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紬「四月の雨」

1 : いえーい!名無しだよん! :2015/04/13(月) 00:26:50 94PYmvRE0
朝。見上げると、空はくすんで薄曇り。
しかたなく、傘を手に取る。
いつのまに降ったのか、アスファルトにはところどころ水たまり。
踏み出した一歩。
飛び散ったしぶきが白いソックスを濡らした。


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2 : いえーい!名無しだよん! :2015/04/13(月) 00:27:30 94PYmvRE0

咲きかけの桜は週末まで持たずに散ってしまうかもしれない。


3 : いえーい!名無しだよん! :2015/04/13(月) 00:27:50 94PYmvRE0

電車の中はいつもよりずっと、湿気で充満している。
ごわついて左右に広がる髪を抑える。直らない。
ガラス窓は白く濁って、外の景色が見えづらい。


4 : いえーい!名無しだよん! :2015/04/13(月) 00:28:12 94PYmvRE0

電車を降りて改札を抜ける。
こっちの空は向こうより明るい。
傘を閉じたまま、歩き出す。湿り気は肌に触れない。


5 : いえーい!名無しだよん! :2015/04/13(月) 00:28:31 94PYmvRE0

降ってない。雨、降ってない。


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6 : いえーい!名無しだよん! :2015/04/13(月) 00:28:53 94PYmvRE0

それなのに道行く人はみんな、一様に傘を差している。
同じ電車に乗っていた人もみんな、改札を抜けると傘を広げて歩いていく。


7 : いえーい!名無しだよん! :2015/04/13(月) 00:29:13 94PYmvRE0

降ってないのに。雨、降ってないのに。


8 : いえーい!名無しだよん! :2015/04/13(月) 00:29:32 94PYmvRE0

「ムギちゃん」


9 : いえーい!名無しだよん! :2015/04/13(月) 00:29:55 94PYmvRE0

振り向いた先に、傘を持った唯ちゃんが立っていた。
傘は、閉じられている。


10 : いえーい!名無しだよん! :2015/04/13(月) 00:30:16 94PYmvRE0

雨、降ってないよね?ね?降ってないよね。


11 : いえーい!名無しだよん! :2015/04/13(月) 00:30:52 94PYmvRE0

唯ちゃんは右や左をきょろきょろ見回すと、
右手に持った傘をばっと広げてにこっと笑った。


12 : いえーい!名無しだよん! :2015/04/13(月) 00:32:12 94PYmvRE0

なんで?

雨、降っていないのに。降ってないのに、な。


13 : いえーい!名無しだよん! :2015/04/13(月) 00:32:33 94PYmvRE0

もしかして、雨、降ってる?
わたしが気づいてないだけ?
おかしいのかな?わたし。


14 : いえーい!名無しだよん! :2015/04/13(月) 00:32:55 94PYmvRE0

右手をかざしてみる。
やっぱり降ってない。降ってないよ、雨。


15 : いえーい!名無しだよん! :2015/04/13(月) 00:33:22 94PYmvRE0

「みんな、差してるよ、傘」


16 : いえーい!名無しだよん! :2015/04/13(月) 00:33:49 94PYmvRE0

そうだね。みんな、差してるね。わたしだけ差さないの、おかしいね。
わたしは唯ちゃんに笑いかけて傘を開く。
空から光が射して、ふたりの乾いたビニール傘を照らした。
きらきらと射し込む光のなか、町の人たちも唯ちゃんもわたしも、みんな傘を差して歩いた。


17 : いえーい!名無しだよん! :2015/04/13(月) 00:34:11 94PYmvRE0

桜の花は、とうの昔に散っている。

おわり。


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