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澪「向日葵」
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澪「りっちゃん、国語終わった?」
律「まだー。澪ちゃん、算数うつしてくれてる?」
澪「もうすぐ終わるよ!」
今日は私の友達、りっちゃんの誕生日。なのに、どうしてこんなことになっているのかというと…。
私は昨日、りっちゃんに電話した時のことを思い出す。
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澪「りっちゃん、明日誕生日だね。ほしいものある?」
律「うーん、とくにないな。いつも通り澪ちゃんが遊びに来てくれるだけでいいよ!」
澪「そんな…」
私はがっかりした。初めてできた親友に何かプレゼントを上げて喜んでもらいたかったのに。
澪「本当に何もないの?」
律「…実は、明日持って来てほしいものがあるの。頼みたいことが一つあるんだ」
澪「本当?なんでも言って」
律「よかった!その前に一つ聞くけど、澪ちゃんて、宿題どれくらい終わってる?」
律「やっぱり澪ちゃんはえらいね。もう絵日記以外みんな終わってるなんて」
能天気なりっちゃんの声。頼みとは「夏休みもあと十日なのにほとんど手を付けていない宿題を写させてほしい」というもので、楽しいパーティを想像していた私としてはがっかりだ。
澪「こういうのは本当は自分でやらなきゃ駄目なんだよ」
律「はーい」
聞いているのかいないんだか、といった感じの返事に私はため息をついた。
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澪「ていうかりっちゃん、自分では何もやってないの?」
律「自由研究は自分でやったよ!テーマもまえから決めてたんだ」
へえ…と意外に思う。私は自由研究はなかなか決まらなくて、仕方なくお父さんに勧められた「月の観察」にしたのに。
澪「テーマは何?」
律「ひまわりの観察。知ってる?ひまわりって太陽のほうを向いて咲くんだよ。太陽の方向に合わせて花が回って成長していくから、『ひまわり』っていうんだよ」
ひまわりのことを話すりっちゃんは先ほどの気のなさそうな態度から一変して、とてもいきいきしていた。これをふだんの勉強にも生かせば、今頃私にも負けない優等生になれたんじゃないかな。
澪「りっちゃんって、ひまわりみたいだね」
小さな太陽のように明るくて元気で、みんなの人気者のりっちゃん。
律「そうだね!私はひまわりっちゃんだから!」
澪「私は月の観察だったよ。ピッタリな研究だね。私達ふたりとも」
私は暗くて人見知りで、にぎやかなところが苦手。夜にしか出てこない月みたい。
律「そうかなあ。澪ちゃん、お月様と言うよりは太陽だと思うけどな、私は」
澪「ええっ!私が太陽!?」
吃驚した。だって太陽は明るくて、私とは正反対で…。
律「私ね、初めて澪ちゃんを見た時、綺麗な子だなって思ったの。近付きたいな、仲良くしたいなって。綺麗で、キラキラしてて、ひまわりっちゃんを惹きつける。澪ちゃんは私にとってのお日様だって思ったんだ」
私が、お日様。そんなこと考えた事もなかった。でもなんだか嬉しくて、照れくさくて、りっちゃんが私を慕ってくれている事が分かって、胸の中が日に照らされたようにポカポカしてきた。
律「よし、国語終わり!次は社会・・・の前に休憩!」
さっきの言葉などなかったかのようにドタドタと、おそらく冷蔵庫に向かってかけていくりっちゃん。きっとしゃべっている間も解いていたんだろう。まだ算数の終わっていない私は焦る。
澪「ええっ、待ってよー」
律「いっしょにスイカ食べよう、澪ちゃん!」
期待していた誕生日会とは違うけど…こういうのも悪くないかも。
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あれから数年…
唯「ハッピーバースデーりっちゃん!」
紬「おめでとうりっちゃん」
梓「律先輩、おめでとうございます!」
律「いやーありがとう。夏休み中なのに集まってもらえるなんて幸せ者だな私は!」
澪「当然だよ。なんたってお前は、軽音部の部長だからな」
律「へへっ」
澪「じゃあさっそくプレゼントだな」
唯「実は私、りっちゃんに前もって何が欲しいか聞いてるんだよねー」
紬「私もー」
梓「私もです。言われたとおり持ってきましたよ。律先輩らしい答えだと思いました」
澪「え?私何も聞いてないぞ。なんだそれ」
律「またまたとぼけてー。どうして集合場所を澪の家にしたのか考えろよ」
澪「まさか…」
律「みんな!夏休みの宿題終わってるか?」
澪「またかよ!」
梓「当然です!」
紬「私ももうほとんど終わってるわー」
*唯「私全然してないよ!」
律「唯もかよー」
唯「この日の為にしてこなかったよ」フフン
律「威張るな!もうすぐ夏休みも終わりだぞ!どうして手つかずなんだ!」
澪「お前がいうな!」ポカ
唯「だっていつも最終日に憂が手伝ってくれるし」
梓「それで毎年事なきを得ていたと…憂、おそるべし」
唯「でも今年は憂に楽をさせてあげようと、りっちゃんと一緒に写すことにしたんだ。偉いでしょ〜」
澪「いや、自分でやれよ!ていうか律、何で私には教えてくれなかったんだ」
律「いやー教えるまでもなく知ってると思ってさ。だって幼馴染だし、毎年の事じゃん」
澪「情けない…」ハア
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これまで、律は本当に私の方を向いて、私を追いかけて成長してきた。私と同じ高校に頑張って受かり、私を軽音部に引き込んだ。
あの日の会話を思い出しながら私は律のために用意していたプレゼントを思う。ショッピングをしているときに偶然見つけた、律にぴったりな…。
律「澪、どうしたんだ。まさか私にプレゼント用意してくれてたとか?いやあうれしいなー」
流石幼馴染だ。
澪「律、私のプレゼントを受け取りたかったら、宿題を自分でしろ」
律「ええっ!せっかく持って来てもらったのにー。今からじゃ無理だし」
唯「そうだよ!りっちゃんは私の宿題やってない仲間なんだから」
梓「恥ずかしくないんですか…」
澪「いやならやらないからな!…宿題、手伝いくらいはしてやるけど」
律はうーんうーんと散々迷った末、結論を出した。
律「澪、プレゼントくれ!」
唯「ええー!」
律にとっては一大決心だっただろう。私は笑って、包み紙を持ってきた。ムギも唯も梓も興味津々だ。律が包み紙を解くとそこには。
律「これ、向日葵の髪留め!」
早速つけてくれた律に、唯達が賞賛を送る。
唯「りっちゃんかわいい〜」
紬「良く似合ってるわよ」
梓「流石澪先輩の見立てですね」
律「そ、そうかぁ?えへへ」
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律は私に向き直った。頬を赤くして上目づかいで、私が予想したよりもはるかに可愛らしい。
律「ありがとう、澪。これからも、よろしくな」
澪「気に入ってくれてよかったよ。こちらこそよろしく、律」
律「さあ、さっそく宿題やろうぜ!みんな見せてくれ」
澪「ってお前、約束が違うぞ!」
律「だってせっかくみんな持って来てくれたんだぜー」ブー
澪「お前は私が手伝ってやるから私の部屋に来い!」ズルズル
唯「えー、りっちゃんと一緒に写したかったのに」
紬「部屋に二人きり…フフフ」
梓「何か、ズルいです。律先輩の誕生日なのに」
なあ律、小さな声だったけど、私にはちゃんと聞こえたよ。
『ありがとう、澪、私の太陽』
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向日葵の花言葉は「私はあなただけを見つめる」
太陽の方向を追うのは生長に伴うものであり、つまり
生長が盛んな若い時期だけなのです。でも、成長が終わってもきっと律と澪はずっと一緒なのに違い有りません。
りっちゃん、ハッピーバースデー!
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