもずっと素敵な火炎放射器がね！」
|
| 仲間に消火剤を噴射しようとしたフラミンゴを、ミストがインターセプト。
| 噴射口を特殊警棒で叩き折り、後ろ回し蹴りで細い足を払う。
|
|「カリカリガリガリ！ カリカリガリガリ！」
|
| 味方の炎に焼かれるノミ脚男の断末魔。
| フラミンゴは軽快にミストの格闘から逃れ、火炎放射器を向ける。
|
|「くっ」
|
| ひるんだミストに向かって放たれたのは、打撃的な勢いの消火剤。
| もんどりうって倒れるミストは放置され、フラミンゴはノミ脚男を劫火から救出。
|
|「ぐっ、げほっ！？」
|
| 巻きあがる消火剤にせき込むミスト、そこにトナカイが轢殺せんと突撃を敢行。
| さらに、エアダクトから現れた五人目が、室内に爆弾を投擲。
|
| 味方ごと？ その通り。
| ミストと四ツ目は自分たちと敵の装備の違いに気が付いた。
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| 敵は全員、マスクをかぶっている！
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| 窮地のミストを見捨てて、四ツ目が室外に飛び出した。
| 残されたミストは？ 突撃してくるトナカイの顎を蹴り上げ、バク転して着地。
|
| 振り返りざまにトナカイの前足に一撃与えるも、まるで効いた様子がない。
|
|「でもこれじゃあダメなんだ。ここでアンタ達を倒しても、物事の根本的な解決にはならないんだ」
|
| 不愉快な捨て台詞を残して四ツ目を追う。
| その四ツ目は……。
|
|「突っ切れミスト！！」
|
| 悲鳴に似た叫び。ミストはその警告を無警戒で信じ、廊下を突っ切り窓へ体当たり。
| 地上五階からダイビング。
|
|「おーおおーお、よちよちよち良い子でちゅねーええーえ！」
|
| 廊下に待っていたのは、ベビーカーを押した喪服の老婆。
| 縦横無尽に跳ね回る電撃ワイヤーのクモの巣に、銃撃の牽制でミストの逃げ道だけが開いていた。
|
| 空中で振り返るミスト、睨みつける四ツ目と視線が交差。
| 今にもよけきれなくなるだろう。
|
| 左手の傷は思ったより深い。動くたびに血が噴き出る。
| 四ツ目さんはもうダメだな。ミストは冷酷にそう判断した。
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〔!.{!::ｉ｀＞:ｲニニ.{ }ｉ/.:/´ニニ/;;＼≧}‐‐‐‐‐､ おーおおーお、よちよちよち良い子でちゅねーええーえ！
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| 六対二。よくやったほうか。
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| 敵は最新の機械化技術で改造されたサイボーグ兵士だった訳だが。
| おそらく脳に仕込んだ無線で連携を取り合っているのだろう。
|
| 電撃ワイヤーの乱舞により死地と化した廊下に、誰も追撃してこない。
| このワイヤー使いがそれほど信頼されているのか。あるいは……。
|
| 四ツ目には、二つの選択肢があった。
| 命乞いか、徹底抗戦か。
|
| こちらの情報が流れている以上、降伏は無駄だろう。
| なにしろ四ツ目にはかくし芸がある。
|
| 上下逆に持った拳銃の引き金を、小指で引くのだ。
| 銃身を掴んで相手に差し出し、銃口を己に向けるという『降伏』。
|
| その偽りの服従を利用して、これまで何度か生き延びた。
| だが、それは効かないだろう。
|
| 今の四ツ目はいいスケープゴートだ。
| 生まれ変わった『血族』と、それを従える『教会』に盾突いた愚か者の末路を知らしめるための。
|
| 都合のいい、見せしめになるだろう。
| そうなるなら、そうなるくらいならば……いっそ。
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‐''^ﾝ /ﾜ１│ │ 1.ﾉｲ ｲ| l l゛ │ i ＾ｌ!ﾕ」....ﾆ''
,／ _／ ﾍｌ | ﾞ‐-‐’/ （ i | i ｌ」 ! ﾍ ＼
,／ | │ ｌ ./ﾍ_ / ｌ ./ / │ ll ﾍ ﾞﾞ'!!ﾝｰ
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-/＾／ ,,....---'ﾆﾌ''" ｌ │ ｌ ﾍ -ﾚ （ _/" l lﾅ ＼ ｌ､
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|「ぐががががッ！！？」
|
| 電撃ワイヤーの直撃に、四ツ目は壊れた人形みたいにブルブル震えた。
| 手足を不規則にバタつかせながら、口腔と眼球から湯気が立つ。
|
| 全身を高圧の電流が駆け巡り、体液が沸騰した。
| それでも右手は拳銃を離さないのは執念か。
|
|「おーおおーお、よちよちよち良い子でちゅねーええーえ！」
|
| 喪服の老婆が乳母車に電撃ワイヤーを収納する。
| 人間なら三回は死亡してお釣りの来る電流を流したのだ。
|
| 黒焦げで、立ったまま煙を立つ四ツ目。
| 老婆は……いや、レースの下の顔は、中年男性のそれ。
|
| 女装の小男は窓の下。
| 五階から飛び降りて潰れたミストを確認しようと顔を出した。
|
|「甘いな」
|
| 反応するより早く、喪服の小男の黒いレースに、七発の弾丸が叩き込まれた。
| 悲鳴を上げる暇もなく、顔面を拳が乱打。
|
| 黒焦げで、煙を上げながら。しかし四ツ目は平然と動いていた。
| 人間なら死んでいるはずなのに……人間なら？
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_ -ｰ- ､
ｒ''´ ﾍ
{ ',｀ﾞﾞｰ='' ハ ｒ 、 『教会』には防御の護符もないのか？
ﾞi ヽ ｀ヽ, L,ｨヽ ｒ-'- ヽ
｀r ﾐ ・-''彡= !| ,､ 〉- }､ｒ､
ヽ_ゝ, '''ﾞ _,-‐ ｊ ヾ ヾ三 ｌ }｀ー､
ヽ｀＞ ィ´ィ´!>ー〉ｰ' ｨ-ゝ'ー'.:.:.:.:.:.:.:｀ー､
／ __ --''､.:.:.:ヽ }ﾄ __.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ヽ
!-､_イ´.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ｌ,, -､!':.:.:.:ヽ.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ノ
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/.:.:.:.:.:ヾｰヽ.:.:.:.:.:.:.:.:.:{.:.:.:.:.:.:}.:.:.:.:.:.:＼
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| もちろんある。
| だが、喪服の小男は失念していた。
|
| そもそも四ツ目が護符やマジックアイテムの類を利用しているのなど、今まで誰も見ていない。
|
|「使えるものは使うもんだろうが」
|
| 四ツ目は馬乗りになった小男の口に銃口を突っ込み、ありったけを打ち込む。
| 完全に死亡したのを確認し、その腹から伸びたケーブルを乱暴に引きちぎる。
|
| 肉体に接続して使用していた武器を奪うことは不可能だ。
| 四ツ目はポケットから治癒の護符を抜き出して使用。
|
| 両手で乳母車を振り回し、おっとり刀で飛び出してきたフラミンゴを牽制。
| そのまま窓の外に放り投げ、自分も身を躍らせる。
|
|「助けろ！」
|「暴徒鎮圧なら任せてほしいのですが」
|
| 心もとない返答だが、五体満足で中庭にいたミストが、五階から飛び降りてきた四ツ目をふんわりお姫様抱っこキャッチ。
| 代わりに敷地外から電柱が一本、顔を出すフラミンゴめがけて射出。
|
| レヴリアスの援護射撃だ！
|
|「走れますか？」
|「無理だな。俺は繊細なんだよ」
|「俺に比べたら誰でもそうです」
|
| 肩を貸し、違法駐車したトレーラーを目指す二人。
| だがそこに、さらなる待ち伏せ。
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iﾍヽｰ'-'/ 二 〉 ／メ ィi,
`〈ﾒｚｚｚミ三iｘ--ｖX￣i'／／‐- ／／
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`ﾆ三≧ニﾉ７ /ニニ=＜ニ､／ : : : : : ヽ〈i＼i三 ￣ ｨi= l
lﾃi ` i ニ i'/ヽY: ／ニｭ_: : : ﾆ//ニ─､ ／／ ,l＞';
| i ニ /ﾆﾆi`／´ ＼`/ ﾊ ヽ ｌ〈'／ ＞"´,ィ"
|＿＿ - '――／´: : :.Ｙ i X l i l .ｲ ｌ ソ iﾍ ハ
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i､三≧ﾆニ=─-| i´: : : :iﾍ ｲ:.／ ＿＿ ミ ｘ ＿＿l ヽ l
l二ﾆ=‐三三三三三i: : : : :iーｪ ｨ≦彡ニ_／: : : : :≧ｚ､ ＼: ﾘ l /
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ｉ: : : :ｌ l:_:_:ﾉ ヽ:／ ヽ l三三iｌ ｰ=ﾍ: : : : /: : : i
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｀´ |三ﾆハ
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| 頭部と両腕を重機のような機械に換装した肉感的な女。
| 他の連中同様に真っ赤なレザーで目にも鮮やか。
|
| だが、彼らと大きく違う点が一つ。
| 狂乱の雄叫びを、あげないこと。
|
| ゆらりと、散歩をするかのように表れた身のこなしは達人のそれ。
|
|「やあ、赤い連中は強敵でしたね」
|
| 意に介さずに突進するミスト、女はボクシングスタイルを構え、破城槌のような拳を振りぬいた。
|
|「何やってんだミストこのアホが！」
|「え？ え？」
|
| ジャブの衝撃で庭木がへし折れ、芝生がえぐれ舞い上がる。
| 四ツ目が押し倒さなければ、二人仲良くミートソースになっていただろう。
|
|「れ、レヴリアス！！？」
|
| 珍しく狼狽するミストを、四ツ目が引き上げる。
| ふらふらと歩く女、雷撃装置の仕込まれた右ストレートが、ミストめがけて放たれる。
|
|「げェッ」
|
| 衝撃で病院の外壁にクモの巣上のひびが入った。
| 圧倒的パワー。直撃しなくてもアリカ並みの破壊力。
|
| 調整不足か、歩き方が不安定なのが狙い目か。
| だが、こいつの相手をしているうちに挟み撃ちにされたくはない。
|
| 四ツ目が銃撃で牽制して、二人して車を目指す。
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,, -- ー-- 、
,, "´ ,,､､ ヽ
／ ／ '', ﾞ､
/ｨ ,,/ /,,ィ rｰ､ ﾞ､
ｲ ﾞ" ./ __,;;:: '',,l ｲ､} ﾐ
! l ｌ_,ィ_ソ ´! 〉{ ﾐ
! ,＞ｨr-ゝ-ｰ三ヽ ､_ﾉl ｼ どうしたこの唐変木！
｀ｌｰｼ三三,ニ=＝' u ヾ{
∨ｿ_..::; / ヽ
｀ ! ＿＿ /:: :. ,,,ゝ-ｰ ､
ヽ ´ __ ｀ /;; ,;イ ', {
ヽ ,,i''ｰ-､､イ ', ' , ', ヽ
｀フ､´ ', ' , ' ,_ -ーゝ､
ィ ' , ', ,, - ´.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:’-､
<´o ' , ' , ／.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ヽ
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|「……レヴリアスが反応しません」
|「なんだと？」
|
| レヴリアスは、ミストは自走戦車レヴリアスと脳波で繋がっている。
| 彼にとってレヴリアスは思考するだけで動かせる、いわば肉体の延長だ。
|
|「いつからだ？」
|「今の女に遭遇したタイミングで、プッツリ切れました」
|
| その女が、握った拳をぐっと引き、届くはずない遠距離で振り下ろした。
| すると何たることか！ 肘部分に取り付けられたロケットエンジンが火を噴き、文字通り飛んできたのである。
|
| 体ごととはいえ、まさしくロケットパンチ！
| ギョッとしながらも、ミストと四ツ目は左右に避ける。
|
| 二人の真ん中に右拳を振り下ろした女は、左雷撃で四ツ目を狙う。
|
|「手足」
|
| 同時にどこに潜んでいたのか、巨大な肉の塊がミストに突撃。
| 肥大した頭部と、胴体ほどもある両腕の怪人。
|
| いや、それしかない。
| 悪夢から飛び出してきたかのような、頭と腕だけの異形の怪物のぶちかましがミストに直撃。
|
|「ぐぅっ！」
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。ｒ≦ ｀≧s。
／ ヽ::ﾙ'￣｀ヽ ＼
. ,ｲ---､＿ ノ ノ/ ヽ。ｒ==､＿__.＼ キエエエエエエ！マンマ、マンマ、マンマ
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/y=､{ }! .{ }! ヽ:::/ィ==／､ ､ { ￣ ＿_ヽ
{ { ﾊ } .} ｝ / // / /￣ ヽノヽ⌒) 。ｒ≦＞==∨
/ ヽ ﾊ ﾍﾏ .},ｲ // ｛ {=o､_οヽノ /≦＞´ ＼ ヽ /
ﾏ ヽ ﾊ }ﾏ/ ／/ | | yｪｪ､ノ／／´ ∧ .∨./
ﾏ__ﾉゝ-'=== ／:::::{ ／￣￣￣／／} } ∨
｀￣｀ー--´::::::::::::ﾍ´-----＞::::/ ﾊ | .}
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ｉ:::::::: /::::::::::::::::::::。ｒ≦ ｀‐‐､ } / .{ ヽ
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ヽ____ ／/ ／ ／ .{ ｉ ノ
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{ｉ ノ / / ｉ} .}| 〕 .}!
ゝ==イ ,ｲ ./ .ｉ} .}| } .}!
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| 五階からの落下にも耐えられる肉体と骨格がきしむ。
| 口から血の糸を引き立ち上がろうとするミストを、巨大な掌が押しつぶす。
|
|「がッ」
|「ミスト！」
|
| 女のパンチを間一髪避けながら、四ツ目が援護射撃。
| 怪物の上腕に着弾し血の花が咲くも、即座に筋肉がうごめき修復。
|
| 圧倒的火力不足。
|
|「ブルブル！ブルブル！ブルブル！ブルブル！」
|
| ここで更なる敵の雄叫び。サーカスの熊のようなシルエット。
| だが実態は、筋骨隆々の巨漢の、下半身が一輪バイク。
|
| 狙いは四ツ目。大型トレーラーよりも巨大な車輪がアスファルトと地面をえぐり粉塵が舞う。
| 両手に持った多尾の鞭が轟音を伴い振るわれた。さながら暴力の竜巻。
|
| よけきれない。
| ふとももの肉をえぐられ、吹き飛んだ四ツ目に女が狙いをつける。
|
|「四ツ目さん！！」
|
| へし折れた特殊警棒。脱臼したのか骨折したのか、動かない左腕。
| 強力な敵に対して、足りない……足りない。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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_,.､＜:.:.:.:.:.:.:.:.:ヾ)） _＿__
＼ｰ---＜´:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.´:.:.:.:.:.:.:｀ヽ
､ミ≧:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ヾ:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:＼__
｀＞:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./iﾍ:.:.:.:.:.:.:.ヾ:.:.ヽｰ-
／イ:.:.〃:.:.:.:.:.:.:.:〃.:.: jヾﾒ|:.:.:.:.:.:.:.:.:ヾ:.:ヽ､_
/´ /:.:/:/:.:.:/:.:.:.:ｲ:.:.:.:.i{ |:.!:.:.:.:.ﾘ:.:.:.:.:.:ミ─"￣
／:.:/:. !:.:.:{!:.:.:.:ハ.i:.:.ハ_ノﾘ;!;.:.:.:.ﾄミヾ:.ゝ:.＞
__／_,.イﾘ:.: !:.:.八:.:.:{ ﾘル≦,,_ l:.:.:.:.:!ヾ｝:.:.ﾉ;;;;}ヾｰ--
i;ﾊ:.:.ﾄ:.{ヾｾﾒ;ゝ`彳ゼｿ jﾘ:.:.ﾘ） ﾉ､:.:{;;;;/ ∨ / レヴリアースッッ！！！
￤ ∨ﾊ:ﾍ / "´ /ハｊ:ﾚ′ /;;/ } {
ヾj:l八 ヽ /ﾘ′ /;;/ 7 ﾊ{
,ｲ:::::::|/::ゝ くて⌒ヽ ｛;;;{ / / ∨
ノヽ!:::::::::{:::::ﾉ::ヽ｀＝‐´ ／ ｛;;｛ /
人 ヾ;::::ヾ::{ ｛;{;;｀ヽ__イ｀ヽ,..__ ヽﾍ /
{｛トヽ ｀ヾ;ヾj└ヽヾ;;;;;;;ト.､___ ＿ ____};｝ノ
ｿ:八 ｀ヽ二＝ﾍ､ ｀＞､,,{::::::::::{:::i:::}´ヾゝ=＝＝､、
/ ::{ ｀ヽ _＿｀ヾj、 { o￢､::::::::::`ヾ´::::∨ O 〉〉
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| 悲鳴のような叫びに応えるように、轟音と共に自走戦車が登場。
| 目を輝かせるミストの顔色が、一瞬で絶望に染まる。
|
| カニばさみのようなクローに掴まれた電柱が、明らかに四ツ目狙って投げられた。
| 同時に、回避方向に向かって防刃ネット。暴徒を確実に捕縛し、抵抗できないところを轢殺するための非殺傷武器。
|
|「そんなッ！？」
|
| 狼狽するミスト。何が起こったのか。
| レヴリアスが、彼の自走戦車が裏切った？
|
| 違う。違う！ ミストの胡乱な頭脳は一瞬で根本的問題に辿り着く。
| ハッキングされた？ 誰か、アトリームでのデータを回収していた『教会』の誰かに。
|
| ミストの脳波を解析されジャミングされ……レヴリアスを奪われたのか？
|
|「レヴリアス！？」
|
| 今度は、完璧に悲鳴だった。
| 膝が折れる。心も折れる。
|
| 不敵にして胡乱なるのけものは、もはや孤独で哀れなこどもも同然。
| 寒さに凍えるように震えながら、迫りくる巨大な手に対処することのできないミスト。
|
| 一方では、ネットに封じられた四ツ目に、竜巻のような鞭が振るわれる。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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//ノ;;;レ7
|i /;;'´;;;;;;／ ／ ___
|{ /;;;;;;;;r'´／ ／/ ,.-'´ ,.-‐''´￣￣ニ＞―-- ､
|;レ';;;;;;;;;ﾉ／／;／ ／／,.-‐'´ ,.-‐ニ´_______ ちょっと待ちなさぁい！！
|;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;／ ／／／ ／ _,..-――‐￣
|;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;レ / /／ ／ ,.-‐'´ ／
/|;;;;;;;;;;;;:‐'´￣￣ `ヽ､ ／-ニフ￣ニ＝ー-----,---''フ _,..-‐'´／
/ j;;;;;／ｨ;;へ;;;;;;;;;;;;;;ヾ ＼ / ／´ ／,,,;ィ ｒ‐''´￣,-ニ―,;;／ ,..-―'
rヾ`{;/;;;;;-'`'´`'''゛ヾ＼;;;＼ ,へ ／／ ,.ｲ ,,,,,-―';;／ .__ ／
`ー7／/ / `ヾ}==〈‐＼／ /;/,／;;;;;;;;;;≧'´ ／∠,,,,,;;;;;ヲー
/ i i | | i ＼}__／ ＼_./／;;;;;;;;;;;∠,,,,;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;-―'´______,
// | ＼ }i | ./ | ｀ヽ､ ／;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;≧―'´
|l ﾄ､ ヽ{ }__ｨ_,ｲ, /| _______/,,､;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ニ≧ー
i| ,へ によ＼,{ ｌ/tey}.／.i|｀};;;;;;;;;;;;;;;;;;`:ヾ:､;;;;;;;;;r:､≦ヾヲ ＿,,,;ィ
／ ヾヽ~ ､ ￣/ｲ | {;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;::,ｨ::|;へ＼＼へ,-――,―'´;;;;;;;;;;;;
／ ,{ ｀ｒ;､ ー ／;;| /{;;;;;;;;;;;;;;;;;;:::::;;;;;;;:::::| ／;;;;;;;,;-‐'´;;;;;;;;;;;;;,､,､;;;;
／ ./ ,ｲ/__ ;;;;;;;￣ﾊ;;;;;j / {;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;::／／‐／;;;;;;／;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;/／ヾ〉;
/ ,ｨ / ヾ-ー ;;;;;;;;ﾉ､ﾊ/./￣{;;;;;;;;;;;;;;;;;;;／r-､;;／;;;;;;｀ヾ;;;;;_;;_;;-:r―ｒ'＿__に-
/ ／// ,.ｨヾ＞ヾ /／｀ヾ{;;;;;;;;;;;;;;／;;::;|／;￣;;;｀＞;／ヾニ て￣､{ （____
/ / /i{ に_{,- { ／;;｀ヾ､ -;―';;;;;;;;;;;/;￣|;;;;／;;;;;;`ヾ､;;;;;;;;￣ー二}￣{ r';
/ / {り ,,,.ｨ´ 〉ｒ.／;;;;;;;;;;;;`j￣｀ヾ／;;;;;;;;;;/;;;;;;;;/＼;;;;;;;;;;;;;;;;;;;｀;ヾ;､;;;;;;;;;;;;; ｛フ;;
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| 不意に、そよ風が吹いた。
|
| 十月の夜の新宿のごみごみした木枯らしではない。
| 草原を駆け抜けるさわやかな空気。
|
| 少女が。
|
| シックなワンピースを着たハイティーンの、ちょっと野暮ったい娘が。
| 不可視の力場で巨大な掌を押し返していた。
|
| 視界の端で黒い颶風が舞う。
| 飛び込んできた黒衣の影により、一輪車の怪物の片腕が切り飛ばされる。
|
|「光の使者！ キュアモーリアン！」
|「ええと光の使者、キュアヴィヴィアン」
|「ヌァザとダヌの名を穢すゴミ虫ども……！」
|「楽に死ねると……」
|
|「「思うなよ！」」
|
| 二人組の闖入者は、場にそぐわぬ明るい声で、ポーズを決めて名乗りを上げる。
| だがその言葉は剣呑で、そして迸る気配は高位悪魔のそれ。
|
| やる夫や蒼星石からの援軍か？
| ミストはその申し出を断っていた。危険で、利己的な戦いであったがゆえに。
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。ｒ≦ ≧s。
。ｒ≦ ｀≧s。
／ ヽ::ﾙ'￣｀ヽ ＼
. ,ｲ---､＿ ノ ノ/ ヽ。ｒ==､＿__.＼ キエエエエエエ！マンマ、マンマ、マンマ
/ ｀ヽ:::{ 。ｒ≦＞ ´￣￣￣￣ヽ
. / r ､ ｒ=､ ∧ヽ／／ ＿__斗-‐､ ___ ＼
/y=､{ }! .{ }! ヽ:::/ィ==／､ ､ { ￣ ＿_ヽ
{ { ﾊ } .} ｝ / // / /￣ ヽノヽ⌒) 。ｒ≦＞==∨
/ ヽ ﾊ ﾍﾏ .},ｲ // ｛ {=o､_οヽノ /≦＞´ ＼ ヽ /
ﾏ ヽ ﾊ }ﾏ/ ／/ | | yｪｪ､ノ／／´ ∧ .∨./
ﾏ__ﾉゝ-'=== ／:::::{ ／￣￣￣／／} } ∨
｀￣｀ー--´::::::::::::ﾍ´-----＞::::/ ﾊ | .}
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ｉ:::::::: /::::::::::::::::::::。ｒ≦ ｀‐‐､ } / .{ ヽ
ﾍ:::::::::::::::::::::::::／ ＞､ヽ ,ｲ ｝
}:::::::::::::。ｒ≦ ヽ___ }´ |
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／ 。ｒ≦ ／/ ハ ヽ ノ ＞'
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ヽ____ ／/ ／ ／ .{ ｉ ノ
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| 呆然とするミスト。しかし敵側はひるまない。
| 援軍の予測をしていたのだろう。女が拳を引き、ロケットパンチを準備。
|
|「ちょっとぉ、たったの三匹ぃ？ 『カトル・カール』は十二匹いるんでしょぉ？」
|「各個撃破は戦術の基本ですよモーリアン。三対五で数の優位を利用しましょう」
|
| ヴィヴィアンと名乗ったほうの、地味な娘がミストに指を振る。
|
| 強烈な治癒の魔術。表面の傷がふさがり、骨が繋がり内臓が修復される。
| 『血族』の大首領たる志摩子様をも上回る魔力量。あからさまに高位悪魔。
|
|「あなた方は……？」
|「やる夫さんの弓……もとい、通りすがりのプリキュアですよ」
|
| ミストは躊躇しなかった。
| 彼女らを信じないという選択肢はない。
|
| 腕を振り上げる巨腕の怪物からヴィヴィアンを守るべく、折れた特殊警棒を握りしめ、前へ。前へ。
| 一方でモーリアンに守られながら、四ツ目がネットから抜け出そうともがく。
|
|「ミスト！ こいつ見たことあるぞ、『死鳥』だ！」
|
| 『死鳥』……『十二の封印像』の悪魔の一柱ではないか。
| ミストも四ツ目も、その致命的な上位悪魔どもの資料には目を通していた。
|
| その中で、不可抗力で『血族』と交戦したが、戦闘能力の高さに比べ危険度が極めて低いとされていたのが……『死鳥』。
| 英国から攫われた妹を取り返すべく派遣された、凶鳥モーリアン戦闘用分体である。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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...,､ - ､
,､ ' ヾ 、 丶,､ -､
／ ヽ ヽ ＼＼:::::ゝ
／ヽ/ i i ヽ .__.ヽ ヽ::::ヽ
ヽ:::::l i. l ﾄ ヽ ヽ .___..ヽ 丶::ゝ
r:::::ｲ/ l l. i ヽ ＼ ＼/ﾉﾉﾊ ヽ
l:/ /l l. l i ヽ'"´__ヽ_ヽﾘ }. ', ',
'l. i ト l ﾚ'__ '"i:::::iﾞ〉l^ヾ |.i. l
. l l lミ l ／r'!:::ヽ '‐┘ .} / i l l
l l l.ヾlヽ ゝヾ:ﾉ , !'" i i/ i
iﾊ l (.´ヽ _ .／ .,' ,' ' それ、もうダメですね。
|l. l ｀ ''丶 .. __ イ 剣を貸しましょう。
ヾ! l. ├ｧ ､
／ﾉ! / ｀ ‐- 、
／ ヾ_ / ,,;'' /:i
/,, ',. ｀ / ,,;'''／:.:.i
ﾊ '';, ' , / ,,,;'''／:.:.:.:.:.:',
,':.:.ゝ'' ,,, ｿ,,;; ''''' ィ:.:.:.:.:.:.:./:.:.',
,':.:.:.l.:.丶／ハ‐‐ '":.:.:l.:.:.:.:.:.:./.:.:.:.:',
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| ヴィヴィアンの手のひらから、揺らめく水の塊が生まれた。
| そこからゆっくりと、一本の長剣が伸びて出た。
|
| 装飾の少ない、武骨な片刃剣。刃渡りは2フィート。
| 木の葉型の刀身は恐ろしく滑らかで、峰側の分厚さからは想像もできないほど切れ味がよさそうだ。
|
| 刀身は常に濡れており、ぽたぽたと雫が流れては落ちる。
| ミストも、そしてこの剣を召喚したヴィヴィアンも知らないことだが、これは八犬伝に登場する魔剣村雨と同じギミックで、
| 刃が汚れにくく刃こぼれを防ぐ、いくら切っても切れ味を損なわない仕掛けであった。
|
|「カリバーンですか」
|「ご名答。私は直接攻撃が苦手なので、援護します」
|
| 横から突進してくるロケットパンチの一撃を、ヴィヴィアンが不可視の防壁で防ぎきる。
| 同時に先ほど剣を取り出した水球が分裂、三つに増えたかと思うと女に食らいつく。
|
| 三本の超高圧水流カッター、ロケットで緊急回避した女の向こう、庭木をたやすくなますに変える。
| 一方で、四ツ目を庇う位置に立つモーリアンは、一輪車から鞭の直撃を受けていた。
|
| 美しいかんばせと、長い銀の髪、上等な黒いドレスがずたずたに引き裂かれる。
| だが、全身を己の血で赤く染めながらも、モーリアンは痛みよりも怒りで沸騰していた。
|
|「この程度でヌァザ様を騙るないでもらえるぅ！？ ブレスにも劣る下種のくせにぃぃ！！」
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{::::::::::::｀}､ﾑ
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ヽ＞´＞ ´.://≧､ ブルブル！ブルブル！ブルブル！ブルブル！
､ ´ >､{/.:.:.:〃.:.＼:ヽ
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ヽ >､ ｉゝ-!.:==彡｀＜.:.:.:}.:.ｉ
ヽ .>､ }.:', |.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ｉ.:.:.:.: |
ヽ >､ ﾉ.:/＿_.:.:.:.:.:.:.:.|.:.:.:.: | y=､
ﾏ ヽ /.:./ ,ｲヽ＼.:.:.:.:ゝ--´} ,ｲ>＜ｨi}´)
ﾏ ＼ゝ/､/::::::{=- ヽ.:.:{----} ,ｲ >＜ ＞´
ﾏ___＞ｉ .}:／／ﾊ ゝヽ.:.:.:ヽ/／ ＞ ´＿
. ﾉ ( l ヽ |／ ／ ゝ＿{＞ ´ , ＜ >'
。ｒ≦> ´＞----／＿::::::::/ニニ／ ／ ／
ﾏ ( >´＜ニニﾆ´ニﾆ}::::{ニヽｲ:::::::／ > ´
ﾏ__//ニニニニ／／ |:::ｉニﾆｿ:::::,ｲ .>´::ﾑ
/ /ニニニニ/ /::: ヽｉ: |ニﾆ!:::/ /::::::::::::::＼
. ,' /ニ／ニニ/ /＼: : .!::ｉニﾆ!:::｀ ´::::::::::::::::::::::ヽ
' .' ／ニニﾆ,' .,': : : : : :!::ｉニﾆｉ＼::::::::::::::::::::::::::::::}
ｉ ｉﾆﾆ／ニﾆｉ .ｉ: : : : : : ゝ',ニﾆ}: : ＼:::::::::::::::::::／
| | ／ニニﾆ| .|: : : : ／: : ﾊﾆﾆ}: :{jﾆ＼::::::::／
ｉ !ニニﾆ／ ｉ .ｉ : :i,ｲ--! ｉ /ヽﾆゝニﾆ ｉゝ,ｲ
', .',ニﾆ,ｲニﾆ', ',／',: :/ｉ ｉ/ ｉ ヽﾆﾍニ,' /
。ｒ≦≧===''''ﾏ ﾏﾆ/ニニﾆヽヽ::::ヽ-ｉ｝: : >'ﾆヽニヽ/
｛ニﾆﾆ(＿ 。ｒ= ﾏ ﾏニニニニゝ｀ゝ==＞´ニニゝニﾆ≧s。
y｀＜＞===´ニﾆヽ ヽニニニニニ￣ニニ＞ ´ ｀ ＜ニへ
｀＜＿_。ｒ== ´￣ ＼ ヽニ＿＿＿_ ＞ ´ __}ニﾆﾆ}
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| モーリアンの背中に生えた黒翼が広がり、巨大な顎となって一輪車に食らいつく。
| サメのように並んだ牙は、渦巻くように回転。
|
| 一輪車は一噛みで粉砕され、皮膚を破かれ肉をえぐられた。
| 翼の顎は体内に仕込んだチタンプレートを容易く引き裂き、骨を砕いて筋肉をねじ切る。
|
| 口上通りの惨たらしい死。
| それを見上げながら四ツ目がネットから脱出。
|
|「まんま」
|
| 特殊警棒では一切痛痒を与えられなかった巨腕の怪物だが、カリバーンはその肉を切り裂いた。
| 手のひらから真一文字に裂けた傷から、血と内臓がまろび出る。
|
| 頭と腕だけのデザインでどうやって生きているのかと思ったら、胴体は腕に内蔵されているらしかった。
| しかしその傷も、蛇のようにのたうつ筋肉が高速で修復。
|
| 痛みを感じないのか、傷ついた腕をさらに振り回す。
| 飛び散る内臓と排泄物。悲鳴を上げるヴィヴィアン。
|
| だがミストは汚れ仕事など慣れたもの。一顧だにせず追撃。さらに掻っ捌く。
| ロケットパンチ女をヴィヴィアンが牽制してくれているおかげで、ミストは目の前の敵に集中できた。
|
| 肉を裂く。骨を削ぐ。どんどん切り進み、狙いは頭部へ。
|
| モーリアンは敵を十二人チームと言っていた。五階に六人。ここに三人。
| あと三人、どこかに潜んでいるが、おそらくその内一人がレヴリアスをハッキング……。
|
| ……待て。
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|三三三三三三三三三三三＿7 /〈 〈＿_ ./ /７｜./ ∧＼ ./ /＿_〈 〈＿_ / ∧＼ 〈〈 / / 〈〈.∧∨,/三三三三三三三三三
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＿＿＿＿
,...-‐:::::::::::::::::::::::::‐-.....、
/::::-‐ ￣￣￣ ‐- ､:::::::ヽ
/／. u l l ヽ::::::`､
.//. l､ l＿_ . l＿_/l_ 〉 ト､::ｌヽ
l l二二lメヽー‐l`､ 7l / l 〇〇ヽ
l l ﾄ l/l ヾヽ､. l V‐ﾚ-､l u ｌ/＾` ヽ
l l. l`ヽ-‐ u `､l ｒ'⌒､`l l lヽ ヽ
.l 〉`lV`ｒ'⌒､ !l!lll!! ゝ--' l ﾉl. ｌ l ヽ ぐぇぇ！？
l l`ヽヽゝ.-' u ﾉ/.l ﾉノ. ヽ
l l. ヽ＼u -‐―‐-､ u.// ／::フ､ ヽ
ヾ l､`‐ _ `―一 ´-‐//::::ヽ `ｖ lヽ.ヽ
ヾ_l､lヽ l フ`ニ>'￣ｙ/::::::::::::ゝ ‐-l ､､`､
`､ﾆハУ::::::::::〈./::::::::::::__::::〈 >-‐ ' ヾ
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､二く. /::::/l:::::::::::::::::::::::l. ヽ:::＼∠＼
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|「ぎ、銀ちゃーん！！？」
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| 数々の悪魔を粉砕し、暴徒を鎮圧し、兵器を破壊してきた巨大なクローが、モーリアンの背骨に叩きつけられた。
| 先ほどヴィヴィアンは三対五と言った。四対四ではなく。
|
| ……レヴリアスが奪われたことを知らなかったからだ。
|
|「すいませんがレヴリアスのコントロールを奪われています！」
|「《刻印》か『ちらつき効果』で取り返しなさぁい！」
|
| 案外元気に起き上がるモーリアン。腰を押さえ、涙目だが。
| 対して解放された一輪車は瀕死だった。生きているのが不思議なぐらいの重傷。
|
|「壊しちゃダメぇ？」
|「やめてください！！」
|
| 立ち上がるモーリアンに、ゴム弾の掃射。
| 武装した暴徒を鎮圧するための武器なので、ブロック塀くらいなら吹き飛ぶし、当たれば頭蓋骨が陥没する。
|
| ようやく立ち上がった四ツ目が、倒れた一輪車に駆け寄り、その目玉に銃口を押し付けて乱射。
| 確実にとどめを刺す。
|
| 巨腕の頭蓋骨に苦戦していたミストも、彼を見習い眼球を貫き脳をかき混ぜ殺害。
| 何しろ喉を裂いてもすぐに再生するのだ。
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ゝ:::ﾙ´≧s。 いくよいくよ！ いくよいくよ！
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ヾゝｲ ゝ=､:ﾏﾑ ／彡
. ∨ﾊ ﾍ::ﾏ}y, y .／//
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| ここでようやく、五階の連中が到達。
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| 灼熱する男根を振り回し、突進するトナカイ。
| その背中に仁王立ちする新たな敵。別の部屋に待ち伏せていたのだろう。
|
| 真っ赤なトレンチコートの前をご開帳。露出狂の動き。
| その股間にそそり立つのはショットガンの束。先端にはなぜかコンドーム。意味不明。
|
|「ひんッ」
|「あらぁ」
|
| 真っ赤になって顔を覆うモーリアンと、淑女らしく口を押えてニヤケを隠すヴィヴィアン。
| 致命的な隙。想定外の悪相性。
|
| 三階の窓が砕け散り。飛び出したフラミンゴが空中から薬剤を散布。
| 露出狂がショットガンをしごきつつ乱射。トナカイがモーリアンにエンゲージ。
|
|「逃げるぞミスト！」
|「同感ですね」
|
| 尾に帆を張って一目散に逃げる二人に、モーリアンが呆然。
| ヴィヴィアンは、ショットガンの流れ弾を防ぎながら二人に追従。
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／イ ＼::::::.ヽ
/:/ ｌ ＼::::ｌＬ ＿_
〈l:′ｌ ｜ ∥ | ｜ ｌ｜l | | Ⅵ(二二)〉
|:| | ｌ |ｌ | |｜|l | l| || ｌ 」⊥l | |｜l | ｢＼￣＼ ちょっとぉ
＿＿__|:| | | |ｌ | |｜|l | l| jイ川 l |ｌ| |｜l | |ｌ ﾄ ＼_｝〉 置いてかないでよぉ！
く<二二ﾌﾉ |｜|7廾土￢八 |〃≫≡ミ刈 |￤リ.ハ＼ヽ＼ 、
￣／|:|仁∧ｌ｜ィテ癶ﾒ ヽ トうｲj |l | ﾉｲ ＼ニｨヘ＼
＿__ 〈〈_／ｲイハ乂 弋_少 ､_ヾ＝'' 川 /、＼ ＼|:| ＼>イ三三ニ､
￣三三三≧ｭ.￣ |:| |:|/∧ ＼ ￣ " i u / / l ＼ ＞‐一＜ ／三三三三≧､
､__＿___〕三三三三三≧|:| |:|/ ｜ト､_＞ ＿__ ∠ イ | ／...:::::::::::::::::..＼三三三三三三
三｝三三三三三三三三ﾚ＞ー┴| ＼ u ｛ __〉 ／.::::|l |/ .:::::／￣}::::::::::::..＼三三三三三三{￣
イ三三三三三三三三/.:::::::::::::::::::| l | `ト ￣ ／..::::::::|ｌ |:::::::::::〈(_ﾌ／￢､:::::::::|三三三三三三ト､
三三三三三三三三シ .::::::::::::::::::::| l | |::::::＞ー＜ :::::::::::::::|ｌ |::::::::: ﾉ / ／ Ｌ:::::::∧三三三三三/⌒
三三三三三三三／..:::::::::::::::::::::::: l ﾍ ＼:::／ｲト ＼::::::／|ｌ |::::{⌒Y ／ ノ ｌ:::::{ ヾ三三三三ゝ、
￣¨`ー三三三三| :::::::::::::::::::::::::::::::.', ＼ く<_/ハ∨/ |ｌ l::: ＞宀＾ｰ＜__ノｊ::::::ゝ ド三三三三三|
￣≧三ｱﾍ :::::::::::::::::::::::::::::::.ヽ Ｖ⌒Ｙト-ﾍ（￣`ｰ|ｌ ∨.:::::::::::::::::ー一':::::（ | ヽ￣￣ヾ三三!
ノ..::::::::::::::::::::::::::::::::::ｌ l ｌ |:| ヾ〉 八 、::::::::::::::::::::::::::::::::〕 〈 （_
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| 情けない声を上げて飛び上がるモーリアン。
| 背中にしょった翼の牙で、空中にいたフラミンゴを通りがかりざまに吹き飛ばす。
|
|「車とかは？」
|「レヴリアスに壊されてなければ」
|「そのレヴリアスさんが問題ですね」
|
| 高速走行モードで追跡してくるレヴリアス。トナカイ。そしてロケット女。
| 徒歩で逃げ切れる相手ではない。
|
| 病院の敷地を出たところで確認すると、予想を外れ、レヴリアスを積んでいたトレーラーは無事。
|
|「やった！ 乗りましょう」
|「エンジンかけたら大爆発だな」
|「奇遇ですね。同感です」
|
| ミストは路上のマンホールに飛びつき、指をひっかけて引き上げた。
| 改造人間だからできる力技である。下水道への誘いにヴィヴィアンが顔をしかめる。
|
|「嫌なら囮を頼む」
|「お元気で」
|
| 躊躇なく飛び込む二人。空から流星の速度でモーリアンが続く。
| 一人残されたヴィヴィアンは、迫りくる『カトル・カール』と下水道を見比べ、憤懣やる方なく拳を握った。
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__っﾟー＝＝っ。つ つ。っっつ ザッパーン
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| 新宿衛生病院大洪水。
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| 突如ダムをひっくり返したような大量の水が溢れて、廃墟になっていた新宿衛生病院の敷地を水浸しにした事件である。
| 目撃者は誰もおらず、後に残った水の量から、水道管破裂程度ではなかったことがわかるだけ。
|
| 直前になにか叫び声や破壊音が聞こえたという噂もあるが。
| なにもかも噂どまり。
|
| 結局は、その晩にいくつも生まれた怪異の一つとして扱われ。
| 誰も注意を払うことなく消えていった。
|
|
|
| その影で、一人の男が死んだ。
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| 殺したのは『血族』ののけもの、四ツ目。
| 殺されたのは、ギルバート・デュランダル。
|
| 殺害に用いられた弾丸の旋状痕から発射した銃は容易く特定された。
| 偉大なる科学者であり、『教会』に貢献した信心深い戦士であるデュランダルの殺害。
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| パプテマス・シロッコは、それをプロパガンダとして有効利用することとなる。
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☆ 次回予告！
誰にでも過去はある。
それが屈辱にまみれた苦痛の記憶であったとしても。
あるいは栄光に輝く美しい墓標だとしても。
誰にでも未来はある。
それが果てしなく遠い艱難辛苦の頂きだとしても。
あるいは絶望の底なし沼へ転がる坂道だとしても。
生きている限り。
生きている限り。
悲しみと絶望は訪れる。
喜びを希望を塗りつぶしに。
死んでいない、限り。
次回『復讐するは我にあり』
いつか見た死に至る。
これはカロリーの高い戦闘
ミストさんが味のあるキャラになったよなあ・・・
ぷりきゅあがんばえー！
なんだかんだで名コンビだなあ
ー .._,;ゝ..,,、 ｀'-､;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;.ｌ- i､、ﾞゝ､,､ヽ、 .i〉;;;;;;;;;;;;;;;;;;/゛ '" .,..-/!彡'".りシ',ﾞ_ _..-
ﾞ'''-､｀'-､ ｀'-_;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ｀'ﾐ〟 ｀'''.ｌｼ､ .ｌ.;;;;;,i∴;;.″ ,- , ;;ｿ｣彡" .,ﾉ".｀--│ _..-'";;;;;;;
｀'''''≒ .｀'-､;;;;;;;i..､;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ ﾞ〈ヽ、 .ﾞ'､"x. l;;;;;|. ..!./ / .,rｼ",il'" 亠 ._iir㍉;;;;;;;;;;;;;;;
...,,、 ｀''-_ヽ｀'-､;;;;;;;;;.;_;;;;;ヽ, ﾞ'ﾍ . ｌ;;;丶;;;;｝ ｀ .,;;ｿ゛ ´ /ﾞ;;;;;;;; ／
ー 二ﾞﾞヽ ,,、 ｀'!‐ ｀'-,;;;{. ｀'-､;ﾞ!、 .l-'､.ｌ.;;;;;;;;;.! .,il″ _,, -'";;;;;;;;;;;｀￢
..,,..........ﾌ;;;;;;;;｀''‐ ,,、 ,ﾞli/､ ｀'､.ｌ, .｀'/'./ ;;;;;lﾞﾞ ./ , r二-''''"￣￣´ﾞ''y;;;;;
^ﾞﾞﾞﾞﾞﾞ'''''".'''''.'''ヽ-..;,ﾞﾆ＿ ｀ﾞﾞ''''＞x, ﾞ ll、 .!､/.ｌ;;;,! i' ''" ｀-￢'''
｀'''｀-ヽ,, |､｀''ﾆi几 ″|;;'!
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￣ ..,,u．.-..、 ｀''ｽｯ、 y ..、 !li `l/ l/ ..il′ ,,iｌ'"´
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. ｀''-ﾞ二;;;;｀ﾞ''''､ ﾞ" ″ iﾘ.,〃 , .｀ j,i′ l!
＿__,＿_＿_＿_＿_i;;;;;;;;;;;;"― ..,_ l;;ﾘ" i､ .,ij" _,/.ｌ_、 ,,irｰ .∧ ._.
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／ ´ 、 ,ノ;/ ¨゛ .,,〟 .ヽ;;;;;;;;.ｌﾞ'!)i、｀＼;;;/'''''-＼, ∨
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| 酷い悪寒だった。
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| ……性質の悪い風邪にでもかかったか。
| 朦朧とした意識。霞んだ目は薄闇しか映さず。
| 助けを呼ぼうにも喉は涸れ、うめき声すら出ぬ始末。
|
| 腰から下の感覚はなく、どことも知れぬ場所に浮いているかのようで。
| 何かもが曖昧ならば、せめて何かを掴もうと、
| 縋るものを求めて手を伸ばしたくとも、
| その指はピクリとも動かない。
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| 抗いがたい孤独。
| どうしようもなく弱る心。
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| そんな折、指先にかすかな温もりが触れた。
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| ｀Tｰ―ーヽ、
| ! ｀ヽ:::...
r / ヽ ヽ:::::....
､ /´ ＼ ＼ ＼_j :::::::.....
｀ ー ⌒ー､ヽ ヽ__j´ :::::::::
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| 指先に触れた……気がした。
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（…せめて……）
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⌒ヽ、 ノ⌒`''''－- ,,_
ヽ (⌒ ノ ＼ __,,--
｀－へ,,,,,____ ＼"''ヽ _＿＿,,--－－''""￣
￣''''''－----- 、
＿＿ ,, ----─ ''' ￣￣ ＼ /⌒,! /⌒,) ＼ ＿＿_ ＼
￣ Y ﾉ / / /"`ヽ _ .＼ ＼ i
∟___Y /./ / ＼＼ ＼ λ !
/ .// :/./ﾞ`) ＼.l | `┘ ＿_,--－
'--::`! // ./ ＼ `! / ＿,,--－''"￣
ヽ-.// ./ 〉 〉 〉" ／
ヽ-/ / / /
（……さいご…）
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| 声がする。
| でも、届かない。小さすぎて。
|
| お願いだ。お願いだから。
| もっと、もっと大きな声で言ってくれ！
|
| そんなんじゃ届かない。
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（…ずっと……）
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⌒ヽ、 ノ⌒`''''－- ,,_
ヽ (⌒ ノ ＼ __,,--
｀－へ,,,,,____ ＼"''ヽ _＿＿,,--－－''""￣
￣''''''－----- 、
＿＿ ,, ----─ ''' ￣￣ ＼ /⌒,! /⌒,) ＼ ＿＿_ ＼
￣ Y ﾉ / / /"`ヽ _ .＼ ＼ i
∟___Y /./ / ＼＼ ＼ λ !
/ .// :/./ﾞ`) ＼.l | `┘ ＿_,--－
'--::`! // ./ ＼ `! / ＿,,--－''"￣
ヽ-.// ./ 〉 〉 〉" ／
ヽ-/ / / /
（…すきだった……）
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| 届かないんだ。
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iｆフｰ‐n x‐ｧ
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. ｀ﾘ ⊥ ﾘ‐'三三l＼
ｒ'三｀ー'彡三三:l三:＼
ｨ佳三三 l─|:ﾚｧ Ｌ:l三:三:＞-‐===─--ｧｧ─､＿＿
〈三:三:（ (ノ＿-‐ｧﾉ三∧｀ ＜三三:三:三〈_l三/ ｰ‐ﾍ〉
/ヽ三三_／／ﾉl三: ／ﾆﾊ ￣￣´ ｀ー‐'｀
/三ﾆ/＼/ｌ ／l ｌl三三三ヲ ,‐､ _
. /三＝ﾆ/三ﾚ'三ﾊ. ＼三三/｣{: |/ 〉 _,,. ..,_
〈三三三＞ ´＼三ﾆ＼.|ﾆ／/ ハ | /ｨ'´:::::::::::l
｀＝‐ ´ ￣〉ニイ.／ /|:. |l/≠≦ヽ‐‐} , ‐ｧ
. 〔二し1´|三r| |:. l/ /＞==三ﾉ／ /７、
/三三lL -‐' ＼__l /：♂：）//-─‐/ |⊃ ,
. / ／￣￣＞- ⊥ﾊ ヽ=彳／--─/_,ﾉ_ ノ:!
/ﾆヽ__ ￣ _／◎ l ヽ-＜ /__／_l ,ｲ:::/
. /三三三｀７´/:ヽ_l_ﾚ ＼ r─/＾'´ ,ｨﾆﾄ /´
/三三三ニ/ /三ﾆ|＼ ＼{ l//､ {Kﾘﾂ .〈,､
∨三三三ﾆ|ｌ |三三＼ ＼ Ｖl/｀ｰ｀ ､.＿ //
}三三三ニ!| l三三三） ＼/ |,. -- 、/ｰ‐'ノ
/三三三三:ヽ ＼三ヲ /|Ｖ/o￣ヽl ／
ｨ佳三三三三: l | }ﾆ/ /::l ｀ﾄ､ oノ:! |
／三三三三三:三:l | （ﾆ| {::::ﾊ ｀＝' }::ｌ .}
∠三ニ=ﾆ三三三:三:l l l Ａ l ＼:::＼ ／／/
｀ =二三三:! | |ﾆA ＼ ＼::｀:／ ＼__
〈三＼三三:lノ三三ﾊ ヽ |::/ // |
V三/ ヽ三ヲ'1 | ト┴.‐〈/ l /
}l三| |ﾆｦ三入 ', l. / ｀7´
＼ﾆ!. ﾚ'三三ノ } ヽ __/ ／
／三/´ 〈 ﾉ/l }
｀===' ト- ,' ヽ｀二ﾌ
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│l l
l ｌ |
ﾉ ﾊ
{_ ,ﾉ、
弋＿__}
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| 種族名としてのニャルラトホテプは上次元存在……読者諸君に極めて近しい存在である。
| 諸君らの中にも、自分の好きな下位次元に介入している者もいるだろう。
|
| このスレにおいてニャルラトホテプの固有名詞で語られる男は、それである。
| 自分が神のように振る舞える下位次元に干渉して、その世界を意のままにしたいだけの男なのだ。
|
| 彼のハンドルネームは『ホワイトスネイク』。
| 酉だけではなくこのような個体名を持つ時点で、その位階が知れようものだ。
|
| 少なくとも、できる夫やロランのような下位端末とは権限が違う。
|
| それぞれの世界に没入した後、『本体』との接続を失う下位端末。
| 生涯情報を習得して、『本体』の無聊を慰めるための存在とは格が違う。
|
| 上位端末とは基本的に、『本体』と常に対応し合っている。
| 一度作成されたら放置される下位端末とは違い、完全に『本体』の目になるのが上位端末の特徴だ。
|
| そのため上位端末の多くは『本体』が楽しむための権能が授けられる。
| 『ホワイトスネイク』の無敵に近い肉体や、無数に持つ『人間もどき』作成キットがそれに当たる。
|
| 無論、下位端末の中にもいたずらに権能を与えられた存在もあろう。
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／ ヽ::／ }} ヽ::::::::::::::::::::::::::::::::::::}八 .i! | | ./
／ ￣ / { ヽ::::::::::::::::::::::::::::::＜:::} | { {
／ ヽﾊヽ::::::::::::::::::＜:::::::::/ ,' { 乂
／ }｀-‐t≦::::::::r‐‐f /{ | {
／ ,' /￣H::::::::::::{ .i/ ＼ 人
／‐---‐‐ ⌒` 7 {/ｌ 〃 {::::::::::/ . ハ∧
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,′ ! / ,′ ()ﾊ:::::::/ ／ へﾆ＿
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| ロラン・セアックなどまさにその筆頭。
| 彼は自分がニャルラトホテプの下位端末であり、上級悪魔並のスペックを有するという秘密を『苦悩するように』デザインされている。
|
| 逆に、自分がニャルラトホテプの下位端末であるなど、露とも知らぬ者もある。
| 下位端末は『観測媒体』に過ぎないが故に、特別ではない日常を観測するために、ニャルラトホテプだの上次元だのという無駄な知識を与えられない者も多い。
|
|
|
| ではできる夫はどうだったのか。
| 彼は後者に極めて近い。
|
| ある瞬間まではできる夫は自分が普通の人間だと信じていたのだ。
| ……不幸なことだ。
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／ （ー） （ー）＼
／ ⌒ ___´___⌒ ＼
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ノ ＼
／´ ヽ
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ヽ -一''''''"~~｀`'ー--､ -一'''''''ー-､.
ヽ ＿＿＿＿(⌒)(⌒)⌒) ) (⌒＿(⌒)⌒)⌒))
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| できる夫は『血族』の主流とは言いがたい家系に生まれた。
|
| 両親ともに特別な才覚は無く、異能も人並み以下。
| 『血族』ヒエラルキーでは最下層だが、それ故に長生きできる。
|
| ……はずが、父親は『結社』が暴れていた2000年代に、事務方ながら戦死して。
| 母親は健康診断を怠って子宮頸がんで病死した。
|
| 両親が死んだとき、できる夫は高校生だった。
| 他の『血族』の子供同様に、彼は各種異能や格闘の訓練をしながら、学校に通っていた。
|
| 親とは不仲ではなかったが、不思議とあまり悲しくもならなかった。
|
| できる夫はずっと、どこか現状を遠くから見ているような、当事者なのに他人事みたいに扱う子供だった。
| そんなできる夫の性質に目をつけたのは芦屋道満麻呂……元『四天王』である。
|
| 麻呂の審美眼は確かだった。できる夫は俯瞰（ふかん）視野の持ち主であったのだ。
| 俯瞰視野とは、周辺を上から覗いているかのように把握する能力である。
|
| 異能の中でも珍しいもので、『血族』にも数多くはないが、一般人にも見掛けられる。
| 多人数が入り乱れるスポーツなどで重宝されるもので、当然戦場でも活躍する。
|
| できる夫はすぐに『狂死』班の予備メンバーになり高校を卒業する頃には副官として活躍するようになっていた。
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￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
__ノ ／⌒ヽl‐ミヽ} ） l ヽﾆヽ__ノ|
ｒ'´ / i/ヽ＼ ,_L＼ｉ {__{ / ﾉ ﾉ＿ ,ｨ
,.ィ /| { ｀ﾝ´ ｀~´ ｀ﾞヽ＼___／＿ ） ／ ｊ
/ ＼l ＼ ＼＿＿-､ ｀ｰ‐'＾く ﾉ〈_/ //
}ノ i ヽ ｀ト---、 ＼ __レ'⌒ヽ|￣ヽ.__//
/ ノ ﾉ ,ﾉ ,／__二､! | ﾚ',.＿,.｀ヽ}ヽ、___ｒ'
ﾊ /´／ ,ｨ" ' ｨ'´ｆｨｿノｌﾉ ｉ,ハ.ヽﾋｔﾘ_〉 !＼_ﾉ
. { { i //| ｀￣´ l / ',＼ |/´
ヽﾊ/__l/ {､ ＼ ｿ |
ﾚ'´ ヽ/ ＼ ´ ,/l'ヽ
. | /⌒ｉ ヽ _,ィ_ｰ'ニヽ i l/
│＼ヽﾄ､ | ￣ ＿＿,. | /リ
＼ ヽ} ヽ │ ｀￣ ! |/ /
＼ ｀i l l ｌ l／
｀Τヽ l ,. -─--､ l
| ＼ ／ ｉ／
/l 丶、 / ／│
/ ＼ ｀ ＜_ ／ ＼
. ∧ 丶、 ￣ ／ ..＼
／ } ＼ / ﾊ
￣￣ │ ＼ ／ ﾉ ゝ
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| 優秀な式神使いながら前線で戦う『狂死』との相性はよく、できる夫自身も麻呂や夢宮から鍛えられた。
|
| しかしできる夫の式神使いとしての才能は凡庸で、麻呂や『狂死』のように強力な戦闘用式神を並べて運用するには不足していた。
| 結果、できる夫が選んだのは援護である。
|
| 強力ではなくても強化や妨害、情報収集に優れた式神で戦場をコントロールする。
| その実力が認められ、『狂死』が『死』んだ後は、飯綱班の副官に推挙された。
|
| ……この頃、まだできる夫はニャルラトホテプを知らない。
| いや、信じていないと言うべきか。
|
| できる夫はニャルラトホテプや上次元について理解のないままに、『血族』内部での地位を固めつつあった。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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| 読者諸君の中にも、『自分が特別な存在であるならば』という想像を広げる方がおられよう。
| 返事は不要。恥ずかしがる必要もない。
|
| ご存じの通りにライトノベル界隈でチート転生の人気は案外根強い。
| もはや流行による一過性の人気ではなくひとつのジャンルとして定着したと呼んでも過言ではないのではなかろうか。
|
| とにかく、小学生から団塊世代まで、老いも若きも『突然選ばれたヒーロー』には憧れる。
| 自分が神の転生なら、秘めた力があったなら、何かの拍子に真の実力を評価されて若い女子社員にモテモテになれたなら。
|
|
|
| ここではないどこかでなら。
|
|
|
| できる夫はニャルラトホテプを『それ』だと思い込んでいたのである。
|
| ……物心ついた頃には、できる夫は自分の真実を。
| ニャルラトホテプの下位端末であるという事実を知っていた。
|
| 上次元介入者の観測端末。それはあまりにもヒーローからかけ離れた無力なる『特別』だが、それで良かった。
| できる夫は己の根底に流れるその妄想を、何事にも距離を感じる自分の感覚から生まれたものと感じていた。
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| できる夫は何事にも他人事で、冷徹な己に理由を作りたかった。
| 原因を妄想に押し付けることで、自らの欠陥に名前をつけようとしたのだ。
|
| 結果的に彼の企みはうまくはまった。
| できる夫は妄想に責任をなすりつけ、妄想に従う芝居を身に付けた。
|
|
|
| 『僕は上次元から派遣されたスパイだ』
| 『だから誰からも恨まれたり憎まれたりしてはいけない』
| 『何事にも如在なく、しかし優秀すぎないくらいがいい』
|
|
| できる夫はその生き方を全うできそうだった。
| 『狂死』や麻呂に見いだされながらも、トップに立てない程度の実力。
|
| 頑張れば追い抜けそうな程度。
| それで良かった。いいはずだった。
|
|
|
|
| 彼女に出会うまでは。
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,' : /l: |: :l斗:┼:ﾄ:j: : : : |: H‐j‐ ',､:|: : : : : :l
j: : l:.l: |: :|: |:, zテ､!: : : :ﾊ:|rテ-､jl:.ﾄ: : |: : :l いつもなんか冷めてるよね。
|: : |: Nヽﾊj/んz:} ヽ: :/ んz:}ヽｊ: : :.|: : :| 全力出さないのが格好いいと思ってるタイプ？
|: : |: |:|: ﾊ 弋:ソ 'Y 弋:ソ .|: : :.!: : .!
ﾊ: :.|: |:|:.小 ￣ i: ￣ 小: :.|: : .|
∧:j:.从: |::ﾊ、''''' '''''／:|: : :.Nﾊ:j＼
/ N､: : l:ヽ::＞ .. －‐ .. .イ /j: : /
／ ＼:_ゝ{ヽ、 i.T , ノ//:／ ＿_
〈／ﾑ¨ ‐ _ ヽ＼ ー 一 ／〃_ ‐ ¨ /
＼ .ﾊ ーャ {ー-- ＜ /７ /
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| 同じ『血族』、同じ陰陽師。
| 顔見知りだったその女は、偶然二人きりになった時にいきなりそんな風に切り込んできたのだ。
|
| できる夫は目を白黒させた。
| そんなつもりは無いが、違うとも言い切れない。
|
|「そういう不躾な質問は黙殺するタイプではありますね」
|「やっぱり努力しても勝てないから最初から努力を放棄してるのね、つまらない」
|
| できる夫の皮肉に対するストレートな嫌味は、誰からもどんな感情からも距離を置いてきたできる夫に肉薄していた。
| 恐ろしく素早い踏みこみと接近に、できる夫は退くより早く反発。
|
|「誰に勝てないから逃げているんですって？ 無駄な口論を避けただけですよ？」
|「私から逃げるのね、この臆病者。玉が付いてないのかしら」
|
| 返す言葉も無く、金魚みたいに口をパクパクさせるできる夫。
| 女はやおら手を伸ばし、できる夫の股ぐらを鷲掴み。
|
|「きゃっ！？」
|「ついてはいるけど、役には立たなさそうね」
|
| ここで他の誰かが現れ、できる夫と彼女の会話はおしまいになった。
| だが、それまでどこの誰とも等間隔で、あからさまな空間のあったできる夫の心に、看過できない人物か現れたのも事実である。
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,lミlミﾊ'" 丶. //ｉ: :ｌ: :ｌ:/: ::/ｌ: : :|:ｌ: : ｌ: ｌ: ｉ: ::ｌ: : : Ｖ:}: : ｌ
lミlミl i, 丶 ||: ｉ: :ｌ: :ｌへ､_|ｌ: : ｌ:|: : :ｌ:ﾊ: ｌ: : |ｌ: : :{Ｖ}: :: ｌ
,lミlミl 'i, 丶 | ｉ: :ｌ: ::|<Ｔﾃぇｉ::| H土廿:ト: :ｌ:ｌ: : :トｲ: : ｌ
lミlミl ヽ 丶 ｌ ｉ: : ｌ::ﾄｉ. |ｉ::;| ｉ:| "{ﾟ:::::トＶｌ:ｌ: : :ﾑｲ: : ｌ
｀`トｲ 丶 ＼ｌｉ: : :ｌ:ﾚ 〜 ` |ｉにｿﾞ/ ｌ: :/`ﾄﾍ:/
ゞﾊ 丶 ,r',ﾆ ｌｉ: : ｌ::| " ￣ /: :ｌ: :レｲ|〉＼
f=l ＼／／'"^`ｌ: :ｌ: :|:＼ ヽ /: :/: /: /:|| 〉〉
ヾﾄ、 ／／ ／ｌ:∧ﾊＶﾊヽ _ , - ' //:/: /::/ // ﾉﾉ
{l ヽ / / / /ﾘ ﾘ レ -.ク / /イく" ﾚ V
＼ / / / / / '"´,ｨゝ-ィ":.／,r-,ﾆ`ヽ
,l ,l ,' / ,/ /{i ＿, ‐'"/ / ,.-‐-､!l丶
l l l l / / / /'´ ヽ ヽ
l l l / ｲ / ヽ ヽ
ﾉ l l ﾉi, / ヽ ヽ
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| 彼女とは、飯綱班で行動を共にした。
|
| 使役する式神は局地特化、本人は剣を握って前衛を勤める。
| 一見するとできる夫同様の、才能不足からの得意を伸ばすスタイル。
|
| だが実際にはなんでもできるから好きなことを突き詰めているという贅沢の権化。
| 彼女は賢明で冷静で、しかし情熱と勇敢さを備えていた。
|
| 回りが熱くなれば氷のように沈着となり、逆に周囲が尻込みするなら誰よりも熱く燃えた。
| 何事にも本気だった。
|
|
| できる夫とは正反対だった。
|
|
| できる夫はそんな彼女から目が離せなくなり、彼女もできる夫の視線に気付くとイタズラっぽくウインクしてきた。
| 二人はよく口論したし、掴み合いのケンカもあった。
|
| 体重では勝っても筋力もスピードも技術も知性も舌の回転数も劣るできる夫は、心身ともにボコボコにされまくった。
| 戦場ではコンビネーションを積極的には取らなかった。
|
| だができる夫は優秀な指揮官で、彼が描く絵を作るために、彼女はいくらでも体を張った。
| 躊躇わずに前に進む彼女の背中に憂いが無いように、できる夫も知恵を絞った。
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⊂二二 ／｀´＼ |:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:i:;:;:;:;:;:;:;:;:;:| ヽ､ ＼＿,r'' ／-‐っ
｀ ‐----､/ ／￣＼ |;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:i:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;| 〕 ,―＜ ニﾆう
く ___／ ＼ |;:;:_;:;:_;:;:_;:;:_;:;:_;:;:_;:;:_;:;:_;:;:_:;:_:;:_:;:_;:;:l:_:;:_:;_:;:_;:_;:| __/＿ ＿＞―┘
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＼ ヽ ＼ /:.ゞ/ニ|:.:.:.:.:.:.:.ﾄ:.:.:.:.:.|:.:.|:.:.:.:.:.:..|:..ﾄ:.:.:.:|:.::.';:.::ハ:.:.＼ /￣￣￣＼ /
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＼ ＼ｲ:.:.:.|ヽ_|:.|:|:.:.:';´| ヽ:.:.:.lヽ|:.:.:.::/│/_」_:」:.:.:.|:.:|:.:.:.|:.:.:.ハ/ |
∨ ∧:.:.∧':.;|:.|:ヽ:.ヽ:| ＼」‐ヽ:.:/ ／/ |:./ヽ:/:.:.|:.:.:.ﾄ､:.:.ハ / ／
∨ ∨:.:.ヽ:ﾊ:|:.:.＼:.| x=三ミゞ ﾚ|:.:./:.:./:.:.:/／＼ハ /／
＼ ＼/:.| ﾊ:.:.:.:.:.＼ xx ｒテﾐj,|:/:.:./:.:.:人 ＼| ／
＞､ヽ ヽ ＼|＞Ｖ:.:.:.:ﾊ ｀ xx }/:.:./:.／ヽ:.＼ ／
/:.／＼| ＼ ∨￣∨:.:.ﾊ |￣￣| ∧／イ:.:.:.:.:.:ヽ__ゝ ／
|/ |:.:.:.∧ ＼ Ｖ';'; ∨:.:.:| ヽ _ ノ .／ | ＼:.:ヽ､:.:.:.:.| ／
|／ |∧ ＼|V';'; ＼:.|＞､ __ ＜ ;; | ヽ:.:| ＼:.| ／
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| 奢りだからと食事に誘えば、班員どころか後輩まで連れてきた。
| 二人で出掛けたら買い出しになり、荷物を運ばされて鍋を作らされた。
|
| 髪を切っても気が付かないと怒られて。
| 次は気付いて誉めたら切りすぎたと頬を膨らませる。
|
| 下品なジョークに眉を潜めて、場を盛り下げた所でさらに下品なジョークを飛ばす。
| 後輩相手だと世話焼きなのに、気心知れた連中相手には子供みたいに駄々をこねる。
|
| できる夫が彼女に惹かれていると自覚したとき、何よりもまず狼狽した。
|
| 彼女を妻にするのは難しかった。
| できる夫は『血族』の中でも低級と扱われる血筋で。
|
| 逆に彼女はトップクラスのエリートだったからだ。
|
| だが、やらない夫みたいな身のほど知らずと違い、できる夫には希望があった。
| 彼女の父親は実力主義で、夫候補だった『狂死』は死んでいて、同じ陰陽師で年が近いのはできる夫くらいで。
|
| だから班長になれたら彼女にプロポーズすると決めた。
| 皮肉な決意であった。
|
|
| できる夫が班長になった時。すでに彼女はこの世に無く。
| そしてできる夫が班長になれたのは、間違いなく彼女が死んだからだった。
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,.イ‐-、 丶、
/ ｉ ', ﾊ
. ,' ヽ. }、 !i
i F‐､{ ＼ ,ｨ.!
/¨ヽ. l: :l :〉>: ｀:ｰ一';ﾙ'
,..ィi:ｆ:ゝヽ {＜ヽ〉: :i : : : :》:}
／_;.::l入__､ :l.i: ｨｔ:ｯ､ｼ、 ;.ｨｆﾌ
. ／:::L.ﾉ:::i: : :.l: : )）: :￣ : : ,:i ｀/、
／::::::::i::ｒ‐'ハ: : ＼' ｉ.: : : :._'´: !:/:::::ヽ ……落ち着け、落ちつくのだ。
.／:::::::::／ﾄ､ｰ'::::::;＼: :＼: : ←-｀ｵ:::::::::::::',
::::::::::::/::::::l::::＼::（ ):::/.￣ ヽ:｀ニ/::__::::::::::i
::::::::::〈:::::::::i::::::::::＞::⊥..__,,.彳ヽ::（_ ｉ::::ノ
￣｀ヽﾚ-､:::＼::::::::___:::::＼ ｌl. レ'" /:/
:::::::::::ﾉ:＼:::::::::∨ ｒ':__..ﾉ__ｌl 〈::}.
::::￣::::::::::＼:::::::} ／ i ＞':´￣: 〉､
:::::::::::::::::::::::::）､::＼ ／ l／: : : ､: : ／: : }､
::::::::::::::＿:_:/::::ヽ::/l /l: : : : : :.}／: : : /: i
::::::::::::::::::::::::_＼:::/ ｌ/l i: : ､_ノ": : : : /: : iヽ.
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| 激情のままに『母』を串刺しにしたニャルラトホテプは、肩で息をしながら更に拳を振り上げた。
| こめかみに浮かんだどす黒い血管、血走った二つのまなこが彼の憤怒の激しさを物語る。
|
| まぶたをビクビクとひきつらせながらしかし、ニャルラトホテプは拳をゆっくりと下ろした。
| 白くなるほど握りしめた指がほどかれると、手のひらには爪跡がくっきり残っている。
|
| 浅い息でうわごとのように自分に言い聞かせる。
| あからさまな錯乱。
|
|「『素数』……落ち着け『素数』だ。『素数』は１と自分自身でしか割りきれない孤独な数字」
|
| 虚ろな独り言は広大な地下シェルターに響かず消えた。
| 死んだ空気は死んだままに。死んだ『母』も死んだままに。
|
|「『２』『３』『５』『７』『１１』……落ち着け、『１３』『１７』『１９』……」
|
| 素数は力ある数である。
| 暗号やパスワードをかじった者であれば、暗号鍵に桁数の多い素数を利用していることをご存知だろう。
|
| 高度な素数の発見や利用は、現代情報線において重要な課題であり、今この瞬間にも高度な数学者が未知なる素数を夢に求めて血道をあげているのだ。
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／ ／⌒ヽ ＼
〃 } ヽ
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, ＼ ﾄ､ } }
>=ミ 〈 : ＼ } }
{ } : : : ＼ヽ : :.＼ ,ノ
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___/ : : : : V .} :ノ_: : : // : : : : : : : : }.:〈〈 {
／i:i:i:{ 「㍉ }_ __} ＼ `ヽ_>〉 : :ﾊ.. : : : ｲ ://ノ｝
／i:i:i:ｉ:ｉ人 :` 〈 : : :} } : : : :≧ｘ＼ : ..)i} : : : {i|丿{rv′
／i:i:i:i:i:i:i:{ : :`ｰ=､ : : } } : : 弋''迹ﾊ_>x.ｿ : /_xfr㌻Y
.／i:i:r=-‐ｧi:ｉ{ : : : : : }..:..:乂_: : : : :＂ :ｘ≦′ : :{｀ﾆ=-.′ 『２３』『２９』……考えるな……
./i:i:i:i:i:ゝ''”i:i:i:i:i， : : :.{ : : : : ｝} : : : : : :''” : : : :..:;{ﾆ=- ハ 『３１』『３７』『４１』『４３』『４７』。
i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:， : : ＼..:.:ノ } : : : : : : : : : : : : ::},ﾉ=.,′i:',
i:i:i:i:i:i:i:i:ir''⌒/i:i:i:i＼..: . ＼ .{ : : : : : : : :.:⌒ｰ='′./i:i:i:i:i:＼
i:i:i:i:i:i:i:i:iゝイi:i:i:i:i:i:i:i:i＼ : : : :＼〉 : : : :_,,..,,,_-=‐_,ｨ .'′i:i:i:i:i:i:i:ｉヽ
i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:／^{i:i:i:i:i≧ｘ : :..:＼ : : : :ヽ_￣”ノ/i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:}
i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:(__／i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:≧=-→､ : : : : :..::,ｲi:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:ｉ:}
i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:ｉ:ｉ:{ {{ ｀¨“ニ彡i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i/
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| 当たり前だが素数を数えるのは知的な活動と言える。
| このゲームは数が小さい内こそ偶数と３の倍数、そして末尾が５の数を除外するだけの簡単なルールだ。
|
| だが数字が大きくなるにつれて、除外すべき数字が増えていく。
| その筆頭が『４９』。
|
| 『７』の二乗。
| 素数の倍数も素数ではない。考慮すべき数が増えれば、素数を数えるのは一度に難しくなる。
|
| 考え方を変えれば、素数以外を脳から追い出さねばならぬほどに、数字は難解を極めてゆく……。
| のであるが、それらは三桁になってからであり、二桁の素数なんて数えても頭の体操にもなりはするまい。
|
| ましてや、日頃から数字に親しむ類いの人物なれば、早口言葉のように間髪入れずに口にできそうなものであるのだが。
|
|「『５１』『５３』『５９』『６１』『６７』」
|「『５１』は３の倍数ですよ」
|
| 突然の突っ込みに、ニャルラトホテプが顔を上げた。
| 入り口側からぶらぶらと近寄る人影ひとつ。
|
|「貴様は……」
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＿＿＿_
／ ＼
／ ─ ─ ＼
／ （●） （●） ＼ はじめましてですね。
| ___'___ |
＼ `ー'´ ,／ 下位端末のできる夫です……
/⌒ヽ ー‐ ｨヽ 彼女の依頼であなたの座標を割り出しました。
/ ,⊆ニ_ヽ、 |
/ ／ r─--⊃、 |
| ヽ,.ｲ ｀二ﾆﾆうヽ. |
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| ニャルラトホテプの双眸に、収まりかけた憤怒がちらつく。
| できる夫は、『母』以上に隙だらけで警戒心なくゆっくり近付く。
|
|「さすがに他人の端末を八つ当たりで殺さない程度の分別はありますか」
|「なんの真似だ」
|
| できる夫は肩をすくめた。
| 自分の動き一つ一つが癪に障ると理解した上の動き。
|
|「お友達に怒られましたか？ やる夫君の次元超越攻撃で物質的な損害が？」
|「……」
|
| ニャルラトホテプのまぶたがビクビク震え、こめかみに太い血管が浮く。
| あからさまに危険な兆候だ。
|
|「もしかして、一度傷ついたから怖じ気づいてます？
| この次元の生物にあれだけ破壊と恐怖をばら蒔いておいて、自分が殴られるとは思いもよらなk「黙れ」
|
| 必殺の熱衝撃波ができる夫に直撃する。
| 風船みたいに胴体が弾け飛ぶも、無傷の頭が嘲笑う。
|
|「可能な限り召喚を簡素化しましたけれど、権能、大分削れてます？
| もしかして本体と式神の見分けもつかない程弱体化しちゃいました？」
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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／
／ー―
／ ｀￣￣
／,ー―――、
/ ￣￣￣￣
. / ∧
/ /: : ﾍ
/{l: : : l
./＿ｨﾌ: : {l
,/ :/: : 、{l ﾊ=―
{l: :/: : : ,} l／l／ ／
/: : : : }: : : : : : : : : :
,/: : : ／,ﾆ三ニ=‐ ,
: ／／ll}ｿ: : : : : : :,/
/／:::} ll/: : : : : : / /
_,レｿ ﾉ l : : : : : / /
ｿニﾆ=ｿ : : : : :〈 l
弋: ￣: : : : : : : :l ,l うるさいぞッ。
ｿハ、: : : : : : : : :ヽヽ
l: : : : : : : : : : :ヽヽ
ー―' : : : : : : : : : : : :
＿__ : : : : : :、: : : : :
＿＿/ , ー‐_、: : : : :
/ / ／;;7: : : : :
て_ﾉー/::::/ : : :ﾄ,: : :
〉' /.l: : :
〈 /::r': : :
ヽ‐ソ: : : : :
l: : : : : :
{l: : : : :/
ヽ: : : /::::
｀ー': :／
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| 次なる熱衝撃波が空飛ぶ嘲笑を粉砕。
| 会話に特化した弱い式神は容易く四散し焦げた肉片がはぜて散る。
|
|「あ、もしかして強制帰還できなくて焦ってますか？」
|「！」
|
| 影から滲むように這い出た新たなできる夫。
| ニャルラトホテプは反射的に熱衝撃波を叩き付ける。
|
|「そんなに後先構わず乱射してよろしいのですか？ 本体からの魔力供給が途切れてらっしゃるのでは？」
|「黙れッ」
|
| 頭を潰されたできる夫もどきの、ぐちゃぐちゃの切断面が口になる。
|
|「そんなあなたに、良い話と悪い話。そしてもっと良い話と悪い話があります」
|「……なに？」
|
| 次の熱衝撃波で、できる夫もどきは破壊されていた。
| ニャルラトホテプは荒い息で続きを待った。
|
| 静寂、静寂。
| 死体の焼け焦げた悪臭と、ニャルラトホテプの整わない呼吸が広間の闇に押し潰される。
|
| 血走った目を走らせながら、ニャルラトホテプは言葉にならない感情の渦に身震いした。
| 理不尽な状況への怒り、怒り。
|
| なにもかもがおかしい。自分は神だ。箱庭にすぎない下位次元に君臨する万能者。
| それが何故、傷つけられなければならない？ 貶められなければならない？
|
| あんな下位端末ごときに煽られ、蔑まれ、一方的になぶられなければならないのだ。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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＿＿＿_
／ ＼
／ ⌒ ⌒ ＼ まずは良い話。二ヶ月の辛抱です。
／ （●） （＜） ＼
| ___'___ | この次元は現在完全に出入り不能ですが、
＼ ｀ ｎ´ ,／ 二ヶ月我慢すればあなたは解放されますよ
／ | | ＼ ……もちろん条件がありますが。
.. ﾉ .ュ
{ ..ﾆj
. | "ﾂ
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|「……なに？ なんだ、どうすればいいッ？」
|
| 発作的な怒りが潮のように引く。
| ニャルラトホテプは、すでに理性的な判断力を失っていた。
|
| 二ヶ月の我慢、帰還の可能性。
| 差し出された藁に、滑稽なほどしゃむにに飛び付く。
|
|「はい、ここで悪い話です！ 解放＝死！ あなたは二ヶ月後には死んで解放されますとも」
|「……え？」
|
| 間髪入れぬ裏切りに脳が付いていけず、ニャルラトホテプは言葉を失った。
| 正面からにやにや笑いのできる夫が近付く。
|
|「死因は焼死。クトゥグアによる攻性除去なので、上次元で植物状態の本体の脳髄も再起不能に焼き尽くしてくださいますよ」
|
| 死。死だ。
| それは不可避の破滅を意味していた。
|
| 『モーンブレイド』が次元超越攻撃を行ったように、クトゥグアはニャルラトホテプの本体まで丸焼きにする。
|
|「クトゥグアの召喚は誰が行ったかは覚えてらっしゃいますよね？ 誰のせいでそんな事態になったのかも」
|
| ニャルラトホテプの責任だ。
| 屈木頑之助をたぶらかし『十二の封印像』を奪取させ、それを追いかける翠星石が召喚した。
|
| すべては、自業自得の因果関係。
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/ ======ミ、 ＼‘，
ﾊ | ／:| ＼ ヽi
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|「あなたは遊び半分でこの次元の人間を弄び、殺し、その報いとして死ぬ」
|
| 厳かな死刑宣告。
| ニャルラトホテプは言葉もない。怒りが衝撃が激しすぎて呼吸すら満足に行えない。
|
|「神を気取って調子に乗りすぎましたね？
| 無敵だからと高をくくってました？ 自分の愚かさのツケを払うときが来たみたいですよ？」
|
|「き、きき……」
|
| 震える唇で。
| ニャルラトホテプは言葉を紡ぐ。
|
|「貴様は、私を道連れにしようと……？」
|「ああ」
|
| 二ヶ月の後に至るクトゥグアは、東京を焦土に変えることだろう。
| ひたひたと近付く絶望の足音を聞くのはニャルラトホテプだけではない。
|
| できる夫もまた、破滅の運命に怯える……いわば同士なのではあるまいか。
| ニャルラトホテプはできる夫の狂態に救いを見いだした。
|
| 更に良い話。それは、それは……。
|
|「悔い改めて僕と一緒にこの世界を救いましょう」
|「あああ」
|
| 助かる？
| できる夫が差し出した右手を握るべく、ニャルラトホテプは震える腕を伸ばした。
|
|「死にたくないですよね」
|「もちろんだ！ 死にたくない！ なんでもする！」
|
| 恥も外聞もかなぐり捨てたニャルラトホテプの手を、できる夫は菩薩の笑みで。
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／⌒ ⌒＼
／（ ●） （●）＼
／ ___'___ ＼ なら死ね。
| |r┬-| |
＼ `,. -'"´´￣｀ヽ
／ （＿＿＿ |
／ |
（￣ |
￣￣￣| |
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| 拒絶した。
|
|
|
|
|
|「え……」
|
| できる夫の表情が邪悪に歪む。
| 憤怒と歓喜と軽蔑の混沌の焦げ付き。
|
|「嘘ですよ。また騙されたんですか？ 馬鹿も限度があるでしょう」
|
| できる夫はニャルラトホテプの顔を一蹴。
| 不愉快な虫けらを見るよりも冷たい目で睨み据えた。
|
|「あなたが死ぬのは僕の復讐のため、ただ一人、この次元の人間を一人殺したことへの報復のため」
|「なんだと？」
|
| では今までのご高説は？
| ニャルラトホテプが怒りと屈辱で歯を鳴らす。
|
|「僕はお前がアホ面晒して一喜一憂するのを見て楽しんでいたんですよ。
| 救いなーんてある訳がない。助けはない。クトゥグアが来てお前を焼き殺す」
|
| こらえきれない喜悦の笑み。
| ニャルラトホテプの情けない表情に、できる夫が失笑する。
|
|「もっといい話なんてのも、ない。これがもっと悪い話です……まあ」
|
| ニャルラトホテプの顔面を踏みつけにじりながら、できる夫はゲラゲラ笑う。
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(( (ヽ三/) (ヽ三/) ））
. (((i ) ＿＿＿ ( i)))
／ ／ .／ノ ヽ_＼ ヽ ＼
( く ／（●） （●）＼ > ） あっても教えませんがね！
＼ ｀／::::::⌒ __´___ ⌒:::::＼' ／
ヽ| ヽﾄｴｴｲ |/
＼ |-ｒ-/ ／
ヽﾆｿ/
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|「貴様ァ！」
|
| 鼻が折れてどす黒い鼻血が垂れる。
| この次元の物理攻撃が通じている。この慄くべき事態にすら気付かぬままに。
|
| ニャルラトホテプは、この次元のあらゆる権能を掌握しロックした、唯一の管理権限所有者を。
| すなわち、彼を救える可能性のある無二の存在を。
|
| 殺害した。
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_＿＿＿
／ ||i|i|i|i|､l＼ （愛している。
／ ｀ ― ┃ ＼ (⌒ヽ､ ……麻呂恵）
／ ヽ と ,ｨ_ ＼
| ＿＿/::.. ｀ ⌒ ￣￣｀ >
と⌒ヾー―――― ⌒ ￣｀´￣ ｲ - － ´
< ゝ /､＿＿＿＿_ ヽ､ ヽ'
く／ ￣｀ヽ ｡ ∨
ｌ--= ､､ __ ・ ∨ .,i;;
ｌr =;;'；..,;; ヾ_ ； ∨
,,rj″ l;;;7''､_}）；･( ｣ヽ ノヾ
'!レ'" / ;;;;ﾞ‐',,､;;;;.;i′ f'"｀''./ ;;;;;;;;＼ i;;;;;i
,l| / ;;;;;;;;ｒ'" !" .lﾞl ヽ;;;;;;;ﾞ;;､ ` ﾞ‐'" ﾞlｭ
,rｼ",il'" '-,;;;{. ｀'-､;ﾞ!、
.,;;ｿ |;,_｝ !li
☆ 次回予告！
やめて！
《ドッペル玄関》の『滅ぼす者』能力でブラックホール爆弾とか作られたら
七転八倒しているやらない夫ごと地球が潰れちゃう！
お願い！ 死なないでやらない夫！
あんたが今ここで倒れたら、翠星石ややる夫との約束はどうなっちゃうの！？
仲間はまだ残ってる。
ここを耐えれば、やらない子に勝てるんだから！
次回『やらない夫死す』
内から出ずる破滅の化身。
できる夫は遥か上位の者への唯ひたすらな復讐者だったのか…
乙でした！
できる夫さん、この死にざまはやる夫の最初の風景……
でゅえるすたんばい
誰が最後にその手を握ってあげたのだろう
ストックしてた魂を保持すらできなくなってた可能性
ざまぁ
／￣＼
| モブ |
＼＿／
|
l^ヽ /^l ／ ￣ ￣ ＼
ヽ ｀_/ / .／ ＼ ／ ＼
r'ヽ ヽ ／ ⌒ ⌒ ＼
ゝ、 r'ヽi| （__人__） |
`ヽｰ､ノ ＼ ｀ ⌒´ ／
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| 備府やらない子を発見したのは一般市民だった。
|
| 大型犬にとって散歩は死活問題である。
| 犬は動き回らないとストレスを感じる生き物だ。
|
| 小型犬や、おとなし目の中型犬であれば、散歩なしの室内飼いにも我慢ができよう。
| だが、大型犬ではそうもいかない。
|
| まず、家の中というのは狭い。自由に走ったり跳ね回ったりにはあまりにも窮屈だ。
| 続いて、大型犬はその肉体にふさわしい莫大な運動量が必要になる。
|
| 家の中で遊ぶだけでは、どうやっても賄いきれない溢れるパワー。
| それを抑制し閉じ込めてはストレスになり、体調を崩し、病魔に倒れ、最悪死に至る。
|
| そう、まさに死活問題なのだ。
|
| ……さて、一人暮らしの独身男性サラリーマンが大型犬を飼ったとしよう。
| 飼うなという意見はこの際無視する。
|
| 彼にも都合があった。事情があった。
| 元カノに預けられてトンズラこかれたとかいうどうしようもないものでも。
|
| その上、彼女以上に彼に懐いてくれて。実家で飼っていた犬を思い出し。
| 保健所に連れていくには情が移りすぎたとしよう。それはもう飼うしかあるまい。
|
| とにかく、彼は毎日の生活の中で比較的自由な時間を。
| つまり仕事から帰って食事の後の時間を、犬の散歩に充てていたのだ。
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ヾ ;"; "i "; ;ヾ; ;ヾ; ;ﾒヾ "
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| 代々木公園は広く、木々や芝生も多い。
| 舗装されたランニングコースもある。
|
| 夜の散歩ではドッグランを利用するよりも手綱を離さないほうが安全だ。
| 特に、一通りのしつけは済んでいるとはいえ、若い大型犬ならばなおさらだ。
|
| 大型犬にとって、しつけとは生命線である。
| 愛犬家……いや、大型犬を飼っている愛犬家以外にとって、大型犬とは大型犬であるだけで問題だ。
|
| 彼らは……鋭い牙を備えた頑丈な顎を有し、自転車で逃げても追いつかれる脚力を持つ大型犬は。
| 大人の男性でも危機感を持つべき暴力装置となりえる。
|
| しっかりとしつけがなされ、威嚇されてもうなり声の一つも上げないほど訓練がなされていても。
| 無知なる輩にとっては大型犬は恐怖の対象となりうるのである。
|
| それはすなわち、わずかな抵抗や威嚇だけで攻撃と見なされやすい。
| 自営の為でも牙を剥けば殺意ありと誤認されるやもしれぬということである。
|
| つまり……大型犬は他人の悪意から身を守るためにしつけをされねばならない。
| 飼い主は愛犬を守るために、無用の危険に近づけるべきではない。
|
| そんなこんなで、夜間、目の届かない場所へ大型犬がすっ飛んで行ってしまった場合、
| 飼い主は愛犬を守ることができないかもしれないということだ。
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／,.-ヽ
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,.-- ､ _..../:;:!彡: : ::|:!
/ ,'`.ヽヽ,. _ ....__ ,. ': : : : : : : ﾞヾ.: .j:!
';;:/!: :ヾ:ゝ'´: : : : : :ヽ: : : : : : : : : : : j､
!:;;:彡: j,.': : : : : : : : : : ヽ.: : : : :.,_ : : : : ヽ
i;;:;:! ン: : : : : : : .,.,: : : : :.'. : :;' v_: : : :i､
彡,": : : : : : : :; :; : :ゞ.,.ｨ:::7ﾄ,.: : :_;; ヽ.
Y(: : : : : : : : : : : :_,ゝノ: : : : : ゝ-': :!'´ i; : : ヽ
;': : : : : : : : : : イ7:::::ゞ : : : : : :ヽ.: ,' i;: : : : :ヽ
j: : : : : ,, ..,.:.:ヽ: : ｀:: ´: : : : : : : : : ::ヽ,. l: : : : :!:::
,': : ::,.' `ゝ: : : : :: : : ,..:..:.::.: , -‐- v !: : : : :!:::.::
!: :: ;;: j : :': : :.:: : : .l::::r:,:::::::! i::!: : : :l:::.:::
ハ:::ゝ ` ,. ィ ゝ､:'_:::!ｲﾒﾚ､: : : !::::::
:;'ヽ: ::ゝ ／／// ... _ j'ィ;::::! ::ヽ::l : :
:; !: :: ` ´ ￣ ` ー''"´ ノ :.:.:.! : : ﾚ´
ゞ ゞ: : :;;` .... /: :: : : !: : :|
ゞ ゞ:;::: ` ''""" /: : : / ,': : :,
ゞ ゞ:;: ': : ::./ /ヽ/
ゞ ゞ ;: : イ , /
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| そんな訳で、彼は愛犬の綱をしっかと握りながら、ランニングの真っ最中だった。
|
| 周囲に人気は少ない。
| しかし、恐れることは何もなかった。
|
| 彼には愛犬がいた。
| どんな不審者や、おそらくは幽霊の類であっても、生命力に溢れた若い大型犬の力強さには怯むであろう。
|
| その愛犬が、突然「ワンッ」と一声上げた。
|
| 彼の犬は若く好奇心旺盛だが、無意味に吠えることは一切ない。
| では、なんなのか。
|
| 彼は足を止め、周囲を見回した。
| 愛犬には奇妙な緊張感があった。注意を促す声であった。
|
|
|
| ……そして、建設中の通信塔の鉄骨に立つ、奇妙な人影を。
| 彼は見つけたのだ。
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.| :.|Ｘ|.: |.
| .:.|Ｘ|.:. |
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[王王王王王]
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| 彼は慎重で冷静だった。
|
| 心強い味方であると同時に、絶対の庇護対象である愛犬の存在は、彼に無謀を避けさせた。
| 即座の110番。急行してきた警察への伝達。
|
| 二人組の巡査は状況を確認して、すぐに彼を解放した。
|
|「あの人、さっきから全然動かないね。暗くて見えないけど、案山子みたいな偽物かもしれないな。
| ちゃっちゃと確認したいけど土地所有者に連絡とってからじゃないと入れないんだ」
|
| 学生の『現代アート』のようないたずらの可能性が高いと、巡査は苦笑した。
| それでも笑顔で通報の礼を言う巡査の態度に好感を持って、彼は散歩を再開した。
|
| 翌日、彼は新聞を見て目を剥くことになる。
|
|
|
| 『代々木公園に建設中の通信塔に爆薬』
| 『深夜の大爆発』『いたずらか、テロか』
|
| そして封鎖された代々木公園で、彼は途方に暮れることになるのだが……。
| すぐにもっともっと東京中が危険になり、この通信塔の出来事など忘れてしまった。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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／￣￣＼
_ノ ヽ、 ＼
（ ●）（ ●） | というわけで建設中の通信塔にやってきたのだろ。
（__人__） | ..／}
_ ヽ｀⌒ ´ | / / __
(＾ヽ{ ヽ { ./ / . ／ .ﾉ
(￣ ヽ ヽ i ヽ / 厶- ´ ／
.(二 ヽ i i |,r‐i ﾉ. ヽ / ／
ヽ ／ ノ ／ r一'´ ー ､ ￣￣￣）
i { ｲ―イ / .`ー―. ､＿_ .〈￣￣
ヽ. `ｰ '/ / /＼ ＼
`ー ' ￣￣! | ヽノ
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| 正確には建設中止になった通信塔の残骸である。
| そのような案件はバブル崩壊時にしばしば発生し、郊外にお化けビルやお化け病院を作ったものだ。
|
| ではこの通信塔は？ 出資者が軒並み行方不明といういささか剣呑な理由での建設中止だ。
| それもまあやむなしというか、さもありなんというか。
|
| この通信塔は『結社』主導の計画だったのだ。
|
| 電波を通じてなんらかの儀式を行うつもりだったのか、あるいは別の要件か。
| すべてはもはや藪の中。最後の関係者だったギルバート・デュランダルもあっさり死んでしまったし。
|
| それはともかく警察は有能だった。
|
| 二人の巡査は異能者ではないが、状況を把握していた。
| すぐに双眼鏡で人影を確認した彼らは、発見者に嘘をついた。
|
| あれは自分たちでも手に負えないものだ。
| 常人が触れては絶対にいけないものだ。
|
| 吹きっさらしの鉄骨の上に直立不動で、しかし双眼鏡での視線に気づいて目を合わせて振り返る少女。
|
| 間違いなく、人ならざる者。
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', ｨ､ ｀ヽ
', {ハ＿＿ ,ｨ ヽ
/´￣｀ ´ ￣｀ ｰ ｲ ｊ /
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; ,' ｌ i| i .ｌ | ｌ ヽ､ ', ｌ
ｌ ｌ＝!ﾄl｣､! | ｌ ,=＝ヽ i !
| ｌｨTcﾞx､ ´ ´xｒ｀ｭ､} ｌ ,'
| ﾄゞ‐' ｀ ' ゞｼ ｲ | ,' あれはやらない子ですね。
i ﾊ ､ ! | ｌ
| i トゝ ' ｲ ! ! そして私たち同様に
ｊ ', {ヽ ―_－ , ｲｊ ｌ ﾊ 『滅ぼす者』の暴走状態にあると判断できます。
,' ｌ ヽ', iヽ , イｌ ﾘ ｊ ヽ
/ | ト､!ｲ{ ｀ ト / ,ｲ ｌ ', ゝ
,' ; |／｀ ', ／ / ／ｊ , ｊ ',ヽ
! ｲ ｊ | ヽ ／ ｰ' > /ｊ ﾊ ', __＼
｣ /ｊ ｲ ! /｀｡ヽ / /ハ ヽ! ヽゝ
イ´ ﾊ!ｌ/ ﾘヽ＿/ゞ､_:;ｿヽ ノ ｌ '、 ヽ
/ ｊ / ヽ ｀´ |l ', ＼
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|「なんでだよ？」
|
| 救出され、早速行動を共にする糸川はやぶさ。
| このやけにやらない夫に馴れ馴れしいスレンダー美女に対して、天龍が刺々しく聞き返す。
|
|「鉄骨の、見た目が異様です……おそらく既に、あの鉄骨はやらない子の攻撃によって変質しています」
|「変……？」「あ、ねじが外向いてるね」
|
| 双眼鏡を回し見しながら、シグがつぶやいた。
| だがこれをノーヒントで気づけというのは厳しかろう。
|
|「やらない子の《ドッペル玄関》は……なんて説明すればいいの？ 反物質？ マイナスの物質？ 裏返り？」
|「そういうのは主人公が直感で理解するのを待つのがいいぞ」
|
| 上手く説明できないタカオとアサギ。
| Ｘは肩をすくめ、はやぶさは考え込む。
|
|「やらない子の……《ドッペル玄関》は相手をひっくり返す能力です。
| 前と後ろとか、そういう方向的なものではなく、裏と表……内側と外側と言いますか」
|
|「なるほど、大体理解した」
|「さっぱりわから……マジですか？」
|
| 即時匙を遠投したＸの傍らで、やらない夫がうなずく。
| 本当に主人公が直感で理解した！？ どよめく一向に、やらない夫が手を振り否を示す。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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| ＼ ＿.. -┴───`‐- .._
| ｀ヽ＼: : : : : : : : : : : :::::::::::::::..丶
＿_ | ＼: : : : : : : : : : :::::::::::::::::/＼
::::::::::::￣｀::::...._ ｀丶..＿＿＿＿＿ ／ ＼ ニャルラトホテプのアレじゃな。
: : : : : : : : : : : :｀丶 , ヽ
: : : : : : : : : : : : : : : ＼ ､丶 ___ --─ ´' i 下手に打ち込むと皮が
: : : : : : : : : : : : : : :＼｀ ￣￣￣ | 凝縮して骨が飛び散るんじゃろ？
: : : : : : : : : : : : : : : : : :＼ ._＞'┐ V
: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : ＼ -‐ ￣ ､/
: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : ＼‐' 〃
: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : ヽ ／
: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :ヽ ／
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| 先月、新宿で戦ったニャルラトホテプの……あれは第二形態とでも言えばいいのだろうか。
|
| やる夫と蒼星石の放った『原初の軟泥』の直撃で上次元にある本体までダメージを受けたニャルラトホテプ。
| 彼が逃亡する直前に『変身』し、行使した能力こそ『裏返し』。
|
| 趙雲が愛用の武器と右腕を失いながらもその能力を解明してくれたおかげで、やらない夫たちは五体満足で勝利を掴めた。
|
|「そ、そんなにエグくはないかな……」
|「もっとゆっくり、皮膚がぺりぺりめくれて内側から飛び出してくるのを感じるぐらいだね」
|
|「……即死性能デハ無イ？」
|「はい。近寄るだけなら」
|
| ロビンへの含みある回答。
| 天龍が不機嫌に腕を組んで眉根を寄せた。
|
|「《ドッペル玄関》の最大の問題は、その能力が始まってしまったら手のつけようがなくなる所です。
| 奴の能力に『感染』……裏返った物質は、周囲の別の物質を裏返す『感染源』に変化します」
|
|「戻す方法は？」
|「分かりません」
|
| これまで、夢世界での戦闘において《ドッペル玄関》は打破できず、攻略されずにいた。
| 命や記憶や才能を犠牲にすれば叩き潰せるような他の『滅ぼす者』とは違い、突破できずにいたのだ。
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/ ′ { Vﾊ '，
/ / }]=-‐￢宀冖=‐- Vﾊ '，
/ / ]=‐￢ : : : : : : : : : : : : : Vﾊ／￣￣￣ '，
. / / ／ : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :〈>､／￣￣￣ ，
/ 、∨: : : : : : : : : : : '， : : : : : : : : : : Tヘ、 }
＼У: : : : : : : : : : : : : '，: : : : : : : : : : :＼ ヽ ＿ ′
〃: : : { : : : : : : : : : : : '， : : ＼ : : : : : : :＼＿_ .ィ
{: : : : : ＼: : : : : : : : : : :ﾄ､ : : : }＼ : : } : : : : : : : :
{: : : : : /ｰ＼: : : : : : : : :!＿.､: :}___ ヽ/: : : : : : : : | 空気は？
〈: : : :∧＿ ＼l＼ : : : 「///V//| | }: : : : :／: : :,
. 〈 : /:.狄¨灯う ､: : |//////_| | }: : :／: : : :/ それと、例えば枯れ葉がその……
V|: : : l 夊り ＼}二二「＞く厶イ : : : :./、 『感染』したらどうなっちまうと思う？
'，:从 ヽ ￣￣ ＼}: :/: :/ : / : ＼
､: :＼ /: : : / : / ￣￣
＼: : >. ー‐‐ ’ ./: : ／}／_ --=ミ
}＼: : 〕=／⌒＼=≦ 厶イ-=≦ﾆﾆﾆﾆﾆﾆ＼
}/}ノ^`く_ -‐ ヽ ﾏ }ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ'，
x==(_ -‐ '，_ノ }ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ=ｉ
/ﾆﾆ=(_ -‐ }__ ,‐=ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆニ!
{ﾆﾆﾆ={ ｰ 、 Ⅵ /ﾆﾆ|ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ=|
{ﾆﾆﾆﾆ≧= ヘ ＼／ﾆﾆﾆ!ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ=!
|lニニニニ三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三ニニニニ
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|「空気は『感染』します」
|「え、そうなの？」
|
| はやぶさの断言に、タカオが呻く。
| 気体ですら『感染』。反転させるその能力は、超能力というよりも異世界の現象とでも呼んだほうがよさそうだ。
|
|「……エネルギーが反転すると減算される？」
|「毒ハ ドウ ナノデショウ」
|
|「あ、確かに。『感染』した空気によってエネルギーは減算されてたわ。
| 狙撃は効かない。『反転』するからあそこも無風状態なんだと思う」
|
| 鉄塔の上に立っていても問題ないのである。
|
|「毒は分かりません」
|「なら魔力も分からないでしょうね」
|
| Ｘが帽子を目深にかぶった。
| 分からないことだらけだ。実際にどうしたらいいかも含めて。
|
|「無敵のクラインフィールドは？」
|「いや、あそこまで近づく前に削られちゃうでしょ」
|「？？？」
|
| やらない夫が首を傾げた。同じくロビンもモノアイを点滅させる。
| 天龍が困ったようにタカオとアサギ、そしてはやぶさを見比べた。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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／ ＿ ＼、”“''ミ、
／ / / '， '， ＼､ ＼
/ / / / /＼ '， '， ‘， 、
′/ / / / 丶， '， '，
l / / / ／￣__＼ '， '， } ＼
| / / ／ r云うﾈ ｉ__ ｉ }＼ ＼ なによ。
| i{_r云ぅ ｜ }⌒） , , ＼ ＼
| ∧ 〈 | }／ / ′ ､ ＼
l '， ＿ | } ／ ／ ＼ ＼
| | i'， ´こ｀ ｜ l￣ ／ ＼
| | |父s。 ／， '， ｉ
| | | 〕i=‐≦ '， V辷z______ | |
| | | }[qp]三三{'， V厂＼､￣ ｀ 、 | |
| | |_ j￣￣￣ ／ ， '， ＼､ | |
| | |__ ＞'” ／ ， ， ｉ !
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／ ！ | | /￣{￣{ノ⌒ﾚ′ '， } | !
∠ | | |_ {⌒ {／ i } | ′
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|「ボス」「天龍が言っていいだろ」「ロビン？」「ドウゾドウゾ」
|
| 三人でごにょごにょと押し付け合う中、シグが一歩前に出た。
|
|「クラインの壺って、くだがこうグニャってなってるだまし絵でしょ」
|「あ」
|
| 意を得たＸが唖然とする。
| だが、当事者たる女子高生たちは理解していない様子。
|
| やらない夫はニャルラトホテプとの戦いで、ねじれを利用して内側から切っ先が飛び出る形に加工した。
| 表と裏が反転しても大丈夫なように、次の闘いではメビウスの輪の形のヒゲ槍を盾にするつもりだった。
|
| メビウスの輪とは、一枚の帯をねじった状態で両端を繋げた輪であり、早い話が表と裏の境界が渾然とした存在である。
| それのさらに上位に属する、管を用いたものこそクラインの壺である。
|
|「つまり？」
|「クラインフィールドが名前通りの存在なら、タカオにはその反転能力が効かない」
|
| 極めて説明が難しいというか、タカオ自身、作者本人も理解していないのであるが。
| クラインフィールドは五次元的に三次元での攻撃を別位相に一時的に保留することで無効化する盾である。
|
| どんな攻撃も一見無効化するが、原理は『弓兵』が『気』によってダメージを流したのと同じ。
| それどころが彼がアリカのパンチをアースのように地面を伝わせ後方に逃したのとは違い、クラインフィールドは留めるだけ。
|
| 異空間に一時保留できるだけなのである。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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. | i::| |_,／ ＼__／￣￣＼/´ ＼__| モシ名前通リノ代物ナラ。
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. | i::| ＼___ ∧ ､{:::（ ）:::}ﾉ 丶 /､
. | i::| / /＼／ ＼＼---‐' ＼／＼＼__
. | i::| r〈_/ { ＼＼ 〔（:::）〕 ﾉ ／|￣ｌ|＼
. __|_ｉ_|__ ／ 〉 ＼＿＿＿＼＼ ＿_ ／ ／ ｜ l| ＼
〈＿＿＿_〉 ／ ｝三三三≧=-イ 〈[l三＼| ｌ|／三l]〉
｛三し{_／ /￣}二二{ ﾉニ〔￣〉 ＼|＿ｌ|／
}__}´ └r‐/ ￣}二二}＿＿＿{二二「￣l ||
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|「どうなのタカオ」
|「え？ アタシに聞いてわかると思う？」
|「ですよねー……青葉君は？」|
|「なんでアイツが出てくるのよ」
|
| 貞山青葉はタカオの幼なじみである。
|
|「そもそもタカオさん、なんでそんなけったいな名前がついてるんだ？」
|「ペルソナの必殺技の名前は、出てきた時から『知って』んのよ……」
|
| ペルソナは、シグ達のように厳しい修行と鍛錬で手に入れた能力ではない。
| 不意に突然、降って湧いた能力である。
|
| 天龍やロビンのような戦士は、己の技術や型に伝来の名前を持っている。
| シグも同様に魔術に名前を持っているが、彼のような術師は少し話が変わる。
|
| なぜなら魔力を媒介に現実を捻じ曲げる魔術においては、系統同様に本人のイメージが重要だからである。
|
| 結果、同じ系統の呪術師でありながらも。
| 実はまじめで融通の利かない間桐慎二は『呪詛の弾丸』というベーシックな名称を好み、
| 毒の名前から攻撃イメージを掴むシグは『シアン』や『アシッド』などの名前をつけている。
|
|「そういえばペルソナも反転するの？」
|「します。影響を受けやすいぐらいですね」
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_______________
ィi〔:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i〕ト .
／:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i＼
_ノ:i:i:i:i|i:i:i＼:i:i:i:i:i:i:i:ｉ＼:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i∨ /
|i:i:i:i:i:iハ:i:i:i:ｉ「＼:i:i:i:i:i:i:i:＼:i:i:i:i:i:i:i:i:i: ∨
|i:i:i:i:i:| ∨i:i| ＼:i:i:i:i:i:i:i:〕ト ____:i:i:i{
|i:i:i:i:i:|＼│i:i| ／⌒丶‐＜:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i≧
|i:i:i:ｉ芥::ﾄ | i:i:〉ィ 芥ﾐ |＞ X く{¨¨¨i:i:i:i
|i:i:i:i:i||:::| Ｖ¨ |:::::| )|／i:i√ Ｖ:i:i:i:i:i 『プリニー』を突貫させるとすぐ爆発……。
|i:i:i:i:i|ﾋﾉ ヒﾂ |i:i:i:i:i| ﾉi:i:i:i:i:i 爆縮？ 爆発が潰れて焦げ跡が残っておしまいよ。
|i:i:i:i∧ ´ """ |i:i:i:i:i| イi:i:i:i:i:|:i:i
|i:i:i:i:i:i{＼ _ _ . ｲ:ｉ:i:i:i|/{i:i:i:i:i从i:i
∧i:i:i:i:i|_} 〕ト . イ√|i:i:i:i:i|ノﾆﾆ{___ノ{
_〉:i:i:i「ﾆﾆﾆﾆ人_ノ |i:i:i:「ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ
〉∧i:i:〉ﾆニく |irくﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ
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|「物質よりも魔力への影響力が強いということですか」
|「ワシらも危険じゃろうな」
|
| 魔力で肉体を構成するニャンコ先生ら悪魔は影響を受けやすかろう。
|
|「でもニャンコ先生がいてくれないと困るぜ」
|「たまには自力でなんとかせい」
|
| やらない夫は困ったように頬を掻いた。
| そんな二人の様子から最初に察したのはロビンで、次は天龍だった。
|
| 天龍ははやぶさを盗み見て優越感ににやりと笑う。
| この女、案外やらない夫と付き合いは長くない様子。
|
|「ボス、勝算があるのか？」
|「ギャンブルだがな。成功率は五割切る」
|
| Ｘが口笛を吹いた。
| 今この、硬直した状況で、五割近い勝算を叩き出せるのだ。
|
|「差し支えなければ教えてください」
|「ノンノン、お嬢さん。こういう時はストーリー的盛り上がりのために秘密にされるのが常道ですよ」
|
|「なんでＸまでアサギみたいなことを言ってるのか訳が分からんが、とりあえず秘密にする理由はどこにもないだろ。
| 知識や戦術の共有は基本だ」
|
| それどころか。
| ストーリー的には大昔のネタすぎて、そんなものを覚えている読者はおるまい。
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V:.:＼:.ド､ヾ_,ｫ彡__/ ／ ￣ ｀) _ ｀ f_)廴}
∨:.:.{｀-彡ヌ.ｰr1Yﾍ f⌒ / _,. -―￢ア/ {
. Ｖ:.:∨,ｲ{:O:}/ //}｜ r‐ } ／´ ノ}´ ,′ (_) ､_丿
. Y:.:.ゝ｀ニ´ /// ﾊ._, ｰ'_ノ ,.r‐'´ｰ'´ / __ {_ﾉ廴ﾉ
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ヾﾊ:.:ヽし(_){ f.) / ,.イ_,ノ ／ ,.--､ {__ﾉ /
ヾド≧ｰ､ | | ∠ ‐' ,. ´ ゝ._ノ_ {_/／
ﾄ､ ヽ く._ __,. '´ -'､ ,/廴.イ
,ハ ＼J(__)￣ (__) ア´
/ ＼ ヽ._廴r__Y(つ､__(__) ⊂_ア´ ￣｀＼
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|「名前だよ。縁を結んだ相手の真の名を呼ぶことで、ニャンコ先生はその相手を支配できる」
|
| 昔々の大昔。一幕ラストで『怪魚』と化した屈木頑之助相手に使った奥義である。
| そんなものもありましたねと思い出してくれる良い読者に恵まれて作者は感謝の極みであった。
|
|「何が問題なのさ」
|「相手の名前じゃよ。《ドッペル玄関》なのか、備府やらない子なのか」
|
| あるいは。
| ニャンコ先生の顔が意地悪に歪む。
|
|「やらない子ではないのですか？」
|「はやぶさちゃんみたいに、《ドッペル玄関》の支配を脱してるならそれでいいさ」
|
| 真名看破による魔術は極めつけに強力だ。
| だがそれ故に融通の利かない部分もあるのである。
|
|「主体が誰なのかです。あの肉体の主導権を握っているのが『滅ぼす者』であるのならば」
|「呼ぶべき名前は《ドッペル玄関》になると……確率五割では？」
|
| そもそも、あれが《ドッペル玄関》の暴走を乗り越えたやらない子なら特に問題はないのでは？
| 彼女を知らぬＸは首を傾げる。
|
|「暴走して能力をまき散らすだけの『滅ぼす者』やら、それを支配しただけのやらない子なら別に怖くもなんともないんだがな」
|
| と、やおらやらない夫がすべての前提を覆すようなことを言い出した。
| 目を剥く一同に対して、彼は不思議そうに言葉を続けた。
|
|「一番怖いのは、『滅ぼす者』を支配しつつも狂乱したままのやらない子だろ」
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| それはすなわち、どういう事なのか。
|
| 十六夜咲夜の《私でない月の私》が《フライミー・トゥザムーン・イザナワーズ》に変化したように。
| 糸川はやぶさの《楽園の子守歌》が《楽園の子守歌・つづき》に変化したように。
|
| あるいは蘇芳パヴリチェンコが《アトカタモナイノ国》を支配したように。
|
| やらない子が自力で『滅ぼす者』の支配を打ち破り、《ドッペル玄関》が、別の名称になっていた場合をやらない夫は懸念している。
| その場合、彼女の能力がどこへ向かい、何に至るのか想像もつかないからだ。
|
|「よし、10レス近くもウジウジ悩んだが……そろそろ動くか。
| やらない子の能力が即死系でないならとりあえずトライするだけの意味がある」
|
| 即死系ではない。
| しかし、まだ誰にも倒されていない。
|
| それはつまり、近づくことすら困難であるということに他ならないのだが。
|
|「じゃあタカオさん、頼むぜ」
|「……わかったわ」
|
| モデルのようなスレンダー美女はけだるげに髪をかき上げて、しかし好戦的に笑う。
| タカオのクラインフィールドが《ドッペル玄関》を無効化するのなら悩む必要なくあっさり終わる。
|
|「はやぶさちゃんて、もしかして飛べる？」
|「飛べますよ。人間を搭載して宇宙まで行けます」
|
| 人形のように無表情に、女子高生は機械的にうなずいた。
| ちなみに、肉体を溶かして記憶だけ搭載するなら百万人でも宇宙に運べる。
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| はやぶさの背後に光のレールが浮かぶ。
| やけに近未来的なデザインの銀河鉄道だが、これで宇宙にまで達せるというのは本当だろう。
|
|「上に人を乗せてホバリングは」
|「……それならばペルソナを使いましょう」
|「よし、天龍」
|「おう！」
|
| 拳を掌に打ち付け、眼帯の少女が犬歯を見せる。
| はやぶさへの敵愾心より、兵士としての命令を上に見れる。若さに似合わぬ冷静さだ。
|
|「はやぶさのペルソナに乗って上空へ行け。鉄塔より上」
|「……なんでだ？」
|「目がいい。勘もいい。そっちの主体はシグだ」
|「ぼく」
|
| 白髪の少年が、困ったように自分を指さした。
| その背中を、天龍がバシンと音高く叩く。
|
|「上空からあらんかぎりに魔力攻撃。墨目も一緒に行って、呪詛で鉄塔を包み込め」
|「魔力は容易く『反転』されるのでは？」
|
| 墨色の目のドブネズミが、シグの肩に上りながら尋ねる。
|
|「攻撃術や結界で『反転』の拡大を防げるかのテストでもある。行動の判断は天龍に任せる。危険を感じたらすぐ下がれ」
|「オーライ、ボス」
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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／￣￣＼
rヽ ／ ノ ＼ ＼
i ! | （●）（●） |
r;r‐r/ |. | （__人__） | ロビンとアサギは地上に残れ。
〈_L (｀ヽ .} | ｀ ⌒´ ﾉ ロビン、バトルマスターからライフルを用意してくれ。
l｀ （ ｀`/ . | }
ヽ l . ヽ }
|,. l /⌒ ー‐ ｨ ヽ
|lニニニニ三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三ニニニニ
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|「ヨロシイノデスカ」
|「当てるな、だが撃て」
|
| 機械の体を持つ青年は、四本の脚とスマートリンクにより極めて正確な狙撃を可能としている。
|
|「あたしは？」
|「ペルソナをどんどん突貫させてがんがん消耗してくれ。上と同じ。相手が飽和してくれるならそれでいい」
|「主人公が取るにしては地味な作戦ね」
|
| 主人公に固執する狂人は、しかし頷いた。
| 《ドッペル玄関》の『反転』に限界があるのか、飽和するまで試そうとしたことはなかった。
|
|「こっちのフォローはねずみ男に頼む。危なくなったら逃げるのは得意だろ？」
|「危なくなる前に逃げる主義でね」
|
| やらない夫の第三の使い魔。襤褸をまとった貧相な男がキシシと笑う。
|
|「それで、相変わらず私には命令なしですか？」
|
| 最後に、ベースボールキャップを目深にかぶった美少女が拗ねたように尋ねる。
|
|「オレ達がしくじったらやらない子を殺してくれ。
| 殺すだけならアンタに頼むのが一番楽なんだけど、可能なら殺したくはないからな」
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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. |////; |＼ :!" ノf汽Ⅵ: | ^∨ j ＼
. └─‐{V |-‐'＼| 弋jｯ' |: | ;) }:. / ∥ /,⌒ヽ
{ ∨ |ィf笊 |: |__ノ / /, ……！
! ∨ﾊ 乂ｿ /:: |: / ,:’ /,
|/ハ ｀ /'^}: /|∨ ／/ j
| 分 ⌒ ／-/ /:/-ミｈ､| / 八
| | |.:|＞‐=≦-_/／)/´-＼---∨ / /⌒ヽ
|/| ! ! |/::::::::::::/,:＼-_-_-_-_-＼-_∨ / .:'
| ! |/{::::::::::::::::/,:::::＼`''＜-_--＼_∨ ,'{
|从//::::::::::::::::::::}::::::::::::::::::〕-＼_-_-_} ∧!
| |::::::::::::::::::::/::::::::::::::::::〕---|＼-_}〉: | }
| |:::::::::::::::::::{:::::::::::::::::: 〕-_-_|:::::∨{∧＼
| |::::::::::::::::::八::::::::::::::::〕-_--!::::::/,{-∧ヽ＼
,' ,;:::::::::::::::Y⌒::::::::::::::/'-_-_/::::::::::}{-_∧ )从
{ ,;::::::::::::::::::!:::::::::::::::::/-_--/:::::::::: 八--∧
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|「しかしやらない夫兄さん、どうやってです……！？」
|
| 珍しく声を荒げるはやぶさを、やらない夫は不思議そうに見返した。
| 『滅ぼす者』は極めて強大で、それらを倒せるのは《ストレンジ・カメレオン》のような世界の守護者だけ。
|
| そう聞いていた。
|
|「あのなあはやぶさちゃん。プロに方法を聞いても答えてもらえないぜ。企業秘密だし、オレもいる」
|「そういう話ではなく……ッ」
|
| プロ？ はやぶさだけではなく、ほかの誰もが頭にクエスチョンマークを浮かべた。
| なんの？ なんのプロだって？
|
|「Ｘは『セイバー』だぞ？」
|「何を言って……？」
|
| そう『セイバー』。
|
| saber saver
| だがそれが『剣士』だなどと誰が言った？ 『救済者』でないなど誰が言った？
|
|「オレ達は入即ネウロに鍛えられた『世界救済者』だぜ？」
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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, ⌒ﾊ ﾊ⌒ 、
j:::::::::ヽ ,ﾍ^ ⌒ Ｙ ⌒ヽ/ .::::::::i
ﾉ:::::::::j（ﾉ ..::::....::::..:::: ::. .ヾ)':::::::::::i
ﾙ:::::ﾘγ::..:::::..:::...ﾍ、: : : :: ﾉy:::::::ﾘ
Yyﾉ ﾉ :ﾉ...:ﾉ ノ ヽ ::::::） ﾙﾘﾉ
ﾘ::::::( （ ●） (＜::（
. ﾊ::::ﾊ ,, r‐ｧ ﾘ） )＞x
） ) ）、 ￣ノくﾊＹ /
/ i ｀ ﾆ´,ノ /{ _'´＼
lヽj! __o｣7o {ﾉｒ｢ゝ-､ ￣）
／ | ￣ﾉ厂 ｢ゝﾆ7 厂~
|＼トﾄ､:） { ! ｀こ..イ
. /l ﾄ､ ｀ ヽ ﾉ
| ｊ / ヽー‐ - イ!
. ﾉ ∧ ﾉ＼ ヽ ハ
{ /:::::＼ ／|
. ξ｀ｊl／::::::::::::::`ー―一'.:::::::ヽ、
,二ヽ/::::/:::::l::::::::::l::::::::::l:::::::::ll::ヽ
／.:::::::}ﾄ､/l:::::::l::::::::::l:::::::::ll:::::::::ﾙｲｒ‐-.､
, ‐:'::::::::::::::::| ｀L::/l:_:_:_:l|:_:_:_:lL:／ ｊ:::::::::::::ｰ..､
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| 愛する兄が世界を救うものであるなら、自分は世界を破壊するものであろう。
| そう考えたかどうかはともかく、やらない子は鉄塔から静かに世界を侵していた。
|
| 吹きすさぶ木枯らしはすべてのエネルギーを『反転』させられ、やらない子の空間は『突風』⇔『無風』。
| 周辺には生ぬるい風と寒風がぶつかって異様な空気の渦が生まれていた。
|
| 《ドッペル玄関》は、ある意味で『世界救済者』である。
|
| クソ溜めよりも汚れきった世界を浄化する存在である。
| それはやらない子の歪んだ愛情を正すことに失敗し、そして今現在、彼女の心中に巻き込まれる形で暴れている。
|
| やらない子は、恋する乙女の直感でやらない夫の接近を感知していた。
|
| 彼女を動かすのは理性でも狂気でもないただひたすらの本能だけで。
| しかしその、女の本能が、すべての外敵を排除せんと猛っていた。
|
| やらない子が巻き起こした嵐のような風の渦を、旧式のプロペラ機が切り裂いた。
| はやぶさのペルソナ『キ43 一式戦闘機 隼』である！
|
| 顔を上げたやらない子が、すぐに視線を下げる。
| 顔めがけて飛来した弾丸が、空中で急速に速度エネルギーを『直進』⇔『停止』させられ落下した。
|
| やらない夫同様に、人間離れした視力と夜目を誇るやらない子は、少し離れた路上に設置された狙撃銃を見つける。
| キャノン砲を背負った人型ロボットめいたシルエット。しかし狙撃者の姿はない。|
|
| やらない子は再び顔を上げる。
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／￣￣￣｀ヽ
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ヽ､/ﾆ}ｭ : : : : : : : : / . : : : : : : : : : : : : : .:.:,'￣￣ lﾆﾆl=-.......＿__/__／. : : : : .:/
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|ヽit : : : : : :〈: : : : : : : : : : : : : : : : : : ,'. : : : : : : : : : : : : : : : :}_}ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆｿ
| |!､二フ二二二二二ﾆﾆ二二二二＞-― ''´￣￣￣￣￣/. : : : ／
. | ! /. : : : : : : : : : : : : : :,..-''´ {＿_／
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／ . : : : : : : : : :.:,.-'´
／ . : : : : : : :.:.:,.-'´
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| 空気を引き裂くプロペラとエンジンの轟音。
| 銀ねず色の機体が竜巻めいた渦などものともせずに弧を描き、月や星を瞬かせる。
|
| その操縦桿を握る女の思いつめた眼光が、やらない子の虚ろな視線と交差する。
| 後部席にギュウギュウに押し込められた男女。知らない顔。
|
| ……突如、黒く濁った煙が無風空間に発生した。
| だがすぐに『汚染』⇔『清浄』な空気と成り果て拡散する。
|
| ……それが一瞬ならばやらない子は何もしなかったであろう。
| だが、空中に見えない発煙筒でもあるかのように、戦闘機の後を追う様に次々と煙が発生する。
|
| ……プロペラ機そのものは無風空間には侵入しない。
| 吹き荒ぶ嵐は、『感染』していないと見切っているのか。
|
| 乱暴に見えて精密無比に、無風地帯を避けて飛ぶ。
| そして煙。煙煙。
|
| やらない子が口を開くと同時に下からは新たな弾丸。『直進』⇔『停止』届かず落ちる。
| 視線を周囲に走らせ、やはり戦闘機を見上げるやらない子。
|
| コートのポケットに手を突っ込むと同時に……爆音。
|
| 下を見ると、鉄塔の足元目指して無数の、十や二十ではきかぬ大群をなしたぬいぐるみが押し寄せていた。
| 不格好なペンギンのぬいぐるみは、『反転』すると同時に爆発。
|
| しかし衝撃は広がらずにギュッと潰れて塵と化す。
| 無意味で無益なレミングスの行進。
|
| どれもこれもやらない子を傷つけられるものではない。
|
|
| だが、癪に障った。
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|三三三三三三三三三三三＿7 /〈 〈＿_ ./ /７｜./ ∧＼ ./ /＿_〈 〈＿_ / ∧＼ 〈〈 / / 〈〈.∧∨,/三三三三三三三三三
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, -‐―= ¨ ｀ …ｘ
／ ｀ヽ
_,ｚr≠ ＼ ｀へ､
￣ ´ / 、 ! i メ
/ ,´ iX | | ＼
/ /! ! ＿x | .Xー-| | 入 ヽ、
/./ ,' x 「 /｀＼. |´,≦=ｘ! ! / /Xー―ゝ
l/ | .| | x,ｨ=≧.ヾ j fz::::i! ﾉ ｘ,､ﾊ / ',
. | | || l/i f- .!｀ ｀ ゞｼﾞ! ﾑ ,iﾉ,∧ |
. i |/ ', i . ｀ ´ ﾚ〃 .,i / ヽ | ううぅう……く、くるしい。
j i ゝ, ｀ u ./ /'´ ゝ!
i| / ヽ、 r‐っ / /
!! / ｀ -,ー イ /-＝-x
l' z-―‐ー-´ー-/ / ｀ ､::::::ヽ,
ｌ.ヽ ! / ｌ::::: ::|
.＿_＿_ .ヽ| ヽ,! |:::: ::!.
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|;;;;;メ´ ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;｀;;|ﾍ､、 ヽ !:::::|
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|「うるせえ！ 諦めろ！ あんまり動くな！！」
|
| 狭い座席に押し込められた中学生たちが身をよじる。
| 中学生にしては小柄なシグではあるが、超中学生級のおっぱ……発育の天龍のせいでギュウギュウだ。
|
| 『隼』は上面を内側に向けて飛んでいる。
| シグは真上を見上げ、両腕を自由にさせる必要があった。
|
| 結果天龍が後ろから抱きすくめる形で落ち着いたのだが、あれこれ試行錯誤した結果。
| その豊満な発育は後頭部に押し付けられ潰れていた。
|
|「暴れないで、操縦の邪魔です」
|「悪かったよ！」
|
| 乱気流にも惑わされずに、極力機体を暴れさせないはやぶさの腕を褒めるべきか。
| はたまたペルソナ能力を褒めるべきかはともかく、その操縦は神経をすり減らしている様子だった。
|
|「下で爆発も始まりましたわ」
|「アサギさんか……しかし、煙の総量に変化は見えないな」
|
| ねずみ状態のままコクピットのガラスに張り付き、冥府の瘴気をまき散らす墨目。
| そしてあまり害のない代わりに魔力消費も少ない噴煙を作り出すシグ。
|
| 『反転』したものは『感染』するという。
| だが、燃料を投下し続けても無風地帯の広さにも、煙の総量も増減しない。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
|三三三三三三三三三三三＿7 /〈 〈＿_ ./ /７｜./ ∧＼ ./ /＿_〈 〈＿_ / ∧＼ 〈〈 / / 〈〈.∧∨,/三三三三三三三三三
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___ | Vヽ /l ./ |
／´ !v VV ﾚ ﾚァ
＿_／/ l lヽ /! レ､＿ 続けましょう。
. ／ / | .r､| L,､∧/ .| ∠, 相手の出方を待ち、サマナーの攻撃を待つのです。
. / ,' ヽﾉV ﾚ'レ‐ｧ ／
l ＿__」 | ＼__rvく＿ﾉV__く'
| / ＿ _ノ L ／ ヽ
.V （ ＞､＿___ノ! |
＼ ＿__/ .ヽ ｲ
￣￣￣| l ' /＿＿___ノ７ｭ'／
ヽ ハ__／ ￣
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|「あ！ 動いたぞ！！」
|
| 『隼』を目で追い続けていたやらない子が、コートのポケットに手を突っ込むとやあおら何かをばらまいた。
| 飴玉サイズのそれらは重力に引かれ落下。遠すぎて何を落としたのかも判別つかない。
|
|「……下に攻撃したのか？」
|「煙でよく見えませんね」
|
| 敵愾心より戦闘時の連帯感が勝るのか、仲良く目を凝らす天龍とはやぶさ。
| その間にもやらない子は次々放り投げる。
|
|「逆です！ 『反転』しました！！」
|
| だがその二人よりも目に自信のある墨目が、誰よりも早く『攻撃』を察知した。
| 重力加速による『落下』⇔『上昇』させられた石……碁石が高速でコクピットに突き刺さる。
|
| 信じられないほど正確に、狙いすました射撃。
|
|「そんな！！？」
|
| 悲鳴を上げるシグ。その小さな体を自分の肉体を盾にして守ろうとする天龍。
| 碁石の弾丸はしかし、ガラスを砕けるほどの破壊力はなかった。無数のひびを作るにとどまった。
|
|「『反転』します！！」
|
| はやぶさの狼狽。ガラスのアーチが『∩』⇔『∪』に歪曲し弾けた。
| 『感染』した碁石によってガラスが『反転』して、急激な形状変化に耐えきれなかったのだ。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
|三三三三三三三三三三三＿7 /〈 〈＿_ ./ /７｜./ ∧＼ ./ /＿_〈 〈＿_ / ∧＼ 〈〈 / / 〈〈.∧∨,/三三三三三三三三三
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{ ﾚ´ｒｚ≦ニーミヽ
＿ゝ-ｭ､ ´￣⌒ヽ､
z'-ィ≦ヾ/ム ー､ヾ ＼
,,ィ≦ニ=‐´￣ ﾏ/ﾑ ﾊ ヽ､＿
r'/////ム 彳⌒ﾐｧ/ﾑ ヽ ＼
|///////ﾑ ゞ‐ ｨ＾!//}⌒ ￣ｱ､ ダメです！
∨///////ヽ. ´u ｊト/ｊ ｒ了 / 軌道を保って！！
｀マ///////ﾊ ｒ-〈 ﾉ' ﾊ￣ ヽ
｀ー＝ニ彡7Y { ＼ ＼
ｒ'ｰ≧=､ ヽ. / ｲ } ヽ ヾ､
/´ ,ィ､} レ'ﾍ_八 〉. ﾊゝ､
,,ィヾｭ.＿＿ ﾏ/≧ｭ ィ }ｌ ハ_ j,,ィ
ｒ=＜ ノ≦=////r'/////77ｭ_､ﾘz≦/////
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ﾏ⌒ヽ イ }/////ﾑ { , ィ´＞´ Y ｀メ. ﾉ!ｆｶ
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| もう遅い。
| 慌てて回避運動に入った『隼』のコクピットめがけ、次なる碁石の対空射撃。
|
| 『やらない夫なら回避運動を予想する』。
|
| そんな墨目による謎の信頼感の通り。
| いや、より正確に言うならば、やらない夫よりも空間把握と行動予測に優れたやらない子は、確実に当てる。
|
| ネズミと人間の中間に位置する獣人に変身した墨目が、体を使って三人を守る。
| 六個の碁石がその背中に命中。
|
| 鬣と皮鎧に阻まれ二個は落下するも、残りの四個が墨目の肉体に食いついた。
|
|「ぐぐっ」
|「墨目！」
|
| 傷口が花のように開き、血管や筋肉を引きちぎりながら広がる。
| 『反転』によるダメージ……だが、問題はこれで終わらないということ。
|
|「あうっ」
|
| 墨目の膝が、操縦桿を握り姿勢制御をしようとしたはやぶさの動きを止める。
| きりもみになって落下する『隼』。
|
| その横を……姿勢を制御できていたら通過していた空中を碁石がビュンビュンと通り抜ける。
| 青ざめるはやぶさ。虚ろな目で見上げるやらない子を見る。
|
| その両目に知性の光はない。
| しかし神がかった先読みにはわずかな暇疵もありはしない。
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／:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:＼:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ヽ
/:.:.:.:.:.:.:.:ﾊ:.:.:.:.:.ﾑ:.:.:.ヽ:.:.:.:.｀:.､:.:.:.:.:.､:.:.:.ﾊ
. 〈:.:.:.:.:.:.:.:.／∨:.:.:{.＼:.:ヾ､:.:,,.X:i＝=､ﾊ:.:.:.:i
}:.:.:.:.:.:.:,' ∨:.:ﾍ ＼Xﾍ､:.:.:ﾄ､:.:.,.|:ヽ:.:..!
ﾊ:,:.:.:.:.｀i`ヽ､ ∨:.ﾊ ／ ヾ､_ヾ:l＞＜!:.:＼i
./:./|:.:.:.:.:.i ,f‐､ﾞ∨:.ﾊ ,.イじヽ;lﾞ!:.:.:.:.:,ﾍ｀`:.|
/ノ {:.:i:.:.:ﾊ ! {じ:ﾐ ＼ﾄ､ 辷Zｿ !:.:.:.:.|ノ:.:!:.ﾊ げ、撃墜されてる！？
,|:.:',:.:.:.:.} 弋ｚﾘ ｀¨´/:.:.:.:.:!:.:./!:ﾄ,l
／:〉､:}:.:.:.ﾊ ' ＿ u /:.:.:.:.:/i:人ﾚ' ｀
,/／/:.:.l:.:.:.l:.:.ﾄ、 {´ ヽ /:.:.:.:〃"´＾'"´¨ｰｚ
ﾚ’ ,{/!:.|:.:.:i:.,:.:.:.:.＞-｀二´ ,ﾗ:,.≦三＝ｒ､ﾆ,.､／},}
′!:.!:.:.i' |:.:./ヾ/1:.:.{、 /:i' ｒ!｀´ﾞ ,r-､__＞⌒ヽ
__,.r≦Ⅵ:.:.! レ′,､,〃ﾝ｀Y:.:{､ < ノ （ ノｧ
.￣´ ∨:.| ﾞ＾"´ 〃 ／{', :〉‐'--＜ ｀￣７＜}
Ⅵヽ ／｀￣￣´!ヾiゝ、 } ヽ ｀ｰ ､
｀`i' ヽヽ. ﾞｒー" ｀ー ､__ i⌒:､― '
__,.．/∧ ＼＼｀ﾞ1,.ﾍ,.､､,.､, i ﾞﾄ、 ＼
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／／／ ﾊ ヽヽ ｀´ ＼
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| 鉄塔周辺の錠前を巨大な工具で挟み切り、ペルソナを次々突入させながらアサギは呻いた。
| 相手がやらない子……ルール無用の戦闘マシーンなのは知っていたが、戦闘機を容易く撃ち落とすなんて想定できない。
|
|「……待てよ？」
|
| 『隼』が墜ちたなら次は自分か？
| 決定的に嫌な予感に打ち震えながらも、アサギは同時にある可能性に目を向けた。
|
|「やらない子アイツ……『主人公の敵』か？」
|
| 狂人の戯言！ 本人にしか理解できぬその言葉。
| だが彼女の中では均整の取れ、脈絡ある確信に他ならない。
|
|「対応する『主人公』がやらない夫さんならいいけど……可能性は低いかもね」
|
| 雪崩のように呼び出されたペルソナが、イナゴのように鉄塔に群がる。
| しかし、すべて辿り着く前に爆発して果てていく。
|
| これは無駄だ。アサギは確信した。
|
|「やらない子の『主人公』がやらない夫さんであるには必然性が足りない。
| 今日まで、あたしらが出会ってなかった時点で、何かおかしい」
|
| メタ視線で状況を見下ろすと、やらない子がペルソナを得てから数か月。
| その間一度も、やらない夫もまた別の異能を得ていたという伏線すら張られずに来た。
|
| であるならば。
|
|「あー、負けるなコレ」
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}ヽ ／}
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ｊ ∧__ ﾄ､_,ィ ,ｨ ／ /
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.′ ヽ┴ }!/ / /
､ ｀ｉ __ / /
Y´ ｀ヽ、 / . /
___ ト､ ,ｨ===- ､＼ / /
'´ﾆﾆ厶 ハ `くﾆ○ﾆﾆﾆﾆ､} / /
ﾆﾆﾆﾆﾆﾑ ／ ∨ ∧-=ﾆﾆﾆﾆ .ｉ／￣./ /
ﾆ ／￣ﾏム ／ ∨ ∧ ｀ ---┘、 / / `
／ }ﾆﾑ、_ ／ ∨ ∧ .`./ / }
／_／ ∨ ∧ ／￣/ / /
.. ／￣ ∨ ∧ { {:::::/ /、／
..／ ∨ ∧ ､`/ / }
{ ∨ ∧ ./ / }
∨ .∨ / ./ ｉ
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| 赤外線により暗視効果を備えたロビンのモノアイは、撃墜される『隼』を克明に捉えていた。
| 彼の目には、無情にも解消される墨目の肉体と、わめきながら不時着のためにシグを抱える天龍が映る。
|
| しかし、肝心の攻撃方法が分からない。
| 逃げるべきか……あるいは。
|
|「爆弾の嬢ちゃんがやられるまでは安心していいぜ」
|
| 少し離れたバトルマスター（自動車）の陰に隠れてキセルを咥えたねずみ男が煙を吹いた。
|
|「こっちには時々視線を向けちゃいるが、あんまし興味ねーみたいだ」
|「ナゼ デショウ」
|
| よっこらせっと腰を上げ、ねずみ男がぶらぶら歩く。
| その気配を感じながら、ロビンは惰性に弾丸を発射。これが届かなくとも、やらない夫たち援護になるのならと。
|
|「野郎、お前さんをただの武器だと思ってやがる。狙撃手は別にいるってね」
|「ナルホド」
|
| それでさっきから、ねずみ男はやたらと歩き回っているのだ。
| やらない子がこちらに視線を向けた時に、動く何者かの存在を知らしめるために。
|
|「しっかし、あんなのどうにかできんのかね？」
|「大丈夫デス」
|
| 根拠のない言葉は、ロビンが自分自身に言い聞かせているかのように空虚に響いた。
|
|「大丈夫……大丈夫デス」
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..:.:.:.:.:.:.:.:､:.:.:`:..､
／:.:.:.:ﾄ､:.:.: ミ!:.:､:.:.＼／￣￣ ｀＞----ﾐ
/:.://:.ｲ:},＞--i:.:.:.l:.:.:.:.:≧====彡 ´￣￣｀
ｲ:.:.:ｌ//ﾒ/ 似ﾌ'l:.:.:.Ⅵ:.:.:. ＼ﾄ､__ﾒ. `ﾄ . ／
|:.:.:ll心/! |:.:.:.:i:∨ :.:.:.: ＼___ _ﾉ:.:／
|:.:.:| ﾚ ＿ |:.:.:.:ｌ:.:∨:.:.:.:.:.:.:.＼:.／
|:.:.:|∧ V__） . |:.:.:.:l:.:. }:.:.:.:.:.:.:.:.:／ ／ ……本当に防げてるみたいね。
|:.:.:|:ヽl＞ ＿ ｨ|:.:.:.:l:.:.厶ヘ‐ ´ ／、
|:.:.:|⌒r仆ﾐ:.ｌZZ|:.:.:.:.Ｖ-ｲ 1 ／:.:.:.:.＼
/|:.:.:l ん＼ー┴─ﾐⅥ}} 小 ／:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.＼
|:.:八 }ミ､ ＼.l￣ヽ∧人 ﾘ:く:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:
/ l:.:.:.: ∨ 7＿ﾄ､l!:.:.:.:.:.:.:.v=ﾐｰ≧:.:.:､:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:
/ Ｖ:.:.:∧彳 ⌒'|:.:.:.:.:.ｉ:.∧ }＼:i＼:.:.:.:.:.:.:.:.:.
/ ∧:.:.:.:∧ |:.:.:.:.:.l:.:.:∧ 从:.:＼ 丶:.:.:.:.:.:.
/ / ∨:.:.∧ ､:.:.:.:.ｌ!:.:.:.∧ /:.:.:丶:.:.＼ ＼:.:.:.
./ / ∨:.:.∧ ヽ:.:.ｌﾄ :.:.:.∧:.:.:.:.:.:.＼:.: ＼ ＼
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| ヒゲ槍で作った足場を上り、無風状態の空間内部に侵入。
| 先導はタカオ。一歩後ろをやらない夫。
|
|「このまま上るわよ。高いところは大丈夫ね？」
|「任せろ、落ちてきたら受け止めてやる」
|
| 太い鉄骨を幾何学的に組み合わせた鉄塔は、建設途中とはいえ頑丈で安定感がある。
| しかし、その根元から見上げた姿は白骨化した樹木のようで、いかにも頼りなく見えた。
|
| 鉄塔は中心部に上るための梯子が設置されていた。
| 細い梯子をひたすら10メートル以上登らねばならない。
|
| タカオは眉をひそめて長い髪を撫でつけた。
|
|「髪ゴムいるか？」
|「あんた、髪の毛無いのに何で持ってんの？」
|
| とりあえず受け取り、髪の毛をまとめて気合を入れるタカオ。
| 梯子を目指すべく鉄骨を潜る。
|
|「痛ッ」
|
| 静電気にでもやられたかのように、あるいは鉄骨が焼けていたとでもいうように。
| 弾かれたように触れた手を離すタカオ、糸引く血液。
|
| 右手の人差し指と中指の皮がめくれ、爪が剥がれかけていた。
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,, -‐ ､
/' ヽ
／￣￣＼ ./ i
／ ._ノ ヽ､＼ / ...........i
| （●）（●） | / ..:::::::::::::::|
| （__人__） | / ..::::::::::::::::::l
.| ｀ ⌒´ .} ./ ..::::::::::::::::::::! ……肉体の接触はダメなのか。
| }/ .::::::::::::::::::::/
ヽ ./ .:::::::::::::::::::/
.ヽ . .／ .:::::::::::::::::::/
,. ‐'"´ `'‐,r''"~ .:::::::::::::::::／
..:.／,. -‐‐- ､ l′ ..:::::::::::::／|
:,' ／ !.:::::::／:i..:..l
r ､ / !::::::::::: i..:..i
l .......`:i i !:::::::::: ﾞ､:.i
! ::::::::::/ i i:::::::::: ヽ:i
.! ::::::::/ i .....i::::::::::: ヽ
.ヽ ::::::| `､ `､ .....::::::::::::l:::::::::::: `,
/ ＼:::l. `､ ヽ::::::::::::::::::::l::::::::::: /'''ー─----､
`ヽ `､ .::::＼:::::::::::::::|::::::::: /,, ,. ‐;''
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| 肉体方少し離れた場所に『障壁』を作るクラインフィールドでは空気『感染』は防げても、鉄骨からの『感染』は防げない。
| タカオは眉をしかめて傷ついた指を押さえた。
|
| これでは先に進めない。
|
|「まあいいさ、どうせ梯子を上るのは面倒だっただろ」
|
| ポケットから取り出したくしゃくしゃのハンカチでタカオの傷を縛る。
| 嫌そうな女子高生の細い腰を、やらない夫は無造作に抱き寄せた。
|
|「キャッ、なにすんのよ！！？」
|「暴れんな、防御頼むぜ。あと舌噛むなよ」
|
| 突然のお姫様抱っこにタカオが赤くなったり赤くなったりしている間に、やらない夫はヒゲ槍を展開。
| 脚部に集中した潰れたボールみたいなヒゲ槍が、鉄塔に触れると勢いよく『反転』。
|
| 『圧縮』⇔『膨張』。
| つまり、膨らんで、やらない夫とタカオを跳ね上げた。
|
|「ええッ！？」
|
| 三歩で10メートル以上跳ね上がる。
| 地下駐車場の闘いで、やらない夫の猿のような身軽さを見ていたが……ここまでは想定外だった。
|
| そしてそれは、鉄塔の上に立つ存在にも同じこと。
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／¨ヽ
/ ヽ‐- ._ ___
_. -‐ ' _}:.:.:.:.:.:.:.:.｀ヽ ｀ヽ
__ ／:.:.:.:.:.:.:.:! ヽ:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:＼}
| ヽ／. : :.:.:.:.:.:.:,' ___ ' ヽ:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ヽ 《 ド ッ ペ ル 玄 関 》
l : : : : :.:.:.:.:. ' ,ｲ::ヽ ヽ '_ ',:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.',
', / ` ‐- ' ´ { ﾚ' ⌒` __ !'´ ｀ヾ}
V､ ,ィ:r 、 ' } ＞'´
{､ { ﾚ'‐ ､ , , _.ﾉ__ , '´
', ｰ_´ ､_ノｰ '´ ／ _.ゝ'"
､ _, _{ {_ ／
ヽ _.z≦彡"
｀ ｧ-‐-､z==彡''"´
{ ) ,)＞'´
＞‐'´
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| 突如眼前に現れたやらない夫。
| その左目が血を吹き、ニャンコ先生を召喚する。
|
| どんな反応も対処もする間もなく、『滅ぼす者』はその名を縛られた。
| 真名を握られた者にとって、ニャンコ先生は天敵となりうる。
|
| 『意味伝達』で相手の存在から情報を取り出す《ストレンジ・カメレオン》と組めれば、実質無敵。
|
| バチンと、金属が歪む異音と共に鉄塔が『表返る』。
| 突然空気の流れが元に戻り、穴に水が流れ込むように突風の渦が押し寄せた。
|
|「やった！！」
|
| やらない夫の首に腕を巻き付けて、タカオが歓声を上げる。
| 誰が彼女を責められる？ 突然の飛翔、不安定なお姫様抱っこ。
|
| 掴めるものなら藁でもすがっただろう。
| ただ、そこにやらない夫がいたからしがみついただけ。
|
| 誰がそれを責められる？
|
| 《ドッペル玄関》の支配の逃れ、夢うつつで兄との心中を夢見ていた少女が。
| 最初に目にしたものが、その愛する男と熱烈に抱き合った女だった。
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／ ﾊ⌒ 、
／／:ヽ ,ﾍ^ ⌒ Ｙ ⌒ヽ/ .::::::::i
／／／:::j（ﾉ ..::::....::::..:::: ::(⌒＼:::::::i
／//ﾙ:::::ﾘγ::..:::::..:::...ﾍ、: : ＼ ヽ:::ﾘ
( ( Yyﾉ（::. ::.ﾉ ノ 三 ヽ､ヾ::::＼＼ ＼
＼ ＼ ヽ:::( （⑪） （⑪） ):::::ﾉ(＼ヽ てめえ！ そこから！！
＼ ＼ ﾘ（i ,-_-ｭ iｨ）)｀） ＼ヽ
＼ ＼.）ﾊゝ `┴ ' ﾘ） )ﾉ ﾉ ＼
＼ ヽ::ぃ＞ ＜＿／ ／
/ ／ ￣￣￣￣ヽ
／/ / ￣￣￣￣) )
／ ( ⌒￣￣￣ヽ ﾉノ／
＿／ ／ `ー―――､ ) ﾉ／
ー＝二三 _＿ノ ﾉノ／ ／
ﾉ／
／
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| 異能を持たないやらない子であれば、何をどうやってもクラインフィールドを貫けない。
|
| だが、風に煽られよろける彼女を助けるべく、タカオはクラインフィールドを展開し。
| 同時に封じられた《ドッペル玄関》を異様な速度で理解したやらない子が。
|
|「ペルッ！！」
|
| 即座に支配した《ドッペル玄関》を用いて。
|
|「ソッッッ！！！！」
|
| 己の化身。アフロのもつすべてを包み込むような『慈愛』と『母性』を。
|
|「ナぁぁアァァッッッッッッッッ！！！！！！」
|
| ⇔『非許容』『憎悪』
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| そして生まれたものは、光すら捻じ曲げ押しつぶす。
| 暗黒のブラックホール。
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☆ 次回予告！
愛、平穏、安寧、満足。
そんなものはすべて、届かぬ目標のことなど忘れて
自分を慰めるための道具にすぎない。
欲望も野心も捨て、上った梯子の高さを忘れ、積んだ屍の山から目を背ける。
言い訳。欺瞞。負け犬の遠吠え。
ずっと、そうだと思っていた。
ずっと、それらを嗤ってきた。
植物のような平穏に出会うまでは。
次回『デッドマンズＱ』
果てに見るのは破滅か死か。
やらない夫じゃなければやらない子の主人公は誰なんだ……？
相対者がやらたらながい夫じゃないんじゃ、誰なら相手になるんだ？
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| 渡された新幹線のチケットが自由席だったので、男は追加料金を払って指定席を取った。
| 待ちに待った、数か月ぶりの帰還。
|
| 男は心穏やかに、車窓からの風景を楽しむべく窓側の席を取る。
| 新幹線の旅は短い時間ではない。
|
| 男は隣の席も予約した。
|
| これでゆったりと、穏やかな時間が取れる。
| 家に帰り着くのは深夜になるが、それでも待ちに待った帰還だ。
|
| 一刻も早く辿り着きたい。
| 逸る心をホットコーヒーを買って落ち着けて、男は小さなスーツケースを引いて新幹線に乗り込んだ。
|
|「……」
|
| 座席番号は暗記していた。
| それでも自分の記憶違いの可能性を考えて、男は財布からチケットを抜き出す。
|
| 電車の時間も正しい。車両も正しい。席番号も正しい。
| 間違いなく自分の席だ。
|
| なのにそこには、一人の女が悠然と座っていた。
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,.ィ':¨:￣:丶、
／----- ､: : : :ヽ
/_:´:￣:¨:ﾆ:ヽ＼: : : ',
i ｀ｰ''"´￣¨i: ＼!: : ﾊ
l_ ___ ! : : : : : ヽ
l_ヽ '´_ ﾊ_,.ﾍ: : : : : ＼
i_ｆiｯ 〈 ｔﾘﾌ ｒｊ !: : : : : : :｀> あらあら、座ったら？
/〉 ｉ'. 〈 ￣ !‐': : : : : : ／ 君の席でしょ、『吉良吉影』さん。
,'/ ハ ｆ_フ / !: : : : :＞'
. ,.、 //〉 ｀ヽ＼ __ ,.イ / l¨ ￣
,.ﾄ､）i´ { ,.l--､__,ﾊ、
}ヽ.) 〉 ,.イ＾｀¨￣ 入
. (_ヽﾉヽ/ / .〉ヽ -┬‐'",.-＼
ｉ｀ _l ／´ ｡ﾉ＼__/ //＾Ｌ ',
. ! l. ,' ./ l/l､/ ）、
. l ! 入 ｡/ ノ l.ﾉ ｿ､/!
ｌ ｌ/ |ヽト､ と´ィヽし'ノ ,ﾊ
. ｌ / ｌ }: :.＼_ _,ノ l 〈/ l
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| 馴れ馴れしい口ぶりで、通路側の席を示す女。
| 男……吉良吉影と呼ばれた『狂死』はゆっくりと周囲を見回した。
|
| 周辺の客の年齢層はバラバラだが、子供の姿はない。
| そして、多くがサラリーマンらしくドブネズミ色のスーツを着ている。
|
| ノートパソコンを叩いて、寸暇を惜しんで仕事をしている輩も見受けられる。
| 会話は周囲への配慮か、ぼそぼそとしたものばかりだ。
|
| よく通る声でべらべらとしゃべる女に注目するものもない。
| それはおかしい。『狂死』は速やかに判断し、嘆息して席に着いた。
|
|（今日は女の姿か、幻覚め）
|
|「ヨーロッパでは『帰郷者』というストーリージャンルが存在するのは知っているだろう？
| 太平洋戦争で捕虜になりシベリアに送られ大陸に取り残された日本人にも馴染めそうな話だよね」
|
| 『狂死』の思考を知ってか知らずか、女はべらべらと無関係のことをしゃべる。
| しかも、その内容は先日『狂死』自身が読んだ本そのままだ。
|
| 薄っぺらいことこの上ない。
|
|「そしてあなたは今ちょうど『帰郷者』ね。トロイアでの激戦を終えたが、
| 大魔女やらニンフに取っ捕まって10年近く帰れなかったユリシーズよろしく、半年も東京で無為な時間を過ごしていた」
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ノ::::::l::／/::/7フ
Vレ┐::::二ﾌ::::ｧｱ
/! ´￣ 〕::::::/:ノ）
ｒ' ｔ:ト≦ <:::::::/::::/７ ……。
/､ , ﾐr┴ｒ':::ァ
ト ／ r┴リ＜
｀ｰ-- ＜／￣＿_|＿__
ｘ‐┴─＜￣ ＼＼
/ ヽ ＼ ', ヽ＿
|､ ノ }ﾍ__ ', ∧
_レ! ｀ｰ､ / / ', ∧ ｎ
| / ｢ヽ.__l/ ／ ＿＿ ', ∧ _ |_「ｈ
| 〉 ｌ ﾉ /::'´￣＿ i |＼. │}_ノ 〉ﾉ,l/.〉
/ ./ l /:::／￣__ ｀ l ヽ-|､ ＼ ＼＿ /
| / ' |::::::ヽ ＼__ ! | ＼ ヽ._,ノ ￣＼ﾉ
l／ ..:::´|｀ヽ::::＼ ヽ l /＼ ｰ ノ＾o '
/ ´⌒ヽ! ＼ : : : /＼ o／
〈 . : /::＼ ヽ . :l: : : |. ｀ヽ.＿_／
/ :、 .:::::/: : : : l＼ ＼. . : l : : :ﾄ､
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|「麗しのペネロペは君の帰りを待っていてくれると思う？
| 一人寝の寂しさに耐えきれずに男を咥え込んでいるかもしれないわ？」
|
| 女……その正体が何者なのか『狂死』は知らない。
| だが、『狂死』が死んだときから彼に付きまとう、彼にしか見えない存在だということは確かだ。
|
| その幻覚は『狂死』を嘲り、疑問を投げ、思い悩ませる。
| 今回は、家に残してきた『妻』の問題だ。
|
|「そもそもアンタは、ユリシーズじゃあない。
| どちらかというと、不貞行為を責められて打ち殺されるべき間男ね」
|
| 『狂死』の思考を先回りして幻影が嗤う。
| その通り。彼の帰りたい家には、彼の居場所はない。
|
| なぜならその家は『狂死』の家ではないのだから。
| なぜならその妻は『狂死』の妻ではないのだから。
|
|「君には彼女がナニをしていても責めるいわれはない。
| だってそうでしょ？ アンタは彼女の夫ではないし、そして何より、彼女を抱いてすらいないじゃない」
|
| 黙れ。
|
| 『狂死』は念じるも、無意味な願いだ。
| それで消えてくれるほど、幻影は親切な存在ではない。
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f⌒ー─ ､__
. ／⌒ヽ＼＼＼＼
／__￣ヽ }＼＼＼＼＼
___ﾉ {_fタ ﾉl＼＼＼＼ヽﾟ｡ アンタは愚かな男よ。
_}｀ :.:.:.:.:.:.:. ｀ヽ__＼＼＼＼}
_) ﾉﾌ ﾉ}|ﾊ ＼ヽ| ユリシーズの皮をかぶった偽者なのに、
>‐ ／⌒丁//l|ｌ} }ili{ その家族からの愛を求めている。
ゝ _ ／//ﾉﾉﾉ ﾉﾉl|
ノﾉ≧i イｌ///{ / {lilili|
￣￣｀}_／二二}ﾊ|l/// l|liｌ八
(_)´ {⌒⌒⌒ ー一
_} ／´￣｀ヽ
/´／／⌒ヽヽlﾟ｡
/,ｲ// ∨ｌi}
／ { }lili|
/ /￣￣￣///
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|「だがそもそも、帰還したユリシーズも本物だったのかしらね？」
|
| 想定外の展開。
| 『狂死』は女の幻影をまじまじと見た。
|
| そいつはいたずらっぽい表情で、頬杖をついて『狂死』を流し見。
|
|「ユリシーズは妻に群がり己の財産を食い散らかす求婚者どもを皆殺しにして、
| 妻の貞淑さを見届けた後に、再び旅に出てしまう……彼が本当に彼ならば、そいつはちょっとばかり身勝手や過ぎない？
|
| 求婚者どもを皆殺しにするのもおかしくはない？
| 最初から再び旅立つことを前提に、後顧の憂いをなくしたのではないの？」
|
|（何が言いたい）
|
| 幻影の女が嗤う。
| こいつの言葉は『狂死』の記憶と思考から汲み上げられる断片のはずだ。
|
| なのになぜ、今ここでは『狂死』の想像できないことを口にする？
|
|「生き残ったのがユリシーズではなく別の男で、帰郷してからの冒険は偉大なる王への慰霊だったのではと言っているの。
| ユリシーズの財産を守り、妻を守り、子孫を守るためだけに戻ってきた偽者の男。
|
| 求婚者たちを殺し、彼らと違うことを示すためにまた旅に出てしまった。
| 麗しのペーネロペーに手を出さなかった。当然の報酬すら貰わずに去った男」
|
|（おもしろい解釈だ。小説家になれるんじゃないのか）
|
| 『狂死』の皮肉に、幻影は微笑む。
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＿_.. - ‐- ､ ＿
ｒ'´-‐- ｀`‐､｀ヽ､ヽ ） }ヽ
／‐ 二 _｀ヽ＼｀ヽヽ} ｝ノ ﾉ }ヽ
. / ／／ ,ｒ-､＼＼ヽ }ﾉノ ／ノ ﾉ ｝
/ ／ ∠二//二二二二`._＜-=〈
. / / ／ ,≧/ムヾミ､∨/〃/ﾉＺヽヽ',
. ｌ / / /ｆ´ ｌ l ｀ｉヽヽ l
. l l / / ｉ. ｌ l iヽヽ | アンタのことでしょ、吉良吉影。
l ｌ / / /i,r/ﾉ=､､ ,ｒ=＝=､iヽヽ |
ﾉ / ｒ‐､/ﾞ//二 _ "_..二 }ｒ ､ヽ| 死んだの妻を守り、子を守り。
. / / /{ h ﾘ/ぞな'ｊ ｯ ｨ'なﾞｊﾗ ﾘr ｝､|
. /イ /ハヾ// ^冖´ : : ｀`冖^ lり/ｌ| | されども夫の振舞いまではできない哀れな男。
/イ / `//ｌ { } l‐'ｌｌ ｌ| |
. ｌ| / //l`', ヽﾂ ,'ｌｌ ｌｌ ｌ| |
. l／///ﾉ lヽ ﾆ=ﾆ / ｌl ｌｌ ｌ| |
. {/ﾉ/人ヾ＼ `ｰ―' ｲ人lヽﾊlﾉ
| ヽ､ ,. '´ |
| ｀¨´ |
[.二｛{{忿}}｝二.]
,､ '´ﾉ ヽ / ', ｀ヽ､
-ｒ ''Ｔ´(._ _.) Ｔ'' ‐r- ､
ｒ'´ l l ヽ)/ ヽヾ l l ヽ
/ l l {｛ー― -- -- ―一｝} l ｌ ',
. { l l ヽ ノ l ｌ }
ｌ | l (@ ｀ ｰ- .._ _.. -‐'´ @) l ｌ l
| | l ｀ヽ∠ l l |
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|「いつまで道化をつづけるつもり？ いつまで死から目を逸らすの？」
|（……）
|
| 『狂死』吉良吉影は……死人である。
| 彼は悪魔との戦いの中ですでに命を落としていた。
|
| だが命を失った男の前には、魂だけを失った男がいた。
| どのような奇跡か悪戯か。吉良吉影は、その魂は別の肉体に侵入して甦ったのである。
|
| それが今の『狂死』。
| 肉体の名は、川尻浩作。
|
| 今から向かうのは川尻の家で。
| そこに待つのは川尻の妻だ。
|
|「それとも……」
|（そうとも）
|
| 『狂死』は恐れている。
| 今のままではいられないだろうことを。
|
| 『狂死』は恐れている。
| いずれ、突然、自分が本当に死ぬだろうことを。
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:::::::::::r i::::::::/ ＼::::/ l/ ,. -ｧ';:::::i , i＼ ＿＿＿＿＿／::::::::::::::::::
.ﾍｫ::::::ｆ └-､::', ヽ ,／／,, ヽ:j / / ﾄ､¨￣￣ ,イ::::::::::::::::＿:::
_｣:::::::} └ヽ ,.'／ｼ'"}/ li .l./ l ＼ /／ ／/::::::::::_／-､ l:
i:::::::ハﾞ＼..,, ／／｀¨ソ .li i l ヽ / /l l.i:::::／● ･ ﾚ:: （すでに一度死んだ私だ。
. └-､ヽ ｭ- ..,,ﾆﾆｰ-/＼ ／/､__¨￣ li l l l ,､ l/ ；l !/ィ ●/::: 植物のように満ち足りた
＼､ ＼￣ヲ¨ ＼ l ﾞ｀ l! l l じﾉ i ；l l::::ヽ.__ _／::::: 平穏を求めて何が悪い……）
',＼ ￣ /∨ l .i ! ﾉ l / L ﾉ…’三 l＿::/ｲ:::::::::::::
ヽ＼ ',. l i , ､ // l l ／￣:::::::::l l ,ﾆ三三三
＼ ＼ / , .// l l ／:;／ヽヽ:::::l .l l；¨¨／ ＿
/ ＼ ....ヽ-',.',ﾆﾆﾉ /./ lｨｲ／ P ･ ﾚ::::::::l Ll／ ／
i ＼ ｀¨''ｰ.'" ,. / / ,,.. '´；//へ ソ:::::::／/ ／
l/ ＼｀¨''''''¨´ / ./,.-‐三三三/:::::::::7ﾉ:::::／ /／
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|「悪いに決まっているでしょ薄汚い泥棒。
| きみはユリシーズどころか女を寝取るしか能のないパリスよ」
|
| 幻影に言われるまでもなく、幸せへの耽溺は『狂死』自身の罪悪感が邪魔をしていた。
| 他人から掠め取った幸せの中で、余命を静かに暮らすことへの、少なくない慚愧。
|
|「自分のものではない顔。自分のものではない名前。
| 自分のものではない妻の待つ、自分のものではない家路を急ぐ……。
|
| なんなの？ けものフレンズ２なの？ ケムリクサなの？」
|（それは逆なのでは？）
|
| 監督や利権をめぐるあれこれではなく、本編中のテーマである。
| いや、前者でも、自分のものではない顔で、自分のものではないファンを相手にした男がいたが。
|
| とにかくけものフレンズ２に関しては、何もかもあやふやな主人公の前に、
| 『君を待っていた。ここが君の帰る場所だ』と提示してくれる存在がある。
|
|（……だが彼は、『イエイヌ』を拒絶したでしょ）
|「君には拒絶する勇気もないようだけれどね」
|
| そうだ。
| 残念ながら、遺憾ながら。『狂死』には偽りの家族を拒絶する勇気がない。
|
|「あからさまな矛盾がそこにはあるのに。
| 暴露を恐れ、罪の意識にさいなまれながらの安寧？ それは本当に安寧と呼べるのかい？」
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／／￣￣￣／￣/￣＼ ヽ ＼ }ﾄ､
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／／__／ __／／// / 厶＜￣}厂l＼ 寸
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＿／／＿＿＿＿／／ / / / ｀ｰ'-＜,ﾉ{
〕￣￣＿＿_________／／ //ﾉ/ﾆﾐ､ }i{
. 〕＿＿＿________／／ _／ //{_L__ ＼ }ﾘ
〕＿＿＿＿__／_ ／ イ ｨｆ芋沙ﾐ ＿|{
〕＿＿____ イ｢(￣ / / 乂_ツ 冫 __二¨¨jﾉ
/￣￣￣人＼ / / ´'＾冖^｀ ｨ苅芳∨ｉ{
. / / / / /ー/ / |乂シ^ リ
/ﾍ/ / / / / / 〈 ,ﾉ / /
/ﾍ/ / / / ∧ ＿_ / / それとも、周りに嘘を吐き続ければ
/ﾍ/__/{＿{ /| ＼ '￣__ﾟン ／／ いつか自分まで騙せるとでも思っているのかい？
}_ﾘ ＼ イi ｌ{
r‐/ ＼＿＿／ ｌ{ 从 愚かしいドン・キホーテ卿。
人 ＼ | 人{ ﾉﾘﾉ 人
／ ＼ ＼ | '⌒
／(＿＿ ＼ ＼＿___{
. ﾉ二 ｰ=二＼ ＼{＿r'__)＿_
/ ／￣￣＼＼＼ ＿＿_ ﾊ＼
. / / ＼ ＼＿＿｀ヽ│ｌ {＼
/ / ヽ _ ＼__|__八 }
{_/ } } (__) (_) ＼
〈￣￣＼ / ＼ 丶
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| 幻影は笑う。
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|「偽りから逃げることはできるでしょうよ。でも奴は疲れ知らずでしかも早い。
| 隠れても隠れても必ずアンタを見つけ出し、その魂に食らいつく」
|
|（貴様のように？）
|「そうよ。私のように」
|
| 『狂死』は顔を上げた。
|
| 気が付くと、目的の駅まであとわずかだった。
| 鈍く痛む頭を振り、氷のように冷え切ったコーヒーの蓋を開ける。
|
| 幻影は忽然と姿を消し、暗闇広がる窓には、憔悴した顔の男が映っていた。
| それが自分本来の顔に見えて、『狂死』は一瞬狼狽した。
|
| だが、ただの見間違いに過ぎず。
| 車窓を流れる夜闇の中に、『狂死』は死神の影を見た。
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| ……一週間前のことである。
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| 『狂死』が肉体を奪った川尻浩作という男、その人生は幸せなものではなかった。
| 妻との間は冷え切り、一人息子は一切口を利かず、収入に見合わぬ家賃の借家に住むため貯蓄も少ない。
|
| 名前は知られているが、中堅の中でも小さい企業の平社員で。
| 営業成績が芳しくないため出世も望めず。
|
| それでも崩壊した家庭のために身を粉にして働かねばならないという矛盾。
|
| 何が楽しくて生きていたのだろう。
| 未来に展望も希望もなかったろうにと、『狂死』は密やかな疑問を抱いていた。
|
| 肉体を奪った『狂死』は、まずは有給休暇を全部消費し、文句を言ってきたムカつく上司に一発食らわせた。
| そして『血族』から悪魔被害者に出る特殊保険金に自分の資産の一部を足したものを用意した。
|
| 身辺を整理して、それから姿をくらますつもりだった。
| 川尻浩作の振りをして妻子と会ったのも、意地悪な好奇心からだった。
|
| すぐに消えるはずだった。
| ほんの数日、家族の振りをして昏く笑うだけのつもりだった。
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| ……それが、よくなかった。
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/ ｌ ｉ ｰ ﾆ､__ / おかえりなさい、ア・ナ・タ！
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| 酷く冷たく、無関心だった『妻』に苛立った『狂死』は、彼女の挑発に応えて驚かせ、一目置かせることに成功した。
|
| 『狂死』には理解できなかった。
| 他人を喜ばせる必要などないと、これまでずっと思って生きていた。
|
| だが、なぜなのだろう。
| この川尻しのぶという女の喜ぶ姿を見ていると、言葉にできない何かが胸の奥で蠢くのだ。
|
| もう一度見たい。もっと見たい。
| 生まれて初めての感情に戸惑い、苛立ちながらも『狂死』はその衝動に逆らえない。
|
| 新しく買った紅茶の香りで一喜一憂し、茶菓子の味を批評するだけの時間。
| 試供品のシャンプーの香りを嗅ぎ合って、どれが好みかで相談し、結局買わないだけの時間。
|
| 夕飯の青梗菜の茎がお互い好きだからって、譲り合ってケンカになりかけるだけの時間。
| 夫婦で別の寝室だから、寝るまでリビングの同じソファで駄弁るも、別れを惜しむだけの時間。
|
| それを下らないと笑い飛ばせる『狂死』は、もうどこにもいなかった。
| 若い恋人か新婚夫婦みたいに、頬を染め合い相手を思いやるだけの自分が存在するなんて、考えたこともなかった。
|
| くだらないラブソングみたいに、何でもない日も、バカみたいな失敗も。
| 彼女といれば全部……全部……ッ！
|
| その平穏と安寧を幸せと呼びきれないまま。
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| 杜央町に戻ってから数日を、『狂死』は市街の見回りに使った。
|
| 東京と違って、地方都市には駐在の『血族』など存在しない。
| もちろん、地方に悪魔がいない訳ではないのだが、それでも出現率が全く違う。
|
| 東京は人口密度か、はたまた別の問題か、悪魔の出現率、出現数が桁違いだ。
| ほぼ毎日のように悪魔が出現する二十三区とは違い、地方では月に一度でも出れば多い方となる。
|
| 悪魔研究の第一人者たる鷹野三四は、これを『都会への憧れ』と紐付けて説明した。
|
| 曰く、首都東京以外の都道府県に住むすべての若者が少なからず東京を意識し、東京に行きたいと考えてしまうように。
| 東京には『何かを引き寄せる力』が働いているようなのだ。
|
| 少なくとも東京にほど近い神奈川県民までもが、東京への憧憬を抱いている。
| 彼らに言わせれば隅田川の以北と以南で天地ほども違う。
|
| もちろん、神奈川県に含まれる町田市（説明不要）とか多摩市（あれだけ田舎なんだからもちろん神奈川）。
| 八王子市（JR横浜線で行けるので当然神奈川）は憧れの対象に含まない。憧れる側だ。
|
| とにかく二十三区は誰からも特別扱いされる特異点的な地域であり、
| それ故に日本中の魔という魔を呼び寄せてはやまない土地柄を有しているのである。
|
| だがそれでも、当然地方都市にも悪魔は出現する。
| 出現しない訳がない。
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| 『狂死』の『息子』。
| 正確には川尻浩作の息子が『狂死』に何らかの疑いを抱いているのは確実だった。
|
| 普通に考えれば当たり前である。
|
| それまで暗くて地味で、笑わない。虐げられても文句のないしみったれた男が。
| 急に自信に満ち、シニカルなユーモアを口にする伊達男に入れ替わったのだ。
|
| そんな変化に好意的な『妻』と違い、冷静に客観的に物事を判断できる『息子』早人は、
| 恐るべき知性と行動力で『狂死』を尾行した。
|
| 小学校低学年ながら、早人はビデオカメラやスマートフォンの使い方を熟知していた。
| 川尻夫婦は基本的に子育てに興味がなく、それどころか面倒に思っている。
| その結果、早人はほしいものを何でも与えられていた。
|
| 甘やかすためではない。
| 黙らせるためである。
|
| 『狂死』もまた煩いガキは嫌いだ。
| そして、淡い想いを抱くしのぶとは違い、この子供はただの厄介者だった。
|
| 二人の幸せな生活を望んだ『狂死』からすれば。
| 最悪排除しても構わない。
|
| そんな風に考えたこともあった。
| あったのだが。
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ｆ _／,，! ,- '‐￣¨ ｰ' ヽ
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|「ママには指一本触れさせない！」
|
| 早人は『狂死』に気づかれずに追跡、その悪魔退治をビデオに収めた。
| 父親が、父親の姿をした化け物であると気付いた早人は『狂死』に事実を突きつけた。
|
|「このビデオを警察に送る」「お前はおしまいだ」
|
| 母親を守ろうという少年の闘志は、『狂死』を感嘆させるのに十分なものだった。
| その時の彼の喜びを、誰が理解できるであろう？
|
| 大胆不敵な行動力。
| 小学生とは思えない知性。
|
| 不撓不屈の勇気。
| プロ顔負けの尾行技術。
|
| そして、彼は……『狂死』の式神を認識したのだ。
| 人間に化けた悪魔を爆殺した瞬間を、その目とビデオに焼き付けたのだ。
|
|「殺すには惜しいな」
|「ぼくを殺したら……ママが不審に思うぞッ！」
|
| 切り返しも早い。
| ますます素晴らしい。
|
| 『血族』でもここまで優秀な子供は多くない。
| 何を伸ばすか。どう育てるのか。
|
| 自分が何を考えているかに気が付いて。『狂死』は愕然とした。
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＿__／ ─‐､ 二ﾆ=- ≧ｘ
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. ,. -‐=ﾆミ{ l//／//ｊﾙ'＾V ヽ---=≦、＼ ヽ＼
／ ,ｚ==ミヽV 从ﾙ'" ヽ-------､}＼＼ ＼}
. / l / / 三三ミ/' ,. ─＜ ∨ヽ =‐--､=ﾐヽ 平穏な生活！
{ l ﾉ{ 〈 （に' ／／￣｀ヾ ｊ三=--ミ、＼ヾ ， ああ、深い苦しみも激しい喜びもない。
乂{ｊl＼ヽ ＼ { ｉ´ / / ＿_,. -─ ＼ ヽ__＼__ヽ i
. { l|ヾﾐﾐｿ } ） ヽ人､/ / / __,ｘく"ﾗ ,ｫ=ミ､,--､ﾊ そこがお前が望んだ場所なのだろう？
. 人 ヾ.／／ ／{___ l {し' ﾉ rｆ::ﾀノ / }ミ､/ V
. ｀7/ i ／ __ ｀'＾ ´￣^｀ / ヾ/ /ヽ '， なのになぜ、今更になって『血族』ぶるのだ？
|l l/l r‐ == ＼ ￣ │ /ヽ ‘，i
. ／|ｌ /,∧ l / ,ｨﾆ, |'"´ ヽ l i } ｉ│
|l ｌﾘ〈i{ |l/ｊ/ ｱ rｆﾘ |/￣ __ ! | ﾉ //!
|ｌ ＼ ＼ミ‘， ´'￣ ＼ ｀7 :. !__／/ｊﾘ
乂==＼_￣∧. ＼/ ＿＿__,. :. l__／ |
￣￣ ｀ヽｉ∧ __／/￣ ｊ /＼ ＿＿＿＿
}ﾘ ヽ. /ー‐' , ' , / / |￣￣
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ヽ ＾ヽヽ / ／／／ / !
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| 『幻影』の嘲笑。
|
| その通り。その通りだ。
| もはや『狂死』に闘う意思はない。
|
| そも、彼の肉体はすでに朽ち果て、『血族』の『血族』たる部分。
| 継承してきた血と魔力はすでに拡散してしまっていた。
|
| 無様に生き延び、役職も奪われ。出世も展望も失われた。
| しかし戦闘能力だけは高いために、のけものども同様に後ろ指さされながらも呼び出され危険な任務に就かねばならない。
|
| 早人は優秀だろう。
| だが彼を鍛える理由も、そして危険にさらす理由もない。
|
|（消え失せろ）
|「そう簡単には消えはしないさ」
|
| 幻影を振り払い、『狂死』は隼人を見下ろした。
| 決意、覚悟、振り絞られた勇気。
|
|「そんなビデオを見せても、誰が信じると思う？ 子供のいたずらだと笑っておしまいさ。
| だが早人、お前の勇気には敬意を表そう。
|
| 今は殺さない。ここでの生活を気に入っているからな。
| 母親を守りたいというのならば、牙を砥げ。力を蓄えろ……いつか逆に、この私を殺すためにな」
|
| 前の晩のことである。
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|i:i:i:|i|!| |!
|i:i:i:|i|!| |! 朝のニュースです。
|i:i:i:|i|!| |!
|i:i:i:|i|!| |! 大変なことがおこりました、
|i:i:i:|i|!| |!
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|i:i:i:|i|!| _ -=≦=¨
|i:i:i:|i|!| _ ...rif≦ﾆ三f￣￣￣￣￣￣ 二l
lｊ:i:i:|i|!|i:f:「i:i: rfﾆ|三≧三ﾆ=-¨ _ - ¨ :|
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| そして翌朝、東京の惨状を知った『狂死』は目の前が真っ暗になった。
|
| 携帯電話のサイレントマナーだった。
| 三桁の不在着信。確認するのも面倒なのでやめた。
|
| パソコンをつけると、『狂死』宛に複数のメール。
| どれも内容は同じだった。
|
| 『すぐに東京に戻れ』『助けろ』『その責務がある』
|
| 馬鹿馬鹿しい。
| 『狂死』はすべてゴミ箱に入れて丹念に削除した。
|
| 藤堂志摩子を放逐し、権力を握った愚かなフリット・アスノ。
| 志摩子に友好的な者たちを片っ端から切り捨てたのはどこの誰だ？
|
| 先代が偽りの呪詛汚染で隔離されたことも、ミストと四ツ目が指名手配を受けたことも。
| 麻呂が内勤に回されたことも、蒼星石が自宅謹慎を命じられたことも。
|
| ロージェノムが殺されたことも。伊集院が地位を剥奪されたことも。
|
| 『狂死』はすべて知っていた。
| 今更馳せ参じるほどに、彼の忠誠心は高くはない。
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く::::｢ ﾉﾊ:::::::::ﾚ'⌒ヽ:::::_;ノし'/:::/{_
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. /__ 八:::::/::://::::{
}___＼ { ヽ::::::厶:::::ﾚ
. 弋ｔぅ} __z=-―‐く };／ｲ }::/
| / ｨf斧jﾗ / ｲ_j! |:{
│ / ／ r一'／/
| ヽ_r‐' ／ 厂´ |:::{ なあ早人、今日は学校をサボって遊園地でも行かないか？
. ^ｰ‐ ､ / /|:::| 水族館でも動物園でもいい。
. │｀ー‐ イ ｉ ∨
八___ =≦ │ |
|￣ / ,人！
∧ ′ ＼
. ／ 〉 / ／ ＼
／ / / ／ ＼
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| 上機嫌に、鼻歌交じりの提案に早人は目を剥いた。
| 昨日の今日。怪物からの遊びの誘い。
|
|「でもアナタ、早人は学校があるのよ？」
|「じゃあ君と二人で行こう。デートと行こうじゃあないか」
|
| 手を取って、突然のお誘いに、頬を染めるしのぶ。
| 狂ったように上機嫌の『狂死』と、まんざらでもないしのぶの様子に、早人は二者の間に割って入った。
|
|「……行くよ、僕も行く」
|「よし、決まりだ。学校には私から連絡しよう」
|
| 『狂死』は出勤カムフラージュ用のネクタイをほどき、電話帳を手に取った。
| 小学校の名前を探し出し、連絡を入れる。
|
|「申し訳ありません。川尻早人の父でございます。
| ええ、はい。お忙しいのはわかります……東京で『あんなこと』が起きたでございましょう。
|
| え？ 休校？ ああ、それは願ってもない。
| 東京に親戚が住んでおりましてね、ええ、ありがとうございます……はい」
|
| 『あんなこと』。
| しのぶの顔が曇り、早人の表情が強張る。
|
| 『あんなこと』が起きているのに、気楽に遊んでいていいのかという気持ちがあるのだ。
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/:Vl､／:::レ:l/L,/l,ｨ
∧j:::l::l::/l::::/l:::::::ﾊ::/::ﾚl
. l::〈::::ト､::/l::::/l:::::l:::l:::ィ::::ﾊ_
ﾊ:::::::::l:::::i:::::::::::::::::;ﾊ::::／l:::/
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,.へ::::::ヽ::l:::::::/ V ｊ::::::::::;.‐ ､
￣ヽ::::::「 ＼:/ ,ｨ::フヽ:::/ ｆ |
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Vﾆ=:、 ' ,.ｨｆ:iﾌ´ / 「l !
'､代ﾗl ￣ |.l | では今後の予定は連絡網で回ってくるということで。
＼ | ‐ ､ // / はい、宜しくお願い致します。
ヽ｀ ,ﾆ 、 // /
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. ,. -─ ､ / ｀ T´00):;ﾊ/
/ 丶、 / |ヽ─〈. |
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| l '､ ＼ ,ﾉ ヽl !》:《:|
／:! l ＼ l＼ _ ＼ﾄｰｲ!
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. ヽ ﾚ‐ {ヽ´ _＼´ ', ＼_ﾉ |
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| ちなみに作中は2014年。なんと5年も前である。
|
| スマートフォンやラインは未だすべての世帯に行き渡っているわけではない。
| いまだガラケー全盛期である。
|
| というわけで、今みたいにラインで連絡網グループが作られて一斉送信なんて手軽ではない。
|
|「今日は休校だそうだ」
|「でも……」
|
| 東京の親戚が云々などという嘘をしれっとついたことよりも、大災害に見舞われた直後に遊びに行くことに罪悪感があるのだ。
| 『狂死』は大いに笑い、しのぶの肩を抱いた。
|
|「まじめだな、君は。『あんなこと』が起きたと言っても、詳しくは何もわかっていないんだ。
| それにこの所、東京では大停電とか色々あったろう？
|
| 人がたくさんいれば問題もたくさん起きる。それだけのことさ」
|
| 耳元で囁き腕に力を籠めると、しのぶは桜色に染めた頬で少女みたいに頷いた。
| 『狂死』は自然な動きで早人の頭に手を伸ばし、撫でようとするも振り払われる。
|
|「ママが正しい。不謹慎だよ」
|「不謹慎？ 不謹慎って言ったのか？ むつかしい言葉を知っているなァ〜」
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{ 、 ､ / ∧ ヽﾆ＝=ﾆ二＝-、
ゝ､ _ヽ V / ヽ､ _ _ - _ヽ
//i( ヾｰ ´ /〉てー＜ ヽ ヽ
// ﾉ i! | r"=ミ Vヽ ヽ ､'
i/ / /i i＞＝ミ f ､i!ジ Y ､ /
/ / / .! !r´fョ , i i r 〉､ノ 茶化さないでよ。
ﾑ/ / / ∧ ｀¨´ ｀彡-, ir ´ ヽ､ _
i i i / ∧ ｀= " ｲ _ ニ ) fヽ..
ヽ!i!i i /ヽヽ _ ／ ﾉ大ー- ト､! i
LLlA i: : : :¨` ニ ト-､::￣´人_ノ
巧 ヽ: : : : : :）＝ " ＞: : :て
_ r,_f＿ -v: : : : :/ ,.. - ´¨ 入／ヾ､
r' 7 ト=､ /: : : : r'＜ _ / ｸ ﾉl
ゝﾌ >-ｳrｲヽ: :::::::ト-､ / コ-､ //ヽ _
ヾ＿ｸシ ＞-´ ヽ ニ - ノミ＿／./ いrヽｆ>､
く 八 /r､T: :ノ ト-r′ i ヽ
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|「残念ながら、パパの取引相手は東京にもたくさんいる。
| 困ったことに、私はこれから予想外の忙しさになるだろう」
|
| さらさらそんなつもりはないながらも、『狂死』は普通の営業マンだったらどうだろうとか想像した。
| まったく想像できなかった。
|
|「だから今のうちに、愛する家族と絆を深めて英気を養っておきたいのさ。
| 分かるだろ早人、ん？」
|
| 愛する家族という言葉に、しのぶは微笑み、早人は苦虫を噛み潰したような顔をした。
| だが、結局二人きりにさせたくもないようで、三人での楽しい行楽と相成った。
|
| 平日の遊園地は、『あんなこと』のせいもありガラガラで、ほとんど待ち時間なくアトラクションに乗り放題だった。
|
| 三人は本当の家族みたいにジェットコースターを楽しみ、お化け屋敷で悲鳴を上げ、
| ジャンクフードを片手に食べ歩き、様々なことを忘れてはしゃぎ、笑った。
|
|
| このような時間は生まれて初めてのことで。
| 誰よりも『狂死』が、涙が出るほどに楽しんだ。
|
| 楽しんだのだ。
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/´ / / 7 厶
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| 携帯電話が振動する。
|
| 『血族』からのすべての電話は着信拒否をしてある。
| メールアドレスを知るのは私的な友人だけである。あるのだが。
|
| その友人と呼べた二人は、もはや『血族』から遠く離れた。
|
|
| 携帯電話が振動する。
|
| 誰かがこのアドレスを探し当てたのだろうか。
| 家族との行楽に水を差されて、『狂死』は内容も確認せずに無視をした。
|
| ただ、今この時を。
| 愛しい『妻』と『息子』との時間を心から楽しみたかった。
|
|
| 携帯電話が振動する。
|
|『帰郷者からのメールだ』
|
| 幻影の囁き。
| 奇妙な感覚。
|
| そうではないかという直感があった。
| だが、『狂死』自身が観測していない結果を幻影が知るはずはない、
|
| であるのに幻影は断言する。
| 確信をもって、あの二人からのメールだと。
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ﾊ ＿＿ ,ｨ
／ ﾉ＜´ ＿＿￣ /
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∧! 、 ヽ､＿
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|ﾆﾆ∧::::::|三三三三三三三三三三:/:::::ノ
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iニﾆﾆﾆi'三三三三三三三三三三!ニニﾆ!
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{:.ｉ:.〈 /￣_ヽ 'ﾋｔｿ トｧくl
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l:ﾊ r-‐, ｌ:l｀ｉ: ∧-､
';:ﾊ ｀こ / V:::∧: ＼
ヽ:＼ ,ｨ:.: ／ｰヘ_: :ヽ
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／ヽ 〉´ｒ‐ 〈 ／ ヽ
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| 遊び疲れて、外食して、それでも帰宅した川尻一家。
|
| 『狂死』が風呂に入っていると、早人が浴室に入ってきた。
| その目は警戒心と疑念でぎらぎらと光り、思い付きを口にしたくてうずうずしていた。
|
| そういう所が子供なんだと、『狂死』は内心ため息を吐く。
|
|「……アンタ、どっち側なんだ？」
|「なに？」
|
| 早人の質問の意図が掴めず、『狂死』は聞き返した。
| 『どっち』？ いまこいつ、『どっち側』と尋ねたのか？
|
|「最初はアンタが楽しそうだから、東京を『あんなこと』に『した側』なのかと思った。
| でも、見れば見るほど不思議なんだ。アンタ、ずっと何か考えてる。心がここに無い感じだった」
|
| 少年の指摘に『狂死』は動揺を隠せなかった。
| やけにハイだったのは自覚していた。だが心ここにあらずだったと？
|
|「ずっとそわそわしていた。時々急に怖い顔をした。ママは気づいてなかったみたいだけどね」
|「……それで、名探偵。私は『どっち』だと思う？」
|
| 『狂死』の答えは卑怯なものだった。
| 早人が『どっちか』であると断定していたのに対し、彼は曖昧にそれをぼかした。
|
| 自分が『どっち側』でもないという選択肢を残した、馴れた手管。
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／´二ニ／｜
. ／ ===ミ / / /|
／ ===ミ / / /｜
. / ／／⌒ { / //..|
{／／//⌒ヽlY/／´|
}／///} :|li|⌒ |
〈／／}/ |li| |
. /／ //＿___ |li| ／|
/ｲﾘ}//{⌒¨¨｀ 人{ __| アンタは、東京に『あんなこと』を『しなかった側』だ。
ﾉノ{ {l∧弋戈ﾗ } ヽ|
ﾉ|人{人ﾍ 〈 |
{ {∧ __ ___ |
乂{_l{＞ . ｰ一 |
. | /｀≧≦|
. | { 〔￣￣)
人_{ { ￣￣}
人_{ ￣￣}
{{￣￣ｿ
人￣冂
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|「なぜ？」
|「ぼくが気になるのは三つだ」
|
| 早人が指を立てる。『狂死』は湯船に漬かった。
| 生徒の思いもよらぬ能力に驚かされる教師の心持ち。
|
|「アンタが殺した女の人のことが、ニュースになっていない。
| そして、ぼくとママを殺していない」
|
| 希望的観測を推理と勘違いしているのか？
| 少なからずの落胆を、『狂死』はおくびにも出さない。
|
|「それと、帰ってきてから一週間も経ってる」
|「アリバイトリックかもしれないぜ？」
|
| 一週間の誤差。東京からの帰還。
| 仕込みを終わらせて来た大悪党なのかもしれないぞ。『狂死』は脅かす。
|
|「そういう事件じゃないだろう？ それに……アンタは、誰かを殺すなら目の前で見たいんじゃあないのか？」
|「……」
|
| その性癖は否定できない。
| 『狂死』は殺すとなったら、結果を確認しないと気が済まない部分があった。
|
|「女の人はそうやって殺したろ……では、なんであの人を殺したんだ？」
|「我慢ができなくなったんじゃあないのか？」
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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┐┐){[__{[_{[__r
. ∧|／ﾆﾆニ二二＼{＼
. /＼}{⌒〉厂}/⌒}==={r
{∧/^＼}ﾉ t=ﾆﾆ〉＞=| 『あんなこと』を起こすのに、
{r=ニ} ｀¨¨´ }＼ｌ|__ 自分はこんな場所で無関係な顔をしている。
{ ￣＼ / fﾀ }
∧ _r=ミ }___ノ それが我慢できなかったんじゃあないのか？
. {l∧ て 厂/}＼
￣＼ ／／/} }
{＼ =イ／／./. }＼＿＿＿＿_
. ／{=ﾆ＼/／ / ∨ ／⌒＼
／ ∨{苦::/＼//} ∨ / ∧
＿∠__ / /}= /./ /// ＿__} / ∧
／⌒ __,ノ / //ニ{/ /// ￣￣} / 〉
｛ }. / //苦〕} /// / ｛ /
. {∧ 〈 } / //>＜.//// / ｛ /
(＼ V∧ ﾉ / }//[苦〕 }///. / { } /}
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|「アンタがそんな奴だったら、ぼくとママを今日、殺していない理由がない」
|「……む」
|
| 確かに、『狂死』は納得した。
| 人殺しを我慢できないような性質の男が、『あんなこと』をやったのが自分だと暴露しないのはおかしい。
|
| その上で、身に余る秘密からの解放と称して、母子を殺害しないはずがあるまい。
|
|「ぼくらが生きているのに、あの女の人が殺されるのは、何か理由があるはずだ」
|「単純に、君たちを殺すとこの家という隠れ蓑を失うからではダメなのか？」
|
|「東京が『あんなこと』になってるのに？ 今更隠れ蓑なんて必要なの？」
|「……ふーむ」
|
| 早人の論理は理にかなっていた。
| 『狂死』は感心しながら続きを促す。
|
|「女の人が殺されてニュースにならないのは、もしかして……警察がそれを事件だと思ってないからじゃあないの？」
|
| 正直言うとそこは的外れだった。
| 警察はそこまで暇じゃない。女が行方不明になったのは昨日の昼だ。
|
| まだ、おそらくは誰も、女の消失すら気づいていない。
|
|「もしかしてアンタは……」
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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／:|／|,ｨ,ィ
ノ::::::l::／/::/7フ
Vレ┐::::二ﾌ::::ｧｱ
/! ´￣ 〕::::::/:ノ）
ｒ' ｔ:ト≦ <:::::::/::::/７ 『どっち側』だったとしても、
/､ , ﾐr┴ｒ':::ァ 君のパパの体を奪ってる悪党なことは確かさ。
ト ／ r┴リ＜
｀ｰ-- ＜／￣＿_|＿__
ｘ‐┴─＜￣ ＼＼
/ ヽ ＼ ', ヽ＿
|､ ノ }ﾍ__ ', ∧
_レ! ｀ｰ､ / / ', ∧ ｎ
| / ｢ヽ.__l/ ／ ＿＿ ', ∧ _ |_「ｈ
| 〉 ｌ ﾉ /::'´￣＿ i |＼. │}_ノ 〉ﾉ,l/.〉
/ ./ l /:::／￣__ ｀ l ヽ-|､ ＼ ＼＿ /
| / ' |::::::ヽ ＼__ ! | ＼ ヽ._,ノ ￣＼ﾉ
l／ ..:::´|｀ヽ::::＼ ヽ l /＼ ｰ ノ＾o '
/ ´⌒ヽ! ＼ : : : /＼ o／
〈 . : /::＼ ヽ . :l: : : |. ｀ヽ.＿_／
/ :、 .:::::/: : : : l＼ ＼. . : l : : :ﾄ､
/ i ｀7|:: : : : l ヽ ヽ: : : : : : ヽ__
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| すべての期待を打ち砕くように、『狂死』は偽悪的に早人を嘲笑った。
| 少年は突然の告白に、打ちのめされたように後ずさる。
|
| 濡れた風呂場。足を滑らせ転びかけたその腕を掴み、『狂死』は微笑んだ。
|
|「なかなか面白い推理だったよ名探偵……。
| だが、ならば私が『あんなこと』になってる東京を放置して遊びまわっている理由はなんだ？」
|
| 早人の小さな指が、『狂死』の腕をぐっと掴んだ。
| 双眸に闘志が燃える。離さないぞという意思を感じる。
|
|「自分で言っていたじゃあないか」
|「……なに？」
|
| ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
|「『忙しくなるからその前に思い出を作りたい』って」
|
|
| そんな事……『狂死』は呻いた。
| ニュアンスは違うが確かに言った。
|
| だがあれは家族を連れ出すための方便『嘘だ』。幻影が囁く。
| 『本音が漏れたんだろう？』ああ、その通りだった。
|
|「アンタが帰らなかったら、ママが悲しむぞ」
|「なんだと？」
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{ 、 ､ / ∧ ヽﾆ＝=ﾆ二＝-、
ゝ､ _ヽ V / ヽ､ _ _ - _ヽ
//i( ヾｰ ´ /〉てー＜ ヽ ヽ
// ﾉ i! | r"=ミ Vヽ ヽ ､'
i/ / /i i＞＝ミ f ､i!ジ Y ､ /
/ / / .! !r´fョ , i i r 〉､ノ ママを泣かせるなって、言ったんだ！
ﾑ/ / / ∧ ｀¨´ ｀彡-, ir ´ ヽ､ _
i i i / ∧ ｀= " ｲ _ ニ ) fヽ..
ヽ!i!i i /ヽヽ _ ／ ﾉ大ー- ト､! i
LLlA i: : : :¨` ニ ト-､::￣´人_ノ
巧 ヽ: : : : : :）＝ " ＞: : :て
_ r,_f＿ -v: : : : :/ ,.. - ´¨ 入／ヾ､
r' 7 ト=､ /: : : : r'＜ _ / ｸ ﾉl
ゝﾌ >-ｳrｲヽ: :::::::ト-､ / コ-､ //ヽ _
ヾ＿ｸシ ＞-´ ヽ ニ - ノミ＿／./ いrヽｆ>､
く 八 /r､T: :ノ ト-r′ i ヽ
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| この少年に驚かされるのは、一体何度目だ？
| 『狂死』はぐうの音も出なかった。
|
| 完全に、小学生にペースを握られていた。
|
|「約束しろ」
|「できないな」
|
| 約束……？ そんなもの出来るはずがない。
| 偽りの夫として、だましている家族のもとに帰って来る約束？
|
| 自分が偽者だと理解したうえで、帰って来いと言ってくれる少年と、約束だと？
|
|「私の魂は酷く不安定なのさ……いつ突然消えてしまって、この体が死んじまっても不思議はない」
|「うるさい、知ったことか！」
|
| 早人はさらに強く腕を握った。
| 離してしまったら、『狂死』がいなくなってしまうかのように。
|
|「……」
|
| 『狂死』は観念したように笑った。自虐的に。
| 早人の背後に立つ幻影が、ムカっ腹が立つほど爽やかに笑う。
|
|「ああいいとも、約束するさ。必ず戻る……いや」
|
| 叶わないかもしれない約束をしながら、むしろ『狂死』の胸は清々しさでいっぱいだった。
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＼､ ＼￣ヲ¨ ＼ l ﾞ｀ l! l l じﾉ i ；l l::::ヽ.__ _／::::: 必ずここに『帰って』こよう。
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| その夜、彼は初めて『妻』を抱いた。
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☆ 次回予告！
鶏と卵の問題をご存知だろうか。
卵から生まれる雛鳥と。
鶏から生まれる卵。
どちらが先に存在したのか。
どちらが原因で結果なのか。
ここに、類似の問題が転がる。
神に作られ、神を信仰するヒトの子と。
ヒトの子の信心から生まれ、存在を許される神。
どちらが先に存在したのか。
どちらが原因で結果なのか。
様々な神話において、新たなる世界は親殺しを必要とする。
ヒトの子は神々を殺し、科学の世界を手に入れた。
しかして、いまだ在らざる神の救いは。
ヒトを救いしものなのか。
あるいは……創造者たるヒトを……。
次回『未然形の神』
果てに見るのは破滅か死か。
狂死、原作に沿いつつかっこいいな
……ところどころ危険な話題が見受けられるがｗ
死んでからの方が生の実感が濃くなった感じか
デッドマンのQ(ｸｴｽﾁｮﾝ)にA(ｱﾝｻｰ)が生まれたのか
良い
十
内
┌∧∧┐ 十
｢| |||| ｢| 人
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< 三三 > ￣|人|￣
｢| 品 ｢| ／∩＼
｢| 川 ｢| ／ || || ＼
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. 立ｌ |￣￣￣￣￣￣立立立||┬=====┬|立立立 |￣￣| |立
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|; ; ; ; ; ; ; ; |田 | 田|; ;|｜｜l 〕田｜田〔 |｜｜| ; ; |田 | 田|
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| 夜が更ける。
| 品川大聖堂を巡る戦いの全ては決着を迎えていた。
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| なにもかもが既に過去で手遅れの夢の跡。
| 地下シェルターには串刺しで息耐えた『母』と、ゴミのように打ち捨てられたできる夫。
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| 二人を怒りに任せて殺害したニャルラトホテプはとうに姿を消している。
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| 地上に続く螺旋階段に封印されて眠るやる夫たち。
| 蒼星石、アリカ。そして『七つの児』ののけもの、キヨイ。
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| 下水道内での戦いも決着が付き、不死のゴウトも溶鉱炉に沈んだ。
|
| 無限の命ももはや尽き。
| 華琳と金糸雀率いる『邪悪帝国』も撤収済みだ。
|
| 大聖堂の礼拝堂にうず高く積み上げられた屍の山。
| 個室や廊下にこびりついた人間だったもの、人間もどきだったもの。
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| 無惨な屠殺体のように解体され横たわる『七つの児』ユキ。
| 彼が望まず手にかけた、頭のない三つの死体。
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| この四体は不潔な黄色い粘液にまみれ、早くも腐臭と科学的刺激臭を放っていた。
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_,.ィ'三三二ﾆ二三ミー ､、
,ｨ'´ィィィィ彡三ﾆｴﾆ二三ミミヽ
,ｨf//ｨ'ｨ'ｨ'ｨ'／ィｼ' ｀`ヾヽﾐﾐﾐヽﾐﾐヽ
ノｨ'//,'ｲ///,ｲ!lj/ l|lﾄﾐﾐﾐtゝ､ミ'、
//ｲ{|{lh{lilililil|l| |i,' li八ﾐヾ｀ヽヽﾐ':、
ﾊ{｛{N､',',',､{（(li| |l ,.........||＿!l|l|lﾄﾄゝﾐヽ丶、
!|l{lﾄi､',ﾐﾐﾐ','ji|l|l!:||:.i /:.:.,:'ｨﾘftiﾐkjljljlj|j|トミミミ≧ｭ､、
､ヾミﾐヽヽ',',}｝l|:.||: | ,':.:.: ｀`lF彡ﾄ'ﾘl|l|l|l|lﾄ､liトミ三ﾐﾐヽ
ハ',',}｝}iﾄＮ|}|ljj|:.|! !:.:.. |l ｛l|l{lﾘﾊﾄl|l|､}〉| ｀ヾヽヽ
. ﾊﾘﾄﾐ',W八ﾘﾉﾂ'.:.ﾘ ,..、 |l |ﾄﾄWl|l|l|lNjljl| ヾｿ}
. {{{{｛lﾘﾊﾘllﾂﾉ/.:.:/: '―' '、.:ﾘト､{｛､',NNhﾄ、 ﾉﾘ′ 〜〜♪
,）}Ｗ/}｝ﾘﾉ,ｲ:,､'＿＿＿＿＿,.ﾒｨﾘj}j＞､{（(NﾄV、 ,ｲjﾘ
. ｲﾉﾘ//ﾊ}l//ｲ/｀ ―----― ´ /ﾘﾉﾊﾉﾊﾄﾐヾミﾐﾐゝ､/ﾉ/
//ｲﾉﾊﾘﾉｲﾉﾄi{、｀:.:.‐;,-;,‐.:.:´ ｲﾂﾉ八ﾄﾐﾐト｀ヾヽ、ﾐ｛{{/ー- 、
｛{{i{i{i{(({i{i{i|l|l|ﾘﾊﾄi､,ｲi{,,,}iﾄ､ｨﾂ{fﾘｲ ﾊliliﾄミヾヽ',iﾄﾐヾWト､ ヽ
,}）}）}lﾄiﾄl|l|l|l|| `ﾂﾉﾘ{｛{M}｝lﾘｨfｲヾ! LlLlレ‐=ﾐ)}lト}|l|liヾ'、ヽ、
､__,.ノｨﾒｲﾄ'､',',lililili|::..'´,ﾝiﾒ!ﾙｲl/lｲ八`/ {´￣/ Ｗ!,ﾘﾘﾊ ヾﾐ､i}
｀ﾆ彡'´ 'ﾘ ヾ',lNi|l:.:.:、 ´jﾂ ヾ' / ,':: '、::/ ヾﾐ彡小、_, ﾘ
, - ､_,. -'´ ／ /| ヾ',W :. / ' ,':: ∨ X` ,ﾉ '′
‐ '´ ／ ,':| ',iﾘ .::ﾉ /::: / ∧`ー-、
／ /:::| }ﾄ、 / ,':::: / ∧､ 丶､__
／ /::::::| ,ノﾉヾ、ヽ /:: ／／:｀`丶、 ∧ヽ、
／ /.:.:.:.:l ,ｨﾂ′ 丶、 ノ::./ /:::::::::::::::::::::`丶、 ∧ ヽ、
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| 悪臭に霞む廊下に雑音。調子外れの鼻歌。
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| 葬送行進曲をポップにアレンジ。外れたリズムと音程すら計算ずくの悪ふざけ。
| 『七つの児』最強たるゴトウを下し、支配したる悪の権化。
|
| 元『血族』『元老』。絶対悪シックスの待ちぼうけ。
|
| 外で哨戒していた人間もどきどもは、基本的に無傷。
| だが最初から活動時間に限界があったのか、はたまた『母』の死の影響か。
|
| 徐々に動きが鈍り、崩壊し、悪臭放つ腐肉の血泥となりつつあった。
|
| 不人気、蘇芳。そしてやんねえ香、ロラン、刹那のペルソナ組は、仇敵アリー・アル・サーシェスの討伐後に撤収していた。
| 大聖堂二階にも腐れゆく無数の人間もどきだったものたち。
|
| そして能力に溺れて頭部を失ったサーシェスの成れの果て。
| さらに上階もまた同じ。
|
| 外観からは蘇芳の砲撃による壁の破損しか見受けられない。
| しかし、明かりの灯らぬ大聖堂の異変は、翌朝まで余人に関知されないまま。
|
| 夜が更ける。
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| 煌々と輝く満月は上天に有り。
| 雲はなく、空は澄み、都心にしては珍しくも星のきらめきが降り注ぐ。
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|
| 夜が更ける。
|
|
| 人々は夜のベールに包まれて、眠りの安息に身を委ねる。
| 日々の疲れから心身を癒すべく。
|
|
| 夢の世界に翼を広げる……はずが。
|
|
| この晩最大の恐怖と戦いの幕が落ちる。
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ｨf/'ｨ'ｼ' ｀`ヾliヽﾐヾ|ゝｭ､、、
/{|lｗｗl|/ ヾiﾐ'|li|:ｉlヾﾐゝ､__,､
{i lW小f , ｰ-j从|lﾄⅥ|}｝ ヽ｀`ヽ
）!Ⅵi|{ﾚ' ●｀ ｨ|l(iⅥi,j ＼ '､ ……？
／⌒)i"● 尢'lﾘﾊﾄl|廴
/ ｙi ﾍ⊃ ,_,⊂⊃lﾉi!洲ﾄ､ﾐヽ
（ ／::ヾ|iﾄi､_.｀´ _,.ｨ州ｉ:Ⅵlliﾐゝ､
'<::::::::::::::ヾ'ﾄ!i洲ｨfﾘｲ'/::::::::ヽ、 ヽ
＼,:::::::::::|ヽ０００/ l:::::::::::::::|
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| 死に沈んだ品川大聖堂。
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| その唯一無二の生存者。
| 絶対悪のシックスは異変を察知すると同時に切り札を切った。
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| 太平洋戦争半ばで、殺しまくった『教会』の術者たちの一人に、まだ幼くすらある少女がいた。
|
| どこか名家のお嬢様だったのだろう。
| 年齢や実力に合致しない護符や祝福に守られていた。
|
| もちろん殺した。
| そして再利用可能な護符はすべて剥ぎ取った。
|
| その際に手に入れたのがこの『帰還の護符』であるのだが。
| 正直行き先不明の護符なんて使うのは難しい。
|
| 合衆国まで飛ばされる事だけは確実で、最悪の場合拘束されるのであるが……。
| シックスは迷わず切った。
|
| 老人は、完全に支配した新たな使い魔ごと東京から姿を消す。
| そしてその直後、床からせり上がるようにして、巨大な半透明の面晶体が現れた。
|
| 大聖堂の魔術防御は紙切れのように吹き飛び、電気系統は全滅。
| わずかに生き残っていた人間もどきは沸騰し、煮詰まった焦げ付きになって死亡した。
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| 対角線が30メートルを越す巨大な立方体。
| 一辺は20メートル以上であり、内部の透明度は大気以上。
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| ゆるゆると回転しながら上昇する巨大水晶。
| ときおり角から角に走る紫電は内部に溜め込まれたエネルギーのすさまじさを物語る。
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| モダンな現代アートと、幾何学的古代レリーフのどちらでもあるような巨大存在。
| それは簡単に砕ける繊細さとダイヤモンドの頑強を備える。
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| そして巨大構築物が空中に存在する風景は、見る者を不安定な気持ちにさせた。
|
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|
| ……『見る者』。
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|
|
| そうとも、このこの世ならざる幻想あるいは不穏の風景を、少なくない人間が目撃していた。
| 彼らは皆寝床の奥で、一日の終わりの安らぎの時間を過ごしていた。
|
| 夢の中で。
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/ /,ｨ: 7:/: /:/: :ﾘ: }:/:ヽ､_,ﾊ
/ /:イ:/:/!:/:ﾊ: :/!:/|:}: :}:ﾑ､ }
_,..-‐´-,／: /:下赱ｫ､ }/ ,ｨ斥ｱ|/:{ |
／/＿- ､_{:/{/: :.ﾑ ¨ ､ ¨ /ｲ: :＼
/￣ ／ ／:{:/: :/: ﾊ､ - - ,ｲ:/: }: : :＼
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/:.／: :イ:./: ! ヽ､X', /Xj | : : : :|
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/: :/:/: : : |}/ , - ヽr十,) { |:/: : ﾘ
{: :/: {: :/: :|| /- r､i | { / |:{: : /
|:/|: :|:/: イ!l,/ {ヽ ヽ ∨ ｲ j:|: :/
|:! !: :!:{: :_/:|{ ＼｀' ｀ヽ､__ / {/:ｲ
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| 品川大聖堂『大天使召喚儀式』の本来の目的は、異界への親和深まる東京都民への牽制である。
| 光輝背負いし大天使の威厳と奇跡で、異端に染まりつつある黄色い猿どもを正しい信仰に目覚めさせようと言う温情。
|
| 正しい者には幻視と預言を、異端者には容赦ない雷霆を与えるとされる大天使レミエル。
| 魂の管理者であり、己の死に気づかぬ哀れな死者を冥府に導く慈悲の天使。
|
| その召喚儀式はつつがなく完了していた。
|
| 召喚者たる『母』は死せども。
| 大天使レミエルの時間指定顕現は完成していたのである。
|
|《哀れなるかな》
|
| 悲嘆にくれ、かすれて上ずった女の声。
| それが、この巨大な水晶の最奥から聞こえてくる。
|
|《哀れなるかな、哀れなるかな》
|
| 震えて、しゃくりあげ、心からの哀悼。
| レミエルの嘆きが『見る者』の胸を打つ。それほどに真に迫っている。
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ヘ
／ ＼
／ .＼ 《哀れなるかな異教の民草
／ ＼ 哀れなるかな極東の魔都
／ ＼ 哀れなるかな救うに値せぬ諸々
／ ＼ 哀れなるかな根絶やしにされ約束される千年の荒廃》
／ ＼
／＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿ゝ､
＼￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣/ ヽ
＼ / ヽ
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| レミエルから流れる悲哀は変わらぬ。
| 表面が波打ち、激しく紫電が走る。
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| ビルのように巨大な水晶が、悲しみにうち震える姿を想像できるだろうか？
| 『見る者』はそれを目の当たりにしていた。
|
|《メシアの降臨から幾霜雪。汝ら異教徒の絶える気配なし。
| 哀れなる救われぬ者どもよ、ここに格別の慈悲持て救いを与えましょう》
|
| それは大上段からの言葉でこそあるが、込められた意味と悲しみには偽り無し。
|
|《されど、汝らに楽園は許されぬ》
|
| 悲しみの波が高まる。
| 立方体の表面が奇妙にさざめき、ＣＧのような滑らかさで形を変える。
|
| 雪の結晶か、あるいはクモの巣。さもなくば、現実に開きつつあるひび割れめいて。
|
|《代わりに神の雷火に焼かれ魂まで滅ぶ栄光を授けましょう》
|
| 結晶体の隅に生れた紫電が中心に集束する。
| 周囲を歪ませるほどの熱量。
|
| 間違いなく文明の構築物を焼き払える破壊の気配。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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／＼ ／
／/ ｀×／
＼／ / ／／ ＼
／ ＼/ ／／ ＼ 《汝らが住まう極東の魔都はまさに神代からの生き写し、
<-‐= ) ＞＝─‐‐--> 忌まわしきソ ド ムとゴ モ ラの模造品なり》
＼／ .へ ＼ .／
／ヽ ﾍ. ＼＼ ／
| ／／ ＼ > ＼ |_
hr──t. ＼／ ＼丶 { |
［￣￣￣Y] || ＼ |.h
|￣￣￣]l| f￢┐. || |￣￣ .[|]
|￣￣￣]l| l.:.:.:.:| .|| r─‐.|￣￣ l|T
|lニニニニ三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三ニニニニ
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| 悲しみの中に新たな感情が、意味が混じる。
| 響く声からは抑揚が失われて行く。
|
| 緊張感、不穏、あるいは殺意。
| 微かに混じる愉悦に気付けるのは、同種の嗜好の持ち主だけ。
|
|
| ……例えば、夜勤の最中にサボって寝ていた『十字軍』の司令官。
| 『滅ぼす者』に肉体を融解され生死の狭間にある『聖女』。
|
| 豪奢な寝室で勝利の愉悦に浸る合衆国大使。
| 路地裏で伸びているグリーンベレーの少年。
|
| そしていまや『血族』の最高司令官として君臨する老人もまた。
|
| 彼らと違い理解には至らねども、『見る者』の多くもその愉悦が植え付けられた。
| それの名を……『免罪符』という。
|
| 正義と神に許されて、悪なるものを死ぬまで殴ることへの許可証だ。
|
|《いかなる悪徳もいかなる罪悪も、快楽の名の元に許されると信じてはばからぬ堕落の温床なり
| ……これを偉大なる神は許されるであろうか》
|
| 許されない。許すはずがない。
| 天使の甘く悲しげな弁舌は、数多の精神汚染を伴って『見る者』たちに浸透してゆく。
|
| 滅びの許容。裁きの受諾。
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／/ |＼
.／ / | ＼ 《文明と知識が汝らにもたらしたのは
／ / | ＼ 虚飾の栄光に過ぎない。
.／ / | ＼
／ / | ＼ 登り詰めた階梯は死刑台の十三階段であり、
.／ / | ＼ 口に上る凱歌は葬送歌である》
／ / | ＼
.／ / | ＼
／ _ -'´│￣ ─ _ | ＼
.／ _ -'´ │ ￣─|_ ＼
／ _ -'´ │ | ￣─ _ ＼
.／ _ -'´ │ | ￣─ _ ＼
／ _ -'´ │ | ￣─ _ ＼
.／ _ -'´ │ | ￣─ _ ＼
／ -'´ │ | ￣─ _＼
＼ ─ _ │ | _ - ／
.＼ ￣─ _ │ | _ -'´ ／
＼ ￣─ _ │ | _ -'´ ／
.＼ ￣─ _ │ | _ -'´ ／
＼ ￣─ _ │ | _ -'´ ／
.＼ ￣│─ _ | _ -'´ ／
＼ │ ￣─ ＿| _ -'´ ／
.＼ | / ／
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|《積み上げられ見向きもされぬガラクタの山こそ汝らの魂である》
|
| 『見る者』たちの心に抱く大切なもの。
| 生命と等価、生きる価値そのものと呼ぶべき魂の拠り所。
|
| レミエルはそれらを纏めて無意味と呼んだ。
| いやそれどころか害悪だと、滅びに至る原因がごとく扱った。
|
| 人間には元来価値などない。生まれ、育ち、生むだけの、生命のサイクル。
| そこに嵌まった代えのきく小さな歯車こそが一つの生命だ。
|
| あるいは、川にも例えられよう。流れる運命という名の大きな川。生命は水の分子でしかない。
| 宇宙的、神の視野で見なくとも、ヒトですら理解している残酷な根本原理。
|
| だがそれ故にこそ、ヒトは己に価値を求める。浅ましくもいじましく、なにかを掴み取ろうと躍起になって。
| そうして作り上げたのが都市であり、芸術であり、知識であり、技能であろう。
|
| ヒトをヒトたらしめるそれらの足掻きを、レミエルは一蹴したのだ。
|
|《この地に住まう汝らは押し並べてヒトの皮を身に付けた獣も同然である。
| すべからく捌かれるべし》
|
| ついにレミエルは『見る者』をヒト以下と断じた。
| だがそこに極端な飛躍はなく、同時にレミエルのなんたるかを知る者には納得の論理しかない。
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|lニニニニ三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三ニニニニ
／/ |＼
. ／ / | ＼ 《己が醜いけだものの本性を
／ / | ＼ まざまざと見据えた上で、
. ／ / | ＼ その罪深さを理解し、
／ / | ＼ 悔い改めてから裁かれよ。
. ／ / | ＼
／ / ＿ | ＼ 抵抗や反論は
. ／ /＿ ／ │ | ─ ＿ ＼ その身に宿した邪悪の所業である》
／ _ -'´│／ ─ │ | ─ ＿ ＼
. ／ _ -'´ ／│ │ ─ | ／│ ＼
／ _ -'´ ／ │ │ | ￣ ─ ／ │ ＼
. ／ _ -'´ │ ￣ ─│ │ | ／ ￣ ─│ ＼
／ _ -'´ │ │￣ ┼ ＿ | ／ │￣ ─ ＼
. ／ _ -'´ │ │ │ │ | │ ￣ ─ ＼
／ -'´ │ │ │ │ | │ ￣ ─ ＼
＼ ─ ＿ │ │ │ │ | │ _ - ／
. ＼ ─ ＿ │ ││ │ | │ _ -'´ ／
＼ ─ ＿│ ／│ ￣ ┼ ＿ | │ _ -'´ ／
. ＼ │─ ＿ ／ │ │ | ─ ＿ │ _ -'´ ／
＼ │ ／ ─ ＿│ │ | ／ _ -'´ ／
. ＼ │／ │─ │ | ／ _ -'´ ／
＼ ￣ ─ │ │ ─ ／ | _ -'´ ／
. ＼ ￣ ─ │ | ／ ￣/ ／
＼ | ￣ / ／
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＼| /／
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| 神の雷霆。
| 数千万の異教徒を、その雷をもって殺戮せしめた。
|
| 時に、虐殺者となじられ堕天使へと貶められる。
| 苛烈極まる皆殺しの天使。狂信的怪物。
|
|
| それこそが堕天使レミエル。
|
|
|《故に赦しを与えよう。
|
| 病の淵の老人も
| 壮健にして未来ある若人も
| 我が子を慈しむ母親も
| まだ言葉を知らぬ幼子も
| 財に埋もれた成功者も
| 食うに事欠く物乞いも
|
| 髪の色肌の色瞳の色にも頓着せずに
| 平等に容赦のない死をもって、
| この穢れの坩堝を虫ケラと嘆きの霊の住み処にしよう》
|
| レミエルの嘆きは、これから殺す者たちへの哀悼である。
| この大天使は予言をも司る。『見る者』はそれを概念的に理解した。
|
| すなわち……これは予言であると。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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／/ ＼
／ / ＼
／ / ＼
／ / ＼
／ / ＼ 《この都市の、悪徳の、罪業の
／ / ＼ 積極的根絶をもってして、
／ / ＼
／ / ＼ 汝らは許されるのである》
／ / ＼
／＿＿＿＿＿＿/＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＼
＼￣￣￣￣￣￣ﾍ￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣／
＼ ﾍ ／
＼ ﾍ ／
＼ ﾍ ／
＼ ﾍ ／
＼ ﾍ ／
＼ ﾍ ／
＼ ﾍ ／
＼ ﾍ ／
＼ﾍ／
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| レミエルの予言。あるいは扇動が終わる。
| 動揺と共感のさざなみが『見る者』から放たれる。
|
| いつの時代も大衆的正義は倫理や法を打ち破る。
| マイノリティは物理的に黙らせて、多数決の正義が幅を利かせるものなのだ。
|
| 『見る者』側の意識を統一するために、レミエルはそれまで一方的だった伝達を双方向に切り替えた。
| 大衆を籠絡する扇動者は、しばしばサクラを用意する。
|
| 最初に放たれた共感が呼び水となりえるからだ。
| だがレミエルにはサクラは要らない。天使の放つ催眠電波は、容易く一般人を洗脳する。
|
| では、異能者は？
| 夢世界は現実と非現実の狭間。肉体をもたず世界に満ちた魔力のみで体を動かす。
|
| 初見での介入など不可能。ならば対処できるはずのペルソナ使いも、今宵はサーシェスの策略で奔走していた。
| 真紅と仲間たち。やらない子のチーム。そして『破滅願望者』のどれにも属さないペルソナ使いでは、この状況に介入する甲斐性のある者などいない。
|
| ……であるが。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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|lニニニニ三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三ニニニニ
__
_/ヽ ヽ ｨｰ､_
. / ヽ(二`ﾘ /ﾉ`ﾆ)ｰ､
. 〈 ヽ､ソ´ .ﾉ l `ｰ´ノ!
`i`´'r‐､lrﾍ ┏┓┏┓ r十､_ﾉ`´ﾉ
r'`ｰ'ｨ=`´ ゝ, ┏┛┃┃┗┓ .ノゝ＝`'´`j
`ﾊ_,-､ rﾍノ､ ┗━┛┗━┛ ｨ'`ｰ､ ,-､〈
. l ´ l. ┏━┓┏━┓ヽ / `´ l`
l l-‐.'.┗┓┃┃┏┛＊ヽ/ /
l l .,ｨ-‐┗┛┗┛:￣:｀ｰ､ヽ /
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', l: : :./:／Ｘ／／/://ヽ;.-l: :.:l /
∨ l: : :.l'ｬ'ｨｫｭ＼ // /,イ､ヽl: : l /
/::ゝ,_,ｨ':´!: : :l `辷ソ ／ 弋:リ' l:: :/ / ちょっと待つですぅ！
,':l:::::::::::::::::ﾄ､: :ゝ､_ , -.､_ ｀´./／ノ
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,':::::l::::::::::::::::l ＊ l ＼ ﾉ ＜/ l:::::::::::ﾍ
/ゝｲ´::::::::::::::,' l ヽ｀´ / .l::::::::::::::ヽ
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../: : : : : ＼:::::::l .＊ l 〃 〃ﾐﾄ､ヾ l ヽ:::::／
/: : : : : : : : `ｰ'l. l《__〃j .ij ヾ.`l ＊. l'´:.:ヽ
: : : : : : : : : : :./ .＊ l ￣〃<>ij ゞl .l: : : :.ヽ
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| カツカツと靴音も高く、確固たる実体を有して。
| 栗色の巻き毛を翻しながら高らか天衝く人差し指。
|
|「黙って聞いてれば好き放題言いやがって、つまりてめーは東京を住む人ごと皆殺しにしちまおうってだけの悪党の癖に、
| 悪いのは全部お前らだってェ説教まで垂れるですか！」
|
|《汝ら、罪深き異教徒に赦しを与えるためである》
|「黙って聞けです！」
|
| 小柄な体から想像もできない一喝。
| しかし、たかだかヒトの子ひとり、大天使はびくともしない。
|
|《その自己弁護は己が罪を否認する行為にすぎない。それは更なる罪深さを》
|「それですよ！」
|
| 小柄な女と巨大極まる水晶の天使。
| 両者の力量差は見るも明らか。
|
|「なんでてめーは話して通じるとばかりに説教垂れるのに、こっちの言い分は聞かないですか、おかしいですぅ！」
|《……》
|
| 神の怠慢を嘆く無神論者の妄言……ではない。
| レミエル自身に内包された矛盾の指摘だ。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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＼/: /: : : /: /: : : : : : /: /: : |: : : : ｌ: : : ヽ} ＼
/: /: : : /: / : : : : ::／/:／/: :∧ : : : :|: : : : | 〉
ｌ: |: : : |: /: : : : :／ ／" /: :／ ＼: : :.|: : : : | ／
|: :ﾊ: : : |: |二ﾆ==ェﾆフ´ /, へ､＿＿__＞':｢: |: : : レ'
ヽ:|∧: : |: |く／ﾌこ^ヽ＼ ／ / _ｪ‐‐､=､｀|: : |: : ｌ: :|
∧ﾍ: : |／ |ｒ^{:::}ﾟ | " |＾{;:::}ｒ^} 〉 |: :/: : ｌ: :| 話が通じるなら脅しと勧告だけで済まして、
/: : |＼: |ヽ ＞ー‐' ヾ_こ_ソ /:/: : :/ /| まずは改める機会を与えるのが神様の度量ってもんですが、
/ : : ｛. ＼ヽ ::::::: ヽ `ー―' /イ: :／ /: |
./: : : ∧ ト ＞ , へ､＿＿＿ :::::／ /: ／/／: ｌ: | いきなり皆殺しって言われたら
: : : ｉ＾ヽ ＊＼ / ／´ :::::ヽ /／ ノ/: : ｌ: | 受入れるものも受入れられる訳がねーですよ
: : ／ﾚ⌒ヽ､. ヽ、 ヽ、＿ :::ﾉ , ｲァー‐く`￢ : ｌ::|
: / / ／ ,へ. ｌ| ` ､ ￣￣￣, ' ｒｰく ＼. |｀ ﾄ､:.ｌ::ｌ
::/ .| ' / ／ヽ| ＞= ｧ ￣ /＾ヽ ｀ ヽ. | 〈 ヽ::|
: / | / | ／⌒/L｢＼. | ./ / | |
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|《偉大なる言葉を預けられしこの大天使レミエルを疑う哀れさよ、汝は一刻も早く救われねばならぬ》
|
| レミエルの表面に再びの紫電。
| 大気を歪ませる高エネルギーの収束を、女はせせら笑う。
|
|「竜も時に子羊のように言葉を話すものですぅ」
|《悪魔の戯言と偉大なるお言葉の区別もつかぬのは、それ即ち真なる信仰を持たぬ罪人の証左なり》
|
| 吹き付ける風が、女の衣服と髪を翻す。
| だが彼女は怯まない、下がらない。逆に一歩を踏み出して、声も限りに叫びをあげる。
|
|「未だ信仰に目覚めていない、これから神を知るかもしれない人々すら切り捨てる発言、聞き捨てならねーです！」
|
| 目を剥いて、腕を振り回し、唾を飛ばしての演説。
| その根底に横たわるのが懇願であることは、誰でも容易く見抜けよう。
|
|「異教徒は全て敵、全員殺す。寛容も慈悲もない。本気で言っているですか！？
| 隣人を愛する精神は売り切れです？」
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_.. - .._
_.. - ,ﾆ-冖 ⌒ 冖-ﾆ - _
／ ノ´,. .‐.: : :￣: :､:‐. ､｀ヽ ＼
／ /／: :.／: : : : : : :l: : : :.＼ヽ ＼
＜ ヽ/: : : :/: : : : : : /: :.l: : :､: : :ヽ/ ＞
丶､/: : : ::/: : : : ::::〃:/:.|:: : :.l: : : :.', ／
ｌ:l: :-:､l.: ::::::::／/://:∧:::._;l:-!: l:.|!
,ｌ:l: : : ::|＞＜__/ ' / '_,. へ:.|: l: :|::!l ヒトには不可能な無限の慈悲と寛容こそが、
l:.|:|: : : ::lz＝ｭ ′ z＝ｭ.リ:://: l 神の神たる所以なのではないのですか！！？
l: :Nヽ: : :ヽ ' /:://: : :.l
l: : ／il ヽ､ヽヽ /二ヽ ／ '//￣｀ヽ!
l: / il lｉ､｀` | | ／' li:. ヽ
l:/ il li ｀丶､ヽ-- ,' ィ .il li::. ヽ
,/ il.※.li ,.ィ｀不ヽ、 il.※.li::::::.. ヽ
. ／/ .:il li // //'{l:l ヾ､il li＼::::::... l､
／ ｌ/ ..::::il li ヽヽ//l>ｨlｌ:l__,ノｲ li:::::::丶､:::::::...l ＼
|: l:::. ..:::::::::iｌ.※.li ｀ｲｌ:l. {.ｌ:｢´ il.※.li:＼:::::::. ｀` ┘ ＼
l:: l::::::_:::-:':´il li {ｌ:l,><{ ｌ:l il li＼_l＼::::. .::/
／,l:::. ￣ ::::::iｌ li､,.､,､,､{.ｌ:ト､イ.ｌ:l､,､,il lｉ::::::::l:::::ヽ::. .::::/｀ 丶､
,. '"´,.-l::::::::::::::::::::::/il.※.li､,､,､,､,､ｌ:l::::::::{_ｌ:l,､,､il.※.li､:::::::l:::::::..........:::::/ﾆ､ヽ､
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| ではこの必死な陳情は何を願うものなのか。
| 命乞い？
|
| いやいや違う。断じて違う。
| 女の求めるものは、もっと切実で精神的なものだった。
|
|《千年を越える怠惰を、今さらに悔やめど余りに遅い。一刻も早く口をつぐみ、裁きの時を待つがいい！》
|「そんな……っ」
|
| 失望。無念。
| 女は震える肩を抱いて膝をついた。
|
| 完全なる敗北。
| 言葉の、善意の、理解の敗北。
|
|《では疾く去り、口を閉ざし、祈りながらその時を待つがいい》
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|「なにをたわけた事言ってるですか？」
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|三三三三三三三三三三三＿7 /〈 〈＿_ ./ /７｜./ ∧＼ ./ /＿_〈 〈＿_ / ∧＼ 〈〈 / / 〈〈.∧∨,/三三三三三三三三三
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-､,.ﾍヽ:.:.:.:ヽヽ ヾ､_ｰ'_ノ ／'´〃 弋_ｰ'.ノ ' /:.:.:.:.:.//､:.:r‐‐
ヽ.-l ＼:.:.:＼､ ／´ ヽ ／':.:.:.／/ ,.-Ｊ あ？ 勘違いしてんじゃあねーですよ
.／ .! ヽ､:.ヽヽ､ i ‐,.'ィ":.／ !/ ｀
ヽ、 ,! l l｀ヾ.＝- _._ _._ -‐"‐／ｌ ! l ） ／ 〉
） .! へ! // ｀丶､ ... ,. '´ l ! !< , く
ヽ_￣l l ! ｀丶､ _.. '" !l ! / -,.､ノ:
ヽ-､ ', ! !l ／::,二 ｀"´二､:＼ ,ｲｌ l ' /: : : :
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| ゆらり立ち上がる女の瞳。
| ぐらぐら煮え立つ怒りが漏れる。
|
|「下手に出てりゃあいい気になりやがってこの唐変木！
| 話せば分かるかもとか期待した翠星石がバカだったです！」
|
| 手が白くなるほど握り締めた拳。
| 華奢な首がいやいやをする子供のように左右に揺れる。
|
|「ぶっとばすですぅ」
|《笑止千万》
|
| ここは夢の中。夢の世界。
| 夢ならなんでもアリだと勘違いされそうだが、そんなことは決してない。
|
| やる夫が『やる夫の中の入即貸本』を作り、無限の孤独と寒さから身を守ったように。
| 夢には夢のルールなくして空間の維持など出来ぬのである。
| そして今、現在この夢のルールを創っているのは他でもない。
|
| 堕天使レミエル。
| この場にあってレミエルに反逆するのは愚の骨頂。
|
| レミエルは完全にこの場を支配している。天使に打ち勝つことは即ち世界に打ち勝つことと同義。
| 世界を破壊できる存在のみが、この巨大で苛烈な大天使に挑む権利があった。
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| それ以外の矮小なるヒトの子は？
|
| レミエルが撒き散らす雷撃の余波だけで消し炭になるだろう。
| 容易く。
|
|
| ……では、『世界を破壊できる存在』なら？
| 『滅ぼす者』であればレミエルを打倒できうるか？
|
| 十六夜咲夜の『私でない月の私』のように、精神に作用する汚染拡大タイプでは『見る者』を壊しておしまいだろう。
|
| 糸川はやぶさの『花園の子守唄』のように、端末を駆使して止めを刺しただけのタイプでは、手も足も出るまい。
|
| 蘇芳・パヴリチェンコの『アタカタモナイノ国』のように、社会性を失わせるタイプではお話にならない。
|
|
|
|
|
|
|
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|
| では。
| 備府やらない子の『ドッペル玄関』のように、物理で地球を破壊するタイプなら？
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/ /´:::....､￣ ￣ ｀ ｀ヽ、.
. /:::::::／ ヽ｀ ｰ-... ＿
/::::::::'イ , ヽ. ＼::､ー'´
/:::::::::::::'´i| ,､ }｀ヽ、ヽ＼
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/::::::::::::::::::::::::ヽ'::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::.ヽ.__
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. {::::::::::::::::::::人:::::i:::::::::::::!:::::::::::::/:::/:::::,'::::::::::::::::!｀ ナイスな展開だな！
Y::::::::::::::,ﾍ＞乂ﾉヽ、::!::::::::::/ﾘ从<ｲ:::::::::::::ﾄ､!
}::::::::::::::ﾄ､Y瓦ﾄ｀ﾐト}}乂::::/ィ(ｿ) ﾉ从::::::::::{
,'､ﾄ､iヽ､ゝ｀ﾆﾆ´ ヽ′ﾞｰ‐' ｲ::::::::::::乂__
八:.:.:.:.:.:｀ト.､ i /＼ﾄ､从 ヽ､,ｒ','⌒ヽｰ
/ ＼::.:.:/:::::i _ 〉ゝ /::.:.:.:.＞:.:... ＞"´￣
／ ﾉヽ: ｀Yヽ:::ﾉ ､. __ _ ´ ／ . . :. :.＞ｆﾆ二￣＿
／: : :/: : :i { 二´ ..イ´:::::::::::::/´￣￣ヽ、 : ::..｀ヽ、
.:. : : : : iﾊ . ヾTﾄ､ ／__ｘ'´￣ｒ'´￣｀ ー― .::＼: : : :.:.:＼
: : : : . : : :j i ｒ‐‐一≠´ゝ--'⌒｀ニ´｀ ヽ＿＿__ヽ、
. : : : :' : ｀こ´.....イ¨｀ヽ ー:::::::､ ...:＜:.:.:.:.:.:イ／
. / ｜ ＼ ＿i..二ﾉ ,.＜´:.:.:.:.:., '´￣
ヽ (´＿＿__、＿＿..ィ´￣ ＞イ
／ ￣ ｀ヽ i:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.::::::::＼ イ::::i !
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| 早瀬浩一。『滅ぼす者』の名は『ガラスの巨人』。
|
| 肥大した自我が現実に作用して、自重で地球を踏み砕いた超質量タイプ。
| 本体は学校の屋上で発見されずに立ち尽くしたまま。
|
| だが『滅ぼす者』に掌握された魂が、己に相応しい活躍の場を察知して目を覚ましたのだ。
| 完全に自力で『滅ぼす者』に打ち勝った、唯一のペルソナ使い。
|
| 論理的には無限に大きくなり、拡大しつづける宇宙すら突き破るその『滅ぼす者』能力を。
| 近距離パワー型のペルソナに即座に組み込み、機械的なヒトガタの動力とする。
|
| 自我の肥大に応じて際限無くエネルギーを引き出す以上、論理的にはパワーは無限。
| 押し込められて歪曲していた少年の英雄願望が、いまここで昇華。
|
| やらない子が『ドッペル玄関』を支配した以上に完璧に、足りないパーツを差し込むようにカッチリと。
| その力は解き放たれた。
|
|
|「人呼んで「黙るです三下ぁ！」
|
| 早瀬浩一。名乗ることもままならず退場。
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| それと同時に、浩一をぶっ飛ばした翠星石に雷撃が直撃。
|
|
| このレミエルの雷霆は、即ち神の怒りである。
| すべての異教徒を破壊する、それらは再生できない。
|
| この一撃はレミエルの夢世界において絶対的な法である。
| 世界を破壊できる『滅ぼす者』であってもここには例外がない。
|
| 命中していたならば早瀬浩一は灰の柱になり、現世における精神は破壊され廃人となっていただろう。
|
| 無論、翠星石も例外ではない。
|
|
|「しゃらくせぇ！ あんまりぬるくてアクビが出るです！」
|
| 例外ではない？
|
| 焦げていた。
| 髪は乱れ服は焼け焦げ、しかし本人の肉体は健在。
|
| 熱照射による低度のやけどは見受けられたが、ピンピンしていた。
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, ＜|l＼
, ＜////|l: : .＼
, ＜////////|ｌ : : : . ＼
|￣￣￣￣￣|//∠ヽ: : |￣￣￣|
,. ＜|: : : . |二二二ヽ| . : : :ﾄ､
│//l_;_;_;_;_;_,_,_,_,＿＿＿_,_,_,_,_;_;_;_;_;_|: .＼
│//|〉: : : : : : : : : : : : :_ : : : : . ∨///| : : |
｀'＜|∧: : : : : : : : , ＜|ｌ＼ : : : . ∨//| ＼|
|/∧: : : :, ＜ ///|ｌ ＼ : : . ∨/|＞'′
|//∧＜////＞´|ｌ＼ >: : . ∨|
|///∧ : .＞＿∠|ｌ>_＜: : : : : . 〈| 《……？》
￣￣￣￣ ＜工工＞ ￣￣￣￣
＜＞
o
＜＞ _,､
＿厂 _,￣＜/|ｌ: ＼
_,＞＜///////|l: : : .＼
_, ＜/////////////|l : : : : . ＼
_, ＜///////////////＞≦＼: : : : : : .＼
│ ////|￣￣|/// ＞≦三三三三＼: : :|￣￣ﾄ､
│ ////|: . |≦三三三三三三三三＼| . :| : .l
│ //≦|: : : : .￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣ . : : : | : :|
＜三三|;_;_;_;_;_;_;_;_,_,_,_,＿＿＿_,_,_,_,_;_;_;_;_;_;_;_| : :|
｀'＜|////////////＞＜/////////////＞'′
|////////＜ ／ /＼＞/////////
￣￣￣￣￣｀＼/／´￣￣￣￣￣
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| 困惑。レミエルが初めて見せた精神的な隙。
| 翠星石はしかし、勝ち誇る訳でもなく口を結んだ。
|
| レミエルは無慈悲に容赦なく、今の出来事が奇跡か誤りであることを確認するかのように紫電を集中。
| 四隅から中心に向かい渦巻くエネルギーの圧力は、光が歪み大気が渦を巻く大嵐を呼んだ。
|
| 吹き荒れる風は風力だけで窓ガラスを押割り瓦を空中に躍らせた。
| だが、翠星石は二本の足ですっくと立ち、体をなぶる暴力的な突風に挑みかかる。
|
|
| 再びの雷霆。
|
|
| 集められた光を凝視するだけで視力を失いかねない一撃。
| 『見る者』の一部に雷恐怖症や強い光への忌避を植え付けた破壊の光線。
|
| アスファルト道路を溶解して、周囲のビルを震わせる。
| 街路樹は余波で炭化しながらなぎ倒され、電柱はへし折れてがらんどうの中身とふやけた鉄骨を淫らに晒す。
|
| レミエルの真下にあった品川大聖堂は無惨にも倒壊し、数本の柱を残すばかりの瓦礫に解した。
|
|
|
| ……だが。
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／ ､,ｒ'" ‐ iｊ ‐__,ｒ=＝=＝=＝= ､__ - i -ﾍ.＼
. ／ / ,ｒ;＝':／ } ヽ⌒`= ､ ', ＼
／ / ,ｒｧ''´ .:／ . .: ,:: } .. ヽ､ﾍ ＼
＼ .{彡' . .:/:: .: .::./: /:: / /: ヽ.. ヽ{ ヽ
丶､ / .: ::/:: .:: .:::/::,/:::::,/:.ﾊ::::.. :ヽ:. ヽ ／
7 .:: ::.:::i丶､ .:::::::;ｨ:: ｨ:::::イ::/ ヽ､-‐:::i:::. : ',／
' .::: :::::::!:::...:::＞くノ'´/／/:/-‐'´ヽ＼:::}::::. ::｜
. i :::::..:::､:::|「 辷オミ､ノ'´ ,.', ' 彳辷ｵTハ}:::::. .::｜
ハ:::::::::::､:､ 弋‐' ﾉ ／´ 弋ー'ﾉ /::::::::::/ｲ じじーのションベンじゃあねーですから、
} 八:::､:::::::､､｀￣ ｀￣ /::::::::ィ/｜ もっと勢いよく撃てねーモンですかね？
// i{＼i＼::::ヽ } ∠ - '´ ｊ}. |
// i{ ` _ 「｀`、 ゝ.二.ア ィ i ｊ「 ｜
// .}i ‐ i ､ |:::::ii:｀丶､ ィ::::ｊ{ 水 ｊi:::: |
// .::ヽ |:::::ii:::::ii::」｀ ー‐ ´Ｌ_::|::ｒ┴ュ_ ｊ}::::: ､
// .:::;ｒ;ﾍ |-一''"´ゝ. ﾉ' ｀ゝ＜ ヽァＺﾕ 、
. // .／／ゝ､ ､| _ -‐‐＼∠....ｒ'´ヽ ヽ ヽ一'＼ 、
. // ./ / 「 ﾊ ﾆ|- '´_ - 'フ:水く_「ヽ ヽ }ｧ| ',､
// ./ / 〉 i八 '|- '´ ／::/ｒ'ﾞ|::トi ノ}｜ i丶
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| 膝すら付かず、仁王立ち。
| ドレスは丸焦げ、髪は乱れて、白いふくらはぎを晒しながらも翠星石は砕けない。
|
|
|
| 何故か？
|
|
|
| ょ
|「変な警戒令が出るまではてめーを召喚ぶために禊いでた翠星石は、この夢世界との親和性がグンバツですからね」
|
| そう、作者にまですっかり忘れられ勝ちだったが、翠星石は大天使召喚儀式のブースターとして手伝いを依頼されていた。
| それはつまり、品川大聖堂の地獄に引きずり込まれるはずだった。
|
| ……それが何故？
|
|「よく分からないけどなんか世界の危機クラスの問題が複数発生しやがったとか
| そんな理由で仕事をキャンセルしやがったフリットのじじーに感謝しとくですぅ！」
|
| やらない夫が『血族』に依頼した『滅ぼす者』関連の連絡である。
| 彼自身はすげなくあしらわれたが、実は翠星石を危機から遠ざけていたのだ。
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,､ - ―――‐- - ､__
／ ,.､ -――-- ､_ ＼
. ／／´ ※ ※ ＼ ＼
/／ ,､-―‐- ､_ ＼. ヽ
／'.※／: : : : : : : : :.lヽ､ ※ ＼. ﾍ
/ / .／/: : : : : : : : l: : l: : :＼ ヽ ﾍ
/ l/: : /: :./: : : : : /l: :/ヽ: : : :ヽ 丶 ＼
/ /: : :.:l: :./: ､: : : /./:./. ヽ:／: :ﾍ ※ l ,ゝ
'ｰ-l:/l: : :l: :/从＼ノ /:/ __,.ｨ'´ヽ､_:.:l l ,ｨ'´ _
l!l.ﾍ: /:/ｲ´ﾑ示 // ,ｨﾑ示`' l:l .lｰ'| ／ .｀ヽ, そして！
ﾉ `/ヽﾄ 弋ソ/´ は::::::i//:l .※ l: :! / ∧
. ri .,､ / .※ l:.l`'ｰ ｀´ , ゞ‐''／_:.l l:.l/ ',
..i`!l l l l`! ./ ﾍ:ヽ ,､ ‐-､ ￣l: :.l l:,′ .l
..ﾍ`' `' ,ｨ'`ｰ､-／ /ヽヽ ,ｨ'´ .i .ｨ: :.:l .※. l! l
l {j ／ ※. /:::::ヽ!_｀_.ヽ .ﾉ ｨ'´/:／! l! .ﾘ
,ｲ,.-{jｨ'／ ／::::::::::（ i ゝ .iｰ-‐'´ ´ ／ / .,' /
. `´／／ .※. ／::::::::::::::く ﾉ〈 l／ ./ ※ / ./
＜´／ ／ ｀'ｰ--j￣/ ﾉ ,ｨｽﾊ / / ./
..／ ※ ／ /:ゝ / .ﾌ〃 ij!}ヾ,､ / ／/ .／ﾍ
／ /:.ﾉ / j´ .ij iji ij､ 》 / ./ ､ .,.ｨ.'´-､: :ﾍ
※. ／ /:.〈 ./ 〈 .ゞ''"ij ij" / ﾊ'`.ﾉ `ｰ ./ l､: :ﾍ
／ /: ノ. `'´` ,､‐ ' ￣｀'ｰ- ､ｨ'´ ヽ＿_ / '.ヽ､: ﾍ
.／ /: : ￣`'´`ｰ､.（ ヽ .／/ / .l`ﾌ､:l!
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| 掲げた拳に紫電が走る。
| それは紛れもなくレミエル自身の雷光である。
|
| レミエルにあからさまな動揺が走る。
| 『見る者』たちのざわめきが夢世界を駆け抜ける。
|
|「今や神の雷霆でも翠星石はわ焼けねー事が証明されたです」
|
| 完全に夢世界に楔を食い込ませた翠星石。
| 白い手足を紫電が巡る。
|
|「これでてめーを殴る神格の調整が出来上がったですぅ！」
|
| 自信満々に言い放つ翠星石であったが、実際には彼女の状況は優勢とは言い難い。
| 翠星石の異能は、その特筆すべきユニークは、事のつまり全ての神格との異様なまでの親和性である。
|
| だがそれは、耐性とは別の能力だ。
| 翠星石は、如何なる神とも交信できる。できるが、それは同時にその神の巫女に、媒介になることも意味する。
|
| それはその神に近づくことであり。
| 人間から離れることでもある。
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＼三イ::.::.::.::._i:ﾊ|―＼::.: ＼|ｨ≠ｧ:ハ: !:! :| //＞{ }＜ヽ} .{| |::.l
i::.::.::.::::ヾ::.: !ﾊ≠=x ＼: ヾ弋刈ﾒ::::V:j | { { 《{ }》 ｝｝ {|! |::.l
ヾ::.::ヽ::.::',::.:ﾒ 辷汐 ` , ¨".:!:::ﾊ::l | V《《｛i｝》》V ｛|! |::.l
jハ::.::.::.ﾊ::.::.廴_¨ _ _ /:/ !j | ー|| ||ー ｛|! ﾄ､l
＼::.::.:.',::.:ヽ､_ , ｲ: /! | |{i}| {ﾊ | ＼
ヽ::.::ﾄ､::.:', ｀ T＝'ﾊ::.:｛ j | |{ii}| {iﾊ | >
,ｲ＼ハ:ヾ ＞≠=}} i::.:| l /z､z､z､ ||i|| ,z,z,z,z,z,zjj i | /
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| 神道において、神降ろしは二人一組で行うのが習わしである。
|
| 降ろす者と還す者。
| 使う者と静める者。
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|
| だが未だ、翠星石の半身は彼女に届いていない。
|
|
| 故に翠星石は。
| 降ろした神に引かれて、人間性を喪失するしか手立てがない。
|
| そして、当然ながら神格が高位になればなるほどに、翠星石が奪われるものも多くなる。
| だけれど、半端な神格ではレミエルを打倒できようはずがない。
|
| ……翠星石の前に提示された選択肢は、たったの二つ。
|
| ひとつめは、一か月前の再現。アマテラスオオミノカミの再臨である。
| これは極めて確実性の高い方法である。
|
| なにしろ『見る者』はみな東京に住んでいる。
| つまりほとんどが日本人であり、そして一か月前の新宿歌舞伎町の再現となれば、誰もがその強さを確信するだろう。
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f,} ｲ { r.､ ハﾟヽ
ﾉ ヽﾉ } .} ｀´
ヽ / ‘. .{
＿＿ _>=ミ､ _ノ ヽ_, ィ
_ ｀ヽ _r- ､ ／￣￣｀ヽ ＿ __ >イ´:
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ヽ ＿⊥ ＿_ ＞^＼ /:::::::::::::::::／ ア:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.｀ｧヽ::
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く:::::::::::::::::‘.__ 厂Yヒｧ-- ､ とア＼ ヽ___>x ./:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.}. ヽ/::::::::::::::::::/ /:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:!
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| だけれども。
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| 一か月前とは状況が違いすぎる。
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| アマテラスを召喚した媒体は現実のものであり、夢世界には存在しない。
| そして、一度深い縁を繋いでしまっているアマテラスでは。
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| 再度の召喚の際に、翠星石は自分を保てないだろう。
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| では、もう一つの選択肢では……？
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| 翠星石はレミエルを確実に倒せる存在を。
| 知名度、実力。そして位階のすべてをもってレミエルを屈服させる存在を。
|
| 知っていたし、召喚が可能だという確信もあった。
|
| あったが、そいつは即ち、『畏れ多くも名前を秘された四文字の神』であり。
| 『教会』の信仰する唯一無二の神であり。
|
| そいつを呼び出しては、翠星石のちっぽけな人間性など風の前の塵に同じ。
|
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彡' , ﾉﾞ弌､ヽz;' ｊヽ､｀:.‐-､,-ﾄ､ヽ｣｀ｒ､ 「 ﾉ ,ﾌ}坏ノ/ __ -┬{ i´ ´ _,｣ ii }´｀ ミ'
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〉 ﾚ'´´ ヽ:.:.:.:.:.／ ll }}､>!} | ＼:.:.:.:.:.:/ ヾ ｀__' ｿ､
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─‐- ､ ＿__ __.. -‐'´／ ｀ゝ'´f´K｀ヽ=｢::::ﾉ-'}}ヽ ／｀ヽ ニﾆ＝- ､ ＿＿_ __ ｨ-卞ヽ
｀ ‐- ､ ＿_ ￣￣ -‐, ' ／ ／ ';:::{ }::::! ヾ､ヽ､ 'ー弋 ────＝ニ二 ＿｣ ﾉ/ノ
────＝=──‐─ヶ-‐'´ .／ ／ `' ''´ ヽヽヽ ｀ヽ､ __ ｀~｀ヽ
_ z- '´ ／ ／ ヽヽ ＼ ヽ二ニﾆ ─ ＿＿ニ＝
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| ではどうするか？
| 翠星石が選んだのは、もちろんどちらでもない。第三の選択肢である。
|
| 人間をやめてしまったら、やらない夫と添い遂げることができなくなる。
|
| それだけは許せない。
| 生きることを諦めることだけは、決してしない。
|
| 故に彼女が選んだのは。
| 『未然形の神』の召喚。
|
| ここまでレミエルに対して無敵を演じ、圧倒的大上段から一撃を加えるための布石を打ってきた。
| あとは『見る者』らが翠星石を信じてくれればいい。
|
| すでに彼らを扇動し、丸め込み、こいつならレミエルを倒せると思い込ませた。
| これが……翠星石の解答。
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／二ﾆ=‐-=ﾆ、＼ ,＞
,ムｲ／ .}、 ヽ. ヽ ｧ′
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(＼ ＿_ ∧ ;' ,ノｌﾉj,ｨ込ｧ｀! ,), V ＼
. ,f＼孑=ｧ),__ | ! ｉ,ｧ示. ﾉ'ﾉ ゞr'ﾘ ﾘ ! | ＼
〈ヾ､ム,. 》 :|| ＼ |!､ﾄ､ﾄ弋ﾘ ､ l ,ﾉ※ 来るです！
. `ｰ'─(,ﾑｲ' ＼ ,. -'‐ ＼＼ ｱ｀ヽ _ﾑｲi !
＼ ｀ 7マ'７ | ヽ.≧ ゝ._ﾉ ,: ｨ´|.※ |
. ｀ , i ,ハ} |.※ | ＞ｘ､. イ ! i|. ! やらない夫！！
｀7ぇｘl/ , ! i 《 ,≫vﾍ.)､i), !
/ / |＿ ｉ.※ i. 《|{,／/iﾍ.∨), ∨ ,r- 、
/ / ! )`i !, 《!_／i |《ﾍ.∨), ∨ ,Xﾍ. }
/ ム.＿. !/ .|.※ |ﾍ. 《 ｉ | 《.ﾍ.∨ﾍ,.ﾏ^ヽヽﾉ
‘ーｘ, i ！ |. | ',. 《. ! i 《. | | ﾒ.}i;ｘr≦
∨ ヽ. | |.※ | ∨《 Lｉ 《 L! :|. | |
＼. ∨ |. | 〈 》〜〜〜''〜 | i !
＼／ .!.※ ! ,／｣Lﾆ=- |!>X<| :| i !
// ¨¨¨’ >厂 Ｋ >' :| |、 ,ﾉ
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| ――――――来なかった。
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☆ 次回予告！
上天に満月、地上に木枯らし。
草木も眠り日付も変わる深夜帯。
されど、血風が荒ぶ暗闘にはこれ以上はない時刻。
矢尽き剣折れ策も果てた勇士たち。
魔王は無慈悲に必滅の魔技を解き放つ。
だがここに、未だ一つの輝き有り。
この惑星を好きにはさせぬ。
出るか忍法ウメボシ破り！
次回『銀河流星剣』
果てに見るのは破滅か死か。
レミエル…おのれきらきー！
流れるように電柱のR18描写
ヒロインは遅れてくるもの。
>>211
自分で言うのもなんですが、どんなテンションで書いたのか思い出せません。
お、おう･･･
＿__
. ""´: : : : : ﾞﾞ｀ ､
. ´‐､ ﾉ: : : : : : : ｀Y´ ヽ:｀::.､
. ´ r'´::_丿__丿: : : : : : : : :ﾉ . : :. :｀ヽ
, ´ , '´. : : : : : : : : ,r'´ ｀'´ . . : : :. . :: :ヽ
, . : ⌒'´: : : : : : r, ,.ﾍ { . : : . . .: : :: ｀､
./: : : : : : : : : : : : : :.{ ｀ﾞﾞﾞﾞ´ . . : : . . . ´ﾞﾞﾞ:｀､
,′.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:r'´｀ , ﾍ ,､､ : : : .. :'.
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!ﾍ.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:, ´ ﾄ､ }.:.:.:::::ヽ_ﾉ.:.::} .!
l }.:.:.:.:.:.:.:.:.:{ ヽヽ _ノ.:.:.:.:.:.:.:.:.:::::::ヽ!
. ヽ.:.:.:.:.:.:.:.:｀､ . . : : . . . . :: :: . . ｀'' 7.:.:.:.:.:.::::::::::::::::.
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| ここではない地球の話をしましょう。
| 滅びて消えた、そんな地球の話をしましょう。
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| 『地球標本展覧会』。
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| 今宵皆様にお見せするのは無尽蔵の汚染。
| 無思慮に環境を汚し続けた人類に対する完全な回答。
|
|
| ……あ、どうも。。
| 引き継いでから何度目かの投下になるというにも関わらず挨拶が遅れました。
|
| わたくし、このスレのオーナーにございます。
| とはいえ管理者権限は今や亡きできる夫くんにまるっと譲渡しておりましたので。
|
| 皆様同様にこのスレの行く先、死と破滅を見学する程度の権限しかございません。
| まあ、わたくし自身は破滅した世界を標本にして収集する程度の無害な存在でございますので。
|
| できる夫くんみたいに管理者権限を乱用して本編中に乱入したり、メタ知識で動いたり、
| はたまた情が移って死の予言を肩代わりしたりなんて致しませんので。
|
| ご心配なく。
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| しかしまあ、できる夫くんは惨めでしたね。
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, . : ⌒'´: : : : : : r, ,.ﾍ { . : : . . .: : :: ｀､
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| ここではない地球の話をしましょう。
| 滅びて消えた、そんな地球の話をしましょう。
|
| 『地球標本展覧会』。
|
| 今宵皆様にお見せするのは無尽蔵の汚染。
| 無思慮に環境を汚し続けた人類に対する完全な回答。
|
|
| ……あ、どうも。。
| 引き継いでから何度目かの投下になるというにも関わらず挨拶が遅れました。
|
| わたくし、このスレのオーナーにございます。
| とはいえ管理者権限は今や亡きできる夫くんにまるっと譲渡しておりましたので。
|
| 皆様同様にこのスレの行く先、死と破滅を見学する程度の権限しかございません。
| まあ、わたくし自身は破滅した世界を標本にして収集する程度の無害な存在でございますので。
|
| できる夫くんみたいに管理者権限を乱用して本編中に乱入したり、メタ知識で動いたり、
| はたまた情が移って死の予言を肩代わりしたりなんて致しませんので。
|
| ご心配なく。
|
| しかしまあ、できる夫くんは惨めでしたね。
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: : : : :| ,r'´~ : : : : : ヽ r'´｀ヽ'´~: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :
: : : :: ', r-‐'´ : : : : : : : : : : ) { : : ⊂⊃: : : : : : : :{｀}: : : : : : : : : : : : : : : : : : :
: : : : : | ,ﾉ : : : : : : : : : : : : : ｀‐´ヽ ｀ヽ. : : : : : : : : : : { .{: : : : : : : : : : : : : : : : : : : :
: : : : :: ', ﾉ : : : : : : : : : : : : : : : : : : | }: : : : : : : : : : : ヾ二ヽ: : : : : : : : : : : : : : : :
: : : : : : し'´∧ : : : : : : : : : : : :o : : : : | r'´｀ヽ ,ノ: : : : : : : : : : : : : :o し': : : : : : : : : : : : : : : :
: : : : : : : : : し': : : : : : : : : : : : : : : : : :{. {: : : : ｀レ'~: : : : : : : : : : : : : : : : : :r'~~~}: : : : : : : : : : : : :
: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :o : : : ｀ヽヽ: : : : : : : : : : : : : : : : r-､: : : : : し'´´: : : : : : : : : : : : :
: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : ﾐ｀ヽ : ＼ヽ、: : : : : : : : : : :r‐´ ｿ: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :
: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :｀ヽ ヽ: : :'., ヽ: : : : : : : :r‐´ く: : : ＿＿: : : :o : : : : : : : : : :
: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : ヽ ｀ｰ､｀ｰ': : : : :r-'´ 丿r´r―'´: : : : : : :ｨ二~ヽ_ノ~
: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :＼ ＼: : : : : { r'´: :{ 二: : : :o ⊂⊃ : ｀ｰ---
: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :＼ ｀ゝ: : : `ｰz_r―-': : : :{ トミ: : : : : : : : : : : : : : : :
: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :: : : : : : : ｀ｰ'´, ＿＿＿: : : : : : : : :`´: : : : : : : : : : : : : : : : : :
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| おおっと、失礼。
| この『地球標本展覧会』はわたくしの趣味を全力全霊で紹介できるまたとないチャンス。
|
| この時ばかりはオタク特有の早口でちょいとばっかりハッスルしてしまいますが。
| まあ、そこいら辺はご勘弁くださいな。
|
| それでは、閑話休題、本編……地球標本紹介と参りましょう。
|
|
|
|
| こちら、そうです。
| 人民共和国あたりを中心にできた大穴に、吸い込まれる途中の地球です。
|
| 外側が吸い込まれると同時に、内側もずいぶん吸われているので。
| 見た目はまるでへこんだボール。
|
| 大気汚染に環境汚染。土地も水も農作物も生物も汚染汚染で汚し切った結果。
| 誰かが何とかしなければならなくて、まあ、何とかしようとした結果がこれです。
|
| もちろん誤解と誤算と無知と無能がお手て繋いで行進した末路でもございますがね。
|
| それでは、この穴の発生よりも少し前。
| 世界情勢あたりから見学して参りましょうか。
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,i' 'i,
i 地 球 i もうムリポ。
'i, ,i'
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__ ,, 'i .iヽ- 、__
. ⌒ヽ
'i
､ ｡ _,::､_ . ｡ 人 .ｙ'
ヾ ￣. ￣.__,,ﾍヽ,.i
!′ーi'-‐ ﾉ .{ ｌ
i, 'ー'!ｰ-' ﾉ '! }
,}､ , .λ ,! ,!
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i' .ヽ / ,l | ,!
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| 地球環境がヤバいヤバいと言われだしたのは二十世紀末。
|
| 産業革命以降、限りある資源は他国に奪われないためにと手加減抜きで伐採、採掘、根こそぎで。
| 資源の奪い合いに明け暮れ、しばしば殺し合い。
|
| それでもうまくいかない場合は戦争殺戮好き放題だった人類ですが。
|
| この地球の人民共和国が、列強をごぼう抜きにするために頑張りすぎたことで歯止めが利かなくなります。
| 共和国は崩壊した連邦から技術と人材をぶっこ抜き、驚嘆に値する速度で発展しました。
|
| 当たり前の話ですが、中央がいくらどれほどに発展しようとも、地方は簡単に変わらないもの。
| 普通はそのはずなのですが、共和国は違いました。
|
| 地方の山を切り崩し、海を埋め立て川を汚染する。
| 安い賃金で地元民を労働させ、至る所に工場を建てて建てて建てまくる。
|
| 土地を蝕み民を弱らせ……けれども一切容赦なし。
|
| お国が先進国に追いつくためならどんな苦難も何のその。
| 皆で苦労を分かち合うと言うと聞こえはいいですが、まあ、早い話が奴隷のように搾取したのです。
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ニニム';;:;;';;;';ムﾆニニ∠,,ィﾆiヽ;.;:,';,;;,;.::;,;,;,;ﾞ'"´;,;.;,:ヾﾆ=リ;;:,;ｨﾆﾆニム;;!ニニニニ二ムﾞ;
ﾆニニﾑ:';;';;'ムニニニー─‐'':,ヾ:;;,;;,;';;';.:;':;;';;';;;.';.;.:'.,:,;.ﾞ'";;ィニニニニ二ニニニニニニﾆ
ニニニム:.;ﾑニニニﾆi.::;'.';.';ﾞ:;';ﾞ;;';,;'.;;;,';:,;ﾞ.:';;,';:'ﾞ;':.,':;';,'. :<ニニニニニﾆﾆニニニニニニﾆ
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| 過酷な労働は、目を覆わんばかりの労働災害を無数に生みました。
| 汚染された環境は、そこに住む人々を容赦なく蝕みました。
|
| 男たちは次から次に死にました。
| 働き、働き働き、働きずくめで疲弊して。
|
| 倒れ、落下し、押しつぶされ、生き埋めになり。
| 血反吐の川を埋め立てるほどの、屍の山を作りました。
|
| 女たちは次から次に狂いました。
| 失い、失い失い、失い続けて錯乱して。
|
| 嘆き、祈り、打ちひしがれて、希望を失い。
| 正気でいることを放棄して、狂乱の渦に落ちました。
|
| 子供たちは次から次に病みました。
| 毒され、毒され毒され、毒され尽くして汚染され。
|
| 吐瀉し、ひきつけ、全身にデキモノ作って、幻覚を見て。
| 因果不明で原因不明と、幼い命を散らしました。
|
| 共和国は死者の名簿を作りませんでした。
| 正直に言って、膨大すぎて数えきれなかったからです。
|
| そんな無駄に時間を使うくらいなら、次の労働力を確保しないといけませんものね！
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,-,､--―‐--､
入.l:::::::::::::: ::ヽ
./:::::ツ::::::::::::::: :ヽ
|::::::::::::::::::::::::::::::: ::::| ,----､
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ヽ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;（ ヽ γ,ﾆﾆﾆヽ
>‐-i,,＿＿ ,,..), .） .| l 汚染 |
（ ﾉ | l / /‐'ヽ､ .| l＿＿__|
ゝ.| .!､_,!､_/ '､ -l,,,| ヽ＿＿ノ
'''ul` '‐iﾉ､!''
,-、
lllllli,、
ﾞﾞ!lllii,,,,,,r‐''"ﾞﾞ￣ﾞﾞﾞヘ,、
,,,-ﾞ!llllliｙ',''￢i､,,,,､, ）ﾞヾ⌒''⌒ヽ
,-'" ,,llllllll,.,lllllllﾞ/ ｀i'ー'i､.,、 ﾉ
／;| ::,人illlilillll!ﾞヽ ヾヾ ﾞl,| , |
lﾞ;;;;;ヽ-'ﾞﾄ―'＾li,';;;;;;;;ﾞlL,,,_ ﾞト .lﾞ/
lﾞ;;;;;;;;;;;;;;;;ゝ_ノ::ﾞヽ、;;;;;;l, r';, |,/
,|;;;;;;;;,,＿ ;;;;;;;│ |;;;;;;;;l ,!;;;;, |
|;;;; / ,,."ﾞ'i､;;;;;ﾞl l;;;;;;;; ! （;;;;;;;i |
ﾞl;;; | lﾞ ,,lﾞ;;;;;;;ﾞl i;;;;;;;;（__,）;;;; ! ﾉ／"⌒ヽ
ヽ;;;'l .、i′;;;;;;;（__ﾉ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ﾉ iﾞ´ ,!
ヽ.ﾞl "ﾍ-､,,,,,/l ,、;;;;;;;;;;;;;;;;（ノ ノl ,! ,､,､
ﾞヾ,,,,, ， 彡;;;;;;;;;;;;;;;;;,,ソ'''ﾟ''ﾞﾞ⌒ヽ､,!＿_ ／ ｿ
ﾞ'ヽー―'''";;;;;;;;;;;;.,ノ,､､、 、 ｀´ ノ
｀"―--､,,,,,,,,,,x,' "'''_,,,ノﾞ'ｰ┬‐┬──-､ノ
｀ﾞﾞ"" l （
（_＿,ﾞづ
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| こうして国は発展しましたが、もはや取り返すが付かないほどに毒が回っておりました。
| その期間。おおよそ十年。
|
| それが、独裁者だった共和国の元首がコロッと倒れて。
| 次の元首が状況を把握して青ざめるのにかかった時間というわけです。
|
| とはいえ、首から上がすげ変わっても、共和国のやれることにはあまり違いはありません。
| ちょっとのリスクにゃ目をつぶり、目標めがけて一目散。
|
| 先進国を追い抜くほどの発展までが目標だった時代から。
| 汚れに汚れた国土を立て直すことが目標に。
|
| え？ 一度汚した土地を、そう簡単に立て直せるかですって？
|
| そりゃもう、もちろん！
| 言うは易し、行うは難しの典型みたいな展開ですよ。
|
|
| 何もかもが手遅れ。
| 国内には汚染を原因とした病魔の嵐が吹き荒ぶ。
|
| 土地も人も水も、救いようがないほどで。
| 連日連夜重酸性雨が降り注ぎ、防疫マスクなしでは野外に出れない死の荒野。
|
| 野生動物は死に絶えて、適者生存したミュータントが闊歩する。
|
| 覆水盆に返らずと申しますが。
| それの見本ですね。
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,.-‐'"ﾞ´ 〈::::::::::<,,. ,､_ , -‐--.、／ /
／ ,.､）:::;;;;;:::<,,. ＼＞'´ （ /
／ '"' ﾞ''ｰ''" ﾞヾ< / ， ， ｀´ヽ
. / ,.、 ﾞl / ___ ヽ
/ ,／ ヽ. | ,/ ~´ ヽ
l ,／ ﾞl,. | ／l ﾞl
ヽ、 ﾉ_,／ |, | _,,.l / ,'⌒ヽ ﾞl
￣ | ∨ﾞ ´ノ ..:. ｝ ﾞl|
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_,,.-､,.| l : ｝ |
lミ,.' ｀| ヽ,. | |
ヽ+='´| ヽ、 / ,! ,.ｲ
| l ,/ ／ .|
ヽ / | ﾉ ,/ , |
＿__ ヽ / ／｀"''ｰ‐-ｧ'´ /-‐'i´ |
| ￣￣￣￣二二二ﾆﾆﾆﾛｺｺﾌ /-'i | /
｀￣￣￣￣|￣~ ! | 彡__,ﾉi~｀′| /
| ,ﾊ i ￣ | ,∧ |
ヽ | | | （ l ｝ |
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| l | | | | | | _,,,_
/ 〈 l | | | [::;;;]o｡ Y;;;;;;;ヽ
／´｀i;| /'｀i| _,／ |,ノ ｛ 8。 ｡∞ゝ;;;;ノ
ヽ-‐'´ （,_. ,!ゝ ∈-‐ｰ<<_,／′ ﾟ∞°
（イメージAA）
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| ミュータント。
|
| さらっと流しましたが、実は汚染が原因のミュータントが登場するようになっておりまして。
| まあ基本は汚染地域でも活動できる獰猛な肉食動物なのですが。
|
| もちろん、人間にもミュータントが発生しました。
| その多くはただの肉体的障害を負わされた被害者なのですが……それだけでは終わらないのです。
|
| ……異能者が。
| これまで歴史の裏側に潜んできた超常の能力を有する者たちが、次々に生まれ露になったのです。
|
| 元首は大喜びで彼らを利用しました。
| ミュータント異能者たちの多くは知能が低く、しかし一般家庭では手を焼く存在。
|
| 政府ははした金でミュータントを買いたたき、親は大喜びで引き渡します。
|
| そうして集まった異能者の中に……いいえ、集められなかった異能者の中に、犯人はいたのです。
|
| ええ、犯人です。
| 地球を内側から吸われて潰れたボールみたいにした犯人。
|
| そいつは自分で名乗れる能力を持ちませんでしたが。
| 自分で自分をこう呼んでおりました。
|
| ﾎ ｽ ﾄ
| 『案内係』と。
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／´: : : : : : : : : : : : : :.＼
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./ : : : : : : : : :＼
ｉ : : : : : 〃ヽ : : : :..＼
l: : : : : 廴 ;;;;;;;;;;; ヽ
ヽ.: : : -=- ;;;;;;;;/ ﾊ
ヽ､ _,, - ''" ｿ / r i
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ゝ'' l l
ゝ .l
＼ ＿ l
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| 犯人は突出したミュータントであり、しかし肉体は乳児のまま一向に育ちませんでした。
| ただし、脳だけはすくすくと過剰に育ち、肥大した後頭部を持つ異様な風体になりました。
|
| であるのに関わらず、犯人は言語を話せませんでした。
| しかし、理解はできるようで、泣きも暴れもしない。
|
| 恐ろしく手のかからない子供でした。
| ……特に、食費的な意味で。
|
| 犯人は、食事の代わりに『汚染』を吸いました。
| 化学汚染だけでなく、腐敗も、毒素も、病原菌も吸いました。
|
| その旺盛な食欲は、あっという間に家族を健康にしました。
| 続いて隣人を。村中の人々や家畜を。
|
| 次に食品、飲料水。近場の空気。
|
| 犯人は崇められましたとも。これぞまさに神の子だと。
| 現世の救済のために生まれた、神の化身に相違なしと。
|
| 当然政府は犯人を欲しましたが、彼の家族が、信奉者が許しません。
| 共和国政府は諦めました。彼を金で買うことを。
|
| では犯人入手を諦めたかですって？
| もちろん、諦めたりしませんよ。
|
| 金ではなく、鉛玉で手に入れることにしただけです。
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| 犯人は突出したミュータントであり、しかし肉体は乳児のまま一向に育ちませんでした。
| ただし、脳だけはすくすくと過剰に育ち、肥大した後頭部を持つ異様な風体になりました。
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| であるのに関わらず、犯人は言語を話せませんでした。
| しかし、理解はできるようで、泣きも暴れもしない。
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| 恐ろしく手のかからない子供でした。
| ……特に、食費的な意味で。
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| 犯人は、食事の代わりに『汚染』を吸いました。
| 化学汚染だけでなく、腐敗も、毒素も、病原菌も吸いました。
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| その旺盛な食欲は、あっという間に家族を健康にしました。
| 続いて隣人を。村中の人々や家畜を。
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| 次に食品、飲料水。近場の空気。
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| 犯人は崇められましたとも。これぞまさに神の子だと。
| 現世の救済のために生まれた、神の化身に相違なしと。
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| 当然政府は犯人を欲しましたが、彼の家族が、信奉者が許しません。
| 共和国政府は諦めました。彼を金で買うことを。
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| では犯人入手を諦めたかですって？
| もちろん、諦めたりしませんよ。
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| 金ではなく、鉛玉で手に入れることにしただけです。
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| であるのに関わらず、犯人は言語を話せませんでした。
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| 犯人は、食事の代わりに『汚染』を吸いました。
| 化学汚染だけでなく、腐敗も、毒素も、病原菌も吸いました。
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| 共和国政府は諦めました。彼を金で買うことを。
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| 犯人の幸運。
| 人語を解する存在ではなく、ただの物質として認識されていた。
|
| 犯人の幸運。
| 『汚染を消し去る能力』であると誤解された。
|
| 犯人の幸運。
| 共和国は汚染除去のために、犯人の能力を強化するために薬剤投与などを惜しまなかった。
|
| 犯人の幸運。
| すべての副作用は自身の能力で中和。能力の超強化。
|
|
|
|
|
| この地球の不幸。
| 犯人の復讐をだれ一人止められなかった。
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| 犯人は、異なる事象の世界を見ていました。
|
| 『そちら側』では表が裏で、裏が表。
| 魚は空に、小鳥は水に。キレイは汚い。汚染は清浄。
|
| 『向こう側』に喜ばれるものだけを吸い取り送り込む。
| それが犯人。『案内係』の能力。
|
| 鏡写しの向こう側。なにもかもがさかしま。
| 裏返ったドッペルゲンガー。
|
| 彼は世界を救うものだった。
| 彼は素晴らしい世界をつなぐ入り口を作るはずだった。
|
| だが、自分を愛し、育ててくれた家族を失った憤怒に任せて。
|
| 地球を丸ごと裏っ返しちゃったのですね。
| はい、どーん！
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ろ//: / ｲ //: : 从: : : :ヽﾘ; ヾ}: : ＼ ﾊ三三三イ三三三三/
, イ三 / :/ / ｲ/: : : : ∧: : : : } ; ;〈 ヽ: : ヽ }三三三三三ヽ￣｀"´
, イ三三〃: : ヾ{: : }: : : :ノ ∨: : ＿: : } ヽ: : ＼}三三三三三三ミ
イ三三三:/: : : : :ｲ: : 1ﾅイヽ "戈_:_i : :ﾍ ヽ: : : ＼三三三三三 ｽ＿＿＿＿＿ -― = 三三ニ＝=-
´三三三三/ : : : : /{: :-<て刃 又ﾃｱﾍ: : :ヽ 、: : : : ＼三三三三三三三三三三三三＞''"´￣ 〃
三三三三' : : : : : / !: : :ﾊ ｀´ j ｀´ﾙハ: : :} ヽ: : : : : : ＼三三三三三三三三三／´ ＿ ／"
三三三/: : /: : : /: ﾊ: : :! ﾍ ― , イヽ ﾉ: :ﾘ ,、丶: : : : : :ヽ三三三三三三三三＞ ,／"三 7 ／ｲ
三三: /: : ; : : : /: : : ﾔ: ﾘ三 :ゝ - ヘ , ゝ‐- 、三三 ヽ: : : : : : :＼三三三三三三イ , イ三三三{ ／ｲ
三三/: : :/ : : :ｲ: : : : ﾊ/､三 ゝ‐ ''"´ヽ{´ ヽ三三ゝ: : : : : : : :ヽ三三三三三三ヽ , イ三三三三三三´／
三: /: : :ｲ: : : /:l : ; -‐ フ/ｲ ゝ＿ ＼三三、: : : : : : : ヽ三三三三三三＼ , イ三三三三三三三 ／
三ｲ: : : :.| : : :{ :lｨ´ ／// ）ミ ヽ 、 ヽ三 ＼: : : : : : : ヽ三三三三三三そ＿＿ , イ三三三三三三三三／
三:|: : : : | : : ﾊ :{ ///从 ´ ヾ 7 < ＼三ヾ三ハ: : :ヾ三三三三三三三三三三三三三三三三三／
三:|: : : : ! : :{ }ハ {/// ヽ、 イ ｀７三三ヽ ヽ 三三三、: ヽ三三三三三三三三三三三三三三三／"
三:!: : : : ; : :{三三∧ｲ 〉 大_ ／、三三三 ヽ ＼三三ヽ: ヽ三三三三三三三三三三三三三／"
三ﾊ: /; : : : :}三/ } ｲヘ" た／ｲ ＼三三三＼ ヽ 三ハ ヽ三三三三三三三三三三三 ／
三 ﾍハ: : : : { / / j 仏 { ヾ三|ヾ三ヽ ヽ三 ソ三三三三三三三三三三三/
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| 『滅ぼす者』：《ドッペル玄関》
| 本体名：備府やらない子
|
| 破滅の果実、ここに結ばれり。
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/ r i〔 ィチﾆﾆ＞≦ニ＞､ エクスカリバー
メ __∥__r i〔 r :/ニニ／‐=≦ニニニ'＼ ……もといひみつかりばー銀河流星剣。
＼{____＞≦ ∥ﾆ／-‐= ___ ヽ ｀ -=ﾆﾑ
＼____ノ ,:ｲ,／ｲ／ﾚ〔茫ぅﾊﾉ ′＼:ｦ 80％限定解除―――承認！！！
/⌒＼__λ､ﾉ /}N ｀´ フ_ノｲ! , }! _
r‐､ . / _r==≦ ＼_ヽﾉ∥ミ ￣ 乏' ′,′ } :} r
| ∨ r=========≦_r≦ﾆミ｀___´ ノ':ミN __ /_ノﾚ¨＼, ,/ :i ﾉ ,' ＿
ヽ ヽ. ! {: : : : :_:r≦: :⌒ヽ: : : :}: : }}:: : : ::| !_ ィ〔イ､ :＼ ⅴ /i_／／､｡ r ≦＞¨´
r= ミ ゝ= v i＞≦: ､: : :}: : : : :∨: :!: : }}: : : : | ≧=- フﾉ_ 以 ∨≦: :=-ﾉ ¨´
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ミ≧ ､ ｀: : :入 :∨:}!:／:_:r ´-=≦ _. . -=≦＼: :}! :! } ﾔ
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| ブラックホールとは。
| 極めつけに高密度で大質量。光すら捻じ曲げる超重力を持つ天体である。
|
| 地球上にそんなものが生まれたら、その瞬間に『地球標本展覧会』送りは間違いなし。
| 近くにいようが地球の反対側に住んでいようが。
|
| 地球がねじ切れ押しつぶされて、訳も分からず死んでしまうことに変わりなし。
|
| そんな世界滅亡アタックを初手でぶっ放したやらない子であったが。
| 対処して適切に処置できる存在が近くにいるとは誰が想像できようか。
|
|「セイバー忍法ウメボシ破り！！ まさか……まっさか本当に役に立つ日が来るとは……！」
|
| 謎のヒロインＸ。やる夫の父の弟子である『セイバー』のひとり。
| 自分以外のセイバーへの殺意を燃やす狂人なれど、そのハッタリ力はやらない夫と並ぶ。
|
| ……では、その真の実力は？
|
| 個人戦闘能力では大したものではなく、いわゆる異能なしのやらない夫とどっこいどっこい。
| カッとなりやすい、負けず嫌いな性格から挑発に乗りやすく、失態も多かろう。
|
| ……だが、ダークサイドへ墜ちたセイバーを処断する能力と。
| 宇宙的脅威から世界を救うに関しては。
|
| 随一。
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| （__人__） | / ..::::::::::::::::::l
.| ｀ ⌒´ .} ./ ..::::::::::::::::::::! サンキュー助かった！
| }/ .::::::::::::::::::::/ ついでにパス！
ヽ ./ .:::::::::::::::::::/
.ヽ . .／ .:::::::::::::::::::/
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|「ぎょえええええ！！？」
|
| お姫様抱っこのタカオを放り投げられ、空中に『静止』していたＸが慌ててキャッチ。
|
|「やらない夫君！ 『エクスカリバー』を抜いて『守護神』を起動しなさい！
| 局地重力制御装置があればブラックホールを防げます！」
|
| つい数時間前、やらない夫は彼女から『自分用のエクスカリバー』を預かっていた。
| だがまだ触れてもいない。
|
| 『守護神』だか局地重力制御だか知らないが、そんなＹ文明っぽいアイテムはぶっつけ本番には危険が過ぎる。
|
|「また！」
|
| 馴れ馴れしい知らない女に対して、やらない子が碁石をアンダースロー。
| 完全に支配……それどころか邪悪に進化した《ドッペル玄関》によって、碁石は『物質』⇔『反物質』。
|
| 反物質とは、理論上存在するとされる虚数の物質である。
| 物質と対であり、物質界においては極めつけに不安定。
|
| 物質と衝突することで『対消滅』と呼ばれる現象が発生。
| 物質の全質量エネルギーが熱量に変換されて、周辺一帯を吹き飛ばすという仕組みだ。
|
| なお、１グラムの物質が生むエネルギーが90兆ジュール（効果には個人差があります）。
| 何その膨大な数字、と思った作者にもわかりやすく説明すると。
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| １ジュールは、10グラムの物質を１メートル動かす力である。
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| では……90,000,000,000,000ジュールでは……ええと？
| 90,000,000,000グラムの物質を、10,000メートル動かす力でいいのかしら。
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| とにかくやらない子の持つ強化ガラス製碁石は、一つ２グラム前後。
| 単純に上の数字を二倍していいのかよくわからないが、詳しいことは詳しい人に聞こう。
|
| 二倍します。
| 180メガトンの物質が10キロメートル吹き飛ぶ。
|
| これまた『地球標本展覧会』送り間違いなしの地球破壊爆弾である。
| 本当にそれでいいの？ 教えてエロいひと。
|
|「ひっみつかりばぁ追加、起ぃ動―――しょうぅ……にんッ！！
| セイバー忍法ぅ、マイナス封じぃィッ……こふっ」
|
| Ｘが目と鼻から血を流しながら反物質爆弾を指さす。
| 世界を滅ぼす悪夢の兵器は煙と消えた。
|
| だが同時に、彼女を支えていた局地重力制御がおぼつかなくなり、抱えたタカオごと落下。
|
|「ちょっと！」
|
| もちろん、タカオの能力は無敵のクラインフィールドである。
| 15メートル程度の落下では傷一つあるまい。
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| やらない夫は墜落する女たちに目もくれず、風になぶられながらも両足で立つやらない子を睨みつけた。
| 腕から伸ばしたヒゲ槍を鉄塔に巻き付き、落下を防ぐ。
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ﾉ:::::::::j（ﾉ ..::::....::::..:::: ::. .ヾ)':::::::::::i
ﾙ:::::ﾘγ::..:::::..:::...ﾍ、: : : :: ﾉy:::::::ﾘ
Yyﾉ ﾉ :ﾉ...:ﾉ ノ ヽ ::::::） ﾙﾘﾉ
ﾘ::::::( （ ●） (●::（
. ﾊ::::ﾊ ,, r‐ｧ ﾘ） )
） ) ）、 ￣ノくﾊ（ ウメボシって何アフロ？
（,（.( ' ﾍ ∩ ノ ⊃
／ .／ ＿ノ
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|「ブラックホールだろ？ ブラックホールは大質量の恒星が死んで、自身の重力によって崩壊して生まれる。
| 埋葬された太陽が眠る、底なしの墓穴こそがブラックホールだ」
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|「あー、なるアフロ」
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| 兄と妹の会話はそれで十分だった。
| 《ドッペル玄関》を支配したやらない子に、ただの人間が勝てる道理無し。
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| 埋葬された太陽……やらない子は今、己の太陽を自分だけの墓穴に埋葬する。
| 風にふらつきながらも必殺の自爆攻撃を放とうとするやらない子の視界から……愛しい兄の姿が消えた。
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| 一瞬でも目を逸らしていない。
| 瞬きすら意思の力で防ぐほどに、しっかと眼を開いていた。
|
| では……何が起きたのか？
|
| やらない夫は、やらない子の身体能力を知っている。
| やらない子も、やらない夫の身体能力を知っている。
|
| やらない夫は、《ドッペル玄関》の能力を知っている。
| ではやらない子は？
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{ 二 ､, -‐┴-'､ヽ ﾆ |¨:.:.、
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∧ ￣ 八:.:.:.:.:.:.＼
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| 知らない。
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| やらない夫の戦闘技術も。
| ニャンコ先生の知恵と魔術も。
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| 墨目の献身と暗黒も。
| ねずみ男の機知と直感も。
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| やらない夫の仲間たちの力も。
| やらない夫を叩き鍛えてきた経験も。
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| やらない夫にとって、一つの目標たりうる女の存在も。
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| 『医者』シレーヌ。
| 神速の手練れ、墜ちた『異端審問官』。
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| その縦横無尽にして正確無比の空中殺法。
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| 人間の動きを想像していては対処できない。
| 人間の速さを想像していては対処できない。
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| 翼を持たないやらない夫には、絶対に真似など不可能な領域。
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| まあ、普通なら。
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:.ト , ＼ ＼ / /`, , ' ,' ,'.jJ ' _／ Y: i:: :::il .l !j i i j J l
.::l .` , ＼ Y / /l l j j J.. ／ __,人:._, ' 丿l: .l ``レﾚ l ィ
.人_ ＼ ＼Y_丿/l /_/J __( <" /: ／ l: .l _/ l ｌ
~/イ＼_ ＼_ レ'l/ ﾚj ` -ヾｿ入 i: / / .l :l _/ / l
/l l ト-Y＼＼l / l ヾｿ入 .l: , l l＼l:::.人 ィ _/ / l
l l ＼ ヽソ l _ ,,, ,,_ （(_`ヽﾐl: ... ＼ ＼Yソ人／ l _／ / l トi
l ﾄ , ` -- ,' _( i' ￣ `－-`イ_入::....:::: ＼ Y_ソ入／__／ _／7 / l l
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l ﾄ 、 ` ＼ l EﾆY' ::l -ヾｿ入 ／ ／ / / ／
ﾚ l 丶 ` ﾚl .l三;l::. _,,,,_ /` ,_ _ヽ入 <__ 人／ / ／
`丶, ＼ l l三;;Y〃~~入r 、_ .:/ヽ, ヽ入,_- ,_`> `メ,_
＼l l l ヽ ゝ /ニ:;:;:,X'〃~入`＼~` －- 、,_:__::／ ` ` , ,了ミ) ___てィ l
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l l l Y l l三ﾐ;:;:;:;/ ヽr〃人`;`i; /／ / ,' ' rj'j"j(-Y/" ￣ /
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|「そんなッ」
|
| 何もないはずの左側から、突然現れたやらない夫のチョップが、やらない子の首を切断せんと迫る。
| 人間の限界を超えた柔軟さでそれを回避しながら、やらない子は視線を右に向けた。
|
| 通り過ぎた先で、異様な動きのからくりを読み取ろうとしたのだ。
| だが。
|
|「甘いぞやらない子」
|
| 急速接近からの空中急停止。
| 左の裏拳がやらない子の顎を打ち抜いた。
|
|「ぐぅッ！？」
|
| 振り向くとそこにはいない。
| 代わりに真下からの突進。
|
| クロスした両腕が脇腹を直撃。バランスを崩すやらない子。
|
|「そう簡単にッッ」
|
| 打撃攻撃相手ならば、《ドッペル玄関》は無敵だ。
| やらない夫が触れようものならその肉体を裏返し、腕を粉々に吹き飛ばす！
|
| はずが。
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j:::::::::ヽ ,ﾍ^ ⌒ Ｙ ⌒ヽ/ .::::::::i
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ﾙ:::::ﾘγ::..:::::..:::...ﾍ、: : : :: ﾉy:::::::ﾘ
Yyﾉ ﾉ :ﾉ...:ﾉ::::::::::: ヽ ::::::） ﾙﾘﾉ
ﾘ::::::(::::::::::::::::::::(○::（
. ﾊ::::ﾊ ,, r‐ｧr‐- ､) がふッ。
） ) ）、 ￣ﾉﾉ入 ＼
（,（.( ' ﾍ ｀i_,ノ{_ / 二ﾕ.
ノ/）:{ﾍ ＼.／ lﾉ（(V｡ ＼
∧: :ト-ゝ＼/ ＼ノイ: 人 。 ＼
| ｀` l ＼ ｝＾{｜ｲく ＼ ＼
| | ヽ V /ー‐|- ＼ ！
〈 卜､ ∨ /:l | ＼ /
Y ｉ:::::＼ }／:::::ー::ｲ ￣
| l ＼{ |
| | ｏ |
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| ひっくり返ったヒゲ槍の、内側から飛び出た一撃。
| やらない子はたたらを踏んだ。
|
| ここまで、囲碁サッカーで鍛えた超人的バランス感覚で耐えてきた。
| しかし、後ずさった先には足場はなく。
|
|「あ……」
|
| 墜落。
|
|「死ね」
|
| それはとどめ。
| 冷酷に振り下ろされた愛する人からの冷酷な一言。
|
| 根底に横たわる、黒々とした殺意は混じり気ない本物で。
|
|「はい」
|
| 陶酔。歓喜。悦楽。
| やらない子は大輪の笑みを浮かべた。
|
| 全身を駆け巡る巨大な感情が肉体にまで作用する。
| 高さ15メートル、時間にして二秒足らずの永遠。
|
| 落ちていく。落ちていく。落ちていく。
| 走馬灯はすべてやらない夫との記憶。
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|: ,' ｉl ｀i:.:.:.:!.「了豺 了忝リ ,':/:.:|: :.:.:./ . ＼:.:.:.:',:.:.:.:! ヽ
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l:! |:.:.:|:八"" , "" /:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.ヽ )/／
ヽ !ヽ:!:.:.:.＼ ､_._, , ' !: :.l:.:.:.:.:.:.:.:＼:.',＼ .〃´
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く.ｨァ ＼ ／ ! i
くｨァ ｀ ｰ----┴=x､ |
くｨァ ＿＿,. - 、 ヾ!
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| 地面に激突して、花みたいに広がりたい。
| 花弁の中心に伸びるめしべみたいに、砕けた頭蓋から脳漿を飛び散らせたい。
|
| その瞬間をやらない夫は見届けてくれると確信していた。
| 一瞬で絶頂まで登りつめる。
|
| 《ドッペル玄関》を使えば落下ダメージなど無いも同然であるはずなのに。
| やらない子は受け身を取るどころか頭から落下した。
|
| やらない夫の手による墜落。
| であると同時に。
|
| やらない子の選んだ自殺。
| 愛する人の手にかかって死ぬ。
|
|
|
|
| ああ。
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| だが見上げたやらない子と見下ろすやらない夫の視線は交差せず。
| やらない夫は上を見て、何かを呟いていた。
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|lニニニニ三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三ニニニニ
／⌒ヽ_ ／ヽ ＿＿ ／:.:.ヽ __
|:.:.:.:.:.:./:.:.:.／〉-‐:.:.:- ´:.:.:.:.:.:.:.:.｀ヽ､ _/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ヽ
!:.:.:.:.:/:.／／￣｀:.:.:.:.:.ヘ:.:.:.:´￣:.:.｀:.:ヽ/l ',: :.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.!
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!:.: :./!:.:.:.:.:.:/!:.!.斗‐- ヽ:斗‐ﾒ!:.! l: :/:.!:.l:.:.:.＼: : :.:.:.:ヽ.:.:.:.:',
l:.:.:/ .!i＼:./:.ヽ! ─ ヽ!:/ j/ !/!:.:!/:.:.:.:./ ＼:.:.:.:.:.:',:.:.:.:',＼
|: ,' ｉl ｀i:.:.:.:!.「了豺 了忝リ ,':/:.:|: :.:.:./ . ＼:.:.:.:',:.:.:.:! ヽ
i:. !i |:.:.ヽ_ ゞ-' ゞ-' /:/ノ/: : :.:.', ヽ:.:.i: :./ )
l:! |:.:.:|:八"" , "" /:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.ヽ )/／
ヽ !ヽ:!:.:.:.＼ ､_._, , ' !: :.l:.:.:.:.:.:.:.:＼:.',＼ .〃´
',ヽ｀ヽ:.:.:.::ヽ､ イ /:.j:./.:!ヽ､:.:.:.:.:.:ヽ:.:.:.ヽ あぁ……。
,． ´ .-ﾍ:| ＼.::ヽ｀´ ｲ/:./イ ＼::::ヽｌ::.:', :..:.;､
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i i/ ,. 一ｧi:.:.:.:.i
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く.ｨァ ＼ ／ ! i
くｨァ ｀ ｰ----┴=x､ |
くｨァ ＿＿,. - 、 ヾ!
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| 地面に激突して、花みたいに広がりたい。
| 花弁の中心に伸びるめしべみたいに、砕けた頭蓋から脳漿を飛び散らせたい。
|
| その瞬間をやらない夫は見届けてくれると確信していた。
| 一瞬で絶頂まで登りつめる。
|
| 《ドッペル玄関》を使えば落下ダメージなど無いも同然であるはずなのに。
| やらない子は受け身を取るどころか頭から落下した。
|
| やらない夫の手による墜落。
| であると同時に。
|
| やらない子の選んだ自殺。
| 愛する人の手にかかって死ぬ。
|
|
|
|
| ああ。
|
| だが見上げたやらない子と見下ろすやらない夫の視線は交差せず。
| やらない夫は上を見て、何かを呟いていた。
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/.:.:.:.:.:.:.:.､:＿:.:.:.:.:ヽ}厂:.V:.__:.:.:.:.:.:｀:.:.. _
/.:.:.:.:|:.:.:.:.:.:＼７'¨￣ヽ:.:.:.:.'､ ヽ:.:.:.:.:.:.:.:.:.｀:=‐-
|:.:.:.:.:.|ヽ:.:.:.:.:.:.:ヽ ｲ心Ⅵ:.:.:.V }.:.:.:.:.:f=-‐''¨´
i:.:.:.:.:.|‐‐-､:.:.ト:.〃 っ:.j V:.:.:.:.V.:.:.:.:,ｲ:.ヽ
ｌ:.:.:.从 r=tﾐ､ V/ ∨:.:.／{,ィ::L
'. :.:.:.:l:.ヽ Vﾊ : : : :.」ヽ'.:::::::::::::::::::L はい残念賞。
i:.:.:.:.l:.:.ハ: : 7 _」.::::::::::::::::__::::::::::::.＞
l:.:.:.:.|＼:介:..．_ ヽゝ >.:::::::,イ r==ミ::::::::::ゝ
'､:.|:.'､ ＞:::::::::::乙¨´７::／ //.:.:.:.:.:} }::r‐｀
ヾ:.:.r≪.:::::::::::∠ V::{ { {.:.:.:.:.://¨´
｀:.! ∠:::::::::r≠ヽf/.:/ ヽ ー 'ｲ
ﾚ厂7==＝{:/ } } |{
// /.:/:::|:::У / / / i
r‐「 / .′::::::{::/ .′.′.' ハ
¨| |从::::{:::::ﾚ′ ! j j ､∧
/l l ∧::',::;′ / / / ヽｰ ､ /Vヽ -y′::::::V::
〃! ! }::V } 〈 .′ ＼ ． 「::::::::::::::::::::::::::::::::::
} } i:/ / { /､ r=ﾐ ヽ ｀¨ ーv'⌒ヽ=‐-ﾐ
| | / / / j:ヽ＼ｰ'’ ｰ ＼
__」 | .′ / { !::::::> ヽ ニニニニｺ ）
ー// 」 ハ /__ | .′￣ ヽ ＼ こ) ／
//「:´::::::::::｀ﾆ´::::::ｰz/-‐= ニ¨｀ー =ニ二.＿ こ)
//r'::::::::::::::::::::::::::::::::::::::7 _ ﾆ=-:──‐く ￣¨ =ミ ＿」
//f::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::Lx≪:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ヽ ＞::::::
// 彳::::::>､/｀¨レ=ﾐ::::::::::::::〈.:.:.:.:./.:.:.:.:.:.:．=-=ミ}ｧ ゝ:::::::
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/ｲ「三≧{ ! }:::/::::::::::::/≧込r ′ }
[ﾆ「三!三ﾄ ．.- ’¨ｰ入::ﾆ=‐''´ | |
|ﾆl三|三ji / ヽ | |
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|「ぎゃあああああフロ！！？」
|
| 落ちた先は地面ではなかった。
| 砂糖に群がる蟻のように群れを成したぬいぐるみのど真ん中。
|
| アサギのペルソナ、プリニーの中心である。
| 衝撃を受けて爆発するプリニー。吹き飛ぶやらない子。
|
| プリニー単体の火力は正直言って高いものではない。
| 素肌は高熱で炙られ火傷するだろう。水ぶくれも作る。
|
| 化繊の服は溶けるだろう。肌に張り付いたら悲惨なことになる。
| ……だが、その程度だ。
|
| 一体だけなら。
|
|
|
|
| 今回は、百近い数が爆発した。
|
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く ７: : : : : : : : : : :/: : l : : : : : : ∨ 」
l≧:彳 : : : : : : : : ／}: : :ﾊ : : : : : : :ﾟ，广 ＼
/ / : l/ ＼.: :／ / : / ＼/ : : : | に. >
く .ｲ|: : :|// : Χ ′/ ／ ＼:|: :|: |:＼ /
V: : |: : :|__／＿_∨: : ﾊ／_＿_＿|: :l;ハ; : Υ
|: : |: : :｢ ￣{j￣/: :/ ￣{j￣￣|: :| }ｌ: : |
|: : |: : :|≧===/: :/ -====彡！./|: : :|
|: : |: : :| /: :/ 丶 u |: :|ｲ .|: : :| ……えっげつな。
|: : |: : :|__彡: ／ ＿＿_ |: :|==ミ : |
|: : |: : :|父ト | ＼． .イ |: :ﾄ :i:i:i:Ⅵ
,小│ : |' ≧=ー =彡i7 |: :ト`寸i:ﾊ
/: : /|: : :| ¨¨¨ / :|: :| V'！＼
./: : / :|: : :| ＼{ / |: :| | | |
/: : ｲ !: : :! ,ハ l |: :| | |_,.|
./:／ /| : 小. ﾟ l |: :| | /:i:ｉ|
|: :/{三三三}≧=ｰ =Ε三|: :|三}:i:i:i:|
／ ｲ:/ .| | トi:i:i:i:i:i:ｉ:１ .|: :| |i:ｉ:イ|
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| そのえげつなさに一枚噛んでおきながら、タカオは他人事みたいに呟いた。
| クラインフィールドで自分と、瀕死のＸと、アサギとねずみ男を守りながらである。
|
|「一応言っておくと、言い出しっぺは実のアニキだぜ？」
|「即死しないのこれ？」
|
| 夕方の地下駐車場の再現。
| 至近距離でのプリニー大量誘爆。
|
|「《ドッペル玄関》で防いでるんじゃねーの？」
|
| 表面を高熱で……即死しない程度の高熱でこんがり炙られて、アサギとタカオは大変ひどい目にあった。
| ニャンコ先生がいなければどこの誰ともわからない焼死体となっていただろう。
|
| 投げ遣りに、この作戦を伝達しに来たねずみ男が言う。
| だが、爆発の数が多すぎる。
|
| この物量攻撃により《ドッペル玄関》の防御が全方位自動ではないことと、
| 完璧なダメージカットは望めないことが判明。
|
|「……ッ！！？」
|
| 高熱にさらされて一瞬で灼けた喉からは声などでない。
| 悲鳴も懇願も聞こえはしない。
|
| 手足をばたつかせ、のたうつやらない子から読み取れるのは……苦痛。
| 文字通り地獄の苦しみを味合わされて、いっそ殺せと、助けてくれと暴れている。
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／￣￣＼
_ノ ヽ、 ＼
（ ●）（ ●） |
（__人__） | ..／} 墨目、はやぶさちゃんは？
_ ヽ｀⌒ ´ | / / __
(＾ヽ{ ヽ { ./ / . ／ .ﾉ
(￣ ヽ ヽ i ヽ / 厶- ´ ／
.(二 ヽ i i |,r‐i ﾉ. ヽ / ／
ヽ ／ ノ ／ r一'´ ー ､ ￣￣￣）
i { ｲ―イ / .`ー―. ､＿_ .〈￣￣
ヽ. `ｰ '/ / /＼ ＼
`ー ' ￣￣! | ヽノ
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|「無事です、今そちらに」
|
| 蜘蛛のように、無数のヒゲ槍を手足代わりにして異様な挙動を見押せたやらない夫。
| アサギとタカオを地下駐車場で翻弄した際にも見せた動きではあるが。
|
| 狭く、掴むものが多い場所でのみ可能な疑似シレーヌ軌道。
| これこそがやらない子を圧倒した秘密である。
|
|「……本当にやるんですか？」
|「やらない子が本当に死ぬ前にとのことです」
|「はあ」
|
| プリニー爆発地獄にも、打ち止めがある。
| 炸裂音は鳴りやむが、しかし破壊は大いに残った。
|
| 抉れた地面。鉄塔に残る焦げ目。
| そして全身に火傷を負い、意識を失ったやらない子。
|
| 衣服は溶け、あるいは焦げ。皮膚は熱でめくれあがっている。
| 頭髪は焼け焦げて見る影もなく、粘膜は爛れ眼球は白濁していた。
|
| 死体も同然。助かる見込みはない。。
|
|「じゃあはやぶさちゃん、やってみてくれ」
|「気が進みませんが」
|
| はやぶさの背後に『滅ぼす者』のビジョンが浮かぶ。
| 宇宙を這う、大型宇宙機の幻影、《花園の子守歌・続き》。
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/////////// /＼ ｀ ＜ ＞'
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７´｀ ＜≧､_ ｀ ､/ /////////////////// , イ ＿|! ヾー＝＝三三三三三三三三三三三三
＞ｭ､ /＝三≧ｭ ､ ｀ ７//////////////// / ,ｨﾊ ｀ヽ ヽ ￣｀ー==三三三三三三三三
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｀ ＜_ | ｀ヾ三///////////////// Yｲｼ ｲ ヽ ￣
///////////////// ハ ｡ ! ｊ ﾊ
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///////////////// ｀ ＜＞､ , ィ ´ i从|｀ヽ /ｲ ノ ! .|/////≧ｭ ､_
ｒ///////////////// ｀ ＜＞ ｊ //ﾊ＼ _ >イ／ｌ ! |//////////ｌ
////////////////// / ///ﾊ ヾ////ｊ |､ !//////////ｌ
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| 《花園の子守歌・続き》は対象の肉体を融解して記憶を保存する力を持つ。
| その他の能力はいわばおまけで、それこそが本性。巨大な記録庫。
|
|「ニャンコ先生」
|「わかっておる」
|
| 失神したやらない子は、《ドッペル玄関》の支配権を失っていた。
| これにより、名前で縛ったニャンコ先生に《ドッペル玄関》の支配権が移る。
|
| はやぶさにより融解するやらない子の肉体。
| まずは爛れた皮膚。灼けた粘膜。焦げた毛髪。
|
| それを《ドッペル玄関》が『反転』。
| 『分解』⇔『再構築』。
|
| 治療である。
|
|「う……ううぅぅぅう」
|
| うなされるやらない子。
| 意識が戻ったわけではないが、あっという間に傷という傷がなくなり、生まれたてのような赤ちゃん玉子肌にまで再生。
|
|「すごい……」
|「ちなみに君らには遠坂さんからもらった虎の子のソーマを使った」
|
| やらない夫の皮肉も、物の価値を知らない連中には通じない。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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,, -‐ ､
/' ヽ
／￣￣＼ ./ i
／ ._ノ ヽ､＼ / ...........i
| （●）（●） | / ..:::::::::::::::|
| （__人__） | / ..::::::::::::::::::l 聞け、女。
.| ｀ ⌒´ .} ./ ..::::::::::::::::::::!
| }/ .::::::::::::::::::::/ 悔い改める機会をやる。
ヽ ./ .:::::::::::::::::::/
.ヽ . .／ .:::::::::::::::::::/
,. ‐'"´ `'‐,r''"~ .:::::::::::::::::／
..:.／,. -‐‐- ､ l′ ..:::::::::::::／|
:,' ／ !.:::::::／:i..:..l
r ､ / !::::::::::: i..:..i
l .......`:i i !:::::::::: ﾞ､:.i
! ::::::::::/ i i:::::::::: ヽ:i
.! ::::::::/ i .....i::::::::::: ヽ
.ヽ ::::::| `､ `､ .....::::::::::::l:::::::::::: `,
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`ヽ `､ .::::＼:::::::::::::::|::::::::: /,, ,. ‐;''
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| 『女』。
|
| やらない夫は妹であるやらない子を、他人よりも冷たく呼んだ。
| 今だ意識が戻らぬはずのやらない子が震える。
|
|「他者に迷惑と危害を加え、自らの意思で悪徳を成すならば、貴様を家族どころかヒトとは思わない。
| 悔い改め、己の暴走を恥じ、罪を贖い迷惑をかけた人々が許すならば、その後にオレも許そう」
|
| やらない子の瞼がヒクつく。
| 朦朧としながら、唇がわななく。爪を地面に立てる。
|
|「その時が来るまではお前はオレの妹ではない。それどころか人権すら認めん。
| 水たまりに捨てられたたばこの吸い殻以上の害悪だ」
|
|「おにい……ちゃ……」
|「やめろ、耳が腐る」
|
| 完全に覚醒したやらない子の表情。
| この世の終わり、死すら生ぬるいという絶望感。
|
|「やらない子がオレを愛しているのは理解しているが、残念ながら叶えられない。
| オレは翠星石を愛しているからだ……わかるな？」
|
| さらに、隠していたはずの想いまでズバリと言い出され、やらない子は完全に自失。
| 恐ろしく高性能なはずの脳みそでも、状況を理解しきれない。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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.／::::::. ＼
/::::::ヽ;;: ＼
. （:::::（::::冫 |
. （:人;;;） . | オレがお前を一番に愛しているなら。
r‐-;::::::. . | 血縁ごときでは止まらない。
（三））:::::.. . |
>::::ﾉ:::::::::. /
/::: / ヽ;::::::::: /
/::::/ ⌒ヾ:::::::::::.〈
（;;;;__ゝ:;;:::::＼／:::::）
. |＼::::::::::::;;:1
. |:::::＼;;／:::|
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|「ですよね」「やだそっくり兄妹」「気持ち悪い」「黙ってろ」
|
| 周りのヤジも、二人の世界を作る兄妹には届かない。
|
|「セックスと出産だけが愛ではないだろ？
| もしも翠星石と出会わなかったら、オレはやる夫のすべてを受け入れた最高の相棒となるべく生きていただろうな」
|
|「そこでやらない子じゃないのかよ」「デスヨネー」「しってた」
|
| やらない夫とその親友の濃厚な同性愛を想像してゆでだこの天龍は置いておいて。
| 二人の関係を知るシグとロビンは頷くばかり。
|
|「やらない子のことはその次くらいには大切にしていた……が」
|
| やらない夫の声が氷点下まで冷たくなる。
| 再び、妹だった女を言葉の刃で切りつける。
|
|「それも今日までだった」
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, ⌒ﾊ ﾊ⌒ 、
j:::::::::ヽ ::::⌒`' ⌒ ヽ::::::::i
ﾉ:::::::::j（....:::.:::..:::,､.::. .ヾ::::::i 世界ごとぶっ殺すぐらいの勢いで
ﾙ:::::ﾘγ::::ソ ノ ヽ :::ﾊ:::::i 無茶してごめんなさい。
. Yyﾉ ﾊ::::） ー ーﾘ:::::ﾘ
ﾘﾉ' ⌒.､ ─ く'ﾘﾉ
/ ,＿ ＼ ＼ ＼ ＼
と_＿＿）_ヽ＿つ_;_ヾ_つ.;.
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|「アフロ外して話せるなら今後もそうしなさいよ」
|「そうするでアフｒ……そうします」
|「やっぱいいわ」
|
| 呆れたように肩をすくめるタカオ。その横でアサギは思案顔。
| 地肌に額を擦り付けるやらない子の肩に触れ、顔を上げさせるはやぶさ。
|
| 人形のようなかんばせは無表情に極めて近い。
| だが、親友のはずの二人には通じるものがあるようだった。
|
|「ごめんなさい」
|「実は私も、やらない子のライバルなんです。妹の親友という背徳的な位置を利用して、上位を目指します」
|「え？」「え？」「え？」「え？」
|「嘘です」
|
| 虚を突かれ思わず口を開いたのは、備府兄妹とタカオと天龍。
|
|「……世界危機係数は驚くほどに減りましたね」
|「そりゃあオレの妹だからな」
|「理由になっていないような」
|
| はやぶさの融解とやらない子の⇔『再構築』による超治癒を固辞した瀕死のＸをやらない夫が支える。
| やらない子による世界の危機を脱したＭＶＰはこの謎のヒロインＸであろう。
|
| やらない夫の要望通りに、臨機応変にやらない子に対応し、そして殺さずに済ませた。
| 彼女が本気で殺しにかかっていたら、最初のブラックホールを消された時点でやらない子の命はなかっただろう。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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∧/＼Y´ ＼.!///ﾄ //∧
＼＼/､__ :l///ﾑ////i
//＼} ﾋ::::ト ////_|////|
////ﾞ ¨¨ //／ﾋ::!////!
/// "" 、 ¨|////|
//|i､ __ //lｉ//ﾘ
//| （_ｿ ｲ//l // ……まさか、ね。
//|ト.､ >ー＜////|ｌ/
//l ｀ 7Z ﾚ{ ,ｲ///
川|､ ___,〉 〉::::Z.,ｨl/＿
:::::7 _ __ 八:::::::::::::::::::/
:::ム ,/l_ 〉 .ゝ::::::::::::厶ｨ
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| そしてアサギは、アサギの鋭敏な主人公察知能力は、相変わらずやらない夫を純正の主人公だとは認めていない。
| いうなれば群像劇における主人公の一人、準主人公。
|
| だがやらない子を、因縁は深かろうが十分な伏線も無くあの世界を滅ぼす魔王みたいな怪物を『助けて』みせた。
| シリーズ物の映画版番外編みたいなノリと勢いで大団円を迎えて見せた。
|
| これは……一体どういうことなのか？
|
| あのやらない子を助けて見せても、アサギの目に映るやらない夫にはさしたる変化がない。
| 世界を救ったヒーローであるはずなのに、主人公としての能力は『ロストマン』に見劣りする。
|
| ……『ロストマン』。
| 上条当麻と、彼が率いる『破滅願望者』達。
|
| 彼らのまぶしいほどの主人公ぢからはいまだ衰え無し。
| であるのに、驚くほどに容易くやらない夫の傘下に下ってしまった。
|
| では、やはり備府やらない夫は最高金賞ランクの主人公なのか？
| ……違う。アサギの直感が警告を発する。
|
| 彼は違う。
| 彼の有する主人公としての適性は……。
|
| どこかで、何者かによって歪んでしまってる。
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|i:∧丈ト＼i｢ ""|i:i:|:i:i从 やらない夫さん。
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|「なんだ改まって」
|「やらない子とはやぶさを助けてくれてありがとうございます。アタシらの無理なお願いを聞いてくれて、心から感謝しています」
|
|「え、気持ち悪いだろ」
|
| 突然まじめに謝意を述べたことに、やらない夫だけでなくほかの全員が顔をしかめる。
| とうとう本格的に狂ったか。そんな顔だ。
|
|「ペルソナ使い『次スレの主人公』朝霧アサギ……及ばずながらこの力をやらない夫さんのために使います。
| 必要になったら遠慮なく連絡ください。主人公を殺すことよりも優先して駆けつけます」
|
|「……そりゃありがたいが」
|「じゃあアタシもね。『重巡洋艦』霧野タカオ。水上戦と護衛任務なら任せてちょうだい」
|
| ありがたいが、『血族』は危険でヤクザな商売だ。
| 断ろうとするやらない夫に、女子高生たちが畳みかける。
|
|「私もお願いします」「お兄ちゃん、お願いでアフロ」
|「……」
|
| 彼女らの安全を願う気持ちと、打算が天秤に乗っていることにやらない夫は気が付いた。
| アサギはいまいち不安定だが、ほかの三人は恐るべき戦力だ。
|
| それこそ一人で、戦況をひっくり返しかねないほどの。
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|「なんだ改まって」
|「やらない子とはやぶさを助けてくれてありがとうございます。アタシらの無理なお願いを聞いてくれて、心から感謝しています」
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|「え、気持ち悪いだろ」
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| 突然まじめに謝意を述べたことに、やらない夫だけでなくほかの全員が顔をしかめる。
| とうとう本格的に狂ったか。そんな顔だ。
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|「ペルソナ使い『次スレの主人公』朝霧アサギ……及ばずながらこの力をやらない夫さんのために使います。
| 必要になったら遠慮なく連絡ください。主人公を殺すことよりも優先して駆けつけます」
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|「……そりゃありがたいが」
|「じゃあアタシもね。『重巡洋艦』霧野タカオ。水上戦と護衛任務なら任せてちょうだい」
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| ありがたいが、『血族』は危険でヤクザな商売だ。
| 断ろうとするやらない夫に、女子高生たちが畳みかける。
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|「私もお願いします」「お兄ちゃん、お願いでアフロ」
|「……」
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| 彼女らの安全を願う気持ちと、打算が天秤に乗っていることにやらない夫は気が付いた。
| アサギはいまいち不安定だが、ほかの三人は恐るべき戦力だ。
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| それこそ一人で、戦況をひっくり返しかねないほどの。
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／￣￣＼
／ _ノ ＼
| （ 一）（●）
| （__人__） 人々の平和を守るためとか、
| ｀⌒´ﾉ 悪い奴を倒すためじゃなくて……利己的な理由で君らを使うかもしれないぞ。
| ,.<))／´二⊃
ヽ / ／ '‐､ﾆ⊃
ヽ､ｌ ´ヽ〉
''"::l:::::::/ __人〉
:::::::::|_/ヽ. /|||||ﾞ!:ﾞ､-､_
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:::ｙ′.: ',ゝ､_/ヽ.||||i|::::ヽ::::::|:::!
／: :／/: : : :|:::ヽ|||||:::::/::::::::i::|
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| 別に構いやしないと、力強くうなずく三人の後ろで。
| アサギが邪悪に笑う。だが、その笑みには誰も気が付かぬままに。
|
|「私兵にでも愛人にでもご自由にってことですね。私が鍛えておきましょうか？ いろいろ」
|「そういうのは星さんに頼むから、Ｘはスシ食って寝てろ」
|「なぜ寿司……？」
|
| Ｘはキル夫とは違うタイプの忍者なので、スシは実際重点しないのだ。
|
|
|
|
| こうして、『滅ぼす者』を宿した高校生たちの騒動は終息の方向に向かう。
| 残った高校生らは『破滅願望者』とやらない夫の協力者たちによって無力化し、自我を取り戻した。
|
| 仕掛け人たるアリー・アル・サーシェスは品川大聖堂で死に。
| 世は並べて事もなし。
|
| などという訳はない。
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（ヽ、ヽ / ）|
| ｀`ー―‐'| ..ヽ|
ゝ ノ ヽ ノ
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| 後日。
|
|
| 無数の一般人の目撃者と、重軽傷者を生んだ一連の事件。
| そして、大天使レミエル召喚に端を発した出来事。
|
| そのすべての責任を取らされ、一人の男が処断されることに決定した。
|
|
| 弾劾者は、『聖処女』ジャンヌ・ダルク。
| 罪人は、備府やらない夫。
|
|
|
|
|
|
|
|
| こうして、東京は戦場になった。
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| 無数の一般人の目撃者と、重軽傷者を生んだ一連の事件。
| そして、大天使レミエル召喚に端を発した出来事。
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| そのすべての責任を取らされ、一人の男が処断されることに決定した。
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| 弾劾者は、『聖処女』ジャンヌ・ダルク。
| 罪人は、備府やらない夫。
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| 後日。
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| 無数の一般人の目撃者と、重軽傷者を生んだ一連の事件。
| そして、大天使レミエル召喚に端を発した出来事。
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| そのすべての責任を取らされ、一人の男が処断されることに決定した。
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| 弾劾者は、『聖処女』ジャンヌ・ダルク。
| 罪人は、備府やらない夫。
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| こうして、東京は戦場になった。
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☆ 次回予告！
東京中に現れた『滅ぼす者』も。
品川大聖堂の惨劇も。
魔王やらない子の誕生と没落も。
それらの裏で起きた海兵隊の暴走も。
そして、再臨したニャルラトホテプでさえも。
すべてはこの夜に起きた異変の前兆に過ぎない。
そして東京は、滅びに向かう。
次回、『君の名は 』
果てに見るのは破滅か死か。
〜〜〜今回分ここから〜〜〜
',.ヽ、 ／/l
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| えもいわれぬ沈黙の幕が、夢世界を包んでいた。
|
| 日付けが変わり深夜。
| 災厄の一夜における最悪の出来事はいまだ進行中。
|
| 『母』により『異教徒殲滅の堕天使』として召喚された大天使レミエル。
| 予見の力を最大限に悪用した、東京全土への皆殺し宣言。
|
| それに対抗し、反論し、人類を救わんと立ち上がるも、儚く野望潰えた翠星石。
| 彼女の失策はアマテラスに頼らなかったことでも、『四文字の神』をけしかけなかったことでもない。
|
| ひたすらシンプルに。
|
| やらない夫が『見る者』側にいなかったことである。
|
| 彼女の愛する怪人は、残念ながら現在妹と交戦中。
| そうでなくてもやらない夫の睡眠時間はこの一週間皆無である。
|
| この夢を見れた可能性は極めつけに低かった。
| いや……まあ、考え方は正しかったのだ。
|
| やらない夫ならば翠星石は人間性を失わずに呼び出せたであろう。
| そして、あのキュゥべえに『弥勒菩薩の末法少女』として見いだされたやらない夫ならば、
| レミエルの打倒も可能だったに違いない。
|
|
|
|
|
| たぶん。
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| えもいわれぬ沈黙の幕が、夢世界を包んでいた。
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| 日付けが変わり深夜。
| 災厄の一夜における最悪の出来事はいまだ進行中。
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| 『母』により『異教徒殲滅の堕天使』として召喚された大天使レミエル。
| 予見の力を最大限に悪用した、東京全土への皆殺し宣言。
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| それに対抗し、反論し、人類を救わんと立ち上がるも、儚く野望潰えた翠星石。
| 彼女の失策はアマテラスに頼らなかったことでも、『四文字の神』をけしかけなかったことでもない。
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| ひたすらシンプルに。
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| やらない夫が『見る者』側にいなかったことである。
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| 彼女の愛する怪人は、残念ながら現在妹と交戦中。
| そうでなくてもやらない夫の睡眠時間はこの一週間皆無である。
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| この夢を見れた可能性は極めつけに低かった。
| いや……まあ、考え方は正しかったのだ。
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| やらない夫ならば翠星石は人間性を失わずに呼び出せたであろう。
| そして、あのキュゥべえに『弥勒菩薩の末法少女』として見いだされたやらない夫ならば、
| レミエルの打倒も可能だったに違いない。
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|「……ええと」
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| 翠星石はドブネズミ色の脳細胞を懸命に動かした。
| 彼女の頑丈で分厚い頭蓋骨の下で、ネズミ車がからから回る。
|
| やらない夫が応えなかったことで翠星石は場を白けさせてしまっていた。
| 『見る者』……すなわちこの夢を見る東京の住人たちはもはや翠星石に懐疑的だろう。
|
| 彼女が何を叫ぼうと、全て虚しくも響かず消える。
| そしてレミエルの雷霆に、次は耐えられまい。
|
| ……一瞬で信仰あるいは信頼を失った。
| 選択を誤ったか？ いや、やらない夫は最良だった。翠星石は根拠もなく信じた。
|
| だが挽回せねば……翠星石は決意を胸にレミエルを睨む。
| 先ほど早瀬浩一とかいう『滅ぼす者』を追放したのはナイスでなかった。
|
| 今は何か時間稼ぎが、レミエルを怯ませる何かが必要だった……！
| その時間で、次の何かを……何かを……。
|
|《戯れ言は終いか》
|
| だが無情。レミエルは翠星石より早く立ち直った。
| それと同時に、どこからかか細い音が流れてくる。
|
| レミエルと翠星石しかいないはずのこの夢世界に？
| 早瀬浩一のような援軍か？
|
| 狼狽する翠星石の耳に、か細い……笛のようなメロディーが届く。
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／ / ＼
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／ / ＼ 《……？》
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／ / ＼
／＿＿＿＿＿＿/＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＼
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＼ ﾍ ／
＼ ﾍ ／
＼ ﾍ ／
＼ ﾍ ／
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＼ﾍ／
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| レミエルが動きを止める。すわ三人目の推参者か。
|
| なにかしらの始まりを予感させるファンファーレのような。
| 同時に終わりを連想させる物悲しさを束ねて。
|
|「口笛ですぅ……？」
|
| 大仰で絢爛なオーケストラの主旋律を口笛だけで鳴らすならば、こんなにも寂しくなるのかと驚かせる調べ。
| 『ニュルンベルクのマイスタージンガー 第一幕への前奏曲』。
|
| ドイツの偉大なる作曲家ワーグナーの、数少ない喜劇の始まりの曲である。
|
| ちなみにワーグナーの知名度は代表曲『ワルキューレの騎行』に偏っており、一般人には他の曲は通じないぞ。
|
| とにかく翠星石の知らない曲が頼りなく流れていく。
| 口笛を吹いているのは何者か。
|
| 見渡すぐるりはレミエルの雷霆による廃墟ばかり……いや。
| 折れて空洞を晒す電柱に、にょっきりと棒状の何かが生えていた。
|
|《何者か》
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＿-＝=‐-＿_
,.ｲニニニニニニﾆﾆ-__
/ニニニニニニニニニニ=-__
. /ニニニニニニニニニニニニﾆ‐__
/ニニニﾆ＞､ニニニニニニニニニﾆ-_
. '二ニ／ ）二二二二ニニニニニニ＼
〉ﾆ/ ,ｲ二二ニニニニニニニニニﾆ＼
ｒｲニ! ,.イ二二ニニニニニニニニニニニﾆヽ
＿'-―=＝＝ﾆﾆニニニニニニニニニニニニ二二〉
〈ﾆﾆ二二二, '⌒)=-ﾆニニニニニニニニニニニ＞'ﾞ
ヽ-―=ﾆ入_,..イ二二二二ニニニニニﾆ-ニ／
. ﾉﾆﾆニニニニニニニニニニニニニニ二＞-＿
. ,ｲﾆﾆニニニ=＝=ニ二ニニニニニニニニ二二ニ＞､ 俺が誰なのかって？
/ﾆ＞'"::::::;:' ＼::::::::::ｉ＼ニニニニニ／ニﾆ＞'" ／ 知ってるやつは知ってるだろうさ。
. /／ /:::､::::::l. ／ Ｖ::::::l::::::l､ー-=ニニ=‐::::/ .／
＼./::::i:::＼::::､_,ノ l:::::::l::::::l.ｿ ﾉ::::::＼:::::::／―‐'"
. l::/.l:::::::ﾉ＼､ .ｌ::::::l::::::l イ:::::::::::::ヽ:::ゝ、＿＿＿＿
!{ !:::く ｀ |::::::l:::::,! ヽ:､::::＿‐=ﾆﾆニニニニニ〉 ,. ヽ
ﾞ､ l:::::::::､ _ l::::::|:::/.__-‐ﾆﾆニニニニニニニニ/ , '" .l,＼
ヽ::::::::::::ヽ､ !::::::|:/ニニニニニニニニニニ二/ ／ト､ !//＼
l::::::::::::::::ハ ｌ::::::l/ﾆニニニニニニ二二二二〈 ／ .!//へ、 .l///,ｲ
ﾉ:::::::::::::/ `/l:l:::::!／ヽﾆﾆニニニニニニ二＞' ﾄ､ .l'/////＞ '" .|
/:/!::::::::/ .／ﾆ!l:::::! 〉ニニニニニニ＞'､ !/＼ l//＞'" /
/:' .l::::::/ ヽﾆﾆ!l::::l ／ニニニ＝‐ ﾊ"´ .!'∧ l////＞" ／
, ' .l::::;' ／〉ヽ.l:::lｲﾆﾆ＞'"∧ /,∧ .!'//ヽ l//／ニヽ. ／
l::; !, ヾ,...､::!-‐/ｌ .//∧ ///,∧ .l///, イ二ニニﾆ', ／
. ':{ }l /;;;;;;ヽ､//,l ////,∨-‐=ニニニニニニニニﾆl´
ﾞ、 j.,'ゝ;;;;ﾉl.///＞‐＝二二二ニニニニニニニニニl
`{ .ｿ-‐''"二二ニニニニニニニニニニニニﾆﾆl
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| 鍔のない、しかしシルクハットみたいに長い筒状の黒帽子に黒マント。
| 顔面は蒼白。両目には青黒い隈取り。唇にも同色のルージュ。
|
| 骸骨じみた化粧の道化師……まるで死神。
|
|「本来夢は《ロック》の領域なんだがね……アイツどこで油売ってやがるんだか」
|
| 意味不明にぶつくさ呟きながら、そいつはマントの内側から右手をゆっくり抜き出した。
| その手には、刀身のない剣がある。
|
|「まあ、俺は自動的に呼び出されちまうんだから、文句を言っても始まらないし終わらねえんだが」
|
| 柄と鍔までの西洋剣。十字鍔に車輪の柄頭。
| 古びてはいるが、使い込まれた歴戦の輝き。
|
|《汝は何者か……？》
|「《ブギーポップ》。死神だよ」
|
| 黒帽子の名乗りは雷鳴にかき消された。
| レミエルの容赦ない一撃が怪人を消し炭に……変えられない！
|
| いかなる手品かまやかしか、《ブギーポップ》は光を回避していた。
| ふわふわと、風任せのシャボンのように、あろうことか光速の一撃を避けたのだ。
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／＼ ／
／/ ｀×／
＼／ / ／／ ＼
／ ＼/ ／／ ＼
<-‐= ) ＞＝─‐‐-->
＼／ .へ ＼ .／
／ヽ ﾍ. ＼＼ ／
| ／／ ＼ > ＼ |_
hr──t. ＼／ ＼丶 { |
［￣￣￣Y] || ＼ |.h
|￣￣￣]l| f￢┐. || |￣￣ .[|]
|￣￣￣]l| l.:.:.:.:| .|| r─‐.|￣￣ l|T
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| レミエルは予備動作なく、さらに四条の雷光で黒帽子を狙い撃つ。
|
| しかして死神には当たらない。
| 避けているというより、ずれている。
|
| まるで実体の伴わぬ蜃気楼を攻撃しているかのようだった。
| 命中している、外れようがない。
|
| はずなのに《ブギーポップ》には届かない。
|
|
|《奇怪な》
|
| レミエルは紫電を集めた。強烈な電撃の束でもって、面の攻撃をするのだろう。
| 黒帽子は、つと翠星石を見て瞬き。二度見する。
|
|「蒼星石さんによく似てますがご親戚で？」
|「あ、姉ですぅ！」
|「そんじゃあ妹さん俺が一発かますんで、とどめはよろしく」
|
| 姉だという暇なくそいつは動く。声とせっかちさは粗野な少年のそれ。
| 中学生か高校生か、なんにせよ『血族』ではないのだろう。
|
|「ダメですぅ！」
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〈ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ-.__
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. /ﾆﾆニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ,.イ',
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＼二ニニニニニ=＝-―'''''''''''''''"ア￣/ ｲ/!/,! ハ/,l ﾘ
｀ｰ=-‐''" ///////////////／{ {'//ｌ/,| .' }ｿ
∨///////////////,／ .ヽ .l///!/ｌ ﾉ'
＿-―-'＜///////////,／ ､j////ﾊ いいんだよ。
}ニニニニニニニ=-＿／ l/////ﾊ
=‐-,Ｌ二二二ニニニニニニ=‐ __ l/////!ﾊ
/／.|'///＞-,. ._ニニニニニニニﾆ- _ |////,lVﾊ
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| 《ブギーポップ》は軽い動作でジャンプした。
| しかしロケットみたいにまっすぐ高く、レミエルを見下ろす高さまで飛び上がる。
|
|「世界の敵を倒すのが、《ブギーポップ》の仕事だからな」
|
| 収束した雷光が光と熱の瀑布となって黒帽子に殺到する。
| 少年が笑うのが、ニヒリズムと諦念に支配されて笑うのが翠星石には見えなかった。
|
| だが感じられた。
|
|「あッ！？」
|
| 光と熱の奔流に、少年が灰も残せず蒸発する。
| 翠星石、レミエル、『見る者』すべてが想像したその光景は、驚愕の結果に押し潰される。
|
|《ぁがッ！！？》
|
| 夢世界に広がったのは、光線が真っ二つに割れて空の彼方に消える瞬間。
| 膨大な雷霆の奔流が、《ブギーポップ》を避けるように二手に分かれ、その先の雲を蒸発させたのだ。
|
| そしてレミエルの表面に縦一文字の深い割れ目が穿たれたこと。
|
|「ふむ、やはり俺の支配率じゃ倒すまでは無理か」
|
| 刀身の無い剣を振り下ろした姿勢で最高点に到達する死神。
| 空中で身をひねりながら回転右手の『剣』を払う、薙ぐ、ひねる、打ち降ろす。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
|三三三三三三三三三三三＿7 /〈 〈＿_ ./ /７｜./ ∧＼ ./ /＿_〈 〈＿_ / ∧＼ 〈〈 / / 〈〈.∧∨,/三三三三三三三三三
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＿
‐＝二￣＿ ￣＿二＝‐
〈 ￣〉
＜ ￣ ＞
＞＜
＜ ＞
| ｀┬´ │ 、
｣ │ │ ／＼＼
| | ／＿＿_＼＼
｣ │ │ ┌┴─┐| ＼>
| | /￣￣ /|│| ／
｣ │ | / ／ |├ ／
| | / / ／￣
｣│| / ／ ／
| | / / ／
／」 | | / ／／
／ //＼ ∧ || / /／ 《ぅお、おおおッ！？》
│ // // ／二─＿ / ／
│ // // │ ￣ ─￣二─＿
│ ＼/＼/│ ￣─￣二─＿ /￣ヽ ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿_ /|
|／ ￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣ ヽ＿/ ￣─二＿─ ＿＿ ／|/＼ ∧/ │
￣─二＿─＿￣￣| //￣ヽ/ | │
／ ￣─二＿|∧ヽ＿∧ /| │
／ / || ＼/ ∨ | /
／ // | | |/
／ ／/ | |
／ / / |│|
／ ／ / | |
／ / / | │ |
／ ／ / | |
|￣￣￣| / | │ |
／ ＼ │/ | |
|￣￣￣￣|＼ / | │ |
／＼￣￣| | ／ | |
／ ＼＼ | |／ ＞ 、＜
／ ＼＼| │ ＜ ＞
＼ > ￣ ／ |＞ ＜| ＼
＼ ／ ＼ |＿ ＿| ／
＼／ ＼ ／
＼／
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| 一振り毎にレミエルの表面が砕け、苦悶の声が上がる。
| まるで刀身の代わりに見えない巨大な鞭が生えているかのように。
|
|「妹さん！」
|「そんな急に言われても困るです！ それに！」
|
| 何を呼ぶ？ 何ならいい？
| まるで頭が働かない。
|
| やらない夫を神格化しようとした副作用で、全身から力が失われていることにも気付けない。
| 魔力を練り上げようにも、液体のように掴めずに、手のひらから零れ落ちていく。
|
|《おのれ異教徒……ッ》
|
| レミエルも黙っていない。
| 光線の乱射が《ブギーポップ》を貫く。
|
|
| ……貫いた。
|
|
| 焼け焦げ、煙を上げながらもなお、黒帽子の少年は剣を振るう。
| 砕けるレミエル止まらぬ雷電。
|
| 翠星石は脂汗を流しながら口を開いた。
| 言葉は出ない。
|
| アマテラス？ 『四文字の神』？
| 本当に呼べるの……？
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
|三三三三三三三三三三三＿7 /〈 〈＿_ ./ /７｜./ ∧＼ ./ /＿_〈 〈＿_ / ∧＼ 〈〈 / / 〈〈.∧∨,/三三三三三三三三三
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＼/: /: : : /: /: : : : : : /: /: : |: : : : ｌ: : : ヽ} ＼
/: /: : : /: / : : : : ::／/:／/: :∧ : : : :|: : : : | 〉
ｌ: |: : : |: /: : : : :／ ／" /: :／ ＼: : :.|: : : : | ／
|: :ﾊ: : : |: |二ﾆ==ェﾆフ´ /, へ､＿＿__＞':｢: |: : : レ'
ヽ:|∧: : |: |く／ﾌこ^ヽ＼ ／ / _ｪ‐‐､=､｀|: : |: : ｌ: :|
∧ﾍ: : |／ |ｒ^{:::}ﾟ | " |＾{;:::}ｒ^} 〉 |: :/: : ｌ: :|
/: : |＼: |ヽ ＞ー‐' ヾ_こ_ソ /:/: : :/ /|
/ : : ｛. ＼ヽ ::::::: ヽ `ー―' /イ: :／ /: | あ、あ……あ。
./: : : ∧ ト ＞ , へ､＿＿＿ :::::／ /: ／/／: ｌ: |
: : : ｉ＾ヽ ＊＼ / ／´ :::::ヽ /／ ノ/: : ｌ: |
: : ／ﾚ⌒ヽ､. ヽ、 ヽ、＿ :::ﾉ , ｲァー‐く`￢ : ｌ::|
: / / ／ ,へ. ｌ| ` ､ ￣￣￣, ' ｒｰく ＼. |｀ ﾄ､:.ｌ::ｌ
::/ .| ' / ／ヽ| ＞= ｧ ￣ /＾ヽ ｀ ヽ. | 〈 ヽ::|
: / | / | ／⌒/L｢＼. | ./ / | |
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| 急激にしぼんだ自信は召喚失敗で受けた傷か。
| だがそれでも。
|
|「ううう……だれか……」
|
| 履き潰れたスニーカーが、中身ごと落ちてきてバウンドした。
| 切断面は炭化して、地面に落ちた衝撃に耐えきれずに崩れる。
|
|「うう、うううう……ッ」
|
| 頭上では止むことを知らぬ電撃の乱舞。
| 少年の最後のあがきか、水晶に更なる亀裂が走り、一抱えもある塊が落下し砕けた。
|
|「誰か……誰か」
|
| 翠星石は奥歯をガチガチ鳴らしながら、無力な己を嘆いていた。
| 焼け焦げた黒帽子がふわりふわりと落ちてくる。
|
| だが地面にたどり着く前に、レミエルの電撃が焼き尽くした。
|
|「誰か、助けてほしいですぅ……」
|
| 手の中に落ちてきた切れ端は、灰に砕けて消えた。
| 翠星石は膝をつき涙をこぼした。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
|三三三三三三三三三三三＿7 /〈 〈＿_ ./ /７｜./ ∧＼ ./ /＿_〈 〈＿_ / ∧＼ 〈〈 / / 〈〈.∧∨,/三三三三三三三三三
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_, -――- ､_
_, -'_, -'´￣´`ｰ-､`ｰ､
／_r'´,r '´￣´'￣´ ヽ¨ヽ ＼
＼/／, / / ｌ｜ ヽ ＼}／
｣/ / / /´ ｣ l'、 ', lヽ!
/! / / /／／|l| ヽ l| ! |'、
//| l| j__{_. ィ 〃ﾄ､._､_|_｜l ',
/ / ｌ l| Ｎl__,ヽ /' /＿_/ /ｌ | ﾍ 誰か……助けて、
/ l ヽﾄ､ｌし￣:::::::;::::::￣ゝ)/ /}. ﾍ やらない夫、蒼星石ぃ……。
/ | 丶ト _ ‐_‐ _ イ|/ | ﾍ
/ zヵ }:ー≧≦ー―｛. lz､ ﾍ
／ l: : ﾍ |／ .八. ＼ { ｜: ! ヽ
/ |: : : :ｌ |＿/!{ｉ}ﾄ ＿〉 l}| !: :| ＼
/ l: : : :l＼| /'{ｉ}| l} | ∨! ヽ
/ ﾄ､:_:_ゞzzzz!z{ｉ}|zzzzj}: {＿｣/ ',
! L:_:_:_;ｫｔ':＼､_{ｉ}_／/ｰｔｊ､_／ |
./ ／ /l' | ＼:',::::::::::/／「l＼〕 ',
i ヽ／ |_」 l |ヽl/ヽ:{/ ｜ヽ/ト､ i
| ,|: : ﾊ |!: : | ヽ: :ﾉ ＼＿ ﾍ
', /ヽ:.|: l j lj: :/ r' |ヽ|:､ ﾊヾ､＿ |
丶 ／ ／: 'ｰzﾄｒ￢ｒ‐i: }ｒ￢ｒソイ: : ヽ. l '､ ヾ､__ﾍ、
ヽ _, -'´ ／: : : : : :〔!二二ﾂ{二二｣: l: : : : :ヾ:i ´¨ヽ
,｣-'´ /: : : : : : : : ｵ i/ ｌ|: : l : : : : : ヽ!＿ ､ヽ,
／ _, - z/: : : : : : : :/-l ､j!_ jﾍ: : : : : : : : :ヽ ￣≧ｚ‐- ､¨ヽ
,r'´ ,/:＼: : : : : : : !: :iーｔ;‐': :'ｔ―ｲ: l}: : : : : : : : /ﾍ＜´ _, -'´
_'_,. -‐/: : : : ＼: : : : : ＼!: : : : : : : : j／: : : : : :_:／: : :ﾍ ￣¨'´ー-､
´_;/: : : : : : : : :ト:､:_: : : 丶､:_:_; -:': : : : : ／:'; : : : : : :ﾍ, ヽ
_,／/: : : : : : : : : :i : : : :丶､: : : : : : : : :_:／l: : : :l: : : : : : : ﾍ＞―- ､ _｜
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|lニニニニ三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三ニニニニ
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| 握った拳を融解したアスファルトに叩きつけ、愛する人の、妹の名を呼ぶ。
| その背中に、高みより苛烈な殺意が突き刺さった。
|
|「お願いです……あの子を、助けて……ッ」
|
| その願いは成就しない。
| 顔を上げた翠星石は、ひび割れたレミエルを睨み付ける。
|
|「……やる夫」
|
| 囁き。期待のない一縷の願い。
| それを最後に。
|
| 翠星石はもう嘆くのをやめた。泣き言もやめた。
| 自分の犠牲を恐れるのも、やめた。
|
| 故に立ち上がり、声の限りに叫んだ。
|
|「アマテラ
|
| 突 世界に、 ィルムが燃 かの うに虫 の空白 れ、広
。
。
。
｀ 、 ｨﾐｼ,,,r
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｀ 、､ 厂'Π| |ﾐh､ ｨｼﾞ
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､ ｀ | |{｛｛ ｝}
､ ｀ | |{｛｛ ｝}
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､ ｀ | |
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| 翌朝、東京の目覚めは最悪だった。
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異能者と違い一般人は夢の大半を忘れていたが、『破滅の予言』『死神の存在』そして『突然の切断』は深い傷を残した。
| そして残念ながら、悪魔や異能への複数回にまたがる接触が、人々の『覚醒』を促すという鷹野三四の学説は証明される。
|
| この日から、決壊したダムのように急激に、取り返しのつかない勢いで東京の魔力濃度が上昇した。
| 物陰に潜む小人や、夜道を歩く怪物の影、夕暮れの辻に立つ死人など、目撃情報が多発する。
|
| 住民の不審死、蒸発、発狂も相次いだ。
|
| 魔力濃度の上昇は、人々の常識と生活を蝕んだ。
| そのきっかけと呼ばれることになるのが『品川大聖堂毒ガステロ事件』である。
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| 事件の概要は以下の通り。
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|; ; ; ; ; ; ; ; |田 | 田|; ;|｜｜l 〕田｜田〔 |｜｜| ; ; |田 | 田|
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| 品川大聖堂に集まった51人の信者と事務員、警備員が銃と毒ガスで殺害された。
|
| 合衆国は犯行をイスラム系過激派集団ＹＹＳによるものと断定した。
| ＹＹＳ幹部から、過激なテロは神の教えに背いた罰で、これからも同様の災いが東京を襲うだろうという犯行声明が発表されたのである。
|
| 警視庁は毒ガスを使う手口から、すでに国際指名手配されているドイツ国籍のシーマ・ガラハウ容疑者と、
| 国籍不明の『四ツ眼』と呼ばれるスラヴ系の男、そしてアトリーム国籍のミスト・レックス容疑者を指名手配し、
|
| 日本国内の協力者とおぼしき備府やらない夫さん（19）を重要参考人として手配した。
|
| 世間は平和なはずの日本で発生した前代未聞の大量殺戮に狂喜した。
| 特に数ヶ月前から大学に行かなくなり、家にも寄り付かず、急に金回りがよくなった備府やらない夫という青年が注目された。
|
| 高校、いや中学時代から札付きで、正義感は強いが暴力を行使することを厭わないはみ出しもの。
| 罪を問われたことは無いが、幾度となく警察の世話になっている危険人物。
|
| 指定暴力団との関わりも噂される裏社会の住人。
| 彼に親しく、普段からたしなめていたとされる人物が行方不明であることも取り沙汰され。
|
| 二人の安否と行方についてが連日ワイドショーを賑わせた。
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. ／ `'＜ 〕iト ＿__,
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{ : ＼ ハ ∨ /≧=‐- ｧ‐ ''"⌒ `
{ i: .＼ ハ ∨ / ‐-----＜ ＼
{ } ! :./＼ , : ∨ ＼ (≧=‐‐ ‐ ⇒
∨../ ∧ィ }{ヽ |: Y⌒ ＼: : ＼: : ＼
. ∨ / ⌒リ } : !＼ |≧=‐-⇒≧⇒≧⇒
∨/ :!/! ' ノ:＼!: : : :＼ ＼(:＼
. 〈 :/ :! /} :>､: : : ﾊ }⌒ヽ ､
＼ -‐ :! / ィI:i:i:iﾊ{⌒⌒iト､{ { ∨ 〕iト
.. ＼ ィi{}〃ィI:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i＼ ｀ヽ } ＼}
｀ :{/ ∨:i:i:i:i:iィi〔:i:i:i:ム ＼人: ＼
}ィi〔:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:ム ヽ} 人 }ヽ
/:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:ム { / ∨:ﾊ
/:i :i :i :i :i :i :i :i :i :i :i :ム ＼' v /
/: : : : : : : : : : : : : : : : { ｿヽ
／: : : : : : : : : : ﾊ ｲ }
ﾊ/ } ノ
{: ノ゛ )
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| 勿論。全ては『血族』と『教会』によるデマである。
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| しかし、備府やらない夫という異常な人間と、事件を取り巻く状況が、更なる異常を呼び込んだ。
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| 考えてもみるがいい。
|
| 戦車砲でも撃ち込まれたかのように生々しく破壊痕を残す品川大聖堂の警備と封鎖は過剰ではないか？
| テロ被害者の名前が一人として公表されないのはおかしくないか？
|
| 使用されたガスについて、なぜどこからも確定情報が流れて来ない？
| テロ組織からの犯行声明は具体性がなく、まるで便乗しているだけに聞こえないか？
|
| 備府やらない夫はテロ組織と繋がりがあったとして、それはどこから結ばれたの？
| そもそも彼に関係していたのは暴力団なのではなかったの？
|
| いやいや学生時代に麻薬の売人から上のヤクザまで事務所に殴り込んで叩きのめしたという噂があるぞ？
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| ところでやらない夫という名前、どこかで聞いたことはないか？
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| …………夢の中とかで。
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ゝ ノ ヽ ノ
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| やらない夫には無数の根も葉もない噂が巻き付いた。
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| 多くは彼を怪物と、都市伝説にもならないような異様な人物と定めた。
| 東京を『救う』大天使に牙を向いた怪人。
|
| 夢の記憶は曖昧でも、廃墟の品川大聖堂と倒された大天使の因果を。
| 計り知れないやらない夫という男と、姿を見せなかった未然形の神の関係を。
|
| 想像するなと言う方が無体なのではあるまいか？
|
|
| 人々は『品川大聖堂毒ガステロ事件』とその関係者、備府やらない夫になんらかの超自然的な理由を見いだした。
| テレビや新聞のメディアが騒ぎ立てる程に、アンダーグラウンドは加熱した。
|
| ネット上ではやらない夫とは何物なのか盛んに議論され、テロリストとも怪物とも。
| そして神とも悪魔とも囁かれた。
|
| にちゃんねるに目撃情報や議論、応援スレが乱立し、日本中で知らぬ者はいないほどにその名が、顔が売れたにも関わらず。
| 誰一人として消息を知らぬままに……月は変わり、十一月。
|
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| 物語は終わらない。
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| に呑まれて、レミエルの身体は分解された。
| 品川大聖堂だった廃墟の上に、鏡のようにきらめく水晶の欠片を雨と降らして。
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| 紫電はもう光らない。
| 茨のように鈍く無規律の光が、そこかしこにのたうった。
|
| 水晶の海に、空から最後の欠片が落下する。
| 少女の姿をした、傷だらけの本体核。
|
| 片眼は醜く潰れ、一糸纏わぬ身体は深々と傷つき抉られている。
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|《聞こえ、ません……可能性が……広すぎ、て》
|
| 地面から伸びた鉄骨に串刺しになり、少女の命は今にも潰えそうに見えた。
| 彼女の傍らに現れた はその手を握り、末路の孤独を癒そうとする。
|
| 血を失いすぎたのか、蒼白の少女は死相浮き出た顔で微笑む。
| 震えが止まる。寒さが和らぐ。
|
|「お前だったのかお」
|
| 今度ははっきりと、 は言った。
|
|《言えま、せんよ……狂乱したワタシの、末期に……現れて……
| こうして……手を握ってくれた可能性を、見た、時から……ずっと……ずっと……》
|
| 苦し気な告白。
| はそれを静かに聞く。
|
|
|
|《……好きでした》
|
| 孤独が消える。寒さが消える。
| 絶対零度の暗黒から身を守る外套のように。
| 握る の手は暖かい。
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／ ＼
／ ＼
／ ＼
| | できる夫さんの手を握ったのも？
＼ ,／
/⌒ヽ ー‐ ｨヽ
/ ,⊆ニ_ヽ、 |
/ ／ r─--⊃、 |
| ヽ,.ｲ ｀二ﾆﾆうヽ. |
|lニニニニ三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三ニニニニ
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|《だって……あなたが、死んでいたら……ここで、手を握ってもらえない……でしょう》
|
| 愛する者の恩人へのはなむけ。
| そして死ぬる運命を受け入れて。
|
|「この未来があったからお前は四か月前のあの時、 を助けたのかお？」
||《はい……でも、フフフ……その未来を見た、のは……運命、だったのかもしれませんが……》
|
| この未来を予見したから、少女は を助けた。
| 少女に助けられたから、 は少女の手を握っている。
|
| どちらが要因でどちらが結果か。
| それとも全て並べて運命と呼ぶべきか。
|
|《ワタシは……堕天使レミエルは世界の敵として滅び、あなたは生き残る……》
|「レミエルと の二人が同時に存在できる可能性は？」
|
| 優しく頬に触れる指先。
| 少女は悲しげに首を振った。
|
|《そういう……そういう運命、なのですよ……だから、だからワタシは……》
|
| 光を失いつつある瞳。
| もう が見えていないのだ。
|
| 夢世界も崩れていく。
| 目覚めれば弾けて消えるうたかたの如く。
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_, -‐ ￣ ヽ
, 」￣{＿「￣}__,へ,x '. ￣二ﾆ≠ '´xy __,. -一く
__ ／ ￣Z￣xxXX ＞ ´￣￣ ￣
／: :二>' L＞ ´ ＿
＿ (: : : :{_」 _, =ｰ-,ｨへ,}:!_ ヽ (: {￣
／ ＼ ヽ; : ／ ￣と_ム_{;(、｀ー - ､ ノ [ ､＿_ _):ヽ
／ ,j!、 ＞x､_};!/ .}{≧_≦}{ );!｀ーｧ ﾉ _＿」: : : : : : :,ﾉ
.≦ / ＼, 〃 ＞' __ ヽ、 〃⌒ヾ /＞一7: : ; ' ￣￣
「｀ｰ-vﾍ: : : :く .{:( / `´ ｨぇ〈:{. ｲ: : : : : l : /
ﾚ》),ﾍ.〉 ):,-一ヽ＿ﾊv从{:i!:}〃ﾉ}ゆ{)ﾄﾊ_＿__,!:ヽ: : : :.l:.:{_ ＿__
~~じ' ／:/: :／: : : :}!:ｿ:/:1i!;/:1: :ゞﾂｲ: :ハ: : :ノ: l: : : :∨: : : : : ｀ヽ
, :´: :,': : i{: : : : /: : :,!: :!ﾚ: :ｲ;/:／: : /: ﾉ:＜: :く: : : : : }￣, こ }: :.!
{: : : :.l : : : ＜: :l :{fy): : : : /:／: : :{fy):.{: : : :ヾ :｀; : :.ノ ｀ー一′
ヽ: : : ゝ: - :､:ヽ!: : ゝ: :ヾ: l: : : : :_: : : : :ヽ: : :ﾉ: /: :, '
ｰy: : : ﾉ: :.i :.}: : : : : : : : : ;.／: : : : : : : }!:j: : l: :/
/: : :,': : : :!;ム; 一1: : : : :{ : : : : : : : : ﾉ:ﾉ: :,'ノ
,: : : :l : :／/: : : : : ゝ: : : : ヽ: :_:_: : :／: : ／
.l: : : : ∨ !: : : : ; -― ｬ: : 7´ ヽ: : : :.(_
＼: : :.{＿.ﾉ: : ／ }:./ }: : :): : :ヽ
＞: : : :_:_ノ ＿__ﾉ/ ノ:.／: : : :.ﾉ
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l{_ _)! l:.{__,
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|「所で、やる夫はスーパー運命破壊マシンで、お前さんはやる夫の『鏡と茨』だって知ってたかお？」
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| 少女は。堕天使レミエルの核であった存在は、息を飲み、瞠目し、鈴が転がるように微笑んだ。
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|《そんな昔の話……忘れましたわ》
|「今、これからの話だお」
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第四幕 『天使みたいに君は立ってた』 幕
次幕 『拾わなかった夢現』
えー、皆様、ここまでお付き合いありがとうございます。
大変残念なお知らせなのですが、本スレ『やる夫は死を夢に見る』は次幕をもって最終幕とさせていただきます。
可能な限り早く、続きを書いていきたいと思います。
あと少し……が、何年になるかまだ分かりませんが、もう少しだけお付き合いいただけると光栄です。
ちなみに、最終幕のプロットは大体完成しました。
あとはできるだけ早く本文に仕上げていくだけです。
で、書きたいシーンを書くために、更新速度を上げるために、今後は一話の分量を少し少なめに調整していこうかなとか思っております。
もうちょっとだけ続くので、宜しくお願い致します。
できる夫さんはやっぱりやる夫の死の身代わりしてたかー
がんばれ！
乙です
やる夫はディケイドになるのか（ｽｯﾄﾎﾞｹ
長きにわたるこのスレもいよいよクライマックスか…
やはりきらきーはレミエルだったか
＿, --zｧ─ｧ‐=ｚ,_
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,ｨｆ/ ﾊ:::} ,ｨノ / __,ｨｆ'⌒フ＾i
. /}::|l/{ ﾉﾉ/レ--く::::ノ ／ ∧
/＼{lレ''"´ ﾉ___／r‐==ニ{
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. } ,ｨjﾊ ＼｢__,ﾉ,／￣{
ﾋx､ ノ ,ｨｆｧ'⌒ヽ ＼_/ ,ｲ｢} |
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. ｢´} ヽ￣｀ :' ｌ _,ノ
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こ⌒ｰ ／ / ＼ヽ
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. l ! l ﾄ--ｲ l / / /.ｌ /
. l | | （ｂ ｄ）.| _,/ / / ′l /
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| 十月の満月から一週間。
| 季節は秋から本格的な冬へと移り変わり始めていた。
|
| だがそれでも、新宿駅の雑踏は大差なく。
| 雑然とした混沌を、数えきれない人々を、呼吸するかのように吐き出しては吸い込んでいた。
|
| そんな中、一人の男が新幹線を降りる。
| 剃刀を彷彿とさせる鋭い目つき。髑髏柄のアヴァンギャルドなネクタイ。
|
| 勤め人というには砕けすぎていて、ホストにしてはトウが立っている。
| ヤクザのように威圧的だが、病人のように薄暗い影を負う。
|
|「黙ってろ」
|
| その男こそ『血族』の元『四天王』の『狂死』。
| 愛しい家族を杜央町に残して、東京の異変を鎮めに来た、最後の帝都守護者。
|
| 彼はまとわりつく幻影を払いのけ、ホームのベンチに腰を下した。
|
|「おかえり」
|「もう来たくは無かったのだがな」
|
| ベンチの隣に座っていた男が、冷めた缶コーヒーを『狂死』に差し出す。
|
|「日本のコーヒーは旨いな」
|「嫌がらせか？」
|
| 『狂死』は立ち上がり、コーヒーを二本買うと、待っていた男に差し出した。
|
|「よくおめおめと帰って来れたな」
|「帰るタイミングが掴めなくてな」
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イ ミイ ヽ
／ ／ イ ´ 个 ､ ､ ＼
/ / ／ ／ / ハ
/ / / ／ /ｊ ! ',
! ′/ ｨ ／/{ .
| ! ﾘ / | ／ ィノ!∧ ｊ |
iﾊ| ｊ/ｧ､!／ ／,ィ ／ｊ/ V i !
ｊﾊ个ｷｭ_／ｚフ⌒＞ ､ | ﾄ､ ｌ !
〉Lｿ ´斤ｙｒ‐､_ | | 彡⌒} ! j|
イｊ ｌ / ゞ:;ソ ^´ | | 八 ｊ | ｲ!
/ ｊ八 ヽ ￣~ j | ィ_ イ ハ八
（ ｒ7 ｊアヽ､__ , /｢ ｊ ! ＼｀ー ､
} ﾘ / /⌒ﾟ ｀ ｲ ! / 人 ｀ヽ ハ
イ / / ⌒ ーｒ 彡´ | ｊ ! /｀ー ´￣ ＞､ ｊ
/⌒７/≧=ｭ､ ヽ |/ | { ムヽ
/ニ７/ニｭ､ ヾ┬ ﾊ ヾ､ﾊ ヽ ムニﾑ
{ニ7/ニニニｭ､｢{ ﾄヾ､＿ X､ヽ :. イニニﾆｊ
ﾏﾆ {ニニニニｊ! ゝー┴ 八 ｀ ハ } ｊ } ィニニニニﾘ
ﾏﾑiニニニフ{_ j!ハ / ,リ/ ﾉ_ ィニニニニニﾆﾄ
ﾏヽ､ニニ｢ニ≧、 ィﾊ ﾊ ｊノイ /ニニニニニニニﾆ! ヽ
ハﾆム､ニｊニニ≧≠ニﾆ!≧ｙ´イ7 /ニニニニニニニニ| }
/ ﾊニﾆ Vニニニニニﾆ7≠（(_⌒ヽ {ニニニニニニニﾆﾆ|! ﾘ
{ / |ニﾘ /ニニニニニﾆ ｒｌヽ ヾ!ニニニニニニニニ|‐´
ヾ |ﾆ7 /ニニニニニニ′ {Ｌﾑｊ/ !ﾏニニﾆﾆﾑニニニﾆ|
. ｊ/ /ニニニニニニ7 ｀ｰ个､__ノ ｊニニニﾑﾆ7ニニニ､
ｨ } 个ァニニニニニ７| ﾑﾆ ヽ＿ノｊニニﾆｊニ/ニニニ|! ＼
/（ ノ ｊ/ /ニニニニニニ!ﾑ ノニﾑ /ニニィニニニニニ|! ﾘ
{ ￣ /ニニニニニニニｊニニニニニニニ＞´￣ミヾニニｭ､ニ! （
｀ー ´|ニﾆア⌒￣￣~~｀ヽ￣￣≧｢ニニニニニニニニニニヾ|､ ーｲ
V´ィ }! }ニニニニニニニニニニニｊ ￣
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| ホテルのスイートルームのように、豪奢なその部屋は寒々しかった。
| 豪華な家具、ホームシアターや高級な菓子、しかしネットワークには未接続。
|
| はめ込み型の窓の外には東京の夜景。タワーマンションの最上階。
| しかし、生活感はほとんどなく、一人の少女が日夜瞑想に励むばかり。
|
|「……翠星石」
|
| いや、一週間前から、この部屋の住人は二人に増えた。
|
|「あなたはできうる限りのことをしました……しかし、今の私にはあなたに報いる力がない」
|
| 『血族』大首領、藤堂志摩子。
| フリット・アスノに軟禁され、もはや半月。
|
| 先週の『大天使召喚儀式』失敗と、呼び出された堕天使撃退に力を使い果たした翠星石。
| 志摩子もあの夢を見ていたが、しかし介入するだけの力はなかった。
|
| レミエルが狂乱していたことを『教会』は認めず。
| 運が悪ければ翠星石は危険分子として処分されてしまうだろう。
|
| ……フリット・アスノが志摩子と同じ部屋に翠星石を寝かしているのは、彼女を隠すためであろう。
| 同時に、卓越した治癒と同調の術者たる志摩子による治療を期待してのことだろう。
|
| だが結果はいかんともしがたく。
| 志摩子は無力感に拳を握るばかり。
|
| 救いの手があるのなら、相手が何者であろうと、縋ってしまうだろうほどの。
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. ﾉ} ／ } V }
／ / -‐ ¨¨ /
「Y { ／ /⌒ー ´} ﾊ
| :| :/ ′ -‐ ¨¨ ′ ﾉ
| :| / ／ ／ / ⌒ヽ
′/{／{／ "Z ／ / 7 厂
＼ { / ＼ ／ / ノ
｀V ｰ=彡 /く
| -ｧ ｀ヽ Y⌒ヽ ﾉ
| ／xく | | V ／ ／
. 八`´ 苡ﾝ | | | ／ く
} `ｰ ､ 八 ムヘ | 厂
.′ ′／ ＞ ／
{ {／ ＞ ´ ⌒ヽ、- ､
└ ン`ｰ- ､ ／＞ ´ﾉ ＼ ﾊ 厂 }
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に二彡 ／ ／ 厂ヽノ 八
ﾊ、＿彡 ／ 厂 }
{ }" 厂 八
} ／"厂 }
ﾑﾍ从イ 厂 厂⌒⌒⌒`く
r┘ 'ﾊ 厂 厂 ＼
} / ノ 厂 ＼
{⌒′厂 厂
〉 ｲ 厂 -‐ ¨¨¨ミ ‘，
ｒｰ} / ﾉ ﾉ ／ ＼ }
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| 同じころ、同じマンションの別室で、一人の男が手酌でウィスキーを傾けていた。
|
| 彼は、いまや『血族』の指導者となったフリット・アスノは勝利者である。
| 権力を手に入れ、望む力を手に入れ、夢への切符を手に入れ、優秀な後継者が存在する。
|
| ……にもかかわらず、その酒は早く、苦い。
|
| フリットは権力を望んだが、手に入れ方を望みそこなった。
|
| フリットは志摩子を幽閉し、その権力を奪った簒奪者でもある。
| それはこれから常に、永遠に、自分が同じく簒奪されることを恐れねばならぬという現実を孕む。
|
| フリットは力を望んだが、力のあり方を望みそこなった。
|
| 人間による悪魔殺しはパプテマス・シロッコとの連携によって可能になった。
| しかし、シロッコと鷹野三四が造るいびつな機械化兵士に、フリットは嫌悪感を隠せない。
|
| フリットは悪魔の殲滅を望んだが、具体的な方法を望みそこなった。
|
| 東京からすべての悪魔を駆逐するはずの彼の計画は進んでいる。
| 進んでいるはずなのに、東京には悪魔が増えた。彼の望みとは裏腹に。
|
| フリットは優秀な後継者を望んだが、後継者の忠誠を望みそこなった。
|
| 我が子ながら超能力を持たずに出奔した息子、アセム。
| そして歴代最強の超能力者になりうる力を有しながら、フリットの理想に反抗する孫、キオ。
|
| 何もかもが上手くいかない。
| 何故こんなことになったのか。
|
| 老人は考えるのを放棄して、酒で思考を曖昧にした。
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| 同じ階、別の部屋。
|
| 明かりの無い部屋で、一人の少年が膝を抱えてうずくまっている。
| 彼の名はキオ・アスノ。フリットの孫。最高の後継者。
|
| であるが、超能力の才能とは裏腹に、キオは悪魔との共存を夢見る理想主義者だ。
| 悪魔殲滅を謳う祖父とは真逆の夢を見ているのだ。
|
|「……くっ」
|
| 暗闇の中、超能力の触手を薄く延ばして周辺を把握する。
| キオの感知能力はフロア全体を見渡せた。
|
| このフロアに現在存在する二人の少女と、祖父。そしてもう一人の男の存在が感じ取れた。
| その他の虫や、ネズミなどもその気になれば把握できよう。
| しかしキオは自分の脳の容量を過信していなかった。
|
| 必要以上に詳細にしても、負担がかかるだけだと理解していた。
|
|「隙を……隙を見つけなくちゃ」
|
| 四六時中感覚の触手を伸ばし、トイレ以外の行動は超能力の見えない手で行っている。
| それがキオが、祖父のもとから逃げ出すための鍛錬であり、最強の怪人、ダース・ベイダーを出し抜くための雌伏でもある。
|
| その部屋と未来に光はない。
| だが、キオは闇の向こうに光が存在することを知覚していた。
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| 時刻を同じくして。
|
| 夜闇に紛れて一人の老人が廃墟となった屋敷を訪れていた。
| ほんの半月前までは、螺旋王ロージェノムと女ホムンクルスたちの快楽の園であった屋敷。
|
| いまは誰も住まず、寄り付かない。
|
| ロージェノムの雄精を解消するために存在していたホムンクルスたちは、すでに引き払っていた。
| 主人の死後、彼女らがどうなったかなど老人の興味の外だ。
|
|「あったか？」
|（ございました）
|
| 老人、間桐臓硯は何もない闇に声をかけ、闇はさも当然とそれに応える。
|
|「墓は？」
|（掘りましてござる）
|
| 邪悪なる計画の下に、謀殺されし『元老院』の屍が、冒涜の憂き目を見ようとしていた。
| しかし、この場にそれを諫める者もなく。
|
| 臓硯はクツクツと嗤いながら、暗黒の怪物を生み出そうとしていた。
| ……来るべき、復讐者に備えるために。
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∧ ／} ハ| { `ー――'^ /.:/＼:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:..:.
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| 八. / ┌ / / O ( ヽ) 、 ､.:∧.:.:.:.:.:.:.:.:}.:.:.:.:.:/
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人 ､ /.:!.:.＼__ ＼{ノ
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＼__／ Ｖ / {､.:.:|.:.:|.:/ )＼`ー 丶
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| その復讐者、遠坂凛もまた備えていた。
| 宿敵、間桐臓硯と彼によって人生と人格を破壊された妹、桜に対抗するために。
|
| 臓硯、および桜が変異した恐るべき怪物の能力については、同型である『万魔』を味方につけた凛たちが有利であった。
| しかし、どれほど『万魔』を解析しても彼女には弱点といえる弱点がない。
|
| 魔力という魔力を吸収し、攻撃を自分のエネルギーに変換する無敵の存在だ。
|
| 彼らを倒す方法は限られている。
| そして、その一つを『万魔』は使われて惨敗、ほうほうの体で逃げ出したのだ。
|
|「『疑似溶鉱炉』ねぇ」
|「ミカならサムズアップしながら沈んでくれそうよね」
|
| 『邪悪帝国』のかぼちゃどもによって周辺を超加熱され、鉄をも溶かす溶岩の沼にされたのだ。
| 緻密な魔力制御と人海戦術を必要とする作戦ゆえ、凛にはとても真似できない。
|
| ……本当であろうか？
|
|「一人分ならやってやるわよ。ただし、邪魔が入んなきゃだけど」
|「なら桜は士郎くんに何とかしてもらわないとね」
|
| 同盟者であるルイズの言葉に、凛は不承不承頷いた。
| それが……自分の元夫が元義妹をうまく倒せるかが問題なのだ。
|
| そしてもう一つ、うまく倒せたとして……彼が誰を選ぶかも問題である。
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貼り付けミスしましたごめんなさい。
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｝ 二 ヽ_} ∨.:.:.∧ ｛ ヽ ,､＿,人.:.:.:八.:.:.:.:.:.:.:.:.＼
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| その復讐者、遠坂凛もまた備えていた。
| 宿敵、間桐臓硯と彼によって人生と人格を破壊された妹、桜に対抗するために。
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| 臓硯、および桜が変異した恐るべき怪物の能力については、同型である『万魔』を味方につけた凛たちが有利であった。
| しかし、どれほど『万魔』を解析しても彼女には弱点といえる弱点がない。
|
| 魔力という魔力を吸収し、攻撃を自分のエネルギーに変換する無敵の存在だ。
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| 彼らを倒す方法は限られている。
| そして、その一つを『万魔』は使われて惨敗、ほうほうの体で逃げ出したのだ。
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|「『疑似溶鉱炉』ねぇ」
|「ミカならサムズアップしながら沈んでくれそうよね」
|
| 『邪悪帝国』のかぼちゃどもによって周辺を超加熱され、鉄をも溶かす溶岩の沼にされたのだ。
| 緻密な魔力制御と人海戦術を必要とする作戦ゆえ、凛にはとても真似できない。
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| ……本当であろうか？
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|「一人分ならやってやるわよ。ただし、邪魔が入んなきゃだけど」
|「なら桜は士郎くんに何とかしてもらわないとね」
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| 同盟者であるルイズの言葉に、凛は不承不承頷いた。
| それが……自分の元夫が元義妹をうまく倒せるかが問題なのだ。
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| そしてもう一つ、うまく倒せたとして……彼が誰を選ぶかも問題である。
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ヾミ.、 ＼イ,'∨´ / / /j }ー― ―彡イ
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|「へーっくしょい！ かしら！
|「あら金糸雀、悪魔なのに風邪をひいたの？」
|
| 件の『邪悪帝国』と、そして行動を共にする元『結社』幹部の曹操 華琳。
| 『新宿駅地下迷宮』を根城とするその連中は、少なからず困惑していた。
|
| 組織の創立者たるやる夫と蒼星石、幹部であるシックスが行方をくらましてしまったのだ。
|
| 『邪悪帝国』も、華琳も積極的理由で動いているわけではない。
| 人々を守るとかそういった今後の行動指針があるわけでもない。
|
| どちらかというと、彼らは自分たちの生存を第一目標としている。
| で、あるならば。
|
|「いまは待つべきね。あいつらが死んでいたらどう動くかも考えながら」
|「『新宿駅地下迷宮』は不抜のダンジョンかしら」
|
| そう、『素人は絶対に踏破できない』という伝説に彩られた恐怖の迷宮。
| 『ラストダンジョン』新宿駅をより意地悪にしたのがこの地下迷宮であるのならば。
|
|「水銀燈たちはどうするのかしら」
|「適当にやるんじゃない？ あの子たちだってバカじゃあ……ヴィヴィアンが付いているのだから」
|
| そう、水銀燈だけでは不安が残る。
| だが彼女には優秀な相方がいる。問題はない、はずだ。
|
| たぶん。おそらく。
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｀≧ｰ-..､＼ ::::::::',:::::::::::＼l::::ヽ ／!
｀ ｰ- ､｀::::::::::::::::::::::::::::l::::::.! /:::/
＿ __ ｀ ＜:::::::::::::::::::::::::::::ﾚ ./ __
, ＜´ ¨ヽﾍ¨k-､ ＼::::::::::::::::::::::::::::{.／::/
r..､ ／. ,ﾑ!.l l l l＼ゝﾐ、 ＼:::::::::::::::::::::/::::::/
.＜:＞､ /{ / ｌ ! }/<ソﾘ ﾉ ﾄ､ ミ､＼ } ::::::::::::::::::::::::::{
. ｀＜:::＞.､ ﾘ! 弋lﾘ ムｲ. l. ＼ミ:::::::＼l::::::::::::::::::::::::／ じゃあ、辻斬りでもしてくるわぁ！
. ｀＜::::＞､＿＿＿＿ ＝ミ:､ l＼ ＼ ヽ ＜ﾌ ｜ / .>- ､ :::::::::::::::::::::::::∠ ＿＿
＜＿＿ :::::::::::: ＞､＿＿ ＼::::::::＼ / 7>､＿ l /､_／: : : : ｀＞､ ::::::::::::::::::::::＿＿＞
＝≦＿::::::::::::::::｀ｰ､ ￣｀＝= ､ :::::::l // ((l ｌ./, ｨ: : : : : : : : : :.:.l:::::::::::＜￣
｀ｰ-三ﾆ--､＞ ､＿::::::::::::: !./::＞rvﾍ_/厶/.: : : : : : : : : : :＼:::::::::::__l7
, -＜::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: ﾘ :::: 〃o ,. ＜: : : : : : :.:._: : : : : :.:＞ ､{{7/}}
, -＜ :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: ｲl /: : : : : : : : : :／ ｀ ｰt＜:.:.: :.ﾌ¨ーﾆｰ-、＿
ム-― ' ´￣二＞-‐ ' ´／:::::::::::::::::::{: :∨: : : : : : : : ／ .l. ! l l ｀ヽ-',. ＜7｀´ __ とｰ-､
-=≧´_＿＿ , -／::::::::::::::::::::::::/: : : : : : : :.:.:.:｛ l l ! l l }: :ヽ ､ rﾉ - rｿ ｰ {ｰ--=、
厶.-―――_／ : :ｌ: : : : : : : : : :! l. l l ! l l ｌ: : :.＼>ﾍ r' 二ﾆｿ（￣￣
r. 7.: : : :/: : : : : : : :.:.:.:ヽ.!/ リ｜ / .l: : : : : : : :＞へ、 }ｰ ゝ
f￣〈. l: : :／: : : : : : : : : : .:.:.:＼ ﾚ′ {: : : : : : : : : :l ｀ｰ-
_r―ヒ ＞.!／ ＞､: : : : : : : : : : : : : ＼ ＼: : : : : : : :l
ｧ=ﾆ､ヽ、_ゝフ´ ／┼ / : :l!: : : : : : : : : : .:.:.:＞ ､ ｀ ＜: : : : l
〃 .／ :／‐┼ / : : :!l : : : : : : : : : : : : : : : : ＞: .､ ｀ ＜!
／ :／―┼ /: : : :.:!.l: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :.:＞: .、
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| 何が「じゃあ」なのか。
|
| 詳しい説明もひったくれもなく、水銀燈はそう言い残して会社を後にした。
| 誰一人止める暇もなく、疑問を口にさせないほど力強く。
|
|「……つまり？」
|「なんだか、『教会』のやんちゃくちゃボウズ相手に辻斬りしてるのがいるらしいから、私もやろうかなぁって」
|
| 水銀燈は、女神の戦闘用代行分体である。滅多な人間に負けることはあるまい。
| だが問題は二つ。彼女と『モーリアンC.O.』の繋がりは『血族』に知られている。
|
| そして、水銀燈は過去、滅多ではない人間に敗北して封印された経歴がある。
|
|「目撃者は全部消すか、マスクで顔を隠してください。
| 世を忍ぶ仮の名前も『キュアモーリアン』じゃあバレバレなので、別のを考えてくださいね」
|「はぁい」
|
| 扱いを心得たヴィヴィアン祐巳によって水銀燈は野に放たれた。
| 常識的に考えれば無茶苦茶な行動。しかし、祐巳は気にせず紅茶を淹れる。
|
|「いいのかよ」
|「いいんですよ。表向きはともかく、私たちは『教会』の、パプテマス・シロッコの敵なんですから。
| 今のうちに多少派手なことをして、敵と味方の色分けをしておいたほうがやる夫さんたちが帰ってきた時に楽でしょうし」
|
| 帰還を疑わぬ声で、彼女は微笑んだ。
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|￣ 三ニ≠ー―＝ ´!
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[ j ﾏ￣￣ ７「￣￣ T! ハイ、お兄さんたち、
ｊ:::ミﾑ ヾﾘ j! ちょっと遊ンでかないかい？
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ｒ､ヽ､ r, ／_ム ｊ ≧。 ¨ ／人_ ｊ
ｒ､ヾ､｝ﾄ､｣/ ｨ _ア ゝ彡 --イ (::ヽ＿
｀ヾ＞//ﾊ ｒ‐’⌒ ﾏ､:j r::{ ≧､
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|「オイオイオイ、ガール……こっちは三人だぜ？」
|
| 深夜巡回し、悪魔退治という名の恐喝や障害、器物損害に強姦を繰り返すならず者たち。
| 『教会』の『十字軍』という略奪者の男三人。
|
| いずれも屈強な外国人を見上げて、トレントコートにサングラスの女子高生が媚びた笑みを浮かべる。
| コートを前を開けると、発達途上の乳房も性器もあらわとなる。痴女だ。
|
|「ヒュー！ 最初からその気かよ！」「外は寒い、どこか行こうぜ！」「その前に顔見せてくれよ」
|
| 男のひとりが少女のサングラスに手を伸ばす。
| 近くにホテルはないかと見回したもう一人は、けばけばしいネオンを見つけて振り返った。
|
|「あそこに……え？」
|「いいねぇ、聞きたいことはいくらでもあるんだ。悲鳴がいくら上がっても大丈夫な部屋がいい」
|
| 振り返った『十字軍』は、同僚二人の首無し死体に目をしばたたかせた。
| そしてカウボーイ・ブーツで生首を踏み砕く少女に、度肝を抜かれて言葉を失っていた。
|
|「でもやっぱり面倒だ、死ね」
|
| ……『辻斬り』。
| 『教会』関係者を狙って夜道に襲撃する剣の達人。
|
| その正体が『血族』で指名手配している上位悪魔、『十二の封印像』が『蛇身』イナミであることなど、
| 仕事熱心ではない男は分からぬままに、頭を失い路地裏に倒れた。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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,.....､､､_____,......
.___,-‐'´ , `ヽ､
, 'ヽ、､、ヾ、 ,ノ ヽ、
/´ ゝ ヽ、）....--‐‐' ::::::::::::::;､ヽ、
/ ´￣ ‐ﾐ､ ,...-‐''´::::::. ヽ
.,､､;‐ｙ ヾ::ﾐ ....､-‐''´´:::::::::::::::::::::::::. ',__..ノ
,-"／~/ ´／‐'´ ....:::::::::::::::::: ',=-､
/ 〈ヽ､ `、`､''ﾞ ......::::...... ___;;;::::::::,ん ',
l / '' ‐-ヾゞ,,､::::::::::::::::::::::::::::::::::::'´-‐-ミ､-ﾍ ;
〉 _,-',ｒ'´ミ‐--,ﾊ,ﾍー‐‐‐‐一ヾ､＼ ` .〉
, -へ､,‐'´,-´ l! l!ヾ、 ヽヽ､_､‐'ヽ、
／::::/ / /´ｔ-､､､.....__ .l! i ';, __... 彡ィﾞiヽ ヽ、ヽ、
／ ::::ｲ lヽ､‐t:ｯミ,ヽtｰi-‐ﾉ 彡､ｯｰナl ﾞi ヽ､ `ｰ-- ､
／ :::／/ | `'''''''''´>‐--<､__`ニﾆ´ l ﾞi ト、 `､ -‐-､ `ヽ.__.,
ノ ::／ ノ :::i ト---‐''''´ ￣'''''''ﾉ : :ﾞi ヽ、`､ `丶、 ＼__
::／ / ） ::::l .i ﾄｰ--‐‐==‐'´￣ `'==‐‐--ｲ ::: ﾞi ヽ、ヽ、 ヽ、 ヽ、
::/ / ./ :::i i l::: :: l :: :: ::: : /..::::: ::ﾄ、 ﾞi ヽ ＼ ヽ、
.） / i :::i ﾊ ﾞl ::: l :: :: ::: :: / ::::::::: ::l ヽ ﾞi ＼,（ ヽ
.） /ｰ'´ヽ ::::l! i:::'､ ::::ﾞl::: ! :::: ::: :: ::: ∠.__＿ 、 ::l ヽ、 ヽlヽ/￣／＼,..、
.ﾚ -‐ ..ﾉ ::::l! .l:::::､ ::::ﾞl:::::::...::::::::: ::: ::: 〉 ::l ヽ ﾞ〉 ／ ／ ヽ、
.／ ':;く :::::::l! ﾞi::::l ::::::ﾞl::::::::::::::::: :: :::: l :::ﾞl,､ﾉヽＶ::／ ／....:::／::`ヽ、
::';: ￣`´ヽ､ i::::l :::::::ﾞl:::::::::::::: : :::: ﾞｌ :::::ヽ:::::: / ／...::::／::::::::::: ヽ
:::::::::::ヽ :: ヽﾉ::::::::::::ﾞi::::::::: :::::: ヽ:::ｒ'´:::::::.... ...:::::::::::／:::::: ／ヽ
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|「ぐ……また、辻斬り……ですか」
|
| 性別も年齢も分からぬ、骨と皮だけの肉体に包帯を巻き付けた人物が、呻くようなしわがれ声でつぶやいた。
|
|「やられたのは『十字軍』です。このままでは『教会』の威信に関わるというもの」
|「我々『武僧』や『異端審問官』は歴戦の猛者揃い……問題はあなた方でしょう」
|
| 攻めるような物言いをする老人、『教会』日本支部長の肩書と、責任を擦り付ける能力だけに長けた俗物。
| パプテマス・シロッコはあからさまに侮蔑的に老人を見やり、包帯の人物に視線を向けた。
|
|「いずれに、しても……神の、威光に、逆らう……愚かな、存在……です」
|「ジャンヌ殿はお優しいな」
|
| そう、この包帯こそが『聖処女』ジャンヌ・ダルク。
| 糸川はやぶさの『花園の子守歌』で肉を溶かされた成れの果て。
|
|「それに……間違いなく……ぐぐ」
|
| 濁った双眸に火が灯る。
| 恋する乙女のように艶っぽく熱っぽく、一人の男に思慕を向ける。
|
| シロッコはかつて、ジャンヌを自分では御しきれぬと考えていた。
| しかし今の狂ったジャンヌであれば。かつての美貌を失い、信仰と憎悪に身を焦がすばかりの今であれば。
|
| いかようにも操れると踏んでいた。
| 踏んでいたが、そのためには一人の男を殺してやらねばならない。
|
|「備府やらない夫……罪状を増やすべきですね」
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／;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ、
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|;;;| ﾉﾘ ﾐ;;;|
_ゞ;! r─-- ､ ,rｪ--- ､ﾐ;ﾘ
!ﾍl;|. ぐ世!ﾞ｀｀ ,ｨ '"世ﾝ ｢ヽ
!(,ﾍ! ￣'" |:::.` ￣ ,ﾄﾞﾘ やらない夫君を殺人でも手配しろって？
ヽﾞ､! !; ,ﾚｿ バカか？
`| ^'='^ ﾑ'′
,rﾄ､ ー- ─-: /|
_..／ i| ＼ === ,ｲ.:ﾄ､
／ i| ﾞ､＼ ; ／ﾘ.:;!:::＼､＿
ﾞ! ﾞ､ `ｰ─''ﾞ:::;:'::::|::::::::::＼
ﾞ､ :::/::::::|::::::
`ヽ、 ﾞ､ ./ .| ,-､、
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| 東京の魔力が上昇したことで治安の悪化は著しい。
| 『教会』からのくだらない要請を警視庁公安０課。悪魔対策室長たる阿部貴和は一蹴した。
|
|「阿呆どもは民衆ってやつを理解しちゃいない……まあ、もはや手遅れかも知れないがね」
|「阿部さんは理解してるんですか？」
|
| 軽口を叩く対策室随一の術者、白石みのるは連日の出勤でグロッキーだ。
|
|「理解してたら政治家にでも転向するさ……白石、今がフンバリ時だぞ」
|「……なんです？ 増員でもされるんですか？ 術師が増えるわけ無いし、キレイなおねーさんがいいなぁ」
|「残念ながらその通りだよ」
|「マジすか！」
|
| 飛び上がった白石と阿部の前に、制服を一分の隙もなく着込んだ女性が敬礼。
| きつそうな顔立ち、攻撃的なまでのショートカット。
|
|「ナタル・バジルール巡査、現時刻より復帰致します」
|
| 少なからず落胆する白石。
| いくら美人でも、厳しすぎる相手では癒しを求められはしない。
|
|「よし、では最初の仕事だ……増員の術者の迎えに行ってくれ」
|「はい」
|
| 阿部は命令後、自分のデスクに置いてある指示書を一瞥し、ゴミ箱に放り込んだ。
| 『陸上自衛隊悪魔対抗分隊への支援要請書』と書かれたそれを。
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／ , ＼
／ / l ヽ
,r' / ヽﾞ,､ ﾞ,
. / ｲ/ ` ` ､ }
{ i | ﾞ ､,,`' ､ , j
ﾚ'､, | ,:r'"''‐ `'ﾞ、 ,､‐‐､ l
ゝ」､ ､ , ,､‐''ﾞﾞ､ﾞ'､-――t'''/ ／ l |
,ゝ‐､_,',. ' ,O 〉 V .( ﾞ, j i ようやく、機は熟したということか。
',.ヽｿ. '､,,､ -'" / / j
'‐ﾚﾞ .,r' ノ
l` ` ､ i'" ﾞヽ､,／
. ﾞ､ ,,､ -‐'" ﾉ ヽｧ､
ﾞ､'´ .. ,rﾞ ノ ヾ＾ﾞヽ、
. ﾞ, ./ ,､ｒ' ／ ＼
!、 ／ ,､ｒ'" ／ /`'ｰ-
`'''"入￣ ,､r ''" ,､／ ／
く .Y'" .,､r'"／ ／
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| 五島ムスカ一佐。
| 陸上自衛隊悪魔対抗分隊を総括する男。
|
| それでいて身の振り方、とりわけ零落に対する嗅覚に優れている。
| 『結社』撃滅作戦発動どころか、準備前段階で『結社』に見切りをつけ、『教会』のトールマン兄にゴマを擦った実績がある。
|
|「トールマン、合衆国、『血族』、『教会』、そして腑抜けた政治家どもめ……今に見ているがいい」
|
| 血のように赤いワインを注ぐ美女を侍らせ、ムスカは狂気をギラつかせる。
|
|「最後に笑うのはこの私だ……！」
|
| テーブルに広げられるのは疑脳兵器『電光戦車』の設計図。
| それは、何年も前に内戦で消滅した小国で実験された『人間の脳を使った戦車』の発展型。
|
| アトリームのレヴリアスの、後継機の設計図である。
|
|「再びこの国の名を世界に轟かせるためならば、私は修羅にでもなってみせよう！」
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{ﾐﾚ'"´. ,.. ¨¨｀,ｨ;;彡. で、何が分かった？
{ﾐ!. i i::i l.:::! l:l .l:! l;;彡
iﾄ､i i:::iﾉ:::l/::l/::!ﾉ:::|
ヽ入 ｀VⅥ /l /l
ﾄ､ `1 ﾐヽﾆﾆ彡'´ L､､､,,_ _./ ﾚ' ..!
ﾄ､. ! Vl ,..ィ´.:j! ',::,,,,,/ ,::′ ,' `ヽ`ヽ`Y´.:./l ｀`ヽ
| ヽ| 〃／.:.:.:.j!...',;,,/ ,::′,,,,,........ﾘ ﾉ.:::l / .l.:.:.:.:.／ﾄ､
,.ィ´ヽ ﾉ／ / ;;;'''ﾞﾞﾞﾞ｀,.''''ﾞﾞﾞ´ {: :i i!.::! ゝ ' ／.ィ´ `ヽ
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|「何も」
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| ジャギの問いかけに『ロストスキル』は端的に応える。
| 一週間前、『大天使召喚儀式』の夜。
|
| ジャギと仲間たちは『野良犬』を名乗るチームと交戦した。
| 間一髪の勝利だった。手加減もできなかった。
|
| 『野良犬』どもはリーダー格の少年『ティム』を除き全滅。
| その『ティム』も飛行機から落ちて行方不明。
|
| 彼らのチーム名『野良犬』と、そのモットー『もう少しマシな戦争をしよう』。
| 『ロストスキル』の情報収集力をもってしても、背景が伺えない。
|
|「……合衆国関係者だと考えるのは、早計よね」
|「合衆国人が合衆国軍機を使って東京に枯葉剤を撒くって？」
|
| 無茶苦茶な作戦だ。
| 異様なテロ行為だ。
|
| 『野良犬』はそれを寸分の疑いもなく実行しようとして、ジャギたちと『グレン団』に阻まれた。
|
|「例の堕天使レミエルと協調してたのかしらね」
|「よくわからんなぁ」
|
| 『野良犬』の計画がどれほど前から準備されていたのか、ジャギ達には想像もつかない。
| だが、実行されればレミエルが夢を支配する直前に、東京に毒を振りまくはずだった。
|
| あわやの時点で計画は阻止したが……もしも阻止できなかったら？
| 想像は恐怖に彩られている。
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|「ン……んァッ。」
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| 路地裏のアパートに、朝から嬌声が響く。
|
| 住人は地方から夢を抱いて上京した女子大生。
| いや、もう大学には通っていない無職の女。
|
| 悪い男に引っ掛かり、多額の借金を背負わされ、夜の仕事で利子を払うだけの暗夜を進む女。
|
|「わたしの……天使！ ああっ、わたしだけの天使さん！」
|
| 防音効果などまるでないアパートで、彼女が腰を振る相手は金髪の美少年。
| 一週間前に、空から落ちてきた生ける屍。
|
| 呼吸は微弱、意識を取り戻さない、水も飲まない。
| だけれど生きている、『役に立つ』。
|
| 仕事を始めてから不感症になった女は、その少年相手の時だけは『悦び』を取り戻せる。
| だから夜の仕事から戻り次第、少年を抱き、絶頂の中で泥のように眠るのだ。
|
|「あっあっあっあ！！」
|
| 意識を失いくずおれる女。少年は動かない。
| 少年……ティム・ローレンス。
|
| 一週間前の闘いでジャギ達に敗北し、片腕を失った『野良犬』の生き残り。
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|「クソが、そのまま死ね！」
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| 同じく路地裏、生ごみの匂いの染みついたゴミ捨て場に、一人の男が倒れ込んだ。
| 彼の名前はミスト・レックス。滅びた中東の小国の防衛隊員。
|
| 少し前までは『血族』ののけもので。
| つい最近までは復讐者だった男。
|
| 今は……ただの抜け殻だ。
|
| 肩を怒らせ背を向けたのは、鼻筋を真一文字に通る異様な入れ墨の男。四ツ目。
| 先日の新宿衛生病院の闘いで、愛機であり、相棒であり、恋人の脳を有する自走戦車を奪われたミストは、見る影もなくなっていた。
|
| たった一つだけ残された大事なものを失ったミストは、生命活動の必要性を見失っていた。
| 水銀燈やヴィヴィアンとも別れ、たった今四ツ目にも見放され。
|
| ドブネズミ色の空を見上げても、ミストの目には何も入らない。
|
| 不意に、大粒の雨が降り注ぐ。
| すぐに全身下着までずぶ濡れになるも、ミストは自嘲的に笑うばかり。
|
|「今の俺には……こういうのがお似合いですね」
|
| これがのけものの末路である。
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| 逆に今一人ののけものには再起の道が開かれていた。
|
|「備府やらない夫……あの小僧を殺せばいいのですわね？」
|
| 諌山冥。
| 親『結社』派として失脚し、スパイ罪を問われて禁固中だった女。
|
| 若作りの三十代で、何よりも寝技を得意とするが……それでも戦闘能力は一線級。
| ここ数か月で多くの戦士を失った『血族』にとって、貴重な練達の術者。
|
| そんな彼女に、やらない夫の首級を上げ、『教会』に献上することで再び出世の道が開けるというのだ。
|
|「……らしいぜ」
|「口の利き方がなっておりませんわね」
|
| そっぽを向き、忌々しそうに応えた眼帯の少女。
| 超中学生級のおっぱいと、年齢にふさわしいファッション。
|
| 前やらない夫班員の天龍の頬を、冥は音高く張った。
|
|「あっ」
|「ふふふ、三人ともしつけ甲斐のありそうな子で嬉しいですわ」
|
| 理由もなくシグの頬も張り、その胸に抱えていた虫かごを中見ごと踏み潰す。
| 止めに入ろうとしたロビンを軽い呪縛で停止させ、冥は白い足でカメラアイを踏みつけた。
|
|「あぁぁ……っ」
|「いい仕事をいたしましょうね」
|
| そして、嫣然と微笑む。
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/::::ｼ "´ ｀ ~´ ｨ'ミ::::`'i!
）::/ ,. -－ ､ , -－ ､ ｀ヾ::::::::},
l:::l.:.,ｨ句丶y'.: ｨ句丶､:.:. ﾞi:::::::::l
}::l:.:.｀￣,.:'´ .: : ｀ﾐ￣.:.:.:.:.:. l:::::::ﾑ、 やらない夫？
l::l , ' ,r' ヽ、 :.:.:. }:::/^'i l やらない夫でおじゃるか……っ！
N! /ﾞ'^'- '^'ﾞヽ l::fｸ //
l l! / ,..,_,..、 丶 l:lぅ,ﾉﾉ く、くけっ！
しi i ,ｲｴｴｴ>､ ヽ ,l:ゝ- ' ころ、殺せ！ あの！
ヽ. l l l{､:.:.:.:ﾉ:.:.:l） l ｲ::ﾉ
ヾ! l ヽゝｪｪｪｧﾂ } ,/:::ヽ 疫病神を！！ くきき！！ 殺すでおじゃ！
>､ `ｰ-‐ '" ノ ,ィ'{^~ﾞﾞ´
／l, ﾄ、 ,ィ" Y lﾄ、
_/:.:.:ヽヽ.` ‐--‐ '"´ / ハ
,r‐</:.:.:.:.:丶丶 ヾ ,ｿ / /:.:.ヽ‐-､
, -‐ ''"^ヽ 丶､:.:.:.:.:＼＼ ／／:.:.:.:.:ヽ } lｰ-- ､、
,, - '" 丶、 ｀` ｰ- ゝ ヽ､＿_∠∠.:-ｭ:.:.:_,:ノ / ｀ 丶､
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| 『血族』四天王の一人であった芦屋道満麻呂の末路は酷いものだった。
| 突然発狂した陰陽師は、黒子姿の部下に車椅子を押させてそこら中でわめいて回った。
|
| 唾と糞尿をまき散らしながら、
|
| 男を見るや「やらない夫だ、殺せ！」
| 女を見るや「おお可愛い麻呂恵や……！」
|
| 白塗りの異相ながらも怜悧で力強いかつての面影はどこにもない。
|
|「……麻呂殿を休ませてやってはくれないか？」
|「……」
|
| 車椅子を押す黒子の肩を掴み、ケンシロウは尊敬する人物の呆けた姿を見ていられずに声をかけた。
| だが黒子は静かに、言葉を発せずに首を振る。
|
| 最高の弟子であり、『四天王』候補であるできる夫の行方不明も、麻呂の狂気に拍車をかけたのだろう。
| いや、一説ではフリット・アスノが毒を盛ったとも……。
|
| だんまりを決め込む黒子の肩に、ケンシロウは思わず力を込めた。
| だが、その肩が少女のように華奢な事に気づき、身を引く。
|
| なんだ……誰だこいつは？
| 少なくとも、文武両道をモットーとする麻呂の弟子に、こんなか細い奴が居ただろうか？
|
|「やらない夫を殺せ、くくっけ！ けえけ！！」
|
| ケンシロウの困惑をよそに、麻呂が怪鳥のように叫んだ。
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｢ ＼ ＿＿ ／⌒ｧ ） ｀丶
ヽ ´ ｀ / / ヽ
＼ く ／ ）
∨ ● ● Ｙ ﾉ
_|{ ､_, ､_, 八 ,′ 芦屋道満麻呂の言うとおりだ。
／ 八 ｲ 丶. / 備府やらない夫を殺そう。
⌒＼/ , / ｰｧ Ｔ´ { ＼／＼
（ （⌒>く.／ / . : / ',: :ヽ 〈） ）
＼{／ : : :/ : : / ヽ-ﾍ . : : ／／､
／＼＼＿∧: : ,′| ｉ ｉ | ∨∧／／ : : :＼＿_
（＿ﾟ: :｡ ーｧ‐' : ; | | | | ー‐く: : : : :｡: ﾟ : _ノ
/ . : : ｡人: : :.:| | | | | } ＼: ｡ : : : :）
（_／{:_:/ ＼: iヽ 丶ソ 丶ソ ノ ＼_ﾉ￣
￣⌒ ⌒￣
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|「キュゥべえアンタ、人の心ってもンがねェのかよッ！」
|
| 一縷の慈悲もなく言い放った白い使い魔に、佐倉杏子が掴みかかる。
| キュゥべえは抵抗せずに喉首を押さえさせた。
|
| 少女の細腕でもへし折れそうな小動物の首。杏子はロリポップを噛み砕くことで理性を保った。
|
|「監禁中のキオ・アスノ。消息不明の龍田。そして失踪したシックスの名誉挽回。
| 君たちにはやる事が多すぎて、しかし実力は伴っていない」
|
| 杏子班の三人は、三人が三人ともそれぞれの目的を有していた。
|
| 杏子は友人であるキオを救い出したい。
| 横島は『結社』撃滅作戦で消息を絶った同期を探すことに尽力していた。
| ヴァイジャヤは失踪した恩師、シックスが『血族』に戻れる場所を作らねばならない。
|
| だがキオは手練れの戦士、ダースベイダーに守られ近づくことも叶わない。
| 横島が探す二人のうち、一人は居場所が分かったが、もう一人は絶望的。
| シックスの復帰のためにはやらない夫を殺害しろと、シックス配下は命じられている。
|
|「何かを成し遂げるのに必要なのは、発言力だよ佐倉杏子……まずは備府やらない夫を捕まえるんだ。
| そしてキミが『四天王』になれ」
|
|「なったらどうなンだよ」
|「政治的駆け引きで、フリットの小僧にボクが負けると思うのかい？」
|
| 元『元老院』の知能をそのままコピーした使い魔の言い分を、杏子は信じるほか手立てがなかった。
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. | 〃⌒ ヽ ／ } }
. | , ￣￣￣ 7:::ヽ ／ // / ,/
. }／／ ,／:::::::::::＼ ∠ニ≠ ／／
. 爪,＿ ／ ＿＿__,..彡:::::::::::::::::::::､:`¨ヽo ／ ,／／
｀ヽ_／ ..-‐::::::::::::::::::::::::{ ＼::::::::::､::::::::ヽ::::::＼ ／／:::::. 現状唯一の『四天王』だからと言って、
. }》:＾:::::::::::::::::::::::::::::::::::. ＼:::::: ／:::::::＼:::::＼o ／／::::::::::::::. 何らかの発言権があるわけではない。
. /::::::::::::::::::::::::::::::::::､::::::ヽ, Ｘ:::::::＼:::::::}i::::〃⌒ヽ::::::::::::::::::::::::::.＿_
. .:::::::::::::::::::::::::::::::丶::::＼::::::＼／ `＼x≦ﾐ刈 7ﾐ ＾ 〉::::::::::::::{I}K＿＿》
ｲ::::::::::::::: l::::::＼::::ﾟ＼::::ヽ:::::::丶 ,.ｨﾁ笊利＾ "＾ う /:::::::::::::::::介^:::::::::::..
{ |::::ｌｉ{ :::::: |:::::::::: ＼う_＼::::＼ヽ〃 V)tzツ イ:::::::::::::::::/ {｀ヽ＼:::::＼
| {::::|ｉ{ :::::: |::::::::::::::＾だ抃 `ﾞ ｀ ^`｀ }丿;::::::::::::::《＿}:::::::＼丶::::::::...
Ⅳ从 ::::::|:::::::::::::仆 ＾ﾟツ ∨::;::::::::::::|:::::::::::::::::::::＾´::::::::::::::::...
. ｀ヽ{⌒＾寸::::::::. j / ∨::;:::::::::|::::::::::::::::::::::::::::＼::::::::::::::::::...
. 〃Ⅵ::::::::.. ` ､ ， , ∨ :::::: |:::::::::::＼::::::::::::::::::＼:::::::::::::::::::::.....
《 Ⅵ::::::个:... ／ //} :::::: |.::‐- :::::::＼::::::::::::／＾￣￣￣￣廴:::...
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| 衛国寺の奥で、『四天王』上杉謙信は憂い顔で囁いた。
| 東京守護の結界維持を一手に引き受ける『血族』最強の戦士。
|
| しかし、その戦闘能力故に政治には一切関わらぬと約束し、半ば隠遁した状態にある。
| その約束が、上杉謙信を束縛していた。
|
|「ラオウ殿、夢宮殿、麻呂殿……もう誰もいない」
|
| 『十二の封印像』が『淫魔』魔王マーラとの戦いで倒れた夢宮。再起不能のラオウ。
| そして狂気に沈んだ麻呂。
|
| 『元老院』も瓦解し、今やフリットと臓硯の二人の天下だ。
|
|「残念ながら私は皆に慕われているが、井戸端以上の情報は手に入らない」
|
| 何かをしようにも、もう遅いのだ。
| 謙信は志摩子と懇意であった。故に謙信が叛意を見せる可能性を、フリットも臓硯も計算しているだろう。
|
| 見張られている状況で、表立ってコネを広げていくことは不可能。
|
|「そんな私の目となり耳となってくれる者がいるだろうか？」
|「ここにいるぞ」
|
| 『結社』撃滅作戦において、逆に上杉謙信への刺客として送られてきた男。
| 『結社』五虎将の一人、馬超の従弟……馬岱。
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| その実力は、『九鬼』に匹敵する。
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/: : ／ / : : : : : : : /: : : : : : : : : : : ;ｨ: : : : : : : : /´ `ーｧ : : : l
: ／ ./ : : : : : : : ,': : : : : : : : : :／ /: : : : : : /:/ ,ｲ : : : : L ＿
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" ´ ,, l/-l: : : :,ｲ. l/ .l ,' ,'〉 !ﾉ 『九鬼』の連中ってのはすっげえもンだな！
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| その『九鬼』は、現在『グレン団』と提携して東京守護業務を行っていた。
| 戦力を失いに失った『血族』は、今や稼働している戦闘班が三つだけというありさま。
|
| 先の『結社』撃滅作戦では冬悟班とドルキ班、アリカ班。さらにはのけものを失い、
| 一週間前の満月でやらない夫とできる夫を失ったのだ。
|
| 代わりになる戦力の当てを用意したのはジャギで、（手柄はすべてケンシロウに押し付けられた）
| 『九鬼』が情報収集し、『グレン団』が悪魔退治という形に収まった。
|
| 『グレン団』員の多くは訓練不足ではある物の、自然発生する悪魔の質も高くない。
| 強敵が出現したならば、『九鬼』首領の黄泉と、残った四人の九鬼、そして『グレン団』主力が駆けつける。
|
| 今、カミナがふんぞり返っているのは、まさにその、駆けつけるための用意された装甲マイクロバスだ。
| フリットから予算をふんだくってジャギが用意したこのバスは指揮官車でもあり、鳰のためにコンピュータ類も設置されていた。
|
|「ねえアニキ、オレ達はホントにやらない夫を探さなくていいのかな？」
|「いいに決まってンだろ、ジャギの野郎の命令に従うのはシャクだがな」
|
| シモンの言葉をカミナは一蹴する。
| そう、ジャギはやらない夫は放置せよと言っていた。そこまでやる義理はないと。
|
|「……『九鬼』が見つけてきたら？」
|「それもねーな」
|
| 理由を、カミナは直接黄泉から聞いていた。
|
|「やらない夫は、黄泉のトモダチなんだとよ」
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レ′ .|:::::::::∧. ﾞ::| .|::::::::|:::::|::::|::::::| そーいえばやらない夫はどうしとるんじゃい？
ﾉ:::::/::::;:ﾍ _ ,. --‐‐ｭｬ' |::::::::|:::::|::::|::::::|
／:::::/::::::::::∧ ｀ヽy' ´￣￣ﾞrj |::::::::|:::::|::::|::::::|
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|「え？ 知らないよ、探してないもん」
|
| 問いかけたのは『甘味処 ニュクス』の主人、ロリカード。
| 応えたのは女子高生に変装して入りびたる『九鬼』の黄泉である。
|
| この『甘味処 ニュクス』を中心に展開する秘密結社『糖分同盟』。
| 基本的に高位悪魔の代行分体が仲良く集まって、東京中のスイーツを食べ歩くための組織だ。
|
| やらない夫と黄泉は人間であるが、来る者は拒まぬ『糖分同盟』に参加、ともにスイーツを探求していた。
|
|「どーすんだよ」
|「そうは言っても、うち、ポンデライオンやし……」
|
| ポンデライオンではない。
| そして、彼らはやらない夫の件に消極的だ。
|
| それもそのはず……『糖分同盟』は弱い組織である。
| 『血族』に存在はとっくに補足されているが、それでも存続できていたのは、彼らが弱いからである。
|
| 戦闘能力皆無で、味を楽しみその情報を本体に送るだけの分霊、だからこれまでお目こぼしをされてきたのだ。
|
|「やらない夫を庇ったり匿ったりして、『血族』に殴られたくない」
|「だよねー」
|
| 彼らの保身を、誰が責めることができようか
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／￣￣＼
_ノ ヽ、 ＼
（ ●）（ ●） |
（__人__） | ..／} これまでサンキューな。
_ ヽ｀⌒ ´ | / / __ 助かったぜ。
(＾ヽ{ ヽ { ./ / . ／ .ﾉ
(￣ ヽ ヽ i ヽ / 厶- ´ ／
.(二 ヽ i i |,r‐i ﾉ. ヽ / ／
ヽ ／ ノ ／ r一'´ ー ､ ￣￣￣）
i { ｲ―イ / .`ー―. ､＿_ .〈￣￣
ヽ. `ｰ '/ / /＼ ＼
`ー ' ￣￣! | ヽノ
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|「いえいえ、お礼は言葉ではなく気持ちで頂いたので大丈夫ですよ」
|
| 『気持ち』＝全財産。
| やらない夫を一週間、誰からも完全に隠し通したその悪魔は親指と人差し指で円を作って微笑んだ。
|
|「残金的には少し残ってますが、最後に何か入用ですか？」
|「え？ これからの生活費まで毟るの？」
|
| やらない夫は逃避行を続けるつもりだ。
| そのためには少なからずの金が要る。寝る場所と、食事を確保する程度の金が。
|
|「まあいいだろ。所在と状況を知りたい人間が四人いる。優先順位順に、翠星石。やる夫、蒼星石とアリカ」
|「翠星石さんは新宿にあるマンションの一室、心神喪失で目覚めぬ眠りについていますね」
|
| 彼女に会うには、フリット・アスノの城を攻略し、最強の守護者ダースベイダーを倒さねばならない。
|
|「やる夫さんは品川大聖堂の地下で封印されています。アリカさんも一緒ですね」
|「封印……ちひろさんがされてたみたいな？」
|
| 品川大聖堂は『教会』の厳重な監視下にある。
| そこに『犯人の一味』であるやらない夫が現れるのは自殺行為だ。
|
|「……蒼星石は？」
|「別料金になります」
|「……そうか」
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―― ､
／ 〉 ´ ＼
／ ／' __ ノ ゝ.__ ヽ
/ /／〉 ( ー) (ー ) ｌ 翠星石もやる夫もいない世界か。
ｌ ´ イｌ (___人___) ｌ
. ｌ ｉYｌ ｀ ⌒ ´ ｌ
. / ﾊ !.! !
. / / ' ヽ /
ｌ ／/ ､ゝ ／ ヽ_
´｀ ー‐ '｀./ ｀ー､ ,－´ / ＼
. ｉ ｉｉ / ｀:.ｉ ｉ´ヽ. / ｀ ､
. , 'ｌ ｌ.! / ｌ ! ﾊ / ＼
/ ,:| | ヽ/ !＿' V , , ヽ
. / / ｌ | /:.:.:.:ヽ / / ／ ｉ
. !/ ! ｌ＼. ｉ:.:.:.:.:.:.ｉ ／ / / ｌ
/ ! ヽ. !:.:.:.:.:. ! ´ ! / !
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|
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| やらない夫はため息を吐き、排ガスで曇った夜空を見上げた。
| 薄汚れたコートのポケットに手を突っ込む。
|
| 大切な人がいない世界に、はたして存在する価値はあるのだろうか。
|
| ポケットから取り出した土嚢袋を覆面代わりにかぶり、備府やらない夫はとりあえず品川に足を向けた。
|
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ｒ-、
/ ⌒ヽ ｒ┘ ］
i l Y´ {
＼＼ 八 ﾉ } i
＼＼ 人二ス-ァーｊ {
＼＼ ｒ〈 、_ /
三＼＼ /´ } i 「｀ー´ 。＜
三三＼＼ / ム ! { 。＜＞ ﾟ´
｀７:ァ＼＼ 〈 ヾ! ゞ 。＜＞ ﾟ´
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┌-- ´ i:.! ;.:.:|:.:.:.:.:.|＼＼ <＿ ハ ／ 。＜＞ ﾟ´|l| .l「|l!. !「￣ ￣|l|￣
i ヾ ;.:.i:.:.:.:.:j:.:.:.＼＼ ７⌒ヽ/ }＿」〈 。＜＞ ﾟ´ |l| .il| |l!. └=┐ |l|
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l X:.:.:.:.:.:.:.:.:.: 「三三] /〉 /勺 ｒ┘└┘└┐ ＿ ￣￣ ＿__ 二二
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八 ｀ﾟ /:.:.／_ソ:.:.:./ ｀T三「ァ/´.<＜ァ´太.〉└ァ ィヽ 、┘ |l| .i} |l| |l|ﾍ. |l| |l| .|l| └=┐ .il| |l! |l| .|l| |lL丿
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三 ＜＞ ﾟ´ マ三ﾍ: : : : : ＼ム: : : : : : }myrohsym : : : : : : : : : : ＼＼ r:': : :人 八:ヽ ´ ¨ﾞ´/⌒
＞ ﾟ´ V三＞: : : : : : ヾ＼: : : : Yymyrohsy}{ : : : : : : : : : : : ＼＼'´:ｿ´ >ﾟ ｀⌒ ￣ ﾟ /ト、
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☆ 次回予告！
暗黒に沈む東京で、今宵も牙無き無辜の民の悲鳴がこだまする。
嗚呼、この世には神も仏もいないのか。
だが待て、海を見よ！
正しき者には常に救いの手が差し伸べられる。
悪の手先に立ち向かうのは、清く正しき正義の使者。
光輝を負いしその名を讃えよ。
『異端審問官』ジル・ド・レェ！！
次回『青髭式尋問術』
果てに見るのは破滅か死か。
それぞれのエピローグ、これからのプロローグ
やらない夫、上着泥棒の被害にあいそうだなあ(棒
キャラメイキングの時、やらない夫の上着が消える可能性もあったっけな
人間の肉体に怪物の心のやらない夫。
という現在の対比を崩すのも面白かろうなのです。
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| 東京の夜は物騒になった。
|
| 十一月。体に突き刺さる冷たい風が送電線を揺らす。
| 都会は夜も眠らないというのは迷信で、その闇は深く濃い。
|
| 夜を徹して抗うように、コンビニエンスストアや常夜灯が煌々と道を照らすも、太陽には及ばぬかすかな灯火。
| どれほど無駄に努力をしても、影は一層に濃くなるばかり。
|
|
|
| 今も、ほら。
| 暗がりに潜む何物かが、獲物を待ち伏せしているぞ。
|
|
|
| 人々は本能的に夜を厭うようになった。闇に近付かなくなった。
| 論理的な理由を持てなくても独り歩きを避け、多少のコストは目をつむりタクシーを使う。
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| 防犯グッズとお守りが飛ぶように売れ。
| 人々は冬のナマズのように静かに息を潜めた。
|
| ……ただし、社畜を除いて！！
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/:/: :/:Λ.:{ : ∨: : : :´, : : : ヽ : : : ∨ : : : : : : : r‐ ､__
/: ': : j :ｌ ｌ { : : ∨: : : :´, : : : : ',: : : :∨ : : : : ⌒ヽ : ﾍ:｀ヽ
. .: ｉ : : k:.| ;ハ : :∨ : ___´ : : : : : : : : :′ : : : : : _j}: ﾉ:j}: : :',
': : | : : ｌ j|y´￣jl＼: :'´＼ : ｀Ｙ、: | : : : :ｉ : : : : : : : |ｧ: :/: : : ｉ
. ｉ : :ｌ: : : ｲj斥ﾄyﾍ ＼＼jI斗-ミヽ| : : : :| : : : : : ／l ¨` ,: : : |
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l: : : 乂: :j{! krj k,）rj }i |: : : : ｆ´ヽ: : : : : ｌ j} : : |
|: : : : ∧从 vｿ 乂ソ " |: : : : |ﾊ j} : : : : ｌ 八 : ,
| : : : ,' V , , /: : : |rj / : : : : ｌ ' : : : ′
|: : : :′ j} //: : : : ﾄ-' : : : : : ｉ j{: : : {
. ｌ : : ′ ﾍ r‐‐ ､ // : : : : 八: : : : : : :l j|: : : { う〜帰宅帰宅。
. ｌ: : { ＼ ー ' /:ﾊ: : : : , {: : : : : : : : l jl : : :{
. l: : l ｌ＼ , ´ / } : : :∧j: : : : : : : : { jｌ: : : ,
l: : ｌ ｉ: :7 ｰ r ´:_}イ＾〕 : : :/-=! : : : : : : : j ', : : ´
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. /二二 ＼ﾆニニ二/:／ﾆﾆ二二二}: : : :j:| : : :∧: : : : : : : :＼j: :у
ﾞ二二二 ∧ 二二/´ﾆニニニニ二}: : : :八: : : :∧ : : : : : : : : }／
{二二二二∧二二二二二二二二ﾉ: : :/: : : : : : : } : : : : : : : : }
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| いま家路を急いで近道の暗い路地を進むのはごく一般的な女の子。
| 強いて違うところをあげるとすれば、ブラック企業勤務ってところかな。
|
| 名前は島村卯月。
|
| そんな訳で帰り道にある近道の路地裏にやって来たのだ。
|
| ふと見ると、ゲロ臭い電柱の物陰に、子供サイズのナニかがうずくまっていた。
| ギチギチギチギチ。
|
|「ハラヘッタ」
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|
| 突然のくそみそテクニックパロディでも隠せない程に、卯月の遭遇した状況はシビアであった。
| 紫色の肌をした幽鬼は両手に抱えていたどぶねずみの頭を食いちぎる。
|
| どす黒い血液を断続的に吹き出しながらビクビクと動くどぶねずみ。
| 卯月は目の前の非現実的な光景に反応できなかった。
|
| 咄嗟に逃げることも、悲鳴をあげることも叶わずに硬直していた。
| 後ずさったヒールが何かに当たる。にちゃりと粘着質な感触。
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| 振り返るとそこには、暗闇で赤く輝く目。目。目目目目目目目。
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|「ひっ」
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| 不潔にねばつき垢じみた、無数の手に引き倒されながらも、卯月は悲鳴をあげられない。
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| ……こうして、この町に新たな行方不明者の写真が張られ。
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| 家族以外誰も気にも止めないままに。
| 色褪せて、消える。
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' / / ハ ヽ
ｉ j __{ / / 'i } i .
|y'^'⌒'^'く_, l ／__,j ハ ,ﾊ｜ i
j′ 〔 |/￣___}/ }厶｣_j＼､|
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λ / 代ツ ｛ﾂﾉ{ i
//＼__ __,ノ′ ｜ / | l
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_づ＾⌒'^′ '^⌒′ 'く｣___,〕_-イ} i |
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| まだ少し早すぎるロングコートを着こんだプラチナブロンドのスラヴ系少女が、薄い唇を指先で撫でながら囁いた。
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|「何がだよ」
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| 連れの少年が憮然と聞き返す。
| 二人とも深夜の暗がりには似つかわしくない若さだ。
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| 少女からは退廃と屈託が漏れでて、少年からは疲弊と嫌気が溢れている。
| しかしあからさまに無軌道な学生でも、半グレでも、水商売人でもない。
|
|「そこの角で『お楽しみ』の連中がいる……私もご相伴に預かりたい所だな」
|「ふざけるなよバカが、遠阪に目立つなって言われて……なに？」
|
| 少年は、海藻のようにうねる黒髪を掻きむしった。
| 少女の言う意味を理解したのだ。
|
|「遠阪殿に……なんだ？」
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| 少年は青ざめ、歯を鳴らしながら呻いた。
| もはや彼の脳内に、師からの警告など残っていない。
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| 少女は、膝を震わす少年の内心を想像して舌なめずりした。
| しかしすぐに舌打ち。少しばかり面白くない。
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|「ここに私がいるのに、そこいらの野良犬が恐ろしいか」
|「黙ってろ」
|
| 睨み付ける少年。少女は笑う。
|
|「慎二、手伝いはしないぞ」
|「期待してない」
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| ガチガチ鳴るほど歯の根が合わぬというのに、少年は爪が食い込むほどに拳を握り路地に向かった。
| 少女はつまらなさそうにそれを見送ると、見捨てられた子供みたいに身を縮こまらせて、電柱に寄りかかった。
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| 排泄物の臭いのする手に、髪を引っ張られ口を塞がれ、卯月は振りほどこうともがいた。
| だが小さな無数の手は力強く、柔らかな皮膚に爪を立てて離さない。
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| 吐き気を催す刺激的な悪臭に涙がボロボロとこぼれた。
| 相変わらず喉に鉛でも詰まったかのようで、悲鳴のひとつもあげられない。
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| 安物のダウンが引き裂かれ、パッと羽毛が飛び散った。
| ジャケットのボタンが弾け、白いブラウスが破かれる。
|
| 安くくたびれた下着に包まれた、柔らかな乳房に……黄色い牙が突き立てられた。
|
|「ぎゃっ」
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| ようやくあげられた悲鳴。
| 卯月は必死に抵抗を続ける。
|
| ささやかで、弱々しく。
|
|
|
|「いやっやめて、痛い！ 痛いやだ！ あっ……ぎゃあああぁあぁぁ！！？」
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| 絶叫。
|
| 食い破られた胸から、湧き水のように血が溢れた。
| それまで以上にがむしゃらに暴れようとも、しかし小柄な人影は振りほどけない。
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三三三三三三三三三ヽ三三三三三 ﾑ 三三ﾑ
三三三三三三三三三三ﾏ三三三三三ﾑ 三三
｀ヽ､三三三三三三三ﾆﾏ三三三三ﾆﾑ三三ﾆ
ヽ三三三三三三三 ﾏ三三三三ニl三三ﾆ
ヽ三三三三ﾆ/l三ﾆﾏ三三三三 l三三ﾆ
ﾏﾆl三三/ ,l ／ 7 ヽ三三三ﾉｌ三三ﾆ
ﾏ.l三ﾆレ'.l /'´ l三7==イ=ﾑ三三
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l三ﾆﾚﾍ レl ﾚ' /=/ ﾏ三三ﾆ
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| 卯月は激痛で赤く明滅する視界で、せめて何が起きているかを確認しようとした。
| しかし分からない。
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| 焦点が合わせられないのだ。
| 普通の人間であり、異能や悪魔を確信していない卯月の脳は、悪魔の存在を否認してしまう。
|
|「野良犬だよ。明日は病院に検査に行け」
|
| 耳元で囁かれ、卯月は朦朧としながら顔を上げた。
| 整った顔立ちが台無しなほどに顔をしかめた少年。
|
| 周囲からは、夏場出し損ねた海鮮生ゴミを圧縮したような悪臭。
| 肉をえぐりとられたかのような痛みはすでに無く、ただただ体が動かなかった。
|
|「眠れ」
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| 卯月は少年の命じるがままに目を閉じて意識を手放した。
| すべてが悪い夢のようだった。
|
|
|
|
| だが翌朝、上司からの電話で目を覚ました卯月は、下着姿で化粧も落とさずに眠っていたことに気がついた。
| 全身にはアザ、擦り傷、切り傷が無数にあり、高熱で体も動かない。
|
| 卯月はその場で上司に辞職する旨を告げて、震える指で救急車を呼んだ。
|
| 過労と気管支炎と、感染症の精密検査が終わりアパートに帰宅した卯月は、知らないクリーニング屋から届いたスーツと、
| いくら探しても見つからないブラウスとダウンジャケットから、あの晩の出来事が夢ではなかったとようやく理解できた。
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. |: :./ : : : : :l : : : ｀＜、: :{ ｀}: |／ .ｹ≧-、- 、 / }: :} / ∧
. 人: } : : : : : :|..: : : : : .| Ⅵ {: l .∧ C / Ⅵ| /: ∧
. }ハ: : : : : l: : : : : : :| ＞ﾐ、 人{ / ∨＿_j斗. : :.r ｨ: : : ﾙ
ﾍ ｀¨ ￢:｀¨＞、人 《ヽ￣ヽ, ｀≦三彡´ l |: :∨ /
{: : : : : : : : ＼｀ ｀つﾉ ｀¨´ / /: : :∨
〉: :∧: : : /｀ ＼ ｀¨´ .| z、 .∧: : : : /
ﾍ:./ .l: ﾊ{ ＼ l 三 ｨl /: : : : : /
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| 時間を少しさかのぼる。
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| 島村卯月に群がる餓鬼どもを呪詛の弾丸で瞬殺した間桐慎二は、噛み千切られた乳房を呪符で癒した。
| 図らずも修練が生きた。三人の達人に日夜しごかれてきた結果、魔力の精密作業は意識するまでもなく行えた。
|
| 汚染された乳房を洗浄、皮膚の再生。
| 生来魔力では遠阪凛やルイズの足元にも及ばない弱者として、
| 慎二は『弓兵』から肉体を循環する魔力……気功やチャクラなどと呼ばれるそれらの操作を教え込まれていた。
|
| 『弓兵』の論理は明快だ。『水鉄砲は穴が小さいほど勢いが良くなる』『正しい動きは無駄を省き最小の力で最大の結果を導く』。
| 慎二には、天分の才に裏打ちされた魔力を更に練り上げ強化する凛のやり方よりも、『弓兵』の方法と反りが合った。
|
| 同じく激流のような魔力をなだめて束ねるルイズのやり方も、参考にしかならなかった。
| 慎二は卯月の傷を癒し切らずに切り上げる。爪による切り傷や擦過傷、打撲はそのままにしたのだ。
|
| 野良犬の仕業、少なからずの負傷を残すことで、手の施しようのない服のやぶけを許容させる。
|
|「そこで何をしているのです？」
|
| 不意に、空気の密度が上がった。
| 十一月とは思えないねばつく湿度。
| 妙に甲高い男の声から、並々ならぬ魔力を感じる。
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_斗;:＿ ;:;:;:;:!;:;:;:／;:;:;::;:;:;:;:寸;:;:;:;:;:;ﾑ
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斤;{;:;:;:;:;|;:;≧、 ＼;:;N 孑 ´ 〉;:〉八ﾙ八
. | .|今、寸;:、};:;〉 ｀}〉≦z_ {ﾘ }ﾊ 〉ヽ ｀
人,l;:;:;:;};::l l ＞孑' ｀ﾌ ﾋ;:ｼ ″ 〉 ./
｀¨了/} 「 ﾍ;ｿ ｀¨´ ﾄ ./ 僕は『血族』だ。
{、ﾍﾙ、｀¨´ j _ l;:八 野良悪魔に教われた一般人を救助した。
ム 、 - ﾉ ｲﾉ
人 ＞- ´ ／ .l _
今ｭ、 ／ ,ｱ |
| ＞＞ ＿ 七 ´ l 、
＿/l |::l::| 孑 ヽーz ｭ _
＞ - ――――≦´ ｀ ＜ |::l::| ／_ ／ ﾉ ,ﾍ- ｭ _＿_＿
. ／- 、 -ﾆ三 彡´孑 ,}／ ／ .／ /、 l ヽ
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| ＼ l l::l/ ／ ﾋ´ ／ / / l
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|「おかしいですねェ……この周辺は我々の担当のはずですが」
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| 暗がりにぼんやり浮かぶ蒼白い顔。蜥蜴や蛙を思わせる、ねとつく肌の男が一人。
| 赤と黒の法衣を身にまとった怪人が、四白眼をギョロつかせながら首を傾げる。
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|「僕は戦闘班じゃない……ここにいるのは偶然だ」
|「偶然、すなわち神のお導き……なればこの私がここに立つのもまた運命ッ」
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| 嫌な運命だ。
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| 慎二は眼前の男が一人ではないだろうと目端をつけた。
| この威圧感は『十字軍』のチンピラには出せまい。
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| 『武僧』にしては血の臭いが濃すぎる……そう、ヒトの血の臭いがこびりついている。
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|「『異端審問官』殿、あなたの縄張りで勝手を働いたことを謝罪する」
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| 『万魔』は……傍観しているに違いない、慎二の苦境を楽しんでいるだろう。
| 怪人は怖気を誘う笑顔を作った。
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| 威嚇か、あるいは不信感を植え付ける類いの。
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＼:::::::ヽ::::ｱ /／.:::: ‐-ミ Ｖ ｊう トミ:::Y:::::{／
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人:::::::/ _ ,......::::く` ﾞＹ人〃 ﾉ ﾚ /::::＼::::/.:.:.:.: いえいえ、お気になさらず……
（:::::::ミ=＼ ,ィ __ヽ ∨ ト-‐ } ｒ《∧::} ∨.:.:.:.:.: ただその、お名前をうかがってもよろしゅうございますか？
ｰ-ミ三iヽ 〃⌒}∧ ∨ ヽ. / | ヽ}/∨.:.:.:.:.:.:
∧ ﾞト-‐ヘ:::::.、>‐-》 ｜ ﾉ ,′.:.:.:.:.:
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|「僕は……」
|
| 躊躇いなく慎二は口を開いた。
| 『異端審問官』がやらない夫を、『結社』残党を目の敵にしていることは理解していた。
|
| 怪しまれてはいけない。間桐慎二は殺害対称ではなかろうが、捕まるのも避けたい。
|
|「探したよ、勝手に行かないでくれ」
|
| 突然、さらなる乱入。
| 魔力の揺らぎも気配もない。圧倒的存在感の欠落。
|
| こんなことできる奴はそうそういない。
| 慎二はすわ『弓兵』かと誤解した。
|
|「何奴ッ」
|「アセム・アスノだ。そっちは内弟子。父と故郷の危機と見て推参した」
|
| 黒色の出で立ちの男性。恐らくは三十代半ば。
| 潮の香りが立ち上ぼりそうな日焼け。十一月には不似合いではあるが、逆にそれが。
|
|「まだ父にも帰国を伝えていないんだ。そいつがまず名乗らなかったのも俺の名を出さないためさ」
|「ふぅぅむ」
|
| 『異端審問官』は読みづらい表情で呻いた。
| 思案気味ではあるものの、そこにあるのが疑念かすら定かではない。
|
|「すみません親方」
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/ ヽ／ /
, ' ,／ /
／ / ＼ ／
/ ' ,.＞'¨ ”¨ヾｰ一, ＼
l ,.＞'’ ィ'´ h ヽ,
∧ ,.＞'’ ヽ. ム
r､＜>'’ ／ , ,' ＼
／ヽ､ , ' ／ / ､ i `ヽ｡.,_
/ .ｨ一 7 / , ／ /ﾑ ', i ／
,.ィi ／ i ,' ,' / , ' i! i , ! イ／
,.｡ｨ仁ハ i三ﾐi / / / , ' _ / ﾘ ,/ ,ﾘ ／i
／三三三三三ﾊ i l ,' / ,ノ＞'’/,ィ' / ,/ ＜￣三ハ 船長と呼べと
<三三三三三三三i ﾊ, / / "'心ﾘ ﾉ7 i' ,/ ￣ アilム いつも言っているだろう。
`＜三三三三三ﾑ i ', i 人 l ` ¨” / / / ,.｡-‐'’三三ﾑ
`＜三三ヘ `ｰ` .j i ／ `丶 ＜’.ｲ / ＞三三三三ﾑ
`＜三二ﾆアi /ヽ./ ＿｀´＿ i ¨ ,/ﾍｰ一 '’三三三三三ソ
`＜℡ｭｬ ハ ゝ _＿ ノ ,ｲ / へ三三三＞' ”
`寸ﾑ il ､ ＼ ｰｧ- ／ ﾊ i'＞‐一'＞'"’
,.イ三Ⅵ ゝ､≧亠"≦ ﾑ lﾆ＞'’
.ｨ仁三三∧ 丶＞'’ .ｲl !ム
.ｨ仁三三三ﾆム '’ ノ彡ﾚ三℡ｭ,
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| 慎二は、この初対面の男に乗ることにした。
| 彼が本当にフリット・アスノの息子かどうかなど関係ない。
|
| 『異端審問官』に捕まる危険に比べれば、未知の男の方が幾分かマシだと考えただけである。
|
|「……分かりました。次から悪魔退治は担当に申請してください」
|
| しぶしぶと引き下がる『異端審問官』。
|
| 慎二は嘆息した。周囲から圧力が消える。
| 今の男の部下たちも身を引いたのだ。
|
|「災難だったな少年、ありゃあ『青髭』だぞ」
|「……別に助けてくれと頼んじゃいない」
|
| 『青髭』のジル・ド・レェ。
| ジャンヌ・ダルクの腹心であり、彼女の『拷問吏』だ。
|
|「君の使い魔も捕捉されてた。隠密能力は低くないが、陰の気が駄々漏れだ」
|「……そりゃどうも」
|
| 慎二は不機嫌を隠さず応えた。『万魔』の隠形は『弓兵』仕込みだ。
| もはや慎二には逆立ちしても見つけられない。やはりこいつはただ者ではないのだ。
|
| ……そして『異端審問官』も馬鹿にはできない。慎二は苛立ちを隠さず歯軋りした。
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ヽ 、 ‐ ￣ ￣ ´ ﾉ
. ）./ ,. （ ,. ⌒ ｰ- _ _,
／八 .: :. ' -― ￣ ／
/ / （ :. ゝ_ -‐ 、,:′ _＿ イ、
{､ ', '" -‐ ; ´ ､ ヽ､
. ｀ ／, ／ ノ 、｀ 、 ー=- , -ヽ
', ' ' ／ ヽ ヽ ＿ ｰ ､
i.{.; .ｊ / , / ＿_ l 乂 ｰノ く
､_乂ィ, .' ,ﾊ（ ´‐ｔｯﾉ ; } ｀ ＞ いい闘争心だが、相手を間違えないでくれよ……
,.イニ,{ ｉ /ﾉ ヽ、 / イ; ﾉ ｀ ｰ- ‐'" とりあえず君が助けた子を家まで送るか。
／二二トヽ ト ﾚ'/ ﾉ /', ヽ r ヽ
,.-＝ニニ二{ノ ハ ､ { i,' / ゝ ', ＿＿__
ヾﾆﾆニニニ!ｒｊﾉ ハ ｀ ヽ（ 、 ヽヾ｀二二二二ニ／
. ＼ﾆﾆニニ!ｲV -r ‐ _./ ,ハ !｀⌒`.ﾉ二ニニﾆﾆ／
｀'マニﾆ} ､ ヽ￣￣ .{/ ` ｰ ./二二ニﾆ／
,.ィ ､,.ｲﾏﾆﾆー- __ ￣ー _.ノ ,ｲ l二二ﾆ／
／ |ﾆニニヽﾆニニニ'ー--‐ _, -‐ ／ ﾉニ＞'"ヽ、
〈 !ﾆﾆニ二｀"-ニニ!__ -‐'" ＿-=ヽ二二二ﾆ＼
. ､ ',二iﾆﾆ二二ヽ二{ ＿-ﾆ二二二}二二二ニﾆヽ 、
、 ﾏ=!二二二二＼}`ー／ニニニニ=＝'ニ／ニニ／ ＼.} ヽ
ﾏlﾆニニニニニ,.イ二ニ-‐'"ニニニニ二二／ ｀ ,
ヽ '!ﾆﾆ,＜ﾆ-=ニニ二二二二二二二二二, ' ,.ィ､⌒ ,
. {＼ 'ﾆ/ ￣ 7ﾆﾆニニニニ二二二iﾆ二' ,.イ::::::::::i .ﾉ
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|「……」
|「タクシーを拾う」
|
| 疑念のまなざしを男はさらりと受け流す。
|
|「……」
|「俺一人で昏倒した女の子を運ぶのは世間体が危険だろ？」
|
| 慎二はため息を吐いた。しかたない。納得も行く。
|
|「……分かったよ」
|
|
|
|
|
|
|
|「で、なんでアンタ金持ってないんだよッ」
|「悪い悪い」
|
| タクシー代は慎二が出した。
| 運転手は三人の取り合わせに一瞬は訝しげな顔を見せたが、男がさっきの調子で三人家族だと思い込ませた。
|
| 一流の詐欺師だ。他人の間に入るのが異常に上手い。
| そのくせ、日本円を持ち歩いていなかった。
|
| さらに運悪く、手持ちのカードが使えるタクシーでもなかったのである。
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/:::::::::::::::::::::::::::ゝ､
......::::{::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヾ::ヽ
〈:::::::::::::::ヽ:::::::::::::::::ヽ::::::::::::::ミヽ
>;;:::::::::::::::ヽ:::::ヾ::::::|ﾐ::::::::::::::::::::ヽ､
.〈:::::|:::::::f:::::::::;;''')::::人::ﾊミ:::::::::::::::::从
i:::|::::::::ﾄﾐ'' 〈::::{ ／}::L ミ::y-ミ::ヽ
|::|::::::::::::::ヽ ):）fイ:丁 ｿr}k ）:| ）
|::|::::::::::Y}::|__ ~ ¨´ Y/:::l ……まあいい、
{ ヾ:::::::::t k夕 r':::::jゝ タクシー代はあんたの名前で勘弁してやるよ。
￣ゝ(ﾍ < ＿ ヾﾘ
（ ヽ ´ ／ ヽ
＞ ､___／---──ゝ.
z-≠─- ､ ヽ へ─--ﾍ
| ＼ ｀ ゝ､
| ＼ ＼
| ＼ ＼
| ＼
| ｲ }
f＼ ﾉ ﾍ }
{ ＼ｲｨ´￣ ﾍ }
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|「ん？ アセム・アスノだって」
|
| 臆面もなく言ってのける男。
| 慎二は嘆息した。
|
|「つまらない冗談はいらない」
|「マジなのに」
|
| 自称アセムの手は卯月のおんぶで埋まっていた。
| 身分証を出すことも難しい。
|
|
| ……アセム・アスノ。
| 現在『血族』を牛耳るフリット・アスノの不肖の息子。
|
| 稀代の超能力者キオ・アスノの父親でありながら『無能力者』。
| そもそもフリット・アスノの超能力自体が未だ解析されていない。
|
| 『血族』管理下にはあるものの、世代を重ねてきた訳でもない。
| 他の異能のように血統に依存するかも定かではないのだ。
|
| ……そして、アセム・アスノには超能力の才能がまるでなく。
| 息子キオを道具のように扱う父と反目し、『血族』を出奔、国外に流れたとされている。
|
| 年齢は三十代半ば。この男とは一致する。
| 『弓兵』より少し下で、ラオウや先代と同世代か。
|
| 彼が本当にアセム・アスノなのか、慎二は確認方法を思い付いた。
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／:::::::::::ヽ
＿＿＿ﾉ;;;::::::::::::::::::ヽ
|:::::::::::::/;;;:::::::::::::::ヽ::::::＼_
ﾄ|::::|:::::::;;;;;;:::::::::ヽ:::::ヽ::::::::::ヽ､
|:|:::j:::::::|ヾY''´):::::）::::::::):::::ﾊ::j
j:|:::{:::::::ヽ (::::（::(ヾ::从ミ:::ヽ
|:{:::::ヽ::::人 ）ｲｨt7ﾊﾉ/^i:::ヾ
`ﾄ(::::::j:::汽ｿ ゝ' ¨ /::/ 間桐桜を知っているか？
(''ｿヽ｀¨ , ﾊ;）
',. r-ｦ / .l)
丶､ ￣ ／ |､
|｀==.´-一ﾞﾞ:.:t＿
＿＿＿＿＿,,-一'.:.:.:.:.:|:l:|:.:.:.r.yヽ:.:.:｀ｰ───､
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/.:.:.:.:.:.::.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:|f Y / / ,ﾊ:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:..|
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|「桜さん？ 黒髪清楚系の外見だけどなんか毒溜め込んでる系の？」
|「姉の恋人に粉振る奴だ」
|
|「……？」
|
| 慎二の言に男は眉根を寄せた。
|
|「親友の婚約者ではなく？」
|「悪いが試した」
|
| 男は気を悪くした様子もなく頷いた。
| 少なくとも、彼は元『血族』 だ。
|
| 今現在の、『弓兵』と遠坂凛の関係ではなく、二十年前の話をした。
| 慎二の知らない、約二十年前の桜……自分の知らない桜を、よく知っているのか。
|
| それまで以上の苛立ちを隠しもせず、慎二は卯月のハンドバッグを物色し、安アパートのドアを開ける。
|
| 二人は彼女を寝室まで運んだ。破れたダウンを適当なごみ袋に詰め、汚れたジャケットを前に躊躇。
| じっとりした万年床とはいえ、生ゴミ臭い服のまま寝かすのは抵抗がある。
|
| だがそれ以上に。
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、_ ／ ﾉ -- - ' }
ヽ ＼ ／ ／ i
/ l --ｲ- _ _
/ l /
/ l _,,. -= ´) - ┐ /
{ ／ ´ /_ /
／イ / Y ＼＼
/ /__ ,／ ﾊﾍ ゝ_＼ 俺は妻も子もいるんだ。
／/＼_, ／ / / / l l //＼
／////l / / / l ./／_, l/l l 、 /////＼
<////// l /i , l l ｲ ,ｨ莎ﾌ ; / l l _／////////>
/V_, ＼//////il、 l / l ／ヽ{ ` i/ l l/////////／
l＼ / V//＼/////ﾊ l l l / _ , _ｨ / {////// イ/＼／ |
l V///＼/ﾄ-' ヽﾄ、 l ,Vr ﾆﾆﾆ ＼ l / l、_＞ ´////＞´ i -┐
l ＼//// ゝ -=ｲ N ／l -- _ ＼Y / ﾄ _{///////／ l
, l ヽ V////ゝ__ ﾉ l／;;;;;l ＿ ＼ ヽ}＼}//＼//// ィﾊ l
ヽ l// ＼ l///＼/l_,,,,イ;;;;;;;;;;;;;} ＼l;;;ヽ };;-';;;;;,,,,_//／// ／////l /
/////∧ L_／ l;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;/ r-、 Y└';;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;l- , / ／///////ﾚ
///////∧ l;;;;l ',;;;;;;;;;;;;;;;;;/ ／ (__ノ、＼;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;' l //////////ﾊ
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.//////// ＞ ´///∧;;;; ／;;;;;;;;;;; イﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ ＼;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;/////＞ _////////ハ
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|「僕だって……いないけどなぁッ」
|
| 最初に浮かんだのは責めるような桜の顔で、次は蔑む『万魔』……いや、どちらとも何もないから！
| だが待て、慎二は密やかについてきているはずの『万魔』を思い出した。
|
| あれは四捨五入し、税別で考えると女に分類される。
|
|「おい『万魔』」
|
| 返事はない。アセムを警戒しているのか、あるいは最初に言った通り手を貸す気はないということか。
|
|「『万魔』聞いているだろッ。こいつには気付かれているぞ」
|
| 慎二が語気を荒くするも、当然のように反応は皆無。
| アセムが玄関側に視線を向けた。そこにいやがるのか。
|
|「……ターニャ」
|「手は貸さないと言わなんだか？」
|
| 隠形を解除して姿を表す『万魔』。アセムが小さく感嘆する。
| そして彼女の実力を感じ取ったのか、慎二に疑問の目を向けた。
|
|「女の服を脱がせるくらいしてくれよ」
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ィi〔 ｀ヽ ヽ≧ｘ
／ イ ､ ﾏﾑ ‘,
.' / i ヽ| ﾏﾑ ‘,
!' j ､ i! ﾏﾑ_ ‘,
/ｲ /|/ |＼{＼{､ｲ r'ﾞ´ ﾞヽ
|ﾚ ｲ ヽ{ x笊㍉},| r' { 嫌だね、合理的ではない。
| 芹! ∨ｿ| } ﾊ
| | ｿ ,, | ｀Y_ _,r'ﾞ ‘,
| ∧ _ j! Y´ﾞ＼ ‘,- ､
| ＼ イ| | ＼ i-イ{＿ ,
| 介≦-:.≦| |､ _＿＼,ｨ{ イ イ_
rﾞ} { /- }.:.:.:.:.:j! | ￣ _ノ _{
r' .' / /}.:.:.:.:.:j! .| }ゝ'ｰ'ﾞ ...::::.:.ゝ
<´ / / /..:.:.:.:.／ {ｨ' r -=:.:.:.::::r-ゝ
/ｲ,!, { { ,.:'.:.:.:.／ ／} / ∨､v､{´｀ヽ{Y¨´
jﾊ{ハ{./:.:.:.ｨ´:.::7 ／ /{ / !
/ ,..':.:.:,.':.:.:.::/／ ', / {
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.' i{.:.:.:.:.',:.:.:.ｊ!{ | ! ヽ{. |
| :.i{.:.:.:.:.:.:ヽ:.j!{ | ! i| {
| .i{ゝ.:.:::ィ.:.:≧ | ! .} j! ,{
| i{ .!.:.:.:.:.:.:.:.|.{ } ! .} j! .:' {
| i{ .|.:.:.:.:.:.:.:.|.{ | ! }j! ,.:' {
| i{ .}:.:.:.:.:.:.:.:|.{ | ! }' |
| i{.r'.:.:.:-=-:|.{ | ! } |
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j!.iﾚ.:.:.:.:.:.:.:.:.:l { ',_{:.._ ヽ,.:' |
ﾊ i{.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:! ! ´.| ! r ､Y |
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| 慎二は自分の、絆創膏の貼られた指を見た。
| 『万魔』は慎二以外の人間から生命力を奪わないと約束している。
|
| 定期的に血液を与え、彼女の魔力と嗜虐心を満たすのが慎二の役割であった。
| そしてその視線を目ざとく見つけ、『万魔』が馬鹿にしたように笑う。
|
|「いやらしい奴め……」
|「えぇ……」
|
|「だがまあ、良かろう。私は機嫌が悪くない」
|「えぇ……」
|
| 直前までの不機嫌大爆発はなんだったのか。
| 慎二は指摘して起きうる面倒を避けた。それくらいの分別はついた。
|
|「ミッシェルではなく私を頼ったことは評価してやる」
|「ミッシェルは腕がな……」
|
| 慎二の契約悪魔ミッシェルは蟻人間である。
| 怪力と知的作業には向いているが、服を脱がせるのは苦手だろう。
|
|「よし、後はそのジャケットをクリーニングに出して終わりだな」
|「……」
|
| 能天気に笑うアセム。慎二は眉根を寄せた。
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,＞ー一 ／ i´ ﾍ i /
, ' rー─一'’ 7 j ! l! l l /
/ .＞ｭ /,' ,' / _,.i ﾘ i ﾘ /
l / i`ー‐=ア j i i /＞''”-一,i i ノ
l l ゝ, ,' .! ! / i/ < iⅧj ノ i ' ｰｧ 食事でも行くかい？
∨ ヽ, i i i ∧ 〈 ヽ, ¨”' ,' ,' /
i i i / ＼ ヽ / / ＿.ノ
l /', l /l / ! ￣ ` ヽﾆ二ｨ' ﾘ ＼
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|「……そうだな」
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| しばしの剣呑な沈黙を経て、慎二は許諾した。
| 『万魔』の物言いたげな視線を感じる。
|
| 彼らは現在、凛に頼まれたお使いの帰りなのだ。
|
|「あんたが本物なら、繋ぎを持つのも悪くない」
|「ふむ」
|
| アセムは、アセムを名告る男はここでようやく慎二を値踏みした。
| 言い方を変えると、これまでの慎二は値しないどころか、調べる価値もなかったのだ。
|
|「君、名前は？」
|「間桐慎二だ」
|
| その名を出された時のアセムは見もので、慎二はすぐに名前を安売りしすぎたと後悔することになる。
|
|
|
|
| 卯月のアパートを出たアセムが脇目も振らずに遁走し、あっという間に影も形もなくなったからであった。
| 慎二は追いかけることもままならず、遅くなった言い訳を考えながら帰途に付くこととなった。
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☆ 次回予告！
夢世界は砕け散り、学園には平和が戻った。
もはや美少女記者に一切の憂いはなく、並べて世は事もなし……。
などということはなく。
異界化が進む東京で、学園だけが平和になるなどありえない。
幕を開ける新たな事件。
しかし、美少女記者に力はなく。
仲間たちの心は遠い。
次回『不人気22歳、美少女と呼ぶには無理がないか？』
果てに見るのは破滅か死か。
遂に宇宙に射出される時が……
ブラック社員島村卯月さん、１レス退場するかと思った
いい逃げっぷりですなアセム
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,､r '´ ,､rﾟ ｡- '''¨´´￣ ﾟ ・ ・ ￣｀｀¨''' ｡ ､ ｀
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,､r'´ ,､r'´ ゞ'´ _,,,,､､､､､,,,,,_ ヾ・､ﾟ ｀ﾟヽ｡､ ｀ヽ､
r '´ , r'´ , r' ´｡ .rﾟ､ _r'´ ｀ヽ . ,ゝﾟ｡ ヽ ｀ヽ､ ヽ
, r' ,r'´ ,r ' ＼｀¨''｀¨'' ‐ ''¨´''''¨´/ ヽ ｀ヽ､ ヽ､
r' ,i' ,i' ｀¨'' ー---─ '''¨´ ヽ 'i ヽ
{ { { } } }
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ヽ .ヽ ヽ､ , r'´ ,r' ,r'
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| 夢世界をめぐる戦いは、終わっていた。
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r‐,ｨ': : :｀ヽ_,.x=ｯ'´: : : : : : :{::::l;ノ:::::::::ﾉ
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《 _ﾉ=-: : : /三l/:__: :-:‐: : 〈 ｰ' ヽ::::::::::r‐'
〈:_: ; -‐: ;三ミ!:ﾆ:=:-‐: /}:ﾉ ヽ::_;ﾉ
{: : : : : l三ﾐ}:-:‐: :.r‐､）´ i ';〉
lヾ: : : :.l三ﾐ!: : : :.ﾘゞ'l l ! l l l
l〃lｰ､_:l三ﾐ!: : r‐' l l /ﾑl ///
! ,' ヽ {薔}:ノ l､__ヽlﾄ､ /,ﾑ／'l/
,' , l ヽヾﾐ! '弋ツ ゞ'/l ′
! ′ l l｀ヾx ヽ ' , ' !l ……どういうことなの？
. / / , ',/:｀ヽ ヽ､ _´ィ´! l ､',
/ / ', ,ｲ: : : :.} ヽ三三! ! l l
. / / ／: : : : : :｀ヽ､ ヾ､三! '､l l __
/ / _ /: :/: : : : : : : :l: ｀ヽ_,＞ゝ-､--′
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| 少年少女たちには日常が戻り、毎夜の夢で闘争を繰り広げる必要もなくなった。
| 不人気もまた、日常に戻らねばならなかった。
|
| Ｂ級劣悪オカルト雑誌『妖』のライターとして、都市伝説の類を調べる仕事に。
|
| だが、それがおかしい。
| 基本的に彼女の仕事は、メールやはがきによる投稿、ネットサーフィン、そして聞き込みの三つから構成される。
|
| 複数の方向から調べることで信憑性（？）や拡散状態を確認し、一部のグループだけの話でない場合は記事にして掲載する。
| 例えば『その人が最も美しい時、醜くなる前に殺しに来る死神』《ブギーポップ》は、学園以外ではほとんど噂になっていない。
|
| いや、いなかった。
| だからこれまでは、聞いたことはあっても記事にはしてこなかった。
|
| それが……おかしい。
| 少なくともブギーポップはメジャーに、東京中で拡散されていた。
|
| しかも元々あった『美しい時云々』ではなく、『狂った存在を正す者』として扱われていた。
| 曰く、歪んだ正義に踊らされる者の前に現れて、誤りを指摘するのだそうで。
|
| そして『戻れないほど道を踏み外した相手を殺してやる』のがブギーポップなのだとか。
| 元々あった耽美さが無くなり、薄っぺらい正義によって理解を示されたような存在。
|
| 大事なものを失ってしまったような喪失感が、そこにはあった。
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ヽﾆニニニニニニニニニニニニ二l
ヽニニニニニニニニニニニ二二l
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ﾏニニニニニニニニニニニニﾆ',
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}ニニニニニニニニニニニニ!
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| 不人気がブギーポップの噂を聞いたのはつい最近であった。
| ブギーポップは高校生、しかも女子だけの間でまことしやかに語られてきた。
|
| 秘密は、誰の心もときめかせるもの。
| 男子には秘密。女子だけの、高校生だけの秘密。
|
| 噂のある地たる女子高生たちはロマンと秘密の蜜を丹念に味わってきた。
|
| それが、ほんの一週間足らずで、わかりやすい形に作り替えられて広まった。
| 不人気は研究し甲斐があると感じたが、だが彼女はそれどころではなかった。
|
| 話を戻す。
|
| 不人気は多方向から噂を検証し研究して記事を書いてきた。
| しかしこの一週間、そんな暇がないぐらいのオカルトブームで、手紙もメールもどんどん入る。
|
| ブギーポップにかかずらっている暇はなく、彼女はそれを忘れた。
| 忘れた。
|
| あまりの忙しさに猫の手も借りたかった。
| アルバイトで助手を雇っても構わないと、上司から言われるも。
|
| そんな当てはなかった。
|
|
| 当ては、なかった。
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＿n_r‐vーy､
i'y厂し'f ⌒＾ト､
_f ! , ノ-――- , ⌒i_
ｺ 上' ＼ ﾑ
,r┘之, ヽ ク
_ュヾス / i ヒ
.,ｲyｾ |rュ | | / i｜|| | | i iヽ i .ユ
／! ｆ|rェ ij.k' | || | |｜|| | | | |｜ | __}'
< ./| j ||y !,ﾋ|r' || | |｜|| | | | |｜ |_ｲ
V_| | |iﾑ@yｳ,| ||＋-j-!-jﾘ!/ﾘ-|-+ !, ﾊ'
`Ｌ!| └rYｨ` l将圭w^ ｨ桂永 i ﾄ'
| | |j!| i| |戈ン 戈ンｙ| | ……という訳なのだけれど。
| | |kヽ._i | "" , ""/|| | なんだか集まりが悪いわね。
| | || | |＼ rャ ／| || |
| | || ＼ ＼_f二＞n＜_フl|/j /
| | || ／^y./し, ｭ9く, /ソ/、
| | || ／ f二二了 小^ ヒ二ﾆ7
| | ﾚ .ﾑ二二ス__,ｲﾄ､＿{二二ヌ
| | / j二二ｺv i,l | ヒ二ラ|_
| | | ｸ ∧/r-┴-┤ ﾘ r,i'__
| | | vy／＼ 'Z ￣二二ユ＿tvf_j’!-ｙt
| | | ＼|Y ＼‘了 ー‐‐ナｰ >yf＼/ｨ゜
| |/i⌒しヤ |乙__ニニナ Z | |r'
| | Yセ√ |z' 七二,＿＿ Z j |
| | ＜ノ ／k_,u,rセr, ^it'/ ／
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| つい先日まで行動を共にしていたメンバーに声をかけ、しかし不人気は首を傾げた。
| 放課後、いつものファミレス。集まった人数は三人。
|
|「そう……ですか？」
|
| 六人掛けの席、最初のメンバーから『ロストマン』こと上条当麻が抜け、今は三人。
| 聖栄刹那、水門やんねえ香、そして委員長こと長門少年。
|
| やんねえ香に金魚の糞のごとく付きまとっていたロラン・セアックが居ない以上。
| これでフルメンバーだ。
|
| フルメンバーなのである。
|
|「『夢世界』の闘いは終わった。アリー・アル・サーシェスとの決着もついた……。
|
| 真紅、『オレ達の事件』には何の進展もなかったが、悪魔やペルソナの存在を認識できたし、
| 同じく『異能を認識できない人間』も確認できた」
|
| 刹那と不人気、幼い時分に悪魔襲撃によるバス事故で家族を失った孤児たち。
| 過去のことは分からずとも、求めていた理由を確認できた。
|
| だからそれでいい。十分だ。
| もう構わないでくれ。
|
| 刹那の鈍色の瞳が無気力に語る。
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ヽ､.........＿
__,.ﾆｰ_､::::::ヽヽ
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,..‐'ﾆ-::'´:::::｀ヽ､:::::::;ニﾆ''-､
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＿//_ノ:::'::::::;::ィ'::;／::::::ﾍ:::ヽ::::::､:::':::lﾞ'
｀ﾞ''ｧ:;=--ｧ‐;;::ィ:´:::::;:rヽ::ﾍ:::､ゝ､::ヽ:::|
i::l:::::｀l:l::l::::i:/::,r'::ｨ::;:ｲ〉､ゝ､'ｰ､'ｰ:::乂
l::l::i::::lllt､:::l:::::i://ノ__,:ノ l':::-､;_::i::､::ゝ
'､l::l::::ll|tj:､l:::iT''ｱ',rj:┬ヽl:::::::;ｸ}:ｲ}
ヽ:::､::lﾄ乂ヽ､ ´ ゞﾉｨｲ':/::/ /ノ
ヽ::ヽ ﾉ _,ノ;:ｨ':´/ もう疲れた。
ﾉi::ﾍ ｀ ＿_ , ｲ:::::{
ゝ｀i ､ ｰ ｀ ,／ lﾑ:::l
' >イﾑ-‐''´ l;＞ヽ_
,r‐t..f:´rﾞゝﾚ ,..‐:´::::::;::::ク､
,r‐'''ヽ:::＼::::::｀ヽ‐::':´:::::::;:ィ'::::::::::::::|
./.l ﾉ::::::::::‐=ー::::'''';:‐::´:::::::::::::::::/ ヽ
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|「刹那、あなた……」
|「ガンダムになるんじゃあなかったのかよ」
|
| 長門が藪睨みに尋ねると、刹那は自嘲的に微笑んだ。
| そしてゆっくりと席を立つと、困ったように口を開く。
|
|「ガンダムって、なんだ？」
|「…………ッ」
|
| その言葉に誰も返事をできずにいる内に、刹那はそのままコートを翻し店を後にした。
| 引き留める暇もなかった。引き留められるだけの理由も、どこにもなかった。
|
|「……刹那」
|「ふぅ、無力な俺でよければ、一応話は聞きますぜ」
|「オレ……違う、私にも聞かせてください」
|
| 借りてきた猫のようにシャチホコ張り、胸がパツパツの制服を苦しそうに着込んだやんねえ香が固い声を出す。
| 彼女の異常に眉をひそめながらも、真紅は困ったように口を開いた。
|
|「突然だけれど……『ノストラダムスの大予言』をご存知？」
|「昔流行ったってヤツ……昔、流行していたお話でしょう？」
|
| いつものざっくばらんな口調を途中で改めるやんねえ香。
| 2012年現在15歳の彼女にとって、ノストラダムスは生まれる前の人間だ。
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:./ f: : : : : ヾ三三三!: : :〔__l ヽｌﾐ} lヾﾐx
/ ヽ ヽゞ‐' ヽ: : ヾ〃 y '}: : : : :} ,lミ!. l ヾﾐ}
l ヽ ヽ ヽく:__ﾊ:.ヽ辷 ﾉ!: :r‐ 'l lミ} ! lﾘ
/ ! ヽ /',ィ了（: :_:ヾ三l}: : :） ′ ゞ' l
! l ,' /::::ﾊ, l く:_ﾐ三!:r' / ', ', いや、ノストラダムス自身16世紀の人間だから
l ! l l弋:ツ l l三/ｰ-､, -t l ! 現代人にとっては歴史上の人物なのだけれど。
l ', ､ ､ l ′ ! l lﾐ/ ,ィ´: : : : ゝ-､! !
ヽ ヽ ヽ ＼ﾄ､l l l! l/´: : : : : : : : : : :l l､
｀ヽト､｀ｰ` ヾj l lィ´: : : : : : : : : : : :..:l l: ヽ
ト ´_ /: : : : : : : : : : : : : : :..ｌ l: : ∧
| l ,ｨ'/: : : : : : : : : : : : : : : : :ｌ l: : : ∧
l l三l: : : : : : : : :/: : : : : : :..:.ｌ l: : : : ∧
l ﾄミ!: : : : : : : :/: : : : :..: : : :.ｌ l: : : : : :.ヽ
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| 『ノストラダムスの大予言』は、二十世紀末に流行した『終末論』を加速させたブームである。
| いずれの宗教観においても、世界の終わり、終末に関しての記述がある。
|
| 二十世紀末は、魔力的、風水的、方位的、星座的。
| その他複数の理由から人心に終末の風が吹いた。
|
| もうすぐ世界はホロン部。すべての人類は破壊され、それらは再生できない。
| 空虚な妄想だと笑い飛ばすような考えを、誰もが一抹の期待と共に胸に抱いていた。
|
| その中で『ノストラダムスの大予言』は宗教ごとにバラバラの終末論を、偉人の予言という形で集約した。
| それまで形のない、曖昧だった『終末論』に方向性を与え、ひとつのムーブメントまで昇華したものこそ『ノストラダムスの大予言』なのである。
|
| その内容は多岐に渡るが、一番有名な節はこれであろう。
|
| 『1999年7の月に、恐怖の大王が来るだろう』
|
| 公害や大気汚染、地震、戦争、疫病、そして星の衝突。
| いくつもの大災害の中から、来る『恐怖の大王』とは何者なのか推測された。
|
| そして誰もが何か起こると考えていた1999年7月。
| 結局大したことは起きずに、そしてそこから終末論は急速に力を無くして。
|
| 大人が当時を懐かしんで、そんなこともあったねと話すだけの。
| 笑い話へと立ち消えたのだった。
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/: : :ヽ:ｰ､ _
ゝ:､_: :ヽ__:_r‐':.lヽ
, -､ノ: : : : : : : : ｀: :|: :.ヽ､ __
. く: : : ｀: : : : ; -― ‐{`: : : :ヽ´: :.〉_ -､
'; : : :.,ｨ'´ ゝ‐-､:-:'ﾐx:´: : : 〉
r‐': : ; ' ﾉ: : :}ミ}: : :ﾉ
廴:../ l l ,': : : :}三!: :ゝ,x=ｭ､
ﾉ;' l ! l ヾ_: : l三!: : : 〉｀ヾ この一週間で、
ヾ! !ﾑ斗 / l‐l-､l / 〉: l三!:r‐'ミｭ､ 当時みたいな『終末論』が一気に溢れてきたのよ。
lﾄ､ lｨｭヽ,/ l/ /／l/l f´: :..l三!:ヽ三}ヾ
ヽ l じ' ｨ示云x! ゝ､: :l三:.ノﾐ} }} そして驚くべきことに、
l ! , 弋:ツ/ l /:{薔}/三} ﾘ 送られてきたメールや手紙から伝わる気迫は、
l人 ､_ / / /彡イ ,ｨ彡'´
! ,ヘゝ' / l l' l ｲ/}ﾐ} 終末を『本気で信じている』人のそれなの。
/ l {三ミ二三l ﾄ､ ヽ ヽ{ﾐﾄ､ﾐ}
. / /l /三ﾐ薔三ﾐ! l三ヽ_ヽヽゞ=ﾐ}
/ ///:.{三ﾘ寸三}ヽ ヽ〃: ヽ ヽ
. / / /: : :ゞ〃 ヾ三三ヽ ヽ: :/ /}
|lニニニニ三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三ニニニニ
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| 2012年人類滅亡説というものがある。
| 愚鈍な作者がたびたび年を間違えるが、2012年。
|
| このスレは2012年の世界線に存在していまっす！
|
| とにかく、ググってみると出て来るが、2012年末はマヤ歴における暦の終わり、終末の刻に他ならない。
| マヤは『白い人』……自分らを滅ぼす破滅存在の襲来をも予言し、すさまじい天文学の知識で偉大なカレンダーを作ってきたことでも有名だ。
|
| そのマヤのカレンダーが尽きるのが、他でもない2012年12月23日。
| 賢明なる読者諸君から見れば、平成の天皇誕生日。
|
| スレ内時間と登場人物たちから見れば、約一月半後のこととなる。
| それが、この世界のタイムリミット。
|
| この地球が破壊され、滅びに至る刻限。
|
|「彼らは皆一様に、『2012年12月23日に暦が終わる』と言っているわ」
|「マジかよ、眉唾じゃねー……信じられませんわ」
|
| 上次元干渉を知る《ストレンジ・カメレオン》ならば、ここで「その可能性はある」と言いかねない。
| そう、可能性はあるのだ。
|
| 世界が滅ぶ、暦が終わる。
| より正確には『その後の予定が用意されていない可能性』が。
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ｒ－- ､
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＼ ＼ ７´⌒i
∨¨ゝヽ i /
/ ＼ヽ ﾉ ｝
/￣ ￢､ ∨ i′ ……それで、真紅さんはどうお考えなのですか？
| ＼ { ） l
ｒ' ￣ヽ ﾍ´ i
rー ､ ＼ヽ）＿ ﾉ
Y ' 、) ヽイ¨i｀ - ､
ｰ ､ !ﾉ !＼ ￣ `ヽ
｀ｰ ､ / ! ヽ
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｀ ｰ ､人
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|「悪魔か異能、つまり私のような一般人には対処できない事態が進行している気がするわ。
| そこであなたたちに手を借りに来たのだけれど……」
|
| 不人気は長いまつげを震わせて、刹那が去った出入り口に目を向けた。
| 最も頼りにしていた、断られるはずのなかった弟分に、話も聞かれず去られたことが衝撃なのだ。
|
|「んじゃあ、俺もパスっすね」
|
| 長門が肩をすくめて席を立った。
| 縋るような美女の視線を振り切り、自嘲的に笑う。
|
|「知ってるだろ？ 俺は最初からペルソナ使いじゃない」
|
| ただの人間。最初から、最後まで。
| 夢世界でも一切の異能を発揮できないまま、ここまでやってきた。
|
| それだけの男。
| 名前を隠してきたヴェールも、失われた。
|
|「《ブギーポップ》も死んじまったしな」
|「え？」
|「なんでもないさ」
|
| あの夜、不人気たちがアリー・アル・サーシェスと戦い、撤収した後。
| 委員長はただ一人世界の敵と戦った。
|
| 東京に終末論を持ち込んだ堕天使レミエル。
| 彼は翠星石を助けるための時間を稼ぎ、死んだ。
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| 《ブギーポップ》は間違いなく死んだ。
|
|
|
| そして世界意思に肉体を貸与していた長門も魂を焼かれ滅びるはずだった。
| 滅びたはずだった。
|
| はずだった、のに。
|
|
|「ああ、そうだ。蒼星石さんに連絡付きます？」
|「……蒼星石？ いいえ、家も留守だし」
|
| 正確には、訪ねて行ったら知らない人に対応された。
| キレイな顔立ちだが不愛想な若い女性で、留守の間家に管理を任されていると言っていた。
|
|「妹さんのこと知りたかったんですがね」
|「妹？ ああ、翠星石なら姉よ。二人は双子なの」
|「え？ あ……なるほど」
|
| 委員長は夢の中でのことを反芻し、一人合点に頭を掻いた。
| そして、ようやく命の恩人の名前を知れて悲しげに笑った。
|
| あの夜、あの夢の中……翠星石が彼の存命を願ったから、いまだ生きている。
| 夢世界から持ち帰った刀身の無い剣も、そして《ブギーポップ》も失ったが。
|
| それでも命だけは失わずに。
| おめおめと。
|
|
| またしても。
|
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( |/:::´::::::::::::::::::::::::≧
／:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::｀ヽ
∠:::::::::::f::f::::::::::::::::::::｀l::l:::::::丶
/::::::::::::|::|:ﾉﾅ弋:::/弋|::|::::ハl
.人λ:::::(| |（ ●） .(●::ﾉﾚ´
. |:::::::|::| ,, r‐ｧ ﾘ:| し、知り合いなのかしら？
.|:::::::|::|、 ￣ノく|::|
、ノ:::::::|::| ﾍ ∩ ノ ⊃|
冫／ ヽ|7{／ ＿ノリ
(. ＼ ／ .／_ノ │
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. .ヽ/／＿＿_}ミ／
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|「ちょっとした、な」
|
| それ以上の追求を許さない言葉。
| ポリタンクとやんねえ香は口を噤んだ。
|
|「あー、最後に」
|
| 長門は三白眼を細め、苛立たし気に美女を見下ろす。
|
|「最初に声をかけるべき奴を忘れないでくださいよ」
|「え？」
|
| 困惑する不人気を置いて、委員長は今度こそ店を出る。
| 後に残されたのは、奇妙な二人。
|
| 体に合わない、くたびれたスーツ姿すら様になる美貌の女性記者と。
| 校則通りの膝下スカートで黒のハイソックス、一切着崩していないせいか、お仕着せみたいなやんねえ香。
|
|「その、ええと、申し訳ないのですけれど……わたしも荒事は……」
|「一応聞かせてちょうだい。やんねえ香。その似合わないイメチェンと関係あるの？」
|
| やんねえ香は赤い顔で頷いた。
| 胸肉でぱんぱんに張り詰めたブラウスが、内圧に悲鳴を上げている。
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'=,::::::｀-‐' ｀ヽ:.:.:.:.‐- ､
r=､ﾉ:::::::::::::::::::::(:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.ヽ _
し､::::::::::::::::::::::, '＼_:.:.:.:.:.:.:.:.ﾊ::｀ヽ､ _=､
,)::::::::::::::::／.／ ￣):.:.:.:.:.:.|:::::::::::Y:.:.:)
{::::::::::::::::/ / ﾄ､丶{:.:.:.:.: : |::::::::::::|:.:.:ゝ､
ゝ=､::::::///l. l.ﾊ l l ｀ヽ:.:.:|::::::::::::|:.:.:.:.:.)
r'::::l l l､lヽ トﾒ-― ):.:.:|::::::::::ﾘ:.:.:.:.:ﾊ
{_:::::l| l =､ Vl 行ﾃT7:.:.:l:::::::::/:.:.:.:.:.:ﾘl ……苦しくはないの？
｀ヽ ﾊﾋj. ┴ '"´l ｀lﾘr-V:.:.:.:.(￣ |
弋ﾊ ､ ! ﾘ{ ｮ] ):.r-イ |
|lｨ ヽ. -‐ j /l'"r.ー' l |
/l} ,= '-‐'ィﾌ 人jT' l l l
|7/|ｲ匀ヵ/ ﾉ ｲﾘ .!ヽ､ l l l
/ﾘ;||ﾉ-'ﾄ'.l ｲ／/ .ﾉ:.:.:ヽl ! !
/ l{ ﾘーTY (／ -'┐:.:.:.:ﾍ. l !
人__Y,,) /::::ﾃ-'"´. , ┘:.:.:.:.:ﾊ l .!
,iし彡イ)'::::::::ヽ '"￣|:.:.:.:.:.:.:.:.:ヽ_ | |
r=イ:::>'"´ /:::::::::::::〉‐'"´):.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:￣フ
ヽ _r ､｀-､( ――'"ﾃ‐"´:.:.:.:.:.:r-､_ ,八ﾉ |
.人,ｨ':<＿r‐､ r‐ｧ r‐┐:.:.ィ:.:.:.:.:.:.:.:.:! .|
r'´:.:.:.:ﾉ:.:.:.:.￣.:.:.:.￣:.├'￣7:.:.:.:.:.:.:.:.:ﾉ ﾊ
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イ:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:LLLﾃ':.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ﾊ｀ ーｧ｝ ｺﾞｿ
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|「苦しくても、『お嬢様』は着崩さないだろでしょう？」
|
| 普段やんねえ香がその凶暴な胸元を開いているのは、
| いまだ成長途上にあるおっぱいと筋肉が窮屈だからだ。
|
|「何があったの？」
|「ロランが……」
|
| まあ、他にはないだろう。紅マグロは独り言ちた。
| 恋は人を盲目にする。やんねえ香が麗しの黒い女神ことロラン少年に恋心を抱いているのは明らかだった。
|
| しかし、他人を傷つけることを嫌い、穏便穏当をモットーとするようなあの少年が何を言ったのだ？
|
|「ロランが……いなくなりまして」
|「学校も仕事もやめたってことかしら？」
|
| 半べそで頷くやんねえ香。
| 夢世界での戦いの中で、ロランの影は悪意をばら撒く怪物であった。
|
| そのせいでいくつもの争いが生まれたし、ややこしくもなった。
| それを気に病んだのか？ 不人気は繊細な少年の心中を想像する。
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./ . ./ ∧::::＼ ヽ
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i i ; ;' /::::::::::i! !
| i : / !__::::::::::|ヽ-´ 『お嬢さん。
| ｲ ヽ_ﾉ:::ー‐::::{ 僕はもうがさつで乱暴な人の
.ﾉ | | ｉ.ｉ .==ﾐ|i |::::::::一’:::丶 尻拭いをするのに疲れました。
〃 /l l .ｌ.|.{::::::::|l |:::::::::::::::::::::/
!| / ￤ ! ! !乂::::|l l::::::::::::::::::_/ もう飽き飽きです。自由にしてください』
l l . . l | | |. {::::|l |::::::::::::::´/
ｌ / ｌ ｊ N 》 Ｖ | ＞‐一
V V| _ｌヽ /777乂 l/ .》
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′ ー 厂///《
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|「って言われて……」
|「……」
|
| それでお嬢様らしく振舞おうとしているのだ。
| 帰らぬ男に振り向いてほしくて。
|
| いじらしいというか馬鹿らしいというか。
| 美しさの代償として恋愛という感情とは無縁の女は嘆息した。
|
|「それ、ただの口実ではなくって？」
|「でもあたし……私は、本当にどうしようもなくがさつで、粗野で、いつもロランに手を上げて……」
|
| 照れ隠しで殴るのは見飽きていた。
| ロランがどんなつもりで上の言葉を吐いたのかはわからないが、少なくとも、彼女を傷つけることには成功していた。
|
| 必要以上に。
|
|「昔から、私……」
|「……」
|
| 不人気には推測できた。
| やんねえ香が、ゆるふわ系の姉に対して極度のコンプレックスを抱いていることも知っていた。
|
| 彼女のグレたような挙動はその反動で、姉のようになれない、振舞えない自分を守る鎧なのだ。
| 本当のやんねえ香は少女趣味で、可愛いものや小動物が大好きだ。
|
| でもそれを認めるのは難しくて。
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＿＿ ｲ７
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／: : :_ニ⌒ ヽ {｀ヾ{ （⌒＞=´ ´ ／
. : : : - ｒｰ｡ ､ ヾ. 人 }: :{ / ／
/: : : :彡 ヾこ_心 小ｊ＿ノ: :j ; {
{＜￣￣ ヽ ＿_ 八: : :／ ノ ｊ
ヽ: :｀: ー＜ ﾟー' ﾊ: :＜＿ 。 ≦ / ´￣ ｀ヽ、
/＞: :_: : : :＞＝ ≦ ￣ ／ ⌒ヽ{
,′ ＞ー'-- 。.. ＿＿ .. 。ｃ ´ /
/ ′
/ { ／
,' 八 ´
{ ｀T ＝－ ＿ ＿ ＜
' ､ ハ ｀ ＜ ￣ ≧ 。
＼ ヽ ＞c｡.. ≧ 。
} ＼ ≧=c。.｡ィ ,' ｀ ｡ ... ーァ
、 / 人 ー-- ＿＿ ／
ヽ ≧c。＿ / ／ ヽ V ￣￣´
＼ ７／ ＼ '. ﾊ
＞ 。 i ＼ ', ⌒ヽ ﾑ
ヽ ', ＼{ ＼ ﾑ
＼ { ｀マ{
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| 自分のペルソナ《ストレンジ・カメレオン》が可憐な妖精の姿であることを、
| やんねえ香が不満を垂れながらも嬉しそうだったのを、不人気は覚えている。
|
| よく似た感情が、抑えきれないコンプレックスが、この女神の現身のような女にも存在した。
|
| 150センチにも満たずに成長を止めた身長。
| なだらかどころか急斜面のまま下着を必要としない乳房。
|
| そして天上天下唯我独尊の美しさすら、時にはその心に陰を差してきた。
|
| だが……鬱屈に負けている暇はない。
| それが武器になるなら何でも利用してやる。
|
| そうやって生きてきた不人気にとって、理想とかけ離れた肉体を持て余すやんねえ香は共感できる相手であった。
|
|「ロランは、どこにいるの？」
|「わかりません……心当たりもないんです」
|
| これまでは、ずっとロランがやんねえ香を探す側だった。
| そして彼は彼女を見つけてきた。難しくても諦めず。見つけ出せてきた。
|
| だが、逆の立場になって初めて、やんねえ香はロランを探す困難さに打ちひしがれている。
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r‐,ｨ': : :｀ヽ_,.x=ｯ'´: : : : : : :{::::l;ノ:::::::::ﾉ
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《 _ﾉ=-: : : /三l/:__: :-:‐: : 〈 ｰ' ヽ::::::::::r‐'
〈:_: ; -‐: ;三ミ!:ﾆ:=:-‐: /}:ﾉ ヽ::_;ﾉ
{: : : : : l三ﾐ}:-:‐: :.r‐､）´ i ';〉
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l〃lｰ､_:l三ﾐ!: : r‐' l l /ﾑl ///
! ,' ヽ {薔}:ノ l､__ヽlﾄ､ /,ﾑ／'l/
,' , l ヽヾﾐ! '弋ツ ゞ'/l ′
! ′ l l｀ヾx ヽ ' , ' !l ……。
. / / , ',/:｀ヽ ヽ､ _´ィ´! l ､',
/ / ', ,ｲ: : : :.} ヽ三三! ! l l
. / / ／: : : : : :｀ヽ､ ヾ､三! '､l l __
/ / _ /: :/: : : : : : : :l: ｀ヽ_,＞ゝ-､--′
./ / /: :.｀ヽ／: : : : : : : : :.l: : ',ヽ＜´_,＞>
. / {:ｰ:-､: ´: : : : : : : : : : :.l: : :ﾍ< < ヽ7
/ ヾ: : :l｀ヽ､: : : : /: : : : :l: : : : ヽﾉ '´
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| 不人気は、やんねえ香の話を聞き、ロランの居場所を考えるふりをして別のことを考えていた。
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| 委員長。
| 名前を何度聞いても忘れてしまうあの少年。
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| 彼の名前を（異能の問題上やはりここでは表記できないが）今でははっきり思い出せること。
| そして、彼が去り際に言い残した言葉。
|
| ……何かを忘れている。
| 何を忘れているのかもわからないが。
|
| そういえば、刹那はなぜガンダムを忘れてしまったのか。
|
| あんなに執着していた存在を、今では嘘みたいに忘れて、忘れて。
| アトカタモナク忘れて……。
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| 一瞬、脳裏をよぎった赤毛の少女。
| それが誰なのか思い出すよりも早く、何を思い出そうとしているのかすら不人気は忘れた。
|
| そのせいで何もかもが煩わしくなった美女は、頬杖をついて大きくため息。
|
|「とりあえずやんねえ香、ロランは私が探しておくわ」
|「……いいのか？」
|
| 取り繕った丁寧さよりも、普段通りの屈託ないやんねえ香の方が好きだ。
| 女記者はそう思ったが、それを言うのは自分の仕事ではない。
|
|「あいたっ」
|
| 勢いよく顔を上げたせいで生地に強いプレッシャーがかかり、ワイシャツのボタンが一つ弾けてまな板の顔面にぶつかった。
|
|「あ、わ、悪ぃ！」
|
| 慌てて胸元を隠すやんねえ香。
| 不人気は彼女の痴態を笑い、そして散り散りになった仲間達を想った。
|
| もう、これまでみたいには戻れないかもしれない。
| だけれど、不人気は彼らが好きだ。
|
| 彼らのために、彼らの輝かしい未来のために。
| 終末なんて来させてたまる物ですか。
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☆ 次回予告！
奴が来る。
闇を背負い、暗黒を背負い。
現実世界を破壊する世界の敵が。
東京という腐肉に群がるカラスどもを脅かすため。
奴が来る。
次回『スケアクロウ』
果てに見るのは破滅か死か。
反応早いな。ありがとうございます！
男の長門か
女の長門はまだ留守番してるだろうか
.:.:.:.:. |.:.／ |ノ|.:.:.:.: .:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: | | |
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| 十一月の肌寒い早朝のことである。
| 汚れたコートに帽子という風体のくたびれた男が、ゴミを満載にしたリヤカーを引いていた。
|
| 見ればリュックや汚れた毛布などもリヤカーには乗せてあり、それ一式が男の財産であることが見受けられる。
|
| 垢じみたヒゲ面をしごきながら、男は淀んだ目で自動販売機横のゴミ箱を見つめる。
| 彼は廃品リサイクルに盗んだゴミを持ち込んで生計を立てている路上生活者だった。
|
| 周囲の目を気にしながら、ゴミ箱を勝手に開き、中のゴミを物色する。
| どす黒く汚れた軍手で、リサイクルで現金に換えられるガラス瓶やらをひっつかみ……びくりとのけぞった。
|
|
|
|
| 周囲を、異様な風体の人物らが囲んでいた。
| 全身を顔まで一切肌を晒さず、黒ずくめの衣装で包んだ者たち、その数は七。
|
| 当然年齢も性別も分からない。
| そもそも人間であるかどうかさえ怪しい。
|
| 廃品リサイクルの男は悲鳴をあげた。
| 早朝、まだ夜明け前。
|
| 周囲に人気はなく、車も通らない。
| 黒ずくめたちはやおらねじれた刃物を構えた。
|
| その間、常に無言。しかしそれ故に、迸る殺意だけは強い。
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; i,;;;: ,/｀ ,／::::入 ＼＼ー-‐''" i i, ＼ ／::::::::::::::: 来たぞ……。
;;i, i、/ r゛ /: :::::!''＼ ＼￣ ____,i i, ＼ ／::::::::::::::::::::
;;;;i, i, ゝ'::::: /::7‐- ＼ ヽ、 ,i ,,,___,,i, ヽ(_＿::::::::::::::::
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;;;:::::::i, i,, ヽﾍ、＼‐─一゛7‐-─ｿ:::|／ く、
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ヽ V| ＼ ＼i | ヽ ,r' ／
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| 黒ずくめたちの背後から、全身を包帯で包んだ、これまた胡乱な人物が進み出る。
|
|「な、なんで……」
|「何故……？ 何故、か……だと……？」
|
| 包帯は憎悪で燃える視線を男に突き立てる。
| 怒りで震える、包帯まみれの細い身体。
|
|「自分の、胸……に、聞いて、みろ……備府、やらない、夫……ッ！！」
|
| 包帯の人物、糸川はやぶさの『滅ぼす者』、『楽園の子守歌』によって肉体を融解された『聖処女』ジャンヌ・ダルクは憎悪に吠える。
| 美しい容姿も、豊かな乳房も、そして揺るぎないはずの信仰心まで溶かされた。
|
| 危険を忠告されたのに勝手に突撃して、勝手に死にかけて、すべての責任を他人に押し付ける勘違い女の恨み節。
|
|「えっえっえっ」
|
| 困惑する男、だがジャンヌに仕える『異端審問官』は彼女の手足だ。
| 狂気による勘違いも妄想も幻覚も関係ない。
|
| ジャンヌが白と言えばカラスも白。ただの浮浪者も備府やらない夫なのである！
|
| ……そう、やらない夫が路上生活者に紛れて行動しているに『違いない』。
| 誰も見つけられないのは奴の変装が完璧だから『と思われる』。
|
| つまり浮浪者を殺していけば『絶対』やらない夫に辿り着く。
| そのジャンヌにしか通用しない三段論法の結果がこの現状なのであった。
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/ /i:i:/ ;|i:i:! |;! Vi:ﾊ. ∨ﾊ ＼ヾ - _
/i:i:/ |i:i:! |;! Vi:ﾊ. ∨ﾊ ヽi:i＞≡≡7 .ｧ _
, /:i:i/ ;|i:i: !ｉ :Vi:ﾊ. ∨ﾊ,＞'''´ヾﾊ // ./ 、
≧/;／,,_＿ |i:i: !i Vi:ﾊ.._ V〃 ◎ ﾞ,! 〃 ,:/ ∨ ∨
￣|i' ｀ﾞ＜ミ,￣ Ⅶ__ｉ!＿__ x'i:イ¨`ヽ.V=- _＿／´／/ ｉ ∨ ∨ や、れ……ェ！！
il ◎ ｀ ＜,〉';i ! ＼ /' Vl `Ⅶ――＜￣￣/ .l, ∨ ∨
ヾ i!＿__ ,,. ＜/ . ', i!_ ` `:}i!ﾞ ＼, ￣｀7 | ヽ, ∨
―.|―‐.ｧ'´ ./ / i! ｀ 、 },' ＼ ./ | ＼ ∨
／ﾞ / /ﾞ i! ｀ ､ /＼/ .| ` |
ヽ,／ ./ / ,i!,＿＿_ ｀ ､ / _,,／￣| |
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| 黒ずくめの『異端審問官』たちが哀れな路上生活者に殺到する。
| 襲われた者はひとたまりもない。
|
| 背中を向け、頭を抱えて恐怖に縮こまるしか……。
| いや。
|
| そいつは垢じみたコートの尻をまくった。
| 皮膚病とよからぬ何かで変色し、キノコみたいなイボの生えた汚い尻が露出する。
|
|
| ……なんと、下着をつけていないのだ！！
|
|
| 意味不明でたじろぐ異端審問官たち。
| 浮浪者はためらいなく放屁した。
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｀;;i|l|li||lｌｌ|||il;i:ii,..,.i||l´i,,.;,.. .il ｀, ,i|;.,l;;:`ii||iil||il||il||l||i|liiﾞゝ
ﾞﾞ´`´ﾞ-;il||||il|||li||i||iiii;ilii;lili;||i;;;,,|i;,:,i|liil||ill|||ilill|||ii||lliﾞ/｀ﾞ
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|「ぐあああああああ！！？」
|
| 空気が黄色く、いや真っ赤に染まった。
|
| 先頭にいた『異端審問官』の目と鼻と口の粘膜が泡立つ、そしてマスクの下の皮膚が爛れ、激痛にのたうった。
|
| その他に被害者は二人、一人は激痛と悪臭で涙を流しながら嘔吐。
| 自分の吐瀉物に頭から突っ込んで動かなくなる。
|
| もう一人は泡を吹いて失禁。
| あまりの刺激に腰が抜けたらしく、へなへなと座り込んで白目をむいた。
|
| 他の『異端審問官』も催涙ガスのような一撃にたじろぐ。
| いや、待て。
|
| どんなに破壊的な屁であろうと、防御マスクどころか魔術防御までを貫通してくるはずもない。
|
|「何で気付いたんだよ？」
|
| 男は垢じみたヒゲをしごきながら、身軽な動きで自動販売機に飛び乗った。
| 華麗な動きの中ではだけたコートと、その中身がチラ見えする。
|
| こいつが何者なのか、ここに並ぶ『異端審問官』は知っていた。
| まさかまさかの、大当たりだなんて！
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/人,､ノ ﾞ!:ﾞ:、
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ヾ､::＼i、 _,.ｒ'⌒/ ,:':::ﾞ!
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!::;ﾉ:::::::::::::::::l::::::il!::::: |,/ -‐'｀ヽ､ﾞ!
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{::::::::::::::::::::::::|::::::i!::;::::ｌ!:::::'ｰ''7ﾉ::､::}
|:::::::::::::::::::::::l::::::::/:::::|! :::::i!|::゛:::::ｿ 「貴様、ねずみ男！！」
ｉ::::::::､::::::::::::!::::::::::::::ﾉ'::::ﾉl!:l!:::::;/
|::::::::::＼::::::::::::::::::;/::::::;|:::!::i!::ｿ
ﾞ!::::::::::::::ヽ:::::::::;'´::::/::;i!::l!:/´
ヽ:::::::::::::::::::::::j!::::/::/:l!::i!'
ゝ::::::::::::／::::/::/::::ﾚ'
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ヽ::::;: -‐'´:;ノ
(;:::::_;: -‐人
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;-‐'´ ,`;ｰ''⌒ﾞｰ､‐'- 、
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|「俺様も有名になっちまったモンだぁな〜」
|
| やらない夫の三つの僕、その一角ねずみ男。
| ニャンコ先生や墨目に比較した場合、戦闘能力では一枚も二枚も劣る。
|
| 劣るが、腐っても『四天王』芦屋道満麻呂が育てた独立型隠密式神。
| 厄介さ、いやらしさでは随一だ。
|
| そして。
|
|「警戒……しなさい！ これ、が、いる……なら！！」
|
| 近くにやらない夫が潜んでいるのが道理。
| 戦闘不能の三人と、ねずみ男に注意を注ぐ一人を除いた三人の『異端審問官』が背中合わせに周辺を警戒する。
|
| ジャンヌが上着を脱ぎ捨てあばらの浮き出た骨と皮の上半身をあらわにする。
| あらわといっても、皮膚のほとんどは包帯が巻かれ……いや。
|
| よほど近づかなければ判別は難しいが、それは包帯ではない。
| 表面にヘブライ語で聖句の書かれたそれは……人間サイズまで圧縮された聖なる結界。
|
| 恐るべき、歩く聖域なのである。
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y′ヽＫ_ﾉノ ´ハ_ﾉ
´,ｲ木､_{ハ｀i＜,ﾙiz｀
/ :!ﾒ.､_､フ不ヽ ﾊヽ.｀ ｰ- ､
r'/:. ' l|tﾓｧ千tﾁ:i! :' ヽ:､_r'´
,.７_:; iﾑ´∠i:､｀ﾌl i :､_V
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f´- ､ ｀T TVﾄ:ﾐ:ヾﾆィ: ル'´l: : ヽ.
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/―:'-､入:l ｌ ! V/: : ;' i: : ;': : :〃:, -ヽrvｭ }ﾆ!ｨ7
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／ ｀ヽ: ､｀ヽ: :｀ヾ,´-弋／_＿__ . ィ: :｀ト-ヽﾄ､二.ィく: !
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,.＜ヽ. ヽ jﾚ'＜._/ レ＜:! / :∧
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{_.ﾘ V.ｲ_ツ
゛´
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| この包帯に守られている限り、ジャンヌは絶対不可侵。
| 『異端審問官』たちは死にかけの主人を守る必要もなく、周囲の気配を探った。
|
| 『武僧』やモズグスとその弟子たちほどではないが、彼らとて手だれ。
| 異能も持たない一般人に後れを取るはずはなかった。
|
|「くけっ」
|「じゃ、アバヨ」
|
| 高速で射出された、中身の詰まったスチール缶の直撃を胸に受け、
| ねずみ男を見張っていた『異端審問官』が声も出せずにくずおれた。
|
| 彼のろっ骨をへし折った犯人は……リアカーの荷台からのそりと起き上がった。
|
|「ええと、ハジメマシテ」
|
| ずた袋で覆われた頭部。蜘蛛のように長い手足。
| 直立身長は２メートルを悠々超えた250センチ台。
|
| のろのろと動くそいつは、少なくともやらない夫の使い魔ではない！！
|
|「す、『スケアクロウ』と、申します……」
|
| 棒のように細い、異様に長い手足。何やらたどたどしい言葉使い。
| 顔面はずた袋。確かにスケアクロウ……案山子を想起させる。
|
| 一瞬気圧される『異端審問官』たち。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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| )ゝ‐イl |
|,ノ,ィ≡ミ ゝ |
|ヽ{((〇))} ( |
. | ).ゞ==彡/ |
. | ｀⌒⌒｀ | あの……ええと。
| |
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＞"´ / ∧＼ : : ∧__:∧: : : :,ｲ! ∧ ｀ﾞ＜
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ﾍ ＞´ ∧: : :/:::::∧ : : / ｀＜ /
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| ゆるゆると伸ばされた枯れ枝のような腕。
| 距離を取ろうとした『異端審問官』の一人の顔面を、『スケアクロウ』の掌が打ち据えた。
|
|「がッ！！？」
|
| 何が起きたのか理解できぬ『異端審問官』の顔面を、軍手に包まれた手が鷲掴み。
| 有無を言わせぬ剛力で振り回す。
|
|「何だこいつは！？」
|「挟め！」
|
| 混乱する『異端審問官』二人。
| それでも訓練された動きで掴まれた仲間から離れ、『スケアクロウ』を挟む位置へ。
|
| 彼らの武器は短剣である。
| 長い手足を大降りで振り回す相手には、接近してしまえば有利のはず！
|
|「待、て」
|
| ジャンヌの、呻くような静止。
| 『異端審問官』の動きが止まる。それを機と見たか『スケアクロウ』が動いた。
|
| 掴んだままの一人を正面の相手に投げつけ、背後に緩慢な回し蹴り。
| 思わず懐に飛び込もうとした背後の『異端審問官』であったが、ジャンヌからの圧力に踏みとどまる。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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/ ／ ./;;;;/i;i;;;;;;| i;;;;;i i;;i i;;i ヽ＼ ./
/ ＼／-'''i;i;;;;/ i;ii;;;;;;l i;;;;;l i;;i i;;i ,,,-''''｀ﾞヽ ∥ ＿＿＿＿
/ ／ ii l;;i／l;;ll;;;;;l＿l;li;;;l＿＿i＿＿i;;i,-''´ ,,-'''´ ＼∥〆￣￣￣￣｀
/ / ｌ l;;i l;;l l;;;;l ∥l;;l、 ／::::::::＿＿--く ,,,==三彡ミミヽ
∥ ﾘ / .ll／-l;l l;;;ト l;l ＼::::／ ｒ-、 ＼＼,,,,, r;;| |ヾ ヾ;;ヽ
ﾄ / ／::/￣｀＼::::l;l ト-イl,,, ヽミニニ─く:::::ハ ＼,,,|;;|. | ヽ ヾヽ
三三三ミ災什───/::::/ (｀ソ 彡 ソ丨| ｀-,,, ｀｀-ニ￣壬-| ; i;;| l i ヾi
／巛＼ 丿＼:::::::彡彳´ / /ﾍ ｀-,, ｀-,, ｀-,,, | ; |;;ﾄ | i i
// |ii 》 ＼/ i ／´´／ / / 丨 ｀-,,, ｀-,, ＼| ; |;;|＼l￣￣￣￣￣＼
// |;;;| |＼/ i ／ ／ / / ｀´ ＿ ｀ヽ ヽ | ∥ ﾐヽ
/ |;;| |／｀ / / ／ ／｀ニ´---ニゝ、、＼ ヽ | ヽ ヽ＼ そいつ……が、
∥ |;;|／ i / ／ .／´´￣＿＿＿＿ | ＼ | ヽ ヽ やらない、夫……だッ。
| ／ |;| / / く ,-'':::::::::::::::::::::::::::｀-┤ i ﾄ | l ＼
／ / i i / V-´::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::| l | ヽ | へ弋 ﾍ
/ / ヽ ﾍ ｌ V::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::| l | |、| ／ / ﾍ
ﾉ i / ﾍ l V::::::::::::::::::::::＿〆｀ヽ| l | | |／ｲ´V / ﾍ
/ ＿＿ i ﾍ ヽ V ￣￣｀´ | i | i::::::: / V /
/,,-──彳´:::::::::::＼ ﾄ ﾍ ヽ ﾍ | i | /:::::::::ｿ V ＿
./ ＼ | ::::::: ::::::::ヽ |::::＼ ﾍ ｀ ﾍ、＿＿＿ ／´l ´ / /ヽ＿:::: V ＿ ─
＼ | :::: ::::::::::::ﾍ |:::::l ﾍ. ﾍ ヽヽ＿＿＿／´ /／/ |::::::::::: ￣
Y / ::::::::::::::ﾍｌ:::::l 入ゝ、ﾍ ＼ / ／ /. |::::::::::::::: ::
＿＿＿ ノ / ::::::::::::::::::::::::::ｌ ＼ ヽ ￣￣￣ / |:::::::::::::::::: ::::
/ ::::::::::::::::::::::::::| ﾍ ＼ ￣￣￣ ｲ |::::::::::::::::::: ::::::
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|「いや、あのいや、『スケアクロウ』です……ヨ？」
|
| 自分の蹴りの動きでよろける『スケアクロウ』。
| その足は鳥のような蹴爪……であるが、妙な違和感。
|
| プラスチックのようなつるつるした質感。
| 賢明な読者諸君はすでにお気づきであろう。
|
| そう、ヒゲ槍と同じ材質なのである！
|
|「偉大、なる……我ら、が、主の……」
|「「「御旗に、命を！！」」」
|
| ジャンヌが旗を……いや、彼女自身が旗であった。
| そのやつれた肉体を覆う包帯こそが彼女の旗であり、兵を鼓舞する御印であり、信仰である。
|
| この旗が翻る限り、彼女の兵は不死身であり、彼女自身は無敵である。
| 現に、倒された、あるいは無力化された『異端審問官』たちが次々に立ち上がった。
|
|「ぐぐ」「うおおぅ」「ごほっごっほ」
|
| 顔が爛れた者も、肋骨がへし折れた者も、吐瀉物にまみれた者も。
| 皆一様に『狂気に』戻って武器を構える。
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＿
. /＼｀ﾞﾞﾞ￣｀ﾞﾞﾞ''''ｰ- ..
/ ／~~｀`"" ''ｰ‐-´/| 個人の実力では
)￣｀ﾞﾞﾞ''''ｰ - ...,,,,_|/:::! モズグスさんのチームの足元にも及ばないが。
i ､ |:::::|
| );:;て |:::::i ……これは。
| ⌒´ |:::::|
ﾉ |:::::ゝ _, - 、
___,,,... - ﾞ''ｰ-､.,,____,,,... ＿_, ヽ/￣￣"""'''''''"'-
/ ﾄ＼_ﾉ;:;:;:ヽ__,,,...-'Ｉ ` ､ ｉ
/ ｉ::::::｀ｒ- ´ｔ::::::::::,ｉ > , - 、 !"' ､
ヾ !:::::::::/;:;:;:ヾ::::::: !i .／ ::::::... / ヾ
> ｷ:::::ｉ:;:;:;:;;ヾ:::::::I < ｀－ ´ I ｷ
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| これは厄介だ。
|
| 自分の身の安全を考慮せずに襲い掛かる『異端審問官』。
| 『スケアクロウ』は爆発的なジャンプ力で跳躍、ブロック塀に足をかける。
|
|「「剣に寄って生きる者は剣によって滅ぶべし」」
|
| 詠唱。神聖なる破邪の力が不可視の鎖となって『スケアクロウ』の脚を固定。
| バランスを崩して転倒する怪人に、『異端審問官』二名が殺到。
|
| ねじくれた短剣を突き立てんとするも、足を捨てて脱した『スケアクロウ』には届かない。
|
|「光あれ！」
|
| 更なる縛鎖。『教会』の魔術師の戦いはこの長いスレにおいてこれが初めてである。
| 今まではみんな銃とか拷問器具とか本とかで戦ってましたね。おかしい！
|
| 左腕を封じられた『スケアクロウ』が右腕の大振り。
| 散開してたやすく回避する『異端審問官』……いや。
|
|「ぐえっ！？」
|
| 関節を外したかのようにぐんと伸びた右腕、手刀はのこぎり状の刃物になって『異端審問官』の腕を抉り刻む。
| 何が起きたのか。もはや誰の目にも明らかだ。
|
| 束縛されたヒゲ槍を手放し、『スケアクロウ』……いや、やらない夫がしっかと立つ。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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-‐ ≦´｀≧
≦ ´ く `
|ヘ ｀ メ＿＿＿＿＿_ ` ､
| ＞ ￣ ク
| ｀ _. イく
| ｀ Y , イ ´ ﾀ
| |/ .｝
| | / !
|〃｀i | / !
|乂 ﾉ | .i !
| | .i ! 他人のフリはできなくなってきたな。
| | .i !
| | :i 》
＼ .| ', ／ト 、
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ゝ 、 / _ イ´.: : : :.／ ｀＼
＞‐-‐ ´: : : : : : : : : / ＞‐,r -‐- 、
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| もはや彼は完全にやらない夫であった。
| 片足に残ったヒゲ槍を手に持ち替えて、脇差の形とする。
|
| 小太刀二刀流。
| 短剣を持つ『異端審問官』の距離に合わせた装備に見える。
|
| だが実際にはヒゲ槍は伸縮自在。短くすることで相手の間合いを惑わせる策略だった。
|
|「殺せ、ェ……！！」
|
| ジャンヌの怨嗟に、腕肉を抉られた『異端審問官』がボタボタ血を零しながら構える。
| やらない夫は慄然とした。治療もせずに戦わせるのか？
|
|「かくあれかし！」
|「しま……っ」
|
| その隙。やらない夫の人間性が生んだ戸惑いを好機として、束縛魔術が投げられた。
| 不可視の投網を回避しきれず、足を取られてやらない夫はすっころぶ。
|
| ヒゲ槍と違って足を捨てるわけにもいかない。
| にじりよる『異端審問官』をやらない夫は両手で威嚇。
|
| だがもう、成す術がない、
| 聖なる縛鎖が次々投げられ、やらない夫はがんじがらめに這いつくばる。
|
| ……ニャンコ先生や墨目を温存したのが裏目に出た。
| 詰む。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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＿
＿）ｭ､＿
/::::;:::::::::ヽ｀ミ::､
_j:::ィ:::::::::::::::::::)::､::ヽ
/::::::::::::::::::::::／::::人:::ヽ.
よーう、 |￣ 三ニ≠ー―＝ ´!
面白いコトやってンなぁ……。 |! ニ＝
t､＿ニ＝＿＿ _ｊ
[ j ﾏ￣￣ ７「￣￣ T!
ｊ:::ミﾑ ヾﾘ j!
__{⌒ヾ::ﾄ ｀ｰ=ーｧ ,ｲ⌒
ｒ､ヽ､ r, ／_ム ｊ ≧。 ¨ ／人_ ｊ
ｒ､ヾ､｝ﾄ､｣/ ｨ _ア ゝ彡 --イ (::ヽ＿
｀ヾ＞//ﾊ ｒ‐’⌒ ﾏ､:j r::{ ≧､
ー＝/////! ｌ::ｊ７､＿ｒｖｭ ィ､⌒ｊ::::) ニ_j!
L///7⌒j ｊ j 个人7 ｊ ｌ T ､ﾊ_ハ｀＼_ ノ
{ﾚ＿イヽ / ､ | ! ^ ｊハﾄｰ' l! 〈
ヾ////＼ 八 i! ! i! ﾊ
＼////ヾｭ､ / ノ ｊ j | |! ﾊ
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|「オレも混ぜろよ」
|
| 『異端審問官』の一人が振り返ろうとしてたたらを踏んだ。
| 振り向いた首だけが回転しながらアスファルトに転がる。
|
| 隣の一人は距離を取ろうとして下半身だけが動いていた。
| 上半身は受け身も取れずにマンホールに激突。その頭部を拍車のついたカウボーイ・ブーツが踏み砕く。
|
|「何者……！！？」
|
| 誰何した『異端審問官』、やらない夫、ジャンヌ。誰もが絶句する。
| 未発達で固そうな乳房と、毛も生え揃っていない性器を露出したローティーンの女がいた。
|
| 酷く淫靡で、倒錯的で。
| しかしそれ以上に禍々しい野性と殺意が放射されている。
|
| 文学少女のように丁寧に編み込まれた三つ編み。木と石のネックレス。
| けばけばしい真っ赤なルージュ。そして銃殺を待つ死刑囚のような白い目隠し。
|
| 腰には刀を下げたガンベルト、今この瞬間に納刀。
| ほぼ全裸の少女によって、一瞬で二人死んだことに反応しきれない『異端審問官』を、更なる死が襲う。
|
|「ふっ」
|
| 殺意が風となって吹き抜けた。
| やらない夫は死を覚悟した。いや、自分は死んだと錯覚した。
|
| 少女が刀を抜く瞬間が見えなかったし、気が付いた時にはすでに納刀の動作に入っていた。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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----------＜,,─,,,, ヾヽ─ i;;i ﾘ ﾉ
,,--ﾞﾞﾞﾞヽ -,ヾミヽ ヽ;;| |;;i /;/ ﾉ
,,,----≡ミ;;;;;;;;ヽ;;i |;;i./;/ /
,,-´´￣￣￣ニゞ;;;;;;;;;i;;;´;;;彡ﾞﾞﾞﾞﾞ｀丶、
＿＿,,,,,,, ,,,-=彳ﾞﾞ彳彡ｲ;;;;;;;;ﾄ、ミゞ＼
| |卞ニ＜ ,,ノﾞﾞ ／/;;/i;;i;;;ヾ;ヽ ヾﾘ ＼
|＼ ﾍ￣￣＼-,,, / /;/ i;;i |;;| ﾄ ゞi ヾ
| ＼ ﾍ O ＼＼/ｿ i;;i |;i ﾘ ヾi |
|￣￣─二二彡´彡弋i;;i、 |;i ∥ ∥
|,,,,-''''´´￣ / /＼勹ﾍ | |
| ,,,,-'乍ニ＼ ﾍ
＼ | ,,,--''''´ ,,,＿,＼ﾍ
＼|,,,∠´,,,,,,;-─-＜´´´ ,,-イﾞ´ ﾍ 貴様……『辻斬り』、か！
,,,-''´７ /／´ﾞ- ＿＿｀｀７ / i ﾍ
- / ／:::::::::::::::::::::::::７ ./／ ,--,,, ﾍ
＼ l /:::::::::::::::::::::::::::::/ /ｲ ｌ''´ ´''
ヘ .i l:: :::::/ / l
＼. l / / l
＼ヽ ＼｀- ＿ /./ i l
｀＼V ｀ﾐ＝-─/ / .ｌ
γ＼ / ＼＼ l
ヽ| ｀ミ-,, /￣｀---ゝ ＼ l
l´ i ＼ ｀￣ ´ ＼|
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|「あ？」
|
| 『異端審問官』がまた二人、真っ二つになって死んだ。
| 束縛の術を使っていた連中だ。やらない夫はゆっくりと体を確認した。動く。
|
|「大物が居やがるな」
|
| 少女の刀には僅かな血の汚れすらない。
| 桁違いだ。
|
| ジャンヌと『異端審問官』相手なら何とかできそうな気のしていたやらない夫だが、これは絶対無理だと確信できた。
| 闘いの体裁すら整わない。ただ死ぬ。
|
|「……？」
|
| 不意に、この少女の姿をした怪物に心当たりがあることにやらない夫は気が付いた。
| 全裸、目隠し、居合、そして男みたいな口調。
|
|「てめえは手足をもいで生かしておいてやる……聞きたいことがあるンでな」
|「邪悪、な、悪魔……め。主の……御名に、おい、て……貴様、を……殺す」
|
| 『蛇身』だ！
| 『十二の封印像』の悪魔の一柱、『蛇身』のイナミ。
|
| 『ネクロノミコン』探索を目的とした古い悪魔で、蒼星石やアリカと遭遇している。
| そしてキオ・アスノの師匠でもある。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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「￣￣￣￣i
| : : : : : : : : |
j :.O.: : : : : : |
,. --く : : : : : : : : :.| そいつは『異端審問官』だ！
／ _＿_ヾ＼'／: : : : :} 名前は知らないけど、たぶん偉い奴だろ！
／´￣ ヽﾞﾟ，＿＿,.ﾞゝ､
／ } ﾄ- イ: : : : :>
〃,､ ＿__ !〉＿.|:_:__／
,ｨ三{ミｧ、__．イ´ !{:i:i:i:i7
_＿ィ二二￣`《ﾐﾟ， j〈∧/;}
「.．-‐ ￣ ヾ._》 ｲ | ﾍ;i
／ Tli| ∠．‐' | .| i;';ﾟ，
／ ﾄ. ﾉｲ´￣ ／|／＼∧;'ﾟﾄ､
／ / } ／ ＜￣￣!;';}ｉ|
..／ /ｲ ／::::::. ヽ ﾚ !|
iィ´￣:::::::::::::. ＼|/ !|
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|「きさ、ま……！！！！」
|
| 包帯の下にあるジャンヌの顔が激怒に歪む。
| 無理解に対する言葉を失うほどの怒り。
|
| あるいは身を焼くような恋にも似た激しい熱量。
| それが物理的にも形を有し、包帯の下から火の手が上がった。
|
|「ジャンヌ……だ！ わたし、の……顔、を……」
|「あー、はやぶさちゃんとやらない子に言ってあったよな？ 治さなかったの？」
|「邪教徒の……施し、など……誰、が、受ける……か！！」
|
| 目も当てられないほど自分勝手な返事。
| やらない夫は、応援を要請した『異端審問官』チームが全滅したことに少なからず責任を感じていた。
|
| なのであの晩、やらない子戦後に雪ダル氏に連絡を入れ、治療方法を伝えた。
| 謎のヒロインＸのように、変なプライドで治療を拒むのは自分の責任であろう。
|
| それを、まるでやらない夫のせいの様になじられても……。
| やらない夫はやれるだけのことはした。恨むのは筋違いである……普通ならば。
|
|「貴様、が……私、の、純潔を……奪っ、た……！！！」
|「「「！！？」」」
|
| 聞きようによっては、もといどう聞いてもR18。
| ジャンヌの怨嗟に『異端審問官』たちがざわつく。
|
| なお実際には、はやぶさの『楽園の子守歌』で見た幻覚が、偽りの神が、彼女の信仰を壊したのであるが。
| 誤差の範囲である。
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イi: ／ /i:i:/ ;|i:i:i |;i Ⅶi:i:r _
i:i ﾞ' /i:i:/ |i:i:i |;i Ⅵ:ﾊ ∨ﾊ ¨ _
/ /i:i:/ ;|i:i:! |;! Vi:ﾊ. ∨ﾊ ＼ヾ - _
/i:i:/ |i:i:! |;! Vi:ﾊ. ∨ﾊ ヽi:i＞≡≡7 .ｧ _
, /:i:i/ ;|i:i: !ｉ :Vi:ﾊ. ∨ﾊ,＞'''´ヾﾊ // ./ 、
≧/;／,,_＿ |i:i: !i Vi:ﾊ.._ V〃 ◎ ﾞ,! 〃 ,:/ ∨ ∨
￣|i' ｀ﾞ＜ミ,￣ Ⅶ__ｉ!＿__ x'i:イ¨`ヽ.V=- _＿／´／/ ｉ ∨ ∨ 貴様を、殺し……て
il ◎ ｀ ＜,〉';i ! ＼ /' Vl `Ⅶ――＜￣￣/ .l, ∨ ∨ 私、は、純潔を……取り戻す！
ヾ i!＿__ ,,. ＜/ . ', i!_ ` `:}i!ﾞ ＼, ￣｀7 | ヽ, ∨
―.|―‐.ｧ'´ ./ / i! ｀ 、 },' ＼ ./ | ＼ ∨
／ﾞ / /ﾞ i! ｀ ､ /＼/ .| ` |
ヽ,／ ./ / ,i!,＿＿_ ｀ ､ / _,,／￣| |
＼ / /ﾞ ／~.i! ￣ `'＼ /´￣ ＼ | |
＼′ /／ .l ＼ ｀ | |
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|「うるせぇ、死ね」
|
| イナミの抜き打ちがジャンヌの内股から左太腿を切断せんと走り抜けた。
| だが、人間を豆腐の様に切り刻む必殺剣はごりごりと不快な音を立てて刃こぼれした。
|
|「？」
|「邪悪、な、怪物……に、私が……切れる、もの、か」
|
| ジャンヌの術的防御硬度がイナミに勝ったのである。
| 追撃。包帯の巻かれていない皮膚を刃が切り裂くも、すぐに傷口から炎が噴き出て修復された。
|
|「お前……」
|「これ、が、主の……祝福だ！！」
|
| 炎の蛇がイナミに食らいつく、だがイナミも然るもの。腕の一振りで振り払う。
| けれどもやらない夫は、イナミの裸の胸や腕に跳ねた火の粉が、どす黒い焦げ目を残すのを見逃さなかった。
|
| ……イナミは、もしや魔力の供給源を持たないのではないのか？
| キオの報告書では人食いもしないというではないか。
|
| 超絶の剣技の冴えで並大抵の戦士では手も足も出ないが……ジャンヌには通じないのではないのか？
|
| とはいえ、ジャンヌに勝ち目がないのは自分も同じこと、やらない夫は跳ね起きると、内ポケットの中身をジャンヌに投げつける。
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,., -一 '´￣ ｀ヽ、
/:::!､ ,| .ﾄ、 ,.､f´l
/:::::ﾊ krｭｯ, / | , | |｜{／,.-ｧ''つ
{::::;:::::i `ﾞ~"、: . ,' / 〉 ,.! V |'"／／ 行け！ ピカチュウ！
V:::::::i ヽ: : / /__ ／ﾉ / '.／､
Y::::::! _ン /'1弋¨￣{ __,.イ、 ＼
|::::::j＿fヽ／ 二二,ニつ八 ／ __>､ |
|／ヽ、∨ '´ ｰ‐-}| ＼＾Y_/´ ＼ﾉ
´￣｀ト/ '´_ｚノ ﾄ､ / /:.:.:＼ ｀ヽ､ __
. r┴| ' ､_,ｨく,!＿,ﾊ ＼/ ｀ヽ､:.:＼ ／ ｀ヽ、
__／'ヽr!__ ,|代:::::ヽ ! ￣｀!:.､. ＼:.:.:.:./ . : .:.:.',
f／ (´:::ﾄ､ ｀Ｙ ﾄ､ヽ､人｜ |:ｰヽ:.:.:＼:.|:. . . : : .〈.::ﾊ
/' ‐ - ､¨|:. ＼|,ﾉ:::|! {::::l | l＼::.｀ｰ l`!:.:.: . : :.:.:.V::|
| /: : `ｰ仆､|::::| | |::.:.ヽ ﾉ |:.:.:.::; ',:|
. | ,.rァ{、: : ｆｊ｜ ヽ::! | !ｰ:.:. /^!,!:.:.:.; :i:|
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| まったく理解できずに振り向くイナミと。
| ねずみ男の再召喚かと警戒して飛びのくジャンヌ。
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| いかに無敵のジャンヌ・ダルクもねずみ男の放屁攻撃は耐えがたい様子。
|
| 虚しく転がった国民的マスコットの塩ビ人形。
| ピカチュウである。
|
|「なーんてな」
|
| やらない夫に向けられるジャンヌと『異端審問官』たちの疑問の目。
| それに答えるかのように、やらない夫の周囲で空間の割れる音がした。
|
|「『ＺＩＰ術』」
|
| 使い魔の複数高速同時召喚術。
| ニャンコ先生が目を灼く閃光で目くらまし。
|
| 同時に墨目が黄泉の瘴気をまき散らして足止め。
|
| 目隠しがあるから光とか関係のないイナミと、術者たるやらない夫だけが自由に動ける一瞬。
|
|「チッ」
|
| 舌打ちをしてイナミが撤退。合流してくれればという甘い期待は打ち砕かれる。
| だが微塵の未練もなくやらない夫も遁走。急いでどこかに身を隠さなければ。
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XXXxヽ.‘:.，:. .: .: :.；:. .:’' /゛xXXXX／´二≧ヾi__Y_〃三ミヽ､
XXXXXxﾞ､〝:..;.:' :. ,;:.:.,:’. /xXXXXノ ,:/／ヾ;､￣' ｀ヽ, ｀ヾ､ i
ヾXXXXXx＼‘ :. :;':. ., ，' .::'／xXXXX;ｲ!〃ｲ;ﾆミゞ/´ ／:::::.ヽ. |!
＼｀__XXXXXxヽ､_ ＿__,イ ,xXXXX厶ゞ;ﾚﾉ' ／,ｲl! /イ",ｨ=-ﾄ､:::::;ｲ j!.ﾉ}
::;:.;`.､丶XXXXXXx＼.､､,:;!xXXXXメ≠从f／＿_ｿ≦≠‐､{_,.､ :::::､::{lⅣｲﾒ=､
:.､" `:.ヽ.＿__xXXXXX}XXXXXXXXj`¨¨￣´ xXXXXX}厶=‐:::::､;ゞl||lﾒミヾ
`::.ヾ， .::. ｀ﾄ､XXXXノXXXXXXXノxXXXXX{XXXXXXノ≦二::::::::}/从ヾ､ヽ
ヾ:.`；:. ノxXｰXXXXXXXXX／XXXXX_彡ﾍﾃT/〃ﾄ､ヾ､｀ヾ､-‐|ｲ}l!ヾﾄヽ
.:.，:.:.__ﾊ;ｲXXヽXXXXXXXX/XXXXXX,イ`ﾄ＜l!/'{l!{l!il}|!}ヾｉ}／.:／|;ﾉjl! |l}｀ヾ
:.〝＞イXXXxﾉXXX）XXX〃xXXXX／ /:`ヽゞﾍﾄ.{l!ﾍ!i!}ﾉ_.:ﾘ'＿ノイ∧j' }i!
イ´XXXX}x:／XXX/XXX《x＿＿_／' ,':::ｉ ﾄ二ラﾍl! /ﾍｨゞヲ彡ｲ,: |::∧ﾉ'
XX､XXXﾉｲXXXX/XXXX/.:.∧｀ヾ:∨ {::::! .l／ヾﾞ／/､.::＼＞'.:/,: |:::.∧ 貴様、やらない……夫……！
XXy__／XXx}XX/XXXX/{:.:.{ﾘﾉ}｀ヾ::∨!＼ ﾍ∠-―!;､:::::::/ .::/ ':: |::::::∧ ……なぜ、あがく！！
ﾞ_,イﾌXXx､∠-‐'XXXXノ {ﾞ:.:{',',ﾊ:::::}::::|､|ﾍ`弋:;二=≧:＼/ .::/ ,::: !::::::::∧
::...,!'XXx ﾊ｀＞r≦彡'／,{ ﾚｲ::}:::::}:;ﾊ､ ﾄ､ `ﾆ‐'''`/＞ﾍ:/ /.:. |:::::::::::∧ 平和の、ため……に、死……ね……ッ！！
:./XXヾ／ｰ} ﾐ}::!＞―'／ ! i i|/,}::}:::;'ｲ ､＼!:ﾍｰ-ﾞ:::-イﾆﾍ/ ＿＿j´￣￣´
ｲXX ノﾐヽﾆ} ﾞ |―‐ﾆ彡'{,!iﾍ!/;}::!;;ｲl!ﾄ､ヽ. ＼ﾐー‐イ'j､::､ゝ<
XXノﾍﾄ､ヾ､} !二ﾆイ::_j'／/:ﾉノ:/.::i!､::､ヽ゛::.ミ三/´:.＞ｉ ＼ﾍ＿＿__
-イ::.；:.ヾiﾞﾆﾞ} !＞'／_ノ.／,ｲ'::::/::::::!ﾞﾞヾ､ ﾄ､::::::::（:／.:::::} l､＼-､ ｀ ヽ
::":∵ `:.弋ミ} ::.､|,ィ__-二／ｲ::::::/:::::::::!: ヽ} ヾ.､:ｰ∨／/l!:. ﾄ､ ヽ:.＼:.:.:.
ﾄﾐ}､i:::.!彡ﾆﾆﾆイ/::::/::::::::::::|: l `，＜_,;;厶::!:.:.:...:.:.:.i:.､.＼:.:＼
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| ジャンヌの手前勝手な怒号を背中で聞きながら、やらない夫自身も答えのない問いをした。
|
| なぜ生きる？
| なぜ逃げる？
| なぜ戦う？
|
| やる夫も翠星石もいない世界で、生に固執する意味などあるのか？
| この訳の分からない逃亡生活が、誰の特にもならない事もとっくに理解できている。
|
|
| なぜ？
| なぜ？
| なぜ？
|
|
| どこにも味方はいない。
| 東京中がやらない夫の敵だ。
|
| それなのに、なぜ？
|
|
|「なんでかなんて、オレだって分かっちゃいない」
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. ＼| j／| / ＼| | ＼//／
＼ノ ,|/j ∨ / ￣＼ ﾉ |/
{ Ｙ し'|/| j j/ | / ...;';';';';';'⌒ ＿＼/ ￣＼ ∨|/ ／;';';'
＼| | |/ヽ/Ｙ´ jノ| |/ _､-'";';';';';';';';';';';';';'｀ヽ ￣ ＼ノ ＼ ＼|i:|／ ノ;';'
＼ﾉ⌒Ｖ||／j/) ﾉ j/ j／ γ⌒;';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';ミ ＼ノ ￣｀|i:i|⌒＞;';';'
＼_j〈 ＼j ||／| し'＾| /／し| / ソ;';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';ミ ＼) i |i:ｉ|≦;';';';';'
＼_|ノ＼｀|:|＼j/ しj/ 川 j/ ) (;';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';'ｿ ＿＼ ＼廴 ,|i:i:|~７;';';';'
＼ﾉ (_j｀'|:レ'^Ｙ´ノしｨ'´j/／ ﾉ;';';';';';';';';';';';';';';';';';';';'⌒_二ﾆ=-─- _ √￣＼`|i:i:|幺;';';';';'
＼(＼ノｙ'|:辷彡ｨ⌒ﾚ'j／)_ 乂;';';';';';';';';';';';';';_ -‐ 丁¨ ''' ─-=ﾆ二三ニ=- ．..,,＿刈i:iﾚ'ン;';';';
＼)辷乂_j::|／/＾Ｙル'j／⌒／ ｿ;'_ -= ￣＿ -=ﾆ二三三二ﾆ=─- ￣二＿ ¨¨¨|i:∧ 乂;';';'
＼￣{ﾚ'|::し'(__//(／--＜⌒ ∧ ;';|＿_...‐=二三三三三三⊥⊥⊥三三三三二ﾆ=-‐ ''^~”￣ ﾏi:ﾑ : : : : :
==弌_((__j:::辷彡'う)＜⌒ _][_ 乂;';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';|....|....|￣＼|/ / . . : : : : : : : : : : : : ﾏi:i:>､: : : :
⌒ヽ)う＼::::|ﾉ辷彡' ｉ|::|ｉ ⌒弌ＹＹＹ⌒辷彡へノﾉ|....|....|⌒ヽﾉ／' /二二二二二二/二二二二二
＼_j:|⌒ヽ)イ´::／|￣￣|ﾆ|:k二凵〕iト。 ｀Yi:i:彡'⌒ _｀Ｙ{___|....|....|＿__j{＿__/∧＿{{＿,{{__{{_/∧__,{{乂{{:､_
ヽ.:| j|i:|／,.イ|＿／|__|:|¨＼ `'弌〕iト｡___|二二二辷|ﾆﾆﾆﾆ|....|....|ﾆﾆﾆﾆニ//ﾑﾏ={{ﾆﾆ{{ﾆ{{//ﾑﾏi{{二{{二
ﾆﾆ｣｣_,／|ｉ:|／ニ||／／／ |＼_|＼¨¨ﾞ||¨¨||＼___|_|〕iト┬┬┬ｰ|....|....|┐;';';';';';//;';';'∨{{;';';';{{ﾞ;'{{/;';';';Ⅵ{;';';{{
└‐‐'|i:i|ﾆﾆﾆ|／／／| |＼| ＼|‐‐||‐‐||￣＼ ｀'弌」」」」｣｣｣|....|....|」＿＿//＿ ∨L＿{Ｌ/{｀｀｀｀ｖ{{＿{{
丁¨丁丁丁｢￣|￣ ￣¨¨¨¨ ￣￣￣￣ ＿_⊥⊥⊥|__|＿| | Ｖ||￣//||¨¨¨¨¨Π“““
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| リヤカーと荷物は諦め、やらない夫は手近なトイレでこぎれいな格好に着替えた。
| 着替えはねずみ男が近くの駅のコインロッカーから回収してきたものである。
|
| やらない夫の特徴である色白の禿頭は、カツラ一つで容易く覆される。
| 服装は極めてラフ。飲み会で潰れて終電を逃した学生にしか見えない、
|
| それでも、身を隠す必要はある。
| やらない夫には強力な仲魔が三匹いるが、頼りきりでは魔力＝体力がもたない。
|
| 睡眠時の不寝番の当てがある程度の気持ちで、やらない夫は極力仲魔を温存していた。
|
| そしてそれは、魔力痕跡の追跡ではやらない夫に辿り着けないということであり。
| 少なからず捜査を撹乱することに成功していた。
|
|「あそこの東屋にするか」
|
| 自然公園の一角、屋根があり、木製のベンチとテーブルのある東屋にやらない夫は近づいた。
| 小高い丘の上にあり、周囲を見渡すことができた。
|
| 周囲を警戒しながら、買ってきたおにぎりを食べるのに向いている。
| ……これらの金は、数日間工事現場で働いて手に入れた。
|
| 日本語の苦手なアジア系外国人を演じて飛び込みで働いたのだが、
| 誰もやらない夫には気が付かなかったし、追っ手にも想定外だったか見つからなかった。
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／;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ、
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|;;;| ﾉﾘ ﾐ;;;|
_ゞ;! r─-- ､ ,rｪ--- ､ﾐ;ﾘ
!ﾍl;|. ぐ世!ﾞ｀｀ ,ｨ '"世ﾝ ｢ヽ
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ヽﾞ､! !; ,ﾚｿ や ら な い か。
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| ゴミ箱で拾った新聞を片手に座ろうとしたやらない夫は、そこには先客がいたことに初めて気が付いた。
| 人の気配なんてなかったのに。
|
| そう言い訳しても、もう遅い。
| やらない夫は隙だらけで、待ち伏せする相手の間合いに入り込んでいた。
|
|「無防備にケツを振っちゃって、誘ってるのかい？」
|「え、あ……」
|
| 見知った顔だ。やらない夫は青ざめる。
| 阿部貴和。警察だ。
|
|「『深夜のここいらはハッテン場だ。若い子が制服でホイホイ来る場所じゃないぜ』」
|
| いや、話がかみ合わない。
| 今は早朝……では、阿部さんは何を言って……？
|
| やらない夫は不意に、一つの可能性に行きあたって瞬きした。
| 阿部さんの言葉は、もしかして、もしかして……。
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／￣￣＼
/ ヽ､_ ＼
. （ （● ） |
. （人__） | 『殴りたい奴が居る。』
r-ヽ |
（三） | |
> ノ /
/ / ヽ /
/ / へ> <
|＿__ヽ ＼／ )
|＼ ／|
| ＼_／ |
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|「『これでも俺は警察でね……俺のいないところでヤるんだな』」
|
| もはや確定だった。
| これは、数年前。やらない夫が中学生のころ、二人があった時の再現だ。
|
| だが、その時とは違い立ち去るのはやらない夫ではなく阿部さんのほうだった。
| 彼はやらない夫をやらない夫と気付いた上で、見逃そうとしていた。
|
|「……なんで捕まえないんだ？」
|「どこの誰とも知らない男を何故捕まえる？」
|
| それは、警察官としては誤った選択だろう。
| やらない夫は自分が指名手配されているのを知っていた。
|
| だが、阿部さんは素知らぬ顔で東屋を後にした。
|
| やらない夫は、本人も理解しきれぬままに日本中から追われることになった男は、
| 自分を味方してくれる存在がまだあることに困惑を隠せなかった。
|
| どうせなら、敵と味方をいちいち考えるくらいなら。
| 全部敵のほうが分かりやすくていいと、やらない夫は心のどこかで思っていたのだ。
|
| 呆然としながらベンチに近づいたやらない夫は、そこに置かれたむき出しの万札数枚に気が付いて。
| 少し迷った後、ありがたく借りておくことにした。
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☆ 次回予告！
行き場を無くした男が二人。
力を奪われ。
友に見放され。
目的を失い。
何もかもが虚しいばかり。
行き場を無くした男が二人。
家族は死んだ。
故郷は滅んだ。
過去は無意味で。
生存に価値を見出せない。
行き場を無くした男が二人。
その出会いが、何か変えるのか。
次回『アトリーム同窓会』
果てに見るのは破滅か死か。
ホームレス狩りとはまたヤバいもんに転職してんなあ
ジャンヌさんは狂気に落ちているが、狂的な執念ゆえにやらない夫にたどり着く
まさに恋だよ
ジャンヌさんのAAがこれとか初めてみたわｗｗ
| |r===========,.､=r:i ri ri=__================,.., =r:iｧ:v::i,､====z'|
| || |:::ﾞ´:::''::`'::'´:ノ く:::'ｰ':::':::::::'::ﾉ .|
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| || / 〉 r彡-‐'´ ', .|
| || ,'´ ―-､／ ヽ l、 |
| || l 〉 ヽ /ヽ. | ごきげんよう。
| || / ,ｨ,j _,. --rwm､、 ',-‐く ', .! 幸運な小僧。
| || ,イ ,／'/ ,ｨ'ﾝ^ヽ,ｨ､,.へミ'、 ', li l! |
| || / ,／/'r' ,fｼ':::::,-f:r'w､:::.:',ﾐ', '､ li ﾄ､ ! 貴様は今なら
| || ,ﾉ /l {/. ::/ l:l' '､. Kl ヽ、 ':,丶、 二つに一つを選ぶことができるぞ。
| || / ,/ ,ﾄ、 ,l::.:./‐-､l ,-‐l:..::l,} ﾞぇ ' l
| || / ,:' /|l ｀f^ー-､＿,､_,i〉::lでiｼ l i:.'ﾞィテ:::lト､--―-f「`i ﾄ, 一つ、いつか世界を救う。
| ||,' '.:.|ﾄ､ﾐヽ'、 '"´ / ﾞ',!｀￣ ' j: ｀￣!:ﾉﾘ l lﾊl ト、 l} そのために死ぬ。
| ||'ー--､__ ﾄ､ﾐヾ':, | ,ﾒ'､ ､‐--‐, ,ｨil,/ ! l朴i ヽ ﾘ 死ぬために今は生き延びれる。
| || `'〜-､、ヾﾐ', |△ ヽ丶｀ﾆ´イ ﾘ ,' /! , ＿_ノ
| || ｀`丶ﾐ、 |,r'つ l｀` '´ fr‐-､l / リ _,ﾉﾞ´.｜ 二つ、今死ぬ。
| || ｀ヾ 'ｰ- ﾆ､ ,ｨﾆ-ﾞ' / /ノ´ .| いつか来る死に怯えることもなく、
| || ヽ ｀Y´ / /′ | 今死ぬ。
| || ヽ 〉ﾟ〉 ,.: / .|
| || ヽ __,,,.../｡'.::: ,,.:.:.: / |
| || 〉、 _,,..ﾌ｡〉.:: '' " r'' .|
| || 〈 ', ｀>〉 / .|
| || ,}、 ﾉﾟj ,.:' ,' /! |
| || l l ,,..い''" ,' ハ .|
| || ,ｲ! l |ﾟ〈 . : ', .|
| || ﾉ/ l ,/{, l . : '、 |
| || // /｡ﾊ 〉 .: l .|
| || ,/ l ,ﾉ┤! .: l |
| || / ﾉﾟ/ーl l l .|
| || 〈丶、 / /:::|:::l l _,.. i, |
| || ｀ﾄ､ヽ､ /ﾟ/::::::l:::ll l _, '´,.-┘ .|
| || |::::ヽ.ヽ/ /:::::::il:/:l L_,. -' ,.イ |
| || l::::::::::＼/:::::::::l:l::::|__,,.. ィ"::::::| .|
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|「………………いま、せかいを……すくいたい」
|
| 数年前。ほんの数年前の記憶。
| 血と臓物と、燃え殻の匂い。燃え盛る住宅街での出来事。
|
| 周りには、原形もないほどバラバラになったり焼け焦げた家族だった物。
|
| 妹を抱えて、妹ごと炭化した母。
| 死んでからも銃を離さない兄の腕。上半身は肉片になってしまった。
|
| 部屋の隅で震えていた弟は、砲弾が直撃して木端微塵だ。
| 部屋から飛び出そうとした祖母は、ドアに抱きつくみたいな焦げ付きになっていた。
|
| ……なのに、自分だけが息がある。
|
|
|「それが一番良かろうよ。この素晴らしき地獄を終わらせたいよな。分かる。分かるが、ダメだ」
|
|
| ニヤニヤ笑いを浮かべて、その男は肩をすくめた。
| じゃあどうでもよかった。
|
| 死んだ家族。
| 生き残った自分。
|
| すぐに、後を追うことになる自分。
| どうでもよかった。
|
|「なら、生きろ。死ぬために生きろ。
| いつか世界を救うために死ね。それがお前の運命である」
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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| そう言ってくれた男は、いなくなった。
|
| この日本に少年を連れてきて、日本語を突貫で覚えさせた男。
| 脳噛ネウロ。偽造戸籍によると叔父。
|
| 少年。
| 戦火のアトリームで拾われた名もなき兵士。
|
| 運命の奴隷として、《ブギーポップ》の媒介として戦い、散ったはずの少年。
|
|「……なーんで、生き残っちまったのかなぁ」
|
| 堕天使レミエルとの闘いこそが彼の運命。
| 世界を救うための死のタイミングだと思っていた。
|
| 彼に巣食った《世界防衛システム》である《ブギーポップ》は、自動的で何の説明もしてはくれなかった。
| ただ、世界の敵を処刑する、不可視の刃の死神。
|
| レミエルの夢を見ながら、少年はこのままどうなるかを容易く想像できた。
| 正しいと思い込んだ者たちが、自分より弱いものを叩き殺していく。
|
| 正義は人間をとことんまで醜く、残酷にしてくれる。
| この町が廃墟になるまで終わらない狂気。故郷アトリームの再上映。
|
| それを防いで、家族ではない、同郷ではない誰かを救って。
| 自分自身も救われた気分になって死ぬ。
|
| ……はずだったのに。
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V∧ /∧ .ｨf´ { √| /￣
: V∧ /∧ 〈 ＼ :, | |,/
: : V∧ /∧ 、Ｌ. ′ | i′
: : : V∧ /∧ ＼ `､ ,
: : : : V∧ /∧ ､ `、 '，
: : : : : V∧ ／＼ ./∧ ＼ `､ `、 ＿ ＿_､
: : : : : : V∧:＼ 、 、 `、 ∨ｿ ;/´ ￣￣
: : : : : : : V∧ : ＼ ＼. `、 jＬ___ノ⌒¨´
: : : : : : : : V∧ : : `､ ＼ 、 ／´
: : : : : : : : : V∧: : : ∨/ 丶､ ／ 『チクショウ』
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: : : : : : : : : :| : :|i: : : : :∨/
: : : : : : : : : :| : :|i: : : : : : ,
: : : : : : : : : :| : :|i: : : : : : }
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| 死に損なった。死に損なった。
| 世界を本当に救った実感もなく、死神には先立たれ。
|
| 少年は孤独。
| 今は亡いアトリームの言葉で罵倒しながら夜の街を歩く。
|
| 脳噛はかなり前にいなくなった。
| だが、家はある。偽装戸籍の上では姉ということになっている女と二人暮らしだ。
|
| とはいってもお互い不干渉で、どこで野垂れ死んでも興味もなかろう。
| 長門という苗字も結局馴染まない。けれど本名は捨ててしまった。
|
|『悪い』
|「……？」
|
| 一人の、背の低い男と肩がぶつかった。亜麻色のざんばら髪に、マフラーで口を隠した男。
| 思わず故郷の言葉で詫びを入れると、そいつは驚いたように顔を上げた。
|
|『同郷かい？』
|「！？」
|
| 突然のクルド語に、少年は飛び上がらんばかりに驚いた。
| 懐かしいアトリーム訛り。まさか。驚きを隠せない。
|
|『あなたもアトリーム人ですか？』
|『マジかよ、初めて見た』
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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＿＿
,: : : ´￣￣´
／: : : : : ; ´
／: : : : : :／
ー- /: : : : : :／ -―― ミ
＞ 、__{: : : : : :/´: : : : : : : ー: : ミ: 、
／: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :＼ : ＼
/; :-― ／: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :＼: :＼
／: : : : ／: : : ／⌒ヽ: : : : : :「ヽ: : : : ヾ、: : : :ヽ : ）
／: ／ : : : / ＼: : : :{ ＼: : : : :ヾ＼ : :∨
. （ /: : ; イ/ ＼: :_」 「三 : : : ∨∧ヾ:
/: : / //{ ｀Π ´￣了 「 }三」ーュ:Y、ヾry、
/: : / //ハ じ 心′｝ニ≠、三ニ ｀Yヽ
!: :/ {/人八‐======＝ニス/ マ 「 ヾ三ニ、 ｀Y)
{:/ V ＞＜三三＞ァ´ヽ ｀~ヽ V三７ァソ
＼ ＞´ ＞≠’ ノ ー-- ゝへ７⌒´
ァ￣ ｒ ´ イ三ニ=-＿-=ニ三T
⌒了/ .＜三三＞ ´ ｀ヾ三ニ
＜ ＞＝ ´ ＼]
, ＜＞´
, ＜＞´
＜_／
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| よく見ると、彼もまだ子供だった。
| 委員長も未成年だが、彼はそれより年下に見える。
|
| 夜の繁華街をうろつくには、お互いまだ早い年齢。
|
|『ちょっと飯でもどうだ？ なじみの店があるんだ』
|
| 彼は懐かしい郷土料理の名前を出した。
| アトリーム料理ではないが、近隣国の民族料理店。
|
| 少年の腹が鳴った。男がカラッと笑う。
|
|『オレはジャジャマル』
|『……長門っす』
|
| ジャジャマル。本名ではなかろう。
| だから長門も今現在の名前で答えた。
|
| 二人は道すがら、お互いのことを話した。
| 誠に拾われた長門のように、ジャジャマルも合衆国軍人に拾われたのだという。
|
| 軍人の息子の遊び相手として、幼なじみの様に育てられた。
| その軍人は厳しかったが、同時にとても優しかった。
|
| 今は軍人が日本の基地勤務になっているので、家族として同行しているらしい。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
|三三三三三三三三三三三＿7 /〈 〈＿_ ./ /７｜./ ∧＼ ./ /＿_〈 〈＿_ / ∧＼ 〈〈 / / 〈〈.∧∨,/三三三三三三三三三
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}}/////心、 _,,,_ ノノ /
∥ ｲ//// }ﾄ､ '＾ ､′
{/ j////,'八 ＼ …‐- .,_ ､｀
{/// /: : : . ｀､ ｀ヽ ､`
//, ′:;;:. :}h、｀、 ｀ ｰ ､`
. √Ξﾆ‐ .;_: :＼ ＼ ／
. /ニニニニニﾆ‐ )h､＼ _､‐゛ 『じゃあ、なんでこんな時間にこんなところに？』
_,.心ニニニニニニﾆﾆ‐)h｡,_ _､‐゛
_,,,.､rｾだニニニニニニニニニニニニア゛
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
|『バカティムが……あ、例の幼なじみな。そいつが行方不明でさあ』
|『え』
|
| 笑えない冗談……ではなく、いたって真面目にジャジャマルは言ってのけた。
| 困惑する長門をよそに、ジャジャマルは両手を頭の後ろで組んでヒヒヒと笑う。
|
|『心配はしてないんだよ。アイツに限ってもしもはない』
|
| その信頼はまるで妄信で。
| 友人すら失ったばかりの少年にはまぶしく、同時に痛々しい。
|
|『実はここだけの話、オレもティムも特殊部隊の……待て』
|
| 不意にジャジャマルが、遠くの音に耳をそばだてるかのように顎を上げた。
| 委員長の耳には何も聞こえない。
|
| 脳噛に鍛えられて、町のケンカ自慢程度には負けない自信のある委員長だが。
| その彼をもってして反応できないほど洗練された素早さで、ジャジャマルは突如走り出した。
|
|『悪い、またな！』
|『え、待てよ！』
|
| 思わず追いかける長門。
| 早い、まるで忍者だ。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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::::::::::::::::::: :::: | | ／／ | ::| |:|;;;:::::::::::::::::::::::::::: ::::: :::::::;;;;
::::::::::::::: :::::::::: | ￣￣￣￣ ﾞ| |:| ::: :::::::::::::::::::::::::: :::::
::::::::::::::: :::::::::: | ＿＿＿＿＿＿＿|＼|:| :::: :::::::::::::::::::::::::::::::::::::
::::::::::::::::::: :::: | | ::::: :::::::::::::::::::::::::::::::::::::: ティム！
:::::::: ::::::::::::: | | ::: ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
:::::::::::: ::::::::::: | | :::: :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
;;;:;;:::::::::: :::::::／::::::::: ＼::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::;;;;;
;;;;;:;;;;::::::::...／;;;;;::::::::::::::::: ＼:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::;;;;;;;;;
;;;;;;;:::: : ／;;;;;;;;;;::;;:::::::::::::::::::::::::: ＼:::::::::::::::::::::::::::::::;;;;;;;;;;;
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;;;:／;;;;;:::;;;;:::;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;::::::::;;;;;;;;;;;;::::::::::::::::: ＼:::::::::::;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
..／;;;;;;;;:::;;;;;:::;;;;;;;;:::::::::;;;;;;;;;;;;;::::::::;;;;;;;;;;;;;;;:::::::::::::::::::::::::::: ＼:;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| 路地裏に駆け込んだジャジャマルは、ゴミ袋に寝転んだ男を見て舌を打った。
| 目当ての人物ではなかったらしい。
|
| ……心配していないと言っていたが、口だけのようだ。
|
|『何だよ、酔っ払いか』
|『足、速いな』
|『ん、付いてこれたのかよ。長門もスゲーな！』
|
| 倒れた男にジャジャマルは興味がないようだった。
| 酔っ払いか、ケンカか。なんにせよ関わっても碌なことがない。
|
| 見ず知らずの他人に気を使う余裕はない。
| 二人して大通りに戻ろうとした時である。
|
|『……アトリーム訛り？ 幻聴か……？』
|
| 倒れていた男が、呻きながら頭を上げた。
|
| 悪臭の染みついた服、何日もシャワーを浴びていない垢じみた頭。
| 不潔なヒゲが顔を覆い、目の周りには青あざがある
|
|『……アンタも？』
|『オレはアトリームの防衛隊員だった……名前は知っているだろう？』
|
| ジャジャマルも、長門もテレビは見ていた。
| 指名手配を受けている『品川大聖堂テロ事件』の犯人の、写真も名前も知っていた。
|
| アトリーム国籍のテロリスト……ミスト・レックス！
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|三三三三三三三三三三三＿7 /〈 〈＿_ ./ /７｜./ ∧＼ ./ /＿_〈 〈＿_ / ∧＼ 〈〈 / / 〈〈.∧∨,/三三三三三三三三三
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￤
＼、__ﾄ.、
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／:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:｀ヽ）:.:.:i:.ﾚｰ-
. _＿,.､＜:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ノヽ:.:.:ノ:.:.:⌒ヽ､
＞〃:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.:ﾍVｲ:.:ﾍ:.:｀ヽ:.:.＼
／イ:./:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|ヾｲ.:.:.:.:.:ヾ:.ヽ:＼ゝ
／ 〃:.〃:.:.:.: /:.:./:.:/:.i!:.:|:.! ∨:.:.:.:}:.:.:ﾍj
/:.:./.:.:/:./:.:イj:.ﾘ:.八:.リ j:i:.:.:.:.:ﾄ:.ヾヽ
!／:.:イ:./≠x､lハｊ _,,ﾘ≠￢ｲ:j.:.:i:.:ハヽ＼_
ノﾚ´ﾑ:ｲ∧ィ＝ｭ} ｨ＝zﾉｲ:.:.:ﾘ }｝ｿヾ アトリームの防衛隊舎にもありませんでしたよ。
|:.∧ﾊ j ／イ:.:./ソ:/ こんな豪勢で広々としたお風呂はね！
ﾚ' ﾘ八 <、 /ｲ/ﾊ:.:/
ﾄ､:ﾍ ､_ ＿ , /ｲ |｀ヾヽ
／ﾘ;;;;＼ - ′ !;;;;ｿ;｝}
///／;;;;;;;ﾍ..___..／ / レｸ:ﾉ.:|
_..,,,,,///´;;;;;;;;;;;;;ﾉ! / ／::／ ..:j＞,､_
_.,､＜://:::{:{:{;;;;;;;;;／´ j { / ／::／ /ト.,､＜⌒＞,､_
:::::::::://＞｛ii{;;;;;;/ / ｛;;;;;{ ／ / {::::::::::...,､:＜⌒＞:.､_
:::::::::{｛ 〃∧ヽソー-- 、 __人__{;;;;{ ｲ ｛::::／´::::::::::::::::::::::::::::｀ヽ
::::::::::::｝ ____,,ゞ:::::＞､,,_____,,,､ｒ=＝」k;;j_ ノ ﾉ/:::::::::::::::::::::::::＞"⌒ヽ:j
∨::::://O / /:::::::l:.:.:{:::}{:::}:::::::/:.:/⌒/ｰ-､ ノﾉ:::::::γ⌒ー"´ }｝
j::〆K / /:::::::::l:.:.:.:｀7´::::::/:.:/ / O ∨ｲ::::::::::ノ ;j
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|「喜んで頂けて光栄です。ね、咲夜」
|「そうですねお嬢様」
|
| マーガレット・バートンと十六夜咲夜の主従。
| 彼女らもアトリームからの亡命者である。
|
| 二人は委員長の同級生で、しかし面識はあっても親しい仲ではない。
|
|「面識はあっても親しくもない女二人暮らしの家に、よくもまあ真夜中に男所帯で厄介ごとを持ち込んでくださいましたね」
|
| 激おこの咲夜に、長門は頭を掻いた。
|
|「俺のところは姉がいるから……」
|「オレは合衆国軍だから、マジなら通報しなきゃならねーんだよ」
|
| 対してバートン家は広い西洋屋敷を二人暮らし。
| ゲストルームも複数空いているのだ。
|
| 同郷のよしみというか、三人も集まったからついでにこの二人にも会いたくなったというか。
| 長門の考えは咲夜には通用しないようだが、マーガレットはいつも通りの鷹揚さで頷く。
|
|「少し時間が遅いですが、明日は土曜日ですしこのままお泊り会にしませんか？
| 咲夜、お夜食の用意ができる？ あと、三人のお着替えも」
|「すぐに用意いたします」
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
|三三三三三三三三三三三＿7 /〈 〈＿_ ./ /７｜./ ∧＼ ./ /＿_〈 〈＿_ / ∧＼ 〈〈 / / 〈〈.∧∨,/三三三三三三三三三
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__, -－―ｒー-､_
_/´ ´ （ 7´｀ヽ
r ´ { _ ゝ-＜ ￣ `－､ﾉ ￣ヽ
／ヽ ／ ／ i ￣ 丶 ｀ヽ ／ 〉
>､／／ / / ＼ ＼ ＼ ＼ ´｀ヽ
＞'／ / // i ＼ ＼ ヽ ヽ 〉
ｰ＝彡 / ／/ ,ｲ i ＼ ＼ ＼ ヽ ヽ lヽ
/ / / /l / ! | ﾄ､ ヽ ヽ __ヽlヽ ∨ !
. / / / －- L_ | ﾄ､ ! ＼ヽ斗 千､ヽ ! ＼ヽ ヽ
/ ／! /| ∧r=ｬミ､! ヾ! `yィテ示７ヽヽ ＼ ヽゝ
／ |/ ヽ ! ! ゞﾆ> ゞ- ' { ヽ 〉 ＼ ゝ お嬢様の優しさに頭を垂れて感涙にむせびなさい。
/ヽ! ∧ , ∧ / ,.イ ＼＼ さもなくば出て行け。
／ィ ∧ _ ゝ､ __ ,.ｲ 〉´ 〉 ￣
ﾚ〈／ ,.ｲ__＞- ＿ ,.イ 〉 ! ／/ _
＿_ 〈 |／/∧ ノ::::〈_,.イ ヾﾚ',.イ´::
} ヽ/｀X_,.イ__::ﾍ ／::::r- ∠ 〉､ﾉ ノ::::::::
ノ ＿>､ ゝ _／ /::/ 〈:::::::∧ Y /-イ:::::::::
￣ / /｀ｰ<＿_/::〈＿__!／ 〈＿,.ｨ `ｰイ´￣`７
ｲ／ /::::::::::::::::::::::::￣＼ ／`7ｰｒ'､ ／
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￣ |／ /|/
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| 一礼して下がる咲夜。
| ミストは髭剃りも使い、さっぱりした様子だ。食事も頂く気満々に見える。
|
|「さて、お邪魔虫もいなくなったところで、委員長」
|
| マーガレットが暗黒を秘めた瞳を長門に向けた。
| 彼女もまた、アトリームの内戦で家族を失った。その闇を抱えているのだ。
|
|「咲夜と球磨川さんが最近どうなのか探ってください」
|「どうって、お前……」
|
| それは、有無を言わせぬ命令であった。
| 十六夜咲夜。『破滅願望者』であり、『滅ぼす者』《私でない月の私》の発現者。
|
| 夢世界における闘いの中で彼女は、同じく『破滅願望者』の球磨川禊と心を通わせた。
| ……と、マーガレットは睨んでおり、同い年の従者の恋の行方に目を輝かせているのである。
|
|「……俺、最近学校行ってな「探ってください」
|「はい」
|
| マーガレットは満足そうにうなずくと、底なしの奈落を内包する瞳をジャジャマルに、そしてミストに向けた。
| 瞠目するジャジャマル。痛ましいものを見る目付きのミスト。
|
|「アンタ、ホントにただのお嬢さんかよ」
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,.-ﾆ二.._` ､
／ ヽ.ヽ
ｌ l
_,. -──- ､_ l !
, ' ´ _,.. --- ｀ヽ､ﾘ ＿__
／ _,. _,. -‐ 二ー＜´=-- ､｀`ヽ､
, ／ ／ ／ ,. ' ´ ヽ ＼ ヽ､ ヽ
{i ／ / / ／ ／ ／ / }i ヽ ＼ﾞ .
ヽ`ー' / / / ,/ ／ィ´_,.／ i ﾘ i ハ ヽi
_＞ｰ一' ,ィi 〃 ／/ _イ /／,ｲ _/｝ﾊ i ', i}
_ヲ⌒_,ィ二-! //l / 7/_/￣/ﾞ`ﾒ _／//ﾘ ｌ } ! i ﾉ
/ / ,.V,ハ! l/ ,イこ丁ヽ{r '´ _／/_j ! / ｌｌ }
∠ﾆ-‐ァ { ! ハ! { じﾘ .._ / ﾒ／ /!,ﾘ
＜_,.- ＼ヽ_〉 ` ー‐ ' ,rｿ}イ, ／/./
/⌒_,. ク ､__ i 〈ｿ /ィ _／／
_,..ﾚこん∠ ／_ﾑ ヽ. j‐ '´ ´ ええ。ただのお嬢さんですよ。
,ｲ､ 丁⌒ｰテ1/ ヽ ` ｰ- / あなたと同じで。
,クﾍこ､ヽソ,メイ ＼ ,ィ⌒ﾆ=-'
V^ヽニｭ￣ _ノ､_ ,r1 ` ､ ／ jへ／
＼{ こ,｝-_/＞ｰ｀ｿ ト ､_ /7ーrｧ´ /‐-}
ヽ_（ ｝三二,ノ 下弌/丁ﾕ___/､｀Yﾘ
／７┴＝- ' ＼ l ト､ﾚ⌒)_j,ﾉん'
／ ／ ＼ ＼／＼ﾍヽ､＼こつ´
. ／ ／ ＼ ＼ ヽ ＼ヽ. ＼ｰ- ､._
. ／ / ヽ､＿_,ｨ ＼ ＼ ヽ＜.___ ｀` ｰ-
／ / ＿ ／ ヽ. ヽ ヽ. |
_,.-‐二￣ ＼ ＼ ＼ ヽ. l
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| 黙り込むジャジャマル。
| 彼は合衆国特殊部隊の訓練を受けたアメリカン・ニンジャである。
|
| 常人の三倍のニンジャ運動能力を持っている。
| ……が、マーガレット・バートンはそれを大いに上回るルール無用の超人であった。
|
| 彼女はアトリーム陥落の日、屋敷に侵入した特殊部隊員１ダースを殲滅した。
| 『無敵の兵士マドラックス』という別人格を現在は統合済み。実力には大きな差があった。
|
|「可愛いパジャマを着て、甘いお菓子を食べて、歯磨きしないで寝ましょう。
| 何があったのかお互い話して、何をしたいのかお互い話して」
|
|「……そりゃダメだぜ。オレにゃ守秘義務がある」
|「俺もできませんね。言えないことのほうが多いですから」
|
| 首を振るジャジャマルとミスト。マーガレットは小首を傾げる。
|
|「なぜ？」
|「偉大なアトリームの防衛隊員であった俺がテロリストに落ちぶれるはずがないじゃないですか。
| 当然のことながら裏があり、話したら命を狙われる可能性があります」
|
| アトリームへの憧憬とプライドを忘れないミストの発言に、ジャジャマルと長門の冷えた視線が突き刺さる。
| いかにもテロリストっぽい、口にせずとも想いは通じた。
|
|「私の屋敷を襲ったのは政府側と抵抗勢力の両方です」
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,.-､
／ ﾉ
_,. ---- ､ 〃
_,.-'"´￣￣｀ヽ.ヽ、 //
／ ＿＿_ ｀ヽヽ__i i
,.ィ´-─ ｀ﾆこ.ヽ.l l ≧ｰ ､._
／,. ,. ,. -─ ＞ i､il ー- ｀ヽ.
/ィ ／ ／ , '´ 'ｿヽ┬､_ ＼
/ /./ ／ ／ ／ ／/ i ヽ ヽ
. {. |/ / ／/〃 ／ / i ' ハ
|! .i //,ｲｌ / _,.ィ ,.ｨ / i ! i i
{ /! / 「¨!ト/_,.／/ !/! ﾘ i |
ヾ ヽﾊ }ｒ''ﾃﾐ ｀`iト.l､ /! i ﾊ
__,.V {:iﾘ ｰﾐ､! iメ/}i i i ヽ._
>.! ｀¨′ /.ﾘﾊ // / /_ ＿,シ´
ム{ ｒ' ､{:.iソｨ// /_/ｒ_ヽ ヽ､__,ノ
ハ. ､_ ｀¨∠=‐ンj ヽ ﾘ ___戈､
ヽ ､__, ニィ从戈
_,._-,.-,-ヽ _,.∠7 ムﾊﾉ__ 要職にありながら抵抗勢力に情報を流していた父は、
∠!ｧ-‐-‐'ｰ'^ ー-- ､ _,.- '7ﾊｿ ,ｲ＿｀ヽ. スパイとして政府に狙われ、
___,.ｲヽ/ _ _,. -=孑ｰ--{ｲ〈ー┴-､fヽL} 口封じに抵抗勢力にも狙われました。
,＞__,.ノ ,/ }ﾍ､_/-一'ｰ ､_ VﾄL.二__,.ｨｿ_ｿ
´￣ r=--t-ﾑ_,/ ヽ ゝ_ニｧ ﾆ,=fﾞ
| | _}/ ｌ ￣￣´ |
| | /7 i !
. ,| l /!j i , l
. ,ｲ.| | / j , ! /' l
/ i|_ｲ {ﾘ / / / ,'
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|「家族同然の人たちは咲夜を除いて全員死にました。
| 屋敷を襲った男たちの慰みものにされたり、切り刻まれたり。
|
| 同僚を殺せば。母親を犯せば。娘を差し出せば。
| そんな甘言に乗って悪鬼の所業を演じる者もありましたが、暴漢が約束を守ると思いますか？」
|
| 瞳の奥の暗黒の深部からどす黒い怪物が鎌首をもたげる。
| ここにいる三人は、三人とも知っている。
|
| そんな地獄を知っている。
|
|「私の父は政府の防衛隊員に、娘の死体を犯せば許してやると脅されました」
|「……俺は違います」
|「そういう防衛隊員が居たのですから、テロリストになる防衛隊員が居てもおかしくはありませんでしょう？」
|
| ぐうの音も出ない。ミストは唇を噛んで足元を見つめた。
| マーガレットも、咲夜も、長門もジャジャマルも当時は子供だった。
|
| 奪われる、あるいは操られるばかりの立場だった。
| であるなら、同窓会も楽しかろう。傷のなめ合いはさも楽しかろうよ。
|
| マーガレットの潜む虚無がそう囁く。
|
| しかし、当時から大人だった。
| 殺して奪う側だったかもしれない者を、どうすれば信用できる？
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､
-ミ＼:≧-: ､ヾ.|
,. . : :≦: :`:.ヽ: ＼ : ﾉ!彡￣ミ: . .、
＿＿/: : : : : : ／: : : : : У: :彡: : : ミ:､ヾ
＞: : : : : : :._: : -:ミ: : : : : ／: : : : : :.ヾ＼
／7': : ／: : : : : /: : : : }: : :/: : : _: : : : 八::ヾ
＿ 彡': :／: : /: : : :/: :/:/从:.:/r‐:.': :.ﾊ: : : : : ::.
〃:／ : 彡': : : : ,: :.从iゞゞヾ:.i:|: : : : : ＼: : ::≧=-
-=≦: :／:ﾉ: :.:.:ｨ:i: :,|:! ﾉ|!: : : : ヾ:.､≧ー::.
_|:/ 彡:.ｧ‐ミ＜!从 i.!:! __'__! :.!: : : :ﾊ: :≧ー: :＼
|ﾊ:///: :i:.弋弐 Nヾ=ｧ示≦､厂｢: : 小:.､: : :､: ＼ヾ
{ { i/ !从:! / `ヾ'-イ//!: :.j !ヽ.:＼: :＞-ヽ
| { 八 ､' ／'〃/,.:.:./ﾘ} !: :∠ 当時のアトリームは、
!ﾄ ヽ ノ' /:ｲ':/.ノ彡 ⌒ ある軍事産業組織による実験場でした。
_|i.‐ヽゝ=- ノ' ノ- ゞ'' !ミ. 、
,x≦ニニハ ≠ .|=j. ＼ そして今、その組織は東京に目をつけています。
__i彡≦＞≦ﾆ≧z r≦ 〃 .ﾉ=:! 弋≧.､-､
Yﾆ/三三三三三={. // ,;仁/ ヽi |!
.ﾉ|ﾆ{!:三三三≫ ´.:iヾ , / ,,仁ｼ ! ! !/
／ fiⅦ!三:≫ ´ ﾉ .// ,.ｲ=.／ / :/ ,x≦
.. i .f==〈/:.:i ヽ､ / ../ ,,:仁／ , ../,:仁二
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|「……」
|
| ジャジャマルが、室内でも外さないマフラーを鼻まで上げた。
| 余計なことを喋らないように。
|
|「俺はそいつらと戦っていました……しかし、誓って品川の話は知りません。新宿の大水と停電は俺です」
|「やっぱテロリストじゃないスか」
|
| 委員長の呟き。
| 小声のそれをだれの耳も聞き逃さなかったが、三人とも黙殺した。
|
|「東京を戦場にしようとしている輩がいるんですか」
|「……」
|
| マフラーの上から口を押えるジャジャマル。
| 言えない。言えない。言ってはいけない。
|
| 彼の上司ヤーボ大佐と、彼の愛しきティムが。
| トールマン兄の腹心として『もう少しマシな戦争をしよう』と企んでいるだなんて。
|
| ミストの言う軍事産業組織とは『教会』と合衆国そのもので。
| パプテマス・シロッコの先導で今まさに戦端は開かれようとしているだなんて。
|
|「そりゃ、ノストラダムスの何とかとは関係がない？」
|「ノストラ……？」
|
| 数年前まで内戦地域にいた人間が知っているようなサブカルチャーではない。
| 顔を見合わせる一同に、長門は謝り話を促した。
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,. ‐ _..二i二.._｀ 丶､
／ ,. '´ ==（__）、
/ ／ , -- ､ +', ﾊ
/ / ／ ヽ/７ ',
|/ / __ ヽ l
|....:.:.:.:,:.:―/ ､ ' ｀` | :!
|:.:.:,､:.:.:,ヘl | ﾄ :.|
. Y:_! ト′＿ ｨ=＝ュ| | l::| てゆーか、異路同帰？
|:l l: l z''⌒｀ﾞ l !:':.|
|:.`ｌ: ｌ , , ' _ ' ' /.l:,:/
l:.:.:.', ヽ、 ｢ | ／:./ ′
V|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣ |
_| 異路同帰. |__
,ィ､ | |_ ｀i
', /｀丶、異なった方法でも／ ,.＼|
〉 l 'ヽヽj 同じ結果になる L／ __ lヽ、
/ | ､丶! └ '´_ l |
＼/| 丶ﾆ' 道筋は違っても ｀´T / 〈
/∧.| 行き着く先は同じこと |-/ ヽ ヽ
この無関係なAAはアンゴル・モア（ケロロ軍曹）
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| もちろん関係がある！！
|
| 委員長が不人気から要請された終末論も、トールマン兄の戦争傾倒増幅も、
| どちらも堕天使レミエルの破滅の預言に触発されていた。
| 異能の無い人々も終末論に傾倒し、トールマン兄は率先して黄色い日本ぶっ潰せと言い出している。
|
| ……元よりトールマン兄はレイシストであり、世界の地図から消しちまえとか思っていたのだが。
| あからさまに隠さなくなったし、東京を焦土化することを崇高な任務の様に夢見ていた。
|
| のだが、ジャジャマルはトールマン兄と会えるほど地位があるわけではないし。
| その夜は作戦行動中でレミエルの夢も見ていない。
|
| ミストも、マーガレットも、咲夜も。同様にレミエルの汚染を免れていた。
| そういう意味では委員長だけはあの破滅の預言を聞いているのだが。
|
| 《ブギーポップ》として破滅思想の伝播を防ぐ役割を負っていたために彼も無事だった。
|
| しかし堕天使レミエルに思想汚染された者たちはもう止まるまい。
| シロッコとて、あの晩までは深く静かに行動していたのだ。
|
| あの夢を見るまでは。
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__>､ {廴ノ￣＼ ＿ ｀丶
r'⌒＼ ＼,.. --ミ ⌒} } 〉 ＼＼＿＿
く＼ ／ ＼ﾉ /〈＿ ｰ─''⌒
. >─ ´ ｀ ＜_ノ ',
′ ＼ ⌒＿＿ i
. |│ :/ ＼__ ｰ=ニ＿＿ ／ |i
. ﾉ│ :l ´| ＼ﾄ---┬┬=彡 八
. ／|│ 八 :| ,ｨ笊ﾃ││り | :|
八{ヽ(＼{＼| Ｖﾂ /∨｀＼ ,｝ l{ ハ|
. ノ ） ' ' '厶ｲ } ﾉ／＼八{ それで、東京は危険だとでも言うのですか？
／ / ｀丶 。 {ノ ／ r‐┐＿
{／ / ／ _＞-イ{_く_,／ﾉ⌒´＼(
{／{／ ／}こ{_｝く／ } 〈＾｝
ノ{／｛_>{}<_｝_丿 ∨
{>{}<}::／::/ ∨ } ＼
{ノ:::::|::::::{i }_ノ 〉
/:::/::::|__/::＼( く(＿_,. -┬‐ ′
. {::::{::::::::::::::::::::::::＼_l |O |
. ＿ ＼＼:::::::::::::::::::::::/|__|＿＿| ＿＿
{ { ｛__ |:::::::::::::::::::::::::/ | |-─‐- ／ ／´
. ＿＿ノノ ＼＼|_,. -──〈／_｣ | 〉＿＿＿ ／ /
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／ __{о /─- ._＿＿＿___ﾉ /＿ / ／ ′
く／/ / / ）__／ ___／}──＼ -=ニ 〉⌒ /／ ／ {
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| 咲夜がワゴンに乗ったアフタヌーンティーセットを押しつつドアを開けた。
| バターの香りが食欲をそそる。
|
| 深夜帯に、バターとお砂糖がたっぷりのスコーン。
| カラフルなアイスクリームに、各種ジャム。
|
| クッキー、クラッカー、チーズが数種類。
| 薫り高い紅茶の芳香が部屋に凝った暗い空気を吹き飛ばす。
|
| 嗅覚への飯テロである！
| マーガレットはお夜食と言っていたが、これは夜食に含まれるのか判断付けがたい。
|
|「我が家には未成年しかおりませんので、アルコールはございません」
|「ああ、アルコールは強敵でしたね」
|
| 若く健全な男女の集まりでアルコールなんて入れたら碌なことにはなりゃしない。
| そもそも改造人間であるミストがアルコールに耐性を持つので、この場で酒が欲しい人間はいないのだが。
|
|「でもそんな事どうでもいいんだ。それは重要なことじゃない。
| あなたの言う通り、この東京が戦場になろうとしています……だから」
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/ ／/:/.::/.::i:::.:.:.:.:!:.!:.:.:.:.ヽ:.:.:.:ヽ
／.::/:/.::/.:.:::|::::.:.:.:.!:.|:::.:.:.:.:i:.:.:.:.:.:',
//.::::!.:l.::::l:.:.〃!::::.:.:.:!:.!|i',::.:.:.!::.:.:',:.:.',
i:.|:::::::!::|.:::|.:/--',:::.:.:./!-|ﾄ',:.:.!､!:.:.|:.:.!!
l::l!::::::|::!ﾒ/ﾘr=､､ヽノ ' ,=r=ｧ､!|:.:i:.:.ﾘ
ヾヽ:::::!V´ト'::: } ト'::: }ｿｲ:.:/
/:iヽヽ ヾ＝' :! ヾ＝' /イヽ
／::::!/ ',｀ /､i:.:.:＼_
´ｰｧ::::ヽ､ ', ‐‐ /シ.:.:.:.＜
７::::::::::7 ヽ /´!:::::::く´ でも、逃げては根本的な解決になりませんよね？
!／'ｲ::i⌒!`i ､ ,.イ´!´|::_く´
'〈:;:､〉ｨ| ｀` - '´ |ﾘ〈,:､〉
/.:〈 ﾉ! ﾄ､〈:､〉
, ----〉;.:Y'´ 'ヽ〈;､〉..＿
／:::::::::::::::ヽ.:.ヽ ､__ __ 〈.:.:〉:::::::::｀丶､
/:::::::::::::::::,. -‐ ﾆ二ヽ｀` '´ ,rﾆ=_-- ､::::::::::::::::ヽ
/::::_,. -‐ '´ ー‐ ｀ヽ､--／, -― ｀ ｀` ｰ- ､::｀!
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| ミストは、自分の得意とする言葉を奪われて愕然とした。
| まさにその通りだ。何の解決にもなりはしまい。
|
| だが……ミストは自分の掌を見つめた。
|
|「すでに俺なんて二連敗なんですよ。アトリームを失い。その後も支えてくれたものも」
|
| レヴリアス。ミストと精神感応する自走戦車。
| 制御に、彼の恋人の脳髄を利用した義脳兵器。
|
| 長門も己の掌を見る。刀身の無い剣、彼の中にいた《ブギーポップ》。
| ジャジャマルは居心地悪そうにそっぽを向いた。ティム。ティム。どこにいるんだろう。
|
| そして咲夜はまっすぐにマーガレットを見た。
| マーガレットは底なしの縦穴を収めた眼球を虚空へ向ける。
|
|「二度目の喪失という訳ですね……そして、私たちにはそうなってほしくない、と」
|「……できるだけ早く、身の回りを片付けてどこかに引っ越してください」
|
| レミエルが滅びの預言を告げたのは東京のみ。
| 東京から離れれば、破滅を免れようという判断は正しい。
|
|「お断りします」
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＼ｰ---＜´:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.´:.:.:.:.:.:.:｀ヽ
､ミ≧:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ヾ:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:＼__
｀＞:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./iﾍ:.:.:.:.:.:.:.ヾ:.:.ヽｰ-
／イ:.:.〃:.:.:.:.:.:.:.:〃.:.: jヾﾒ|:.:.:.:.:.:.:.:.:ヾ:.:ヽ､_
/´ /:.:/:/:.:.:/:.:.:.:ｲ:.:.:.:.i{ |:.!:.:.:.:.ﾘ:.:.:.:.:.:ミ─"￣
／:.:/:. !:.:.:{!:.:.:.:ハ.i:.:.ハ_ノﾘ;!;.:.:.:.ﾄミヾ:.ゝ:.＞ こんなにも同じアトリーム人の間で
__／_,.イﾘ:.: !:.:.八:.:.:{ ﾘル≦,,_ l:.:.:.:.:!ヾ｝:.:.ﾉ;;;;}ヾｰ-- 意識の差があるとは思ってもみませんでした……！
i;ﾊ:.:.ﾄ:.{ヾｾﾒ;ゝ`彳ゼｿ jﾘ:.:.ﾘ） ﾉ､:.:{;;;;/ ∨ /
￤ ∨ﾊ:ﾍ / "´ /ハｊ:ﾚ′ /;;/ } {
ヾj:l八 ヽ /ﾘ′ /;;/ 7 ﾊ{
,ｲ:::::::|/::ゝ くて⌒ヽ ｛;;;{ / / ∨
ノヽ!:::::::::{:::::ﾉ::ヽ｀＝‐´ ／ ｛;;｛ /
人 ヾ;::::ヾ::{ ｛;{;;｀ヽ__イ｀ヽ,..__ ヽﾍ /
{｛トヽ ｀ヾ;ヾj└ヽヾ;;;;;;;ト.､___ ＿ ____};｝ノ
ｿ:八 ｀ヽ二＝ﾍ､ ｀＞､,,{::::::::::{:::i:::}´ヾゝ=＝＝､、
/ ::{ ｀ヽ _＿｀ヾj、 { o￢､::::::::::`ヾ´::::∨ O 〉〉
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| 呻くミスト。
| だが、その言葉は正確ではない。
|
| 意識の差があるのはアトリーム人の間だからではない。
| 大人と子供の差であった。
|
|「失ってからじゃあもう遅いんですよッ」
|「もう失わないために武器を取るという選択肢はないのですか？」
|
| 危険であった。
| 国際指名手配のテロリストに対し、武器を取り闘えと教唆する少女。
|
| その目に沈む暗黒の迷路には出口なし。
|
|「闘わないで逃げた先で、また危険が来たら逃げろと言うのですか？」
|「それは詭弁だ。根本的な解決じゃない。一度闘ったら、手を血で濡らしたら……」
|
| ミストの言い草に、四人の子供は顔を見合わせた。
| そして自分の手を見つめ、お互いドッと噴き出した。
|
| そしてミストの何がそんなにかたくなであるのか、ようやく得心行って微笑み合う。
| 逆に理解できずに困惑するミスト。ここでも彼はのけものなのか？
|
| 違う。
|
|「俺たちは、とっくに血で汚れてますぜ」
|「それを、今更」
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., ' {_ イ⌒乙ﾆ、_
／く ＞ ⌒ ー 辷_｀>_
/ ソ´ ／ ｉ ｀V ヽ
}｀フ､/ ′ ｉ/ }i } ', }
ｰ=彡廴 ′ ,' | .ハ | i }__」
/ r={ ｉ }i八 :|i | | j_人_
／. / ヽ j イ＿｀メ､ i ヽ八ﾉ l }ｉ∧
'´⌒7 , | { i弋ぃ. | iｲ-‐=丿i | ∧
.′／{ﾉ 八 | ¨＾ V fで ) } ﾘ＼i ｀
.ｉ ′ }/ i ヽ , 厶イ 八_{ それに私とお嬢様は
j/ | ,ﾉ _|＼ ｰ- _ イ/ .ﾉノ 『再び』失いかけた者でもあります。
j八 / | ｀ﾆj ∨〈.{ ´￣＞:.
〈{八 ノ >､ }〉 ／ i
.ィT/:}〉､ﾆﾆソ/:::;〈}:i .′ |
r＜ |::〈{ }ニ|/:::}ハ::|/ {_
| ､ |::ハ:/ﾆﾆﾑ:::从 ′ i
| ＼ j/ }ﾆﾆニﾑ / |
} |从 j＼ﾆﾆﾆ} { ,斗‐==-､ |
′ {:::j/::::::iﾆﾆﾆ|:::｀}ﾆﾆﾆﾆﾆニY´
/ ヽ ::::::::{ﾆﾆ斗:::::¨i´￣｀Yニｿ
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}ﾆﾆﾆﾆﾆ}V:::::::::::::::}:::::::::| |
⌒iﾆﾆﾆｿ }:::::::::::::::c}::::: | ト､-‐…＜
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|「それで言うなら、オレは今まさに失いそうだぜ」
|「俺は失っちまった」
|
| 咲夜とマーガレットはお互いを失いかけた。
| ジャジャマルはティムという少年を探していて。委員長は《ブギーポップ》を失った。
|
| だが……マーガレットが不思議そうに委員長を見上げた。
| 地獄界の夢を湛えた上目遣いに、少年は怯む。
|
|「え？ 失ったんですか？ 本当に？」
|「……ホントだよ」
|
| たまらず目を逸らす委員長に縋りつき、抱き着くような姿勢で見上げるマーガレット。
| シャンプーの爽やかな匂いに混じって、いがらっぽい体臭が鼻をくすぐる。
|
| 瓦礫と、燃え殻と、硝煙の匂い。
|
|「でも学校の皆さんがいるではありませんか？」
|「え」
|
| 虚を突かれる委員長。
| 刹那、ロラン、上条。そしてやんねえ香や……蘇芳。
|
| 彼らは大切なものではないのか？
| 少年の人生は、《ブギーポップ》と世界を救って死んで終わるだけなのか？
|
|「そういうお前には」
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, :: : ,r.:.T.:.T: : :yﾍ
,: x: :ヽ: :_:_|: :｣: :./ : : >
rく:,>': :.ｨ: : : : : : : : `<:｀〉
{二/: : : ;'＼: :'; : : :: : : :ヽ二}
７: : : :/: : : ＼: : ＼: : : :.{: ｢
/: /: ﾚ: : : : : : :＞:-: ゝ: : : ＼
∠:イ: :/: : : : : : : : ｨ①ﾌ: :|: :ﾊ: :ヽ
ヽk: : : : : : : _:＿_.: :/ ﾚj:;ﾙ;ﾙ1;! それ以上言ったら殺す。
_, ＜ >:「/:＞: `: :}!´:イ: :ﾌ ヽ
, -‐一' ／:.「/: : :f´＼厂 V: : i!ﾌ: :ヽ {
,r' ／: : : : : : f ｀!.: : :.| /介:.､|: : : ﾊヽ::.} ﾊ
／ ／: : : : : : ;r‐ﾍ_ﾉ:.:＞∨}⌒Y{、 ＜: :ﾉ: :V! ＼
/ ム: - : :.rイ l l { | ハ ＼ y': :ﾉ 〉
! γ ｀ | ﾍ ゝ_〉 ー.ぅ | i{ ノ ﾉ: f′ /
｀ ゝ 、＿ ｀＞ｰ′ T ´ .」＿ ノ~_ イﾍ: :!ｨ ,>
￣ _＿＿___Ⅷ: : : : : : : : : : : ﾘ _二 `ｭ': : ::.
f: : : : : : : :入: : : : : : : : : : :ﾑ: : : : : .{: : : :',
{: ＼: : :.:_:_r': : : : : : : : : : :.ヾﾆ: ー:'∧: : :ﾊ
ヽ: : :￣: :「: : : : : : : : :ー-一: :ﾄ､: .〈 ＼: : i
＼: ;／: ヽ: : : : : : : : : : : :.ノ: :＼ﾊ }:.: ,
r‐Y: : : : : : : : : : : : : : :／: : : : : 〉-､ :: {
に:!: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : ;!ｰ〈 |:: |
∧ｲ: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :|ー〈＼: !
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|「私に友達はいませんけれど、咲夜の友達がいますから」
|
| 友達が皆無であることに一切の呵責なくマーガレットは微笑む。
| 逆に主人を慮ったはずの咲夜が怯み、酷い言葉を口にしかけた委員長は顔を背けた。
|
|「私は泣いたり笑ったりできないですけれど、代わりに私の分まで咲夜には幸せになってもらいますし
| 咲夜が悲しむことは私が極力許しません……わかりますか？」
|
| 委員長を逃がすまいと襟首を掴み、マーガレットは人形のように整った顔を長門少年に近づける。
| だが、尋ねた先は委員長ではない、ミストであった。
|
|「俺だって、支えてくれる人が居れば理解くらいできますよ……。
| でも、だからと言ってあんた達の参戦に同意はできません。敵は強大で残酷です」
|「だからと言って何もしなきゃ絶対に勝てやしない」
|
| 口を挟んだのはジャジャマルだった。
| 一歩引いていたはずの彼の言葉に、真意を窺う空気が流れる。
|
|「オレさ、たぶんアンタらの敵だ」
|
| 困ったように、彼は頬を掻いた。
| 東京を滅ぼす側。破壊する側に自分が属しているとジャジャマルは自覚的だった。
|
|「でもさ、なんつーか……それって多分、オレの好きな奴を死なせちゃうんだ」
|
| 殺るだけ殺って死ねたら本望。ティムならそう言うだろうか？
| ジャジャマルはうっすら頬を染めて愛しい人を思い浮かべた。
|
|「アイツは、ティムは死んでもいいとか言いそうだけど」
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,.-ﾆ二.._` ､
／ ヽ.ヽ
ｌ l
_,. -──- ､_ l !
, ' ´ _,.. --- ｀ヽ､ﾘ ＿__
／ _,. _,. -‐ 二ー＜´=-- ､｀`ヽ､
, ／ ／ ／ ,. ' ´ ヽ ＼ ヽ､ ヽ
{i ／ / / ／ ／ ／ / }i ヽ ＼ﾞ .
ヽ`ー' / / / ,/ ／ィ´_,.／ i ﾘ i ハ ヽi
_＞ｰ一' ,ィi 〃 ／/ _イ /／,ｲ _/｝ﾊ i ', i}
_ヲ⌒_,ィ二-! //l / 7/_/￣/ﾞ`ﾒ _／//ﾘ ｌ } ! i ﾉ
/ / ,.V,ハ! l/ ,イこ丁ヽ{r '´ _／/_j ! / ｌｌ }
∠ﾆ-‐ァ { ! ハ! { じﾘ .._ / ﾒ／ /!,ﾘ
＜_,.- ＼ヽ_〉 ` ー‐ ' ,rｿ}イ, ／/./
/⌒_,. ク ､__ i 〈ｿ /ィ _／／
_,..ﾚこん∠ ／_ﾑ ヽ. j‐ '´ ´
,ｲ､ 丁⌒ｰテ1/ ヽ ` ｰ- / あなたが死んでほしくないと望むのなら、
,クﾍこ､ヽソ,メイ ＼ ,ィ⌒ﾆ=-' その方には無理にでも生きてもらいましょう。
V^ヽニｭ￣ _ノ､_ ,r1 ` ､ ／ jへ／
＼{ こ,｝-_/＞ｰ｀ｿ ト ､_ /7ーrｧ´ /‐-}
ヽ_（ ｝三二,ノ 下弌/丁ﾕ___/､｀Yﾘ
／７┴＝- ' ＼ l ト､ﾚ⌒)_j,ﾉん'
／ ／ ＼ ＼／＼ﾍヽ､＼こつ´
. ／ ／ ＼ ＼ ヽ ＼ヽ. ＼ｰ- ､._
. ／ / ヽ､＿_,ｨ ＼ ＼ ヽ＜.___ ｀` ｰ-
／ / ＿ ／ ヽ. ヽ ヽ. |
_,.-‐二￣ ＼ ＼ ＼ ヽ. l
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| 思わぬ出会いが、思わぬ流れを作り出した。
| 咲夜の目には。『滅ぼす者』の能力で『指向性』を感知できるようになった彼女の目にはそれが理解できた。
|
| マーガレットが作り出した、『抗う流れ』。
| ジャジャマルが、ミストが、その掌握から逃れられずに引きずり込まれた。
|
| それは、《ストレンジ・カメレオン》ならば『渦』と。
| 朝霧アサギならば『主人公ぢから』と呼ぶ性質による求心力だった。
|
| ……しかし、ただひとり。
| 長門だけはマーガレットの意思に逆らい、曖昧な位置にとどまって漂流していた。
|
| 流れに従えば楽であるのに。
| 咲夜はそんな委員長に嫌悪と好奇心を同時に抱き、そして小さく嘆息した。
|
| ここで生まれた流れは、他の誰かの流れを変えて、いずれ大きなうねりになるだろう。
| 咲夜は能力をもって『それ』を強制することを自分に禁じた。
|
| 『滅ぼす者』によって生まれた流れは内部で発散できずに爆発を招く。
| で、あるならば。
|
| 補佐ぐらいで、済ましていこう。
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／ ／｀ ´ i i￣7ヽ
／ ﾍ´ ヽ/ ＜￣｀ー 、 ＼
/ .-i／ ヽ ／￣￣ .i´ ＼／ 、
. / / ヘ＿ ／/ i| ＼ >
/ .／ヽ ／/./ ∥ ＼ .＼
ﾉ / ヽ ／ ﾉ ./ // ﾍ ヽ ＼
/ !、 / / /∥ i // .iﾍ .ﾍ∧ ＼
／/ ｀ー=/／ ./ i ／ /ii. ﾍ i ∧ヽ i
／ / イ ∥ / i イ /i ./ .i| 冫ﾘ＼i !i
. ∥ .i | .i .∥i | ／./」 /-| / .i|彡ヲi ＼ﾘ
∥ ./i i A | i∧ .i ./ .| ./彡i/ ﾘ炒 .iﾍ i,ヽ＼
|i / i .| i iヽi |i∧ i ∥斗/i / ＼ ∨ﾚ i }
|i / i .| .// .{ |i ﾘ ヽi i |弋i乂 ﾉ i＼ソ
i.! .i .i ! //i ゝ」 ヽi ＼ ﾙ ｀¨ .!i ｀
ヽ i ヾ /ﾉ / i´ i / / i ｀i ゝ , /、ゝ 私やお嬢様。
i＼ i∨ ノ / /|ヽi / .人 ﾉ ソ , ン ./ ｿ そしてそっちの二人もお前には居る。
ノ| i ! .| |.i ./ ﾉ ゝ!／＿ iヽﾉ } ∥i }
￣ i.i ∨| |ﾍ / / i // ｀i !ｿ ＿＿＿＿ﾉ、iｿ、
. ｿ ソi/ ヽ .／ i i i >´i } i /.i ｿ
ゝ-/ーt ´ /i .i i i | ! /ｿ !ー、 .〉 .{
＼//.i ! 人i iﾍ｀/ /ｿ―――ｔ=i {/ ＼/∧ﾍ
/ノ ∧ 乂 {弋i ｀{ /ｿ i i .|ヽ!｀＼{.i .｀ ゝ
／ ＼ゝー／ーﾉ i―- 、 |＼-! !i:::＼＿iー 、
｀ /::::／ ｝:::::::::::::::ヽﾉヽ｀＝iﾍ´ー- ニﾆヽ ＿
ノ- ー＝´ ヽ::::::::::::::::::::::::ヽ//.iヽヽ＼ ｝i iー 、／´|
/￣￣￣｀ヽ .! ゝ、:::::::::::::::://::i.i.| ヽヽ＼|.i ヽ ! !＿ _
｛ ./ ／ ￣ ! i ｀ヽ::::::/ノ::::i.i::i|＼ ＼＼:＼ ﾍ /
ヽ/./ ヽ＿＿＿ .i:::{ ＼:::i.i:::}}::::::｀＞ヽ＼::＼ { ./
/ﾍヽ }::::::＞-┘ii::::::::::::::::｀ヽ,.＼:::｀..ミ
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ﾚ / i !ゝ:::::::::://:::::::::::::::::::::::::::::::::＼i:::::::::::ヽ
ゝi i i .}:::://::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::＼:::::::::::i
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|「それじゃあダメなのか？」
|「……さぁな」
|
| 長門少年は、《ブギーポップ》を失った代償として名前を表記できるようになった少年は首を振った。
|
| 名前の無いモブでよかった。
| 誰かのために死ぬだけでよかった。
|
| どこにも辿り着けなくてよかった。
| 忘れ去られても問題なかった。
|
| もしもどこかで野垂れ死んだら、跡形もなく消えてしまっても。
|
| あとかたも、なく。
| アトカタモ。
|
|
|
|「あーでも、そっか」
|
| 少年は、ニヒルに笑う赤毛の少女を思い出した。
|
|「蘇芳のことは、俺がやんなきゃだな」
|「誰です？」
|
| 自分自身の能力の暴走か、故意か。
| なんにせよ、誰の記憶からもアトカタモナク消えた少女を、委員長だけは忘れていないのだ。
|
| 彼女を救うように、東京を救う。
| そんなことできるとは思えないけれど、考えてみるのは悪くなかった。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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☆ 次回予告！
品川大聖堂、天使の夢跡。
あの夜何が起きたのか。
あの夜誰がここに居たのか。
すべては痕跡ごと破壊され。
もはや過去の所有物。
黙して語らぬ墓に刻むは。
いったい如何なるエピタフか。
次回『新宿大聖堂には何もない』
果てに見るのは破滅か死か。
アトリーム関係者こんなにいたのか……アトリームはミストさんの妄想ではなかったんだ……！
>>403
めっちゃ思ったw
今度こそ守って欲しい
十
内
┌∧∧┐ 十
｢| |||| ｢| 人
｢| |||| ｢| ／○＼
< 三三 > ￣|人|￣
｢| 品 ｢| ／∩＼
｢| 川 ｢| ／ || || ＼
. ｒ┐ ＜ニニニ＞／￣三三三￣＼ ｒ┐
. 立ｌ |￣￣￣￣￣￣立立立||┬=====┬|立立立 |￣￣| |立
|＿l_|＿＿＿＿＿＿圧｢;厂｢;l 〕田｜田〔 ｢;厂｢;圧||＿＿|_|＿|
|; ; ; ; ; ; ; ; |ｒ＝＝ｔ;|; ;|｜｜l 〕田｜田〔 |｜｜| ; ; |ｒ＝＝ｔ;|
|; ; ; ; ; ; ; ; |田 | 田|; ;|｜｜l 〕田｜田〔 |｜｜| ; ; |田 | 田|
|; ; ; ; ; ; ; ; |田 | 田|; ;|｜｜l 〕田｜田〔 |｜｜| ; ; |田 | 田|
|; ; ; ; ; ; ; ; |田 | 田|; ;|｜｜l 〕田｜田〔 |｜｜| ; ; |田 | 田|
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|; ; ; ; ; ; ; ; |田 | 田|; ;|; ; ; ; l 〕田｜田〔 |; ; ; ; | ; ; |田 | 田| ; ;|
|; ; ; ; ; ; ; ; |田 | 田|; ;|; 鼡; l 〕田｜田〔 |; 鼡; | ; ; |田 | 田| ; ;|
|; ; ; ; ; ; ; ; |ｧ'ニﾆﾏ|; ;|; 臣; l 〕田｜田〔 |; 臣; | ; ; |ｧ'ニﾆﾏ|; ; |
|^V^]ニニ[｢ｒ ― t |; ;|仁仁|ZZZZZZZＺ|仁仁|仁 ｢ｒ ― t |仁|
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| 『天使の夢跡』。
|
| クソみたいなポエムで『品川大聖堂』を呼び出したのはどこの誰であったのか。
| 冷たい雨が教会を濡らす。街路樹を濡らす。人々を濡らす。
|
| 十一月の突き刺さる雨の中、事件から二週間経ってようやくの現場検証であった。
|
|
|
| ……そもそも、品川大聖堂で何が起きたのか？
| すべての証拠は、堕天使レミエルによって台無しにされていた。
|
| あの夜、レミエルの発する破壊的な電磁波の影響で、品川大聖堂とその周辺の電子機器は根こそぎ。
| 生きものも死体も沸騰爆発焦げ付いて、正確な死体の数も、死亡推定時刻も分からぬ始末。
|
| 合衆国軍が用意した過去見も、生前のサーシェスが準備していた対抗呪詛で脳を灼かれて再起不能。
|
| それでもなんやかんやと無駄なあがきをした合衆国軍と連邦捜査官に現場を荒らしに荒らされ、
| 続いてやって来たパプテマス・シロッコと『武僧』が痕跡のほとんどを回収してしまった。
|
| 地元であるはずの『教会』日本支部は後片付けも必要のないがらんどうの廃墟を渡され、今に至る。
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::| ! /-| | ヽ ヽ ヽ ﾄ､ヽ
::|: ／|. | |. | /ﾊ ', li i ', i
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::::!. ／i.| _.斗- ﾏ￣:.Y´ `くﾊ:.:./ | | i. | |
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| 雨の泥も落とす必要のないほど、一才の痕跡も残っていない。
|
| これから先、わざわざこの大聖堂に訪れるのは遺族だけ……不幸にも巻き込まれた一般の遺族だけになるだろう。
|
| エダは、『教会』日本支部の構成員に過ぎない女は毒づきながらタバコに火をつけた。
| その一般人の被害者だって詳細が出ていないのだ。
|
| 誰が何人死んだのか分からないため、被害者のリストすら作れやしない。
| 品川大聖堂で具体的に何があったのか、何もかもが藪の中。
|
| 当事者は誰一人生きていない。
|
|「……それでも、推測はできるわなぁ」
|
| 品川大聖堂を『攻撃』したのは恐らく内部の者だ。
| そしてそいつは大天使レミエル召喚儀式に関われるだけの大物。
|
| 儀式を狂わせて、大天使を堕天使に貶めた。
| 平穏と安寧の夢を用いて、東京の事件に幕が引かれるのを……嫌がるのは誰だ？
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ﾄ､{ ﾘ斗匕j八 ﾘ///////////////ﾊ
/ |. | ＼ ／／ﾘ￣￣才７//////////////ﾊ
. / /|. ﾄ夊＝=ミメー‐ くＹ ／／ 从////////////////ﾊ 大きく分けて可能性は二つ。
{ .,' | i | ｀ヾ 厂｀ヽ＼ ／ |/////////////////,ﾊ
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ヽ! ＼{＼ ｜∧｀¨¨¨´ :j. |/////////////////// }
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| 一つは外部、ニャルラトホテプ残党。
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| 『教会』に浸透していた連中が、ニャルラトホテプ再召喚か、はたまた別の行動をとるための陽動……。
| では本命は？
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| 分からない。あの晩に起きた複数の事件との因果関係も。
| いずれかに本命が含まれていたのか。
|
| 協調ではない偶然だったのか。
| あるいは、全て陽動で、未だ隠された本命が他にあるのか。
|
| エダは舌打ちして吸い殻を投げ捨てた。
| もうこの品川大聖堂には何も残っていやしない。
|
| ごみを捨てても文句の一つも出ないほどに。
| ……二つ目の可能性は、完全な内部。
|
| 『教会』上層部が『血族』を危険視しているのは掴んでいる。
| 老害どもは太平洋戦争で舐めさせられた苦汁を忘れていないし、その他の下部組織に示しがつかないのも確かだ。
|
| 東京を戦場にしたい連中も見逃せない。
| ニャルラトホテプを放逐してから東京入りした『異端審問官』や『十字軍』は思うように暴れられずに不満を募らせている。
|
| アトリームでの大規模実験に味を占めた奴らが、次の生け贄を探しているのも厄介だ。
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i ／ '" ﾆ=-─==ｧ⌒>V^⌒`ヽ . ::::.:.:. . :::::.:.:. : :
弋_〃 ／ ／ ／ ／ 〃 `ﾐ . ::::.:.: .. ::::.:.: : :
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. // / j| ヽ Ⅵ ーz,,,,＿＿ ) _／＿/ | .:::::.:.:.: . :::.:.: : : .
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.′ 从＼__＇ | / | | ::::::.:.:.: : : . .. .． ..:: : :
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Ⅴ ′ 八_)ｙ ＼ ﾏﾞ￣￣ｱ / ／ | ::: :＿＿ ..::::.:.:.: : :
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＼ 乂_＿彡’ﾞ≧=─--＼ /ｰ-‐=彡 ´ |ｉ |] 「￣¨ `ヽ
-─…→ミ=孑匁///////∧∨/＼__＿＿,..ｲ `¨¨¨´ |i 《》 |
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| 最悪は、パプテマス・シロッコ。
| 奴は科学者やら傍観者を自称し、お偉方におもねるのが得意だが、実際には野心家で謀略家だ。
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| 奴とギルバード・デュランダルとの関係も不穏だった。
| エダは鋭角なサングラスの下でまなじりを上げる。
|
| あいつらは、いつからこの東京を狙っていたのだろう。
| デュランダルの台頭は、荒れていた『結社』が落ち着いた頃と重なる。
|
| 立場は違えど自分等が、志摩子が、そして今は亡き諸葛孔明が組み上げてきた平和という積み木を、奴らは最初から崩すつもりでいたのだろう。
| そう考えると腹が立ってきたし、犯人はシロッコなのではないかと思えてきた。
|
| もしもそうならば品川大聖堂は徹底的な証拠隠滅を受けているだろう。
| 元からやる気のない仕事がさらに馬鹿馬鹿しくなる。
|
| エダは新しいタバコに火を点けた。
| だが……待てよ？
|
| 煙を胸一杯に吸い込んで、肺からニコチンを摂取すると天啓が降りてきた。
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/ｉ|ｉ|ｉ|ｉ|ｉ|ｉ|ｉ|ｉ|ｉ|ｉ|ｉ|ｉ|ｉ|ｉﾄ､
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{ｉ|ｉ| |¨/ヽ ／¨｀¨ヽ.|ｉ|ｉ|
|ｉ|ｉ|_j_{ ヽﾊ ＼ｉ|ｉ
ji込､＿Y__Y´二} i }ｉ|ｉ|
/ｉ|ｉ|ｉ|! ﾉ_ ノｲ} | ハｉ| ……待てよ？
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,ｉ|ｉ|ｉ|ｉ|ｉ|ｉ|ｉ|┼`ｰ‐＜ └┬ｉ|ｉ|ｉ|ｉ|ｉ
,ｉ|ｉ|ｉ|ｉ|ｉ|ｉ|ｉ|ｉ|! ヽ } .! |ｉ|ｉ|ｉ|ｉ|ｉ|ｉ
,ｉ|ｉ|ｉ|ｉ|ｉ|ｉ|ｉ|ｉ|ｉ|ｉ ＼ { } i|ｉ|ｉ|ｉ|ｉ|ｉ|ｉ
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| 大聖堂を調べたのが合衆国軍と『武僧』であるのならば、見逃しの可能性があるかもしれない。
| そいつをエダが上手く見つけ出せば、この品川大聖堂での出来事の顛末が分かるやもだ。
|
| エダは自分同様にブラつく部下の視線から逃げるように礼拝堂に滑り込んだ。
| 床に無数の焦げ跡が残る、荒涼とした広間の奥へ。
|
| 死体も、椅子や装飾の残骸も、ほこりの一粒まで撤去された礼拝堂は廃墟に似ていた。
| エダは不機嫌に舌を打ち、思いの外音が響いて唇を曲げた。
|
| 開きっぱなしの隠し階段まで素早く近付き、コンクリートの螺旋階段を静かに降りる。
| この先は地下シェルター。『目録』が大天使を召喚した特設儀式場。
|
| 階段の途中に、致命的な血痕と破壊の痕跡。
| つまり何者かがこの場で戦い、死んだことになる。
|
| 大砲の直撃を思わせる破壊痕。
| 大聖堂二階にもあったが、二階から侵入したそいつがここでも同様の一撃を放った？
|
| エダの脳裏には屈託なく笑う、行方不明の少女が浮かぶ。
| まさか。
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|l ',:.:.:!､:.＼ 〃 l ∠ィノﾁ}､ ｀ヽ、〈:」 j:
ヽ ヽ:.!r`ド-` ＿＿__ 一ﾃﾉ j ＼ _V:ﾉ {:.:
〃ヾ {ﾍ. f/ ヽ} /o／ _/_ノ /.:.
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|:.! ` ｰ'l＼ 丶__ / ／| ﾉ 〉ヽ:|::::::::::ﾄ､ /´.:./
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ヽl､lゝ 〈:::::::＼:::＼!::::::::::::_| '´ ヽ:ヾｰヾゝ::V::::/:::/:::::〉
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| 苦笑しつつ打ち消し、だが絶対とは言い切れない。
| ここでアリカが、『教会』勢力の何者かを殺害した。
|
|
| なぜ。
|
|
| 納得のいく理由はすぐに浮かんだ。
| ニャルラトホテプだ。
|
| シロッコに全ての問題を押し付けたいという願望からは外れるが、もしも本当にアリカが侵入者であるのなら……。
| エダは螺旋階段を下りきり、残された二つの痕跡を見つめた。
|
| 通路には、複数の破壊痕と死体。
| 奥の広間入り口に、床に何かを刺した跡と死体。
|
| 誰が戦い、誰が死んだのか。確信できる情報はない。
| ないが。
|
|「雁首揃えて節穴ばかりと来たか」
|
| エダは十字を切り、螺旋階段の終わりに隠された魔法陣を暴いた。
| 『教会』日本支部でも限られた者だけが知る封印装置。
|
| 地下シェルター防衛機構である。
|
| 『教会』関連の魔力に反応して、封印を実行するこのシステムがある限り、品川大聖堂は……少なくとも地下シェルターは万全のはずだった。
| はずだったのだ。
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',ヽ ＼＼＿＿＿＿＿V: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :
. /ヽ ＼} |ヽ ヽ＿ , V: : : : : : : : : : : : : : : : : : : :
/ ＼ { ／ ＿＿＿＿＿_ V: : : : : : : : : : : : : : : : : : : :
. / ／ / | _/／ _,丐￣￣￣￣ V: : : : : : : : : : : : : : : : : : :
/ /| /{ .| { ノﾔノ V: : : : : : : : : : : : : : : : : :
| | .| { ヽ }ヽと`ｰ 〉: : : : : : : : : : : : : : : : : :
| | ! ! V（ﾉ {: : : : : : : : : : : : : : : : : :
{ { ＼ / ／j j: : : : : : : : : : : : : : : : : :
. ＼ ヽ ＞､ ／ ./ ./{: : : : : : : : : : : : : : : : : : お偉いさんが黙ってんのはそこだろうな。
. ヽ ／.ｒ､)`ｰｒ-‐' ./: :| : : : : : : : : : : : : : : : : :
{ { ｨ ィヽ /: .: :｀､: : : : : : : : : : : : : : : :
〉 ヽヽｰ} .／: : : : : :ヽ : : : : : : : : : : : : : :
V ヽ | ／: : : : : : : : : ＼: : : : : : : : : : : : :
V ヽ _／: : : : : : : : : : : : : ＼ : : : : : : : : : :
V !ヽ￣￣ヽ : : : : : : : : : :.＼: : : : : : : : :
／ ＿＿ _ |: : : : : . ＼: : : : : : : : : : :＼ : : : : : : :
／ ﾉ: : : : : ／ : : : : : : : : : : : :. :＼: : : : :
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| 合衆国とシロッコに秘密にされていたのは、つまり、誰も封印をされていないかもしれないからだ。
| それは即ち『教会』内部による犯行の証明であり、逆に誰か封印されていたならば……。
|
|「ヨランダのババア、それでアタシをねじ込んだな？」
|
| 保身に忙しい『教会』日本支部長がこんな策を弄するとは思い難い。
| であるならば、これは支部長に準じる地位にあり、エダの直属の上司であるヨランダの……。
|
|
|「……反応は一つ……いや二つ？」
|
|
| 『血族』の『十二の封印像』以上に強度の高い弱体化封印式が組んである。
| 一般人や負傷者なら消滅してしまう。
|
| エダの接触したデータによると、封印中と消滅済みが一つずつ……二人分の封印が確認できた。
| ……二人、だけである。
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+ x
☆ + *
* ｒ､ ＿＿＿_ 十
ﾍ ＼ ／_ノ ' ヽ ＼
(ﾐ⊂） ／（≡） （≡ ） ＼
ﾍ ＼ ／::::::⌒__´___⌒:::::: ＼ ﾟ
｡ ﾍ ＼| |r┬-| |
＼ ＼ `ー ' ／ x
＼ ＼
x ＼ ___ト ゝ +
| ( ／
十 | ￣|￣
/￣ | 十
ﾍ ﾄ⌒＼ |
__ﾍ ヘ ＼ ＼‐‐、
（＿＿_＿ ） ヽ.＿＿__｀＿）
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| 神の如く全てを把握していたできない夫が死んだ今、これを知るのは読者だけではあるのだが。
| この螺旋階段にはやる夫と蒼星石、そしてアリカと『七つの児』のキヨイが封印されているはずであった。
|
| しかし、二人。
|
| エダはしばし考え、すでに消滅した一人は無視する事にした。
| 持ち物や死体は現れるかもしれない……だが、処理が楽ではない。
|
| 生きている相手なら楽なのか？
| 違う。最悪エダは殺害され、せっかく封印できていた敵が野放しになりかねない。
|
| しかして。
|
|
|「ビッチがプッシー広げて誘ってんだ。ファックしない奴はタマ無しだぜ」
|
|
| 分厚い修道衣の上にぶら下げた、簡素な十字架に触れて聖句を唱える。
| 結界や奇跡の類いは得意ではないが、最低限は扱えた。
|
| タバコに火を点け、愛銃グロッグ17Lを抜き放つ。
|
|「鬼が出るか蛇が出るか」
|
| エダはサングラスをかけていたことを神に感謝した。
| 封印から解き放たれた人物に、苦悶の表情を見られずに済んだからである。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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///// ￣￣ |///////,
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////|.{///////////ハ ′ 弋アニ ､、 .|///////|
////|入////////／::::} ＼ ｀¨´ :|///////|
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////! ＿ノ ゝ＿__ノ｀ー--､ ' ∨//// |
///|::. 'ﾟ r＿ぃ＿ぃ＿ぃ＿ ノ .:: |//// ｜
/// |∧ ｀ ＿＿＿＿ / / .|//// ｜ で、どうすんだい？
// | ∧ '´ ....:::⌒ヾ ./ | . |//// ｜
/ | ＼ 、 .::ノ ヽ ,: ／ | |/////|
| | :::.ヽ＼ /イ ./ .∨// ∧
＼ :::::::::＼＿＿＿__.／:::: / ∨///
＼ ::::::::::::::::::::::::::::::: ／ ＼//
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| 聖アンジェラ教会へと帰還したエダは、ヨランダの部屋でタバコに火を点けた。
| ヨランダは葉巻の先をナイフで切り落とす。
|
| ビールのプルタブを開き、エダは恩師に差し出した。
| ヨランダは受けとると喉を鳴らしてアルコールを流し込む。
|
|「昔はマズイマズイと思ってたんだが、今じゃあすっかりバドワイザーよりアサヒだよ」
|「夢宮の婆さんとは日本酒じゃなかったのかよ」
|「とりあえずビールさ。定番の挨拶だろ？」
|
| 夢宮の名前が出たことで、ヨランダの隻眼が感傷に弛む。
| エダも同じだ。あのクソババアには世話になった。
|
| 奴は偏屈なふりをして口が上手く、周囲の操縦が得意だった。
| 美人ではないし体も貧相だったが異様にモテた。
|
| アンデルセンもマイケルも、確実に夢宮に心を奪われていた。
| しかもそこにあるのは肉欲ではなく心の繋がりで、性欲に支配され勝ちな男どもの獣欲は見えてこない。
|
| まるで聖女にかしずく騎士のように。夢宮は崇拝され愛されていた。
|
|「ありゃ気持ち悪い女だったな」
|「力を付けすぎてネジが外れてたんじゃね？」
|「違いない」
|
| 夢宮はヒトより神の領域に近かった。
| だが、魂は誰よりもヒトであった。
|
| 唯一愛した男を、その一人息子を早くに失い、孫娘に才能を見出だしながら戦場から遠ざけるほどに。
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|::::::/ﾍ | i|￣ |´ , i〉 :|:::::::i 気軽にファックを楽しめない人生なんてゴメンだね。
r ﾆ ´ ﾍ|ﾌ ＿ - ｫ :|:::::::::i
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∨ i しﾍv ´ l＼ ` ー ´ ／|::::::|::::::::::::::i- ､
| ヽ ´ .l l ` - ＿.／_ - i:::::|::::::::::::::::i::::`ー
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|「だがつまみ食いは程々にして置けよ」
|「『女』で基地一つ支配したお方には言われたくございませんわ」
|
| ゲラゲラと下品に笑い、次のビールを開ける。
| ヨランダも年だが、昔はずいぶんと雷名を轟かせたものらしい。
|
|「アタシは夢宮のババアに恩があるが、この国を守らにゃならねーんだよ」
|「……そうかい」
|
| これで、決まりだった。
| 二人はビールを煽り、喉を鳴らして流し込んだ。
|
|「……」
|
| エダはサングラスを押し上げ、位置を整えた。
| 続いてグロッグを抜き、確認。それまでのだらけた雰囲気は掻き消え、緊張感が漲る。
|
|「殺すんじゃないよ」
|「素直に吐いてくれたらな」
|
| エダはドアを開け、ゆっくりと廊下へ。
| 秘密の扉から地下へ。
|
| 暗く、不吉な墳墓の奥。
| 牢獄へ。
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／:i:i:i::i＞──＝＜:i:i:i:i:i:i:i:∧
/:i:i:i:i／ ｀`''＜:i:i:∧
,':i:i:ｉ:i/___,,,､､ィﾊへ ｀寸iﾊ
j／／ ／／ ／ .ｨハ }:i:i:i
/ イ/ / / /ｲ /ヾヽV∠｀ヽ. i:i:i:i:!
ﾚ':i:/ /! /ィ升┤ﾄ､ //ハ i:i:i:i:i|
|:i:i:{.ﾊ.|:ハヽ.....|.:| ___//ｲﾍｊ i:i:i:i:i|
;i:i:ｉ:ｉハ!Ｋ弋冬ﾍﾍ ィメ、⌒メ, 从:i:i:i|
,':i:ｉ:ｉ:|| ﾄ､:.:.:.:.:.:.乂ｰ〈:ｨ戈之｀ヾ从i:ｉ:ｉ:| よーう、起きてっか？
/:i:i:i:ｉ:|| / ヽ:.:.:.:.:.:.ノ:i:i:i:i:i:i:|
/:i:i:i:i:i:i|ﾍ ` ′ /i:i:i:i:i:i:i:i:|
/:i:i:i:i:i:ｉ:ｉ| :ﾊ ｀ー― --′＿/才≠＜八_
/:i:i:i:i:i:i:i:ｉ:| .:ハ ￣ //才" ｀寸｀Y
／:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:! .:＼ イ:ｉ:／／ ／ ＼:ヽ.
／:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i丿 : : ｀::::´:i:i／／ ／ ヾ:j
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|「あ、エダちゃん」
|
| 多重の結界が施された地下牢にはトイレもベッドも椅子もない。
| 冷たい石床と、悪臭を放つ排泄用の穴だけの小部屋であった。
|
| 品川大聖堂に封印されていたのはアリカ一人で、エダは衰弱した彼女を何とか聖アンジェラ教会まで運び。
| 投獄したのである。
|
|「なんか喋る気になったか？」
|「うん、分かることなら」
|
| アリカは馬鹿ではない。しかし、説明を得意ともしていなかった。
| 品川大聖堂地下で、エダはアリカから何も聞き出せなかった。
|
| そして逆に、他には消滅した一人しか封印されていなかったことをゲロってしまっていた。
|
|「なぜ地下に行こうとしていた」
|「……ええと」
|
| アリカは『大天使召喚儀式』を邪魔しようとしていた。
| それは何故か。誰の差し金か。
|
| そして、あの惨劇のどこまで関係するのか。
| エダが知りたいのはそこだ。
|
|「ニャルるんの手下の『人間もどき』は分かるよね？ あの大きい教会には『人間もどき』が集まってたんだ」
|「……」
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/.:!´
j､ﾉ ,.--､r‐
f:.:/ ,. ‐!ー'´￣
,.-=＝＝=､、 ﾉ!′ ,.ｲ‐'´
／ |l __ {:.} _f_ﾉ
／ __,r‐'.:.:.:｀ヾ⌒丶f:ﾉ
/ ,r／.:.:.:.､:.:.､:.:.:.:.:ヽ:.:.:.:＼､
/ //.:.:./.:.|:.:ヽ:.:ヽ､:.:.:.!:.:.:ヽ:.ヽ＼
/ //:/.:ﾊ.:.:.!＼l＼|__ヽ:|＼:.:.|:.:.:l:.:|',
i |:|:.ﾄ､:|-ヽ| ´,r==､｀ ヽ|:.:.:|:.:!ﾊ
| |:.!:|´ ,r=､ fﾊ ヽ }:.:./:/:/| それを突き止めて、
＼ ヽN / fﾊ ﾋﾘ /,.ｨ=rく/l ニャルるんを呼ばれる前に叩いたの。
ﾊ. ﾋﾘ , , ´// .ﾉ }/
,.-‐{‐! , , ､ /l:| └/
/ /ハ{ r‐┐ ! ヾ／ ,、
{ |:| ＼ ﾞｰ' ,.ｲヽ /: :ヽ
ヽ ヾ=- ｀ 、 ,. '´ |=彳: ／:￣｀
＿＿｀_丁´ l／／: : : : : :
/ : : : : /: ﾊ ／: : l: : : : : : : :
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| どうやって？ 誰が？ 『教会』も『血族』も掴めなかった情報を。
| そしてなぜ、上役に相談しなかった？
|
|「地上はみんな死んでて……」
|
| 不愉快さに顔をしかめるアリカ。
| 合衆国軍から上がってきた情報通りなら、礼拝堂は地獄だったはずだ。
|
|「なら、地下かなって」
|「誰が？」
|
| アリカではあるまい。エダの問いにアリカはシャックリみたいな音を出した。
|
|「……蒼星石さんと、やる夫兄いの三人で行ったよ」
|「やる夫ね。一週間も一人で逃げ回ってたのかよ？ 協力者は二人だけで？」
|
| まだ何かを隠している。エダの目はごまかせず、しかし今は不問とした。
| 実際、アリカはシックスを隠した。『元老院』だった男のことは話さないほうがいいと思ったからだ。
|
|「……ええと」
|
| アリカに嘘は難しい。
| どう見ても真実の取捨選択をしていた。
|
|「『邪悪帝国』の雪だるまさんたちを頼ってました」
|「……」
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／ ノ ∧｀ヽ ｀ヾ` r'ﾝヾﾆ､
/ ＞' `＜_ <ﾞv 〉vi、
/ / /／ ＼ ｀ヽ、ﾄﾍ三{薔}〉
{ ｌ f'´ ､,r=ｭﾐｭ､ 二{〉、ヾﾂ）
', !{ -{liｸｯ }｀ ｨ,r=､,ヾ〉,>}'
,f´｀ヾ, _ゝ‐'‐ rfｲ`, }/>ゝ
_,ｨ=＝ｷﾆヽﾄ ! ｀ヾ´ﾄ{
´ r―ミｪ､_ -=ｭ ﾊ'
_ノミｭ ｀ヾゝ、 ｀>ｲﾍ}、
/｀ヾミｭ ｪ-､ ミ[二ミｪ､__ ,r'´ ￣｀ヽ
{ _」、 ｀ヾー彡｀爪￣＞‐〈｀7 ｀ヾミ､ ',
ゝ、 ,ｨ'´ ｀ヽ > ||_＞彡'´_]ヾ､ ＼_ゝ､r'
＼ ヾﾐ、 __}｀~´ <／､ヾﾆ´ ＼ 〉
｀ヽ」｀ー､/ ／ｌ/ || ｀ヾｭミｪ､＿,ｲﾋ'´ヽ、
／ || ｀ヾ〉 || | ﾉ
／ r‐'´ ヾｭ､ || | //
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| 元『結社』幹部である屍術師、曹操 華琳をアリカは隠した。
| 彼女は『結社』撃滅作戦で死んだと思われている。言うべきではないと判断したのだ。
|
|「『人間もどき』は『七つの児』って名乗っててね、地下から来たそいつと戦ってるうちに、ぐしゃって」
|「……」
|
| では、その『人間もどき』が地下での虐殺をしたのか？
| アリカはゆっくり考えて状況を整理していたようだが、それでも分からないことが多すぎる。
|
|「アリカお前……自分が今どんな立場かわかってんのか？」
|「エダちゃんに助けてもらったんでしょ？」
|「虐殺の主犯として疑われてんだよ」
|
| グロッグを構えるエダに、アリカは目を瞬かせた。
|
|「秘密は許さねえ、全部ゲロれ。でなきゃ撃つ」
|「え、なんで？」
|「お前という情報源を他の奴らに奪われたら大問題だからだよ」
|
| 情報源であり、アキレス腱でもある。
| エダの知己で、ヨランダの知己で、『血族』の戦士であるアリカ。
|
| この東京を戦場にしたい連中に確保されたら目も当てられない。
|
|「正直に、嘘偽りなく話せ。そうしなきゃ撃つ。その情報が他に漏れる不利益を考えたらな、ここで死んでもらうべきだとアタシゃ判断したんでね」
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.. ....:.r:.:..:‐-.:..::.:::...、
....:..:.: :.:.:..::.:|:.:..:.:.:..:..: :.:..:...:ヽ
rｱ.:..:. :..: :.:..:...:.:｛:.:..:|!:.:..:.:. :.:.:. :.:..:.:.
ノ/:.ヽ :::.: :..::.:::ﾐ´ ＼ｌヽ:.:..ﾄ:..:.:､.: :.:.:..:.
ノﾀi:.: :.:.: :.:.:..:ト´ ,x=＝=＼､＼ｌ＼:.: :ﾊ
ｲﾉ |.: ::ヽ:.::.:.:.}´ , ､ -xl:. :.:i
ｲ { }:.: :.:. :..:.:.ﾐ / 札! l:.: :}
ﾉ／ { ﾄ.:.:: :.:.ﾐ { ﾄｨﾉ ' 仭ｲ:.:/
{Yi }ﾄ ヽ「ミ｀''‐-､ , ｰ レ' いや、できないよ。
ﾉノ )〈 { 〈 ヽ __ __ |
{Y} {Y} ゝ ､ ＼ 丶 / 丿
iタ }〈 l丶 ヽ_ノ ／ ＼
{r} {y} l ` . ／
}ﾀ 〉| l Ｔ
{y} ﾏ! ノ ___ ト ._
ﾏ｝ {i}_ - ´／ ヘ l! ｀ ‐ 、
{ﾍ , ´ ｒ´ -┤ -‐ l! ハ
ﾏ! / l -┤ l! ｌ
ｔ} ′ l ｲノ l! |
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|「あ？」
|「エダちゃんは、あたしを殺さない」
|
| その言葉に満ちた信頼と確信。
| エダは怒りがふつふつとこみ上げるのを実感した。
|
| なにを、まあ、適当フかしてやがるのだ？
| アタシが撃てないとでも思っているのか？
|
|「なら死ね」
|
| 言い終わるより早く、足を狙って三射。
| アリカの虚を突いたタイミングで、彼女が警戒していないなら防げるはずのない至近射撃。
|
| だが、アリカは斜め後ろに下がって射線を逸らし回避。
| 石床を削る弾丸。その行く末を見極めるより早く、今度は脳天狙って三射。
|
|「ね？」
|「なにが『ね？』だよ、今の絶対殺す気だったぞテメエ！」
|
| 回し受けで弾丸を払い落としたアリカが小首を傾げた。
| これだけ撃たれたのだ。そろそろ自分の立場って奴を。
|
|「エダちゃんが本気で殺す気なら、『殺す』なんて言わないでしょ」
|「……あ？」
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,. ´￣ ―- ､ なんだアリカテメエ、
/:::::::::::::;:::::::::::::::::ヽ アタシをマフィアと勘違いしてんじゃねーのか？
/::::::::::::r二ﾆr､￣､ﾆv=-､ 『ブッ殺した』しか使わないって？
. /::::::::::／ ﾍ∨ﾍ |=-､`＼
i:::::::::/ i / i |‐`⌒| i::| `ヽ _ -― ￣7/ ` ､
/:::::::::iｲ i ﾑﾊ|_,. ,/斗ｫ:! | r､_ -― _z ﾆ ／ .//:.r,⌒ヽ./
/::::::::::::::iﾊi,ト|二ﾌ'ﾄ- ´ﾊ| r ´7//// ` /ﾊ:.:ゝ､_ノ/
/::::::::::::::::::ﾍ. ゝ /::::i ﾉ ///// ＿＿ -― ﾒ, ` ￣ /
/::::::::::::; -―-＼ ー_´／:::::::i く-― ￣ /:/ // l:i r ヽ _/
/:::::::::::／ ´￣ ＞- く:::::::::::::i ＜ ＿三_ .〈:〈 〈〈 ゝ'､ゞ ク
/::::::::::::/´ ／ _ -‐ ￣ ` - ' _ ,. ´￣ ` y/-7´￣￣￣￣￣￣￣￣￣
/::::::::::::/ / ／ ´ ､7´￣`r,､/'-/
:::::::::::/ :/ ｲ `ｰ _/ー´i`,i
::::::::::i i / |: ｰ _ ￣`i￣
::::::::::! i /. i:.:.. ー-イ
:::::::::| i /ﾍ ` ゝ､ ＿＿ -― ヽ ` ー ‐- イ
:::::::::i i/:.:{::::`ー`ヽ_,.- ´:::::::::ヽ `,i /` ―-r‐ ´
:::::::::|. {:.:.:.:.Y:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ゝ､ ノ ` ‐ _/
:::::::::! `i.:.:.ﾍ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ノ
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|「？？」
|
| 殺すなんてのは臆病者の言葉だ。脅しでしかない。
| エダもそう思う、ただの脅迫だ。だが。
|
|「エダちゃんが本気なら安心させてから撃つし、それよりも多分ご飯に毒を入れるかなんかするでしょ。
| 真正面からの攻撃であたしを殺すなら、ピストルは遅すぎるし軽すぎる」
|「え？ ああ、まあな……」
|
| いつの間にか、アリカは怪物の領域に達していた。
| そういえば戦闘班の班長だったなとエダは感心する。銃弾は遅いか……遅いか。
|
|「ってえ、アリカてめえ、なんだそりゃ！！？」
|「え？ ……いたい」
|
| エダは自分の声が驚きで上擦っているのを自覚した。
| アリカは両手から血を流していた。避けていたのに、受けていたのに。
|
| なぜ？
|
|「……なんかあたし、普通の女の子になっちゃったみたい」
|「は？」
|
| 弾丸に肉を裂かれ、骨の露出した両手の甲。
| 痛みを我慢してるのか、涙目のアリカ。
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/:／´ｰ-､｀ヽ―― - ､::::::::::＼
ﾚ.::／ ⌒ヽヾヽγ´⌒ヽ＼::::::::',
//:;' ,∠´￣｀ヾ∨ﾆミヾ ｊ、 ｀!:::::',
//::;'./／ｲ/__ノ ヽ-iﾊjﾑヽ､j:::::::;
{ {:::://:://::::::::ヽ__∠:::}::｝:::::iﾄ∨::::::l
ﾘi::/ヘ::ﾘ::::::::::ノ⌒ヽ::::::/::::::}イｊ:::::::::l
,ﾘ/∧ ￤¨¨´ j:、 ｀７￣ / ﾊ::::::::l いや、普通の女の子は弾丸防げねーぞ！！？
i::{/:::ﾍ ∧:}::::::::l
l:::｛:::::i;ﾍ /;;l:ﾉ:::::::::l
l:::::::::::j;;i;ヽ ___＿____ ｲ;;;;l::::::::::::::!
l::::::::::::i;;;l;;;ヽ、 ´ ￣￣ ｀ ／;;j;;;;;l::::::::::::::l
l:::::::::::::!;;;l;;;;;;| ＼ ／;;;;!;;i;;;;;;l:::::::::::::::l
,':::::::::::::j;;;;l;;;;;j `二´;;;;;;;;;;l;;l;;;;;;;l::::::::::::::::l
ノ:::::::::::::::l;;;;i;;ノj }ヾ;;;;;;;;;;;;ｿ､;;;;;l:::::::::::::::::ヽｰ､、
/´::::::::::::::::::::::ム i! ＼ 〉 ヾ＜/ ＞ﾍ:::::::::::::::::::::::::::｀ヽ､_
/:::::::::::::::::::::::::/ i! 7 ノ ∨:::::::::::::::::::::::::::::::::＞､
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|
| 鋭いツッコミを入れながらも、牢のカギを開けて傷の様子をエダは確認した。
| 魔術を使えばすぐに治療できるだろう。
|
| だが。
|
| 一歩間違えれば、本当に普通の女の子になっていたならば。
| アリカはこのかび臭い地下室で脳漿まき散らして死ぬことになっていたのである。
|
| エダはその想像に総毛立ち、全身から脂汗が噴き出るのを自覚した。
| そして、彼女を殺さずに済んだことを心から安堵している自分自身も見て取った。
|
|「あーあ」
|
| 毒気を抜かれ、エダはわしゃわしゃと頭を掻きむしる。
| 認めたくはないが、完全な敗北だった。
|
| アリカを殺すとか、拷問にかけるとか、できるわけがなかった。
|
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☆ 次回予告！
狂える老人の狂える論理。
殺せ殺せ殺せ。
奴らを生きて帰してはならぬ。
すべからく駆逐すべし。
それこそが我らが生きる目的なれば。
狂える孫息子の狂える理想。
救え救え救え。
彼らの未来を閉ざしてはならぬ。
すべからく理解すべし。
それこそが我らの存在価値なれば。
交わらぬ家族。
交わらぬ思想。
そして、女という名の蜜の罠。
次回『セックスしないと出れない部屋』
果てに見るのは破滅か死か。
愛してるよ！！
世の中には自白剤なんてしろものが（ｽｯﾄﾎﾞｹ
部屋に入るは誰と誰か
やる夫と蒼と雪華綺晶は別室に
夢宮の血筋ﾏｼﾞﾔﾊﾞｲ
普通の女の子ワロタｗｗ
普通の女の子の回し受けだから血も出るさ
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| 軟禁状態にある少年にしてみれば、昼も夜も関係がなかった、
|
| 自ら覆った両目は、すべての光を拒絶する。
| 常に瞑想状態にあるため、眠りと覚醒の境界も曖昧だ。
|
| 食事はしていた。
| 一日に三度、栄養バランスの取れた料理が用意された。
|
| 彼のいる部屋はずいぶんと豪勢であり、書籍やトレーニング器具もそろっている。
| 暇つぶしにも、鍛錬にも事欠かない。はずだった。
|
| だが少年はそれらのほとんどを拒絶し、ひたすらに瞑想を続けていた。
|
|
| ……キオ・アスノ。
|
|
| 狂える祖父、フリット・アスノの野望の犠牲として、栄華を約束された未来の王。
| 悪魔を殲滅させる最強の超能力者として育てられ、今まさにその片鱗を垣間見せる。
|
| 彼は、その卓越した能力でこのマンションを把握していた。
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__／ ii‐ ､｀´ ‐ ､｀ﾞ ｒ‐'⌒_ ＞<´｀ヽ `ｒ-､
／ ヽ_ ｙ－ｧ‐''⌒ ー ''` )ヽヽ { ヽ ヽ
,∠⌒ ー‐ ､ﾞ ヽ,－- ､｀ヽーく （ ヽ.｀ ｊへヽ
/ { `－､＿ﾉ, -―-､ ヽ __ヽ ヽ ヽ } ｒ'｀ヽ } }
,ﾍ －ｒ ､ { ,ゝ- ､ ゝー ､__丶､ ＼_ `{ } } Y
/ ｒ' { ー' _(__ ｀ - ､＿_ ヽ ‐ ､ ヽ ｊ｜ ﾊ !
1 ｊ , ゝ __ / ヽ ヽ＿ ﾉ ,-ｒノ´ノ } ｌ. lヽ
/Y´ ｛ ゝ-― ､ ｒ ⌒ ｀ｙ－'' ／ }ィ´ }/:ﾉ::}
/､{ { ヽ{_ / ｒ ーﾍｒ 〈, －- へ __ノ , ｒ'´ }､/::／7
{ ヽ ヽ ,－く＿ ,.-'― } ﾞヽ }＼_ ｒ ﾉ、 //_;::::::/
'､ ､_て ` ｒ ､ ー ,. - ' ﾉ￣ __ノ`ヾ__ }く-:::::イ
ヽ_l ー ﾍ 丶､＿, ( , / ｒ ｲ / / //7＞イ´
`, - _ { `７ _ ノ てー（ _ ﾉ _,ィ ゞｒ''"´
ヽ､ ヽ（ ⌒ｒ－- フ / ﾉ_,.-'´ ﾞ
｀ 丶ヽ￣ ー -- ィ _∠-‐''´
｀ﾞ''ー‐ｆー;‐'''"~
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| 超能力の分類は、大きく分けて二つ。
|
| 物理法則に介入する『サイキック』。
| そして知覚能力を拡大する『ＥＳＰ』。
|
| 不可視の力で物質を操作する念動能力や、自然発火、電気操作、瞬間移動などはサイキックの領分だ。
| 超能力ならずとも魔力を用いたほとんどの力は、サイキックと呼べなくもない。
|
| もちろん、信仰や血脈から引き出した魔術による技術であるため、
| サイキックなどという言葉が生まれるよりも魔術は古く、呼ばれることを望むことはないだろうが。
|
| フリットの研究する『エックスラウンド能力』におけるサイキックは、脳の未知の部位を刺激することで不可視の手を操作する。
| ここに必要ななのは、自らの不可視の手を『認識』する能力である。
|
| 不可視の手。
| 特殊な魔力の波を理解して操作する力。
|
| すなわち、ＥＳＰこそが『エックスラウンド』能力の本質なのである。
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./ .,,r'"（, ヽ!r-‐ _.ﾉ、 `'' 丿 ,ゝ _,,） "`ヽ、
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r'^::,丿;i'".ﾞ、;;::..|;;:;...`Y ::^" `ヽ ...,,r'"⌒ .⌒, ヽ
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| では、ＥＳＰとは何であるか。
|
| ＥＳＰは『Extra Sensory Perception』の略称、即ち超感覚的知覚のことである。
| 予知や透視、テレパスなどを総称する言葉であり、肉体的五感を超越した知覚能力なのだ。
|
| 魔術的世界において、感覚の強化を超えたこれらの能力は貴重である。
| やる夫の未来予知能力が極めて稀少であることからも、それは理解できるだろう。
|
| なお、特定の相手へのテレパスについては比較的簡単で、契約や儀式で精神的接続を可能としている。
| 多くの魔術師は使い魔や神性と精神接続することで遠隔視覚やらを利用していた。
|
| ニャンコ先生と心の中で会話できるやらない夫や、使い魔を斥候として視覚共有できるシグなどである。
|
| だが、不特定多数への精神接続は困難である。
| そして、周辺の構造を理解するほどの透視もまた、一般的な能力とは呼べない。
|
| どちらも、脳にかかる負担があまりにも大きく、人間では耐えきれないからである。
| 死の奔流に流されて脳死に至りかけたやる夫のように。
|
| 物理的に不可能なのである。
| どう考えても。
|
| 人間には。
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::＼ ｉ} } Ｙ{
:ヽ ﾘ / ノ 7
. ＼ ＼: . ｲ ﾍ / }
＼r冖¨¨¨¨¨` " ∨ /
「 ＼ {i V
ー- } :ﾉ ヽ ﾘ_,ｨ7}
ｰ- 7 -=ﾐzzzz彡' {f苡〈
r-.､ 〈 ィ忖} ∨
{てﾊ ‘， ／ ∨ }
ゝ` ﾑ ‘， ／ ,= -く 八 だが、キオなら……。
{从ｰく} ‘，、 ／ ､}i ＼
从ﾉ ‘，ヽ 「ムイ " `｀ 八 `ﾄ
㍉ ムイ ＼ ィ へノ トゝ ﾘ ㍉
} ㍉ ﾑヘ ｰ-彳 i} ／ ㍉ー- ､
: :} ､ｉ:ｉ㍉ ‘，＼ ﾘ/｀ヽ ㍉ ヽ
: :‘，丶ｉ:ｉ㍉}i. ｰヘ ト､从ｲi:i/⌒} ㍉
: : :‘， ＼:i:i:＞――＜ /i/i:i:i:/ ㍉}
: : ‘， ＼i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:〉=く人:iノ ㌻ |
: : :‘， YﾆﾆﾆﾆY } ㌻ | |
: : ‘， ｀¨¨¨7´ {/ ㌻ | :八
: : :‘， ∨ ∧ ㌻ |/ }
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| できないっつてんだろ。
|
| キオ・アスノがどれほど有能で怪物的でも、人間程度の脳容量では不可能なのである。
| 構造解析に優れたとされる『夢宮の息子』は、物質一つの内部構造を理解することができた。
|
| だが、それですら極めて負担のかかる行為であり、乱発を控えていたという。
| ……ちなみに、その『夢宮の息子』は、内部構造理解という異能で『魔力による物体作成』を可能にしていた。
|
| が、現実的にそれはコストに見合わないとかなんとか。
| 結局母親と同じく、『自分の肉体の魔力の流れを常に解析する』能力に落ち着いたのだが、それは別の話。
|
| とにかく……忘我状態ではあるものの、マンション中を認識するキオは異常であった。
| 異常どころか、生きているのすら不思議なほどであるとも言えた。
|
|
| ……その方法とは。
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／:::::::::::::::::::::::::::｀::ヽ..
//￣{ ￣￣￣三≧＝＼
| ヽ ﾊ
ｊ ＿＿三￣ ＼ ! 『能力がハンパなんだよ。
{_ ィ´￣ _}:｀ﾏ⌒ヾー|
|:ﾉ :､ ヾｰ' ｒ }::::::j 高位悪魔でもできねーことを
i ｀ ﾉ ､_イ::::::｀ヽ ヒトごときがやろうとするからそうなるんだ。
､ ｒ-､ ／￣ヽ::::::::::ヽ::}､
人 ｰﾟ { ﾉ::::::::::::::/:::＼ 諦めろ』
（＿ > ,ｨー彡::::::::/￣￣ ￣｀ マ
ー＜｀ヽ ｊ::/ マ
(::::::::＞ //| マ
￣ア レ| ｌ マ
/イ７ｒ | ト .. ヽ.
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| キオの超能力の真の師であるイナミの言葉である。
|
| たかがヒトに過ぎないフリットは『エックスラウンド能力』を開発したが、その発展には行き詰っていた。
| キオには素質があったが、能力を進歩させるだけの視点がなかった。
|
| 人間としての階段を昇ったが、次の階にたどり着けずに踊り場で行き詰っていたキオを育てたのが他でもないイナミである。
|
| 『血族』と敵対する『封印像の悪魔』であり、恐るべき魔導書『ネクロノミコン』を滅ぼすべく探索するこの高位悪魔は、
| ニャルラトホテプの策略でフリットのマンションに攻め込んだ。
|
| そこで蒼星石とアリカの説得に応じ、一時撤退を約束したのだが……。
| その際に逆に突っかかったのがキオであり、監視なのか人質なのかよくわからない状況でイナミに同行。
|
| 暇を持て余すイナミによって、超能力の使い方を享受され、ブレイクスルーに至ったわけである。
|
| それは即ち。
|
| 五感に頼らず超能力で同時に知覚すること。
| 不可視の手を確信し、生来のものであるかのように動作させること。
|
| の二つである。
|
| キオは拘束され感覚を遮断されることでそれらを会得し、イナミと別れた後も磨いてきた。
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/:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ,
/::::::::::::::::::ﾄ,::::::::::::::::::i::::::::::::::::::::::::::::::l::::::::::::::::::::::::::::::::::::ハ
':::::::::::::::::::::!ハ,::::::::::::::i:::::::::::i::::::::::::::::::i::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ﾊ
'::::ヽ,:::::::::::ﾄ=ィﾍ:::::::::::i!:::::::::!:::::::::::::::/:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::'
＼::ヽ,:::::::{ｫアキ,ヽ::::{ヽ,::::!:::::::::::::/::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::}
ヾﾘ ヽ’,例 〉 `’ ﾍj:::::::::／::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ﾘ
_ ,.｡ ' j夕 ．″ ノ::＞j’::::.ィﾆｬ:::::::::::::::::::::::::::::::::::::/ どれだけ解析しても、
l ` ” ¨’ }::::/.ィ , ;,::::::::::::::::::::::::::::::::/ 人間のちっぽけな脳じゃ
} ､ ﾚ' 〈 i i::::::::::::::::::::::::i::::/ 超感覚に耐えられないんだ。
l u. .。ｨ ｿ ﾉ:::::::::::::::::::::::::i/
; r- ､ ﾚ' ”. ＜ i::::::::::::::::::::::ﾑ 諦めよう。
', ￣ ヘｧイ j::::::::::::::::::::::::ﾊ
. . ィ / /:::::::::::::::::::::::::::ヽ,
i '" i /:::::::::::::::::::::::::::::::::::}
`'ｰ=ニ _＿¨ ,.｡・'ヘ: /::::::::::::::::::::j:::::::ソﾚ'
ヽ, ,.｡ '" ヽ∧::::,ィ::_.＞ｲレ'´
r'¨’ 〉く . ＞=ハ
ﾘﾊ i 1 .＞'" ',
/ _」 :i ,.ィ'’ ﾊ
〈__ / .ｲ! ／ - ─ - . ﾊ
/ / ` .｡ '´ ｀丶 ﾊ
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| そして現在。
|
| イナミと行動したことでフリットによる『悪魔憎し』の思想から解き放たれ、
| 逆に悪魔との共生なんかを謳っちゃったせいで拘束されているキオは。
|
| その時間を有効利用して超能力に工夫を重ね研鑽に研鑽を重ねてきた。
|
| 残念ながら自分の、というよりも人間としての能力の限界にキオはとっくに行き着いていて。
| では何を工夫し研鑽しているのか……そう、出力や計算能力に限界があるならどうするのかである。
|
| 省エネと、増設である。
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〃.:::::l:::|:::::::::::::::ヽ
ｉi::::::::::l:::Ｌ.:::::::::.、:::.
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＼//.:::/:/:/.:://.:::::/:::::斗=＝:{:::::::::::}:::::::::::::::: ＿__フ.:::::|
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| キオを見張る存在として、このマンションには一人の男が配置されていた。
|
| 『ダースベイダー』と呼ばれるこの怪人は、『教会』のパプテマス・シロッコが作り出した機械化歩兵である。
| その中でも、フリットの要請で超能力活用を主軸に置いた試験型だ。
|
| 超能力者として人類の限界を突破し、次の『踊り場』までたどり着いたキオが、唯一勝てない超能力者である。
| と言っても、ダースベイダー本人の超能力は大したものではない。
|
| 他の魔術系統の術者でもあり、その応用を使っているとはいえ、能力そのものは軽微である。
|
| キオの祖父であり、人間としては最高級の超能力者たる祖父フリットの超能力出力を100だとしよう。
| キオは自己を150くらいだと認識していた。
|
| ではダースベイダーは？
|
|
|
| 高く見積もって30である。
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` ､､ / ,、 _, ｔ
.` ､､ /,-'ｰ'V-'ヽ.ｔ
. ` ､ｔ ﾍ/i.i.i∨_;
∠二=j `i､-└--、_
／./ ｙ ｒヾ､ヽ | || ヽ丶
i /-ｰ'/ .ｊ`─--─ 'ヽ__ヽ ヽ
ｊ | /ヽ､/ |..|￣=┐| |、 ヽ
ﾉ i / | |Ｉ Ⅲ ｊ.ｉ | ヾ ヽ ヽ
ノ ゝ_／i ｔ└--」 ｉ.| ヾ ヽ,、
、 ／ ｔ/￣/- 、ｊ i| ヽ ノﾍ
゛ `ー─---＿＿ , ノ ｉ二 ￣ ー、〔 Ｉ`i ヽ ,ヽ、
ｉ ` ー‐' ﾉ / ヽ ` ヽ-' `|.( ）
.i / / ヽ__／ ｊi ｿ/─----- ── - 、
ｔ / ／' ｉ i `ゝ- ' ￣ ヽ ＞
`- 、 ／// ） .Ｉ i ヽ／
ゝー──── 、 ノ /./ / ｊ i /
ヽ 、 ／ / / / ｊ |.ｉ /
ヽ、 ｒ / 、_ ﾉ ｉ | ｉ /
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| 話を戻そう。
|
| 限界を突破し、『踊り場』にたどり着いているはずのフリットが、次の階を目指すために選んだ階段は『省エネ』である。
|
| 少ない出力でいかに高いパワーを生み出すか。
| 涙を誘うような試行錯誤を繰り返している。
|
| 他の系統の魔術を利用できるダースベイダーは、そういう意味で優秀だった。
| 純粋な術者ではなく魔術を使える戦士だった彼は、小出力で最大級の効果を引き出すことに苦心してきた。
|
| 間桐慎二の魔術で説明すれば、イメージしやすかろうか。
| 慎二は破壊力を高めるために一度の攻撃に多段の魔力を打ち込み、装甲を突破した魔力弾を内側で爆破することで破壊力を高めている。
|
| フリットもダースベイダーもこのような血の滲むような努力をしていた。
| しかし、ダースベイダーはともかくフリットは気が付いていないことだが。
|
| ダースベイダーはすでに別の方向で『次の段階』に至り。
| フリットだけではなくキオすら見下ろす高次元から彼らを見下ろしている。
|
| その方法とは、即ち。
| 増設である。
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. ` ､ｔ ﾍ/i.i.i∨_;
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、 ／ ｔ/￣/- 、ｊ i| ヽ ノﾍ
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| 話を戻そう。
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| 限界を突破し、『踊り場』にたどり着いているはずのフリットが、次の階を目指すために選んだ階段は『省エネ』である。
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| 少ない出力でいかに高いパワーを生み出すか。
| 涙を誘うような試行錯誤を繰り返している。
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| 他の系統の魔術を利用できるダースベイダーは、そういう意味で優秀だった。
| 純粋な術者ではなく魔術を使える戦士だった彼は、小出力で最大級の効果を引き出すことに苦心してきた。
|
| 間桐慎二の魔術で説明すれば、イメージしやすかろうか。
| 慎二は破壊力を高めるために一度の攻撃に多段の魔力を打ち込み、装甲を突破した魔力弾を内側で爆破することで破壊力を高めている。
|
| フリットもダースベイダーもこのような血の滲むような努力をしていた。
| しかし、ダースベイダーはともかくフリットは気が付いていないことだが。
|
| ダースベイダーはすでに別の方向で『次の段階』に至り。
| フリットだけではなくキオすら見下ろす高次元から彼らを見下ろしている。
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| その方法とは、即ち。
| 増設である。
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| ダースベイダーの特異性。
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| 天才パプテマス・シロッコの『十二人で一つの兵士』構想のおこぼれ。
| シロッコは戦場で拾ってきた助からない兵士を機械化し、『カトル・カール』という異形の軍団を作り出した。
|
| 彼らは脳内無線で会話し、十二人で一つの戦力として動く。
| 魔術も信仰も利用しないで、悪魔を倒すことを可能とした恐るべきチームなのである。
|
| その実力は『血族』ののけものであるミスト・レックスと四ツ目という不屈のコンビを圧倒したことからも証明できる。
|
|
|
| 個人能力では惨敗だったし、レヴリアスのハッキングに成功しなければ結果はわからなかった？
| あー、あー。聞こえない聞こえない。
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|
| とにかく、ダースベイダーは『カトル・カール』の別型試験タイプ。
| 超能力で十二人を接続した一個小隊なのである。
|
| ダースベイダー以下の十一名はすでに自我がなく、揃いの鎧をまとうことで個性を排除している。
| 十一人の操り人形をダースベイダーが一人で操作している……こう書くと、ダースベイダーがすさまじい使い手に見える。
|
| だが、逆なのだ。
| 『ストームトルーパー』と呼ばれる彼ら十一人はダースベイダーの手足ではない。
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| 脳なのだ。
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| 自我を失い、電気的に超能力を覚醒させられた十一個の脳髄。
| ダースベイダーは彼らを手足ではなく超能力と感覚の補佐器官としてあつかう。
|
| 探査能力も、念動能力も、各自の操作も……すべて十二個の脳が行う。
| 十二人分の超能力をダースベイダーが総括し、利用しているのである！
|
| それはつまり、一人では耐えられない負荷も分散できるし。
| 超能力による『見えない手』が最低十二本あることを意味している。
|
| 現在のキオの『手数』は最大八本。
| 個々の出力でも、同時行動回数でも勝ち目がない。
|
| 暗い部屋の中でキオは幾度もダースベイダーに挑み。
| そして廊下にて歩哨に立つ怪人はその超能力攻撃のすべてを撃退してきた。
|
| 数の差。
|
| これを乗り越えなければ、キオはいつまでも『踊り場』で足踏みするだけ。
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| 自我を失い、電気的に超能力を覚醒させられた十一個の脳髄。
| ダースベイダーは彼らを手足ではなく超能力と感覚の補佐器官としてあつかう。
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| 探査能力も、念動能力も、各自の操作も……すべて十二個の脳が行う。
| 十二人分の超能力をダースベイダーが総括し、利用しているのである！
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| それはつまり、一人では耐えられない負荷も分散できるし。
| 超能力による『見えない手』が最低十二本あることを意味している。
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| 現在のキオの『手数』は最大八本。
| 個々の出力でも、同時行動回数でも勝ち目がない。
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| 暗い部屋の中でキオは幾度もダースベイダーに挑み。
| そして廊下にて歩哨に立つ怪人はその超能力攻撃のすべてを撃退してきた。
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| これを乗り越えなければ、キオはいつまでも『踊り場』で足踏みするだけ。
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| ダースベイダーは彼らを手足ではなく超能力と感覚の補佐器官としてあつかう。
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| 探査能力も、念動能力も、各自の操作も……すべて十二個の脳が行う。
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| それはつまり、一人では耐えられない負荷も分散できるし。
| 超能力による『見えない手』が最低十二本あることを意味している。
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| 現在のキオの『手数』は最大八本。
| 個々の出力でも、同時行動回数でも勝ち目がない。
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| 暗い部屋の中でキオは幾度もダースベイダーに挑み。
| そして廊下にて歩哨に立つ怪人はその超能力攻撃のすべてを撃退してきた。
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| それはつまり、一人では耐えられない負荷も分散できるし。
| 超能力による『見えない手』が最低十二本あることを意味している。
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| 現在のキオの『手数』は最大八本。
| 個々の出力でも、同時行動回数でも勝ち目がない。
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| 暗い部屋の中でキオは幾度もダースベイダーに挑み。
| そして廊下にて歩哨に立つ怪人はその超能力攻撃のすべてを撃退してきた。
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厂 /. . . . }i : : ､ V'" '" 八. . . ､ ＼
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| 毎日朝と晩に、食事を用意したついでに顔を出すフリット。
|
|「ワシとともに『血族』を率いて、東京中の悪魔を駆逐するぞ」
|
| 一日二度の、同じ要求。
| 傲慢に、受け入れられてしかるべきという考えの見え透いた命令。
|
|「……」
|
| 一日二度の、沈黙の返答。
| 諦念と、話してもわからないという考えからの拒絶。
|
|「今日はお前の考えを変える方法を思いついた」
|
| 突然、毎日のルーチンとは違う言葉。
| そこに見え隠れする狂気の色に、キオは息を飲んだ。
|
|「歩けるな」
|「コーホー」
|
| 祖父の後ろに控えるダースベイダー。
| キオはゆっくりと立ち上がった。
|
| あの怪人はともかくとして、自分と祖父の力量差を見極めるにはいい機会だった。
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: : : : :ー : : : : : : : : :_;ノ / | / ∨
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__＼: : : : :/ ⌒ヽ |: :| ／ゝ ﾆ==〉 ﾚ'ィ/
｀ヽ : : : : :{ { 〉 :.:| ,.＜ 艾/／ﾐ {-丐
乂 : : ∧ ｝ 〈 |:..:| ／ :, }
＞:.:小、__j:..:{ ＼ ∨
／ﾚ{: : ﾄ､{ r=':.:.:| │ -:.＞′
´~| ＼乂_| /: :.. ＼ } ,:／ ￣￣ 〈
.....| ＼ ｀¨ﾌ:..:. ＼ ｛ ィ ´￣Yﾊ｀ バカ者めッ！
.....{ 丶 ｀ヽ: : ＼ ｰ==='''} い、
.......丶 丶 ＼:..: ＼_,ｨ_,ｨノヽ八 ヾ＼
............＼ ＼ ヾ: : ｝ ＼::、
＼ } ／ﾚヽ: : : : : : : :/ ／:::ｉ
＼ ____{ ｛ | ＼: : : :ｨ/, '~~::::::::}
＼└┐ } く ｀T〔{／:::::::::|::::::/
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| 『二本』の『不可視の手』を伸ばし、キオはフリットの足を薙ぎ払った。
| 残りはダースベイダーへの牽制と祖父から隠すために動かさない。
|
| ダースベイダーはフリットの命令には従うが、報告義務を怠っている。
| 自分らの実力を祖父に伝えていないことを、キオは感じていた。
|
| 彼は越えなければならぬ壁であるが、同時にある種の共犯者でもある。
| そう感じていた。
|
|「ふっ」
|
| フリットが両手を大仰に動かす。
| そんなだから二本しか扱えないのだ。
|
| だが念動能力は極めて強い。細いワイヤーを束ねて作った金属ロープのような強靭さ。
|
| フリットは『不可視の手』の一本でキオの二本を捌き、もう一本で逆に掴みかかった。
| キオは半身になってそれをかわすと、ステップを踏んでフリットに突撃。
|
| 格闘技の一つも経験していれば、がむしゃらな一直線ではなく捕まらないためのフェイントくらい混ぜれただろう。
| だがキオはずぶの素人。フリットは容易く掴みかかる。
|
| いや、『見えない手』を足場にしたキオのドロップキック。
| 予想外の攻撃に防御が間に合わない。
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＼＼ //////////ﾆ∨∧ﾆﾆﾆ｢ダ￣ |三三三三三ﾆﾑ
＼＼ //////////⌒Ｙ⌒V￣_iあｰ─=ﾆニ三三三ニﾆﾑ
＼＼ ,.ｲ/////////⌒ 人 人三「ハ } ｀Ｙ三三三三二ﾆﾑ
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| 鼻面を蹴り飛ばす直前に、ダースベイダーの『見えない手』が防いだ。
| 弾かれ、受け身も取れずに背中をしたたかに打ち付けるキオ。
|
|「ぐぅっ」
|「……能力はそこそこじゃが……なかなかやるではないか」
|
| 手加減されたとは知らず、鼻を鳴らすフリット。
| キオは顔を上げた。その両目を覆う目隠しをむしり取られる。
|
|「忌々しい悪魔の真似っこか？」
|「じいちゃんよりも教えるのが上手かったよ」
|「それでもその程度と」
|
| キオは沈黙した。
| イナミへの侮辱。しかし、今は耐えるべき時だ。
|
|「まあいい、ベイダー」
|「コーホー」
|
| 意を得たりと、ダースベイダーはキオを小脇に抱えた。
| 勝ち目のない相手だ、抵抗するだけ無駄である。キオは暴れもせずに祖父を睨んだ。
|
|「お前は知らぬじゃろうが、この階には他にも住人がおってな」
|
| 知っている。探査していた。
| だが、キオは口を噤んだ。沈黙は最大の武器だ。
|
|「会わせてやろう」
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{ ﾆ=- ／ ｀ヽN } /
､ , ⌒ヽ ､彡 / ＼ /´}
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∠ ﾊ i V / } ｀ヽx=ﾐ ＼} / ´
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＿廴 ＼ ∧ -‐ ､〈ｰ ﾉ わしも色々と考えたのだ。
.， ´ﾆﾆﾆﾆﾆミ ム、 ∧ ´¨¨`ｰ ､ Y
.， ´ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆニ＼ ∧ ､ ヽ/ キオよ。
.， ´ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ ＼ ∧ ｀¨Z ､ ／ お前の意思も尊重せねばならぬ。
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| 猫なで声で囁く祖父の言葉を、キオは生来の素直さで受け入れた。
| そうか、分かってくれたのか。
|
| 悪魔のすべてを駆逐するのではなく共存できる。
| 家族の隔たりは解消されるのかもしれない。
|
| 幼さゆえの甘い期待に、キオは顔を輝かせて祖父を見上げた。
|
|「『高貴なるものの義務』じゃ」
|「……？」「コーホー」
|
| 権力を持つ者にはそれに相応しい義務が付きまとう。
| それは生き方と尊厳の問題である。キオはそんな言葉知りはしないが。
|
|「お主に権力を与えることで、自覚を芽生えさせることにした」
|「……？」「コーホー」
|
| フリットの言葉が理解できずに、キオは首をかしげる。
| 当たり前だ。当たり前だ。
|
| フリットは悪魔を滅ぼす意思以外は認めない。
| そして、キオ自ら悪魔駆逐を言い出させるために……権力。
|
| 権力？ キオは嫌な予感にぶるりと震えた。
| 中学生になったばかりのガキに、どうやって権力を与えるのだ？
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| 猫なで声で囁く祖父の言葉を、キオは生来の素直さで受け入れた。
| そうか、分かってくれたのか。
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| 悪魔のすべてを駆逐するのではなく共存できる。
| 家族の隔たりは解消されるのかもしれない。
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| 幼さゆえの甘い期待に、キオは顔を輝かせて祖父を見上げた。
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|「『高貴なるものの義務』じゃ」
|「……？」「コーホー」
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| 権力を持つ者にはそれに相応しい義務が付きまとう。
| それは生き方と尊厳の問題である。キオはそんな言葉知りはしないが。
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|「お主に権力を与えることで、自覚を芽生えさせることにした」
|「……？」「コーホー」
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| フリットの言葉が理解できずに、キオは首をかしげる。
| 当たり前だ。当たり前だ。
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| フリットは悪魔を滅ぼす意思以外は認めない。
| そして、キオ自ら悪魔駆逐を言い出させるために……権力。
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| 権力？ キオは嫌な予感にぶるりと震えた。
| 中学生になったばかりのガキに、どうやって権力を与えるのだ？
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| そうか、分かってくれたのか。
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| 幼さゆえの甘い期待に、キオは顔を輝かせて祖父を見上げた。
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|「『高貴なるものの義務』じゃ」
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| 権力を持つ者にはそれに相応しい義務が付きまとう。
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|「お主に権力を与えることで、自覚を芽生えさせることにした」
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| ……その扉の向こうに誰がいるのか、キオは知っていた。
| 『血族』大首領、藤堂志摩子様。
|
| それこそ『権力』そのものであるはずの彼女を、フリットはどうする気だ？
|
|「ここにはお前の花嫁『たち』がいる」
|「え……？」
|
| 外に鍵のかかった扉が開く。奥に進む。
| 質素な椅子に座り、姿勢正しく三人を見つめる鋭い目つき。
|
| 清楚、怜悧、健全な美。
| 立てば芍薬座れば牡丹……そんな表現を想像させる大和撫子。
|
|「キオよ。志摩子様と奥で寝ている翠星石。その二人がお前の花嫁じゃ。
| 二人に未来の『血族』を担う最強の子を産んでもらえ」
|
|「え？ え？ え？」
|「恥を知りなさい、フリット・アスノ」
|
| 澄んだ声で、毅然とした態度を崩さぬままに。
| 志摩子はフリットを罵倒した。
|
| キオは状況が理解できぬままに、その刃のような気勢に怯んだ。
|
|「『血族』らしい方法じゃろう？」
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| ……その扉の向こうに誰がいるのか、キオは知っていた。
| 『血族』大首領、藤堂志摩子様。
|
| それこそ『権力』そのものであるはずの彼女を、フリットはどうする気だ？
|
|「ここにはお前の花嫁『たち』がいる」
|「え……？」
|
| 外に鍵のかかった扉が開く。奥に進む。
| 質素な椅子に座り、姿勢正しく三人を見つめる鋭い目つき。
|
| 清楚、怜悧、健全な美。
| 立てば芍薬座れば牡丹……そんな表現を想像させる大和撫子。
|
|「キオよ。志摩子様と奥で寝ている翠星石。その二人がお前の花嫁じゃ。
| 二人に未来の『血族』を担う最強の子を産んでもらえ」
|
|「え？ え？ え？」
|「恥を知りなさい、フリット・アスノ」
|
| 澄んだ声で、毅然とした態度を崩さぬままに。
| 志摩子はフリットを罵倒した。
|
| キオは状況が理解できぬままに、その刃のような気勢に怯んだ。
|
|「『血族』らしい方法じゃろう？」
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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,. -‐_ ニﾆニ￢‐-r‐-､
／ , '´, -‐_ ニフ 7 ﾆヽ ＼
／ ／ ／ ／ ／／´/ ヽ ＼ ＼
. / / / / / / / / }i＼ ヽ ヽ
/ / / / / / / / ハ ＼ ',
ｌ ! l l l l l / ,ｲﾊﾍk ヽ l
. │ ｌ {ｉ│ l l ｲ /l ,.ｲ ﾘ ヽ}} | l |
. │ ｌ ﾘ-l‐ﾊ‐辻ト/ / ナ士ｪ‐-{{/ﾚ-! |
{ ハ lィ¨｢ス下l/ノ'´ イ「スTヾ}Y/｀} |
Ｙ ﾄ､{ ､ ド り ' ､ド り , }}〉ﾉ/ |
} ｌ lヽ｀￣´ ｉ ｀￣´ ﾊ／!l | あなたはけだものです。
| l ﾊ l! /´}} l l |
. j l l ヽ _＿ ,.ｲ ﾘ/ l {
. ,ｲ { l {＼ ｰ ／ ﾉ ｛{' { ﾊ
/´ﾉ ,ﾊ ヽ ! i ｌヽ、 ／! { { ﾊ{ ヽ!､＼
｛ / / ヽ V ノ_| ｀´ |_ﾊ ヽ/ !l / ヽ ヽ
. / / ∧、 `< j ﾘ冫 {､ !l { ﾉ }
{ 〈 〈_,.} ! ハ ハ ヽ ｿﾉ､{ / ノ
ヽ ＞ ´ ハ / L__ __」 ヽ. Ｙ{ ` ＜{
_,, イ 「 / j/ l ｀ ´ ｌ ＼ ヽ） 7 r-､_
,r'´.:.:.:.:ヽヽ. / ,ィ′ l l ） / / /.:.:.:.:.｀ヽ
|.:.:.:.:.:,:.:.:.:＼＼{ノ ﾊ | | ／ / ／／.:.:.:,:.:.:.:.:.|
!.:.:.:.:.:.',:.:.:.:.:.:＼{ {､} ！ 亅 （ ( ／／.:.:.:.:.:,'.:.:.:.:.:.:!
|.:.:.:.:.:.:.',:.:.:.:.:.:.:.:ヽ ヽｰ-- ､_ヽ /_,. -‐‐ヽ `＜.:.:.:.:.:.:.:,'.:.:.:.:.:.:.:|
ヾ.:.:.:.:.:.:',:.:.:.:.:.:.:.:.:〉 厂`ｰ┬-Y-┬‐ "´￣＼ ヽ:.:.:.:.:,'.:.:.:.:.:.:.:/
{:.:.:.:.:.:.i.:.:.:.:.:.:.:.{ (_,ｲ:.:./´{ 广ヽ:.:.:.:.:.:.:.:} }:.:.:.:.i:.:.:.:.:.:.:.:}
. |:.:.:.:.:.:i.:.:.:.:.:.:.:.:ヽ-‐'.:/ ハ---ハ ヽ:.:.:.:∠_,ノ:.:.:.:.:i:.:.:.:.:.:.:.:|
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|「けだものは血統を掛け合わせてより強い種など作らぬよ」
|
| ようやっと、状況が理解できてキオは愕然とした。
| 全身から音を立てて血の気が引く。
|
| じいちゃんは、フリット・アスノは……自分に何を求めているのか。
| 愛情ある孫への態度ではない、まるで、道具のような。
|
| 少年は、祖父を信じたいがゆえにその想像を否定した。
| 心のどこかでは確信していた。納得していた。
|
| だからこそ、必要以上に拒絶せねばならなかった。
|
| だってそうだろう？
| 愛するじいちゃんが、自分を種馬扱いしているんだなんて。
|
|「……コーホー」
|
| ダースベイダーがキオを床に下ろす。
| へたり込む少年に、黒ずくめの怪人は見えない触手を伸ばした。
|
| くずおれないように両肩を掴み、背中を叩く。
| その力強さと優しさにキオは振り返った。
|
|「……？」
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, ‐,=＝＝=‐ ､
〃 , -‐‐- ､ ﾊ
|i i !! i iﾊ
|i _ｌ｣L =-‐ __ヽrﾍ、 コーホー
. //´ ヽ.____ , '´ f ｒｖ'´)
// ∧ --ﾍ乂/
. // /＼｀Ｔフ n{
/厶 -‐=≦､_ `く ｨ凧
｀,ﾆ=‐ ､ ｀ _≧=‐'
, -＜ ｀ ‐-=≦､＿
／ ,ィ´ ｢ ｢｀ヽ‐､｀ヽ.
/ /i ﾄ､ l ! ヽ.ヽ ',
. / //i l ＼j ! ｉ i i i
/ /＼i l lヽ!__,ノ^| l_l |
ム /ハ＿__l__j_, イｌ |
├'∨ﾊ i_j＿j＿j＿j_! ! Ｌ.. -‐'77´￣ ｀二二ﾌ
i i l⌒ヽ_j__i＿j二ニ=-┴ '´ // }
i i lX´,ゝ－- - --‐ｧ,' i i { { `〈
i i lX｀7ニニニニﾆ{ { ,Ｌ二ﾆ=-‐'⌒ｰ'
i i l {｀{－－－－－ ` _, イ|
i i ト----‐─==＝T丁]：| l !
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| 彼が単純にフリットの手先ではないことをキオは理解していた。
| しかし、ここまであからさまに応援されたのは初めてで……。
|
|「じいちゃん……僕が、蒼星石さんをどう想っていたか知っていたの？」
|
| 震える声で、棒読みにならないように気を使いながら、ひきつった笑みでキオは祖父を見上げた。
| 女として求めたことはない。
|
| だが、人間として、『血族』の戦士として。
| 無力な人間ながら悪魔と戦い、交渉する姿には尊敬を覚えていた。
|
| その感情が奇妙な熱を持ってキオの目に怪しい光を灯し。
| フリットは自分の都合がいいように、それを欲情の暗い火と誤解した。
|
|「見た目は一緒じゃろ」
|「本気で言っていますか」（そんなこと言わないでじいちゃん）「コーホー」
|
| 三つの非難を無視して、フリットは満足そうにうなずいた。
|
|「キオよ、お前のほうが力が強い……だが『手』が足りないならダースベイダーを使うがよい」
|「ありがとう、じいちゃん！」
|
| 反吐の代わりに感情のない謝礼を述べ、キオは心が内側から腐るような息苦しさを覚えた。
| そして祖父とその忠実な護衛が姿を消してから、ゆっくりと志摩子に向き直る。
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_ ｡ -‐ ‐ｭ,
,.｡ '":::::::::::::::::::::::::::::`丶
.イ:::::::::::::::､::::::::::::::::ヽ,:::::::::::＼
.ｨ:::::::::::::::‐- ｡.ヽ,::::::::::::::',::::::::::::::ﾍ
/:::::::i:::::::ヽ,_:::::::::::'ｰx､:::::::::i::::::::::::::::::ﾑ
,'ｲ:::::ｿ＼:::::ﾍ ア＞=ｬ, ﾍ:::::ﾘ::::::::::::::::::::ﾊ 志摩子様……僕に。
}:::::::ﾘ `'＜ﾍ仏ハﾗ′ `ﾍ::::::::::::::::::::::::i!
V ﾑ'¨＞､ ヾ ソ Ⅵ.ィ:｀Ⅵ::::ﾘ あなたの魔術を教えてください。
ヽハ代ﾘ 〉ﾍ.i ﾍ l
`i ヽ ､ .ｲ ソ:::::::::::`ヽ,
i _＿ l{｀´::::::::::::::::::::::l
' . ﾞ ` .ｨ {:::::::::::::::::::::::::::i
/ヽ. . '" ｲｱ ﾉﾍ. ヘ ノ｀
∨i:::ヽ. _ .イ .ィ´ ﾍノ ＞'ｰ‐──一ｭ､
∨ヽ,ｨ¨ 〉 jﾊ ／ ＞'´ ￣ ￣｀丶,
ハ ／＞' ヽ. / ／ ﾑ
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|「じいちゃんを……ううん、フリット・アスノをぶん殴ってやらなきゃいけないんです」
|
| 激怒と覚悟で震える声。
| 爪が食い込み血が滲むほど握りしめた拳。
|
|「キオ・アスノ。あなたは……」
|「僕は志摩子様と翠星石さんの体には興味がありません」
|
| ここにきてようやく、志摩子は目の前の小さな戦士が味方であると気が付いたようであった。
| 驚いたように瞬きする志摩子の長い睫毛と整った美貌に、キオはハタと気が付いたように手を振った。
|
|「あ、そのっ、別に志摩子様はお綺麗なのですが、ええと！」
|「いいでしょう、キオ・アスノ」
|
| 泡を食うキオの両手を優しく掴み、志摩子は華のように微笑んだ。
|
|「わたくしの……『キクリヒメ』の魔術を、あなたに伝授いたしましょう」
|
| それは、冥府に降りるも約束を破ったイザナギと、激情のイザナミを取り持った契約の女神。
| 異なる複数のものを、生死すら和解させる力。
|
| 神道の絶対的拒絶と、『教会』の唯一無二性すらすり合わせる、志摩子を大首領たらしめる力。
| それをもって、キオ・アスノは踊り場を抜け出すのだ。
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☆ 次回予告！
やらない夫、アリカ、不人気、慎二、長門（委員長）、そしてキオ。
主人公級が多すぎてごめんなさいね。
でも今一人、ここに最後に主人公が姿を現す。
力を取り戻し、生きる意味を取り戻し、しかしそれでも失った何もかもを拾うには手が足りない。
理想を共にした仲間たちに背き、しかしそれでも友情は失われず。
なくしたものをまた拾い集め、積み上げる少年。
それが再び、その拳を握る時が来たのだ。
あ、もちろんやる夫じゃないです。
次回『上条さんは不幸』。
果てに見るのは破滅か死か。
やる夫ぇ……
キオはいい出会いをしたなあ
それぞれができることを自分なりに足掻いている感が素敵だなあ
獣の場合強いor雌にとって魅力的じゃないと子孫残せないから
本能で強い種の掛け合わせしてんだよなあ（明後日の方を見ながら
, -
,ィ≦zzzzzzz- ､
,-=ﾃミ州川州仭lliﾏﾑliﾏﾑ､
,ｲ//州州l.|liﾊ州l州ﾏlﾘi.li liﾑ、
,州ﾘ州|ｌ|ｉﾊﾏﾘ￣州州l,ﾏ州l.ll.liﾏﾆ=‐
l州ﾘ州.|州' ＿_ ､ ﾏﾘ li|lﾊ|il||li,ﾏﾑ、
l州州州ｌ|li|!〃'ﾊミﾄｌ. ` _, 州|liliﾊ
,!州ｲ州|l|i|i!' ﾐ!. Vリ .ｲﾐ､州li|ﾄﾄ!
ｲｲ!ｲ>|ﾘ.ﾏl|! } リﾘ州|l|
' .ﾄ､ヽ-､ ヾ ,＿ / ｲlil ﾘ|! 『真っ先にこの僕に話を持ってくるあたり、
州lｌ￢ 、 |::::::｀! ./lヾ ﾘ つまりキミはこの僕を疑っていると考えていいんだね？』
' '.ﾘ .ヽ.、 ヾ- ' ／
r―┴―‐- ､≧ ､__,イ
,ﾉ7777777=ｚz,､_｀`ヽ＿
,.イ'//////////////] l ,､,!
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////////,ﾊﾏ////////////////////////,≧ｚ､
//////////ﾊﾏ///////////////,r‐､///////ｲハ
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| 十一月の日暮れは早く、夕焼けは秒単位で宵闇に追いやられていく。
| 西向きの窓があるこの美術準備室では、毎夕ごとに赤と黒の追いかけっこが繰り広げられていた。
|
| 影差す闇。黒の側に座る少年は球磨川禊。
| 『マイナス』を自称する永遠のルーザー。口先で大衆を自在に操るアジテイター。
|
| 対して、夕日。黄金の輝きの中に立つのは上条当麻。
| 右腕を失った『ロストマン』。……いや、その名は捨てた。今は片手がなくとも夢を拾い歩くルーター。
|
|「いや、学内のヤバい話だったら一番詳しいだろ？」
|「『うん、まあ、そんな理由だと思ってた』」
|
| 二人はつい先日まで『破滅願望者』として夢世界で滅びを狙っていた。
|
| 右腕とともに存在価値を失った当麻は、世界を生贄にしてでも自己を取り戻すために。
| 心の奥に暗黒を秘めた球磨川は、その邪悪の発露のために。
|
| しかし今では『破滅願望者』は解散。
| メインメンバー六人と、協力者五人の合計十一人は三々五々青春を謳歌……していたりいなかったりした。
|
|「君の負けだな禊。何を始めるにしても、僕も禊か雨宮君から声を掛けます」
|「『頼れる男は辛いね』」
|
| 影の奥から、長身で甘いマスクの男が現れて球磨川の隣に立った。
| 花京院典明。球磨川の友人であり、協力者だった人物だ。
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＿
,r'"= ニ三｀ヽ-=-､)'ﾞヽ ｒ､
／//／,r＝三ミヾヽヾ} }'ヽ ﾉｿｯ
/,///／,r'" =＝ ミヾヽ 川 l l./ /"ﾘｯ
// /// //／,r三 ミヾ.l リ /ﾂ/ ﾉ/ノ ﾉ
ｌ ｌ/// /////,r ＝ ミヾ ﾉノ／ ／,ｒ"'"")
ｆ/// // / /／,r｀ヾ∨／,,.r''´／,r="ノ
ﾉ// // / /// / /ヾ''""ヾ'､'ｒ''''''ｒ='')）
ﾉ// // / /l l l l l ｌ.lｌl ﾚｿ/
. ////〃 / / ｌ l l ｌ | ﾘﾘ |//
//// / / ノ―-ヽﾄﾄl､ v-"---ｯﾘﾉ
. //// / /,ｨl | F〒tﾃ‐〉 f:r〒tﾃｯ lﾞl |
ｌ 川 / / f{ {lﾞ| ´´￣''" {ﾞ`'￣゛｀ |,リ
|川 〃/ﾊヽヾ| l:} ｌ'ﾄ|､ 学内に流通している麻薬の件ですね。
|.ｌl l / / ヾi｀ﾞl ヾ_ﾌ ｌ ｌﾞﾄ＼ すでに禊と僕は内情を探っています。
|ｌl l l / 'il l', ＿＿_____ /'|.l | ヽｏ
|ｌ ｌ ｌ ｌ l.l.ｌヽ. ''ニニニﾆ'' / |.l.l ﾞｏ
|l ｌ l | | | ＼ / |ﾘ
| l l ll ｌ.| ヽ＿＿__/ ﾘ
l l ｌ,ﾘ ｆ＝=ｒ,=====＝＝＝＝＝＝l
//./ |ｒ┐ｌl: : : ｒ―‐┐ : : : : : : : : |
/.ノ || .| ||: : : | |: : : : : : : : : :|_
_.. -‐|ｌ._| ||: : : | __|: : : : : : : : : :|: :":'':ー---_-=
-―-‐:'':": : : : ::ヽ､ ||: : : :￣: : :_:.: :-‐: : :_:.: :-‐:'':": : ,r'": : :
: : : : : : : : : : : : : : ○: : ,: -‐:'':":_:.: :-‐''": : : : : : : :／: : : : : :
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|「『勝手に手の内をバラさないでくれないか』」
|「どうせ頼まれたら教える気なんだろう？」
|
| 大仰に肩をすくめ、球磨川は立ち上がって上条の隣に立った。
| 影から、光の中に。闇に潜む怪物という自分を捨てて光に生きる弱者へ。
|
|「『流通経路は複雑でね。現在追跡中さ』『ただし』『広がり方から見て見境なしだ』『すぐに尻尾は捕まえられる』」
|
| そう言ってポケットからつまみ出したのは、ジップケースに入ったカプセル剤。数は三錠。
|
|「『カプセルなのは利用しやすさからだろうね』『使うときは口の中で噛み砕く。道具も使わないしゴミも出ない』」
|「それはどこで？」
|「『試しに買ってみたのさ』『美術部にも利用者がいるからね』」
|
| 美術部員である花京院の紹介で、球磨川は美術準備室を支配し、君臨している。
| どんなやり取りがあったのかは当麻には想像もできないが、どうせ禄でもないことをしたのだろう。
|
|「『いわゆるアッパー系で、感覚が鋭敏になるし気分も高揚する』『疲労も感じなくなるし普段とは違う発想もできる』
| 『運動部でも創作系でもセックスでも活躍する上に後遺症は依存症のみ』
|
| 『利用後は八時間寝た後みたいにスカッとするらしいぜ』
| 『……で』『一週間もしないうちにもう一回と試したくなるそうだ』」
|
| もちろん合法ではない、あるいは危険な薬物だ。
| 目には見えない後遺症が隠れているのだろう。
|
|「『何か質問は？』」
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＼::::::::::::::::::::::::::::!:::::∧:|ヽ|＼|＼:::::::!ヽ:::::::::::::::::::＜
＿＿_＼::::::::::::::::::::::ﾄ､≦云ﾆ=―ｨ ヽ::L_ﾊﾄ、:＼::::::::::＼
＼:::::::::::::::::::::::::::::::::| 《 弋ﾘ ` j!,云､jハ:::::＼＿＿＼
＼:::::::::::::::::::::::∧! ｀¨´ { 弋ﾘ 》::::::::::::::::＼
／:::::::::::／ Ⅳ ヽ ｀ !:::::＼￣￣
. ／:::::::::::::::::{ {__ヽ 〃 !:＼＿＼
￣￣￣ ／:::＞.-ﾍ ＿ 八ﾄ､!
∠ イ／/:::::|ヽ '´ ニ｀ ,ｲ 球磨川は使ってみたのか？
／‐ｧ:::| ＼ ／
/／! ＞ ､._ ／
/j ７´
,.―〈 | |
_,. -=≦＼ ＼ | ∧￣ヽ
／: : : : : : : : : ＼ ＼ ＼ | } }≧=- ､
／: : : : : : : : : : : : : : ＼ `ー-----' / : : : : : ＼
／-､: : : : : : : : : : : : : : :／ ＞―――＜＼: : : : : : : ＼
/: : : : :＼: : : : : : : : : : ／ ヽ: : : : : : : :＼
: : : : : : : :＼ : : : : : ／ : : : : : : : : : ∧
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|「『おいおい』『よしてくれよ』『僕が自分から危険に近づくように見えるかい』」
|「だろうな。拡散範囲は？」
|「『面白いことに』『僕らのクラスには利用者がいない』」
|
| それはつまり、どういうことなのか。
| 考えられる理由は……。
|
|「それは販売側の意図的な理由か？ それとも」
|「『効かない』『からかもな』」
|
| 彼らのクラスは、先月まで夢の中で永い闘争を繰り広げていた。
| その中で、彼らは『ペルソナ』という能力を身につけていた。
|
| 神や悪魔のような、異なる世界で自分が身につけていた能力の可能性。
| そんな超能力の存在が、彼らを薬物から守っているのでは？ それは都合のいい妄想だろうか。
|
|「だが試す気にはなれないですね……僕は嫌だ」
|「『同感だね』」
|
| 当麻だって嫌だ。
|
|「とりあえず、流通元を調べて締め上げるのが早そうだな。球磨川、何をすればいい？」
|「『相談役と用心棒と手数が欲しいかな』『ゆーくんと藤木とそのほかの連中にも声をかけてみてくれ』」
|
|「最近話もしていないから禊は寂しいみたいです」
|「『勝手に人のことを決めつけんじゃねーよ』」
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／,ィ ,ィ ,ｨ//ﾊ.}∧ ､ ヾ ‘，
////ﾚ//|/////l!/∧ ､ }!}/ﾊ i
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_ /ｲ/ﾊ |/ﾊ/// __∨///ヾ//!//| j ,!
_ / ﾚ::}ィ「vz≠W{￣ バｲ〈'ﾍ∨///ﾘ/
./ } /／ノ入〉 ｲノ////// 藤木は諦めたほうがいい。
/ // ／_く /┬'/////
／ // /／/ ｚ=- ./: : }/////
/ ｲ〈 ｲ｀/ ﾊ イ: : jﾊ///
| }: : : :､f ゝ- ≦: : : . : ヾ〈
| !: :/ | 〈 . : ＼
| |: ' ,! _,. ≦} . : : 〉- _
ヽ イ _ -= 了 j . : : /ニニﾆ=- _
／ // /／/ z‐ァ /: : }/////
/ ｲ〈 ｲ｀/ ﾊ イ: : jﾊ///
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| 雨宮夕日。元『破滅願望者』のひとり。
| 人間に絶望した祖父に育てられ、その呪いに苦しんでいた青年。
|
| だが、夢世界での戦いの中で夢や希望を取り戻した彼は、昔憧れたヒーローになることにした。
| 同僚に殺された父と同じ、警察官を目指すことにしたのだ。
|
|「だよな」
|「そもそも学校に来てない上に、連絡先を知ってる二人もいない」
|
| 押し込み強盗に家族を殺され、片腕を切断された男、藤木源之助。
| ちなみに正確には、『結社』の内部抗争で師匠や家族同然の仲間を全員失った『九鬼』である。
|
| 他人との交流を拒み、自分の殻に籠る源之助をこじ開けたのは二人の少女。
| 島津由乃と美樹さやか。
|
| 夢世界で剣士だった二人は、能力を使わぬ、素手の源之助に惨敗してから彼の弟子に収まっていた。
| 戯れに剣を教えることは源之助の心のリハビリにもなっていたのだが……。
|
| その片割れ、島津由乃は現実では重い心臓病を患っていた。
| 夢世界のように動けないどころか、現在は入院し、絶対安静を言い渡されている。
|
| さやかはそんな親友のために毎日見舞いに行っているので、源之助には連絡がつかないのが現状だ。
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, -‐…‐- ..,
〃⌒丶｀ ｀丶
xf { ＼
〃 l
/ }
' 〈ﾊ
; } ｀〕
| /)／）／）ノイ´ ', そのさやかちゃんも具合悪そうなんだよね。
, 乂_ ( ｰ一… '´ ', ヽ
、 ｀＞ ﾉ￣｀ ｰ―一' ', { ＼
＼ ＞／ / } ',_ ／⌒丶
l/ :rｎ｀ ／ 丶 / ∨ ＼
｛_／ | !∩ __, -､ /i! ', ヽ
l/ 八',', ヽ、_ ［/ _,ノ イ | ', |
l! ＼ 、 ￣｀アニ´／ ,' , |
|i ',ー‐r- { / ＼ / | |
|:., ', ｜ |_／ / / } | 人
| ＼ ／ ', | |‘， __∠ イ 人_ j ／: ＼
,' ｀¨:Y´ ', | | ‘， / j.／ Y´{,二二Y´: : : . 丶、
/ : : ::| ,| |/ （＠） ＿| |: : : : : : : . ｀ ｰ--‐=::､
. / : : : ::| ' | (@） ／ | |: : : : : : : : : : : . /
/ : : : : .:.:| / |-､ ／ 亅 |: : : : : : : : : :､: : : : : : : :_／
／ . : : : : :.:ﾊ ｛ | Y⌒{ _,＞ '″ ﾄ､: : : : : : : : : :丶=ニ二.,_
. ／ : : : : : .:／ ∧ヽ / ＞ ″ ／ ＼: : : : : : : : : : : : : : : : )
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|「そういうお前は何でいるのかな？ ん？」
|「わたしもゆーくんと一緒がいいー、仲間外れはやーだーよー」
|「ゆーくん言うな」
|
| 白雪ひめは夕日が『破滅願望者』であることの隠し蓑に使っていた元ぼっち女子である。
| のだが、いつの間にかひどく懐かれてしまっていた。
|
| そのべた付いた距離感がぼっちを加速させることをひめは気付いていない。
|
|「『いいじゃないかゆーくん』『女子の情報網も欲しいしね』」
|「お、さっすがクマー、話が分かる！ ちなみに他の女子三人に声はかけてないよ、
| あ……咲夜ちゃんにはかけた方が良かった？」
|「『この色気のない小娘をつまみ出そうぜ』」
|
| 他の女子三人……まずは夢世界を作った張本人の窓付き。
| 引きこもりを脱して学校に来るようになったのだが、授業に追いつくために勉強で忙しそうだ。
|
| そして、『破滅願望者』だった十六夜咲夜とその主人マーガレット・バートン。
| 先日の『滅ぼすもの』騒動で、二人は失われていた大切な何かを完璧に近い形で取り戻したらしい。
|
| それまでとは明らかに雰囲気が違うし、楽しそうだし幸せそうだった。
| 厄介ごとに巻き込まない気遣いは致し方なしである。
|
| ……もちろん、二人が滅びた故郷アトリーム関連の厄介ごとに自分たちから踏み込んでいっていることは知る由もない。
|
| と言う訳で集まったのは当麻、禊、花京院に夕日とひめの五名だけであった。
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-=7/////≧s。
／///////////////＼
／///////////////////;ヽ
／///////ハ//ﾊ//////////∧
////ｲ'/////_z∨/ﾊ//////////∧
//// |///// ∨/;|///////////ﾊ
.////_ |//// ＿,,∨;ﾊ///////////ﾘ
/ｨ/∧ ｀ヽ!∧/!"´ ヾ }///////////
'′!//示ﾐ､{! ヾ,ｨ示t‐￢__}ﾑW/´ ﾍ∨/ ちなみにその薬については僕は初耳だ。
}ﾊ 弋ﾂ'）≠{ ゞ='- "ﾉ }ハ { 〉ﾌﾉ/
,才´／' ｀ ｰ ´ - /;/ ……友達のいない根暗眼鏡で悪いな。
_／ ／! ＼ /7//、
/ ｀_ー- ､ ／}ベﾊヾ｀: ＜._
! ￣__｀}ヽ ＿ イ ′ ヾ ‘，: : : :｀
.| ￣_ ｀|´: ＼ ￣ ＜ }:.}: : : :
! 〔_,.ィ: : : : :｀¨:{ ｀ｰ､ ,:' ./:/: : : .:
λ 〈: : : ::.:.:. :.:. i:.!- _ ‘， ;:' _ -/:/:.:. : .:.:
/: } ﾉ:.:.:....:.:.:.:.:. :.ヾ＼ ｀` ´ ／:ｲ:.:.:.: .:.:.:.
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|「え？ わたしは文化祭実行委員の方で貰ったよ」
|「え」
|
| あっけらかんと肩をすくめるひめ。
| 唖然とする夕日と、愉快そうに嗤う禊。
|
|「ミントタブレットみたいなもんだって言うけど、目つきが怖いから食べたフリして捨てちゃった」
|「……」「『残念』」「残念言うな」
|
| 貴重なペルソナ使いの臨床データが取れるかと思いきや、思いのほか危機管理能力の高いひめ。
| 露骨に舌を打つ禊を夕日がどついた。
|
|「また頂戴って言ってこようか？」
|「お前案外メンタル強いな」「えー、普通だよ」
|
| だが、文化祭実行委員。
| 部活動という狭く閉じたコミュニティではなく、各クラスから人を集める組織だ。
|
| 共犯者めいた感覚は共有できても、付き合いは短く浅い。
| そこまで浸透しているということは、例の薬はよほど広がっているのか。
|
|「みんな悪いとか怖いとか思わないのかな」
|「『悪い？』『誰に？』」
|「悪いことしてるかもとか」
|
| ひめの言葉に禊がくつくつと笑った。
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_,.-=ﾆ二ﾐﾐヽヽ| ﾄiヽ＿＿
,. -‐'//￣二ヽ＼）川ヽヽヽ ヽヽヽ
／／彡 三ミ､ヽ｜ﾚ´ ミﾐ、 |｜ヽ|川）
_,.‐'´彡彡三 ―-､ヽ川/-―-､ ｀ヽ、 / 川川
/／´彡彡 二_｀''ヽﾐ ヽﾘ ―‐-ﾐヽ ヽ 川 // //）
/ / / _,.-‐､｀'ヽ ヽ ﾘ _,........_ ﾘヽ|/ﾉ ／彡
,ノ / / //｀>＼_ヽ ﾘ 彡--､ ー-ラ 彡
r彡,.-''´ Y / / r‐'ヽﾐﾘ,,.-‐'ヽ ﾄ､ヽ二三ミヽ ﾘ 彡
/／ ／ ノ | |｜ ｀'""´ 〉 / ､ヽ￣ ヽ'三彡
| / ,／ |ﾍ,､ !| | || ﾐミ三 /´!川ﾘ お言葉ですが白雪さん。
|ﾘ | （ _,..-| | ＿!、 | / ヽﾐ＿＞ /ri |川ﾘ 多くの人は『秘密』とか『ルール違反』とかが
＼ヽ ヽ: : :,.|| ヽr‐;､') _,.---ヽ!＿＞'´| //lﾉﾉﾐ川 大好きなものなんですよ。
ヽ! |／ : | ￣,.i r-,＜r''';,..-'ﾞ ﾚr',.／ヽ川ヽ
| / / : : ／| ｜| | | ￣ ,､.iﾞiﾞヽヽﾘ ヽヽ
| //: : :◎: : | !l__!.../ / ,ﾍl : ＼ﾐ､ヽ ヽ
| /: : : : : : : : | _ ﾞ'ｰ''´ ノ:'´ : >'"'i :＼ヽ ヽ,
,.-'ﾌ| |: : : : : : : : : :| ゞ_'＝=-､,_ ／: : : : : :ゞ‐': : : :＼ﾐ､ ヽ
ﾉ: //∧ヽ |: : : : : : : : :| | 「｀'''ｰ ／: : : : : : : :/: : : : : : : : ＼-ゝ
／: /:/ |: :ヽヽヽ : : : : : : : | !_ ,.-''´: :,:-'´ |: : :/: : : : : : : : : : : : ｀ヽ、
|: : : |/: : |: : : ＼ﾐ_､_: : : : : ヽ: : :￣: : : : |r'´ |: /: : : : : : : : : : : : : : : : : ｀'ｰ-､＿
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|「えー？ あー……そうかも」
|
| 校則違反の短いスカートのかわいさ、こっそり喫うタバコの背徳的な魅力。
| 万引きのスリル。カンニングの優越感。
|
|「寝る前のアイスとか」
|「『やっぱりこの小娘つまみ出そうぜ』」
|
|「じゃあこないだゆーくんとちゅーしたとかは？」
|「！！」「『おやおやおや？』」「マジか！？」「ちょっと待てひめお前！」
|
|「ガセでしたー！」
|
| 男四人を手玉に取って、ひめはぐふぐふと笑った。
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_,,.. ..,,_
, ´ _, -‐ ､_ 丶
／ ／ / ＼ヽ ＼
〃 丶
/ ',
/ / }
, { {, -{､ }-ﾉ ﾉ/
{ ヽ ヽJXJﾍ ,'しし' 八
', ﾉ ヽJ ,ﾆ、丶ノ ,ﾆ､し' ヽ
', ｛＿,人_} / { ｊ| { j|∨ト-'
', | { ﾋｿ ﾋｿ |｜
', .:| | ' | |
| .:| | ! ! 冗談はともかく
| : : | | ﾉ | 女子の中だとそういうコトの話多いよ。
| : : : | |､_ vっ _,. ｲ i!
, -―- ､- | |、 ￣不¨´｜: : ｜
〃 ヽ| | ＼／ 〉 | : : : ',
/ ,' '､ 人＿_ /l |: i: :', ',
{ / { ヽ ヽ l | ｛_ﾊ:.:lヽJ
:． {_人 }ﾍJ l | 'Ｊ｜
/ ヽ, -―‐- ､ ノヘ.ﾉ ．::.。 !-―ｲ 八
〃 ｛ ＿＿__ﾉ ,..:'´ .. ｀':, /-―ｲ ヽ
／ | | ／⌒ヽ ﾟ:／⌒ ＼ | ＼
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|「上条さんには無関係だから興味はあるけど、今はちょっと関係なくないか？」
|「待て上条。例の薬の『使い方』だが……」
|
| 夕日がようやく眼鏡らしい知的さでひらめきを見せる。
| 男女関係……セックスの快楽も高めるとかそういう話はなかったか？
|
|「『学校の外ならともかく、校内だとできる場所は限られるね』」
|「それこそ禊が占拠してる美術準備室とかですね」
|
|「え？ クマーが咲夜ちゃんと美術準備室で？」
|「『つまみ出そうぜ』」
|
| 冗談はともかく、学校内で性行為とかリスクばかりが多い。
| 二人きりになれる場所なんて限られるし、人が来ない場所はつまり掃除も行き届いていない。
|
| その上、球磨川しか知らないが二年前に起きた強姦未遂事件以降教師は目を光らせている。
| 具体的には、監視用の使い魔を使って。
|
| つまり……ガチセックスカルトを経営している理事長、伊藤誠の目を盗んでの行為は難しい。
| 難しいどころか不可能、のはずなのだが。
|
|「話変わるけど球磨川、理事長の話は知ってるか？」
|「『行方不明らしいね』『警察に捕まったって噂もあるけど』『真実ならニュースにならないはずがない』」
|
| 残念！ 真実でした！！
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／: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : ＼
/: : : : : : : : : : : : : : : : :.、: : : : : : : : ヽ
/: : /:: : : / : : : !:: : : : !: : !: : : ヽ:: : : : : ',
/: : /: : : 斗--､ :|: : : : :|: : | ,ィＴ: ',: : :ヽ : !
|: : |: : : : : |: / ＼: : /|: : r ､ : : :.|.: : : ﾄ､:|
|: : |: : : : /!/ | :/ |:.:(ヽ､｀＼:|.: : : | V
＜ : ｣_: : / _ _|/ ﾚ. ＼ ＼ ＼ : | 実はオレ、先月中に
＜:: |. 小{ ｀ﾞ'''''' ‐-＼ ＼ ＼_ 『女神の娘』泉こなたに
厶ﾍ ﾊ ､ r--‐-､ >､ ｀ヽ 殺される運命だったんだぜ？
＼_! ' ` ‐-､ ｀` `､
_, r´:/ : :| ヽ 'ー―-- ／＼ `､
_, r ´:.:.:.:./:.:.:.:.::| | ＼ ／ヽ :｀ヽ ヽ
_, r'´:.:.:.:.:.:.:.:./:.:.:.:.:.:.:| ＼ ヽ _ , ィ ´ |::.:.:ヽ: : `､ `､
_, r ´:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.| >-､ー_'/ !::.:.:.:.:ヽ: : ` 、 __ ＿__i__
/ﾞ: : : : : : : : : : : : ヽ:.:.:.:.:.:.／i! /ﾍ i. / 入 |＼.:.:.:.:.ヽ;,r'`‐´_,,..---┴‐,
l:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.＼／:.:.:.:!'! /ヽ､ヽrk'´:_,r､ ｲ:.:.:＼／ _>-‐'´.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.l
!:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:／:.:.:.:.:.:.:.l ﾞ' ! ! ﾍ/|:.:.:.:.:.:＼/::::::.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.l
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| だがそのこなた自身に命を拾われて警察に拘束されている。
| 拘束理由が表立っていないせいで行方不明という扱いだ。
|
| しかし、学園側からすれば生死不明の行方不明。
|
|「理事長は学園の裏側も牛耳っていたらしいな。それが行方不明で？」
|「謎の麻薬が流通していて、監視役であるはずの教師が動いていない？」
|
| ……それはつまり。
|
|「理事長さんが裏から糸を引いてる？」
|「理事長がいなくなって、暴走している教師がいると考えた方が早いな」
|
| 一蹴されるひめ。致し方なし。
| この学園は『血族』『教会』『結社』すべての息がかかった中立地帯だ。
|
| ここでのもめ事は、誰よりも理事長伊藤誠が嫌がる。
| 一般人であるやらない夫が解決できる程度なら無視されていたのだが。
|
| その誠が行方不明で。
| 『結社』は撃滅され。
| 『血族』はフリット・アスノに下克上されて。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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_＿ , -――-
, ､_,イ´:.:.:.:.:｀TT:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:｀ヽ
/ /:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.| |:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:＼
ノ {:.:.:.:.:.:.:.:.:.:／｡ﾊ:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. : :',
{ .:',:.:.:.:.:: ／|i´ノ ﾉ＼:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: /
/_ .:::/:. : :/ ゛- ´, ', i＼:.:.:.:.:.:.:. : `i
i´ ヽ/:. : :/=-‐ヽ ｀ー==｀ｊ ＼:.:.:.:.:.:. ｜
_, ''" ＼ i:.:.:.:.:i -'"ヽ } ﾉ、 ､ ﾐ ,.-､ ﾊ
'" ..::::::〉y':.:. : | ,rf戈 ; , ｀ー'゜ ﾐ/ ∨:. ヽ 知らんな〜。
..:::::::::::::{:.:.:.:.:.:{ '､_ ..;;ﾐﾑﾉ ﾉ:.:.:.:.:.,’
.:::::::::::::::::{:.:.:.:.:.:ﾊ i'ﾉヽ ,,,,;;'､' .:::::::〉-´:.:.:.:.:.:.ﾉ ペルソナの問題が片付いて、
.::::::::::::::::::::ﾊ从:.:.:.:ﾊ ;;;,_ ___,. -''"ﾉ ::;;;/:.:.:.:.:. : :i.ﾘ ここしばらくは平和なもんだぜ？
::::::::::::::::::::::／ ヽ:.:.:.:i;;; ヽ--―'''" ,,;;/ : :/ : :_ノ
:::::::::::::::／ ＼.从 ｲN_ ,_／:. ／,:. 'ヽ
::::::::／ r' ﾉﾙ从从ﾉﾙ'´ﾉﾙﾉﾙ'ﾆニニi
::／ / /r'}八{,ヽ从ﾙ'ﾆニニﾆﾆﾊ
:i__, -‐- ､__,. -'''". | i’ﾉ:::::i | ／ﾆﾆﾆﾆﾆﾆ` ､
:/∧Ｏ ﾊ ﾏ.__ノ / ／ﾆニニニニニﾆ " - ．_
://∧ `ー‐ ´／ﾆニニニニニニニニニニニ
:///∧ O. ≦ﾆニニニニニニニニニニニニﾆ
///// ＼ ｀=ﾆニニニニニニニニニニニニ
/////// ＼ ｀ﾆニニニニニニニニニニニニ
///////// ＼ Ｏ )ﾆニニニニニニニニニニ
////////////｀¨¨｀ヽ O ／ﾆニニニニニニニニニニニ
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| 数少ない教師側のコネクションであるクロトワ。
| 彼は夢世界の事件の犯人側の一人であり、元より魔術師だ。
|
| 正面から尋ねに行ったのが間違いだとばかりの門前払い。
| 学園の数少ない喫煙所扱いの社会科準備室から、当麻と球磨川は成す術もなく退散した。
|
| 大人数でぞろぞろ行っても威圧するだけ、だから二人だけでの訪問だった。
| 海千山千のクロトワに、威圧は効かないどころか逆効果であるという判断は正しかった。
|
| そして、あそこまでナシのつぶてだということは……。
|
|「どれだと思う球磨川？」
|「『犯人一味の協力者』『を装っているスパイ』『かな』」
|
| 露骨な無関心は、逆にすべてを知っている可能性を示唆していた。
| そして、クロトワはそれを容易く悟らせてくれるような無能ではない。
|
|「どうする？」
|「『こちらが動いてるアピールはできたさ』『敵さんの反応待ちかな』」
|
| 行動は囮作戦に近い。
| しばし、時間をおいて麻薬を流している側の対処を待つ。
|
| その姿勢が命取り。
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|三三三三三三三三三三三＿7 /〈 〈＿_ ./ /７｜./ ∧＼ ./ /＿_〈 〈＿_ / ∧＼ 〈〈 / / 〈〈.∧∨,/三三三三三三三三三
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ﾉ -‐ｧ /ヽ } ヽ、
／ { { }_ ﾊ /し'7
{.′ ／八 ｀ヽ / :} /´刀 ./ /
_ ﾉ （ ＼ } ﾉ ./ .yく（ {
／ / ／i{ ＼＿ ヽ ＼ { / _ｲ l| / /`l
/ :/ / ｉ: : ヽ＼ ./ / ｌ ｌ| _｣ l |刀
{ { { 八 、 } ヽ / / l lレ′ _ l |ﾚ'
/| { { ヽ ヽ: ﾊ ../ ヽ レ､ゝｨ.__.. //-‐''´ヾ=,'
{ :＼_ ＼ ヽ ﾊ i} .} i / ハ ヽ､ / ＿_ / ;
-‐ ＼__ 、 i} ﾉ , ′ :} / / ヽ { l ,r''7ﾞ/ ./ / ｉ
Y´ -‐=ゝミ ＼__ ﾉ/ ／ / l / ヽ-' {／ / / ./ / |
／ -‐_/ / :／⌒i i ./〃 /／;| ﾚ′ l / l / ｨ.__.. -‐ｚ ′
{__＞ ´ 辷}´ {｀Ｖ 、 | { ／/ ﾉ ﾚ′ .ﾚﾞ/ _ //
} :／ 弋iﾊ ｰ-={ ｰ=彡 ／ / .l ,r''7ﾞ// ,'
｝ ::Y ,.,;.;.;.;:ヾ} ｰ=彡イ／}. -‐=彡 / {／ / ∠ノ
／} :::::| __ ﾉ-‐rz:､‐-{／{＼_-‐=彡 ′ / /,r‐ｒ‐ｚ
／ _｝ ::::| {ヽ{ {／ ﾉ;; ｀¨¨´＜ﾉ人__ ＿_／ l. / l / ﾉ
// ／ﾉ ,..:.::::| _ヽ_) ¨´ ＜-‐ ¨ ﾉ／ .ﾚ′| ル/乃
}／／＾Y :.7人＿′ -‐= ´ ／ ." / /
.／.ィ }/ /}¨￣ / /
/ /| i / /:ﾘ .i /
./ / .| | ./ /¨{ .ﾚ′
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| 下り階段に差し掛かった直後、球磨川が後頭部を強打されて転倒した。
| 突然のことに受け身も取れずに踊り場まで転がり落ちる。
|
| 気配を感じさせなかった襲撃者は、振り向く当麻の右に。
| 三角巾で吊った右腕側に回る。
|
| 鮮やかな金髪。当麻も球磨川も彼のことは知識として知っていた。
| この学校における、札付きの不良。去年まではやらない夫に押さえつけられていたとされる少年。
|
| ディエゴ・ブランドー。
|
|「球磨川！」
|
| 当麻は安否を気遣う声を上げながら、鉄パイプを握りしめたディオに相対する。
| 教室の椅子を分解したような鉄パイプ。防御もできずに殴られ、落下した球磨川。
|
|「フン」
|
| つまらなさそうに鼻を鳴らして、ディオは膝蹴り。
| ギプスのされた右腕を狙い撃ち。それは、当麻にとっては一切の痛痒もない場所。
|
| それゆえに想定外の一撃となり、直後にガードのない脇腹に鉄パイプが打ち込まれた。
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i V.:/.:./.:.:.:.厶斗i:、:.:Vi/_;籤_从:i:.:|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:＼.＼
{ 'イ.:././:.:.,i/｛炒ﾍ{＼{` ﾞ´三￣}川:.:.:ｉ:.|:.:.}:.:.:.:._戈¨｀
∧/イ./.:.:,:.:i;=' ﾉ 三 ´'″|:|:!|:.｢V:.:.､:.'マ^
∨/.:.:/.:.:| } 、 ￣ __ |:|:!|:.|/:.:.:､{＼|
／ / ;イ:.i:.:.| ＿_, ;≦;￣ |从V:.:.:.:､:.ヽ ぐあ……ッ！？
´＼ / '}_jバ从 ;(r'¨￣`三; ;／:.:.､＼:.:{＼|
/ ／ ＼}/;＼ ´'; , ,ﾒイi:､.:､＼`戈^
／ ＞ﾍ};>､ ´;≦_; !:|厶厶:.{Ｖ＾
／￣￣￣ ／}` ｰ≦;三≧←'￣￣`〉}
∠二≧ ､ .∠{_ノ }￣＼,ﾒ/ 〈ﾝ ､
ー…;←≦ ＜__ ／{ `'ー─ ') / 〉, /, ,厶 ＼
＞,く ＼＿_ , ;彡' ／ Ｖ . く ＼ ＼
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|「『あの方』の周りをうろつく野良犬どもめ……死ね」
|
| ペルソナを出す暇もない。
| 激痛に耐え踏みとどまる当麻に、ディオが鉄パイプを振り上げる。
|
| 腕でのガードは、骨が危険だ。
| ペルソナを現出させるかと躊躇した当麻の足を、ディオのかかとが薙いだ。
|
|「あッ」
|
| バランスを崩した尻に追い打ち。
| 踊り場めがけて落下する当麻が見たのは、広がりゆく球磨川の血だまりと、あり得ぬ方向にねじ曲がった腕。
|
|「誰かに見つけてもらえるように祈るんだな」
|
| ディオの捨て台詞。
| 背中を階段の段差に打ち付け、当麻の意識は暗転した。
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| ′ ｲ,､ﾊ Ⅶ ` .Ⅵ{ l ｲ州il}l}i州l|ｌ|l}}!l州!|!lIl}
| i'.|'/ﾊ. ` ＿ Ⅶ/ﾘlⅥﾘ,Ⅳｌ州I!ｌili!|Ⅶ|i州 『また、勝てなかったぜ』
｜ .:l: ゞﾘ'′ .ｰｚｚ､｀` ./' }i!州ﾘｌⅦ!li|i州li|i}}i州ﾘ
.l | `´/ "´`/7ﾊ,､_ .i|ﾊi|li|lⅥ州州l|ｌ|l州|ｿ
:| .; / ,ハ'///ﾑ ,ｲ〉Ⅶl州!l!i| i!,ⅦｌⅣ 『だが』
:} ｉ. l:. `弋//ｲシiﾘ'ｨ,孑笊气州 ｷ{i从
＿r〈} ,':. `′ ｀￣´,ｲﾘ／ﾘ':i!.fl|`フ州|i|ﾘ 『いくつか分かったことがあるな』
',::::::;'. ヽ、 __..:∧: ､__ ｲi|!'′/' _ﾉ::: ノ,ｨ州!ﾐ
∧iﾘ ｀ ､;;;ﾘ.〉 :: .` `ｰ ... ／' .イ＿,...,ｚｲ州Ⅶ{ `
'-､`､_ /ﾍ .:. ,.ィ.´ Ⅳ|Ⅶ `li{
ゝ'///＞, ､_ ﾊ::::ヽ.'､＿＿_ ,...::::':／ _,..ィ'´￣￣￣}l
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| ディオが去ってすぐに、球磨川は『何事もなかったかのように』起き上がった。
| 流血も骨折も幻のように消えた。それが彼のペルソナ能力。
|
| 当麻の負傷もまた同じ能力で『なかったこと』にされる。
|
|「ディエゴ・ブランドーが出てくるとは思わなかったぞ。あの人、一匹狼じゃなかったのか？」
|「『備府やらない夫の舎弟だよ』『というか、友人かな？』『とにかく』」
|
| ディオが『あの方』などという相手は、学校内にはおるまい。
| そもそもディオは、学内で強い勢力を誇るジョニィ・ジョースターの天敵だ。
|
| 彼との対立のためにヤクザや『結社』に取り入っているはずなのだが。
| では……麻薬はそちら側から？
|
|「対応が早すぎたな」
|「『つまりクロトワは完全な黒だね』」
|
| 二人が社会科準備室を辞すると同時に連絡が行ったのだ。
| だがしかし。
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ﾄ､ ／! ／!
|:::::＼／:::::| ／:::::|
|:::::::::::::::::::::ﾚ':::::::::::| ,.ｲ
｀ヽ‐―┘::::::::::::::::::::::::::::::::::レ'∠ ／￣／
＿＿＿__＼::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::／ _,.
＼:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::￣￣／
＼::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::く
､＿＿_ヽ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::`ーｧ
＼:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::＜__,..
冫:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::／
／:::::::::::::::::::::::::::::::::::/!::::/ !:::::::::::::∧__､::::::::::::／
／イ:::::::::::::::::::::::::::::::::/_」::/-‐|::::/::::/斗=ﾐヽ:::::__＼ ディオは分からないけど、クロトワは信用できるな。
/／/:::::::_/::::::::::〃_,. j/=ﾐ刈/|:::/^-j/′!:::::＼｀ 助かった。
／ /::::::::{/::::／//ヾ _ゞ ' / j/､ヽ ﾄ､「｀ヽ
厶イ /／ V〈 _,. 〉ﾉ 八 ヽ=ミ、
ﾚｲ 人 _ーヽ / i ＼
／ /｀∧＼U ,. -―' /! | ＼
／ /! ∧ '´ / :| i ＼
／ / | ヽ ≧=--イ / :| ＼
/ | | |丶 / / :! ／ヽ
| | | ＿__ |＼〉 :/,.-､ / / i
／| | |＿/ 〉 V ヽ＿＿_∧ ＼＿/ :/ :|
. | :| ､ / ＼､＿＿:/ ＼ / :!＼
. | ＼ ＼ ＼:.:.:./ ／ i :/ :! |
. | ＼ ＼ `ー―､/ ／ | / :| :|
. | ＼ ＼ ＼ 〉' i | / :| ＼
. / ￣￣ヽ :＼ / ! | ＼ 〈 | ＼
. / へ ＼ | | 「￣￣ ヽへ ＼ヽ / |
/ ＼ ／ / ＼ ＼_」 :| ￣￣￣ヽ/ ＼/ |
.＼ ＼＿＿＿＿＿_| | /＼〉 く ヽ
〉､ ＿＿_」 ＼ | / ＼ | ／ |
/ ￣￣￣/ 〉ヽ | 〈 | / ／ !
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| クロトワほどの抜け目ない男が本気で球磨川と当麻を潰すつもりなら、ペルソナ能力の説明をしないはずがない。
| ペルソナを使ってもディオには惨敗していた可能性はあるが、それはそれ。
|
| 球磨川をただの重傷で放置するなんてあり得ない怠慢だ。
| 本気なら、クロトワが魔術かペルソナ能力で封殺しないはずがない。
|
|「『おいおい』『ディオも間違いなく味方だぜ』」
|
| 反り返ったポーズで球磨川が笑う。
|
|「『『あの方』だよ』『あんなにわかりやすいヒントをくれるんだ』『ありゃ飛んだお人好しだね』」
|「まあ、やらない夫さんじゃあないだろうな」
|
|「『だろうね』」
|「……ディオがあの人の友人なら、協調するのも悪くないな」
|
| つい先週、『滅ぼすもの』の事件で『破滅願望者』たちは何人もの仲間を失いかけた。
| 彼らを救えたのは、ひとえにやらない夫のおかげであり。
|
| そのやらない夫が指名手配になった今も、何かあれば彼の助けをしたい。
| 当麻はそう考えているのである。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
|三三三三三三三三三三三＿7 /〈 〈＿_ ./ /７｜./ ∧＼ ./ /＿_〈 〈＿_ / ∧＼ 〈〈 / / 〈〈.∧∨,/三三三三三三三三三
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ヽ、
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7/ |从从|i〃7刋::::ﾏ!::ｨ＝=x_W 州洲ﾘ洲i!j 『……』
/ 从i!i 从 ゝﾋｿ:,:::::::::::i /２:::>ﾇ 州洲ﾘ洲/
！ ´Ｖ ﾏ从i!ヽ::::::f:::::::::::::::｀¨¨´テシ洲ﾘ洲,'
ﾏ/ i -＿＿ ｲク/⌒l从 『やれやれ』
｀. ﾍ ￣￣´´ ´_ -ん彡ﾍ(
ヽ、 イ 不不
ヽ- -＜ ´ ∧｀｀
＞＜―>＝＝＝＝＝＝＝_
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Ｖﾍ || 7三三＞＜三三三三＞x＿_
|ii| 〃 7三＜三三三三三/三三三７
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／三三○三三三三三三三/V三三三三j
／三三三三三三三三三三三ソ三三三三７
.VV三三三三三三三三三三γ三三三三/ハ
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.!三三○三三三三三三三f´ ト-＝= ＞
.!三三三三三三三三三三| [二二] 副 会 長/
|lニニニニ三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三ニニニニ
|三三三三三三三三三三三/ /＿. / /￣ / ,ィ | 7 /ﾝ ） / /＿. / /￣ 7 /ﾝ ）. // 〉 〉 // // / /三三三三三三三三三
|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
|
| そこに球磨川は同意できない。
|
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☆ 次回予告！
二人の帰還者は闇に潜む。
一人は、再び家族のもとに帰るために。
もう一人は、家族と雌雄を決するために。
二人の女は夜の街をさまよう。
一人は、愛する人を見つけ出すため。
もう一人は、愛とは何かを見つけ出すため。
次回『一話には足りないちょっとしたエピソードあれこれ』
果てに見るのは破滅か死か。
今回クセ者どもしかいない
ひめが癒しい
球磨川、やらない夫嫌いなんか
諦める概念を自ら消した奴を好く理由はないだろうな。無惨様が童磨をあまり近づけないのとある意味似た理由だ
今年も色々あったなあ・・・
＿, --zｧ─ｧ‐=ｚ,_
／ ／ / ／￣ ミx
,ｨｆ/ ﾊ:::} ,ｨノ / __,ｨｆ'⌒フ＾i
. /}::|l/{ ﾉﾉ/レ--く::::ノ ／ ∧
/＼{lレ''"´ ﾉ___／r‐==ニ{
i { }ーｧ:;ノｒ==一7
. } ,ｨjﾊ ＼｢__,ﾉ,／￣{
ﾋx､ ノ ,ｨｆｧ'⌒ヽ ＼_/ ,ｲ｢} |
. ｀rぅ rｔ:::ﾗ フ / ノ ﾘ,/
. ｢´} ヽ￣｀ :' ｌ _,ノ
∨ / 厂i ト､
. ‘ー⌒ ,′ l リ＼
こ⌒ｰ ／ / ＼ヽ
__. -=≦八 イ ′ ∧ ＼
. / ー＜ ／ / l |＞ｘ､＿＿
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＿＿＼ i / ／ /＿_| l|_／ / |＼ l
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. | i | ﾄ-ｲ|＼ ＼ | ＼ ,′
. | l l （ｂｄ)| ￣￣ ,′ 〉 /
. │ | }冊{ | / / / /
l | |l〉)X(〈l| / ./ /／
. l | , | ﾄｰｲ│／⌒} / / /
ｌ │ / | （b d）.| / / ./ ／| ＿／
. l | / │ }冊{ │ / / / ,ﾉ /
ｌ |' |)〉)X(〈(| / , / / /
. l ! l ﾄ--ｲ l / / /.ｌ /
. l | | （ｂ ｄ）.| _,/ / / ′l /
ｌ | | }I冊I{│ l / / i ___∧
ｌ │ l＼ ／! | / ／ /／ /
|＼ | |)〉）X（〈(| │ ′ ／{ー--- ∧
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|「〜これまでのあらすじ〜
|
| 『血族』の元『四天王』『狂死』。
| （一方的に）愛する家族の住む杜央町に帰るも、やらない夫のテロニュースを見て東京に帰還。
| 東京の平和のために立ち上がるのだった」
|
|「誰の話だ？」
|「君だよ、君。吉良吉影くん。家族を捨てて戦場に来た哀れな男」
|
| 広い会議室には『狂死』しかいない。
| そのタイミングを見計らって話しかけてくる幻覚を、『狂死』は蠅でも払うように振り払った。
|
| 彼は今、警察のお世話になっていた。
| 隠語的な意味ではなく、正しい意味で。
|
| 『狂死』はある男と同年代で、属する組織は違えど、いや違うからこそ協調してやってきた。
| 互いに人好きしない性質で、敵も多く他者を寄せ付けない。
|
| だがそれ故か、あるいはどこか共感するところがあったからか。
| 二人は悪くない距離感で付き合ってきた。
|
| いや、お付き合いもお突き合いもない。仕事相手として上手くやってきたということだ。
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|;;;| ﾉﾘ ﾐ;;;|
_ゞ;! r─-- ､ ,rｪ--- ､ﾐ;ﾘ
!ﾍl;|. ぐ世!ﾞ｀｀ ,ｨ '"世ﾝ ｢ヽ
!(,ﾍ! ￣'" |:::.` ￣ ,ﾄﾞﾘ うほっ、いい男。
ヽﾞ､! !; ,ﾚｿ
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|「やめろ寒気がする」
|「誉め言葉だと受け取っておけばいいさ」
|
| やってきたのは阿部警部と、もう一人。
| 潮焼けした髪で日焼けした海の男。
|
| 賢明なる読者諸君はお忘れだろうが、間桐慎二の前に現れた謎の男、自称『アセム・アスノ』である。
| アセムは『血族』を簒奪したフリット・アスノの息子であり、父親との不仲から出奔したとされる人物だ。
|
|「アスノか」
|「ご挨拶だな吉良。同期だろう？」
|
| 驚くべきことに、彼は本当にアセム・アスノなのであった。
| 東京の惨状を知り、留まっていた紛争地帯から帰還した次第である。
|
| アスノは、こちらは『狂死』の本当の同期である。
| 若い頃は同じ戦闘班に参加したこともあった。
|
| その班を率いていたのは外ならぬ夢宮シロウであり、他に二人女性がいたのだが、それについては割愛する。
| 夢宮シロウ＝『弓兵』であり、後はレナ・セイヤーズと間桐桜。
|
| レナはアリカの母親で、遠坂凛は『血族』ではないので同じ班ではなかったのだが。
| いや、割愛だってば。
|
|「日本の警察は優秀だと聞いていたが、備府やらない夫の足取りは掴めていないみたいだな」
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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／二ニゝ ﾉ_,,..、 Y'¨入
/>-ﾆフヽ::〉.''"二_｀丶 !、 ﾊ
i'"´,,.ｚェヲ' ｨﾃﾗ ｀ヽ ﾉ¨ﾞヽ
.. l./´ヽ'´ .ﾉ丶 ｀¨￣/´ ﾊﾇヽ_ｊ
ｊ ｒ｀丶¨ l. ''"´ / 〉｀ i
{ i´ら ､ l ヽ' l
. ヽｒ- ｿ!. ', ,∠_｀＾ヽ ,' 別に必要ないだろう。
.l ｌ ' ､_ ￣´./
「¨ミ>､ ヽ、 ⌒i /
/¨丶､ ＼ 丶 _._ ,'
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／ ／ ', ＼ ヽi:ｒ‐!
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| そっけなく『狂死』。阿部が男らしく太い眉を上げた。
|
|「なぜだ？」
|「『血族』での動きは見ていたからな。あれは麻呂と脳噛の弟子だぞ」
|
| アセムが顎髭をしごく。
| 彼らの後ろから現れたほかの警官が首をひねった。
|
|「その二人の弟子なら？ テロは行わない？」
|「ふはっ」
|
| 『狂死』の失笑、面白い冗談を聞いたかのように腹を抱えて。
| ムッとする警官に阿部が肩をすくめた。
|
|「麻呂はともかく、脳噛は女神を騙して兵器を産ませる外道だぜ」
|「その話、本当なのかよ」
|「事実だ、確認した。接触は控えたがね」
|
| 『スーパー運命破壊マシーン』やる夫のことである。
| その真偽はともかく、『狂死』はやる夫を警戒する理由があった。
|
| 本当に運命を破壊されたら？
|
| ……すでに肉体は死亡し、他人の肉体に憑依することで生きながらえている『狂死』。
| 彼は運命を信じない。信じないが、自分が現存する理由について考えないわけではない。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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ﾉl
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、＿ { ＼ { ／ _, /、
ヽ ヽ _ゝ--=i -=＜ ﾌ
_Y / i} ＼ l=- _ ＜_ _
ゝ_＼ _／ l lヽ}＼ Yl ﾆﾆ=- _ / 吉良は『そっち』の方が重要だから
/ ／/.l l l l /ｨｯﾌ l lﾆﾆﾆﾆム テロリストは放置していいって考えかい？
l , ｨ / l l ﾄ 、 ｀ / ｨ l lﾆﾆﾆﾆﾆﾆi/ ＼
V / / l l _.{ l/ l / lﾆﾆﾆﾆﾆ／ ＼ |＼
l/l ヽ_＼ ヽ ＿ l / /ﾆﾆﾆ ／ ヽ
_ｨl ﾄ、 ﾄ .、' - 从{ /ﾆﾆ／ _ィ= 、 l
_ -==ﾆﾆ=へlﾆ )ﾊ ＞ -イ; ;/ﾆﾆﾆ| ／/////ヽ l
＼ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆV/; ; ; ; ; ／＼ﾆﾆ.{ l ////////ﾊ l
` -=ﾆﾆﾆﾆﾆﾆ=- _; ; _／ﾆﾆﾆ ＼ム l/////////il l
/ lﾆﾆﾆﾆlﾆﾆl/ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ／il l/////////∧l
, ／ﾆﾆﾆﾆ i／ﾆﾆﾆﾆﾆﾆ_ イﾆﾆム V//////////ヽ
l／ﾆﾆﾆﾆ ／ﾆﾆ＞-=ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ ﾑ ＼/////////∧
ゝ` Yﾆ ／=-イﾆﾆﾆﾆﾆ[ ]ﾆﾆﾆﾆ 、 ＼////////∧
l /l／ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ= __ ヽ/////////
ヽY |ﾆﾆﾆﾆ三三三三ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ/ >＼///////
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|「違う違う。あの二人の弟子なんぞ保護しなくても勝手にやるから無視していいと言ってるのさ」
|
| 警官たちの顔色が変わる。あからさまな安堵。正直な連中だ。
| その警官二人がやらない夫と懇意なのは有名だった。
|
|「見つけても、極力支援しない方がいいぞ。『血族』や『教会』に付け入る隙を作らせることになる」
|「あ、ああ、そうだな〜」
|
| そっぽを向いて口笛を吹く阿部。一同の視線が集まる。
| こいつ、すでに接触したな？
|
|「君らが捜すべきは、脳噛の息子の方だ。入即やる夫」
|「『結社』撃滅作戦以降『血族』を裏切って逃亡しているという、あの？」
|「そうだ」
|
| 阿部と『狂死』以外はノーチェックだったのだろう、釈然としない表情。
|
|「個人戦闘能力や異能ではなく、数値化できない点で危険な奴だ」
|「危険、危険ね……優しくて繊細ないい男なんだがな」
|
| やる夫とは交流のある阿部がかばうように言った。
| 『狂死』はそれを皮肉っぽい笑みで聞き流す。
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ト､./ i i i ､. /〈 / r／ィ 7 i
ト,/¨`ー──一´ーイ￣￣￣ ７ . _i､
rく|::: ::: ::: :/: ﾉ: :: :: :: : : i/／ i i
.. / ﾄト-､: ::: /::/: : / : :: : : : i/ /|
| t | ,ミﾐ､::: :i: :i: : ﾉ /: : : : . i ／ /
／! Y ヽ､ rx ::Y:: :/ / _ - /／./
¨ヽ ti ! ゛T´ :| トｲー ニ¨ - ラ¨/ /
i ,i i . |r.イ くｰr三テ､ / ／i 味方にいればそうだろうな。
i .i i. ﾚ ∧ ヽ ヾ-- ´ ﾃ 7イ
l ,i i ir' ／ / i､ 脳噛の息子だぞ？
i !i ミ_ - /. / / i､ 敵に回したら誰よりも厄介なのは自明だろう。
. i i､ 入＿_ ／ _/ | r'/ i
i . ｜ ヽ ＿, ヽ ／ ∠´/ ヽ_Y /
/ ヽ_ , イ / ）'
¨ ー- イ彡 . / ¨ ,ィ
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| 阿部とアセムが深くうなずいた。
| やる夫の良いところは育ちである。
|
| 狂人シックスに育てられ、独自の倫理観と優先順位を有する脳噛ネウロと異なり、
| 常識的で親バカの伊藤誠に育てられたのだ。突然裏切ったり、支援を打ち切ったりしない。
|
| と言う訳で、阿部とアセム、『狂死』は脳噛と共闘したこともあるが、敵対したことも多々あった。
|
|「優先順位をつけるなら、次は夢宮の娘でいいのか？」
|「アリカちゃんね。アレで男だったならな」
|
| 彼らにしてみれば、夢宮は祖母ではなくシロウのこととなる。
| それ故に、まだ幼いアリカの潜在能力に一切の疑問がない。
|
|「ついでにどこかに潜伏しているその父親だな」
|「あの人どんな顔して実の娘に会ってるのかね」
|「アセムは人のこと言えないと思うね、俺は」
|
| いまだキオに会えていないアセム。
| 二人の間にも十年近い断絶があり、最悪互いに気付かないかもしれなかった。
|
|「……キオの捜索は続けていいのか？」
|「好きにすればいいさ」
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ヽ 、 ‐ ￣ ￣ ´ ﾉ
. ）./ ,. （ ,. ⌒ ｰ- _ _,
／八 .: :. ' -― ￣ ／
/ / （ :. ゝ_ -‐ 、,:′ _＿ イ、
{､ ', '" -‐ ; ´ ､ ヽ､
. ｀ ／, ／ ノ 、｀ 、 ー=- , -ヽ
', ' ' ／ ヽ ヽ ＿ ｰ ､
i.{.; .ｊ / , / ＿_ l 乂 ｰノ く
､_乂ィ, .' ,ﾊ（ ´‐ｔｯﾉ ; } ｀ ＞ すまないな。
,.イニ,{ ｉ /ﾉ ヽ、 / イ; ﾉ ｀ ｰ- ‐'"
／二二トヽ ト ﾚ'/ ﾉ /', ヽ r ヽ
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ヾﾆﾆニニニ!ｒｊﾉ ハ ｀ ヽ（ 、 ヽヾ｀二二二二ニ／
. ＼ﾆﾆニニ!ｲV -r ‐ _./ ,ハ !｀⌒`.ﾉ二ニニﾆﾆ／
｀'マニﾆ} ､ ヽ￣￣ .{/ ` ｰ ./二二ニﾆ／
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／ |ﾆニニヽﾆニニニ'ー--‐ _, -‐ ／ ﾉニ＞'"ヽ、
〈 !ﾆﾆニ二｀"-ニニ!__ -‐'" ＿-=ヽ二二二ﾆ＼
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、 ﾏ=!二二二二＼}`ー／ニニニニ=＝'ニ／ニニ／ ＼.} ヽ
ﾏlﾆニニニニニ,.イ二ニ-‐'"ニニニニ二二／ ｀ ,
ヽ '!ﾆﾆ,＜ﾆ-=ニニ二二二二二二二二二, ' ,.ィ､⌒ ,
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|「気にするな。私も志摩子様を捜している……最悪二人は同じ場所だな」
|
| 地面を指さす『狂死』に、アセムの顔色が変わる。
| フリットがいくら狂気の淵にあるとはいえ、実の孫と組織の長を殺して埋めるとは考えたくはないのだろう。
|
|「あとは？」
|「柴崎姉妹だ」
|「姉のほうだけではなく？」
|
| 警官二人の後ろにいた、女警官が反応した。
| 柴崎。蒼星石と翠星石である。
|
| アセムと『狂死』はレミエルの夢を見ていないが、阿部や警官たちは知っていた。
| 東京を滅ぼそうとする大天使に一人立ち向かう翠星石の振る舞いを。そして、彼女の異能を。
|
|「異能に胡坐を組んで頭の使い方を知らん小娘は切り札かもしれないが、使い時が難しいぞ。
| 対して同等の才能を持ちつつも狡知に長けた妹はいつでも活躍するオールラウンダーだ」
|
| 蒼星石が平将門と東京の守護を降臨させる巫女であることは、『血族』でも一握りしか知らない。
| だが、ニャルラトホテプを放逐した『原初の軟泥』を使ったのは蒼星石だ。
|
| 才能をすべて姉に吸い尽くされたなどと、そんな風に考えられるはずがない。
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|「気にするな。私も志摩子様を捜している……最悪二人は同じ場所だな」
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| 地面を指さす『狂死』に、アセムの顔色が変わる。
| フリットがいくら狂気の淵にあるとはいえ、実の孫と組織の長を殺して埋めるとは考えたくはないのだろう。
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|「あとは？」
|「柴崎姉妹だ」
|「姉のほうだけではなく？」
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| 警官二人の後ろにいた、女警官が反応した。
| 柴崎。蒼星石と翠星石である。
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| アセムと『狂死』はレミエルの夢を見ていないが、阿部や警官たちは知っていた。
| 東京を滅ぼそうとする大天使に一人立ち向かう翠星石の振る舞いを。そして、彼女の異能を。
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|「異能に胡坐を組んで頭の使い方を知らん小娘は切り札かもしれないが、使い時が難しいぞ。
| 対して同等の才能を持ちつつも狡知に長けた妹はいつでも活躍するオールラウンダーだ」
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| 蒼星石が平将門と東京の守護を降臨させる巫女であることは、『血族』でも一握りしか知らない。
| だが、ニャルラトホテプを放逐した『原初の軟泥』を使ったのは蒼星石だ。
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| 才能をすべて姉に吸い尽くされたなどと、そんな風に考えられるはずがない。
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/ __/三三三ﾆ＞''"三三三三三三圦
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≧=‐へ三(}三三三三三三_,,.. -‐j竓苹ｘ//}
|//////|,ｨf爰斧ﾐⅥ V斗 ///
|/| ///杙 VjI斗 { 彡′
V＼///＼ ∨:. ;′
＼ ≧=‐ミト / / 柴咲蒼星石は『血族』によると自宅謹慎中なのですが、
≧=ぅ、 _, -:::> / 現在彼女の自宅は家政婦に制圧されておりまして……。
从|::... ` "´ , :′
冫、::≧s｡. ／､
|::::::≧s｡.__.≧≦:::::::|
|:::::::::{ { | } }:::::::∧
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＿／＼:::// | ∧∨ ／三三≧s｡.
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三ﾆ＞''" | `''＜三三
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| 女警官ナタル・バジルールが言葉を濁した。
| 自分で何を言っているのか、説明が難しいのだろう。
|
|「報告は受けてるけど、どうなっちゃってんの？」
|「『血族』を名乗る家政婦に門前払いでして……」
|
| 警察と名乗っても入れてくれない、問題があるなら『血族』を通せの一点張りなのだ。
| 『血族』と完全な協調状態ではない以上、そこで押し問答することもできない。
|
|「ああ、それな。見てきたけどあれは『螺旋王』の女だぜ」
|「？？？」
|
| 周囲の女性を発情させ、多数妊娠させねばならぬ呪いにかけられた『螺旋王』のために作られたホムンクルス。
| 彼の屋敷で性欲を処理するためだけの存在。それが『螺旋王』亡き今、蒼星石の家にいるのである。
|
| この場の誰もその理由を理解できないのだが、なんか数幕前にそんな約束してたと作者はうっすら覚えている。
|
|「蒼星石はいると思うか？」
|「いないね」
|「なぜ？」
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i /＞'｀ソｬ ｀丶<´
', ／ ィ´ ィiノ `丶､
ソ i `'・ｬ｡.,_
､ _＿,.ィ'’ iyｭ, ／
ゝ., ﾊ i i, ／
¨フ / / ! ﾄ, i, i ｀ヽ, ／
/ , / / / ヽ , i ! `＜,_＿ 警備が厳重すぎる。
l 1 i ; レィﾚ'ﾆ ｧ Y ,' ､_ ／ ただ会わせられないなら、
∨il .i ii { ´Ⅵノ ,ﾘ / ￣ ／ あそこまで警戒する必要はない。
ﾍﾊ i 〉ﾑ ヽ“ __ .ィ .ｲ / ／ー‐=ｧ
', ﾍ /ヽﾍ ゝ＿／/ / ＞三ア 『いない』ことを見抜かれないために
ヽ, く ` ,' / ､ｰ一'仁ﾆア 誰も中に入れないようにしているんだろうけど。
＼ ｀丶._＿ i ,ｨ i ､ 〉ﾆ三ア'
ゝ, iゝ， ', /ノ /'i／ `三ア'
_.｡r≦∧ l jﾊﾍ､､､,. ＜i ﾑ,_ ,.ィ／三ア'”ハ
'寸三三∧ l ｀'ｰ一'"ｰ'" i i ￣／ﾆ三ｱ'三三℡,
'寸三三`三三jヽ,_ ＞'ヽ丶.,_／ﾆ三三i三三三三℡,
'寸三三三ﾆ{ ／,ｾ三三三{三三三三三℡。
'寸三三二｝､ ＜ ／三三三三二i
'寸三三} ノ／二二二二二二l!
'寸三j, ／ﾆニ＜
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| それは逆効果だ。
| ただの女中の浅知恵だとアセムの目が語る。
|
|「……やる夫、アリカちゃん、夢宮。キオくんに志摩子さん。柴咲姉妹」
|「揃いも揃って行方不明とか」
|「やはりみんな同じ場所か？」
|
| 再び下を指さす『狂死』。
|
|「とにもかくにも、俺たちはいま手駒不足だ」
|
| 腕を組む阿部。その携帯が鳴る。発信者は白石。彼の部下で優秀な結界術師だ。
| 今現在、東京で頻発する悪魔事件のために働き詰めの男である。
|
|「私が出る。白石は休ませろ」
|
| 立ち上がる『狂死』。フリットの簒奪によりさらに弱体化した『血族』では東京中をカバーしきれない。
| そして、傍若無人にふるまう『教会』の『十字軍』や『異端審問官』は厄介ごとを起こすことの方が多い。
|
| フリットを引きずり下ろし、志摩子か翠星石あたりを再び祭り上げ、『教会』を抑える。
| 東京の平和を取り戻すために阿部が考えている道筋がそれなのだが。
|
| 目の前の問題すら山積みすぎて、手も足も出ないのが現状だ。
| 『狂死』とアセムが手伝っていなかったら、すでにパンクしているだろう。
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l::l::l::::l'iゞヾ ヾﾊlﾘl,ｨｒｧ‐ l:;ｲｲ‐ひ;::::ﾘ
ヾ､ﾄ､:!ﾞゞｱ "´ ´ { { _, }:/ 現場まで車を出します。
｀, /:::. ヽｱｵ彳
、 ､_ _,.=ﾆﾍ1l::1
＼ -= 一 ='"´／_,.ｲｊ_ユ､
ヽ ‐ ∠‐''_,.-ｲ! ＼_
｀ーｒ ',. -''´ // _,.ﾆｼ ￣￣｀
／´ 〃_,.-_ﾆ‐''´
/ _,.ィ∠ｒ'‐''´
/ _;:ﾆ-‐''フ´
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|「頼んだ」
|「ノイマン、途中まで私とダリダも乗せてくれ」
|
| ナタルの言葉に警官がうなずく。
| その彼女の胸元へ、『狂死』はふと思い出したかのように手を伸ばした。
|
|「ああ、すまないな。すっかり忘れていた」
|「……え？」
|
| 制服の下に隠されたネックレス。
| ナタルの首に巻かれた……『爆弾』。
|
| 一定以上の高位悪魔に接触した場合、ナタルごと爆発して相手をしとめる仕掛け爆弾。
| 二幕の頃に渡していたそれを、『狂死』は懐かしそうに操作した。
|
|「起動条件と威力を変更した。魔力を込めて投げつければ悪魔にも通じる攻撃兵器になる」
|「……護身用に使えるということですか？」
|「そうなるな」
|
| 物騒な世の中だ。ナタルも銃は持っているが、悪魔相手に通用するとは思えない。
|
|「ありがとうございます」
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/ ｆ' j } r' ｊ∧
i j! ,ﾉ ﾉ 《 jｆ }≦￣￣≧=‐- __
ﾄ〔{ {| l{ }ﾚ〔{ | ＼／ ≧=‐-
{N{＼{ ﾊ__／ リノヽ＼ ＼＿＿ / ＼ 礼なんか言うなよ。
｢∨ ｀ 丁 ´Ｙ〈) | '｡ ＼ ￣￣ / ／´ ￣ ＼
乂{＼ ノ __,ノ r_ノ| ゜ ＼ } ′ | 今まで忘れてたんだぜ。
rｔ_ぅ f ｆrt_ヵ | | i | { , |
}ヽ // ,ﾉ │ | ＼i ／ ヽ|
ヽ ＿ ／‐ｧ⌒ヽ | / ＿ l ＼/ ＼
＼ー／| ∧__／ ＼l / ,∠、 | 〈__ ＿ ___}
厂「 | |X(| , | //'⌒ヽ＼ | }／/ ＼
乂 L__ | |⌒| / | | {:::::::::ﾄ､）} l 乂/ ,ノ⌒
｀i＼ ＼ |）X|o | | VWく ﾉ }ノ /／ ＿_/ ,ﾉ
｀ミ} |ｏｏ| / | | ＼ ） 〈 ／ 八＿/＿
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| 車に乗り込む四人、それを見送る途中で阿部がふと口を開いた。
|
|「親戚の家に身を寄せているはずの備府家だが、妹が家出をしたらしい」
|「それも探せと？」
|「普通の女の子だろう？ 今の東京は危険だ」
|
| 彼らは知らない。
| 備府やらない子の本性を。能力を。邪悪を。情愛を。
|
| 彼女を野放しにする危険性を。
|
|
| ゆえに、現場に直行する途中。
| 通りかかった繁華街で。
|
| 今まさにやらない子が。
|
| 牙を剥いたことに気が付かなかった。
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/Y彡⌒￣￣ ヽ､
,ｲ´ ﾐ
〃 / / ｀ヽ
ﾄ､ {l. 〆 ﾆ三辷ｰ ＼
ﾐ ､小､ ﾄﾐソ ヽ ヽ
Z / ｀¨´ } 人
{ j { ___ ｀ 弋 ',
≧| ヽ从...r＜ ｡ｱ } j,,, }
｀{ 辷｡ｲ ::::....... ￣ ) | }ミヽ. ﾉ
｀l / :::. ｨ' .ｿ ﾊ |. ｨ´ お嬢ちゃんよ。
ヽ ｀ﾐ::::.. ､_ } 从|
| 辷ﾆﾆフ´ ﾄ彡' 人 そんな顔をしてると悪い大人に目を付けられるぜ。
', ,,,,,, j ﾅ |
', ..:＜ ｀Z彡ﾉ
__ﾄ､＿＿...:＜::: ﾉ |辷二ﾆｰ ､
__＞-‐Z´ ｀ヽヽ:::::::::: r‐==fﾆ二二 ､ ﾊ. |
Y ￣｀ヽ }} | | | {***} | | |
小 }} }_ | | | | ＞弋辷ﾆ￣￣
三ミy＜〉', }} ／:八. 人___ {__...-ｰ=彡
辷ノ /:::::ﾐ辷'´::::::/ ` f´ j
｀Y::::::::::::::::::/ ｀ヽ} j {
く:::::::::::::::::::|｀ヽ､____彡ｲ j
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| 飲み屋街の一角、パーカーで顔を隠した小柄な人影がよたよたと歩いていた。
| 一見すると若い酔客だが、よく観察するとその足取りがしっかりしていることがわかる。
|
| 酔っぱらいを装った何者かが、周囲を観察しながらゆっくりと移動していたのだ。
| それに難癖をつけたのは、ワンカップを片手に歩いていた外国人だ。
|
| 引き締まった筋肉と猪首、凶悪犯として指名手配されていそうな酷い人相。
| ただの労働者には見えない。あからさまに堅気ではない。
|
| その男の名は、ヤザン。
| パプテマス・シロッコが誇る人間兵器。『武僧』のなかでも荒々しさで知られた野獣。
|
| ヤザン・ゲーブル。
|
|「……」
|
| パーカーの人物は、ヤザンに性別を見抜かれた少女は、無言で彼を睨んだ。
| 凶悪な意志と、高い知性。誰よりも常識的な倫理観。
|
| 備府やらない子である。
|
|「オジサンみたいな？」
|「オレのボスみたいな、だな」
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ハ.::.:.:.l／:.:.:.ｲ::∠へ::::::::::7=v 三三三-=≡
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└‐と´／ ∨/:::::::＿_∠ >'"´:::::::::/ =
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| 彼らを注目するものがあったとしても、何が起きたか理解できるものは少なかろう。
| 二人は野性的な直観で、互いの危険性を見抜いていた。
|
| 先に仕掛けたのはやらない子であり、相手を即死させかねない異能の乗ったハイキックが一瞬で放たれた。
| 彼女の『滅ぼすもの』《ドッペル玄関》の反転能力は破壊的過ぎて危険だった。
|
| やらない夫と謎のヒロインＸと戦った時は、地球ごと心中するつもりであった。
| しかし、今はそんな無茶苦茶はできない。
|
| やるとしても、接触した相手の内部を反転して⇔内部破壊したり。
| 攻撃を反転して⇔無効化する程度しかできない。
|
| 今も、ヤザンの頭を粉砕爆散させるつもりで攻撃していた。
| 会ったばかりの、どこの誰ともわからない相手に対する思い切りの良さ。
|
| なんという常識的判断！
|
| だが、今この時においてはその判断は誤っていた。
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｛ ｀ヽ.
i ｊ ｝
从、 ,'
ミ≧ 从 /
ヾゞ {｛ﾍ、 ,＞ "´｀`ヾ､、 ｛
ﾉ :/ヾゞ У ヾ、 ヾｲ
ﾄ､ :/ ｀`"´ ﾐ |
ﾄト :/ ﾐ ﾉｲ
ヾミ :i ﾐ 彡
｀ミ≧.:!γ { ｀ヽ } ,彳
｀ヾﾍ ｒ- 。、 | _,.rｰ｡─ 、 | /⌒V 彡′
い ヽ _ ゝ, ヾく ヽｰ 彡 ﾘ /:｝ ｝イ
V! i .: ﾚﾍﾉ ﾉｲ′ あン？
｀ヽ | .: ,__,.イ彡
∧ L.,､- .: / | 彡廴＿___
ﾊ ー＝ 一 : ／: jイji圭圭圭圭圭圭jハ､、_
_..,､r≦圭i､ `'" ／ .: / /圭圭圭圭圭圭Ⅳ /
__..,ィ/７圭圭圭圭7ﾍ､ / : / /圭圭圭圭圭圭Ⅳ /
/７｡ﾟ/７´ / /圭圭圭圭7 /ハｰ---‐::´ : / /圭圭圭圭圭圭Ⅳ /
,.イ.:/｡ﾟ/:/ :/ /圭圭圭圭/ / ∨ : / /圭圭圭圭圭圭Ⅳ /
. / ｀￣￣ :/ /圭圭圭圭/ /ー 、 ＿;/ /圭圭圭圭圭圭Ⅳ /
/ :/ /圭圭圭圭/ / ヽ ／ / /圭圭圭圭圭圭Ⅳ /
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| やらない子は何が起こったのか理解できなかった。
| 顔面を電柱に激突さえたような衝撃。恐るべき反応速度で⇔反転させなければ鼻が陥没していただろう。
|
| それでも鼻血を噴き出しながら吹き飛び、違法投棄のゴミ袋に背中から落下。
| 悪臭を放つ生ごみを全身に浴びる。
|
|「……変な手応えだったな」
|「う、うぐぐ……」
|
| ポケットから碁石を出して地面にばらまく。
| ヤザンは不思議そうにそれを見つめ、下らないとばかりに鼻を鳴らした。
|
|「あー。まだ開けたばっかだったんだがな」
|
| 彼の注意は握りつぶしていたワンカップに向いている。
| 木を荒く削ったような手のひらから、ガラスの欠片を払う。突き刺さった皮膚からは血が滲んでいる。
|
| この男も人間。血の通った人間なのだ。
| であるけれど。
|
|「やめとけよ。次は殺すぜ」
|「ひっ」
|
| やらない子は悲鳴を飲み込んだ。そして、自分が竦んでいることに気が付いて驚愕した。
| 目の前の男は、次元が違う。強さの格が違いすぎる。
|
| 今まで彼女が遭遇してきた中で最強の相手はヒロインＸ。特殊能力とスピード、口先で相手を惑乱するタイプだった。
| だがこいつは、ヤザンは完全な近距離パワー型。
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, ⌒ﾊ ﾊ⌒ 、
j:::::::::ヽ ,ﾍ^ ⌒ Ｙ ⌒ヽ/ .::::::::i
ﾉ:::::::::j（ﾉ ..::::....::::..:::: ::. .ヾ)':::::::::::i
ﾙ:::::ﾘγ::..:::::..:::...ﾍ、: : : :: ﾉy:::::::ﾘ
Yyﾉ ﾉ :ﾉ...:ﾉ ノ ヽ ::::::） ﾙﾘﾉ （私が攻撃すると決めて、最速で攻撃『しようとした時』には
ﾘ::::::( （ ＞） (＜::（ すでに相手の反撃が『入って』る……。
. ﾊ::::ﾊ u r‐ｧ ﾘ） )
） ) ）、 ￣ノくﾊ（ 特殊能力じゃなくて、肉体の基本スペックが違いすぎるでアフロ。
（,（.( ' ﾍ い ﾉ:::）） チートで暴れるだけの私じゃあ相手にならない）
(⌒)）` ヾ ｿ￣（(⌒）
/ i ﾉ Ｙ ヽ ヽ
. ｌ___ﾉ（ ...... ..... ＼_│
ヾ. .. :::::::: ::::: .ノ
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| やらない子は無数のシミュレーションを脳内で打ち消した。
| こいつに勝てるビジョンが想像できない。
|
|「……あんた、名前はなんて言うでアフロ？」
|「あ？」
|
| 男は手のひらに残ったアルコールの雫を意地汚く舌で舐めとるのに夢中であった。
| ムッとするやらない子に対し、彼は眉のない眉間に皺を寄せて舌を打つ。
|
|「ヤザンだ」
|
| 唾液と酒で汚れた手を差し出してくるヤザン。
| 心底の不愉快と嫌悪感にドン引きのやらない子に、彼は首を振った。
|
|「弁償しろよ、酒」
|「女の子殴っておいてそれ？」
|「知るか。先に殴ってきたのはそっちだろうが」
|
| だが、打撃が届く前に反撃したのはヤザンだ。
| 傍から見ればヤザンが一方的に殴っている。
|
|「ちゃんとアメリカ式だぜ？ 先に撃たせてから反撃した」
|「豆鉄砲撃たせて航空支援頼みやがったでアフロ」
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, ⌒ﾊ ﾊ⌒ 、
j:::::::::ヽ ,ﾍ^ ⌒ Ｙ ⌒ヽ/ .::::::::ヽ
ﾉ:::::::::j（ﾉ ..::::....::::..:::: ::. .ヾ)'::::::::::::〉
ﾙ:::::ﾘγ::..:::::..:::..,ﾍ、: : : :: ﾉy:::::::ﾘ
Yyﾉ ﾉ :ﾉ...:ﾉ ノ ヽ ::::::） ﾙﾘﾉ
ﾘ::::::( （ ●） (●::（
. ﾊ::::ﾊ ,, r‐ｧ ﾘ） ) と言う訳で混ぜるでアフロ。
） ) ）、 ￣ノくﾊ（
（,（.( ' ﾍ い ﾉ:::））
ノ/）` ヾ ｿ￣（( 、
,' ﾉ Ｙ Y
l: （ ...... ..... i
lヾ. .. :::::::: ::::: .ノ
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|「ふ、フヒッ……なんで、俺の机の周りに女の子が三人も」
|「あー、こいつのことは女の皮を被った悪魔六騎士だと思って」
|「あ？ 何言ってるでアフロ」
|
|「ちなみに悪魔将軍も入って一人で七超人分の邪悪さと非道残虐」
|「……本当に何言ってるでアフロ」
|
| 翌日の学校。
| 久々に登校したやらない子に、クラスの雰囲気は胡乱だった。
|
| なにせ兄は、学校内でも有名人であったとされる、『不良殺し』やらない夫は現在テロリストとして国際手配中。
| 家族は地方の親戚の家に夜逃げ。やらない子自身も一週間以上自主休学中であった。
|
| そのはずが。今。
| 普通に登校して、普通に授業を受けて、普通にお昼休みに弁当を囲みに行ったのである。
|
|「おさわり厳禁ですので」
|「フヒ、もちろんすよハイ」
|
| やらない子の幼馴染である糸川はやぶさと、『夢世界』での戦友、霧野タカオ。
| この二人が威圧的に囲っている男子は貞山青葉。
|
| クラス内でも陰キャ扱いで浮いてるというか沈んでいるというか、しかも友達もいない孤高の……ボッチである。
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／三三三三三三三三三三三三三三三三三>、
{三三三,'⌒:,＝-‐ ￣￣ －-＝=三三三三三=∧
∨三三>、 / ＿＿_ : : : ＜三三三三!
`＝ｨ _.. -ｭ＝三三三=〒- 、 . : : : : : : ＼三三ﾆ｝
,,.ﾝ=三三三,ﾆ三二´ ヽ ゞ;;;｀ヽ: : : : : :∨/／
, <三二＝ｰﾞ、 'でフ.ノ'´ `ｰ ヽ;;;;;;;;;;＞-、: : ,
. ｨﾆ=‐´ !r'ﾖ `' "￣ ミ;;く－、ト、:l
‘´ ; 7 , ｨ ⌒;;ゝl｜};;;;<
{ 〈_－_,..、 , ′ ≧ｸ-';;;;;;;;ヽ つうか備府さん。
｜ ￣ / !;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ﾒ 『あれ』は平気なんスかね。
. '、 ｨ―－-、 / ∨;;;;;;;;;;;;;;;;;从
｀, '￣` ,' , ' , N;;;;;;;;;;;;;;人ｲ その……なんつーか。
l ′ _／ .／ 乂;;;;;;;;ヌ
l ,.- ' ／/ l ` ′
ヽ._ _.. -‐ ' ´ __,,／....'...＿ ｜
. ￣厂 ／三三三三三三ニ=- 、
,ィニ乂シ三三三三ニニ＝=ニ二三≧、
∧三∧/ニ三三三三三三三三二ﾆ二三ェ-‐=＝ニ二三三二
i三ﾆ∧/ﾆ◎三三三三三三三二ニ＝‐＝三三三三三三三三
＿,<ﾆﾆ∧/＼三三三二ニﾆ＝≡ニ二三三三三三三三三三三三
=ﾆ二三二ニﾆﾆニニ二二三三三三三三三三三三三三三三三三三
|lニニニニ三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三ニニニニ
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|「バカ兄は無実よ。そのために捕まえなきゃいけないんだけど……でもそのさらに前に必要なものがアフロ」
|「主人公力？」
|
|「戦闘力でアフロ」
|
| 頬杖をついてタカオが眉を上げる。
| ぴっちり正座したはやぶさは無表情。
|
|「あのさ、やらない子。アタシはアンタが居ないから青葉なんぞに頼ってたんだけど……あ、頼りにならないけどね」
|「フヒ……サーセン」
|「今のはタカオ流の照れ隠しです」
|「黙ってはやぶさ」
|
| 貞山青葉。夢世界の扇動者。
| 彼のシャドウは悪魔的な知能で不信をばらまき、数々の仲間割れを引き起こした。
|
| 個人戦闘能力は低くとも、青葉は優秀な戦略眼を持つ。
| 逆に脳筋のタカオとはやぶさは、今現在彼から学んでいるのだ。
|
| 戦術を。
| いつか仲間と肩を並べるために。
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|:.:.|l:.:.:.:.|､`|| {:fjr}/:.:.:.:.:.:／ ´{rfj:} ﾘ !:.:l!:.:.:.: ! / 1:.:.:.l| 絡め手で時間をかけて捕まえて、
|:.:.|l:.:.:.:.|ｷ ‘ー‐｀ラ:.:.:.:.: ｨ ==’ 一ヘ |:.:li:.:.:.:.:|′ |:.:.:.:l! 勝てるぎりぎりのラインを見極めて急に攻めてくる。
|:.:.|l:.:.:.:.|∧ ／:.:.:.:／ ! |:.:li:.:.:.:.:| |:.:.:.:l|
ｌ:.:.|ｌ:.:.:.:.! :／:.:.:.:／ { ,|:.:li:.:.:.:.:| ,i:.:.:.:.l| 青葉の戦術は本人並みにいやらしいけど、
.':.:/ :.:.:.:.l.／:.:.:.:／ ｀ ｲ:|:.:li:.:.:.:.:| 从:.:.:.ｌ| 学ぶところは多いわ……私はね。
/:./ |l:.:.:.:.|:_:.ィ ＼「「＼ -ｪ一＝ ﾗ′ ィ !:ｌ:.:li:.:.:.:.:| /:.:l:.:.:.:l|
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| だが、やらない子はどうなのだろうという視線。
| 無数の手の先を読んで行動する、囲碁サッカーのエースであるやらない子は青葉に学ぶ必要があるのか。
|
|「戦術的には必要ないでアフロ。でも戦略では」
|「……」
|
| 戦術と戦略は、戦闘の単位である。
| 早い話が、直接の交戦が戦闘。交戦を指揮するのが戦術。交戦の前段階での物事が戦略。
| 人員の確保も、地形の選択も、武器の準備も……そもそも交戦に至るかすらの選択まで。
|
| 戦略の範囲。
|
|「ここで私は戦略を学び、放課後は部で腕を磨きなおすでアフロ」
|
| きしくも、アリカと同じ選択。
| 一から学びなおすことで自己の強化と完成を目指す。
|
| それがやらない子が選んだ、ヤザンに対抗する手段。
| ……目指す山は大きいが。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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☆ 次回予告！
東京の闇。
潜む怪人。
そこに目的はなく故に価値はない。
なぜ、なぜ。
闇に尋ねど答えはなく。
ただ、空虚ばかりが広がり続ける。
限りなく膨張する虚無は。
いずれ彼自身をも食い尽くす。
それは。
世界の終わり。
次回『東京の守護者』
果てに見るのは破滅か死か。
良いお年を〜
良いお年を
あけましておめで
なかなかに時間が空いてしまいましたが、たった今投下の準備ができました。
今年もよろしくお願いします。
,,､-ｰ ―- ､,
,､ '" つ ｀ﾞ' - ､
／ と ヽ,
／ "" ｰ ヽ いいかケンシロウ！
/ ,ｨ rニ ',
,, ,'/lrﾚ"(ﾞ（"（ l やらない夫の野郎は適当に探せ！
/:| ,'| （,,（ﾞ,,r--ｰ―-==;z ､ r､r､ | 見つけなくていい。
/.::| ,'lﾞﾐo 〈" :,,､-ｰ ､;;Y /:|｀ﾞ''ｰ､ノ ﾉ .jY､ |
|:', / ::::| l|ﾞﾐｏ ヽミ::ﾞ' ﾞﾞｰ-ﾉ :/ /::,､;;; ､｀' ､ｿ ノﾘr } 奴はシロだ。
|:: ',. / :::::::| lヽ(｡/-yｰｰ-ミﾆ;;"ノ', :}::ﾞ -穴,,ﾞi,l::::ﾞl"彡 ﾘ ほっとけ。
|:::. ', / ::::::::::| ,':::| |::::: | ､:::| ,,､::〉:::::''ｰﾞ'､''- ､;;彡'",,,／ｲ
|;;;;;,,', /::::,､- ､| ,'::::| |: l| l: | | l:: |;;/ :/ r,ｧ":::｀ﾞ＞ｰｰｲ) ,, ｲ /ｌ
|;;;;;;. ', ,,''ｰx三＝､-＼' ::::|ll| |;|.l |;;| l: |;;;/ / ./;;/ / /ﾌ::: ::イ:::/ /::,'
＿,,;;;:;:;:;,,,_彡"´￣ ヽ:ヽヽlﾚl |;|.l |;;| l |;;;/ / /;;/ / /// /〉 :::/ ::/ /::: ,'
:::::,､- ,'"V .N'''"/-ｰ-､"ﾞ } l|::|ヽ: ', |;|.l |;| l |;;/ / /;/ / /// // :: /::::/ /| /::::: ,'
:::／´ ,,､ﾉ _/::l :/ｰ '''''''ﾞ .::| ::ﾉ:/::ﾘ:::ヽ:ﾞj;|.l |;j l |;/./ /;/ /,///:/;/ /::: / ./::| /:::::: ,'
/ ／ノ',／:::::::| { .::j-彡"::ノ::l|:: l'':::ヽ|:ヽ;|;| l /;/ ,／/::／/／|ｲl|::/ /::::| /:::::::::,'
j／ :::', ...::::| ::' ､,,,,,,,,,､-'===彡'"::/::: ',::::::::::'ｰ-､ﾞ::::::ﾞ''::∠／;;ｨ'": //;;|ﾉ ./::::: | /:::::::::/ ／/
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| 兄の言葉に頷きながら『血族』『四天王』となった北斗ケンシロウは心中で首を振っていた。
| 国際的なテロリストの片棒を担いだとして指名手配を受けているやらない夫。
|
| 彼の重要性を、ジャギは理解していない。
|
|「兄者は……」
|「あ？」
|
|「『あの夢』は見ていないのだろう？」
|「……それがどーしたってンだ？」
|
| 『あの夢』。
| 堕天使レミエルによる『東京滅亡の予言』。
|
| 深夜まで戦っていたジャギはそれを見ておらず、ケンシロウは見ていた。
| 見ていたからこそ、思うところはある。
|
|「俺はあの夢で何もできなかった」
|「当たり前だろうが。夢の中なんて無茶苦茶な場所に即座に適応した翠星石がおかしいンだ」
|
| 違う。そこではない。
| ケンシロウが兄に伝えたいのは。
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|::::::::::::: 「イ三三≧x､{/{/八ハ::: /
|:::/{::::::/ <￣弐{¨¨` x≦三{|: /
|: | ∨{ ￣三= { 坏)「Ⅳ
八乂V!: ＿| ′
/:::::::/｀l| ￣｀ / あの夢で世界を守ったのは。
. /::::／ 八 ∠二ｱ / 知らない少年だったんだ。
/::厂 { ＼ ヾ /
-=イ⌒{ / { ＼ /
. ／ﾆ＼ﾆﾆﾆ＼ { ＼ ＿＿/|＼
／ﾆﾆﾆﾆ_＼ﾆﾆﾆ＼ { /{ |ﾆ=＼
￣}ﾆﾆﾆﾆﾆ=丶ﾆﾆﾆ＼八 //{ 八ﾆﾆﾆ≧=- ＿＿＿ ィ7
} ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ＼＼ /八 ＼ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ7
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|「……」
|
| 《ブギーポップ》。
| レミエルから翠星石を守り散った怪人。
|
| この東京を守った人物。
|
|「俺たちの街を守ったのは、俺たちじゃなかった」
|「どうだかな」
|
| ジャギは面倒くさそうに、しかし鉄仮面の下の視線は鋭いままで答えた。
|
|「そいつがナニモンなのか知らねえが、『血族』の誰かでも、不思議じゃねぇぜ」
|「どういうことだ兄者」
|
|「夢の世界で見えたものが、本当に現実と同じ形とは限らねぇって話さ。
| そいつが現実でも同じ顔とは限らねぇ。それどころか爺婆かもしれンし、死んでるかもしねぇ」
|「……」
|
| 一理ある。ケンシロウはジャギの聡明さに常に驚かされる。
|
|「そいつが夢の中で『俺らの街』を救ったなら、今度は現実の俺らの順番だ」
|「……」
|
|「くだらねえ犯人探しや、罪の擦り付け合いのためにやらない夫を探してる暇があんなら、
| まずは東京の平穏を取り戻すべきだ。違うか？」
|
| 違わない。だが。
| この東京で頻発する悪魔事件を解決していくだけで、何もかもうまくいくともケンシロウは思えない。
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／＼ ／
／/ ｀×／
＼／ / ／／ ＼
／ ＼/ ／／ ＼
<-‐= ) ＞＝─‐‐-->
＼／ .へ ＼ .／
／ヽ ﾍ. ＼＼ ／
| ／／ ＼ > ＼ |_
hr──t. ＼／ ＼丶 { |
［￣￣￣Y] || ＼ |.h
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|￣￣￣]l| l.:.:.:.:| .|| r─‐.|￣￣ l|T
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| 堕天使レミエルは、東京の絶滅を予言した。
| それは、そう簡単に覆せるものとは思えない。
|
| 『あの夢』は……ただの悪夢ではない。
| 東京中の人間に根深い不安と終末思想を植え付けた。
|
| そしてそれを裏付けるように頻出する悪魔事件。
| 対処療法だけでは限界がある。
|
| ……だがジャギはわかってくれない。
| あの夢を見ていないから。
|
| あの夢が、人々に、どれほど影響を与えたのか。
| 理解はしたつもりでも、実感はないのだろう。
|
|
|
|
| ……だから。
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,.ｨ＿_＞､ﾄ､ﾄ､）ヽ､
､ ,r(":::::::.ー＿ノj.ヽ｀）'"ヽ
_ｿ":::::::.::〃_＞::::::::-=ミ､:.三彡
it（ ::::::::::::::.〃=-ミ､ヾヾヾヾ:::.ノt,,,,,
､,,t,｀:::::::::::.:::::ゞ-::::::::::::::::::::j/jﾉ::::::::..ノ
メ''::::::::::::::.::::::::ヽ:::::ヽ::::::::::ヽヽ::::.:::::ｰ､ヽ
､ゝｲ::::::::::::::.:::::::::::＼::::＼:::::::}::}::: :::::...､）
t､,:::::::::::::: |::::ヽ:::ヽ:::}､:::::::＞乂::::.:::::..ヽ''''"
､､ノ::::::::::::::.、:::}:::::jノ＝彡'_" ヽ::∧ . ） 東京のために、お前には死んでもらう。
//::::::::::::..j‐=≦ ゞ弐ｒ'ゞ' |! . 三彡
ヽ;;:::::::::::.テ戈rｯ癶 ''〃 iヒﾉ '"
ｰ7;::::::.∧ =彡i!| 「{ }州 ＞
＜从〈∧〃 iＬ ッ ! 乂 }}乂
／ ,〉 .ｊ人＼_ヽ ｀〈 ! jハ
／ / ヽﾊ∧ '´二ヽ. / ､_
／ _／ {{ |＼ ７´ / ! 》 V ヽー＝≦
／ ／ ヾ | ＼ ｀う /: / //／三 ｝三三
／,.-―〈＼,. ----rr――――‐∧ `ー=≦: / /／三三/三三三
, -／ _＿ ＼＼ | {三三三三三ハ ､ ﾐ / ,. -=≦三: ／三三三
／_／ ＼ / |--､＼三三三 ／ j} ミ ミ､ /／三三三三三三三三
ヽ 〉ヽ_/_ 〉〉＼＿//＝＝＝彳 ___／三三三三三＼￣￣￣
､＿ 〉「 O Ｖ/≫≪ミ{ { ／ 三三三三三三
ヽ＿_,. 〈＿/ i| O O ＞≦三ニミ〉＼＿＿_／ 三三三三三
三 /二二二| O／三二 ミ/ / 三三三
三//////7777三三三二 ミ{ / 三三
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| 深夜のデパート。昼間は人々の憩いの場となる屋上庭園。
| 野宿には厳しくなってきた冷たい北風を背負って。
|
| ケンシロウは濁った星明りの下で紙袋を被った男と対峙していた。
|
|「お前には恨みはない。それどころかお前を殺せば俺は友を一人失うだろう」
|「……はて」
|
| 異様に長い手足をくねらせて、紙袋に顔を隠した異形の男は肩をすくめた。
| それは『スケアクロウ』。蜘蛛めいた怪人。
|
|「その変装は俺には無意味だ。チャクラの色でわかる。備府やらない夫。お前ほど特別な色なら見間違えようがない」
|「……そんなこと言われたのは初めてだろ」
|
| 蜘蛛のように長い手足がゆっくりと縮まる。
| ヒゲ槍で伸ばしていた追加四肢を外し、『スケアクロウ』……やらない夫は覆面を脱いだ。
|
|「この東京を守るために、どうしてオレを殺すんだ？」
|「……説明は難しいが」
|
| やらない夫の命と、東京を守る。
| その因果関係は決して複雑ではない。
|
| しかし口下手なケンシロウには容易な話ではなかった。
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／ ￣￣＼
／ ノ ヽ
|:::::: （● ） なら、言わなくていいだろ。
. |::::::::::: （__人）
|:::::::::::::: ⌒ﾉ ……そもそも、
. |:::::::::::::: } オレは自分が生きている理由もよくわからん。
. ヽ:::::::::::::: }
ヽ:::::::::: ノ
/:::::::::::: く
|:::::::::::::: |
|:::::::::::::::| |
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| どこか投げやりに、やらない夫は言い捨てた。
| 覆面の下の顔は、この数日間の逃亡生活でさらに鬼気を増していた。
|
| ヘドロのように淀んだ双眸の奥には、鬼火のように揺らめく火。
| 隈取のように深々と刻まれた疲労が、その生活の過酷さを想起させる。
|
|「……『異端審問官』『十字軍』そして米軍だ」
|「ん？」
|
|「『あの夢』に強く影響され、何かに掻き立てられるかのようにお前を狙っている」
|「あー、ジャンヌさんとオズか」
|
| 事故に近い状況で肉を溶かされ、逆恨みに燃えるジャンヌ・ダルク。
| そして、一時期使いッ走りをしていた関係で、やらない夫に面子をつぶされたと思い込んでそうな『十字軍』のオズ。
|
| この二人がやらない夫を狙っているというのはうなずける。
| そして、『教会』からの圧力に逆らえずに、フリット・アスノがやらない夫を指名手配にしたのも。
|
| ……阿部さんが、警察である人物がやらない夫を見逃したのも、そのあたりの下らない問題を知っていたからなのだろう。
| では、ケンシロウは？
|
|「東京のために、奴らを追い出さなければならない」
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Ⅳ :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: ::.::.:.:|
{＼{:: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: ::.:{:: ::l:: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :::|
. V:: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :{:: ::{＼{＼{＼ :: :: :: :: :: :: :: ::.:|
}/ :: :: :: :: :: :: :: :: :: {:: {＼{ ∠二ﾆ _:: :: :: ::/⌒V.:.| 奴らの行動が、
乂_:: :: :: :: ::./}/}/}八人 ∠二二二{ ＼:: :::|⌒} }: :| 東京の人々を不安にさせている。
ム:: :: :: ::/∠二、 ∠二ﾆ厂¨¨¨ ∨:| .′: :!
. }:: :: :: :{/二二ム {二∠ Vｸ⌒ ∨ / /.:八 奴らを追い出すためには……。
匕 ＿八 ∠ Vｸ} -=≦￣ |/ ∧: : ::丶
⌒ :: ::.:＼ 彡| |,ノl: : : : :.:./＼
､:: :: : . } _ィ⌒{ }/}: : : :‘，/＼
＼ :: :: . ¨¨ ノ}/}从ハ ///＼ ＿
､ ::∧ 二ﾆ=─- / ; }////////⌒≧=-
＼:: :.､ ,:::: / .: .::://///////八//////＼
／}ハ }/ .;; ////////////＼//////＼
／//∧ ／ ,::: ′ ////////////＼//////
,ィ斗//////| }＼ ＿_ イ ;:: / ////////////////＼////
. イ///////////| } .::: ..:: r─=≦¨￣￣￣⌒ヽ/////＼//
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|「もう言わなくていいぜ」
|
| 苦虫をかみつぶしたような表情で、絞り出しようにケンシロウは言う。
| やらない夫への恨みのせいで、『異端審問官』と『十字軍』が東京で暴虐を尽くすのならば。
|
| やらない夫の首級を差し出せば、もう東京にとどまる理由は存在しない。
|
|「お前を殺し、奴らを追い出す」
|「……」
|
| やらない夫の気遣いを無視し、ケンシロウは最後まで言い切った。
| それは彼の覚悟と決意の表明。
|
| たとえ困難でも辛くても、やらない夫を殺そうという意思の表れ。
|
| それに対しやらない夫は……なんて純粋な奴なんだと感心した。
| わざわざ言わなくてもいいことを言って、自分を追い込んで……優しく、不器用で、純朴な男なのだ。
|
| 本当は、『人々を守るために悪魔と戦う』それ以上は似合わないのだろう。
| 政治的な苦悩をかなぐり捨て、愛のためだけにこそ戦うのがケンシロウの真骨頂だ。
|
| だが今は、四方八方からぎゅうぎゅうに拘束されて小さく縮こまっている。
| 拘束具に縛り付けられた子供をやらない夫は想像した。
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|┃｜ ┃｜|｜ 人（ヽ人（ヽ人（ヽノ） ｜|┃｜ | ｜
|┃｜ ┃｜|｜ （ヽ（ヽ ノ） ｜|┃｜ | ｜
|┃｜ ┃｜|｜ ヽ ノ ｜|┃｜ | ｜
|┃｜ ┃｜|｜ ヽ ノ ｜|┃｜ | ｜
|┃｜ ┃｜|｜ ヽ ﾉ ノ∨∨∨ヽ |
|┃｜ ┃｜|｜ヽ ノ ） （ ｜
|┃｜ ┃｜|｜ヽ /（(（( （(ヽ(（ ）ノ)））ノ)）ヽ ﾉ ） .ほ .（ ｜
|┃｜ ┃｜|｜ヽ 〈￣＼＿ ＿／￣〉 ﾉ ） お ( ｜
|┃｜ ┃｜|｜ヽ | ＼＿＿＼ |l ／＿＿／| / ) お （ |
|┃｜ ┃｜|｜ヽ（ヽ | ＿ ＼|lll|／ ＿ | /）/ ） お （ |
|┃｜ ┃｜|｜ヽ | | | ／ ０ ＼ ll| ,／ ０ ＼｜| / / ） お （ |
|┃｜ ┃｜|｜ヽ ヽ| 三三 ／ | ＼￣三 | |/ / ） ぉ （ |
|┃｜ ┃｜|｜ ヽ ∨ 三 ／ , |、 三 ∨ / ） l （ |
|┃｜ ┃｜|｜ ヽ| ｀l´ |/ ノ | （ |
|┃｜ ┃｜|｜ | | l⌒⌒l | | ⌒) っ （ ｜
|┃｜ ┃｜|｜ | ＼ |/γヽ| ／ | ） !! （ |
|┃｜ ┃｜|｜ | ＼ (＿＿_) ／ | ） （ ｜
|┃｜ ┃｜|｜ | ＼ ／ | ∨∨∨∨| ｜
|┃｜ ┃｜|｜ | ＼＿__／ | ｜|┃｜ | ｜
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| やらない夫が感心した数秒、それをケンシロウは問答の終わりと判断していた。
| 怪鳥のような雄たけびを上げると、その巨体が信じられない速度で突進。
|
| 脈動する鍛え上げられた筋肉に、やらない夫は一瞬見とれた。
| 完璧な肉体。戦うために磨き上げられ、完成された存在。
|
| そこには大理石の彫刻のように、美の概念すら内在していた。
|
|「うおっ！？」
|
| やらない夫の精神こそ見とれながらも、肉体は反射的に動いていた。
| ケンシロウの神速の接近と突きを回避するのは不可能。受けて無事とは思えないし、払うことも難しい。
|
| 左手のヒゲ槍を盾に。文字通りの盾の形に形成。しかも表面には苛烈なトゲを設置。
| 殴ったケンシロウが傷つくように。
|
| しかし、そんなものは時間稼ぎ。脚部のヒゲ槍をばね状にして折りたたみ、緊急回避の力をためる。
| 右手は反撃用。攻撃されると同時に反撃の一撃で隙を作る。
|
| 以上の目論見は、正面から、圧倒的なパワーによって粉砕された。
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ヽ::::::{ﾞ'r'ozﾐ〈''⌒´ﾞ ';;l､| アターーー！！！！
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／,'" ）'ｰ､ ヽヽ'､ ,ゝ'ヽ }::tヽ
／ /''ｰ ' /'"｀｀ ' ､ ﾞ'lﾞ'ヽ '､'''´}､ j:: lヽ}
/: / ヽｰ'ﾉ::::.... ）-､,,| ::ﾞ' ､. ｀'彡 ﾘ: | ヽ
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',ﾉ,'' ｲ' ::/ ｨ / :/ ﾞ''':::::| ヽ;;;;; ｀ﾞ;;'''';;ｰi､,,､- '''''"彡ﾞll|ｿ , '" ／ ／ i l |ゝl|. ヽ
{ | l| ／,,;イ / / ::| ::」｀｀ヽ;;;;; ,､;;;ヽ､ヽ;; ､,,,ｯ ,､ '"ﾉ / ノ ,j lﾘ j |
ヽ ﾘ '" } /ノ l| / :|" 三三｀' ､( );; ヽﾞ'､○} { r' / j , |,,､ " /
ヽ ヽ" :l l l| / :}､::::: ｀' ､;;; ;;; ', ﾞ''､ j ､|. y' }. / / _,､,,"
ヽ ヽ { " / | ﾘ:: ヽ::: '' ､从 ',､ ﾐヽ ﾞ' ､.| ||. ﾉ / ／ｰ''''''' ,､
ヽ :: ＼ '､ ﾐ / ､ ﾞl::: ﾞll ﾞll:',ヽ ﾞ' ､, ﾞ{ jl,,,,/,z'ノ ＼-､､､-'"
ヽ ::: ﾐ '､ ミ |::: ヾ::::: ﾞll ﾞl|l::::ﾞ､ { |｀"´ ￣￣ﾞヽ､
ヽ::::: ﾘl|l|::: ', ﾞll: |::::::ﾞ､人|; / ﾞ'ｰ―
ﾞl ﾞﾐ ／:l. :ﾚ'::} ', ﾉ､;;;;;;;ヽ l|/ヽ
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| 正確無比なケンシロウの一突き。人差し指と中指の突きが、ヒゲ槍による盾の一部を豆腐のように穿つ。
| トゲなど無意味。そしてそのあまりの衝撃のなさにやらない夫は反撃のタイミングを測れない。
|
| 続く後ろ回し蹴り。やらない夫は一も二もなく緊急回避。
| 後方へ低く、地を這うように跳ねて距離を取る。だが、何かがヤバい。
|
| 美しい弧を描いたはずのケンシロウの肉体が、あり得ない瞬発力でやらない夫に追随。
| すかさず盾を前にしようとして、やらない夫は青ざめた。
|
| 膨大な魔力が盾を通じてやらない夫の肉体に侵入。
| 全身の経絡を破壊しながら走り回ろうと暴れていた。
|
|「うっ」
|
| 荒れ狂う魔力を盾に押し込むも、その盾が手から離れない。
| 内側から弾ける盾。左腕から手にかけての肉も爆ぜる。
|
| 爆弾を手のひらで爆発させたみたいなものだが、意外と軽傷だった。
| だって消し飛ばなかったし。
|
|「……気の操作はやはり麻呂殿か」
|「基礎はニャンコ先生だろ。麻呂からは精密操作をみっちりしごかれた」
|
| おかげで、ヒゲ槍は変幻自在だ。
|
|「ちなみに応用は脳噛ネウロだ」
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く二二フ
r''";;;;;;二二)
(￣;;｀`ー-- ､、
f:｀'ーｚｪr-;--‐ '
l::::r''"＜l__,l＿__
l::::丶､__;;;;;;;;;;;;;;;;;）
,':::::::::/:: |｀`i´￣´
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_, _,ノ /,r―‐z--､-､,,| |
, -‐,.ニＺ三ャ≦='ﾆ ´￣￣｀ﾞ｀ヽ｀| |
,. '" ,. -‐:::''"´￣`ーミ--―rｧ､_ヾ::,_ｨ'| |
. ／,.ィ":::.... ..:_,:-r '' "´￣ﾄ､ヾ､{＿,／ ,,| |
ir'"::::::::, -‐'T´（(::}! lﾐ'i, ､ヽ:.ヾ'ﾞ´ | |
lヾ､:::ﾐ´ ヽ, ヾﾞ' lミ! l! }〈, | |
く´::::::ﾆ、 , -―‐ くl ',ﾐl ' /'´￣}'| |
,!｀`ー,二ニ＝;/-fr , ｿ ,ｲ ／'ﾞ | |
l::::::::::〈､、 l! ', (:}! ,ィﾆ-'"‐ﾆﾆ|＿|_
'､:::::::::::'ミニ＝ｷ､ `'_'＿,,. ィ" ヽ:::::（;;;;;;;;;;;;;;;ﾉ
ヾ､::. ヽ､_ ｀丶ﾆ､く≦ミﾐ、 ＼,,ニｺ￣|
｀ヾ､::ヾミﾆ＝ r―--く>､ (二二二フ
＼:::ヾ＞ｰ｀-三ﾐ､ ,ィ"t!､_|,_
＼:ヽ ヽ>ﾍ ゝ､;;;;;__,ノ
ゝﾔ ￣` 〈;;;;ｰ--i､
｀`ヽ `ｰr--'′
| |
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|＿|＿,,.. -‐
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|「……なんだと？」
|「ガキの時分に応用と変則利用ばっかり仕込んでいきやがった。おかげで」
|
| 追撃するケンシロウの拳をかがんで回避。
| 全く見えない速度。気の操作関係なく、命中したらその部位が吹き飛びそうな風圧。
|
|「あんたの倒し方も分かる」
|
| 膨れ上がる殺気に何を感じ取ったのか、ケンシロウの攻撃が正確さから速度重視の乱打に変わる。
| 左手からこぼれる血液を手裏剣のように投擲。目潰しにする。
|
|「疾ッ」
|「……」
|
| 一瞬乱れたケンシロウの動きが、即座に冷静さを取り戻す。
| 『そんな小手先が、北斗神拳を倒せると？』冷徹なまでの冷たい怒りが、さらなる速度と正確さを産んだ。
|
| 目潰しは容易くかわされ、ケンシロウは遅滞なく踏み込む。
| やらない夫に必殺の一撃を叩き込むために。いや。
|
|「アタタタタタ！」
|「なっ！？」
|
| やらない夫が作った、刹那の、糸のように細い隙をついて接近していた墨目。
| ネズミ人の暗殺者を逆にケンシロウは奇襲。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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_ゝ´彡z ＿≧､＿ 彡´
人_イ´ ｰ仆芯)ヽミー=-' まさか！？
ｒﾉ^~ヽｧ､ {ア≧ーミｰゞﾆﾆﾆ》_)ノ´ ￣ ｀ヽ
ﾏ､ ヾ｡ ﾏｰﾆ三ー ァ´⌒ミー≦＝ｭ､_ｨ ／:7
ヾｭ ｒ≦＞ミｭ､ｪィ三ｒイ⌒ヽ＿＼≧ｭ＿ノ7ー. . イ: : :オ
Y{ 7≧ｭ､＿: : : : : : :ﾑｰイ:{ _ﾌ: ー＝彡: : -､:＿／
ｒﾘ ｲニニｊ￣ヾ マ､＿シ⌒ヾ:_￣´⌒＞､
xｿ´ ｲニニK_ ヽ ﾏー-ｭ､ ｀ヽ ｀ マー': :／
ｒｲ´ ムイ⌒ヽｱ ムｊ_ﾉ ニニﾑ :. ｊXﾊ｀ T≧ｭーｧ＿
/{ ｚy/ )ｧ⌒ﾏニニニニニﾆゝ､ jイX7‐┴'⌒マ/ｊ､ ￣ヽ
{ｲ ､ ﾏ!v′ / Vニニ≧ｭニニﾆノﾆ_ノ ⌒ｰュ_ｦ
ﾏ､ ﾏ{ ｰｙ ゞ,ニニィ￣ ´￣｀{ _ztzｭ､
Yｭ ﾏ/⌒! └!ﾆ{´ ｀､__ｒ {! ｀ヾ7ftfttj7tjftｭ､_ノ
｀(ﾒ, Yｱｭ{ ｊニヽ ;: ﾏォー-ｚｭ､
Yﾊﾏ_人 人ニ_＞=ｭィ7' Vィア´ ｒニアニ≠ｭｧ＜⌒
}ﾖ マｧヽ_ ｲ／ｊニ{､＿,ｨ人＼､＿_八{ ｒ=≠､^マニｱニニｭ､
(ｨ }ﾑ ｒﾘｊ ｲ／ {ニﾆ｢´７´ｒ＝ｭヾニﾆｊト ￣7＝ｭｰ､7｀マニｧ⌒ゞz
E{ ﾏ_｢ｒｱ ､ ﾏニゝ/ ｚ､ニ＞ｰ＼ァニ＞ミ､＿￣7＝ｭ￣ イ
Y､ ７守ｊ|ｌ|ﾄ。 ヾニﾆ ﾑニ7ニニニヽニニニニ≧=ｭ､ｚﾐ､＿ 彡
^ヾｧ､_､ 守州ｊ|ﾄ。 ｀ヾﾑ| Vニニア￣ﾆ＼￣アニニニニニ＝＝ア
7∧ ﾞ守州ｊ|ｌﾄ。__ムl! V ｀マニｒ－､シヾニニニニ＝－'´￣、
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| 全身の秘孔を突かれ、魔力の暴走により爆発四散。
| 時間と魔力を使い再構成すれば復活できるが、瞬殺とは想定外である。
|
|「……雑だな、備府やらない夫」
|「なにせ、あんたを倒してでも生き残るだけの理由が見つからなくてね」
|
| そう、やらない夫は疲労の淵にある。
| 周りは敵だらけ。その上に友に背かれ、自分がいなくなれば東京が平和になるとまで言われてしまった。
|
| 立ち止まった足元。絶望しかない闇の中。
| 己の生存価値を見出せない。
|
| それでもやらない夫はじりじりと障害物に近づく。
| どんな遮蔽も、ケンシロウの突撃を防いでくれないし、歩みを遅くはできないだろう。
|
| 圧倒的な能力差。
| アリカとやらない夫、いや、それ以上の隔絶。
|
| やらない夫の全能を駆使しても、ニャンコ先生を酷使しても。
| 勝てる見込みのない絶対的な相手。
|
|「……？」
|
| ケンシロウは絶対に手を抜かないし、油断もしないだろう。
| そういう風に仕込まれてきただろうし、何より彼は、やらない夫を評価している。
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メ从ｲ爻ミヽ从f'"´ヾ从メミ从ｲ､
人㍉ミ｀ヽ｀ヽ 从ヽヾ ｲ从メ入
,ｨ从 ハ ﾐ ﾐ､ 〃 ミ ィ彡'"´从ﾒ
从メﾐ=ｖメﾐ y ゞミξ ィ==彡'"´彡ﾐ
ミ ミ㍉爻 入ノ ゞﾐ ヾ ｘ彡爻ﾒ
人 ミ ゞﾐ";ｲ 从 爻､ ミ爻彡ｲ
彡 ヽ ミ 彡 从从〃 ノ;l ﾒ〃ﾐ 爻ミメ､
彡 ｀ヽメ７´彡マキ≧rﾒ从ｲr≦≠爻ﾒ
爻 三彡ミ r辷tｧｭ,;ゞ;;..::辷tｧｭ 爻ﾒ 命は、生きるもの誰もの願いだろう？
彡 〈 r｀ヽﾐ ,.;;'"´ ',::::: ﾐ´
彡 ﾍ ',λﾐ ,;;'´ ,......: 〉:: / お前自身が迷っていても、お前の家族、お前の愛するもの。
. ヽヾ ヽー ､ "´ ゞ‐ ´; / そして何よりお前を愛するものがお前の命を望んでいる。
｀ミﾐ ｀‐'', "´ ,'
从ﾒ .:::ヽ ;'"⌒ヽ ,' それ以上の理由がどこにある？
. ＿＿,ミ :::::::::＼ ,ゞ'";;ﾞ ,'
／三三｀ヾ .::::::::::::::::＼ ,.:::: ,'ｌ
,ィ´ヽ ｀ヽ三ニム .:::::::::::. ;, : ::｀:. ､_;;;＿,':;|
ー‐='´ー―-＼ ｀ヽニﾆ｀ヽ;:::. ﾐ .::::::::::::'"´/ﾐｰﾐ,__
｀ｰ-=ミx;:.｀ｰ=ミ｀ｰ=ミ三ニ=｀ヽ ;ﾐ ;::: ﾐ /三三/ ｀ｰ=ミ､
＿＿;;; :: ｀ヽ;; ;;:ヽ ＼三ニニ＼ﾐ ::: ﾐ {三三/ 三三二ﾆヽ
'"´￣｀ヽ､: : ヽ; ;; ＼ ｀ｰ=ミ三ﾆヽﾐ :: ﾐ {,ﾆﾆﾆ}三三三二ニﾆ=,＼
｀ｰ=ミ､; ; r｀rｭrｭrｭノ ｀ヽ三ﾊ :ﾐ :..｀ヽニ} ﾊ
三三三二ニﾆ=‐｀ー'"´ ミ ｀ヽ ＼ハ ｨ彡 ヽ/｀ヽ三三三二ニﾆ=ﾍ
｀ヽ ｀ヽミ ＼ ﾐ ） ﾍ;;;彡 :: ::} Λ
三三三二ニﾆ=‐ﾐ ｀ヽ ミ ヽ ﾐ,/ :/ミﾊ ; : :/三三三二ニﾆ=ミ }
｀ヽ ミヽ ヽ ヽﾐ ﾐ／:／ミ; ﾍ / 三三二ニﾆ=ミ |
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|「……………………無いな」
|「だろう？ だから、すまない」
|
| やらない夫は、自分を殺そうとする凶手を前にしているにもかかわらず、突然右手で自分の頬を張った。
| そして目からぼろぼろとこぼれる鱗を汚れた裾でごしごしとぬぐう。
|
|「あー、そうだろ。当たり前だ。そうだな、うん」
|「……」
|
| 何かに気が付いた、あるいは目覚めたやらない夫をケンシロウは律義に待つ。
| だが、その全身にみなぎる殺気にはわずかな弛みもない。いつでも動ける。殺せる構え。
|
|「すまん、本当にすまん。投げ遣りになっていただろ。今から本気出す」
|「……」
|
| 左手と鼻からぼたぼたこぼれる血で庭園を汚しながら、何やらすっきりした顔でやらない夫が謝罪する。
|
|「まず、そうだな……蒼星石に伝えてくれ」
|「！！？」
|
| 動揺。
| これまでで最大級の驚愕がケンシロウに走った。
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/' ヽ
／￣￣＼ ./ i
／ ._ノ ヽ､＼ / ...........i
| （●）（●） | / ..:::::::::::::::|
| （__人__） | / ..::::::::::::::::::l 『オレがケンシロウに殺されたら、
.| ｀ ⌒´ .} ./ ..::::::::::::::::::::! こいつの純粋さが曇っちまうだろ？』
| }/ .::::::::::::::::::::/
ヽ ./ .:::::::::::::::::::/ ってな。
.ヽ . .／ .:::::::::::::::::::/
,. ‐'"´ `'‐,r''"~ .:::::::::::::::::／
..:.／,. -‐‐- ､ l′ ..:::::::::::::／|
:,' ／ !.:::::::／:i..:..l
r ､ / !::::::::::: i..:..i
l .......`:i i !:::::::::: ﾞ､:.i
! ::::::::::/ i i:::::::::: ヽ:i
.! ::::::::/ i .....i::::::::::: ヽ
.ヽ ::::::| `､ `､ .....::::::::::::l:::::::::::: `,
/ ＼:::l. `､ ヽ::::::::::::::::::::l::::::::::: /'''ー─----､
`ヽ `､ .::::＼:::::::::::::::|::::::::: /,, ,. ‐;''
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|「なっに！？」
|「よろしく頼むぜ」
|
| 蒼星石の名前もそうだが、それ以上に伝言の内容がケンシロウを困惑させた。
| 自分が見せた以上の気遣いを、それでも殺すと覚悟したケンシロウを拒絶する優しさに。
|
|「……なぜだ、備府やらない夫」
|「だって最初にお前さん、言ってたろ？」
|
| ８レス前の話です。
|
|「『お前を殺せば俺は友を一人失うだろう』……共通の友人なんて、翠星石と蒼星石しかいないだろ？」
|「それは……」
|「あ、この場所が、翠星石との初デートの場所ってのもあるが、九割ハッタリだった」
|
| だが、ケンシロウの反応で確定した。
| ケンシロウに、やらない夫殺害を指示したのは蒼星石だ。
|
| 蒼星石とは、ケンシロウは感覚を共有できる。
| だってそうだろう？
|
| 蒼星石も。
| 『あの夢』を。
|
| 見ていたのだから。
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|「……」
|「でもまあ、普通に考えてオレがケンシロウ、あんたから逃れるのは至難、いや不可能だ。
| それに、ケガまでしちまった」
|
| 驚くような速さで冷静さを取り戻し、戦意を取り戻すケンシロウに、やらない夫は微笑みかけた。
| その左手は先ほどから動かない。ただの傷ではないのだ。
|
| 内側からチャクラ経絡を破壊された左腕は、応急処置では腐り落ちるだろう。
| それはそれとして、傷は追っ手への目印になるし、移動も戦闘も制限される。
|
| この場は何とかやり過ごせたとしても……やらない夫には次はない。
| ない、はずなのだが。
|
|「だからなりふり構わないことにした」
|
| やらない夫の左目から血が流れる。
| ニャンコ先生との契約、彼を召喚する際に起こる現象。
|
|「……？」
|
| ケンシロウの感覚は、近くに潜むニャンコ先生の存在を察知していた。
| 主人を捨ててとっくに逃げたねずみ男のことも知覚していた。
|
| ではなにを？ なにをするつもりか？
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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／￣￣＼
／ _ノ .ヽ、＼
| （●）（①） .|
. | （__人__） |
∧ .| ｀ ⌒´ ﾉ やれやれ、これだけは使うまいと思っていたが……。
／＼ヽヽ } ひどく気のすすまない、かなりイメージが悪くてな。
,r―''''''ヽ, ヽ ﾉヾ、
,r‐' ,､;-‐''''""''ヾ､､, く l
/ .／ r''"ヽ, ＼, l｀ヽ､
j l ,. / ' l ヽ､ ﾄ, ヽ
,.Lj∠､'´ , i, / ｀ヾ､｀'ヽゝ
l, ／ 二'''" ,;､, ｀''ｰﾞ--､
/ﾞヽ-ｯ-‐'´ .／｀ト-:rイ｢´ ﾞl;:｀''ト-､,＿ ノ'i,
／ ／ ,;∠∠,ノ´ ｲ l l, ├''| |､,／ l |
..／ﾉ .／ ／､, ,､' ./ / .l |:::::l,. | ﾞヽ､!_,,､L,
ヽ---ﾂ ∧ ￣￣ / | |:::::::| | r'"/ l,
/ ./ .ト､,_ / | |:::::::|. ! l'´! / |
./､ ./ l, ｀￣ ./ |.|::::::::l |. !. l, l l
.l､,.ノ l, ;' .j |:::::::::!
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| すわ邪王炎殺剣か！？
| 身構えるケンシロウの前で、やらない夫は亜空間ポケットから棒状の物体を取り出した。
|
| 黒く塗られ艶消しのステッキ？ いや、剣である。
|
| ステッキのような丁字の柄頭。鍔は先細りのひし形で、剣というよりも打撃武器の風情。
| それが一体何なのか。何がどうイメージが悪いのか。
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_＿ _＿
-‐ ￣￣ ｀ ｘ ´ ｀ヽ
_＿＿ .´ ＼ ＼ ｀ヽ
／´￣￣｀ =‐- ヽ / ハ
｛ ／ ヽ ＼ Yi i i
｀ / ／ ' ‘， : . :ハ |
' / ｉ : i :. : :i} 从 |
∧ ,/ ｌ i } i ｌ }、 } : :l|／/ﾘ i
i ' | l ノ lﾄ L __j{_＼ } : :l|／/ﾘ i |i
| :ｉ : 斗匕､ 八 ＼ ハ V＼ } : :l|／ ﾉ ,/ハ えっくしゅ！（くしゃみ
八 :| ,i ,Ｎ ハ ＼ ＼ ヽ_＿_ノ┴=ミハ ,;' /ﾘ
|∧Yi 八抖芋ぅ ヽ「／ ／::::ﾍﾍ::::::V /} ; 八 うー、今またどこかで
|ｉ Ｖ ハ/／/／ / /____| ::::::::::ﾍﾍ/_丶{ //,i ヾﾍ セイバーが生まれましたね……。
|! | ∧ ＼_〕) ） ＼:::::::／::::::::::∨/ ,i i i}＼
从 ﾄ. 込、 ____ ＼'::::::::::::::::: ∨从,ﾉﾊ八
丶{ ＼{ 个o。 ｀⌒´ Jへ:::::::::::::::::::∨
___ i ≧=-＜::::::::::::∧::::::::::::::::::ヽ
___r〉::::::::::::::::::::::::::::::::／∧::::::::::::::::::::v=ミ、
／i/:::/＼::::::::::::::::／/／::::::::∧::::::::::::::::::::ヽ:::::＼
／::::::＼:::::::::::::::::::::::::::::::::::::: ／::::∧:::::::::::::::::::::V::::::ﾊ
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| 病室でニンテンドーを楽しみながら、謎のヒロインＸはくしゃみをした。
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|「……そういう感覚だけは鋭いな。新作ポケモンは面白いか？ 仕事よりそっちがいいか？ ん？」
|「げェー！？ 師夫！！！？」
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| 深夜の病院、女の個室に突如現れた男に、Ｘは悲鳴を上げた。
|
|「我輩は忙しいからな、『そいつ』は任せる。
| 分をわきまえずに『救世主』なんぞになろうと思いあがったら殺せ」
|「ええー。いきなり来てそれですか？ そんなだから『イメージ最悪だし使いたくないだろ』とか思われてんですよ」
|
|「あんな凡愚になんと思われようと知ったことか。
| ……だがもし、仮に、奴が罪にまみれ、友に背かれ、何もかも投げ出してでも墓の勝利を求めたときには……」
|
|「はいはい。殺すんですね」
|「逆だ屑め。もう少し頭を使え。ただでさえ少ない脳みそが腐って耳から垂れるぞ」
|
| 言葉を失うＸに、男は。脳噛ネウロは。
| やらない夫の師匠であり、やる夫の父である男は。
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| 底の見えぬ邪悪な目で嗤った。
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_ｿ"从 了ミミi ,,｀ヽ､;;;;ヽ､､､､ｰヽ;;､''''-､ノt,,,,,
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､,,t,｀ﾚ 从ii|ヽ､ｰ''"iii､ヽ;;;;;ﾘ|;;;;从i ､､､从､､t;;;;ヽ'ｰ､ヽ
メ''""/;;;;;从,,､､ ､ i;i||j;;;;r"t;;;（ ｿ､t;;;;ヽ |;;;;;tヽミ ､）,
､ゝｲ |;;;;ij|从;;;;ヽ|;;i |､",,,,iiii､,,,,､i､ｿi t;;;;|ヽ;;;;;ヽ､ ヽ''''"
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ｰ7;;i|､;;;;;;r､ﾐr'";;;;;;;;;;;;;;;~~' ﾘヽ|i";;;;;;;;;;;;;;;シi;;;;;;､i|）
ﾘ;;;;||t;;;;〈 ﾐ 彡=ﾓ丐ｧ､r;;; "ﾘ､zﾓﾁﾃzｰ' ﾘ;;;;ii|j
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ﾌ;;;;;ヽ;;;i, "" | ,'r';;;i ……。
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. i ﾘ 't;;;;i :ヽ ,,､-_~-,, /:: j ﾉ ;;ﾘ''ヽ､ ,, ､- '' "~:::::::::::::::::::::
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| ケンシロウの報告書によると、やらない夫はケンシロウを撃退して『空を飛んで逃げた』。
| 必殺の打撃はやらない夫に届かず、逆にケンシロウは跳ね飛ばされて隣のビルにめり込んだ。
|
| 破壊したはずの左腕は恐ろしい速度で修復された。
| つまりやらない夫は無傷でケンシロウを退けたことになる。
|
| ケンシロウを。
| 単身だったとはいえ、『血族』『四天王』である超戦士を、だ。
|
| それは、これまでただの的に過ぎなかったやらない夫が本物の脅威に格上げされた瞬間であり。
| 運命のレールが破滅に向かって加速した瞬間である。
|
| これより。
| やらない夫による破滅が始まる。
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☆ 次回予告！
主人のいない入即資本。
だが、毎朝シャッターは開き。
店の前は掃除され。
奥のカウンターには人の気配がある。
悪魔か？ 悪魔ではないか？ 悪魔であろう！！
真実を確かめるために、取材班はアマゾンの奥地に向かった。
次回『高良みゆきが病室で心神喪失レイプ目になるまでの話』
果てに見るのは破滅か死か。
ぎりぎりまでため込んでバネの歪んだみゆきさんが！
ケンシロウは律儀な男よの
え？なに？ついにやる夫が逆レされるの？（目反らし
せや！こづくりしておけばええねん！
∨ヽ
＼ ＼
＼ ＼_ ..-‐::､
/:_: : : : : : :ヽ
}ﾊ ヽ: : : : : :ﾊ オズ、あまり目立つなよ。
{ ｨｬ V´〉: : : !､ 最低限『罪状』は揃えておけ。
< ヽ: : l: :| ＼ 後付けでも構わないから。
rﾊ´_.ィ /: : :ﾄﾐ:､ ＼
, ＜ ￣｀ﾝ: : / : }/: : : :}´了ヽ ＼
/ ｀ヽ{ : ∠ニ_{: : : ﾑへ≧=ミ 、 ＼ r ､
ゝ､ 彡 >´::_}{_:: :ゝ:/´ﾙ}二ﾆ=≠=ヽ ｀ー' ノ
/ / {__} ´:: :: ｀}{´:／ｲ r ´ ﾄ ﾉ ヾてミ,:´ﾘ
_ ゝ`T!´ {:: :: :: ::.rく／::ヽ. Yヽ ､ヽ｡ｰイ r'_ﾉ 人ヾ ､
,. ´ ﾑく i! ゝ:: :ノ/乂:: :: ハｰ} X } {.ﾉ ． ´ヽ Y ヾ ､
/ x≦=} }ミ､ﾙ- ´{:: :: /´.:: :: :: :: ::} <_∠ﾆﾆﾝ_. イ ヽ / ヾﾍ
`i´ へ ｀ヽ ! :/:: :: :: :: :: ::./ 〈ィYリ { ｿｰ' `
ヽ / ＼ L ﾚ:: :: ; :: :: :: :´∨{｀Yi´ ヽ ／
` ｀ ＜ / ヽ_}:: :: ::} :: :: :: :: ::.ヽ { { >／
｀ ＜ / .|:: :: :: :: :: :: :: :: :: ﾊヽゝ彡´
, -ﾄ､_} }_:: :: :: :: :: :: ::／:: ::＼
｀¨ヽ､_ノ ::｀ヽ:: :: :: ::´ :: :: :: :: :ヽ
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|「わかったよ、姉貴」
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| 歴史上の『十字軍』とは『未開の土地に素晴らしい信仰を啓蒙する集団』である。
| 『教会』における『十字軍』も同様であり、『教化』こそが彼らの行動指針である。
|
| 名目上はそうなっている。
|
| では、どちらの『十字軍』も悪名高いのはなぜか。
| もちろん『信仰を受け入れない連中は敵なので殺すも犯すも奪うも自由』だからである。
|
| オズとオズマ。
| 東京にやってきたこの双子は主に破壊と略奪を楽しみにやってきた。
|
| だが、ふたを開けてみればそんなことする権限が与えられない。
| ぎゅうぎゅうに押さえつけられ、『結社』撃滅作戦にも参加できない始末。
|
| 街をうろつき、目についた男を殺すか女を犯すことで気を紛らわせてきたが、
| 途中でやらない夫とかいう変なのが付いてきたせいでそれもままならなくなる。
|
| しかも、やらない夫がいない間にと愉しんだ夜に限って事件は起きる。
| やらない夫はテロリストになり、オズは管理不行き届きで厳罰を受けた。
|
| ただちょっと、見回りをせずに、女を誘拐してお楽しみをしていただけなのに。
| 連絡はつかず、援軍も送らず、やらない夫を放置しただけなのに。
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/: : : : : : : : : :＞､: : : ヽ
, -': : :／: : : : : :＞'"` ''´ ヽ
￣ゞ: : ／: : : ／_ l
l: : ": : -‐: : : ; l
,l:./: : : : : : /'; - ､＿ ,. ィ
'-､"/,-ヽ'ヽ/ ィ_'／ .lｴ'l クソがッ！
l: ヽヽ,'; ; ヽl
,l: : ヽ'_', ､ ‐ 'l あの大根面ァ、どこに消えやがった！！
l: : : / ヽ /三ﾆ/ l
＝ ￣ ＼ ヽ. l
;― ､ ヽ＿ `ｰ― -' -､
― _ ヽ l ` ､ //ヽ￣ヽ ＼
― _` ヽl. l ` l ､ ＼ ヽ ＼
／ , ` ` ､ l l ヽ ヽl ゝ､ l
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| 同様にやらない夫を追いかける『異端審問官』のジャンヌ・ダルクは、すでに一度発見したという。
| 間抜けにも取り逃がしたらしい。オズは自分はそんな無様は晒さないと思っていた。
|
| だがそもそも、噂すら掴めない。
| 『異端審問官』を通じて浮浪者が怪しいと聞き、公園や橋の下にたむろする連中を殺して回るも見つからない。
|
| 蜘蛛のように長い手足にずた袋を被った『スケアクロウ』なる怪人の噂を辿るも、
| 目撃場所がばらけすぎて訳が分からない。
|
| その上、『十字軍』メンバーの片手では足りない人数が『辻斬り』によって命を奪われていた。
| オズは『辻斬り』こそがやらない夫なのではと疑ったが、よく考えるとそれにしては腕が立ちすぎる。
|
| 三人を抵抗する暇もなく一太刀で殺害。
| 武器を構える暇があった場合も、武器ごと切断される怪力乱神。
|
| 『十字軍』以外の『教会』もその被害にあっており、最強の殺し屋集団『武僧』ですら手も足も出ずに殺されたという。
| 最近では『十字軍』のメンバーは『辻斬り』を恐れて夜の見回りを控える始末。
|
| オズは彼らのふがいなさに激怒した。ふにゃち〇ん野郎とぶん殴った。
| オズ自身は？ 情報収集は日のあるうちじゃないと人が捕まらないのだから仕方ないだろう？
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／:::::::::::::::::::::｀ヾ}/ ｊ´ ﾘ
ｲー:::-::＿::::::::::::::::::｀ヽ ｊ´ ﾘ
ﾊ 三~￣￣三彡! ｊ´ ﾘ
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ィ ＞ ´￣￣ マﾑ_ ｀ヾ::l > ＿/⌒ｊィ
ィf／´ ヽ{⌒ヽ} _/ ｀ マ/７＞
ィf _／ ＼＿} ７ _///ｒY
ィf _イ7 ､ ヾー ｊ/ﾘ´ ｒ'
ィf イ7 ./ ＞.. ｀iヽ ｒ‐v//⌒ﾘ
/ｊ ／ /７ V V ＞ . |//＞＜ﾑ_ﾏ /
/ ／ /V / ト >､＞ . |/////≧､7 7
ノ＿／ / ﾘ ノ 」 ＼ ｲﾆ＞ ⌒L////////ヽ7
/:::::／ / イ 彡 ´ }＞ ｀ヾ//////＼
::::/ 人' ｊ /´￣ ｊ ｢ 个/////ヽ
::ﾉ ヾ::{ l! / ／ / l＿! T＝///＼__
＿＿ｊ__ ＿ ）－､ ｲ! l ￣ ､ ￣マフ }
r┤ /|i|ニニニﾑ ﾏﾑ／ i ! ､ ｀ｰ＜ﾍ
Lｊ / ｊ７!ニニニニ／ ／ ｌ ＿＿ｊ､ :. }//ﾊ
人_ノ ﾘハニ≠ ／ ／ ｢///////| |!八∧
７ // ＞ ´ ¨ ﾍ///////| ＿_}､ ｀ ｀ｊハ
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| 『辻斬り』の正体が全裸の若い女だという噂もあるが、余りにばかばかしいので無視した。
| 他に調べねばならぬことは山とあった。
|
| やらない夫の居場所……隠れ家……たとえば？
|
| 友人の家とか？
|
|
|
| そんなもの、とっくに『異端審問官』やそのほかの連中が洗っている。
| そして一番の友人であった入即やる夫の家は見張りが立てられて常に監視されていた。
|
| そもそも彼の家は中立地帯であり、『血族』からも『教会』上層部からも手出しを禁じられていた。
| 出入りする二人の女に関しても不審な行動がなければ接触できず。
|
| 監視していた『教会』のメンバーはそのあたり大いに不満を持っていた。
| だが彼は脳噛ネウロを知らないし、伊藤誠を知らないし、隣の家が夢宮邸だとも知らない。
|
| でも、自分らで手を出して泥をかぶるのは勘弁だった。
| そういう場合、『十字軍』のような存在はとても役に立つ。
|
| そうであろう？
| ルールも、しがらみも関係ない。
|
| 好き勝手に暴れて、勝手に問題を起こしてくれるのだから。
| であるから、監視はオズの蛮行を……無視した。
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/: : : : :/:〈＿__〉:_乂^V乂_─-ミ 厶ｲ: : : |j
.′: : : : :/::://^V 斗r予ミ 人:::乂
i : : : : ∧::j { (_, 乂り 芳ﾐ::/
|: |: : : : :| ::人こ 仏 ′ 銀ちゃん、あまり目立たないでね。
|: |: : : : :| }::::爪 〉八{ 最低限斬る相手は確認して。
j八j: : : :| jＶ^ ＼ __ . : :| 誤チェストは本当にやめてね。
[＼: 人_ / ／: : i |
＼::厂＼ ７≧=彳: : : ::り
j/ =- / i八: :／{
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|「それくらいわかってるわよぉ」
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| 伝説上のモーリアンとはアーサー王の実姉であり、邪悪なる魔女である。
| 今この東京に現界している水銀燈＝モーリアンは、それとはちょっと違う。
|
| ケルトの三位一体の女神の一柱として、誘拐された妹を助けに来た存在だ。
|
| では、どちらのモーリアンも悪名高いのはなぜか。
| もちろん目的のためには手段を択ばないし、目を覆わんほどに強力だからである。
|
| 水銀燈。
| 『十二の封印像』の悪魔の一柱。『死鳥』の名を冠した高位悪魔。
|
| だが、ふたを開けてみれば戦闘以外はポンコツ。
| 得意分野の高機動戦闘なんて披露するタイミングもない。
|
| 街をうろつき、乳酸菌を飲むことで気を紛らわせてきたが、
| 途中でやる夫の伯母だということが判明してからはただのオババカになってしまう。。
|
| しかし、そのやる夫と別行動をした日に限って事件が起きてしまう。
| やる夫が行方不明になってしまったのだ。
|
| ただちょっと、神話的な夫に当たるヌアザを勝手にモチーフにしたシロッコを絞めてやろうとしていただけなのに。
| 新宿衛生病院を水浸しにして下水道を逃げ回っていただけなのに。
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// /::: ﾑ- ﾆ/7ﾞ/:::::... /／ /／::::.. ＿ __:::|:::
///_,ｨﾆ/ｰ '／ﾒ./二´二´￣/::::￣ ｀:ヾ、/.:/::/
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/／ ﾞ´ 弋､;;ノﾉ ﾞ .:/ /
,. -ｰﾐ､｀::ｰ-- ､ｰ'ﾞ＿＿ ／ﾐ＝'..:/ /
ｰ-､ ::::::::::::::::::::::ｰ＝彡'ﾞ .::/ //.:.
::::::::::::::::::: :／ //::: ::::
／／ /:::: ::::
／ :::/: :::::
..:／::::::: もう怒ったッ！
.:／:::::: -ｰ' ´
....:::::::::／::: -ｫ'´ ::::::::: 辻斬りでもしてやるわぁ！！
_, '─ 'ﾞ...:´／:|::: :::::::::::::
ｰ─ｰ _, ｧ' / ....:::::／:::::::|::: ::::::::::::
─ 'ﾞ ...:::::::／ﾊ::::::::/:: :::::::::::::
ｰ ...:::; ｨ':::::::::::ﾊ::::/:: ::::::::::::::
..: ｨ:::::::|:::::::::::::::∨:: :::::::::::::::
..::-ｰ' |:::::::::::|::::::::::::::/:: :::::::::::::::::
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| やる夫をどれだけ探しても、気配すらつかめない
| 水銀燈は『大天使レミエルの夢』の際に下水道を移動していたため、夢で何か起きた可能性も思いつかない。
|
| 八つ当たりにシロッコを探そうにもどこにいるかわからないし。
| 『教会』関係者を締め上げようにも見つけられない。
|
| 普通の教会に立ち寄ってみても、誰が普通人でそうでないのか区別がつかないのだ。
| 残念ながら水銀燈は悪魔としての格が高すぎて、一般人と訓練した者の実力差を見分けられない。。
|
| どちらも指先一つでダウンできちゃうからだ。
|
| 悪魔が暴れた現場を張れば、『教会』関係者が見に来るか？
| 残念、来ない。そういう面倒な仕事は下部組織に丸投げしちゃうのだ。
|
| だが……ある意味大きな収穫があった。
| 現場検証に来た警察。そこに従う明らかに気配の違う男の一人。
|
| 黒ずくめでヒゲ面の、潮の香り漂う中年？ 違う。そっちじゃない。
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∨ ∧ ,,..．-――- 、
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∨ ∧ , イ ＼
∨ ∧ ／ | ／!
∨ ∧ ! Ｖ / ／::/
く´∨ ∧ / ∧::::/
ｒ‐＜´￣＼∨ ∧ Ｙ / |/
∧ ＼ ヽ∨ ∧ |! / |
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／ ＼ ＼ ∧ ／￣ヽ_、 ∠__／
／ , -― 、 ＼ 〈 У ヽ/
／ ／ ', ヽ ∧ ﾉ
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/ / | ,. く ／∧
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| フードを被って顔を隠した、しかし隠し切れない邪悪のオーラ。
| なぜ警察があんな異形を連れているのだ？
|
| 水銀燈は恐怖に近い感覚を美しい顔に浮かべた。
| あれは、放置してはいけない。殺さねばならない。
|
| ……だが、飛び出して必殺の衝撃波を放つ直前。
|
|
|
| そいつは振り向いて、わずかに見える口元を露出。
|
|『 』
|
| 慄然とするも、両目ともに6.0の視力には、彼の口の動きがはっきりと読めた。
| 具体的に何を言いたいのかわからないが、ニュアンスだけは読み取った水銀燈は、怒りに震えながらその場を後にする。
|
| 『入即資本に居ろ』ですって？ なんでそんな命令を受けなきゃいけないのぉ？
| ……いやでもまあ、確かに。
|
| やる夫を待つにはそれが一番の近道だろうけど。
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､ ＿ ＿_
ﾄ､_＞ ´: : : : : :＞ 、
〉: : : : : : : : : : : : : _:.
､ｰ イ: : : : : : : : :＞ ⌒´ ヽ
｀7: : : : : : : :イ '.
{: : : : : : : : : } }
,.イ: : : : : : : ﾉ ー-_､ x≦
￣｀V⌒ヽ : { ヾ赱ィ {ﾔ|
}ヽ て }ﾉ ヽ }
|: : >ーﾍ _＿＿´! よぉし、こっちの女はおまえたちにくれてやる。好きにしろッ！
＿＿|: :ﾊ ヽ ｀ ¨¨´ '
´ ニニミ｀ヽ ＞ .. ＿_.}
´ ｀ヽ Vー- ミ // ｀ヽ
二≧ｘ ､ } } ｀ヽ ﾐ､ヽ'＾ヽ ＼
｀ ＜≧x.ﾄ､ } } ヽ ＼ﾑ _ ､
ヽ｀＜≧xr――＜:: :｀ヽ .}
三≧ｘ ､ ＼ r┬｀ ＜:: :: ::ヽ:: :: ＼/
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|「さっすが〜、オズ様は話がわかるッ！」
|
| 入即資本の内部、古ぼけた棚に雑多に入れられた貴重な書籍は倒され、踏みしだかれ、無残な姿をさらしていた。
| 蹴り倒されたレジカウンター、こん棒を振り回し、狼藉を働く複数の男。
|
| 壁に押し付けられた女は、鼻血を流しながらも恐怖のあまりに悲鳴も上げられない。
| 『十字軍』のオズは舌なめずりし、女の豊満な乳房を乱暴に揉みしだいた。
|
|「さわらないで……お願い、やめて……」
|「うるせえ」
|「ひっ」
|
| 容赦ない平手。躊躇のない暴力に女は、高良みゆきは抵抗する気力を根こそぎにされる。
| 剛毛が生え、節くれだった指がセーターを引き裂き、下着を千切り捨てる。
|
|「ほう、ジャップにしちゃあいいもん持ってるじゃねえか！」
|「ぎゃっ！！？」
|
| やる夫にも触られたことのない白い乳房をひねりあげられる。
| 激痛に悲鳴を上げるも、それがオズの気に障り、さらなる暴力に襲われるのではないかと怯え、みゆきは息をのんだ。
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∠二二二ミヽ、
,r/r=r'┬r=ミ、 ｀∧
「「 i | | L__ ヽ「r「|.
r|│ :i | |ー- L_」 | ﾘ!
l」 r‐ ┘└―=ミ 」f 」 こっちはどーするよ？
| ト冖l 「f¨￢-トi^「r'. じゃんけん？
| | │| | | l i | | 」」
| | |│ | | l l | | | ト 年齢順？
,イ | |│ L| l l | | |./
ヘﾄ､厂 !」__レﾍレ.
ﾉ}r､＿＿＿r―ｲ
. /7仁二二二ﾑ〃!.
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| 床に転がり、自分の吐瀉物に沈むもう一人の女。
| 長門有希。
|
|「そもそも生きてんのか？ 死体はごめんだぜ」
|「俺いける」「マジかよ」「ゲロ臭くても平気」「それは俺もだ」
|
| ゲラゲラ笑いながら、『十字軍』の荒くれ者どもが有希に掴みかかる。
| 腹パン一発で気を失った彼女は、抵抗もできずにぐったりとなすがままだ。
|
| みゆきは絶望的な気持ちで、これが夢であることを願った。
| だが、顔や乳房、そして噛みつかれ歯型をつけられた肩の痛みが彼女の希望を裏切る。
|
| どうしてこんなことになったの？
| なぜ？ だれのせい？
|
| マッチョで入れ墨だらけの外国人たちにいきなり襲われて強姦されるなんて。
| 想像もしなかった災厄に見舞われ、みゆきの脳はオーバーフロー状態にある。
|
| 死の絶望も妊娠の恐怖も、目の前の痛みの前に霞んでいた。
|
| それをかき消すほどの暴風のような事態とは。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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|| | || | | | |||| ||| |||| ||| /ﾍ. || |
|| | || | | | |||| ||| |||| ||| .j__ｸ| .|| |
|| | || | | | |||| ||| |||l ﾉ|｀´/ .|| はケこよや
,<ヽ‐--､ ,,-‐''ノ ./ よンんかめ
「ヽ__,,-‐''ノ | |::::::::i _ｲ | / .ォカな っり
ゝ ＿＿ﾉ_|/::::::ヽ_ /::::ヽヽュノ .！ふタたゃ
L__厂 __ i::::::::三}／:::::::::::_lﾆ､ っフ！あ
ヾ ,,<:::} i:::::::/:|::::::::::::厂ﾍ＝| かガ
ヾ /__|´ _i_:::::::::ヽ:,,_ｲ ./__ | .けイ
Y/￣ ＼---＜ヽ/::::::::Y 彡 るに
ﾐ .／ ／| ｀ ﾄ､ ヽ::::/ 彡 の
∠_＿＿|ヽ| |ﾘ ＿|'´ ・ ﾃ
└──´￣ ・ ミ
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|「は？」
|「は、じゃないわぁ」
|
| 男の一人が突然吹き飛び、壁にめり込んで苦痛の声を漏らしていた。
| 四肢はねじ曲がり、背骨が飛び出て、穴という穴から血を流しているが……死んでいない。
|
| 致命傷ながら、いっそ殺してくれという激痛にさいなまれているだろうに、死んでいない。
|
|「何もンだ！」
|「なにもんだ、じゃないわぁ」
|
| 氷点下の、いや絶対零度の声。
| 凍てつくような美貌。殺意を具現化したかのような処刑刀の威容。
|
| 『十字軍』のむくつけき男どもはその圧力に怯んだ。怯えたと言い換えてもいい。
|
| だが同時に、異様に、驚くほどに美しい女の出現に妙な興奮もしていた。
| 二人しかいない女の片方をオズが独り占めしているのだ、自分らの順番はいつになるのか。
|
| この女は、好きにしていいのか？
| とめどない性欲が、男どもの判断力を鈍らせた。
|
| 対して、オズは。
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,ｨﾄYﾌ7「ｰ￢､ ／)
/へ{_,ィﾑミ､ﾆミ!
j「 / }三ｽ っ
. |＿{ _厶ﾆ7 よよよよぉし、
}f乏 r=ﾆ、マf⌒} つ こいつらはおまえにくれてやる。
l ﾉ ｀^く 込ﾉ
厶 ー' レ’ 好きにしろッ！
ーく f'f⌒ > ／爪
7八ー _∠.ノ 仄ヽ
〃 ,仁二三=彡' /,rへ
/へ≧＝一厶ィイ7⌒ヽ
Y´ ￣ヽ {广ヽノ
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| 叫び、捕まえていたみゆきを闖入者へ向ける。
| 盾にするような動作、この場において彼一人が、女の実力を見抜いていた。
|
| 自分たちでは、束になってかかっても相手にならない化け物だと。
|
|「すきにしろ、じゃないわぁ」
|
| オズの言葉を聞き間違えた『十字軍』どもがいきり立って女に襲い掛かる。
| むくつけき突撃、怒りと性欲、暴力の衝動に突き動かされた無謀な突進。
|
|「水銀燈さん！！」
|「はッ」
|
| 水銀燈、美と破壊の化身。ブリテンの黒い魔女。三位一体の女神。
| その、戦闘用代行分体。
|
| 不意に、みゆきの全身に生暖かい液体がかかった。
|
| 触れることなく先頭の男がバラバラになったのだ。
| 水銀燈の周辺に渦を巻く風の刃がミキサーのようになで斬りにしたのである。
|
| 10センチ幅で乱切りにされた肉と臓物が飛び散った。
| 続く男たちと、みゆきに、湯気が立つほど暖かな血しぶきがかかる。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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r‐､, - : : : ￣￣｀ｰ- ､
／| : : : : : : : : . . ＼ : : : :＼
r─ｖ'. :| : : : : : . ＼ : : : ヽ
| : : . | . . ﾄ､ : : : : : : : : : ＼＿: '.
/ . |: l : : : : | _＞ｘ- : : : : : ﾄ､ヽ:＞,
／ . : : : |: l : : : : | ｀ヽ: :ﾍ: : .', ＼', : i
/ . : : : : : :｀xﾄ.: : : .:l ,ｨｘニミ、、',: : :i : :} : :|
/. : : l : : : : ｲ:/_`x : .'ヽ 《 { ):::::ヽ》: | : :|: : : : :|
/ i. : : l : : : : :l ﾚx'ヌ.ヽ: } ヽV之}/ j | : ﾊ､_: : :| ああああああああああ！！！？
l 八: : :ﾄ: :| : : ﾄN{∨):〉へ ´￣o/ｲ /: :V : : |
′ ヽ.:|.ヽﾄ､ :.| ﾊ｀ ≠'} ､ ＿ _ //イ : : :|: : : !
＿｀ ＼ﾄ､} ﾟ .ﾉ rｧ‐､ u ﾉ! : : :|: : : |
ｘ'⌒Y^ｰ-､ | : :冫､ ｀ー ／/. : : ,ｲ; -┴ 、
ﾊ } |ァ j /. : /. : .＞.ｰ.─. ｧ´: / : : :ﾉ-に二ヽ.ヽ
{ ヽｲ｀7 }／. : / : ;ｨ ─xzーイ ／7 : : 「 く(__r─ヽ '.
. ヽ ) ﾉ. : : ;ｲ:／ ／ ヽ ／. :／} )ゝしﾍ } i
ヽ. ﾚ{ : :// ／ ./ {. :／ { f⌒´ / |
l | ゝ ﾚイ ´ ／ }/ } ／ |
| ,イべ | ／ ／|! | 「 j､
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| 眼鏡に張り付いた腸のかけらに錯乱し、それを振り払おうとみゆきは両手を振り回した。
| もちろん、眼前にある物質は暴れてもはがれない。
|
|「うるせぇ！」
|「うるせえ、じゃないわぁ」
|
| 注意を向けられてはたまらないとばかりに怒鳴りつけるオズ。
| だが、そのせいで逆に向けられた殺意に、顔色を失い歯を剥いた。
|
|「クソマン〇コが！ 騒ぐんじゃねぇ！」
|「ひッ」
|
| 殺意の波動が眼前に迫る男どもを無視し、オズを鷲掴みにする。
| 死の確信。それがこの傍若無人な悪党を恐怖させた。
|
|「うわああああ！！？」
|
| 無様に失禁しながらもみゆきを突き飛ばし、四つん這いで逃げ惑うオズ。
| それが、彼を救った。
|
| 必殺の攻撃の射線に、みゆきがいたため攻撃できなかったのだ。
| それと同時に、次の男が水銀燈に挑みかかる。
|
|「邪教徒の障壁程度が！」
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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-‐ ￣￣￣ 、
イ ハ l 、
∠∠、 /| | | { ヽ＼
__ ｨ≠￢:::i l /ｰト ｌ l ヽ ＼ '. ＼
／ｲ;小ヽノ::/ | | ｜ ＼ ヽ ＼ ﾞ, ｌ l ヽ
〈:{_/:/ |:|`ー' | |､rr==≧ﾐﾒ、 ＼ i ｲ | j '
ヾ:/ |:|｜ | ｌ `＿ゝ'ノヾｰ | ／ |/|.′ l
// |:|∧ | ｀''"￣` lイ=ﾐﾒ､lﾉ ′| |
/::/ |:| ヽ '、 、 ヽ'_ﾍ / / /| |
. /::/ |::| ＼ ヽ ／ ゛''/ イ／ jﾉ
/{:::{ ﾚ′ |｀ ＼ r＝ｰ ､ ハ ﾉ } 障壁程度が？
､ / ￣ /| ｜ ￣`ー' / ／ ｲ
::::V / | | ｰ ニ´- ' ノ
―‐ 、 ､ / ！ | イ ｜
::.::.::.:..＼＼′ / ｌ ｜ ＿＿_ ＼ , i´ l |
.::.::.::.::.::...＼＼/ | |７/::.::.::.::＞ﾄ二. | ｜ |
::.::.::.::.::.::.::.:..＼＼_,l |/.::.::.:／ ´ 小:ﾄ＼｜ ｌ |
.::.::.::.::.::.::.::.::.::...＼ヾl |::.::.::.{::{__ ｲ:| |:| }::}| | |l
::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::ｌ ∥ l＼.::.`ー'::|:| |:lV:/ | ｌ | l
.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.:l || | ヽ::.::.::.::|:| ﾄ-く | | | l
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| 腐っても『十字軍』。
| 不可視の風刃の一撃を防いだ男であったが、風の刃はそれこそ無数に駆け巡っていた。
|
|「ギャッ」
|
| 続く風が男の防御を貫通し、左腕と左膝を切断。
| 宙に浮いた腕と足が即座にばらばらになり、もんどりうって倒れた男は芋虫みたいにのたうった。
|
| おののく男たちを一瞥し、水銀燈は倒れた男の頭をボールみたいに蹴っ飛ばす。
| 前歯と鼻骨をへし折られ、男は鼻血をまき散らした。
|
| これもまた殺さない。
| 理由は？ 水銀燈は激痛にのたうつ男の胸を踏み、ろっ骨を軋ませる。
|
|「さっきの奴は、幸せよねぇ……即死できたんだからぁ！」
|「うぐうぅ……ッ！？」
|
| ぺきぺきと音を立て、ろっ骨がへし折れる。
| 逃げ出そうと下がった次の男の首に、空気の杭が突き刺さった。
|
|「ッ！！」
|
| 喉を潰され呼吸困難に陥り、倒れてバタつく男。
| 残る『十字軍』は二人、どちらも腰が引けている。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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＿＿＿ ＞､ｉ{
､＿≧三三≧三三ミ
７三三三ミﾄﾄﾄﾄヽ∨ﾄ､
{三三三{´￣￣｀｀∨ ７
/三三彡{ ._ u }
､_厶イｒ云ミ{ u ｒ云､ 、 ｉ うう……ち、ちくしょう……！
|ｉ:ｉ{ ぅ ﾍ! ｀￣ {芹} なんだアイツは！
|i:i:ｉ＼_ u , >} なんだアイツは！！？
|:i:ｉi:i:i:iﾄ r-､＿ /
}从}ｉ:ｉ:| ＞ ｀￣ /
|ｉ从 ｀＞ ┘
厂￣ L＿＿ {￣￣}
／￣￣￣￣￣＼ } { .ｉ 厂厂￣￣￣＼
／ ＼ |＿＿ >} { ｉ .＼
／ ∨ {＿_} ∧
／￣￣￣￣￣＼ ∨⌒￣￣￣}⌒}＿ ／ ∧
{ ＼ ＿＿＿ } {┌── ┐ 彡 }
| { | |│ |／／ |
| | | |│ |＿／ | ＼ｼﾞｮﾊﾞｰ／
|lニニニニ三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三ニニニニ
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| 無様に下半身を濡らしながら逃げ出すオズ、立ちふさがる『教会』の監視員。
|
|「……『十字軍』のオズ殿、貴殿の行動は『教会』内部での取り決めに抵触している」
|「うるせぇ！」
|
| 監視の男をぶん殴り、頬骨をへし折る。
| 割れたサングラスが顔面と眼球に突き刺さり大惨事だが、そんなことにかかずらっている場合ではない。
|
|「クソが、死ね！」
|
| そのまま逃げ去るオズ、気を失った監視員。
| 入即貸本から悲鳴が上がり、途中で途切れた。
|
| そして命乞い、懇願、涙、祈り。
| それらすべてを無視した暴虐と破壊の音。
|
| 単純でインスタントな死ではない。
| 時間をかけてじわじわと殺す。
|
| 水銀燈の残虐な報復が、助けの来ない四人の『十字軍』を順繰りに嬲り、削り、壊していった。
| 具体的には筆舌に尽くしがたい痛めつけることだけが目的の拷問が数時間続いた。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
|三三三三三三三三三三三＿7 /〈 〈＿_ ./ /７｜./ ∧＼ ./ /＿_〈 〈＿_ / ∧＼ 〈〈 / / 〈〈.∧∨,/三三三三三三三三三
|lニニニニ三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三ニニニニ
,二 - ＝… ‐ - 二.
,. . : : :´: : : : : : : : : : : : : : : : : : :.＞-‐┐
. ,. '´: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :}
／: : : : : : : :./ : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : l:ヽ、
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. ,:': : : : ::,＞- '´: : : : : : : : : : /: : : : : : : :l: : : : : : : : :.l: : : : : : : :l
. ,:': : : : :／: : : ,:': : : : ／: : : : /: : : : :/:, ｲ: :l: : : : : : : : !: : : : : : :.:!
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/: : :〃: :／, :ｲ: : : :／: : :／ァ:´: ／l:/ ! :l: : : : : : : : l: : : l: : : :人
,': : : :{.: :/l: : : : : :／: ., '´ /: :／ ,':! l: ﾊ: : : : : : : :l: : : :!: : : : :へ
. / : : : :l'´:_:l: : : : : : ／ -ァ‐'´ ＜_ u ﾘ }: : : : : V: :j: :.Ｖ : : : : : : : ヽ
': : : : : :γ l: : :/:,イ ≫≠天云_ｚミ、 ', V: : : : : Ｘ: : :/: : : : : : l: :へ
/: : : : : :.l r_l: :/: : :.l o ´￣ ¨`ヾxう 》 l V : : / }:ヽ,': : :l : : : : l:V: :ﾍ
l/: : : : : :ﾊ、l:/: : : :.l、 ゛ / ／ }:.／ ./: /: :l.: :l: : : : ::l: l: :ハ
/: : : : : : : :.Ⅵ: : : l: :l 丶、..:::.::::.::::.:::. ／ ` 、/ ァｵ'z､X :,.ｲ: : l: /: : : : ,' :,: : : Λ
,:': : : : : : :/: : :.:l: : :｜:l :::`::::－-::::.´::.:. { c`マ泌ﾐ、゛ ｨ: :.j! : : : :/:/ : : : : : }
, : : : : : : : /: : : :｜: : : : l l::.::.: ヾ,ぃ〉 /:l: :ハ: : : :./: : : : : : :,'
: : : ／: :.,:': : :l: : :.l: : : : :ﾊ ／￣⌒ヽ、 ‘、:.:::::. `＾, ': /:/: ,ﾊ: :./: :./: : : : .'
: ／: : :,:/: : : :l: : ::l : : : :,Λ 〃-‐-:...、 } 丶、.:::. /: ,ｲ: : l:/ V: :／レ //
: : : :.,ｨ'/: : : : :l: : ::l : : : : :.ﾊ {:::::::::::::::::::.ヽ,′ ァ:'´
: :.／ /: : : : : :l: : : :V: : : : : ﾊ ゝ:::::::::::::::::ソ ／:V:
／: :/,: : : : : : l: : : : V: : : : :Λ、 ` ‐ - ´ _, =- ´- ´ .. やだぁ……もうやだよぉ……。
.: : /: l: : : : : : l: : : : :.}: : : : : :ハ` － - ‐ ｧ ´ -‐ ...., おかあさん、たすけて。おかぁさぁん……。
: :/ :_:L_ : : : : l: : :.／l: : : : :l: :.Λ / ,.: , ´
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| 水銀燈の善意。
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| かわいい甥っ子に奇跡的にできた彼女をひどい目に合わせた連中なのだ。
| 生まれてきたこと後悔するまで拷問して、みゆきの溜飲を下げてあげたい。
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| みゆきの所感。
|
| もうなんでもいいから死なせてあげて。
| 悲鳴も血も肉片も見たくない。助けを求めて泣く男たちを、自分のためにとか言いながらいじめないで。
|
| ありとあらゆる手段で体と心を破壊しつくされた男たちの残骸に囲まれて。
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| もう悲鳴と命乞いと断末魔を聞かないために。
| もう血と内臓と死体を見ないために。
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| 心を閉ざした。
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☆ 次回予告！
たまには不穏も戦闘もない日常話も必要だろう。
少年の淡い恋心とか。
少女の自覚のないやきもちだとか。
かわいい女の子とのちょっとしたデートだとか。
そんな息抜きだって必要だろう。
必要だろう？
それが破壊されたときの落差のために。
次回『島村卯月をおぼえていますか』
果てに見るのは破滅か死か。
戦闘以外ポンコツ（震え声
あの、みゆきさんの心に与えたダメージの比率おかしくないですかね(ふるえ)
みゆきさんの病院送りの運命は変わらず
なんという新鮮な反応
ひでぇ。嫁姑教育（違う
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| 東京の夜は物騒になった。
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| 十一月。体に突き刺さる冷たい風が送電線を揺らす。
| 都会は夜も眠らないというのは迷信で、その闇は深く濃い。
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| 夜を徹して抗うように、コンビニエンスストアや常夜灯が煌々と道を照らすも、太陽には及ばぬかすかな灯火。
| どれほど無駄に努力をしても、影は一層に濃くなるばかり。
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| その影の、最も濃度の濃い部分に一人の少年が立っていた。
|
|「……」
|
| その手には一本の果物ナイフ。
| 足元に転がるのは悪魔の残骸。
|
|「そこで何をしているのです？」
|「……？」
|
| 現れたるは『異端審問官』。総髪で蒼白、飛び出た四白眼の異相の男。
| 『青髭』のジル・ド・レェ。
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| 邪悪なる怪人によって、今宵もまた誰にも届かぬ犠牲者の悲鳴が闇に消える。
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| そんな話は置いておいて。
|
| 島村卯月をおぼえている方はおられるだろうか！？
| 賢明なる読者諸君の中には、作者も驚嘆するほどの記憶力を持って彼女の存在を思い出せる方もおられるだろう。
|
| だが、作者自身も曖昧であるために彼女の存在を再確認してみよう。
|
| お時間のある方はこちら。
| 最終幕 二話がこちらです。
| ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/15956/1548538375/315n-
|
| 三行でまとめると。
|
| ・ 帰り道で悪魔に襲われた社畜
| ・ 慎二とアセムが助けた
| ・ 会社は辞めた
|
| そんなこんなで島村卯月 ２Ｘ歳。無職。
| 無職なのである！！
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r､: : : : :/: : : : : : :, /: : : : :ヽ、: :＼: : ヽ
ﾉ :ヽ: : /: : : :/: : /｀{: {: : :ヽ: :ヽ: : : ヽ : ',
}ヽ : : /: : : :/: // {: { : : : }: : :}: : : : :} : !
|: ヽ: , : : : :, : :{ {＿_{: {: :}: : } :＿ : } : :}: :}
. /|: : :｀{ : : : ! {: !'´ ゞ{ヽ!: : }´: }: : } : :}: :}
/: |: !: r{: : : :{ {: { ヽ}ヽ:}＼} : :}: :}
. /: /i: }: {.i: : : :{ {ゞｘ=＝ﾐ ｨ＝ﾐ ' }:/}/: :} なーんてね！
/／/:/: : ∧: : { { . : : : : . ,. : : .ｉ: ': :': } }
. ／ ./:/: : :/ ∧:∧:〉 ': }: ::}ﾉﾘ 実はわたし、新しいお仕事につきました！
／ /:/: : :/ / :∧:∧ ､ 、 , ,.ｲ.:/: : }
／ ./:/: : :/: : : :＞ﾍ:∧{＞ ,_ ,／: :}/}: : :}'
. 〃 : /: : :/ :＞ ´ ∧∧', T i ヽヽ｀/ .} : :}: ',
/ ':/: ＞ ´ / ﾏ:', ＼ ' / } ヽ !}: /ｰ- ､
. / ／イ: :/ ヽ , / {＼ /ヽ,/ .} /／ } ヽ＼
{ ／´ /: : :{ ヽ ', / {´￣｀ヽ‐i´￣ ﾌ ´ 〉 r ､/ } ヾ＼
. X ': : : :{ ヽ ',＼ /´ヽ-､ニシ‐'ﾆミノ､ ／ r'ヽ、ヽ .! ヾヽ
/{ ＼.': : : :.', ヽ} / /´〉､} / ヽ ヽヽr〈 ヽ / | }: }
{: { {: : : : : 〉 ,r '、 ' ,〉‐〈｀ Y ヽ_ノ 〉 / .{ }: }
ゞ ＼ { : : : : { ／ ヽ ' ﾉ ヽ .! / { /‐､ } /:/
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| 今までの複雑怪奇なシステムを保守管理するタイピング肉体労働から解放され、
| 今度はもっとホワイト（っぽい）仕事を見つけていた。
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| 本当にホワイトなのかどうなのかは実際働いてみないと分からないが、それでも転職には成功していた。
| 無職は無職でストレスフリー、時間は無限、スレもＡＡも作り放題遊び放題ではあるのだが。
|
| 無職というものは同時にとても辛いもので、貯蓄が浪費されるだけの毎日になる。
|
| 将来への希望も展望も持てない、先行きの暗さに夜も眠れなくなること請け合いだ。
| ……もちろん、就職しているからって将来が明るいかと言うとそうとも限らないのだが。
|
| とにかく生活費用を賄い、家賃を支払い、それなりにおいしいものを食べる。
| そんな毎日を続けるためにはお仕事が必要であり、卯月は無職の自由よりも生活の安定を選択したのだ。
|
| 仕事は決まった。
| そして卯月は仕事が始まるまで約二週間の自由を手に入れた。無職の不安のない完全な自由である。
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| 今度の仕事はスーツではなく私服であるため、卯月はそんな休みの一日を利用して、買い物に出かける。
| 目的地はファッションの殿堂。
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| 『ファッションセンター しまむら』である！！
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ファッションセンター |
/ ﾆ/ﾆ -/-､ / ヽ |
’,__/ Ｏ’ﾞヽ α__, ”つ |
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| もちろん、しまむらだけが目的地ではない。
| これまで社畜として休日は寝て過ごしていた卯月であるが、今日は時間と体力に余裕があった。
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| ウィンドウショッピングに精を出し、オサレな小物や家電に思いを馳せることにした。
| 満面の笑みで買い物に出かけて、とりあえず初めて見るお店に入る。
|
| どこかの民族系の思われる木彫りの彫像や瓶に入った紅茶など。
| 木製のミニチュア家具や、樽型の鉢植え。繊細な織物。安っぽい宝石。いくらいても飽きない。
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|「〜♪」
|
| 鼻歌交じりに一つ一つ手に取って、見て、確認する。
| こっちの多肉植物の鉢植えは買っちゃおうかな。それとも荷物になるから帰りにしようか。
|
| 感じのいい音楽、気分が安らかになるさっぱりしたハーブの香り。
| 老店員は卯月に興味を示さず、英字新聞に目を落としている。
|
| 落ち着く雰囲気。
| 初めてのお店だが、また来たいと卯月は考えていた。
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| と、店員が顔を上げる。入口に下げられた鐘が澄んだ音を立てた。
| 卯月は別に興味を示さず。だが、相手は違った。
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ノ;;;/じソ `で;;)｀);ト （;;ノ;;;ｿ）
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）;〉ｰ u ６ｿ）ﾉ)ﾘ
（;/ ; / ⌒ ､ ゝ/ ……げ。
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| 卯月の顔を見るなり不服に顔をゆがませる少年。
| こんな年下の友人はいない。知り合いではない。
|
| であるはずなのに、卯月は胸の奥になにやら不思議な温かさをおぼえた。
|
| 向こうからは困惑の気配。
| であるのに、卯月は少年に少なからずの親近感を持っていた。
|
|「あの……どこかでお会いしませんでした？」
|「え？ あっあんたなんか知らないね」
|
| 小物を見るためしゃがんでいた卯月は見上げる形。
| 少年はなぜか頬を赤らめてそっぽを向いた。
|
| 卯月は自分の服装が胸を強調するものではない、ごく普通のトレンチコートだと確認して内心首を傾げた。
| 確認しなくても、襟首から下着や谷間が見えていることはあり得ない。
|
| もちろん少年の脳内に、自分の下着姿があるなんて想像もできない。
|
| 少年、間桐慎二とは二週間ほど前に出会っていた。
| 出会っていたというか、いないというか。
|
| 悪魔に襲われ食われそうだった卯月を慎二が助けたのであるが、
| その時すでに卯月は人事不省であり、朦朧とした意識の中で慎二のことなどおぼろげにしか見ていない。
|
| 夢か現実か区別のつかない存在なのである。
| であるのに。
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_’ : :ｉ : : |ﾞ 八 : 〈＼.: : : :.'. ｀ヾ〉 ヽ〉j} : : : : L:_:｢ .|: : : : :|!
｣: : : : : : }! `x :＼＼: : :.＼ ,,z≠≠= i : : : : |⌒i |: : : : :}!
i{: : : : : : |}! 〃 ヽ:_＞`''ｰ ┘ '~ : : :|ｉ: i: : :.| }.｜: : : :j{_ このお店、よく来られるんですか？
i{ : : :ｉ: :.∧`/ ___ : : |ｉ :|ｉ: :.i| ,'|. | : : : :j{ 感じがいいですよね。
i| : : :ｉ : : ∧ ,ｨｱ''¨ 、 ﾘﾉ|i: :.ｉ|_/ l. | : : : √
i|: : : : : : : ∧ 〃: : : |ｉ : ｉ|: : :|｜: : :√
i|: : : : : ｉ :{ }ｉ:{ヽ、: : : : ノ } : 八: : | | : : √
i|.: : : : :ﾄ､Ⅶﾊ. ヽ _ -- /} /i:i : : :|!| : : {_
i|!: : |: :l 〉ゞ:^ゝr'⌒Y´ )__ ｲ/ｲ[[:i:ｉ.: : :i| : : {
}!: : |! :V:ｉ:ｉ:i:i:.:圦 ＿____ ) ／ |／}‐く: :｜: : Ⅶ
}!: : lﾄ､:Ⅵ:ｉ:ｉ::.:_(／} | |｀V¨ﾆ =‐く _＞''´ ﾉ ヽL;_:_: Ⅵ__
／ 〉 : {/:＞‐_／〈i } | `､ Vﾘ r''´ , 'ﾞ ＿≫￣ ＼
_＿ ノ ∧:{/: ∠ _,. -} ｀ ｀､ﾏニ＞‐…‐< ＼_,,／￣ ,. ‐ ヽ
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|「え、あ〜……」
|「常連だよ、例の葉ならそっちの棚だ」
|
| 老店員が顎でしゃくる。慎二は困ったように眉をひそめた。
|
|「葉っぱですか？」
|「……ハーブティーだよ。うちの教授が馬鹿みたいに飲む」
|
| とっさの嘘。葉っぱは違法薬物で、魔術媒体。
| 教授ではなく魔術の師匠。遠坂凛である。
|
|「ああ、学生さんですか」
|
| 平日の午前中からお買い物だなんて、普通の務め人ではありえない。
| 大学生ならばおかしくはないだろうという慎二の判断。卯月も納得した。
|
|「おすすめのお茶があるんですか？ 教えていただいてもいいですか」
|「いや……これは」
|
| 違法薬物である。
| 困惑する慎二を、老店員は意地悪に笑って放置。
|
| それにしても、卯月本人すら驚いているほどぐいぐいという食いつき。
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ｲ/:::::::::::::::::::::/;ｨノ「l:::ノ l/ 紅茶なら、そっちの棚の……。
／: :ﾏ:;:::::;:ｨ:::; ｲﾊ/ 〈/´ ／
／:＼: : ｀＜_/´_' /／ l ／
_､丶｀: : : : : ＼_:_: : : :/｀¨ |: :_:／
／¨ヽ: : : : : : : : : : : :￣∧ ,「
/ : : : : ＼: : : : : : : : : '∧ ／ｲ
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/: : : ／: l l/! /
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∧: : : : . . ./ ＼ ﾉ : : : : く l/ l
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|「それなら向かいの店で飲めるぜ」
|
| 老店主が笑いながら口をはさむ。
| 指さした先には、落ち着いた喫茶店。
|
| 落ち着いたというか、寂れたというか。
| とにかく静かで、閑古鳥が鳴いていそう。
|
| 少なくとも、客らしい人影はない。
|
|「へえ、読書をするのに向いてそうですね」
|「いや、あの店……」
|
| 困惑する慎二の腕に、ためらいなく卯月が触れる。
| 覗き込む顔の距離に、慎二はさらに赤くなる。
|
| 『万魔』が慎二を嬲るときに似た距離であるが、あるが。
| こんな無垢な表情で見上げられるのは初めての経験だった。
|
|「一緒にお茶でもいかがですか」
|「ええっと」
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／:::／::::::::::::::::::::::::::::::::::＼:::::ヽ::::::`､
,.:::::／:::::::::|:::::::::::::＼::::::::::::::::＼::::`､::::::.
/::::/:::::::/'´{::::::::::::::::::::＼:_:_:_:_::::ヽ::::`､:::Y＾ヽ
/::::/:::::::/ ＼:::::::::::＼::::::＼＼｀ヽ:Y::::|:::::Vi:i:}─=ミ
/:::::|::::::::{ ／⌒＼:::::::::::＼:::ィﾃﾈﾐ::::|::::|:::::::Vﾘ::::::::::::::｀丶､
/:::::::|::::::::ﾚ' ,ィ=ミ `ー─ ﾄィハ､ﾊ::::}:::::::::∨::::::::::::::＼::::`ヽ､
/:::::::::|::::::::| ,ｨ{:::ﾄﾊ ゞ--' }::,ﾊ:::::::::}＼:_:_／⌒ヽ::::::::::..
.::::::|:::ﾍ:::::::', ｌ{乂;ツ , : : : : : /／ ∨:::::l |:::::::::::}
{:::::∧::::|＼:::＼ : : : : /// ノ::::::/＼ j:::::::::/ こないだのお礼も……あれ？
∧::{ V::|／l＼⌒ , -‐-､ ﾙ ムｲ:::::::/::::::::＼ /::::::/
/ N ／＼:::＼ ﾍ 乂__ ノ ｲ::::::::::::/:::::::::::::::＼ /::::／
∧::::::::::::::::::::＞s｡ イ:::::::::::::::/:::::::::::::::::::::::У:／
/::::::::::::::::::::::::::x＜⌒Y⌒７ イ／|⌒ヽ::::/::::::::::::::::::::／／|
|:::::::::::::::::＞／⌒ヽxヘ＾ヽ｀´￣ ／...........＞￣￣｀ヽ､／:::::|
|::::::::／／二二/＾| ヽ ヽ }──〈⌒ヽ／..................／....Y::::/
',:::::/...{ ＿ノ } } Vi:i:i:i:/............＼..........／...........}､′＼
ヽ'......ｌ{ ゝイ /i:i:i:/................／....../.............／.| }l
､＿＿ノ{＼....ｌ{ ／ ／i:i:i:/.............／......../..........／.......| ﾘ
:::::::::::::::/＼..ヽ', / ／￣７´..........／........../........／............|＼／
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| こないだ？ お礼？
| なんだろう、卯月は自分の口にした言葉に小首をかしげた。
|
| 対する慎二は青ざめる。赤くなったり青くなったり忙しい男である。
| 卯月は悪魔を認識していなかった。彼女は一般人だ。
|
| ﾃﾞﾘﾘｳﾑ
| 『狂乱病』。
| 『教会』にはそんな風に呼ばれることもある精神的負傷。
|
| 対して『結社』では『ニンジャ・リアリティ・ショック』などと称される。
| 『現実には存在するはずのない異能や悪魔と遭遇した一般人の脳で行われる一種の自己防衛』。
|
| つまり、自らの記憶を改竄し、衝撃の記憶を喪失しているのである。
|
| ……そして、その記憶を無理に思い出すことは彼女の心と脳に負担をかける。
| 慎二は……一度だけ助けたような女がどうなろうと知ったことではない。
|
| 知ったことではないが、無理に記憶を取り戻させる気はなかった。
| それで精神崩壊などされては寝ざめも悪い。
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乂_{＼_{_八ト､{､/:::: / ｨ瓜ｧ＼}
-‐=ﾆ二八 ｀V{､文亡lT＼_｢ ^^^八{ わかったよ、
/＼ ＼_{ } / ＼ 少しだけな。
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.{ ﾟ， { _,r‐'" ＼ヽ〉 .;′ }
{ ﾟ，: ∨ { _／⌒ヽ }i {＼_ :;′ .人
{ ﾟ， /{: ＼ ./／ ＿}八〉 / ＼ :;′ / }
{ ∨∧ ｀¨{ / {ｌ{ ∨ ,′:.:/＼/ .／ {
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|「皇帝……おのれ、皇帝……まだか」
|「ゲェー、狂人！？」
|
| 記憶力の異常な読者の方はご存じかもしれないが、序盤に一度やらない夫が訪れた喫茶店である。
| 店主のクジンシーさんは実在が不確かな皇帝を永遠に待ち続けている。
|
| クジンシーさんはグロテスクな見た目と名前のケーキを作り、大変に胡乱なのだが、味だけは確かなのであった。
|
|「へえ、レトロでいい感じですね」
|「あんた、ポリアンナかよ……」
|
| 蜘蛛の巣が張り、薄汚れた店内すらほめる卯月に、慎二の皮肉もキレがない。
| ちなみにポリアンナとは百年前の小説の主人公であり、不幸な身の上でよかった探しをする少女である。
|
| よかった探しは悪い中からいいことを探すことで悪い部分を矮小化し活力を失わない技法であるが、逃避でもある。
| 社畜生活の長い卯月は、悪い部分ばかりに目を向けていては心がもたないので、このような性質を有していた。
|
| つまり、『三日間会社を出てないけど、その分無駄な浪費が避けられて節約になったね』（なっていない）とかである。
|
|「紅茶を飲みに来たんですが、どれがおすすめですか？」
|「んあ……？ 合法な奴ならこれだな、香りがよく渋みも強いが後味はさっぱりしている。
| リラックス効果と眼精疲労に効く。ストレートかミルクのみで、甘味は入れずに茶請けの方が合うぞ」
|「じゃあ、おすすめのケーキのセットでお願いしますね」
|
| 案外対応は普通なクジンシー。
| 慎二はちらりと時計を確認した。ちょっと道草を食うくらい問題ない。
|
| 適当に話を合わせてお茶を飲んだら別れよう。そうしよう。
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ﾄ三三三彡＞￣､"〒――ｲ､_
∨彡'λ ｨ､ A ﾄ､ | ﾄ､∨ﾐ､
ヽ|､ i-ﾍ | iﾉｨ气ヲ | |' | ∨ ﾍ
ノλ代ｦ｀ ´ | |/ ﾉ λ
'´ |∧ 〈 | |ヽ人ﾍｼ彡 ぐぬぬ……慎二め。
| ﾍ | |ムシ､ ミ毛
| ゝ､ c=っ ｨ| |:::::ﾍ ＼
| | ＞-イ _,ｲ |:ﾂ' | ｀､
| | ／:ゝ≦:::| | | ﾍ
| |(:::::::｀iｼ'´ | | ゝ-＜ ﾍ
| |＞:::::::| | !'´ _ _≧､ ゝ､
| ﾉ ﾍ::::::| ﾉ ! , ' ｀､ ｀ヽ
| i ￣ フ / , ' |
| | '´|ﾉ ｨ/ ,' |
ﾍ､ | 从ｲﾉ ∨ i
ﾚ乂ヽ / i /
/ / ゝ /
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| 『弓兵』仕込みの完全な隠蔽はとっくに剥がれていた。
| 『十二の封印像』が一柱、『万魔』ことターニャは三個目のケーキを味わいながら離れた席に耳をそばだてていた。
|
| ニャルラトホテプによって解放され、憎き『血族』の『元老』間桐蔵硯への報復で間桐の一族を殺しまくった悪魔である。
| その後、駆け付けた『邪悪帝国』の金糸雀に惨敗、力の大半を失い逃げ延びたあと、紆余曲折の末にここにいた。
|
| そう、慎二の目付で契約悪魔で情人としてである。最後は願望。
| それと金糸雀への惨敗については異論があった。
|
| 金糸雀は最初から『万魔』への対策を練ってきていた。
| 『万魔』は不死身に近いが不死身ではない。周辺まるごと溶鉱炉にされては、生きて逃げ延びただけでも僥倖だ。
|
| あれは個体では非常に弱い妖精どもを見事すぎる指揮で編成し、芸術的に魔力を練り合わせて作られた再現不能の罠だ。
| 飛行能力一つで退避可能なものであったが、あいにく『万魔』には羽がなかった。
|
| 次は雑魚と侮るまい。いや、今はそれではなく。
|
|「甘いだけじゃなくてフルーツのすっぱさが効いている……いくら食べても飽きない。クドすぎない……」
|
| 完全にケーキの虜。
| これまで魔力の回復を重視して旬のものや新鮮なものを食べてきた『万魔』である。
|
| ちなみに皆様もご存じの通り、初物七十五日。
| 旬の食べ物は七十五日寿命が延びるとされているほど魔力に満ちている。
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|:::|:::/∧::::::､ｘｆ芋ミ : : : : :j:/: : |/::::::::::::: ,′::::::/ へえ、面白い助手さんですね。
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／￣|￣∨:::|─>込、 , -─┐ ＞─ 弌::::::::／:::／＼::::::::.
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| 一方、慎二と卯月の話は弾んでいた。
| 話題の少ない慎二は居候している遠坂の家を大学の研究室のように語り、
| 社畜時代の長い卯月は失敗談や労働自慢で笑いをさそった。
|
| こんなに穏やかな時間は、互いに久しく持ちえないもので。
| 卯月の包容力に、慎二は心安らかになるのを感じていた。
|
| 社畜時代に多くの友人を失ったおかげで友達のいない卯月もまた、こんなにもたわいのない話ができるのが嬉しくて。
| 立て板に水というか、いくらでもおしゃべりしていたい気持ちになれた。
|
| 時間に余裕のある卯月はともかく、お使いの途中の慎二は良くない良くないと思いつつもその時間が楽しくて。
| 喫茶店から出た後、買い物に付き合い、ウィンドウショッピングに付き合い。
|
| その間にも談笑には事欠かなかった。
| 慎二と卯月は、互いに足りなかった優しさを互いから見出していた。
|
| 袖振り合うだけの心の接触。
| それが、まるでかけがえのないもののように感じられて。
|
| とても得がたく、離れがたく、様々なものを失ってでも……。
|
| それ故に、触れ合う距離がさらに近づくのは、近づきたいのは当たり前で……。
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／￣ヽ／|＼
/::::::::,--＼ { }
/:::::::::{ ＞-‐……‐-ミ
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／:::::::::∧,ﾍ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::｀:/:::::::::／^ヽ
xく:::::::::::_ ＞/::::＼:::::::::::::::::::::::::::::::::/::::::::::/::::/::::.
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r‐＜_彡'ﾞ |:::::l:::::::|::::::::::＼::::::{ {::::::::::/,ｨ冬::::/j/
＼:::::＼ .|:::/::: : |::::::::::::::::＼{ {:::::::::代f'ﾞﾉノノ
＜⌒ソ |:/::::: : |::::::::|::::::::::圦 {:::::::|::| 乂 はしゃぎすぎちゃいました。
Уノ ノ::::::: : :|:::: : |::::::::::|: :. |::::::|l:| ／
ゞ=- ,.:::::::|:::::::::|::::::: |::::::::::| _ﾊ:::::::|ﾙ ' ……ちょっとだけ、休憩していきませんか？
／:::::::/::: :: :|:::::::::|::::::::::| ヽ V:::|'′
/:::::::::::/:::::::::∧::::::::l::::::::::|i,ーｧ…‐ﾐ
／::::::::::::/:::::::::/::∧::::::l:::::::::::::∨=ミ､ ∨
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/／／:::::::::/:::::::::::::::::::/::::}:::::＼::::::::::::::: ｀丶､ }
. {l／:::::／:::::{:::::::::::::::::::::{:::::}::::::::::ヽ::::::::::::_:_:::::::＼
{::::::::::{::::::::人:::::::::::::::::::＼{:::::::::::::}::::::::::}￣｀ヽ::::ﾘ
乂::::::乂::::::::::＼:::::::::::::::::::ヽ::::::::/::::::::/ ／／〉
／:::::::::::／⌒〉::::::::::ヽ::::::::::::::::人:::/:::::::,ｲ‐ｧ'::／‐'´〉
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广ﾆ=ｧ:::::::::::::::::::::::::::イ:::::::::::::::::ハ:::::::::::::〉{ ／ノ ∨
ゞ=- ＼:::::::::::::／ゝ／:::::::::::::::/___}:::::::／_ノ´／ 〉
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| それがただ、思い出した他人の温かさを求めただけなのか。
| それとも目の前の少年に対する紛れもない好意だったのか。
|
| 他ならぬ卯月自身にもわからぬ感情を、誰が理解できようか。
|
|「つまんないことはやめておけよ」
|「……え？」
|
| 慎二の拒絶は断定的で、すこぶる付きで突き放していた。
| 彼自身、甘くやわらかな女の肉体を、心通わせた他者のすべてを貪りたい衝動に駆られていた。
|
| だが、それは二人の関係の結末にも思えていた。
| 出会って、触れ合うも、明日にはすべて夢だったかのように扱って生きる。
|
| そんな行きずりの関係にはなりたくなかった。
| もっと卯月の中に残りたかったし、自分の中にも残らせたかった。
|
| この夢見がちな願望が卯月を、そして他でもない慎二自身をひどく傷つけるなんて。
| この時は思いもよらぬままに。
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ハ:､:::::::::ヽ:::::〈::::::::ヽ:::::::::::::ﾄ､
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>::::ヾ{〈::::ヽ＞:;ﾉヾ::::/-ヾ:::}::::::「
f┴､:::::}_ヾ;/厂 _, {ﾊ{ ヽ/::〈:::::ﾉ
ﾉ_へr个ヾ_､ ￣ 「!:::::::::( 家まで送ってやるから、
/ -‐У l^ｰ∨ 八ｲ:::ﾉ｀ 仕事に区切りがついたら連絡を寄こせよ。
八 ﾏ､: | ＼ -‐ ／ /ヾ{､
_ヽ l / ヽ _イ＿∠- ﾄ､ 僕も休みの都合をつけるさ。
/ﾚハ !{ ィ=─- ｲ|:|::| ,.｡* ヘ _
∧|o〉､ /l / ///-‐ 〜 _
∧;;＼ 7!′ /// ／ヽ
/ ＼;; ＼」 /// / ',
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|「……はいッ」
|
| 連絡先はとっくに交換していた。
| 次に会う予定はなくても、いつかまたと約束をした。
|
| この楽しい時間が再び訪れることを二人は信じて疑わなかったし。
| 追跡する『万魔』もそれを予期してやきもきしていた。
|
| この時は、誰もが次への期待を抱いていた。
| それが儚く手折られるなんて想像もできないままに。
|
|
| ……そう。
| 気付かれることなく三人を尾行していた一人の少年以外。
|
| 彼は慎二に『万魔』が合流するのを見て、狙いを卯月一人に絞った。
|
|
|
| 帰宅後、ただのお遣いで盛大に道草を食った慎二は、凛に大目玉を食らう。
| 寝る時間もないほどの課題に追われ、しばらく彼は携帯電話に連絡があっても気が付きやしなかった。
|
| ……当然。
| 連絡がなくても、なんとも思いもしなかった。
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☆ 次回予告！
無くしたものを取り戻した時の気持ちが、君にはわかるだろうか？
栄光の絶頂から転がり落ち、泥の中で星を見上げたことがあるかい？
あるだろう？
無いとは言わせない。
君の失くした片腕が。
君の喪くした想い人が。
君の亡くした師と仲間が。
君の滅くした宿敵が。
君を地獄に繋いで離さない。
だから君に。
片腕を返してあげよう。
想い人を救ってあげよう。
新たな仲間とつなげてあげよう。
殺すべき敵を示してあげよう。
次回 最終幕 十二話 『試作神機力サイボーグ 藤木源之助』
果てに見るのは破滅か死か。
乙！
乙でした
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| 島津由乃が入院しているのは都内でも有名な病院だった。
| 彼女の家は資産家で、それにふさわしい病院で、最高クラスの主治医がついていた。
|
| それでも彼女の心臓は日常生活にも耐えられないほど脆弱で。
| 四月からの半年間、大きな問題なく高校生活を送れたことそのものが奇跡のようですらあった。
|
|
|
|「ねえ、見える？ あの木」
|「え？」
|
| 十一月の寒風にさらされ、ほとんどの葉を落とした街路樹。
| 歩道を黄色く染め上げていたその落葉を踏みしだいてきた見舞客、美樹さやかは、
| いままで気にもしていなかったその木を、初めてそこにあったと気が付いたかのようにじっと見つめた。
|
|「あの木の葉の最後の一枚が落ちたとき……」
|「由乃」
|
| 青ざめた頬、やせた指。島津由乃の命は限界に近い。
| それがさやかにも実感できた。だからこそ、こんな風に言っては欲しくなかった。
|
|「私は快復してまた学校へ通うのよ。その時は私を助けてくれたすべてに感謝をして、地球を救ったりして見せるわ」
|「……」
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|:::::::::i|:::::::::|:::::i|::::::|i:::::::|:::::::::: 斗r =ミ::::::|::::::::i|i
. i|:::::::::i|:::::::::|:::::i|::::::|i:::::::|i::::::::|ｉ:::|:::::::::::i| ::::| ､:::小
. i|:::::::::i|:::::::::|:::_j|::::::|i:::::::||::::: _,.斗fぅ斥癶 :|｝}::::; だからそんな顔しないでよ、
. i|:::::::::i|::::::::儿⌒`¨|i::::::儿:::::｣ 乂xり ::::::|ノ::/ 私は平気なんだからさ。
. 八::::::八:::::::|:::斗fぅ斥 "'"'|:::::从∧
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| そんなはずはなかった。
| 彼女は、島津由乃は死ぬ。
|
| 夢世界において、彼女は自らの孤独で理不尽な死を受け入れられずに当たり散らした。
| 他の誰かを攻撃することに躊躇なく、夢ゆえの健康な肉体を楽しむかのように殺し殺された。
|
| なぜ私は死ななければならない？
| なぜ私が死ななければならない？
|
| 心臓の病。
| 本当は十歳まで生きられないと言われていたほど。
|
| それが十五歳の冬まで生き延びたのだ。奇跡的だろう？ 神様に感謝をしなければ。
| ……そんな風に言われて、納得できようか。
|
| 少なくとも由乃は、欠陥品の肉体を呪った。存在するなら神を呪った。
| 自分がどれだけ苦しんでも関係なく動いていく世界を呪った。
|
| 両親が、幼馴染が彼女を支えた。
| しかし、誰も一緒には死んでくれない。
|
| ……だから、由乃は孤独だった。
|
|
| さやかと会うまでは。
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从|: |: /: :ﾊ:.:| : |: : : l: : : |: : | : : |
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| さやかもまた世界を呪っていた。
| 彼女の場合は、ただの失恋だったのだが。
|
| ……事故で体の自由を失ったバイオリニストの幼なじみ。
| 彼を支えようと、さやかは努めて明るく接した。優しくした。元気づけた。
|
| だがそのすべてが裏腹で、さやかの想いは少年を苛んだ。
| ある日訪れた顔にツギハギのある名医によって、少年の手は治療された。
|
| そこでさやかは言い渡されたのだ。
|
|「放っておいてくれ、もう僕には近づくな」
|
| 彼が求めていた孤独と思考の時間は、さやかによってかき乱されてきた。
| 誰もさやかに助けを求めていなかった。
|
| 一方的な物言いに傷つくさやかにとどめを刺したのは、親友だと思っていた女が、少年の恋人になったこと。
| 彼が病室にいる間は、ほとんど見舞いにも来なかったのに。
|
| 毎日足げなく通い、世話を焼いてきたさやかは、さやかは……！！
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,'| / // _,.∠.、丶 | .::八 .:/ | ヽ : : : :. : : : :.
,' |八 :/ ／⌒ヽ | .: | ＼ │ : : .l : : :l : : : :.
,' ′ ヽ :/ ,:しﾊ | .:/│ .::/ ｀ヽ| : : :l : : | : : : :.
.: ∨ /:じ// 八..::/ l .:/,. ＝= 、＼ : :│ : : | : : : ::
: / :/ (ヽヾ;／ ∨ ∨ ,二ヽ :.:| : ::|,二二／
:' ..:/ /⌒ ｰ' /し;ﾊ ∨ |/ : :| ／
| .::/ _, /.:じ/ﾘ |l .: : : |,二二／
| :〈 .: (ヽ ヾ.::;／ :ﾘ .: : : ;′ ／
| ; ヽ / ⌒ヽ '⊃′.;: : : ,:
'. |/ﾍJ ﾄ ､ 厂 / : :/ ⌒ヽ /
: :|///∧ ＜.::..＞ | / : :/ ﾉ /
: :|////,∧ ;│ / ／/ イ ／
:, .:|:////l/∧ .ノ ／/ :／..:/ｰ ／
Ⅵ/// |//卜､. ＿＿＿ .. ＜し / .:／ ..::/ ／
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| たかが失恋。されど失恋。
|
| 絶望とは、死に等しいほどの痛みとは。
| 他者にとってはどうでもよい類に見えるものでも、本人が耐えきれないことがありえる。
|
| 少なくともさやかはその痛みに耐えきれず。
| 死を、世界を道連れにしてもいいという自暴自棄の破滅を望んだ。
|
|
| ……こうして二人の『破滅願望者』は出会い。
| 磁石と鉄のように惹かれ合い、上条当麻こと『ロストマン』の下に集った。
|
| 夢世界の戦いは消化不良のまま終わりを告げたが。
| それでも。
|
| 二人が紡いだ友情は……終わらぬままに。
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{:i:i:i:i:i:i圦:i;i;i;i;ｨ!^:::: |::::::::::::::::}:::.. :: ,.ｨ7´ Ⅵト-､ |_
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Ⅷ:i:三 :::::::::::|:::::::八:::::::}:.. .:|:..::: ,.ｨ㌢找ﾊノ | ﾏﾉ | }
Ⅷ:i:i:ﾑ ::::::::::＼::::::::＼::::.. {:: ミｼ::f ゞﾟ'’::: | }! / ' ……。
/^!:i:i:i三 ::::::::::::＼::::::,,ｨ;{:::... '´::::｀´::::::: ':, ∧!⌒ヽ
| 寸:i:彡 ,.. -=≦忝ミト:::... {:.. ヾ:::.. / }、 ／
| ＼:ﾑ '´ ,:fてぃﾘｙ'..::: ∨ ::... ι | ハ＾ヽ .／ /:.
.八 r＼＼ ｲ廴_ゞﾟ'’::::::::. ∨ 、 ; ∨ / {::..
. ＼ .八 /⌒ﾄ､_ ::::::::::::. ､∨_,ﾉ'´ ;::: ＼__/ し::{::::
|＼ ! ミｈ､ ::::::::::::::.. ￣::r::_,.ｸ=- ./:::. ::::::{ ::八:::.
.八 ≧s｡.＿＼ u ::::::::::: ,.r㌢＾}! /:::} ij :::::{ ::::::::::
` { 个o｡. :::::::.........'´ }! / ::::} ::::入 ::::::::::
{ ~"''〜､、＿_＿,.ィ :::} :/ ｝ :/. ,::
入 :::::::＼ ::::: :::} / .::::∨../
///∧ :::::::＼:::... ／ .:::: :/ .:{
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| 由乃が『滅ぼすもの』《催眠レインコート》を降ろした時、さやかは彼女とともに死のうとした。
| 孤独の死を恐れ、世界ごと滅ぼそうとする親友のために、さやかにできるのはそれだけだったから。
|
| 生き残った二人にとって、お互いこそが救いであった。
|
| そして同時に、戦いの中で生まれたもう一つの絆が……。
|
|
|
|「それはプレゼントじゃなかったのか？」
|「……」
|
| 藤木源之助。
| 『結社』最強の殺し屋集団『九鬼』の一員。
|
| 中でも右に出る者なしと謳われた無双の剣士、虎眼流の最後の一人。
| ……数年前に発生した『結社』の内部抗争で、虎眼流の関係者はすべて斃れた。
|
| 裏切りの門弟、伊良子清玄の仕業である。
|
| 源之助もまた、彼に左腕を奪われた。
| されど長い戦いの末、尊い犠牲を積み上げつつも源之助は清玄を討った。討ったのだ。
|
| 討ったのだが。
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く川三三三≡ヽ彡ｼ
, - 彡=≡ 三彡彡彡｀ <
, ' 彡彡彡彡彡彡彡彡彡ｼｼl , '⌒
／ﾉﾉl〈〈从川シシ彡彡彡彡シシl_ノ
,'｀〈ミﾐﾐﾐl|l|//彡 '´:::）:::::｀彡彡シｼｼｿﾄ､
ﾐミﾞﾞﾞlﾞﾞ" / :::::::::=彡彡彡ｼ_ｼl ヽ､_
/:ﾐ ヽ、 l ::::::::::::::::::::::彡/r.ヽ| .
! l ｀ !._ｚ‐'´;::::::::::::::〉/i : }|
ヽ....__ 、..,zｨ て刀´::::／::!! ）ｿ/ﾉ
∧fてﾊ.､ :::::｀ゝ' ´:::::::/:::::::::::／,ｲﾄ､ あの二人には不要。
l ヽ‐ '´:l ::::.. ::::::::::::::::::y'´:::F 、
l '、 } ::::: :: :::::::::::::::::l::::::::∧ !
｀ ＼ ゝ-:'´ ::::::::::::;:::::::::/:::ヽ
＼ ←-..→ ::::::／:: ::!:::::::ヽ
＼｀´ .:／ :: :::::::::::::＼-､
ゝ-- イ:: : ::::::::::::::／ ＼
l : .:::::::／ ＼
, - ／/|:: : .:／ ／ ￣￣｀ ー
／ ／ / ! : :: ／ ／
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| 敵も味方も誰もかもを失った源之助は、生きる理由もまた喪失していた。
|
| 代替わりした『九鬼』の首領『黄泉』に命令で、高校に進学したのはいいものの。
| 平穏で怠惰な生活と、隻腕に対する奇異の視線には辟易した。
|
| それでも忠義を第一とする性から、針のむしろも目的のない生活にも文句の一つも出さなんだ。
| であるが当然。そこには膿が。不満と虚無。ごうごうと胸の風穴を吹き抜ける嵐があった。
|
| 夢世界は。
| 突然の闘いの日々はそんな源之助に喜びをもたらさなかった。
|
| 喜びだけではない。
| 怒りも、憎しみも、安寧も、快楽も。感情の何もかもを、源之助は忘れてしまった。なくしてしまっていた。
|
| けれど、執着は。
| 片腕を失うことで、人生を費やしてきた剣への時間は無為と消えていた。
|
| それでも執着は。剣士としての意地と執着だけは……！
|
|
| 女だてらに剣を振り回すさやかと由乃を撃退し、圧倒し。
| 二人に幾度となく挑まれるうちにいつの間にか、その時間を待つようになり。
|
| 戯れに剣の術理を教えながら、その心は。
| 押し殺されて死んでしまったはずの源之助の心は。
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／ T i ｌ └‐┘ l i T ´ ヽ!´ ＼
. ,ｲ,ゝ ,. -ﾊ ', i. -─‐-V ,' / ﾊ ﾊ
/ ／ィ／ ＼｀ ー一 ´ ／｀ヽ ＼ ﾌ ､',
i , ' ∠ --へ ｀ ¨¨¨ ﾌ´ニ ‐‐=＼ ヽ. i
Ｖ ／:::::: ＿¨:ヽ ´,.ﾆﾆ..,,_ ﾞﾄ､', <l
/./ｌ:::::､弋i歹 ゝ::i ,弋汐._ﾝ｀ ! ヽ l
/｀i i:::::. ｀¨ ￣.:::::/ i ｀¨ ｉ l ｌ _,､l
i,. l ｉ|::::::: :::::::/ , ｰ,、', l l l > .l
. l,ゝ/i::::::::::.. . _::_:::ヽ! -- ..,,_ l l i まあ、お前が言うなら構いやしないがね。
{. i ｉ:::::::／ ‐- ー‐-,- ..,,_ ＞ ､ _.. ⊥、l !
ヽ. ヽﾊ / ‐-､ - .._'_ 〃＼ <丶、 ノ l i.l
';:::/ / _ 〃 ¨7ヽ <＼-'／l i i // ＜)ヽ
/,./ '´ ヽ｀丶、 ' V｀ ー' / / リ＾¨ ｰ' l
ｒ'./ '" 〃＼ｰi ,ﾍ ./ ／ﾚ/＼ ./
/lヽ＼ ヽ─┴- , ヽ＼ ヽ. ', /／ / ＼-‐"
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|「それよりさっさと行こうか。僕はともかくあの方を待たせるのは良くないよ」
|「……」
|「せっかくの『新しい腕』が貰えなくなっちまうぜ」
|
| 口とは裏腹に、自分を待たせたことへの不満を隠さない男。
| 学園の影の支配者を自称する輩。ジョニィ・ジョースター。
|
| 『結社』側の人間である源之助から見れば、砂場で威張っているだけの悪童。
|
| だが、彼を通して源之助に接触してきた人物は侮れぬ。
| 源之助には腕を。由乃には新しい心臓を。
|
| 笑止。
|
| と断ずることは源之助にも容易かった。
| だができなんだ。源之助自身にも驚くべきことに。
|
| 理由の分からぬ情動が、源之助を突き動かしていた。
| ただただ。もう二度と、もう二度とは。
|
| もう二度とは。
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,.-ﾆ二.._` ､
／ ヽ.ヽ
ｌ l
_,. -──- ､_ l !
, ' ´ _,.. --- ｀ヽ､ﾘ ＿__
／ _,. _,. -‐ 二ー＜´=-- ､｀`ヽ､
, ／ ／ ／ ,. ' ´ ヽ ＼ ヽ､ ヽ
{i ／ / / ／ ／ ／ / }i ヽ ＼ﾞ .
ヽ`ー' / / / ,/ ／ィ´_,.／ i ﾘ i ハ ヽi
_＞ｰ一' ,ィi 〃 ／/ _イ /／,ｲ _/｝ﾊ i ', i}
_ヲ⌒_,ィ二-! //l / 7/_/￣/ﾞ`ﾒ _／//ﾘ ｌ } ! i ﾉ
/ / ,.V,ハ! l/ ,イこ丁ヽ{r '´ _／/_j ! / ｌｌ }
∠ﾆ-‐ァ { ! ハ! { じﾘ .._ / ﾒ／ /!,ﾘ
＜_,.- ＼ヽ_〉 ` ー‐ ' ,rｿ}イ, ／/./
/⌒_,. ク ､__ i 〈ｿ /ィ _／／
_,..ﾚこん∠ ／_ﾑ ヽ. j‐ '´ ´ 咲夜、
,ｲ､ 丁⌒ｰテ1/ ヽ ` ｰ- / おじさまがどこに行ったか知っている？
,クﾍこ､ヽソ,メイ ＼ ,ィ⌒ﾆ=-'
V^ヽニｭ￣ _ノ､_ ,r1 ` ､ ／ jへ／
＼{ こ,｝-_/＞ｰ｀ｿ ト ､_ /7ーrｧ´ /‐-}
ヽ_（ ｝三二,ノ 下弌/丁ﾕ___/､｀Yﾘ
／７┴＝- ' ＼ l ト､ﾚ⌒)_j,ﾉん'
／ ／ ＼ ＼／＼ﾍヽ､＼こつ´
. ／ ／ ＼ ＼ ヽ ＼ヽ. ＼ｰ- ､._
. ／ / ヽ､＿_,ｨ ＼ ＼ ヽ＜.___ ｀` ｰ-
／ / ＿ ／ ヽ. ヽ ヽ. |
_,.-‐二￣ ＼ ＼ ＼ ヽ. l
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|「すぐに探しますねお嬢様」
|
| ミストを家に匿いながら、彼が警告した『東京を脅かす存在』に対抗する手段を練るアトリーム人たち。
| 勝手に動く委員長と、アドレスは交換したものの米軍に戻ってしまったジャジャマルは遊軍だ。
|
| 父の遺産で一生パスタを食べて暮らせるものの、日本においては財界へのコネも何もないマーガレットお嬢様は。
| とりあえずで唯一のコネクションである叔父（自称）、自分をアトリームから亡命させてくれた男を頼ることにした。
|
| なお、接触方法は不明。
| 最近途絶えている叔父からの連絡。
|
| マーガレットは天真爛漫に、心から信頼する従者に。
| 何かを頼めば絶対叶えてくれると信じて疑わない咲夜に。
|
| 「夕飯はパスタが食べたいわ」ぐらいの気軽さで行方不明者の探索を任せた。
| 従者も従者で文句の一つも言わずに受け入れた。
|
| と言っても、彼女にも心当たりがある訳ではなし。
| 情報網の一つすら持ち合わせていない。
|
| であるから。
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,.ィゝ,...ゝ二{￣{ﾄ、: `ヽ、
∠.＞イ : : : : : : `ヽ､>、 : :ヽ
ﾉ／/: : : : : : : :＼: : : ヽ ﾝ : : ﾍ
7: : i!: : : :､: : :＼: ヽ : : ﾞ:,ヽ : : ﾊ
i!: : {＼: : :ﾞ:;ヽ'"~ヽ､ヽ: : ﾞ:=､: : : !、
{i: : :ﾞ､⌒ヽ､ﾞ:;ｹfiﾘﾞｿ＼＼:乂:!: : :}ﾊ
iﾞ､ : :弋ヾ ﾞヾ "´ r": : :}i! : i ﾍ お嬢様の頼みだ。
}ヽ}ヽ ヽ::. /;ｨ戈ﾉ ): :i: : } 伊藤誠理事長を探せ。
i: ﾞ;:{ﾞ:､ t ‐ ィ/: : :弋: :〉ゞ}!:!
{: :从 : >.、_ .. イ /: ﾊ: : :(: : )-.ﾘ__
ヽλ: : 〉/( .{! ＼jﾘﾞr=-､O(:;:;:)
i`ヽ､ (: Y: )〈 ＞‐ｧ<λ、 ゝ／: : : :>
i `ヽ、 γ⌒ﾞ'廴 ヾ__:>=、/､nゝト''ｰ､ (r=〜'´
! ':,:｀`ヽ､ ﾉ (;:;:;>^ゞﾉｲ ∧ヾiﾞヾ:.:ﾊﾞ'ｰ､ λ＼
l ﾞ:, : : ヽ/ ﾞ'〈廴: :ﾞﾞﾇ (ﾉﾞ:,ム/:.:.λ: : ﾞ､ ヽ ￣ﾞ':､｀`丶、
｀`ヽ、 ,:': : :／ ﾞ、 ∧}.:.:.)ｲ ＼入:.:.:.:.:.:.:∨､: ＼ヽ ﾞ':､: : :＼
)斗-/:......,,,,...,,_ ﾞ':､ ﾞ:,ﾞ:､:.:.:.:.:,;,;,;.:.:):.:.:.;,;,;.:ﾍ ﾞ"''ヽ ＼_＿)_ : : : ヽ
,イ : : : : {'´: :､ : : :{ ﾞ: ＼: }!;;:｀ﾞﾞ´;;::;;::｀"''~;;::;;::;｀} ,..ィ/ ∧ `ヽ,ノ}
{ ﾞヽ､ : : ＼: :ﾞヽ: : : : : :ン´;;::;;::;;::;;::;;::;;::;;::;;::;;::;;:/'" /:/ ／,': :!,.ィ''": : :!
i: : : : ＼: : : :ﾞf￣￣￣{;;::;::;､::;;::;;::;;::;;::;;::;;::;;::;;::/__彡ｲ／ ,': : :}: : : : : :λ
i: : ﾄ￣ ﾞ~`ヽト=f―-┘;;:;':.:.ﾞ:､;;;;;;::;;::;;::;;::;;::;;:〈＿_.ノ ,:': : : i!: : : : : ／
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|「『真っ先にこの僕に話を持ってくるあたり、つまりキミはこの僕を疑っていると考えていいんだね？』」
|「黙れ」
|
| 学校内に流通する謎の麻薬を調べている『破滅願望者』たちを頼るしかなかったのである。
| 友達がいないんだから仕方ないよね！
|
|「理事長の不在が学園内の麻薬流通の一因だ。彼を探すのは僕らの目的でもある」
|「話が分かるな陰険眼鏡」
|
|「誰がメガネだ」
|「ゆーくんのことじゃない？」
|「誰がゆーくんだ」
|
| 『破滅願望者』雨宮夕日。彼をからかう白雪ひめ。
| しかし、目的の一つと言っても経過はまずまずである。麻薬関係の問題も進展なし。
|
|「『人数も増えてきたことだし、分担をしようか』『理事長は学外で探さなきゃならない』」
|「警察や探偵にコネがあればいいんですがね」
|「難しいことを……」
|
| とはいえ、学内での捜査も行き詰っている。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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＿ ＼::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::／ ＿
＼:::￣:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::￣:／
-=ニ＿:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::∠＿
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／＿:::::/:::::::::|:::/|:::/ |:/|::::::∧::ﾄ､:ヽ:::::::::::::＿:::＼
￣ ／://|:::::::|/ ,ｨ┬ .|/ |::::/ ,ｨ┬N|:::ﾄ､::＿＼￣
∠::::::|/:|:/|∧ｲ じﾘ .|:::/ じﾘ ﾚ::::::::＼￣ じゃあまず、
／::::::::|::::::/|/ |/ | ∧::::|￣ 今のところの問題をまとめるか。
￣／:::::::::{､| | |〉 |/＼|
￣∠::::::ヽヽ /:| 遡れるところまで遡って。
∠::::::::ヽ , - -, /ヽ|
|／|:::ヽ ￣ ／|
/ |/| ヽ ,,__,, イ | ＼
／/ ﾚ' ﾄ, ＼_
／／ | ﾍ / ＼`'' ､
,, ‐''"／ へ |＼ﾍ ／| ／"''ｰ‐ ヽ "''‐ ,,
‐''" ∠ ''" ＼|ヽ ""''''''"" | ./ "''‐ ヽ
/ ‐''" | ＼ .| | "''‐ ,, ／ ヽ
| ヽ ‐''" |＿ ＼ / ／ / |
| ヽ ￣ ヽ /／ / |
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|「……備府やらない夫の行方不明から？」
|「『理事長の行方不明はその前からだぜ』」
|
| そもそも理事長はほとんど学校に顔を出さない。
| しかし、影響力はある。影の支配者以外の何物でもない。
|
|「……満月の晩の『アレ』も理事長の行方不明と関係あるのかな？」
|「考えすぎ……とは言い切れないな」
|
| 『アレ』とは何人ものペルソナ使いが『滅ぼす者』に支配されたことである。
| アリー・アル・サーシェスによる撹乱の一端であったが、
| 誠が健在ならばサーシェスもあそこまで大胆には動かなかった可能性がある。
|
|「……麻薬の話はいつからあった？」
|「『聡いね咲夜』『爆発的流通は最近さ』『だが』『存在そのものは僕らの入学以前からだ』」
|
|「それって……」
|「『その通り』『ご存じ備府やらない夫によって一度根絶されている』」
|
| やらない夫の武勇伝の筆頭、『ヤクザ事務所襲撃事件』である。
| であるが。
|
|「……じゃあ、ヤクザが絡んでるの？」
|「『いや』『そっちはもう探った』」
|
| だが、その事務所は組本部からも切り捨てられ、関係者はみな塀の中。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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＿
,r'"= ニ三｀ヽ-=-､)'ﾞヽ ｒ､
／//／,r＝三ミヾヽヾ} }'ヽ ﾉｿｯ
/,///／,r'" =＝ ミヾヽ 川 l l./ /"ﾘｯ
// /// //／,r三 ミヾ.l リ /ﾂ/ ﾉ/ノ ﾉ
ｌ ｌ/// /////,r ＝ ミヾ ﾉノ／ ／,ｒ"'"")
ｆ/// // / /／,r｀ヾ∨／,,.r''´／,r="ノ
ﾉ// // / /// / /ヾ''""ヾ'､'ｒ''''''ｒ='')）
ﾉ// // / /l l l l l ｌ.lｌl ﾚｿ/
. ////〃 / / ｌ l l ｌ | ﾘﾘ |//
//// / / ノ―-ヽﾄﾄl､ v-"---ｯﾘﾉ
. //// / /,ｨl | F〒tﾃ‐〉 f:r〒tﾃｯ lﾞl |
ｌ 川 / / f{ {lﾞ| ´´￣''" {ﾞ`'￣゛｀ |,リ つまり、
|川 〃/ﾊヽヾ| l:} ｌ'ﾄ|､ やらない夫さんが潰した事務所は
|.ｌl l / / ヾi｀ﾞl ヾ_ﾌ ｌ ｌﾞﾄ＼ トカゲの尻尾だった可能性があるんですよ。
|ｌl l l / 'il l', ＿＿_____ /'|.l | ヽｏ
|ｌ ｌ ｌ ｌ l.l.ｌヽ. ''ニニニﾆ'' / |.l.l ﾞｏ
|l ｌ l | | | ＼ / |ﾘ
| l l ll ｌ.| ヽ＿＿__/ ﾘ
l l ｌ,ﾘ ｆ＝=ｒ,=====＝＝＝＝＝＝l
//./ |ｒ┐ｌl: : : ｒ―‐┐ : : : : : : : : |
/.ノ || .| ||: : : | |: : : : : : : : : :|_
_.. -‐|ｌ._| ||: : : | __|: : : : : : : : : :|: :":'':ー---_-=
-―-‐:'':": : : : ::ヽ､ ||: : : :￣: : :_:.: :-‐: : :_:.: :-‐:'':": : ,r'": : :
: : : : : : : : : : : : : : ○: : ,: -‐:'':":_:.: :-‐''": : : : : : : :／: : : : : :
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|「ヤクザなのに？」
|「『その上』」があると気付かせなかったのだから、優秀な尻尾だったわけだ」
|
|「『ちなみに』『現在の流通範囲はこの学園周辺に限られる』」
|「？？？ それってお外じゃ出回ってないってこと？」
|
| 過去は、ヤクザによって路上販売が主だった。
| それはつまり。
|
|「学内の誰かがヤクザをトカゲの尻尾にして、ほとぼりが冷めるのを待っていた？」
|「『だろうね』」
|
|「それって教師が怪しいってこと？」
|「『ものすごく』」
|
| クロトワが最高に怪しい。
| 怪しいが……。
|
|「ディオ・ブランドーとの繋がりは？」
|「『それな』」
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＿／￣＼
＿／￣￣￣ ､ ＼
／￣￣￣￣ }ﾊ }＿＿＿
. | }ﾘノﾘﾉ -====― ＼
. ﾉ ＿＿＿ ﾘノ´ =ミ、＼ ＼
／ r/⌒ /} } ﾊj}ノﾉ ￣＼ } ヽ
. ／ ｌ| r┘ﾊ/川ﾚ ￣＼
{＿ ﾘ___,ﾉ{ '⌒j } ＼
}__ ﾉ ｲﾍ {_ ｢{ ) }
. )し/ﾚﾄ 寸 リ/ / | l | ｌ | ｌ /
// / | ＼} j｢ { ﾊ i{ ｌ| ｌ| | l | l | ｌ /
＼/ k芯{ r―＜ { { { i{ ｌ| ｌ| /
/ _／／⌒￣__¨ =‐-＜__|＿{_ l { | l } l /
. / ｢-{ ノ ＼ 芯ｩx、 ￣￣〉〉 ヾ リ |
. ′弋_}＿}´ ヽ乂込ぅｰ /ｲ{ |
. ⌒ヽ j/人＼ {
. ＼_ } ﾉ＾ ／￣￣＼ jリ l
. / ) ＼/__r'⌒jヽ ﾉ // /
{ ヘ＿ ﾉ__／／ | /∧/
ト ＿＿ ／ (＿＿__／ // /
＿＿_| ≧ﾆ=ｰ-----＜￣￣￣￣￣} // /
.. ／ニニ三| ／ / / / .
三三三三ﾉ／ { ／ /
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ﾆニﾆ／ ／ ＼
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| 誰にも媚びない一匹狼のディオ・ブランドー。
| やらない夫と親しかったことは有名だが、ほかの誰かに従っているなど想像もできない。
|
| ……少なくとも、この場の誰もディオが中華街の老人を通して『結社』に接触していたとか。
| そんなことは知る由もない。
|
|「そういえば最近ウワサ聞かなかったよね」
|「『噂？』」
|
|「同級生の、ホラ、生徒会長に立候補してるイケメンさんに嫌がらせしてるっていう」
|「『逆さ』『ディオはジョニィ・ジョースターといがみ合っていて』『ジョースターはとにかくディオを……』」
|
| ディオがジョニィを階段から突き落としたとか。なんだとか。そんな噂は今まで絶えることなく流れてきていた。
| それはジョニィがディオを孤立させるための謀略であり、球磨川は理解したうえでいつか利用しようと目論んでたのだが。
|
|「『……』」
|
|「白雪、ディオとジョースターの噂があったのはいつまでだ？」
|「今月は聞いてないね。掲示板に書き込みあったのも先月までじゃないかな」
|
| 学内の裏掲示板でディオの悪行を目撃した人物が、話の流れをぶった切ってコピペを張るのは有名な話である。
| そのせいで逆に、ひめのようにネットに明るい人間はディオへの過剰なヘイトに辟易していた。
|
|「理事長の行方不明はいつからだって？」
|「『麻薬の流行と時期が重なるね』」
|
|
|
|
| 勘のいいガキだ。
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:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:,イ: : : : : : : : : : : : : : : : : : :＿: : : ｀''≪ﾆヽ:ヽ: : :',: :}:ﾍ
.:.:.:.:.:.:. : ,イ: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :｀ヾ: : : : ｀≪ﾆヽ: : i / : :',
.:.:.:.:.:,イ: : : : : ／: : : : : : : : : : : : : : : : :＞─､: ヽ: : : : : :寸ﾆヽ: : : : }
:. ／／: : : :／: : : : : : : : : ＿彡=-''" ,イィ:_:_: ヽ: : : :寸ﾑ: :./
ｲ／ : : : ,ｲ : : :/´￣｀Y: : ／´ /'´ ,ィ´イ: :)ﾉ: : : : :寸〉
: :/ : : ,ｲ : : : / /／ﾉ/:ｱ′ -､_ | /／ ゝー=≦: : :ﾍ
:/: : :/: : : : :/ l ノ/:/ ヽ､ﾐ､ |' ヾ: : :|
: : :/ : : : /: { ', /:/ "''､.ヾり＼ ! ﾊ: /
: // : : :/ : :ﾍ ﾉ l:/ ｀'' ヽ.ヽ、 ,': :/＼
//: :/:./ : : : :ゝ |' , ＿＿_ /: ,ｲ:.:.:.:.＼
:/: :,':./: : /: :/ / 赱う㍉｀ヽ/,ｲ:.:.:.:.:.:.:. : ', ありがとうジョニィ君。
: : :l: ｌ|: : ｌ: : { |! l ｀¨'' '´ｲ: !:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. l もう帰ってくれていい。
|: :|: :||: : |: :ﾊヽ |', ､. , _ | ／: : |:|.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:|
从|: :||: : ',: {ﾆヽヽﾏ', ｀ヽ、 ヽ≧‐ ,イ: : ///.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. : :|
ﾍ､:',',: : |ゞﾆﾆヽヽﾑ _ ｀''‐ ,イ: : : : ///:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: |
l ﾍﾆゞ､乂ﾆﾆﾆﾆニ'､. ,イヽ､: : ,ｲ///.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. : |
.|. ﾍﾆﾆﾆﾆニア⌒>ﾆ＼ , イ_ ` ヽｲ:ｲｲ:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|
', ﾍﾆﾆﾆﾆﾆ〉 ゞﾆﾆニ/＼＿ イ'´≠ ヾ ヽｲ:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. |
', .ﾍﾆﾆニｱ /ヽ ｀¨//ニ/ ,ィ⌒ ヾ ヽ:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|
', ﾍﾆﾆﾆ{ ',ﾆﾆｱ//､ﾞノイ ヽ:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. : |
', ﾍﾆﾆゝ ゞｱ//ﾆﾆ{ ヽ:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.／
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|「えっでも」
|「私が用があるのは彼だけでね」
|
| 明るいオフィスビルの、開放的なカフェの一角。
| 藤木源之助は落ち着きの悪さを隠しながら平然と着席した。
|
| 目の前には『教会』最強の殺し屋集団『武僧』の幹部である男。
| パプテマス・シロッコ。
|
| 蚊帳の外にされ、悔し気に唇を噛むジョニィの視線が背中に突き刺さる。
| よく知った視線だ。ささいな屈辱も絶対に忘れぬ、偏執狂の殺意だ。
|
| ……そして、源之助にそのような視線を送った者は、全員地獄に落ちている。
|
|「……ッ」
|「俗物は退屈だな」
|
| 踵を返すジョニィに一瞥もくれず、シロッコが微笑む。
| 彼にしてみれば、ジョニィ・ジョースターは路傍の石より興味を持てない存在なのだろう。
|
|「本国と違って日本の時間はせわしない。もう少し緩やかに行きたいものだ」
|「……」
|
| 源之助は無言で話を促した。
| そういう所なのだが、シロッコは無礼を笑って受け流す。
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／ _,.. ｣ --- ..,_´ ｀ヽ.＼
/ ／,. -―‐ ''' ｰ-｀`_- 、 ヽ
l /／ ,. - ｀ヽヽ. ',
i l/ /r= ､ ヽ_j
/ r'"７/´ｰ'´ ＼ ',
! ィ ! l ヽ、 ',
l /l ｀ヽ _,__-‐ !' !
l l l‐┬--､ , ィ--‐' l'´l. l
| ゝ',´ ￣ |ﾘi | いいとも。
| !ヽ ﾍ _ ,. /.7i | l 君の時間に合わせて単刀直入に行こう。
',l l l`ｰヽ ､｀__,. /|´ 〃 i l
ヽヽヽ |ヽ '' ／ !ィ' / ノ
＿＿,,ゝヽ_ｰ'r､ `,ｰ-‐_,. -,'- 1ノ- '´ヽ
ヽ ｀|｀ヽl r,ﾆ ‐'" l .ﾉ ／
ヽ r.| l || ／ ／!
r 7ー―‐ ヽ＿_ |ｨl､ | !! _,. -.7 ／/ ｀' - .,_
ﾚ' - ..,,_ !ﾚ' l r､`ﾆ_'_'ﾆ,- ,.ｲｰ' / ｀` ｰ-､, -､
｀ ヽ lヽ .!.ﾄ ヽ=‐ '´／ ﾉ ／ , -------―‐／ ／i
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|「先日、私の部隊で欠員が出てね」
|「……」
|
| 新宿衛生病院でミストたちを襲った試作サイボーグ兵士軍団『カトル・カール』のことである。
|
|「藤木源之助。君をスカウトしたいと思ったのさ」
|「……」
|
| なぜ『結社』で、しかも隻腕の自分を？
| 源之助は質問しない。その質問はシロッコもされて当然だと考えているだろうから。
|
|「所属は関係ない。優秀な肉体と戦闘技術の高さにのみ注目している」
|「……」
|
| だが、隻腕は戦士として致命的である。
|
|「だから、さ」
|
| シロッコが甘く微笑んだ。
| その目が一切笑っていないことに、源之助は気付いていた。
|
|「私ならば君に新たな腕をプレゼントできるだろう」
|「……」
|
| 同様に。
| もしも、欠陥品の心臓を作り替えることができるのならば。
|
| 藤木源之助はシロッコの目を、その性根を見抜かんとばかりに見詰めた。
| できるのならば。もしも、できるのならば。
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☆ 次回予告！
真・女神転生の東京には、神の千年王国を築こうとたくらむ合衆国大使トールマンと
その野望を阻止せんと立ち上がり、軍事クーデターを巻き起こした自衛官ゴトウがいた。
さて、このスレではトールマンは原作に沿ったレイシストであるトールマン兄と。
ピエロを演じる平和主義者のトールマン弟がいて。
ゴトウは？ 超人ゴトウの出番は無いの？
と、全国七兆人のゴトウファンはお嘆きのことであろう。
しかし、出番がなかっただけで何度かその名前は上がっていたのである。
しかも機に敏く、『結社』撃滅作戦前に『結社』と手を切って雌伏していた。
その男の名は……！
次回 最終幕 十三話『五島ムスカ』
果てに見るのは破滅か死か。
藤木、いいヤツ……でもシロッコは信用できんぞ
「Ｙｅｓ！ロリータ！Ｎｏ！タッチ！」まであと少し（違います
／￣￣＼
／ _ノ ＼
| （ ー）（ー） いいだろう。
. | （__人__）
| ｀ ⌒´ﾉ もう使い方の方はだいたいおぼえた。
. | ｎｌ^l^l
. ヽ | ﾉ
ヽ ヽ く
/ ヽ ＼
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| ステッキのような丁字の柄頭。鍔は先細りのひし形で、剣というよりも打撃武器の風情。
| 不可思議な形の片手剣。いや、剣の形をした別の代物。
|
| 常人の域から脱していないはずのやらない夫がケンシロウを撃退できたという、異常の原因。
|
| それこそが脳噛ネウロによって授けられた『エクスカリバー』。
| あるいは『守護神』である。
|
| ……そもそも、脳噛ネウロとはなんなのか。
| やる夫の父親であり、シックスの弟子であり、そして何らかの神性を宿した存在である。
|
| 彼が泉教授とともにヨーロッパを旅した際に、ブリテンの神の一柱を誘拐して妻にし、子を産ませた。
| それがやる夫であり、母親は出産後に死亡。
|
| ネウロは追手である水銀燈を退けはしたが、所属していたはずの『血族』とは決別。
| やる夫を夢宮のばっちゃと誠に預けて出奔した。
|
| というのがやらない夫の想像である。
| やる夫が小さい頃は、しばしば家に戻り、訳の分からない本を書架に加えていた。
|
| そのついでに、幼いやらない夫に『訓練』を施していたのであるが……。
| その内容は、魔力や『気』といったエネルギーの操作と、自己認識についてであった。
|
| 肉体的トレーニングはやらない夫が自ら始めた。
| ネウロはそのあたりノータッチだったからだ。
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｀ヽ,<ﾆｼ:::::::::::::::::::::::＼ 丶、 ｀`ヽ
::::/:::ヽ|::::::::::::::::::::::::::::::＼
､:|....::ﾄﾐyﾉﾍ、::::::::::::::::::::::ヽ
ミ!:..:::{'"'´￣＼:::..:::::...:::::..:::':,
ｼ'!:...::| ヾ:. :::. :. :. :.. ',
',:::::! ,.ゞ:. :. : :.i
':,::', ／ ヽ:. :| 『今、貴様にない器官がもしも存在したら。
',:', ／ ,.ィ, ==、 .:|、 それを考えて日々動かしておけ。
`ー､ ヾ! ,:'／!{itfij}i:. :. :|',
,.ニ､:, l! ' ゞ==彳:. .::....:| ', 背中の目。翼。尻尾。複数の手足。
'{frﾐ'!ﾞ!ﾉ ',::..::..::::l !l| ﾘl>、
ゞ= ' i ',::::::::::l l|!/ ﾘ ピアニストが両手の指をバラバラに動かすように。
ﾉ !::::::::,! l| ' ､_ チンパンジーが足の指で木を握れるように。
'、 ヽ l:::::::,' ﾉ ,' !l/ 一部の芸達者が耳を自在に動かせるように。
、 ｀ _,. -_7 .!:::::,' / ﾘ
ﾄ､ヽ ,. -_,ﾆ´-‐ン .!::,' / そう考えると不可能ではないと思わんか？』
:', ﾄ､ヽ ｀`´― '"´ |::! ／
､:ヾjﾄ､ヽ ‐==‐ .!::l.: .:
!lﾄ､:', ヽゝ、 '.:|::|.:. .:.:／
ﾘ ヾ} ▽ l>--‐彳::::ヾ7７ :／
▽ ﾘ ／ /ヾ::::/Y ／ ／
{! ／ / ノ::: ﾉ ／ /
' ／ /∨::::, へ./ /／
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| いや、不可能だろ。常識的に考えて。
| チンパンジーは骨格からして違うし。
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| 今のやらない夫なら一蹴するだろう論理を、当時のやらない夫はすんなりと受け入れた。
|
| そして彼は訓練を始めた。
| 『もしも自分に追加の四肢や羽が、見えない力があるなら』そんなイメージトレーニングを毎日欠かさず行った。
|
| 実を結んだのは最近である。
| 一か月と少し前、新宿で『医者』と戦ってからであった。
|
| 悪魔と化したヒトは、悪魔としての能力を自然と行使できる。
| 少なくとも『医者』もモズグスもそうであった。そうであったが、やらない夫は悪魔ではない。
|
| だから、悪魔と戦う中で『使い方』に気が付いたのだ。
|
| ヒゲ槍を、手足や、バネ。鞭のように利用するという方法に。
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ト __r;ァ'ｰ'´ ＿r＿ｧ'ー ' ￣ ｀
ヽ ＼ r‐:ｧｰ'´ _ -ｧ __rｧ'ｰ ´
＼ ヽ､ ＿ r:.ｧ'￣_フ'つ‐'_r‐ ｧ'ｰ ´
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{:_j_ﾄ:ﾄi_ ／／ｲ/: : : : : ヽ｀ く
〉=,^_'-!_ /: : : : {:l: : :__ : : : : :l: l ヽ
r┬{ ﾄ/ ／ } /r‐: : : :ヽ'´: : :｀丶､: : :l : l
￣｀! //´￣￣｀>ｰ{ |:{ : l : : : : : : : . . . . . ＼!: :|
ヽ{_ﾌ‐ ._ {:/: ヽ|ハ:ﾄ､:.ﾄ､:ヽ､＼- :_: : : ＼!, -_､_
｀＞'|: : : { ト､ヽヽ! ヽ_:＼｀ ｀ヽﾄ._: ヽ: : :ヽ￣:ヽ ﾉ
ヽ:.j:. ／7:l rrぅ.､ _,. _-_‐ '=/ヽ: ヽ,､_: :-- lーｧ--‐ ´ ￣￣
ﾊ:.{: :{:ハ. ゞ‐' ´ 'ﾍ::ｿ ' /イ ｀i:l :ト､ : : : : :l/ _. -
＿＿ {:.ヽ､_:{:.:.ﾊ、 丶 /// lハ|､ ヽ: : :/ _ ｨ ―‐ ¨´
＿ ／ ,. ----｀_‐-｀_--､ヽ／ ＼｀ 一 イ,／ｰ-:､: : : : : ヽ: ﾚ＜/／
ヽニ´ ´ ￣ ‐ ﾆ.ヽ! l! ヽ丁>´‐／ ヽ､..:.:.ヽ: : : ,.イ/ｧﾆ -―＿―＿-- _
＿ --＿-_-| ﾄ､ _ﾌ､´ ,/ ヽ:.:.__:.フ‐_´‐ ￣ ￣ ‐
_ _- ニ-‐ ￣ ヽ､ ｀ｰﾄヽ'rｧー'′ ﾉﾍ― ´
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ﾉ､ ＼j:.:.:ヽ:.:.:l:.:.ノ / /i:ｽ
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| 記憶力が異常な読者の中には、やらない夫がアリカに『蒼天の青玉』の使い方をレクチャーしていたのを覚えている方もいるだろう。
| そういうシーンが一幕にありました。
|
| それも、やらない夫がネウロの教えに従って訓練してきた結果である。
| それが今回も生きた。
|
| 『エクスカリバー』は剣の形をした超高性能魔力炉である。
| 具体的な作り方や技術についてはやらない夫には想像もつかない。
|
| だが少なくとも、アリカの『蒼天の青玉』やルイズの『三日月』に匹敵する大業物だ。
| 利用方法は『利用者の肉体の維持』と『局地重力制御』に特化している。
|
| 前者は、人体を守る膜のような魔力が、常に肉体を保護・修復するもの。
| ケンシロウに経絡をズタズタにされたやらない夫の左腕を即座に修復した能力である。
|
| これは空腹と睡眠不足も解消した。
| 『エクスカリバー』を利用し続けている限り、不眠不休で補給なしでも戦えるのである。
|
| ……が、それは『エクスカリバー』の内部魔力を消費して人体維持に充てているだけ。
| やらない夫は最後の手段として利用を制限することにした。
|
| なお、『利用者の肉体』は利用者の見解に依存する。
| やらない夫が『自分の一部』であると認識すれば、やらない夫ではない物質も保護修復できた。
|
| 具体的には墨目を修復した。
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/ ′／ ´￣ ￣￣ヽ ＼
{ {／´ -―＝ニ￣ ヽ
ヽ ／ ＿＿ ＞ ´￣７ ＼ ）､
／´＿＿/＿＿ ⌒´ ィ⌒ｊﾌ / ヾー'
/ |////rー=マ//7ヽ 彡 ´ヽ ﾊ 八
ｊ / ｊ三三{ ｀ｔ―--ミ､/＼ーヽ } ノ ト
ノイ ﾑ////≧ｭ￣￣´ ///ｊ） ｊ 八 ハ 面目次第もありません……ッ。
／ ｊ 人/////////≧≠//// ノ , ﾍ V / ｊ
! (/////////////z=≦ア ィ＜ ﾑ Y
ヽ ｀ ーｒ== ォ≦///彡⌒ﾏ ﾑ |
了ｒ=ァ'ｙ⌒ /ＸＸＸＸ ﾏ ﾑ !
＿＿/{X（ { ｲＸＸＸＸ_八ﾏ＿＞ 个
| 八Xﾍ人´XXＸメ「 ｢ ｊ | ﾄ､
| _ｒゝ≠､ーァニｺ ァハ / i ｢ ヽ､
L＿_八 ヽ. ﾘニニフ´⌒´ ヽ ! ｌ
＿-＝=ゝ＿,ィニ＞マー＝7l! , 人_ リ
,ィニニニニニ￣ア｀ マT////レ'／ ヾ､
ｊ_八ニニニニニｲｸ ノ///／≦､ Y､
{ ￣ ７ニニニニｧｭ≠アニニニニｭ､ } ハ
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（＿ｲ マニニニニニ彡´￣￣｀ヽ{
ヽ＿＿_ﾏニ＝― ´
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|「いや、墨目がやられなきゃオレも手段を選んでただろ」
|
| そして、ケンシロウに殺されていたはずだ。
| ケンシロウとの戦いで、がむしゃらに生きることを選択したやらない夫の双眸には、
| それまで失われていた生気がギラギラと光っている。
|
|「で、だ。ケンシロウから得た情報を整理したいと思う」
|「お力になれますなら」「めんどくね？」「わしもめんどい」
|
| 全く乗り気ではないねずみ男とニャンコ先生のお返事。
| やらない夫は頷き、完全に無視して話を始める。
|
|「なぜ蒼星石がオレを狙うのか」
|「それはケンシロウさんが言っていたのでは？」
|
| 『異端審問官』『十字軍』、そして米軍が面子のためにやらない夫を追っている。
| 彼らを満足させる生贄としてやらない夫を差し出し、これ以上状況が悪くなる前にご帰国頂こうという判断だ。
|
| やらない夫も一度は納得した。
| 一度は。
|
|「いや、それが全てとは思えないな。相手は蒼星石だぞ？」
|「相手を侮るのは愚ですが、高く見積もりすぎるのも問題では？」
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／￣￣＼
_ノ ヽ、 ＼
（ ●）（ ●） |
（__人__） | ..／}
_ ヽ｀⌒ ´ | / / __ 信頼していると言ってくれ。
(＾ヽ{ ヽ { ./ / . ／ .ﾉ
(￣ ヽ ヽ i ヽ / 厶- ´ ／
.(二 ヽ i i |,r‐i ﾉ. ヽ / ／
ヽ ／ ノ ／ r一'´ ー ､ ￣￣￣）
i { ｲ―イ / .`ー―. ､＿_ .〈￣￣
ヽ. `ｰ '/ / /＼ ＼
`ー ' ￣￣! | ヽノ
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| やる夫とアリカと四人でチームだった時、参謀だったのは蒼星石だ。
| やらない夫は彼女をいい意味でも悪い意味でも信用していた。
|
|「蒼星石がオレを利用するなら、骨までしゃぶり尽くすに決まってるだろ。
| それに本気で仕留めに来るなら、伏兵を配置するだろうな」
|
| 例えば、蒼星石本人を。
| ケンシロウが確実に仕留められるタイミングで。
|
| やらない夫の前に敵として姿を現し、衝撃を与えることで致命的な隙を作り出す。
|
|「そう考えると、ヒントなんて絶対に出させないじゃろ。存在を徹底的に隠すわな」
|「……では、蒼星石殿はサマナーを殺すつもりはなかったと？」
|
| 『蒼星石の存在』をやらない夫が言い当てたなら、ケンシロウに隙を作ることができる。
| しかしその隙は決定的ではなかったし、あの場でやらない夫が殺されない可能性は極端に低かった。
|
| 普通に考えれば。
|
|「死ななきゃ儲けくれぇだったんじゃねーの？」
|「オレもそう思うだろ」
|
| やらない夫には利用価値がある。
| でも、死んでも利用できる。
|
| その程度の一手だったのなら、納得がいく。
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_.. -‐─‐- .._ ,へ
,. . : '": : : : : : : : : : : ::Y ｀＞‐-=.._
／. : : : : : : : : : : : : : : : : | /. : : : : :.::.:::丶._
／ : : : : : : : : : : : : : : : : ／ {: : : : :.::::::::::::::::::::Y´￣￣ 7
/. : : : : : : : : : : : : : : : : : ／､'′ ＼: :.::::::::::::::::::::::/ /
/ : : : : : : : : : : : : : : : : : :/ ＜fｧ、 `ー----‐ '´ ／
ハ: : : : : : : : : : : : : : : : :〃 `ｰ ｀ヽ _xrz、´-_ f
| ヽ : : : : : : : : : : : : : ／{ ｀ (__..､`' '⌒￣｀ } 問題は、蒼星石の目的じゃな。
| ￣￣￣￣￣ 八 ￣｀ヾ..＿_, 二 ﾉ
ヽ ＼ _.x=ミ／
＼ ＞､..__ ｲ ′〈
＼ _ `くマｰvﾆ=彳 〉
￣￣ ￣¨`=‐- ..＿＿＿_,_ｧ`ｰ'^`ｰ--‐'"
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| 竹馬の友（やらない夫の判断による）を犠牲にしてでも蒼星石が成し遂げたいこと。
|
|「やる夫か翠星石の二択だな」
|
| やらない夫は即断した。
|
|「蒼星石はやる夫がどうなっているのか、どこにいるのか知っているのかもしれないな。
| そのために布石として、『教会』勢力を排除したい」
|
|「姿を隠しておきたい」
|「不確定要素であるサマナーを誘導したい」
|
| 『教会』勢力を追い出して、その先に何があるのか。
| なぜ姿を隠すのか。
|
|「……『教会』勢力の排除が第一段階なのかもな」
|「何が続くと思います？」
|「フリット・アスノの排斥。間桐増硯への対処。志摩子様の救出」
|
| そしてそれらはおそらく『ついで』で。三つが関係するのは。
|
|「翠星石か」
|
| であるなら、やる夫がどうなってるのか蒼星石は把握していないかもしれない。
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.／￣￣＼
/ ヽ､_ .＼
. （ （● ） . |
. （人__） | 情報不足だな。
r‐-､ . |
（三）） . |
> ﾉ /
/ / ヽ、 . /
/ / ⌒ヾ .〈
（＿__ゝ､ ＼／. ）
. |＼ ,.1
. | ＼_／...|
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| やらない夫は、『あの夢』を見ていない。
| 見ていたのならば……。
|
| いや、あの時彼が夢の中にいたならば蒼星石の召喚に応えて本物の救世主になり果てていただろう。
| だがやらない夫は堕天使レミエルを夢見なかった。
|
| ゆえに、あの夢の『終わり』を知らない。
|
|
|
|
| ……蒼星石が最後に『誰の名』を呼んだのか。
| やらない夫は知らない。
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／ ￣￣￣＞
//ニヽ/ニヽ ヽ
. // / ･| |･ヽ | |
＼ {___/ ヽ__} ／
ニ ¨ ニ
／ ＼ ……あン？
// | |
. / ! | | ＼
| | └rｪｪ――:､ / }
＼＼ . └―――' / ／
/ ` ―――― ' /
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| ねずみ男が顔を上げた。そして静かに、衣擦れの音すらさせずにゆっくりと動く。
| その動作の意味を、やらない夫も、ほかの二匹も熟知していた。
|
| 彼はやらない夫たちを見捨てて、あるいは囮にして逃げる腹だ。
| ねずみ男はそういう奴なので、文句を言っても仕方がない。やらない夫らは直ちに警戒態勢に入った。
|
|「サマナー、囲まれています……今まで気配はなかったのに」
|「魔力の漏れもない。ニンジャかのう」
|「あー、臭いならあるぜ」
|
| 本人が一か月風呂に入っていないような悪臭を放っているくせに、周囲の臭いには敏感なねずみ男。
| もはや一人だけ逃げることが不可能と悟ったか、言い捨てて召喚解除。
|
|「ジャンヌさんたち『異端審問官』じゃあないな。『十字軍』にしては統制が取れている……誰だ？」
|
| 現在やらない夫が潜んでいるのは、地元の商店街の路地であった。
| 昼間から寂れたシャッター街で、住宅併設ではないため夜は当然人の気配が絶える。
|
| 路地裏は複雑だが、やらない夫は熟知しており、アーケード街でないため上へ逃げるという選択肢もあった。
|
|「……ニャンコ先生は上。墨目は背後を」
|
| やらない夫の簡素な指示に従い、使い魔が動く。
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.,i´| .j|｀ ｀| : |｀ .iﾞl: .,!'i､│ ｺﾎｰ
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│ ﾞli"二,,,,,,,,,,|/ii;|,,---ヽ,,,‐,i´.,/ ﾞl,ヽ
│ 'lﾚ、 ,,/,|,,,,ﾞlﾞlヽ､、 ,lﾞ,/.., |" ヽヽ
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| 墨目が撹乱に向かった後方には四名。
| やらない夫が無造作に近づく正面には三名。
|
| 近くの店の屋根に三名。そのほかにも三名が詰めている。
|
| 正面の一人を除き、骸骨のようなヘルメットと、白いプロテクターで身を包んだおそろいの装備。
| それぞれ手には見慣れない銃器。サブマシンガンの類か。
|
|「何か用か？」
|「ｺｰﾎｰ」
|
| 正面。ヘルメットとプロテクターで全身くまなく覆った防護服めいた怪人。
| 右手には短いバトン。剣の柄だけにも見える。
|
|「……？」
「ｺｰﾎｰ」
|
| 怪人。ダースベイダー。
| 『血族』の簒奪者フリット・アスノの腹心であり、普段はキオの監視を行っていた超能力兵士。
|
| やらない夫は無言で、しかし敵意を見せぬ相手に不思議な感慨を抱いた。
| 敵ではない。気がする。
|
| だが、味方でもない。
| そして、どこの誰なのかも全く分からない。
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ｊｊ, -‐'::ｰ', ＝ミ::.＼', ｺｰﾎｰ
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｀¨¨フ７７７.:://.::,=ミ/.:::::／.::::::::::::i{::::::::::::::::::＿:::}
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| 口火を切ったのはベイダーだった。
| 雨を確認するかのように左手の平を空に向け、しかし即座にぎゅっと握った。
|
| やらない夫は危険を察知できなかった。
| しかし、理解できない動きに対して即座に退避に移っていた。
|
| 不可視の手による掌握。フォースグリップ。
|
| 地面から生えた見えない力場がやらない夫を締め上げる。
| その直前にヒゲ槍を屋根に伸ばし、やらない夫は跳ね上がっていた。
|
|「……何をした？」
|「ｺｰﾎｰ」
|
| ニャンコ先生と共有する左目が、地面に集まる魔力を感じ取った。
| 詳細な動きまでは読み取れない。しかし、普通には見えない攻撃が行われたのは理解できる。
|
| ……フォースグリップによって圧縮された大気が、風になる。
| 吹上げがやらない夫のコートを揺らした。
|
| やらない夫は『超能力者』と相対するのは初めてであった。
| それどころか、その能力を見る機会もこれまでなかった。
|
| 魔術全般に詳しいニャンコ先生も、最近生まれた超能力は未知。
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／ ⌒ヽ ／.:::::::::::::::::::／: : : : : ::::::::::::ヽ ＼
〃 O ヽ／: : : :＿_彡'´: : : : : : : : :::::::::::::', ）ﾉ,. ヽ
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{ o ,. - ､ ！＼ ＼: : : : : : : :::::／ ﾉ } ｝ ノ
！ {: : : } ' : : ＼ ` ‐---‐ 'ﾞ `ｰ' = 厂 避けよ！
八 ｀¨´ ‘, : : : ｛ ＿_ _ -',__ノ /
/ ヽ ヽ: : : , ｀ﾆ ＼ _ノ t__ノ､v^ﾍ ,.′
｛ 1:＼ ＼∧ - =' ＼-‐‐ヽ ／
＼| : : ＼ ヽ `丶..__`<}
！ヽ..__:＞ .._ ＼ _..ｨ,ﾆ厂ﾘ
xﾍ ｀ ¨ `=‐----‐=ﾆ云:::=（_)）/
'ｰ‐ﾍ ／
ヽ ／
＼ _.. イ
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| ニャンコ先生の警告と同時に、やらない夫は次のヒゲ槍を脇に伸ばした。
| 肉屋の壁に突き刺さったヒゲ槍をアンカーにして、無理やり体を引き寄せる。
|
| 瞬間、強烈なビル風のような大気の動き。
| 超能力の掌が空中から押し付けるように叩きつけられたのだ。
|
| そこに屋根の上に待機していた伏兵が射撃。だがニャンコ先生が稲妻の波で薙ぎ払う。
| たまらず退きつつ、しかし苛烈な掃射。銃口から放たれるのもまた不可視の弾丸。
|
|「うぐっ！？」
|
| やらない夫の足に突き刺さる鈍い衝撃としびれ、実際の銃弾のような破壊力はないが、十分にすぎる衝撃。
| 純粋な打撃力よりも、悪魔戦を想定してのものだろう。それがやらない夫を救った。
|
|「ｺｰﾎｰ」
|
| 全身鎧の鈍重さと裏腹の身軽さで、ベイダーが壁を蹴る。恐るべき速度で壁に張り付いたやらない夫に肉薄。
| その手に握ったバトンから、オゾンを灼く臭気と同時に赤光の刃が延びる。
|
| 恐るべきプラズマの一撃に、やらない夫はヒゲ槍を解除。自由落下ですんでの回避。
| 腰にベルトのように巻き付けたヒゲ槍を立体機動装置のように利用。肉屋の壁が穴だらけに。
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／￣￣＼
ノ ｀ヽ ＼ ニャンコ先生！
（ ●）（ ●） u |
（__人__） |
(｀⌒ ´ U .|
{ |
{ .ノ／⌒￣￣'￣￣） 三 二
ヽ ／￣¨￣￣
(⌒ヽ､ ／ ヽ く
＼ ヽ ／＼ ＼
＼＿_／ ＼ ＼
／ ﾉ ＼三 二
／ ／＼ ＼
｛ ────ヘ ＼
＼＿＿＿＿ソ ヽ ＼ 三 二
ヽ､_ｿ ＼ ＼
） __〉 三 二
（＿__ノ
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|「無理を言うではない！！」
|
| 恐るべきはベイダーの見切りの早さか。
| 奇妙で予測不能の回避行動をとるやらない夫ではなく、ニャンコ先生に狙いを変える。
|
| 階段を駆け上がるように、『空中を』駆け上るベイダー。
| ニャンコ先生が放った電撃の波は正面突破。不可視の盾で防ぎ切り、プラズマの剣で切りかかる。
|
|「こいつ！」
|「ｺｰﾎｰ」
|
| 路上からやらない夫めがけて二人が掃射。命中を目的としない、分断のための射撃。
| ニャンコ先生を助けに行けない。墨目も後詰の敵にかかりきりだ。
|
| であるならば。
|
|「ねずみ男！」
|「嫌な予感がすんだけどな！」
|
| 路上の二名に向かって、飛び出たねずみ男が汚い生尻を向けて飛び掛かる。
| 爆発音と同時に大気が黄色く染まり、粘膜を焼き尽くす悪臭をばらまく。
|
|「ですよね！」
|
| だが予想された悶絶は無し。
| 防護服めいたプロテクターに覆われた敵は無反応で乱射。
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ヽ、 /ｨ｀二´｀` ｰ-､
ミ､ヽ_､∠ﾉ'二) }: : ／´
, -= ﾆヽ, '" ｀ ￣≦三三
.i: : : : ｰ/ _,. -､｀!ｰ !､
. |: :, : : 人＿ -‐::::::::::::::}i : : ! きゃあああああン！！
乂i: : : i┴'´,: '"￣｀` /レ: :|
!: . . 乂::/ ノ'´: :／
| У: ヽ｀ ｰ =- '",. ─<
∨ : : : : : : : ／: :!: : : : :＼
〈: : ゝ=: : '" : : : ,' : : : : : : ）
}: : : : : : : : : : /: : : : : : : ｀i、
/: : : : : : : : : : : ｀ヽ_: : : : : : ヽ
/ : : : : : : : ／､ヾi 7_ /ﾍ､ : : : : Y
, -== ､_ ,-ｲ : : : : : : : ｀,'-ヾ （ i｀ : : ￣,: イ
/: : : `ｰゝ、: :ﾍ､: :_;. ;. :'" ￣｀` ､ｰ ´￣
'､ _;.:__;.､: : :〉-,‐_､_／: : : : : : : : : :! て
{ミ_ ｀´ ! (: : : : : : : : : : :/_ノ そ
｀ｰ''" ￣｀￢ ｰ'"｀` ｰ 'ヽ'´ て ⌒
そ
´
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| 尻がハチの巣になり、どこがケツ穴かわからなくなったねずみ男が即座に解消。
| 完全な采配ミスにほぞを噛みながらも、やらない夫はその隙を見逃がさない。
|
|「お前！」
|「ｺｰﾎｰ」
|
| 『エクスカリバー』を限定起動。局所重力制御装置で、ロケットのように飛び上がる。
| 空中で必死によけるニャンコ先生とドッグファイト中のベイダーに突撃。
|
| 複数のヒゲ槍をより合わせてらせん状の衝角を作り、後方からはやにえに。
| いや、がら空きの背中の前に、絶妙な角度の障壁。斜めに据えられた不可視の盾がやらない夫の突進を逸らす。
|
| その先、逸らされた先に配置された屋根上からの掃射。
| 逆にやらない夫が、がら空きの背中に念動の弾丸を受けてしまう。
|
|「ぐあッ！！？」
|「何しとるか阿呆！」
|
| プラズマの一撃がニャンコ先生の毛皮を焦がす。
| けれど肉を切らせて骨を断つ。縦長の瞳孔が満月のように広がった。
|
| 精神への介入がベイダーを揺さぶる。怯んだ怪人の脇をすり抜け、ニャンコ先生がやらない夫に急行。
| 念動射撃の衝撃で、一瞬意識を失ったやらない夫は無様に落下中。
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/ ￣｀ヽ
＿＿＿__ ____ ∠,,__/_''_=! ｺｰﾎｰ。
ィ ´ ィ ´/ ／ ｀＞ﾄミ'〈
{ ィ ´／. /／ / /´＿ヽ／
＼／ ／ ／ ./ /Ｔ´ ｀ ｰ- ､
／ ／/ .／ / / ゝイ‐- ,,_ノ__｀)ヽ､
／ ／ ./ ／ ノ / / ￣ゝ-'
/ ／ イ ／ ./ミﾐ７
l／ ／ ／ ／ ／＼≡{
.／ ／ ／ / ／ j! ￣ﾄ
,' / ／ ./ .／ / ! l ヽ
< /y′ / ／ / j .l! ＼
) 〃 /´ / / .lヽ }!
У ／ / ｲ ! / l!
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. / ／ / / / Ｙ l!
/ ／ / / / } ﾊ
.／ / / / /ヽ_ /＼
￣｀ヽ_＿＿,-=-'‐--'､＿＿./ !＿＿＿__つ
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| 先に態勢を立て直したベイダーが屋根に着地。
| プラズマの剣を収納し、蚊を捕るかのように合掌。その動きに連動し、念動の板がやらない夫とニャンコ先生を叩き潰す。
|
|「ぎゃっ」
|
| 相性が悪い？ 未知の能力だった？
| 相手の実力を見切るのに失敗し、『エクスカリバー』をケチったツケ？
|
| 言い訳はいくらでも浮かぼう。だが、事実ベイダーはジャンヌやケンシロウに比べて強敵ではない。
| 個人戦闘能力ではやらない夫と同等か、それ以下であろう。
|
| にも拘らず、一方的にやられている理由は……シンプルに。
| ベイダーがやらない夫の戦い方を熟知し、的確に配置した部下と適切な戦術を用意した結果である。
|
| 深く考えず、出会いさえすれば勝てると考えていた脳筋のケンシロウとか、
| 復讐心で頭がいっぱいだからよく考えずにうろついていただけのジャンヌとは戦略時点で違っていたのである。
|
| では、そのベイダーが勝利を掴めない理由があるとすれば？
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ｉ:::::::::::::::::::::::::::::／ ＞-
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/:::::::::::｀ヽ 弋;;)::::::::::::ノ＿＿＿＿＿ /
ｉ::::::::::::::::::::::ゝ ＿__ 廴γ´ ｀＼ ｉ ｉ｀ヽ
弋_,､:::::斗 ´__ ﾞｉ / .＼ ｉ ｉ ∧ ∨
ﾇ/´__ 斗ー‐ｉ￣rx二三≧≡≡≡彡 ｀ヽ | ｉ ｉ .∧ ∨
γ⌒ヽ ﾞjー――====ｉ!rfγ´ ≧､rf≦｀ヽ／ ./ ∨ ﾉ ＜ 斗＜
廴:::::::::〉´≧ｰ､ ,､＿＿,;__＿＿_/´｀ヽ ー-! 厂三__斗＜ 斗＜ ｀ヾ
弋::::ノｰ=､―斥 fjzzzzﾆﾆﾆ{ ゝ ／≧=ｰ ､/｀ヽ ﾉ ／´￣三二=｀ヽ､ ／｀ヽ .／
fi==≡〉ヽｰ=≡三/ j ｉ!.∨ ￣￣｀ ! 斗 / ／´/ .ｉ!＼ 斗＜ ｰ- ∧ ／ |
＞-､ ヾ´｀ヽ |ゝ= ／ﾞ∨ ｀> ､ ノ / / ｉ!ヽ ー- ∧ ∧/ |
< ゝ- 斗 ／| ｉ! .< ／ ｰ ､／ 弋/ / ｉ! .| ∧ 匕| .∧
￣ ヾ ／ _|__＿_ｉ!ｰ､ ｀¨ r ヽ_/＿__ / .ｉ ノ￣...ｉ!≦￣￣￣￣
|Hｉ!-|‐‐―ヽ | .γ⌒ヽ | ノt- ≧ｰ- ノﾕ { γ´ｉ!-―――――
/ ! ｉ´ 〈:::::::::::弋ｰ--､ ノ｀ / ￣≧=ー-r ´ ｀ｉ 廴＿_j! |
/￣ヽ/＿＿ノ} ﾚつ::／__＿＿ヽ ／ / | ∧ / .|
.//,;､ｰ-､ ,..､__廴＿_ ﾞY ヽ｀ヽ ヽ､ / 弋 ノ ./ |
././ ｰ==≡二ﾉ ゝ､ﾞｉ／.､ ｉ! ﾉ／ｰ-､＞ ､＿__ } ／￣＞､ ..|
| ｀ヽ／∨ .｀ﾞ>-＜ ヽjｰ=≦／/ ｀ヽ |≧=ー--〈 ／ __ ー- _＿＿
| ｀ヾ .ｉ ∧ノ ＞ _ イ 〉 ／ ./ ｀ヽ､ ./ ノ .∨ / / ＞
| / ヽ .ｉ´ X ｀ヽ、弋ﾞｉ / / ＼/ ／∨ | / / ＞
｀ﾞｉ´ ∨ ｀ｉ ﾞｉ! ｀ﾞ .|./ / / ／ .∨ / / / / ／
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| 突如現れた迷彩服の男たち。
| 実弾による威嚇射撃がベイダーと部下たちに襲い掛かる。
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|「……ｺｰﾎｰ」
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| 予想外の闖入者に、だがベイダーは冷静に対処。
| 念動の弾丸で応戦しながら墨目の相手をしていた数名を合流、被弾した仲間を守りながら速やかに撤退する。
|
| やらない夫に執着も見せず。
| それは彼が、『いつでも狩れる』からなのか、あるいは別の理由か……。
|
|「ぐ、ぐぐぐ……」
|
| 落下と念動の衝撃で朦朧としながらも、やらない夫は完全なる敗北に歯ぎしりする。
| この部隊は誰だ？ なぜ助けた？ それとも……獲物を奪っただけか？
|
| ニャンコ先生の傷も深い。墨目はうまくやっていて損傷は軽微だ。
| 二人を解消し、その上で相手の出方を見る。
|
| 『エクスカリバー』限定起動。『守護神』による治療開始。
| もう、これ以上の無様を晒さぬために。
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{ ィ ´／. /／ / /´＿ヽ／
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) 〃 /´ / / .lヽ }!
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￣｀ヽ_＿＿,-=-'‐--'､＿＿./ !＿＿＿__つ
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| 先に態勢を立て直したベイダーが屋根に着地。
| プラズマの剣を収納し、蚊を捕るかのように合掌。その動きに連動し、念動の板がやらない夫とニャンコ先生を叩き潰す。
|
|「ぎゃっ」
|
| 相性が悪い？ 未知の能力だった？
| 相手の実力を見切るのに失敗し、『エクスカリバー』をケチったツケ？
|
| 言い訳はいくらでも浮かぼう。だが、事実ベイダーはジャンヌやケンシロウに比べて強敵ではない。
| 個人戦闘能力ではやらない夫と同等か、それ以下であろう。
|
| にも拘らず、一方的にやられている理由は……シンプルに。
| ベイダーがやらない夫の戦い方を熟知し、的確に配置した部下と適切な戦術を用意した結果である。
|
| 深く考えず、出会いさえすれば勝てると考えていた脳筋のケンシロウとか、
| 復讐心で頭がいっぱいだからよく考えずにうろついていただけのジャンヌとは戦略時点で違っていたのである。
|
| では、そのベイダーが勝利を掴めない理由があるとすれば？
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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／ , ＼
／ / l ヽ
,r' / ヽﾞ,､ ﾞ,
. / ｲ/ ` ` ､ }
{ i | ﾞ ､,,`' ､ , j
ﾚ'､, | ,:r'"''‐ `'ﾞ、 ,､‐‐､ l こんばんわ。
ゝ」､ ､ , ,､‐''ﾞﾞ､ﾞ'､-――t'''/ ／ l | 備府やらない夫。
,ゝ‐､_,',. ' ,O 〉 V .( ﾞ, j i
',.ヽｿ. '､,,､ -'" / / j 私は自衛隊の五島だ。
'‐ﾚﾞ .,r' ノ ……君と協力できるのではと考えてね。
l` ` ､ i'" ﾞヽ､,／
. ﾞ､ ,,､ -‐'" ﾉ ヽｧ､
ﾞ､'´ .. ,rﾞ ノ ヾ＾ﾞヽ、
. ﾞ, ./ ,､ｒ' ／ ＼
!、 ／ ,､ｒ'" ／ /`'ｰ-
`'''"入￣ ,､r ''" ,､／ ／
く .Y'" .,､r'"／ ／
/" ` ､', ,､r''" ／__＿＿＿／
,､ - ''"´￣￣｀ﾞi zz,,,／ ＼
,､ '" ,､ ''" | ／ ＼
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| 静かに、滑らかに停車した黒塗りの高級車。
| ドアを開けたサングラスの男の怪しい笑み。
|
| やらない夫は差し出された手を迷いなく握った。
|
| ……こいつはジャンヌのように強力な敵かもしれない。
| だが、ケンシロウに教わったように、やらない夫は生きることを諦めないことにした。
|
| 蒼星石のように、やらない夫を利用しようとするだろう。
| だからもう油断はしない。先ほどのような真似は、もうしない。
|
| この男を利用し、体力を回復する。
| 地位も兵力もあるのだろう。情報能力も高かろう。
|
| 翠星石とやる夫のことを、探らなければならない。
| だから。
|
|「助けてくれ」
|「任せたまえ」
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☆ 次回予告！
あー、すんません。
前回は予告詐欺でした。ムスカよりもベイダーがメインでした。
次回は、珍しくやらない夫視点が続きます。
エロいヒロインも増えます。シャワーシーンもあります。
今度こそ五島ムスカ回です。
ホントホント。
本当に。
次回 最終幕 十四話 『今度こそ』
果てに見るのは破滅か死か。
やらない夫周りのの戦闘はテクニカルでいいな
>>596
これは翠星石だったよね
状況が煮詰まってきましたな！たった一つの冴えたやり方に到達できるのか！
完全なミスです…読み直しても気づいてなかった…。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
| ／// ￣￣￣|| ∧ﾆ∧＼ ￣￣￣￣＼
|__＿／__//ヽ(´ー｀)ﾉ||（ ´∀´）l ＼＿＿＿_＿＼＿♀＿__
ll"￣口￣ |￣￣￣￣|￣￣￣￣l￣二二￣ ⊂OOl皿lll皿00|
〔＿ll⌒ｌ____ﾍニニニニ|ニニニニ.|ﾟニﾆｌ⌒ｌ＿ l_Π l lニ囗ﾆΠ〕
‐‐ ￣`ー'￣￣￣￣`--'￣￣￣￣￣￣`ー'￣￣￣￣ `--'￣
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| 十一月の街を、黒塗りの高級車が疾駆する。
| 運転席には見るからに堅気ではないガタイの大男。後部座席はシャドーが強く外からでは見えない。
|
| そして、中からも外の様子は見えなかった。
| ウィンドウにはカーテンがかけられ、運転席との間には仕切りがある。
|
| 速度は法定をはるかに超過しているが、運転が滑らかすぎて危険性を感じさせない。
| アーノルド・ノイマンとどちらが上手であろうかと、ふかふかで小ぎれいな後部座席にもたれながらやらない夫は考える。
|
| 座席はやらない夫に染み付いたゴミと血の悪臭と汚れが移っていた。
| 三密状態の後部座席をクリーニングするのは大変な手間になるであろう。
|
| そんな風に考えながらもやらない夫は、気遣う素振りをわずかも見せない。
| なぜなら、隣に座る人物の観察に集中していたからである。
|
|「もう一度自己紹介しよう。自衛隊の五島一佐だ」
|
| 体を包むのは軍服ではなく瀟洒なスーツ。
| 吊り物ではなく体にしっかりフィットしたオーダーメイド。おそらくはブランド物だ。
|
| 一部の隙も無い着こなし。肩肘を張りすぎた感じもしない。
| 軍人らしい広い肩幅にしっくり来ている。その服装だけでただ者ではない。
|
| 王様の仕立て屋で出てきそうなほどだ。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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.′ .／ ／ﾚ′ ＼ ヽ
.′ , ｨムイ ヽ |
} { ＞ ´ | {、
ﾟ。 V .' /!
ﾟ。r.ミ } ..＿ ､__.ｨ二ヽ}.イ
`! }|‐- y'￣￣｀Yzzz{ fTヽ H .j
.} ゝ..＿__ノ |ゝ--- '/./ ご存じでないと思うが
ヽ .,、 _ .〉 ﾚ′ 私は元々は『結社』派でね。
｀Tﾊ ./
ヽ|ヽ ｀¨¨二¨” / 自衛隊の中で悪魔対策室の室長をしている。
| ﾟ /!
r┤ ヽ ノ .ト､
. -ﾍ ￣ 三三¨T二 --ｲ＼
_ ィ´:::::::::::|ー-- .＿__,オL_. - ｲ|:::::ヽー-ミ、
_. -‐:::￣::::::/::::::::::::::::ﾏー----／ ,| ＼ .|:::::::::＼:::::::::＞ ._
ー- ´::::::::::::::::::::::::/:::::::::::::::::::::＼ .／ { ヽ{::::::::::::::::ヽ::::::::::::::::::｀ー-----ミ、
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::i::::::::::::::::::::::::::::ヽ/ .ﾊ ＼:::::::::::::|:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::＼
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::|:::::::::::::::::::::::::::::/ 〈 | ヽ:::::::::|:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
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| 阿部さんの同僚……いや、商売敵か？
| 警察に悪魔対策の部署があるのなら、自衛隊にあってもおかしくはない。
|
| ……だが、それが『結社』派とは知らなかった。
| 警察が『血族』と懇意なのと関係があるのかもしれない。
|
| 『血族』が『教会』の下部組織であるのなら、確かに『結社』側の動向を探る組織があってもおかしくは無かろう。
|
|「……『結社』撃滅作戦の時は大丈夫だったんですか？」
|「もちろん。我々の情報収集力を舐めてもらっては困る」
|
| どこからかリークがあり、それで難を逃れたのだろう。
| それこそ、警察から？
|
|「オレを見つけたのもその情報網？」
|「そう思ってくれて構わない」
|
| ……違うな。
| やらない夫は答えをぼかすムスカに信頼の視線を向けた。
|
| 彼の情報網の偉大さに納得したと頷きながら、心中は真逆。
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／￣￣＼
_ノ ヽ、 ＼
（ ●）（ ●） | （どうとでも取れる答えをしているなら、
（__人__） | ..／} 判断はこっち次第だものな）
_ ヽ｀⌒ ´ | / / __
(＾ヽ{ ヽ { ./ / . ／ .ﾉ
(￣ ヽ ヽ i ヽ / 厶- ´ ／
.(二 ヽ i i |,r‐i ﾉ. ヽ / ／
ヽ ／ ノ ／ r一'´ ー ､ ￣￣￣）
i { ｲ―イ / .`ー―. ､＿_ .〈￣￣
ヽ. `ｰ '/ / /＼ ＼
`ー ' ￣￣! | ヽノ
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| ムスカは正直な相手とは言いづらい。
| だが、信用しすぎなければ問題もあるまい。
|
| 黒塗りの高級車は、しばしば停車している。一般道を走り続けている証拠だ。
| 高速道路とどちらがより危険だろうか。どちらにしても、動き続ける密室だ。
|
|「一般道を走っているのは、追跡されないようにするためさ」
|
| 高速道路より分岐が多い分、尾行が困難になるのだ。
| そも尾行は単独では行えない。追跡者と先回りをする者、それぞれの交代要員などが必須だ。
|
| であるなら分岐が多ければ多いほど、尾行は困難となっていく。
|
| が。
|
|
| それは一般的な尾行である。
| ニンジャや悪魔を対策しているかは疑問が残る。
|
| だがやらない夫はそれを指摘しなかった。
| ムスカの機嫌を損ねないためであり、ムスカが危険に襲われても関係がないからである。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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_,ノ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::｀ヽ
／::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::l￣｀ヽ:::::::::::::＼
／:::::::::::::,=､::::::::::::_,, -‐ｿノ ヽ:::::::::::::::ヽ
/::::::::::::::::/ ,r､'-ｧ――――-Y｀ヽ ',:::::::::､l/
l::::::::::::::::::{ { i' ヽl l ヽ ',::::::::',
l::::::::::::::::::ﾊ ｀ ＼ } l:::::::::}
',:::::::::::::::::::::〉'i ｀´ ヽ:::/ﾉ
',:::::,,..=ｰl/' l ,_ .',:/
＿,,...-t―-<ｰ‐- ,_ ヽ r-､ r'´ どうかね、
"´ ヽ:::::::::＼ ＞ ､ ＼ ｀ヽヽ / 我々は協力できるのはないかと
＼::::::::＼ ＞= ,,_ ＼ ｀ ｰ/ 思っているのだが。
::::::::::::::::::::::::::::::::ﾏ:::::::::＼ ￣｀iｰ 、 .,'
:::::::::::::::::::::::::::::::::::ﾏ::::::::::::＼＿ | ヽ ノ
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ﾏ:::::::::::::::＼｀ヽ |,r―＜´
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::｀ー―- ､::＼ ｀ｰ-=、＿ 〉
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::t―=＝'::::::::＼/´＞､ ￣｀ヽ
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::＼:::::::::::::::::::::::＼ ＞､ ﾊ
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
|「協力？」
|「そう、協力だ」
|
| サイドボードから未開封のペットボトルを二本取り出すムスカ。
| ごく普通のミネラルウォーターだ。毒入りでないと示すためか、やらない夫に選ばせる。
|
|「助けてくれた。水ももらえた。休憩もできている。それで、オレに何を求めている？」
|「性急だな、君は」
|「率直と言ってほしいだろ」
|
| つまらない駆け引きに興じる気がない意思表示だ。
| だが同時に、やらない夫はそんな余裕がない……と、思わせるための演技でもある。
|
|「君は好きに動いてくれればいい」
|「それがアンタにとってどんな利益になる？」
|「……」
|
| 最初こそ丁寧語を使っていたやらない夫が、すでにだいぶ砕けていることにムスカは気付いているだろうか。
| それが安心からくるものなのか、あるいは敵意なのか。想像してくれるとありがたい。
|
|「オレは何の目くらましになる？」
|「目くらまし……ではないな。証明材料の一つになる」
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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／ , ＼
／ / l ヽ
,r' / ヽﾞ,､ ﾞ,
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{ i | ﾞ ､,,`' ､ , j
ﾚ'､, | ,:r'"''‐ `'ﾞ、 ,､‐‐､ l
ゝ」､ ､ , ,､‐''ﾞﾞ､ﾞ'､-――t'''/ ／ l |
,ゝ‐､_,',. ' ,O 〉 V .( ﾞ, j i 我々自衛隊にとって
',.ヽｿ. '､,,､ -'" / / j 目の上のタンコブは何だと思うね？
'‐ﾚﾞ .,r' ノ
l` ` ､ i'" ﾞヽ､,／
. ﾞ､ ,,､ -‐'" ﾉ ヽｧ､
ﾞ､'´ .. ,rﾞ ノ ヾ＾ﾞヽ、
. ﾞ, ./ ,､ｒ' ／ ＼
!、 ／ ,､ｒ'" ／ /`'ｰ-
`'''"入￣ ,､r ''" ,､／ ／
く .Y'" .,､r'"／ ／
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|「『血族』じゃあないのか？」
|「そう思うかい？」
|
| 思う。だが、正しい答えでもないだろう。
|
|「『教会』『血族』『結社』……異能に関わる組織というか、異能や悪魔といった存在そのものが邪魔なんじゃあないのか？」
|「……それはまた、大胆だな」
|
| 薄く笑うムスカの眼が、サングラス越しでもギラついて見える。
| いつかその全てを屈服させようという激しい敵意。
|
| だが、今はまだ餌を前に「待て」を続ける軍用犬のように静かに。
|
|「警察とは連携していないのか？」
|「お互いに縄張り意識が強すぎてね。政治の世界はなかなか難しいものさ」
|
| つまり、その態度だろうよ。
| 阿部さんたちはこんな針の筵で仕事をしてきたのか。
|
|「警察の無能を証明してどうする？」
|「この国を守るには、彼らごときでは役者が不足していると思わないかね？」
|「そのための合衆国と『教会』……へえ」
|
| やらない夫は今気づいた様にうなずいた。
| こいつは、日本から『教会』だけでなく、合衆国軍も追い出したいのだ。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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|三三三三三三二ニ 三三ミﾄ､
ゞ-'"￣￣￣￣`''ー- 三三三ミ〉
<:: ::::::::::::::::::::.. `''‐-ミ三:/
x‐''"三三三三三三ミﾄ 、::::::::::::::..ヾ"
∨三三三三／＼三三 二三ミﾄ､ /
∨ニ≠－"_.:.:.:.:.:.＼三三三三三ミﾄ､
／.:.／./.:.:.:.:.:.＼.:.:.:.:.:ヽ.＝＝三三三ﾆ〉
,:.:.:.:.:/.:.:.:!.:.:.:.:.:.:.:.:.:.ヽ.:.:.:.:.:＼.:.｀ヽ三三 /
/.:.:.:./.:.:.:.:|.:.:.:.:.:.:.:.:.:.{.:.:ヽ.:.:.:.:.:ﾊ.:.:.:ﾊ:ヽﾐ/
/:.:.:.:.,:.:.:.:.:.:{:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ﾄ.:.:.:.:.:.:.:.:.:.ﾊ:.:.:.ﾊ:ﾊ
{.:.:.:.:.i.:.:.:..:.ハ:.:.:.:.:.:.i:.:.! ＼:.:.:.:.:.:.:.:.}:.:.: }:.:.}
!.:.:.:.:{.:.:.:.:.!､ Ⅵ.:.:.:ﾄ.:{. '⌒ヽ.:.:.:.:.:.|:.:.:.|:.:.:!
!.:.:.:.:!.:.:.:.:l ＼ヽ:.:.:| 弋／云ﾐx.:.:.:|:.:.:.':.:/
`Ⅵ.:.|.:.:.:-《幵ミ､ヾ{ /ﾍ:::ｃﾘ"}/}:.|:.:/:./
＼ヽ.:.:{:､:弋ｚ) ＼ ｀¨´ノ:/:/:/／
. ヾ＼:八 ' -=彡':./
rヾ＞..＿‘' ／圭ii}:{ 》rv‐v､
r 辷z_Yiif⌒ヾ{ii)ii<´ .ｊi!(《 (::::/::::..､
(、仁) Ⅵv彡"ヾii}`ーｲて"´:/::::::::ヽヽ
{:::廴廴._￣{ii{-/.ヾii> (《 (::::::/::::::::::::∧:{
}:::::ヽ廴)_)ノiｿr' r'廴〉廴)¨::::{:::::::::::::::::∧＼
/::::::::::::::::廴)¨廴/し'::::{:::::|::::::::|:::::::::::::::::::∧::::>
ノ::::::::::::::::::::::({⌒7::::::::::｣:::八⌒>:::::::::::::::::::::::〉'
｀〜､::::::::::::::::ノ'全{:::::::/´(_::／三7¨ヾ＿＿／{
}′ =_|三/ヾイi￣三三三三/彡'ﾍ ＜.ゝ
/ _ /.ゞミ/く >〉/三三三ﾐ／¨ .∧ ⌒ヽ
. _vﾍ"⌒!;／ミ〈 >ﾆ<_/三三三ミ> :ゝミﾆ ﾊ
iV' /:〉三ミ≧≦三三三三'ﾐ{ ヽ ﾉノヾ┐
. __i7 r‐':::{三ベ三三三三三シ⌒｀ヽ ゝ-‐" ヾ┐
i／ ,ﾉ}::::: |ﾐ'::::::::::¨!三ｼ´:::::::::::::::::::::::::ヽ ヽ ＼┐
,r=弋{. /::::∨:::i!:::::::::{::::|ﾐ/::::::::::::::::::::::／/:::ﾊ ヽ ＞
{亅x≦､ /::::::::::ヾヽ:::::::::}::::V:::::::::::::::::::／:::/:::::::::ﾊ ∨ ／(
. ゞ彡'´ .'ﾍ:::::::::::::＼＼:::i::::::::::::::::::::::::'::::／::::::::::::::ﾊ ∨>イ_r‐"＼
. ,r‐…'´ r !:::::＼::::::::::::＼`ヽ:::::::::::::::::::::／:::::::::::::::::::::ﾊ ﾍ ¨ー┐
. ｀,￣,r, (,/ |::::::::::::::::::::::::::::＼::、::::::::::／::;::::::::::::::::::::::::::ﾊ ヽ ヽ 7
. / //∧｜ !::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ:::::::::':::／::::::::::::::::::::::::::::: ﾊ ＼`ー-┐i
｀¨ ｀ ｀ |::::::::::::::::::::::::::::::::::::::≧":::'::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ `ー｀ .し
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| 過程はともかく目的は、ケンシロウが語った蒼星石の計画と近い。
|
| 蒼星石は、いつまでも居座る『教会』の過激派だけをとりあえず追い出そうとしている。
| だがムスカは、それだけではないのだろう。
|
|「この国はそろそろ、独立をしておくべきだと思わないかい」
|「植民地的な平和を捨ててでも？」
|「家畜の安寧に身をゆだねて、真の幸福がそこにあるとは思えんがね」
|
| 言葉が強いな。やらない夫はムスカの言わんとすることが理解できた。
| だが、それは死の淵を覗く自由だ。安全柵を飛び越える自由だ。
|
|「政治の世界はなかなかに難しいだろ」
|「だが考えてほしい。合衆国の横暴から解き放たれ、個人が自律して平和を守る国を」
|
| やらない夫は肩をすくめた。
| この男は軍事クーデターでも起こすつもりか？ 自衛隊を廃止して軍隊を再構築するとでも？
|
|「強大で残虐なテロリストから国を守るためには、合衆国軍ではダメなのだ。
| 国民一人一人の意識を変えていかなければならない。この国は、今こそ生まれ変わる時なのだ」
|
| そのために、強大で残虐なテロリストとでも手を組むのか。
| やらない夫は濡れ衣とはいえ吐き気がした。ムスカは手段を選ばない。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
|三三三三三三三三三三三＿7 /〈 〈＿_ ./ /７｜./ ∧＼ ./ /＿_〈 〈＿_ / ∧＼ 〈〈 / / 〈〈.∧∨,/三三三三三三三三三
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／￣￣＼
_ノ ヽ、 ＼ ,.:┐
.（ ●）（ ●） ..| ／ ｜ 日本人に危機感が足りないのは納得できるだろ。
（__人__） .|./ /
i⌒ ´ .r－､ |/ ／ よぉし分かった。
{ ヽ, ',. .,/ :/', あんたの協力を受け入れよう。
.ヽ .| l_/_, -‐､',
.ヽ . | / , -－'i|
/ { V , -－ﾍ
| ヽ Ｌ| r= |
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| 尊大に、自分が選んだような態度のやらない夫に、ムスカは一瞬だけ侮蔑の笑みを浮かべた。
| 即座に引っ込めたその表情の自然さに、やらない夫はムスカへの評価を書き換える。
|
| 今のは、演技だったのではあるまいか？
| こいつ、やらない夫の反応や軽蔑すらも計算に入れている可能性があるぞ。
|
| なにせ、そうとも。
| 軽薄で愚鈍な存在が、『結社』撃滅作戦を生き延びれたとは思えない。
|
| 自己への評価を極端に悪くするのがムスカの戦略かもしれない。
|
|「ところで、強大で残虐なテロリストはいつまで逃亡生活を続ければいい？」
|「国際指名手配を取り消すのは簡単なことではない」
|
| 国内の問題なら簡単にもみ消せるのかもしれないが。
|
|「別の人間になってもらうのが一番手っ取り早いな」
|「この世から居なくなる方が手っ取り早いのでは？」
|
| ムスカは笑った。酷く冷酷に。
| だが、同時にとても興味深く。
|
|「他人事のように言うね」
|「事実だろ」
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＼ヽ ゝゝ , 〉 ￣ }ﾉ
ヽ＼ , /ﾉ
＼ﾄ-i `''‐- ､,,,_ /‐'
l ヽ ＿ ￣ ﾉ 今後の日本には
lﾞ ﾞi / 優秀で信用できる工作員が足りていなくてね。
_,l ヽ /
,r'´ .l ,r‐- ､,_`'‐-─-- ,,_,,ｨl` >
＿ ＼ l/r' ￣｀`'''─--─'´ﾉ-､
_,,-‐''"´ _,,二ニﾆ=-､＿＿＿＿＿＿,,,,,--‐ｯ‐' ｀`‐､,,＿
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|「就職先の斡旋をしてくれると」
|「公務員でね」
|
| やらない夫の進路志望は収入の安定した国家公務員である。官僚でも可。
| これは高校時代から一貫しての志望であり、知られていても不思議はない。
|
| これはやらない夫を調べてあるというアピールなのだろう。
| やらない夫はそれに不快な表情で応えた。
|
|「話はこれで十分だろ。どこに連れてってくれる気だ？」
|「すでに分かっていると思うが、この自動車の中というのは安全な場所でね」
|
| それは、『敵』が往来を気にしない場合だけである。
| 『異端審問官』がやらない夫の居場所を知った場合は、周辺の被害など関係なく攻撃してくるだろう。
|
|「乗り降りが問題だな」
|「なので、人目に付かずに下車できる場所を選んだ」
|
| 車が止まる。ドアが自動で開く。
| 清潔な地下駐車場。目の前にはエレベータ。
|
| セレブや有名人御用達の高級ホテルか。
|
|「出るときは」
|「チェックアウトはしなくていい。いつでも使いたまえ」
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| 鍛え上げた肉体を熱いシャワーが伝い落ちる。
| 久しぶりの感触に、染み付いた疲労まで一緒に流れていく気がした。
|
|（エクスカリバーの『守護神』で肉体の疲労は消えているようだが、シャワーは別だな）
|『マジかよ、理解できねー』
|
| どれだけ汚くても一切気にならないねずみ男の感想。
| ちなみにやらない夫の仲魔たちは彼が別の人間と話しているときは比較的静かにしている。
|
| やらない夫からの思考は伝えているが、脳内で会話ばかりしていては知らない他者に訝しがられるからである。
|
|『自衛隊は信用できますか』
|『無理じゃろうな。そもそも登場が唐突すぎる』
|
|『登場が唐突なのは仕方ないのでは……？』
|『作者を甘やかすでない。いや、そうではなく』
|
| そう、唐突だった。そして謎も多い。
| 今まで、やらない夫を発見してきたのは『異端審問官』とケンシロウ。そしてベイダー。
|
| 地道に足で稼いできた『異端審問官』や、蒼星石からの情報で動いたケンシロウ。
| だがベイダーとムスカはどうやってやらない夫を発見した？
|
|『あの鎧どもは、特殊な異能を使いおったな』
|『それで俺らを見つけたって？』
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, ‐,=＝＝=‐ ､
〃 , -‐‐- ､ ﾊ ｺﾎｰ
|i i !! i iﾊ
|i _ｌ｣L =-‐ __ヽrﾍ、 ｺﾎｰ
. //´ ヽ.____ , '´ f ｒｖ'´)
// ∧ --ﾍ乂/
. // /＼｀Ｔフ n{
/厶 -‐=≦､_ `く ｨ凧
｀,ﾆ=‐ ､ ｀ _≧=‐'
, -＜ ｀ ‐-=≦､＿
／ ,ィ´ ｢ ｢｀ヽ‐､｀ヽ.
/ /i ﾄ､ l ! ヽ.ヽ ',
. / //i l ＼j ! ｉ i i i
/ /＼i l lヽ!__,ノ^| l_l |
ム /ハ＿__l__j_, イｌ |
├'∨ﾊ i_j＿j＿j＿j_! ! Ｌ.. -‐'77´￣ ｀二二ﾌ
i i l⌒ヽ_j__i＿j二ニ=-┴ '´ // }
i i lX´,ゝ－- - --‐ｧ,' i i { { `〈
i i lX｀7ニニニニﾆ{ { ,Ｌ二ﾆ=-‐'⌒ｰ'
i i l {｀{－－－－－ ` _, イ|
i i ト----‐─==＝T丁]：| l !
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| ねずみ男は一笑に付したが、事実ベイダーは超能力でやらない夫を発見していた。
| ＥＳＰで透視しながら地道に移動していたのである。
|
|（分からないことを考えても仕方ないだろ。今はそれよりムスカだ）
|『私は信用なりませんね』『同感じゃな』『なんだよ、誰かひとりくらい信用してやろうぜ』
|
| 満場一致の不信任。しかしそれでも、やらない夫は無防備にシャワーを浴びて体を洗う。
|
|（いつか裏切る気だろうから、こちらは裏切りのタイミングを間違えなければいい）
|『全部が終わった後の口封じもありえますしね』
|
|『その前に、適度なところで殺しに来るじゃろ』
|『手元に置いておいて、値段が吊り上がるの待ってんじゃねーの？』
|
| 仲魔たちの意見に、やらない夫はおおよそ同意見だった。
|
|（だからって先制攻撃で殺すわけにもいかないだろ）
|『そんなことしたら正真正銘のテロリストじゃな』
|
|『すでにそうなんじゃね？』
|（違いない）
|
| ムスカの思想が危険なのは言葉の端々から明らかであった。
| しかし、それが『振り』なのか本気なのかの判断も難しい。
|
| あれはやらない夫を操作するためのものだったのではなかろうか。
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=-……-=ミ
ア'´- ､ ＼ ＿｀ｧ''⌒`'く
/ / ヽ ` ､ ヽ ノ! ヽ
,' ', ∨.ﾊ ', ∨
|. | ', ＞‐',. V ﾊ } ∨
| | ﾄ､. '´ｧ _ヽ l/ ﾊ / ﾊ',
| ／⌒ ', ｨツ | } Y. }/ l i!
| ヽ|´_ヽ＼-` ::::::ﾚ'} }リ. j ' i!
|ﾊ . ｨ炒､ } } . // ' i!
}从乂:: _ ノ .l .从// {. /
|: ',八. ,ｲ / ﾊ ∨〃
∨}从＞- ＜ {/／ノ´￣｀丶､)ﾉ
-‐‐- ___} ´ Ｙ
／ ｀ |
,，-─- ＜ {_ -‐…‐-ミ | |
／ __,,...＞''´. . : : : . } ＼ |
、 γ⌒""´￣ ,;' { ; ,′
..`、 ノﾞ . . : :／: : : ,'⌒ { } ; ′
`､ 〈 . . : : ニ辷 { .:,′
`、 ゝ ＿_｣L...,,,,__ ､ / ′ /
. `､ )>｡,＿ ノ´ ￣｀丶 ヽ／/
`、 〈 _ -=ﾆ⌒ ＼ ´'く / /
. `､ ｀¨¨ア￣ .:′ ＼ ＼ /
＼ ,､ ´ . . : : : ／: : . | | | |__,>
／ . . : : : : ／: : : : :. く／| |_/ |
/ . . . . . . . . . . . ／￣ く／ |
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} ノ / | | ,
} } ／ ; ′
{ ﾉ ／ ..._ / | ,
{ ／ ´ ＼ ｛ | ,′
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| 備え付けのバスローブを羽織り、広いベッドルームに移動したやらない夫。
| ベッドにには先客が腰かけていた。一糸まとわぬ女である。
|
| 薄い照明でも女の瑞々しい肉体が確認できた。
| 震える白い肌。適度に筋肉のついたしなやかな肢体。
|
| これから自分がするべきことを覚悟した、しかし少なからず恐れを抱いた複雑な表情。
| うるんだ瞳。紅潮した頬。
|
|「あの……ええと」
|「ほほぉ、いい身体だな。キサマの作戦目的と所属は？」
|
| 豊満なバストと、整えられた体毛、触れたら弾けそうなほどに女性の魅力を溢れさせた肉体のライン。
| 年齢は二十を過ぎているだろう。三十より前に見える。
|
|「備府やらない夫氏の身辺警護と……お、お世話をいいつかりました。鹿島准尉です」
|「なんで身辺警護する人間が裸なんだ」
|
|「それは、その……無害であることを証明するためと……」
|「ためと？」
|
| やらない夫は不躾に女を見た。恥辱で震え、もじもじと足を動かしている。
| いじめてやりたくなるタイプだ。色々大変だろう。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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. ＞''~ﾐ´￣｀ヾｧ―く
.. ／｀>' ヽ ヽヾ. ヽ
. / / / / l ', '，∨ ∨
| {. | │ ﾊ │. '，| }
| ', | | ﾑイ. `トV|. }ﾉ/ ,'
. ﾍ }.l Ⅳ莎从 /莎ﾌ 从 . 乂
. ゝ ﾘ 八ゝ.;:;:;:..'. ;:; ﾉイ. { ) ヽ
.. Y´ / 从ヽ.. `" . ィ 廴从ノ )) や、やらない夫様の、その……。
ゞV (...＿ ｀i ‐ l.. ｀Ｙ´ イ
. l'´ ￣' ￣ ｀ヽ よ、夜の……相手を。
l .l ｀ヽ , '´ i ',
. {/,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,ﾍ{,,,,､,!,. }ﾞ|
i;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;};:;l l
{;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;;:,';:;:;} .l
. ',;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:/:;';;:;' .|
. }';:;:;:;:;:;:;:;:;:;;:;':;:;l:;:;l l
l;:';:;:;:;:;:;:;:／;:;:;:;{;:;{ |
ﾞ;:;:;';:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;';:;:l l
. /;:;:;:_ -― ､;:;, - ､;:l l
. /:;:;/ Y .ヾ !
/;:;/ } ', l
. /:;:/ ./ ',.!
. ／{;:/ /::ﾍ ',l
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|「念ため言うが、オレはお前が全裸でも、手錠と荒縄で拘束されてても警戒を解く気はないだろ。
| オレの仲間の三人なら、その状態からでも気を抜いたら殺される」
|
| 大嘘である。
| アリカなら確かに全裸拘束からでも膂力で引きちぎって撲殺するだろう。
|
| だが蒼星石は拘束しておけば無力化できる（全裸で無力化できるとは言っていない）。
| やる夫ならば全裸に剥かずとも人畜無害だ（個人の感想です）。
|
| やる夫が誰かを傷つけるなんてありえないだろ。
|
|「と言う訳で今すぐ完全武装してこの部屋から出ていけ」
|「え？ え？」
|
|「オレは久々にベッドで安心して熟睡する時間が欲しい」
|「ああ、はい。お疲れでしょう」
|
| この子、大丈夫だろうか。詐欺師に騙されたりしない？
|
|「じゃあ、そういうことで」
|
| 裸の女にバスローブを与え、やらない夫は部屋から手早く追い出した。
| 柔らかくいい匂いがして、乾燥した上質のベッド。
|
| お布団に包まれてあれ！
| さすがのやらない夫も、お布団には勝てない。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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/: : : : ヽ r‐┐＿＿＿_ .r‐‐ｖ'´: : : : :ヽ
|: : : : : : : |: : || ＿＿＿_.||: : f: : : : : : : |
ﾐ└---‐,= ' ＝ 二 ` ､ﾐ ヽ､. ‐--┘
彡`─ 7: : ／ ´ 丶 ヽ: : :r─ '
彡 !: : / / ＝ ｀ l : :1 ＜ＲＲＲ ＲＲＲ ＲＲＲ
彡 |.: : l | 〃 !! ! ! : :!
彡 !: : :l. ､ ､､ 〃 ､_」 .l: : :!
彡 .|: : : ､ ､ ゝ /: : :|
彡 ﾄ､: : 丶 ヽ､ ＿_ - ' ／○: 亅
彡 | ヽ､_ ` ､ ＿＿＿ ,. イ: : : : 彳:|
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|「私だ」
|『サー・トールマン？』
|
| カーネル
|「 『大佐』だ。 『カーネル』サンダース・トールマンと呼びたまえ。」
|「失礼サー・トールマン」
|
| 不敵な物言いに、サンダース・トールマン……在日合衆国大使のトールマン兄は低く唸った。
| 自分にこのような物言いをするのはどこのどいつだ？
|
|『ムスカです。五島ムスカ』
|「知らん名だな……いや待て、ゴトー……特務の青二才か？」
|『覚えていただいて光栄ですサー』
|
| トールマンの物言いに、しかし電話の向こうのムスカは穏やかに笑う。
|
|『本日は閣下に貸しを作っておきたいと思いまして』
|「貴様ごとき虫けらが？ この私に？」
|『ええ』
|
| トールマンは無言で続きを促した。
| この時間が無駄になったら、どんな目に合わせてやろうかと嗜虐的に笑いながら。
|
|『備府やらない夫の潜伏場所について』
|「……詳しく聞かせてもらおうか」
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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☆ 次回予告！
人は誰もが、『ここではないどこか』に憧れる。
自分の現状に満足できる者がどこにいる？
人間は貪欲だ。満ち足りた瞬間に次の何かを欲するもの。
いまではないいつか。
ここではないどこか。
そこに楽園があると信じて。
そこに満足があると疑いなく。
すなわち。不在こそ希望。
わかるだろう？
お前をここから逃がしてやろう。
次回 最終幕 十五話 『高良みゆきの地獄唄』
果てに見るのは破滅か死か。
おお、きな臭いきな臭い
今回の内容が次回予告のタイトルで頭からぶっ飛んだ
地獄唄て、お前
みゆきさんの受難は続く
この辺のBGMが流れそうな次回予告やなあ相変わらず
ttps://www.youtube.com/watch?v=vlHBVlp1KnQ
ttps://www.youtube.com/watch?v=OHCv1PJcaJo
＿＿＿＿
＿ -‐=≦__,__ | ＞
| ﾝ}丙＿ -=≦ ￣￣|ﾆ=- _
| ＿ -=≦ ＿ -=≦│二二ﾆ=- __
＿ -=≦ ＿ -=≦ |二二二二二二
＿[匚}__ r≦￣ ＿ -=≦ ＿ -=≦ |二二二二二二
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___｣Ｌl斗== |＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿_________ | | ＿ -=≦ ＿ -=≦ |二二二二二二
〈--―｢|￣￣|―――――(＼ ―――――――‐┤ | |＿ -=≦ ＿ -=≦ |二二二二二二
＿＿| |｣ | |工| |工| ＼＼（――) |工| |工| | | | ＿ -=≦ ＿ -=≦ |二二二二二二
___ -‐=ﾆ二二二| ｢| |＿＿＿＿＿_____￣||￣￣＿＿_________|― | |＿ -=≦ ＿ -=≦ |二二二二二二
巛》ニ二二二二二| |｣ | |工| |工| |工| || l工| |工| |工| | 田│ | ＿ -=≦ ＿ -=≦ |二二二二二巛
巛巛巛巛》ニ二二| ｢| |＿＿＿＿＿______ || ＿＿＿＿_______ | | |＿ -=≦ ＿ -=≦ ＿ -= |二二二二巛巛
巛巛巛巛巛巛巛巛》__」｣ | || | 田│ | ＿ -=≦ ＿ -=≦ |二二二巛巛巛
巛巛巛巛巛巛巛巛巛》 |＿＿|冊冊|冊冊冊冊冊 || 冊冊冊冊冊冊‐| | |＿ -=≦＿＿ -=≦＿＿＿＿__________|二二巛巛巛巛
巛巛巛巛巛巛巛巛巛巛》'￣￣ 厂 |￣┌┬┐￣ |l┌┬┐ ┌┬┐|￣￣￣￣ |二二二二巛巛巛《
巛巛巛巛巛巛巛巛巛巛巛》 〈 | 匚匚| || 匚匚] 匚匚] | |干干| |干干| |干干| ///|干干| |二二二二巛巛巛《
巛巛巛巛巛巛巛巛巛巛巛》＿_}____|＿＿＿＿＿ || ＿＿＿＿_____| ￣￣ ￣￣ ￣￣ ￣￣￣￣ |二二二二巛巛巛《
||二二ll二二ll二二ll二二ll二二||￣￣| |＿|＿| ll || |＿|＿| |＿| ｢￣￣￣￣￣￣|￣￣￣￣￣￣ |￣￣￣￣| | | | | | | |
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|「あの子の様子はどうですか？」
|
| 隔離病棟の薄暗い廊下で、ひそめた会話が闇に響く。
| 耳が痛くなるほどの静寂の中では、ひそひそ声すら耳にうるさい。
|
|「おとなしいものです。ほかの患者さんに比べればかわいいものですよ」
|「ですが……その……」
|
|「ご両親のおっしゃる通り、『人間を怖がる』のは確認できました。逆に言えば、人が姿を見せなければいいのです」
|「差し入れたものは……？」
|
|「ハムスターですか？ ずっと見ています。動物は大丈夫なのですね」
|「よかった……優しい子なんですよ、それが、なんで、あんな……」
|
|「暴れても力がないので実害はないのですが―――」
|「でもその―――」
|
| 二つの声が、同じ理由で口を噤む。
| 恐れ。恐れ。理の外にあるものへの。
|
|「―――暴れなければ、『それ』も起きないのですから、今は様子を見ましょう」
|「はい」
|
| 礼を述べ、足早に去る足音。
| 嘆息、苦笑。そして……。
|
|「まったく、気味の悪い患者だよ」
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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／ ／ ,/ |! l ヽ
/ ,.' /l l |.! l ヽ ＼
,' ﾚ′ ./ ,! ,'| | | ﾄ、 ｀、 ヽ
,' / / _,∠. ,!/ | i | ｣_| l、 ｀、 ヽヽ
| / / /／,/ // ! | ! ｀!｢`ﾄ､ ﾞ、 lﾞ､ﾞ､
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j ｲ l /,ｨ":|li|::| :::::ｌ/ / !:|l|il:ヾi. ﾞ、 l | ｜
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l ,' ！ l. | ｀＞: ､. ___ ,... r＜´ ! .|｜.|
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| 半裸で血まみれの高良みゆきが保護されたのは、三日も前のことになる。
| 全身を誰のものともわからぬ複数の人物の血液と臓物で濡らし、ふらふらと歩く狂女の姿は、出会った人間を恐怖させた。
|
| だが、本当に恐ろしい目にあったのは彼女を助けようとした人物であろう。
|
| みゆきは話しかけた人間を恐れた。
| 相手を人間だと認めると、絶叫して暴れた。
|
| さもありなん。
|
| みゆきは複数の男に暴力により屈服させられ、強姦される直前であった。
| 男への生理的恐怖は当然であろう。
|
| そしてみゆきは、彼女に襲い掛かった強姦魔どもを丁寧にミートソースにする工程を見せつけられた。
| 気を失ったら頭から血をぶっかけられ、目を背けることも許されず。
|
| 泣いても吐いても狂っても許されずに。
|
| みゆきを狂気の淵に追い込んだ者こそ水銀燈であり、そのせいでみゆきは女すべてに怯えて暴れた。
|
| ……さて、非力な裸の女がいくら暴れても大したことは無かろう。
| だが、事ここに及んではそうとも言い切れない部分があった。
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:|: |: : : : : : : : : : : : : :/ V: : :/: : : : : : : : : : : : ,j: : : l:: : : ﾊ.: : :.',
:: : : : : : : : : : : : : : : :ゝ-.': :,:': : : : : : : : : : : : :/:;!: : :l.: : : : ﾊ.: : ::',
:: : : : : : : : : : :U: : : : : : : :/: : : : : : : : : : : : ./:::::!: : :j: : : : : ﾊ.: : ::',
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:: : : :./:: : : :.,': : : : : ./: : : :,/: : : : : : : : /::::::::::::;':::/::::!:.:V: : : : :l: :.i: :.!
:: :.／: : : :.:,': : : : : :,': : :,:'-': : /: : : : :,:ｲ:::::::::::::/:/:::::,' : .;}: : : ::,': :j: : l
／:: : : : : /: : : : : : !: :./ l: :./ : : : :,ｲ:.l::::::::::::/ｲ:::::::{: ,' :.l: : :./: : ﾊ:..,'
:: : : : : : /: : : : : : :.l:. ﾊ {_',: .l.: : : :/:.:.::l:|: |:|/::::l:::::::::v: : :l: :./: : / jﾉ イイイイヤアアアアアアアアア
:: : : : : /: : : : : : : : V: ':, V: : : /: : :. l:|: |:| :::::ゝ- 'l: : /j:./!: :,:' アアアアアアアアアアアアアアアア！！！！！！
:: : : : /: : : : : : : : : : : : j: `:-V: :{: : : :.:l !. ! V/ '´/／
:: : : ,': : : : : : : : : : : : :/: : :.ﾊ:.ヽ;l: : : :.', , ―-, ﾉ '′
:: : :,: : : : : : : : : : : : :/: : :./ V: : : : : : V:::::::::/ ／ , - 、 ／￣_)
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| みゆきが暴れると、周囲の人間は体調不良に襲われた。
|
| 突然の腹痛、頭痛、吐き気、めまい。寒気、視力の低下、肋間神経痛、失禁。
| みゆきの狂乱とそれら諸症状の因果関係は証明できない。
|
| そもそも、一人の少女が暴れたから程度で、周辺の人間が様々な体調不良に陥るなんて意味不明だ。
| 意味不明だ。
|
|
| ……超能力や異能の専門家によれば、異能や悪魔との遭遇が、
| それまで何でもなかった一般人を異能者として覚醒させる原因となりえるのだという。
|
| 一度は一般的な大学病院に収容されたみゆきは、その異常性を感じ取った『専門家』に目をつけられた。
| 『専門家』は彼女の親を巧みな話術で丸め込み、『精神病院』に移送した。
|
| 『新宿衛生病院』。
| ギルバード・デュランダルが経営していた『結社』系の病院。
|
| 『結社』撃滅作戦後、デュランダルとシロッコが共同研究していた。
| なにを？ 『人間兵器』を。
|
| その試作こそがフリット・アスノの懐刀『ダースベイダー』率いる『ストームトルーパー』であり。
| 十二人の改造人間『カトル・カール』である。
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| 『結社』撃滅作戦で脳死した異能者を改造し、十二人で一つの脳という特殊ユニットと化した『ストームトルーパー』。
| 肉体を破損した『武僧』に機械の体を与えて悪魔を殺す最強のチームを作り出した『カトル・カール』。
|
| 前者はシロッコの下では活用できず、失敗作としてフリットに下取りされた。
| ……本当に失敗作だったかどうかは不明だが。
|
| 後者はミスト・レックスと四ツ目相手に十二対二で無様を晒し、二名の欠員を出していた。
| シロッコは『カトル・カール』の増員のために藤木源之助のような『欠落した』達人に声をかけているようだが。
|
| 同様に。
|
| 『ストームトルーパー』の第二部隊を作るために『適切な』異能者を探しており。
| みゆきは、脳を改造してその狂気の抑制することで『適切』なのではないかと考えられたのである。
|
| だがここで横紙破りがあった。
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.:.:.:.:.:.! ! ! ,' ／ / / ヽ＼ .! | |.:.|.:.:.:
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.:.:.:.:.| ｌ !,.lｨ'ﾞ/ __,. - / / -- ､,__ ヽ | ! !.:.:!.:.:.
.:.:.:.:l l | ／二ｪ=ｰ､ /／ ｨ＝=ミ､ ＼! ｌ .l.:.:|.:.:.
.:.:.:.:| | |ﾒ<ｲ r:'::ﾉ:iﾉ/ ､f:Y::ﾊ ｀>| | | !.:.|.:.:
.:.:.:.:| i ! ! ｀￣´ , ￣´ | | ! |.:.:|.:.: かわいそうなみゆきちゃん。
.:.:.:.:| | ', ﾄ, ! | | ! |.:.:.|.:.
.:.:.:.:| | ', ﾄ、 l l l ｲ.:.:.|.:. ……でもまあ、やる夫くんのいる世界を覗けたのだから、
.:.:.:.:| |ヽ i ゞヽ ｰ──,.ｧ ,ｲ l ! |.:.:.:!.:. あなたも本望だったんじゃあないかしら？
.:.:.:.:| | | ', | ＼ ／/ l / |.:.:.:|.:.
.:.:.:.:', l l ヽ ヽ ヽ、 ／! ! / / |.:.:.:.!.:
.:.:.:.:.ﾊ',| ', ', !ヽ､ ,_,. ｨ '´ | | ! / |.:.:.:.|.:
.:.:.:/.:.:ヾ ヽ ヽ r=ﾆ! ﾙ、l // !.:.:.:|.:
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| 『血族』の研究者、『人間の手で神を殺す方法』を研究する者。
| 鷹野三四がみゆきを引き取ったのである。
|
| みゆき自身の能力が薄く、しかも無差別範囲型ならばチームを作るのに不向きであるためと、
| 彼女は精神に異常をきたしていたとしても肉体的には健康であるため、機械化は倫理的に難しいからである。
|
| もちろん、完全な詭弁だ。
|
| とくに後者。シロッコも三四も、死んだデュランダルも倫理などには縛られない。
| 必要とあらばどんな偽装をしてでもみゆきを手に入れただろう。
|
| かくして『血族』が『狂乱病』患者を収容する精神病院に収容されたみゆきは、
| 男を見れば生理的恐怖で暴れ。女を見れば死への恐怖で暴れた。
|
| 食事も肉類はダメで、加工されていても嘔吐して暴れた。
| 彼女が暴れると、周囲の。同じフロアの患者全員が不調になった。
|
| 医者も、看護師も不調を訴えた。
|
| 原因は不明。
| 異能だとしても具体的に何が起こっているのかは解明できない。
|
| みゆきが極めて特殊な、ユニークな異能の持ち主である可能性もあったが。
| あったが、三四はみゆきの能力に類似した異能を突き止めていた。
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___ _＿_
/ ￣ ＼
. / ┐ ∨
. / 信 筋 ∨
. /. 用 肉 ∨
|. で └ |
__,｡-＜ | き は ./
／ｨ、 ヽ ∧ な /
-==´7ﾞ＼､ ヽ＼ ＼. い ./
|.,ｬ＜ ｀ .､＼｀ ‐ヽ ＿ ＿/'' *｡.
／ｲ l. ｀ヽ_,,.､-､-､ﾍ､ ﾞヽ /／ ‐ ｀´.――-.｡.｀
'´ ∧ﾍ.―ヾ'_ﾌｨﾞiヾ.∨ﾞｉ::｡=--、-､ヽ＼ ｀
>.ヽ≧, ´ヾﾞ' }､∨:/ _ ｀ﾞ' ＜__|
. / ∧ヽ└',_- /_.〉∨ ｨ ) / ヽ-∨
{ | _∧ ﾐ≧´}彡ﾞ ∨｀ ´ ./ ∨
｝.l（.__∧ | |ﾆ| ﾊ ∨ { ｨ Y |
ノ,=､ヽ .ハ | .|ﾆ;| ∧ | .∧ ヽ- '. }
. ／ ∨ﾊ |,､__ﾊ | .|ﾆ;{ )| | , .|::/ ヽ
. ／ ､__∨.ﾌ ､Y_､.| .|三!¨´ ﾍ|（ .iﾊ{ , ヾ┘
. / i ヽ / /〈 ､Ｙ//＼三;| ｀ﾞ´ / .ﾉ.ﾍ、.}
. { ﾍﾉ__ {___ﾐ､ヽﾆ'.､//,＼;| Ｙ , .T´ :}´
｀＞､ヾ´ ｀¨丁´ ＼//,＼ヽ-ｲ /´:::::::..ﾞ'{
´ ﾞＹ､ /=＼//ﾞ'/￣ Ｙi ( ｉ .|
. ,,イ;:ソ三;ｲｒ＼ﾄイﾞ､´|ヾ ､ ｀´, i
(;:;:;:;:/三/:;:ヾ=-ゞ//,ヾ.//｡=ｲﾚ
〉;:;:;/三/:;:;└=;ﾆ''＼//,ヽ､
,.｡ｲ;:;:;:ヾ、/:;:;:;:;:;:(.ｘ＜´;:Y'､:三＼
. ,,｡*;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;ｙ;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:Ｙ(! ＼:三＼
. ,,ｲ;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;{:;:;::;:;:;:;:;:;:;:;:;:;ヽ,＼ ＼:.三＼
ｲ;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:ィ;:;:;:;:;:;:;／ゝ;:;:ヽ, ＼ ＼:.三＼
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| 『人間もどき』である。
| ある特定のルールに従って発動し、ルールに従う限り無敵も同然の能力。
|
| ルールに則った『呪殺』。
|
|「……もしも、この想像が正しければ」
|
| 三四は複雑に笑いながらみゆきを観察する。
| 監視カメラ越しのみゆきは、ケージの中で回るねずみ車に話しかけている。
|
| その言葉は舌足らずな幼児のそれで、支離滅裂で、感情の起伏が激しく突然泣いたり暴れたりした。
|
|「みゆきちゃんは『接触』を受けていたことになるわね」
|
| 『人間もどき』の支配者。
| 恐るべき高次元介入者。
|
| あの、ニャルラトホテプの。
|
|「だとしたら」
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´￣｀ー' ｀´ /::::i::ノ:::::::::l !::｀ｰ':::ﾊ∨ｊ:::} /
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__,､_ｒ--ー''::::ﾄ-':::::::::::／／::/::::::l|://::/
｀ ＜::::::::::::::::::::::://:::::::::::/ /:::::::ﾍ:::::::::!' j::/
圭≧=､ヽ::::::::::::/{::::::::::::/ /:::::::::::::::｀ー<ノ
圭Ⅳi三>ｭ＼:::::::i|:;-､/ /:::::::::::::::::::::::::/
圭!/三/i三ﾊヽ:::::l| /:: ｀ｒ､::::::::::::::/
圭三ﾆ|/三三ﾊ:::::!i ﾉ::i{ Y-'｀ヽノ
圭王三三Ⅳ|ﾊ !::::｀':::::/｀ｰ'
圭≧=､三=|/ハ}｀ヽ:_/
王王王≧三三ゝ-､
圭/王王王≧=三三ヽ
王王王王王王王≧､三≧､
王王王王王王王,ィ≦王≧三ニ=､
王王王王王王,ｲ王王王王王三三ヽ
王王王王王Ⅳ王王王王王王王三ﾆヽ
王王王王|Ⅳ王王王王王王王王三三ﾊ
王王王王王王王王王王王王王王三三i
王王|i王王王王王王王王王王王王三三ｌ
王王i|!王i|王王王王王王王王王王三三l|ｌ｀
王王=|! ｲ王王王王王王王王王王三三三ﾄ
王ヽ王|!l王王王王王王王王王王三三三|lﾊ
三ヽヾl||!王王王王王三三三三三三三ノ王ハ,
三三王ヾ!王王王王王三王王王王王王王王ﾍ＼
三三王王l|!王王王王三王王王王王王王 王ハ三＼
王三三ヾl|l|ﾊ王王王王三王王王王王王三王王i三三ヽ
王王三三ヾｭヾ,､王王王 l|l王王王王王王三王王､三三三ヽ
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| ニャルラトホテプによる介入が、普通人に異能を植え付けることができるのなら。
| そしてそれが、『人間もどき』のような初見殺しであるのなら。
|
| みゆきを研究し、実験し、解剖することでそのシステムの一端でもつかめるのなら。
|
|「とても愉しいことになるわ」
|
| 三四が、みゆきをシロッコから救ったのはその程度の理由である。
| みゆきが切り刻まれ、醜く異形の機械の体にされるのを哀れんだからではない。
|
| 他でもない三四自身が。
| 自分自身のその手でみゆきを切り刻み、腑分けし、調べ尽くして。
|
| 骨の髄まで無駄遣いせずに使い潰すためである。
|
|「分かって頂戴、人類の未来のためには必要な犠牲なのよ」
|
| 恍惚の表情で、三四が画面の向こうのみゆきに話しかける。
| 心にもないことを。
|
|「本当はただ、調べてみたいだけなのだけれど」
|
| そう、何も見つからない可能性の方がはるかに高い。
| でもまあ、万が一に何かあったら嬉しいよね。
|
| 期待はしすぎない。でも、解剖したい。もしかしたら予想以上の結果が出るから？
| いいえ、ただただ楽しいから。
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／ ＼
／ ／ ヽ
/ .／／ ヽ
/ ./ ／ , ' ﾊ
i // , - ／ ,イ l ﾊ
l // ／ ／ ／ // i | i
i〃 ﾆZ ／ - ' // / : :l l
Vｲﾌ／' ´`丶 i,ｲ / . : : i l
/〉 ` -ﾐヽ`ﾄl.l / . : : :i l
/ r '´ ､じ,､.l llヽ / . : : : :/ l
/ l ヾ ,ゝ､l./ : . : : : :/ i
/ lヽ、 l ｿ . : . : : : : ｲ ! ここにやる夫君が居たらな。
/ / : :l ` / . : : : . : : : : :/l /
' ｲ : : :l / . : : : . : : : : :/: l l/
.,' /l : : : :丶 ､ / . : : : : : : : : :/: : :l :l l
.l / l : : : : : :/: :7 ＞/ . : : : : : : : : : /: : : :l: l l
l / .l : : : : : /: :/〃/ . : : : : :/: : :／.: : : : :i: l: l
l/ l: : : : :./: /〃/ . : : : : :/: :.∠ﾍ: : : : : l: . l :ﾄ; l
l l: : : :〃/ 〃/: : : : :／: ∠.......ﾍ.: : : : l: . l l l: l
l l: :.//ノ /,=i: : : :／: ／-－-ﾆﾍ.: : : :l: . .l :l l: l
l /i/ ／ l: : :／: ／ ﾍ: : : l: . l . : :l l: l
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| 切ないため息をつく三四。その目はまるで恋する乙女。
| 狂気の淵で理性を失ったみゆきに対する少なくない羨望の眼差し。
|
| 机に接着されたラットのケージに殴りかかり手の甲を擦切って悲鳴を上げ、
| わんわん泣きながらみゆきにしか見えない誰かに幼稚な言い訳と謝罪を繰り返す。
|
| そんなみゆきを、三四は羨ましいとばかりに見詰める。
|
|「真紅ちゃんに会いたいわ」
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| そして、酒を飲み交わしながら愚痴を言いたかった。
| でもそれは叶わないだろう。今の状況では、入即貸本に集まることもできない。
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| あの店を切り盛りしていた二人。
| その片割れである長門有希は生死不明。
|
| そしてみゆきはこの状態だ。
|
| ……『血族』の調査班を使って確認させたところ、入即貸本には少なくとも五名分の血液が飛散していた。
| 貴重な古書の類も損壊していたので、どこの誰とも知れぬ輩の死体などよりもそちらの修復を優先させている。
|
| であるため、みゆきが保護されて以降は行方不明の長門有希については放置していた。
| 入即貸本は監視カメラと魔術的な監視を施し、進入禁止のロープを張っておいた。
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| これで不法侵入者も、そして正式な帰還者も確認できた。
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,' / / _,∠. ,!/ | i | ｣_| l、 ｀、 ヽヽ
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/ / / / l/ ｜｜ / l| l. ｀、 l ヾ:､ めんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ
. ,' j ,' ./ ,r:==ﾐ. | .,' 作ミﾄ､ ｀、 i. | ﾘ んなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめん
j ｲ l /,ｨ | ｌ/ / ! ヾi. ﾞ、 l | ｜ なさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんな
l !｀、 l l {ﾍ. i /,∠, l :ﾍ /! l. ∧ ! さいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ
ヽl ｀、 l. l | ヾ-‐'' '"厂{ ﾞ‐-'′,! l ,' ./ !/ いごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
| ＼ ﾄ! | 、. , ' ヽ、 ｲ /!/./ ,!' ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいご
|. ,' l ｀ヾ:..ﾄ､` ｰ‐ '′- ｀ ¨´,.ｨ .l/':ｲ めんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ
l ,' ！ l. | ｀＞: ､. ___ ,... r＜´ ! .|｜.| んなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめん
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/ ∧ ヽ. l￣ ￣| V l l
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/ ∧＼ ｀､ ｀､l ! / ハ l
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| 三四は憂鬱のため息をついた。
| 早くみゆきを調査したい。
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| だけれども、それには面倒な手続きが必要だった。
|
| みゆきは精神的には不安定だが、肉体的には健康だ。
| 狂気も恒常的なそれではなく、専門家は一時的な可能性が高いと判断していた。
|
| 非人道的な実験の材料にするには、みゆきには希望が多すぎる。
| そもそも異能の存在証明もできていない。
|
| できていないが。
|
|「七号室に代わりのネズミを」
|
| 無線のスイッチを押して、無感情に指示。
| いつの間にか絶命していたラットに、みゆきが不安そうに語りかけている。
|
| その異能が発動して、哀れな小動物は内臓に疾患を起こして死んでしまったのだ。
| 人間であれば体調不良で済むような状態でも、小動物には致命的なのである。
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| 予期せぬ来訪者に、三四は顔を上げた。
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|「どちら様かしら？」
|「私だ」
|「ああ、お入りください」
|
| ドア越しの声は柔らかで、深く優しく安心させられた。
| 三四はすぐに相手の正体に気づき、入るように促した。
|
| 椅子から立って出迎える三四に、訪問者は困ったように微笑んだ。
| 敬意を示す必要もないし、畏まらなくてもいい。そういう態度に三四は首を振る。
|
|「そういう訳にもいきませんから」
|「……すまないね」
|
| 声だけで心が安らぐ。
| 毛羽立っていた気持ちが静められ、不安が雲散霧消していく。
|
|「こんな時間に訪問して申し訳ない」
|「お忙しいのでしょう。私の方こそあまりお構いできず申し訳ありません」
|
| 彼の声をずっと聞いていたい。彼の傍にいたい。
| 彼の仕事を手伝いたい。彼を独占していたい。
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ヽ: :}｀ﾞ: : :. :. :. :. :Ｖ/: : : : : /∧
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人ー一: : : :/: : :.ｊノ／∧/∧＿__
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/＼// ヽ|////// ＼///////,|l | |///////////////／/| }_//￣￣＼/
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| だが、そうも言ってはいられない。
| 三四は仕事があり、彼もまた暇ではない。
|
|「不躾で申し訳ないのですが実は一つ……お願いがあって参りました」
|「まあ、他人行儀ですこと。私とあなたの仲ではございませんか」
|
| そう笑う三四の心中は歓喜に満たされていた。
| 彼から頼みごとをされるという優越感。彼の力になれるかもしれないという期待。
|
|「検体の一人に面会をしたいのですが」
|
| どこまでも穏やかなお願いに、三四はしかし、しばし凍り付いた。
| 嘆息。髪をかき上げ顔を覆う。
|
|「よくご存じですのね」
|「いいえ、偶然です。ずっと探していたのですよ」
|
| 楽しい計画はおしまいだ。三四は肩を落とした。
|
|「あなたに知られてはもうどうしようもございません……清掃班は必要ですか？」
|「そこまでは煩わせられませんよ」
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／ ,' ｉ | ｀ヽ、
／ ,ﾉ | | |: ＼
/ ／ ,ｉ: |∨ : : ｉ |＼ |､:. ＼
l ,/ /|: | ∨: :| | | ∨ |∨ ﾊゝ
ｊﾉ,' ,/-|‐|‐' V:.| | | ｰ|-|-∨ .∧
/ / /ｉ | |__. | | / .|.__.| | | ､ ﾊ う、うう……？
| :|: /:/: |ｨ´ｊ/ ｀ヽlﾉ /,'´! :ｊ/ヽ. | ｉ | |
ヽ|ｉ /'/: ｉ| ,ﾉ,／l l:| |､ |＼|
| /（_|:: ||､ '".,ﾉ￣' , ,ﾉ:| |::| /
∨ :|: || `ｰ-‐'" `ｰ-‐'" | |:::| ,/
/ : :| |!ヽ､ r───‐┐ ﾉ|,ﾉ:::ｊ／ ‐=っ
⊂=- / : ::| 人:::::::l'ＹＹＹ'l l'ＹＹＹ'l＜::::|: :∧ ‐=⊃
⊂=‐. / : : :∨ヽ､｀ l￣￣￣ll￣￣￣~l::::::|: : :∧
/ : : : :/＼ : ::〈￣￣￣:|'￣￣￣゛〉､:|: : : :∧
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| ねずみのゲージを揺すっていたみゆきは、開錠の音に顔を上げた。
| 多くの場合、ここで現れるのは黒子だ。
|
| 人間の形はしていても、顔を隠して男とも女ともつかせなければ、みゆきは狂乱しない。
| しかし……この時に限っては違っていた。
|
|「えっ」
|
| 侵入者は素早くみゆきの顔面を鷲掴みにした。
| 人間に、いたいけな少女に対するものとは思えないほど無造作に、手加減無く。
|
|「い、痛い痛い！ やめ！ あっあっあ…………ッ」
|
| 悲鳴は容易く途切れた。みゆきの目は急速に光を失い、半開きの口からはだらしなくよだれが糸を引いた。
| 侵入者が手を離すと、糸の切れた人形のように倒れる。
|
| ピクリとも動かないみゆきを一顧だにせず、侵入者はその手に残った品物を確認した。
|
|「……とんだ見込み違いだったな、高良みゆき。だがその無能のお陰で、ほぼ無傷で回収できたか」
|
| 侵入者の手には、プリズムを放つ円盤があった。
| この世界にたった三つしかない『チート』。『天地人のＤＩＳＫ』。
|
| 二つは品川大聖堂で破損してしまったため、現存する唯一無二の『不正改造兵器』であった。
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,,,,,,---''~~~~~~~~''''''~~~~~~=＝*<*フ
,,,,,,,-''''' ＼ ゝ,,ヾヾ巛巛ゞ《《
ー~/ ＼＿＿＿＿＿ ,,ゞゞゞミミ《<ヾフ
/ ／ ゞ巛ミﾐ<
/＼ ／ ヽ,ヽ《《《《《
ベリ / ＼ ＼/￣￣￣~'/ゞゝヾ巛<ゞ
| | /＼ ベリ / ∩∩∩/ゞヾ||ヽ巛《フ
|...,,,,,,,,|,,,,,,,,,--''''''[][][][]''''''''''''''-ーーー-----<||ゞヾミﾐﾐ《ゝ
,,,-''''''''''''~~~~ ＿-----''''''|'''|⊥⊥⊥⊥￣◎ ミ巛 《ゞ
／ ,,,＿----￣ ,,,,,,,,,|,,,|,＿,,,,,|--|-／ |ミ巛《ヾノ
/ ＿,,,,,--'''''''〆 ,,,,,,--ベリ,,,,,,--~／／ :: ヽミ《ゝ《_
| D I S C (,,--(＿／ ,,,,,,--'''',,,-'''''''~~ 〆／--'''ヽ ヽ／,,,,, ヽ
ヽ,＿＿＿＿,,,,,,,,--.ヽ -'~,,,,-''''''~~~ / /~「・」,,,/ / | |
-'~,,- =======ゞ, ヾヽー''''''~~ ） | |
,,,-''~,,-~ヽ,ゞ /,-TG△》ゝ,-'''--,,＿＿＿＿＿ ゝ / /
,-'~ ,-~ ヽヽ,, ゞ,,,--''''~ //'~~^^'-ーーーーー’ / /
（ イメージ ）
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| 侵入者は迷わず、円盤を自分の頭部に当てた。
| まるで抵抗なく、円盤が脳に収納される。同時に彼の体に電流が走り、びくびくと震えながら膝をついた。
|
|「少しばかりＤＩＳＫに傷があるな……しかしほとんど『読み込み』していないようで助かった」
|
| 侵入者は胸ポケットに収納してある一枚……品川大聖堂で回収した『人』のＤＩＳＫ、『ボヘミアン・ラプソディ』を思い出す。
| 『母』にすっかり定着していたため、再利用ができなかったのだ。
|
| 本当は『ボヘミアン・ラプソディ』か、『アンダーグラウンド』が最適だったのに。
| 時間がない。世界が滅ぶ。その時に、生き残るためには力が必要だった。
|
|「何が原因でイカれてしまったかは知らないが、
| 『スカイ・ハイ』を強制排出したせいでお前の脳はもう取り返しがつかないだろう」
|
| 侵入者は失禁し床を濡らしても身じろぎ一つしないみゆきを見下ろし、聞こえていないと知りつつも語り掛けた。
|
|「だが、お前の犠牲は無駄ではない。なぜなら私が、お前と家族の命を助けてやるのだからな」
|
| 言い残し、侵入者は。
| ニャルラトホテプは突然激昂してみゆきの腹を全力で蹴った。
|
|「ぐぽッ！！」
|
| 意識のないまま壁に激突し、嘔吐するみゆきに冷たい視線を投げかけて、ニャルラトホテプは部屋を出た。
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☆ 次回予告！
異能の、異形の戦いの中で。
その力を失ってしまったら。
もはや武器はない。身を守る鎧もない。
神仏の加護もない。
力あるものが、その力を使うのは権利である。
力があるという現実である。
力ないものが、その力を求めるのは当然である。
力がないという現実である。
力あるものが、力ないものを守るのは尊き行いである。
ヒーローとしての矜持である。
……では、力ないものが力ないものを守るのは？
次回 最終幕 十六話 『わたしたちはガンダムじゃあない』
果てに見るのは破滅か死か。
ひたすらひどい目にあいつつ何も終わってないみゆきさん……
みゆきさんにはまだ役目があるはず（たぶん）
前回
ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/15956/1548538375/408n-
†
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／'i,ヽ
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ﾐゞ;;;| ￣ | ￣ |;:;ミ__ヽﾐゞ,,＿;;:ヽ_;:ゞ;;＿＿＿＿.＿＿＿＿ ﾐゞ;;ﾐゞ;;
ヾ;:;:ヽﾐ;;| l⌒l | l⌒l |;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;; ゞｿミゝﾐゞ;;ヾ;:;;:
ﾐゞ;;;| |....:l | |;;;;;l |;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;ヾ;:;;:ヽﾐゞ;;ｿゝﾐゞ;;
ヾ;:;ゝ | |;;;;;l | |;;;;;l |;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;ヾ;:;ミヽﾐゞ;;ヾ;:;;:
ヾゝｿ | __ | __ |;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;;;;;;i;ゞゝヽﾐ;ｿミゝﾐゞ;;
ﾐゞ;;;| LLｌ | LL;;;| __ .__ __ .__ .__ |ﾐゞ;;;:;ｿｿミヾ;:;;:
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| 聖アンジェラ教会。またの名を『暴力教会』。
| 明らかにカタギではないシスターたちと、出入りするマルボウにしか見えない男たち。
|
| 実際『教会』の実働部隊の前線基地を兼ねているので、怪しい場所なのは確かなのだが。
| だが、こう見えてこの教会は悪魔や異能との戦いで家族を失った孤児を引き取って育てている。
|
| 本当はとても慈悲深く、心優しいシスターたちがなのだ。
|
| ……実際には。
| 悪魔や異能と接触した者は異能に覚醒しやすいという鷹野三四の研究を補助する形で、経過観察をしているのだが。
|
| 具体的には、十年ほど前に発生した悪魔による観光バス襲撃事件。
| 子供しか生き残らなかったこの凄惨な『事故』。
|
| その生き残りは全員が聖アンジェラ教会の孤児院に引き取られていた。
| 残念ながら、彼らの中からまだ誰も異能を発現していない。
|
| ……そういうことになっている。
|
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|
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| 事実はともかく。
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,.ィ≦三ヽ､_
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／:r'二´三三三三二｝
／:.:.:.:.）三三三三三三く_
rｰ-ｖ一'⌒ヽノj:.:.: , イ ￣￣｀ ＜三三三ﾆ）
|匸7:.:.:.:.:.:.:/_7:.:／:r┘/ ヽ、三〔_
／人/:.:.:.:.:.:.ﾊ７:.:.:.:.:.〈 ′ ､ ヽ三ﾌ
＼V{:.:.:.:.:. /ﾆ7.:.:.:.:.:_:ﾉ, l | ､ヽ ヽ ∨ 〉
└う:.:.:.:.{三{:.:.:.:.:.:ヽ ｌ | lﾄ､＼ヽ ヽ｀ 、｀､Vﾆヽ、
／ {:.:.:.:.:.|三|:.:.:.:.r‐'∥ ｌ | ',丶 ｌ 川 l | ｌ | ! ヽ＼
// ∧:.:.:.:.ｌ三l:.:.:.:ヽ |ヽ｣斗-ﾍ }ノ,ｴZ{ノ/リﾍ＼ ＼ヽ
. | l / ヽ、:.:Vﾆヽ:.:r个ﾄ,ｨfｌ圷 ｀ 化ﾉｹハ ｀ヽ＞└′
ｌ｜,' 「ヽ{ｌＨｌﾘ:{ 小 ` ゞ ′ 八ヽ＼
｜V ,' l| | ｀ ＜7/ | lヽ､ , .′, 仆 ヽ ＼ヽ
｀７ / ,ｲ | l├ヘヽ―ﾍ、__,.:'⌒ヽ ｀､｀､ ヽ＼
/ / |｜ | |:.／ヽ＼::.::rﾍ::.::.::.::.::＼ヽ ＼ ＼ヽ
,' ′ / /|｜ ／ヽ＼::.::.::.) ）{廴r-､__::.:rく ＼ ヽノ /
/ / /ﾊ !／:.:.:._:_;＞=≠-‐､::.f‐ﾐ ヽV ＼ } 〉 /
. / / / 'rﾍヽ:.:.:. ヽ二ﾆ＝=､ ｝:｢｀{ ,ゝ､＿Ｖ_/∠＿
/ , / ,':.:.:.:.ヽ＼:.:.:.:.:.: r‐彡ィ´:::|::.::>‐':.:.:.:.｀)ー‐r≠ﾆ ｝
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／/ | / /:.:.:.f⌒ヽ:.:.ヽ｀､:.:.:.:.:{{ヽＬ 厶-‐'/:.:.:.:.:.:.:.:.:|:.:.人 ヽ
. / l | /ヽ､:_＞ｸ^ヽ:_:＼ヽ:.:.:.:｀T￢ー‐く丶:.:.:.:.:.:.:.:!:ハ ｀ヽ ＼
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| 最年長で、すでに社会に出て働いている不人気は、すでに独立していて安アパートに住んでいる。
| 続く年齢のマリナ・イスマイールも働いていた。
|
| 聖アンジェラ教会は彼らを独立させることよりも、監視したい。
| そのためマリナは就職直前、大学に通っている間も孤児施設に住んでいた。
|
| 現在も二名、大学に通いながら施設に住んでいる。
| 施設は彼らの『帰宅』を積極的に歓迎した。そのため不人気などは時間を作っては顔を出す。
|
| だが、この一週間は姿を見せない。
| 現在の東京はオカルトが、悪魔や幽霊の気配が強い。
|
| 三流オカルト紙のライターであるまな板にとっては書き入れ時なのだろう。
|
| マリナもマリナで顔を出さない。
| 高校は偉い人が行方不明だとか、非行が横行しているとか。
|
| 学生は恐怖を感じないのか、あるいはだからこそなのか夜遊びに耽り、教師はその対処に追われている。
|
| 結果。
| 学校を一か月以上無断欠席の夢宮アリカが孤児施設に住み着いていてもそれを咎める者がいない。
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. / / / 'rﾍヽ:.:.:. ヽ二ﾆ＝=､ ｝:｢｀{ ,ゝ､＿Ｖ_/∠＿
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| そのためマリナは就職直前、大学に通っている間も孤児施設に住んでいた。
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| 施設は彼らの『帰宅』を積極的に歓迎した。そのため不人気などは時間を作っては顔を出す。
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| 現在の東京はオカルトが、悪魔や幽霊の気配が強い。
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| 三流オカルト紙のライターであるまな板にとっては書き入れ時なのだろう。
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| マリナもマリナで顔を出さない。
| 高校は偉い人が行方不明だとか、非行が横行しているとか。
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| 学生は恐怖を感じないのか、あるいはだからこそなのか夜遊びに耽り、教師はその対処に追われている。
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＼ ヽN / fﾊ ﾋﾘ /,.ｨ=rく/l 夕飯はお鍋だよ！
ﾊ. ﾋﾘ , , ´// .ﾉ }/
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| 聖アンジェラ教会のシスター・エダによって、アリカは孤児施設に放り込まれた。
| 品川大聖堂の戦いの後、一時的とはいえ封印されたアリカは神仏の加護を失っていた。
|
| もはや五百円玉を素手で曲げることはできないし、電信柱も引っこ抜けない。
| なによりも、祖母の形見である『蒼天の青玉』が反応しなくなった。
|
| 強大な悪魔を封じていたとされる強化外骨格であるのだが、『教会』謹製の封印によってその悪魔が滅んでしまったのか。
| アリカの呼びかけにうんともすんとも言わない。
|
| 装着前はピアスなのであるが、嵌められたサファイヤにもどんよりと光がない。
| 本来は制作者であるマイケル小原に修理を頼むべきである。
|
| エダも、彼女の上役であるヨランダもそう進言した。
| だけれど、アリカはかぶりを振った。マイケルのところには行きたくなかった。
|
| どんな顔をすればいいのかわからない。
| アリカは普通の女の子になってしまって、『蒼天の青玉』はポンコツに。
|
| 上手く言葉にはできないけれど、顔を合わせるのは、はばかられたのだ。
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／' r二_'―- ..＿＿
／' _ ゝ、_￣ ｀ - ﾆ_Ｙ⌒ヽ
〃 ／ ｀r_ｰ､ _,ゝ､ ヽ＿＿＿＿
〃 / / / ﾄ､ヽｰﾆ_ｰ .__/ ヽ ｀¨ ‐- _
（( // | | ハヽ､ ヽ｀＞‐ヽ .从_r ￣ ＼
｀ｰ || | ヽ!-‐ ｀ ￣ ´ . -V_ ! _∠_ 丶
ヽ V ﾄゝ､ ´ 心ﾉヽ/ ¨ﾉ >､＿ / せっちゃーん？
|Ｙ rひ) ┴‐'´/_∠_ ／_| .べ丶 /
＿＿」 ,,ヽ' ヽ ＿_ 〃'´ ￣￣／／ ｀ ‐- /
_-=-´_二ﾆ=! ﾏ´ l ∧ ／／ /
〃 〃 ヽ V / ｜ ＼_/／ /
´ ヽ ＼ ｰ ' ／￣ヽ ） ／
_､ ＿ 丶、／ ﾉ >' ／
ゝ ゝ-､ ＿ ／ ヽ_ ィ _ - ｲ ,.ｲ
￣｀丶､ゝ- ､＿／ ヾ _∠-ｵヽ< // ／{ ヽ
｀' ーｙ' _ ゝ'´ 〃一' / i ／ Y |
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_ -‐ ´ r'⌒'/ 〃 / ｜ ／ ヽ,ｲ
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| だからこの孤児院で、家事を手伝って、家庭菜園を手伝って、大工仕事をして。
| アリカは笑顔でそんな数日間を過ごしていた。
|
|「せっちゃん、ごはんだよー」
|「……ああ」
|
| 聖英刹那はこの孤児院に住んでいる。
| 幼いころ、悪魔による事故で家族を失った彼はまさに聖アンジェラ教会の『監視対象』。
|
| であると同時に、この教会を訪れていた『悪魔狩り』……アリー・アル・サーシェスとゾルフ・Ｊ・キンブリーに戦闘の、
| 対悪魔、対異能戦闘の訓練を受けていた少年である。
|
| それがいかなる戯れか、サーシェスもキンブリーも答えられない。
| キンブリーはサーシェスに殺害され、そのサーシェスも刹那たちによって自爆した。
|
| 詳細は不明だが、サーシェスは刹那の家族を殺害したバス事故の主犯でもあったらしい。
| 本人が「バスを襲った悪魔は俺が放った」などと公言していた。
|
| けれど詳しいことを聞く前にサーシェスは死んだ。
| あれがその場しのぎの嘘か撹乱であったとしてもおかしくはないが、真実は闇の中。
|
| なんにせよ、刹那の戦いは終わった。
| 『夢世界』の黒幕でもあった裏切者サーシェスを殺し、そして、そして……。
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／: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :､: : : : :＼
/: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :＼-､_: : ＼
/: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : |: : : :ヽ: : : : ヽ: :､: :ヽ ヽ､ ＼
, ': : : : : : : : : | : : : : : : : : : : / : ;| :｜: : ヽ: : : :丶 ヽ: ∧ ‐ ＼
＿_／: ／: : : : : : : :|: : /: : : : / ／:/:/ V |: |: : : ＼: : : ＼l: l:∧ ｀ヽ
ヽー ｀ﾆ＝‐:´: : : : : : _ : : | : l : : : : ﾚ: :ィ ｌ/＼Ⅵ: !:|:| : V : >: __ 丶､ i
丶､: : : : :‐＝ニ／: : ィ:| l | : : ／ｨ: :/ ｆ＝ﾐヽﾄ､l |:|: : |: /: : / : ┬ `＝-
≧＝―: : :´: : : :ィ:_|:ﾍ|: : |: : l|: :| 、 ｆｨふﾐヾ|: : |/: ／: :l : |: : l
` ￢￢ ＝:彡く |: :l: : :l: :ハ: | ｀弋( /: :ｨｹ7: /: /: / : : ',
ヽ l､: :´: :＼ V:l: : :|: l ヽl /／{ﾘﾂ /: /l / ＼ : '､
`l ヽ : : : : >Ⅵ: : ﾄ l ノ´ ヾ:ノ／ ﾉ' ＼ ＼
V: :l N `lヽ | _ > ｀ ‐ヽ
|:l: l/ `l ,.､__ ,ｒ ｆ´
__,|ﾙ' ￣__｀ﾝヽ:l
|‐┴-､_ l ､ /ｌ | ｀ 今行く。
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/ ヽ ／￣/｀ Ti l'′
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＿＿,,.. -‐ ¨´ Ｋ ､ | ﾉ }-､
l ヽ｀ ‐-､_ ｊ′ ∧ ` ー- ､__
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| 刹那の部屋は角の二人部屋である。
| だが、相部屋である大学生のジュンは、研究とレポートが忙しく最近はほとんど帰らない。
|
| おかげでほとんど一人部屋だ。
| その部屋にこもり、刹那は学校から帰ったら趣味のプラモデルをずっといじっていた。
|
| ガンプラバトルに出れば感嘆間違いなしのスクラッチ。
| それに集中することで、何かを忘れようとするように。
|
|「お部屋に籠りっきりは体に悪いよ？」
|「換気はしている」
|
| 部屋から出てきた刹那は、顔色が悪く目の下には深い隈があった。
| 睡眠を削ってガンプラに熱中しているのではない。
|
| 夜、眠りたくても眠れないのだ。
|
|「お風呂の後、部屋行ってもいい？」
|「……」
|
| アリカの耳打ちに、刹那は胡乱な目つきで応えた。
| そしてわずかな間をおいて、静かにうなずく。
|
|「じゃあ、また後でね」
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.. ....:.r:.:..:‐-.:..::.:::...、
....:..:.: :.:.:..::.:|:.:..:.:.:..:..: :.:..:...:ヽ
rｱ.:..:. :..: :.:..:...:.:｛:.:..:|!:.:..:.:. :.:.:. :.:..:.:.
ノ/:.ヽ :::.: :..::.:::ﾐ´ ＼ｌヽ:.:..ﾄ:..:.:､.: :.:.:..:.
ノﾀi:.: :.:.: :.:.:..:ト´ ,x=＝=＼､＼ｌ＼:.: :ﾊ
ｲﾉ |.: ::ヽ:.::.:.:.}´ , ､ -xl:. :.:i
ｲ { }:.: :.:. :..:.:.ﾐ / 札! l:.: :}
ﾉ／ { ﾄ.:.:: :.:.ﾐ { ﾄｨﾉ ' 仭ｲ:.:/
{Yi }ﾄ ヽ「ミ｀''‐-､ , ｰ レ'
ﾉノ )〈 { 〈 ヽ __ __ | おじゃましまーす。
{Y} {Y} ゝ ､ ＼ 丶 / 丿
iタ }〈 l丶 ヽ_ノ ／ ＼
{r} {y} l ` . ／
}ﾀ 〉| l Ｔ
{y} ﾏ! ノ ___ ト ._
ﾏ｝ {i}_ - ´／ ヘ l! ｀ ‐ 、
{ﾍ , ´ ｒ´ -┤ -‐ l! ハ
ﾏ! / l -┤ l! ｌ
ｔ} ′ l ｲノ l! |
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| 普通の女の子は気配の一切を消し、足音もなく移動しない。
| 古い廊下を軋ませずに歩くこともできない。
|
|「隣は誰だっけ」
|「今はいない」
|「じゃあ、ちょっと声出しても平気だね」
|
| いつもは結んでいる髪をおろし、ぶかぶかのピンクのパジャマを着たアリカ。
| 無防備にベッドに腰かけ、誤解されそうな言い方をするが残念。相手は刹那である。
|
|「うるさくするなら外に行こう」
|「そだね」
|
| パジャマの裾からにょっきり伸びた白い足をぶらぶら振りながら、アリカは部屋を見回す。
| 大きな作業机。専門的な道具の数々。壁には刹那のガンプラと、ジュンのドールが並んでいる。
|
|「見られてるみたいで落ち着かないね」
|「すぐに馴れる」
|「ふーん」
|
| そわそわと、どこか上の空のアリカ。
| それまで作業をしていた刹那はニッパを置いて彼女を見た。
|
| 赤銅色の瞳にじっと見つめられ、アリカは思い出したように足を閉じて赤面する。
| 立ち上がり、隣に座る刹那。ガンプラ作業をしていたため、ジャージ姿。
|
| 肩が触れ合うほどは近くなく、しかし体温は伝わる距離。
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. ―― ､ヽ::ヽ )ヽ ､
-‐ _´＝＝‐-､::::ヽl::::::':::::} ｊ＼
､ ／_.- ´:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::´ニﾆ.ヽ
｀､ ― ´_::::::::-‐:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::＼
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／´ア::::／::::::::::／:::::::::ヽ:::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ::l
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ノ::ｨ::::ィ:::'::l/:::/:／:::::::::: /:|:::l＼::ヽ::::::::::::l::::::､:::::::
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. |:ｌ |:::|::::ヽ从l､:::l::/ﾉ'´ﾅ弋ｚﾘ |::|::::/ノ ﾉ:/
. |:l ゝ:ヽ::::ﾍ弋ｆﾄN 一”ｿ::l::/_／::/ ……。
. `l ヽ:l＼:≧” ﾉ ／‐ナ |:::::Ｎ
ｿ }:∧ ヽ. , ﾉl::::|
l´ ＼ ｆ―-､ ／ ´ /:ｌ::|
丶. ´ l八:|､
. , -―― ｀¨{ , ′ ｀ ＼
/ ヽ ヽ / ＼
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l ヽ _ｒ――--- , ´
｜ ′ ｿ {
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| アリカの肌が上気し、熱を放っているのは風呂上がりのせいだけではないだろう。
| ぶかぶかのパジャマの襟首から覗く白い鎖骨となだらかな膨らみ。
|
| 刹那はそれらに視線を向けず。
| 対面しては喋りにくいから、壁に向かって口を開いた。
|
|「何か大切なことを忘れてしまった」
|「……」
|
| アリカは、小さく頷いた。返事はなくても刹那は続ける。
|
|「オレはガンダムで、だがガンダムではない。そもそもガンダムとは何なんだ？」
|「せっちゃん……」
|
| ガンダム。刹那の願い。目標。
| 十年前のバス事故で、彼だけが目撃した『天使』。
|
| 絶体絶命の状況で、それでも立ち向かおうとした刹那をかばい、悪魔を滅ぼした救世主。
|
| であったと、アリカは聞いていた。
|
|「バス事故があったという。家族は死んだという。俺にはその記憶がない」
|「え？」
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|ｨ::/:lヽ:::::::::|l 弋zﾘ｀ﾞ 弋ｔﾘｿ | |:::::::::ﾊ
|ｊ∧:ヽｌ:::::::::≧=ー‐ ( ￣ ｛从:l:::l 忘れてしまったんだ。
| Ⅳ::＼::::､＼＿_ _ / 〃 lへヽ 置いてきてしまったんだ。
| ｀l＼::∧::ﾄ｀ ＼ ＿ ∠{ `
| ｿ ﾘﾄ､ ＼ '´ ‐ ／| ＼ 向こう側に、知らない場所に。
| く`ー ≧ . __ ∠ハ! 《アトカタモナイノ国》に。
| ,} | 厂 |
| _ -‐'∧ 、 l / 〈廴＿__
|― ∧ ､ `{ ﾍ ｀ー―
| ∧ ＼}ﾉ ∨
| ＼ ヽ ｖ
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| それは蘇芳・パヴリチェンコの《滅ぼすもの》。
| 『夢世界』での戦いの中で、暴走した蘇芳を助けるために、刹那は大切な記憶を犠牲にしたのだ。
|
| 戦いが終わり、平穏が戻っても、それは戻らない。
| どこにもない。まるで全てがなかったように。
|
|「なぜ俺は、ガンダムに憧れていたんだろう」
|「それが、せっちゃんの『最初』だったからじゃないかな」
|
| 刹那は胸元を握りしめる。ジャージのジッパーが歪む。最初。原点。
| それが分からないから、つらいのだ。
|
|「アリカの『最初』はなんだった？」
|「ばっちゃの仇討ちか……だったな」
|
| 復讐。そういう意味で、二人は似ていた。
| 訳の分からないような相手に立ち向かい、家族の仇を討つために。
|
|「『今』は？」
|「うーん……」
|
| 『最初』が分からないのなら、『今』の目的を考えてみる。
| 刹那の『今』は何もない。
|
| 復讐は果たした。時計は動き出した。
| 刹那は自由だ。これから何をしてもいい。これから、どこへ行けばいい？
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/Z / ｀ ヽ ´
.i r┬‐┐.. ﾊﾘ
{/＼_/´:: :: .─-_.. /|
V:: :: :.ﾊ: :: :: :: :: f'´|ヽ
/ﾊ:: ::.〈 〉:: :: :: ::ハ ﾊ ! 仇はもう討っちゃったし、
{ } ＼:l {_:_:_:／ ／ 借り物だった力もなくなっちゃった。
〉{ ,⊥ﾊ--T"
/｀＼へ! 〉-'＝〈 /=-､＼ _ .. -‐r ､
|: . `!/ﾊ ハ ｨ 〃 （: . }
⊃:_:_.〈 | ﾐﾍ ヽ/ r彡::/ﾆ 厂Jr┘
「 .ハ ＾ /ﾊ＾ / {:.:.T ﾍ
ヽ -＝{ } ヽ/ . :/-─rJ: . |_ノ
｛´ 〉{ ハ ;|__:_:_{: .. |
Y´{. } ヽ } l|_て: .: |
|: ハ /ヽ l|:.:.|: .: |
「￣{ ﾉ. : : : . l ﾉ. . |/ヽ:. . |
/ / } : : : : :ハ .ﾆ〈 /: .. |
／ー'|〈 .: : ヽ/ /| 〉: . |
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| アリカはニャルラトホテプは放逐できたと思っていた。
|
| 復讐は果たした。時計は動き出した。
| アリカも自由だ。これから何をしてもいい。これから、どこへ行けばいい？
|
|「もう何も、残っていないのか？」
|「……せっちゃんは？」
|
|「わからない」
|「あたしも」
|
| アリカは背中からベッドに倒れこんだ。
| 胸のふくらみが、小さな突起が存在を主張する。
|
| 無感情に見下ろす刹那に、アリカが両手を差し伸べた。
| おいでおいでをするように、あるいは。
|
| 抱きしめてくれと甘えるように。
|
|「ねえせっちゃん、もう頭がぐちゃぐちゃなんだよ」
|「……」
|「お願い、全部忘れさせて……」
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_ =＝―-､
, ィ´ _ -‐ヽー- ､
／ , イ: : : /: : : :: : : : :ヽ
// ,ｲ: : : : : /: : : : :'; : : : : : ヽ
ｌ/ /;': : : ;i: :ﾊ: : :i: : |!: : '; : : : ﾊ
!' ｌ !: ｲィﾆニｭヽ: : l_ｌ＿:l: : : : :i
' , |: !:|´ヽ!__ヾヽ!＼ｊ｀Tヽ＼: : : !
ヽ l:ゝｊ ｲ´てﾊ ＿ヽ: !: j: :ﾉ あ、ああ……。
／ｲ i 弋zｿ ｲ´ かj: /: /
,ｲ/ ｌ:ヽlﾟ//// , ゞ-ﾟ /;': イ せっちゃん……すごかったね……。
{:（ ｊ: : : :ゝ ､ ｧ //イ; ィﾊ ! ンン……キモチよかった。
ヾ ,'_ ｒｭ : | ｀ － ７´: : : :/jl: |
/´〈ｲ ｊ､｀__ !､: : : :´ノ: :!
/ ｊ,ｒ ｭ､_ ｀ -ｲﾊ! ´: : :|
/ /,' ヽ ／｀､ｌ´∨: : l
,ｲｲ _ ｒﾉ´ l i : : i
/ ／ ｲ´ ' |: : :',
/ ／ '_ ノ ', ﾉ !: : :ﾊ
,' ｲ / ｀ ー ｲ ｌ: : : : ',
!/ / / !: : : : ; ',
', _,ｲ , ｲ l : j: : : ﾄ }
!｀7´ /: :ｌ !: :ﾊ: : /j/
,イ !: : l i/ j:ノ ´
ィ´ i/ l -' ´
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|「汗をかくのはいいな。発散すると、悩みはなくなったように感じる」
|
| 大の字になって転がるアリカを見下ろし、刹那は荒い息で額をぬぐった。
| 差し出されたタオルを受け取るアリカ。疲労困憊で立ち上がれない。
|
|「結局、解決してないんだけどね」
|「十回も相手をさせといてそれか」
|
| 憮然とする刹那に、アリカは淫蕩な笑みで応えた。
|
|「せっちゃんもキモチよかったでしょ？」
|「……」
|
| 最初の三戦は互いに素手、すべてアリカの圧勝。
| そこからはペルソナを使用、その上で互角。
|
| 最後の三戦は刹那も本気、殺すつもりで融合装着型のペルソナを全力使用。
| 二回は刹那が圧勝。三回目は……アリカが反応するようになってきたが体力切れ。
|
| 終わってみたら、『普通の女の子』の格闘術に翻弄されるばかりの十本組手だった。
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! i ／ : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : ＼ ＼
i |: : : /: /: /: :!: :!: :!: : : :ヽ: ､: : : : : ヽ / ＼
i | : 〃: :!:！: :!: :!: :|: : : : : !: :ヽ: : : : : ヽ/ ',
| l :〃: :i!: :|: : |: :ｌ : ﾄ､: : ! :l: : : !: : : : : : ヽ }
| !/ : r介:.|､: :!; :ヽ:|_,ヽ l: :! : : ﾄ: : : : : : : ! /
| !: : :|:| { :| ヽ{ ＼: ＼ |ﾊム: :/_ヽ:: : :!: : ! ./
| !: : ﾊ{ ゝ!-‐=､、 ￣｀' ﾉ ∨ ｀| : /: : :| ./
| ! : l/ r仞か ´ -_二.ヽ /イ : : ｲ /
| | : | いじり ｆィかi Ｙ i: : // /
| ﾄ､:{ ‐'＝´ 弋ﾑｼ ﾉ／: :ｲ/ / せっちゃん、強いなぁ。
! |: ヽゝ / ｀"／.;ィ´〃 /
! ﾄ､､ :} ´￣ ∧ ´ / ぜんぜん、勝てなかったぁ……。
! ト|: Y r‐ ┐ lｊ ∧ ', /
! l: !:.:ト､ ｀￣ ／ l :l /
.i ﾊ:!:八 丶 _ ´ /:/ /
i ﾄｆ: :| ｀ ー‐／ ／´ /
.i | ! : ＼ ／ヽヽ ./
.! /ハ: : : ! / ヽヽ /
.! ！ j // ト､:ﾍ､ / ｌ l / /
! ∨ // ! ! : ヽ ｌ l ! /
！ / ／へム ヽ ＼: :l l l !./
i /＿_／／ 〈ﾊＹ ＼ ｀ |: :ヽ. ｌ l Y
!_／ _／ / //｀ ｉ＼＼ ヽ: : l , -_に二ﾍ
〈 _／〃 / / ｉ ＼＼_ Ｙヽ ／／ 〈ﾊ〉､ ＼＿
!／ /' ｉ ! ｀ ｰ-| : Ｙ- ' ｀丶＼ ヽ }
! / | ヽ: :ﾄ､ヽ ヽ ｿ
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|「……」
|
| ペルソナを使い、位相間移動を行い、アリー・アル・サーシェスに仕込まれた『教会』の戦闘術を駆使し。
| その上でようやく優位を掴んだ刹那。
|
|「もう一回できる？」
|「無理を言うな、そんだけへばっていて」
|
| 飲み物を用意してこなかった。
| 秋の終わりの寒い夜なのに、二人とも滝のように汗をかいていた。当然喉もからからだ。
|
|「でも、足りないよ。もっと、もっと……」
|
| 床に転がりながら、アリカはか細い声でうめいた。
| 刹那に言葉はない。かける言葉が、思いつかない。
|
|「あたしはもっと強かった。もっと動けた……どうしたらいいのかわからないよ」
|
| 滲む焦燥。両腕で隠された顔。震える語尾。
|
|「泣くな」
|「……泣いて、ぐすっ……ないよぉ」
|
| 鼻をすすりながらの否定は説得力に欠けていた。
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ヽ､.........＿
__,.ﾆｰ_､::::::ヽヽ
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,..‐'ﾆ-::'´:::::｀ヽ､:::::::;ニﾆ''-､
,r'ｨ,r';r::´::::::::::::::::::::::::::::::｀ヽ､ヾヽ
,/' //:::::::::;::::::::::::;:ィ:::::::::::::::::::::::ヽヾ､
＿//_ノ:::'::::::;::ィ'::;／::::::ﾍ:::ヽ::::::､:::':::lﾞ'
｀ﾞ''ｧ:;=--ｧ‐;;::ィ:´:::::;:rヽ::ﾍ:::､ゝ､::ヽ:::|
i::l:::::｀l:l::l::::i:/::,r'::ｨ::;:ｲ〉､ゝ､'ｰ､'ｰ:::乂
l::l::i::::lllt､:::l:::::i://ノ__,:ノ l':::-､;_::i::､::ゝ 泣くな。
'､l::l::::ll|tj:､l:::iT''ｱ',rj:┬ヽl:::::::;ｸ}:ｲ}
ヽ:::､::lﾄ乂ヽ､ ´ ゞﾉｨｲ':/::/ /ノ ……お前が、強い必要はあるのか？
ヽ::ヽ ﾉ _,ノ;:ｨ':´/
ﾉi::ﾍ ｀ ＿_ , ｲ:::::{
ゝ｀i ､ ｰ ｀ ,／ lﾑ:::l
' >イﾑ-‐''´ l;＞ヽ_
,r‐t..f:´rﾞゝﾚ ,..‐:´::::::;::::ク､
,r‐'''ヽ:::＼::::::｀ヽ‐::':´:::::::;:ィ'::::::::::::::|
./.l ﾉ::::::::::‐=ー::::'''';:‐::´:::::::::::::::::/ ヽ
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| もうそんなにも強いのに。
| 刹那はそんな言葉を飲み込んだ。
|
| アリカは強い。肉体的には恐ろしく強い。
| だけれど、だけれど……。
|
|「『強くなければ生きていけない』ってばっちゃが言ってた」
|「お前は十分強い。それじゃダメなのか」
|
| アリカは鼻をすすった。
|
|「ぐすん……強いって、なに？」
|「お前が言うか……」
|
| アリカにも分からない強さなど、刹那にはわからない。
| 刹那の求めるガンダムが、刹那自身にもアリカにも分からないように。
|
|「わかんない……」
|「ああ、わからないな」
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☆ 次回予告！
誰がお前を必要とした？
誰がお前は大切だと言った？
お前の代わりがいないなんて、そんな言葉を信じていたのか？
もしかして、自分は特別だなんて本気で思っていたのか？
お前はそこら辺にいる、平均以下の人材だ。
十把一絡げ。凡庸で退屈。
天才？ 人並外れてる？
そんな風におだてられて、木に登っている様を見てみんな笑っていたぞ。
もう分かったろう？
お前はクビだ。
俺の前から消えろ。
次回 最終幕 十七話 『『血族』には労働基準法が適用されない』
果てに見るのは破滅か死か。
青春ですなあ
次回タイトルひどいｗｗｗ
綺麗な青春だった
__ ／二ﾆヽ }
} ＼__ ／二二二ﾆ,__L
} ｰ {二≧s｡ _ ／二二ニニニi }
L __{二ニニﾆ≧s｡jI斗‐=＝=‐- _二二|ーL
} _二二二ﾆアﾟ.::.::.::.::.::.::.:_ -‐ ､ ｀,ｰ '＜ }
} ｰ‐ﾆ二二ｱﾟ.::.::.::.::.::.: ´.::.::.::.::.::∨.::.::.::.::.`' ､
L __ -二/.::.::.::.::.::.／.::.::.::.::.::.::.::.::.:i}, .::.::.::.::.::.::.＼
､ ＼7.::.::.::.::.::,.::.::.::.::.::.::.::.::.::.,.::.::.:ﾟ, .::.::.::.::..::.::.::.`､
＼ ｰ .:i{.::.::.:: / .::.::.::.::.::.::.::.::./.::.::.::.:ﾟ,.::.::.::.::.`､.:.::.::.`,
ヽｉl l{.::.:: /.:,.::.::.::.::.:: ,.:.::./.::.::.::i.::.:}`､.::`, :.:.`,:.::.ﾟ,.::.,
i|l八.::.,ﾟ.:/.::.::.::.::.::/.:.::.'i.:ｉ.::i__|i.: } `,斗f七}.:.:.:}l.:i}
l|l.::.::ヾ.::ﾟ:.::.::.::.::./.:.::.::iTΓ|::｣Lﾉ }:｣｣ilＬ｝___}l´
l|l.::.::.ｌi.:ｌ{.::.::.::. /ilL:.::.｣jI斗ャ 圻ﾘ }ニ∨
l|l.::.::.ｌi.:l「｀Ｙ⌒Y^ﾌ圻hﾉ狄 沙 ,ﾟニﾆi__
l|l.:i.::八{`ヾｰ‐‐' ｉ ~^^´ , {ｉﾆﾆﾉヽ｝
l|l.:l.::.::人「(}ニニ{ u 从´{__ノ
l|l.:l.::.::.::.::ソ^Y＾Yヽ, r つ , ＾ﾟVi´:.::.∨
l|l人.::.::.::.⌒l{i⌒⌒､ うぅs｡ イしﾞ il|:.::.::. ∨
. 八{「＼.::.::.:「{|.::.::.::.::.＼‐- _jﾌ爪]′)' il|.::.::.::.::}i
______ ≫' |八:.::.::.::.::.::.＼ /'ﾞ⌒ { ､ '<⌒ ､￣~"''＜
i ｀`'´､ ⌒i＼.::.::.::.::{「 {.. . . .人 ~"''＼ ”''＜
. ｌ| ＼ ⌒[＼ .::.{i {＼. . . .｣≧s｡.,_ ＼ ,___ ”''＜
. ｌ| ＼ i}丶｛ー'ﾞﾆﾆY~. .＼ニヽ{{≧s｡., ＼＼＼ `寸
ハ, ｌ| , i}ﾆ‐ ‐ﾆ|i. . . . .＼ﾆ∨ {{≧s｡ヽ ＼＼ ∨
. /二} ｌ|／ ∨ i} __小 . . . . . .＼}＼ ﾟ, ＼`, ￣_
,'ﾆ二}/, -―‐┓'´ } ﾟ -ﾆﾆ/∧. . . . . . . ＼ ＼ ＼ |l l| i
辷彡()ｰニニニ| ／ / _‐ニニﾆ/∧ . . . . . . . . . ヽｉ ___＼ l| |
／ 人 二二二| -‐七I゛､_ ' _-ﾆﾆ二二二/∧. . . . . . . . .} | ＼＼＼ |
／ ` ｰ― く |i{／‐=ニニニ}ﾆﾆニ二/∧. . . . . .／ i| ＼＼丶 |
ﾉ＼ |iﾟﾆニ二二二,'ニニニ二/∧＿／ニ} i| ￣＿＼ |
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| なぜこんな事になったのだろう。
| 考えても考えても、霊夢には理解できなかった。
|
| 鼻の奥がツーンとする、目の奥がチカチカする。
| 喉の奥から酸っぱいものが込み上げてきて、勝手に溢れた涙がボロボロこぼれた。
|
|「いい面するじゃねぇか」
|
| 細い首を簡単にへし折れそうな太い指が、硬い壁に霊夢を押し付ける。
| 反対の手がブラウスの首元を掴み、容易くボタンを引きちぎった。
|
|「あっ、やめっ……」
|「ああンッ！！？」
|
| 拒絶は、静止は、恫喝によって引っ込んだ。
| まっさきに植え付けられた暴力への恐怖が、それ以外の行為を許容させた。
|
|| 薄手の肌着も無残に破られ、冷たい空気が素肌に刺さる。
| 最近購入したばかりのブラジャーを見て、男は侮辱するようにせせら笑う。
|
|「ガキっぽいのつけてんな」
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／ﾏ
／i:i:i', ﾏ
／i:i:i:i:i:i:iv ﾏ
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~"''〜､、 , 'i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:ﾊ .\
i:i:i:i:i:i:i:i:iﾐh､ /i_,LﾕﾆﾆﾕL,_i:i:i:ﾊ .\
i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i_､‐''゛:::::::::::::::::::::::::::＞ ミ!
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i:i:i:i:i/::::::::::::~"''〜､、ﾏ:::::::::::::::!ヽ::,＞'"::::v:＼
i:i:i:i,'::::::::::!:::::::::::::| ,z=≧v::::::i!:i≦.,V::::::::::ﾑ ヾ:､
Xi:if::::::::::::!:::::::::::jf ん心ヾ:/ｊif 沁ヽv::::::::::ﾙ うるさい！！
ﾐ_`!:::::::::::::V:::::::::lゝ弋沙' ､ ゞソ j\_,.ィ’
i:i:i:iい:::::::::::ゞ''＜ｌ , -- ､ ',i:i:iV
i:i:i:i:Vv:::::::::::ﾍi:>ム,,, /::::::::::::} ﾉ ''''" フ
＜i:i:i:i:＼:::::::く.r'"〜v.` ー ′, イ`T"￣V /ミs、
__ ~''≦{ ＞ミ;_V::::::ﾑｘ｀¨ T斥 ≦ﾏ::ﾊ:::::::::V / ﾆミ Y
＞〜-ゝ マ .V:::::::ﾑ `.く Y ',.)z''\::::::::! .(ゞ’ ./
γ ''＜f V .V::::::N ヽ.l ', \ l:::::::::l ﾉ. _/
_い ＼ヽ.V:::l i! ,.z=＜ l { .l:::ﾉ!i! x''r’ /
r ｱ /.7.x_ ﾑ!i:i}::ﾒ ,.イ:/~ ｰrヘ.x.} " .`ァｿ ! ./
ﾍ! .'.ﾙ ji:i:l/~i:i:i:i/,......,_ ヾ ＼ 〃 ｢l .l ./v
,' .r く ヾ_,ｨ、i:i:i:i:i:i:i:iゞ.!i:i:i:iヽ _ノ.) .l｣ .l / .!
..,' .! ヾ j Vi:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i~i:/~ V .l′ l
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|「黙れクソガキ！」
|「ひぐっ」
|
| まな板のような平手で頬を張られ、霊夢は鼻の奥に辛くて熱いものを感じた。
| 目の前がチカチカする。涙がとめどなく溢れ出た。
|
|「ぅぅっ、うぅう…」
|
| ぼやけた視界で、ボタボタ落ちる鼻血が見えた。
| 霊夢は理不尽な暴力への恐怖で完全にすくんでいた。
|
| いや。
|
|「やっと黙ったか……それとも、痛い方がいいか？ 最近のガキは進んでるって言うしな！」
|「い、イヤ……ッ」
|
| 子供みたいに嫌々する霊夢。
| 彼女を怯えさせているのは、ただの、暴力だけではない。
|
| 自分の信じていたものが崩れた、精神的ショック。
| 信頼を裏切られた絶望感。
|
|「なんで……ジャギ」
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／/＞￣￣￣ ＞＜ ＼ヽ
//／ 〉ミｔ､ ヽ
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// ＼ イ ＿__ ﾏ } }} ﾟ，
{/ ゝ }从伐笏} :∨ⅱ
i { ﾟ. ／ 二_---′ i }¨¨7
. ﾏ ∨ 夊芳 ヽ 从/ }¨ ﾟ
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/ ＼ ＼ ≧ ｲ}／/ }
|γ ‐=〈 ￣ 7----,ｨｉ｢ ヽﾏ { l ヽ ＼
. ／ ／ｌ/ ‐= 二ﾆzzzzゝ斗ｔ允孑ゝ ＼ r＜
‐=≦ :r ℡---〈: / /777ム斗匕孑＜≠≧o｡、ゝ--≪≧o｡
/ //777777ヽ / ゝゝ斗匕孑====ゝ／二二二ゝ≧o｡ ＜
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.----〈_lγ⌒ ヽヽ////}、 | |////////////∧ } ∨///////,'} ＼
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／,ｨi㌃¨¨ミ ／{{/ ‘ ゝl///////////////:/ ////////:/ ﾟ。
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. ゝ/ /////////ミｔ､ ﾑ斗777≧o｡、/////ノ ℡ZZZZ＞ ´ / ﾟ
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| 巡音ルカの話をしよう。
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| 『教会』最強の殺し屋集団『武僧』の一員であったルカが、エリート街道から転落したのは今年の七月。
| それまでは順風満帆。成長株のシロッコにも目をかけられて、同期のライバルであるジェリドとも大きく水を開けていた。
|
| しかしながら、『歌舞伎町事件』での血戦で、シロッコ隊は全滅。
| ルカ自身も致命傷を受け、そのまま死ぬはずだった。
|
| 死ぬはずだった。
|
| ……けれどルカは、死の淵にて囁く悪魔の誘惑に応えてしまった。
| 同様に滅びかけの魔王マーラと契約し、悪魔人間として復活したのだ。
|
| 結果、美しいブロンドは淫猥な肉襞色に。
| 貞淑だった肉体は毎夜男を求めてうずくばかりに。
|
| 汗も吐息も、性的興奮剤に早変わりして。
| 本人の意志とは裏腹な高位の淫魔に成り果てたのである。
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//7´ } i!_ ﾑ､＼{ヽ、
' l7 ﾊ ´ﾊ从 } ｀} ﾏﾑ
| {' ィ7Ｔ{ ﾊ /ィ示ﾊゝ' }ヽ}
| | {,ｨﾊ圦 { ﾘ ｀¨ ´ / ///!
| | {`¨´ ｀ ､ ｲ /// |
l八 }ﾄ､ 厂ヽ ﾉｲﾑ' !
| ヽ､ﾄ、＼ Y ﾝ ／{ l
| ＞‐=ﾐ､ヽ ､´ ∠ミ ﾄ,、_ |
| , ´ Vﾊ}r=＝=ミ》》》ﾍヽ|
, { ヽ}＞ゝ=しﾍ ン_ミ'ﾑﾊ｀ヽ
/ ｌ , ´ ｀V´￣ ヽ ￣￣｀ ､
, ∧03 .ィ{ ､ :. ＼
/ / >ｲ/ﾊﾍﾉ ヽ
' ' / /{//人ヽ :. ﾄ ､
/ / /∧////ヽ＼ :: l } 〉
/ Vf ヽ ヽ////＼ヽ ;: ///＼
' '.ヽノ ノヽ、///ヽ＼ 人 .://∧ ＼
/ 乂彡≦'. ＞/_//＼ヽ ／: : ､ . :〃´ヽ ヽ ＼
/ / / ∧, ´／⌒ヽ.､く: : `: . イ/ '. ＼ ＼
, / / {_/ . - 、Vヽ＼ //!´ '. ヽ ヽ
/ / / <／ ∧ ∨＼ヽ .///{ ﾄ､ } |
' / / /l {⌒} ∧ ∨/ヽ＼ /// ﾑ } ∧ | }
/ ムイ ＞! .! ! ∧ ∨//≧ﾒﾑィ´ 、 / ∧ﾉ /
, ' ／ ﾉ ／ ! | | .∧ ∨´ }／ .イ ﾝ }､/ ∧ .′
.／ ／ ／｀ゝ､ ｌ | | l '. て ィ´ ／ ／ ノｰ, !、 ∧ {
, ' ／ヽ: /＿ヽl | | | '. }ﾝ／ ∠..ィー ´ | ＼ ＼!
〃 , '////＼: :/ i!.ゝ-' o | V ゝ ' } l ヽ ヽ
／/ / ///////ヽ‐:| o o ! '. ム l '. '.
／ , , ///////////V|'. o o o .| l /: :} l l '.
／ / / /////////////} } o o | l ./ Ⅵ | 、 !
' / ,＿_////////// | | o ,x≦三ヽ} /: :7 '. '. | }ヽ }
/ ./ ! /ヽ｀ ＜///// {三三三三r, ´￣ ｀}/ ∨ ∧ ヽ | ﾊ ﾘ
, / i! |∨_:_: ＼ ＞ ､//｀ﾏ: :ｱﾊ / i!ｰ:/ / '. ､ レ'
l { |! !////｀ ＜ : : : ﾊ ＞､∨＿∨ } V .ィｰ: :ｧヽ ＼
' ﾊ !| .|/////////｀ ＜! . : ﾊ∨ : ! 〈:７ }: ／ ＼ ､ヽ
. / / l 八 .|/////////////｀ ＜:} ﾏ: { _ ヽ＞ ´ ＼ i! '.
ムイ | i!/ ヽ.!/////////////////`＜ﾉ /ｰ'＜ } .// ゝ、 .ﾊ }
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| 悪魔滅ぶべし。
| それを標榜する『教会』には、ルカの居場所がなくなった。
|
| コントロールできない魔力に翻弄されるルカを助けたのは、
| 歌舞伎町で共に戦った『血族』の裏切り者、北斗ジャギであった。
|
| ジャギは同様に、腕を失った『結社』のニンジャ『キル・オール』も助け、胡乱極まるチームを作った。
|
| 出戻った裏切り者。
| 元『教会』の暴走する淫魔。
| 元『結社』の戦傷ニンジャ。
|
| こんな胡散臭い連中を放置する『血族』ではなく、しかし人手不足も深刻化し始めていた頃であるため。
| 折衷案としてお目付け役が、なぜか霊夢が配属された。
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.,:'::ヽﾍ､___!:::rﾄ､:;_;!. `'ｰ , `´ノi/!:.:.:',
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,':::::::;':::::::::::::::ﾊr!____,ﾄ.､ '´┘ ,ﾊi
.i::::::::i::::::::::::::,':::i`rｰ‐i':::::｀i. ､., _,. イ_,ﾑ!
!::::/!:::::::::;:ｲ::::::::|:::::::|r'イ｀ヽ､ ｀"T"´i:::::;|:::::::|
V ';:::::/:::!::::rく|:::::::| ヽ ＞rｨ'^ヽ､:::::!:::::;'
V '､::ﾚ'´ヽ';::::::ﾄ､.,_____,.イムヽ >:|:::/
r7 ヽ;::!:.:.:.:.:.:.:./ / ハｰﾍﾊ､|/
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| 十一歳、小五ロリの霊夢にとって、ジャギ班は刺激的だった。
|
| ルカの呪いを抑制しながら、キルの傷も見る。
| お目付け役というよりも掛かり付けの医者のように、霊夢は彼らを診察して看護した。
|
| 霊夢にとって不満なことは、三人が自分に隠れてコソコソ動き回っていること。
|
| より正確にはジャギとキル。
| 二人はずっと暗躍し、陰謀を練ってきた。
|
| 霊夢の誇りは、大人たちの頼りにされていること。
|
| ルカもジャギもキルも、霊夢の腕を信頼してくれた。
| 戦闘では霊夢の魔術に命を預けてくれたし、子供扱いせずに同格の仲間として扱ってくれた。
|
| 少なくとも霊夢はそう感じ、信じて、誇っていた。
| 誇りだった。なのに。
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＿ ＿
ｲ ｀´ ヽ
／ ＼ ＼
, ' / ' ., l、 ヾ、 ヽ
/ ' i / ハ ', ﾔi ハ
// ､| ,ﾊｲ .j.ﾑ'´V lﾊ |
〃| l |｀ヽﾊ /´z示zx l7ヽ ' 体が軽い……
ﾚ | ､.ﾊ弋ﾇV ￣ l/ |lll/ .| こんな幸せな気持ちで戦うなんて久しぶり……
l ∧ /! ./｀¨ .{
､ ﾊ ｰ.. =' | .//! l l! もう何も恐くない！
V ﾄﾐz，, __ , イ/l/.l! | ,ﾊ
∨,j l lr=癶三ﾚﾆ( l| l - ' ヽ
,､ Χ //}廴ﾑz=彡":/∨ ヽ
r ' l V__ //;＞:::'::"￣:::::::::::〈.i. l
/ ', ',..ゝ‐彳´:::::::::::::::::::::::::::::::::V _ zz 、 /
/,ゝ:::´:／i/::::::::::::::::::::::::｀´::::::::::::::::l三三三∨
〃:::::::::〃l /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::}―气三 ヽ
〃:::::::::::(l l l:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::j ＼V/
.〃::::::::::::::ヾ l l:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/ 厂'l
.|::::::::::::::::::::ヾヽ:::::::::;;;;;;;;;;::::::::::::::::::::／ / | ∧
､::::::::::::::::;;;;;;Vヽ;;;;;;;;;;;;:::::::::::::::;;／' / | ∧
.＼;::::::::::::::::::Viヽ;;::::::::::::::／::::::::′ ./ .! ∧
V｀'''=彡三| |:::::::;／::::::::::::::::′ ./ .| .∧
∨::::V:￣|l~|￣::::::::::::::::::::::; / | .､∧
∨:/:::::::lj, ';::::::::::::::::::::::::;' ./x | j ヽﾍ
∨:::::::〃、V:::::::::::::::::::; //、.| ハ l lヽヽ
/;::::::〃 ヽV::::::::::::::::; ,´ ヽ/ l l、 l ヽヽ
ヾ､:〃 .ヽV::::::::::;:′ ′ ＼ l ハ l ヽヽ
iV ヾﾆ彡,′ ′ ヽl / .l l ヽヽ
| , ,′ ヽ. l l i |
/ .l ′ ´ ＜ l l l
／ ヽ .| ' ヽ l l
. ' ´ ｀ 、 l ′ / ＼ l l
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| 裏ルートで入手したクラリック・ガン二丁と大小の二本差し。
| 魔王マーラの力を利用しない『武僧』元来の戦闘術。
|
| これらだけでも容易く狩れる低位の悪魔をバンバン退治。
| そしてその魔力を喰らうことで魔王マーラを宥めすかせる。
|
| 現在ルカはノリにノッていた。
| 男性への焦げ付く様な飢餓感もなく、戦場でも自分を維持できていた。
|
|「霊夢に頼らなくて済むのはありがたいわ」
|
| 独立心の強いルカは、霊夢への依存を恐れていた。
| 他人を必要としなければ生きていけない弱さを憎み、自己嫌悪の奈落に落ちて来た。
|
| だがそんな時代は終わった。
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ｘ≪´⌒≫ｘ: : : : .
／:/: : : : : ｀ ≪≫.､: :ヽ
/: : :' : : : : : ヽ: : : ヽXヽ: : :.
〃: /: : : : : : : :}}: ﾊ: : ∨ﾊ: : } 東京がまとまる頃には
' : : i { { i : : : i:├ｧ-} :}: ｢|丑}:| 私も落ち着いているかも。
|{ : :从以{ : : j斗=㍉ｲ: :|｣丑}:{
八: 八代ッ､ノ 弋ツ ﾘ : j : : :ハ そしたらどうしようかしら。
＼: ≧´ ､ ∠: : 厶:ノ: 小
）个: . ヮ /.:／x=㍉ｰ'ハ
／: 人乂〕瓜､/ ｲ.:〃:::::::::V: : :＼
/: :／〃⌒ﾉ以ﾉV : {i:{:::::::::::::} : : ﾄ､:＼
{ : :し {辷彡=ｧか : : }}:}‐-ミ∧ : : ', ＼:.ヽ
>-くﾆ77ﾅ==彳{i: : :ﾘ: }ﾆ=,廴__ : : :. }: :,
. /ﾆﾆﾆ///ﾆﾆﾆﾆ八: :{: :ﾉﾆ7ニ７/: : :∨.:/
{ﾆﾆニ{ ! {ﾆﾆﾆﾆﾆﾆ}: :Ⅵ｀ヾﾆ7/: : : : :∨
ﾏﾆニ从 ﾏﾆﾆﾆﾆニ|: ; : ! 厂￣: } : : :ﾉハ.
`辷_少ヘ辷ﾆ＞'´j/: :ﾉ/: : : :〃.: : :{/ jﾊ
〈 ＿＿＿＿_〃:/ノﾊ_＿{{: : : : :. /: :}
ゝ-くj-‐ 入 ﾏﾆﾆ{: :仁ﾆﾆｱ ハ＿__:∨: :/
「￣´ ',＼`マ!:圦ﾆアⅩｸ'(∠⌒＜:_:_:｀ヽ
∧ :. `ｰ乂:_:辷彡(／ィﾏﾑﾏﾑ｀ヽ: :ヾ:
__＿__｀¨、＿_ ﾏﾆﾆﾆﾆア(／´ﾆﾆﾆjﾆﾆﾆﾆハ: :}}
_ ＜⌒`マﾆハ气ハ ﾏﾑﾏﾑ／ﾆﾆ＞ ´ ヽﾆﾆﾆﾆ}:〃 __
_ ＜ﾆﾆﾆﾆヽヽ ﾏﾆﾊ Vﾊ `マ_7＞ ´ ﾏニア/{―-ミ ∠⌒＼
,.＜ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆL」_ `マﾊ__Vﾊ }∠￣｀丶、 }ﾆ{: E大=‐- /⌒`マニ＼
(ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆY´ ￣￣{ﾆニ7 ／ﾆﾆニ｀ヽ /ニヽ:＞-‐…く 辷三≧==ｭ
｀マﾆﾆﾆﾆr‐弌_n＿n__n__大＿／ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾊ ｝ _厶 ´ _＿＿＿__ノ
｀ ｰ┴―r包ⅩⅩr/ ＼/ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ＞ｲ´ _ c-=≦ﾆﾆヽ ヽ
ノ勹} j'////ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆｱﾆﾆニヽ n _ c-=牟ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ｝ }
ゝ ´〈ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ斗笊〔ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆＬ ｣
`マﾆﾆﾆﾆﾆﾆ=‐ ´ {i几ﾘ
｀¨¨¨¨´
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|「どっか行っちゃう気？」
|「どうかしらね……」
|
| 霊夢はルカが『教会』に未練を残しているのを知っていた。
| 悪魔人間に堕ちたといっても、彼女は信仰を失っていない。
|
| その証拠に、『武僧』戦闘術がある。
| 銃器と格闘技と信仰の総合であるそれは、動作一つ一つに祈りの型が込められ、信仰と深く関わっている。
|
| 信仰のない、例えばアリー・アル・サーシェスには利用できないのだ。
|
| 神の敵である悪魔と融合したからといって、その魂まで売り渡したわけではない。
| ルカは今だ、変わらぬ信仰者だ。心は貞淑、身体は清らか。
|
| であるが故に。
| 心のどこかではそれが叶わぬと理解した上で。それでも。
|
| ルカは、『教会』への未練が断ち切れない。
| もしかしたら帰れるかもしれない。
|
| ほら、信仰を失っていない証拠もあるんだし。
| 受け入れてくれる可能性を夢見てしまう。
|
| ……例えば、彼が。
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_,.. -― ､_,-､
, ‐'´ ヽ
／ , -, ヽ
／ / / , -j lj
／ , = ､ﾍ _j ｲ 〃｀´ !
! 〃ヽ､ ﾍ'ヽ !
. | / 〃ｰrｰ' ! |
! / ヽ l !
ヽ { _,,__ _,._‐''ﾘ
l, r ､ l '´-ﾆt'ﾃ'' !┴' |
i { r､l l '､ !
! iヾｰl j - ' !
_j人l Tl ー―,,' ト- ､
lく Tヽ`ｰ- ､ l 〃
ヽヽ ! ＼ヽ､,-ミェ- くﾄi 〃
＞ヽ ヽ /7 ﾊヽヽヽl 〃､＿＿
_, -‐ ''´ ｀´l ヾ/ ﾘ ! l! lヾく ｀
ヽ＼ ＼ ' l /ィ7 '
￣￣￣ ｀ ｰ ､ヽ ＼ ヽ ／イ/ , - '
l ヽ ヽl／／ ﾚ ,. -‐'´
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|「身体は汚れていないわ。呪わしい衝動にもずっとずっと耐えてきた。
| 霊夢には感謝しているわ。ええ。いくら感謝してもし足りないくらい。
|
| ああ、でも。もしかしたらこれは神の試練として、耐えきった私は称賛されたりしてね。
| フフ、高位悪魔の誘惑に耐え続けて、清い身体のままで、処女でいるのよ？
|
| これってすごいことじゃない？ 私ってすごいんじゃないかしら？
| 悪魔に対する抵抗の強さから『教会』でもてはやされて昇進なんてしちゃったりして」
|
| ガラス玉みたいな瞳で笑いながら、霊夢に語り続けるルカ。
| 返事は求めていない。霊夢も返事をしない。
|
| 相槌すら打たないのは、ルカの都合のいい妄想に付き合っていられないから。
| 返事をすることで癇癪を起されるのが面倒だから。
|
| いや、もしかしたら。
|
| 大切な仲間のはずの自分を置いて、ルカがここではないどこかに行ってしまうのが嫌だからか。
| 霊夢は、そんなこと認められないだろうけれど。
|
| ただただ寂しいだけなのかもしれない。
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./: : : : : : / : : : : i : : : : | : : : : ',: : :.ヾ: : : : :i :::::;!ゝ
.7 : 7 : : :7 : / : : :! : : : :八: : : : :! : : : ヾ: : : :}＼j ）
│.:i : : : i : 7: : : : !: : : / ><: : l : : : :.:i: : :. .|::::::＼
ﾑ: :|: : : :!:.:l: : : ;.ｲ: : / ／ _ﾑ: :! :i: : : lY:V:ﾉ::::::::::::ゝ, 好きにすればいいじゃない。
入|: : :.i: : i: : 7ヽ!::/ ,. イ´r_ﾊl: :［ ］'ﾞ;:!:::::::::::／ノ どこへでも行けば？
l: :| : : :i : i:.;ム-ｭ' ゝ‐'' !/［ ］:;ｲ:::::／メ.|
! :', : : |: :|/,ﾍ ゝ' '''' l: :/´: :Y´j:´: : | アンタみたいな身体で、受け入れてもらえるって言うんなら！
ﾊ: : lヽ: :l:;ﾊ､'' ' l : |: : : : : : : : : |
＼l :iヽ! ＞､._ ‐ ,. '´i: : i.......､ : : : : : |
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| その言葉がルカを傷つけるとは理解できないほど、霊夢は子供ではなかった。
| それでも捨て台詞を飲み込めるほどの大人でもなく。
|
| 酷く傷ついて、涙を浮かべるルカを放置して、霊夢はその場を去った。
| 一緒にいたくはなかった。
|
| ……だけれど。
|
|「キル、いるかしら？」
|「いないわ」
|
| もう一人の仲間である『キル・オール』改め『ロストスキル』は、このところいつ行っても部屋にいない。
| 代わりに市松人形みたいな女子中学生がいつでも不機嫌に出迎えてくれる。
|
| 最初は彼女を、ロストスキルの変装かと思ってぶん殴った霊夢だったが、
| 殴り返されてつかみ合いのキャットファイトの後に別人だと認識した。
|
|「チッ」
|「舌打ちすんな、殺すぞ」
|
| 以降、互いの仲は最悪だ。
| この小娘は元『結社』の『九鬼』首領たる黄泉だという話だが、霊夢は虫が好かなかった。
|
| ロストスキルを奪われたみたいな気がするからだ。
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ﾍ:<,,_l: : : : : l:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.ヽ.
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ノ , _,,-''": : :./:.＜:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.レ' -‐- ヽ:.ｿ/:.:/ﾘ '￣｀ﾞ''ｰ- ､ ……げっ。
| -''": : : : : /:.:.:.:.:.:.:.:.:.r''''''''∧| rｧ‐r'､弋l:|ﾚ' ,:' ',
ヽ: : : : : : ./.:.:.:.:.:.:.:.:.:. |: : : : | ヽ ﾞｰ' ′ 〉!::. _ ,. '´ }
ヽ: : : ／:.:.:.:.:.:.:.:.:.: : |----l.、 __ /:.:ヽ::::...,..ｨ´ /
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レ'ハ/ﾘヽ(, ,:'´＼:.:.:.:./' ＼ll/Wyﾘ ﾚ' ／---‐''"
ヽ,/_ ： 'レ" ＼__! ':{' /
/__! ｀ヽ： Lｌ． ヽ
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| プリプリしながら『血族』の神道系詰め所に顔を出した霊夢は、
| 上座に座る女を見て小さく唸った。
|
|「ご挨拶ですわね霊夢さん。直属ではないけれど同門の幹部に」
|「これは失礼しました冥お姉さま。本日はご機嫌麗しゅう」
|
| 諫山冥。
| 『結社』派の『血族』として暗躍していた女。
|
| 実力は確かかもしれないが趨勢を読み間違え、先日までは冷飯を食わされていたのけものだ。
| 『結社』が撃滅され『教会』に寄った現在では、さらに行き場を無くした……筈なのだが。
|
| 備府やらない夫班を引き継ぎ、やらない夫を討伐すれば名誉挽回を約束された。
|
| そして現在、既に討伐を済ましたような顔で、ふんぞり返っている訳だ。
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│ /⌒ヽ | ′ ／ ＼,′ | | |`〈_ノ
| / '＾ヽ | | ィ#ぅｭミ ||` ＿│ j |
| 〈 ｣ | | 人》ｔンﾞ ヽ || ´__ │/ i
. │ . （ 〈l | |/ ｀~ !! ,:ｨ仞ﾞ'ｧ |/ !
. │ ' ｀ │ ｲ ! : `''ﾞ イノ i
. | ト- ｲ| | : 八ｉ i 質の低い人間と付き合うと
| | l l | ,: / ! ! その人の質も下がると言いますが。
! | |│ │ ´ / i .
, | |. | | 「 _ﾝ ｲ ｉ , その通りですわね。
,′ l l | ﾄ､ ｀ , ｨ │ i ′
/ ﾘ l ！ ` . . イ | │ /
. / / ==l ､ /7ｰ'´ ││ | /
. / 厂 八 ヽ // ﾉ | ｉ /
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| 笑う冥。その場に居た人々が同意の言葉を口にしながら追従の笑み。
|
|「まったくね」
|
| 霊夢の皮肉は笑い声にかき消された。
| 人品の悪さにかけては誰よりも上だろうに。どの口が。
|
|「のけもののクズごときが『血族』を私物化しているとの噂がありますわ。
| 専横を糾弾する流れになっておりますけれど……。
|
| 心当たりがありましたら手を切っておいてくださらない？
| 霊夢さんの交友関係でわたくしが責任を取らされるのはごめんなのですけれど」
|
| 霊夢は開いた口が塞がらなかった。
| 目の前が怒りで真っ赤に染まり、息を吸うのも忘れるほどだ。
|
|「くわえこむなら弟の方にしてくださらないかしら。
| 『四天王』なら将来は安泰ですわ！」
|
|「黙って！ 黙れ！！」
|
| 怒りに我を忘れ、語彙も失い掴みかかる霊夢。
| だが突進の途上には他の『血族』がいた。
|
| 小学五年生、二次性徴前の少女の華奢な肉体は、異能を持たない大人にも劣る。
| 年かさの事務員に容易く腕をひねられ、霊夢はもんどりうった。
|
|「おお怖い怖い。暴力に頼る輩は下品で困りますわ」
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rへ
ｒ7´ ｀ヽ､-,. ─-､ ,.へ_､
ｒ7 ｧ'"＞'-─｀-＜ ヽ!_
r7' >'´::::::::::::::::::::::::::::::::｀ヽ. ﾊ
,くi ヽ/:::::/::::::::::::::::::::::::::::::::::::::Y i_{ ／i
ヽ.／!/::/::::::/:::/:::::i:::::ﾊ:::i:::::::;::',」〈 ／ ,.! ジャギい！！
/:7 ,':::i::::::/:ﾊ,ゝ､ﾊ/ !:ハ::::i::iヽ. ／ ／/ アンタ何やってんのよ！！
くｋ__!::::::L:ﾊ/〈 !_ｿ｀ ｫ'r7!/!」 ! ／ ／／
|::ﾊ:::::::}__.| " _____└' i__{ヽ､! _,,. -/⌒ヽ／>.／／
ﾉ:::!ﾊﾍ::|::::iヽ､ ( ｀i ,.ｲ:::|,.-'"´ l l i しゝ'' ^ヽ'
/:::::ﾊ::::!::ﾊ::::!;:イ＞ｰｒ＜ﾊ:|::/! | lY__ノ´
i:::/:::::!::::::rｨ';:|´ |／､ /」|:/ !- ヽヽゝ'i
ﾚ'i::::::!;:へ､ヽ!／ムヽ､_/_i ｨ,ﾍ､ Y /
ヽ/⌒i､._ Y:::::/ i」::::::::::!-/ﾚ' ｀ヽ. i/
! iﾉi 7:::く__ﾊ|:::::::::::Yiﾊ| ｀'ー-'
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| 怒鳴り込んだ霊夢であったが、班の詰め所にいた面子にたたらを踏んだ。
|
| 『血族』の元老であり、現在はその権力のすべてをその手にした簒奪者フリット・アスノ。
| 彼の腹心である数名。
|
| 『教会』の『異端審問官』ジル・ド・レェ。
| 同じく『十字軍』のオズマ。
|
| そうそうたる面々が、穏やかならざる雰囲気でジャギを囲っていた。
|
|「ええと……？」
|「またウロウロしてやがったなクソガキめ。
| キーキー煩いわ、目障りだわでなんとかなりやせんかねェ？」
|
| 言うなり霊夢の襟首をひっつかみ、乱暴に放り出した。
| 有無を言わせずピシャリとドアが閉められる。
|
| 受け身も取れずに腕を擦りむいた霊夢は、唖然としたまま固く閉じたドアを見上げた。
| それは拒絶するかのように冷徹で、しばし霊夢は這いつくばったまま動けずにいた。
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_rﾆﾝヽ` ､ ＿ -‐/ ./ ,ｲ / }, ＼ヽ､
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|/ }. 彡 ｀ ､ ゝ､{,ｲ,,... -‐─/ﾍ,.' |/
∨ﾍ. 彡 ＞‐-‐ﾑ:.:.:.:.:.:.:.:.: / ′ ジャギ、お前らしくないな。
∨ﾍ 彡ーｲ´ｰ-‐=≧__ゝ､.:.:.:.:.: ,´,_
∨ﾝ_／/:.|:.:.:.:`‐- .._:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.￣`＝=ｰ.､
／／ゝ≦x､:.:.:.:.:.:.:.:￣ ‐- ,,.:.:.:.:.:.:.:.:.::.:.:.:|
／:.:.:r'二.._ ヽ.ヽ_:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.￣ ‐-.:.:_ィ彡ヽ
:.:.:.:.:/ `ヽ ヾ `ヽ､:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. |ヽ
:.:.:.:_{ ＼ ',ゝ‐‐{ ` ＜:._:.:.:.:.:.:.:.:/∧ i
:,／ | ヽT￣i ヽ` ‐-tr' |ﾍ‐
.r‐l ､ ／__`ｰ‐ } | ＼ ﾍ l ∨7
|｀二二二三￣ i＝// ヽ V |=
（ロストスキル・ニンジャの姿）
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| 小一時間しておずおずと入ってきた霊夢に、ジャギは一方的にクビを言い渡した。
| 激昂する霊夢を暴力でねじ伏せ、レイプまがいの脅しをかけて詰め所を後にしたところだ。
|
|「なンだよ」
|「分かっているだろう」
|
| 姿なく話しかけてくるロストスキル。
| 彼はジャギがフリットに叱責を受けている時から側に居た。
|
| 冥の言うとおり、ジャギは『血族』の私物化を糾弾された。
| より正確には『結社』から引き抜いた『グレン団』と『九鬼』の私物化だ。
|
| ジャギは彼らを使い、東京全土の警邏を采配していた。
| フリットの脆弱な部下や、新兵同然の『血族』戦闘班では賄いきれない部分のフォローである。
|
| これがフリットが『教会』と取り交わした約定と抵触するらしい。
| だが、『異端審問官』や『十字軍』に我が物顔で治安維持などさせるべきてはないというのがジャギの考えだ。
|
| 彼らは異教徒の人権を認めない。
| 拷問も略奪も勝手な論理で正当化する。
|
| 東京を無法地帯に変えたがっているハゲタカどもだ。
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／ニニニニニニニニニニニニニヽ
’ニニニニニニニニニニニニニニ ﾊ
ｉニニニニニニニニニﾆ}ヽｨニニニニｉ|
|ニニニニニニニニ /}/ /∨ヽニニﾆ| 理詰めで説いて通じる相手か？
. ﾄ.!ニニニニニニ==─…ﾐｘ 0 ／》ﾆﾆﾆ│ 『そんな話であたしが怯むと思ったの？』
Ⅳ≧ー…ｬ77//--｡-ｫ///l} 0 彳ニニﾆ| とかなんとか罵詈雑言交えて騒ぐに決まってらァ。
》 f77ﾊ ∨/≧==彡//ノ 《ニニニl| ﾄ
｀7 V//} ∨////厶イ==ﾐ iニニニ| |∧ そもそも口で敵う相手じゃねェンだぞ？
⌒i￣ ＿＿￣￣´ 》//∧ lヽﾆﾆﾆl| |/∧
ﾄ ∨ .//| ﾄ. {7∧ ∨///i| ∨＼ニゝ ＿＿ | ∧
|∧ ∨//| |∧ ∨∧ ∨//l| ｉ}///777{厂三{ | /∧
|/∧ }ヽ/| |/∧ ∨∧ ∨/l| ﾘ }////|∧三≧| ∧.=
| ∧ ､|__i/| |//∧ 》/∧仆ー=彡' '/// l|/∧三 i| 三
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| 『これ以上の勝手をしたら』などと、脅迫まがいのことを平然と口にする連中に睨まれたのだ。
| 『異端審問官』や『十字軍』に理屈は通じない。
|
|「『大事な娘は箱に入れよ』か」
|「勝手に言ってろ」
|
|
| 平安時代の哲学剣士ミヤモト・マサシのコトワザを引用するロストスキル。
| その口調は大いに笑いを含ませていた。
|
|「そんなに霊夢が大切か？」
|「アイツにゃ俺の研究とお前らの治療経過のすべてを仕込んでンだぞ？」
|
| ルカの悪魔抑制もそうだが、ロストスキルは腕を失っている。
| 彼は新開発の『気』で動かせる特殊義肢の試用実験の被験者なのだ。
|
|「俺に何かあっても、霊夢が居りゃお前らをなんとかしてやれる」
|「北斗の家は？」
|「ケンが居ンだろ？ 蒼星石が見つかりゃあ最高だが」
|
| ジャギは、そのケンシロウと蒼星石が接触していることを知らない。
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|::::::::::::l:.: _レﾍ:.:.|:::::!:.:. !:::::|.:.:.:l:::;!.:.:./::i 〉
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|「狂人であるが弱敵。しかし地位のある狂人は実際始末が悪い。
| 暗殺は容易く、後始末は困難な」
|
| クツクツと、仮面の下で笑うジャギ。
| ロストスキルの歯に絹着せぬ言い様は痛快ですらあった。|
|
|「政治は俺がなんとかする。問題は表に出てこねェ連中だ。
| お前にゃ引き続きトールマンと『野良犬』を頼む」
|
| 兄に更迭されたヌケドナルド・トールマンの安否と、
| ジャギらと何度もぶつかっている謎の部隊『野良犬』の所属確認だ。
|
| それらがこの東京を守る鍵になる。
|
|「そういえばジャギ、あれは霊夢に言ってなかったのか？」
|「言ってたら茶番が過ぎンだろ？」
|
| 悪魔の呪いでジャギは性的不能なのだった。
| だが、ジャギはちょっとばかり女心を理解していなかった。
|
| 理不尽で一方的な暴力で、貞操を奪われるという恐怖が。
| 少女の心にどれだけ深く突き刺さるかなんて。
|
| 考えもしなかった。
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大都会、東京。
有象無象が集まって、煮凝りみたいに淀んだ世界。
隣人関係は空虚で簡素。
人々の心は多忙で乾燥。
子供の目つきはギラつき凶暴。
悪党外道は賢しく共謀。
となりは何をする人ぞ。
うるさくなければ気にせぬぞ。
一人や二人消えようと。
隣人ですら無関心。
次回 最終幕 十八話 『島村卯月の消失』
果てに見るのは破滅か死か。
ジャギ、相変わらず不器用にすぎる
霊夢のセラピーどなたかー
__ -‐ 二￣ ﾆ=- _
__-- ￣ | || 二ﾆ- __
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¨ Ｔ ‐=ﾆ二＿＿___,,.. -‐ | ||￣_,, ┐ :| |＜＞ ~^ -ﾆﾆ=- _
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| 異変は、誰からも見過ごされていた。
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| その住人が全く帰ってこなくなったことを、隣人は気にもしなかった。
| そもそのアパートの住人達は深夜帰宅、早朝出勤が常態化しており、互いに無関心だった。
|
| 下の部屋の住人は、深夜の足音や水音がなくなり、せいせいこそすれ疑問には思わなかった。
| 音がしなくなったということは引っ越しでもしたのだろうと考えて終わりだった。
|
| そもそもが、顔も知らない。
| どんな人間が住んでいるかも興味が無かった。
|
| アパートの管理人は、家賃が振り込まれていればそれで良かった。
| 件の住人は割引目当てで半年分ずつ振り込むので、部屋にいようがいまいが関知しなかった。
|
| 住人には親しい友人はおらず、家族とは離れて暮らしていた。
| 不規則な生活故に連絡は少なく、便りが無くても誰も不思議に思わなかった。
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| 住人は最近仕事を辞めていた。
| 前の勤め先からはわざわざ連絡するものはなく。
|
| 次の勤め先は勤務開始まで少し日があった。
| なので通勤していないからと訝しむ者もなく。
|
| 部屋には誰も帰らないまま。
|
| 冷蔵庫のナマ物はしおれ。
| 炊飯器の中身はカビが生え。
|
| 郵便受けにはダイレクトメールが溜まり。
| 固定電話には留守電のランプが瞬き。
|
| ただ、住人だけが失われた。
|
| 表札には『島村卯月』と書かれていたが。
| 近隣の誰も関心を払わず、見たとしてもすぐに忘れた。
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/:::::::::::::::::|:::::::::::::::::::::＼＞- 干､´::::::::::::|::::::::::::{ { ｀ {_ｲ_,ﾊ }
,:::::::::::::::::::::ヽ､:::::::::::::::::::::::､: : : : }ー-''' ￣｀ヽ:::::::ヽ ヽ Y }ゝ'
{::::::::::::::::::／ : ｀ヽ､::::::::::::::::＼: ｲ: : : : : : : : : : '，::::::::. {＼__ '＿ﾉ
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:::::::／: ヽ､__: : : : :.:∨: : :/:::::::::::::{: : : : : : :ヽ_}: : : :...}:ト､::::|:|: : :l: : : : :.}
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| 遠坂凛が東京を訪れたのは『結社』日本支部長、諸葛亮孔明の直弟子だったからである。
| 彼女は約十五年前に、『結社』及び『血族』と懇意にしていた。
|
| その関係が無残に崩れ、『血族』と袂を分かったのは、凛の妹である桜が原因である。
|
| 当時遠坂の家長であった凛の父は、上の娘を『結社』の諸葛亮孔明の弟子にし、下の娘を『血族』に養子に出した。
| 遠坂は『結社』系列の家系であったが、『血族』との関係を大切にしていたのだ。
|
| 政治的配慮であった。
| 同時に、娘たちの幸せも祈っていた。
|
| 桜の嫁ぎ先の希望は夢宮であったのだが、夢宮の一人息子はマイケル小原の娘と許嫁であった。
| 入即の放蕩息子や螺旋王に可愛い娘をやるわけには行かない。
|
| そんなこんなで係累は気に食わないが、相手の男の人柄は信用できる。
| 間桐の家に桜は送られた。
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//:;:;| 、/ ! ヽ ヽ ﾍ
く/ {:;:;|丶 | i | V i ',
/|:;ｲTヽァi | ﾄ、 i | ｲ
/ー┘ / メ iヽ iiヽ. |L | |
/ i Y r‐‐┬ﾞ ヽヽノﾚ ! !
/ / i ゝ_j i!｀ー┘ ィラ}ﾚ| |
／ / i ;/ ﾍル ） ,. ノ i !
/,.L..,/ ,' ｨﾍ ; ＼χ' ー-‐ イi | |
/ | i Y〈i iヽj__ iヽ_ ,.イ / /| i! |
// | ! | || 〉 | ｀T「iヽノ/ / | ! {
/ i i ,! i ii i 〉‐-〈 i } ,' ! i |
/: : :| i ! / ,' i | i | | { |ﾚ' | i |
} : : i ! ,' /´i l ', ', i i { i! ￤ i |
| : :i! i ,' / / | ', ヽ'. | '丶、 i i !
|: :i! i ,' :{ i ! '; i : ', ヽヽ i i |
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|i!i ! ' / ヽ ', ':, / / ; i i ノ ヽ!
i!i ,' ; / i ≧‐---'ー‐- 」__,. '´
イi ,' i :}:| / ノ } Y | /
| ' i ! i::|/ / / i / ,.ｲ
i,' | !r^i! i´ ノ / ／i |
|' i ,' i ! | | | ｉ | ' |
i! i ,' iY 〉 ! i } |ﾉ ;! | ＿ ＿＿ ＿ ＿__
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. ii! ,' , '/ | 丶、‐- ｀' ‐- ., ￣ ‐- _ ／‐-.、 i!
i ,' ,:' / i ヽ＼ ‐-- ., ` 、 ー――! ＼ |
|,' i i /i i i 丶 ヽ、 ｀ 、 / } i
. i,' ,' i/ ヽ ', | ＼ ＼ ヽ、 | /
/」ﾉ..」」! ヽ ヽ ヽ、 ｀'‐- ., ヽ ヽj ／
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／ _.ノ ￣;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;
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| 禁呪によって肉体を改造し、数百年を生きる怪物、間桐臟硯。
| 彼は桜を己と同じ怪物に改造し、自分の子孫と交ぜることで間桐の血統の再興を図った。
|
| 桜は体のいい生贄であり。
| 凛にしてみれば到底許せることではなく。
|
| 凛は妹を救うために、恋敵で親友のレナと、その夫の手を借りた。
| 三人は桜の婚約者、雁夜と共謀して桜を誘拐しようと企み。
|
| 罠にかかって全滅した。
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| 桜は支配され暴れまわり、愛する家族を、友人を、殺傷した。
|
| 凛は、命からがら逃げおおせた。
| そのまましっぽを巻いて国外まで逃げ延びた。
|
| 雁夜は重傷を負ったが臟硯に助けられた。
| そして精神に異常をきたしたと発表されて軟禁される。
|
| 凛の親友は桜によって寸刻みにされた。
| 死体は破損が激しく、見る影もなかった。
|
| その夫も致命傷を負った。
| 妻を目の前で生きたまま刻まれた傷も深く、一時はすべての記憶を失っていさえいた。
|
| 凛と、親友の夫は復讐を誓った。
| そして、牙を研ぎ続け……今に至る。
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ﾘ 〈6ｲﾘVメ、ﾊﾉﾘヽ
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. │: : : : : : : :| : : : : : : : : : : : :/ニ!
ﾏ: : : : : : : :l＞＝=‐- ＿_:./::::::〉‐-､
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V: : : : : :| : :| : : : : : : : : |::::::::| : :｀￢r-､
{ │: : : :ｌ : :l : : : : : '､ : ＼::::| : : : : : : : ¨￢‐-.､
ｌ :ｌ : : : ﾞt: ﾊ : : : : : :ｌ : : : ｀ヽ: : :、: : : : : : : : : :＼
| : ｌ__: : :ﾍ : ヽ: : : : :ヽ: : : : : :＼ :＼_: : :辷二｀ヽl
ﾏｲ ｀ヽ:∧: : ヽ: : : : :ヽ : : : : : :＼: :｀ヽ二て＿
ｌ｝ ∨ ＼: :ヽ: : : : :ヽ: : : : : __ :ヽ : : : : : : (
/:!､ / .l .|: : ::ヽ: : : : : ヽ 厂: :｀ヽl: : : : : : : ¨￢t
! ﾔ｀¨´ |ｲ : :l: : ヽ: : : : : :廴: : : : : : : : : : : : : : : :｀て
｝: :｀¨┴┴′: : |: : : ヽ: : : : : : ￣＼: : : : : :＼: : : : :厂
l : : : | : : : : : : : !: : : : ヽ : : :ヽ: : : : :＼ヽ: : : : ＼: : :＼
l : : : l: : : : : : : : l : : : : :ヽ: : : :ヽ: : r‐ﾏヽヽ: : : : :＼r‐-
ｌ : : : ｌ : : : : : : : :ｌ: : : : : : ヽ: : : :ヽ:＼ : : : ｌ : : : : : : ｀¨￢‐-
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| ウェカピボの妹の夫……もとい凛の親友の夫は記憶を失い英国に逃げ延びた。
| 彼は懸命に看護する凛の健気さに心打たれ、求婚した。
|
| と言う訳で、記憶を取り戻した彼は自らの過ちに困惑して、一方的に離婚。
| 現在、仕事上パートナーでプライベートは友人という立場。
|
| 四方八方どちらにも顔向けできず、名乗ることすら恥じて、いつでも通り名で通す始末。
| その通り名を……『弓兵』。
|
| 世界屈指の傭兵であり、調停者であり、教師である。
| 四十歳という、肉体と技術のバランスが完璧なタイミング。
|
| 彼は凛と共に、母親が管理していてくれた屋敷に潜伏していた。
|
| 『血族』でも屈指の実力者だった彼の母親。すでに故人であるが、その所有物に手を出す命知らずはいない。
| 『弓兵』や凛はお尋ね者ではあったが、積極的に捜索されていない。
|
| 二人は『血族』や『教会』の敵ではあるが、国内に留まり危険を犯す理由は伺えず、
| 何より交戦した場合の被害が尋常ではないからだ。
|
| そんな訳で二人と、その友人ルイズと、そして宿敵間桐臟硯の孫慎二。
| ついでに『十二の封印像』の一柱であり、臟硯をつけ狙う『万魔』による奇妙な共同生活が送られていた。
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/ / ./ ⌒＼
.′ ／'.＿__ ＼
| | ／ ＼ ./⌒ヽ. ',＼}
__＿| | ,:′ .／⌒ ＼| ∨ | ′
. ⌒ . ＼∨ ／ ,,.ィ７ ｝.ﾉ| ……慎二、君が戦う理由に、
＼く⌒′ ／/ ,癶ツ ノ ＼| 自分以外の誰かが入り込む余地はあるか？
｀'', ー ′ .l＼ ',
｀¨云ｯ、 │ ', ＼|
￣ '. / }/＼
＼ }＿.: ノ / } ／＼二7:.
¨´ ,:′ / ／//// >'′:.
｀ .,___／ __,,. ｧ7//＞ '".: .: .:_У
／r<ヽ |'//＞ '".: .: .: :.． ´: : :
／.:_/r┴‐┴「.: .: .: .: : :／ _,. -‐
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| アレンジが入り込む余地のない、機械的なほどにレシピ通りに作られる料理。
| 適当やいい加減は一切許されぬ、作り主の性格を体現したそれを作りながら、『弓兵』は唐突に尋ねた。
|
|「アンタは僕が名声や地位のために戦ってるってのか？」
|「私は利己的な復讐心で剣を握っているよ」
|
| 里芋の面を取りながら『弓兵』は自嘲的に言う。
|
|「目的のために命をかける事もあるだろう。
| その時、身軽な方が楽だとは思わないかね？」
|
|「……嫁さんも子供もいる男にいわれたかぁないね」
|「耳が痛いな」
|
| 軽口で応えながらも、慎二は己の内面に目を向けていた。
| 自分は、身軽だ。誰もいない。
|
| 家族も。友人も。恋人もいない。
| そうだろう？
|
| 桜は慎二をなんとも思っていやしないだろう。
| 東田は鉄で出来ているし。
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| だが。
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| 『万魔』は餌兼おもちゃがなくなったら舌打ちの一つもするだろうよ。
| しかし、最後に浮かんだ卯月の悲しげな表情が、慎二を思いの外動揺させた。
|
|「身軽な方が小回りがきく。躊躇も少ない。生存率は高まるだろう」
|
| 『弓兵』はぬるま湯で戻した乾燥シイタケを一口大に刻みながら言葉を続ける。
|
|「だが、重しとなる他者があれば、生死の境を踏み留まれる。
| 留意しておけ。死にたくなければ」
|
|「それは……」
|
| 実体験か？ 慎二は最後まで聞けなかった。|
| 『弓兵』が潜ってきた修羅場の数々を想像したからではない。
|
| 彼の過去も全然知らない。
| ……だが、祖父間桐臟硯との間にあったことは想像ができた。
|
|「君が言ったんだろう？ 娘がいるって」
|
| その当時はまだ、遠坂凛との間に子はいなかったはずだが。
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| 料理の合間に休憩を、普段は魔術の修業が忙しく全くもらえない贅沢な休み時間を利用して、慎二は携帯電話をもてあそんだ。
| あれから一週間。卯月からはメールの一つもない。
|
| このスレの内部時間である2013年現在、スマホは存在せず。
| 当然ＬＩＮＥもなく、人々の連絡手段はメールが主体だった。
|
| 慎二はしばし携帯電話を眺めると、小さく鼻を鳴らした。
| これまで生きてきて、慎二は自分から女性にアプローチを行ったことがない。
|
| それは、慎二から動く必要がなく、女の方から近寄って来たからでもあるし。
| 慎二の不愛想で無関心な態度が女の子にはクールに見えたからでもある。
|
| そして何より、何人かの女性と（時には複数と同時に）関係を持ったことはあっても、
| 誰に対しても興味を持たなかったからであった。
|
| 慎二には、『弓兵』のいう『自分以外の誰か』が居ない。
| 必要としてこなかったし、されてこなかった。
|
| だから今、ここで。致命的に遅きに失しているにも関わらず。
| どうやって連絡を取ればいいかわからずに立ち尽くすほかにないのだ。
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ハ:､:::::::::ヽ:::::〈::::::::ヽ:::::::::::::ﾄ､
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ﾉ_へr个ヾ_､ ￣ 「!:::::::::( 別に用事の一つもないものな。
/ -‐У l^ｰ∨ 八ｲ:::ﾉ｀
八 ﾏ､: | ＼ -‐' ／ /ヾ{､
_ヽ l / ヽ _イ＿∠- ﾄ､
/ﾚハ !{ ィ=─- ｲ|:|::| ,.｡* ヘ _
∧|o〉､ /l / ///-‐ 〜 _
∧;;＼ 7!′ /// ／ヽ
/ ＼;; ＼」 /// / ',
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l . :／ .| |:|::| . : :/^＼:､: . ∨
ヽ-=≦ | |:|::| ／.:/ ＼: :､: ∨
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| 、 .|:|::| .:/ ／ ￣｀ }
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| まるで初心な中学生のように。
| 慎二は臆病にも携帯を閉じた。
|
| もしも忙しかったら、こないだのは気の迷いで、卯月は慎二からの連絡なんて欲しくなかったら。
| あるいは……他に恋人がいたら。
|
|「気になるなら連絡すればいい、それが合理的だ」
|
| 気配無く、慎二の首筋に生臭い吐息が吐きかけられた。
| 最近は精進料理を食べているのに、一向に口臭が改善されない『万魔』である。
|
|「やめろ」
|「つれないな慎二。尻込みしているのか？
| お前にできないのなら代わりに私が見てきてやろう。
| そして優しく教えてやろうか。住む世界が違うという分かりきった答えを」
|
|「黙れ」
|「黙らないさ哀れな慎二」
|
| 『万魔』の青い目が、獲物をいたぶる悦楽に細まる。
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,イ７_|: |／jｲ､| ,.⌒iー､:./
/{i:iﾊ^|: |艾ﾃｭj/ } /ﾍ {'
/{ ゞ 八|: | ｀¨ﾞ /ｲ及j人
/}i乂从/|: | 冫 /| トビウオのアーチを潜って宝島についた頃
廴厶イ,入|: | ...__ /｜ お前のお姫様は誰かと腰を振っているぞ？
／ ｀卞l|: ﾄ.､ ィ |
/／ /i:i:|: |i:i:i｀i:i:く | | 性的な意味で。
_/' __/i:i:i:i|: ト､i:i:i:i:i})｜ |
ｰ彡∠´＿ ￣|: { }i:i:i:|{_｣ |
/:::. ＼八: ヽ Ｌi;i;/_:| |
|::::::.. ヽﾄ､ ﾄ､ }ﾘ : |
|:::::::.. 从＼ﾑ 0 乂 ; ﾉ}
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ヽ::::::::::::::. }::: } !
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|「え、それ十年以上前の曲じゃね？」
|「文句は凛に言え」
|
| 『強く儚い者たち』は1997年。今から23年も……じゃなかった。
| 16年前の曲である。
|
| その時期に凛が日本で聞いていた曲を、今現在この屋敷でかけているわけで。
| 親の青春の曲を子供が覚えるのと同じである。
|
|「僕とアイツはそういう関係じゃあない。恋人がいようが関係ないね」
|「だが連絡の一つもする勇気もないと」
|
|「好きに言え」
|「腰抜け」
|
| であるが。
| 『万魔』としては慎二が臆病で腰抜けの方が都合が良かった。
|
| 慎二が卯月と楽しそうに歩いているのを見ていると、胸に鉛を押し込まれたように苦しかった。
|
| 慎二は苦しんでいるか泣いているといい。
| その表情を想像するだけで、下腹の熱が上がる。
|
|「連絡しないのか？」
|「しないね」
|
| ならば、私が代わりに見てきてやろう。
| 決定的なシーンを確認し、克明に話してやろう。
|
| 『万魔』のそのいたずら心が、思わぬ結果を生むこととなる。
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,仍ｿ/ / , 7友|/ }:/
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／´￣ ＼/ 厶 _丶 ./ / ……臭いな。
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| 無情にも住人のみが失われた島村卯月のアパート。
| 『万魔』は『弓兵』仕込の隠形で忍び込んでいた。
|
| 彼女の肉体は成人前の少女の形をしているが、実際には魔力で作られた虫の集合体である。
| 僅かな隙間から侵入するなど容易い。
|
| そして、敵対的な魔力すら食い散らかしてしまうその能力。
| アパートには魔術的なアラームが付いていたが、触れることも発動することもなく放置した。
|
| 別に解除は簡単だが……痕跡を残したくなかったのだ。
|
|「この無駄だらけなのに形にこだわる魔術構成……『教会』か。
| そして怨嗟と血の残り香には憶えがあるぞ」
|
| 『万魔』はここに来たことに少しばかり後悔した。つまらないことに頭を突っ込んだ。
| だが、合理的に考えてこれはチャンスとも言えた。
|
| 慎二の信用を掴み、親しくなる絶好の機会だ。
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/ﾍヽ ﾉ ｀ー-- .ヽ /／ ´ イ
!ヽト､ 〈 ｀〉〈 ,..ィ´ }/;i＼
｀ヽ､ヽ ＼_＿＿＿__ /ハ入／≡ﾞ'′'ﾍ;i;i;i;i;i丶
;i;i|::ﾞ､ヽ ´, ＼三,ゝ'"ﾌヽ ' /ー-､´ ﾉ;i;i;i;i;i;i;i;ヽ
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;i;i|::::::::::::| |＞ ､! ! ‐- ,. -－ 二ヽ ／::|;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i
;i;i|::::::::::::| | ヽ ＞ヽ. '´ ‐ ´ / i::::::|;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i
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| 『万魔』は慎二の祖父、間桐臟硯の娘である。
| 臟硯は実は江戸時代から生きる怪物で、肉体も悪魔に入れ替えた魔人なのである。
|
| その悪魔人間の試験体として、生贄に捧げられた実の娘。
| 当時の『血族』の目を誤魔化すために退治されたのもまた『万魔』であった。
|
| 怨み骨髄。
| 一族郎党皆殺しを誓っていた。
|
| 誓っていた……のだが。
|
| 間桐の家を探るために捉え、脅迫した慎二に。
| 『万魔』は、久しく失われていた鼓動の高鳴りをおぼえていた。
|
| 最初はそれを食欲なのではないかと思っていたのだが……。
| だがその……。
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,ｨ彡三三三ミｬ､
|三三三三三ﾐﾘ
{彡´从リ从｀ミ}
| ｲﾓﾃ ﾓﾗ| |ﾒ 無事でいろ、島村卯月。
| .| ' | |彡. ……私以外が慎二を泣かすのは我慢ならない。
| .|ヽ､￣ ノ川ル'
ﾉ ﾙ':ｲ¨ラ:/ ﾘ‐--ｭ､
// i|/::::/ ｲ/ﾘ!ー'´::::::)
{从ﾉﾘ,:::{ {:从ﾘﾍﾉ::::::::::}
y´::::,:'::::::i i::::::::ﾍv:{:::::::::i
/{::::::::i:::::::::ゝヽ::::::ﾍ |:::::::::i
/:人::::::ヽ_::::::::ゝ｀ﾆヽ{|:::::::::i
ノ‐=-斧i::::i:::::::::::i:::::::/-'.|:::::::::ﾄ．
ヽ:::::彡〈 |::::i::::::::::i:::::::{ }::/::::i ヾ､
〉'´ .j::::i::__二=-‐"ヽ |/:::::::} ﾘﾄ､
∧ ｨ孑‐{互}ﾆ=-‐ﾆラ', |::::::::::', 川､
爪 /'´￣i:::::::::::',:::::::::::リ::::::::::::',
ゝ､ﾉ::::::::::i::::::::,::::i::::::::::::i|:::::::::::::}
_＞'´:::::::::ヽ::i:::::/::::::i:::::::::::r'￣｀ﾞヾ{
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| 卯月を誘拐した相手を特定するだけなら簡単だ。
| アラームを発動させて、見に来た間抜けを捕縛すればいい。
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| だがそれは、『教会』全体を敵に回す恐れがある。
| 『万魔』一人ならともかく、『弓兵』や凛、誰よりも慎二も危険に晒しかねない。
|
| 他に誰かが相手ならともかく、自分自身に対して感情を偽るのは合理的ではない。
| 『万魔』は自嘲的に笑いながら、注意深く魔力の痕跡を観察した。
|
| 彼女は猟犬ではない。狩人でもない。
| 君臨するもの。女王であり母体に過ぎない。
|
| だが……魔力を糧に生きてきた怪物であり。
| 魔力の操作や分析には凛すら唸らせるほどの技術があった。
|
|
|
|
| ……こうして、『万魔』は『異端審問官』が根城にしている海沿いの貸し倉庫にたどり着く。
| そこで待つ惨劇を予感しながら。
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☆ 次回予告！
アラビアの砂漠からきた不敵の剣士の必殺の魔剣技！
立ち向かうのは幼く未熟な神殺し。
囲碁のように、あるいはチェスのように。
白い裸体と黒い鎧が交差する。
完全に統制された集団の力と。
自由奔放なる孤剣。
丹念に織り仕立てられた魔力のタピストリと。
魔力に頼らぬ卓越したテクニック。
次回、最終幕十九話『パパ活はじめました』
果てに見るのは破滅か死か。
卯月ちゃんの笑顔は曇らせるためにあるの……？
いじめっ子視点ｗｗｗ
シンジ・・・生きろ・・・
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二ﾄ､ | ＼: : :|..□......□....| |:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:
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| オフィス街の一角にあるビルは、傍から見れば他の何でもない一般的な企業ビルにしか見えなかった。
| 『エックスラウンド研究所』。何をやっているかわからない横文字の看板は、周囲と同様ですっかり溶け込んでいた。
|
| しかしそこは、企業経営の本社ビルではない。
| もちろん営業所でも倉庫でもない。
|
| そもそも、企業ではないのだ。
|
| エックスラウンド研究所。
| それは『血族』の簒奪者フリット・アスノが作り出した超能力開発機関である。
|
| そしてこのビルは、新しい研究所。
| これまでの研究所から主要な機材やらを引っ越したものである。
|
| 前の研究所はどうしたのか。
| 二か月ほど前に、悪魔の襲撃を受けた。
|
| 偶然にもその場にいた蒼星石とアリカの活躍により、その場は丸く収められた。
| 被害はフリット自慢の警備システムと孫息子だけ。
|
| そののち、しばらくは誘拐されていた孫息子のキオは戻ってきた。
| だが研究所の警備システムはどうにもできなかった。
|
| フリット自慢の魔力と科学の融合式システムは、侵入してきた高位悪魔の一撃で破壊された。
| それの何が問題だったのか。
|
| 悪魔は有り余る魔力や、超質量での一撃で粉砕したのではない。
| 特別なパワーも魔力も消費せず、刀の技量でシャッターを切って侵入したのだ。
|
| フリットは訳が分からなかった。
| だが、他の『元老院』に言わせれば以下のとおりである。
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〈 ﾞｰ､ ,. ´ , }
! ヽl / { | いや、あれくらい夢宮でも余裕じゃったろ。
ﾊゝ-､_)(_, - く ﾊ
,ゝﾍ' 二!ｌｌﾞ二 ﾞ,r/|＼
.．イ|//|´､{ｪｪｪｪｪj,ｨｉ.:.:|//|`ー-,､
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|「上杉でもいけるだろうな」
|「訳が分からないよ。北斗ラオウ、北斗トキどころか北斗ケンシロウでも可能じゃないかな」
|「ぜったいあくなら壊さなくても入れるよ？」
|
| そんなわけで、奴らを（すでに二人死んでいて一人は行方不明だが）見返すために、フリットは警備システムを一から再構築した。
| クソ爺どもに対抗するために、物理的にも頑強に。魔術的にも強度を上げた。
|
| そのために『教会』の。中でも術的防御で有名な『異端審問官』のジャンヌ・ダルクに協力を要請したほどだ。
|
| 『血族』内部ではなく外部に頼んだのはただの虚栄ではない。
| 『教会』との関係を密接に保つためと、ともすれば魔女狩りを始めそうな『異端審問官』を抑えるためである。
|
| フリットはそのついでに研究所の内部を案内し、超能力の素晴らしさを説いた。
| 『人間が人間のままで悪魔を殺せる』。しかしジャンヌにはその利点が伝わらなかった。
|
|「ぐぐ……信仰、すれば……よい、話……なのでは？」
|
| まったくもって話しにならない。
| だが、それを否定するのは面倒だった。
|
| なにせフリットは最終的には日本から『教会』勢力も追い払いたかった。
| 悪魔を駆逐するのなら、神も駆逐するべきだとフリットは考えていた。
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/! i｀ヾ:､i､__＿＿___ `Vﾚ;
ﾄ､i.{;;! ゞyｲ´ i ､ﾄ､ ヽ.ヾ}!くﾉ
＞;;ヾ,／ゞj ﾄ､｀ヾ:､､ }! 从､丶 ､ ,
,ィ´≦;;r'- ‐―━┷,ゞ`;;;;;;}j;| ﾞ ヽヾ‐ヽ }! 〃 ,
〃´/イ;;ﾉ､ ＼､ ,〃ｨ;;;ﾊ;ﾊﾐ､-．_ヽﾄ.､V!/,' ,.;"
〃' ＼､__ /′ｲ从!ﾘ ヾﾄ､ ヾﾐ;;ｿﾚ'ﾆ='"
,ゝ'´￣/ ¨T ≠ﾘ___ｻ､､ﾘ ＼ ,ゞ;;;;;;;≧=-､
/ / ! 〃 i─ﾐ､､_ ヽ〃'};;ﾄﾐヾ:ヽ
/ / ! i {. ﾄﾐゞ_(Y､_j! {;ﾊヾ. ＼
. / .,′ ! / |: {二≧／了ﾉ l }! ヾ， ぐ……この、偉大……なる、大天使の
,′ ,′ !' |:. ∨ ,ィﾆ〉 ﾉ .ﾘ } 守りは、邪悪……な……力を
,′ ,′ j' ﾄ‐-､! ／ ＿ﾞ_＼ 退け、幸運……を、招く……ぐぐ。
,′ / / |／＜f`ｰ=ｧ″
´￣￣ｿ-―― 〈‐､__．-＝､!＼ ＼::;ﾞ″
ノ⌒ｰ／｀ｰ- ．__ }´ ヽ--≧､ヽ ＼/ _＿＿__
r＜:::::::::＼､｀､._ ヾ ﾄ-．＿_;ﾉ |｀ヽ＞-ｲf´ / ｀ ヽ,
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j:::l:::ヽ:::::::::.:.:. ヾ:､＼￣ヽノ !ノ´￣! ヽ,．-‐━ﾄ､ /. ／ ／ / ／/ ∧´" /
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| ビルの基礎に刻んだ大天使のレリーフ。
| それらは地下にある竜の彫像を踏みつけにしていた。
|
| イメージとしては鬼瓦に近く、大天使に調伏させられたドラゴンより弱い悪魔は近寄れないのである。
|
| フリットはジャンヌを迎えの車に乗せて、自分は徒歩で自宅まで帰る。
| 『血族』の車で送ろうと提案したが固辞されたのである。
|
| フリットはフリットで、ほど近い自宅までだ、車を出すほどではなかった。
| 考え事もあったし、自分の超能力に自信があった。
|
| 物騒になりつつある東京でも、そこまでの危険があるとは思えなかった。
|
|
| 甘い考えである。
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＿）ｭ､＿
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|! ニ＝
t､＿ニ＝＿＿ _ｊ
[ j ﾏ￣￣ ７「￣￣ T! ねえ、オジサン。
ｊ:::ミﾑ ヾﾘ j! ちょっと遊ばない？
__{⌒ヾ::ﾄ ｀ｰ=ーｧ ,ｲ⌒
ｒ､ヽ､ r, ／_ム ｊ ≧。 ¨ ／人_ ｊ
ｒ､ヾ､｝ﾄ､｣/ ｨ _ア ゝ彡 --イ (::ヽ＿
｀ヾ＞//ﾊ ｒ‐’⌒ ﾏ､:j r::{ ≧､
ー＝/////! ｌ::ｊ７､＿ｒｖｭ ィ､⌒ｊ::::) ニ_j!
L///7⌒j ｊ j 个人7 ｊ ｌ T ､ﾊ_ハ｀＼_ ノ
{ﾚ＿イヽ / ､ | ! ^ ｊハﾄｰ' l! 〈
ヾ////＼ 八 i! ! i! ﾊ
＼////ヾｭ､ / ノ ｊ j | |! ﾊ
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| トレントコートにサングラスの女子高生が、甘ったるい声をかけてきた。
| フリットはのろのろと振り返る。周囲に人はいない。
|
| 自分が声をかけられたのは理解できるが、信じがたい部分もある。
| フリットはまだまだ若いつもりだが、若い娘にナンパされるほどとは思っていなかった。
|
|「そういう行為は感心せんな」
|「そういうって？」
|
| トレンチコートの前を開く女子高生。
| 少し硬そうな乳房が、固く閉じた性器が十一月の夜風を受けて固く震える。
|
| 月あかりに照らされて浮かび上がる白い裸体は神秘的で、同時に恐ろしく猥雑に見えた。
| 思わず息を飲んだフリットは、だがすぐに己の失態に気が付いた。
|
|「誰彼構わぬような事じゃよ」
|
| 突きつけた指先。超能力の板が女子高生を叩き伏せる。
| 手加減はした。死ぬほどではない。本当にただの女子高生なら謝ればよい。
|
| だが、こんな高純度な殺気を放てる女子高生などいるものか。
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{ ／}ノ く ｰ=彡 / }
＼ N＼}｀ヽN ､ イ . ｰ=彡 / /
「ヽ { ＼ , - ､ / }
＼ . { ゝ ／}/ /＾ ∨/_
＼} ､ { / -‐- ／／:|/ } } ／
{, -=ミ } {′ ／ ｀ヽﾍ ／| | ） ' /_
〈 ＿ ＼{ { 〃 . ´ ｀ヽ } 〉 ｜ !i′ /ヽ}, Y´ むっ。
ム-=ﾐ｀ヽ{`ー―{ / ィ⌒ヽ ､ .} |Y ! | / ヽ} .|
/ '⌒ヽヽ }｀¨¨¨´V{ 弋___ノ }ﾉ ノ ! |ｰく ､,/ ﾘ
八弋___ﾉ ﾉﾉ ゞー==彡" /｜ |/ )ﾉ/ /
`ー=彡 | ￢ { .| ゝ彳/ /
xく /＼ / } ｲ、 ＿_ 、 } ﾘ ノ/ /{
__／_r' / ∧ r└‐=彡 ＼ : / Z ′ ゝ
ノ ､_} / ﾊﾉ , , , ､__､___､__､__､ヽ} / /／ 〔
, -‐/ く / ‘ｰ'"} 辷 ＿＿ーv_ノ / / 〃 厂
./ / ＼ / ∧ { / ／/ /
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| フリットが昨今の女子高生を舐めている事はこの際置いておこう。
| というか、アリカやペルソナ使い達程度では、このレベルの殺気は放てない。
|
| 気迫だけで死を確信できる次元の存在。
| 夢宮やラオウを思い出させる、心臓を鷲掴みにされるような恐怖。
|
| フリットの判断は正しかったし、攻撃も彼にとっては最速の選択だった。
| しかしそれでは遅かった。遅すぎたとも言えた。
|
| スレンダーな裸体は白い残像を残して『板』の横に動いていた。
| はためくトレンチコートを目くらましにするまでもなく、恐るべき柔軟さと平衡感覚で地を這う女子高生。
|
| 賢明なる読者諸君は、その動きに見覚えがあるやもしれぬ。
| 多少の差異はあるだろう。だが剣の術理としては同じもの。
|
| 見たか！
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ニ￣―＿
￣―ニ￣―＿ ＿＿
￣―ニ￣― 'ｒ､＿ ／::::::ィ:::::ヽ__ノ
￣ー７. メ/ミァｫｭ､＿ ｲ:::::::X::::ヽ::::::).
//マ=－{K入///777ーｭ--､_ |｀ーハー―´ j! ｿｰﾊﾞｰﾝ
｀′ ｀ﾟ⌒~ ー=/////|￣ ー´￣ｺ!＿＿ ﾘﾄ＿＿ 『 砂蛇 』 ！
￣｀ ┴ ＿ ィ⌒ﾊ¨ ｊ>￣ 不ｧ:{トー::::ヽ.
{::::::ゝ-ｲ八 r__。 ノ⌒ｊア ￣ ヽ
＿＿ｒ:::⌒r￣￣コ_ﾑ＿ イ八_ノ_＞ ーｭ､
／ ／￣￣ ｀イ⌒ｊｧ介ﾄヽ＼} ｀＞ ｊ/＞。
＿... イ＿彡´ ｊ ﾘ ヽ{ ｢! ｀≦////>,
７:::ォ{ ＼ ､ ﾉ! /////
⌒ソ' ／￣ ､ _ ヽ´ ー 彡′ ///／
／ ＜ ／ク′ ﾄ, （ r-//／
ｲ､ ﾏ､ムﾌニ=ァ-､ ｒy j＞ﾇ ／{
__/ ム ｊﾘヾｰ=ニ//コｊニ7ヽ ﾏ｀ー┴＝ﾆトｧイ レ７
///ヽ ／ ｭ､＿_ノﾘ´ ヽ ￣｀ マニOニT－-{ﾊ / {
/////// ｀マニﾘ ｀ マニｊ ￣ヽ{-､ ゝ＿
/////// ＼ マ ﾍ ｒ､＿＿{
//////' ー― ⌒ヽ ＼ ヽ{ ＼
///// ､ ヽ
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ﾉ/イ
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| 地面すれすれに、這うように飛びかかる蛇の一撃。
| 脛を切り抜けて相手の側面に回る技だ。
|
|（浅い）
|
| 想定よりも鈍い感触。
| 楷でこぐような抵抗。
|
| 超能力の盾を切り裂き、切っ先がフリットの骨を削る。
| 女子高生……『十二の封印像』の一柱『蛇身』たるイナミにとって、不本意な結果。
|
|「首ならやられていたな」
|「試すか？」
|
| 切り抜けた先の壁を蹴り、反対の壁へ。
| 足を半ばまで斬られたフリットは反応できない。普通ならば。
|
| 体を鎧う超能力で止血、固定。
| その上で超感覚によりイナミの位置を把握。空間を硬化して脇腹を狙った斬撃を受け流す。
|
| 汚れたアスファルトに前転して受け身。
| 納刀しながら振り向くイナミに対して、フリットは警戒しつつも上空を仰いだ。
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_,‐二／／ ＼＼＼::::::::::::::::::::::::::::::::｡::::::::::::::::::::::::::::::::ﾟ::::::::::::::::::::::::::ﾟ:::::|::::|:::::|:::丁:=- _::::::::
二／／＼＼.:＼.:./::::::::::ﾟ::::::::::.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.::::::::::::::::ﾟ:::::::::ﾟ:::::::::::::::::::::｡::::::|::::|:::::|:::::|:::::|:::::|ﾆ=
／／.:.:＼ ＼＼.:/::::::::::::::::::::: : . . : :::::ﾟ:::::::::::::::::::::ﾟ::::::::::ﾟ:::::::::|::::|:::::|:::::|:::::|:::::|:::::|
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X ＼ ＼ /::::::/::::/:::::::::::::::::::::::::::::::::::::。::::::::::ﾟ:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ﾟ:::::::::::＼|:::::|
爻爻x＼/:::: /::::/:::::::::::::::::::::::＿＿＿＿＿＿＿::::::::::::::::::::::::::::::::｡::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::＼|
爻爻爻x:::: /::::/:::::｡:::::::::::::ﾟ::ｉ| iニ二二二二ニｉ |ｉ:::::::::::ﾟ::::::::::::::::::::::::ﾟ::::::::::::::＿＿_::::::::::::::
爻爻爻ミj/::::/:::::::::::::::ﾟ:::::::::ｉ| ｉﾆニニ二ニﾆﾆﾆｉ |ｉ:::::::::::::::::::::ﾟ:::::::::::::::::::::::::::|＼ xxXXxx
爻爻;爻;/::::/:::::::::::::::::::::::::::ｉ| iニ二三三三二ニｉ |ｉ:::::::::::ﾟ:::::::::::::::｡::::::::::::::::::| 爻狄ｿ狄
爻;爻ﾐ;/::::/＿＿_::::::ﾟ:::::::::ｉ| ｉﾆｉ二ｉ三ｉ三ｉ三ｉﾆiﾆｉ |ｉ::::::::::::::::ﾟ:::::::::::::::::。::::::::| 狄狄狄狄
:爻:ミ:/::::/￣￣/∧:::::::::: ｉ| ｉ二ｉ三i三i三i三i三iﾆｉ |ｉ::::::ﾟ::∧ﾆﾆﾆ-_::::::::::::::::＼X狄ｿ狄淡
爻ミ/::::/X ::::::///∧::゜:::ｉ| ｉ三ｉ三ｉ三ｉ三i三i三i三ｉ |ｉ::::::/::∧ﾆﾆニ‐_:::::::::::::::::爻狄i狄淡
ミﾐ/::::/爻ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐx/ ∧::::ｉ| ｉニｉニｉニｉニｉニｉニiニiﾆｉ |ｉ::/::/: ∧ﾆﾆﾆﾆ‐_::｡:::::::::/爻狄ｿ狄
ｃ/::::/爻爻ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;Xx/:::ｉ| ｉ二ｉニiﾆ.iﾆｉﾆｉ二ｉ二iニiﾆｉ |i:∨::/: ∧ﾆﾆﾆニ‐_:::ﾟ::/ 爻狄狄
/::::/淡爻爻ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐﾐxﾆ二ｉ二ｉニiﾆｉニiニｉニｉニｉﾆi |ｉ::∨::/:::ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;｡/ 狄ミ狄
::::/慫淡淡淡ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;xﾆｉニｉニiニiニiニiニiニiニｉ |ｉ:ﾟ:∨::ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;XxixX爻狄狄
:/慫淡淡淡kﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐj二ｉ二ｉ二iニiニｉニｉニiニｉ |i:::::∨ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;刈爻爻狄
淡淡炎淡淡kﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐく::ｉ二ｉ二ｉ二ｉニiニｉ二ｉ二ｉ二i |ｉ:::xﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ刈狄狄
淡淡淡淡淡淡ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ二ｉ二ｉ二ｉ二ｉ二ｉ二ｉ二ｉ二ｉ |ｉﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ﾐ;ミﾐ;ﾐﾐ刈狄
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| 仰いだ先……煌々と明かりの灯った高層マンション最上階で。
| 一組の男女が見つめ合っていた。
|
| 若いカップル……ではない。二人の間には色っぽい雰囲気は欠片もない。
| 年上の、と言ってもまだ二十歳前の少女が、凛とした風情で少年に教えを与えている。
|
| 少女は藤堂志摩子。『血族』大首領にして囚われの姫君。
| 少年はキオ・アスノ。フリットの孫にして悪魔共存主義者。
|
| 二人はフリットの虜囚であり、子作りしなければ解放されない立場にあった。
| 狂気の老人は、自分の孫と『血族』の血の傑作を掛け合わせることで最強の超能力者を産ませようと企んだのだ。
|
| だがフリットの雑な目論見は、キオの常識的な倫理観と向上心の前には逆効果であった。
| キオは志麻子に指一本触れず。志麻子を魔術の師として仰ぎ、教えを乞うていた。
|
| キオはフリットの右腕であるダースベイダーに手も足も出ず、己の超能力の根本的な底上げを望んでいた。
| そして志麻子は生と死すら和解させるキクリヒメの化身。
|
| 異なる魔術特性を反発させずに融和させる達人である。
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イ ミイ ヽ
／ ／ イ ´ 个 ､ ､ ＼
/ / ／ ／ / ハ
/ / / ／ /ｊ ! ',
! ′/ ｨ ／/{ .
| ! ﾘ / | ／ ィノ!∧ ｊ |
iﾊ| ｊ/ｧ､!／ ／,ィ ／ｊ/ V i !
ｊﾊ个ｷｭ_／ｚフ⌒＞ ､ | ﾄ､ ｌ !
〉Lｿ ´斤ｙｒ‐､_ | | 彡⌒} ! j| （……しかし、ここまで幼いとは）
イｊ ｌ / ゞ:;ソ ^´ | | 八 ｊ | ｲ!
/ ｊ八 ヽ ￣~ j | ィ_ イ ハ八
（ ｒ7 ｊアヽ､__ , /｢ ｊ ! ＼｀ー ､
} ﾘ / /⌒ﾟ ｀ ｲ ! / 人 ｀ヽ ハ
イ / / ⌒ ーｒ 彡´ | ｊ ! /｀ー ´￣ ＞､ ｊ
/⌒７/≧=ｭ､ ヽ |/ | { ムヽ
/ニ７/ニｭ､ ヾ┬ ﾊ ヾ､ﾊ ヽ ムニﾑ
{ニ7/ニニニｭ､｢{ ﾄヾ､＿ X､ヽ :. イニニﾆｊ
ﾏﾆ {ニニニニｊ! ゝー┴ 八 ｀ ハ } ｊ } ィニニニニﾘ
ﾏﾑiニニニフ{_ j!ハ / ,リ/ ﾉ_ ィニニニニニﾆﾄ
ﾏヽ､ニニ｢ニ≧、 ィﾊ ﾊ ｊノイ /ニニニニニニニﾆ! ヽ
ハﾆム､ニｊニニ≧≠ニﾆ!≧ｙ´イ7 /ニニニニニニニニ| }
/ ﾊニﾆ Vニニニニニﾆ7≠（(_⌒ヽ {ニニニニニニニﾆﾆ|! ﾘ
{ / |ニﾘ /ニニニニニﾆ ｒｌヽ ヾ!ニニニニニニニニ|‐´
ヾ |ﾆ7 /ニニニニニニ′ {Ｌﾑｊ/ !ﾏニニﾆﾆﾑニニニﾆ|
. ｊ/ /ニニニニニニ7 ｀ｰ个､__ノ ｊニニニﾑﾆ7ニニニ､
ｨ } 个ァニニニニニ７| ﾑﾆ ヽ＿ノｊニニﾆｊニ/ニニニ|! ＼
/（ ノ ｊ/ /ニニニニニニ!ﾑ ノニﾑ /ニニィニニニニニ|! ﾘ
{ ￣ /ニニニニニニニｊニニニニニニニ＞´￣ミヾニニｭ､ニ! （
｀ー ´|ニﾆア⌒￣￣~~｀ヽ￣￣≧｢ニニニニニニニニニニヾ|､ ーｲ
V´ィ }! }ニニニニニニニニニニニｊ ￣
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| キオの超能力を精査し、その基礎と彼自身の応用について確認した後、志麻子は密かに嘆息した。
| 超能力。フリット・アスノが開発した新たなる魔術系統。
|
| 志麻子はこれまで、基礎知識しか持ち合わせていなかった。
| 見えないものを見るESPを利用して、不可視のサイキックを操るのだと聞いていた。
|
| ……咎められるべきはフリットの秘密主義。
|
| 確かに看板に偽りはなかろう。
| だが、その先が存在しないとは想像できようか？
|
| 自信満々に超能力の強さを喧伝するフリットがただの詐欺師で。
| 超能力そのものは未熟なママゴトだなんて。
|
|（いえ、シックスはともかくロージェノムや伊集院が簡単に騙されるとは思えません）
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. : :_:´:￣:￣:ミ: : ､
, : :´: : /: :ヽ､:ｰ:､: : : :｀ヽ＼
, :': ; ィ : : ′: : :';:＼ '; ヽ: : : : : ヽ
/ ; :´: : : : : :,: : : : j: : :ﾊ}: : : ､: : :ﾄ: : ､
' /: : ;! : : : : { : : !: : : : j Yﾊ: : : :j:!: : : :.
j/: : : :!: : : : : i!: : : : : : ﾘ _ｊ:_､!: j: |: : : : : ､
': : : : :'; : : : : : ､: :斗:T7´￣! V川:､: : : : : .
|: : !: :､:ヽ:_:_:＼:ﾊ: :i: ﾘ´zxｫ:ﾄ ﾚヾ!ﾊ: : : : : : ､ （ならば、キオさんの知らない『この先』がある……？
!: : |: : V:´{: : : ヾ_ヽj´弋ｔソ:! ｒｆ }: :,: : : :i: : ! あるいは、
': : ﾊ: : ﾄ､:ry休ー‐ヽ :j ｲ_ﾉ: : '; : : !: :j 『元老』たちは可能性を見出していたのかしら？）
': : :ヽ: ヾzゞ‐' :i' /｢: :j: : : i: : j!: :{
ヽ: : : ミｰｧ ヽ :l ′: :/ : : j: i八: ﾊ
｀T:T￣ゝ. = ‐ :ﾚ ∨: : : :': :|: : ､: :ヽ.
ｊ: ﾊ: : :ﾘ个: .-,＿ ,ｲ: /: : : /､:_|: : : ＼: :｀:ｰ:､
/:/: j: :/: :j: :｣_}. ヽ. ,' : : / ￣ ｀ ､ミ､: : :ヽ
/:/: /: /: /／ _.｣ ヽ! : / ＿＿)､: : :.
/: { /: /-‐´ j´ ﾊ / イ´_ ｚ＝f: : : }
,': : j/: / ├- -‐ハ:{ イ ／ニニニニ}: j
{: :/!: / ! / ﾘ! ｲ´ ／ニニニニニｊ:/
∨: :∧､ | / /ｲ: イ イニニニニニニｊ/
,': {/个､ヽ ! / /:_人:／ニニニニニニニ,ｲ
{: fニニﾍ. ＼ i / ｲ:´_ィ ヽ.ニニニニニニニ7 !
人:{､j／ﾆヾz､≧{. _ノ彡´j:／ニニヽ.ニニニニニﾆ' |
ｒ－ ⌒＞＝－ヾニニニ=-ｧ´ｵ､-＝{:ニニニニﾄ:ニニニニ７ i
ィ＝ ニ二＞ー― ´￣｀ マ_ア､_八 ｢ ﾏニ八.ニニニニｊ|:ニニニﾆ{ !
/ { ｀ー ' ニ二 ｀ーｧ ￣ｊヾｭ＼ }ニニ｀ニニニニﾘニニﾆﾆL＿ｊ
{ 八 ／ｒ-=－￣ ノ ﾘ ｊニヾ{ニニニニニニ/ニニニニ
个= ≧－'イニヾ′ニ≧＝ｒ ァ´ ｨ´ /ニニニニ≧=ｭニフニニニニｊ
ゞ≧=－彡ニニ≧ｭ､ニニL＿ｲ ／ニニニニニニニニ｀ヾニニニｲ
｀ヾニニニニニニニニ八ニニニニニニニニニニニニ＼ニニﾘ
}＼ニニニニニニニニゞ=ーニニニニニニニニニニニ､ニ7
Lニニニニニニニニニニニニ≧＝ニニニニニニニニニ7
｀ヾニニニ＝ ￣￣￣￣ ￣￣￣￣ヾニニニニニニ７
ー＝´ ＼ニニニニニ′
￣￣ ´
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| 超能力は、人間が人間のままで、神仏に頼ることなく悪魔と戦う術だという。
| だが『魔術的に自らの脳を改造して見えないモノを見えるようにした』存在は本当に人間なのだろうか？
|
| 『気』の操作、『経絡』の解放、肉体強化魔術。
| ある種ありふれたそれらの魔術を、感覚に特化したものが超能力である。
|
| 念動能力は？ それもまた、至ってありきたりな魔術だ。
| エネルギーの弾丸や火の矢、電撃を放つように、超能力では見えない腕を操るだけなのだ。
|
| 逆に言うと、超能力は恐ろしく非効率的ですらあった。
| 人間に存在しない部位が存在するかのように、第三の腕を伸ばすようにして超能力は動かす。
|
| なぜ、そんな遠回りをするのだろう。
| 志麻子の疑問に、フリットならなんと答えるのやら。
|
|「使い方を制限しないためです」
|
| キオはそう答えた。
| では。
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,..ィ::::￣:::::::ヽ. ヽ、
/￣ ｀ マ:::::::::｀ヽ_ノ>
/ ￣｀ 、::::｀ヽ
/=ー:ァｰ､ ｀ー::::}
ｊ::/::::::{ ｫｌ::＞ .. 7
人::::::八 !:{_ ｀ ＜ /
V::::/⌒ヽ ﾘ 7
（::::::::{ j r .:: !
＿＞ｰ ､ 人:::::::ゝ..r〈 ﾏ≧￣
＞－_三ヽ/:ヽ::::::ｲ ﾊ 〉′ （ニンゲンやめるためじゃねーの？）
７:/ア￣￣ミ:::::::ヽ:ﾊ／ ヽ __ﾉ
/::／ ｀ヾ:::::::j
／／ }::::人
／:::/ ｊ 个ﾄ､
::::::/ ｲ !⌒
::::/ ／ |! !
::/ ／ i| !
/ ／ |! |
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| 超能力の鎧。念動の障壁。バリア。個人用結界。
| 呼び方は何でも良い。フリットは極めて強固だった。
|
| 追加の手足、羽、触手……イナミは超能力による見えない手は、人外の部位を操作する訓練に見えていた。
| イナミまたもキオの師であり、超能力の使い方を訓練したが、当時から悪魔化を念頭に入れていた。
|
|「もしやあんた、『辻斬り』か？」
|「だとしたらどーするよ？」
|
| イナミは攻めあぐねていた。
| フリットもまた焦っていた。
|
| どちらも、攻撃力に欠けていた。
| イナミはフリットに致命傷を与えられず、フリットはそもそも命中しない。
|
| それもそのはず、フリットの攻撃はすべて見切られ、攻撃をした時にはイナミはすでに動いているのである。
| それは念動と手を同期させているフリットの未熟さ故なのだが、フリットは理解出来ず、ただただ目前の脅威に慄然とするばかり。
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. / ,' / く
/ { / 7ノ
,,.=ミﾍ ,彡ﾍ,,.=-. {
i ﾐ ｀¨^ ミ -= }
. ', ミ 、 ミ -= ノフ
. ' ミ,-‐‐- 、__彡-‐‐-､{.ミ く
Ｖ r⌒ヽ ｒ⌒ヽ ￣二7、 〉
i.入__ノ 厂i 入__.ノ 厂六/ :|⌒ 『辻斬り』は『教会』を襲うと聞いとったんじゃがな。
', ｰ--‐7 ｀ー--‐' ,./｜) }
Λ ｖ:フ ｨ } !_ノ
} .； /¨ ~¨¨ヽ ノ / { 〉-､
人 ＼レ'"＾｀ヽﾉ / ｜ ヽ
／ 〉 ｀ 一¨^¨ー.,_／ ﾚ'"
. .． "¨ Λ ,．'
／ ／ 人 ／ｒ
,． ¨7 〈 ｀ヽ,.__,.__,.ノ-'"_ノ
ｉ {i ヽ.,ノ-､ ∨//////¨/
| ＼ く ∨////¨/ _ノ~
| ｀ ‐--ミ、 ト V//¨ / ノ¨￣
r{ {__ { }/ / ,．"
{ 、 ＼ } / /,． " ／
/ ＼ `{ ./ / ／
{ }/ {
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|「ジャンヌ・ダルクと一緒にいたろ？」
|
| つまり、エックスラウンド研究所から尾行されていたことになる。
|
|（だがコイツ、間違いなくキオと同系統……。
| 殺すだけなら楽だが、殺しちまったら怒られそうだよな）
|
| 情報収集のために襲っているはずだが、つい面倒になって殺してしまうイナミである。
| おかげで一向に『ネクロノミコン』の情報が掴めないのはご愛嬌。
|
|「『異端審問官』に恨みでもあるのか？」
|「無いね」
|
| 恨まれることはあっても恨まれる筋合いはない。
| 先日の返り討ちだって正当防衛だ。
|
| だがイナミは、主命により『ネクロノミコン』を焚書せねばならぬ。
| そのためにはまず、『教会』が保存しているという物を確認する必要があるのだ。
|
|「『ネクロノミコン』を知っているか？」
|
| ジリジリと弧を描くように移動しながら、イナミは久々に尋ねる。
| フリットは一瞬訝しげに眉をひそめ……その表情が一変した。
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:| { ヽ / | / / /
丶 ﾘ ; ﾐ, / 八 / / /
＼ ﾚ! ﾉ `, / 〈 ゝ-彡 ' /
ヽ ￣ 厶 l ; ヽミ ,厶,,_
＼_ ／‐=ニニﾆヽ { ﾉ, ／ 二ﾆ=、 } _,／ , ´
ﾐ, } { ／,≫＝ミゝ_,｝〉 {《___ノｧ=≪ ＼ | 丿
＼ｒ‐┤ | ／ め ｀`〈 ﾉ め ＼ ､ ｜|>―､彡 貴様、『蛇身』か！！
ﾉ Ｊ | ミー==彡ゝ i へ ﾐ= ___,,. |｜/＾ i
} ノｌ ! へ,,__ ／ } ＼ ノ＾' } ｊくl ;
{ { l| ! _,／ `ｰ ; ｌ| ﾉ 八
八 ﾘ ‘ / ﾘ /
＼‘ ゝ ﾉ ＿＿_ュ__ｒュ＿＿_ 丶 ,ｲ { ,〈
＿ゞ, い, l ／ ＼ } /ﾉ ,厶ハ,
／ ハ ! ｌ V , ,___ｔ___人__ｘ,__､ ､ Ｖ // { V└―ｘ、
__」 / '，l ` '⌒了___ｧ………=ｔ__T＾ﾞ⌒` ′ l }／ ⌒ ＼___
ミ〈 い、 弋く >ｿ ; l ‘ ｀ ,
》 ﾉ ＼ ヽ辷ｰ─一少 ﾉ 〈 乂 |
〃 く, ＼ ,,.二二.,, ／ ゝ ﾏ └ｭ_
ヘ ＾气 ￣乙 ィ／＼ ､__,z―=彡 厂 ﾉ ＼
〕ﾄ 厶 ´ ﾉ ｀ゞ ,厶 ／ ヽ
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| ゴーグルをかなぐり捨ててフリットが怒号を放つ。
| 今の今まで、目の前の痴女の正体に気がついていなかったのである。
|
| 『蛇身』はフリットにとって三重の意味で宿敵。
| 悪魔であり、旧エックスラウンド研究所のセキュリティを寸断した犯人であり、愛する孫キオに妙な思想を植え付けた存在でもある。
|
| 恨んでも恨みきれない。
| ただの悪魔か『結社』残党ならば、冷静に対処し、耐久戦の末に打ち倒す気であった。
|
| だが、相手の正体を知った以上はそうも行かない。
|
|「殺す！」
|「あ？」
|
| 防御に回していた念動すらも攻撃に注ぎ込み、強烈な一撃を放つフリット。
| だが、それは単に致命的な隙を生んだに過ぎず。
|
| 不可視の破壊波をくぐり抜けて懐に入り込んだイナミは、激烈な肘鉄で一撃。
| 肋骨の数本をべきべきにへし折るも、内臓破裂に至らなかったのはイナミの温情かフリットの防御か。
|
| 体をくの字に曲げて悶絶するフリットの襟首を掴もうとし、イナミは素早く跳び退いた。
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｜ ｢::|:┐
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／／|::|:::::/:::/:／￣/ ﾆ三三′
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／///廴_,|⊥∧ﾆ{!--=/ﾆ二三三/,
／/////:::|丁ＬT|::|={!-=ｽ二 三三ﾆ∧
／//////{:::ｉ|::|匚 _|::|И_,べ二_二三三ﾆﾑ
＼ ,ｲ///////∧::込二- ノLjｲ二-三三三三二ﾑ
＼＼ //////////ﾆ∨∧ﾆﾆﾆ｢ダ￣ |三三三三三ﾆﾑ
＼＼ //////////⌒Ｙ⌒V￣_iあｰ─=ﾆニ三三三ニﾆﾑ
＼＼ ,.ｲ/////////⌒ 人 人三「ハ } ｀Ｙ三三三三二ﾆﾑ
＼＼ ／//////////⌒V///｢ 三_| | | | ∨三三三三二 ,
＼＼/////////￣＼////,| -三| | l 〔 ∨三三三三二 ′
／/,＼＼//////三三/////| ﾆ三| | |ﾆ ﾆ三三三三ニ :,
／///// ＼＼///三三///// | ﾆ三三| |ﾆ ﾆ三三三三ニ ′
／//////////＼＼)⌒∨/////,| ニ三三 三 ﾆ三三三三ニ :,
..／//////////////`'く＿)ﾉ///// | 二三三 三 ﾆ三三三三ニ ′
///////////////////)う价/////| 二三三 ﾆ三 ニ三三三三ﾆ '
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| フリットの自宅マンション真下というロケーション上、彼の護衛が駆けつけてくるのは必然である。
| 不可視の弾丸を乱射しながら自由落下で推参した黒衣の怪人。
|
| 弾幕の中に潜んだ正確な狙撃を回避しつつ、イナミは音高く舌打ち。
| 彼女はその性質上、自分を狙わない攻撃や回避しきれない面制圧を不得手としていた。
|
| 威嚇射撃にやられるなんてみっともない真似がありえるのである。
|
|「ベイダー！ 殺せ！！」
|「ｺｰﾎｰ」
|
| フリットとイナミの間に着地したダースベイダー。
| アスファルトに走る蜘蛛の巣上の亀裂。こいつも念動の鎧で装甲はバッチリと来た。
|
|「拾った命、大事にすんだな」
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| ベイダーの熾烈な攻撃を回避、突破、反撃に見せかけて反転。
| 捨て台詞を吐いて逃げ出そうとしたイナミであったが、はたと顔を上げる。
|
|「知るか、テメーのケツだ。テメーで拭け」
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.ｨ:::::::::::::,::::ヘ::::::::::::::::､:::::ヽ､:::::＼
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Ⅵﾍ::::::::::::::ヽﾍ ` 一' ′ l
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ﾘ:::::::ﾊ └, ｀ ´ /::＞
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l j:::::::::::::ヽ:::::::::ﾍ ￣￣ フ ﾍr=ﾆ二三三ﾕ,
∨`＜,_r-ｭ＞'’ 入 .r'’ 丿 ／ ﾍ
ﾍ 〈 / iハ ／ / ',
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ﾊﾑ, / i! / .ｲ .j ／ ノ
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／ iハ ﾘ i l ,/ / ﾘ
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| ベイダーが動いた時、キオはすぐさまそれを感知した。
| 彼はマンションの最上階フロア内の物事を超感覚で把握していた。
|
| それまで詰め所で身じろぎせずに座っていたベイダーが突如飛び起き、おっとり刀で窓から飛び出したのだ。
| 普通の人間がやったなら発狂して自殺したと思うだろう。
|
| キオはベイダーが飛び出した瞬間に自分も窓まで駆け寄った。
| 志麻子らを監禁するその部屋の窓ははめ殺しで、飛び出すことは叶わない。
|
|「キオさん？」
|「下で誰かが！」
|
| 自由落下？ いや、加速しながら落下するダースベイダー。
| 続いて待機状態にあったストームトルーパー達が援護射撃。
|
|「狙撃が一名、弾幕に三名。四名はベイダーの超能力の援護。
| 加速と足元の防御を複数展開してて……」
|
| 慌てることなく窓際に立った志麻子に、キオはベイダーの戦闘を解説。
| 几帳面に、そして堅実な戦術。予備戦力を残しての作戦。
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｛:.:.:l.:.l:.:l.:.:.l:.:.l:.:.ｨ:.:.l:.l:.:.:j:.:.:.:.:./ ヾ:.:.:.:';.:.';.:.i
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';.l.:l:.ヽ:.l _zｧ=＝ﾓ "´ ´ｨ＝=-x, j:l Ｋ l:.:.:ﾉ
ヽ:.l:.:.｀ﾄ"ヾﾟtぅﾉ ヾﾟtぅﾉ ﾈl レ/:.:/ 思い切りがよくて判断も早い。
/l:.｀ト:.ﾄ "￣￣´ i ｀￣￣ﾞl:l lノi.:i:j ……その上奇策もこなすのですね。
,ノ l:.:.:l:.:ﾊ. ／｀`ヽ､／｀ヽ､／｀ヽ,ﾘ/:.:.l:.l:l
〃 ﾉ／￣｀′ ￣＼l:ヽ
/.:ﾚ'´￣ ,. -‐─- ､ ￣＼_
,レ' ／:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.＼ ヽ__
/ /:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:', / , ヽ_
<´ ヽ／ {:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:}/ ＼/ O/ >
＼ ／ ヽ, -|‐､ ';.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.// _/＼Zｧ , ／
/´＼ r'^ヽﾉ ｝＿＼:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.／/（´∧∠／/ ／ヽ
｛;:;:;:;:;:ｉ＼ヽ__∧ '´ _） ｀ ｰ- rt‐´ `´ / ｛ﾉ ／i;:;:;:;:;｝
!:;:;:;:;:;:l;ヽ＼ ＿/ / _ ／/;:;:l;:;:;:;:;l
';:;:;:;:;:;:;l;:;:;:ヽ＼ , ､‐ヾ´丁「 / /「 ７ ァ- ／ノ_／ ノ;:;:;:,!;:;:;:;/
ヾ;:;:;:;:;:l:;:;:;:;ヽ ＼ ヽ ﾞ､！l/ / j / , ' ／／／ ／;:;:;:;:;ﾉ;:;:;:/
ヾ;:;:;:;:';:;:;:;:;:;Yノ＼ヽﾞ､ﾚ' /l j/ ,.'／／／ ／;:;:;:;:;:;/;:;:;:;/
ヾ;:;:;:ヾ;:;:;:;ﾘ^ヽ､ >'′└‐''´ ／Ｘ ／;:;:;:;:;:;:;:;:/:;:;:;:/
';:;:;:;:;:ヾ;:;:{;:;:;:;/ ' ノ;:;:;:;:;:;:;:;:;:;/;:;:;:;:;ｆ
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| 眼下で繰り広げられる戦闘。
| ダースベイダーがフリットを庇いながら攻撃。
|
| 念動剣による戦闘に、超能力の補助。
| 蜘蛛男の如き連打に、足払いや背面攻撃、狙撃やらが組み込まれる。
|
|「強い……っ」
|
| キオは、あれに打ち勝たねばならない。超能力をもって。
| だが志麻子は初めて見るダースベイダーの戦い振りに疑問を覚えた。
|
| キオとは戦略時点でレベルが違いすぎる。
| 囲碁かチェスのように無駄を削ぎ落とし先を先を読みながら相手を流れに乗せんとする動き。
|
| 誰か、達人の師事を受けている。
| 『教会』の力業ではない、無数の使い魔を手足の様に操る陰陽師のような……。
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／::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ﾍ:::::::::::ハ
/:::::::::::i:::::::,::::::::::::::::::::､:::::::､::::::::::::::::::::i!::::::::::::::',
/:::::'::::::::i:::::::::ﾍ::::::::::::::::::＼::::＼::::::::::::::::l::::::::::::::::l
′':::::::::/ヽ:::::::::＼ヘ､:::::::::::＼::::＼:::::::::::i::::::::::::::::!
|::::l:::::::::′ ＼:::::::ヽ, ＞=ﾆ＜｀ヽi:::::::::/::::::::::::::::!
V i:::::::ﾄ=ｰ ｭ, `'ｰ一` 仏.き 7 ,}:::::/i::::ｨ:::::::::::l
ヽ!:::::{ ,.rｪｫ, '弋少 ' /／ ﾚ'´｀ヽ,ﾍ{ ……イナミさん？
＼{ : 心ﾘ “¨ ′ .ｨヽ l::::ﾄ､
iゝ` ” , ノ ﾉ:::::::::ヽ,
i ヽ ｀ ィ’ ノ:::::::::::::::::ﾑ
. ､ー‐- . r=≦:::::::::::::::::::::::ﾘ
ヽ ￣ /{::::::::::::::::::::::::::::::ﾘ
〉､ i.,:::::::::::::::::::::::::ノ
i:::::＞ ､ _,. ,.｡ィ ∨ . ヘ∧／
ヽ,:::::::::::::￣ i ,. ≦ ∨ｭ,
∨ヽ r.イハ /ハ / ≧rｭ｡_
_,.｡≦ﾊ j r’.ﾉ ∧ / ≧rｭ｡_
_,.｡≦’ /／ ヽ,ィ ィ’ ∧／ ≧ｭ
ｨ仁 / / / ´ ﾑ
/j / / / ／ ',
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| しかし恐るべきは、その熾烈な攻撃を完全に見切っている敵である。
| トレンチコートをはためかせ、超能力の蜘蛛の巣に、かすりもしない幻惑の蝶々。
|
| それが何者なのか理解した瞬間、キオはガラスに体を押し付けた。
| 割ってでも飛び出そうとする少年に危険を感じ、志麻子が肩を掴んで押し留める。
|
|「イナミさん！ 僕です！ お願いです！！」
|
| 叫ぶキオ。
| だが次の瞬間その顔色が蒼白に変わる。
|
| 転身して逃げると思いきや、ベイダーに突進するイナミ。
| 超能力の猛打を刀の一閃で吹き飛ばし、黒いヘルメットを粉砕する膝蹴り。
|
| 吹き飛ぶダースベイダー。瞠目するフリットと志麻子。
| 今まで実力を隠していたのだ。圧倒的な魔力によるパワーを。
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＞=弌 ,小 ::{ .:/
'⌒ヽ ＼ { ::、 .::/ -――- ､
八 } -=￢ニ ‐- ヽ.. /::; , ≦三_￣￣￣｀`
＼ ,込 ,＞ミ 、 い. ﾍ .::::ﾉ ／／二二二¨￢
⌒{ 丶 , ´≫=＝ミ; 、ヽﾉ:::∨::く:乂＿__／／,ｧ'~￣￣¨ ミx、
人 、ﾊ _ノ 〃 __＼＼廴＿__::::＼ゝ─ﾁ::イ ｨぅぃ ≫- 馬鹿な……！
ヽ＼′￣__ =ｔう) 冫ｼ:::ｱ⌒¨＾:::::::::::彡::::´==ミ___ヒソ／ノ
人 ﾏ ＼^'ー--‐=彡＾>:〃⌒ヽﾐ::「`＜￣二 ｰ- ,,__ " ノ`
ー〉 ､ ｀ ￣ ／::::: ヽ| ｀丶:::... _,／
' `ｰ ／⌒〉::l ｀丶:::...
{ ／ .:::::; :.. ｀ ｰ- ,,__
l.:::::| ヽ:.､
＼ l::::::| 人::＼ ‐-
＼ ﾉ 丶入 ／ ￣ ¨ ミ ､ 丶、
_ｒ'⌒ヽイ厂介x 〈 , イ ⌒T ´ ＼ 丶 ｲ
_,ｘ┘ ／／ 八い, ∨ >､＼ ､ ＼ ′ |
┘ ／／ ）八 { _彡′ ￣｀￢ミｰ-=ミ l | {
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| 壁を蹴り、空中を蹴り、マンションの最上階まで駆け上がるイナミ。
| キオと志麻子がへばりつくガラスの前で、一瞬静止。
|
| 真っ赤な舌を伸ばし、両手の中指を立てるイナミ。
| 真っ白な裸体がキオと志麻子の脳裏に焼き付く。
|
|「ッ……ッ！？」
|
| あまりの破廉恥差に赤くなって顔を隠す志麻子。
| キオは険しい表情で歯ぎしり。
|
| 眼下でフリットの雄叫び。イナミは高笑いを残して逃亡する。
|
|「バカ弟子が。虎の子の魔力を使わせやがって！」
|
| キオとの『契約』通り、イナミはヒトを食わずにいた。
| キオもそれに気がついたのだ。
|
| イナミが行っていたハンデ戦に。
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／ : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : l: : : : : : : : : : : : ＼
/: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :l: : : : : : : : : : : l: : : : : : : i: : : ＼: : 丶
／ : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : /: : : : : : : : : : :/i: : : : : : : ﾄ,: : : : ヽ : : ヽ,
／: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : ／: : : : : : : : : ／ ! : : : : : : ﾘ'∨: : : : '｡: : ∧
/: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : .ィ': : : : : : : ＞・'″ !: : : : : : / ∨: : : : ﾍ: : : ',
／: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :/ィ’/＿ ＞・'" `'・ｬ､ i: : : : : :/ ∨: : : : : ',: : :,
, ': : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : i' .ィ ¨ﾌ≧ｬｭ，＼ l! : : ／ , : : : : : l: : :l
/: : : : : : : : : : : : : : : : : ／ ￣∨ ハ l! ! 心叭ｲ!ヾ＼ゝ/ ;／ _ j: : : : : :i: : :!
,: : : : : : : : : : : : : : : : : ∨ i i ＼ l ヽ. Ⅵ鬥ilﾘ ´ ヽ/／ィ ﾉ＞・'′ / : : : : : i!: :ﾘ
i: : : : : : : : : : : : : : : : ∨ ,' ﾑ ﾍ ! ` ゞﾆ少′ ′ ｲﾉ＞rｬ, ′ : : : : /l:/
l: : : : : : : : : : : : : : : : :j i ノ ∨ i 心升 〉/! .ｨ : : : / ′
l: : : : : : : : : : : : : : : : 人 ﾍ ヽ Ⅵｿ7 ﾘ ﾚ' l: : , '
i: : : : : : : : : : : : : : : : : : ＼ ｀丶‐-､ ､ ¨" i レ’
∨ : : : : : : : : : : : : : : : : : : ＼ ､ _ 〉 l!
j: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :＞‐ｧ 'i . ｡ -‐ｭ. ／ i
{: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : Y’ l ／ ＞｡, . そんな見栄、いらないよ！
∨／l: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : i ヽ / ／ , '
＼: : : : : : : 人: : : : : : : : : :l ＼ ヽ / ／
.｡ ＜｀Y: : : ／ j: : : : : : : : : i ＼ ` ＜._＿.ノ ／l
.｡ ＜ ＼/ i: : : : : : : : / ＼ ＼ ／ : : l
∨: : : : : /' ＼ ＞ ｡, ／: : : : : !
＼: : : / ＼ ≧ ─ ＜ : : : : : : : l
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|「バーカ、師匠が弟子の前でいいとこ見せないで、いつ見せるんだ？」
|
| だが、魔力は底をつき、刀は刃こぼれでボロボロだ。
| けれども、イナミはキオに必要なものを見せることが出来ていた。
|
| そして、ダースベイダーの戦い方は、志麻子に一つの閃きを与えていた。
|
| 夜の闇に沈む東京の、さらに暗い所へ消えていくイナミ。
| 対照的に、キオと志麻子には希望の光が見えていた。
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☆ 次回予告！
彼はどこにいるのだろう。
彼のこと、誰も知らない。
いつからいないの？
どこにいるの？
誰といるの？
そして、愛してる人は……？
何もわからないのなら。
何もわからないのなら。
彼の気持ちになってみてはどうだろう？
次回、最終幕二十話『銀ちゃん迷走する』
果てに見るのは破滅か死か。
キオは健全に成長してるな
:,: :(::)
/⌒''⌒) :,,゜ ' ,,,,,,,
(:::::::::::::::!' (::::::)
ヽ::::::::';''' ''`` 。
τ'::/ .;:
)/
。 ' 、 ;: 。
`'''`~''・ ' `
f''`⌒( ,,,, !:(',,,,、 ::,,,,,、...
,!,,,、( /::τ ノ:::::::::::::::::) 。 !::::::::::`! 、
:.、 !:::( ﾉ::`! o (::::::::::::::::::τ (:::,,;,;,、; 。
゜ (/ ⌒・ . ・、;::::::::::::;;.;`` ''
,,、.. ／/ ノ' /／'''`'`'` ` ..,,.. _,,,.、 ・ ,, ...:・..
π /;::::::::(,.,.(;;;::::( ,,., ・っ ;,;;( ):::::;. c::── '`'''::::::::::;''
):::::::::::::::::::::::::::/ '''''` ` '` ⌒ ` !.:::τ'' ``
τ !::::::::::::::::::::::::::::)／,,,,, γ :'`'``:!
(::::::::::::::::::::::::::::冫 `'`' 、,:'::::::`:::,,,, !:::::ノ ・
::：':'::::::::::::::::::::::::::::;(,,,,,,,、:::::::-ｰ''''`'`''''''''"
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| その現場はあまりにも凄惨であった。
|
| 二階建ての民家の一階部分を利用した貸本屋。
| 専門家でなければ価値の分からない、文字も読めないような本が陳列されたその店の中。
|
| 丹念にバラされた血泥の沼沢。
| あからさまに一人分ではないが、犠牲者の数が読めないほどの血と臓物。
|
| 巨大なミキサーで粉砕処理されたような状態の死体。
| カレーの材料みたいに乱切りにされた死体。
|
| 天井からぶら下げられて、内臓を全て抜き取られた死体。
|
| 十一月の涼しさと、通報の速さからどれもまだ新鮮で。
| カーペットのように床に広げられた臓物からはまだ湯気が立ちそうだった。
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,, -‐- 、
_, ｨ":.:.:.:.:.:.:.:.｀丶、
(:.:.:.:,=(モブ)=､:.:.:）
,ゝ'"::::::::::::::::::::::`<′
ゝz―---r―‐r;r'
l{:'く,･,> K,･,>lﾘ)
ヾ、 ,l ι,ﾚ' うげぇェェ。
ヽ ,-`'"-､,ｲ
,ry､.,.、 ,ﾄ´三｀ィ'l
／,//) : l _,r久 /ノヽ､
,{二二7: :/､, ィ／/ ヽ ,r '" /:.:.l｀丶､
/ '´ ´ノ:,ノ:.:.;／:.:/ ,r.Y,､ ,/:.:.:.:l:.:.:.:.:
', ヾ´-‐,/:.:／⌒丶 l/ ヽ/:.:.:.:.:.:l｀`'':
,ｨ:>、 ﾉヽ:.:.:.:./r∩､ ll /:.ヽ:.:.:.:.j:.:.:.:.
/:.:l ,／:/:.:.:.∨l,｜l ,ｨi, /:.:.:.:.:.:r'":.:.:.:.:
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| 熟練の警察官でも、堪えきれずに嘔吐した。
| 無論彼は熟練していたので、現場ではなく外に吐いた。
|
| だが、新人や鑑札は現場を汚した。
| それほどまでに酷かった。酷すぎた。
|
|「……『ゼロ課』を呼びましょう」
|
| 超常識的な存在の起こした犯罪を調査する、実在すら怪しい部署の話を新人はした。
| 顔面蒼白で、まだ吐き足りないという表情。
|
|「どうやってだ？ 連絡先もわからんぞ？」
|「上に聞いては…？」
|
| 差し出されたペットボトルの水をこぼしながら一気飲みして、新人は口の周りの胃液をハンカチで拭った。
|
|「……あれ？」
|
| いつの間にか、知らない男が現場にいた。
| つなぎ姿の大男と、フードで顔を隠した怪しい男だ。
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／;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ、
/;;;;､;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;､
,!;;;!ﾞ`''〜^〜ｧrr-'ﾞ`'´''ﾗﾍ;;;!
|;;;| ﾉﾘ ﾐ;;;|
_ゞ;! r─-- ､ ,rｪ--- ､ﾐ;ﾘ
!ﾍl;|. ぐ世!ﾞ｀｀ ,ｨ '"世ﾝ ｢ヽ
!(,ﾍ! ￣'" |:::.` ￣ ,ﾄﾞﾘ もう来てる。
ヽﾞ､! !; ,ﾚｿ 『ゼロ課』の阿部警部です。
`| ^'='^ ﾑ'′
,rﾄ､ ー- ─-: /|
_..／ i| ＼ === ,ｲ.:ﾄ､
／ i| ﾞ､＼ ; ／ﾘ.:;!:::＼､＿
ﾞ! ﾞ､ `ｰ─''ﾞ:::;:'::::|::::::::::＼
ﾞ､ :::/::::::|::::::
`ヽ、 ﾞ､ ./ .| ,-､、
|lニニニニ三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三ニニニニ
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| 手帳を見せる阿部、フードの男は無言で店中へ。
|
|「おい、アンタ！」
|「アイツは大丈夫ですよ」
|「いや、中は酷いから……」
|
| 気づかわしげな新人に、阿部が苦く微笑む。
|
|「荒らされてるなら、その方がアイツにゃキくだろうな」
|「？？？」
|
|「とにかく、『我々の仕事』かどうかをアイツが判断する。
| まあ、５分もかからんよ」
|
| 彼の口調から、フードの男への信頼が強く滲んでいた。
| 同時に、同情と哀惜も……。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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, .:´: : : : : : ｀ヽ
／: : : : : : : : : : : : :＼
／: : : : : : :/: : : : : : : : : :＼
/: : : : : ,_ ,へ: : : : : : : : : : : :∨
ﾉ: : : :／:::::::::::::ゝ-ュ､_: : /: : :ｿ
/|: : : :/::::::::::::::::::::::::::::::::::::7: ､:/
, -一- ､- ､_ ./: j: : :/:::::::::::::::::::::::::::::::::::::/: : :ヽ
. . ／: : : : : : : ∨: :"'' ‐- ,/_:´ヽ|/:::::::::::::::::::::::::::::::::::::/: : : : :∨
／: : : :/: : : : : : ∨: : : : : : : : :｀ ヘ::::::::::::::::::::::::::::::::::/: : : : : :/
./: : : : :/: : : : : : : : ∨: : : : : : : : : : : :＼:::::::::::::::::::::::::/: : : : :／ …………。
/: : : : :/: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : ヽ:::::::::::::_／: : : ／
／: : : : : :ー:- ､: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :ヽ,;:ﾞ´: : ＼ﾚ
: : : : : :, : : :´: : : : : : : : |: : : : : : : : : : : : : : : : : : /: : : : : : :ヽ
: : : : : : : : : : : : : : : : : :1: : : : : : : : : :γ⌒ヾ : :/: :γ⌒ヾ : :∨
: : : : : : : : : : : : : : : : : :j: : : : : : : : : : :ゝ__ノ: ::/::∨::ゝ__ノ: : : :｀ー ､
: : : : : : : : : : : : : : : :／: : : : : : : : : : : ┘└´:::::::::∨┘└: : : : : : : :!
: : : : : : : : : : : : : :／: : : : : : : : : : : : : |「/」|:::::::::::::::::|「/」|: : : : : : : :|
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| 血と糞尿、臓物とぶつ切りの肉片。
| ドラム缶いっぱいの汚物をぶちまけたような現場を、フードの男は無遠慮に歩く。
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| ……いや、いかなる手品か幻覚か、彼は痕跡を残さない。
| 血泥は跳ねず、足跡も足音もない。
|
| 確かにそこに存在するのに、幻のように音も臭いも無い男。
|
|「…………」
|
| だが、ノブを握れば回せるし、扉を押せば開く。
| 奥の部屋に転がる、人間の形を保った死体にフードの男は近付いた。
|
| ガラス玉みたいに、光なく濁った目。
| 土気色の唇には吐瀉物と血がへばりついている。
|
| 人形みたいに投げ出された体はグニャグニャで力なく。
| 眼球にハエが止まっても身じろぎ一つしやしない。
|
| 長門有希。
|
| かつてはそう呼ばれていた少女の亡骸を前に、フードの男は沈黙を保ったまま……。
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／;;;;r'￣´ ｀￣ゝ､;;;;;;;;;;ﾊヽ
／ソ´ (ﾍ;;;;;;;ﾊ）ﾊ
/／´ / (ﾍ;;;;;;;|） ﾊ
ﾚ' /| ヽヽ ヽ （ﾍ;;;;|） ﾊ
/ / /│ |＿＼|__|＿_ (ﾍ;|）） ﾊ
l / l | | r'| | ﾊ ｀ ((!!)) |
| | | 」-ﾄ､ﾄ､ | _x===| }（（ﾄ､ヽ | 私は『愛と正義の味方、やる夫の手先』よぉ。
| レ|´| | | ヽ | ｒテ´ | / ハヽ__」〉|
＿| | | | |_==ヾ､ ∨ |/ / {{￣￣||
〈l￣〉ﾊﾊ ＼＼xﾞ , /／/ / llヾ〉 |||
ヾ_'-'∧. ヽ ＼＼ _ ノ jﾉ ,ｲ /| ll |ヾ_ | /
/||ゞ´∧ ＼_＼ゝ ／// | {{| | | /;;;
/／´|| 〉〉､_ ヽ￣ヽ､ ／ｲ‐,,/ ﾞ| | |∧／;;;;;;
// ﾞ |_| /＼＼＿|｀ - -､- ＜￣;;;;;/l } /｀│＿;;;;;;;;;;;
/＼ー─-､ / /￣/| || |;;;;;;;|;;;;;;;;;;;//| |＿／;;;;;;;;| ;;;;;;;
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＿;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;/ｲ /;;;|/;;;;;;;;;;;;;;;/》／ ＼ 《 ﾚ'/;;|;;;/;;;;;;;;;;;;;;;;| ;;;;;;
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／/ ／ ヽ/く;;;;;ヽ |;;;;|》 |/ ／ 《/;;;;;;;;;;;／;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;/
| / / ヽ;;;;;;;;;;;;;|》ヽ | / 《/;;;;;;;;;;/ ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;〈
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| 東京の闇は日に日に深くなる。
| それは日々冬の気配が色濃くなる十一月の夜闇だけの話ではない。
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| 人心は荒れ、治安は下降の一途、他人への警戒感は反比例、防犯グッズの売上も好調。
| そしてグッズの利用数も爆上げ、内訳は誤使用が大半、犯罪に利用されたのがまずまず、正しく撃退に利用されたのが一握り。
|
| 何しろ誰もが不安なのだ。
| 武器を握りしめることで安心を手に入れられるなら安いもの。
|
| そうして得た武装は持ち手の気持ちを大きくしがちだ。
|
| 『そんな態度を取っていいのか？ 俺はカバンにナイフを入れてるんだぞ？』
| 『奇遇だな』
| 『え、なにそれ？？？』
| 『手斧』
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| そんなこんなで発生する喧嘩や過剰防衛。
| まさに世紀末！（世紀末ではない）
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〃///ヾ i ll i ! l i l | l ヽ ヽ
. i:|//i::i 》 /| li !ﾒ l l ! i | ', ',
〆i !:Ｌ〃 i ', | ! | l ﾄ, ! / l ! i } !
// / |:|'" i 斗弋Ｔ､‐- ', | ヽ ! /i /! /! ! l. } |
/ i |:l ', i弋ゝ‐-Ｙ=､丶｀ ',.| /_.!ﾑ､/_l / / ﾊ !
. | !:l ∧. ! ﾋ_q ）＿ヽ ﾚ' ﾚ' 7 ﾒ .ｲ / l !
. l |:|. ,ﾍﾍ ,r‐‐tｧ/ ／| ,/ ﾚ
. l l｣ i ヽゝ:::::::::::.. ゞﾟノ/／ﾉ |,ｲ 困ったことがあったらやる夫さんを頼りなさぁい。
! ﾄ､ ! .:::::..´ソ" l:｣ ,-'´
i |. 丶 ､_ ,､_ ´ ／', , ／／
. ', ﾄ､ ゝ . ‐/ ﾌ_,, ｨ ´ !,〃 ,..-'´:∠＿
. ', |::::｀:‐-.､｀＞ . _ / /l´ ﾞ!i lｲ/:::::::::::::-= 二､_
､_＿_ﾍ !::::::;ｨ;=＝,‐､ ;_/ / ! !| |::::::::::::::::::::::::::::::::::
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:::::::::ゞ》 ﾍ. ﾄ､::::ﾞ彳/ゞ/r‐---､i／´::::| /:::＼:::::::::::::::::::::::::::
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| さて、こちらは『防犯グッズで女性を無力化しようとした所を殴られて昏倒した男』の腕を踏み折った水銀燈さん。
|
| やってることは犯罪者のそれ。
| 言ってることは狂信者のそれ。
|
| 外見は大理石の女神を百倍増しに美しくした絶世の美女でも。
| とろける笑顔のままで骨を執拗にへし折る姿は近代アートを百倍増しに意味不明にしたシュールレアリズム。
|
| 助けられた女性は「ヤベェ奴に絡まれちまった」と恐怖で顔を引つらせるも、
| 気分を害して被害が自分に及ぶのは避けたいのか青い顔でうなずくばかり。
|
| だが水銀燈は女性の態度に満足したのか鷹揚に頷いて解放。
|
|「夜道には注意するのよぉ！」
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＿/:／l:.| /l | l l| l ヽ ＼
'´￣ｲ:ニ:ｲ l/＿ヽﾄ、l_ lﾍ | l | ヽ
／/ j:| l l ヽ-ヽ｀ヽ卜、 l j｜ ト l
/:l /:l l | ､＿.二 _ 「 ＼l /イ/ｌ l｜ l
.:/ /:/ l | ￣￣ヾﾐ ﾚ_⌒ヽ} l |｜
,' l:::l ヽ l /// { =ﾐ /／| | l
「´ l＼ ', r - ._ / ,,,, /ｲ /ﾚ' うふふぅ。
/ | l ＼ ! ｀ ７ l/ // またやる夫さんの名前で善行を積んでしまったわぁ！
ノ| l ! '、 ／ ／ イ:|
l ! ! ＼ ヽ. _／ ７¨´ | ﾊ::l
,l ! |_, - ≧ ､ ＿ _, ｲ l | L! /|
/ ! l | 〃￣ ﾌ水ﾍ＼ | ｌ l / }
ヽ l | ヽ＼// l ヽ_〉:〉 l /! | / ／ ＿_ - '´
￣＼ﾊ l |、 ￣l:| l:ト-ｲl ! / l l／ /／／ ∠
Vﾍ l ＼＿ |:l l:|＼＿/ /＿／￣＼
｝ ＼! |:l l:| ∨ ／ ＼
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| 辻斬りを企むも、誰が斬ってよくて誰がだめなのかの判断に苦しんだ水銀燈は、違う方法を試すことにした。
| 悪党を殴って感謝される、いわゆる正義の味方である！
|
| こちらは夜の繁華街や路地裏をうろついていれば、心を失った外道が勝手にふらふらやってくるイージーモード。
| 殺気を見せれば悪即断！ 相手のことで思い悩む必要がない。
|
| ……そもそも水銀燈は戦闘用の代行分体なのだ。考えるのは苦手である。
| 思考と行動は直結しているし、早とちりだって少なくない。
|
| 相手を殴っていいか良くないかを考えるのは億劫だ。
| ……だが、そんな水銀燈でも反省することだってある。
|
| それは、先日の入即貸本での殺戮である。
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_,.. -－ ''" i ｀、
,. :'" l ﾞ'､
／ ／ ,/ |! l ヽ
/ ,.' /l l |.! l ヽ ＼
,' ﾚ′ ./ ,! ,'| | | ﾄ、 ｀、 ヽ
,' / / _,∠. ,!/ | i | ｣_| l、 ｀、 ヽヽ
| / / /／,/ // ! | ! ｀!｢`ﾄ､ ﾞ、 lﾞ､ﾞ､
/ / / / l/ ｜｜ / l| l. ｀、 l ヾ:､
. ,' j ,' ./ ,r:==ﾐ. | .,' 作ミﾄ､ ｀、 i. | ﾘ
j ｲ l /,ｨ | ｌ/ / ! ヾi. ﾞ、 l | ｜
l !｀、 l l {ﾍ. i /,∠, l :ﾍ /! l. ∧ !
ヽl ｀、 l. l | ヾ-‐'' '"厂{ ﾞ‐-'′,! l ,' ./ !/
| ＼ ﾄ! | 、. , ' ヽ、 ｲ /!/./ ,!' ああああああ……っっっ！！？
|. ,' l ｀ヾ:..ﾄ､` ｰ‐ '′- ｀ ¨´,.ｨ .l/':ｲ
l ,' ！ l. | ｀＞: ､. ___ ,... r＜´ ! .|｜.|
| / ! ｀、l ／´,! l､ヽ!、 | .l ! !
. l/ ! ｀､l′〈′ ｀| ヽ l ! l. |
/ ﾞ! ﾞi、 l ＿ |. ｀| ,l ! !
/ ∧ ヽ. l￣ ￣| V l l
. / / ヽ ヽ！ l / ,l l
/ ∧＼ ｀､ ｀､l ! / ハ l
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| みゆきちゃんに乱暴しようとした外道を料理（）したのは良かったけれど、ちょっとみゆきちゃんには刺激が強すぎたみたい。
|
| 反省した水銀燈は心を入れ直して、やりすぎに注意することにした。
| 人命第一。殴るときは速やかに。
|
| そしてもう一つ、ただむやみに人助けをするのではない。
| 水銀燈は賢いので人助けを目的達成のための手段に昇華したのである。
|
| 水銀燈の目的とは？ もちろん行方不明のやる夫の捜索である。
| なんと驚くべきことに、水銀燈はそのことも後悔していた。
|
| ヌァザの名を騙る改造人間どもに一泡吹かせなければ気が済まなかった。
| だがそのためにやる夫と別行動して、消息不明になってしまっては責任も感じる。
|
| 自分がいればそんなことにならなかったかもしれない……。
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／ ＼/ ／／ ＼
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＼／ .へ ＼ .／
／ヽ ﾍ. ＼＼ ／
| ／／ ＼ > ＼ |_
hr──t. ＼／ ＼丶 { |
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| 水銀燈は大天使レミエルの夢を見なかった。
| そもそも、悪魔が夢を見るのかは不明だが、あの時彼女は下水道を逃げていた。
|
| 翠星石がやらない夫の名前を叫んで盛大に失敗したことも知らないし、その後『ブギーポップ』が戦ったことも知らない。
|
| 夢の終わりに翠星石が誰を呼んだかも。
| 当然知らない。
|
| 知らない、が。
|
|「封印されてるか次元の狭間にでも落ちてるのかもしれないわぁ。
| ならば名前を周知させて認識を高めて、敵対者にはしっかり意識させるのが常道よね」
|
| 一般常識は何千年も前の蛮族状態から進展の無い水銀燈だが、
| 魔術や信仰への造詣は完璧であった。
|
| 死んでいるかもとは思わなかった。
| 水銀燈はこっそりと、やる夫と縁を結んでいる。
|
| 魔術的なその縁は、血縁故に感じ取れる探知能力である。
| 先日、『新宿駅大迷宮』にいるやる夫を見つけたのもその力である。
|
| 万能の能力ではない。しかし、虫の知らせくらいなら運んでくれる。
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-‐z─ rftzヌ=,、__
´ ,.彳 ／ _彳ノ ` ､
／ 《 〃 ,,彳ノ'´ ＼
′ r===:r‐v==イノ ＼ ＼
/ , -| 「 ¨jL_jl'⌒!| │ ヾ ヽ
/ ／ ,ゞ=イj ノ== ' ! ､∧ '. 丶 l
/ ／ ／==ﾆ イ | |＼│ | ││
/／ _ _,.イ'´ / ! |＼ | |∧ |! / ハ|
/ 「,イ / /v ! │ Y= ､ ＼/!/ /|/ l |
ｲ ﾚ' 人ⅰ ゝ | ､ >ゞ/リ／ ノ
／ ／ヽ Yi ＼ ＼ V´ イ（
/ ／ ／〉-│ | ` -ゝ V＼
/ / / / ヽ| │ へ_ .イゝ -ゝ さぁて、次の獲物は。
. / / ,.イ===､ﾊ ＼ し' イ ヽ、
/ / /__ V ≧､ ＼ _＿ ..イ 入 ＼
./ / ,. -── v=､ 「r 介,､ ＼ /// ＼ ' .
/ / ／ ト､`ｰz_ ゝ== 小 ､.＿ゝ// Y |
. / / 〃 ＼ ヾ フ二 | |=ー､…' ′ ! |
/ / ヽ V `Li__ ＼._ｰ_-_- 、 | l
. / / | V⌒V⌒Yゝ--__､ ＼! .' ﾉ
/ / ＼│ |'⌒＼ / ／
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| 獲物とか言ってる。
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| 水銀燈の主な獲物は通り魔や強姦魔であるが、すり、ひったくり、置き引きなどの泥棒も対象である。
| 軽犯罪もなにも区別なく、水銀燈は後遺症を伴うレベルの過剰な肉体破壊で報いる。
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| 犯罪者はその気配で判別できる。
| 彼らが他者を見る視線は獲物を品定めする時のそれだ。
|
| 戦闘用の悪魔であるが故に害意に敏感な水銀燈だ。
| 悪意には未遂でも素早く反応した。
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| ほら、今も通りすがりのサラリーマンに声をかけた女子高生。
| あれは囮で本命は後ろから近付く巾着切りだ。
|
| 二人の指をへし折ろうと近付いた水銀燈だが、巾着切りに近付く人影に気付いて足を止めた。
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. ／: : : : : : : : : : ー- ､｀丶、
, ': : : : : : : :- ､ . . ｀丶、｀丶、｀丶ヽ
/: : : : : : . : ヽ: : :｀ヽ、: : ヽ.: : ＼. ＼
, ' : : : : ヽ、:､: : : : :ヽ｀丶､＼: : :ヽ.＼｀、
/::: : : : { ',: : {ヽ､ヽ､::::::. :＼-ヽ=､: : :.';. }.＼
;.:.:.: : : ヽ: : ヽﾍ -＼｀ ｰ- ､} _}_ {ヽ: :}/､
{:.:.:. : : : l＼／＼ ｲﾃ"ﾜ; :}/:.: : ヽ、 少し道を尋ねても？
. !: : . : : : :.V ヽx=＝ミ ﾏ_:j V:::...: : ＼ヽ
' : :: : : : :ヽ 《 ﾏんﾊ, 丶 ;＼::::::: : ヽ
. ヽ:＼:.:.:.:.:.:.. : ＼ ゝ '’ ,､ 八 ヽ｀丶､|
}.:.:.:.ヽ､:.:.:.:.: : :｀丶､＿ ' ′ ヽ ヽ
. !ﾄ､ :.:::::{丶､:.:_:_: : : :＼ ,.'
. '| ヽ{＼｀ー‐‐ <｀丶: :ヽ -‐ ヽ./￣￣:~｀ ／￣二ﾆ=､
. ヽ|｀丶､|＼ ｀ヽ /:. :. :. :. :. //:. :/;';';';';';';';｀丶､
_ヽ ,':. :. :. :::. :.,':,' :. /;';';';';';';';';';';';';';';'丶、
/.::/｝ ／_; :. :. :. :. :.:j:j: :. ;';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';ヽ
l :.;/￣￣ ＿___. :. :.:::i::i :. i;';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';＼
j:. | ／￣ Y￣￣｀￢-ｘ_. :l;';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';ヽ
／:. f ￣￣:}:. :. :. :. :. j::j :｀ヽ;';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';'＼＿
x―（~又___.／!. :. :. :. :. j::j :. j;';';';';'ヽ;';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';'ヽ;'｀丶､
. _〃 }. :.i : : : :|:. :. :. :. :./:/:. /;';';';';';';';'＼';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';ヽ;';';';';ヽ
〈 乂_＼ﾉ＿_i _: : :!:. :. :. :./:/:. /;';';';';';';';';';';'; ＼';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';ヽ;';';';';'＼
{＼八 ＼:.:.:ヽ￣iヽ:. :.:/:/:. / V;';';';';';';';';';';';';'ヽ;';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';ヽ
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| 出鼻を挫かれた巾着切りは、あからさまに困惑していた。
| しどろもどろになった挙げ句に走って逃げ出す。
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| それを見て、囮の女子高生も困惑を隠せない。
|
|「長門有希……？」
|
| 水銀燈に目配せして、長門は女子高生に声をかける。
| パニックを起こして遁走する女子高生、不思議そうなサラリーマン。
|
| 長門はいつも通りの無表情で水銀燈に近付く。
|
|「死んだと思ってたわぁ」
|「まさか」
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| 最低限の返事、しかし口元に浮かべたほんの僅かな親愛の笑み。
| 間違いなく長門有希だ。入即貸本で死んだと思っていたが。
|
|「もう少し、スマートな方法を提案しに来た」
|「詳しく教えなさぁい」
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, '´ ｀ヽ
／ ＼
/ ヽ
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' 「 ´ {ハi′ } l
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| ! | |
| │ 〈 !
| |/ノ二__‐──ｧ ヽﾆニ二二二ヾ } ,'⌒ヽ
/⌒!| =彳ｏ｡ﾄ￣ヽ '´ !o_ｼ｀ヾ | i/ ヽ ! ……。
! ハ!| ー─ ' i ! `' '' " ||ヽ l |
| | /ヽ! | |ヽ i !
ヽ { | ! |ﾉ /
ヽ | _ ,､ ! , ′
＼ ! '-ﾞ ‐ ﾞ レ'
｀! /
ヽ ﾞ ￣ ￣ ｀ / |
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| 入即貸本の惨殺事件の犯人と、被害者は結局わからなかった。
| 血泥の沼は最低四人の白人男性から構成されていたが、その身元は定かではない。
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| 逃げ延びた『十字軍』のオズが、自分らの手落ちを報告しなかったのと、彼らが悪行を犯罪行為と心得ていたからである。
| 身分を証明するような荷物を持たなかったのである。
|
| 日本の優秀な鑑識を酷使すれば詳しく分かったのだろうが、阿部は適当なところで切り上げた。
| 藪を突いて蛇を出す必要はないと判断したのだ。
|
| 少し離れた場所で見つかった目撃者にして『唯一の生存者』、高良みゆきは『血族』に確保されてしまった。
| 事件は迷宮入り。
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| この所の東京の、多くの事件と同様に。
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i.i i i i ､,_ゝ- i '''" 警部、『血族』から要請が入りました。
... i i l .i iゝ-''ｰ- ', ,' ……その。
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| いつもなら歯切れのいいナタル。
| だが本日に限っては何やら思うところがある様子だ。
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|「伝言がいい男からだったか？」
|「まさか、間桐臟硯からです」
|
| 阿部は眉を上げた。それはつまり、現在の『血族』の名目上ナンバー２からの指示ということだ。
|
|「入即やる夫を名乗る人物が夜の街に出現している。
| 詳細を確認し、該当者を捕縛あるいは処理せよと……」
|
|「はン？」
|
| 鉛筆をへし折る阿部に、ナタルは表情を変えない。
| この上司の怒りは部下へは向かないと経験上理解している。
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/ ､ ,,．- -‐─ ､ / 警察は殺し屋じゃあない。
ヘ __＿__ /
ヘ ｀~"´ /
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|「ならば、先んじて確保しなければならないな」
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| ナタルの後ろから現れた『狂死」。
| 警察以外も『やる夫』を探すなら、見つけ次第に処理される可能性が高い。
|
|「いや、そりゃあどうかな？」
|「なんだと？」
|
| ブラブラと、フードの男がタバコを片手に現れる。
| 火をつけようとするのをナタルに奪われ舌打ち。ここは禁煙だった。
|
|「アイツを殺すのは容易じゃない。泳がせておいて様子見するほうが賢明だぜ？」
|「詳しいな」
|
| 阿部に睨まれ、フードの男は肩をすくめた。
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|「古い馴染みさ」
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☆ 次回予告！
夜の東京を駆け抜ける、異形の影。真紅の悪夢。
奴らの名前は『カトルカール」。
夜闇に潜む、銀髪の巫女。『血族』ののけもの。
彼女の名前は諫山冥。
暗闇を進む、不屈の逃亡者。偽りの救世主。
彼の名前は備府やらない夫。
喰らい合い、利用し合い、奪い合う三つ巴。
殺意と謀略と裏切りの三重奏の果てに何を見るか。
次回、最終幕二十一話『その死をかえりみる者もなく』
果てに見るのは破滅か死か。
やる夫に対する評価としては物騒じゃない？やらない夫じゃあるまいに
物騒な評価なのはやる夫を名乗ってるのが水銀燈だってわかってるからっぽいな
共通の知人で実力者だと誠くらいしか思い浮かばないが……
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| 深夜の港は人気がなく、積み上げられたコンテナが異様に深い影を作っていた。
| その晩は不愉快な雨が続いた。勢いこそ大したものではないが刺さるように冷たい雨だ。
|
| 明滅する常夜灯に、異形の影が照らされ踊る。
| 悪鬼羅刹のようなそれらは、果たして目の錯覚などではない。
|
|「ブルブル！ ブルブル！ ブルブル！ ブルブル！」|
|
| 一輪車に乗って両手に九尾鞭を持った怪人が、高らかと雄叫びを上げる。
| いや、よく見ると違う。彼の両手は手首から先が金属製の九尾鞭だし、下半身は大型重機に使うようなタイヤが付いていた。
|
| 真赤なライダースーツに同じ色のモノクロスヘルメット。
| 股間にはユニコーン。そそり立つ角は優美さより下劣さばかりを主張。
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| 深夜の港は人気がなく、積み上げられたコンテナが異様に深い影を作っていた。
| その晩は不愉快な雨が続いた。勢いこそ大したものではないが刺さるように冷たい雨だ。
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| 悪鬼羅刹のようなそれらは、果たして目の錯覚などではない。
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| いや、よく見ると違う。彼の両手は手首から先が金属製の九尾鞭だし、下半身は大型重機に使うようなタイヤが付いていた。
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| 股間にはユニコーン。そそり立つ角は優美さより下劣さばかりを主張。
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二重投稿失礼しました。
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. / / / / /＼}／ﾊ Ｖ~￣
. / / / / / ⌒} ｉ Ｖ⌒ヽ
′ , / ／| / | | } }
i i / ／ | / | | | ノ}
│ /⌒ヽ | ′ ／ ＼,′ | | |`〈_ノ
| / '＾ヽ | | ィ#ぅｭミ ||` ＿│ j |
| 〈 ｣ | | 人》ｔンﾞ ヽ || ´__ │/ i
. │ . （ 〈l | |/ ｀~ !! ,:ｨ仞ﾞ'ｧ |/ !
. │ ' ｀ │ ｲ ! : `''ﾞ イノ i
. | ト- ｲ| | : 八ｉ i
| | l l | ,: / ! !
! | |│ │ ´ / i . 噂の『カトルカール』ですわね。
, | |. | | ''ﾆ.,_ﾝ ｲ ｉ ,
,′ l l | ﾄ､ ｀ , ｨ │ i ′
/ ﾘ l ！ ` . . イ | │ /
. / / ==l ､ /7ｰ'´ ││ | /
. / 厂 八 ヽ // ﾉ | ｉ /
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| 『カトルカール』。
| 拷問・暗殺・誘拐・脅迫を４分の１ずつこなすとされる、パプテマス・シロッコの虎の子機械化兵士である。
|
| 悪魔との戦いで、再起不能になった兵士を強化改造したとされるそれらは、悪夢の中から飛び出して来たかのように異質。
| どのようにして日常生活を、あるいは送ることすら許されていないのかも不明。
|
| 皮肉っぽく、あるいは哀れみと侮蔑を隠さずに言うのは諫山冥。
| 『血族』ののけもの、あるいはやらない夫捜索隊長。
|
| 近くに停めた車の社内で、彼女は三人の部下と高みの見物。
| 部下の一人、シグの使い魔を通して戦況を俯瞰していた。
|
|「逃走経路は予想されてそう。あの感じ……多分待ち伏せ」
|
| 『カトルカール』に追い立てられるのは誰であろうやらない夫であった。
| 冥たちは信頼できるタレコミに従ってこの場にいる。
|
| やらない夫を捕縛するために。
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|ア:::::::::／:::::::::〃:::::::::::::::::::::::::::::'，::::::廴 }￣⌒ ，
〃::::::: /:::::::::::::/{::::::::::::::::::::::::::::::::::'，:::::⌒「| 冖=-|
,.:::::::: /:::::::::::::/ V:::::::::::::::::::::'，:::::::l:::::::::::::|]{ l !
,::::::::::::{::::::::::::/‐- v::::::::{::::::::::::'，::: l:::::::::::::|]{ l !
{:::::::::: {::::::::{/ v:::::{＼::::::::}::::: l::::::::::从 ＼ ｰﾉ
{/{:::::: {::::::::{x===ミ ＼j / ､从::::|:::::::〃::≧=彳
. ｛ハ:从:::狄 芹hぅ { [{Xx l::::|:::::/::::: /:::::::, ……なあ、『カトルカール』ってどんななんだ？
. ｛::::::::::::V', Vzソ ､夊__iⅣレ':::::::/:::::::/ オレにはサーカスの動物使いしか想像できないんだが。
. ｛､:::::::::::{:::. ､ 弋__>､::::::: /:::::::/==ミ
. ｛::＼::::::V込、 }厶::イi:::::::/ﾆﾆﾆﾆ，
V⌒ヽ:::＼介s｡ 乂__‐ｱ ,／i:ｉ:___从:／ニﾆﾆﾆﾆ，
x≦三＼j＼i{ 〕iト __ x≦i:i:i／／ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ，
/ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ{ ＼ {i:i:i:i:i:i:i:７|］ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆｉ
,ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ{ /＾ ､ ､＿.／^v}ニニﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ,
{ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ{_／V//|， '， vﾆ=‐|ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ {
{ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆⅥ V,∧'， '， vﾆ=|ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ {＼
{ﾆﾆﾆﾆﾆ＼ﾆﾆﾆﾆⅥ ＼/＼,∧ vﾆ|ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ {ﾆ ≧=-
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| 微笑ましい……あるいはシュール極まる絵面が天竜の脳内を走る。
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|「類似品が隣にいますでしょう？
| 相手を威圧するために外見から凶悪な殺人機械」
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|「……あ？」
|「スイマセンガ、私ハソウイウ意図デ作ラレテハオリマセン」
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| 青筋を浮かべる天竜を制して、ロビンが穏やかに返した。
| 生まれつき骨のない、ヒルコの祝福／呪詛を受けたロビン。
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| 祖父が世界を回り、彼のために用意してくれた強化外骨格がロビンの外装だ。
| キラーマシン？ なんのことやら。
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|「爆弾の使い方があからさまに誘導で……ボスも分かってるのかも。突破した」
|「あなた方のボスは、わたくしですわよ」
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＿ｿ7-‐ ￣￣く二ﾏ、
l /ノ7 ４ーマ
,.イ イ７ ,.ィ フ て二ハ
／.| |__ノ´Lｲ ⌒ヲ ＿， - イ ひぐっ！！？
L__|_|＿ﾄ､_ `ーイ￣ ＿ .ノ
／ ,ｲﾞ.| 「「丁￣ ７７
／,.イ/j !._」」上＿/_/
|／.メ=人」ｿ:::::::::i::::::::::ﾞ!
く」::::::::/:::::::::::/:::::::::/
ヽ::ノ:::::::::::/:::::::::く
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ﾍ、 〉 ヾ二二ラ
＼二ラ
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| 突然、艶笑を浮かべたままで、冥はかんざしをシグの手の甲に突き立てた。
| 引き抜き、魔術で傷を塞ぐが、痛みは残る。
|
|「やめろよバカ野郎！」
|「口を慎みなさい小娘。立場を弁えて頭を垂れるべきですわ」
|
| 平手で天竜の頬を叩く冥。
| 奥歯を噛み砕かんばかりに歯ぎしりし、掴みかからんとする天竜をロビンが制止。
|
|「備府やらない夫の逃亡先にも、別の『カトルカール』が待機しているはずですわ」
|「……なんでだよ」
|
|「まだ四人しか出ていないのでしょう？ 『カトルカール』は十二人。予備戦力を含めても、待ち伏せを三ケ所は用意できますわ」
|
| 悔しいかな、そのとおりであった。
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Ｙニニニ｀´ ,ｲ=_=_={ニニニニニニニニニニニニニ]ﾆ=---- ´｝｛｝ ｛.ﾉ
／ゝ---､＿_〕＿ ＞=.＼ニニニニニニニ]ﾆ=--'' ´ { } { } {__}
＿／ニニﾆ,ｲヽ _＞ニニニニ＼ニニ]ﾆ=-{ } ｛.} ｛｝ ｛｝
__ 。ｏ--‐‐‐=''''´￣___/__＞__--､(__ｼ /::::::::＞----/￣ヽ__.:.:.:.:.:.:.:.:ｉ
__。o-‐='''´ _。o-'''´ (:!.ゞｲ 〉〉〉〉.ゝ ｲ´､＿＿＿__ ﾑ__ヽ/≧s。 おかああああさん！
‐=''´ _。o-‐ ´ ゝェェｉ/// {/| ゝ ヽ/ ｉ ﾏﾑ､｀ヽ､_::::ﾑ おかあああああさん！
_。o‐''´ ＿＿＿__ 〉ェ/_ノ--|:::|:::::i::::::::::::::ｉ:::::｝::ﾏﾑ ｝ﾆ,':::::::::ｉ､
_。o‐ ´ _。ｒ´>=--------yﾆ/-- ゝ{､ヽヽ､:::::::ﾄ､ノ 〈ﾆ.〉ｉﾆ/:::::::::'ニヽ
ｨi}＞ ´ /ﾆ/ﾆ＞=´_＞::::::ゝ--- ／／ {ﾆ}:::::::::,'＿ニﾆ≧=-----､__
ｨi}＞ ´ ／ニ／r===´ニニニ.｝ ／／::::::ﾙ/＞ ´ ｀ー──---ニ∧
／｀i}＞´ ／ニ／ﾆ>====-----. ／／::::)ゝ/:/ }ニ/
,ｲｱ! .ｉ､jゝ', //) .,ｲ} > ´'ニ,ｲ ,ｲ}ﾆ>'::/｀´ ./:/ ｉニ{
｀´ ヽｉ ／≧_ ,ｲ} > ´／ﾆ,ｲ ＿ ,ｲニ>´ ././ {ニｉ
, 乍／{ }ｲ}＞´／ﾆﾆ/ /_::::}-‐≦ニ./ .,ｲ:/ ｉニ{
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/::ﾙ' ゝ-｀｀´ ,ｲニニ,ｲ ,ｲ}::,ｲ /ゝｲ /::/ 〔ニｉ
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| １メートルもある巨大なゴキブリが不愉快な泣き声を放ちながらコンテナの外装を這い回る。
| その途中で手榴弾を撒き散らす、先回りして対人地雷を設置する。カサカサうるさくて気が散る。その上隙を見て飛びかかってくる厄介な爆撃手。
|
| 一輪バイクのムチ男は、正面から突撃、鉄のムチが轟音を立てて振り回されると電柱はへし折れ、アスファルトは砂になり、コンテナはベコベコにへこむ。
| 一撃がショットガンめいた威力と範囲、そして見切りにくい厄介な迫撃手。
|
| その他に二人、ノミみたいな折りたたみ式の脚で、鋭い鉤爪の遊撃手と。
| 車輪の脚とサメの歯を持つバレリーナじみた遊撃手。
|
| 対するやらない夫は白兵戦しかできない。
| バイク男を墨目に任せ、ニャンコ先生がゴキブリを威嚇。
|
| 先導は危険に敏感なねずみ男を走らせながら、二人の遊撃手を牽制。
| 個々の戦闘能力で、やらない夫は完全に遅れを取っていた。
|
| なんとか生きて逃げながら戦えているのはニャンコ先生のフォローのおかげと言えた。
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＿ ／二二二二二二ﾆﾆ}
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＞―＜//h/二二二二二二二ﾆｱ ｌ ｀'＜
{＿＿_|::::::/二二二二二二二ア | | | ヽヽ
＼:::::::::ヽ,二二二二ﾆア⌒ ヽ{ | ノﾊ / }ヽハ
＼::::八二二二ニ/. ∨ l,ｨ笊乂_从 }!ノ
ﾉ } ゞ……‐/ | l. ∨}ゞﾂ:/: { }ﾉ
＞''"´ } ヾ ＼{ | | 从:/:. ﾉ きゃー、やだぁ……！
( r''´ / / ヽへﾊ.八. / ヽ}弋＿__}
,ｨ'´ )ﾉ ／／. 八__ノ ∨ ｀''≧ミx
从 / / 乂 ／ ,､丶` 人 Y )
(__ソ /イゝ (＜＿〈 ／ ／(__ﾉ＿〉〉.ゝ
`'ｰ≦////)__ノ| | ﾉノ /人 (=======彳ﾊ
ヽ〈〈〈｣｣｣｣｣ ´{ 乂( ////| | | | | | | | |ﾊ
〉::〈＿ ―{― 〈〈〈〈 | | | | | | | | | ﾊ
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_,,､-―………………‐-､､,, ` ､ ヽ } ノ }} |
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| 涙目で悲鳴を上げながらも、やらない夫の後ろに必死で追いつく女が一人。
| 自衛隊の五島ムスカから、セーフハウスの案内役として、あるいは監視役として付けられた人物だ。
|
| 小悪魔的な童顔グラマラスボディ、挑発的な眼差しととろけるハニーボイス。
| 男の視線と欲望を集める誘蛾灯のような女であるが……当然この場には不釣り合いだ。
|
| さっきまでは拳銃で応戦する気概を見せていたが、全弾外れか防がれてからは弾倉交換する暇もない。
| 悲鳴を上げながら逃げ回るばかりだが、勝手に死なないだけマシと言えるか。
|
| ……あるいは、彼女とその上司ムスカがこの『カトルカール』を呼んだのかも。
| その公算は高いが……いまここで些事に気を取られていられるほど、やらない夫は暇ではなかった。
|
|「サマナー！」
|「あいよ！」
|
| 巨大ゴキブリがばら撒いた手榴弾を、ねずみ男が手頃な木の枝でショット。
| やらない夫を通り越して着地、バウンド。
|
|「ひんっ」
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| やらない夫は有無を言わさす鹿島を抱きすくめ、背中にヒゲ槍の盾を展開。
| バレリーナは車輪のターンで華麗に回避、ノミ脚は驚異のジャンプ力で距離を稼ぐ。
|
|（5秒後に九時方向に走れ。コンテナ一個飛び越えるまで止まると死ぬぜ）
|（オッケーだろ常識的に考えて）
|
| 爆風が収まると同時にターンして戻ってくるバレリーナ。やらない夫を狙う巨大ゴキブリの背中に電撃が弾ける。
| 墨目を振り切って突撃してくる一輪車、違う。墨目はわざと通したのだ。
|
| 暴風のような九尾鞭から、やらない夫は鹿島を抱えたまま『折りたたみ式の脚』で回避。
| 一輪車の脇を抜けてねずみ男指示した方向へ、だがローラースケートの小回りでピタリ追いかけるバレリーナ。
|
|「しゃぶってやるぜ！ しゃぶってやるぜ！」
|「これをか？」
|
| やらない夫の背中から伸びた鉤状のヒゲ槍。ノミ脚男の武器にそっくり。
| バレリーナの魚みたいに無表情な眼にギラついた光が走る。
|
| どうやら怪物めいた見た目でも感情はあるし仲間意識もある。相棒の猿真似は気に食わないらしいと見える。
| 最高のタイミングで振り下ろされた鉤爪も、最低限の動きで回避するバレリーナ。
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。ｒ≦::::::::::::ヽ==､
／::/:::::::。ｒ≦/:::::::ﾊ
。ｒ====､.ｒ≦ ../::ヽ:::::::}
,ｲ___ ＞‐ ､ )ヽ /:::::::ﾊ::,ｲｉ
/...､.....',.........ｉ｀＜} ,':::::::::::/::::{ しゃぶってやるぜ！
{彳 从仆､ｉヽｉ.....'ｉ ,':ﾍ::::::/::::: ｉ しゃぶってやるぜ！
。ｒ≦>‐=≦...ｨ=ﾐ ィ=ﾐ廾彳'/:::::::ヽ{:::::::::ｉ
／ //::::::::ヾ!...ゞ'/ .ゞｲ {'...ｉ/::::::::::::rﾐ=､:,'
,ｲ 。 .,ｲ/＞ ´, ﾏ夂.｀,,,,,,,,,。/.ﾊj::::::::::::/ }::::::≧s。
/ ／ﾆﾚニ／ ﾏｘ汽VWV,'/.,ｲ｀ー ´‐='､::::::::::::::ﾑ
{ヽ==ｲニニﾙ' }ﾏ.'''ｉ´￣/,ｲ !==｀ ＜/::::::}
ﾏニﾆ＞ ´ !::ﾍ..| ,ｲ .ｉニﾆﾆ} ﾏ::::::ｉ
｀ー ´ {::::::::! ﾏニﾆﾑ ﾏ:::::}
ｉ:´:｀} ﾏニﾆﾑ ﾏ::::ヽ__
',::::::ｉ ｀ー ´ ﾏノ:::::≧
}:::::| ｀ ＜⊃
ｉ:::::|
＿..}:::::|
ゝ‐ハ::::}､
_,ｲ}.{ ',::/ゝ
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| サメのように鋭く、多重の牙が並んだ口が首まで開く。
| だがそこに飛び込んできたのは、鉤爪の後ろに準備されていた追撃。九尾鞭。
|
|しゃぶ……ッ！！」
|
| バレリーナの顔面、口内、胸元に直撃。鉤爪はフェイント、本命はこちら。
| なんにせよ猿真似だが、それが逆にバレリーナのプライドを傷つけた。
|
| 顔面ズタズタになりながらも称賛に値するタフさと果敢さで転倒はせず。
| 車輪を逆回転させ複雑な軌道を描きつつ衝撃を逃し、体勢を整え……。
|
|「そこです！」
|
| 墨目の投擲を緊急回避。だがその先には思わぬ相手。
| やらない夫を追撃するためにターン中だった巨大な一輪車。接触、巻き込まれた。
|
| 飛び散る機械部品、車輪、オイル、血。
| 生死は不明だが、やらない夫にも『カトルカール』にも確認している暇はない。
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＿＿＿
ｒ―ァ＝－､ _/ ,-―-､ミー'
／´ノ´ ／ ＿ヽ＿ノ´ 彡⌒ー- ､
｀ヽ /／ イ ／ ィー､ ヽ }
}トｰ⌒ヽ/ﾄy' / / ィ ｱ ￣ 7 ＼ ゝ
｀ー､ヽ八}ニニニニｲ ､＿＿ノ￣ヽミーｭ＿⌒ヽ
､＿}ミﾏ八|ﾆﾆｊノ|ﾆ!ヽ ｭ≧－ー ｧ ヽー⌒
ゝ 7Tニニニヽ､ ﾏy ⌒ｊ￣7{＿＿
,,ｒｙ＝{/!ニニニﾆ{ Y ／人ーｭ､ サマナー！
､ｲ マ///７７⌒´＞'个'ゝ ´ イ> ＞
｀ｿ /个､ーｒ ア⌒|＿＿ｊ７´⌒ﾏ＜
}V { ///＼!, ｲXXX77ｊ､/∧ ﾏミ＿
ヾ ゞ////人XXXX ｲ ⌒ヽ_ﾍ ﾏア´
人_/ハ/´ ｀ ￣ / V ﾑ
/／＞j! ､ / ヽ ﾑ
ｊ＿彡ｵ! ｊ} ァ ｨ > 、 ヽ
/ ｒ7{ﾑ _ ィア{ー-､ ／ア ｊ h＼ ＼
ｊ/ ｊ/ ヾー―ｲ／⌒ヽ川} ヾ／ ｢ｊ! ヽ ＼
ﾘ / | ///ｊ´ ｒﾑｊ_ ＼ Lｌ! ｀マ＿__＼
∧＼ ｊ ﾏ/// ｒ―!/ﾊ ヽ 人 ﾄ｣! ￣￣
｣ト=＞/!＿＿_ マ∧ ﾏ///ﾊ Y⌒ヽLｭ!
ｊ｀ヾ､/ |/////| 7ス ＿ｊ////ﾑ ﾏ彡ﾍ７ｊ
｢＞ｭｊアｊニニニニ｣ ／ヽｊ二二7ﾊ｢ｌ ﾏ＿}7
T7｢｢ヽ !////l| ! ﾏ//////ﾊ !三|7
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| コンテナの前で両手を組んで待機する墨目。
| やらない夫は彼女を足場にコンテナの上に。
|
| いつの間にかお姫様抱っこをしていた鹿島をゴロンと転がし、その上にボディプレス。
|
|「ぐえっ」
|
| やらない夫の後頭部を、鉤爪がかすめた。高低差もなんのその。ノミ脚の脚力。
| 前転して、鹿島をコンテナ上に放置したまま進むやらない夫。コンテナから飛び降り、先に来ていたねずみ男と並ぶ。
|
| 後ろから、鹿島を小脇に抱えて墨目。追ってきた巨大ゴキブリに特大の雷火。
| 焦げ付き落下、デタラメに脚を動かす巨大ゴキブリ。
|
|「そこらに待ち伏せがいるはずだ！」
|「ニャンコ先生、ノミ脚を牽制頼む。墨目、突破するぞ！」
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| ｀7´￣: .:.:.:.:.:.:.:| |: : : : .:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/ , '´
| /. : : : .:.:.:.:.:.:.:.:.| {:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./ /
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/ , : : :.:.:.:.:.:.:.／ '.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.／ , '
/ ` ｰ--‐ '´ l:.:.:.:.:.:.:.:, '´ ／ 仲魔使いの荒い奴じゃ。
i 、 ,. 、 ,. - 、 ノ_,. !＿.. '´ ／
｜ /_|..」ヽ /_|_..Lヽ _ 从 ,. '´
r ､_人- __ ｀' ´ -‐_ / ＼zﾆ_´
ヾ._｀ ＼´ ､__x.＿, ´ ／ '´ﾟo/
￣￣｀ 丶 .. _＿_＿_ .. '´ ￣￣￣￣
｀ｰ´
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| 一輪車は高低差を迂回するしかない。
| ノミ脚は単独での攻撃を控えて回避に専念しながら牽制。
|
| やらない夫はこいつらを始末するか振り切らねばならない。
| ホテルを出て、鹿島の運転で移動中に、『カトルカール』は襲ってきた。
|
| 車に並走して、九尾鞭を運転席に一撃。
| あれで死ななかったのだ。鹿島を疑わない訳にもいくまい。
|
| だが、ホテルの中で無防備なタイミングで攻撃されなかったのである。
| どの時点で的に補足されたのやら……。
|
|「カリカリガリガリ！ カリカリガリガリ！」
|「単独で来るつもりか！？」
|
| 壁を蹴りながら三次元的に撹乱軌道。普通ならば読み切れまい。
| だが、二か月前に戦った『医者』とは比べ物にならない。
|
| 彼女の機動力は圧倒的だった。
| ノミ脚とバレリーナの良い点を集約したような……。
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〈ニニﾆ＞‐ヽ-､} ゲァゲァゲァゲァ！
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| 突如空から降ってきた真っ赤なコートにアヒルマスクの男が、夢の国のアヒル声でコートの前をオープン。
| 突然の露出狂スタイルに、鹿島は真っ赤になって両手で顔を覆った。
|
| 指の間から凝視された男の股間。
| そこには太くて硬くて暴れっぱなしのビックなマグナム……ではなく、ショットガンの束がそそり立っていた。
|
| 銃口にはなぜかコンドームが被せられており、露出狂が股間をしごき……装弾。発射。
| 当然やぶれるコンドーム。意味不明。
|
| ばらまかれた散弾、墨目が盾になり鹿島は無事。やらない夫は足の一部に破片が食い込む。
| そこに飛びかかるノミ脚。ヒゲ槍で鉤爪を受け流し……ノミ脚男が口から何かを離した。
|
| 巨大ゴキブリの手榴弾である！
|
|「カリカリガリガリ！ カリカリガリガリ!」
|「こいつ！」
|
| 跳躍するノミ脚。乱射されるショットガン。
| さらに上から巨大な気配。
|
|「…………」
|
| 三段重ねのコンテナからヨロヨロと落下する巨体。
| 両肩から先を機械化義手化。地面に届くほどの鋼鉄の拳。指の一本一本が足より太い。
|
| 肘に噴射口、肩に排熱口。
| 真っ赤なマイクロビキニと青白い肌のコントラストなど目に入らない両腕のエンジン。
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/三二二≧ ､ _
iﾍヽｰ'-'/ 二 〉 ／メ ィi,
`〈ﾒｚｚｚミ三iｘ--ｖX￣i'／／‐- ／／
,､ ＿＿ |彡三三､_ 二ﾒﾆ lﾞ/ｌ l ｙ"ﾊ
`ﾆ三≧ニﾉ７ /ニニ=＜ニ､／ : : : : : ヽ〈i＼i三 ￣ ｨi= l うぉぉん、ううぉぉん。
lﾃi ` i ニ i'/ヽY: ／ニｭ_: : : ﾆ//ニ─､ ／／ ,l＞';
| i ニ /ﾆﾆi`／´ ＼`/ ﾊ ヽ ｌ〈'／ ＞"´,ィ"
|＿＿ - '――／´: : :.Ｙ i X l i l .ｲ ｌ ソ iﾍ ハ
,ｒ=ニ / ニl i: : : : :l ∨ヽi l i ￣ ニ lﾍ ィ//i
,,＿ ﾒｚ､(≧ｚ=ﾆ1 i／ ﾘ: : : : l /: :iｌ＞――- _ ｌ/,ｉ l
i､三≧ﾆニ=─-| i´: : : :iﾍ ｲ:.／ ＿＿ ミ ｘ ＿＿l ヽ l
l二ﾆ=‐三三三三三i: : : : :iーｪ ｨ≦彡ニ_／: : : : :≧ｚ､ ＼: ﾘ l /
/／´￣ l: : : /／三 彡ィ／ イ: : : : :/: : : : : :＼ ヽ /／
.l _ ｚｚｚｭ-―――ﾍ: : //i /＞ イ ／: :/: : : : :/: : : :.i: : : : : ―i Ｙ
.∨: : : /: : : ／`ｰ､: : ＼ メ´ /: : :/: : : : :./: : : : :ｉ: : : :i: : : ﾍ ﾘ
`/: :/: : : /: : : : : i: : : l//∧ l｀ｰ〈: : : : : /: : : : : ,:.: : :.l: : : i/∨
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l: : : :/; ; ; ; ＼ヽ三ﾆi ｀テ: : : : i
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| 鉄の拳が落ちてくる。
| 墨目は露出狂への対処で必死だ。ねずみ男は流れ弾から身を隠し、ニャンコ先生はノミ脚を牽制。
|
| やらない夫には時間がなかった。
| 手榴弾に対処したら上への対応ができないだろう。
| 逃げたら鹿島が爆風を食らう。
|
|「ゲァゲァゲァゲァ！」
|「ブルブル！ ブルブル！ ブルブル！ ブルブル！」
|
| 股間をしごきまくる露出狂。弾けるコンドーム。意味不明。
| コンテナをぶち破って、強引に追ってきた一輪車。絶体絶命。
|
| そして足元で手榴弾が爆発した。
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☆ 次回予告！
区切りがいいのでここで切ります。
いや、ほら、多人数戦楽しすぎてついつい筆が乗りすぎまして。
このまま消耗戦を続けてもいいんですが、そうもいかないので。
次回はタイトル通りになります。
次回、最終幕二十二話『生意気なメスガキに大人の怖さって奴を分からせてやる』
果てに見るのは破滅か死か。
相変わらずサバイバルしてんなやらない夫
/ / /
/ / /
/ / / ／￣￣￣￣＼
/ / / ,／ﾞ￣"'／ ＼
ﾞ ﾟ'X. / / / ／ ＼
＼ `─-､' / | |丶
/⌒'ｙ"｀ヽ.＼___＿__,,;,/ r''＼ | |. :::::＼
/ﾞヽ(_,X., ﾞｒ､＼_ | ＿) | |. : ::.:::.:.ヽ 『エクスカリバー』！
/ﾞ`‘,' _ /､＼_,〉 . : ::| く | "ｰ､_ ､_,ノ'′ ,|. : : : ::::::,r'ヽ
￣⌒ｿ`;、i : , ': : : : : : : :! ＼ | （ ●） （ ●） ,|.: :: :: : ::::.::::ハ
,r''ﾞ,r"⌒ﾞヽ;_:_; : : : ::::| : ::;;＼} j、 /.: :: :: .:::::::::::::.::i
::;;" / `・､_::::| : :;: : :,i:} ヽ _ ﾉヽ＿__ノ ,/ : : :: ::: :::::::::::.:::'､
_!_,r′ :ヽｊ : : :;;::.／ ヽ ｀ ⌒ ´ /: :: :: :: :: .::／ .:::::::i
{、 _,,..，`-､;;:/ l￣￣ﾞﾟﾞ￣￣￣￣￣”ﾞ`'''" .:' ..::::::::::|
`r:: ,;'" ''ﾞﾟﾞ￣⌒ヽ、.,,__＼ ,; : ; : ; : : : : :`'':; , ' ..::::::::::::j
{: : : : ＼ ￣￣.:'⌒゜￣ ﾞ`'': :: :/: : : ..::::::::::::::'|
＼::::::ﾞヽ. ;、 、 ＼ ﾞ' 、 ,r:: /: : : ..:::::::::::::::';;;|
＼::::ﾟ、 ﾞヽ. , ヽ. ヽ ﾞヽ `・､,_ /: :/ ..::::::::::::::::::::::i
＼::::ﾞ,、 ｀.､ , . : : : ､ ＼ ヽ, /: : i ..:::::::::::::::::::::::::::::i,
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| 背中に隠した『エクスカリバー』を緊急発動。
| 斥力の膜で手榴弾を封殺しつつ後方へ。鹿島を守る位置で落下するエンジン拳を迎撃の姿勢。
|
|「うぉぉん、ううぉぉん」
|
| 右腕を振り上げるエンジン拳。爆音と同時に両腕のブースター点火。
| 空中で回転しながら加速した拳を振り下ろす。
|
|「そりゃ無理だろ！！」
|
| 正面から受け止めたら魔力がいくらあっても足りやしない。
| しかし避ける暇はない。
|
| やらない夫は鹿島を斥力操作で弾き飛ばしながら防御。
| 稚拙な重力操作では対処しきれないパワー。
|
| やらない夫は『エクスカリバー』の出力を上げた。ここでケチケチしていては先日の二の舞を踏むことになる。
| ダースベイダーに飲まされた煮え湯。毎度都合よく救いの手が伸ばされるはずもない。
|
|「吹き飛べ！」
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〈ニニﾆ＞‐ヽ-､} ゲァゲァゲァゲァ！
＿＿｀ <´O､__,Ο.y|ニﾆﾆ∨
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ﾏ.:.:.:.:.:.:.:.://≧=-=´ヽ.:.:.:.:./≧s。__ 。ｒ≦ ｉゝｉ .〉〉y。ｒ≦.:.:.:.:/
ﾏ.:_.:.:.:.{ 〃 ,-､ ﾍ ',.:,ｲ.:.:.:.:.:.:.:._。ｒ＜＞'ｲ_ﾉﾉ'.:.:.:__.:.:.:.:.∨
{ `ｲ',.:,'〃 ｉ｀´! ', ./ｱ＜ ＞ '´:.:＿.:.:.:.:,-､.:.:.:{=.}.:.:.:∨
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| 重力を断ち切り、無重力状態のエンジン拳に対し、ヒゲ槍をハンマーにして叩きつける。
| 姿勢を保てず、程々の速度でバタ付きながらエンジン拳が空中遊泳。
|
| 止めようとした露出狂がコンテナとの間に押しつぶされる。
| 重力の頸木からは解かれても、エンジン拳の総重量に変化はないのだ。
|
| コンテナをへこませて移動停止。挟まれた露出狂は沈黙。はみ出た下半身。へし折れた銃身。
| その間に、ノミ脚が再びやらない夫を狙う。一輪車が墨目とドッグファイト。
|
| 鹿島はねずみ男が安全そうな方向に手を引く。苦しそうな鹿島。耐えかねて鼻をつまむ。
|
|「わしをフリーにしたな！」
|
| 空中で雄叫びを上げるニャンコ先生。収束するまばゆい輝き、渦巻く電光。
| 稲妻の鉄槌。いわく雷公鞭。束にした雷火の滝が一輪車を焼き焦がす！
|
|「おかああああさん！ おかあああああさん！」
|
| 割って入る影。未だに煙立てる盾。先程ニャンコ先生に焼き殺されたはずの巨大ゴキブリ。死んだふりをやめて仲間をかばう。
| 今度こそ即死。溶けた盾、黒焦げの生身、原型を留めない機械部品。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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∴∵∴．
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＿＿_ ∵∴∵∴∵：． ｀ヾ＼ ヽ,_ -┘ ニ＝― ￣￣
´￣´二≧ｭ､＿＿ _ -ー､∵：’∵．． _ﾏ/ﾑ { ＿ニ＝‐￣
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／ｚア⌒ｊ彡=ｰァ ゞｭ､＿ヽミヽ!{ ｒ､}! ）∴ｭ.ヽ,∵__ニ≠=-､ ｒ‐ ﾏ/ﾑ :.
（ｲ { ／ ィア⌒彡＝７ｒミｚ‐ヾ｀ゝ=ｲ {/,zァ≦=≧｡､ ヽ{ ﾏ/ﾑ :, 斃れて頂きます！
ヾ / / __ｒ=ォzィｱ/7,{ ＞=ｭ､_ｊ///彡///ｲ_ノ ﾏ/ﾑ 〉ｒｒｧｧ=≦'ｰ- ､
{ ＿≦ｭｧﾍ ﾄ｣=|-ｒ'〈ｭ_/ﾑ77{ ﾌアｊ!////=´¨ , ｨﾏ/ﾑ ヽ￣ ￣｀ヾ}.
ｒｭ､-=ニ=‐ ⌒{_ノ､_{ Yゝ ｊｲ/!ﾊ/|! {/ﾉイﾊ1/´ニニ| ,,イ}＞' ﾏ/ﾑ ':. ＿_ }l!
_ ｡ ･ｲシ´￣ ｊ ／/,ｲ!/ﾊ/ゝｧ彡ｲ| Yニニニ|! ,イﾐ／ ﾏ/ﾑ i. ￣｀ヾｫｙ'ｲ
oﾟ ゝ､{⌒_ィ //// {/≧7///r=ｫ!|ニニニﾆﾄ /ミ/ ﾏ/ﾑ l! ｱ=Y
ﾟ ･ ｡ _ ヽ＿（＿ミ≧彡{!//{! ア=-ｧｌ｢ {ｊ {jT!ニニﾆﾆ|!ヽ/ミ/ﾄ|ﾊｲ_ ﾏ/ﾑ i. 〈/ {
ﾟ ･ ｡ _ ￣￣｀ー='´ ｊ//ム.y′,ィXX|! |!ニニニﾆ!/ 〕}ト ヾ |7, マﾑ {. ｀ー=-'
ﾟ ･ ｡ _ <{´ｊ///ﾑ≠XXXx|L-=ｲ＝ｒ＝ｧ=' /≧ｒ<ヽ }!, ＿ Yﾑ '.
ﾟ ･ ｡ _ ^⌒｀ゝ.xXXXx_ソ , {レ´￣ ｀ヾﾆﾑ｀ヾｭ_,,ｨｱｲ（ ﾏﾑ >
ﾟ ･ ｡ _ ￣￣〕ｭ､_ィ{ /ｊ__zｭ≦ｲ{_ヾﾆ{ ｀ゞ〔{､7＞｡ ﾏﾑゝ,
ﾟ ･ ｡ _ ,イ＿）ﾆﾆ＞⌒ｰｭ､ftjY Y[ {ﾚ⌒}ﾄ）/ﾆ＞ｭ_}-ｧア
ﾟ ･ ｡ _ァイｆｔ{ /ｨ^=⌒ヾ=}ﾊY} ｲｴ{ ﾞ⌒ヾ7ニ{7￣ﾌ-{
_ｭｊtﾟ ･ ｡ _tjハ そ ｚ / jﾚﾘ//ｪ‐ｪ' ｀Y_人!´__ｲ
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| すかさず一輪車の懐に飛び込む墨目。鉈の一撃は間一髪ブリッジ回避。
| しかし続く手槍はライダースーツと筋肉を貫き、内部のチタン板をへこませる。
|
|「ブルブル！ ブルブル！ ブルブル！ ブルブル！」
|
| 身をひねって反撃に移ろうとする一輪車。だが墨目の連撃は終わっていない。
| 両目から冥府の瘴気を溢れさせながら、尻尾のナイフが、後ろ回し蹴りが、そして再びの鉈が襲いかかる。
|
| ズタズタになりながらも反撃する一輪車。しかしもう墨目は距離を取っていた。
|
|「頑丈ですね……」
|
| ヒビの入ったヘルメットから血とオイルを流しながら、果敢に構える一輪車。
| 打撃は確実に効いていた。
|
|「援軍が来る前にやるぞ！」
|
| 立ち上がるエンジン拳。不屈のガッツで執拗にやらない夫を狙うノミ脚。これでようやく三対三。
| 流れはやらない夫たちにあったが、それでも予断は許されない。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
|三三三三三三三三三三三＿7 /〈 〈＿_ ./ /７｜./ ∧＼ ./ /＿_〈 〈＿_ / ∧＼ 〈〈 / / 〈〈.∧∨,/三三三三三三三三三
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人:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::}∧/＿___
＞'´￣｀Y´￣￣｀ ｰ､:::::::::::::::::::::::::ノ￣｀ vilil/
. ／ ／ :} ／ ￣ ￣ ￣´ヽ 丶 ∨
/ / ／/ ,' ＼ '.
| ／ ./ / ｉ ', i
| / :ｌ ｌ :ｉ :| | ｌ :l | i }
| ,' | | :| :| | | :| | l /
} | | 斗-‐┼ ト-ﾐ j | l〃
八 j | ｌ:. / i/ 八 :/l/ ヽ l | {
V :,' 八 ﾔう斥ミ ＼_/ｨf斥芍.} ./ 八 か、『カトルカール』は十二人の
∨ ,' :l∧ '.弋r'::ﾂ 弋シ ,' ./ ' ＼ チームだという話です。
/ / :| ＼j､､´､､ , ､､､/／' /( ヽ
／ ./ :人. ∧ ,' ./ ,' ) ) つまり、あと六人……！
〃.' .:／ ) ) 个 r っ イ ./ ( / ／
} ', .:/斗≦(/ ,' } ﾍ ＞ ≦ / .八 V ／ ｀ヽ
八 丶 :(_i_i_i_i∨ :/--､ｊ }__ .／ / ＼ l （＿__ノﾉ
＼ ヽ :)l_l_l_l_{ :/::::::::(ﾆ(::::::｀ー､＿/((__ノ.ﾉ＞ー‐''´
((___) ノ-=≠人 (─＜⌒＼:::::::::::::＼ }_i_i_i_i_i≧､
￣ ´ } / ∧ ｀ ＼___＞=─‐‐｀ }_l_l_l_l_l_l_lﾊ
j／ / ＼ ＼ ｀丶 ｀¨＞≠=ー}
／ 'ｏ i｀¨ 7─ ､_＼ ＼ ′ |
. / / i: ／ ｏ/ ∨ ./
′ i :/ / i /
. j: : . ‐＝=‐- ' :}ヽ .ｲ
八: : . i =‐- ′ . . : 八 .i ／|
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≧ー ─‐‐-､_ . . : : : : : : : :.イ/ ,′ / :|
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∨ ∨o oi ｉ / ,′ / 八
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|「えー、こんな変なのがあと半分もいるのか？」
|
| 文句を言いながら、やらない夫は『カトルカール』を観察する。
| こいつらは……面白い。
|
| やらない夫の傷は『守護神』で完治していた。
| 魔力の問題さえなければ、積極的に全員倒したいくらいである。
|
|「カリカリガリガリ！ カリカリガリガリ！」
|「ブルブルブルブル！ だろ！」
|
| 襲いかかるノミ脚をヒゲ槍九尾鞭で迎撃。
| 振りかぶるエンジン拳、ニャンコ先生の牽制に気が散るのか狙いが定まらない。
|
|「ねずみ男！」
|「任せろい！」
|
| ねずみ男からの援護に警戒するノミ脚、その目が捉えたのは盛大なアカンベエ。
| やらない夫が地面に倒れ込み、肘の後ろに『ノミ脚』を作成。バネじかけの『エンジン拳』。鉤爪をがら空きの胸に打ち込む。
|
| もんどり打つ本家ノミ脚男。重要器官部を守るチタンプレートが無ければ即死だった。
| だがそれでも肺を損傷、血を吐きのたうち回る。
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(⌒ヽ
{⌒ヽ ヽ
ヽ ヽ＿}
／ ヽ ヽ ト__
〈 ＼ ￣ / l
＼ ＼/ l
=ﾆ;:;:;:;:;:;:; ＼ /;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:
三;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:＼ 〈;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;
‐=＝;:;:;:;:;:;:;:;: '´ ＼ ＼` ,;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:
ﾆ三;:;:;:;:;:;:;:' ＼ 〉 ' ､;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:
＿ ≦三二＝＝─フ ￣￣二丶 ￣ __ ＿ ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
／ ／ '´ //三≠ ￣￣ ￣￣ 〈 ヽ／＼￣￣￣￣￣￣￣￣￣
ｉ 三── //三/ Ξ ＼ ヽ
| 二二二ﾐヽ| |三 ≠ r‐' ∧ l
| 三￣Ξ＝i| |三 ≡= ＼ { `ｰ'
乂 三三 ﾍﾍ乂 ヾ `ｰ'
＿ 三＝─- ﾍ人≧ ＿＿＿ ＿＿＿＿＿＿＿＿＼＼＿＿＿＿＿＿
三＝───≧─三二二ラ' ￣￣￣￣￣￣,:':;:;:;:;:;＼＼;:;:;:;:;:;≧￣￣￣
=三三三三;:;:;:;:;:;:'､ ,.,.;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:＼＼;;:;:;:;:ニ─
ニ三;:;:;:;:;:;:;:;:;:` ,, ,,, ;:;:ﾞ:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:＼＼Ξ=‐
＝ﾆ;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;: ;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:＼＼
三 ,:,;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;;:;:;:;:;:;:三二＼＼
＝‐ ＝ `ｰ'
(⌒ ヽ _
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| とどめを刺そうとしたやらない夫だが、殺気に気付いて飛びのいた。
| 弾丸がアスファルトを穿つ。狙撃。どこかのコンテナ上に新手がいる！
|
|「狂気で威圧して追い込むのがお得意なのでしょうけれど、効かない相手にはただの戦力の逐次投入。
| 人間狩りしかしたことのないこけ脅し部隊らしい無様ですわね」
|
| 挑発的に嘲る女の声。甘く危険で毒にまみれた。
| 巫女装束で薙刀を担いだ女がコンテナの影から現れる。
|
|「……冥さんかッ」
|「ご無沙汰しておりますわ。備府やらない夫。『血族』大首領、藤堂志麻子様の命であなたを捕らえにまいりましたの」
|
| 諫山冥。『血族』ののけものだった女。
| 敵の敵の出現に、負傷した『カトルカール』たちは様子見の構え。
|
|「素直に捕まる気はないでしょうから……いいものを見せて差し上げます」
|
| 指を鳴らす冥、武器を構えた天竜とシグがゆっくりと姿を現す。
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[_ -‐=ﾆ| |:::::::::::::::/:::::::::/:::::::::，
{ {く／／| |::::::::::::::{／:::∧:::::::::::'，
夊zzzzzシ:::::::::::::::{:_／ヽ ，:}::::::::，
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|::::|::::::l::::l::::::::::::::::::{ 7::lリ ボス……。
x=ﾆﾆ=ミk:::l::::l:::::::::::::::::::'， ＿ / ::|
〃ﾆﾆﾆﾆﾆ＼￣＼:::::::::::::::::'， (__}ﾉl::::::|＼
〃ﾆﾆﾆﾆﾆﾆ=‐'， ､::::::::::::::'， /::::::::八:::..､
〃ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ=‐， ／}＼::::::{^`￣⌒ヽ{⌒ヽ:::'，
〃ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ=V{廴//_≧=‐＿_ ＼，
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／￣￣￣￣＼ﾆﾆﾆﾆﾆ／{ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ＼―=ミixixixixixixixix＼
{／￣￣＼ ､ﾆ=／ ，ﾆﾆ={ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ= ＼､} }≧s｡=―― ､ﾉ
{r―┬‐‐=ﾆ ＿ V/ ，ニ=‐=ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ=‐}∨ﾆﾆﾆ}＼ ／⌒ア^ く＼‐ ､
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―‐{ , ′ | l | | ，ﾆﾆ≧=‐ﾆﾆﾆﾆﾆ〃ﾆﾆ ／ﾆﾆﾆﾆ=‐{ ＼＿／ し'し′
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|「あー、冥さんならともかくお前らは傷つけたくないな。するとあれか？ さっきの狙撃はロビンか？」
|「そういうのは言っちゃだめってオバサンが」
|
| 素直にシグ。素直すぎて困った顔のやらない夫。
| 冥は苛立ちを隠さずに舌を打ち、左手を上げる。
|
|「あなたのボスは、わたくしでしょう……生意気な小娘に分からせてあげますわ」
|「ンぁッ！！？」
|
| 突然、電撃に打たれたかのようにのけぞり、手にした刀を取り落とす天竜。
| 手足をつっぱりビクンビクンと震える。
|
|「え？」
|「ひぎィ！！？」
|
| 何が起きたのか、やらない夫もシグも、当事者の天竜すら理解できない。
| ただ冥だけがにやにやしながら左手を下げる。
|
|「間桐臟硯から頂いた蟲ですわ。わたくしの操作一つで内蔵に激痛を走らせますの」
|
| つまり天竜が感じているのは退魔忍的なそれ……ではなく。
| 陣痛や金的のような対処不能の激痛なのである。
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_,,.. ‐''ﾞｉ
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／ ／
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, ｘ≦ ￣｀ ≧´ｘ_,ｔイ≡=‐- 、
／ ﾊx _ , ＞
,/ , ｀ｘ. ズ､｀￣~,／:;
. / , ﾊﾇ ト､ ヽヽ /:::::::}
/ / /‐{ jｉ j｀≧ｘ ,ヽ! /::::::::::ｉ ／≧ｘ オバサン！
/'´f {/,xｬl/､＼ ｱx= ミ､､ l.) } ＼:::::::｀/:::::::::::::ヽ
. | {弋__ｃ !/弋 ｨﾒハ ﾒ l| 〉::::::,':::::::::::::::::::l
弋ﾊ ｀¨´ ､ ｀¨''/ ﾊ,/ | ﾉ::::::::'、:::::::::::::::ﾉ
＼,≧ ( ヽ ィ/,ｨ'ﾚ' ´ ,ハ:::::::::::≧ｘ::::::::ハ
ﾚ', ｘ≦￣丁 ｀/ ,_ / |:::::::::,ィ:::::｀´::::人
＼ |ｉ. lｘ≦ .:.:ヽ‐' ／〉:::::/:::::::::::::／:::::::ヽ
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ｘ≦, ,ﾉ /:.:.:/,／ .ﾄ､l:::::::ゝ:::, イ::::::::::/
ト､/ /. ､:.:.:.} ＼｀‐--(:::::::::::::／
/ / 〈. ､:.:.:ト､.. ┌┐ ＼........｀￣/´
. / / /. ゞ弋/￣｀ﾞﾞﾞ''''ｰ- ...|i￣｀∨
/ / /. 丁
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. / /ヽ . /. ┌──/
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|「あれを見ても大人の怖さが分からないのかしら？」
|「うっ」
|
| 薙刀の柄でスネを強かに打たれ、シグが倒れる。その背中にさらなる打擲。
| エンジン拳がゆらゆらと動く。その頭部は冥に釘付けだ。他の二名はやらない夫から視線を外さない。今の内に体力を温存し、仲間を待つ姿勢。
|
|「やめろっ」
|「あなたが素直に捕縛されれば、人質には何もいたしませんわ」
|
| 人質。
| 愉悦の笑みを浮かべた冥が、サディスティックな快楽に身を任せてシグを打つ。
|
| 自分の部下ではない、やらない夫への人質に過ぎない。
| 激痛からの呼吸困難で喘ぎながら、天竜がポロポロと涙を流す。
|
|「くっ……殺せ……！」
|「あら、躾の悪いメスガキですわね」
|「あぐッ」
|
| 白目を剥いて倒れる天竜。やらない夫を良く知るが故の戦力としてではなく、ただの人質。
| それが彼女のプライドをズタズタに、それこそ泣くほどに傷つけていた。
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}ヽ ／}
.; ∧ ／ /
ｊ ∧__ ﾄ､_,ィ ,ｨ ／ /
, '´ ￣￣ ＞ ､{ .|| ｉY} { ／ /
.′ ヽ┴ }!/ / /
､ ｀ｉ __ / /
Y´ ｀ヽ、 / . /
___ ト､ ,ｨ===- ､＼ / /
'´ﾆﾆ厶 ハ `くﾆ○ﾆﾆﾆﾆ､} / /
ﾆﾆﾆﾆﾆﾑ ／ ∨ ∧-=ﾆﾆﾆﾆ .ｉ／￣./ / …………ボス。
ﾆ ／￣ﾏム ／ ∨ ∧ ｀ ---┘、 / / `
／ }ﾆﾑ、_ ／ ∨ ∧ .`./ / }
／_／ ∨ ∧ ／￣/ / /
.. ／￣ ∨ ∧ { {:::::/ /、／
..／ ∨ ∧ ､`/ / }
{ ∨ ∧ ./ / }
∨ .∨ / ./ ｉ
. ∨ ∨. / /
＞ ､＼ / / /
＞ 、__ -‐ ´ ￣￣￣￣￣ ./ /￣ ／
＞、＿＿＿＿＿＿＿＿./ ∧‐／
＼ ./ /ニ {
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| 狙撃用アタッチメントと無線で状況を把握しながらも、ロビンは狙いをやらない夫から外さない。
| 彼とて冥の横暴には血を吐く思いだ。だが、逆らうわけにも行かない。
|
| いっそのこと、さっさとやらない夫を撃ってしまいたい程である。
| けれど冥は殺さずに捕縛することで自らの有用性を証明したがっていた。故に先の狙撃も威嚇だったのだ。
|
|「冥さんアンタ……自分のやってることが分かってるのか！？」
|「目的のためなら手段を選んでいられないだけですわ」
|
| 怒りのあまりに唇を噛み切って血を流すやらない夫。
| その憤怒すら、冥には心地よい。
|
|「さて、あなたの降伏と小娘の発狂とどちらが先ですかしら？
| それともショック死？ 死んだら次はそっちのガキの番になるだけですけれど」
|「死ぬのは……」
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／´￣７
_，-―‐-/ _∠＿
／´ ´､_ _＞
/ ヽ￣
. ,′ .、 |＿ i
/＼ｉﾍ/＼ ﾚiハ了＼| ＼__i、 |zxく
＼ ソ＼_≧＝==小 /tｯ .モテヽ |ｦツ オバサンの……ほうだぁ！
「￣/ ＿つ ＿ ﾚヘ_ r-､ ／り ´
「／￣＼」_,／ ＞ 、了丁￣「７
ヽ! } /´ 入
､＿,ノ / ⊥イ i
入.＿,ノ / /i | _l
/＼ 〉ヘ ／ .// / L!
＼ `ーt‐--＜／＼くZzZｦ_./ 小
`ー--」-―-､ | ＿フｰ' ﾄ ヽ
(___入_」 V厂 ｜＼i
＼之 __ノ i ＼∠
」＼＼__「＿_.ノヽ i ヽヽヘ
/`ー≧-t--く / /`! ! /ーﾞ
く. 〉 ヽ`" ＼ﾙ′
ーr--＜ メ----ヘ
「￣ |) | ＼_
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七ーz_ノ ￣ﾍ ﾍ
￣ 「￣~ヘ_
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ヽｰ---‐'ノ
￣￣
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| 足を痛めたのか、膝立ちのシグが雄々しく吠えた。
| 震える足でしゃむににしがみつく。
|
|「またオバサンと……！」
|「オバサンだろぉ！」
|
| シグの体から紫色の瘴気がにじみ出る。魔力によって精製された猛毒の霧。
| シグ本人すらも浸食する致死性の化合物が、冥とシグを包み込む。
|
|「仲間割れですか？」
|「ちょっと違えんだけどなァ」
|
| 蚊帳の外の鹿島、ねずみ男は困ったように頭をかく。
| シグの思い切りの良さは想定外だが、先に裏切ったのは冥であろう。
|
|「シグ！！」
|「サマナー、危険です」
|
| 駆寄ろうとするやらない夫を墨目が止めた。シグと冥を包む毒霧は一般人なら即死。
| 皮膚と呼吸器を即座に破壊する。墨目の瘴気やねずみ男の放屁よりはるかに凶悪だ。
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i ｊ / | !ﾍ ヾ!ｿィ ヽ}
,' / | |i | ゞ､ノ´⌒ｨ,xﾄ´イ⌒ヾノ
! / / / | |ｌ | ! '｀＼ ノ
| ｲ ,' ｌ ハ ! ｊ ／ ） ヽｰ.ｌ
ｌ ! / | | | ｌ '. ｊ ､ノ ,ィ ,ﾍ } ｊ
| | /ヾ.||､_,ｨ丿 ヽ､,_ｊ |ィ´ ∨ ｀ー-‐ｌ´ ﾄ､_ﾉ/
| ｒ､| /xｚｭ||-､ ヽ ﾉ ||ァz=| ハ |
| { ! ,'´,ｨヽ!|ヽ: j : : |ﾚ'ｒ=､| ﾊ ｊ |
| ﾊ l! |､ ゞﾟ-|| ||､ゞﾟｲ ,' / |
| ヽ|! | 'ﾞ｀|| ﾘ ´~^| ,'_ﾉ | ……クソガキがっ！
| | | ｀ .: | ,' !
| | | .:! | ,'
| ! | ｀ | ,' |
| | ト r ＝=｡ ! |!ヽ |
| | |ﾊ!｀ ´ ー=´ ｲ|! |: : :＼ !
| ,.ｲ! !ハ ＞ ／ | |: : : : :｀: . |
| ,,. :´: : :| |: :ﾊ ｀::... .ィ | |!: : : : : : : :ヽ !
イ : : : : : : | |: : ﾊ /i| |: : : : : : : : : : :＼
／: : : : : : : : : :| !: : : ヽ / | |: : : : : : : : : : : : :
|lニニニニ三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三ニニニニ
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| 皮膚を爛れさせたシグが、冥の膝を受けてよろける。
| そのまま薙刀の石突を受け、毒霧が霧散。シグはボロくずみたいに倒れ伏した。
|
|「ザコのハナクソ魔力でわたくしの結界をどうにかできるとは、とんだ思い上がりですわ！」
|
| 驚くべきことに、白い肌に所々炎症があり、衣服に焦げ目がついた程度。
| 息こそ荒いがダメージは大きくない。
|
|「ババアぁ！」
|
| 足をガクガク震わせながら、天竜が刀を杖に立ち上がる。
| 稲妻のような青筋を立て、般若のごとき冥が振り向く。
|
|「さっきからどいつもこいつも口ばかり達者ですわね……！」
|
| そして再び天竜に衝撃。のけぞり倒れる姿に笑おうとした冥の。
| 上半身が弾け飛んだ。
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／三三三三二ﾆﾍ /￣￣￣＼-､ _
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,ｒ―ﾒニ/￣ニニ==一- _ /ﾆﾆ|三三三ﾆ三三 / / /_ / ヽ ――'＿＿_
＿i二二二二)ﾍｖ/ / l ヽ三ﾆi三ィ´ ﾍ ｫﾆ/'〉 ＞ﾐ＼＞=,ｲ○,､ィ / ヽ＿＿_i〉
ｉ＿＿＿＿ ﾅﾍ,'/ l l iニﾆ､ ＼ｌ､ l＿メ' ´l l i ､ﾆﾐ､ / /イ,_ / / ､ ,ゝ､/ /
iｰ'_ ＞――ﾆﾆﾆﾆｰ‐ｔｚｚ≦ミヽ ﾄ-; ｀＞ﾆﾆﾆ≦ｲ,l 〉/ｰﾞ／ / / / /（ ) /
_ィﾆﾆ二二/￣_＼￣,l ∨￣ _Ｙ: o: :o: o:l/: :/ i/ l 〈 iニ7 `ヽ/ｌ /ヽﾍ うぉぉぉンッ！
,-マ⌒ /`ヽ､＿入 l´￣ l￣,l ﾘ ,ｒ-､／: :メﾆﾆﾆラ: ﾍ: :＼ /:/ 二- 二 /ヽ`イ､ / 〉 うううぉッ……ぉッ！！
ヽ＿ｚｚｚｚゝﾆﾆ彡ﾍゝ―――‐' ､ l,-ゝ.､.ﾍ: ／: : : : ,: : : : ﾍ: : : ィ ／ ＿-- ｘ､`ヽ､ ｀ｰ'" / /
〈￣ 二二二二二二ヽ､_ノヽ ヽ: : : : :/: : : : : : ,､: : : : ﾍ´ メｚ≦ イ: : : : : ヽ-＼ ＼ / /
／´: : : : : : : _: : : : : ＼ ＼ lヽ: : i: : : : : ≦ｚｚ≧ : : ヽ／:_:_､/: : : ／: : : : : :ヽ ヽイ' /
,ｒ:': : : _-:‐≦彡": : : : : : : :ヽ ', ｌ:';: : :l ／´, ヽ ヽ/ `| ヽｰ"/: : : :/ﾌ: : :i /
/: /ｰﾆ三: : /＼:_:_＞､: : : : : : 〉 i l: : : ,'l ´ ｀ l ヽ ヽニ／l: : : l ／
ヽX:_/: _:-‐:':ヽ: :‐: :': ﾍ: : : ／:〈 / /,／ l l ヽ ヽ ｨ ／
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`ｰ' `ー'"´ , ｨ , / 〉
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| 胸から上を失って、内臓を撒き散らしながらよたよた回る冥の下半身。
| グロテスクな螺旋を描き、バッタリ斃れて動かなくなる。
|
| そうなって初めて、誰もが現状を理解した。
| エンジン拳が突然に、冥を殺害したのである。
|
| 一輪車とノミ脚男は吠えることもなく、じわりと下がった。
| エンジン拳は彼らに顔を向ける。よろめきながら。
|
|「ロビン！！」
|
| 空白の一瞬。最初に動いたのはやらない夫だった。
| 意を汲んだ墨目が鹿島を小脇に抱える。
|
|「二人を頼む！」
|「……やだよ、ぼす……」
|
| 異を唱えたのはシグだった。
| 爛れた顔で、白濁した目で、やらない夫に懇願。
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＿_
／|::::| | ＞i
／::::::|::::| | ／r┐!
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/::::::::::: /::://=’，=_=_=_=_=＼'''7 /
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/ ｀''〈 ,' //＝／_=_’，/_=_=_=_=‘，
/ ./￣./_=/=_=_＝,ｲ=_=_=_=_=il_|
/:::＼ / ./＝,'=_=_＝/ |=_=_=_=_=_l_|
{::三:/〉┬‐'!=_=!=_＝∠.斗'=_=_=_=_=l_!
乂彡' ノ=/ !=_=!_=_,' _,,.. |ﾊ_|_=_=_=_ﾊ|
￣ ﾚ'/_|=_=|_=_|弋苡 |:|＼_=_/ }
∠ノ=∧=_∨从 ::::::::::: |八 ﾘV
∠斗匕ﾊ_=_Vヾゝ ＿_ ／ 俺もだ……ボス。
／ﾏﾑ 从=.≧s。'―彳ﾊ
､丶`=三ﾏﾑ V_|__/√，三=}
,.＜ 三三三三ﾏﾑ､ }ﾉ厶-ヽ‘，∨
/ﾆ三’，三三ニ=ﾏﾑ＼/ l: : :人‘，〉―＜
/ﾆ三三‘，三ニニ=ﾏﾑ ｀⌒i: :Y‘，三ﾆ=＼
. / 三三三ﾆ‘，三三ﾆﾆﾏﾑ＿"''*i,: :|i !.=<＼三∨
,仁三三三三 i}三三ﾆﾆ=^マ＿￣ ｀寸 i!:三＼ヽﾆ|
./=|三三三三ニ/=＜三/三三三三ﾆ‐ミ寸=ﾐ三.} {丿
/lﾆ∧三三三 ／ﾆヽ三ヽ｢ﾟｉ三三三三三ﾆﾊ＼＼ﾉ 〉
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| 口元の血泡を拭い、それでも戦意を失わない目で天竜が立ち上がる。いや、くず折れた。
|
|「……バカども、こっちに来たら死ぬぞ！？」
|「『血族』に殺されるところだったんだぜ……？」
|
| それを言われると、やらない夫は二の句を継げない。
| エンジン拳がよろけながら二人の『カトルカール』に近寄る。天竜とシグをかばう位置に立ったように見えるのは、錯覚だろう。
|
|「ロビン……なんか言ってやるだろ！」
|「……そうか」
|
| 天竜が悲しげに呟き、耳のインカムを外した。シグのは毒霧で破損している。
|
|「アイツは来ないって」
|「説得しろと言ったつもりなんだがな」
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/ ｉ
/ ｉ
/ ｉ
/ ｉ ボス……申シ訳アリマセン。
＿＿ / .}
, ＜ ＞ ､ ./ ｉ ｀ヽ、
／ ＼ , ＜ { | ＼
/ , ｨﾆﾆﾆﾆ= ､ ∧, ´／ ∨ | ＼
- ､ ｉ /ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾑ ／ / ＼ 」 ∧
｀ヽ { ｉﾆﾆﾆﾆ γ‐‐ ､ﾆﾑ / { ー--‐ ´ ∧
ｉ {ﾆﾆﾆﾆ .{ }ﾆﾆ} / ｉ ∧
{ ｉﾆﾆﾆﾆﾆ`== 'ﾆﾆ.ｊ ／ | ∧
／￣､ ﾏﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾉ .ｉ ∧
..／ ヽ` ､ﾆﾆﾆﾆ＞ '´ ∨ ,ｨﾆﾆ＞､ ｉ
' ∨ ,ｨﾆﾆﾆﾆﾆﾆ} |
∨ ,ｨﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ } |
∨ /ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ } |
＼ /ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ } ｉ
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| ロビンは……生きて行くためにその機械化した体の整備が不可欠である。
| つまり、やらない夫との逃避行は数日以内の死を意味していた。
|
| 虚空に謝罪しながらも、ロビンは『カトルカール』に狙いをつけていた。
| 天竜とシグを助けるためなら、『教会』の怪物共と事を構える覚悟がある。
|
|「クソ……アンタはどうする？」
|「うぉぉん、ううぉぉん」
|
| エンジン拳はやらない夫を無視。明後日の方向によたよた歩く。
| 突然のことにノミ脚と一輪車が色めき立つ。
|
|「オレは部下を助けたい。アンタらも……すぐに治療すりゃなんとかなるヤツもいるだろ？」
|
| コンテナとエンジン拳に押し潰されてボキベキの露出狂と、一輪車に轢かれたバレリーナの話だ。
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,, -‐ ､
/' ヽ
／￣￣＼ ./ i
／ ._ノ ヽ､＼ / ...........i
| （●）（●） | / ..:::::::::::::::|
| （__人__） | / ..::::::::::::::::::l ……まあ、まだやるなら全力だろ。
.| ｀ ⌒´ .} ./ ..::::::::::::::::::::! 守るものが多いから出し惜しみ無しで行く。
| }/ .::::::::::::::::::::/
ヽ ./ .:::::::::::::::::::/
.ヽ . .／ .:::::::::::::::::::/
,. ‐'"´ `'‐,r''"~ .:::::::::::::::::／
..:.／,. -‐‐- ､ l′ ..:::::::::::::／|
:,' ／ !.:::::::／:i..:..l
r ､ / !::::::::::: i..:..i
l .......`:i i !:::::::::: ﾞ､:.i
! ::::::::::/ i i:::::::::: ヽ:i
.! ::::::::/ i .....i::::::::::: ヽ
.ヽ ::::::| `､ `､ .....::::::::::::l:::::::::::: `,
/ ＼:::l. `､ ヽ::::::::::::::::::::l::::::::::: /'''ー─----､
`ヽ `､ .::::＼:::::::::::::::|::::::::: /,, ,. ‐;''
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| 溢れる鬼気に、満身創痍の『カトルカール』が怯んだように見えた。
| 対するやらない夫。ここまでの戦闘で追った傷は全て『守護神』により癒えている。
|
| 踵を返す一輪車。コンテナの向こうへ飛び跳ねるノミ脚。
| エンジンを吹かし、ロケット噴射で追随するエンジン拳。
|
| 奇襲と同様の、鮮やかな撤退。
| 巨大ゴキブリの死骸は放置されていたが、露出狂の姿もいつの間にかない。
|
|「ニャンコ先生、まずはシグの治療だ。
| 鹿島はセーフハウスに案内。墨目は二人を運んでくれ」
|「ボス、近くに諫山の車が停めてあるぜ」
|
| 指示を出しながら、やらない夫は仲間を得た喜びよりも、守るものが増えた不安に苛まれていた。
| 一人なら、なんとでも逃げられたが……これからは、そうも行くまい。
|
| 生まれ育った『血族』を捨ててまで、自分と共に歩もうとしてくれる天竜とシグのために。
| やらない夫は、何者かにならねばならない。
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☆ 次回予告！
彼女が抱えるのは持たざるものの渇望。
他者との差異に心苛まれ。
いくら求めど手に入らぬと嘆きの涙をひっそり流す。
彼が抱えるのは失ったものの虚脱。
生きる理由も目的も価値も。
その先を見据えなかったが故に想像もできない。
二人が出会うは新たな知見。
いままで気付かず、目もくれなかったもの。
すなわち。
次回 最終幕ニ十三話『負って、生きる』
果てに見るのは破滅か死か。
冥さん、サヨナラ！
_..---,,_
_.-‐""￣ ﾞ''‐､
,ノ'´_..---‐‐''‐‐- ､_ ､ ｀ゝ
,／／´ --- ----,,_ ＾''＼ ﾞ 、
./／ ､‐"-、 ﾞ' 、 ゛‐_ ､＼ ヽ
ﾉ/､／"＼ ﾞ ､ ﾍ ｀､｀｛ 、 ､ ､
!./ l:::::::::::::ﾍ ﾍ 卜 ﾍ ヽ '、 ヽ
ﾉ !│::::::::::::::::、 lﾍ （ ﾘ .| | l ｌ
ｌ !::::::::::::::::::: ､」 ﾍ _､|::::|－ ! l、 | {
ﾉ ヽ〕＿_::::::::::::::::::::::::::ﾝ::_::_ヽ､丿 l! ! {
１ （リ::::::７、::::::::::::::::::ｿ彳。.ﾉ::' ヽ ││| {
､ l」::: √ｄハ、::::::::::::::::^'::′:::::::::|!' │ | {
ソヽ:::::ﾞｰ'´:::）:::::::::::::::::::::::::::::::::│ | ! '、 {、
ハﾍ::::::::::: 、:::::::::::::::::::::::::::::::::│ / !ｌ ﾍ 、
ﾞｌヽ:::::::::::::｀‐ ゛:::::::::::::::::::::::::: |! l! ! ゝ ､ rl!
ﾍﾍ、:::::::::::- ―ｰ:::::::::::::::::ノ|!丿 | | l !’
ﾞ 、‐ 、:::::::::::::::::::::: ,、:::::亅、 ! － !│
｀ヽ 个 ､:::::::::::::..／:::::癶 │ l |）ﾉ
＼ヽ^''''":::::::::::::/_､‐'ヽ ! │/
ﾞ火:::::::::::::::／´ ﾍﾉｌ ‐ﾉ::
／ ﾍ、:::::::│ /_冫､ｌヽ
ﾍ ､ │:::::_::::! _、‐" _＞－,,
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--‐''l! 丿 〉彳､_-／‐ /’ ／ ＾ヽ、
/' 丿 ! / '、‐ ./ / l
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| 忠実な執事、ロラン・セアックが姿を消して、水門やんねえ香は変わった。
|
| その変化は、皆の想像の逆であった。
| 彼女は身の回りの世話を焼いてくれる少年を失ったことで、何でも完璧にこなすようになったのだ。
|
| 強情なモップみたいな髪にはブラシをかけるし、制服のボタンはきっちり留めた。
| スカートの丈は膝下まで下がり、廊下を走ることはなくなった。
|
| 黒板の板書はしっかり取り、教科書ともども毎日持ち帰った。
| 椅子に座る際には足を揃え、あぐらはおろか足を組むことさえない。
|
| くだらない事で声を荒らげず、穏やかに、朗らかに笑ってたしなめる。
| 喧嘩はしない。拳は握らない。当然足も出さない。
|
| 遅刻もしない、宿題は毎日出す。
| そして遅刻もしない。ホームルーム前に登校し、授業後はまっすぐ帰宅する。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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,ｨ ,イ／⌒Z＿＿
( |/:::::´:::::::::::::::::::::::≧
／:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::｀ヽ
∠:::::::::::f::f:::::::::::::::::::｀l::l::::::::::丶
../::::::::::::|::|ﾉﾅ弋:::/弋|::|::::::ハl
人λ::::(|::|（ ●） (●ﾉﾚ
. |:::::::|::| ,, r‐ｧ ﾘ|::| 別に、ただの心境の変化ってヤt…
r､ r､:::|::|、 ￣ノく|::| 心境の変化です。
ヽヾ 三 |:l1:|::| ﾍ＿ い:::|::|
＼>ヽ/ |｀ ｝リﾊ|ハ::ﾊlヽ,.リ 、
ﾍ lノ.:`'ｿ ./ | |::| Yﾍ ｀ヽ
/´.::::/ < .| .|::|. .| > .}
＼. ｨλ ヽ | |::| | ノ
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| 口調も、崩したはすっぱなそれから、ですますを多用する丁寧語もどきになった。
| しずえちゃんに教育（3DS版）されたのかとも噂されたが、やんねえ香本人は上のように言ってぎこちなく微笑むばかり。
|
| 友人とは遊ばなくなった。
|
| いやそも、やんねえ香の親しい友人とは誰だったか？
| 刹那や委員長とつるむようになる前は、誰と一緒だった？
|
| ロランと二人きり？
| 女神のような美少年とは別に、女子のツレはいなかったか？
|
| とにかく、今のやんねえ香には親しい友人はいない。
| 誰も彼女に踏み込めない。
|
| その目が死んでいるというのに。
| 頼りのロランは学校もやめてしまっていて。
|
| 委員長はなにやら毎日慌ただしく。
|
| 刹那もまた死んだ目で、茫洋と授業に出て、無為に過ごしていた。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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ヽ､.........＿
__,.ﾆｰ_､::::::ヽヽ
-―‐_‐- ､::::｀ヾヽ::::::)--
,..‐'ﾆ-::'´:::::｀ヽ､:::::::;ニﾆ''-､
,r'ｨ,r';r::´::::::::::::::::::::::::::::::｀ヽ､ヾヽ
,/' //:::::::::;::::::::::::;:ィ:::::::::::::::::::::::ヽヾ､
＿//_ノ:::'::::::;::ィ'::;／::::::ﾍ:::ヽ::::::､:::':::lﾞ'
｀ﾞ''ｧ:;=--ｧ‐;;::ィ:´:::::;:rヽ::ﾍ:::､ゝ､::ヽ:::|
i::l:::::｀l:l::l::::i:/::,r'::ｨ::;:ｲ〉､ゝ､'ｰ､'ｰ:::乂
l::l::i::::lllt､:::l:::::i://ノ__,:ノ l':::-､;_::i::､::ゝ
'､l::l::::ll|tj:､l:::iT''ｱ',rj:┬ヽl:::::::;ｸ}:ｲ}
ヽ:::､::lﾄ乂ヽ､ ´ ゞﾉｨｲ':/::/ /ノ
ヽ::ヽ ﾉ _,ノ;:ｨ':´/
ﾉi::ﾍ ｀ ＿_ , ｲ:::::{
ゝ｀i ､ ｰ ｀ ,／ lﾑ:::l
' >イﾑ-‐''´ l;＞ヽ_
,r‐t..f:´rﾞゝﾚ ,..‐:´::::::;::::ク､
,r‐'''ヽ:::＼::::::｀ヽ‐::':´:::::::;:ィ'::::::::::::::|
./.l ﾉ::::::::::‐=ー::::'''';:‐::´:::::::::::::::::/ ヽ
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| 聖永刹那。
| あの不人気の唯一の同志だった男。
|
| 十年前の痛ましい事件。
| バスツアー中の観光客を悪魔が襲い、子供だけが助かったあの事件。
|
| 孤児となった被害者は『聖アンジェラ教会』へと引き取られ、経過観察された。
| 異能者への覚醒を警戒されての判断である。
|
| あいにくなのか幸運なのか、誰一人として異能には目覚めず。
| 多くの子供は事件を忌まわしい過去として封印し、たった二人だけが。
|
| あのまな板と刹那だけが。
|
| バス事故の時に遭遇し、両親を貪り食った怪物の存在を信じ、証明せんと踏ん張ってきた。
| より正確には、不人気は怪物を。
| 刹那は助けてくれたガンダムを。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
|三三三三三三三三三三三＿7 /〈 〈＿_ ./ /７｜./ ∧＼ ./ /＿_〈 〈＿_ / ∧＼ 〈〈 / / 〈〈.∧∨,/三三三三三三三三三
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＼、
＼ ､ , ィ- 、
＼ く |l｀'i.|
_, ,´-＼､ヽ- ､!| , ／/
, , ´ ´ -､､＼ヽY Y／／
// （_ノ' ゝ!､, ﾚr_ﾄ､
// ∠＿_｀´_｀_.､ ',
. // .ｲrr' | K_ ィ Tヽ-l_l ﾄil /ヽ
l l ／ !=i ヽﾍY l ! |T!j l=| ./､./
_jレ ´ li-j l-!Y ´ﾌ､.Tl| l=| /､./
| |L{ l | l 7､ ||| l=!l/､./
| | ﾛ、 l ! | /__ l !ll l=l ./
l !ﾛ、 l ! .l.〃| l!||! lj ! ./
l |ﾛ、 || |' ! | l !l! ﾘl ./
l , -, -｀＿＿j.!ｰ-!, --l l| /ﾉ /
ヽ ／／ニ - ┼―| └―r'Y7_,./
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| だが、刹那はその記憶を失った。
|
| 先日戦い、倒したアリー・アル・サーシェスは、自分こそがあの事件を起こしたと豪語していた。
| 夢世界の発生にも関与していたし、勤勉な男であった。
|
| あの十月の夜。『品川大聖堂』において、刹那たちはサーシェスを襲撃した。
|
| 彼が夢世界の黒幕だったからであり、他の理由もあって殺す覚悟で挑んだ。
| 挑んだのだが……。
|
| 刹那が囮になり、サーシェスの気を逸らせたのは確かだ。
| 自分がどんな動きをしたのかはしっかり覚えている。
|
| だが、要所で記憶に靄がかかる。奇襲の方法は？ どうやって潜伏場所を見つけた？
| なにか、大切なことを見落としてやしないだろうか？
|
| 胸に空いた風穴から、何かが溢れているかのように。
| それがなんなのか、一向に思い出せない。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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ヽﾙ::::|::|ﾉーヽノ ーﾍ|::|::::::::ﾄ､|
ﾚ!::|::l( ー) (ー)|::|)::::iﾘ
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ﾄ､rrr─ｭヽ ,.':|::|:::::しi
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￣￣￣￣￣￣￣ 弋＿}_/rrrrﾌ´￣￣) ￣￣￣￣￣￣
￣￣￣
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| 水門の家はいわゆる成金で、21世紀初頭にIT事業で成功した富豪であった。
| 両親仲良く回していた会社は突然に大忙し、家庭はやんねえ香の姉に任せられた。
|
| 当時、やんねえ香5歳。
| 姉、やろうか奈13歳。
|
| 歳の離れた姉は妹の面倒と家事の両立は不可能と判断。即決。
| アパートの隣室に住む黒人女性に声をかけた。
|
| やんねえ香と同い年の息子を抱えた母子家庭。
| 仕事をこなしながら懸命に子育てをする彼女もまた、生活は困難であった。
|
| やろうか奈は、気心の知れた彼女についてを両親に交渉。
| 自身が母子家庭でありながらも、両親が忙しい水門の家を気遣う優しさを強調。
|
| 日本語は喋れても読み書きができない、夫と死別した外国人女性の仕事の少なさについてもアピール。
| 見事にハウスキーパーと妹の遊び相手を確保したのである。
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/ / / i ｀ r‐- ヽ ｌ ｌ
. / {〃 ｌ ′ | ィ ‐-ミ { ﾚレ′
, ∨ ｌ .{ l `=气 ｌ
i ｌ ヽ ｜ ´/ ヽ
. !. ｌ ＼{ ｀
ｌ /⌒i! `y r=ﾆ二 ｀y i
. ｌ ｌ { ｌ ヽ { { ｀ } .!
. l ｌ ヾ ｌ i ｌ ＼ -‐ -/ .′
. ｌ `‐--} i ｌ { ‐‐′ .
. ｌ } i / ∧ ｌﾘ ヽ ‐′ ,
{/ ' / ｌ! ｌ ＼ ` / i
. / ' { ｌｌ ｌ ｀ ‐- -- ｨ ;
/ } ｌ ｌ.! i i ／ハ/
{_ _rｰ‐ｌ i. ｌ l l ｌ ／ / ′
i ＼ ｌ ｌ ｌ ｌ ｌ {＿ { /
. 丶 :ｌ ｌ ｌ i人/ ￣ヽ ｉ {＿__ -‐ - ＿
レ′ ｌ ＼. ｌ 丶／ ∨ ｀ ‐-
! ヽ i八_} -‐ ‐- }. ｌ＼_} } `
i ＼ `y′ .ﾄ‐-＜ｌ i
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＼ ＼ ／ ／
i! i ヽ { } ＼r‐{ ｲ !
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| アパートから引っ越す際には母子も同行。
| 数年後、黒人女性が病死してからも息子は同居。
|
| すくすくと健やかに。
| そして必要以上に美しく育った少年は、家事と学業を両立させながらやんねえ香のお目付け役までしてくれた。
|
| 少年に対しとっくに情の湧いていた水門の両親は、彼を息子のように可愛がり、家事はしなくていいとたしなめた。
| しかし生来の働き者気質の少年は、水門家への感謝から、せめてものお礼に働きたいと懇願。
|
| 黒曜石の女神が流す涙の美しさに心動かされない者は、人ではなく獣であろう。
| 両親は容易く折れて、少年は執事という立場に恥じぬ働きを見せた。
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| 彼の名はロラン・セアック。
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| 上次元存在ニャルラトホテプの一人が戯れに作った、情報収集ユニットである。
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,.ｲ´ l_ l l j ＼
/ / ∧ヽ-i､＿|-'ハ| l ヽ
/ / ,' ⌒ ⌒ lﾉ ヾ
ﾊ ', l─{ ┃ }冖{ ┃ }─j ﾉ ）
.ヽ ヽ （ヽ、 ､_,､_, /￣） ﾉ'
ー' {｀¨ 7 「￣｀｝ｰ'ヽ
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l ! .| ヽ､ ﾊ
ゝ ﾉ ヽ ノ l
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| やんねえ香は、家庭を取り仕切る姉に憧れてきた。
| 姉、やろうか奈は常に優しく、穏やかで、ふんわり癒やし系であった。
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| やんねえ香のやんちゃも微笑みながらたしなめた。危ないことをして叱られることはあったが、怒る姿は見たことがない。
| 対するやんねえ香は癇癪の虫に取り憑かれていた。怒りこそがやんねえ香の象徴と言えた。
|
| やんねえ香は気に入らないことがあれば怒り、些細な勘違いで怒り、どうでもいいことで怒った。
| 扱いにくい子供だったろうと、やんねえ香は思う。
|
| 一番でないと怒るが、昔から目端が利いたせいで周囲の手加減やおもねりにすぐ気が付いた。
| そのせいでさらに怒り、殴り、暴れて泣いてふてくされた。
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| だがやんねえ香を何より一番怒らせたのは彼女自身で。
| いつでも穏やかな姉と違い、いつでも癇癪を爆発させている自分自身の性格であった。
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(､＿＿＿＿ ヽ 、
ｒ ＼＿__ : : : ｀ ﾐ､ヽ
{、 _, . : "´: : : : : : : : : :､ ) ）__
ゝ二,´-‐: : : -―: : : : : : : : : : : ‐-ﾐ､
／: : ; : :´: ､ ､: : :、＼: : : : : : : :｀ヾ、
. ／: : ／:/: :ﾄ､:lヽiー-ミ: :ヽ _ : : : : : : : ＼＿_,
. ､＿_／: ／/:／! !｜ｊ:l/.ィ^ ｝:7￢＝-､: : : : :‐=ﾆﾞｯ
￣￣ｱ://ｨi l: ｌ ｌ: l/i仏ﾘﾉｰ=' ｨ ﾉ)ｿｊ }: : ､ヽ:‐=;´
. /:/: : ハ: ､､ヽ!ﾉ＾ ´ 〃 ｊ／/´ｒ' ノ: : : }ヽi⌒` 強さとはなんだと思う？
{/{ : ∧: ヽ: ≫=- { { 「｀ぃ : : }
{ ｛: :′', : i : >､ ' __, ﾉ ノ小 ﾄ{＿
. ヽ{ , : :､ ＼ ｆ'´,. ／ _ノ'ン＾Ｖ ヽ ＿
ｊ: : へ: : >､ ／ ／ / }一ｆ⌒ゝ―- ､
ｰ´'´ }:ハ ヽ__ - 、 ／ ／ ,: 丿 , , ´ ヽ
ノ' へ( , / / / / ｛ 、 ‘，
小､ ヽ/ 〃 / / ！ ＼ ぃ､
/八 ｰ ´ ／/ ' / 〉 ＼ ‘，｀ ー‐-､
ｒ'ﾞ{｛ ＞‐=二 ／ / / } ーﾍ }
{ }」 ｛ｰ=ﾆ二´ / / ｛ 、 ＼＼ ‘，
∨ { {､＿／ / ´ 丶ヽ 丶ヽ. }
/ ｛ {､ ／ ＼ ｀ヽ、 ｀ く
,′ } }､ ｰ ／｀､ ニ=-＼ ヽ
, ﾉ { ｔ ￢ﾌ´ ､ ＼ 丶
{ } ‘， ヽ ヽ ＼ 、 ＼
_ノ｝ ハ ‘， ｀､ ､ヽ、 丶 ヽ､
／ / / ‘, ｛ ｡ ヽ ＼丶 } ＼
丿 〈 ’ ｛ { `､ i ヽ‘, ヽ
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ガンプラを、ジュンはドールを作る傍ら、ふと気になったことを尋ねてみた。
|
|「状況次第だな。喧嘩の強さかゲームの強さか心の強さか……真紅のヤツは強いと思うか？」
|「強い」
|
| 刹那は即答した。あの紅マグロはいつでも強く凛々しい。
| 美しいだけのか弱い花ではない。無類の強さを誇る太陽の輝きだ。
|
|「あいつの強さは、『痛みから目を逸らさない強さ』だ。だからずっと、諦められずに追いかけている」
|「……？」
|
| ジュンの物言いに刹那は首を傾げた。
| 不人気の強さは、まるで弱点でもあるかのようにジュンは語る。
|
|「諦めて、区切りを付けて、他のことを目指すのも強さだとオレは思ってるよ。
| そう考えないと次に進めないしな……」
|
| ジュンも、バス事故で家族を失った孤児だ。
| だが、事件のことはもう話したがらない。膿んだ傷を覆いで隠して見て見ぬふりをしているのだ。
|
|「そんなものが強さなのか？」
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／: : : :,: : : : : : : ; : : : : : : : : : : : : : : : : :≦
/;ｲ: : :／: : : : : ／: : : : : : : : : : : : :: : : : : : :ヾ
／; : ／: : : : : ／: : : : :／: ; : : : : : : : : : : : : : ::!
/;ｨ' ／: : : : : ／:-:=:＝二: ｦ: : : : : :: : ／: : : : : :iト
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.//: : : : : :/ :／ : /: : ;ｲ ／: ／/: ／/:／ｨ: : : : :
//: : : : :/:/ : :, : :/: メ／//: /／ /"/://:, : : :/
彳: : : : / Y://!;,/ !/_/:_ 7;／" / ./:/1:/: : :/:{
ｲ: /: / '!;:/ V 弋，::yヾ / "// i!: /!,ヾ
j:.i: :{ t V ￣ _- "!:! |//
}: : :ヽ_, 乂，j, .7/"f
ヾ:" ´ /
/ 、 . ; /
./ ヽ ＿ ./
/＜ _ ＼ ｀ , 答えのない問題に人生を浪費して行くだけが強さなのか？
_/ ; ; ; ; ＼ 、 ／
＜; ; ; ヽ; ; ; ; ; ; ＼ ＿ ﾟ
; ; ; ; ; ; ; ; ＼; ; ; ; ; ; ＼ /、
; ; ; ; ; ; ; ; ; ; ＼; ; ; ; ; ; ;ｱ /; ; ＼_
､; ; ; ; ; ; ; ; ; ; ; ヽ; ; ; ; ;f; | ; ; ; ;／; 7
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| 不人気のことだ。
|
| 迷宮入りした事件に、怪奇現象が関わっているだなんて、妄想以外の何者でもない。
| ジュンは、刹那も手を引くことを望んでいるのだ。
|
|「ジュンは、忘れてしまうのか？」
|「忘れられないから、ドンづまってるんだよ」
|
| 苦渋に満ちた声。忸怩たる思いが堪えきれずにじみ出る。
| ジュンは……忘れたいのだ。痛みから逃れ、いや、新たな一歩を踏み出すために。
|
|「忘れることができたら……」
|「ある意味、幸せだろうな。でも、忘れられないからみんな……」
|
| 痛みと折り合いをつけて生きていくのだ。
| それは弱さか？ 違うだろう。刹那は頭を振った。
|
| 絶望から這い上がり、痛みを踏みしめて歩くのも強さだ。
| 刹那にはジュンが弱いとは思えない。
|
| ……だが。
|
| 刹那は……ポッカリと忘れてしまった。
| 何もかも跡形もなく。
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,. -‐ '´￣｀ヽ､
／ / , ヽ＼
,.ｲ´ l_ l l j ＼
/ / ∧ヽ-i､＿|-'ハ| l ヽ
/ / ,' ─ ─ lﾉ ヾ
ﾊ ', l─{ ┃ }冖{ ┃ }─j ﾉ ）
r､.ヽ ﾄヽ ､_,､_, イ ﾉ' ねえ、やんねえ香ちゃん。
,.く＼＼r､ ／ ｰ' 何か悩みでもあるの？
＼＼＼ヽ} ﾆ=-=ﾆ三二二｝
rヽ ` ヽ ｧ'´ ＼
└'｀{ .,-'´ヽ / i
く ＼、_,ｒ' ! |
｀､ / |
｀ヽ､＿＿＿,／' |
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|「なに、姉さんたら急に」
|「最近様子がおかしいわ」
|
| 穏やかにふわふわした雰囲気のまま、単刀直入にズバズバくる。
| いかにも姉らしいとやんねえ香は考える。
|
|「ロランくんのことでしょう？」
|「……」
|
| やろうか奈は隣に座る。視線は宙に、語りかけるというか、独り言みたいに話を続けた。
|
|「ロランくん、真面目でしょう。前から悩んでいたのよ。
| 自分はいつまでも水門家を頼ってていいのかって。水臭いわよね。
|
| ……でも、男の子だからプライドもあると思うんだ。
| 独力で生きていける自信が欲しいのも理解できない？」
|
| やんねえ香は答えられない。
| つまり、ロランは先に進んでしまった。やんねえ香を一人残して。
|
|「あたしはそんな風にはできない」
|「出来るわよ。やんねえ香ちゃんにも」
|「できない」
|
| やんねえ香はいやいやする幼児のように頭を振る。
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＿＿≧::::＼ ト、ﾄ､
≦:::::::::::::::::::::::｀::::ﾍ|:)
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/::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::u:::::ﾑ
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. γ⌒)::|::|ﾉ_ノヽ:;へ_ﾍ|::|::(⌒ヽ| 姉さんみたいになりたいのに、
. ／ _ノi:::(|::|（○） （○）|::|)::＼ `､ 何一つ上手くできやしない。
（三<.-─|::|'､ ─ .ﾉ|::|─‐>三）
ヾﾆ＿__,.|::| ＞ｧrｭｬ＜ |::|、 ＿_フ 我慢もてきねえ。すぐに爆発する
{::γ .リ ./| {::} |ﾍ.リ ヾ::} …………今だって。
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| せっかくお嬢様らしく整えている口調が、いつもの斜に戻ってしまった。
|
|「うーん、私は私、やんねえ香ちゃんはやんねえ香ちゃん。
| できることは違うと思うんだけどな」
|
| やろうか奈は小首を傾げた。やんねえ香には似合わない少女のような仕草が様になる。
|
|「お姉ちゃんね、ずっとずっと、不思議だったんだよ。
| お姉ちゃんは泣かない子供で、喧嘩しない子供で、怒らない子供だったんだ。
|
| お父さんもお母さんも先生方もみんな不思議がってたけど、お姉ちゃんそもそもね。
| 『怒り方が分からない』んだよ」
|
| 初耳だった。やんねえ香が絶望的な目で姉を見る。
| だが、残念ながらやろうか奈はその視線の意味する事に気付かぬままに話を続けた。
|
|「お母さんのお腹の中に怒り方を忘れたんじゃないかなんて言われたくらいで。
| そんな中、やんねえ香ちゃんが産まれて……みんなびっくりしたんだよ。
|
| 癇が強くて、よく泣いて、暴れて……それで私は気がついたんだ。
| やんねえ香ちゃんは、お母さんのお腹の中から私の忘れ物を拾ってきてくれたんだって」
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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〃 _ - ´ ∠＿＿＿__
／/_ . :´: :-‐ :´ : ＿＿＿_ : ＼
／: /´: : : : : : : : : : : : : : :｀丶､￣｀＼ 少なくとも。
, ' : ／: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :＼
l /: : : : : : ; ――: : : : :＼: : :､: :―-_､: ヽ 今のアリカは弱いな。
|､ ' : : : : : :/: : : /: : : : : :＼＼､:ヽ:ヽ: :ヽヽ: ', そして、俺も弱い。
| ヽ|:ｌ: : : : : | : : /: : : : : : : : :ヽ:ヽｖｌ､: l: ∧ヾ､l
. ＼:l ∨: : : :l: : /: : : :―- ､＼: Ⅵﾘム| : ∧ ＼
. ｆ｀ : : : : : | : l: : ､＿＿___ヽ ヽl沁ｆiｯ|＼ : ＼ ヽ
. |: : : : : : : V | l､: ｀ヽ､＿ノﾍ : l､｀´ ヽ: ト＼ ヽ
V : : : : : : Ⅵﾑゝニﾆ≦= ヽｌ ｀ ￢ Ⅳl 丶 __ -――――…‥‥…――――
V:＼: : : : :ﾞl:､ヽ／ィ心zｙ ' ,ｫ ﾄⅥ ー‐ ゝ ´二 ／￣￣￣￣:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:
＼: ＼: ､: : :｀ゝ弋_)ｔｼ＿ ﾚ', Ⅵ ‐／／ ／-――:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:
ヽ: : : : _､: :､ :三三≦=一 ノ`‐く∠／ ／.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:
. |: /: : : : ＞ミ､: : 三三ｚ__ ＜ _／￣:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.＿＿＿＿＿＿.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:
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| 目標を見失って、足掻くこともなくうつむく刹那は、どれほど惨めで滑稽に見えるだろうか。
|
|「忘れたことがある。なにか大事なことだ。確かに最近までは覚えていた」
|
| そして、覚えている人物にも心当たりがある。
| 委員長長門。刹那たちが不人気と袂を分かった際に、彼は思わせぶりな発言をした。
|
| だが、それが意味するところまでは、刹那には伺いしれない。
| そして、探して尋ねても答えてくれないだろうという確信がある。
|
|「俺は俺を取り戻す。ガンダムのなんたるかを忘れた俺はもうガンダムにはなれない。
| だが、今の俺だからこそのガンダムがあるはずだ」
|
|「『言葉の意味は分からんが、とにかくすごい自信だ』ってばっちゃが言ってた」
|
| ジュンとの会話の翌日、刹那は刹那なりに、強さと弱さをアリカに伝えようとした。
| 言葉足らずで意味不明ながら、フィーリングは伝わった。たぶん。
|
| これから刹那は自分の忘れたものを探す。
| アリカは……まあ、きっと自分でなんとかする。
|
| これまでみたいに。
|
|「うーん、やっぱりもうちょっとかかりそうだね。
| やる夫兄い、追いつくから待っててね」
|
| 少し考え込んでいた刹那は、アリカが虚空に、まるで誰かが居るかのように話しかけていることに気が付かなかった。
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{ ヽ __ ,ィ´ / : : : : : : : : : : : : :. 《ええ、ええ。
ヽ ィ毛ﾘ ｲ{ /: : --ミ: : : : : : : : : ! あなたのお姉さまの仰ることはある意味。
_ﾉ ~¨´ 八＿ノ／ ヽ: : : : : : : | ある意味では真実でしたね》
ヽ ,′ ＼: : : : :ﾘ
＼ ｡ ,,ィ7 {! }: : : /
￣/ノ {､ /: : :/
,,c≦７⌒トー<⌒ヽ､ /: : :/
イ ノ 八 ヽ ＼ ,': : / ,ヘ
/ ｲ } { ', ＼ { : / ｊュ 〉
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|lニニニニ三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三ニニニニ
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| 広いバスタブに口まで浸かるやんねえ香の耳元に、おしゃべりな妖精が囁きかける。
| 《ストレンジ・カメレオン》。やんねえ香のペルソナ。
|
|「黙れよ」
|《やんねえ香はやろうか奈にはなれない。当たり前を当たり前に言っていただけですわ》
|
| 人間は自分にしかなれないのだ。
| どれだけ憧れても、他の誰かと同じになんてなれるはずがない。
|
| 猿真似である以上、目標に届いても越えることができないように。
|
|《彼女の闘争心はやんねえ香に授けられた。二人分。二人分の闘争心。
| ふふふ、納得の理由でしたわね》
|
| 《ストレンジ・カメレオン》が嬉しそうにクルクルと回る。
| 頭上を回転するそれを、やんねえ香はハエのように払う。
|
|《その祝福を、感謝なさいやんねえ香》
|「あン？」
|
| それが逆鱗だと、知らぬ《ストレンジ・カメレオン》ではあるまいに。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
|三三三三三三三三三三三＿7 /〈 〈＿_ ./ /７｜./ ∧＼ ./ /＿_〈 〈＿_ / ∧＼ 〈〈 / / 〈〈.∧∨,/三三三三三三三三三
|lニニニニ三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三ニニニニ
, . : : : :￣:￣:｀: .
, . : : : : : : : : : : : : : : : :ヽ
／: : :_:_: : : : : : : : : : : : : : : :.
,ィ´ ´￣--＝: : : : : : : : : : : : : : ＼
ﾊ{ 彡-ァ: : : : : : : : : : : :.
{ ヽ __ ,ィ´ / : : : : : : : : : : : : :. 《ええ、ええ。
ヽ ィ毛ﾘ ｲ{ /: : --ミ: : : : : : : : : ! あなたのお姉さまの仰ることはある意味。
_ﾉ ~¨´ 八＿ノ／ ヽ: : : : : : : | ある意味では真実でしたね》
ヽ ,′ ＼: : : : :ﾘ
＼ ｡ ,,ィ7 {! }: : : /
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イ ノ 八 ヽ ＼ ,': : / ,ヘ
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| 広いバスタブに口まで浸かるやんねえ香の耳元に、おしゃべりな妖精が囁きかける。
| 《ストレンジ・カメレオン》。やんねえ香のペルソナ。
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|「黙れよ」
|《やんねえ香はやろうか奈にはなれない。当たり前を当たり前に言っていただけですわ》
|
| 人間は自分にしかなれないのだ。
| どれだけ憧れても、他の誰かと同じになんてなれるはずがない。
|
| 猿真似である以上、目標に届いても越えることができないように。
|
|《彼女の闘争心はやんねえ香に授けられた。二人分。二人分の闘争心。
| ふふふ、納得の理由でしたわね》
|
| 《ストレンジ・カメレオン》が嬉しそうにクルクルと回る。
| 頭上を回転するそれを、やんねえ香はハエのように払う。
|
|《その祝福を、感謝なさいやんねえ香》
|「あン？」
|
| それが逆鱗だと、知らぬ《ストレンジ・カメレオン》ではあるまいに。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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＿＿≧::::＼ ト、ﾄ、
≦:::::::::::::::::::::::｀::::ﾍ|:)
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ヽﾙ:::::::|::|ﾉ＼ヽノ／ﾍ|::|:::::::ト､|
ﾚ:::(|::|（⑪）ミ（⑪）|::|「ｒｰ＿＿ヽヽ
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.|::::|::|ゝ ⌒ , ィ==‐､/ /￣￣乙/ ／
ヽノ::::|::|::＞ｧrｭｬﾉ⌒) ∨/ ／￣￣／|
.冫:::ｨリ ./| /:/(_￣__／￣`く.＿ __∠ -┘｣
{:::::| y'<.{ .{::} .{ /〃 ＼ '" ＼ -┘
{:::::lγ...ﾍ{..{::}..{/¨＼ ＼,_ ｀`ヾ}
人''" ＼ ､__ ｀ ､_/ ﾉﾉ
〈 " ＼ __.ヽ ヾ､._,)'´
／,ﾊ. ヽ. ､__｀ン{ 〃
く / ∧ !､_ ｀'_,／
（イメージＡＡ 現在は全裸です）
|lニニニニ三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三ニニニニ
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
|《二人分の怒りに喜べ。喜べと……》
|
| 言い終わるより早く、やんねえ香の拳が《ストレンジ・カメレオン》に直撃した。
|
|「な……ッ！！？」
|
| だが誰よりも、殴りつけたやんねえ香が驚きを隠せない。
| 骨のない、クラゲのような弾力。弾き飛ばされる《ストレンジ・カメレオン》。
|
|「なんで……！」
|
| やんねえ香は自分のペルソナに初めて触れた。
| いやそもそも、こいつが誰かの攻撃を受けたことがあったか？
|
| どんな打撃も異能も、面制圧であっても、のらりくらりとすべて回避してきたじゃないか…！
|
|《あなたに宿る二人分の闘争心が、常人離れした戦う力が。
| ワタクシを、この《ストレンジ・カメレオン》を引き寄せた。
|
| そして命も魂も浪費せずに、世界の敵を、『滅ぼすもの』を倒して来た。
| 不撓不屈のガッツと、サジを投げるほどの負けず嫌い。
|
| 手負いの獣顔負けの危険性と、知恵遅れを疑いたくなる果敢な無謀さ。
| 殺し奪うだけの才の果てにも勝る天性の殺戮者》
|
| やんねえ香は感情に、怒りに流されるが馬鹿ではない。
| 自分のそれが、戦う力が世界を救っていると理解ができる。
|
| だが。
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ｬ─:.､ |＼_
＞::::::`ﾞ::::::::＞:.､
／::::::::::::::::::::::::::::::::::ゝ
¨ﾌ::::::::::::::::::::::::::::::::｀`ヽ
/イ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::`-イ
ﾚﾍﾊ:::::/¨｀ヽ:::::::::::::::::::::〈 あたしが欲しいのはそっちじゃない。
|::::｛ ｀Y:::::::::::::::::ヽ 戦う奴の、心を、守る力なんだよ……。
|:::〈 〈弋:::::::::::::::::::::）
|:::| | ｢ヽ ｝::::::::::::::::::ヽ
ヽ| | |-ﾍノイ:::ﾊ:::::::::､l|
｛三三｝〈 ヽ{ ﾚﾞ∨｀.|
| ｜ _/ }
| |ﾆ/` ｰ-------‐'|
_,. イ:| |: ; ＜: :/ : : | : : |: |＞-､＿＿_
/´.-―---| |- :_:_:_/_:_:_:」_:_:_|;人（_( ￣￣ ))
丶 ＿＿__｣ /__ / , --､} ￣￣￣
, -―' .ｊ ￣／_／ ／
く__, ―＿_,ノ ／／ ／
｀´ {__{＿／
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| どこかで、何だかよくわからないけれど、確かに戦っている、苦悶しているロラン。
| 彼に大きな秘密があるのは、やんねえ香にもわかっていた。
|
| それが『僕は上次元から娯楽用に派遣された観測用端末なのですが戦闘能力もあります』みたいな突拍子もないものだとは思ってはいないが。
| それでもロランの人生と世界に関わる大問題だとは感じていた。
|
| それが何なのか、教えてくれなくてもいい。
| ただ。何もかも受け入れて、支えてあげたい。
|
| やんねえ香のそれはまさに恋であった。
| 残念ながら、自分勝手で相手の気持ちを考慮しない、子供っぽいものではあるが。
|
| 故に無言で姿を消したロランへの悲しみは強く。
| それはやんねえ香自身のコンプレックスと低い自己肯定感へと突き刺さり。
|
| 何でも見通し、世界の敵すら打破しうる《ストレンジ・カメレオン》の眼力と毒舌を持ってしても。
| やんねえ香を奮起させるには至らない。
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|lニニニニ三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三ニニニニ
強さとは何かだと。
バカバカしい。
お前はその借り物の嘘っ子が自分の強さだとでも思っていたのか。
偶然で手に入れた程度の、定着していない不安定な偽物。
それに頼るお前のどこに、強さなんてあるのだ。
ずっと、分かっていたのだろう。
目を逸らしていたのか。それとも先延ばしにしていたのか。
よく分かったろう。
それこそが貴様の弱さだ。
次回 最終幕二十五話 『脳噛ネウロの嘲弄』
果てに見るのは破滅か死か。
乙津
最低の男が来るゾー！
_＿＿＿__＿____
／:::::::::::::::::::::::::::::::::::＞..､
／:::::::::::::::::::＿＿＿::::::::::::::::ヽ
／:::::::::::::＞"´ ￣ ヽ::::::',
/:::::::＞ " ___ ∨::',
l:::::::ｲ ノ７ゝ、 ／￢ ヽ_____∨:',
l::::::i!| ノ/ /〃ヾヽ/／⌒} / ミ:::;
ｊ:::::i::ﾚ///∧{ ｛ ノﾒー-､ ﾘ:::::;
/::::ﾉ::///ｲ＿ヽj__,,,､ /:ノ...:.:.::::ヽj:::::::',
/:::::::::::{ { l￤::::::::::::::::ｱー<::::::::::::::ノ !::::::::', 9秒ジャスト。
/::::::::::::::ヽ＼ヽ:::::::::::ノ ヽ｀ー "___ハ::::::::',
/::::::::::::::::::::ヾj＼＼__, γ:.´.:.:.:.:.:.:.:.ヽ;::::::::',
/::::::::::::::::::::::::::::＼￣ ⌒:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:∨::::',
. /:::::::::::::::::::::::::::::::::::i＞ 、 {､...ノ:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.}::::::::'.、
ｒｰ 、 /:::::::::::::::::::::::::::::::::::::!;;;;;;;;;＞ ゝ:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.八:::::::::ヽ、
l ｌ /:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::j;;;;;;;;;;;;;;;;}:ヽ:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: ｲ:::::::::::::::.:.:.＞:..、_
. l へ、 /:::::::::::::::::::::::::::::::::＞'"!ミ i ` ｰ ＜ｊ:.:.:::::::::::::::〃:.:.:.:.:.:.:.:｀.､、
／ ｝/::::::::::::::::::::::::::::::l´:.:_＿!,三二 ｛ ￢ニ三/__l:.:.:::::::::::::::::::::::::::::::::.:.:.:.:.:＼
／ ∠ ⌒ヽ::::::::::::::::::::::::::l:.:.: i,￣ ￢ }＞´￣ / l:.:.::::::::::::::::::::::::::::::::::::.:.:.:.:.:.:.ヽ
{ ／ ヘ:::::::::::::::::::::::l:.:. i, i / l:.:.::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::.:.:.:.:.:.＼
. ', ／ ,ｲ:::::::::::::::::::::l:. i, l / !:.:.:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::.:.:.:.:.:.ﾍ
. ', ／ 〉:::::::::::::::::l: i, j / !:.:.::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
|「9.50」「8秒」「10秒以上」
|
| 『聖アンジェラ教会』は一見すると普通の、なんてことのない古びた教会だ。
| だがその内装は最新の警備システムに守られており、周囲は『教会』の加護により悪しきものは近寄れない。
|
| その上、詰めている聖職者が達人である。
| 侵入はもちろん脱出も容易ではない。
|
| つまり軟禁されている二階の部屋の窓をこっそり外して、音もなく着地しても。
| 猫もかくやの身軽さで、柵をジャンプで飛び越えても。
|
| そこまで、約十秒の早業であったとしても察知されていた。
|
|「チッ、9.69……アリカの奴め、向上心を失ったらおしまいだぜ？」
|「毎日レコード更新できたら誰も苦労しないよ」
|
| 『聖アンジェラ教会』の責任者であるシスター・ヨランダは笑い、手をひらひらさせた。
| 各位、千円札を握らせる。アリカの脱走は賭博の対象になっていた。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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諸事情により手間取りました申し訳ありません。
_＿＿＿___
／::::::::::::::::::::::::::＞.､
／::::____:::::::::::::::::::::::::::::::ヽ、
/:／´ｰ-､｀ヽ―― - ､::::::::::＼
ﾚ.::／ ⌒ヽヾヽγ´⌒ヽ＼::::::::',
//:;' ,∠´￣｀ヾ∨ﾆミヾ ｊ、 ｀!:::::',
//::;'./／ｲ/__ノ ヽ-iﾊjﾑヽ､j:::::::;
{ {:::://:://::::::::ヽ__∠:::}::｝:::::iﾄ∨::::::l
ﾘi::/ヘ::ﾘ::::::::::ノ⌒ヽ::::::/::::::}イｊ:::::::::l しっかし、
,ﾘ/∧ ￤¨¨´ j:、 ｀７￣ / ﾊ::::::::l 完全に夜遊びを覚えちまったな。
i::{/:::ﾍ ∧:}::::::::l
l:::｛:::::i;ﾍ /;;l:ﾉ:::::::::l
l:::::::::::j;;i;ヽ ___＿____ ｲ;;;;l::::::::::::::!
l::::::::::::i;;;l;;;ヽ、 ´ ￣￣ ｀ ／;;j;;;;;l::::::::::::::l
l:::::::::::::!;;;l;;;;;;| ＼ ／;;;;!;;i;;;;;;l:::::::::::::::l
,':::::::::::::j;;;;l;;;;;j `二´;;;;;;;;;;l;;l;;;;;;;l::::::::::::::::l
ノ:::::::::::::::l;;;;i;;ノj }ヾ;;;;;;;;;;;;ｿ､;;;;;l:::::::::::::::::ヽｰ､、
/´::::::::::::::::::::::ム i! ＼ 〉 ヾ＜/ ＞ﾍ:::::::::::::::::::::::::::｀ヽ､_
/:::::::::::::::::::::::::/ i! 7 ノ ∨:::::::::::::::::::::::::::::::::＞､
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|「エダには言われたかないよな」
|「男漁りはしてないんだからいいんじゃね？」
|
| 周囲のツッコミにはファックサインで返答。
| エダは缶ビールのプルタブを押して口に運ぶ。
|
|「あんまり目立たれると困るんだよ」
|
| アリカは現在、行方不明の扱いだ。
| 重要参考人として『血族』から捜索願を出されてもいる。
|
| 『聖アンジェラ教会』では、『品川大聖堂』に封印されていたアリカを解放し、保護していたが。
| 『血族』はおろか『教会』上層部への報告もおろそかにしていた。
|
| 言い訳なら百通りくらい用意してあるが、バレないに越したことはない。
|
|「アリカが心配かい？」
|「ちげーよ」
|
| いや、どうだろうか。エダはぼんやりと考える。
| 自分はアリカが心配なのかもしれない。普通の人間になったとしょげているアリカが。
|
| 慰めも励ましもできない自分を恥じているのかもしれない。
|
|「……ちげーよ」
|
| ひとりごちて、エダはビールを一気に呷った。
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_ -＝＝= ､、
／' r二_'―- ..＿＿
／' _ ゝ、_￣ ｀ - ﾆ_Ｙ⌒ヽ
〃 ／ ｀r_ｰ､ _,ゝ､ ヽ＿＿＿＿
〃 / / / ﾄ､ヽｰﾆ_ｰ .__/ ヽ ｀¨ ‐- _
（( // | | ハヽ､ ヽ｀＞‐ヽ .从_r ￣ ＼
｀ｰ || | ヽ!-‐ ｀ ￣ ´ . -V_ ! _∠_ 丶
ヽ V ﾄゝ､ ´ 心ﾉヽ/ ¨ﾉ >､＿ /
|Ｙ rひ) ┴‐'´/_∠_ ／_| .べ丶 /
＿＿」 ,,ヽ' ヽ ＿_ 〃'´ ￣￣／／ ｀ ‐- /
_-=-´_二ﾆ=! ﾏ´ l ∧ ／／ /
〃 〃 ヽ V / ｜ ＼_/／ / おじじ、いる?？
´ ヽ ＼ ｰ ' ／￣ヽ ） ／
_､ ＿ 丶、／ ﾉ >' ／
ゝ ゝ-､ ＿ ／ ヽ_ ィ _ - ｲ ,.ｲ
￣｀丶､ゝ- ､＿／ ヾ _∠-ｵヽ< // ／{ ヽ
｀' ーｙ' _ ゝ'´ 〃一' / i ／ Y |
_（ ／ 〃 / l ／ 〉ﾍ
_ -‐ ´ r'⌒'/ 〃 / ｜ ／ ヽ,ｲ
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| マイケル小原の工房は、夜中でも明かりが灯っていた。
|
|「高えよチクショウ！ こちとらモクも吸わずに切り詰めてんだそそんな金出せるか！！」
|「金がないならさっさと消えるがいい、貧乏人め。この男の価格は良心的だ。吾輩なら百倍はふっかける」
|
| アリカが引き戸を開けた時、トレンチコートの女子高生がツバを飛ばして食ってかかっていた。
| 対応するのは困った顔の筋肉質で巨漢の老人……ではなく、針金のようにひょろリとした年齢不詳の男。
|
|「所属もわからぬ悪魔相手に？ 用途も入手経路も聞かず？
| 危ない橋にも程があるな。見積もりを出してもらえただけでもありがたいと思え」
|
| 白熱する女子高生はアリカに気付かず歯ぎしり、だが男はその異様に鋭い眼光をアリカに向けた。
|
|「あ、入即おじさん。お久しぶりです」
|「む？ ……おい小原、その小娘はどこのどいつだ？」
|
| 礼儀正しい挨拶に毒気を返し損ない、男はマイケルに水を向ける。
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/ 丶 . : : : .丶
ｲ ＿人 ＼ . . : : : : : : : : .ﾄ
／ ／/ ￣￣卜: : : : : : : : : : .＼
丶 ││ │| : : : : : : : : : : ノ
〈: . . : :|_=≧､｣ Ｌ,≦=､|: : : : : : : : : : : 〉
＼: . . : : : :」┤ ==》ﾆ《== ├Ｌ: : : : : : : : ／
＼ : : : : :〈 || ￣ |｢ ｌ「 ￣ || 〉: : : : : ／
｀ヽ､: : :ヽ|｣_┌,ﾍ=ﾊ ┐_|｣ノ: : :_,-'´ オウ……アリカサンデース。
￣￣|│|┌冖┐|│|￣￣
|卜|│冂│|イ｣
／ Ⅳ ｀ ´: .Ⅵ ＼
_, ‐'´ ＿／ : .＼＿｀ヽ､
_, ‐'´ _=三/ : : 〈三=_ ｀ヽ､_
＿, ‐'´ ＿-=三三l : : l三三=-＿ ｀ヽ､＿
／ ￣￣￣￣＝二| . : : : |二＝￣￣￣￣ ＼
／´ --─=≦人 . . . : : : : : 人≧=─-- ｀＼
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|「夢宮の孫娘か……見ない内に無駄に大きくなりおって」
|「おじさんも何か変わったね。白スーツとシルクハットやめたんですか？」
|
| 声優ネタでAAが一定しなかった頃の話である。
| いや、世を忍ぶ仮の姿だったというべきか。
|
|「……」
|
| 突然のアットホームな雰囲気に、女子高生は気配を消して押し黙った。
| 折れた刀を直してくれる鍛冶屋が必要だ。
|
| だが金はなく、稼ぐ宛もない。
| しかし、アリカは気が付いていないが女子高生は、イナミはアリカに気付いていた。
|
| アリカとて、イナミがいつもの全裸目隠しスタイルなら『蛇身』であると気付いたろうに。
|
|「心配してマシタ……」
|「連絡できなくてごめんね、でも元気にしてます」
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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_,. --==､､ ,. -一…ｰ- ､
／´ __ﾝ'´ -‐-､ ｀ヽ、
／ /´r ヽ ､ ヽ ヽ、
/ / | ､＼ ＼ ヽﾆ ,lゝ
l l ヽ ＼ lヽ､ ＼ l ', / |,〉
| ', | |＼ | ｀,.-―`ｰ-ヽ! !_,. ﾉ! やる夫兄いはちょっと大変そうだけど。
ヽ._ ＿,r‐ｧ_ヽl,ゞ-__｀` ィﾃ心 ﾘ l,=､/ おじさんは助けてあげられないんですか？
,r‐ｧ'一'二r_ァﾍ. /f:心 弋zｿ ﾉノ ﾊ}}
,r_ァ'´ __/,. '´ ,rﾍ. ﾋzﾘ 〃o_/
_,r‐ｧ'´ _/／ //__ﾍ、 ' ＿__ {{/!/
／ /´ f ノ ﾊ! ヽ＞ ､ ヽ._ﾉ ／ヾ|-､ _,. -‐ァ､
__/ ／ / j / ヽ __l≧=r ' ´ ,. '´ `!__／´ / /
/ /´ { / ヽ-､ 人 `r‐''´ /// ＿＿ ', /_
. ／ /´ ハ ,.-r' ＼ /／ `Tﾆ()ﾊ ／//´ ／ } / !/!
_/_／ 〈 }_ l ｀`ー ﾝ f7 ｲｲ,Yl〉ﾍ ／ //､ l--､/‐'_/
/ ! l _!_ ／L__ , ' l´l ! ヽｲﾆ!}-‐`´ ﾊ // ｀丶ﾞl |､ /､
〈 ,ノ ｀,L__,ゝ､ ｀!_/ ヽ!| ╋|! || ／,.ｲl ! /､ L| |_二l
{ミ} ／ }'´ヽ /´ l ＼ (.) ,r‐ '´ﾆ-‐' ||､＼{_､｀¨ !
／ ! ,. '´ ＜ノjノ ヽ、ﾍ 丶、 ＼ﾞｰ'´ |! ＞､ } l
|lニニニニ三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三ニニニニ
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
|「は？ 我輩が？ 気になるなら貴様が助ければ良かろう。
| 今、我輩は無能な弟子のことで忙しい」
|
|「あたしも人の心配してる場合じゃないから……おじじ」
|
| 拳を握り、アリカはマイケルに向き直る。
| そして差し出した手のひらには、サファイアのピアス。
|
| 強大な魔力の込められた魔法石。
| 『蒼天の青玉』の本体である。
|
|「使えなくなっちゃった」
|「ほう……？」「見せてくだサーイ」
|
| 食指を動かされ舌なめずりせんばかりに目を輝かせる男を押しのけ、マイケルがぶっとい指で繊細に受け取る。
|
|「我輩にも見せるがいい。これでも小原の弟子なのだぞ」
|「ネウロサン、とっくに破門してマスでしょう」
|
| 入即ネウロ。あるいは脳噛ネウロ。
| シックスの息子で、その恐るべき陰陽術を完璧に理解した天才。
|
| あの芦屋道満麻呂でも不可能だった『脳噛』の唯一の継承者である。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
|三三三三三三三三三三三＿7 /〈 〈＿_ ./ /７｜./ ∧＼ ./ /＿_〈 〈＿_ / ∧＼ 〈〈 / / 〈〈.∧∨,/三三三三三三三三三
|lニニニニ三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三ニニニニ
＿＿ ＿＿
,:r'"^,:r;;‐;｀ﾐミゞ'"ｼ'^三ミ｀ヽ、
／ ／;;;;;;;;;;;;;;;ﾐfヽ ／;;;;;;;;;ヽヾﾐ:､
/ ／;;;;;;;;;;;;;;;;;;ﾐｿ;;ヾｼ;;;;;;;;;;;;;;;ヽヾﾐヽ
/ /;;;;;;;;;;;;;;;;;ｨﾐミy;;;;;rＶハ;;;;;;;;;;;;;ヽヽ 丶
/ /;;;;;;;;;;;;;;;;/^`"~7;;;;/^""`ヾ;;;;ヽ;;;;';, ヽ ﾞi,
/ /;;;;;;;;;ｫ;;;;/ l;;;;;l ヾ;;ﾐ;;;;;;;'; l!
/ /;ｨ;;;;;/ﾃ/ !l;;l! ヾf^N;;;;'; ヽ l!
f , l;〃;;ﾉ,;;/ ﾞi;;;! ヾ;;､_lぃ;, ﾞi,l
,! !; !ｿ｀７'7ｰ-::､;＿,,、ヾｌ ､,_,: -‐''ﾍﾞ´ｿl;;;l いl
l l l;l ｨ;;l _,,,..-ｪ､、 l;l ,r ,,.ｭ=＝ｪﾒ;;w ;;l､、lN
|l| l;l,l lﾘ;;l '´,roﾞﾐヾｭ ,ﾘ l ｼ"ro;;;ヽ`'i;;;ﾘﾚト､ il ﾞ'
lj､ il;;tﾁ;;;lヽ.ヾ::::ノ,ｨ f l ヽゞ:::ノ,r l;;;;l;;;;l ゝlil!
lﾊ l,l;;;;;;;;;l ｀￣ ´ l | ｀￣´ l;;;;;;;;l ﾘヽ」
/ l lt;;;;;;;{ | |;;;;;;jl |! ▽
lj ,〉;;;;;ﾄ、 | l;;;ｨ'ﾄl」 j!
ﾉﾙll;;;;;;lぃ、 '^ ,:ｲ;ﾘ,ll▽ ダメか……？
▽,ﾘﾞi;;;;l ｿl＼ , -――- ､ ／ﾘ;;ハ!ﾘ
t! ﾞl;;;;l リ,/l>;､、 ｀,二二ｧ´ ,ｨl7lﾉl;/
ﾞ' ヾ;;;l ▽ ﾘ」 丶.l;;;ﾞl ,:ｨ'7!ﾘ▽l;l
▽,ン'´ﾌ! l;;;;l― '" / トﾐヽ▽
(_ﾉ ,ィ´ {イ l;;;;l! ,/ ソ `lﾘｰｭ、
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| 同時に、マイケル小原の弟子であった。
|
| マイケルがどんな魔術武器、アーティファクト、秘宝でも直すし鍛える天才鍛冶屋なら。
| ネウロは魔術武器の作成にのみ特化していた。
|
| ……つまり、壊れた『蒼天の青玉』を見ても何もできないのである。
| が。
|
| ネウロは、あの動く神殿『三日月』の作成に一枚噛んでいる。
| そして、肝となる『局所重力制御装置』こそ外付けだが、すべての『エクスカリバー』を作った恐るべき魔匠なのだ
|
| 自他ともに認める比類なき超天才であるのだが、性格の捻じくれ方も右に出るものがいないことで有名。
| あの伊藤誠よりも悪辣だとして闇社会性悪選手権では殿堂入りを果たしていた。
|
|「夢宮の『蒼天の青玉』だぞ？ 生前は触ることも許されなんだ。
| いいではないか減るものでもあるまい。取って食うとでも思ったか？」
|
|「ネウロサンが触ったら悪意で毒されマス」
|
| マイケルの一蹴。邪智暴虐の魔人と言えど、逆らえぬものがあるらしい。
| ネウロは指をくわえて手が出せない。
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, '" ｀ヽ、
,' , - ､ ヽ
ｌ ｊｒｭ-ｒｭｌ ｌ
{ ,ゞ ,ﾑ ,ｲ､ .}
ヽ; ｀ｌ;{(=)}､ｌ' ノ フウゥム……。
＞; ｌ＜
＿ ／ { } ｀ヽ
／ ｆ--―ヽ､_,::ノ―--｀‐― ､
. / / ､,j''´'"""ヾ,,; .} ､ ヽ
. 〈-'-‐'＾丶､ｼ ﾂ ／ ｀ヽ` :.〉
ヽ｀' '"￣｀゛＞' ￣￣＞-― ､ヾ::ﾚ
{ /'' - ／,, . ｀ ｌ
. ', ＞'"｀` ― :ノ
ヽ､-ニﾆｨ‐',,,＿＿＿_.....-＿,-'′
｀V ﾊ､,,ノ ｀ヽ､_ﾉ￣ .;/
} i、 ,ﾊ、 , i ::}′
| l} i｀"´ﾊ,｀"´ | :|
. ｊ i ｀ﾆ "__｀ﾆ´ ｌ::l
ﾉ-ｲ"´ | | ｀ ７-､{
／／~| | | | ｌ |｀ヽ､＼
. / '" | | | | | | ｀ヽｌ_
／ ＼ | | | | | l,' ／ ヽ,
／ ヽ | ｌ | ﾚ ／ ヽ、
, ' .ヽ{ | . ＼
./ :| | | :| ＼
. / | | | | ヽ
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| 褌から取り出した片眼鏡ルーペを取り付け、観察するマイケル。
| 眉間のシワはいつにも増して深く、難しい顔で唸る。
|
| 『蒼天の青玉』はマイケルの作品だ。
| もう何十年も前になるが、何度となく改良を重ねたマイケルの最高傑作である。
|
| 一から十までを夢宮の……アリカの祖母の求めるままにカスタムしまくった専用魔導具。
| 他の人間は発動すらままならないはずのピーキーなモンスターマシン。
|
|「アー……アリカサン。『蒼天の青玉』には不具合はありマセン」
|「うん」
|
| 真剣な眼差しで、一縷の疑問も抱かずに事実を受け入れるアリカ。
| 逆にマイケルの方がうろたえる程の真摯さ。
|
|「イ、今マデ起動シテいたコトが奇跡みたいなものデース。
| ……アリカサン。夢宮は……アナタに何も教えマセンデシタ……だから」
|
| ばっちゃは、アリカが戦うことを望んでいなかったのでは？
| 皆まで言う必要はない。アリカ自身考えなかったことではない。
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／:::::::::::::::::::::::::::｀::ヽ..
//￣{ ￣￣￣三≧＝＼
| ヽ ﾊ
ｊ ＿＿三￣ ＼ !
{_ ィ´￣ _}:｀ﾏ⌒ヾー| …………。
|:ﾉ :､ ヾｰ' ｒ }::::::j
i ｀ ﾉ ､_イ::::::｀ヽ
､ ｒ-､ ／￣ヽ::::::::::ヽ::}､
人 { ﾉ::::::::::::::/:::＼
（＿ > ,ｨー彡::::::::/￣￣ ￣｀ マ
ー＜｀ヽ ｊ::/ マ
(::::::::＞ //| マ
￣ア レ| ｌ マ
/イ７ｒ | ト .. ヽ.
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| それはそれとして、イナミとネウロはマイケルの下手くそな嘘を冷たく観察していた。
| 何が嘘なのか。不具合がないこと？ それとも別の何か？
|
|「でもねおじじ、あたしは戦う力があって、戦う理由もあったんだよ」
|「今はドチラもマダありマスカ？」
|「それは……」
|
| ない。
|
| アリカの理由は祖母の仇討ちだった。
| ニャルラトホテプを放逐した現在、アリカが拳を握る必要はない。
|
| ……できる夫によってニャルラトホテプが再召喚されたことを知ったら話は別であろうが。
|
|「……」
|
| 腕を組み、鼻の頭にシワを寄せて首をひねるアリカ。
| 祖母の名を出されても、まだ戦うに足る理由をひねり出そうとするかのように。
|
|「あ」
|
| アリカの目がイナミに向いた。
| 部屋の隅で気配を消していたが、存在を把握していたらしい。
|
|「ばっちゃの仇は討ったのかもしれないけどさ、それまでの三ヶ月で、あたしの知らないばっちゃが居たのを知ったんだよ」
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＿＿__
／´￣￣｀ヽ、
/ ヽ
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ヽ ／.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:｀ヽ、
/.:.:.:.!:.:.!:.:.|:.:.:.:.:l:.:.:.ヽ:.:.:.:.:.ヽ
l:.:.!:|:|l:.:|ヽ:＼:.:.:!､:.:.:.:ヽ:.!:.:.:.ﾍ
|:.ﾊﾊ!ヽl ＼lヽl__＼:.:.l:|:.:.:.l:.:l
＿ rﾍ!/f,心ヽ /f心ヽヽﾘ.:.:./.:ﾊ 強くて、東京を守る格好いいばっちゃ。
,.--く ,斗-| ﾋzｿ ﾋzｿ } }:.:/:/ヽﾊ 生きてる頃に見れなかったのは悔しいけどさ。
{ ｀ﾒ､ ﾍ._! , , ' , , /ｨく｀),.-'┴ｧ 尊敬するし、憧れる。
ヽ,r‐､―- ､ ヽ ､＿_,. /_／-}―‐!｀!__
／´￣｀丶r‐┬-＼ ,. '´{,. -―-､人_|/ｿ
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::::::::／／ ヽ∠::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::}'
ヽ::{／／ く::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::／
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|「他にも、『血族』で班長さんに選んでもらったのに投げっぱなしはやだし。
| 助けてもらいっぱなしだった蒼星石さんに恩返しもしたい。
|
| 最悪あたしがやる夫兄いを呼ばなきゃならないし、指名手配のやらない夫さんも助けなきゃ。
| それに、さ」
|
| 何をきっかけにしたのか、立て板に水で理由が溢れる。
|
|「あたし自身、もっと強くなりたいの」
|
| だから、もう少し待って。
| 首の皮を引っ張るアリカ。気付いた。約束を忘れていない。
|
| イナミはアリカと蒼星石の首を貰い受ける契約をしていた。
| 『ネクロノミコン』を手に入れるならと、その場は見逃した。
|
| だが、未だに『ネクロノミコン』の行方は曖昧で。
| アリカと蒼星石はイナミに首を刈られても文句を言えない立場にある。
|
|「まあ、でもさ。強さってのが何なのか。いまいち分からないんだけどね」
|「その程度のことも分からんとは、夢宮は孫の教育に失敗したと見える」
|
| 自嘲気味に微笑むアリカをネウロがせせら笑った。
| これにはアリカだけでなくマイケルも機嫌を害したようで、眉間のシワが深くなる。
|
|「そもそも、臭いものに蓋をするかの如く、自分の仕事を秘密にしていた時点で……。
| いや失敬失敬。貴様が期待されていなかったのではないかと言っているのではないのだ」
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|/⌒ヽ !
？ //
,r ´￣￣`⌒ヽ､
？ ／ r ,r i ヽ､
!/ r! !/ | !A A ! ヽ おじさんはやる夫兄いに期待してなかったの？
!!/ |/^ ヽ/ V ハ|
/ ○ ⌒ヽ! /
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f r"ハ. ｰヽ_ :::∠= /
V !!￣`ヽへ ィ
ﾉ ／＼ 〉―― ´
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|「いやいや、我輩は逆に最初から育児能力の不足を見越していたに過ぎん。
| ベビーシッターなら最高のものを雇った。
|
| 仕事を教えなかったのは都合の問題でな。
| 『アレ』がどんな能力をいつ発現するかなど我輩にも分からなかったからな」
|
| 皮肉を皮肉ではなく純粋な疑問として投げかけるアリカ。
| ネウロもそろそろ慣れてきたのか調子を崩さす嘲笑う。
|
|「そもそも強さなど個人的な価値観に過ぎん。
| 普遍的概念としての、破壊力という強さなら悪魔に勝てるはずもあるまい」
|
|「じゃあおじさんにとっての強さは？」
|「自分は強いと思い込んでいる間抜けに現実を見せることだな」
|
| いかにも好きそうだ。
|
|「ある種の強さでは別の強さに勝てない……ってこと？」
|「勝てる方法を取るのデース」
|
| 一人で複数の選択肢を持つ者の考え方だ。
| アリカには真似できない。
|
|「おじさんから見て……ばっちゃは強かった？」
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,／:::::::::::::::::::::／"~｀ﾞｿ:::::::えｼ､:::::::::::::::::::::::::::l | | ',
/:.:.:.:::::::::::::::／ l::::::/ ',::::::::::::::::::::::::::l | | ハ !
,' .:.:.::::::,:< ! ,' ',::::::::::::::::::::::::l | | i, l l
,! .:／ ｀ヽ、 l::..,' ',:::::::.::::.:.::::::::l /l ,l ', ! l l l
l:. .:.:ｵ＝ぇ､,':,:ヽ /::/ ',:::.: :.:.:.:.:.:::l ,' l ,l, /l l l, ,!
l:.:. .:.:,小、 l;;;;;ヾ,i:.:.} /::/ ,,. -――-l::. .:l , l /l,ｲ l l',l 夢宮？
l::: .:::l l 丶ﾐ＝'^:.:.ﾙ'／ ,z=＝- l::.:. : .:/! l/ｲ /,l / l '! 戦闘はほどほど。
l::::::/l ', :,ｨ'" =＝ﾃ三ミ､!:::..:.:.:.:.:.:/l| ,ﾙ' ,ｲ／/ﾊ ,l 政治はまあまあ。
',::::', l, ', '7′ ､、`'ｰ''",ﾝ::::.:.:.:::::/ l/_, ィl! | / ,ｲ ﾄ 指揮はそこそこ。
!::::l l, ', ／ ｀`' ＝彳:::::::::::/ /ﾊlL/ l!,ｵ ﾒY l
l:::::l ',__∧ < !::::::::::/ // 'i▽li lｲﾊ/ ﾚi 数字にしたら器用貧乏のザコそのものであったな。
l:::::lヽ_/ﾘ',､｀' ,':::::::::/:ｨ'′ l 」_l_!ﾙｋ|ﾏ/
!:::,' ﾘ ',丶、 ,':::::::::/.:. }ゝ'ﾆ,＼ｱｙ
l::/ ', ｀ 丶 ､、＿＿,. !:::::::/ .:. ,r'"´ ヽ、
l:,' ヽ :::.... _,, .:-:''"l:::::/ :: ／ , - 〉
|'> ゝ-- ‐ 'ヾ´:.:.:.:.:.:.:._l::::L, ／ ,／ ,,ィ" 丶、
／ ヾ:.:.:.:. | ｸ / ／ ／,ィｼ'" /
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|「だが奴は、自分の弱さを把握していた。自分の使い方を理解していた。
| あのババアは決して強くはない。だが最高に恐ろしいババアであったな。
|
| 『血族』と敵対した時に最も警戒したのはシックスでも陰獣院でもない。
| 夢宮のババアであったものよ」
|
|「むちゃくちゃ褒めてるけどおじさん具合大丈夫？」
|「尊敬する故人をこき下ろすほど、我輩は外道ではないつもりなのだが？」
|
| アリカは新鮮な気持ちで祖母評を聞いた。
| みんな凄い、厳しい、強いとばかりだった。
|
| こんなにも真に迫った評価ははじめてで、同時にネウロが本気で祖母を警戒していたのが理解できた。
|
|「ばっちゃも、『蒼天の青玉』でどーんと行くタイプだったの？」
|「いかにもその通り。だが同時にあのババアは司令官でもあった」
|
| アリカは小首を傾げる。
| 班長をしていた時も、チームの指示は蒼星石に任せていた。
|
| 前で拳を振りながらどうやって指揮するのだろう。
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/ ,ｨ'´,/〃 li∨ｨ / ,ｲ´ li｀ﾐヽ、
/ ／ ,イｨ^丶lﾘ// / /,{lL_lﾄi l lドi、
| ,イ,ｲ／:::::::::::::ヽ,ﾍjレ'´::::::::｀ヾ、lﾉ
', ,{ //:::::::::::::::::::ミl:::::V彡::::::::::::::::ヽ,
Xlj/::::::::::::::,r―'^!:::f'ﾞーﾍ::::::::::::::::.:
/∨:.:::.:.::::::/ l:.::l ヾ:::::.:.:.:.:.
lミl:.:.:.:.:,-v′ l:.:.! ':,:.:.:.:
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,ィ":/:;:;:ｨ':::,.-､::丶、',:l _,. -‐ '"´',:.
/:;:;:/:;:;/ l／:;:ﾉil/.､:l l! 'ｯ'-,ﾆ== ､!:.. 奴は天性の突撃手だった。
/:;:;/:;:;/l,./;:;:;/ l:;:;l:l | 'ﾞ´（:::::）,ｨ:.:.
/:;:;/:;:;:{ﾘl/:;:;/ﾉﾊﾘ:;:;l:l ,ﾉ ｀`"''"´l:::: まっすぐ行って突破した。
l:;:;:;l:;:;:;:l /:;:;/:::::::/:;:;/:! ,'::::,
j:;:;:;:|:;:;:;:l':;:;:;l,::::::/:;:;/:::'、 ,!:/l 味方はあのババアをフォローしなければならず、
ry':;:;r':;:;:;:;r':;:;:;:ﾄ､/:;:;/､__`'＿_,. ｨァ ,ィ:/l,ﾘ 敵はあのババアを阻止しなければならない。
lｲ:;:;:'､:;:;:;:;'､:;:;:;:;'､:;:;:;ト､ＷＭＷｼ'イ l::l川
,. へ／ ',:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;l丶､三. ィ´/ / l:lヾ~
,. -―'"´ ／ ＿',:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:/ / ▽/
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..:.:.:./ ヾ､ゞ:;:;:;:;:;:;:;:;:;: ,へ、 _,ｨi / .: ﾉ
.:.:.:.:.:./ ＼､:;:;:;:;:;:;:_,.ッ'７ `ﾞ´ / .:.:.／
.:.:.:.:.:/ 丶二＞'´ / ／ ,.ィ',ﾞ--､
.:.:.:.:.:./ / '‐'ﾞ´/ ヾ:/:.ヽ、
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|「誰よりも先に動いて、一番厄介な、逆に言うと攻められたくない場所を攻めた。
| 攻撃で戦場を支配した。流れを決めた。
|
| ババアの動きを無視する事は誰もできず、
| 逆に無視しようとする奴は各個撃破される有様だ。
|
| 背中を任せる優秀なフォロー。遊撃、そして多くはババア以外の本命が止めを刺す」
|
| アリカは瞬きした。
| それを知っている。そんな気がした。
|
| 周りを支配する動きと流れ。
| 本人は特別強くないけど、周囲はそれを無視できない。
|
|「やらない夫さんみたい」
|「あの無能な弟子が？ ヴァカめ！ 全然違うわッ。
| 奴は突撃手を補佐する遊撃で斥候で援護役の何でも屋だ」
|
| ネウロは鼻息荒く否定する。
| 憤懣やる方ないとでも言いたげに。
|
|「そのくせ、突撃手が足踏みしているからと言ってその真似事までしていると来た。
| 身の程知らずの自惚れ屋に過ぎんッ」
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
|三三三三三三三三三三三＿7 /〈 〈＿_ ./ /７｜./ ∧＼ ./ /＿_〈 〈＿_ / ∧＼ 〈〈 / / 〈〈.∧∨,/三三三三三三三三三
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／'´￣ __｀ヽ __ ＿
〃 ／.:.:.:.::｀´.:.:.:.＼:.:｀ヽ―ｧ
|! /:/.:.l:.ヽ:.:＼:.:.:.:!:.:ヽ:.:.:.ヽ:ヽ
l /:l:{:.:.:l＼ﾄ､:.:.ヽ:.:|:.:.:.l:.-‐ハく
{:.ﾑト-` '⌒｀丶l､!:.:.:.|:.:/.:.:.:ﾄ､〉
ヽlr;=､ r;=､ ノ j:.:.:/.:.:.__:./!〈:〉、
l lj {j /／/.:/r､V ハ:〉
/! ' ､､ '´ 'l:.f l-'/ ∨〈〉 突撃手、
|/ヽ ＿ U ,ヽ!ｨく 〈:〉〈:〉 ……あたし？
,r‐ｧ‐_-＼ﾞｰ' ／ ,ﾊ_ 〈:〉 〈:〉
//´/´／ﾉ__＞‐＜＿ ／ /:!ｰ―'-､':〉
〈 ' / /´: /: : | ／ヽ /: :| : : : : : ヽ、
ヽ ヽ :/-一!:::|::::::ヽ/＼: ! : : , -‐-､!
,.-‐i _,.⊥:|: ／::::l:::::::::!: : : :〉: ／ : : : : j
!ｰ-｀ﾆ´┐ l／＿::::|::::::__|: : /:r' : : : : : : /
|: : : : : : :l !ヽ￣ヾl_/,r‐'!: //: :／ : : : /
!: : : : : : L_!: :｀ﾄ､_|::::::, ┘'/／: : : : : /
l : : : : : : : |: : : !_ T´: : :／／´: : : /
j: : : : : : : : !-‐'l:ヽ｀|｀T/／ : : : : : /
/: : : : : : : : j : : |: :} l lﾉ' : : : : : : :/:!
ヽ: : : : : : : :/---': :! | /: :／: : : : :,'__|
＼: : : : ﾊ――‐' /／ : : : : : / !
｀ｰ'´ 〉 /': : : : : : : :/---ヽ
/`ー―/: : : : : : : :, ' : : : : : ヽ
/__: : : :/: : : : : ,r､, ': : : :,. -‐''´ヽ、
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/‐／／メ､__｀`' /-､＿,. -''´: : ヽ'
, ――-く／ ／-┴‐'‐---=ﾆ､ヽ￣｀i¨ヽ
/ ｀/´ ヽ: :r'´: : :l
/ | ヽ Ll: : : :,ハ_
l l ヽ ヽ:/ : : !ﾄ､
l ', ', lﾊ: : :j:l: :ヽ
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|「他にいるなら連れてこい」
|
| アリカは瞬きした。まっすぐ動いて、みんなを引っばって。
| やる夫兄いかやらない夫さんの仕事だと思っていた。だが、ネウロは違うという。
|
| むつかしい事は分からないから物事をシンプルに判断して。
| 悩むよりも実際に動いて結果を出す……それはアリカの理想のアリカだ。
|
|「……そっか」
|
| なら、やはり強くならなければ。
| 悩みを置いてけるほど早く走るために。
|
| 少なくとも、悩みに追いつかれても足止めされない程度には。
|
|「やらない夫さんにもちょっと待ってもらわなきゃだね」
|「責任感が無いのか？ それで奴が潰れたらどうするつもりだ？」
|「え？」
|
| アリカは不思議そうにネウロを見つめた。
|
|「だっておじさんがやらない夫さんのフォローしてるんでしょ？」
|
| 絶対の信頼感を寄せられ、ネウロがたじろぐ。
| 馬鹿弟子の世話に忙しいとは言ったが、やらない夫とは言っていない。
|
| そんな言い訳も出来ないほどの直線的断定。
|
|「おじじ、『蒼天の青玉』をあたし用に直してください」
|「ソレは……」
|
| マイケルが口籠る。
| 後ろめたさがにじみ出る苦悶の表情に、しかしアリカは疑問を抱かない。
|
|「お金はばっちゃの口座から出すのは違うと思うから、出世払いでいい？
| ついでに『蛇身』さんのもお願いできるといいんだけど」
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/ハ::::::::｀::::ヽ
ｊ/￣ヾ￣￣≧｀ヽ
| ､＿ ￣!
V´ ト::￣￣｀７ｒ⌒! あ。
! ｀＿ u ´ _ﾉ::ヽ-､
人 ｀V_} {⌒ヾ::j::＿}
( > ィ八__ﾉ｀Y ア､-ー-
¨ 个 ＜ ｒ三＞￣ ｀ヽ_＿
ヾｒァﾊ ､＿,,ノ ヽ＿ｧ ｢/≧
ノイ 7T｢ ｊ ﾄ､}＼} イ |////
, ｊ/!ﾊﾑ/ヽ} ≧＝ ｒL///
ｊ ハ } ∨//
′ ー-､/ ﾑ ﾉ ／///
/ / ハ ﾑ ＿ｒ－ｲ//ィ´
／ / }＿ ＿ ,,-＝≦/>ー'´ ｌ
厂77777 ーｧｲT､/ﾘ‐´ !
/////// 〈/ ﾘ ﾏ{ |
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|「……『蛇身』？ ほう、『封印像の悪魔』であったか」
|「アリカサン、ソレは出来マセン」
|
| 頭を振るマイケル。
| 突然正体を暴露され、イナミは身構える。
|
|「キオ君と契約してるから人食いはしないよ。
| で、鍛冶の料金の代わりにあたしを鍛えて欲しいんだけど」
|
|「結局物理的な戦闘能力か？」
|「『蒼天の青玉』なしでもやれる自信が欲しいんだ」
|
| ネウロの皮肉にてらいなく応える。
| 当のイナミは、警戒心も露わなマイケルとリラックスしたままのネウロを見比べる。
|
| 武器はない。だがやるか？
|
|「『蛇身』さんは、理性的な悪魔だよ。キオ君を心変わりさせるほどだもん」
|「フリット・アスノの妄執に洗脳された孫をだと？ 再洗脳したのではなく？」
|
|「してない……よね？」
|「そこは否定しろよタコ」
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, ィ::::::￣￣＼
ィ::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
├- :::::::::::::_＿;＞ ´|!
} ￣￣ ﾘ ……お情けで刀を直してもらいたかァないね。
{トｭ､＿ｊ ＿ｒ-y そいつは俺に剣術の手ほどきをした奴がくれただけのモンだ。
ノｲ <｀ ￣￣ｊ:ｲ ノ!
人ｭーｧ ｊ /:::{
イ//ム´ﾟ ィ ﾏ^マ＝ｭ､
_ｊ´７////r-' ー彡/ ゝｧ｢ア＿ミヽ
ィ＝77///ｒ－彡=≠:::ハ ｒｲｒ' ヾﾊ
イ//////人｢￣ /ァ/リ7ｧォ｢トｊ ﾏ､
〈//////イ//l! ヽ /⌒, ´Yゝﾊ/｀ ＼
｀ー＝ー-＝'￣￣/ / イ､ ヽ
/ / / j ﾄ ＞､
/ /ｊ ﾉ ﾑ≧､ィ///ハ
/ /ヽ ､＿ ィ /ニｼ ヾ/////
ｊ__./ ﾊ 八 ＿ ／/_彡' /////
ノ:::{ ｒｭ､ ﾊ ,,イ / /////
オ:::{:::::j {_ノ ＞ ､ ノ. /////
（{:::::ﾊ/ ￣｀ マ ＞､ イ /_ _/////
ヾ / ｀マ ＼ / ｊ//77イ/////
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|「こだわる理由はねぇし、なんなら鉄パイプとかでもいい。
| そんな事で恩を売った気になられるのはゴメンだね」
|
| 事実、イナミの刀は魔力も無ければ銘もない。
| 刀としての完成度は高いがそれ以上のものでもない量産品である。
|
| 鉄やコンクリートを豆腐のように切り裂くのはイナミ自身の技量だ。
| しかしフリットとダースベイダーの念動装甲によって損耗し、イナミ自身の魔力で致命的なヒビが入っていた。
|
| 繋ぐのは不可能に近い。
| 焼き直すか、新しい得物が必要だった。
|
| そのために、なけなしの金を『傾国』に支払って鍛冶屋を探し出したのである。
| なお、『傾国』に金を出そうが出すまいが、マイケルへの費用が足りなかったのは秘密だ。
|
|「ね？」
|
| 鼻息荒く、正しさを主張するようにアリカが薄い胸を張った。
|
|「何がだ？」
|「人間に貰った思い出の品を直したいって言ったよね」
|
| 言ってない。
|
|「言ってねえ」「我輩も聞こえなかったな」「言ってマシタ」
|
| 異口同音に否定…ではない！
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__
,イ }ｰヽ
/ﾊ / , ｀ヽ
ﾊ￣ソ､ / ｲ ヽ
ヽ‐´ヽﾉ__/ﾊ_ ｲ
ゝ _ノ ヾ ﾉ
ｊ / ﾘ
/ ! ｊ
,ｲ |!
,ｲ ｌ
/ ｌ!
､､,,ｰ-､ ,,ィ‐- ｧ_ ,ｲ iｌ
,, ィ´: : : ｀ヽ !| ﾉ
/: : : : ｀ヽ ｊi /
イ: : : : : { ノ ｒ'
彡: : : : : : : ヽ, ,ｲ´ ｀ /: : ﾉ
}: : : : : : : ,ィ''ｿｒ'ヾ, ﾐ / /￣: :ｲ
!: : : : : : : /=ｭ､, !,,ィﾊ } / !: : : / ウオオォン！
ﾉ: : : : : : :/ﾊﾆﾉｲゝﾆﾍ ､ ､ｒ' ,ｲ ﾊ , ｌ! ワタシはイマ、モーレツに感動していマース！！
ヽ : : : : { ﾄ イｒ＝､ヽ ｲﾉ: : : : :r' ,ィﾊ / /´ ｊ
ｿ; : : : :ｿ/ﾊ!＿ﾊ ｌ ｊ´: : : : : j ,ｲ ! / /
｀ヾ,,/ ヾィｒ､ｼ ﾊ､_: : ｲ !/ ｊ: : : ｲ/ ｌ
__,, ィ} . : ｿヾ ≧‐'ｿ /: : : : ﾊ _,ｲ /
, ィ´ ノ: : : ∨イ /: : : ﾉ
,, --''´ー==＝'{: : : : ﾄ ＿ ∨: ／
,,ィ´ ｲ ﾉ: : : : . . : . {,, ィ!／ノ '; : ／
,ィ´ __､ｰ｀ヽ､ﾐ: : : : : : : . ﾉ｀ イ ヾイ
,ｲ . / ゝ ｀ー,ｒ－''´ ノ /
/ ,' / : {:. ｀ヾ､: : . . . . . : : : : : ﾐ /
{| l /: : ﾊ: :. _,,＞＿;,: : ;ｨ;ｒ､ ｒ､ ｒ－＜;;;:: ｨ /
!ﾊ_jイヽ: : :｀ト: : : : : : : : : :'´~ ､ ｀ ヾ ￣｀~ /
/::/ '; : : {!: :､￣￣´ ィ´ ｀､ ｀~ ,;;､ ヾ' ﾉ
/::/ !: :∧X: :ヽ_ ィ / l; ﾍヽ、 ヽ ／
: : / ヾ,､: : :/:イ´ ＿,,ィゝ､＿ ,ﾊ: ＼ _,ｲ
: : / Y: : : : :〉'''´ {:（ }: : :｀イ
: : / ｊ'ハ: :〈 {: :ゝ.. , : : /: : ;ｨ |ｌ
: : / / ヾｿ ,,, ≧ﾉ: : / !:/ l!
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|「アナタがドコのダレでも関係ありマセン！ 愛用の品、ユージョーの証！ 完璧に鍛え直してみせマース！」
|
| イナミの細い肩をむんずと掴み、マイケルが脳震盪させるほど激しく揺さぶった。
| げんなりした顔のネウロ。ニコニコしたアリカ。
|
| イナミは状況が掴めない。
|
|「お代は要りマセン」
|「え？ マジか？ そりゃ助かるが……」
|
|「ヴァカめ！ タダより高いものはないということわざを知らんのか。
| これだからイスラームの大天使は傲慢で虫が好かぬのだ」
|
|「いや、知ってるが……それってつまり？」
|「ちょっとでいいからよろしくね」
|
| なし崩しにアリカに付き合う事になっていた。
| イナミは意気揚々と作業に向かうマイケルと、嘲笑うネウロ、そして目を輝かせるアリカを見比べて……。
|
| 深く、ため息をついた。
|
|「あー、もう分かった！ 教えりゃいいんだろ！ だが死んでも知らねーからな！」
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☆ 次回予告！
ただただ、巡り合わせが悪かった。
虫の居所が悪かった。
自分を偽るのに疲れていた。
辛いことがあった。
相性が悪かった。
恐怖に耐えきれなかった。
緩衝材になる人物がいなかった。
未来に希望を持てなかった。
そうとも。
ただただ、巡り合わせが悪かったのだ。
次回、最終幕二十五話『断絶』
果てに見るのは破滅か死か。
夢宮のババアさんは孫の教育以前に息子の教育も……
アリカ周りの描写になると空気が明るくなる。
次回は誰だろうか
乙津
やる夫に足りないもののアリカやね。なんちて！
大富豪で8って出せる時が限られるけど出しさえすれば無敵だよね
ばっちゃはそんなイメージだな、王手をかけるための最高の前フリにて陽動で切り札
∠二二二ミヽ、
,r/r=r'┬r=ミ、 ｀∧
「「 i | | L__ ヽ「r「|.
r|│ :i | |ー- L_」 | ﾘ! 止まれ異教徒！
l」 r‐ ┘└―=ミ 」f 」 この道路よりこちらは『教会』で処理する！
| ト冖l 「f¨￢-トi^「r'.
| | │| | | l i | | 」」
| | |│ | | l l | | | ト
,イ | |│ L| l l | | |./
ヘﾄ､厂 !」__レﾍレ.
ﾉ}r､＿＿＿r―ｲ
. /7仁二二二ﾑ〃!.
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|「うるせえ！ すでに三人死んでンだ！」
|
| 深夜の道路を挟んで、バイカーと武装集団が怒鳴り合う。
| それを遠目に見るのは大型肉食獣の悪魔。
|
| ここ数日乗用車を襲い、事故を起こした悪魔であるが、昨晩は衝突事故を巻き起こし歩行者と運転手の命を奪った。
| それを目の当たりにして無謀に突撃したバイカー、『グレン団』の下っ端も食い殺されている。
|
| 今宵は仇討ちとばかりに、『グレン団』は三倍の人手で悪魔を捜索していた。
| 『九鬼』の忍者も参加し、ようやく見つけたその悪魔は……忍者を負傷させて逃亡した。
|
| 傷を負い、逃げる悪魔を追う『グレン団』のバイカー達。
| だが悪魔が逃げ込んだのは『十字軍』の担当区域。
|
| 縄張りに煩い『教会』の狂犬どもの陣地に侵入する事は躊躇われた。
| 悪魔もまた、『十字軍』に追われて境界線で立ち往生。
|
| 睨み合う『グレン団』と『十字軍』の隙をついて逃げたい所。
|
| だが、バイカー達が遠巻きに囲い逃さない。
| その行為すら領域侵犯だと、『十字軍』は騒ぐ騒ぐ。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
|三三三三三三三三三三三＿7 /〈 〈＿_ ./ /７｜./ ∧＼ ./ /＿_〈 〈＿_ / ∧＼ 〈〈 / / 〈〈.∧∨,/三三三三三三三三三
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,,､,､､,,,';i;'i,}､,､
ヾ､'i,';||i !｝ 'i, ﾞ〃
ﾞ､';|i,! 'i i"i, ､__人_从_人__/し､_人＿入
`､||i |i i l|, ､_）
',||i }i | ;,〃,, _） いいからアイツをぶっ殺せよ！
.}.|||| | ! l-'~､ミ ｀)
,＜.}||| il／,‐'liヾ;;ミ '´⌒V＾'^Y⌒V^V⌒W^Y⌒
.{/ﾞ'､}|||/／ .i| };;;ミ
Y,;- ｰ､ .i|,];;彡
iil|||||liill||||||||li!=H;;;ﾐミ
{ く；ｧｿ '';;,;'' ﾞ};;彡ﾐ
ﾞi [`'''~ヾ. ''~ ||^!,彡ミ ＿,,＿＿
ﾞi }~~ ｝ ';;:;li, ﾞiミミミ=三＝-;;;;;;;;;''
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|「上官の命令のない戦闘行為は禁止されている！」
|
| 実際には、悪魔退治は命令を必要としない。
| 一般人をいじめるのが仕事の『十字軍』下っ端どもは、単純に対象悪魔にビビっているのだ。
|
| 対して、武装した一般人と大差ない『グレン団』の士気は高い。
| それぞれ釘バットや鉄パイプを手に、悪魔に敵わなくとも立ち向かう姿勢だ。
|
| どちらも世間から後ろ指を指されて、居場所を失った半端ものどもの集まりだ。
| だが前者は好き放題振る舞うためだけに東京にいて、後者は必要にされる充実感で満たされていた。
|
|「糞が、誰か鳰さんに連絡は！？」
|「応援が向かってるってよ」
|
| 走り鳰は曹操のスパイで、現在は『グレン団』の情報官だ。
| 電子機器満載の改造トラックで情報収集や人員の管理をしている。
|
| 悪魔が出現しているのはここだけではない。
| ジャギいわく、過労死間違い無しの忙しさのはずだ。
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＞── ､
(￣￣￣ ＼
-- -- ､
＞ ´ ＞､
＞ ´
／ ヽ
､__ ／ _ノ / ! | l
7 ／7¨´/ /i /ﾉ ',
{/ {/ / /-:'' ／｀‐/-- ､从
ゝ/ 人{ -rｾ,ﾆ､{/{ | / /＞=-､ } ',:. ’
{ ∧i ` ''､`! f‐0:} ゝl/ / f-o:j }} ﾉ : { 『教会』上層部と現場の……うげ、『十字軍』ッスか？
＞{ ゝ > ゝﾞ ､ ｰ′ ,, ｀"'',,‐ 从 ; } } ､ ﾄ､ とりあえずオズマさんに連絡して……。
／ ／ .了´ ::::::::＜._ノ ノ :ﾚ ヽ
( / i 从 ヽ ノ u／ ￣ノい : ',
ゝ∧ { ::.｀>､ ￣ ／ , z＜ ﾉ､ﾉ ヽ
}`i_ ∨ ＼ 丶 : ＞.､_...:＜{ γ .∧ ..:}/::::::} ﾉ: : 〉
/／ﾉ .＼ ヘ ノ＼::::／｀＼! :{::.} :/::::/:::/:: } /i／
|´ f_..,, ＞──＜ Y ／::t＼── ､∧ ／
/二 -‐7三三／{￣￣V￣￣７三:〕 .l三三::心､
「┌‐＜ｱ三／ ／〉 >:{ }< .(＞､_t‐-〈三三三ﾆl
. / ﾉ :|/三／ / レ／¨１ヽ./＼ て二 }三三三 |
/ } ﾉ::／ ／ ／ ｀／:ヽ{ ゝ､7／ﾆﾆﾆﾆ|
ノ __. ／ ／/ ／三三> /三三三三>
,<i _.. ｨ=:< ／ﾆ/ / /三三::{ゝ､ />､三三三::ﾄ､
| ＼_/!三:>､＼/ ..: ./三: ／ |＼＼.//|三三三:::∧
／{＼__ {三三ﾆ:＼{ { ./三／ ／| ｀¨¨ |_三三三三}
ゝ ＿ ゝ三ニﾆ:∧ | ./三< <ﾆi´＼ ／ ｀i三三三ﾆ|
|lニニニニ三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三ニニニニ
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| 根回しと連絡を同時進行した結果、『十字軍』の現場責任者と『血族』側の応援が到着したのは同時だった。
|
|「みんな、ありがとう。負傷者の応急処置は済ましてきたわ」
|
| 大型バイクから颯爽と降り立つライダースジャケットの女。
| サイドカーから飛び出す、巫女服の少女がやけに静かなことに、『グレン団』のバイカーたちは訝しんだ。
|
|「霊夢さん、お布施は……？」
|「え？ ああ……」
|
| いつもならスッポンのように食いつくはずの金の話題にも気もそぞろ。
| だが、小学生巫女博麗霊夢の術の冴えは、誰もが一目置いていた。
|
| 重傷を負った忍者も一命は取り留めただろう。『グレン団』員は胸をなで下ろす。
|
|「なんだァ、応援っつっても女が二人か？
| その身体で俺たちをもてなしてくれるつもりとか言うんじゃねーだろーな」
|
| 野卑な声が、『十字軍』側からかけられる。
| いつの間にか現れた、巨漢の白人男性。『十字軍』の双子の軍団長の片割れ、オズだ。
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､ ＿ ＿_
ﾄ､_＞ ´: : : : : :＞ 、
〉: : : : : : : : : : : : : _:.
､ｰ イ: : : : : : : : :＞ ⌒´ ヽ
｀7: : : : : : : :イ '.
{: : : : : : : : : } }
,.イ: : : : : : : ﾉ ー-_､ x≦ そっちの姉ちゃんはともかく、
￣｀V⌒ヽ : { ヾ赱ィ {ﾔ| ガキはカンベンしてくれよ、
}ヽ て }ﾉ ヽ } そういう趣味はねーンでなァ！
|: : >ーﾍ _＿＿´!
＿＿|: :ﾊ ヽ ｀ ¨¨´ '
´ ニニミ｀ヽ ＞ .. ＿_.}
´ ｀ヽ Vー- ミ // ｀ヽ
二≧ｘ ､ } } ｀ヽ ﾐ､ヽ'＾ヽ ＼
｀ ＜≧x.ﾄ､ } } ヽ ＼ﾑ _ ､
ヽ｀＜≧xr――＜:: :｀ヽ .}
三≧ｘ ､ ＼ r┬｀ ＜:: :: ::ヽ:: :: ＼/
|lニニニニ三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三ニニニニ
|三三三三三三三三三三三/ /＿. / /￣ / ,ィ | 7 /ﾝ ） / /＿. / /￣ 7 /ﾝ ）. // 〉 〉 // // / /三三三三三三三三三
|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| 下劣にゲラゲラ笑うオズ、『十字軍』の下っ端どもも追従して笑う。
| 色めき立つ『グレン団』。彼らは大なり小なり霊夢の世話になっていた。
|
| そしてこの金に汚い小学生巫女に、信頼と尊敬を向けていた。
|
|「テメ、言わしとけばッ」
|「やめなさい」
|
| 怒鳴り返そうとする『グレン団』員を、ルカが手で制した。
| その美貌と実力と性的魅力。さらには意外と気さくで努力家な所に男たちはメロメロだった。
|
| できればお付き合い……あるいはお突き合いしたいと、妄想膨らませないと男ではあるまい。
|
|「『十字軍』のオズ殿。こちらは東京を荒らす悪魔を退治したいだけです。
| 敵は中位の妖獣、こちらは倒す手はずが整っています」
|
| 蠱惑的な声色、誘うような腰つき、濡れた唇がひどくエロチックだ。
|
|「我々はメンツよりも仲間の仇討ちのためにも奴を討ちたいのです。
| 討伐の手柄は差し上げますので、戦闘許可をください」
|
| オズはルカの言い分を半分も聞いていなかった。
| ただただ、目の前の女をどうやって犯すかにネバついた精子脳を回転させていた。
|
|「信用ならねえな、仇討ち？ そんな言い分通るかよ。こちらに都合が良すぎるぜ」
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
|三三三三三三三三三三三＿7 /〈 〈＿_ ./ /７｜./ ∧＼ ./ /＿_〈 〈＿_ / ∧＼ 〈〈 / / 〈〈.∧∨,/三三三三三三三三三
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／／ / :. |､ ヽ ヽ ヽ|.＼ ヽ
/ / / i :.. l i', l':, l iヽ.lヽ ':,
/ /.::/ ::::li ::.. .:| | ', | i_ .| l , - .!. i
/ ,' :::ヽ.:::|ヽ ::: ::::!. -r'''l"´! l/ | r .､' , |
. i l :::::| ,' !-＼:..::::..::| _',z==-.l､ ./ / .l l. | l. l
! | :::::l _,,,_ ヽ:::::/ !:::!!::;| / ./ /! | l .|. |
ヽ:l＼::::ヽ< !::!!:i ＼ ｀"" ´/.／ / |. l l .l l
! :::::iヽ ':, "´ ､ ´ /／/ .l .Lノ / | ……我々は。
|ヽ::::!:::::::l __ /;:':::/ i ー:::'i l
/! ::i＼::::::ヽ ﾞー｀' '/ :/ ./ .|:::l :|. |
/ l ::|::::::ヽ::::/｀::...､ ,. /.／ :/ .:l:::::|::l ',
/ /.ヽ !::::/:: /:::::::/r=＝＝==-/､:／ ::/:::::l::: | ヽ
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|「つべこべ言ってンじゃあねェッッッ！！！」
|
| 突然の怒号、霊夢がルカにすがり付いた。
| 暴力と怒鳴り声で相手を屈服させることにだけは馴れたオズ。
|
| だがルカも、この手の手合には飽き飽きしていた。
| それより霊夢の異変に気が付いて怯んだ。あの勝ち気な少女が……怯えている？
|
|「誠意を見せろってンだ！ 金か！ 身体で！
| ジャップの短小どもとは違う、クールなペニスを味わせてやんよ！」
|「うるさい黙れ」
|
| ルカはこの、オズという男の悪名を『武僧』時代から聞いていた。
| 『教会』幹部である親のコネで『十字軍』に入り、一方的暴力と略奪だけに明け暮れる悪漢。
|
| 性格は劣悪、口だけの見掛け倒し。だが狡賢く逃げ足だけは早い。
|
|「……いま、なんつった？」
|「霊夢、大丈夫？ 具合が悪いなら休んでいて」
|
| 額に青筋を浮かべるオズを無視し、ルカは小さな相棒に声をかけた。
| 霊夢は蒼白ながらも気丈に頭を振る。早く、早く終わらせて霊夢を休ませなければ。
|
|「いや待て、お前どこかで……？」
|
| ルカは身を固くした。オズは知っているのかもしれない。
| 堕ちた『武僧』の噂を、悪魔人間・巡音ルカを。
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／ ＼＼ ／／///＞‐=ﾆﾆ=‐＜//ヽ ヽ i
.／ ヽヽ /／/＞ ´ ＼ ＼ ﾟ。 / :
{ --- ///／ ヽ∧: ﾟ， / }
: 7/:／ ﾏﾑ { :
/／ { l l } ﾏﾑ {777777≧o｡、＿＿
ﾟ， / :i | | i ∨}////////77ｧｧｧｧr }
. / / :| :| ム斗匕 } ゝ7/////////////l i
〉／ { :{ :| ＿＿_ ! / | / / }:}/////////////! :!
／////∧ :i ＜ :| / ,ｨ爪笊ｱ ｉ ｉ/////////////| :|
,ｨｉ｢////////{ { ﾟ. {＞斥芋ﾐヽ| ／ V)ツ // / {:}/////////////| !
〈∨////////∧:i ＼ヽ V^)ツ / //,ｲ L{‐=ﾆ二二ZZZZZｌ /
∨∨////////ﾟ。 ＼ , ／ { / } /二ﾆ=‐=≦
∨∨//////// ＼ ＼＼__ // } i: /
. ∨∨//// イ ＼ ＼人 r , ／{{ ヾ、 } /
∨∨＞‐=ﾆﾟ. {‐=≦ ／¨}/i! /: / l （いいえ、私は『教会』に戻れないだけ。
¨¨ ＼ ＼ ﾟ， {＞ ／77〃/ / / 裏切りも不義理もしていないわ。
{ ヽ ヽ ヽ ゝ7 }//f ¨ }// /{ { / } .
i ﾟ. ヽ ∧ }///ヽ≧o｡斗匕/ミｔ≧o｡、 7 :
. ﾟ. ／///////ゝ斗匕孑〈 } }∨/////ヽl l
}//////／// { } } | | l ｌ{}:i i ヽﾏ/////ヽ . ……胸を張りなさいルカ）
/ /////// // { ゝ〈 }ゝ斗/ } ﾏ∨///∧
/ ////////- =======斗匕¨ } }/////:ト ﾟ。
/ //////:{ { ¨¨¨:¨ ///////:i ＼ .
. {//////:i i l ////////} ﾟ，ﾟ，
/ 八/////∧ﾍ .: ///////// /
/ ∨/////ヽ ヽ 人 ＿ｨｉ｢／//////ノ / ﾟ。
/ ＼//////≧o｡＞ 、/ /≧o｡----- ＜ ／
. ＞ァｧｧｧｧ＜//ヽ ////////// /／ |
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| ルカは自分を奮い立たせ、毅然とオズを睨み返した。
| 大きくも形の良い乳を張り、男が黙っていられない仕草。
|
|「テメェは巡音ルカか……？ 悪魔化した『武僧』の！」
|「だとしたら？」
|
| オズはしばし押し黙った。
| 先日の水銀燈以降、彼は悪魔に対する少なからずの恐怖感を抱いていた。
|
| こいつは危険だ。近寄るべきではないという弱気を、オズは認められずに振り払う。
| チャンスだ。こいつを捕まえて犯して落として、先日の屈辱を晴らすべきだ。
|
| 水銀燈の落とし前をルカが払う理由はどこにもない。
| しかしオズにはとても論理的で魅力的な考えに見えた。
|
| 一方のルカは、怯える霊夢への感情で揺れていた。
|
| 襲いかかって痛めつけて犯して、もっと怯えさせてやりたいという悪意と。
| 優しく快楽に堕として全て忘れさせてあげたいというキモチ。
|
| どちらも悪魔の囁きである。
| ルカは脳内のマーラどもを根こそぎ機銃で掃討した。
|
|「悪魔とヤると、もう人間相手じゃあ物足りないってのは本当か？」
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／ ‐=ﾆゝヽ‐= /7777} }、
ヽ ∨///i :i/ヽ__ ﾟ.
/ ﾟ. ＼-┐rｧｧｧ、ヽ
i ヽ {////} /
/ ,' | ∨― 〈∧ .
/ { | Ⅷ /77ヽヽ
i l / :| | }:(////} }
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{ | | |斗允匕≧o｡、 : |＞r℡ ヽ
: ﾟ. { :| / / } / | /斗ｔ允ﾅ--、 l
. ﾟ， ﾟ， | / / / ／ :|---斗ｔ匕孑 } |
ﾟ， |＼: ﾟ， ! 汽う云泛 / / {,ｨi㌃ 7{ {l l l | ! .
ﾟ ! ＼ | V^)ツ / / / i ｉ i || :| } ! .
ﾟ， :| | ノ ＼:! / ｲ :/{ ! :ｌ | !|_} ﾉ :| | ﾟ，
_ ﾟ | |ヽ ＼ ／ { :/八 ﾊ斗ｔ匕孑‐=≦ | ﾟ. その質問は今、必要なものですか？
/ } ﾟ. | //: ヽ イ ﾟ. {‐‐‐=≦ 八 .: ﾟ，
. /: / }// ゝ― , | / / 八i / / | | ﾟ.
/ / ／ ／入ヽ ｜:/_/ / / / :
/ / ／ ｨ ／ / ＼ {:/ / :/ / / l l ﾟ，
. / /／ ,ｨｉ｢ :／ / ／ ゝ≦八〃 :/ ／/ ∧ | | .
r 、/ /,ｨｉ｢ ＞ ――― 、 / { ,′ /´ / /ヽ ＼ :
― l / /´ r / 斗匕¨¨ ﾌ ≧o｡‐≠7/ / :/ /‐=≦/ { l ＼
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／/ :／ 爪/////＼ ∨ ／:.:.:.:.:ヒ//////////////:i |
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| 人間同士が揉めているのを察知して、悪魔は逃亡準備の姿勢に入っている。
| こちらの隙を狙っているのだ。
|
|「俺なら満足させてやれるって言ってんだ」
|「日本語が通じないなら英語かイタリア語にいたしましょうか？」
|
| 何語でも話が通じそうにない。
| DARK悪魔か何かなのだろうかとルカは訝しんだ。
|
|「カマトトブリやがって！ 黙って股開けって言ってるんだクソビッチ！
| 『教会』にいられなくなって何人の男を銜えたんだ！？
|
| 何本目でその地位を買えたのか言ってみろよ！
| オラ！ 毎晩その身体を切り売りしてんだろ？ 臭いで分かるんだよメスイヌが！」
|
|「日本語上手ですね」
|「黙って聞いてりゃ好き放題！ 下半身だけで会話すんじゃねーよド低脳！」
|
| 冷徹に受け流すルカの横から、怒り心頭で食ってかかる霊夢。
| いつの間にか恐怖に怒りが打ち勝ったらしい。いつもの調子だ。
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rへ
ｒ7´ ｀ヽ､-,. ─-､ ,.へ_､
ｒ7 ｧ'"＞'-─｀-＜ ヽ!_
r7' >'´::::::::::::::::::::::::::::::::｀ヽ. ﾊ へ アンタたちと違って
,くi ヽ/:::::/::::::::::::::::::::::::::::::::::::::Y i_{ ／／〉 こちとら縄張りが広くて忙しいのよ！
ヽ.／!/::/::::::/:::/:::::i:::::ﾊ:::i:::::::;::',」 ／／〉〈〉
/:7 ,':::i::::::/:ﾊ,ゝ､ﾊ/ !:ハ::::i::iヽ. ／／〈〉〈〉 許可が出せないなら自分らでさっさと処理してよ！
くｋ__!::::::L:ﾊ/〈 !_ｿ｀ ｫ'r7!/!」 ! ／／ 〈〉 〈〉 怖くてできないんじゃなければね！
|::ﾊ:::::::}__.| " _____└' i__{ヽ､! _,,. -/⌒ヽ／／ 〈〉 〈〉
ﾉ:::!ﾊﾍ::|::::iヽ､ ( ｀i ,.ｲ:::|,.-'"´ l l i しゝ' 〈〉 〈〉
/:::::ﾊ::::!::ﾊ::::!;:イ＞ｰｒ＜ﾊ:|::/! | lY__ノ´
i:::/:::::!::::::rｨ';:|´ |／､ /」|:/ !- ヽヽゝ'i
ﾚ'i::::::!;:へ､ヽ!／ムヽ､_/_i ｨ,ﾍ､ Y /
ヽ/⌒i､._ Y:::::/ i」::::::::::!-/ﾚ' ｀ヽ. i/
! iﾉi 7:::く__ﾊ|:::::::::::Yiﾊ| ｀'ー-'
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| 霊夢の啖呵に喝采を上げる『グレン団』。
| 図星を指されて顔色を変える『十字軍』。
|
| 怖いもの知らずな態度で一人前に出て玉串を突きつける霊夢に、
| 表情を無くしたオズが歩み寄る。
|
| 顔色は蒼白。
|
|「もう一度言うけど、手柄はくれてやるわ。アレを倒さs……」
|「うるせぇ！！！」
|
| 一喝と同時に、ゴツい指輪をしたデカイ拳が霊夢の顔面を殴りぬいた。
| 頬骨にヒビを入れるほどの強打。２メートル近い大の男の全力のパンチ。
|
| 霊夢は鼻血と折れた前歯を撒き散らしながら人形みたいに吹っ飛んだ。
| ルカが止める暇もなかった。突然の凶行。
|
|「ウゼェ！ 黙って死ね！」
|
| オズは子供が嫌いだったし、霊夢みたいな生意気な女も嫌いだった。
| 口答えも嫌いだし、正論も大嫌いだ。
|
| もう何もかもがどうでもいい。
| ルカは犯しまくって飽きたら殺す。他の連中は今殺す。
|
|「霊夢さん！？」
|
| 受け身も取れずにコンクリート壁に頭からぶつかった小学生巫女を、『グレン団』員が助け起こす。
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_
__ ,,.イ/!|
!r､ヽ ,,イ／ .||
|| ヽヾ=≠=Z `''{{､ ﾉﾉ
}ィﾆ,ｨ:7ニ)::/ ,､ ﾚ,ぐ_,,ヽ､
}》¨7jf" ｡ )::} |::〉 .}::} }::} }::iヽ､ ぐるるるるふううう！
,ィ ... ´￣二"-'::::} {:::{ }ﾊ} }:} .|::ヽ
／-‐ｧﾞ '´￣｀ー'".ﾉ:ﾉ ﾉﾉj j:j j:::〈. ＼
{ヽ／ ＿ =＝'" " / / ／／＿,)､＼
`-^ー―'"++-)） ／⌒｀ヾ､,''"＿二二ﾆ､ﾐ＼
. ＞'"´￣￣´ ／ , , -‐'_, -―― ￣｀ヽヾ＼
`ｰｧ_／―‐ム／ Zｧ￣ ／ __,.-―‐-＝ゞ ＼
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| 包囲網に穴が空いた！
| これ幸いと、よそ見をしたバイカーに飛びかかる妖獣。
|
|「イヤー！」
|
| だがその横っ腹に飛び蹴りによるインターセプト！
| ワザマエ！ 霊夢に助けられた忍者の華麗なカラテだ！
|
|「あっ」「ひぇっ」
|
| 妖獣の放つ獰猛な殺気にどよめく『十字軍』。
| だがほとんど一般人と同じ能力の『グレン団』は怯まない。
|
|「オラぁ！」「往生せいやァ！」
|
| 鉄パイプや釘バットの打撃、ほとんど無意味。
| だが、群がるハエを払うように吠えた妖獣は、その瞬間が致命的だったと悟る。
|
|「まずはお前だ」
|
| 肉襞色の髪を逆立て、ひとっ飛びに肉薄するルカ。
| 空中で乱射する両手のニューナンブ。全弾が眼球狙い。
|
| 祝福された弾丸、完璧に計算された動作。祈りと同質の攻撃動作。
| 光輝を背負って見える程に完璧な演舞。主に捧げる祈りの『型』。悪魔に捧げる葬送の『型』。
|
| これぞ、『武僧』を『教会』最強たらしめる必殺の祈祷。
| 白兵戦と祈りの恐るべき融合。
|
| 『ガン・カタ』である。
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,ｨＺZｭ、 .._
., ィ´￣ ‐-ヾ＼ ＼
/ヽ､ ー＜｀Vﾊ ﾍ ヽ
ﾊ ､ .::ー- ､- _｀Yニｌ| ..i
/ ヽ `ｰｒ_仁ｌ ｀.| ｌ:i:ﾘ ..::|
'イ |:ヽ_ヽ､ﾊ.ソ | ...:| |:!::} ::::|
| ﾊ .ｒ' | ｉ..::|/｀〉 :::::|
l' .ヽﾄ､- | ｌ.:::| / :l :::::|
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!. ‐| /ー!_ﾙノ/ ヽ!
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/ ヽ| l .| .|::::::::::::::::::::::ｿ:.:.:.／ /:.:.:.ヽ |:.:.:./
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.|`| ヾー-`>/:::::::/「￣lヽ::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ:.:.:.／ </´￣｀:| ／ /
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「./:.:ﾄ､_ﾊ ｌ|:::::/: : : : . . | |.. . : : :＼::::::::::::::::::::::|: |:::|: |:l::::::; ｲ: | : : /
| |: :/〉':::::ﾌヾ|::/､＿ : : :」 L: : : : : ＿_ヽ :::::::::__:::::| :|:::|: | Tl'. |: .| {
. ﾉ |: |/::::::ゝ.ノﾚ| . | |::::￣￣Ｔ::::￣:ﾍ:::::〉 ヽ:::（ ｎヽ| :|:::|「:::::ﾉ ./: .ｌ ヽ、
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| 十字を切るように、祈りを捧げるように連射。
| 獣の反射神経で回避する妖獣に対して恐るべき命中精度。
|
| 命中した弾丸は魔力の装甲と剛毛、分厚い皮膚と強靭な筋肉を引き裂いて有効打を与える。
| 警察で利用される小型のリボルバーとは思えない火力。全ては主の御力。
|
| 着地の勢いを前転で逃しながら、ルカはニューナンブを静かに置いた。
| それすら完成された動作。一切の隙が無いままに抜刀。袈裟斬り。
|
|「ぐるがっっ！！！」
|
| 妖獣の毛皮がたちまち朱に染まる。
| 女の細腕にも関わらず首を半ばまで断ち切る剛力。
|
| 恐るべき『カタ』の冴え。
|
| ルカは魔王マーラと融合合体してから、一層に『カタ』を仕上げた。
| 自らの内なる悪魔に打ち勝ち、信仰を証明するためである。
|
| 試みはある意味で成功した。
| 祈りを捧げている間は性的な誘惑はなくなった。
|
| だが。
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´ ,ｨメ／ ｀ヽ
／ /x／ , ﾍ
ー--=≦ ,L7 , r‐ト ハ
ﾌ ﾑl7 ﾙ' j! ルｲ ト、
,.イ 〈|!〈 メ. ヾ=、(_ i!Vﾊ
＿ -=＝≡ﾆ二三￣ .j! ｨ 孑' Vﾍ ﾙﾍ '' ハ, :i j!
, ''" ￣ ≧-匕 -=- 八. ﾊ fｦ ｲ ル' アーメン！
´ _斤ﾐぇ＼ ',__/ K´≧=ー- 、
, '"´ , 了Y´￣｀ヽﾐミZ＼ゝ、 ｀¨´￣｀ )ハ
／ 〃 ん' Vミ毛) .ﾊ ー=≦ ノ
＿ -‐ ''" フ ノ .八 、 Vツ ﾉ辷ｭ、
´ ﾊ ＿jメ v― 个v‐ぃヾﾐ:、＿ ＿,-、/＾ﾙ' ﾌ-,
￣ フ ﾆ=＝-―=＝≡ﾆ二三￣ ＿, -=き￣￣! 〉 》///f lj' ゞ}:切 ￣ - , - ――-- ＿ __, ´- ⌒ フ i! /／
Y´ ＿＿ - ﾍ l八/////「二二7.ツ ＿ 化二=ｭ
,匕´ ／ ￣ ', V/7チｲ[ ﾉｲ-ー---―一ー--- ー ￣ ￣￣´
i! ((( 《 i V//// /品j!り
乂 ｀ヾへ、 ﾉ! l V// /品/.|i|∧
ー---一 / l ,V /品///|i|:∧
｀ヽ ＿ ＝=-ー ', に二二7///|i|:ハ
', 斤彳 〉、 .／彡'イ.j|/人_
ル' j!/ _／／＼__／///// /^ 、//7
ー-一 ´ ／ ゞュ=-v/_/////// / |V /
￣ ー-- ＞｀ヾ、｀ __／／ ﾄ /
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「V ＼,べミｭ-..、 i l
＿_》≧ｭ ＼ミ三三≡≡==久
/~|ﾐX三三≫.、 ｀¨¨へ三三≡了
＿＿ -=＝＝-―=＝≡壬｀ヽーv三三三三≧ｭ, ヾ三三り__
=≡≡三三三三三三三三三≦壬三三 ＼ ＼三三三三≧、 ＞＜∧7
=≡三三三三三三三三≦壬三三三三三 ＼＿＿＿＿＿_＞_'彡´ﾊjjУ
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| それでも逃れようとした妖獣に、ルカの髪が襲いかかる。
| その肉襞色の頭髪は一本一本が性器であり触手であリ武器でもあった。
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| 忍者は女の髪を束ねて鉄すら引き裂く武器を作るが、ルカの髪も自在に動く必殺の鋼線である。
| しかも今回は、束ねられて大ぶりの刃と化した。
|
| 横薙ぎの六連撃は妖獣の頭部をミキサーにかけられたようにバラバラにした。
| 跳躍し、着地までの数秒間の出来事。
|
| ピンク色の殺人スクリューと化したルカは、髪の動きに引っ張られるようにターン。
| 体をコマのように高速で横回転しながら刀を投擲。
|
|「なっ！？」
|
| 恐ろしい精度でオズのどてっ腹に命中、貫通。
| よろめくオズ、信じられないものを見る目。
|
|「やり……やがったな……っ！」
|「それはこちらの」
|
| いつの間にか回転が収まり、四足獣のように四つん這いになるルカ。
| いや、そのポーズはクラウチングスタートに他ならない。
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| 両手には、先程置いたリポルバー。
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.::::::::::! .! |:::::!:〈 ´ ／ .／/ .// l! | 殺されない幸運にむせび泣け！
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.::::::::;:へ／ L- ''' |., ヽi_＼、__ .ノ/／／／／ ／ /ヽ
._::／ヽ ＼-、 ',＼ lXヽ 'i>!‐--- '.ィ ﾞ.／ ' ／／/ ＼
.:/ ヽ ＼ ヽ.＼ ヽヽ|><>| l/‐- '' ´ ／'´ ／／／
/|ヽ. ＼ .|i l 丶-' |＼X!／ _... -' ／.／／
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| この乱闘の負傷者は十八名。
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| 内十五名が『十字軍』。
| 二名が『グレン団』。
| 一名が『血族』。
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| 興奮して乱闘に参加し、殴り返され軽傷の『グレン団』員二人。
| ルカに殴られたのち、逃げるか気絶したふりで難を逃れた『十字軍』が八名。
|
| 腹の傷はすぐに魔法で塞いだが、ルカにビンタされて顎骨を砕かれたオズ。
| 拳ではなく平手、反撃もできずに一撃で気絶、その上失禁という醜態の重ね塗り。
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| オズに命令されてルカを止めようとするも、足の甲を撃ち抜かれた者が三名。
| 組みかかり、あるいは武器を使用して攻撃して、数か所の骨折が三名。
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| そして、鼻と前歯を三本折り、後頭部を強打して頭蓋骨にヒビと脳震盪。
| その霊夢が『グレン団』員による治療の護符で目覚めた時には、全てが終わっていた。
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∨ヽ
＼ ＼
＼ ＼_ ..-‐::､
/:_: : : : : : :ヽ
}ﾊ ヽ: : : : : :ﾊ
{ ｨｬ V´〉: : : !､ 卑劣な手段で、弟を辱めたな……！
< ヽ: : l: :| ＼
rﾊ´_.ィ /: : :ﾄﾐ:､ ＼
, ＜ ￣｀ﾝ: : / : }/: : : :}´了ヽ ＼
/ ｀ヽ{ : ∠ニ_{: : : ﾑへ≧=ミ 、 ＼ r ､
ゝ､ 彡 >´::_}{_:: :ゝ:/´ﾙ}二ﾆ=≠=ヽ ｀ー' ノ
/ / {__} ´:: :: ｀}{´:／ｲ r ´ ﾄ ﾉ ヾてミ,:´ﾘ
_ ゝ`T!´ {:: :: :: ::.rく／::ヽ. Yヽ ､ヽ｡ｰイ r'_ﾉ 人ヾ ､
,. ´ ﾑく i! ゝ:: :ノ/乂:: :: ハｰ} X } {.ﾉ ． ´ヽ Y ヾ ､
/ x≦=} }ミ､ﾙ- ´{:: :: /´.:: :: :: :: ::} <_∠ﾆﾆﾝ_. イ ヽ / ヾﾍ
`i´ へ ｀ヽ ! :/:: :: :: :: :: ::./ 〈ィYリ { ｿｰ' `
ヽ / ＼ L ﾚ:: :: ; :: :: :: :´∨{｀Yi´ ヽ ／
` ｀ ＜ / ヽ_}:: :: ::} :: :: :: :: ::.ヽ { { >／
｀ ＜ / .|:: :: :: :: :: :: :: :: :: ﾊヽゝ彡´
, -ﾄ､_} }_:: :: :: :: :: :: ::／:: ::＼
｀¨ヽ､_ノ ::｀ヽ:: :: :: ::´ :: :: :: :: :ヽ
／:: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: ::＼
/: :: }:: ::.ﾉ:: :: ::Y:: :: :: }: :: _::_}ｨ ⌒
｀ヽム く r― ､}, - ､ん´ i! !
| i! ｀i! | i! i! .i! |
l i! i! l i! i! i! .|
l i! i! l i! i! i! '
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| オズの姉、オズマはそう信じて疑わなかった。
| 寄せ集めの半グレと、ドロップアウトした『武僧』に弟が負けるはずはない。
|
| そもそも先に手を出したのはルカだと言う主張をしたし。
| すべての証言を無視して弟の潔白を盲信した。
|
| 『血族』側は面倒を厭い、すべての責任をジャギに丸投げ。
| だが、ジャギは拳以上によく回る舌で責任をたやすく回避、トカゲの尻尾としてルカを生贄に。
|
| 哀れ堕ちた『武僧』は始末書・降格・減棒・謹慎・左遷のコンボで窓際へ。
| 逆にジャギは責任を取らされたことを理由に公然と責任者面を下げ始める。
|
| なぜか毎日お見舞いに来てくれた黄泉からこの顛末を聞きながら、霊夢は自分の処遇について不思議でたまらなかった。
|
| オズに突っかかり、激昂させたのは霊夢なのに。
| なんで何の沙汰もない？ いらない子なんじゃなかったの？？
|
| だが黄泉も、たまに見舞いに来たキルも答えは出せず。
| そしてジャギは
一度として見舞いに来なかった。
|
| 一度として。
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☆ 次回予告！
君の行く末に、苦難があるかもしれない。
君の行く末に、悲嘆があるかもしれない。
おお、苦しむがいい。悲しむがいい。
人生は幸福ばかりでは成り立たない。
君の不幸せは、代わりに私が喜びにしよう。
君の苦難は、私の快楽。
君の悲嘆は、私の喜悦。
どんな不幸も、見届けよう。
次回、最終幕二十六話 『死の芸術』
果てに見るのは破滅か死か。
次回は対人礼装ですか
,ｨ彡三三三三三ミﾆｮｯ､
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ﾄ三三三彡＞￣､"〒――ｲ､_
∨彡'λ ｨ､ A ﾄ､ | ﾄ､∨ﾐ､
ヽ|､ i-ﾍ | iﾉｨ气ヲ | |' | ∨ ﾍ 島村卯月は『異端審問官』に拉致されていた。
ノλ代ｦ｀ ´ | |/ ﾉ λ 携帯電話は着信拒否にして、あの女は諦めろ。
'´ |∧ 〈 | |ヽ人ﾍｼ彡
| ﾍ _ _ | |ムシ､ ミ毛
| ゝ､ ｀ ｨ| .|::::ﾍ ＼
| | ＞-イ _,ｲ |:ﾂ' | ｀､
| | ／:ゝ≦:::| | | ﾍ
| |(:::::::｀iｼ'´ | | ゝ-＜ ﾍ
| |＞:::::::| | !'´ _ _≧､ ゝ､
| ﾉ ﾍ::::::| ﾉ ! , ' ｀､ ｀ヽ
| i ￣ フ / , ' |
| | '´|ﾉ ｨ/ ,' |
ﾍ､ | 从ｲﾉ ∨ i
ﾚ乂ヽ / i /
/ / ゝ /
i ,' | i
i i 〉 |
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| 深夜の遠坂邸宅。
| 凛から出された課題に遅くまで取り掛かっていた慎二は、藪から棒に告げられて瞬きした。
|
|「聞きたいことは山ほどあるが」
|「お前への嫌がらせにあの女の現状を確認しに行き、残された魔力痕跡を追跡した」
|
| 要点だけで応える『万魔』。状況説明は完璧だ。
| だが、慎二は頭を振る。聞きたいことはそれではない。
|
|「なぜ僕に教えた？」
|「それは……」
|
| 口籠る『万魔』。単なる嫌がらせではない。
| 慎二は知りたいだろうと思ったから、教えないのはフェアではないと感じたから。
|
| 合理的ではないけれど。
|
|「『私とあの女、どっちを選ぶの？』と言ってお前を苦しませたかったからだ」
|「嘘だね」
|
| 怪物でもあるが、少女でもある『万魔』の本音を慎二はせせら笑い否定した。
|
|「僕を苦しませたいなら天秤に乗せるのはお前じゃなくて凛だろ」
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/:::::::::::::::::::::::::::ゝ､
......::::{::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヾ::ヽ
〈:::::::::::::::ヽ:::::::::::::::::ヽ::::::::::::::ミヽ
>;;:::::::::::::::ヽ:::::ヾ::::::|ﾐ::::::::::::::::::::ヽ､
.〈:::::|:::::::f:::::::::;;''')::::人::ﾊミ:::::::::::::::::从
i:::|::::::::ﾄﾐ'' 〈::::{ ／}::L ミ::y-ミ::ヽ
|::|::::::::::::::ヽ ):）fイ:丁 ｿr}k ）:| ）
|::|::::::::::Y}::|__ ~ ¨´ Y/:::l で、何が望みだ？
{ ヾ:::::::::t k夕 r':::::jゝ
￣ゝ(ﾍ < ＿ ヾﾘ
（ ヽ ´ ／ ヽ
＞ ､___／---──ゝ.
z-≠─- ､ ヽ へ─--ﾍ
| ＼ ｀ ゝ､
| ＼ ＼
| ＼ ＼
| ＼
| ｲ }
f＼ ﾉ ﾍ }
{ ＼ｲｨ´￣ ﾍ }
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|「望み？」
|
| 思わぬ言葉に『万魔』はオウム返してしまった。
|
|「情報料だよ、何が欲しい？」
|「ええと、感謝のキスの一つもあると嬉しいのだがな」
|
| 慎二の信頼を得るために、『万魔』は卯月の居場所を突き止めた。
| 慎二のためだけに、現状を伝えた。
|
| 何が欲しいかなんて、考えもしなかった。
|
|「悪趣味な奴だ」
|「む」
|
| いけないな。
| 『万魔』は自らを戒めた。
|
| 卯月の事で少なからず動揺している。
| 本音をポロポロ零しているのはそのせいだろう。
|
|「お姫様はいくつになっても王子様のキスがほしいものでな」
|「今度はディズニーでも見たのか？」
|
| 呆れ顔をしながら、慎二は素早くジャケットを着込んだ。
| 手近な素材をポケットにねじ込んでいく。
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／::＼,.へ._
r‐:::::::::::_:::/::_::::::::ヽ
ノ::::::::／:::::::}/:::ヾ::＼＼
l:::::::/:::{::::{ヾﾞ厶}:::::::::::::!:::|
/ｲ::〈:::::ﾊ::::〉 く:::ﾊ:::::/:l::ゝ
}:|:::):⌒ヾ ｰｿ-);ﾉ::ﾊ^
∨:{ ｰ＝' ==-´}/|ｿ
乂'､ l /.ｲ 本当に欲しいのはこれだろう？
};込 ､─‐ｧ ｲ;ﾙ 凛の奴の課題には圧縮率の足りない失敗作だ。
乂l＼￣ ／!/`
_「¨'''' 千 '''¨ |
_ - 丈 _|:|:L - ¨〜- _
,-‐ ¨ |:|:L_ ￣ヽ
/ |:|:| | '，
/ | |:|:| | l
./ :l |:|:| ＿＿＿ ./ ﾊ
」 ::! |:|:| └──┘ ./_ - '! ＿＿
{ ￣￣ :', |:|:| |:. ∨ ／{ィ＞' ､＿＼_
/ ー-:', .|:|:| |:.:.:.. ∨ _／ l! !| ヽ _ヽｰ┘
./ ﾊ |:|:| ∧:.:.:.:.. ∨ ／/ .l!.:'，ﾍ ´ ,､＼＿
/ ／/ l |:|:| :| ∧ヾ:.:.:.. ,-／ ..:.:.:.:.＼＼ﾍ r､ヽ＼ｰ--'
./ ／ / l: ＼|:|:| .:.:| .∧:. /./ ー─:.;.｡*'" ∧ ､＼＼ﾞ⊃
/ ／ .l:.:.. |:|:ト- .:.:.:.| ヽ:.:.:.:.! ..:.:.:.-‐ァ'´ `┘ `′
{ -─≠┐ _,ﾊ:.:.:.. |:|:| ..:.:.:.:/ ＼:.:.:.:.:.:.:.／
∧ ヽ | :.＼:.:.:... |:|:| ..:.:.:.:, 〈 ヽ:.:／
.∧ ＼ ∨:､ ヾ:.:＼｀ - 」:!:!_ - .:／ /
＼ ＼/ ヽ ＼:. |:|:| ..:／ ハ
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| そもそも、その課題がおかしいと文句を垂れながら、慎二がタブレット錠剤を差し出す。
| 魔力を凝縮した携帯回復薬だ。
|
| 魔術師ならば魔法の連続使用時のブースターに、悪魔ならば魔力供給ができる。
| 人食いをやめて万年魔力不足の『万魔』には喉から手の出る品物だ。
|
|「まて、もったいない。ここぞという時まで取っておけ」
|
| 早速飲み込もうとした『万魔』の肩を慎二が掴む。
| そのままグイと引き寄せられる。
|
| 唇が重ねられた。
|
| 目を白黒させる『万魔』。いつぞやの意趣返しのつもりか、妙に嬉しそうに慎二。
| 口移しで流し込まれた血液が甘い。新鮮な魔力が五臓六腑に染み渡る。
|
| 高鳴る鼓動、紅潮する頬、ぎゅっと切なくなる下腹が熱を持つ。
| 舌を絡め、貪欲に快楽を求める。違う、慎二の噛み切った舌を絞り、血を求めているだけ。
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/三三三三三三三ミ､
{三三三三三三三三)
＞ミ,ミ三三三三三三/
.,イﾐヽ､/ ._｣｀ヾﾃﾐ三ｼ
{ミﾆ､ノ., ',..' {r|' ﾚ从. )
{ ,イ.:/::::::::::入| | ﾁ(ﾚ
∨,ﾉヘ､;;彡': : ｉ i 〉 （いや。
／ ｀ゞ´｀ヾ､::Y| ﾄ／ 自分を偽るのは合理的ではないな）
／ :/＿__ ｀N::.. !
∠=ｲ , :/ /7｀ヽ､｀ヽ､ヽ
ｉ ,' :ｉ.:: // /￣｀ヽ､ヽヽ ____
},' i | | | /;;;;;;;;;;;;;;;} } } ri////
ﾉ'i i |ﾘ"Tｺ./;;;;;;;;;;;;;;;;;ﾄ､ ﾘ ノ,ｨつﾉ
//ﾘ! |;;;;;;) 〉｀{;;;;;;;;;;;;;;;j;;j };i x,ｨ´ｲ '／
.// ＼i;;;;//;;ヽ};;;;;;;;;;;;;'|//ﾉ ／ ＼,イ
// j;;//;;;;;;｀|;;;;;;;;;;;;;;|／ノ､ 〉
.// i//｀‐-‐∧;;;;;;;;;;;j,イ;;;;;;＼ ／
// .//｀i‐-‐-‐{;;;;;;;;;;;;;;ﾘ;;;;;;;;／""
.// .// |;;;;;;;;;;;;;｀ゞ､＿＿／
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| 胸が締め付けられる。苦しい、悲しい、切ない。
| 『万魔』が求めるキスはこれではない。
|
| こんな合理的なものではない。
|
| 頭の芯がすっと冷たくなる。
| このキスは卯月のためのキスだ。
| 『万魔』に餌を与えて利用するためのキスだ。
|
| ……ああ。だが、だけれど。
| それでも構いやしない。
|
|「契約には対価だ。案内しよう」
|「急ぐぞ」
|
| 二人の間にかかる赤い唾液の橋を、互いに躊躇いなく袖で拭う。
| 『万魔』は先程貰った携帯魔力錠を口に放り込み、バリボリ噛み割る。
|
|「あっ」
|「最速の方法で行くぞ。合理的にな」
|
| そして慎二を抱き寄せると、窓を開けて跳躍した。
| 背中には虫の羽根、魔力による最低限の迷彩。
|
| 飛んだ、まっすぐに。
| 慎二の望みのままに。
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／ /／
／/／ / ∠ ＿＿
/! ／ / , ／ ／
' .∨ { / ./ ＜
| l / ／ ／ ＼
| ＼ Ⅳ! / ／ ／ ヽ
ヽl ゝヽ! ∨ / .／/ ﾊ
、 ∨ ／ !
∨「 ‐- ､ { .,, -‐''"´￣彡/ / _ | ＿
Ⅵ "''" ヾ ./ Y ￣ ― -
{,ﾊ! ヽ// } ｀ 、
∧〈. ｀ヾー 、 ＿,.ィ/ 〉 / ＼
´{ {. ﾍ <ｒｯｧ=ミ 〈＜=ｒｯｧーｧ ./
＿ ／ | l :::∧ 厂ハ ……。
´ ／ | V :::∧ ﾉ / / .}
.´ .／ ＼::::::. .、 ヽ ｲY /
', :::::::＼ ー - ／::::::| /
／ ＼::::::ヽ ＿ .ィ:::::::::::::|./
rf / { ＼ |:::::::::::r――― 、:::::::|'
／l | |:::::::::::|＿＿＿ i!::::/ _
ｌ ! ＿ {{ }} Y::::::::| {:::::::::::::::} l::::| {{ }}
/ .! ! {! l {二ﾆ=ﾆ二}::::::人ゝｰ=- ' ﾉ::::| ｒ‐=≠=ﾆ三}
.{ l l Ⅵ ￣「}厂 .|::::::::::::ヽ Y´::::::::| ￣ﾉハ
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|「止めないけど、代わりに介入は最低限に抑えてちょうだい」
|
| 慎二の師匠にして天才魔術師、遠坂凛は無慈悲に言い捨てた。
| 彼女の元夫にして、もう一人の師である不敵の傭兵『弓兵』は、寝室のノブを掴んで動きを止めた。
|
|「そのつもりだが……凛はどうするつもりだ？」
|「寝るわ」
|
| ネグリジェ姿で伸びをして、ダブルベッドに残った男の体温を名残惜しそうに撫でる。
| 反対の手では枕元の鏡をたぐり、使い魔の視点に切り替えた。
|
|「あの女の子にも付けておけばよかったわ」
|「彼女は一般人だ。こんな無法は許されない」
|
| そう、無法だ。
| 『異端審問官』が人間を誘拐して拷問するなんて、許されることではない。
|
|「なんでもいいけど、目的を見失わないで」
|「……分かっている」
|
| 部屋を出る『弓兵』。凛は嬉しそうにため息をついた。
| 彼はきっと、分かっていても行動する。誰かを犠牲になんてできない。
|
| いくつになっても大人の分別なんて身に付かない。
|
|
|「ホント、困った奴よね」
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| 港湾部にあるその貸倉庫は、一見するとなんの変哲もない工業部品の倉庫だった。
| だが、密かに掘られた地下には、防音設備の整った尋問部屋と霊安室がある。
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| 『教会』日本支部が用意していた武器庫を接収し改装したものである。
| 銃火器や弾薬が並べられていた棚には、何に使うかも分からない拷問器具がところ狭しと重ねられ。
| 訓練や試射用のはずの空間には棺がひしめき合っていた。
|
| すべて、『異端審問官』の犠牲者である。
|
| 元々は偽装武器庫であるため、セキュリティは万全。
| 地上階はセンサーと監視カメラ、地下は魔術的隠蔽と結界の二段構え。
|
| しかし、普段から人が在中している訳ではない。
| なにより、『異端審問官』が出入りするようになってあまりに臭いが酷すぎた。
|
| モズグスがアリカを案内した場所にも似ているが、ここは死体の扱いがあまりにも粗雑である。
| だがそれ故に、侵入も容易であった。
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', ＼ | / ＼ } / /! ヽ. ! ＿＿
', iー､ ヽ ﾚ..-‐''￣￣ |::::ｰ､ト､ ＞ ´ /
､..＿ ', ! ＞-´、 乂ｰ'⌒ヾ:::::::::ヽ::::ヽ ィ´ ／
ヽ ￣￣ ー -- __ ヽ／ ｀,..ア::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ. ,ｨ ,,..ィ
＞ .. ,. -― / i::::::､::::::::::ミ､::::::::::::::::',:::::::Y:::V::::/
＞ .. ＼ ,′ ＿__ ､j:::::､:::＼::::::::::､:::::､:::::::|:::::::i::::::}::::!ー-- ..,,
＞ ..,, ヽ.;／ ≦::::::::::ヾ:::::ヽ::::::::::＼ヽ:::|::::::;':::::/::ﾘ ｀ ＜
＿,,.. ≧| ｀ヾ:::::::::::::::::::::ア"´￣｀ヾ!:::/::／::ﾉ ＞
＞ ´／ .| ヾﾐ:::::::r ､::::/ {__ ヽ ｀ー､:::::ｱ ＞ ´
＞ ´ ／ ! ミ::::::::ﾊ V ,.--ミ ヽj y／ く:::ゝ ! ＞ ´
.＞ ´ ｀''ー- ..,,＿', ／ ﾞゞ::::::::∨ { ● } /ｨ , -､ｿ｀.:/＞ ´
＜ ＿＿＿＿＿,,.. -- ｰ== アヽ / ｀Yj/ﾞj ｀¨フ j } （ ●ﾙ ∨ ､
/ ＞´／ ＼ ＼八 ト..,, ヽ'/ ７´ ./ ＼ 何たる堕落、何たる怠慢！
/ ＞ ´ / ＼ ／ ＼ ヽヾ ｀¨ｱ ／ /, ＼
./／ ゝ..,, ＿＿＿≧､ / ヽ＼ ｰ ｲ／ ヽ／ﾐ､ ＼
／ ＞ - ―― ,.≧ ＼ ヽ.,ア ´ ／ ヽ｀'' ､. ＼
.／ ＞ ´ ／ ｀ ＞.´/__人__ ..イ ＼ ヽ.. ＼
／ ＞ ´ ／ ／ / ', | ＼ V ＞- ..,, ＿＼
ー ''/ ／ ／ ／,.. --〈 | ', /!. ＼ ∨
./ ／ ／ , --ｰt‐ /イ }| ',. / ! ＼ ∨
/ ／ ／, -- ､/ / | ∨ | ＼ ∨
/ ／ ／ / ＼ ヽ.. ＿__ノ ! ! ヽ ∨
ｊ／ .／ .ノ ＞-､ ーく | ;! ＞ ､. ∨
／ ／ / ヽ / /／ ）. ',. | ﾊ ＞ ､
/ / i ＼.' // ／ ヽ ｀ー --- ――ー ､＿_＿ !
,: / j ､ ＼'／ ', i / } __｀＞ i
/ ﾉ ､ , ヽ } ! ,..__ --― ' ´￣ ＼ |
/ // ヽ / ヽ __ ノ ／ | ;' | ＼ |
./ 八 ＼ ./ ノ ,.. -‐‐'' i! / .! |
ヽ ＞-- ／／ レ´ | |
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| 大仰に腕を振り回しながら、『異端審問官』のナンバー２『青髭』ジル・ド・レェがわめき散らかす。
|
|「アスノ氏のご子息を騙る悪党の居場所は愚か、手下の小僧についても何も知らないとは。
| しかも異能者でも無ければ邪教徒でもない！」
|
| それのどこが堕落なのか。
| ジルは飛び出た両目を別方向に動かしながら熱弁する。
|
|「それはすなわちこの都市の人間は、一般人ですら平然と邪悪に加担するということ！
| おお、龍之介！ 貴方のように素晴らしい人物は他に居ないものか！」
|
| ジルが、傍らの少年を賞賛する。
| 東京の一般人でありながら『異端審問官』の手伝いをする少年。
|
| 裏路地で悪魔を解体していたところをスカウトされた人物である。
| 何回か前にそんな話があった気がする。
|
|「でもさぁ旦那、アイツまだ何か隠してる気がするんだよね」
|「フム……貴方の直感には光るものがございます」
|
| ジルはしばし黙考し、大きく頷いた。
|
|「いいでしょう、あの娘の処遇はお任せいたします。
| わたくしはジャンヌの所へ行かねばなりません故」
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/ / ヽ
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- _ ｜ |´ 从 乂 ﾉ ﾉ'" | |
ﾆ=-＿＿ ｜i | ﾊ!ｨf歹¨ f歹¨ヽ | 从
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| /'´￣｀ヽ },ハ -‐ ─- ムiメ
{ ／⌒Ｙ }ﾉ込、 ,.ｲ/
|ミx ,.ィ } 乂 〕 . . イ |/
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| 胡乱な眼差し、虚ろな微笑み。
| 龍之介は頭のイカれた聖女も、それを盲信するジルも蔑んでいた。
|
| しかし、この職場は嫌いではなかった。
|
|「じゃあ……後はやっとくからさ」
|「ではよろしくお願いいたします」
|
| 同僚の『異端審問官』も倉庫を後にする。
| 彼が秋葉原でメイドに入れ込んでいることを龍之介は知っていた。
|
| 堕落で、怠慢。
| 誰のことだか分かったもんじゃない。
|
|「あー、あーあーああー」
|
| 虚ろに、空虚な廃墟を通る風のように歌いながら、龍之介は作品の待つ拷問部屋に向かう。
| 人間を生きたまま解体して作る、奇怪なオブジェが彼の作品だ。
|
| 生物を殺し、その死を観察する中で何かを作る／見つけるのが彼の指向性。
| 犠牲者が生きている間だけが、龍之介の作品の寿命であり、同時に死の瞬間こそが主題であり価値であった。
|
| 氷を削り出して作る氷像に似ているなと、龍之介はしばしば思う。
| あるいは、その一瞬に全てをかけると言う意味では花火にも通じるのではなかろうか。
|
| 『異端審問官』の素晴らしい所は、道具や薬物に限度が無いところだ。
| いままではナイフで丁寧に急所を外しながら刻んでいた肉体だが。
|
| 薬物や道具を使えば驚くほど長く、犠牲者の意識を保ちながら延命もできるのだ。
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| 天井からぶら下げられた女の背後の壁には、薄桃色の不規則な光輝が描かれている。
| よく見るとそれは骨と何かの肉、皮のような物をピンで止めてあるものだ。
|
|「うう、うあ……ぁあ……」
|「お、まだ元気だね。アヴェ・マリアでも歌うかい？」
|
| ポタポタと、水の落ちる音がする。
| 水音は鍵盤に落下し、甲高い不規則な不協和音を奏でた。
|
| 水は……いや、それは吊られた女の血液だ。
| 失われた両肘と、空白のはらわたから、驚くほどゆっくりと血が溢れている。
|
|「ふんふんふふーん」
|
| 龍之介は上機嫌に歌いながら、作業台にある女の腰にメスを入れた。
| そう、彼女の下半身はもぎ取られ、両足はおぞましい光輝となって壁に張られていた。
|
| 両腕はワイヤーで吊るされ、何かを抱くような形で固定されている。
| ジル・ド・レェに見られては龍之介も異端となじられたに違いない。
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/: : : : : :＞―--
／￣｀ー‐': : : : : : : : : : : ｀ヽ
/: : : : /: : : : : : : : : : :､: :ﾊ､
／/: : : : : : ｨ:, : : : : :､: : : : :､ : :,ヽ
／: : : : : : !ミ:､彡∨: :.ﾄ: : :|､: :..ﾄ : : : : : ::, :,
′: : : : : : |:.|'´￣￣∨:..| Ｖ.:| ∨:| ∨: : : : :|: ﾊ
, : :.|: : : : |:.| ∨:| Ⅵ_,,.斗-‐:,‐-: : : :|.: : :,
|: : :| : : |: :ﾊ:! Ⅵ''"| | l| ∨: :|: :..:|: : |
|: : :| : : l: :l,,|レ 、 リ リ ﾘ＿__ Ｖ:..:|: :..:|: : |
|: : :l.:..:.γl'"| || ヽ / ﾉ 〃￣￣｀ Ⅵ!: :..:|- ､: |
ﾉ: : : , : : : Ⅳ! ﾘ ＿ | |Ｖ:..:.:|'´ Ⅵ
,小: : ::, :..:..:| |レ'´￣｀ :, リ ∨,ﾉ リ
|| ∨ : ｖﾊ: : :.| ﾘ | | | } }
|| ∨:, :ｖﾊ:..:.| { ､ リ / ｲ
ﾘ 乂∨ｖﾊリ ヽ f ｎ}_}:|
{｀ヾ＼ ,. =ｧ j¨¨!ﾉ:..:| 本当はアンタが妊娠してたら最高なんだけど。
､ :. ,， _,. ´-‐ ,. ´ /|: : :.∧|
＼｀¨ 、 ＼＿,. '" ,ﾉ: :ﾊ{
｀ー‐ ､ ／===ﾐﾘ
ﾏ＞ .. ｉ:::::::::::}:.:＼
ﾉ: : : ﾊ｀ ., ／ |:::::::::::|:.:.:.:.:＼
/≧ｭ:､ ｀ヾﾄﾊ ｀ ―‐ ′ │:::::::::|:.:.:.:.:.:.:.:＼
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| えぐり出した子宮をつまみ、どうやって固定するかを思案しながら龍之介が笑う。
| 酷たらしく冒涜的な聖母マリア。
|
| 龍之介は女を……島村卯月を素材にしてそれを作ろうとしていた。
|
|「うぅう……いた、いたい……」
|「まだ喋れるんだ。我慢強いんだねぇ、普通は頭が壊れちゃうんだけど」
|
| 薬物で鎮痛しているが、それでも耐えきれない痛み。
| 体を寸断され、死なないよう、縫合されて焼かれた痛み。
|
| なにより投与されたせいで現実感こそ薄まるが、目の前で自分の肉体が失われていく。
| 龍之介の犠牲者のほとんどは、ショックで死ぬか狂う。
|
| 卯月は……そういう意味で不幸であった。
| 地獄を。理不尽な拷問を目に焼き付けながらも狂うことができないでいたのだ。
|
| もう、助からない。
| 失われた四肢、解体された腰、垂れ下がっている腸。
|
| 一縷の望みも無ければ、人間はパニックも起こせない。
| ただ、絶望に沈むか狂気に落ちるばかりのもの。
|
| だが、卯月の目には……。
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/人:/:::::::::／￣乂{::::::{ ＼{ ｛｝ 〉｀）リ ノィ{::::::::}:::/〉
{:{:::::{:::: ／{:／∧ ＼: ＼ ｀ー―=彡 :{ぅ{ﾉ::::/:}‐'"
乂:::::＼{::: { り ￣ 乂}:／}/
＼:::::{:::::＼＼〉 }′
〉::::::::::::::＼_ , ―‐ ､ }
/::::::::::::::::::::{八 {／＼ :/ / 卯月！！
!::/}:::::::::::{::〈 ＼ ＼ ＼::/
{/厶{:::／＼〉 { 、 ￣
八:{＿ ｜ ::..... /
/ ｀`ヽ､、 :::＞ ＿/
＿:{ ｀`ヽ､、／
――ー＜＿___:{ ｀ヽ、
〈＼ /
＼ .∨-｀ヽ、 /
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| 突然の闖入者。悲鳴のような雄叫びを上げて飛びかかってくる若い男。
| 龍之介の反応は早かった。
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| 素早く、的確にメスを投擲。男の眉間に一直線。
| 両者の距離は５メートル程度、男がメスを左手の平で受け止めた一瞬で龍之介は愛用のナイフを抜く。
|
| 振りかぶる男。格闘の経験はあるようだが激昂が動きを雑にしている。
| 殺すのは容易い。だが聞かなければならないことがある。
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| お前はどこの誰で、どうやって入ってきた？
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| 空振りする拳。隙だらけの脇腹にナイフを突き立てる。
| 誰だって攻撃の瞬間が一番無防備だ。
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| 今の一瞬で十回は殺せた。
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| 勢いそのままに突っ込んで、作業机に激突する無様。
| だが龍之介はそれを見ていなかった。
|
| 目の前に広がる暗黒の魔力球に気がついたのだ。
|
| 誰だって攻撃の瞬間が一番無防備だ。
|
| 自分自身を囮にして展開した遅行型呪詛の弾丸十発が一斉発射。
| だが龍之介は悪魔を独力で解体していた不世出の異能者。言わば殺戮のプロである。
|
| 多少の魔力攻撃ならば……。
|
|「素人相手で助かったなァ！」
|
| 背後から冷たい声。思わず振り向く、作業机によりかかり、血と汚物を浴びた男がしかし平然と魔力収束。
|
| 前後から呪詛の弾丸が放たれる。逃げ場はない。
| ならばと踏み込んだ龍之介の足に、魔力の棘が突き刺さり絡みつく。
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. // : .:.:.:.:. ′＼ ∧＼:. : :‘, : ::. : : :.:.. :.:.:.:.. : : : : : : : l
// : .:.:.:.:.:.:! ＼ﾍ'"＼:. : ‘, : ::. : :.ﾄﾍ- ､::. : : : : : : !
/ｨ .:.:.:.:.:.:.:.:.| ／ ヾ ＼:. |:, ::.:.:. : | ヾ;.:. ヽ::. ::. : : : : | お前っ！？
ｌ|│ .:.:.:.:.∧:.:|.､／:: _,. -‐ｧ ＼j ∨ﾄ:.:.:....:|:､ l|.:.: }:.:.:.:.:. : : : :|
|!│.:.:.:.:./ !:.ﾊ / i! リ ∨:.:.| ﾉ:.!.: /:.:.:.:.:.:. : : : .ﾊ
l 乂.:.:/ ∨:} i!/ ∨:| :.: /:.:.:.:.:.:.:.:.:. :.:. : :.ﾍ
jﾉ lリ u ∨ ,ｨ{}:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. :.:. :|ヾﾍ
′ :, ＼.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:..:.:.:.:.| ＼
,ノ ＿ j : : ＼.:.ﾄ､.:.:ぃ.:.:.:.:.ﾊ,，へ
｀ヽ._ ' ／ ／} /: : : ヾ ＼ﾍ｀／::::::::::::::::＼
l ／ ／;__/ /: : : ,..イ::::::::::::::::::::::::::::::
｀＾｀ ´＼j:/ ／: : : ／:::::::::::::::::::::::::::::::::::::
ｆ ／: : : : ／::::::::::::::::::::::::::::::::::::::／
ゝ::: ／⌒ヽ.: : ／::::::::::::::::::::::::::::::::::::::／::::::
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|「喋るな、死ねよ」
|
| 拳が外れたときに用意した魔力の罠。
| 魔力の総量が桁違いの癖に、精密動作も怠らぬ凛からの伝授。
|
| 慎二は龍之介を『異端審問官』だと思っていた。
| ならば手加減も出し惜しみもしない。できる相手ではない。
|
| 呪詛の弾丸は少し強固な魔力耐性があれば耐えられる。
| 例えば諌山冥なら無傷で突破するだろう。
|
| だから囮に囮を重ねた本命の射撃。
| 呪詛の大槍が顔面に直撃し、龍之介は倒れた。
|
| 肩から上が完全にミイラ化し、倒れた音は枯れ木のように軽かった。
|
|「卯月！」
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. / ／ |.: .: .: :／/.:|: . . .|.:|::込 ‘、 /,心ｿ.:|.: .:.:.::. ...{. . . |
／ |.: .:／. ./.:.:.|: . . .| |:::::::::＼、 ,｡ど／.:.:ﾊ.:::..:.:. . .|.... | しん、じ……さ、ん？
| ／ j／. . ../.:.:.:.:|: . . .l |::::::::::::::丶､ ,。(ノ::::⌒7:::::}ﾍ::.::: . .|. . { :|
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| 慎二が龍之介を始末するまでの間に、『万魔』は優しく卯月を下ろしていた。
| 血の抜けた、冷たい体。それでもまだ。
|
|「……」
|「ま……た……たす、け…られ……」
|
| 虚ろな目は、何も映していない。
| ただ『万魔』を慎二だと思いこんで話しているだけ。
|
| 抱きしめることも、頬を撫でることもできなくて、『万魔』は正体不明なの後ろめたさにうろたえた。
|
|「お前、『また』って……？」
|「あり……が…と、う………………だい……す……」
|
| 悪魔に襲われた夜を、いつ思い出したのだ？
| そしてもしかしたら卯月は、卯月は……。
|
| その上で、『異端審問官』の拷問に耐えたのか？
| 慎二のことなど何も知らないと。
|
| 何がこの普通の女をそこまで強くさせたのか。『万魔』は得体の知れない感情を抱いて身震いした。
| 吐き気。怖気。本の二回しか会っていない。
|
| いや、最初の一回はカウントしないから一回か？
| とにかく袖振り合っただけの、他人も同然の。慎二のことなんて何も知らないのに。
|
| 知らないくせに。
|
|「だか…………ら…………お、ね…………が…………」
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|::::::::::::::::;::::i:,とつﾟ~:::::::: ｀ ~:::::::::ゝつ:;::::::::::::::::::::! ;::::::::::::::}
/|::::::::::::::;:::::ﾊ il ′ ;j ノ ::::::::::::::::::|＼ ;::::::::::::j
/ ::::::::::::::j:::::l::乂; jl ;::ﾊ::::::::::::::::|'.､ ＼!:::::::::::|
/ /|::::::::::::j!::::ﾊ:;⌒ ､ , ; ! .{:{/l:::::::::::::::|::::', :::::::::::; 殺して。
,..:' /::::!:::::::::::j:::::lヽι ｀ ー 一 ´ /, 乂':::::::::::::::::!:::::ｌ ;::::::::::;＼
/ /::::: |::::::::::;::::::::::ゝﾍ /-:'::::＼:::::::::::|::::::l ,:::::::::∧::::'､
/ /::::::::::|:::::::::l:::::::::::::::::::＼ ι':::::::::::::::::::ヽ!::::;::::::::|/::::::::/ ;:::::::}
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/ ,.:::::::::::::::::l:::::::::!::::::::::::::::::::::::r＜|｀ __ ´_ l＞､::::::::::::::::::::::://::::::::;::::::::/ /／＼
{ ,:::::::::::::::::::::|:::::::|::::::::::::::::::::::_j ｀i 「 |- ､::::::::::::::;:/:::::::::j!:::::/ ´ :}
} /:::::::::::::::::::::::|::::::|:::::::::＞ ´:∥ └､ r‐':| , ｀ ＜乂::::::::::j!::::/! /
乂::::::::::; --一|::::::､丶` /＿ _ ./ || l ,.. -一ﾐヽ ⌒ヽ-‐;:::::/‐- _ ／
,.:':::::::::::::/ / ＜::::::; ー--一 |-_-_-_-＞､,-x／_-_-_-_-} }｀`〜;､、 -＼:::::{ー‐ ､ ヽ ,....--.... _
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| それだけは、その言葉だけははっきりと。
| 『万魔』は圧倒された。どうすればいいかわからなかった。
|
| 治癒の術を使えば延命は容易かろう。
| だが傷口は縫合され焼かれ、切り離された部位は無残に解体されている。
|
| 失われた四肢は戻らない。内臓のほとんどもない。
| 薬物で生かされているだけの卯月。助かる目はどこにもない。
|
| ……いや。
|
| 『万魔』はもう一つ手段を持っていた。
| 卯月を喰い、『万魔』の僕として産みなおせば……。
|
| だが、だがどうなのだ？ 『万魔』はトミーロッドを思い出し自問する。
| 生み出した僕に生前の記憶はない。産みなおし、外見を卯月に似せたとしても、それは卯月ではない。
|
| でもだが……だが……。
|
|「死ぬな、島村卯月……死ぬな！」
|
| 合理的ではない。複数の感情が渦を巻いて言葉にできない衝動になっていた。
| 『万魔』は口を開いた。顎が外れ、醜い牙の並んだ巨大な口が胸まで開く。
|
| すぐ近くに慎二がいることなど気にしてられなかった。
| 彼が恐れるから、そして恐れられて傷つきたくないから、最近はずっと人の姿を保ってきたのに。
|
| 卯月を頭から丸のみにして、分解して、ありったけの魔力で生前の記憶が残るような特別製の僕に……。
| 僕、に……？
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∨二二二二＞ { ＼二二|
∨二二ﾆ／ ／ ∧ l ＼ ＼二,
∨二ﾆ/ / / ／ ', :| / ＼ ∨〉
∨ﾆ/ / 厶イ ｜ /! | | ＼ ',
{_/ |: / ―― 、 l /｜ ::| | トミ=- |
,．'´ :|/ ┬―==ミx, ﾉ 八 :|＿|＼ | |
,．'´ . :/l ｛ / ハ ｢ ＼{＼{ヽ ∨ / /
,．'´ . : :/{ | 乂ツ /⌒丶 ∨ / /
￣￣´ . : ／', | / ハ ＼, / /-<
,．'´ . .. . : :／ 八| / 乂ツ ノ/ /´ ｝
. . : : : : . : :／ | } / /ﾉ /
. : : : : : : : . . : :，'’ ＿_从 ／ /__／
: : : : : : : : . : : : ::，'’ ／ .:.:.:.:.沁. r― 、 ＿.,．'´ /: : | うう、ううううう……ッ。
: : : : : : : : : : ::，'_. ┌‐┘.:.:.:.:.:.:.:〈沁. ￣｀´,．'´ /: : : |
: : : : : : :.:／:，'’ ＼ |.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. l.:./＼ ,．'´ . : :／: : : : |
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| そして、悪魔として永遠を生きさせるのか？ 普通人に過ぎない卯月を？
| 『万魔』とて復讐がなければ狂気に落ちていただろう、いや、自分が正気だとは思っていない。
|
| それは殺すよりも残酷なのでは？
| 『ネクロノミコン』によってヒトに戻れる可能性がある自分。
|
| もしもそうなってしまったら？ 卯月を一人永遠に置いてけぼりにして行けるのか？
|
| ……『万魔』は気付いていない。
| 自分自身も、話したこともないこの女に想像以上に情を移していることを。
|
|「ありがとう、ターニャ……僕がやる」
|
| 脇腹から血を滴らせ、紙のように蒼白で。
| 慎二が礼を口にした事にも気づかず、『万魔』は子供みたいにいやいやをした。
|
| 後ろから抱きすくめられる。ぎとぎとした粘液が慎二の袖を汚した。
| 腕の中の卯月を差し出そうとして、慎二が重傷で寄りかかっていると気が付いた。
|
|「泣くなよ、合理的じゃない」
|「そんなの……知ったことか」
|
| いつの間にか零れていた涙を慎二がすくう。
| そして、馬鹿にするみたいに、でも優しく微笑んだ。
|
|「間に合わなくてごめんな」
|「……り、が…………と………………」
|
| 眼を閉じ、微笑みながら。
| 卯月は逝った。
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／{
/{ ／ レ'´ ーァ
/. " ＜__
/!/ ／_
、 { ￣／
ヾ｀ /＿,
', ﾊ ／
} r ､ く.
ｊ,, ヽヽ､ ＜｀
〈 } } /ヽ ゝ
} i_j:::::::ヾ ,,..＞
/ ':::::::::::＼ ,,.___'"´ﾞ´Y´
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| 『万魔』のように高速移動手段のない『弓兵』がたどり着いたとき、すでに何もかもが終わっていた。
| 彼はうずくまって動かない慎二と『万魔』、そして近くに残った血痕を見比べた。
|
| 逃げた『異端審問官』を追跡するか。
| 『弓兵』は即座に決断した。
|
| どうせ、自分たちは『教会』に眼をつけられているのだ。
| それよりも、慎二の傷が深い。
|
| 早く処置しなければ命を落とすだろう。
|
| 『弓兵』は嘆息し、うなだれたままの少年少女に歩み寄った。
| 少なからずの無力感。
|
| 夜ごとの悪夢のように親しんだその感覚は、何度会っても馴れなどしない。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
|三三三三三三三三三三三＿7 /〈 〈＿_ ./ /７｜./ ∧＼ ./ /＿_〈 〈＿_ / ∧＼ 〈〈 / / 〈〈.∧∨,/三三三三三三三三三
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☆ 次回予告！
並べられた三つの棺。
注がれる絶望と妖虫。
それは、間桐臓硯の悪夢の魔術。
おぞましき、怪物の錬成術。
作り上げられたる悪鬼は三柱。
三匹目の『万魔』同型、間桐桜。
強化超過の破滅型強化人間、間桐雁夜。
そして、三柱目は……。
次回、最終幕二十七話『怪物』
果てに見るのは破滅か死か。
2020年もお付き合いくだすった心広い読者様。
本当にありがとうございます。あなたの存在が、私の心の支えであります。
では、来年も現在のペース、月二回を維持していきたいと思います。
よろしくネ。
では、よいお年を！ あるいは、あけましておめでとうございます！
旧年中はお世話になりました。
来年もよろしくお願いします。
良いお年を！
旦那にリスペクトがない龍之介って可愛げZEROだよな
何から何まできっついなあ…
良いお年を
四騎士がせっかく忠告したのに
この旦那はcoolが足りなかったか
ジャンヌがいるからな
/ ｉ
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＿＿ / .}
, ＜ ＞ ､ ./ ｉ ｀ヽ、 『戦闘報告
／ ＼ , ＜ { | ＼
/ , ｨﾆﾆﾆﾆ= ､ ∧, ´／ ∨ | ＼ 諌山班 ロビン』
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｀ヽ { ｉﾆﾆﾆﾆ γ‐‐ ､ﾆﾑ / { ー--‐ ´ ∧
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／￣､ ﾏﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾉ .ｉ ∧
..／ ヽ` ､ﾆﾆﾆﾆ＞ '´ ∨ ,ｨﾆﾆ＞､ ｉ
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|「先日のやらない夫君への襲撃で冥さんは死亡。
| 班員の天竜とシグは冥さんとの交戦で重傷を負いながらやらない夫君に下りました。
|
| 同じ戦闘で『カトルカール』も一名が死亡。
| やらない夫君の戦力評価をもう一段階上げるべきですね」
|
| 報告書を読み上げる鷹野三四。やれやれと言わんばかりにため息。
| 彼女はやらない夫に興味がない。それよりも、『カトルカール』の戦闘結果に不満がある。
|
|「おのれやらない夫！ 奴が居るから東京は無茶苦茶でおじゃ！
| おお麻呂絵！ 我が娘！ あの子が死んだのも全てやらない夫のせいでおじゃる！！」
|
|「……なぜ麻呂殿がここにいる？」
|「儂は知らん、貴公が入れたのではないのかの？」
|「殺せ！ やらない夫を殺せでおじゃる！」
|「勝手に入ってきちゃ駄目ですよ、麻呂さん」
|
| 警備員につまみ出される狂気の元『四天王』。
| 芦屋道満麻呂はボケてる上に片足でもアクティブに動き回るから困りものだ。
|
|「陰陽師はボケる家系なのか？」
|「使い魔を多重に並行操作するのですから」
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,ノ､ ,′ '.
| ＼ / ヽ
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∨ ＼ :::..':,│ ,:':,:' ／ ,::.:.:.:.:.:/
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{:ミ＼ 〉::f ''"´ ヽ.:./ 7/ 脳への負担は大きかろうな。
_У ゝ=` ､∧ r＼__,,,.. -rrrｧ::'’'' / くくく。
／::小 '"::} r''ヾﾐ¨三¨´:ミ、 /ｲ:､
＿__／/:.:.:/: }:, r‐r‐< / | :、 ／/:.:.:l: :＼
／ : :.:.:.: ':.:.:./: .ﾊ.!ﾄ､_ ヽ__／ ｀7''>:､ / /:l:.:.:.:!:.: :..＼
／: : : :.:.: : i:.:.:.' : . : l＼ ｀ ー======イ / ｨ: . |:.:.:.:!:.:.: : : :＼
´: : : : : :.:.: : :! :.:.l : . : .! lヽ´￣￣｀ヽ イ´ /: .│: : l.:.:.: : : : : :＼
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| 枯れ枝のような指で己が額をコツコツ叩き、間桐臟硯が嗤う。
| 超能力で脳を酷使するフリット・アスノを揶揄するように。
|
|「やらない夫の戦闘評価をこれ以上上げると、『四天王』を投入せねばならなくなるぞ？」
|
| 現存する『四天王』は上杉謙信と北斗ケンシロウ。
| 麻呂はあの通りだし、夢宮アリカは治療中に出奔して行方不明だ。
|
|「『狂死』とは連絡はついたか？」
|「着信拒否になっていて、杜王町の家も留守です」
|
| 殺し屋として投入するには最高の手合なのだが……。
| フリットは頭を悩ませる。できれば元『結社』の『九鬼』や『グレン団』は使いたくない。
|
| 奴らはまだ新参だ。手柄も与えたくないし大きな顔もさせたくない。
| やらない夫と同時に国際手配にしているが、ミストと『四ツ目』を失ったのも痛い。
|
| 臭いものを一斉処分してしまったツケが押し寄せている気分だ。
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{ ` ｰ- ＼ } ヽ
}＼､ ﾐZ⌒ヽト :} / }
′ 丶 ` ｰ- ／ ｀ヽト､ :} / /
{ ＼ ｲ ／ ＼ムイ 〃 ｧ
､ , =ﾐ r彡 r==ミ ､ j ／ ／
､ｰ＼ / ヘ} { -‐＼ ､_ } / { 彡
} { { | | 仗__〕 ｀¨ ム-=＝!
. 八 く| | :} 仗¨〕／
>、 ﾊ `.! | :} -‐ ¨ ﾄ、 }
／ｲ r'人 j / } }: ﾉ 伊集院の班はどうだ？
∧{ﾊ、ﾉ z彡 {､ r , -‐￢‐=ﾆ ノ ／
rｰ{ ＼ く、 ＼ / ｨ ,__,_, ｀V
rｰ┘ ㍉ ＼ ム、 ＼ ＿｀ `Wj
rｰ┘ ㍉ ﾆ=-＼ ｰz ィ , ﾍ / ≧=- ､
_rｰ┘ ㍉ ﾆ=- ､ ゛{ }
{ ㍉ ／⌒ヽ 从, =ﾐ /
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|「杏子ちゃんはやらない夫と親しかったので、いくらあの淫獣院がついてても難しいでしょう」
|「浮いたロビンを受け入れてもらうには最適じゃろうな」
|
| ロビンは元々は麻呂の弟子で、袂を分かった天竜シグの他に龍田や石田、横島とは交流が深かった。
| いまや『血族』に残るのは横島一人だが、それでも心強かろう。
|
| 生まれつき骨がなく、外骨格に頼って生きるロビンだ。
| 異形の外観から『血族』の中でも浮いているのだ。
|
|「ロビンは私がシロッコさんに紹介しましょうか？」
|「考慮しておく」
|
| パプテマス・シロッコは『カトルカール』やらダースベイダーやらのサイボーグ兵士を実験投入している。
| フリットは彼らを重宝していたが、ロビンの技術をたやすく提供する気はなかった。
|
|「そうじゃ、陰陽師……シックスの『五本指』はどうじゃろう」
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,.: ´ -‐=ミ ｀¨=‐:.､
, ' , -‐ = ミ ﾆ= ヽ
./ ／ .／ ／ ,ﾊ ',
/ / ／ ／ / ', ﾊ
./ / / ＞ ハ ｉ ｉ
.ー=彡7′/ _,..ィ´ ,ｲ .', ｉ .|
／ r fぅ:.、 ／ _,斗‐ｉ | .'
／. __/|｀￣´ ' .: fﾃぅ| | .',
/ ,ィ´{ｉ.从 ／ |::: ｀¨´| | ヽ_
./ / {ｉ ／、 ′ ,厶 八 .7´ﾀ￣｀ヽ
／i {リ. ＼｀こ'´ イ i ｉ `ｰ'" ,/ ',
/ 八 {ｉ `ー ´ .| 八 -‐.;′ .ｉ＿＿__
./ / ＼ ㍉、 ＼ | | ヽ ｉ} . |: : : : : :.`:ー----:..．.__
ｉ ハ /〉＼V´ ヽ | | ｉ} / |: : : : : : : : : : : : : : : : : :｀ヽ
| .ｉ | ｉ ′ ﾞｉ | ! ｉ} ,′ |: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :',
ｌ .| | | i ｉヽ ヽイ ﾘ /ｉ}=＝＝＝ミ: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : ｉ
リ 弋.'､ |i |: : ＼ ,' /: :| ｉ i: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :|
ヾ 八: : : :.＼ { ,.': :.弋_} |: : : : : : : : : : :.／.: : : : : : : : |
ｉ|/ .ヽ: : : : :.＼八 ／: : : : : :| |: : : : : : : :.:.／ : : : : : : : : : : |
ﾘ ＼: : : : :｀ﾆ=: ':´: : : : : : : :| |: : : : ___:／: : : : : : : : : : : : :ﾘ
′ ｀¨￣⌒ヽ: : : : : : :._,:イｊ ｉ¨￣´／: : : : : : : : : : : : : : /
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| シックスが陰陽道の中でも木火土金水それぞれの専門家を作ろうと試みているメンバーである。
|
| 現役を引退した後の道楽めいた研究なので、いまいち成果は分からない。
| だが、五人とも特定属性の達人だ。
|
|「シックス本人は行方不明、麻呂は痴呆。
| ネウロは出奔して、麻呂絵もできる夫もおらん」
|
| 『血族』における陰陽の道は閉ざされかけだ。臟硯の目が語る。
|
|「やらない夫を捕縛すれば一人を『四天王』に格上げし、予算も人員も増えると約束すれば」
|「実力的にも妥当な連中でしょうな」
|
| フリットが同意を示す。
| 妥当というか、人手不足の『血族』がひり出せる最後の手段に近い人選だった。
|
| 先の『結社』撃滅作戦では戦果以上に被害が大きかった。
| ドルキ班と冬悟班は全滅、ミスト班とやらない夫班は消滅。
|
| 先代班は解散し、アリカ班とできる夫は消息不明ときたものだ。
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,.ｨ＿_＞､ﾄ､ﾄ､）ヽ､
､ ,r(":::::::.ー＿ノj.ヽ｀）'"ヽ
_ｿ":::::::.::〃_＞::::::::-=ミ､:.三彡
it（ ::::::::::::::.〃=-ミ､ヾヾヾヾ:::.ノt,,,,,
､,,t,｀:::::::::::.:::::ゞ-::::::::::::::::::::j/jﾉ::::::::..ノ
メ''::::::::::::::.::::::::ヽ:::::ヽ::::::::::ヽヽ::::.:::::ｰ､ヽ
､ゝｲ::::::::::::::.:::::::::::＼::::＼:::::::}::}::: :::::...､）
t､,:::::::::::::: |::::ヽ:::ヽ:::}､:::::::＞乂::::.:::::..ヽ''''"
､､ノ::::::::::::::.、:::}:::::jノ＝彡'_" ヽ::∧ . ）
//::::::::::::..j‐=≦ ゞ弐ｒ'ゞ' |! . 三彡
ヽ;;:::::::::::.テ戈rｯ癶 ''〃 iヒﾉ '"
ｰ7;::::::.∧ =彡i!| 「{ }州 ＞
＜从〈∧〃 iＬ ッ ! 乂 }}乂
／ ,〉 .ｊ人＼_ヽ ｀〈 ! jハ
／ / ヽﾊ∧ '´二ヽ. / ､_
／ _／ {{ |＼ ７´ / ! 》 V ヽー＝≦
／ ／ ヾ | ＼ ｀う /: / //／三 ｝三三
／,.-―〈＼,. ----rr――――‐∧ `ー=≦: / /／三三/三三三
, -／ _＿ ＼＼ | {三三三三三ハ ､ ﾐ / ,. -=≦三: ／三三三
／_／ ＼ / |--､＼三三三 ／ j} ミ ミ､ /／三三三三三三三三
ヽ 〉ヽ_/_ 〉〉＼＿//＝＝＝彳 ___／三三三三三＼￣￣￣
､＿ 〉「 O Ｖ/≫≪ミ{ { ／ 三三三三三三
ヽ＿_,. 〈＿/ i| O O ＞≦三ニミ〉＼＿＿_／ 三三三三三
三 /二二二| O／三二 ミ/ / 三三三
三//////7777三三三二 ミ{ / 三三
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| 残るのは北斗ケンシロウ班とジャギ班。
| そして杏子班だけである。
|
| 臟硯は口にこそしないが、ジャギによる『九鬼』と『グレン団』の指揮を黙認していた。
| 彼らなしにはもはや『血族』は成り立たない。
|
| 間桐の一族は『万魔』に皆殺しにされた。
| フリットの超能力者どもは実戦に耐えられる能力がない。
|
| 藤堂志摩子を幽閉しながらも、臟硯が実験を握らずにフリットに任せているのは、この難局のせいである。
| フリットが乗り越えられるならよし、波に飲まれて潰れても元『結社』勢力で対処すればいいという立場が臟硯に余裕を与えていた。
|
|「『五本指』がしくじるようなら、本格的に『狂死』を探さねばなるまいな」
|「実力的には『四天王』ですからね、彼から剥奪した地位を返却されては？」
|
| 事故で肉体を失い、逆に魂だけを失った一般人の身体に憑依している『狂死』。
| 『血族』の常識で考えればただの悪霊であるのだが、理性的で、なによりも生前の粗暴さが失われた。
|
| 肉体の影響故か、偽りの家族に執着を見せる以外は『四天王』にふさわしい。
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ヽ: : : : :＼ i く V
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| 臟硯は内心でほくそ笑む。
| 皆殺しにされた間桐の一族、生存者は臟硯本人と他三人。
|
| 現在行方不明の慎二には期待をしていない。
| 適当な人材とつがわせて血を残せばそれでいい。
|
| 遠坂から養子にもらった桜は正確には間桐ではない。
| しかし、間桐にふさわしい肉体に改造しつつある。いずれ臟硯手ずから子種を仕込んでやるつもりだ。
|
| そして、才能に恵まれず、精神も凡愚のそれである雁夜。
| いままでは、誰よりも役立たずだと思っていたが……今では誰よりも期待している。
|
| 強力な虫を注ぎ込む事で精神は破壊した。
| 間桐屋敷廃墟の地下実験室に繋がれた雁夜は命ぜられた通りに動くだけの人形でる。
|
| しかし、完成すればその戦闘能力は卓越したものとなるはずだ。
| 臟硯は遠隔操作で彼を操り、最終的には彼になり変わろうと画策していた。
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__,}／ / { ヽ ＼
ヽ / /／ i ＼ ≧=＼
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|i{ / / /! i､ ヽ ＼ ￣厂!二ﾆﾆﾆ〉
|i:} / / ／ /ヽ i:.:.＼ ＼＼{ﾆ|ニﾆﾆ/_
ﾏ/ ／ ／ /:.:.:.', i __ﾆ=刈 ＼{ｨ -､ヽ|ニﾆ/ ﾆ=
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_/／}／ヽ!/ 代赱ｿ. ',{ :.:.:.〃＜ﾒ/￣ /二r- ､i:i:i:i:i:＞- __ ＼
/ ﾆ=-､i:i:}ｲ .∧: : : : : } ::. 〉}ヽ/ /ニニ> 〉i:i:/i:i:i:i:i／i:ﾒ､ ヽ
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/ ＼ r､/i:i:i:i:i:≧=i:i:i:＼ ‐= ﾆ- / ､ /i:i:i:i:i:i:i:i:i:/i:i:i:i:i:i i
／} /i:i:i:i:i:i:i:i:i:i／￣}i:i:i:i＞,,｀￣ / ___〉>r‐, /〉i:i:i:i:i:i:i:i/i:i:i:i:i:i:i:i |
／ , =ﾆ/i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:iﾑ_ |i:i:i:i:i:i:i:＞- Ｙ‐'7/r'i:i:i:i:i:i:i:i:i//i:i/i:i:i:i:i､ {
〃 ヽ二rヽ__i:i:i:i:/‐----{Ｉ:Ｉ:Ｉ:Ｉ:Ｉ:Ｉ:Ｉ| ／｀' _ ＜i:i:i:i:i:i:i:/{i:i:i:i:i:i:i／/ i
∧〉 ￣´ !i:i:i:i:i:i:i:i| _ ＜i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:/ﾒ､i:i:i／i:i:i i
|i:i:ヽ |i:i:i:i:i:i:i:i:| _ ＜i:i:i:i:i|i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:/.i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i| |
.}i:i:i:i:/＞‐=ﾆ_____ｨ/-‐-‐‐‐‐!i:i:i:i:i:i:i:i|´ニﾆ|i:i:i:i:i:i:i:i|i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i{i:i!〈i:i:i:i:i:i:i:i:i:i |
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ﾏi:i:i:i:i:i:i:i:i:／i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:iﾆ=≦ﾆ=‐-=ﾆニ{i:i:i:i:i:i:i:i:i:|i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:}i､i:i:i:i:i:i:i:≦／ |
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/ニニニニ､ニ＼}ニニニニニニニニ､ニニニニニニ≧={ {i:i:i:i:i:i:i:i:i:i/ {
|lニニニニ三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三ニニニニ
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| そう、なり変わりである。
|
| 臟硯は江戸時代から生きる『万魔』と同型の悪魔だ。
| 『血族』に深く食い込み、地位を定着させることで秘密を秘密のままに生き延びてきた。
|
| だが、組織に属する以上は永遠に同じ個人でいられるはずがない。
| いつ誰が不自然な長命に気づき、臟硯を糾弾するか知れたものではない。
|
| そのため、臟硯は歴史の節目節目のどさくさに紛れ、別人になり変わって来た。
|
| 前回は太平洋戦争だったし、その前は明治維新だった。
| 今回は桜の『子』として生まれるつもりだったのだが……。
|
| 十五年前の雁夜の反逆と『弓兵』たちのせいで有耶無耶になっていた。
| 慎二と桜をつがわせてその『子』に生まれる計画も流れて、内心穏やかではなかった所でこの状況である。
|
| 雁夜を祝福された完成させて、臟硯が操り成り上がる。
| 強くてニューゲーム、チート転生顔負けの超人スタートだ。
|
| 正直楽しみで仕方がない。
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{ / ::{ { { { / ／ ／ -=ﾆ ﾉ }
∨ ::＼ ､ ､ ､ムイ イ -‐ ¨¨Z≦､ ー==彡 ／}
{ ::／ ::＼ ／ /
、 / ＿ ::ヽ ｰ=彡 }
〈 ＼{ ,ｨ=≠ ¨¨¨` ::」 /
∨ ヽ ≠＝=ミ / r_巧≧ ＼ `ｰ===彡ヘ
〉､ } ィ_巧≧x} .: } 厂
＼ﾉ ノ / : { / / ﾉ
〈 / : ヽ . :} }⌒ヽく
∧ { , r ､ }::. . : :} }て } )、 ……所で、再三の警告にも関わらず
∧ ／` ー ー＜:::: . . : : : } } }' { 〉 ジャギの部下と『教会』が揉めた件だが。
∧ ′ / ｉ i ｀ヽ:: . : : : } }_ノ ﾉ ／
ﾊ { { /从从从从 } } }::: } : :/ 八彡く
} } こ二二ヽ / :ノ ゝ〔
ﾑ人＿__ ｨ ｀ーーー ､ xく ､ ／ ヽ
イ / / / {i } 、ヽ ＼ ＼ ヽ ＼＼」 彡
r ＼ { / { { ハ } } }i } } ／ Υ
＿厂 ヽ{ } ｉ{′/ / ﾘ / ﾘイ }
r┘ )人} 八 { / /／. :´ /＼
-=ﾆ { ＼/ x≦- ､ / :/〉、
-=ﾆ { }／ ＼ .′ :// /`ー- ､
´ ゝ、 ∨ , =＝ミ＼ { // ≧=ﾐ ＼
／ （ ∨ , ==ﾐ ｀ヽ {_:// / -‐ヽ ﾆ=-
／ { { r‐.､ } }≧==={ / f⌒}) ﾆ=-
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|「ジャギ本人が呼び出しにも応じないし、姿も見えん。誰か奴の首根っこを捕まえられる奴はおらんのか？」
|「お言葉ですが、『グレン団』と『九鬼』からもジャギの居場所と連絡先の問い合わせが来ています」
|
| 憤懣やる方ないフリットに、三四が肩をすくめた。
| つまり？ 臟硯は愉快そうに嗤う。
|
|「最近のジャギの専横は目に余るものがあったが……フリット殿が粛清した訳ではないと？」
|「冗談ではない！ この後に及んで内部で争うほどの間抜けではないつもりだ」
|
| 下剋上で粛清祭りを開いた本人の言葉とは思えない。
| そんな平和主義者ならば、志摩子様の監禁や先代の隔離、ミストや四ツ目の指名手配などしないであろうに。
|
| だが、それはともかく。
|
|「ジャギと、奴の子飼いの忍者が何を嗅ぎまわっておったかじゃな」
|「と、おっしゃると？」
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/ﾍヽ ﾉ ｀ー-- .ヽ /／ ´ イ
!ヽト､ 〈 ｀〉〈 ,..ィ´ }/;i＼
｀ヽ､ヽ ＼_＿＿＿__ /ハ入／≡ﾞ'′'ﾍ;i;i;i;i;i丶 ジャギは、十中八九死んでおる。
;i;i|::ﾞ､ヽ ´, ＼三,ゝ'"ﾌヽ ' /ー-､´ ﾉ;i;i;i;i;i;i;i;ヽ
;i;i|:::::::.ﾍ / "／ ´／ Y | ､ ヽ ,ｲ;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i＼
;i;i|::::::::::::ﾄ. ヽ ,ｲ｀ ｌ | ﾉ ｀ｰ┐/ !;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i丶
;i;i|::::::::::::| i ヽ ／､ ￣｀ヽ-', /, | ﾚ´;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i
;i;i|::::::::::::| |＞ ､! ! ‐- ,. -－ 二ヽ ／::|;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i
;i;i|::::::::::::| | ヽ ＞ヽ. '´ ‐ ´ / i::::::|;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i
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| ……ジャギが襲撃されたのは、病院帰りであった。
|
| オズに暴行を受けて霊夢が入院していた一週間、ジャギは毎日見舞いに来ていた。
| だが合わせる顔がなく、見舞いの品は毎日、黄泉に渡すように頼んで帰った。
|
|「アンタ、デカい図体の癖に腰抜けなのね」
|「なンとでも言いやがれ」
|
| 霊夢を夜中まで働かせたのも、不用意に『十字軍』なんぞに近づけたのもジャギの責任だ。
| 責任を感じるルカには、『教会』側が納得するように罰を与えた。
|
| だがジャギは、自分を罰する訳には行かなかった。
| そんな感傷に浸る暇はないはずだった。
|
|「キル、黄泉。何も言うなよ」
|「分かってるわ、毎日言わないでよバカ」
|
| 暇なのかなんなのか、毎日見舞いに突き合わせても文句の一つもない黄泉。
| そして、純粋に霊夢を心配するロストスキルに後を任せて帰路につく。
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i::::::::::::;ﾍl ヾ ,,'ﾆ¨--¨ﾆ､‐-''´ヽ:::::::::::::::::!
!:::::::::::l ﾞ ..:.:.:7"::;:::::＿::､ヾﾞi:: :.: ,.ヾ､:::::::ﾊ
::::::::::::iゝ. .:.:.:.:.l::::k'_´_o__ﾞ,!:::7 7;:::＼ﾞ¨" ,!
::::::::::::lゝ :.:.:.:.:ﾞー───‐'.:.:.:.: k'^ヽ、ﾞi ﾉ
::::::::::::ゝ :.:.ｧ''''":::￣￣::''ー'':::ヽ｀ﾟ'-ﾞ_,! 丿
:::::::::::::::〉.:.: ,ｎ :.: rャ:.:.:: z､ :.:.:. .:.:ヾ､:.:.: ,ﾉ …………。
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|::::::::::::l:.: _レﾍ:.:.|:::::!:.:. !:::::|.:.:.:l:::;!.:.:./::i 〉
}::::::::::::!:.: ´ .: ,}:.:|:::::l:.:. !::::::!.:.:,!::;!.:.:,'.:.:,',!
!::::::::::::l.:.:......:.: /:l.::l::::::!:: l:::::::|:.:,!::;!:.:,'.:.:7.! ,ﾊ
:::::::::／i :.:.: ,/::::ゝl::::::し':::::::i.::,!::;!.:;',!:/ ｀ー‐'" }
:::／ ｀ー､"::::::::::::::::::::::::::::::｀´:::ﾚ':!;/:.:.:.:......:.: ,/
:::l : : :: ゞ､:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ｿゝ.;,;＿,,,,／
:;' ; : :: ｀ヽ、::::::::::::＿::::::::/ l
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| 霊夢はロストスキルの腕とルカの悪魔汚染、二つの問題に取り組む主治医だ。
| そしてそれは魔王マーラに腕を奪われた兄ラオウを復活させる可能性も示している。
|
| 北斗の家は問題なくケンシロウが継ぐだろう。
| だが、隔離施設で漫然と過ごすしかない兄を救いたい気持ちも強い。
|
| 霊夢はジャギにとってなくてはならない道具だ。
| 最悪ジャギが死んでも、霊夢がいればラオウは治療できるだろう。
|
| 当然ロストスキルとルカにも治療を続けてほしいし。
| 霊夢本人も悪魔憑きと気功義手の専門家として未来が開かれるはずだ。
|
|「…………畜生が」
|
| なのに、霊夢は『教会』と揉めて、幼い身体に傷が残った。
| 幸い頭部と脳に後遺症は無いが、折れた前歯はインプラントにせねはならない。
|
| どうやって。
|
| どうやって報いればいいのだ？
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ゝゝ } ー_､ }′
(ｰ.| ｀ヽ､ / ……。
／ヽﾉ ￣「
rrーr─＜///∧ ＼ 爪＼
/ `ー` ∨//ﾍ`ー- 廴ﾏﾑ⌒弋ヽ
. } 广￣￣￣ﾏ//ム ∨ﾍ`ヽ､__〉
/ / ﾏ//,ム ヽ V∧ ＼
../ / /ヽ ∨○ ', i{ VC∨＼ ∨
. / / } ﾍ ∧ ',_ノ ゝ _}: Ⅵ ヽ ∨
/ / リ '/ ＼ ', | ,ハ ￣∨
. /￣￣ ,ﾊ '/ ＼ } __,レ'ﾞ ', ∨
.../ ﾊ ＼ '/ {{￣ | ′ 〉
/ / ヽ ＼ } 'v } 〉 ィ
￣＼ / } } 弋 'v ﾉ ／〉￣ ヽ
､＾ ＼ ＼ ＼＿＿ ⊥≠￣ヽ´ / 〉
＼ ＾7ｰ=ﾆ二二二二ﾆ='" ∨ /
＞─､＿／二⊃ ￣ヽ ／ヽ＼ ／
≧s｡., /::::::::/::::::::::{二ﾆ⊃＼ } /_／{:::::}'´
｀{::::::::::{:::::::::::{二ﾆ⊃ ｀ヽ､_ﾉ／と__ノ}／
⌒ヽ┴r─＼＼ 厂 (／／
/ ￣ { ￣{
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| ジャギの悔恨は深く、思考は袋小路であった。
| 身を切る冷たい雨の中、傘も刺さずに歩く巨漢の鉄仮面。
|
| すれ違う人々はなにかいけないものでも見たかのように目を逸らした。
| 逃げるように背を向けた。
|
| 一人の、野獣の如き怪人以外は。
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|i./'|＿＿_
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|/ /:::《ヘ_:::` - ＿＿yiii '::::::::|" l::::::ゝ
' ! " j,,, _ _ :: ,-]､ ―- = -ゝ_ !ヘ il::::::l
l l i.. ヽン .l.. / li_ '"_ﾝ;;ｺl ゛ゝ￣ヽ ,:::::::/
.! | ､ヽ i/ ゞ '"/ ｼ｀"l「 l´ ! _"―|ﾘﾐ,,-, l- " ,,
! ﾘ, | " l } / l , ,, / ｀ ‐ - ';;; " ! ゝ= `ノｯ‐'" 丶
l ヽ l | 二 ｲ / ン_∨ ` 「｀´＿＿二＿￣二,,-∨￣
_二〉 _シ＝ f=/ -il"| 〉" 二v､=' ヾ;;;;''
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| ジャギの痕跡は何も残されていなかった。
| 血は雨に流され、目撃者も監視カメラもなく、遺留品は見当たらない。
|
| だが、ロストスキルもルカも、黄泉も『グレン団』も。
| ジャギの身に何かが起きたことをすぐに悟った。
|
| 彼らは事前に打ち合わせしていた通りに動いた。
| 指揮系統に問題はなく、ジャギがいなくとも悪魔には問題なく対処できた。
|
| それ以外の問題にはカミナと黄泉が対応した。
| だが、『血族』が必要なときのために、ジャギは別のツテに声をかけていた。
|
| ……弟、ケンシロウの『参謀』である。
| ジャギはケンシロウのやらない夫襲撃の後に『彼女』の存在に気がついた。
|
| だが、不用意な接触はせず。
| しかし全面的に信頼していたため、自分に何かあった時には全権を譲ると言い残していた。
|
| 不用意にも。
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／////////////＞ヽ
／/////////ィ´__,,--=＝'＝ｭ
/////////／ , </////__/////}
ヽ/////／ , イ////, -‐´::::::::::::::ヾ これで『血族』の手足は僕『ら』のものになった訳だ。
ヾ// ,イ////／:::::::::::::::::::::::ヽ:::::ヽ 後は時期を見てフリットと臟硯を排除し、志麻子様に帰還いただく。
>'////／:::::::::::::::::､:::::::::::::::';:::::rゝ
ヽ////::::::::::::::::、＿_ヽ::::::::::::';:::ﾊ､_ィ､＿
ヽｲ:::::::､＿; -'´,ｨ､ ヽ:::::::::::i､ﾍ / ヽ￣｀ ､＿ ＿
!:::::::ヾー= ,ｲヾｊ ';:::::::::ﾄ ノrヽ { {
';::::､:::｀ｰ..､ ';:::::::j7´´~ヾｭ｀ｰr' r'ﾉ_)'ヽ
ヽ､ﾆヽ::::ﾊ_＿, __';::::/ｌ: : : : : : :｀Yｭヾ__ｒ,_ｲ r': : : : ｀ー-､
￣ ヽ::::::::::i !:i' ∨: : : : : : : :｀~Y=-'´::: : : : : : : : :r'
＼::::l !|. ∨: : : : : : : : : : : : : : ::: : : : : : _ﾉ
ヽ! ∨: : : :::::. : : : : :: : : : ::: : : : :ハ
Y:: : : : ::::::...: : : :::. : : : : : _ｲｌ ヽ
|:: : :: : : ::::::::. : : : :イ｀7´//j !､
!_:: : : :: :_; ‐-―'´ ∨////ハ '､〈
＿__,ィ｀ー＜_ﾊ ∨/////>､ (
, ィ´/:::::::::: : : : : : :￣', j ）//イ: :', r'_
/ ｌ::::::::: : : : :＿＿_:ﾊ ｨｭ￣: : : : :Y_ｿ
ｌ ';::;イ´:￣: : : : : : :ﾄ､__ ィ ヾｰ; : : : : :lr'
| _,ィ:::: : : : : : : : : : : : : ', ', ヾｭ､: : :/
ﾉィ ｌ::::::: : : : : : : : : : : : : : : :! Yｿ-'
/ !::::::: : : : : : : : : : : : : : : :! _ｒ'ヽ
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ヽ ';:::::: : ::: : ::: :: : : : : : :: ::r'~ｒ=ｭ_ﾉヽｊ
∨ ｀ｰｒー‐､＿: : : : ; ィ´ ヽ i r'ﾉ
i∨ ヽ ￣ !ﾊヽｌ´
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|「……のだが」
|
| 『ケンシロウの参謀』は、闇に溶け込むもう一人の男に親しげに語りかける。
| 黒曜石のように黒い肌。漆黒の神父服。人を安心させるような優しげな眼差しの男。
|
|「うまく行き過ぎている。ジャギを消したのは本当に君ではない？」
|「そうだと言ったら軽蔑するかね？」
|
| 『参謀』はやる夫にしか見せない柔らかな笑顔で頭を振った。
| 面白い冗談を聞いたかのように。
|
|「まさか。ただ君ではないなら対処と報復が必要だろう？」
|「……」
|
| 獰猛に、冷酷に。
| 笑う『参謀』を神父は頼もしげに見つめる。
|
|「最悪、君に動いてもらうけど……大丈夫かい？」
|「ああ、魔力はだいぶ補填できている」
|
| 満足そうに頷くと、『参謀』はリラックスした様子で、鼻歌交じりに立上がる。
| 全ては黒い神父のために。
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☆ 次回予告！
漆黒の美神と野蛮の集大成。
いつの時代も美は野蛮によって無残に打壊されるのが相場であろう。
だがしかし、野蛮が美を知り愛を知るならば？
追い立てる蛮族。逃げる美神。
運命が正しければその行く先は破滅ばかり。
けれど、運命に。
抗うならば。
二人の運命の扉が開く。
次回、最終幕二十八話『道の果ては崖』
果てに見るのは破滅か死か。
麻呂っぽい芦屋道満、最近実装されましたね……？
初期のプレイヤーと描写のズレとドタバタを思い返すぜ……乙
忘れもしません、あれは拙僧がまだ『血族』の『四天王』だった頃……。
/ { ', ',ﾊ ! ┌┘:.:.:|i:i:i:i:ｉ|:.:.:.:.:.:.〕
. / ,' , l| ,｝ ! | | {:.:.:.:.:.:.:}i:i:i:i:i|:.:.:.:.:く
j ! {_ l| ﾊ j | l.ﾉ 人 L_:_:.:.:.:|ｉ:ｉ:i:i:|:.:.:.:.:.:.}
|l! :| ﾍl| ﾄﾍ ゝ､ {ﾉ/ 「 / /ﾊ _〕:./i:i:i:i:ｉ|:.r―ｲ
',ﾍ :| l|| /_＼ l|ﾚ'了 | ＞ミﾄ､ （:.:.:r=ﾐ､iﾉ:_:] .ｌ |
ﾊ ﾍ ﾄ､ l|ハ伐心 ﾍ｛ ,斗rそか㍉l// : }:.{薔ﾘ ./ | |
ﾏ {＼メ＼K弋ﾂ 弋_ソ ﾉ ./ ﾊ ∨ゞｲ./ j ﾊ
ヾゝ./ l| ﾊ / /:i:i| |:i:// /ｲ '.
l / :l| ﾊ ' ! |:i:ｉ/ ｊ/ノ / / l …………。
K :l| .入 ー― | |:ｉ/ ,l|/ / /
l l| ｲ .才`;=x、 ,x≡三| |/ / | { {
| | !∧三三三ﾐ/三三三l ! / j .| |
| | ,j三∨三r=彳ﾍ三三∧ .|/ ./ | |
| | /三ﾐ∧三｛均{フ三≫三ﾍ | ! !
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| 独り、東京の異変を探り続けていた不人気。
| 異能は無く、ペルソナ使いの仲間もいない。
|
| 相談できるやる夫もおらず。
| 話し相手の助手兼弟子も……そんなもの、いた事がなかった。
|
| とにかくそれでも孤独に情報を集める不人気。
| しかし、やんぬるかな。
|
| 彼女は無自覚な異能者である。
| そしてその異能とは『怪異との不可触』。
|
| 不人気のまな板はすべての悪魔に認識されず、また認識できない。
| この世界の理から外れたペルソナ使いやスーパー運命破壊マシーンがいなければ、何もできない一般人なのである。
|
| そのため、街を徘徊して手に入るのは噂話ばかり。
| その多くは『怪人 備府やらない夫』にまつわるものであった。
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（__人__） | ..／}
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(＾ヽ{ ヽ { ./ / . ／ .ﾉ
(￣ ヽ ヽ i ヽ / 厶- ´ ／
.(二 ヽ i i |,r‐i ﾉ. ヽ / ／
ヽ ／ ノ ／ r一'´ ー ､ ￣￣￣）
i { ｲ―イ / .`ー―. ､＿_ .〈￣￣
ヽ. `ｰ '/ / /＼ ＼
`ー ' ￣￣! | ヽノ
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| 『友達の友達が○○○で困っていたときに現れて暴力で解決してくれた小汚いフードの男。
| 偶然見えたフードの下の青白いハゲは、世間を賑わす国際指名手配犯のやらない夫に間違いない』
|
| ○○○には、『ナンパ』『暴漢』『酔っ払いに絡まれて』『親父狩りにあって』『野良犬に追いかけられて』
| 『黒塗りの高級車に追突して』『宗教勧誘』『怪物に襲われて』『モルカーが愛しすぎて』『財布をなくして』
|
| 『暴走トラックにはねられて』『荷物がいっぱいのおばあちゃんが道に迷ってて』『ファイレクシア病で』
| 『子猫が排水管の中で鳴いていて』『モチを喉に詰まらせて』『殺人現場を目撃されて』『新宿駅で迷子になって』など。
|
| 眉唾なものばかりが入る。
| もはや、やらない夫は怪談というか都市伝説のテンプレートと化していた。
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| 某掲示板ではやらない夫の目撃情報スレッドが毎日3スレ以上も立っては埋まる。
| Twitterではやらない夫大喜利が複数流れて立ち消えない。
|
| 現実のやらない夫を知る不人気は、無茶苦茶ながら人助けには躊躇しないやらない夫は想像できる。
| しかし、犯罪者のはずなのに善人として描かれる噂の中のやらない夫は不可思議な存在であった。
|
| 今や彼は、ある種のヒーローとして扱われている。
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Vﾊ ヽｨ示ﾐ､ ´¨ :| ! || }ﾚｨ / |.| | ﾄ" ……もしもし。
ヽハ ∧ゞｯ i | ! ||// / : |.| |. |
} .ノ ハ¨ ` _,,_ | ! ||イ.:/ |.| | |
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| 私用の携帯電話がポケットで震え、不人気は素早く出た。
| 人気のない裏路地。他の人間なら悪魔の危険があるのだが、彼女には人間的な危険しかない。
|
|『あの、その、ええと』
|「落ち着きなさい」
|
| しどろもどろとした声。時間は深夜、普通ならば常識外れの時間。
| だが、『彼女』は不人気がいつと仕事をしているのを知っていた。
|
|『なんでもしますから、お願いがある……あります』
|「ええ」
|
| らしくない、かしこまった言い方。
| 不人気は吹き出しそうになるのを我慢した。
|
|『ロランを探してください』
|「いいわ」
|
| 何でもする？ ならばと不人気は意地悪く笑う。
|
|「次の集まりにはポッキーを用意なさい。
| ……誰かの好物だったはずだわ」
|
| それが誰なのか、思い出すことはできなかったが。
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-‐ニ二ニ＝= ＜
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-‐::⌒::::::::ラ::::ﾗ::::::::イ ヽ:: ＼ ヽ
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/::::::::::::!:::::::,' ／;Ｘ::::::::::::::::::ｨiﾟ;_ﾉ/ :: 人 | i ｌ |
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y-:::::::::::::::ノ:::::::::::／ .|::ゞ´/::::::::::::::::::::::::::::::::} i i:::: .| |
／ {:::::::::::::::::::::::::::／ .|:::::ヽ:::::::::::::::::::::::::::::::/ ,' {::)::} | |
／ i::::::::::::/´ |::::::::::r‐ｭ:::::::::::::::::::::{ .i! ﾄ .′ | .)
／ ヽ::／ }} ヽ::::::::::::::::::::::::::::::::::::}八 .i! | | ./
／ ￣ / { ヽ::::::::::::::::::::::::::::::＜:::} | { {
／ ヽﾊヽ::::::::::::::::::＜:::::::::/ ,' { 乂
／ }｀-‐t≦::::::::r‐‐f /{ | {
／ ,' /￣H::::::::::::{ .i/ ＼ 人
／‐---‐‐ ⌒` 7 {/ｌ 〃 {::::::::::/ . ハ∧
／} / / {::::::::::／ ｀＞‐-
,′ ! / ,′ ()ﾊ:::::::/ ／ へﾆ＿
; ,' / / }／ ／ ／
{ ﾉ { / y‐ ／ ／
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| とある工事現場の日雇い労働者にまぎれて、ロランは建材を運んでいた。
| 黒曜石を掘り出して作った名工生涯集大成があったとして、それが駄作と叩き割られる程の美しさ。
|
| 泥と埃にまみれながら、ロランの美は霞むどころか輝きを増すばかり。
| 夜はカプセルホテル……ではなく、委員長の家に間借りしていた。他に頼れる友達がいなかったからであろう。
|
| 時期的に考えて、委員長と袂を分かった際にはロランは彼の家に居たことになるが。
| きっと秘密にしてくれと頼まれていたのだろう。
|
| 朝の八時に出勤し、七時までの労働。
| 中古で買ったらしいボロの自転車に乗ってスーパーへ。
|
| 三人分の買い物を済ませ、帰宅。
| これがロランの行動パターンだった。
|
| その電話の内に連絡を返してきた不人気に、正直やんねえ香はドン引いた。
| 行動パターン？ 何日調べたの？ ストーカー？？
|
| 正確には、不人気が夕飯に惣菜を買うスーパーが七時に値引きシールを貼る。
| そこでしばしばロランを見かけたのでちょっと確認をしただけであるのだが。
|
| とにかく、やんねえ香はスーパーで待ち伏せをした。
| ロランがボロ自転車を停めてスーパーに駆け込み、出てくるのを待った。
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／:::::: ｀ヽ
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人λ::::::::::::: .i.）.|
|::::::::: l.|..| ……。
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.、ノ::: .しi|
ヽ:::::: ,＜
/:::::::::: '､ .ヽ
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.{:::::::::::::::::::: .} 二つ
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| ボロの自転車を撫でる。ロランは物を大事にする。修理も得意だ。
| これも、彼がスクラップを直して乗ってるのかもしれない。
|
| 水門の家は成金だが、貧乏時代も長かった。
| 十分な資産があっても両親があくせく働き続けるのは、赤貧に戻るのを恐れているからだ。
|
| やんねえ香もお嬢様だが、贅沢は好まない。
| 不器用なので修理も裁縫もロラン任せだが、その分乱暴に扱わない。無自覚で物を壊すことも多いのだが。
|
|「…………」
|
| しかし、会ってどうするのだろう。
| 戻ってきてくれと懇願するのか？ 一緒にいてと泣きついて、自由を得たロランを束縛するのか？
|
| それはわがままだ。わがままだ。
| ロランには彼の人生がある。やんねえ香が縛り付けてはいけない。
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.。s≦´ ｀＞ 、
／´ ｀＞ 、
ｲ´￣￣￣＼￣｀ゞ.
γ´i .∨ ＼ ＼ ∧ ∧
ｲ ｲ::∨｀｀ 、 ＼,、 ∧ i! / ∧
ｲ i!::::::::::、＿>ー - ヽ、 i! | 、. / ∧
i!∨i_:::::::::::::::::´,ｲミゝ::::::::::: ｜ i｀i / ∧
i! ｲﾞﾞ:;;;::::::::::::::::ﾋﾕﾉ::::::::::::ゝ | |::|! ∧
ゝ ! ｲﾐ;:::;:::::::::::::::´::::::::::::::i! | |´ i i
｀iﾋﾉノ::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ,i| | !i | i
|:::ヽ;‐::::::::::::::::::::::::::::::::::::| | i!i ｜ |
∧::::::::,‐ 、::::::::::::::::::::::::;/| |/i i! | i ……お嬢さん？
i ∧::::::｀´:::::::::::::::::::::;／;;;| | i! |i! | |
i!｀ 、::::::::::::::::.,;;;´ ;;;;;;;| |;;| i! | |
ヽ/| i!|ゝ-＜´:::＿＿＿| i! ;| |i ｜ |
! ∧、i｛==========| ﾉ=i! | | i!
i i ﾍ i!三三三三三.!/三| i! / /
｀＞＜三＞＜ 三三|三三、/|／´
.。s≦´＞＜.三.三.三.＞＜|三＞∀＞ﾞ.ゝ,
.。s≦´三＞＜三三三三三三三＞´i≧ 、三三三 ≧s。.
,＜三＼三三三三三三三三三三／ i! ｀＜三三三三三≧ 、
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| エコバッグにおつとめ品を満載して、見慣れないダウンジャケットのロランが立っていた。
| かすかに紅潮した黒い肌、南の海より澄んだ青い瞳。サラサラの銀髪も変わらない。
|
|「……よう」
|「……こんばんわ」
|
| 即座に逃げられるほど嫌われてはいないようだ。やんねえ香は心底安心した。
| ロランは荷台にエコバッグを詰めて、自転車を押す。話は歩きながら。
|
|「元気か？ 少し痩せたンじゃね？」
|「力仕事なので、筋肉が付きました」
|
| 黒豹のようにしなやかな腕に力こぶのバフォーマンス。
| 全然、筋肉がついたようには見えないけれど。
|
|「ええと……」
|「お嬢さんこそ元気ですか？ 急に寒くなったから、ちゃんと冬服出しました？」
|
| 薄い上着で、手袋もマフラーもしていないやんねえ香。冬服なんて、しまい場所も分からない。
|
| やんねえ香は言葉を探した。世間話で始終する？ 違うなら何を話せばいい？
| 分からない。どうしよう。
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＿＿≧::::＼ ト、ﾄ､
≦:::::::::::::::::::::::｀::::ﾍ|:)
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ヽﾙ:::::::|::|ﾉ_ノヽ:;へ_ﾍ|::|:::::::ト､|
ﾚ:::(|::|（○） （○）|::|):::ﾘ なんでだ？
.|:;ｨ|::|'､ ─ .ﾉ|::ﾄ､::|
ヽノ, |::| ＞ｧrｭｬ＜ |::| ﾊ:し
.冫{ リ ./| {::} |ﾍ.リ }:(´
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|「お嬢さんは優しいから……これ以上嫌われたくないし、迷惑をかけたくなかったんです」
|
| 寂しげに微笑むロラン。やんねえ香は胸の奥がギュッと掴まれたように痛んだ。
| 肋骨が折れた時みたいに、呼吸すら苦痛となる。喉の奥から苦いものがせり上がる。
|
|「……ね、姉さんは」
|「え？」
|
| やんねえ香は言葉を絞り出した。
| それはひどく辛く、涙が出そうなほど苦痛を伴うものであった。
|
|「やろうか奈姉さんは、絶対にロランを嫌わないし、迷惑なんて思わない」
|
| あの人は、そういう人だ。
| やんねえ香はそうなりたかった。なりたかったのに。
|
|「？？ なんでやろうか奈お嬢さんの話になるんです？」
|
| ロランは不思議そうに、可愛らしく小首を傾げた。
| そして一度自転車を止める。やんねえ香に正面から向き直った。
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´ / ヘ
´ / ／ ＼
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;′〃 ,' / / i ﾊ !__ し-:/
ｌ i i { / i / ﾘ `=ミ }/
ｌ i i ／⌒/ ｌ ! 〈 {::ｌ {
ｌ i i ｌ 〃 ｌ ｌ } ` ﾘ 丶
ｌ i i ｌ 八 ｌ ﾘ ＼
ｌ i! i ＼ ! ｌ _ ′
／ ' i! ヽｌ i ｌ ィ やんねえ香お嬢さん。
／ 〃 ﾊ ｌ ｌ －‐ { 僕が迷惑をかけてしまうのはあなたの方です。
.{ ／ ／ /:::ｌ ｌ } ィ′
:/ ／ ／ ／::::::ｌ l／ {
/ / ／/ ／ ／ｰ=ミ::ｌ ｌ≧ ___ ｨ
ヽ/ / ′ イ: / ::ｌ ﾘﾐ/
/ 〃 / ／ {＿/ :人乂} 〉:了
／ イ ／!_／ /:::/
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| まるで。
| まるでそれが確実で、絶対に避けられないかのようにロランは言う。
|
| 苦しさで身を縮めていたやんねえ香に、自分のマフラーを巻いてやりながら。
| いつもと変わらぬ献身的な優しさに、やんねえ香は涙が出そうになった。
|
|「アタシだって……ッ！」
|「いいえ」
|
| ロランは頭を振る。
| 彼の体温で温まったマフラーも、やんねえ香の心までは温めてくれない。
|
|「僕は、お嬢さんの敵なんです」
|
| 敵。現実感のまるでない言葉だ。
| 敵とはなんだ？ 味方でないつもりなのか？ ずっと身内だと思って来たのに。
|
| 敵。『破滅願望者』を自称して敵対した上条たちを思い出す。
| 彼らは敵だった。ではロランも裏切るのか？ どこで？
|
| 夢世界の戦いはもうないのに。
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i i .| rＩ:::;;::.i " .:.:.:λ.:.:.:.:.:.i:.:.:.:.ト:.:､.:.:.:.|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.t ねえ、お嬢さん。
i ､ ,.- ､ i:::;;ﾟﾉ ′ .:.:.:.:.:!.:.＼:.:ノ.:.:.:..|.:.l:.:､.:.:.|.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:､ 僕が
ヾ I _. ,. ⌒ .:.:.:.:.:.:!.:.:.:.:.:l.:.:.:.:.:.:.|.:.:.:.:|.:.:.|.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.i
ヾ_ノKi:;:Tiﾉ .:.:.:.:.:.:.!.:.:.:.:.:.|.:.:.:.:.:.:.レ:丿.:.:|.:.:.:.:.､.:.:.:.:.:.:.:.i 『この世界に派遣された
|ヾ / :.:.:.:.:.:.!.:.:.:.:.:.:|.:.:.:.:.:.:.|／.:.:.:.:|.:.:.:.:.:.|.:.:.:.!:.:.:.:| 上次元存在の観察用端末』
i < :.:.:.:.:.:.!.:.:.:.:.:.:|.:.:.:.:.:.:.|.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:..|:.:.:.:|:.:.:.|
i ヾ .:.:.:.:.:.:.:.!.:.:.:.:.:i.:.:.:.:.:.:.:|.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:|:.:.:.:.|.:.:.| だって言ったら信じます？
i .:.:.:.:.:.:.:.:.!.:.:.:..:i.:.:.:.:.:.:.i.:.:.:.:.:.:l.:.:.:.:.:.:.:|:.:.:.:.|.:.:.:|
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|「……待て、わかる言葉で」
|「悪い奴が送り込んだ偵察マシンです」
|「オマエが？」
|「はい」
|
| やんねえ香は怯まなかった。
| 自分が特別すごい人間なのかもしれないとか、誰だって想像する。
|
| だが、ペルソナ使いのやんねえ香は実際に『特別な存在』だった。
| ならばロランもそうだったとして何か不思議はあるだろうか。
|
|「へー、それがなンでアタシの敵になンのさ。
| アタシは水門やんねえ香。ロラン・セアックの絶対の味方だ」
|
| 怯え、悲しみ、悲劇の確信がロランの表情を悲壮に染める。
| それがまた堪らなく美しくて、やんねえ香は見とれそうになった。
|
|「お嬢さんがそう言ってくれるのは、嬉しい……ですけど」
|「なンか悪いコトしてンのかよ」
|「まさか！」
|
| 勢いよく頭を振るロラン。
| 彼は悪事を働けるほど器用ではない。
|
|「あ、いや……僕の存在そのものがこの世界に悪影響を及ぼすかも……」
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／:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::｀ヽ
∠:::::::::::f::f::::::::::::::::::::｀l:::l::::::丶
/::::::::::::|::|:ﾉﾅ弋:::/弋|::|::::ハl
.人λ:::::(| |（ ⌒） .(⌒::ﾉﾚ´
. |:::::::|::| ,, r‐ｧ ﾘ::| だとしても、アタシはロランの味方だぜ？
.|:::::::|::ﾄ、 ￣ノ::|::| いつまでも。絶対の絶対で。
、ノ:::::::|::|:::l＿＿iﾞ::::::|::|
ヽ:, ─リ´/ﾊ:::ハﾍ-リ---､
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| 照れ隠しに力こぶを作るやんねえ香。
| そうだ、そうなのだ。
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| 話をしてよかったとやんねえ香は内心安堵した。
| 自分はいつでもロランの味方だ。
|
| それを伝えられただけでもこんなにも心が軽くなった。
|
|「いいえ」
|
| だけれども、それでもロランは聞き分けのない子供のようにイヤイヤをする。
| そんなに信用ならないのか？ いささかプライドを傷つけられ、やんねえ香はムッとする。
|
| 彼女の怒りに人一倍敏感なロランであるはずだが、この日ばかりは気が付かない。
| 青褪めた頬、わななく唇。運命の残酷さに打ちのめされた暗い目つき。
|
|「『その時』に、僕が僕のままであり、お嬢さんがお嬢さんのままであればいいのですが」
|
| 意味不明な言い回し、どんな自分探しのJ-POPだ？
|
|「僕は侵略者の駒なので、僕の意識は奪われて、誰かに乗っ取られているかもしれません……それに」
|
| やんねえ香は背筋が凍った。ロランはいつ誰かに体を奪われるか分からないのか？
| そんな状態でずっと生きてきたのか？
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
|三三三三三三三三三三三＿7 /〈 〈＿_ ./ /７｜./ ∧＼ ./ /＿_〈 〈＿_ / ∧＼ 〈〈 / / 〈〈.∧∨,/三三三三三三三三三
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. -‐ ´￣￣｀ ヽ、
／ ＼
, 仁二二二二ニ､ Y
／ ヽ
. / |
/ l ヽ. l | | l |
l｜ | | .| | | l |
| | | |＿_ l_|_ ,ｲ| | ｈ |
| | | L___」_Lレ′| | l リ |
| | | 「i ´{l:::ン レイ | | | お嬢さんは『滅ぼす者を滅ぼす者』なんですよ？
l｜| | lﾉ :;;;: | | | |
} }｜ ! 丶_ | | | |
ノ ィ 人 l ｀つ .| | | |
| | ﾄ､ヽ ｀ｰ┬‐'´ | | | |
| | | ト┘ヽ ,ｲ. | | | |
L_ / ヽ、l／ | ﾉ |∧ l __」
ﾉ_lヽ､_ソ ヽ `ｰ'/. |／l ＼
. , -‐ '´|: : :l | ＼ ／ | |: : :l＼
/. |: : :| | rー､i {へ_. | |: : :l ＼
|lニニニニ三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三ニニニニ
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
|「侵略者を……僕を感知して。もしかしたら……いや。
| 僕のせいで、お嬢さんは『滅ぼす者』殺しを背負わされています」
|
|「え……？ んん？？」
|
| ロランの断定でやんねえ香は深い失望に襲われた。
| だが同時に、頭の奥で警戒のアラートが点く、なにかおかしい。
|
|「あ！ あンチクショウ！ 全部分かってやがったな！！」
|
| 歯ぎしりして拳を振り回すやんねえ香に、ロランは驚きながらも殴られない距離まで退避。
| 彼女の唐突さは理解していたが、何にそんなに怒っているのか心当たりがない。
|
|「バッカロラン、アタシの《ストレンジ・カメレオン》は別の理由だよ。
| クソッ、それでこないだ……！」
|
| 世界因子《ストレンジ・カメレオン》は胡散臭いし聞かなければ答えない。
| その上聞いても答えないこともあるが、嘘はつかない。
|
| その《ストレンジ・カメレオン》が言ったのだ。
| やんねえ香は二人分の闘争心を買われて世界守護者に選ばれたと。
|
|「アタシとロランの間に運命なんてねーンだ」
|「で、でも……僕が上位介入を受けて支配されたら……！」
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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＿＿ ｲ７
. ィ:´: : : : ミ: . .､ _ //ﾉ ィフ
／: : :_ニ⌒ ヽ {｀ヾ{ （⌒＞=´ ´ ／
. : : : - ｒｰ｡ ､ ヾ. 人 }: :{ / ／
/: : : :彡 ヾこ_心 小ｊ＿ノ: :j ; { 《それは既に、既に切除されたではありませんか》
{＜￣￣ ヽ ＿_ 八: : :／ ノ ｊ
ヽ: :｀: ー＜ ﾟー' ﾊ: :＜＿ 。 ≦ / ´￣ ｀ヽ、
/＞: :_: : : :＞＝ ≦ ￣ ／ ⌒ヽ{
,′ ＞ー'-- 。.. ＿＿ .. 。ｃ ´ /
/ ′
/ { ／
,' 八 ´
{ ｀T ＝－ ＿ ＿ ＜
' ､ ハ ｀ ＜ ￣ ≧ 。
＼ ヽ ＞c｡.. ≧ 。
} ＼ ≧=c。.｡ィ ,' ｀ ｡ ... ーァ
、 / 人 ー-- ＿＿ ／
ヽ ≧c。＿ / ／ ヽ V ￣￣´
＼ ７／ ＼ '. ﾊ
＞ 。 i ＼ ', ⌒ヽ ﾑ
ヽ ', ＼{ ＼ ﾑ
＼ { ｀マ{
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| 突然、やんねえ香の髪の下から《ストレンジ・カメレオン》が顔を出す。
| やんねえ香のペルソナのようで違うこの存在は、自由で勝手だ。
|
|《ロラン・セアック。あなたの恐れる危険と悪意は、
| あなたのシャドウとして切り離されて排除されたではありませんか》
|
| 理解が追いつかずに瞬きする二人。
| ロランのシャドウ。邪悪で、人々を唆した恐るべき怪人は夢世界で滅びていた。
|
|「え？ じゃあ、僕は」
|《そもそも、そもそもとしてあなたはフィレモンに。
| 侵入者への対抗策として召喚を受けたではございませんか》
|
| 夢世界での戦いの前に、やんねえ香たちはペルソナを授かっていた。
| フィレモンとはその際に遭遇した奇妙な蝶の怪人であろう。
|
|「でも、僕はペルソナを……」
|
| ペルソナがないから、ニャルラトホテプの能力をペルソナだと偽ってきた。
|
|《ペルソナなくともシャドウはある？
| 随分と、随分とまあ都合のいい設定でございますこと》
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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＿
／: : : ｀ヽ
/: : : : : : : ､＼
,': : : : : : : : : '; : ､
}!: : :､: :{ : : : : :､: V_
「＼{! ヽﾊ Y´ | ＿_
八 }.ｒｪミ､ヾ{ ,ｪャj ﾉ /､ Xｊ
＼〉｀c心､ ｨぅ少八 { ﾍノ
∧｀¨ﾟ ＿ ¨´ｲ: : ヽ , ク´
{! ≧ｒ―≦ i}＿: : ｀:ー:-≦彡' 《あなたのペルソナはあなた自身。
,, -＝ｧ-ｙ'´￣ヽ ＼ あなたが恐れる力そのもの》
, ´ / ハ {!＼ ＼
／ ／ | / ' |! ヽ ＼
／ / ! / ヽ i! ､ ＼
′ / ﾚ′ ｀ﾄ､ 、 ＼
, / ,ｲ {! ヽ '. ＼
,' / / ｊ! }! ハ :. ＼
! ′ ,' {! ｢i j! ハ :. ＼
! i : ﾊ }{ ﾘ : i ヽ
| | ! ∧ }! |! i !
|lニニニニ三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三ニニニニ
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
|《制御しきれぬ巨大な力。
| 『滅ぼす者』へとなりかねない力。
|
| それは世にも恐ろしい殺戮の暗号。
| 鳥も獣も魚も水も緑も干からびて崩れ落ちる。
|
| ですがですけれど……》
|
| 《ストレンジ・カメレオン》の言葉から、体を張ってかばうかのように。
| やんねえ香がロランの前に立つ。その手が彼の肩に触れる。
|
| 互いに、触れた部分からぬくもりが広がる。
| ロランはやんねえ香の、やんねえ香はロランの存在を強く意識した。
|
|《あなたを守り、あなたが守りたい人がいる限り、それは暴れはしないでしょう。
| では、今一度、フィレモンに代わって尋ねますわ》
|
| ペルソナは、名前を聞かれて答えられたものに与えられるという。
|
|《あなたの名は？》
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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_..---,,_
_.-‐""￣ ﾞ''‐､
,ノ'´_..---‐‐''‐‐- ､_ ､ ｀ゝ
,／／´ --- ----,,_ ＾''＼ ﾞ 、
./／ ､‐"-、 ﾞ' 、 ゛‐_ ､＼ ヽ
ﾉ/､／"＼ ﾞ ､ ﾍ ｀､｀｛ 、 ､ ､
!./ l:::::::::::::ﾍ ﾍ 卜 ﾍ ヽ '、 ヽ
ﾉ !│::::::::::::::::、 lﾍ （ ﾘ .| | l ｌ
ｌ !::::::::::::::::::: ､」 ﾍ _､|::::|－ ! l、 | {
ﾉ ヽ〕＿_::::::::::::::::::::::::::ﾝ::_::_ヽ､丿 l! ! {
１ （リ::::::７、::::::::::::::::::ｿ彳。.ﾉ::' ヽ ││| {
､ l」::: √ｄハ、::::::::::::::::^'::′:::::::::|!' │ | {
ソヽ:::::ﾞｰ'´:::）:::::::::::::::::::::::::::::::::│ | ! '、 {、
ハﾍ::::::::::: 、:::::::::::::::::::::::::::::::::│ / !ｌ ﾍ 、 『月に吠える者』……いいえ。
ﾞｌヽ:::::::::::::｀‐ ゛:::::::::::::::::::::::::: |! l! ! ゝ ､ rl!
ﾍﾍ、:::::::::::- ―ｰ:::::::::::::::::ノ|!丿 | | l !’
ﾞ 、‐ 、:::::::::::::::::::::: ,、:::::亅、 ! － !│
｀ヽ 个 ､:::::::::::::..／:::::癶 │ l |）ﾉ
＼ヽ^''''":::::::::::::/_､‐'ヽ ! │/
ﾞ火:::::::::::::::／´ ﾍﾉｌ ‐ﾉ::
／ ﾍ、:::::::│ /_冫､ｌヽ
ﾍ ､ │:::::_::::! _、‐" _＞－,,
,-''´ﾞ､ｌ_/丿:::::_／ " ／ ､--､_
--‐''l! 丿 〉彳､_-／‐ /’ ／ ＾ヽ、
/' 丿 ! / '、‐ ./ / l
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|「僕は、ロラン・セアックです」
|
| 肩に置かれたやんねえ香の手を握り、ロランは答えた。
| 上次元介入者の端末としてではなく、人間としての名前。
|
| それが、自分の本当の名前。
|
| 彼の視界の端を、季節外れの蝶が舞う。
| 月夜の蝶。ロランは確信した。それこそが彼のペルソナ。
|
| 初夏、やる夫がロランに遭遇した時に『夢に』見た存在。
| 自立型、文明破壊タイプのベルソナ。
|
| 『月光蝶』。
|
| それを使い夜空を舞う時が、ロラン・セアックの最期となる。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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☆ 次回予告！
仲間がいれば心も躍る。
仲間がいれば強くなれる。
仲間が自分を支えてくれる。
仲間と一緒なら困難も乗り越えられる。
そう、口にするのは簡単だ。
仲間のために苦心せねばならない。
仲間のために強くあらねばならない。
仲間を支えてやらねばならない。
仲間と一緒に困難を乗り越えねばならない。
一人ならば、身軽なのに。
次回、最終幕二十九話『足手まとい』
果てに見るのは破滅か死か。
乙
殺人事件起こした奴は素直に捕まっとけ
ﾄ､‐- ､ , - ―.ォ
|: ＼ ＼ ／ ／: : :.|
l: : : ヽ ｀ ￣￣ ´ /: : : : /
': : ／ ＼: : /
У , ｀く ロビン フット
/ / ﾍ ヽ 呂敏、字を扶兎。
/ / γ::o, γ::o, ﾊ ヽ ボクらはキミを歓迎するよ。
,､ / i ヽ::ノ ヽ::ノ .i ﾍ‐- ､__
ヽ＼, ､ ､ _ , / ﾍイ/,＞ ,
ヾ_｣ /＼. ｀´｀ ´ ／ﾍ ／イ ＞､
／ ヾ,.､ λ ｀ー‐ｧ---- r一 ' 入／" i＼ ＼
＿＿ ／ ｀>く}ﾍ / ﾍ ／厶へ ＼＿＿ ヽ
, -‐" ＝ ／ ｀´ i | ／ ＼ ＝二ァ
￣フ二__二, _・ ／ j l' ｀ｰ-｀､_三――" ’
/ ￣ / | / ヽ、 ￣ /
, -､ / / ､| | , ├‐- ､ |
（{ ./ | ﾍ ｜.i / | ｀ 丿
ヾｰ--‐' ´ ,＞ '￣￣| ﾊ l.｜ ｛ .j ／
｀ｰ- ＿＿＿ ＞ ' ヽ i | | ﾉ 人 ／
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|「なンだキュゥべえ、いつもの『末法少女になってよ』が無いじゃん」
|
| ロビンが加わった事で、佐倉杏子班は盤石となった。
| 不足しがちな前衛火力を補える、ロビンはカチリとハマるパズルのピースのようだった。
|
|「そうは言うがね佐倉杏子。彼は生まれついてヒルコ神の愛し子だ。
| 実際に呪的強度はロージェノムを凌ぐ、時代が時代ならこの年齢になれなかっただろうね」
|
| 万能型の魔法戦士である杏子、攻撃型の術者である横島。
| そして援護特化のヴァイジャヤと、口出し専門のキュゥべえ。
|
|「今現在の実力は横並びだけれど、才能から見ると呂敏は同世代で群を抜いている。
| 次かその次の『四天王』に選ばれない理由が無い」
|
| 一応、間桐雁夜班から引き継いだ『バーサーカー』も居るのだが。
| 彼は『調整』時間が長く、いつでも同行出来るわけではない。
|
|「いいかい佐倉杏子。実力が横並びなのは、呂敏の才能が開花していないからだ。
| 彼の負う呪詛は致命的だが、それは祝福も並外れていることを意味している」
|
| 杏子独りで前を守るのには限界があった。
| そこで欲しかったのは、杏子に並ぶ戦士であり、この班の流動的な動きに対応できる存在だった。
|
|「ロージェノムはアマノヌボコを行使した。呂敏もそれだけの可能性を秘めている。
| もしかすれば上杉謙信並の存在になるかも知らないんだ」
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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{｀_ヽ､
l! ＼｀`ヽ､ _, -≠ニ了
! ＼ ヽ、 , - ' ´＜ ./
' ＞ ￣￣￣￣ `￢ ／ /
', ／ ＼ヽ /
∨/ ' ,∨ /
// ＿ ＿ ', ∨
// / rz0, / rz0, ', ﾍ それを末法少女なんかにしたら、
i { 乂塁ﾉ 乂塁ﾉ i ', せっかくの祝福が半減してしまうかもしれない。
l :｛ ::｝, ﾍ
l l::.', .::/:::, ', 彼の未来を溝に捨てるような勧誘を、
. l l::::::＼ ヽ-'ヽ-'ﾞ ..::::/:::::::', i ボクは冗談でもできやしないよ。
l l::::::::::::≧､_ ......::_::; イ::::::::::::',. i
l l::::::::::::::::l ￣ 7￢＝＝￢ ￣i´ .l:::::::::::::::', l
//::::::::::::::::l /:::::::::::::::::::::::: ' ' l l::::::::::::::::i. l
. i i::::::::::::::::::l .i::::::::::::::::::::／ i l::::::::::::::::l. l
＿＿＿ .l l:::::::::::::::: :l l:::::::;:::::::::::::l / .l .l:::::::::::::::::i. l ＿＿＿
ゝ､_ ＝ニ￢l l:::::::::::::::::::l l::::::ﾍ::::::::::::l .i ﾄ､ .}:::::::::::::::::l├￢冖冖つ ﾞ >
￣｀ヽ､｀ヽ､::::::::::::: :ﾄ､ l::::::::::i:::::::::::l. / >"<}:::::::::::::::::l }ー＝＝彡 ''
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|「ソロソロ、恥ズカシイノデ止メテクダサイ」
|
| とにかく五人になった杏子班。
| 彼らはヴァイジャヤの運転で悪魔退治に向かっていた。
|
| 彼らは今現在稼働している『血族』最後の戦闘班だ。
| ケンシロウは『四天王』になってしまったし、ジャギ班は『グレン団』の指揮で忙しい。
|
| 『血族』の……具体的には鷹野三四の命令で杏子班は動いていた。
| 現在東京を跋扈する悪魔の調査と退治、結界の強化が主な仕事である。
|
|「ロビンさん、備府やらない夫と戦ったんスよね」
|「気軽ニ呼ビ捨テテクダサイ」
|
| 同世代のはずだが、メカメカしい外見に気圧されて丁寧語になるヴァイジャヤ。
| 助手席の横島が笑って小突く。
|
|「緊張してんの？」
|「してねーよ！」
|
| 班長の杏子を含めて、完全に同世代のチーム。
| 逆にロビンの方が緊張していた。
|
|「俺もやらない夫狩りをしてーなって」
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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/ ｉ
/ ｉ
/ ｉ
/ ｉ
＿＿ / .}
, ＜ ＞ ､ ./ ｉ ｀ヽ、 …………。
／ ＼ , ＜ { | ＼
/ , ｨﾆﾆﾆﾆ= ､ ∧, ´／ ∨ | ＼
- ､ ｉ /ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾑ ／ / ＼ 」 ∧
｀ヽ { ｉﾆﾆﾆﾆ γ‐‐ ､ﾆﾑ / { ー--‐ ´ ∧
ｉ {ﾆﾆﾆﾆ .{ }ﾆﾆ} / ｉ ∧
{ ｉﾆﾆﾆﾆﾆ`== 'ﾆﾆ.ｊ ／ | ∧
／￣､ ﾏﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾉ .ｉ ∧
..／ ヽ` ､ﾆﾆﾆﾆ＞ '´ ∨ ,ｨﾆﾆ＞､ ｉ
' ∨ ,ｨﾆﾆﾆﾆﾆﾆ} |
∨ ,ｨﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ } |
∨ /ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ } |
＼ /ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ } ｉ
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
|「相手は小悪党で、『血族』に参加して一ヶ月の新参者で、しかも魔術はからきしなんスよね。
| 見つけたらふんじばって、手柄にしたいとかみんな思わねーの？」
|
| 沈黙こそが雄弁であった。
|
| 横島もやらない夫とは交流があったし。
| なにより杏子は新宿衛生病院で肩を並べた経験がある。
|
|「アイツぁそンな楽な相手じゃねーよ」
|
| 口にしていたロリポップを噛み砕き、杏子が複雑な感情を抑えて呟く。
| 変形する多目的武器を利用する点で、杏子とやらない夫は酷似していた。
|
| そして二人が出会った時は、末法少女としての加護の差で杏子が勝っていた。
| ……だが。
|
|「神仏の加護も超能力もなく、やっとう片手に高位悪魔を相手取る。
| 仲間の尻に隠れてたンじゃなくて、ずっと前で踏ン張ってたンだぜ？」
|
| 並大抵の胆力ではない。
| だが、杏子はこうも思う。
|
| やらない夫の凄みは、相対しないと理解できまい。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
|三三三三三三三三三三三＿7 /〈 〈＿_ ./ /７｜./ ∧＼ ./ /＿_〈 〈＿_ / ∧＼ 〈〈 / / 〈〈.∧∨,/三三三三三三三三三
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＿
｢ ＼ ＿＿ ／⌒ｧ ） ｀丶
ヽ ´ ｀ / / ヽ
＼ く ／ ） キミたちの未来を考えると、
∨ ● ● Ｙ ﾉ 備府やらない夫を捕縛できれば最高だろう。
_|{ ､_, ､_, 八 ,′ だけれどヴァイジャヤ。無策では勝ち目がない。
／ 八 ｲ 丶. /
⌒＼/ , / ｰｧ Ｔ´ { ＼／＼ ボクらにはやらない夫をおびき出し、
（ （⌒>く.／ / . : / ',: :ヽ 〈） ） 捕らえる戦略が必須となるだろう。
＼{／ : : :/ : : / ヽ-ﾍ . : : ／／､
／＼＼＿∧: : ,′| ｉ ｉ | ∨∧／／ : : :＼＿_
（＿ﾟ: :｡ ーｧ‐' : ; | | | | ー‐く: : : : :｡: ﾟ : _ノ
/ . : : ｡人: : :.:| | | | | } ＼: ｡ : : : :）
（_／{:_:/ ＼: iヽ 丶ソ 丶ソ ノ ＼_ﾉ￣
￣⌒ ⌒￣
|lニニニニ三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三ニニニニ
|三三三三三三三三三三三/ /＿. / /￣ / ,ィ | 7 /ﾝ ） / /＿. / /￣ 7 /ﾝ ）. // 〉 〉 // // / /三三三三三三三三三
|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| そうこうする内に、車は目的の工場跡地に到着した。
| 先日火事で全焼した場所なのだが、焼け死んだ従業員だか首をくくった社長だかの霊が出るらしい。
|
| と、奇跡的に死者のいなかった社長本人からの相談があった。
| つまり、敵は過去にここで死んだ何者かか、あるいは無関係の悪魔である。
|
|「ロビン」
|
| 車を降り、術者たちが魔力や呪詛を計測する最中に横島が新たな仲間に囁きかける。
|
|「悩みがあるなら相談してくれよ。もう『二人きり』になっちまったし」
|「…………ハイ」
|
| 『二人きり』。
| 麻呂の弟子として地獄の訓練を受けた六人の仲間。
|
| 龍田と石田は『結社』撃滅作戦で命を落とし。
| 天竜とシグはやらない夫側へ行ってしまった。
|
|「先生は、ロビンと龍田を危ぶんでた。
| お前らは『命を張ったら帰って来ない』」
|「…………」
|
| どうだろうか。ロビンはやらない夫の元に走れなかった。
| 命を賭ける事ができなかった。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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.ﾊ l.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:..:.:＼
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ヽ.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:___／.:.:.:_／7.:.:.:.:.:.:.:.:.}.:.:.:ﾊ.:.:.:.:.:.:.＼＼ｌ
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＿ノ;;;;;;;| /|.:.:.:.:.:.://^l i / r'/l / /.:.:,,ｲ.:.:..::.:|.:.:.:.:.:/
ヽー-ｧ;;;;;;;j|.:.:.:.:.| i´j i/ ! ﾄｊ /,,イ |,〉.:.:.::ｽ.::.:.:./
/;;;;／;;ヽ.:.:.:ヽ、ヽ ヽﾚ＿ ./i/ / .|.:.:/ l.:.:/ 実力はお前が一番だけど、
/;;;;;;;;;;;;;/.:.:.:.:.:.:｀T "" ヽ_/ .ﾚ |/ 先生が石田と龍田を選んだのは
｀ー-=..l /i、.:.:.:.:...>、 .／j お前が一番危ないからだ。
y ｿ|.:.:.:.:/ ＼ ⊂ｧ ﾉ
/｀ヽ=/、_ ヽ、 .／
/ ｀''7 ｀７-＜7
r=--=''´ ヽ、 ∥ ./ /
,,=-'⌒｀''ヽ、_=ﾆ=＜、 ∥＿ ＼./_
..／ ＼ ヽ ＼ヽ | >ﾊ
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|「俺を置いて行くなよ」
|「心シテオキマス」
|
| 答えながらも、ロビンの心には暗澹たるものが立ち込めていた。
| ロビンは、ずっと足踏みしている。ずっとずっと、進めずにいる。
|
| 才能はあるのかもしれない、だが、ロビンは自分を祝福する神格が恐ろしい。
| 生まれついて骨が無く、生まれて間もなく流刑にされた。
|
| 失敗作。異形。成り損ないの怪物。
| 神にもなれず、水にされた存在。
|
| ヒルコ。
|
| 彼の怨嗟が憎悪が、ロビンの中の怪物を揺り動かす。
| 自分は、『連れて行ってもらえない』『捨てられて、お終いだ』。
|
| ……シグと天竜に捨てられたように。
| 次はきっと、横島に捨てられる。
|
| ならばいっそ。
| そうなる前に、そうなる前に……。
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／￣￣＼
_ノ ヽ、 ＼
（ ●）（ ●） |
（__人__） | ..／}
_ ヽ｀⌒ ´ | / / __
(＾ヽ{ ヽ { ./ / . ／ .ﾉ
(￣ ヽ ヽ i ヽ / 厶- ´ ／
.(二 ヽ i i |,r‐i ﾉ. ヽ / ／
ヽ ／ ノ ／ r一'´ ー ､ ￣￣￣）
i { ｲ―イ / .`ー―. ､＿_ .〈￣￣
ヽ. `ｰ '/ / /＼ ＼
`ー ' ￣￣! | ヽノ
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| 一人は気楽で、安心だった。
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| そう気付いた時、やらない夫は少なからずのショックを受けた。
| 鹿島の案内した隠れ家に重傷のシグを休ませた。天竜は護衛、鹿島は看護。
|
| 単身衣料品と食料の調達に出かけて、やらない夫はハッとした。
|
| 残飯やネズミ肉では、もう許されない。
| 『守護神』も、仲間の栄養までは補給してくれない。
|
| 金を手に入れて、安全で清潔な食料と医療品を手に入れなければ。
| 仲間たちを守らねば、その義務感がやらない夫を困惑させた。
|
| 孤独の際には誰でもいいからそばに誰か欲しかった。
| なのに、仲間を得て得られたのは安心ではなく不安ばかり。
|
| ……それが。
|
| 天竜とシグを対等の仲間ではなく部下として見ているだけだとやらない夫は夢にも思わない。
| その傲慢が、彼の転落を運命付けるなど、想像も及ばない。
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, ｒ≦≧s。
{::::::::::::｀}､ﾑ
|_y=､_ノ.:.:.:〉__
ヽ＞´＞ ´.://≧､ ブルブル！ ブルブル！
､ ´ >､{/.:.:.:〃.:.＼:ヽ ブルブル！ ブルブル！
ヽ>､ .｛.:.:.:|.:.:.:.:.ﾔ.:.:.:.:.:ヽ∧
ヽ >､ ｉゝ-!.:==彡｀＜.:.:.:}.:.ｉ
ヽ .>､ }.:', |.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ｉ.:.:.:.: |
ヽ >､ ﾉ.:/＿_.:.:.:.:.:.:.:.|.:.:.:.: | y=､
ﾏ ヽ /.:./ ,ｲヽ＼.:.:.:.:ゝ--´} ,ｲ>＜ｨi}´)
ﾏ ＼ゝ/､/::::::{=- ヽ.:.:{----} ,ｲ >＜ ＞´
ﾏ___＞ｉ .}:／／ﾊ ゝヽ.:.:.:ヽ/／ ＞ ´＿
. ﾉ ( l ヽ |／ ／ ゝ＿{＞ ´ , ＜ >'
。ｒ≦> ´＞----／＿::::::::/ニニ／ ／ ／
ﾏ ( >´＜ニニﾆ´ニﾆ}::::{ニヽｲ:::::::／ > ´
ﾏ__//ニニニニ／／ |:::ｉニﾆｿ:::::,ｲ .>´::ﾑ
/ /ニニニニ/ /::: ヽｉ: |ニﾆ!:::/ /::::::::::::::＼
. ,' /ニ／ニニ/ /＼: : .!::ｉニﾆ!:::｀ ´::::::::::::::::::::::ヽ
' .' ／ニニﾆ,' .,': : : : : :!::ｉニﾆｉ＼::::::::::::::::::::::::::::::}
ｉ ｉﾆﾆ／ニﾆｉ .ｉ: : : : : : ゝ',ニﾆ}: : ＼:::::::::::::::::::／
| | ／ニニﾆ| .|: : : : ／: : ﾊﾆﾆ}: :{jﾆ＼::::::::／
ｉ !ニニﾆ／ ｉ .ｉ : :i,ｲ--! ｉ /ヽﾆゝニﾆ ｉゝ,ｲ
', .',ニﾆ,ｲニﾆ', ',／',: :/ｉ ｉ/ ｉ ヽﾆﾍニ,' /
。ｒ≦≧===''''ﾏ ﾏﾆ/ニニﾆヽヽ::::ヽ-ｉ｝: : >'ﾆヽニヽ/
｛ニﾆﾆ(＿ 。ｒ= ﾏ ﾏニニニニゝ｀ゝ==＞´ニニゝニﾆ≧s。
y｀＜＞===´ニﾆヽ ヽニニニニニ￣ニニ＞ ´ ｀ ＜ニへ
｀＜＿_。ｒ== ´￣ ＼ ヽニ＿＿＿_ ＞ ´ __}ニﾆﾆ}
￣￣ 。ｒ============ ´ニニﾆﾆ}
。ｒ≦ニニニニニニニニニ＿ ＞ ´
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| 買い物をバッグに詰め込んだ帰り道。
| すっかり日の落ちるのが早くなった午後6時の河川敷。
|
| 何気なく、しかし人目を避けて歩くやらない夫は、周囲から消えた人の気配をこれ幸いとばかりに思っていた。
| 思っていたが、それは過ちであった。
|
| 橋の下の暗がり、湿った土とゴミの悪臭の溜まりから姿を現すものがある。
|
| トレーラーのタイヤのような、巨大な一輪車の下半身。
| 股間にはユニコーンの装飾、両手の代わりに金属製の九尾鞭。
|
| 真っ赤なライダースーツにモノクロスヘルメット。
| 人呼んで、『スパンカー・モノライダー』。
|
| 拷問・暗殺・誘拐・脅迫を四分の一ずつこなすパプテマス・シロッコ自慢のサイボーグ。
| 十二人の『カトルカール』の一人である。
|
| なお、やらない夫は名前を知らないので『一輪車』とだけ呼んでいる。
|
|「一輪車、お仲間は無事だったか？」
|「ブルブル！ ブルブル！ ブルブル！ ブルブル！」
|
| 会話は通じない。『カトルカール』は言葉を使わず異様な威嚇音だけを発する。
| ……だが、知性はある、感情もある。
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.／￣￣＼
/ ヽ､_ .＼
. （ （● ） . |
. （人__） | （こちらの言葉は通じてる。
r‐-､ . | おそらくは無線やテレパシーみたいなので交信してるだろ。
（三）） . |
> ﾉ / つまり……）
/ / ヽ、 . /
/ / ⌒ヾ .〈
（＿__ゝ､ ＼／. ）
. |＼ ,.1
. | ＼_／...|
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| 化け物みたいな見た目と、異様な言葉で相手を怖がらせるのが『カトルカール』のやり方。
|
| そしてそれは、化け物を演じることで自分を鼓舞しているとも言える。
| そうとも、怪物の真似をしている内に、心まで怪物になるもの。
|
| 演技は、心を守り戦い方を変える。
| やらない夫自身それを知っていた。そして、やってみようかとも考えていた。
|
|「んじゃまあ……真似をさせてもらおうかな」
|
| やらない夫は荷物の入ったリュックを放り投げ、懐から紙袋を取り出した。
|
|「え、ええと……スケアクロウと、申しますヨ」
|
| 紙袋をかぶる。
| 手首と足首に巻きつけたひげ槍を伸ばし、蜘蛛めいた擬似手足を作り出す。
|
| これはやらない夫が編み出した変装。
| 『やらない夫の新しい仲魔っぼい変な奴』の変装である。
|
| 自信があったのに『異端審問官』には速攻で見破られた。
| あれから何も変化はない、それどころか目の前での変装である。
|
| それは何故か？
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| )ゝ‐イl |
|,ノ,ィ≡ミ ゝ |
|ヽ{((〇))} ( |
. | ).ゞ==彡/ | ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ！！
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ﾍ ＞´ ∧: : :/:::::∧ : : / ｀＜ /
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| 突然背を伸ばし、変な発言をしたかと思いきや、下品に哄笑しながらカクカクと腰を振る。
| 誰が見ても頭がおかしくなった。
|
| モノライダーもそう感じたか、身構えて攻撃には転じない。
|
| それが好機。
|
|「はあああああ！」
|
| 奇妙に手首をヒラヒラさせながら両腕をゆっくり上げ、素早く下ろした右手で社会の窓を開くやらない夫。
| 紙袋の穴から燃える眼光が火花めいて閃く。
|
| ワザマエ！ 『エリーゼのゆううつ』からのファーストセクシー3万点！！
| 股間から飛び出した三本のひげ槍、高速で飛び出す触手めいた一撃に、モノライダーは過敏に反応。
|
|「ブルブル！ ブルブル！ ブルブル！ ブルブル！」
|「えと、えと……カリカリガリガリガリ！」
|
| 大げさなバック回避に対し、やらない夫……いやさスケアクロウは長い両脚を折り畳み、バネ状にして自身を射出。
| 両手の先端をフックに換えてモノライダーの喉首を狙う。
|
| この動きは『カトルカール』の一人、蚤足男『ホッパー・スクラッチャー』の模倣である。
| 鉤爪がモノライダーの胸板を深く引裂き、血飛沫が散る、だが『カトルカール』は怯まない。
|
| 傷つく事を恐れずに踏み込み、コンクリートを粉砕し、鉄すら砕く九尾鞭が唸りを上げる。
| しかし着地した壁にはもうスケアクロウはいない。
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/ /.|=￣i|
| :i|.ｉ|_.=-|
| :i|/∧'/, ＿＿＿ へ
| :/. ﾍ／〕_､＜⌒.::.::.::￣ﾆ=- =- _ ィi{ . : ｀`〜､
/￣＿／ 」 ┐.::'/,.::.:::.:i|.::|i:|￣ﾆ=- _ ._､＜ : : _､＜⌒〕iト＼
. /:i:i:/.=-｀┘i:i/.:::::'/ .:::.: i|.::|i:| -===- _ i| . :_､＜⌒ . : :._ -=ﾆ∧
＿_/ i:i:i:|=-=√i:/..:i:i:i:i:i:i:i:i:ｉ:ｉ:i:ｉ:|i:|ﾆﾆﾆ=- -i| .. : : : : : :_ -=ﾆ三ニ=ﾔ
. __「-=/ .:i:ｉ:ｉ:|=-=|i:i/i:i:i:i:i:i:i／.i:i:i:ｉ:ｉ:i|i:|-=ﾆﾆﾆ=-ﾔ : : :_-=ﾆ三(.::)三ﾆ=-}
<／= / . .:i:i:i:i|=-=|/i:i:i:i:i:／:i:i:i:i:i:i:ｉ:ｉ:i|i:|-=／=ﾆ=-V／-=ﾆ三三三ﾆ= ／
<／=／√.i:i:i:i:i: |=-=|i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:／i:ｉ:i|i:|-=|L[ﾆ=./i:iV/-=ﾆ三三ﾆ=-￣
<=／ >_√.i:i:i:i:i:i:ｉ|=-=|i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:／.i:i:i:i:ｉ:|i:|-=|-=／i:i:i:i:i＼=三ﾆ=-￣
／.::<=／ 乂i:i:i:i／´|=-=|i:i:i:i:i:i:i:／:i:i:i:i::i:／|i:|-=イi:i:i:i:i:i:i:i:i:| . ￣ あ、ええ……うん。
／.:::_ -={ .i:i:i:i:i:i:i|: : :.|=-=|i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:＿∠￢i:/i:i:i:i:i:i:i:|i:|i:i:i:ｉ:ｉ| おかあさん、おかあさあああん！！
_ -冖￣_ .:i:i:乂.:i:i:i:i:i:ｉ:ｉ:i|: : :.|=-=|i:i:i:i:i:i:i:i:/:i:i:i:i:i:>┐7i:i:i:i:i:i:i八i:ｉ:ｉ:ｉ:ｉ|
／ _､‐''゛i:i:_､‐''゛ ＜i:i:i:ノ. : : :|=-=|:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:L//vﾊi:i:／i=-|i:i:ｉ:ｉ:|
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| 虫めいた動きでカサカサと壁を登るスケアクロウ。
| 今度はゴキブリ男『ローチー・ニードルマン』の模倣。
|
| 先日の戦いでニャンコ先生の雷公鞭を受けて殉死した、薬物と爆弾のスペシャリスト。
| そっくりの動きでボトボトと転がり落とす手榴弾に、モノライダーは高速回避。
|
|「あれ……もしかして爆弾だと思いました？」
|
| 転がり落ちたのは、ただの石ころ。
| カサカサ動いて地面に降りるスケアクロウの、完全に馬鹿にした首のかしげ方。
|
|「あ……あー、もしかして、一人でオレを追い込めるって思ってたんですかぁ？」
|「ブルブル！ ブルブル！ ブルブル！ ブルブル！」
|
| 返答の代わりの突進に、スケアクロウは似た動きで対応。
| 脚の髭やりを撚り合わせて車輪にし、両手を鞭に換えて突進。
|
| 嵐の如き一撃をかいくぐり、スケアクロウの鞭がモノライダーの顎からヘルメットを叩き割る。
| 車輪も武器も、モノライダーのもの。誰よりもよく知っている。
|
| その自負は誤りではない、一輪車での急加速や急旋回など一朝一夕でできるものではない。
| 加速加減や体重移動など、驚くほど精密な動作が要求される。
|
| その思い込みがモノライダーの敗因だ。
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i|i:i:i:i:i:i:i:i:i/ivL:i:i:i:i:i:i:i:i: : : : : : . ﾔ
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ﾘi:i:i:i>iY ⌒ Y〈:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:.: : : : :. .ﾔ
√i:i:i:ｉ〉乂__乂 ﾊ:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:: : : : :. }
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ﾔi:i:{i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i::V/.: : : :}
V/i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i／i:i:i:i:. : : :.}
V/i:i:i:ﾆ=-:i:i:i:i:i:i:-=ﾆi:i:i:i:i:i:i:i:i:i.: : : :} あー、はいはい。
√:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i: .: : :.}
√:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:. : : :}
_ -=ﾆ￣／V/i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i: .: : :}
_ -=ﾆ.i:i:i:i:// /i:i:〉￣三三三三￣｀~"''〜 ,,i:i:i:i:i:. : ﾔ､
／.i:i:i:i:i:i:i:i:i://i:√-=＼三三三三ﾆ=√ /. V/｀¨ T=´､.＼
／.i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i//i:i:√-=√-=三三三ﾆ=√√ V/ |=i| .＼.:＼
√.i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:/./i:i:i:|-=ﾆ三三三三三ﾆ= .√ﾆ=-/=＼.:|=i| .V/ ＼
. √.i:i:i:i:i:i:i:i:i:√√ｉ:ｉ:|.=ﾆ√三三三三ﾆ= .√ﾆﾆﾆ＼ﾆ= |=i| .V/.:、＼
√.i:i:i:i:i:i:i:i:i:√√i:i八-={ﾆ三三三三ﾆ=-√三三三三ﾆﾘ ﾘ .}.: : :＼.:＼
√.i:i:i:i:i:i:i:i:i:√√i:i:i/∧ﾆ=- _ -=ﾆ三三三三三三三三√√ /. : : :i|.::＼.:＼､
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| 九尾鞭同士では間合いは同じ。
| この広範囲を破壊する粉砕の嵐をかいくぐり接近するのは至難、モノライダーは顔面を負傷しながらも逆手の一撃を振るう。
|
| だが空振り、スケアクロウは変幻自在。
| とっくに懐に入り込んでボディブロー。
|
| チタン板入りの腹筋、釘打ち機めいて射出されたひげ槍が貫通。
| 内側で膨らみ暴れるひげ槍、内蔵を撹拌、致命傷。
|
|「ぐぼぼっ」
|
| 砕けたモノクロスヘルメットから血が溢れる。どれだけタフでも果敢でも、そして機械化されていても耐えられまい。
| スケアクロウは冷徹にひげ槍を引き抜き、素早く抜け目なく距離を取った。
|
| 他の『カトルカール』の奇襲は、仲魔たちが警戒している。だが油断も慢心もしない。
| 倒れ伏し、動きを止めるモノライダー。死んだふりかもしれない。確実にトドメを刺さねばならない。
|
| 殺人への躊躇も、苛烈な攻撃への抵抗も、死体を損壊する可能性への忌避感もない。
| やらない夫の想像以上に、覆面での変身は効果的だった。
|
| だが、モノライダーへの勝利はやらない夫自身の実力である。
| 先日の戦いでは逃げることに始終していた。『カトルカール』とは歴然とした実力差があったはずだ。
|
| なのに、今では逆転していた。
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． -‐ ´ ｀ ‐- ．
<´ ｀ヽ
/ ﾉ`＾¨´｀¨`ｰ'( {
,′ ノ" /´￣ヽ （ ',
,' ｀)弋;;◯;;;} r' |
! ｀ヽ`''''''´ （ | あー、ええと……しまったな。
| ⌒^⌒´ 〃 |
| 〃 .|
. l ／ j
! ´ ∧
! ､ ,／ ヽ
/｀ｰ ／/
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| 殺してしまった。
|
| 恐らく、モノライダーがやらない夫を罠に追い込む手はずだったのに。
| これでは他の『カトルカール』の居場所が分からない。
|
| ……だが、彼らは彼らの連絡手段があるはずだった。
| 連絡の途絶えたモノライダーの救出か、あるいは復讐に他の『カトルカール』が来るはずだ。
|
|（ねずみ男はそのまま移動、にゃんこ先生と墨目は警戒を続けてくれ）
|
| 投げ捨てた食料入りのリュックは、ねずみ男が回収していた。
| 単独行動と隠密が得意な彼に運び屋を任せて、やらない夫は囮になる算段だ。
|
|（来い、新たな『カトルカール』……オレの『糧』となれ）
|
| 相手の意表をつく戦い方は、ネウロと麻呂に叩き込まれてきた。
| 有効な体の動かし方と、相手を恐怖させる方法の実例は恰好の教材だった。
|
| 果たして。
|
|（サマナー、後方から『カトルカール』一名急接近です！）
|（前方には二名が待ち伏せ位置に付きおったぞ、ねずみ男への追跡は見当たらん）
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| 突撃してくる奇妙なトナカイ。
| 人間の女を無理矢理四足獣に改造したいびつな巨体、頭部にはLEDでピカピカ光る角、枝分かれした先は男性器の形。
|
| モーターで卑猥に回転する無数の張り型、意味不明。
| だが、あれに突進されて串刺しになるのは勘弁願いたい。
|
|「ええと……ブルンブルン！」
|
| 気持ちを『スケアクロウ』に切り替える。
| 巨大な花、あるいは掴みかかる手の平のようなトナカイ角に突進、一輪車の急旋回で髪一重回避。
|
| だが、車輪もエンジンもついていないトナカイは土煙を上げて急ブレーキ。
| 振り回される男根角、それらが急激に赤熱、陽炎立つほどの高温で迫る。
|
| スケアクロウはブリッジで回避し、両手のひげ槍を車輪に換装、その姿勢のまま距離を取る。
|
| 逃げることも、単独の相手を倒すことも可能であった。
| だが、やらない夫は囮らしく『カトルカール』の策に乗ることにした。
|
| ローラースケートをなめらかに滑らせ、待ち伏せのいる方向に。
| 追ってくるトナカイ角、スケアクロウの仮面の下で、やらない夫はいつしか笑っていた。
|
| 一人が楽で、開放的だって？。
|
| いいや。
| やはり守るものが無くちゃ、思うように力が出ないじゃないか。
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☆ 次回予告！
次々と倒れる『カトルカール』。
だがそれは、新たなる、苛烈なる敵の参戦を意味していた。
拷問・暗殺・誘拐・脅迫を四分の一ずつこなす恐怖の怪人たち。
あるいは、パプテマス・シロッコの哀れな人形。
彼の邪悪な創造物。
ヒトに戻れぬ試作品。
破滅と死のみが救済となる彼らの行く着く頂は。
唯一、狂気への耽溺のみ。
狂え、狂えよ『カトルカール』。
その姿に似つかわしくあれ。
汝らに、救いなどいずこにも……。
ないのか？
次回、最終幕 三十話『見つけたぞ』
果てに見るのは……希望か愛か。否、破滅か死。
ｶﾄﾙｶｰﾙ・・・何もかも懐かしい
冲方さんの新作がいまなら只で読めるよ！ぐぐろう！
麻呂教室、ひろうなりもうした
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ゝ:::ﾙ´≧s。
.__ ￣￣ ヽ､｀ﾄﾐ
{ l:＼ ｘ ヽ:::ﾑ ／y
ヾゝｲ ゝ=､:ﾏﾑ ／彡
. ∨ﾊ ﾍ::ﾏ}y, y .／//
. ∨ﾊ ∨!:::} ｆ ／ イ r≦////
ヽ:::ヽ ｧ /}{::::| __。斗======､___ i! .／彡////////////' いくよいくよ！
＼:＼ //／ﾆ|:::::| 。r≦}: : : : : : : : : : : : :≧s。 .////////////////／イ´ いくよいくよ！
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＼:≧s。 y=､ゝ-::≧s, il:::/ニニﾆﾆ∧: : : /二_: : : : :＞､ 〕!///////////////彡´≦彡
y､ r==- ＞､::::::≧s､ ゝ､ヽ､ニヽ:::::::/ニニﾆ／: :ﾊ : /,ｲ￣｀ ＜/: : :} 〕}/////////////s≦彡イ
ﾏﾑ､ ｀ー===--- 。､:::ヽ{:､＼::＼ }::::/ニﾆﾆ/ﾆメ: : :ﾍ': : ::ヽ===ｲ∨: :〕＞､ 〕 ≧s。/////////≦///≦彡
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| 寒風吹き荒む十一月の黄昏。
| 黄金色の西日が橋の下の惨状を露わにする。
|
| 紙袋を頭からかぶった、蜘蛛のように長い手足の怪人『スケアクロウ』。
| その正体は指名手配犯、備府やらない夫。
|
| 西日に照らされた、内臓が空っぽの死体。
| 下半身は一輪バイクで両手が九尾鞭のサイボーグ怪人だ。
|
| そしてやらない夫に肉薄しては闘牛のようにかわされる女。
| これまたサイボーグで、四足歩行のトナカイめいた怪人。
|
| どちらも、『教会』のパプテマス・シロッコが生み出した機械化試作部隊『カトルカール』の一員である。
|
| トナカイ女は名をホーニー・ソープレイという。
| 強化された四肢で時速100km以上で走る。
|
| トナカイを模した角の、枝分かれした先はすべて男性器の形。
| LEDでキラキラ光りながらウネウネと卑猥に動く。いわゆるバイブである。
|
| だが、それは生真面目な人間の眉をひそめさせるだけのジョークグッズではない。
| どういう原理か赤熱し、触れたものを溶断する、『火傷するほど熱い』モノなのだ。
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≦ ´ く `
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| ＞ ￣ ク
| ｀ _. イく
| ｀ Y , イ ´ ﾀ
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|〃｀i | / !
|乂 ﾉ | .i !
| | .i ! あ、ええと…。
| | .i !
| | :i 》
＼ .| ', ／ト 、
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ゝ 、 / _ イ´.: : : :.／ ｀＼
＞‐-‐ ´: : : : : : : : : / ＞‐,r -‐- 、
／ /´ |//《 : : : : : : : : :./ ./ ./::::::::::::::::::ヽ
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| ソープレイは四足の強みとして、悪路に強く加速も旋回も得意だ。
| スケアクロウは脚部を折り曲げ式のバネにして跳躍、川を飛び越え向こう岸に。
|
|「カリカリガリガリ！ カリカリガリガリ！」
|
| 着地と同時に正面から殺気。
| スケアクロウが模倣したノミ脚のオリジナル、『カトルカール』のノミ脚男ホッパー・スクラッチャーが飛びかかる。
|
| ひげ槍を盾にして鋭い鉤爪を受け流す。
| スケアクロウは慌てて退避、より正確には『慌てたふりをして退避』。
|
| こちらに待ち伏せがいるのは知っていた。
| しかも一人ではない、二人。
|
|「ホーッホッホ！ ホーホッホ！ ホーッホッホッホ！」
|
| 頭上からの奇襲、防火服を分厚く着込んだ人物、脚は長く細い、頭部にはクチバシめいたマスク。
| さながら紅のフラミンゴ。
|
| 噴出される粘性の油、即時発火。
| 沸騰して弾けながら飛散する業火、回避は至難。
|
|
|「お、かあさぁん！」
|
| スケアクロウはひげ槍で全身を覆う盾を作り、手足を鈎に換え這いつくばって移動。
| 油の付着した盾を即座に廃棄し、壁を這って逃走……しない！
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|‐‐‐i}------,' /::::::/‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐}＿_ }- ﾑ
|‐‐‐i}‐‐‐‐‐.,' ヽ:::::::＼‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐} }‐‐.ﾑ ホーッホッホ！ ホーホッホ！
／y ､‐i}--_＞´ヽ }､ ／ ＼‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐}===}---.ﾑヽ ホーッホッホッホ！
ゝ/./^＼＜＿＿ ／ｉ.ｉ.ｉﾏ‐‐‐ 〉‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ }＿_.}---- }-＼
/./＞´ゞﾀノ ノ/ .| |.| }---{-｀ﾑ‐‐‐‐‐＞=--.}ヽ､ }＿‐‐‐}---}
{⌒/ゝ／二.ｲ/ ,' ｉ ｉ !‐‐‐ｉニﾆ',‐＞´ ＞ ´ ,'ヽ､ ヽ ヽ､.|---!
,ｲ／ ＞‐イ ゝ､ノ / //!|／.!ニﾆ∨ .／‐‐‐ /‐‐､ヽ'‐‐‐‐‐ｉ‐‐‐ｉ
. //> ´ {:::::::::::::::>｀ゝ‐‐!|‐‐ヽﾆﾆﾆ〆‐‐‐‐ /ヽ､ ｉ/‐‐‐‐‐.|‐‐‐|
/／ ｉ:::::::::／:::ゝｲ ::{ ｉ‐‐/‐ゝ==}-----/‐‐､ヽ/------{---{
´ ｉ:::::/::::::::::::::::::::{ ｉ /､､‐‐‐‐.}--- /--､ ｀/‐‐‐‐‐‐‐!‐‐‐',ヽ
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!‐‐}::::::::::::::::::::::::::/‐‐‐‐‐‐‐〉ヽ､./------------{----..} .}
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,ｲ 彡ﾐイ＿::::::::::::::::::::::::::ﾏ, ! .}/ ＼----------------.ﾑ γヽ
／ ＞(_Oイ＿_ 二ニ≧=---ﾏ',ｉ .〃 ./}-----------------〉 { ,'
／＞´ ｉ--}:::::::::::::::::::::::｀￣:ﾏﾍ/ /¨',‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ /}､ ,' }
. <／ }--}::::::::::::::::::::::::::::::::::ﾏﾍ ./== ',‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐/ﾆ}≧s。 ,' {
}- }::::::::::::::::::::::::::::::／￣ヽ/ ﾏ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐/ﾆﾆ}＿＿{__.ﾉ‐､
. ',‐',::::::::::::::::::::::::／ ／ ﾏ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐,ｲ__ﾆﾆ} ｉ .ｉゝｲ
ﾏ‐,::::::::::::::::::::/ ,ｲ´ ﾏ‐‐‐‐‐‐‐‐/ | ヽ} ｉ ｉ
ﾏﾑ::::::::::＞/ / ﾏ‐‐‐‐‐‐/ !ゝ--.} { }
ﾏﾑ＞´ ,ｲ ./ .ﾏ---.,ｲ ゝ､|.| } .{ {
ﾏ´ / ,ｲ ヽ_/ ゝ-' ' .ｉ. ｉ
. / ﾙ' ﾏ .ﾑ ノ }
/ .,ｲ ﾏ ノﾑ ﾏノ
. ,ｲ ./ ﾏ‐´ .ﾑ
. / .∨ ﾏ ﾑ
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Ｙ ヽ､__ ノ / ゝ--イ
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＿ ＞ ´ ( ヽ
ゝ､ ヽ
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| 火炎放射が途切れた一瞬、ノミ脚で飛びかかるスケアクロウ。
| ……であるが、それは作られた隙！
|
| 火炎放射は途切れた訳ではない、スケアクロウの攻撃を誘発したのだ。
| 真正面から粘着火炎の直撃。
|
| いや、なんとスケアクロウは『アリカのように』空中で軌道変更。
| 何もない空間を蹴って上へ、上へ。
|
| 物理法則を超越した移動の正体は『エクスカリバー』限定起動。
| 盾で防ぎきれなかった背中の火傷を癒やしつつも局所重量制御を発動。
|
| スケアクロウは、いや、やらない夫はフラミンゴ男に高空踵落とし、肩を直撃する打撃、ひげ槍から飛び出した棘が喰いついて固定。
| 細く鋭い杭が、フラミンゴ男の肩から体内に打ち込まれる、皮下機械部分を貫通し内臓に達すると杭はスクリューに変化。
|
|「くけっ」
|
| 心臓を含めた重要器官をミキサーされ、くずおれるフラミンゴ男ことブランドマン・スピットファイアー。
| 踵落としの直撃からそこまで三秒足らず、インターセプトの暇もなし。
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<=／ >_√.i:i:i:i:i:i:ｉ|=-=|i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:／.i:i:i:i:ｉ:|i:|-=|-=／i:i:i:i:i＼=三ﾆ=-￣ …………。
／.::<=／ 乂i:i:i:i／´|=-=|i:i:i:i:i:i:i:／:i:i:i:i::i:／|i:|-=イi:i:i:i:i:i:i:i:i:| . ￣
／.:::_ -={ .i:i:i:i:i:i:i|: : :.|=-=|i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:＿∠￢i:/i:i:i:i:i:i:i:|i:|i:i:i:ｉ:ｉ|
_ -冖￣_ .:i:i:乂.:i:i:i:i:i:ｉ:ｉ:i|: : :.|=-=|i:i:i:i:i:i:i:i:/:i:i:i:i:i:>┐7i:i:i:i:i:i:i八i:ｉ:ｉ:ｉ:ｉ|
／ _､‐''゛i:i:_､‐''゛ ＜i:i:i:ノ. : : :|=-=|:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:L//vﾊi:i:／i=-|i:i:ｉ:ｉ:|
乂i:i:i:i:i:i:i／ {.￣.: : : : ::|=-=|:i:i:i:i:/:i:i:i:i:i:i:i:i:i:|=}i:iLi|´/-=-ﾉﾊi:ｉ:i|
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ﾘ: :√. : : : |=-=|:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i/. 乂乂/ |i:｀¨/
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| やらない夫は、フラミンゴ男の仮面から『異端審問官』を思い出す。
| 救いを求めてニャルラトホテプに転んだ『医者』ことシレーヌ。
|
| 救い。
| 『カトルカール』にも救いはあるのか？
|
|「カリカリガリガリ！ カリカリガリガリ！」
|
| 飛びかかるスクラッチャーを車輪で回避、主が死んでも燃え続ける油、脳裏で火事の心配。
| 他人の心配をしている場合ではあるまい。だが、つい考えてしまう。
|
|「消火剤とか無いのか！？」
|
| やらない夫の叫びに、スクラッチャーが死んだフラミンゴを一瞥する、彼が持っていたのか。
| 火の処理に一瞬悩む、だが、放置は危険だろう。こいつらがやるとは思えない。
|
| やらない夫は自省した。フラミンゴを見てシレーヌを思い出し、つい殺してしまった。
| 『カトルカール』の誘導に乗るはずだったのに。
|
|（にゃんこ先生……）
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ノ /: : : : ::::::::::::::::`r─‐=ｧ
rﾍ ／ {: : : : .:::::::::::::::::/ ／
} ∨`｀,. -ﾐヽ: : _::::::::::__／, {
｜ {｀ ⌒ヽ} Ξ ／⌒ヽ '' /
ノ｡ヽ ,. '" ￣｀`=┴=弋 t_.ｘ.__, ´￣￣ -‐/ ,.._ （阿呆が、面倒をかけおって！）
}ﾟOﾟ } ／ ＼ノ/j7 / -／￣ _〉
ｌ ＼ ∠./___{_{zzzｯ=‐'" ／
八 ヽ ／
ゝ {
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{: : . /
ゝ: : : . ＿__ /
＼／ ヽ ／
{ }::::... ､____ ／
ゝ､_______ノ､::::::::::.... o ）
￣￣￣`ー‐='"´
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| やらない夫はノミ脚男を威嚇しながら、車輪をローラースケートのようにして走る。
| 舗装された路面ならこれが最速だ。
|
| にゃんこ先生が対処しやすいように火から離れる。
|
|（それにしても……）
|
| 先日、諌山冥が言ったとおりだ。
| 『カトルカール』はビックリ人間の集まりだが、戦術的には未熟だ。
|
| やらない夫の戦力を見誤り、逐次投入で犠牲者を出した。
|
| 対岸からトナカイ女ソープレイがジャンプして来る。ノミ脚は高低差を使った攻撃が難しいらしく、やらない夫を誘導するべく位置取りをして威嚇。
| 本気で逃げるなら、川を渡ってターンするべき。
|
| やらない夫がそう考えると同時に、五人目の『カトルカール』がエントリー。
|
|「ドキドキしてきたー！」
|
| なんとも上からの登場が好きな連中、だが、今回のは格が違う。
| 空飛ぶゲンゴロウ、それがやらない夫の第一印象だった。
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,ﾍ rヽ
弋＼l | i
__ ,. -‐- ､__ヾ:::::Y |l _ , ― ￣ヽ
l : :`＼ ' ､ ＿＿ ,7ヾ:::{__K ､ ＿_ ,.... -´
〈⌒`＼!: : : : :＼ | ｨっ !|
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ヽ: : : : : : ﾄ‐-’ `､ ,ﾍ /:', ﾉて)__.::/ ＜: : : : :＿＿／
＼ー- ´ ＼ ﾞ,ｌ::::l l:::::l／つ￣::ﾉ , -´ _ , ゞ: : :´: : : : :〉
＼ `y:、 !:::::l |:::::::|r-､―:::' ´_ - （: : : : : : : : :／
`ヽ 、｣:::::i |:::::::v-＜`ﾆ'／- ´ `ー= "´
|i::::::V／- ､ ／ ＿ -‐ "^
_／|l::>"⌒ヽ ―＜^て)
/ { ﾚ´ }＼ /⌒Y＿_
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i:::!V /⌒ ヽ `ヾ_ノK:＜＼＼/:/
i:::::>ﾄ, ri〉__/／ ＼＼!::/::/
ヾ| ヽlｰV ,､／ ﾍ::/ '´
ﾌ_／ '´ （イメージＡＡ）
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| 薄くて細い四枚の羽を微振動させ、カマキリみたいな巨大な刃物で引っかけようとする新手。
| 鎌を持ったオニヤンマ。
|
| 昆虫の中でも加速やホバリングに優れたトンボの羽を有した空戦型だ。
| 小柄な体に比べて異様に長い鎌が赤熱、ガードレールを豆腐みたいに切り裂く。
|
| こいつは、開けた場所でしか活躍できない、橋の下に逃げ込むか？
| ……いや、やらない夫は追いすがるノミ脚男に目を向けた。
|
| 狭い場所は、不屈の忍耐力で必殺を見逃さないこの男のテリトリーだ。
| いつものバレリーナは先日の負傷のせいか見当たらないが、代わりに突進するトナカイは厄介だ。
|
| やらない夫は本日すでに二人の『カトルカール』を葬った。
| それには強力な格闘攻撃を当てられるような隙が必要だった。
|
| スクラッチャーはもはやそれを許さないだろう。ならば……今は逃げの一手だ。
|
| ノミ脚で急加速し、ローラースケートでその速度を維持、川向うをトナカイが並走、背後にはオニヤンマ。
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／> ´￣ヽﾆ.}
,ｲ／ }ﾆ|
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{,' ,ｲﾆ/ ＿
| ./ﾆ./ 。ｒ≦￣￣＞/=/ カリカリガリガリ！
/ﾆ/ 。ｒ≦.:.:＞ﾍ ´.:.:.,ｲ=./ カリカリガリガリ！
/ﾆ/ _, -- ､‐ヽ.:.:ヽ>´.:.:.:.:}／ /=.{
/ﾆ/ .,ｲ(::::::::,ｲ､ ﾔ.:.:.}.:.:.:.:,ｲ 〉 ｉ￣￣.:／
,ｲニ} { ｀￣--.´ｉ ',.:.|.:.:./ ,ｲ ./.:.:.:.:／
. /ﾆニｉ_ ﾏイ/;;;/ｉ ｉ ,' ヽ / ／ .／￣／ヽ/__。=､
/ニニニ≧====ｉ;;;(ゝ---ｲ .,ｲ／ > ´====' ｉ.:.:.:.:.:.:Y､
｀＜_ニニニニﾆﾆゝ;)ニニ /.,ｲ ／ニニニニニゝ__ｉ､＿ ノヽ ≧=-
｀ ミ==､ニニニニ＞/ 〆ニニニニニニニニニ／＿ ＼＼ ｀≧ｓ。
ゝ､ﾆ／/./ / イゝニニニニﾆ',ゝ､ニニニニ＞=--､ヽ ヽ ｀ヽ＿＿
// ,ｲ .}ニニニニ〆 ｀￣￣￣ ｀ ＜ ＼ ヽ ヽ
. //./ .ｉニニニニニ≧s。_ ｀ ＜ ヽ ＼
,ｲヽ/ {ニニ＞========ﾆﾆ} .ヽ ｉ---'
{ ノ≧s ｀ ´ ／ﾆノ } } ｉ
yゝ-ｲ／ {´ﾆ <､ ,' .〉}
/ ./ / ｀ ＜==-≧､ .{ /ｉ
ｉ ,' ! ヽ }
. | | {
| ヽ ', ノ,'
', ゝ≧==≦>イ
ゝ､＿_ ＞ ´
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| トナカイ女ソープレイの背中からノミ脚男スクラッチャーの跳躍。
| 急ターンで回避、そこに空から灼熱の鎌、避けきれずに焦げるコートと皮膚。
|
| 川を飛び越えるソープレイ、囲まれた。フラミンゴの脚力を模倣、ハイジャンプで路上へ。
| 空中では回避できないという致命的な隙、だがオニヤンマは追撃せず。
|
| 先程見せた『エクスカリバー』による軌道変更。あれを警戒しているのだろう。
| やらない夫はここでようやく、オニヤンマの全貌を目にした。
|
| 女の背中から生えた長さ3mもの羽、両腕の代わりに肩から生えた多関節の刃は刃渡り1mもある。
| 腹から下は細長い機械で、プロペラと尾翼がついていた。
|
| ……呼吸器付きのヘルメットで顔は見えないが、膨らみかけの乳房と肋の浮いた胸板の薄さはまだ年端も行かない少女のそれだ。
| やらない夫は顔を覆う覆面を強く意識した。
|
| 想像するな、同情するな、それ以上は危険だ。
| オレは『スケアクロウ』だ。オレは『スケアクロウ』だ。
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| )ゝ‐イl |
|,ノ,ィ≡ミ ゝ |
|ヽ{((〇))} ( |
. | ).ゞ==彡/ | あー、うん。
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| 周辺に人の気配はない。安心した。人払いはしてあるらしい。
| だが、戦闘で民家を壊すのは気が引ける。電柱を掴み、その腕で振り子のように移動、民家の屋根に。
|
| すばやく移動、周辺を確認……川沿いに廃工場。
|
| 一瞬、その廃工場こそ『カトルカール』の誘いこみ先なのではないかという考えがよぎる。
| いや、構わないか。
|
| 医療品と食料を抱えたねずみ男は順調に移動している。
| にゃんこ先生が火を消し止めた。ならばこの廃工場でもう少しだけ時間を稼ぐ。
|
| その後に、『エクスカリバー』で逃亡すればいい。
|
| ……やらない夫は、心のどこかから流れ込む虚無感を無視した。
| それでどうする？ 戦いに余裕があるせいか、余計な事ばかり考えてしまう。
|
| やる夫も翠星石もいない世界。
| でも、守らなければならない人がいる。
|
| 蒼星石は何かしら動いているはずだ。それを信じて待つしかないのか？
| 待つ。戦いながら？ 廃工場、いや、工場の焼け跡というべきか。
|
| 不規律に焼け焦げた鉄や木が並ぶ様が、野生動物に食い荒らされた姿を想起させる工場の遺骸。
| オニヤンマを威嚇しながら工場へ、やらない夫はそこで思わぬものを見た。
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r‐ 、 ＿ ＿_
>'^;;､ヽr─-ァ';;;;;､) '´ 〉
{;;;;i′〔 lll〕´ ﾞヾ/ ,. -､´
＿ ﾞヾ､ィj｀´ャ､ ／ﾌ､ _ ノ′
巛t＼ 〈 <＼／> 〉'ｎ/￣ __ いじめないで！
｀ヾ､｀ニ´べ'、 '´／t t、 ／川〉 いじめないで！
,,ノ;;;;;;;;{_ ＼_,,.x '´ いじめないで！
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／;;;;／;;;;;;＼;;;;;;;;;;;;;;;;;;ﾞ:､
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,' ′ ＿ |';;;;;;;!、
匕´￣｀'' ‐-､ ''´ ｀"''ヾ＿ |
レ'｀ー-､-ぐ二＞-┬'' ´ ｀'';|
｀ー--r'´｀ー--┬''´ ｀ﾞヽ,冫'´
｀ー--一'´｀''──'′
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| 赤と黒のだんだらの巨大蜂、そんな風情の怪人が同じ言葉を繰り返す。
| 下半身はハチの巣を取り付けたような異様なスカート、いや、足がない。
|
| スカートの中にはみっしりと機械部品が詰まっており、そいつは背中の羽をぶんぶん言わせてホバリングしていた。
| せわしなく移動しながら廃工場のあちこちに何かを設置していく。
|
| 彼女はオニヤンマと同じく『カトルカール』第二世代の一人、トパズ・ボマービー。
|
| 彼女を前にして困惑を隠せないのは杏子班の面々、悪魔退治に来たはずなのだが、目の前には異様なサイボーグ。
|
|「撤退だ佐倉杏子、こいつは『カトルカール』だ。『教会』の強化人間だよ」
|
| 杏子の肩でキュゥべえが囁く。
| 縄張りだ何だとかいう場合ではない、話が通じない相手に揉めても意味がない。
|
|「でもさァ」
|「『教会』なら悪魔は退治してるだろ、浄化は後日になんのかな」
|
| ヴァイジャヤが面倒臭そうにボヤく。
| 動き回る一人だけではない、他にも気配がある。何の為かは不明だが、剣呑な雰囲気が窺えた。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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. | i::| ｜ ＼＿__| | ＿_／ ｜
. | i::| |_,／ ＼__／￣￣＼/´ ＼__|
. | i::| / / { , -‐‐- 、}＼ 〉 ……今スグ移動シマショウ。
. | i::| ＼___ ∧ ､{:::（ ）:::}ﾉ 丶 /､ 奴ラハ危険ダ。
. | i::| / /＼／ ＼＼---‐' ＼／＼＼__
. | i::| r〈_/ { ＼＼ 〔（:::）〕 ﾉ ／|￣ｌ|＼
. __|_ｉ_|__ ／ 〉 ＼＿＿＿＼＼ ＿_ ／ ／ ｜ l| ＼
〈＿＿＿_〉 ／ ｝三三三≧=-イ 〈[l三＼| ｌ|／三l]〉
｛三し{_／ /￣}二二{ ﾉニ〔￣〉 ＼|＿ｌ|／
}__}´ └r‐/ ￣}二二}＿＿＿{二二「￣l ||
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. ￣￣| | | |
. ／￣￣￣＼ ／￣￣￣＼
└――――┘ └――――┘
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|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
| 少なからずの嫌悪感を漂わせてロビンが口早に警告する。
| 彼の態度にただならぬものを感じたか、横島が同意を口にしようとし……固まった。
|
|「…………マジか？」
|
| ボマービー以外に、二人の『カトルカール』が姿を現す。
| ヒルのような、あるいはゴムのような人物が崩れた瓦礫の下にニュルリと潜む。
|
| もう一人、重機のような両腕を持つ半裸の女。エンジン拳ことランプラー・シャンブラー。
| その肉感的だが死体のようなボディに横島は釘付けだ。
|
|「おい、おっぱいなら何でもいいのかよッ」
|
| 凍り付いたように動かない横島をどやしながら、ヴァイジャヤが車の荷台を閉める。
| 収納されている『バーサーカー』はまだ下ろしていない。
|
|「うぉぉん、ううぉぉん」
|「いじめないで！ いじめないで！」
|
| 唸るシャンブラー、金切り声を上げるボムビー。
| 戦闘用に作り変えられた、破壊のためだけの改造人間ども。
|
| 彼らと自分は違うという嫌悪感が、ロビンを苛立たせた。
| いや、正確には……『そこまで行けない』自分への焦りか？
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| 突如、蜘蛛のような手足の怪人が飛び降りてきた。ボロボロのコートを翻し、顔は紙袋で覆っている。
| 人間ではないメートル級の手足のバネで、落下の襲撃を和らげる。
|
|「うぉぉん、ううぉぉん」
|「あ、ええと、どうも……スケアクロウです」
|
| よたよた歩きのシャンブラー、その肘のあたりのエンジンが唸る、火を吹く。
| 自分自身を射出するロケットパンチ。噴射で後方の瓦礫を、そして進行方向の全てをも凪倒し突進。
|
| ヒョイと避けたスケアクロウの足が、爆音と共に吹き飛ぶ。地雷、ボムビーの仕掛け。
| バランスを崩すスケアクロウ、だが半ばからへし折れた足が伸び、地雷のあった同じ位置を踏む。
|
|「ドキドキしてきたー！」
|
| そこに空から灼熱の刃の強襲、新たなる『カトルカール』。オニヤンマ少女。
| その名を、ザフィーア・ドラゴンフライ。
|
| バカでかい鎌と羽だけの体。あれをどうやれば自分の身体だと思い込めるのか。ロビンは慄然とした。
| その間にも、スケアクロウに襲いかかるゴム人間。ハエを思わせるガスマスクに異様に柔軟な肉体。
|
| ラバーマン・ポイズンスター。その名の通りに瓦礫の隙間から現れ、毒ガスを噴霧するボールを投げては瓦礫の隙間に素早く消える。
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ヽ:::, ｨi}:／〇／￣:::::::::ヽ＿ノ､::〇::::ヽヽﾐ
／０,ｲ:〇::/:〇:/__斗 {:〇::ヽ::ヽ:::〇:ﾊs。
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,ｲ〇::､＞ ´.{_斗}:::_。ｒ≦。ｒ≦О＞ ´-- }:〇{::〇::≧､==､ ヽ〇} y､
. ﾏ:::○::ヽr≦:::::／::〇::／〇::＞ ´:〇＿_/::::::/r==､:О:}::０:》ノ〇/ｒ´〕
ヽ::::○｀≧:,ｲ○::::／:::＞ ´ {○::,ｲ:ｏ:::○ノ::}::::::::}０,ｲ==='､０／.:}.:.|
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}::::::○ゝ。ｒ≦/ 》 }○:::|{{ il {} .//=! 》 ,ｲ/:○:,ｲ='-､
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| 足元には地雷、動かなければガス。
| 空からはドラゴンフライ、地上にはシャンブラー。
|
|「手伝うか？」
|「いや、巻き込まれる前に引くべきだ」
|
| 圧勝の気配に勢いこむヴァイジャヤに、キュゥべえが冷たく言い放つ。
| 多弁な彼らしくもない端的な言い方、杏子がその意味に勘付いた。
|
|「ありゃ、もしかしてやらない夫さんかよ」
|「鋭いね佐倉杏子、ならば早くこの場を離れないといけない」
|
| 怪人の猛攻を受けるスケアクロウ。ならばむしろ、手柄のために参加したいヴァイジャヤ。
| 逆に会いたくなかったロビンと、全く話を聞いていない横島。
|
|「敵になるか味方になるか、今すぐ決めなきゃあならなくなる！」
|「ダメだやらない夫さん！」
|
| キュゥべえの叫びにヴァイジャヤが足を竦ませた。だが、代わりに横島が飛び出す。
| 光の刃の投擲、その直前に戦況は変わっていた。
|
| 予期せぬ横島の行動が、やらない夫と杏子たちの運命を変えることとなる。
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-=彡￣三ミー=ヽ￣≧=´￣ﾐｙ＝ﾐ､ ｀ヽ__
／ｚア⌒ｊ彡=ｰァ ゞｭ､＿ヽミヽ!{ ｒ､}! ）/ｔ ｭ.ヽ,
（ｲ { ／ ィア⌒彡＝７ｒミｚ‐ヾ｀ゝ=ｲ {/,zァ≦=≧｡､
ヾ / / __ｒ=ォzィｱ/7,{ ＞=ｭ､_ｊ///彡///ｲ_ノ _..... -ｒｒｧｧ=≦'ｰ- ､
{ ≦ｭｧﾍ ﾄ｣=|-ｒ'〈ｭ_/ﾑ77{ ﾌアｊ!////=´¨ , ｨ´7＞ ´￣ ￣｀ヾ}.
{_ノ､_{ Yゝ ｊｲ/!ﾊ/|! {/ﾉイﾊ1/´ニニ| ,,イ}＞' ＿_ }l!
ｊ ／/,ｲ!/ﾊ/ゝｧ彡ｲ| Yニニニ|! ,イﾐ／ ￣｀ヾｫｙ'ｲ
ゝ､{⌒_ィ //// {/≧7///r=ｫ!|ニニニﾆﾄ /ミ/ ｱ=Y
ヽ＿（＿ミ≧彡{!//{! ア=-ｧｌ｢ {ｊ {jT!ニニﾆﾆ|!ヽ/ミ/ﾄ|ﾊｲ_ 〈/ {
￣￣｀ー='´ ｊ//ム.y′,ィXX|! |!ニニニﾆ!/ 〕}ト ヾ |7, ｀ー=-'
<{´ｊ///ﾑ≠XXXx|L-=ｲ＝ｒ＝ｧ=' /≧ｒ<ヽ }!, ＿
^⌒｀ゝ.xXXXx_ソ , {レ´￣ ｀ヾﾆﾑ｀ヾｭ_,,ｨｱｲ（
￣￣〕ｭ､_ィ{ /ｊ__zｭ≦ｲ{_ヾﾆ{ ｀ゞ〔{､7＞｡
,イ＿）ﾆﾆ＞⌒ｰｭ､ftjY Y[ {ﾚ⌒}ﾄ）/ﾆ＞ｭ_ ノア
_ァイｆｔ{ /ｨ^=⌒ヾ=}ﾊY} ｲｴ{ ﾞ⌒ヾ7ニ{7￣ﾌ-{
_ｭｊtfjtfjtfjtlハ そ ｚ / jﾚﾘ//ｪ‐ｪ' ｀Y_人!´__ｲ
_zftjヾ､ｊｊtfjtfl ﾘ_ 7´x'彡ｲ_/ｲﾍﾑ ニニ{ }/｀￣
７⌒ｊｲ〈ﾊ ｊ!_）{ /ィ ´, -＜彡´ﾍ{ ヾﾑ≧＝＜_
/ Y}ｲ=彡' )y／/////r／_）､ ヽ｀ヽ≠ェｲ __
{ｲﾊ/ ,ｚ ｲｊ‐ ⌒ｊ／//////／ニニﾆr }ﾆｼ ヾﾆﾆー=彡'
ﾘ '7´￣' ／＝ｭ､//／ ｀ヾﾆ{ ￣｀ ´
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ｒア=ｒ､｀yﾚ^ }/=v′ ^}x/そ,
´ 人ｊｲ/｀ｊ /‐yｲ ｀ﾏ{
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| zip音と共に高速召喚された墨目がラバーマンの腕に打撃。
| 二刀による挟み込みでうねる腕を切断、取り落とされる神経ガス弾、尻尾の刃がガスマスクに一撃、マスク破壊。
|
| 血とオイルを撒き散らして逃げ出すラバーマン、上空からボムビーが爆雷をポイポイ投げ落とす。
| 更にはドラゴンフライとシャンブラーの挟撃、必殺の連携であった。『エクスカリバー』がなければ。
|
| 局所重力制御により、自然落下していた爆雷がポップコーンみたいに跳ね上がる。
| 空中で爆発、ドラゴンフライが頭から巻き込まれ、ボムビーも逃げ切れずに被弾。
|
| 障害物を吹き飛ばして突撃するシャンブラーを、スケアクロウは悠々迎撃。
| 先日の港湾地帯ではこいつの暴走に助けられた。だが、倒せるときに倒さねばならぬ。
|
| 漲る殺気、トラックの突進めいた拳圧を髪一重で回避、風圧で紙袋とコートを千切られながら、生身の脇腹に渾身のフック。
| 肘が瓦礫を粉砕しながら伸びる、エンジン拳の模倣、加速パンチ。皮膚と皮下装甲を貫通したひげ槍が内蔵をミキサー。
|
| 『カトルカール』二名を屠った秘技が炸裂する直前、光の刃が肘に直撃。
| 粉砕破壊。
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／￣￣＼
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| （ ○）（○）
. | Ｕ （__人__）
| Ｕ |r┬-| 彡
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. ヽ }
ヽ ノ
／ ＼
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| | ＼ / ヽ ＼_＿＿＿＿|
Σ(⌒ノ ゝ ＼＿_）
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| 生身ではない、ひげ槍の一部を破壊され、やらない夫はたたらを踏む。
| そのまま走り抜けるシャンブラー、反対のエンジンを吹かして回転ターン。
|
|「やめろ龍田！！」
|「なんだと？」
|
| 駆け寄ろうとした横島が、噴射を受けて火傷しながら転倒、状況を把握できなくとも杏子が反射的に結界で保護。
|
|「うぉぉん、ううぉぉん」
|「ドキドキしてきたー！」
|
| シャンブラー、エンジン拳、あるいは『結社』撃滅作戦で殉死したはずの龍田。
| 中学生離れした肉感的なナイスバディから、横島は彼女を見分けたのだ。
|
|「裸見た事あったのかよ！」
|「前に風呂を覗いた」
|
| にわかには信じがたい、だがやらない夫は、そしてロビンは横島の妄想じみた確信を後付ける現場を見ていた。
|
|「デハアノ時、冥ヲ討ッタノハ……！」
|
| 最愛の妹、天竜を人質に取り、拷問じみた激痛を与えて殺すとまで言い放った諌山冥。
| シャンブラーの暴走は、つまり、つまり……！
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／::::::::::::::＼ ぐっ……うげぇ……っ！
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| （ ○）三（○）| :゛;∴゛` ;｀: :゛;:`´..;．∴;．｀:'：
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| 嘔吐しかけて、やらない夫はそれを飲み下した。
| 喉が胃液で焼けてヒリつく、龍田……やらない夫は龍田を殺しかけたのか。
|
|「いじめないで！ いじめないで！」
|
| ボムビーが戦線復帰、コイツも、ドラゴンフライも年端も行かぬ少女に見える。
| 防火服で着膨れていたが、フラミンゴの中はどんなだったのだろう。
|
| いつでも不退転の戦意を見せた一輪車は？
| 味方が傷付く度に不屈の執念を燃やすノミ脚男は？
|
| こいつらはどこで『調達』された、何者なんだ？
|
|「サマナー！！」
|
| やらない夫の戦意喪失は瞬きよりも短い時間だけだった。
| だが、致命的。
|
| ボムビーが火炎放射、そこを突っ切ってドラゴンフライの襲来。
| やらない夫を庇い墨目が対処、不意に掴まれる足、片腕のラバーマンの底力。
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ｒｰ- ､＿＿
_, ｣ ﾄミ_,ゝ＝ァミヽ
, イ ﾊ_ｙ´ / /´ィ⌒ヾ}
x＜⌒￣ ヽ. ／ｊ ｊ / / ｲ! { i｀ ヽ ヽ
_,zｱ´ ｙ' / ｲ / ｲ //ｊ ! i! t_ぅ､ヽ,
≦{ｲ ﾘ , /ｊ i⌒Y / {ﾊ ｌ ﾊミ ￣_＿}､ このっ！
///ﾊ {ｊ i {ﾘ ｌ ｌ ﾘ ｊ i ヽヽィ´////ﾊ
///| ゝ=≦､_ ハ ﾄ{ Ｖ 从 ! ｌ ヽ ＼////∧
＝' ´ }ミ _人 ゝｿ､ゝ ｀ヾミ | Yヽ Y＝―〈
,イ トァ≦//.∧ヽ__ﾉ} ミー＝-' ｌ } ヽ! ヾ ｀ヽ,
/ ハ{/////.///＞='/ハ ＼ V ､ﾉ人ﾉ } ヽ＼ﾉ
{ ｲ （///ｒ＝ｱミヽ////ハrx7Xi! ､_,ｲハ7/ ﾉ ＿）/
! {ヾ-彡 ヾ/ |!-‐ﾍ///// } XXjヽ ヾ＞＝ ｒ=ァ'了ヽ.､
ＴＴ7＞='＿//ノ ﾄ=>､＿ｊ}////.ﾉ Xソ ミヽ￣｀ヾ } Yヽ.
ftfﾊ´￣Ｙ ｱ ／_＿ _￣ﾌ´￣ヾ＼＿ ゝー' ＼ﾉ ﾊ |ﾊ
ｊftjfﾍ ヾ〈 イ ￣⌒｀ヽ --＝≦￣￣ ｀ー ､ヽ ｊ ｌ∧
!jftjf/＼ ｀Ｋハ Y´ ﾐヽヾィノ//
tjft/ ＼_ﾉｭ､Ｙ ﾉ ﾉ＼////
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| 尻尾のナイフがラバーマンの頭部を串刺しに。同時にドラゴンフライの刃が墨目を撫で切りにする。
| 焦げる毛皮と血肉、致命的な傷口から溢れる死の瘴気。
|
|「墨目、戻れ！」
|「そうしたいのは山々ですけれど！」
|
| 腑抜けたやらない夫では『カトルカール』を殺せない、戦えない。
| 破損した体から魔力と血液とがしとどに溢れる、頭部を刺されても妨害をやめないラバーマン。
|
| 日常生活が送れないほどに改造されたサイボーグ兵士たち、彼らに救いはあるのだろうか。
| それとも、戦いの中で死ぬことだけが……？
|
| やらない夫は助けを求める様にせわしなく周囲を見た。そしてそこに、求めた答えがあった。
| ずっと、前から。
|
| あったのだ。
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-‐ﾆ ┤
＿ -‐ ´ ／ }
＿＿ ／´ ｀ヽ､ j
_ -‐二 ─ｧ (:.r:.) ヽﾉ
く ￣ / (:.r:.) ヽ＼ 下がれ、備府やらない夫！
＼ / / ､＿, } ヽ ボクらはキミに干渉しない！
ヽ/ { ｰ´ ﾉ ヽ
/ ﾊ ｲ ヽ
,′ | ゝ ／ l ヽ＿┐
＿ l ├─｀ｰ ┬- l´ l ヽ //
＼ヽミヽ/ ! l ! l ／ﾍ
／⌒ ヽ＼〃ミヽ､ j ,' l＼ ∧_ ／／ ﾟ ＼
/ ( ｀ノ ＼､ l ＼/レ-＜ ､ ﾟ､＿ ＿ )
/ ＼ ／o ﾉヽ＼ ハ i ヾ､:..ヽ ＼ﾟ｀ヽ､ ＼
{ r‐｀￣ ／ o o ／ ｀ｰ┘ { { | ｀"ヽ ｀ヽ､_)｀ｰ--'
､ ゝ-／ ／ ／ ! 丶 { ヽ
＼ 'ｰ─／__ ／ ／ l ∨ / }
＼ ´ _ -‐ ´ l { ∧ ﾉ
｀ ｰ─-- -─ ´ ((l, H ト､ゝ─ ´ ／
〉 ハ / (r , '´
ゝノ/ ノ ￣'
￣
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|「まあそう言わずに、オレは決めたよ」
|
| 排出されるひげ槍の四肢、生身の手が背中から引き抜く『エクスカリバー』。
| 柄が大きく、シャベルのように横棒のついたトンファーめいた剣。
|
| 脳噛ネウロがやらない夫に与えた『セイバー』の証。無敵の『守護神』。
|
| 排出されたひげ槍四本が光輝か、あるいは回転翼のようにやらない夫の背に負われる。
| まるで六臂なる阿修羅のごとく。墨目を守るように抱きすくめ、ラバーマンを振り払い、ドラゴンフライを撃ち落とし、爆弾を打ち返す。
|
|「おおん、おおおん」
|「翠星石もやる夫も天竜とシグも『カトルカール』も救いたいからな」
|
| 魔力の障壁に阻まれて、シャンブラーの拳が火花を散らす。その中でも、やらない夫の声はよく通った。
| ロビンは人間でありながら人智を超えた造形のやらない夫に、深い畏怖と憧憬を禁じ得ない。
|
|「オレは弥勒菩薩の『末法少女』になるしかないだろ」
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やらない夫は救世主の道を選んだ。
蒼星石は上次元介入者の走狗となり果てた。
ここにもう一人、ヒトならざる怪物の道を選ぶものがある。
神の怪物。
怪物を殺す怪物。
……敵を斃すためになら、その選択は正しいのか？
不死の神父は笑みを消して静かに答える。
次回、最終幕三十一話『神父アンデルセン』
果てに見るのは破滅か死か。
弥勒少女YARANAI-O来ちゃったかー
横島は流石だねえ
遂にマツコ・デラックスなるのか
みたいな感想が作者の手のひらの上だった
超能力の話からこっち、人体の拡張の話が続いてたんですね
ロビンはひるこだけど人の形から外れたくない、カトルカールは改造と狂気で変化した人体に対応
やらない夫はカトルカールを参考に人体にとらわれない動作を切り替えるに至る、と
すけあくろうはその切り替えのためと同時に相手に情を抱くのを避ける意味もあった
でもそれは情を抱いてしまってる事の裏付けでもある、か
>>944
長文感想ありがとうございます、励みになるよ！
『情にサスマタを突き刺せば、メイルストロームに流される』『情に心揺れし忍者はいとも容易く誤断って死ぬ』というコトワザにもある通り、情は命取りになりかねないものですからね。
（{￣
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ｲ:ヽ::r―--::::::::::::｀::..､
|´￣｀ｰ' ￣￣｀ヾ:!
|! ＿＿ ＿ﾘ
i! ,ァ:.ー--== ァ/ ｒ }! 遅え！ もっと早く走れ！
Y´《 ､ ｒｹ:j r'
! { Tてヽ
ヽ ｀ー ､ ノ ゝﾘ
＼ イ// ヾYス＿.
ー彡人/ }ｱ≦ｧ-､
´￣ｺ} ト､ , /ノ⌒< ￣ ヽ
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| 十一月の秋風の中、夜の東京を影が走る。
| 暴力教会から抜け出したアリカを、『十二の封印像』の『蛇身』ことイナミがどやしつけ走らせる。
|
| この一週間、最初の一時間を全力で走っていた。しかもただ走るのではない、毎晩違うコースを、しかも民家やビルの上を走っていた。
| 謎の二人組パルクールとか、女スパイダーマンとか噂になりそうだった。実際不人気は聞いていた。
|
| 超能力や異能の類は無し、命綱も無し、体中に痣を作りながらもアリカは走って飛んで跳ねて転がって走った。
|
| その後休憩を挟まず型の稽古。
| アリカの空手をイナミは腕を組んでひたすら観察する。
|
| 型の意味を解説させ、分からないなら考えさせ、動きの矛盾や癖を矯正しながら一時間。
| 次いで組手、魔力なし、武器や飛び道具有りの準実戦方式。
|
| イナミは周辺のモノを扱うのが恐ろしく巧みだった。僅かな足場で跳ね回り、いつの間にか武器になる道具を調達する。
| 目隠しをしているのに、全てを把握していた。アリカはキオを、超能力者のESPを思い出した。
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, ィ::::::￣￣＼
ィ::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
├- :::::::::::::_＿;＞ ´|!
} ￣￣ ﾘ
{トｭ､＿ｊ ＿ｒ-y 人間の強みは変化の速さだ。
ノｲ <｀ ￣￣ｊ:ｲ ノ! 適応の早さだ。
人ｭーｧ ｊ /:::{
イ//ム´ﾟ ィ ﾏ^マ＝ｭ､
_ｊ´７////r-' ー彡/ ゝｧ｢ア＿ミヽ
ィ＝77///ｒ－彡=≠:::ハ ｒｲｒ' ヾﾊ
イ//////人｢￣ /ァ/リ7ｧォ｢トｊ ﾏ､
〈//////イ//l! ヽ /⌒, ´Yゝﾊ/｀ ＼
｀ー＝ー-＝'￣￣/ / イ､ ヽ
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/ /ｊ ﾉ ﾑ≧､ィ///ハ
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ｊ__./ ﾊ 八 ＿ ／/_彡' /////
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（{:::::ﾊ/ ￣｀ マ ＞､ イ /_ _/////
ヾ / ｀マ ＼ / ｊ//77イ/////
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|「速さ？」
|「そうだ。てめえらは目まぐるしく変わる。牌を入れ替えるみてえに新陳代謝で変化を続ける」
|
| イナミはしばしば麻雀でモノを例えた。
| 彼女がいた時代の日本にはなかったはずなので、最近おぼえたのだと思われる。
|
|「だが悪魔は変われねー」
|
| 麻雀は？
|
|「人間の影響が、悪魔を変化させる。悪魔は人間に感化される。
| だが悪魔だけじゃあ変わらねーんだよ。永遠にな」
|
| つまり、イナミが剣を習ったように、麻雀に入れ込んだように。
|
|「変化しろ、あるいは変化しないことに耐えろ。目に見える変化は転がっちゃいない。
| 今は何も見えていないだけで、いずれはその時間が無駄ではなかったと気づくだろうよ」
|
| 止まるな。前に進め、僅かずつでも、這ってでも。
| あたしは、突撃手だ。アリカは自覚する。ネウロの言葉を思い出す。
|
|「お前の目指す場所は遠いかもしれねーが、一歩ずつでも近付いていくのを忘れんなよ」
|「うん……はい」
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／:::::::::::::::::::::::::::｀::ヽ..
//￣{ ￣￣￣三≧＝＼
| ヽ ﾊ
ｊ ＿＿三￣ ＼ !
{_ ィ´￣ _}:｀ﾏ⌒ヾー| そーいや天の利と地の利って知ってっか？
|:ﾉ :､ ヾｰ' ｒ }::::::j オレにやっとうを教えた男は『天の利』に聡かった。
i ｀ ﾉ ､_イ::::::｀ヽ
､ ｒ-､ ／￣ヽ::::::::::ヽ::}､
人 ｰﾟ { ﾉ::::::::::::::/:::＼
（＿ > ,ｨー彡::::::::/￣￣ ￣｀ マ
ー＜｀ヽ ｊ::/ マ
(::::::::＞ //| マ
￣ア レ| ｌ マ
/イ７ｒ | ト .. ヽ.
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| 日々変化する天気や時間による光の加減など、そういう所まで計算して勝利を掴むのだという。
| いや、正確にはその男は計算ではなくより良い手段を選ぶ直感に優れていたらしいのだが。
|
|「オレは真似できねーから、『地の利』をなんとかすることにした」
|
| それも真似できるものではない。
| 魔力を使っていないとは到底思えない凄まじいまでの地形利用。
|
|「イナミさん、目隠ししてるのにどうやってるの？」
|「敵を知り、味方を知れば百戦危うからずってのは？」
|「……知ってる」
|
| 質問に質問で返されて、少なからず憮然とアリカは応える。
|
|「それが『人の利』だ。てめーはまず、『自分』を理解しな」
|
| 人間、自分自身のことは意外と理解していない。筋肉や骨の術理、魔力と血液の循環、全身に走る神経網。
| それらを当たり前のように知覚できればどんな行動の精度も上がるというのがイナミの説明だ。
|
|「それが終わったら『敵』だ。よく観察して見極めろ。
| 相手の和了牌が判りゃ負けねえだろ」
|
| ここで、目隠しの理由である。当ててみろと言われてアリカは首をひねる。|
|
|「弱点かもって思いたいけど、たぶん秘密兵器」
|「なんでそう思う？」
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,. -f一'
,.ｲ一′
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/.:!´
j､ﾉ ,.--､r‐
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／ |l __ {:.} _f_ﾉ
／ __,r‐'.:.:.:｀ヾ⌒丶f:ﾉ
/ ,r／.:.:.:.､:.:.､:.:.:.:.:ヽ:.:.:.:＼､
/ //.:.:./.:.|:.:ヽ:.:ヽ､:.:.:.!:.:.:ヽ:.ヽ＼
/ //:/.:ﾊ.:.:.!＼l＼|__ヽ:|＼:.:.|:.:.:l:.:|',
i |:|:.ﾄ､:|-ヽ| ´,r==､｀ ヽ|:.:.:|:.:!ﾊ
| |:.!:|´ ,r=､ fﾊ ヽ }:.:./:/:/|
＼ ヽN / fﾊ ﾋﾘ /,.ｨ=rく/l イナミさんは目が『強い』気がする。
ﾊ. ﾋﾘ , , ´// .ﾉ }/
,.-‐{‐! , , ､ /l:| └/
/ /ハ{ r‐┐ ! ヾ／ ,、
{ |:| ＼ ﾞｰ' ,.ｲヽ /: :ヽ
ヽ ヾ=- ｀ 、 ,. '´ |=彳: ／:￣｀
＿＿｀_丁´ l／／: : : : : :
/ : : : : /: ﾊ ／: : l: : : : : : : :
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|「……でも、顔を庇うから、もしかして弱点なのかな。
| 強くて弱いとか……ある？」
|
| 肉感的な唇を釣り上げて、声もなく笑うイナミ。
| アリカは、本質を見切り踏み込む速度が恐ろしく早い。
|
|「強力な魔眼系異能の弱点は？」
|「頭と脳への負担かな……いや、イナミさんは魔力問題？」
|「正解だ。なら、オレを攻略するには？」
|
| 目を狙うか否か。アリカは即断した。|
|
|「目は狙わない。危険すぎるもん。良くて相打ちだから、死ぬ前に嫌がらせするなら狙うけど。
| イナミさんの目は探知系じゃないでしょ？ それなら使ってるはず」
|
| 『ネクロノミコン』探索に利用できない探知系魔眼など、ただのゴミである。
| 最初からそれが目的で派遣されたイナミである。ならばその目は。
|
|「石にされたり塩の柱にされたりしそう」
|「視覚以外の感覚の精度を上げるためでもあるぜ」
|
| 否定も肯定もせず、イナミは新たな目隠しをアリカに差し出す。
| どこで買ったのか、新品のバンダナだ。
|
|「今からつけろ、一日中つけてろ、明日からぁつけた状態で走って型と組手だ」
|「え？」
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／::::::::::::::::::::::::::＞.､
／::::____:::::::::::::::::::::::::::::::ヽ、
/:／´ｰ-､｀ヽ―― - ､::::::::::＼
ﾚ.::／ ⌒ヽヾヽγ´⌒ヽ＼::::::::',
//:;' ,∠´￣｀ヾ∨ﾆミヾ ｊ、 ｀!:::::',
//::;'./／ｲ/__ノ ヽ-iﾊjﾑヽ､j:::::::;
{ {:::://:://::::::::ヽ__∠:::}::｝:::::iﾄ∨::::::l
ﾘi::/ヘ::ﾘ::::::::::ノ⌒ヽ::::::/::::::}イｊ:::::::::l
,ﾘ/∧ ￤¨¨´ j:、 ｀７￣ / ﾊ::::::::l アリカお前、大丈夫か？
i::{/:::ﾍ ∧:}::::::::l
l:::｛:::::i;ﾍ /;;l:ﾉ:::::::::l
l:::::::::::j;;i;ヽ ___＿____ ｲ;;;;l::::::::::::::!
l::::::::::::i;;;l;;;ヽ、 ´ ￣￣ ｀ ／;;j;;;;;l::::::::::::::l
l:::::::::::::!;;;l;;;;;;| ＼ ／;;;;!;;i;;;;;;l:::::::::::::::l
,':::::::::::::j;;;;l;;;;;j `二´;;;;;;;;;;l;;l;;;;;;;l::::::::::::::::l
ノ:::::::::::::::l;;;;i;;ノj }ヾ;;;;;;;;;;;;ｿ､;;;;;l:::::::::::::::::ヽｰ､、
/´::::::::::::::::::::::ム i! ＼ 〉 ヾ＜/ ＞ﾍ:::::::::::::::::::::::::::｀ヽ､_
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|「え？ うん！ 全然平気でピンシャン元気だよ！」
|
| 顔といわず腕といわず痣だらけで、目隠しをしたまま笑うアリカ。
| 当たり前だがそこら中につまづく、ぶつかる。目隠し生活三日目。痣と生傷が絶えないが、手助けの類はすべて拒否。
|
| エダも、暴力教会の面々もアリカの奇行が気になりはしても口出しはせず。とりあえず様子見。
| というか、アリカの夜ごとの外出に関係しないはずがないので、そこを黙認している以上言及ができないのだ。
|
| アリカ本人もなんとなく察しているが、エダたちに甘えて何も語らず。
| エダは小さく嘆息し、手にした鞄を差し出した。
|
|「所用でお前ン家の近くにいったから、服とか下着の替えを持ってきたぞ」
|「ありがとう！」
|
| 所用。入即貸本での惨殺事件だ。
| 『教会』の『十字軍』のごろつきたちが肉スープにされていた。
|
| 店員一人は死亡、もう一人は精神を病んで入院。
| どちらもエダは顔くらいは知っていた。アリカは友人であっただろう。
|
| 伝えられなかった。なにか、ようやく前を向いて動き始めたアリカを立ち止まらせたくなかった。
| アリカは、それで立ち止まるほど弱くはないかもしれない。だがやはりエダには言えなかった。
|
|「部屋に置いとくけど……お前ところでこれ知ってるか？」
|
| 『Ｚ』によく似た形の刃物を差し出してから、エダは自分の迂闊さを呪った。
| アリカは目隠しをしているんだ。見えるはずがないだろう。
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ノﾀi:.: :.:.: :.:.:..:ト´ ,x=＝=＼､＼ｌ＼:.: :ﾊ
ｲﾉ |--=＝ ￣￣￣￣ ￣ ｀ヽ -xl:. :.:i
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{Yi }ﾄ ヽ「ミ｀''‐-､ , メ レ'
ﾉノ )〈 { 〈 ヽ __ __ | あ！
{Y} {Y} ゝ ､ ＼ 丶 / 丿 アンデルセンさんにもらった『銃剣』！
iタ }〈 l丶 ヽ_ノ ／ ＼
{r} {y} l ` . ／
}ﾀ 〉| l Ｔ
{y} ﾏ! ノ ___ ト ._
ﾏ｝ {i}_ - ´／ ヘ l! ｀ ‐ 、
{ﾍ , ´ ｒ´ -┤ -‐ l! ハ
ﾏ! / l -┤ l! ｌ
ｔ} ′ l ｲノ l! |
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| 最強の『武僧』アレクサンドル・アンデルセンから渡された銀の『銃剣』。
| 見えていないはずなのに、それが何なのか即座に理解できたことにアリカもエダもギョッとした。
|
| マイケル小原の作である破魔の武器、武器そのものから光輝が溢れて見えるほどの神聖さ。
|
|「はーん、アリカお前、勧誘されてたのか」
|「されてないけど、『教会』に入ることに興味はあったかな」
|
| いやいやいや。エダは心中で苦笑い。アンデルセンがこの武器をくれた？ よほど見込みのある『武僧』でも聞かないぞ。
|
|「アンデルセンさんもだけど、エダちゃんも『教会』でしょ、『血族』よりも親しみがあったんだよ」
|「今は？」
|
| 『教会』も一枚岩ではなく、問題も多い。アリカがどう思っているのか、エダは興味があった。
|
|「あたしの立ち位置はここ」
|
| 親指で心臓をコツンと突く。
| 続いて、目隠ししたままエダの乳房も指で押した。
|
|「エダちゃんもそうでしょ？ 言うことを聞くだけじゃなくて自分の信じることに従ってる。
| ……それにしても、すごい」
|
| 大きさと弾力とに感嘆しているのか、ほうとため息のアリカ。
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::| ! /-| | ヽ ヽ ヽ ﾄ､ヽ
::|: ／|. | |. | /ﾊ ', li i ', i
:::!. ／ ! | ,l. |=＝―` | !_ - ￣}i li |. i |
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::::::! ―|――- - ´ r ｲ / ガキか。
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|「あ、ごめん！」
|
| 指を離し、そして目隠し越しにしげしげと指を見つめるアリカ。
|
|「『人』を基準に『見』ると、びっくりするくらい『見』える……」
|
| まるで見えているかのように、『銃剣』と着替えの入った鞄を受け取り、アリカはしっかりとした足取りで部屋に戻る。
| 急に周囲が見え始めたかのように。
|
| 呆然と見送るエダ。するとアリカがとんぼ返り。
|
|「ねえ、この後出かけてもいい？」
|「いやいや、そりゃ許可できねーだろ。そもそもアンデルセンは管轄が違う。
| 向こうの居場所は問い合わせても分かんねーぞ」
|
|「そっかぁ」
|
| 残念そうなアリカ。一応、アリカがこの教会にいるのは対外的には秘密なのだ。
| 昼間出歩かれて噂になっても困る。
|
|「ただし、前から根城にしてる部屋を引き払ったって話は聞かねーな」
|「エダちゃんありがと！」
|
| 素直に感謝するアリカに、エダは頭を抱えて嘆息した。
| アリカは嘘や隠し事が下手すぎる。
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|三三三三三三三三三三三＿7 /〈 〈＿_ ./ /７｜./ ∧＼ ./ /＿_〈 〈＿_ / ∧＼ 〈〈 / / 〈〈.∧∨,/三三三三三三三三三
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| その晩はイナミと修行をし、翌日は休むと伝えた。
| イナミの言う『人の利』とは絶対に違うのだが、それでもアリカは生命体の気配を読み、そこから周辺を把握する方法を身につけた。
|
| 今更だが、殺気とかの気配を読むのとあまり違いがない。
| やり方は知っていたのだ。だが、きっかけがなくて活用できていなかっただけ。
|
| 自分の体の中をめぐる魔力も、近くに存在する魔力も、なんとなく見えた。
| その結果、魔力の籠った攻撃や武器は見切れたが、そこら辺の小石や空き缶は避けきれないという事態が発生。
|
|「次はその感覚に頼りすぎねーことだな」
|
| そう言ってイナミは目隠しを外す許可をくれた。
| 気配の察知……いわゆる第六感と他の五感を併用して知覚していく必要がある。
|
| 全部使うのに馴れる修行法はイナミにも思いつかず、とりあえず手首に『感覚』と書いた紐を巻いて、忘れないように頑張ることにした。
|
| そんな訳で夜のアパート。何度か訪ねたことのあるアンデルセンと二人の部下の根城。
| 部屋に明かりはついていない。だが人の気配はある。
|
| ここまで、目隠しして屋根を走ってきたアリカは、電柱を伝い、ブロック塀を踏んで地面に降りた。
| 猫、いや、豹のようなしなやかな大型肉食猫のようにアリカは動く。足音も気配も最低限だ。
|
| インターフォンを押そうとしたアリカは動きを止めた。
| ゆっくりと振り返る。目隠しを外しながら。
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| アリカの周囲には、無数の『銃剣』が刺さっていた。
| 経典が翻る、高強度の破魔結界が一瞬で張られている。
|
| 攻撃には害がない。アリカが悪魔や邪教徒なら違ったのだろうが、アンデルセンの結界は敵意のない人間には無害だ。
| アパートの玄関が開く、緊張感を漂わせたジェリドとカクリコンが構えたままで顔を出す。
|
|「お礼とお詫びと返却に来ました」
|
| 風呂敷でくるんだ『銃剣』と焼き菓子。
| 三人の『武僧』は顔を見合わせた。
|
|「……とりあえず上に部屋に行くか」
|「上？」
|「ここは囮だ」
|
| アパートの二階は生活感漂う部屋だった。三人の誰かが几帳面なのだろう、洗濯紐に洗った服が干され、ゴミはなく、洗い物はシンク横の籠にて自然乾燥状態。
| ちゃぶ台を囲う三人のむくつけき男たち。カクリコンが異様に濃そうなコーヒーをポットのお湯で割って配る。
|
|「いただきます」「こちらこそ」「安物だな」
|
| 差し入れのマドレーヌを四人でむしゃむしゃ食べる。コンビニで買ったものだが結構いける。
|
|「『教会』狩りの辻斬りの噂を知ってるよな？ 目隠しの」
|「ごめん、最近まで入院してて」
|
| イナミさんだ。アリカは心当たりに冷や汗を流す。『ネクロノミコン』は『教会』が保管しているのを、彼女は知っている。
|
|「こっちはそれとなく噂を流して喰いつくのを待ってるのさ」
|「相変わらず仕事が回ってこないんでね」
|
| 八月の独断専行以降、三か月の待機命令。三人も焦れているはずだ。
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ヾv!:/＼:.＼ド=- {:::::::::::::::::::::::::::::::::|:::::::::Ｖ/
「ﾒ､ ｀ 下､ ｀ -廴::::::::::::::::::::::::::::::!:::::::::::ﾏ__
/:ﾉ ／:＼入了ア´:::＼:::::::::::::::::::ノ:::::::::::::ﾊ:.:L_
. ,レf´::￣／´￣ヽ＼::::::::::／￣￣下､__:::::::::::::::::|｀Y:.}
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|「気にすんな」「上も混乱してるのさ」
|
| だから、待機命令から背かない程度に行動をしている。悪魔も狩っている。
| いや、その。そんな事ばかりしているから待機が解けないのかもしれないのだが。
|
|「それで、アンデルセンさん」
|「それは返す必要はありません」
|
| 戦闘時の怪物的な姿から一転、平時の穏やかな神父の顔でアンデルセンは首を振った。
| アリカは過去、自分を守る盾が欲しくてアンデルセンに相談したことがある、信仰の盾、心の拠り所についてを教わった。
|
| だけれど。
|
|「あたしには、神様を信じる力が足りないみたい」
|「では、あなたを守る盾は見つかりましたか？」
|
| 頷く。いや、少し違うけれど。
| 『蒼天の青玉』の中の悪魔を、自分の中の狂気を恐れている場合ではない。
|
|「あたしこそが、みんなを守る盾だって」
|「ふむ……」
|
| 口笛を吹くジェリド。頷くカクリコン。戦士としての自覚をアリカの中に見出したのか。
| であるが、アンデルセンは浮かない顔。
|
|「結局、あなたを守るものが無いことに変わりはありませんよね……それで」
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ﾌ彡三ニ＝=-ミミミミﾐﾐWミW杉彡彡三ニ＝=彡W彡ｲN
彡彳ニ彡''´￣￣￣¨｀ー=≠=─''¨￣￣￣¨`'''ァ＞ヾミシ
Σ彡 ｲ :::::::: ､ i li Zミミ三ﾐ
彡 彳ﾘ :::::::: ＼ ヾ {;! } z= ,ｨ , ヾ彡 ,Zﾉ
ゞ /! -=＝ミ ｰ- ヽ } i! /／ ／,ｨ＝=- }ィ ./
Y⌒}! '':::::::＞''￣￣｀ヾ＼|..i!../ ,z三≦─ ､ .ﾚ⌒!
! }ﾄ|＼__{{弋￣t__ｧ-z}ﾊ;;;;;;;;;;Y x t__ｧ￣フ}}__／! il ﾘ 何に『成る』つもりだ？
! i! i ::::人 `ー ==以 ﾉ￣ {! ﾐ== ─''´ ﾉ |! {!
ヽⅵ :::::: ゝ _＿＿ ／:: ﾄ＼ __＿ ／ | ノ
ヾ! :::::: ￣￣.::::::::i ! ヽ ￣￣ ,;/´
,从;;,,::::: ...:::i . : | ! ::.. .;∧
／:::::ﾊ;;,, ::........::::::::::::ヽ::::i .ｨ..:: ,,;;;i::::::＼
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| 威圧感が変わる。殺意に似た強力な感情が突風のように吹き付ける。
| アリカは平然と受け止める。昔は、おしっこ漏らしそうなほど怖かった。
|
| いや、今も怖いけど平気な顔で我慢をする。
|
|「それは……」
|
| すぐには答えられない。でも、なんとなく見えている。
| アンデルセン、『弓兵』さん、イナミ、そしてばっちゃ……武の極致。
|
|「ニーチェを知っているか？」
|「『深淵を覗く時、深淵もまたお前を覗いているのだ』って、ばっちゃが言ってた」
|
| ドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェは『神は死んだ』などの反キリスト教的言葉で有名だ。
| 敬虔な信者であるアンデルセンの口から彼の名が出たことに、ジェリドとカクリコンが緊張する。
|
|「その前、『怪物と戦うとき、己が怪物とならぬ様に注意せねばならない』だ。
| ニーチェにとっての何が怪物だったかはともかく、己の道義と信仰を裏切るような真似をしてはならぬという意味では、心から同意できる」
|
| 正義ではなく道義。
| 正しさではなく信念の話だ。神罰代行者たる『武僧』らしからぬ言葉。
|
|「四十年ほど前になるが、俺はある悪魔を滅ぼすために聖遺物を利用して大天使と融合をするつもりだった」
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_ｨ ´￣￣｀ヽ
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〈 ヽ／⌒_' !
ヽ 「(丶 _ｨ__ Ⅵ| それは……神父。
､',-rs､ ー″} j!
v i_ /}!
＼ ー ｨ!≧ ､
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_ｨ７:.:.:.:／': :／ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆニ',
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!ﾆﾆﾆニⅥ: 'ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆニiﾆﾆﾆﾆﾆ､
|ﾆiﾆﾆﾆﾆ|i!ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆニｊ､ﾆﾆﾆﾆﾆ',
|ﾆ|ﾆﾆﾆﾆ|i!ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆニ/ Ⅵﾆﾆﾆﾆ',
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|「『教会』でも禁止されている。いわゆる『悪魔人間』だ。
| ……まあ、上は体よく『柱』などと呼んで奇跡と褒めそやしていることだかな」
|
| つまり、実際に行われているのだろう。
| 『悪魔人間』……アリカには巡音ルカしか思い浮かばない。悪魔と融合し、悪魔に苛まれ続ける元『武僧』。
|
|「だが、いざという所で止めた奴がいる……誰だと思う？」
|「……ええと」「夢宮の……グランマですかい？」
|
| 言い淀むアリカの代わりに、カクリコンが言葉にした。だが残念、アンデルセンは頭を振る。
|
|「悪魔の方だ。奴め言うに事欠いて『怪物になんかならないでくれ』だ」
|
| アンデルセンの宿敵とも言える悪魔は、涙ながらに懇願したという。
| 『怪物になるな』『人間を捨てるな』『怪物を倒すのは昔から人間の仕事だろう』。
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}}/ }/////≧s｡.
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V///////// ／
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ﾏ////// /
,.ィ㌢⌒ヾ〉 }//// ／
ミミｘ、＿ ,.ィ㌢ }//／
丈二恣 丈二恣 ///^Y
--‐ '''"´ } }´"''' ‐-- }//! .} （若い頃とはいえそれを聞く方ではなかろうに）
| } }/ { }
r__ ! __ }/ } /
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|「もちろん聞く耳は持たなかったぞ？」
|「「「ひえっ」」」
|
| アリカ、ジェリド、カクリコンの三人が悲鳴をあげる。
| 三人とも同じことを考え、顔に出ていたのだ。アンデルセンは維持悪く笑う。
|
|「だがな、同行していた『血族』のババアが……いや、当時はまだ若かったな」
|「ばっちゃ？」
|
| 若い頃の祖母の話を、アリカは全然知らない。
| だがアンデルセンとは長い付き合いなのだ、知っていて当然か。
|
|「言うに事欠いて『それを使ったらお前の信仰は死ぬ』と来た」
|「え、なんで？」
|
| アリカの祖母は笑いながらアンデルセンを止めたのだという。
| 『お前の負けだ』『コイツはお前よりも人間を信じてる』『神は乗り越えられない試練を与え賜わないんだろ？』
| 『コイツは、お前さんなら自分を乗り越えられると信じているのさ』。
|
| アンデルセンは閉口し、反神論者ニーチェの言葉を思い出したという。
| 自分が怪物となった果ての勝利は虚しく、神に誇れるものではないだろう。
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ミ}＼＼＼ヾ 厶イ∠二ニ=ミﾒ
爻:::::::::::::ヾｿ/ 三ニ=ミ ﾐ
彡:::::::＞ ､}/ッ／／彡 =ミ ﾐ
ﾊ::::/ 三ﾆ=ミ ヽ
,::::{ ｀ﾞミメ _ヾヾ
{:::::... -‐==ミ､ ∨:/ Ｖ/
. γ⌒V ∠ rtッｰｧ ／ V 勹 }〉 その時逃した悪魔と、こないだ東京で会った。
. 弋 ,¨ヽ{ ヽ｀¨／ ノ /
. {｀7 ゝ _.ノ¨´ ﾐ|ｰ ´ﾄ
V// _ ＼ ､ミ:! !:::, :ゝ ___
. ゝ-─ ' ｀ﾞミヽヾ| |:::::, : :, : : ＼＿＿
ﾊ ヽﾆﾆ=ｰ一 ヽﾞミ ) |:.l ::, : :, : : : : : : : :
/ ::::,｀ ー‐ ´ ｀ﾞミ／ ,.:.:|:::::, : :, : : }: : : : :
..:─┘ :::::,川 i i、ヾヾ／/ ／:.: | :: }: : :, : : : : : : :
. ／::::::::::::::::::::::::ー─‐ :: ´: /／.:.:.:. /.:.: ,: : :.}::::::::::::::::::
......:´::::::::::::::::::::::::{::ヽ:.:.:＼ /:.:.:.:.:. /:.:／.: : /:::::::::::::::::::
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|「え」「え」「き、聞いてませんよ！」
|
| アンデルセンがすっくと立ち上がり、冷蔵庫からシュークリームを出してくる。
| 明らかに量販店では出せないバターの芳香と上品な甘みのオーラ、口にする前からサックリした食感が想起できる程だ。
|
|「俺の天敵、吸血鬼アーカードは死んだ。
| あそこにいたのは下らない同盟を組んで東京の食文化を守るとかほざく腑抜け悪魔だ」
|
| コンビニのマドレーヌとは比べるべくもない。
| 『糖分同盟』が選ぶ最高のシュークリーム。
|
|「あの時、怪物になっていたら貴様らとこうやって茶を飲むことも無かったろうよ」
|
| 人は変わる。悪魔も、人が変える。
| イナミの言葉を思い出す。アーカードとやらが何に影響されて今に至ったのかは分からない。
|
| でも、好ましい変化だと思う。
| アンデルセンの変化も。
|
|「だからアリカ。自分のなりたいものを忘れるな。
| 怪物に成り果てるな、後々後悔するぞ」
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／／ ｀ヽ､
/.:.:/＿ ＿＿__ ヾヽ
__|_／__:.:.｀丶､:.:.:.:.:｀丶､ l:.|
／.:.:.:.:.:-:.､｀丶:.:.:｀丶､:.:.:.:.:.＼ |:|
／:/.:.:./.:.:.:.:.:.:.＼:.＼:.:.:.::.:＼:.:＼:.＼ ﾘ
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/.:/.:.:.|:.:.:|:.|:.:.:|:.:.:.:＼:＼＼:.＼:.:.:.:.:',:.:.:.l:',:.:ヽ-､＿ …………いま、『夢宮の孫』じゃなくて
. /.:/.:.:./|:.:.:|:.|:.:.:|ヽ:.:.:.:|:ﾄ､:＼＼､＼:.:.:l:.:.:|:.|:.:l:.|'⌒ｰ､ﾞｰ､_ アリカって呼んだ！
|:.:,!:.:.:.!∧:.:|:.|､:.:!＿＼|:l､ ヽ:.ヽ:l‐＼ヽ:|:.:.!:.!:.:|ﾘﾆヽ、 ￣ヽ`ｰ.､
|:/|:.:.:.|:|∧:|､!´ヾ ﾘ`ーﾘヽﾘ＿ ヽl:|:/:/.:.:! ｀ヾ､ ｀ヽ_ヽ_
l:| |:.:.:.|ﾍ:|ﾍ! ,r===､ '´￣｀ヽV.://|/__ ヾ､ ＼:.
|l ',:.:.:!､:.＼ 〃 l ∠ィノﾁ}､ ｀ヽ、〈:」 j:
ヽ ヽ:.!r`ド-` ＿＿__ 一ﾃﾉ j ＼ _V:ﾉ {:.:
〃ヾ {ﾍ. f/ ヽ} /o／ _/_ノ /.:.
. // ＼`ヘ､ ヽ / /T´ｰ-､∠∠ _/:／
|:.! ` ｰ'l＼ 丶__ / ／| ﾉ 〉ヽ:|::::::::::ﾄ､ /´.:./
ヾ、 ＿／ﾉ::{ ＼`ト ､ ＿ ,. '´ ／ ｲ !:!::::::::::!::ヽ,r‐';r‐'´
＿／:::/:::/:::/l＼ 丶､＿＿__,.ィ'´ ＿/ |:::::::::／￣;ri´
,r:‐ァ´ｰ/::::::::l:::::|::::ﾄ､ヽLゝ、 一'´,. -‐'´／ _,ノ:::::_/:_:_／:::}、
r'.:ﾉ´ r':::::::::::::::::!::::!:::＼ ￣｀ー／⌒Y^ヽ-‐''´:::,.ィ´:Y:!::::/:::/:::ヽ
./.:「 |:::::::::::::!::::|:::::＼:::::`ｰﾉ∨ / !ヽ:::::/.:/.:!.:.|::l::::!::/::::::::|
{:.:ﾊ ﾊ､:::::::::l:::::!:::::::::::::::／／ ヽ ⌒!| l、lｲ:{.:.|.:.|ゝ!::|/::ｲ::::∧
ヽl､lゝ 〈:::::::＼:::＼!::::::::::::_| '´ ヽ:ヾｰヾゝ::V::::/:::/:::::〉
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',＼ｰ--:|:::::::::::|:::::::｀:ｰ一/ ,r‐一―- ヽ::::::::::::::::,:!'/::::::::::ハ
i::::::ヽ::::ﾍ:::::::::,!:::::::::::::::::::V,r――一 `!、::::::/:j':::::::::::/:::::ヽ、
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| 無視してシュークリームを頬張るアンデルセン、忍び笑いのジェリドとカクリコン。
|
|「主の御言葉である必要はない。貴様の祖母の言葉でもいい。
| 俺の言葉でも、なんなら敵の言葉でもいい。
|
| 胸に刻め、自分を忘れないように。
| その『銃剣』は、忘れたときに貴様を串刺しにする』
|
|「ありがとう、アンデルセンさん……」
|
| アリカは、しばしの躊躇の後に『銃剣』を風呂敷に戻した。
| 呪いのような脅し文句、だがそれは、アリカには福音のように響いていた。
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☆ 次回予告！
『怪物と戦うものは、その過程で己が怪物と成り果てぬよう注意せねばならない。
深淵を覗く時、深淵もまたお前を見つめている事実を忘れるなかれ』
神は死んだ。
怪物にならぬ様に心に刻んだアリカと逆に。
怪物となる道を選んだ女がひとり。
手段は選ばぬ。外道上等。
正義も、信義も、道義も捨てた。
愛する人のためであるなら。
陰謀、奸計、暗殺も良し。
命の剪定をせよ。
要らぬなら、刈り取れ。
次回、最終幕三十二話『命運を断つ』
果てに見るのは破滅か死か。
アリカパートはほっこりするなぁ（次回予告から目をそらしつつ）
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|「だが、何が気に入らねーのかサッパリ分からん！」
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| 不愉快な感触があった。
| 服のタグが皮膚に刺さるような、背中の届かない場所が痒いような。
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| 無視をすることも可能だが、正直言って気が散るような。
| そんな雰囲気が、あった。
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| 細かい理由はいくつも思いつく、だがそれらを重ねれば重ねるほど、ただのイチャモンに見えてくる。
| 単に気に食わないのだと言われたらそれまでなのだが、何かもっと複雑で根が深い、そう直感するも言葉にはできない。
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| それがジャギの後釜、『ケンシロウの参謀』に対するカミナの印象だ。
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| だが、『参謀』は優秀だった。
| 鷹野三四が作った魔力測定器を利用した『予報』の的中率がジャギの頃より遥かに上がった。
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| 『使者』によるとジャギの記録と警察の記録を示し合わせてバージョンを上げただけらしいが。
| そもそも警察との連携を復活させた時点で優秀と言えよう。
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, 'l::|／ ｀| ｀´ ｀‐┐ | | ト..､
, -‐'i´| ｌ:::::l ＼ -─‐-､ _／ ' / l|:::::l丶､
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l／ /:/‐- ゝ:::ヽ＿ | -‐ | ＿ /::::/ ／ ヽ:ヽ ＼|
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| ……カミナ自身としては警察には嫌悪感が強い。
| 個人的な感情だ。不良少年特有の権力への反感だと言ってしまえばそれまでだが。
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| 個人的感情と言えば、『使者』がシモンにベタベタするのも気に食わないのかもしれない。
| 同じ顔をした何人ものメイド、使い魔だかなんだかわからないが、何故か全員がシモンに構いたがる。
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| 頭を撫で、匂いを嗅ぎ、頬に触れ、背中から抱きつく。
| 女に免疫がないシモンはおかげで『使者』を見ただけでタコみたいになる。
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| 顔を見せない、名前を言わないのは仕方ないのだろう。
| 恐らく『参謀』は志摩子勢力だ。
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| フリットに軟禁されたり謹慎させられたりしている人物で、表立って動けないのだ。
| そうすると、名前を出すことがカミナ達の不利益になりかねない。
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| 何も知らなかった体を保つために、秘密にしているのは理解ができた。
| でもやはり、納得が行くわけではない。
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| ……あるいはカミナは『参謀』から気配を。
| ニャルラトホテプの気配を嗅ぎ取っているのやもしれない。
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| だがそれは結果論に過ぎないだろう。
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／三;ヽ､´ ヽ三三三､二二二＼
|三三三ｌ ヽ三三三＼二二二＼
／´!三三三ヽ ヽ三三三三＼;二二ヽ
／: : : : ヽ三三三ヽ ＼三三三三三ｰ ､_）
i: : : : : :ｨ ヽ;三三三＼ ＼三三三三三/
ｌ: :,.: : / |: :i ＼三三三三､ ｀ ー 三,イ
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! ､ l ｿｌ;| |;|＼､､＼;三三三三｀ﾞヽ--ｯﾌ′
. | ! 「 !| ｀i;:;:ｯ､｀ｰ-＝､三三三三:シ
ﾞ i ｀ﾞ'''‐/::. :. : : : :.￣￣￣「 十二月に来る災厄から
ｌヽ ／ﾉ: :＿＿:: : : : : :: ::/ 東京を守らなければならない。
｀ー―､///::.::.::.::.:｀ヽ ノ/
ム}ｒ'￣iｯﾚﾉｨi::.::.::.::.:..:..::├'ノ
ム{/ ,.-―ｦ ノ!!::.::.::.::.::.::.::.:ｌ
ム┘/ ×_/ /::.::.::,::.::.::.＞､::〉
ム} （／ / /::./::.:;;ヽ／:;:;ｼヽ＼
(ﾆ} 彡 ﾂ _,-―:::＿_;:;/:;:;:;:;:;:;:;フ::.::.､
＿/ﾞｰ､_ L_{ i,. "ｰ-､ :;:;:ｬﾞi ｀ ｰ≦- 」
ﾆ三ｌミ ┼ ｀ｰ"ｫ､＞､:;:;:;:;:;:／ | 「
三三､ ﾐ 三三三三 ヽ:;:ﾉ {ミ､ |
三三三ヾ 三三三;／二.-―´ ミヾ ｌ
三三三三三ヾ /,. ´ ヽ、 ﾞ i
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| 複数のパソコンが青く光り、簡素で事務的な部屋を照らし出す。
| 部屋の主たる蒼星石の他に、同じ顔をしたメイドが三人並んで立つ。
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| 部屋の隅には半ば闇に身体を溶け込ませた神父服の男。
| ニャルラトホテプ。
|
| 『参謀』は三人のメイドに話す体で、己の今後についてを整理する。
|
|「まず、災厄の内容は『宇宙から来る破壊の化身』」
|
| 七月に、翠星石がニャルラトホテプを追い払うために呼んだ炎の邪神クトゥグアである。
| その召喚がひどく遅れたことについてはともかく、十二月には到達する。
|
| 少なくとも一時期はこの世界の管理者権限を奪っていたできる夫の言だ。
| 信頼するしかないだろう。
|
|「東京ごと焼き尽くすだろう強大な敵への対処は正直難しいが……『血族』には上杉謙信がいる」
|
| 毘沙門天の化身であり、その魔力の大きさから自由に身動きも取れない東京守護の要、
| 彼女の全力であれば、邪神にも対抗できるだろう。
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八∧∧ l人
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〃¨¨ヽ. ∨ ／ ＼＼
≫ ＼ ,／ ___＿_＼＼r‐．
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／￣￣ ヽ. ／／::://:::/:／’ }::ｨ::::| '.:::::::::i::::::::::::::ヽ
／ O/ :/彡'//:::/:/ / .// }::::| }::::: ﾊ:::::::::::::::|
γ⌒ヽ＿＿ 〃::/彡'//:::/:7 /-// /:::/ ―|:::: | |:::::::}::::::l
＼__＿＿ﾉ::＼/::::/ ヾｲ 〃ら斧㍉/ /:::/ ｨﾁ㍉::::::| |:::::::|彡’
〃￣ ｲヽ ::::::::{ ( ` V:::ｿ んｿ "::::: |＼¨¨
ゞ.／::::||ノ ::::ｨ::l`ｰ┐ i ＾` .::::::: ﾘ＼ ゝ
／〃:::::|| :／::| :|:::::::|八 ′ 八:::Ⅳ }}
／:::〃::::::::||::::::::::| :|:::::::| ﾄ． ﾆ´ . ｲ:::::::寸 }}
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|「が、それだけで済む保証はないし、上杉謙信だけで何とかなるとも限らない」
|
| そう、複数の破滅が同時進行で進んでいる可能性がある。
| たった一つを何とかするだけで済むなら、世界なぞ滅ぶまい。
|
|「厄介なのは例の『夢』だ。『教会』勢力だけじゃなく、民衆まで末世観に飲まれている」
|
| 品川大聖堂で『母』に召喚された『堕天使』レミエルが東京中に振りまいた破滅思想である。
| だが、同時に『救世主出現願望』にまで傾倒していることを、『参謀』は知らない。
|
|「『教会』内部では『異端審問官』と『十字軍』、『武僧』のシロッコ派が障害になる」
|
| 彼らはこの東京をすでに蹂躙し始めている。
| 『夢』のお告げの通りに東京に潜む悪魔や邪悪を滅ぼすつもりなのだろうが、
| その行為そのものが事態を悪化させているとは気づいてもいない。
|
|「だが、『異端審問官』とシロッコ派はやらない夫に夢中だ。やらない夫にはこちらが整うまで踏ん張ってもらう」
|
| 自分がケンシロウをけしかけてやらない夫を排除しようとしたことなど忘れたかのように蒼星石は言い放つ。
| いや、忘れたわけではない。状況が変わったのだ。
|
| 当時は、やらない夫の首を取られるくらいならこちらで処理をし、交渉材料にするつもりだった。
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| だが、やらない夫は覚醒した。
| ケンシロウから逃れ、カトルカールを退け、諌山冥を下した。
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| 一時しのぎではなく、優秀な囮として活躍してくれている。
|
|「その間に、フリットと臓硯を排除し、志摩子さんに復帰して頂く」
|
| フリットと臓硯、二人の簒奪者の欠点はいくつもあるが、最大の失態は志摩子派の放逐であると『参謀』は考える。
| 優秀な人材を軟禁あるいは謹慎させて、何よりも志摩子さん本人を働かせないのは愚の骨頂だ。
|
|「その後に『教会』勢力を統一する」
|
| つまり、邪魔者の国外退去と暗殺である。
|
|「そして志摩子さんには品川大聖堂の残った資源で、新たな大天使を召喚してもらう』
|
| 今度は、本物の大天使だ。
| 滅びに対抗するために、上杉謙信に並ぶ強力な存在が必要となろう。
|
| その筆頭候補が大天使であり。
| 対抗馬こそが。
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|「翠星石にもアマテラスを降ろしてもらう」
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| 二ヶ月前の歌舞伎町でアマテラスを召喚した翠星石。
| だが、それは彼女の肉体に大きな負担をかけていた。
|
| 再度の召喚がどんな問題を引き起こすかは不明だが、命を落とす可能性も低くはあるまい。
| だけれど『参謀』は、翠星石の無事を考慮に入れない。
|
| 命一つで破滅を回避できるなら、安いものだろう。
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|「まずはフリットと臓硯を動かし、彼らの温存してある戦力を把握する」
|
| 『血族』内部でも、権力闘争は続いている。
| 志摩子が戻った際に、彼らの側に残る兵を把握せねばならない。
|
|「あの二人は感情に流されやすい。
| 因縁ある餌をぶら下げれば必ず食いつく」
|
| すなわち、フリットには『蛇身』。臓硯には『万魔』。
| だが『参謀』は件の二柱の潜伏場所を知らない。
|
| 心当たりが無いわけではないが、確信はない。しかし、そもそも。
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／//／:.:.:.:.:.:.＼:.:.:.／:.:.:.:.:.:＼.:.:.
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ー‐く:.:.:.:.:l__＼:.:.:＼ 仗ｚｼ |:.:.:＼{ 『餌』が本当に居てもらっては困る。
|ﾄ:.:.:.:{ィ笊 ￣ Иl:.:､!｀
|l ヽ:バzﾒ ､ /:.:l:.:.:|＼
乂 }:.:..､ , ´ ｲ{:.:.l:.:.:| }
乂:.:.≧=- =彡、ト､V/
,に.／::::::::＼( Y¨¨`X≧z._
に/:::::::::{::::::::に、廴_/＼_ハ::}
V:::::::::::::::、:::::に、 ！ｌ .0《 ＼
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/:::::厂＼:::::::}::::j:::にi |/ 0 V })、
└彳 / ¨「＼{::::乂匸匸ソ )廴ソ
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| 『万魔』も『蛇身』も目的がはっきりしている。利害が一致すれば共闘も可能であろう。
| 本当は『餌』に食いついたフリットや臓硯に奇襲してくれるくらいが丁度いいのだが。
|
|「ダメ元で打診してみるけれど、それを察知しされちゃあ堪らない」
|
| とはいえ、『蛇身』への連絡は無理だろう。
| 方法はあるのだが、手中の権力が肥大した今の『参謀』ではかかるコストが馬鹿にならない。
|
| では『万魔』は？
|
| 偏屈で用心深く神経質な相手だ。
| 素直に出てくる可能性は低くかろう。
|
|「とにかく、まずはフリットのハリボテの城を攻め落とす。
| 臓硯にはその間に、面倒事を抱えてもらう」
|
| 警戒するべきは臓硯である。
| 常に慎重で、警戒を怠らず、身の安全を第一とする。
|
| その上、超能力などという半端な異能ではなく、呪術という体系化した魔術に長け、しかも不死身の悪魔なのである。
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| 臓硯の実力は『万魔』をゆうに超えるだろう。
| 二人は同型の悪魔であるが、稼働期間が違いすぎる。
|
| 悪魔化した時期は同じでも、片や『万魔』は数百年を『封印像』の中で過ごし、
| 片や臓硯は『血族』として生きてきたのである。
|
| 臓硯の厄介さは能力だけではない。
| まず間違いなく隠し玉を持っていることと、何よりも利に聡いことであろう。
|
| 臓硯はフリットが失脚あるいは死亡しても痛くも痒くもないだろう。
| 志摩子が復権した場合も、あるいは『血族』が『教会』に併合された場合もしれっと地位を保てるように準備をしているはずだ。
|
| そんな臓硯を排除できるのは……。
|
|「間桐慎二だ」
|
| そう、『万魔』によって皆殺しにされた間桐一族の三人だけの生き残り。
| で、あると同時に臓硯へと反逆の牙を剥いたポメラニアン。
|
|「慎二が動くかどうかで、状況は大きく変わるだろうね」
|
| 『参謀』は彼を評価していた。
| そして、慎二と行動を共にしているはずの遠坂凛と『弓兵』にも期待していた。
|
| だが世の中は思う通りには動かない。
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ｒ::::::::::::::::::彡´:::::::::::::::::::ゝr-ー- - 、
l:::::::::::::::、::::::::::::::::::::::::::::::::＼::::::::::::::::)
＿_ﾉ:::::::::::::::::＼:::::::::::::::＼:::::::::::::::＼:::::::〈 何だ何だ凛、この簡単な課題は！
ｒ´::::::::::ゞ::::::::::::::::::ヽ:::::::::::::::::＼::::::::::::::::ゝ、｀ヽ、 それともこの！
',::::::::ゞ、:::ヽ::::::::::::::::::＼:::::::::::::::＼::::::::::::::::}:::::::::ヾ 僕の天才的な成長速度に課題の難度が追いついていないだけか？
ｒ::l:::::::ヽ人 （::::::::ハ、::::::人::::::::::::::):::::::::::::::):::::::::::::)
（:::j:::::::::l ｀ヽ:( ノ.ヽ::） ｀ヽ:::::ﾊ::::::::,___、::::::::::/:l ならば随分と悠長だな見積もりが甘いぞ。
.）:i:::::::/ ）:）´-ー´、 .ソ {::::/ ｒk.ヽ::::::/::::l 加齢で脳のシワがなくなってきてるんじゃあないのか？
ノ:ﾉ:::::::lー - 、:::::::::::{ 0 } .ン ｒｌｋ 〉:/:::::::l 顔とは逆にさ！
{::::l::::::::::l斗ー.:::::::::::::::ミニ 彡 .Yﾉ /ﾘ::::::::::l
｀ゝﾄ（:::::l::{ 0 }::::::::::::::::::::::::: Ｕ ./:::::::::::::::l
(::::::::/:::ミ 彡 ,:: __ γ´Y:h:::::::::l
ゞツ l __,,,,,--=''-‐''''ゝ / {:l ゝ:::ｿ、
':, ＼''(′ ＿,,-) ,:' li : :＼. ＿ ＿＿
ゝ、`ー==＝-‐''′ / ／.: : : : :/: : :＞-ー・´: : : : :
' .、 ／ ／: : : : : : /: : : : : : : : : : : : : :,:
＞、 ＿ ._／ ／ : : : : : : :/: : : : : : : : : : : : :／::
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| 脂で固まった髪、真っ赤に充血した目、クマは深く断層のよう。
| 呂律の回らない舌で、異様に多弁。調子に乗っている訳ではないが常にテンションは最高潮。
|
| 島村卯月が死んだ夜から、慎二は満足に寝ていない。
| そもそも秘密にしていたのだ。『弓兵』にも凛にも何も言わずに、ただただ課題と修練に打ち込んだ。
|
| 食事は喉を通らず、失神するように眠ったらすぐに悪夢に目を覚ます。
| 疲労は極限まで蓄積されているはずなのに、集中力は研ぎ澄まされていく。
|
|「あれは死ぬわよ」
|「点滴をしたほうがいいかもね」
|「いま甘酒を作っている」
「魔力回復薬で補給はしているようだ」
|
| ルイズ、凛、『弓兵』。そして『万魔』。
| 頭を突き合わせての会議である。
|
| 慎二には秘密だが、『弓兵』は卯月のことを『万魔』に謝罪した。
| 罵倒も恨み言も合理的ではないため飲み込んだ。
|
| 飲み込んだが、言いたいことは山ほどあった。
|
|「ターニャあなた、押し倒して五、六発キメちゃいなさいよ」|
|「一時的発狂で記憶を飛ばすつもりか？」
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/三三三三三三三三三三三三三三ヽ
/三三三三三三三三三三三三三三三ﾐ〉
{三三三三三三三三三三三三三三三ﾐ}
ﾍ三三三三三三三三三三三三三三三|
∧三三三彡"ﾞ´￣ ヽ､￣ｉ￣゛`ヾミ三}
.}三彡'´ ｉ ∧ .|＼__ﾄ ｉ .ｉ λ
∨ ｉ λ .,' 入|'´＿ﾚ,' | .ﾄ-､ ',＼
| .∧ ハ | 代ひｦﾉﾚ.| .|´}.| .',ミ｀ｬ､ 快楽と疲労で思考停止を狙うのはいいが、
', 代牟ﾕ､| ｀‐´ | |ﾚ.ﾉ |ｯ ミヽ､ 現在慎二の行っていることと大差あるまい。
. Y .Kじﾉ | |イ , /ｼミ彡 ミ
| ｉ 〈 | | //三ミ ミ
| .ﾍ ｀ | .|ｼヘﾞ´ ｼ彡
| ヘ マつ | |:::::::ｿ＼ミ三彡
| ｀ゝ､ ｀ ,ｨ行 |彡――-t､三
| .| ＼__ ｨ'´,,ｨ-‐| | | ',
ﾉ .| ＞'´ﾞ|:::T::::::::::::', ', ,ｨ-ﾗ┴―
. / .,'／ ﾉ::::i::::::::::::/', ',-'´ ∧三三/
/ ,'´ ／:::::::t:::::::::/ | ', ∧三三∨
,' ,':ゝ {:::::::::::/:::::::::{. ! i三三/∨
,' ｉ ,':/ /:::::::::/:::::::::,' ,' |三三∨ ,
. ｉ ｉ ｌ// /:::::::::/:::::::::/ ,' ,'/三∨／,'
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| なにより。
| 『万魔』は独りごちる。
|
| 苦痛の記憶の足は早い。すぐに追いつかれて苛まれるのがオチだ。
| 知らぬ凛でもあるまいに。
|
|「弱ってる所を押し倒して依存させれば男なんてイチコロよ」
|「それね！」
|
| あくまで押し倒す方向に持っていきたいルイズと凛。
| 慎二の悪魔恐怖症を無視しているのか、『万魔』が悪魔だと忘れているのか。
|
|「二人ともそれは経験則か？」
|「……」「……」「……」
|
| 黙り込む女二人と、流れ弾で沈黙する『弓兵』。
|
|「実際にどうだった？」
|「愛もなく情を交わすほど、私は心を失っていないつもりだが」
|「セリフが胡散臭いわよ」
|「ぐっ」
|
| 完全な八つ当たりだが、『弓兵』には少なくない打撃を与え、『万魔』は満足げに頷いた。
|
|「合理的に考えて、慎二は戦力外なのではないのか」
|「それは……」
|
| 凛が言いよどむ。
| 元より、慎二は実力の時点で二歩も三歩も劣る。
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-‐…・・・…‐-ミ
〃: : : : : : : : : : : : : : : : ｀ヽ
. : ´: :,: : : : /: : : : /: : : ハ丶 : : ＼
. : : : : ::/: : : :/: :从: :i: :〃: : ｝ } : : :丶ヽ
/: : : : : / : : : 斗七爪弋ﾄ､ : : |/: ∧: :ハ: : .
/: : : : : ,': : : : {〃´γヾﾐ八 ｌ ､ : :廾ト､: :∧: :i
{: : : : : : !: :: :: :从 圦ソ ` )イ≠､从: : : , !
!: : : : : : ! : : : : ト ｰ‐ 卜ｨ ﾘ ｝: }八}
,′ : : : : {: : : : : | 、こ /: :ﾉ ﾉ'
. / : : : : : : i!: : : : : ! ﾉﾙ' 確かに、それによく考えると
, : ´: : : : : : : 人:: : : : | ｎ -‐ 八! あなたたちとは目的が微妙にズレてるんでしょ？
／ : : : : : : : : 〃Ｖヽ: : : :', r'丿 イ: : |
／ : : : : : : : : r‐'/爪: : : : : :/ { r‐ ､＿_ . .イ: : ﾉ: :: :{
: :/: : : : : : : ://///∧ : : : ,′´／⌒つ : : :! : : : : : :{
〃: :: : :x≦///////∧: :: :ヽ ／ 二) : 八 : : : : 八
｛ : : : : }/,/////////∧: : :∧ ヽﾒ//个､:ヽ: : : : : :.
ﾊ : : : く,///////////∧ : :┌―‐‐┐///∧:: : : : : : :.
: ｝: : : : i ////////////｝: :/ .|/////ﾊ : : : : : : :.
丿: : : :/ //////////／: :く' λ////ノ : : : : : : : :.
: : : : : {///////////: : : :/ ｀ヽ,////: : : : : : : : :ノ
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| 凛と『弓兵』は間桐臓硯を殺したい。
| 『万魔』も殺しても飽き足りないと感じている。
|
| だが、慎二は違う。もはや数少ない肉親である臓硯を殺したくはないのだ。
|
| だが、『万魔』もまた少し違う。
| 凛、『弓兵』そして慎二の共通項は『桜の救出と人間に戻すこと』だ。
|
| 『万魔』は桜に興味がない。人間に戻ることにも無関心を装っている。
| そう、心の中では人間に戻ることを切望していても、口には出せずにいた。
|
| 当たり前だろう。
| 人間に戻ることが困難、あるいは人数制限のある場合……凛たちは確実に桜を優先する。
|
| いざその時になって、手段を奪うか。
| あるいは、諦めるか……諦めることができるのか。
|
|「二兎を追うものは一兎をも獲ず。だ。目的が分散するのは合理的ではない」
|
| 今が選択の時だ。復讐か救済か。
| 復讐に専念するならば、慎二は必要なくなる。
|
|「慎二は臓硯にとって最後の『種』だ。送り返しても悪いようにはされまい」
|「それは我々の居場所が筒抜けになるのでは？」
|「そこはいい含めたらいいのよ、桜さんを助けるために内部から手引してくれる人が必要だとか」
|
| ルイズの言葉は的を射ていた。
| 外からの偵察だけでは難しい問題もある。
|
| 内通者が手に入るならばこれ以上ない助けになるだろう。
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, ソ|//::::::::ヾヽ///////l. ::.. .:::::. ::ヽ/
ソ´フ::::ヽ::ヽ:::ヽ::::＼///´∧:＼::::...: ::.＼
／///:/::::＼ヽ::＼::＼:∠//ﾉ ∧::: ＼;;;:::::::::＼
..／////.::l::::ヽ;;;;ヽ::＼＼::＼::》 ///∨ヾ;;;＼;;;::::::::::ﾊ
.￣＼/l |:::|:;;;;.l´｀ヽ＼ ＼＼ヽ｀T弋´ Y;;;;＼ヽ:::::::::l:l
//.|;.|:;;|;:;.;;ﾄ、 ﾚ ﾍ, -=ヤlﾘ ｨ j;;;;;;;;;|ヽ|:::::::::|:|
/／|::|;:ヽ;;;;l- ﾘ 弋ｲ乂 リ / , ';;;;;;;;;| /:::::::::l;;| …………。
ヾヽ;;＼弋z ｀´ ィｌ;;;;;;;;;;;| /.:::::::::.//
ヾ|;;ヽ;ヾﾗ l / .|;|;;;;;;;;;;;ﾚ:::::::::././
|;;;;;;|;;;;ﾍ ヽ __ .／ .|;|;;;;;;／:::::/::://
|;:;;;.l;;;;;|;;;,＞ _ イ ,. ﾚ／.:::;;;／::::l/
/;;;;/;;;;;ﾘ;;;;;;;;;;;;, jr -=彡／::;;;;.／,::::／
/:::;:/;;;;;/l;;;;;;;;;;;;;j ,イ;;;;;;;／ , ＜;;;ヽ
. /:::::/;;;／ム::㌢´ ,イ;;;;;;;.ィ＜´ ｀ ヽ、＼
...／::／／ '´ イ;;;彡'´ ヽ;;;;;ヽ 、
／::.／／/ ィ´;;;メ ／ lヾ、;;;;;｀ヽ 、
:::::/／ / ,' ／;;:;;;;/ ｲ ／ |;;:::＼` マ;;;｀ヽ、
.／ ノi .ｙ／:::;;;;;;;/ i.,／ ト、;::::ヽ、｀ヽ;;;;;::ヽ、
／::::ﾊ.,'.f::::::::;;;;;〈 / ./;;;;;ヾ;;::.l;::Y .〉;;;;ﾄ., ;;
..／::::;;./ ,' ﾏ; :::...::::.ヽ、 / /;;;;;;;;;;;|;;/;;:.ﾉ /;;;;;ﾉノ;/
'::;;;／;/. i 弋;;;;;;;;;;;;;;` ｰ=ﾆﾅ=-..、 /;;;;;;;;;;;;;;|/;;;:/ ';;l／´;.ノ
イ::;;;;;l ヽ ｀ ヾﾐ;;;;;;;;;:::::::.ミヾミ≧ｰ /;;;;;;;;;;;;;;;;ﾉ;;;;/;;;;;;;;;;;／
::;;;;;;;/. ﾑ ヾ∧:::::ﾉ .｀ﾘ /;;;;;;;;;;;;;;;;;/;;;∧;;/;;;;/
イ´/ 、 ﾑ __ ,, r‐‐,ｲ ,ﾉ::/ ﾉ ∧;;;;;;::::::イ::;;:/ ヽ,;;;ﾚ
;;;;;/ ｀ `´ ./／;;;;;ﾄ、 / ヽY;;/´.〈::;;::f. 〉'
;;;/ /人::_:ミﾐﾆ=' / r';;| ∨::;ﾍ
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| 危険、心配、臓硯にはこちらの常識は通用しない、そんな言葉を凛は飲み込んだ。
| 慎二の必要性という問題と、いざという時の衝突を恐れて。
|
|『二兎は追わんよ、我々の一番は桜だ」
|「士郎……！」
|
| だが、『弓兵』は言い切った。
| 臓硯は彼の妻の仇だ。一番憎んでいるのは他でもない『弓兵』のはずである。
|
|「死人のために戦うよりも、生きている誰かを救うべきだ。
| そして桜を救うには慎二の助けが不可欠になる」
|
| 桜を救うには『ネクロノミコン』の該当項目を読み解く必要がある。
| 危険極まる魔導書を読むには、『傾国』から方法を購入した慎二の助けが不可欠である。
|
| 慎二は戦力には含めなくとも、その先で必要となる。
| そして、それはつまり……。
|
|「慎二の望み通り臓硯は殺さないと？」
|「そこで決裂した場合、桜を助けるのが難しくなる可能性が高いからな」
|
| 『弓兵』も『万魔』同様に、人間に戻す方法についていたく警戒している。
| たやすくはなかろう。凛と遠坂の家の総力を上げる必要があるだろう。
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_// /仏/.ｨ/ _ ｀ ､::::::::::::/
,勹{/ /｀攵ｧ,/／ }ハ ＼:::::/
,仍ｿ/ / , 7友|/ }:/
j幺》/ / _ ′ ｀'/ /'′
／´￣ ＼/ 厶 _丶 ./ / ならば私は抜けさせてもらう。
/ ヽ 厂｀＼ _ イ /
. / ｝ |￣＼ ﾞ＜´ / ′
.' ＼ | ! ) 〉 / /
/ ｰヾ_从｜ / / ′/
/{ 八 { / く / /
. / / / ＼ ＼ V ,
, / /::. 0} ノ /
. // /:::. 乂彡'
} } /:::::::::::.. ∨/
,ｸ′ /::::::::::::::::::::::. j〈
{ く::::::::::::::::::::::::::::....ﾉ }
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| 同じ目的のために互いを利用していただけに過ぎない。
| であるならば、道を違えた時点で馴れ合うのは終わりだ。
|
| 『万魔』の合理的な判断に凛が立ち上がる。
| しかし、言葉はない。ルイズも『弓兵』も分かっていた。ただ彼女だけが理解していなかった。
|
| 慎二か『万魔』か、どちらかを選ばねばならぬと。
|
|「警告しておこう、凛。お前は優しすぎる」
|「は？ アンタ何を言って」
|「敵の敵に情を移しすぎだ」
|
| そこが凛の美点だと『万魔』は考える。
| 妹を助けるという大目標がありながら、慎二も『万魔』も見捨てられない。
|
| しかし、『二兎を追うものは一兎をも獲ず』だ。
| 『弓兵』のように合理的な切り替えをしなければ、いずれどこかでツケを払うことになるだろう。
|
|「慎二によろしくな」
|
| 言い捨てて、『万魔』は部屋を後にした。
| 臓硯は殺す。だがその前に卯月を殺した連中を殺す。
|
| 慎二や凛たちを付き合わせる理由は無い。
| だが、彼らを巻き込まない合理的な理由も、思いつかなかった。
|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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学園に潜む邪悪。
東京を戦場に変えようと企む輩。
そして、死を待つばかりの少女を想う隻腕の男。
バラバラの方向へ進む『破滅願望者』たち。
しかして彼らは憂い無く進む。
だってそうだろう？
進む向きが違うなら、背後は仲間が見ていてくれる。
次回、最終幕三十三話『再集結』
果てに見るのは破滅か死か。
蒼星石、翠星石もコマにするか
そろそろクライマックスか
＿＿
,: : : ´￣￣´
／: : : : : ; ´
／: : : : : :／
ー- /: : : : : :／ -―― ミ
＞ 、__{: : : : : :/´: : : : : : : ー: : ミ: 、
／: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :＼ : ＼
/; :-― ／: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :＼: :＼
／: : : : ／: : : ／⌒ヽ: : : : : :「ヽ: : : : ヾ、: : : :ヽ : ）
／: ／ : : : / ＼: : : :{ ＼: : : : :ヾ＼ : :∨
. （ /: : ; イ/ ＼: :_」 「三 : : : ∨∧ヾ: いいか、
/: : / //{ ｀Π ´￣了 「 }三」ーュ:Y、ヾry、 ヤバい奴がたくさんいるから
/: : / //ハ じ 心′｝ニ≠、三ニ ｀Yヽ 軍人か聖職者っぽい外国人を見たら逃げろ。
!: :/ {/人八‐======＝ニス/ マ 「 ヾ三ニ、 ｀Y)
{:/ V ＞＜三三＞ァ´ヽ ｀~ヽ V三７ァソ
＼ ＞´ ＞≠’ ノ ー-- ゝへ７⌒´
ァ￣ ｒ ´ イ三ニ=-＿-=ニ三T
⌒了/ .＜三三＞ ´ ｀ヾ三ニ
＜ ＞＝ ´ ＼]
, ＜＞´
, ＜＞´
＜_／
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| 合衆国軍海兵隊グリーンベレー、『野良犬』部隊の通信兵。
| であると同時に、アトリームからの亡命者の一人である人物、ジャジャマル。
|
| 他の『野良犬』は暗闘の中で皆散った。
| 故にジャジャマルは最強。足手まとい故に置いていかれたとはいえ、生き残ったのだから。
|
| 唯一であるなら、最強なのだ。
|
| なお、この場……アトリームの生き残りの集会においては、最弱である。
| ミスト・レックス。委員長、そして元『破滅願望者』の十六夜咲夜とマーガレット・バートン。
|
| 戦闘能力はそりゃあ低いかもしれない。だが、情報収集能力に関しては群を抜いていた。
|
|「合衆国軍、『異端審問官』に『武僧』。あと『十字軍』……。
| 全部を理解して警戒するのは難しいからな」
|「しかしそれでは、外国人を見る度に逃げることになるのでは？」
|「危険なら仕方ないんじゃないか？」
|
| だが、活動があまりに制限されてしまう。
| 指名手配されているからまったく外を歩けないミストに比べればマシだろうけれど。
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: : : : ／ : : : : : : ハ: : : :／ ヽ: : : : ヽ＼: : :｀ヽ ヾ:
: :,／: : : : : : : : / }: : :/ ヽ: : V/＼: : :＼ ヽ
ｨ': : : : : :イ: : :/ !: :/ ﾒ、V{ﾆヽ: : :＼ )
: /: :,ｨ//: : : / i:/ / Vﾆ ＼ ヽ
/: :///: : : ＞ー--＜ ／ {｢i! {!三ﾆハ ＼ じゃあ二つだけ。
: : i!// : ／ {｢ｌ! ｀ ´ !|j! ｊ三三 } マジで絶対にヤバい奴を言っておく。
: :il!l/ｊ／三 |! i| iじ ｨ三フ
: :j!/三三ｊ! iﾄ j! ． ¨ィ７´
: :i ヾ三」 ゞ'’ ＿ -=ニ三7
: :! ｀マ三ニニニニニニニニ三三三フ
: ; ｀マ三三三三三三三三三＞´
/ 「￣´￣￣￣￣ ´ ７
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|「まずはチョコ食ってるデブ」
|「チョコ食ってるデブ」
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| 脅威が一切想像できない。
|
|「オレの上司、目を逸らしたり殺意を向けるだけでアウトだ。遭遇したら死ぬ」
|「なるほど」
|
| 誰一人本気にしなかったが、ジャジャマルの上司であるヤーボ大佐は本当に危険である。
| 具体的に言うと、トレーラーに轢かれてもトレーラーがひしゃげる。
|
| 『血族』で言うなら『四天王』級、現在東京にいる『教会』関係者ではアンデルセンに次ぐ実力者である。
|
|「もうひとりは、眉毛がないチンピラ」
|「それは該当する人間が多すぎるのでは……？」
|
| 『武僧』ヤザン・ゲーブルである。
| 『野生の獣』と揶揄される餓えたオオカミ。
|
|「とりあえずその二人には出会わないように。
| あと、全身包帯のミイラ女とか、真っ赤な服着たサイボーグもヤバいけど、見た目からしてヤバいから分かるよな？」
|
| ミイラ女とか赤いサイボーグとか……そんな奴らがいたら噂になるに決まってるだろうに。
| その場では頷きつつも鼻で笑っていた咲夜であったが。
|
| 実物を前にすると笑えなかった。
|
|「喉が喉が喉が渇く渇く渇く！」
|
| 意味不明の雄叫び、散乱するミネラルウォーターのペットボトル。
| その中心には真っ赤なサイボーグ。ひと目で誰でもわかるほどのサイボーグ。
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ムｨ人 V ! ﾉ}
|7＞へ u /V
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／::::い ` r- く/ ￣ ヽ:::::＼
／::::::::::::＼＼ ヽ // !＼:::ﾊ
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|「逃げるぞ！」
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| 旧校舎、麻薬の取引現場の情報に引き寄せられた愚か者が三名。
| 咲夜、上条、そして球磨川。
|
| 慌てて引っ張った上条の頭のあった位置、髪の毛を焦がして弾丸が通り過ぎる。
| 眼の前のサイボーグの右手と一体化したチェーンソーから乱射される弾幕。
|
| 赤いジャケット赤いヘルメット、左手には排気孔のついた盾、右手はマシンガンとチェーンソーと融合。
| 膝から下は車輪が回転、旧校舎の木造の床をゴリゴリ割りながら前進、異様に早い。
|
|「『ヒトラーの電動ノコギリと呼ばれる機関銃があるのは知っていたけれど』
| 『マジで機関銃と電動ノコギリをくっつけるバカがいるなんてな』」やる馬鹿がいるなんてな』」
|
| 口笛を吹きながら球磨川。ここまで手荒な出迎えは想定外だが、荒事は予想していた。
| それ故のメンバー。戦闘能力と生存力は『破滅願望者』の中でも随一。
|
|「《フライミー・トゥザムーン・イザナワーズ》！」
|
| 咲夜の能力で、銃弾を逸らす。
| これで射殺の心配はなくなった。同様に敵本体の白兵攻撃も防げるだろう。
|
| 攻撃が無効化されたと気づいた戦車男は床を割りながら突撃。右肩のスパイクでショルダータックル。
| だが、ありえない角度で攻撃が逸れる。スパイクの雷撃器が発動し、壁が爆砕。
|
|「上条！」「あいよ！」
|
| ペルソナで攻撃を。上条が身構えるのと、戦車男が盾を向けるのは同時。
| 次の瞬間、咲夜の目の前が真っ赤になった。
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ヽ、
＼＞―＝＝＝＝＿ ｀ヽ、
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ｲ/ 州iﾏi!i州Ｖ| 州ﾄ洲 i州ﾄ洲 州iﾏi!i州!
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7/ |从从|i〃7刋::::ﾏ!::ｨ＝=x_W 州洲ﾘ洲i!j
/ 从i!i 从 ゝﾋｿ:,:::::::::::i /２:::>ﾇ 州洲ﾘ洲/
！ ´Ｖ ﾏ从i!ヽ::::::f:::::::::::::::｀¨¨´テシ洲ﾘ洲,'
ﾏ/ i -＿＿ ｲク/⌒l从 『……おいおい』
｀. ﾍ ￣￣´´ ´_ -ん彡ﾍ( 『一筋縄じゃあ行かねーじゃねーのか』
ヽ、 イ 不不
ヽ- -＜ ´ ∧｀｀
＞＜―>＝＝＝＝＝＝＝_
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| 咲夜の内臓が潰れて背骨がへし折れ、左腕がちぎれて飛んだ。
| その後ろにいた上条はまだマシだったが、咲夜に押しつぶされて壁に巨大な染みを作った。
|
| 暴走状態でどんな物質も概念も逸らしていた先日と違い、咲夜は対象を選んで逸らす。
| そのため、盾から放射された魔力の衝撃波には対処できず。
|
| だけれど、問題はなし。
|
| 球磨川の『手のひら孵し』で無事に『なかったこと』になった。
| なったが。
|
|「『逃げる！』『この調子で死んでたら身が持たないな！』」
|
| 傷一つない顔面から弾丸こぼれ落ちる。
| 咲夜が倒れた一瞬で、電動ノコギリ機関銃の掃射を受けたのだ。
|
|「咲夜、先頭を頼む」「仕方ありませんね！」
|
| 《イザナワース》による方向修整と加速で、薄暗い廊下を駆け抜けて角を曲がる。
| その瞬間に息を潜めて動きを止める。
|
| 凄まじい速度で追跡してきた戦車男がテクニカルなドリフト。
| その視線を『逸らして』隠れおおせ……ない！
|
|「喉が喉が喉が渇く渇く渇く！」
|
| いかなる魔術かからくりか。戦車男は正確にチェーンソーを振るう。
| 身を挺して仲間をかばった上条が、防御に出したペルソナごと真っ二つ。
|
| 即座に『なかったこと』になる。だが、肉体的ダメージはなくとも魂には疲労が残る。
| 早く、早く逃げなければ。
|
| 夢世界で、『滅ぼすもの』と相対したとき並みの絶望感に苛まれながら、
| 咲夜はなぜこんなことになったのかを必死に思い出そうとした。
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r‐ｖ┬ｖ‐…┬- 、
厂Ｖ ⅳ⌒ヾヘ、勹ヽ
｛_厂 Г ＼ ＼勹、
／ | |、 ＼）
／ / 从 ! ＼ ｝ 丶
/ ｛ /｛ `斗f七ﾒ、 ハ
. И ∧ l _,.＼ Lk:::ﾉ | ハ }/、
| / ハ代::〕 j∧ 〉
j/ / ｌ｛ ′_ / ｿ ／
. ｛／/ヽ、 ｀ , :〈Y〈 ｛ 今ここまでで集まった情報だが。
, ｲ ;〉 /＞ _ ィ"_,./ /了⌒
／ | /冫〈 ,ｒfチ'ﾞ 〉rｆて
jハ,＼ >へ,厶ﾍ 〈 ｆて ／
. ／｝冫 /:::::Л:::ﾟ｡Уｆて../
. ／ 介ｋ.〈::::/ |::::::.Ⅵｆて/
〈 / ｛/ﾌ:::/,-=l::::r┘!ソ;′
. 〉 〈ﾆニ〈::/ニﾆ]:::::〉ﾆニﾆr‐へ
/ iニニニニニミ=ニニ/ ニユ
Ｙ⌒>'¨⌒ ‐-=ニ二三ｼ′ ‐っ
/ ┴- ..,, ｀'＜⌒
〈 ｀`丶.,
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冫--─…・･･‥…＝えﾆ〔
, :ヾ゛｝ ／ ＼
／ ｛ ／ 丶
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| 滅びた故国アトリームの二の舞を、東京では踏んでもらわないために。
| 集まったチームは情報収集能力がびっくりするほど不足していた。
|
| アトリームの戦いは、暴徒と防衛隊の両方に明らかな介入があったことで拡大した。
| 暴徒に供給される強力な武器、その武器を習熟するための訓練、ゲリラ戦を知り尽くした指揮官。
|
| 熟練のテロリストじみてきた暴徒、不屈で、絶え間ないテロ行為。
| 防衛隊は疲弊し、暴徒へのあたりは強くなった。
|
| 防衛隊は先制攻撃に踏み切った。暴徒の巣窟を襲撃し、暴徒の疑いのあるものを逮捕した。
| 抵抗の気配には銃弾で応えた。相手が暴徒か、テロリストか、あるいは無辜の民かなど関係なかった。
|
| 殺さなければ殺されたし、そこに至るまでの道もとっくに死体で埋め尽くされていた。
| 心優しい防衛隊員から死んだ。情けをかけたものは死んだ。子供だからと油断して死んだ。死んだ。
|
| 防衛隊員が容赦をやめると、暴徒ではない市民の憎悪と恐怖も高まった。
| あとは雪だるま式に転がる、肥大化する。
|
| 憎悪と銃火と死の連鎖。
|
|「相手が死ぬまでなんて生易しいものではありませんでした。誰もいなくなるまで終わらない悲しみの連鎖でしたよ」
|
| 皆殺しの荒野。見渡す限り埋め尽くされた見知った死体。殺した敵。殺された味方。
| 昨日まで挨拶していたお隣さん。買い物に行く店の店員。どこかですれ違った誰か。
|
| 全員死んだ。皆殺しの荒野。
| ……だが、そこで物語が終わるなら、どれだけ幸せだったろう。
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| 死体の山の頂にうずくまり、次なる殺戮を夢見て眠る悪龍を目覚めさせる必要なんてどこにあろうか。
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／イ:./:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|ヾｲ.:.:.:.:.:ヾ:.ヽ:＼ゝ
／ 〃:.〃:.:.:.: /:.:./:.:/:.i!:.:|:.! ∨:.:.:.:}:.:.:ﾍj
/:.:./.:.:/:./:.:イj:.ﾘ:.八:.リ j:i:.:.:.:.:ﾄ:.ヾヽ
!／:.:イ:./≧x､lハｊ _,,ﾘ≦二ｲ:j.:.:i:.:ハヽ＼_
ノﾚ´ﾑ:ｲ∧ぐｾｵ} 弋ダﾉｲ:.:.:ﾘ }｝ｿヾ 俺は偶然にアトリームにいた日本人に助けられました。
|:.∧ﾊ j ／イ:.:./ソ:/ そして、その人の仕事を最近までは手伝ってました。
ﾚ' ﾘ八 <、 /ｲ/ﾊ:.:/
ﾄ､:ﾍ ､_ ＿ , /ｲ |｀ヾヽ
／ﾘ;;;;＼ - ′ !;;;;ｿ;｝}
///／;;;;;;;ﾍ..___..／ / レｸ:ﾉ.:|
_..,,,,,///´;;;;;;;;;;;;;ﾉ! / ／::／ ..:j＞,､_
_.,､＜://:::{:{:{;;;;;;;;;／´ j { / ／::／ /ト.,､＜⌒＞,､_
:::::::::://＞｛ii{;;;;;;/ / ｛;;;;;{ ／ / {::::::::::...,､:＜⌒＞:.､_
:::::::::{｛ 〃∧ヽソー-- 、 __人__{;;;;{ ｲ ｛::::／´::::::::::::::::::::::::::::｀ヽ
::::::::::::｝ ____,,ゞ:::::＞､,,_____,,,､ｒ=＝」k;;j_ ノ ﾉ/:::::::::::::::::::::::::＞"⌒ヽ:j
∨::::://O / /:::::::l:.:.:{:::}{:::}:::::::/:.:/⌒/ｰ-､ ノﾉ:::::::γ⌒ー"´ }｝
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| 男の名は呂布奉先。『血族』所属の中国人である。
| だが、外国人であるミストにはその違いがいまいちわかっていなかった。
|
| まあ、呂布は日本国籍を得ていたのであながち間違いではないのだが。
|
|「『血族』……魔術を用いて怪物と戦う組織に入って、アトリームの戦いの裏で糸を引いていた組織を知りました」
|
| それが『教会』と『結社』。二つの組織の代理戦争……いや、代理戦争ならまだ納得できたかもしれない。
|
|「あれは、試験運用だったんです」
|
| 『教会』の作った非人道兵器。
| 『結社』の練り上げた超自然的魔術。
|
| それらを試して、さらに研ぎ澄ますための実験場。
|
|「現に俺の……俺の知人は死後、その脳を戦車に組み込まれました」
|
| そして人間を超えた鉄の塊、『タロス』型自走戦車として猛威を振るった。
| ミスト自身もまた、自走戦車と無線接続する脳内チップや人工心肺を有していた。
|
|「俺は『コマンダー』だったので、死にかけたときに人間の姿を保ったまま延命手術を受けまして」
|
| 暴徒に爆殺されかけたときに粉々になった骨は人口骨格に入れ替えられ、皮下には装甲版が仕込まれた。
| 言うなれば初期型サイボーグ、『カトルカール』のプロトタイプである。
|
|「ですが、この国の『結社』はすでに殲滅されています」
|「では、何者が？」
|
| そう、アトリームをすりつぶした組織の片割れはすでに東京から撤退している。
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|「『教会』に決まってんだろ」
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＿_ .ｌ.ｌ,. ''"´´ '''''‐ｰ ､ ｀`‐-､
,,-‐''''''二―- ヽ/´ "'''‐ ､ 'ヽ. . ヽ､
／ ._, -'',-‐'‐‐''''' `‐-、 ヽ､ .`､ . 'ヽ.
／ r'´ .'´ ＼ ヽ ヽ. ヽ.
/ / .、 .- .､' ､_ ヽ .ｌ .l. .ヽ
| ./ / ./ ､ .| .| ヽヽ､ ヽ''､｜ | .ヽ
".! / ./ l .l / . ｌ.‐l ` _二_'´ l..| / ､_、 .ｌ
l | ｜ .| ! ./ . / ./ ヽ.'´ l .l._｀''､.l. .､/ r.,- ヽ .ヽ
..ｌ"l. .l. ! l. ｌ ＿ '´ l...l._,' l ,' .,r'/./ ‐'､ ! .＼、 でも、おかしいわ。
ヽヽl. ｌ .ヽ ｌ' ､_ ―''' '´ l.l ゝ _/丿 ､--ｰ''
.＼..ｌ ヽ、l .l.l,.ﾚ " -‐' ／ . ､'ｌ' l. アトリームでは裏に隠れて操作するだけだったのでしょう。
ヽ､ ヽ'､ .l.-"r ,-‐'''､ .l｀'' ' ジャジャマルさんの話を聞く限り、
,`ｰゝ､ .__, - |..ﾚ''/ / 『教会』は自分たちで戦争をする気みたいだけれど。
``ｰ-,. ..ｌ /',- |
,' _ .＼ ＿_ -‐" 、 l '
l.´ ´.| .,' ､`ゝ､__,---￣" 、 l _./ ".l.､
__ "｀ ', -''ヽ. ＿/､/ '´'" _, -'´/.ヽ
.''l ヽヽ .-ヽ ノ'/ .ｌ _, -'''´ ／ |.'､
.! .ｌ.l. // .〉.,l'´ , ',- '''´ .／ . / -. ヽ､
＼ ,'＼､､...!.| .r/ ' _イ | ヽ.. ／ ／ ｀'''ﾆ-､
ゝ､ ' _、.`l.,l..,／/､.l-､,,-'.／ ／ ｀'''ニ ､_
'二-''У｀ ／ ,/ |／ ／ _､,二ヽ､
.／´ ,_, ゝ./ .／ ／ ／ ／ . ヽ
. ' ' ' ' '´ .ｰ''" '´ '
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|「うちの大佐は『もう少しマシな戦争』をしたいっていつも言ってるぜ」
|
| 複数の失笑が漏れる。戦争に、マシ？ 何を馬鹿な。
|
|「……太平洋戦争以降、合衆国はその物量とパワーで相手を真正面から押しつぶすような戦争はしてないよな。
| 当たり前だけど、誰も土俵に上がってくれないんだ。泥と糞にまみれてゲリラとテロに怯える戦争をしたくないんだろ？」
|
| 強すぎるファイターが、正々堂々自分と戦ってくれる相手を探している。
| 哀れな、孤独な末路だ。強すぎるが故に誰にも理解されない。
|
|「は？ その『マシ』を終わらせたのが核攻撃なのだから、すべて自業自得なのでは？」
|「言い過ぎよ咲夜。合衆国は全面核戦争がしたいだけなのよ」
|
| 女たちの辛辣な物言いに、居心地が悪くなるジャジャマル。
|
|「あんまり信じたくはないが、大佐はマジで東京で戦争をしたがってる」
|「でも相手がいないでしょうに」
|
| 『結社』は撃滅された。ニャルラトホテプは放逐された。
| 『教会』と米軍が用意した過剰な戦力は、振り上げた拳を向ける先が無くて力を持て余していた。
|
|「俺ですね」
|「はぁ」
|
| 親指で自分を示すミスト、高校生たちは一瞬白けたが、すぐにその真意に気が付いた。
| ミスト・レックス。濡れ衣を着せられテロリストとして国際指名手配。
|
| 同様に、彼の相棒『四ツ目』と。
| 備府やらない夫が。
|
|「……なら、ミストさんを警察に突き出せば？」
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:.:.:.:.:.:.:.:.／:.:.:.:.:/:.:.:.! ヽヾ:.:.:.:ヽ:.:.:＼:.:.:.
:.:.:.:.:.／:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. ヾ-.､:.:.:.:.:.:.:.:＼
:／:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.!:.:.:ﾊ:.:.:. 斗‐V:.:.:i:.:.:.:.:
:.:.:/:.:.:.:.:.:.:./:/!: !: :|v:.::. ｘ≦,,≦-､V:.:|: : : :
: /: :.:.:.:. :/:/. V:N::. V: ::.／,,ィ行:刋 ' :.:.|v:.:|: :
/: :/: : :.,:.:/ _ヾ从:. ヾ:::. ゞ ´ !:j |:.:|:.::
:.:.:,:.:.:.:. _,/≠伝示 ヾ.､ `＼ /' |: |:.::
:.:.ﾊ:.:.:.:!:.:.|. {゜ゞ夕 ヽ 八!: : それでは根本的な解決にはなりませんよね？
:ﾉ|:.!:.:. |:从:.､ i , |:.::
|ﾊ:. :.|:.|:.:.:!:ヽ. ゝ ノ .|:.:/
V:.N ヾ:.:.:.ヽ - ´ /|/
ヾ::. ＼:ヽ:. ､ ´ /
. ヾ ヾ ＼:.＞.､ ,
／／ .＞ _ イ
ｘ≦ ア／ ハ
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|「あたりめーだろ、そもそもが濡れ衣なんだから、次の生贄を探すだけだ」
|
| 『敵』が『教会』と合衆国なのはほぼ確実。
| だが、対処方法が見つからない。
|
| ここにやらない夫がいれば、蒼星石の『やらない夫を一体生贄に捧げる：すべての『教会』関係者に国外退去を願う』
| という作戦の有用性を真剣に検討しただろう。
|
| だが、アトリーム関係者たちは組織への接触方法がない。
|
|「とりあえず、分かってることが二つ」
|
| ジャジャマルがピースサイン。
|
|「理由は不明だけれど、まだ『教会』も合衆国も表立って動いていない。そしてアトリームみたいな市民の対立が起きていない」
|「不和の種をまく、陰謀の段階かしらね」
|
| 実際には『教会』関係者のほとんどがやらない夫に血眼なだけである。
|
|「もっと広い視野と、コネのある協力者が必要だな」
|「なら、おじ様に連絡してみましょう」
|
| 名案とばかりに手を合わせるマーガレット。
| 委員長とジャジャマルが顔を見合わせる。
|
|「オジサマ？」
|「お嬢様と私の亡命を手助けしてくれた人物です」
|「なら、オレもオヤジさんに頼むか」
|
| 委員長が納得の様子でうなずく。
| 彼を亡命させ、後見人として新たな名前を家族を与えてくれた人物。
|
|「伊藤誠おじ様」「伊藤誠に」
|
| 異口同音に驚いて、二人は顔を見合わせた。
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二ヽ,,..::"::::::::::::::::::::::::::::::::::::::｀:..､
／::::::::｀`:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
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/:::::::::::::::i:::::i!::::::::::::::::ヾ:::::,,∠,､_:::::＼::::＼:::::',
i::::::::::::::::!:::::i i:::::::::l::::::::イ＼＼＼:::::::::＼:::＼::',
l:::::::i::::::::!::::i,,ゞ;::::::::i:::::::::l >≧r､＼::::::ヾ＼_ r ､
ｌ::::::i!:::i::::l;/i ._,,＼::::!､::::::l 辻ヾ〉 ＼:::ヾ） (ヽ､｀＼
i:::::ﾊ::::|::::l:::i〈｀（ﾍ＼! ＼:', ゞ-′ ラ∨/＼ ＼ ＼
. l:::i l:::|::::lヾ､ 弋i;） ヽ ＼ ┌::ソﾉ ＼ ＼ ＼_
∨ l::::l::::l:::＼ " ﾍ::::/ r--‐-､>､ ｀ヽ
＼|＼!＼ ′ ∨ ` ‐-､ ｀` `､
ヾ ヾ ､ ｰ ´ , ヽ､ -＼ `､ キラッ☆
_, r ´:｀ ､ , ′ 、 | !:.:ヽ : ヽ ヽ
_, r'´:.:.:.:.:.:.:.:./:.....｀ ｰ ＜´ ヽ | |::.:.:ヽ: : ﾍ `､
_, r ´:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.| .ヽ -､ー_'/ !::.:.:.:.:ヽ: : ` ､ ____＿__i_
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| 伊藤誠。あるいは世紀の魔術師アレイスター・クロウリー。
| 魔術結社『黄金の夜明け』の首領であり、賢者の石を持つ不老者。
|
| 『結社』ヨーロッパ支部の大幹部ながら、なぜか日本在住。
| 『血族』とも交友があり、日本では中立を保っていた。
|
| なお、スレ読者の皆様には の育ての親というか、仲良しのオッサンのイメージが強かろう。
| 入即貸本の常連であり、ネウロの友人でもある。
|
| ちなみに現在、過去のツケの支払いに命を落としたとか落とさないとか。
| 生贄に捧げた女神の娘に、復讐として素っ首落とされたとか落とされないとか。
|
| 早い話が行方不明である。
|
|「うちの学校の理事長だろ？ 誰か知ってるんじゃね？」
|「え？」「え？」
|
| 委員長にとっては後見人。
| 同時に名前と、義理の姉を用意してくれた人物。
|
| 先日、やる夫たちと一緒に情報交換をしたのが最後だ。
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, ――――- ﾉ￣￣￣ i
／ ／｀ ´ i i￣7ヽ
／ ﾍ´ ヽ/ ＜￣｀ー 、 ＼
/ .-i／ ヽ ／￣￣ .i´ ＼／ 、
. / / ヘ＿ ／/ i| ＼ >
/ .／ヽ ／/./ ∥ ＼ .＼
ﾉ / ヽ ／ ﾉ ./ // ﾍ ヽ ＼
/ !、 / / /∥ i // .iﾍ .ﾍ∧ ＼
／/ ｀ー=/／ ./ i ／ /ii. ﾍ i ∧ヽ i なら、私が学校に行く。
／ / イ ∥ / i イ /i ./ .i| 冫ﾘ＼i !i
. ∥ .i | .i .∥i | ／./」 /-| / .i|彡ヲi ＼ﾘ
∥ ./i i A | i∧ .i ./ .| ./彡i/ ﾘ炒 .iﾍ i,ヽ＼
|i / i .| i iヽi |i∧ i ∥斗/i / ＼ ∨ﾚ i }
|i / i .| .// .{ |i ﾘ ヽi i |弋i乂 ﾉ i＼ソ _ rーv＝ヽゝ
i.! .i .i ! //i ゝ」 ヽi ＼ ﾙ ｀¨ .!i ｀ / ヽヽ、 ＼ ＼
ヽ i ヾ /ﾉ / i´ i / / i ｀i ゝ , /、ゝ ゝ ノ/ .＼ ヽ 、
i＼ i∨ ノ / /|ヽi / .人 ﾉ ソ , ン ./ ｿ ＼ / ｀ー .ヽ
ノ| i ! .| |.i ./ ﾉ ゝ!／＿ iヽﾉ } ∥i } ＿ {
￣ i.i ∨| |ﾍ / / i // ｀i !ｿ ＿＿＿＿ﾉ、iｿ、 ／ ｀ﾍ
. ｿ ソi/ ヽ .／ i i i >´i } i /.i ｿ ￣ ｀ヽ、＼
ゝ-/ーt ´ /i .i i i | ! /ｿ !ー、 .〉 .{ ＼_｀ー
＼//.i ! 人i iﾍ｀/ /ｿ―――ｔ=i {/ ＼/∧ﾍ ￣
/ノ ∧ 乂 {弋i ｀{ /ｿ i i .|ヽ!｀＼{.i .｀ ゝ
／ ＼ゝー／ーﾉ i―- 、 |＼-! !i:::＼＿iー 、
｀ /::::／ ｝:::::::::::::::ヽﾉヽ｀＝iﾍ´ー- ニﾆヽ ＿
ノ- ー＝´ ヽ::::::::::::::::::::::::ヽ//.iヽヽ＼ ｝i iー 、／´|
/￣￣￣｀ヽ .! ゝ、:::::::::::::::://::i.i.| ヽヽ＼|.i ヽ ! !＿ _
｛ ./ ／ ￣ ! i ｀ヽ::::::/ノ::::i.i::i|＼ ＼＼:＼ ﾍ /
ヽ/./ ヽ＿＿＿ .i:::{ ＼:::i.i:::}}::::::｀＞ヽ＼::＼ { ./
/ﾍヽ }::::::＞-┘ii::::::::::::::::｀ヽ,.＼:::｀..ミ
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|「うふふ」
|「お嬢様、その意味ありげな笑いはやめてください」
|
| 好きな人に会いたいのね、全部分かってるのよ。
| そんな風に笑うマーガレット。
|
| だが実際、元『破滅願望者』の仲間に協力を要請するつもりなので否定は難しい。
|
|「委員長には咲夜の護衛を頼めますか？」
|「えぇ……オレより強い女の護衛？？」
|「何か？」
|
| マーガレットの圧力に黙る委員長。
| だがミストが首を振る。
|
|「こんなにも俺とバートンさんの間で意識の差があるとは思わなかった。
| 長門さんにはジャーナリストの友人がいるのでしょう。一般市民の間に不満や緊張があるかを調べてもらえませんか？」
|
| 不人気には三行半を叩きつけてきた委員長である。
| 今更ものを頼みに行くのはいささか……いやものすごく気恥ずかしい。
|
|「わかりました」
|
| しかし、睨みつける咲夜の圧に負けたようだ。
| 咲夜と球磨川の関係の進捗を知りたいマーガレットと、嫌がる咲夜。板挟みである。
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, ゝ ! ｀{‐-' ﾒ､_`ｧ＼
, --ゝヽ ﾚ ヽ /_/／〈
／ r´ヽ／ ￣￣￣ ` く、
/ ／ヾ､/ ! ! ! ｀ヾ
. / ゝ､--ｲ,' | , -+--､ ﾄ､
ﾄ二´`ヽ|ｌ ｌ| | ハ |! / ﾊ
. ﾊ ｌ_｀丶ｌ| ぃ ﾊ ,仟示ﾐﾊ ,-x' ､ ｌ
/ └,`丶〉 ヾ､ Ｔ'"ヾ ﾏﾘ ヽム} } |
ｌ ', ゝ ‐ハ ＼ { 丶 ¨ ﾘ ﾊ , ﾊﾉ
ﾍ ヽ } │ ＼ ｌ､ヽ＼""" ` ',ﾚ|ノ '
‘，', ｌ ﾊ ヽ、_| ＼{ ＼!ヽ ´ｌ それで皆に合流をして……。
_z.'-.､! ｌ / { ＼ﾉ ﾘ ,-ｧ /
.／ ＼ /| /`r- ノ､. ∧
,..-─-､ ヽﾚ´// !｀＞-__/ |
::´::::::::::::::::`:／｀`ｌ{ ヽﾉ / /{´＿__ﾉ
::::::::::::::::::／/ ＼ 〉` ノﾊ ,'､ , ヽ＿__
:::::::::::::::::ヽ/ ､. ! ｌ ､ ﾉ､､}_､ /---＼:::}
::::::::::::::::::::t___ `_ヽ＿_`_"＿/z-､! , -‐／:::|
::::::::::::::::::::::｀ゝ-{: : : : : {: : }: : : : : }ヽ! ￣/:::::::::|
::::::::::::::::::::::::::::::::ヽｧ- '´７´ﾊ‐一´_ノ....､ ゝ::::::::ｌ
:::::::::::::::::::::::::::::::::/ ／´:i ｀ヽ:､:ヾ||::::::::::＼）､{
::::::::::::::::::::::::::::::::`´f:::;::::ｌ |:::｀､ｰ､‐::::::::::＼
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::|::|:::::ヽ、ノ::::::::::::: ﾊ:::::::::::::::::ヽ
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| 学内で流通する麻薬と、行方不明の理事長とを探っていた上条らと意見交換をした。
| ミストのことはともかく、アトリームのことや『敵』のことを説明した結果、球磨川が妙なことを言い出した。
|
|「『こりゃ、面白くなってきたかもしれないぜ』
| 『僕らの追ってるクスリこそ』『その陰謀の一端かもしれない』」
|
| 確信はないが、臭うという球磨川。
| タイミングよく、薬の取引を旧校舎で行うという情報を掴んでいた。
|
| なので咲夜は上条と球磨川の手伝いをすることにして……今に至る。
|
|「喉が喉が喉が渇く渇く渇く！」
|
| 上条のペルソナがその左腕から発射したエネルギー弾を、戦車男は盾で防ぐ。
| いかなる魔術も異能も貫通するはずだが、戦車正面装甲のような硬度と巧みな技術での傾斜に捌かれたのだ。
|
| チュインと甲高い音を立ててチェーンソーが振るわれる。
| 三人同時に後方に飛んでかわすも、同時に放たれる弾丸までは避けきれない。
|
| 咲夜の脳内で何かが千切れるような激痛。能力の使いすぎだ。
| 『滅ぼすもの』能力とペルソナを併用、弾丸を『遅く』して防ぐ。頭が痛む。鼻血を親指で拭い捨てる。
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. l|}!.|!Ⅷ}》}lﾊ.≧ｘ 行/ﾘ ﾘ}! l州l州州州
. |l} .l} }ﾘ州}l,ﾉl 必 ゞ‐′ .lﾘ'lⅣⅦ､} } 『上条！』
. l}! Ⅵﾊ}l}Ⅶ}弋ﾘ.} ﾘ' l! ∠メｲ{ 『上だ！』
'} ﾉ{ ⅣⅦ｀ ヽ 〃 /ｰイ州l}
', ` ヽlハ <⌒ヽ / ./: lⅦ､}!
＼ ! ＼ ヽ-'′ ｲ Ⅵ`-､
／￣`, ／ _ ｘ≪´ _ｨｚﾍ、
/ ー‐'-､}‐'ﾌｘ≪ ,ｘｚ≦////ハ、
| ､＿__.|.// .ｘ≦彡/////ｨ彡≦/＞､_
｜ ､_ |' l} |///////ｨ彡//////////≧
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| 球磨川の指示に戦車男が顔を上げる。
|
|「『素直な野郎だぜ』」
|
| だが上条が狙ったのは下。戦車男の足元の床を砲撃。
| 鉄塊めいた体重を支えきれずに廊下が崩落、即座に球磨川が『なかったこと』にして床を補修。
|
| この隙に撤退を図る三人。目指すは屋上。咲夜の能力で短時間なら空中歩行が可能になる。
|
| だが、振り返った三人は凍り付いた。
| いつからだろうか。黒ずくめの、頭の先からつま先までを黒く染め上げた怪人が立っていた。
|
| 抜き身の軍刀を無造作にぶら下げ、左腕がない。隙だらけに見えた。
| ……だが、その存在の放つ圧は戦車男を凌駕していた。
|
| こいつを突破するのは不可能だ。本能的に理解できる。
|
|「『なんだよ全身タイツか？』『センスが無いにも程があるぜ』」
|
| 黒豹のようにしなやかに、そいつはゆっくりと目を開く。
| あまりにも鋭い眼光。猛虎のような殺気。
|
|「『あ、ヤバい』」
|「どうした球磨川」
|「『死んだと気づかずに殺されたら』『流石の僕も復活できない』」
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｀ヽ ゝ:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/ ｙ::,'::/
::::::/:ヽ::::::::::::::::::::::::::; _＿_＿＿__::::::::::::::::ヽ___/:::ﾚ′
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| 『ノーカラテ・ノーニンジャ』という諺がある。
| カラテ。つまり肉体の鍛錬と白兵戦能力がなければ、忍者として二流だという考え方だ。
|
| 術や異能だけを頼りにしていてはいけない、まずカラテを鍛えよという訓戒である。
| 一見すると。
|
| だが、実際は違う。
| カラテを極めれば、異能や術など恐るるに足らぬ。
|
| 本物のカラテの前では、一般人に毛の生えたペルソナ使いなどベイビーサブミッション（赤子の手をひねる）だ。
|
| 黒ずくめが軍刀を担いだ。
| その瞬間、上条も咲夜も、球磨川ですら自分の死を幻視した。
|
| 三人の脳裏にフラッシュバックする映像。夢世界での死。
| 三人は三人とも、その必殺によって少なくとも一度は命を奪われていた。|
|
| 隻腕と、その構え。
| この黒ずくめは藤木源之助に間違いない。
|
|「あー、上条さんが気を引くから」
|「『三秒も保たないほうに賭けるね』」
|「あれが藤木さんなら話が通じるのでは？」
|「『試してみればいい』『僕は嫌だ』」
|「悪かった」「『なんなら……』」
|
| 軽口を叩き合う事で精神を落ち着ける。
| 次の瞬間。
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./ 八 ＼ |、＼_
／ー― - 、 ＼ .＼ // / ／⌒ヽ
' ＼ ＼ ＼ ﾚ ／ ｙ' ￣ ＿＿＼＿
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| 上条当麻は、夢世界では『ロストマン』を名乗っていた男はペルソナを持たずに戦ってきた。
| 能力はない。素手でだ。
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| 三人の中では最もカラテに秀でていた。先程の軽口でタイミングを測り、話の途中だが、だからこその突撃。
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| 咲夜が加速、同時に推定藤木の時間を遅くする。
| それでも拳よりも早く届く膝、顎を粉砕して陥没させる一撃を球磨川が『なかったこと』に。
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| 体当たりのような勢いで、胸板に叩き込まれる上条の左腕。
| だが半分の速度のはずの推定藤木が容易く回避。肘が上条の背骨を強打。
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| 基礎の強さが違いすぎる。しかし背骨は球磨川のフォローでへし折れず。
| そして咲夜と球磨川の位置から動かないでいたペルソナが、左腕の大砲に魔力を集中。
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| 戦車男には防がれたが、異能や魔術の影響を受けない砲撃だ。
| だがそれはつまり、上条へのダメージ減算もできないということ。推定藤木はペルソナを無視……しない。
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| 必要以上に距離を取る推定藤木。上条との間を隔てるように放たれるエネルギーの奔流。
| 砲撃を遮蔽にして駆け抜ける咲夜。球磨川を抱えて、途中で上条を小脇に抱える。
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| 砲撃のエネルギー射出が終わるまでに数秒の間に、推定藤木は戦闘態勢を解除、見逃してくれたのだ。
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| だが、敵は彼だけではない。
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|「喉が喉が喉が渇く渇く渇く！」
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| M18クレイモア地雷。
| スコットランドの傭兵が使う剣の名を冠した指向性対人地雷である。
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| 左右60度上下18度という範囲に700発の鉄球をばらまく。設置式の散弾銃と言えばイメージしやすかろうか。
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| とにかくその地雷が、空き教室の壁を突き破って戦車男に食らいついた。
| 盾のない右半身に無数の鉄球が突き刺さる。壁と窓も粉砕、一気に風通しが良くなった。
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| 放課後の急激に冷たくなる北風が吹く、誰の仕業か知らないが天の助け。
| 咲夜は三階の高さを恐れずに加速しながら飛び降りた。耳からも流れる血。知ったことか。
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| 同時に、煙幕が旧校舎に投げ込まれ、戦車男の目を覆う。
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|「来いマヌケども、どこで虎の尾を踏んだ！？」
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| 押し殺した罵声、血涙を流す咲夜の能力で軟着陸した三人を手招きする男。
| ディオ・ブランドー。先日、上条と球磨川を階段から突き落とした男。
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|「奴らの足止めは『四ツ目』にさせる。お前らは身を隠せ。 ……聞いていたな？」
|『聞こえてるお。『教会』にバレねー隠れ家を用意しとくお』
|「よし」
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| スピーカーモードの携帯電話と会話するディオ。勝手に話が進んでいく。
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|「なんでだ？」
|「奴らは殺し屋だが、少し身を隠せば問題ない。今回のは見せしめと脅しだ。
| 仲間にもしばらく行動させるなよ。奴らも根こそぎにする暇はないはずだ」
|「『いや』『そうじゃなくて』」
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| ディオは不機嫌そうに舌を打った。まるで三人の理解力の低さに苛立ったかのように。
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|「僕と貴様らの目的は同じだ。僕はジョースターに屈服したふりをして内側から隙を伺っているだけでな」
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☆ 次回予告！
これは愛か？ それとも恋だったのか？
あるいは友情？ 下心？
少年は思い悩まない。彼はもっと忠実だ。
自分の欲望に。性欲に、獣性に。
女が好きだ。女体が好きだ。
エロいことには興味津々。いろんなことをしてみたい。
だけれども。
彼は自分に忠実だ。
仲間を救うためならば。
下心など忘れてしまう。
自分の命も容易く賭けれる。
次回、再終幕三十四話『横島忠夫』
果てに見るのは破滅か死か。
新スレです。
ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/15956/1616917432/
こっちは埋めてください。
とうとうスレタイからも消された主人公
やる夫が最後に出たのいつだっけというレベル
投下スッゾコラー！