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OP投下スレ

31 ◆wKs3a28q6Q:2012/05/13(日) 11:33:54 ID:Q/4nBtBM

(アカン。アカンて。死ぬ。死んでまう……!)

ソファの裏にいる洋榎は、今にも泣き出しそうだった。
怖かった。辛かった。悲しかった。
何が何だかわからなくて、とにかく泣いて全てに当たり散らしたかった。

「嫌……嫌ァ……助けてぇ……」

床に触れていた掌に、液体が付着する。
付着というより、水没と言った方がいいか。
そのくらい派手に、掌は液体に浸かっていた。
視線を移すと、水たまりの中心で、いちごが震え上がっていた。

「こんなんっ……こんなん考慮しとらんよぉ……」

客観的に見て、いちごの姿は無様だろう。
情けないだろう。カッコ悪いだろう。
しかし洋榎にはいちごをとやかく言う資格なんてないように思われた。
きっとさっきまでの自分も、こんな風に怯えるだけだったのだろうから。

(ああっ! クソッ! わぁっとるわ!)

自分の役目は、何だったか。

いちごのように怯えるだけの人間を、
真美のように嘆き悲しみに暮れている人間を、
救い、笑わせ、笑顔にし、前を向かせる。

それが、自分の仕事なんじゃなかったのか。
洋榎はヤケにも近い吹っ切れ方をする。
そしてポケットに入れていたままのWiiリモコンを握り、言った。

「自分ら。前向き。とりあえず、考えるのは無事に生き延びてからにしよ」

真美はまだすんすんと泣いているが、いちごの方は顔を上げた。
まだその目は恐怖に濁っている。

「時間稼いだる。フーカ達と大して変わらんやろうけど、その間にどーにかして、こっから逃げぇ」

無茶を言っていることはわかっている。
けれども生き延びるには、もうそれしか可能性が残ってないのだ。

「でも……」
「諦めんな。没キャラのような運動神経もないし、楓のようにマホーも使えん。
 でもな、だからって考えることを放棄したら、そこでしまいや」

虐殺っぷりの演出か、少女は余裕たっぷりに歩いてきている。
まだ、カッコつけて自分を奮いたたせるだけの時間はある。

「凡人はな、考えることで怪物だって食えるもんやで。
 ――思考停止したら、そこでホンマの凡人や」
「…………」
「だから考えて、生き延び。んで、笑え。折角かわええんやから」

無理矢理に、笑顔を作る。
いびつじゃなく、ちゃんと笑えていただろうか。
それだけが、洋榎の最後の気がかりだった。

「ほんじゃな。あ、でも高校麻雀界のアイドルの座は、譲ったわけと違うからな!」

そうとだけ告げ、ソファを飛び出す。
肉体的にはどこにでもいる女子高生。
掲げる武器はWiiリモコン。
勝てる見込みのない戦い。

「うらああああああああああ!!」

稼げる見込みのない時間。
逃がせるわけのない仲間。

それでも洋榎は立ち向かう。
ほんの僅かな時間に、意地とプライトを見せて。

せめて自分が生きた証を、モニターを見る人々に刻みつけたくて。
この抵抗に賭けた想いが、モニターを見る誰かに伝染すると願って。


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