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老婆は胎内回帰で新しい体を手に入れる

1 : 名無しさん :2020/02/09(日) 18:09:29
東京某所の病院で一人の老婆の命が尽きようとしていた
枯れ枝のようにやせ細り、しわくちゃな白髪の老婆が眠るベッドの周りには彼女の子や孫達が不安そうに彼女を見ていた

老婆の名は、千歳
とある名家の娘として生まれ、若いころは絶世の美女だった彼女も今は90歳の老婆
かつての面影はみじんもなく、ただ老化と無数の病に蝕まれた醜くやせ衰えた自分の姿を千歳は見るのは苦痛だった

(あぁ……ここまで醜く自分の姿を見たくもない……けど、これで楽になれる)

千歳は意識が朦朧とする中で自分の心臓の鼓動がもうすぐ、止まることを察していた
そして、うっすらと笑みを浮かべた瞬間、彼女の心臓の鼓動が止まると同時に彼女の意識は闇へと落ちた


そして、どれほどの時間が経ったのか……千歳は自分が見覚えもない部屋の中に立っていることに気付いた
それと同時に自分の体が透けていることにも気づいた

「私は死んだはず……成仏できなかったということか、おや?」

千歳は死んだことで先ほどまでの苦痛が消えていることに苦笑いを浮かべると自身の背後に倒れている女性に気づいた
歳は二十歳前後で、ほぼ全裸の状態で体中に体液や白いソレで汚れていた
そして、かつての若いころの自分によく似た美しい顔立ちに体形の女性だった

「おやおや、先ほどまで誰かに……そういうことかい」

千歳は部屋に倒れている女性を見て、ある結論に至った

『自分は彼女の子として、生まれ変わるのだと』

そう確信した千歳はそっと、半分透き通った自分の手を彼女の腹部に触れる
あっという間に千歳の体……正確には魂は彼女の胎内へと吸い込まれた

そして、千歳の目に移ったのはさきほどまで彼女の胎内に漂う卵子とそれに群がる精子の一つが受精する瞬間だった
「これが私の新しい体の元だね……私も入れておくれ」

千歳……いや、霊魂チトセは受精を果たしたばかりのそれに笑みを浮かべながら近づくと受精卵は彼女の魂を優しく受け入れ一つなった


これは老婆だった霊魂、チトセが体内回帰を果たすまでの物語である


元90歳の老婆千歳の魂、チトセがとある女性の子(女児)として生まれる変わる物語です

ちなみに、チトセの母親の設定は好きに決めても構いません
あと、チトセを身ごもった女性が流産や死産で転生に失敗する展開は無しでお願いします

リレーよろしくお願いします


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2 : 名無しさん :2020/02/10(月) 06:23:48
翌日、部屋の中で倒れていた女性は発見され、近くの病院へと救急搬送される。
命に別状はないが、精神に受けた傷が大きすぎて、彼女は昏睡状態に陥っていた。
数日間、受精卵になった私は彼女の卵管の中で柔らかい繊毛に運ばれていった。

「ここがこれから私の部屋になる場所ね。きれいに整えていて、過ごしやすそう」

卵管からやっと広い場所に出たかと思ったら、そこは暖かくて広い子宮の中だった。
弾力のある壁は荒らされた痕跡も無くキレイに滑らかで、私が彼女の初めてだと分かる。

「ここら辺がいいかな……10か月ほどの間、お邪魔しますね、お母さん」

そう挨拶をしたあと、受精卵の私は彼女――将来私のお母さんになる『須崎碧衣(あおい)』の子宮底に着床する。
胎児を育つための栄養を十分蓄えた子宮壁に深くのめり込んだ私の体は、今まで以上の速度で育ち始めた。

着床してから一週間、女子大生須崎碧衣の最終月経開始日から数えて、妊娠4週目。
昏睡状態から目が覚めて退院したお母さんはまだ、お腹の中に胎児…私が出来ていたことを知らない――。


3 : 名無しさん :2020/02/10(月) 20:51:16
チトセを子宮に宿した碧衣は、退院後失意の底に落ちていた
そして、自宅に帰る途中に、自分の身に起きた事を信じられずに呟く事しかできなかった

「あの人は私の愛していなかった……体目当てで私に近づいて……そして……!?」

碧衣は突然、自身が病院に運ばれる前に好きだった彼……初恋の人に半ば無理やり押し倒されて凌辱された事を思い出し、震えた
なぜ、この事を思い出したのかを碧衣は理解できなかった

それが、彼女の胎内にチトセを宿した事による物だという事も今は理解できる術は無かった


4 : 名無しさん :2020/02/10(月) 21:58:39
失意の底に落ちているせいか、それとも元よりそういう乱れやすい体質だったのか。
生理がなかなか来ないことに対して碧衣は妊娠の可能性を考えておらず、普段通りに通学していた。
本来ピークに達するべきのつわりも、授業中に眠くなるという当たり障りのないものだけだった。
彼女に気づかれずにチトセは胎芽時期を終え、まだ小さくてもちゃんと人間の形を持つ胎児に育った。

妊娠13週4日目――いよいよ胎盤が完成に近づいてきたこの日の深夜、チトセがいる子宮は激しく揺れた。
コンビニで夜勤でバイト中の碧衣が酔っ払いの客に絡まれ、腹パンをされてしまったのだった……


5 : 名無しさん :2020/02/10(月) 22:30:10
「お母さんになにがあった……それよりもこのままじゃ剥がれちゃうよ!?」

チトセは大きく揺れる子宮で出来かけの胎盤が剥がれてしまうのかという事に恐怖を感じていた
チトセの成長、生存のためには碧衣の子宮とチトセを繋ぐ臍の緒と胎盤が大事である
もし、ここに何があったら、碧衣は流産を起こし、チトセも彼女の胎内で死ぬこととなる

「あぁ、頼むよ母さん……産まれる前に流れて死ぬのは嫌だよ」


チトセの必至の願いが通じたのか、碧衣はこの時は流産を起こさずに済んだのだ

だが、同時に碧衣はこの時に自身の体にちょっとした変化に気づきかけていた
それは、酔っ払いの客が退店し、腹部の激痛と吐き気を感じつつも腹部を抱えながら立ち上がった時に碧衣は違和感を感じた

「お腹が少しだけど膨らんでいる気がする……それに生理も遅れている気がする?」

碧衣は腹部に鈍痛を感じつつも息を整えるとバイト業務に続ける
それでも自身の胎内の変化に彼女は気づき始めていた


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6 : 名無しさん :2020/02/11(火) 10:55:49
一週間後、学校もバイトもない休みの日の昼。
あの夜からもずっとお腹に違和感があったので、碧衣は念のため病院で診察を受けた。

「はぁ…まさか、あの人の赤ちゃんができただなんて…」
病院から出てすぐにあったド〇ールに入り、カフェインレスの豆乳ラテを注文し、
窓から一番遠いすみっこの席に座った碧衣は、お腹に手を当てて大息をついた。

「ごめんね赤ちゃん、ママ、ずっと気づいてあげれなくて」
意識して触ったらやっと確かな膨らみを感じるぐらいの、妊娠15週目のお腹。
この中には、もう体の大まかな組み立てがほぼ終わった赤ちゃんがいる……

「お腹、これから大きくなるよね…服も買い足さなきゃ、こう、腰まわりがゆったりな」
考えたこともなかった自分のマタニティな姿を想像して、少しはにかむ碧衣。
今も成長しているお腹の中の赤ちゃんは、自分をママとして選んでくれたんだ。
父親がなくてもちゃんと産んであげようと、豆乳ラテを一口飲んで彼女は思った。


7 : 名無しさん :2020/02/11(火) 13:40:31
碧衣が自身の胎内に宿った我が子を出産する決意を固めたのと同じ頃
碧衣の胎内では胎盤と臍の緒を通じて、碧衣から流れ込む栄養素にチトセは喜びを感じていた

「温かい物がお母さんから私に流れ込んでくる……お母さん、私大きくなるからもっと私に頂戴」

チトセは胎盤がほぼ出来上がった事で臍の緒から流れ込む栄養素が増えた事に心地よさを感じ、小さな手足を揺れ動かす
この時、碧衣からチトセに流れ込んでいたのは栄養素や酸素以外に、霊魂の情報を混ざっていた
前世で90年という名がい年月と病で腐食し切っていた彼女の魂は、碧衣の魂の欠片と混ざりあい、碧衣の子の魂に作り変えられていく

けれど、当のチトセはそれに気づかず、碧衣の母胎から流れ込むそれらの心地良さに酔いしれていた

そして、それから数週間がたった妊娠18週目
碧衣は姿鏡の前でお腹が目立ち始めた下着姿の自分を見つめていた

「マタニティウェアーって、服だけだと思っていたけど……下着も専用の物を付けないといけないよね」

碧衣は普段使っているのとは別の妊婦用下着に身に付けた自分を面白そうに見つめていた
そして、そっと胎内に宿った我が子――チトセによって膨らんだ腹部を優しくなでた


8 : 名無しさん :2020/02/12(水) 10:01:29
碧衣が腹部を優しくなでたのと時を同じくして、羊水の中でチトセは好奇心にかられていた。

「やっぱり、また部屋が広くなった気がする……」

お母さんが用意してくれた『赤ちゃんのお部屋』の中でぷかぷか浮いているチトセは、気づいたんだ。
自分の体はもう、受精卵として卵管から放り出された時に見たこの部屋の広さよりもでかくなったはず。
それなのに、自分の体と部屋の壁の間にはずっと、ゆったりとくつろげるほどの広さを保っている。
これはきっと、体が大きくなるのに合わせて、部屋そのものもだんだん広くなっているに違いない。

「あれ、よく見たらそこの壁なんか動いてる…お母さん?」

ふと、チトセは目の前の子宮壁がすこし自分に近くなってきていることに気づく。
ぽっこりと出ているお腹をなでる碧衣の手の動きにより子宮がわずかに変形したからだ。

「お母さんの手だ…この距離なら、ちょっと頑張れば届くのかな…」

目の前の柔らかそうな壁に向かってチトセは、最近しっかり動かせるようになってきた手を伸ばす。


9 : 名無しさん :2020/02/12(水) 20:01:27
チトセが手を伸ばすのに合わせて子宮壁もチトセに迫る
そして、チトセの小さな手は碧衣の子宮壁に触れると温かみがチトセの発達途中の身体に直に伝わる

「これがお母さんの胎内……すごくあったかい」

そして、チトセが子宮と羊水の温かさに心地よさを感じたのと同じ頃、
碧衣も自身の胎内で何かが動くのを感じ、とっさに膨らみかけの自身の腹部を凝視した

「うそ……動いた? これが胎動……うふふ、私のお腹の中は気持ちがいいの?」
碧衣は初めての胎動に驚きと好奇心を感じ、ふたたび自身の腹部を優しくなでる


10 : 名無しさん :2020/02/12(水) 22:23:01
羊水に包まれて浮いているからか、碧衣の胎内にいるチトセにはお母さんの声はくぐもって聞こえた。
碧衣の手のひらを受けて再び迫ってくる子宮壁に、チトセもまた押し返すように小さな手に力を入れる。
今度は、お母さんに伝わるように、『心地よいと感じている』の気持ちをのせて。

「…!また動いた…もしかして、応えてくれたの…?」

くぐもった立体音響みたいな碧衣の声とともに、へその緒を通じて快楽物質がチトセに流れ込む。
その影響で気持ちがよくなったチトセは、お母さんが喜びを感じているのを全身で実感し、失神した。


「……ん…なんだこれ、ナニコレ、なんか固いのにぐりぐりされてる」

ふっと意識が戻った時は、チトセは子宮壁の一部が外から押されたように変形してることに気づく。

「お母さん、寝ているの…?何か変なのがお腹に当たってるよ…?」

重力がかかる方向からして碧衣は今は仰向けている姿勢になっていることがわかったチトセは、
寝ている(?)お母さんを起こすために、ぐりぐりされて変形した場所の子宮壁を足蹴にした。


11 : 名無しさん :2020/02/13(木) 06:15:39
チトセが子宮壁を足蹴にしたのと同じくして、妊娠21週目に定期健診を受けていた碧衣はそれを胎動として感じた

「あ……動いた。驚かせちゃったのかな?」
「うふふ、それはあなたの子が順調に育っている証よ」

碧衣の腹部に器具を当てながら、彼女の担当医はそう言って、エコー検診の画面を指差した
そこには、彼女の子宮内に宿る胎児――チトセがしっかりと映っていた


12 : 名無しさん :2020/02/13(木) 11:36:29
「これが、私の赤ちゃん……頭が大きいけど、ちゃんと人間の形だ…かわいい」
「見た目の異常はなし、数値なども全部21週胎児の平均値ぐらいね。とても健康な赤ちゃんよ」

お母さんと、もう一人、知らない声が聞こえる……話の内容からして、お医者さんなのかな?
そうか、検診を受けているからお母さんのお腹がぐりぐりされていたんだ。と気づくとたんに
早とちりしたのとエコーに全身が見られたの二重の恥ずかしさに、チトセは思わず身をすくめた。

「あ、なんか丸まった…見られるのに気づいたのかな?」
「さっきの胎動も比較的に大人しいし、物静かで恥ずかしがり屋の赤ちゃんね」
「えっ…あれで大人しい…なの?割とえい、って感じに蹴られたと思うけど…」
「ふふ、まだまだこれからなのよ。今しか味わえないから、思う存分味わってね」

当然といえば当然だが、その動きもモニターに捕捉され、話のタネにされてしまう。
気まずさに身を寄せ合いつつも、お母さんと先生の会話にチトセはあることに気づいた。

「――21週目、だって? 私、三週間も意識が飛んでいたの…?」

これも『魂がだんだん碧衣の赤ちゃんの魂に作り替えられていく』の影響だということを、
胎児の身でありながらこうして意識して身の回りを知覚できるチトセは理解できなかった。


13 : 名無しさん :2020/02/13(木) 19:57:04
その日の晩、碧衣は寝室のベッドの中でこれからの事を考えていた

「本当なら、あなたの事をパパに教えるべきなんだけど、あの人と連絡がつかないの……」

碧衣は膨らんだ腹部を優しくなでながら、胎の子の父親である彼の事を思った
体目当てで私に近づいたとはいえ、あの瞬間まで彼を愛していたのは事実で、彼と連絡が取れなくなった事は悲しいとしか言いようがなかった


14 : 名無しさん :2020/02/14(金) 06:02:14
「もっといい暮らしさせてあげればいいのに…検診、あんなにお金かかるだなんて」

お腹の中で黙って聞いてれば、今度はお母さんはお金の問題についても悩んでいた。
確かにそうね…女子大生の身で妊娠して、一人暮らしで収入はアルバイト頼りだもんね…
前世の私なら何とかしてあげれたかもしれないけれど、胎児になった今では……
大きくなるのが必死で、お母さんのお腹の外には今の今まで気にしてはいなかった。
将来私のお家になるここは何処だろう…日本であることだけは確かなんだけれども…

とにかくこのまま落ち込んではだめだ、何とかしてネガティブな考えから目そらさなきゃ。
そう思って私はそっと手を伸ばし、子宮壁を隔ててお母さんの手のひらを触り返した。

「ぁ…もしかして、元気づけてくれてるの?…いい子ね、大丈夫、ママはもう決めたから」

そういえば、今までくぐもっているお母さんの声も、今日はハッキリと聞こえた気がする。
それと、今日はじめてお母さん以外の声が聞こえたね。お医者さんの声。こっちはくぐもってるけど。
記憶が抜けたあの3週間で私の耳…いや、お腹の外への知覚能力が発達した…って言っていいかな。

「ママ、実家に帰るね。きっとカンカンに怒られるだろうけど…背に腹は代えられないわ」

うとうとしながらそう口にして、私が居るお腹を優しくなでつつお母さんは眠りに落ちた。
お母さんの実家か…私の家族、どんな人がいるかな……怒られると言ったし、厳しいのかも……
暖かい子宮の中であれこれと空想に思いをつのらせたら、なんか眠くなってきた……
今度もまた、何週間か飛んじゃうのかな……


15 : 名無しさん :2020/02/14(金) 19:58:15
チトセが再び意識が戻ったのはそれから1週間後の事だった
意識が戻ると同時に、碧衣の声がチトセの耳に入ってきた

「お母さん、あの人と連絡がつかなくなったけど、お腹の子に罪はないのよ」
「何を言っているの!! 大学生のあなたがお腹の子を産み落として育てられるはずがないじゃない!!」
(お母さんとわたしの祖母が言い争っている……)

チトセは碧衣が自分の祖母となる女性と言い争っているのだとすぐに理解した
きっと、自分が産まれた後の事で口論になっているのだという事もすぐに分かった


16 : 名無しさん :2020/02/15(土) 10:27:48
バリバリ関係者でありながら、さすがにこればかりは結論が出るまで待つしかない。
「おい、ババアの怒鳴りこっちまで届いてるぞ、うるさいから何とかしろ」
「っ!?だ、だれ…?」
突然、お母さんのお腹の中で頬杖をついて困ったわのポーズをとる私に、誰かが声をかけた。
「…ああ、そういやオメーずっと寝てたっけ」
びっくりしてきょとんとする私に、まるでこちらの様子が見えるかのように語りかけてくる。
お母さんの声も、お母さんと言い争っている祖母の声でもなく、言葉遣いが荒い女の人の声だ。
「いとこだ、いとこ。もうじき生まれるから、あたいがオメーの従姉な」
私の従姉だと自称するその声は、耳で聞こえるのではなく頭に直接語りかけてくるのだった。

話を聞いてみたら。彼女のお母さんは私のお母さん須崎碧衣の4つ上の姉『相川朱音』。
里帰り出産のため今は相川家から実家に帰省して、陣痛待ちの毎日を過ごしているらしい。
結婚後は多少は疎遠になっていたが、妹の碧衣…私のお母さんとは仲良し姉妹だった。

そんな朱音伯母さんが口添えしてくれたら、お母さんも怒り心頭の祖母に許してもらえるかも……?

私は、騒音を消すためこちらと利害一致している従姉に、そうするように働きかけることをお願いした。


17 : 名無しさん :2020/02/15(土) 12:07:50
「わかったよ、でも……母さんに直接意志を伝えるなんて真似は無理だからな」
「分かっているわ。出来る限りの事でもいいから、叔母さんに伝えて……と」
「前世だった頃の名でサヤと呼んでくれ。お前の名は後で聞く……ちょっとばかし動けばお袋も感づくか」

そう言い残して、従姉――サヤの声が聞こえなくなった
その間にも祖母とお母さの言い争いは続いていた

「そもそもそこまで大きくなるまで妊娠した事にきづけなかったの?」
「つわりを感じなかったの……」
「お母さん、それ以上は止めなさいよ。私も碧衣も私達の子にも悪いからさ」

お母さんや祖母、それにサヤとも違う女の声が割り込んできた
きっとこの人が朱音伯母さんなんだろう


18 : 名無しさん :2020/02/15(土) 17:28:00
お腹の子に悪いから、と朱音伯母さんに言いくるめられた祖母はすっかり委縮てしまい、
結局、お母さんの粘り強さに根負けした形で、祖母とお母さん言い争いは終わりを告げた。
それだけ初孫って特別な存在だよねー、と前世も祖母になるまで生きたチトセは思った。

「ありがとうサヤちゃん、助かったよ」
「これくらいなんてことないさ…と言いたいところだが、そうも言ってられないようだ」

気のせいだろうか、さっきに比べるとサヤの声が少し遠い感じがして聞きにくくなった気がする。

「ちょっとばかしは平気だろと思ったがな。今のでおっぱじめたらしい」
「始めたって…もしかして、朱音伯母さんが?」
「ああ、この調子だと早くも今晩あたりで産気づいちまうだろうね」

その理由を知ったチトセは、あまりの衝撃に碧衣のお腹の中でビクッと驚いた。
普段が大人しい分いきなり大きく動かれて思わず「わっ」と声を漏らす碧衣だったが、
この胎動をタネに久しぶりに会った姉妹は妊婦談義に花を咲かせ、やがて日が暮れてきた。


19 : 名無しさん :2020/02/16(日) 01:13:00
「本当につわりを感じなかったって羨ましいわ」
「姉さん、吐き気に苦しんでいたって言っていたし、妊娠した事に驚いていたわ」

日が落ちるまで妊婦談義に花を咲かせていた碧衣と朱音だったが、碧衣はふと朱音は不自然に腹部を撫でている事に気づいた
そして、彼女の顔が苦痛に歪んでいる事にも

「お姉ちゃん?」
「来たかも……あぁ!?」


20 : 名無しさん :2020/02/16(日) 09:16:54
「やだ、やだぁ!あっ、も、もう産むのっ、やらああぁっ!!」
きっと相当痛いだろう、身の毛もよだつような朱音伯母さんの本能むき出しの喘ぎ声は
私がいるここ…祖母により別室に移動されたお母さんのお腹の中にまで聞こえてきた。
「お腹の子思ってしっかりしなさい、朱音!あなたその子の母親になるでしょ?」
「だってぇ、こんなに痛い、なんて、聞いてなっ、あ、あっ、あああっ!!」
まあ祖母の声も聞こえるから、ただ防音性が低いだけかもしれないが…木造建築だし。
「お姉ちゃん…」
口ごもったつぶやきとともに、へその緒を通じてお母さんの感情が流れ込んでくる。
何も手伝ってやれない無力感と、いつか自分もそうなる恐怖に駆られている……
……いけない、こっちまでネガティブな気分になってきた……

「サヤちゃんに名前教えそびれちゃった…お互い生まれたら新しい名前になるけど…」
これから産まれる、とサヤちゃんが何か兆候に気づいてから、彼女との交信が途絶えている。
そもそも、双子ならともかく、朱音伯母さんのお腹にいる彼女と交信できた時点で変だよね…?
話しかけてきたし、もう生まれそうとわかっちゃうし…サヤちゃん、実はエスパーだったりして?

まだ23週目弱で発展途上の脳を使いすぎたのか、あれこれ考え迷うチトセは急に眠くなってきた。
今度チトセが目を覚ましたときは、きっとサヤはもう朱音伯母さんのお腹から産まれたのだろう。
新たな人生を歩み始める従姉は『お前の名は後で聞く』という約束を憶えているのだろうか……?
母体の影響でネガティブな気分になっているまま、碧衣の子宮の中でチトセは眠りに落ちた。


21 : 名無しさん :2020/02/16(日) 11:10:42
チトセが眠りに落ちて数時間後、朱音は無事元気な女の子を出産した
「頑張ったわね……女の子よ」
「お姉ちゃん、おめでとう」

出産で疲れ切った朱音に産まれたばかりの娘を抱かせる祖母を見て、碧衣は思った
(どんな事があっても絶対にお腹の子を手放さない……一人になってもこの子を育て上げるわ)

そう思いながら、膨らんだ腹部を彼女は撫でた


22 : 名無しさん :2020/02/16(日) 16:05:51
結局、お腹の赤ちゃんが生まれるまで援助してもらえるように祖母から言質をとって、
お母さんはあれからさらに数日間実家で過ごした後、一人暮らしの生活へと舞い戻った。

妊娠27週目。
来週から妊娠後期に入るってことで、行きつけの産院でお母さんは妊婦検診を受けた。
身体測定そのほかもろもろの検査を受けた後、いよいよエコー検診の時がやってくる。
満を持してチトセは、エコーモニターに映された自分の今の姿をお母さんに見せた。


23 : 名無しさん :2020/02/17(月) 19:37:28
「まぁ、理想的に育った27週目の健康な胎児ね……逆子にもなっていないみたい」
「本当ですか?」
「そうよ……独り身の女性だと胎児の成長に悪影響が出ている事があるけど、あなたの赤ちゃんは理想的に健康に育っているわ

碧衣は担当医が指差すエコー画面を注視していた
そこには、まさに健康的な胎児――チトセが彼女の子宮の中で元気に動いていた

「それにこの子、女の子かもしれないわね」
「そうですか……名前、そろそろ考えなくちゃ」
(お母さんの先生の言う通り、私の身体は女の子だよ……名前楽しみに待っているよ)

チトセは子宮越しに自分の来世の名前がどうなるか楽しみに思いながらも温かい羊水の中で浮かんでいた

そして、この時チトセも碧衣も一人の男の存在を半ば忘れていた
碧衣を凌辱し、自身の子種を彼女の胎内に放って、チトセの新たな体となる胎児を宿らせた男、チトセの父親の事を……


碧衣とチトセが彼の事を再び認識したのは、妊婦健診から一か月後の妊娠31週目の事だった
その日、碧衣の家に一人の妊婦が彼女の家を訪れた事から始まった
年は碧衣よりも四つほど年上で、見た目も彼女と同じ位の妊婦の彼女に碧衣は戸惑った

「ど……どちら様ですか?」
「私は久崎四音……浜崎徹を知っていますよね? あなたの胎の子の父親を」
「彼の名を知っているの!?」
(この声……知らない人だ……誰だろう?)

碧衣は、初恋の人であると同時に自分の凌辱した男の名を出した妊婦に大きく膨らんだ腹部を抱えて後ずさりする
それに対して、チトセは魂の変化の影響か、来客の妊婦に純粋な興味を示していた

「知っているも何も……浜崎徹は半月前に自殺した私の恋人であると同時に私の胎の子の父親よ」
「そんな……うそでしょう」
「嘘じゃないわ……彼の遺品のノートには彼が抱いた女の名前が記録されていてね。その中には、あなたと私のように彼の子を妊娠した女性もいるわ」


24 : 名無しさん :2020/02/19(水) 04:47:31
あれから数時間をかけて、久崎四音と名乗った女性から詳しい事情を聞くことになつた。

まず、彼女は碧衣の初恋の彼…浜崎徹の自殺死体の第一発見者で、当時の同居人。
遺言書には「たくさん孕ませた責任だ、遺産を子供らに分配する」と書かれていたので、
彼女は彼が抱いた女たちの名前が記録されている遺品のノートを頼りに人を探していた。

そして彼女は現在妊娠25週目で、お腹の見た目が碧衣と同じ位なのは、中に二人も入っているため。
母体の年は碧衣よりは上だが、孕ませたのは碧衣のほうが先なので、胎の子はチトセの弟妹にあたる。

「腹違いの弟妹、しかも双子か…両方ともに弟?それとも妹?もしかして一人ずつ?」
これも魂の変化の影響か、チトセは、今日初対面の久崎四音の胎内にいる双子ちゃんに興味津々だった。

「話しかけたら返事してくるのかな?…なんちゃって、エスパーでもないし」
そう自分に言い聞かせつつも、2か月ほど前にお母さんと一緒に実家に戻った時に
当時まだ朱音伯母さんの胎内にいた従姉となぜか交信できたことを思い出すチトセ。

「…ちょっと、試しに話しかけてみようかな?あの時みたいに、交信できちゃったりして」
久崎四音の喋り声が聞こえる方に向かって、碧衣の胎内でチトセは目を閉じて精神を集中した。


25 : 名無しさん :2020/02/19(水) 21:05:26
するとチトセの頭の中に小さな声が二つ響いてきた

「あの人のお腹に私達のお姉ちゃんかお兄ちゃんがいるのかな?」
「きっとそうだよ……もしかしたら、気づいているかもね?」
「うん……二人共妹ね。でも、気付いているって?」

四音の双子もチトセの存在に気づいたのか、好奇心全開にチトセに呼び変える
その双子達に若干引きつつもどうして、自分に気づいているのか気になった

すると双子の妹達は続けて言う
「だって、パパが同じなら私達は心が通じ合うみたいだよ」
「ママがパパが同じ別のママに会った時、兄弟や姉妹と会話できたんだよ」
「パパが同じ……だから、サヤちゃんと通じたんだ」

チトセが声の秘密に答えが出た頃、碧衣と四音も会話を続けていた

「あの人ノートに書かれていた女性で妊娠していたのは、24人……誰も流産したり、中絶していないわ」
「24人……そんなにもあの人は自分の遺伝子を女性に残したというの?」
「そうね……一番最初に出産した人の話じゃ2年前から、あの人は自分の種をばらまいていたようね」

四音は一息つくと言葉を続けた

「中には孕んだ女には、18歳ぐらいの女子高校生から29歳の行き遅れまで手広く女に手を出していたわ」
「その中には、すでに身籠っていたもしくは、出産していた人も」
「うん……それにあの人が死ぬ一週間前くらいから言っていたの……俺の血を引く子達の声がずっと頭に鳴り響き続けているって」


26 : 名無しさん :2020/02/19(水) 22:09:03
その夜、四音から真実を知った碧衣は、帰省時にもらった朱音の連絡先に電話した。
なぜなら、朱音の名前……旧姓の須崎のままの『須崎朱音』も、ノートにあったからだ。

『浜崎徹』の名を出してみたら案の定、生後2か月強の朱音の赤ちゃん『相川夕里』も
実は彼の子供で、相川家の人は何も知らず出来ちゃった婚だと信じていた、らしい。
(ちなみに名の由来は『里』帰り中の『夕』方で陣痛が始まったからだそうだ)

さらに遺産のことを話したら、今の『相川朱音』としての幸せを大事にしたい朱音は
夕里ちゃんの分け前をそのままシングルマザーの碧衣に譲ると、姉としてそう決めた。

(見たこともないお父さんだけど、相当のボンボンみたいだし……もしかしてもしかすると
お屋敷とか使用人とか色々もらえて、お母さんはセレブに、私もお嬢様みたいな生活に…?)
生まれた後の自分に思いを馳せながら、心躍るチトセは思わず碧衣の胎内で踊りだした。


27 : 名無しさん :2020/02/21(金) 11:04:29
「んっ…ごめんね、ママ今そんな場合じゃないの」
お母さんを困らせないよう普段は大人しく体内に丸まっているチトセが急に動き出しても
碧衣はただ胎動をなだめるようにお腹を撫でるだけで、それ以上の反応を示さなかった。
浜崎徹との死別を受け入れるまでは、まだ少し時間がかかるかも。

妊娠33週目、一人前に膨らんでいる妊婦腹を抱えて碧衣は浜崎徹の葬式に参列した。
お腹の中の赤ちゃんが霊に連れて行かれるから妊婦はNGとかそういう迷信もあるが、
悲しい気持ちの前にはそういうのはどうでもよかったようで、碧衣はいっぱい泣いた。

大事な人と最後のお別れをしたこの日、碧衣はお腹の赤ちゃんの名前を決めた。
苗字はそちらの家族の圧力で浜崎にするのを断念し、自分と同じの『須崎』にして、
何時までも彼を忘れないように下は彼の『徹』を逆さ読みにして『琉音(るおと)』。

『須崎琉音』……前世ではチトセという名の魂は、新しいお母さんにそう名付けられた。


28 : 名無しさん :2020/02/22(土) 18:34:08
新しい名前をもらったからか、碧衣の胎の子はあれから目に見えるほど成長していき
胎児のに合わせて日に日に彼女の子宮が拡張され、外から見えるお腹が膨らんでいく。
睡眠と覚醒を繰り返す中、胎内にいる魂もだんだん自分はチトセだったというのを忘れ
身も心も、これから生まれる『シングルママ須崎碧衣の娘・琉音』に変化していった。

「ふぁあ〜よく寝た…今お腹の外は何時だろう?ママ、教えて。ママ〜」
おめめバッチリ覚めてしまった琉音は、ママを気を引こうと子宮の中でうごめく。
「あら、もうお昼寝おわった?もうちょっと待っててね琉音、今日はハンバーグよ」
ひき肉をこねるのを片手に切り替え、エプロン越しに胎動するお腹をなでる碧衣。
35週目で臨月まであと2日、過去としっかり決別した彼女は今は幸せの最中にいた。


29 : 名無しさん :2020/02/24(月) 00:56:07
その日の翌日、自宅のインターホンが鳴ったので、碧衣がドアを開けるとそこには18歳くらいのまだ高校生ともいうべき少女が立っていた
そして、彼女の腹部は大きく膨らんでいた……まるで臨月まで育った胎児が入っているように

「あなたが須崎碧衣さんですか?」
「そうですけど、何の用ですか?それにそのお腹……もしかして」
「はい……私のお腹には臨月まで育った赤ちゃんがいます……徹さんの赤ちゃんが」


30 : 名無しさん :2020/02/24(月) 13:13:26
「お願い、助けてください…もう、立っているのもやっとなんです……」
そう言い残して、名乗りもしていない身分不明の少女は崩れるように倒れた。
「ちょっと、大丈夫?」
「……」
心配する碧衣だが、少女からの返事はない。気を失っているようだ。

臨月と言ったら、つまり碧衣とほぼ同時期に抱かれた、ということになる。
四音とは葬式以来連絡もしていないし、やっと新しい生活を始めると思ったが、
徹の忘れ形見を孕んでいるからか、見知らぬ人なのに碧衣は少女を妹のように感じた。

まさかこれからこの少女の分娩の手助けをすることになるなんて、この時の碧衣は思いもしなかった……


31 : 名無しさん :2020/02/27(木) 19:49:54
チトセいや、琉音は碧衣の胎内から外の様子をぼんやりとだが、認識していた
「お母さんが見つけた人っては私と同じパパの子なのかな……聞こえる?」

琉音が意識を失った少女の腹部にめがけて意識を集中させると少年の声が琉音の頭の中に響いた
「この声だれだよ……思ったけど、もしかして母さんの前に立っている妊婦の胎の子か?」
「そうだよ、声が聞こえているなら私とあなたは血が繋がっているね」

琉音が嬉しそうにいうと少年……少女の胎児がバツが悪そうに言う
「そういう事になるな……しかし、随分とお調子者の妹だな」


32 : 名無しさん :2020/02/28(金) 09:47:02
「お調子者って…えっ?どういうこと?」

バツが悪そうな返事に不思議に思った琉音は小首を傾ける。
すると頭のこめかみ辺りが子宮壁にぶつかり、胎動に驚いた碧衣がすぐさまお腹をさすった。

「さぁ、自分で考えれば?こっちはそれ所じゃ――」

そっち側に何が起きたのか、会話の途中でバツが悪そうな声が唐突に切れる。
代わりに聞こえるのは、碧衣のお腹の外からの声。ぼんやりとした少女の声だ。
何を言っているの、と今度は胎動にならないよう気をづけて琉音は耳を傾いた。


33 : 名無しさん :2020/02/28(金) 19:52:33
「私……入院していた病院から逃げ出してきたのです」
「逃げ出してきたって……どういう事なの?」

碧衣の質問に少女は答えた
少女の名は波崎橙子……18歳の女子高校生だ
徹と出会い、彼に初めて抱かれたのは碧衣が強引に凌辱された半年前からだった
徹は最初は彼女に優しくしてくれたが、次第に彼女の肉体目当てに彼女も凌辱し始めた
橙子は徹に自分を愛していない、身体目当てだと思いながらも手を切る事ができず、ただ肉欲の捌け口にされる日々を過ごしていた

そして、徹に飽きられて連絡が取れなくなってから数か月後に彼女は妊娠している事に気づいたのだ
無論、親にも気づかれて中絶する事を進められるもなぜか、中絶に強い拒否感を感じた末に出産後に養子に出す事にしたという

「最初は産むつもりもなかった……産んでもすぐに他人の手に渡る異物と思っていました」
「じゃあ、なぜ……病院から逃げ出したの?」

碧衣の質問に橙子は顔を曇らせた

「私怖くなったの……私が出産した後、胎の子がどうなるのかを」
「もしかして、罪悪感を感じたの?」
「はい……私が他人にお腹の子を託したせいで、その子が不幸になるんじゃ……う!?」

橙子は突然、腹部に激痛を感じるとその場にうずくまってしまった

橙子が碧衣の家に到着した直後から陣痛が始まっていた
そして、この時、橙子の子宮口がどんどん開き始めていたのだ

「お……お腹が……あぁ!?」


34 : 名無しさん :2020/02/29(土) 16:45:26
水音を立てて、お腹を抱えてその場にうずくまった橙子はそのまま破水する。
少しピンク色が混じった半透明の水たまりが、碧衣の家の玄関にできてしまう。
救急車を…と碧衣は一瞬思ったが、病院から逃げてきた橙子はそれを拒むだろうし、
出てくる羊水の勢いからしてたぶん、今から呼んでも娩出に間に合わない。
「どうしよどうしよ…そうだ、確かに本棚には…」
いきなりすぎた事態に少し取り乱してはいたが、碧衣は思い出した。
一人暮らしだから、万が一自宅出産を強いられる場合に備えて、参考書を買っていたのだ。
一回読んだだけで本棚にしまったままだけど、あの参考書はきっと何とかしてくれる…!
そう思った碧衣は、自分も身重な体であることを忘れて、急いでリビングへと走り出した。


35 : 名無しさん :2020/03/02(月) 19:21:45
碧衣は橙子の胎内から漏れ出した羊水がピンク色だった事に不安を感じた
(もしかしたら、子宮内で出血しているのかもしれない……あった)

碧衣は出産の参考書を本棚から取り出すと橙子の元へ戻ると彼女を家の中へ入れた


36 : 名無しさん :2020/03/08(日) 18:29:43
それから時間があまり経たないうちに橙子の陣痛は最大まで強くなり、彼女の体が胎内の赤子を生み出そうする
橙子はただ、強い陣痛にもがき苦しみながらも必死にいきむしかできなかった
そして、碧衣はうめき声をあげる

「あああああ、中身がでちゃう!?」
「がんばって、お腹の子を抱きしめたいから病院から逃げ出してきたんでしょう!?」


37 : 名無しさん :2020/03/08(日) 21:11:43
>>36はミスです

それから時間があまり経たないうちに橙子の陣痛は最大まで強くなり、彼女の体が胎内の赤子を生み出そうする
橙子はただ、強い陣痛にもがき苦しみながらも必死にいきむしかできなかった
そして、碧衣はうめき声をあげる橙子の手をつかんで彼女を励ましていた

「あああああ、中身がでちゃう!?」
「がんばって、お腹の子を抱きしめたいから病院から逃げ出してきたんでしょう!?」


38 : 名無しさん :2020/03/10(火) 08:42:10
そうは言ったものの、橙子の状況はあまり良いとは言えない。
ピンク色だった羊水はだんだん血の色に染まり、子宮の中に何やらの傷ができていることがわかる。
本来ならすぐにでも救急車を呼ばなければならない事態だったが、橙子はそれを拒んでいる。

そして、いよいよその時が来た。
「あああああああああああーーーーーーーーー」
断末魔のように上げた橙子の悲鳴とともに、母の血にまみれたの児頭が彼女の産道から出てきた。


39 : 名無しさん :2020/03/10(火) 23:06:30
碧衣は羊水と血で濡れた児頭をみて、やはり子宮が傷ついていると確信した

「橙子さん頭が出てきたわ…でも、血が出ている、救急車を!」
「だめ、そんなことをした私の赤ちゃんがあああああああああああ!?」

橙子は自分の子供を渡したくないと思うあまりに首を横に振ろうとした瞬間、のけぞると同時に胎児の肩が産道から出てきた


40 : 名無しさん :2020/03/13(金) 22:02:51
碧衣は慌てて両手で皿を作り、滑りだした橙子の赤ちゃんの頭と肩を受け止める。
すると、生まれたばかりの男の子はすぐにおぎゃあと大きな産声を上げた。
それはとても生命力のあふれる声で、隣人まで聞こえてしまうほどだ。

近所付き合いが良いから、碧衣が自宅で急産でもしたのかと一時大騒ぎになってしまった。
結局、碧衣が阻止しようとしたが隣人たちに救急車が呼ばれて、橙子と新生児は回収された。
なんとも後味が悪かったが、橙子の出血状況はやはり治療を受けさせたほうがいい。
母体にとって出産は命を失う危険性があるという恐怖が、碧衣の心に深く刻んだ……
そして……

「いよいよね…この子の、出産予定日」
大きいお腹をさすりながら月めくりカレンダーをめくったら、碧衣の視界に『予定日!』の文字が現れる。
橙子ハプニングからおよそ二週間。臨月を迎えた彼女はついに、予め書いておいたそれを見ることができた。


41 : 名無しさん :2020/03/15(日) 22:35:37
それと同じ頃、彼女の胎内に満たされた羊水に浮かぶ琉音も自分が産まれる時が近づいている事を悟っていた

「そろそろ私も産まれる時が近い気がする……お母さん」

琉音はもうすぐ母の顔を見る事が出来る事に喜びを感じつつ、その時を待っていた


42 : 名無しさん :2020/03/16(月) 04:40:55
「それにしても…お母さんのお腹の中、もうこんなに狭くなってきたね…」

呟きつつ琉音は胎脂を纏った手をそっと伸ばし、自分との間には
もうほとんど距離がない碧衣の子宮を内側から撫でるようになぞった。
最初はあれだけ広々としたのに、と感慨にひたる。

「出口の位置は…うん、問題ないね」

額あたりの感触で、琉音は子宮の出口がそこにあるのを確かめた。
自分の体は逆さ吊りみたいにお尻のほうが上になっていることを再認識する。
あとは、この出口が開くのを待って、お母さんの子宮から生まれるだけだ。


43 : 名無しさん :2020/03/18(水) 19:14:29
そう考えた瞬間、琉音を包み込む羊水がゆっくりと泡立ち、子宮壁が痙攣をし始める
琉音はそれが出産が始まる前兆だとすぐに分かった

「うそ……もうそろそろ始まるの!?」


44 : 名無しさん :2020/05/25(月) 05:40:20
羊水が泡立って子宮壁が痙攣をした数秒後。
「痛っ…?」
子宮の中に響く碧衣の辛そうな声と共に、琉音は子宮が何かに押された感じがした。
急に痛み出すお腹に驚かされた碧衣は反射的に自分のお腹に手を添えた…のようだ。
「落ち着いて、予定日まだだから、きっと、違うから」
子宮の中にいる琉音の頭に、独り言みたいに口ごもっている碧衣の呟きがこだまする。
そのままおよそ一分間が過ぎ――
「収まった、みたい……これが噂に聞くニセ陣痛か…びっくりしちゃった」
押される感じは摩られる感じに変わっていき、碧衣の声も穏やかになっていった。

いや違うそうじゃない!ママの方こそ誤解してた!もう出産が始まろうとしてる!
などなどを必死に訴えようと、やわらかい状態に戻った子宮壁に琉音は背をもたれる。
「あらあら、この子ったら……いい子だから大人しくして、ね?」
しかし子の心親知らず、琉音のメッセージはただの強めの胎動だと思われてしまった。

あれからおよそ一時間後。
胎児の身では打つ手がないと悟った琉音は、碧衣がこれから受ける出産の苦しみを
少しでも軽減するように身を丸くして、彼女の子宮の中で大人しく待っていたら。
二回目の陣痛が、一回目の時と同じく前触れもなく碧衣を襲った。
昼ご飯を作ろうと、彼女がフライパンに油を入れようとしている最中に。


45 : 名無しさん :2020/05/27(水) 06:34:50
「ぁ、ぅっ...」
声にならない声を漏らしつつ火を消し、お腹を抱えて疼きを鎮めようにさする碧衣。
それが功を奏したのか、今度の陣痛はだいたい体感時間30秒ぐらいで収まった。
言葉として口に出ていないから子宮の中からは判断できないが、さすり方からして
この胎動とは全く違う痛みにお母さんはまだ戸惑っていると琉音は思った。

額の先にある子宮口はまだまだ固く閉じているままだし、なんとかして
お母さん助けてあげたい、と琉音が子宮の中でじっと考えていたら、
碧衣の子宮は再び、ぶるっと軽く痙攣してギュッと収縮してきた。
「痛っ...」
前回から数えると間隔は一時間弱ぐらいかな。またまた陣痛は碧衣を襲った。
朝干した洗濯物を取り込もうと彼女がちょっとだけつま先立ちになった時だった。
「やっぱりこれって...でもお姉ちゃんや橙子さんみたいな痛み方ではないし...」
本当に陣痛なのかに戸惑っているうちに、今回のお腹の痛みはサッと収まった。
一縷の不安を残して、碧衣は床にバサッと散らかした洗濯物をたたみ始めた。


46 : 名無しさん :2020/05/31(日) 00:33:20
「お母さんとても不安がっているね…分かる気がする」
下手に碧衣の子宮を刺激しないように、呼吸以外の胎動を最小限に抑えている琉音。
胎盤を経由して彼女に伝わるセロトニンが低下し、母体が感じた不安は伝染する。
「何かできることはないかな…気を紛らわすためにちょっと動いても…?」
そう思ってそうっと琉音は、胸に引き寄せている両足の片方を少し伸ばしてみた。
当然子宮の中はもう動ける空間はなく、伸ばした足はすぐに碧衣の子宮壁に当たる。
「っぁん」
突然の胎動に驚いてつい声を漏らしたのか、ビクッと揺れた子宮に碧衣の嬌声が響く。
「そうか…この子も、怖がってるのね…」
でも琉音の気持ちはちゃんと伝わった様子で、すかさずお腹をさすってくれた碧衣は――
「強くならなくちゃ…私が、この子のママになるんだから」
落ち着きを取り直し、予定日に縛られずに例え今までのが本陣痛でも受け入れる覚悟を決めた。

そしてやはりというかなんというか、この胎動は次なる陣痛の引き金となってしまい……
前回からの間隔は変わらず一時間弱のまま、西へと傾ける太陽が空を僅かに赤く染め始めたごろ。
未だ完全に閉じている子宮口を柔らかくするためのずっしりとした陣痛らしい陣痛が炸裂した。


47 : 名無しさん :2020/06/27(土) 05:35:00
「〜〜〜〜〜〜っっ!!」
来ると心の準備はしてあったからか、歯を食いしばって碧衣は陣痛をこらえた。
そして、こんな決してお腹の張りとは違う痛みが来たことで彼女は確信を持てた。
お腹の赤ちゃん……琉音は、予定日を待たずに生まれようとしていることを。

「……よし、痛くなくなった…今のうちに電話しなきゃ」
一分ほどで陣痛が収まり、エプロンのポケットから碧衣はスマホを取り出す。
夕食を作り始める前でよかったと、ほっと一息して彼女はスリープを解除する。
そしたらなんと、ちょうどこのタイミングでスマホから着信音が鳴り出した。
液晶画面に表示された名前は『あかねぇ』。
碧衣の4つ上の姉で、半年ほど前に出産を経験した朱音からの電話だ。
『お姉ちゃんから安心感もらいたい、でも心配をかけたくない』
と思ったのか、碧衣は決意した顔でいつもより硬く感じるお腹を撫でて、
「…お願い、電話する間は大人しくしてて」
子宮および中にいる琉音に向かって小さく呟きつつ、朱音からの電話に出た。


48 : 名無しさん :2020/08/02(日) 01:56:10
『碧衣……おひさしぶり!! お腹の子は産まれる予兆というか、陣痛来てる?』
「姉ちゃん、予定日は先よ……陣痛もまだ来ていないんだから」

電話にでてすぐに朱音の冗談交じりだと思いつつも産気づいた自分の状況に言い当てた姉に冷や汗をかいた
そして、彼女を心配させまいと普段通りを装っていた


49 : 名無しさん :2020/08/02(日) 18:02:00
碧衣が朱音と話している間に、碧衣の胎内では琉音の魂に最後の変化起きていた

それは、琉音の魂が碧衣の胎内に宿るの自身の肉体との定着させる事であった

妊娠中の間は、肉体も魂も不完全な状態のために母親である碧衣と魂と繋がっていた状態であった
だが、胎児として成熟しきった母体との魂の繋がりが切り離されていく
その代わりに、琉音の魂が新たな肉体となる胎児とより強く結びつきはじめていく

「そうか……私、本当にお母さん子供として産まれるんだ」

琉音は自分の魂が完全に胎児の肉体に定着するのを感じつつ、子宮口が開き始めるのを待ち続ける


50 : 名無しさん :2020/08/03(月) 01:53:30
「う、うん…大丈夫、先生も心配ないって」
(そろそろ来ちゃうかも…)
スマホ片手で姉と会話を交わしつつ、壁にある時計を見て碧衣は心が焦っていた。
予想外に電話が長引いたせいで、いつ次の陣痛が襲って来てもおかしくないからだ。
空いている手でお腹をさすって碧衣は少しでも陣痛が来るのを遅らせようとしたが……
(あっ、ダメ、今は、やめて、おねが――)
しかしその願いは彼女の子宮に届かず、我慢した分余計に痛く感じる収縮が起きてしまう。

「っ痛ぁぁぁ〜〜〜〜っっ!!!」

そのあまりの痛さに、まだ通話中にもかかわらず碧衣はお腹を抱えて悲鳴を上げた。


51 : 名無しさん :2020/08/14(金) 18:57:26
『ちょっと、碧衣どうしたの……まさか産気づいたんじゃ!?』
「ごめん……また、後でね!!」

碧衣はそう言って電話を切ると今度は119番通報で救急車を呼ぼうとする
その間には、彼女は子宮は陣痛と共に子宮口が徐々に開き始めていた


52 : 名無しさん :2020/08/15(土) 12:45:16
「みんなも、こんな痛いの、耐えていたのね…」

今までの鈍い痛みとは違って、子宮口が開く陣痛はとても耐え難い痛みだった。
激痛を紛らわすために、意識を痛覚に向かないように碧衣がいろんなことを思い返した……
22週頃に実家に帰った時、隣の部屋にまで聞こえた朱音姉ちゃんの、出産時の悲鳴。
病院から逃げ出して、まだ若いのにお母さんになった橙子ちゃんの、出産時の悲鳴。
そして、今度は自分が、そのような悲鳴を――

「痛い、あ、あぁあーーーっ!!!」

もう産まれちゃう!ここで生まれちゃう!すぐにでも生まれちゃう!
紛らわすことができなくなった痛みが、容赦なく碧衣を襲う……


53 : 名無しさん :2020/08/20(木) 22:42:47
それと同時に、子宮内で絶えず起こる子宮の収縮で羊水が激しく波立つのと同時に
子宮口が開かれるのに合わせて琉音が産道へ送り込まれように押し出されようとしていた

「子宮口がどんどん開いていく……体が外へ出て行こうと…膜が破けちゃいそう」


54 : 名無しさん :2020/08/22(土) 05:04:52
「潰されちゃいそう…このっ、いい加減にして!」
激痛に襲われた碧衣の悲鳴は、直接頭に響くほどの音量で琉音がいる子宮にも轟き渡った。
その上に、中身を絞り出そうした容赦なさで彼女のお尻のあたりを子宮壁が締め付けてくる。
碧衣のために今まではじっとしていたが、体と一緒に魂までも赤ちゃんっぽく幼くなった琉音は
迫り来る子宮に潰されないためか体を丸めるのをやめ、曲げていた膝を伸ばして子宮底を踏む。
そしてこれがきっかけとなって、彼女を薄く覆っている羊膜がぷつんと割ってしまった。


55 : 名無しさん :2020/08/27(木) 22:45:42
羊膜が破れると同時に琉音を包んでいた羊水が子宮の外へと少しずつ漏れ始める

「うそ……膜が破れちゃった……あ!?」

流れ出す羊水と共に琉音の頭部は完全に産道へと旋回しながら下り始める
それに気づいた琉音も覚悟を決め、収縮する子宮に合わせて産道を潜り抜けようと体を動かす

そして、碧衣が自身に破水した事に気づいたのは朱音から電話が来た1時間後の事だった


56 : 名無しさん :2020/08/28(金) 07:50:17
「く、来るぅ!うっ、生まれちゃぅぅーー!!!」

悲鳴を上げるほどの強烈な陣痛に打ちひしがれながら、児頭が産道に入ったのを本能的に感じてしまう碧衣。
むやみにいきた結果子宮にダメージが入った橙子の出産をじかに見た彼女は、いきむを我慢してお腹を抱える。
といっても無限に湧き上がる痛みを逃せるわけもなく、悶絶しながら体をうねらせることしかできなかった。

彼女が時間を稼いだその間に琉音は阻まれることなく産道を旋回し、頭のてっぺんが一瞬、外気と接触する。


57 : 名無しさん :2020/08/30(日) 20:52:55
「やった……そとがみえてきた……お母さんにあえる」

産道を琉音が下るにつれて、彼女の自我や記録は漂白されていった
そして、彼女の頭が外気に当たった頃には、かつてチトセから残されていた自我は完全に消えていた
それと同時に彼女の魂も完全に碧衣の娘、琉音の魂に変質を終えていた


58 : 名無しさん :2020/09/09(水) 22:51:38
それと同時に胎児の頭が一瞬だけ膣から出始めた事に気づいた碧衣は未だと言わんばかりに息み始めた

「頭が出かけている……うがあぁぁぁぁぁ!?」

悲鳴を上げながらも胎内で蠢く我が子を産み出さんと碧衣は必至に息み始めた
それと合わせて、琉音も産道を旋回しながら下ろうとする
数十分間、琉音の頭のてっぺんが膣から出たり引っ込んだりを繰り返した

そして、碧衣が陣痛と合わせて息んだ瞬間、完全に琉音の頭が膣か飛び出した


59 : 名無しさん :2020/09/12(土) 23:54:15
「ん、んっんん!」

息みながら天井に向かってお腹を突き上げる碧衣。
開かる産道を、琉音の体がズルっと通過する。

彼女、いや、彼女たちの新しい人生が、今、始まるーーーー


60 : 名無しさん :2020/09/13(日) 00:51:54
「おぎゃああああ!!!おぎゃあああああ!!!」
「う……産まれた」

碧衣は自分の股座から大量の羊水とも産まれた落ち、いまだ碧衣と臍の緒で繋がった琉音を抱えた
見るからに元気そうな女の赤子だった

「ようやくあなたと会えたわね……うまれてくれありがとう、琉音」
出生と同時に胎内記憶を失った琉音は赤子の本能のみで泣き続けるも
それを碧衣は涙を流した瞬間、さきほどの読んだ救急車が到着し、二人は病院へと搬送された

そして、そこで二人を繋ぐ臍の緒を切り離される


61 : 名無しさん :2020/09/16(水) 10:36:43
時は流れ、あれから数年後。
前世の記憶をすべて失った琉音は、普通に両親のある女の子に成長した。
彼女の父親になったのは、あの日生まれたての彼女を救急車に運んだ救命士。
シングルママの碧衣との大恋愛の末にめでたく結婚し、琉音に弟ができた。

この後の人生で琉音は母違いの兄と父違いの弟との間に挟まれて三角関係になるのだが、それはまた別の話。


老婆は胎内回帰で新しい体を手に入れる おわり


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