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処女王(ヴァージンロード)の出産

1 : 名無しさん :2020/03/16(月) 23:26:46
むかしむかし、あるところにラピュセル王国という女王が治める国があった。
先代王は引退し、王子が居ないため第一王女のフランジアが後を継ぐ事になって数年。
フランジアは自ら鎧を身に纏い、戦場をかけていた。
勇猛で傷一つ無く、婚姻も決まっていないフランジアは、
味方や敵から畏怖とほんの少しの侮蔑を含めこう呼ばれていた。

ーー処女王(ヴァージンロード)。

これは、病気がちになった父親に勧められ、処女王フランジアが隣国の第二王子グラウスと婚姻同盟し、
ヴァージンロードを歩き、愛し合った結果戦場で息子を産むという逸話を元にしたお話ーー

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単体、比較的安産(微難産可)。出産描写は基本フランジアのみ、最大でも2名。

リレーよろしくお願いいたします。


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2 : 名無しさん :2020/03/17(火) 11:07:51
「…私の婚姻が決まった、だと」

玉座に座り、動きやすそうな服を着た長い金髪の女性。
切れ長の瞳は鷹のように鋭い。
そんな彼女が目の前にひざまずく老人に高圧的に話した。

彼女の名はフランジア・ラピュセル。処女王(ヴァージンロード)と呼ばれるその人である。
目の前の老人は先代王から仕える補佐役であった。

「は。先代王はこのところ病気を繰り返すようになり、『孫の顔を見たい』『フランジアが身を固めないのは心許ない』と」

「…全く、父上は…私は戦場に居る方が落ち着くというのに。
城にこもって内政でもしていろ、ということか?」

はぁ、とため息をつくフランジア。だが、はっきりとした言葉でこう語る。

「父上が決めたのだから仕方あるまい。その辺りは夫となるであろう男と決める。
で、相手は誰だ」

「ニンフォニア国の第二王子、グラウスです」

「ふむ…」

フランジアは思案する。
ニンフォニア国は我が国と接し、また敵対する帝国とも接する緩衝地帯のようなもの。
父上としてはそこから人質のように婚姻同盟を結び密に連携しよう…ということかもしれない。
もちろん、孫の顔を見たいというのは事実であるだろうけれど。

「分かった。グラウス殿下を隣国から呼んで欲しい。
夫婦間の交渉はこちらがする」

考えに考えて結論を出したフランジアは、補佐役にそう伝え玉座を後にするのだった。


3 : 名無しさん :2020/03/18(水) 19:06:29
数日後。
王族用の客室のテーブルにフランジアは座っていた。
執務室のような堅苦しいところよりはグラウスの人となりを知ることが出来る、と考えていたからだ。
だが、その顔は不機嫌そうに眉をしかめている。

(父上が決めたのだから仕方ないが…やはり憂鬱だな)

そんなことを考えながら待っていると、客室の扉が開いた

「お初にお目にかかります、フランジア様。グラウス・ニンフォニアです」

従者が開けた扉から出た男に、フランジアは目を奪われた。
透き通るような銀髪。優しそうな瞳。白い肌。

「美しい…」

そう呟くほどグラウスは整っていた。

「ありがとうございます。幼い頃は病弱だったせいか…こんなに肌が白くなってしまいました。」

そう話しながら、グラウスはテーブルの対面に座った。

「ほう、病弱だったと。何歳までだ」

フランジアは不機嫌そうな顔から一転して笑みを浮かべて尋ねた。
一目惚れだったのかもしれない。
グラウスのことを知りたいとフランジアは考えていたからだ。

「はい、13歳くらい…でしょうか。今は19歳になりますが、なんとか人並みに過ごせるようになりました。
そのせいか…未だに体を激しく動かす運動は苦手ですね」

「ふむ…私は真逆だな。幼い頃から動いていなければ落ち着かなくてな。
17歳で家を継ぎ、21歳の今になるまで…ほとんどを戦場で過ごしていたよ」

「では、フランジア様。私に剣技を教えていただけませんか?
これから親の決めた婚姻をする身ではありますが…戦場でなくても…貴女を、護らなくてはいけませんからね」

グラウスはそういうとフランジアの横へと歩みを進め、跪いて礼をするのだった。


4 : 名無しさん :2020/03/19(木) 22:41:42
翌日。
中庭に作られた鍛錬場で2人は模擬戦を行なっていた。

「踏み込みが甘いッ!」

カァン、とグラウスのレプリカ剣を弾き喉元にレプリカ剣を突きつけるフランジア。

「はぁ…はぁ…さ、流石ですね、フランジア殿」

動き回され、息を切らせながらグラウスは話す。

「…この程度で息を切らすとは…苦手というのは本当らしい」

息一つ切らさずフランジアはそう話していた。

「はぁ…お恥ずかしい所をお見せしてしまったようですね」
「構わない。スジは良さそうだしすぐに上達するだろうな。
飲み込みも早い。私の腕を越すのもそう遠くないかもしれないな」
「では…フランジア殿から一本取ったら世継ぎを作らせてもらいましょうか」

飄々とそんな言葉を向けるグラウス。

「っ!貴殿は私をからかっているのか!?」
「いえ…貴女のような性格では身籠っても戦場に立ちそうですから…
戦場で護れないようであれば、夫にも父親にもなれないのではないか、と」

今度は真剣な顔でフランジアの顔を見つめる。
フランジアは生娘のように顔を赤くし叫ぶ。

「か、勝手にしろ!だが、手加減はしないぞ」
「分かっています。手加減されても戦場で隣にいることなんて出来ませんからね。
一本取れるのがいつになるかまではわかりかねますが」

そう言った後グラウスは息を整えレプリカ剣を持ちフランジアに対峙するのだった。


5 : 名無しさん :2020/03/23(月) 23:00:11
「むむ…少し考えさせてくれ」
「ええ、夜は長いですからね」

夕暮れまで一本を取れず、客間で疲れを癒すフランジアとグラウスはチェスに興じていた。
先を読む力を鍛え軍略を養うそのゲームを、フランジアは得意にしていた。
だがそれ以上にグラウスは強い。最初はフランジアが勝利を収めていたが、夜がふける頃には勝ち数が逆転していた。

「グラウス殿はなぜそこまでチェスがお強いのか」

苦肉の策で出した逆転への一手。

「小さい頃から病弱でしたから…頭ばかり鍛えてしまって。
こうして他の事で勝てなかった相手を負かすのが楽しみになっています」
「フフフ。貴殿は意地の悪い人物だな。…負けました。」

礼をして、チェスを片付けるフランジア。
そこにグラウスが提案をする。

「そうだ、フランジア様が剣技を教えたあと、チェスのコツを教える…と言うのはどうでしょうか。
婚儀まではまだ時間があります。それまでにはフランジア様に『剣技』で勝ちたいですから。」

「ふふふ…ならば、そうだな。もし貴殿にチェスが勝てるようになれば私からプロポーズしよう」

リラックスして話すフランジア。思わずそんな事を口走り赤くなる。

「それは困りますね。頼りない夫に見えてしまいます。なんとしてでも両方勝たねばなりませんね」

そんな軽口を語ってしばらく後、公約通り何もせずグラウスはフランジアを自室へと送るのだった。


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6 : 名無しさん :2020/05/06(水) 00:41:57
それから2月が過ぎようとしていた。

その間にグラウスは客間から移動し居室で時間を過ごし、
メキメキと武術の腕を上げ、フランジアとチェスをしながら交遊を深める。

フランジアも外見だけでなく内面に惹かれてゆき、グラウスもフランジアに惹かれつつあった。
そこには政略結婚の為に知り合ったというだけでなく、愛が生まれようとしていた。


カァァン!

フランジアのレプリカ剣が弾かれ、喉元にグラウスのレプリカ剣の切先が突きつけられる。

「はぁ、はぁ…初めて貴女に勝てました」
「はぁ…流石だ。まさかこんなに早く負けるとは」
「フランジア様…手加減をしましたか?」
「…いや、私に手加減ができると思うか?
 それはあなたの実力が上がりつつあるということだ」

にこやかに話すフランジア。その前に跪いてグラウスは話しかける。

「賭けに勝ったので、私から話させていただきます、フランジア様…いえ、フランジア。
 どうか、私を夫として支える立場にしてくれませんか」

その言葉に、顔を赤らめお辞儀をするように頭を下げる。

その日の夕刻、フランジアとグラウスの婚約と式の話が国中に広まった。


余談ではあるが、グラウスは告白した日のその後は、
燃え尽きたかの如くフランジアに武術で負け、チェスにも負け、互角に戻るまで数日を要したとのことであった、


7 : 名無しさん :2020/05/29(金) 23:58:58
「…似合わぬか、このドレス」
フランジアはそう呟きながらウエディングドレスを身に纏い教会の控室にいた。

「美しいですよフランジア様。自分を卑下しないでください。」

こちらもニンフォニア国王子が儀式で着る白い服を着たグラウスが笑みを浮かべた。

「そ、そうか。そなたが言うならまあ…」

真っ赤になりながらフランジアは顔を下に向けた。



2人の結婚式の日取りは婚約発表の後早急に決まっていた。

帝国との緩衝地帯であるニンフォニア国へと時折帝国から使者が来るようになり、
「ラピュセル王国を裏切り我が方に付かないか」と誘われていると言う手紙を国王が出してきたからだ。

そしてそこには
「私はラピュセル王国と隣り合う国として国境を守り帝国を食い止めたい。
 心残りは孫の顔が見れないかもしれないことである
 せめて式を早く挙げてもらいたい」
と続きに書かれていたのが理由の一つとなった。

フランジアとグラウスの結婚により強い同盟関係を結ぶ。
それは牽制にもなると考えたフランジアは結婚式と宴を開くことにした。

そして、さまざまな準備の上今日に至ったと言うわけである。

「さあ、いきましょうかフランジア様」

グラウスの言葉をきっかけに、2人は結婚式場へと歩みを進めた。


8 : 名無しさん :2020/06/15(月) 00:42:27
「あれからニンフォニア国王から情報はきたのか?」
「いえ、私たちの結婚の噂が広がったらしく…大人しくしているとのことです」

 式から一月。先代王が他の城に移ると言い出し、
 代わりにグラウスの部屋として使われるようになったその部屋で、
 フランジアとグラウスは帝国の情報を整理しつつ帝国の意図を推測しようとしていた。

「だが、帝国のことだ。大人しくしているということもなかろう」
「はい、まるで何かを待っているような」

 グラウスの言葉に、フランジアは苦笑いを浮かべつつ口を開ける。

「大方、私の懐妊を待っているのだろう。妊婦が戦場で指揮をするなど不可能とでも考えているのだろうな。
 グラウス。私はそれを逆手に取る。私はなんとしてでも戦場に立つ。
 その時は私をうまく守ってくれ」

 フランジアの言葉にうなずくグラウス。続けてこう尋ねた。

「では…その、何時ごろから世継ぎを作るおつもりなのですか」
「今日から、だ。今日から子供が出来やすい周期に入ったと御典医から聞かされている
 ならば早いほうがいいだろう
 だから、その、グラウス。私を、優しく抱いてくれないか」

 真っ赤になったフランジアの手を握り、「わかりました」とだけ話したグラウスは、ゆっくりと自分の寝具へと向かう

 
この日からの情事により、フランジアの子宮の中に新たな命が芽生える事を、
まだフランジアもグラウスも知らなかったのだった。


9 : 名無しさん :2020/06/30(火) 14:43:51
「む…」

 結婚式から数ヶ月。建国記念の日を迎えスピーチの為に式典用のドレスを着ようとしたフランジアは少し戸惑いを覚えた。
 ドレスの胸やお腹が以前よりキツく感じたからである。

「すまないグラウス。コルセットの紐を締めてくれないか」
「分かりましたフランジア。これくらいですか」
「…うむ。これで試してみよう」

 コルセットの紐をぐ、と締められ再びドレスに挑戦するフランジア。
 だが、まだドレスは少しキツかった。

「…すまないグラウス。もう少し締めてくれ」
「いいですが…苦しくないですか。」
「ドレスが着れないのでは仕方なかろう。…頼む」
「分かりました」

 ぐぐ、と締められてふぅ、と息を吐く。
 それでドレスを着てみるとようやくおさまりがついた。

「よし、これで入った。ありがとう」
「良かったです。…ですがどうしたのでしょう」
「そうだな…」

 フランジアはふと考える。
 最近政務が忙しく、また新婚夫妻の仲睦まじいスキンシップにより剣の鍛錬が疎かになっていた。
 そのせいか、筋肉質だったフランジアの体は以前よりも女性らしい脂肪を蓄えているようだった。

「まあ、おそらく『幸せ太り』というやつだろうな」

 苦笑いを浮かべたフランジアはスピーチをする為にグラウスと共に城のバルコニーへと向かった。


「王都の住人よ。今日は建国を記念する日によくここまで足を向けてくれた。感謝する。」

 そうフランジアは第一声を発した。
 隣にはグラウスが寄り添いながら立っている。

フランジアがスピーチを始めてしばらくしてからだった。

(う…)

 コルセットをキツく締めたせいか、フランジアは少し気分を悪く感じていた。
 顔色もどことなく青白くなっている。
 スピーチが少し途絶え、民衆がざわつく。

(大丈夫ですか、フランジア)

 顔色を見たこともありグラウスが小声で話しかける。
 小さく頷いたフランジアは、スピーチをなんとか続けた。

 スピーチを終え、民衆に手を振った後歓声を後にバルコニーから2人が城の中に入る。
 城の中を少し歩いた2人だったが、民衆から見えないだろう位置まで歩くと、
 緊張が解けたのかフランジアは崩れ落ちるようにすわりこんでしまった。

「だ、大丈夫ですか!?フランジア!?」
「は、ははは…なんとか、なんとか威厳は保った…ぞ」

 そう呟くと、フランジアはグラウスに身を預けるように意識を手放した。

「フランジア!?誰か…!医者を、御典医を呼べ!」

 廊下にグラウスの叫びが響く。
 それと同時にグラウスはフランジアを姫抱きにし2人の寝室へと駆け出したのだった。


10 : 名無しさん :2020/07/10(金) 09:32:37
「フランジアの容態は…悪いのですか」

 グラウスが不安そうにフランジアの脈を確認する御典医に尋ねる。
 フランジアは目を覚ましていたが、その顔色は優れない。
 
「おそらく貧血でしょう。少しお休みになれば良くなるはずです」

 その言葉に安堵するグラウス。だが御典医はこう続けた。

「…ですが、このような脈は長年見てきて初めてです。
 フランジア様は大病はしたことがありませんから…何かしら気になることはありませんか」

 そういえば、とフランジアは思い付く。
 しばらく月のものが来ていない。
 政務に忙しく不定期な時もあったので気にしてはいなかったが、もしやと思い伝えた。

「…貧血、体調不良、月のもの来ていない…これだけで判断は難しいですが、お世継ぎを身篭っている可能性もあります。
 ご公務は控えた方がよろしいかと」

 御典医の言葉に一瞬顔を明るくするフランジア。だがすぐに真剣な顔になった。


「良かった…フランジアに何かあったらと、私は不安で」

 御典医が部屋を出たあと、グラウスはそう語りかけた。

「うむ。世継ぎができたのであればそれは嬉しい。我が父上もそなたの父上も喜ばれるだろう。だが…」
「帝国の動向が気になる…ですか?」
「ああ。こればかりはどうにもならないな。
 今のうちに軍備を増強しながら子が流れにくい時期になるまでは懐妊を伏せるしかあるまい」
「帝国が様子を伺い、万が一産み月に攻めてきたら…やはりフランジアは出陣なさりますか」
「ああ。戦場に立つ事は私の生きがいでもあるからな…
 まだ確定はしていないが…胎の子にも辛い想いをさせるな」

 苦笑いをしながらフランジアは胎児がいるかもしれないお腹を撫でる。

 その日から数週間、フランジアの公務や政務は行われなかった。
 代わりに公務や政務はグラウスが行っていた。
 周囲にはフランジアの体調不良を伏せ、御典医がこまめに往診する。

 そしてフランジアの体調不良が少し良くなり始めた頃、御典医が正式に「懐妊している」と2人に告げたのだった。


11 : 名無しさん :2020/08/24(月) 23:23:44
「懐妊した」と確定してからもしばらくはフランジアの公務は行われなかった。

長引く公務がないフランジアに、『健康不安説』も現れるようになる。

『健康不安説』が広まりかけた頃。安定期に入ってすぐにフランジアは重大な発表をすると国民に通知した。
 ザワザワと集まって話す国民にフランジアが懐妊したことを告げた。
ワッ、と歓声が上がる。続けてフランジアは話す。

「今までは戦が起きた時は前線を走り回るような勇敢さがあったが、
 次の戦では守られる側になるやも知れぬ。
 だが…私と次代の王のために力を貸して欲しい」

フランジアがそう頭を下げると、歓声はさらに大きくなる。

そんな歓声が上がるラピュセル王国だったが、
帝国は不気味にニンフォニア国の近くに砦や道を作り始めていた。


12 : 名無しさん :2020/09/29(火) 13:16:30
「…やはり帝国側からはまだ攻めてこぬ、か」

子供が流れにくい時期…いわゆる安定期に入り、服の上からは分かりにくいが少し膨らみを見せ始めたお腹を撫でつつフランジアはそう呟いた。

「はい、現時点ではあくまでも牽制…こちらから攻めるのを待っているか、或いは」
「時を待つ…つまり、私が動けなくなる時期を見越して攻めるのか、か」

服の上からお腹を撫でていた手を、少し早めてフランジアはそうグラウスに話した。

「はい、今のうちになにか手を打たなければ…」
「そうだな…」

しばらくお腹を撫でていたフランジアは、その手を止めグラウスに話す。

「そなたの父上にお会いするか。表向きは安定期に入ったという理由で懐妊した報告をする、と称して」
「なるほど…それからしばらくの間そのまま滞在して睨みをきかせる…という考えでしょうか。」
「ああ。さらにいうなら産み月辺りまではそなたがここの政務を行い、
 産み月間近に私の見舞いとして軍を率いてくる…という案だな」
「なるほど。…ですが、私が後ろから攻めるとは考えないのでしょうか」
「フン。その考えがあるならとうに実行しているだろう。帝国と共謀して、とかな」
「信頼していただいて何よりです。ではそのように」

そんな会話が行われ、フランジアがニンフォニア国に行幸する準備が少しずつ進められていくのだった。


13 : 名無しさん :2020/10/01(木) 14:13:47
「お久しぶりです、フランジア陛下。グラウスとの婚儀以来ですかな」
「お久しぶりです、お義父上。…そうですね、あれ以来お会いする機会はなかったかと」

懐妊報告と称して準備が進められ、ニンフォニア国への行幸が行われ。
到着してすぐに、グラウスの父親にそう話しかけられたフランジアがそう答える。

婚儀が行われた際にグラウスの父は帝国の様子を伺いつつ参加していたのだが、
それ以来フランジアと会う機会はなかったのだ。

「少し顔がおやつれになりましたか?身体はふくよかになったようですが」
「ああ…つわりがひどい時期があってな。面やつれをしたようだ。
安定期に入ってからは子供を育てるためか女性らしい身体になってな。
激しい運動をするなと言われているから、剣技には自信がなくなってきているよ」

グラウスの父の心配そうな声かけに、フランジアはそう答える。

「長旅でお疲れでしょう。帝国の話は明日以降にいたしましょうか」
「ああ、そうしてくれると助かる」

妊婦用の揺れにくい馬車でニンフォニア国に訪れたとはいえ、ラピュセル王国からはかなりの移動距離である。
疲労感が高いフランジアは、グラウスの問いに即答して客室へと案内されたのだった。


14 : 名無しさん :2020/11/11(水) 15:46:06
その日の夜、疲れのせいか熟睡していたフランジアは不思議な夢を見た。

未来…予知夢なのだろうか、夢の中での彼女は今よりもお腹が大きくなっている。
しかしそれだけ赤子が成長したのにもかかわらずに、彼女は身重さを感じない。
この不思議な体験はきっと夢なんだと判断した彼女は、微笑んで空を見上げる。
するとそこには、真っ昼間にも関わらず冷たく蒼に染まった大きな月が見えた。

だんだん大きくなって空を覆うほどの月は鏡のように、ある光景を映し出す。
それは、ニンフォニア国の王城……だとかろうじて判断できる廃墟だった。
魑魅魍魎が跋扈している廃墟の真ん中に、剣で戦っている金髪の女性がいる。
生まれたばかりの彼女の息子だと思われる赤ん坊を抱えているその女性は――。

夢はここで終わっていた。

人間の見る夢とは儚いもの。
目を覚ましたフランジアはすぐさまに、不思議な夢の内容を忘れ去っていた。


15 : 名無しさん :2020/11/11(水) 21:08:19
「おはようございます、フランジア陛下。
 …やはり顔色が優れませぬな。長旅の疲れが抜けませんか」

朝食の席に座ってすぐ、そうグラウスの父に語りかけられたフランジアは首を振る。

「いや…夢見が悪くてな。体調は問題ないのだが」

儚く消えた夢の記憶。
だが…夫の生まれ故郷であるニンフォニア国のこの城が、
廃墟になっていたことだけはフランジアの記憶に残っていた。
言葉にすると魂が宿り夢が現実になるかもしれない…
そう考えたフランジアは「夢見が悪かった」と言葉を濁したのだ。

「そうですか…それならば良いのですが。先ずは朝食を済ませましょう。
 それからこの地の近況をお伝えします」

グラウスの父も何かを察したのか、それ以上は触れずに2人は朝食を取り始めた。


「帝国の動きですが…やはり不気味ですね。まるで、機が熟すのを待っているような」

食事を終えてすぐ、グラウスの父はそう切り出した。

「うむ…それに関しては私なりに結論を出している。
 私が身動き出来にくくなる時期…即ち産み月までは待つのではないか、と」
「なるほど…帝国が考えそうなことですな。対処法は?」
「そなたに懐妊報告をする…と言う名目でニンフォニア国に来た。
 そのまま滞在して、戦になれば指揮を取るつもりだ。
 グラウスには産み月が近くなれば軍を率いてくるように…と指示をしてある」

フランジアはそう策をグラウスの父に伝えた。

「なるほど…理解しました。ですが、私から一つ。グラウスがこちらに来るのであれば本国が手薄になります。
 どなたか信頼を置ける人物に背後を任せなければいけませぬな。例えば…」
「例えば、私の父上…先代王か。わかった、手紙でグラウスに伝えよう。」

策を聞き、補足するように話すグラウスの父にそう返答するフランジア。

「それから…陛下が出陣なさるのであれば…一つだけ約束してください。
 戦場で産気付いてしまって、戦の継続が困難になった場合の事です。
 決して私の命…そしてこの国を守るとは考えてくださるな。
 陛下とお腹の子が生きてさえ居れば…この国も再興できます。
 私は陛下とお腹の子の為に命を賭してラピュセル王国の盾となりましょう」

決意を持った目でグラウスの父がそう伝える。
フランジアは頷き言葉を紡ぐ。

「分かった…だが、最後まで生きることを諦めてはならぬ。それだけは約束して欲しい」…と


16 : 名無しさん :2020/11/22(日) 18:20:48
カァン…カァン…カァン…

数日後、フランジアは城下の鍛冶屋を訪れていた。
ニンフォニア国にしばらく滞在して睨みを効かせる、と決めてから
ラピュセル王国からフランジア専属の鍛治職人を呼び寄せていた、その人物が滞在している鍛冶屋である。

「久しぶりだな、エミル。調子はどうだ?」

フランジアが声をかけると、赤髪のショートカットでそこそこ筋肉質な人物が手を止め後ろを振り返る。
エミルと呼ばれたその人物の胸とお腹はフランジアよりも少し迫り出していた。

「やれやれ。陛下は人使いが荒い。
 このような身重の女性を鎧作りに駆り出すとはねぇ」
「その件に関してはすまないと思っているよ。
 結婚しているとは聞いていたが、まさか子供が出来ているとはな」
「あはは。子供がデキたって分かったのは陛下の妊娠発表のしばらく前くらいからかな。
 新婚だったオレと旦那が張り切りすぎちまった…ってわけよ。
 まぁ、この腹も陛下から受けた鎧を作るにはちょうどいいか…と思ってね」

ポンポン、とせりだしたお腹を叩くエミルはかなり豪快な性格のようだ。

「エミル…その『陛下』っていうのはやめてくれないか。 昔からの知り合いなのだから『フラン』と気さくに読んで構わないのだが」
「うーん…じゃあ、『姫様』くらいにしておくよ。
 『フラン』は流石に馴れ馴れしいし、『姫様』って呼ぶのは慣れてるからね」

フランジアは笑みを浮かべながら、エミルは苦笑いを浮かべながらそんな会話をする。

エミルとフランジアは両方の父親が専属の鍛冶職人と王という関係の時から仲良くしていた、
平たくいうと幼馴染という関係であった。
その関係は本人同士が鍛治職人と王という関係になっても変わらないようだった。

「かなり進んでいるようだな、私用の鎧の製作は」

フランジアは直前までエミルが作っていた鎧を見ながらそう語りかけた。
以前から身に付けていた鎧が膨らみはじめたお腹で着れなくなり、
この際に妊娠後期でも着れるような鎧の製作をしてほしいとエミルに依頼していたのである。

「ああ。姫様と赤ちゃんを戦場に出ても守れるように、頑丈なものを作っているよ。
 どうやら姫様より先に妊娠してたみたいだから、基本はオレのお腹にフィット出来る様に。
 あとは姫様の出陣前に微調整…かな。
 まぁ、姫様が戦に出ないのがベストなんだが」
「なかなかそうは行かないだろうな。帝国の方も虎視眈々と機を窺っている以上は」

フランジアとエミルはそう会話をし同時に溜息をつくのだった。

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エミル(23)
フランジア専属の鍛冶職人で幼馴染。
フランジアの妊娠発表より少し前に妊娠が発覚。
フランジアにはその事を秘密にして
「共にニンフォニア国に来て妊婦用の鎧を作って欲しい」という依頼を二つ返事で受ける。


17 : 名無しさん :2020/11/29(日) 00:30:49
エミルが作った妊婦用の鎧は腹回りを重点的に補強したのはもちろんのこと、
ニンフォニア産の柔らかな魔法金属を使うことで、お腹の大きさに合わせて
鎧の形を調整できることに成功している。まさにどんな妊婦でも着れる鎧だ。
見た目は「ピッチリと妊婦腹に張り付いている」みたいになっているけど、
強度はちゃんと鎧で、フランジアの剣でも傷ひとつ付かないぐらいに強固だ。

ただ一つ、欠点があるというならば……
「こ、これはちょっと慣れる時間が必要かもしれないね……」
鎧がピッチリとお腹に密着しているため子宮がガッチリと固定され、
その分、中からの胎動は普段の倍以上に感じ取れてしまうのだ。


18 : 名無しさん :2020/11/29(日) 17:14:53
「まぁ、ある程度完成したから…まだ時間はあるしもう少しサイズの調整を進めるよ。
 オレの腹の子が普通より大きめだって言うから、姫様のお腹だったら多少は楽になる…かもね。
 鎧に慣れることが出来る様に、姫様の臨月前には完成させて姫様にお渡しするつもりさ
 …あたた、本当に元気だなぁお前。誰に似たんだか」

鎧の試着をしたまま、エミルが任せてくれと言わんばかりにばかりに鎧の上から太鼓腹を叩く。
胎動を感じやすくなったからか、叩いてすぐに顔を顰めるエミルを見ながら苦笑いするフランジアだった。

「…ふう、ようやく大人しくなってくれたか。
 鎧をつけてから急に周りが狭くなったみたいでこいつも驚いたのかもしれないな。
 少しお腹をポン、と叩いてこれだから…戦に出るなら出来るだけ腹に攻撃を受けないようにした方がいいなあ。
 …っと、それで思い出したんだが。姫様の旦那はいつ頃くるって手筈なんだい」
「グラウスか?最近手紙が届いてな。私の父上との調整を終えたから近々こちらに来るとのことだ。
『老いぼれまで駆り出すとは人使いが荒い。だが国の為、何より娘と孫のサポートのためなら仕方あるまいな』
…みたいな感じで愚痴られたと書いてあったよ」
「あっはっは。いかにもあの人がいいそうな台詞だ。
 オレの親父にもいろいろ愚痴をこぼしてたからねえ…
 …あぁ、旦那さんが来たらここに連れてきてくれ。
 この鎧をつけてどこまで動けるか試すついでに、旦那さんにも鎧や剣を作ってみたいんだ」
「それはありがたいが…本当に平気か?」
「大丈夫だって。無理はしないし、ドーンと任せておくれよ!
 …ったた、ごめんごめん。ビックリしたよなぁ…それにしても本当に暴れん坊だなぁ…
 男の子なのか、オレみたいなおてんばな女の子なのか…」

再び任せてくれとばかりにポン、とお腹を叩きすぐに顔を顰めるエミル。
お腹の赤ちゃんが落ち着いてから、エミルはゆっくり鎧を外したのだった。



そして、それからしばらくのち。
フランジアのお腹が普段着ていた服の上からでもわかるほど膨らみはじめた頃に、
グラウスが1万程の兵を率いてラピュセル王国からニンフォニア国へと里帰りしたのだった。


19 : 名無しさん :2020/12/27(日) 00:49:55
「久しぶりです父上。お変わりありませんか」
「おお、グラウス。久しいな。私は息災だよ」

グラウスとグラウスの父親が挨拶をした。
フランジアが妊娠してからははじめての帰郷である。
だが、2人の顔に安堵はない。

「帝国の様子はどうなんです?」
「少しずつ兵を増やしているが、まだ宣戦布告は来ていない。かなり不気味だよ」
「やはりフランジアが動きにくくなる時期、臨月辺りまではおそらく攻めてこないようですね
 その前に私たちも準備を進めていきましょう」

グラウスと父はそう取り決め、フランジアとグラウスは2人の部屋に向かう。
積もる会話をしながら、2人だけの時間は少しずつ進んでいた。


20 : 名無しさん :2021/01/01(金) 21:58:45
「エミル、鎧が出来たと聞いてやってきたのだが」

グラウスが到着して少し後。
エミルから鎧製作が概ね完成したという話を聞いたフランジアはグラウスと共にエミルの鍛冶屋へと足を向けた。

「ああ。オレももう出産が近いからな。これ以上腹もデカくならないだろうと思ってな。
 魔法金属のおかげでオレでもそこまでキツくないようになってるから大丈夫なはずだ。
 せっかくだから付けてみるかい?」

首を縦に振りフランジアはエミルの鎧をつけてみた。
胸当ては少し緩いくらいだが、腹の方はかなり余裕がある。
エミルがこれでも「キツくない」と表現するのだから、
臨月にはこの程度まで成長するのだとフランジアは理解した。

「ここまで成長するのであれば、前線に出て戦うのは厳しそうだ。
 後方から指示を出した方が良さそうだな」
「ああ。オレでもこれを付けて動くのは億劫なんだ。
 鍛えている姫様でも馬に乗りながら戦うとかはかなり厳しそうだぜ」

そんな会話をした後、フランジアは兵士に頼み鎧を自室に運んでもらった。
エミルが出産をし、フランジアのお腹の子供が順調に育つ間も不気味に帝国は時を伺っていた。



そして、フランジアが臨月を迎えて7日ほど過ぎた頃。
斥候から「帝国が出陣準備を始めた」と報告が上がった。

「やはり予想通りだったか」

そう呟いた後フランジアはグラウスに声かけをした。

「ニンフォニアにいる全軍に伝えよ。
 今から帝国軍を迎え撃つ、とな」

グラウスは少し躊躇うように困った顔をしたが、首を縦に振ってフランジアの部屋を出た。

「すまない、腹の子よ。お前を危険な目に合わせるかも知れない。
 だが、私は全身全霊をかけてお前を守るからな」

お腹を撫でてそう話しかけ、フランジアは鎧を身に付ける。
以前は少し余裕があった鎧も、今ではピッタリとフィットしてしまっている。
胸当てと鎧を身に付け、長年使っていた愛用の剣を腰に差し、
ゆったりと足元に気をつけながら兵舎の方へと向かうフランジア。

そのお腹は緊張とピッタリとした鎧の影響からか、少し張りを強め始めていた。


21 : 名無しさん :2021/01/04(月) 00:00:44
フランジアはゆっくりと歩きながら兵舎にいる兵たちの前に進み、台の上へと上がった。
ピッタリとした鎧の所為で居心地が悪くなったのか、
いつもより胎動を強く感じたフランは少しため息をつく。
だが意を決したようにお腹に左手を当て、右手で剣を抜いた。

「帝国が動き出した、という情報を得ることが出来た。
 我々も帝国を迎え撃つよう進軍する。
 ただ、私は見ての通り妊婦、しかももう産み月を迎えた。
 以前のように前線で士気を高めるように大立ち回りすることが出来ぬ。
 それでも、私は後方から指揮をするつもりだ。
 お前たちの力を王国と私、そして赤子を助ける為に使わせてくれないか」

右手の剣を高く掲げフランジアはそう宣言した。
ウォォォォ!という兵士の雄叫びが周りに響く。

その熱気に当てられたように赤子が動き回る。
ますますフランジアのお腹が張り始める。

フランジアは初産なので気付いていないが、着実に陣痛が始まろうとしていた。


22 : 名無しさん :2021/01/06(水) 16:40:28
ラピュセル王国軍が帝国軍を迎え撃つ為進軍を開始し始めた。
フランジアは後方に位置し前方の兵が進むのを愛馬に騎乗し待っていた。
隣にはグラウスが愛馬に騎乗し寄り添っている。
普段であれば先陣を切るように進軍するフランジアだが、腹の子…世継ぎを守る為後方から進軍をしようとしている
それが兵たちの士気を低くしないか…フランジアはそれが気になり思わずため息をついた。

ようやくフランジア付近の歩兵、騎兵が歩みを進めた。
フランジアは愛馬にゆっくり前に進めと手綱を使い指示をする。
愛馬が数歩進む間にフランジアは左手の手綱を離しお腹に手を向け妊婦鎧の上からお腹辺りを気にする様子を見せた。

(予想はしていたが…思っていたより馬での進軍は揺れる)

愛馬が歩みを進めるたびに振動が鞍、鎧を経由しお腹に伝わる。
振動を嫌がるように胎児が動きを強める。
外からの振動、中からの胎動…子宮が刺激を受け、お腹の張りはますます強くなる。
進軍を開始してすぐ、フランジアはお腹を意識しなければいけない状態に陥っていた。

「フランジア、大丈夫ですか」

見かねたグラウスが思わず馬を寄せ語りかける。

こく、と首を縦に振ってすぐフランジアは囁く。

「ああ、今のところは…だが、このままでは布陣する頃には本格的に陣痛が起きていそうだ」
「無理に進軍せず、時折休みを入れるのも良いかと。
 また、私の私兵に助産の経験がある者もおります。
 万が一の時はその兵に頼りましょう。またその場合私が指揮を引き継ぎます」
「ああ、すまない。それから、兵を後退させるときの殿(しんがり)は他の者に頼んでくれ。
 父親が居ない子供にさせたくはないからな…それに、初めての出産で不安なのだ。
 出来るだけグラウスには側にいて私を守って…それから出産に立ち会って欲しい。」

フランジアの言葉にグラウスは強く頷き馬を離した。

ラピュセル王国軍が前進するたびに、フランジアが鎧の上からお腹を撫でるように気にする様子は増えつつあった…


23 : 名無しさん :2021/01/16(土) 06:49:42
<ラピュセル王国軍・陣地>

主戦場となると思われる平野を一望できる小さな丘の上に陣を敷いたラピュセル王国軍。
帝国を迎え撃つ準備を進んでいる中、フランジアの予想通り、本格的に陣痛が始まった。
「ぅ、ぐっ、まさか、これほど、とは……」
壁に手をついて、胎児を外に出そうとする子宮からの痛みに歯を食いしばるフランジア。
悟られないように振舞おうと思っていた彼女は、陣痛を甘く見た事に少し後悔していた。


24 : 名無しさん :2021/01/16(土) 11:48:08
陣痛をなんとか耐えたフランジアは椅子に腰掛ける。
そしておもむろに妊婦鎧を脱ぎ始めた。
お腹の世継ぎを守るための鎧ではあるが、ピッタリとしたフィット感が仇となり締め付けているような感覚を常に感じていたからである。

ゆっくりとした動作で鎧を外し、「ふぅ」と一息をついたフランジアは無意識のうちにお腹に手を当て撫でていた。
陣痛が起きていない状態でも岩のように硬く張る臨月腹。
数週間前、数日前でも柔らかさを感じることがあったのだから出産の時が近いと改めて知らされていた。

「フランジア、軍議前に作戦を改めて整理しましょう」

締め付けが緩くなり少しリラックスするフランジアにグラウスが声かけをした。
側には1人の兵士も控えている。
行軍の休憩時にグラウスとフランジアが会話を交わし
『軍議の時はグラウスが説明し、フランジアはそれに相槌をうつことで
 できるだけ陣痛が来ていることを悟られないようにする』
という事を決めたためであり、側に控えているのは万が一一気に出産が進んだ時の為の助産経験を持つ兵士である。

「ああ、よろしく頼む」

そうフランジアは答え、グラウスに椅子の前にある持ち運び可能な机に地図を引いてもらい作戦を確認し始める。
フランジアはゆっくりと時間をかけ、時折お腹を気にしたり言葉に詰まりながらもグラウスとしっかりと確認を進めた。

「…これで軍議では説明出来ると思います。ありがとうございました。
 フランジアは軍議まで少しお休みください」

グラウスが地図を片付け立ち去ろうとするとフランジアはおもむろに手首を掴んだ。
グラウスが目を向けると反対の手でお腹を撫でながら顔を俯けるフランジアが目に入った。
どうやら強い陣痛が襲いかかり不安に駆られて思わず掴んだようだった。

(こんな状況でも軍全体の士気を下げないよう気丈に振る舞おうとしている
 それでもフランジアは…軍のトップや王族というだけでなく一人の女性なのだ)

ぎゅう、と掴まれた腕を振り払うことをせず、フランジアの頭を撫でながらグラウスはフランジアの陣痛が収まるのを待っていた。

「すまない、心配をかけたな。もう大丈夫だ。下がってくれ」

フランジアがぎこちない笑みでグラウスに話しかける。
グラウスは後ろ髪を引かれる思いをしながらその場をたちさった。

一人になったフランジアは、不安そうにゆっくりと歩いたり陣痛が来た時には少しでも楽になれる姿勢がないか探っていた。



それから少しの時間が過ぎた。

「フランジア様、軍議の時間が近づいております」

グラウスの側にいた助産経験を持つ兵士が声をかけてきた。

「分かった。今から向かおう」

そう兵士に話したフランジアは外していた妊婦鎧を再び身に付ける。
そしてお腹や足元に気をつけるそぶりをしながら軍議を行う場所へと歩き始めるのだった。


25 : 名無しさん :2021/01/18(月) 21:59:34
「ふぅ…ふぅぅ…ふぅーっ…」

軍議を行う為の広いテント内に早めに到着したフランジアは縦長に置かれているデスクの1番奥、中心から見渡せる位置の椅子に座って呼吸を整えた。

(悟られないようにするのはかなり厳しいかもしれない)

鎧の上から腹を撫でるような仕草をしてフランジアはそう考えてしまう。
脱げるのであれば鎧を脱いでしまいたい。
脱いで少し楽になった腹を撫でながら『もう少しだけお腹の中にいてくれ』と語ってやりたい。
だが、鎧を脱いでしまえば陣痛が来ていると感づいてしまう者もいるかもしれない。

「少なくとも軍議が終わるまでは鎧を脱げない…すまない、我が子よ」

ようやく落ち着いてきたのかフランジアはそうお腹に語りかける。

(痛みが少し引いて気付いたが…喉が渇いている。それに、汗だくだ)

幸か不幸か、この日は気温が高く汗ばんでいてもおかしくはない。
だが、それでもこれだけ汗が目立てば感づかれてしまう。

悩んでいるフランジアがテントの入り口を見ていると、
グラウスが入ってくるのが見えた。

「丁度いい所に来た、グラウス。酷く喉が渇いているんだ。
 それに…汗を拭く物が欲しい。」

その言葉にコクリと頷いたグラウスは、部下に指示をし水差しとコップ、いくつかのハンカチを用意させる。
ハンカチを使い目立つ場所の汗を拭い、ゴクリゴクリと水分を補給するフランジア。

そうしているうちに大将格の人物がポツリポツリと集まり始める。
軍議の時間が近づいているのが目に見えて分かった。

またお腹が痛み始めた。鎧の上からお腹をひと撫でするも、出来るだけ平然な顔をしようとするフランジア。

フランジアの一世一代の芝居が始まろうとしていた……


26 : 名無しさん :2021/01/22(金) 17:00:09
「フランジア様は行軍でお疲れとのことで、私から戦略の説明を致します」

緊張感が漂う中、グラウスがそう切り出した。
地図に視線が落とされ、グラウスが説明をし始める。
集中して聴いている者もいれば、ちらちらとフランジアを伺うような仕草をする者もいる。
どうやら、時折フランジアが顔を顰めたり汗を気にしているハンカチで拭くのが目に入ってしまうらしい。

(これは…アプローチを変えたほうがいいかもしれんな)

誤魔化すのが無理だ…と判断したフランジアは、お腹の痛みで集中出来ないながらも周りに目配せをしていた。

「少し…いいだろうか。」

作戦会議が終わり解散するという雰囲気になったころを見計らい、フランジアはそう切り出した。
フランジアへと全ての視線が向けられる。
すう、と一息吸い込んだ後フランジアは言葉を紡ぎはじめた。

「カンの良い者は気付いているかも知れないが、私にはすでに陣痛が起きている。
 戦が終わる頃には出産を終えているかも知れない」

ザワザワと周りが騒めく。
フランジアは咳払いをして再び言葉を紡ぎはじめた。

「ここでそれを告げるのには理由がある。
 1つは士気の低下を防ぐため兵たちに知られないように上層部だけで留めおきたいということ。
 もう1つは無駄に兵を死なせないようにとの願いだ。
 帝国の兵を根絶やしにするような戦をするとこちらの被害もかなりの物になる。
 戦闘を優位に進め、休戦後の交渉をこちら側主導で進める…という方針でいきたい。」

全員が首を縦に振ったのを見た後、フランジアは右手を威圧感を持つように前に差し出した。

「良かろう。出陣!」

おう、と掛け声を出し大将格の人物たちがテントを後にする。
残されたのはフランジアとグラウス、その部下だけだ。

「お疲れ様でした、フランジア様。後の指揮は私にお任せください」

グラウスがそうフランジアに話しかける。

「ありがとう。だが、腹の子の方はもう生まれる準備をしているらしい」

そうフランジアがグラウスに話し、すぐに「ぐうぅ」とか「うぅぅぅ…」と唸り声を上げる。

グラウスがフランジアの様子をよく見ると、股のあたりの服が濡れ椅子から床へと液体がポタポタと落ちている。
どうやら、出陣の号令を出すと同時に破水したらしい。

フランジアの出産は、いよいよ佳境に入ろうとしていた…


27 : 名無しさん :2021/01/31(日) 22:33:14
グラウスの部下が慌ただしく出産の準備を進める中、フランジアは妊婦鎧を脱いだ。
ようやく締め付けが楽になり、フランジアは一息ついた。

「グラウス…ふぅ、ふぅ。今から全ての指揮権をそなたに委ねる。
 私の出産に立ち合いながらでは難しいかもしれないが、宜しく頼む。
 それから…万が一にも本隊を襲われるようなことにならないよう秘密裏に退路も確保してくれ。」
「分かった。任せてください。貴女は子を産む事に専念してください」
「すまない…んぅぅぅぅ!ぁぁあぁぁ!」

フランジアとグラウスが会話を済ませ、フランジアは唸り声を上げた。
そうしておもむろに軍服のズボンの股を辺りをビリビリと破った。
脱ぐのすら億劫だ、すぐにでもいきんで出してしまいたい、だから破ってしまおう…と考えたのかもしれない。
羊水に濡れた秘部がキラキラと輝きながらズボンの間から見える。

「フランジア様、少し触診させていただきます」

部下がおもむろにお腹を触ったり膣内に指を入れて確認した。

「もう息んでもいいです。陣痛に合わせて息んでください」

部下の指示を待たずフランジアはいきみ始めていた。
だが、行軍の肉体疲労や軍議の精神的疲労がたたってかそのいきみは弱い。
だが、ゆっくりながらもフランジアの出産は進もうとしていた。


28 : 名無しさん :2021/02/22(月) 12:56:43
[ぁぁあぁぁ!グラウス、グラウス、んぅぅぅぅ!」

ここまですでに十分にお産の苦しみに耐えたのか、フランジアの胎児はあっという間に降りてきていた。
しかし、ちょうど頭が見えそうで見えないあたりで、突然、戦の音が聞こえてきた。

「予想はしていたが、やはり帝国軍が奇襲してきたか!」

指揮官として今すぐにでも戦場に立つべきなのに。今フランジアから離れては…
グラウスは一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、うろたえてしまった。


29 : 名無しさん :2021/02/23(火) 13:51:36
「私に構わず指揮をしろ……ふぅ、ふぅっ…んっ、グラウス。」

グラウスの動揺する様子を見たフランジアは呼吸を整えつつそう話す。

「ですが、フランジア…!」
「いいから指揮をしろッ!」

グラウスが心配そうに近寄ってきたのを見て軍服の胸ぐらを掴むフランジア。
しかし、すぐに手を離して苦しそうにお腹を撫で始めた。

「ふぅーっ…ふぅっ…すまない、声を荒げて。
 だが、ふぅっ、私のことを気にするな。
 この様子ではまだ産まれるには時間がかかる。
 それに、あのように戦闘の音が聞こえていると出産に集中出来ない。だから…」
「…分かりました、フランジア。決してここに通さないよう指揮をしてきます。あとは頼んだ」

フランジアの言葉に背中を押されるようにテントの近くで声を大きくして指示を与え始めるグラウス。
テントにいるのは助産の経験がある部下とフランジアだけになった。

「フランジア様…『産まれるには時間がかかる』と話してはいましたが」
「ふぅっ、ふぅっ…ああ。お前には分かるか。
 グラウスにはああ伝えたが、正直に言うなら今すぐにでも産まれそうだよ。
 けれど、ああ言わなければグラウスは私に付き添うだろうからな…今の状況では仕方、ある、ま、いぃぃぃっ!!」

話している途中で激しいいきみの衝動に襲われたのか叫びながら息み始めるフランジア。

「…そういえば、お前の名前を聞いていなかったな。お前の名前はなんという」

出産に向け色々と考える必要があったため、助産の経験があるグラウスの部下の名前を聞くことすら忘れていたことに気付いなフランジアは、
いきみを休むタイミングで今更ながら名前を聞いてみることにした。

「アレクシスと申します、フランジア様」
「そうか、アレクシス。良い名前だな。
 グラウスより先に子供を見る権利があるのだ。しっかりと助産してくれよ」

冗談混じりにそう伝えたフランジアは、すぐにいきみを再開する。
だが、胎児の頭はなかなか現れようとしなかった。


30 : 名無しさん :2021/02/27(土) 22:30:40
「んぁぁあ!何故だ…!何故出ようとしないのだ、お前はぁぁ…ッ!」

いきんでもいきんでもなかなか進まない出産に、苛立ちを隠せないように乱暴にお腹に語りかける。
理由はフランジアにもある程度理解している。

臨月の身体での無理な行軍による肉体的疲労。
そして軍議で毅然とした態度を取ろうと振る舞ったことと
いつ本陣が襲われるかもしれないという戦場の不安による精神的な疲労。
その二つが出産が長くなっている理由だ。

「フランジア様…一度立ち上がっていきんでみませんか?
その方が上手くいくこともあると助産したとき教わったので」
先程名前をきいたアレクシスにそう聞いたフランジアはゆっくりと立ちあがった。
そしてアレクシスの支えを借りながら、腰を上下に動かし強くいきむことが出来る体制を探し始めた。


31 : 名無しさん :2021/02/28(日) 09:20:23
ワァーッ!ワァーッ!
キィィン!キィィン!

遠くの方で兵士が争う声、金属音が聞こえる。
戦が本格的に行われているのだろう。
だが、フランジアはその戦に参加できない。
もう一つの戦い、世継ぎをこの世に生み出すという戦いに専念しているからである。

アレクシスの首に腕を回し胸に額をつけるような体勢で、腰をスクワットのように上下に動かしながらいきむフランジア。
どうやら重力も利用してなんとか生み出そうとしているらしい。

(本音をいうならアレクシスではなくグラウスに寄り添ってもらいたいのだが)

だが、グラウスには軍の指揮をしてもらう以上それは厳しい。
不安を抱えながらフランジアは必死にいきみつづける。

大きく破かれた軍服の股ぐらから、ようやく胎児の頭が少しずつ現れ始めていた…


32 : 名無しさん :2021/03/21(日) 17:49:18
「はぁっ、はぁ、っ…」

アレクシスの首に回した腕を外し、股ぐらの方へと向けるフランジア。
丸みを帯びた胎児の頭の先に触れるが、まだ頭は全て出ていない。

「ふぅっ…ふぅ…ぁぁ…」

疲労からか、一瞬気を失いふらふらと倒れそうになるフランジア。
それを後ろから優しく抱きとめた男がいた。夫であるグラウスである。

「奇襲を一旦退け、部下に指揮を任せてきました。
 また奇襲されるかもしれないですが、それまでは側に居させてもらいます」
「嗚呼…グラウス…グラウスっ…」

安心感からか、普段は流さない涙を浮かべ始めるフランジア。
だがすぐにキリ、とした顔になり指で涙を拭う。

そしてグラウスの首に腕を回し、額を胸に押し付け顔を赤らめながらいきみを強めた。
重力の力を借りるようにゆっくりと腰を上下に動かし、血が混じるような液体が床にしたたる。

「ンァァアアアア!」

最初にいきんでからどれくらいの時間が過ぎただろう。
いきみを強くしたことと、液体が潤滑油になったのが功を奏したのか。
フランジアの叫びと同時に、ようやく胎児の頭が抜け出したのだった。


33 : 名無しさん :2021/03/23(火) 07:31:30
頭がつっかえているだけなのか、そこからは驚くほど速かった。
重力が働いて、あっという間に胎児の上半身が丸ごと滑り出してくる。

あと一息、とこの場にいる誰もが思っていた。


34 : 名無しさん :2021/05/11(火) 23:47:22
「んぅぅぅああぁぁっ!!」

全てを振り絞るような叫び。
それと共に、世継ぎを受け止めようと頭や身体を支えていたアレクシスの手に支えられ足が完全に抜け出した。

ビチャビチャ!と残りの羊水があふれ出す。

「けふ、おぎゃあ!おぎゃあ!」

数秒置いて世継ぎが産まれた。

「おめでとうございます。王女でございます」

アレクシスが羊水などを拭い、
衣に包んだ世継ぎを、グラウスを背もたれのようにしながら座るフランジアに抱かせる。

「ハァ…ハァ…全く、手こずらせおって。だが…かわいい女の子だな
この娘にはどのような未来が待っているのだろうな」

そう呟くとフランジアが目を閉じる。
慌ててグラウスがフランジアの様子を確かめる。
すぅ、すうと寝息のような呼吸が聞こえた。

(余程つかれたのでしょう、少しお休みください)

それからしばらくはグラウスが中心となりフランジアの引き継ぎを行い戦は最小限の競り合いで終わりを迎えた。
帝国も「これ以上の戦は望まない」とのことにより、王国と同盟を結ぶこととなった。

後からグラウスは噂で聞いたのだが、帝国の皇妃が出産間近であり、皇帝自身も早く戦を止めたいという意思を持っていたそうである。
事実皇帝が帰国後すぐに皇子が産まれた、と国内外に宣言されていた。

(親というものは帝国であれ王国であれ変わらない存在なのかもしれない。)
グラウスは苦笑いを浮かべそう考えていた。


成長した帝国の皇子バーレイとフランジアの娘テレミアが結婚し、
2つの国を1つにまとめ上げる子供が産まれる事になるのだが、
それはまだ先の話だ…

処女王(ヴァージンロード)の出産 To Be Continued…?


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