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雑談・SS投下スレッド

1管理人 ◆HF/rUAjdsg:2013/01/09(水) 00:06:38 ID:zbnzpDMo0
雑談およびSS投下用にお使い下さい。
要は本スレ同様に使って頂ければおk。

254名無しさん:2015/04/30(木) 19:09:23 ID:X.O3gbcI0
代わりに落ち着いていて話せる場所がある
みたいなことをスレに書いてる人いたけど、どこのことだろう?

255名無しさん:2015/05/03(日) 00:18:41 ID:oUfB7jig0
どこかの地下スレかもなあ

259名無しさん:2015/06/11(木) 12:59:53 ID:y8XCN7aI0
ttp://uproda.2ch-library.com/8816368L0/lib881636.png

260名無しさん:2015/06/29(月) 01:56:33 ID:9DUxAHGg0
本スレが落ちてしまい、ずいぶんと経ってしまいましたね。
スレが堕ちてからは新ネタを各所で探してはいるんですが、なかなかみつけられません。

そこでこのジャンルの人口を増やすためにROM専だった自分が書いてみました。
まだ完結しておりませんが、一応堕ちるまではいったのでここに報告させていただきます。
乱文ですが、どうぞ読んでください。
ttp://novel18.syosetu.com/n0992ct/

スレ汚し失礼いたしました。

261名無しさん:2015/07/01(水) 02:35:57 ID:ux5YGZ620
>>260
乙!
知能低下に伴い口調も変わっていくところや
それまでの几帳面な性格で積み上げてきたものを一瞬で台無しにする様はすごく興奮したよ

262名無しさん:2015/07/02(木) 19:16:52 ID:o24y19x20
>>260
乙乙

263260:2015/07/02(木) 21:36:03 ID:M7tk8oTc0
ありがとうございます!
書き続けることが大切だと思いますので、週一でも月一でも投稿して行きたいです。

264名無しさん:2015/07/04(土) 00:30:20 ID:G2SdTV2Y0
無理せず自分のペースで楽しんで書いてくれ
自分が楽しくないんじゃ本末転倒だしね

265名無しさん:2015/07/06(月) 22:17:34 ID:q2CADrOs0
速攻保存した

266名無しさん:2015/07/30(木) 20:15:12 ID:SpgCJBJ60
「強制的に知能低下するスレ」で最近投下されたSSがなかなかよかったよ
>>260さんの小説が好きな人なら楽しめるんでないかな

268名無しさん:2016/04/05(火) 22:21:29 ID:iVsvJ1HA0
保守。

272名無しさん:2017/02/25(土) 00:24:44 ID:9XLP7CVw0
あまりにスレに元気がないので宣伝になってしまうのですが作品紹介させてください。

http://novel18.syosetu.com/n9795du/

真面目な子の堕落を題材に書きました。
拙作ではありますが、読んでいただいたら幸いです。

273名無しさん:2017/02/25(土) 19:19:44 ID:TrLThqes0
>>272
乙乙
実は既に渋の方で読ませて貰っていたぜ
堕ちる子に一切の責任がない理不尽さが個人的に凄く好きなんでとても興奮したよ

274名無しさん:2017/02/26(日) 19:59:57 ID:/bRpCjog0
>>273
ありがとうございます。

ニッチなジャンルなのでなかなか新作にたどり着けないですけど、その分私も少しだけでも書いていきたいと思います!

275名無しさん:2017/02/27(月) 16:32:05 ID:vef./EPI0
乙でしたー
最近pixivも色々検索してるけどおーくわーどさんは本当に貴重なギャル化物書いてくれるからうれしい
他だとブックマークに入れてるのはちゃんぱちさんの「写メ」くらいかなあ・・・

276名無しさん:2017/02/28(火) 22:58:27 ID:BW.qGgZY0
>>275

ありがとうございます。
励みになります。

ちゃんぱちさんはコンスタントに素晴らしい作品を提供してくれる貴重な作家さんですよね。
確か本スレに元々投稿されてましたよね。
またここも活気付くと嬉しいのですが......

277玄米茶:2020/05/09(土) 05:05:50 ID:rqT4Q1HM0
【 続 弥生 】

この作品は、わたぐも氏の作品の二次創作です。
主人公「弥生」が優等生から堕落していく作品の続編です。
薬物乱用が描かれているので、嫌悪されない方のみ読んでください。
描写に不快な思いをされる方もいらっしゃるかもしれませんので、
予めお詫びいたします。

278玄米茶:2020/05/09(土) 05:06:51 ID:rqT4Q1HM0
ホテルの一室。
その暗闇の中で、プロジェクターの光だけが明滅を繰り返しいる。
壁に投影されているのは成人式の様子。
今は新成人が壇上でスピーチをしている場面である。
“…私は先生や友達から優等生と呼ばれ、自分でもその自負を…”
男は弁舌に耳を傾けながら傍らの女を見た。
女の目は焦点を結ばず宙をさまよい、体には異様な汗をかいている。
「…ああ… もっろぉ、気持ちイイのぉ、もっろぉぉぉ…!」
女は男にせがんだ。
「この式典のときには涼し気な顔をしてたのがどうだ。
 腑抜けた情けないバカみたいな顔しやがって。」
「えへ… えへへへ… いい子らよ!わらひはイイ子!」
「いい子か。
 そうだな、高校時代は成績も上位だったらしいしな。
 じゃあ、その賢い頭で判断してみようか。
 これはいいもの?それとも悪いもの?」 
男はベッドの脇に置いてあった注射器を手に取った。
「えへへへ… らめ!らめ絶対!」
そう言いつつ、女は男に左腕の内側を差し出している。
「ふふふ。いい子だ。
 じゃあ、お代わりをあげようね。」
無防備に差し出された左腕の静脈。
そこに針が突き立てられ、シリンダーの中の液体が注ぎ込まれて行く。
「…ああ、入ってくりゅ… …えへへ…
 …えへへ… …ああ… …あああ… …アアッ…!」
疲れ切っているはずの女の体に力が沸き上がり、
女の腰が再び大きく前後にスライドし始めた。
「おお、いいぞ、いいぞ!」
「エへァァァ!エへァァァ!シアワセェェェ!」
男に跨り直して狂ったように腰を振る。
女の体はプロジェクターの光線上に陣取り、
必死に訴えかけている登壇者の映像が
汗だくの裸体の上で青白く歪められていた。

279玄米茶:2020/05/09(土) 05:07:19 ID:rqT4Q1HM0
成人式を控えた式典会場。
新成人たちが式典会場に近い広場で再会を喜び合っている。
その雑踏の中、幼馴染の徹と麻美の目が合った。
「よぉ!麻美じゃねぇか!」
「あ!徹だ!不良の徹!」
「おいおい、顔見るなり不良はないだろ!?」
「ごめんごめん!私の中では徹って、中学のときのイメージのまんまなんだよね。
 タバコ吸ったりバイク乗ったり。あと喧嘩もよくしてたっけ。」
「それだけじゃねぇぞ。万引き、カツアゲ、やり逃げ、それから…」
「うわっ!サイテー!そんなことまでしてたの!?」
「昔のこと昔のこと!今じゃ現場でしっかり働いてて、親方も信頼してくれてんだぜ!」
「へぇ〜!頑張ってんのね!」
「おうよ!で、麻美は今何してんだ?」
「私は学生やってる。二流の私大だから就活とか心配だけど。」
「大丈夫だって!俺なんか中卒だぜ!?」
「徹は腕っぷしも強いし要領もいいから問題ないんだよ〜 職人街道まっしぐら。ある意味エリート!」
「何言ってんだか!世間で言うエリートが、この会場には何人もいるだろうに!
 エリートと言えば、あの“弥生”はどうしてんだろうな?すっげえぇ頭のよかった弥生!」
「あの優等生の弥生ちゃんね!
 テストでは満点以外採ったことなかったうえに、
 すっごく真面目でみんなからも信頼されてて、クラス委員なんかもよくやってたっけ!」
「そうそう!俺なんかいっつも怒られてたんだよな。
 制服はちゃんと着ろ、踏み靴はするな、髪は黒くしろ、タバコは健康に悪いから辞めろ。
 おまけに、大人になってから困るから、今ちゃんと勉強しろとか、説教まで垂れられたんだぜ。」
「あはは。弥生ちゃんらしいや!
 曲がったこととか怠けるのとか、不真面目なことが大っ嫌いだったもんね。」
「あいつ、正義感強かったもんな。今はどうしてんだろうな?」
「そりゃ、何かは分かんないけど、活躍しまくってるに決まってるわよ!」
「ちげーねーや!」
二人は、弥生という優等生のことを思い出していた。
艶やかな黒髪。透き通るような白い肌。凛とした顔立ちとそこに溢れる知性と品性。
記憶の中のその姿を思い浮かべながら、二人は弥生の輝かしい現在を微塵も疑わなかった。

280玄米茶:2020/05/09(土) 05:07:38 ID:rqT4Q1HM0
成人式の式典まではまだ時間がある。
徹と麻美は連れ立って会場を歩いていた。
弥生に会いたい。弥生の今や高校時代を知る級友に会いたい。
二人はそんな思いを抱いていた。
「ねえ徹、あそこにいるの、涼子ちゃんじゃない?」
「あ、ホントだ。おーい、涼子〜」
「わっ、徹に麻美じゃん!中学卒業以来だね!」
「そうだよね久しぶり!涼子ちゃんは今何してるの?」
「私は医大でお医者さんになる勉強してるわ。」
「うわすげぇー!超エリートじゃねぇか!」
「そんなことないわよ〜」
「そういや涼子は私立の高校行ったんだよな!確か弥生と一緒の高校!」
「うん。弥生ちゃんと一緒の高校!でも弥生ちゃんは… ううん、何でもない。」
「なんだよ気になる言い方しやがって。弥生がどうした?」
「うん… 実はね、弥生ちゃん、高三の夏休み明けぐらいから学校に来なくなっちゃたの。」
「えっ!?なんでだよ!?」
「理由は私にもよく知らない。
 学校でもいろんな噂が流れたわ。重病、海外留学、受験勉強…
 でも、時間が経つにつれて、別の噂も流れた始めたの。」
「別の噂?」
「ええ。その噂では…」
涼子は小声でその噂を語った。
「なっ、なんだよそれ?あの弥生に限って、まさか…」
「涼子、それ信じてるの?まさか、そんな、ねぇ」
「やっぱ二人ともそう思う?私もこの噂は信じたくないの。だけど…」
「デマよ絶対に!面白おかしく言いたい人とか、妬んでた人の作り話よ!
 だってあのミラクル優等生の弥生が、そんな人間になってる訳ないもん!
 きっと受験に専念して家でガリ勉してたんだよ!」
「俺もそう思う!弥生がそんなやつになってる訳ねぇよ!」
「や、やっぱり?そうよね?そうだよね!」
三人は表情を和らげた。
けれども、涼子が二人に話していないこともあった。
噂の出所が目撃証言からであること。卒業アルバムに弥生の名前がないこと。
それは信じたい気持ちが働いたからだろうか。
涼子はただ、徹と麻美の顔を見ながら笑っていた。

281玄米茶:2020/05/09(土) 05:08:11 ID:rqT4Q1HM0
「お、徹に麻美、おひさ〜」
歩いていた徹と麻美に声を掛けたのは、煌びやかな振袖に身を包んだ黒髪の女子だった。
「葵?お前、あの葵!?」
「そだよ。」
「うっそぉ、あの葵ちゃんなの!?感じ変わってたから分かんなかったよ!」
「だよね〜 中学の頃は茶髪で肌も焼いてたもんね。」
二人の中での葵のイメージは、チャラい遊び人だった。
優等生の弥生とは正反対のイメージである。
「あのワルの葵が、何で今はそんな落ち着いたカッコしてんだ!?」
「しっつれいね、それ不良やってた徹に言われたくないな〜
 まあ、理由を言うとね、あたし、今は親父のやってる不動産屋で働いてんだよね。
 それでお客から受けのいいカッコしてるわけ。
 あ、なんかいい物件の話しとかあったら相談してよね。
 はいっ、これ名刺。ここに空メールでもいいから送っといてよね。」
「ははっ、商魂たくましいな。」
「まあね!
 ホントはさ、高校なんか行かずにすぐに働きたかったんだけどさぁ〜
 でも親父に言われたの。並みの高校ぐらいちゃんと出とけって。
 で、入れられた高校と、そこ卒業するための塾行って、今に至ってるってわけ。」
「お前、どうせ高校でも塾でも遊んでばっかだったんだろ。」
「そうよ〜 ツレとカラオケ行ったり、タバコ吹かしながら飲んで騒いだり、楽しかったなぁ〜」
「そのツレの雰囲気、当ててやる。茶髪でピアス付けてて、制服だらしなく着て。」
「そそ。そーいうのデフォルトォ〜」
「やっぱりな。俺らさっきまで、超優等生だった弥生のこと話してたんだけど。
 葵は予想通りというか、その真逆の高校生だったみたいだな。」
「真逆?あたしと弥生が?」
「だってそうだろ?
 葵はガングロ茶髪。カラオケ、酒、タバコの好きな、遊び人の高校生。
 弥生は美白に黒髪で、成績優秀なうえに正義感溢れる、優等生な高校生。正反対じゃねぇか。」
「ふふっ、ふふふっ!」
「何がおかしいんだよ。」
「べーつーにー」
葵は何がしかに思いを巡らせているようだった。
「あたし思うんだぁ〜
 大人や社会に認められたい、愛されたいっていう動機で、必死に優等生を演じてる子ってさぁ…
 別の方法でも認められたりお金稼げたりすること知っちゃったり、
 楽しいコト知っちゃって、努力なんかバカバカしいって思っちゃったりしたら、
 歯止めが効かなくなるの、はやいんじゃないかなぁ〜って。
 ほら、無菌状態で育てられた生き物って、雑菌に弱かったりするじゃん?」
「優等生の弥生よりも遊び人だった自分の方が、わきまえた人間だって言いたいのか?」
「べーつーにー
 ただ優等生も、案外脆いかもしれないよって言いたいだけ〜」
「でも弥生は違うだろ?だって弥生の優等生は演じてたんじゃなくて、天然だったからな。」
「ふふっ… ははっ!はははっ!」
葵はケタケタと笑った。
「弥生に会えるといいね。」
そう言い残すと、葵はどこかへと去って行った。

282玄米茶:2020/05/09(土) 05:08:35 ID:rqT4Q1HM0
開式の時間が迫る中、会場へ続く広場の入り口が一段と騒がしくなった。
「見ろよ麻美、ガラの悪そうなのが入ってきた。」
「うっわ〜!荒れる成人式のニュースで見る人たちだよあれ。やだな怖い〜」
「ホントに派手だな。金髪に金色の羽織袴を着た男もいりゃ、花魁みたいな女もいやがる。」
「あ、徹ったら、着物をはだけてる女の子の肩とか胸元とか見てるんでしょ。やらし〜」
「いいだろっ、目の保養目の保養!あっちだって見せるためにああしてるんだし。」
「もう!これだから男は…」
「酔っぱらってる奴もいるな。
 ほら、後ろの方にいるサングラス掛けてタバコ吹かしてるガングロの茶髪女。
 テンション高めで早口でしゃべりまくってるけど、呂律が回ってない。
 歩き方もフラフラしてるし。」
「ほんとだ。成人式に酔っぱらって来ちゃうのはどうかと思うなぁ〜
 おっと、近く通る。静かにしよっと… あれ?何か落としたわ。」
「まったくしょうがねぇな。」
徹は地面に落ちているものを拾った。
「あれ、何だこれ?お菓子の空箱かと思ったら、何か入ってる。粉薬?
 取り合えず届けてやった方がいいのかな。おーい!」
徹は茶髪の女に駆け寄りその箱を差し出した。
「これ、落としたぞ。」
「それ、どっどこで!?」
「たった今、お前さんが落としたんだよ。」
「やっ、ヤッダァ〜!私ったらこんなの落とした!?アハッ、アハハッ!ありがと!」
笑いながらも小震えする手で箱を受け取ると、女はすぐに小走りで行ってしまった。
「徹、いいことしたね〜 ん?どうしたの徹?」
「あいつなんか様子が変だったぜ。」
「変?」
「ああ。箱見るなり表情が固まって、取り繕ってたけど明らかに動揺してた。
 それから顔がやつれててさ、歯もビックリするくらい虫歯になったり抜けてたりしたよ。」
「何それやだぁ でも私も違和感感じたな〜
 どことなく表情がギラついてて不健康な感じがした。
 あと香水の匂いもきつくって。」
「体臭にコンプレックスでもあるのかな?
 体の臭い隠すために香水きつくす過ぎる人とかいるけど。
 あっ、見て見ろよ!さっきの女、なんか騒ぎを起こしてるぜ。」
「ホントだ!チャリティーやってる子に“偽善者”って叫んでる。
 何であんなこと言えるの?最低よね!」
「俺もそう思う。マジやめて欲しい。
 もし弥生がこの場に居合わせたら、正義感丸出しで諭してるとこだな。」
「確かに!弥生ちゃんだったら、あんなの許さないもんね!」
「それにしてもあの茶髪女、やばいな。酔ってるんじゃなくてラりってるのか?」
「変なこと言わないでよ!マジでヤク中に見えてきちゃうじゃん!」
「ごめんごめん。でもなんか、初めて見た気がしないんだよな、あいつ。」
「サングラス掛けてて目元が分からないから、いろいろ顔が結びついちゃうんじゃない?」
「やっぱデジャヴかなぁ」
「ねえ、式典の時間も近いし、そろそろ会場に行かない?」
「だな、行くか。」
二人は広場を出て会場に入った。

283玄米茶:2020/05/09(土) 05:08:55 ID:rqT4Q1HM0
成人式の開式の時間。
照明のやや落とされた会場に吹奏楽団のファンファーレが鳴り響き、成人式が始まった。
「皆さん、成人おめでとうございます。」
「ご成人おめでとう!」
「皆様が成人となられましたことを、心よりお喜び申し上げます。」
「成人おめでとうございます。」
祝辞や来賓の挨拶に続いて式辞が述べられ式は粛々と進行した。
しかし、堅苦しい話しが続いて徹は少々退屈気味だった。
「ふぅ…」
徹がため息を漏らして麻美に顔を向けると、麻美も苦笑して微笑んだ。
話しはなおも続いている。
「…皆さんは困難な時代を生きています。
 先の見えない時代、閉塞感の漂う時代であります。
 けれども、そんな時代だからこそ…」
その時である。
「あはははは!」
会場の一席から笑い声が上がった。さっきの花魁のような女である。
「…そんな時代だからこそ、若い皆さんは力強く…」
「うっせぇ!ざけんな!引っ込めぇ!」
「ちょっと君、静かに話しを聞きかないか。」
「はぁ!?いろんなツケを残しといて、今の若者に頑張れ!?
 お前が頑張れっての!ムカつくんだよ!!」
女はなおもまくし立てる。
会場は唖然となっていたが、女の元へ普段着の女子が走ってきた。
そして普段着の女子は、女の頭上に大きく手を振り上げる。
パシッ!!
「痛っ!なにすんのよ!」
「黙りなさい!」
その声は毅然としていた。
「あなたは今、この場所には相応しくない。場違いだわ!!」
「やめろこの偽善者!!おいっ離せ!!」
二人はもみ合いながら、緑と白の誘導灯が灯る後方扉へと移動すると、
外からの光に一瞬包まれて会場からその姿を消した。
ざわつく会場。
遠目に見ていた徹と麻美も顔を見合わせている。
しかしそれもすぐに落ち着くと、式典は何事もなかったかのように再開されたのだった。

284玄米茶:2020/05/09(土) 05:09:26 ID:rqT4Q1HM0
式典が終わり次のプログラムが始まった。
それは新成人が自らの主張を演壇で行うもので、
中学時代に生徒会をしていた者などに事前にその依頼がなされていた。
「私は今、医学を学んでいます。」
「僕は高校を卒業してすぐに市役所の職員になりました。」
「私は…、えへっ、実はもうお母さんやってます!」
それぞれの道を歩み始めた新成人たちが主張を展開する。
そして最後の登壇者がマイクの前に立ったとき、徹と麻美はアッと思った。
「おい、あれ、弥生じゃないか!」
「ホントだ!弥生ちゃんだ!」
黒髪に白い肌。凛とした顔立ち。それは中学の頃のイメージのままの弥生だった。
二人が凝視する中、私服姿の彼女は演壇に上がった。
そして深々と頭を下げた後に名前と出身中学が述べられ、彼女のスピーチは始まった。
「私の登壇は今日のプログラムには書かれていません。
 なぜなら私がここで話しをするのが適当かどうか、直前まで運営側で議論があったからです。
 けれども、私はこうして登壇することを許して頂きました。
 ありがとうございます。
 さて、私は自分で言うのもなんですが、真面目で成績優秀な生徒でした。
 受けるテストはいつも満点で、全国模試でも常に1位でした。
 校則をしっかりと守り、委員会活動なども積極的に取り組んでいました。
 私は先生や友達から優等生と呼ばれ、自分でもその自負を持っていました。
 真面目で成績優秀な優等生。
 …そう、高校3年のまでは。
 転機は春の模試でした。
 さっき言った満点の継続が、そこで途切れたのです。
 898点。満点の900点に1問足りない、898点。
 周囲には連続満点が途切れたのを惜しまれました。
 でも、当の私は、解放感の中にいました。
 自分でも意外な解放感。もう、満点じゃなくてもいいんだ。
 重圧から解放されて心がスッと軽くなりました。
 そしてその後私は、満点を死守するという極限的な目的が消えたせいで、
 後一歩の踏ん張りや努力ができなくなりました。海岸浸食のような少しずつの後退。
 それでもなお成績トップを走り続けられたことで、私はさらに緩みました。
 何も変わらない1位。
 これまでの勉強の蓄積がたくさんあるんだ。少し手を抜いてもどうってことないんだ。
 全然大丈夫。何も変わらないんだ。そう、何も変わらない。
 そんな時期に、私は世間で言う不良と遊ぶようになりました。
 切っ掛けは、彼らの輪の中に親友がいて、塾帰りにカラオケに誘われたことでした。
 粗野で低俗で頭が悪いと私が嫌悪していたその人たちは、関わるととても友好的でした。
 短時間のつもりが、朝までカラオケです。
 帰りが遅いのを心配する親からの何回もの着信とメールには、
 友達のうちに泊まるとメールしました。
 不正を憎んでいた私が、初めて嘘を受け入れたのがこの時です。
 そして今まで休んだことのなかった学校も次の日に初めて仮病で休み、
 彼らとの楽しいことに耽りました。
 未成年だけれど背伸びをしてのお酒やタバコ、性行為。
 そこで味わう、ルールから解放されて自由になる感覚。悪びれて自分が大きくなる気持ち。
 真面目一辺倒で生きてきた私に、それらは新鮮に映りました。
 今日一日くらい。今日一日くらい。私は勉強から遠ざかりました。」

285玄米茶:2020/05/09(土) 05:09:55 ID:rqT4Q1HM0
「そして、約一週間後の模擬試験。
 解けない、解けない、解けない。
 これでいいはずの答えに確信が持てません。
 知識を整理し直して再確認。でもまた迷いが出て再確認。
 さっさと次の問題へ行けばいいのに、書いた答えへの不安に囚われて進めず、
 解き直すうちに答えが二転三転し始めて、簡単なはずの問題で泥沼です。
 心の底にあった、勉強をサボった負い目と不安が、自分の回答を信じられなくしていました。
 これまで圧倒的な学力でのパワープレイしかしてこなかった私には、
 自信のない状態で回答したり、問題を取捨選択して時間配分したりするという、
 受験生にとって当たり前のスキルが欠落していました。
 私の目からは試験中にも拘らず口から嗚咽が漏らし、目から涙を溢れさせました。
 認めたくない、怠惰から低い点数に甘んじる、落ちこぼれた自分。
 当惑して、イライラして、タバコが欲しくなって、ついには途中で試験を放棄しました。
 そしてトイレでタバコです。
 自分は自信に満ちた状態でのパワープレイでしか得点できず、
 その状態を取り戻すには受験本番まであまりにも時間がないという絶望感。
 受験を半年後に控えた大事な時期での躓き。
 私は挫折に弱い人間でした。
 少しはなんとかしようと足掻きましたが、試験勉強と向き合うことがどんどん苦痛になり、
 私は勉強から遠ざかりました。
 後日に発表された模試の結果はやはり散々なものでした。
 塾に張り出された成績上位者の表のどこにも私の名前はありませんでした。
 傍から見ればそれは、この試験に限って体調不良でも起こしていたか、
 あるいは受験生にありがちなスランプによるものと見えたかもしれません。
 けれども惨敗の原因を知っている自分には、その結果は堕落した優等生の証明でした。
 ついこの前まではあそこにいたのに、そこはもう二度と戻れない、仰ぎ見る場所。
 塾の下位クラスにいる茶髪の友達たちは上位者の表に私がないのを確認すると、
 私に友好的な笑みを漏らしました。
 かつて私が嫌悪し見下していたものに、私自身が、なっている。
 心のどこかで感じる口惜しさ、そして不思議な解放感。
 優等生と言われていた私の新しい居場所は、こうして正式に、
 世間で不良とかチャラいとか言われる人たちの輪の中に決定しました。
 そもそも私は勉強そのものが好きな訳ではなかったのです。
 私にとって勉強は、周囲に認めてもらうための道具、プライドを満たすための道具、
 大人に義務を守るいい子をアピールするための道具だったのです。
 だから、彼らに居場所をもらい、悪びれて真面目な人間を見下してプライドを満たし、
 大人や社会への自己アピールを否定できてしまったとき、
 私には勉強する必要も、優等生である必要もなくなりました。
 心の痛みや違和感や誤魔化しを、どこかに感じつつ。
 優等生でなくなった私は、遊び人になって、楽しいことに耽りました。
 カラオケ、タバコ、お酒、そして、性行為。
 彼氏とのそれは、知らない人とのそれへと発展しました。
 万引きもやりました。スリルが楽しくて何度もやりました。
 迷惑を掛けたお店の人、本当に、本当に、ごめんなさい。
 それに、私は、私は…」

286玄米茶:2020/05/09(土) 05:10:15 ID:rqT4Q1HM0
弥生はスピーチの途中で言葉を詰まらせた。
「私は…」
その先を話すことへの弥生の重圧と躊躇いが、否応なしに語調から伝わる。
静まり返った会場。
その会場の片隅から、成人式実行委員会の女性スタッフの声が上がった。
「もういいよ!弥生さん!そこから先は話さなくていいよ!」
その声に弥生は聞き覚えがあった。
「…みず…き…ちゃん…?」
かつての弥生の後輩、水希である。
「弥生さん!みんな不快になるだけだから!それ話しても!
 もういいんだったら!もう話しまとめてよ!」
それは弥生に発言を思い留まらせようとする訴えだった。
しかし、会場からは別の声が上がった。
「頑張れ!大丈夫だから!それ話すためにそこへ上がったんだろ!?頑張れ!」
「頑張って〜!」
「頑張れ〜!」
パチ、パチ、パチ
会場のどこかから、ゆっくり手を打つ音がし始めた。
その拍手はすぐに周囲の客席へと伝播していく。
パチ、パチ、パチ
水希は背筋がゾクリとするのを感じて声を発した。
「弥生さんやめて!」
しかしその声は、急速に勢いを増す拍手の音に掻き消された。
パチ、パチ、パチパチパチパチパチ
ザァァァァァァァーーーーーーーーーー………
会場全体から沸き起こる拍手の波の音。
壇上できついライトの光に照らし出されている弥生は、
暗がりに潜む聴衆の多さを改めて感じるとともに、自分への意思を感じた。
「ありがとうございます。ありがとうございます、皆さん。」
弥生の決意を確認した聴衆は、納得して拍手を鳴りやませた。
静けさを取り戻した会場の中、弥生は再びゆっくりと口を開く。
「…私は、
 絶対に手を出してはいけないものにハマってしまい、
 それがなくては生きていけない、壊れた頭の人間になりました。」
水希はそれを聞くと手で顔を覆いその場にへたり込んだ。
手の内側からすすり泣く声が漏れている。
「…やよい…さん…」
水希の目の前で起きていることは、尊敬する人の公開処刑だった。

287玄米茶:2020/05/09(土) 05:10:36 ID:rqT4Q1HM0
そのときである。
「ねぇ!」
会場から声が上がった。
「絶対に手を出してはいけないものってなぁ〜にぃ〜?」
声の主は、いつの間にか会場内に戻っていたあの花魁のような茶髪の女だった。
「私バカからだからぁ〜 よく分かんないのぉ〜
 絶対に手を出してはいけないものってなぁ〜にぃ〜!?
 もっとバカの私にも分かるようにぃ〜 分かりやすくぅ〜 言って!?」
「いっ言われなくてもちゃんと…!」
「きゃは!それはめんごめんご!で、何なわけぇ!?」
「私がするようになったのは…」
「うんうん、優等生だった弥生ちゃんがするようになったのはぁ〜!?」
「ク…」
ペースを乱されたせいか、弥生は言葉を詰まらせた。
「く!?クで始まるの!?何だろう?なになに、なにかなぁ〜!?
 ほらほら早く早くぅ〜!」
「…ク…クス…リ…」
躊躇いの感じられる口惜しそうな声でやっと出た言葉に、
茶髪の女はなおも噛みついた。
「クスリ?クスリはだめなのぉ〜?
 風邪とかになったら使うしぃ〜? 別にいいじゃん!?
 あ!ひょっとしてヤバいクスリ!?
 分かんないなぁ〜!なんて言うおクスリィ〜!?はいっ!どうぞ!!」
再び弥生の発言の番である。
「…か…せ…ざい…」
「だからぁ〜 分かるよぉにぃ〜!さっきまでみたいにもっと大きな声でぇ〜!
 みんなにきちんと聞こえるよぉにぃ〜!はいっ!!どぉ〜ぞっ!!」
「弥生さん!もういいよ!もうっ…」
水希から悲痛な声が発せられる。
しかし弥生はもう一度、顔を紅潮させながらその言葉を口にした。
「…かく…せい…ざい…
 私が手を出した薬は… かく せい ざい です…」
会場に沈黙が流れた後、水希の泣き声が聞こえた。
そしてあの茶髪の女は、勝ち誇ったような笑い声を上げた。
「きゃは!ははははっ!ほぉ〜ら!やっぱり偽善者だ!
 なにをこの期に及んで優等生面してんの!?ばっかじゃない!?
 きゃはははははははは!」
茶髪の女は笑いながら通路を歩き、満足気にそのまま会場から出て行った。

288玄米茶:2020/05/09(土) 05:10:57 ID:rqT4Q1HM0
弥生はそれを見届けてスピーチを再開した。
「…今、言った通りです。
 私は覚醒剤の中毒者になりました。
 クスリを始めて手に入れる切っ掛けは、あの惨敗した模試でした。
 結果発表の1ヵ月後が怖くて気が滅入っているときに、気を遣ってくれたグループの友達が、
 これを飲めば気分がハイになって集中し続けることができるよと、小さな錠剤をくれました。
 私はそれが何かを察しつつ、好意で差し出されたそれを受け取りました。
 使うことはないだろうけどと思いながら。
 その後、私は以前のように頑張って机に向かいました。
 勉強のペースを取り戻そうとしたのです。
 でも、伸びてしまったゴムはなかなか元には戻りません。
 今日はもう十分頑張ったから。これ以上やっても頭に入らないから。
 今日は疲れてるから。明日からがんばればいいから。
 自分に言い訳ばかりして、机に座っただけで勉強しないまま寝てしまう日が続きました。
 そう、いつの間にか私にとって勉強は、億劫なものになっていました。
 その事実に気づいて私は焦りました。
 すぐ元に戻れると思っていたのに。こんな頑張れない自分なんて嫌。
 このままじゃ落ちこぼれてしまう。
 でも、前みたいに頑張れない。どうしよう。どうしよう。
 一方で、そんなに頑張らなくてもいい、楽な方へ流れたらいいという考えが
 私の中にべったりと育っていて、
 その心に負けそうで、私はより追い詰められました。
 そして錠剤のことが頭を過ぎることが多くなったのです。
 脳の覚醒を少しだけ手助けしてくれるもの。本当に必要なときは、使っていいもの。
 一度だけなら…
 怠け心との戦いに加えて、錠剤使用の誘惑との戦いが始まってしまいました。
 でも私はギリギリのところで踏みとどまっていたんです。
 錠剤を口元まで運びながらも、途中でふっと我に返って、それをしまい込む自分に安堵する。
 そんな夜の繰り返し。
 でもその繰り返しは、決してクスリを遠ざけて行くものではなく、
 むしろクスリへの期待と好奇心を塗りこめて行くプロセスでした。

289玄米茶:2020/05/09(土) 05:11:21 ID:rqT4Q1HM0
「そしてある夜、錠剤をくれた友達から電話がありました。
 遊ばなくなったけど元気か、勉強はがんばれてるか、
 そんな話を5分ほどしているうちに、渡した薬は役に立ったかと聞かれました。
 私が錠剤は飲んでいないと告げると、
 友達は、やっぱり弥生ちゃんは弥生ちゃんだねって言いました。優しい気さくな一言。
 でも私はその言葉に、疎外感と、善意を裏切ってしまったという思いを感じ、
 今すぐ錠剤を飲むと言いました。
 気が進まないなら無理しなくていいよと友達は言ってくれましたが、
 その優しさが逆に、私に錠剤をすぐ飲むと宣言させました。
 大事な大事な勉強のために。
 友達の善意に応えるために。
 限界域をとっくに超えていたクスリへの欲求が、言い訳を得て、
 そっと私の背中を押しました。
 一度だけ。今回限りの、この一度だけ。
 私は取り出した錠剤を口に含んでゴクリと飲みました。
 妙な達成感。もうこれでクスリを飲むの飲まないで迷わなくていい。
 でも頬にはなぜか涙が伝っていました。
 そしてクスリが効いてきました。
 言葉にできない全能の感覚。
 世界の全てがクリアに見えて美しく愉快に感じ取られました。
 気持ちが高揚してハイになりシアワセを感じました。
 電話の向こうの友達は言いました。君は今、スーパーマンなんだよと。
 言葉の通り強い自分への確信が溢れ出てきます。
 昂った気持ちの中、私は狂ったように机に向かいました。
 12時が過ぎ、2時が過ぎ、朝が過ぎても途切れない集中力が続きました。
 でもクスリが切れると酷い疲労感に襲われ、ぐったり死んだように眠りました。
 そして起きたとき。
 私は違法薬物の使用者に生まれ変わっていました。
 不正を嫌う優等生。それは過去のものになりつつありました。」

290玄米茶:2020/05/09(土) 05:11:44 ID:rqT4Q1HM0
「そして、模擬試験の結果発表の日が来ました。
 とても低い点を採ったことに加えて、私が学校や塾をずる休みしたことや、
 素行が悪いと言われる友達と交遊していることが親にバレました。
 当然、私はこっぴどく親に怒られました。
 逆恨み的な親への憎悪と、それ以上の自己嫌悪。
 辛かった。悔しかった。もうどうでもいいと思った。
 グループの友達の前で、使い込んだ問題集にライターで火をつけて勉強とサヨナラしました。
 同時にそれは、真面目に頑張って生きてきた、優等生の自分との決別でした。
 そして脳にこびりついてしまったクスリの感覚。
 勉強のカンフル剤にと思って、一度だけと思って使ったクスリにまた手が伸びました。
 もう一度だけ。あの感覚をもう一度だけ。
 私は刹那的な楽しさと快楽の底なし沼にのめり込んで行ったのです。
 付き合っていた彼氏から上質のクスリや新しいクスリを貰うようになり、
 センター試験の日も私はキメセクに明け暮れていました。
 受験勉強の追い込みで皆が必死になる秋。
 センター試験を皮切りに一般試験が始まって、皆が試験に人生を掛ける冬。
 そして、それぞれが自分の進路に歩みだす春。
 その間に私がやっていたことは、
 カラオケ、煙草、酒、パチンコ、セックス、売春、盗み、クスリでした。
 楽に稼いで、楽しいことに耽って、毎日ケタケタ笑っていました。
 つい去年まで、そんな生活を続けていたのです。」

291玄米茶:2020/05/09(土) 05:12:10 ID:rqT4Q1HM0
「でも去年、そんな日々に終わりが来ました。
 ある日、私のところに、スーツ姿の男性と女性がやって来たのです。
 二人は部屋に入ると早々にクスリを見つけ、私は逮捕されました。
 尿検査ももちろん陽性です。私は裁判を受け、有罪判決を受けました。
 懲役1年6ヵ月、執行猶予3年。
 そう、今の私は、裁判所から執行猶予を頂いてこの場に立っている身なのです。
 違法薬物に手を染めた犯罪者。
 こんな前科のある私ですが、取り組んでいることがあります。
 それは、薬物の恐ろしさを伝えること。
 そして、薬物依存による苦しみからの解放のため、募金活動をすることです。
 皆さん、薬物の濫用は絶対に行ってはいけません。
 たった1回の使用が、人生を狂わせ、多くの人を悲しませます。
 自分の人生を損なうだけでなく、大事な家族の人生や他人の人生も狂わせます。
 そして、薬物依存に苦しむ人を、どうか見捨てないでください。
 自業自得と切り捨てず、苦しむ人間に支援をお願いしたいのです。
 今日も私は会場の外の広場で募金に立っていました。
 そして多くの慈善の心を頂きました。ありがとうございます。
 どうか皆さんの優しさで、二十歳の優しさで、寛容さで、支援してください。
 お願いします。どうかお願いします。
 今日は、薬物の怖さと支援のお願いが言いたくて、
 そして今の私を晒すことで同い年の皆さんに何か訴え掛けることができるのではと思って、
 この場に登壇しました。
 晴れの日に、たくさんの不快なことを耳に入れたことをお許しください。
 最後に、お父さん、お母さん、ご迷惑を掛けた方々、本当にごめんなさい。
 社会にもっと貢献できるはずだった私、ごめんなさい。
 長々とお話ししましたが、これで終わりたいと思います。
 皆さん、ありがとうございました。」
弥生が深々と頭を下げる。
すると会場は割れんばかりの拍手に包まれた。
「がんばれ〜!」
「弥生ちゃん頑張って〜!」
会場の所々から励ます声があがり、弥生は何度も会場に頭を下げるのだった。

292玄米茶:2020/05/09(土) 05:12:28 ID:rqT4Q1HM0
成人式のプログラムが終わり、
会場前の広場は再び新成人達でごった返している。
その雑踏の中に、募金を呼び掛ける声が響いていた。
弥生である。
「募金をお願いします!」
その眼差しからは必死さが見て取れる。
「薬物中毒者を救うために、募金をお願いします!」
賛同した人々から硬貨やお札が募金箱に投じられていく。
「張れ弥生ちゃん!」
「弥生さんがんばって!」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
何度も笑顔で頭を下げる弥生。
その様子を、徹と麻美は少し離れた場所から見ていた。
「いやぁびっくりしたよな、弥生の演説。」
「うん、びっくりした。まさかあんなことになってたなんて。」
「だよなぁ…
 あの、勉強ができて、真面目で、正義感の強かった弥生が、
 まさか不良になって、しかもヤク中にまでなってたなんてな。」
「ホントそう。でも立ち直ってたよね弥生ちゃん。
 やっぱ優等生のオーラみたいなのを感じたわ。」
「俺もそう思った。やっぱあいつすごいよ!
 皆への戒めと募金のために、ああやって自分の恥を晒したんだ。
 しかもあんな大群衆の前で。並みの人間じゃできねぇよな!」
「うんうん!やっぱり弥生ちゃんは優等生よ!」
「だよな!」
二人は弥生の姿に感心していた。

293玄米茶:2020/05/09(土) 05:12:46 ID:rqT4Q1HM0
そこへ葵が近寄ってきた。
「徹〜」
「お、葵じゃねーか。なんだよニヤニヤしやがって。」
「ふふっ 弥生が見られてよかったね。
 んでもって、徹の言ってたこと、外れてて残念だったね。
 あたしは遊び人、弥生は優等生、みたいに言ってたけどさぁ〜
 弥生は優等生どころか、遊び人も驚く遊び人、しかもヤク中の犯罪者になってたね〜」
「うっせぇよ。
 でも今の弥生は違うじゃねーか。俺は元の優等生の弥生を感じたぜ。」
「そうかなぁ〜 ま、商魂逞しいのは認めるけど。」
「はぁ?」
葵はスマホの画面を二人に見せた。
「これ、弥生の作ったホームページ。ヤク中の人のための募金のページ〜
 ほらほら、みんなから同情買うようなことこんなに一杯書いてさ。
 そして最後にヤク中の人のために、ここの口座に振り込めだってぇ〜
 ご親切にカードもOKらしいよ?
 あと、毎月定額の募金の登録方法まで書いてある周到さ。
 ほぉ〜んと、弥生はお金集めに必死だよね。」
「そんくらいにしとけよ?」
徹の静止もどこ吹く風、葵は話しを続けた。
「あの弥生、お金のためならどこまでのことするんだろう?
 ひょっとしたら、大口募金者には特別サービスとかもあったりしてぇ〜?」
葵は自分の胸元を少し開いて見せるような仕草をした。
「ちょっと!そういう冗談よくないよ葵。弥生ちゃん頑張ってるのに!」
「麻美の言う通りだぜっ」
「あはは!めんごめんごぉ〜
 でもそういうからには、たっぷり募金してあげてよね?
 徹は今がっつり儲けてるみたいだし。建設の現場、お金いいんでしょ?」
「どっからそんな情報を仕入れてくんだよおめーは…
 ま、たしかに貰えるもんはいいけどな。
 弥生には協力するさ。ポンと大金出してやらぁ」
「おお、さっすが。稼いでる男は違うねぇ太っ腹!」
葵は手を叩いた。
「じゃ、今後もせいぜい、弥生を支援してあげてぇ〜 あはは!」
そう言って葵は雑踏の中へと去って行く。
「なんだあいつ…」
二人はポカンと葵の背中を見つめていた。

294玄米茶:2020/05/09(土) 05:13:07 ID:rqT4Q1HM0
その間にも募金を呼び掛け続けている弥生。
そして、その弥生を遠まきに見ている夫婦の姿が映った。
「あ!あそこにいるのは弥生のオヤジさんとお袋さんだ。
 俺、挨拶してくるよ。」
徹は小走りで走り出し、麻美もそれに着いて行く。
「こんにちわ。お久しぶりです!」
「ああ、あなたは徹君、それに麻美さんも。
 お二人ともお元気そうね。」
「おばさんこそお変わりなくて。
 それにしても弥生さんの演説、すごかったです。俺感動しました!」
「ごめんなさいね、せっかくのみんなの成人式なのに、
 娘があんな暗い話しをしてしまって。本当に申し訳ないわ。」
「そんなことないですよ。聞けて良かったです!
 俺、弥生さんは立派だと思います!」
「あんな子のことを、そんな、立派だなんて…」
弥生の母は目頭を押さえた。
「弥生さん、今はどうしてるんですか?」
その問いには父が答えた。
「あの子は薬物患者の支援のボランティアをしているよ。
 たまにしか顔を見ないから詳しいことは分からないがね。」
「一緒に暮らしてないんですか?」
「ああ。 
 あの子は高校3年の夏から家に帰って来ることが少なくなってね。
 ある日、探すなと手紙を残して家を出て行ってしまった。
 探せばもっと距離を置かれてしまうかもしれない。
 そう思うと怖くて何もできなかったよ。
 でもメールにだけは気まぐれに返信してくれてね。
 変な噂を聞く度に心配してメールすると、大丈夫って返してくれた。
 やっと会えたのは、家出してから1年以上経って、逮捕された後だ。
 裁判後、保護観察になってまた私達と一緒に暮らしてくれると思ったんだが、
 一人暮らしが性に合ってしまったらしく、そのまま一人暮らしだよ。
 だから、月に2回の保護観察の面談の時にしか、今でも会わないんだ。
 保護観察の担当者は同居を強く勧めているが、
 あの子の好きなようにさせたいし、それに以前のように心配はしていない。
 悪い連中とは手を切って、全うに生活しているみたいだからね。
 捕まった後、あの子は何か変わった気がするんだよ。」

295玄米茶:2020/05/09(土) 05:13:27 ID:rqT4Q1HM0
父は遠くの弥生を見つめた後、やや俯いて口を開いた。
「私はあの子に期待し過ぎてしまった。
 それをあの子も感じ取って重荷だったんだろう。
 あの子は小さい頃から何をやらせてもすぐに上手くできてね、
 しかも、真面目で、正義感が強くて、テストはいつも満点。
 顔立ちも、親の私が言うのもなんだが悪くはない。
 だから、ついつい調子に乗って、大きな期待をしてしまったんだ。
 高校3年の夏、あの子が模試でひどい点数を取って帰ってきた。
 私はその時、あの子を怒鳴った。
 裏切られたという気持ち、親の見栄や体裁やエゴだけでね。
 今思えば父親として情けない。
 さっき言った通り、あの子はしばらくして、家を出て行ってしまったよ。
 部屋を見ると、お年玉やらお祝いやらを溜めていた通帳が一緒になくなっていた。
 そして、家出の後は、家に置いてあった金や高級品が度々なくなってね。
 私達の留守を見計らって、持ち出していたんだろう。
 金に困って家に帰って来るならいいが、
 盗みをしたり、良からぬ商売などしては大変だ。
 何より金のことであの子を困らせたくはない。
 親というのはバカでね、
 そんな娘に、月10万円の仕送りをしてやることにしたよ。
 月末にあの子の通帳に10万円。
 それは今でも続いている。
 金を入れてやると、ありがとうってメールをくれるんだが、
 うっかり月末に入れ忘れると無理しなくていいよなんて送って来るんだから、
 あの子もしっかりしているよ。
 普段は自分から連絡らしい連絡なんてして来ないのにね。
 そうそう、今日の成人式のことだって、出席するかさえ教えてくれなかった。
 もし来ているならせめて同じ会場にいてやりたいと、
 その気持ちだけで足を運んだんだ。
 まさかあの子の演説を聞くことになるだなんて、
 夢にも思わなかったよ。」
自嘲気味に語る弥生の父に徹は言った。
「弥生さんのこと、すごく大事に思ってるんですね。」
「ああ。ダメな父親にダメな娘だが、曲がりなりにも親子だからね。
 私の娘、そう、私の…娘…」
そう言うと顔を真っ赤にして目頭を押さえた。
「おじさん、もっと信用して大丈夫ですよ、娘さんのこと。
 今日の弥生さんがそれを証明していますよ。」
「そうだね。ありがとう、ありがとう…」
父は涙を拭いながら、遠くで募金活動に勤しむ弥生を見ながら何度も頷いた。

296玄米茶:2020/05/09(土) 05:13:49 ID:rqT4Q1HM0
そしてネオン街を歩きながら、弥生は徹の肩に頭を寄せて言った。
「ねえ…
 今の私達って、傍から見るとカップルに見えちゃったりするのかな。」
「おいおい酔ってるのか?」
「それもあるかもしれい。
 でもそれだけじゃないよ。
 実は私、中学の時、徹君にちょっと興味あったの。」
「え?ホントかよそれ。」
「うん。
 だから今こうして一緒にいられるのがすごく嬉しい。」
「おいおい参ったな。」
「せっかくだから誰もいないところで
 二人っきりで話がしたいな。」
「おう。」
「ありがとう。じゃあ着いてきて。」
「知ってる店でもあるのか?」
弥生は徹を連れてどんどん歩いた。
そして大きな通りを外れて細い路地に入り、弥生は足を止めた。
「おいおい、ここって…」
徹はポカンとしてしまった。
そこは、男女が肉体関係を欲して入るホテルだったからである。
「心配しないで。少し静かな場所を借りたいだけだから。ね?お願い。」
徹は弥生の懇願されてホテルの中へ入った。
部屋で徹が立ち尽くしていると、弥生が背中から抱き着いてきた。
「おっ、おい、弥生…?」
「私、徹君のこと好きだったの。
 いろんな不安なこと、忘れさせて欲しい。
 刹那的で身勝手なお願いだってことは分かってる。
 でも、だけど、今私は、徹君に抱かれたいの。お願い…」
徹の背中に押し付けられる弥生の柔らかい肉体の感触。
弥生の手は、徹の胸や腹、そしてその下にまで這いずり回っている。
若い徹は、もはや要求に抗い切れなかった。
「…弥生っ!」
「ああっ!徹君!」
激しい熱いキス。
そして二人はベッドの上で生まれたままの姿となり、
お互いを激しく貪った。
「ああっ!いいっ!ああっ!!」
「弥生!俺、俺もうイキそうだ!」
「いいよ徹君っ、出して!そのまま中に出してぇっ!」
徹は結ばれたまま精を放った。
その律動に合わせ、弥生もまた大きく体をのけ反らせていた。

297玄米茶:2020/05/09(土) 05:14:12 ID:rqT4Q1HM0
情事の後。
弥生は服を着ながら背中越しに徹に言った。
「徹君、すごくよかったよ。ありがとう。」
「ああ。」
「でも、やっぱりこういうの、まずかったよね。
 徹君は親方の娘さんとの結婚を控えてるのに。
 私のワガママで本当にごめんなさい。」
「気にすんなって。」
「うん。私と徹君だけの秘密。
 私と徹君が誰にも言いさえしなければ、それで済むんだもの。
 そう、私と徹君さえ誰にも言わなければ。」
弥生は少し俯いた。
「ねえ、徹君…
 少し言いにくいんだけど、私、今日は危険日だったの…」
「え…」
徹は息を呑んだ。
「子供できちゃったら…さすがにまずいでしょ?
 だから…だからね、
 もしもの時のために、堕ろすお金を私に預けて欲しいの。
 20万円くらいあれば大丈夫だと思う。
 避妊薬は体質が合わなくて飲めないから。
 だから… お願い。20万円私に預けて欲しい。」
「…分かった、なんとかするよ。」
「ありがとう。助かるわ。今、キャッシュカードとか持ってる?」
「一応ある。」
「よかった。
 じゃあ近くのコンビニへ行って、お金を降ろしてくれないかな。」
「おう。」
「それからお願いついでに言うんだけど…
 これからも継続的に募金してくれると助かる。
 そうね、毎月月末に。いい?」
「ああ。」
「徹君のそういう優しいとこ、好きだよ。ありがとう。」
二人はホテルを出てコンビニに寄った。
「これでいいか?」
徹はATMで降ろした20万円を弥生に手渡した。
「うん。ありがとう。
 これで、もしもの時でもなんとかなるわ。」
弥生はお札をしまい込むと、
徹に手を振って夜の街へと消えて行った。

298玄米茶:2020/05/09(土) 05:14:30 ID:rqT4Q1HM0
同夜。
シャッターを降ろした不動産屋の事務所の一室に
若い女二人の姿があった。
一人は携帯電話で話しをしている。
「…うんうん。うんうん。
 え?前に紹介したあの仕事のお金?ちゃんと振り込んであるでしょ?
 なに?もっと多くてもいいんじゃないかって?
 あたしはこれでバランス取れてると思ってるんだけど。
 うんうん。うんうん。
 うーん、あのさぁ〜
 こっちも割と汗かいてるんだよ?
 金を持ってて稼げそうなカモ、
 厳選してあんたに紹介してやってんだから。
 今あんたが稼げてるのって、
 あたしがお膳立てしてあげてるからだよね?
 こっちもリスク負いながら見えないとこでいろいろ動いてんだからさ。
 そこんとこ分かってくんない?
 うん。うんうん。
 分かってくれればいいの。
 はいはい。じゃーねー」
女は電話を切った。
もう一人の女はその仕草を見ながら小さく微笑む。
『商売熱心ね。
 昼は不動産の仲介、夜はさて、何を仲介してるのかしら?』
「さてね。
 言うなれば人材派遣ってとこ?」
女はそう言いながら煙草に火を点けた。

299玄米茶:2020/05/09(土) 05:14:55 ID:rqT4Q1HM0
「あ〜おいしい。仕事の後の一服は最高。」
『相変わらず煙草が好きね。』
「だって美味しいんだもん。あんたもいる?」
『私、煙草はやらないの。
 ところでその美味しいという快感は、
 どうやって生み出されているか知ってる?』
「さあ?」
『その快感はね、脳が感じているの。神経伝達物質、ドーパミンによってね。』
「ドーパミンねぇ」
『脳の神経細胞が“快感オン”の状態になると、
 その神経細胞の末端から、溜め込んでいたドーパミンが噴射されるわ。
 隣り合った神経細胞の先端に向けてね。
 その先端にはドーパミンをキャッチする受容体が無数にあって、
 キャッチが行われると、その神経細胞もまた快楽オンの状態になる。
 続けてその隣の神経細胞へもドーパミンの噴射がなされて…
 そんな、数珠つなぎの伝達で、脳は快感を得ている。
 でもその快感は永続しない。
 ドーパミンは、受容体にキャッチされたものも、
 そしてキャッチされずに神経細胞の間に漂ったドーパミンも、
 すぐに神経細胞に再吸収されて、快感オンから快感オフになる。
 神経細胞の末端に無数にあるドーパミンを再吸収する穴は
 トランスポーターと呼ばれているわ。』

300玄米茶:2020/05/09(土) 05:15:13 ID:rqT4Q1HM0
心に話す女にもう一人の女は煙草を吹かしながら聞いた。
「あのさ、ドーパミンが快感をくれるって言うけどさ、
 煙草を吸った時以外では、どんな時にドーパミンって出るわけ?」
『たくさんあるわよ。
 好きなことをしているとき、成功したとき、褒められたとき、
 やる気が出ているとき、美味しいものを食べたとき、
 恋愛しているとき、セックスしているとき、それから…」
「そんなに!?もう人間なんて、
 ドーパミンっていうご褒美をもらうために生きてるようなものね。
 ん?ということは?
 もしドーパミンを脳に溢れさせるクスリがあったら…
 いろいろしなくてもハッピーになれるってこと?」
『ある意味そうね。
 人間のなすことの多くがドーパミンによる快感のため。
 だとするなら、
 ドーパミンを出すクスリが人生の優先順位の1位になっても、
 何の不思議もないわ。
 モラルよりも、名誉や財産よりも、友達よりも、家族よりも。
 高邁な勉学や達成のための努力なんて、ゴミクズみたいに思えるかも。
 なぜならクスリが、
 それらを上回る幸福を与えてくれるんだから。』
「けはははは!」
聞いていた女はケタケタと笑った。
「なるほどね。
 あたし、知ってるかも。そういうクスリ、そういう連中!」
『でもそれは幸福の前借り。行く手にあるのは…
 そうそう、脳は一度覚えた強い快感を決して忘れはしない。
 覚えた快感を得る術を反復できないとストレスにすらなる。
 だから、また欲しくなるの。
 強烈な幸福を生むクスリならなおさらでしょうね。』
「あたしはニコチンで十分さ。」
女は口を大きく開けて、煙草の煙を吐いて見せた。

301玄米茶:2020/05/09(土) 05:15:36 ID:rqT4Q1HM0
プスリ

皮膚にステンレスの切っ先が突き刺さる。
人間を細菌などの感染から強固に防衛している皮膚。
その皮膚に容易に穴を開け、さらに皮下の奥へと沈み込んでいく。
先端は血管壁を破り、有害物に暴露されてはならない血管の中に顔を出した。

グググ…

シリンダーが押され、筒状の容器の内容液が針の先端から血流に乗る。
もはや回収できない。
放出された液体は血液に乗って心臓を経由し脳へと至った。
快の伝達物質であるドーパミン。
それは脳神経細胞抹消に存在する放出用の調整弁と回収用の調整弁、
すなわちトランスポーターと呼ばれる器官によって、
正常な噴射量が維持されている。
投与された物質の標的器官はまさにそれであり、
早々にそれらの器官の正常な動作は阻害された。
放出を担うトランスポーターはその調節機能を失い、
壊れた蛇口と化して、ドーパミンの異常な放出を始める。
回収を担うトランスポーターに至っては、
大きくこじ開けられてもはや回収の用をなさず、
逆にドーパミンを大量に漏洩させる放出口へと変貌する。
脳神経細胞の間隙に異常に噴射され、そして回収されずに充満するドーパミン。
受容体は通常の量を遥かに超えるドーパミンに暴露され、
脳神経細胞は途絶えることのない悲鳴のように快を連呼し続けた。
狂った量の快、狂った回数の快。
まるでオモチャのスイッチが、子供に壊れるまで押されるように。

… アア シアワセ …
… アア シアワセ …

人体の防衛機能、ホメオスタシス。
異常な量のドーパミンに対抗するため、脳神経細胞は受容体を減らす準備に入った。
同量のドーパミンの暴露を受けても、受容体が少なければ、異常な快は生じない。
しかしそれは、通常のドーパミンの噴射量ではもはや、
これまで得ていた通常の快が得られなくなることをも意味した。

常態的な倦怠。常態的な脱力。常態的な無気力。

そうなった時、逃れる術がひとつある。再投与。
もし今回と同程度の異常な快を欲すれば、今回以上の量の再投与。
もっと。もっと。もっと。

… アア シアワセ …

その人間は幸福の中にいた。

302玄米茶:2020/05/09(土) 20:31:47 ID:EaZDP6EA0
【追加 295と296の間に投下漏れがありましたので投下します】

それから数日後の夜。
バーで会話をする男女の姿があった。
徹と弥生である。
「メールをもらったときは驚いたよ。
 まさか俺と話しがしたいだなんて。」
「成人式でみんなと会っているうちに、徹君とも話しがしたいって思ったの。
 連絡先、友達にこそっと教えてもらっちゃった。」
「全然構わねぇさ。
 それにしてもすごかったぜ、成人式でのお前の演説。
 よく決意したよな、あんなこと話すの。」
「そう言ってもらえると嬉しい。
 でもみんなの晴れの成人式であんな暗いこと話してごめんなさい。」
「謝ることなんかねぇさ。
 どうしても伝えたかったんだろ?聞いてて伝わって来たぜ。」
「うん、ありがとう。
 私なんかのことより、徹君のこと聞きたいな。
 建設の現場で働いてるの?稼ぎもすごいとか。
「おうよ!仕事はキツイけど、他のやつよりいい稼ぎしてぜ。
 親分も俺のこと気に入ってくれてて。」
「へぇ〜そうなんだ!
 それで募金もたくさん振込んでくれたのね。
 すごい金額でびっくりしちゃった。ありがとう。」
「大したことねぇって。」
「これも噂で聞いたんだけど、結婚するの?」
「よく知ってんな。
 うちの親分に娘をもらってくれと言われてよ、
 トントン拍子に話しが進んじまってる。」
「すごいね、人生がどんどん先へ進んでる。」
二人は幾ばくか話しをして店を出た。


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