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梓「一夜」

1 : いえーい!名無しだよん! :2015/04/20(月) 23:31:47 S9S.xEpw0
アナログ時計の長針と短針が重なり合って、賑やかなメロディと共に小人たちが踊りだした。
絡み合う指を振り払い、わたしは駆け出す。
「待って!」
呼び止める声を構わず、音も立てずに階段を下っていく。
騒がしく追いかける音が後ろに響いていたけれど、わたしに追いつけるわけがない。
「せめて名前を教えて、おねがい!」
ずっととおくで声がした。
名前。
あなたはもう、知ってるよ。
ちりん。
片方の鈴だけを残して、振り向きもせず走り抜けた。


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2 : いえーい!名無しだよん! :2015/04/20(月) 23:33:23 S9S.xEpw0
あのとき落とした鈴は、今わたしの視線の先にある鏡に映っている。
鈴はぴかぴかに磨かれて、窓から入る朝の光に照らされてきらきらと輝いている。
あたたかくやわらかい手のひらが、わたしに触れた。
やさしい手つき。
ふわっと身体が宙に浮き、抱きしめられる。
そうしてまた、おなじ手のひらがわたしを撫でた。


3 : いえーい!名無しだよん! :2015/04/20(月) 23:34:06 S9S.xEpw0
この人はいつも、遠い目をしてわたしを撫でる。
わたしはこうして撫でてもらうのが、はじめて会ったときから好きだった。
とてもしあわせな気持ちに包まれて、ずっとそのままでいたくさせた。
けれどその、遠い目だけが気になった。
この人はいったい、何をみているんだろう。
知りたかった。
もしたったいちどだけでも、この人の手を握ることができたら。
その手のぬくもりを、じぶんの手のひらを通して知ることができれば。
それがわかる気がした。
だからわたしは、あの夜。
ちりん。
鈴の音が鳴った。


4 : いえーい!名無しだよん! :2015/04/20(月) 23:34:57 S9S.xEpw0
「あれ?あずにゃんおなかすいた?ごはんにしようか。今日はシャケがあるよ」
ちりんちりん。
首をひねると二回、鈴が鳴った。

おわり。


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