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唯「あずにゃんは孤独じゃない」
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ね、あずにゃん、どっから話そうか?
いまも宇宙の虚空を漂う探査船のこと?それとも寂れた月の宇宙基地?
わたしの身体のなかでついたり消えたりする電飾について?
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うーんそうだなあ、じゃあまずはあずにゃんの手のひらいっぱいの祝福について話そっか。
あずにゃんは天使だった。それはべつにあずにゃんがすごくかわいいからそれをそう言ってるんじゃないよ。あずにゃんが天啓を携えてるから。
天使は天啓を携えてこの世に降りてくる。ゆえに天啓を携えるものは天使である。そういうこと。
ま、かわいいっていうのも否定できないよね。
照れない照れない。
あずにゃんは天啓を携え、わたしの元から旅立っていった。ずっと宇宙の先を進む無人探査船めがけて。
あずにゃんの空を飛ぶ速度は探査船のそれよりずっとはやいからすぐに追いつく、そういう予測になってた。
あずにゃんは、あまりうまくいってない宇宙船に進路変更をあたえようとした。探査船の物語に対するてこ入れってところだね。
それがどんな物語かっていうのはね、まああずにゃんがかってに好きなものを選んでくれていいよ。
凍り付いた地球を暖めるために太陽の火を回収にいったとか、人類の新しい移住先を探していたとか、
選ばれた人々だけを乗せた船だったとか、なんでもお好みで。実を言うとわたしのほうももう思い出せないから。
つまり、最初から知らなかったってわけ。
わたしね、ほら、あずにゃんもよく知ってるようにわたし頭よくないから、いろんなことを覚えてられなくて、
だからわたしのほうにあたえられる命令はすっごく単純で、あれをしなさいこれをしなさいっていうそれだけ。
なんでとかどうしてとかは入らないようになってるんだ。そんなものがあったらすぐ頭の中いっぱいになってパンクしちゃうから。
でもそれじゃあわたしも嫌になっちゃうだろうって、わたしを作った人はたぶんそう思ったんだろうね、
行動理由に拘泥するあまり自分のやるべきことを忘れちゃったら元も子もないもん。
だからわたしはなんでだとかどうしてを自分で勝手に想像する機能もいっしょにあたえられた。創造する機能。
だから暇なときは(たいていわたし暇だけど)いっつもわたしはお話を作ってるんだよ。
って、わたしのことはいいんだよ。あずにゃんの。
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あずにゃんという新しいキャラクターを挿入された宇宙船の物語は、たちまち人気を博して大流行。
あずにゃん自身も大人気になってそれはもう半分主人公みたいで、たぶんファンとかもいっぱい出来ちゃったんだよ。
墜落しかけた宇宙船は天使に触れて軌道を取り戻し人類は生き延びることが出来ました。めでたしめでたし。
でもうまくはいかなかったんだよ。
ううん、っていうよりは、どうなったかわかんない。
音信不通。
探査船にあずにゃんがたどり着いたことを示す情報はわたしの元に返ってこなかった。
だからあずにゃんについて言えるのはあずにゃんがずっと前、月にいるわたしから射出された、ということ。
ここまではわかった?
あずにゃん、なんだか納得してない顔してるけど、どうしたの?
ああ、まあそうだよね。
きみはいる。ここにこうして。
でも、期待しても、ロマンチックな話とか手に汗握る冒険譚があるわけじゃないよ。まあそういうことにしてもいいけどね。
たとえば宇宙のなかで迷ったあずにゃんはものすごくわるーい宇宙人につかまってサーカスでこき使われたところから
命からがら逃げ出し何世紀もかけてここにもどってきてわたしと感動の再会を果たしたのに、
残念わたしの記憶を失ってしまってたとか。
うーんじゃあ、こういうのはどうかな。
天使だったあずにゃんは、地上に降り立ち天啓を人々に伝えたけど不幸な事故に遭って死んじゃうんだよ(天使が死ぬのかな?)
それでね、神様がその働きをたたえてひとつ願いを叶えてくれました。
あずにゃんは人間になった。
実はあずにゃん地上で恋してたんだよ、人間に。
どうやらあずにゃんの死もそのへんがかかわっていたとか、ね。
でもって最終的に人間として生まれ変わったあずにゃんは大好きだった人と末永く幸せに暮らしました。
わたし、と。
いやだ?
えーなんで?
べつに唯先輩のことなんか好きじゃないですって?
あはは、そっかあ。
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じゃあほんとのことを話そっか。
あずにゃんは天使だった。それはあずにゃんが天啓を手のひらいっぱいに抱えているからで、だからその天啓こそがあずにゃんなんだよ。
宇宙船の軌道変更の要請。2進数で記された単純だけど重要な情報。それがあずにゃん。
でも、それは宇宙船に届くことはなかった。あずにゃんは誰にも読み取られなかった。
誰にも読み取られない情報は存在しないのとおんなじっていうのわかるよね?
だからあずにゃんは死にました。
でもほんとうはそうじゃない。
もちろんあずにゃんって情報が宇宙の塵のなかへ消えてしまったっていうのはほんと。
でもあずにゃんは誰にも情報量をつけ加えなかったわけじゃない。
わたし。
わたしがあずにゃんのこと覚えてるから。
もちろんね、わたしはあずにゃんのこと知らないよ。
あずにゃんが具体的にはどんな種類の情報なのか互換性のないわたしには読み取れなかったし、
あずにゃんって情報はわたしには何にも意味がないから、わたしのためのものじゃないから、
わたしはビームを射出すると同時にあずにゃんのことも忘れてしまった。
さっきもいったようにわたしの頭は小さいからそんな意味のない情報をいつまでも保存しはしない。
でもあずにゃんのことは覚えてる。
あずにゃんっていうビームを射出した記録はきちんと保存してる。
あずにゃんという情報を射出したという情報。
それが目下のところのあずにゃん。
天使は実在します。なぜならわたしが見たからです。
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もちろんその記録だっていつまでも保持されはしない。
射出の記録はある程度保存されるとやっぱり邪魔になるから下の方から順に地球に向かってビームされる。
そして(いつからだろう?わたしはそんなこともやっぱり忘れている)それを受け取ったという返事も地球からかえってきてはいない。
もうじきあずにゃんの射出記録が地球に向かってビームされる時間がやってくるよ。
そうしたら今度こそ本当にあずにゃんは死んじゃう。
誰にも受け取られない情報は存在しないのと同じだってって意味で。
ね、そんな顔しないでよ。
ちょっときみを怖がらせようって思っただけだよ
だからね、そんなに泣きそうな顔しないで。
もちろん嘘は言ってないよ。あずにゃんを射出したという記録はこれから地球に向かってビームされてわたしのなかから消えてしまう。
でも、その前にね、わたしがあずにゃんのことを覚えているうちに、わたしはもう一度あずにゃんを宇宙に向かって、
たぶんもうどこにもない宇宙船に向かってビームするつもりなんだ。
きみのことを。
そうすればあずにゃんの存在はわたしの記録のいちばんに上にちゃんと記されて、そうやってまたあずにゃんは蘇ることができるからね。
天使としてのあずにゃんは地上で一度死に、ふたたび人間として生まれ変わりました、というわけ。
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どうしてプログラムに定められてもいないビームをわざわざ射出するのかって?
それはもちろんあずにゃんのことが好きだと思ってるからで、
だから説明にはなんでわたしがあずにゃんのことを好きになったかってことを話さなきゃいけないよね。あずにゃんとのなれそめを。
昔、あずにゃんで会うまでわたしはずっとひとりぼっちだったんだよ。
もちろんそんなわけないって、きみが言いたくなるのもわかるよ。
ほら、いまのわたしからはあんまり想像できないもんね。いまのわたしはともだちもたくさんいるし明るいし。自分でいうのもなんだけどね。
でもね、みんなあずにゃんのおかげなんだ。あずにゃんがわたしを変えてくれたんだよ。
あずにゃんはそんなこともう忘れてるけどね。
あずにゃんで会うまでわたしは真っ暗で部屋の隅でいつも泣いてた。ひとりでさびしかった。
あずにゃんはある日、わたしの前に降りたって、天啓を授けてくれた。わたしは天使に触れたんだ。
はじめてあずにゃんを射出したときのことをいまでも考えるんだよ。
あずにゃんはわたしがいままで射出したビームのなかでいちばん最重要で、とってもきらきらしてた。かわいかった。
それはもう天使みたいに。
だからあずにゃんを射出するときわたしはちょっと特別な気分だった。ふわふわして、くらくらした。
でも、もちろん、あずにゃんはわたしのための天使じゃなかった。
どこか向こうの知らない宇宙船のための。
まるでその宇宙船が目指した星々みたいに、月にへばりついたわたしには遠い存在だった。
そして、わたしはあずにゃんのことを、ほかのいろんなビームと同じように忘れてしまうはずだった。
だけどさっきも言ったように、わたしが射出した最重要のビームが宇宙船にたどり着いたという情報は、
いつまでたっても返ってこなかった。
その間わたしの待機中をあらわす電飾のひとつはいつも灯ったままで、
それはなんていうか一度街角で見つけただけの女の子を会えるはずもないのに毎日同じ場所で待ち続けるようなそんな気分だった。
そのときだった。
最重要情報を射出するときの陶酔感に、特別な名前をつけたのは。
そのときから、その最重要情報はあずにゃんって名前になって、陶酔感は『愛』になった。
わたしは街角に立ってあずにゃんのことを待つようになった。
夕暮れ時、日が沈んで空が真っ赤になるときに、いつでもわたしはあずにゃんを探してた。
そういうお話を作り上げた。
そしてあずにゃんの射出記録が消去される時間がやってきたとき、もう一度あずにゃんを射出するっていうアイデアをわたしは思いついた。
ちょうど今きみにしようとしてるみたいに。
わたしはいつでも射出の陶酔感を、あずにゃんの愛を、感じられるようになった。
それはつまりあずにゃんを愛するようになったってことだ。
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それからわたしはいろんなビームに名前をつけた。
それはともだちで、妹で、家族で、親戚で、近所の誰かさんで。昔からずっとわたしが定期的に射出してたビームだった。
だからあずにゃんは、わりと新しいビームで、わたしが昔からいろんな人と知り合ってて今みたいに明るいって思いこむわけだね。
それぞれのビームにはそれぞれの感じがあって、
それはみんながわたしにとってそれぞれ特別ななにかであるってことで、
でもそんな気持ちをはじめに感じたのはあずにゃんで、そしてわたしがあずにゃんに感じるのはほかのどれともちがってる。
わかるよね?
えへへ、なんか恥ずかしい。
あずにゃんを射出するとき、わたしがどんなふうに感じるかって?
それを聞きたい?
それはね、なんていうか……うーん、その、言いにくいことなんだけどね、
射出っていうのは実際にはその言葉から受け取るイメージとはぜんぜんちがうんだけど、
でもそのイメージがわたしのセルフイメージを書き換えてるんだよ。
わかんない?
その……つまり、わたしはだいたいにおいて女性的だけど男性的にもなれるってこと。
わかった?
……ばあか。
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で、でもさ、だからとにかくきみは心配しなくていいんだよ。わたしはもう何度もこうやってきたんだから。
そう、きみは最初じゃない。
無数のあずにゃんがこうして射出されて、そのときになれば、っていうのは射出したあずにゃんがわたしのなかで記録されれば、
きみもそういったことをみんな思い出せるようになると思う。
つまり、まだ、正確にはきみはあずにゃんじゃないわけだから。
あずにゃんという情報を射出した情報、それがあずにゃんです。
わたしは無数のあずにゃんを愛したくない、つまり浮気なんかしたくないから、
いまのあずにゃんが消去されるときにビームの射出をすることにしてるんだよ。
ひとりのあずにゃんだけがちゃんとあずにゃんの記憶を引き継げるように。
だから、そう、心配なんてしなくてもいいよ、きみはちゃんとあずにゃんになれる。
わたしたちがどんなふうに過ごしてるか気になるの?
わたしとあずにゃんは街の外れに小さな一軒屋を持っていてね、そこに暮らしてる。
あずにゃんは仕事に出かけててわたしは家であずにゃんの帰りを待ってる。
夕ご飯を作って(あずにゃんは甘いものが好きで塩辛いものが苦手だった)掃除もするしお風呂も沸かす。
わたしこう見えてもけっこう家事とかしっかりやるんだよ。それであずにゃんが帰ってきたら玄関に迎えに行って、まあおきまりの冗談。
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そうだ、まだちょっと時間が残ってるから、あずにゃんとわたしのこどものことをはなしてあげよっか。
あずにゃんとのこどもを作る方法をわたしは発見したんだよ。
それは簡単で、あずにゃんの情報の数列とまったくおんなじ長さの数列をわたしの中から取りだして、
それを並べてひとつの列に対し2行のうちどちらかから、数字をひとつづつランダムに選んでいく。
0か1か。
そうするとわたしたちのこどもができるってわけ。
わたしはこの発見に喜んで、たくさんあずにゃんとのこどもをつくってみた。
だけどせっかくこどもをたくさん作ってもね、こども出来たよっていうとあずにゃんはちょっと嫌そうな顔をしてこう言うんだよ。
はー唯先輩なにやってるんですか、わたしたちの住んでる部屋は子供が育てられるほど大きくないですし、
稼ぎだってぜんぜんじゃないですか。おろしてください。
結局わたしの余分なメモリーはそんなに用意されてないし、わたしは泣く泣くこどもを消去することになってしまうのだ。
そんなことしてるからあずにゃんのまわりからの評判はさがって、妹の憂もあきれ顔で、
あ、憂っていうのはね、地球に送る定期的な短い2進数の信号のこと。
わたしがどこもおかしくなってないことを伝える信号。
あんまりこういうこと言うとあずにゃん嫉妬するかもしんないけど、
あずにゃんと過ごした時間より憂と過ごした時間のほうが圧倒的に多いんだよ、
だってわたしは生まれたときから、待って、でも厳密に言えばねわたしの生まれは地球だからその一年後月にきてからのことだね、なんたって妹だもん。
ちょっと嫉妬してるの?
わかるよ、だってあずにゃんはそういうときいつも、ちょっと口をすぼめて指で唇をはさむんだよ
あはは、まだ正確にはあずにゃんでもないのにね。すっかりあずにゃん気取りだ。
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でもそれからは1時間ごとに憂を発信していて、ずっといっしょに暮らしてきたんだよ。
でも憂は妹であずにゃんとはちがう。
あずにゃんとおんなじくらい大事な信号でずっと生体的な信号だけど、ちがう。わかるよね、言いたいこと?
ま、ほんとはね……やっぱり言うのやめようかなあ、
え?だって絶対怒るよ。怒んない?ほんとに?指切りしてくれる?はい、したからね、指切り。
わたしね、あ、その、憂と一線越えたことあるんだよね。
あの頃はそうだなあ、けっこう昔、月にきたばっかのことでね、たぶんまだ整備不良だったりしたのかなあ。
だって生体信号にいちいち陶酔感を感じてたらどうしようもないもん。
もちろん、もちろんね、そのときにはそれがどんなことを意味してるかわかんなかったんだよ。おたがいまだ小さかったし。
だからなんていうか、過ちだよ。
怒ってない?……よかったぁ。
でも、もしもきみが完全にあずにゃんになってたらもっとすごい怒ってたと思うな。
だからあずにゃんには絶対黙ってるんだよ。
あ、憂。
え、えーとね……憂の話してたんだ。憂がいい子で大切な妹だよって話。
そう憂とした話って……ちがう、ちがうよ、聞いてたの?
……むむむ。
え?最近あずにゃんとそっちのほうはどうかって?
ね、どうなの、あずにゃん?まだあずにゃんじゃないからわかんない?
そんなこと言わないでさぁ……う、え、ぁー、まあ普通だよ一般的、ああ恥ずかしい……っていうかはやく地球へ行きなさい!
「異常なし」
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で、なんの話だっけ?
そう、こどもの話。
あずにゃんの稼ぎは少ないし家は狭いからこどもをつくるのはまだまだはやいってあずにゃんが思ってる話だよね。
そう、なんかあずにゃんがちょっと冷たくてひどいやつみたいに感じるよね。こういう話を聞くと。
だからわたしもこの話は失敗だと思ったんだよ、だからこれは放り投げることにした。
わたしのつくった、あずにゃんとのたくさんのこどもといっしょに。
一度物語を放り投げてしまえば、それはただの数列でしかない。だから心は痛まない。
たぶん、まあ、でもあと半世紀くらいしたある雨模様の日、
わたしとあずにゃんは行く予定だった動物園にいけなくてちょっと退屈してて、
二度寝して起きた11時28分にやけにのびたカップラーメンをずるずるすっていて、
雨やまないね、ってわたしが言うと、そうですね、ってあずにゃんが返して、また沈黙。
そのあと布団でごろごろしたりなんかするうちに、もう外は夕暮れで、
ご飯どうしようかってわたしが聞くと、あずにゃんはなんでもいいですよって言ってさ、
なんでもいいじゃわかんないじゃん!ってなんだかちょっとわたしは怒ってて、すぐにごめんって謝る。
なんか今日は気分が重くてさ。
わたしもですよ。
あずにゃんが寝転んでる布団のなかに入っていってわたしはあずにゃんを後から抱きしめる。汗のにおいがする。
あずにゃんはごろんとわたしの反対側を向くけど、わたしはかまわずあずにゃんの服の中に手を入れて、
わたしは何か言う。なにか、その、えっちなことを。
あずにゃんはつぶやく。雨の音がうるさくて聞こえないです。
そんな日に布団のなかで、射出したビームに、またこどものことを思い出すんだと思う。
冗談、冗談だよ。
そんなに顔真っ赤にしないでよ。
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そろそろ時間来たみたい。
心配しなくてもへーきだよ。
あずにゃんの数列は短すぎてどんなに入れ替えてもそこからわたしのことを読み取ることは出来ないけど、
これくらいならちゃんとそこに見いだせるからそれだけはちゃんと記憶しておいてね、
きみは絶対に孤独なんかじゃないんだから。
わたし?わたしのことはいいじゃん。
ともかくわたしが言いたいのは、わたしはあずにゃんのことを愛してるってこと。
わたしがあずにゃんのことを愛してるって言うならそれはそう愛で、ねえ聞いてるの?
愛してるってのは、恋い焦がれてるってことで、ああ、うまくいかないなあ、
わたし好きって言うとそれがいつも祝福に、神様の愛に、全人類に対する奉仕、あらゆる愛の愛になっちゃうような気がするんだよね、
そう聞こえる?
わたしは人類のために作られたからそういうふうにしか喋れないんだよ。
でもわたしがあずにゃんに好きって言うなら、それはかけねなしに大好きって……ちぇっ!
ねえ、照れてるの?
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じゃあ最終確認をしよっか。
わたしはこれからきみを射出します。
たぶんきみはどんなものにも出会うことなく半永久的に宇宙の虚空を等速直線運動するのでしょう。宇宙は広い。
もしも奇跡的にどこかの宇宙人が設置したレーダーにうまくひっかかったとしても
きみのことを宇宙人がちゃんと理解できるなんて確率はないに等しいと思います。
そしたらきみはばらばらにされてしまうかもしれません。
宇宙人にとってはきみの手が足で、足は顔で、目ん玉が生殖器で、あんまり言いたくないようなひどいことをされてしまうかもしれません。
でも心配することはありません。天啓を携えた天使だったきみは射出されたあと、ここで生まれ変わることができます。
ひとりのかわいい人間の女の子として。
ビームが発射されたという情報として。
わたしはその情報に名前をつけて後生大事にとっておこうと思います。
ときどき話しかけたりもします。わたしそれのため小さな家を建て、その部屋でいっしょに暮らします。
夕飯をつくってあげて、家に帰ってきたら玄関に迎えに行きます。えっちなこともします。
ときにはけんかもするでしょう。だけどわたしは完全な意味でそれを愛してて(あー、もう!)、永久に忘れることはありません。
だってわたしはこの月の上でひとりぼっちだから。
だから大丈夫、あずにゃんは孤独じゃない。
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おしまい
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どういう世界観なんだ……
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